希「お日様からの逃避劇 Case:凛」 (140)

 『この世には誰にも詳細を気にされない、小さな異変が溢れてる』


 『小さな物音、いつの間にか移動している持ち物、視界の端に見える陰、鏡に一瞬間だけ映った自分の微笑み』


 『そういう現象の当事者は、些細な異変を知覚したとしても、最もらしい理由を探すものやんな?』


 『「あれは勘違い」、「あれは虫の報せ」、「あれは亡き祖母が励ましてくれた」』


 『誰もが深く気にしない異変。それは本当に「気にしない」のやろか?』


 『「気にしない」のではない、無意識が「気にしてはいけない」と認識してしまう結果やないかな?』


 『でも中には、つい「気になってしまう」人が居る。そういう人は気ぃ付けてや』


 『好奇心は猫を[ピーーー]、て言うやん?うっかり気になって、異変に深入りしてしまったら……』


 『深淵がぽっかり口を開けて呑み込んでしまうかもしれへんよ?』




















 ――やっぱりラーメンは最高にゃん♪


 ――好き嫌いが激しすぎます!


 ――魚嫌いと猫アレルギーです。


 ――その言い方だと凛が発情期の男の子だったみたいだよ!


 ――一体、アレは何?


 ――とにかく今は逃げて!


 ――ふざけないでよ……っ!!


 ――ごめんな。


 ――ごめんね…。







希「『お日様からの逃避劇 Case:凛』、Music START!!」

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 『この世には誰にも詳細を気にされない、小さな異変が溢れてる』


 『小さな物音、いつの間にか移動している持ち物、視界の端に見える陰、鏡に一瞬間だけ映った自分の微笑み』


 『そういう現象の当事者は、些細な異変を知覚したとしても、最もらしい理由を探すものやんな?』


 『「あれは勘違い」、「あれは虫の報せ」、「あれは亡き祖母が励ましてくれた」』


 『誰もが深く気にしない異変。それは本当に「気にしない」のやろか?』


 『「気にしない」のではない、無意識が「気にしてはいけない」と認識してしまう結果やないかな?』


 『でも中には、つい「気になってしまう」人が居る。そういう人は気ぃ付けてや』


 『好奇心は猫を殺す、て言うやん?うっかり気になって、異変に深入りしてしまったら……』


 『深淵がぽっかり口を開けて呑み込んでしまうかもしれへんよ?』





















 ――やっぱりラーメンは最高にゃん♪


 ――好き嫌いが激しすぎます!


 ――魚嫌いと猫アレルギーです。


 ――その言い方だと凛が発情期の男の子だったみたいだよ!


 ――一体、アレは何?


 ――とにかく今は逃げて!


 ――ふざけないでよ……っ!!


 ――ごめんな。


 ――ごめんね…。








希「『お日様からの逃避劇 Case:凛』、Music START!!」

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希(スピリチュアルなこと言うとな?最近うちがスピリチュアルなことを言うたびに誰かにバカにされてる気がするんよ)


希(む。今も聞こえた。『あいたたたたたたたたたwwwwwwwwwwwww』やって?)


希(酷いこと言うよなぁ。うちの術をその眼で見たことないから、そんなこと言えるんや)


希(どこの誰か知らないけど、うちが唯のイタい娘やないってとこを見せたげる)


希(ちょうど些細だけど気になる怪異があるんよ。それは彼女と出逢ってからずっと邪悪な痕跡を残してきた奴。そいつを特定して祓うからよう見といてや)


希(だからそれまで口チャックしとき?)



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※部室


穂乃果「……」スヤスヤ

にこ「……」ムスッ

海未「     」

ことり「(・8・)」

真姫「……」

コンパクト「……」

絵里「……」

参考書「……」

希「……」

水晶「  」

花陽「……」ワクワク

おにぎり「……」




凛「三分経ったにゃー!」

カップ麺「「「「「「「「「ベリッ」」」」」」」」」

全員「いただきます!」

海未「はぁ……なぜよりによって練習前にカップラーメンを食べなきゃいけないのでしょう……」ズルズル

ことり「まあまあ。ことりは小腹が空いてたからちょうどいいかな」

海未「ことりはダイエットの心配がないから構いませんが……」

凛「美味しい!みんなのは、どう?!」

穂乃果「こちら醤油班!王道的美味しさであります!」

ことり「ことりにはちょっと味が濃いかなあ。汁をよく切って食べるね」

花陽「美味しいよ!このラーメンなら余った汁を白いごはんと混ぜるのを認めても良いかな……」

凛「報告どうもにゃ!塩班は?!」

絵里「ハラショー!カップラーメンって初めて食べたけどこんなに美味しいものだったのね。亜里沙に教えてあげよう」

真姫「……インスタント食品は口に合わない」

にこ「だいたいラーメンなんて口が臭くなるじゃないのよ。アイドルならry」

凛「ちゃんと評価してくれる優しい人は絵里ちゃんだけにゃー。最後、豚骨班!」

にこ・真姫「ちょっと何よその言い方!」

海未「そうですね。雑味は多いですが、そこがインスタントラーメンならではと思えば十分美味しいです」

希「こってりがちょっと足りん、て感じやけど美味しいわ。あっ花陽ちゃん、うちにもお米を分けてくれない?」

炊飯器「パカコッ」

花陽「任せてください!」

凛「そして凛もレポするよ!美味しい!以上にゃ!」

にこ「早く口をゆすぎたいんだけど……」

凛「みんなの意見を合わせてみると!こうなるね!」

凛「新作のインスタントラーメンを食べ比べた結果!醤油、豚骨、塩ぜーんぶ美味しい!」

ことり「そ、そうだね」

凛「みんな、凛に協力してくれてありがとね!」

にこ「あのねぇ凛。一人で一度に三種類食うと太るかもしれないからってのは解るけど、だったら皆を巻き込まなくても一日一個食べれば」

穂乃果「凛ちゃんの豚骨を味見させてー!」

凛「穂乃果ちゃんのもちょーだい!」

にこ「聞きなさいよ!」

花陽「やっぱりこの醤油はご飯とおにぎりに合う……」

希「ラーメンライスは定番やねぇ」ズズズ

真姫「…………」シャカシャカ

フリスク「ころんっ」

にこ「真姫ちゃんそれ頂戴」

真姫「しかたないわね」シャカシャカ

絵里「真姫、私も」

真姫「はいっ」

凛「ごちそうさま!やっぱりラーメンは最高にゃん♪」

海未「ふぅ。さて間食も済んだことですし、そろそろ練習に入りましょう」

凛・穂乃果「 」ビクッ

海未「肩を震わせたお二人さん?事前に約束しましたよね?間食した分だけ今日の練習メニューをハードにする、と」

穂乃果「凛ちゃん!次はどのラーメンを食べるの!」

凛「もうラーメンは持ってきてないよー!」

穂乃果「あわわわ……はっ!みんな!次は穂むらの新作和菓子を試食してほしいの!」

凛「持ってきてるの!?」

穂乃果「今から取りに行くよ!」

凛「いっぱい時間掛けていいからねー!」

海未「や・く・そ・く!しましたよね!」

穂乃果・凛「はい……」

ことり「でも食事のすぐ後に運動するとお腹壊しちゃうから、もうちょっと時間置こう?」

海未「しかし下校時刻まであと二時間しか……」

真姫「不本意だけどことりに賛成。食べてしまった以上30分運動しない方が良いわ。軽食だからもっと早くても構わないと思うけど」

海未「真姫まで……」

希「まあまあ海未ちゃん」ワシワシ

凛「んにゃあ!?」

黒い靄「ジュゥッ」

希「うん太ってない。凛ちゃんは運動好きやからか太にくいっぽいし、堪忍してあげて?」

凛「胸と太ることに何の関係があるの!!」

穂乃果「そうだよ海未ちゃん!ちょっと間食したくらいじゃ太らないよ!」

海未「へえ……あなたが言いますか……」

穂乃果「嘘ですごめんなさい」

希(ノルマ達成。凛ちゃんに憑いてた【黒い靄】にスピリチュアル処置を施して浄化したわ)













希『そうそう、時々【】で閉じた言葉が出てくるんよ』


 ・希(今回のノルマ達成。凛ちゃんに憑いてた【黒い靄】にスピリチュアル処置を施して浄化したわ)


希『これはうちが頭に留めておこうと判断した言葉やねん。件の異変の解決に重要かどうかは置いといて』


希『この後もちょくちょく表示されるから宜しくな?』

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


希(被害者は【星空凛】ちゃん。【高坂穂乃果】ちゃんと共に【μ's】の天真爛漫担当の女子高生)


希(被害は凛ちゃんに纏わりつく、邪悪な魂を感じさせる【憑き物】の痕跡。黒い靄が数日おきに凛ちゃんの身体に憑いてるんや)


希(いわばスピリチュアル案件。一般人にスピリチュアル存在が見えるはずないから、被害者と判るのはうちだけ。言うなら、うちでないと解決しない問題やん?)


希(状況を整理しよか)

希(凛ちゃんにはスピリチュアルな黒い靄が漂っている。正確には憑き物の痕跡)


希(それは微かだけど、ただものではない不穏さを感じさせる)


希(微かな痕跡でうちを不安にさせるんや。憑き物本体はどれだけ禍々しいんやろなあ)


希(最初に凛ちゃんと出逢った日と、そこから数日置きに顕れるから、その都度うちがこうやって凛ちゃんと接触して浄化してあげとるんや)


希(最初の日は入学式があった。その日は黒い靄が包み込んでて、凛ちゃんのかわいい顔もろくに見えなかった)










黒い靄の塊『かーよーちーん!おっはよー!』

花陽『おはよう…口元にご飯粒ついてるよ?』ヒョイ パク

黒い靄の塊『にゃ?自分で取るよ~』

花陽『いつも凛ちゃんがしてくるから…仕返しだよ…♪』

希『入学早々、口にご飯粒ってなんやかわいい娘がいるんやn……ええ!?なんやあのまっくろくろすけ!!』

絵里『はっ?』

希『あ、いや、うん……』

絵里『寝ぼけてるの?希も新入生への挨拶スピーチをするんだからしっかりしてよ』

希『……絵里ち。ちょこーっとだけそこの新入生と話してくるねん。先に準備しててな』

絵里『えぇ!?勝手なことしないでよ!ちょっと希ぃ!』

希『カードがそうするよう告げとるんや!(占ってへんけど)』

数日後


希『廊下に一年生の若い声が響く時期になったんやなぁ。あっ。あの二人は入学式の……ん?』

凛『かーよちん!部活どうする?』

花陽『わ……わたしはとくに……』

凛『ダメだよかよちん!せっかくの青春なんだから心機一転しないと!』

花陽『でも……』

凛『凛は身体いっぱい動かしたいにゃー、て思うんだけど!』

花陽『運動部か……』

凛『そうにゃ!かよちんも運動してみない?』

花陽『で、でも私どんくさいし……』

凛『凛知ってるよ?かよちんがお米の食べ過ぎで体重増えて悩んでるってこと!』

花陽『い、いいぃ言わないでぇ……///』

凛『だから、どう?』

花陽『そっか……うん…良い、かも?』

凛『それじゃ運動部を見て回るにゃー!』

花陽『え、えぇえちょっ、ちょっと待っ……!』

凛『ほらほら~♪』

花陽『待って、待っ……!』

黒い靄『…………』

希『また靄があの娘に憑いてる……』

絵里『今度こそ理事長に、生徒会が学校存続の活動することを許可してもらう……ッ』

希『そんなしかめっ面してたら可愛い顔が台無しやん』

絵里『あのねぇ。学校が廃校になるかならないかの瀬戸際なのに飄々としてる希がry』

希『そうゆうわけやからちょっとそこの一年生とお話してくるわ~』

絵里『どういうわけよ!?ねえ希ぃ!』

希(そんな良くないものに憑かれてるなら当然なにか害を被っている。そしてちょくちょく凛ちゃんにちょっかい出して、黒い靄……憑き物の痕跡を少しずつ残してるんや)


希(そう思って、凛ちゃんに高校生になってから変なことが周りで起きてないか訊ねたことはあるけど、心当たりがないそうや)


希(気配の痕だけでこれだけ邪を感じさせる存在なら、本体はよほどおぞましい存在……さっさと浄化したい。けど)


希(いかんせん凛ちゃん本人が被害を自覚してないから、深く探ったらうちが変な娘に思われてまう。でも被害が起きてからでは遅いんや)


希(過去に聞いた、凛ちゃんの証言で気になることは……)





希『凛ちゃん、もしかして高校生になってから何か悩みがあるんと違う?カードがそう告げてるんよ』ピラッ

凛『す、すごいにゃ!じつは期末試験対策をさぼって漫画読むたびに真姫ちゃんに見つかって怒られるんだよ!助けて!』

希『そ、そうなんか。勉強がんばってな~』ヒラヒラ

凛『希せんぱあああああああああああああああい』





希(凛ちゃん本人からは有力な情報がさっぱり無い)

希(念のため凛ちゃんの【幼馴染】の【小泉花陽】ちゃんにも訊ねてみたけど)


花陽『凛ちゃんの高校生になってからの悩みですか?うーん……』

希『なんでもいいんよ。カードが凛ちゃんの悩みを解決してあげて欲しそうにしてるから、何かあるはず』

花陽『カード……あはは。高校生になってから、てわけではないですけど、昔から持ってる悩みならありますよ?』

希『ほんま?聞かせてくれる?(あまり昔の話なら関係あるかはわからないけど、花陽ちゃんの優しさを無碍にするのは良くないか)』

花陽『【魚】嫌いと【猫】アレルギーです。魚は凛ちゃんが困った顔するし、凛ちゃん猫好きだけどアレルギーがあって、可哀想……』

希『ふむふむ……凛ちゃんは猫っぽいのに魚嫌い、しかも猫アレルギー。凛ちゃんに差し入れの弁当を渡すことになったら魚に気を付けるわ』

花陽『ありがとうございます♪』

希『(正直今回の憑き物とは関係なさそう……)うん』

希『いいこと思いついた。せっかくやし凛ちゃんの魚嫌いを克服させてあげたくない?』ニヤリ

花陽『私がやってもダメだったので、たぶん希先輩でも無理だと思います……。』

希『筋金入りやんか!うん、ほなまた練習のときに会おうな~』

希『あっ。あと、このことは皆には内緒にしてな?』

花陽『……待ってください!』

希『ん~?』

花陽『悩みならもう一つ……』

希『それも昔からの?』

花陽『はい……もしかしたらもう気にしてないかもしれないけど……』

花陽『……【コンプレックス】』

希『コンプレックス?』

花陽『ご、ごめんなさい!やっぱり忘れてください!あまり広めたら凛ちゃんに悪いし……』

希『ううん、こっちこそごめんな?ほんま花陽ちゃんは優しいなあ』ナデナデ

花陽『あぅぅ……///』

希(他のμ'sのメンバーには訊いておらへん。花陽ちゃんの気付かないことに同じ一年生の【西木野真姫】ちゃんや、二年生の穂乃果ちゃん、【南ことり】ちゃん、【園田海未】ちゃん、絵里ち、本名【綾瀬絵里】ちゃん、にこっち、本名【矢澤にこ】ちゃんが気付くとは考えづらい。それに詮索することが不自然や)


希(高校生になってから生まれた悩みはとくにない。これは難しい謎や……一体凛ちゃんに何が取り憑いて、何をやってるんや?)


希(これまでの状況を整理してみよう)


希(数日置きに凛ちゃんに残る憑き物の痕跡、つまり黒い靄。これまでうちは靄を残す憑き物本体と接触したことはあったやろか?)


 ・うちは憑き物と接触したことがある。

 ・うちは憑き物と接触したことがない。


希(ううん、凛ちゃんと最初に出逢った日も含めてずっと見てきたものは黒い靄だけや。接触できてたらとっくに憑き物を祓っとる)



希『さっき登場したこれについて言うとくわ』



 ・うちは憑き物と接触したことがある。

 ・うちは憑き物と接触したことがない。



希『うちが物事を考える際の選択肢やねん。こうするとうちの頭が冴えるんよ』


希『この先もちょくちょく使う。たいしたことのない分岐もあれば、重要な分岐もきっとあると思うんよ』


希『ほな、宜しくな?』

希(凛ちゃんは憑き物から何らかの被害を受けた?)



 ・凛ちゃんに被害がある。

 ・凛ちゃんに被害はない。

 ・凛ちゃんに被害があるかわからない。



希(……それはわからない。凛ちゃんが自覚していないのかもしれない。だから今まで黒い靄の【浄化】しかできなかったんやけど)


希(被害もなければ、凛ちゃんには高校生になってからの悩みも無い)


希(まさか憑き物は凛ちゃんを仮初の宿ないし住処にして、ふだんは外出してる?靄は憑き物が寝泊まりした証。……その考えはどうやろ。霊能者でもない凛ちゃんを宿にしたところで、……言い方は悪いけど精神のキャパシティオーバーで、精神の入れ物である凛ちゃんの肉体が崩壊してしまうだけや)


希(……わからん。別の角度から考えてみよう)

希(時系列としてはこう。高校生になりたての凛ちゃんが憑き物に取り憑かれどす黒い靄を残されて、うちがその靄を目撃して浄化。その日から邪悪な魂は定期的に凛ちゃんに薄い小さな靄を残していて、それをうちが浄化し続けてる)


希(最初に凛ちゃんと会った日は驚いた。黒い靄を纏った人型が平然と人間とお喋りしてたんやから。二度とあんな凛ちゃんを見たくないから、小さな靄であろうと定期的にうちが浄化し続けて……)


希(ん?)


希(最初の日の靄の塊と、以降の小さな靄?そういえば、この違いについて深く考えたことはなかった。てっきり最初の日は取り憑き始めた頃だから靄が色濃く残ってるんだと考えたけど、別の可能性は?例えば……)



 ・最初の黒い靄は小さな靄の集まったもの

 ・凛ちゃん自身が黒い靄の発生源



希(そう、じつは最初の黒い靄が小さな靄の集まったものだったとしたら?)


希(いやそれはおかしい。凛ちゃんが憑かれたのは高校生になりたての頃だから、数日置きの靄湧きルールに則れば有り得ない……あれ?)


希(ちょっと待ち。いつからうちは憑き物が高校生になってからのものと考えてた?先入観のせい?)


希(さっきの仮説が正しいなら、最初の黒い靄の塊は入学式の日以前、例えば【小学生】の頃から憑いてきた靄が集まった可能性もあるんと違う?)

希(……ありえる。塵も積もればなんとやらや。小さな痕跡といえども、そんな昔から浄化されずに溜まり続けたら、全身を包むほど大きな黒い靄にもなりえるな)


希(凛ちゃんは幼い頃から憑き物に取り憑かれていて、取り憑かれてる状態が凛ちゃんの日常になっているなら、それが普通の人にとっての怪異だと気づいてないのかもしれない)


希(そういや凛ちゃんの昔からの悩みを話してくれた人がいる。それは)



 ・花陽ちゃんから凛ちゃんの悩みを聞いた

 ・凛ちゃん本人から凛ちゃんの悩みを聞いた



希(花陽ちゃんや。とはいうても、さすがに魚嫌いと猫アレルギーは憑き物と関係ないと思う。そんなショボいことで満足するような邪悪がうちの手を煩わせるとは思えんよ)


希(となると関係ありそうなのは……コンプレックス)


希(凛ちゃんのコンプレックス……。心当たりはある。でも詳細は知らないから調べる必要があるわ)


希( これはもう一度花陽ちゃんに訊かないといかんなあ。いつごろに訊こう?)


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※とある日の部室


凛「――はい!はい!だったらその四のトイレの花子さんをμ'sに勧誘してみたいにゃー」

花陽「ピャアッ!?」

にこ「ハッ、そんなの勧誘しても幽霊部員になるだけじゃない」ドヤッ

凛「さっきお化けの作曲した曲で人気取ろう、て言ってたにこちゃんが言うことじゃないよ」

にこ「あんたの提案よりは夢があるでしょ!」

凛「あと幽霊部員の返しは素直に寒いにゃー」

にこ「あ、あんたの発想レベルに合わせてやったのよ…!悪い?!」

凛「かよちんはどー思う?」

にこ「花陽!」

花陽「え……と……とりあえず帰りに夕ご飯食べない?」

凛「あっ行く行く!」

にこ「あんたわざと言ってるでしょ!?」

希(平和やなー)

希(部活終わったら穂乃果ちゃんも海未ちゃんも絵里ちもことりちゃんも先に帰っちゃったし、残りのメンバーに『夏の暇つぶしといえば怪談や!』て調子乗ってオトノキ七不思議を話してみたら、凛ちゃんと花陽ちゃんが食いついてんねん)

希(とくに花陽ちゃんは良ーい反応してくれるからちょっとだけ本気で話してしもうた)

希(にこっちはにこっちでにこっちらしい理由でにこっちらしい夢を提案してくるから退屈しないわぁ)

希(真姫ちゃんは全然ノってくれへんけど、あれは興味無いというより……うふふっ)

凛「花陽さん……花陽さん……出てきて遊ぼうにゃ……」

凛「そうして扉が開いたら……」

花陽「あ、うん、こんにちは……」ヒラヒラ

凛「か、かわいい!花陽さん!μ'sに入ってくださいにゃ!」

花陽「私で良ければ喜んで……!」

凛「やったにゃ!部員ゲットー!」

花陽「わー!」

にこ「都合良すぎでしょうが!」

凛「これだよこれ!花子さんがかよちんみたいなかわいい子なら幽霊部員でもなんでもお得だよ!」

花陽「かわいいなんてそんな///」

にこ「まあ?このスーパーにこにーにこちゃんくらいかわいいお化けなら部員にしてあげても良いけど?いるわけないけどね?」

凛「にこちゃんみたいな花子さんかぁ……ぴったりにゃ!」

にこ「今どういうつもりで言った」

希「かわいい子言うたら、その七の女子生徒も勧誘しちゃう?」

凛「やっちゃう?」

花陽「七番目って会ったら乗り移られちゃう子だよお!?ひええ……ダレカタスケテー!」

にこ「空襲で死んだかもしれない人の姿なんて、お化け関係無く背筋が凍りそうなんだけど……」

希「そんなことあらへん♪みんなが綺麗な姿を信じれば、かわいいままで現れてくれるよ。きっと」

凛「そうにゃ!にこちゃん夢が無さすぎだよ!ピアノの女の子の曲を盗作したいにこちゃんに戻ってよ!」

にこ「あんたさっきから私に恨みでもあるの!?」

花陽「でもやっぱり乗り移られるのは怖いや……」

凛「そう?凛は美人さんとかかわいい子になら乗り移られても良いけどにゃ」

花陽「うーん……」

凛「だからかよちんが死んだら凛に乗り移ってくれて構わないよ!」

花陽「勝手に死なせないデヨ゛ォ゛ォ゛!」

にこ「それならね~、μ's内で最もかわいらしさを磨き上げたにこも~死んだら凛に乗り移っちゃおっかな~」

花陽「でもそういうことなら花陽も、幽霊の凛ちゃんなら憑依してくれていいよ?」

凛「えっ。あはは、凛が憑依したらかよちんに悪いよ!」

花陽「そんなことないよ!凛ちゃんなら幽霊でも安心できる!」

凛「もしかわいいかよちんの写真に凛が写りこんだら台無しになっちゃう!ね?」

花陽「心霊写真……!」ブルッ

にこ「それなら~μ's内で最もかわいいにこが~」

花陽「ううん!凛ちゃんなら大丈夫!だって凛ちゃんかわいいもん!」

凛「そんなことないよ」

花陽「そのままでかわいいよ!」

凛「かよちんの方がずっとかわいいもん!」

にこ「そ~れ~な~ら~!」

希「はーい!うちは真姫ちゃんの幽霊が見たいと思うわー!」

凛・花陽「あっ見たい!」

真姫「ヴェエエ!?」

真姫「ば、ばかじゃないの!お化けなんてそもそも居るわけないじゃない……!」

真姫「幽霊なんてお断りよ!」

希「うむうむ。真姫ちゃんスタイル良いし」

花陽「美人だし!」

凛「お嬢様の雰囲気を醸し出してるにゃ」

希「実際お嬢様やし?幽霊の真姫ちゃんならきっと素敵な七不思議が語られると思うんよ」

真姫「あのねぇ……」

希「七不思議その八。夜の音楽室でピアノを弾いていると、突然白鍵と白鍵の隙間にメスが突き刺さる。鳴り響く不協和音。驚いて逃げようとすると、背後から真姫ちゃんにこう囁かれるんや……」

希「『なにその演奏意味わかんなあああああああああい!』」

花陽「ひゃああああああああ!!」

真姫「バ、ババ、バカ言わないで……!ピアノを傷つけるわけないでしょ!この私が!」ブルブル

凛「うっかり真姫ちゃんの前でピアノを弾かないようにするにゃ……」

真姫「しないって言ってるでしょ・・・・・・?」ギロッ

凛「こっちの真姫ちゃんの方が恐いにゃあ!」

にこ「ていうか希。それだとその三と舞台が音楽室で被るんだけど」

希「それもそうやけど良いんやない?音楽室はきっと危険が多いんよ♪」

にこ「大体七不思議が八つもあるのは変よ。削りなさい」

希「じゃその四の花子さんを消そっか?」

凛「トイレの花陽さんはダメー!」

花陽「そのフレーズ気に入っちゃったの……?」

希「ほなどうしよっか?真姫ちゃんはどの不思議を消しても良いと思う?」

にこ「その五の悪魔召喚でいいんじゃない?ロマンもクソもないわ」

真姫「そもそも私を怪談のネタにしない選択は無いのかしら……」

希「ああ!すっかり忘れとったわ。真姫ちゃん生きてるやん」

にこ「そうよ!真姫ちゃん生きてるじゃないの!」

真姫「もう駄目だわこの三年生たち……」

にこ「危うくお化けの曲を手に入れるハードルが無駄に上がるとこだったわ」

花陽「が、頑張ってね」

にこ「μ'sの未来はにこに任せなさい☆」

希「にこっち一人に任せて良い結果になった覚えがないなー」

にこ「勉強とは別よ!勉強とは!」

にこ「それに一人じゃないわ!真姫!」

真姫「私も!?なんでよ!嫌よ!」

希「真姫ちゃんと二人なら安心やな?」

にこ「頼りにしてるわ。お化けの曲を手に入れてμ'sを売り出すわよ!」

真姫「あんたたちねえ……!」

凛「いっそお化けの女の子もμ'sに勧誘して作曲してもらうと良いにゃ」

真姫「聞き捨てならないわ!」

※数時間後、ハンバーガーショップ内


希「まさかにこっちが七不思議に喰いついてくるとは思ってなかったんよ、実は」

花陽「希ちゃんが七不思議を話してる最中、ずっと爪磨きしてたのにね。ハムハム」

希「素直に怖がってくれる花陽ちゃんを見習って欲しいわあ」

花陽「あぅ……みっともないとこ見せちゃった///」

希「花陽ちゃんとお化け屋敷に入ったら楽しそうやぁ」

花陽「ダレカタスケテー」

希「くすくす。ここらへんでからかうのは勘弁してあげる」

花陽「よかったぁ……ハム」


希(そう呟いて涙目でハンバーガーを頬張る花陽ちゃんは、とても癒される)


希(そんな花陽ちゃんを眺めながら、少し考え事をしよっかな)

希(部室のやり取りの中で少し引っ掛かることがあったんや。性格の問題といえばそれまでなんやけど、それは……)


 ・お化けの曲に執着するにこっち

 ・素直に七不思議を怖がってくれる花陽ちゃん

 ・自分はかわいくないと強く主張する凛ちゃん


希(凛ちゃんや。凛ちゃんは自分が幽霊側に置かれたときに、自分はかわいくないから花陽ちゃんに憑依できないと言ってた)


希(『り、凛はそんなことないよ』……。普段の凛ちゃんは穂乃果ちゃんと馬が合うように前向きなだけに、意外な一面と思われるかもしれん)


希(でもうちは既にこの一面に心当たりがある。これは凛ちゃんのコンプレックスの表れや)


希(凛ちゃんの抱いてる悩みで憑き物の影響を疑えるのはコンプレックスだけ)


希(……さっきコンプレックスが表れる現場を見たばかりや。今は花陽ちゃんに凛ちゃんのコンプレックスについて詳細を訊くチャンスやと思うねん)


希(黒い靄の手掛かりを探し出すためや。凛ちゃん、堪忍な?)

希「……じゃあ花陽ちゃんが怖がらせる側に回るのはどうや?」

花陽「私が?無理だよ、逆に笑われるよ」

希「だいじょうぶや♪暗闇でジッと佇んでるだけでも怖いもんよ」

希「『花陽さん……花陽さん……いっしょに遊びましょ』」

花陽「希ちゃんも気に入ったの…?」

花陽「はぁあぁいぃ」

希「で相手がトイレのドアを開いたら、ことりちゃんの絶妙なメイクと額から垂らした血糊で不気味な花陽ちゃんが笑ってるんよ!」

花陽「む、むりむりむり!むりぃ!怖くて自分の顔が鏡で見れなくなっちゃうよ……」

希「そっかぁ。残念やな~。こういうんはかわいい娘がやるから映えるのに」

希「あ、良いこと思いついたわ。次のライブはお化けの仮装で出たいわ!」

花陽「えぇ……っ、話の流れ的に怖い格好するほうだよね?ハロウィンパーティーみたいなのじゃなくて」

希「今までのスクールアイドルの常識をぶちこわすんや!」

花陽「にこちゃんが聞いたら怒るよ?」

希「にこっちが怒ってもかわいいだけやん?」ワシワシ

花陽「にこちゃんに失礼だよ。くすくす」

希「μ'sはかわいい子がいっぱいやん?ことりちゃんほどじゃないけど、うちもいろんな格好したμ'sを見たくなるんよ」

希「せやから花子さんとか幽霊女子生徒に扮した凛ちゃんを想像したら、怖かわいくてもう胸がポカポカするねん」

希「…」ジッ

花陽「ん?あっ……うん」

希「ねえ花陽ちゃん。凛ちゃんのコンプレックスってもしかして……」

花陽「……希ちゃんが察した通りだよ」

花陽「凛ちゃんは、自分を女の子っぽくないって頑なで……。自分は女の子らしくないからかわいくない、そういう格好はしちゃいけない、似合わないって」

花陽「μ'sに入る前にも、私が凛ちゃんをμ'sに誘ったら、アイドルなんて絶対無理だって笑ってた」

花陽「そんなことないのに。【髪】が短くてもとってもかわいいのに」

希「女の子っぽくない……か。そういや、凛ちゃんがスカート穿いてるとこをライブ以外で見ないなあ」

花陽「小学生の頃はスカートを穿いて来たらからかわれてたの」

希「それは辛いわ……」

花陽「……ただね。あれから数年経って、もしかしたら凛ちゃんはもう気にしてないかもしれない。自分は女の子っぽくないって、受け入れてるんだと思う」

希(ふむ、女の子っぽくないっちゅう周囲からの評価の【受容】か……)

花陽「あ、だから凛ちゃんにあまり詮索かけないであげてください……。凛ちゃん自身が気にしたくないみたいだから。凛ちゃんが悲しい顔してたら私まで悲しくなっちゃう」

希「もちろん、誰も悲しませんよ。教えてくれてありがとう花陽ちゃん。凛ちゃんとってもかわいいのにな」

花陽「でも希ちゃんはどうしてそんなに凛ちゃんのことを知りたがるの?」

希「フフン。カードがこう告げてるんや、凛ちゃんに何か良くないことが起きてるってな?その下調べで必要な情報やったんよ」ピラッ

花陽「あはは……。希ちゃんは占いが好きだよね」

希「スピリチュアルなこと全般が好きや♪」

希「それにただ好きなだけやないよ?うちにできることで人を笑顔にできたら素敵やん?それが占いでも、スクールアイドルでも同じ」

希「スクールアイドルがお客さんを笑顔にするように、占いがμ'sの皆を幸せにできるなら喜んでするよ」

花陽「…なるほど!すごい。占いにもアイドルと通じる部分があるんですね!」

希「うんうん。うちは花陽ちゃんの素直なとこ好きやで~」

花陽「あ、ありがとう?///」

希「せやから一つお願いがあるんや、花陽ちゃん?カードのお告げのことは解決するまで凛ちゃんと他の人にも秘密な?」

花陽「わかったよ!頑張ってね希ちゃん!」

希「それにしても、凛ちゃんはまだトイレに居るんかな」

花陽「そういえばどうしたんだろう……」

花陽「私が呼びに行ってくるよ」

凛「それには及ばないにゃ……」

花陽「わっ。お腹?だいじょうぶ?足元ふらついてるよ?」

凛「まだ腹痛やまないよー……」

希「その調子やとハンバーガーはお預けしといた方がええかも」

凛「えー!?まだ一口も食べてないのに!」ギュル

凛「う゛お゛お゛お゛ぅ゛ぉ゛お゛お゛お゛お゛ぉ゛お゛ぉおぉぉぉおおおおおおおおおううううぅううぅううううううぅぅぅ」

花陽「凛ちゃん!座り込んじゃダメ!いっしょにトイレに行こう!」

凛「か゛よ゛ちん……凛はもう……」

花陽「諦めないで!肩貸すから!」

凛「おおぉぉぉぉぉぉぉ……」

希(お腹の風邪か、昼に悪いものでも食べたか、はたまた店のトイレの烏枢沙摩明王さんが悪戯したか)

希(なんにせよ、うちはここで花陽ちゃんたちの荷物を見とかんとあかんな)

希(ほんとはそろそろ学校の音楽室に待機して、今頃七不思議に踊らされてるにこちゃんと真姫ちゃんを驚かしたいんよ♪あぁ楽しみやわぁ)

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

希(花陽ちゃんはほんまに凛ちゃんのことが好きやな。さすが幼馴染、てとこや)


希(さて、花陽ちゃんから凛ちゃんの抱くコンプレックスを聞き出すことができた。それは自身の女の子らしさの否定やった)


希(花陽ちゃんがかわいいと言ってもやや強情に否定する凛ちゃん。その背景には小学生時代の辛い経験があった。女の子らしくないっちゅう周囲からの評価や)


希(スカートを穿いて来たらからかわれた、か。凛ちゃんが女の子らしい格好をするたびにその状況に陥っていた、とすれば酷な話や……)


希(やがて凛ちゃんは周囲の評価を受容して、女の子らしくあることを諦めた。そんな凛ちゃんにも花陽ちゃんはかわいい、女の子らしいと励ましてきたんやなぁ。でもあの様子だと凛ちゃんは、女の子らしさといえば花陽ちゃんだと思ってるんやろな)


希(これらの情報を鑑みると、黒い靄とコンプレックスに関係はあるんやろか?)



 ・コンプレックスこそが憑き物の正体や

 ・黒い靄とコンプレックスは直接関係無い

 ・何とも言えない

希(……何とも言えへん。凛ちゃんの悩みがコンプレックスしかない。せやけどこのコンプレックスの原因が憑き物の影響だと考えるのは安直や。原因は小学生時代の経験や。そこにスピリチュアルは無い)


希(かといえ凛ちゃんにこれ以外の悩みが無い以上、無関係と切り捨てるのもなんか違うと思うんよ)


希(……うちの捜査が暗礁に乗り上げてしまったんやろか。せめて凛ちゃん本人に自覚的被害があればなあ……)


希(もう一度、凛ちゃんに訊いてみよう。いつごろにしようか)


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

※合宿(2期2話参照)


海未「どうしました凛!この程度でへこたれていてはラブライブで優勝できませんよ!」

凛「もうラブライブは関係なくなってるにゃー!」

海未「まだ山は五分の四も残ってますよ!」

凛「もう帰りたいー!」

海未「なんてこというんですか!山への冒涜です!謝りなさい!」

凛「ごめんだにゃー!でも知らんがにゃー!」

希「まあまあ凛ちゃん、うちが後ろから支えとくから頑張ろ?」

凛「うぅ~希ちゃ~ん」

海未「まったくなんて醜態ですか……運動が得意なんじゃないんですか?あなたは」

凛「走るのとは全然違うよー……」

海未「関係ありません。体力はあるでしょう体力は」

凛「体力があるからって崖みたいなとこは登れないよー!」

海未「あなた本物の崖を登ったことないでしょう!?いいですか、崖は山が人をお試しになられた神聖な試練でry」

凛「あっ落ちるうううううううううううう」

希「言うてもうちが先回りしてるけどな」ヨット

凛「あ~死ぬかと思ったにゃ……ありがとう希ちゃん……」

希「カードが予言しとったことやからね、凛ちゃんはこの山で必ず落ちるって」ピラッ

凛「やっぱり凛は落ちて死ぬんだあああああああああああああああ」

希「だからうちが先回りしとるんや♪」

海未「凛は弛んでます!これくらいの勾配に足をすくわれるなんて……」

凛「凛は平地を愛してるんだよー!」

海未「【好き嫌い】が激しすぎます!」

希「あっ狸が交尾しとる」

狸「♂」

狸「♀」

海未「こ、こここここおkkkkっこお!!?///」

凛「ほんとにゃー、かっわい~」

希「あっ、こら凛ちゃん近寄っちゃあかん。狸がかわいそう」ジーッ

凛「それもそうだね~」ジーッ

海未「ふ、ふたりとも破廉恥!変態!覗き魔!痴女!ですー!」ダダダダダッ

凛「まったくぅ、凛が山で酷い目に遭うのはぜんぶ海未ちゃんが悪いにゃ。勝手に先に行って良かったよー」

希「あれはあれで楽しいんやけどな。まっええわ。雑談しながらゆっくり行こ?」

凛「やっぱり希ちゃんは女神だにゃー」

希「海未ちゃんってば野生動物の交尾だけであんな顔が真っ赤になるんやね」

凛「凛は小さい頃から猫ちゃんのエッチを見てきたのに、ぷっぷっぷっ」

凛「あっでも遠くからでしか見たことないんだー。凛は猫ちゃんが大好きだけど猫アレルギーだから近づけないの」

希「(花陽ちゃんも言ってたことや)猫が好きなのに猫アレルギーなんか。かわいそうや……」

凛「しかたないよ。そういう風になっちゃったんだもん。気に病んでらんないよー。あっ」

凛「いいこと思いついたよ。海未ちゃんに猫のエッチから作詞してもらうにゃ」

希「海未ちゃんが裸足で逃げ出しそうな提案やな……やってみよう!」

凛「やろう!」

希「なんだか凛ちゃんの昔話はおもしろそうやな?」

凛「そ、そんなに面白い?」

希「猫のエッチが大好きだった女の子なんて、そうおらんよ。もっと聞かして?」

凛「…もー!その言い方だと凛が発情期の男の子だったみたいだよ!そういう希ちゃんだって交尾を見慣れてるみたいだったにゃ!」

希「うちは神話の神さんたちで想像し慣れてるからね♪猫の交尾くらいじゃ動じんよ」

凛「神様?よくわかんないけど希ちゃんが大人だってことはわかったよ!」

希「うちなんてほんまの大人から見ればまだまだ子供よ~?」

凛「そんなことないにゃ、て凛はおっきな膨らみを見て言ってみたり」ジッ

希「や~ん凛ちゃんのえっち~」

凛「かよちんより大きいにゃぁ……」

希「どうしてもおっきくしたいなら乳神神社を紹介してあげるよ~」

凛「……名前がまんま過ぎないかにゃ?」

希「ちなみにすでににこっちにも紹介したんやけど」

凛「名前詐欺じゃん!」

希「にこっちは業が深すぎたんや……」

凛「にこちゃん……」

希「まあ胸がちっさくてもにこっちはかわいいけどな」

凛「むしろにこちゃんの身体で希ちゃんみたいな胸だったら違和感バリバリにゃ」

希「もー、いじわる言わんといてあげて。凛ちゃんだってちっさくてもかわいいんやから」

凛「り、凛は別にゃ…///」

凛「あ!昔の話ならかよちんの方が面白いよ!凛が初めてかよちんのお米好きにヒいた日のことを話すね!」

希「凛ちゃんでもヒいたんか!聞かせて」

凛「あれは小学校の給食の時間だったにゃ。その日は初めて給食でお米が出されたの」

希(あ、もう大体わかってもうた)

凛「お米のでっかい入れ物が開いた途端に、かよちんが入れ物に貼り付いて離れなくて先生が困っちゃってさ」

希「かわいいわぁ。大好きなお米が見たこともないほど沢山あったから興奮しちゃったんやろな~」

凛「かよちんの暴走はそれじゃ終わらないんだよー」

凛「その日は凛がお米のよそう係だったんだけど、かよちんがあんまりキラキラした目でお米を見つめるもんだから、凛はかよちんの分のお米を大盛りによそってあげたのにゃ」

希「優しいやん?」

凛「それで済めば良かったんだけどにゃ……よそってもよそってもかよちんが離れなくて、他のおかずの上にもよそって、食器に山になるまでよそってしまったよ……」

凛「あのあとの先生は怖かったにゃー」

希「よっぽどお米が好きなんやね。ほんまに花陽ちゃんの【二面性】はおもろいなあ」

凛「あのときはヒいちゃったけど、今思うとかわいいと思ってるよ」

凛「凛はちょっぴり引っ込み思案なかよちんも、お米やアイドルの話を熱弁するかよちんも好きにゃー」

希「うちも好きよー」

海未「やあお二人さん。ずいぶんな重役出勤ですネ?」

凛「海未ちゃん!?先に行ったんじゃ!」

希「あちゃー」

凛「笑顔が怖いにゃ……とてもさっきの提案ができる雰囲気じゃないにゃ」

※合宿の夜


希「お布団の位置はこんなもんやろか」

凛「うんとねー、うん、おっけーだよ」


希(凛ちゃんから手掛かりを訊き出すことはとうとうできなかったやん)

希(ここまで凛ちゃんに何も害がないと、あの憑き物が凛ちゃんの守護霊なのかもしれないって認識し直したくなるけど……)

希(あの黒い靄の禍々しさ……そんなわけないんやけどなあ……)

希(今日は別荘の周囲に張ったテントに布団を準備するだけの簡単なお仕事がある。そして寝るだけや)

希(……黒い靄は気になるけど、凛ちゃんが本当に何も困っていないなら、下手に凛ちゃんを突っつくのは辞めた方がいいのかもしれない)

希(でもそうなると、うちが『スピリチュアル』って言いたいだけのイタい娘に認定されてまう)

希(……それでもええかなぁ。μ'sのみんなに不幸が無い方が良いに決まってるもん)

希(黒い靄はうちの見間違い。いやイタい娘の設定なら中二病の……自虐はよそう)

希(うちの勝手な妄想で凛ちゃんの弱味を探し回ってしまったなぁ。近い内に凛ちゃんと、それから協力してくれた花陽ちゃんに謝ろう)

凛「三人でひとつの布団に入ることなんて小学校以来にゃー!」

希「うちは初めてやからワクワクするわー」

海未「だからといって夜更かしをさせるつもりはありませんからね?」

凛「えー!?」

海未「『えー』じゃありません。明日も朝から練習があるのですから当然です」

希「それもそうやんな。大人しく寝ることにしよっか」

凛「せっかくの合宿の夜なのにー」

希「……凛ちゃん。うちは前の合宿の夜の海未ちゃんを呼び覚ましたくないねん。こんな狭いとこじゃうちらに勝ち目があらへん」ボソボソ

凛「ハッ…!おとなしく寝ることにするにゃ!」

海未「?」

海未「あの、すいませんが少々出かけてきます……すぐ戻ってきますので」

凛「あっトイレ?」

海未「せっかく言葉を濁しましたのに……」

凛「気にすることないにゃー。行ってらっしゃい」

海未「もう……行ってきます」

希「ほな寝る場所を決めよっか?」

凛「んー……かよちんが居ないからどこにしようか迷うにゃ。端っこにしよっかな」チョコンッ

希「じゃうちは凛ちゃんのとーなり♪」ドスンッ

凛「ふぁ……横になった途端眠たくなってきたにゃ……」

希「登山したからやな。おつかれさま」ナデナデ

凛「凛はもう山は嫌にゃ……」

凛「…あっ希ちゃん、寝るときはちょっと凛と寝る間隔、放してくれていいかな」

希「あ、ごめん暑苦しい?」

凛「んー、ううん。そんなことはないんだけどね」

希「ふうん?」

希(凛ちゃんにしては珍しく曖昧な回答やん?海未ちゃんがトイレから帰ってくるまで暇やし、ここは……)



 ・凛ちゃんに理由を訊いてみる

 ・凛ちゃんに抱き着いてみる

希「なんや~凛ちゃんにしては曖昧やん?あ、もしかしてうちの傍に居ると胸がドキドキしてきたりする?」ニヤニヤ

凛「いつまたワシワシされるかと思うと冷や冷やドキドキすることはあるにゃ」

希「ちぇっ。ノってくれたら嬉しかったのにな~?」

凛「本気にしていいの?」

希「本気でしちゃう?」

凛「のぞみお姉さま……!」

希「りん……!」

凛「残念でしたのにゃ。凛にとって希ちゃんは傍に居ると安心するお母さんだよ」

希「お母さんか。それはそれで嬉しいやん?」

凛「えへへ」

凛「だって希ちゃん優しいもん」

希「奇遇やな?うちも凛ちゃんは優しくてかわいい娘と思ってるで」

凛「り、凛のことは今はいいの!」

凛「あのね?希ちゃんは入学式の日からずっと凛やかよちんの話し相手になってくれたでしょ?」

希「ピッカピカの一年生になりたての凛ちゃんかあ。懐かしいなあ」

希(それは黒い靄を定期的に浄化しに行ってたたから、とは言えんなぁ)

凛「スクールアイドルが音ノ木坂に出来立ての頃、希ちゃんが恥ずかしがりやさんの真姫ちゃんに曲を渡すよう促したんでしょ?」

希「よく知ってるやん?」

凛「真姫ちゃんが苦い顔して話してくれたにゃ」

希「クックックッ。あの頃より少し成長しててうちは嬉しいわあ」

凛「あとは生徒会でのお話で絵里ちゃんが嫉妬するほど穂乃果ちゃんたち側に味方してた、て絵里ちゃんから聞いたにゃ」

希「あの頃の絵里ちはそれはそれは自分に素直やなくてなー?」

凛「まだあるよ。希ちゃんの助言がなかったらにこちゃんをμ'sに入ってもらう発想を思いつかなかった、て穂乃果ちゃん言ってた」

希「…もしかしたら、の話やけどな?」

凛「まだまだあるよ。μ'sに希ちゃんも加わったら、凛のおふざけに一番ノってくれる」

希「…?」

凛「凛は皆から『いつも無鉄砲でなんにも考えてない!』て言われちゃうけど、海未ちゃんに叱られるほどはしゃいじゃうのは希ちゃんが受け入れてくれるからだよ?」

希「…限界や!これ以上褒めちぎらんといて!///」

凛「…………凛はね」

希「…うん?」

凛「希ちゃんの優しさが好き。好きだけど、ふと我に返ると寂しくなるんだ」

凛「希ちゃんが卒業しちゃったら、もう希ちゃんの優しさを感じることはできないのかなって」

希「ストップ!」ワシッ

凛「にゃうん!?」

希「さっきから恥ずかしいこと言ってくれるん思ったら、そういうこと考えたんか」

凛「だって次のラブライブが終わったら希ちゃん卒業しちゃうから。どうしても意識しちゃうよー……」

希「そんな先のことより、今の自分たちのことを考えて欲しいんや」

凛「うーん……」

希「卒業はどうあがいても避けられへん。でもラブライブの優勝はわからん。なら今のμ'sを楽しまないかん。違う?」

凛「…うん、そうにゃ!凛は今の皆が好き!そんな先のことは考えないでいいのにゃ!」

希「それでええんや♪」

凛「よーし!今から目一杯希お母さんに優しくしてもらうにゃー!」ギュッ

希「うわっ。おっきい娘やなあ」

凛「希ちゃんの身体はもちもちしててあったかいにゃあ」

希「うちがお母さんならお父さんは……海未ちゃんやな」

凛「えー!?海未ちゃんは厳しいしちょっと怖いし大変だよ!」サササッ

希「海未ちゃんほど世話好きで優しい娘もそう居らんと思うよ?」

凛「あれで優しいのぉ!?」

希「フフフッ。凛ちゃんはまだまだ海未ちゃんのことを知らないんや。もっと知ればわかるようになるよ」

凛「うー……」

希「そろそろ寝よっか?海未ちゃんがまだ帰ってきてへんけど」

凛「そうするよー……おやすみ」

凛「あぁそうにゃ。さっき希ちゃんが凛に訊いたことだけど」

希「何やったっけ?あっ、凛ちゃんから少し離れて寝て欲しいっていう」

凛「うん。かよちんと二人だけの秘密だけど、希ちゃんになら話しても良いかなって思って。もしかしたら凛の枕元に『お米の神様』がいらっしゃるかもしれないから、凛の周囲にものを置かないようにしてるんだよ」


希(はっ?)

希「『【お米の神様】』?」

凛「凛は昔から寝て起きると、たまにだけど傍に【お米】がほんの少しだけ落ちてるんだよー」

希「米?米ってあのご飯の?」

凛「ほかに米なんてないにゃ」

凛「昔っからそんな感じだから、ひょっとしたら『お米の神様』が悪いものから凛を護ってるのかもね、て小学生の頃にかよちんと話したんだ」

希「『お米の神様』……面白いこと言うなぁ。どっちが言い始めたん?」

凛「もちろんかよちんにゃー。お米と言ったらかよちん!かよちんと言ったらお米だよ!」

希「あはは、やっぱり?♪」

凛「希ちゃん的には、スピリチュアル!てやつだね!」

希「それな。面白いこともあったもんや。今までμ'sの皆でお泊りしたときはお米は落ちてなかったん?」

凛「なかったよ」

希「やっぱりそっか。あったらうちがとっくにμ's内七不思議に認定してる」

凛「μ's内七不思議ってなに!?聞きたい聞きたい!」

希「七つ揃ったら教えたげるわ~」

凛「じゃ凛の『お米の神様』を入れといて!」

凛「あ、やっぱりダメにゃ!かよちんとの秘密だったよ!」

希「なんやったら、花陽ちゃんに後で許可もらっておこっか」

凛「そうすればよかったのか!よろしく!」

希「了解♪」

凛「『お米の神様』……お米ばっかり残さないで、一度顔を見せて欲しいにゃー」

希「……ふふ、そうやな」

海未「凛、希、夜空が綺麗です。よろしければ星を眺めませんか」

凛「ほんと!?見る、見る!」

希「横になって見れたら最高やなぁ」



希(そうして凛ちゃんや海未ちゃんと星座の話をしながら、μ'sの安泰を願った。後にうちは一足先に布団に入った。凛ちゃんも布団に入ると寝息を立て始めた。海未ちゃんは別荘に入っていった。夜通し作詞するつもりなんやろな。頑張ってな)

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

希(これまでの情報で、凛ちゃんの憑き物の正体が割れるんやろか?)

希(ここにきてようやく、凛ちゃんの被ってきた怪奇が解った。それは……)



 ・凛ちゃんに纏わりつく黒い靄

 ・凛ちゃんが寝る場所に在るお米

 ・凛ちゃんの女の子らしさを否定する評価



希(偶に寝床に散らばる米。昔から起きていた事だ、と言っていた。そんな奇妙な出来事でも、一度受け入れて常態化してしまえばそれがその人の日常になる。だから凛ちゃんは気に留めず、悩まなかった)


希(ところで、お米と聞くと花陽ちゃんを連想するけど、安易に花陽ちゃんと関連付けるのはどうだろう?うちは……)



 ・花陽ちゃんがお米を撒いている

 ・花陽ちゃんは関係ない

希(花陽ちゃんとは関係ないと思う。花陽ちゃんがお米を撒く理由が無い。それに禍々しい靄を残す憑き物に手を貸して、その存在を誇張するとも思えない)


希(ということは『お米の神様』はお米と関係していて、凛ちゃんや花陽ちゃんとは全く関係ない、風来坊の魂……)


希(古くから米には神様が宿る、と言われているけれど、その神様と今回の憑き物とは全く別物のように思う。その理由は……)


 ・禍々しさとは無縁

 ・所詮は言い伝え

希(凛ちゃんに禍々しい靄を残しているから……きっと『お米の神様』が悪い存在だからにちがいない)


希(『お米の神様』は夜中、凛ちゃんに何をやらかしているんだろう……。もしかして猫アレルギーや魚嫌いに関係が?)


希(いや、その二つが『お米の神様』の影響とは思えない……。憑き物の痕跡からは烈然とした邪を感じる。もっと身の毛もよだつようなことを行っているはずやけど……)


希(……『お米の神様』は決まって夜に、凛ちゃんの寝付いた後に現れ米を落としていく)


希(『お米の神様』……あんたは一体、何者なん?何がしたいん?)


希(でもま、ようやくうちの腕を振るう相手の片鱗が摑めたんや。うちをただのイタいスピリチュアル娘と呼ぶ声に、一矢報いることができる)


希(でも重要なのは凛ちゃんを救う結果や。『お米の神様』。見つけ次第、うちが祓ってやる。凛ちゃんは大切な仲間やからな!)

希(……といっても凛ちゃんの言うように、μ'sでの寝泊まりのときは来ないらしいしな……。だから今日まで捜査に進展がなかったんやけど)


希(万が一ということもある。動かないわけにはいかん)


希(トラップ用の護符をテントの内側に仕掛けとこうかな)ペタペタ


希(これがあれば異常事態が起きても寝過ごすことはないね)


希(おやすみなさい)



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

※同夜、丑三つ時



希(外が騒がしくて目が覚めてしもた。トラップ用の護符が作動したわけやない)


希(それなのに禍々しい気が空間を支配してる)


希(状況を整理しよう。別荘の方からピアノの旋律が聞こえてくる。これは真姫ちゃんが作曲してる最中なんやろ。そっちは問題無い)


希(問題はこっちや。テントの入口とは反対側から聞こえる。音は複数……忙しない足音が二種類、速い呼吸、そして……猫の鳴き声?)


希(様子を確認してみようか……)ジッ


希「……花陽ちゃん?」

花陽「っ!」

希「……一体、アレは何?」

花陽「はぁ、はぁ、あ、その…………っ」


希(息を切らせて言いよどむ花陽ちゃん。ということはその後方、林の闇に浮かぶ影――おそらくあれが『お米の神様』)


神様「・・・・・・ニャー」

希「お米の神様』って名づけられたんだから、それらしい姿をしてて欲しいんやけどなあ?」


希(異形のもんは見慣れてるけど、それとは違う不気味さがある……。全体的に大きな鮪やろか、でも顔と手足は、毛が無いけど猫の特徴が表れてる。強いて言うなら化け猫に擬態し損ねた鮪、てとこか)

希(垂らした舌が黒くぼやけて見える……ちがう、あの舌を黒い靄が覆ってるんや!)

花陽「危険だから!希ちゃんはここから離れて!」

神様「ンミャアアアアアアアアアアアアアアアアッシャアアアアア」

希「突進……!」

花陽「っ!」ヒュンッ!

神様「フニャォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ」


希(『お米の神様』がうちの背後のテントに突進を仕掛けた。けど花陽ちゃんが手から撒いた’何か’を受けると、『お米の神様』が苦しみ後ずさりした)

希(物理攻撃があんなに効くとは思えへん。あの’何か’が霊的な性質を備えてるんか)


花陽「お…お願い、希ちゃんは離れて……!」

希「……花陽ちゃんには訊きたいことができてしもうたな」

花陽「あとでなら……とにかく今は逃げて!」


希(スピリチュアルパワーを発揮する娘はうちだけやない、てことか……)

希「なら、うちも使おうかな。スピリチュアルパワー」ヒュン ヒュン

花陽「今はそんな冗談を……」

護符「Booooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooo!!!!!!」

護符「Boooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooom!!!!!」

神様「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛」

花陽「え!?え?一体何が……?」

希「ただ護符を投げただけよ?異形の存在を感知するとスピリチュアル爆発を起こすんや」

花陽「お札って爆発ス゛ル゛ノ゛ォ゛!?」

神様「 」サラサラ……

希「あら?もう浄化されたみたいや」

花陽「一発で勝ッチャ゛ッタ゛ヨ゛ォ゛」

希「ほな一丁上がりや」

花陽「あの……希ちゃん……」

希「ん?」

花陽「ごめんなさい!」

希「え?なにが?」

花陽「ごめんなさい!まさか希ちゃんも不思議な力を使えるなんて思わなくて!しかも私よりすごく強いのに偉そうに言っちゃって、ごめんなさい!」

希「そんなことあったっけ?」

花陽「えと……『ここから離れて』って」

希「ああ!良いよ、それくらい」

花陽「それに…………正直、希ちゃんの言うスピリチュアルパワーを疑ってもいました」

希「それは残念やなあ」

花陽「で、でも今は希ちゃんのこと、信じてるから!」

希「フフ、うれしいわあ」

希(そろそろ一連の怪異の答え合わせと行こうか)


希「花陽ちゃん、さっきも言ったとおり」

花陽「うん、話すよ……。あの【化け物】のこと、そしてコレのこと……」

希「コレ……お米?」


希(ただのお米ではないのは見て解る。この力の根源……とてもシンプルな……あっ)


希「【神饌】か」

花陽「はい……神棚にお供えした後のお米を頂戴してるの。ラップに包んでおにぎり状にして、必要なときは千切って投げてるの」

希(神様の食事の残り物。たしかにそこにもスピリチュアルパワーは蓄えられる。けど戦闘用には向かないなあ)

希(それから、花陽ちゃんは一連の怪異の発端を話してくれた)

 あの化け物は突然現れたの。小学生の頃、凛ちゃんのおうちにお泊りしたときに……。そのときのことは怖くて鮮明に覚えてる。

 部屋を真っ暗にして、凛ちゃんと一つの布団で眠ってて、だけど夜中にふと目が覚めた。

 部屋の暗闇に何か得体のしれない気配を感じたから。ちょっとでも動こうものなら私を……食べちゃいそうな、そんな恐怖を覚えたよ。

 そのときは気配が暗闇に溶け込んでいた。だからどこにソレがいるのかわからなくて、余計に姿を確認したくなって、目だけ動かして探した。そしたらぼんやりとした黒い影が、足元に居た。

 ソレ……化け物は私たちの布団の周りをのっしのっし、て巡り続けた。まるで……そのあとの行動を考えてるような……。

 そして、化け物は凛ちゃんの枕元で足を止めた。足はぼんやりとしか見えなかったから、動きを止めたって言った方が正確かもしれない。

 一つの布団を共有してた上に、凛ちゃんは私にくっついてたから、凛ちゃんの顔がすごく近い距離にあった。だから化け物との距離もすごく近くて……私の心臓がバクバクしてた。助けて、助けて、て心の中で叫んでた。

 そんな場面だったから恐怖で身体が金縛りにかかったみたいに動けなかった。そして化け物が……人で言えば屈んで、凛ちゃんの顔を間近から覗き込むようにしてた。

 凛ちゃんに何をするのか、わからないし知りたくなかった。だから私はギュッて目を閉じて化け物が去るのを待った。

 けどある時、ピチャッて水音が凛ちゃんの方から聞こえた。

 ピチャッて音は何回も繰り返し聞こえた。一度だけ凛ちゃんが唸る音を聞いたけど、その他にはなにもなかった。

 私は気になってしょうがなかった……今にして思えば目を閉じてるからなんだろうけど、あのときは耳が聞こえなくなればいいのにって心の中で叫ぶほど異音に敏感だった。

 やがて音が止んだ。化け物の気配はするものの動きが全然感じられなかった。

 だから、よせば良いのに目を開けて状況を確認しようとしたの。

 うっすらと目を開けたら、光る二つの眼と眼が合った。

 意識を取り戻してくれたのは凛ちゃんだった。身体を揺り動かされて、私を呼ぶ声が聞こえた。凛ちゃんの溌剌とした朝の挨拶だった。気を失ってる間に朝を迎えていたらしかった。

 なので目を開けようとした。けど、瞼の裏から光る二つの眼と合った気がして、恐怖で思わず目をぎゅっと瞑って身を小さくした。

 でもそんな恐怖は、私が起きた、と判った凛ちゃんに身体のあちこちをくすぐられて吹っ飛んでしまった。さっきの恐怖心からか、それとも笑い泣きなのかわからないけど、目元に涙ができていた。私も反撃して、布団の上で凛ちゃんとくすぐり合戦をした。

 凛ちゃんのお母さんが起床時間を告げるため部屋へ入ってきたところで、おふざけを終えた。ここで、昨晩の悪夢から日常に帰ってきた喜びを分かち合いたくなった。笑い転げて疲れた身体を起こして、凛ちゃんに抱きついた。

 ふみゃ、だか、むきゅ、だったか、凛ちゃんの口から小さく漏れた。すっかり恐怖が和らいだ。そして晩の出来事を話そうと声を掛けた。その時異変に気づいた。

 凛ちゃんの顔が妙に臭かった。

 気付いてしまったら言葉が続かなかった。昨晩起きた事の一部始終が、早送りで思い出された。夜の闇、蠢く影、……凛ちゃんの顔に下りる影。

 あの影が凛ちゃんの顔に何かしたのは明白だった。すぐにあの水音が思い出されて、一つの結論を出した。あの化け物はきっと凛ちゃんの顔を【舌】で舐め回したんだ……。

 その結果が、凛ちゃんの顔の異臭。でもそんなことを本人に告げるのは酷だと思って、黙ってしまいました。知らない方が良いこともあるよね。

 言いかけたまま黙る私に、凛ちゃんが怪訝な顔で私の名前を呼び始めたので、一緒に顔を洗いに行くことを提案した。

 洗面所までの道程で、凛ちゃんは花陽の目を見つめて、明るい調子で言いました。

  『かよちんは使ってない凛のパンツに履き替えてくるといいにゃー』。わけがわからなくて舌を上手く回せなかった。

 どうにか聞き出すと、凛ちゃんも部屋の異臭に気づいてたんだけど、異臭の原因を花陽のおもらしだと思ってた。凛ちゃんにとっての花陽はお漏らししてもおかしくない子でした。

 これが化け物による最初の事件でした。

 ……二度目にその化け物を目撃したのは、今度は凛ちゃんが私の家にお泊りしたときだった。そのときは凛ちゃんと私で一つずつお布団を並べてた。

 お布団の上でひとしきりお喋りして、お母さんが部屋の電気を消して帰って、真っ暗な部屋でお互いにおやすみの言葉をかけて、掛布団を被って眠りに入った。凛ちゃん家のときと似たような状況だった。

 深夜にふと目を覚ました。部屋はもちろん暗闇で、すぐ隣からは凛ちゃんの寝息が微かに聞こえた。凛ちゃんが私の布団に潜り込んできていた。当時の私は思った、これは凛ちゃん家で化け物が現れたときと似たような状況だ、て。

 そう思ったら途端に怖くなって、おトイレにも行きたくなった。それにもし凛ちゃんが再び襲われたらと思うと、助けたくてジッとしてられなかった。

 半ば逃げるようにして、私は部屋を出た。おトイレの最中に化け物への対抗策をいろいろ考えた。でも小学生の頭では何も思いつかなくて、悔し涙が出てきた。

 おトイレを済ませて、べそを掻きながら暗い廊下を歩いてた。そのとき、ふと台所に寄りたくなった。良い道具がある、て気づいたから。台所にはお母さんが危ないからって使わせてくれない、包丁があることに気づいたから。

 台所の収納スペースを探すと、よく見かける包丁があった。お母さんがその包丁で指を切ったとき、じわりと血が溢れだしたのを覚えてた。それだけ強力なものならきっと、化け物にも強いはずだ、て喜んだ。

 いざ手に取ると、嫌な想像が駆け巡った。この包丁で化け物を傷つけたらやっぱり血が出てくるんだろうか。あるいはもしも包丁で私の方が返り討ちに遭って刺されたら痛いんだろうな、とか。凛ちゃんの身体に刺さってもやっぱり血がじわりと溢れるんだろうな、深く刺さったらもっとたくさん血が出るんだろうな。……考えたらキリが無いから頭をブンブン振って、想像を頭から追い払った。

 強力な武器で化け物と戦える。凛ちゃんの好きな戦隊ものの戦いとはだいぶ違うけど、それでも凛ちゃんを守るんだ。震える手を見つめながらそう決心した。

 でも結局、包丁を持ち帰ることはなかった。包丁よりももっと効果がありそうなものを見つけたから。

 それは暗闇の中、台所の片隅で白光を放っていた。一目で尋常でないキラキラだと見抜いた。踏み台を運んで台所に乗り出して見ると、小さなお皿にお米がこんもり乗っていた。

 私はこのお米の意味を知っていた。毎日お母さんやお婆ちゃんが少量の炊き込みごはんをそのお皿に盛る光景を見てきた。気になってお母さんに訊ねたら、神様に捧げるものだ、と言っていた。

 なぜそのお米が光っているのかは勿論わからなかったけど、私はこのお米なら血を流さずにあの化け物を倒せると確信した。

 光るお米を片手に盛って部屋へ向かうと、自分が変なことをしてる自覚がふつふつと湧き上がった。お母さんに叱られる可能性はもちろん考えたけど、当時の私は凛ちゃんに見つかることの方が不安で仕方なかった。凛ちゃんには化け物のことを話さないつもりだったから、部屋への道中は見つかった場合の言い訳を考えるのに必死だった。

 結局、幼い私の頭では思いつけなかった。

 寝室の戸を開けた途端、あの気配が空間を支配するのを感じた。鳥肌が治まらずその場に立ち尽くしていると、凛ちゃんの枕元に黒い靄が出現した。

 靄は私が凝視する中、四足歩行の動物へと変形していきました。やがて頭と思われる部分が完成すると、その顔を私に向けた。

 暗闇に光る双眸があった。うっかり目を合わせてしまったばかりに、その眼力に、足が竦んでしまった。

 しばらく化け物と見つめ合っていた。凛ちゃんを人質に取られている、なんて正義のヒーローみたいな意識はなかった。ただ自分が襲われる恐怖で震えていた。

 でも、へたり込んだ私なんて簡単に襲えただろうに、化け物はそうしなかった。

 さきに動いたのは化け物でした。光る双眸を一層開いて『ニャー』って鳴いたかと、凛ちゃんの顔に被さり始めた。

 この時になってようやく、凛ちゃんを守る使命を思い出した。私は無我夢中になって動いた。我に返ったのは手元のお米を数粒ちぎって、化け物に投げつけた後だった。

 その瞬間、猫の悲鳴が部屋の中を駆け巡った。効いてる。光るお米が化け物に効いてる、て実感した。

 化け物が凛ちゃんから飛び退いて部屋の隅に固まった。鋭い眼力を私に向け続けていたけど、お米の力を信じたら足の竦みが治った。私は立ち上がることができた。

 凛ちゃんをこれ以上化け物の爪牙にかけられたくない。そう思ってまず、化け物を警戒しながら移動して、凛ちゃんの頬に一千切りのお米を添えた。お米の力が化け物を寄せ付けないと確信したから。

 そしてお米を掲げながら化け物の方へ歩み寄った。お米の明かりが何よりも頼もしかった。

 あと数歩で化け物に触れるというところで歩みを止めた。化け物の身体がお米の輝きを照り返して僅かに白んだ。

 その顔は猫に似ていた。でも身体は魚っぽかった。

 『凛ちゃんに変なことしないで』化け物にそう求めた。『ニャーフルシク』だとか鳴いて、化け物は首を振った。

 『だったら……帰って、ください』手元のお米から数粒ちぎって化け物に突き付けた。短い悲鳴が聞こえた。そして化け物は黒い靄に姿を変えて霧散していった。

花陽「――やっと退治したと喜んだのに、別の日にまたあの化け物が凛ちゃんを襲ってて……そのたびに私が神棚のお米を持ち込んで撃退して……」

希「それを小学生から今日まで、一人でずーっと行ってきたんか……」

花陽「だってこんなオカルト、誰も手を貸してくれないよ!!それにもし凛ちゃんが夜な夜なあんな危険に晒されてるなんて知ったら、凛ちゃんはショックで眠れなくなっちゃうかもしれない!」

花陽「だから花陽が……花陽が凛ちゃんを護らなきゃいけなかった……!!」ポロポロ

希「……それも今日で終わりやね?」スッ

ハンカチ「……」

花陽「はい……よかった……あ、ありがとう、のぞみちゃん」ポロポロ

希「はなよちゃん、おつかれさま」ナデナデ

花陽「ふぇ……ふぇ……うわーん!」

希「…………」ギュッ

花陽「ああぁあああぁあぁ…!うわあぁぁああああぁあ……!」

希(深夜の林にピアノの旋律と、一人の少女の泣き声が新しい旋律を奏でていった。その旋律は少女が何年も囚われてきた深淵からの訣別を物語っているのやろうか)

希(その確信を得るために、うちは花陽ちゃんが泣き止むまでに考えることにしよう。この怪異の全貌を……)








関係1:

星空凛――――小泉花陽



希(『星空凛』ちゃんと『小泉花陽』ちゃんは幼稚園の頃からの『幼馴染』。二人は大変仲が良い。けれど普通の仲良し関係とは少し違う側面もあったんや。それは……)


希(花陽ちゃんが凛ちゃんの危機を一方的に救い続けてきたことや。凛ちゃんの知らないところで、花陽ちゃんは『化け物』と戦ってきた。それもたった独りで)



関係2:

星空凛――――憑き物――――黒い靄

星空凛――――黒い靄



希(『憑き物』の正体は、化け猫に擬態し損ねた鮪のような化け物やった。化け物は凛ちゃんを『舌』で舐めることで『黒い靄』を残してきた。花陽ちゃんには黒い靄が憑いていたことはないから、専ら凛ちゃんに狙いを定めていたっちゅうことになる。不気味やわ)



関係3:

小泉花陽――――憑き物



希(花陽ちゃんは化け物の恐怖を凛ちゃんに知らせたくなくて、独りで化け物と戦い続けた。神様のお食べになられた『神饌』を武器に。でも神饌の力では化け物の『浄化』には届かないんや。来る日も来る日も化け物を撃退するだけで精一杯な花陽ちゃんを思うと、うちまで泣きそうになる)


希(そんな苦しい状況から、今晩で花陽ちゃんはようやく救われた。うちが憑き物を浄化したから。化け物は為す術なくあっさり浄化されていった)


希(花陽ちゃんはもう異形の存在と訣別できた。これからの人生を普通の人らしく生きていくためにも、今は戦いの疲れを洗い流すのが良いんや)


希(彼女のこの暖かい涙に溶かしてな)



関係4:

μ's
├─高坂穂乃果
├─南ことり
├─園田海未
├─星空凛
├─小泉花陽
├─西木野真姫
├─矢澤にこ
├─うち
└─綾瀬絵里



希(うちらはμ'sのメンバーや。メンバーを助けるのは当然のこと。皆で助け合うことが皆の結束を深めていくことになる。それこそがラブライブ優勝を叶えることになるんや!)







希「もう平気?」

花陽「うん。枯れちゃうくらい涙流しちゃった」

希「水分摂っておいてな?昼間は汗を流さなきゃいかんからね」

花陽「そうするね♪」

花陽「あと顔洗わないといけないね。泣いてたことが皆にバレたら心配されちゃう」

希「せやな」

希「あ、そうそう。凛ちゃんが言ってたけど、『お米の神様』なんて洒落た名前をよく考えたやん?」

花陽「凛ちゃんが希ちゃんに『お米の神様』を話したんですか?そうだったんだ」

花陽「あの名前は…花陽が処理し忘れたお米を凛ちゃんが見つけたときに付けたの。凛ちゃん酷いよ?『かよちんあんまり食いしん坊だとでぶちんになっちゃうにゃ』なんて言うの!花陽が夜中に空腹を我慢できずにお米をつまみ食いしてる、て考えたの!」

花陽「そんなの花陽の印象に関わるから否定したかった。だから咄嗟に思い付きで、責任を化け物に擦り付けようと……」

希「凛ちゃんは優しい子やなぁ、花陽ちゃんの身体を気づかうなんてなぁ」ニコニコ

花陽「ソウジャナクテェ!」

希「そう?じゃあ化け物退治で使ったお米はどうやって処理してるん?」

花陽「汚くなっちゃったお米はティッシュに包んで捨てるよ?」

希「汚くないお米は?」

花陽「勿論食べるよ!お米を捨てるなんて勿体無いもん!」

花陽「…あっ」

希「やれやれ、やね♪」

花陽「あぅぅ……///」しおしお

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


希(こうして今回の怪異は幕を下ろした。憑き物の詳細は結局はっきりせんかった。たしかに言えるのは、怪異の背後には花陽ちゃんの汗滲む闘いがあったんや)


希(凛ちゃんの身体に纏わり憑いてた黒い靄。あれは化け物が花陽ちゃんの攻撃を掻い潜って凛ちゃんに接触したときに憑いたものやと思う)


希(当の被害者の凛ちゃんは幼馴染の長い闘いを知らない。けどそれで良いんよ。凛ちゃんが今日まで元気なことが、花陽ちゃんの功績そのものなんやから)


希(この世にはたしかにスピリチュアルなことがあるんや)


希(常識では計り知れないその力はときに邪に、ときに正しく在る。花陽ちゃんは細やかながら正しきスピリチュアルパワーを手に入れていた)


希(しかも、手に入れた力を幼馴染のために使った。邪な化け物じゃなくて、ああいう優しい子にこそスピリチュアルパワーを持ってもらいたいね)


希(花陽ちゃんと凛ちゃん。二人は幼い頃からお互いに支え合ってきたんやな。二人の仲睦まじい様子がなんだか輝いて見えるわ)


希(ふふ……うちも、幼馴染が欲しかったな)


希(なんてな?今さら嘆いても仕方ない。うん)


希(今回の出来事で花陽ちゃんを孤独の戦いから解放したこと。もう花陽ちゃんは凛ちゃんの背後に憑き物の存在を意識しなくてええんや。花陽ちゃんが凛ちゃんと自然な友達関係を築けるようになると思う)


希(それがμ's全体の結束をより深めていくことになるんや!)


希(ほな、うちは日常に戻ろうかね!)


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※合宿二日目の練習



凛「痛っ!指を木の枝で切ったにゃー!」

花陽「ひゃ!血が出てる!私のハンカチで傷口塞いで!」ギュッ

凛「大げさだにゃー。これぐらい唾つけとけばいいよ!」

花陽「駄目だよ。ちゃんと処置しないと凛ちゃんの綺麗な手に痕が残っちゃう!」

花陽「海未ちゃん!急いで凛ちゃんの手当てしてくるね!」

凛「わっ、とっ!かよちん!急がなきゃいけないほど致命傷じゃないよー!」






穂乃果「あの二人を見てるとほわほわ癒されるぅー」

海未「ほんとですねぇ……仲睦まじいことは良いものです」

ことり「幼馴染って良いよね~」

真姫「そんなに感動すること?」

穂乃果「するよー」

ことり「真姫ちゃんはあの二人を見て『あ~良いな~』って思わないの…?」

真姫「毎日のように見てれば何の感情も湧かなくなるわよ」

穂乃果・ことり「えー?」

真姫「そんなもんよ」

希「そのわりにはよく授業の合間に復習を装って、二人の掛け合いを眺めて笑ってるやん?」

真姫「な…なんで希がそんなこと知ってんのよ!…あっ」

ことり「真姫ちゃん!!気持ちは凄くわかるよ!」

真姫「はあ……!?意味わかんないわ!」

希「素直になってええんやで~?」

真姫「~~~~~~~~~っ!///」プイッ

真姫「ま、まったくぅ!凛ってほんとバカじゃないの!唾つけとけばいいなんていつの時代の衛生観念よ」

穂乃果「えっ?私もずっとそうしてきてるよ?」

真姫「ちょっと和菓子屋!」

ハンカチ「…………」

花陽「……ぺろ、ぺろ」

凛「おまたせ!水道が冷たかったにゃー」

花陽「早く皆のところに戻ろっか」

凛「あっハンカチ……」

凛「ごめんね?凛の血で汚しちゃった」

花陽「ううん気にしないで。花陽がしたくてやったことだから」

凛「んー……じゃぁかよちん。合宿が終わったらラーメン食べに行こ?いつものとこ!凛の奢りで」

花陽「もちろん食べに行くのは良いけど奢りまでは遠慮しとくよ」

凛「いいの!凛がしたくてやるんだから!」

花陽「凛ちゃん……!ご馳走になります」ペコリ

凛「その後はね、かよちんとお泊りしたいな」

花陽「う、うん良いよ!けど合宿したばっかりだから、二人とも疲れてすぐ寝ちゃうと思うよ?」

凛「凛はそれでもいいのにゃ。かよちんと離れ離れになって寂しかったのにゃ~」ギュッ

花陽「凛ちゃん……うん!やろう!お泊り!」

凛「ありがとう、かよちん!」

花陽「どういたしまして♪」









おしまい。

>>48から話が分岐します。

>>49-73は希ちゃんがスピリチュアルに考えるスピリチュアル・ルートです。

ここからは希ちゃんが現実的に考えるリアル・ルートです。

希(ここにきてようやく、凛ちゃんの被ってきた怪奇が解った。それは……)




 ・凛ちゃんに纏わりつく黒い靄

済・凛ちゃんが寝る場所に在るお米

 ・凛ちゃんの女の子らしさを否定する評価



希(偶に寝床に散らばる米。昔から起きていた事だ、と言っていた。そんな奇妙な出来事でも、一度受け入れて常態化してしまえばそれがその人の日常になる。だから凛ちゃんは気に留めず、悩まなかった)


希(ところで、お米と聞くと花陽ちゃんを連想するけど、安易に花陽ちゃんと関連付けるのはどうだろう?うちは……)



 ・花陽ちゃんがお米を撒いている

済・花陽ちゃんは関係ない

希(花陽ちゃんが撒いたと思う。単に白米好きなだけが根拠やない。凛ちゃんが奇妙な出来事を受け入れたのは花陽ちゃんと『お米の神様』の存在を共有したから)


希(『お米の神様』を最初に称えたのは花陽ちゃんや。凛ちゃんを言い包めて、あたかもスピリチュアル存在がお米を撒いたように印象操作した)


希(もしそうなら、動機はなんや?凛ちゃんの寝床に米を撒くことで、花陽ちゃんに何のメリットがある?)


希(……だめや。情報が足りないのかもしれへん)


希(別の角度から見てみよう。諸悪の根源であり黒い靄を残してきた憑き物。花陽ちゃんがお米を撒く犯人だとするなら、花陽ちゃんと憑き物には何らかの関係があるんやろか?……)



 ・花陽ちゃんは憑き物に操られている

 ・花陽ちゃんは憑き物をお米で餌付けしている

 ・花陽ちゃんと憑き物は無関係

希(花陽ちゃんが憑き物に操られてお米を撒いている?いやそれは変や。憑き物がお米を撒かせる動機が無い)


希(それに花陽ちゃんからは憑き物の痕跡を感じない。ましてや邪悪な魂がそんな無為な行動に出るはずがない。ここは花陽ちゃんと憑き物に関係が見られない、と考えるべきや)


希(こう考えていくと、憑き物は何もしていないように思える)


希(……そうなると、そもそも憑き物は本当に存在するんやろうか?……)



 ・存在する

 ・想像に過ぎない

希(うちが勝手な憶測で異形の怪物を作り出してきた、か……。こんなんやとうちは唯、スピリチュアル言いたいだけのイタい娘やないか……)


希(いや、そうやない。うちはある考えに行き着きたくなかったんや。それは……)


 ・花陽ちゃんが怪異を起こしている

 ・全てはうちの妄想だ

希(もしもの話ですら考えたくなかった、花陽ちゃんが凛ちゃんに怪異を齎す犯人だったなんて)


希(だって……。μ'sの中で純粋さで一、二位を争う娘で、しかも凛ちゃんの幼馴染なのに……)


希(けど、もう仕方あらへん……。逃げてられないわ。おかげで目が覚めた)


希(スピリチュアルなんて言葉で誤魔化さずに、現実的に考える!)

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

拍手「ぽんっ」


希(花陽ちゃんがどんな理由でお米を撒いてるのか、そして凛ちゃんに何をしているのか問い質す必要がある。どっちも簡単には口を割らないかもしれへん)


希(手始めに花陽ちゃんに『お米の神様』について訊いてみよう。どんな意図があるにせよ、『お米の神様』と花陽ちゃんには関係がある)


希(『お米の神様』の米撒きと直接関係も無いうちが、凛ちゃんと秘密にしているはずのこの言葉を知っている。そう花陽ちゃんが理解したら、うちに注目するのは間違いない)


希(花陽ちゃんのアクションを見よう。凛ちゃんを取り巻く怪異を暴くためにも)


希(もしかしたら寝付いてるかもしれないけど、メールするだけしとこう)


希phone「『お米の神様』って知ってる?」


希phone「メールを送信しました」


希(即返信、スルー、電話、対話……どうレスポンスを返すかな)

希(本当に花陽ちゃんが怪異の元凶やとするなら、小学生から現在に至るまで花陽ちゃんは、黒い靄やお米を凛ちゃんの寝床に撒き続けてきた。これは偏執的と呼ぶに十分値する)


希(μ'sのメンバーに言いたくはないけど、花陽ちゃんは異常や。突飛な想像やけど、普段の虫も傷つけられそうにない花陽ちゃんが、もしかしたら『お米の神様』の話に触れられて異常な行動に出るかもしれない)


希(だけどどこかでその可能性が有り得ると思う自分がいる。それは花陽ちゃんの二面性を知っているから。いや、『お米の神様』に関わる人格が花陽ちゃんの一面、もしくは二面なら平気)


希(もしかしたら……)ブルッ


希(あかん。うち。花陽ちゃんに恐怖を感じてしまってん。やめやめ)


希(さっきも『もしかしたら』て考えたっけ。想像も行き過ぎれば妄想になってまう。いかんいかん。もう休もう)


希(凛ちゃんは今もゆっくり寝てるな。幸せそうな顔やな♪凛ちゃんはそのままでいてな?)


希(花陽ちゃんからの返信もない。うちは明日花陽ちゃんと普段通りに接することはできるんやろうか……?)


希(大丈夫、花陽ちゃんは良い娘やからな。怖いイメージなんてうちの妄想に過ぎん。きっとまた綺麗な声で笑ってくれるよ)


希(うん。悩んでてもしょうがない)


希(おやすみなさい)

希(って!せやから今晩花陽ちゃんが凛ちゃんのもとに来るかもしれないやん!?)

※同夜、丑三つ時



希(眠い……寝てしまいたい……)


希(海での合宿(1期10話)のときは何もなかった……でも今は事情が違う。花陽ちゃんに『お米の神様』を問いてしまった時点で、安易な安寧は望まない方がいい)


希(眠気と戦いながら、緊張に身を強張らせてしまう。唯一の癒しは別荘の方から聞こえる、真姫ちゃんのピアノの音だけ)


希(海未ちゃんは別荘に向かったきり帰ってこない。真姫ちゃんと、多分ことりちゃんと三人でそれぞれの仕事をしているはず。むしろ帰ってこない方が良い。もしかしたらテントの中で一修羅場起きてまうかもしれへん)


希(ああ……何か考えてないと眠ってまう。このテントの内部について状況整理しよう)


希(テント内には灯りは無くて、夜陰が広がってる。静寂の中を真姫ちゃんのピアノの音が流れていってる)


希(凛ちゃんは仰向けで幸せそうに眠ってる。うちも仰向けになってる。こうしとけば視界をテント一杯に取れる)


希(二人とも頭をテントの入口と反対の方に向けてる。それは別に意図したわけやないけど。ただテントといえども閉鎖的な環境には違いない。テントの奥、つまりうちらの枕元で何かやらかしても、外にばれることはない)


希(……て、あかん。またうちの中の花陽ちゃんのイメージが悪いものになってる。いかんいかん。あんなの妄想に過ぎん)


希(思い出すんよ、うち。μ'sの活動の中で見てきた花陽ちゃんの笑顔。驚き顔。夢中な顔。困り果てた顔。助けを求める顔)


希(μ'sのメンバーを、やっと出来た友達を信じないでどうするんや。サイテーや、うち)


希(……花陽ちゃんが来たら対話してみよう。きっと事情を話してくれる。何を話されても受け入れるんや。それが友達として出来ることやと信じてるから)

希(そう誓った直後、テントの外から草地を踏みしめる音が聞こえた)


 その瞬間、酷く寒気がした。布団の内に引っ込んでいる手足、心臓が落ち着かない。とても邪な気配を感じる。

 薄目を開けて、テントの入口を注視した。殺し切れていない足音が確実に近づいてきていた。

 もしかしたら彼女が本当に来たのかもしれない。

 やがてテントの入口に人の影が下りて来て、遂に人がテントの中へ入り込んだ。

 夜の闇に浮かび上がるその人影は、やはり花陽ちゃんだった。でも、うちの知ってる花陽ちゃんはこんな邪な雰囲気を纏っていない。

 全身を薄く纏う、【白い靄】。その美しい輝きと相反する、空気を凍てつかせる気配。白は闇と溶け合い、さながら花陽ちゃんが夜空に凛と輝く星のようやった。

 あの靄は間違いなく、黒い靄と同種の念から生成されたものや……。

 花陽ちゃんには訊かなければならないことが増えてしまった。しかし身体を起こすことを躊躇してしまう。異様に強い視線を花陽ちゃんから感じるんや。

 花陽ちゃんは闇に佇んだ。静寂に微かにピアノの旋律が鳴り響く。それは微動だにしない花陽ちゃんの代わりに、うねる白い靄と共に時の経過を印した。

 うちが起きているか警戒してるんやろか?まさか起きていると解ってて声をかけられるのを待っているんやろか?思考が恐怖を煽る方へ傾いていく。

 不意に、花陽ちゃんが一歩を踏み出す。緊張に手汗を握る。恐怖に屈してはいけない、花陽ちゃんと対話しなきゃ、と胸の内で誓い直した。

 けれどすぐに撤回した。うちの足元を花陽ちゃんが通り、凛ちゃんの足元を通り過ぎるときだった。花陽ちゃんは尚もうちを見つめていると判った。

 声を掛ける気なんて湧かなかった。花陽ちゃんはうちを見張ってるに違いない。『一寸でも動けば、どうなっても知らないよ』と。事実、この暗黙のメッセージを受け取ってからうちの身体は金縛りに遭ったように動けなかった。

 布団の中が冷や汗で湿気てきていた。うちに出来るのは薄く開けた横目で花陽ちゃんを追うことだけやった。

 花陽ちゃんはうちとは反対側の、凛ちゃんの脇に達して腰を下ろした。そこでようやく、うちから目を離した。

 幸せに眠る凛ちゃんの顔を、花陽ちゃんが覗き込む。夜目にはその口元が笑っているように見えた。

 花陽ちゃんの手が凛ちゃんの髪を撫ぜ始めた。その行動だけ見れば、寝ている友達を見守る優しい娘だった。けれどこの時間帯と白い靄が、決して暖かな状況でないことを物語っていた。

 ……何がしたいんや?寝ている凛ちゃんを愛でている程度にしか見えへん。それなのに、この空間を支配する邪な雰囲気はなに?

 それに……花陽ちゃんがずっと左手で握っているけれど、手中には何があるん?

 そのまま数十秒とも数分とも取れる時間が経っていった。横目で懸命に注視していると、時折り凛ちゃんの前髪を指先で遊んでいた。

花陽「髪が短いから女の子っぽくない、て言うなら伸ばせばいいのにね」

 ピアノの微かな旋律に乗るように、花陽ちゃんの小声が耳に届いた。その声色の優しさが、かえって緊張をキツイものにした。

 髪。短髪の女の子なんて珍しくない。凛ちゃんが短髪で居たいならそれでええ。うちはそう思う。花陽ちゃんだってそのままの凛ちゃんをかわいい、て言ってたやん。

 花陽ちゃんのその言い方は冷たいよ。そう伝えようとして、うちは躊躇した。

 さっきのは花陽ちゃんの独り言やろか?それともうちが起きていることがバレてて返事を求めてるんやろか?どうする……?



 ・無言を貫く

 ・返答する

 ・質問する

 うちが迷っている間にも、花陽ちゃんの指は変わらず凛ちゃんの髪を弄んでいる。それが返答を待っているように思えた。

 「ううん……」寝言のように小さく返事をした。

 直後、「ん?」と花陽ちゃんがこちらを凝視した。しまった、返事を求めたわけじゃないんか。心臓が鷲掴みされたように引き攣り、苦しかった。

 花陽ちゃんの冷徹な視線が痛い。

 ……なんて酷く濁った目をしているの。

 うちは動くことはおろか、声を出すことも許されないんか……。

 花陽ちゃんは顔を凛ちゃんに戻した。

花陽「私がいくら女の子っぽいよ、かわいいよ、て言っても頑なに否定するの。まったく……」

 再度の呟き。凛ちゃんに対する不平か?花陽ちゃんは凛ちゃんに何らかの不満を抱いてきたということやろか?

 花陽ちゃんの手は凛ちゃんの髪を梳き始めた。うちはわからなくなってきた。

 これが不満を抱いている相手に向ける行為やろか…?

 わからん。花陽ちゃんは何が言いたいんやろか?ここは一つ……。


 ・無言を貫く

 ・返答する

 ・質問する

 無言を貫こう。花陽ちゃんはうちが起きていることに気づいてるに違いない。だから『動くな』と暗に伝えてきていた。大人しく従っておいた方が良い。

 それにもしかしたら……うちに聞かせたいことがあるのかもしれへん。

 ……闇の中に寝姿が二つと、その一つを撫ぜる姿が一つ。

 異様なこの空間をピアノの旋律が駆け抜けていく。

 あいにく、美しい音色に安らぎを覚える余裕はなかった。

花陽「女の子っぽいよ、かわいいよ、て言ってあげれば凛ちゃんが困るのはわかりきってるけどね。だから何度でも言ってあげるの。ふふふっ」

 頭の中が一寸だけ真っ白になった。

 それはつまり、凛ちゃんが困るのを楽しんでいる、ということか……!?花陽ちゃんがそんな酷いことを考えてた……?

 あんまりや。凛ちゃんは花陽ちゃんの幼馴染のはずやろ?十年近く共に過ごしてきた、大切な友達じゃないん?

 おかしいよ。

 胸の内から怒りが、恐怖を駆逐していく。この情動に任せて花陽ちゃんを叱りたい。うちは思わず……。


 ・声を張り上げた

 ・淡々と語りかけた

 ・堪えた

 布団の中で拳を握った。冷静を取り戻さなあかん。下手に花陽ちゃんを刺激したらどうなるかわからない、そんな不安を覚えるほどの何かを花陽ちゃんから感じるんや。

 それに前提として……凛ちゃんを起こしちゃいかん。万一『お米の神様』の正体が花陽ちゃんだ、と凛ちゃんにバレてしもうたらどうなるか。凛ちゃんは花陽ちゃんの異常性を知って、花陽ちゃんを避けるようになるやろう。凛ちゃんと花陽ちゃんの絆にヒビが入ってしまう。

 うちは凛ちゃんを助けたい。でもそれだけじゃ駄目や。


 『凛ちゃんが悲しい顔してたら私まで悲しくなっちゃう』


 いつか花陽ちゃんが言っていた言葉。あれは演技には見えなかった。目の前の花陽ちゃんを見てもなおそう思う。

 そして気づいた。この言動の不一致がきっと、花陽ちゃんの中に深淵を示唆してる。花陽ちゃんとどうにか話し合って、花陽ちゃんの深淵を消し去らなければいけないんや。

 うちは花陽ちゃんも助けたい……!

 不意にピアノの低い不協和音が大きく鳴った。真姫ちゃんが癇癪を起こしたんやろうか。それきり旋律は止んだ。花陽ちゃんも気になったらしく、別荘の方を一瞥した。すぐに凛ちゃんの顔を覗き直した。

 すると花陽ちゃんがジャージのポケットから何かを取り出した。うちはそれを視認した。

 花陽ちゃんの手元を【紫の靄】が纏っていた。靄の中で【鋏】が黒ずんで見えた。

 やはりというべきやろか……花陽ちゃんは得物を持っていた。

 あの鋏は花陽ちゃんの私物?花陽ちゃんの手よりもずっと大きい。不用意に花陽ちゃんを刺激したら、あの鋏で危害を加えられかねない。うちの勘が告げていた危険な予感はこれやったんか。

 チャキッ、チャキッ。鋏が立てた音は耳障りやった。

 突如として花陽ちゃんに纏っていた白い靄が、見る見ると紫に染まっていった。

 言い様の無い悪寒が全身をまさぐっていった。

花陽「凛ちゃんの髪って伸びるのが速いんだぁ。定期的に切っても違和感が無いくらいね」

 切る?

 髪を?

 女の子にとって髪は大事なものやろ?花陽ちゃんは凛ちゃんを傷つけたいん!?

 やめて――と言えたら良かった。花陽ちゃんの尋常でなく邪な靄に圧倒されて、身を動かせなかった。

 花陽ちゃんは凛ちゃんの顔を舐めるように観察した。そして、握り込んだ左手でどうにか髪の毛を一つまみ選んだ。慎重な動作で鋏を当てると、鋏のカチリという音が聞こえた。

 本当に切ってしまった。まるで剪定しているように慎重やった。花陽ちゃんは凛ちゃんの髪に悪戯してる、というより短髪に整えてるように思えた。それでもうちは悲しかった。

 花陽ちゃんはそんなに凛ちゃんを男の子っぽくして、さっき言ってたみたいにからかいたいんか?

 ――直後、花陽ちゃんが摘まんでいた指を口に含んだ。

 花陽ちゃんがおしゃぶり?突然のことに訝しむより驚くことしかできなかった。

 指を抜き取ると、口をもごもごと動かし始めた。それとともに、ピチャッピチャッと行儀の悪い音が聞こえてきた。

 これはひょっとして、花陽ちゃんは……。

 凛ちゃんの髪を食べてるんか!?

花陽「うふふふふ……」

 恍惚してるとしか思えない、くぐもった笑い声が聞こえた。花陽ちゃんのイメージと似つかわしくない、艶めかしい声やった。

 狭いテントにもう一度、鋏の擦れる音と水音、嬌声が響いた。

 友達の髪を食べて悦ぶ?そんな人、初めて見た。さっきまでうちは、花陽ちゃんが凛ちゃんのコンプレックスをつついて遊んでいる、とばかり思ってた。

 今の花陽ちゃんを見る限りそうではないらしい。

 なら花陽ちゃんのこの行動は一体何を意味してるんや?……。



 ・花陽ちゃんは何らかの儀式を行っている

 ・花陽ちゃんは自分を慰めている

 ・花陽ちゃんは趣味に興じている

 おそらく……花陽ちゃんは凛ちゃんに歪んだ【愛】を抱いてる。

 凛ちゃんのコンプレックスをつついて困らせていたのは、それが花陽ちゃんに快楽を齎すものであり愛の表現だから……?

 夜にこっそり凛ちゃんに働いてる行為は、花陽ちゃんの情欲を満たすため……?

 凛ちゃんの心と【身体】を代償に、女の悦びを噛み締めてきたんか……?

 こんなの間違ってる。相手を悲しませることが愛することなら、そんな愛はいらない。

 花陽ちゃん。どうして歪んだ愛を抱いてしまったん?

 酷過ぎる。こんな花陽ちゃん……見てられん。うちは花陽ちゃんのことを全然知らなかったんやな……。

希「……っ」

 悔しい。花陽ちゃんの歪んだ愛に気づけなかったうちが。涙が出そうになって、瞼を強く閉じた。

 瞑った闇に逃げ込んでも音からは逃れられない。瞼に力を込めすぎて涙が出そうになった。

花陽「ピチャッ、ピチャッ」

 悔しい。μ'sのメンバーを理解した気になってたうちが。

 思えばうちはただ絵里ちと同じような、熱い思いを抱きながらもやり場の無い、不器用な娘たちを見つけていってだけ。彼女たちを繋ぎとめたのは穂乃果ちゃんたち2年生や。彼女たちこそが皆を真に理解し助けてきたんや。

 それでも凛ちゃんのコンプレックスのことは、花陽ちゃんから聞く以前に知っていた。トイレで鏡の自分と、悲しい顔で見つめ合っていたあの娘。あの娘はなりたい自分に踏み出せなかった。

 彼女と同じように、スクールアイドルへの切符を前に逡巡していた花陽ちゃん。

 だから、あなたは凛ちゃんの気持ちに誰よりも共感できる。うちはそう思ってたんやで……。

 嗚咽が漏れそうになって、歯を食いしばって堪えた。

花陽「はふぅ・・・・・・♥」

 悔しい。悔しい。

 一度でも花陽ちゃんを誤解して、批難してしまったうちが悔しい。

 形はどうあれ、花陽ちゃんは凛ちゃんを愛してたんや。ただ愛し方を間違ってしまっただけや。

 よかった。

 安心したら全身の緊張が解けた。瞼も顎も楽にして、安らかになった心に委ねて静かに涙を流した。我慢してた分、滔々と流れていった。

 うちの中の悪い感情が浄化されていくようやった。

 涙でぼやけた視界の端で、花陽ちゃんがようやく凛ちゃんから顔を離した。何かをごそごそし始めると、禍々しい紫の靄は速やかに白に染まった。鋏をポケットに引っ込めたらしい。

 闇に踊る美しい白い靄の輪郭。邪な想いを湛えてうちをねめつけているようや。

 もう、靄に惑わされん。

 歪んでしまった愛からあなたを解放する。

希「…」

 涙に滲む視界の中心に花陽ちゃんを収める。どうせ起きてるのはバレてるんや。対話するのに目と目を合わせないと相手に失礼やもんね。

花陽「っ……」

 涙で朧げな世界に花陽ちゃんの禍々しい視線を感じる。うちが一寸でも動いたことを怒っているんやな。そこまでは想定済や。

 どうにか花陽ちゃんの気を落ち着かせたい。だからうちは……。



 ・花陽ちゃんに微笑んだ

 ・花陽ちゃんに語り掛けた

 ・花陽ちゃんの目を見つめた

 微笑んだ。

花陽「!」

 すると、ぼやけた視界で花陽ちゃんの表情は見て取れないけど、禍々しい視線が外れたのがわかった。その隙にサッと目元を袖で拭いた。

 明瞭になった視界の中心では、相変わらず花陽ちゃんは濁った目をしていた。けど少しばかり目を大きくしていた。

 花陽ちゃんの右手はポケットに突っ込まれていた。そこは鋏を仕舞っていたポケットやんな……。

 危なかった。うちがほかの行動をとってたら、鋏で痛いことされてたかもしれへんな。

花陽「…………」

 まだあっけに取られているらしい。うちが叱ったり泣いたりすると思ってたん?いかんよ?アイドルは笑顔を見せなきゃ。

 うちは花陽ちゃんの目を見て、ゆっくりとかぶりを左右に振った。

 うちの思いが届いたか判らない。

 花陽ちゃんは伏し目がちになって呟いた。

花陽「――ないで……」

 ん?

 ごめんな。聴き取れんかったわ。次は一字一句漏らさないから。……て喋りたいんやけど許しを貰ってないしな。

 花陽「……凛ちゃんはときどき、花陽のことをなんでも知ってるように話すの」

 テント内の静寂にボソリと呟かれる。夜の闇か白い靄か、花陽ちゃんの声はそこに溶けて消えていくようやった。真姫ちゃんのピアノが流れなくなって良かったかもしれへん。

 うちは黙して聴くことにした。

花陽「『かよちんはアイドルになりたい』、『かよちんは嘘をつくとき必ず指を合わせる』」

花陽「私たちは幼稚園の頃からの幼馴染だから、自信があるんだろうね。もしかしたら穂乃果ちゃんたちは本当にそうなのしれない」

 言うや否や、花陽ちゃんは握り込んでいた左手を手前に寄せて、うちに見えるよう開いた。

 そこには……お米があった。白光を放ち、歪つな形を成していた。

花陽「凛ちゃんの知らない花陽が、すぐ傍にいるのに」

 あのお米が白い靄の根源か――そう確信した。そのお米に花陽ちゃんがどのような想いを籠めているのかははっきりとわからない。けどこれだけは確かや。

 お米を愛している花陽ちゃんが、お米を歪んだ愛の拠り所にしている……。

 またや。花陽ちゃんは間違った愛し方ばかりしている。不器用なんててもんやない……。

花陽「μ'sに入る前にね、凛ちゃんはこう言ったの。花陽が嘘を吐こうとすると必ず指を合わせる、て」

花陽「でも、例外はつきものだよ。隠すべき想いなら、私は隠し通せるよ」

 その想いが凛ちゃんへの愛か。

花陽「ううん、隠し通さなきゃ…いけない」

 花陽ちゃんの囁く声が掠れていき、話し声に鼻声が混じってきた。

 白い靄が不恰好に揺れた。

花陽「こんな醜い私を凛ちゃんが知ったら……凛ちゃんとの関係が、終わってしまう」

花陽「希ちゃんなら気づいてるでしょ?」

 『私は凛ちゃんのことを愛してしまったの』、花陽ちゃんは途切れ途切れに告げた。

 禍々しい靄に鎖されてきた想いが、とうとう吐露された。

 『最初は小学生の頃だった。凛ちゃんの笑顔を見ていると、自分の中のよくわからない感情が芽生えてとまどった』


 『凛ちゃんに触れたいな。暖かいな。胸がどきどきして苦しいのに、心地いいな。けどどうしてかな。凛ちゃんにはこの気持ち、知られるの恥ずかしいな……。お母さん相手とも違う、凛ちゃんを求める感情は私の胸をくすぐっていた』


 『その感情に任せるままに、ある日寝ている凛ちゃんに気づかれないように凛ちゃんの身体を求めた』


 『これが最初の私の【罪】』


 『その時は凛ちゃんに迷惑をかけてしまった。私の仕業だと凛ちゃんに気づかれないようにすることで頭がいっぱいだった』


 『けど経験を重ねていくことで、迷惑をかけない形で求めることができるようになった』


 『心身が成長していくにつれて理解した。この感情は恋だって』


 『花陽は引っ込み思案だし凛ちゃんみたいに元気じゃないから、凛ちゃんとなんて釣り合わないって。それに自分が女の子に恋する女の子だ、て解って戸惑った』


 『同時に自分のやってきたことが普通でないことにも気づいた。アイドルの歌う唄に登場する女の子たちは、好きな男の人に花や手紙を贈ったり、手を繋ぐだけでもためらっていたから。私と同じような愛し方をしている子はいなかった』


 『怖くて堪らなかった。私の恋が凛ちゃんに知られたら、きっと幼稚園からの友達関係が変わってしまう。お互いを変に意識して、ギクシャクして。それだけじゃない。寝てる凛ちゃんに非常識なことをしてきたことがバレたら、避けられて完全に嫌われてしまう』


 『そしたらもう、凛ちゃんの優しいその手で二度とささえてもらえなくなる。そんなの嫌だ』


 『だから恋心を殺すことにした。凛ちゃんは大事な"お友達"、て胸が疼く毎に叫んでた。でもその行為は傍で聞いてた凛ちゃんが喜ぶだけで、私の胸は苦しいままだった』


 『せめて本当の本当に、凛ちゃんが男の子だったら私にも可能性はあったのかな、なんて考えてた時期もあった』


 『たとえそうだったとしても、おかしな私じゃ凛ちゃんとは釣り合わないのにね』

花陽「……恋を否定すればするほど、私はどんどん凛ちゃんが恋しくなって……欲しくなって……泣いて……、」

 言い終わるや否や、花陽ちゃんは仰いだ。それは花陽ちゃんの言う、おかしな自分の歩みを振り返っているようやった。

 その首筋を雫が一粒、二粒と駆け下りていった。

花陽「ずっとこうやって…、寝ている凛ちゃんを求めることでしか満足できなかったの」

 闇夜に白く佇む靄が、このときばかりは神々しく思えた。

 花陽ちゃんは右手の指で左手のお米に触れると、小さく千切った。

 それを小さくこねると、口元へ持っていった。

 そのまま、舐めた。

 白い靄に包まれて、悲恋の少女が舐めた白米。

 そこに黒い靄が宿った。

 燻るように指に乗ったお米を、花陽ちゃんは愛おしく眺める。

花陽「ふふっ……」

 雫がもう一粒、頬を滴っていった。

 指がそろそろと下りていく。

 黒のお米は凛ちゃんの唇に着いた。

 その指がお米を再び攫った。

 凛ちゃんの唇には微かな黒い靄が残った。

 黒のお米は花陽ちゃんの唇へと誘われ、舌に絡まれて口の中へ呑み込まれていった。

花陽「おいしい……」

 初めて、うちに優しく微笑んだ。

 想い人との小さな触れ合いに喜ぶ、恋する少女そのものやった。

希(これが凛ちゃんに纏っていた黒い靄の正体……)

 それは、花陽ちゃんの唾液に込められた愛やった……。

 ならば白い靄もまた、お米に込められた愛っちゅうことか。

 花陽ちゃんの愛情表現はたしかに普通やない。

花陽「ふふふ……」

 花陽ちゃんの指が続けてお米を数粒千切ろうとした。

 歪んでいても愛。愛の流れに身を委ねる花陽ちゃんは、本物の恋する少女やと思った。

 けどな。こんなことを続けても、花陽ちゃんの心は本当の意味で救われない。そう確信した。

希「もう、やめとき」

 ぴたり、と指が止まる。

 つい言葉が口から零れてしまった。

 内心肝を冷やしたけど、花陽ちゃんから敵意を向けられることはなかった。

花陽「とめられないよ……」

 花陽ちゃんは穏やか表情で、諦めを口にした。

 ――ここや。

 花陽ちゃんの心が禍々しい想いを纏わず一時的に無防備になっている。

 今なら言葉を慎重に選べば、花陽ちゃんの心を救うことができるはずや……!

 ・凛ちゃんなら愛を受け入れてくれる

 ・自分を責めないで告白すればいい

 ・凛ちゃんに謝るべき

希「きっと、凛ちゃんなら花陽ちゃんの愛を受け入れてくれると思うんよ」

 そうだ。根本の問題は花陽ちゃんのネガティブな思い込みなんや。

 花陽ちゃんが凛ちゃんをどのように愛してきたかはわからないけど、凛ちゃんは元気だし花陽ちゃんを好いている。食髪は気にかかるけど、凛ちゃんを傷つけるような愛し方をしてこなかったということや。

 そして花陽ちゃんは凛ちゃんが女の子同士の恋愛に理解を示さないと決めつけているんやないか?


希『あ、もしかしてうちの傍に居ると胸がドキドキしてきたりする?』ニヤニヤ


凛『本気にしていいの?』


凛『残念でしたのにゃ。凛にとって希ちゃんは傍に居ると安心するお母さんだよ』


 凛ちゃんは女の子同士の恋愛に否定的でないと思うんよ。

 諦めちゃいかん。ましてや花陽ちゃんが凛ちゃんと釣り合わないなんてことは、傍から見ても有り得へん。とても良いカップルやと思う。

 これらのことを花陽ちゃんに自覚してもらおう。

花陽「無理だよ……」

 声がか細くなった。そんな気休めは要らない、と言っているようだった。

 受け入れてくれる、拒まれる、……花陽ちゃんは何度となく心の中で考えたはずや。この程度の言葉では花陽ちゃんを楽にしてあげられないか……。

 でも、うちの言葉に返答してくれている。うちの言葉を求めてるに違いない。

花陽「私は凛ちゃんに酷いことをしてきた……」

希「……そうやね。いくら想い人でも無防備な相手を好き勝手しちゃいかんよ」

花陽「それだけじゃないの」

 他にも?

花陽「凛ちゃんが嫌がっても男の子っぽい格好を維持してきたのは、私のせいだから」

 ポツリ、ポツリ、と花陽ちゃんは自身の罪を懺悔していった。その言葉は徐々に荒気を増していった。

 『その罪は凛ちゃんへの恋を自覚して、葛藤していた頃に犯した。あの日も、凛ちゃんがスカートを穿いてきたら男の子にからかわれて、悲しそうに家へ戻ってしまった』


 『かわいそう。凛ちゃんにだってスカートが似合うのに。そう思いながら凛ちゃんが帰ってくるのを待ってた』


 『帰ってきた凛ちゃんは見慣れたズボンを穿いていた。男の子っぽい、と皆が言う姿だった』


 『「やっぱり凛にかわいいのは似合わないね」と、凛ちゃんははにかんで言った。自分をむりやり納得させようとしてるのが解り切ってた』


 『だから以前なら凛ちゃんを心配して「そんなことないよ。凛ちゃんはかわいいよ」て励ましていた。本心からそう思ってた』


 『でもその時は違った。』


 『男の子っぽい凛ちゃん。その姿は、私の欲望を少しでも叶えるものに変わっていたの』

 『本当の男の子ではないけれど、せめて私の密かな世界では男の子であって欲しい……。凛ちゃんと結ばれる夢が見たい。でもやっぱり今の凛ちゃんが一番愛おしい。女の子の凛ちゃんを愛してる』


 『男の子っぽい女の子の凛ちゃんを愛してる』


 『だから私は、寂しげな笑顔を作る凛ちゃんにこう言った。「今の凛ちゃんだってかわいいよ」って。男の子っぽい格好をすることが凛ちゃんの「かわいい」なんだって、諭した』


 『凛ちゃんは感謝してくれた。励ましてくれてる、て勘違いしてた』


 『その日から私は、凛ちゃんが男の子っぽい身なりをしてることにときめきを感じるようになった。凛ちゃんが「男の子っぽい」と自己嫌悪するたびに、すかさず「そんなことないよ。凛ちゃんはかわいいよ」って擁護した』


 『私が男の子っぽい凛ちゃんを認めているから、凛ちゃんは短髪を気にするようになっても維持してくれた』


 『そんなことしても、私の恋は成就しないのに』


 『私が「励ます」ことをしなかったら、凛ちゃんは今よりも女の子らしさを追求してたのに』


 『凛ちゃんの生き方を自分の望む形に変えてしまった』

花陽「だから私は凛ちゃんを愛する資格は無い……!わかってるのに……わかってるのに……、自分を慰めることがとめられない……!こんな私が凛ちゃんに好きだなんて……!」

 『言えないよ……』。秘めてきた想いを吐き出し切った後なのか、その声はか細かった。

 左手のお米は握りつぶされていた。

 そうやって自分の愛を歪めてきたんやな……。

希(……ピアノが鳴り始めた)

 別荘から聞こえるピアノのメロディは鳴り止む以前より滑らかになっていた。とうとう真姫ちゃんが曲の仕上げに入ったのやろうか。

 そこに花陽ちゃんの嗚咽が入り混じっていた。

花陽「こんな醜い私に…優しくしないで……」

 もう、辛い思いをせんで良いんよ。そう願って、うちは……。



 ・協力

 ・孤独

 ・共感

希「自分を孤独に追い込んじゃいかんよ」

 そうだ。花陽ちゃんはかつての絵里ちや真姫ちゃん、にこっちにそっくりだったんや。

 あの娘等は内に秘めた熱い想いをどうしたら良いかわからなくて、孤独な世界に閉じこもってしまっていた。

 花陽ちゃんも同じだったんや。その想いは絶対に他の人に、幼馴染に知られたくないものだから、やり場がなかった。

 孤独、か……。かつてのうちも同じやったなぁ。

花陽「そんなこと言ったって……しょうがないじゃん!!私はおかしい……こんな私を見たら凛ちゃんだって絶対嫌う……!」

希「そうやろか?」

花陽「だって……!」

 花陽ちゃんは顔を涙でぐしゃぐしゃにしていた。人の感情は言葉にだけ表れるわけやない。その目は濁っていたけど『助けてほしい』って、うちに訴えかけていた。

 花陽ちゃんは孤独じゃない。それは確かや。なぜなら。

希「そうやって花陽ちゃんが立ち止まったときは、いつも凛ちゃんが手を差し伸べてくれてたんやないか?」

花陽「っ……!」

 やっぱりそうか。引っ込み思案な花陽ちゃんと突っ走る凛ちゃん。二人のそんな関係は幼少期から続いてたんや。

 花陽ちゃんはジャージの胸元を握った。自分でも気づかなかった図星を突かれてとまどってる、てとこか。

 そう一人合点がいったとき気づいた。

 花陽ちゃんを取り巻く白い靄が薄くなってきてる。

 これは瑞兆や。花陽ちゃんの歪んだ愛が浄化され始めている。

花陽「でも……凛ちゃんに最低なことをしてきた!」

希「凛ちゃんなら赦してくれるよ。『凛はこっちのかよちんも好きにゃー』ってね?」

花陽「ふざけないでよ……っ!!」

 ピアノのメロディーが聞こえなくなるくらいに大きな声。花陽ちゃんは前のめりになってうちに叫んでいた。その拍子に数粒の雫が凛ちゃんの頬へ滴った。

 いかん。花陽ちゃんは興奮し過ぎや。声量の調節が出来なくなってる。寝ている凛ちゃんを起こすわけにはいかないんや…!

希「……本気だよ?」

花陽「なんでそんなに簡単に言うの……!」

希「……!?」

 ここにきて凶兆が起きた。白い靄に紫がかかり始めて量を増した。

 花陽ちゃんの中の歪んだ愛が、消える前に最後の抵抗をしようっていうんか。

 ええやろ、決着をつけようや。

希「……うちはこれでもμ'sの結成から見てきた。μ'sのみんなのことを理解してるつもりやった」

花陽「嘘!ほんとうに私のことを理解してたら……こんな私に優しくしてくれるはずない……!!」

希「花陽ちゃんの言うとおりや。うちは花陽ちゃんのことを全然わかってあげられなかった」

花陽「っ……」

希「せやけど花陽ちゃん?こんなうちでもわかることがある。それはね……」



 ・凛ちゃんなら絶対に

 ・凛ちゃんはお見通し

 ・凛ちゃんならきっと

希「凛ちゃんなら絶対に花陽ちゃんの恋を受け入れてくれる」

花陽「っ!!」

 白い靄はうちの言葉を契機に紫一色へと染まった。

 けど、花陽ちゃんは食髪のときと異なり、動揺しきっていた。

希「花陽ちゃんは凛ちゃんに嫌われることが怖い。けどそれはもしもの話や」


 『私の恋が凛ちゃんに知られたら、きっと幼稚園からの友達関係が変わってしまう。お互いを変に意識して、ギクシャクして。それだけじゃない。寝てる凛ちゃんに非常識なことをしてきたことがバレたら、避けられて完全に嫌われてしまう』


希「悪い結果も含めて全部、もしもの話。そうやろ?」

花陽「一番現実的でしょ!?」

希「一般論ならね。相手は幼馴染の凛ちゃんや。凛ちゃんが花陽ちゃんを嫌うなんて、うちには考えられん。きっと、いや絶対に」

花陽「希ちゃんの勝手な想像だよっ…!これ以上私を苦しめないでっ!!」

希「うちは凛ちゃんを信じる。花陽ちゃんは凛ちゃんと釣り合わない、自分は醜い、て言ってたけど、凛ちゃんはそう思わないはずや」

希「今日まで花陽ちゃんの友達でいてくれた。それは花陽ちゃんの全てを受け入れた上で、だよ」

花陽「それもこんなに醜い花陽を知ったらおしまいだよ……っ!」

希「いいや終わらへん」

花陽「なんで!?なんでさっきから楽観的なことばかり言うの!何を根拠に信じるっていうの!」

希「勘、かな」

花陽「何も無いんじゃない……っ!」

希「それが信じるってことなんや」

 せっかくのかわいい顔が涙と怒りで台無しやよ、花陽ちゃん。せめてポケットに伸びた手を離して欲しいな。

 でもうちも人のこと言えんのやろなぁ。さっきから頬が濡れて熱い。

希「信じる、ていうのはな。あらゆる不幸の可能性を踏み倒して、幸福の可能性に賭けるものなんやで」

花陽「幸福の可能性!?そんなの都合の良い妄想じゃん!」

希「これまでの人生だって、凛ちゃんの差し伸べる手を信じてきたんやろ!」

花陽「っ……!!」

希「さっきうちが言ったことを否定しなかったよなぁ?花陽ちゃんが立ち止まったときは、いつも凛ちゃんが手を差し伸べてくれてたんやろ?」

希「他人の手じゃダメだった。凛ちゃんだったから信じることができて、その手を取った。そうやろ?」

花陽「それは……」

希「凛ちゃんを、信じて」

希「自分を、信じて」

 純愛を、信じて。

 全霊を込めて言葉を贈った。もう言葉が思いつかへん。

 花陽ちゃんは項垂れて独り言を繰り返していた。『でも』、『嘘』、『信じてる――のに』。花陽ちゃんの心が歪んだ愛と戦っている。

 言いたいこと全部、言いきっちゃった。

 こんなに頭使ったの、μ'sの結成をサポートして以来やわ。

 なのに。

 紫の靄が花陽ちゃんを中心に燃え上がってしまった。

花陽「あああぁ……ああぁぁああっ!ああああぁああっ!ああああぁぁああっ!!ぁあああぁあああああぁぁ!ああぁっああああぁあぁあああぁぁぁああぁっ!!あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛!」

 花陽ちゃんが頭を掻き毟る。凛ちゃんが傍にいるっちゅうのに、注意を向ける余裕もないんやな……。

花陽「汚い!汚さないで!汚してきたくせに!気持ち悪い!気持ち悪い!気持ち悪い!」

 このままじゃいかん。そう思ってうちがまさに身体を起こそうとした時や。

花陽「っ!」

 不意に花陽ちゃんは覚醒した。跳び移る勢いでうちに跨り、うちの口を左手で塞いだ。その手からはほのかに米の粘りを感じた。

 抵抗しようにも花陽ちゃん自身が拘束具になっていて、腕も満足に動かせなかった。口まで塞がれたら助けも呼べへん。

花陽「あはは……夢を見せてくれてアリガトウ!でもね、私は醜くてどうしようもないの!ずっと凛ちゃんから逃げてきた卑怯者!手遅れなんだよ!」

花陽「希ちゃんに知られちゃった!凛ちゃんに嫌われるのも時間の問題!つらいよぉ!つらいよねぇ花陽!」

花陽「さよならだね花陽!さよなら!せめて凛ちゃんへの想いを断たせてね!花陽の手で未練を断つんだ!」

花陽「だから、この手を汚して夢を終わらせる」

 花陽ちゃんの目は貫くように、うちの目を見据えていた。その目からはとめどなく涙が溢れ、うちの頬に滴り落ちていった。

 振り上げられた鋏が異様に鋭く思えた。

 恐怖はあった。

 でも、圧倒的に悲しかった。

 花陽ちゃんの夢が叶わないばかりか。

 花陽ちゃんを凶行に駆り立ててしまった現実が悲しかった。

 花陽ちゃんを救うことができなかった。

 μ'sのみんなを最後の希望へ導くことができなかった。

 ごめんな。

 ごめんなさい。

 うちは、μ'sを壊してしまった。

 うちにとって、かけがえのない8人。

 転勤族で友達の居なかったうちにできた、8人の【親友】。

 初めて、ずっと繋がっていたいと思えた親友たち。

 だから一つだけ、皆で叶えたい夢があったのに、もう叶わないんやろうな……。

 ふと、水底からぽっと浮かび上がる泡のような、夢を見た。

 その手の鋏が実はお玉で、エプロン姿の花陽ちゃんが仕事帰りの凛ちゃんをお出迎えするの。

 凛ちゃんはお腹ぺこぺこ。台所からは温かいラーメンスープの匂いと炊き立てごはんの蒸気。

 『おかえり。ごはん出来たばかりだよ』って花陽ちゃんが笑ってる。

 凛ちゃんは知ってるの。花陽ちゃんが凛ちゃんの帰宅に合わせて料理の支度を済ます天才だって。だから凛ちゃんは必ず、熱々のごはんを食べれるんや。

 『ありがと~かよち~ん。大好きにゃ~』ってよろめきながら抱きついたら。

 『おつかれさま。凛ちゃん大好き♪』って微笑みながら抱き留めて、口づけをあげる。

 そしたら物陰からうちを含めたμ'sのメンバー七人が顔を出して、二人を冷やかし始める。

 予告無しの突然の来訪に凛ちゃんが驚愕して、みっともなく尻餅をつく。その様子に花陽ちゃんはくすくすと笑ってる。

 凛ちゃんが赤面しつつ全員へ猫みたいにシャーッて威嚇するんやけど、じつは今日は就職後最初の凛ちゃんの誕生日。

 花陽ちゃんの掛け声と共に家中に響くんや。

 『凛ちゃん、おつかれさま!』

 『もう。ありがとう皆!』

 幸せな夢。一たび刺せば消えてしまうほど儚い。

 あぁ、消えてしまった。
 
 うち、死んじゃうのかな。


 「かよちん」


 ザクッ。

 目の前にまで迫った刃先に堪えられず、目を固く閉じていた。

 直後に鋏が敷布団に突き刺さる音が、耳元で鳴った。

 目の脇や外耳の端には一陣の風の走り抜けた感触が残った。

 ただ数本の髪の毛が鋏に巻き込まれていた。

花陽「凛……ちゃん?」

 どうやら助かったらしい……。うちは生命の危機を脱したのを知ると、恐る恐る目を開いた。

 花陽ちゃんは呆然として凛ちゃんを見ていた。

 小さく、でも確かに聞こえた凛ちゃんの声に怯えていた。

 でも、凛ちゃんは幸せそうな寝顔を浮かべていた。

 布団から出した腕が虚空をさまよっていた。

凛「いつまで迷ってるの」

凛「おいで」

 どんな夢を見てるかなんて、すぐに解った。

 凛ちゃん。凛ちゃんは幼い頃からずっと、そうやって花陽ちゃんを引っ張ってきたんやな。

花陽「凛ちゃん……!」

 うちの拘束が解かれた。

 花陽ちゃんはうちの上から退くと、凛ちゃんの脇に寄ってその手を両手で包み込んだ。

花陽「ごめんなさい…!ごめんなさい!ごめん……ね!ごめんねごめんね!ごめん、ごめん…!ごめん……!」

凛「もう…遅いよぉ」

花陽「ごめん…ごめん…ごめんね…」

凛「せーの、て凛が言ったら…いっしょに入ろ……」

花陽「うん…いっしょだよ…ずっと…ずっと……」

 それきり凛ちゃんの寝言は止み、花陽ちゃんの咽び泣く音と、ピアノの旋律だけが耳に届いた。

 うちは耳元に刺さっている鋏を引き抜くと、枕元に置いた。鋏に巻き込まれた髪の生えた頭皮がやや痛む。

希(これで全てが終わった……)

 小さなテントの暁闇に、綺麗な白星があったんや。

 それはうちには手が届かない、幼馴染の絆。綻びかけようとも、再び紡ぎ直されていった。

 やがて輝きは以前より増していくと思う。これからの幾星霜にわたる人生で、二度と暗むことがないように。二人が二度と離れないように。うちは、そう信じてる。

 星の煌めきを讃えるように、ピアノが旋律を奏でる中で。

 星を隠してきた靄は、跡形もなく消えていった。

希(限界や……)

 安堵の念が持ち上がった途端、強い眠気に襲われた。

 でもまだや。まだこの怪異の全貌を掴めてない。"あれ"の正体は何か、理解しないといけない。

 それまでは…眠ってはいけな…い……。

関係1:

星空凛――――小泉花陽



希(『小泉花陽』ちゃんは幼い頃から『星空凛』ちゃんに片思いしていた。でも恋心を自覚する前に眠れる凛ちゃんに普通でない『愛』の表現を行ったせいで、自分の異常性を認識してしまった)


希(恋心を自覚すると、今度は同性への恋愛感情に戸惑い、凛ちゃんとは釣り合わないと卑下した。けれど花陽ちゃんの愛を歪めた根本の原因は異常な行動の積み重ねや。花陽ちゃんはこれを『罪』と表現していた)


希(そしてもう一つ。花陽ちゃんは凛ちゃんの男の子っぽい姿について邪な理由で維持させた)


 『私が男の子っぽい凛ちゃんを認めているから、凛ちゃんは短髪を気にするようになっても維持してくれた』


希(最たる例はこれや。多感な時期に女の子らしさを気にし始めた凛ちゃん。その凛ちゃんの不安を和らげていた花陽ちゃん。花陽ちゃんがかわいいと言えば、凛ちゃんは他の人の評価が気になっても花陽ちゃんを信じた。花陽ちゃんは凛ちゃんの信頼を利用したんや)


希(男の子っぽい女の子の凛ちゃんを愛したいから。結果として凛ちゃんは自身の女の子らしさの否定という『コンプレックス』を抱えてしまった)



関係2:

小泉花陽
├─黒い靄――――星空凛
├─白い靄
└─紫の靄



希(『憑き物』なんて最初から居なかったんや。『黒い靄』を生み出していたのは花陽ちゃん。その正体は花陽ちゃんの唾液に込められた愛や)


希(凛ちゃんに黒い靄が憑いていたのは花陽ちゃんが唾液を付着させたから。黒い靄をずっと追い掛けてきた身としては、愛の痕跡を消し去ってきたわけやから複雑な心境になる……)


希(テントの中で最初に見た『白い靄』は、花陽ちゃんの左手に握られていた『お米』から発されていた。いや、お米を白い靄の中心に据えているだけで、白い靄自体はやっぱり花陽ちゃんの愛やろう)


希(黒い靄、いいや、愛をお米に乗せて凛ちゃんの唇に触れさせてから食す。あの光景は神聖な儀式のように神々しかった……)


希(きっとお米を通して凛ちゃんを味わいたかったんやと思う)


希(そして"あれ"、つまり『紫の靄』の正体はおそらく、凛ちゃんの『身体』の一部を求める猟奇的欲求という愛や。白い靄と同様に、紫の靄は『鋏』を中心に据えていた)


希(紫の靄を纏った鋏は凛ちゃんの髪に向けられた。けど凛ちゃんだけでなくうちにも向けられて、危うく目を抉られるところやった。これは猟奇的欲求の延長と考えれば説明が付く。欲求を満たすのにうちが邪魔になったから排除しようとしたんや)


希(つまり、全ての靄の正体は花陽ちゃんの歪んだ愛。今回のことで靄は完全に消失したから、これで花陽ちゃんの愛は清らかなものになったと信じてる)



関係3:

親友
├─高坂穂乃果
├─南ことり
├─園田海未
├─星空凛
├─小泉花陽
├─西木野真姫
├─矢澤にこ
├─うち
└─綾瀬絵里



希(うちらはμ'sのメンバーや。そしてμ'sを通じて親友になれるとうちは思ってる。うちにとっての最後のラブライブだけやない、その先の未来でもうちらは繋がっていく。だからこそ、今のμ'sを大切にするんや)

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

希(こうして今回の怪異は幕を下ろした。怪異の正体は花陽ちゃん。凛ちゃんへの愛が、元来の自信の無い性格と、積み重ねてきた罪の意識から歪んでしまったんや)


希(愛も悔いも醜さも、全て独りの世界に閉じ込めて靄に変えてしまっていた……)


希(うちは花陽ちゃんを責めない。あのとき突き立てられた鋏でうちの後ろ髪によれよれな部分があっても、後ろ髪を一本に纏めて編み込んでしまえば目立たないやん?そうしたらμ'sのみんなの知らない、新しいうちのお披露目や)


希(花陽ちゃんは愛の伝え方を誤ってしまっただけなんよ。花陽ちゃんはとても強い心を持ってる。それは確かや。だって……)


希(凛ちゃんへの恋を小学生の頃から貫いてきたんだから。数えきれないほどの自責の念に屈せず恋を諦めることが無かった。花陽ちゃんはずっと凛ちゃんのそばに居ったんや)


希(ただ抜け出せなかっただけなんや、自責の無限回廊っていう孤独な世界から)


希(うちが今回のことでそんな世界を覗き見ることができた、と考えるんならスピリチュアルやね?)


希(この世にはたしかにスピリチュアルなことがあるんや。せやけど、スピリチュアルなことは生身の人の想いに因って生まれる。もし人の想いに目を向けずにスピリチュアルなことだけを見つめるんなら、スピリチュアルな何かに呑み込まれてしまうんやないかな)


希(ふぅ……。うちが唯のイタい娘やないってことを証明するだけやったはずなのに、気づけばあんな大事になってしまったなぁ)


希(けど今回のことで、花陽ちゃんの抱えていた問題を解決することができたんや。メンバーのμ'sには幸せでいてもらいたい。あらためて思ったんよ)


希(たった一晩の出来事なのに、深淵から解放された気分や。スカーッとするために甘いもんをいーっぱい食べたい。絵里ちとパフェ食べに行きたいな。まだ合宿中やねんけどな)


希(ほな、うちは日常に戻ろうかね!)


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

※合宿二日目の練習



凛「痛っ!指を木の枝で切ったにゃー!」

花陽「ひゃ!血が出てる!急いで水で流さないと!あと消毒しなきゃ!」ギュッ

凛「これぐらい唾つけとけばいいよ!」

花陽「駄目だよ。ちゃんと処置しないと凛ちゃんの綺麗な手に痕が残っちゃう!」

花陽「海未ちゃん!急いで凛ちゃんの手当てしてくるね!」

凛「わっ、とっ!かよちん!急がなきゃいけないほど致命傷じゃないよー!」





穂乃果「あの二人見てると癒されるぅー」

海未「ほんとですねぇ……仲睦まじいことは良いものです」

海未「にしても今日は、いつにもまして花陽が溌剌としているように思えます」

穂乃果「海未ちゃんもそう思う?」

真姫「昨晩に何かあったのかしら?」

穂乃果「夜……夜といえば星空……仲良しの二人……こんなシチュエーション、少女漫画で読んだことある!」

海未「それはそれは、ろくでもない結論しか出そうにありませんね///」

穂乃果「いいじゃないの!海未ちゃんだってあんな歌詞書く超ロマンティストでポエマーなんだから、共感してよ!」

海未「か、歌詞は関係ないでしょう!」

希「んっふふ……♪」

海未「希は何か知ってますか?」

穂乃果「えっ!希ちゃん教えて!」

希「さあ?うちはちょっと言葉を贈っただけや♪」

穂乃果「言葉?」

希「なーいしょ♪」

海未「答えになってません……」

希「乙女の秘密やねん♪あんまりしつこいと……ワ・シ・ワ・シ・するよ~?」

穂乃果・海未「ヒエッ」

真姫「まあ元気なことは良いことだし、気にしないわ。それに凛と希ならともかく、花陽と希の組み合わせじゃ変なことは起こさないと思うし」

海未「たしかに、元気なことに気を配る必要はないですね」

ことり「ねっねっ、だったら真姫ちゃんは誰とコンビ組んだら変なこと起こしちゃうの?」

真姫「はあ?私は誰に対しても常に冷静よ。当たり前のことを聞かないで」

にこ「あれれ~?ということは真姫ちゃん、誰とも打ち解けてないにこ?もしかしてμ's内でぼっちぃ?かっわいそ~」

真姫「はああ!?万年アイドルバカに言われたくないわよ!バカにこちゃん!」

にこ「今アイドルをバカにしたわね~!?」ズイッ

真姫「アイドルバカをバカにしたのよ!バカ!」グイッ

にこ・真姫「ぐぬぬぬぬぬぐぬうぬううううううgぬうぬうぬぬううんんんんんんんんんんんんん」

ことり「ふ、ふたりとも……かわいい顔が台無しだよ?」

にこ・真姫「んぬうううぬぬんhんうんうぬんんんんんんんうぬぬううううううううううううう」



にこ「べろべろばー♥」

真姫「ブフォッッッッッッッッ!」

にこ「あれー真姫が変な真姫になってるにこねー?」

真姫「ちょ…プククッ……笑わせるの反則……ゲホーゲホー」

にこ「はい、ここで写真撮影の練習!カシャッ☆」

真姫「ヴェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!データ消しなさい!逃げないでー!」

にこ「カシャカシャッ☆カシャにこ☆」

絵里「凛と花陽……早く戻って来て……練習再開したい……」

希「急がなくてええやん。いろんなことで頑張ってるんやで!全員な!」

凛「かよちん、かよちん。合宿が終わったらラーメン食べに行こ?」

花陽「いつものとこね。良いよ!」

凛「その後はね、かよちんとお泊りしたいな」

花陽「んー……良いけど、合宿したばっかりだから、二人とも疲れてすぐ寝ちゃうと思うよ?」

凛「凛はそれでもいいのにゃ。合宿中はかよちんと離れ離れになるから寂しいのにゃ~」ギュッ

花陽「凛ちゃん……うん!やろう!お泊り!」

凛「ありがとう、かよちん!」

花陽「どういたしまして♪」ギュッ

凛「おっ?かよちんが抱きしめ返してくれるなんて珍しいにゃん?♪」

花陽「んふふ、それはスキだからだよー?」

凛「凛もかよちんのことスキにゃー!」ギューッ

花陽「花陽の方がずっとずっと凛ちゃんのことスキだよ?」ギューッ

凛「凛の方がー!」

花陽「花陽の――、……うぅ…っ」グスン

凛「かよちん?」

花陽「ごめんね……嬉しくてって」

凛「うん。凛も嬉しいよ」

花陽「……花陽の方がもっとスキだよ!」ギューッ!

凛「うぐぇ!?不意打ちはずるいにゃ!凛の方がもっともっとスキだもーん!」ギューッ!

花陽「いたいよ凛ちゃあん」

凛「凛だって痛かった!」

凛・花陽「あはははははははははははは!」

花陽(凛ちゃん。お泊りのときにはね)


 凛ちゃんにだけ、いっぱい、いっぱい、話したいことがあるんだよ。

 凛ちゃんの知らない私を、全部知って欲しい。

 そして、謝らせてください。

 私は凛ちゃんを信じます。自己嫌悪でもやもやしていた私はもういない。

 ね?凛ちゃん。だからそのときは。

 最初に告白するね。『ずっと前から、大好きです』って。

 どうか、受け入れて欲しい。ありのままの私を。











































































 こっちのかよちんも大好きにゃー。




 え?

おしまい。

凛花も花凛も大好きです

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