【艦これ×村正】提督「装甲艦娘?」★2【安価】 (635)

・「艦これ」×「装甲悪鬼村正の世界観」…と言った感じのスレです、景明さんというか村正キャラは出てこないです、ごめんなさい
・ガバガバ戦闘シーン
・スローペース更新です

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1425745308

前スレ

【艦これ】提督「装甲艦娘?」【安価】
【艦これ】提督「装甲艦娘?」【安価】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1406996348/)

1周目の登場人物、所属紹介


【義勇軍―第一空挺団】

反海軍省を掲げ、大和の解放を目指す義勇軍。
九州は殆どの地域が彼らによって解放(制圧)された。


提督(主人公)

名前は提督。ほんと紛らわしい。
戦闘狂。のようなもの。

那珂(ルート確定ヒロイン)

提督の愛機。
いつも脳天気お花畑少女だったが…。

赤城(前海軍元帥の孫、やんごとなきお方の遠縁)

ヒロイン候補だったらしい。
ほんのちょっとだけそれらしい所があった。

長門(第一空挺団リーダー)

わりと戦闘狂。
わりと馬鹿。
ヒロイン候補らしい所とかあったか。

若葉(元海軍省、鹿屋基地総括)

裏切り者。
結構楽しくやっているようだ。

阿賀野(元海軍省、築城基地総括)

裏切り者2。
本気で楽しくやっているようだ。


【海軍省―独裁者】


霧島(横須賀鎮守府総括、海軍大将)

四大鎮守府、その元締めである横須賀の長。
大戦末期に権力を握ると、海軍省を纏め上げて欧州連合に無条件降伏をした。
その目的は…。

利根(大湊鎮守府総括、海軍中将)

四大鎮守府、対露戦線の要である大湊の長。
基本的に大湊は誰かに任せていろんな場所に出向いていることが多い。
戦闘関連になると普段からは信じられない程残酷になる。

翔鶴(舞鶴鎮守府総括、海軍中将)

四大鎮守府、その中で朝廷権力への睨みをきかせる舞鶴の長。
舞鶴で様々な工作をしているので表に出ることは少ない。
基本お人好し。
利根が言う「自分より強い艦」の一つ。

扶桑(呉鎮守府総括、海軍少将)

四大鎮守府、西方、大陸を牽制する呉の長。
頼りない。
ヒロイン候補ってなんだよ。

山城(呉鎮守府副総括、海軍准将)

姉、扶桑の補佐。
姉よりは軍隊の指揮は出来る。



【欧州連合―侵略者】

英国が作った機関。
表向きはヨーロッパの国々や友好周辺国による連合統治の為の議会だが、実情は英国の操り人形。
構成の中心国は英、仏、米、伊、独、印、中で、その他小さな欧州や中東、アフリカ諸国も一応は参加している。支配権はでかい。
欧州連合統一軍という各国より集められた兵士による巨大な軍を持つ。勿論トップは英国人。
つまり世界で一番でっかい国、ただし内部の火種を大量に抱えている。


ビスマルク(欧州連合大和駐留軍中佐)

独逸人。
英国嫌いで、大和人も嫌い。アーリア人こそが世界一の人種なのだよ!
祖国の誇りをいつか取り戻したいと思っている。
なんだかんだ結構良い人。

水城寧子(エラー娘、欧州連合大和駐留軍雇われ技師)

大和人の研究者。
わりと非道で外道。
研究者としては非常に優秀。


【ロシア帝国】


ヨーロッパ東全土を支配する巨大帝国。
ツァーリと呼ばれる皇帝による独裁が敷かれている。
英国の目の上のたんこぶ。
艦娘、深海棲艦のデータを盗み、独自に艤装を開発した。
支配領域は旧ソ連にモンゴル+満州くらい、でかい。

実は自由枠取られてスレ立て当初めっちゃ混乱してたってのは内緒
とりあえず今日はここまで、次回選択肢Aからコンテニューです

A.秋月を殺す。



震える刃先を、喉に当てた。

血に塗れた身体にあって、それでも秋月の喉元は不自然なまでに白かった。

薄い皮を切り裂く感触。

つう、と白い肌につたう一筋の赤。

「…………う、ぐ…」

かちかち鳴り出しそうになる歯を、必死で噛みしめる。

ゆっくり、ゆっくり、冷たい刃を沈めて。

肉を、鋼が侵していく。

赤が、広がる。

白を塗り潰して、広がる。

気付いた時には、刃先はすっぽりと彼女の中に収まって。

掠れた声も、弱い呼吸も、途切れていた。

これで、もう、消えた。

全て、秋月という少女は消え去った。



「…………あ……ぁ」

他の誰でもない、俺自身の手で。

俺は、殺したのだ。

秋月を。

この手で、この刃で。

『提督さん』

笑っていた。

『今日の月は、こんなにも、綺麗』

思い出せる記憶の中、秋月は笑っていた。

『きっと、貴方が、隣にいるから』

真面目な少女だった。

優しい少女だった。

弱い少女だった。

その少女は。

俺が殺した。

俺が。

「……てーとく」

気付けば、那珂が側に居た。

先程まで明るく俺達を照らしていた満月は、雲の中へと隠れてしまって。

見上げた彼女の表情を、はっきりと判別することは出来なかった。




「…………」

「………囲まれてる」

「………ああ…」

ガサガサと、無遠慮に茂みを揺らして。

恐らく先程佐伯基地に居たであろう艤装の集団が、現れる。

俺達へ向けて何事かを言っているようだったが、そんな物を聞き取る気にはなれなかった。

「………」

しかし、那珂はずっと黙ったまま。

逃げろとも、戦えとも言わない。

秋月だった少女の亡骸。

俺は、それを抱えて――――――



>>+2


A.笑う。

B.泣く。

B.泣く。(二回目)


「ぁ………あ、あぁ……!」

涙が零れた。

まだ体温の残るその死体に縋った。

受け止めてしまった。

背負ってしまった。

事実を、罪を。

俺には重すぎる、その罪を。

『――――――』

集団の先頭に、艤装が歩み出る。

傍らに抱えたライフルの照準を、俺に合わせて。

「………………」

那珂は、この期に及んでも、未だ、無言だった。

涙で歪んだ視界には、彼女の表情は映らない。

そして不意に、彼女は俺を抱き締めた。

そのまま。

折り重なるように、俺達は倒れた。



【死亡・二回目】

うーむわかりづらかったねぇ
すまんな

A.笑う。


「――――は」

「―――はは」

「ははははははははっ!」

笑った。

心の底から愉しく、笑った。

当然だ。

俺は、人を殺すことを愉しむ狂人なのだから。

そうでなければならない。

弱さをわかってくれる唯一の存在は、この手で殺した。

それでいい。それこそが正しい。

そんな物は、必要無い。

「あは…はははははっ!」

ふと、涙が溢れた。

きっと、愉しくてたまらなくて。

集団の先頭、一つの艤装が歩み出る。

ああ――敵だ。

殺さなければ。

「――此の世の名残、夜も名残、死にに行く身を譬ふれば」

「あだしが原の道の霜、一足づつに消えて行く」

その文言を詠むだけで、力が漲る。

先の戦いで傷付いた艤装が、全身を纏った。

だが、太刀が無い。

秋月の頸に深く刺さったままだ。

それを抜こうとして――側、突き立った秋月の大得物に気付く。

引き抜いて、肩に提げる。

重みがどこか、心地よかった。

「那珂」

『うん』

「お前は、言ったな」

「一緒に狂うと、一緒に笑うと」

『勿論、貴方が望むのなら』

答える声には、喜色が滲んでいた。

抑え切れぬほどの、強い感情だった。



『大丈夫』

その感情を、そのまま言葉に乗せたような。

そんな、力強い声だった。

『貴方だけが、苦しむ必要は無いよ』

『私も一緒、ずっと一緒』

『苦しんで、戦って、狂って、笑って、そして、死ぬ』

『貴方と私は、二人で一つ』

『さあ、提督、始めようよ』
       コイ
『素敵な、戦いを』

「………」

背中を押されたように、大太刀を上段に構える。

それと同時に、ヴァンガード級が対艤装ライフルを撃ち出した。

『――――!?』

彼が驚愕に息を呑むのは、はっきりと聞こえた。

先程まであった距離が、一瞬にして零になっていたからだ。

そして、それ以上彼が言葉を紡ぐことは無かった。

無造作に薙いだ大太刀が、艤装の首元を切り飛ばす。

剣技でも何でもない、ただ勢いに任せて振り回しただけの刀。

艤装の頭部が、草地にごろんと転がる。

「は――――」

笑う。

笑って、刀に付いた血糊を飛ばす。

いつの間にか叢雲を払った月が汚れた大太刀を照らし、刀身が妖しく輝いた。

その光に弾かれるように、背後で控えていた艤装の集団が動きを取り戻す。

だが、彼らは目の前の光景を理解出来ず、無意識に腰を引き、一度下がろうとした。

それこそが隙。

殺したいのならば、向かってこなければならなかったというに。

散開しようとする彼らの一団へと距離を詰め、そこにあった手近な艤装の頭部を薙ぐ。

それは顔の上半分を吹っ飛ばされて、声も立てずに斃れた。

「は、は――」

返す刀で、剣すら抜いていなかった艤装を袈裟懸けに切り飛ばす。

大得物は肩から腰まで、殆ど抵抗も感じさせずに裂いた。

形容できないようなくぐもった声が聞こえて、その艤装もまた、地に転がった。



4機目が斃れた所で、やっと一つの艤装が我を取り戻す。

艤装が雄叫びを上げ、滅茶苦茶な捌きで剣を振り回して突っ込んでくる。

それに合わせて、背後の2機も恐怖を振り払うように突進の態勢を取った。

3つの機体が、剣を振り上げて俺の側を通り抜けて行った。

しかし、それは那珂に傷を与えることはなく。

数瞬の後、首が3つ飛んで、血が飛沫となって舞い上がる。

残りの艤装が、呆気に取られてかしばし動きを止めた。

『あはははははははっ!』

そんな一瞬の静寂に、那珂の声が響く。

無邪気で、とても戦場に似つかぬ、そんな声だった。

その声に、恐怖を煽られたのだろう。

艤装の集団が、空へ舞った。

訓練された軍隊とは思えない、統率も何も存在しない動き。

我先に、バラバラに、とにかく俺達の方から離れていく。

それらはやがて、夜空に消えた。

艤装が解かれる。

無造作に放られた死体の中に、那珂が立った。

その光景を見回して、彼女は息を吐き、そして正面から俺を見た。

「苦しいね、提督」

「人を殺すのって、やっぱり凄く苦しいよ」

「…ごめんね、貴方だけに押し付けていたのに、気付けないで」

「でも、大丈夫」

「これからは、私も一緒だから」

「私が、貴方と一緒にいるから」

「だから――」

それ以上、彼女は言葉を継げずに。

ただ、自分を抱き締めた俺を見て、眼を細めた。




【第3章―(予定では)赤城 了】

本当は赤城さんとのお話ばかりする筈の章だったのですけれども、うん、まあ、しゃーないか

幕間イベント


確定.那珂―(一つだけ、言っておきたいことがあるんだが)

A.長門―(……元気が無いな、どうした?)

B.赤城―(寂しくなった食事会)

C.扶桑、利根―(いや、愚痴を吐く相手は選んだ方がいいぞ)

D.若葉―(お前って、訓練以外に趣味はないのか?)

E.阿賀野―(ひーまーひーまー)

F.秋月―(墓前)


>>+1-2で、二つ

ここまで
色々すまん



「那珂」

「あいー……」

ごろんごろん、ごろんごろん。

蒲団を皺だらけにしながら、那珂が転がっている。

ごろんごろん、ごろんごろん。

「…おい、那珂」

「……なーにー那珂ちゃん色々あって疲れてるのー」

「…………」

ごろんごろん。

みるからに怠惰な動作は、見ているだけで腹が立つ。

「あいたぁっ!?」

でこを叩いてみた。

とてもいい音がした。

すっきりした。

「何するの!?」

額を押さえて立ち上がる。

どっからどう見ても普通に元気だ。



「ウザかった」

「ひどっ!?」

本音で接してみると、うぅと呻き声を上げてもう一度蒲団に倒れる。

困った、話が進まない。

「…いや、用があるんだ」

「用?」

傾げた首から、丸い瞳が俺を覗く。

その動作に心の中でほんの少し笑みを漏らし、けれど決して表情には出さぬように努めて、続ける。

「そうだ、だからせめて身体を起こせ」

「……だるーいー」

ごろんごろん。

壁際へと、逃げるように那珂が転がっていく。

「ふんっ!」

「ぼぐえっ!?」

その背中に、壁へ叩きつけでもするかの如く蹴りを入れてやった。

壁と足の裏に挟まれた那珂からは、正直女性としてどうなのかという悲鳴が肺の中の空気とともに口から出てきた。



「ごほ、ごほっ!お、おぉー…い、いま…凄い…いいとこ…入ったぁ…う、げほっ、げほっ」

「那珂、用があるんだ」

「そして何事もなかったかのように話を続けようとする辺りてーとくは今日もてーとくらしいね!」

片手で背中を擦りながら、那珂がよろよろと起き上がる。

全く、最初から素直にそうすればいいのだ。

「……それで、なーに」

「ああ」

瞳を固く閉じ、いかにも私は不機嫌ですといったむっつり顔を作って、彼女は俺へと向き直る。

多少の緊張を押し込め、無造作にその顔へ言葉を投げかけた。

「好きだ」

「…………?」

「お前が好きだ、那珂」

「…………………………」

むっつり顔は、両目をこれでもかとばかりに見開いた驚きの表情に変わって、数十秒。

しかし待てども反応はなく、瞬きどころか眉の一つすら微動だにしない。



「……那珂?」

「…………むーど!むーど!」

「…あ?」

そしてようやく言葉を発したと思ったら、いきなり早口で叫びだした。

「ダメだよ提督違うよそーゆうのじゃないんだよー!」

「……違う…とは」

「ムードが足りないのムードが!」

「…待て、もしかして、俺はフラれたのか、今」

「それも違うよなんで伝わんないのばかー!」

ぼすぼす。

何も悪いことをしてないであろう蒲団が那珂の手によりぼこぼこにされる。

拳大の大きさの皺が出来ては消え、新しい物へと変わっていく。



「あのね、てーとく」

「おう」

「そういうのはー、こう、月が綺麗な夜とかにー」

「…ああ」

「こほん、『那珂…今日は、月が綺麗だな』とか、そーゆームードある告白をねー」

「……日常会話をしてどうする」

「知らないの!?」

「……月は綺麗だと思うぞ、俺も」

「…無駄知識はいっぱい取り揃えてるくせになんでこれだけ…いひゃいいひゃい!?」

頬を引っ張るのが思ったよりも強い力になってしまったのは、那珂の言葉のせいで思い出したくないことが脳裏でチラついたからであろう。

それをもう一度仕舞い込むように頭を振る。

「……で、…結局、何が言いたいんだ」

「…んー……いいよ、もう…」

「何だよ、意味がわからん奴め」

「両想いってのが恋の一番の理想なのに、それ以上欲張ってもしょうがないもんね」

そう言って、彼女はやっと笑顔を見せた。

今度は、心に浮かんだ感情を隠す事は叶わなかった。



「…………」

「…な、何で笑うの!?」

「…お前が可愛いのが悪い」

「……えへへ」

「…なんだよ」

「そんな事初めて言われた、てーとくに」

「……初めて思ったからな、そんな事」

照れ隠しとばかり、居心地の悪くなった手を使って那珂の前髪を弄る。

くすぐったそうに身を捩って、それでも彼女は笑顔を崩さなかった。

「じゃ、今から一杯思ってもらおうかな?」

「……ちっ」

「にへー」

「…わーったよ、降参」

手を離す。

先程まで弄っていた前髪はほんの少しだけ乱れていた。

触られていた彼女はその場所へと手を伸ばして、それに気付いたらしかったけれども、跳ねた前髪を直そうとはしなかった。



「………で、だ」

「…あり?お話、続くの?」

「……ああ」

声のトーンを落とす。

さっきの話に意味が無いとは言わないが、これから話そうとしていることが俺にとっては本題だ。

「…那珂、お前は俺と一緒に死ぬ、と言ったな」

「………うん」

その言葉に、笑顔は崩れた。

もう一度彼女は驚きを顔に浮かべ、ややあってから神妙な顔に変わり、頷いた。

「…それだけは、やはり受け入れられない」

「………どうして?」

「…………」




>>+2


A.……お前と一緒に生きていたいんだ。

B.…………なんとなく、嫌だ。

C.内容自由(併記)

おやすみなさい

C. 生きて共に狂い続けたい。(那珂―Low)



「……生きて、生き続けて」

「…そして、共に狂い続けているのも悪くはないと」

沈黙の後、絞り出した言葉。

それは思ったよりも上ずった声だった。

「……そう思ったから、だよ」

真っ直ぐな瞳に耐え切れず、シーツに視線を逸らしてそう言うと、那珂は困ったように笑う。

何故か、昔に俺の悪戯を見つけた母親が、こんな風な表情を作っていたことを思い出した。

「嘘つき」

「………」

「ほんとはそんなこと、思ってないくせに」

「……思ってるさ」

「うーそーつーきー」

軽い衝撃と、乾いた音。

それが、手で俺の両頬を挟むように叩いた音だと気付いたのは、ほんの少し視界に映る彼女の顔が大きくなってからだった。


「苦しいくせに」

「……そうだな」

「逃げ出したいくせに」

「………ああ」

「…ね、てーとく」

那珂の瞳が、真っ直ぐに俺を捉えた。

その眼に魅入られたように、一瞬、息をすることすらも忘れて。

ただ、次に告げられる彼女の言葉を待っていた。

「どうして?」

「お前の事が、好きだから」

「……そっか」

迷い無く、躊躇も無く。

そう言い切った俺に、那珂はやはり、困ったような笑みを向けて。

「どうしても、一緒に死んでくれないの?」

「ああ」

「なんで」

「お前を、失いたくないから」

「…ふふ、そっかぁ」

喪ってしまったら、二度と戻ることはないから。

脳裏へちらりと浮かんだ誰かの顔はすぐに消えて、満足気にふぅと息を吐く那珂へと意識は戻った。



「那珂ちゃんが好きだから、てーとくは、てーとくのままでいてくれるんだね」

「…お前が言ったんだろう、それ以外の俺は認めないと」

「うん、だって那珂ちゃん、我儘だから」

「……なあ」

「なあに?」

「…お前は、仮に俺がもう戦わない、と言えば――」

「ううん、違う」

それ以上は言わないで、と。

那珂は俺の唇に指を当て、言葉を遮った。

「ぶっきらぼうだけど、皆のことを考えてる貴方が好き」

そのまま、楽しそうに、彼女は歌う。

それはただの言葉の羅列の筈なのに、一番しっくりきたのは、歌う、という表現だった。



「自分で全部背負い込もうとする、優しい貴方が好き」

「どうしても、那珂ちゃんのことを道具扱い出来なかった、不器用な貴方が好き」

「どんな貴方も、ぜんぶ、ぜんぶ、好きだよ」

「だけど――」

唇に当てた指を離し、俺の眉間へと真っ直ぐに向ける。

「一番好きなのは、強い貴方だからっ!」

出来の悪いウインクと一緒に、彼女はそう言って。

そんな姿に、俺まで苦笑が漏れてしまった。

「…我儘だなぁ、お前」

「恋する乙女ですからっ!」

そう胸を張った那珂に、思わず両手でも挙げたくなった。

と思えば、彼女が急に浮かべたのは、にやりとした表情。



「それにさ、提督は、今、この戦いをやめたりできないでしょ?」

「……なんで、言い切れる?」

「長門さんや、他の反乱軍の人を、提督は見捨てられないから」

「…………………」

「那珂ちゃんはずっと知ってたよ、貴方がずっと前線で、矢面に立ち続けてた理由」

ふふふー、と、生暖かい眼でもって彼女が俺を見る。

…非常に居心地が悪い。

「逃げたかったのに逃げなかったのも、皆に受けた恩を返さなきゃって思ってたからだよね?」

「ふふ、ほんとに、不器用なんだから、提督は」

「………わかった、もういい、やめてくれ」

誰も見ていないと思っていた自己満足の善行を母親に褒められている、そんなむず痒さを覚え、両手を振る。

那珂はとても嬉しそうにその手の片方を取って、頬を寄せた。



「…ね、てーとく………」

そうして向けられた瞳に込められた色が、なんだか、いつもよりも艷がある気がして。

思わず身を引けば、引いた分よりももっと、彼女が近づいてきた。

「………な、那珂?」

「……そういえばさ、提督はなーんにもしなかったよね、那珂ちゃんに」

「…い、いや、色々したぞ、た、叩いたりとか、ほら」

「そーゆんじゃ、ないよ?」

更に近づいてくる那珂。

それを躱そうと、これ以上身を引いたらベッドから落ちる、遂にそんな場所まで下がってきて。

「……てーとく?」

逃げ場が無くなった俺は――――



>>+2


A.………那珂。

B.……あ、訓練の時間だ!!!

続きます

B.……あ、訓練の時間だ!!!(エロ無し)


「……あ!」

「えっ?」

蒲団から転がり出て、大袈裟に叫ぶ。

「訓練の時間だ!!!」

「………へ」

「こうしてはいられない、遅れてしまう!」

「ちょ、こら」

那珂の制止を振り切って、思い切り身を翻す。

頭の中は既に訓練で一杯だ。刀を振りたいのだ。

ぶっ壊れるくらいの力で扉を開いて、廊下へ出る。

今日は一人で訓練をしよう。そうしよう。那珂はお留守番でいいや。

「じゃあな那珂、いい子にしてるんだぞ!」

あらん限りの勢いで廊下を疾駆する。誰か突き飛ばしたりしたっぽいけど気にしない。俺はもう止まれない。

ああ。ああ。

赤城を笑っている余裕なんて、俺には無かった。

貞操防衛同盟でも組もうか。組んでやろうか畜生。なんてことを考えて。

……なんか。

…唐突に、死にたくなった。

……もういっそ、誰か殺してくれ……。



「…へたれめ」

「……ま、知ってたけどさー」

「しょーがないね、相変わらずー」

「……………」

「…もっかいくらい、好きだって言って欲しかったな」

「……ぶー」




【一つだけ、言っておきたいことがあるんだが】―終



【幕間―海軍省】



「人の世を作ったのは神でもなければ鬼でもない、ただの人じゃ」

荒れてしまった田園の中に、悠然と立ちながら。

利根が、眼前に広がる光景を見て言った。

「漱石―ですか」

隣に控えた副官の艤装―利根の姉妹艦である筑摩が、半ば反射的に応じる。

かか、と利根は唇を曲げた。

「人が作った世が住みにくいからとて、越す国はあるまい」

「――であれば、人でなしの国へ行くばかりだ、と?」

どこか怪訝な含みを持たせて、筑摩が問うた。

利根は表情を崩さずに、景色から彼女へと視線を移した。

「…ま、その国を作ったのは神でも鬼でもない、ただの兵器であったが――人でなしには相違なかろうよ」

彼女らの眼前に広がる光景。

村、いや、村であった場所が、赤く染まっていた。



既に沈んでしまった夕陽のせいではない。

海軍省の一個中隊―その蹂躙の跡である。

或いは炎で、或いは血に塗れた刀で、或いは悲鳴で。

叢雲の奥に隠れた月が照らすまでもなく、その場所は煌々と輝いていた。

歩兵は無作為に銃を乱射し、艤装は無造作に刀を振るった。

ただそれだけで、つい先程まであった生活の場所は消えてしまった。

生存者はいる。尤も、彼らが辿る末路は、良くて外国の好事家へ売られるか、悪ければ実験の材料。

不運にもこの地獄の中を生き残ってしまった彼らが、これから先人間として扱われる事はないだろう。

「……中将、…いえ、姉さん」

「久しぶりに、そう呼ばれたのう」

村人達は、反乱軍に寄与していた。

そして彼らは、その鎮圧のついでに潰された。

別に珍しくもない。よくあることだった。

「大和は、この国は―どうなるのじゃろうな?」

「決まっています、欧州連合を追い出して――」

「追い出して、どうするのじゃ?」

利根の鋭い瞳に射抜かれて、筑摩は答えに窮した。

いや―もとより、彼女はそれに答える術を持っていなかったのであろう。

勿論、表面上の答えはいくらでも用意できたが、そんな物を利根は求めていないと、その瞳が語っていた。



「……………」

結果として、彼女が選んだのは無言。

利根はそれに、なぜか満足した様子で、鼻を鳴らした。

「姉さんは」

「うん?」

「後悔しているのですか?」

筑摩が問うと、利根は彼女から目線を外す。

「……後悔は、しておらん」

既に、悲鳴は聞こえなくなった。

その代わりに、炎が木を燃やす、弾けるような音が増していた。

「今更、振り返ることも立ち止まる事も、出来なんだ」

「ただ――時々な、自分が何をやっておるのか、わからなくなるのじゃ」

利根は、空を見た。

怒っているような笑っているような、そんな眼だった。

「……………」

今度は本当に何も言うことが出来なくて、筑摩は押し黙った。

ぱちっ、と、一際大きく炎が弾けた。

「……迷い無く、主に従うだけで良い艤装、か」

「…羨ましいのう――」

その独り言は、誰の耳にも届くことは無く。

虚しく光る星空に、吸い込まれていった。



【海軍省―終】

続く



【幕間―お前って、訓練以外に趣味はないのか?】



「はあ?」

そう言った瞬間、なんとも形容しがたい表情を湛えた若葉が、振り向いて俺を見た。

そこには些か、いつもよりも鋭さを感じた。

「…なんだよ」

「それをお前が言うのか、と思っただけだ」

「………む」

何を―と言い返そうとして、言葉に詰まる。

俺とて訓練が趣味という訳ではないが、最近、それ以外に何かをしていた記憶が無い。

「…若葉、俺にだって趣味くらいはある」

「ほう?」

にも関わらず素直に心中を吐露しなかったのは、一種の強がりというか、見栄のような物だった。

簡単に言うのなら、心配した側が同じ悩みを抱えていて、なおかつそれを見破られるというのは、何とも決まりが悪かったのだ。

「それは知らなかったな、是非教えて欲しい」

しかし若葉は俺のそんな虚言に頬を緩め、心底嬉しそうに微笑んだ。

素直な優しさをぶつけられて、思わずまた口ごもる。



「……ああ、…その」

「どうした、遠慮しなくていいぞ」

「…………最近は、野球に凝っている」

そうして何とか捻り出したのは、米国で生まれたらしいスポーツの名前。

どうやらその名前には聞き覚えが無かったようで、若葉が首を傾げた。

「…野球?」

「攻撃側が9人でバットと呼ばれる木の棒を持って、守備側のゴールに向けて45分間ボールを打つゲームだ」

「………それは、なんとも」

俺のうろ覚えのルール説明を受けて、そのスポーツを行う光景を想像したらしい若葉が、思い切り嫌そうな顔をした。

その気持ちは十二分に理解できる。俺もそんなスポーツは嫌だと、長門にこのルールを聞いた時に思ったものだ。

「…一体、誰とやっているんだ、その競技…?」

言外に―それに付き合う奇特な阿呆はどこにいるんだ、と、問う。

勿論、こんな時に俺が出す答えは一つしかない。

「那珂と」

「…………そうか」

今度は、彼女の眼に同情の色が見えた。

次々にボールをぶち当てられる那珂でも思い浮かべたのだろうか。

いや、なんなら、一度くらい見てみたい光景ではあるが。



「別に…いいだろう、俺のことは」

「…いい…のか?…まあ、趣味なんてものは個人の好みかもしれんが…うむ…」

「俺が気にしてるのは、お前だよ、若葉」

「……私、か」

毎日毎日朝から晩まで訓練場に籠もって、ひたすらに肉体を虐め抜く。

とても普通の生活ではないし、俺から見ればそこには楽しさの欠片も無いと思う。

だが彼女は、誰が止めようともその生活リズムを崩そうとしない。

曰く、これだけしかやることが無いのだから―と。

「休息は取っている、問題は無いさ」

そして、毎回必ずこう言って話を締める。

まるでこれ以上触れてくれるな、と言わんばかりに。

「…と言ってもな、毎日同じことの繰り返しじゃないか」

「ああ、だって、そういう物だからな、私は」

「そういう物?」

「ああ、私達は兵器だよ、艦娘という名の」

「だから、いつでも万全に戦えるように自分を整えておくことが役割なのさ」

「…そりゃ、そうかもしれんが」

「だろう、だから気遣いは無用だ、それに存外、訓練というのも楽しいからな」

「………しかしな」

「良い、良い、わざわざ気を遣ってくれてすまない、提督」

「…あ、おい」

「少し、汗を流してくる――覗くなよ?」

強引に話題を切って、彼女は背を向ける。

思わず、その肩へと手を伸ばした。



「…待てって」

「……何だ?」

彼女は、面倒臭そうな態度を隠すことすらせずに振り返った。

放っておいてくれ―と、その表情が語っていた。

「別にいいじゃないか、訓練以外のことをしたって」

「…やりたいことが無い」

「だったら、何か…」

「…提督、お前が私を思って言ってくれているのはわかるが、そこまで食い下がられると、大きなお世話だと言う他ない」

「……小さな親切のつもりだったんだがな」

「その優しさは那珂にでも分けてやれ、喜ぶぞ」

「おい、若葉…」

取り付く島も無く、もう一度若葉は身を翻した。

今度は、俺の制止を気に留める事すらせずに。

俺は――


>>+2


A.若葉を引き止める。

B.若葉を見送る。

続く
横浜つっよ

B.若葉を見送る。


「………………」

何も、声をかけることが出来ずに。

遠くなっていく若葉を、見送った。

「大きなお世話――ねぇ」

彼女に言われた言葉を繰り返す。

思い返せば、確かにその通りだったかもしれない。

触れられたく無い物は、誰にだってあるのだから。

どうにも、無駄なお節介を焼いてしまった。

「…慣れない事はするもんじゃない、な」

彼女の去っていった方向に背を向ける。

お節介焼きの誰かさんのせいで、俺までそれが伝染したのかもしれない。

そうだ、むかつくから帰ったらあいつにボールぶつけよう、それがいい。


――――――――――――


「おかえりー…ってひぎゃっ!?」

「…そういえばこれ、何点になるんだ?」

「何が!?というかいきなりボールぶつけといて何言ってんの!?」

「まぁいいか、よし那珂、野球しようぜ、お前ゴールな」

「野球にゴールって無いと思うんだけどっ!?」



【幕間―終】


【幕間―長門】


ともすれば、長い夢を見ているのではないか。

目の前に並べられた、訓練用の天龍型艤装を眺めながら、そんな事を思った。

もう少ししたら、母親が起こしに来て―大戦という言葉も、どこか自分とは遠いものであったあの時代で目覚める。

その方が、よっぽど現実的である気さえした。

家の経済状況や、俺の能力を鑑みれば、軍学校に入ることなど叶う筈も無かった。

だから、自分が戦場で先頭に立って敵へ突っ込んでいくなんて、まさにあの頃思い描いていた出来の悪い妄想。

誰もが少年時代にそうであったように、俺もまた、英雄を夢見たのだ。

この天龍型艤装を見るたび、思い出す。

大戦が始まってすぐに行われた、中華で大活躍した艦娘達を讃える、華々しい凱旋パレードを。

あの時も、真艦の天龍が先頭を進んでいた。

少年の俺が憧れの眼でひたすらに眺めていた艤装。

今、眼前にあるのはそれと寸分違わぬ造りなのに、やけに薄汚れて見えた。

勿論、訓練用のポンコツだから、実際に汚れているという事もあるが、きっと、それだけではないだろう。

「……………」

鋼鉄の装甲に触れる。

背筋まで届くような冷たさが、手に伝わった。

どうせなら―せめて、もう少しくらい、格好のいい英雄でありたかったものだなと、息を吐いた。


現か、夢か。

こんな事を考えたとて、意味はない。

目の前に広がる物は、変わりなどしない。

それでも、考えざるを得ないのだ。

この現実離れした日常が、夢であったらどれ程にいいか。

そして、もし、もし、これが夢であるのなら。

その終わりは、この長い長い夢の終わりは、一体、どこにあるのだろうか――と。

「どうした、感慨深げに立ち尽くして」

「長門」

―今日は一段と老けこんで見えるな、提督。

不意に、背後からそんなふざけた声。

振り向けば、長門が居た。

「いや…こいつにも世話になったと思ってな」

「ふむ………はは、そういえば、お前は最初、この訓練用艤装ですら全く扱えなかったな」

「……仕方ないだろう、誰だって最初からなんでも出来るわけじゃない」

脳裏に浮かぶのは、こいつを纏ったまま地面に転がる光景。

兵士になると決めて訓練を始めた当初は、バランスが上手く取れずに、歩行さえもままならず、何歩か歩いてはひっくり返っていた。

長門も、同期の兵士も皆、転がる俺を見て笑っていた。



「…懐かしいよな、本当に、お前にもそんな頃があったんだ」

「いちいち人の恥を引っ張りだしてくるんじゃない」

「いいだろう、昔を思い出して懐かしむくらい」

「明らかに馬鹿にしているだろうが」

「ふっ、そうかもな」

余裕の見える微笑。

いつもより機嫌がいいのか、それとも俺の事をせせら笑ってでもいるのか。

いずれにせよ、そんな態度が、少し癪に障った。

「…で、何だ、馬鹿にしにきたってんなら帰れ」

「…いや、話がしたかった」

「話?…構わんが、昔話以外にしろよ」

俺の言葉に、長門が苦笑を浮かべる。

やっぱりそれは妙に余裕が染みていて、自然と唇を尖らせてしまう。

「心配するな、昔話なんかじゃあない」

彼女はそう言うと、一瞬だけ遠くを見て、そして自分を落ち着けるように一つ息を吐いてから、続けた。



「……秋月のこと、いや…違うか、お前のことだよ」

聞きたくない単語が耳に入って、向ける視線が鋭くなる。

落ち着け、とでも言うように長門は両手を挙げ、そんな俺を宥めた。

「…秋月のことは、報告した通りだが」

「『彼女は欧州連合の間諜であり、それを指摘したところ抵抗、やむなく殺害に至った』か」

「………ああ、死体も―見せたろう」

佐伯から、築城まで死体を連れて。

余計な事は言わず、ただ秋月を殺したと、俺は長門に伝えた。

彼女の死の真実を有耶無耶にした事は、きっと大局的には間違いだ。

連合はあんな事だって出来る、そう教えておいた方が良いのかもしれないし、そうするべきだったのだとは俺も思う。

けれど、彼女の死に様を―機械のように使い捨てられたあの死に様を、誰にも言いたくはなかった。

あの少女が壊れてしまった様を誰かに伝えるのが、嫌だった。

たとえ、それがただの俺のエゴだとしても。それでも。


「ん、いや、彼女の死自体は紛れもない事実だ、それは疑っていない」

「…じゃあ、それ以上何を知りたい?」

長門は、ほんの少し黒目を左右させて。

その僅かばかりの逡巡の末に、重々しく言葉を吐き出した。

「お前は――」

そこまで言って、長門が目を伏せる。

一瞬、言葉を止めるのかと思ったが、大きな呼吸を挟んで、続けた。

「秋月を殺す時、どんな気分だった?」

「――――っ」

驚愕に口を開いて、そのままの形で固まる。

きっと、一番強く顕れた感情は、怒りだった。

「……どうしてそんな事を聞く?」

返す言葉は、刺々しく。

暗に聞くなという言葉を添えて、長門へとぶつけた。

けれど、彼女はそれに対しても、全く怯んだ様子を見せなかった。



「あれだけ仲が良かったからな、気になった」

やはり質問をやめる気は無いようで。

それだけ言うと、彼女は口を閉じて、俺の言葉を待っていた。

「…別に、普通に、何も思わずに、ただ――」

彼女の死体が、脳裏で幾度も再生される。

それに思わず奥歯を噛み締めて、言う。

「殺した、だけだ」

「……ふむ」

彼女の感情は、読めない。

ただ、尤もらしく頷いて、しばらく沈黙していた。

「長門、もういいか」

「…私はな、提督」

「……あん?」

「人を殺すのに、何を感じたことも無いんだ」

「…………?」

脈絡無く続けられた会話に、首を傾げる。

長門は、それを気にせず、つらつらと。

「艦娘だから、兵器だから、そういう物だから、と」

「そう考えて、戦場に立ち続けていた」

「…今は、違うのか?」

静かに、彼女は首を振って。

何も変わらないさと、自嘲するように笑った。



「人殺しは栄誉なのだ、兵器にとって」

そして、瞳を俺へと向けた。

「だからお前がわからないんだよ、何も思わずに人を殺せる私には、な」

「……長門、お前…」

「…なあ、提督、お前をこの場所に立たせてしまったのは、きっと私のせいなのだろうと思う」

「…………」

「だけどな、拾った恩義など、お釣りが来る程に返して貰った」

「だから、私達のことなんて、これ以上気にしなくていい」

―もう、やめても良いんだ、と。

長門は、そう言った。

ただただ、優しい微笑を添えて。


>>+2


A.「………続けるさ」

B.「アホか、何言ってんだお前、意味わかんねーよ」

続きます

B.「アホか、何言ってんだお前、意味わかんねーよ」



「アホか」

「……なんだと?」

「何言ってんだお前、意味わかんねーよ」

「…ふむ」

また、頷いて考え込む仕草。

10秒くらいそれを続けてから、顔を上げる。

「…わからない、か」

「ああ、わからない」

「……本当に?」

「くどい」

わかりきった事を聞くな―と、首を振る。

ついでに、思い切り笑ってやった。



「それとな、長門」

「…なんだ」

「お前は、人を殺しても何も感じないと言ったな」

「……そうだな、それが?」

「いや…勿体無いと、思っただけだ」

「勿体無い?」

「そう――」

――あんなに、楽しいのにな。

不格好に口角を吊り上げ、笑みを作る。

言って、今度こそ背を向けた。

「………提督」

「話は終わりだろ」

「…お前は、それでいいのか?」

「さあな、これしか知らないんだよ」

「……そうか」

吐き出されたその言葉に混じっていた感情は、諦めだろうか、呆れだろうか、それとも、また別の物だろうか。

それは、長門自身にすらわからない、そんな気がした。

だけど、きっと彼女が何を思っていようが関係は無い。

俺は、そうするしか無いのだろうから。これまでのように、これからも。



【幕間―終】

次章予告――


――「那珂ちゃんは、デートをご所望です!」

――「我輩は、ただ、救いたくて、救われたかったのじゃ」

――「や、おひさしぶり、てーくん」

――「今度こそ、私は私自身の意思で選びたいと思うのです、意味がなかったとしても、ただの自己満足だとしても」

――「彼女の糧は、満ちた憎悪と怨嗟、その全て」

――「欧州連合が、正式に対大和再軍備を採択した」




――夢の終わりは、俺達が思っているより、ずっと近くにある。

――きっと終わるその時まで、それに気付くことは無いのだろうけれど。







内容は大体決まってるアピール
文章が全く書けないのが問題よな
続く



人は、存外に逞しく、同時に与えられた環境に適応するのが上手い物であると―辺りを見回しながら、そんな事を考えた。

呉の街。

四大鎮守府の一つである呉鎮守府施設に隣接する位置にあるこの街は、海軍省の強烈な締め付けと監視の下にあっても活気を失うことがない。

絶え間なく人々が行き交い、毎日の生活を謳歌している。

大戦後の大和においては、間違いなく全国でも上位の大都市である。

「♪」

「…………」

その市街中央部、人の間を縫うようにして歩く二つの影。

片やスキップでもし始めるんじゃないかという程に軽い足取りで。

片や葬式の喪主と見紛う如く暗い顔をしてとぼとぼと。

傍から見れば、明らかに異質な取り合わせであろうという事は俺にもわかっている。

だがどうすればいいんだ、どんな顔をして歩けばいいんだ。

それがわからないから俺はこんな顔しか出来ないのだ。



「呉の街って凄いねー…あ!あの露店行ってみたい!…くれーぷ?ってなんだろ?」

「……知らん」

「そっかぁー、じゃ、食べてみようよ!」

「……そうだな」

甘い匂いを漂わせる露店に不釣合いな強面の親爺を那珂が呼ぶと、やはりその風体に似つかない甘い声で強面が応える。

なんでも、クレープとやらの味付けについて話しているらしい。

「嬢ちゃん、おすすめはこいつだな、チョコレイトだ」

「甘いの!?」

「おうおう、甘いぞー?なんてったってこいつは欧州の会社から直接…」

「ねね、てーとくは何がいい?」

「……何でも構わん」

「…むぅ、そーゆうの一番困るんだけど」

「何だ、随分とまた機嫌が悪そうだなぁ、彼氏さんよ」

「…いつも通りなんだ、放っておいてくれ」

そう言うと、那珂がこれ見よがしに溜息を吐く。

強面はそれに苦笑を漏らして、薄い卵色の生地を取り出した。



「わ、薄いんだね」

「おうよ、焼くにもコツがいるんだぜ」

「へー…フライパンで作ってるの?」

「そうだ、こうやってな…」

驚いた様子で眼を白黒させる那珂に機嫌を良くしたのか、強面が何やら講釈を垂れながら得意気に新しい生地を焼き始めた。

「………はぁ」

随分と呑気なものだ。

目的を忘れているんじゃないだろうな、この馬鹿は。

反政府組織として、日々を戦いで彩る俺達に、遊びでこんな場所に来るような余裕は無い。

今回此処にいるのだって、当然、色々な思惑と策謀が交錯した結果であるというのに。

そう、これはあくまで反政府組織的行動であって、断じてデートなどではないのに。



「てーとく!」

「あのな――むぐっ!?」

声のした方向へ振り向いて、ついでに釘でも刺してやろうかと開けた口。

そこに、何か甘い物を突っ込まれた。

「えへへ、美味しい?」

「………、まぁ…甘い」

「でしょ?あんこみたいな感じじゃないけど、これはこれで美味しいね!」

「……かもしれない」

「というわけで、てーとく、はい!」

「…残り、食べていいのか?」

「ちっがーう!那珂ちゃんにもあーんして、あーん!」

「…………」

一瞬、残ったクレープをそのままこいつの口に無理やり全部突っ込んでやろうかと思ったが、食品を無駄にするのも気が引けて、やめた。

おずおずと、那珂の口元にその菓子を差し出す。

彼女はそれにゆっくり口を伸ばして、ほんのひとかけらだけ齧った。



そんな姿を見ていると、まるで雛鳥に餌を運んでいるようで、なんだか少し楽しくなって。

「…ん、んんっ!」

…咄嗟に咳払いをする。

いかん。これは反政府組織的行動なのに何を楽しんでいるんだ俺は。

そう頭を振り、誤魔化しついでに大口でクレープを齧る。

口内に、不思議な、今まで経験したことの無い甘さが広がった。

これがさっき強面の言っていたチョコレイトというやつだろうか、先程は突然であまり味わう余裕も無かったが、なるほど、中々に悪くないかもしれない。

この生地も全体のバランスとして――――

「じゃない!」

「わっ、びっくりした」

「那珂、俺達の立場をわかっているのかお前は」

「……デート中のカップル?」

「そうじゃないだろう!」

そう、これは思惑と策謀が交錯するレジスタンス式ゲリラ戦術、その名も偵察行動なのだ。

断じてデートなどではなく、つまりこれは俺達の戦いの日々の一環なのだ。

つまりそこにデート的要素の一切はつまり発生しないという訳であるのである。



「…な、なんか凄い焦ってない、提督?」

「断じてそんな事はある筈もない」

そう、俺はあくまで冷静に第三者的客観視点から意見を述べているにすぎない。

こいつと居て緊張しているとかドキドキしているとかなんか嬉しくなるとか暖かくなるとかそういった物は心象風景が生み出す錯覚だ。

「まあいいけど…だってさ、長門さんも羽根を伸ばしてこいって言ってたし」

「そんなもんはただの建前だろう、いいか、俺達はなぁ…」

「…あーもーわかったよぅ、…でもさ、提督」

「…なんだ、つまらん話は聞かんぞ」

「隠密行動をするんだったら、こうしてカップルらしく振る舞ってるほうがいいんじゃない?」

「はぁ?」

「だって、提督がそんなに剣呑な構えを出しながら歩いてたら、兵士さんだって警戒するでしょ?」

「…………ぐ」

「だからさ、那珂ちゃんといちゃいちゃーってして、ちゃんと街に溶けこまないと!」

それが隠密行動の基本だよ基本ー、と続ける彼女。

…なるほど、ほんの少し一理あると思ってしまった。

カップルいちゃいちゃ云々は置いておくとしても、あまり殺気立って周囲を見回していたりするのが逆効果であることはまさにその通りだ。

また、それを誤魔化すためにいかにもデート中の恋人の振りをする、というのも……まあ、有効ではあるのかもしれない。

い、いや…しかし…しかし反政府組織的行動というものは…。

「ね、提督、ほらほら、次行こ、次!」

那珂が、手を俺の方へと目いっぱいに伸ばす。

俺は―――


>>+2


A.……し、仕方ないな。

B.………違う方向で努力するから、大丈夫だ。

なんつーかなぁ
続く

B.………違う方向で努力するから、大丈夫だ。


「…違う方向で努力をする、大丈夫だ」

「にゃっ!?」

すかっ。

伸ばした手が空を切り、那珂がバランスを崩す。

そのまま倒れそうになった彼女を、片腕で軽く支えてやった。

「…コケるなよ」

「むー、じゃあ手取ってくれてもいいのに」

「あまりそうやって気を抜くと、思わぬ落とし穴にハマる」

「落ちたら這い上がればいいの!」

「中に針が仕込んであるかもしれんだろう」

付いて来いと、先んじて歩き出す。

那珂は不満気に、その俺の隣へと並んだ。

「あのねー、デートの時はねー、女の子の歩く早さに合わせなきゃなんだよー」

「そうか、いつか機会があれば参考にしよう」

「機会って今じゃん!」

「だから、これは隠密行動なんだ」

ああ――全く。

これというのも、何もかもあの出来事が悪いのだ。

そう、事の始まりは――――





ずらり、と第一空挺団の主要メンバーが居並ぶ築城の会議室。

その前方に立つのは、二人の女。

一人は神々しいまでの金髪を腰まで伸ばした見るからに欧州系の軍人。

もう一人は大和人―水城寧子、とあの時名乗った、研究者。

「さてさて、本日はわざわざお集まりいただきありがとうだね、皆々様」

「…ネコ、そういうのはやめなさい」

「うん?やだなぁビスマルク、大和人はこうした前置きをとても尊重するんだよ」

「やめなさいと言っているの」

「ふーむ、そうかい」

寧子が、つまらなそうに溜息を吐く。

それを見て、ビスマルクと呼ばれた女が改まった口調で切り出した。


「…私は欧州連合大和駐留軍本営直属、特殊工作部隊隊長、ビスマルク大佐です、この度は皆さんにお話があって、ここまでやって来ました」

「それは先程も聞いたよ、ビスマルクさんとやら」

だから早く本題に入れとでも言いたげに、長門が続きを促す。

「…わかりました、率直に申し上げると、私達は来る大和解放戦争に向けて、貴方方のお力添えを頂きたいのです」

「……力添え?」

会議室に集まった面々が顔を見合わせて、ざわめく。

俺も、欧州連合にとても似つかわしくないその言葉に、思わず首を傾げてしまった。

「はい、この独裁下の大和にあって、海軍省と互角以上に戦っておられる皆様の力が、欧州連合にとっては必要なのです」

「……………」

何を、と。

その疑問は、皆が思ったことであろう。

確かに第一空挺団は九州を制圧した。

だが、だからといって海軍省と互角以上の力を持つかと言われれば、そんなことはある筈もない。

俺達の戦力など、客観的に見てみればせいぜい海軍省の一個連隊規模程度しかないのだ。

それでも討伐されずにいるのは、海軍省が九州にまでその規模の戦力を注ぐ余裕が無いから、というだけで。

欧州連合と比較すれば、それこそカスみたいな戦力しか持っていない。

ビスマルクもそういった俺達の疑問を受け取ったらしく、それについての説明をしようと口を開きかけた所、横に居たネコがきっぱりと言い放った。



「なに、ただ、私達には伏見宮の忘れ形見が必要なんだよ」

「………ネコ!」

弾かれたように、そちらに視線を移し。

ビスマルクが端正な顔を歪めて、ネコを睨む。

「伏見宮……?」

今ネコが言った名前には、聞き覚えがあった。

大戦で戦死した元海軍省元帥、伏見宮博恭王――そして、その直系。

「赤城…か」

長門がそう零すと、ネコが頷く。

「ああ、そうだ、今の欧州連合にとって、彼女という存在は一個師団よりも貴重な戦力でね」

「…ナガトさん、その」

「下手に隠し立てなんかしない方がいいよ、ビスマルク、そうすればどうしたって不和が残る」

「黙ってなさい!」

「…やれやれ、どうにも君は優しいし、穏便すぎるんだ、友人よ、それじゃあ交渉事というものは上手くいかない」

溜息混じりにそう吐き出すと、ネコは馬鹿にしたような笑みでもって、並ぶ俺達を見た。



「そういうわけで、これから出す条件は交渉ではなく、通告さ」

「…通告だぁ?」

主要メンバーの中でも若い男が、ネコを睨め付けながら鋭い声で応じる。

しかし彼女はそれに全く怯む様子も見せず、続けた。

「いいかい、欧州連合はね、この大和解放戦争を君達第一空挺団の先導による物にしたいのさ」

「…………」

腰のサーベルに手を掛けて、今すぐに振り抜いてもおかしくはない―そんな苛立ちを貼り付けて、ビスマルクがネコを見る。

それでも、やはりネコは一切気に留める様子を見せなかった。

「海軍省という巨悪の圧政に耐えかねて立ち上がった民衆――そして、それを支援する欧州連合」

「はは、こんなにわかりやすい正義の図もないね、欧州史の教科書には未来永劫、大和解放が欧州連合の輝かしい人道的な功績であるとして綴られていくことだろう」

もはや、誰も口を挟むこと無く、彼女の話を聞いていた。

彼女はそれに満足したらしく、一つ咳払いを挟んで。



「佐世保の虐殺を生き延びた、大和皇族に血を連ねる娘を旗印として、君達第一空挺団は堂々と海軍省に刃を向ける!」

身振り手振りを交えながら、ネコはさも愉快そうに。

ああ―そうか、そういえばこいつは、剣の時から、やたらと大げさな語り口調が得意だった。

俺は、そんな事を意識の端で考えていた。

「しかし、海軍省の戦力に反乱軍は一歩及ばない、ああ、もうダメだ――そこへ現れたのが、我らが欧州連合!」

「君達と彼らは、大戦というわだかまりを超え、手を取り合って巨悪を討ち滅ぼす!」

「そして新しい大和が誕生し、欧州連合の素晴らしさに感銘を受けた大和は、自らそこへの加盟を申し出るわけだ」

「はい、こうして欧州連合の末席に大和は名を連ね、これから始まる対露戦線の要として使われることになりましたとさ、めでたしめでたし」

ぱちぱちぱち、とネコは自分で拍手を入れて、皆を改めて眺める。

「というストーリーなんだが、ちょっと協力してくれないか?」

おまけに、一切悪びれた様子もなく、飄々とそう付け足して。



「…ふざけるなよ!」

それに真っ先に異を唱えたのは、先程の若いメンバー。

そして、追随するように、所々から声が上がった。

「どうしてそんなことをしなくちゃなんねえんだ!」

「そうだ!俺達は欧州連合なんかにこの大和を渡すために戦ってきたわけじゃない!」

口々に投げつけられるのは、当然、異論。

無理もなからぬ事であろう。彼らは、自らの、大和人による大和を取り戻す為に戦ってきたのだから。

だが、その中において、俺と長門だけは、冷静にネコを見ていた。

それは、何も俺達が欧州連合に支配されることに賛成しているというわけではなく―彼女が言ったように、これが交渉ではなくて、通告だから、だ。

「そうか、ダメなのか」

じゃあ仕方ないねぇ、とネコは呟いて、もう一度、あの馬鹿にしたような笑みを貼り付けた。

「海軍省の後は、君達を討伐しよう」

「………は?」

その言葉に、再び会議室は無音へと戻った。

唯一、ビスマルクだけが小さな舌打ちを漏らしていた。



「だってそうだろう、こんなに怖い反政府組織を放っておいては国家の安寧の為にならない」

「折角圧政から解放された大和に住む無辜の民のため、我らが欧州連合は剣を取るのさ」

此処に至りて、やっと居並ぶ彼らも気付く。

ネコが、というより、欧州連合が提示した条件とは――

「つまりね、協力するか死ね、と言いたいんだよ、反乱軍」

「欧州連合としては、出来れば後の為にもより強い大義名分を得たい、でも、その必要性は絶対じゃない、強引に何とかする方法だってあるんだ」

「言ったろう?これは通告だよ、と」

「むしろ、頭を下げるのは君達の側なのさ」

もう、異論を挟める者は、誰もいなかった。

それはきっと本気で言っているのだと、ここに居る全ての人間が理解したから。

そこで、ネコはふ、と微笑を浮かべた。



「まあ、考えてみてくれ、悪い話じゃあないよ」

「……どこがだ」

片隅から、誰がこぼしたのかもわからない呟きが聞こえた。

「うん、まず君達の処遇についてだが―無論、大和解放の英雄として、それなりの立場は保証されるだろうね」

「当然、日々の生活は食うに困らないどころか、所謂富裕層と言えるだけの物になるだろう」

「それだけじゃなく、一般市民の生活だって劇的に向上する」

「欧州連合の豊富なバックアップのもと、極東の後進国には物資や資源が送られて、今どころか大戦前よりも良い生活水準が保てるのではないか?」

「……ふむ、やや、こうして見ると悪い話なんて一つもない、はっはっはー、決まりだな、これは」

「…その代わり!」

「む?」

得意気に語るネコに、遂に口を挟んだのは、やはり先程の若い男。

息を荒げながら、噛みつかんばかりの勢いで、唾を飛ばす。



「お前ら欧州連合に、従えってんだろが!」

「そうだね、うん、…え、わかってなかったのかい?そんなに説明が悪かったかな?」

「そういうことじゃねえ!…お前も、お前だって大和人なら、何か思うことくらいねぇのかよ!」

「…………はぁ」

その彼の言葉へ、ネコは殊更面倒くさそうに息を吐いた。

そうして向けた瞳は、一切の興味を失ったように平坦だった。

「よりにもよって、向ける言葉がそれか」

「何だとぉ!?」

椅子を蹴飛ばしながら、男が立ち上がる。

彼はどうかすれば今にもネコに掴みかかる、そんな風に見えた。

「欧州連合に頭を垂れるのは、そんなに嫌か?」

「当たり前だ!」

「はっ」

明らかに小馬鹿にして、鼻を鳴らす。

思わず腕を振り上げた男を、後ろから年輩の親爺が両手で掴んで止めた。



「てめぇ…!」

「愚昧だな、ああ、実に愚昧極まりない」

「では君は…そうだな、仮に、赤城がこの大和を統べるのなら、納得するのかい?」

「統治能力も政治能力も疑わしい、ただ大和人というだけの君主で」

「ああ、そうだよ!それが、俺達の作ろうとした大和だ!」

再度、溜息。

もはやネコは、人間を見る眼で彼を見ていない。

「度し難い、救い難い、君らはあの大戦から、本当に何も学ばなかったのだな」

「…ま、考えてみればそれもそうか、外国に頭を垂れるのが嫌で、自国人に頭を踏みつけられながら生きている民族なのだからな、君達は」

「見てみろよビスマルク、これが自民族に誇りとやらを持って朽ち果てる典型的な人間……おおっと、これはもしかして君には禁句だったかな、『独逸人』?」

「ネコッ!」

「くく、怒るなよ…私はただ、合理的に物事を見た方が良いと言っただけだ」

「…貴女は、どこまで私をコケにすれば気が済むのかしら」

「ふふ、そんなつもりはないんだけどねぇ」

「……もういいわ、真面目に取り合った私が馬鹿だった」

「そうそう、真面目に取り合わなければいいんだよ、うんうん、他人の価値観に一々腹を立てていたら、人生は面倒になるよ」

「さて…ビスマルク、後のまとめは、君に任せよう」

「私は外の空気でも吸ってくる、今日はいい天気だからねぇ、肺の中を換気しないと、換気」

彼女は、そう言って会議室の扉へと向かった。

誰も、その背中を呼び止める者はいない。

俺は――


>>+2


A.この場に残った。

B.彼女を追った。

ほーん
続く

次から単発ID安価取得禁止にする、ごめんね
やる日は予告します

A.この場に残った。


騒ぎの元凶が去って、しんとした静けさに包まれた会議室。

俺は、そこでぼうっと佇んでいる赤城へと目をやった。

長門やビスマルク、比較的年輩のメンバーも同様に、彼女を見ていた。

だが、赤城は誰とも目を合わせずに、その瞳は虚空を捉えるだけ。

「………赤城、さん、その」

居心地悪そうに、ビスマルクが声を掛ける。

それを遮ったのはしかし、赤城自身の口だった。

「私自身の考えを、述べさせて頂くのならば」

会議室にいる全員が、彼女を見た。

その集中する視線に些かの怯みもなく、赤城は続ける。

「このお話は、受ける他無いと考えます」

ざわり。

少なからず、場がどよめく。

皆、驚愕を込めて彼女を眺めていた。



「おそらく―彼女は、これ以上無い程に正直に、私達の置かれた状況をおっしゃってくれたのでしょう」

「でしたら、対大和再宣戦はもう遠くない未来の出来事、と認識してよろしいのですよね?」

「え、ええ…そうね、議会の方でも近々承認が降りると思うわ」

「ならばこの話には、あまり迷っている時間も無い、ですね?」

「……そうね、その通りよ」

そして俺もまた、驚きを貼り付けて、そんな赤城を見ていた。

少なくとも、俺が知る彼女は、自分自身で自分の境遇を選択できる人間で無かった筈だ。

「……しかし、赤城」

割って口を挟んだのは、長門。

「はい?」

「それは―それを選ぶということは、私達は」

この場の皆の意見を代弁するかのような言葉。
ヨ ソ モ ノ
欧州連合に助力を嘆願することの、対価。

「…長門さん、国とは、何なのでしょうか?」

だが、彼女は予想外の返しで応じた。

長門も、多少面食らった様子で首を傾げる。

「……うん?」

「私はずっと、あの山口で匿われている時から、それを考えていました」

それは長門に向けたものというよりは、独白の如き響きを含んでいた。

「皆、大和を取り戻すんだと、息巻いていました」

いや、今もそうですね―と、先程から興奮している若い男を見やる。



「ですが、それはやはり、ただの夢でしか無いのです」

「仮に万が一、私達が独力で海軍省に打ち勝ち、大和を我が物にしたところで、廃れた街や、荒れた土地が元通りに戻ってくることはありません」

「九州での統治の真似事すら上手くいかない私達が、この大和全土を復興させなければならないのです」

「海軍省から、そんな私達に頭が変わったところで、一般の市民は本当に幸せになれるのでしょうか?」

「…それは」

長門は答えられない。

当たり前だ。元々敗残兵崩れの俺達に、戦後の明確なビジョンなどない。

「海軍省を倒す」という目標を掲げて、がむしゃらに前へと進んでいるだけなのだから。

倒した後の事など、この場にいる誰も考える事ができやしないのだ。

「ビスマルクさん」

「……ええ」

「もし青写真通りに事が運んだ場合、欧州連合がこの国を支援してくれるというのは、本当ですか?」

「勿論、大戦間、ひいては海軍省の暴虐による戦災からの復興を全力で支援する、という方針は、絶対よ」

俺達による統治と、欧州連合による統治。

そのどちらが大和に住んでいる人々にとって幸せなのかと言われれば―それはきっと、考えるまでもない。

例えば―中華。

内戦でボロボロになってしまっていたあの国は今、欧州連合の支援によって目覚ましい復興を遂げている。

華北地方は、世界でも有数の工業地帯へと発展した程だ。



「……でもよ、大和は…大和は、俺達の」

若い男が、呟く。

ちょうど、駄々をこねているようにも見えた。

けれど、その駄々には、おそらくこの場にいる多くの人間が無言で賛成していた。

その空気を感じ取ったらしい赤城が、続ける。

「先程の質問の、私なりの答えです」

堂々と、前を向いて。

「例え、欧州連合の下に付いたとしても―私達が、大和人であるという事を、忘れなければいい」

「それが出来ている限り、この国は、大和は、なくなりはしません」

「私は、国とはそういうものであると思うのです」

「……赤城」

「長門さん、もう一度、私の考えを述べさせて頂きます」

「欧州連合に、協力したいと、その為になら、神輿に担がれても構わないと」

「佐世保や山口の時のように、状況に流されるままにされているのは…もう、嫌です」

「今度こそ、私は私自身の意思で選びたいと思うのです、意味がなかったとしても、ただの自己満足だとしても」



凛とした雰囲気を纏って彼女はそう言い放ち、その場に居た誰もが、黙りこんだ。

きっと、彼らにも反論したいという気持ちは少なからずあった筈だろう。

けれど、それすらも彼女は包み込んで、ただ、視線だけを集めていた。

「…………俺は」

だから、ここで多量の言葉は野暮だ。

静かに、ただ一言のみでいい。

「…赤城がそう考えるなら、それでいいと思う」

そう言ってから視線を送ってやると、彼女はそれを受けて眼を細めた。

そのまま、皆に背を向ける。

「お、おい…提督、どこへ」

「俺は赤城を支持する、そりゃ変わらんからな、このままずっとこんな部屋にいると肩がこる」

今の御姫様なら、俺が、いや、誰が側に居なくたって、きっと大丈夫だろうから。

籠の中で助けを待つ御姫様は、もういない。

扉を閉める直前、もう一度だけ赤城の姿を見た。

その姿は、いつもより、ほんの少しだけ――大きく見えた。

……最近食い過ぎたとかじゃないよな、流石に。



会議室を出て向かった先は、基地の屋上。

月が、煌々と辺りを照らしていた。

その中央、佇む女。

「よお、クソ野郎」

「や、おひさしぶり、てーくん」

―遅かったね、と。

さも不機嫌そうに、そう言った。

続く
康明打たれたショックからしばらく立ち直れない

今日の22時あたりから、20~30レス、安価は多分3つくらい



「待ってたのか?」

ネコが、微笑みで俺を迎えた。

それは、肯定のように見えた。

「そういうてーくんは、殺しにでも来たのかな?」

「……なんでそんなに冷静なんだ?」

少なくとも、それは穏やかな顔で言う言葉では無い。

明らかに怨みを買っているとわかっている俺を待つなんて行動も、普通はしない。

何か裏があるのか―と訝しんだのを察したのか、彼女は微笑のままで、続けた。

「てーくんは、私を殺せないだろうと確信しているんだよ」



一閃。

夜闇に、銀色の筋が流れた。

ネコの前髪が数本、はらりと舞って、月光に煌く。

それでも彼女は微笑を保ったまま、瞬きすらしなかった。

「…試してやろうか?」

「ふふ、無駄無駄―君は、自分の復讐の為だけに他人を殺せないさ」

断言されて、言葉に詰まる。

その通りだった。

俺は、秋月の仇という名分があってさえ、手に持った刀を、これ以上突き出せない。

殺せないのだ。俺には、やはり。

――臆病者、と。目の前の顔がそう言って笑ったような、気がした。



「ごめんね、主様との話、殆ど聞かせてもらってたよ」

「その上でそう判断したんだけれど、強ち間違ってはいなかったみたいだね」

死ぬかと思った、言葉とは裏腹に、気楽な表情を見せる。

「…………そんなこったろうと思ったよ」

「うん、ほんとに優しいねぇ、てーくんは」

生暖かさの籠もった瞳を向けて、続ける。

「君が戦うのは、他人の為だけなんだよね」

「…………」

「戦場に出たのは、拾ってもらった恩を返すため」

「あの時主様を殺したのは、壊れてしまった主様のため」

「いつだって、君の殺しは自分以外の誰かの為だ」

だから――と、嘲笑ともとれるような、殊更にいい笑顔を作って。

「こんなに憎い、私を殺すこともできない」

「………」

刀を鞘に収める。

その降伏宣言に、ネコは満足そうに手を叩いた。



「で、一体なんの用事だい?殺したいほど憎い私を尋ねるとは、何か用があるんだろう?」

「……さっきのことだよ」

「はて?」

大袈裟に首を傾げる。

殺せはしなくても一発ぶん殴ってやろうか、そう思わせる程、微妙な苛つきを加速させる動作だった。

「…どうして、俺達を救うような真似をした?」

「救う、とは…少し大掛かりだねぇ、どうも」

「答えろ」

「そう怖い顔をしないでくれよ、ただでさえ君の顔は怖いんだから」

「……何と言ったものか…うん、私なりにこの国のことを考えた結果だね」

「…白々しい事を言うな、どうせ何か裏があるんだろう」

第一空挺団を欧州連合に協力させることで、あの時の秋月のように罠に掛けるつもりだとしたら。

それだけは、看過できない。

「心外な、本当のことだよ」

やれやれ、と頭を抱える。

しかし、それはすぐに悪戯っぽい笑みへと転じた。




「と言っても、半分は、我が友人の為なんだけどね」

「友人?」

「ビスマルクだよ」

「……あの金髪か」

「人を髪の色で覚えるのはよしたまえよ、まあ、思わず目を奪われるような綺麗な物であるというのには同意するけれどね、同姓であっても思わず見惚れてしまう」

「…脱線するな、どうでもいいだろう、それより、何で俺達を救う事がそいつの為になるんだ?」

「やれやれ、ビスマルクの髪についてなら一席設けられるくらいには語れるのに、そう結論を急がないでくれよ」

「急げ」

「…はいはい、…彼女は君と一緒で優しいからね、欧州連合―もとい英国に祖国を踏みにじられたという屈辱を共有する君達の事に、酷く執心しているのさ」

「…執心?」

「ああ、あの時ああして下手に出たのも、なんとかして君らにあの話を受けてもらいたかったのだろうよ」

受けなければ殺される、脅しにも似た協力要請。

それをどうしてもあの金髪は俺達に承諾して欲しかった、という。



「彼女の祖父は欧州大戦で活躍した軍人でね、祖国を失う辛さは、嫌というほど語られていたらしいから」

「……なんとも、余計な事をする爺さんだな」

「は、奇遇だね、私もその話を聞いた時はそう思った物だよ―と、また話が脱線してしまったね、ごめんごめん」

「…とにかく、そんな彼女は、祖国の為に戦う君らに、同情というか、そういう感情を覚えたようでね」

「だから恐らく一生懸命に交渉について考えたのだろう、が――あれは失策だったからね、思わず口を出してしまった」

「失策?」

「ああ、優しさで飾った言葉はね、確かに聞こえが良かったさ、だが、言葉を飾るということは、それだけ本質を隠すという事なのだ」

中でも優しさは最も質が悪い―憮然とした顔で、言い切った。

「もし、ビスマルクだけに交渉を任せていても―まあ、どちらにせよ君らは話を承諾しただろうね」

「きっとあの後、大和を取り返す戦の手伝いやら何やら、そんなことを連ねた筈だから」

「…そういう話なら、確かに受けるだろうな」

「だろう、だが―それじゃあダメなんだ」

「彼女がいくら言葉を優しさで飾った所で、欧州連合のやることは変わらないんだよ」

「大和は結局、彼らの物になるしかないんだ」

「自分達の手に取り戻したと思った物が横からかっさらわれるのは、思ったより腹の立つものでね」

「君らがそれに腹を立てて、あまつさえ文句の一つでも言ってしまったら――その未来は、想像に難くないだろう?」

「つまり、ビスマルクの優しさは、結局、死を先延ばしにするだけなんだ」

「あそこでは、起こる出来事を包み隠さず教えて、その上で彼らに覚悟させておかなければならない」

だから、私はただ彼女の思い描く最良の未来を実現する手助けをしたんだよ―ネコはそう言って、何故か胸を張った。



「…なら、先にそう言ってやれば良かったろうに」

ネコに対して激昂していた金髪を思い出して、言う。

だが、ネコは笑うだけだった。

「友人に対する心遣いというのは、陰でこっそりやらねばダメなのさ、そうでなければ心遣いがただの打算になってしまう」

そう言ってから、彼女は一つ頷いた。

こんな友人に想われるというのも、かなりぞっとしない話だ。

「さて、疑いは晴れたかな?」

もう一度、首を傾げる。

疑おうと思えばいくらでもまだその余地は残っていたが、不思議と嘘を吐いているようには見えなかった。

「…ああ、まあ、一応信じよう」

「それは良かった、ふぅ、冤罪とはやはり気持ちのよいものでないね」

「…だから、これ以上お前の顔なんて物を見たくは無いんだが」

「はっは、酷いなぁ」

そのままけらけらと笑って、咳払い。



「それなら、手短に済ませようか」

「……なんだ、何かあるのか?」

「うん、私が君を待ってた理由だよ」

「…………」

「そう難しい顔をするな、興味がある事があるんだ」

「……………」

「もっと難しい顔になったな、はてはて」

「…さっさと言え、答えられることなら答えてやる」

「うんうん、協力的でいいねえ、では、率直に言おうか」

――ねえ、てーくん。

楽しそうに、そう前置きして。

「君はこれから、何のために戦う?」

「……は?」

「いや、何のために戦いたい?とでも言い換えようか」

「……意味がわからない」

「うん、大した意味なんて無いさ、思った事を言ってくれていい」

「私が知りたいだけだからね、ただの好奇心だよ」

「だけど、君にとって、自分がどうありたいか、というのを言葉にする事は大きいと思うよ」

「自分の未来を決定づけるのは、結局自分の考え方一つなのだからね」

「……………」

その質問の意図も意義も、汲み取ることは出来なかった。

けれど、直感的に浮かんだ答えはあった。

そう――――


>>+2(最終章の展開が変化)


A.那珂の為に。

―これは、臆病者の夢。

―誰よりも臆病な人間はしかし、愛する者の、その望みの為に刀を取る。

―いつか、その先にある物を目指して。


B.自分の為に。

―これは、狂人の夢。

―狂ってしまった臆病者は、最後まで、狂い続ける。

―止まってしまえば、背負いきれぬ罪に押し潰されるのだから。


C.この国の、大和の為に。

―これは、英雄の夢。

―臆病者は、英雄に焦がれた。

―決して届かない物であると知りながら、それでも。

C.この国の、大和の為に。


「…この国の」

いつだって、心の片隅にあった姿。

戦場で人を殺す自分に重ね合わせようとしていた、幼い頃に憧れていた姿。

国を護るために刀を取った、英雄の姿。

「大和の、為に」

似つかわしくない。

似つかわしくなど、あるはずがない。

けれど、それでも。

なれるのならば、俺はそうなりたかった。

「は――」

ネコが、一瞬呆気に取られたように口を開け、すぐにその形を笑みに変える。

「そうか、なるほど――うん、いや…ごめんね、余りにも意外な答えで、笑ってしまったよ」

「…………」

「そう不機嫌そうな顔をしないでくれよ、別にそれもいいんじゃないかい?」

「…ま、尤も、私には理解できないけどね」

そう言って、俺から目を切って、空を見た。

「誰かの為に人を殺すのは、臆病者か、英雄だからね」

「…私は、前者の方が好きだけれど、さ」



「さて、これでまた一つ私の好奇心は満たされたわけだ」

「ありがとね、てーくん」

「……用事が終わりなら、帰っていいか?」

「うん…あ、そうだそうだ、良い物があったんだった」

言って、懐をごそごそと漁り始める。

何をしているんだろうか、と思っていたら、取り出したのは高級そうな白封筒。

「ほら、これをあげるよ」

「……なんだこれ」

「帝国鉄道の一等客室券だね、博多から呉までの往復券だ」

手に取って封筒を開けると、中に入っていたのは普通であれば俺などが一生目にすることも無いような切符。

「ちょっとしたお詫びということで、差し上げよう」

「………どう、使えと」

「ん、関門海峡を安全に超える手段の一つだよ、入手できる層が限られている一等客室の人間をわざわざチェックなんてしないからね」

「そして、呉の街はとても賑わっていてね、とても楽しい場所であるそうだ」

「だから、まあ――」



『デートにでも、行ってくればいいさ』

やたらと意地の悪い笑顔を浮かべて言った言葉を思い出し、その不快感に現実へと意識が戻される。

あのな、だからこれはデートではなく、自主的な諜報活動の一環なんだよクソ猫女。

頭の中でニヤニヤと笑う女に声を投げかけてみるも、勿論答えは返ってこない。

その代わりに、隣から今度は不満そうな声が飛んできた。

「…なーにさー、さっきから難しい顔しちゃってー」

「…いつも通りだ」

「もっと楽しそうな顔してよー、ねっ?」

「……………」

………にこっ。

表情筋を慣れない動かし方で動かしてみる。

「………こわっ」

「……………」

…。

……。

………。

…ちょっと傷付いた。



「…あのさ、提督」

―話は変わるけど、そう切り出して。

「ん?」

「…呉の街って、凄いんだね」

「…ん、ああ…凄い、な、まあ」

突然振られた会話に、曖昧に応える。

那珂は、何故か寂しそうに遠くを見ていた。

「…………那珂ちゃんたちはさ」

「…ああ」

「……ここに、攻めこむの?」

「……………」

そして、すぐに彼女が言いたい事に対して合点がいった。

呉鎮守府を攻めるとしたら―相手の対応にもよるが―少なからず、街への被害は免れない。



「……だけどな、那珂」

「…うん」

「…それは、お前が選んだ道だろう」

那珂が選んで、俺に背負わせた道。

戦う事。どこまでも、戦う事。

他でもないこいつが、それを見たいと望んだのだ。

「………やっぱり、苦しい、よね」

「ああ、だから、俺はこんな風になってるんだろうよ」

「……弱いね」

くすっ、と。

そう、笑った気がした。

「…本当にな」

「でも、格好いいよ」

「……やっぱり変な趣味だよ、お前」

「だって、恋ってそういうものだから」

「相手の全部を肯定しちゃう、どんなことだって、貴方の魅力に映っちゃうの」

「……なるほど、…そういうことなら、わかる気がするよ」

「…なんで?」

那珂の横顔へ向けた視線を、町並みへと逸らして。

なんでもないことのように、ボソリと呟いた。



「俺も…お前の全てが、魅力的に見えるような気がするから」

「……………」

言ってから、物凄い恥ずかしくなった。

なんならその辺の地面に頭ぶつけて記憶を消したい。

那珂は、ぽけーっとした顔でそんな俺を見つめ続けていた。

「………なんだ」

「……だいたーん……たまに提督って爆弾発言するよね…」

「…いいじゃないか、本当のことだ、お前は本当に喋りさえしなければ最高に可愛いよ」

「なんか那珂ちゃんの中身すっごい否定された!?」

「………………」

「…………うー…」

そんな、照れ隠しのようないつものやり取り。

しかし、一度漂った空気は簡単に霧散してはくれない。

「………顔、赤いぞ」

「………提督程じゃないもん」

「………」

「………」

街中、二人、不自然に足が止まる。

心地良い沈黙だった。

俺達だけが、街の喧騒の中から、ぽっかりと切り離されているような。

世界で、此処だけが独立した空間であるような。


…………?

いや、待て。

違う。錯覚じゃない。

本当に周りに誰もいないぞ。

これが愛の力なのかとかちょっと思ったが絶対に違うぞ。

「…おい、那珂」

「……へ?」

俺が辺りを見回すと、つられて那珂も同じ様にする。

その時、轟音。

『そこな二人!』

音と共に現れたのは、艦娘艤装の一個小隊。

いつの間に布陣していたのか、俺達を囲むように円になっていた。

その中で、聞き覚えのある大きな声を響かせる艤装が、一つ。

そう――

『艦娘不法所持容疑で逮捕するのじゃ!大人しくお縄に付け!』

やたら楽しそうな神出鬼没の海軍省大湊鎮守府総括――利根の声だった。



――呉鎮守府。

鼠一匹通さぬと言われている警備を敷かれる、大陸からの侵攻に備えて作られた海軍省西方最大の要塞。

欧州連合、反海軍省勢力、忍び込もうと試みた者は数知れず。

しかし、未だその情報を持ち帰ったものはおらず。

対空砲、野戦砲、配備兵器、駐留艤装。どれをとっても、規模、性能は世界有数。

欧州連合とて攻略には手間取る基地。

その中央、心臓部とも言って良い場所に、俺はいた。

多分結構凄いことなんだと思う。

「うむ、カツ丼じゃ」

「……いいのか?」

「容疑者に出す飯はこれと相場が決まっておる!」

どーん。

ガッツポーズを作って力説する利根。

…よくわからないが、腹が減っているので、貰う。



「……うまい」

「……おいしー」

「そーかそーか、うむ!」

どうやら、逮捕ごっこは楽しいらしい。

いや、確かに、俺は逮捕されてしかるべき立場ではあるのだが。

因みに即極刑という素敵なオプション付きで。

しかし、どうしてか今、客として歓迎されている雰囲気すらある。

「…俺達の動きに、気付いてたのか?」

沈黙に耐えかねて、カツ丼を口に運びながら利根を見る。

彼女はその質問に、苦笑を浮かべた。



「この街に入った時点で、艤装探知電探に引っ掛かっておったぞ」

「………そんな物があるのか」

「駅と関所にはな、尤も、今までは流石に堂々と列車で乗り込んできた諜報員なんぞおらなんだが」

「はぁ…なるほど、しかし、どうするかね」

「心配せんでも、帰りは山口まで送ってやるからの」

「……………」

「何じゃ、その顔は」

「……俺は一応本当に犯罪者、というかむしろ反逆者なんだが」

「艤装を装着でもせんければ、気付かれんじゃろ」

「……、お前が俺をそこまでしてかばう意味がわからん」

「いやいや、我輩らは既に三度、偶然にもこうして出会っておるのじゃぞ?」

「…そうだな」

「ということは、これはもう運命なのじゃ!」

びしっ。

…人を指差すんじゃありませんとか注意したい。

というか運命ってなんだ。何の運命だ。



「……………」

「…どうでも良さそうじゃな」

「………色んな事を考えている」

なんだろう。

なんかこう、利根は会う度に面倒くさくなっている気がする。

最初は海軍省の重要人物っぽさも出てたのに。

二回目も結構キリッとしてたのに。

もう今回に至ってはあれだ、那珂寄りだ。

「やー、しかし、いいタイミングで会ったのぅ」

「…どういうことだ?」

「丁度昨日此処に来たんじゃ、吾輩は」

「そりゃまた…何の用事で」

「…ん、色々……まあ、反政府勢力制圧の際に手に入れた情報の整理とか、の」

「……目の前にもいるぞ、反政府勢力」

「はっはっはー、吾輩はえこひいきが好きなのじゃ」

にんまり笑う利根、反して怪訝の色を強める俺達。

何なんだ、本当に。



「………………」

「……む、デザートが欲しいのか、このいやしん坊め」

「…いや、………まぁ、くれるなら貰うが」

あんみつが食べたい。

…とか言ったら本当に出てきそうだ。

「……鬼神、悪鬼、拷問将軍」

「…む?」

「…巷で呼ばれているお前の評価だ」

「ふむぅ、何となく恥ずかしいのう、そう並べられると」

利根、という艦娘は。

海軍省の中でも、主に全国の反乱鎮圧の役目を担っているらしい。

彼女が攻め込んだ後には、骨すら残らず。

よしんば捕らえらて生きながらえたとしても、一度虜囚となれば、殺してくれと懇願する程の拷問を受け。

付いた二つ名は、どれも残虐性を強調されているものばかり。

……それがこんな物だと、些か拍子抜けするというか、なんというか。何を考えているのかわからなくて怖いというか。

「ま、こっちが素じゃよ、素」

だが、俺のその考えを知ってか知らずか、利根は飄々と答える。

「……素、ねぇ」

そういう風に流されて、とりあえず溜息を吐くくらいしかない。

利根は、そのままの調子で続ける。



「今では筑摩くらいしかこうして話す相手もおらんからの」

「筑摩?」

「妹じゃ、さっき会ったじゃろ?」

…………。

ああ、凄い顔で俺達を見てた女の人か。

…どちらかと言えばあっちが姉といわれた方が納得が行くが。体の発育的に。

「………何を考えておる」

「…いや、何も」

一瞬殺気が飛んできた。危ない。

そんな風に茶番を繰り広げている内、カツ丼の容器も空になる。

「…ご馳走様でした」

「……やっぱりお主、変な所で律儀じゃな」

「…別にお前に向けて言ったわけじゃない」

「にしても、じゃよ」

立派な心がけじゃ、感心感心―そう、しきりに頷く。

いい加減辟易して、頭を振った。

「……で、そろそろ帰っていいか?」

「これこれ、焦るでない、飯の礼に話くらい付き合っていかんか」

「……」

「む、今ババ臭いなこいつとか思わんかったかの?」

「……」

思ったよ、とか言っちゃうと理不尽に怒られそうなので沈黙しておく。

隣では那珂が真剣に暇を持て余してカツ丼の器を箸で叩いている。行儀の悪いことをするな。



「……まぁ、ただの気分転換じゃ」

「…気分転換?」

「そう、嫌な気分を吹き飛ばしたくての、さっきも言うたが、ちょうど良い所に現れてくれたのじゃよ、お主は」

「………なるほど」

海軍省中将様を嫌な気分にさせる出来事など、俺の貧困な発想力では思い浮かばないが、さぞ壮大な出来事があったのだろう。

しかし、その御蔭で俺の生命が助かったかもしれないのだ、本当に世の中どう巡っているかわかったものではない。

「……飯も貰ったしな、話くらいは聞こう」

「うむ、そう言ってもらえるとこっちとしても遠慮なく話せるというものじゃ」

「………手短にな」

「そう焦るでない、今茶でも持ってこさせようぞ、おーい、ちくまー!」

「…………」

……本当にババ臭い。

生憎にも俺は祖母に会ったことがないが、世間一般における「祖母」という認識に照らしあわせた時――

「………うん?」

「………いや、茶はまだかな、と」

なんかめちゃくちゃ睨まれた。

やっぱり何となく理不尽である。



「さて――何から話したものかの」

運ばれてきた茶を一口啜り、利根が天井を見る。

しばらくそうしていたが、急に、ふむ、と声を上げた。

「こういうのはやはり、下手に遠回しに言うよりもズバッと言うべきであろうか?」

「…知らんが、…短い方が良い」

「なら、そうするかの――若造」

「…ん?」

「お主、成し遂げたい理想はあるか?」

言われて――すぐに一つ、思い当たる。

大和を救う英雄。憧れてやまなかった姿。

そして―俺の理想。

「…一応な」

口には出さない。

また笑われたらたまったものではない。

だが、それでも利根は満足気だった。



「そうか、あるか…ではの」

「それを成すために、どんな手段でも取れるか?」

「………」

「自分が忌み嫌うような行為であっても、その理想の為になら、お主はそれを出来るか?」

「………いや」

首を振る。

あの時浮かんだ理想に、そこまでの執着は持てていない。

いわば、現段階ではただの憧れと相違ないのだから。

「…そうか」

きっと、その方が良い――そう言って、茶に口をつける。

「理想に囚われ過ぎると、碌な事がない」

「それが、どれだけ真っ当な理想だとしても―の」

「……」

その語り口は。

どこか、悲哀のような、後悔のような。

そんな感情を含んでいた。



「…理想に踏み込めば、何よりも、引き返せなくなる」

「一度踏み出した道は、振り返れん」

「吾輩達は―いや、吾輩は、理想を追い求めようとして、囚われたのじゃ」

「やめてしまいたいとは―何度も、思うた」

「じゃが、それは今までやってきた事の否定ではないか、踏み躙ってきた物への裏切りではないかと」

「その考えが消えずに、ずっと、積み重ねるしかなかった」

「いつの間にか、やめたいと思う心すら、消えてしまったよ」

そこまで言って、彼女を呆けた顔で見ていた俺に気付いたらしい。

照れ臭そうに笑って、居住まいを正した。

「………む、なんじゃ、なんともつまらぬ話になってしもうた」

「……ま、さっきも言うたようにこれは素じゃからな、ちょっとくらい弱音を吐くくらい許してくれ」

「どうせ、こんな事を言う機会は、殆ど無いんじゃから」

「…ああ、いいさ、別に」

「……?どうした、何か言いたげじゃが」

「…いや、その」

彼女の話に、俺が口を出すのは無責任なのかもしれない。

だが―ほんの少し、ほんの少しだけ、先程の弱音を語る利根に、秋月に向かって話をしていた自分が重なった。

だからなのかもしれない。

思わず、口を出したくなったのは。



>>+2

A.やめればいい、と思う。

B.続けるしかない、と思う。

ここまでです、途中遅くなったりして申し訳ありません

明日の22時前後から
遅くなって申し訳ありません
20~30レス、安価は2つ、1つは幕間イベ選択です

ちょっと早いが始めていきます

B.続けるしかない、と思う。



「続けるしかない…だろうな」

「ほう…」

尤もらしく、利根が頷いた。

続けろ、と語っているかのように。

「…間違っていても、それがわかっていても」

「一度踏み出した道は、進むべきだろう」

「その為に犠牲にした者がいるのなら…尚更」

言ってから、これではまるで自分に言い聞かせているようだ、とも思った。

既に後ろを振り向く事は出来なくなって、仮面をかぶり続けている、自分に。

「……じゃが、その道を進むということは―更に、不本意を重ねるという事じゃぞ?」

彼女は問うた。

それでいいのか?と。

「…それでも、そうするしか無いのだから」

その言い訳がましさに、ほんの少し心中で辟易した。

利根は、笑った。

「ま、それも―そうよのぅ」

そうするより他に無い―彼女もまた言い訳がましくそう述べて、ぱん、と頬を叩いた。



「―道なぞ、初めから無いんじゃろうな、きっと」

「…そうだな、作っているのは、…いや、作ったように見せているのは、俺達自身だ」

暗闇の中を歩き続けたくはないから、そこに道を作る。

そこを進むのが当然であるかのように、自分を騙して。

だから―正確には、戻れないのは、ただの自らの臆病ゆえ、なのだろう。

後ろを振り向けば、暗闇しかないから。進める場所を目指して、そこへ進む。

「……ふむぅ」

利根が唸った。

その横顔に、声を投げた。

「なぁ、利根―でいいのか?」

「好きに呼べば良い、なんじゃ?」

「…お前の、お前らを動かした理想は…一体、なんなんだ?」

「……………」

彼女は唇を尖らせ、僅かに逡巡し、言葉を探していた。

「大和――」

そして、静かにそう言った。



「大和?」

聞き返す。

「そう、大和」

やたらとはっきりとした声に、思わず、首をひねった。

「…この国、ということか?」

「違う、…艤装の―艦娘の名じゃよ」

「……それは、また」

艤装の名に、国名を与えられる。

想像力に乏しい俺であっても、そこに込められた期待と名誉を感じることが出来た。

「ならば、お前らはその艤装を作るためにこんな…」

だとしたら本当にふざけた話だ、と思う。

6年もの期間、民衆を虐げる圧政を敷いていた目的が、一つの艤装を完成させるためとは。

だが、その考えは次の彼女の言葉で霧散した。



「いいや、それも違う―大和は、既に完成しておる」

「……なに?」

また、疑問を飛ばす。

全てが、俺の理解の範疇の外にあるような錯覚を感じた。

「6年と少し前―佐世保騒動の直前に、の」

「………」

では、なぜその大和をお前らは大戦で使わなかったのだ、と。

視線にそんな疑問を込めれば、彼女はそれをしっかりと読み取ってくれた。

「……彼女は、真に大和にとって救世主であったからじゃ」

「…………はぁ?」

「故に、まだ彼女は目覚めなんだ」

けれど、それは更に俺を混乱させるだけだった。

目覚めない艤装―とは、一体、どういうことだろうか。

「待てよ、完成しているのに目覚めない?真の救世主?どういうことだよ、それは」

「言葉のまま、じゃの、今も尚、彼女は横須賀の地下に眠っておるよ」

「………だから、どうして目覚めないんだ」

「救世主とは、本当に危機が迫った時でないと、その力を見せないそうじゃ」



「…つまり、この大和に怨嗟と絶望が犇めき、満ち溢れた時が――彼女の、救世の英雄の、目覚める時」

「……怨嗟と、絶望…」

「そう、それらこそが、彼女の糧、救世主を目覚めさせるに足る、糧」

「………だったら、まさか」

「そうじゃ、吾輩らは皆、戦っておった」

「この大和を、救世主を呼べる状態に―絶望で、埋め尽くしてしまう為に」

半笑いのような表情で言う利根。

素直に下らない、と思った。

本当に、下らない。

今までの彼女らの行動が、全てそんな物に根ざしていた、など。

怒りよりも、呆れに似た感情が先に出て、脱力した。

何かを言い返したいと思って、しかしその気力すらも萎んでしまう程に。



「…………馬鹿げてる」

「うむ、馬鹿げておる」

そして、目の前にいる彼女は。

俺よりも、ずっとその下らなさを理解している、そんな風に見えた。

「そんな事の、ために――」

「少なくとも」

それもまた、きっと言い訳だった。

俺の言葉を遮って、利根が述べる。

「…少なくとも、吾輩は…ただ、逃げただけじゃった」

「大戦が敗北という形で幕を閉じれば、艦娘は間違いなく欧州連合にとって格好の研究対象になる、それはわかりきっておったから」

「……そうなることを免れるために、とでも?」

「…ああ…霧島の誘いに乗ったのは、たったそれだけの理由なのじゃ」

「あの時は―怖かった、未来を考える事が、どうしようもなく」

「まさか、こんなにトントン拍子で事が運ぶとまでは思うておらなんだが、な」

言い終わってから、彼女はきまり悪そうに視線を逸らした。



「馬鹿げた、下らぬ所業に――たくさんの人間を、巻き込んだ」

「…どうせなら、せめて潔く死ぬべきだったのじゃろうよ、吾輩など」

やはり、笑った。

そこには、ありありと自嘲が込められていた。

「なあ…もう一つだけ、聞いてもいいか」

「好きにせい、今ならなんでも答えてやろう」

「…どうして、そんな話を俺にした?」

「……ふむ」

「いや、その話だけじゃなく―そもそも、この扱いだとか、この前見逃した事だとか、全て」

どうしても、、解せなかったのだ。

前回にしたって、俺を見逃すメリットが利根にそう多かったとは思えない。

今回に至っては―全くない。

彼女が俺を殺そうと思えば、今だって殺せる。

前回のように損害を出すこともなく、容易に。

現に―昔は一度、第一空挺団のスパイをこいつは殺していた筈だ。

戦いたい、という言い分はわからないでもなかったが―それはそれほどまでに重要なものなのだろうか。



「…見つけた、から」

「……見つけた?」

俺の横まで利根が歩いてきたかと思うと、不意に、そのまましなだれかかってきた。

僅かな重みと、女性特有の柔らかさが、布越しに肌に伝わった。

ついでに暇そうにしていた馬鹿が、みぎゃあと悲鳴をあげた。

「……お、おい?」

「吾輩はずっと――お主を、探しておった」

「この躰で生まれた時から、ずっと」

「……は、え?」

胸のあたりから俺を見上げる利根の瞳が、潤んでいる。

吐息はやけに熱くて、俺にまでその熱が伝わってきそうだった。

ちなみに隣では物凄い顔をした馬鹿が俺達を睨んでいる。正直後が怖い。



「前に言うたじゃろう、お主は艦娘と非常に融和性が高いと」

「…そ、そう…だった、だろうか?」

「うむ、そしてそれは―吾輩にも、当て嵌まる話じゃったよ」

下から手を伸ばした利根の指先が、顎に触れた。

熱のこもった空間の中で、やけにそこだけが冷えていた。

艦娘の―艤装の、鋼鉄の冷たさ。

「お主を見ると、酷く言葉にしがたい感情を覚えるのじゃ」

吐息は、更に荒く。

いつしか、彼女の顔は仄かな赤みを帯びていた。

「親愛、情愛、偏愛――その感情に名前をつけてしまえば、いずれも近いようで、遠い」

「けれど、全て共通して言えることは、お主を求めておるということ――」

湿っぽい息が、鼻頭を撫でた。

気付けば、直ぐ側に―利根の顔。

「貴方が、仕手であれば良かった」

「そうすれば、どんな道を進んでも、きっと、後悔はしないでいられたのに――」

――泣いていた。

彼女が蓄えた熱を奪うが如く、頬を垂れる雫。

鬼神とまで呼ばれた海軍中将の面影はそこに無く、ただ、情けない顔をした少女がいるだけだった。

顎に触れた指は震えていて、まるで縋っているかのようだった。

俺は――――


>>+2


A.引き離す。

B.…好きにさせる。

C.抱きしめる。

A.引き離す。


「…ま、まあ…その、なんだ、少し、落ち着け」

「……………うむ」

ずずいと、利根の身体を押し出しながら、同時に距離を取る。

とりあえず、この体勢は非常にまずい。

勿論利根にはそう言った意図は無いという事はわかっていても、まずい。

「…その…随分、突飛だな?」

「突飛ではないぞ、初めに出会った時から、薄々感じておったのじゃ」

「…いや…しかし…」

「…わかっておる、お主には…そこの娘御がおる、と言いたいのじゃろ」

「そうだよ!」

俺の代わりにその声に応じたのは、那珂。

びし、と利根を指さす。

「貴女なんかには絶対あげないからね!」

「……かか、…いやいや、わかっておるわかっておる」

作ったような笑い声でもって、利根が応えた。



「…やはり、次に会うときは戦場か」

「…そうだろうな」

「そうだよ!」

利根の声に、寂しげな色が見て取れた。

が、その声音は直ぐに変わった。

「ならば…よし、お主に勝てばよいのじゃな」

「…は?」

「そしてお主を吾輩のものにするのじゃ!勝者の権限で!」

楽しそうに、そう、宣言した。

――結局。

彼女の中では、そういうことになってしまったらしい。

それから利根は、言葉通り山口まで送ってくれた。

利根。

巨悪である海軍省、その中枢に存在する艦娘。

好き勝手に人を虐げた彼女は、本来忌むべき存在なのだろうし、今までは確かにそういった感情が存在した。

けれど、どうしても。

もう、彼女の事を憎めそうには―なかった。

「お人好しだねー」

那珂は、そう言った。

「けどまあ、提督のそーいうとこ、好きだよっ」

そして、そんなことも言った。

「デート、楽しかったね?」

だから、デートじゃない。



その――直ぐ後だった。

「提督よ」

「…あ?」

「吉報だ」

「吉報?」

長門がやけに嬉しそうに、その報せを持ってきた。

「欧州連合が、正式に対大和再軍備を採択した」

戦いが、始まるのだ、と。

「…そうか」

それが終わって―どちらかが勝ったところで。

一体、この国には、そして俺には何が残るのだろうか。

そんな事を、ふと、思った。



時は既に、桜の頃であった。

横須賀鎮守府。

その中庭、綺麗に整備された並木道に舞い乱れる花びらが、桃色の波のようにうねり、地面を自らの色に変える。

それは、春のこの一瞬だけ、刹那に消える美しさだった。

戦争、という言葉にとても似つかわしくない風景を会議室から眺めていた利根は、霧島の声に現実に戻された。

「利根、太平洋方面の備えは?」

「……大湊の北方艦隊を、向こうとてその方面に大戦力を投入は出来んじゃろうからの」

名残惜しそうに窓の外へと視線を張り付かせ、質問に答える。

それを気にした様子もなく、霧島は事務的な会話を続けた。



「来るとすれば―米国艦隊、ね」

「…うむ、ま、旧式艦中心の後進艦隊じゃ、どっかの国みたいにの」

かか、と笑い、今度こそ霧島の方へと向き直る。

そんな彼女の皮肉めいた物言いに、霧島は苦笑を浮かべた。

「……それはそれは、きっといい勝負をしてくれることでしょうね」

「はっは、楽しみじゃな、欧州連合の圧力で自由に砲艦すら作れぬ国同士、良く戦ってくれることじゃろう」

利根の必要以上に大和をこき下ろした言は、もしかして花見を邪魔された腹いせなのかもしれない―そう霧島は考えて、結局、これ以上この話題を保つことをやめた。

わざとらしい咳払いを数度挟んで、今度は白髪―翔鶴を見やる。

「翔鶴」

「―はい」

物憂げに顔を伏せていた少女の瞳が、霧島を捉えた。

その態度に、どいつもこいつも、と腹から沸き上がる静かな怒りを放出する寸での所で押し留めて、霧島が続ける。



「欧州連合は、どう攻めてくると思う?」

この質問は、ただの確認だった。

彼女らは既に、この件についての会話を前段階で交わしていた。

「は、海軍省の主城である横須賀は勿論、呉も激しい攻防が予測されます、ここさえ落としてしまえば西国の我軍は大規模な行動を取ることが出来ませんから」

「そうね」

「ですが、舞鶴、大湊に関しては、ロシアからの圧力がありますから、まず間違いなく大軍を送り込むことは不可能でしょう」

舞鶴、大湊を海上から攻撃しようとしても、ウラジオストク周辺のロシア艦隊が黙って通す筈もない。

欧州連合が余程の阿呆か奇策家で無い限り、その選択肢が取られる事は無いと言っても良いだろう。

故に、その二つの鎮守府は、必然、防備を薄くする事が決定されていた。



「でしょうね、翔鶴、利根、各鎮守府からの兵員輸送はどのくらいで可能?」

「帝国鉄道を脅して、1週間以内には終わらせるつもりじゃ」

「…同じく」

「宜しい、これで一応開戦までには防衛戦力らしいものの体裁は保てるというわけね」

そこを踏まえた上で、彼女らの総意として横須賀に戦力を集中させる、という事は決定事項であった。

なぜなら、欧州連合の建前としてはあくまで、今回の大和への進軍は『小規模な独立政府による抑圧からの解放』である。

なにせ対外的には大戦において欧州連合は『大和を打倒した』のだから。これは正式な国同士による戦いではない。

故に、長期戦の構えというのはどうしても取りづらい。

世界の盟主様が反乱軍程度に手こずる、なんて事態があってはならぬからだ。

更に加えて、戦費に係る問題も存在する。

欧州から軍を引っ張ってくるのにかかる費用、関東駐留軍の維持費、各軍の補給――等、諸々計上していけば、欧州連合の小さくない財布ですらも圧迫する程の規模になるだろう。

ただでさえ、まだ大戦の時に抱えた債すら返済が終わっていないのだ、これ以上負債を増やしてしまうわけにはいかない。

とすれば、どうしたって長期戦を嫌がる彼らが取り得る手として最も可能性が高いのは、横須賀への集中攻撃しかない。

貼り忘れ>>352-353の間


「………」

「良かったのですか、姉さん?」

「む?」

「……霧島さんに、彼を差し出さなくて」

「そのつもりで、捕らえていたのでしょう?」

「ああ――確かに、必要ではあるがの」

「では――」

「嫌だからじゃ」

「え?」

「あ奴を誰かに渡すのは、嫌じゃ!」

「……ふふ」

「…なんじゃ」

「いえ…久々に、姉さんらしい姉さんを、見ました」

「…ふふっ、そうか」

「………画竜は、点睛を欠きますか」

「それでも、霧島は実行するじゃろうよ」

「…でしょうね……」

「まあ、それが運命じゃ」

「大和の仕手たり得る人物は―最後まで見つからんかったと、そういうことで、良い」



同時に、海軍省側にも理由は存在する。

まず関東を駐留軍が抑えていることで穀倉地帯とのラインを確保できず、短期決戦に持ち込まねば間違いなく補給の問題に直面するということだ。

これには今までの海軍省の圧政で、国内に存在する食料絶対量が大幅に減少したことも一枚噛んでいるが―それを論じた所で始まらない。

第二に、大和国内での戦を長期戦にしたくないという―兵士各人に至るまでの普遍的な無意識レベルの問題だ。

誰だって、戦禍で自国を荒らされたくはない。もし本土での長期戦の様相を呈すれば、必ず士気に影響してくるだろう。

このように、両者の思惑は短期決戦という事で奇妙な一致を見せ、視点は横須賀へと注がれた。

欧州連合がそこを攻撃するための準備も、海軍省がそれを迎撃する為の準備も、着々と進んでいた。

「霧島さん、東京―関東欧州連合駐留軍総司令部からの陸上戦力は、どうするつもりです?」

翔鶴が問う。

そう、敵は海の外から来る輩だけではない。

大和国内、それも本州のど真ん中に、大きな敵の軍団がある。

「横浜で止めます、翔鶴、貴女が指揮を取りなさい」

その言葉に、翔鶴が眉尻を上げた。

信じられない事を聞いたような顔をしていた。



「…横浜基地での防衛戦となると、市民への被害も」

しかし、彼女の反論を握りつぶすような口調で、霧島は言った。

「その上で、よ…横浜での戦闘となれば、欧州連合は占領後の事を考えて、広範に被害の及ぶ作戦行動が取れないでしょう」

冷徹であり、冷酷な口調であった。

有無を云わせる程、緩いものでは無かった。

「…………市民の、扱いは」

「戦闘前には、横浜までの全ての街から食料の臨時徴収を行いなさい、関東駐留軍がしっかり物資を分けてくれるように、米一粒残さずにね」

それは近代戦の理念からはあまりにかけ離れていたが、しかし、間違いなく有効な戦略でもあった。

補給の問題は常に軍事行動について回る。特に、短期決戦を目論んでいるのだから関東駐留軍はそう多い物資を用意しているとは予想できない。

霧島は、そこを突くことで敵の動きを制限すると―つまり、そんな事を言った。

「……はい」

翔鶴は、何か言いたげに口を動かしていたけれども、すぐにそれを諦めたように飲み込んで、頷いた。

それを敢えて無視したのか、それとも単純にどうでも良かったのか、霧島はすぐに翔鶴から残りの二人へと目を遣る。



「扶桑、山城」

「…は」

名前を呼ばれた二人は、静かに頷いた。

「貴方達無しで呉はどのくらい保つ?」

「……防衛することにかけて、あの要塞の右に出る場所は無いでしょう」

「…半月、いえ、一月は、どれ程の攻勢であっても、耐えてみせます」

「なら十分ね、貴方達も此方の防衛戦に加わりなさい」

「…は」

二人が頷き、初めて霧島が満足気な表情を見せた。

そして、部屋の中央に広げた大きな海図を示した。



「さて、敵の海上戦力についてだけれど…東京湾の艦隊は沖縄まで下がったわね」

「当然じゃな、むざむざ横須賀から封鎖されるような場所に艦隊は置かんじゃろうて」

「そうね、…そして、その駐留艦隊に加えて、本国からの英東洋艦隊と、仏主力艦隊がシンガポールに駐留しているようね」

「………随分とまぁ」

利根が吐いた溜息は、呆れか諦めか。

いずれにせよ、渋い表情を浮かべていた。

「とにかく、わざわざ艦隊を万全の状態で横須賀に持ってこさせてあげることもないでしょう」

「敵の進路からして――海上部隊は、伊豆半島、神津島基地の辺りまで出ます、利根、此方の出せる戦力は?」

彼女らが行おうとしているのは漸減遊撃―と呼ばれる作戦。

大和のような島国に攻撃するには、遠征軍は長距離、それも海上を通る必要がある。

この作戦のコンセプトは、その移動中に出来るだけ損害を与えて戦力を目減りさせておくことで、いざ横須賀に辿り着いた時に満足な攻勢が取れないようにする、というものだ。

これは何も直接的な被害を与える狙いだけでなく、上陸前に補給を余計に消費させられるという点についても大きな利点がある。



「ん――そうじゃな、艦娘母艦7隻に砲艦29隻、横須賀と舞鶴の戦力総動員じゃ、旧型艦まで引っ張りだして、じゃが」

「……心許ないこと」

尤も、それを実行できるに十全と言える戦力があるとは口が裂けても言えやしなかった。

だが、これが取り得る手として最善の物であることも間違いないのだ。

「うむうむ、おそらく敵さんはかるーく見積もってこっちの2倍くらいの戦力になるかの」

「…本当に軽く見積もって、ね」

「どうしようもなかろうよ、生産抑圧に加えて、艦娘に生産能力の殆どを割いておったのだから」

「それに―吾輩らの切り札は、そんな物ではなかろう?」

ある種、確信の籠もった声で、利根が問う。

そこには、これまでとは違う、明らかな自信が込められていた。

「……ええ、そうね」

「――大和、か」

利根が言う。

会議室にいた全員が、身体を固くした。

ただ霧島だけが、その言葉に陶酔めいた色を見せた。

「さて、どうなるかの」

また、窓の外を見る。

並木道の石畳を彩る桜色は、たったこれだけの間に、既に色褪せていた。

どうにも兵士の一団か何かが通り過ぎていったようで、踏み散らされた足跡にかき消されてしまった桜色は、酷く醜いものに見えた。

やはり――刹那的であると、利根は思い、自嘲の如き笑みを浮かべた。

春の突風が吹き抜ける。

木に張り付いていた桜の花弁が、再び吹雪となって薙散った。

――どうにでも、なればよい。

利根は小さく、誰にも聞こえぬように、そう呟いた。




【第4章―終】


幕間―ラスト


>>+2


那珂(―うわきものー!)

A.長門(―彼女の理想)

B.赤城(―なんか、雰囲気変わった?)

C.ビスマルク(―話しかけないで貰えるかしら)

D.エラー猫(―物好きだね)

ここまで

生存報告
今週中にはなんとかする

遅くなってしまったので、今日の22時くらいに続きあげます
15レス分くらいしかありませんがどうかご容赦を、安価とってからその場で多分続きも書きます



それはある種、大和人にとって冒涜的な光景であった。

春の色に交じる異物。

舞い散る桜に混じって煌めく、金色の髪。

その金色の彼女―ビスマルクは、呆けた顔で、咲き誇る花を見上げていた。

「よお」

「………」

振り向いた彼女は、事務的な笑みを浮かべていた。

しかし、そんなものであってすら、凡百の男を焦がれさせるような輝きに満ちていた。

どうにも、外国人―いや、美人というものは卑怯だ。

那珂くらい気楽に接させて欲しい、なんて言うとあいつは怒るだろうか。一応、褒め言葉のつもりなんだが。



「…どうも、何か、御用でしょうか?」

硬い声で、意識を目の前まで戻される。

その硬さは―緊張ではなく、もっと別の何かが生み出しているように思えた。

「……別に、敬語などいらないのだが」

「いえ…客将のような物ですから、今の私は」

「客将、とは」

随分とお固い物言いだなと思い、笑みが漏れた。

今時、大和人だってそんな言い方はしないだろうに。

「…何か間違った事を申したでしょうか?いえ、何分、あまり大和語に堪能とは言えないものですから」

笑われたことにいかにもムッとした様子を見せて、ビスマルクが問う。

その眼前で、腕を二三度振った。

違う、違う、と。



「いや…その、そんな言い方が出てくるなんて思わなかったもんで、驚いただけだ」

「あんたの大和語は、素晴らしく上手だな」

「…ありがとうございます」

言葉とは裏腹に、あまり気分の良さそうには見えない態度で、ビスマルクは頭を下げた。

何かの皮肉とでも取られたのかもしれない。

難儀なものだと思ったが、それをまた訂正したところで、この誤解を更に深める結果になるだろうと判断し、そこで会話を止めた。

「まあ、普通に話してくれ、俺は下っ端も下っ端なんでな、敬語は慣れん」

「…なら、そうさせてもらうわ、それで…私に何か?」

「あー、その、…桜を見ていたのか?」

「…ええ」

我ながら杜撰な話題選びであったが、彼女は気にせず応じた。

俺から視線を外した彼女が、もう一度桜を見上げる。

その瞳は、純粋に花を愛でる、子供のように見えた。



「……好きなんだな」

「…そうね、花は好きだわ」

そこで一度、言葉を止めて俺を見る。

「貴方は……花が好きなようには見えないけれど」

言外に、どうしてここにいるのかと―そう、問うているらしい。

隠し切れない不審が込められたビスマルクの碧眼を、曖昧に受け止めた。

「…どうだろうな、それなりに好きだぞ」

「ハナミ、というやつかしら?」

「かもな」

「……私が宿舎を出た時からずっとコソコソ付いて来ていたみたいだけれど、それがハナミの伝統なの?」

「………なるほど、参った」

どうにも、全て気付かれていたようで。

敵わない―と、両手を挙げた。



「…愛の告白って空気には、見えないわね」

「…ん、俺はそのつもりだったが」

「……はぁ」

呆れた、というよりもいい加減焦れたようで、彼女は溜息を吐いた。

「用件を」

「…用件、用件ねぇ」

目を瞑って考える振りをする。

まあ、振りというくらいだから勿論答えは出るはずもない。

つまるところ、特に用件など無かったのだ。

言ってしまえば、ただビスマルクと話したかっただけ―なのだが。その理由は、色々なものが渦巻いていて、容易に言葉には出来なかった。



「ただ、なんとなく気になっただけ…じゃあダメか?」

「……別に、それでも構わないけれど」

そう言うと、ビスマルクは首元をさらけ出した。

想像に違わぬ、白磁のような肌――それを、立てた親指で掻っ切る動作。

その動作は、彼女の美貌にあまりに不似合いなようでいて、なのに、目を引きつけて離さない艶かしさがあった。

「てっきり、こういうことだと思っていたわ」

「……どうしてそうなる、正式に仲間になったばかりだろ」

「…とぼけないで、それとも、気付いてないとでも言うのかしら?」

「……何にだ?」

「なら、はっきり言ってあげる、秋月の仇を取りに来たんじゃないの?」

「…………」

今度は、俺が溜息を吐く番だった。

彼女の言った言葉は、なるほど確かに、心の隅にあったことで。先ほど言った、渦巻く様々の中の一つだったから。



「ねぇ、私達は、あの佐伯の鎮守府で、既に会っていると――」

恋人同士が、初めての出会いを語るように。

そんなどこか逃避に似た、楽しげな色を込めた口調だった。

「貴方は、覚えていて?」

「忘れるはずが、無いだろう」

ああ。忘れるはずなどない。

彼女があの時、指揮官機を纏い。

複雑な顔をして、寧子の論説を見守っていた事を。

「…そう、そうよね」

「だが、だがな」

「私は彼女の名誉を傷付けた、それは、揺るぎのない事実よ」

俺の言葉を遮って、ビスマルクは続ける。

表情は、いつのまにか硬さを帯びていた。

そこに込められたのは、秋月に対する後ろめたさ―なのだろうか。

少なくとも、俺にはそう読み取れた。



「それは、間違いの無い事実よ」

「…かもしれない、だけどあれは」

「ここで私が殺されたとしても、仕方のない事かもしれないわ」

「だから」

たまらず、ビスマルクの肩に手を掛ける。

咄嗟の事で思わず力が入ってしまい、彼女は驚いたように目を開いた。

「…ああ、すまない」

「……いいえ、こちらこそごめんなさい、なんだか一人で」

「いや、それはいい、とにかく、俺が言いたいのは…」

あれから、なんとなくずっと考えていて。

結論が出た後も、口に出すことを躊躇っていた事実。

それを―初めて、舌に載せた。



「…あいつは、秋月は―あの結末で、きっと、満足したんじゃないだろうか」

「……え?」

耳に入った言葉が余程意外だったのか、どこか間抜けな声を出す。

この美しい金髪の彼女もそんな声を出すのだと思うと、何となくおかしくなった。

多少ばかり良くなった気分で、続ける。

「元はと言えば、あれに繋がる全て、受け入れたのは彼女自身だ」

秋月が死ねばよかった、などとは一度も思ったことはない。

そして、死んだことを悔いていないわけでもない。

だが、どうしてもその結論が頭を支配していた。いや、そうとしか考えられなくなった。

艤装に仕込まれた罠。人格を壊す装置。

それに関して、傍から見ていただけの那珂ですら、違和感に気付いた。

ならば、秋月はずっと気付いていた筈なのだ、自分自身に「何か」が仕込まれているということを。

けれど、彼女は何ら反応を示さず、あるがままにそれを受け入れていた。



きっと、仕込まれたものが自分の命を奪うような危険なものであると気づかなかったというより、単にどうでも良かったのだろう。

会ったばかりの彼女は、この世の全てに対して、そんな態度を示していたから。

そして、俺にも一度縋ったように―ただひたすら、彼女は死という救いを求めていた。

そう、最も甘美で、最も残酷な救いを。

だからこそ、思う。

「あいつは、あの時やっと死ねたんだ、やっと救われたんだ」

それはそれで、一つの幸せな結末なのではないか―と。

例えあのまま、俺と生きていたとして。それで彼女は救われたのだろうか。

俺には、それを何の躊躇いもなく肯定できる程の自惚れは無かった。

「……変な考え方を、するのね」

心底理解出来ない、そんな表情でビスマルクは応じた。



「かもしれないな」

「死んで幸せだなんて、そんなこと―」

あるわけないじゃない、と吐き捨てた言葉尻は、余りにも小さくて聞こえなかった。

確かに彼女の言う通り、この思考の全てが―ただ、秋月の死という現実から目を逸らしているだけなのかもしれない。

けれど、俺にはもう、そうとしか思えないのだ。

「…でも、そうね、確かにあの子は」

そこまで言って、ビスマルクは言葉を止めた。

そして、美しい碧眼が、俺を鋭く射抜いた。

まるで、先に言いかけた事を誤魔化すようだった。

「…だから、秋月の仇なんてどうでもいいのかしら?」

「……その一つではある」

「その…なんというか、そもそも仇討ちってのは、趣味じゃない」

これにもまた、ビスマルクは怪訝な顔を浮かべた。



「趣味じゃない?」

そのまま、聞き返す。

「死人の為に、生きている人間を斬ってどうなる」

「…それは」

ビスマルクが言葉に詰まる。

先の言葉、あまりに正論で、なおかつ復讐を誓う誰もが気に留めないように心がけている事に対する答えが、見つからないのだ。

こういう部分でも、俺は異常者なのだろう。

或いは、ただ薄情なだけなのか。

どれだけ親しい人間の為であっても―その人が死んでしまったとなれば、どうしても、怒る気が失せる。

秋月の時のように、流石にその場では、やはり冷めやらぬ気持ちもあるが――

少し時が経てば、気付いてしまう。

『こんな事をして、何になるんだ』と。

死者の為に、生者を斬ることの愚かしさに。

寧子は刀を仕舞った俺に、臆病者だと言った。

確かにそれも、あいつを斬らなかった理由の一つではある。

けれど、その推測の半分は、外れていたのだった。




「だいたい、仇討ちなんて、俺が口にしていい言葉じゃない」

「人を殺した数でその資格の有無が決まるとは思っちゃいないが、俺が大真面目に仇討ちをしたいと言うのも変だろうよ」

「ほら、なんだ、佐伯でだって、俺はあんたの部下を何人も斬ったろう」

あの場で死んだのは秋月だけじゃない。

激情に駆られて俺が刃を振った、その結果当然のように積み上がったのは、いくらかの死体。

もし、あの中にビスマルクの親友や恋人、家族が混じっていたとしたら。

だからきっと、人殺しに復讐を語る権利など、存在し得ないのだと―少なくとも、俺は信じている。。

「……まあ、そうなのかもね」

ビスマルクはそう言って、大きく、ゆっくりと息を吐いた。

納得出来ないことを無理やり納得させているような、そんな仕草だった。

「…クルーゲ、クルーゲ少佐」

そうして、いきなり顔を起こして呟いたのは、男の名前だった。

その時彼女は、なぜか童女じみた笑顔を浮かべていた。



「誰だ、それは」

「あの時、貴方が殺した隊長の名前よ」

「……そうか」

「それなりに、いい男だったわ」

続ける。

やはり、楽しそうに。けれど、重い口調で。

「艤装の乗り方は、特別士官学校を上がってすぐ、私の隊に配置されてから、私が教えてあげた」

「随分懐いてくれたわ、弟みたいにね」

いや、向こうにとっては、弟と見られていたのはきっと良いことじゃないだろう。

そんな言葉が喉まで出かけて、なんとか引っ込めた。

というか、何の話をしているんだろうか。

「国の為、戦場で死ねるなら本望、とか―強張ってるくせに、出撃の前はいつも言ってた」

「だからあそこで死ねた彼は、幸せなのかしら―ね?」

そして、最後にそう問うた。

勿論、俺はそれに首を振るしか無かった。



「…どういうつもりだ」

「意趣返し、みたいなものよ」

「…はあ?」

「死人について長々と、その加害者に向かって詳細を語る―」

「……………」

「なるほど、これはこれで、効果的な復讐なのかもしれないわ」

顰め面をした俺を見て、ビスマルクは殊更楽しそうに笑った。

…ああ、まあ、うん。気持ちはわからんでもないが。そもそも秋月の話を持ち出してきたのはお前だろうに。

「…わかった、変な話をした俺が悪かった」

「くす、貴方、案外面白い人なのかもしれないわね、やっぱり誰とでも、一度は話してみるものだわ」

「……………」

外人というのは皆こうなのだろうか。

だったら嫌だ。思考が読めなすぎて。あと微笑みが一々魅力的すぎて。

「…ああ、そういえば」

「なんだ、まだ何かあるのか」

「…いえ、その、『悪かった』のは、変な話をしたことに対してだけ?」

「……当たり前だ、死者に謝るような、そんな傲慢で自分勝手な趣味はない」

臆病だから。いや、臆病だからこそ。

俺は、殺してきた者に対して、後悔はしても謝罪は絶対にしたくなかった。

それで楽になるのなんて、自分の心だけなのだから。

せめて、罪くらいは抱えているべきだと、思うから。

「そういうあんたも、仇を取らないのかとは聞いたが、謝罪はしなかったな」

「当然よ、そんな傲慢で自分勝手な趣味はないわ」

「…………」

「ふふ、やっぱり面白いわ、貴方」

いかん。どうにも向こうにペースが握られているような気がする。

最初はこっちにあったのに。主導権。

「…そう、それで―貴方、結局なんの用があって私を付けてきていたの?」

思い出したように、ビスマルクが言った。

「ああ、うん」

こうして結局、話題も最初に戻る。

だから用件なんて特にありゃしないのだけれど―うむ。うむむ。

さて、何と答えたものだろうか。



>>+2


A.特に無い。強いて言うなら暇だった。

B.好みのタイプすぎてつい。

C.それを聞くのは、野暮じゃないか?

すまんここまで
次回那珂ちゃんとのイチャイチャ、なるべく早く書く

安価のない部分だけ

B.好みのタイプすぎてつい…。



「好みのタイプすぎて、つい…」

「あら」

わざとらしく驚いたという表情を作って、ビスマルクが応じる。

「言われ慣れた言葉でも、予想してなかった人間に言われるとそこそこ嬉しいものね」

喉を鳴らして笑う。

今度は、作り物には見えなかった。

「そいつは…なんだ、良かったよ」

「サクラの下で見るからかしら、貴方、結構いい男に見えるわ」

「……」

特に誂うような声音ではない。

…………うん。

………普通に褒められた。なんか照れる。

そんな俺を見て、更に彼女は笑みを深めた。



「ふふ、褒められ慣れてないの?」

「…生憎、お前と違って」

「ビスマルク」

俺の言葉を止めて、人差し指を俺に向ける。

咎めるように、悪戯っぽく。

「ちゃんと、名前があるわ」

「……ビスマルク」

「よろしい」

そして見せる、満面の笑み。

咲き誇る花の下でも、褪せない色。

もしかしたらというか多分ほぼ確実に今俺は誂われているのだろうけれど、そうとわかっていても―彼女に本気を期待してしまう。

なるほど女とは、特に自分の美しさを自覚している女とは怖いものだ。



――などと頭の片隅で呑気に考えていたのが悪かったのか。

彼女の顔が、近づき過ぎていることに気付くのが遅れて。

気付いた時には、既に唇に何かが触れていた。

それは幸か不幸か―いや、間違いなく一般的に言えば言葉に言い表せないほどの幸であろうが、咄嗟に浮かんだのは、アレの顔。

「………お、おま」

「あら?」

しどろもどろどころか口唇が麻痺してしまったような様子の俺を見て、ビスマルクが不思議そうに首を傾げる。

この反応が余程意外だったらしい。

「……こういうの、慣れているのだと思ったのだけれど」

「…や、あー…その、な、何をしているんだ、いきなり」

「キス」

わざわざ言葉にしなくてもわかるじゃない、とでも言いたげな口調。

「ねぇ――」

煩しそうに、髪へと降り注ぐ花弁を払いながら、ビスマルクは続ける。



「なんだか、少し気分が乗ったわ」

「……どういう」

「言わなきゃ、わからない?」

今度の笑みはどこか蠱惑的な、大抵の男を簡単に狂わせてしまうような色を持っていて。

ああそうかこれもしかして誘われてんのか俺違うだろ絶対誂われてるだけだからとか言い聞かせてみるけど既に冷静さは存在しなかった。

「いいじゃない、別にお互い初めてってわけでも無いんだから」

「………………」

「……え?」

沈黙は全てを語る。

察しのいい彼女は、一瞬ぽかんとした後すぐに上唇を舐めた。

「……へぇ?」

「違う」

「なにが?」

楽しそうに、凄く意地の悪そうなにやけ顔を貼り付けて言う。

何がとか言わせんなよマジで恥ずかしいから。

と、一歩下がれば―彼女も一歩距離を詰めてくる。



「寄るな」

「どうして?」

「どうしてもだ」

一般的には美人がにじり寄ってくるという状況は素敵な物かもしれないが、今の俺にとっては素敵さよりも恐怖が勝った。

なんとか距離をこれ以上詰められないように後退り続けて―ごん、と桜の木に当たる。

「…………」

「追い詰められたわね」

楽しそうである。殊更に楽しそうである。

「…待て、話しあおう」

首を振る。その表情には一転の曇りもない。

「最近ご無沙汰だったし、貴方は『色々』楽しそうだし、ふふ」

「ここは外だ、しかも真っ昼間だ」

「誰も来ないわよ、たぶん」

「そういう問題じゃない!」

「くすっ」

俺が慌てふためいて叫ぶ様は、もはや今の彼女にとってはただ楽しさを加速させるだけらしい。

これはダメか―と謎の覚悟を決めた瞬間。風が吹く。

また花弁が舞って、煩しそうに彼女が髪を梳いた。



――が、その指に、不思議な感触を認めたらしい。

怪訝を浮かべて、手のひらを目の前に戻す。

「………………!?」

そこには虫がいた。毛虫であった。

声にならない悲鳴が響く。

ぶんぶん、と振り回した手から、物凄い速度で明後日の方向へと毛虫が飛んでいった。

「…………きゅう」

と同時に、ビスマルクが倒れる。

「…………………」

僅か数秒の出来事であった。

……なんというか。

嬉しいような、残念なような。

「………というか、持って帰らなきゃいけないのか、これ」

とりあえず。

ビスマルクを何かしらの方法で抱えて、基地まで戻らなくてはならない。

距離的にはそう大した負担でもないが、一体どんな視線を向けられるだろうか。

考えると、溜息が出た。

そして、懸念どおり帰ってから誤解を解くまでに多大な労力を必要としたことは言うまでもない。

ちなみに「貴方の顔を見たら毛虫を思い出すからしばらく話しかけないでくれるかしら」とは、彼女の言葉である。

なんか理不尽であった。どこまでも。

以上
翔鶴が開示ですがうちの鎮守府にはいないので残念です

生存報告
今週中にはなんとか間に合わせます

土萠ほたる「のび太君の担任は生徒を廊下に立たせて最低だよ!」
ルナ「話はちびうさちゃんやダイアナから聞いたよ! のび太君の担任はのび太君やのぞみちゃんやみゆきちゃんにコフレっちちゃんにルフィ君に「ろくな大人にならない」と言ったみたいだけど、生徒を廊下に立たせる先生がろくな大人じゃないんだよ!!」
アルテミス「ルナの言うとおりだ! のび太の担任は生徒に「幼稚園に返す」と言ったみたいだけど、そういう先生が幼稚園からやり直すべきだ!」
クイーン・セレニティ、月野謙之パパ、月野育子ママ「これ以上のび太君を虐めてタダで済むと思ったら大間違いだよ!!」
ゆみこ「のび太君の担任は生徒を廊下に立たせて最低よ!」
くり「話はうさぎちゃんから聞いたよ! のび太君の担任は生徒に「ろくな大人にならない」「幼稚園に返す」と言って最低だよ!」
キロネックス(コブラの数百倍の毒をもつクラゲ)「これ以上、私がのび太の担任の味方に付くと思ったら大間違いなんだよ!!」
サメ「俺はのび太の味方だ!」
クッパ「吾輩ものび太の味方だ」
アナコンダ「ワタクシも野比の味方よ~ん」
閻魔大王「ワシものび太の味方だ!」
オオスズメバチ「私ものび太の味方よ!」
ファイヤーアント「俺ものび太君の味方だ」
ワニ「私ものび太の味方です」
デンキウナギ「ワシものび太の味方するゾイ!」
ブラックマンバ「僕ものび太君の味方だよ」
トラ「俺こそがのび太の忠実な手下だ!」
のび太の担任「おのれぇぇぇぇぇ! セーラームーンのキャラにまでワシに抗議するとは…!!」

魔法少女☆ゆにたん



とある改造によって美少年になってしまったユニコーンガンダム。そんな彼に手渡されたのがウサミから渡されたマジカルペンダントだった。

ウサミ「これで悪いクシャトリヤやシナンジュを倒すでちゅ!」

ゆにたん「えぇ!?でも…」

ウサミ「つべこべ言わないでちゅ!いいからあちしの言うことを聞くでちゅ。
今すぐ『ロリロリマジカルプリティチェンジ』と叫ぶでちゅ!」

ゆにたん「はい!?」

ウサミ「クシャトリヤにやられたら嫌でちゅよー!」

ゆにたん「何かわからないけど…やってみる!
ロリロリ・マジカル・プリティチェーンジ!!」

その時、ピンクの光が彼を包み、着ているものが消された。
光が彼にとけこむと、一瞬で戦う衣装に変わった。

ゆにたん「魔法少女☆ゆにたん!さ~んじょう!!」

何かかんやポーズを決める魔法少女ゆにたん。

ゆにたん「って、なんだこの格好!?このフリフリ恥ずかしいんだけど!?」

しかし格好はフリフリがいっぱいついたピンクのロリータスタイルだった。

ウサミ「これがゆにたんでちゅ!」

ゆにたん「ゆにたん!?意味わからないんだけど!!」

ウサミ「とりあえずクシャトリヤを倒すでちゅ!!必殺技を出してチリチリにするでちゅよ!!」

ゆにたん「わ、分かった!」

ウサミ「マジカルステッキを振るでちゅ!」

ゆにたん「ああ、わかった。いくぞ!
ユニコーン・ラブリーマグナム!!」

可愛らしい必殺技がクシャトリヤに放たれ、一気に浄化した。

ゆにたん「クシャトリヤが崩れていく…」

爆発音と共にクシャトリヤは倒れた。

ウサミ「やったーでちゅー!!」

ゆにたん「うん…」

ウサミ「これからは魔法少女として頑張るでちゅ!
らーぶらーぶ♪」

ゆにたん「ええええ!!?」




こうして、ユニコーンガンダム改め、ゆにたんは魔法少女として戦うことになったのだった…!


ウサミ「ちなみに性別は女の子にならないでちゅよ。見た目だけが魔法少女になるんでちゅ。」

本当に申し訳ありませんでした
続き、投下します



【幕間・那珂ルート】



桜並木、ばしゃばしゃと水音を立てながら走る。

そこでつい先日まで咲き誇っていた筈の花弁は、容赦の無い雨粒に襲われ、その大半が散っていた。

泥溜まりに浮かぶ褪せた桜色は、やけに物悲しく見えた。

―雨、春雨であった。

どこまでも降り続くように感じられるそれは、置き忘れられた冬の寒さを含んでいて、傘越しにも思わず肩を抱きたくなるような寒さを感じた。

「那珂!」

そんな中、探し人の名前を呼んだ。

雨音に負けずに、大きな声が辺りに響く。

けれど、何の反応も返ってこない。



「…この辺に居るはずなんだが」

傘も持たずに飛び出した彼女の事を思って、艦娘たる彼女には無用のことであるというのに、心配をしてしまう。

「………はぁ」

どうにもならぬと、頭を振る。

あいつが逃げ出してから、どのくらい経っただろうか。

正確な時間は数えてもいないし、そんな余裕は無かった。

積もるのは時間ではなく、焦りと、戸惑い。

それは、去り際の那珂を思い返す度に大きくなる。

…そもそも、何であいつが逃げたのか。

……とか言い出すと、原因は俺へと帰結する。

ああ、あれはまず間違いなく、ほぼ9割方、だいたい確実に俺のせいではある。

どんどんと大きくなる焦燥を誤魔化すように、その時の光景を何度目か、思い出す。

そう、それはほんの少し前のことで――――



発端は――なんか突然殴られたこと。

正直、それを最初は対して気にしてもいなかった。

またいつもの馬鹿の延長線だと、なんとなく思っていた。

「うわきものー!」

「あ?」

とりあえず、その衝撃がやってきた方を向いた。

「ばかばかばかばかばかばかー!」

「おい、やめろ」

「やめないっ!」

勿論というか当然というか、ここには那珂と俺しかいないとなれば犯人は言わずと知れるもの。

そいつは俺が振り向いた後も、やたら頬を膨らませてぽかぽかと俺を殴り続けていた。

最初は面倒だったのでそのまま放置していたのだが、段々威力が増してきて笑えないくらいの痛みになってくる。




「おいこら」

「むー!」

いい加減にしろと顔を顰めれば、頬を膨らませてそっぽを向く。

またこの馬鹿が馬鹿になったのか、なんて事をその時は思っていた。

やっぱり、まだ、少しも深刻に、彼女の行動を捉えてはいなかったのだ。

「なんだよ、いきなり」

「てーとくのばか」

「…………」

馬鹿はお前だろと瞬間的に言い返しそうになった言葉を飲み込んで、心当たりを探る。

そういえばさっき、浮気がどうとか言ってたか――浮気?

………………。

……ふむ。最近めっちゃ心当たりあった。しかも俺が全面的に悪い感じの。過去に遡ればもっと増える。不思議だな。



「……ビ、ビスマルクのことか?」

「そうだよ!那珂ちゃん、見ちゃったんだからね」

あの時隠れてたんだから、とまた膨れる。

……見た。ふむ。なるほど。

そういえば確かに、ビスマルクとの一件以来微妙にこいつの機嫌が悪かった。

…それがあの現場にいたから、ということなのだろうか。

あー…………。

……いや、うん、俺に非があった。

事故、というか半ば強要されたのも事実だけど、それを差し置いても俺に非があった。

見てたならさっさと言えとも思うけれど、どう考えても全方位俺が悪かった。

「…あれは…まあ、事故みたいな、挨拶のような、えー、ちょっとしたアレだよな」

「……………」

……黙って睨みつけられている。

これは相当お冠のご様子だ。

しかしこれはどう取り繕ったものだろうか。

何を言っても言い訳にしか聞こえないだろうし、つーか実際言い訳だ。



「…も、もっと早く言ってくれれば良かったろうに……」

そして出てきた言葉は、多分最悪に近いチョイスのもの。

…なーんでこれを選んだんだ、俺。

「……てーとくから、何か言ってくれるかなって思ってた」

「………う」

「那珂ちゃん聞いたよね、『ビスマルクさんと何かあったの?』って」

そう。

そうなのだ。

実はビスマルクを抱えて戻った後、憮然とした顔の那珂にそう問われたのである。

あの時としては、何でビスマルクを抱えていたのか、という意図の質問であると思っていたので、適当に答えたが…。

……つまりアレも最悪の選択肢を選んだということか。

ああ、やっとこいつの機嫌の悪さの理由がわかった。

「…あの時は…その、なんだ、その、色々」

「……隠してたってことは、後ろめたかったんでしょ」

「…まあ、…そういう、気持ちも…無くはない…ような」

そりゃあ後ろめたい。当たり前である。

別の女とキスをした後に、平気で恋人のところに顔を出せるような心胆は持ち合わせていない。

なんてことを考えていると、那珂が突然、床を叩いた。



「秋月さんの、時だってさぁ!」

その音と、予想外の大声に。

びく、と身体が震えた。

「私に相談もしなかったじゃん!」

「……すまん」

「提督は、私のこと…何も、信じてないの!?何も、言えないの!?」

「……そういう訳じゃない、ただ…」

今まで見たことがない剣幕で、那珂が俺に迫る。

けれど、それはすぐに萎んでいった。

どころか、なぜか自嘲するような表情に変わる。

「……………なんて…ね」

「…な、那珂?」

「……本当に、…本当に信じてないのは、私の方なのに…」

「おい、なんかおかしいぞ、今日のお前」

「…説明はする、ビスマルクとのこと、包み隠さず話すつもりだから、その――」

「………っ!」

「お、おい!」

何かを呟いていた那珂は、突然立ち上がって、部屋の戸の方へと走りだす。

とっさに伸ばした手は、空を切った。

彼女は、俺に釈明の場も与えずに、目の前から消えた。

「…………」

全てが突然すぎて、何が何だかわからなかった。

あんな那珂を、これまでに見たことがない。

感情が豊かなのは昔からだが、意味不明な癇癪を起こすような奴ではなかった。

どうして、という疑問。

それは俺へ、大きすぎる戸惑いと焦燥を残していくのに、十分なものだった――



――あれから一向に帰ってくる気配のない那珂を追って部屋を出たはいいが、見つからない。

「ああ、くそ!」

首を思い切り振った。

自省も、後悔も、疑問も、何もかもをぶつけるように。

そして、昨日まで満開だった桜の残滓を踏みつけて、また走る。

息が切れるまで、肺が痛くなって、もう動けなくなるくらいまで、走る。

いつのまにか、傘の切れ目から入り込む雨も、気にならなくなっていた。

それでも、見つからない。

どこにもいない。

確かに側にいるはずの彼女を、見つけられない。



「那珂ぁ!」

叫んだって、返事はない。

知っているのに、わかっているのに、それでも止められない。

くそ、ともう一度呟いて、無力感で下を向く。

「…………え?」

それが、結果的には良かったんだろう。

「…那珂」

そこに、いた。

誰の視界にも入らないように、小さく縮こまっている彼女が。

普段は生命力の塊みたいなのに、今は、目を凝らさないと、そのまま見失ってしまいそうな彼女が。

誰かを待つように、桜の木に、身体を預けていた。



「お前――」

「あのさ……ごめんね」

言いかけて、それに被せるような言葉で制される。

「ごめん、って」

「ごめんは、ごめんだよ」

色々、と思い出したように付け加えた。

「………さっき、私は、きっと嫌な子なんだよ、って…思い知らされた」

「…はあ?」

「人を、誰かを信じられないの、信じてないの」

「貴方も、例外じゃなくて…」

「…そう、提督を信じられないのは私なのに…貴方が私を信じてるの、知ってるのに…あんなこと、言った、嫌な子だ、すごく……」

「………」

脈絡なく投げかけられた会話を理解できなくて、自然と眉間に皺が寄る。

こいつが何を言いたいのか考えて―やはり、何もわからなくて。

見つけたらまず最初に謝ろうと思っていたことも、すっかり忘れていた。

桜の木から、雨粒が落ちる。

それはすっかり崩れてしまった那珂の前髪を伝い、地面へ。

そして足元の泥溜まりに跳ねて、波紋を作った。



「…とりあえず立てよ、風邪、ひくぞ」

「心配いらないって、知ってるくせに」

「…………だって、私はさ」

彼女は、その後の言葉を飲み込んだ。

だから、俺は気付かない振りをした。

「それでも、冷たいだろ」

「……桜は、嫌いだな」

ポツリと、また、関係も、前後性もない事を漏らす。

表情を、せめて顔をあげて彼女の顔を見せて欲しかった。

けれど、そんなことすら言葉にすることはできなくて。

「…桜は、嫌いだよ」

続ける。

静かに、なのに良く通る声で。

まるで、歌いかけるような声で。




「咲いてる時は、あんなに綺麗なのに」

「一度、地面に落ちてしまったら――」

釣られるように、俺も下を見た。

泥塗れになって、色褪せた桜の花弁が舗装する地面を。

「…人の心だって、きっと同じ」

その中の一枚を、那珂が拾い上げた。

この国の代名詞とまで言われる美しい花の面影は、そこになく。

ただの、汚らしい物が、手の中にあった。

「どんなに綺麗に見えてもさ、それは、永遠じゃないもの」

「永遠に続く恋なんて――そんな都合のいい幻想、あり得ないから」

「心だって、恋だって、いつか、こんな風に、泥に塗れた姿を表すから」

「…少なくとも、私はそうとしか、思えないから……」

そこで、僅かな沈黙を挟んで。

やはり少しだけ、自虐が滲み出した声で言った。



「わかってる、わかってるんだよ」

「提督は悪くない、悪いのは私」

「最初から、信じてないのは――私なんだよ」

くしゃり、と。

手のひらの中の花弁を、握りつぶした。

「なんで、さ」

「…なんで私なんかが、艦娘なんかになったと思う?」

重い沈黙の後。

やっと顔をあげたと思ったら、そんな事を言った。

だが、俺にはその意図も、答えも掴めないで。

ただ、通り一遍の答えを返す。

「……生憎、聞いたことがないからな」

「そうだね、言ったこと、ないもんね」

それに、彼女は苦い笑みを漏らした。

雨で濡れた前髪が張り付いて、見慣れない陰を含んだ那珂の顔が、こんな時なのに、やけに魅力的に映った。



「恋を、したかったんだ」

「誰もが羨むような、とびっきりの、一世一代の、移ろわない、永遠の――」

「それでいて、すぐに終わってしまう、恋をしたかった」

いつか見た、仮面の奥底。

その全てが、包み隠さず、目の前にあった。

「私は、死ぬために艦娘になったの」

「…若葉ちゃんに言ったことなんて――全部、嘘」

「ううん、若葉ちゃんが死んでほしくないのは本当だったし、笑って欲しいのも…まあ、本当、に近かったけど」

「本当の―絶対に達成したい目的は、一つだけ」

「大好きな人と、愛する人と」

なあ、お前はどうして俺を選んだんだ?

いつまでも、納得できなかったその問への答え。

『貴方は、私と一緒に死んでくれる?』

いつまでも、疑問に残っていたその問の意図。

「永遠の恋を、したかった」

「いつまでも変わらない、咲き誇ったままの恋を」

「一緒に死んでくれる人を、探してたんだ」

浮かべたのは、そのまま壊れてしまいそうな笑み。

この場にそぐわない程綺麗で、それでいて儚い笑み。

まるで、触れることの出来ない蜃気楼のような、そんな表情を一瞬だけ浮かべて―すぐに引っ込める。



「………那珂」

「馬鹿みたい」

「…その先が、本当に永遠なのか確かめることなんて、誰にも出来ないのに」

「でも、でも、…私はそう信じてた――ううん、今も信じてる、信じたいと思ってる」

「だって、少なくとも、生きてる限り―恋は、色褪せて行くものだから」

「一度咲いてしまった恋は、ゆっくりと、でも確実に散り際へ向かって進んでしまうから」

「……………」

本当に馬鹿だな。やってみなきゃわかんないだろ。確かめもせずに言うなよ。

いろんな言葉が頭に浮かんで―彼女の表情に、打ち消された。

そんな言葉を、こいつは待っていない。

いや、待っている言葉なんて、わからない。

黙っているままの俺に痺れを切らしたのか、最初からそれを言うつもりだったのか。

「やっぱりさ、死のうよ」

なんでもないように、彼女は漏らした。

「貴方が相手で、不満なんてあるわけない、だから」

「……アホか、前にも言ったろ、俺は」

「…そ、だね、…そだった、ね」

――だから、お前もこれ以上、死ぬなんて馬鹿なことを言うなよ。

その一言が、どうしても継げない。

言い訳がましい言葉の方が、先に口をつく。



「…あのな、那珂、俺はこれから、何があってもお前だけを」

「ほら、色褪せた」

微笑んで、俺を指差す。

私の言った通りでしょ――なんて、そんな風に笑う童女に似ていた。

雨粒が、残り少ない桜の花弁へと当たる。

ぬかるみに、真新しい桜色が落ちて、すぐに泥を被った。

「私が言えば、確かに優しい貴方は応えてくれる」

「私以外の誰にも目移りしないでって言ったら、そうしてくれる」

「けどさ―普通、ビスマルクさんみたいな人に言い寄られたら、どんな風にだって心が動くものでしょ?」

「貴方は、秋月さんみたいな人を、どうやったって放っておけないでしょ?」

「そんな、人間として、男の人として、提督としての当たり前の心の動きを、今、貴方は、私の為に縛れるって言った」

「…でもさ、私は我儘で、自分勝手なんだから、きっと、そんなお願いを貴方に積み重ね続けるよ」

「してほしいこと、してほしくないこと、色んな事を、貴方に押し付けて…」

「……そこにあるのは、そこに残ったものは、本当に元のままの恋なの?」

「……………答えてよ、提督」



当たり前だって、そう言いたくて。

そうやって互いを織り合わせていくのだって、恋じゃないかって。

そんな当たり障りのない、どこかで聞いたような事を言いたくて。

でも、やっぱり口が利けなくて。

彼女の言葉を、ただ待つしか出来なかった。

「だから、永遠にしようよ」

「その先に、本当に永遠が続いてるのか、わかんなくても」

「綺麗なまま、一瞬で、木ごと燃やし尽くしてしまえば」

「…きっと、…きっと、誰の目にも、その恋は、永遠に映るから……」

「……ごめんね、ごめんね…私は、そうでもしないと、貴方を…信じられない、から――」

縋るように、那珂が俺を覗き込んだ。

それ以上は、何も言わず。

ただ、俺の口から導き出される答えを、待っていた。

もうこれ以上は、何も言わないよ、と。


>>+2


A.………………。

B.……それでも、俺はお前と生きたいんだ。

=.…ああ、死のう。(選択不可)

とりあえずここまで
やーっと時間が出来た、まあ、年末はちょっとアレだけど年明けからは結構暇
そしたら学園の方も…少なくとも、投げ出してしまったあの周くらいは、完結させたいなと思う

あけましておめでとうございます
次回は今週土曜日の22時くらいです

すいません遅れました
やります

B.……それでも、俺はお前と生きたいんだ。




「…それでも、俺は」

「っ」

俺の言いたいことを、もう全て理解したのだろう。

彼女が、縮こまらせていた身体を抱いて、更に小さくした。

「お前と……生きたいんだ」

「ずっと、この先も――」

「……………」

縋った目線は、滑るように、落ちた。

そこに込められていたのはたぶん、明らかな落胆だった。



「……那珂」

「私は」

声が漏れた。

小さな、小さな声だった。

「…信じられない、んだよ」

「……だとしても、別に構わない」

「お前が、俺を信じてくれなくても――」

うずくまった那珂に、手を伸ばす。

けれど、それは宙空で払われた。


「…………」

それを引っ込める余裕もないまま、思わず短く息を吐く。

白い煙が一瞬、俺達の間を流れた。

そこに混じる、微かな嗚咽。

那珂は、泣いていた。

初めて、俺の前で涙を流していた。

「……違う、違うの……」

先程までの静かな音は、見る影もない。

隠し切れない辛さを込めた声を、必死に吐き出していた。

手は、もう伸ばせなかった。


「…ほんとは…ほんとは、さ…」

「………私は……私自身が、信じられないんだよ…」

「……こんな状況でも、貴方を信じてあげられない自分が」

「…どうしようもないくらいに醜い、自分が嫌いだから…」

「……そんな事」

「あるよ、あるんだよ」

そうして、やっと那珂は顔を上げた。

俺は、その涙でぐちゃぐちゃになった顔を見て―思わず、目を逸らした。

これ以上、そんな彼女を見ていたくなくて。



「私、私ね、あの時、貴方が秋月ちゃんを殺した時――ホッとしてた、安心してた」

「心のどこかで、秋月ちゃんがいなくなって良かったって思ってた!」

「ああ、貴方をわかってあげられるのは、支えてあげられるのは私だけだって!」

「喜んでたんだよ、あの時さぁ!」

「嫌な子だよね?醜いよね?悲しんでる振りまでして―心で笑うなんて!」

「……嫌い、だったのか?…秋月の、こと」

馬鹿な、本当に馬鹿な質問だ。

いくら俺でも、それが違うことくらいはわかる。

答えなんて透けているくせに、それでも、当たり障りない解答を期待しているのは。

きっと、那珂の激情に正面からぶつかる勇気がないからなのだろう。



「そんなんじゃ、ないよ」

「…私は、ただ、私の居場所が―貴方の隣が、欲しくて…誰にも、邪魔されたくなくて…」

「……そんな、我儘で自分勝手なだけの、理由」

「…でも、それが、紛れも無い私自身」

そこで言葉を止めて、那珂が笑った。

涙を拭くこともせずに浮かべたそれは、まるで諦めのように見えた。

「どんどん貴方を好きになって、距離が近くなっていく度に、心が痛くなったの」

「私の醜悪さに貴方が気付いて、嫌いになってしまわないかって、不安になったの」

「自分を隠してる自分のことを、どんどん嫌いになったの」

「恋が叶ってからは、もっと痛くなった」

「貴方の隣は心地良すぎて、貴方が離れていくことを考えるだけで、胸が裂けてしまいそうで」



「……もう、もうね、きっと私は耐えられない」

「提督がいないことに、耐えられない」

「でも、いつか提督は私のこと、嫌いになるから」

「…そんな、わかりきってる未来が、あったから」

――だから。

大きな間を挟んで、彼女は告げた。

「ここで、終わらせたかった」

「幸せな時間のままで、終わらせたかった」

「私達の恋を永遠に――したかったの」

寄りかかった木に手をついて、身体を起こす。

そして、よろけながら立ち上がって。

ねえ――と。

俺へ手招きをした。

「どうしても、死んでくれないのなら―それでもいい」

彼女は、那珂は。

「でも、散ってしまう前に、色褪せてしまう前に、貴方が私を好きな内に――」

触れれば、崩れてしまいそうな、そんなぼろぼろの笑顔で。

「――せめて、私を殺して?」

笑っていた。

笑って、そんなことを言った。



>>+2


A.「………嫌いになんて、ならない」

B.…いや、きっと、言葉なんかじゃ届かない。

A.「………嫌いになんて、ならない」


「……嫌いになんて、ならない」

「………提督」

「……なるわけ、ないだろう」

それ以上は、何も言えなかった。

何を言っても、本当に言いたいことが濁ってしまうような気がして。

ただ、拳を痛くなるほどに握りしめることしか出来なかった。

「やっぱり、優しいんだね」

「っ……」

諦めが形を変えただけの笑顔が、消えない。

張り付いた、見慣れない笑顔が、消えない。

そんな表情の彼女なんて、もう見ていたくはないのに。

俺の言葉じゃ、届かない。

「…絶対、嫌いになっちゃうよ」

「元々、私はたまたま貴方の艦娘になっただけなのに」

「私が貴方に選ばれる理由なんて、ないんだよ」

このまま、遠ざかっていくような気がした。

彼女も、桜のように散ってしまうような気がした。

「……だから」

この言葉を最後まで喋らせたら、本当に那珂は消えてしまうのではないかと、感じさせた。

「…だからね、私」

「お前じゃなきゃダメなんだよ!」

だから、だろうか。

嫌で。

そんな未来、認めたくなくて。

気が付いたら、叫んでいた。



「お前を選んだ理由?ああ、ねえよ!俺にだってわからねえんだよ!」

思ったまま、考えたまま。

心の内を全て吐き出すように。

遠ざかる彼女へ、言葉を投げる。

「そうだよ、お前の言うとおりだ、俺はお前がどんな奴かなんて、全然知らない!」

「知ってることなんて、歌が好きとか、馬鹿な奴だとか、そんな表面的なことばっかでさ」

「お前が何を考えてるかなんて、全然わからなかった!」

今、聞くまで。

お前の本当に考えてることなんて、何もわからなかった。

そうだ。その通りだ。

那珂のことなんて、何も知らなかった。

「でもよ、それでも――」

一緒にいる内に、彼女が隣にいる日常を過ごす内に。

離れたくなくなって。離したくなくなって。

そんな日常が、ずっと続いて欲しいと思うようになって。

「お前を、好きになったんだよ!」

「お前じゃなきゃ…ダメなんだよ…」

「…………あ――」

彼女に手を伸ばして、そのまま抱き寄せる。

そのまま、乱暴に唇を奪った。

言葉に出来ない想いを、全てそこへぶつけるように。

抵抗は、無かった。



それから、どのくらい経っただろうか。

息苦しさを感じて、唇を離す。

那珂は、どこか呆然とした眼をして、俺を見ていた。

「……好きで、いさせてくれよ…」

「これからも…お前を、好きでいたいんだよ…」

「まだ、恋を…したいんだよ…」

いつのまにか、俺まで泣いていた。

掠れる声で言った言葉は、彼女に聞こえたのかもわからない。

ただ力一杯に、離れてしまわないように、抱きしめていることだけを考えていた。

「………ずるい、よ」

そんな時。

耳元で、声がした。

これ最後まで書ききろうと思ってたけどここまで
もうまともに更新は出来ないんじゃないかなあ

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年06月03日 (水) 19:40:34   ID: LBBTr4qk

これすこ

2 :  SS好きの774さん   2015年06月04日 (木) 23:45:10   ID: YrDX2-t0

村正っぽい雰囲気もちゃんと感じる。
オモスロイ

3 :  SS好きの774さん   2016年02月16日 (火) 22:58:41   ID: KAkG7I4A

こいつ中途半端ばかりのクソ

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom