友奈「結城友奈は勇者になる」 (164)

・VIPで落としちゃったのでこっちに移転します

・12話構成

・ゆゆゆ続編妄想SS 友奈たちは高校生設定

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【1 調和】

~☆

《早朝 海沿いの歩道》


友奈「はっ、はっ、はっ」タッタッタッ

友奈「はっ、はっ、はっ」タッタッタッ

友奈「ゴール!」タンッ!

友奈「…………ふぅ」



夏凜「はっ、はっ、はっ」タンッ! 東郷「っ」タンッ!



夏凜「あ゛あ゛~! 負けたぁ~!」

東郷「さすがね、友奈ちゃん」

友奈「えへへ」

夏凜「……まあ、東郷と同着で終わっただけ、良しとしとくか」ハァ…


夏凜「園子は?」

東郷「多分もうちょっとだと思う」

夏凜「そっか」

夏凜「だいぶ園子成長してきてるし、これは私も、ますます本気で鍛錬に励まないとマズそうね」

友奈「あっ! 園ちゃんいま、角を曲がったよ!」

東郷「そのっち、ファイトー!」

園子「はぁっ、はぁっ、はぁっ」タッタッタッ

園子「……は~」タンッ!

友奈「お疲れー」

東郷「ナイスファイトそのっち」

夏凜「お疲れ」


園子「ふ~」

園子「みんな今日も速いね~。私、結構いい感じで頑張ったと思ったのにな~」

東郷「頑張ったのは確かよ。間違いなく、成長してるわ」

園子「え~、そうかな~? だと嬉しいな~」

夏凜「じゃ、いつも通りに、自販機で飲み物買ってくる係決めましょうか」

友奈「そうだね」

夏凜「いくわよ~。じゃーんけん、ぽい!」

~☆

《朝 通学路》

友奈「風先輩、樹ちゃん、おはようございまーす!」テクテク

風「あっ、おはよう友奈」テクテク

樹「おはようございます」テクテク

東郷「おはようございます、風先輩、樹ちゃん」テクテク

風「おはよー」

樹「おはようございます」

風「……今日も園子はギリギリ登校なのかしら?」

友奈「みたいです。神事が朝から一つ入ってるらしくて」

風「はー、大変ねー」

友奈「なるべく一時間目には間に合うよう、学校に着きたいって言ってました」

風「園子がかかわる神事の回数、最近傍から見てても明らかに増えてるわよね」

風「勇者としての鍛錬、後輩の指導が放課後に控えてるんだから、
  もうちょっとそういう雑事は免除してあげて欲しいんだけど」

友奈「ですねー」


東郷「難しい話です」ムムム…

東郷「大赦には大赦の言い分」

東郷「人心の乱れ」

東郷「壁の外にひろがる世界の真実が公にされて以来、
    神樹様への信頼こそが、そういう人たちの日々の支えになっている」

東郷「彼らの道徳心への訴えかけに、乃木家の少女、瀬戸大橋跡地の合戦の勇者、
    という現実とリンクしたシンボルを用いることは、大変有用である」

東郷「とかなんとかがあるのは、一応わかるんですけど……ね」

風「そこら辺のちょうどいい折り合いをつけるのは、ほら、大人たちのお仕事だし」

風「私たちは、基本的に園子の心配だけしてればいいでしょ、多分」

風「ただ、情報があれこれ表に出てくるようになっただけ、
  大赦もだいぶクリーンになったもんだと思うわ」


風「例えば、大赦のホームページや、テレビのニュースで、
  バーテックスが近日襲来する予定です、なんて教えてくれてるわけでしょ?」

風「あんなのあたしたちが中学生だった頃は考えられなかったわよ」

樹「ここ数年で、思えば随分色々と世の中変わったよね」

樹「一番変わったのって、なんだろう?」

夏凜「あれじゃない? お守りとか、服装とか、
    神樹様への信仰を目に見える形で示す人を、外歩いてて頻繁に見かけるようになった」

樹「なるほど」

友奈「とりあえず私は、武術が必修科目になったのが嬉しいな」

樹「あー、友奈さん、得意科目だから」

友奈「うん。体育と武術、この二つには、本当に成績を助けてもらってる」

樹「いいなー。私勉強苦手だから、そういうのどんどん欲しいよー」

東郷「樹ちゃんは、音楽が強いじゃない」

樹「ホント、音楽には助けてもらってます、はい」


友奈「朝の鍛錬、樹ちゃんも、私たちと一緒にやればいいんじゃないかな?」

樹「え、ええ?」アセアセ

風「樹には無理ね」

風「仮にやろうと決めても、早起きの特訓が先だわ」

樹「う、うう……」ションボリ…

樹「体育はともかく、武術がなぁ」

樹「もっと私も、お姉ちゃんみたいに、こうすれば戦えるんだよ、
  ってテキパキ後輩たちに教えられるようになりたいよー」

風「あー、樹はねー、何よりまず扱ってる武器が特殊だから大変だ」

夏凜「この頃ようやく、人にこうしなさい、って物を教えても、肩が凝らなくなってきたわ、私」

友奈「夏凜ちゃん、そういうの苦手そうだもんね」

夏凜「わかる?」

友奈「うん」


友奈「なんていうか、最初顔合わせていきなり実演して、はい、じゃあお前やって見ろ、
    って昔話か何かにでてきそうな頑固な職人さんみたいに教えたがりそう」

風「わかるわ、それ」

夏凜「……否定できないのがなんか悔しいわね」

夏凜「それで済めば、私も楽なんだけど、そうもいかないのよねぇ」

風「私は、その点そういうところ器用だから、教えるどうのって苦労した記憶ほとんどないわ」

夏凜「はぁ……。素直にうらやましい」

樹「友奈さんは?」

友奈「うーん、私は、お父さんに武術を教えてもらった経験とかがあるから、それを生かしてるかなー」

樹「なるほど」

友奈「東郷さんの方だと、どんな感じ?」

東郷「どんなって、みっちりしごいてる、と言えばいいのかしら」

風「ああ、後輩たちから畏れられる鬼教官の姿がまるで目に浮かぶようだ……」

樹「ふぇぇ……」

夏凜「東郷のしごき。……一度どんなものか、体験してみたいかも」


友奈「う、うーん」ムムム…

樹「友奈さん、厳しい顔してどうしたんですか?」

友奈「いや、テスト前に何度か東郷さん直々に勉強しごかれた記憶を思い出して……」

風「それは、さぞ辛かったでしょうね」

樹「こ、効果は凄くありそう」

東郷「ねえ、みんな」

東郷「多分だけど、現実の十割、十二割以上は苦しい光景を想像してると思うの」

東郷「友奈ちゃんのは、普段から勉強を疎か気味にしてたせいだから」

東郷「後輩たちに課しているのは、それよりもっと楽にこなせるものよ」

東郷「鞭だけ与えても人はついてこない。適度な甘さをもって臨まねば、最良の結果は得られない」

風「……なーんかその言い方だと、怖そうな印象抜けないわね、正直」

~☆

《放課後 夜 街中》

友奈「よーし、これでみんな揃ったから、帰ろう!」

園子「は~……」

風「どうしたの、園子?」

園子「私これから、帰って一度支度したあと、神事二つなんです~」

風「た、大変ね」

東郷「流石にそこまでそのっちに負担をかけるなら、
    そろそろ私たちにもその役目を分散させてほしいところね」

園子「うーん~」

園子「みんなと一緒にやれたら、確かに私ももう少しやる気が出せると思うんだけど~」

園子「ただ、二年間以上ベッドで祀られてたときの経験が、
    私が現在続々と抜擢されてる大きな理由の一つだからね~」

園子「付け焼刃じゃない神事、仮にそれを行えるようなるには、
    みんなは大赦の奥深くともっとズブズブしないとだから~」

園子「は~、私がやらなきゃいけないとわかってても、眠いよ~」ウトウト


樹「園子さん、歩きながら寝ちゃいそうな顔してる……」

友奈「園ちゃん、根性だよー! 根性ー!」

園子「うん、根性~……」

友奈「なせば大抵――――」

友奈「…………」ピタッ

東郷「友奈ちゃん?」


ピロリロリ ピロリロリ



東郷 園子 夏凜 樹「「「「っ!!!」」」」



夏凜「ついに……来た」



ウゥゥゥゥゥゥゥン…

~☆

《樹海》

風「この景色を見るの、だいぶ久しぶりな気がする」

樹「当たり前っちゃ当たり前だけど、全然変わってないね」

園子「さて~、まずは、後輩たちが私たちを目印に、一堂に会するのを待ってから――」

東郷「待ってッ!」

夏凜「な、なによ?」ビクッ

風「東郷?」

東郷「友奈ちゃんがいないのっ!」

園子「あ、ホントだ~」

夏凜「……えっと、神樹様の手違いで、別の地点にワープさせられたとかじゃ――」

東郷「結界に入って、隣に友奈ちゃんがいないって気付いたから、それから急いでスマホを見て、ちゃんと確認したわ」





東郷「――でも、敵や他の仲間の位置は表示されていても、友奈ちゃんはどこにもいないのっ!」

~☆

《放課後 夜 街中》

東郷「友奈ちゃん、友奈ちゃん」

友奈「――――」

友奈「……え?」ハッ

友奈「あっ、ゴメン、ぼうっとしてた」

友奈「なんの話だっけ?」

東郷「いいよ、別に大した話じゃなかったから」

夏凜「まったく、園子じゃないんだから、いきなりぼうっとするんじゃないわよ」

夏凜「心配するでしょうが」

友奈「えへへ、面目ない。自覚なかったけど、疲れてたんだろうね」

園子「私、そんなにみんなが言うほど、普段ぼうっとしてないよ~」

夏凜「自覚なしっ!?」


東郷「ねえ、友奈ちゃん」

友奈「なに?」

東郷「帰ろっか」ギュッ

友奈「うん」ギュッ

友奈(温かい)

友奈(東郷さんから手を繋ごうとしてくるなんて、結構久しぶりな気がするな)

風「は~、疲れたぁ」

風「さー、今日の晩御飯、何にしよっかなー?」

樹「あれ? まだ決めてなかったの」

風「んー、食材はあるから、帰ってから決めようかなって」

樹「そっか」



東郷「また明日も、頑張ろうね」テクテク

友奈「うん」テクテク


【2 無垢】

~☆

《夜中 海岸》




友奈「――――」



友奈「…………あっ」ハッ

友奈(夢?)



ザァァァァァァ… ザァァァァァ…


友奈「…………」

友奈(夢、じゃない)

友奈(夏凜ちゃんが、よく一人で鍛錬をしてた浜辺だ)

友奈(でも、私なんでこんなところに)

友奈(靴も履かずに、パジャマのままで)


ザァァァァァァ… ザァァァァァ…


友奈「…………」ゾクッ

友奈(疲れて、るのかな)

友奈(寒いや)

友奈(なんにせよ、はやく帰ろう)

~☆

《前日 樹海の中》

後輩A「あの、友奈先輩の指揮下に入るはずだった私たちは、どうしたらいいんでしょうか?」

園子「ん~、そうだね~」

園子「条件は問わないから、均等に、私、美森ちゃん、樹ちゃん、風先輩、夏凜ちゃんの元に移って」

園子「方法は、じゃんけんとかで大丈夫だよ~」

園子「どうせ今回の戦いは、私たちの戦いぶりを見学するっていう、
   あなたたちにとってチュートリアル的なものだから、それで問題は起こらないはず」

後輩A「わかりました。では、伝えてきます」タッタッタッ

風「……しかしこれ、どういうことなのかしらね?」

風「四国中の少女で、おそらく友奈だけが、他の人たちと一緒に時間停止に巻き込まれた」

樹「ひ、ひとまず戦いが終わってから、それは考えよ?」

風「まぁ、それはごもっともな意見なんだけど……」

園子「部長、そんな難しい顔してたらダメですよ~」

園子「部長はこれから一番槍を担当するんですから、ドーンと景気よく一発やってもらわないと~」


園子「初めて見た樹海化と、敵の襲来のせいで、後輩たちに不安が広がっていますから~」

風「……よし、指摘あんがと園子。ちょっと気分切り替えるわ」

風「そのために、このメンツで円陣、まずは組みましょう!」

園子「いいですね~」

夏凜「あんたたち、こういうとき円陣組むの本当に好きね」

東郷「夏凜ちゃんも、嫌いではないでしょう?」

夏凜「……まーね」

樹「夏凜さん、肩」

夏凜「うん」


風「勇者部、ファイトォー!」



一同「「「「「 オオオオー!!!!! 」」」」」

~☆

《朝 風の家》

風「…………」

風(寝たら、昨日の戦い夢でしたってなるの、ちょっと期待してたんだけどな)

風「ねえ樹、大赦からのメール見た?」

樹「……うん」

風「友奈には教えるな、だってね」

風「今回の戦い、友奈が勇者になれないなんて、大赦は事前に一言も教えてくれてなかった」

風「そのことについての釈明は一切なし」

樹「うん」


風「壁の外に、神樹様の『種』を蒔く作戦」

風「後輩たちが神具と『種』を持って、迅速な任務の達成を目指し一気に動く」

風「私たちはその間、反撃として侵攻してくるはずの敵から、壁の内側を守る」

風「…………大赦が日頃から言ってたこと、信じていいのかな」

樹「わかんないよ、そんなの」

樹「けど、戦うしかない」

樹「だってそれが、私たちにできることなんだから」

風「……そう、だね」

~☆

《朝 園子の家》

園子「遠いのに、わざわざ来てもらっちゃってごめんね~」

東郷「ううん、大丈夫」

東郷「そのっちが朝忙しいのはわかってるから」

園子「なんで、私が呼んだのか、みもりんならもうわかってると思うけど」

園子「今後のことについて、今の内に二人で話しておきたくてね~」

園子「現状の真相をゆーゆに話すのか、話さないのかどうかを」

東郷「…………」

園子「ゆーゆが昨日なんで、勇者として戦うことができなかったのか」

園子「あくまでもそれはイレギュラーであって、これからは違うのか、違わないのか」

園子「そういう問題はひとまず脇にのけておいて、
    ゆーゆに戦いがあったという真実を知らせるのか、知らせないのか」

園子「みもりんがどうするべきだと思ってるのか、聞かせて欲しい」

園子「それとももう、昨日か今日の内に、ゆーゆに真実を知らせてたりするのかな~?」


東郷「……私は、知らせる必要はまだ、ないと思う」

園子「どうして~?」

東郷「だって、大赦が原因を調査中と言ってる以上は、
    専門家である彼らにまず任せてみるのが最善じゃないかしら」

園子「…………」

東郷「真実を知らせることは、後からでもできるわ」

園子「でも、隠すってことは、満開の後遺症を私たちに隠してた大赦と同じことを、
    ゆーゆに対して私たちがやるってことじゃないかな~?」

東郷「ううん、違う」

東郷「満開のときと違って、知らされていなくても、破滅的なデメリットがない」

東郷「むしろこれから、まだどうなるかわからないあやふやな現段階で、
    友奈ちゃんに知らせた方が、余計な悪影響があると思う」

東郷「だって、もし知らせたとして、四国中の少女で自分だけが、
    勇者として戦えないと知ったら、友奈ちゃんは……」

~☆

《放課後 道場》


後輩A「…………はぁ」



友奈「どうしたの?」

後輩A「っ!」ビクッ

後輩A「ゆ、友奈先輩っ!」

後輩A「何か、私に、御用ですか?」アセアセ

友奈「今日の動き、いつもの伸び伸びした動きと違って、ぎこちなかったよね」

友奈「だから珍しいなって思って」

友奈「何か悩み事でもできた?」




後輩A「…………」


後輩A「いえ、大丈夫です。これは、私のプライベートなことですから」

友奈「そっか」

友奈「でも、手伝えるような何かがあったら、私に言ってくれると嬉しいな」

友奈「私は、讃州高校勇者部の結城友奈だから、どんなことでも精一杯頑張って助けになるよ?」

後輩A「はい、もちろんです!」

後輩A「そのときには、親や先輩、友人よりも先に、先輩に相談します!」

後輩A「私、先輩のこと、むっちゃ尊敬してるので!」

~☆

《夜中 自宅》

友奈(昨日の今日だから、なかなか眠る気になれないな)

友奈(いくらなんでも二日連続であんなことにはならないと思うけど)



友奈(にしても今日、訓練の間、あの子の様子本当におかしか――)



《海面》

友奈「――――」


友奈「…………っ!」

友奈(ここ、海の中だ)

友奈(波に、波にさらわれる……!)

友奈(助け)

友奈「……あ――」ゴボッ

友奈(ダメだ)


友奈(落ち着け私、下手に興奮して暴れても、溺れちゃう)

友奈(落ち着け……落ち着け……)

友奈「…………」スイスイ


友奈(陸まで泳ぐ……)


友奈「…………」スイスイ

友奈(あともうちょっと……)


バシャァ


友奈「……がはっ、ごほ、ごほ、ごほっ」ゲホッ

友奈「お、う、あぁ、はぁ」ゼェゼェ

友奈「…………はぁ、はぁ」

友奈「……う……うう……う……」

【3 つつましい幸福】

~☆

《午前 墓地》

風「…………」

樹「…………」

風「忙しかったから、久しぶりになっちゃったね」

樹「そうだね」

風「もうちょっと来る回数増やしたいけど、
  きっと次来るのは、この戦いが一段落ついてからになりそう」

樹「うん」

風「手、合わせよっか」

樹「うん」


風 樹「…………」

風「…………」

風(お母さん、お父さん)

風(樹、少しだけ早起きできるようになったんだよ)

風(だから学校休みの今日、この時間にここに来られた)

風(これから午後は、鍛錬と指導)

風(いつも通り、だけど戦いが始まって、いよいよ大切な時間) 

風(……私、樹と一緒に頑張るから)

風(私は、学業も、勇者も、家事も、精一杯やり遂げてみせる)

風(樹と一緒なら、きっとやれると思う)

風(だから、見てて)

風(樹の成長を、そして、私の頑張りを)

~☆

《午後 訓練場》

樹「そこは、こうするのがいいんじゃないかな?」

後輩B「なるほど……。参考になります!」

樹「そう? なら良かった」

樹「お姉ちゃんとかと違って、私だと上手く教えられないかもだけど、
   変わった武器同士、わからないことがあったら訊いてみてね」

樹「悩んだら相談、だよ」

後輩B「もう……先輩ったら」

樹「?」

後輩B「いつもお姉ちゃん、お姉ちゃん、って、
     私が一番尊敬してる勇者部の先輩、樹先輩なのに、自分のことそんな言い方したら嫌です」

後輩B「ちゃんと先輩は樹先輩としてかっこいいのに」

樹「私が……?」

後輩B「……一番尊敬してる、は夏凜先輩とだいぶ接戦なので、ひょっとすると違うかも。すいません」


後輩B「だけど、お二方は、先輩たちの中でもことさら一つの目標のためストイックに頑張ってる感じがして、
     私、心の底から尊敬してます!」

後輩B「どれくらい尊敬してるかというと、お二方と同じ学校に行きたくて、
     私、志望校讃州高校に決めちゃいました!」

樹「え、ええっと……」

後輩B「……」ハッ

後輩B「あっ、あの、すいません。つい、つまんないこと喋りすぎました」アセアセ

後輩B「その、こうして面と向かってまともに話せる機会今までほとんどなかったから、舞い上がっちゃって」

後輩B「一昨日の戦い、先輩の活躍、言葉にできないくらい凄かったです!」

後輩B「私、先輩の歌が大好きで、えっと……」アワアワ

樹「ありがとう」

後輩B「え?」

樹「私も先輩として、役に立ててるんだ、って思うと元気出た」

樹「だから、ありがとう」

後輩B「……は、はい!」

~☆

《夜 街中》

風「…………」

夏凜「風」

風「今日の二番目は夏凜か」

風「ねえ夏凜」

夏凜「なに?」

風「友奈の班の変身訓練がどうなってるのかとか、考えてみたことある?」

風「私たち、考えてみると、互いがどういうカリキュラムで己を鍛錬し、
  後輩を指導してるのか、よく知らないのよね」

風「全部大赦の手のひらの上」

夏凜「そんなことより、あんたは自分のことを心配しなさいよ」

風「私?」

夏凜「手の調子、おかしいんでしょ。あと目も」

風「っ!」


夏凜「樹の前以外だと、必死に隠そうとする意思弱まりすぎ」

夏凜「私たちとだってそれなりに付き合い長くなってるの、忘れるんじゃないわよ」

夏凜「友奈、あんたのこと目に見えて心配してた」

風「…………そうなんだ」

風「昨日久々の実戦で気づいたんだけどね、あたし、あんまり勇者システムが身体に馴染んでないみたい」

風「大剣の一振り一振りが重くて凄く疲れる」

風「勇者としての女子力が足りてない」

風「高三ともなれば、少女って言える年齢ギリギリの瀬戸際っぽいし、仕方ないのかな」

風「樹海から帰ってきて、たまに自分の意思とは関係なく指先が震えるの」

風「あと、戦ってる最中もだったけど、前に散華した左目が、時々目の前の物を識別できなくなるくらい霞む」

風「散華とは、違う。それはわかる」

風「多分、これ以上戦うのをやめれば、途端にみるみる良くなると思う」

風「戦うのをやめれば、ね」


夏凜「…………」

風「戦いをやめる気はないわ」

風「私にもできることがあるのに、みんなに守られてただ大人しく待ってるだけ」

風「そんなの絶対に嫌」

夏凜「片目が、見えなくなることがある」

夏凜「つまり視界が安定しない。そんな状態で戦ったら、
    いずれみんなの足手まといになるかもしれないことは考えないの?」

風「それは……」

夏凜「……はぁ」

夏凜「敵を気配で見ることを覚えなさい」

風「気配でって……」

夏凜「変身してないときならともかく、勇者として変身してるときなら、やってやれないことないわよ」

夏凜「コツが必要だけどね」

夏凜「幸い、コツなら私が教えてあげられる」


風「教えてくれるの?」

夏凜「ええ」

夏凜「これからも戦うんでしょ? だったら風には必要な技術だわ」

夏凜「今から、時間を工面しましょう」

夏凜「みんなと帰って、解散して、それから数時間」

夏凜「今日から一週間以内で、気配で見る方法、習得できるんじゃないかしら?」

風「悪いわね……」

風「夏凜も、毎日の鍛錬と指導で疲れてるでしょうに」

夏凜「フン」

夏凜「舐めんじゃないわよ、私だって勇者なんだから」


夏凜「私と風、剣の使い手って点では一緒だから、悩みの対処法は大雑把に似てくる」

夏凜「戦い一般に関しては、私の方が風よりも得意」

夏凜「だから、もっと頼ってくれていいの」

夏凜「私も、今度おいしいうどんの作り方とか、手早く綺麗に洗濯ものを畳む方法とか、
    なんかそういうやつ風に教えてもらって元を取るつもりだから、気にしなくて大丈夫」

風(夏凜……)

風「あらぁ、ついに夏凜も、一人暮らしの乙女として、料理しようとする精神が芽生え始めたわけ?」

風「コンビニ弁当とサプリ、それだけの味気ない生活から、ようやく自分の意思で抜け出す気になったのね」

風「おいしい人並みのご飯を度々振る舞って、人間的な生活の温かさを思い出させようとした甲斐があったわ……」

夏凜「別に、いま風が言ったほど、志高いものじゃないけどね、私の料理欲」

風「いやいや、千里の道も一歩から――」

こっちでやるなら酉つけてるし
ID気にしたりとかの一気に投下する理由がないので今はここまで

読む側も一気に文量ぶつけられたら追いづらいでしょうし
何より落ちる心配ないのに誤字脱字表現ミスチェックを一気にやって疲れるメリットがない
(レスも欲しいし)

今のところ3話ずつ、今日と明日の日付の境目、明日の昼~夕方、明後日の早朝前な深夜
と投下していく予定です

【4 不可能】

~☆

《樹海》

樹「みんな、大丈夫かな……?」ソワソワ

樹「精霊の加護はなし」

樹「実戦は、私たちのを一回見ただけ」

樹「なのにいきなり壁の外に出て、戦えるのかな」

風「もう、樹はまた同じこと言う」

風「いきなりじゃないでしょ」

風「壁の外を見せたりとか、そういう訓練なら何度もやった」

樹「でも…………」

風「大丈夫じゃなかったら、人類の負け」

風「樹自身がそういう内容のこと言ったんじゃない、後輩たちを鼓舞するときにさ」

樹「た、確かに言ったけど、いざこうして手持ち無沙汰で待ってると、すごく不安だよー」


園子「こう言っちゃなんだけど、後輩たちの止め切れなかった敵が、
    結界内に入ってきてくれた方がこっちの気持ちは楽だよね~」

園子「その対処にだけ集中すればいいってことになるから~」

東郷「不安を紛らわすことを考慮から外せば、
    入ってこないでくれるに越したことはないだけにジレンマね」

東郷「例えば、満開ができない今、複数体入ってきて合体されたら、対処できる自信ないもの」

園子「私は合体するのにまだ会ったことないけど、できれば会わずに済ませたいかな~」

風「ようするに、何もないまま、後輩たちがなるべく早く帰ってくるのが一番」

風「まー、月並みな結論だわ」

園子「なんだかんだ言っても、普通が一番ってことですね~」

夏凜「まったく……戦闘前なのに、いつもながら緊張感のない」ハァ

夏凜「樹、不安になる気持ちはわかるけど、
    あんたが担当してた子たちの成長、あんたが一番よく知ってるでしょ」

夏凜「前言ってたじゃない、みんなすごい成長してるんだって」


樹「それは……」

夏凜「私が担当した子たちもそう。東郷、風、園子、友奈が担当した子たちもそう」

夏凜「先輩であるあんたが、あいつらの根性信じてあげなくてどうすんのよ」

夏凜「あいつらには、私たちみたいに精霊はついてないけど、
    神樹様に接触して、個人個人特別な力を与えてもらってるらしいじゃない」

夏凜「だから心配いらないわよ」

樹「その、特別な力の中身がわかれば、少しは安心できるのに」

夏凜「……まぁ、それは確かに、ね」

夏凜「耐久力アップは後輩から聞いてるけど、いくらなんでもそれだけじゃないでしょうし」

樹「ですよね」

風「特別な力って、ようするにアップデート、グレードアップの類いじゃない?」

風「一方、私たち勇者部が、何かグレードアップした実感ある?」

園子「満開がなくなったのは、歴としたグレードアップじゃないですか~?」

風「いやぁ、ちょっとそれは、グレードアップとは違うような……」


夏凜「前に満開したぶんだけ、基礎ステータスが上昇してるのは、グレードアップってことでいいんじゃない?」

夏凜「みんな精霊は一体のみだけど、ステータス引継ぎのおかげで、
    園子の一撃一撃が戦術兵器じみた攻撃力発揮してるわけで」

園子「えへへ~、ずがーんだよ~」

樹「そう考えると、変わったグレードアップが私たちにはないってことは、
  当然私たちの満開で上昇したステータスよりも、特別な力、の恩恵って少ないんですよね」

樹「そして精霊もいない」

樹「……不安です」

夏凜「だけど、私たちと後輩たちとじゃ、人数の桁が全然違う」

夏凜「後輩たちは三年近くかけて、規律だった集団を一つの単位とするような、
    厳しい戦闘訓練を積んできたわけじゃない?」

夏凜「そりゃあ私たちも色々指導したけど、私たちがやったことの意味って、結局は士気高揚が大半だと思う」


夏凜「世界を守った先輩勇者って存在を、最大限生かした上での大赦による計画的な訓練」

夏凜「園子、東郷、私はともかくとして、風、友奈、樹よりは余程研鑽を積んだ上での初戦、
    しかも私たちには不可能だった集団の数の利を生かしたものになるだろう戦闘」

夏凜「そんなに悲観視する必要ないと、私はやっぱり思うわ」

樹「でも、どうしたって死傷者は――」

風「樹」

風「そこら辺で悪い想像の話はストップ」

風「夏凜も、みんなも、正直それはわかってるのよ」

風「けど、私たちは、私たちができることをやるしかない」

風「そうでしょ? 違う?」

樹「…………ごめん」


一同「…………」





東郷「っ!」


東郷「スマホに反応! 一体来ます!」


夏凜「……ようやくお出ましってわけ」

園子「壁際のこの位置で、きっちり撃破しよう~」

園子「オーケ~?」

風「オーケー!」

東郷「さあ、行こう、樹ちゃん」

樹「う、うん」



バーテックス「……」



園子「いや~、見たところ、私も見覚えのあるやつだね~」

園子「合体を済ませたバーテックスが結界の中にいきなり入ってくる、なんてことがなくて良かったよ~」

東郷「全くだわ」

~☆

《樹海》

ミュィィィン

勇者部一同「っ!」


後輩A「……はぁ……はぁ」タッタッタッ

後輩A「………………」タッタッタッ


タンッ!

後輩A「……はぁ、はぁ」

樹「だ、大丈夫ですか?」

後輩A「大丈夫、です……っ」

後輩A「では、報告……します。作戦……完了しました……」

後輩A「作戦は、大成功、です……」ゼェゼェ

風「そう、良かった」ホッ…


後輩A「すいません……ちょっと深呼吸して良いですか……?」

後輩A「戦闘後急いで報告することばかり気にしてたせいで、
     ここまで走って来る最中、うっかり息すること忘れちゃってて……」

風「ええ、いいわよ。だから、十分に落ち着いて、詳細を教えて頂戴」

後輩A「はい、ありがとうございます……」

後輩A「…………ふぅ」

後輩A「こちら側の死傷者はゼロ、バーテックスも、結界内に漏らしてしまった物以外は、
     封印の儀による足止めでほぼ無傷のまま確保」

後輩A「これは私の主観ですが、私たちからの星屑に対する打撃も、最小限に抑えられたように思います」

後輩A「つまり、これ以上ない戦果ですっ!」

勇者部一同「…………」

後輩A「あれ……?」

後輩A「どうかしましたか?」

夏凜「…………死傷者ゼロ、って言ったわよね」


後輩A「はい、言いました。死傷者はゼロです」

夏凜「そんな話、いくらなんでも出来すぎよ……」

夏凜「攻撃をもらったりはしたんでしょ?」

後輩A「ええ、もちろん。でも、ちゃんとダメージは分散させました」

夏凜「分散させたって……腕が折れたりとかしたら、戦闘に支障は出るでしょ?」

夏凜「それに死傷――」

後輩A「腕が折れる? ははは、先輩何言ってるんです?」

夏凜「?」

後輩A「たとえ千切れたって、腕くらい、変身してたらちゃんとまた生えてくるじゃないですか」

夏凜「え?」

後輩A「そりゃあ回復するまで時間はかかりますし、
     そいつが抜けた穴をしばらく連携して塞がなきゃいけないですけど……」

夏凜「う、腕千切れたって、痛みはどうなってんのよ」

後輩A「痛み……?」

後輩A「痛みなんて、そんなの、変身してたら感じません……よね?」

【5 私に答えてください】

~☆

《朝 友奈の家》


友奈「……」モグモグ


<本日一つ目のニュースです


友奈「……」モグモグ


<昨日、四国の外を、神樹様の御力でもって緑化する計画の第一歩が、
  勇者たちの活躍により無事完遂されました


友奈「え」


ピッ


友奈父「……」

友奈「お父、さん……?」

~☆

《四国と外界を隔てる壁上》

春信「このたび、大赦と園子様の間で取次をすることに相成りました」

春信「よろしくお願いします」ペコリ

園子「久しぶりだね~」

園子「噂は聞いてるよ~。順調に大赦の出世街道を歩いてるようだね~。おめでとう~」

春信「ははは、虎の威を借る狐と言いますか、ほとんど妹のおかげみたいなものですがね」

春信「……さて、挨拶もこれくらいにして、さっそくご要望の壁の外見学ツアーを始めましょうか」

園子「お願いします~」

春信「園子様、ついてきてください」

《壁の外》

春信「あの火の海地獄だった景色が鳴りを潜めて、だいぶ緑豊かになったでしょう?」

春信「いやはや、先の作戦の成果、目覚ましいものです」

園子「……あそこまでが、私たちが拡大した領土ってことですね?」

春信「はい」


春信「園子様は既にご理解いただいているでしょうが、
    神樹様の一部で作られた巨大な注連縄が、臨時の境界として新たな二層目の結界を形成」

春信「内と外の世界を隔てているわけです」

春信「領土を拡大した分だけ、神樹様の防御の密度は手薄になる」

春信「敵が新たな侵攻を開始する前、我々は準備が整い次第、
    速やかに作戦の次の段階に移らなくてはならない」

園子「遠目にあちこちでちょこまかと動いているのは~?」

春信「大赦が指揮下においたバーテックスたちですよ」

園子「バーテックス……」

春信「これは、約三年前、結城様が一時的な意識の乖離と引き換えに、
   神樹様にデータを提供してくれたゆえ可能となった技術です」

春信「バーテックスの御霊へのアクセス、私たち主導による調整と制御」

春信「もっとも、神樹様のフィールド内でなければ行えなかったりと、様々な条件付きの不完全な物ですが」


園子「ここから目視しただけの印象ですけど、人間とそんなに変わらないサイズなんですね~」

春信「ええ。それ以上のサイズはいま必要な作業をさせるにあたって、
   無駄にエネルギーを食ってしまうだけですから」

春信「便利ですよ、バーテックスは」

春信「命令すれば、やめろと言うまで延々と働き続ける」

春信「させることがないなら、何も指示しなければ、黙ってじっと待ち続ける」

春信「奴らは人間と違って、指示が来るのを待っているあいだ、娯楽やそれに準じるものを必要としない」

園子「……バーテックス自身に、何か特有の意思はないんですか?」

春信「ありません。それこそが、人類との明白な相違点です」

春信「こちらが設定した目標達成のために、各々が状況を判断して、その都度計画を立てて行動はしてくれますがね」

園子「計画は、するんですか~。特有の意思がないのに」


春信「えーっと、例えばです」

春信「園子様は、今すぐ誰かを殴れ、殴るのは私でも構わない、と私に言われたら躊躇しますよね?」

園子「しますね~」

春信「なぜですか?」

園子「なぜ……?」

春信「誰かを殴ることはよくないことだ、と思っているのが、
    少なくとも躊躇する理由の一つではないでしょうか?」

春信「これは、今すぐ誰かを殴りたい、という気分になった、
    もしくは、誰かを殴るための計画を立てたい、と園子様がふとお考えになったときにも当て嵌まる反応のはずです」

春信「罪悪感、道徳観念、目的意識、色々と手段の違いはあるかもしれませんが、
    とにかく人間には、自分の欲望、計画を自分自身で制御する構造が心に備わっている」


春信「一方、バーテックスにそういった構造は存在しません」

春信「バーテックスは自分で、計画そのものの是非を判断しないのです。独自の欲求も持ちません」

春信「外部からの入力に従い、その範囲内で、与えられた目的の達成だけを目指し動く」

春信「だからこそ、その入力を確保できさえすれば、バーテックスを従えることが可能になる」

春信「バーテックスは、いわば高性能な道具なのですよ」

園子「……なるほど~」

春信「園子様、どうせですから、もう少し、我々のバーテックスに近づいて見てみますか?」

春信「現在奴らがこなしている仕事は、ここを人間が住める環境にするっていう、
    見ていて別に楽しくない作業ではありますが……」

園子「できるなら、ぜひ、そうさせてもらいたいですね~」

~☆

バーテックス「…………」

園子「思ってた以上に、人間に似た見た目をしてるんですね~」

春信「ええ」

春信「神樹様が操作しやすい形態にするため人型に成型しています」

園子「操作は神樹様が?」

春信「そうです」

春信「操作性を高めるため、もっと人間、それも少女に似せることは可能ですが、
    現状やったところで悪趣味なばかりでメリットはありませんからね」

春信「この程度の作業をやらせるだけならば、これで十分」

バーテックス「…………」

春信「他に何か、ここでご覧になりたいものはありますか?」

園子「うーん、といっても、今のところ殺風景だし……ないかな~」

春信「わかりました。それなら壁の内側まで戻りましょう」

園子「はい~」


テクテク

園子「今日は、他の仕事もお忙しいだろうなか案内していただいて、ありがとうございました~」

春信「いやいや、むしろこっちの方が感謝したいくらいです」

春信「大赦内部での息がつまる役務から解放された上で、高校生の女の子と歩いたりお話してるだけなのに、
    真面目にお仕事してることになるんですから」

テクテク


春信「今日の見学で、何か、興味が湧くようなものは見られましたか?」

園子「はい~」

園子「間近でバーテックスを見させていただいたおかげで、
    今日まで半信半疑だったことがようやく一つはっきりしましたから、本当に大きな意味がある見学でした~」

春信「……わかったこと? 何ですか? 教えていただけると嬉しいのですが」

園子「いいですよ~」


テクテク


園子「――ゆーゆは、バーテックスになっちゃってたんだな、ってことです」

~☆

《夜 風の家》

風「メール、見た?」

樹「うん」

風「勇者たちを神樹様の一部で急遽建造した超高速船に乗せて、敵の総本山を叩かせに行く……って、
  大赦も相当ハチャメチャなこと考えたわね」

樹「後輩たちが、前の戦いの成果として壁の外に確保してくれた新領土で、作るか組み立てるかするのかな?」

風「でしょうね、おそらくは」

風「そうそう、前の戦いと言えば、よ。メールの文面」

風「前回の作戦では、幾体もの星屑、バーテックスの回収に成功し、そこから莫大なエネルギーが採集された」

風「しかし残念ながら、得られたこの貴重なエネルギーを使わず貯蔵し、長期的に温存することはできない」

風「よって、超高速船の動力として、それは最大限に活用されることになる」


風「入手方法からして貴重なエネルギーを惜しげもなく費やす、此度の作戦の目的、
  それは、神樹様と敵方の神様を、こちら側が有利になる形で接続することである」

風「これは、我々人類にとって、最後の戦いになるであろう」

風「とかなんとか、いまだにところどころ相当説明不足な文章、
  一切悪びれることなくしれっと書いてあって、いい加減なんか腹立たない?」

樹「わかる」

風「無傷という最高の状態で臨める最終決戦、願ってもない機会」

風「量産型勇者が実戦投入された当初から、予想以上に計画から脱線なく事態が進行している」

風「……はぁ」

風「そういう情報、計画が端からきちんとあるなら、
  もっと前から説明寄越しといてくれてていいでしょ、って思うわ」

樹「まぁ、そこは大赦だからね……」

樹「最終決戦前に説明してくれただけ、前より良くなってる、って思わなくちゃ」

風「あーあ、まったく……私たちを、命令すれば動く道具だと思ってるんじゃないかしら? 上の人たちってさ」

【6 平静】

~☆

《朝 友奈の家 玄関前》



友奈「私が、バーテックスになった……?」

園子「うん、そうなんだ~」






大赦の人たち「「「…………」」」



友奈「私が、バーテックス?」

園子「うん~」

友奈「冗談、だよね?」

園子「ううん。残念ながら、冗談ではないんだよ~これが」

友奈「で、でも私……ちゃんと人間だよ……?」

園子「見た目と、多分、身体の中にある心は、そうだろうね~」

園子「少なくとも物理的な組成は、人間だった頃のゆーゆとまったく一緒だから、
    ちょっとやそっとじゃ区別はつかない」

園子「それでも、ゆーゆがバーテックスであることは揺るがない」

園子「伊達に二十回散華して、神様に近づいたわけじゃないというか、
    私、ちゃんと見比べたらわかっちゃうんだ~、そういうの」


園子「ゆーゆも、自分が知らない内にみんなが戦っていた、
    ってところまでは聞かされてるんだよね?」

園子「ゆーゆが勇者として戦えないのは、
   人間じゃなくて、完全なバーテックスになってしまっているから」

園子「私、最近数年ぶりにバーテックスと戦ってみて、強い違和感を覚えたんだ」

園子「そして昨日のお昼、その疑いが正しいのかどうか、確かめてきた」

園子「だから、私が言ってることは、嘘じゃないよ~」

友奈「……じゃあ、どうして私、そんなことになっちゃったの……?」

園子「んーとね~、これは大赦と私の推測だけど~」

園子「三年前、ゆーゆは戦いの最中、強引に満開して、
    バーテックスの御霊にイレギュラーな接触を行った」

園子「そのとき、ゆーゆの身体は一度、代償で完全にバラバラになっちゃった」

友奈「だけど、それでもゆーゆは、無理にでも私たちの元に戻ってこようとした」


園子「その意思の力が、バーテックスの力を上手いこと刺激して、
    ゆーゆがバーテックスとして再構成されるという結果をもたらした」

園子「けれどバーテックスの身体に慣れるまで、ゆーゆは目覚めることができず、意識をさまよわせて、
   起きたあともしばらくは、散華していた状態の心に身体の動かし方を浸透させる時間が必要となった」

園子「って成り行きじゃないかな~」

友奈「………………」

園子「ゆーゆにはこれから、大赦の管理のもとで、個室生活を送ってもらうことになる」

園子「私個人としては、こんな選択肢しかゆーゆに提示できないのが、本当に心苦しい」

園子「だけど、ゆーゆに自分がどうなっているのかの真実を誤魔化さずに伝えられて、
    かつ、大赦という組織による一番まともな処遇を考えると、これしかないだろう、って思うんだ~」

園子「大赦にも過激派はいる。私たち勇者部は、ゆーゆの本質が何も変わってないってわかってるけど、
    そう感じることができない人たちが大勢いるのも道理」

園子「確かなのは、今、ゆーゆが神樹様と接触すると、この世界は滅亡してしまうってこと」


園子「……私は、ゆーゆと、その家族、それに他のたくさんの人たちが、
   最終的に一番満足できる選択肢を提示してるつもりだよ~」

園子「私が二年以上籠の鳥だったときみたいなことには、絶対にならない」

園子「近々最終決戦がある。その戦いで私たちが勝利すれば、晴れてゆーゆは解放される」

園子「敵の干渉を受けて、うっかり神樹様に接触しようとする、なんて可能性が根本から断たれることになるから」

友奈「最終、決戦……」

園子「急にこんなことまくしたてられても困るよね~」

園子「自分の身体が変わった実感なんて、まるでないはずだもん~」

園子「けど、最近明らかにおかしなことはあったでしょ~?」

友奈「おかしなこと?」

園子「うん」

園子「――知らず知らず四国の壁を越える方へ、つまり、海岸にいた、海に入ってたって経験が、何度か」

~☆

《昼 友奈の個室》

ガラガラ

東郷「友奈ちゃん……」

友奈「東郷さん」

東郷「………………そこに座って、いい?」

友奈「うん、もちろん」

東郷「……」ストン


友奈 東郷「…………」


友奈「私ね」

東郷「うん」

友奈「戦いが始まってたんだってこと、昨日テレビのニュースで知ったの」

友奈「でも、お父さんとお母さんは、そのこと前から知ってたみたい」

東郷「うん」


友奈「お父さん昨日泣いてた。私、初めて見たよ、お父さんのあんな顔」

東郷「…………」

友奈「お父さんね、お前がもう戦わないで済むようだと大赦から知らされたとき、正直喜んでしまったんだ、だって」

友奈「たとえどんなに多くの人の役に立つことであろうと、
    そうしなければ自分たちや娘の未来までもが跡形もなく壊れてしまうのだとしても」

友奈「お前があんな目に遭うくらいなら、いっそ戦わないで欲しい、
    今まで言葉にできなかったけど、ずっとずっと戦わないで欲しかった」

東郷「…………」ポロポロ

友奈「…………ああ、ごめんね、この頃ちょっと疲れてるや」

友奈「なんで東郷さんにこんな話してるんだろう、私」

友奈「ごめんね、東郷さん。ごめん」ヨシヨシ

東郷「…………」ポロポロ

~☆

《夕方 個室》

ガラガラ

夏凜「入るわよー」

友奈「あっ、夏凜ちゃん」

友奈「それは、何?」

夏凜「これ? 私の手料理よ、小さいけどお弁当」

夏凜「友奈に食べてもらおうと思って」

友奈「私に?」

夏凜「ええ、このごろ機会を見ては、風に料理の基本を教わってたの」

夏凜「で、これ、自分一人で初めて作ったの」

夏凜「お願いだから嫌だとは言わないでよ」

夏凜「初めて作れた奴は、まず友奈に食べてもらおう、って前から決めてたんだから」

夏凜「友奈、食べること好きでしょ?」

友奈「うん、好き」


夏凜「園子から聞いたわよ、ろくなもん食べさせてもらえないんですって?」

夏凜「半分神様だった散華してた頃の園子様と比較した時、
    園子様より待遇が上だとみなしうるようなものを、バーテックスである友奈に日々与えることはできない」

夏凜「はぁ……。まったく、胸が悪くなる酷い話だわ」

友奈「ううん、そんなことないよ、夏凜ちゃん」

友奈「園ちゃん以上かはともかく、ちゃんと食べておいしいと思えるご飯、お昼に出てきたもん」

友奈「園ちゃんのときと比べたら、絶対破格の好条件」

友奈「まぁ、私は自由に身体が動かせるから、
   園ちゃんができるだけ待遇よくなるよう取り計らってくれたから、なんだけどね」

友奈「ほら、夏凜ちゃんの家でも見覚えのあるランニングマシーンとか、そういう運動器具がそこに置いてあってさ」

友奈「こっちには本だってある。ベッドで寝られる。落ち着いた部屋の雰囲気」

友奈「室内が普段監視されてるわけじゃないし、十分プライベートだよ」


友奈「私、知らなかったけど、ここに入るまでは、
   最近四六時中大赦の人間に挙動を見張られてたんだって」

友奈「家にいるかどうか、出かけるとしたら、どこに行くのか、精神面に何か問題を抱えていないか」

友奈「ここならそういう目で見られなくて済むみたい。外に出ない限りは」

夏凜「……ふーん、ならよかった」

夏凜「今日持ってきた私のお弁当に、話を戻しましょう」

夏凜「神官に、このお弁当のぶんだけ夕食の量減らしてくれるよう頼んでおいたから、
    晩御飯どうしようなんて考えず、安心して食べてくれて大丈夫よ」

夏凜「食べて……くれる?」

友奈「うん、もちろん」

夏凜「よかった」

夏凜「じゃあ、はい」スッ

友奈「うん」


友奈「開けるね?」

夏凜「どうぞ」

パカッ

友奈「いただきまーす」

友奈「……」モグモグ

夏凜「どう?」

友奈「おいしいよ、凄く」ニコッ

夏凜「そっ、よかった」ホッ

友奈「……ねえ、夏凜ちゃん」

夏凜「なに?」

友奈「みんなのことを、よろしくね」

夏凜「ええ。任せなさい」


友奈「でも、無理はしすぎないでね」

夏凜「それを、よりにもよって、無理しがちな友奈に言われたくはないわよ」

友奈「私も無理しちゃいがちだからこそ、だよ」

夏凜「……ふふ、私と友奈、というよりも勇者部のみんなって、そういうところあるわよね」

夏凜「みんな無理しがち」

友奈「勇者だからね」

夏凜「そうね、勇者だから」

夏凜「……心配しなくても、前、連続で満開したときみたいなことは、やりたくてももうできないわよ」

友奈「まあ、そっか」

夏凜「大丈夫。大船に乗ったつもりで待ってなさい、友奈」

夏凜「しっかり朗報引っ提げて、帰ってきてあげるから」

これで六話終了なのでここまで 文字数的に見ても大体半分の区切り

the 硬苦しい説明回連続で、読んでる人のこと考えるとうーんと思うけど
映像や音の表現にも、地の文にも頼らないとこうならざるを得ない面が…

【7 王者の風格】

~☆

《朝 墓地》

東郷「…………」

園子「…………」

園子「ミノさん」

園子「最後の戦い、私頑張るから~」

園子「だから、私に勇気を頂戴~」

東郷「…………」

東郷(行ってきます、銀)

~☆

《四国の外 神樹船の甲板》

風「いやぁ……」

風「壮観な眺めだねぇ」

風「これ、何体いるわけ?」





バーテックスs「…………」ズラズラ




夏凜「七十六体、数えたわ」

風「…………」

風「七十六体」

風「はぁ……、この量は、ちょっと気が重いわね」

風「四国の周りにいたのが十二体だから、その約六倍でしょ?」

夏凜「なせば大抵なんとかなる、よ」

夏凜「どのみち私たちはやらなきゃいけないんだし、滅入っててもしょうがないわ」

夏凜「為せば成る、為さねば成らぬ何事も」

夏凜「上杉鷹山公もそう言ってるじゃない」

風「……あー、奇しくもそれ、勇者部五箇条の文言の元になったヤツだわ、確か」

夏凜「へー、そうなんだ」


樹「でも、どうしてこんなにいっぱいいるんだろう……?」

樹「この戦力があるなら、敵からしてみれば、
  最初から全部ぶつけてきたら良かったんじゃないかな?」

樹「何もこんな遠いところで待機させておかなくとも」

園子「きっと、奴らにとって侵攻に適した時期が来るまで、
    私たちや神樹様に戦力の存在、切り札を悟られたくなかったんじゃないかな~?」

樹「と、いいますと?」

園子「今までだって、四国に入って来たバーテックスは十二体同時だったわけじゃないでしょ~?」

園子「防衛されたら、次はその防衛を潜り抜けられるように、
    って試行錯誤はしてたみたいだけど~」

園子「神樹様の結界内に、本格的に大戦力を投入できるような方法を確立してから、
    全軍一度に投入するつもりだったと考えれば、
    ここにこんなたくさんのバーテックスがいることの辻褄があうよ~」

園子「相手に存在をまったく知られていなければ、その対策を講じられることは普通ないからね~」

樹「なるほど」


東郷「…………」

夏凜「東郷、大丈夫? 緊張してる?」

夏凜「私たちの目的は、あいつらを殲滅することじゃなくて、
    神薙を持った巫女としてのあんたを、敵の中枢まで送り届けること」

夏凜「けど、だからって、東郷が一人で緊張背負う必要ないのよ」

東郷「ううん、大丈夫」

東郷「私、これからの戦いに、緊張してるわけじゃないから」

東郷「…………」

東郷(私は、友奈ちゃんがこれ以上無茶をする羽目になるくらいなら、
    私たちが代わりに戦うから、もう戦わないで欲しいって思ってた)

東郷(だけど、こうして実際に危ない橋を渡る局面になると、
    隣に友奈ちゃんがいないのが、とても心細い)

東郷(一緒にいて欲しかった、って思っちゃう)

東郷(弱いな、私)

~☆

《天石戸 前 勇者対バーテックス最前線》



夏凜「うらあああああああああ!」

御霊「」パリーン!

夏凜「…………はぁ、はぁ」



夏凜(これで、一匹)

夏凜(他の戦況含めても、残り七十体ってところかしら?)

夏凜(不甲斐ない話ね)

夏凜(連続で満開したときは、一人であっという間に五体を屠ったって言うのに)

夏凜(満開なしじゃ、致し方ないかもだけど)




夏凜「あああああああああ!」ダッ

バーテックス○「……」ガキィン!

夏凜「くっ!」



夏凜(にしたってこいつら、連携とれすぎでしょ!)

夏凜(客観的に見て、四国の周りにいたバーテックスより、一体一体強いんじゃないかしら? こいつら)

夏凜(満開の基礎ステータスアップ引継ぎがあるから、私はまだ戦えるけど)

夏凜(後輩たちは、この連携と能力差じゃ、まともに相手するのは厳しすぎる)

夏凜(そもそも勇者システム自体が、攻撃力に優れていても、防御力は低い、そういうのが多いって言うのに) 


バーテックス△「……」ブンッ!

夏凜「つァっ!」ガキィン!

バーテックス□「……」ドンッ!

夏凜「こんのぉっ!」ガァン!



夏凜(ダメ……)

夏凜(こっちのグループが、徐々にだけど分断されて行ってる)

夏凜(東郷も、全然前に進めてない)

夏凜(このままだと、各個撃破されて、それでお終いだ)

夏凜(どうにかしないと私たち、何もできないまま全滅しちゃう……っ!)




夏凜『大丈夫。大船に乗ったつもりで待ってなさい、友奈』

夏凜『しっかり朗報引っ提げて、帰ってきてあげるから』




バーテックス×「……」キュィィィィィン!




夏凜「……へぇ、私と同じ、双剣使いってわけ」

夏凜「やって、やろうじゃないのよぉっ!」ダッ

~☆

《夜 四国内部 壁際 海中》



友奈「――――」





友奈「…………っ」

友奈(ここ、海の中だ)




夏凜『――何も――でき――全――ちゃう』




友奈「…………」

友奈(みんなのところに、行かなきゃ)

友奈(勇者だったときみたいに、身体中に力がみなぎってる)

友奈(だから、今なら行ける)

~☆

《壁の外 注連縄の内 神樹様の制御下区画》



乙女座バーテックス「…………」

星屑s「…………」



友奈「あなたたちが、私を連れて行ってくれるんだね」



乙女座バーテックス「…………」

星屑s「…………」



友奈「私はみんなのところに行きたい」

友奈「みんなを助けなきゃ」

友奈「だから、連れて行って」

友奈「言うことを聞いて」

友奈「私も、あなたたちと同じ、バーテックスなんでしょ?」



星屑s「……」ユラァ


星屑「……」ガブッ


友奈「…………っ!」


星屑s「……」ワラワラ


グジュ ブチッ グジュッ グチャッ



友奈「…………」ボキッ ゴキッ



友奈(……すごく不思議な感じ)

友奈(どこを食べられても、全然痛くないや)

【8 決してあなたを見捨てない】

~☆

《天石戸付近 最前線》



ポータルバーテックス「……」ベキッ バキッ ゴキッ

?「…………」



夏凜「っ!?」

夏凜(なに、あれ)

夏凜(バーテックスの中から、新しいバーテックス……?)

夏凜(って、今それどころじゃないわよ、こっちは!)



バーテックス○「……」ビュンッ!

バーテックス△「……」ブンッ!

バーテックス□「……」ドンッ!


夏凜「……っ」キィン! キィン!

バーテックス×「……」ダッ



夏凜「!」

夏凜(しまったっ!)

夏凜(畜生! 避けきれな――)


ダッ

?「……」ガキィン!

バーテックス×「……」グググ


夏凜「!?」

夏凜(バーテックスが、私を守った?)

夏凜「……」ハッ

夏凜(とりあえず、距離をとらなきゃ)

バッ


バーッテクス○△□×「…………」

?「…………」




夏凜「…………」

夏凜(もしかして、あのバーテックスは――)



東郷「夏凜ちゃんっ!」ダッ

夏凜「東郷!」

東郷「何ぼさっとしているのっ!」チャキッ

夏凜「待ってっ!」バッ

東郷「どいて、夏凜ちゃん! いったいどうしたって言うの?!」

夏凜「あの二足歩行してる巨人みたい奴、もしかすると友奈かもしれないのよ!」

東郷「っ!?」



ユウナバーテックス「……」バゴォン!

バーテックス○「……」グシャッ

ユウナバーテックス「……」バゴォン!

バーテックス○「……」グシャッ

ユウナバーテックス「……」バゴォン!

バーテックス○「……」グシャッ



バーッテクス△□×「…………」


夏凜「ほら、あのバーテックス、他のバーテックスを攻撃してる」

夏凜「それに、見て」

夏凜「あいつら二体が同士討ちを始めてから、他のバーテックスたちの様子がおかしいわ」

夏凜「どいつもこいつも攻撃に精彩を欠いているし、
    いえ、それどころか勇者への攻撃を、たくさんの奴が中止し始めちゃってる始末」


東郷「確かに、そうね」

東郷「でも、どうしてバーテックスは、あのバーテックスに殴られ続けるだけで、
    何も反撃しないのかしら?」

東郷「周りにいるのも、割って入って止めようと全然しないし……」

園子「……」タンッ

東郷「そのっち、来たのね」

園子「うん。混乱のおかげで隙ができたからね~」

園子「二人が今してた話だけど、味方であるバーテックスに対する攻撃が、
    バーテックスには禁止されてるんじゃないかな~?」

園子「だから、その根底を覆す個体が仲間内に現れて、どうしようもなく混乱しちゃってる~」

東郷「ねえ、そのっち」

東郷「夏凜ちゃんが言うには、あのバーテックスに跨って拳を振っているのが、
    友奈ちゃんかもしれないって……」

園子「うん。あれはゆーゆだよ、間違いなく」


東郷「…………」

東郷「それが本当なら、どうして友奈ちゃんはここまで来られたの?」

東郷「友奈ちゃんは、私たちみたいに船で来ることなんてできなかったはず」

園子「ん~、そうだね~」

園子「私たちも、ここ二戦、四国の中で戦い終わって樹海化が解除されたら、
    いつも元いた場所に転送してもらってたでしょ~?」

園子「あれは、神樹様の力が及んでる場所なら、理論上はどこにでも転送できる」

園子「それと同じことが、友奈ちゃんの意思によって、
    バーテックス側で行われたんじゃないかな~」

園子「この星の神樹様による防御結界内以外の場所は、
    すべてバーテックスとそれを傘下に置く神様たちの支配下だからね~」

東郷「なるほど……」


夏凜「細かい話はどうでもいいけど、要するに現状ってこういうことでしょ」

夏凜「相手は友奈を攻撃できない、だけど友奈は相手を攻撃し放題」

夏凜「これなら、このまま行ければ勝てるわ、私たち」

夏凜「東郷を敵の中枢部まで送れる」

夏凜「バーテックスが七十体とか、そんなのもう関係ない」

園子「……そう、上手くいくといいんだけど~」



天石戸「」ピカァァァァァ!



勇者s「っ!」



夏凜「言ってる傍から、敵の中枢らしき岩が、なんか光り始めたわね」

園子「……敵の動きが、完全に止まった?」

東郷「ッ!」

東郷「友奈ちゃんっ!」



ユウナバーテックス「……」ドロドロ


夏凜「と、溶けてる……」

園子「他のバーテックスたちも、溶けるスピードに差はあるけど、溶け始めてるよ~」

東郷「でもこれじゃ、どう見たって、友奈ちゃんが溶けきるのが圧倒的に速いわ!」

夏凜「わ、私たち、どうしたら……」



風「おーい、みんな~!」タンッ

風「一度撤退しろと言う命令が、大赦から来たわ!」

風「これから七十体ほどのバーテックスの包囲網を掻い潜り、
   あの敵の中枢まで神薙を持った東郷を送ることは、現実問題不可能」

風「作戦の立て直しだって」

風「樹が、後輩たちをまとめて乗船させてる」

風「だからみんなも急いで!」


東郷「待ってっ!」

東郷「あそこにまだ友奈ちゃんがっ!」

風「はぁ!? 友奈ァ?」

夏凜「あの、ドロドロに溶け始めて、苦しんでるバーテックスが、友奈なのよ!」

風「……嘘でしょ?」

園子「それが本当なんです、部長~」

風「えっと、あんたたち、本気で言ってるわけ……?」

園子「はい~」




風「…………」



風「だったら何ボケっと突っ立ってるのっ!」

風「あそこにいるの、友奈なんでしょ?」

風「無理やり引き摺ってでも、連れて帰るわよっ!」ダッ!

夏凜「あっ! 風!」ダッ




東郷「…………」ガタガタ

東郷(あのサイズのものを引き摺って帰る?)

東郷(そんなの無理よ)

東郷(樹ちゃんのワイヤーを使っても、重量や体長が、明らかに引っ張れる規模じゃない)

東郷(それに、たとえ樹ちゃんや後輩たちの力も借りて引っ張れたとしても、船の積載量を超えるわ)

東郷(連れて帰ることはできない)

東郷(でも、だけど――)


園子「みもりんっ!」

東郷「!」

園子「なせば大抵なんとかなる、だよ~!」

東郷「あ……」

園子「私先に行って、ゆーゆのこと引っ張ってるね~」ダッ


東郷「…………」

ダッ

東郷(そうだよ)

東郷(諦めたらダメだ)

東郷(友奈ちゃんはあのとき、根性で私たちの元に帰ってきてくれた)

東郷(ちゃんとそれを知ってるのに、今できることを何も試してないのに、あっさり諦めちゃダメだ)



東郷(そんなの、勇者じゃない!)


風「おっ、やっと来たわね、遅いわよ!」

東郷「すいません!」

園子「みもりん、そっちを持って~」

東郷「うん!」ガシッ

東郷「……?」

東郷(あれ? なんだろう、この感じ)

東郷(何かが私の頭の中に、流れ込んでくるような……)

東郷「…………」グイグイ

園子「みもりん?」グイグイ

東郷(まさか、これって――)

~☆

東郷の脳裏には青い空が無限に広がっていた。

現実世界とは隔絶された、彼女の意識の内に構築された虚構。

東郷は背後に、神樹様の気配を感じた。

一方、前方には、醒めるような空の下、友奈が見える。

友奈は苦しげな表情で目をつむり、空以外何もない空間で、ひたすらじっと佇んでいた。

「友奈ちゃん!」

東郷が友奈の元に向かって駆け出した。

左手には神薙を持っていて、そちらの手は友奈へと差し伸べることができない。

右手を差し出した。友奈の腕を掴む。そして、引き寄せる。

思い切り抱きしめる。

「……東郷、さん?」

~☆

《天石戸付近 最前線》

ユウナバーテックス「……」ボトッ

ドサッ

夏凜「っ!」

夏凜「なんか身体の中から出て来たわよ!」

夏凜「風! 何が出てきたっ!?」

風「友奈!」

風「友奈が出て来たわ!」

夏凜「なんですって!?」

風(出てきたと言っても、ほとんど透明で色がない状態だけどね)

東郷「……」ドサッ

風「と、東郷!?」

園子「とりあえず!」

園子「ゆーゆが帰って来たんだから、命令通りここは引こう~!」

園子「ゆーゆがバーテックスからこぼれてきたのと同時に、岩の輝きも止まった」

園子「私の予想が当たってるなら、またバーテックスが勢いを盛り返して、私たちを襲ってくるはずだよ~」


風「わかったわ!」

風「私が、前に立ち塞がった奴らを切り捨てる!」

風「だから夏凜と園子は、それぞれ一人ずつ背負って、急いで追って来て!」ダッ

夏凜「私は友奈を背負うわ」

園子「じゃあ、私はみもりんだね~」

グイッ


夏凜「…………」

ユウナバーテックス「……」ドロドロ


夏凜(まだ溶けてる)

夏凜(あとちょっとで、形を完全に保てなくなるんだろうな)

園子「にぼっしー、急いで~!」

夏凜「!」

夏凜「ごめん! 今行く!」ダッ

~☆

《友奈の個室》

友奈「………あ………あ」

友奈(ここは……?)

友奈(私に用意された部屋だ)ガバッ

友奈「…………」

友奈(腕が、白い)

友奈「……」

友奈(鏡、姿見……ベッドの近く……)

姿見「――」

友奈「……」

友奈(薄い灰色の目、真っ白の髪の毛と肌)

友奈(すごいや)

友奈(バーテックスというか、ちょうど星屑の全身が大体白色だし、
    いよいよ私、バーテックスの成りそこないみたいだ)

【9 あなたは偽れない】

~☆

《大赦 施設内》

園子「大赦は、量産型勇者たちに、バーテックス由来の力を与えている」

園子「違いますか~?」

春信「……その通りです、園子様」

春信「仕方がなかったのです」

春信「精霊の加護はない、満開もない」

春信「そんな中で勇者たちの損耗を最小限に抑え、運用していくためにあたって、
    バーテックスの回復力、痛みを感じないという性質は、最高のプラス要素だった」

春信「ほんの少しですが、バーテックスの屑を植えつけて、定着させ、
    勇者変身時にその力を引き出して戦ってもらう」

春信「約三年前、結城様がもたらしてくれた、新たな可能性」

春信「神樹様によるバーテックスとその力への干渉」

春信「一人でも多く生きて帰ってこれるようにする、作戦の成功確率を高める」

春信「そのために我々は、我々にできるだけのことをしなければならない」


春信「……もっとも、バーテックスの屑、
   神樹様の種と似た性質のものを勇者たちに埋め込んだのは、あくまでも神樹様なので」

春信「厳密に言うと、この件に関して私たちが何かを直接行っているわけではありませんがね」

春信「代わりのパワーアップをお願いします、とお願いしたのが、一応当てはまるでしょうか」

園子「…………」

園子「今の私には、量産型勇者の秘密について、今更大赦を責める気も、それを無理に公表する気もありません」

園子「私たちのとき、満開の場合と違って、大なり小なりバーテックスになったからといって、
    それで何か目に見える実害があるわけじゃない」

園子「知らなければ、知らないままでなんともない」

園子「何より、勝つために必要だったということは、ギリギリ理解できます」

園子「ただ、私がいま訊きたいのは、こういうことです」

園子「バーテックスの力を神樹様が制御できる」

園子「変身した勇者がその力を少しではあるが使用できる」

園子「となれば、今のゆーゆなら、勇者に変身できるんじゃないか、と」


春信「ええ、できるはずです」

春信「先の戦い、無意識であるにせよ、
    東郷様が、神樹様と結城様の接続を新たにしてくださいました」

春信「結城様は晴れて、敵から操作を受ける可能性から一歩お離れになった」

春信「語弊を恐れずわかりやすく言えば、今の結城様は、
    壁の外で我々のため働いているバーテックスたちと、神樹様にとっては条件がほぼ同じということです」

春信「これは公式回答ではありませんが、検査の結果、問題がないとわかれば、
    最終決戦の仕切り直し、今度は結城様にも勇者として参加していただくつもりで大赦はいる」

春信「と考えていただいて、結構だと思います」

~☆

《朝 風の家》

風「……ごほ……ごほ」

風「…………あ゛ぁ゛-」

樹「お姉ちゃん、そんな体調なんだから、寝てなきゃダメだよ」

風「でも、樹の朝ごはんが……」

樹「パンくらいなら、私焼けるから」

樹「今日は学校お休みして、一日しっかり身体を休めて」

樹「最終決戦二回目、近いんだよ」

風「……ふふっ、そうね」

風「そうさせてもらうわ」ゴロン

樹「朝、バナナ食べる?」

風「うん」

樹「帰ってきたら、簡単なおかゆ私が作るね」

風「樹……が……?」


樹「もう」

樹「私だって、ネットで調べながら作ったら大丈夫だよー」

樹「私、高校生なんだから」

風「……それもそうね」

樹「自分で食べるパンだってホントに焼けるもん」

樹「お姉ちゃん、朝バナナじゃなくてパンにする?」

風「ううん、バナナがいい。食べるの楽だし」

樹「そっか」

風 樹「…………」

樹「お姉ちゃん」

風「ん」

樹「これ以上無理し過ぎないでね」

風「無理なんか――」

樹「してるよ」


樹「戦いのとき、後輩たちがなるべく戦いやすくなるように、
  その前に立って、一際激しい攻撃に曝されて」

風「……夏凜や園子だって、前には出るじゃないの」

樹「お姉ちゃんのは、そういうのとまた違うでしょ」

樹「誰かが攻撃を受けそうになったらそれを防御、
  誰かが攻撃に詰まったらそれを援護」

樹「自分のペースとか全く考えずに、戦いの間、後輩たちのことばっかり考えてる」

樹「しかも、ここ最近いっつも身体の調子よくないの、必死にかばって、かばって、それで……」

風「樹……」

風「なーんだ、ばれちゃってたのね」

樹「当たり前だよ」

樹「何年一緒にいると思ってるの」


風「…………そっか」

風「隠そうとしてたから、余計に心配かけちゃってたんだね、ごめん」

樹「…………」

風「でも、樹のこれ以上無理するな、には従えないと思う」

風「樹も、さっき言ってたけど、最終決戦二回目が近いからさ」

風「次無茶しなかったら、今後の人生どこで無茶するのって話だよ」

風「ゴールはすぐそこだってわかってる。だったら、無茶するしかないでしょ、今は」

風「私や、樹、勇者部は先輩だからね」

風「ドン、と後輩たちに背中で示しとかないと、これが勇者ってもんだぞ、って」

樹「……それは、そうかもだけど」

樹「せめて、私が守れる近く、私が守ってもらえる近くに、いて欲しいよ」

風「あー、樹は攻撃を受けながら進むゴリゴリの近接戦闘型とは、またちょっと違うからね」


風「どうしても私とは戦う場所はずれちゃうよね」

風「……うーん、そこら辺は、戦ってる私の後ろをどうにか追っかけてきてもらうしかないかな」

樹「そんなこと言われても」

風「大丈夫大丈夫。なせば大抵なんとかなる、よ」

風「……はぁ、しっかし喋ってたら、急に疲れてきたわ」

風「しばらく静かにしてていい?」

樹「あっ! た、体調悪いのに長々話しちゃってゴメン」

風「大丈夫」

風「テーブルの上にバナナ置いといて。今からちょっと寝るから」

~☆

《夕暮れ時 海岸》

夏凜「…………」ブンッ! ブンッ! ブンッ!

夏凜(次は、負けない)

夏凜(あの双剣使いのバーテックスも、他の奴らも、全部全部、刀の錆にしてやる)

夏凜「…………」ドサッ

夏凜「……ふぅ」

夏凜(前回の戦い、やれるやれるって自分を鼓舞したけど、流石に地力不足だった)

夏凜(でも、次回は違う)



夏凜「…………」





夏凜「……はぁ」

夏凜「また、私たちが、満開の力に頼らざるを得なくなるなんてね」

~☆

《勇者の部隊を預かる隊長クラス及び勇者部 一堂に会する》

風「えー、このたび最終決戦に参加してもらうことになりました、結城友奈さんです」

風「はい、拍手ぅー!」パチパチ


パチパチ パチパチ


友奈「どもども、結城友奈です」ペコペコ





風「それで、ですね」

風「最終決戦で、私たち勇者部に限り、満開が実装されることになったわけですが――」

今日はここまで

最後の投下は明日の朝ということで

【10 協力を得られる】

~☆

《夜 外》

後輩A「あの、友奈先輩」

友奈「なに?」

後輩A「ちょっとお話いいですか?」

友奈「うん、いいよ。どうしたの?」

後輩A「えっと、私、悩んでることがあって……」

友奈「あって?」

後輩A「どうしたら、先輩たちみたいに、そんなどっしりと構えていられるんですか?」

友奈「え?」

後輩A「その、先輩たちって、これからすごく大変な戦いが始まるはずなのに、
     どこか落ち着いてると言うか自然体じゃないですか」


後輩A「私ここ数日、全然眠れないんです。食欲もなくて」

後輩A「先の戦いで、七十体以上のバーテックスを見てしまった、それと直接戦ってしまった」

後輩A「自分がまたあれと戦って、勝負になるビジョンが浮かんでこない」

後輩A「それが、勇者として情けなくて……」

後輩A「最初は、みなさんが単純に強いから、こんなにも差があるのかな、と思ったんですけど」

後輩A「それ以上に、心構えの差があるんだろうな、って気付いた」

後輩A「だから、その境地に辿りつくためのコツを、何かしら教えていただけたら……って」

友奈「……境地」

友奈「うーん」

友奈「みんなはどうかわかんないけど、少なくとも私は、そんな難しいこと特に考えてないからなー」


友奈「うん」

友奈「挨拶はきちんと」

友奈「なるべく諦めない」

友奈「よく寝て、よく食べる」

友奈「悩んだら相談!」

友奈「なせば大抵なんとかなる」

友奈「この五つが、勇者部五箇条」

後輩A「そ、そうなんですか……」

後輩A 友奈「…………」

友奈「私、正直言うと、七十体以上のバーテックスとみんなで戦ったときの記憶、あやふやなんだよね」

友奈「あのときは、バーテックスの中で自分の意思を維持しようとするだけで、精いっぱいだったから」

後輩A「……あ」

友奈「だけど、今、自分がこれから何ができるのか、
    ってことについては、しっかりわかってるつもり」


友奈「みんなで戦う。根性で勝つ。それで、すべて決着する……はず」

友奈「実際大赦は、最終決戦が終わったら、満開の後遺症は前のときみたいに回復する」

友奈「って言ってる」

友奈「ただ、もし仮にそれが嘘だったら?」

友奈「私だって、怖いよ」

友奈「満開したら、また散華する。身に染みてわかってる」

友奈「そして、次の戦いで、もし終わらなかったら? って考えることもある」

友奈「勝てる保証、ビジョンなんてものも全然浮かんでこない」

友奈「それでも、私ができることは、根性出し惜しみせずに戦うことだとわかってる」

友奈「だから、私はやるんだ。自分ができることを」

友奈「私だって、悩みが表だって出てきてないだけで、あなたとそんなに変わんないよ」

友奈「不眠や食欲不足に今のところ悩まされてないのは、ありがたいけど」


後輩A「……」

後輩A「ううん、やっぱり友奈先輩は、私とは違う」

後輩A 「先輩は、本当に強い人です」

友奈「そうかな?」

後輩A「はい」

後輩A「でも、そんな強い先輩にこうして自分の悩みを聞いてもらって、
     そして、先輩も似たような悩みを内心抱えてるんだと知ったら、なんかちょっと元気が出ました」

後輩A「私一人としてじゃなくて、勇者として、みんなと一緒になら、
     最終決戦の一回くらいは頑張れるような気がちょっぴり」

後輩A「なんて言ったって、そのために私たち、頑張って日々訓練してきたんですから」

友奈「そうそう、その意気だよ」

後輩A「なせば大抵なんとかなる、ですよね?」

友奈「うん」

友奈「あと、悩んだら相談、だよ」

~☆

《東郷の家》

園子「今回の作戦は、神薙を持った巫女であるみもりんと、勇者ゆーゆが要」

園子「二人を敵の中枢、私たちが前回目撃したあの巨岩の奥へと行かせることが目的」

園子「しかるべき地点に到達したら、ゆーゆが、敵の神様とみもりんを直結する霊的経路を確保して、
    みもりんが神樹様と敵の神様を、こちらが有利なようにやり取りさせる」

園子「前回の戦いの果てに、完全に予想外の成り行きだけど、ゆーゆがまた勇者になれるようになった」

園子「つまり、神樹様と親密なラインを築けるようになった」

園子「だからこういう作戦がとれるようになった」

園子「って大赦の人は言ってたよ~」

東郷「……先の戦いがなかったら?」

園子「みもりんが自分で霊的経路を確保して、
   なおかつ神樹様と敵の神様を、こちらが有利なようにやり取りさせる」

園子「ようは、今回の作戦でみもりんが担当する作業の二倍をこなすことになってたね~」

東郷「つまり、二人で分担してやれば、作戦が成功する公算をもっと高められるってことね」

園子「そういうことだよ~」


東郷「……ねえ、そのっち」

園子「うん~?」

東郷「覚えてる?」

東郷「私が鷲尾だった頃、二人で神樹様に直に触らせてもらったときのこと」

園子「当然だよ~」

園子「あのときのことが発端となって、今回みもりんは神樹様の巫女に選ばれたんだし~」

東郷「あのときは、何が何やらわからない内に何かが終わってしまった記憶があるのだけど、
    私、作戦のために神樹様とお話する練習とかしなくていいのかしら?」

東郷「経験不足だったりしない?」

園子「それは、大丈夫みたい~」

園子「やり取りするのは、こちらの神様とあちらの神様であって、
    あくまでもみもりんはその対決の場を設けるだけだからね~」

園子「人間と神様がお話するときとは状況が全然違うから、
    たとえ今神樹様との対話を練習しても本番では全然参考にできないんだって~」


東郷「そっか」

東郷「でも、やっぱり不安だわ」

東郷「ぶっつけ本番でやらなきゃいけないというのは」

園子「みもりんならきっとやれるよ~」

園子「なせば大抵なんとかなる~!」

東郷「……ふふっ、そうね」クスッ

東郷「なせば大抵なんとかなる、わね」

~☆

《昼 風の家》

樹「わ~、おいしい~!」

夏凜「ふっふっふ、どうよ……」

夏凜「これが私の実力ってやつよ!」

風「……」モグモク

風「うん」

風「ようやく夏凜、一人で料理させても安心って感じになって来たわね」

夏凜「ふっ、ふっ、ふっ」

夏凜「……で、そう言えば、あんたの体調って今どうなの?」

夏凜「ご飯まともに食べられてるみたいだし、良くなったってこと?」

風「ん? そうね。昨日の日中寝て、帰ってから夜またぐっすり寝たらよくなったわ」

風「昨日の夜、勇者たちに友奈を紹介してる時点で、そこまで体調悪くなさそうだったでしょ」

夏凜「まあね」

~☆

夏凜「樹は?」

風「寝たわ」

夏凜「そっ」

夏凜「……風」

風「なに?」

夏凜「最終決戦が終わったら、あんた何がしたい?」

風「終わったら? うーん、そうね」

風「うどんをお腹いっぱい食べる、とか?」

風「いっつも暇さえあればやってることだけどさ」

風「夏凜は、何したい?」

夏凜「……最近凄く思うの」

風「うん」

夏凜「はやく、中学の頃みたいに、ちゃんとまた勇者部の活動をしたいな、って」


風「……」

夏凜「保育園で劇やったり、商店街のお掃除したり、部活の手伝いしたり、
    犬猫の新しい飼い主探したり……」

夏凜「高校生になってからはほとんど、その時間を勇者としての鍛錬と指導にあててる」

夏凜「この戦いが終わったら、遊んだり、食べたりもいいけど、
    私はまず、勇者部の活動がしたい」

風「そうね」

風「言われてみれば、私もうどんより、そっちが先の方がいいかも」

夏凜「だったら、風」

風「ん」

夏凜「私たちみんなで生きて帰るわよ」

夏凜「誰が欠けてもダメなんだから」


風「ふふっ、なーに当たり前のこと言ってんの」

夏凜「心配してんのよ、部長があまりにも無茶しすぎないかって」

風「三年前、友奈を除けば、ぶっちぎりで無茶した前歴あるの夏凜じゃない」

夏凜「まあね」

夏凜「ただ、一応言っとくわ」

夏凜「いくら勇者として不調だからって、それを無茶で埋め過ぎようとしないでね」

風「うん」

風「肝に銘じておくわ」

【11 私を信じて】

~☆

《天石戸 バーテックスの群れを臨む船上》

風「なんというか、帰って来たわね……」

樹「やっぱり、怖いよ」

東郷「総数は八十八」

東郷「四国の周囲にいたバーテックスが補充されて、そのぶん増えてますね」

東郷「星屑も、溢れてる」

東郷「私たちが倒した奴ら、あのとき友奈ちゃんと一緒に溶けていた奴らが、
    もうちょっとその影響を残してくれていたら良かったんですが」

風「まあ、敵さんにも準備時間はしっかりあったわけだし、想定の範囲内よ、これくらいなら」

夏凜「どうせ殲滅すれば七十も九十も一緒でしょ」

夏凜「リベンジは、完全無欠に決めていきましょう!」



乙女座バーテックス「……」



友奈「…………」

友奈(なんだか複雑な気分だな)

友奈(あの子が、私の身体になってくれてたんだと思うと)


園子「それじゃあ、せっかくゆーゆも加わったことだし、
    戦闘前の景気づけに真勇者部として円陣を組もう~」




風「……」

風「勇者部ファイトォ!」



一同「「「「「「 オオオオオォ! 」」」」」」



夏凜「さーて、まずは私から、ね」

夏凜「東郷と友奈はしっかり休んどきなさいよ」

ピカァァァァァ!

夏凜<満開>「私たちが、あんたらの征く道を斬り開くんだからっ!」ダッ




バーテックス○「……」

夏凜<満開>「うらぁああああああああっ!」ザンッ!

夏凜<満開>「まず、一体っ!」



バーテックス△「……」

夏凜<満開>「っ!」ザンッ!

バーッテクス△「……」ガキィン!

夏凜<満開>「このぉっ!」ザンッ!

夏凜<満開>「二体っ!」




バーッテクス□「……」

夏凜<満開>「三体目!」ザンッ!


バーテックス×「……」バッ

夏凜<満開>「!」

夏凜<満開>(しまっ――)




風<満開>「らああああああ!」ガキィン!

バーテックス×「……」バッ



夏凜<満開>「!」

夏凜<満開>「風、助かったわ!」

風<満開>「友奈と東郷はちゃんと行かせたわよ」

風<満開>「あとはこいつらを、全てが終わるまでの間、
        ずっとここに惹きつけておくのがあたしたちの仕事。わかってるわよね?」

夏凜<満開>「もちろん」

風<満開>「じゃあさっそく、勇者部剣で戦うタッグ結成と、行きましょうか!」

~☆

<天石戸 岩壁>

友奈<満開>「勇者ァ!」

友奈<満開>「パアアアアァァァンチ!」ドガァン!

友奈<満開>「東郷さん、岩に穴開けたよ! 急いで!」

東郷<満開>「うん!」


ビュゥゥゥゥン



友奈 東郷「…………」


友奈<満開>「目的地に着くまで、敵にまったく会わずってわけにはいかないよね」

東郷<満開>「そうだね」

友奈<満開>「満開には時間制限もある」

友奈<満開>「このまま散華なしで最後まで、は無理そうかな、いくらなんでも」

東郷<満開>「…………」

友奈<満開>「東郷さん」

友奈<満開>「二人で一緒に、帰ろうね」

東郷<満開>「……うん」

~☆

《天石戸 前》

夏凜「ねえ、様子がおかしいわっ!」

園子「!」

園子「バーテックスたちを、互いにそれぞれ近づけさせないでっ!」

風<満開>「っ!」ガキィン

風<満開>「無理よ!」

風<満開>「何体かは足止めできても、こんだけ数がいたら足止めしきれない!」


ワラワラ ワラワラ


勇者一同「っ!」



バーテックス○<合体>「…………」

バーテックス△<合体>「…………」

バーテックス□<合体>「…………」


夏凜「……参ったわね、倒した奴らが超スピードであの岩から復活するだけならまだしも、
    その上合体までやられるとなると……抑えきれるかしら?」

風<満開>「弱気になるんじゃないわよ、夏凜」

風<満開>「さっきだいぶ数減らしてたのもあって、これで総数十一体になったじゃない」

風<満開>「御霊を壊さなきゃいけないってことはない」

風<満開>「数が減って、狙いを絞り持久戦に持ち込みやすくなった、と考えればいいわ」

夏凜「そう言うあんたが、率先してみんなの盾になってるせいで、
    今のところ一番満開の回数――」

園子「敵さん、攻撃してくるみたいだよ~」

風 夏凜「!」

~☆

後輩「風先輩!」

風「っ!」

風(まずい、腕をやられた)

風(散華で目、耳、鼻、軒並み全滅)

風(いくら勇者システムのサポートがあるからって、これじゃ……)

風(ああ、ダメだ……意識が……)

風「…………」ドサッ

夏凜「風っ!」

樹「……お姉ちゃん!」

園子「風先輩を、船上まで下がらせて」

園子「起きたとき、戦線復帰しようとしないように、
    あと、バーテックスの攻撃から守るために、数人護衛に割いて」

後輩「は、はい」ダッ


樹「お姉ちゃん……」

園子「……」

園子「二人は、後輩たちと一緒に、右の七体を相手してほしいな~」

園子「私が、左の四体を引き受けるから~」

夏凜「!」

夏凜「一人だなんて、そんな――」

園子「何も、魂胆なく、自分だけで敵を背負い込もうとしてるわけじゃないよ~」

園子「私、満開した時の攻撃力ありすぎるのが原因で、細かい制御がきかなくて、
    味方が近くにいると思いきり戦えないんだ~」

園子「大丈夫、大丈夫~」

園子「一つの場所で単身粘り続けるの、これが初めてじゃないから~」

園子「ここは、私が、勇者として最ベテランの意地を見せるところだよ~」


夏凜「……」

夏凜「わかったわ、行きましょう樹」

樹「う、うん」

ダッ

園子「…………」

園子「とは言っても、みもりんと二人で戦ったあの時や、
   ミノさんと三人で戦ったときより一体多いから、大変だよね~」

園子「敵は合体もしてるし~」

園子「根性、とにかく根性で、頑張らなくちゃ~」

園子(……だよね、ミノさん)




園子「――勇者部五箇条、一つ~」

園子<満開>「なせば大抵なんとかなる~っ!」


~☆

《雨石戸 内奥 中枢》

東郷<満開>「これが、敵の本営、みたいだね」

友奈「うん……」


◆「……」


東郷<満開>「友奈ちゃん……大丈夫?」

友奈「ははっ、どうにか、ね」ボロボロ

友奈「げほっ、ごほっ……」

東郷<満開>「……」

東郷<満開>「早く済ませて、早く帰りましょう」ピタッ



◆「……」


東郷<満開>「何も、起こらない……?」

東郷<満開>「神薙も……」

東郷<満開>「これじゃ――」

友奈「東郷さん、焦らないで」

友奈「私も、一緒に触れないとダメみたい」

東郷<満開>「……友奈ちゃん?」

友奈「それから手を離して、代わりに私の手を握って」

東郷<満開>「……う、うん」ギュッ

友奈「その手を、離さないでね」



友奈「……」ピタッ



◆「――――」

~☆

友奈ちゃんが御霊に触れた瞬間、脳裏に一面の青空が広がった。 

同時に現実の周りの景色が、ほとんど真っ白に変わる。

白色の世界。

無に近しい視界の中、遠くにポツリと点が見える。

目を凝らせば、今まで目の前にあった、御霊とよく似た巨大な構造物、それが遥か高みにある。

友奈ちゃんが、そこにいて、その構造物に触れていた。

私は一人、それを見上げている。

手に持った神薙が、異常な熱さで私にその存在を訴えかけてくる。

その手を離さないでね。友奈ちゃんは言っていた。

私は、階段を上るように、何もない空間に足をかけ、高みへと昇っていく。

友奈ちゃんの元へ。

突然、耳の奥で夏凜ちゃんや、樹ちゃんの声が聞こえてきた。

そのっちの、叫び声。

みんな、なんて言っているのかまでは聞き取れない。

風先輩の声は聞こえない。


急がなきゃ。

上る。

だけど、高みまでの距離が、中々思うように縮まっていかない。

どれだけ歩いただろう。

足が重い。

歩かなきゃ。

届かない。

身体が重い。

友奈ちゃんに近づけば近づくにつれ、身体がバラバラになっていくような感覚に苛まれてゆく。

気を失いそうになる。

足に力を込める。

神薙を持っていない方の手のひらを上方へ、友奈ちゃんの方に掲げ、歩く。

手や足の感覚がなくなっていく。

でも、恐怖は感じなかった。

これは、きっと、三年前、友奈ちゃんが私たちの代わりに、ただ一人挑んでくれた試練と同じ物だから。


目が霞む。

自分がどこまで来たのかわからなくなる。

立っていられなくなって、膝をつきかける。

そのとき、ぐいと腕を引き上げられる感覚があった。

ぼやけていた視界が、一瞬戻る。

友奈ちゃんが、私の手を掴んでいた。

「東郷さん」

友奈ちゃんの声。

引き上げられる。

何も見えない。無音の世界。

温もりしかない。わからない。

それでも、恐怖はない。

私は、友奈ちゃんの手に導かれるまま、構造物に触れた。

ずっと脳裏にひろがっていた青空。

それが揺らぎ、現実の何もない白い空間と二重写しになり、そして、より一体のものとして二色が重なってゆく。

そして、目が見えなくても感じるような、強烈な光が私を包み込んでいくのがわかる――

~☆

友奈「東郷さん、東郷さん」ユサユサ

東郷「……んぅ」

友奈「起きた?」

東郷「……友奈、ちゃん」

東郷(周り……白くて、本当になんにもない……)

友奈「終わったよ、全部」

友奈「だから帰ろう、みんなのところに」ニコッ

東郷「…………うん」

~☆

<病室>


東郷「……」パチッ

東郷(ここは?)

東郷(見たところ、病室?)

東郷(両足が動かないわ)

東郷(身体に力が、上手く入らない)

園子「……すぅ、すぅ」zzzz

東郷「……」

東郷(寝てるなら、起こすのは悪いわよね)

東郷(自分で、どうにか起き上がって、状況を……)

ガタン

東郷(あっ)

園子「……んっ」


園子「あ~」

園子「みもりん、目が覚めたんだね~。おはよ~」

東郷「え、ええ。おはよう、そのっち」

東郷「……あの、それで――」

園子「ゆーゆなら、さっきみもりんより一足早く目を覚ましたよ~」

園子「隣のベッドで寝てる~」

東郷「!」

園子「私が、ベッドのカーテン開けてあげるね~」

ガラガラ


友奈「……」


東郷「友奈ちゃん……」



友奈「おはよう、東郷さん」

【12 あなたに微笑む】


~☆

《二人だけの病室》

東郷「最近友奈ちゃん、だいぶ髪の色戻って来たよね」

東郷「顔色良くなってたのは前からだけど」

友奈「え? そう」

東郷「うん」

東郷「いつも見てるから、わかるよ」

友奈「そうなんだ……」

友奈「じゃあ、私って、本当にバーテックスじゃなくなってきてるんだね」

東郷「みたいね」

東郷「そのっちが言っていたわ」

東郷「神樹様が無事に敵方の神様を完全な支配下に置いたって」

東郷「だから、バーテックスの力を神樹様が制御できるようになった。
    そのおかげで友奈ちゃんは人間に戻してもらえる」


友奈「散華が治るのと違って、これといった実感がないから、
    いまいちピンとこないね」

東郷「もう少ししたら、友奈ちゃん自身にも、はっきりわかるんじゃないかしら?」

東郷「今はまだ白がかなり多いままだけど、色が変わるって、結構大きな変化だから」

友奈「……うーん」

東郷「どうしたの?」

友奈「いや、東郷さんとこうして話してるのは楽しいんだけどね」

友奈「欲を言えば二人どっちかの足が早く治って、
    相手に近寄れる、気安く互いに触れられるようになったらいいなーって」

友奈「たとえ私がバーテックスでも、それで普段困ること特に今ないし、
    私としては、まず早いこと身体の機能が治ってくれた方が嬉しいよ」

東郷「ベッドの間にある距離、遠いもんね」

友奈「うん」コクリ

~☆

《大赦 施設》

園子「……」

春信「園子様、どうかなされましたか?」

園子「神樹様って、人間たちのこと、どう思ってたんだろうかなー、って~」

春信「と、申されますと?」

園子「神樹様と敵の神様の戦い、人類とバーテックスの戦い」

園子「その事態の推移を考えると、神樹様は人類の存亡に、
    対して興味がなかったんじゃないかな~」

園子「神樹様にとっては、自分が敵の神様と接触する場面こそが本番、
    その接触の主導権を握れるかどうかが問題であって」

園子「私たち人類は、その準備を整えるのに使える道具だから、生かしてもらっていた」

園子「神樹様にとって、人類とバーテックスの戦いの意味は、所詮前哨戦に過ぎなかった」


春信「…………さあ、どうなんでしょうね」

春信「ただ、はっきりしているのは、園子様のおっしゃることが正しかったとして、
   戦いが終わり、人類を道具として使う必要がなくなったい今でも、
   神樹様は人類に変わらず恵みを施してくださっている」

春信「いえ、変わらないどころか、世界を人が住めるよう造りかえることにさえ尽力してくださっている」

春信「ということではないでしょうか?」

園子「……そう、かもね~」

~☆

《下校中 海沿いの道》


夏凜「いい天気ねー」

友奈「そうだねぇ」



樹「お姉ちゃん、今日の晩御飯は何が良い?」

風「え? ……あまり、失敗しなさそうなの、かな」

樹「う゛っ」

樹「いつもごめんね……」シュン

風「あ」

風「いやいや、大丈夫よ。樹の思いは、ちゃんとお姉ちゃんに伝わってるから」アワアワ


園子「……zz……zz」

東郷「!?」

東郷「ちょ、ちょっとそのっちっ!」

東郷「車椅子を押してる最中に寝たらダメよ!」

園子「……ふぁ?」

園子「あ~、ごめんね~みもりん~」

東郷「びっくりした……」



東郷(放課後、六人で帰る)

東郷(夏凜ちゃんが、友奈ちゃんの車椅子を押す)

東郷(樹ちゃんが、風先輩の車椅子を押す)

東郷(そのっちが、私の車椅子を押す)

東郷(満開の後遺症は、風先輩が一番ひどい)

東郷(それでも、三人も車椅子だと、かめやにみんなで行き辛くて仕方ない……、
    と意気消沈する余裕があるようだから、特別深刻な問題ではなさそうだ)

東郷(みんな、散華の受け止め方が、思いのほか冷静だった)

東郷(治るとわかっている、前に一度こうなったことがある、
    となれば、案外こんなものなのかもしれない)


風「ねえ、夏凜ー!」

夏凜「なによ」

風「みんなが調子よくなったら、勇者部として、まず何しよっか?」

風「勇者部の活動再開として、これだ! って言えるような大きな目標」

風「そろそろ決めておかないと、マズいでしょ」

樹「お姉ちゃんは、受験勉強も必死でやらないとマズそうだよね」

風「……ははは、確かに」

夏凜「うーん……やっぱ劇?」

風「劇、かぁ」

風「そこら辺になるのかなー」

風「やるとしたら、みんな何やりたい?」

東郷「えっ……そうですね……」

園子「劇か~」


樹「やるのはまた、文化祭?」

風「できたらいいね~」

樹「だったら、私と園子さん、夏凜さんだけでも今からある程度準備を始められる、
  あと、三人の身体が良くなって、演技の練習するときできるだけ手間取らないような……」

友奈「!」ピッカーン

友奈「あの、風先輩、リメイクやりませんか?」

風「リメイク?」

友奈「はい」

友奈「風先輩が卒業する前に、勇者部で文化祭にやった劇を」

友奈「魔王と勇者のお話」

友奈「今度は、園ちゃんも加えて」


東郷「……なるほど、流石の発想力ね、友奈ちゃん」

風「いいわねっ!」

風「友奈! それ、採用!」

園子「なんだか楽しそう~」

園子「私、劇は初めてだけど、やれること精一杯頑張りたい~」

樹「園子さん、わ、わからないことが何かあったら、
  私に聞いてみてくれても、大丈夫かも……です」

園子「わかった~」

園子「イッつんに聞いてみたいことができたら、積極的に聞いてみるよ~」

樹「は、はい!」





東郷(勇者部は、勇者部として、今日も変わらず続いていく……)

~☆

《文化祭 劇 本番》

園子「がっはっはっはっは~」

園子「結局、世界は嫌なことだらけだろう~!」

園子「辛いことだらけだろう~!」

園子「お前も、見て見ぬふりをして、堕落してしまうがいい~!」

友奈「いやだ」

園子「足掻くなぁ~!」

園子「現実の冷たさに凍えろぉ~!」

友奈「そんなの気持ちの持ちようだ!」

園子「なにぃ~!?」

友奈「大切だと思えば友達になれる」

友奈「互いを思えば、何倍でも強くなれる」

友奈「無限に根性が湧いてくる」


友奈「世界には嫌なことも、悲しいことも、
    自分だけではどうにもならないこともたくさんある」

友奈「……だけど、大好きな人がいれば、挫けるわけがない」

友奈「諦めるわけがない」

友奈「大好きな人がいるのだから、何度でも立ちあがる」

友奈「だから、勇者は絶対、負けないんだ!」

ダッ


バシュッ!

園子「うわ~」バタンッ


友奈「…………」キリッ


東郷「樹ちゃん、BGMストップ!」

東郷「夏凜ちゃん、幕を下ろして!」




友奈(ああ、よかったぁ)

友奈(……今度は、立ちくらみせずに、ちゃんと最後までやれたよ)ホッ


終わり

ゆゆゆ続編あるとしたら、どうなるんでしょうね

この妄想は、○○「」の文字数ぶんアニメのセリフだといらないこと考えて、あと、SSだし文字数アニメより多めでいいよねとか思いつつ
大体一話3000字と数百字くらいで平均になるよう書いてみたけれど
その中でお話まとめるの難しいですねー とりあえず勇者部でセットにしないと、六人の関係にスポットあてるの大変だった

園子春信対話の辺りは、間違いなくアニメだと短縮やカットで、別の描写にあてられるだろうけどそこはSSだし
自分が思う整合性を描写することの方を重視しました
最終決戦、後輩Aで絶望した後輩勇者たちを奮起とかもやってみたかったけどまあカット

HTML化依頼してきます

修正 三行抜けていた
この三行ないと話の前後がおかしくなる

>>118 

後輩A「私ここ数日、全然眠れないんです。食欲もなくて」

後輩A「先の戦いで、七十体以上のバーテックスを見てしまった、それと直接戦ってしまった」

後輩A「自分がまたあれと戦って、勝負になるビジョンが浮かんでこない」

後輩A「それが、勇者として情けなくて……」

後輩A「最初は、みなさんが単純に強いから、こんなにも差があるのかな、と思ったんですけど」

後輩A「それ以上に、心構えの差があるんだろうな、って気付いた」

後輩A「だから、その境地に辿りつくためのコツを、何かしら教えていただけたら……って」

友奈「……境地」

友奈「うーん」

友奈「みんなはどうかわかんないけど、少なくとも私は、そんな難しいこと特に考えてないからなー」

後輩A「……」

友奈「あっ、でもね、日頃から大事にしてることはあるよ」

友奈「勇者部五箇条っ!」

後輩A「勇者部五箇条?」

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