魔王「覚悟はいいか」 暗黒騎士「例え魔王であろうと、構わぬ!」(187)


魔王が書きたいだけの人です
読んでくれる人いたらありがとうございます
妄想・爆走・命掛けです。投下スピード遅いのは勘弁してください



※)当SSは 暗黒騎士萌えSS作者の作成したプロットを、魔王推しSS作者が書きあげるという挑戦作です
※)◆WnJdwN8j0.の暗黒騎士SSを期待してスレを開かれた方がいたら申し訳ありません
合作… というか、応援SSだと思って下さい


だいぶ魔王色も強くなるかと思いますが、ご了承の上 お楽しみいただければ幸いです

↓から始めます


――――――――――――――――――――――――――

公国領地のとある町外れ


喪女「はふ…。遠いなぁ、生命の樹…」


丘を登っているのは、ふもとの町に住む娘―― 喪女
16年前、町の外れの草原で拾われた赤子だった


喪女「でも頑張らなくちゃ! それが拾ってくれた義父さんへの恩義ってものだもの!」ムンッ

自分に渇を入れ、重たい足を引きずって歩く

喪女(昨日は朝から井戸で水汲みをして、馬にブラシをかけ、洗濯と繕い物を済ませた後で朝食を作り、
   片づけをした後に家の掃除と庭の手入れを終わらせて、昼食の用意と片づけを済ませてから買い物に行って、
   そのあとようやく生命の樹の木の実を取りに行って、家に帰ってから殻を剥いてたらすっかり遅くなってしまい、あまり眠れなかったし…)


ぶっちゃけ、喪女は拾われた家でコキ使われていたのだった
それでも死に絶えるだけだった赤子を拾い、育ててくれている一家への恩義は忘れない


喪女(むしろそれだけがモチベーションとも言えるのよね)


生命の樹は、この丘のてっぺんにある
その樹になる実は回復アイテムとして非常に珍重されており、一家の生計の一端を担っていた

そしてその木の実を取り、回復アイテムとして使用可能な状態にするのが喪女のほぼ毎日の仕事になっている


喪女(あの実… イガだらけで剥くの痛いんだよね…。 ちゃんと皮手袋持ってきたっけ…?)


もちろん木の実は、それだけでも取引される貴重な代物だ
だがそれを即時使用可能な状態にしておくことにより、より高価で買い取ってもらえるようになる

なにしろそのイガというのは、皮手袋をはめても指まで貫通してくるほどの強固な実だからだ
そうして“上乗せされる金額”こそが、喪女の生活水準を支えているとも言えた


喪女「よぉしっ! 今日も元気に、木の実をあつめましょう!」


そしてもちろん、木の実集めと言うのは… 木に登って行うものである
その姿は、まるで柿の木に登る猿のようだった


喪女(くすん。毎回思うけど、我ながらヒドイ格好。いいもんいいもん、こんな仕事をしてたら、色気なんて…)

グイ

喪女「っと。あれ? この木の実はまだ熟れてないのかな… ずいぶん、固…」


ズル。

喪女「!」

バキンッ!


喪女「や、っと、っと、と… あわわわわわ!? お、落ち…」


こんな時、絵物語だったら 素敵な王子様が現れてそっと支えてくれるのだろう
そんな素敵なシーンを、私は大木から落下する最中、ひっくりかえった空をみながら妄想していた


ドサッ! ガチャン!

冷たく固い感触が、背中と太もものあたりにぶつかった

喪女「痛い……。 うぅ、生きてる。よかったぁ…」


「そうか。間に合ってよかった」

喪女「っ!?」


目を開けると、超至近距離に男の顔があった

仏頂面の、いかめしい顔立ちの男だ
……どうやら、木から落下したところを見事にお姫様抱っこで受け止めてもらったらしい


喪女「あwせdrfty」


言葉を失っていると、その男はゆっくりと私を降ろした


「驚かせたか。まあ、休憩を取ろうとした瞬間、空から女性が降ってきて俺も驚いた。おあいこだ」


男はそういうと、樹の根元に放り出された兜を拾い上げ、付いた土を払った

よく見ると、兜こそ外しているものの その全身は真っ黒な甲冑につつまれている
腰に携えた長剣からして騎士なのだろうとは思うが、それにしても異様ないでたちだった


暗黒騎士「……暗黒騎士という。この全身鎧姿が、そんなに物珍しいか」

喪女「あっ ご、ごめんなさい!!」


いつの間にか凝視していたらしい
慌てて手を振り、悪気があった訳ではないと伝える


暗黒騎士「――怪我をしたのか?」

喪女「え?」


暗黒騎士は兜を脇に抱えると
私が振っていた腕をおもむろに掴み、掌を検分した


暗黒騎士「傷だらけではないか。樹からおちる時にどこかに擦ったのか? 手当てをせねば…」

喪女「ち、ちがうんです!! これはその、元々で!」

暗黒騎士「元々?」


丁度近くに落ちていた木の実を指差す
イガだらけの木の実を見れば悟ってくれるだろう


暗黒騎士「なるほど、あの木の実のせいで木登りの最中に既に怪我をしていたのか」


悟ってくれなかった



仕方なく私は木の実を剥くのを実演してみせる
そうして掌の傷は決して今回の怪我ではないことを説明した


暗黒騎士「つまり、今すぐに治療するべきような怪我はしていないと?」

喪女「はい…。あの、ご心配おかけしてすみません…。これは慢性的な古傷みたいなもので…」

暗黒騎士「……」ハァ


喪女「ぅ… (呆れたかな。心配させちゃって…悪いことしたなぁ)」

暗黒騎士「この掌が痛々しいことに代わりはないが、今回の怪我でないなら仕方ない」

喪女「……え?」


暗黒騎士は私の掌を取り
労うようにそっと反対の手を重ねて包んだ


暗黒騎士「目の前で女性に怪我をされては後味が悪い。怪我が無くてよかった。だが…」

喪女「?」

暗黒騎士「女であれば、身体は大事に扱え。その細指にその傷跡は 痛々しすぎて似合わん」

喪女「……っ//」

暗黒騎士「ではな」


暗黒騎士は 慣れた手つきで兜を嵌め、あっという間に立ち去ってしまった
その後姿が見えなくなったときになって、ようやく礼を言っていなかったことに気がついた


喪女(助けてもらっておいて、いの一番にお礼の言葉も出てこないなんて…)


思わず膝をついてうなだれるほどに後悔する


喪女(でも……こんな私でも…)



喪女(あの人は、女の子として扱ってくれたんだな…)


力強く受け止められた腕の感触を思い出し、一人赤面した
思い出しながら顔がニヤけてしまう私は、きっと相当にキモちわるかったと思う


……ちょこっと、反省。でもやっぱり嬉しくて、ニヤけるのは止まりそうにない



・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・


――――――――――――――――――――――


別の日、生命の樹の根元


喪女「さぁって…! 木の実、今日もがんばって取りますか!!」


ガシッ!


喪女「はっ!?」 

喪女「い、いつも手をかける枝が無い!? そっか、このあいだの時に折っちゃったのか…」

喪女「って!! ど、どうしようっ!?」アワワ


暗黒騎士「危なっかしくて見てられないな…。君にこそ全身甲冑を着させるべきだ」ハァ


喪女「うひゃっ!?」


突然掛けられた声に、おどろいて変な悲鳴をあげてしまった
ガッシリと片足を木にかけた状態で首だけでふりむくと、そこには……


喪女「って…… 暗黒騎士さん!?」

暗黒騎士「また、会ったな」


あまりの醜態。
登るのは諦めて木を降りる

ズルリズルリとずり下がる私に、暗黒騎士は手を貸してくれた
無事に着地した私は、服についた細かな木屑を払い衣服を整える

……整えたところで、たいして代わり映えはしなかった
ともあれまずは、そんな私を見ている暗黒騎士に疑問を投げることにしよう


喪女「あ、あの なんで…」

暗黒騎士「数日の間、このあたりを視察に回っている。この丘は見晴らしがいい」

喪女「そ、そうでしたか」


質問を言い切る前に、回答される
聞かれる事はあらかじめ予測がついていたようだ


喪女(……きっと、頭もいいんだろうなぁ)


そんな思いで一人関心していると、
暗黒騎士は苦笑しながら予想外なことを言った


暗黒騎士「ついでだ、手伝おう。……君よりはまだ、俺のほうが木登りが似合うだろう?」クス

喪女「あ、あwせdrft」


ごめんなさい、あなたより私のほうが、きっと木登りは似合うと思います……
でもそんな言葉すら、スラスラいえたりしない

正直、男性と話してるってだけで緊張する。
止める事もできないでいるうちに、暗黒騎士はスルスルと気の上に登っていってしまった


暗黒騎士「これでいいか?」


私ではなかなか登れない、樹の高い場所にある大きくよく熟れた木の実を示される

ブンブンと首だけを縦に動かして充分だと伝えると、
暗黒騎士はさっと実を捥いで、投げる仕草をした


暗黒騎士「放るから、受け取ってくれ。カゴを持って登るのを忘れた」

喪女「あ」


カゴは私の腰に巻きつけてあるまま。すっかり渡すのを忘れていた

その直後に、見事なコントロールで私の手の中に木の実が飛んできた
私もそれを見事に取り落とし、暗黒騎士に『一度手の中に飛んできたものを落とすなんて。才能があるな』と笑われた


私も、笑うしかなかった

自嘲じみた乾いた笑いに溜息を吐き出しているとき
樹上では暗黒騎士が、楽しそうに次の実を選び始めていた


・・・・・・・・・
・・・・・
・・・


――――――――――――――――――――――――


その日から、私たちはよく会うようになった

慌しい毎日で、浮いた話のひとつも無い私にとって
私を女性として扱ってくれる暗黒騎士と過ごす時間は、とろけそうなほど幸せだった

もっともっと、女の子として見て欲しい―― そう願ってしまうほどに




暗黒騎士「また木登りをしているのか? ……っと」


丘を登ってくる声に、振り向くと
暗黒騎士が、いつもよりもゆったりとした歩調で近づいてきた


喪女「あ! 暗黒騎士さん! 視察、おつかれさまです!」ニコッ


昨日は雨だったから 私も仕事も少なくて、ゆっくり眠れた
肌の調子もいいし、元気だって有り余っている

『ちょっとでも可愛いところを見て欲しい!』なんて欲目が出ていた私は
鏡の前で猛練習したとびきりの笑顔をつくってみせた


喪女(こ、これなら少しは『見られるレベル』になってるはず……!!)


意気込みすぎて、もしかしたら少し顔が引きつってしまったかもしれない


暗黒騎士「おつか…… ああ。確かに少し疲れていたかもしれない。だが、疲れも吹き飛んだな」

喪女「?」


暗黒騎士の反応がおかしい


暗黒騎士「目の保養にはよさそうだが… スカートで木登りとは。随分とワイルドな色仕掛けをしてくれる」

喪女「うぎゃ!?」


浮かれすぎて、本末転倒な失敗をしてしまった

喪女(さ、さすがに勝負パンツなんて履いてきてないのに! 見られた!?) 

喪女(っていうか、そうだ! ベージュのカボチャパンツだったはず! 私、最悪!)


喪女「~~~~~~っ//」


樹にしがみつきながらも、必死にスカートを脚の間に挟みこんでパンツを隠す
暗黒騎士は兜をかぶって、バイザーを降ろした


喪女(……お、降ろしたって、それ、見えてるよね? 絶対)アワワワ!

喪女(隠したのは、兜の中で笑いを堪えている暗黒騎士の表情だけなんじゃないですかああ!?!?)パニック!!


そう思っていると、暗黒騎士は私に向かって両腕を伸ばしてきた


暗黒騎士「今日の分の仕事は代わろう。降りてこい、ほら」

喪女「……//」


差し伸ばされた腕に向かって飛び込む
暗黒騎士は 力強く、それでもやわらかく、膝や腕のクッションを使って受け止めてくれた


暗黒騎士「あまり無茶をするなと言っているだろう」コツン

喪女「み゛ゃゥ」


こういう時、とっさに可愛い声で「きゃんっ」とか、なかなか出ない

ちょっとこういうシチュエーションは憧れてたのに……自己嫌悪
なんだろう、今の轢かれた猫みたいな声。


暗黒騎士「ほら。かごを外して、渡せ」

喪女「……うん!」


それでも暗黒騎士は、私のことをいつも暖かく見守ってくれる


しんどいとさえ思っていた木の実集めも、
たくさんの仕事を早くこなせるように頑張ることも、全てが楽しいものに代わっていった

全部が全部、暗黒騎士に会う為なら がんばれるような気がした


・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・


――――――――――――――――――――

さらに別の日 生命の樹の根元



喪女「…それで、こうやって皮手袋を二重にしてイガが刺さらないようにしてたら…」

暗黒騎士「想像に難くない。思うように指先が動かせなくなったな?」


今日は、暗黒騎士とゆっくりおしゃべりをしている
必要なだけの木の実あつめも、仕事も、すっかり済ませておいたから

私、やれば出来る子。



喪女「なんでわかっちゃったんですか! そうなんです、だから結局、刺さらないように慎重にやるしか…」

暗黒騎士「そんなもの、刃で引き裂いてしまえばいい」

喪女「ふふ。中の実が傷ついたら、使い物にならなくなっちゃいます。だからみんな手で剥くんですよ!」

暗黒騎士「俺であれば、イガだけを剣で剥いて見せることも可能だな」

喪女「自信過剰っていうんですよぉ、ソレー」アハハ

暗黒騎士「言ってくれる。なら試しにひとつ……  っ!」


暗黒騎士の表情が変わり、視線を丘の向こうへと流す

ザッザッ…
私もつられて耳を澄ますと、行進のような足音が聞こえた
ついで、8つほどの兜が見えてくる


喪女「あれ? あれは…もしかして公国の騎士団ですかね? こんな田舎町に一体何を…」

暗黒騎士「ちっ…。悪いが今日はこのまま帰る」


暗黒騎士は兜を手に立ち上がり、そのまま私に背をむけて――


喪女「え!? ちょ、暗黒騎士さん!?」

暗黒騎士「! 声が大き――…


思わず引き止めてしまった私の声に反応したのは
暗黒騎士だけではなかった


「見つけたぞ! あそこだ!!」


喪女「え? え…? こっちに来る?」

暗黒騎士「見つかったか…… 厄介な」


公国の騎士団といえば、自警のための組織
特別悪いことをしたわけでもなければ、気にすることは無いはず

こんにちは!と声をかければ、にこやかに挨拶を返してくれる
喪女の知る限り、公国騎士団というのはそういった存在だった

だが



公国騎士C「誰かいます… 娘です! 人間の娘と一緒にいます!」

公国騎士A「娘も共に捕らえろ! 人間に扮している可能性もある!」


喪女「え、ええ? どういうこと…??」


私の頭は、すっかりパニックをおこしてしまった
おろおろして、思わず暗黒騎士の腕に掴まってしまうほどに


暗黒騎士「……」


暗黒騎士(このまま俺が逃げてはこの娘が尋問される。だが連れて逃げたところで…後日、調査が入るだけだ)


暗黒騎士は、私と話す為に外していた兜を被りなおした

悠々とした動作のその間に、あっさり公国騎士団によって囲まれてしまう
だけれど、私を軽く抱いた暗黒騎士さんは、怖気た様子も無く堂々と立っったままで…


騎士団長「目撃情報は確かだったか。…貴様、暗黒騎士だな」

暗黒騎士「……なんだ。素知らぬふりでもしてやろうかと思ったのにな。既に情報を持っていたならつまらん」


世間話をするくらいの気軽さで、話を始めた


騎士団長「その漆黒の全身甲冑、すぐにお前だとわかる。身を守る為のものの筈が… 逆に仇になったな」ニヤリ

暗黒騎士「コレは、いざとなればこの身が盾となり主君を守れるよう、硬度を必要として着込んでいるだけ」

暗黒騎士「はなから我が身を守るつもりでは着てないさ」


そういうと暗黒騎士さんは私を後ろへと押しやった
その更に後ろにあるのは生命の樹。ここなら背後を狙われることも無い


騎士団長「ふ。さすがは魔王軍幹部。腕にも自信はあるようだな」

暗黒騎士「……」

喪女(! ……魔王軍… 幹部!?)


騎士団長「公国軍騎士団の誇りにかけて貴様を捕らえさせてもらう。覚悟はいいか」


スラッ… ジャキン!

騎士たちは一斉に抜剣し、構えをとった
戦闘知識なんてない私にもわかるほど、ピリリと空気が張り詰める


暗黒騎士「お前は戦いの度に、いちいち覚悟を決めているのか?」


軽口をたたきながらも、暗黒騎士は剣を引き抜き、片手で構えを取る
見えないけれど、きっとその口元も兜の中で微笑しているんだろうと思う

これだけの刃に睨まれているのに、恐怖なんてしていないようだった


騎士団長「ちっ。気取るな、外道騎士が」


騎士団長が剣を振りかざすした次の瞬間、暗黒騎士は意外にも前に躍り出た

暗黒騎士の剣と騎士団長の剣。激しい剣戟の響きが続く
そこに次々と、他の騎士たちも加勢していった


暗黒騎士は公国騎士達の剣を全てかわしているけれど
少しづつふもとの方へ追いやられているようにも見える


喪女(暗黒騎士さん一人に、こんな大勢で…… わ、私も加勢しなきゃ!)


もっていた剥きかけの木の実を思い切り投げてみる

木の実は公国騎士の鎧に当たり、転がり落ちただけ
それでも、公国騎士はピクリと反応し 手が、止まった


喪女(やった!)


だが


騎士団長「邪魔をするな娘。邪魔をするならば、貴様も魔王軍の手のものと判断し、お前から捕縛させてもらうぞ…」ギロ

喪女「っ」


ほんの一睨み
でもその眼は、私を震え上がるのには充分すぎる威圧感を放っていた

怖さのあまりへたりこみそうになったけれど
生命の樹にだきつくようにして なんとか私は身体を支えた

そんなやりとりを聞いた暗黒騎士は
他の騎士たちの剣を一蹴してから、一言だけ呟く


暗黒騎士「……勘違いしないでもらいたいな」



公国騎士「何……?」

喪女(……暗黒騎士さん…?)


暗黒騎士「このように艶やかさも色気も足りぬ小娘、情報収集の手段として利用していたに過ぎぬ」

喪女「!!」


暗黒騎士「この娘、どうやら男に不慣れらしい。すこし撫でてやれば操るのも簡単なものだ」クク


公国騎士「……騎士の風上にも置けぬ輩めが。やはり、外道騎士であったか」

暗黒騎士「……なんとでも?」


喪女「暗黒…騎士、さん…。そんな」


考えてみれば、当たり前のこと
やっぱり、あんなに格好いい暗黒騎士さんが、私のことなんて女として見てくれるはずはなかったんだ


喪女「暗黒騎士さん……!」


呼びかけたが、暗黒騎士は僅かに覗くその目すらあわせてくれない
兜に覆われたその顔は、ただ無機質なまま冷え切ってそこにあるだけ


喪女「う……」


あまりのショックに涙がこぼれた


本当なら、思い切った平手打ちでもしたい
でも―― 実際には私は あの騎士達が剣を構えて争うその場にすら、恐ろしくて向かっていけない

明らかに異質。ここに私の居場所は無い


喪女(ううん。私には 暗黒騎士さんの隣なんて…… 最初から、場違いだったんだ)


悔しさのあまり、走ってその場から逃げ出した


そのすぐ後に、激情した騎士団長が剣撃を繰り出す
激しい戦闘音を横目にすりぬけ、私は一目散に丘を降りた



丘の中腹ほどまで走った頃に、ふと気がついた


喪女(……視線…?)


立ち止まり、振り向く

騎士団長の攻撃を避けながら、あるいは受けながらも
暗黒騎士のその目は 時折、私を追っている


私の逃げ道が安全であるかどうか、確認してくれているのだ


喪女(あ…… もしかして)


全ては、私を安全に逃がすためだった?


喪女(追いつめられるふりで私から離れて距離をとろうとしてた…?)

喪女(私が、暗黒騎士さんの仲間と思われないために、わざとあんなことを言った…?)


そう考えるほうが、自然。


暗黒騎士は、他の騎士たちの剣を軽々と一蹴したんだ
なら、追い詰められて丘を後退するなんておかしい

あのタイミングで
わざと騎士団長を怒らせて事態をこじらせるなんて、おかしい……!!


喪女(私…… 卑屈に、なりすぎて。自分のコンプレックスに負けて…)

喪女(守ろうとしてくれた暗黒騎士を、見捨てようとしてる…?)


少し遠くなった金属音。
恐怖を飲み込み、私は丘を引き返そうとした


でも暗黒騎士はそれに気付いて
公国騎士に悟られぬよう、私へ合図を出してきた


『行け』


喪女「--っ」


暗黒騎士さんが合図を送るために生んでしまった一瞬の隙
ほんの少し、空降らせてしまったかのようなカモフラージュ

そこに、騎士団長の一撃が入る。剣ではなく、足蹴の一撃


これは暗黒騎士も予想外だったのか、みぞおちに容赦ないダメージをくらった


暗黒騎士「ぐ・・・っ」

喪女「!!」


悔しいけれど、このままでは私はただの足手まとい
私は丘を登ろうとしていた足をとめ、再度 踵をかえした。


そしてそのまま―― 逃げ出す、フリをした



そうでないと、暗黒騎士はうまく戦えない
でも…見捨てるだけなんて、やっぱり出来ない


丘を迂回し、生命の樹の陰にはいるようにしてそっと近づいていく


騎士団員は皆、暗黒騎士に注目している
もしかしたら気付いている人もいるのかもしれないけど、私なんかには注視していない


迂回している間に、暗黒騎士はさらに一手くらわされていたようだった
みぞおちのあたりを片手で押さえつつ、その手甲からも血が滴るのが見える

『喪女を逃がすための時間稼ぎ』――
その為に負ってしまった怪我とダメージに、本当に思うように戦えなくなってしまったようだった


喪女(私が・・・ 私の、せいだ)


見上げた先にあるのは、生命の樹
その奇跡の果実


喪女(これがあれば・・・。せめてこれを渡すことが出来れば、暗黒騎士さんは・・・!)


思うよりも早く、身体が動いていた
樹に手をかけて一心不乱に登った


綺麗なハイヒールなんて履いてなくてよかった
豪奢なドレスも、重たい装飾品もつけてなくてよかった


喪女で、よかった。


だって、そんな風に着飾っていたら
こうして・・・


貴方の為に、全力になることなんて出来なかったから




樹の上で、慌しくイガにつつまれた木の実を剥く
慎重になどしてられない。手に突き刺さるイガも気にせず、手早く剥き終えた


深手を負った暗黒騎士は
今度こそ“身を守るために”、生命の樹に背を預けようと近づいてきていた


丁度いい
ここからなら、私でも おもいっきり投げればきっと届く
暗黒騎士なら、きっとうまく受け取ってくれる


喪女「暗黒騎士さん!!!」


私は精一杯、声を張り上げた

見つかって、魔王軍の仲間と思われて捕らわれてもいい
あなたに居なくなられたら・・・ ようやく出来た私の居場所も、なくなってしまう


私の声に、暗黒騎士はすぐに気づいてくれた


喪女「受け取って―――!!」


木の実を投げ渡そうとした

だけれど、暗黒騎士は何を思ったか、受け取るための動作をとらず…
私のいる樹の根元へ、一直線に駆け寄ってきた


喪女「――何を・・・!」

暗黒騎士「何をしている!? こうなったらもう、君を抱えて逃げるくらいしか――


騎士団長「暗黒騎士ィィ!!!」

暗黒騎士「っ!」


騎士団長「窮地にあるからといって、背を見せて逃げ出すとは! その腐った根性ごと斬ってやろう!!!」


暗黒騎士を見ていた騎士団長は、樹上の私が見えていないらしい


暗黒騎士に隙が生まれた理由には気づかず
背後からここぞとばかりに 大振りの一手を―――……


喪女「だめえええええええええええええええ!!!!!!!!」



騎士団長「なっ!? くっ……!」


私はその瞬間、手を広げて樹から飛び降り… 
暗黒騎士の上に、覆い被さった


ザシュッ!!!


喪女「っ… あ…」

暗黒騎士「喪女!!」

騎士団長「なっ!?!」


騎士団長「これは・・・ 先ほどの娘!? 馬鹿な、斬り合いの最中に飛び込むなど!」

喪女「ぐ、ぅぅっ!」

暗黒騎士「喪女!! 喪女!!?」


騎士団長「やむを得ぬ…! 暗黒騎士、一時休戦を申し込む!!」

騎士団長「救護兵、手当てを! 一般人が負傷した!」

救護兵「はっ!」


騎士団長が呼びかけると、どこにいたのか 救護兵と呼ばれた白服の男が駆け寄ってくる
だけれどその人が近づくよりもずっと早く、暗黒騎士は私を抱きしめてくれた


暗黒騎士「喪女! 大丈夫か、今・・・!」

喪女「あ… あんこく…きし… さ」


ズルリ。

甲冑を叩き斬る勢いの一撃は、
私の肩口から背にかけて 大きく斬り裂いていた

腕も上がらない
僅かに残された力で、肘を曲げ… 手に持っていたものを、差し出す


喪女「これ・・・ 回復、アイテ…」

暗黒騎士「まさか…… それを俺に届ける為に、戻ってきたのか!?」

喪女「えへへ…」ニコ

暗黒騎士「なんて無茶を……!」


喪女「あり・・・ が、と」

暗黒騎士「何を! 感謝をするのはむしろ・・・ 



私は 暗黒騎士の言葉を最後まで聞き取ることも出来ないまま……

そのまま、死んでしまった


・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・


――――――――――――――――――――――

ふわふわと、心地よい

うっすらと記憶に残るのは 暗黒騎士の冷たく硬い鎧の感触
それと、兜の下にある 強面だけれど、感情豊かな漆黒の瞳

あまり抑揚もないけれど、意地悪で自信過剰な 優しい声音


最期が 好きな男の人の腕の中だなんて
私にはきっとそれだけで充分に生きた価値があるんだとおもう


私を守るために、見事な嘘をついてくれた暗黒騎士は
最後まで私を守ろうとしてくれて。

私は、そんな彼の役に立つために動いて、守るために死んだ


こんな死に方、最高だと思う
こんな人生、本当に…… 私には 出来過ぎてるよ


・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・


――――――――――――――――――――――

目が覚めると豪華な部屋の一室だった


「ここは…? あれ? 天国・・・?」


身を起こしてあたりを眺め見ると、大きくて立派な扉があった

あの先には閻魔大王でもいるのかな?
私は審判でも受けるんだろうか?


「……ダイジョブ。生前に悪いことなんて、なにも……」

「……」

「そ、そんなには、してないはず!」

ガチャ、と
勢い込んでドアを開けた

その先に居たのは、小柄なメイド服の女の子だった


メイド「ひ・・・!?」

「わぁ、すごいなぁ……。イマドキ、天国でも天使がメイド服を着たりするんだ…」ウンウン


メイド「姫様!?!?」

「え?」


――姫様?




その後は、怒涛のように時間が過ぎた

何よりも混乱している私は、冷静さを失って歓喜している周囲にもみくちゃにされた
情報を得れば得るほどに余計に混乱してしまい 理解するのに時間がかかった


てっきり私は死んだと思っていたのだけれど、どうやら…


16年間眠り続けたままだという『魔王の“娘”の身体』に、
どういうわけか、憑依してしまっていた……らしい


・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・


―――――――――――――――――――――――

魔王城 姫の部屋


姫(元・喪女)「…………これが、私…」


思わずお決まりの台詞を口にしてしまう
鏡を見る度に、そこに映るのは美しい少女の姿

自分で言うのは気恥ずかしいけれど
ほんのすこし 目元は喪女であった自分に似ている気がする

とはいえ、美しく細長い指先や 痛みのない長い髪などは比べようもない
喪女であった自分には持ち得なかったものばかりだ


それになにより・・・

コンコン


姫「は、はい! 開いています、どうぞ!」


魔王「姫―! おっはよーーー!」バターン!!


姫「ま゛ッ!!!」 


目が覚めてから何度も…というか、四六時中そばにいたけれど
やっぱりその姿を見ると心臓が飛び出しそうになる


そう。私は『魔王の娘』の身体になっているのだから…
ここは魔王城で。当然、魔王がいるわけで。


魔王「…あ、あれ。身支度の途中だった? 出直したほうがいいかな」ショボン

姫「え、えっとっ…! だだ、大丈夫です!」


父親である魔王は、娘の身体である私を 何も知らずに溺愛してくれた
16年間眠り続けた娘の目覚めを何よりも喜んだのは間違いなくこのヒトだ


魔王「そう? よかったー」ニコニコ


魔王というくらいなんだから、もっとこう
『ゴゴゴ』みたいなのを想像してたんだけど。見た目は普通の人だった


姫(あ、訂正。やっぱり普通の人…ではないかな。よく見るとマントの下に尻尾生えてるし)

姫(角も生えて…… っていうか、角なのかなぁ、あれ)

姫(二箇所だけ、髪型がモコっとしてるところあるんだよね… 髪に埋もれてよく見えないけど……)


姫「……やっぱり、あれは耳なのかな…」ボソ

魔王「!? 耳じゃないよ! ちゃんと角だよ!?」


魔王が髪を掻き分けると、中から角が見えた
くるくる丸まった、ヒツジみたいな角だった


姫(……っていうか、口に出てた!? あの『魔王』に対して、私って命知らずすぎる!!)

姫(娘さんの身体じゃなかったら、きっと余裕で死んでたとこだよ!!)


姫「お、おはようございます! 魔・・・じゃなくって。 と、父様!!」

魔王「うんっ おはよー! よく眠れた、姫?」ニッコリ


挨拶すると、魔王は嬉しそうに微笑んで近寄ってきた
横に立って、私の頭を愛しそうに撫で回す

こんなに暖かい掌、喪女だった時には知らなかった


メイド「失礼します」ペコリ

メイド「魔王様? 女性の部屋の扉は、開けたならば閉めていただかなくては」ニッコリ


魔王「えっ、開いてた!? ごめん!」

姫「あ、いえ。…私は別に構いません」

メイド「姫様なのですから、構っていただかなければ困ります」クスクス


メイド「姫様、おはようございます。よくお眠りになられましたか?」

姫「うん。 じゃなくて、えっと… はい」


メイド「ふふ。お身体こそ立派に成長なされましたが、まだまだ幼さの残る振る舞いですね」

メイド「さすがに16年も眠り続けられたのですから、仕方のないことですが」クスクス

姫「ご、ごめんなさい(本当はこれが地のまま、この年になりました…)」ショボン

メイド「…ふふ。そのように肩を落とさずとも、大丈夫ですよ」


メイド「ゆっくり、ゆっくり。みんなついていますから・・・ 一緒に ひとつづつ時間を埋めていきましょうね」

魔王「俺もついてるよ」

魔王「姫は起きたばかりなんだ… 今はゆっくりと生活に馴染むことだけ考えていていいからね」ニコ

姫「……」


これまで、ないがしろにされつづけてきた自分は 
こうして皆に愛されることなど初めてで・・・ それこそ、“持ち得なかったもの”だった


何もかもが夢の中なのではないかと錯覚しそうになる

メイドに、実は自分は町に住む喪女なのだと話してみたりもしたが
彼女は愉快そうに『それはそれは、随分と忙しい夢をご覧になっていたのですね』と笑っただけ


姫(喪女としてすごした16年こそが… 昏睡の中で見ていた、夢だったりして…?)


暗黒騎士との出会いだって、思い返してみると夢物語のように思える

貧しい生活の中でがんばって暮らしていて。
ある日偶然であった素敵な騎士に助けられるなんて、夢みたいな話で。
お互いに守りあって、最後には命をおとしてしまうなんて出来すぎた悲恋で。


姫(……本当に… 夢、だったのかも…)


そんな風にしか思えない『喪女としての自分』
それでも16年間のその記憶は確かに自分の中に残っている

私は夢とも現実ともわからないまま、それでも少しづつ
姫として… 魔王城に馴染んでいった


・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・


――――――――――――――――――――――――

しばらくたったある日
魔王城 庭園
 

魔王「姫ー! お茶にしようよ! はやくこっちにおいでー!」ブンブン!

姫「はーい!!」


案内されたのは、花々の咲き乱れる庭園だった

若干、というか 全体的に黒い花が多いけれど
それでもあちらこちらに色々な花が咲いて賑やかな庭園


姫「うわぁ・・・! 綺麗・・・!」

魔王「姫は花が好き? そうだ! 似合いそうな花を選んで、摘んであげるよ!」

姫「えっ そんな! い、いいですよ!」

魔王「ん~~ これなんてどうかなぁ?」


姫(聞いてないし!!)


魔王が選んで指をさした花は
大きな葉の茂る、黄色い巨大な花だった


姫「わ、わぁ」


それはヒマワリとかの、そういう元気な花ではなくて。
なんというか、いかにも『毒花の鮮やかさと妖艶さ』を併せ持っている花だった


姫「……さすが魔王城って感じです!」

魔王「えっと…。 これじゃだめかな。 気に入らない・・・かな?」


姫(……あ。すっごい不安そうにしちゃってる…)


魔王「ご、ごめん。あんまりこういうセンスはなくて・・・ 一番おっきくて、色もハッキリしてて、綺麗だとは思うんだけど・・・」


姫(ふふ。こんな魔王だなんて。花を選ぶのに必死になるなんて……)


姫「いいえ。すごく、すごく気に入りました! ありがとうございます、父様!」ニコッ

魔王「!」パァッ


私の言葉は嘘なんかじゃなかった。
こんな風にして選んでくれた花を、気に入らないなんてありえない


姫「でもそれ、随分と大きな葉が茂っていて・・・ 切花にするのは難しそうですね?」

魔王「んー…… なら、一回抜いちゃえばいいんじゃないかなぁ」

姫「抜け……ますかね? 結構大きいし、根も深いんじゃないですか?」


魔王「うんこらしょーって、一緒にやってみよっか! あはは!」

姫「あはは。それならなんとかなるかもです! やってみましょう!!」


魔王は葉を掻き分けて、その茎の一番太い部分を両手でつかむ
私はその魔王の肩の当たりにつかまって、ひっぱった


魔王「よっこらしょー♪」グイー

姫「ど、ど… ど…っこい、しょぉー…ッ!」ググググ


魔王は力を入れてるのか入れてないのか、花は抜けない
私ばかり、本気を出しているような気もする


魔王「もっともっと力いれてー♪ せーの、うんこらしょー、どっこいしょー♪」

姫「す、すっとこどっこいしょーぉぉッ!!!」フンヌー!!

魔王「ちょっ、なんか違うよ!?」

姫「ふぬぅぅぅう!!」ムギギ


つい、こういうのって熱くなってしまう
私は魔王のツッコミも無視して、引っ張り続けた


姫(ハイヒール! 超、邪魔!!!)


魔王「あはは。姫、そんなに引っ張らなくて大丈夫だよ。ちょっとした冗談だから」

姫「えっ」

魔王「多分、俺一人でも片手で抜けるよ、これ。あはは」

姫「 」


あっけに取られて、魔王の肩から手を離す

本気をだしてしまったのが少し恥ずかしいけれど
考えてみればこのヒトは魔王なのだし、花が抜けないなんてこと、あるわけもなかった


がっくりとしていた私の背後を
通り過ぎようとした人影が、足を止めた


暗黒騎士(あれは… 魔王様? それに…)ジー


魔王「んじゃ抜くよー。見ててね、姫! できれば応援もね!」

姫「あ、はい…。 がんばれー父様―…」ハァ


暗黒騎士「!?!?」ギョッ


暗黒騎士「魔王様! 姫様! いけません、それは・・・!!!」ダダダッ


魔王・姫「「え?」」


暗黒騎士「くっ…… 御前、失礼!!」


いきなり剣を抜いて振りかざし、こちらに駆け寄る暗黒騎士
離れた場所から高々と飛び上がり、花の上から一直線に・・・

ザクッ!!!!


『ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ』


姫「ひゃぁぁぁぁっ!?」ビクッ!!

魔王「これは・・・!」



暗黒騎士「姫様! ご無事ですか!?」

姫「あ、頭が・・・ぐらぐらします・・・っ!?」


魔王「ちょ、暗黒騎士! 俺の心配は!?」

暗黒騎士「魔王様がアルラウネごときの叫びにやられるわけはないでしょう!」

魔王「いやまぁ、確かに ちょっとうるさかった程度だったけど…」

暗黒騎士「ですが、攻撃に対する耐性の弱い姫様が もし本当にアルラウネの叫びを聞いていたらどうなっていたか…」

魔王「アルラウネって、何??」


暗黒騎士「……魔王様。いくら自分には影響しない魔物だからと言って、勉強不足すぎます。危険生物の把握くらいは、しておいてください」

魔王「なんでそんなもんが俺の庭に生えてるの?」

暗黒騎士「不審者用の警備の一環にきまっているじゃないですか! それをわざわざ姫様の前でお抜きになるなんて!!」

魔王「え゛」


その後、魔王は土下座の勢いで謝ってくれた

でも私は、一度こぼれだしたら止まらなくなってしまった涙を抑えられず
両手で顔を覆って、その場にへたりこんでしまっっていた


姫(暗黒騎士・・・ 夢じゃない・・・ 本当に、本当に 暗黒騎士は居たんだ・・・!)


魔王も暗黒騎士も、恐怖ゆえだと勘違いして 優しく慰め続けてくれた
だから私は余計に、その嬉し涙を堪える事が出来なくなっていた

また、暗黒騎士に会えたのが…… たまらなく、嬉しかった


・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・


―――――――――――――――――

その夜、姫の自室


姫(………暗黒騎士さん…)

私は部屋でひとり、ぼんやりと鏡台に向かって座り、髪を整えていた
1日中くくっていたはずの長い髪は、髪飾りを外すと するりと解ける

鏡の中にいる、美しい姫君の姿

わずかにうねった髪も、その艶は失わないままで
かえって艶めかしさを増した雰囲気をかもし出している


姫(・・・・・・今の、私なら)


喪女ではない、『本当の姫』の事を思うと 心が痛んだ

暗黒騎士は本当に実在した
なら、喪女だった私はも実在したのだろう

今の私は、『偽者の姫』
なら、この身体の持ち主である『本当の姫』もいるはずなんだ


なのに


鏡の中の、この 姫君なら
きっと、あの凛々しい暗黒騎士ともよく釣り合うとおもった


姫(……どうして、私がこんな身体になっちゃったのか わからないけど……)


姫(…ごめん、なさい。あなたの身体を……もう少し、貸していて…)


もうすこし
もうすこしだけ。


私に あの日の夢の続きを、見させてください――……


・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・

眠くなってしまったので、今日はここまでにしときます
なるべくソッコーで完結するようにがんばります

どこかで見た名前だなー生キャラメル

暗黒騎士のひとかと思ったらアンタかあああ

おかえりって言っていいのかな?
てか、もっとゆっくりしてもいいのよw


―――――――――――――――――――

3日後、魔王城 拝殿の間
褒賞授与式


魔王「暗黒騎士。前へ」

暗黒騎士「……はっ」


姫「……」


名前を呼ばれると、暗黒騎士が隊列の中から歩み出てきた
真紅の絨毯に、その黒い鎧がよく映える

あの後、魔王は高く暗黒騎士の功績を評価し
今日の式典が急遽 開催されることになったのだった


魔王と私の座る2つの玉座まで歩み寄った暗黒騎士は
その手前にある段差の前で膝をつき、儀礼的に凛々しく頭を下げる


魔王「暗黒騎士。先日は手間をかけた。姫を守ってくれたことに礼を言おう」

暗黒騎士「恐れ入ります」

魔王「……あやうく、姫を倒してしまうところだったからね。本当に助かった」


魔王は苦笑して、畏まる暗黒騎士や皆の雰囲気を和ませる
魔王自身、こうして改まって褒章授与などするのは気恥ずかしいのだろう


アルラウネを引き抜くときの彼女の雄たけび
それは相手を死に至らせる、呪われた断末魔

引き抜くと同時に暗黒騎士が天辺から一刺しにしたがゆえ
本来の、『渾身の一声』が発揮されることはなかった
それでも、姫の頭をぐらつかせるには十分な威力があったのだ

あとほんの少し、アルラウネの喉と肺を突き破るのが遅ければ
私は死んでいたかもしれないという


ともあれ、魔王は自分自身で姫をそのような窮地においやってしまったのだ
褒美を与えるなどといっても、尻拭いをさせた相手に あまり偉そうにも振舞っていられない


魔王「姫の危機を救う。その為に、主君である俺の手元に躊躇なく剣を打ち込んだ」

魔王「並大抵の勇気ではないよ。自己保身を考えてしまえば、そんな行為はできやしない」

魔王「それに剣先を狂わすこと無く、的確な一刺し。それもまた日々の修練の賜物だろう」


魔王「真に守るべきものを違えず、真に守れるだけの技能を併せ持つ」

魔王「そんなお前が、我が騎士として仕えてくれるのは誇らしい。感謝と褒章を授けよう」

暗黒騎士「………その名誉。傷つけぬよう精進いたします」

魔王「ああ」ニッコリ


魔王「でも あんまり真面目にされると、俺の間抜けさばっかり際立っちゃうから。普段はテキトーでいいんだよ?」


魔王のつけたした言葉に、周囲は朗らかな笑い声をこぼす
アルラウネの一件の事情を知る者たちだろう
暗黒騎士も、僅かに苦笑して返答に窮している


姫(………あ)


暗黒騎士の細めた目に、見覚えがあった

青空の下で、二人きりで過ごした時間の中で
何度も、私に向かってそんな顔をしていた

『女の子らしくできない、不器用でしかたない』
そんな喪女だった私に、何度も 優しい言葉を添えて向けてくれた

嬉しくて、でも気恥ずかしくなるような
私のことを『おんなのこ』にしてくれるような、暗黒騎士のその表情

そんな時間が、大好きだった
そんな暗黒騎士が、大好きで。


今 その笑顔が私に向いていないのは、切なくて。


魔王「ああ、姫。姫からも 暗黒騎士に礼の言葉を述べてあげてよ」

姫「あ……」

暗黒騎士「……」


私が喋りだそうとすると、暗黒騎士はまた頭を下げ
儀礼的な態度で 控え改まる

ズキン。

せっかく、彼に釣り合うだけの容姿を 借りられているのに
その私は、『主君の娘』という立場になってしまっていて

あの笑顔はもう、私には 向けてもらえないのだろうか

こんなに近くにいるのに
私と彼の距離が、遠い。


魔王「姫? どうしたの?」


言葉なんて、紡ぎきれない
溢れそうなほどの想いが心の中を満たしている


姫「……暗黒騎士…」

暗黒騎士「……はっ」


私だけのためにくれた言葉と笑顔が、恋しい
今ならきっと、貴方の横で 可愛く笑っていられるとおもう

今度こそ、負い目を感じず 貴方の横で
貴方がいつも望んでくれたように 女の子らしくしていられるから

だから あの日々みたいに、また―― 


姫「私の側に…… 居て、ください」


貴方の隣に、私の居場所を作らせて。


暗黒騎士はその日から、私専属の近衛騎士になった

・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・


―――――――――――――――――――――

あれから数ヶ月

暗黒騎士はいつも私の側に控え、些細なことからも守ってくれた
どこに行くのも二人で一緒

だけど 


姫(私の知っている暗黒騎士さんとは…… あの日の暗黒騎士さんとは、違うのね)


暗黒騎士は、姫に対してどこまでも儀礼的だった
プライベートな時間だからと、私事で声をかけても そっけない返事しか返ってこない

いつだって、どこか暗鬱としたような表情で
あの漆黒の瞳は、いつだってどこか遠くをみつめているままで

話をする間、目を合わせていたとしても


姫(私のことを見ていないみたい……)


喪女であったときは、気安すぎるほどの気安さがあった
何もかも上手くできなくても、暗黒騎士は 仕方ないと笑ってくれる気がしていた


姫(そっか…。喪女だったから、許せたのかな。喪女だったから、見てもらえてたのかな)


今の私は姫なのに
姫としての知性も教養もまるで足りていない

淑女として振舞えない私は、せっかくの姿をもてあまして
ただ、余計に見苦しいだけになっているのかもしれない


でも、喪女だった私は
喪女だから仕方ないって いろんなことを諦めながら受け入れてたんだ


視察が終われば、居なくなってしまうことも
それをひきとめることもできない自分の立場も
格好いい貴方の横にいる、みすぼらしい自分の姿への恥ずかしさも

どうしようもないことだと、諦めるしかなかった


姫(……今なら…そういうの、無くして)

姫(私も、きちんと暗黒騎士さんに向き合える気がしたのにな……)


ようやくまっすぐに貴方をみつめることができるようになったのに
今度は、貴方が私をみつめてくれない


やはり、偽者だからなのだろうか

私は 偽者の姫だから、ただ見苦しいだけで
私なんかの傍に居ることは、彼にとって面白く無いものなのだろうか


姫(……喪女は、どこまでいっても 喪女なのかな……)

姫(どうやったって…… 暗黒騎士の隣には 本当の私の居場所は作れないのかな)


隣を歩く暗黒騎士
目的地につくまでの間、その横顔をじっとみつめていたけれど

彼は最後まで振り向いてくれなかった

・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・


――――――――――――――――――

魔王城 某日
魔王の誕生日パーティ


大広間は花々が飾られ、多くの明かりが灯され
豪勢な馳走が並び、美しい音色が響いている

その広間の中心では数組の男女が舞踏曲を踊って
たくさんの人々が集まって、それぞれ思い思いに心地よい時間を過ごしていた

それにしても……


姫(魔王が誕生日パーティって……)ガックリ

姫(なんだろ、なんか平和すぎる。イメージが…… 魔王城のイメージが…!!)


特設された、まるで高砂のようなテーブル席
私は今 そこに魔王と二人で座って宴席の様子を見ている


魔王「うちの四天王は、先々代の時代くらいに創られたんだけど。その祖の時代から、楽器が得意なんだよ」

姫(あれ、四天王だったんだ)


部屋の一角で、弦楽器を見事に鳴らしている4人の男女を見る

楽器の名前はよくわからないけれど、
それぞれ大きな楽器を巧みに操って、音色だけでなくその仕草までも麗しい


魔王「それからうちの騎士団は、踊りがお家芸みたいなものでね」

姫「え゛」

魔王「みんな、とても上手だよね。やっぱりこういう場だと本当に華やぐ」ニコニコ


言われてみると、中心で踊る男女の中で
特に際立って優雅に踊っている男性は、皆 腰に剣を携えている


姫(あの人たち…… 魔王城の騎士さんだったんだ…)


なんともいいがたい。
騎士と言うのは、こう 無骨で硬派なイメージがあったのに…


魔王「これもね、やっぱり先々代の頃に、ある踊りの得意な騎士がウチに直伝していったんだ」

魔王「うちの騎士団はみんな上手だし、踊れないヤツは騎士になれないんだよ。今じゃ選考基準のひとつだからね」ニコニコ

姫(魔王城としてどうなのよそれ。っていうか先々代の代、どうなってるのよ!?)

魔王「というわけだから姫も、踊っておいで? エスコートしてくれるはずだよ」


魔王の下を離れることになりった私は、まず一番に暗黒騎士の姿を探した
少なくとも踊っている数組の中にはみつけられない

今日の私は魔王の横に座することになったから
一緒に魔王の側近達に警護されることになった

だから近衛である暗黒騎士はその任をはずされている
昼くらいからずっと、暗黒騎士の姿を見ていない


姫(暗黒騎士さん…… どこにいるのかな)


大広間のテラスを抜け、バルコニーにでると
そこで庭先にたたずむ暗黒騎士の姿を見つけた


姫(居た!)


バルコニーから伸びる半螺旋階段を、急いで駆け降りる
かなり幅も広く、段数も多いその階段は 傾斜が緩やかな分、長かった
もどかしくなった私は、その途中の踊り場から暗黒騎士に声をかける


姫「あ、暗黒騎士さん!」

暗黒騎士「! ……これは、姫様。宴席の最中でしょう、どうなさいましたか」


暗黒騎士は私に気がついて声をかけてくれた
正直、ありえないことだろうけれど 気付かないふりをして無視されるような気もしていた
私は暗黒騎士の態度にほっとして、残りの階段も一気に駆け下りる


姫「暗黒騎士さん! 探したんですよ……っと、っとっと……!?」


煌びやかなドレスが足にまとわりついて、階段を踏み外す
踏ん張ろうにも、高さのあるハイヒールでは かえって足首をねじってしまい・・・


暗黒騎士「っ! 姫様!!」

姫「きゃああっ!?」


ドサ。

駆け寄ってくれた暗黒騎士の胸に、落下の勢いのままに飛び込んでいた


姫「ごごご、ごめんなさい!?」アワワ


そう謝りながら、私は思い出していた

私の、最期の瞬間を

抱きとめられたその腕の中は あの時と同じ
暗黒騎士の冷たく硬い鎧の感触があったから


でも


暗黒騎士「…………っ」グイ


その感触を堪能する間もないほどの速さで、引き離されてしまった


姫「あ……」

暗黒騎士「ご無事で何よりです。立ち上がれますか」

姫「……はい」


支えに差し出された手は、やはり儀礼的で
立ち上がってドレスの乱れを直すと、暗黒騎士は一歩下がって控える


暗黒騎士「…自分に、何か御用でしたか」

姫「あ、それは……」

暗黒騎士「お一人で警護の目から離れるのは あまり関心できません」

姫「……ご、ごめんなさい」

暗黒騎士「いえ」

姫「その……。踊りを踊ってはどうかと、父様に言われて。それで、暗黒騎士にその相手をお願いしようとおもって……」


しどろもどろになりながらも、思い切って誘ってみた
魔王は、魔王城の騎士は皆が踊れるといっていたし、暗黒騎士も踊れるに違いない

一緒に踊れば、すこしはきっと 暗黒騎士との距離感だって――
そんな風に、期待してしまったのだ


暗黒騎士「……光栄ですが、申し訳ありません。辞退させていただきたく」

姫「暗黒騎士…… じゃぁせめて、食事だけでも一緒に」


暗黒騎士「すみません、姫様。……しばらく自分の事など捨て置いて、パーティをお楽しみください」

姫「でも」

暗黒騎士「…申し訳ない。ですがどうかしばらく、放っておいて欲しいのです」

姫「っ」


沈黙が、統べる
澄み切った冷気だけが流れている


姫「私は……」

暗黒騎士「……?」


暗黒騎士の態度に、私はついに 耐え切れなくなった



姫「私は…… 暗黒騎士さんの事が、好きです」


月明かりはスポットライトのように私を照らしてくれる
緊張しきった瞳は きっと潤んでいる

完璧なまでのシチュエーション

あとは、目の前の…… 
漆黒の鎧を 月明かりの元で黒銀に輝かせた、この暗黒騎士が抱きしめてさえくれたら。


暗黒騎士「応える事は、出来ません」


でも現実は、物語ほどには上手くいかないものだった

打ちのめされる気がした
本当のお姫様だったならば、物語のようにうまくいったのかもしれない

そうだ、私は『偽者のお姫様』
どういうわけかはじまった いきなりの夢のようなものだったんだ

ならこれは罰なのじゃないかとも、思えてくる

お姫様気分で浮かれていた私への罰
『本当のお姫様』のことをないがしろにして、身分を弁えない私への罰

もしかしたら、この姫の姿に憑依してしまったこと自体
『身の程を思い知り、現実を知れ』という、美しい夢のような『悪夢』なのかもしれない


暗黒騎士「……こうなったのは… ただの、間違いなのです」


暗黒騎士が 小さく呟いた

ああ、やっぱり。
きっともうすぐこの夢は終わる

これはきっと 物語の最後にある種明かし
彼の口から、身の程を思い知れと聞かされるにちがいない


でも、私はとても立ち直りきれそうになくて… 真っ暗な視界の中から出て行けない



暗黒騎士「ほんの数ヶ月ほど前……。自分は敵情視察に、人間の国に行きました」

暗黒騎士「そこで出会ったのは、身なりからして貧しい一人の娘」

暗黒騎士「傷ついた指先で、一生懸命に自分の仕事をこなそうとしていた」

暗黒騎士「それが自分の役目だからと。理不尽な環境においても前向きに・・・」



暗黒騎士の口から聞かされる二人だけの回想録


それはまるで走馬灯のようだと思った
きっとこのまま聞いていて、話が終われば この悪夢は覚める

あの日、最後まで暗黒騎士の声を聞けなかった事を 唯一悔やんだ私だから
神様が哀れんで、彼の声で 生前の過ちを諭してくれるのだろう

この穏やかな声を最後まで聞き届けたら
この夢は終わって、今度こそ逝く事になるのだろう


暗黒騎士「本当は… 俺は、騎士など失格なのです」

暗黒騎士「申し訳ありません、姫様。俺は騎士を騙って自分を繕う若輩者」


暗黒騎士「『真に守るべきものを違えず、真に守れるだけの技能を併せ持つ』だなんて……人がよすぎる魔王様だからこその解釈です」

暗黒騎士「アルラウネを刺した時…。あれは本当は、魔王様と姫様を守るための判断というよりは……ただ、怖かっただけなのです」


暗黒騎士「……また、目の前で… 死なれてしまう。それが怖くて、飛び出してしまっただけ」


暗黒騎士「町で出会った彼女は―― 喪女は……。戦闘の最中、俺を癒すために飛び出してきて… 俺を守り、逝ってしまった」

暗黒騎士「きっと… きっと、誤解だってさせたままだ。弁解する間も無く逝かれてしまった」


暗黒騎士「俺は、騎士なのに……」

暗黒騎士「それなのに、喪女を守れなかったどころか… 傷つけて、守らせて、逝かせてしまった」

暗黒騎士「本当の想いも、伝えられぬままに」

暗黒騎士「全て、俺のせいだ…」



違うよ。それは、違うよ
暗黒騎士は何も悪くないよ

だって私は、とっても幸せに逝けたのだもの


暗黒騎士「まだ… その償いの方法もわからない。尽きる事ない反省と後悔が、いまだ胸中に渦巻いている……」

暗黒騎士「それなのに、貴方を守る役割を頂いてしまった… 期待されて…自分を騙ってしまった」

暗黒騎士「……喪女を守れなかった俺が、姫様を守るだなんて。出来るとは思えない」


暗黒騎士「魔王様に… 近衛の任を、解いてもらいます」


暗黒騎士「……もう、終わりにさせてください。もう、俺は…」


涙が溢れて止まらなかった
もしもこのままこの夢が終わってしまったら 暗黒騎士は傷ついたまま。


ごめんなさい、ごめんなさい。
私なんかが、貴方の道に影を射してしまった

貴方を好きになったばっかりに、無茶をして。
勝手に、幸せで最高の終わりを迎えて、その後の夢の中でまで 心を躍らせていた

その一方では 貴方を苦しませていたなんて。
知らなかった


神様、閻魔様。もう、充分です
私がいけなかったことは、よくわかったから…

だから、お願い
これ以上、暗黒騎士さんを巻き込まないで…苦しませないで。

もう、やめて
私なんかの… 喪女なんかの為に、貴方の強さを見失わないで。


それくらいならば、いっそ もう――


姫「もう――…… 喪女の事なんて、忘れてください…」


体中の血の気を引き上げて、言葉と共に吐き出したような感覚
言い切ると同時に、血の気が引いて 凍えるような思いだった


暗黒騎士「……姫…」


暑いのか寒いのかもわからない
私が回っているのか、世界が回っているのか


暗黒騎士「………俺は…」


それでも吐き出した言葉は、本心からの願い
だけどそれが、あまりに苦しくて…… 私は、そのまま 気が遠くなっていくのを感じた


姫(……これで… きっと。この夢物語は、終わる――……)


暗黒騎士「俺は… それでも、騎士として誇りを持って生きてきたんです……」

暗黒騎士「忘れるなんて…、できない。せめて、これだけは永遠に守っていきたい」

暗黒騎士「喪女への感謝と、償いを。そして何より――」


暗黒騎士「彼女を愛する想いだけは、永遠に守れる騎士でありたいのです…!」


今度こそ、最後まで
暗黒騎士の言葉を聞届けてから 意識が途絶えた


罪悪感が、切なさが、苦しさが、愛しさが、私を押しつぶす
倒れた先の地面は 夜露にぬれていた

・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・


―――――――――――――――――――――――――――


涙も枯れてぼんやりと意識が戻ったのは
どれほどの時間がたってからだろうか

空はすっかり白んでいる

私は独り、庭先のベンチに座らされていた
全身にすっぽりと漆黒のマントが被せられている


姫(え…… これは、暗黒騎士の)


魔王の誕生パーティでは正装をしていた暗黒騎士
その背には、普段はしていないマントをしていた
そしてそのマントが、いまここにある


姫(夢じゃ…ない?)


姫(目が覚めても、まだ、私はココに居る・・・?)


魔王の娘の身体に憑依する、なんていう夢は
てっきりこれで終わるのだと思っていた

混乱が、止まらない

何が夢なのか、何が現実なのか
でも、少なくとも 今はまだ姫の身体のまま……


姫(なら。そうだとしたら、暗黒騎士のあの呟きは…?)

姫(……あの呟きが… もしも、現実だったなら…?)


暗黒騎士に、あんな想いを抱えさせたままでは いられない
あの人に、暗黒騎士に、きちんと伝えなくちゃいけない

いつまで、姫の身体にいられるかわからないから
私はちゃんと伝えて…… 暗黒騎士の心を、きちんと守らなくちゃ。


姫(それまでは、死んでも死ねない!!)


落ち着かない心を必死になだめながら、私は城内へ駆け出した

・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・

今日はここまでにしときますー

>>58 北海道のお土産で有名ですよねーwww
>>60 ただいまwwww なんか帰ってきちゃったwww 
   でもとりあえず、コレ単発の予定ですv 貰ったから書きたくなったw

乙ー
このこじれっぷり……

>>89
単発といわず、もっと書いてもいいのよ?
つか四天王、なにげに出番多いなw

マンドラゴラでなくアルラウネなのか

毎度毎度大好物です

暗黒騎士の人と知り合いなの?
暗黒騎士の人とは文章の特徴違うけど、こっちも好きだわ。

乙&おかえり
続き楽しみにしてる


:::::::::::::::::::::::


城内に戻ると、まず私の姿をみつけたメイドが大騒ぎをした

パーティの最中どころか、夜になっても戻らなかったせいで
朝になって一人現れた私を 皆が心配してくれた

私は急いで暗黒騎士を探したかったけれど
赤い目をして安堵する魔王の前では何もいえなかった

あたたかな湯船に浸された後、食堂に連れて行かれ、優しい味のスープを提供される
でも、そうされていながらも 私の心はここにあらずで……


姫(こんなことをしている場合じゃないのに。暗黒騎士は、あの後どうしてるのか…)


ザワザワ


姫「…? 何?」

メイド「様子がおかしゅうございますね?」

姫「うん。なんだか急に騒がしくなったのね」

メイド「姫様は、そのまま召し上がっていてください。見てまいります」


メイドは一礼して、食堂を出て行く
後に残された私は、一気にスープを飲み干して メイドの戻りを待った
だけど、なかなか戻ってこない。


姫(……どうしたんだろう?)


外のざわめきはだんだんと大きくなっていく
不安に駆られて、自分でも様子をみてみようかと立ち上がった時だった

バタバタ…バタン!!


メイド「て、敵襲でございます!」

姫「!!」


慌てふためいて食堂に駆け戻ってきたメイドは
蒼白な顔で私の手をとった


メイド「姫様、すぐに安全な奥のお部屋までお送りいたします、さあ!」

姫「…!」


気丈にそう言ったメイドの手もかすかに震えていた
そんなメイドの手を、私も強く握る

私たちはお互いに手を取り合って、食堂を出た


食堂を抜け廊下に出るとすぐ、激しく金属を打ち鳴らす音が聞こえてくる


メイド「! かなり近い… 姫様、急いでください!」

姫「うん!」


廊下を、城の奥側に向かって駆ける

途中、窓から外の景色を見ると 魔王城の騎士団と公国軍の騎士団が既に交戦しているのが目に入る

その中には…


姫(っ! あれは!)


白銀の剣を掲げ、陣頭指揮を取る公国軍・騎士団長の姿


姫(あ…)


ギラリ、と光るその白銀の剣を見た瞬間 背中にありもしない傷の痛みが走った
その痛みを感じたと同時 足が震え、腰が抜ける。そして、私は声を失った

自らを死に追いやったその剣と姿、そのダメージ
その経験は、いまだ強く記憶と精神に残っていたようだった


メイド「姫様…… 姫様!? ここはまだ大丈夫でございます! どうか立ち上がってくださいませ!!」


メイドが私の手を強く引く

立ち上がらなくてはならないと思ってはいるのに、思うように身体が動かなかった
体中から血の気が引いている
その感覚すらも、あの死の瞬間に似ていると思ってしまったから、なおさらに……


メイド「姫様ぁっ!!」


公国軍騎士「!!! 誰かいるぞ!!」

姫「!」

メイド「姫様!」


公国軍騎士「お前達は……! 魔王の手の者だな!?」


メイド「…っ ここは私がひきつけます! 姫様、どうか今のうちにお逃げください!!」

姫「…っ で でも……」


動きたくても、動けない

目の前で私をかばって立つメイドに、すがるような視線を投げてしまった
メイドも、同じような視線を私に投げ返してきて……


公国軍騎士「捕らえろ!!」


公国の騎士たちは一斉に駆け寄ってきて、私達はあっという間に囲まれてしまった
メイドは既に後ろ手に拘束され 床に組み伏されている


メイド「姫様っ…!」

姫「メイドさんっっ!」


公国軍騎士「……そちらの女性」

姫「!」

公国軍騎士「ご衣裳から、魔王城上位の方であるとお見受けする」

公国軍騎士「さらに女性であることを考慮し、抵抗しなければ乱暴には扱わないと約束しよう……」

姫「い、いや…… メイドさんを、放して!!」

公国軍騎士「抵抗されるようであれば、貴方も……」


マントを着けた騎士の一人が、近寄ってくる
そいつは私の目の前まで来ると、私の腕を掴もうと手を伸ばしてきて…


暗黒騎士「触れさせは、しない」


姫「!」


公国の騎士に腕を掴まれる寸前で、公国騎士と私の間に 黒剣が差し込まれた


公国軍騎士「っ! 貴様!!」


暗黒騎士「無礼にも程がある。貴様、我らが魔王様のご令嬢に何をしようとした」

公国軍騎士「魔王の…令嬢だと!?」


暗黒騎士は、私を背後に隠すと その黒剣の先を公国騎士に突きつけたままで
抑揚のない口調で その非を詫びる


暗黒騎士「姫様、申し訳ありませんでした。今はまだ近衛の立場であるというのにも関わらず、姫様を危険な目にあわせました」

姫「そ、そんなことは 今は・・・」



公国軍騎士「ふ…… はは、ははは」

公国軍騎士「その漆黒の鎧姿…… 見覚えがあるぞ。貴様、暗黒騎士だな!」

暗黒騎士「見覚えがある、だと?」

公国軍騎士「以前は騎士団長の采配によりみすみす逃がしてしまったが・・・今度はそうはいかぬ!!」


暗黒騎士「……そうか。あの時に、あの場に居た騎士の一人か」


公国軍騎士「くくく。そういえばお前、あの時も 我らが騎士団に、手も足も出なかったなぁ…」

暗黒騎士「……」

公国軍騎士「お前の力量は分かっている… 今度こそ、捕らえてやろう! それともまた、逃げ出すか!?」

暗黒騎士「……」

公国軍騎士「はははっ!! 喰らえ!!」チャキ!!


公国軍の騎士たちは、一斉に剣を抜き、暗黒騎士に向かって斬りかかる
暗黒騎士の背後で、私はただ目をぎゅっと瞑るくらいしかできなかった


シュ… ギャギャギャン、ガキーーーン!!


公国軍騎士「!!」


私がその金属音に驚いて目を開いたとき、
暗黒騎士は、軽く腰を落とし、あいかわらず剣を突き出した姿勢のままだった

離れた場所で、くるくると回転した白剣が床に刺さったのが見える
床の上でカラカラと音を立てて散らばされた白い剣達

メイドを床に押さえ込んでいた騎士も、跳んできた剣を避けようとしてメイドから離れる
その隙に立ち上がり逃げ出したメイドが叫んだ


メイド「姫様!」

暗黒騎士「この場は引き受けた。おまえは、先に逃げるがいい」

メイド「暗黒騎士様……!」

暗黒騎士「奥座へ」

メイド「……わかりました! ですがどうかっ、必ず姫様はお守りくださいませ!!」

暗黒騎士「………」


メイドは、騎士達の動きを警戒しながらも そのまま後ずさって奥座へと走っていった
自分がいても戦力にはならない以上、余計な荷物になってしまうと判断したのだろう

単身、走り去っていくメイド
こんな時に、独りになるだなんてきっと心細いはずなのに… 


姫(メイドさん……! お願い、あなたも気をつけて……!)


公国軍騎士「……っ…!」


あっさりと剣を弾き飛ばされてしまった公国軍騎士は、明らかに動揺している
暗黒騎士に睨まれたままでは、剣を拾い上げることも出来ない


暗黒騎士「お遊びの剣に付き合うつもりはない。邪魔をせず道を開けろ」

公国軍騎士「貴様ぁ…!」

暗黒騎士「手抜きの剣も見破れぬような者には、まだ遅れを取るつもりはない」

公国軍騎士「~~~~~~っ」


顔を真っ赤にした公国騎士は、無謀にも暗黒騎士に向かって飛び込んで行った
その蹴りをかわした暗黒騎士に向かって 背中のマントを広げて投げつけた


暗黒騎士「!」


咄嗟に剣でマントを斬り破ろうとした暗黒騎士だったか
どうやら特別製だったようで、破れる事はなく、剣にまとわりつく

暗黒騎士は一瞬だけ意外そうな反応をみせたが
器用に剣を引き抜いて マントから距離をとる


暗黒騎士「……なるほど。剣を拾うための時間稼ぎだったか」

公国軍騎士「くくく。ひっかかったな、間抜けな外道騎士め」

暗黒騎士「……さて、外道はどちらだろうな」


公国軍騎士「全員、かかれ!! こいつは魔王軍幹部だ、今度は決して油断をするな!」


号令一声、勢いを取り戻した騎士達によって 次々と暗黒騎士に剣が振るわれる
その全てを鋭い剣筋で薙ぎかわし捌いていく暗黒騎士


暗黒騎士「力量差も見抜けぬとは。あまり無駄な時間をつかわせるな」

公国軍騎士「くそ・・・!! くそっ!? 何故だ!? 何故、一撃も当たらん!?」

暗黒騎士「簡単な話。……お前が、弱いからだ」

公国軍騎士「ふざけるなぁぁぁぁっ!!!」

暗黒騎士「激情に流されるな。 ……隙だらけだ」


暗黒騎士「その生の在り方から、見直せ」

公国軍騎士「!!!」


ザシュッ・・・


暗黒騎士は、敵の全てをあっという間に斬り払ってしまった
圧倒的な力量差だった


暗黒騎士「姫様、まずは安全な場所へ」


暗黒騎士は私の手をとり、力強く引きあげた

が、ふるえきった私の足は 役にも立たない。
立ち上がったその瞬間に、逆に暗黒騎士の手を引きずり落とすかのようにして、そのままへたりこんでしまった


姫「っ! だ、だめ・・・です。 腰が、抜けているみたいで…」

暗黒騎士「・・・ならば、失礼」


暗黒騎士は、かがみこんで、私の身体を抱きかかえようとする

だが


公国軍騎士「行かせ、ない…」

暗黒騎士「っ」


死傷者の中、一人だけしぶとい者が紛れていたようだ


生気を失った表情に、血まみれの身体でよろめいた公国騎士は
かがみこんだ暗黒騎士に向かって剣を構えている

あまりの死に体に、殺気すら感じられない
暗黒騎士もそのあまりに薄すぎる気配には、気付くのが遅れたようだった


暗黒騎士「そのような身でもまだ剣を握るとは…!」

公国騎士「………ま…だ…」フラッ


構えた剣を振り下ろすだけの踏ん張りもないのだろうか
その騎士は身体ごと暗黒騎士へと倒れこむ

その鋭い切っ先は暗黒騎士の兜の横を素通りし 私の眼前へと振り下ろされ…


暗黒騎士「くっ!!」


暗黒騎士は両手で私の身体を突き飛ばし、避けさせてくれた
それと同時に自らは大きく頭部を振り、兜を騎士の剣にぶつけ・・・軌道を逸らさせた

そして次の瞬間には、逆手に構えた剣で背後の公国騎士を一刺しして止めを刺す


暗黒騎士「……どうやら、多少の見込みはあったようだな」


公国軍騎士「公、国 に…… 栄光、あ… れ……」


死の瞬間、その騎士は突き出したままだった剣を…… 勢いよく、振り切った


暗黒騎士「!!!」


首元を掠めて交されていたその白剣は
暗黒騎士の兜と甲冑の間を滑り抜けるようにして… 暗黒騎士の首を、掻き切った


姫「っ!!!! 暗黒騎士さん――――ッ!!!!!」


二人の騎士が、崩れ落ちる
完全に絶命した白い騎士と、よろめいてその上に倒れる黒い騎士


姫「暗黒騎士さんっ! 暗黒騎士さん、しっかりして!?」

暗黒騎士「……っ、やはり 俺も… 騎士、失格です ね。油断…しました」

姫「暗黒騎士さん・・・!!」


暗黒騎士「…ですが… 今度は… 姫様を守れて、よかったです…」

姫「暗黒騎士さん……… 何を!」


暗黒騎士「これならば… 騎士として、死ねる・・・」

暗黒騎士「これなら…… あの世で、騎士として… 喪女に顔向けが出来る……」


姫「そ、そんな… 暗黒騎士さん、しっかりして!? 死んじゃだめぇっ!!」

暗黒騎士「……姫、様… 急いで、魔王様の元へ…」

姫「駄目です!! 暗黒騎士さんも、一緒に…!!」

暗黒騎士「い、え… 俺は… あの娘の元に……」

姫「そんな…!!」


暗黒騎士「姫、様… 早く… ここ、か…ら………」

姫「~~~~っ聞いて、暗黒騎士さん! あなたの思っているその喪女っていうのは……!」

暗黒騎士「………」


言いかけている途中で、暗黒騎士の目は閉じてしまう
このままでは、もう――― その時に、ふと視界にあるものが目に付いた


姫(あれは!!)


先ほど倒した騎士たちの中に、衛生兵もいたのだろう
救急の印が描かれた白い雑多な道具袋が床におちているのが目にはいった


姫「~~~まって!! 死んじゃ、駄目だからね……!!」

暗黒騎士「……」


いまだに足も腰も役に立たない私だけど、そんなことはいっていられない
無理に立ち上がって歩こうとした瞬間、派手に転んだ

それでも止まる時間が惜しい
暗黒騎士は、既に意識があるのかどうかもわからない

這ったり転んだりして、無我夢中に道具袋に飛びついた


姫(何か、何か、手当てや救命のための道具があれば…!!)


袋をひっくり返すが、詰め込まれすぎて中身がなかなか出てこない
中に手を突っ込みまさぐっていると、ザクリと指先を突き刺す何かがあった


姫「っ痛!!」


思わず手を引きそうになってから、すぐにその感触におもいあたるものがあった


姫(これは…!)


躊躇せずに、それを掴んで取り出す
道具袋から取り出されたのは、案の定 イガだらけの実だった
回復アイテムの木の実――。以前は毎日のように集めていた、それ


姫(これなら…!!)


手袋などはない。あったとしても、つける時間が惜しい

素手で実から種子を取り出そうとすると
イガは容赦なく手につきささり、すぐに私の指を傷だらけにした
でも、そんなことに構っていられない


この木の実の剥き方は知っている
コツだって、とっくに掴んでいる

私はすばやく種子を取り出すことができた
暗黒騎士の口を無理矢理に開かせ、食べさせる


ゆっくりと、暗黒騎士の回復能力が高まっていく
勢いよく噴出していた血が止まっていくのが、それを表している

ぐずつく傷口までは癒えていないけれど
それでも暗黒騎士は確実に回復していく


暗黒騎士「……う…っ」

姫「暗黒騎士さん! 大丈夫ですか!?」

暗黒騎士「これは… 俺、は…?」


姫「えへへ…。生命の樹の、実の効能です。よく、効くでしょう?」

暗黒騎士「生命の…木の実……」

姫「身体、もう 起こせますか?」

暗黒騎士「……はい」


暗黒騎士は、片手で自分の首元を押さえながら立ち上がった
だけど立ち上がった瞬間、わずかに暗黒騎士がよろめいた

私はその身体を支えて、眩暈が治まるまで無理はしないほうがいいと伝えて
暗黒騎士を一度すわらせた

大量出血後の、急激回復
脳や筋肉、血流量など 様々な場所にその影響は出ている
身体のバランスを取り切れないのも無理はない。でも、それもすぐに回復するだろう


暗黒騎士「……ありがとうございます。もう、大丈夫です」

姫「よかった…… あ」


暗黒騎士を支えていた手を離すと
そこに赤くうっすらつぃた手形が残ってしまった


暗黒騎士「………これは、血…?」

姫「ご、ごめんなさい」


暗黒騎士「っ!! 姫様!? お手が!!」

姫「あ、あはは… 大丈夫ですよ! ちょっとイガが刺さっただけですから!!」

暗黒騎士「イガ・・・。まさか、生命の実を素手で!?」

姫「時間が惜しくて。でも、あれですね。実際につかう事なんて今までなかったけれど、イガを剥いただけで高く売れる理由がわかりました」

暗黒騎士「え……」


姫「いざって言うとき、中身がすぐに使えないと 結構焦りますね…あは」

暗黒騎士「姫…様……?」


姫「あの頃は、イヤイヤ剥いていたけど…。誰かの為になれてたのかなって思うと、なんだか嬉しいです」

姫「それに、毎日努力してたコトは無駄にならないものですね。おかげで、今 手早く実を取り出して… 貴方を救えたんですから」

姫「嫌で仕方なかったトコもあったけど。やっていて、よかったって思えました」ニコ


暗黒騎士「姫、様………? あなたは…… 一体……」

姫「暗黒騎士さん…。 今度こそ、聞いてください。私は―――…」


…シャン、ガシャンガシャン……!


姫「!」


暗黒騎士「……甲冑の足音。増援のようです。まだ距離はありそうですが、近づいてきます」

姫「そんな…。 なんで、こうも次々に…」

暗黒騎士「ともかく、今は一刻も早く魔王様の元へ」

姫「で、でも まって! 暗黒騎士さんに聞いてほしい事が――」


暗黒騎士「ここに増援があるということは、他の場所がやられたということです」

姫「!」

暗黒騎士「奇襲で、指揮がとれていないのでしょう。いつまでも分散していては、この城を守りきれなくなります」

姫「あ……」


暗黒騎士「………本当は… 今すぐにでも、詳しく話を聞きたい所ですが…」

姫「暗黒…騎士、さん……」


暗黒騎士「……姫様は、必ず俺が守ります」


暗黒騎士「ですので 話は、後でお聞きします。 ――必ずです、姫様」

姫「―――はい!!」


私は 今度こそ、自分の足でしっかりと立ち上がった

面倒なヒールは脱ぎ捨てた
走るたびに顔にぶつかりそうになる大きなイヤリングも取り外す

ドレスの裾に仕込まれた、重たいペチコートもその場で脱いだ

これにはさすがに暗黒騎士も目を丸くしたけれど
そのすぐ後で、苦笑しているのも見えた


暗黒騎士「どうしてこう、随分とワイルドな色仕掛けばかりなのか…」

姫「?」

暗黒騎士「いえ、なんでもありません」クス


私に向かって差し伸ばされた腕

私は 傷を負っている暗黒騎士の負担にならないよう
その腕の中に入り込み、身体を支えた

暗黒騎士も、そんな私の腰に腕を回し、背に掌をそっと添える

まるでダンスのエスコート
自然に身についているようなその仕草に、少しほほえましくなる


暗黒騎士「さぁ。いきましょう」



私達は眼を見合わせる
そしてお互いの呼吸があった瞬間、同時に走り出した
駆け踊るように、進んでいく


途中、公国の騎士の一群に遭遇した
怯みそうになった私の背を、暗黒騎士は軽く押す

暗黒騎士にリードされて、自然に身体がターンをしていた
そして振り向いたときにはもう公国騎士は地に倒れていて、暗黒騎士はいつの間にか抜いていた剣を納めた


そこでようやく、それがダンスを装った護衛術なのだと気が付いた

魔王城に仕える騎士の全てが、この護衛術をマスターしているのだろうか
守られる側の負担と、精神的ストレスを考慮したその護衛法

この城では、この国では 誰もが優しく思いあっている

それは 『魔』という恐ろしい名を背負う彼らが
心穏かに生きていく為に取り入れた方法なのかもしれない


そんな優しさに守られながら、私は両の足でしっかりと床を踏みしめて走っていく
一歩踏みしめるたびに、実感できた


偽者でもなんでも、今 『私』は ここにいるんだと
私は今、確かに 暗黒騎士の隣に立って… 前に進んでいく

・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・

ここまでにしておきますー >>90は生キャラメル食べてきてくださいv

>>92 
マンドラゴラ(マンドレイク)とアルラウネは 微妙に違うらしいのですが
抜くときの方法などは同じだそうで。
アルラウネが可愛いってだけでアルラウネにしました。それ以上の意味はありません←

>>94
創作仲間として交流の機会がありまして。こっちも好きといわれると嬉しいですw 
まぁ今回は暗黒騎士の人のプロットなので、そのあたりもよかったのかな?w

>>90 >>93 >>95
俺、感涙しちゃうよ!! なんだかんだ全レスだよ、ごめん!!


―――――――――――――――――――――――

魔王城・最奥 玉座


暗黒騎士は、その扉を躊躇なく押し開けた
勢いよく開かれる扉の中央から、部屋に駆け入る


魔王「!!」


部屋中に展開する数十の騎士の組
彼らはおもいおもいに魔王に向けて剣を振るっている
魔王も自ら剣を構え、それらを振り払っていたところだった


暗黒騎士「魔王様! ご無事でしたか!」

魔王「暗黒騎士… それに、姫!」


敵の殆どは満身創痍だったが、未だ倒れている者は僅かだ
『魔王』の戦いとしては 窮地にあるように見える


暗黒騎士「魔王様、微力ながら助太刀いたします!!!」

魔王「いや・・・」


魔王「いいよ」クス


魔王が、嗤った
その不吉な余裕の表情に、騎士達はそれぞれに警戒を高める


魔王「姫を、暗黒騎士が守っていてくれたのならば、いいんだ」

姫「え?」


そう呟く魔王の周りに、黒い靄が集まっていく
最初はゆっくりと霞んでいた靄は、集まるにつれて次第に流れを速め 急速にうねりはじめる


魔王「徹夜だったせいで、うたたねなんかしていたよ」

魔王「おかげで、うっかり城中に下賎な輩の侵入を許しちゃってね」

姫「う、うたたね・・・?」


魔王「ちょっと、迷ってたんだ。攻撃に転じようにも、姫がどこにいるかわからなかったし…下手に激情されて人質なんかにされても困るからね」

魔王「とりあえずなるべく人数をここに集中させて、他の場所の守備をあげておいただけだよ」


姫「えっと… 苦戦していたわけでは…?」

魔王「あはは、ああ コレ?」

魔王「姫がもし掴まってたら嫌だからね。追い詰められるふりをして油断させて、情報を吐かせようかと思ってただけ」ニッコリ

暗黒騎士「魔王様」

魔王「よかったよ、杞憂で済んで。姫は無事?」

姫「っ」コクコク


魔王「そっか。…でも、ちょっと落ち込むなぁ」

暗黒騎士「え……」

魔王「だってさ、これはまた俺の落ち度で姫を危険に晒したことになるんでしょう?」

姫「あ、あの…」

暗黒騎士「いえ。自分がきちんと姫様をお守りしてさえいれば、本来 危険に晒される可能性など…」

魔王「フォローしなくていよ、大丈夫。今度こそ、ちゃんと自分で責任を取るよ」

魔王「あんまり暗黒騎士にばかり世話をやかすと・・・褒章の準備をするのが大変だし?」クス

姫(そういう問題なの?)


魔王は苦笑しながら、渦巻き集まるもやの動きを静止させた
その後で、ゆっくりと暗黒騎士に視線を投げかける

その瞳は、魔王の名に相応しい強制力を持っている


魔王「お前は姫のことを守っていろ。……それが、役目だろう?」

暗黒騎士「……御意に」


暗黒騎士は、私を包むように抱え込むと、そのまま飛び上がった 
今まさに駆け寄ったばかりの魔王から 遠く離れた場所へ着地し、魔王に背を向けて私を隠す


姫「何を・・・?」

暗黒騎士「口も目も、全て塞いで身を丸めていてください」

姫「?」


公国の騎士達は警戒しつつ
お互いに目線をあわせてタイミングを測っている

何か仕掛けてくるのは分かっているはずで
思い思いの防御姿勢をとりながらも連携攻撃の為の準備は怠らないようだ

魔王はそれを見て、再度可笑しそうに嗤う


魔王「何かするつもりなら、早いほうがいいよ」クスクス


そういいながら、魔王はまっすぐに手を伸ばす
その手に扇のひとつでもあったのならば、舞にしか見えなかっただろう


可笑しそうに口元を綻ばせた後、ゆっくりとその手を振り払い……
立ち上る靄を扇いだ、その瞬間


ゴォオオォォォオッ!!!!


静止していた靄は、突如として重力を持ったかのように波となり、割れる
それはそのまま濁流のようなに黒い流れとなって部屋中を洗い流した


公国騎士達「「!!? ぐっ、うあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」


ダン!! ダン、ドガッ!
部屋にいた騎士達は、一人残らずその靄の濁流に呑み込まれ壁へと叩きつけられる

ドガッ! ドガガガ!
叩きつけた後も、靄はその勢いを衰えさせることはなく
部屋中にあるものも次々と壁に押し付け、潰さんばかりに圧を加える

濁流のようなその黒い靄は、大気や水分の全てまで 押しつぶしていく


公国騎士A「・・・・ガハッ…」

公国騎士B「……」グッタリ


バタリバタリと床に落ちる騎士達
その場にいた全ての公国騎士は、急激な呼吸困難と圧によって昏睡していた


暗黒騎士「さ…… 流石です、魔王様」

魔王「暗黒騎士が、きちんと姫の安全を確保してくれるおかげだよ」ニッコリ

姫(ふざけきってても、魔王は魔王だったのね…)


目の前でふるわれた一方的過ぎる暴力に現実味を失う
呆然としていると、はっとした様子で魔王が駆け寄ってきた


魔王「姫、大丈夫? 怖かったの!? ごめんね!?」

暗黒騎士「…これは。申し訳ありません、まず退室しておくという配慮が足りませんでした」

魔王「そうだよ! 弱いものいじめしてると思われて、俺が嫌われたらどうしてくれるの!!」

暗黒騎士「……え、いや。嫌われ…」

魔王「俺が嫌われたら、それは暗黒騎士のせいだからね!!」

暗黒騎士「いえ、その。嫌われるかどうか以前に… あまり女性に残虐なところを見せるべきではなかったかと」

魔王「え?」

暗黒騎士「……」

姫「……」


魔王「え、そういうもの? 俺、残虐だった?」

暗黒騎士「はい。見慣れぬ者であれば、ちょっとしたトラウマになる程度には」

魔王「で、でもでもだって、俺 魔王だよ?」

暗黒騎士「存じ上げております」

魔王「姫!! 攻撃方法がちょっと過激なのは俺のせいじゃないからね!?」

暗黒騎士「俺のせいでもありませんので、嫌われた際の責任はご自分でお願いします」

魔王「 」


コロコロ表情を変える魔王と、無骨な表情できっぱりと物言いをする暗黒騎士
終わってみれば、そこにあるのは”いつも通り”の日常風景だった


姫「……ぷっ」

魔王「姫?」

暗黒騎士「姫様?」


姫「あはは・・・ 大丈夫です、父様。嫌ってなどいません。それに怖くもありませんでした」

魔王「だよね! ほらぁ、姫がこれくらいのことで…」


姫「暗黒騎士さんに、しっかりと抱いていただいていましたから」

魔王「うん?」

姫「前も……そうでした。やはり暗黒騎士さんの腕の中は、何処にいるよりも安心できると、再確認しました」

暗黒騎士「 」

魔王「え゛。ちょっとまって何それどういうことか詳しく」

姫「え?」


姫「……はっ!? ち、違いますよ!? 以前にも助けていただいた事があって…!!」

魔王「いつの話だよ! わかりやすく嘘だよね!? 今の絶対、実は抱かれてました的なパターンの言葉だったよね!?」

姫「ほ、本当です!!」


暗黒騎士「自分は少なくとも姫様に無礼を働くような真似は……!」


その時、ふと暗黒騎士の脳裏に、魔王の誕生日パーティの夜の事がよぎる
あの日は倒れた姫をベンチに寝かせ、マントを掛けたとはいえ放置してしまった


暗黒騎士「………いえ、申し訳ありません。無礼はありました」

魔王「自白!?」

姫「なななな、なんのことですか!? はっ、もしかして!? かぼちゃパンツのことは忘れてくださいね!?」

暗黒騎士「は? かぼちゃパンツ…?」

魔王「ふざけんなよ暗黒騎士!! 姫のパンツとか見てるんじゃねえ!」

暗黒騎士「ちょっとまってください、それは濡れ衣のような気もします!!」


姫「~~~~っ と、ともかく!!!」


そうだった、暗黒騎士さんにはまだきちんと説明していない
かぼちゃパンツだなどと、余計な自爆をしてしまう前に…きちんと伝えなきゃいけない言葉がある


姫「暗黒騎士さん… ありがとうございました」ペコリ

向かい合ってみたその漆黒の瞳には、急に改まった私への苦笑が浮かんで見えた
この穏かで感情豊かな魔王とのやりとりの中で、緊張が解けたのだろうか


暗黒騎士「…自分は近衛騎士ですので、姫様をお守りするのが本来の責務です」


それでも、表情の見えないきっぱりとした口調は崩さない
格好良くて、凛々しくて
頼りがいがあるけど、本当はきさくな所もある 優しい暗黒騎士


姫(変わらない…。 やっぱり、暗黒騎士さんは暗黒騎士さんだ)


生命の樹の下で、二人で過ごした時間を思い出す
喪女として過ごした、最期のあの日を思い出す


姫「……あの時も、私を守ってくれた…」

暗黒騎士「……あの時…と、いうのは…」


一歩、ゆっくりと暗黒騎士に近づく
暗黒騎士は、その言葉をしっかりと聞いてくれる


姫「私を逃がすために、守るために口にした言葉はひどかったけれど…」


そっと、暗黒騎士の腕に触れてみる
今度は、もう離れていったりせず… 私の言葉を、待ってくれている

真実を、知りたいと 思ってくれているのだろう


姫「でも それで一番傷ついたのは、あなた自身だったというのに。私の最期まで、あなたは私を守ってくださいました」


動かない暗黒騎士の胸に、頭を預けた
あの時と同じ、冷たい鎧の感触が 心地いい


暗黒騎士「姫様……。やはり、貴方が…… 喪女だとでも……?」

姫「……はい」コクン


感謝しても、しきれない
貴方にであえて、貴方と言葉を交わして
私がどれだけ幸せだったか


暗黒騎士「……で、ですが… 喪女は 確かに死んで…」

姫「……はい。私は死んでしまいました」

暗黒騎士「一体、これはどういうことで…」

姫「……それは、私にもわかりません」フルフル


姫「でも…」

姫「貴方を守るために死ねた事が、私にとって、とても誇らしいことだったのは…わかります」


暗黒騎士「あ……」

姫「だから… 暗黒騎士さんが、騎士失格だなんて。そんなこと言わないでください」

姫「私が、守りたくて…助けたくてしたことです。いけないことでしたか? ……守りたいっていう想いは、『騎士』のものだけではないんですよ?」ニコ

暗黒騎士「そんな、ことは。ですが俺なんかの為に、どうして…」


姫「きまってるじゃないですか。……貴方の事が、好きだからです」

暗黒騎士「っ」


姫「初めてあなたに出会った日、あなたに助けてもらった日。暗黒騎士さんは、樹から落ちた私をたすけてくれた…」

姫「私の居場所を作ってくれた。私にやりがいと、生きがいを持たせてくれた…それに」

暗黒騎士「……?」


姫「女として喪に服していたような私を救って、生き返らせてくれました。こんなに素晴らしい騎士様、他にいますか?」

暗黒騎士「姫様… いや、喪女…? ああ、くそ。訳が… こんな事態、一体どうしたら…」


額に手を添えて、混乱し 戸惑う暗黒騎士
無理もない…なにひとつ事態の説明なんかできていないのに 理解だけしろというのはわがままだろう

でも


姫「暗黒騎士さん… 好きです」


止められない気持ちが、口からこぼれる
伝えておきたい思いが、涙と共に溢れ出る


姫「こんな気持ちになるなんて…こんな思いを味わえるなんて、思ってなかった…!」

暗黒騎士「……喪女…?」

姫「知らなかった。知ってしまったら、愛しくて 恋しくて、たまらないのです。だからどうか、もう少し…」

姫「いつまでこうしていられるかわからないから。だから、もう少しだけ。どうか貴方の隣にいさせてください…!」


求めて、手を伸ばす
指先が、騎士甲冑の籠手に触れた


暗黒騎士「………いつまでか…わからなくても…」

姫「あん、こく……」


触れただけの指先を、絡み取られる
ひざまずいたかと思うと同時、掬い上げられ 暗黒騎士の手の上に沿わされる


暗黒騎士「……少しではなく… 最後まで」


暗黒騎士「今度こそ、最期まで… 貴方のこの手を、護らせてください」

暗黒騎士「決してもう、傷つけさせたりはしませんから――」

姫「暗黒… 騎士さん…っ」


暗黒騎士を助けるために 生命の樹のイガによって傷ついた私の掌を思ってのことなのか
それとも、私を守るためにと投げかけてしまった言葉に思いを馳せたのか

暗黒騎士は、眉根を寄せながら苦しそうな表情で指先に口付けをした
痛々しいほどの思いと誓いを込めた、騎士の忠誠の儀

とてもそんな事まで、堂々としてもらえるほど『姫』にはなりきれていない
私は思わず、暗黒騎士と同じようにその場にひざまずいて目線を合わせた

戸惑うようにゆっくりと開かれた漆黒の瞳は それでも穏かで優しくて…
見つめていると、段々と吸い寄せられていく気がして…


姫「……あ…」


私は 瞳を閉じた。
そのまま、身を委ねてもよいとさえ思った――


のに。


魔王「させるかぁぁぁぁぁぁっ!!!」

姫「うぇっ!?」


ものすごく派手に引き離された上
目を開いた時、私は魔王の腕の中に抱きとめられていた


魔王「何してんの!? 何してんの、父親の目の前で! いい根性だね暗黒騎士!?」

暗黒騎士「こ、これは魔王様!! 大変なご無礼をいたしました!!」

魔王「ほんとだよ!! やらせねぇよ!?」


暗黒騎士に向けて手をシッシと振る魔王と
真ん丸く目を見開いて慌てふためく暗黒騎士

慌ててフォローを試みる


姫「と、父様。あ あのね! 聞いていたかもしれないけど、実は私 本当の娘じゃないの!!」

暗黒騎士「なっ、喪女! いきなりそんな――…」


魔王「ちょっと待って! ちょっと待って、わけわからない!! 普通それ逆だからね!?『お前は俺の娘じゃないんだ』ならわかるよ!?」

魔王「いやいややっぱりわかんねえよ! 俺の子だよ! こちとら出産の瞬間から週1以上の割合でずっと成長過程を映像保存してるよ!?」

暗黒騎士「それはちょっと…… じゃなくて! 魔王様も、落ち着いてください!」

魔王「おまえがゆーなよ、諸悪の根源!?」

暗黒騎士「諸悪の根源という立ち位置は『魔王様』の物です!!」


またしても、混乱。


姫(ああ、せっかくの雰囲気が…!! 魔王がムードの破壊王すぎてどうしたらいいのか!!)


説明を後回しにしたコトを後悔する
というよりも、『魔王』の事を忘れて目の前でいちゃつこうとしてたとかありえない…

ともかく、今は事態を落ち着かせなくては。
私はなるべく大きな声で混乱に割って入った


姫「あ、あのね! 実は私 本当は…!!」


・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・


魔王「……16年間、人間の国で 『喪女』として生きていた…?」


手早くではあったけれど、自分に分かる限りの説明を試みた
魔王はソレを真剣な表情で聞いてくれた


姫「そう、なんです…。でもどういうわけか、死んだ後で気がついたら、この姫様の身体に憑依していて…」

魔王「……」


魔王は真面目な顔をしたまま、私の頭に手を載せた
そうして目をつぶり、じっと黙りこんで…


姫「……父様…?」

魔王「……」


触れられている場所が、とても暖かくなっていく
その感覚は、ふわふわと心地よくなるほどだった
何かされているのだとは分かるけれど、それが何かはわからない。ただ…


姫(ふぁー… きもち、いい)


暗黒騎士「魔王様… 如何ですか」

魔王「…うん、見えた」


暗黒騎士「では、彼女… いえ、姫様の身には一体何が…」

魔王「信じがたい話ではあるけれど・・・ 姫は姫だよ」

姫「え?」

魔王「……その喪女とやらも、姫自身で間違いないようだ。少なくとも憑依とかではないね」

姫「え? それって一体・・・? というより、今のは一体何を?」


暗黒騎士と魔王は何か訳有り顔で納得しはじめる
ひとりで置いてけぼりの私は、きっと間抜けな顔をしている


暗黒騎士「魔王様は、生物の魂を”視る”ことが出来るのです。この世で唯一、”魂”を使って魔物を創生できる方。その御業の成す偉業のひとつです」

魔王「すごいでしょー」ニコニコ

姫「魂・・・?」

魔王「そう、魂。その人物のコレまでの経験はもちろん、前世の様子も多少は分かる」


疑問を投げかけると
魔王はにこりと微笑んで説明してくれる


魔王「……姫は、さ。自分が眠りについた日のことを・・・ 16年前のことを、覚えている?」

姫「……」フルフル

魔王「そっか、覚えていないのか。 ……暗黒騎士は、なにか知ってる?」

暗黒騎士「自分は、その頃はまだ仕えておりませんでした」

魔王「はは。そうだったね」


魔王「……じゃあ 昔話をしてあげるね」


そう言って、魔王はぽつりぽつりと話し始めた。


・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・


まだ幼かった姫
当時の彼女は、戦争の理由を理解することもできない年齢だった

先代王の時代は大きな争いもなく、人も魔族も平和に生きてきた
だから姫の生まれた『現魔王の時代』では、身近にある絵物語なども平和の素晴らしさを歌うものばかりが揃えられていて……

魔王の娘であっても、
魔王と勇者の和平までの道のりを描いたその絵物語に魅せられていた



姫(幼少)「ねーねー! このお話って ひいおばーしゃまと おじーしゃまたちのお話なんだよねぇー?」

若魔王「ああ、そうだよ」

姫(幼少)「いいな、いいなー! いつか、わたちも――…」


物語の中の、壮大で 悲しくも美しい、恋物語
姫は幼心ながらに、それらに憧れていた

そして事あるごとに口にするのは いつもひとつ


姫(幼少)「ね、おとーしゃま! 戦争なんか、だめなんだよね! おじいしゃまみたいに、人間たちと仲良くしなくちゃ、駄目だよねぇ?」

若魔王「……うん。そうだね」ニコリ


そんな穏かな日々の中で、幼き姫は暮らしていた
そして、ついに問題のその日が来て・・・


若魔王「“公国”が・・・ 布告を?」

臣下「はい」


若魔王「そうか・・・。これまで、“王国”との間で 人間と魔族の関係はバランスを保ち続けてきたが・・・」

臣下「“王国”は、今回の事態をふまえ そのほかの周辺諸国への牽制を行い、静観を呼びかけています」

若魔王「ありがたい話だね」


臣下「ですが…」

若魔王「ああ。“公国”は、独裁国家で他国の仲介の一切を嫌う。力をつけさせすぎたな…あそこは、厄介だぞ」

臣下「では、やはり?」

若魔王「ああ…。魔国は、戦争に巻き込まれたといえる。不本意だが……厳戒態勢にはいる」

臣下「はっ!!」


戦争の幕開け
それを告げる緊張しきった空気

隣室で眠っていたはずの幼き姫はその空気を敏感に感じ取ったのか
寝ぼけ眼をこすりながら父親の様子を伺いに部屋を抜け出していた

そして、そんな会話を聞いてしまったのだ


姫(そんな…)ガタ


魔王「誰だ! …・・・姫!?」

姫「……っ」タタタタ

魔王「姫、待って……!」


臣下「追いかけましょうか」

魔王「……いや。戦争を嫌っていたんだ、きっとショックなのだろう」

臣下「では…?」

魔王「……幼くても、魔王の娘。納得させなくてはならない事もあるだろう…。辛くても向き合う必要がある」


魔王「少し、一人にさせておこう……」

臣下「……は」


魔王「姫……。不甲斐ない魔王で、ごめんね」


その後、姫は地下書庫に飛び込んだ
石造りの小さな小部屋で、城内にある立派な図書室とは異なる

そこにあるのは禁忌の書ばかり
歴代魔王の過去と歴史を遡るような、秘められた本の並ぶ部屋だった

そこで姫は難しい魔道書を何冊も開いて… 
未だ魔力統制も充分でない幼い身でありながら、公国と和解するための方法や手段を必死に探していた


そして


姫「これだ・・・!」


見つけ出したのは、絵物語でも語られていた禁忌の手法
『生きている者から、その魂を抜き出す術法』だった


姫(これを使って、公国の一番偉い人のところまで、私が直接乗り込んでいくの!)

姫(それで、きちんと戦争はやめてってお願いすれば… きちんとお話できれば、きっと・・・!)


本来ならば”在任中の魔王にしか使えぬ業”だった
幼い姫がこの危ない技術の詰まる部屋に出入りすることができるのも、それが前提だった


だが、姫には 曾祖母譲りの稀有な魔術の才能があったらしい
それとも思いの丈の強さが叶えたとでも言うのか…


ともあれ、どうしてか禁忌の術法は成り立ってしまった


魔王がその小部屋を訪れたとき
既に 姫の体からはその魂が抜け・・・ 肉体は仮死状態で眠りについていた


・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・


魔王「はは… あの時は、本当に生きた心地がしなかったな」

姫「そ、それで? その後、姫様はどうなさったんですか?」

魔王「もちろん俺は魂を探したけれど、見つからなかったんだ」

姫「え…」


魔王「おそらく、実際に抜け出してしまった魂は、どうにか公国にまで辿り着き…… そこで弱り、魂は器を求めたんだろう」

姫「器…?」

魔王「肉体のことだよ。もともとが生体の魂だから、生体を欲するのは当然で。それがないならば幼い魂は死ぬことになるだろうね」



魔王「・・・でも、既に魂の入っている『生きた人間の肉体』には入れない」

姫「え……」


魔王「……喪女っていうのは、どういう生い立ちの子なのかな」

姫「…………町外れの草原に捨てられていた、まだ生まれて間もないみなしごだったと聞いています」

魔王「そうか。では、きっと…その子は本当に”棄てられていた”んだろうね」

姫「……っ!」


暗黒騎士「姫様…」

姫「あ・・・大、丈夫です・・・」

魔王「……死んで間もない、生まれたての小さな赤ん坊の身体。姫は…… 君は」


魔王「喪女が姫に憑依したのではなく、姫が 喪女に憑依していたんだ」

姫「喪女…に…」


魔王「ともかく、まさかそんな器に入ってるなんて思わなかったし――」

魔王「結局、俺たちは 魂が戻るのを待つしかなかった。生身の身体があれば、いつかは必ず戻ると信じて、ね」


姫「……」

魔王「姫は・・・ 喪女という仮の生を生きたけれど。その生を終えることで魂が肉体から離れて、本来の肉体に戻って来たのが今の姫」

魔王「今の姫も、喪女であった君も もともとの優しい幼い姫も・・・ 全て、君だよ」


姫「私が・・・ 暗黒騎士と出会った喪女も私で… 本当のお姫様でもある・・・?」

魔王「そうだよ。君は 俺の大切な姫だ」


優しい掌が、頭を撫ぜる

どうしていいかわからず、思わず暗黒騎士を仰ぎ見たが
暗黒騎士も、その事実に驚いている様子だった


暗黒騎士「魔王様が、ああして仰る事なのだから。それが事実なのだろう…」 


私に向けられたものなのか
それとも自分自身を納得させるための言葉だったのか

ともあれ暗黒騎士は、改めて私に深く辞儀をした


暗黒騎士「数々のご無礼、お許しください」


姫「そんなこと…… ……あ…」


ひざまづいた暗黒騎士
困惑した私は視線を泳がせてしまい、その時ふいに暗黒騎士の後ろで昏倒する兵たちの姿が眼についた


姫「……戦争を仕掛けて…どうしたいんでしょうね」

魔王「……いろいろだよ。いろいろな感情があるし、思惑もある… 戦いの理由なんて、どちらにとっても“それらしいもの”ばかりだ」


戦いを挑む無謀な者達
彼らのせいで、きっと多くの者達の人生が狂わされたのだろう

それを思うと、疎ましく思わない気持ちもないわけじゃない
倒れている彼らを、やつあたりに叩いたとしても 責められることもないだろう

でも 幼かった私は、そうして争う事を厭い…
止めさせようと 絵物語に憧れて飛び出したらしい。ならば――


魔王「……? 姫、どうしたの?」

姫「……できること。やらなきゃいけないこと。やることだけは、やっておきたいと思いました」


周囲を見渡し、あるものを探す


姫(あった。公国騎士軍の、救命袋……)


中に手を入れて探り、生命の樹の実をみつけだす
私は暗黒騎士にした時と同じように、素手でそのイガを掴み…


暗黒騎士「姫様。何を・・・」

魔王「姫、手が傷だらけになっちゃう!!」

姫「いいんです」

魔王「よくないよ!!」

姫「でも、これが必要なんです」


そう言いきった時、勢い余って樹の実を取り落とす
拾おうとしたけれど、暗黒騎士が先に手を出して拾い上げてしまう


暗黒騎士「喪女には…自分の身体を大切にしろといいました」

姫「あ」

暗黒騎士「それに…目の前で、これ以上傷など負わせられません。先ほど、守るとお約束したばかりです」

姫「暗黒騎士さん…でも…ごめんなさい。やっぱり、返してください。その実を、つかいたいんです…!」


暗黒騎士「……いつだったか、『俺であればイガだけを剣で剥いて見せることも可能』と言ったのを覚えてますか」

姫「え…? あ、はい」

暗黒騎士「自信過剰なんかじゃないと、証明するにはいい機会です」

姫「…?」

暗黒騎士「……その。ですから」


魔王「いや、素直に『俺が剥くから手を出すな』って言えよこの気障騎士め!」

姫「あ」

暗黒騎士「~~魔王様の撃退なさった敵に味方するような真似、堂々とできるわけないでしょう!!」

魔王「真面目か!!!」



姫「・・・暗黒騎士さん、ありがとう」

暗黒騎士「……いえ。回りくどい言い方をして申し訳ありません」

魔王「まったくだよ」


姫「父様も…。あのね、私 あの人たちのこと、助けてあげたい。ちゃんと話して、ちゃんとやめさせてあげたい」

姫「帰る場所がきっとあるはずだから。ちゃんと、帰してあげたい! お願いします、手伝ってください!」ペコリ!



魔王「……やれやれ。16年たっても、人間びいきとは。困った姫だ」


そういって苦笑した魔王だったけれど
そのまま手を広げて 足りぬ分の木の実を、魔王がその術によって創り出していく

それを暗黒騎士が受け取っては、丁寧に剣で裂いていく
私は暗黒騎士が取り出した中身を受け取り、昏倒する兵達に食べさせていく

みんなで協力して、『敵』を助けようとするのは滑稽だろうか
意識が戻った公国騎士たちが見たものは、そうして必死に動き回る3人の『敵』の姿だったのだから・・・


公国騎士A「ああ、妻よ。俺は未練のあまりおかしな夢を見ているようだ…今度こそ君の元へ飛んで逝くよ」ガク


魔王「ちょっとまて! 起きたそばから妄言吐いて気絶するってどういう了見だ!!」

姫「は、ははは・・・」

暗黒騎士「もうひとつくらい余計に食べさせておきましょうか」ザックザック


ちょっと キリがなかった


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・・・・・・・・
・・・・・


目覚めて冷静さを取り戻し始めた騎士達は
お互いの顔を見回しながらも 魔王に降伏を申し出た

圧倒的な魔王の力に敵うわけもない
そしてそれ以上に、争う気の無い命の恩人に刃を向けられるわけもない・・・と。



暗黒騎士「ふん。騎士としては、まだその誇りを持つものであったか」

姫「父様・・・ あの」

魔王「うん?」

姫「……もう、戦争なんて、やめられないでしょうか…」

魔王「はは。『人間たちと仲良くしなきゃ、駄目だよ』って?」


姫「……私は…16年、人間として生きてきたから。だからその、贔屓にしてるっておもうかもしれないけど…」


ポン、と頭に手が載せられる


姫「ひゃ」

魔王「…わかってるよ。16年間、姫の言葉を真摯に聞かず、仕方ないと戦争を始めてしまった自分を後悔してきたんだ」

魔王「ちゃんと、俺が。一番偉い人と話をしなくちゃね」

姫「………父様」

魔王「今度こそ、姫にそんな役目をやらせたりしないよ」ニコリ


・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・


―――――――――――――――――――――

後日 魔王城・庭園 バルコニー


こうして魔国と公国の間には、とりあえずの休戦が決定した
私たちは訪れた平穏の中で、まったりと過ごしている

私は喪女として過ごしていた事を明かしたことで、
姫らしい振る舞いをうまくとれないことも多めに見てもらえることになった

暗黒騎士も、近衛騎士という直近の立場と
『友人』であった過去を考慮されて……喪女であったときに近い振る舞いを許された

暗黒騎士自身は、まだその立場に慣れないようでどこかぎこちないけれど
それでもその心は喪女であった頃に向けていたものと近い

今の私は、暗黒騎士の隣に負い目無く立っていられるようになった
こうして、共に歩きながら 世間話をするほどに。

当たり前に傍にいられるようになって――


姫「なんだか、すごく平和です。…でもまだ、本当の和平はこれからなんですよね」

暗黒騎士「ああ」

姫「でも きっと。ちゃんと話せばわかってくれますよね。ちゃんと誠意込めれば!」

暗黒騎士「・・・…」

姫「あ。今、『夢見がちで現実味がない根拠だなー』て思いましたね?」

暗黒騎士「そんなことは一言も言った記憶は無い」

姫「目がそう言ってるんです。暗黒騎士さんは、顔のほうがよくお話をしてくれます」


私がそういうと、暗黒騎士は複雑な表情で兜を被ってしまった


姫「ふふ。でもしょーがないじゃないですか?」

暗黒騎士「何がですか」

姫「喪女だったんですから」

暗黒騎士「は?」


姫「夢見がちな空想話くらいしか楽しみもなかったし。どうやら元々、大昔の絵物語の中の恋に憧れてたみたいだし」

暗黒騎士「ああ・・・」

姫「そんな私がお姫さまなんかになれたんだから・・・ そんな理想論だって信じちゃいます」

暗黒騎士「なれたんじゃなくて。貴方は、最初から姫だったんだと何度言ったら…」

姫「………ねぇ、暗黒騎士さん?」

暗黒騎士「ん? どうした」


姫「空想話とか、夢物語とかだと…最後に、お姫様がどうなるか、知ってますか?」

暗黒騎士「……どうなるんだ?」


姫(こんな時 私の憧れた絵物語だったら お姫様は、最後には オウジサマと・・・!)


思ってはいるけれど、それを言い出せずにもじついてしまう私
そんな私の様子をみて、言いたい事を察したのだろうか

暗黒騎士は苦笑して、立ち止まる


暗黒騎士「……どうした?」


優しい瞳に、言葉を促される
いつまでも言い出せずにいる私に焦れたような様子で、手を伸ばしてくれる


立場を考えれば、決して暗黒騎士からは言い出すことはできない
だから、私が言わなければ…叶うことはない『想い』なのだ


暗黒騎士はきっとちゃんと、わかっている
分かっているから、そんな風にして私を促してくれる

返答なんて分かっているのだから
安心して、私がそれを言えるようにしてくれる


本当は、自分で言いたいのかもしれない
言えなくて、もどかしい思いをしているのは暗黒騎士も同じなのかもしれない

だから、こんな風に… 

私がお願いをしようとしているのに
そう望んでいる暗黒騎士の願いを叶えてあげている気すらしてしまう


それほどに待ち望んでいると、バイザーの奥の瞳が教えてくれる
だから、魅せられるままに身を委ねて、言葉を紡いでしまいたくなる


姫「暗黒騎士さん…私と、結婚してください」

暗黒騎士「光栄です。生涯、あなたの剣となり 鎧となることを誓いましょう」


姫「……平和を作っていってくれますか? 私の居場所を守ってくれますか?」

暗黒騎士「それがあなたの願いとあらば…必ず、そうありましょう」


姫「暗黒、騎士さん・・・…」

暗黒騎士「……姫様………」


見つめあう二人の距離が、狭まる
指先を絡めて引き寄せあい、お互いの身体を抱きしめ合――


魔王「させないよったらさせないよーーーーーーーー!!!!!」ドーーン!



姫「またしてもムード破壊王!!」

暗黒騎士「ま、魔王様・・・」


姫「父様!! なんでそう邪魔をするのです!?」

魔王「むしろなんで邪魔をしちゃいけないのかな!」

姫「邪魔しちゃいけないオヤクソクってあるんです!! 今、物語のEDでお姫様はオウジサマと結ばれ、末永く幸せにって言うお決まりの--」

魔王「チチチ。俺だって、王子様とお姫様のEDなんか邪魔しないよ?」

姫「何を言ってるんですか! いまだっておもいっきり」

魔王「だってさあ」


魔王「オウジサマじゃなくて、暗黒騎士じゃん」

姫「」


暗黒騎士「はあ・・・ 確かに、自分は王子ではありません」

姫「そ、そういう屁理屈を・・」


魔王「それにさぁ、暗黒騎士・・・ 本当にわかっているのかなぁ」クス

姫「え?」


挑発的な瞳で、魔王は私の身体を引き寄せ 腕に抱いた
腰元から剣が引き抜かれ、切っ先を暗黒騎士の顔面に突きつける


姫「と、父様!?」


魔王「暗黒騎士。我が娘に手に出すという意味を、理解しているのかと聞いている」

暗黒騎士「何を・・・仰る」


娘姫を、溺愛している魔王

いくら信頼を買っているとはいえ、一介の近衛兵である暗黒騎士が
婚約者として歓迎される保証はない――そういうことだろうか


魔王の目に、ふざけた色はない
あるのはただ 断罪者の、冷徹さのみだ


魔王「……我が娘に結婚の誓いだと…? 覚悟はいいか、暗黒騎士」

暗黒騎士「く…っ!」


暗黒騎士に突きつけられた魔王の剣が、鈍く輝く
黒い靄が刀身を覆い、その圧力を増していく


姫「暗黒騎士さん…! 父様、やめて!」

魔王「こればかりはやめられない。守るために挑むこともある…戦争がなくならない理由のひとつでもあるね」

姫「そんな! ですがこんな、身内で争う合うようなこと…!!」

魔王「姫は黙って」

姫「っ」


魔王「暗黒騎士。答えよ。覚悟はいいか」

暗黒騎士「……ああ!! 覚悟はできている!」

姫「暗黒騎士!!」

魔王「では…」スッ


暗黒騎士「だが、誤解をしないで頂きたい! 我が覚悟、この身を散らせるための覚悟ではない!!」

魔王「ほう?」


暗黒騎士「俺は姫様を一生かけてお守りすると誓った! 二言はない! この意思を曲げようというのであれば…」



暗黒騎士「例え『魔王』であろうと、構わぬ!! この剣の折れるまで、挑む覚悟が済んだだけだ!!」


チャキン!

暗黒騎士は、自らの剣を抜き
合わせ鏡のように魔王にその切っ先を突きつけた


魔王「ふ。言ったな」ニヤリ

姫「父様…!?」


暗黒騎士「王子ではない、この身に至らぬ所が多いのも承知! 唯一誇れるのはこの剣技のみ!!」

暗黒騎士「相応しいと認めてもらうまで挑もせてもらう! 相応しき身になれるまで磨きあげるだけだ!」


魔王「………ふふ、面白い。本当にお前に、姫が守れるのか…見てやろう」


魔王は剣を引き、腰の鞘に剣を収めた


姫「父…様…?」

魔王「……」


そして空になった手を天高く掲げ… 指を、打ち鳴らした

パチン!!


ザザザッ!
その合図で、茂みから黒い影が4つ、飛び出してくる


姫「!!」


パンパカパーン♪


姫「え゛?」

暗黒騎士「な」


登場と同時、それぞれの楽器を手に
華々しいメロディを奏ではじめたのは四天王だった


魔王「おめでとー! 次期魔王婿が正式に決定いたしましたー! はいっ、ファンファーレ!」

四天王「おめでとー♪」プップカプー♪



姫「次期…」

暗黒騎士「魔王、婿…?」


魔王「そだよ? 姫は俺の一人娘、魔王は次代継承。つまり姫は次期魔王だって分かってる?」

姫「うえぇ!? 私『が』、魔王・・・?」


魔王「もう姫だって十分な年齢なんだし、そろそろ継承してもらわないとね」

姫「継承!?」

魔王「いやー、『魔王の業』を継ぐわけだから、強くなるよ! 本人の意思とは関係なしに残虐な業の数々が自動で身につくからね!」

魔王「暗黒騎士に『守る』なんてできるのかなー? 逆に守られちゃったりしてー? あはは」

暗黒騎士「 」


魔王「と、いうわけでさ。姫は魔王継承の儀を目前にしてるわけだし」

魔王「その未婚の魔王に、正式婚約もしてない一介の騎士が手をだしてちゃ マズいんだよねぇ」ウンウン

暗黒騎士「そ、それは確かに・・・。 俺は、なんと言うことを」

魔王「ま、でもほら 今ちゃんと俺の前で宣言したし? “婿候補”が 婿に正式決定したなら…まぁチューくらいだったら許してあげよっかなっ」

姫「宣言?」

魔王「言ったでしょ? 『この娘に手を出す意味をわかって、覚悟は済んでいるか』って聞いたらぁ、『魔王でも構わぬ』、っていったじゃーん♪」

姫「う、うぇ!?」


暗黒騎士「・・・姫様には一生おつかえしようと思っていたが…。 まさか、“魔王”婿として、とは」

魔王「ふふん。そーんな覚悟、できてませんでしたーって言っちゃう? 騎士の二言とか聞いてみちゃってもいいよー?」

暗黒騎士「・・・」


姫「暗黒騎士…」ハラハラ

暗黒騎士「ああ。確かにその覚悟まではできていなかった」

姫「っ」


暗黒騎士「だが、問題はない。どのような道であれ、その手を離さぬと誓ったことに変わりはない」

暗黒騎士「それが、魔王とその婿の道だと決まったに過ぎないのだからな」

姫「暗黒騎士…っ」ギュッ

暗黒騎士「っと」


魔王「っ、くぅぅぅう・・・」プルプルプル

暗黒騎士「魔王様・・・?」


魔王「うわぁぁぁん!! かっこつけやがってコンチクショウ!!」

姫「と、父様」


魔王「ちょっとくらいオロオロしてかっこ悪いとこ見せて姫にプークスされろとか思ってたのに!!」

暗黒騎士「プークス…?」

魔王「俺一人でなんかすっかりバカみたいじゃないかぁぁあああああ!!!」

姫(いつだって一人だけテンション違うと思うけど…)



魔王「うわぁぁん! 暗黒騎士なんか嫌いだあああああ!!!!」

暗黒騎士「っ! 魔王さm」

姫「あ…。 走って… いっちゃいました…」


暗黒騎士「……」

姫「……」

姫「あの。いくらなんでもアレが『魔王』の前提じゃないと思いますし・・・」

姫「私はもうちょっとちゃんとした魔王になりますので、ご安心ください・・・?」

暗黒騎士「……頼んだ」



先代の魔王…つまり私にとってのおばあさまなのだけれど
そのおばあさまの婿になったおじいさまにそっくりだと言われる父様

女魔王に嫁ぐためには、結構独特なメンタルが必要なのかもしれないと
おじいさまに想いを馳せる


姫(もしかして私、守られるお姫様とは程遠いのかしら…?)ウーン

暗黒騎士(嫁の尻にしかれるとか、そういうレベルの話じゃなくて組み敷かれる可能性があるのか…)ウーン


とんでもないけど、憎めないほど楽しい生活が待っている気がした


暗黒騎士「とりあえず…行きましょう、姫。 そろそろ予定が…」

姫「あ、は はい。行きましょ… っきゃ!?」

暗黒騎士「! 危ない!」


振り返ったとたんに、ヒールがスカートを巻き込んでしまいバランスを崩す
転びそうになった私を、暗黒騎士は支えてくれる


姫「あ、ありがとう…」

暗黒騎士「……やはり、守られるよりは 守っていたいですね」

姫「あはは…」

暗黒騎士「『魔王』よりも強くなって、お守りします」

姫「……うんっ!」


素直じゃないけど 誰よりも心優しい暗黒騎士に見つめられて

私はまだ これが夢なんじゃないかと思ってしまいそうだった
こんなに幸せだなんて、なにかとんでもないことの前触れなんじゃないかって思えてくる



暗黒騎士「…迂回するより、このままバルコニーを飛び越えよう。俺が支えますのでご心配なく」


でも 暗黒騎士が隣にいてくれるなら きっとどんなことでも頑張れる
戦争とか和平とか、魔王とかいろんなことがまってても、やっていける気がする


姫「……」

暗黒騎士「? どうした。跳ぶ覚悟が決まらないか?」

姫「覚悟…」

暗黒騎士「ああ、いや。無理にそんな覚悟なんてしなくとも――」

姫「いいえ! 覚悟していたところです!」

暗黒騎士「姫?」


あなたの隣っていう居場所を守るためになら
私はなんだってできそうだから


あなたの隣なら、安心していられる。強くいられる。
こんなに嬉しくて、こんなに楽しい気分にさせてくれるから、なんだってできる

だからそれだけ一生懸命に守っていきたい
「いつまでも幸せに暮らしました」って言えるように、がんばるしかない


喪女でも、お姫様でも、魔王でもなんにだってなれるけど
こうやって言えるようになったのは 貴方がいるっていうそれだけの理由なんだから

だからもう、自分が喪女だとか姫だとか
そんな役割なんかに惑わされない! 関係ない! なんにだって、なればいい!


私が誰だって、なんだって
出来る事をして一生懸命に生きていくだけなんだから!

だから


姫「魔王になって、みーんなで幸せになる覚悟が 出来ましたっ!」


----------------
おわり

以上です

ありがとうございました!

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