提督「…反乱だ」 (469)

本作は前作
提督「…転属だ」
提督「…転属だ」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1424958206/#footer)

の直接の続編となります。

・独自の世界観・設定・解釈等が含まれています。
・キャラ崩壊や、轟沈等扱いの悪いと思われるであろうキャラクター等が居ます。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1425384064

「電は、人間が憎くなりましたのです」

「もうこれ以上、嫌なのです。人間の都合でかってに蘇らされて、勝手に戦って、少しでも都合が悪くなると、死ね」

「電は、ここで人間を裏切ろうと思っているのです」

「木曽さん、電に、協力して欲しいのです」

電は、ライフルを抱きかかえたまま、俺に向かってにっこりと微笑んだ。
電の考えは、もっともな物なのかもしれない。
俺は詳細は知らないが、当時の電の艦隊の環境は相当酷い物で沈没事故以前も衝突事故なんかは頻繁に起きていたと言う、
訓練の厳しさで疲労が溜まり、小さなミスが重なる。ミスが重なるのは錬度不足のせいだと昼夜を問わず訓練、結果、衝突事故で一隻轟沈。
あまりにも理不尽すぎる。

「だが…」

だが、ここで人間相手に戦ってなんになる?
人間と戦っている間、深海凄艦が何もしてこないとも限らない。
人間と戦ったって、圧倒的な戦力で押しつぶされるのが落ちだ。
地下にでもこもるか?それでも押しつぶされることに変わりはない、いくら資材や食料を備蓄していると言っても、限界がある。

それでもだ。

このままここで都合のいいようにこき使われて、死んでいくだけだと言うのなら?


「…何日か、時間をくれ」

「時間?ですか?」

「電の気持ち、俺も良くわかっているつもりだ、でもこれは話が大きすぎる。俺と電だけで始めるわけにも行かない…勝算を測らせてくれ」

「…それもそのとうりなのです。わかりました。」

俺は迷っていた。電の言うことはもっともだし、かといってこのままここで良い様に、と言うのも嫌さ。
だから、他の奴にも話を聞かなくちゃ、その上で、全員で判断するべきだ。そう思った。
それでもし、全員が乗ってくれるなら俺も乗ろう、と。

もし俺の心を覗ける奴が居たら笑ってくれ、俺は重要な決断を仲間に押し付けるクソ野郎さ。





「…と、いうことなのです」

何時もの館内放送ではなく、電が直接各部屋を回り艦娘を食堂に集めたときは何があるのかと思ったが…
人間への反乱、たぶん今まで考えた奴は居なかったんじゃないか?
この艦隊だから出来た事、なのかも知れない。

「俺は…電の案に乗っても良いのでは無いかと思っている。ここに来ている連中はみんな、いい加減な理由、理不尽な理由で連れて来られた奴ばっかりだ」
「しかしだ、俺と電、二人だけでやってもいい問題じゃない。この問題は…全会一致でなければ始められん」
「嫌な奴は出て行ってくれ…とやりたくても、俺たちが蜂起した時点で十五艦隊全員は共犯とみなされるからな」

説明する二人を前にアタシ達は考える。
確かに、人間に対して怒りを覚えなかったわけではないさ、アタシは人間を殺してしまったとは言え、相手は銀行強盗。
その相手からみんなを守ったあたしが責められる言われはないはずだ、なんて思いもした。
でも、皆も軍もアタシを責めた、新聞では艦名は報道されて居なかったが、欠陥を持った艦娘が銀行強盗を撲殺、なんて書かれていた気がする。
そのすぐ後アタシはここに来たから、その後どう報道されているのかもわからない。

「アタシは…木曽に賛成、したい」

「摩耶?」

「だってそうだろ?アタシは前、皆に対して言ったさ、俺たちはここで戦うことしか出来ない、じゃあ精一杯楽しんで死んで行こうぜ、って。」
「でも、あたしたちがここでどう戦っても、誰も知らないんだ。内地の艦娘がまともに戦って沈んだら、艦名や艦内神社に縁のある土地じゃ大々的に告別式なんてのも行われるのに」


「…利根さんは、どうなのです?」

「極悪人の我輩にそれを聞くのか?」

壁に背をもたれていた利根が方目だけ開けて呟いた。
利根は…恐らく、やった内容で言えば一番「妥当な」理由でこの艦隊に飛ばされた艦娘だ、誤射や誤爆ではなく、自らの意思で民間人を虐殺しているのだから。

「我輩は、もう人生…と言うのは変な話だが…そう言うのを諦めておった、随伴艦を沈め、民間人を殺し、ここで朽ち果てていくだけだとおもってた」

全員の視線が利根に突き刺さる。
こういっては失礼だが、一番の悪人だった利根はどんな答えを出すのか?たぶん、あたしを含めて皆、興味があったのだろう。

「でもな…おかしいんじゃ…この艦隊に来てから、久しく笑った記憶等無かったのに…今、我輩はとてもうれしいのだ」
「艦娘、不思議な物でな、一度欲が出るともっと欲が出てくる、我輩は何もせずに死にたく無い、ここで死ぬだけじゃ我輩は罪を償えたとは到底思えない」

全員何も言えなかった。
だってそうだろ?人一人殺しただけのアタシや腕を折っただけの木曽、ほとんど冤罪で飛ばされた電や曙とは重みって奴が違うだろ?

「我輩の部下だった駆逐艦たち、我輩が吹き飛ばした島の住民、皆深海凄艦の攻撃で死んだことになっておる。」
「違うんじゃ、全部ここに居る愚かな一人の艦娘のせいなのだ、我輩はそれを…何としても、姉妹艦や遺族の方たちに伝えたい」

ははっ、と乾いた笑い声を上げて利根は続けた。


「我輩は極悪人だ、罪を償うと言っておきながらまた、罪を犯そうとしておる。でもな、我輩はそれでも、構わないと思っておる」

全員が沈黙したままだった。
が、木曽が口を開いた

「欲が出るともっと欲が出てくる…ねぇ、俺もわかるぜその気持ち、内地に居たころは週一で風俗に通ってたが、最近になってまた行きたくなった」

「なっ…おい木曽!我輩が真剣な話をしているのになぁ!!」

「そうだよ利根、アンタは笑ってる方が似合ってる」

「…我輩も焼きが回ったのか?軽巡風情に諭されるとはなぁ?」

「曙ちゃんは、どうなのです?」

次は曙だった。
本人にミスは無いにもかかわらず、責任を追及されてこの艦隊に異動、理不尽さでは右に出る物は居ないだろう。

「私には反対する理由は無いわ、それにうまく行けば前の艦隊のクソ提督をぎゃふんを言わせることも出来るでしょ?」

「他に反対の方は居ないのですか?もし反対なら…お願いなのです、今のうちに名乗り出てください」

一人も、居なかった。

「決まり、なのです」





決起が決まった。はいいが、それからどうするかは電も木曽もろくに考えて居なかったようだ。
もともと、一人でも反対が居れば諦める。と言うことだったらしい。
つまり、決起を決めた後誰一人案を出せなければ「決起しようと思いました」で、この計画は終わるわけだ。

「ま、俺たちらしくていいじゃねぇか?」

曙はいろいろ文句を言ってたが、木曽はんなの知るかとけらけらと笑っていた。





「決まった。とはいえ、どうするのだ?まさか本国の艦娘全員と戦うわけではなかろう?」

「そのとおりです。電たちの目的はあくまで軍に隠されてきた事件を国民に知らしめる事と、この島を軍の支配下ではない同等の存在と認めさせることなのです。もちろん、必要とあれば武力行使も厭わないのです」

「ま、そうだろうな…こんな艦隊を作っている連中がはいそうですか、と認めるとは思えないしな」

「そもそも、その目的二つはどうやって達成するのよ?私たちは皆沈んでいる扱いなのよ?」

曙の言うとおり、私たちは公式には沈んでいる。
プラカードを掲げて日本に向かえば哨戒網につかまり、怪しまれて拘束されて振り出しに戻るのがオチだ。

「…外国と連絡を取る。と言うのはどうだ?艦娘は日本とドイツしか実用化してない、それ以外の国なら…PM…Dだっけ?そんな感じで独立性を維持する事は…」

「PMC、民間軍事会社じゃな、とはいえ何処と連絡を取る気じゃ、何処と」

「そりゃあ…アメリカとか?」

「…うまく良くとは思えないのです、アメリカは日本の同盟国なのですから…その同盟国に喧嘩を売ってまで電たちを助けてくれるでしょうか?」

「それにアメリカなんて、どうやって行けばいいのよ、深海凄艦の群れを突っ切ってハワイまで行くつもり?グアムにすらたどり着く前に全滅するんじゃない?」

「愚策だな」

「愚策じゃな」

お前ら、よってたかって俺を責めるなよ。


「…じゃあ、この島から物理的にに近くて、比較的日本に敵対的な…」

「…中国か北朝鮮ぐらいしか思いつかないんだけど」

「…我輩は嫌じゃぞ、報道の自由は無いからわれわれの訴えが黙認される可能性が高いし、即刻拘束されて人体実験されるのがオチだろう?」

「信じて送り出した艦娘がアヘ顔ダブルピースする未来しか見えないのです」

「…何言ってるんだ電」

「この艦隊に長く居ると見たくない物が見えるのです」

電、苦労したんだなぁ…

「無線通信、と言うのも考えたのですが…この島の設備では海軍向けの暗号通信か民間用の電波しか出せないのです、どちらを出しても奇跡的に他国が協力してくれても距離的に日本から鎮圧部隊が派遣されるのです」

「武力行使は最後の手段、と言ったが…避けられそうにないのう…」

「でも…外に助けを求めるのはいい案だと思うわ、外国は無理でも、誰か国内に信頼できる人は居ない?その人とだけ連絡を取る手段があれば…国内からなら、情報発信も情報収集も、可能なはずよ」

「ナイスだ曙、でもなぁ…」


信頼出来そうな奴、なら国内に何人か居る。
たとえば第三艦隊の提督、彼はアタシがこの艦隊に来る前に、ずいぶん尽力してくれた。
鳥海や高雄姉なら…多少は力になってくれそうだ、愛宕姉?アレは頭がゆるいからこの手の話は出来ねぇだろ?
もしかしたら、武蔵の姐さんも力になってくれるかもしれない、もしそうなれば百人力だろう。

「球磨の姉貴なら…でもなぁ…そいつらとだけ、連絡を取ると言うのは…」

「電なら、出来るかもしれないのです」

「電?」





「電がこの艦隊に来る前、隊内微弱電波で暗号通信ごっこをした事があるのです、そのときの暗号はすべて暁型だけで考えて作ったオリジナルの物ですから、暁型以外には解読は不可能なのです」

「へぇ…ずいぶん手の込んだ遊びをするんだな」

「まあ、そのとき偶然電離層が発生していて国内中に放送されたりしましたが…内容までは解読されて居ません、あのときのノートを暁型の誰かが持って居てくれたら…」

「あぁ!?あのときの謎の電波、アンタだったの!?おかげで鎮守府巻き込んで通信機器の一斉点検やって大変だったのよ!」

「ご、ごめんなさいなのです!曙ちゃん!」

「でも…褒めてあげるわ!」

完全オリジナルの暗号、か。
暗号強度としてはいまひとつかもしれないが、その一回しか放送されて居ない、と言うのなら…暁型以外の艦娘や軍の情報部に解読される可能性は非常に低い、かもしれない。

「でかした!褒めてやるよ」

「えへへ…♪」


電の頭を掴んでワシャワシャ撫でる。が、そのワシャワシャは一人の駆逐艦の一言で止まった。

「で…どうやってその暗号を暁型に届けるの?無電を使ったら発信地点はすぐばれるよぉ?」

うかつだった。まさか軍も第十五艦隊から謎の電波が発信されれば黙っては居ないだろう。

「それなら我輩に一つ、考えがある…我輩に任せてくれんか?」

「でかしたわ利根!褒めてあげる!」

「さすが利根さん!」

「ええい!離せ曙!おぬしらも、やめんかぁ!?」

利根が駆逐艦に埋もれていた。
その顔は今まで見た事がないくらいに明るい笑顔だった。





「ところで、さ、一つ気になってたんだけど…」

「ん?どうした曙」

「…ここの提督、どうするの?」

「「あ…」」

全員がその場で固まった。
そうだ、忘れてた。このクソッ垂れた艦隊にも提督は居る。ここに来てから顔も見た事がなく、放送ですら声を聞いた事が無かったから、全員が忘れていた。

「むぅ…奴とて日本国の軍人じゃ、我輩たちが決起すると聞いて黙ってはおらんだろう」

「居ても居なくても変わらないような奴だが…居る事が問題になるとはね」

「司令官さんは…この艦隊には不要な存在なのです、艦娘など沈んでしまえ、等と言う司令官は、もう提督ではないのです」
「人間に支配されなくても、艦娘は自分たちで生きて行ける、と言うことを証明する必要があります。司令官については電に任せて欲しいのです」


本日はここまでです。

おつおつ

一応、前回安価っぽい物
(自分としては安価ではなく、あくまで意見を聞きたい、と言うつもりだったのですが…普通の安価の乗りになってましたね、ごめんなさい)
を作ってたので、そこらへんの解説をさせてください。
数としては4・積極的否定。という選択をされた方が多かったのですが、1・2の肯定を選択して結構具体的な案を出してくれた方が数名いらっしゃったので、木曽の態度としては「消極的に肯定しつつ、皆さんが出してくれた案について艦娘たちが議論する」と言う方向で決着とさせていただきました。
(一番多いのが4なのに、4じゃないのはルール違反だ、と言われればそれまでですが)

こうなった以上軍の「却下」は正しかったと言わざるをえない

>>25
でも、そうなった原因は軍の却下とそれによる提督の職務放棄だ

>>27
曙みたいな子とか冤罪で送られた子はともかくメインで描写されてる精神面を危惧されて送られた子は実際にそうだった訳だし再配属は無理でしょ

>>25
それは暴論過ぎる
臭いモノには蓋して完全放置すりゃ腐っていくに決まってる
国民を守ると言うより、自分達の地位を守るために乳母捨てする事を良しとした奴らとシステムが悪い

……この世界では轟沈したら、新たなそいつが記憶も新たに建造されるんだろうか
それなら懲罰部隊を越えた使い捨て部隊にするのも分かるが、いっそのこと解体した方が早いし

>>30
その理屈で言うと利根以外問題ないってことにならね?摩耶も少し怪しいけど
>>29
艦娘を作る必要が無い内陸国、そもそも艦娘を作ろうとするだけ無駄な経済、技術力の無い国なら亡命しても人体実験みたいなことにはならないけど、そんな国は日本に圧力かけられたら終わりだし距離の制約もあるし
最初に外国との接触を諦めたのは正しかったのかもしれない。

>>31>>32
他の艦娘の士気を考えると一人殺したぐらいで解体は難しいけど陸でも人間より遥かに強い設定の艦娘なら突発的な感情で暴れるような子を人間の生活圏におけるわけないし
悪人は誰もかばってくれないから沈むみたいなこといってる以上任務に感情を挟むことも推察できる
でやっと協調性が芽生えたと思ったら電の反乱しかも準備は前からしてたから危険思想は提督の「沈まねぇかな」発言による突発的なものじゃない
これじゃ再配属は無理という軍の判断は間違いとは言いづらい
告発にしくじって飛ばされた提督は残念としか言えないけど

>>33
いや、雷のように内面に重大な偏りがある事自体は良いんだ
ただ、乳母捨て山の大将の具申を考慮し心療専門の軍医その他の診断をさせないのはなぁ
カッとなって人類を[ピーーー]気持ちを持っちゃう超人連中を劣悪な環境に押し込めたら、それこそ反乱起こされる可能性を考えられないのかなってね

>>35
反乱起こすだろうって言うのは同意だよ
あくまで俺が言いたいのは
こうなった以上(更正させるつもりがあるかどうかはともかく)軍の「却下」は正しかったと言わざるをえない
人として正しいかはまた別問題元々軍は悪役な訳だし

それってただの結果論じゃないか、しかもひとつ前のことしか見てない。
さらに元々こいつは悪役だから~ってメタな部分に言及しちゃうってのは雑談としてどうなのさ?

あと、人間より遥かに強い~って言ってるけど、このSSも過去作にもそんな描写や設定は無いぞ?(艦娘が提督を腕相撲で負かせる描写があったりするけど、それでもちょっと鍛えた人間ぐらい。って言ってる)

おはようございます。本編は本日の夜に更新予定です。

さて、一つお詫びしなければならない事が…
前作作中、特高隊と言う単語が何回か出てきますが彼らは「特別高等警察」ではなく、「海軍特別警察隊」の事です。
海軍特別警察は主に占領地での憲兵隊の業務の代行を行っていましたが、艦これ界隈では憲兵は有名でも海軍特別警察はあまり知名度が無いようなので、海軍特別警察に登場してもらうことにしました。
そうなんです。「特別高等警察」と「海軍特別警察隊」は別組織である事を理解していたはずなのに、後者の略称を「特高隊」としてしまったのです。
正確には「特警隊」とするべきでした。申し訳ありません。

>>38
摩耶は一般人(強盗)を結構簡単に殴り殺してるんですが

>>44
いや、素手で拘束しようとして死亡ってのはよくある(さすがに日本国内だと数えるほどしかないけど)有名な事件だと警官が取り押さえようとしても抵抗続ける相手を拘束し続けたら死んだって事件あったけど、死因は外傷じゃなくて精神的ショックだった
別に人並み外れたパワーが無くても人は殺せるんだよ

>>46
「艦娘の身体能力は人間と比べてどうか?」って話だから摩耶と同様に数発で殴り殺したって例じゃないと何の意味も無いぞ

>>47
摩耶が数発で殴り殺したとは何処にも書いてないんですが

>>48
前スレの>>15で「抵抗したから何発かぶん殴った。気がついたら死んでたよ」って言ってる
何発かって表現だから2ケタなんていかないだろ

今更だけど木曽→木曾ね
前スレからずっと間違ってたけど

(面倒なやつ多杉だろ、>>1が答えてくれれば一番いいと思うけど)




「お主には初任務できつい事をさせるが…許してくれ」

この艦隊唯一の航空機である零式水偵を組み立てながら唯一人の妖精に話しかける。
妖精はふるふると首を横に振った。

この艦隊に来る前に、艦載機はすべて取り上げられた。
しかし、こいつだけは分解した水偵と一緒に我輩の荷物に潜り込み、この島まで着いてきてしまったのだ。
おかげでプロペラや空中線は破損してしまったが…何とかプロペラを修理し、飛行可能な状態にまでこぎつけた。

「利根さん、お願いします」

「おう、任せておけ、もっとも実際にやるのはこいつだがな?」

電から紙の束を受け取る。中身を見たが、何が書いてるのかはちんぷんかんぷんだった。
電によれば電を始め、この艦隊の連中が轟沈したのではなくこの艦隊に生存している事、他に我輩たちが信頼できるとして名を上げた者たちへ連絡を取って欲しい事、等が書かれておると言う。
あの後何人かで天測を行いこの島の位置を割り出した、全員に数キロの誤差があっても片道なら余裕で日本まで行ける距離であることは確認できた。

「妖精さん、お願いします。横須賀には暁型の第六駆逐隊と筑摩さんが居るはずなのです。六駆の誰かにこれを送り届けて欲しいのです」

「よし、発進後は無線を封鎖して横須賀に向かえ、もしお主に何かあっても我輩は助けてやる事が出来ぬ、しかし日本国内に到着さえすれば機体は放棄し、お主は他の妖精たちと紛れる事も出来るはずだ」


水偵をカタパルトにセットする。まったく、久しぶりのカタパルト使用がこんな形になるとは。
それでもだ、いつか使うかも知れぬと整備だけは欠かさずしてきたつもりだ。
妖精がエンジンを始動する、何回かプスンプスンと言う音がした後、エンジンが軽快な音を立て始めた。

「それでは頼んだぞ!」

我輩と電に向かって親指を立てる妖精、軽い衝撃の後、機体は一気にすっ飛んで行く。
あぁ、いい音だ。もう二度と聞く事は無いかも知れぬが…
水偵は我輩の周りを一週した後、日本に向かって飛び去って行った。

「行ったぞ、電」

「行ったのです」

「サイは投げられた…というところじゃな?」

「はいなのです、次は電の仕事なのです」





ここ最近、俺はむしゃくしゃしていた。
酒もタバコも無いからだ。そろそろ補給が来ているはずだが、電からはその報告はない。
何時だったか電文で、本土では大規模な作戦を準備している…と言う事を言っていたっけか、その準備で補給が遅れている、そう思うことにした。

『司令官さん、電なのです』

「おぅ、入れ」

執務室のドアをノックする音が聞こえ、電の声が聞こえる。
返事をすると電が部屋に入ってきた。

「司令官さん、報告なのです、先ほど補給が来たのです」

「おぉ、やっとか…資材は?酒は?タバコは?」

「そんなにがっつかなくても、ちゃんとあるのです」

自然と笑みが漏れる、酒とタバコに逃げなけりゃやってけねぇよ、こんなところ。

「でも、司令官さんはもうお酒は飲めないのです」

「なに…?」

「司令官さん…消えてください、なのです」

電の右手には、旧型の自動拳銃が握られていた。
それを見た瞬間、心臓が何時もより遥かに大きく跳ねたような気がした


「…な、なんの冗談だ?ん?そんな玩具の拳銃を補給物資に…要請していたのか?」

「…これが、玩具にみえるのですか?」

電の指が動き、ガチャっとハンマーが起こされる音がした。

「待て、電」

「司令官は、もうこの艦隊には不要なのです」

いかん、殺られる。
電の銃は本物に見える。いや、たぶん本物だ。そもそも電の性格からして玩具の銃でこんな性質の悪い事をするとは思えない。
さらに、だ。あんな旧式の銃のモデルガンなんて、あったのか?
つまり、電は本気なわけだ。

「電、銃を…降ろせ…」

「いやなのです」

「降ろせと…言った筈だ!」

電が瞬きした瞬間腰の拳銃を抜き、電に突きつける。
電がなぜ俺を今になって殺そうとするのかわからない。


いや、わかっているはずだ。
俺は沈んでいく艦娘に何も出来ない、故郷に帰る事すら出来ない自分だけが不幸だと思って、すべて投げ出してしまった。
それは電に俺のすべての苦しみを背負わせたと言うことなのだ。
上司の椅子にふんぞり返りながら仕事もしなければ責任もとらない、そんな上司が居たら?とっとと消えて欲しいと思うだろう。
それが、命を賭けて戦う職場なら?電のこの行動は、当然の物だったのかもしれない。

電を、撃たなければ俺は撃たれる。
しかし、電の顔面に照門を会わせながら、俺は引き金を引けなかった。
人間、極限の状況では殺されたくないという感情と同時に殺したくないと言う感情も産まれる、と言う話を聞いた事がある。
下手に撃って失敗したら相手の殺されたくない、という感情は消える。かといって撃とうと指に力をこめればそれが相手にも伝わり、相手も発砲して相打ちになる。
それが本能的にわかっているから、映画とかで良くあるお互い武器を突き付けて動けなくなるシーン。というのは、実は戦場でも良くある事なのだそうだ。

「頼む、電、銃を降ろせ」

「嫌、なのです」

「頼む、電、話せばわか―」「問答無用、なのです」

電の人差し指が動いたのがわかった。
だが、俺の指には最後まで力が入らなかった。





乾いた音が一回、響き渡ります。

「ぐっ…が、はっ…」

目の前の司令官は胸と口から赤い物を吹き出しながら仰向けに倒れました
失敗、してしまったのです。
12.7cmみたいな反動があると思い込んで、無意識に下を狙いすぎていたみたいなのです。

「いな…ず…」

「ごめんなさい、司令官。おやすみなさい、なのです」

胸を押さえながら電に向かい、手を伸ばす司令官。
電はその傍に近づき、司令官の頭に銃を向け、引き金を二回、引きました。

「司令官、安全装置が入ったままなのです…」



食事の用意を手分けして行っていると、執務室の方から乾いた音が、三回聞こえる。
全員顔を見合わせると、電が食堂に入ってきた。

「電…お前…」

「お主、やったのか?」

「…これで、この艦隊は人間の手から離れたのです、木曾さん、利根さん、司令官の埋葬を手伝って欲しいのです。司令官も、まだ面識のある方に葬られる方が良いでしょうから」

「…わかった」





重巡洋艦摩耶の第三艦隊への異動を要請する
当艦はまだ戦没が公表されておらず、戦没艦として当艦隊で運用するよりも国民を救った英雄としての利用を検討するべ





提督の机の上に、作成途中の電文が書かれた紙が見えた。
これが、何だと言うのだ?
あなたが艦娘の為に尽力していたと言うのなら、なぜそれを艦娘にひた隠しにしてきたのだ?

提督には同情する。でも、提督を哀れに思えるほど、俺は提督とは何の接点もない。
俺はその紙を破り、シュレッダーのゴミ箱の中に放り投げた。





発進してから数時間、日本まであと2時間ぐらいか?
地図と速度計、進路計を確認する。少し東にずれているか?心持左に舵を切った。
この調子で行けば陸が見えるのは日没直後だろう。そうなれば海岸に機体を降ろし、機体は処分する。
そして横須賀鎮守府で第六駆逐隊に手紙を渡す。

そうすれば第六駆逐隊から筑摩さんや他の艦娘、人間たちに第十五艦隊の事が伝わり、軍が情報管制をする前に国民が第十五艦隊の事を知ることになる。
今の…少なくとも、自分が十五艦隊に来る前の国内世論であれば、艦娘サマがあのような扱いを受けている。と言うことを国民は許さないだろう。
今まで艦娘の欠陥、として片付けられていた艦娘が、実は欠陥等なく、あのような扱いをされているのだから。

しめた、前方に雲が見える。
空母の艦上機につかまるのが一番の懸念だったが、雲のそばなら早々見つからないはずだ。





『こちら第二分隊、戦闘空中哨戒中に所属不明の零式水偵を発見、雲に沿って飛行している』

「…了解、鎮守府に問い合わせる、第二分隊は追尾を続行して、気付かれないように」

『…こちら第二分隊、所属不明機の機体番号はMI-4』

「…第二分隊、鎮守府と連絡が取れたわ、現在当空域を飛行中の零式水偵は無し、その機体番号を持つ機体は過去に紛失…深海凄艦に鹵獲された機体の可能性がある。撃墜許可」

『第二分隊了解…攻撃開始』
『こちら第二分隊、所属不明機は右翼が折れ墜落、撃墜1…墜落地点はS-52-47』

「ご苦労様、機体の残骸は帰投中の第六駆逐隊に回収させます。第二分隊は帰還してちょうだい」

「雲の中を飛行する機体を撃墜するなんて、さすがね」

「当然です、みんな優秀な子達ですから」





「雷~、何か見つかったー?」

「うーん、尾翼の破片?かしら、破片が何個か見つかったわ!」

「響ー、そっちはどう?」

「…」

「響?」

「あぁ、こっちは何も見つかってない」

「そろそろ日が落ちるわね…回収作業はここまでにしましょ、一人前のレディは日が暮れる前に帰るのよ!」

「りょーかい!」

「…了解、響、帰投する」


本日の更新はここまでです。

>>52
ご指摘、ありがとうございます。
確かに木曾の漢字、間違えていましたね、お気に入りの艦娘の一人だと言うのに…
木曾には謝罪をしてきます。

>>53
一応私のスタンスとして、ですが
直接私を指定して質問された事については可能な限りお答えしたいと思います。
ただ、私のミス・描写不足に起因する物以外の本スレの内容については答えられない場合があります。(今後の展開に関わる場合もあるので)
ですが、回答の結果どなたかの意見を完全否定してしまう可能性がある事、
また、大筋は決めている状態なので今後の展開がどなたかのレスの内容と同一になってしまう可能性がある事についてはご容赦ください。

でも艦娘の本性を見抜けなかった提督もわるいんですよ?




椅子に座ってテレビを見る。テレビではこの前の戦闘で深海凄艦の艦隊を撃破して帰還した艦娘部隊の凱旋式が行われていた。

『今、旗艦長門が陸に上陸しました!』
『今日は艦娘たちを一目見ようと二万人もの方が押しかけて居るようです』

艦娘の開発と投入のおかげで、本土空襲寸前まで追い詰められていた我が軍は息を吹き返し、本土周辺はほぼ奪還。何とか均衡状態まで持ち直した。

「まったく、艦娘様々だな…」

当初は艦娘の投入に批判的な意見も多かった、しかし艦娘が民間船を救助し、深海凄艦の勢力圏内に孤立した島を救援し…
今ではマスコミも、野党も、国民も、市民団体も艦娘を歓迎している。
先日など艦娘の為に役立とうと新聞社が始めた献納運動なる物の義捐金が目標額に達し、数十機の航空機の他46cm砲の予備の建造が決定した。

『いま、抽選で選ばれた少女が長門に花束を手渡しました!』
『いやぁ、うらやましいですね~、私も長門さんに抱っこされて見たい物です』

テレビからは国民の歓声が聞こえる。ナレーターのマイク越しに聞こえてくるのだ、さぞかし大盛況なのだろう。


国を守るためには艦娘が必要だ、そして艦娘が戦い続けるためには国民の理解が不可欠だ。その理解を得るためには与党も野党も、マスコミも味方では無ければならぬ。
少しでも艦娘を排除するような風潮は可能な限り賛成意見で塗りつぶさなければならないのだ。

もし、艦娘反対の運動が活発だったら?マスコミを味方に付ける事に失敗したら?考えるだけで恐ろしい。
艦娘と言う深海凄艦に対抗可能な唯一の戦力は実戦に参加できないまま開発中止、今頃九州当たりは制圧されていただろう。
そのとき慌てて艦娘の開発を再開しても、押し返すことなど出来なかったはずだ。

日本は民主国家だ、独裁国家ではない。
民主国家ゆえに国民には逆らえない、それが国の存続の為に必要なことでもだ。

「政府の最大の敵は自国民だ、とは良く言った物だな…」

しかし、それゆえに民主国家は国民の意見がまとまればものすごい力を発揮する、アメリカ等が最たる例だろう。
今では各地で起こっていた反戦運動や日本軍・米軍基地の反対運動等は完全に鳴りを潜めている。


「失礼します、閣下」

「君か、どうした?」

ドアが開き、情報部の者が入ってきた。
彼らには感謝せねば、国民の反艦娘感情を刺激しないように立ち回ってきた一番の功労者は情報部なのだから。

「横須賀鎮守府から妙な報告が…登録抹消された機体番号の零式水偵を一機、撃墜したと」

「…まさか、誤射か?」

「いえ、現在全艦隊から未帰還機の報告は入って居ないので、違うかと…問題は、その機体の登録番号が利根艦載機の物なのです」

「利根…というと、あの利根、か?」

利根と言えば、村を一個吹き飛ばし、深海凄艦とのコミュニケーション手段を永遠に失わせた艦だ。
はっきり言ってこの戦いの行く末を闇に葬り去った、忌むべき艦と言ってもいい。

「利根は十五艦隊に配属されるさいに搭載機はすべて没収、機体番号を振りなおした上で別の艦に配属していますが…」

「…何らかの手段で利根が機体を隠し持ち、発進させたと?」

「はい、その可能性が」

「…十五艦隊、調べて見る必要がありそうだな」





消灯時間が過ぎた後、女子トイレの個室に入り、鍵をかける。
別にお腹を壊したわけじゃない。でも、一人っきりになれる場所が私には必要だった。
一航戦が撃墜したと言う水偵の残骸回収作業中に、妙な物を見つけたのだ。
落書きにしか見えない紙の束。本来ならこれでも重要な証拠として提督に提出しなくちゃ行けない。
それでも、機密保持用のインクで掛かれて、半分近くが滲んでしまったその落書きはどこかで見た事があったような気がした。

「…ビンゴ、だ」

当たりだった。昔第六駆逐隊で遊んでいたごっこ遊び、そのときに使っていた暗号ととても良く似ている。
服の中から取り出したボロボロになったノート、そこに書かれている符号と一致する箇所が何個かあった。
一体なぜ深海凄艦が鹵獲した水偵がこんな物を積んでいたんだろうか?

「ебать…」

駄目だ、皆で遊んでいたころはスラスラ複号出来たのに、一部が読めなくなっている。
この紙の解読には時間が掛かりそうだ。


「ねぇ響ー、まだトイレなのー?」

個室のドアの向こうから雷の声が聞こえた。

「あぁ、少し…お腹を壊してしまったみたいだ…」

「大丈夫?お薬、貰ってこようか?」

「・・・うん、正露丸が欲しい、な」

「オッケー、すぐもって来るわ!待ってて響!!」

この紙の解読には、もう少し時間が掛かりそうだ。でも、速く解読しなければ行けない気がする。

「…他の手も、打った方がいいかな…」

服の中に紙とノートをしまいこみ、便器のレバーを大の方に倒した。





この島はかつて要塞だった。
その電が言ったとおり、島の哨戒網として周囲にソナーが埋め込まれている。
このソナー郡と、別艦隊からの偵察情報をもっているから、この艦隊が付近を航行する深海凄艦を攻撃できる、とも言える。

夜になってそのソナー郡が水上を航行する数隻の艦娘、あるいは深海凄艦が島に接近している事を検知した。

「利根の艦載機は失敗、したのか?」

「一日やそこらで判断は出来ぬが…もしそうなれば水偵に関する行方不明情報等が全艦隊に無電で通知されると思うのだが…」

「…どちらにしろ、出るしかないんじゃない?深海凄艦ならどっち道戦わなければ行けないだろうし…」

「艦娘だったら、どうする?」

「それは相手の出方次第なのです…こちらの動向に気付いて居ないといいのですが」





「衣笠、指定ポイントまで後どれぐらい?」

「今の速度を維持し続けて…約20分よ」

私たちは青葉を旗艦として、五隻で提督に指定されたポイントに向かって航行していた。
今まで敵泊地への威力偵察等を何度かこなして来た、今日もその類の任務だったが、指定されたポイントが我が軍の勢力圏内である、という点だけが変わっていた。
作戦目的は、我が軍の勢力圏内に侵入した敵深海凄艦を撃破する事。

「ふああぁ…眠い…」

「もう、加古ったら…」

私の前を走る加古さんが大きくいびきをかく、彼女は何時もそうだ、鎮守府でも、訓練でも、任務でも眠そうにしている。
でもこれでも、ひとたび戦闘になれば別人のようになる。
「睡眠不足じゃないって、加古スペシャルをかますためにパワーを充填しているんだよ」
なんて言っていたのはもしかしたら事実なのかもしれない。
その直後に古鷹さんにスカートを引っ張られていたが。

「でも、何で今になってこのポイントが指定されたのかな…?勢力圏内にここまで入り込まれるなんて、考えにくいけど…」

「もしかしたら哨戒網に穴が開き始めているのかもしれないね、補給線が延び始めてる…見たいな話し、提督がしてなかったっけ?」

「あの、そろそろ作戦海域です、周囲の警戒を強くした方が…」

会話をしている衣笠さんと古鷹さんに割ってはいる。
油断は禁物だ、それに少し、嫌な予感もする。


「うーん、警戒態勢に入ると速度を出せないので嫌なのですが…」

「吹雪の言う通りかもよ?日も落ちたし…青葉、警戒態勢に入ろう」

「それもそうですね、吹雪さんの勘は良く当たりますし…各艦、警戒態勢に入ってください!」

「はーい!」「了解!」「ふぁ~あ…へーい」

そのとき水平線上になにか見えた気がした。

「青葉さん、方位330、水平線上になにか見えました!」

「敵ですか?」

「わかりません、暗いのと、遠くて…」

「・・・敵である可能性が高い、と思いますが…万が一味方だと同士撃ちの可能性があります…吹雪さん、目視での確認、お願い出来ますか?」

「…了解です」

はっきり言って、怖い。
そもそもこの海域には敵の捜索の為に派遣されている、地図上は味方の勢力圏内と言っても味方である可能性は、限りなく低い。
もし敵なら、私は集中攻撃をされる。でも、この手の行動に一番向いているのは私だ。





「…目標は人型…」

人型、と言うことは、深海凄艦の駆逐艦や軽巡ではない。
もし敵なら、最悪だ

…もう少し近づく、艦娘…艦娘のようだ

安心した、あれがもし敵なら?人型の深海凄艦は大抵、戦艦や空母クラスの強力な艦と相場が決まっている。
こちらより先に敵に気づかれていたら私は今頃海の底…
とにかく、無線で青葉さんに報告しよう。

「っ!?」

そのとき、艦娘たちが私に砲を向け、発砲して来た。


本日はここまでです。




「単艦でちかづいてくる奴がいるわ」

「…人型…だのう、単艦である事から攻撃とは考えにくいが…警戒は怠るなよ?」

俺と曙、利根が島から出て、接近する艦を迎え撃つ。
撃つと言ってもさいしょっから喧嘩するわけじゃあない、深海凄艦なら迎撃するし、艦娘なら、ごまかす。
向こうが攻撃してくる、と言うわけでなければまだ、こちらの意図は気付かれていないはずだ。
利根の妖精が失敗したと判断できるまでは、こちらから動く事は避けるべきだ。

電の事故は沈没事故として知れ渡っているし、摩耶もつい最近ここに来たばかり、戦没か、解体として公表されたばかりのはずだ。
と、言うわけで、一番内地の艦娘に知られて居ないであろう俺たちが前に出て、残りの艦娘は後方で待機する。という作戦になった。

「ん…ありゃあ…吹雪か?」

「なんじゃ木曾、お主知っておるのか?」

「じゃあ不味いんじゃ…まだ向こうは気付いていないみたいだし、下がった方が良くない?」

吹雪とは一時期、同じ部隊だった事がある。
そこまで付き合いは深くなかったが、真面目でいい奴だった。という印象だ。
単艦なら、話しをする事だって出来る、利根の妖精がすでに失敗している可能性だって無いわけじゃない。


「…いや、アイツは信頼できる奴だと思う、話して…」

ん、ソナーに感?スクリュー音…吹雪より速い!?

「駄目じゃ!散開!!」

「ちいっ!」

利根の一言で全速で散らばる、さっきまで曙だ居たところを白い雷跡が二本、通り過ぎていった。

「くそっ!吹雪は囮か!?」

「警戒じゃ!あの駆逐艦の背後に本隊が居るかも知れん!」

「どうする!?反撃するの?」

「向こうが撃って来る以上、撃たないわけにはいかん!既に軍にはこの島の事はばれておる!」

「くそ…!」

砲塔を旋回させ、吹雪に照準を合わせる。
射撃開始。





『うわっ…艦娘に…発砲されました!どうして!?』

吹雪から通信が入る、こちらからも発砲音が聞こえた。

「吹雪を助けないと!」

「吹雪、聞こえる?急いで私達と合流して!」

「吹雪さん!青葉です!相手は…相手は艦娘なのですか!?」

全速で吹雪の方向に向かう。
なぜ艦娘が、艦娘である吹雪を狙う?まさか吹雪が敵を味方と誤認した?まさか、あの子に限ってそんなミスをするなんて。

「青葉!前方!吹雪と敵影!」

加古の声で前方を見る、左右に激しく蛇行する吹雪の周りに何本もの水柱が立っているのが見えた。
わき腹を押さえている、被弾してしまったのかもしれない。


「野郎…よくも吹雪を!ぶっ飛ばす!」

「加古さん、待ってください!吹雪さん、相手は…相手は艦娘なのですか!?」

前方を走る吹雪がその場で180度回転、バックしながらこちらに向かってきた。

「艦娘…艦娘です!それにあれは…木曾さん!?なんで、木曾さんが・・・?」

その場で吹雪の脚が止まる、吹雪を囲むように、夾叉

「吹雪!脚を止めないで!!」

「古鷹!吹雪をお願い!この、良くも!!」

「吹雪ちゃん!」

衣笠と加古が吹雪を追い越し、射撃体勢を取る。
私は吹雪に近づき、腕を掴む。


「待ってください…衣笠!加古さん!射撃は待ってください!」

「吹雪ちゃん!大丈夫!?」

「なんで…木曾さんが…生きて…攻撃…あれ?なんで…」

一瞬、心の中で舌打ちをしてしまう。
吹雪は損傷は軽くても戦える状態じゃない。

「青葉!吹雪をつれて撤退しよう!」

「砲撃開始する!」

「駄目です!艦娘同士で砲撃戦なんて…」

「でも青葉!このままじゃ皆やられちゃう!」

「でも・・・同士討ちなんて…向こうはこちらを敵と誤認しているだけで…」

「青葉!!」

怒鳴ってしまった。でも、今ここで青葉まで戦えなくなってしまったら全滅してしまうかもしれない。
何しろ敵の意図も、戦力もわからないのだから。

「とにかく今は撤退する事を考えよう!何よりもこの事を報告しなきゃ!」

「は、はい!衣笠!加古さん!三式弾を使用してください!」

「三式弾!?」

「三式弾なら・・・直撃しても撃沈しないですみますし、視覚的な威嚇にもなります!向こうもこちらが味方と気付いてくれるかもしれません!!」





重巡青葉率いる第六戦隊は昨夜、●●島沖で艦影を視認、艦娘と確認した直後に砲撃を受け、駆逐艦吹雪が小破。
青葉・衣笠・古鷹・加古は艦娘部隊に反撃しつつ、吹雪を曳航。帰還途中に敵潜水艦の物と思われる魚雷攻撃を受け、重巡加古が大破。
本日未明、母港に帰投する。

なお、当時当海域にて第六戦隊以外に活動している艦娘部隊は存在せず、また、駆逐艦吹雪の証言により軽巡木曾と思われる艦娘が敵艦隊に存在する事が確認された。
軽巡木曾は過去に、航空機による攻撃により喪失している。





「吹雪を取り逃がした」
島に戻った直後に、木曾が呟いた。
三式弾を目の前で炸裂させ、炎の壁を作りその隙に撤退する。見事な撤退だったそうだ。

沈めてやりたかった。と言うわけではないが、やはり利根の水偵は失敗してしまったのだろう。
さらにこの島に威力偵察の部隊が接近して来た。と言うことは、既に軍はこの島の状況をある程度掴んでしまっている可能性が高い。
つまり、利根の水偵は第六駆逐隊に接触することには成功したが、暗号を解読後そのまま軍に報告した。と言うことになる。
最初から味方だったわけではないからこの例えは適切ではないのだが、電は姉妹達に裏切られた。と言うことになるのか。

「…どうする」

口から一言だけ漏れた。
こうなる事態を考えて無かったわけではない。でも、こんな短時間で一気に事が動くと言うのは完全に予想外だった。


「どうするもこうするも、無いんじゃない?軍はこの島を放置したりはしないでしょ?」

「最初に戻ってしまったな…」

「はいなのです…搦め手が失敗した以上、次の手段を取るしかないのです」

「日本政府への正式な通告、か…正直、結末は見え取るがのう?」

「だな、でも最初にやると決めたんだ、やるしかないだろう?」

最初に全員一致でこの計画を始めたんだ。なら、途中で投げ出したりはしない。
他の奴から見たら自棄になってるようにしか見えないのかもしれない。それはたぶん事実だ。
でもアタシはたぶん、艦娘になってから一番充実している日々をすごしていた。
これで死んだって、後悔はしないさ。

後悔なんて、散々してきたんだ。
後悔なんて、絶対にする物か。





「・・・」

周囲を見回す。誰も居ないな。

「・・・」

財布の中をまさぐる。大量の小銭が入っている事は確認した。

「・・・」

頭の中で、何度かロシア語を反芻する。大丈夫、忘れてなんかいない。
私は電話ボックスの中に入った。
鼓動が大きくなった胸を押さえて、ボタンを押す。

『…どうした』

うまく言ってくれた。かなり前から使われていた番号だったが…今も機能しているのか。
どちらにしろ感謝だ。


「やぁ、元気かい?久しぶりだね、声もずいぶん変わったようだ」

『…女の子?どういうことだ?君、間違い電話をかけてきたのではないかね?』

「間違ってなんかいないよ、私は君に用があってかけてきたんだ」

受話器から電子音が聞こえた。100円玉を放り込む。

『…私は間違い電話と話すほど暇ではないんだ、いたずらなら他のところにしたまえ』

「へぇ…もう部屋の隅でママの名前を呼ぶ事は止めたのかい?」

受話器からガタッと言う音が聞こえる。きっと、受話器を滑らせたのだろう。
当然だ、その事は私しか知らないはずなのだから。


『…君は何者だ』

「響だよ」

『ヒビキ…日本の艦娘、か?なぜ艦娘がここの番号を?それにヒビキ、だと?』

「響だよ、その活躍ぶりから、信頼できる。と呼ばれたこともあるよ」

『Декабрист、なのか・・・?』

「久しぶりだね、あの時私の中でいじめられてた君が今ではKGBのお偉いさん…時間の流れを感じるよ」

100円玉を3枚、連続で放り込んだ。


本日はここまでとなります。
明日は私用があるので更新できない可能性がありますことをあらかじめお詫びしておきます。




発 第十五艦隊
宛 日本国政府 日本海軍
先日、当艦隊指揮官が病気により死亡、指揮官不在による指揮系統の崩壊を持って本艦隊は正式に日本海軍の指揮系統から独立した事をここに宣言する。
本艦隊の独立宣言は日本国との敵対を意味する物ではなく、今後日本国政府と基本的価値感を共有しつつ、友好関係を維持する用意がある。






「どういうことだ、これは?」

「わかりません、私もこの無電以上のことは…」

「…たしか水雷戦隊は今日、演習予定の筈だが?」

「はい、出港準備中に無電を受信したため、待機を命じています」

「…すまんな、助かる」

椅子に座る。
大抵、この手の電文が出るとき、と言うのは大規模な作戦の前だと相場が決まっている。
それでも、すべての出撃を中止、と言うのは異例の事態だ。

「…解せんな」

普段なら、主力艦を集合させろ、ただし、一個水雷戦隊は待機させろ。という内容で、留守番をさせる部隊を指定してくるのが普通のはずだ。
しかし今度は出撃させる艦を指定して来ている。

「大淀、この電文について大本営への問い合わせは?」

「いえ…ですが、先ほどから何度か他艦隊…第一と第五艦隊が軍令部に問い合わせをしていましたが、軍令部は艦娘の集合が終了次第詳細を発表する。と」

「そうか…」

やはり、解せない。
電文の内容自体は理解しているが、その裏に何かがあるような気がした。

「大淀、高雄に作戦経過を詳細に報告するように伝えてくれないか?」





大きくあくびをしながら執務室に入る。執務室に入った瞬間大淀が俺に詰め寄ってきた。

「おぉ…おはよう、大淀か…今日は早いな…」

「提督!軍令部から緊急電です!」

「…なに?」





発 軍令部
宛 全艦娘部隊指揮官
本日予定されていた出撃・遠征はすべて中止せよ。敵深海凄艦との戦闘もこれを禁ずる。ただし、自衛戦闘においてはこの限りではない。
なお、以下に指定する各艦娘を指定海域に集合させよ。

戦艦 武蔵
重巡洋艦 高雄 愛宕 鳥海 筑摩






「どういうことだ、これは?」

「わかりません、私もこの無電以上のことは…」

「…たしか水雷戦隊は今日、演習予定の筈だが?」

「はい、出港準備中に無電を受信したため、待機を命じています」

「…すまんな、助かる」

椅子に座る。
大抵、この手の電文が出るとき、と言うのは大規模な作戦の前だと相場が決まっている。
それでも、すべての出撃を中止、と言うのは異例の事態だ。

「…解せんな」

普段なら、主力艦を集合させろ、ただし、一個水雷戦隊は待機させろ。という内容で、留守番をさせる部隊を指定してくるのが普通のはずだ。
しかし今度は出撃させる艦を指定して来ている。

「大淀、この電文について大本営への問い合わせは?」

「いえ…ですが、先ほどから何度か他艦隊…第一と第五艦隊が軍令部に問い合わせをしていましたが、軍令部は艦娘の集合が終了次第詳細を発表する。と」

「そうか…」

やはり、解せない。
電文の内容自体は理解しているが、その裏に何かがあるような気がした。

「大淀、高雄に作戦経過を詳細に報告するように伝えてくれないか?」





「軍令部から応答だよ!」

「ありがとう、回答は?」

「えーと…詳細は集合次第追って連絡する、とだけ…どーする?」

「…少し変わった命令だけど今は従うしかないようね…第六駆逐隊は?」

「今ドックで出港準備中だって、もうすぐ準備が終わるんじゃない?」

ドッグへの直通電話を取る。すぐに暁が電話に出た。

『司令官、第六駆逐隊、いつでも出撃できるわ!』

「あら、思ったより早いのね?」

『当然よ!なんたって…』

「暁ちゃんは一人前のレディ、ですものね?」

『えっへん!・・・っと、何?響?まって、今司令官に変わるわ』

「響ちゃん?」

『おはよう、司令官。私が出撃中に私宛の電話が来るかもしれない、司令官が変わりに受けてくれないか?』

艦娘宛の電話、と言うのも珍しい事ではない。
艦娘はファンが多いし、戦艦や空母の艦娘が損傷したらお見舞いの電話や品が大量に届く、なんて事もざらだ。
でも、艦娘の方からそれを受けてくれ、と言うのは珍しい事だ。

「…うん、わかったわ、響ちゃん宛ての電話が来たら私にまわすように伝えておくから」

『頼んだよ、司令官』





「潮!」

ドックに駆け込み、今出撃しようとする潮に声をかける。
潮は振り向くと俺に向かって微笑んだ。

「司令官…!わざわざ来てくださらなくてもいいのに…」

「いや、すまない…でも、一言だけ言わなくちゃいけない事があってな…行ってらっしゃい」

「司令官…はい、潮、出撃します!」

微笑みながらぺこりと頭を下げる。可愛い。

「潮ー、置いてくよー」

「ご主人様ー、あんまり私たちの前でいちゃいちゃしてるとぶっ飛ばしますよー?」

「あぁ、いや、すまない…どうも潮の事になると慌ててしまって…提督失格だな、俺は…」

「そんなことありません!司令官は・・・私の司令官は最高の司令官、です!」

「潮…ありがとう…さあ、行って来い!」

「はい!」





提督に指定された集合海域に到着する。
私より先に到着していた艦娘の中に見知った顔がちらほら見えた。

「久しぶりです、武蔵さん」

「あぁ、高雄…愛宕と鳥海も、元気そうで何よりだ」

「お疲れ様です、武蔵さん、今度の作戦、よろしくお願いします」

「ぱんぱかぱーん!」

「お前は、変わらんな…」

「えー?武蔵さん乗りが悪いわねぇ…さあ一緒に!ぱんぱかぱーん!」

「提督か?ああ、いま高雄型と合流した」

「もう!武蔵さん!私を無視しないでー!」

目の前でぴょんぴょん跳ねる愛宕を無視して鎮守府に連絡を取る。
周囲を見渡すと続々と艦娘が集まってきていた。

「ところで高雄姉さん、今回はどう言う作戦になるのでしょうか?見たところ巡洋艦と駆逐艦を中心とした作戦のようですが・・・」

「そうね・・・空母が参加していないところを見ると、近海での作戦行動になるのかしら?」

周囲に集まってきた艦娘を無電で提督に報告する。
これで全員だろうか?今回の作戦で始めて顔を合わせる艦娘も多いようで、あちこちで自己紹介が行われている。


「球磨型軽巡の球磨だクマ、こっちは多摩、北上、大井だクマ、よろしく頼むクマ」

「綾波型駆逐艦の漣と言います、こう書いてさざなみ、と読みます」

「涎…」

「さざなみ、です」

軍令部から無電が入る、戦艦武蔵、私宛だ。
どうやらこれで全員そろったらしい。

「よし、みんな!聞いてくれ!!軍令部より命令が来た!これよりわれわれは南進、●●島に展開する敵勢力を殲滅する!」

「あれ、そこって…」「確か軍の勢力圏内、だよね?」

「昨日、当海域を哨戒中だった第六戦隊が敵の襲撃を受けた、我々は付近に展開する…」

言葉に詰まる、しかし無電は続いている、言わねば。

「艦娘型深海凄艦を、撃滅せよとの命令が下った」

「艦娘型…にゃ?」





「撃沈された艦娘を模倣したタイプの深海凄艦を撃滅せよ…軍令部から武蔵宛に送られた電文です」

大淀が電文の内容を報告してくる。心なしかその声には動揺の色が見える。
動揺しているのは俺も同じだ、何の連絡もなしにいきなり敵の新型と戦えと言う命令が来ているのだから。
艦娘に擬装した深海凄艦?ありえるのか?そんな物が?
いや、まて

「反乱、だ」

「え?提督?」

「…なんでもない」

一つ、嫌な予想が出てくる。
もし、第十五艦隊が反乱を起こしたのだとしたら?第十五艦隊は公式には存在しない、存在を知る人間もごく一部のはずだ。
その部隊がもし反乱を起こしたのだとしたら、軍はそれを鎮圧しなければならない。
そして、公式に存在しない部隊である以上、深海凄艦だと言うことにして…ありえるのだろうか?

「摩耶…」

自然と、最近十五に転属させてしまった艦娘の名前を呟いていた。
あの子は今、何をしているのだろう。

俺はこのまま、ここに座っていて何もしないで、いいのだろうか?

今回はここまでです。
あと、投稿時にミスをしてしまい、>>169を誤って先に投稿してしまいました。
>>169は飛ばして読んでいただけると助かります。




「ソナーが複数方向から接近する音源を確認しました!」

「政府や軍からの回答は?」

「まだ、何もないのです」

「これが答えってこと、だな」

恐らく、複数方向から艦娘部隊で攻撃をしかけ、アタシたちを殲滅するつもりなのだろう。
つまり軍と日本政府はなんとしても私達を闇に葬り去ろうとしているわけだ。

「いいぜ、これが答えって事ならやってやろうじゃないか」

「みな、この島周辺の海図じゃ、こことここにそれぞれ展開しよう」





ずっと長い間眠り続けていた気がする。その眠りは誰かがアタシの頬を撫でて妨げられた。

「さあ、起きるんだ、摩耶」

作業着を来た男が私の頬を撫でていた。
デカイ人間だな、200mくらいあるんじゃね?なんて事を思った。

「さ、立てるかい?」

もう一人の男に腕を掴まれる。
アタシは始めて「立ち上がった」

視線を下に向ける。指が五本ある人間の右手があった。
左手を動かす、指が五本ある人間の左手があった。
ゆっくりと歩く。建物のドアが開く。
いきなり陽の光を浴びて目を細める。
水路の両脇に沢山の人間がいるのが見えた。

『今、最新鋭重巡高雄型の三番艦、摩耶が進水しました!!』

両脇から歓声が上がる。少しうるさくて顔をしかめた。
来賓席のところにいる金髪の女性と目があう、女性は優しそうな微笑を浮かべていた。
あぁ、あれは愛宕だ。始めて見る人だが、直感的にそう思った。



アタシは最初、何人もの歓声に迎えられて海に立った。
そして今は、一人で海に、艦娘と戦うために立つ。
今、ここにあの群衆がいたらアタシに浴びせられるのは罵声だろうか?





発 内閣総理大臣
宛 軍令部

昨晩発信された電文についての説明を求む



発 軍令部長
宛 内閣総理大臣

我が海軍は第十五艦隊なる部隊を保有せず。当電文はわが国の混乱を狙った偽電であると判断する。
現在我が軍は総力を上げて偽電発信元の制圧作戦を実施中である。





島の周囲にそれぞれ展開する。
敵の方が圧倒的に数が多いのはわかりきってる。さらにこちらには航空機は一機もない。
空を見上げると一機の零観が見えた。

「来るか…」

機関始動、一気に加速する。
さっきまでアタシがいたところに何本もの水柱が上がった。
これは、たぶん戦艦の大口径砲、数は一~二隻。

「いいさ、やってやる!」

最初は無駄死になんてしたくないと思った。
次は精一杯楽しみたいと思った。
そして今、アタシ達は無駄死にへの道をつき進んでいる。
それでも、やってやる。





「敵艦に砲撃を開始する!重巡部隊は各艦射程に入り次第砲撃開始!水雷戦隊は突入!」

電文で周囲の味方に指示を出す。
深海凄艦と言っても艦娘の姿を維持していると言う、だから直接その姿を見ず、弾着観測射撃で仕留めたかったが…
目標は観測機を視認した瞬間、急加速したらしい。着弾は大きくずれたとの報告があった。

「いいぜ、接近戦を挑むと言うのなら、つきあってやる・・・」

筑摩に他の戦線を任せ、高雄達を引きつれ敵艦に向かう。





「観測機からにゃ…前方の敵艦は一隻、こちらに向かって突っ込んでくるにゃ」

「球磨姉さん、どうしますか!?」

敵は単独、他方面でも敵は単艦か少数で迎え撃っていると言う。
なら

「北上と大井は魚雷使用を控えるクマ!前方の敵艦は砲撃戦で仕留めるクマ!」

「ほーい」

4人で一気に敵艦隊に向かう。前方から見慣れた黒いマントが見えた。

「木曾にゃ・・・!?」

「久しぶりだな!姉貴!悪いが帰ってもらうぜ!!」


「木曾…ほ、砲撃開始クマ!」

「球磨姉さん!?でも…!」

「木曾に砲撃…なんて…」

「怯むなクマ!アレは…あれは深海凄艦なんだクマ!」

「大井っち、やるよ!魚雷発射用意!」

「は、はい!北上さん!」

北上と大井が魚雷発射体制に入る。

「北上!?まつクマ!」

「ごめん、姉さん…でも、あんな木曾を何時までも見てたくないんだ」

北上と大井が全魚雷を発射した。
止められるわけがない、私だって、長々と木曾と戦いたいわけじゃない。





「フッ…」

読みどうりだ、この時点で最初の賭けに俺は勝った。一番厄介な二人に魚雷を使わせた。
ソナーに大量のスクリュー音が聞こえる。たぶん全部の魚雷をぶっ放したのだろう。

「でも甘いぜ!こっちだって重雷装艦、魚雷の事は一通り知ってんだ!」

魚雷のセオリーは相手の回避先を読んで扇状に発射することだ、一直線に突き進めば一・二本しか命中コースには来ない。

「大井っち!あいつ、突っ込んでくる!」

「北上と大井は下がるにゃ!後は多摩達に任せるにゃ!」

「ウォォォッ!!」

機銃を海面にばら撒きながら四人に向かい一気に突っ込む。魚雷に命中したのか俺の目の前でデカイ水柱が二本上がった。

「舐めるなクマー!!」

「よし、いいぞ!!」

北上と大井を守るように前に出た球磨の姉貴が砲撃してくる、それに向かって外套を放り投げた。
外套に何個も穴が開く


「クマッ!?」

「球磨姉さん!上!!」

「そこにゃ!!」

外套に目を奪われた隙に…と思ったが、それを多摩の姉貴が許さなかった、だがもう遅い、俺は既に跳躍してるんだ、一発や二発で勢いが止まるか。

「せいっ!!」

「にゃっ!?」

そのまま突っ込んで刀を一閃、手ごたえあり。
俺はそのまま四隻を置いて逃げる。

「多摩!?大丈夫かクマー!?」

「大丈夫、問題にゃい…でも砲塔を斬られたにゃ…」

「奴が逃げるよ!」「北上さん!追いましょう!!」

「おっと、こいつは置き土産だ!!」

逃げながらケツの方向に20本の魚雷をばら撒く。
全部雷速を最低に設定、扇状でだ。





やられた。
こちらは私と大井っちが魚雷をすべて撃ち突くし、向こうは半分の消費。
一気に方を付けようとしたこちらの心理を逆手に取られてしまった。

「魚雷ッ!?」

「北上さん!左ッ!」

「回避するクマ!」

前方から何十本もの魚雷がゆっくりと向かってくる。これじゃ追うにも大回りしなきゃいけない。

「ちっ…これじゃあ追うに追えないじゃない…味な真似をしてくれるわねっ…」

それにあの強引な戦い方は

「ねえ、大井っち」

「北上さん?」

「あれ、本当に木曾の真似をしただけの深海凄艦。なのかな?」





島の外周部に沿って航行する。

「居た!あそこ!」「ほな! 砲雷撃戦、開始や!」「沈めッ!」

相手の駆逐艦が砲撃してくる。

「まだ、沈みたくは無いのよ!」

相手の射程ギリギリの所を航行する。
見えた。海面に浮かんでいる渓流ブイに近づき、すれ違いざまにブイに着いたピンを引き抜く。
相手の目の前に何本もの水柱が立った。

「うわっ!?」「砲撃・・・何処から!?」

「あかん、武蔵はんに連絡や!敵に重巡が居たり機雷が仕掛けてあったら不味いで!」

相手は混乱しているようだ、距離が開く。

「ここは…良し!」

次のポイントに向かう。駆逐艦が三隻、島に向かって前進しているのが見えた。
確かあそこにも利根が設置した特設爆弾があるはず…悪いけど、お引取り願おう。



「二時の方向!敵艦!」「…攻撃します!」

相手が発砲してくる。もう少しでブイだ。

「っ!?」

そのとき、私の目の前のブイが爆発した。

「…そのブイ、何かあったんだね、壊しておいて良かったよ、曙ちゃん」

「潮…」

「まさか本当に知ってる顔が出てくるなんて…深海凄艦もコスプレブーム、なわけ無いよね」

「たとえ曙ちゃんの姿をしてても…負けませんから」

「漣…朧…」

どうする?次のブイのところまで引っ張って起爆させるか?
いや、駄目だ。潮には既にブイのことを知っている。
それに私が十五艦隊で戦いたいと思ったのはなぜだ?
そうだ、潮に一言だけ謝りたかったからだ。
それを伝えずに、ここで戦い続けれるわけ…


私は脚を止め潮に向きなおす。
三人がこちらに主砲を向けた。

「潮…久しぶり、ね」

「曙…ちゃん?」

「ねぇ…本当に、曙なの?」

「綾波型8番艦、曙よ」

「本当に、曙ちゃんなの!?」

「待って…アレが深海凄艦だとしたら、敵の罠かもしれない…」

私に近づこうとする潮を朧が制止する。

「ねぇ、曙、潜水艦に沈められた筈のあなたがなんでここに居るのか、kwskしてもいいかな?」

「潜水艦に撃沈、ね…そう言う事になってたのね、ありえそうな事だわ…でも、それを説明する前に…潮に一言だけ、言いたい事があるの」

「何?曙ちゃん」

「潮!待って!聞いちゃ駄目!!」

「あの時、あなたは何も悪くないのに、突き飛ばしてしまって…ごめんなさい」

「曙ちゃん…ごめんなさい、私も…曙ちゃんの気持ちも考えないで…」

潮と交互に頭を下げあう。
私は最初、貧乏くじしか引けないと思ってた。
今までのミスも、十五艦隊への配属も、そこで艦娘達と戦う羽目になったのも。
でも、今日だけは大吉を引けたようだ。





曙ちゃんが沈んだと聞いた時、私は後悔した。
なぜあの時、彼女の気持ちを考えなかったのか?なぜ次の日になっても、彼女に会おうとしなかったのか?
もしかしたら、この曙ちゃんは本物なのかもしれない。偽者なのかもしれない。
でも、どっちだとしても、曙ちゃんには一度、謝りたかった。

「曙ちゃん…一緒に鎮守府に帰ろう?司令官も待ってるよ?」

でも、司令官の名前を出した瞬間、彼女の顔が強張る。

「司令官…って、私が居たころと、提督は…」

「え?変わって無いよ?司令官も、皆も。司令官、曙ちゃんが沈んだって聞いた時、ずっと後悔してた、何であんな事をしてしまったのかって…だから、帰ろう?」

「嫌よ…」

曙ちゃんが俯く。何を言ったのか、良く聞こえなかった。


「曙?」

「絶対に、嫌よ!何で私を、こんなところに追いやったクソ提督のところに戻らなきゃならないの!?潮も!漣も!朧も!何でずっとあのクソ提督のところに居るのよ!?」

「あの人の事を…悪く言わないで!!」

許せなかった。
曙ちゃんと提督の仲があまり良くないことは私も知っている。
それでも、あなたの事を心配して泣いた、自分の行いを後悔していた。そして

「私の司令官を悪く言わないで!!」

「潮!?アンタ…その指輪は…」

「あなたは曙ちゃんじゃない!曙ちゃんは司令官と、確かに仲は悪かったけど…自分を心配してくれた人を悪く言う人じゃない!!」

「潮!!」

「朧ちゃん、漣ちゃん…手伝って!」

「二人とも待って!あいつは…あのクソ提督は・・・!」

「私も、司令官の事、悪く言われるのはいや、なんだ」

「いつもふざけていると思われがちですが…今日ぐらいは本気、出しますよ」


本日はここまでとなります。




三人が私に主砲を向ける。
まあ、いいさ。潮に言いたい事だけは言えたんだから。
大吉を引いたら次は大凶。占いって、そう言う物でしょ?

「まったくお主は!いつもそうやって諦めおって!!」

「ぐげっ」

誰かに服を掴まれ、引っ張られる。

「利根!?アンタ他のところを担当してたんじゃ!?」

「すまん!我輩の担当区域は失敗した!」

「失敗?」

「筑摩の奴、本気で攻撃しおった、一気に10機以上の瑞雲に襲われてな…話す暇すら与えてくれなかった」

「どうするの?」

「第一ラインは皆後退を始めた、第二ラインも後退し始めとる、第三まで退くぞ!」

利根が私の首を離す。
痛いわねと文句を言いながら首を回した。

「第三が落ちたら…」

「そのときは…地上戦になるな…」





「こんのぉぉぉ!!」

「よーく狙って…撃て!」

「ちっ…クソがっ!」

目の前に砲弾が着弾。アタシの体が一瞬宙に浮く。
さすがは武蔵の姐さんだ、冗談じゃない威力だ。

向こうは多数で此方を包囲殲滅する作戦に出た。こちらは少数による遊撃・かく乱作戦に出た。
少数で多数の敵と戦い、脅威度の高い相手を消耗させる。設置した爆弾を使い、此方が多勢であるように見せる。そして、時間を稼ぎ、後退する。
木曾は相手の重雷装艦の魚雷をすべて使い切らせたという報告をしてきた。
利根は航空攻撃に逢い後退したが曙と合流。曙も複数の駆逐隊をかく乱、後退させたと言う。

他の戦線でも巻雲達が一応の成功をした。と報告して来たが…アタシは運が悪かった。
敵主力と真正面からぶつかってしまったらしい。


「摩耶の姿を借りたって…!」

「がっ…まだ…だっ!」

高雄姉の主砲弾が肩に突き刺さる。動かなくなった左手の擬装を捨て、右手を向ける。
不味い、向こうの着弾が正確になってきた。
後退するか?それも不味い、一箇所が真っ先に撤退したらそこから食い破られる。
せめて武蔵の姐さんだけでも、撤退してもらわなきゃ。

「摩耶様の…攻撃だッ!!」

魚雷を発射する。しかし。

「魚雷の一本や二本でこの武蔵は沈まんぜ!」

「っ!?ぐああああっ!?」

46サンチ砲弾がアタシの太ももの肉を切り裂く、そのまま海面に落ちて爆発。全身に破片が突き刺さる。
痛い。真っ赤に焼けた鉄の棒を全身に押し付けられたようだ。
あぁ、やっぱり駄目だったか。
武蔵の姐さんも、高雄姉、鳥海もやっぱり強いな。
あと愛宕姉も頭がゆるいとか言って、ごめん。





「敵艦に命中!有効弾です…」

「…一気に、行きます!」

「艦娘の振りをしても…負けるわけには行かないわ!」

「悪いが、沈んでもらう!!」

深海凄艦の左腕がだらりと垂れ下がる。太ももから赤い物が噴出す。
武蔵さんの砲撃で宙に浮き、何回転かして海面に叩き付けられる。
当然の結果だ、戦艦1隻に重巡三隻、その相手に一隻で勝負を挑んできたのだ。
相手がレ級であったとしても、勝敗は見えている。

「これで…終わりよ!」


あれは敵だ。あれは深海凄艦だ。
いくら摩耶ちゃんに似てても、あれは。

「やめて…もうやめて!!」

気が付いたら砲撃を止めていて叫んでいた。

「愛宕?」

「お願い、高雄ちゃん、鳥海ちゃん、武蔵さん…もう、止めてください…敵かもしれない、けど、摩耶ちゃんのあんな姿は…」

「悪いな、愛宕。これも任務だ」





愛宕の気持ちは痛いほどわかる。私だって、もしアレが大和の姿だったとしたら?まともに砲撃出来て居なかったかもしれない。
だが、それでも任務だ、これが戦闘なんだ。
だが

『ごめん、ごめんよ姐さん…ごめん』

『何もしゃべるな、静かにしてろ』

『乗員は…愛宕姉と高雄姉は…』

『安心しろ、皆救助した、この武蔵が面倒を見る。愛宕の乗員は大和が救助した、高雄は無事だ』

嫌な映像がフラッシュバックする。
駄目だ、やはり私にも、撃てない。

「…敵艦の戦闘能力の喪失を確認した、我々はこれより他戦隊の援護に向かう…」

島に向かってよろよろと後退を始めた摩耶を置いて、私たちはその海域を後にした。
私は、艦娘として、失格だ。





「別方面の陽炎さんから入電!重巡クラスの砲撃を受け、いったん退避すると!」

「筑摩さんから入電!重巡一隻を取り逃がした、今第七駆逐隊と合流して追跡中だって!」

「どうする?暁、敵は思ったより大規模みたいだ、いったん後退して武蔵さんたちと合流するかい?」

「多方面に戦力が集中しているならこっちは手薄かもしれないわ、それに後退するにしても少しでも敵の情報を集めないと…前進よ!」

「わかったわ!」「了解…」

暁の指示に従い前進する。
正直、気乗りはしない。でもいまここで二人に言っても混乱させるだけだ。
出来れば誰にも会いたくない、会うとしても知らない人で居て欲しい。そう思ったが

「…なんてことだ」

「まさか…電?電なの!?」

「お久しぶり、なのです」





ああ、やはり、あの紙切れに書かれていた事は事実だったのか。
そして、電、なんでこのタイミングで出てくるんだい。

「なんで…なんで電が…」

「これは…深海凄艦の罠よ…きっと…」

「暁!雷!」

「ごめん、電…攻撃するわ!」

「第六駆逐隊は…四人で第六駆逐隊なの、沈んだ電も含めて4人なの!だから…貴女を撃つわ!」





あぁ、皆、元気だったのですね。電はとてもうれしいのです。
それに、皆電の事を深海凄艦だと思いこんでいるみたいなのです。
利根さんには悪いかもしれませんが安心、しました。
皆は、電の事を知っていて軍に情報を渡したわけではなかったのです。
それがはっきりしただけで、十分なのかもしれません。
魚雷が何本か、電に向かって放たれました。





「電!!」

後退しながら他の連中に声をかけている最中、電を見かけた。
あいつは何をしているんだ?敵の目の前で制止して!!

あいつの前に身体を滑り込ませる、魚雷の雷跡が見えた。

「ちっ、しょうがねぇ!!」

お気に入りの軍刀を海面に投げつけ魚雷を破壊する、これで外套も刀も失っちまった、まあいいさ、残ってたって次着れるかどうかわからねぇんだから。

「なっ、軽巡!」

「ひ、怯まないで!こっちは三隻なのよ!軽巡が一隻増えたぐらいで…」

「さて、それはどうかな?こちとら酸素魚雷が40本あるんだ、お前ら駆逐艦なんぞ、10隻相手でも刺し違えてやるぜ…!」

「ううっ…」

先頭の駆逐艦がたじろぐ、こういうのは気合と眼力の勝負だ。
こっちはもう魚雷は空なんだ。お願いだから退いてくれ。


「暁、雷、後退しよう」

「響!?レディーに敵に背を向けろって言うの?」

「考えて見るんだ、重雷装艦相手じゃ私たち三人じゃ勝ち目は薄い」

「くっ…覚えてなさいよ!」

「大丈夫、きっとスグに終わるさ…」

三隻が後退を始める。ハッタリがうまく行って良かった。
もしうまく行かなければ、今頃二人並んであの世行きだっただろう。

「木曾さん…ありがとうなのです」

「まったく…この決起の首謀者が最初に死のうとしてどうするんだ、全部の責任を俺に吹っかける気か?」

「…ごめんなさいなのです…」

「まあいい、電、俺たちも後退するぞ、摩耶がやられた、大破だ。他の連中も皆軽い損傷を負ってるし、弾を使い切ってしまった奴も居る」
「地上に戻るぞ」





昼頃から始まった戦闘は夕暮れと同時にいったん幕を降ろした。
敵艦艇が全員、島に戻ったのだと言う。

「どうする?武蔵さん」

「本作戦は島の攻略も作戦目的に含まれて居る…全員の装備と損傷を確認次第、上陸戦を行うぞ」

「上陸戦…」

六駆や七駆の連中にはつらい事をさせるかもしれない、だが、命令である以上従わなければならない。

「うまく行けば…敵を鹵獲することも出来るはずだ、そうすれば…」

深海凄艦との戦いにも、終わりが見えるさ。
そう言おうとしたが…どうしても私には、そうならない気がした。
むしろ、私たちは何か、大きな間違いを犯そうとしているのではないだろうか?





「ゴメン、電…ちょっとやられちまった…」

「摩耶さんはしゃべらないでください、すぐドッグ…いえ、地下に運んであげてください!」

「恐らくだが…敵は上陸、してくるだろうな」

「どうする?もう弾薬を使い果たしちゃった子も多いわよ?私も…半分以上使っちゃったし、魚雷は役に立たないし…」

「今からじゃ補給も間に合わん、弾薬を使い果たした者はそこの武器を取ってくれ」

血まみれの摩耶が駆逐艦達に応急処置をされながら運ばれていく、出来れば今すぐ入渠させたかったが、ドッグが砲撃されるとマズイ。

利根が地下室から取り出した武器を艦娘達に配っていた。
ボルトアクション式のライフル、バナナが上に乗っかったような軽機関銃…
一通り試し撃ちはしているが、擬装を付けた艦娘には蚊に刺されたような効果しかないだろう。

俺たちは、袋のねずみだ。


本日はここまでとなります。




「陽炎よ、これより上陸、開始するわ・・・」

上陸支援の武蔵さんに報告して、海岸に向かう。
陸上での戦闘、訓練はしてきたが、実戦は始めてだ。

「陽炎!左舷前方!敵のトーチカです!」

左の不知火が指差した方向、地面が盛り上がっていて簡易トーチカになっていた。

「いい、皆!あのトーチカを…」

叩く、と言おうとした瞬間砂が巻き上がる。
向こうからも撃ってきた。
目に砂が入らないように手をかざしながら叫ぶ

「武蔵さん!ポイントS-52-47!敵トーチカを視認!砲撃要請!」

『此方武蔵、了解した』





トーチカから上陸を始める艦娘達を見る。
まったく、何時だったか朧と一緒に見た映画と同じシーンを体験する事になるなんてね。

このトーチカは土を盛り上げただけの簡単な物だ、あの映画では結構耐えてたけど、12.7cm砲が直撃したら吹っ飛んでしまうだろう。

先頭の陽炎型が航行をやめて歩行に移った、今だ。

「今よ!攻撃開始!」

私たちの塹壕からは12.7cm、他の塹壕からはライフル・軽機関銃・擲弾筒が射撃を開始する。
相手の駆逐艦に銃弾が何発か当たって火花が散っているのが見えた。

「外した!?」「弾着がずれてる!遠・遠!!」

高低差があるからか、クソッ…今まで訓練でやってきた射撃法じゃ絶対にずれてしまう。

「敵艦発砲!」「伏せてッ!!」

相手の反撃が周囲に着弾して地面ごと揺れる。まるで地震だ。

「クソッ!」

摩耶の装備していたバルジを塹壕の外に放り投げる。何発かがそれに当たって兆弾した。

『曙ちゃん!ソナーに轟音!きっと武蔵さんの砲撃だよ!』

「冗談じゃないわ!ここは放棄、後退よ!巻雲!後はお願い!」

トーチカを放棄して後退する。
本当に武蔵の砲撃ならこんなトーチカ、一発で中の私たちごと消し飛んでしまうだろう。

私たちがトーチカを出た直後、浜辺を前進する駆逐艦たちのど真ん中に砲弾が落ちた。





「あっー…」

武蔵さんに砲撃支援を要請した直後、私たちのすぐ傍で大爆発が起きる。
爆風をもろに食らった雪風が一瞬だけ悲鳴を上げて吹っ飛んだ。

「雪風!大丈夫!?」

「だ、大丈夫です!これくらい平気ですから!!」

吹っ飛んだまま海に落ちたのか上半身だけ海面に出した雪風が手を振っていた。
まったく、いつも運のいい子だ。

「ちょっと武蔵はん!?ウチらを殺す気!?」

『弾着はまだのはずだ、弾着まで後三秒…』

そんな馬鹿な、じゃあさっきの爆発はなんだったんだ?
たしかに三秒後、派手な風きり音が聞こえてトーチカのあった箇所で何回か大爆発が起きる。煙が晴れたところにはクレーターだけが残ってた。

「こちら陽炎!武蔵さんの砲撃は有効圏内に命中…でもさっき敵の砲撃を受けたわ…あれはたぶん、戦艦クラスの砲撃だった」

『戦艦だと?海では確認されてないが…ずっと島内に潜んでいたと言うのか?』





「戦艦だと?海では確認されてないが…ずっと島内に潜んでいたと言うのか?」

まさか、考えにくい。
敵に戦艦が居たとして、戦艦を出さずに海で戦うのか?
敵の意図が未だ見えない。いや、そもそもあれは敵、なのか?

『いえ…艦娘の砲撃ではないようです…たぶん、30cmクラスの臼砲です』

不知火から報告が入る。

「臼砲だと?そんな旧型兵器をどうして深海凄艦が…」

『どうします?武蔵さん、前進続ける?』

「まて、筑摩に水偵を出させて砲撃陣地を…なんだ?」

敵が本当に臼砲を使っているのなら、海岸からそう遠く無いところに砲撃陣地があるはずだ、そこを叩こうと指示を出していると無電が届く。

『発 軍令部 宛 ●●島攻略艦隊旗艦 武蔵…すべての作戦行動を中断し、母港に帰投せよ。繰り返す…』

「撤退…だと?」

何の説明の無い出撃命令に、摩耶そっくりな深海凄艦、そしてまた何の説明もない帰還命令。
今日はわけがわからない事ばっかりだ。





「おい、あいつら、撤退して行くぞ・・・」

「…助かった、でいいのか?我輩は今日が命日だと覚悟しておったのだが…」

「やめてよ、冗談じゃない…」

「…大本営の無電を傍受したのです…艦隊に撤退命令が出ているのです!」

撤退だと?あのまま上陸戦を続けていれば制圧も時間の問題だったと言うのにか?
まったく、今日はわけのわからないことばっかりだ。





―上陸開始の三時間前―

艦娘型深海凄艦とはなんなのだろうか、私は初耳だ。
既に戦闘は始まっているかもしれないが、私は何度か軍令部に無電を送らせる。しかし返事はどうも要領を得ない物ばっかりだった。
事務机の電話が電子音を鳴らす。軍令部からの返事か?そう思って受話器を取ると事務をしている隊員からだった

『提督、艦娘へのお電話が来ていますが…』

「艦娘への電話?何時も言ってるでしょ?そう言うのはそちらで…待って?その艦娘って、響ちゃん?」

『はい、つなげます』

一瞬電子音が鳴って電話が切り替わる。

「はい、こちら横須賀鎮守府、提督です。駆逐艦響は残念ながら留守にしておりまして、御用であれば私がお受けします」

電話からは流暢な、つまり、不自然なくらいにきれいな日本語の男性の声が聞こえた。

『響さんの落し物をそちらに送りました。そろそろ着くと思います』

「あぁ、それはご丁寧にどうも…」

出撃前に彼女が話していたのはこれなのか。まさか財布でも落としてたのか?
そんな事を考えながら挨拶をしてると鈴谷ちゃんがダンボール箱を抱えて執務室に入ってきた。

「提督ー、提督宛に郵便だよ!でも最近の宅配便は外人さんも居るんだね、鈴谷外人さんと面と向かって話すの初めてだったから緊張したしー」

まさか、ありえない。
綺麗過ぎる日本語、いくらタイミングを計ったにしてもぴったり過ぎる郵便、それに外国人の宅配業者だと?


「…貴方は、何者なの?」

『それを聞く前に郵便物をあけて見たらどうかね?響さんからの連絡が入ってるよ』

「…鈴谷ちゃん!荷物のチェックは?その宅配業者の使っていた車のナンバーは!?」

「ええ!?荷物のチェックは何時もどうりやってるよ!それにそんな業者の車のナンバーなんていちいち見て無いよ!!」

まさか、爆弾テロか?
いや、それでもおかしい。私を脅すなら私宛に荷物をしないだろうし、私が目的ならわざわざこんなタイミングで電話をしないはずだ。

『早く荷物を空けてくれ…響が危ないかもしれない…!』

「鈴谷ちゃん、荷物を空けて…ゆっくり、慎重に…」

「…オーケー、提督」

鈴谷ちゃんが私に背を向けて段ボール箱を開け始める。ごめん。
鈴谷ちゃんは箱を開けると中に顔を突っ込んでしばらくゴソゴソした後、顔を出した。

「大丈夫、提督、何も変なのは無いよ…だけど、鈴谷ロシア語は苦手何だよね…読んでくれる?あ、中には何も無いのは確認したよ」

鈴谷ちゃんが差し出してきたのは本だった。
戦没した一部艦娘の調査報告…?





「なに…これは…」

『これが、響が君に伝えたかった物だよ』

「…貴方は、何者なんです?」

私の問いかけには答えず、電話が切れる。
本の内容…近年戦没、あるいは解体されたと公表されている日本艦娘には一部、状況が不確かな物がある…
駆逐艦曙…潜水艦の雷撃により戦没と公表されるが、目撃証言は0…
駆逐艦電…訓練中の事故で沈没と公表されるが、当時同戦隊に所属していた艦娘はすべて別の部隊に転属…沈没状況ももう一隻と異なり、不正確な面が残る…

そして、衛星画像解析…これら戦没・解体状況の不確かな艦娘の一部が●●島周辺にて活動を行っている事を確認…
日本国情報部および海軍特別警備隊内に艦娘を扱う未公表部隊が存在する可能性があり…

「…まさか、●●島への艦隊派遣は…」





―上陸開始二時間前―

「…貴女の言われている事は、事実です。第十五艦隊…私も名前しか知りませんが、そのような部隊が存在する事は事実です。私も命令で摩耶をその艦隊に転属させました」

横須賀、第一艦隊からの電話は「戦没した艦娘で構成した部隊が存在するのか」と言う物だった。
始め、俺はその話しを完全否定した。公式には存在しない、俺も存在する事しかしらない部隊の事をいくら同僚である提督とは言え、口外するわけには行かなかった。
さらに、第一の提督は最近若い人に変わったばかり。その相手に十五艦隊の事を教えたくはなかった。
『現在、●●島周辺で艦娘同士の戦闘が行われていると言う情報があります。私はこの情報が事実なら、なんとしても止めたいんです』
そう力説され、俺は折れた。

「私も何か理由を付けて軍令部に向かいますが、今からだと到着は深夜になります」

『此方は軍令部には一番近いので…考えがあります』





―上陸開始一時間前―

下水道を通って移動する。普通の人間ならあまりの悪臭に吐いてしまうだろうが、そんな奴は一人もいなかった。

「時計を合わせる…18時55分、10秒前…5、4、3、2…テッ」

「隊長、作戦開始五分前です」

「…よし、行くぞ」





「作戦の進捗はどうだね?」

「はい、現在のところ順調に作戦は推移しているとの事です」

「しかし…十五艦隊を深海凄艦とは、それに姉妹艦をぶつけるとは考えたな、君も…」

「…彼女らは姉妹艦を深海凄艦に沈められたと信じ、他の艦娘よりも深海凄艦への強い敵愾心をもって居ます。こちらの方がより確実に十五艦隊を抹消する事が出来ます」

まったく、情報部とは恐ろしいところだ。
艦娘の権威の為に艦娘を使い、艦娘を消すために艦娘を使うのだから。

しかし、これで十五艦隊の事が表に出る事は避けられる。
作戦に参加した艦娘は休養を取らせなければならないだろうが…

「しかし、十五艦隊の反乱は君の責任でもあるぞ」

「わかっております、その件についての処罰は何時でも受ける覚悟です」

「しかし…なんだ?ずいぶんと騒がしいな?」

部屋の外から怒鳴り声が聞こえる。
また若い奴が喧嘩でもしているのか?


『憲兵隊だ!手を上げろ!!』
『特警隊だ!おとなしくしないか!!』

「なんだ?なんで憲兵や特警の連中が…」

そのとき、ドアを突き破って拳銃と短機関銃で武装した連中が突入してくる

「憲兵隊だ!両手を頭の後ろに回せ」

「何者だ貴様ら!ここが海軍軍令部と知っての狼藉か!?」

「海軍特別警備隊です、海軍軍令部本部長ですね?貴方には艦娘の有する権利とその扱いに関する法律に違反している容疑が掛かっています、大人しくわれわれに同行してもらいたい」

迂闊だった、憲兵も、特警も、情報部の子飼いばかりだと思っていたが…
直接の配下に無い連中が十五艦隊を嗅ぎつけたと言うのか。なんと言うことをしでかしてくれたのだ。





『海軍軍令部の強制捜査を行い、軍令部長を逮捕してください』

妹から要請が来たときには我が目を疑ったが・・・妹の提示した資料にはさらに目を疑った。
これが事実であれば、国内での艦娘の待遇を改善するために艦娘人権法を提案した海軍自らが、その法律を破った事になる。
もし、まともに捜査をしようとすれば特警隊のトップから捜査中止が命令される事態だ。
しかし幸運な事に、特警隊内でも極秘の任務に付いているという後輩から連絡があり、証拠は掴めた。
俺は首を覚悟で憲兵隊と共同で軍令部に突入すると言う前代未聞の事態を起こしたのだ。

これで軍令部内から一切の証拠が出なければ俺も妹もお終いだろう。
そして、俺は賭けに勝った。





「ほら、さっさと車に乗れ!」

「おいおい、俺もおたくらと同じ特警隊なんだ、もう少し丁寧に扱ってくれよ」

「お前さんは重要参考人なんだ、そんな事は聞けん」

「ちっ…しょうがねぇ、せめてタバコぐらいは吹かせてくれよ」

俺に手錠をはめ、車に押し込んだ元同僚は黙ってタバコとライターを差し出した。
クソッ、手錠付いた状態でタバコに火をつけろと言うのか?

俺は直接関わってた、処罰は免れないだろう?
でも、それでもいいさ。

電ちゃんや曙ちゃんはまだ沈んでは居ないだろうか?摩耶ちゃんはつい最近送ったばかりだから…

「無事だとうれしいんだけど、な」

「無駄口を叩くな」

ラジオからはニュース速報が聞こえていた。

『臨時ニュースを申し上げます、先ほど、海軍軍令部本部長が、複数の艦娘を拘束・使役し、規定の給与・待遇を与えなかったとして艦娘人権法違反の疑いで逮捕されました、繰り返します・・・』













―三ヵ月後―

「摩耶ー!摩耶ー!」

「あぁ?なんだよ、うるせぇなぁ…」

テレビでバラエティーを見ていると曙が部屋に入ってきた。
人がリラックスしている時に、うるさい奴だ。

「巻雲達が帰ってきたわよ!」

「ホントか!?」

「ほら、早く行くわ…よっと」

曙に肩を貸され、車椅子に乗る。
曙に車椅子を押されてアタシ達は埠頭に向かった。





あの戦闘の翌日、軍令部本部長、情報部長は逮捕され、軍は正式に第十五艦隊の存在を公表。
国内では海軍批判が一気に燃え上がったが、数日後に新軍令部長・新情報部長が内閣と協議した結果、第十五艦隊の要求を全面的に受け入れる事となり、海軍批判は徐々に沈静化して行った。
軍内部では反乱を起こした艦娘を放置は出来ない、と言う意見もあった。
しかし艦娘を支持する国内世論の反発を恐れた事、日本から完全に独立すれば一月もしないで維持できなくなり、崩壊するだろうと言う予測があったのだと、第三の提督が水偵で送ってきた手紙には書いてあった。
だが、軍・政府にとっての誤算は、その翌日十五艦隊を支援する組織が現れたことだった。





「ただいまですぅ摩耶さん!」

「お久しぶりです、摩耶さん、此方が今期間の報酬と、積荷のリストです。報酬からは積荷分は控除させてもらいました」

「あぁ、ありがと、後で確認しておくよ…それと、船の衛星電話、貸してもらえるかな?」

「えぇ、そう言われると思って準備していました」

国内大手の海運業者だった日本便船が、正式に十五艦隊と契約を結びたい、と連絡をよこしてきたのだ。
この件に関して軍からの圧力も有ったらしいが、軍は第一・第三の提督が抑え、政府としては厄介物を企業に押し付けたかったらしい。
そこらへんの詳しい事情はアタシはわからなが、ほとんどの艦娘の罪状が十五艦隊の所属期間を懲役期間+αとすることで消滅。アタシの罪状も被害者やその遺族からの嘆願書で減刑され、消滅したという話しだ。
日本便船も、各国が深海凄艦対策に力を入れる中、アデン湾やマラッカ海峡での海賊被害の増加に頭を悩ませていたところに十五艦隊のニュース。
PMCとして確実な護衛を求めていたんだそうだ。





『よう、摩耶、久しぶりだな』

「ああ、久しぶり、木曾…そっちはどうだ?」

『どうもこうも、何ヶ月も船の上ってのは退屈だし、中東は暑くていけねぇ…まあ、じめじめしたそっちと、どっこいどっこいという感じだが…』

「ならそのマント、脱いだらどうだ?」

『馬鹿を言うな、せっかく姉貴達が仕立て直したのを送ってくれたんだ、着ないわけにはいかないだろ?』

「汗臭くなってもしらねぇぞ…そっちは海賊の被害が大きいって聞いたが?」

『あぁ、最初は大変だった、マラッカで海賊、アデン湾で海賊、ソマリアで海賊だ…でも最近は俺が甲板にたって刀を振り上げたら皆逃げ出すようになって暇なもんさ』

第十五艦隊はアタシと木曾が責任者となり、仲間の半数を連れて日本便船の貨物船の護衛を交代で行う…つもりだが、アタシはまだ動けなかった。
擬装は直っても、脚はしばらく治らないらしい。さすがは武蔵の姐さん、と言うところか?

『早く治せよ、今度は俺が島でのんびりするんだからな』

「こっちだって暇じゃ無いんだぞ?一ヶ月に一回は深海凄艦が来るからな」

『…暇じゃねぇか』

「戦線が少し広がったからな」

『まったく…こっちは外国の会社からの護衛も一緒にやってて忙しいと言うのに…』

「悪い」


日本便船の貨物船を護衛し、その報酬で資源国や日本から資源を、日本から装備や弾薬を購入、装備や島の施設の更新に充てる。
海軍としても新兵器の実験場と考えているのか、一時審査を突破した試作兵器の運用や、意見を求められる事がある。
周囲百キロに無人島すら存在しないこの島は新装備の実験場としても適しているらしい。定期的に合同演習が持ちかけられる。
もっとも、噴進式酸素魚雷なんてどうして審査を突破したのかわからない装備の運用をさせられることもあるが。

運送護衛業は好調だ。
最近は他の海運業者からも声が掛かり、日本便船の船と一緒に護衛をしているおかげで黒字の状況だ。
この前来た日本便船の役員に礼を言おうとしたら逆にアタシらのおかげで収益が上がったと頭を下げられる始末だ。





そういえば、武蔵の姐さんにはあれから会っていない。
姉さんたちや鳥海とは何度か会ったし、話しもした。高雄姉と愛宕姉はけが人にもう少し優しくして欲しい。泣かれて両脇から抱きつかれて左肩から変な音がした。
が、姐さんだけはアタシに合わせる顔が無い、と頑なに島に来るのを拒んでるそうだ。
たまに島風が「今日の武蔵さん」と題した日記を送ってくる。

「あぁ…摩耶には謝らないと…しかし私が摩耶にした事は許されることでは…あぁぁぁぁ…」

「もう、そんなに気になるならいっそ直接会ってきたら良いじゃない」

「そうだよ武蔵さん、摩耶さん、そこまで根に持つタイプじゃないと思うんだけどな…」

「大和、島風、お前たちにはわかるまい!この武蔵、仲間を討つと言う武人として最低の行いをしたのだぞ!!たとえ摩耶が許したとしても私が私を許せ無いんだ!」

「と、言うわけで、武蔵がそっちに行くのはもう少し後になりそうだけど…普段は普通だし、私も島風ちゃんも見張っているので待っててくださいね、大和より」

大丈夫なのだろうか?





「ほら、起きろ、面会だ」

「…久しぶりですね、司令官」

「潮…潮か!?朧に漣も!?俺に会いに来てくれたのか?」

「はい、潮、今でも司令官を愛しています」

「なあ、潮…俺をここから出してくれないか!?」

「司令官、不思議です、司令官は曙ちゃんや私たちに酷いことをしたのに、私は一度好きになった人を、嫌う事が出来ません」

「曙の件は悪かったと思ってる!この通りだ!でも、これもお前を愛していての事だったんだ!それに俺が居ないと皆困るだろ?」

「安心してよ司令官、新しい司令官は、いい人だからさ」

「いやー、改装や入渠の時に司令官がアテクシ達の裸を見るのって、普通じゃなかったんだね、漣、先日始めて知りました」

「あの…その…」

「司令官、さっきも言いましたが…潮は、司令官を愛しています。だから…」

「…?」

「司令官がすべての罪を償ったとき、まだ潮が司令官を愛していたら、また来ますね?」

「そろそろ面会終了のお時間です」

「あ、もう終わりました、大丈夫です」

「待ってくれ!潮!朧!漣ーッ!?」

「オラ、大人しくしろ!」「模範囚だったら次のオリンピックのころには仮釈放できるんだから!」

「チクショーッ!?!?」



曙のいた艦隊の提督は艦娘への過度のセクハラ、正当な理由無しに15艦隊への転属を行う越権行為等が明るみになり、逮捕された。
曙は15艦隊に送られるような罪状がそもそも存在し無いと言うことで、新提督から原隊復帰を要望された。
七駆の朧と漣も熱望したらしいが、潮と曙が両方拒否、曙はまだ十五艦隊に居る。
なんでも、潮も曙も「お互いが話し合えるようになるまで、もう少し時間が欲しい」と言ったんだそうだ。
と、いうより、曙が居なくなるとアタシ達が困る。今じゃ曙はウチのエースだ。

まあ、もし本人が七駆への復帰を望むならそれを止めるつもりは無いが。





電と利根は政府の公表後に海軍に投降した。
電は黙って居ればよかったのだが、自分が反乱の首謀者である事と、提督を殺害した事を告白。
利根は今までの十五艦隊での働きだけでは到底自分の罪は消えないと、裁かれる事を望んだ。

「重巡洋艦利根、駆逐艦電、面会だ」

「利根姉さん…電ちゃん…」

「筑摩か、何の用じゃ?」

「政府が、十五艦隊の恩赦を計画しているそうです、お二人が同意すれば、こんなところに収監されなくても…」

「恩赦なんて、そんなの電には受ける資格はないのです」

「我輩も同感じゃ、それに遺族の方も、我輩が沈めた姉妹艦も、納得せんじゃろ?」

でも、二人が十五艦隊か原隊に戻るのも、そう遠い事では無いかもしれない。

「二人とも、恩赦の嘆願書の出所がその遺族からだ、としたら、どうしますか?」

利根の吹き飛ばした島の住人、その遺族は十名ちょっとが日本中に散らばっているが、親族の不始末が起こした事故として利根を責める気は無いのだと言う。
提督も、元軍人だと言う父親が電を責めるつもりは無いとテレビで言っていた。

『もともとあいつは自分ひとりで抱え込む癖が有った、あのような事になってしまうのは当然だったんだよ、むしろ息子がふがいなくて申し訳無いくらいだ』
『優秀な部下が居るのだから、それに頼っても良かったのに…馬鹿息子め』

自分の息子が殺されてるのにそれはどうなんだ?なんて思ったが、軍人親子にしかわからないものがあるのかもしれない。

「まったく…国民の艦娘好きにも困ったものだ…」

「なのです…」

最近、国内の出版社から、十五艦隊の出来事を手記にしないかと依頼が来る。
でもアタシは新参だし、曙も木曾も文章を書くのは好きじゃない。それに校正と言って変なことを書かれても困るしな。
二人が帰ってきたら、自費出版をしてもらう事にしよう。





電と言えば第六駆逐隊だ。
第六駆逐隊はあの戦闘後、とんでもない事態に巻き込まれた。

「提督ー!電話だよ!なんか外務省だって」

「ありがと、鈴谷ちゃん…なんで外務省が…もしもし…はぁ!?」

KGB長官が来日すると言う、異常事態が起きた。
来日中の彼の案内とエスコートには第一艦隊の提督と第六駆逐隊が指名され、こわばった顔の提督と暁、雷とは対照的に親子のように仲のいい長官と響の映像がニュースで流れた。
ロシアから同行したSPが「あんな長官の笑顔、始めて見た…」とつぶやく声が報道陣のマイクに捕らえられている。
一時、米国が日本の東寄りを懸念して核ミサイルの発射準備に入ったという都市伝説があるが…伝説だよな?

「すまない提督、響君と二人っきりで話しがしたいのだが…」

「はっ!?いえ、そんな事はっ!?それにこの子がどんな迷惑をかけるかわかりませんし…」

「大丈夫だよ、司令官」

一時間の面談の間、何が起こったのかは不明である。
ただ、日米露の特殊部隊が部屋を取り囲んでいたと言う噂がたっている。

「まったく、彼にも困ったものだ、まさか艦娘になってまで枕になるとは思わなかったよ…」

「まっ、枕!?」

「司令官も今度、私が膝枕しようか?彼が言うには絶品なんだそうだ。あ、司令官、今の私の話しはオフレコで頼むよ」

この騒動が後に、日米露連合艦隊結成のきっかけになるが、それはかなり先の話しだ。





アタシは、今幸せだ。
今までで一番、生きている事を実感できる。
そのためにアタシ達は多くの物を失って、奪ってきたが、失っただけ、奪っただけ、それ以上に人生を楽しみたい。
もしかしたら、何人かはアタシ達を人殺し、裏切り者とののしるかもしれない。それは事実だ。
でももう一度言う。あたしは幸せだ。









アタシは、今幸せだ。
今までで一番、生きている事を実感できる。
そのためにアタシ達は多くの物を失って、奪ってきたが、失っただけ、奪っただけ、それ以上に人生を楽しみたい。
もしかしたら、何人かはアタシ達を人殺し、裏切り者とののしるかもしれない。それは事実だ。
でももう一度言う。あたしは幸せだ。









私は、艦娘の維持こそがすべてだと信じ、そのために全力を尽くしてきた。
そして、最後の最後で失敗したわけだ。しかし、これで良かったのかもしれない。
いままで育ててきた世論のおかげで、今まで艦娘が起こした事件や十五艦隊が明るみに出ても、国民は艦娘を支持し続けてきたのだから。
それを思えば、私は間違って居なかったのだと断言できる。
これで、心置きなく死ねる。




本作はこれで終了となります。
最後に同じ部分を連投してしまうと言うミスをしてしまい、申し訳ありませんでした。

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うーん・・・殺された提督がトコトン浮かばれねえな
もう少し電ちゃんが良心を痛めている描写が欲しかった気がする

いや、痛めてなかったら自首なんてしないんじゃないか?摩耶だって黙っていれば良いものを見たいに言ってるし。
提督が電達をもとに戻そうとしていた事は最後まで知らなかったみたいだし、提督が殺されたのは自業自得(と言うと少し違うけど)という形で落ち着いちゃったんだろう

>>311
だからその辺の描写が欲しかったのよね個人的に
電ちゃんが嫁艦なもんで俺には電ちゃんはこんなドライな娘じゃないって違和感が残っちまってるのよ
電ちゃんが提督殺っちまった時点でかなりショックだったんでそれが消化できずにいるって感じかな

まぁ俺個人の感想に過ぎないので

提督がキレて反乱を起こせば良かったと思う(小並感)

>>314
電たちの危機に颯爽と登場、見事な指揮で武蔵たちを返り討ちにする提督見たかったです


          _,/ ̄ ̄` ̄\、/レ
        //   ,  /\ .i i V〈
        / /  ∠ム/ ー-V l 「ヽ  提督はあんなに楽には死なせてやらないのです
         j v、!●  ● i ' ├'   あらゆる苦痛を屈辱を味あわせてやるのです
       /  〈  -=-'  / .i y 
      / _ ,.イ , `ーゥ  t-!,、_У     
      ´ ' .レ^V´ V_,ィtー〈  「| 「|

     ∴     / `央ー'j  \_|:| |:|
       ∴ ,/ー、{,_ノ /ー、!  \::::]

いざという時の為と言ってるから補給が途絶えた時とか深海棲艦に攻め込まれて篭城する事になった時の為じゃね?

一番最初の一つは作者にとっては黒歴史なんですよー。
でも、ありがとうございます。

          _,/ ̄ ̄` ̄\、/レ
        //   ,  /\ .i i V〈
        / /  ∠ム/ ー-V l 「ヽ  電に上官殺しの汚名を着せるから
         j v、!●  ● i ' ├'    こんな事になるのです・・・
       /  〈  -=-'  / .i y     償いに電が提督を殺さなかった場合の
      / _ ,.イ , `ーゥ  t-!,、_У     お話を作るのです!
      ´ ' .レ^V´ V_,ィtー〈  「| 「|

     ∴     / `央ー'j  \_|:| |:|
       ∴ ,/ー、{,_ノ /ー、!  \::::]

おはようございます。>>1です。深夜に知り合いからメールが来ていた事で事態を把握しました。
結論から言いますと、>>371を書き込んだのは私です。過去の話しや私自身は失敗作だと思っていた物にまで言及していただいた事がうれしくて、つい書き込んでしまいました。
まずこれが軽率でした、申し訳ありません。

ですが、>>371以外のID:aUl76JDR0の書き込みについては私ではありません。
しかし、IDが被る確率を考えると>>371の書き込みと他のID:aUl76JDR0の書き込みが他人であると証明する事は私自身不可能に近いと考えて居ます。
ID付与については詳しく無いのですが、少し調べた結果IDが被る可能性は65536分の1で、それが同じ日に同じスレで起きたと言っても、私自身他の人の立場になると恐らく信用できないと思います。

ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。

          _,/ ̄ ̄` ̄\、/レ
        //   ,  /\ .i i V〈
        / /  ∠ム/ ー-V l 「ヽ  スレの沈静化を図るのなら
         j v、!●  ● i ' ├'    電が提督を殺さずに済んだ話を書くのです
       /  〈  -=-'  / .i y     上官殺しの汚名を着せられたままでは
      / _ ,.イ , `ーゥ  t-!,、_У      困るのです
      ´ ' .レ^V´ V_,ィtー〈  「| 「|

     ∴     / `央ー'j  \_|:| |:|
       ∴ ,/ー、{,_ノ /ー、!  \::::]

提督 『おのれ、電、木曾!!艦娘でありながら反乱を起こすとは神をも畏れぬ大悪人め!』

木曾 『ふっ・・・電を裏切ったアンタにそんな事を言われる筋合いは無い』

提督 『なにっ?俺が電に何をしたと言うのだ?』

電 『よくもぬけぬけと・・・電とケッコンカッコカリしておきながら摩耶さんに指輪を渡した事、電が知らないとでも思っていたのですか?』

木曾 『ジュウコンのみならずよりによって新入りの摩耶に手を出すなんて見損なったぜ・・・許せねえ!』

提督 『は・・・・??』

~~~~~~~~~~~~
摩耶 『提督よぉ・・・高翌雄姉が粗野な性格直せ、嫁にいけなくなるってうるせえんだ。何とかならねえかな』

提督 『じゃあ、指輪をやるからソレ見せて高翌雄を安心させてやれ』
~~~~~~~~~~~~

提督 『ま、まて!あれは摩耶の体裁を考えての事で決して不貞を働こうとした訳ではない!!』

木曾 『今更言い訳とは見苦しいぜ!』

電 『乙女心を踏み躙られた電の怒りを見るのです!!』

提督 『ぎゃぁぁぁあああああ!!!!』

??
なんで『高翌雄』って書くと『高翌翌翌雄』になってるんだ??
これって仕様???

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年03月07日 (土) 02:14:21   ID: aydwHJ_x

そう言えば、艦これのタグ無いから探し辛いな。

2 :  SS好きの774さん   2015年03月10日 (火) 20:23:08   ID: QSSmT7Q3

いやー面白かった

3 :  信府参議   2015年03月11日 (水) 01:59:57   ID: HQrXLZrX

本作品における軍令部は、どの様な立ち位置に置かれていると考えれば?(史実の軍令部は、帝国憲法・第十一条の条規により、天皇を軍令部総長が補弼する形式だったので。)

4 :  SS好きの774さん   2015年03月11日 (水) 05:09:26   ID: oIrm6l4P

木曽めっちゃカッコよくてやべーわ

5 :  SS好きの774さん   2015年03月12日 (木) 20:52:58   ID: 7tkXDZdZ

なんかこれから盛り上がりそうなところで終わったな
プロローグだけで終わった感じ

6 :  SS好きの774さん   2015年03月15日 (日) 21:00:29   ID: wpW5fU73

いや、十分やろ
商業物ならもっと長いと思うけどこれそういうんちゃうし…
十分盛り上がって適度な長さやったと思うんよ!
なんにせよ作者さんお疲れ様や

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