鳰「兎角さんを小さくしてみたっス!」 (372)

悪魔のリドルSSです。

ギャグなんでキャラ崩壊があります。

黒組全員でわちゃわちゃすればいいと思って作りました。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1425732091

鳰「兎角さんを小さくしてみたっス!」

春紀「いやできねーだろ。なんだそりゃ」

教卓に立つ鳰に春紀が呆れたように返してきた。

お前バカじゃねーのと言わんばかりの態度だったが、そういう扱いはもう慣れている。

しかし今回は驚いてもらう事になるはずだ。

鳰「でもほら」

左手を軽く上げると、そこに繋がれた小さな右手とその体に全員の視線が向く。

というか、最初から全員の視線はそこに向いていた。


伊介「なにそれ♥」

興味ありげに自分の席から伊介がこちらへ向かってくる。

そしてそこにいる5、6歳程度の子どもの顔を覗き込んだ。

ショートカットの青い髪と、揃いの澄んだ瞳。

薄っぺらい割に幼いながらも程よく鍛えられた体。

無愛想な視線は十分に兎角らしさを含んでいると思う。

同じくらいの年齢の子の中でも目立つような、顔立ちの整った愛らしい少女だ。


ただし、Tシャツとハーフパンツという、地味な格好と無愛想な雰囲気がそれを台無しにしている。

ほとんどの人間が彼女を少年と見間違えるだろう。

鳰「呪いをかけて小さくした兎角さんっス!」

子どもの姿をしっかりと晒した後にもう一度声高に告げる。

今度は全員が一斉に兎角の席へ振り返った。

そこに彼女はいない。

真昼「本、物……?」


戸惑いながら真昼が兎角の席と子どもを何度か交互に見返す。

千足「東……!」

千足は席を立ち、目をきらきらと見開いて子どもに近付いた。

そこへ春紀がからかい半分に声を上げる。

春紀「ロリコンきたぞ、ロリコン」

千足「止めろ、誤解を生む」

柩「千足さん……?」


千足「いや、桐ヶ谷の方が可愛いぞ?」

柩は不安そうに千足と目を合わせた後、視線を後方の席のしえなに向けた。

その目は感情がなく、穏やかでありながら不穏だった。

しえな「桐ヶ谷、なんでボクを見るんだ。そっちでやれ」

乙哉「しえなちゃんポイズンされちゃう」

しえな「ポイズンってなんだよ。なんのことだよ」

しえなの隣に座る乙哉が、銃を模した形で指先を彼女に向ける。

ちょっと散歩に行ってきます。
なんか、その、犬の散歩に、行ってきます。
3、40分で戻ってきます。

戻りました!ありがとうございます!
一通り構想は出来ているので最後まで頑張ります!


それを見たしえなは異常なほどにびくりと体を震わせ、乙哉の手を押さえ込んだ。

しかし乙哉はしえなの反応に目を輝かせて、いたずらを面白がる小学生のように同じ事を繰り返している。

ガタガタと騒ぎ立てる二人を横目に純恋子がふっと品のあるため息をついた。

まるで恋に思い悩む儚い少女を彷彿とさせるが、普段からの仕草がそう思わせるだけで、本人にとっては至って自然な振る舞いなのだろう。

純恋子「アズマ家の小さい子を連れてきたのではありませんの?」

兎角の親戚。

確かにそう言ってしまえば納得が出来るだろう。


香子「名前は?」

今度は香子が子どもへと近付き、視線を合わせてしゃがみこんだ。

いつもより高めの声で子どもにプレッシャーを与えないように配慮している。

それは施設での経験によるものなのだろう。

兎角「東兎角だ。一ノ瀬晴には誰も触らせない」

涼「完全に本人じゃの」

春紀「見た目に反して全然可愛くねぇ」

思った以上にテンションが低い少女に対し、注目していた涼と春紀が肩を落とした。


乙哉「えー?かわいいよー」

しえな「武智、ロリコンだっけ」

席を立って兎角に駆け寄る乙哉とそれを追うしえな。

乙哉「ううん。29歳会社員のおねーさんとかが好き」

香子「具体的だな」

二人が兎角の顔を覗き込むと香子がそこを立ち退き、独り言のように乙哉へ返しながら自分の席へと戻った。

教室内を見渡せば、兎角への反応はそれぞれありながらも概ね驚かせる事は出来たようだ。


鳰「晴はどう思——」

晴「鳰さん、これはもらってもいいのかな?」

鳰「早速我を失ってるし。鳰さんなんて初めて呼ばれたっスよ」

姿勢良く席についた晴の、にっこりと明るく輝くひなたの笑顔が妙に怖い。

触れたくて仕方がないのか両手がぷるぷると震えている。

伊介「じゃあさ♥」

すぐそばに立つ伊介がにやりと笑った。


伊介「今なら東さんにやりたい放題って事よね♥」

晴「ダメです!兎角さんは晴が護ります!誰にも触らせない!」

がたんっと派手に立ち上がって威嚇する晴には、さすがの伊介もたじろいだ。

伊介「あんたなによその迫力……」

純恋子「完全に独占欲ですわね」

純恋子はそんな晴を横目に、兎角のそばに寄って上から彼女を見下ろした。

他のメンバーと違って、品定めをするような、興味というよりはこれがなんなのかを確認する視線だった。


柩「今の東さんやっちゃったら無効ですか?」

一番前の席で兎角を正面に柩が身を乗り出す。

冷酷と言われたダチュラのエンゼルトランペットだけあって、子どもの姿くらいでは怯まない。

幼い顔立ちで無邪気に笑うくせに、きっと考えている事は底のない暗闇。

鳰「うんや?大丈夫っスよ」

春紀「いやあたしちょっと無理だわ」

口を挟んだのは春紀だった。


大家族で幼い兄弟も多い春紀にとって、今の兎角には手を出しにくいのだろう。

苦い顔をして手を振っている。

鳰「でも兎角さん、実際このくらいの年には暗殺訓練受けてますよ?」

伊介「チビでも油断出来ないって事~?」

鳰「それもそうっスけど……」

尋ねる伊介に視線を合わせ、その後に晴を見る。

しえな「一ノ瀬の殺気がとんでもないな」

説明をするまでもなく、後ろの席のしえなが晴の雰囲気を読み取った。


にこにこと笑う晴の周囲からは歪んだ空気が醸し出されている。

幾多の修羅場をくぐってきた能力が今ここで発揮されているらしい。

乙哉「こういう子だっけ?」

普段の温和な晴を思えば乙哉の疑問ももっともだった。

他にも今の晴から若干距離を取るような表情をしている者もいる。

そんな中で純恋子はまっすぐ晴を見据えている。

純恋子「一ノ瀬さんの土壇場の力は侮れませんわよ」


涼「英はなんでそう思うのかの?」

興味ありげに涼が笑った。

涼の考えている事はいつもよく分からない。

温厚そうに笑う姿は子や孫を見守る保護者のようだ。

純恋子「わたくしのもう一つの記憶がそう告げているのです」

静かに胸に手を当て、目を伏せる。

その深刻な表情に千足が口を開いた。


千足「どういう意味だ」

純恋子「みなさんにもあるはずです。あの二人がどれだけ強敵か……」

千足に体を向け、深刻な表情で告げると他の何人かがぴくりと体を震わせた。

鳰自身も胸の奥がチクリと痛んだ気がして眉をひそめる。

真昼「言わ……、みれ、ば……」

普段あまり口を開かない真昼がぼそりと呟いたのが聞こえた。

しえな「え?ボク全然そんなのないけど」


なぜか全員が同時にしえなに向き、生気の抜けた視線を送った。

しえな「なにその可哀想なものを見る目。止めてくれる?」

なんとなく重苦しい雰囲気の中、晴が唐突に立ち上がり、兎角へと歩み寄ると彼女を軽々と抱え上げた。

晴「じゃあ晴は兎角さんを保護するので寮に帰りますね!」

春紀「……完全に誘拐じゃねーか、あれ」

揚々と走り去る晴を呆然と見送り、春紀がぼそりと呟くと黒組全員が頷いた。


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今日はここまでにさせて頂きたいと思います
また明日よろしくお願いします。

こんばんは。
いつもありがとうございます!犬の散歩野郎です!
今回はふざけた内容となりますのでなんか色々許して下さい!
ちょっと長いと思いますが最後までやりますのでよろしくお願いします!


晴は兎角を寮へと連れて帰ると、彼女をソファに座らせた。

ソファからは足がつかない程に小さくなった体。

見た目には兎角の面影は十分に残っていて、不思議な現象だが確かに事実なのだろう。

晴「兎角さん、晴が誰か分かりますか?」

兎角「一ノ瀬晴。黒組のターゲットだ」

さっき香子に答えていた時よりは、体に見合った子どもらしい声に安心する。

自分に対しては心を許してくれている気がして嬉しくなった。

晴「記憶は子どもに戻ってないんですね」


兎角「当たり前だ」

晴「なんでこんなことに?」

鳰に聞く前に思わず走り去ってしまったから事情が全く分からない。

兎角「その辺りの記憶はない。カレ……理事長が呼んでるって言うからあいつについて行った後は覚えてない」

晴「カレーあげるって言われたんですね」

いつもなら呆れるはずが、今の姿を見ていると可愛くて仕方がない。

前髪をいじる仕草も、脚をぷらぷらと振る落ち着きのない様子も、普段の兎角とは違う動作がどれも愛らしかった。


上から下まで兎角をじっくり眺めていると、澄んだ青い瞳が上目遣いに晴へと向いた。

兎角「なんだ?」

晴「男の子みたいですね」

兎角「飾りっ気がないのは自覚してる」

率直に感想を伝えると、兎角は気を悪くした様子もなく返答した。

元々少年のようなメリハリのない身体つきだったが今は特に子どもの体なのだからそれも当然のことだ。

じーっと兎角の目を見つめ、兎角もそれに返してくる。


その隙を突いてというわけではなかったが、晴は兎角のTシャツの裾に手をかけた。

晴「えいっ」

兎角が不審に思う前に思い切りシャツをまくし上げると、腹から胸にかけてまでが全部晒された。

兎角「おいっ!」

すぐさま晴の手を叩き落として兎角が頬を紅潮させて怒鳴った。

晴「真っ平らです!」

兎角「当たり前だ!お前そういう趣味なのか!?」


晴「違います!兎角さんだからです!兎角さんならどんな体型でも年齢でもイケます!!」

ソファに手をついて兎角に顔を寄せると、彼女は身を引いて口元を引きつらせていた。

少し興奮しすぎたかもしれない。

しかしそんな兎角も可愛いと思う。

とてつもなく可愛いと思う。

小さい手。

幼くくびれのない身体。

丸く大きな目。


兎角「さっきからちょっと怖いんだけど……」

晴「イタズラしてもいいですか?」

兎角「ちょっとどころじゃない」

晴「さ、先っちょだけでいいんです!」

兎角「なんの先だよ!何をする気だ!?」

思わず勢いのままに兎角へと攻め寄り、覆い被さるように両手をソファの背もたれについて彼女を拘束する。

兎角は左右をキョロキョロと見て、逃げる隙を伺っている。


腕を掴んで動けなくすると兎角の目が怯えに揺れた。

不安そうな表情がたまらなく可愛い。

春紀「ちょっと待ったぁあ!!」

突然轟音を立てて開かれた扉に晴の体がびくりと震えた。

兎角に集中していた晴にとってそれは爆発音にも似た音で、衝撃のあまり腕の力が緩む。

兎角「寒河江!」

その隙をついて兎角は晴の拘束から抜け出し、春紀の後ろに隠れるように回り込んだ。


春紀「うわなに。やべ、かわいいんだけど」

春紀が部屋に入るとそれについて千足も入ってきた。

千足「どうした?一ノ瀬が怖いのかい?」

兎角「あいつなんかおかしい」

目線を合わせて頭を撫でる千足に怒る様子もなく、兎角は無愛想なまま二人に訴えかけている。

今まで獣のように周りを威嚇していた兎角らしくない行動だ。

晴「生田目さん、春紀さん。兎角さんを渡してください」

春紀「待て。いやほんと待て。晴ちゃん落ち着いて」


ゆっくりと三人に近付くと春紀が慌てて両手を振った。

言われるまでもない。

十分に落ち着いている。

兎角の可愛らしい姿を隅から隅まで冷静に受け止める事が出来るほどには。

さらに近寄るとまたも扉が大きな音を立てて開かれた。

鳰「兎角さん争奪戦を開催するっスよーーー!!」

鳰の声がフロアに響き渡った。


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ソファに腰掛けた兎角にそっと近寄る。

顔を上げてこちらを見る目には、威圧的なものは含まれていない。

鳰「メロンパン食べるっスか?」

兎角「ん」

鳰が剥き身のプチメロンパンを差し出すと何のためらいもなく兎角はそれを受け取って頬張った。

春紀「東がカレー以外食べてる!!」

兎角「私をなんだと思ってる」


大袈裟な振りを付けて驚く春紀に、むすっとした顔を向けながらも兎角の咀嚼は止まらない。

背もたれの裏から伊介が兎角の顔を覗き込み、それに気付いた兎角はもしゃもしゃとメロンパンをかじりながら視線を上げた。

伊介「これ本当に東さん?」

晴「本物ですよ!」

伊介の疑問になぜか晴が即答する。

二人きりの時に何があったのか鳰には分からなかったが、前のめりな晴に比べて兎角は控えめ——というより、完全に腰が引けている。

千足「野菜も食べないとね」


どこから持ち込んだのか千足は優しく笑いかけながら野菜スティックを兎角に与えた。

兎角「ん」

兎角がそんなものを食べるだろうかと鳰は思ったが、やはり躊躇なくそれを受け取ってぽりぽりと食べ始めている。

晴「兎角さんじゃない!」

しえな「お前が今本物だって言ったんだろ」

呆れた声で突っ込みを入れ、しえながベッドに腰をかける。

その隣には香子がすでに座っている。


さっきまで彼女は兎角を観察するように目で追っていた。

香子「警戒心がまるでないな。やっぱり記憶が曖昧になってるんじゃないのか」

兎角を見れば、周りからの視線に警戒するわけでもなく、平然と座ってそれぞれの顔を見回していた。

愛想はないが、物怖じしない感じの普通の子どものようだった。

兎角「トイレ」

独り言を呟いて兎角がソファから飛び降りた。


千足「一人で行けるか?手伝おうか?」

兎角「大丈夫だ」

千足が心配そうに後を追おうとするが兎角は一瞥してそれを制止した。

純恋子「保護者みたいですわね」

しえな「桐ヶ谷は……」

純恋子としえなが同時に柩を見る。

鳰もそれにつられて恐る恐る柩の顔色を窺うと、彼女は頬を赤らめて千足を見つめていた。

柩「小さい子にも優しい千足さん、素敵です」


乙哉「なんでもいいみたいだねー」

しえな達の様子を見ていた乙哉が明るい声で呟いた。

洗面所の扉を見ると、つい今しがた入って行ったばかりなのに兎角はもう出てきてしまっていた。

それに気付いた涼が兎角へと歩み寄り、膝に手をついて顔を覗き込んだ。

涼「どうしたんじゃ?」

兎角「意外に座るとこ高かった」

伊介「お尻ハマったりしてね♥」

伊介の茶々に兎角が眉根を寄せたが、子どもがむすっと口を結んだようにしか見えなくて迫力がない。


見るまでもなく晴が興奮しているのは物音で分かった。

とりあえず萌えのあまりソファをバシバシ叩くのは兎角が怯えるのでやめてもらいたいと思う。

涼「ではわしが手伝ってやろう」

香子「孫の面倒みてるみたいだな」

ぼそりと呟く香子の気持ちは鳰もなんとなく分かった。

涼は口調と仕草が基本的に年寄りくさい。

段々進まなくなってきたんで、ちょっと休憩がてら犬の散歩に行ってきます。
どうしてもツッコミ担当の2号室5号室が出番多くなっちゃいます。
本当にいつも春紀さんとしえなちゃんにはお世話になっています。


涼「おお、そうじゃ。自分で脱げ——」

晴「晴が!晴が行きます!」

涼が言い終わらないうちに、とんでもない速さで晴は涼と兎角のそばへ走り込んだ。

兎角「え……っ」

しえな「ものすごく引いたな、東」

真昼「一ノ瀬さん、前のめり……すぎ、です、ます」

後ずさる兎角に同情の視線を向けながらもしえなと真昼はあえて動かない。


とばっちりは食らいたくないというのが本音だろう。

兎角「やっぱり一人で……」

春紀「汚したりするともっと獰猛になるぞ、あれ」

兎角「うぅ……」

兎角が洗面所に戻ろうとすると春紀が忠告を促した。

今の晴はなんでもネタにして兎角にいたずらをしかねない。

どんな仕草でも狂おしいほどに兎角が可愛くて仕方がないらしい。


泣きそうな顔で兎角は呻き、晴をちらりと見上げた。

晴「兎角さん、大丈夫だよ」

兎角「……変な事しない?」

晴「ブフッ。しませんよ」

しえな「あれ絶対するよな」

晴には聞こえないよう、しえなは隣にいる香子に声を掛け、彼女も深刻な面持ちで頷く。

兎角は周りをきょろきょろと見回した後、伊介の足元へと走り寄った。

兎角「犬飼」


春紀「え、よりにもよって伊介様頼る?」

意外に思ったのは春紀だけではない。

一番厄介そうな相手をわざわざ選ぶなんて。

案の定、伊介はこれ以上にないくらいに鬱陶しそうな顔をして、しかしそれでいて困ったような表情も見て取れる。

伊介「なぁんで伊介がー……」

心底面倒だと言わんばかりの低い声を出すが、兎角が気にする様子はない。

兎角「ダメなら、いいけど」

そうあっさりと言いながらも伊介のスカートをくいっと引っ張る。


見上げる視線はまっすぐで、伊介もその視線を正面から受け止めている。

数秒表情を崩さずに見つめ合い、そっと伊介が口を開いた。

伊介「しょうがないわね」

伊介は兎角の手を引いてトイレへと向かった。

春紀はそんな伊介を目で追いながらにやにやと笑っている。

春紀「伊介様が優しい」

伊介「うるっさい。子どもに目くじら立てたってみっともないだけじゃない」

イライラするわけでもなく、伊介は自然体で兎角を連れて洗面所に入って行った。


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とりあえず今日はここまででお願いします。
またよろしくお願いします!

こんばんは!レスありがとうございます!
ちょっとおかしな展開になりますが、ノリだと思って許して下さい。


伊介「あ、こらっ」

びしょびしょの手を振りながら洗面所から飛び出す兎角の襟首を伊介が掴んだ。

伊介「ほら、手拭いて。指みじかっ」

タオルで兎角の手を包み、丁寧に拭いていく。

兎角は相変わらず無表情で伊介をじっと見ている。

何を考えているのかはその表情からは掴み取れなかったが、敵意がないだけでも十分に愛嬌があった。

東のアズマも子どもの頃はそれなりに子どもらしさがあるようだ。


生まれた頃から家族のいなかった鳰にとっては大人も子どもも関係なくて、人の温もりなど求めた事はなかった。

理事長に出会うまでは。

千足「なんか微笑ましいな。お母さんみたいだ」

伊介「殺すぞ♥」

千足の何気ない一言に、伊介はこめかみに青筋を立て、全身から立ち昇る怒りを笑顔で表現した。

何人かは笑いを堪えていたが、思い切り吹き出してしまった春紀が頭をぶっ叩かれたのが視界に入る。

晴「伊介さん羨ましい……!」

伊介「あんたそれ、東じゃなくても引くわよ……」


目をギラギラさせて兎角を見る晴に、春紀を締め上げている伊介が後ずさった。

兎角は晴を見ながら思うところがあったのか、ぱたぱたと軽快な足音を立てて晴へと駆け寄った。

兎角「一ノ瀬」

兎角は晴の顔を見上げて、彼女の手首を握った。

晴「兎角さんっ」

それがよほど嬉しかったのか、だらしのない顔で兎角の目線に屈みこんでにこにこと笑っている。

真昼「あの喜びよう……」

真昼がぼそりと呆れたように呟いたが、表情は柔らかい。


引き気味だった兎角も実際のところは晴に懐いているのだろう。

結局は仲が良いのだとみんなため息交じりで口元を緩めている。

涼「で、争奪戦ってなんじゃ?」

涼が空気を切り替える。

これでやっと本題に入れる。

鳰は周りを見渡し、全員がこちらを見ているのを確認してからニヤリと歯を見せた。


鳰「そのまんまっスよ?深夜0時の時点で兎角さんと手を繋いでいた人が黒組の勝者っス!!」

春紀「予告票は!?」

しえな「一ノ瀬の命は!?」

鳰が大きく拳を振り上げると、春紀としえなが続けて身を乗り出した。

鳰「もうそんな血生臭いの、もう一つの記憶ってやつで十分じゃないっスか」

しえな「いやだからボクそんなのないって」

半眼で鳰を睨むしえなの肩に、愛想のいい笑顔で乙哉がぽんっと手を置いた。


乙哉「しえなちゃん。やり直したって結果はおんなじなんだから大人しく従っておこうよ」

しえな「なんの話だよ!」

乙哉の言葉に激しく反応し、しえなは苛立ちまぎれにベッドをぼすっと叩いた。

そんな騒ぎをよそに、窓際に立つ柩が鳰に向いた。

クマのぬいぐるみをきゅうっと抱きしめ、小首を傾げるその笑顔はまるで天使のようだ。

実年齢よりも幼い顔立ちが辺りの空気を和らげた。


柩「東さんの腕を切り落として持っていれば勝ちって事でいいんですか?」

しえな「桐ヶ谷の発想が怖過ぎる」

香子「血生臭いのはやめようと言ったばかりなのに」

顔に似合わない発言にしえなと香子が顔を青くしている。

鳰「暴力は禁止っス!最近虐待とか色々問題っスから」

涼「わしら暗殺者なんじゃが」

涼の突っ込みは無視して、鳰はテレビの足元にある時計を見る。


18時を回っている事を確認すると鳰はさらに続けた。

鳰「ゲームは現在18時からスタートっス!6時間のうちに兎角さんを好きなように手懐けるといいっスよ!」

12人は冷静な面持ちだった。

ルールには忠実。

目的があるのならばそれも当然の事。

ルールを破れば報酬はない。

最初の裏オリエンテーションの時も彼女達はルールに従っていた。


従わなかったのは兎角くらいだ。

神妙な空気の中、兎角がしえなの正面に立った。

しえな「なんだよ?」

剣呑な空気を出しながら返事をすると、兎角は不機嫌にしえなを睨んだ。

ただし相変わらず迫力はない。

兎角「むー……」

しえな「そういう顔するなよ。ずるいぞ……」


千足「子どもに凄むんじゃない」

困ったようにじっと睨むしえなを千足が軽くたしなめる。

しえな「東は子どもじゃないだろ」

千足「そう思うならそう接すればいい」

目を細め、千足は兎角を見た。

彼女はベッドによじ登り、もぞもぞとしえなに寄っていった。


兎角「よいしょ」

しえな「なんでボクの上に座る」

兎角「ダメか?」

しえな「ダメ……じゃないけど」

兎角はしえなの胸を背もたれにし、膝の上に落ち着いた。

困惑気味のしえなに向けて千足が意地の悪い笑みを向けている。

千足「子ども扱いしないんじゃないのかい」

しえな「やかましい。ほっとけ」


兎角の頭を目の前に、どうしていいか分からずにしえなは諦めのため息をついた。

その様子を真夜と春紀が見つめ、こそこそと何かを相談している。

鳰はそちらへと歩み寄って二人の会話に聞き耳を立てた。

春紀「なぁ、あれ本当に東だと思うか?」

真夜「純恋子の言うようにアズマんとこのちっちゃいやつ連れてきただけなんじゃあねぇのか?」

春紀「……ちょっと試してみるか」

春紀は小声で呟くと、しえなの前に回り込んだ。



正面から兎角を見据えてスッと手を掲げる。

春紀「それっ」

春紀が手刀を振り下ろすと、兎角はそれを目で追い、

——でしっ

しっかりと額で受け止めた。

春紀「あっ」

避けるどころか瞬きもしない兎角に驚いて春紀はチョップを見舞った状態で硬直していた。


兎角「……痛い」

真夜「おい、泣くぞ」

自分は関係ないとばかりに真夜は後ろに下がり、春紀に責任を押し付けた。

春紀はその薄情さにも驚いたようだが、何より兎角の様子に動揺している。

春紀「えっ、マジで!?いや、ごめん!」

前髪をかき上げて兎角の額を撫でる。

そんなに強くは叩いていないから少し赤くなっているくらいで怪我もない

今日はこの辺で失礼いたします!
また明日よろしくお願いします!

こんばんは。いつもありがとうございます。

鳰の3Pなら進めてるんですがロリロリもいいですね。
理事長となんかさせてもいいかなとは思いますけども。


兎角「ほんとに泣くわけないだろ」

春紀「目に涙たまってるけど」

兎角「そんなわけあるか」

ぐしぐしと腕で目をこすり、痕跡を消そうとしているが、もうみんな兎角がじんわりと涙を浮かべていたのを見てしまっている。

香子はそんな兎角の一連の動作を見ながらわずかに口角を上げた。

香子「子どもとはいえ、東の涙が見られるとは」

晴「は、晴はもっと泣いてるところ見た事ありますからね!ベッドの上で!」


変な対抗意識を燃やして晴がソファから背もたれに向けて身を乗り出した。

そんな晴の様子に伊介は口元を引きつらせている。

伊介「あんた達、どんな激しいプレイしてんのよ」

兎角「妙な言い方をするな!犬飼が来た日の事だろ!あれは夢を見ていただけだ!」

半ばひっくり返ったような声で兎角が晴に反論するが、聞いているのかいないのか、晴は嬉しそうに兎角に笑顔を向けている。

しえな「夢で泣くの?意外とセンチメンタルなやつだな」

兎角「そういうんじゃ——!」


真上からのからかいに兎角は振り向きながらしえなを睨み、否定をしようとしたところで横から割り込んできた純恋子に阻まれた。

純恋子「東さん、こういったものはお好きですか?」

春紀「いつの間にか食べ物持ってきてるし」

春紀が純恋子の手元を覗き込む。

手には高級そうな洋菓子。

いつの間にか部屋に戻っていたらしい。

涼「お菓子か?」


純恋子「ええ。フロランタンです。甘くて美味しいですわよ」

自信ありげに涼に返事をすると、純恋子は兎角にそれを差し出した。

涼「最近はハイカラなお菓子があるもんじゃのう。寒天ゼリーや昆布飴なら持っとるんじゃが。あとごんじり」

しえな「なんだそのおばあちゃんちに行ったらありそうなラインナップ」

涼のポケットからポロポロと出てくる昭和臭の漂うお菓子をしえながつまみ上げる。

香子「熱い緑茶がよく合う。玄米茶でもいいな」

香子も加わり、寄り合いが始まってしまったので鳰はまた兎角達に視線を戻した。


兎角は純恋子の持つフロランタンを受け取り、じっと見つめた。

そして不思議そうに首を傾げて顔を上げる。

兎角「こういうの食べた事ない」

純恋子「ではわたくしの部屋へ行きましょう。他にも色々ありますから。お茶も用意致しますわ」

柩「誘拐し始めましたね」

ぽそりと呟く柩の隣で千足が苦笑いをした。

すっかり子ども扱いになっているが兎角の様子を見る限りでは気に障った様子はない。


乙哉「えっ、ほんと?楽しみだなー」

純恋子「武智さんはお誘いしていませんけれど」

にっこりと笑う純恋子の表情は有無を言わせない迫力があった。

しかし乙哉は気分を害したような仕草もなく、にこにこと笑って純恋子と向かい合っている。

乙哉の笑顔は愛嬌があって、奥というほど深くもない部分に恐怖がある。

彼女の正体を知ってしまえば好かれたいなどとは絶対に思わない。

真夜「食べ物を使うってのも手か」

もぎゅもぎゅとフロランタンを口に含む兎角を眺めながら、真夜が独り言のように呟く。


さっきから兎角は食べてばかりいる。

テーブルで肘をついている涼が晴を正面に見据えた。

寄り合いは一段落したらしい。

涼「今のところは一ノ瀬に分が大き過ぎるからのう。どうにかして懐かせんことには」

穏やかな口調のままでもその視線は鋭く、晴はそれを笑顔で受け止める。

これだけの暗殺者を相手に、護衛があんな状態でも少しも不安な様子を見せない。

千足「東、知らない人にはついて行ってはダメだ」

千足が兎角へ近寄り、手を握って言い含めている。


純恋子の邪魔をしようとしているわけではなくて、単純に子どもへの躾をしているだけのようだ。

兎角は無言で頷くとしえなの膝の上からぽんっと飛び降りて目的もなく立ち尽くしていた。

純恋子「知らなくはありませんわ。クラスメイトです」

純恋子は不満げに千足へ言い返す。

鳰「知らなくなくても一番ついて行っちゃいけない部類の人だと思うっス。黒組全員」

周りを見渡すとしえなと目が合った。


兎角の視線に自らの胸を合わせてずいっと身を寄せると、彼女の手を掴んでそこへと押し当てた。

兎角「やわらかい」

春紀「こらこら!!子どもに色仕掛けすんな!」

伊介「ムッツリそうだからこういうの喜ぶかと思って♥」

顔を真っ赤にして怒鳴る春紀を横目に、伊介はからかうように笑った。

そして相変わらず兎角は無表情だった。


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ちょっと短いですが、今日はここまででお願いします。
また明日来ます。よろしくお願いします。

こんばんは。いつもありがとうございます。
ほんとにノリで書いただけなんで、適当に楽しんでもらえたら幸いです。


鳰「春紀さん、すっかり懐かれたっスね」

ソファに座る春紀の膝でくつろぐ兎角を見ながら、鳰は後ろから声をかけた。

隣り合う晴は春紀に羨望の眼差しを送っている。

春紀「あたし子どもに好かれやすいんだよな、なんか」

千足「面倒見が良さそうだからじゃないか」

春紀の横から兎角を覗き込む千足。

その目は優しく、柩と接する時とはまた違った雰囲気があった。


伊介「トイレ連れてったのあたしなのにー」

不満気味にベッドで足を組む伊介が声を上げる。

日付変更時に誰が兎角の手を握っているか。

確かに晴に分があるのだが、今の雰囲気を見ていると油断はできない。

誰もが勝者になりうると言えるほどではなかったが、少しずつ緊張が解けている。

柩「そろそろ食堂へ行きませんか」

柩が千足に並び、全員に呼びかけた。


その声に反応して兎角の頭がぴくりと上がった。

兎角「お腹すいた」

柩「東さんも一緒に行きましょう」

兎角「ん」

兎角が春紀の膝から飛び降りると、柩は兎角に向けて手を差し出した。

兎角は迷う事なくそれを握ると、歩き出す柩の横に寄り添う。


千足もそれに並んで部屋の扉へと向かった。

乙哉「あたし達も行こうよー」

香子「そうだな」

4号室の後ろについて乙哉と香子が歩き出すと、全員がそれにならって部屋を出た。

鳰もそれを追い、最後に部屋を出て、ゆっくりと扉を閉めた。


-------------


寮の廊下を13人が歩く様子は圧巻だった。

人数もそうだが、黒組は目立つ。

制服が違ったり、身長の高い女子が何人かいたり、そして顔立ちの整った人間ばかりが揃っている。

C棟内だけであればそうでもないが、食堂が近づけば黒組以外の人間も数多くいる。

他の生徒に邪魔にならないよう、すれ違う人を避けながら隣り合うクラスメイトと雑談をする姿は鳰から見ても異様であり、馬鹿馬鹿しいと思いながらも微笑ましかった。

その最たるは一番前を歩く4号室で、二人の間には兎角がいる。

柩は兎角の手を握り、まるで姉妹のように仲睦まじく歩いていた。


柩「こうしてると、ぼく達の子どもみたいですね。千足さん?」

真夜「そんなわけねーだろ」

千足「桐ヶ谷とだったら、家族を作って幸せに過ごしていけるかもしれないな」

4号室にもに聞こえるように真夜が後ろから突っ込みを入れているが二人からの反応はない。

春紀「おいおいプロポーズが始まったぞ」

鳰の正面を歩く春紀がため息交じりに呟く。

そのさらに前にいる香子が春紀に振り向いた。


香子「東は全く意に介していないようだが」

言われて兎角を見てみればやはり無表情で、無愛想で、無口のままだった。

しかし、食べ物には執着があるようでその目にはほんの少し輝きが見える。

晴「兎角さんの頭の中は今、カレーでいっぱいです」

鳰「あの人、そんなに食い意地張ってたっスかね……」

困ったように笑う晴に返すと、彼女は苦笑いをして兎角を見た。

嬉しそうに黒組のメンバーを見る晴のやわらかい視線は、兎角へというよりはみんなのまとまった姿に対する穏やかさにも思えた。


-------------


食堂ではまとめて同じテーブルについてそれぞれ向かい合って食事をとっていた。

今まではこんなところで全員がそろう事なんて一度もなかったはずなのに。

鳰はメロンパンを齧りながらその様子を見守る。

柩「はい、あーん」

兎角「んぁ」

柩に言われるまま兎角は口を開き、から揚げを与えられている。

無愛想ながらも食べ物には反応を示し、おいしそうにはしているように見えた。


涼「こっちも食べるか?」

兎角「食べる」

涼には冷奴を器ごと与えられ、小さい手で箸を器用に扱ってもくもくと食べている。

香子「雑食か」

真夜「カレー以外も食べてるぞ」

しえな「そしてすごい食欲」

香子、真夜、しえなが順に言葉を継ぎ、彼女達も兎角に自分の食事を与えている。


伊介「食べさせ過ぎじゃない?」

伊介が心配そうに兎角を見ていた。

もはや報酬がどうこうというよりは、全員が兎角の保護者のようになっている。

伊介が心配しているのはやはりトイレなのだろう。

すっかりお母さんのような目線だがきっとそれを言うと、千足は殺気だけで許されたが鳰が相手では首を絞められるかもしれない。

千足「食べたそばから消化してるのか?」

ほぼ全員から少しずつ食べ物をもらっている姿を見ながら、感心した様子で千足が声を漏らした。


ひな鳥のように餌付けされている兎角の姿は周りからも目立っている。

そもそもこのサイズの子どもは1年生でもそうはいないし、それが10年の——それも黒組と一緒にいるのだから当然の事だった。

兎角「もういい」

満腹になった兎角は隣に座る晴に視線を上げ、目で訴えかけた。

晴は普段と変わらない様子で兎角の口の周りを拭いて、手や服に汚れがない事を確認する。

さすがに大勢がいるところではあまり羽目を外した状態にはならないらしい。

晴「えっへへふ……」


時々含み笑いが漏れているが概ねセーフだろう。

全員が食べ終わると晴は席を立ち、兎角に視線を落とした。

晴「じゃあ部屋戻ろっか」

兎角「ん——、っぎゅ……」

脚の届かない椅子から降りる時に勢いが付きすぎたのか、兎角はその場に座り込んでしまった。

晴「兎角さん、大丈夫!?」

慌てて晴が兎角の身を支え、乙哉は興味ありげに兎角を覗き込む。


乙哉「子どもって頭大きいからバランス悪そうだねー」

兎角が立ち上がろうとすると、突然彼女の体がふわっと浮いた。

真夜「ほらよ。連れてってやるから」

真夜は兎角を抱え上げ、胸元へと抱き寄せた。

始めは目をぱちくりさせてぽかんとしていた兎角だが、すぐにごそごそと居心地悪そうに身をよじった。

兎角「大丈夫だ。下ろせ」

本当に可愛げがないなと鳰は思いながら真夜が怒り出したりしないか見ていたが、彼女は楽しそうに笑っているだけだった。


真夜「いいから気にすんな。小さい子だっこするのは真昼の夢だったんだ」

真夜はいつも真昼の事ばかりで、実の所は比較的常識人だと思えた。

自分を守るために自分の中に生み出した他人。

そんな境界の曖昧な関係でも鳰から見てみれば孤独ではない分救いがある気がした。

恐らくは思いも寄らない想いがあるのだろうから素直に羨む気持ちばかりでもなかったが。

結局兎角は言いくるめられて真夜に抱えられたまま部屋に戻る事になった。

そう歩かないうちに、兎角は真夜の肩に顎を乗せてまどろみ始めていた。


純恋子「眠いの?」

兎角「んーん」

純恋子が子どもにするような優しい手付きで前髪を撫でると、兎角はしぱしぱと瞬きを繰り返して首を振った。

眉をしかめて眠気を誤魔化そうとする仕草がまた胸の奥を揺さぶる。

千足「つい可愛いと思ってしまうな」

千足が柩をちらりと見やる。

柩の顔色を窺う視線。

それに気付いた柩がにこりと笑った。


涼「正常な反応じゃ。心配するな」

前を歩いていた涼が視線を二人に向けた。

幼い子を心配したり可愛がるのはおかしい事ではない。

しかし命を奪う者達がそれを言うのも奇妙な感覚だった。

晴「兎角さん、兎角さん♪」

しえな「あれは異常だけど」

ふわふわと目を細める兎角に貼り付いた晴から、しえなは一歩距離をとった。


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今日はこの辺で失礼します。
もしかしたら少し間が空くかもしれませんが、またよろしくお願いします。

間を空けてしまってすみません。
サクサク続けていこうと思います。
よろしくお願いします。


時間は21時を回った。

千足「あと3時間か……」

涼「あまり現状は変わらんな」

千足と涼がぽつりとこぼすと周りの雑談が止み、1号室は沈黙に包まれた。

しばらく転々としてあちこちで可愛がられていた兎角は、今はベッドに座る乙哉の膝枕に落ち着いている。

こうして見ると誰にでもチャンスはありそうだが、最終的にはきっと晴を選ぶだろう。

今のところ他に決定打の印象はない。


少しずつ焦りの気配が見え始めると、真夜が大きく息を吐いた。

真夜「とりあえず風呂行くか」

考えていても仕方がないとばかりに室内の空気が緩む。

兎角もその雰囲気に気付き、乙哉の膝から頭を上げた。

乙哉「兎角さん、ほっぺが赤くなってるよ」

太ももに押し当てていた部分に跡が残っていて、乙哉はそこを指先で突っついた。

兎角が不機嫌そうに指先を手で押し戻すが、乙哉はさらに面白がって彼女の頬をつつき直す。


純恋子「わたくしは部屋のお風呂を使いますからまた後で来ますわ」

純恋子は早々と部屋へ戻って行った。

鳰「ウチもっスー。兎角さんはどうするっスか?」

今までは周りを警戒して大浴場へ行く事を極力避けていたのだろうが、今回はどういう反応をするのか気になった。

兎角は晴をちらりを見て、口を小さく開いた。

兎角「ここで、晴と入る」

晴「とととかくさん!」


興奮した晴がソファから立ち上がり、鼻息を荒げて兎角を凝視した。

しえな「大丈夫じゃないだろあれ」

真夜「お前すげぇ勇気だな」

しえなは物を示すように晴を指差し、真夜は感心したような呆れたような顔で兎角を見ている。

今の晴と入浴なんて、ライオンの檻に生肉を投げ込むようなものである。

兎角「晴は一人にさせない」

晴「兎角さん……」


こういうところで二人の信頼関係が垣間見える。

結局勝者は晴になるのだろうか。

働き蜂の使命は女王蜂を護る事。

確固たる自分の意志がそこにあるのならそれを見せてみるといい。

乙哉「じゃあまた後で合流だね」

乙哉は兎角の頭をさらっと撫でて立ち上がった。

香子「健闘を祈る」


兎角と晴を交互に見つめ、香子は胸に手を当てて祈る仕草を見せた。

兎角と晴を見れば、

晴「うふふっへ」

兎角「あの、やっぱり、ひ、一人で入る……」

働き蜂は早速女王蜂から逃げ出そうとしている。

とりあえず鳰には、頑張れ、と心の中で応援する事くらいしか出来ない。

晴「ダメだよ?お風呂での事故って結構多いんだから」

春紀「お前が事件起こしそうだけどな」

満面の笑顔で兎角を抱き寄せる晴に春紀は真顔で忠告をした。

抱き締められる兎角の目は不安に揺れ、全員が祈りを捧げながら部屋を出た。


------------


一時間後、三たび全員が揃う。

兎角はベッドに寝そべって頬を紅潮させ、力が抜けたように目を細めていた。

兎角「んー……」

しえな「なんでぐったりしてんの」

しえなが兎角を見下ろしていると、先に到着していた純恋子がその後ろに立った。

純恋子「お湯の温度が高過ぎたってお話ですけれど」

春紀「本当かよ。晴ちゃんめちゃくちゃ上機嫌じゃねーか」

春紀は自分のベッドに座る晴を半眼で見ていた。


晴「かわいかったぁ、兎角さん、ほんとにかわいかったぁ」

鳰「あんまり聞かない方がいいっスね」

晴は手をにぎにぎと蠢かせて宙に視線を漂わせている。

後で監視カメラで録画された内容を確認してみようと思う。

悦に入る晴から距離を取り、鳰は兎角を覗き込んだ。

その気配に気付いた兎角はうっすらと目を開いて鳰を見つめ返す。


東のアズマ。

因縁というほど思い入れはなかったが、こんな暗殺もした事のない人間と並べられるのは不愉快だった。

彼女の目はまだ綺麗で、澄んだ水のように透き通っている。

真っ直ぐな心が表れているようでわずかに胸が苦しくなった。

一度濁った心は、そこへは戻れない。

横たわるその手に触れ、同じ人間としてのぬくもりを感じる。

鳰「ちっさ……」


見下すようにぽそりと呟くと、兎角が鳰の手をきゅっと掴んだ。

鳰「!」

熱くて火傷するんじゃないかと錯覚する。

声が溢れそうだった。

正負の感情も分からないまま立ち尽くしていると、後ろから千足が身を乗り出してきた。

千足「東。水分を摂ろうな」

手には定番のスポーツドリンクが握られている。

のぼせた兎角の為に用意したらしかった。


見下すようにぽそりと呟くと、兎角が鳰の手をきゅっと掴んだ。

鳰「!」

熱くて火傷するんじゃないかと錯覚する。

声が溢れそうだった。

正負の感情も分からないまま立ち尽くしていると、後ろから千足が身を乗り出してきた。

千足「東。水分を摂ろうな」

手には定番のスポーツドリンクが握られている。

のぼせた兎角の為に用意したらしかった。


兎角「んー……ぃらなぃ……」

柩「ダメですよ。お風呂でも汗をかいていますから」

消え入るような声で返事をする兎角に、柩が強めの口調で諌める。

仕方なく起き上がる兎角。

小さな手が鳰からするりと離れていく。

安心したような、残念なような、微妙な感覚が入り混じった瞬間があった事に戸惑いを感じた。


兎角「ん」

春紀「だんだん態度が幼くなってねーか?」

スポーツドリンクを受け取って兎角が飲み始めると、口の端から零れたそれを春紀がタオルで拭い取った。

兎角は一旦飲むのをやめて視線を上げ、拭いてくれと言わんばかりに春紀を見上げている。

それを当然のように春紀は口周りを丁寧に拭いた。

家族の面倒を見る時の春紀はこんな感じだろうかと鳰はふと思った。

しえな「大丈夫なの?」

鳰「ちゃんと戻るから大丈夫っスよ。今日だけっス」

疑いのまなざしを向けてくるしえなに返す。


春紀は兎角の口を綺麗にすると、タオルを持って洗面所に向かった。

その途中に伊介が春紀に声をかける。

伊介「あのままでもいいんじゃない?不愉快にならなくて済むし♥」

春紀「素直に可愛いって言えばいいのに」

伊介「殴るわよ♥」

そう言った直後には春紀の背中に拳をぶち込んでいた。

春紀「いだっ。……殴ったじゃん」

伊介「だから先に言ったでしょ、殴るって♥」

半眼で不満を訴える春紀に満面の笑みを返す伊介。


しかし春紀は怒っているわけではなさそうで、ため息をつくと洗面所に入って行った。

こんなわがままを許してくれるのは春紀だけなんじゃないかと思う。

涼「残り1時間54分。どう手懐けるかの……」

涼は時計を見ながら残り時間を数えていた。

ベッドの上に座る兎角に向けられた視線。

この人数の注目を受け止めて、兎角は無表情で佇んでいる。

大きさがどうであれ、やはり兎角は兎角なのだから、不思議な事ではない。


暗殺経験がなくても兎角はやはり侮れない。

晴「ねぇ兎角さん?」

兎角「ひっ……」

兎角の無表情は晴の一声で崩れた。

大きく後ずさり、眉根を寄せて身震いしている。

真夜「怯えてんじゃねぇか。お前ほんとになにしたんだよ」

兎角はベッドを降りると、脇に立った真夜の後ろを通り過ぎ、洗面所横に寄り掛かる伊介を盾にして背後へ立った。


伊介「なんで伊介の後ろなのよー?」

兎角「だめ?」

伊介「そう言われると困るけど……」

見上げる兎角の視線は伊介を捉え、彼女に戸惑いを与える。

あの瞳と子どもの無邪気さを合わせると破壊力が大きく増すようだ。

伊介「あら?あんたまだ髪の毛濡れてるじゃない」

伊介は洗面所に兎角を連れて入り、開け放たれた扉の向こうで彼女の頭をタオルで包んだ。


ぐしぐしと頭をこすると、雑な動きが嫌なのか、苦しげに伊介の服の裾をぎゅっと掴んだ。

兎角「んー……」

伊介「ほら、動くな」

ドライヤーの音が聞こえ始め、さらさらとした細い髪が風で舞い上がる様子が見える。

ほんの五分ほどでその音は止み、兎角が出てきた。

春紀がニヤニヤと伊介を見ているとやはり肩の辺りをぶっ叩かれていた。

叩かれるのを分かってやっているとしか思えない。


ただ仲は良いように思う。

きっと伊介は初日に鳰の一人部屋を羨んでいた事なんてもう覚えていないだろう。

兎角は周りをキョロキョロと見回し、何を思ったのかしえなと乙哉の立つ間に割り込んだ。

乙哉は兎角の頭を撫でているが、しえなは半歩ほど兎角から距離を取った。

乙哉「しえなちゃんなんで引き気味なの?」

しえな「ボクは子どもが苦手なんだよ。どうしていいかわからん」


眉をひそめて顔を引きつらせるしえなを兎角が不思議そうに見上げている。

兎角の行動の方が不思議でならなかったがそんな感覚にもそろそろ慣れてきた。

きっと兎角は何も考えていないのだ。

記憶はともかく、思考や考え方は退行してしまっているのかもしれない。

しえな「いやかわいいとは思うけどさぁ……」

伊介「東さん。しえなちゃんをからかってみなさいよ♥」

しえな「余計な事を言うな!」


伊介の言う事に乗ったわけではないだろうが、兎角はしえなに向けて手を差し出している。

兎角「手、握って」

しえな「あ、ああ。しかし小さい手だな」

ばっと指先まで力を入れて開かれた手のひらを、恐る恐る握る。

兎角は繋がった二つの手をじっと見つめ、またしえなを見上げた。

兎角「剣持の手、冷たい」

しえな「冷たいんじゃない。東の手があったかいんだ」


のぼせていたのだから当然だろう。

そうでなくても子どもの体温は高い。

しえな「もしかして眠いのか?」

人体は眠るために手足から体温を放出する。

しえなが温もった手を両手で包むと、兎角はぼーっとした様子で瞬きを繰り返した。

兎角「んーん」

しえな「眠いんだな。ベッドに行こう、東」


首を振る兎角の目は閉じかけていて、無理をしている事は明らかだった。

しえなは兎角の手を引いたが、彼女は動こうとしない。

兎角「いやだ」

きっぱりと言い切って兎角はふるふると頭を振る。

少し考えてふと気が付いたようにしえなは「あー……」と呻いた。

しえな「大丈夫だって。腕を切り落としたりはしない」

そう告げると兎角の眉がぴくんと上がった。


柩の言葉を不安に思っていたらしい。

兎角「本当か?」

しえな「ああ」

兎角「でもやっぱりまだ起きてる」

しえな「そうか?無理するなよ」

兎角「ん」

兎角はしえなの手を離し、どこへともなくちょろちょろ歩き始める。


その様子を眺めていた真夜と香子が顔を見合わせた。

真夜「この勝負、意味あんのかぁ?」

香子「どう考えても一ノ瀬が有利だな」

晴はベッドを降りて兎角を一瞥し、その気配に気付いた兎角はさりげなく晴から離れていった。

晴「でも兎角さん、晴にあまり懐いてくれませんけどぉ」

しえな「行いが悪いからに決まってるだろ」

拗ねて口を尖らせる晴にしえなは冷たく言い放ち、大きくため息をつきながら腕を組んだ。

今日はそろそろ失礼します。
また明日来ますのでよろしくお願いします。

なんて恐れ多い…。本当にありがとうございます。
pixivやツイッターで公開されてるなら私も見ているかもしれません。
ぜひ楽しんで書いてください。

犬に伝えておきます!気にしてくれる方がいると知れば犬も喜びます。

それでは今日もよろしく願いします。


そこへ千足と柩が入り込む。

千足「しかし東だってこの勝負のルールは分かってるんだから最終的には一ノ瀬の手を取るだろう」

柩「強引にさらう以外にぼく達が勝つ可能性はないって事ですよね」

真夜「そういうの趣味じゃねぇんだがなぁ」

子どもに無理矢理手をかけるのは、過去を思い出すのかもしれない。

真夜が眉を下げながら兎角を見ると、雰囲気が伝わったのか今度は焦る様子を見せた。

兎角「ぇっ……」


ピタリと足を止めて兎角は注目の的になっている事に気付いて全員の顔を見渡した。

涼「ふふ。怯えとるのぅ」

春紀「かわいそうだけど、こっちも生活かかってるからな。殺すわけじゃないんだし多少強引でも仕方ない」

面白そうに兎角を見る涼とは反対に、春紀は心苦しそうに目を細めている。

兎角を相手にして軽い体当たりでなんとかなるとは思っていないだろう。

間違いなく死闘になる。

純恋子「あら?東さん、どうしたんですの」


つまらなそうにソファに座って室内を見ていた純恋子を兎角が正面から見据えた。

兎角「みんなこっち見てる」

純恋子「まぁそうでしょうね。東さんが鍵ですから」

兎角「英は?」

純恋子「わたくしはどちらでも構いませんわ。皆さんとは目的が違いますし」

伊介「お菓子で吊ろうとしてたくせに♥」

にこやかな伊介の突っ込みは完全に無視して、純恋子は兎角に微笑みを返した。


純恋子「座ります?」

兎角「ん」

返事をすると兎角は純恋子の膝の上によじ登った。

純恋子「いえ、隣に……」

兎角「ん?」

くるっと首だけを純恋子に向けて回し、目をぱちくりさせる。

膝に乗る行為にすっかり慣れてしまったようだ。

純恋子「まぁいいですわ」

兎角「ん」


純恋子が諦めると、やはり兎角は彼女の胸を背もたれにくつろぎ始めた。

そこへ純恋子が手のひらを上に向けて、兎角の胸の前に差し出した。

純恋子「お手」

兎角「んっ」

ぽんっと即座に手を置かれた事は純恋子にも意外だったようだ。

しかしすぐに微笑んで兎角を見る。

涼がその様子を見ながらくすくすと笑っている。


涼「犬みたいじゃなぁ」

香子「しかしちゃんと手を握ってるな」

この手が使えるかと考えているのか、香子は口元に手を当てて押し黙った。

乙哉「新しい飼い主?」

乙哉が飼い主——晴を見てにっこりと愛嬌のある笑みを向けるが彼女はきょとんとしている。

飼い主ではなく女王蜂だと言ってやろうかと、鳰は冗談交じりに考えながら口角を上げた。


春紀「あ、寝そう」

真夜「おいおい。このまま寝たら純恋子が勝者に……」

春紀と真夜が二人の様子を覗き込んで焦りを見せた。

その言葉に残りのメンバーも兎角達が見える場所へと固まる。

まだまぶたは開かれていたが、兎角は頭を純恋子の肩口に預けていて、目を閉じればすぐに眠ってしまいそうだった。

純恋子「東さんがわたくしを選ぶなら、そこにはわたくしが勝者になる価値はありますわね」

兎角「……どういう意味だ?」


しっかりと目を開き、しかし頭は純恋子に寄り添ったまま兎角は尋ねた。

そんな兎角に対して純恋子は鋭く光る目を細めて声を低く抑え、

純恋子「女王にふさわしいのはわたくし」

伊介「やだぁ♥清楚なふりしてSMなんてー」

伊介の茶々で純恋子の表情が一気に崩れた。

純恋子「ち、違いますわ!」

大きく動揺し、純恋子は頬を赤らめて体を起こした。


兎角「あだっ」

千足「落ちた」

膝からずるっと兎角が落ちるが、あまりに綺麗に落ちていくものだから千足は比較的冷静にそれを眺めていた。

しかし頭から落ちたようで結構イイ音がしていたようにも思う。

純恋子「あ、東さん!?」

兎角「びっくりしただけだ」

慌てて純恋子が抱き起こしにかかるが、兎角は冷静に言葉を返す。


近くにいた柩も手を貸し、ぶつけたと思われるこめかみ辺りを優しく撫でた。

柩「ぼろっぼろに泣いてますけど……」

兎角「泣いてない」

目をぐしぐしと腕で拭いているが、しばらくは止まりそうにはない。

強がる兎角に熱い視線を送っているのは晴だ。

わざわざ移動して兎角達の様子を覗き込んでいるくせに慰めに入る気配もない。

晴「はぁ……泣いてる顔もそそりますね……」

春紀「晴ちゃん。東、そろそろ本気で逃げるよ」


晴の熱も春紀の忠告も兎角に耳には入っていなかったようで、涙が止まると彼女はまたフラフラと動き出した。

乙哉「次は誰の所に行くかなー」

乙哉の目が鋭く光る。

残り時間は1時間強。

今の1号室は、目的を持つ暗殺者の視線が飛び交う空間。

兎角「ぅー……」

クローゼットの前で兎角は眉間に皺を寄せて呻くと、くるりと体の向きを変えて全員に背中を向けた。


そして力強く一歩を踏み出す。

真夜「あ、逃げやがった!!」

真夜が叫んだ。

駆け出してから扉を開くまでの動作に無駄はなく、兎角はあっという間に廊下へ飛び出していった。

しえなと春紀がいち早く外に出る。

しえな「小さいくせに足はやっ!」

春紀「でも子どもの足だ。すぐに追いつける!」


一気にスピードを上げ、廊下の端に着く前に兎角へ追いつき、春紀は兎角の背中に手を伸ばした。

兎角「っ!」

しかし兎角は急ブレーキをかけて春紀の足元に滑り込んだ。

それにつまずき、春紀は盛大にバランスを崩す。

春紀「うわわっ、あぶ……っ」

なんとか足を踏ん張って転ばないようにしているが、そこへスピードに乗った残りのメンバーが押し寄せ、勢いのままに春紀へぶつかった。

春紀の上に香子と涼が覆い被さり、他のメンバーの通行を遮る。


鳰「ちょ、春紀さん邪魔っス!!」

真夜「鳰どけっ!」

真夜に怒鳴られて空いている廊下の隙間へ身を乗り出した時にキラリと銀色に光るものが視界に入った。

それがナイフだと瞬時に認識して、背中にぞわっと冷たいものが走る。

鳰「のぉうわっ!」

身を引いてなんとかそれは避けられたが、もう半歩身を乗り出していたら体に穴が開くところだった。

伊介「あいつ、あの大きさで完全に暗殺者じゃない!」


廊下の曲がり角の先へ軽快に走っていく姿を見送り、伊介が苛立ちを露わにした。

香子「爆弾を投げ込む!」

春紀の上に寝たまま、香子は爆弾を取り出した。

春紀「やめろ!バックファイアでこっちが死ぬだろ!」

香子「安心しろ。威力は大きくない」

慌てる春紀を押さえつけ窮屈な姿勢で振りかぶると、真上に被さった涼が「ひっ……」と小さく悲鳴を上げた。

涼「香子ちゃん!それは催涙弾じゃ!」


春紀「うわマジかやめろバカ!!」

なんとか涼の指摘で投げ込まれるのは回避出来たが、鳰が廊下の角まで見に行っても当然兎角の姿はもうなかった。

メンバーに向けて首を振ると、彼女達は大きくため息をついた。

春紀「あー……逃げられたか」

香子「手分けして探すしかない」

涼「見つけた者が勝者って事じゃな」

春紀、香子、涼はそれぞれ重なったまま低い声で呻いた。


------------


寮の周りを歩き回り、植え込みの間や物陰を探しているが兎角の気配は全くない。

12人は数人ずつでまとまり、手分けして寮周辺、通学路なども捜索している。

しかし兎角が見つかったという連絡は鳰の元へは入っていない。

今、鳰は3号室と5号室と行動していた。

鳰「いないっスねー」

鳰が疲れた声を出すと、植え込みの方からしえながこちらへ向いた。


しえな「こんな暗い所であんなちっさいの見つけるの無理じゃない?」

香子「遠くへはまだ行っていないはずだ。やるだけやってみるしかない」

建物の周りを見て回っていた香子が戻ってきたが収穫はないようだ。

鳰「最近この辺りで不審者出てるらしいっスけど、兎角さん大丈夫っスかね」

涼「あの動きを見たじゃろう。大人だろうが変態だろうが自分で撃退すると思うがのう」

しえな「なによりボクらが一番の不審者なんだけどな」


捜索と言いながら目的は保護ではなく捕獲である。

暗殺者である事を除いても、12人の女生徒が緊迫した雰囲気で寮の周りを徘徊している光景は異様だった。

香子「しかし今の東は黒組を警戒するあまり、恐らくそれ以外への警戒心が薄い。誘拐は難しくないかもしれない」

乙哉「そもそもなんで学園に変態が入り込むのさー。ありえないでしょ」

しえなの近くの植え込みから乙哉が顔を出す。

その発言にしえなが半眼で反応した。


しえな「それ一番言っちゃいけない人間だろ、お前」

しえなもそうだが、ここにいる全員が乙哉の正体を知っているようだった。

鳰「……なんか無性に心配になってきたっス」

しえな「ボクもだ」

鳰はしえなと顔を見合わせて深く息を吐き出した。


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今日はこの辺で失礼します。
犬の散歩行ってきます。
また明日お願いします!

こんばんは。
新しいスレをチェックするようにしておきますね。楽しみです。
もう少しネタはあるのでまた新しいのも考えていきたいと思います。
6月にはオンリーあるし、まだ需要はありそうなので続けていきたいです。
ありがとうございます!


鳰「兎角さーん、どこっスかー。鳰っスよー」

雑に声を張り上げながら歩き回っていると、先の方で騒がしい物音と人の声が聞こえた。

兎角に関係することだろうかと足早に現地へ向かうと、そこにいたのは2号室と、見覚えのない男。

鳰「伊介さん、何やってるっスか」

男の背中を踏み付ける姿は完全に何かのプレイだった。

伊介「いきなりあいつに飛びかかってきたから成敗したのよ」

口調が完全にキレている。


伊介の視線に先にいる春紀は怯えた様子で苦笑して手をひらひらと振っている。

何か怖いものを見たらしい。

恐らくはこの男ではなく、それを成敗した伊介の何か。

鳰「しっかし、この辺りにはか弱そうな女の子があちこち歩き回ってるのに、なんでよりにもよってガタイのいい姉ちゃん狙ったんスかね」

春紀「確かにそうだけど失礼だろオイ」

伊介「好みの問題なんでしょ。うちの相方に何しやがるこのどクズ♥」

ぐりぐりとヒールを背中に押し付けても全く反応がない。


気を失っているようだから兎角の情報は聞けそうにはなかった。

鳰「ていうか、これ生きてるんスか?」

伊介「殺さないわよ、仕事でもないのに。一応東の事は聞いてみたけど、小さい子なんて見てないって言ってたわよ」

鳰「そっスか。そいつは学園で処理するっスから放置してください」

鳰は今の進捗を伝え、何か兎角の居場所に思い当たるものがないかを確認した。

春紀「あいつが行きそうなところなんてあるか?ここへ来て間もないし、毎日晴ちゃんの近くに張り付いてるんだから一人になる時間なんてほとんどないだろ」


特別兎角の事を知っているのは晴以外には皆無だ。

その晴にも聞いてみたが、やはり思い当たるところはなかった。

好きな場所や趣味があるわけでもない兎角の行動なんて分かるはずもない。

晴が襲われた時に逃げ込めそうな場所なども考えたが、本校舎や特別教室棟はこの時間は立ち入り不可だ。

今の兎角の行動範囲を特定して探しているがまだ進展はない。

伊介は兎角に全く興味がないのか考える様子もなく欠伸を噛み殺していた。


伊介「一番知ってる場所って話なら、まぁ、寮よね」

とりあえず何か言っておけばいいといっためんどくさげな態度だったが、そのおかげで一つの可能性を思い付く。

春紀「寮じゃ見つかった時に逃げられないからそれはないだろって話してたじゃん。食堂は閉まってるし、浴場と地下室はもう見ただろ。あとはどこが残ってるんだよ」

鳰「小さい体っスからどこかに隠れててやり過ごされたのかもしんないっス」

伊介「鬱陶しい♥話しててもしょうがないからさっさと見に行くわよ♥」


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鳰が金星寮に到着すると晴が玄関から入っていくのが見えた。

彼女も同じ事を考えたようだ。

1号室に向かい、鳰達は晴を追った。

晴「兎角!?」

黒組の部屋がある廊下へ着くと、晴の悲鳴のような声が聞こえた。

それと同時に晴は走り出し、鳰はその先を目で追う。

廊下の隅で兎角がうずくまっているのが見えた。


すぐに晴が兎角を抱き起こし、鳰もそのそばへと走り寄った。

服に所々埃が付着している。

やはりどこかへ隠れていたのかもしれない。

兎角「んぅー……」

鳰「熱があるっス」

頬を赤く染め、苦しげに呻く兎角の額に手を置くと彼女がすうっとわずかに目を開いた。

意識はあるようだ。


寮内に留まったのは隠れていただけではなく、寮から出る体力すらももう兎角には残っていなかったのだろう。

そうでなければきっと外で見つかっていたはずだ。

伊介「結構振り回したものね~」

晴の横にしゃがみ込み、伊介と春紀も兎角の様子を窺う。

慣れた手付きで春紀が兎角の体を診た後、彼女を抱きかかえた。

春紀「大丈夫だよ。疲れだろうから部屋に連れて行こう」


慣れない体で動きすぎたのが原因だろう。

鳰「ウチはみんなに連絡するっスから後で1号室に行くっス」

鳰は春紀達の背中を見送り、携帯電話を取り出した。

鳰「ウチ、なにやってるんスかね……」

なぜこんなに兎角を心配するのか自分でも分からず、苛立ちが募る中無理に笑顔を作り、おどけた態度で連絡を続けた。

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兎角はベッドに横たわって苦しげに胸を上下させているが、完全には目を閉じようとはしない。

春紀「お前もう寝とけって」

春紀が叱るように強めの口調で言い聞かせているが兎角は首を振った。

兎角「んーん……」

消え入りそうな声でボソボソと何かを喋っているが、すぐ隣にいる晴が口元まで耳を寄せてやっと聞き取れている状態だ。

晴「0時になってないから起きてるって」

鳰は時計を見た。


23時48分。

あと12分で勝者が決まる。

春紀「でももう晴ちゃんで決まりだろ。この状態の東を奪い合うわけにも行かないし」

伊介「こっちは報酬かかってんのよ。たかだか熱で……」

春紀「じゃあ伊介様やる?」

伊介「やんないわよ」

結局どうしたいのかと突っ込みを入れたいところだが、兎角の姿形が伊介を含め、黒組の心を惑わせているのも分かっている。


それに兎角が逃げ出した時に、見つけた人が勝者だと考えていたせいもあって、晴が最初に見つけた時点で諦めも付いているのだろう。

千足「もうそろそろ時間だな」

千足が時計を視線で指すと兎角が上半身を起こした。

兎角「んっ」

晴「兎角さん、ダメだよ」

晴の制止も聞かず、兎角はベッドを降りてしえなにフラフラと歩み寄った。

今日はこのあたりで失礼します!
だらだらと長くなってしまって申し訳ないです。
金曜日からちょっと出かけますので、次に戻るのは日曜か月曜日の夜になると思います。
また来週、よろしくお願い致します!!

すみません。戻りました。

皆様、優しいコメントをありがとうございます。元気が出ました。
厳しいコメントをくださった方も甘えた気持ちにならずにすみましたので、ありがとうございました。
うちの子を想ってくれる方がいらっしゃると思うと本当に嬉しいです。
私は毎日、犬と真剣に向き合ってきましたので後悔はありません。
皆様も大切な人や物があると思いますので、これからもどうか大事になさってください。

駄文を待って頂いて大変恐縮です。
最後まで必ずやりますので、お付き合い頂けますと幸いです。


指先まで力を入れて左の手のひらを、ばっと開いて差し出す。

兎角「んー」

しえな「え、なに?」

兎角「手」

しえな「手?繋ぐの?ボクと?」

兎角が頷くと室内が騒然とした。

春紀「マジか!?なんで剣持!?」


しえな「ボク自身不思議だよ!」

半ば怒りを含んだような春紀の叫び声に、しえなも裏返りかけた声で叫び返す。

しえなが少しも引く様子のない兎角の手を取ると、兎角は満足そうに頷いた。

そして次に乙哉へと視線を送る。

兎角「そっち武智」

乙哉「え?しえなちゃんの手?」

意図が理解できず言われるまま乙哉はしえなの左手を握った。


兎角「向こう首藤。次、神長」

乙哉達にならって涼と香子も指示通りに手を繋いでいく。

香子「どういう事だ?」

涼「なんじゃ、楽しいのう」

何かのパーティのようで、重苦しい雰囲気は消えつつあった。


兎角「番場、英、桐ヶ谷、生田目」

真夜「なんかよく分かんねぇけど」

純恋子「一体なんですの?」

柩「とりあえず言う通りにしてみましょう」

千足「なんか不思議な光景だな」

兎角「犬飼、寒河江」

伊介「なにこれキモい♥」

春紀「なんかこういうの小学校以来だな」


兎角「はる」

最後に晴の名を呼んで、春紀と手を繋がせた後に自分の手を差し出す。

晴「輪になっちゃったけど……」

場所が取れずにソファを囲むような形で12人は向かい合った。

お互いに顔を見合わせ、戸惑いを見せながらなんとなく口を開けないでいる。

全員が兎角に視線を集めた時、鳰がセットした0時を告げるアラームが携帯電話から鳴り出した。

鳰「あ、0時になったっス」


兎角は顔を上げ、

兎角「全員、勝ちだ」

全員を見渡しながら幼く高い声でそう告げた。

鳰「はぁぁあああ!?何言ってるっスかー!!」

春紀「鳰がキレたぞ」

しえな「まぁこれ怪しいよな」

春紀は背中越しに鳰を見て冷静に呟き、それにしえなが全体を見渡しながらため息まじりに反応した。


鳰「なんでウチも入れてくれないっスか!!」

真夜「そこじゃねぇだろ」

春紀「お前裁定者だろうが。勝ち負け関係ねーからだよ」

鳰が足をバタバタと踏みしだくと思い切り呆れた顔で真夜と春紀がこちらを見ていたが、構わず輪の間へと突撃する。

鳰「ウチもウチもー!」

純恋子「鳰さん、よりにもよってどうして東さんと一ノ瀬さんの間に入ろうとするのかしら」

乙哉「晴っちはともかく、兎角さんは絶対離す気ないよね」


柩「ぼく達の間もダメですよね、千足さん?」

千足「そうだな、桐ヶ谷。繋いだその手は離さない」

鳰「んぎゅー!ウ・チ・もぉー……!」

兎角「ぐ……」

晴「兎角さん、いたいいたいいたいです……っ」

子どもとは思えない握力で兎角は晴の左手を離さない。

晴の指先が真っ赤に充血しているが兎角が力を緩める様子はない。


兎角「お前の方がお風呂でもっと痛い事した」

しえな「やめろ。なにしたか分かんないけど、なんだか気まずいだろうが」

しえなの顔が若干赤い。

何を想像しているのだろうか。

そんな事より兎角と晴の手を引き剥がすので必死な鳰にはあまり関係はなかった。

乙哉「い、痛いのが好きならあたしが——!!」

唐突に狂乱した乙哉が身を乗り出してくる。


兎角がびくっと体を震わせたが手はやはり離さなかった。

乙哉がそのまま体を突っ込ませてくるかと思いきや、左右でしえなと涼がしっかりと手を繋ぎ止めている。

しえな「黙れド変態が!武智の手、絶対離すなよ!」

涼「今から血生臭いのは勘弁じゃからのう」

必死で手に力を込めるしえなとは逆に、涼は平然とした顔で乙哉の手を握り締めていた。

運動好きというのは伊達ではないようだ。

晴「鳰。こっちならいいよ」


春紀「しょーがねーなぁ。ほら」

晴と春紀が繋いだ手を離して、こちらへ向けてひらひらと振っている。

鳰「晴!春紀さん!」

鳰は即座にそこへ飛び込み、13人目として輪の中に入り込んだ。

真夜「あの嬉しそうな顔。なんだあいつ、裁定者だろ」

真夜がなにやら呆れているが鳰はあえて無視をした。

ただでさえ一人部屋で寂しい思いをしているのにこんな事でも仲間外れにされてはたまったものではない。

今日はこの辺で失礼します!

犬と真剣にってのは、ちょっとアホみたいなんで言い訳させて貰うと、うちの犬病気で去年の5月から毎月数万の治療費がかかってたんですよ。
結構それが大変で、治らない病気だし諦めようかと何度も考えたりもしたんで、そういう意味です。
諦めずにやれる事はやったんでもう犬の事は大丈夫です。

では!犬の散歩行って寝ます!
今日もお付き合い頂きましてありがとうございました!明日またよろしくお願いします!!

こんばんは。すみませんなんかもう、こんなんで…。
楽しみに待って下さる方がいると思うと嬉しくてしょうがないです。

本日もよろしくお願いします。


裁定者だってみんなで行動する時くらい間に入りたい。

楽しい方に入りたいのは当たり前の反応だ。

乙哉「で、どうすんのこれ」

拗ね気味に落ち着いた乙哉が不機嫌に呟く。

結局二人が手を離さなかったので乙哉も疲れたのだろう。

変態の瞬発力には呆れを通り越して感心すら出来た。

春紀「全員分願い叶えてくれるんだよな」


繋いだ手をくいっと上げながら春紀が笑う。

煽るような、からかうような言い方だった。

鳰「何をバカな。みんなの願い叶えたら何億お金がかかると思ってるっスか」

香子「だろうな」

香子がため息をついたが、肩を落としているわけではなかった。

周りを見てもみんな同じような反応で報酬に固執した様子は見られなかった。

春紀「じゃ、剣持と晴ちゃんが勝者?」


鳰「そうなるっスねー」

兎角とその左右に立つ二人を春紀が覗き込み、鳰はそれに返した。

晴としえなの顔を見てみると、あまり喜んでいるようには見えない。

実感が湧かないのだろうか。

特にしえなは浮かない顔をしている。

乙哉「どしたの、しえなちゃん。嬉しくないの?」

しえな「いや、ボクは勝者と言えるほど何もしていないし、望む報酬もその理由も胸を張れるものではないから……」


乙哉「ふーん……。ルールはルールなんだし別にそんな事考えなくていいと思うけどなー。暗殺に誇れる理由なんて求めないよ」

身勝手そうな言い分だが乙哉の言う通りだろう。

奥で千足が眉をひそめた。

彼女のように正義を掲げる事を否定するわけではないが、どんな理由があれ人を殺す事は間違っている。

暗殺をするという事実の罪に理由をかぶせるだけだ。

それを分かった上で裁定者をやっているのだから鳰はどこまでも性格が悪いと自覚していた。

人の闇を見て、光を潰していく。


それを楽しいと思う反面、どこか虚しい。

しかしそれを認めたら鳰は腐った海から上がりたくなってしまう。

ならばいつも笑っているしかない。

だから、性格が悪いままでよかった。

そう思っていたのに。

晴「晴の願いは『みんなの願いを叶えて欲しい』です」

こうやって光り続ける者もいるから厄介だった。


そしてその隣で光の燃料を焚き続ける者もいるからなおのこと面倒だった。

兎角の瞳を思い出して、鳰はふっと浅くため息をついた。

鳰「理事長に相談してみるっス。ウチももう血みどろはイヤっス」

なぜか胸の奥がズキズキと痛む。

心の痛みというよりは、ナイフで胸の真ん中を深く刺されたような気分。

そんな時に兎角の顔をみるとなぜかとんでもなく不愉快になった。

香子「結局東はどうなるんだ?」


純恋子「勝手に戻るんですの?」

香子と純恋子に声をかけられて、ふと我にかえると痛みが止んだ。

鳰「いえ。うめ——」

二人を見て言葉を返そうとすると突然兎角が手を離して走り出した。

柩「また逃げます」

柩は冷静に兎角の動きを目で追い、自分の近くに来た時にぐいっと奥襟を掴んで引き止めた。

これをきっかけに全員の手が解ける。

すいません。そろそろ犬の散歩に行ってきます。
今日はちょっと短いですが、明日は長めに書けると思いますのでよろしくお願いします。

こんばんは。
長めにとか言いながら帰るのが遅くなりまして、寝落ちるまでは頑張ってみようと思います。

なんか頭のおかしな人だと思われている気がしますけども……。
うちの犬、全部で3匹いたんです。
今は嫁と娘が残ってます。


しえな「なんで逃げたの!?」

誰に問いかけるわけでもなく、しえなはそう言い放つと兎角に駆け寄った。

鳰「梅干し食べれば戻るって最初に言ってあるっス」

しえな「そんな事で戻るわけ!?」

兎角はしえなと鳰のやり取りに反応して眉間に皺を寄せ、口をぐっとへの字に曲げた。

春紀「おい東さっさと梅干し食えよ!」

呆れた春紀が兎角に詰め寄るが、兎角は唇を尖らせてそっぽを向いた。


兎角「やだ」

柩「梅干しが嫌いなんですか?」

兎角「別に」

柩の問いには今まで以上に無愛想に返す。

春紀「じゃあ食え!」

兎角「やだ!」

春紀「やっぱ嫌いなんじゃねーか!」

頑なに否定する兎角の頭を春紀が片手で掴んでぐりぐりと圧迫するが兎角の態度は変わらない。


乙哉「もういいんじゃないの?このままで」

千足「いやそういうわけには……」

乙哉がめんどくさげに呟き、千足がひらひらと手を振った。

晴「春紀さん、晴が育ててあげるから大丈夫ですよ」

春紀「大丈夫じゃないって。せっかく唯一ひなたの子なのに変態の道に走らせるのはちょっと……」

柩「東さん、一ノ瀬さんが困っていますよ」

奥襟を掴んでいた柩が手を離して兎角の目線にしゃがみ込む。


そっぽを向いていた兎角が柩と視線を合わせた。

上から二人の様子を眺め、晴は真剣な表情で呟いた。

晴「困っていませんけど」

春紀「将来を憂いてんだよ」

晴はともかく春紀の心配を聞きながら兎角は拗ねた表情を崩して小さく口を開いた。

兎角「晴が困るなら……」

春紀「うっわかわいい。これがあの生意気な東に戻っちゃうのかよ」


鳰「春紀さん、自分で言ったんスよ。梅干し食えって」

気が抜けたのか、突然兎角の目がまどろんできた。

兎角「んー……」

しえな「お前ふらふらじゃないか」

しえなが兎角の体を支える。

騒ぎ過ぎて忘れかけていたが、当然まだ熱は下がっていない。

真夜「熱上がるぞ」


真夜が兎角を抱き上げてベッドへと運ぶ。

しかし意識はしっかりしているようで、横にしてもすぐに身を起こしてしまう。

まだ眠る気はないようだ。

涼「それで梅干しはどこにあるんじゃ。買ってくる?」

鳰「ここにあるっス!」

鳰は冷蔵庫の中から一粒の梅干しを取り出した。

実は最初から用意してあったのだが、梅干し嫌いな兎角は食べるのを渋って今に至る。


涼「これまた酸っぱそうじゃな……」

香子「塩分が結晶化している」

香子は梅干しを興味ありげに覗き込んだ。

鳰「紀州の梅干し、一粒5000円です!」

春紀「たけぇ!そんな梅干しあんの!?」

春紀がものすごい勢いで鳰に駆け寄り、上から下から舐め回すように梅干しを見ている。

春紀の家からしてみたら信じがたい代物だろう。


平気でこれを見ていられるのは純恋子くらいだ。

純恋子「東さん、あからさまに嫌な顔してますわね」

鳰「100年以上漬けてるらしいっスから塩分高めっス」

春紀「もったいねー。駄菓子の梅でよくねーか。三つ入ったあの真っ赤なやつ」

真夜「だなぁ。子どもに食わせるもんじゃねぇだろ。値段的にも塩分的にもよぉ」

春紀と真夜が兎角をじっと見つめていると、彼女もそれをじっと見つめ返して遠慮がちに口を開いた。


兎角「……食べなくてもいいか?」

春紀「いやそういう話じゃない。もういいからさっさと食べろ」

春紀は鳰から梅干しを奪い取ると兎角に差し出した。

汗をかきながら心底嫌そうにそれを受け取り、その小さい手で口元へと運ぶ。

注目の中、周りをキョロキョロと見渡し、逃げ場がない事を悟ると覚悟を決めて梅干しを凝視した。

そしてゆっくりと口を開く。


兎角「あむっ……」

真夜「すっげぇちびちび食ってるな」

香子「いやあれは私でもああなる」

舐める程度にしか見えず、真夜がもどかしげに呟き、香子がそれに返した。

兎角「酸っぱい……」

しえな「東のやつ泣きそうだぞ。見てるだけで唾液が出てくる」

しえなは顎の辺りを押さえて眉をしかめた。


春紀「おにぎりでも作るか?」

千足「白湯に入れてやろう」

春紀が何かないかと部屋を見回していると、千足がポットを持ち出してカップに湯を注いだ。

兎角から梅干しを受け取り、それをぽとんっと落とし込む。

十分に混ぜて梅干しが撹拌されたのを確認するとカップを兎角に渡した。

兎角「んくんく」

春紀「これならいけるな」

順調に進んでいく様子を見ながら春紀がほっと息を吐き、兎角の姿を見守る。


しばらく待っていると得意げにカップを渡してきた。

兎角「んっ」

春紀「よし偉いぞー、って梅干し全部残ってんじゃねーか!」

春紀がカップを兎角に押し返すと、彼女はこれ以上にないくらい苦い顔をした。

千足「ならお茶漬けにするか」

柩「もう一杯お湯入れてきましょうか」

兎角「もうお腹いっぱい」

千足と柩の提案を一蹴すると兎角は自分の膝の上にカップを置いてしまった。


もう食べる気をなくしてしまっているのかもしれない。

真夜「もう口にねじ込んじまおーぜ」

真夜が兎角の隣に立ってカップを取り上げた。

中を覗いて、その量を確かめると大きくため息をついて兎角を見る。

兎角は相変わらず拗ねた顔を見せて真夜とは目を合わせようとはしない。

しえな「待て待て。ゆっくりでいいから自分で食えるよな」

真夜からカップを奪い取り、しえなは兎角にそれを戻した。


子どもが苦手だと言っていたはずなのに、今ではしっかりと兎角と目を合わせ、気遣いを見せている。

兎角もそんなしえなの雰囲気が伝わったのか、じっとしえなを見つめながら小さく頷いた。

兎角「食べる……」

カップから種の部分を取り出し、周りについた梅肉をぺろぺろと舐め始める。

少しずつだが前向きに進めているおかげで目に見えて量は減っている。

晴「兎角さん、手ちっちゃいなぁ。舌もちっちゃいなぁ。泣きそうな顔も可愛いなぁふふふふふ」


乙哉「そこの変態、しえなちゃん抑えててよ」

しえな「それは武智を抑えてろって事でいいのか?」

乙哉「やだしえなちゃん、冗談キツイ〜」

しえな「ハサミを出すな!持ってくるな!!」

5号室が騒がしいせいで晴の視線が目立たないが、本当にさっさと兎角を戻した方がいい気がしてきた。

鳰は一歩下がって全体を見渡した。

今、兎角に興味のない者はいない。


それは体が元に戻るかどうかの注目ではなくて、純粋に兎角を気にかけている。

しかし、窓際に立つ伊介がイライラした様子で足を踏み出した。

食べる遅さに耐え切れなくなったのだろうか。

伊介「あぁもう、手がベタベタじゃない。ほらこのタオルで拭いて」

世話焼きなお母さんみたいだった。

春紀がまたにやにやとしている。

後でそれをネタに伊介をからかうのだろうが、殴られるのは分かっているのだから止めておけばいいのに。


兎角「……ありがと」

伊介「な、なによ、気持ち悪い」

兎角の素直な言葉に伊介がたじろぐ。

きっと伊介は自分の頰が赤く染まっているなんて気付いてもいないだろう。

しえな「完全に退行してるだろ。東じゃないって。あれはもう兎角ちゃんだよ」

しえなの言う通り、兎角の態度がやけに素直で幼い。

晴「ねぇねぇ、あれ持って帰っていいかな。晴のものにしていいのかなぁ」


春紀「もう晴ちゃんあたしらから見てもこえぇよ」

後ろの方でまたもやばしばしと布団を叩く晴に春紀が顔をひきつらせた。

鳰は晴から視線を外し、また兎角の様子を窺う。

慣れてきたのかもくもくと食べ進めていて、カップの中に残った梅肉に手を付け始めている。

千足「だいぶ進んだな」

柩「もう少しで食べ終わりそうですね」

安心したように千足と柩が兎角を眺めている。


鳰の気持ちも今は同じで、すっかり兎角に傾倒し始めていた。

乙哉「お茶飲む?」

兎角「ん」

乙哉の差し出したコップを受け取り口の中を洗い流すと、もう一度梅干しに手を付ける。

伊介がまた兎角の顔や手を拭いて、香子も水を持ってきたりしてみんなが兎角を気遣っていた。

香子「よし、完食だ」

香子は空になったカップを受け取って兎角に微笑みかけた。


千足「よく頑張ったな」

兎角「ん!」

千足が頭を撫で、兎角は自信ありげに返事をして少し口元を緩めていた。

鳰「ウチも撫でていいっスか?」

兎角「ん」

鳰が声をかけると兎角はためらいもせず頭をこちらへと差し出してきた。

さらさらの細い髪の毛に指を通すと、兎角の高い体温が伝わってくる。


まだ熱は下がっていないが、案外頑丈に出来ているようでさっきよりは苦しそうには見えない。

そんな兎角を見ながら安心したように胸がすーっと軽くなっていくのが不思議だった。

春紀「で、いつ戻んの?」

春紀の声で鳰は我に戻り、はっと顔を上げた。

鳰「明日の朝には戻ってるっスよ」

春紀「そっか。じゃあ今日は解散だな。熱も下がってないし」

真夜「明日からは生意気な東か……」


真夜がもったいないと言わんばかりに長く息を吐いた。

春紀「我慢しろって。このままじゃさすがに不憫だし」

そういう春紀も残念そうに眉を下げている。

鳰自身も複雑な心境だった。

今の兎角は確かにかわいい。

素直で大人しくて、愛嬌もある。

恐らくは全員同じ意見だろうと鳰はそれぞれの顔を見ていると、一人やたらにテンションの高い子がいた。


晴「兎角さんっ。今日は一緒のベッドで寝ようね!」

兎角「あ、いや……えっ、待っ……」

激しく動揺した様子で兎角は周りを見回し、目で助けを求めている。

鳰「……今日だけっスから。兎角さん、頑張ってください」

誰が災厄を被ろうというのだろうか。

明日になれば元に戻るというのに、ここで晴から兎角を取り上げたら反感を買って晴が願いを変えてしまうかもしれない。

そう考えて誰も口を出さないのは鳰にも分かっていた。


鳰には関係のない話だが、今の晴に逆らう度胸は持っていない。

鳰「それじゃ晴、兎角さん、お休みっス」

鳰の挨拶を皮切りに、全員がそれぞれに二人にあいさつを交わし、清々しい気持ちで部屋を出た。

扉に向かう直前、鳰は兎角の目が怯えと動揺に曇るのを見たが、兎角にとって晴は運命の人で、唯一無二の大切な人だ。

後悔なんてないだろう。

何があったとしても。

そう自分に言い聞かせて、鳰はさっさと逃げることにした。


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こんばんは。もう少しで終わります。
あとたぶん二日くらいで終わります。
最後までよろしくお願いします!!


ベッドの中で晴は兎角の背中を包み込むように寝そべっていた。

月明かりが薄く差し込んで、兎角の頭のシルエットが浮かび上がる。

兎角は晴の腕に頭を乗せて、わずかに息を荒げている。

晴「兎角さん、まだ熱高いね」

じっとりと汗ばんだ額に手を当てると、兎角は身をよじった。

兎角「んー……。でももうそんなに苦しくない」

晴「そう。よかった」


兎角はおもむろに腕枕にしていない方の晴の手を掴み、肩越しに自分の体に回した。

晴「寒い?」

兎角「少し……」

きゅっと晴の手を抱きしめて兎角は息を吐いた。

兎角「……晴」

小さな、小さな声だった。

いつもの凛とした声では無くて、自信なさげな弱々しい声。


晴「なぁに?」

本当に幼い子どもになってしまったみたいで、晴は優しく声をかけた。

兎角の指を絡め取ってしっかり握りしめると兎角もそれに返してくる。

柔らかい指先が指のの間に触れてくすぐったい。

兎角「晴は、私が小さい方がいいか?」

晴「なんで?……というか心当たりはたくさんあるんだけど……」

最初から最後まで、晴は兎角に興奮していた。


兎角が怯えていたのも分かっているし、それでもちゃんと想ってくれていたのも分かっている。

兎角「お前は私が小さくなったからあんなにはしゃいでいたんだろ」

晴「はしゃいだのはそうだけど、小さい方が良いわけじゃないよ」

兎角「でもあんなお前は初めて見た」

兎角の手から伝わってくる力が少し強くなる。

そして拗ねたように身を縮め、頭を晴の腕にこすり付けた。

晴「ちょっと自分が抑えられなくて……」


申し訳なくて少し笑ってみせる。

晴「兎角さんが小さくなったから、晴が強引でも逃げられないかなーってずるい事考えてた」

兎角「なんだそれ」

兎角の頭が少しこちらへ向いた。

しかし顔を見られるのが嫌で、兎角の背中に貼り付いて頭に鼻先を押し付ける。

兎角はいつも前に出て護ってくれた。

横に並んで歩いてくれた。

後ろに立って支えてくれた。


冷たい言い方をする事もあるし、呆れた口調でため息をつく事も多い。

そんな中で途切れ途切れの優しさと、強引な気遣いがとても愛しかった。

時折光が差し込む不器用な木陰がいつもそばにあった。

晴「ずっと兎角さんが大好きでした」

密着した背中から兎角の体温が伝わる。

自分の心臓の音が大きすぎて兎角の音が全然聞こえない。


体が熱い。

なのに緊張で手は冷たい。

息苦しい。

喉の奥が、絞り出せない声で焼けてしまいそうだった。

兎角「晴……」

兎角の声にびくりと体が跳ねる。

怖くなって晴は口を無理矢理開いた。


晴「ごめんね。今も兎角さん、熱あるしちっちゃいままだから逃げられないよね。でもきっと、明日になったら言えなくなっちゃうから」

兎角「……」

言葉を遮られた兎角は口をつぐんだ。

怒っているのかもしれない。

呆れているのかもしれない。

突き放されるのが怖くて、兎角の口が開かれないうちに晴は言葉を継いだ。

晴「元に戻るの惜しいなって思ってはいるよ。でもたくさん遊べたし、今もこうしてるの嬉しいから。兎角さんもこの姿、嫌だろうし。でもまさかあんなに梅干し嫌いだとは思ってなかったな」


こんな姿になって、文句も言わずに黒組の新ルールにまで付き合っていた。

それ以上に梅干しが嫌いなのだと思うと笑みがこぼれた。

兎角「嫌いだけど、そこまでじゃない」

無愛想な声。

しかし、確かに胸の鼓動は高鳴っている。

今度は触れた体から兎角の心音が伝わってきた。

熱を帯びた吐息が晴の腕に触れて、冷たくなった指先に体温が戻る。


晴「そうなの?」

兎角「……戻ったらお前が私に興味なくなると思った」

もぞもぞと体を揺らすその仕草は恥ずかしさを誤魔化しているみたいだった。

晴の目が見開かれ、鼓動が高鳴る。

息を吸うと肺の中が澄んだ想いで満たされた。

今の鼓動は晴だけじゃない、二人が混ざり合った音だった。

晴「……ねぇ、期待していいかな」


晴に構って欲しくて梅干しを食べずにいたと、晴にはそう聞こえた。

兎角の体をぎゅっと抱きしめて、小さなぬくもりを全身で感じられるように膝を曲げて兎角を包む。

兎角「なにを?」

晴「兎角は晴が好き」

言いながらも嬉しくて、口元が、目元が緩むのをとめられない。

抱きしめても、抱きしめ足りない。

胸の中から好きな気持ちが溢れそうなのに、強くとどまって流れ出ていかない。


それが苦しくても、もったいなくて言葉に出来ない。

兎角「……かもな」

さらっと出てきた兎角の言葉に晴は大きく息を吐いた。

晴「ずるいよ」

晴はこんなにも想いがぐちゃぐちゃに駆け巡るのに、どうして兎角はそんなにあっさりとしていられるのかが不思議だった。

晴「兎角さん、明日もそばにいてくれる?」

抱きしめる腕の力を少し弱める。


朝になったら兎角は元に戻る。

今の特別な想いもここに置き去りにしてしまいそうで怖い。

兎角「うん」

兎角の返事にほっとする。

すると次の不安が押し寄せてきた。

晴「明後日も、その次も、晴のそばにいてくれる?」

兎角「晴……?」

すいません。急にねじ込んだ百合パートが全然終わりません…。
また明日来ますのでよろしくお願いします!

鳰はちっさくしてもみんな相手にしなさそうで…。
あぁでも、仕方なく相手する兎角さんとか、人に甘える鳰とか書けそうですね。

こんばんは。鳰ちっさくしてうるさくしてみたいですね。
ちょっとまた考えてみます。そろそろネタないし…。

たぶんもう少しなんで。今日中に終わらせられると思います。


晴「だって、黒組が終わったら、兎角さん守護者じゃなくなっちゃうでしょ……」

兎角「別に黒組が終わってもお前の守護者をやめる気はない」

くるりと身を反して兎角がこちらを見つめてくる。

子どもの姿でも兎角のまっすぐな視線は変わらない。

晴「守護者としてそばにいるの?」

兎角「不満か?」

晴「うん……」


兎角「じゃあどうしたらいいんだ」

兎角の眉が下がる。

晴のために変わっていく表情がとても嬉しかった。

幼い顔立ちでめいっぱい想ってくれる兎角の心遣いに胸の内があふれそうになる。

今だけ見られる表情に大きく心を揺さぶられているなんて言ったら、また機嫌を損ねてしまうかもしれないから黙っておく事にした。

晴「一緒に幸せになろうよ」

兎角の頬を撫でると、彼女は驚きに目を見開いて、息をとめた。


そして目を細めてわずかに笑みを漏らした後、眉をしかめて口元を引き結んだ。

兎角「……やり方がわからない」

暗殺業に身を置いてきた兎角には、きっと気持ちの選択肢がない。

晴もそれはあまり変わらなくて、兎角とこれからを生きていきたい気持ちだけがここにはあった。

晴「そばにいてくれたら一緒に探せるよ」

兎角を抱き寄せる。

細い肩がすっぽりと腕の中に収まって、兎角の匂いが鼻腔をくすぐった。


強引にでも繋ぎ止めたくて、苦しそうにもぞもぞと動く兎角を無視してさらに強く抱きしめた。

兎角「そんなに掴まれてたら離れられない」

晴「離れてくの……?」

兎角「そんなわけないだろ」

晴「じゃあずっと一緒?」

兎角「お前が望むなら……」

晴「兎角さんは?」


兎角の気持ちはどこにあるのだろう。

自分の気持ちばかりを押し付けている気がする。

プライマー能力が怖くなって思わず腕の力を緩めると、今度は兎角が背中に腕を回してきた。

兎角「そばにいたいよ」

胸に押し付けられた額が熱い。

きっと発熱のせいだけじゃない。

兎角の頭を撫でて、肩から背中にかけて手を這わせていく。


兎角の感触がどこまでも愛しい。

晴「このまま寝ていい?」

兎角「ん」

兎角の小さな手が晴の服の裾をぎゅっと掴む。

寝ている間に離れてしまうかもしれない。

でも気持ちが同じ事が分かったからもう怖くない。

明日も、明後日も、その次も、兎角がそばにいる。


毎日がもう幸せになった。

晴「おやすみ……」


------------


鳰「メロンパン食べるっスか?」

伊介「東さん♥ちゃんとトイレ行った?」

千足「水分取ってるか?野菜も食べるんだぞ」

真昼「お風呂、付き添った、方がいい、ます……?」

兎角「なんなんだ、お前達……」

昨夜と同じような扱いをする黒組のメンバーに兎角はあからさまに不機嫌に口元を歪めて見せた


春紀「兎角ちゃん一人だと生活に困るかなって」

兎角「もう元に戻っただろ寒河江!誰が兎角ちゃんだ!」

からかうような春紀の言い方に兎角は勢いよく席を立って怒りを露わにするが、誰も驚くわけでも怯えるわけでもない。

もう兎角の姿は元通りで、仕草や口調も子どもの時の名残は全くないはずなのに。

千足「まぁまぁ」

兎角「頭を撫でるなっ」

なだめる千足の手を振り払って睨みつけても、彼女は目を細めて微笑むだけだった。


今となっては兎角がどんなに凄んでも子どもが怒っているようにしか見えなくなっているのだ。

伊介「やっぱり可愛くないわね♥」

鳰「あの大きさで兎角ちゃんだったらキモいっスよ」

年齢相応の体格になってあんな風にかわいい動きをされても正直困る。

伊介もそれを想像したようでつまらなそうに口を尖らせた。

彼女の様子を見る限りでは、きっと今の兎角も嫌いではなさそうだ

晴「晴はどっちの兎角さんも好きだよ」


そう言いながらも昨日のテンションは見られない。

好きなのは間違いないのだろうが、子どもの姿の兎角への愛情は尋常ではなかった。

兎角「今思えば、昨日のお前はとんでもない危険人物だったぞ」

晴「えー。兎角さんだって晴が縮んだらそうなるよ」

兎角「そんなわけあるか」

低い声で言う兎角は、不機嫌そうに見せて目は穏やかだった。

晴に対してだけではなく、その目は黒組に向けられていて、いつもの殺伐とした空気は一切この教室からは消え失せていた。


香子「報酬はどうなるんだ?」

香子が聞いてくる。

気になっているのは彼女だけではない。

鳰は教卓の前に立って教室内を見渡した。

鳰「もうみんなまとめて面倒みるって理事長が言ってました」

もったいぶるのもめんどくさくて率直に告げた。

人の動揺する姿や、もどかしさに苛立つ顔を見たいなんてもう思わない。


クラス内でそれぞれが顔を見合わせて笑顔を見せ合う。

乙哉「じゃああたしも今後やりたい放題!?」

嬉々として狂気を目に浮かべ、乙哉が身を乗り出した。

事前に聞いた乙哉の願いは確か、シリアルキラー保険。

単に誰にも邪魔されずに好きな事をやりまくる保険らしい。

鳰「乙哉さんは世界有数のカウンセラーつけて根本的な改善をするっス」

鳰は満面の笑みを作って乙哉にそれを向けた。


このとんでもない性癖を持つ悪魔を押さえつけなくては、血みどろは結局避けられない。

隣でしえなが大きくうなずいている。

しえな「それがいいな」

乙哉「えー。あたし暗殺続けられないじゃん」

しえな「いやお前暗殺者じゃなくて殺人鬼じゃないか。警察に突き出されないだけマシだと思えよ」

同室だけあってしえなは切実な問題だろう。


乙哉「じゃあ番場ちゃんはー?」

真昼「あ、あの、わた、わた、しは……」

窓際で大人しく座る真昼に乙哉が詰め寄り、必要以上に顔を近づけて威圧する。

純恋子「あら武智さん?番場さんに何か御用かしら」

いつの間にか乙哉の背後に立ち、純恋子が静かに声をかける。

穏やかさの中に明らかな威嚇が含まれていて、乙哉もそれに気付いたのか真昼から素直に離れた。


しかし怯んだわけではなくて、空気を読んだだけだろう。

乙哉のこういう無謀なところは嫌いではない。

鳰「二人ともカウンセラー付けるっス」

鳰の言葉に真昼は迷惑そうに顔を背けた。

純恋子も複雑な表情を見せたが異存はなさそうだ。

少なくとも彼女達の目的に合わせたカウンセリングを組むようには配慮するつもりだ。


黒組で集められた女の子達の今後がどうなるかは分からない。

鳰自身の先の事すらも考えてもいない。

ただ、今の黒組は嫌いではなかった。

これから黒組が卒業するまでは好き勝手やらせてもらおうと、そう思っている。

鳰「しばらく黒組がみなさんを保護します。学生生活をエンジョイするっスよー!!」



終わり


ちょっと長めになるかなと思って書き始めましたが、だいぶ長くなってしまいました。
最後までお付き合い頂きましてありがとうございました。
色んなコメントを頂けてとても嬉しかったです。

ところで、兎角さんと晴ちゃんがお風呂に入ってた時の過激な描写をちょっと書き進めてますので、おまけとして少し足してみたいなと思っています。
幼女兎角さんのいかがわしい話が嫌いでなければまた見て頂けると嬉しいです。
それから全く内容を考えてもいませんが、鳰もちょっと小さくして短い話もこのまま同じスレに投下していけたらいいなと思っています。
ちょっと日数がかかるかもしれませんが、また戻ってきたいです。
その時はどうかよろしくお願い致します。

改めまして、今までのも含めて私のSSを読んで下さった方々、本当にありがとうございました。
今後ともよろしくお願い致します。

お久しぶりです。
おまけのエロパートが出来たので戻ってまいりました。

こんなにふざけた内容なのに見てくださった方々ありがとうございました。
いきなり幼女兎角さんのエロシーンに入りますのでご注意ください。


バスルームの床に座り込み、晴は兎角の背中を包むように後ろから抱き締めていた。

当然お互いに纏うものはない。

晴「兎角さん、ここ、分かる?」

小さな割れ目に晴は指を這わせ、入り口をくちゅくちゅと浅く弄り回す。

兎角「んっ、ぅ、ダメな、ぁっ、ところ……」

兎角は細い肩を震わせ、顔を紅潮させて息を吐いた。

晴の腕を掴んでいるが、その力はささやかなもので、兎角は全く抵抗出来ていない。


晴「うん、晴以外はね」

兎角「晴も、ダメ……っ」

鼻にかかった可愛い声。

小さな手を晴の手に添えてなんとか止めようとしているのだろうが、そんな事すらも晴の加虐心を誘うだけだった。

晴「指、一本だけだから」

ゆっくりと指を差し込んで、ぬるい粘膜へと割り込む。

兎角の体がびくんっと震えて、小さな悲鳴を上げた。


兎角「やっ……、きつ……!」

晴「大丈夫。入るよ」

兎角の反応に構うことなく、晴は指を進めていく。

撫でるように押し広げながら、奥へ。

まだ指先しか入っていないのに中がぴっちりと締まって先へ進めなくなった。

兎角「あぅっ……、痛い……」

晴「力抜いて?」


少し強めに突き込んでみるが、兎角の体が震えるだけで全く進まない。

まだ中へは十分入り込めるはずだ。

兎角「いっ、痛い、はるっ……」

晴「ちゃんと濡らしたから。もうちょっと我慢」

そっと肩にキスを落として、真っ平らな胸にある小さな突起を指先で転がす。

それでも中が緩む気配はなかった。


兎角「ぁうっ、ぅ……、だって、血、出てる……」

晴の指は薄赤く濡れていた。

兎角の破瓜の証を目の当たりにして、晴の興奮も増していく。

晴「ごめんね。でも初めてはそうだから」

兎角「そうなの……?」

晴「そうだよ。この中はね、晴だけが触っていいところ」

ゆっくりと指を前後させて兎角の中を撫で回す。


端から端まで、中が見えない代わりに指で形を記憶する。

兎角「晴だけ?私の中に、晴だけの場所……?」

晴「うん。晴にもあるよ。兎角さんだけの場所」

いつか兎角に捧げられたら、それがきっと幸せになる。

そう願って、今は兎角の体に自分のわがままを押し付けていく。

兎角「じゃあ、我慢する……」

そんな返答をしてくるなんて思っていなくて、晴の胸は大きく高鳴った。


このまま続けられるならどこまでも続けたい。

もうすでに兎角の大事なものは無理矢理に奪っている。

今の幼い思考ではこの行為を正確には理解していないかもしれない。

本当はやめなくてはならない。

しかし、晴は口角を上げて兎角の体をさらに撫で回した。

きっとこんな機会はもうないだろうと思うと手は止まらなかった。

晴「いい子だね……」


興奮で息が上がりそうになるのをぐっとこらえ、晴は兎角の乳首を指先で摘んだ。

兎角「や、……ぴりぴりする……っ」

びくびくと震える体が、性感に反応している事を示している。

本当に嫌がるならやめるつもりだったが、この反応ならもっと続けても大丈夫だろうと傲慢な心が顔を出す。

晴「それ、たぶん気持ちいいって事なんだよ」

硬くなった胸の先を爪で掻き、肩に口付ける。

兎角「んぅっ」


兎角の下腹部にぐっと力が入り、わずかに肉壁が柔らかくなった。

晴「中、緩んできたね。兎角さん、気持ちいい?」

兎角「わか、んな……っ、は、ぁっ……」

そう言いながらも頬はさらに紅潮し、腰はびくびくと震えていた。

緩くなった穴を楽しみながら、胸を放してもう一つの穴へと手を伸ばす。

晴「こっちも入るかな」

兎角を膝に乗せて体を浮かせると、強く締まったそこをそっとなぞる。


途端、兎角が弾かれたように顔を上げた。

「そこっ、違っ——!!」

晴「いいから。動いたら余計痛いよ?」

兎角を傷付けないようにゆっくりと指で広げていく。

兎角は耐えるように目を閉じて、体を強張らせた。

晴の腕を掴んだ手に力が入り、爪が食い込む。

もう少し進めようとすると、息をするのも辛そうにして、兎角はぐっと唇を噛んでいた。


晴「痛い?」

兎角「い、たい……」

擦れた声を出す姿にすら気持ちが高まる。

どうかしている。

兎角が苦しむ姿がこんなに可愛く映るなんて思ってもみなかった。

晴「お尻の穴、いや?」

兎角「変な、感じ……す、る……っ」


あまり奥には入れず、指先だけで中を掻いてみるが性的な反応は良くない。

ただ兎角の苦しげな姿を見るためだけの陵辱だ。

晴「こっちは?」

前の穴を広げるように指を回すと、兎角の体から少し力が抜けた。

兎角「なんか、ふわふわ、する……」

こちらの反応は良くなっている。

異物感には慣れてきたみたいだ。

晴「どっちがいい?」


兎角「こ、っち……」

兎角は手を伸ばして前の穴に入り込んだ方の晴の手に触れた。

晴「まだ痛い?」

兎角「うん……。でも、優しい……から」

こちらを見上げる兎角の目はとても綺麗だった。

心の中もその目みたいに純粋で未熟なのだろう。

そこを汚していく今の自分が、どれだけ間違っているかは分かっている。


それでもこの腕の中にある熱を自分の物にしたい。

晴はこくりと喉を鳴らして、息を吐いた。

晴「兎角さん、かわいい。もっと指動かすよ」

兎角「あぅっ、あっ、んんっ」

奥から溢れてくる粘液と血液がぬちゅぬちゅと音を立てて混ざり合う。

後ろに入れていた指を抜き、空いた手で兎角の両脚を支えて大きく開かせた。

晴「はぁ、はぁ……兎角さん……、とかくっ」


自分の中で鼓動が速くなり、自然と息が上がってくる。

指の動きを強めて、奥から入り口まで激しく往復させていく。

兎角「あっ、ぅっ、な、んか、変……っ」

兎角が腰をよじり始めた。

晴「どうしたの?」

兎角「奥が、くすぐっ、たいっ……」

どくんっと鼓動が大きくなるのを感じた。


晴「気持ちいいんだ……」

兎角「気持ち、いい……?」

晴「うん。兎角さん、晴の指が気持ちいいって、思ってるんだよ」

兎角「でも、痛い……」

兎角は晴の手に流れた血に触れた。

彼女もこの血の意味はもう分かっているはずだ。

晴「ごめんね。兎角さんに無理させちゃってる」


指を抜ける直前まで引いて、またゆっくりと奥まで差し込む。

晴「兎角さん、ここ何するところか知ってる?」

「子ども作る、ところ……」

案外あっさりと答えてくる。

恥ずかしがる様子とか、嫌悪感などは見られない。

晴「うん。兎角さん、晴の子、産んでくれる?」

兎角「……いいよ」


また大きく胸が高鳴った。

兎角を抱きしめる腕に力が入る。

そんな兎角の態度がこんなにも愛しくて、心が溢れそうだった。

それが例え、今の行為に乗じて無理矢理言わせた言葉だとしても。

晴「嬉しい。でも出来ないよね」

兎角「うん、知ってる……」

兎角の声は少し残念そうだった。


そんな事にもやっぱり心が反応して、胸がきゅっと締め付けられたみたいな感覚はとても心地よかった。

晴「でもえっちなことだけは出来ちゃうの」

晴は兎角を正面に座らせると、膝をついて向かい合った。

兎角「えっちなこと……」

晴「うん。兎角さんが痛いことばっかりしちゃうんだよ」

兎角に入り込んだ指を抜いて、そこが見えるよう指で広げる。

入り口の開いた小さな秘所からはまだ血が出ていて、罪悪感と同時に満たされた独占欲が胸の底に澱む。


兎角「他の人にも、されちゃう?」

晴「ううん。晴しかしちゃダメなこと」

晴はまた兎角の中心に指を差し込んだ。

さっきよりずっと中は柔らかくて、ぬるぬるとしていた。

愛液が溢れ出ている。

少しずつ指の動きを早めて刺激を強くしていく。

濡れた音が徐々に大きくなって浴室内に響いた。


兎角「んっ、ん、あっ、ふぁっ、あぅっ」

兎角の反応はもう痛みだけではない。

小さな体は女として性を感じている。

晴「かわいい。晴が初めてここを触ったんだよね」

感動で胸がいっぱいになった。

後のことは考えないとして、今兎角は間違いなく晴のものだった。

しかし、


兎角「んっ、ん、あっ、ふぁっ、あぅっ」

兎角の反応はもう痛みだけではない。

小さな体は女として性を感じている。

晴「かわいい。晴が初めてここを触ったんだよね」

感動で胸がいっぱいになった。

後のことは考えないとして、今兎角は間違いなく晴のものだった。

しかし、


兎角「んっ、違っ……、さっき、犬飼に……」

晴「伊介さん?」

兎角の言葉で唐突に頭から熱が引いていくのが分かった。

晴は指の動きを止めて、兎角の目をじっと見つめた。

兎角「ん。犬飼が拭いてくれた」

晴「ふぅん……」

兎角「はる……?」


兎角の表情が強張る。

晴「で、どうだった?」

兎角「いやだから拭いてくれただけ……」

晴「なにされたの?」

自分でも喋るごとに声が低くなっていくのが分かる。

勢いを付けて兎角の中に指を突き込むと、彼女の体がびくんっとはねた。

兎角「あうっ!」


眉根を寄せて兎角は痛みを露わにした。

そして耐えるように俯いて、晴の手首をぎゅっと掴む。

兎角「だからっ、トイレで……っ!」

晴「なに?」

訴えかける兎角の声に合わせて中を強くかき回していく。

兎角「ふぇっ……ひ、ぃあぁぁっ!」

指を曲げて肉壁を圧迫すると兎角は悲鳴を上げた。


気持ち良さではなくて、明らかに痛みに対してのものだ。

兎角「ふぁっ!あっ!!やっ!」

晴「ほら、言わなきゃ分かんないよ?」

わざと話が出来ないように、何かを喋ろうとする様子を見ながら中を激しくかき回していく。

怒っているわけではない。

ただの嫉妬だ。

晴「もう一本、挿れるね……」


入り口を無理矢理こじ開け、伸ばすようにして広げていく。

兎角「ひっ……ぐ!うぁああっ!」

まだ指を入れたばかりで動かしてもいないが、兎角は顔を歪めて晴の腕を押し戻そうとしている。

兎角「晴っ!痛いっ!」

晴「逃げちゃダメだよ」

体をねじって背を向ける兎角の肩を押さえつけ、うつ伏せに組み敷くと、晴はさらに後ろから行為を続けた。

兎角「やっ、あっ!ぅぐっ!あっ!!」


晴「兎角さん、かわいい。もっと声聞かせて……」

強引過ぎる行為に、兎角の目は潤んで、必死に何かを訴えようとしている。

しかし晴はそんなものを聞くつもりはない。

愛しくて愛しくて、もう心は追いつかない。

晴「兎角さんは、晴だけのものだから……」

兎角「晴……っ!は、るっ!」

兎角が肩に押し付けた晴の手を掴んだ。


抵抗されるのかと思ったら、指を絡めて口元へと引き寄せられる。

兎角「ふっ……んんっ」

口付けるというよりは、苦しまぎれに噛み付くように晴の手の甲に歯を立て、舌を這わせている。

小さな舌が触れるたびに晴の興奮は増して、その可愛らしさに嫉妬心が薄らいでいく。

晴は兎角の体を反して仰向けに寝かせた。

タイルにぶつけないよう頭の下に手を差し入れ、兎角の脚の間に体を割り込ませる。

晴「ごめんね、兎角さん。もう痛くないから」


兎角の中にある指を一本にしてゆるく擦り付ける。

奥がきゅうっとしまって、兎角の体が仰け反った。

平らな胸にある小さな突起に舌を当てて優しく舐めると、兎角の手が晴の髪に触れた。

兎角「あっ、あぅっ!ふ……ぅっ、んンッ!」

彼女の顔を覗き込んでみれば、晴の指によがっているのは明らかだった。

腰が揺れている。


中は濡れて、女の体液が溢れるほどに分泌されていた。

紅潮した頬と定まらない視点が兎角の限界を告げている。

ゆっくりと指を抜く動作にも兎角の体は敏感に震えた。

晴「もう無理かな」

返事もできない兎角は、その代わりに晴の手をきゅっと握った。

体を抱き寄せると兎角もそれに返すように背中に手を回した。


その温もりが愛しくて動けなくなる。

しかしそろそろ黒組がまた集まり始める時間だ。

残念だがお楽しみはここまでだろう。

晴「すごくかわいかったよ、兎角さん」

意識のはっきりしない兎角に小さく告げて、晴は頰にキスを落とした。


-------------

エロは以上となります。
自分でもひどいなと思ってはいるんです。
何度も、こんなことしたらシーンとか晴ちゃんの態度とか合わなくないかと思ったんです。
でもなんか楽しくなっちゃって。
今更前書きで注意書きをしておけばよかったなと思っています。

もう少し続きがありますのでサクサク投下していこうと思います。


放課後、誰もいない教室で兎角は頭を抱えていた。

晴が用事で職員室に行っている間、一人で考える時間が出来てしまって色々と考えているうちに昨日の出来事を思い出していたのだ。

昨日の記憶ははっきりと残っていたが、行動や思考はぼんやりとしていて、夢の中の出来事だと言われても納得してしまうくらいに現実感が薄い。

しかし間違いなく自分が体験した事だとは分かっている。

晴「どうしたの?兎角さん」

用事を終えた晴が教室に戻ってきた。

兎角「どうしたもなにも……。今思い出したらとんでもない事をされてるじゃないか」


晴「今更気付いたんですか?」

晴の態度は開き直っているようにあっけらかんとしていて、自分がどこかおかしいのかと思ってしまう。

兎角は隣に寄ってきた晴の顔を見上げた。

兎角「あんな事しといて夜にはなんでしおらしかったんだ」

晴「罪悪感があったからですよ!」

兎角「そんな堂々と言われても」

開き直っているのではなくてやけくそ気味なだけだった。


晴「気持ち悪い?」

弱ったような声に兎角は思わず立ち上がり、晴を正面から見据えた。

兎角「そんなことはない。受け入れたのは私の意思だ」

あの時、痛みに逃げ出したくはなったけれど、晴の行為を嫌だとは思わなかった。

強引過ぎて、正直恐怖はあったし慣れない感覚に不安もあった。

でも晴が相手ならなんだって良かった。

抱きしめられた時の体と心の温かさは今でも覚えている。


晴「あの、ね。晴の初めても兎角さんにあげるから……」

兎角「いいのか?」

晴「他の人にあげてもいいの?」

兎角「だ、だめだ!」

声を荒げると晴は満足そうに笑った。

素直に反応しすぎたようだ。

どうも晴を相手にすると調子が狂ってしまう。


今までにこんな事はなかったのに。

そしてそれが晴に対する愛情だと気付く。

晴「何したっていいからね。強引でも痛くてもいいから」

兎角「ちゃんと大事にするよ……」

晴「兎角さんが好きならお尻でも――」

兎角「そういうのはいいから!」

昨日の行為を鮮明に思い出してしまって、兎角は晴の声を遮った。


本当に好き勝手にされてしまったと思う。

晴「でも兎角さんのお尻もらっちゃったし」

兎角「もういいっ。お前そういう話平気なんだな……」

ただでさえデリケートな話題なのに二人きりとはいえよくも顔色を変えずに口に出来るものだと思う。

しかし晴は恥ずかしい事なんて何もされていないのだからそれもそのはずだった。

晴「兎角さん顔真っ赤だよ?」

兎角「ほっとけ。それより、まだ私からちゃんとした返事をしていなかったよな」


晴「あ、うん……」

話を逸らしたわけではないが、言える時にちゃんと言っておかなくてはならない。

それは昨夜の晴が教えてくれた事。

あの時の晴が緊張と不安で、ひどく怯えていたのはなんとなく背中から伝わってきていた。

好きだと絞り出した声は震え、指先は冷たくて、小さな勇気が光っていた。

兎角「もう分かってるだろうけど、私も一ノ瀬が好きだ」

潤んだ晴の瞳を前に、兎角は真面目に伝えた。


晴「うん」

たった一言で嬉しそうに目を伏せる姿はたからもののようだった。

華やかではないけれど、自分だけの優しい笑顔。

晴「ねぇ、キスしよう?」

そんな積極的な言葉に兎角はまた顔を熱くした。

恥ずかしくて目を逸らす兎角の様子を、晴はまた笑顔で見ている。

反応一つ一つが晴にとっては嬉しくて仕方がないのだろう。


その思いは兎角も同じだった。

自分の気持ちが晴を喜ばせて、その笑顔に自分がまた嬉しくて。

兎角「なんか、あんなことまでしたのにな」

全部晒したはずなのに、まだ恥ずかしい気持ちがある事が不思議だった。

自分が武骨な事は分かっている。

ただ思うままに晴に触れたくて、それを実行するだけだった。

怖がらせないように手を繋ぎ、顔を近付けていくと晴はゆっくりと目を閉じた。


緩く唇を重ねて、触れるだけの行為にひどく緊張する。

晴「どう?」

晴もきっとそれは一緒で、彼女は上気した顔で目を潤ませていた。

晴の問いに答えられなくてそっと肩に手を添える。

兎角「もう一回いいか?」

あんな短時間じゃ何も分からない。

もっと晴を知りたかった。


晴は「いいよ」と短く返事をして、また目を閉じた。

今度は少し長く。

それでもたったの数秒。

兎角は顔を離すと囁くように声を掛けた。

兎角「舌、出して」

晴は浮いたような視線で、兎角の言う通りに舌先を覗かせる。

絡ませるにはわずか過ぎたが、ほんの少しでも粘膜が触れ合う事で心は満たされた。

気持ちが溢れそうで、零れ落ちないように必死で押し込めようとする。


それでも間に合わなくて、吐く息と共に熱が漏れていく。

だったら目の前にある愛しさに全て流してしまえばいい。

兎角「晴。好きだよ」

両腕を晴の背中に回して、強く、そして優しく抱きしめる。

熱が伝わって交じり合う感覚が切なくて涙が出そうだった。

晴「うん。兎角さん、大好き」

背中に触れる手は柔らかいのに力強くて、守られているのが自分だという事に兎角は初めて気が付いた。




終わり

兎晴は以上となります。
色々すみません。
読んで下さった方、ありがとうございました。

もうひとつおまけで、鳰がちっちゃくなった後日談的なものを短く書こうと思っています。
たぶんそんなに日数はかからないと思いますので、また気が向いたら見てやって頂ければ幸いです。

こんばんは。いつもありがとうございます。
同じ事ばかり言ってますけど、本当に嬉しいです。
レスがなくても見て下さる方がいるのは分かっていますが、レスがあるとなおのこと嬉しいですね。
面白いとか、好きとか、恥ずかしくて嬉しくてにやにやしています。
本当にありがとうございます。

少し短いですが、鳰がちっちゃくなった話をさらっと書きました。
エロなしです。
ちょっと兎鳰が入ります。
よろしくお願いします。


兎角の幼女事件から一週間。

鳰は10年黒組の教室の前に立ち、中に担任がいない事を確認すると勢いよく扉を開いた。

鳰「さぁみなさーん!注目っスぅ!!」

教室に一歩足を踏み込んで、全員に向けて声を張り上げた。

胸を張り、子どもになった体を見せ付ける。

身長は変わっても制服はそのままだ。

どんな反応が返ってくるかと、胸をわくわくさせながら教室中を見回す。


しかし彼女達は全く鳰に興味を示さず、それぞれに雑談を続けている。

こちらをちらりとも見ない。

純恋子に至っては何事もなかったかのように席を立って教室を出ていく素振りすら見せていた。

鳰「ちょっとぉ!?なんで無視するっスか!!鳰ちゃんっスよ!?小さい鳰ちゃんっスよ!?」

春紀「お前元々小さいじゃん」

鳰「春紀さんからしてみればみんな小さいっスよ!!ウチの元の身長は言うほど小さくないんっスよ!?」

教室の中程まで駆け込んで春紀の元へと走り寄る。


平均よりは低いとしても、一般的にはそんなに珍しい高さではない。

そんな事は春紀だって分かって言っているに決まっている。

春紀の言い方は鳰の存在自体をめんどくさがっているようにも思えた。

伊介「うるさいわねぇ」

春紀と話していた伊介は、邪魔されたのがよっぽど気に入らなかったのかいつも以上に顔を歪めていた。

鳰「伊介さん邪険にし過ぎ!!なんでウチそんなに嫌われてるんスか!」

伊介「心当たりはない?」

にっこりと笑うその顔には明らかな悪意がある。


伊介に限らず、真昼がかろうじて困ったように目を逸らしているだけで、他の人達もめんどくさげな顔をしていた。

鳰「あるっス!」

伊介「じゃあもう一人で遊んでなさいよ」

伊介は手の甲を向けて払うように手を振るとさっさと鳰から体を背けてしまった。

鳰「扱いが酷過ぎるっス……」

がっくりとうなだれて伊介に背を向ける。

誰か相手をしてくれそうな人を探していると、後ろから腕ごとがっしりと抱きしめられた。

というより、これはもう拘束だ。


鳰「うわわわっ!なんスか!?」

背中に当たる豊満な柔らかさと、体に回された腕を見ればすぐにその正体は理解できた。

伊介だ。

伊介「ねー、鳰?ちょっと遊んであげよっか♥」

鳰「なんか怖いんスけど……」

息を含んだ声を耳に当てられ、どきりと胸の奥がうずいたが、それがときめきなどではなく大半が恐怖だと分かっている。

伊介「この辺とか♥」

するりとスカートに手を差し込まれて腰が震えた。


鳰「ひぃぇぇええっ!?何してるっスか!?伊介さん!ダメっス!ウチには理事長がぁあああ!!」

伊介「え、なにあんた。理事長とデキてんの?」

鳰「秘密っス!秘密っスけど怒られるんでやめるっス!!」

伊介「そう言われると余計にむきたくなるのよねー♥」

続けて伊介がタイツに手をかけると、その手を誰かが掴んだ。

兎角「もう許してやれ」

顔を上げると、そこには憐れんだ目をした兎角がいた。


伊介「なんであんたが鳰を庇うのよ」

ここからは伊介の顔が見えなかったが、明らかに不機嫌に兎角を睨み付けている。

そして兎角は伊介から顔を逸らして晴を見た。

その目は怯えているようにも見える。

伊介「ほどほどにしなさいよね……」

興が冷めたように伊介は呟き、鳰の拘束を解いた。


鳰「兎角さん、あ、ありがとっス」

兎角「別に。で、何が目的で小さくなったんだ?」

鳰「チヤホヤされたくて!」

兎角「正直だな」

両手をパタパタと振ってアピールしてみるが、兎角は興味を示さない。

しかしさっきよりも周りの注目は集めているようだ。

晴「鳰、かわいいねー」


晴が近付いてきて鳰の頭を撫でた。

ひなたの笑顔が眩しい。

そこに辿り着く事が出来ないせいか、もどかしい思いが晴の体温を余計に温かく感じさせる。

兎角に与えられたこの手のひらが羨ましいのか、自分自身がそうありたいのか、よく分からない。

しえな「体格は違うけど、走りだとあまり普段とのギャップがないな」

乙哉「兎角ちゃんは小さくなると意外な愛嬌があったよねー」

しえなと乙哉が鳰と兎角を交互に見た。


兎角「だから兎角ちゃんはやめろ」

からかうような態度が気に障ったのか、兎角は二人に強めに告げたが迫力はない。

あれだけ二人に甘えていたのだから、きっと怒っているのではなく恥ずかしくて照れているのだろう。

鳰「鳰ちゃんは?」

自分を指して身を乗り出すと、柩の視線がこちらに向いた。

柩「兎角ちゃんの後だと走りさんはちょっとインパクトが薄いですよね」

兎角「桐ヶ谷まで……」


あまり強い態度にも出られなくて、兎角は息を吐いて首をすくめた。

晴「兎角ちゃんかわいかったですよね!」

そんなに兎角ちゃんという呼び方をしたかったのか、目をキラキラと光らせて晴が前のめりになると、兎角は彼女の頭をぐっと抑えつけた。

兎角「便乗するな」

結局あまり黒組の反応は良くないままで、鳰ははぁっとため息をついた。

途端、気が抜けたせいか急に尿意をもよおしてきた。

鳰の様子に気付いた兎角が頭の上から覗き込んでくる。


兎角「どうした?」

鳰「トイレ」

兎角「……行ってこい」

聞いて損した、そんな声が聞こえそうだ。

自分だってトイレの時には周りを騒がせたくせに。

一人でも大丈夫だとは思ったが、万が一という事もあるので付き添いが欲しい。

鳰「伊介さーん」

伊介「嫌よ。東さんで手いっぱいだからー」

兎角「いや今は一人で行けるんだから私は関係ないだろ」


伊介から本気で面倒そうに断られてはこれ以上は食い下がれない。

鳰「むー」

どうしていいか分からずに頬を膨らませていると、誰かの手が頭に触れた。

見上げた先にあったのは兎角の呆れた顔。

兎角「仕方ない。行くぞ」

鳰「連れてってくれるんスか!?」

兎角「ああ。さっさとしろ」


伊介から本気で面倒そうに断られてはこれ以上は食い下がれない。

鳰「むー」

どうしていいか分からずに頬を膨らませていると、誰かの手が頭に触れた。

見上げた先にあったのは兎角の呆れた顔。

兎角「仕方ない。行くぞ」

鳰「連れてってくれるんスか!?」

兎角「ああ。さっさとしろ」


兎角は鳰の手を引いて歩き出した。

鳰が目をぱちくりとさせていると、兎角が「これか」と繋いだ手を持ち上げた。

兎角「嫌だったか?」

鳰「兎角さんは嫌じゃないんですか?」

兎角「あの時、私の手を握ってくれただろう」

あの時というのは、兎角がのぼせてベッドに横たわっていた時のことだろう。

鳰「覚えてたんスか」

今の冷えた手とは違う、小さくて熱い手のひらを思い出す。


それでもそれは同じ手で、優しさなんて感じられない朴訥な握り方だったが心地よかった。

いつもとは違う目線から見上げてみれば、兎角の顔はとても凛々しくてかっこよく思えた。

兎角「なんだ?」

鳰が立ち止まると兎角は怪訝な顔で見下ろしてきた。

幼い子に目線を合わせるような配慮は彼女には無い。

鳰「だっこして欲しいっス」

兎角「はぁ?調子に乗るな」

兎角はつないだ手を離した。


離れていく感触が惜しかったが意地でもそれには手を伸ばさない。

真っ直ぐに兎角の目を見つめていると、先に目を逸らしたのは彼女だった。

兎角「ほら。ちゃんと捕まってろ」

兎角は鳰の体を両腕で掴みあげると、正面に体を抱きかかえた。

落ちないように兎角の体にしがみついて肩に顎を乗せる。

まっ平らで女性らしさの足りない体の抱き心地は決して良くはない。

筋肉質で少しも温もりなんて感じられない。


でも冷たい海の底なんかではなくて、照れ隠しで温かさを潜めた不器用な湖みたいだった。

それは自分に染みついた腐った臭いも洗い流してくれるような気がした。

「ありがとっス……」

恥ずかしくて自分の耳にすら擦れて届いたその声が兎角に聞こえたかは分からない。

彼女からの反応もないのだからきっと聞こえていないのだろうと思う。

しかし背中に触れた兎角の手はさっきよりずっと温かかった。



終わり

以上となります。

長くかかってしまってすみませんでした。
後半はかなり好き勝手にしてしまいましたが楽しかったです。
長々とお付き合い頂きましてありがとうございました。

リドル放映開始から1年が経ちましたがまだまだ熱は冷めません。
次の話も進めていますので、また気が向いたらお付き合い頂けますと幸いです。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年03月23日 (月) 14:48:10   ID: vGGcY9H_

待ってました!小さな兎角さん可愛いです!!
お風呂の中で何があったのかすっごく気になります(笑)
続き楽しみにしてます。頑張ってください。

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