海未「しーのうみー」 (47)

ある日、海未ちゃんが箱に入ったまま出てこなくなりました

穂乃果「ねぇ、海未ちゃーん。どうしちゃったの一体。箱から出てこようよぉ?」

[海未]『......』

ことり「海未ちゃん。それだとスクールアイドルできないよぉ」

[海未]『......それは困りますね』

穂乃果「海未ちゃんがスクールアイドルできなくなったら、穂乃果つまんないよぉ。みんなも悲しむよ」

[海未]『......ちょっとそれは対処します』

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1426156892

次の日、海未ちゃんは頭からダンボールを被って(ただし、足だけでてる)、移動可能になってました

[海未]『これで移動はできますから、学校にもいけますし、踊れます。マイクをつければ歌も歌えます。オールライッです』

私とことりちゃんは顔を見合わせて、とりあえず海未ちゃんを見守ることにしました

ダンボールの中はなんだかよくわからないですが、居心地がいいらしく、
最初はクラスのみんなどころか学校中が[海未]ちゃんにザワザワしましたが、そんなことも一週間もしたらみんな慣れました
環境に対する適応能力の高さはうちの高校の生徒の取り柄だと思いました

にこ「海未ちゃんさぁ、それ弓道の時はどうしてるにこ?」ペラッ

[海未]『......そりゃこのまま弓道してますよ。腕が出せるように穴開けましたし』

凛「あ、本当だ。いつの間にかなんかかっこいい穴が空いてるにゃ」

[海未]『ふふふ......。流石に弓道をお休みすることはできませんからね。ダンボールに穴を開けることなど痛くもかゆくもないです』

真姫「ならダンボールから出てきた方が色々とラクなんじゃないの? よく知らないけど」ペラッ

[海未]『真姫、それとこれとはまったくまったく別問題なのです......』

真姫「そう......。別に好きにすればいいんだけど、ソルゲ歌う時はそれ取りなさいよね」ペラッ

[海未]『......善処します』

凛「雑誌からまったく目を離さない友達いない歴ピー年JKとダンボール被ったJKの会話が見れるのはアイドル研究部だけにゃ」

にこ「私も何気に傷を負う言い方やめなさい、凛」


曲のラインナップからソルゲがいつの間にかなくなったのはこの頃からです

[海未]ちゃんがダンボールを新調するため、薬局によるということなので、私はことりちゃんとその日は2人で帰りました


穂乃果「.....ダンボールに拘りがあるなんて知らなかったよ」

ことり「よくよく思えば『ムーニーマン』とか『マミーポコパンツ』とかって、オムツ関連のダンボールだったもんね」

穂乃果「オムツが好きなのか、それともダンボールの大きさがちょうどいいからなのか」

ことり「......幼馴染としては後者がいいけど」

穂乃果「......うん......[海未]ちゃんだからなぁ......」

私とことりちゃんはそのままため息を同時に着きました
きっとそんなことも知らないで、[海未]ちゃんは明日には新調したダンボールを私とことりちゃんに見せ場らかしてくるのだろうけど

幼馴染の謎の、よくわからない一面に私もことりちゃんも戸惑っていました

ステージの上で、[海未]ちゃんの投げキッスは健在なんですが
ステージのある日に限って、海未ちゃんの顔あたりによくわからないキャラクターが印刷されているダンボールを被ってきます

なので、海未ちゃんが投げキッスをすると、[海未]ちゃんというか、そのよくわからないキャラクターに投げキッスされてる状態になっていて

撮影した動画をあとで見返してるととてもシュールです

でも、そのシーンをカットしたり踊ってる[海未]ちゃんにモザイクを入れることはとても可哀想なので(1回本当は試しにモザイク入りでPV作ったんだけど、花陽ちゃんが『こんなの可哀想だよぉぉおおおおお』って泣き叫んだのでやめました)
私たち、μ'sのPVはなんていうか、ダンボールが踊ってみた、みたいなPVになってます

ある日、思い切って聞いてみました

穂乃果「ねぇ、なんでダンボール被ってるの?そろそろ穂乃果、海未ちゃんの顔が見たいよ」

思えば海未ちゃんの顔を見ずに過ごした3ヶ月間なんて生まれて初めてです

[海未]『......』ズズズッ

[海未]ちゃんはお茶をいい感じに慣れた手つきでダンボールの境目から中に入れて飲み、
しばらくのだんまりの後、穂乃果にいいました

[海未]『ちょっと考えたんです。これまでの私......』

穂乃果「う、うんっ!」

[海未]『......頑張り方が違ったかなって』ズズッ

穂乃果「うっ......ううん?」

私の、困った顔を見てか(というか、どうやって海未ちゃん外の世界の様子、見てるんだろう。ダンボールにお面みたいに穴空いてないんだよね、目のところ)

海未ちゃんは、あはは、と渇いた笑いを放って、シーンとその笑いが私と[海未]ちゃんの間を通り過ぎたあと言いました

[海未]『.....少し、疲れてしまったんです』

私は[海未]ちゃんのその一言に、なんていうか全身が痺れてしまいました

「にゃ~」って凛ちゃんみたいに気の抜けた声を出しそうになったし

「わけわかんない」って真姫ちゃんみたいに髪の毛クルクルして目をそらしたくもなったし

「認められないわぁ」って絵里ちゃんみたいに[海未]ちゃんを全面的に否定したくなったし

「ちょっと待ってて」って花陽ちゃんみたいに言ってこのことを自分の中で考えるために時間の猶予を貰いたくなったし

「ニッコニッコ二ー」ってにこちゃんみたいに......うん、にこちゃんだし

「スピリチュアルやね」って希ちゃんみたいにのほほんと言って[海未]ちゃんのことをこのまま丸ごと受け入れてしまいたくなったし

「おねがぁい」ってことりちゃんみたいになんでも言うことを聞いてくれる優しい[海未]ちゃんにお願いをしてみたくもなった

でも、私は、
私は今の海未ちゃんに


「ファイトだよ」


っては、その一言だけは言えなくなってました

[海未]ちゃんは続けました


[海未]『......なんというか、疲れてしまって。カラダに力がまったく入らないんです。
やる気が起きなくて。
でも毎朝朝練に行くために起きなくてはいけないですし、
皆勤賞とか狙ってるわけではないですが学校にも行かないと勉強が遅れてしまいますから』

[海未]『......身体、ダルいですけど、練習をサボってしまうとみなさんに迷惑がかかってしまいますからねぇ。
今休むわけにはいかないですし。
弓道も......ぁあ弓道は練習しないとすぐに結果に出てしまいますから、どうしてもサボれませんね。ダルいですが』

私の目の前のダンボールはそんな感じのことをいつも通りにハキハキと言いました

声に気だるさは感じられなくて、声を聞いてる限りではいつもの、海未ちゃんでした

めっちゃ元気そうでした
今にも穂乃果のことを怒ってきそうなくらいいつも通りの海未ちゃんの声でした

でも、ダンボールのせいで海未ちゃんがどんな表情でそれを言っているのかは私にはまったくわかりません

まったくわからない

あぁ、だから海未ちゃんはダンボールを被って[海未]ちゃんになっちゃったのか



それに気づくと、なんだか涙が止まらなくなりました

海未]『......穂乃果、どうしたんですかいきなり泣いて』

ズサッズサッとダンボール同士が擦れる音がして、[海未]ちゃんが私のすぐ近くに駆け寄ってくれました

こんな状態になっても海未ちゃんは本当、優しいです

穂乃果「うん、うん......海未ちゃん、ごめんね。本当にごめんね」

[海未]『ど、どうしたんですか......謝られている理由がわからないのですが......』

穂乃果「やっとどうして海未ちゃんがダンボール被ったのか、わかったからだよ。
ごめんね。私、自分のことしか考えてないから、海未ちゃんが優しいから、てっきりこれまで通りに海未ちゃんに甘えておけばスクールアイドルもなんとかなると思ってた......」

[海未]『......穂乃果に甘えられるなら、本望ですよ』

穂乃果「ううん。そんなことない。そんなことないよ、海未ちゃん。たとえ本当に甘えてくれて嬉しいとか思ってるかもしれないけど、心のどこかで海未ちゃんはそれをツライと思ってるんだよ」


[海未]『......そんなことは』

穂乃果「なら、今すぐダンボール脱いでみてよ、海未ちゃん」

[海未]『......』

[海未]『......』

[海未]『......』

穂乃果「......」

[海未]『......』

穂乃果「......」

そのまま部屋には私と海未ちゃんのすすり泣く音が聞こえるばかりでした

いつからだろう
海未ちゃんが私たちに頼れなくなったのは
いつからだろう
海未ちゃんの居心地の良い場所が私とことりちゃんではなくダンボールの中になってしまったのは

いつからだろう
いつからだろう
いつからだろう

穂乃果の言葉が、海未ちゃんを追い詰めていたのは

ある日、[海未]ちゃんに誘われました

[海未]『......うみを見に行きたいんですが、良かったら穂乃果、一緒に行ってくれませんか?』

穂乃果「一緒に? いいの?」

ダンボールを被っている理由がわかった日以来、私は[海未]ちゃんを受け入れるようにするよう努めました
スクールアイドルにせよ、弓道にせよ、学校にせよ、海未ちゃんが頑張らないといけないことは山ほどあります
[海未]ちゃんがいつか海未ちゃんに戻ってくれる日が来るのなら、
その時に[海未]ちゃんであったことが、海未ちゃんの負担にならないように

私は[海未]ちゃんを無理に海未ちゃんに戻すことを諦めました
ことりちゃんにも理由をいい、2人で[海未]ちゃんをサポートしていこうと約束をしました


そんな矢先に、私は[海未]ちゃんに、うみに誘われました

[海未]『もちろん......。穂乃果ならいいかなって』

穂乃果「ことりちゃんは?」

[海未]『......ことりとももちろん、今度ふたりでどこかに行きます』

[海未]『......でも、その前に穂乃果とうみに行きたいのです』

[海未]ちゃんの声はやっぱり元気で、どんな表情で言っているのかまったく私にはわかりません

穂乃果「......わかった、行こっか!! うみ!!!」

にっこりと笑ってくれたんでしょうか

でも、やっぱりダンボールのせいでわかりません

[海未]『ふふっ。よかった......なら、次の休みに。また連絡します』

[海未]ちゃんとうみに行く日のは予想外にも早く来ました
というか、μ'sの練習も弓道部の練習も何もない日の授業と授業の間の休み時間に突然
(しかもことりちゃんがトイレに行ってていない時を見計らって)

[海未]『穂乃果......今日、うみ行きますよ』

と言われました

あ、休日じゃないんだ
ほ、放課後なんだ

すんなりとそう思ったのでそう伝えました

穂乃果「えっ。今日?確かに天気は晴れてるけど。てっきりお休みの時に行くのかと思ってたよ」

[海未]『......私も休日の方がいいのですけど。今日は私と穂乃果には何もなくて、でも、ことりは用事があるでしょう?』

穂乃果「う、うん。ことりちゃんは今日、にこちゃんと花陽ちゃんと衣装に使う布地を買いに行くって言ってたね」

[海未]『......えぇ、だからちょうどいいかな、と思いまして』

穂乃果「......そっか。なら、今日でいいよ」

[海未]『はい......それでは、また放課後に』

そう言って、[海未]ちゃんはズルズルと自分の席に戻っていきました

私たち3人の幼馴染のバランスの取り方はなんだか難しいというか
それが3人という奇数の仕方のないところなんだろうけど

少しでもお互いに仲間はずれな感じを持たせないように
裏でコソコソ努力と気配りをしている関係のような気がします

小学生の時は3人で何も考えずに遊んでいればそれだけでよかったのにな
中学生になってから、お互いにどうもそういうことに気が回るようになっちゃって
難しいよね、女の子同士って

放課後になって、にこちゃんと花陽ちゃんにことりちゃんを預けた後
私と[海未]ちゃんは黙々と駅までの道を歩きました

ダンボール姿の[海未]ちゃんはとても人目に付きます
歩いていると「あれなに?」「ダンボーの真似?」「隣にいるの高坂穂乃果じゃね?」とか聞こえますが
私も[海未]ちゃんもそういう反応にはもう慣れっこになっていた部分があったので
なんかそういう感じのPVでも撮ってるイメージをどうにか頭の中でこしらえてその場をやり過ごしました

こういうやっかみを言ってくる人たちは、ボソボソとつぶやくだけで
直接私たちに話しかけてくるようなことはしないので正直助かります

[海未]ちゃんのことを人に説明することは辛いから
[海未]ちゃんのことを人に説明するということは
私が、いかに海未ちゃんを追い詰めてしまったのか、を説明するということになるから

下を向き、自分の左右の足が入れ替わるのを見ながら歩いていると
不意に右手を掴まれて、ドキッとしました


[海未]『......穂乃果』

名前だけを呼び、海未ちゃんは弓道用に開けたかっこいい穴から腕を伸ばし
私の右手をギュッと掴んでくれていました

こんなことになっても海未ちゃんはやっぱり海未ちゃんのままで

私は恥ずかしいような責められているような、でも繋いでくれている手のぬくもりが嬉しいようなこそばゆいような気持ちに胸が満たされながら

そのまま手をつながれて、やっぱり黙々と駅までの道を歩きました

電車に乗って近場のうみに向かいました
ダンボール姿のままの[海未]ちゃんと隣同士で座席に座れるのかどうか不安だったけど
今日海未ちゃんが被っていたダンボールはどちらかといえば体積よりも運動性を重視したダンボールみたいで
普段の[海未]ちゃんよりも今日の[海未]ちゃんは横幅が狭かったため
2人で並んで座ってもさほど窮屈さを感じませんでした

普段の生活にはない揺れを体に感じながら
並んで座っている私と[海未]ちゃんは
まるで千と千尋の神隠しの映画の中で千尋と、そしてア、ア、ア、って言っている黒いキャラ(名前をど忘れしちゃった)のように見えているんじゃないかな、と思いました


ガタンガタンと電車が揺れるたび
電車の中の吊り広告がワンテンポ遅れてブラブラと揺れます

慣性の法則ってやつ

みんな自然とその法則に従って、その流れに身を任せてる
(もちろん生活の中で身を任せてる法則はそれ一つじゃないけど)

日常から少しはみ出してしまってて、どこかしらの不自然さの中にはたから見ればチャンチャラおかしい馬鹿みたいな真面目さを持ち合わせてる

だけど、それが今の[海未]ちゃんで
そしてそれが今の私と海未ちゃんの自然な法則なのでした

ガタンガタンを数十分繰り返すと
次第に窓の外の景色が街が町になっていって
電車の中も人が少なくなって

駅のホームにたどり着くまでに何度か扉が開いてはしまってを繰り返して
その度に外の冷たい空気と中の温かい空気が入れ替わりました

私は寒くなるとダンボールから出ている海未ちゃんの左手を自分の右手で掴んで
温かくなると放すを繰り返しました

そういうものに頼らなければ、海未ちゃんに触れないのです

私は弱くて、海未ちゃんのためにどうすることもできていないから
海未ちゃんの手に触れているとわかるけど、海未ちゃんは私の手を一度も握り返してくれまんでした

つまり、そういうことなんです


今の海未ちゃんにとって
今の私は
今の海未ちゃんが必要としていることは海を見ることで
海がある光景が見たくて海未ちゃんはこうして私を連れ出して
海が、海だけが海未ちゃんをわかってくれるって海未ちゃんは思ってるから

こうして海に行くために私は箱の中に閉じこもった海未ちゃんと一緒に同じ電車に揺られて
同じような揺れに対して全く別に身体を揺らされているんだ


私って一体、なんなんだろう

海未ちゃんの表情を見ようとして、チラリと横を眺めても
目に入ってくるのは
茶色くて規則正しいボコボコをしているダンボール

せめて、気分で色が変わる素材でできてるダンボールなら良かったのに

私はふぅーとため息をついたけど、きっとそれすら、電車のガタンゴトンにかき消されて[海未]ちゃんには届きませんでした

ようやく目的地のうみに着きました
というか、着いたらしいです

[海未]『穂乃果......起きてください、穂乃果』

私はいつの間にか眠っていたらしく
[海未]ちゃんにユサユサ体を揺さぶられてようやく目を覚ましました

穂乃果「はへぇ.....海未ちゃん......ここ......どこぉ......?」

[海未]『ちょっと寝ぼけられてると扉が閉まってしまうので......すみません、穂乃果』

穂乃果「んあぁ......!? 」

突然肩と膝にガッと[海未]ちゃんの両腕が触れたと思ったら、フワッと身体が浮きました

穂乃果「ちょ、ううううう海未ちゃん!?」

思わずジタバタと身体を動かして抵抗しました
まぁ、鍛えてる[海未]ちゃんの力に穂乃果が勝てるわけないんだけどね

[海未]『ほ、穂乃果!......う、うごかないでっ!』

そのままヒョイヒョイと電車から穂乃果を担いだまま[海未]ちゃんはホームに飛び降りました
その瞬間にプシューと背後で音がして扉が閉まってしまいました

ガタンガタンと電車が遠ざかります

その音が遠ざかるのを聞きながら
[海未]ちゃんから地面に下ろしてもらってホームのコンクリートの硬さとか、でこぼこを靴底の下に感じた時には
なんだか謎の恥ずかしさで頬が赤くなりました
幼馴染の女の子にされるお姫様だっこがこんなに恥ずかしいものだったなんて......


穂乃果「ご、ごめん。[海未]ちゃん......穂乃果、重かったよね?」

[海未]『......いえ、そんなことないです。穂乃果は軽いですよ。大丈夫。弓道の弓の方が重いくらいです』

弓道の弓の重さが私にはわからないので、そのフォローが穂乃果の中ではイマイチ、フォローになってはいなかったし
[海未]ちゃんがやっぱり普段通りの声の調子でそういうものだから
私はちょっと、心の中で「こいつ......」と毒を吐きました

ちなみに今更だけど、どうしてこれを「ですます」調で書いているかというと

あれです、これは海未ちゃんの真似

海未ちゃんの真似して書いてみたらなんか海未ちゃんの気持ちがこんな馬鹿な穂乃果にもちょっとはわかるのかなぁって思って
そういう感じです
(たまに「私」じゃなくて「穂乃果」って書いちゃってるけど、間違い直すのめんどくさいからそのままにしてる)

書いててちょっと思ったけど、というかテストの時とか結構思うんだけど
「穂乃果」って書き数多い
「海未」もそれなりに多いけど
「高坂穂乃果」と「園田海未」なら圧倒的に穂乃果の方が書くの面倒だよね

とか、考えてたら「南ことり」ってテストの時すごい楽じゃない?って思ったよ
「南」でちょっとなんか羊っぽいのごにゃって書いた後にひらがなで「ことり」でしょ
ことりちゃんが名前書き終わってる頃に穂乃果、多分まだ穂の字ぐらいなんじゃないかな
そう考えると「高坂穂乃果」って書いてるだけでタイムロス?ん?ロスタイム?
どっちでもいいけど、とにかく時間をなんだか無駄にしちゃってる気持ちになるよね


そういう風に普段無駄に無駄な時間重ねて過ごしている穂乃果だけど
ダンボール被った[海未]ちゃんとうみを見に来たことはこれっぽっちも無駄に無駄な時間を重ねて過ごしたなんて思ってないんです

これはこれで大切な時間なんだって
あれはあれで穂乃果と海未ちゃんには
それはそれで一種の加害者と一種の被害者には

なくてはならなかった時間なのではないなぁとか、なんとか後から意味を付け加えちゃったりなんかしてます

海未ちゃん、そこんとこ、オッケー?
オッケーじゃなくてもオッケーにしてね?

うみに着くと、季節のせいなのかその海岸にはだぁーーれもいませんでした

ザバザバと波が返しては寄せるっていう表現をよくされてるように動いていて、
所々には海水っぽいものが打ち上げられてたり、
夏の名残なのか、缶ジュースの空き缶とかが埋まってたり、
向こうの方では波の流れに合わせてよくわからない木の棒が浮いては沈んでを繰り返していました

穂乃果「うっわぁ。ひとっこひとりいないよ、海未ちゃん。干物とかも干してない。こんなうみみたの初めてかもっ」

[海未]『......冬のうみですからねぇ。私も初めてきましたが、これはなかなか』

ザッザッザッと[海未]ちゃんが砂の上を軽快に歩く音がします

穂乃果はそんな、砂の上とか走りなれてるマキバオーとかじゃないんで

穂乃果「おぉわっ!? ま、待ってよ海未ちゃん!! あるくの早いよ」

と言いながら、無様に必死に海未ちゃんについて行こうと跡を追いました

しばらく海未ちゃんが歩いていくのについていきました

耳には左側からザバザバとした音が響いていて、ちょっと心地よかったけど
冬の海風がコートを着ていてもその布の隙間から入り込んでくるようで
次第に肌がピリピリとしているような気がしました

海未ちゃんについていくので必死で、心臓の方はドクドクと脈をいつもより速めに打って
私の身体中に熱い血液を送り出しているみたいでした
耳が外気と体温の温度差でジンジンと痛み出し、手が寒さでチリチリと凍え始めたころ
ピタッと海未ちゃんが歩くのをやめて立ち止まりました

[海未]『穂乃果......ちょっと座って休憩でもしましょうか』

穂乃果「そ、そうだね。 穂乃果、ちょっと......てか、結構疲れたかも」

[海未]ちゃんがそのままストンと砂の上に腰を下ろしました
いつもなら、そういう風に制服、スカートでそういう風に砂の上に真っ先に座ったりするのは私で、
いつもの海未ちゃんなら、そんな私のことを

「こら、穂乃果。スカートで砂の上にそんな乱暴に座ってはダメですよ」

とか怒りそうなのに

その日は[海未]ちゃんが真っ先に座りました

穂乃果は何も言えず、[海未]ちゃんの横にオズオズと、できるだけスカートにシワがつかないように気をつけて座りました

[海未]『......』

穂乃果「.......」

[海未]『......夕日、おっきいですね』

穂乃果「だねぇ......」

私たちが座った真ん前ではちょうど
うみの水平線にまん丸で真っ赤な太陽が形を歪ませながら真っ黒なうみに沈んでいるところでした

ゆっくりとゆっくりとうみと接している太陽の下の部分がブニブニと歪んでいきます
うみは太陽の輝きすらその深くて冷たいうみの底に吸い込ませてしまっていて
沈んでしまった太陽はまるで腐った果実みたいに見えました

[海未]『......沈みますね、太陽』

穂乃果「うみに丸呑みにされちゃってるみたいだね......すごい」

[海未]『......えぇ、本当』

海未ちゃんが、すごい、とボソリとつぶやいて、それから箱のかっこいい箱から出した左手で穂乃果の右手をつかみました

その手は私の手より暖かく、その暖かさが凍てついた手の先を包み込んでギュっと温めてくれました
でも、その指先は湿っていて
そのことが余計に私の手よりも心を暖かくさせました

その時の穂乃果は[海未]ちゃんだって、まだこんなにきれいな夕日を見て、感動するんだ、ということにちょっとホッとしていたんです
何も言わなくても、きれいな景色を見たら自然と涙が流れてくる

そういう[海未]ちゃんに安心を感じていたのだと思います

2人でしばらくそうしていました
あんなに大きかった太陽は意外にもそれから5分も経たないうちに全てをブニブニにしてどす黒い色へと様変わりしたうみの中へと沈んでしまいました

穂乃果「太陽......完全に沈んじゃったね」

[海未]『......』

気づけば辺りは相当暗くなっていて、スカートの布越しに砂の冷たさが皮膚に伝わっていました

穂乃果「そろそろ帰ろっか。海未ちゃん。 帰りの電車......あるのかな、あはは......」

[海未]『......』

[海未]ちゃんは私が話しかけても何も返事を返してくれなくて、ただボーッと(恐らくはそのダンボールの下で)さっきまでの太陽があった辺りを見続けていました

身動き一つしない
いつの間にか私の指先を握ってくれている[海未]ちゃんの手に力が入っていなくて、私の指先を冬の海風が再び凍えさせていきます

[海未]『......』

穂乃果「えっと、う、うみちゃん? 大丈夫......? 具合でも悪くなった? その。そのダンボールの中ってもしかしてすっごく寒かったとか」

[海未]『......』

[海未]『......』

[海未]『......』

[海未]『......』

穂乃果「......あはは」

何も言わないうみちゃんに少し、恐怖すら感じて冬の寒さではないなにかが私の背筋を震わせました

落ち着こう、落ち着くんだ
とりあえず、今は何時なのか確認しないと

うみちゃんと手を繋いでいる方のコートのポケットに私はケータイを入れていたので
ケータイをとって時間を確認しようと
うみちゃんと繋いだ手を離してしまいました

その途端

うみちゃんが、ものすごいスピードでうみに駆け出しました

穂乃果「えっ!? ちょっと、う、うみちゃん!? ど、どしたの!? えっ!? ま、まってよ......。 まっ、待ってよ!?」

慌ててうみちゃんを追いかけます
が、砂浜はやっぱり走りづらくてマキバオーのようにうまくスピードに乗れません

その間にもうみちゃんはズイズイと砂浜を駆けていき、そのままうみに入って行きました

穂乃果「うみちゃん、うみちゃん!? いやだよ、やだよ!? なんでっ!? どうしてそんなことするの!! うみちゃん!? 止まって!? とまってよぉおおおお!!!」

こっちから見ると大きめのダンボールがズンズンと真っ黒なうみに垂直に進んでく画像ですけど
そんな画を目の前で繰り広げられて

私の心はもうパニックでした

なんでそんなことをするのか
さっきまでの安心感とか一体なんだったのか
なんでうみちゃんはうみに入って行ってるのか
なんで私といるときに
なんで私の目の前で

グルグルとそんな疑問が頭の中でとぐろを巻いて絡み合っていきます

ようやく波打ち際にまで来て、少しだけ躊躇しました
ローファーの足先を試しに海水に浸してみます
ジンとすぐさま足先が凍るような冷たさに覆われました

穂乃果「ええっ、いや、ちょっとさぁもう!! 穂乃果冷え性なの知ってるでしょ!?うみちゃん!! 冷え性なの知ってるからそんなことするの!!? 穂乃果のこと、試してるのっ!? ねぇ、うみちゃんってばぁああああ!?」

[海未]『......』

ジャブジャブと海水がダンボールの側面に当たる音だけが響き渡っているだけでした


穂乃果「そ、そんなっ......ヒッ......こんな、つ、つ、冷たいのに入ったら......ひっく......ぐすっ」

穂乃果「うみちゃん......死んじゃうよぉぉおおおおお!!!!」


穂乃果「そんなの、いやだ......ひっく、......うみちゃん、うみちゃん、うみちゃんうみちゃんうみちゃん......うみちゃん!!!!」


[海未]『......』












穂乃果「うわぁああああああああああああああああああああんん!!!!!」

海水の冷たさだとか、今が冬だとか、これが制服だとか、替えの服持っていないとか、さっきケータイ砂浜に放り投げたままだとか、帰りの電車のことだとか

そんなことがシュンと頭の中から消え去って


気づいたら私は海の中をジャボシャボと泳いでうみちゃんに追いつき

そして、[海未]ちゃんの、そのダンボールにしがみついていました

穂乃果「海未ちゃん!! やめて!! 帰ろう!! 帰ろう!! やだよ!! こんなのいやだよ!! 海未ちゃんだって嫌でしょ!?」

穂乃果「ねぇ、謝るから、穂乃果、謝るから!!海未ちゃんが許してくれるまで謝るからさぁ!! 謝って済むことじゃないってわかってるけど、海未ちゃんのことずっと傷つけてきたってわかってるから、ねぇ、やめてよ!! こんなのやだよ!! 海未ちゃん!! 海未ちゃん!!」

[海未]『......穂乃果』

[海未]『すみません......でも、私はもう疲れてしまって、これしか綺麗に終われる方法が思いつかなくて』

[海未]『どうにかしようとしてダンボール被ったんですけど......それでももうどうにもできなくて』

[海未]『......すみません、穂乃果』


[海未]『......穂乃果は悪くないですから』

穂乃果「うぅ......ひぐっ......海未ちゃぁあん、そんなこと言われたって穂乃果全然嬉しくない! 救われないよ、そんな、そんな、うぅ......こんなになるまで頑張らせてごめんね!! でも、うぅ、......穂乃果はそれでも」

穂乃果「もう頑張れなんて言わないからぁあああ......もう、ファイトだよなんて無責任にいわないからぁぁあああ......う、う!海未ちゃんに、海未ちゃんに生きててほしいんだよぉおお......うぇぇえええん」


私の情けない叫び声が辺りに響き渡ってはジャブジャブと洗い流されて水面に消えました

もう身体に感覚はなくて、上と下の歯がガチガチと自分の意思とは裏腹に音を立てました

海水が染み込んだダンボールは重たく、そしてそのダンボールの重みと、
穂乃果をくっつけてでもまだ前に進もうと踏ん張りを効かせている海未ちゃんの力を
穂乃果の力だけではもう止められなくなっていました

私も足を踏ん張ってみようと思うけど
下のゴツゴツした岩面をローファーで思うこと捉えることができず、足に力がうまく入りません

[海未]『......穂乃果、もう離してください。あなたまで寒さで凍えてしまいます。もう、いいですから。私は大丈夫になりますから』

それを聞いて、穂乃果の中のなにかがバチンと音をたてて切れました

穂乃果「全然、よくないよぉ!! こんなの、よくないよぉ!! いい加減にしてよ海未ちゃん!!!」

[海未]『......ほ、穂乃果?』

穂乃果「ねぇ、綺麗に終われるって言ったけどそれならどうして穂乃果を連れてきたの?! ねぇ!! どうして!? 綺麗に終わりたいなら1人でひっそり来たなら確実だったんじゃないの!?」

[海未]『...そっ、それは......』

穂乃果「ねぇ、知ってる? 穂乃果の知ってる海未ちゃんは......穂乃果の大好きな海未ちゃんはいつだって最善でことが運べるようにがんばってるけど」

穂乃果「でもね! !土壇場のギリギリになってスカートの丈が短いからってジャージを用意して1人だけ逃げ道を作っておく、臆病者なんだよ!?」

[海未]『......穂乃果』

穂乃果「穂乃果の言いたいことわかるよね、海未ちゃん!! 今回の穂乃果はジャージ役だったんだ!! 」

穂乃果「海未ちゃんにとって、今回のこの計画から逃げ出す最後の奥の手が穂乃果なんでしょ!?」

穂乃果「だから、連れてきたんだよね......ひっく......穂乃果と一緒に......穂乃果をうみに誘ってくれたんだよね......あのまま、電車の中で穂乃果のこと置き去りにして1人でうみに来ても良かったのに
海未ちゃんはお姫様だっこまでして穂乃果とうみに来たがったんだもん」

[海未]『......』

穂乃果「これからのこととかよくわかんないよっ。......怖いよ......また海未ちゃんに重荷を背負わせて、追い詰めちゃうかもしれない......うぅ......嫌だけどさそういうこと、しちゃうかもしれない......ごめんね」

穂乃果「でも、穂乃果は、海未ちゃんが期待してくれた穂乃果の役割を......果たすよ......ぐすっ......」

[海未]『......』


穂乃果「うう、こうやって話ししてても全然前に進む力、抜いてくれないとか、もう海未ちゃん、穂乃果笑えてくるよ......あははは......もうさ、ファイトだよなんて言ってる場合じゃないね」

穂乃果「海未ちゃん、今回だけセリフ借りるね? ......ぐすっ」

[海未]『......セリフを借りるって?』

そう言って振り返ったダンボールの中心に向かって、私は右腕を目一杯めり込ませました
グニィッとした感触が一瞬で右拳を包み込みます
うみの黒い水を染み込ませたダンボールは柔らかくてもろく、私の力でも簡単に海未ちゃんの身体に拳を届かせることができました




穂乃果「あなたは......最低です......だよ、海未ちゃん」

[海未]『......ッ...な、なるほど...』



グラッしてダンボールがもたれかかってきて、私はそれをギューっと抱きしめて手はうみの冷たさでかじかんで、うまく動かなくて掴めなくてでもそれは今に限ったことじゃないって開き直って、
その重たさを、海未ちゃんの存在をなかなか離しはしませんでした

気がつくと、真っ白い天井が目の前に広がって居ました

「ここは...........私は......」

よくわかりませんがどうやら私は助かったみたいです

ゆっくりと上半身だけを起こしてみました

右腕には点滴が繋がれていて
よく見てみると、薄い青い色の病院着みたいなものを着せられていました

頭のなかがモヤモヤとしていて、
目が明るさに慣れていないらしく
見ているようで見ていないような感じで
状況は把握できたのですがしばらくそのままボーッとしていました

すると、どれくらいの時間が経ったのでしょうか
ガチャっと音がして、見覚えのある顔をひょっこりと拝むことができました

目のピントが合い、それを穂乃果だと認識する前に穂乃果が飛びついてきました

穂乃果「よ、よかった......うみちゅわぁああああん」

海未「おわっ!? ちょ、ちょっと、穂乃果!?」

穂乃果「もうあんなことしちゃダメなんだからねえっ!!! ......最低だよぉ、本当、本当によかった......助かってよかったよぉぉおおお」

海未「ほ、穂乃果......心配かけてしまってすみません......」

穂乃果「よかった......本当によかった......」

ぎゅーっときつく抱きしめられて、身動きができない上半身への違和感

あぁ、私はダンボールを脱ぐことができたんですね

海未「穂乃果と、こうやって顔を合わせるのも久しぶりですね。すみません、本当に心配をおかけしてしまって。風邪はひいていませんか? 穂乃果には申し訳ないことをしてしまいました」

穂乃果「ほっ、ほんとうだよぉ......うぇぇん。......穂乃果、海未ちゃん......無くしちゃったらどうしたらいいか......よかった......本当......本当に無くさないでよかった......」

穂乃果が抱きついてくる力がさらに強くなって、肩が涙と鼻水で湿っていきましたが
それはけして心地の悪いものではなく
むしろ、ジワジワと心に染み渡っていく暖かさを私の皮膚に伝えていました
海未「無くさないでくれて、私を止めてくれて、ありがとうございます。穂乃果」
右腕は点滴が繋がれていたので、自由の利く左腕で穂乃果を抱きしめ返しました
人は生きていくうちに様々な暖かさにあたためられると思います
太陽、室内エアコン、こたつ、人の優しさ、ホッカイロ、コーンスープ、お風呂などです
でも、一番最初に触れる熱、暖かさというのはおそらく、幼子をその手に抱く母を通して感じる他人のぬくもりなのではないでしょうか

穂乃果の暖かさを私は長いことこの肌で感じていなかったため、久しぶりに直に触れたそれはとても暖かく、あのまま穂乃果が止めず、止めたとしても私にあそこまで冷徹に私のためを思って対応してくれなければ、私はこんなにもったいないものを無くすところだったのか、と改めて肝を冷やしました
そして、私は穂乃果に散々抱きしめ返されたあたりで気づいていたにもかかわらず、見て見ぬふりをしていたこの部屋の違和感を口に出してみました

海未「.....ところで、穂乃果。あの、部屋の片隅にいるダンボールを被った人は......」

私がそう訊ねると、穂乃果は「そうだった」と慌て、グイッと私の肩を掴んでいた腕に力を入れ、私から離れました

ダンボールからはみ出している制服のスカートから察するに、おそらくは私と同じ音ノ木坂の生徒のようですが
さらにスカートから伸びている白くて華奢な二本の足が誰のものなのかまでを推測するには情報が足りませんでした
しかし、見たことがあるような足な気もします

穂乃果「......あのね、驚かないで聞いて欲しいんだけど......実は............」

穂乃果の言い淀んだ感じから
もしかして、と一瞬にして不安になりました

私は再びダンボール女(じょ)の足に視線を移します
......あのふくらはぎ......あのふともも加減......
ジロジロ見るのも気がひけるので、視線を穂乃果に戻そうとした時
私はダンボール女の左膝小僧に昔より慣れ親しんでいた古傷を見た気がしました

海未「えっ、そ、そんな、穂乃果.................まさか」

その次の言葉を穂乃果に投げつけようとした時、ダンボール女が徐にベッドサイドまで歩を進め近づいてきました

そして



[ことり]『......やっほ! 海未ちゃん!! 元気になったみたいでよかったよー!!』


その馴染みのある、柔らかさを謳うプリンのようなとろけ具合の声色の説明を求めるべく、しどろもどろになりながら穂乃果に目を合わせます

むしろ、泳いだ目線を穂乃果の周りで忙しなく泳ぎ続けないと死んでしまうマグロのように漂わせたといった方がいいかもしれません

園田海未、不覚にもこの事態にかなり動揺しました


穂乃果「実は、海未ちゃんを引きずって海から出て、砂浜に落ちてた穂乃果のケータイ電話で救急車呼んでね。なんとか2人とも一緒にこの病院に担ぎ込まれたんだけどその」

穂乃果「それから私たちの親に連絡がいったみたいなんだけど、どうやらうちのお母さんがことりちゃんにも連絡しちゃったみたいでさ。あ、いや、別にことりちゃんに知られたらマズいわけではないんだけど!? ねっ!? うん、別にことりちゃんに連絡はいってもよかった! いや!本当、よかったよことりちゃん来てくれて!!」

穂乃果は[ことり]に左手の親指を立ててグッジョブポーズを向けます



穂乃果がものすごくダンボール女に気を遣っているのがわかりました


穂乃果「でね、穂乃果は身体が冷えただけだったから一応お医者さんに診てもらった後に診察室から出たらことりちゃんが居て。
『穂乃果ちゃんと海未ちゃんが大変なことになってるの知らないでことりだけにこちゃんと花陽ちゃんと遊んでたなんて......海未ちゃんと穂乃果ちゃんだけ海に来て......ことり知らなかった......海のこと知らなかった』

って。で、今度はことりちゃんがダンボール被っちゃった」

海未「......なんと」



[ことり]『あはは、海未ちゃん、ダンボールって結構快適だねぇ~!』いぇーい

[ことり]『......というか、助かってよかったよ、ほんと、あはは。あそこで死なれたらことり、ほんと、ダンボール被るどころじゃすまなかったかも。2人とも水臭いよねぇ〜ことりにナイショで海に行っちゃうなんてさぁー。ことりも一緒に行きたかったなぁー』いぇーい

海未「あはは......」
穂乃果「......はは」

私の目の前でピースをし、いぇーいと言いながら、普段の口調でなにやら絶望的なことを言う、ダンボールが目の前に1つ

今度はことりをダンボールから出すために、なにやらしばらく果ての戦いが続きそうな予感を私は感じずにはおれませんでした

穂乃果「私、海未ちゃんがダンボール被ってから、いろいろと考えることがあって」

海未「考えること?」

穂乃果「どうやって海未ちゃんダンボールから出そうとか、どうしてこうなっちゃったんだろうとか、とにかく考えてること吐き出さないと新しいこと考えられなくなってたから。ほら、ほのか頭の容量あんまりないからさ」

海未「いや、穂乃果は頭の容量が無いというかインプットとアウトプットがうまくいってないというか」

穂乃果「ひどっ、今それ言う海未ちゃん」

海未「あ、す、すみません」

穂乃果「もう。まぁ、いいや。で、いろいろと今までノートに書いてきたからさ、今度それ持ってくるから、それ見て[ことり]ちゃんのこと考えよう」

海未「ですね。明らかに今回の原因は私たち2人ですから......」

穂乃果「あ、あと、海未ちゃんにも今までのこと、ちゃーんと説明してもらうんだからねっ! 海未ちゃんがダンボール被ってからμ'sの方向性すんごいことになってるんだからっ」

海未「す、すみませんっ」

穂乃果にペコリと頭を下げて、[ことり]のほうを見ました

私が見ているのに気がついたのか、[ことり]は私に右手でピースサイン

いや、たしかに私は平和になりましたけどね

それであなたが今度はダンボール被ったら元も子もないじゃないですか

喉元まで出てきたそんな言葉を飲み込んで、というか今までの自分の行いを棚に上げ、ことりが今どんな表情をしているのか考えようとしました

そして

あぁ、ダンボールを被っている間に穂乃果やことり、そしてμ'sのみんなに私はこういう気持ちを味合わせていたのだな、と思いました

そのような思いをさせた張本人である私が[ことり]にできることは一つしかありません

海未「......気長にやりましょうか。ねぇ、ことり。私はその中の居心地の良さ、知ってますからね。飽きるまで全然付き合いますよ、あなたの気がすむ方法が見つかるまで」

そう私が微笑むと、ダンボールを被ったことりが左手でもピースサインを作って私に向けたので

負けるものかと私はガラでもなく[ことり]に向かってピースをしてダブルピースをスリーピースにしてやりました



おわり

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年03月13日 (金) 01:08:25   ID: -Gk8nd_t

海に走りだしたところからの一連の流れゾクッとした
なんとも形容しがたい不思議な世界観の物語でした

2 :  SS好きの774さん   2015年03月29日 (日) 17:41:14   ID: VL2mPI_v

世にも奇○な物語
を見てるようでした…

3 :  SS好きの774さん   2015年04月13日 (月) 03:19:18   ID: t5lib9WK

謎のセンスを感じる
最近読んだSSで一番面白かったかもしれない

4 :  SS好きの774さん   2015年09月18日 (金) 03:31:40   ID: eb6kMvnC

隠れた超名作

5 :  SS好きの774さん   2015年12月08日 (火) 10:22:51   ID: h20ZpnQT

すごく面白い

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom