にこ「夢を諦めたスクールアイドル」 完結編 (1000)

にこ「夢を諦めたスクールアイドル」
にこ「夢を諦めたスクールアイドル」 - SSまとめ速報
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前スレのあらすじ!

小学生の時、矢澤にこは綺羅ツバサと出逢った。

幼い頃から抱いてきたアイドルになるという夢を諦めた。

自分はその器ではないと悟って……。

時は流れ、中学三年の冬の終わり。

隣に引っ越してきた優木あんじゅと出逢い、運命が更に変わっていく。

五人で立ち上げたスクールアイドルSMILEも直ぐに二人きりになってしまう。

それでもツバサとした再会の約束を彩る為に、スクールアイドルは諦めない。

絵里を勧誘し、海未を邪道な手で引き込み、穂乃果を大きな勧誘劇の場で獲得した。

校内・商店街関係なしにその絆を深めながら、いよいよ物語りは最後の年を迎えた。

三年目の春。にことあんじゅの邪道の結果、にこ率いるSMILEに最後のメンバー星空凛が入部した。


一方のUTX学院

南ことりが入学し、A-RISE入りしたことで音ノ木坂に入学する筈だった二人の生徒の運命が変わった。

真姫は自身の過信による事故を引き起こした結果、怪我をした状態でライブをしたことりに謝る為。

花陽は南ことりの強さとアイドル性に惹かれたから、そして生徒会長である希にお礼を言う為。

希は副会長との絆を深めながら、前会長が託した夢舞台である音ノ木坂との合同学園祭に向けて走り出す。

A-RISEの統堂英玲奈は妹のように可愛がることりに手を焼かされながらも、更なる成長を遂げる。

綺羅ツバサはラブライブの舞台でSMILEのにこにーとの再会を目標に今を輝く。


この物語は本来なら九人と三人である運命が大きく変貌した、じぶたれな邪道物語――。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1425203370

UTX編の春が難産になる可能性が高いので、先にスレを立てておきます。

小話をどうぞ。

◆前スレの番外編集◆

『あんじゅと海未の朝練』

海未「正直、三日坊主で来なくなるかと思っていました」

あんじゅ「失礼だなー」

海未「中学の時に穂乃果がそうだったので」

あんじゅ「なるほどね。私は何かあった時の為に頑張るんだよ」

海未「どういうことですか?」

あんじゅ「にこは自分の限界以上を出しても誰かを笑顔にしようとするから、選択肢を増やしてあげればにこが無理しすぎなくて済むからね」

海未「あんじゅは本当ににこのことが好きなのですね」

あんじゅ「私の自慢のお姉ちゃんだから」

海未「ということならば遠慮は無用ですね。直ぐに来なくならないように考慮して甘めな練習メニューでしたが、練り直します」

あんじゅ「えぇっ!?」

海未「あんじゅはにこの為なら限界以上頑張れる筈です」

あんじゅ「藪を突っついたら鬼が出たにこぉ」

海未「誰が鬼ですか!?」(完)

『高坂家の日常』

穂乃果「見てよ見てよ。ほら、SMILEの記事が載ってるんだよ!」

雪穂「それはもう耳が痛くなるほど聞いたよ。というか、雑誌の取材を受けた日から毎日のように言ってたじゃない」

穂乃果「それはそうだけど、でも実際にこうして自分の手にあると見せびらかせたくなるじゃん」

雪穂「自分の宝箱を開けて見せるとか、子供じゃないんだからさー」

穂乃果「どうしてそんなクールな反応なのよぉ。自慢のお姉ちゃんがスクールアイドル専門誌に載ったんだよ?」

穂乃果「普通友達に自慢したり、買うように薦めたりするのが正しい妹ってやつじゃない?」

雪穂「正しくないお姉ちゃんが言う正しい妹は既に正しくないんだよ」

穂乃果「ぷぅー」

ママ「二人して何を騒いでるのよ」

穂乃果「あっ、お母さん。聞いてよー雪穂ってば酷いんだよ。こうして雑誌にSMILEが載ったのにクールな反応しかしなくて」

ママ「なんだそんなこと? だって――」
雪穂「――お母さん余計なこと言わないで!」

穂乃果「なになに? お母さん、教えて!」

ママ「その雑誌なら昨日神田の本屋で発売日より一日早く雪穂が買ってきてたもの」

雪穂「どうして言わないでって言ってるのにお母さんは言うの!?」

ママ「馬鹿なことで騒いでるからでしょ」

穂乃果「ゆっきほ~♪ もうっ! このこの~相変わらず可愛いんだから☆」

雪穂「うわっ! うざいよ。頬を擦りつけてこないで」

穂乃果「こういうのツンデレって言うんだよね? でも穂乃果はユキちゃんには素直で居て欲しいな~」

雪穂「ユキちゃん言わないで!」

穂乃果「雪穂はツンデレだよーーーーッ!」

ママ「穂乃果! ご近所さんに馬鹿が悪化したと思われるから叫ぶんじゃありません!」

穂乃果「……ほむぅ」

雪穂「くすっ。本当にお姉ちゃんはバカなんだから」(完)

『A-RISE』

ツバサ「という感じで、次のライブは少しダンスをアレンジするからそのつもりで」

英玲奈「ああ」

ことり「分かったよ」

ツバサ「そうそう、もう直ぐ新入生が多く入るから訊いておくけど、ことりさんとしては新メンバーが加入するとしたらどう思う?」

ことり「更なる高みを目指せると思うよ。何よりその子に合わせた衣装を構想するのが楽しみっ♪」

英玲奈「本当にことりは衣装を考えるのが好きだな」

ツバサ「もし後輩が出来たら、これまでのような無茶は絶対に禁止だからね」

英玲奈「後輩というのは必然的に先輩よりも頑張らなければと気負うからな。ことりが無茶をすれば後輩がより無茶をする」

ことり「私はそんな無茶はして――」
ツバサ「――んふ♪」

ことり「してました。ごめんなさい」

ツバサ「素直でよろしい」

ことり「でも、穂乃果ちゃんよりは無茶してないつもりなんだけどなー」

英玲奈「自分が行う無茶を誰かと比較する時点で間違っている。心配をさせないことこそがアイドルの在り方だ」

ツバサ「間違ってもライブ後に倒れたり、足を怪我をしてるのにライブを行うようなことはしないわ」

ことり「でも……どんな状態でもやり通すのが真のアイドルだとことりは思うから」

ツバサ「間違ってはいないわ。実際に病気を隠してライブを遣り通したプロも居る」

ツバサ「でも、それはあくまでプロの話。私達はスクールアイドル。特にことりさんの本業は被服科の勉強」

英玲奈「今度無茶をすれば本気でツバサにA-RISEから追い出されてしまう。もしもの時は私を頼るといい」

ことり「英玲奈ちゃん、ありがとう。ツバサちゃんもごめんなさい」

ツバサ「無茶さえしなければいいのよ」

ことり「無茶は控えます。でも、等身大の自分のままで頑張ります!」

英玲奈「本当にことりは頑固者だな」

ツバサ「頼もしいと言い換えた方がいいのかしら? このままでいいのかもって気がしてきたわ」

英玲奈「ことりなら新メンバーにもいい影響を与えられるだろう」

ツバサ「そうね。そう思えるのが南ことりの魅力かもね」(完)

『シカちゃんの悪意の理由』

部長「そういえばこないだ、歪んだ心を保てる程の人間性を持ってないとか言ってたけどさ」

シカコ「はい、言いました」

部長「その割には廊下で会った時にやたらあんじゅちゃんに威圧的だったよね」

シカコ「それは当然です。陸上部は前日に勧誘をし、翌日まで考える時間と約束を取り付けていました」

シカコ「なのに向こうは約束も取り付けずに来たにも関わらずあの態度です。怒るに決まっています」

部長「その割りににこちゃんへは風当たり強くなかったよね?」

シカコ「……」

部長「で、本音は?」

シカコ「私が本音を隠していると思われること事態が不本意です」

部長「にこちゃんはよくて、あんじゅちゃんが駄目な本音は?」

シカコ「どうして私の胸を凝視しながら言うのですか? ぶん殴りますよ」

部長「つまり、シカちゃんは自分で言う程人間性が薄くないってことだよね」

シカコ「何を一人で納得してるのですか」

部長「大丈夫大丈夫。大きいより小さい方が、狭い所を通りぬけられたりするから。追跡の時に便利だよ」

シカコ「ぐっ……胸なんて赤ちゃんにあげるだけですから、大きさは関係ありません」

部長「そういう言い訳を言っちゃうところがまだ甘いよね」

シカコ「にこ先輩を尊敬します」

部長「にこちゃんは別に胸が小さい人の代表じゃないから!」(完)

『SMILEの日常』

あんじゅ「私は絶対に遊び人! でも、極めても賢者にはならない!」

にこ「部室外に聞こえるような声で変なこと言うんじゃないわよ」

海未「どうして遊び人を極めることと賢者が関係あるのでしょうか?」

絵里「酸いも甘いも噛み分けてこそ賢者に至れるってことなんじゃないかしら?」

穂乃果「確か古いゲームで遊び人って職業を極めないと賢者になれないんじゃなかったかな?」

にこ「あんたのネタは時代を置いてけぼりなのよ! 商店街の人達に影響受けすぎ!」

あんじゅ「それでね、にこは絶対に器用貧乏の勇者。基本的にお荷物なんだけど、底力は強い!」

海未「なんだか面白そうですね。では、私はなんでしょうか?」

あんじゅ「海未ちゃんはレンジャーかな? 色々と使える技術がありそうだから」

海未「レンジャー?」

あんじゅ「パーティーに一人は必要な便利な人だよ」

海未「縁の下の力持ち的な感じですね。悪くありません」

絵里「じゃあ私は?」

あんじゅ「踊り子だね」

絵里「……いや、なんか嬉しいような、諦めた身としては痛いような」

穂乃果「じゃあ穂乃果は?」

あんじゅ「穂乃果ちゃんこそ本当の勇者だよ。ピンチになると謎の力を発揮して、有利な時は皆を元気付ける」

穂乃果「おぉ!」

にこ「待ちなさいよ! 私と同じ勇者なのに評価が全然違うじゃない」

あんじゅ「時代が進むと勇者にも色々あってね、にこの場合の勇者レベルは村の勇者だよ」

にこ「納得いかないわ!」

あんじゅ「じゃあ、勇者失格!」

にこ「ぐぬぬ! どうでもいいことなのに、勇者を剥奪されると妙に悔しいのはどうしてかしら」

穂乃果「大丈夫だよ、にこちゃん。勇者は穂乃果が頑張るから!」

にこ「なんか負けた気がする。勇者じゃなきゃ私は何なのよ?」

あんじゅ「スーパースターだよ!」

にこ「えっ?」

あんじゅ「みんなのアイドルスーパースターにこにー☆」

にこ「なっ、なななな!」

あんじゅ「にこってば赤くなっててかぁわいい~♪」

にこ「赤くなんてなってないわよ!」

あんじゅ「にこにこ~♪」

海未「変化球できましたね」

絵里「いつもならここでにこにー属性にこにー科とか謎のからかいでくるところなのに」

穂乃果「この飴具合は海未ちゃんも学んで欲しい!」

海未「それは……どういうことでしょうか? じっくりと聞かせてもらえますか?」

穂乃果「ひぃっ! 鬼が出た!」

海未「誰が鬼ですか!!」

絵里「鬼というよりはオチね」

海未「全然上手くありません!」(完)

『アンチ先輩』※前スレ515の事。

先輩「映画とか観てなくて知らなかったのよ」

ことり「と、容疑者であるアンチ先輩は述べています」

先輩「事実なのよ。だからあの言葉を変えさせて」

ことり「あの恥ずかしいけど心に響いた言葉を変更するなんて出来ません!」

先輩「たまには先輩の言うこと聞きなさいよ!」

ことり「何を言ってるんですか。先輩の言葉をきちんと聞いてきたから悪い部分が直ったって言ったじゃないですか」

先輩「ああ言えばこう言う」

ことり「事実です」

先輩「ともかく! 聞いたのはありのままって言葉はなしよ。等身大の自分で頑張るって言葉にしておいて」

ことり「大丈夫ですよ。ことり以外に聞かれた訳でもないですし、聞かれてても某映画の主題歌なんて疑われませんから」

先輩「くっ……くぅ~。こんなことなら普段からTVを観るべきだったわ」

ことり「アンチ先輩はやっぱり面白いですねっ」

先輩「先輩からかってるんじゃないわよ!」

ことり「面白かったのでここは奢ります。ケーキセット追加しましょう♪」

先輩「自棄食いしてやるわ!」(完)

『未公開新曲』

凛「どうしてこの曲だけバラードなの?」

にこ「知らないわよ。寝惚けて書いた歌詞だから」

絵里「カラオケ大会で負けたからって酷いわよね」

海未「今思えば新曲のセンターをカラオケで決めるというのも酷い話ですが」

穂乃果「でも、あんじゅちゃんのルールのお陰でより盛り上がったよね」

あんじゅ「ふっふーん♪」

にこ「凛の歓迎会も兼ねて今度カラオケに行きましょうか」

凛「うん! 踊れるスペースがあるといいな♪」

海未「でしたら大人数で行きましょう。そうすれば大部屋になりますし」

穂乃果「そうだね。いい機会だし、凛ちゃんに私の妹を紹介するよ」

絵里「じゃあ私も実妹を紹介するわ」

凛「実妹?」

海未「ここに居るメンバーの半数以上が絵里の妹ですから」

あんじゅ「でも、この曲お披露目するタイミングがないよね」

穂乃果「盛り上がるアイドルっぽい曲と正反対の曲だもんねー」

絵里「センターにこだわりはないけど、せっかく作ってもらった曲だし公開はしたいわ」

にこ「ラブライブの切り札にしようと思うの」

凛「ラブライブ?」

海未「野球でいうところの甲子園です。スクールアイドルの頂点を決める大会」

絵里「それって本戦でってこと?」

にこ「ええ、予選だと逆に引かれる可能性があると思う。本戦で敢えてバラードで勝負するからこそ異質は光る」

あんじゅ「邪道は最後って言っておきながらしっかりと邪道路線行ってるよね」

穂乃果「あははっ、確かに」

にこ「これくらいしないと本戦で一度も勝てずに終わっちゃうわ」

穂乃果「凛ちゃんの元気で一気に二十位内まで上りつめようね!」

海未「ええ、いつまでも二十五位なんかで留まっている場合ではありません」

絵里「そうね。二十五位なんて早く脱却しましょう!」

凛「凛も頑張って二十五位から上を目指すにゃ~!」

あんじゅ「うふふ。なんだかみんなでにこを虐めてるみたい。にこなんてSMILEの飾りにこ!」

にこ「なんですって!?」

あんじゅ「にこっにこ!」

にこ「にこにこ~っ!」

新生SMILEのラブライブ本戦への切符はまだ遠く...(完)

『夢を諦めたスクールアイドル ~零~(嘘予告)』

その日、諦めに支配された運命は蘇る

学校帰りにそのまま妹を幼稚園に迎えに行き、一旦家に帰り、着替えてから買い物へ

何も変わらない筈の日常

天使のような二人がもう直ぐランドセルを背負って小学校に通うようになる

その姿を想像し、心がほっこりとする

春は近くて、でもまだ寒い

買い物から家に帰るにこに待ち受けていたのは……

「あなた、そんな所でどうかしたの?」

隣の部屋の前で、膝に顔を埋めたまま座る少女

まるで、その子だけが世界から置き去りにされている

にこにはそんな風に思えた

どこか、自分と同じなんだと

「もうすぐ春だけで、廊下にそのまま座ってたらお腹冷やすわよ。鍵でも無くしちゃったの?」

膝を着き、彼女の傍で優しく声を掛けるにこ

「……」

それでも、何も反応を返してはくれない

「面倒な子ね。ほら、顔を上げて」

両肩を優しく掴んで後ろに押す

その後、顎に手を当てて自分を見させる

「あなた、魔法って信じる?」

「まほう?」

「そう。私はね、魔法使いなの。特別にあなたに魔法を掛けてあげるにこ」

笑顔を浮かべた後、顎から手を離し、自らのポーズを作る

「にっこにっこにー♪」

魔法というには余りにも稚拙な行為

でも、その魔法が運命を生んだ

「ほら、少し笑顔になった。特別にこの魔法をあなたに貸してあげる」

そう言ってにこは少女の手を取り、にこにーポーズを作らせる

「大切な魔法だから貸すだけだからね。元気一杯になったら返してもらうから」

「ま、それはともかく家の人が帰ってくるまでうちに来なさいよ。ご飯くらいはサービスしてあげるから」

家の人が帰ってくることも、やってくることもない

だけど、そんな事実は少女にはもうどうでもよかった

「……何かあったのか聞かないの?」

疑問は其れだけ

「鍵を落としただけの人がそんな顔する筈ないもの。何かあったのは誰でも分かるわよ」

「でも、何があったのか聞いていいのは……その人が心を許した人だけ」

「だからまだ何があったかなんて聞かない。それよりも聞きたいことがあるのよ」

「なに?」

太陽のような笑顔でにこが聞く

「あなたの名前は?」

「…………あんじゅ」

「あんじゅね。私はにこ。矢澤にこ。よろしくね!」

これは二人が出逢い、成長していく始まりの詩

乙です!
前スレの最後の宮司って誰だったの?
何度見てもわからなかった…

>>19 ご、ごめんなさい。佐藤君は別世界のにこの参謀役だっただけで、この世界では存在しません。

◆UTX学院 運命の交差点◆

――四月 廊下 ぱなよ

副会長「そこの貴女」

花陽「はっ、はい! 私、でしょうか?」

副会長「そうだけど、そんなに緊張する必要はないわ。同じ学院の生徒じゃない」

花陽「は、はい」

副会長「入学したてなら無理もないかもしれないわね。確か以前希、うちの生徒会長が絡んでた中学生よね?」

花陽「か、絡まれるなんてとんでもないです。あの時の会長さんの言葉のお陰で受験を乗り切ることが出来たくらいで……」

副会長「もっと声を張りなさい。声が小さくなるのは自信がない証拠よ」

副会長「このUTX学院の生徒になれたのだから、自慢出来るくらいなのよ? 自信を持ちなさい」

花陽「……はい。努力します」

副会長「余計なお世話だったら謝るけど」

花陽「いえ、ありがとうございます。副会長さんも会長さんと似ているんですね」

副会長「私と希が似てる? 止めてよ。私はあんなおちゃらけてないわよ」

花陽「あっ。ご、ごめんなさい」

副会長「誤解しないで。別に不快って訳じゃないから謝罪の必要なんてないわ。それより、貴女は一般?」

花陽「はい、そうです」

副会長「自信はないみたいだけど、希が目を付けたってことは有能な可能性が高い」

副会長「もし興味があったら生徒会に来てみなさい。見学しながら軽く手伝って貰えると助かるわ」

副会長「それで少しでも遣り甲斐を感じたのなら生徒会に入ってみてくれるとありがたいわね」

花陽「生徒会!?」

副会長「卒業まで無事にやりきれば大学受験や就職の面接において有利に働くわ」

花陽「はい」

副会長「ま、強制でもなんでもないから気に留めておくだけでいいわ」

花陽「……はい」

副会長「ただ、そういう理由があった方が自信がなくても生徒会の扉を開けられるでしょ?」

花陽「えっ?」

副会長「希とまた会いたいのかと思ったけど、私の勘違い?」

花陽「合ってます。でも、どうしてそれが分かったんですか?」

副会長「希って不思議とそういう気持ちにさせるからね」

副会長「私が生徒会室まで連れてってあげれば一番楽なんでしょうけど、それだと貴女の為にはならないでしょう?」

副会長「理由はあげたんだし、自分の意思で頑張って希に会いに来なさい」

花陽「ありがとうございますっ」

副会長「別にお礼を言う必要もないわ。ただ、希のお節介が移った所為だもの。お礼は希に言っておいて」

花陽「ふふっ」

副会長「私は行くわ。最後に少しだけアドバイス。もう少し顎を上げて、視線を真っ直ぐに固定なさい」

副会長「些細な仕草を正すことからも自信に繋がっていくのよ。毎日少しでいいから鏡の前で練習なさい」

副会長「迷うのは頭の中で目的をハッキリとさせてないから。自分がすべきことを明確にしておきなさい」

副会長「それじゃあね」

花陽「ありがとうございました」

花陽(会長さんにアドバイスを貰ってから、少しは自信を付けられたと思ってたけど、やっぱりまだまだ全然だよ)

花陽(ボイストレーニングも結局は安定しないままで終わっちゃったし、人前で大きな声を出すことが苦手なままだし)

花陽(やっぱりアイドル以前にスクールアイドルも私には向いてないのかな……)

花陽(ううん、弱気になっちゃ駄目だよね。凛ちゃんの隣を堂々と歩けるようになる為に頑張らないと)

花陽(さっきの副会長さんのアドバイスを実行しよう。今の目標を明確にして一つひとつ達成していこう)

花陽(会長さんにお礼を言うこと)

花陽(ことりさんに会ってみたい……これは目標というか、希望だけど)

花陽(それから、友達が欲しいな。今までは凛ちゃんが友達を作ってくれたからその輪に入れたけど、自分で頑張らないと)

花陽「ファイトだよ!」

花陽(ことりさんがファーストライブで一曲目を歌った後にファンの私たちにくれた言葉)

花陽(頑張ろう! でも、会長さんがくれた言葉を思い出して、自分の限界以上を頑張ろうとはしないように気を付けて)

花陽(……取り敢えずは会長さんにお礼と自己紹介をしに行こう。副会長さんにも改めてお礼を言わせて欲しいし)

花陽(今日も一人で発声練習頑張ろう。人前で大きな声を出せるようになる為に……花陽、ファイトだよ!)

――ツバサと英玲奈

ツバサ「どう思う?」

英玲奈「正直に言ってことりが悪い」

ツバサ「その言い方はことりさんに酷いと思うけど、間違ってはないのよね」

英玲奈「中学生であの存在感。目でも耳でも納得出来る可能性の塊」

ツバサ「どうしても比べちゃうわよね」

英玲奈「贅沢過ぎる悩みかもしれないが、ことりのファーストライブ前を思えば仕方もない」

ツバサ「そうね。ラブライブ優勝した今となっては、あの時よりも新メンバーへの風当たりは強くなるかもしれない」

英玲奈「逆にことりのことがあって、ファーストライブまで様子を見てくれる可能性もある」

ツバサ「英玲奈の意見が大半を占めると逆にファーストライブでの期待度が高くなり過ぎて、生半可な子じゃ続けられなくなるでしょうね」

英玲奈「困った話だ」

ツバサ「A-RISEの名前は完全なブランドだもの。これも一つの宿命よ」

英玲奈「しかし、芸能科の新入生は全員目を通してしまった」

ツバサ「そうなのよね。今回はラブライブが夏だし、タイミングが悪いわ」

英玲奈「去年が夏で今年が秋なら」

ツバサ「こればかりは仕方ないわ。新入生の勧誘を諦めるのも一つの手よ」

英玲奈「そうなると私とツバサが卒業した来年、ことりへの負担が大きすぎる」

ツバサ「んふっ。本当にことりさんを可愛がってるわね」

英玲奈「実際の妹より手を焼かされる分、可愛く感じてしまう」

ツバサ「手間が掛かる子程可愛いっていうやつね」

英玲奈「……そうか、こういうのはどうだろう?」

ツバサ「何か言い案が思いついた?」

英玲奈「ああ。卒業後のメンバーとなるのだから、新メンバーの勧誘はことりに一任するのはどうだろう」

ツバサ「なるほど。見た目に反して腕白なことりさんなら私たちが見つけられなかった可能性を見つけ出すかもしれない」

英玲奈「だろう? 加えて、ことりが連れてくれば基本的に面倒はことりが見ることになる」

英玲奈「そうなれば今までのような無茶も出来なくなる。口で何度言ってもことりはいざとなったら無茶をする」

ツバサ「新メンバーがことりさんにとっての抑止力になるってわけね」

英玲奈「そういうことだ」

ツバサ「責任を押し付けるみたいで少し心苦しいけど、私達は一年生の時にことりさんをスカウトしたんだしね」

英玲奈「困難やプレッシャーを与えた方が成長する」

ツバサ「そうね。これくらいの試練を乗り切れないとA-RISEのリーダーは継げないわね」

英玲奈「ツバサは見つけてこれると思う?」

ツバサ「そうね。ことりさんの性格的に誰でもいいからスカウトするなんてことはしないと思う」

ツバサ「少し時間は掛かるかもしれないけど、本質を見極めて……これと決めた子を一気にって感じかしら?」

英玲奈「概ね私と同じか。ただ、そのお眼鏡に掛かる子が居るかどうかだ」

ツバサ「この一週間で芸能科を観てから見つけられなかった後にこんなこと言うのも矛盾するけど」

ツバサ「ここはUTX学院よ? どの学院より可能性が集まってると思うわ」

英玲奈「もしくは、ことりが相手の魅力を引き出して輝かせる可能性もある」

ツバサ「ああ、ことりさんが唯一の友達と言ってるあの娘みたいに?」

英玲奈「実に惜しかった。一年生の時からあの魅力を出せてたら、私たちは三人でA-RISEをやっていた」

ツバサ「そういう意味でもことりさんを信じて任せましょう」

英玲奈「ああ。きっと今より高みを目指せるA-RISEになることを信じて」

ツバサ「……太陽に届く翼が欲しい」

――生徒会室 のんたん

希「春は暖かくて眠くなるなー」

副会長「何をだらけてるのよ。生徒会長なんだからもっとシャキッとしなさい」

希「そうは言っても、春眠暁を覚えずって言うくらいだし」

副会長「春になると馬鹿みたいにその言葉を使う人が居るけど、そういう人に限って他の諺を全然知らないのよね」

副会長「そういえば希は文系得意だったかしら?」

希「ウチを虐めてる姿を他の役員の子が目撃したら、生徒会は怖いところって勘違いされるよ」

副会長「大丈夫よ。人間って慣れる生き物だから」

希「慣れる前に優しくなるっていうのが正解だと思うけど」

副会長「希に優しくしてたら仕事の効率が著しく低下するわ。有能の癖にサボり癖があるし」

希「転勤族だっただけに一箇所に留まってるのが苦手なんよ」

副会長「こんな自由人でも生徒会長が務まるとか誤解されないといいけど」

希「大丈夫大丈夫」

副会長「凄く不安しかないわ」

希「副会長が鞭打って鍛えてくれてるから」

副会長「貴女が甘やかしてばかりだからでしょ!」

希「まぁまぁ。パパは厳しく、ママは甘やかせるのが基本だし」

副会長「誰がパパよ!」

希「今日からあだ名をパパにするのもいいかも」

副会長「絶対に嫌よ! 春だからって頭の中で暢気が萌えてるんじゃないの?」

希「それはなんだか可愛いかも」

こんこん……

希「どうぞ~」

副会長「間延びした声で返事をしない。もう少し威厳を出しなさい」

希「パパだけでなく教育ママも入ってるね」

副会長「入ってないわよ!」

希「ふふふ」

花陽「あの、失礼します」

希「およ?」

副会長「貴女は……生徒会に何か用かしら?」

花陽「は、はい。会長さんと副会長さんにお話がありまして。今大丈夫ですか?」

希「見ての通り二人しか居ないから緊張する必要ないよ。のんびりしてって」

副会長「はぁ~。新入生の前でくらいしっかりとしなさいよ」

花陽「会長さん。私のことを覚えてますか?」

希「勿論。無事にここに入学出来たんだね。おめでとう」

花陽「ありがとうございます。私は……小泉花陽です。よろしくお願いします」

希「うん、よろしく」

花陽「会長さんのあの時のアドバイスのお陰で自分のペースで頑張ってこれました」

花陽「面接の時に頭が真っ白になりそうになりかけた時、会長さんの言葉を思い出して乗り切ることが出来ました」

花陽「あの時はお礼も言えずに……だから、本当にありがとうございました!」

希「ふふっ。ウチの言葉に価値が生まれたんだとしたら、それは花陽ちゃんが素直な子だからだよ」

希「ウチの方こそありがとうって言わせて欲しいくらい。ということで、ありがとう」

花陽「そんなっ! 私の方こそもっとありがとうございました!」

希「そんなことないって。ウチの方こそって、これだと無限ループになってまうなー。くすくすっ」

花陽「副会長さんもこないだはありがとうございました。お陰でこうして生徒会室まで来ることが出来ました」

副会長「お礼は要らないって言ったでしょ」

希「副会長も花陽ちゃんと何かあったの?」

花陽「とても素晴らしいアドバイスをくれたんです」

希「へぇ~♪」

副会長「何よその変な反応。それに、脚色されてるわよ。私は言いたいことをただ言っただけよ」

花陽「そんなことないです。すごく暖かい言葉を貰いました」

希「ウチにはツン多めのツンデレなのに、新入生にはデレの方が多いってことかな?」

副会長「だから私はツンデレなんかじゃないわよ」

希「自分をツンデレと認めるツンデレさんは偽者だし」

花陽「ふふっ」

副会長「ほら、生徒会のツートップなのに笑われてるわよ」

希「生徒を笑顔に出来る生徒会なんて最高じゃない。その中心にウチと副会長がいるなんて、いつまでも自慢出来る事だね」

副会長「……ふんっ」

希「花陽ちゃんは生徒会に興味ってある?」

花陽「え、生徒会ですか?」

副会長「それは私も聞いたし、スカウトもしたわよ」

希「意外と手が早いんやね」

副会長「嫌な言い方しないで。希の代わりにスカウトしておいただけよ」

希「この花陽ちゃんは絶対に来年、再来年と後輩を引っ張る存在になるんよ」

副会長「何でそんなことを断言するのか分からないけど、それなら生徒会向きな人材ね」

希「ということでどう? 生徒会に入れば、時々副会長によるツンデレ劇場が開催を目撃出来るけど」

副会長「人をダシにするなっていつも言ってるでしょ」

花陽「あの、私はちょっと生徒会は……」

希「もしかして他に入りたい委員会とかあるとか?」

花陽「いえ……委員会ではなくて」

希「あっ、部活があったね」

副会長「……もしかして、スクールアイドルとか?」

花陽「えぇぇっ!?」

希「大きい反応ってことは図星みたいやね。さっすが副会長」

副会長「私に目でウインクしてから部活とか言った癖によく言うわ」

花陽「どうして?」

希「そういうネタばらしはNGだって。花陽ちゃんはことりちゃんに憧れてるって話をしたじゃない」

希「あの時の花陽ちゃんの瞳には強さがあったから。きっとスクールアイドルになりたいんだろうなってね」

花陽「でも、やっぱり無理みたいです。芸能科じゃない子も私なんかより可愛い子ばかりで」

花陽「それに、私は運動神経が言い訳でもないし、人前で声を出すのが得意じゃなくて」

副会長「前に言ったじゃない。顎を上げて視線を真っ直ぐに固定しなさい」

花陽「あっ、すいません」

副会長「相手の目を見て話せないアイドルなんて居ないわよ」

希「副会長の言う通り。それに、諦めるのは早いって。だってまだ入学したてじゃない」

希「花陽ちゃんが憧れることりちゃんは被服科の課題をこなしながらアイドル活動をする為に練習を行ってる」

希「両方成果を残しながら、諦めるなんてことをせずに自分のペースで一歩いっぽ進んでる」

希「知ってる? 諦めたらそこから進めなくなるんだよ。でも、諦めなければ少しずつでも前へ進める」

希「前に会った時の勇気をもう一度胸に抱いて、進んでみれば運命と出逢えるかもしれないよ」

花陽「運命、ですか?」

希「そうそう。ことりちゃんだってこの学校では特待生ではあるけど生徒だからね。普通に校内で会う機会もあるかも」

希「その時に今のまま諦めに支配されていたら、きっと声も掛けられずに隠れてしまうか、顔を落として俯いてしまう」

希「何の為にここに入ったのかをよく思い出して。誰の為に強くなりたいと考えたのか」

希「結局、どうなるかは……やっぱり花陽ちゃん次第なんだよ」

花陽「そう、ですよね。諦めちゃったら何の為にUTXに入学したのか分からなくなっちゃう」

希「人前で声を出すことの練習がしたいなら、ウチが暇な子を集めてもいいしね。こう見えても人望は厚いんよ☆」

副会長「希が人望厚くなかったら、この学校はA-RISEですら人望がなくなっちゃうわ」

希「んふふ」

副会長「ま、この学院の生徒である以上、自身を磨くことをやめないことね。其れを止めた時にどうなるか知ってる?」

花陽「いえ」

副会長「他の生徒との差が広まって、居場所が無くなるのよ。実際はそう思い込むだけってことが大半らしいけど」

副会長「そうなるとここに居ることが苦痛になって他の学校に逃げる」

副会長「自分を磨き上げる舞台になるのかどうかは正に自分の心がけ次第。どうせなら頂点を目指しなさい」

副会長「ま、私のように頂点を目指してた筈なのに副会長で落ち着くなんてこともあるかもしれないけど」

副会長「どうせなら初の一般からのスクールアイドルになればこの学院で名前を残せるわよ」

希「副会長は名前を残すこと大好きやんね」

副会長「別にいいでしょ」

花陽「頂点を目指す」

希「ことりちゃんに憧れるだけでなく、その背中を追い越してみせて。ウチじゃ言えないアドバイスだね」

副会長「アドバイスじゃないわ。ただ単に私ならそうしてたってだけ」

希「今日はツンデレ節が光るね」

副会長「うるさいわよ」

花陽「……まだ、自信を持ってスクールアイドルになりたいって人に言えません」

花陽「でも、諦めずに努力してみて、誰にでもそう言えるように強くなります」

希「その意気だよ」

副会長「生徒会に入りたくなったらいつでも歓迎するわ」

希「そうやって最後に水を刺す発言をして憎まれ役になるのがツンデレの鏡だねぇ」

副会長「本音よ」

花陽「ふふふ。ありがとうございました! 花陽、頑張ります!!」

――A-RISE

ことり「えぇっ!?」

ツバサ「そんな驚くことじゃないでしょ?」

ことり「驚くよ! だって、新メンバーの勧誘をことりに一任するだなんて。そんな責任重大なことを任されても困るよ」

英玲奈「去年色々と心配させた罰だ」

ことり「うぅ……反論出来ない」

英玲奈「それに私がことりをスカウトしたのは一年生の時だ」

ツバサ「自分達がやれないことを押し付けたりはしないし、ことりさんが無理だと思うようなことも当然同じ」

ツバサ「これはことりさんにとっても、来年以降のA-RISEに強い影響を与える大事なこと」

英玲奈「この件をクリア出来ればことりは更に躍進するだろう」

ことり「プレッシャーが重いよ」

ツバサ「そのプレッシャーもリーダーになったら撥ね退けて、堂々としてしてなくちゃならない」

ツバサ「今から慣れることが出来るなんてとても幸せ者よ♪」

ことり「うぅ~……ホノカチャー」

英玲奈「ふふっ。今すぐ決めろという話じゃない。遅くても梅雨入りするまでにゆっくりと見つけてくれれば良い」

ツバサ「ことりさんのインスピレーションに引っかかった子を鍛えてから紹介してくれてもいいしね」

ことり「もし見つけられなかったらどうするの?」

ツバサ「別にどうもしないわ」

ことり「なんだ、良かった」

ツバサ「ただ、来年のA-RISEは一人で背負うことになるってだけ」

ことり「」

英玲奈「それでもやっていけるのなら探すフリをするだけでいい」

ツバサ「ただ、これだけは覚えておいて。来年は確実にことりさんがリーダーであり、貴女がメンバーを探すことになる」

ツバサ「来年しなくちゃいけないことをするだけ」

ことり「……そっか。二人共卒業しちゃうんだ」

英玲奈「安心して卒業させる意味でも、真剣に探してみて欲しい」

ツバサ「ラブライブを一年生の時点で経験していることがどれ程の財産なのか。ことりさん自身が経験したことでもあるでしょ?」

ことり「うん、そうだね。一生懸命一年生の教室とか見て回ることにするよ」

英玲奈「困ったことがあれば勿論相談に乗るから安心しろ」

ツバサ「そうね。別にことりさんを虐めるのが目的じゃないし」

ことり「でも少し虐めだよぉ」

ツバサ「こんな優しい愛の鞭なんてそうそうないわ」

英玲奈「言い換えれば最高の思い遣りだ」

ことり「日本語って時々ズルいです」

ツバサ「あははっ」

英玲奈「ふっ」

ことり「ふふふ。よし! アンチ先輩のことも安心させる意味でも、一年生から友達も見つけよう!」

ツバサ「才能あり過ぎると孤独になるっていうのは損ね」

英玲奈「ことり本人はこんなに良い子なんだけど」

ことり「だからそういうのは本人が居ない所で言ってってば」

――廊下 真姫

真姫(自分から会いに行くのはなんとなく……そう、プライドが許さないっていうの?)

真姫(入学したてで会いに行くとファンとか勘違いされる可能性だってある訳だし)

真姫(だからこういう切っ掛けが来るのを待ってたの。自然と廊下ですれ違うようなこんな瞬間を)

真姫「久しぶりですね」

ことり「えっ……あ、はい」

真姫「なんであのライブの後にこなかったんですか? 私ずっと待ってたのに!」

ことり「あ、ごめんね」

ことり(ライブの後っていつのライブのことだろう? というか、真新しい制服と敬語からして新入生だよね?)

ことり(ファンの子……じゃないよね。明らかに会ったことあるみたいに話してくるし)

ことり(もしかして他の人と間違えてるのかな? ライブとは言ってるけど、見る側かもしれないし)

ことり(どうやって勘違いを正せば角が立たずに済むのかな? 穂乃果ちゃんならどうするだろう)

真姫「遠慮したのだとしたら間違いです。あれは私の贖罪になる筈だったんですから」

ことり(食材? 料理する予定だった人と勘違いしてるみたい。それとなく合わせておいた方がいいかな?)

ことり(この場を凌げば人違いだったって後で気づいてもらえるかもしれないし)

ことり(えっと、食材を持って行く担当だったみたいだけど行けなくなった先輩の言い訳)

ことり(……こないだのライブとして、三日以上前なのに連絡して謝れない理由も追加しないと駄目かなぁ)

ことり「ごめんね、あの日は家の都合で出掛けられなくなっちゃって。食材の方は本当にごめんね」

ことり「それから電話の方が故障しちゃってて、謝るのが遅れてごめんね」

真姫「電話が故障? 謝る?」

真姫(え、ちょっと待って何の話? あの時って電話番号の交換してないわよね?)

真姫(……え、動転してて教えられたのに忘れたの!? 嘘、記憶力には自信があるのに全然覚えてない)

真姫(だったら電話で謝ってきてくれれば私の方こそってもっと早く謝れたのに!)

真姫(とはいえ、電話番号を忘れてる私が強く言えないわね。病院のことだって元々私が悪い訳だしね)

真姫「謝ることなんてないですよ。私の方が悪いんだから。……入学する前からずっと謝りたかったんです、ごめんなさい」

ことり(入学する前から!? つい最近のライブじゃなくて、もっと前のライブから謝ってない人なの?)

ことり(食材を持って行くのをドタキャンしたみたいなのに、向こうがこんな風に謝る理由って何だろう?)

ことり(都合が悪くなりそうなのに強引に誘って、そのままお互いなんとなく気まずくなっちゃって疎遠にって感じかな?)

ことり(そうなると勘違いをしたまま別れるのは後々問題になるかも)

真姫「あの時は私、貴女があんなに有名――」
ことり「――あのっ、ごめんなさい!」

ことり「私は南ことりって言って、あなたが勘違いしてる先輩とは別人なんです」

真姫「は?」

ことり「人違いと気付くと恥ずかしいかなって思って話を合わせてただけで、本当にごめんなさい」

真姫(これって南ことり流の冗談というか、気にしてないアピールなのかしら?)

真姫(どう反応してあげればいいのか……少し難しい。でも、私のことを思ってな訳だから付き合ってあげないと悪いわね)

真姫「べ、別に謝ることなんてないわ」

ことり「でも、最初から言っておくのが正しいことだったんだし」

真姫「別人ってことなら謝る必要がないし、気にする必要もないですね」

ことり「うん、そうだね」

真姫(でも、この後どうすればいいのかしら?)

ことり(ここは気まずいだろうし、直ぐに去った方がいいよね)

ことり「それじゃあ、私はこれで」

真姫「え、あ、はい」

ことり「それじゃあね」

真姫(……何かおかしくない。もしかして、冗談じゃなくて本気なんじゃない?)

真姫「待って!」

ことり「えっ?」

真姫「もしかして本気で私が人違いしてると思ってませんか?」

ことり「え?」

真姫「……そう、そうなのね。本気で私のことを忘れてたのね」

ことり「え、えっ?」

真姫「私は真姫。西木野真姫! この名前に聞き覚えはない!?」

ことり「西木野……あっ、あの時の自転車の」

真姫「ずっと謝ろうと思ってたのに、名前聞くまで思い出せなかったなんてね」

ことり「ごめんね。あの時は痛みとライブがあったから顔をしっかりと覚えられてなくて」

真姫「別に気にしてませんから! あの時はどうもすいませんでした!!」

真姫「私はきちんと謝ったからね! 南ことりなんて知らない!」

ことり「ごめんね」

真姫「ふんっ! 失礼します」

ことり「……あぁ」

真姫(この真姫ちゃんを忘れてるなんてありえない! そりゃ私が悪かったけど、覚えてないなんて!)

真姫(絶対に見返してやるんだから!)

真姫(スクールアイドル? そんなの私だってちょっと練習すればなれるわよ)

真姫(同じメンバーになって、直ぐにことりの人気なんて抜いてやるんだから)

真姫(二度と私の顔を忘れたなんてふざけたことを言わせない!)

――放課後 食堂

ことり「ということなんです」

先輩「それは南が悪いでしょ」

ことり「そうですけど、こういう時どう謝っていいのか分からなくて」

先輩「忘れてたのは悪いけど、元々の原因はその子にあるんでしょ? だったら別に気にする必要ないでしょ」

ことり「人を傷つけちゃった訳だから気になりますよ」

先輩「スクールアイドルの頂点の一人なんだし、顔を忘れるくらい仕方ないでしょ」

先輩「相手がファンだったのなら気にする必要も出てくるけど、そういう訳でもないんだし」

ことり「……でも、ずっと気にしてくれてたみたいですし」

先輩「また会うことがあったら、もう一度自己紹介し直せばいいんじゃない?」

ことり「それで許してくれるでしょうか」

先輩「自分の非を認めずに棚に上げる性格でなければほとぼりも冷めてるんじゃないの。知らないけど」

ことり「そうだといんですけど」

先輩「そんな些末なことより気にすることがあるでしょ」

ことり「……そっちはそっちで責任重大で頭が痛いです」

先輩「しかし英玲奈さんもツバサさんも大胆ね。新メンバーを南に任せるなんて」

ことり「任せて欲しくなかったですけど」

先輩「最高の思い遣りとは言い得て妙ね。流石英玲奈さん」

ことり「誰かを誘うみたいなのは昔から穂乃果ちゃんがしてくれてたから……私に出来るか不安で」

先輩「大丈夫なんじゃないの? 心配する程なら私と南はこうしてお茶してないでしょ」

ことり「アンチ先輩とは強烈な切っ掛けがありましたから」

先輩「だから、あれを切っ掛けって言える強さがあるんだから平気よ」

ことり「私は全然強くないですよ」

先輩「ま、本人がどう思うかは別だけど。南に後輩でもいいから友達が出来れば私としても安心するわ」

ことり「安心ですか?」

先輩「だって冗談抜きで南ってメンバー以外で友達私しか居ないじゃない」

ことり「そうですね」

先輩「今のままだと卒業する時に後ろ髪を引かれたままになるからね」

ことり「留年してくれるんですね」

先輩「しないわよ。捨て猫を見ても可哀想と思っても拾ったりしないのと同じ心理」

ことり「想像すると胸が痛いです」

先輩「その痛みをさせない為にもメンバー探し頑張りなさい」

ことり「はい、気合入れて頑張ります!」

先輩「でも、南の頑張りって猪突猛進というかスッポンみたいなところがあるからね」

先輩「相手は私と違って年下なんだから、私の時みたいにグイグイと行くと怯えられるわよ」

ことり「もしかして私ってアンチ先輩に怯えられてたりしますか?」

先輩「あくまで年下の場合よ。私は時々ウザく感じるだけ」

ことり「はぅん」

先輩「友達ってそんなもんでしょ?」

ことり「え?」

先輩「何もないのに会いたくなったり、逆に一緒に居るのが面倒になったりさ」

先輩「だけどいつまでも変わることのない関係。それが友達ってやつでしょう」

ことり「……先輩。でも、いつまでも変わらない関係って言っても、卒業したらそのまま疎遠になっちゃうこともあるじゃないですか」

先輩「そういう軽さもまた友達の良い点じゃない」

ことり「そんなの寂しいじゃないですか。良い点なんかじゃないですよ」

先輩「特別なことがあったら会う。なかったら会わないまま。でも、顔を合わせれば時を忘れて笑顔になれる」

先輩「私にとって友達ってそういう関係が理想ね」

ことり「暗に卒業したら連絡取るなってことですか?」

先輩「違うわよ。南の場合は大切な幼馴染が居るから、友達とは別物なんだって教えてあげてるの」

先輩「あんまし重い関係性を求めると引かれるからね」

ことり「私って重いですか?」

先輩「そう思われたくないならメンバーのスカウト以前に友達作りなさいよ。少ないと依存率が高くなるイメージあるし」

ことり「みんなして鞭を打つと私倒れちゃいます」

先輩「三年生になると去年とは全然違う視点になるものなのよ。南も一年後は私たちの気持ちが分かる筈よ」

ことり「そういうものですか」

先輩「そういうものよ。分かったのならいつまでも油売ってないで残ってる後輩を物色でもしてきなさい」

ことり「明日から頑張るって名言が」

先輩「後ろ向きでどうするのよ。頑張るって言ってたでしょう。今回は奢ってあげるから行って来なさい」

ことり「……はぁい。ご馳走様です。行って来ます」

先輩「頑張んなさい」

ことり「頑張ります」

先輩「そうだ、ヒントになるか分からないけど一つ聞いた話があるわ」

ことり「何ですか?」

先輩「一般の新入生なのにアイ活やってる子が居るって話よ」

ことり「一人でですか?」

先輩「話によると一人で練習してるみたい。というか、芸能科じゃないのに練習してるのは馬鹿らしいってね」

先輩「でも、そういう根性がある子となら南は相性良さそうに感じるわ」

先輩「それに、被服科や芸能科よりも話しは合うんじゃないの?」

ことり「確かにそうですね。理想を言えば同じ被服科の子とデザインとかの話をしたいですけど」

先輩「特待生を剥奪されるか、A-RISEを脱退させられればあるかもね」

ことり「そんなの嫌です」

先輩「だから結局、南の友達になれそうなのは一般の子だけだと思う」

先輩「それに、一年生のファンは南が一番多いって噂だし」

先輩「会って話してみるくらいはしてもいいんじゃない? 七階の空き教室で練習してるって話よ」

ことり「ありがとうございます。一年生の教室を見てから覗いてみます」

――十五分後... 廊下

ことり(アンチ先輩には頑張るって言ったけど、やっぱり難しいなぁ)

ことり(一年生は余所余所しい反応じゃないから嬉しいけど、でも……どういう子をスカウトすればいいんだろう)

ことり(ホノカチャー)

ことり(いけないいけない! こういう時にどうにか出来ないとここに入った意味がないよね)

「ことりさん! A-RISEの衣装とっても素敵です」

ことり「ありがとう」

「被服科の勉強しながらあんな風に踊れるなんてとっても凄いです!」

ことり「ツバサちゃんと英玲奈ちゃんが引っ張ってくれるお陰だけどね」

「それでもです! 私、応援してます」

ことり「うん、ありがとう」

ことり(応援してくれる子が多いのは嬉しいけど、なんか恥ずかしいな)

ことり(う~ん……でも私が求めてるのはファンじゃなくて頂点を目指す子なんだよね)

ことり(英玲奈ちゃんみたいに表面上には出ないけど、根は誰よりも熱い人)

ことり(ツバサちゃんの様に楽しみながらも、絶対的な信念を持って頂点の先を目指す人)

ことり(アンチ先輩みたいに自分を殺すことをせず、個性を保ったまま努力を続ける人)

ことり(うぅん、でも一年生のしかも入学したてでそういうのを求めるのは酷かな?)

ことり(でも普通と違ってここはUTX学院だし)

ことり(気分転換も兼ねて七階の空き教室に行ってみようかな。どんな子が一人で練習してるんだろう)

ことり(一人ってことはあの頃のことりと同じで友達が居ないのかな? だとしたら是非とも友達になりたいな♪)

ことり(今度は助けられる側から、先輩達のように助ける側になりたいから)

ことり(それに、少しでも早く安心させたい)

ことり(ふふふっ。でも思い出すなー。穂乃果ちゃんが海未ちゃんを初めて誘った日のこと)

ことり(あんなに人見知り激しかった海未ちゃんを友達に出来ちゃうんだもん。穂乃果ちゃんは本当に凄い)

ことり(でも、そんな穂乃果ちゃんと海未ちゃんに押してもらった背中には二人に貰った勇気の羽根がある)

ことり(だから今度は誰かの背中を押す立場になろう)

ことり(なんだか素敵な出逢いが待ってる、そんな気がする。ご都合主義な発想かな?)

ことり(でも、この高鳴りは勘違いなんかじゃない。そんな気がするんだぁ)

ネクストストーリー
□ 春・UTX編後半 □


少し早いですが海未誕SS!

◆ハッピーバースデー海未ちゃん♪◆

――二年目 三月十四日 PM11:55 海未の部屋

海未「はっ! ゆ、夢でしたか。なんと酷い夢を見てしまったのでしょうか」

海未「そもそも、私達はスクールアイドルであって、間違ってもプロレスなんかしません」

海未「私と絵里対にことあんじゅの試合後、にこの背中に黒のスプレーで兎と書くなんて、本当に酷いことをしました」

海未「私にはそんな願望があるとでも言うのでしょうか?」

海未「ですが、場面が飛んでににことあんじゅがタッグベルトを取った後が面白かったですね」

海未「あんじゅの『何よ、この二本は!?』は傑作でした。ふふふっ」

海未(普段は既に寝ている時間に起きていないといけなかったが変な夢の原因でしょう)

海未(その所為でうたた寝してしまい、変な夢をみてしまったようです)

海未(ですが、邪道な二人はプロレスになるとヒールになるのは必然の流れなのかもしれませんね)

海未(それにしても穂乃果。相談したいことがあるから、午後十一時五十九分頃に電話するから絶対に出てとは無茶苦茶です)

海未(朝の鍛練があるので四時半起きの身としてはこんな夜更けに起きているのは中々に辛い)

海未(そもそも、相談事なら二人で家路に着いてる時にしてくれればそれで安眠できたものの)

海未(あんじゅか漫画にでも影響されたんでしょうか?)

海未「ふわぁ……眠いです」

沢山の幸せの中を 歩いてきたよね♪ ピッ!

海未「もしもし、穂乃果」

穂乃果『よかった。きちんと起きててくれたんだね』

海未「ええ、お陰でうたた寝してしまった時に変な夢を見ましたが」

穂乃果『ごめんごめん。そして、ありがとう』

海未「何に対してのありがとうですか」

穂乃果『それは勿論、海未ちゃんがこの世に生まれてきてくれたことに対してだよ。誕生日おめでとう、海未ちゃん♪』

海未「――あっ、そうですか。日付が」

穂乃果『うん。もう今日は十五日。海未ちゃんの誕生日だよ』

海未「生まれた正確な時間はもっと後ですが」

穂乃果『誕生日は一日ルールなの。正確な時間は関係ないの!』

海未「穂乃果は時に横暴ですね」

穂乃果『海未ちゃんが悪いの!』

海未「はいはい、私が悪かったですね」

穂乃果『えへへ♪ いつもありがとうね。海未ちゃんが居たから、海未ちゃんが私の幼馴染だったからこうして幸せになれた』

穂乃果『すっごく感謝してるんだよ。ことりちゃんがUTXへ行く話しだって、海未ちゃんが居なければ絶対に引き止めてた』

穂乃果『ことりちゃんの将来の為になるんだって他の誰かに言われたとしても、そんな言葉聞き入れられなかった』

穂乃果『大好きな海未ちゃんの言葉だからこそ、受け入れられたんだよ。だからことりちゃんの背中を押せたんだ』

海未「知ってますよ」

穂乃果『SMILE入りだって海未ちゃんが居てくれたから。海未ちゃんが十七年前の今日、生まれて来てくれなかったら……』

穂乃果『そう考えると震えちゃうくらいに怖い』

海未「大丈夫です。この世界にIFはありません、ありえません」

海未「こうして私は穂乃果の傍に居ます。貴女の幼馴染としてずっと傍に居ます」

穂乃果『うん! でも、海未ちゃんって誕生日遅いよね。私よりずっとしっかりとしてるのに』

穂乃果『小さい頃からお母さんに海未ちゃんの方がお姉ちゃんみたいってよく言われてるし』

穂乃果『実際に今でも海未ちゃんの方がお姉ちゃんっぽいし』

海未「穂乃果、先程この世界にIFはないと言いましたが、運命はあるのですよ」

穂乃果『運命?』

海未「ええ、私は穂乃果より後に生まれてくる運命だったんです」

穂乃果『そうなの!?』

海未「そうですよ。だって、さんの後にはしーがきますから」

穂乃果『え、どういうこと?』

海未「穂乃果は太陽みたいですからSUNです。私は海未ですからSEAです」

穂乃果『……海未ちゃんって、時々すっごい寒い駄洒落言うよね』

海未「駄洒落じゃありません!」

穂乃果『あははっ☆ でも、そっかー。穂乃果が海未ちゃんより先に生まれてくるのは運命だったんだっ♪」

穂乃果『じゃあ王子様らしくなりながら、お姉ちゃんっぽくもならないとね』

海未「いいえ、後者は要りません。姉は三人も増えましたからね。五人も要りません」

海未「穂乃果は私とことりを守れる王子様となるべく日々精進してください」

穂乃果『はぁい♪』

海未「穂乃果、一つ聞いてもいいですか?」

穂乃果『なに?』

海未「新入生がSMILEに加入しなかった場合、にこ達の卒業後私たち二人になってしまいます」

海未「その場合でも穂乃果はスクールアイドルを続ける気はありますか?」

穂乃果『答えが分かってる質問を改めてする必要ってあるの?』

海未「ですよね。安心しました」

穂乃果『それに! SMILEの人気なら絶対に新入生で入りたいって子が出てくるよ』

穂乃果『何人増えるか今から楽しみ!』

海未「そうだといいのですが……」

穂乃果『弱気なんて海未ちゃんらしくないよ。そんなんじゃ入ろうとしてる子だって入るの止めちゃうかも!』

海未「そうですね。にこ達が築き上げてきたグループですからね。私たちの後もSMILEが続いてくれると嬉しいですが……」

穂乃果『だーかーらー! 弱気禁止だってば』

海未「すいません。やはり不安になってしまいます」

穂乃果『でも無理ないよね。海未ちゃんは穂乃果より半年以上早くSMILE入りした訳だからね』

穂乃果『愛着も穂乃果以上だよ』

海未「はい。スクールアイドルなんて本気で興味なかったんですけどね」

穂乃果『でも、お陰で海未ちゃんの恥ずかしがり屋さんも少しは直ってきたよね』

海未「そう、でしょうか?」

穂乃果『そうだよ。SMILEに関わる前だったら人前で踊ることもそうだけど、歌詞だって絶対に書いたりしなかったでしょ?』

穂乃果『ポエムだって海未ちゃんにとっては隠したい、忘れたい記憶だった訳だし』

海未「……そうですね。まだまだ羞恥心は強いですけど」

穂乃果『成長が一番早いのが青春時代である今だってうちのお母さんが言ってたよ』

穂乃果『良いことも嫌なことも沢山経験しなさいって。それが大人になった時の自分の財産に変わるんだって』

海未「相変わらず穂乃果のお母さんは良い事を言いますね」

穂乃果『普段はだらしないけどねー』

海未「いえ、穂乃果がそれを言える側じゃないですが」

穂乃果『こないだだって店番しながらおやつ食べてたし』

海未「……将来の穂乃果がしてそうですね」

穂乃果『穂乃果はそんなことしないよ!』

海未「くすっ。絶対にしてますよ。私が買いに行く度にその光景を拝めそうです」

穂乃果『お買い上げありがとうございます』

海未「穂乃果は作る方の勉強はどうするのですか?」

穂乃果『うん、二年生になってからお父さんに習おうと思ってるんだ。職人だからかなり厳しいと思うけど……』

穂乃果『本当は売る側専門でいいじゃんとか思ってた。でもね、スクールアイドルを始めて分かったの』

穂乃果『色々と迷惑かけて、助けてもらって、今も支えてもらえてて。しっかりしないとって思うけど直ぐにだらけちゃって』

穂乃果『それだといつまでも王子様になって海未ちゃんもことりちゃんも守るなんて出来ない』

穂乃果『だから頑張ってみようって思うの。だって、穂乃果だって自慢のSMILEの一員なんだもん』

穂乃果『デザインだけじゃなくて、違うことでも力になりたい。美味しいお饅頭を作って、みんなを笑顔にさせたい』

穂乃果『アイドルとは違う方法でもにこちゃんの遺伝子を継ぎたいって思ったの』

海未「にこが聞いたら喜びますね。そして、照れたらあんじゅがからかって、絵里がそれに乗る光景が目に浮かびます」

穂乃果『あははっ。なんていうか……SMILEっていうか、にこちゃんファミリーっていうの? もう一つの家族みたいだよね』

海未「そうですね。勿論ことりも含んでいるのですよね?」

穂乃果『当然だよ♪』

海未「十人の大家族というか姉妹ですね」

穂乃果『あと二人居れば十二人なんだけどなー』

海未「は? 十二人だと何かあるんですか?」

穂乃果『え? 穂乃果は何も言ってないよ』

海未「そうですか? 二ヶ月に一度約束の島に行けるとかなんとか聞いた気がしますが」

穂乃果『プロミスドアイランド?』

海未「気のせいですね」

穂乃果『気のせいだよ』

海未「穂乃果のお饅頭ですか。毒見なら私が担当しましょう。昔からずっと穂むらのお饅頭を食べてきましたからね」

海未「それに、穂乃果が本家の味に近づいていく軌跡を味わいたいです」

穂乃果『えー。そんなことされたら絶対に挫折出来ないじゃん』

海未「始める前から諦めている愚者がいますか!」

穂乃果『冗談だってば。やるからには絶対に最後までするよ』

海未「冗談でそんなことを言わないでください。諦めることの辛さをにこと絵里は体験しているのですよ」

穂乃果『そっか……。にこちゃんはアイドルを。絵里ちゃんは絵里ちゃんはバレエを諦めてるんだよね』

海未「不謹慎ですが、そのお陰で二人と出逢えたんです。ですが、それでも私には諦めるしか出来なかったことが悔しい」

海未「例え私達が出逢えなかったとしても、二人が夢を追い続ける現在を迎えて欲しかったです」

穂乃果『……海未ちゃん。この世界にIFはないってそのことを考えて出てきたフレーズなんだね』

海未「ええ、そうです」

穂乃果『海未ちゃんは昔から優しいよね。相手のことを自分のことのように考えられる』

穂乃果『まぁ、だから穂乃果にはすっごく厳しいんだけど。でも、それが愛情だって誰よりも知ってるよ』

穂乃果『もしかしたらお母さんやお父さんよりも深く愛情を注いでくれてるかもって思っちゃうくらい』

穂乃果『だからそんな風に考えられる海未ちゃんは凄いなーって関心しちゃう』

海未「穂乃果」

穂乃果『でも、穂乃果は駄目な子だなー。海未ちゃんの話を聞いてもやっぱりにこちゃん達と出逢いたいって思っちゃう』

海未「それでいいんです。穂乃果が難しく考えたら立ち止まってしまいますからね」

穂乃果『何それ!? それだとまるで穂乃果が何も考えてないお馬鹿みたいじゃない』

海未「実際に立ち止まってたではないですか」

穂乃果『あれはだって……常に一緒に居た海未ちゃんとことりちゃんが居ないなんて初めての経験だったから』

海未「当時は穂乃果の元気のなさを目の辺りにした時に胸を裂く痛みを感じました」

海未「でも、今となっては嬉しいです。私とことりが穂乃果にとって欠かせない存在なんだと再確認出来ましたから」

穂乃果『そんなの当然じゃない』

海未「分かっているから確認せずとも大丈夫。なんて割り切れないからこそ、人間関係は大切なんです」

穂乃果『目に見えないからこそ大切にしないとだね』

海未「ええ、些細なことですれ違う可能性もあると学びましたから。何かあれば絶対に相談してくださいね」

海未「穂乃果とことりはいざとなると遠慮してしまう性格なので心配でなりません」

穂乃果『大丈夫だよ。大切な幼馴染に相談出来ないなんてありえないよ』

海未「と、私も思ってました。だけど、実際はことりよりもにこに頼った私が居ます」

海未「状況次第では意外と相談出来ない場合もあることを胸に閉まっておいてください」

穂乃果『ちょっと不安になること言わないでよ』

海未「お互いに学ぶべきことが多かったですね。もう直ぐ一年経つのですか……早いですね」

穂乃果『そうだね。SMILEに入ってからはすっごい時間の経過が早かったもん』

海未「あの三人の存在感は物凄いですからね」

穂乃果『三人が修学旅行に行っちゃった時は妙に寂しかったね』

海未「写真をメールで送ってきてくれてましたし、にこにいたってはきちんと練習してたかどうか夜に電話もきましたが」

穂乃果『私はあんじゅちゃんから電話きたよ』

海未「もう一つだけ弱音を吐いてもいいですか?」

穂乃果『しょうがないなー。誕生日だし、許してあげる☆』

海未「新入生が入ったと過程して、その時に私はあの偉大な先輩達と同じように心の支えになれるのかなと」

穂乃果『小学生の時さ、中学校の制服を着ているお姉さんお兄さん達を見ると妙に大人びて見えたよね』

海未「ええ、そう見えましたね」

穂乃果『でも実際に自分達がそうなってみたら意外と子供っぽかったよね』

海未「まぁ、確かにそうでしたけど」

穂乃果『それと同じだよ。自分達にとっては心の支えになってない気がしても、そうなれてるかもしれない』

穂乃果『答えは見えないから怖いけどね』

海未「強引な理論ですけど、そう考えた方がいいですね」

穂乃果『お互いに家のことも頑張りながらだけど、卒業までスクールアイドル頑張ろうね』

海未「はい。もっと私たちに相応しい歌詞を生み出してみようと思います」

穂乃果『海未ちゃんだけに、だね♪』

海未「穂乃果っ!」

穂乃果『くすくすっ。それじゃあ、海未ちゃんは明日も早いだろうからもう切るね』

海未「分かりました。……穂乃果、ありがとうございます。祝ってもらえて嬉しいです」

穂乃果『えへへ! どういたしまして』

海未「今日は素敵な夢をみれそうです」

穂乃果『じゃあ穂乃果はラブライブに出場する夢でも見ようかな』

海未「大きく出ましたね」

穂乃果『別に大きくないよ。だって、次のラブライブではSMILEが出場するんだから』

海未「その強気こそが穂乃果です」

穂乃果『海未ちゃんもIFを想像するより現在を想像して楽しもうよ』

海未「そうすることにします」

穂乃果『じゃあ、おやすみ。海未ちゃん』

海未「はい、おやすみなさい。穂乃果」

海未「……」

海未「最高の誕生日ありがとうございました」

海未(切った後にこんなことを言う辺り、まだ羞恥心は強いようです)

海未「現在を想像して楽しむ。その中で変えるべきヒントを得られるかもしれませんね」

海未(そういえば、先ほどうたた寝で見た夢がもしかしたら天啓だったのかもしれません)

海未(プロレスもアイドルもお客さんを楽しませるという根本は同じ筈。そう、今の私に決定的に足りないものがあります)

海未(プロレスでいう所の持ち技ですね。アイドルというものはグループに一人は必ず決めポーズがあるようです)

海未(あんじゅがたまに「にっこにっこにー♪」とやりますが、常にする訳ではありませんからね)

海未(私が決めポーズを作って僅かでもファンの方が増えればラブライブ出場に近づくんです)

海未(海未ポーズを考えましょう!)

海未(アイドルと違ってスクールアイドルです。学生であることに関連している方が受けがいいかもしれません)

海未(そして、私と関連がなければ海未ポーズではなくただの決めポーズになってしまいます)

海未「……ふむ」

海未(そうなると剣道か弓道を絡める方がいいですかね。部活動でもありますからスクールアイドルらしい)

海未(そうなると矢を打つポーズで決まりですね。そして、後は何かアイドルらしい台詞)

海未「うっみうっみうー♪」

海未(いえ、これでは完全にあんじゅのパクリですね。そんな恥ずかしい真似は出来ません)

海未(そもそも矢を打つのですからそれと掛けた台詞でなければ威力減の気がします)

海未「貴方の心のど真ん中を打ち抜きます」

海未(これではアイドルというよりプロレスよりですね。あ、心をハートと置き換えれば柔らかくなりますね)

海未(それに歌詞と違って一人限定にするのは微妙かもしれません。使う場がステージの上ですからね)

海未(貴方から皆にしましょう。打ち抜くはそのまま使うとして……最後をもっと柔らかく。アイドルらしく)

海未「みんなのハート打ち抜くぞー! ラブアローシュート♪」

海未(これは完璧じゃないでしょうか? その後、効果音を口ずさんでバーンとか言えばもはや言うことないです)

海未(可愛らしさで言えば他のメンバーに劣っている分、これで一歩前進というところでしょう)

海未「ふふふ」

海未(是非とも明日……もう今日ですね。皆の前で披露することにしましょう)

海未(この閃きは誕生日を神様が祝ってくれたのかもしれません)

海未「穂乃果と閃きの神様に感謝を……それでは、おやすみなさい」 (完)

※本編には関係ありません。最後の遊び。

◆廃校 どうして・・・◆

――三年目 ?屋上? ?練習後? SMILE

凛「あれ? 力いっぱい引っ張っても扉が開かないよ?」

にこ「練習がきつかったからって扉を開けられないなんて一年生は可愛いわねー」

にこ「しょうがないからにこが開けてあげるわ」

あんじゅ「明らかに凛ちゃんより体力が低いのにドヤ顔で胸を張るにこにー部長であった」

にこ「どういう意味よ! 開けて証明してやるわよ。……ぐっぬぬぬ!」

穂乃果「凛ちゃんまでコントに参加するなんて、仲良しさんだね」

凛「本当に開かないんだよ」

海未「もしかして外から鍵を掛けられましたか?」

絵里「それはまずないわよ。ここでSMILEが練習しているのは先生方の誰もが知ってるもの」

絵里「なのに施錠をするなんてありえないことよ」

海未「そうですよね」

にこ「はぁはぁはぁ……っ、本気で開かないんだけど」

あんじゅ「先ほどのドヤ顔が恥ずかしくなることを平気で言えるにこにー部長(笑)」

にこ「くっ!」

海未「私がやりましょう」

にこ「……悪いわね、頼むわ」

海未「任せて下さい。SMILEの中で一番腕力には自信がありますから」

穂乃果「腕相撲だったら穂乃果は負け――」
海未「――本気ですれば肩ごと持っていける自信がありますよ」

穂乃果「冗談だよ。海未ちゃんに敵うわけないもん」

海未「……ふっ! ぐっ……んっ!」

ギギギギ...

絵里「なんでこんな錆びたような音がするのよ」

凛「なんか不気味だにゃー」

海未「はぁ~。本気で重かったですが、横になれば通れるくらいは開いたのでこれで大丈夫でしょう」

絵里「……」
あんじゅ「……」

にこ「長女と三女が何も言えないから私が代わりに言ってあげる。海未、もう少しだけ頑張って」

海未「え、どうしてですか?」

にこ「私達は確かに通れるだろうけど、この二人は通れないからよ」

海未「……あっ」

絵里「ごめんね、海未」

あんじゅ「うふふ」

海未「何か悔しいと思うことが負けな気がしますので、もう少し頑張ってみます」

穂乃果「海未ちゃん。ファイトだよ!」

凛「……今言うとそれも嫌味に聞こえるよね」

にこ「僻むのはみっともないわ。凛はまだ一年生なんだから可能性があるんだし」

あんじゅ「でもにこって出逢ってから胸が成長してないよね」

にこ「」

凛「とっても不安になってきたよ!」

穂乃果「胸なんてあってもなくてもいいじゃん」

絵里「穂乃果の言う通りよ。踊るのには邪魔だし」

にこ「あんたが言うと完全に嫌味になんのよ!」

絵里「どうしてよ。それに凛の場合は走るのに邪魔になるし、ない方がいいじゃない」

凛「……とっても複雑だよ」

あんじゅ「胸があっても速い人は速いけどね」

にこ「ぐぬぬ!」

海未「ふぅ。何をくだらないことで争ってるんですか。これなら絵里でもあんじゅでも通れる筈です」

絵里「ありがとう、海未」

あんじゅ「練習で疲れてるのにありがとう」

海未「いえ。ただ、何かおかしいです」

穂乃果「どうかしたの?」

海未「カビと誇りの臭いが強くて」

にこ「いくら音ノ木坂が古いって言っても、そんな臭いはしない筈だけど」

凛「なんでもいいから早く帰ろう!」

あんじゅ「そうだね。今日はお肉の日だからね。お肉お肉~♪」

にこ「そのフレーズも懐かしく感じるわ」

あんじゅ「初心に返って新曲はカレーの歌にしようよ」

凛「それはダサ過ぎだと思う」

穂乃果「衣装のデザインが難しいよ」

絵里「くすっ。でも、そういう二人だからこそ、亜里沙が興味を持って私が入る切っ掛けになったのよね」

あんじゅ「随分と懐かしいね。凛ちゃんにはイメージ出来ないと思うけど、エリーちゃんは氷の女帝だったんだよ」

にこ「人が勧誘しに生徒会室に足を運んであげたのに、毛虫でもみるかのような目でこっちを見てきたのよ」

絵里「そんな目をしてないわ」

あんじゅ「そうだよ。あれはもはや生き物を見る目じゃなかったよ」

絵里「ちょっと、あんじゅ!」

凛「冗談なのかな?」

穂乃果「本当のことらしいよ」

凛「全然イメージ出来ないにゃ」

絵里「あの頃は廃校になるかもしれないって噂が囁かれてたくらいで、心に余裕がなかったのよ」

にこ「結局は廃校なんて噂に過ぎなかったじゃない。生徒数だって逆に増えたくらいだし」

絵里「それはにことあんじゅのお陰よ。SMILEの人気が生徒数増加の要になってるもの」

凛「SMILEってそんなに凄いの?」

にこ「お隣のA-RISEに比べれば雲仙の差だけどね」

穂乃果「あっちは設備が凄いんだもん。比べるのがそもそもおかしいよ」

凛「そうだよ。絶対にUTXには勝たなきゃ!」

絵里「頼もしいわね」

……ギギギッ

海未「ふぅ~。先ほどより固かったですが、これなら絵里とあんじゅでも通れるでしょう」

穂乃果「海未ちゃんお疲れ様!」

にこ「本当に悪かったわね」

海未「気にしないでください。適材適所です。こういう時に遠慮される方が妹としては傷つきます」

あんじゅ「分かる分かる。だからにこはもっと私のことを頼っていいんだよ☆」

にこ「だったらもっと家事手伝いなさいよ」

あんじゅ「お風呂掃除をマスターしたよ?」

にこ「二年以上掛けて布団関係とお風呂掃除だけしかマスターできないってどんなポンコツよ!」

海未「漫談をしている前に一ついいですか」

あんじゅ「何かあったの?」

にこ「というか、漫談じゃないわよ」

海未「扉の向こうが……私の目の錯覚でなければおかしいんです」

穂乃果「さっき言ってたカビと埃の臭いと関係してるの?」

凛「でも確かに変な臭いがするよ」

絵里「屋上へ続く階段と踊り場は一年生の掃除場だし、いつもきちんと掃除してあるんだけど」

あんじゅ「上がってきた時も異常なんてなかったよね」

にこ「……何これ?」

あんじゅ「……最近流行のなんとかマッピング?」

にことあんじゅが覗いた扉の先、ありえない程にボロボロになった校舎内。

壁にひびが入り、天井にはカビと割れ目からは草や枝のような物が見て取れる。

何より異常なのは、本来ある筈の窓の部分が板のような物で塞がっており、蛍光灯は完全になくなっていて薄暗い。

穂乃果「どうかしたの?」

凛「凛にも見せて!」

絵里「何があったっていうの?」

海未「……私の目がおかしくなった、という訳ではないようですね」

にこ「そうね。ただ、私達がおかしくなった可能性があるわ」

あんじゅ「集団催眠に掛かったとか?」

にこ「もしくは外に幻覚作用を見せるガスのような物がまかれていたとか」

海未「ありえないと断言したいですが、あの光景を見ては否定が出来ません」

穂乃果「これってどうなってるの!?」

凛「まるで学校が廃校になって何十年も経ってるみたい!」

絵里「……ハラショー」

あんじゅ「幻覚だとしたら嗅覚まで異常をきたしているのがおかしいよね」

海未「では催眠の線が濃厚ということでしょうか?」

にこ「そんな都合よくは掛からないと思う。掛かり易さって人によって違うからね」

あんじゅ「そうだね。頭がいい人が掛かり易いって聞くからにこは絶対に……あっ」

にこ「何で言っちゃいけないこと言っちゃったみたいな声出してるのよ!!」

穂乃果「漫才してる場合じゃないよ! これからどうするの?」

絵里「そうね、今は状況把握が最優先。じゃれ合うのは解決策が立ってからにしましょう」

にこ「……まずは携帯電話。幻覚にしろ、催眠にしろ、まずは誰かと連絡をつけることにしましょう」

それぞれが荷物から携帯電話を取り出し、開くが初めて見る表示が映し出される。

穂乃果「圏外っ!?」

凛「圏外なんて都市伝説かと思ってた」

にこ「……駄目ね。一応電話を掛けてみたけど通じない」

絵里「こっちも駄目だわ」

あんじゅ「こうなったら屋上から叫べば誰か来てくれるんじゃないかな?」

穂乃果「で、でもさ……何かおかしくない?」

海未「何かというか、今の状況が既におかしいのですが」

穂乃果「そうじゃなくてさ、よく見ると……学校の上は明るいのに、少し先は夜みたいに暗くなってる」

穂乃果の指摘にそれぞれが外の景色を見ると、不気味なくらいに明暗が分かれている。

この異常事態の中で夜闇の中に飛び込む勇気は沸いてこない。

だからと言って、このままここに居たいとも思えない。

にこ「建物が消えて闇に包まれてるって感じより現実味があって助かるわ」

あんじゅ「定番の一つだね。後は森だったり墓地だったりかな」

絵里「ちょっと! 怖いこと言わないでよ!」

にこ「最悪ではないんだから希望があるってことよ」

あんじゅ「でも何でこんなことになったんだろう? 何か怪しい儀式をした訳じゃないのに」

穂乃果「怪しい儀式?」

あんじゅ「ネットで調べた間違った儀式をして悪霊溢れる小学校に入り込んじゃうみたいな」

絵里「ひっ!」

あんじゅ「ゲームの話だから安心して。それに私たち儀式をしてないんだから」

海未「そもそも、ここは小学校ではなく音ノ木坂学院ですから」

穂乃果「タイムスリップなのかな?」

にこ「普通は過去に飛ぶイメージが強いけど、ありえない話じゃないのかもしれないわ」

凛「でも坂の上とはいえここは東京だよ? こんなに老朽化するまで学校を取り壊さないままなんてありえるのかな?」

にこ「鋭い指摘ね。確かに何かを立てる予定がなくてもここまで老朽化が進むまで手付かずなのはおかしいわ」

あんじゅ「腐っても国立だからね」

海未「老朽化していても、ですか」

絵里「上手いこと言ってる場合じゃないでしょ!」

にこ「いや、全然上手くないけど。多数決を取ってこれからどうするかを決めましょう」

にこ「二グループに分かれて待機組と探索組に分かれるか、それとも一つのグループで探索するかのどっちかね」

海未「全員でここに待機するという選択肢はないのですか?」

にこ「遭難だったら動かないのがベターだけど、この異常事態よ。練習が激しかった所為で水筒の水もなくなってる」

にこ「ここに留まってても雨でも降ってくれない限り危険になってくる。動ける内にどうにかしないと」

あんじゅ「そうだね。ただ、万が一水道が生きてたとしても錆びてるだろうから飲めないけど」

海未「不自然に暗い夜の街に飛び込むしかない……ということですか」

凛「なんだか寒気がしてきたよぉ」

穂乃果「だ、大丈夫だよ。先輩である私達が守ってあげるから」

にこ「そういうこと。邪道シスターズは無敵だからね、安心なさい」

あんじゅ「邪道シスターズリターンズだね♪」

にこ「ま、今回は長女が完全に役立たずだけどね。明らかに校内は暗いし、本気で幽霊が出てもおかしくないし」

絵里「だ、大丈夫よ。妹を守るのが姉の役目だもっの」

にこ「所々声が裏返ってるじゃない」

穂乃果「苦手な物は誰にでもあるんだからしょうがないよ」

海未「探索するのなら先ほどのように力が必要でしょうから、私は確実に必要ですね」

にこ「うん、海未は確実に必要ね」

穂乃果「というか、皆で行こうよ。こういう時ってバラバラになるともう一度会えなくなりそうだし」

凛「再会した時に誰か欠けててそれを問いただすシーンとかよくあるもんね」

あんじゅ「今のフラグっぽいから固まった方がいいね」

絵里「だから怖いこと言わないでっ!」

穂乃果「大丈夫だよっ。こんな時は王子様である穂乃果がみんなのことを守ってあげるから」

あんじゅ「じゃあ、私はにこにー王子に守ってもらうにこ」

にこ「誰が王子よ。ま、しょうがないから守ってやるわ」

あんじゅ「うふふ」

にこ「ただ、異常の中に居るって認識を各自が忘れないで。油断すれば首が飛――」
あんじゅ「――駄目だよっ! なんで自分からフラグ立てようとするのっ!!」

にこ「今の注意でしょうが」

あんじゅ「にこがこういう時に言うと絶対に自分の身に降り注ぐフラグになるよ」

にこ「なんでよ!」

海未「いえ、一理あります。それに、にこは自己犠牲が激しい一面もありますから心配です」

穂乃果「それはあるよね」

凛「凛が陸上部に入る時もそうだったにゃー」

絵里(怖がってる場合じゃないわね。いざとなったら私がにこを守らないと)

にこ「何があるか分からないし、先頭は三年生組。後ろの警戒は海未に任せるから穂乃果と凛をよろしくね」

海未「分かりました」

あんじゅ「何か見つけた時は躊躇わずに言ってね。些細なことでも言っておかないと後の危険に繋がるから」

あんじゅ「それから、不用意に明日以降の約束とかしちゃ駄目だからね。心当たりが思いついたら変なことでも要発言」

あんじゅ「一人でも変な声を聞いたらその場で立ち止まるから。回想シーンとか入ったら身の危険有りだからね!」

にこ「流石あんじゅ。こういう時のフラグクラッシャーっぷりは最強ね」

あんじゅ「一番大切なことはお互いに信頼し合う心と感謝を忘れないこと。それが崩れると内部崩壊が始まるから」

あんじゅ「それから、異常な緊張状態だと普段よりもずっと体力を疲労するし、体も固くなるよ」

あんじゅ「いつもなら出来ることだからで動かないでね。最低二人の支持を得てから行動しよう」

穂乃果「うん!」

海未「はい!」

凛「了解!」

にこ「言いたいことは全部あんじゅが言ったからゆっくり進んで行きましょう」

あんじゅ「荷物は最低限使える物だけ。それ以外は捨てるつもりで置いていくよ」

にこ「携帯電話は明るさに使えるけど……」

あんじゅ「一番危険だよね。ということで、悪いけど携帯電話はここに置いていって」

凛「どうして?」

穂乃果「明らかに中は暗いんだから必要だよ」

あんじゅ「こういう時の携帯電話は必ず誰かから電話が掛かってくるんだよ。表示は圏外のままなのに」

あんじゅ「強制的に通話になって、こっちから切っても切れないの。写メで凶悪な画像が送られてくるかもしれないし」

にこ「定番のフラグは全て潰す。邪道な私たちに当然は要らないにこよ」

あんじゅ「これが館物なら黒電話が鳴ったり、騎士の鎧が動いたりしてくるけどね」

にこ「あっ、そうだわ。学校ならトイレフラグがあるわね」

あんじゅ「……でも、花ちゃんはもう時代遅れじゃないかな?」

にこ「ここは無駄に歴史ある音ノ木坂なのよ?」

あんじゅ「その音ノ木坂が更に時代を重ねた状態なら、花ちゃんは老婆キャラだよ」

にこ「……そんな花子さんみたくはないわね」

あんじゅ「取り合えずPCがあるような所は回避した方がいいね」

にこ「現代の幽霊はハイテク化が進んでるからね。一応一階の公衆電話がある事務所側は行かない方が懸命ね」

海未「こういう時に二人は本当に頼りになりますね」

穂乃果「うん、そうだね。もう何も怖くないって感じだよね」

あんじゅ「あっ!」

凛「あんじゅちゃん。真っ青な顔してどうかしたの?」

あんじゅ「どうしよう。穂乃果ちゃんが死亡フラグ立てちゃった」

海未「っ!」

にこ「は?」

穂乃果「えぇっ!?」

絵里「どっ、どういうこと?」

あんじゅ「もう何も~って台詞は新しい死亡フラグだから」

穂乃果「……ほむぅ」

海未「そんなっ!?」

凛「理不尽過ぎるよ」

にこ「ま、立ったフラグは仕方ないわ。だったら今ここで高坂穂乃果には死んでもらう」

穂乃果「――えっ?」

にこ「いっぺん死んでみる? バキューン!」

穂乃果「えっ、え?」

にこ「今高坂穂乃果は死んで矢澤穂乃果に生まれ変わった。あんたは穂むらの娘じゃなくて、邪道シスターズの四女よ」

絵里「それってありなの?」

あんじゅ「半々かな? でも、邪道シスターズの加護があれば大丈夫な気がする」

海未「なるほど。仲間の為なら世界すら騙してみせるという訳ですね」

凛「今のは臭くないかにゃー」

海未「うっ」

絵里「ふふっ。長女がこれだと新しい四女に示しがつかないわね。しっかりしないと」

あんじゅ「真の闇より無闇が怖い。エリーお姉ちゃんなら今日で暗い所を克服出来るよ」

絵里「ええ、頑張るわ」

あんじゅ「お願いだから開けないで、死んじゃうから」

絵里「いやぁっ! どうしてあの時の怖い話を思い出させるのよっ!」

あんじゅ「よく考えるとここで絵里ちゃんがやる気を出すと、無闇に走って全滅しそうだったから」

にこ「だからって容赦ないわね。せっかく立ち直ったのに、またしょんぼりモードじゃない」

凛「絵里ちゃんってもっと頼りになるかと思ってた」

にこ「勘違いしないで。今回はたまたま絵里の苦手が重なっただけで、本来絵里程便りになる存在はないわ」

あんじゅ「逆方向で一番頼りになるのはにこだけどね★」

海未「絵里もにこも頼りになるということでは変わりません。当然、あんじゅも同じですが」

穂乃果「そうだね。こんなことになってるけど、三人が居るお陰で不安も少ないし」

海未「それに、絵里が自分異常に不安になってくれるお陰で冷静な気持ちが生まれているのではないですか?」

凛「それは確かにあるかも」

にこ「ただ怖がってるだけでも意味が生まれるなんて、うちの長女は万能ねぇ」

あんじゅ「邪道シスターズのお姉ちゃんだからね」

にこ「さってと、校舎の外に出れた時にこの辺も暗くなってたら困るし、覚悟決めて探索しますか」

あんじゅ「うん!」

――屋上 ⇒ 四階

凛「臭いが酷くてあんまり息したくない」

海未「せめて窓が割れて空気が入ってくればいいのですが」

穂乃果「廃校だったとしたらわざわざ板で窓とか塞ぐかな?」

あんじゅ「これが何かの舞台なら獲物が逃げることを防ぐためだよね」

絵里「ひぅっ!」

にこ「幽霊がわざわざ板で窓を塞がないでしょうから、誰かがしたってことよ。怖がることはないわ」

あんじゅ「でもその考えは軽率だよ。こういう時は常に最悪を想定して動かないと」

にこ「最悪ってどんなよ?」

あんじゅ「獲物を狩る為の舞台として廃校になった音ノ木坂学院で逃げ道を塞いだ」

あんじゅ「その後、何人も犠牲になる事件が起こる。一度ではなく、二度三度と……。被害者の数は十数人」

あんじゅ「犯人は最後は警察に追い詰められて校舎内で呪いの儀式を実行して自殺した」

あんじゅ「その事件以来何度となく取り壊しをしようとするも、工事の度に大きな不幸が起きて工事は中断」

あんじゅ「結局は封鎖したまま建物をそのままにしている状況で月日が流れた……とかさ」

穂乃果「つまりどういうこと?」

あんじゅ「逃げることの出来ない檻の中で、殺人鬼の悪霊や怨霊となってしまった被害者達の霊と命を賭けた鬼ごっこになるかも」

絵里「」

にこ「それは本当に最低ね」

あんじゅ「ただ建物を壊すのに問題があったとかかもしれないけど、念には念を入れてね」

海未「そうですね。何もなくても、ここで怪我をしたりしたら傷口から菌が入る可能性が高いですし」

にこ「薄暗いし、あちらこちらに瓦礫やヒビ割れてるからね」

海未「穂乃果と凛は普段行動派ですから、いつもの倍はゆっくりと行動してください」

凛「了解にゃ!」

穂乃果「うん」

絵里「」

にこ「あと、悪いんだけど誰か絵里の手を引いてあげてくれる」

凛「凛が手を繋ぐよ!」

あんじゅ「ランタンみたいなものがあれば絵里ちゃんも復活出来ると思うんだけど」

にこ「そんな都合のいいものはないでしょ。って、防火シャッターが下りてるわね」

あんじゅ「三階に下りる階段はごっそりと抜け落ちてる」

にこ「これ、シャッターの横の扉が開かなかったら詰みよね」

穂乃果「じゃあ、開けられるか私が確認するね!」

ゆっくりと行動するように言われた矢先、その言葉を忘れて穂乃果はドアノブを掴むと勢いよく回す。

少し錆びた音をたてながらもノブは回りきる。

にこ「待って!」

あんじゅ「穂乃果ちゃん!」

道が塞がれていて、唯一通じる通り道。

逆に言えばそこは最初にトラップを仕掛けるには最適の場所。

穂乃果が静止の声を聞かずに、ドアを押し開く。

同時に上からギロチンの様に横長の刃物が落ちてくる。

開けた人間のその腕を切り落とす為のトラップ。

にこ「にっこぉっ!!」

だが、その刃物が穂乃果の腕を切り落とすより先に、にこが穂乃果の体を後ろに引っ張り込む方が速かった。

穂乃果「あっあぁ」

海未「穂乃果無事ですか!?」

にこ「いっ……たぁ」

あんじゅ「にこ、大丈夫?」

仲間を守る為に普段より強い力を出せたお陰で穂乃果を救うことが出来たにこだが、その代償として右腕の筋を痛めた。

にこ「いや、思ったよりは痛くはないけど。でも右腕が動かないわ」

あんじゅ「無茶しないで」

凛「……驚いた。今のって何だったの?」

海未「刃物が床に減り込んでます。贋物ではないようです」

絵里「つまり誰かが私たちを殺そうとしたってこと?」

にこ「違うわ。ここを通る新しい獲物をっていうのが正確なとこね」

凛「じゃあ、ずっと前に仕掛けてた物が作動したってこと? もう安心なんだよね」

あんじゅ「ううん。刃物が錆びてないことから少なくとも時間が経ってるようには見えない」

にこ「屋上の扉の錆び具合よりもそこの扉は簡単に開いたのもあるし。犯人にとっての本来のスタート地点は屋上じゃないのかも」

あんじゅ「そうだね。何らかの手段を用いてあそこの屋上前の踊り場がスタート地点だったのかも」

にこ「どちらにしろ危険でしかないわ」

海未「怨霊か人間か分かりませんが、命を狙う者が徘徊している可能性が高い。穂乃果、もう安易に行動しないでください」

穂乃果「う、うん。ごめんね」

海未「にこ。穂乃果を救ってくれてありがとうございました。ここで腕がなくなっていたら失血死してもおかしくありませんでした」

穂乃果「……失血死」

あんじゅ「本当に危険みたいだから、軽はずみの行動は本当に禁止だよ」

にこ「ベタだけど変なスイッチとかあったら絶対に押しちゃ駄目よ」

あんじゅ「とにかく何か武器が欲しいところだね。トラップはここだけで緊張が抜けた出口付近に犯人が居るかもだし」

にこ「最悪は椅子でも武器になるからね。どこかの教室で一つは手に入れましょう」

海未「木の棒があれば私にください。皆を守ります」

穂乃果「それか弓だよね……あれ、弓?」

海未「どうかしましたか?」

穂乃果「ううん、なんか以前どこかで海未ちゃんと二人でこんな風に怯えながらどこかの建物を歩いた気がする」

穂乃果「その時、弓が壁に掛かってて。それを取ろうとしたら床が抜けて……その後、物凄い恐怖が襲ってきたんだよ」

海未「夢ではないのですか?」

穂乃果「うん、そうかも」

にこ「落とし穴フラグが立った気がするんだけど」

あんじゅ「建物の関係上、落とし穴というよりは床が抜けるイベントかも」

にこ「どちらにしろ、穂乃果はフラグ立ての名人ね。主人公タイプだわ」

あんじゅ「冗談なく命を賭けたフラグ立てだけどね」

絵里「このまま進むよりも、屋上に戻った方がいいんじゃない? 犯人が居ても出入り口が一つだから危険も少ないし」

あんじゅ「さっきも言ったけど、食料も水もない状態だと弱って動けなくなるだけだよ。その時に襲われたら一溜まりもないし」

にこ「それに、これは本気で別れたら二度と会えない可能性が高いわ。なんとしても外に出ないと」

にこ(あんな光景見た後だから、この校舎の外が危険でない可能性は低いけど)

あんじゅ(一番は脱出じゃなくて、いつもの日常に戻ることだけど。でも、何か引っかかるんだよね)

あんじゅ「にこ。何か私たち大切なことを忘れてないかな?」

にこ「何よ大切なことって」

あんじゅ「……それが思い出せないんだけど。儀式はしてないけど、何か切っ掛けがあった気がする」

にこ「世界が変わるくらいの切っ掛けなんて一般人に起こせる訳ないでしょ」

あんじゅ「にこならなんでもありじゃないかなって」

にこ「あんたの中で私はどんな扱いなのよ!」

あんじゅ「大妖怪にこにぼっち!」

にこ「誰がぼっちよ!」

穂乃果「あははっ」

凛「なんだかにこにぼっちって響きが似合ってる気がする」

絵里(流石ね。命を落とすようなことがあったことを切り替えさせて、恐慌に陥らせない配慮)

――四階 ⇒ 三階

海未「全ての教室に鍵が掛かっていましたね」

穂乃果「誰も居ないってことなのかな?」

にこ「そうじゃないわ。内側から鍵を掛けて、後ろから奇襲される可能性だってあるんだから」

あんじゅ「それに、何処に何が仕掛けてあるかも分からないし」

凛「気が抜けないってことだね」

絵里「こんな状況で気なんて抜けないけどね」

にこ「……悪いわね、凛。うちの長女が迷惑掛けて」

凛「ううん。なんだかかよちんと一緒にお化け屋敷に来てるみたいで楽しいニャ!」

にこ(メンタルの弱い子なのかと思ったけど、そうでもないみたい。でも、気になる点が一つあるのよねぇ)

にこ(穂乃果が軽く凛の衣装をデザインしてみた時に、スカートに対して少し難色を示してた)

にこ(もっと可愛くない方がいいって言いながらも、本音は違うって感じたのよ)

にこ(だからメンタルが繊細で弱い子なのかと思ってた。ま、今は頼もしい以外のなんでもないからいいけど)

半分崩れ落ちている階段をゆっくりと降り、六人は三階へと辿り着いた。

立ち止まって物音に耳を澄ませてみても、他に何かが居るような気配すら感じない。

時を忘れられた世界に迷い込んでしまったような錯覚すら覚える。

穂乃果「この階も薄暗いままだね」

絵里「ねぇ、あの木の板ってどうにか外せないかしら?」

海未「教室が開いていれば椅子でどうにか壊せると思いますが……」

凛「そうさせない意味も込めて鍵が掛かってるのかな?」

にこ「……考え過ぎはよくないわ。闇を覗くと思考の闇に引きずり込まれるって有名な言葉があるくらいだから」

絵里「少し言い方が違うけどニーチェの言葉ね」

海未「私は余り好きではありません。元とはいえ親友の奥さんにラブレターを出すなんて失礼過ぎます!」

穂乃果「二チェさんってそういう人なの?」

凛「そんな人の言葉に重みを置きたくないよー」

にこ「あんじゅ、そうなの?」

あんじゅ「うん。相手を怒らせただけに終わったけどね」

絵里「知らなかったわ。私の中でのニーチェのイメージが壊れそう」

にこ「脇道にそれたけど、あまり意識しすぎないこと。体が余計に固くなってこけたりするかもだしね。……あんじゅ」

あんじゅ(何?)

にこ(こういう時の窓は無理に開けたりしない方がいいわよね?)

あんじゅ(ロケットランチャーが飛んでくるなんてことはないと思うけど、火炎瓶とか投げ込まれたらアウトだし)

にこ(そうよね。三階だから外から何かされたりはしない、大丈夫って安心感は絡め手に使われるからね)

あんじゅ(ただ、最初のトラップの部分もだけど、床・壁・天井の何処にも血の染み込んだような痕はなかったよ)

にこ(ということは、ここでする狩りは初めての可能性があるってことね)

あんじゅ(でも、音ノ木坂って広いから。反対方向で狩りをしてた可能性もあるから)

にこ(大丈夫。油断はしないわ。でも、やっぱり武器はないと不安よね)

あんじゅ(あるに越した事はないよね。いくら海未ちゃんが武道の心得があるっていっても、相手が一人とは限らないし)

にこ(一人だったら逆に武装してるのは当然だろうしね)

あんじゅ(武装じゃなくて着ぐるみかもしれないよ)

にこ(着ぐるみ?)

あんじゅ(こんな感じだね)


海未「外道よ滅びなさい! ハァァァッ! セイ!」

犯人「フハハハハ。今、何かしたのかな?」

海未「私の必殺技である《ウミンディーネクラッシュ》が効いていない!?」

凛「あの着ぐるみだよ! クッションの役割になってて、海未ちゃんの攻撃のほとんどが本体に届いてないんだよ」

穂乃果「どうにかして着ぐるみを脱がさないと駄目ってことだよね」

凛「でも、犯人は手にナイフを持ってるから海未ちゃんみたいに格闘の心得がないとあっさりとやられちゃうよ」

絵里「蒼の神話と言われたウミンディーネが着ぐるみ一つで大ピンチになるなんて……こんな光景、見たくはなかったわ」

犯人「私は神です。お前を祝福してあげましょう!」

海未「くっ! なんてオーラ。駄目です、皆逃げてください!」

犯人「神は平等に滅びを与えるのですよ。神ボンバー!」

その後、SMILEの姿を見た者はいない...

にこ(素でそんな最期嫌よ!)

あんじゅ(でも大丈夫。ヨーヨーが弱点だから。ヨーヨーさえあれば一撃で倒せるんだよ)

にこ(元ネタが分からないからツッコミも出来ないにこよ! どうせ商店街の誰かの影響で古いネタなんでしょ)

あんじゅ(緊張解けた?)

にこ(解けて泡となったわよ)

あんじゅ(緊張しすぎると思考停止と同じになっちゃうからね。私達がなんとかしないと)

にこ(そうね。こんな出鱈目からさっさと抜け出して日常に帰りましょう)

あんじゅ(あ、死亡フラグ)

にこ(にこっ!?)

凛が足元の瓦礫を踏んだ時に鈍い音が響いた。

それはにこが死亡フラグを立てたのとほぼ同時。

瞬間、廊下の闇の奥から何かが飛んでくるのが分かったけれどにこはその場を動けなかった。

否、正確には動かなかった。

後ろには他のメンバーが居る。

にこ(自分で立てたフラグは回収しないとね)

自虐的な笑みと共に数秒先の未来を考え、にこは目を瞑る。

だが、闇の中で耳に届いたのは――。

あんじゅ「ぐぅ」

あんじゅの痛みを押し殺す喘ぎ。

目を開けると、膝から崩れ落ちるあんじゅの後姿があった。

直ぐにその崩れ落ちる体を左手一本で支える。

あんじゅの腹部には槍のように太い弓が刺さっている。

にこ「あんじゅっ!!」

あんじゅ「うふふ……死亡フラグなんて、邪道シスターズ参謀の前では無意味にこ」

にこ「馬鹿っ! 喋るんじゃないわよ」

絵里「え、えっ?」

凛「あんじゅちゃん?」

海未「あん、じゅ」

穂乃果「あんじゅちゃん!」

それぞれがにこよりも数秒遅れで何が起こったのかを理解する。

あんじゅ「私、助からないみたい。チクッとしたけどね、今はもう全然痛くないの」

にこ「だから喋るなって言ってるでしょっ、この愚妹!」

凛「さっき凛が何か踏んじゃったんだよ! だからあんじゅちゃんが!」

あんじゅ「凛ちゃんは悪くないよ。だから気にしないで。世界がフラグ管理を起こしただけだから」

凛「訳わかんない!」

あんじゅ「SMILEに入ってくれてありがとうね。入部してくれることは計算外だったから嬉しかったよ」

凛「……うっ、うぅ。なんで今そんなこと言うのっ」

あんじゅ「海未ちゃん。いつも作詞してくれてありがとう。素敵な歌詞ばかりで、拙いにこにも作詞の仕方教えてあげてね」

海未「やめてくださいっ。まるで遺言みたいなことを言わないでください」

あんじゅ「穂乃果ちゃん。衣装のデザイン毎回可愛いよ。にこにももっと可愛いデザインの仕方教えてあげてね」

穂乃果「うぅっ~あんっじゅ、ちゃん」

あんじゅ「エリーお姉ちゃん。暗闇なんて怖くないんだよ。恐れるに値しないものなんだから」

絵里「あんじゅ」

あんじゅ「だって、私たちにはにこが居るんだよ。心の闇を照らしてくれる優しい太陽が」

あんじゅ「だからね、こんな暗闇に怯える必要なんてないんだよ」

絵里「……うん、うんっ」

あんじゅ「にこ」

にこ「だからっ、喋るなって言ってるでしょ……どうして、私を庇ったのよ!」

あんじゅ「うふふ。私はにこを守るって言ったでしょ」

にこ「そんなの覚えてないわよ! あんたは私の妹なんだから、私が守らなきゃいけないのよ!」

あんじゅ「……ずっと、守られてたよ。にこに出逢えたお陰で、私は人間のまま死んでいける」

にこ「死ぬなんて言葉軽々しく使うなってお婆ちゃんが言ってたでしょ!」

あんじゅ「にこが居たお陰で本当に多くの人と出会えた。楽しかった……一生一緒に居たかったにこぉ」

にこ「何だかんだ言われながらも勝手に私の隣を歩いてなさいよ! あんたが居なくなったら寂しいでしょうが!」

あんじゅ「……」

にこ「あんじゅっ! 寝るんじゃないわよ! 起きてなさいよ! 暗いけどまだ夕方にだってなってないのよ!」

あんじゅ「……私、漸く分かったみたい。どうして、こんな世界に着ちゃったのか」

海未「私っ、手当て出来る物を探してきます。まだ助かる可能性だってある筈です!」

穂乃果「海未ちゃん、穂乃果も行くよ!」

にこ「ちょっと! 勝手な行動するんじゃないわよ! あんた達の身に何かあったら――」
海未「――大丈夫です。私を誰だと思ってるんですか? 貴方達の自慢の妹です。絶対に何かみつけっ、ああぁっ!」

走りながら後ろを振り向いて決め台詞を発した海未の足元が突然崩れ落ちる。

落ちる先は二階の廊下ではなく明らかに闇の底。

穂乃果が手を伸ばすが海未はその手を取ろうとしなかった。

今穂乃果の手を取れば、確実に穂乃果を巻き込んでしまうことを瞬時に悟ったから。

海未「生きてください」

でも、海未のそんな言葉を否定するように穂乃果は海未の名前を叫びながら海未の体に飛びついた。

悲鳴もなく、二人は闇の底へ消えた。

にこ「な……なんで」

あんじゅ「落とし穴フラグ。と、穂乃果ちゃんの死亡フラグが生きてたのかなぁ」

にこ「だからってこんなのあんまりよ!!」

手の中に居るあんじゅは瀕死、後輩二人が墜落して生死不明。

メンバーは一気に半数。

呪われた運命に今立っていることを本当の意味で自覚した。

だが、その自覚は余りにも遅すぎた。

かのように思われた、しかし――。

穂乃果「海を照らす太陽は沈んでもまた昇る!」

穴の中から海未を抱えた穂乃果が空中を何度も跳ねて舞い戻った。

凛「穂乃果ちゃんってロボット?」

唯一口を開けたのは凛だけ。

余りにも非現実な光景ににこと絵里は口から言葉が出てこなかった。

海未「い、今のはなんだったのですか? 落下していたのに何度も空中を蹴って昇ってましたが」

穂乃果「よく分かんない。でも、海未ちゃんと一緒に落下すると恐怖の展開が待ってたことがあったって言ったでしょ?」

穂乃果「あれを思い出したら絶対に落ちれないって思ってさー。そしたら、今なら空中だって跳ねられる気がして」

穂乃果「やってみたら出来たの」

海未「いつから人間を止めたんですか!?」

あんじゅ「やっぱり、そうなんだ」

にこ「あんじゅ! あんた何か知ってるの?」

あんじゅ「にこが右腕の筋を痛めた時に少しおかしいなって思ったの。全然痛そうじゃなかったから」

にこ「それが何よ! 確かにちょっと痛かっただけだったけど、今でも動かないんだからね」

あんじゅ「私もあんなに勢いよく刺さったのに全然痛くなかったし、何より腹部刺さってるのに血が出てないんだよ?」

あんじゅ「口からも傷口からも出血がない。そして、痛みも今全然ない。そして、穂乃果ちゃんの思い込みジャンプ」

にこ「最後のが場違いな気がするけど、なんだってのよ?」

あんじゅ「これって……けっこう前に立てたあのフラグなんじゃないかなって」

にこ「何よ、そのフラグ」

あんじゅ「こころちゃんとここあちゃんが同じ夢を共有したって話を聞いた時に立てた夢共感フラグ」

あんじゅ「つまりこれ、規模の大きい夢オチだよ」

にこ「…………ハァ?」

海未「なるほど、夢ですか。でしたら今の現象も説明がつきます」

絵里「でも待って。こんなに臭いまでハッキリした夢なんてありえるの?」

あんじゅ「フラグ効果はプラシーボ効果を超越するから。でも、痛覚はほとんどないみたい」

凛「普通夢だと痛みを感じないんじゃないの?」

あんじゅ「それって俗説だよ。こんな経験したことない? 例えばお腹を刺されて痛みで起きたとか」

凛「あっ、確かにそういう時あるかも」

あんじゅ「実際に腹痛だったり、足をぶつけてたりとかの場合もあるけど。夢の中だけの痛みもまたあるんだよ」

海未「ではいつから夢の世界になっていたのでしょうか?」

穂乃果「そもそも今日って屋上で練習してたかな?」

絵里「皆で集まってはいたけど、練習はしてなかったんじゃないかしら?」

にこ「……川原で寝転んでたんじゃなかった?」

あんじゅ「そうそう『PV撮影の練習をするにこ!』とか言って六人で寝転んでたよね」

穂乃果「春の陽気な天気に誘われて……寝ちゃったってこと?」

海未「つまり、そのにことあんじゅのフラグに私たちは巻き込まれたということですか」

絵里「つまり、私達が無駄に怖い思いをした犯人はにことあんじゅってことね!」

にこ「待って。私じゃないわよ、明らかにこんなミステリー系はあんじゅよ。犯人はあんじゅ!」

穂乃果「ということはあのギロチンを避けてなかったらどうなってたのかな?」

海未「腕をなくしたくないという思いから刃物が跳ね返っていた可能性がありますね」

凛「夢の舞台はあんじゅちゃんが悪いけど、夢オチフラグだって気付かせるのを遅らせたのはにこちゃんってことにゃ」

にこ「にこ右腕が動かないくらいに一生懸命人助けしたのに攻められるの!?」

穂乃果「私はにこちゃんに感謝してるよ。最初から夢って知ってるの隠してたならプンプンだけど、そうじゃないんだし」

あんじゅ「夢と知らずに自分の命を投げ捨てて海未ちゃんに飛びつく穂乃果ちゃん。王子様だったね☆」

海未「そうです、穂乃果! 現実だったら無駄死にになってたんですよ。もっと自分の身を大切にしてください!」

穂乃果「だったら絶対に海未ちゃんは穂乃果より先に死んじゃ駄目だよ」

海未「そんな約束は出来ませんし、私は穂乃果には私より長生きして欲しいです」

凛「なんか痴話喧嘩みたいになってるよ?」

にこ「ことりが居れば丸く収めるんだろうけど、ほっときましょう。てか、本気で妹が姉より先に死ぬんじゃないわよ」

あんじゅ「にこが死亡フラグ立てない限りね★」

にこ「リアルナイトメアを喰らったから、もう安易にフラグなんて立てないわよ」

絵里「心臓に悪かったけど、でも……お陰で少しは暗い所に対して免疫がつきそう」

凛「じゃあ、今度は遊園地行って、みんなでお化け屋敷行こうよ!」

あんじゅ「あっ、いいね。それなら歩いて進む方がいいよね。都内で一番怖い幽霊屋敷を調べておくね」

絵里「ひぃっ! や、やめなさいよ。肝試しもお化け屋敷も馬鹿な子がやることなのよ」

にこ「絵里が本気で泣きそうだからそれは勘弁してあげなさい」

絵里「……泣きはしないけど」

にこ「とにかく、起きましょう。うら若き乙女が外で寝てるなんて危ないわ」

凛「にこちゃんだけは大丈夫じゃないかな?」

絵里「そうね、にこは安心ね」

あんじゅ「うふふ♪」

にこ「何よそれ! ほら、起きるわよ!」

にこ・あんじゅ・絵里・凛の四人は海未と穂乃果を置いて夢の世界から旅立った。

穂乃果「って! 他の皆が居なくなってるよ!?」

海未「みんなして置いていくなんて酷いです」

穂乃果「本当だよ。それじゃあ、海未ちゃん。一緒に起きようか」

海未「いえ、私にはしなくてはいけないことがあるので穂乃果は先に起きていてください」

穂乃果「よく分からないけど分かったよ。それじゃあ、先におはようしてるね♪」

穂乃果が消えてから体感時間一分。

海未は両手を胸の前で組むと謎の呪文を口ずさむ。

海未「ウミルウミミミウミルンルン♪」

海未「私は素敵なウミィンディーネ!」

海未「   変  身   」

純白の衣装にうっすらと蒼を帯びたフリル多めの衣装。

手には魔法のステッキを持ち、太陽をモチーフにしたメダルを首から提げ、髪には鳥の羽のような飾りをさしている。

海未「皆のヒロインウミンディーネ参上です☆」

海未「みんなのハート打ち抜くぞ~♪」

ステッキが光の弓矢に代わり、海未が引く。

海未「ラブアローシュート! バーン♪」

光の矢が校舎の壁を貫き、明るい日差しが差し込む。

その眩しさに目を閉じ、開けばそこあるのは青い空。

海未「……どうやら私も目覚めたみたいですね」

その目覚めから数十秒後、寝言で自ら編み出したラブアローシュートを口にしていたことでからかわれることになる。

それを今の海未はまだ知らない……。 おしまい

※UTX春後半が難産過ぎるので、予定を変更してお届けします。

◆願いの旅人 ~音ノ木坂学院校内新聞より~◆

ニコフィラは十五歳になり、一族の掟により旅に出ます。

それは一人前の魔女になる為の見聞を広げるため。

命の大切さを学ぶため。

自分が生きるこの世界を知るため。

旅立つニコフィラに里の長である祖母が七つの宝玉を渡します。

これは願いを叶えてくれる魔女の秘宝。

あなたが使いたいと思った時にだけ使いなさい。

どんなことに使おうとそれはあなた次第。

しかし、これは長い旅になります。

後先考えずに使ってしまって後悔だけはしないように。

次に逢えるのは早くてもあなたが二十歳になる頃でしょう。

絶対に無事に帰ってくるのですよ。

優しく抱き締められて、一人で旅をしなくてはいけない今からを思うと不安が顔を覗かせます。

でも、だからこそ逆に考えました。

もう一度こうして抱き締めてもらう為にも、世界を見て成長して絶対にここに帰ってこよう。

「いってきます」

ニコフィラは今日里を出ました。

里の中でも一人できちんと過ごせるようにと、色んな経験をしてきました。

一番の不安は孤独という最大の敵だけです。

ううん、ニコフィラは顔を横に振ると考えを改めます。

この寂しさは敵じゃなくて、他の誰かを愛しいと思える大切な感情。

だから、だからこの溢れ出る涙に理由なんてありません。

そう言い聞かせて、ニコフィラは一人で過ごす初めての夜を過ごしました。

里を出てから十日経ち、森の中で出逢いがありました。

それは二人の子兎です。

名前をココロとココア。

お母さんと逸れてしまい、二人でこの森を彷徨っていたそうです。

ニコフィラは大事な食料を分け与え、少しだけ考えた後に袋から二つの宝玉を取り出しました。

《外敵から守ってください》

《お母さんと再会させてください》

長い旅になることは分かっていながら、ニコフィラは願いを込めました。

そして、紐を通して二人の首に掛けます。

これは私のお守りニコ。

とっても効き目があるから、お母さんと再会するまで付けててね。

優しい笑顔を浮かべて二人にお願いします。

ココロとココアは疑うことなく笑顔でお礼を言いました。

陽も暮れてきたのでその日は三人一緒に夜を過ごします。

天使のような二人に癒されながら、寂しさという感情を忘れて眠れる幸せな一夜でした。

朝になり、三人で食事をするとニコフィラは二人にお別れを言います。

本当は一緒にお母さんを探したい。

でも、自分には魔女の掟があるのです。

その掟を守る為には二人に付いて行くことが出来ません。

だから二人の無事を強く祈り、笑顔でお別れをしました。

ココロとココアも沢山のお礼を言って、笑顔でお別れできました。

ですが、ニコフィラが完全に姿を消してから、二人で身を寄せながら泣きました。

たった一日過ごしただけでしたが、二人にとってはまるで姉のような存在だったからです。

本当は一緒に居たかった。

でも、我が侭を言って困らせたくなかった。

だから二人で一日だけの姉の無事を強く祈り、笑顔を浮かべられたのです。

その気持ちは居なくなってしまってから完全に崩壊し、涙が止まりませんでした。

それでも、泣き止んでからは二人はその場を後にします。

今も自分達を探してくれているであろう母に会う為に。

昨日、ニコフィラに出逢うまではもう二度と会えないかもしれないと不安しかなかった。

だけど今は不思議とこの先に大好きな母が居る、そんな気持ちが生まれて強い足取りで跳ねます。

数日の時を経て、二人は無事に母と再会を果たします。

いっぱい泣いて、いっぱい甘えて、いっぱい叱られて……。

落ち着いてから二人はニコフィラのことを伝えました。

自分達が首に掛けてる玉はお守りなんだって。

誇らしげに見せました。

母はその宝玉を見て、二人と無事に再会出来たのはこれのお陰なんだと直感で悟りました。

ニコフィラという旅人に心の底から感謝しました。

そして、その旅路が平穏なものになるようにお祈りしました。

三人は揃って里に帰ります。

対敵から身を隠しながら、ぴょんぴょんと小さく跳ねて進んで行くのでした。

ニコフィラは今日も一人で旅をします。

過酷な旅はまだ始まったばかり。

でも、寂しさが大きくなった時に思い出すのです。

二人の可愛い子兎のことを。

願いの宝玉を二つも失ったことを後悔なんてしていません。

お陰で手に入れたこの温かい思い出。

これこそが何にも勝る大切な宝物。

にこは涙で頬を濡らすことはなくなりました。

明日はどんな光景が待ち受けているのか、もしくは出逢いが待っているのかもしれない。

寂しさは明日への期待に変わり、笑顔を浮かべながら眠りにつきます。 次号につづく

――四月 音ノ木坂学院 部室

にこ「……何これ」

あんじゅ「何かもう一つ記事を書いてみないかって言われたから、小説書いてみたにこ♪」

海未「不思議な世界観ですね」

穂乃果「なんだか小学生の時の国語の授業を思い出すね」

海未「動物が喋るのは基本でしたね」

絵里「私はこういうの好きよ。でも、早々に七つしかない宝玉を二つも使って大丈夫なの? にこは抜けてる部分があるし心配よ」

にこ「ちょっと待ちなさいよ! 旅をしてるのは私じゃないわよ」

海未「モデルであるのは名前からも確実ですが」

穂乃果「そうだね!」

絵里「でしょ? だから心配で仕方ないわ。どうなの、あんじゅ」

あんじゅ「ネタバレになっちゃうから秘密」

にこ「ま、私はエタると思うけどね」

穂乃果「エタる?」

にこ「ルーツは面倒だから省くけど、未完成で終わるってことよ」

あんじゅ「にこってば酷いよ。エタったらその物語の子達は一生そのまま先に進めないんだよ?」

あんじゅ「そんな可哀想なことさせる訳ないじゃない」

にこ「そんなことを言いながら、あんじゅは半年後エタって新聞に頭を下げていた」

あんじゅ「ナレーションは私の得意技だから真似は駄目っ!」

絵里「絶対にエタるっていうのをしないでね。続き楽しみにしてるんだから」

海未「何事も始めたなら自分の中で意味が生まれるまではやり通してください」

海未「何も見出せず、読んでくれた人の期待を裏切って途中で放棄するなんて最低ですから」

穂乃果「……最低とは思わないけど、穂乃果も好きだった少女漫画が未完結のまま終わったことあって、あれは残念だったなー」

あんじゅ「なんだか不安になってきちゃったよ」

にこ「どうせプロットもなしに思いつきで書いたんでしょ?」

あんじゅ「こういうのって邪道と違ってインスピレーションで書くのが良いのかと思って」

にこ「それは正しいかもね。あんたが練って書くとどう転んでも読者を嵌める内容になってただろうし」

絵里「そんなのより私はこういう心が温かくなる話がいいわ」

にこ「こんな風に思ってもらえる相手が居るんだから、最後まで頑張りなさい」

あんじゅ「うん、がんばる!」

海未「何なら作詞の方もチャレンジしてみますか?」

穂乃果「さっすが海未ちゃん! 時々面白いくらいに空気を読まない」

海未「その失礼な言い方はなんですか。私は常に空気を読んでます」

あんじゅ「……作詞はこれが無事に終わって気力が残ってたら考えるにこぉ」

にこ「これぞ正に策士策に溺れるにこね!」

絵里「決め顔浮かべてるところ悪いけど、全然間違ってるわよ」

穂乃果「にこちゃんも国語を勉強する意味でも何か書いてみたら?」

にこ「勉強面のことを穂乃果に言われたくないわよ! そもそもね、にこ観察記録だけで満足すべきだったのよ」

絵里「まぁまぁ。つい欲張っちゃうくらいににこの魅力を伝えたいっていう可愛い妹心じゃない」

海未「にこの武器は愛着ですから、あんじゅの記事のお陰でより愛着が生まれます」

穂乃果「雪穂にも学んで欲しいくらいだよ」

にこ「あんた達って何だかんだあんじゅに甘いわよね」

絵里「一番甘やかしてるにこに言われてもね」

にこ「勝手にあんじゅが甘えてくるだけよ」

あんじゅ「だったら甘えるにこ~♪」

にこ「あっついから抱きついてくるんじゃないわよ」

あんじゅ「うふふ。にこからアイディアを吸い取るの★」

にこ「恐ろしいから離しなさいよ、この愚妹!」 チャンチャン♪

◆続・海未の誕生日◆

――二年目 三月十五日 朝

穂乃果「海未ちゃん! おっはよう☆」

海未「おはようございます、穂乃果」

穂乃果「改めて誕生日おめでとう」

海未「ありがとうございます」

穂乃果「今日の夜はことりちゃんも海未ちゃんの誕生日パーティーに来てくれるし、楽しみだね♪」

海未「申し訳ない気もしますが」

穂乃果「私たち幼馴染に遠慮なんてなしだよ。今日くらいは全力で甘えてよ」

海未「そうですね、そうすることにします」

穂乃果「にこちゃん達も練習はなしにしてお祝いしてくれるし、海未ちゃんは幸せものだねぇ」

海未「ふふっ。確かに幸せ者です。ですが、だからこそ来年の今頃を思うと寂しく感じます」

穂乃果「……そっか、来年の今日はもう既に卒業しちゃってるんだ」

海未「こんな弱気のままじゃいけませんね」

穂乃果「そうだよ。逆に卒業したくないって言わせるくらいに頑張らないと。ファイトだよ!」

海未「そうですね。そういえば穂乃果、昨日の電話のことなんですが」

穂乃果「うん、どうかした?」

海未「今朝ことりから電話があって気付いたんです。寝惚けてて訂正を入れられなかったのですけど」

海未「十七年前に生まれきたって間違えです」

穂乃果「――あっ! えっへへ~。十六歳になったんだから十六年前だよね」

穂乃果「昨日の練習きつかったから電話するまでけっこう眠りそうだったんだよ」

穂乃果「海未ちゃんの年齢間違えるなんて最低だよね」

海未「何を言ってるんですか。そういう抜けている部分があるから穂乃果らしいんじゃないですか」

海未「でも、私におめでとうを言う為に無理をするなんてしないでください」

穂乃果「だって誰よりも先におめでとうを言いたかったんだもん」

海未「その気持ちは何よりも嬉しいです。ですが、睡眠不足で倒れでもしたら心配がその気持ちを上回ってしまいます」

穂乃果「うん、ごめんなさい」

海未「ですが、そんな無理をする穂乃果だからこそ私が抑え、ことりが自然と宥める関係が成り立つんですけどね」

海未「その度に私たち三人の絆が深まるんです」

穂乃果「うん!」

海未「それから、どんなに成長しても穂乃果は少し抜けてるくらいが丁度いいです」

穂乃果「なにそれー」

海未「また私の年齢を間違えることをして欲しいってことです」

穂乃果「もう二度と間違えたりしないよ」

海未「いいえ、絶対に穂乃果なら間違えます。それが三十歳の時なのか五十歳の時なのか……それとも八十歳の時なのか」

海未「それは分かりませんが。穂乃果は今日の失敗を繰り返して私に訂正させるに違いありません」

海未「そしてことりが優しく穂乃果を慰める未来が目に浮かびます」

穂乃果「海未ちゃんってば朝からとっても恥ずかしいこと言ってるよ?」

海未「誕生日でもない限りこんな恥ずかしいこと言えません」

穂乃果「えへへ! そうありたいね。どんなに変わっても絶対に変わらない私と海未ちゃんとことりちゃんの関係」

穂乃果「私たちはいつまでも仲良しさんだよー!!」

海未「ちょっと穂乃果! 突然叫ばないでください。近所迷惑ですよ」

穂乃果「いやぁ~だって嬉しさが体に収まりきらなかったんだもん」

海未「だもん、じゃありません!」

穂乃果「誕生日なんだから朝から怒らないでよ」

海未「穂乃果が怒らせてるんじゃないですか!」

穂乃果「海未ちゃんの厳しい一面だけは変わってて欲しいかも」

海未「穂乃果がしっかりとするまで直りません。つまり、一生直りません!」

穂乃果「ぴぃっ!」

海未「ことりの真似をしたって許しませんよ」

穂乃果「うぅ~……逃っげろ~!」

海未「こら、穂乃果! 待ちなさ~い!」 おしまい

◆願いの旅人 NO.2 ~音ノ木坂学院校内新聞より~◆

旅立ってから一月が経ち、人間の住む里近くまでやってきました。

初めて会う人間達に少し緊張を隠しきれないニコフィラですが、見た目は普通の人間と変わりません。

ですから追い出されることもなく、旅の最中に魔力を使って作った非常食を渡すことで、一泊することを受け入れられました。

人間がどんな暮らしをしているのか興味はあったのですが、緊張が高まり過ぎて一人になりたくなり、里の外へ出ました。

木を切り崩してお金を手に入れているのか、森は少し寂しい状態になっています。

しかし、これもまた生きる為のこと。

魔女は自然と共にある生き方をしているので、頭で分かっていても胸が痛みます。

そんな想いの中、導かれるように歩き続けた先に泉がありました。

とても綺麗な泉で、鳥達だけでなく、動物達にとっても憩いの場所になっているようです。

ニコフィラも泉に感謝の言葉を告げてから一口その清らかな水を頂きます。

喉を通る冷たい水が心地よく、思わず笑顔になります。

そんな中、泉から精霊が姿を現しました。

妖精を見たことがあっても、精霊を見たのは初めてでしたが緊張はありません。

笑顔で挨拶すると、泉の精霊・ウミンディーネもまた丁寧な挨拶を返してくれました。

泉の傍の石に腰を掛け、二人は色んな言葉を交わします。

主に話しているのはウミンディーネの方。

長い年月の間に人間は変わってしまった。

昔は共に生きていたのに、次第に姿が見えなくなり、声が届かなくなり……自分のことは忘れられたのだと。

そして、今は自然との共存を止めて森を開拓する。

森に住む動物達の住処がなくなっていく。

ほとんどが愚痴でしたが、ニコフィラは嫌な顔をせずに聞きました。

胸の内を全て打ち明けた後、ウミンディーネは言いました。

最後に誰かと話を出来て良かった、と。

その言葉に首を傾げて質問をしました。

精霊という存在は何かに対して悪意を抱くことが許されない清き者。

もし、悪意を抱いてしまえば次第にその思いは業を深め、災いを引き寄せる存在になってしまう。

だから、そうなる前に消滅する道を選ぶことを決めていたそうです。

奇しくも今日が消滅すると決めた日。

この時、ニコフィラは運命という導きに感謝しました。

願いの宝玉を一つ取り出すと願います。

《この泉に訪れる者に精霊の姿と声を伝えてください》

願いを込めた宝玉を泉の真ん中に投げ入れました。

そして、ウミンディーネに伝えます。

消滅するかどうかはもう一日だけ待って欲しい。

話を聞いてくれたお礼にその言葉を受け入れてくれました。

ニコフィラは夜の帳が降りる頃、人間の里に戻ります。

翌日、ニコフィラは里の長に挨拶をして旅を続けます。

あの泉の精霊がどうか笑顔になれますようにと願いながら。

ウミンディーネは消滅する恐怖を抱きながら、昨日のことを思い出します。

最後の最後にいい思い出が出来た。

自然の神様に感謝しながら、今日という日の終わりを待ちます。

そんな中、複数人の人間が泉に現れました。

胸に立ち込める悪意を押さえ込みます。

ウミンディーネをしっかりと捉えると、人間達が跪いて謝ります。

言い伝えでしかなく、本物の精霊が泉に居るとは思っていなかったこと。

自分勝手に森を開拓している現状。

何よりも自然に対する感謝を忘れていたこと。

人間が生きる為には仕方のないことだったのかもしれませんね。

胸に生まれていた悪意は不思議と浄化されました。

ウミンディーネは昔のように人間に言葉を掛けます。

自然の中で生きる為には共存していくことが何よりも大切なのだと。

生きる為にと言い訳をして動物達の住処を壊すことはならないと。

共存共栄こそが理想であり、昔のあり方なのだと。

こうして人間達はウミンディーネの声を聞いて改心します。

動物の言葉を伝えてくれて、人間の言葉を動物に伝えてくれる。

人間に出来ないことを動物がして、動物が出来ないことを人間がしてくれる。

自然に感謝し、動物達と共に生きる。

もう二度と戻ることのないと思っていた幸せな日々。

ウミンディーネは今は何処を旅しているのか分からない、ニコフィラに今日も感謝を捧げます。

精霊に愛されたこの里は、いつまでもいつまでも栄えることになる。 次号につづく

――五月 音ノ木坂学院 部室

にこ「これってニコフィラが里に戻った後に人間達に何を言ったのか省かれてるわよね」

にこ「これだと読者を置いてけぼりじゃない? もっと推敲してから新聞部に渡しなさいよ」

にこ「自分の頭の中でだけで纏まってるんじゃなくて、きちんと全てを伝える努力をすべきね」

海未「私はそういう部分を自分で考えることで想像力を豊かにするので良いと思いますよ」

にこ「こういうのは手抜きっていうのよ」

海未「にこはあんじゅに対して厳しすぎです」

にこ「次号にまた続くんなら直すべき箇所は指摘してあげるべきでしょ」

海未「そうだとしても上から目線で物を言い過ぎです」

にこ「校内新聞だからまだいいものの、これをネットにあげたら批判の嵐よ」

海未「ネットで公開する訳じゃないんですから、その前提はおかしいです」

絵里「二人共変に熱くならないの」

穂乃果「そうだよ。自分が出た回だからってウミンディーネちゃんってば気合入り過ぎだよ」

あんじゅ「二人共、あんじゅの為に争わないで欲しいにこ~♪」

穂乃果「って、あんじゅちゃんは嬉しそう」

絵里「にこと海未が自分のことで熱くなってるのが嬉しいみたいね」

海未「にこ観察記録と違ってフィクションですから、全部を書き記す必要はないと思います」

にこ「待ちなさいよ! あっちだってにこっていう別の生き物じゃないの。あたかも実話みたいに言うんじゃないわ!」

あんじゅ「にっこにっこ☆」

にこ「にこにこにっ?」

あんじゅ「にこ~♪」

にこ「にここ☆」

海未「正ににこ観察記録通りの会話じゃないですか」

にこ「釣られただけよ!」

あんじゅ「うふふ。にこってば可愛い~♪」

にこ「くっ……もういいわ。次は誰が出てくるのか知らないけど、もっと完成度をあげることね」

海未「にこの言葉なんて気にしないで今回までのように書くべきです」

絵里「次はエリーチカの出番ね!」

穂乃果「どうしよう、穂乃果の場合名前がないよ」

絵里「ホノチカとかどうかしら?」

穂乃果「……えぇー」

絵里「どうして嫌そうな顔するのよ」

穂乃果「絵里ちゃんってかしこいけどネーミングセンスがあんじゅちゃん並だよね」

絵里「……ほむぅ」

穂乃果「それ穂乃果の鳴き声だよ!」 チャンチャン♪

◆陸上部・その後◆

にこ「陸上部は毎日遅くまで練習してるみたいね」

あんじゅ「うん、夏の大会に向けて一生懸命って感じだよね」

絵里「それだと私達が一生懸命練習していないみたいに聞こえるじゃない」

あんじゅ「休むのも練習のうちだよ」

にこ「そうそう。練習を楽しめなくなったらスクールアイドルなんてやってられなくなるからね」

あんじゅ「と、絵里ちゃん勧誘前の扱きで楽しめてなかったにこにー部長のありがたい言葉である」

にこ「うっさいわねぇ」

絵里「……こんな小さい子にあんな酷いこと言うなんて、過去の自分を殴ってあげたいわ」

にこ「同い年よ! それからね、身長はキラ星と同じなんだからね」

絵里「ツバサさんって小柄なのに色気っていうのかしら、女性から見てもそういう魅力があるわよね」

あんじゅ「71に魅力を求めるのは虐めだよ!」

にこ「名前みたいに何人のバストサイズ言ってんのよ! っていうか、にこのバストは74cmだし!」

絵里「にこの可愛いところは身内には見栄っ張りになるところよね」

あんじゅ「そうそう。バレバレなのが特に可愛いにこ♪」

にこ「見栄じゃなくて事実よ、事実」

「にこちゃんせんぱ~い!」

「おつかれさまです!」

「今日は練習休みですかー!?」

にこ「陸上部だけあって声も大きいわねぇ」

あんじゅ「ほら、返事返してあげないと。なんならにこの姿が見えるように後ろから持ち上げてあげようか?」

にこ「見えてるから声かけられてるんでしょうが!」

あんじゅ「うふふ」

にこ「たくっ。練習は集中してやらないと怪我の元だからね。気を抜かないようにするのよ!」

「大丈夫でーす!」

「練習ないならこっちで勝負しましょうよ」

「そうですそうです。そうしましょう」

絵里「ふふっ。ほら、わざわざこっちに走ってくるわよ」

あんじゅ「にこってば大人気だね」

にこ「こないだのがあったばかりだから見世物パンダってやつよ」

「こないだはにこちゃん先輩って手抜きだったから本気で勝負しましょうよ」

「私もこないだはやる気じゃなかったし、本気でやりたいです」

「私はあの場の空気もあって実力出せずに僅差だったので、お互い本気でやりましょう」

絵里「かつてない程のモテモテ振りね」

あんじゅ「中高年のアイドルだったにこが……感動して涙がぽろり」

にこ「はいはいはい。気持ちは嬉しいけど陸上部であるあなた達と本気でやっても結果は見えてるわよ」

「そんなことないですよ」

「そうです。それにですね、本気のにこにー先輩に勝てたら、本当に将来自慢出来るじゃないですか」

にこ「自分で言って何だけど、私に勝ったことなんて誰にも自慢出来ないってば」

絵里「どうかしら? にこが有名になれば本当に自慢になるわよ」

にこ「私が有名になるってありえないわよ」

シカコ「今でも充分に有名だと思います。そして、にこ先輩が勝負に来るならあんじゅ先輩もお願いします」

あんじゅ「あっ、シカちゃん」

シカコ「前回の敗北を知ったことで、私は更に速くなることが出来そうです。今度は乗り越えるべき屍になってください」

あんじゅ「私はラスボスより断然強い雑魚キャラだからね。そう簡単には倒せないよ」

にこ「もはやザコじゃないじゃない」

絵里「らすぼす?」

あんじゅ「最後に超えるべき相手って意味だよ。シカちゃんの場合は凛ちゃんがそうなる筈」

凛「呼んだ?」

にこ「あら、凛。お疲れ様ね。陸上部はどう?」

凛「皆優しくしてくれるし、こっちの練習も楽しいよ!」

「凛ちゃんすっごい速いんですよ」

「すごく明るいから活気が沸いて、みんなやる気満々です」

「そういうことですからにこ先輩も今からでも掛け持ちで陸上部に入りませんか?」

にこ「無茶振りもいいとこよ。身長がない分、足が短いから陸上は何をするにも私は不利なの」

「う、うちのお母さんの頃はにこちゃん先輩の身長は平均より少しだけ下なくらいだったみたいですよ?」

「私のお母さんも昔は陸上やってたけど、にこにー先輩と同じくらいだったみたいですし」

「にこ先輩! 陸上に必要なのは努力と根性だけです!」

あんじゅ「空気を読まないにこのマジレスに妹涙」

絵里「一年生の皆さんの優しさが切なさを運んでくるわ」

凛「あははっ。でも、凛はこれこそがにこちゃんの不思議な魅力だと思うにゃー」

シカコ「アイドルに必要なのはカリスマ性を持った存在か、親しみを持てる存在。私は後者の方が素敵だと思います」

「私、スーパーで嬉しそうにもやしを買い漁るアイドル見たことがあります。なんか親近感沸いてファンになりました」

「あの料理番組でよくタイトル噛んでたあの子だよね。私も好き。今思うとにこにー先輩に似た雰囲気あるかも」

「にこ先輩がアイドルになったら親しみあるアイドルとして老若男女から人気出そうです」

にこ「私はアイドルにはな――もごご!」
あんじゅ(それは駄目だよ。にこはもう少し空気読もうね)

絵里「にこは歌がそんなに上手い訳じゃないからソロデビューはないと思うけど、応援してあげてね」

「はいっ!」

部長「ほ~ら! ルーキーズ+シカちゃん! そろそろ練習に戻った戻った!」

「あっ、いけない。それじゃあ先輩達、これで失礼します。絶対に今度勝負しに来てくださいね!」

「待ってますから。お疲れ様でした!」

「失礼します」

凛「それじゃあ、凛も戻るね。ばいばい☆」

シカコ「私も失礼します」

にこ「何度も言うけど、怪我には気をつけなさいよー」

あんじゅ「ばいば~い!」

絵里「練習頑張ってね」

あんじゅ「陸上部の子は皆素直でいい子だね」

絵里「本当ね。にこの邪道の最中はどんなシコリが残っちゃうのかと気が気じゃなかったけど、あんじゅのお陰ね」

にこ「なんか納得いかないわ」

あんじゅ「納得出来ないのはにこの策が甘いからだよ」

にこ「あんたに比べたら誰でも甘くなるわ。でも、いつかにこの策でギャフンと言わせてやるわ」

絵里「あっ、これが噂のフラグね!」

あんじゅ「残念ながら今立てようとしたフラグは消滅してしまいました。顔をお味噌汁で洗って出直して下さい」

にこ「どうしてよ!?」

あんじゅ「目を瞑って想像出来る? 私がにこの策に陥れられてる姿」

絵里「あー……どう足掻いても無理ね」

にこ「ぐぬぬ!」

絵里「じゃあ私が何か策を練るのはどうかしら?」

にこ「絵里の場合は良くも悪くも真っ直ぐだから。策とかは向いてないでしょ」

あんじゅ「そうだね。というか闇墜ちエリーちゃんとか私以上に性質が悪そうだから御遠慮願いたいかな」

絵里「闇落ち?」

にこ「ま、いつかなんかやりたいわね」

絵里「そう言えばこないだ佐藤さんの知り合いで研究者の飯田さんって人を紹介されたんだけど」

あんじゅ「おぉ! 男性?」

絵里「ううん、白衣が似合う女性よ。こないだ夢を共有したじゃない?」

にこ「あの夢の所為でフラグを警戒するのが馬鹿らしくなってきたわ」

あんじゅ「その割にはさっき頑張って立てようとしてたよね」

にこ「うっさい」

あんじゅ「うふふ。それで、あの明晰夢が何か関係あるの?」

絵里「強制的に明晰夢を見せる研究をしてて、成功率もかなり高くなってきたってところで研究が息詰まったんだって」

にこ「明晰夢を強制的に……なんかある意味で拷問に使えそうね」

あんじゅ「そうだね。その内、夢と現実の区別がつかなくなって精神崩壊起こしそう」

にこ「あの人の知り合いだけに恐ろしいわね」

絵里「そんな風に悪く言うのはよくないわよ。それでね、こないだの夢を共有したことを伝えたらしいのよ」

絵里「そしてたら息詰まってた研究が上手いこと進んでるらしくてね、完成したらお礼がしたいって言われてるの」

にこ「お礼?」

絵里「ええ、機械に見る夢をセットすることで楽しめるって話よ」

あんじゅ「それは楽しそうかも。こないだみたいなのでも大丈夫ってことだよね?」

にこ「確かに楽しそうではあるわね。ライブ会場にお客さん満員の状態とかいい練習になりそうだし」

絵里「にこってそういう部分は凄く真面目よね。尊敬するわ」

あんじゅ「でも、絶対にお礼は楽しめるのがいいよね!」

絵里「そして、あんじゅはそんなにこの意見を簡単にふいに出来る。尊敬するわ」

にこ「あんじゅを尊敬するのはおかしいでしょうが!」

絵里「くすっ。冗談よ」

あんじゅ「でもさ、時期にもよるけどラブライブが終わった後なら遊びに使うべきだよね?」

にこ「あっ、そうね。大会後ならもう皆ステージを経験した後になるんだし」

絵里「何か見たい夢みたいなものがあればリクエスト下さいってことだけど、どうする?」

あんじゅ「脱出ゲームがいいな♪」

絵里「脱出」
にこ「ゲーム?」

あんじゅ「うん! 廃校じゃなくて、廃屋が舞台でアイディアとアイテムを屈してそこから脱出するの」

にこ「つまりあんた向けのゲームって訳ね」

絵里「でも面白そうね。最初から夢だと分かってれば怖がる必要もないし」

にこ「出来ればチーム戦の方が盛り上がるんじゃない? 三年生が固まってる時点で難易度イージーだし」

絵里「そうね。複数に分かれることが出来るか分からないけど、一応提案してみるわ」

あんじゅ「三チームに分かれるくらいが一番難易度高いかな?」

にこ「そうね。二人なら緊張感も生まれるし」

あんじゅ「となると行動派と知性派で組ませた方がバランスいいね」

絵里「行動派と知性派。前者がにこ・穂乃果・凛であってるかしら?」

あんじゅ「うん、残りが私と絵里ちゃんと海未ちゃん」

にこ「私が知性派じゃないのが微妙に悪意を感じるわ」

あんじゅ「もう少し頑張りましょう」

にこ「小学生の時の通信簿を思い出させる発言しないでよね!」

あんじゅ「あ、絵里ちゃんには通じなかったね。後で説明してあげるね」

絵里「ええ、ありがとう」

あんじゅ「一年生の凛ちゃんにはかしこいエリーお姉ちゃんがいいよね」

にこ「出来るかどうかも謎なのにいきなりチーム分けを進めるってどうなのかしら」

あんじゅ「穂乃果ちゃんのリードを出来るのは海未ちゃんだけ。だから私はにこで我慢してあげるニコ!」

にこ「なんですって!?」

絵里(ふふっ。どうあってもあんじゅはにこと一緒がいいのね)

あんじゅ「だって邪道知識は私の方が上だし、運動力も私の方が上だし。にこってばお荷物にこ~」

にこ「誰がお荷物よ!」

あんじゅ「ぐふふ」

にこ「だからそのドラえもんみたいな笑い方やめなさいよ」

絵里「チーム戦が無理だったとしても、皆で力を合わせて脱出出来たら良い思い出になりそうね」

あんじゅ「そうだね。こないだもなんだかんだ良い思い出になってもんね」

にこ「ただ、穂乃果の思い込みジャンプみたいな何でもありだと萎えるからその辺を制御してもらえると助かるわ」

あんじゅ「あ、そうだね。それから罠とかに掛かったら点数を引かれるとかあれば勝負出来るよね」

絵里「なるほど。罰ゲームを賭ければ例え夢であっても本気になる」

にこ「……ま、そんな胡散臭い機械が本当に完成するなんて思ってもないけどね」

あんじゅ「私は可能性を信じて期待してるよ」

絵里「きちんと伝えておくわ。でも、今は凛加入による新しい曲を一日も早く完成させることが優先ね」

にこ「そうね」

絵里「ということで、このままにこの家に寄るわね。こころちゃん分とここあちゃん分を採らなきゃ!」

にこ「……あっそ。ま、あの子達もあんたが来れば喜ぶからいいけどね」

あんじゅ「今日も今日とてシスコンなエリーちゃんでした」

絵里「ちなみにさっきのってフラグ立ったのかしら?」

にこ「絵里らしい曖昧なフラグ立てだからね。微妙そう」

絵里「……にこぉ」

にこ「それはにこの鳴き声よ!」 チャンチャン♪


果たしてあんじゅはエタらずにゴール出来るのか...


>113 初見殺し……何もかもが懐かしい。

□ネクストストーリー□
春UTX編後半  磁石の赤い子の方の誕生日が近いから遅くなるかもしれません。

【願いの旅人】

25 : ◆1 [saga]:20XX/XX/XX(日) XX:XX:XX.XX ID:ZyadouRush

ウミンディーネは今は何処を旅しているのか分からない、ニコフィラに今日も感謝を捧げます。

精霊に愛されたこの里は、いつまでもいつまでも栄えることになる。 つづく

26 : ◆クレア [sage]:20XX/XX/XX(日) XX:XX:XX.XX ID:ZyadouRush

塵芥!

27 : ◆レイラ [sage]:20XX/XX/XX(日) XX:XX:XX.XX ID:ZyadouRush

イッチさんは罰としてアフロになりましょう

28 : ◆夢夢 [sage]:20XX/XX/XX(日) XX:XX:XX.XX ID:ZyadouRush

サムイサムイサムイサムイサムイ!

29 : ◆楓 [sage]:20XX/XX/XX(日) XX:XX:XX.XX ID:ZyadouRush

[ピーーーー]

30 : ◆茜 [sage]:20XX/XX/XX(日) XX:XX:XX.XX ID:ZyadouRush

こんなスレ立てるなよ。目に悪いじゃないか! なんだよ、何書いてあるのか分からないよ!

31 : ◆アリス [sage]:20XX/XX/XX(日) XX:XX:XX.XX ID:ZyadouRush

ボッカーーーーン!(没完)

32 : ◆残機 [sage]:20XX/XX/XX(日) XX:XX:XX.XX ID:ZyadouRush

ゴミスレ落ちるまで私は戦う!

33 : ◆まつり [sage]:20XX/XX/XX(日) XX:XX:XX.XX ID:ZyadouRush

超炎上祭開催!!

34 : ◆姫様 [sage]:20XX/XX/XX(日) XX:XX:XX.XX ID:ZyadouRush

胸のムカムカが治まりませんわ

35 : ◆愛嬢 [sage]:20XX/XX/XX(日) XX:XX:XX.XX ID:ZyadouRush

うわぁ、でら廃棄物!

36 : ◆優 [sage]:20XX/XX/XX(日) XX:XX:XX.XX ID:ZyadouRush

こんなゴミ書いてると、また蹴り飛ばすよ

――七階空き教室 花陽

花陽(芸能科の人達がどんな練習をしてるのか分からないけど、努力を怠る理由にしちゃ駄目だよね)

花陽(効果がきちんとあるのか分からない。毎日迷ってばかり)

花陽(でも、凛ちゃんの横を胸張って歩く為には絶対に逃げない!)

花陽(……って、いつも言い聞かせてるけど、でも一人だと寂しいな)

花陽(もしも凛ちゃんが花陽と同じようにアイドルが好きだったら一緒にここで練習してたのかな?)

花陽(だめだめだめっ! 弱気になったら直ぐに凛ちゃんに助けを求めてたら強くなんてなれない)

花陽(こんな時は歌おう)

花陽「初めましてを届けたい」

花陽(ことりさんが加入して初めての曲。私が一番好きな曲。柔らかさと温かさの多く含まれたA-RISEの新しい風)

花陽(いくら練習してもスクールアイドルの頂点に花陽がなれることなんてないかもしれない)

花陽(でも、諦めない。頂点を目指すことは自由だから)

花陽(そう教えて貰えたから今こうして一人でも練習出来てる。少し前の花陽は行動も起こせなかった)

花陽(沢山のありがとうを込めて結果を残せたら言うことないです)

ぱちぱちぱち...

花陽「えっ?」

ことり「素敵な歌声してるね」

花陽「」

ことり「初めまして。私は南ことりって言います」

花陽「はわわわっ!」

花陽「ことりさんっ!?」

ことり「はい」

花陽「A-RISEのことりさん」

ことり「うん、A-RISEのことりさんです」

花陽「……誰か助けてー!」

ことり「えぇっ? 何にもしないよっ」

花陽「あっ、ごめんなさい。思わず緊張しちゃいまして」

ことり「それより練習中にごめんね。一人で練習してる子がいるって噂を聞いて野次馬に来ちゃって」

花陽「いえ、私こそこんな所で練習しててごめんなさい」

ことり「謝る必要なんてないよ。そうだ、お名前聞いてもいいかな?」

花陽「花陽。小泉花陽です」

ことり「花陽ちゃんって呼んでもいいかな?」

花陽「はいっ」

ことり「くすっ。そんな緊張しないで。一つしか変わらないんだし」

花陽(ことりさんと話してるのに緊張しないなんて無理だよぉ!)

ことり「一般の子って聞いたけどそうなの?」

花陽「は、はい」

ことり「それなのにこうして練習してるってことは本当にアイドルが好きなんだね」

花陽(すごい温かい笑顔。思わず魅入っちゃう)

花陽(これがスクールアイドルの頂点の魅力なんだ)

ことり「改めてさっきの歌声素敵だったよ」

花陽「あ、ありがとう……ございます」

ことり(うーん、相当緊張してるみたい。ここは早々に小泉さんの為にも撤退するべきかな?)

ほのか『ねぇ、あなたのお名前は?』

うみ『うっみみ』

ほのか『そっか。うみみちゃんって言うんだ! 一緒に遊ぼうよ。今ね、みんなで鬼ごっこしてるんだ』

うみ『うみみじゃなくて……うみ』

ほのか『うみ? そっか、ごめんね。じゃあうみちゃんが鬼ね! みんなにっげろ~!』

うみ『えっ、えっ』

ほのか『ほらほら、うみちゃん。鬼は追いかけなくちゃダメなんだよ。こっちこっち』

うみ『……で、も。わたし』

ほのか『えへへ♪ ほのかって足速いんだよ!』

うみ『……うぅ』

ほのか『でもね、他の子はほのかほどじゃないから捕まえられるよ!』

ことり『ほのかちゃん! ことりだって足速いもん!』

ほのか『え~どうかなぁ?』

ことり『速いの!』

ほのか『あははっ。うん、ことりちゃんも速い速い。うみちゃんは速いのかな?』

うみ『あぅぅ…………わた、しは』

ほのか『うみちゃん。ふぁいとだよ! こっちおいで』

うみ『……うん』

ことり(ううん、ここで撤退したら穂乃果ちゃんの幼馴染失格だよね)

ことり(でも、私は穂乃果ちゃんのように天照が閉じた岩場の前で騒いで引き出すようなことは出来ない)

ことり(私に出来るのは静かに待つことだけ。今、居ない筈の英玲奈ちゃんとアンチ先輩が何か言った気がする)

ことり「……」

花陽(どうしよう。何か言わないと……でもことりさんを前にして何を言えばいいんだろう)

ことり「……」

花陽(えーと、何を喋れば。緊張すると結局何も言えなくなっちゃう。そうだ、訊きたいことを訊くチャンスだし)

花陽(訊きたいことがあり過ぎて分からなく……あぁ! 頭が真っ白に。でも何か言わなきゃ言わなきゃ!)

花陽「あの、どうすればことりさんみたいに人の前でも歌えるようになりますか?」

ことり「まずはやっぱりイメージトレーニングが必要かなぁ」

花陽「イメージトレーニングですか」

ことり「うん。目を閉じてもう一つの現実に入り込むの。そこは音のない世界なんだけどね」

ことり「でも、きちんと入り込めると音のない世界に歌が生むことが出来るの」

ことり「それを何度も経験すれば人前でもきちんと歌える要素の一つになれると思うよ」

ことり「それからこれも同じくらい大切なんだけど、努力したっていう事実かな」

花陽「えっと?」

ことり「自分がこれだけ努力してきたから大丈夫って自信を持って歌えるから。これは全てに言えることだけどね」

花陽「いいえ、為になります。でも、私は……いつも自信が持てなくて」

ことり「それはきっと小泉さんが受け入れてあげてないからだと思う」

花陽「どういうことですか?」

ことり「多分なんだけどね、小泉さんが遠慮しちゃって努力した事実を拒んでると思うの」

ことり「そこは欲張って努力した物を最大限に吸収すれば自信が持てると思うよ」

花陽「……ちょっと想像できません」

ことり「最初の内はそうかも。でも慣れちゃえば自信もつくよ。私も一度自信をなくしそうになったことがあったから」

花陽「ファーストライブの前、ですか?」

ことり「うん。それにね、ここだけの内緒話だけど……」

花陽「はっはい!」

ことり「私も今の小泉さんみたいに英玲奈ちゃんとツバサちゃんの前で緊張してたんだよ」

花陽「ほんとう、ですか?」

ことり「本当だよ。緊張が全然抜けなくて、初めの内は練習メニューも無駄に体力使っちゃって追いつくの大変だった」

ことり「英玲奈ちゃんにはキッパリと緊張が抜けないと一緒にライブで歌えないって言われたなぁ」

ことり「当然と言えば当然だけど、自分でスカウトしておいてそんなこと言うなんて酷いよね? くすくすっ」

花陽「A-RISEにそんな壮大な舞台裏がっ、感動ですっ!」

ことり「全然壮大じゃないよ」

花陽「いえっ! これを壮大と言わなければ海だってただの水溜りです!」

ことり「そ、そうかな」

花陽「はいっ!」

ことり(なんだか急に穂乃果ちゃんみたいになった!?)

花陽「他には何か胸に残る言葉とかありますか?」

ことり「さっきの言葉の後だったけどね、二人に追いつこうと必死になってた私に英玲奈ちゃんこう言ってくれたの」

ことり「私たちと比べるんじゃなくて、正しい比べるべき相手を用意すればいいって」

花陽「正しく比べる相手?」

ことり「常に傍に居てくれる存在。つまりは昨日の自分」

ことり「昨日の自分より毎日優れる自分を目指せば、最高の自分という未来が待ってるって」

ことり「英玲奈ちゃんの言葉があったから友達が居なくても耐えられたんだ」

花陽「えぇっ!? ことりさん、友達が居ないんですか?」

ことり「今は尊敬してる先輩が居るよ。一人だけどね」

花陽「ことりさんくらい人気者なら友達沢山いるんじゃないですか?」

ことり「うぅん、ほら私って被服科なのにスクールアイドルやってるから。接し難いというか、触れ難いというか」

ことり「だから教室だと浮いてたりするんだよね。でも、実習ばかりだから寂しいと思う暇もないんだけど」

花陽「意外過ぎます」

ことり「だから、」

ことり(穂乃果ちゃん、海未ちゃん)

ことり「だから良かったら私と友達になってくれないかな?」

花陽「え」

花陽「――えぇぇぇぇっ!?」

花陽「わ、わわわわっわたしがっですかぁ?」

ことり「うん!」

花陽「私がことりさんのお友達だなんて恐れ多い」

ことり「いきなり過ぎたかな?」

花陽「いえ、そういう問題ではなくて……」

ことり「じゃあ、取り敢えず友達お試し期間ということで今日から一緒に練習してもいいかな?」

花陽「えぇっ!」

ことり「迷惑、かな?」

花陽「迷惑なんてとんでもない!」

ことり「緊張に慣れる意味でも一緒に練習して自信をつけよう」

花陽「は、はいっ」

ことり「ところで練習メニューは作ってあるの?」

花陽「一応作ってはあるんですけど、どういう練習がいいのか分からなくて」

ことり「だったら私が練習メニュー作ってあげる。といっても、最初の頃に貰った練習メニューだけどね」

花陽「当時のことりさんと同じ練習メニュー……花陽感激です!」

ことり「大げさだって」

花陽「ですから大げさなんかじゃありません!」

ことり「取り敢えず、今からノートに書くね」

花陽「ありがとうございますっ!」

――レッスン室 のんたん

副会長「ここには何度来ても慣れないわ」

希「いい加減ここにも見られることにも慣れないと。学園祭で歌うとなると注目度は高いんだし」

副会長「見られることは別にいいけど、場違いな気分は拭える気がしない」

希「そんな弱気じゃ駄目だってば。それに副会長は綺麗系だから怖く見えるんだから笑顔を浮かべないと」

副会長「希に綺麗系とか言われると嫌味にしか聞こえないわ」

希「ウチはどちらかというと和み系やん」

副会長「どこがよ。希の言動に和んだことなんて、私は一度たりともないわよ」

希「それは副会長の感性が一般と違うってことだね」

副会長「どっちの感性が一般と違うのやら。というか、本当に私たちのライブなんて見る人居るのかしら」

副会長「むしろ絶対にネタで入れたに決まってるわ」

希「生徒のアンケートを副会長様あろうものが否定するんは駄目だって何度も言ってるじゃない」

副会長「くっ。見世物パンダになる日の為に努力するなんて……理不尽過ぎるわ」

希「最高の学園祭を彩って一緒に仲良く名を残そうよ」

副会長「分かってるわよ。一生懸命練習すればいいんでしょ!」

希「一番の問題はやっぱり笑顔だから、毎日家で笑顔の練習百回やんね」

副会長「そんなにしてたら頬が痙攣起こすわ」

希「根が真面目だからそんな憎まれ口叩いても練習してくれるんだよね。流石副会長」

副会長「逃げ道塞ぐその口を封じる方法ってないのかしら」

希「そんな無駄口叩いてないで、さっそく練習始めよう」

副会長「どの口が言うのよ」

――数日後 空き教室 ことり

ことり「花陽ちゃん、遅れちゃってごめんね」

花陽「いえ! ことりさんは忙しい御身ですから」

ことり「だから大げさだってば。それじゃあ、しっかりと深呼吸してから顔のストレッチを丹念にしようね」

花陽「は、はい」

ことり「ほら、無駄に体に力が入ってるよ。緊張は適度に、不安は外に、愛情は120%で頑張ろう」

花陽「はいっ」

ことり「じゃあ、練習始めよう」

花陽「はい、よろしくお願いします!」

ことり「こちらこそよろしくね」

―― 一年生教室 真姫

「ねぇねぇ、あの噂聞いた?」

「何の噂か言わないと分からないわよ。って言いたいけどことりさんの噂?」

「なんだ知ってたんだ」

「この学院にいて今その噂を知らないとかありえないでしょ」

「でも、あれってマジなのかな?」

「本当らしいよ。小泉さんって言ったっけ? その子と練習してからA-RISEの練習に合流してるんだってさ」

「ということは」

「うん、ツバサ様と英玲奈さんも公認なんじゃない?」

「ことりさんが被服科で今度は一般からメンバー選ぶって、芸能科の子達可哀想過ぎ。笑っちゃう」

「性格悪いわよ。本当だとしたら掲示板がまた荒れるのかしら?」

「去年のことりさんの加入の際の騒ぎは凄かったよね。人の悪意は寂しがり屋なのか、直ぐに集まるんだもの」

「でも、蓋を開ければツバサ様と英玲奈さんの見る目は確かだったからざまぁって感じだったけど」

「あははっ。人のこと注意できないくらい性格悪いし」

「ツバサ様が叩かれるような人をA-RISEに入れるわけないのが分からない奴等に配慮するほど聖徳太子してないわ」

「いや、聖徳太子男だし。でもさ、今回はどうなのかって話だよ」

「どういうこと?」

「ことりさんと練習してる小泉さんってかなり小動物系女子だって話だし」

「小動物系女子なんて初めて耳にしたんだけど。それはともかく、ことりさんだってどちらかというと同じでしょ?」

「ことりさんの場合は見た目だけじゃん。ツバサ様と英玲奈さんのブログ読んでれば分かるでしょ」

「そういえば色んな武勇伝あったね」

「だから小泉さんって子も一筋縄じゃない子なのかもね」

「何にしろ加入するのかしないのかで楽しめそうだね。ラブライブより楽しみっ♪」

「そうね。ラブライブはA-RISE以外が優勝するなんてありえないもんね」

「英玲奈様とツバサさんと同じ学年に生まれたスクールアイドルに同情しちゃう」

「そうね。それじゃあ、そろそろ帰ろうか」

「っていうか、カラオケ行かない?」

「いいわよ。じゃあ、行きましょうか」

「今日は沢山歌いまくるぜぇ!」

「ほどほどにね」

真姫「……」

真姫「これってどういうことよ、南ことり」

――練習後...

花陽「……一つだけいいですか?」

ことり「勿論いいよ」

花陽「やっぱり眼鏡よりコンタクトの方がいいでしょうか?」

ことり「え、どうして?」

花陽「スクールアイドルの歴史の中でも眼鏡を掻けた人は少ないですから」

ことり「花陽ちゃんはコンタクトって付けた時あるの?」

花陽「……怖くて、小さい時からずっと眼鏡です」

ことり「だったら今のままで良いんじゃないかな?」

花陽「でも」

ことり「私個人の意見だけど無理に変えるよりも今のままの花陽ちゃんで頑張って欲しいなぁ」

花陽「今のままですか?」

ことり「うん。確かにスクールアイドルをする切っ掛けとしてイメージを変えるのも充分にありだとは思うの」

ことり「でもね、ありのまま等身大の自分で挑戦して、本当の意味での自信を掴んで欲しい」

花陽「……自信」

ことり「私の尊敬する先輩の言葉をアレンジしただけなんだけどね」

ことり「『今までの自分を否定したことを一生後悔する』って、だから等身大のままでいいんだって」

ことり「自分を信じて真っ直ぐ突き進むのって勇気がいるけど、それが出来たら今より自分を好きになれると思うの」

ことり「それって自然と自信をつけられるもう一つの方法なのかなって。だから是非今のままの花陽ちゃんで頑張って欲しいなぁ」

花陽「私にはちょっと難しいかと」

ことり「そんなことないよ。一人で難しいと思うなら、自信が付くまで私が力になるから」

花陽「えぇっ!?」

ことり「だから今日から本気で目指してみない? スクールアイドルになること」

ことり「好きだからじゃなくて、A-RISEに入る為に!」

花陽「私がA-RISEに!?」

ことり「目標を立てることが一番やる気になるでしょ?」

花陽「目標が高すぎて腰が退けちゃいます!」

ことり「じゃあ、花陽ちゃんは何の為にUTX学院に入学して、スクールアイドルの練習をしているの?」

花陽「それ、は……」

ことり「意識革命をすることが成長を促進する為の手段。でも、あくまで花陽ちゃんの意思次第」

ことり「趣味として練習を続けるのか、自分にとっては高いと思える目標に頑張るのか」

花陽「…………」

ことり「今日は練習はここまでだし、明日から土日はゆっくり休んで考えてみて」

ことり「もし何か悩みがあったら……これ、私の電話番号とメールアドレスだから気軽に連絡してね」

花陽「あっ、えっと……これが私の連絡先です」

ことり「ありがとう。って、赤外線で好感した方が早かったね」

花陽「そう、ですね」

ことり「それじゃあ、花陽ちゃんお疲れ様。月曜日の放課後にレッスン室前で待ってるから」

ことり「A-RISEを目指すならここで練習してるだけじゃ間に合わない。だから、勇気を振り絞ってみて」

ことり「自分の意思でA-RISE入りしたいと思って足を運べたなら、その時は容赦しない」

花陽「……ゴクッ」

ことり「和ませる為にも私の秘密を少しだけ。ここだけの話だけどね、私がA-RISE入りした切っ掛けはね」

ことり「ほとんど詰みというような状態で断れるような状況じゃなかったからだったりするんだ」

ことり「だけど、今はあの時にそうやって退路を断ってくれた英玲奈ちゃんとツバサちゃんに感謝してる」

ことり「来てくれれば未来の花陽ちゃんにも絶対に後悔させない」

ことり「だから、待ってるね。ばいばい」

花陽「……」

花陽「……」

花陽「……どうすれば、いいんだろう」

――同日 レッスン室 A-RISE

ツバサ「催促するつもりじゃないけど、小泉さんだったかしら? その子はどうなのかしら」

ことり「まだハッキリと返答出来ないけど、週明けの月曜日から本格的な練習に参加してもらうつもりだよ」

英玲奈「ことりの時のようにその子の為にライブでもするか?」

ことり「うーん、どっちかというとA-RISEのファンみたいだから、メンバーとして加入する時のご褒美にした方がいいかも」

ツバサ「んふっ。頼もしいわね」

英玲奈「練習するだけでも緊張していた中学生時のことりが懐かしい」

ツバサ「あれは可愛かったわね。緊張と焦りで一杯いっぱいで」

ことり「恥ずかしいからやめてよぉ」

英玲奈「あの時はこんなヤンチャ娘だとは知る由もなかった」

ツバサ「ふふっ。確かにね」

ことり「強引に中学生をスカウトした二人に言われたくありません」

ツバサ「ついにこのからかいも返せるようになっちゃったのね」

英玲奈「ことりの成長は著しいな」

ことり「こんなことで成長を確認されても全然嬉しくないよ!」

英玲奈「この調子なら私達が叶えられなかったラブライブ三連覇を果たせそうだ」

ツバサ「まだそれは軽率よ。今年は――今年こそは最大のライバルが私たちA-RISEの前に立ちふさがるもの」

ことり「SMILEですか」

英玲奈「しかしSMILEの順位は完全に硬直している。予選突破出来るとは私には思えない」

ツバサ「でしょうね。私も無理だと思うわ」

ことり「えっ?」

ツバサ「あくまで其れはにこにーがいないグループの場合よ。にこにーがこのまま沈むとは思えない」

英玲奈「ラブライブはそんなに甘くはない」

ツバサ「ええ、その甘くないラブライブでその存在感を発揮して予選を通過する。私にはその光景が目に浮かぶ」

ことり「……私も是非そうあって欲しいです」

英玲奈「最近はツバサの完全な思い出補正としか思えないが」

ツバサ「七月の予選最終日に私の言葉の意味を知ることになる」

英玲奈「ま、今は他のグループより新メンバーのことを考えて欲しい」

ツバサ「そっちはことりさんに一任してるんだから問題ないわ」

ことり「やめて。今以上にプレッシャーを掛けないで~」

英玲奈「予想以上に早く目標達成しそうだし、課題を更に追加するのもありかもしれない」

ことり「そんなの駄目だってば!」

英玲奈「冗談だ」

ツバサ「ふふっ。さ、休憩はここまで。今から徹底的にことりさんを扱くとしましょうか」

ことり「そんなぁ~」

ツバサ「んふっ♪ 冗談よ」

――真姫の部屋

真姫「これってどういうことだと思う!?」

まこ『私に訊かれても分からないというか、真姫ちゃん関係なくないかな?』

真姫「だからこうして怒ってるのよ! 南ことりの目は節穴なんじゃないの!」

真姫「だってそうじゃない。普通スカウトするとしたら私に真っ先に会いにくるべきじゃない?」

まこ『うーん、どうだろう』

真姫「ピアノは関係ないとしても、歌だって自信あるのよ」

まこ『でも、ことりさんの前で歌ったことがないんだし。しょうがないんじゃないかな?』

真姫「そうだけど」

まこ『それに、真姫ちゃんのこと忘れてた罪悪感からスカウトする相手から無意識に外しちゃったのかも』

真姫「ことりはどれだけ私のプライドを傷つければ気が済むのよ」

まこ『というか、真姫ちゃんが勝手に傷ついてるだけじゃない?』

真姫「そんなことないわよ」

まこ『そうかなぁ』

真姫「そうよ。これは完全に私に喧嘩を売ってる行為に違いないわ!」

まこ『全然違うと思うよ』

真姫「まこちゃんは優しいから人の悪意に気付かないのよ。私はそういうのに敏感だから分かるの」

まこ『うーん』

真姫「それでね、本格的にことりを見返すことにしたわ」

まこ『どうするの?』

真姫「ことりよりもスクールアイドルとして完璧になって、メンバー全員が揃ってスカウトに来るようにさせてみせる」

まこ『真姫ちゃんって運動苦手じゃなかった?』

真姫「きちんと筋トレしてたから平気よ。後はダンスね」

まこ『ダンスかー。真姫ちゃんの踊ってる姿は栄えるだろうから是非みてみたいな』

真姫「ふふふ。そうでしょ?」

まこ『真姫ちゃんのお家は広いから練習は出来るだろうけど、どんな練習をすればいいのかとか分かるの?』

真姫「……まこちゃんはダンスが上手くなる練習方法とか知らない?」

まこ『アイドルって興味なかったから全然分からないよ』

真姫「そうよね」

まこ『ごめんね』

真姫「ううん、まこちゃんが謝ることないわ」

まこ『真姫ちゃんがスクールアイドルかぁ』

真姫「私の音楽の集大成としてはスクールアイドルも悪くないし」

まこ『でも、』

真姫「何?」

まこ『ううん、なんでもないよ』

まこ(新メンバーを一人スカウトしてる現状で、もう一人加入するつもりがあるのかな、なんて)

まこ(やる気を出してる真姫ちゃんには言えないよね)

真姫「とにかく私はやってやるわ!」

まこ『応援してるよ』

真姫「うん、ありがとう」

◆花陽ダイアリー◆

昨日のことりさんの言葉が今日一日中頭の中をぐるぐる回って、何も手に付かなくて。

気付けば無意識にやってた部屋の掃除と、ご飯を炊いただけで夜になっちゃってた。

UTX学院に入った理由が目の前に迫ると、足が竦んでどうにかなっちゃいそう。

スクールアイドルになれるかもしれないというだけでこのプレッシャー。

TVで笑顔と元気をくれるアイドルの人達の凄さを改めて知りました。

そして、去年のことりさんの凄さもまた知りました。

正直言えば逃げ出したい。

月曜日の放課後になった途端、家にダッシュで帰りたい。

でも、でも、でも

それをすれば凛ちゃんと別の学校にきた意味もなくなっちゃう。

怖くなると凛ちゃんの強さと元気を思い出すの。

そして、会長さんがくれた言葉。

ことりさんがくれた言葉。

逃げ出したい気持ちに鎖を付けて、逃げさせないように勇気をくれる。

だけど、やっぱり怖いです。

練習の途中でことりさんに見限られたらって思うと息が苦しくなっちゃう。

せめて誰か一緒に同じ立場から始めてくれる人が居れば……。

なんてこんな弱気じゃ駄目なんだよね。

ありのまま等身大の自分で自信を持って挑まないと。

A-RISEの完成度の中に飛び込むには揺るがない心を持ってないと無理だよね。

怖いすっごく怖い

凛ちゃんに助けを求めたいくらい。

でも、変わらなきゃ。

強い自分になって、小さい頃からの夢を誰にでも胸を張って言えるようになりたい。

ここで逃げないで頑張れれば、花陽のなけなしの勇気を搾り出せれば

例えことりさんに失望されても、凛ちゃんの横に並べる自分になれると思う。

とにかく、怖いけど明日一日考えよう。


読み直したら今日の日記は色々とおかしくなってるよー。

書き直したいけど、日記だからこのままにしておきます。

◆あんじゅの野望 ~そして、伝説へ・・・~◆

――五月末 休日 にこの部屋 09:15

あんじゅ「……にこ」

にこ「何よ、そんな暗い顔して」

あんじゅ「悲しいことがあったの」

にこ「そういえば今日は朝ごはん要らないとか言ってたわね。お腹でも壊した?」

あんじゅ「お腹は大丈夫。でもね、これを見て」

にこ「何よ?」

あんじゅ「にこがあんな風に言うからね、願いの旅人をネットに上げてみたの」

にこ「……勇者ね」

あんじゅ「そしたらね、こんな反応だったの。見てみて」

>>152

にこ「見事に批判だらけ。だから言ったじゃない」

あんじゅ「……にこぉ」

にこ「まぁ、新しいことを常にしようって姿勢は私から見て良いと思うけど」

にこ「どう言葉で偽ったって人には生まれ持っての才能ってもんがあるのよ。あんたには家事能力と創作能力はないわ」

にこ「でも、そんなのなくったって良いじゃない。あんじゅには他の人が望んでも手に入らない才能が沢山あるんだしさ」

あんじゅ「……にこ」

にこ「スクールアイドルの熱狂的なファンにとっては十位に入らないグループなんて実力がないなんて言われたりもするわ」

にこ「普通のファンの子だって二十位に入ってから注目するって感じが多いと思う」

にこ「でもね、SMILEはあんたの曲があるから二十五位って私にとって誇れる順位を守っていられるのよ」

にこ「あんたにだから言うけどね、何度かUTXの前に足を運んだことあるのよ」

あんじゅ「え?」

にこ「元々さ、キラ星との再会をラブライブの舞台でっていうのは私の勝手な理想だから」

にこ「正直ね、本当に出場出来るとは思ってなかったの。何度も口にして現実になるようにって願いながら口にした」

にこ「でも、ふとした瞬間に夢から覚めたように不安になることがあって」

にこ「あんたもそうだけどさ、何時の間にか私の理想が他のメンバーにとっての目標みたいになってる気がして」

にこ「それなのに……もしラブライブに出場出来なかったら、その時は各自が自分のことを責める気がするの」

にこ「私の好きなメンバーに背負わなくていい罪悪感みたいな気持ち抱いて欲しくなくて」

にこ「だからラブライブの予選が終わる前に私がキラ星に会えばいいんだってね」

にこ「でもね、いざUTX前に立つとどうしても足が前に進まなくなっちゃうの」

にこ「やっぱりラブライブの舞台で再会したいって思いも確かにあるわ」

にこ「だけど、あんた達の想いをこっちの方が踏みにじるんじゃないかって怖くなっちゃって」

にこ「私ってほら、馬鹿だからさ。それに気付いたのはついこないだなんだけどね」

にこ「というかさ、あんたが居たから気付けたのよ。立ち上げからずっと私に付いて来てくれるあんたが傍に居たから」

あんじゅ「連載打ち切りで急遽最終回として締めるみたいなシリアス台詞だよ」

にこ「うっさいわねぇ。黙ってにこの話を聞きなさい」

にこ「ぶっちゃけさ……あんたが残ってくれたのって情熱って言ってたけど、私の傍に居たかっただけでしょ?」

あんじゅ「うふふ。私はにこ大好きだから☆」

にこ「てか、あの頃は情緒不安定だったものね」

あんじゅ「あの頃はまだ一人で暮らしてたから」

にこ「嘘吐いてものね。まったく、最初から全部素直に言っておけって話よ」

あんじゅ「にこが自分で『何があったのか聞いていいのはその人が心を許した人だけ。だからまだ訊かない』って言ったんじゃない」

にこ「あれは初対面だったからよ。何にも出来ない癖に強がるなんてあんたも大概馬鹿だったわよね」

あんじゅ「今はにこのお陰で色んなこと学んで、人に頼ることを覚えて、熱くなることを知った」

あんじゅ「優木あんじゅのままだったら知ることのない世界をにこがくれた」

あんじゅ「だから、矢澤あんじゅはもっともっと知らないことを知りたい。やったことないことをしたい」

にこ「だったら批判に負けずにゴールまで頑張りなさい」

あんじゅ「矢澤あんじゅは《エタる勇気》を手に入れた。これにより秘儀《エターナル》を覚えた!」

にこ「いきなり逃げるんじゃないニコ! 今さっきのいい言葉はどこ行ったのよ?」

あんじゅ「それはそれ、これはこれだよ★」

にこ「てか、あんたは何に影響受けて邪道に染まったのよ」

あんじゅ「女は人を手玉に取れて初めて女として完成するってママが言ってたから」

にこ「灯台元暗し!? ママの影響っていうか、それ絶対にただのママの冗談じゃない!」

あんじゅ「お陰で今こうして大切なメンバーが集まったから運命の一言の一つだったにこよ?」

にこ「いや、そうかもしんないけど……なんか納得出来ないわ!」

あんじゅ「人にとって何が人生を変える言葉になるかなんて分からない物だよ」

にこ「あんたに言われると更に納得出来ない!」

あんじゅ「どうして? 経験者は語るってやつだよ」

にこ「時と場合によりけりでしょ。やれやれ……元気出てきたみたいじゃない」

あんじゅ「う~ん。ご飯食べたいなー」

にこ「ちょっと中途半端になるけど今からご飯食べるなら作るわよ」

あんじゅ「あんじゅね~お願いがあるにこ~♪」

にこ「嫌な予感しかしないけど、聞いてあげるわ」

あんじゅ「お外でご飯食べたいなぁ☆」

にこ「食べてくればいいでしょ」

あんじゅ「お財布の中が寒いにこぉ」

にこ「……はぁ~。しょうがないわねぇ。今日の所は憐れな妹を慰める意味でも奢ってあげるわよ」

にこ「どうせ私はご飯食べたからデザートだけでいいし。だから元気出すついでにエタらずに頑張んなさい」

あんじゅ「お店は私が指定してもいい?」

にこ「って、私の話を聞きなさいよ!」

あんじゅ「それじゃあ、着替えてくるね♪」

にこ「はいはい。あ、着替える前についでに布団干しておいてくれる?」

あんじゅ「うん! 布団マスターにお任せだよっ」

にこ「ママとおちびちゃん達の布団もよろしくね」

あんじゅ「ここあちゃんとこころちゃんはもうお誕生日会に行ったの?」

にこ「子供って無駄に朝が早いからね。八時半過ぎにお迎えが来たわよ」

あんじゅ「子供は風の子、早起きの子♪」

――ファミレス内 にこあん

にこ「ファミレスなんていつ以来かしら。あんたのことだからメイド喫茶にでも連れていかれるのかと思ったわ」

あんじゅ「あそこってメニューが高いから。私はそんな贅沢はしないよ」

あんじゅ「そんな贅沢するお金あるなら、美味しいお肉買ってにこにカレーかハンバーグを作ってもらうにこ♪」

にこ「そういやそうね。じゃあ、どうして突然ファミレスなのよ?」

あんじゅ「最近知った物があるの。それが食べてみたくて」

にこ「ファミレスのメニューなんて珍しい物ないでしょ」

あんじゅ「ううん、あるよ。私が一度も食べたことがない料理が」

にこ「どれよ?」

あんじゅ「にこに頼んで欲しいんだけど、大丈夫?」

にこ「はぁ? 注文くらい自分で頼みなさいよ」

あんじゅ「私だとちょっと怪しまれちゃうかもしれないから」

にこ「どんなメニュー頼もうとしてるのよ。っていうか、隠しメニューとか大手チェーン店のここにはないわよ」

あんじゅ「これが食べてみたいにこ」

にこ「ん?」

あんじゅ「これこれ」

お子様ランチ ※小学生のお子様迄に限ります

にこ「……コメ印の注意書きをきちんと読みなさい。あんた高校生のしかも最上級生でしょ」

あんじゅ「だから私が注文したら怪しまれちゃうんだって。でも、にこなら大丈夫!」

にこ「どういう意味よ!」

あんじゅ「お子様ランチ食べたいの」

にこ「せめて今度にしなさいよ。こころとここあが一緒なら堂々と注文出来るんだから」

あんじゅ「深く傷ついた私の心を癒せるのはお子様ランチしかないの。う~るる~」

にこ「……ぐっ」

あんじゅ「にこ、お願い!」

にこ「よりによって、どうしてにこが」

あんじゅ「にこなら絶対にバレないから大丈夫。私が保証するから」

にこ「そんな保証嬉しくないわよ!」

あんじゅ「女は度胸。ラブライブを目指すリーダーがこんなことで度胸見せられないようじゃ駄目だよ」

にこ「こんな事で無駄に度胸を使いたくなんかないわ!」

あんじゅ「逆に考えよう。これを経験したことによって、昨日のにこより一歩進歩したにこに生まれ変われるんだって」

あんじゅ「人にとって無駄な……それこそゴミって呼ばれるものでもね、自分の心の持ちようで変わるんだって気付いた」

にこ「何だかんだで、まだあのレスを気にしてるのね」

あんじゅ「うん。でもね、こうしてにことファミレスにこれたのはあの作品を書いてネットにUPしたお陰」

あんじゅ「お子様ランチ初体験の記念と一緒に、私の中でずっと願いの旅人も刻み込まれるの」

あんじゅ「振り返った時にそれが良い思い出なのか、恥ずかしい黒歴史になるのかは分からない」

あんじゅ「でもね、忘れちゃう過去では決してない。意味のある一日に生まれ変わるのって素敵なことだよ」

あんじゅ「そして、姉のにこも高校三年生でお子様ランチを頼む体験を一生の思い出として姉妹揃って、いつか今日を思い出そう」

にこ「自分がお子様ランチ食べたいからって出鱈目言うわね」

あんじゅ「ひど~い。私の本心だよ」

にこ「私にとっては黒歴史確定じゃないの」

あんじゅ「黒歴史。共有すれば運命となる」

にこ「何よそれ。……はぁ~、あんたと一緒だといつか本当に胃潰瘍になりそうだわ」

あんじゅ「大丈夫。私は猛毒にも胃薬にもなるから★」

にこ「猛毒の時点で死ぬじゃない」

あんじゅ「お子様ランチを頼んでくれないのなら……いっそのことここでにこと一緒に」

にこ「なんで唐突にヤンデレ入るのよ!」

あんじゅ「うふふふふ」

にこ「怖いからそこで笑うんじゃないわよ」

あんじゅ「にこはアドリブに弱い部分があるから、その練習として店員さんを呼んじゃおう。ポチッ♪」

にこ「なっ! どうして問答無用でボタン押してるのよ」

あんじゅ「だってお腹空いたんだもん。覚悟を決めて店員さんに頼んでね」

にこ「ぐ、が、ごごご」

あんじゅ「スクールアイドルとしてあるまじき喘ぎが口から漏れてるよ」

「お待たせしました。御注文はお決まりでしょうか?」

にこ「チョコレートパフェとドリンクバーを二つ」

「ドリンクバーが二つ。チョコレートパフェはお一つでよろしいでしょうか?」

にこ「はい。それと、  」

「申し訳ありません。お声の方が遠くて、もう一度よろしいでしょうか?」

にこ「……お子様ランチを一つ」

「ぷぷっ。こほんっ! 大変申し訳ありません。もう少し大きな声でお願い致します」

あんじゅ「うふふっ」

にこ「ぐぬぬ! ……お、おこさ――」
「――もっと大きな声でハッキリとお腹に力を入れて!」

にこ「お子様ランチ一つ!!」

「かしこまりました。お子様ランチ、チョコレートパフェが一つずつ。ドリンクバーが二名分でよろしいでしょうか?」

にこ「はい」

「チョコレートパフェの方は先にお持ちしてもよろしいですか?」

にこ「はい」

「ドリンクバーの方はあちらにございますので、御自由にお使いください。それでは、メニューの方失礼致します」

「料理が出来るまでごゆるりとお待ち下さい」

――五分後...

にこ「」

あんじゅ「にこ素敵だったよ♪」

にこ「」

あんじゅ「いつまで硬直してるの?」

にこ「」

あんじゅ「返事がない。ただの抜け殻のようだ」

にこ「抜け殻って何よ!」

あんじゅ「復活の呪文入力前に復活した。にこってば素敵だったよ」

にこ「既に私の黒歴史確定よ!」

あんじゅ「にこの黒歴史にまた一ページ」

にこ「今の私はあんじゅより心を深く傷ついた自信があるにこぉ」

あんじゅ「そんなんじゃ、大きな舞台で失敗した時にアドリブで誤魔化せないよ?」

にこ「尤もらしいこと言って誤魔化してるんじゃないわ」

あんじゅ「誤魔化してないよ。そうだ、にこさ……さっき言ってたけどラブライブのこと」

にこ「んー?」

あんじゅ「他の子は凛ちゃん加入でどうにかなると思ってるけどさ、実際はどう思う?」

にこ「凛に関しては正直申し分ない逸材だと思う。あの運動神経は武器になるからね」

あんじゅ「そうだね」

にこ「でも、順位が上がることは難しいと思うわ」

あんじゅ「やっぱり。二十五位から先は鉄板みたいに固いね」

にこ「今年入って直ぐに二十六位から二十五位になって、それから変動ないものね」

にこ「変化を生む新入生だって、色んな学校でも新入生が入る訳だから結局劇的な変化なんて出ないわ」

あんじゅ「だよね」

にこ「三年生オンリーの二十一位の京都の《Pretty》は新入生は入れないかもしれないけど」

あんじゅ「二十一位を死守出来る実力があるから変動は期待出来ないと」

にこ「うん。とはいえ、打てる手は努力しかないのよ」

あんじゅ「だからこそにこはUTXに足が向かってたんだね」

にこ「こういう時にリーダーとして決め手を示せない辺りがダメなリーダーの証拠」

あんじゅ「にこ以上のリーダーなんて存在しないよ。にこだから皆ついてきてくれるんだよ」

にこ「……あの子達は辞めざる得なかったじゃない」

あんじゅ「まだ気にしてるんだ」

にこ「そりゃそうよ。ずっと手伝ってくれてるのに、恩返しすら出来ないんだもの」

あんじゅ「ハロウィンの時に一緒の舞台でライブが出来たじゃない」

にこ「あれは私の勝手な押しつけだもの。逆に嫌な思いさせちゃったかもしれないし」

「お待たせしました。こちらお子様ランチでございます、どうぞ」

あんじゅ「ありがとう」

「こちらチョコレートパフェです。溶ける前にお召し上がり下さい」

にこ「あれ?」

あんじゅ「ねぇ、今更だけどハロウィンイベントのライブは嫌な思い出?」

「そんな訳ないよ。一生の思い出になったもの。……ただ、頭真っ白で気付けば終わってたけど、映像には残ってるから」

にこ「あっ、あぁっ!」

元部員「漸く私のこと気付いた?」

にこ「なんでウェイトレスの格好して注文したの運んでるの!?」

元部員「バイトしてるからだよ。そうじゃないのにこの格好してたら変態だよ」

にこ「あんじゅ! あんた知っててこの店にしたのね!」

あんじゅ「普通メニュー頼む時点で気付くよ」

にこ「お子様ランチに気が取られて普通の状態じゃなくさせてた癖によく言うわ」

元部員「ぷははっ! あれはとっても可愛くて、笑いが途中堪えられなかったし」

あんじゅ「動画で撮っておきたいレベルだったよね」

元部員「うんうん」

にこ「私を策に嵌めるなんて」

あんじゅ「にこは常に私の手の平に居るんだって再認識出来たいい出来事だったね」

にこ「がるるる!」

あんじゅ「ほらほら、野生化しないの」

にこ「お子様ランチってのも嘘だったわけね」

あんじゅ「ううん、お子様ランチを食べてみたいのは本当だよ。食べたことないから」

元部員「相変わらず二人は仲がいいね」

あんじゅ「にこと私は姉妹だから☆」

にこ「というか、五月とはいえ三年の大事な時期にバイトとか大丈夫なの?」

元部員「大丈夫だよ。これも立派な社会勉強だから」

にこ「確かに、バイトしたことあるのとないのとじゃ大きく違うだろうけど」

元部員「私はバイトなんて大学入ってからでいいやって思ってたんだけどさ」

元部員「でも、あのライブを経験して本当の意味で分かったの。にこちゃんとあんじゅちゃんと私の差」

元部員「私が適当に過ごしてる間も努力を続けて、だからあんなに堂々として歌って踊れるんだって」

元部員「それに気付いたらさ、何もしないでいる自分が恥ずかしくなって。こうして今もバイトを続けてるの」

にこ「受験は平気?」

元部員「そっちもきちんとやってるよ。やる気が出ないときはSMILEのPV見たり、曲を聴いてるからさ」

にこ「……そっか」

元部員「あ、そろそろ戻らないと先輩に怒られちゃう。それにパフェが溶けちゃう」

にこ「今更だけど、何もない私の言葉に手を取ってアイドル研究部の立ち上げに協力してくれてありがとう」

にこ「僅かな時間だったけど、皆で練習メニューを考えたりしたあの時間は大切な思い出よ」

元部員「やめてよ。そんな熱い台詞言ったらパフェがドロドロになっちゃうよ」

元部員「ラブライブに出場出来るように、サポートなら何でもするから私たちに声を掛けてね」

にこ「ええ、ありがとう。頼りにさせてもらうわ」

元部員「それじゃあね。ごゆっくり」

あんじゅ「やる気出た?」

にこ「充分なくらいにね。というか、あんた携帯出して家で見せた願いの旅人スレ見せなさい」

あんじゅ「はい、どうぞ★」

にこ「……なるほどね。傷ついた振りして私にゆっくりと読ませないようにしてたのね」

にこ「IDが全部一緒。あんたの自作自演だったわけね」

あんじゅ「うふふ」

にこ「まったく。手の込んでるんだか手抜きなんだか」

あんじゅ「でも簡単ににこを操れたからいいの」

にこ「お陰でなんか無駄に恥ばかり掻いたわ」

あんじゅ「それ以上に大切な物を手に入れたでしょ? そして私は人生初めてのお子様ランチを味わえる。両者両得」

にこ「随分と不平等な両者ね」

あんじゅ「はむっ……美味しい」

にこ「やれやれ。そんな風にそれを食べてると本当に子供に見えるから不思議ね」

あんじゅ「見た目はにこの方が完全に子供だけどね」

にこ「あぁん?」

あんじゅ「なんでもないにこっ♪」

にこ「あっそ。だったらゆっくりと噛み締めて食べなさい」

あんじゅ「うん」

にこ「で、自作自演はともかくとして他の反応はどうだったの?」

あんじゅ「……」

にこ「……」

あんじゅ「」

にこ「あ、ごめん」

あんじゅ「二度見したくないけどしちゃうくらいの沢山の批判の数々」

にこ「批判は期待の裏返しだから」

あんじゅ「温かみのないコピペの連続」

にこ「覚えたてでついつい応援代わりに使いたくなったのよ」

あんじゅ「999のコメントが1000は1の記念にする為に残しておいてあげるって」

にこ「ごめん、本当にごめん」

あんじゅ「う~るる~」

にこ「邪道のあんたなら批判こそが声援って思えるようになるんじゃない?」

あんじゅ「スクールアイドルの少女達の青春はこれからも続いていく」

あんじゅ「ラブライブ出場を目標に一生懸命、時に迷いながら、それでも明日をより輝かせる為に」

あんじゅ「険しいスクールアイドル道を制するその日まで!」

にこ「何その本当の打ち切り連載の最後のナレーションっぽいやつ」

あんじゅ「これぞ秘儀エターナルの練習!」

にこ「エタる気満々でいるんじゃないわよ、この愚妹!」

――十五分後...

にこ「色々とあったからぶっちゃけるけど」

あんじゅ「ん?」

にこ「今朝の続き。言葉を濁したけどさ、間違いなくSMILEはラブライブ本戦には出場出来ない」

あんじゅ「……」

にこ「予選終了までのあと二ヶ月。どうあっても順位を上げる手段はないわ」

あんじゅ「でも、ほら! ラブライブ本戦に出れた時の隠し玉として残してる新曲『歌姫より...』があるし」

にこ「本当は分かってるんでしょ?」

あんじゅ「……どこも予選間際まで新曲を隠してるよね」

にこ「新曲+連続ライブはラブライブ予選ラストスパートのお決まりだから」

あんじゅ「だよねぇ」

にこ「ラブライブが今年で開催十周年。今までの九年の間にほぼ全ての手が使われてセオリー化されてきた」

にこ「穴のない隙間に針は通せない。それこそラブライブの仕様が一新されでもすれば一気にチャンスが広がるけど」

あんじゅ「それだよ! 今からラブライブの仕様が変わるかもしれないじゃない!」

にこ「あのね、もう今年の予選が七月末、本戦が八月中旬だって発表されてるの」

にこ「ない希望に縋りたい気持ちは分かるけど、蜃気楼には触れないわ」

あんじゅ「でも、私とにこなら何か新しい手を考えられるかもしれないよ」

にこ「そうね。私だって勿論諦めた訳じゃないわ」

にこ「ただ、手が思いつかなければ完全にラブライブへの道は失われるってだけ」

あんじゅ「……うん」

にこ「ファンの間では来年からは大会も新しくなるんじゃないかって話よ。もしかしたらにこの運の悪さの所為かもね」

あんじゅ「そんなことないよ。それに、手がなくても奇跡が起きて出場出来るかもしれないし」

にこ「奇跡は滅多に起こらないから奇跡っていうにこよ」

あんじゅ「うぐぅ」

にこ「予選が終了したら、海未にリーダーを代わってもらって来年のラブライブで優勝出来るように鍛えましょう」

あんじゅ「そうだ! 陸上部の部長さんに頼んで予選終了までは凛ちゃんをSMILEの練習に集中させてもらうのはどうかな?」

にこ「そんなのはダメよ。あくまでこっちがサブなんだから」

あんじゅ「でも、凛ちゃんが他の新入生達より上手くなれば注目のスクールアイドルにピックアップされて人気が増加するかもしれないし」

にこ「凛を使い潰すつもり?」

あんじゅ「違うよ。凛ちゃんって体力あるから」

にこ「体力あるっていってもにこと体型が余り変わらないのよ? 蓄積される負荷の量で潰れるわ」

にこ「それにね、冷静さを失ってるからわざわざ訊くけど、スクールアイドルにとって大切な物が何だか分かる?」

あんじゅ「カリスマ性?」

にこ「……違うわよ。スクールアイドルに一番大切なのはグループの統一性」

にこ「もう一つ訊いておくわ。スクールアイドルに最適と言われてる人数は?」

あんじゅ「六人?」

にこ「それってSMILEの数を答えただけでしょ。ま、正解ね。正確には三人から六人って言われてるわ」

にこ「これは使い方違うかもしれないけど結果論なのよ。今まで優勝したグループが三人から六人なの」

にこ「だからそう言われるようになって、それに合わせる子が増えたっていうのが現状ね」

にこ「私もその一人だった訳だけど」

あんじゅ「そうだったんだ」

にこ「もうちょっとスクールアイドルのことを勉強しなさいよ」

あんじゅ「でも、だったらどうしてA-RISEは一昨年二人でラブライブに出場したの?」

にこ「良いところに気が付いたわね。私が言いたかった統一性の話に繋がるわけよ」

にこ「ただ適正の人数にして優勝出来るならA-RISEは南ことりを加入させる前に芸能科から誰かを加えればいい」

にこ「でもね、キラ星の横に並べる逸材はあの時に統堂英玲奈しか居なかった」

にこ「もし、その芸能科の子。面倒だからXちゃんと呼ぶわね。Xちゃんを加入させてたとする」

にこ「その場合はキラ星と英玲奈はXちゃんに合わせる動きをしないとグループとして意味をなさなくなるの」

にこ「そうなると必然的に完成度が低くなるわ。ラブライブ本戦で決勝まで進めなかったでしょうね」

あんじゅ「流石にこ。スクールアイドルのことになると饒舌になるね」

にこ「当然でしょ。だから……あれ? なんでこの話してたんだっけ?」

あんじゅ「流石にこ。抜けてる部分がにこらしいね★」

にこ「あんたの茶々の所為で忘れちゃったのよ!」

あんじゅ「凛ちゃんを一気に鍛えるのは反対って流れからだよ」

にこ「そうそう。ただ練習をさせるだけじゃ統一性は生まれないわ。楽しんで、だけど一生懸命一緒に練習するから統一性が生まれるの」

にこ「今凛に必要なのは基礎練習。それから私たちメンバーとの交友を深めること」

あんじゅ「交友を深めたくっても練習休みの今日も部活で練習に参加してるじゃない」

にこ「それに合わせて今日を休みにした訳だしね」

あんじゅ「絵里ちゃんは亜里沙ちゃんとミュージカル観に行くし、海未ちゃんと穂乃果ちゃんは午後からことりちゃんと動物園だし」

あんじゅ「私もどこか遊びに行きたいにこ!」

にこ「話が変わってるわよ! ていうか、お子様ランチ食べたでしょ」

あんじゅ「後で私もパフェ食べたい」

にこ「しょうがないわねぇ。今回だけだからね」

あんじゅ「やった♪ にこにー大好き!」

にこ「はいはい」

あんじゅ「それじゃあさ、午後になったら運動し易い服に着替えて陸上部の練習に参加しようよ」

にこ「あんただけ参加してきなさいよ。お婆ちゃんのお手伝いしてくるから」

あんじゅ「じゃあ、パフェ食べたらお婆ちゃんの所に行ってお手伝い! 午後二時くらいに陸上部に顔を出しに行こう」

にこ「ま、それでいいけどね」

あんじゅ「話少し戻るけど、そうなるとA-RISEは新入生を入れないのかな?」

にこ「どうして?」

あんじゅ「だってことりちゃんの時は海未ちゃんと同じで中学生の時から練習に参加させてたんでしょ?」

あんじゅ「今から加入しても二ヶ月で今のA-RISEと並ぶなんて無理あるから」

にこ「甘いわね。SMILEにはなくてもA-RISEには半月があるでしょう」

あんじゅ「SMILEにはない半月?」

にこ「A-RISEの強みはことりの加入時のアンチ祭り」

あんじゅ「あぁ。凄かったよね」

にこ「あんな風になったにも関わらず、ファーストライブでその多くのアンチを認めさせ、あるいは魅了した」

にこ「その実績があるからこそ、今から新入生がA-RISEに加入したとしてもあの時のように反発は起き難いわ」

にこ「だからこそ、予選通過の順位を万が一下げたとしても二十位以下に下がることはない」

にこ「新入生を鍛える時間は予選終了から本戦開始までの半月の猶予が貰えるのよ」

にこ「その間に甘さを消せばA-RISEの連覇は磐石になるでしょうね」

あんじゅ「なるほどね」

にこ「でも、そんな才能ある子が居るならとっくにキラ星がスカウトしてると思うのよ」

にこ「だから今年は加入なしかもね。それでもA-RISEの連覇はほぼ確実だと思う」

にこ「その方が来年のSMILEにとって有利になるから嬉しいけどね」

あんじゅ「むぅ~。諦めてないとか言ってながら完全に次世代のSMILEのことばかり考えてるじゃない」

にこ「だったら十周年に相応しいラブライブの新しい可能性を示してみせなさい」

あんじゅ「今日の夜はラブライブの歴史を総洗いしてにこより詳しくなるにこよ!」

にこ「そうなればラブライブトークが盛り上がるから大歓迎よ」

あんじゅ「そんなことで喜んでないでにこも考えるの! 前にも言ったでしょ? にこには諦めは似合わないって!」

にこ「諦めないスクールアイドルね」

にこ「ラブライブで唯一たった一人でラブライブを目指した人が居るのよ」

あんじゅ「一人で?」

にこ「うん。音ノ木坂みたいにスクールアイドルは初めてで、でも私たちよりももっと逆境だった」

にこ「今よりスクールアイドルが盛んじゃなかったっていうのもあるし、規律を重んじる学校だったのよ」

にこ「だからスクールアイドルをしてくれるような人は誰も居なかった。結末まで言えば三年間通しても一人も居なかった」

にこ「それだけじゃなくてね、私達は途中まで空き教室で練習して、今は屋上で練習してるでしょ?」

にこ「でも、彼女には練習する場所すら与えて貰えなかった。空き教室にも屋上にも鍵が掛かってたし、グランドは使えない」

にこ「だからいつも公園で練習してたんだって。いつも一人で。筋トレもダンスも歌の練習も。全部一人ぼっち」

にこ「それでもめげずにスクールアイドルを貫いた。ラブライブにも登録して……三年目には三十位になって終わったの」

にこ「凄いでしょ? 今より参加グループは少なかったとはいえ、たった一人で三十位まで上り詰めたの」

にこ「そういう意味でも二十五位は一生誇れる順位よ」

あんじゅ「その人は結局後輩に教えることも出来なかったんだね」

にこ「でも、卒業する前に小さな芸能事務所にスカウトされたのよ。凄く喜んでた」

あんじゅ「……にこ? もしかして今日策に嵌めたことの復讐として、悲劇なノンフィクションだったとかいうオチはないよね?」

にこ「私はそんな悪趣味じゃないわよ」

にこ「最初の方は地方営業しかなくて、それでも張り切ってた。そんな彼女の運命を変えたのは一つのCM」

にこ「ローカルTVのCMに使う曲を、元スクールアイドルっていうこともあって彼女に話がきたの」

にこ「その曲がとても素晴らしくて、全国区で注目されるようになった」

にこ「元々スクールアイドル時代からのファンの成果もあってこそだけどね」

にこ「それこそが何を隠そう今をときめく《せんちゃん》ってわけよ」

あんじゅ「……せんちゃんって誰?」

にこ「どうしてせんちゃん知らないのよ! あんただって何度もあの曲を聞いてるでしょうが!」

あんじゅ「どの曲?」

にこ「夢なき夢は夢じゃない。どんな状況でも夢を諦めずに夢を追い求めたせんちゃんだからこそ歌える名曲よ」

あんじゅ「あっ! あのにこがよく聴く運動部のマネージャーみたいな曲?」

にこ「そうよ。まったく、スクールアイドルの癖してせんちゃんの名前を覚えてないとか何考えてるんだか」

にこ「せんちゃんこと千泉恵美。忘れるんじゃないわよ!」

あんじゅ「妙に詳しいと思ったら有名人だったんだね」

にこ「私の憧れのアイドルだからね」

あんじゅ「てっきり知り合いで、その人に会ってラブライブ予選突破の解決策のヒントをもらえるのかと期待してたのに」

にこ「ラブライブ予選突破に近道なんてないのよ」

あんじゅ「ないなら作るまでだよ! 邪道シスターズ参謀を舐めるんじゃないニコ!」

しかし、この日からラブライブについてあんじゅは情報を集めるが解決策は何も思いつかず。

ラブライブの完成されたシステムと九年の歴史の壁の厚さを恨むことしか出来なかった。

六月に入ると直ぐに入梅し、毎日降る雨があんじゅの憂鬱を更に加速させる。

そんなある日の金曜日。

SMILEの予選突破に繋がる最後の希望が訪れる。

すっかり忘れているエアメールの主の来訪と共に。

そして、伝説が生まれる……。 了

――おまけ 六月初頭 部室 にこあん

にこ「ねぇ、新聞部に持って行く今月の原稿これであってるの?」

あんじゅ「うん」

にこ「あんたの旅人は次号につづくで締めずに終わってるわよ。しょうがないからにこが書き足してあげる」

にこ「おっちょこちょいなんだから」

あんじゅ「待って! それはそのままでいいの」

にこ「いいって、どうしてよ?」

あんじゅ「あの999事件のことで私は悟りを開くことに成功したの」

にこ「悟り?」

あんじゅ「あのスレの失敗は最後をつづくって入れたことが原因だったんだよ」

にこ「……いや、絶対に違うと思うけど」

あんじゅ「つづくって入れると『終わってないのかよ』的な反感を買っちゃうの」

にこ「あんたにとってどんだけトラウマになったのよ。普通はそんな攻撃的思考してないわよ」

あんじゅ「だからね、考えた末に閃いたの。話を区切る時はそのまま終わりでも違和感ないようにすればいいんだって」

あんじゅ「そうすれば実はエタったんだけど、読む人には『ここで筆を置く事がこの物語にとって一番美しいんだ』って思ってもらえる筈!」

あんじゅ「これぞ正に邪道エターナルドリーム!」

にこ「夢関係ないわよ!」

あんじゅ「これこそ誰も傷つかない一番冴えたやり方★」

にこ「……あんたがそれでいいなら構わないけど」

あんじゅ「って! そんなどうでもいいことは思い付くのに、ラブライブ予選攻略案は全く思いつかない!」

にこ「そりゃそうよ。スクールアイドルになったからには誰もが目指す夢の祭典」

にこ「その為にどれだけの人達が挑戦してきたと思ってるのよ」

あんじゅ「どんな邪道な策を思いついたって、肝心な時に何も思いつかないなら意味ないにこぉ」

にこ「あんじゅの所為じゃないわよ」

あんじゅ「でも」

にこ「でもじゃないわよ。というか、絵里は絵里で焦ってるし、あんたはピリピリしてるしで最近ここの空気が悪いわよ」

にこ「アイドルに必要なのは最高の笑顔だけ。眉間にしわ寄せてるんじゃないわよ」

あんじゅ「空気を悪くしてるのは雨で湿気が酷いのも一因だと思う」

にこ「確かに、この雨は厄介よね。練習も筋トレと発声練習ばっかりだし」

あんじゅ「一日でもいいから気持ちいいくらいの青空見せて欲しいよね」

にこ「去年は梅雨入りしても全然雨降らなかったのにね。本当にツイてないわ」

あんじゅ「どうして神様って意地悪ばかりするのかな」

にこ「それは簡単よ。神様なんていないから。だから良い事より嫌な事の方が多いのよ」

にこ「だからこそ、自分の意思で人に優しく出来るの」

あんじゅ「あれ? でも以前閃きの神様がどうとか作詞の時に言ってなかった?」

にこ「……閃きの神は死んだのよ!」

あんじゅ「神殺しのにこにー」

にこ「って、私が作詞したのって一年生の頃でしょ? よくそんな些細な言葉覚えてるわね」

あんじゅ「にこの言葉は他の誰の言葉より大切に心にしまってあるから」

にこ「あんじゅ」

あんじゅ「揚げ足を取る為に!」

にこ「全て忘れなさい!」

あんじゅ「うふふ」

にこ「やれやれ。漸く笑ったわね。あんたはそうやって私をからかって笑顔でいればいいのよ」

あんじゅ「えへへ♪」

にこ「キラ星にはさ、本戦の決勝が終わった後に会いに行くことにするわ。だから夏休みの最後の方ね」

あんじゅ「……」

にこ「それが私のSMILEリーダーとしての最後の仕事にする」

あんじゅ「……」

にこ「さ、これを新聞部に出してきたら帰りましょう」

あんじゅ「……うん」 おしまい★

◆真姫ちゃん奮闘記~エリーゼのように~◆

――四月 ゴールデンウィーク直前の月曜日 昼休み 真姫

真姫(アイドル活動の練習ということで色々と調べ、考え、そして寝不足になって漸く閃いたわ)

真姫(過去の剣豪がこんな言葉を残していた。敵を知り、己を知れば悪戦苦闘せず)

真姫(……違うわ、眠くて頭が回ってない。そんなことはどうでもいいわ)

真姫(南ことりを見返す為に一番の近道はスクールアイドルに詳しい子と友達になればいいのよ)

真姫(クラスに居るのかって言われると居るとは思うけど、一番確実なのは噂のあの子)

真姫(南ことりが一緒に練習しているっていう、D組の小泉花陽)

真姫(正直、自分から友達を作ろうとするのは怖いけど)

真姫(でも……まこちゃんの時のことを思い出す。あの時、勇気を振り絞ったから友達になれた)

真姫(私の目標は今までよりも自分に素直になること。まこちゃんみたいに素敵な女の子になる為にね!)

真姫(と、思いながらも今の時点で友達は無し。理由を付けて行動しないと絶対に出来ないと思うのよ)

真姫(そういう意味でも今回は丁度いいと思う。これがまこちゃんに出逢う前なら一人で平気とか思ってたでしょうね)

真姫(真姫ちゃんが素直になれば友達なんて簡単に作れるわ! そう自分を奮い立たせてここまでやってきた)

真姫(眼鏡を掛けた、小動物っぽい……あの子よね)

真姫「ねぇ、貴女が小泉さんで合ってるかしら?」

花陽「……」

花陽(結局どうすればいいのか決まらないまま今日を迎えちゃった)

花陽(私が努力すれば本当にことりさん達A-RISEのメンバーになれるのかな?)

花陽(ううん、なれるなれないじゃなくて、まずはなるって決意こそが求められてるんだよね)

真姫「ちょっと聞いてるの?」

花陽(凛ちゃんみたいに即決出来る性格ならなぁ……)

花陽(って、だからこれじゃ駄目なんだよ。そういう思考時点で変われてない証拠だもの)

花陽(ことりさん・会長さん・副会長さん。大切な言葉を貰ったのにまるで変われないなんて駄目だよね)

花陽(きっとこれが成長出来るか否かのターニングポイントなんだ。花陽、ファイトだよ!)

真姫「ねぇってば!」

花陽「っ!?」

真姫「あなたが小泉さんよね?」

花陽「は、はい……そうですけど、あなたは?」

真姫「私はA組の西木野真姫」

花陽(西木野さん?)

真姫「心当たりがないって表情ね。私の知る限りでも初対面だと思うから安心して」

花陽「そう、ですよね。その西木野さんが私に何のご用でしょうか?」

真姫「単刀直入に言うわ。私と一緒にスクールアイドルを目指さない?」

花陽「……えっ?」

真姫「だからスクールアイドルよ。貴女、南ことりと一緒に練習してるのよね?」

花陽「あ、ことりさんのファンの方ですか?」

真姫「はぁっ!? ファンなんかじゃないわ。南ことりには大きな借りがあるのよ!」

真姫「私をそれを返して、おまけに見返してやりたいだけ」

花陽「状況がよく飲み込めないんですけど……」

真姫「それは追々教えてあげる。私個人で練習してスクールアイドルとなってやろうと思ってたんだけどね」

真姫「元々アイドルとかに興味があった訳じゃないからどういった練習が効率的なのか分からなくて」

真姫「ネットで調べてみたけど人によって正反対のこと書いてあったりするし」

真姫「だったら悔しいけど、見返す相手の指導を受けた方がいいでっしょー?」

花陽(ど、どうしよう。西木野さんが何を言ってるのか全然わかんないよぉぉぉ!)

真姫「私って歌の才能はピカイチだし、知性溢れるこの美貌でしょ? 後はダンスを覚えるだけなのよ」

真姫「そういう訳だから、一緒に練習に参加したいの。小泉さん、どうかしら?」

花陽(話を理解できないまま終わっちゃった!)

花陽「あ、え、えっと、そのぉ」

真姫「ねぇ、知ってる? 一人じゃ出来ないことでも、二人なら乗り越えることが出来たりするのよ」

真姫「恥ずかしいけど私はそのことをけっこう最近知ったの」

真姫「だから今回の件も小泉さんと二人なら結果を出せると思う。A-RISEに入るっていう結果をね!」

花陽(どうしよう。本当にどうすればいいのか全く分からないよぉ)

真姫「自信がないって顔してるわね。ま、確かに今の私は一応分類としては素人に入るわ」

真姫「でも一月も経てば立派なスクールアイドルとして南ことりよりも人気になってる」

花陽(そんなことクラスで言わないで。ほら、みんながお喋りを止めてこっちに注目しちゃってるから)

真姫「小泉さんに自信が足りなくて逃げ出したいと思ったら、この真姫ちゃんがその手を掴んであげる」

真姫「目標を達成するまで逃げ出すことを許さない」

真姫「だけど、その代わり私と居れば絶対にスクールアイドルになれるわ!」

真姫「だから私と一緒に頑張りましょう!」

花陽(自分を素人って言ったのにどうしてこんなに自信満々なのぉ!?)

花陽(でも……でも、どこか凛ちゃんの自信満々の笑顔が重なった)

花陽「う、うん」

花陽(だから思わず頷いちゃってた)

真姫「流石あの南ことりが目をつけただけあって決断力があるわね」

花陽(勢いと凛ちゃんに重なっただけなんて言い出せない)

真姫「それじゃあ、連絡先交換しましょう。練習は放課後よね?」

花陽「うん」

真姫「じゃあ、授業が終わったらこっちに来るわ。一緒に行きましょう」

花陽「うん」

真姫「それじゃあ、また放課後にね」

花陽「う、うん」

花陽(ことりさんになんて言えばいいの!?)

花陽(よりによってA-RISEに入れるか否かの練習に参加するかの決断する日にこんなことになるなんて)

花陽(どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう!!)

「ねっ、ねっ! 小泉さん。芸能科じゃないのにA-RISEに入るって今の本当?」

「ことりさんと練習してるっていうのは噂で耳にしてたけど、そんな進んだ話になってたんだねぇ」

花陽「い、いえ。そんな進んだ話にはまだなってないというか、だっ、誰かたすけてー!」

――放課後 レッスン室前 ことり

ことり「良かった。花陽ちゃん来てくれたんだね」

花陽「は、はいっ」

ことり「ありがとう。それで、そっちの子は――」
真姫「――真姫よ! どうしてあなたは私の名前を覚えないのよ!」

ことり「ご、ごめんね。こないだも色々とインパクトがあり過ぎて名前の方が行方不明になっちゃって」

真姫「今度忘れたら本当に許さないからね!」

花陽「西木野さん。相手は先輩だよ」

真姫「……ごめんなさい。言い過ぎました」

ことり「ううん、それは別にいいんだけど。どうして西木野さんも一緒なの?」

真姫「私もスクールアイドルになろうと思ってね」

ことり「芸能科なの?」

真姫「一般よ。小泉さんだって一般なんだから問題ないでしょ?」

ことり「それはそうだけど。うぅん……」

ことり(本当は花陽ちゃん一人の方がワンツーマンで教えられるから効率的だけど)

ことり(花陽ちゃんの性格を考えると西木野さんが居てくれる方が逆に効率が上がるかも)

ことり「まぁ、いいかな。最初に言っておくね」

ことり「勢いは大切だけど、やる気だけでなれる程スクールアイドルは優しくないよ」

真姫「望むところよ。どれだけ厳しかったとしても弱音なんて吐かないし、逃げ出したりしないわ」

真姫「そうよね、小泉さん?」

花陽「弱音は吐いちゃうかもしれませんけど、頑張って認めてもらえるようにしたいです」

ことり(練習を積んでる花陽ちゃんの方が現実的で、西木野さんは夢見がちみたい)

ことり「西木野さんはスクールアイドルとかのトレーニング経験はあるの?」

真姫「ボイストレーニングなら受けたことがあるわ。それに体力面でも筋トレしてるから自信ありね」

ことり「じゃあ、中に入って丹念に体を解したら練習始めようか。厳しくするから覚悟してね」

花陽「はいっ!」

真姫「望むところよ!」

――レッスン室 一時間後...

真姫「……はぁはぁ……っ、はぁ~」

花陽「はぁ~……はぁ~っ」

ことり「まだ基礎の基礎の練習だけど、大丈夫?」

真姫「はぁはぁはぁ……はぁっ」

花陽「……けっこう、疲れてますけど。まだ大丈夫です」

真姫「わたっうっ……はぁはぁ」

ことり「西木野さん。無理に話さなくていいよ。今は息を整えて」

ことり「花陽ちゃんはこの後は声だしの練習しようね。西木野さんはまずは体力をつけないことにはどうしようもないかな」

ことり「実際に経験すると分かるんだけど、ライブ中は普通の状態より体力を沢山消耗するから」

ことり「スポットライトも凄く熱くて汗を掻くから余計だね」

ことり「慣れない内は緊張も凄いからより体力を奪われるから」

ことり「一番大切なのは無理をすること。無理を押してステージに上がって、ファンの前で倒れるなんて絶対に駄目だからね」

ツバサ「ねぇ、英玲奈。今遠くで山びこの声が聞こえた気がするわ」

英玲奈「山びこというよりはブーメランの方が正しいだろう」

ツバサ「ああいう言葉を何度も掛けたのに散々無茶をしてライブ後に倒れたり病院に連れて行かれたりした子が居たわね」

英玲奈「聞いたことがある」

ツバサ「知っているの、英玲奈?」

英玲奈「ああ。去年A-RISEに入ったメンバーだった筈だ。名前は確か……ブーメランことり」

ツバサ「くすっ」

ことり「もうっ! 英玲奈ちゃんにことりちゃん! 全部聞こえてるよ!」

ツバサ「あら、ごめんなさい。面白くて思わず声が大きくなっちゃったわ」

英玲奈「これからは気を配ってことりの話をしよう」

ことり「私のことなんて喋ってないでよ~!」

英玲奈「さっきのはA-RISEとして語り継げるくらいのブーメランだったからな。仕方がない」

ツバサ「ああいうのは自分の経験を元に語って聞かせた方がいいわよ。後で過去を知られたら説得力がなくなるから」

英玲奈「そうだな。二人共、ことりはこう見えてほんわか娘と見せ掛けた猪突猛進娘だ」

ことり「もう! そういうのは身内だけの時にしてよ!」

ツバサ「その二人を見てみなさい。今のやり取りで緊張が少しは抜けてるでしょ」

ツバサ「先輩は心のケアまできちんとしなきゃ駄目よ。器だけ完成したってスクールアイドルとは言えないわ」

英玲奈「心身ともに完成させてこそ人を魅了するスクールアイドルになれる」

ツバサ「ラブライブの予選が近いのも分かるけど、飛ばし過ぎるのはNGよ。全面的に任せるのは変わらないけどね」

ツバサ「練習メニューに載ってない部分をきちんと見つけていかないと来年が大変よ」

英玲奈「そうだな。リーダーとしてやっていかないといけないんだ。自分が言われたことをただ伝えるだけじゃ駄目だ」

英玲奈「何故その時にそういう言葉を掛けられたのかを自分なりに考えてから使うべき」

ことり「はぁい」

ツバサ「私から二人に対して言えること一つ。ことりは一度も被服科の特待生であることを理由に使ったことはない」

英玲奈「ここで練習をするということは、絶対な信念が必要だ。それを持てるかどうかは自分次第」

ことり「二人共初日から色んなこと言わないで。混乱させちゃうから」

ツバサ「ことりが問題児だっただけに、ついつい心配で言葉を掛けちゃうわね」

英玲奈「年を取ると口うるさくなる悪例だな」

ツバサ「年は取りたくないわね」

英玲奈「まったくだ」

ことり「あの二人のことは余り気にしないでね。背景だと思って」

花陽「……ツバサさんに英玲奈さん。素敵ですっ!」

真姫「……はぁー……はぁー……はぁはぁ」

ことり「本格的な練習初日からとっても不安だよ。ホノカチャー」

――夕方 帰り道 花陽

花陽「西木野さん、大丈夫?」

真姫「……ええ、大丈夫よ」

花陽「マッサージ受けたけど明日は多分すごい筋肉痛だと思うから、今日より辛いと思うよ」

真姫「……筋肉痛によく効く薬が必要ね」

花陽「ことりさんは凄いよね。指導しながら一緒に練習してたのにこの後A-RISEとしての練習をしてから帰るんだもの」

真姫「……そうね。今はまだことりの方がすごいのは認めてあげるわ」

花陽「ツバサさんと英玲奈さんも私たちを気遣ってくれて優しいし、本当にA-RISEって素敵だなぁ♪」

真姫「……小泉さんは元気ね」

花陽「私は元々自分で練習してた時にことりさんと合流して練習させてもらってたから」

花陽「最初の頃は何度もこんな辛いことは止めちゃおうかなって誘惑に襲われたけど」

花陽「でも、大切な幼馴染の凛ちゃんの横を自信を持って歩きたいから」

花陽「憧れのことりさんに近づきたいって思いもあったし、生徒会の人に応援の言葉ももらったから」

花陽「だから頑張ろうって思えただけなんだ。一人だったら直ぐに諦めてた。花陽は駄目な子なんだって」

花陽「ううん、今でも駄目な子のままなのかもしれない。でもね、だからこそ変わってみたいの」

花陽「アイドルになるのが幼い頃からの夢だったから。でも、人に夢を聞かれたら自分からは答えられなかった」

花陽「アイドルの子と違って私って地味だし、何か特徴があるわけでもないし」

花陽「って、変なこと言っちゃってごめんね。自分語りなんてしちゃって。かっこ悪いよね」

真姫「……ええ、そうね。相当格好悪いわ」

真姫「努力もせずに夢を語る人が言えばね。そういうのが一番格好悪いもの」

真姫「でも小泉さんは違う。努力をして、昔は言えなかった自分の夢をこうして語れてるんでしょ?」

真姫「成長してる証拠じゃない。私は小泉さんのことを素敵だと思うわよ」

花陽「西木野さん」

真姫「……す、素直になるっていうのが今の私の目標なんだけど、恥ずかしいわね」

花陽「そうだね」

真姫「でも良かった。教室で声を掛けた時はかなりオドオドしてたから本当に友達になれるのかちょっと不安だったのよ」

真姫「でも、今の貴女となら絶対に友達になれる自信があるわ」

花陽「私も不安だったけど、西木野さんとは仲良くなれそう」

真姫「そうだ、記念にクレープでも食べて帰りましょう。私学校帰りの買い食いっていうのに憧れてたのよ」

花陽「その気持ち分かります! ドラマとかでよくあるけど、中学生の時は買い食い禁止だったから」

真姫「今日は私が奢るわ。練習に割り込ませちゃったお詫びとお礼を兼ねてね」

花陽「そんな! 奢ってもらうなんて駄目だよ」

真姫「友達同士は奢ったり、奢られたりするのが普通なのよ。幼馴染の子とはそういうのしないの?」

花陽「凛ちゃんとは普通にするけど」

真姫「だったらいいじゃない。それとも、さっきの言葉は私を気遣う為の嘘だったの?」

花陽「それは違うよ」

真姫「なら決まり。今度何かあった時に小泉さんが奢ってくれれば問題ないでしょ?」

花陽「……うん。じゃあ、次は私が奢るね」

真姫「それじゃあ、足が痛いけど頑張って駅前まで行きましょう」

花陽「ふふっ。うん!」

――同日 レッスン室 A-RISE

ツバサ「特別ゲストまで用意するなんて、ことりさんは私たちを飽きさせないわね」

英玲奈「見事なサプライズだった」

ことり「違うよ! 私だって驚いたくらいなんだから」

ツバサ「体力面はこれから鍛えればいいとして、あの歌声は最大の武器になる」

英玲奈「来年のことを考えると居なくてはならない逸材だな。ことりと小泉さんの二人だけを想像すると恐怖すら覚える」

ツバサ「んふっ。そうね、二人だけでライブしたら終わる頃には脳みそが蕩けてそう」

ことり「って、人の話を聞いてよ! 脳みそ蕩けるとか酷いしっ」

ツバサ「一方の小泉さんは基礎はよく出来てる。あの声はことりさんと同じで武器になる。そして眼鏡」

英玲奈「スクールアイドルになると時に激しいダンスがあるから眼鏡は基本的に掛けないからな」

ツバサ「ええ、福岡の《Dream》の一人が眼鏡を掛けてるだけだったわよね。私の記憶が正しければだけど」

英玲奈「二人組で片方が眼鏡をかけているという意味でも話題性があり、去年二人共一年生でありながら雑誌の常連になっていたな」

ツバサ「現在何位くらいだったかしら?」

英玲奈「ツバサはSMILE以外は眼中にないな。現在二十三位だ」

ツバサ「ということは今年は無理でも来年はライバルの一候補になりそうね」

英玲奈「そうだな。特に噂が正しかったとした場合、新規の大会ルールということもあり揺れ幅も凄いだろう」

英玲奈「場合によっては今年の優勝した王者が来年の大会では予選敗退ということも充分あり得る」

英玲奈「ことりは責任重大になるな」

ことり「ま、まだラブライブのシステムが一新されると決まったわけじゃないし」

ツバサ「かなり信憑性あると思うわよ。今年を夏にしたのも来年の為の準備期間みたいなものだと思ってるし」

ことり「今までも夏か秋が大体だったんでしょ?」

ツバサ「そうだけどね。十周年という一つの記念を終えた後に一新するのはおかしくないわ」

英玲奈「寧ろ、十年も前のシステムで今もやっていることが今更ながら凄いことだ」

ツバサ「欲言えば一新されたシステムで挑んでみたかったけどね」

ツバサ「そうすれば今のように固定されたようなグループでの頂上争いみたいな状態を脱してただろうし」

ツバサ「どうせ頂点に立つのなら群雄割拠の荒れた上体から制してこそ真の実力を証明できるしね」

英玲奈「相変わらずツバサは武道派の思考だな」

ことり「でもその方が今より無名の学校もチャンスが生まれそうだね。どんなシステムになるか分からないけど」

ツバサ「どんなに楽しみでも、スクールアイドルの条件は高校生限定だからね。参加したいからって理由で留年出来ないし」

英玲奈「されても困る」

――五月 ゴールデンウィーク明け レッスン室

真姫「はぁはぁっ……ふぅ~。まだまだよ!」

ことり「うん、その調子。短い間にグッと体力が付いたね」

真姫「体力が付いた以上にコツを覚えてきたのよ。どう動くことが一番体力を使わずに見映えるのかってね」

花陽「はぁ~。真姫ちゃん凄いね」

真姫「まぁね! 伊達にお医者さんを目指してないわ」

ことり「そういう効率を重視するのは英玲奈ちゃん向けのやり方だね。ただ、一つだけいいかな?」

真姫「何よ」

ことり「頭で考えて動くだけじゃ駄目だよ。それを体に覚えこませないと」

真姫「どうして?」

花陽(最初からほとんどそうだったけど、真姫ちゃんはもう完全にことりさんにだけ敬語使わないなぁ)

ことり「失敗した時に頭が真っ白にならないって断言出来るくらい自信があれば構わないけどね」

真姫「……なるほどね」

ことり「でも、自分で効率を考えた辺りはとっても良いよ。その動きをマスターすれば疲れ難くなるからね」

花陽「真姫ちゃんすごいなぁ」

ことり「花陽ちゃんは基本に忠実な性格だからね。でも、そのお陰で真姫ちゃんよりも失敗が少ないし」

ことり「人の長所を真似るより、自分の長所を自信持って伸ばしていこう。辿り着く道は同じだから」

花陽「ありがとうございます!」

ツバサ「先輩の貫禄が少なからず出てきたわね」

英玲奈「口が上手くなったと言い換えることも出来るが」

ツバサ「そうなると私達が卒業する頃には詐欺師になれるくらいに口が上達してそうね」

英玲奈「となると、来年の新入生勧誘は楽しいことになりそうだ」

ツバサ「A-RISE49とかは勘弁して欲しいけどね」

ことり「あ~あ~! 何も聞こえない~!」

ツバサ「あははっ」

英玲奈「ふふっ」

ことり「外野のチャチャは聞き流して、もう一度鏡の前で自分の動きを見ながら練習するよ」

花陽「はい!」

真姫「ええ!」

>>232の後 入れ忘れました

ことり「二人はやっぱりアイドルになるの?」

ツバサ「私は当然ね」

英玲奈「……私は少し迷っている。実家の花屋をそのまま継ぐのもありだし、大学に通って他の夢を見るのもある」

英玲奈「ラブライブを一つの区切りとして、自分の将来をじっくりと考えようと思っている」

ことり「そっか」

ツバサ「絶対に英玲奈はアイドルになるべきだと思うけどね。花屋の宣伝だって出来るじゃない?」

英玲奈「害の方が多くなりそうだからな。店にきてくれるのは私を目的としてではなく、あくまで花じゃなければな」

英玲奈「花は買ってくれる相手を選ぶことが出来ない。買うだけ買って枯れてしまうのでは可哀想だ」

英玲奈「だから本当に花が好きな人に買ってもらって、大事にしてもらいたい」

英玲奈「そのことがなければアイドルという選択肢しかなかったかもしれないな」

ことり「英玲奈ちゃん素敵っ!」

ツバサ「今の言葉を聞けばアイドルになるとは思えないわね。残念だわ」

英玲奈「恐らくそうなるだろう。だからこそ、今年のラブライブは必ず優勝してみせる」

ツバサ「そうね。後はことりさんの後輩育成の手腕次第ね」

ことり「うんっ、任せて!」

――真姫の部屋

真姫「それでね、大分形になってきたの」

まこ『ゴールデンウィークの時に是非見学したかったなー』

真姫「長期休みしか帰れないとか不便な学校ね」

まこ『自立と自主性を謳う学校だからね。本当は音ノ木坂みたいな伝統校に入学したかったけど』

真姫「まこちゃんってそういう部分が天然よね」

まこ『天然って言い方好きじゃないわ』

真姫「ごめんごめん、そうだったわね。でも、私はある意味まこちゃんが今回帰れなくて良かったと思ってるの」

まこ『どうして?』

真姫「だって、どうせ見られるなら完璧な状態の私を見てもらいたいもの」

まこ『あはは、真姫ちゃんらしい。体の方は大丈夫?』

真姫「今も筋肉痛は辛いけど、毎日のことになると大分慣れてきた」

まこ『中学生の時の真姫ちゃんが耳を疑う台詞だよね』

真姫「絶対に信じたりはしないだろうけど」

まこ『スクールアイドルかぁ』

真姫「まこちゃんも挑戦してみればいいのに」

まこ『うちの学校は無理だよ。そういうの興味ある子とか居ないと思うし』

まこ『UTX学院の正反対だね』

真姫「外出とかも禁止なの?」

まこ『元々は大丈夫だったんだけど、とある事情により禁止になったんだって』

真姫「とある事情?」

まこ『千泉恵美ちゃんって知ってる?』

真姫「あのプロのアイドルの千泉恵美よね?」

まこ『うん。昔この学校に居てね、毎朝公園に行っては練習して、放課後も門限ギリギリまで外で練習してきて』

まこ『せんちゃんに憧れた子が多く入学して門限破りや、近くの公園でかなり煩くはしゃいじゃったりしたんだって』

まこ『それで規則が厳しくなってね。うちの学校からスクールアイドルが生まれることはほぼないかなぁ』

真姫「ミーハーな考え無しの生徒の所為で割を食ったってことね」

まこ『保健室にサイン色紙が飾ってあるよ』

真姫「へぇ~。だったら私が三年生になった時にラブライブに優勝したら、保健室にサイン色紙をプレゼントしていきましょう」

まこ『真姫ちゃんアイドルになるの!?』

真姫「いや、ただの記念として」

まこ『時々真姫ちゃんって天然だよね』

真姫「まこちゃんに言われたくないわよ!」

まこ『A-RISEに入って正式なスクールアイドルになれるといいね』

真姫「ええ、怠慢にならずに努力し続けるわ。花陽にも負けられないしね」

まこ『真姫ちゃんに無事に友達が出来たのが一番の奇跡かも』

真姫「否定はしないわ。でも、そうなれたのはまこちゃんが何度も私に声を掛けてくれたお陰」

真姫「まこちゃんと同じクラスになることがなければ、私は何の目的も持てずにいたと思う」

真姫「だから、ありがとうね」

まこ『……恥ずかしいからやめてよぉ』

真姫「素直になることを覚えた真姫ちゃんは無敵よ!」

――にこVS凛... 音ノ木坂学院 花陽

花陽「凛ちゃん。凄くかっこ良かったよ!」

凛「えっへへ~♪」

真姫「噂以上に足が速くてビックリしたわ」

凛「凛は昔から駆けっこなら負けない自信があったからね」

花陽「そうだね。小さい頃は男の子にだって負けないくらいだったから」

凛「色々あって元気なかったけど、かよちんのお陰で本気で走れてスッキリしたにゃー!」

花陽「結局この勝負ってなんだったの? 絢瀬絵里さんに訊いても分からなかったみたいだし」

真姫「それはそうよね。どうして現役スクールアイドルと帰宅部が勝負する理由を知る人間を逆に探したいわ」

凛「うーん、凛はなんとなくだけど分かったかな」

花陽「えっ?」

真姫「どんな理由なのよ?」

凛「もう少ししたら教えるよっ!」

真姫「もやもやするわね。……というか、流石オトノキ。ジャージのまま帰宅って。スクールアイドルとしてどうなのよ」

花陽「ある意味そういう素の部分を見せるのもスクールアイドルの魅力です!」

真姫「そんなのが魅力になるモノになりたくないわね」

凛「でもかよちんと一緒にスクールアイドルを目指してるんだよね?」

真姫「私はジャージ姿で帰宅したりなんてしないわよ! シャワー浴びてから帰ってるわよ」

花陽「勿論私も……」

真姫「映像で見たらすごく小さく見えたけど、SMILEのリーダーってツバサと同じくらいなのね」

花陽「一緒の154cmだよ!」

凛「流石かよちん。アイドル関係になると記憶力が倍増するね」

真姫「そうね。アイドル知識の暗記勝負だと私ですら勝てない気がするわ」

花陽「そんなことないよー」

真姫「ふふっ」

凛「えへへっ」

花陽「うぅ~。恥ずかしい」

凛「今日までずっと元気を溜めてたし、これから大爆発させるよー!」

花陽「ねぇ、凛ちゃん」

凛「なぁに、かよちん?」

花陽「走ってる凛ちゃんに元気を与えてもらったよ。私、絶対にスクールアイドルに、SMILEに入ってみせる!」

凛「うん。だったら凛は――おっと、今は秘密にしておくね☆」

花陽「なんだかよく分からないけど、楽しみにしてるよ」

真姫(幼馴染って不思議なやりとりで納得出来るのね)

凛「今日は一緒にクレープでも食べに行かない? 下校中の買い食いって凛の夢だったんだー♪」

花陽「くすっ」
真姫「ふふっ」

凛「あれ、おかしかったかな?」

花陽「ううん。是非食べに行こう!」

真姫「元気の出る走りを見せてもらったから今回は私が凛の分を奢ってあげる」

凛「なら凛はかよちんの分を奢るよ!」

花陽「じゃあ、私はこないだ奢ってもらったから真姫ちゃんの分を出すね」

真姫「意味分かんない! これじゃあ、自分で買うのと同じじゃない」

花陽「全然違うよ。だって、より美味しく感じられる筈だもん」

凛「えっへへ~♪ 楽しみ! 部長さん。入部の手続き早くして欲しにゃー!」

そして、六月二週目の金曜日。

UTX学院はA-RISEに二人の新メンバーが加わったことを発表した。

小泉花陽。

西木野真姫。

南ことりが勧誘した旨の記事と共にインタビューが公開された。

去年の出来事と、ことりが勧誘したという事実がアンチ抑止力となり去年のような荒れるようなことはなかった。

新生A-RISEの実力に期待の声が流れる中、本格的な夏がやってくる……。 了

◆矢澤あんじゅの最良の一日◆

――六月 二週目 木曜日 朝 三年の教室

絵里「ハラショー! あんじゅ、これは最高だったわ!」

あんじゅ「今日もまた雨なのに朝からテンション高いね」

絵里「確かに連日の雨だけど、久しぶりに気分が晴れたわ」

にこ「あぁ。新聞部の今月号が出たのね」

絵里「最初は一話と二話とタッチが違ったし、エリーチカも素直に褒められる存在じゃなかった」

絵里「でも、あの短い間にあんな風に変化するとは思ってなかったわ。というか、一文目が伏線だったことに驚いた!」

絵里「本当に最高だったわ。あんじゅには文才もあるのかもしれないわね」

あんじゅ「言いすぎだよ」

絵里「そんなことないわ。流石私の可愛い妹ね!」

にこ「自分の回だからって絶賛し過ぎで引くわ」

あんじゅ「エリーお姉ちゃん。にこの言うとおりだよ」

絵里「いいえ、そんなことあるわ。これは帰ったら直ぐに亜里沙に読ませてあげなきゃ!」

あんじゅ「にこ、私一つ知ったよ。身内の甘い評価って、時に心をえぐるんだね」

にこ「だから私はあんたの書いたのに対して平等な評価を口にしてきたのよ」

あんじゅ「にこの優しさが今は身に染みて分かった。にこにーお姉ちゃんは稀に凄い!」

にこ「にこは常に凄いわよ!」

あんじゅ「私はにこの言葉を否定する答えしか持っていなくて、だから黙ることしか出来なかった」

にこ「だったら黙ってなさいよね!」

絵里「ほらほら、朝から喧嘩しないの」

あんじゅ「喧嘩じゃなくてにこに甘噛みしてただけだよ。はむはむ」

にこ「あんたの自称甘噛みは致命傷を与えかねないわ」

あんじゅ「これが世に言う《軽い致命傷で済んだ》ってやつだね」

にこ「そんなものはないわよ!」

絵里「見事に矛盾してるわね」

あんじゅ「うふふ」

絵里「ふふっ」

にこ「絵里も漸く笑顔になったわね。最近焦ってて見れたもんじゃなかった」

絵里「それは焦りもするわよ。来月で予選が終わっちゃうのよ?」

にこ「何か勘違いしてるみたいだけど、ラブライブがゴールじゃないのよ?」

にこ「バザーは今年もまだ何回もあるし、UTXとの合同学園祭だってあるし、ハロウィンもある」

にこ「SMILEの活躍はまだまだ続くんだから、焦る必要なんてないの。分かった?」

絵里「でも、ラブライブはにこがツバサさんと再会する約束の舞台じゃない」

にこ「約束はあくまでスクールアイドルとして再会すること。ラブライブの舞台である必要はないのよ」

絵里「だけどそれを望んでスクールアイドルとして今日まで努力してきたんじゃない」

にこ「あんじゅにも言ったけど、二十五位になれてる今が誇れることなの」

にこ「素人同然の私たちに本当のダンスを教えてくれた絵里が居てくれたからこそよ」

にこ「絵里が居なければ五十位だって夢のまた夢だったわ。だから感謝してるの」

にこ「それなのに私の所為で絵里が苦しんでるんじゃ、私の立つ瀬がないわよ」

絵里「……にこ」

にこ「それにさ、今を楽しめないやつには楽しい結果なんてついてきてくれないのよ」

にこ「今を楽しめれば後から結果だってついてくる。だから、気にすんじゃないわ」

絵里「今を楽しめば……そうね。焦ってたってより悪い結果に繋がるだけよね」

あんじゅ「にこにーかっこいい~♪」

にこ「あんじゅも成長したわね。一年の初めの頃なら絶対に話の途中で『私に構って』とばかりに茶々入れてきたくせに」

絵里「そうなの?」

あんじゅ「あの頃は甘え方がよく分かってなかったから」

絵里「初々しい頃もあったのね。そういえば最初の内は二人は別居してたんだもんね」

にこ「その言葉は色々おかしいわよ」

あんじゅ「こう考えると入学前と今では本当に多くのことが変わったよね」

絵里「本当にそうね」

にこ「最近本当に駄目ね。ふとした瞬間に思い出に浸っちゃうわ」

絵里「しょうがないわよ。もう一学期も終わりでしょ? 二学期はフルにあるけど、三学期はもう自主登校だし」

あんじゅ「絵里ちゃんは受験だよね」

絵里「ええ、亜里沙も居るから家から通える所が第一希望よ。佐藤さんが通ってる大学ね」

あんじゅ「カボチャパンツの人懐かしい」

絵里「あの趣味はアレだけど、それ以外は面倒見のいい人よ」

にこ「誰も知らない所でもあんたならやってけそうだけど、知り合いが居たほうが気持ち安心よね」

絵里「ええ。それから、同じサークルに入ろうと思ってるから特に心強いわ」

絵里「バレエは諦めちゃったけど、スクールアイドルを通じて改めて知ったわ」

絵里「やっぱり踊るのが好き。でも、今は踊るだけじゃ満足できない。歌って踊って演技して」

絵里「将来はミュージカル関係の仕事に就きたいって思うくらい」

にこ「そっか。夢が見つかったのね。おめでとう、絵里お姉ちゃん」

あんじゅ「おめでとう、エリーお姉ちゃん」

絵里「ありがとう。ここに入学した時は夢をもう一度持つなんて思ってなかった。ううん、思えなかった」

絵里「だってあんなに苦しい気持ちにまたなったら……その時はもう立ち直れない自信があったから」

絵里「でもね、二度も挫折なんてしない。夢は叶えてこその夢なんだから。夢を恐れるなんて馬鹿らしいじゃない」

絵里「夢は人を笑顔にさせる力があるんだから」

にこ「……」

絵里「だからね、にこ。私はにこにもう一度夢を見て欲しい。アイドルになる夢を」

にこ「なに、言ってるのよ。私なんかがアイドルになれる訳ないじゃない」

絵里「私にはそうは思わない。にこ以上のアイドルなんて絶対にいないわ」

にこ「シスコンここに極まりね」

絵里「私だけじゃない、貴女の妹達だって全員がそう思っているわよ」

にこ「はぁ? そんな訳ないでしょうが」

絵里「ね、あんじゅ?」

あんじゅ「マネージャーの座は任せて☆」

にこ「あのね、確かに私はリーダーやってるわ。でも、それは只単に私がするしかなかったからよ」

にこ「今なら絵里の方がリーダー向きだし、海未だって学年が同じだったらリーダーやってておかしくないくらいだもの」

にこ「それに何度も言うけどアイドルになれるのはカリスマ性があるキラ星のような子だけなのよ」

にこ「もしくは、ラブライブ本戦の上位に食い込めた子だけね」

あんじゅ「でも、三十位でトップアイドルなせんちゃんだって居るよ?」

にこ「せんちゃんは別よ。一人で三十位って偉業があるんだから」

絵里「私には理由を付けて過去から逃げようとしてるようにしか見えないわ。昔の私にそっくり」

にこ「……」

絵里「カリスマ性? ねぇ、もしにこが校庭に集合して欲しいってお願いしたらどうなると思う?」

絵里「ニコフィラの持つ願いの宝玉なんてなくても生徒全員が集まってくれるって私は信じてるわ」

絵里「それでもカリスマ性が足らないっていうのなら、商店街の皆さんに声を掛ければもっと集まるわよ」

絵里「ゴミ拾いに参加してくれてる小中学生達にも声を掛ければ高確率で集まってくれるでしょうね」

絵里「これでも足りない?」

にこ「……」

あんじゅ「にこにとってツバサちゃんが偉大なのは分かるよ。でもね、だから自分は駄目だって思うのは間違いだと思う」

あんじゅ「それは確かに最初の内はにこってば私が居ないと駄目だなーって思うことが多かったよ」

にこ「いや、あんたには言われたくないわよ!」

あんじゅ「でも、一緒に成長してる間にツバサちゃんとは違う方向性でアイドルに必要なモノを磨いてきたと思ってる」

にこ「って、スルー!?」

絵里「くすっ」

あんじゅ「そろそろにこは今の自分を見直すべきだと思う。だって、私がこんなに大好きなにこなんだよ?」

あんじゅ「世界に……ううん、宇宙ナンバー1アイドルだって誇ってくれるくらいで丁度いいくらいだよ」

にこ「宇宙ナンバー1アイドルって、また懐かしいネタを使ってくるわね」

絵里「ない胸を張って『にこは宇宙ナンバー1アイドルにこ!』とか言ってくれる方が安心出来るわ」

あんじゅ「星降らすアイドル。宇宙ナンバー1アイドルプリティ(真)にこにー♪」

にこ「かっこの中が笑から真に進化してる!?」

あんじゅ「ちなみに私の夢はにこのストーカーだから誰よりも叶えられる夢にこ♪」

絵里「流石あんじゅね!」

にこ「その反応はおかしいでしょ!」

絵里「真面目な話、ファンの中でも本当ににこがアイドルになって欲しいって願ってる人も居るわ」

絵里「そういう人の声を遮断せずに受け入れて欲しいの。ファンの言葉に応えるのが真のアイドルでしょ?」

あんじゅ「あと妹と姉の言葉にも応えないとね」

にこ「……そんなこと言われたって」

絵里「多分なんだけどね、にこは夢を諦めたわけじゃないと思うの。ただ、夢の時間が停止しているだけ」

絵里「綺羅ツバサに再会すれば停止している夢の時間が再び動き出すと思う」

絵里「だからこそ、最近焦っちゃってたんだけどね」

あんじゅ「絵里ちゃんは素敵なことを考えるね。私もそう信じたいな」

にこ「勝手なこと言うわね」

絵里「実はね、自分の夢とにこをアイドルにさせるって夢以外にもう一つ夢があるの」

にこ「夢の大バーゲンセール」

絵里「いつかにこを主人公にしたミュージカルの台本を書きたいのよ。あんじゅに触発されて最近物語を書き始めたし」

あんじゅ「本当!? でもね、ネットには絶対にUPしない方がいいよ。UPする絶対駄目!」

絵里「ネットにはあげないわよ。そもそも私の書いてるのはあんじゅと違ってシェイクスピアみたいに台本形式だから」

にこ「シェイクスピア? どこかで聞いたことがあるわ」

あんじゅ「モナリザ描いた人だよ」

にこ「あぁっ! そうだったわ。あの裸の像の人ね」

絵里「ふふふっ。にこってば騙されてるわよ。シェイクスピアは有名なイングランドの小説家よ」

絵里「ロメオとジュリエットなら聞いたことがあるんじゃない?」

にこ「……えっと、あの氷山に船がぶつかるやつ?」

あんじゅ「どんまい!」

にこ「騙してたあんたに言われたくないわよ!」

絵里「アイドルになるにはもう少し常識を教え込む必要があるわね。今日明日で常識問題のテキスト製作してくるわ」

にこ「理不尽にこぉ」

あんじゅ「エリーちゃんの愛の鞭だよ★」

にこ「愛でもなんでも鞭なんて要らないわよ!」

絵里「ふふっ。ラブライブ予選に向けての練習に合同学園祭の打ち合わせと忙しいし。息抜きには丁度いいわ」

にこ「そんなので息抜きにならないから普通に休みなさいよね、この馬鹿姉!」

――二時間目の休み時間 三年の教室

絵里「穂乃果じゃない。どうかしたの?」

穂乃果「あ、絵里ちゃん。あんじゅちゃん居るかな?」

絵里「ちょっと待ってて、今呼んでくるわ」

にこ「だからネットにあげるなって言ってるでしょうが」

あんじゅ「だって~。一度くらい褒め言葉欲しいじゃん。もうこうなったら意地だよ。乙女の意地!」

にこ「心が傷だらけで意地もないでしょうに」

絵里「お話中ちょっといい? 穂乃果が来て、あんじゅのこと呼んでるわ」

あんじゅ「穂乃果ちゃんが?」

にこ「珍しいわね」

絵里「というか初めてよね」

あんじゅ「にこ相手になら分かるんだけどね、なんだろう?」

にこ「取り敢えず行ってみましょう」

あんじゅ「にこも付いてくるの? しょうがないな~妹にベッタリなんだから☆」

にこ「いつもべったりなあんたが言っても説得力ないわよ」

あんじゅ「にっこにっこ♪」

にこ「はいはい。分かったわよ」

あんじゅ「穂乃果ちゃんお待たせ。何かあったかな?」

穂乃果「あんじゅちゃん。今月号の生徒新聞読んだよっ。次は穂乃果の出番だよね!」

あんじゅ「うん、願いの旅人だよね。そのつもりだよ」

穂乃果「ホノチカだけはやめてね」

にこ「穂乃果、あなたもしかしてそれを言う為だけにわざわざ来たの?」

穂乃果「うん。もう次のお話書き始めてたら困るし」

絵里「どうしてそこまでホノチカを嫌がるのよぉ」

穂乃果「服被りと名前被りは基本NGだからね」

にこ「でも穂乃果の名前って本当にファンタジー向けじゃないからね」

あんじゅ「そうなんだよ。でも穂乃果ちゃんのお願いだし頑張って考えてみるね」

穂乃果「ありがとう♪」

にこ「でもあんじゅってネーミングセンスがないからより変なのになりそうだけど」

絵里「そうよ。ホノチカで納得しておいた方が身の為よ」

穂乃果「や~だ!」

絵里「……にこぉ」

にこ「あんたいい加減オリジナルの鳴き声か何か作りなさいよ。毎回人の盗むばかりじゃ無個性よ」

絵里「」

あんじゅ「見事な泣きっ面に蜂だね」

穂乃果「おっと、そろそろ戻らないと次の授業に間に合わないから穂乃果は行くね」

穂乃果「あんじゅちゃん、今回は見事に騙されちゃった。こっちの方があんじゅちゃんらしくて好きだなー」

穂乃果「海未ちゃんも同じ意見だったよ。それじゃあね~♪」

にこ「褒められて良かったじゃない」

あんじゅ「身内は採点が甘いってにこが自分で言ってたじゃない。ネットで褒められてこそ真価を発揮するんだよ」

あんじゅ「荒れても荒れても私の心は荒れたりしない!」

にこ「……無法の荒野を手ぶらで進む並に過酷な状況だけどね」

あんじゅ「困難な現実を乗り越えた時、人は成長の涙を流せると信じて!」

にこ「前向きなんだけど、やってることはただの自己満だから褒めるのも馬鹿らしいわ」

絵里「」

にこ「さてと、チャイムももうなるし席に戻りましょう」

あんじゅ「○×ゲームしようよ」

にこ「ふっふーん! ○×ゲームのにこにーの実力を見せ付けてやるわ」

あんじゅ「強いの?」

にこ「まぁね。無双の域よ」

あんじゅ「ちなみに対戦相手は?」

にこ「……こころとここあ」

あんじゅ「○×ゲームはやめて、褒め褒めゲームしようか」

にこ「褒め褒めゲーム?」

あんじゅ「うん、これはね相手を交互に褒めて褒めて褒め倒すの。褒める箇所が先に尽きた方の負け」

にこ「なにそれ、私の方が圧倒的不利じゃない」

あんじゅ「どういうことにこ!」

にこ「というか、それこそにこ無双のゲームじゃない」

あんじゅ「じゃあやってみるニコ!」

にこ「望むところニコ!」

絵里「」

――お昼休み 美術部 あんじゅ

あんじゅ「きたよー」

美術部部長(元部員)「わざわざ呼び出してごめんね。手早く済ませるから」

あんじゅ「お弁当が食べる時間さえあれば大丈夫だけど、何かあった?」

部長「来週の月曜日の朝礼で発表されるんだけど、うちの秘蔵っ子が春の全国高校生絵画コンクールで銀賞を受賞したのよ」

あんじゅ「全国のコンクールで銀賞って凄いね」

部長「でしょ? 二年生の子なんだけど、物凄く恥ずかしがり屋の子なのよ」

部長「自分の絵を出展するのも恥ずかしいからって嫌がるくらい筋金入りでね。だから去年は一度も受賞してないのよ」

部長「実力は充分だから出してれば何かに引っかかってた筈なんだけどね」

あんじゅ「面白い子だね。でも、今回はきちんと出展したんだね」

部長「普通に説得したんじゃ無理だったけどね。SMILEのお陰よ」

あんじゅ「どういうこと?」

部長「その子ね、SMILEのファンなのよ。特にあんじゅちゃんが推しメンなんだって」

部長「今年入ってから順位が二十五位のまま固まってるからさ、入賞することで音ノ木坂の名前を広めることで応援に繋がるって」

部長「それでも二時間くらい説得に時間掛かったんだけどね」

あんじゅ「うふふ。お疲れ様」

部長「利用した形になっちゃってごめんね」

あんじゅ「謝ることなんてないよ。むしろお礼を言うのはこっちだもの。ありがとう」

部長「どうしてお礼を?」

あんじゅ「にこはこの学校が活性化することを望んでいるからね。にこなら絶対にお礼言うもの」

部長「凄いよね、にこちゃんはこの学校の救世主って感じで」

あんじゅ「本人に言ったら即否定するだろうけど」

部長「にこちゃんが居なければ廃校になってたかもね。冗談とは思えない噂が少し立ってたじゃない?」

あんじゅ「私たちの時はクラスが三クラスにまで減ってたから」

部長「それが今じゃ二年生が四クラス、一年生は五クラスだもんね」

あんじゅ「見事に返り咲きに成功って感じだよね」

部長「何かあったら美術部総出で手伝うから、何でも言ってね」

あんじゅ「うん! というか、いつもいつもポスターありがとうね」

部長「今なら私なんかよりもっと上手い子が立候補してくれると思うけど」

あんじゅ「大切な元メンバーの絵だからこそ私たちにはより意味があるんだよ☆」

部長「……最近そういう言葉に敏感になっちゃって、鼻の奥がツーンとしちゃう」

あんじゅ「みんな感傷的になっちゃうよね」

部長「短い時間だったけどさ、頭捻って皆で組んだ練習メニューとか一生忘れないよ」

あんじゅ「にこも私も練習用紙をコピーして大切にしまってあるよ」

部長「私もクリアファイルの中にきちんとしまってある」

部長「だってにこちゃんとあんじゅちゃんが有名になったらTV局の取材で使えるからね」

あんじゅ「そっちの為なの!?」

部長「冗談冗談。他の二人も大切に残してある筈だよ」

あんじゅ「そっか」

部長「うん。わざわざ足運んでもらってごめんね」

あんじゅ「ううん、ラブライブ予選終了が近いからまたポスターお願いするからよろしくね」

部長「あいよー」

あんじゅ「それじゃあ、またね」

部長「おつかれ~」

――三年生の教室 にこあん

にこ「う~ん! はぁ~……放課後のこの達成感って言葉に出来ないものがあるわよねぇ」

にこ「お風呂上りの飲み物を飲んでる時の幸福感に近いものがあるわ」

絵里「にこー。独り言の最中に悪いけど、生徒会の仕事してから行くからよろしくね」

にこ「独り言じゃないわよ! あんじゅと会話してたの」

絵里「明らかにあんじゅはノート書くのに必死でにこの話聞いてないじゃない」

にこ「……にこっ♪」

絵里「ふふっ。それじゃあ、またね」

にこ「はいはい、焦って来て階段で転んだりするんじゃないわよ」

絵里「大丈夫よ、にこじゃないんだから」

にこ「フェードアウトする時までからかうなんて、絵里の癖に生意気だわ!」

にこ「あんたもそう思わない?」

にこ「」

にこ「」

にこ「……にこぉ」

あんじゅ「出来た! 願いの旅人の次話完成♪」

にこ「何を書いてるのかと思ったら……っていうか、先週書いたばかりなのにもう書いたの?」

あんじゅ「今日はなんか幸せな一日っぽいから、その気持ちを忘れない内に書き上げたの。読んでみて」

にこ「しょうがないわねぇ」

あんじゅ「こういう時のお姉ちゃんぶった顔するにこにー可愛い~」

にこ「ぶってるんじゃなくて、お姉ちゃんなのよ!」

あんじゅ「小さい子が『私は一人前のレディなのよ!』って主張してるみたいで更に可愛い★」

にこ「なんですってー!」

あんじゅ「そんなことはいいから読んでみて」

にこ「私の行き場のないストレスをどうしてくれるのよ!」

あんじゅ「読めば爽快! ストレススッキリ。願いの旅人第四話!」

にこ「胡散臭い宣伝文句ね」

――三分後...

にこ「今月号に載った絵里の話よりも良くできてたわ。今までで一番ね」

あんじゅ「えへへ♪」

にこ「ただ、穂乃果が難しかったからって……奉納の神。ホノ神様ってネーミングセンスは相変わらずだけど」

にこ「ま、それをカバーして余りある面白さではあったわ」

あんじゅ「うふふ」

にこ「穂乃果がどんな反応をするのか楽しみではあるわね」

あんじゅ「今回は私も自信ありだから、今度こそネットで勝ってみせるにこよ!」

にこ「残機尽きるまであんじゅは戦うわね」

あんじゅ「画面右上の顔の横には∞だから尽きることはないよ」

にこ「バグってるじゃないの」

あんじゅ「残機は残ってても心が保てるとは限らないよ」

にこ「駄目じゃないの。さて、練習に行きましょう」

あんじゅ「うん♪ 今日はバリバリいけそうな気がする」

にこ「調子乗ってこけるんじゃないわよ」

あんじゅ「うふふっ。にこじゃないんだからこけたりしないよ」

にこ「あんた達姉妹はにこのことどんな風なイメージ持ってんのよ!」

あんじゅ「強風:風が強くて飛ばされるにこぉ~!」

あんじゅ「階段の踊り場:段差がないのに転んじゃったにこぉ」

あんじゅ「グランド:本気で走ってやるにこ! はぁっはぁっ――あっ! 靴が脱げて靴下が汚れちゃったにぽぉ」

にこ「にぽぉなんて鳴いたことないわよ! ていうか、そんな変なイメージを人に付けるんじゃないわよ!」

あんじゅ「だからにこは私の手の平で優しく包んでなきゃ心配なんだよ」

にこ「だからその釈迦の手の平みたいなやつヤメなさいよねー」

あんじゅ「だったら現実が冷たいって私のコートの中で小さく震えてるにこを暖める私☆」

にこ「……もうそれでいいわ」

あんじゅ「さ、早く練習しよう! 相変わらずの雨で今日も筋トレだけど」

にこ「凛が陸上部行ってるし、今日は陸上部の練習に混ぜてもらうことにしましょうか」

あんじゅ「了解!」

――夜 にこの部屋 にこあん

にこ「ふぁ~あ。陸上部の練習は鬼ね。あれは寿命を縮める儀式に違いないわ」

あんじゅ「にこの体力が少ないだけだよ」

にこ「スクールアイドルとしては水準以上よ。アスリートの体力が化け物なだけ」

あんじゅ「でも相変わらず陸上部の一年生に絶大な人気だったね」

にこ「あんたの所為でしょうが!」

あんじゅ「にこが私の策を読めなかったのが原因だよ」

にこ「裏切り者が居るなんて思わなかったのよ」

あんじゅ「あんじゅ居る場所に裏切りあり。邪道を往く者・アンジェリカ」

にこ「ふぁ~……はいはい。その内策士策に溺れさせてやるわ」

あんじゅ「そんな壮大な夢より現実的な夢を持とうね」

にこ「どうして壮大な夢扱いになってんのよ!」

あんじゅ「これは叶えられない夢の物語。矢澤にこは妹のあんじゅに勝つ為に空回りを続ける」

あんじゅ「それでも決してにこは諦めない。努力を続け、こない勝利を求めて挑み続ける……灰になるまで」

あんじゅ「思わずにこ(主人公)を頑張れと応援したくなる作品」

にこ「あらすじだけじゃなくて、帯の台詞までフォローしてんじゃないわよ」

あんじゅ「うふふ。そうだ、夢で思い出した」

にこ「んー?」

あんじゅ「エリーちゃんの言ってたことが正しかったら良いのにね」

にこ「絵里が何か言ってたっけ?」

あんじゅ「にこは夢を諦めたんじゃなくて、夢の時間が停止してるだけっていう話」

にこ「……どっちにしたって、結果は同じじゃない」

あんじゅ「どうして? 全然違うよ」

にこ「寧ろ私はそれが本当だった時の方が怖いわよ」

にこ「だって本気で私がアイドルになりたいって夢を描いたとして、現実に傷つくだけよ」

あんじゅ「そんなことないよ。にこが自分を否定するから覚醒出来ないで燻ってるだけだよ」

にこ「何よ覚醒って、漫画じゃないんだから」

あんじゅ「にこが覚醒すると第三の目が開くんだよ」

にこ「にこは妖怪か!」

あんじゅ「最近妖怪がブームだし、妖怪アイドルとか流行るよ」

にこ「その前にどこかの実験室に監禁されるわ。ふぁ~ぁ……駄目だわ。私はもう眠い」

あんじゅ「先に寝てていいよ。私は願いの旅人第四話アナザーヴァージョンをネットにUPしてから寝るから」

にこ「……両方の意味でタフねぇ」

あんじゅ「伊達ににこの妹してないよ☆」

にこ「んじゃ、先に寝るわ。おやすみ~。あ、湿気で暑いんだから抱きついて寝るんじゃないわよ」

あんじゅ「おやすみにこ♪」

にこ「んぅ」

あんじゅ(よし! UP終わったから今度はブログ更新しよう。そうだなータイトルをつけるなら……)

あんじゅ「矢澤あんじゅの最良の一日」

◆おまけ ~運命の金曜日・序章~◆

【願いの旅人】3レス目

777 : ◆三択神 [sage]:20XX/06/XX(金) 03:16:33.75 ID:Superstar

とても面白かったと思います
粘着等が湧いてますが気にせずに頑張ってください
めげそうな時は「メンタ!」って叫べば元気が出ます

778 : ◆桜屋シン [sage]:20XX/06/XX(金) 03:17:37.02 ID:ikemen

>>777 名前がダサい!

779 : ◆イタコタケシ [sage]:20XX/06/XX(金) 03:18:59.99 ID:aniki

>>777 さっむいで~。罰としてデスソースとわさび入り健康ジュースを飲めや

780 : ◆仮面カイザー [sage]:20XX/06/XX(金) 03:20:14.67 ID:koutei

>>777 もう少しネーミングセンスを磨きましょうよ

779 : ◆和の国 [sage]:20XX/06/XX(金) 03:22:22.22 ID:okamazyanai

>>780 お前が言うな!

――金曜日 明朝 にこの部屋 AM05:50

あんじゅ「にこにこにこにこ!」

にこ「にこにこ煩いわよ。まだ眠いし、こころとここあが起きちゃうでっしょー」

あんじゅ「声は落とすから起きてよ。久しぶりの青空だよ」

にこ「晴れたの? じゃあ、急いで洗濯機回して干さないとね。あと、布団も干して行きましょう」

あんじゅ「うん、そうだけどそれだけじゃないんだよ。苦節二ヶ月……三スレ目にして漸く批判とAAとコピペと雑談以外のレスが付いたの」

にこ「……あ、そう」

あんじゅ「そこは泣いて喜ぶところニコ!」

にこ「抱きついて寝るなって言ったのに、夜中に暑くて目が覚めたらあんたに抱き締められてたんだけど」

あんじゅ「えへへ♪」

にこ「笑って誤魔化すんじゃないわよ。その後、中々寝付けなくて眠いったらないわ」

あんじゅ「まぁ、そんな些細なことは置いておいてほら見てよ!」

>>267

あんじゅ「スリー7に相応しいレスだと思う♪」

にこ「メンタって何よ。それにネーミングセンスがあんた並に悪いわよ、こいつ」

あんじゅ「センスは関係ないよ! 大事なのは誠実なる言葉だよ」

にこ「っていうか、相変わらず荒れ果ててるわね」

あんじゅ「悟りを開いたのでもう何も痛くないの。もうね、全然大丈夫だから。気になんてしてないから」

にこ「否定形の後に大丈夫を使われても信憑性ないわよ。しかもすっごい気にしてるっぽい反応ね」

あんじゅ「ううん、本当にもう平気。これは人間じゃないんだと思えば流し読めるようになったから」

あんじゅ「取り敢えず中身はもう関係ないの。願いの旅人というフレーズを聞いたらパブロフの犬になるんだよ」

あんじゅ「思考停止して涎を垂らしながら待ったも出来ずに近寄ってくるの。ノーモアドッグ!」

にこ「精神的に一杯いっぱいじゃないの!」

あんじゅ「確かにね、ダメージは沢山受けた。でも、この一つの評価してくれた言葉で全て水に流せる」

あんじゅ「やっちゃえニコニー! ハイドロポンプだよ!」

にこ「みずてっぽうじゃない時点で深い憎しみを感じるわ」

あんじゅ「うっふふ★」

にこ「ごめん、ぐふふ笑いより余計に怖いわ」

あんじゅ「ともかくね! 晴れてるし、賛美歌のように美しいレスも付いたし、今日も最高の一日になりそうだよ♪」

にこ「単純ねぇ」

あんじゅ「にこ似だから」

にこ「なんですってー!?」

あんじゅ「うふふ」

にこ「あぁ~もう、目が完全に覚めちゃったじゃない。まだ眠りたかったのに」

あんじゅ「今日はカラオケ行きたい気分!」

にこ「あんた財布がシベリアじゃないの。しかも、今日はママが早く帰ってくるように言ってたでしょうが」

あんじゅ「そう言えばそうだったね。何かあるのかな?」

にこ「久々に外食だったりね」

あんじゅ「おぉ~それもいいね♪ 何があるのか楽しみだねっ」

にこ「あんたの最高の一日って予感が当たれば何でもいいわ」

あんじゅ「そうだね。それから順位に変動はなかったよ」

にこ「……下がらなかったことにホッとしながら、上がらないことが悔しいわね」

あんじゅ「うん」

にこ「力不足な姉で悪いわね」

あんじゅ「ううん。にこは最高のお姉ちゃんだよ☆」 おしまい!

【 次 回 予 告 】 ※内容に変更がある場合があります

SMILEに訪れた予選突破の最後にして最大のチャンス

にこ「明日まで考えさせてもらってもいいですか?」
虎太郎「大丈夫だよ。じっくりと考えて欲しい」

しかし、にこはSMILEのことだけを考えたりはしなかった

あんじゅ「どうして直ぐに提案を受け入れなかったの?」
にこ「……こんなこと言うと怒られるかもしれないけど、私はこうしたいの」

にこの考えを聞いてあんじゅは笑う

あんじゅ「そんな優しいにこだから、私の心を救ってくれたんだもんね」
にこ「絵里や海未は怒るんじゃないかしら?」

絵里「まったく。これだからにこは私の可愛い妹なのよ。損な性格してるんだから」
海未「一体何度私に尊敬し直させれば気が済むのですか……」
穂乃果「わぁ~♪ 何だか楽しみだねっ! 小学生の遠足を思い出す」
凛「穂乃果ちゃんの言うとおりだよね。凛も楽しみ過ぎてテンション上がるにゃー!」

にこの想いは今までの軌跡を辿り、多くの人を動かしていく

理事長「矢澤さんは本気で言ってるのですか?」
にこ「はい! 無茶なことをお願いしてるとは思います。でも、お願いします!」
理事長「本当に無茶なお願いですよ、これは……」

シカコ「話しは聞きました。陸上部も私の権限でお手伝いします」
部長「待って待って! まだ夏の大会終わってないから私が部長だから! 権限は私にあるから」

美術部部長「でも、私達が描いていいの? だって、こんな大切な――」
あんじゅ「――大切だからこそ、お願いしてるんだよ」

お婆ちゃん「そういうことなら私に任せておきなさい」
にこ「でも、にこってばお婆ちゃんに甘えてばかりで」
お婆ちゃん「何を言ってるんだい。にこちゃんに甘えられるのが今の私の生きがいなんだから」

内田「そんなことで悩んでたの? だったら私が力になってあげる。私がどれだけ人の弱みを握ってると思ってるの」
にこ「それは人に誇ることじゃないニコ!」

そして、更なる絆が生まれていく

「本当にいいんですか? それは自分達の首を絞めることに繋がりますよ?」
にこ「その時はその時。その方が多くの人を笑顔にしてくれるんだもの。アイドルにとってその方が嬉しいわ」

「ありがとうございます! とってもとっても嬉しいです! 本当にありがとうございます!」
にこ「こちらこそ良い返事をありがとう」

ラブライブ予選史上最大のスケールで繰り広げる群雄割拠の下克上!

英玲奈「……驚いた。こんなことを仕出かすとは想像すらしていなかった」
ツバサ「言ったでしょ? にこにーが沈んだままでいる筈がないって」
真姫「待って! こんなのってありえないわよ」
花陽「真姫ちゃん。嘘でこんな告知しないよ」
ことり「予選突破を賭けたラストスパート開始だね」
ツバサ「気を抜けば私たちA-RISEだって危ないかもしれない。初優勝を目指すつもりで気合い入れ直すわよ!」

大好きな父の生んだ奇跡とにこの絆が絡み合い

にこ達が入学する以前、スクールアイドルファンは知る由もなかった音ノ木坂学院が伝説を築く!

◆そらまる~天国に届ける笑顔の歌~(仮)◆


物語はいよいよクライマックスへ


突っ込むのは無粋だけど>>241はスマイルじゃなくてアライズじゃない?

予告に違わぬ壮大な展開を期待
あと英玲奈の実家が花屋と聞くとどうしても別の凛ちゃんを思い出さざるを得ない

前回の訂正
>>272 これは凡ミスで許されるけど
>>274 こっちはことりが泊まりに行った時に妹設定と一緒に出したつもりが出てなかった!
A-RISEは別世界で使った時の設定を引用してるのでただの出し忘れです

一番許されないのは>>226でツバサの名前を間違えてことりと書いたこと!

本編の続きはまだまだ時間が掛かりそうなのでこっそりと外伝一つ投下。短いです アト、マキチャンゴメンネータンジョウビオメデトー

◆外伝・キラ星とよばれた子◆

自分の中でのターニングポイントはいつかと訊かれたら迷わずに即答できる。

小学五年生。

それが私がただのバスケ好きの少女からアイドルを目指すことになる切っ掛けの出逢いが訪れた。

ミニバスに入りたかったにも関わらず、私に与えられたのは週二もあるアイドル向けのレッスン教室。

よりによって土日の午前中という小学生にとって遊ぶには貴重な時間帯。

今となっては練習がない日に遊びに行くならお昼や午後からの方が多いけど、当時は宝物のような時間だった。

朝一の早い時間から遊んで、お昼を一緒に食べて、午後もまた暗くなるまで遊ぶ。

このスタイルを自分にとってどうでもいい物に潰される。

恥ずかしいけど、反抗期になったのを覚えてる。

これがミニバスだったのなら私は反抗期が訪れずに大人になってたかもしれない。

でも、逆に好きなバスケに向かない体型に生まれたことを逆恨みして長い反抗期を拗らせてたかもしれない。

絶対な自信を持って言えるのは、今より楽しい時間を過ごすなんてありえなかったってことね。

輝かしい時間をくれたのは太陽のように明るい笑顔を浮かべた少女との邂逅。

『ねぇ、どうしてそんなに不貞腐れてるにこ?』

確かにこにーが私に掛けた第一声はそんな感じの言葉。

正直、相当に腹を立ててたので少し違っていたかもしれない。

でも、にこにーが笑顔であったのは間違いない。

私に対してだけでなく、他の子に話掛ける時も常に笑顔だった。

何が嬉しくてアイドルなんてものを目指すのか理解できなくて、酷く邪険な反応しか返してなかった。

それでもにこにーは一番多く私に話掛けてきた。

レッスンの最中は笑顔から一転して真剣そのもの。

先生の言うことを素直に吸収して、不器用な部分も目立ってたけど、確実に物にしていく様を見て、私の中で何かが変わり始めた。

つまらないと思う先入観を捨てる切っ掛けはやはりにこにー。

二人組みになってお互いの間違った箇所を指摘していく。

言葉だけだと本格的な指摘のし合いだけど、ゲーム感覚で楽しみながら欠点を意識させるという物。

にこにーは笑顔だけど確実にやる気のなかった私に多くの駄目出しをした。

何度やっても私はやる気を出さず、それでも呆れることなくにこにーは指摘を繰り返す。

子供ながらに自分がしていることが駄々っ子みたいで恥ずかしくなってきて、少しずつ真面目にやることにした。

好き嫌いと真面目にやることは違うんだって、心を説得させて。

にこにーの指摘箇所が少なくなる度になんだか嬉しくなって、にこにーの笑顔もより色鮮やかになって。

テレビのアイドルに対して憧れたことはなかったけど、私は確かににこにーに憧れの感情を抱いた。

まだこの時はアイドルになりたいなんて考えはなかった。

当然バスケの方が好きだったから。

でも、嫌だった土日の午前中のレッスンが楽しみになっていた。

時間を戻せるのなら戻したいと思うくらいに勿体無いことは、そう思えるようになったのが半分近く過ぎた頃だったこと。

私はせっかく与えられた時間の約半分も無駄にしてしまった。

だけど、その後悔があったからこそ、バスケをする時以上に集中力を発揮することができたのも確か。

『そうそう。キラ星ちゃんは素晴らしい才能の持ち主ね』

先生にもよく褒められるようになったけど、

『この頃のキラ星はまさにお空にかがやくお星様にこ♪』

にこにーに褒められるのが一番嬉しかった。

その効果もあって、自然と私の反抗期も終わりを迎えていて、それどころかお母さんとは以前よりもっと仲良くなれた。

思い出深いできごとといえば有名なミュージカルの子役オーディション。

私は落ちたけど、にこにーは最終候補まで残った。

悔しい気持ちも大きかったけど、嬉しい気持ちの方が遥かに上回って、最終候補に残ったことを先生から発表された時、不覚にも泣いてしまった。

『どうしてキラ星が泣くのよ~』

にこにーに頭を撫でながら慰められたのはいい思い出。

……訂正、忘れて欲しい恥ずかしい記憶。

初めて憧れを抱いた少女が周りの大人に認められたことが当時の私には泣く程嬉しかったから忘れられないけど。

それが土曜日のことで、翌日の日曜日は初めてレッスンの後ににこにーと遊んだ。

名目上は最終候補に残ったにこにーのお祝い。

実際はケーキを食べて、にこにーの好きなアイドルの話を聞いたり、私のバスケの話をしたり、普通に遊んだだけ。

すっごく楽しかった。

だから、にこにーが選ばれなかったのが多分にこにー以上に悔しく感じた。

大人は見る目がないんだって本気で怒った。

後ににこにーが選ばれなかった理由を知って私とにこにーは苦笑いを浮かべることしかできなかったけど。

確かにあの時のにこにーは乳歯が抜けて一本歯がなくて舞台に立つにはシュールな状態だったものね。

でも、逆に言えばそれがなければ絶対に選ばれていたに違いない。

だけど、その悔しさが私に気付かせてくれた。

バスケの試合で負けるよりも、指を怪我して体育のバスケの時間に見学した時よりもにこにーが落ちたことが悔しかった。

自分達がレッスンして上手くなった以上に上手い人がいる。

それが居ても立ってもいられなくて、アイドルについて熱心に調べて、色んな動画を観るようになった。

勿論にこにーのお薦めのアイドルを中心に。

そこで初めてスクールアイドルって存在を知った。

スクールアイドルのことをにこにーに話したら一番の笑顔でこう返された。

『高校生のお姉さん達がアイドルのようにかがやく晴れ舞台。私も高校生になったら絶対にスクールアイドルをやるニコ!』

にこにーがくれた初めての言葉と違って、これは一語一句間違いない。

その言葉で完全に私はバスケを諦めて、アイドルを目指す決意をした。

ううん、目標と夢が同時に生まれたっていう方が正しいわね。

『私も絶対にスクールアイドルになる!』

にこにーと同じ舞台で歌って踊りたい。

尊敬する太陽みたいなにこにーと多くの人を魅了したい。

その想いを強く抱きながら、楽しかったレッスンも最後の日を迎えた。

『ね、にこにー。次逢う時はお互いにスクールアイドルになって再会しましょう』

『ええ! スクールアイドルとして会いましょうね』

そう言って握手を交わして笑顔で別れた。

そして、高校生になってUTX学院に入学した際、同じ芸能科ににこにーがいるんじゃないかと期待していた。

でも、にこにーはいなかった。

決して小さくない落胆を感じながらも、心のどこかでこの状況を喜ぶ自分もいた。

だって、スクールアイドルにはラブライブという最高の舞台があるから。

そこで再会できたらどれだけ胸が熱くなるだろう。

にこにーが入学した音ノ木坂学院の順位はランク外から着々と順位を伸ばした。

けれど、二十五位になってから変動がない。

もう直ぐ予選が終わる。

だけど、私は心配なんてしていなかった。

だってそうでしょう?

太陽が昇らなくなるかもしれないなんて心配する人はいない。

予選突破の順位は何位なのか、それが私の密かな楽しみ。

私達A-RISEに次ぐ二位が理想だけど、流石にそこは夢見過ぎ。

だから私はSMILEが十五位で予選を突破すると予想してる。

どんな手を使って順位を上げるかは予測できないけど、あの笑顔で多くの人を虜にするのだろう。

私をファンにさせたあの笑顔で……。 了

◆現在の進行状況◆

難産中……30%くらい

とあるゲームの体験版(一室のみ)を置いておきます
読まなくても今後の展開になんの影響も受けません

応援ありがとうございます
完結後に何か書けるかもなので小さいリクエストあったらどうぞ

――三年目 秋 部室

絵里「みんな練習に集中してるのは充分伝わってくるんだけど、明日はお休みにしましょう」

穂乃果「えぇっ。でも、そんなに疲れてないよ」

凛「陸上部が大会後ってことでお休みだから、こっちの練習で汗流したい!」

海未「二人共ランナーズハイになっているんですよ。最近休みが少なかったですし、絵里の意見は妥当だと思います」

にこ「お婆ちゃんのお店でも手伝ってこようかしらね」

あんじゅ「だったら私も行く!」

にこ「あんたは休日に別行動することがほぼほぼないわね」

あんじゅ「休日はいつも以上ににこをからかわないとエネルギーが保てないにこ」

にこ「そんなエネルギー要らないわよ!」

絵里「はいはい、二人共静かにして。予定を組んでるところ悪いんだけど、実は六人で行きたい場所があるのよ」

穂乃果「ゲームセンターでも行くの?」

凛「明日は晴れって言ってたし、ピクニックかもしれないよ☆」

海未「今の時期は山が最高ですね」

絵里「どれもハズレ。明日行こうと考えているのは夢刻館よ」

にこ「むこくかん?」

絵里「ええ。夢を刻む館と書いて夢刻館」

あんじゅ「なんだか行く先々で殺人事件に巻き込まれる迷惑探偵が行くプロローグ的な臭いがしてきたね」

あんじゅ「この時はまだ思いも知らなかった。夢刻館に潜む憎悪の復讐鬼が待ち受けていることを」

穂乃果「怖いよ!」

海未「大丈夫ですよ、穂乃果。私達の中に探偵は居ません」

凛「いつだか皆で同じ夢見たのを思い出すにゃー」

にこ「そんなこともあったわね。あれが夢オチじゃなかったらと思うとゾッとするわ」

あんじゅ「でも、あの明晰夢のお陰でフラグへの恐怖感が一気に下がったよね。館に着いたらこう言わなきゃ」

あんじゅ「犯人がこの中に居るかもしれないんだよ、私は自分の部屋に戻るってね」

穂乃果「思い切り死亡フラグだよ!」

にこ「と、思いがちでしょ? これって実は死亡フラグに見せ掛けた犯人捕まえフラグに使われたのよね」

凛「犯人捕まえフラグって何?」

あんじゅ「犯人を捕まえる為にわざと怪しい台詞を言ってもらったり、行動してもらうことだよ」

にこ「その人達にはページ外で推理を披露して信用を得てるのに、読者は犯人と同じタイミングでしか推理を聞けないというジレンマ」

あんじゅ「つまり犯人は物語を読んでる読者!」

海未「なんですかその極悪な理論は……」

絵里「残念だけど今回はペアになって行動してもらうんだけど、他の人は登場しないわ」

穂乃果「どういうこと?」

絵里「強制的に明晰夢を見るマシンが開発されたのよ。そこで最初に状況を設定することで同じ夢を見れるらしいの」

にこ「ちょっと待ちなさいよ! 推理する主人公より開発道具の解明の方がずっと気になる漫画じゃないのよ?」

にこ「そんなマシン開発出来るやつが居るとは思えないわ」

あんじゅ「怪しさ満載だね。夢から覚められないデスドリームの予感」

絵里「内田さんの知り合いで飯田さんってお姉さんが開発したらしいの」

にこ「昨今の大学生はNASAを超越する技術を保持する未来型天才とコネクションを持てるとでも言うの」

凛「でも本当にみたい夢を見れるマシンがあったら素敵だよね」

海未「そうですね。懐かしい夢を実感したりも出来るかもしれません」

穂乃果「だったら穂乃果は海未ちゃんとことりちゃんと三人でした肝試しの夢をみたいなー」

海未「肝試しというよりあれは穂乃果が無理やり私達を巻き添えにした家出ではありませんか」

海未「しかも家出先が神田明神という罰あたりなのかそうでないのか」

穂乃果「あの時みた幽霊の正体を確かめる為にも是非!」

凛「穂乃果ちゃんは幽霊を見たことがあるの?」

海未「あれはきっと猫だってことりも言ってたではないですか」

穂乃果「絶対に幽霊だよ。私女の人が消えるのみたもん」

にこ「神田明神で女が消える……以前あんたも言ってなかったっけ? お百度で女の子が消えたとかなんとか」

あんじゅ「うん、冗談だと思ってたけど本当に何かあるのかもね。してはいけない遊び『神田明神でお百度参り』」

海未「そもそも遊びでそんなことを出来る人間はいませんよ」

穂乃果「目撃翌例がいくつかあるってことは、助けて欲しいのかもしれないよ」

凛「でも逆に誰か道連れが欲しいのかもしれないし、穂乃果ちゃんとか憑かれ易そうな気がするニャ」

海未「ああ、なんか納得です」

穂乃果「えぇっ!? 怖いこと言うのやめてよー」

海未「そう言えばにことあんじゅは怖い話が好きなのにあの時に七不思議巡りをしようとか言い出しませんでしたね」

あんじゅ「……七不思議はね、一人の天才の手によって完成されてたから」

にこ「今更やってもねって感じだったわけよ」

穂乃果「一人の天才?」

凛「どういうことかな?」

あんじゅ「図書室に置いてある私達の入学するよりずっと前に発行されたオカルト部の冊子があるんだけどね」

あんじゅ「その中の一つにとっても面白い七不思議の話が書いてあって。勿論創作だよ」

にこ「でも舞台が音ノ木坂ですごく面白く表現されててね、だから実際にやる気は起きなかったのよ」

海未「なるほど。二人がそれほど言うのでしたら今度私も読んでみようと思います。後でどの辺に置いてあるか教えて下さい」

あんじゅ「うん、分かったよ」

穂乃果「じゃあ、穂乃果は海未ちゃんに読んでもらうね!」

凛「凛も一緒に聞きたい☆」

海未「子供ですか!」

にこ「あ、絵里ごめん。脱線しちゃったわね」

絵里「……その一人の天才に私は深く感謝するわ」

あんじゅ「エリーちゃんはツンデ霊の話すら怖がるくらいだもんね」

絵里「話を戻すわ。今回は脱出ゲームをするわよ!」

凛「脱出ゲーム?」

にこ「聞き覚えのある単語ね」

あんじゅ「まさかあれすらフラグだったんだね」

絵里「ええ、夢刻館の地下の一室に閉じ込められた所からスタートとなるの」

絵里「時間内に無事に館から脱出することが出来ればOK。コンピュータによる採点機能がついててね」

絵里「起きた時に結果を知らせてくれるんだって。さっきも言ったけどペアで三組作って望みましょう」

海未「ほぅ。採点付きですか」

穂乃果「だったら一番になったペアが最下位のペアに何か罰ゲームやってもらおうよ」

凛「スクールアイドルらしくネット配信で何かファンサービスするのがいいかも」

あんじゅ「罰ゲームいいね♪」

にこ「ま、ファンにとって喜ばれる内容なら良いんじゃない」

絵里「参加はこれで決まりね。次にペアを決めるんだけど、何か案はある?」

にこ「フラグ立てた時にあんじゅが言ってたとおりでいいんじゃない?」

海未「どのようなものでしょうか?」

あんじゅ「説明するね。脱出となるとまずは行動力派と頭脳派に分けた方がバランス的にいいの」

あんじゅ「行動派が『にこ・穂乃果ちゃん・凛ちゃん』で頭脳派が『私・エリーちゃん・海未ちゃん』だね」

海未(暗ににことペアが組みたいだけとも思えますが、しかし的を射ています)

あんじゅ「一年生である凛ちゃんには一番かしこいエリーお姉ちゃんがいいと思う」

絵里「凛はそれでいいかしら?」

凛「うん! 凛が守ってあげるね」

絵里「今回は最初から夢だって分かってるから怖くないわよ」

あんじゅ「残りは気心知れたペアでいいよね?」

海未「ふふっ。ええ、私は穂乃果とペアで構いませんよ」

穂乃果「海未ちゃんのことは王子様である穂乃果が守ってあげるね」

あんじゅ「といことで、にこは私とだよ」

にこ「ゲームとしては難易度が一気に下がった感じだけど、それくらいが妥当でしょう?」

絵里「クリアーできないと話にならないものね」

あんじゅ「海未ちゃん・穂乃果ちゃんペアは堅実。絵里ちゃん・凛ちゃんペアはバランス。私とにこは挑戦って感じだね」

にこ「上手いこと言うわね」

絵里「明日は校門前に十時集合。そこからは車を出してくれるらしいから」

あんじゅ「これで車を出す人がサングラスに黒い服の人で、気が付けば地の獄に居たら面白いにこ♪」

にこ「全然面白くもなんともないわ!」

穂乃果「なんだか凄く面白そうだねっ」

凛「なんだかワクワクしてきちゃった」

海未「様々な道具を使い、罠を潜り抜けて脱出……なんだか素敵ですね」

絵里「明日は手ぶらでいいけど、遅刻だけはしないようにね!」

こうして、罰ゲーム賭けた脱出劇が幕を開くことになる...

――脱出ゲームスタート!

夢刻館

館でありながら其れは意思を持つ

悪意ある意思を

人を閉じ込め、外に出る事を拒む

地下の一室からスタートし、呪われた館からの脱出するのがあなた達の生きる道

館内に配置されたアイテムを使い、脱出又は罠を解除して進まなければならない

果たして、無事に家に帰ることが出来るのか

それは、あなた達次第・・・

■夢刻館 始まりの部屋・堅実(ほのうみ)■

海未「地下ですから当然窓もない閉鎖的な部屋ですね」

穂乃果「でもちょっと豪華だね。こんな分厚い絨毯初めてだよ」

海未「それはともかく……んっ、当然ながら唯一のドアは鍵が掛かっていて開きません」

穂乃果「まずは鍵を見つけるってことかな?」

海未「そうですね。スタートなのでそんなに難しくはないと思います」

穂乃果「ふふふ。海未ちゃんってばもしかして本当に鍵を探そうとか思ってない?」

海未「当然思ってますが? なんですか、その怪しい笑顔」

穂乃果「甘い、ほむまんよりも甘いよ! 要するに早く脱出した方がきっと採点多く貰えると思うんだよ」

穂乃果「それにこれは夢の中だから、遠慮しなくていいし。これを使おう!」

穂乃果は《ひのきのぼう》を掲げた。

海未「……念の為に言っておきますがその棒で何をするつもりですか?」

穂乃果「明らかに壊せますってくらいに薄そうな木のドアだよ? ここは剣道の達人の海未ちゃんの手で破壊しよう」

海未「そんなこと出来る訳ないじゃないですか。いくら夢の中とはいえルール違反です」

穂乃果「甘いわ、海未。あんた説明ちゃんと聞いてなかったの? このゲームのルールはただ一つ!」

穂乃果「館から脱出することだけ。それ以外は私達がルールにこよ! って、にこちゃんなら言うと思うんだ」

海未「……声真似は似てませんでしたが、にこなら間違いなく言いそうですね」

穂乃果「夢の中なら穂乃果も邪道シスターズの四女だからね。邪道な事をバンバン薦めるよ!」

海未「余り気が進みませんが……しかし、開き直らなければいつまでもあの三人には追いつけません」

海未「分かりました。ドアを破壊して進むことにしましょう」

穂乃果「そうと決まれば善人は急げだよ♪」

海未「善人ならこんなことしません。それを言うなら善は急げです」

穂乃果「細かいことはいいからいいから、早く早く☆」

海未「分かってます。セェイッ!」

……二人はドアを破壊して始まりの部屋を早急に後にした...

■始まりの部屋・バランス(えりりん)■

凛「すっごい! 本当に館の中に入ってきたんだね」

絵里「ここまで再現されるとは思わなかったわ」

凛「まずはこの部屋からの脱出が目的かな?」

絵里「このゲームは限られた道具を如何に使って進むのかが鍵になると思うの」

絵里「だから一見使えないんじゃないかって思う物も使えるかもしれないわ」

絵里「それに、普段は使えない物が役に立つかもしれないから注意して行きましょう」

凛「持ち運べる物があれば持って行った方がいいんだね」

絵里「ええ、そうね。これなんて持ち運ぶのに支障はないし」

絵里は棚の中にあった《マッチ》を手に入れた。

凛「あんじゅちゃんが言ってた館の最後は炎上って、そのマッチの火でそうなるのかな?」

絵里「今回は脱出がメインだから炎上なんてしないわ。何かそっちは見つかった?」

凛「うーん、全部空みたい」

絵里「流石に現実みたいにぎっしりと何かが詰まってたりはしないわね」

凛「そのまま鍵とか入ってたら凛は直ぐに目を覚ましたくなるよ」

絵里「それもそうね。あ、そうだ。普通とは違う点があればそこがヒントかもしれないわ」

凛「普通とは違う点?」

絵里「壁の色がそこだけ違うとか。絵画の多く飾ってある部屋で一つだけ種類の違う絵が飾ってあるみたいな感じね」

凛「違う所……あっ!」

言葉を吟味するように凛は顔を上げ、天井にある一つの異変に気が付いた。

凛「やっぱり。見て絵里ちゃん。棚の後ろの隙間に鍵が落ちてるよ」

絵里「あら、本当ね。凛ってば凄いじゃない。こんな所にある鍵に気付くなんて」

凛「絵里ちゃんのアドバイスのお陰だよ。ほら、天井見て」

絵里「なるほどね」

部屋の隅だというのに、不自然に設置されている照明。

それがヒントだと教えるような棚の奥の隙間。

凛「でもあんな奥のどうやって取ればいいんだろう?」

絵里「この木の棒なら奥にある鍵も取れるわ。私に任せて」

《ひのきのぼう》を上手く使って、絵里は見事に始まりの部屋を出る鍵を手に入れた。

凛「あっ、棒が消えちゃった」

絵里「なるほどね。使えそうな道具をずっと持っていけないようにそういう仕様なのね」

凛「これって今回は正解だったから良かったけど、もしかしてフェイクの時も消えちゃったりするのかな?」

絵里「どうなのかしら? 試してみたいけど、道具の無駄遣いは余りしたくないわ」

凛「そうだね。だったら正しい使い方をしたら消えるんだって思い込もうよ」

絵里「その方がいいわね。それじゃあ、この部屋で使えそうな物はないみたいだし、次に行きましょう」

凛「うん!」

……二人は正攻法で無事に始まりの部屋を出て行った...

■始まりの部屋・挑戦(にこあん)■

あんじゅ「見てみて、ほら不自然な照明位置だよ」

にこ「見てくださいってくらいに不自然に棚の後ろに隙間があるわね」

あんじゅ「それはさておき、にこは本当にここが地下だと思う?」

にこ「あのチュートリアルは騙す感じじゃなかったからね。地下なんじゃないの」

あんじゅ「そうだね。騙すならもう少し言い方変えてるもんね。そうなるとまず人は心理的に地上を目指す」

にこ「一階が無理でも二階くらいならカーテンを使って外に出れるからね」

あんじゅ「にこが降りる時はカーテンが切れそうだよね★」

にこ「なんでよ!」

あんじゅ「うふふ」

にこ「話を戻すけど、この部屋に限れば間違いなくそのドアからまずは出ることを目指すわね」

あんじゅ「と、なると」

にこ「怪しいのは」

にこあん「そこの絨毯」

二人が指差したのは豪華な絨毯。

あんじゅ「地下室から更に地下へ行こうなんて発想は普通は考え難いからね」

にこ「流石にそっちのドアがフェイクってことではないだろうけど」

あんじゅ「正攻法は絶対に絵里ちゃんと凛ちゃんペアが通るだろうし。同じ道を行ってもね」

机を協力して退かし、絨毯を捲くると二人の予想通り更なる地下へ続く隠し階段が見つかった。

あんじゅ「忍者屋敷みたいで楽しそうだね」

にこ「命の危機を感じずに素直に楽しめるからいいわ」

あんじゅ「そうだね♪」

にこ「さてさて、この下はどこへ続いているのかしらね」

あんじゅ「これが罠で行き止まりだったら心踊るよね」

にこ「あんたが開発者の手中で踊らされるのを見てみたい気もするけど、でも勝負だし勝ちに行かないとね」

あんじゅ「うん! あ、そうだ簡単に調べる方法が一つあるよ」

にこ「何か物を落として高さを調べるってやつ?」

あんじゅ「ううん、物だとその先がどうなってるか分からないでしょ? にこの背中を押して落とすんだよ」

あんじゅ「にこってギャグキャラだから不死身だし★」

にこ「誰がギャグキャラよ!」

あんじゅ「私はそんなにこを気持ち悪がらずに優しく支える善き妹♪」

にこ「そんな発言と発想してる時点で道徳なんてものはないでしょうが!」

あんじゅ「今そんなこと言うなんて、つまり押してってことと同意語だよね」

にこ「そんなわけないでしょうが!」

あんじゅ「じゃあ、間を取って……よっしょ!」

にこ「ひゃ! な、何お姫様抱っこしてんのよ」

あんじゅ「二人で落ちようと思って。だってその方が時間短縮出来るし。飛べないスクールアイドルはただの女子高生!」

にこ「そんなことするくらいならにこはただの女子高生でいいわよ!」

あんじゅ「にこあんフラーイ♪」

にこ「にこぉ~~~~~~!」

……二人は夢を利用したチャレンジ精神で始まりの部屋から落ちていった... 体験版・了

進みが悪いので取り敢えず地味な前編だけ投下!
劇場版より前に完結する予定なので、新設定はノータッチで


――運命の金曜日 放課後 三年の教室

絵里「本当に今日はいい天気ね」

あんじゅ「そうだね。なんか心躍るよね」

にこ「心だけじゃなくて普通に踊りたいところではあるんだけど今日は練習休みなのよね」

絵里「昨日休みの今日練習にすれば良かったわね」

あんじゅ「でも一昨日の時点だと今日は雨のち曇りの予定だったから」

にこ「最近なんか天気予報が当てにならなくない?」

絵里「異常気象なのかもしれないわね」

あんじゅ「といっても、私達は天気予報を信じるしかないし」

にこ「いいえ、なんか裏切られてばかりなのに信じ続けるなんて許せないわ!」

にこ「例え明日『夕方に雹が降る恐れがあるでしょう』とか言っても私は買物に出かけてやるにこ!」

絵里「やめなさい。にこは不幸体質なんだから、そういう時に限って絶対に雹が降るから」

にこ「降らないわよ。というか、当たり前のように人を不幸体質とか決め付けないでくれる?」

あんじゅ「自覚をしないからにこは今も笑顔で居られるんだもんね★」

にこ「そもそも不幸体質なんかじゃないからね!」

絵里「豹よりもありえない話だけど、明日の深夜から朝方に掛けて東京都に隕石の降る可能性があります」

絵里「皆さん早期避難をお願いします。とかなった時に『にこは大丈夫にこ!』とか言ったら」

絵里「ドンピシャでにこの頭の上に隕石が落下しそうよね」

にこ「無駄にスケールが大き過ぎるて突っ込む気にもなれないわ」

あんじゅ「ピコーン♪」

にこ「何よその音は」

あんじゅ「今さいごのフラグが立った気がして」

絵里「え、最期!? にこ……あなた本当に隕石に遭うの?」

にこ「隕石落下フラグなんてこの世に存在しないわよ!」

あんじゅ「どんなフラグだって、最初はただの言葉だったんだよ。時を重ねる毎に意味が変わりフラグになったの」

にこ「だからって女子高生の会話一つで隕石が降ってたまるものですか。言葉一つで落とせたら地球は崩壊してるわ」

あんじゅ「メテオって呪文があってね。隕石を降らせられるんだよ」

にこ「それはゲームの話でしょ!」

絵里「でもバタフライエフェクトって言葉もあるくらいだし。蝶が竜巻なら、にこは隕石でもおかしくないわ」

にこ「明らかにおかしいでしょうが!」

あんじゅ「隕石降らせるアイドル」

絵里「まさに宇宙ナンバー1アイドルに相応しいスケールね」

にこ「スクールアイドル枠で充分間に合ってるわ」

あんじゅ「でも……フラグの音が聞こえた気がするんだけどなぁ」

にこ「フラグに音なんてある筈ないでしょ」

あんじゅ「にこに関してのシックスセンスはピカイチだと思ってるよ」

にこ「だとしたらそんな恐怖フラグ撃退しなさいよね」

絵里「そういえばフラグって立ったらどうにも出来ないの?」

あんじゅ「フラグクラッシャーって人も存在するから、時と場合によりけりだよ」

にこ「立てたつもりが立ってなかったフラグとかもあるみたいだし」

あんじゅ「片想いなのに些細なことで両想いフラグだと勝手に思い込んだりする時によくあるって聞いたよ」

絵里「……それは何だか胸が痛むわね」

にこ「ま、フラグなんて普通に生活してれば只の言葉遊びだからね。じゃなきゃ世界はこんなに平和じゃないわ」

絵里「それもそうね。だけど、隕石は気にしとかないとね」

にこ「いや、気にしたところで本当に降ってきたら一瞬で終わるし」

あんじゅ「しょうがないからその時は私も一緒に居てあげる。絵里ちゃんはこころちゃんとここあちゃんと亜里沙ちゃんをよろしくね」

絵里「そんなっ……私だって、一緒に居たいわよ。寧ろ、自分で言い出したけど隕石って発想が痛いわ」

あんじゅ「確かに。それにフラグは忘れた頃にやってくるっていうし、暫くは大丈夫じゃないかな?」

にこ「そもそも、天気予報が最近当てにならないから発展した会話がなんでそんな風になったのやら」

あんじゅ「もしかしたら隕石じゃなくて、天気系のフラグなのかも」

絵里「念の為にロッカーに予備の折り畳み傘を入れておいた方がよさそうね。穂乃果とか忘れてきそうだし」

あんじゅ「こういう気配りがエリーちゃんの長所だよね」

絵里「ありがとう。それじゃあ、私は今日はUTXで学園祭の話し合いがあるから行くわね」

にこ「まだ夏も始まってないのにご苦労様ね」

絵里「夏から話を詰めてたら終わらなくなっちゃうのよ。初めての試みだからそれなりに大変よ」

あんじゅ「いつも言うけど何かあったら言ってね。手伝うから」

絵里「ええ、その時はお願いするわ。でも、向こうの会長と副会長はとても優勝だから大丈夫だと思うわ」

にこ「とか言って絵里は無理しそうだからね。本番近くなったら無理にでも手伝うわ」

あんじゅ「そうだね。ラブライブ過ぎれば後は隠居生活みたいなものだからね」

にこ「部長も海未に任せるつもりだし」

絵里「そのことなんだけど、海未には是非生徒会長の跡を継いで欲しいのよね。人前に出ることも慣れてきたから」

絵里「しっかり者で安心だし、ミスした時も動揺せずに処理できるでしょうし」

にこ「前々から言ってたけど本気だったのね」

絵里「それはそうよ。相手に飲まれないという資質も魅力だし」

あんじゅ「これ以上ない逸材だもんね」

にこ「家のこともあるから部長兼任させるわけにもいかないか。穂乃果でも部長は務まるかしらね」

あんじゅ「にこに勤まるくらいだから大丈夫にこ☆」

にこ「なんですって~!?」

絵里「ふふっ。じゃあね、また明日の練習でね」

あんじゅ「ばいば~い!」

にこ「車に気をつけなさいよー」

あんじゅ「学園祭が終われば絵里ちゃんも生徒会終了なんだね」

にこ「もし絵里が生徒会に入ってなければ、私たちはこうして同じメンバーになれなかったかもね」

あんじゅ「そうだね。当時の会長と同い年になったからより実感出来るようになったけど、本当に有能な人だったよね」

にこ「私達も海未や穂乃果や凛。それ以外の人達にそんな風に言われる先輩でありたいものね」

あんじゅ「百万回転生したらそう言われる可能性が出るよ!」

にこ「そんなに転生しても可能性しか出ないってどんだけよ」

あんじゅ「うふふ。それじゃあ、私達も帰ろうか」

にこ「そうね。それにしても、本当に天気がいいわね」

あんじゅ「良いことありそうだね♪」

にこ「そうね」

――運命の始まり にこの家 リビング

虎太郎「――ということなんだ。受けてもらえるかな?」

余りにも規模のでかい話に頭が麻痺して付いてきてくれなかった。

思考停止に近い状況ながら、それでも搾り出すように一言を告げる。

にこ「明日まで考えさせてもらってもいいですか?」

声も掠れて、どうにも締まりのない自分に羞恥を覚える。

正直、隣にあんじゅが居なければこんな醜態すらも可愛く見える程に動揺していたと思う。

繋がれた手の温もりに感謝しつつ、虎太郎さんを見る。

虎太郎「勿論大丈夫だよ。じっくりと考えて欲しい」

大好きなパパを思い出す優しい笑顔で頷いてくれた。

今はともかく落ち着いて考える時間が欲しかった。

虎太郎「このまま皆で食事でもと思っていたけど、今日はお暇した方がよさそうだね」

虎太郎「明日の夜にでも予約しておこう。それでは、失礼するね」

ママ「玄関までお見送りするわ。失礼だけどお姉ちゃんはちょっと今は立てないみたいだから」

ママ「というかスクールアイドルのスケールとしては大きすぎのような気がするわ」

虎太郎「そうでもないさ。向こうに居る時に調べたら劇場がある学校もあるらしいじゃないか」

ママ「学校に劇場があるのと今回の話は別でしょう。お姉ちゃんは誰に似たのかメンタルが弱いんですから」

ママと虎太郎さんの遠ざかる会話を聞きながら、未だに頭の痺れは取れない。

今感じられるの事の大きさを先に実感を始めて震え始めた体。

そして、より強く握ってくるあんじゅの手の温もりだけ。

あんじゅ「ハリウッドデビューとかプロデビューよりは現実的なイベント発生だね」

暢気ないつものあんじゅの声に震えが少し収まる。

あんじゅ「うふふ。にこってば初めて私がにこと出会った時みたいに震えてる」

あんじゅ「あ、私の時はにこの料理食べた時だったっけ」

私の震えが止まるまで、あんじゅはずっと思い出話を語って聞かせた。

――十分後...

にこ「……つまりね、気付いたのよ」

あんじゅ「何を?」

にこ「これは青空が見せた夢なんだって」

あんじゅ「まさかの現実逃避!?」

にこ「だっておかしいじゃない。こんなことありえないわ!」

にこ「私の幸運はあの異常に暑かった秋の日に使い果たした筈よ!」

あんじゅ「にこが使う自虐ネタは心に刺さるからやめて。いつでもポジティブなにこで居て!」

あんじゅ「それに一万円でお釣りがくる程度の幸運が全てとか悲しすぎるにこぉ」

にこ「いいえ、夢よ! 夢に決まってるわ! いつかきっと何処かで幸運な夢を見るフラグを立ててたのよ」

あんじゅ「そろそろ冷静に戻って。そんなフラグは立ててないよ」

にこ「じゃあ、もしかしてアウターゾーンに迷い込んじゃったとか!?」

あんじゅ「ないよ。ついでに心の隙間を埋めちゃう人とも会ってないから大丈夫だよ」

にこ「じゃあどういうことなの?」

あんじゅ「どういうことも何もただの現実だよ」

にこ「シンデレラストーリーなんてのは物語の中にしか存在しないのよ」

あんじゅ「そうだね。どちらかというと私たちの場合は下克上って単語の方が似合うにこ♪」

にこ「下克上? 下克上。嗚呼下克上。でも夢オチ。字余り」

あんじゅ「上手いこと言えてないよ。というかだから夢オチじゃないってば」

にこ「いいえ、油断したところで目が覚めるって知ってるんだから」

あんじゅ「にこと出逢って最大の小者反応に私本気で涙。う~るる~」

にこ「もしもよ、もしも本当に現実だとしたら下手な宝くじ一等当てるより価値があるじゃないの」

あんじゅ「普通に考えるとそうだね」

にこ「つまり非現実なのよ。ということは夢ね!」

あんじゅ「にこってばしつこいよ。じゃあ言葉を変えるね、目を覚ましてあげる」

あんじゅ「これはにこのパパがくれた軌跡の結果。ううん、奇跡なんだよ」

にこ「――」

あんじゅ「これでも現実だって認められない?」

にこ「反則の言葉を言うじゃないの。あんじゅの癖に生意気だわ」

あんじゅ「最近どこかのガキ大将の台詞に嵌ってるよね」

にこ「中々の名言だと思ってね」

あんじゅ「にこの場合は言われる側がはまり役だけど」

にこ「なんですって!?」

あんじゅ「さっきまで『現実怖いにこぉ。これは夢にこぉ』って震えてたじゃない」

にこ「あれはそういう演出よ」

あんじゅ「へー」

にこ「信じてないわね?」

あんじゅ「じゃあ返事をする時は私は同席しないでいいよね」

にこ「…………一緒に居て」

あんじゅ「え~なんて~」

にこ「その馬鹿っぽい返事やめなさいよ」

あんじゅ「で、何て言ったの?」

にこ「一緒に居ろって言ったのよ! 二度も言わせるんじゃないわよ!」

あんじゅ「にこってば最近特に甘えん坊だよねぇ」

にこ「だからあんたに言われたくないっての!」

ママ「ふふっ。二人共飽きないくらいに仲がいいわねぇ」

あんじゅ「にこは私のこと大好きだから」

にこ「それはあんたが私の事を大好きなんでしょ」

ママ「根っこの部分がそっくりね。明日は虎太郎さんが食事に連れてってくれるらしいけど」

ママ「今日は今日で外食にしましょうか」

あんじゅ「本当!?」

にこ「無理しなくても」

ママ「無理じゃないわよ。最近雨ばかりで鬱憤溜まってたし、ご飯の後はカラオケ行きましょう」

あんじゅ「流石ママ! 私も今日はカラオケに行きたい気分だったにこ!」

にこ「歌ってスッキリするのもいいかもね」

ママ「ところで虎太郎さんの提案はどうするの? そもそも断るなんてしちゃいけないことだけど」

あんじゅ「私はてっきりにこが即答で承諾すると思ってたくらいだよ」

にこ「……漸く実感が湧いてきたから言えるけどさ、私にとって二十一位から三十位までのみんながある意味仲間意識が強いのよ」

にこ「ほぼ入れ替えもないような状況で今日までずっとその順位を守り続けてきた」

にこ「上がれない代わりに下がりもしない。ジレンマのような状況は時として諦めすら生まれるから」

にこ「上位陣のように安定していれば別だし、三十位より下の変動の大きいなら気持ち楽になれる」

にこ「だからね、こんなこと言うと怒られるかもしれないけど、私はこう提案したいの」

あんじゅ「邪道な提案?」

にこ「違うわよ」

にこ「七月三十日の野外会場を貸しきっての無料ライブ。パパへお詫びとして私に与えてくれた虎太郎さんからの提案」

にこ「今でも夢としか思えない規模の大きさ」

ママ「想像以上の成功を収めてたわね。流石パパの親友だわ」

にこ「だからってありえないでしょ! スクールアイドル好きなにこが言うのもなんだけど」

にこ「高校生の部活動のようなものなのよ? それなのに野外会場をスタッフとか込みで用意してるっておかしいでしょ」

ママ「それだけパパのお葬式に来れなかったことが罪の意識として強いのよ」

ママ「パパならそんなことを気にする必要ないよって言うのにね。勿論虎太郎さんもそれを分かってるでしょうけど」

ママ「それでもパパの娘であるお姉ちゃんに幸せを与えたいと思うんでしょうね」

ママ「男の人の意地って部分もあるのかもしれないから、そういう時女は受け入れるだけよ」

ママ「ま、大人になると今回みたいに断れない状況で相手を誘う狡猾さが出てくるんだけど。ふふふっ」

あんじゅ「大人の世界だー」

にこ「あんじゅの邪道が可愛く見えるわね」

ママ「それで、お姉ちゃんの話に戻るけどどうしたいの?」

にこ「これはあくまで虎太郎さんがOKくれて、他の色んな所で許可を得られたらの話なんだけど」

にこ「予選終了が七月三十一日の正午。つまり本当の意味で予選前のアピールとしてはラストライブになるの」

にこ「そのチャンスを私達SMILEだけで貰うのは仲間を裏切るような気持ちになる」

あんじゅ「仲間ってさっき言ってたグループだよね」

にこ「うん。これは勝手な仲間意識だから向こうにしてはふざけるなって思われるかもしれないけど」

にこ「でも、同じように思ってくれるなら……一緒のステージに立ちたいの」

あんじゅ「つまり三十日のライブで一緒にライブするってこと?」

にこ「それだけだと一夜限りのお祭りで上位陣の固定ファンを揺るがすには足りないのよ」

にこ「例えばドミノってあるじゃない?」

あんじゅ「うん」

にこ「完成後のドミノを始めるシーンから見た場合だとただ普通に凄いなーって思いしか抱かないでしょ?」

あんじゅ「そうだね。でも、ああいうのって実際に凄いよね」

にこ「私達じゃ到底真似できないわ」

にこ「それは置いておいて。ドミノを組み立てる部分から見せて、時に失敗する光景を見るとするじゃない」

にこ「その後にドミノが完成して倒すシーンを見たとするわ。どっちの方が心により大きなインパクトを残せると思う?」

あんじゅ「それは断然後者だよね」

にこ「そうよね。固定ファンを覆すにはもうこれしかない」

にこ「チャンスが巡ってきてから漸くほぼセオリーと化したラブライブ予選攻略の突破口が見えた!」

あんじゅ「……つまりどういうこと?」

にこ「つまりね、合宿を行うわ。それもただの合宿じゃない。大連続合宿公開練習にこ!!」

あんじゅ「大連続合宿公開練習!? って、長いよ。でも、にこがやろうとしてることは分かった」

にこ「ここまで言って理解されなかったら困ってるところよ」

あんじゅ「つまり現二十一位からSMILEを含めた三十位までのグループ全員を集めて連日の合宿を行って」

あんじゅ「その練習風景をネット配信。そして、後のライブに繋がるってことだね」

にこ「ライブっていうのはつまりは結果を見せるだけの場。それが当然であり、練習は言わば日陰舞台だからね」

にこ「だからこそ、今までのスクールアイドルはしてこなかった」

にこ「そこを逆手に取ることこそが本当の意味で私達の最後の邪道になるわ」

ママ「有効な手よね。日本人って基本的に頑張ってる子を応援したくなる思考が強いから」

ママ「今回のことでスクールアイドルを知った人なら合宿の参加グループの何れかに投票してくれるかもしれないわ」

にこ「でしょ?」

あんじゅ「SMILEだけでやれば確実とは言いがたいけど、でも現実的な数値で本戦に進めるよ。いいの?」

にこ「私一人の判断で決めることは出来ないから、絵里達とも相談の上で決めるわ」

にこ「だけど可能なら私はみんなに私の意見を支持して欲しい」

あんじゅ「そんな優しいにこだから、私の心を救ってくれたんだもんね」

ママ「青春の音が聞こえるわ。ママもあの頃に戻りたい」

にこ「私達もママみたいに青春時代に戻りたいと思えるくらいに満喫しないとね」

あんじゅ「うん、そうだね」

にこ「思い出に浸れるようにする為にも具体的な事を考えないと。宿泊施設は当然学校ね」

あんじゅ「他校の生徒も泊めるとなると一応見回りの先生が必要になるのかな?」

にこ「かもね。理事長だけ攻略すればどうにかなるって問題じゃないだろうし、ハードルは高そう」

あんじゅ「ご飯は各自で食材を集めた感じで一緒に調理でいいのかな?」

にこ「人数が多くなるから何班か分けてって感じで、練習風景だけじゃなくて、そういうシーンも公開の必要ありね」

あんじゅ「元々大きな学校だっただけにお布団は学校にあるけど、合宿前にきちんと日干ししないとね」

にこ「忘れないようにしないと。一番の問題はお風呂にこ」

あんじゅ「一日ならシャワーだけでも我慢できるけど、それ以上となると絶対にお風呂入りたくなるからね」

にこ「プールが温水だったら最悪はお風呂代わりに出来たけど、温水じゃないし」

あんじゅ「毎日お風呂屋さんに行くのはどうかな?」

にこ「東京のグループならそれくらい大丈夫だろうけど、遠くのグループとなると旅費がかかるでしょ?」

にこ「そうなると毎日の銭湯代だって馬鹿にならなくなるわよ」

あんじゅ「そうだよねー」

ママ「少人数ならうちで入ってもらっても構わないけど」

にこ「お風呂を一緒に入ることで絆を深めたいのよ。グループ間だけで固まってるだけだと意味ないし」

にこ「リラックスした状態が一番仲良くなれるチャンスだからね」

あんじゅ「だからにこは毎日のように私とお風呂に入るんだね」

にこ「あんたが一緒にお風呂入りたがるだけでしょうが!」

あんじゅ「うふふ」

にこ「まったく。まずは虎太郎さんの許可⇒学校宿泊及び幾つかの施設の使用許可⇒お風呂問題。これを解決したら」

あんじゅ「次は各グループへの参加の申し込みだね」

にこ「それから野外ライブのポスターのこともお願いしないとね」

あんじゅ「私がお願いしてくるよ」

にこ「SMILEの本戦出場が掛かってる大事なポスターになるって発破掛けておきなさい」

あんじゅ「にこってば意地悪にこ」

にこ「事実だもの」

あんじゅ「冷静に考えれば参加グループが多くなればなるほど注目度が高まって宣伝効果が表れる」

あんじゅ「にこの人生で最高の策だね。今回は誰も嫌な気持ちにならないし」

にこ「最後が引っかかる言い方ね。今までだってにこの策は人を嫌な気持ちになんて……ま、いいわ」

あんじゅ「あ、誤魔化した」

にこ「とにかく先手を打つ意味でも明日中に理事長に話をつけにいきましょう」

あんじゅ「まだ日程も決まってないよ」

にこ「合宿の終わりはライブの翌日である三十一日。始まりは二十二日。本当は二週間くらい欲しいけどね」

にこ「でも、二週間だと新鮮味がなくなる恐れがあるわ。ダレる二週間より引き締まった一週間が好ましい」

あんじゅ「丁度にこの誕生日から合宿開始ってことだね」

にこ「今年のにこの誕生日会は三十一日に延期とするわ」

あんじゅ「中止じゃない辺りがにこらしい」

ママ「じゃあ早い内にこころとここあには言っておかなきゃね」

あんじゅ「にこ、一番の問題がまだ残ってたよ」

にこ「何よ?」

あんじゅ「ママの帰りが遅いときのこころちゃんとここあちゃんのこと」

にこ「確かに」

ママ「一週間ちょいでしょ? それくらいなら早く帰れるようになんとか出来るわ」

にこ「私の都合でママに迷惑掛けられないわよ」

あんじゅ「こういうのはどうかな? ママが早く帰れる日は家に帰して、遅くなりそうな日は一緒に学校で泊まるの」

にこ「でも、遊んでから学校に来るとしても常に構ってあげられる訳じゃないし。それなら遅くなってから家に送った方がいいんじゃない?」

あんじゅ「そこで五女の出番だよ」

にこ「海未が四番目だから……亜里沙ね」

あんじゅ「名目はマネージャー。雪穂ちゃんも召喚出来れば尚良しかな」

にこ「雪穂ちゃんまで巻き込むってあんたね」

あんじゅ「亜里沙ちゃんも友達である雪穂ちゃんが居た方が嬉しいと思うの」

にこ「……うーん、まぁそうね。うちのおちびちゃん達は元気有り余ってるから、休憩したい時もあるだろうし」

あんじゅ「本当。いつもにこの面倒大変で休憩したい時もあるにこよ」

にこ「それはこっちの台詞ニコ!」

ママ「ふふっ。どちらにしろ全部こっちで勝手に決めるのは駄目よ? きちんと意思を尊重しないとね」

にこ「分かってるわ。現時点だと全てが皮算用に過ぎないから」

あんじゅ「でも私達は手の平で回すのは得意だからね。思い通りにしてみせるニコ!」

にこ「……自分に対して使われていなくても、手の平と聞くと胃が痛むわ」

あんじゅ「そんな幻痛はどうでもいいから、明日の予定を決めちゃおうよ」

にこ「あんたの所為だけどね! ラインで明日の午前中集合掛けて、理事長のアポは昼くらいでいいかしらね?」

あんじゅ「どうだね。お腹が膨れた後の方が油断を誘えるから」

にこ「あの人に油断なんてあるのかどうか疑問だけど。前回の時だって思い返せば完全にバレてたと思うし」

あんじゅ「その上であんな歓迎されたからね。いやぁ~私もいつかあんな大人になりたいなぁ」

にこ「童話の魔女なら可能だけど」

あんじゅ「ぴぴるれにゃ~ん♪」

にこ「そんな可愛らしい魔法唱えるような魔女いないわよ!」

あんじゅ「理事長なら頭ごなしに否定せずに、きちんと考えた上でなんかしらのアクションを返してくれると思うよ」

にこ「そうね。今回も絵里に黙ってたら本気で拗ねるだろうし、許可はまだ下りてないことも話し合いの際に言っておくべきよね」

あんじゅ「そうだね。今回は邪道というより王道よりだから、全部フルオープンでいこう」

あんじゅ「でも、タイトルを付けるなら【邪道シスターズF ~完結編~】がいいな☆」

にこ「本当にネーミングセンスだけは残念ね。完結編とかタイトルに入れるのは激しくダサいわ」

あんじゅ「そんなことないよ」

にこ「そんなことあるわよ。私が理事長に行くから、あんたは美術部にポスター製作の以来をお願いしに行って」

あんじゅ「駄目だった時のことは考えずに行動、だね」

にこ「当然よ。チャンスっていうのは物にしてこそのチャンスなんだから」

あんじゅ「チャンスを逃したら悔しい思いだけしか残らないもんね」

あんじゅ「絵里ちゃんには許可が下りた時に直ぐ生徒会としての受理できるように手配してもらおうか」

にこ「ええ、そうしましょう。海未と穂乃果には凛の練習を見てもらいましょう」

にこ「いや、穂乃果には衣装のデザインを頼んだ方がいいわね。やっぱり衣装を一新した方がいいだろうし」

あんじゅ「そうだね」

ママ「本当にそうかしら?」

にこ「えっ?」

あんじゅ「どういうこと?」

ママ「これはあくまで素人意見だけど、今回の目的はラブライブっていう大会に出場する為なのよね?」

にこ「そうだけど」

ママ「それだったら衣装を作る時間を割いて疎かになってしまったら本末転倒じゃないかしら?」

ママ「もし仮に予選通過できたとしても、その分完成度は落ちる可能性が高くなるわけじゃない」

にこ「それはそうだけど、いくら舞台が大きいからって既存の衣装でするのと新規の衣装でするのとじゃ新鮮さが違うし」

ママ「別に既存の衣装でする必要もないわ。それぞれが高校生だからこそ着ることを許される衣装があるじゃないの」

にこあん「制服!?」

ママ「パパは違うけど、それなりの年齢を超えた男の人って大概制服に弱いのよ。気取った衣装よりもね」

ママ「一校だけで制服だと狙ったようなあざとさが出るかもしれないけど、十校揃えば立派な武器じゃないかしら」

あんじゅ「その発想はなかった」

にこ「確かに一理あるわ。それに、スクールアイドルが制服でライブをしてはならないなんて禁止事項も当然ない」

あんじゅ「流石ママ」

にこ「参加条件に組み入れるだけで衣装作成の手間が省ける。最高の案だわ。私達は誰よりも練習時間が欲しいところだからね」

あんじゅ「でも、あまり根を詰めすぎると空気悪くなっちゃうから、遊ぶ時間も作らないとね」

にこ「そうね。最後の方は短い時間でより濃厚な練習を心掛けましょう」

にこ「ありがとう、ママ。ラブライブ本戦に一歩近づけた気がするわ」

あんじゅ「でもこれからだよ。私達が目指すラブライブ坂はまだ始まったばかりなんだから! 未完」

あんじゅ「悲しむ暇なんてない! 次回からにこにー先生の最新作【半透明ピエロと出遭った少女】が始まるよ♪」

にこ「明らかにホラーじゃない。絵里が泣くわよ」

あんじゅ「お泊り会なんだし、百物語とかいいかも★」

にこ「だから絵里が号泣するっての。となると穂乃果がフリーになるのよね。練習参加でもいいけど」

あんじゅ「穂むらのお手伝いしてもらって、雪穂ちゃんも合宿に参加出来るようにお母さんに頼む使命があるじゃない」

にこ「そうそう、それがいいわね。それで後は虎太郎さんに返事をするだけね」

あんじゅ「うん!」

――翌日 午前 部室 SMILE

にこ「今日みんなに集まってもらったのは他でもないわ」

穂乃果「刑事ドラマの警部さんみたいな台詞だね」

海未「そんなことより注目すべき点はにこの目です。何か邪道な色を宿しているように思えます」

凛「邪道な色というと紫色かな?」

絵里「ということは、もしかしてラブライブ予選の突破する策が思いついたってことかしら?」

穂乃果「そうなの!?」

あんじゅ「落ち着いて。今から話すことはある意味で夢物語。ううん、シンデレラストーリー」

あんじゅ「灰かぶりと呼ばれるシンデレラはついに押し殺せない殺意に目覚めました。それでも我慢し続けた」

あんじゅ「そして、深夜十二時……最後の理性は砕け、一家を血の海に沈めました」

海未「ブラッディーシー。悪くはありません」

あんじゅ「犯人としてシンデレラは捕まり、死刑になりました。しかし、一家皆殺しにされた家の近くで目撃されるのです」

あんじゅ「包丁を持って彷徨う血まみれの少女の姿が。見た者は皆腰を抜かす程の恐ろしい形相をしているそうです」

あんじゅ「ある日、警邏隊のシュガーが――」
にこ「――いつまでもそんなくだらない話をしてるんじゃないわよ!」

にこ「意味もなく絵里は震えてるし、海未は中二の血が騒いでるし、穂乃果と凛はあやとりやってるしでカオスよ!」

あんじゅ「……やっぱり私に物語を書く才能なんてないのかな」

にこ「書くことに才能なんて単語を使う時点で始まってすらいないで終わってるのよ」

あんじゅ「意味が分からないけど意味が分かった!」

絵里「こほんっ。それで予選突破の策って結局なんなわけ?」

あんじゅ「あ、エリーちゃんが立ち直った」

海未「はっ! そうでした。今はラブライブに集中しないといけません」

にこ「穂乃果と凛もいつまでも遊んでないの」

ほのりん「はーい♪」

絵里「それで今回はどんな邪道な策なの?」

にこ「まぁ、簡単に説明するとね……」

――五分後...

絵里「まったく。これだからにこは私の可愛い妹なのよ。損な性格してるんだから」

海未「まったくです。それに何度私に尊敬し直させれば気が済むのですか」

にこ「怒ってないの? SMILEだけなら確実とは言わないけど十中八九ラブライブ本戦を手中に収められる筈なのに」

海未「この程度で怒れる筈ないではないですか。どれくらい貴女達の邪道に心を鍛えられたことか」

絵里「海未の言うとおりよ。前回のにこの邪道の方が怒るに値する行為だったもの」

穂乃果「わぁ~♪ 何だか楽しみだねっ! 小学生の遠足を思い出す」

凛「穂乃果ちゃんの言うとおりだよね。凛も楽しみ過ぎてテンション上がるにゃー!」

あんじゅ「遠足じゃなくて林間学校だと思うよ」

穂乃果「そうそう、それそれ! 懐かしいなー。林間学校といえばカレーだよね!」

凛「かよちんの炊いたおこげ付きのご飯は最高だったよ! かよちんご飯好きだからご飯炊くの得意なんだ」

あんじゅ「にこのカレー。花陽ちゃんの最高のご飯。この二つの符合が意味するものは一つ!」

にこ「私のカレーがどこから出てきたのよ」

凛「そういえばにこちゃんのカレーは美味しかったからまた食べたいなー」

あんじゅ「大丈夫だよ。合宿でにこは必ずカレーを作るから」

海未「大人数で食べるとなればカレーは定番ですね」

絵里「初日がいいわね。環境の悪さは胃袋を掴むことで解消しましょう」

海未「論点のすり替えを平然と推奨するのはどうかとも思いますが、それが邪道シスターズらしさです」

凛「友達沢山つくれるかな?」

にこ「友達というかライバルっていうのが適当ね。特に一年生は凛にとって最大のライバル候補よ」

にこ「一年生でラブライブ本戦を経験しているというのは最大の財産になるわ」

にこ「もし来年は本戦に辿り着けないとしても、再来年に熟して戻ってくるかもしれない」

にこ「大会の概要が変わるのが濃厚だから絶対とはいえないけどね。それに本戦とは違うけど今回のことも大きな経験値となる筈だし」

凛「……そっか」

にこ「でも凛の場合は難しく考えることないわ。同じ部のシカちゃんをイメージすればいいのよ」

にこ「ライバルだけどお互いを高めあえる存在って至高なんだから」

凛「うん!」

絵里(そう言うにこはライバルに出会って、結果夢を諦めた。そろそろ綺羅さんとの出会いを聞き出さないと)

にこ「ただ、凛の場合は陸上という本命があるからね。少しでも重みに感じた時はスクールアイドルを辞めなさい」

凛「だったら凛は卒業するその日までスクールアイドルってことだね。だって、そんな風に感じることなんてありえないニャ☆」

あんじゅ「うふふ。これは一本取られたね」

にこ「でも、あなたが三年生になる時は残念だけどここに居るメンバーは他に居なくなる」

にこ「全員が後輩で陸上部を掛け持ちしながら部長兼リーダーとしてやってくとなると大変なことよ」

海未「確かにそうですね。少し意地悪かもしれませんが後輩が入らない場合だってありえますし」

穂乃果「海未ちゃんってば本当に意地悪だよ」

凛「もしも一人になっても凛はスクールアイドルを続けるよ」

絵里「どうしてそんなハッキリと言い切れるの? まだライブだって経験してないのに」

凛「一人だったとしても凛にはライバルが居るから。かよちんと真姫ちゃんっていう至高のライバルが!」

にこ「ふふっ。本格的に一本取られたわ」

あんじゅ「むしろ病院送りだよね★」

絵里「もう二度と上手いこと言えない体になってしまうのね。さすがにこだわ」

にこ「どういうことよ!?」

絵里「少なくとも私の妹の亜里沙はSMILEに入る気だから一人になるってことはありえないわ」

穂乃果「なんだかんだで雪穂も亜里沙ちゃんに引っ張られてスクールアイドルやると思うよ」

海未「雪穂は穂乃果と違ってしっかり者ですからね。凛が三年生になる時には部長の座を任せても大丈夫かもしれません」

凛「楽しみだけどみんなして気が早いよ~」

にこ「充実した毎日を送ってるとアッと言う間だからね。凛も気をつけなさい」

にこ「後悔しない時間を過ごすって簡単そうで意外と難しいんだから」

あんじゅ「にこなんて後悔と無駄だらけだもんね」

にこ「あんたに言われたくないニコ!」

あんじゅ「私は毎日色んな無駄知識を吸収してるニコ!」

絵里「自分で無駄って言ってるじゃない。丁度いい機会だから海未に話があるのよ」

海未「なんでしょうか?」

絵里「海未に生徒会長を継いで欲しいのよ」

海未「それは以前――」
絵里「――ええ、断られたのは知ってるわ。でも、今度はもっと時間を掛けて考えて欲しいの」

絵里「出会った頃の海未は確かに人前に出ることを極端に恥ずかしがる女の子だった」

絵里「でも、ライブを通じて人前に出ることにも慣れてきた。何よりもメンタル面が鍛えられたでしょ?」

絵里「今の海未なら何の懸念もなく跡を任せられる。前会長が私にその跡を任せてくれた時と違ってね」

にこ「あんたは充分信頼されてたでしょ」

絵里「ううん。自分でいうのもなんだけどね、あの人に比べれば全然だったのよ」

あんじゅ「それは会長さんは三年生で絵里ちゃんは一年生だったから」

絵里「そう思えたら楽だったんだけどね。いざ同じ三年生の今になってよりあの人の偉大さを感じるわ」

海未「ですが、絵里だからこそ歴代生徒会長だったらありえなかったUTX学院との合同学園祭の申し込みを受けられた」

海未「そして今もそのことで誰よりも苦労をしています。来年私が貴女と同じ立場になっても全然追いつけないと思います」

絵里「そんなことないわ。海未の能力の高さは誇れるレベルよ」

海未「私は絵里が評価してくれる程の能力はありません」

絵里「あるわよ。それに、一番大切な物を海未は持っているもの」

海未「一番大切な物、ですか?」

絵里「自分の正しさに真っ直ぐなところよ。悪い事をしたら非を認め、相手のいい部分を見れば素直に尊敬できる」

絵里「人の上に立つ者にとってこれ以上大切なものなんてないわ」

海未「買い被りですよ。私はけっこう素直になれないことが多いです。自分の非だって認めるかどうかも怪しいです」

絵里「穂乃果と凛は置いてけぼりになっちゃうけど、音ノ木坂体験ができる切っ掛けの日を覚えてる?」

海未「忘れようにも忘れられませんよ。私が初めて音ノ木坂に来た日の出来事ですからね」

絵里「あの頃は私達もまだ一年生だったからトラブルに対して頭が上手く回らなかった」

あんじゅ「今なら私一人でも誤魔化せたけどね」

にこ「あの時は本当に焦ったわ。覚悟だけ決まって頭真っ白のまま何かしなきゃって状態だったし」

絵里「私も二人と同じくらい焦ったわ。でも、あんじゅの機転をにこが上手く掬って、それに私が便乗した」

絵里「普通なら無理やり連れてこられた状態である海未が自分で泥を被ろうとすることはなかったのよ」

絵里「それなのに貴女は私達を庇おうとした。あの尊さを私は信じてる」

海未「……」

穂乃果(なんだかドラマの最終回のAパートの後半って感じみたい。お茶とお煎餅が欲しいなー)

凛(凛を勧誘した時みたいに無茶をしてたってことなのかな? そういう話を全部聞きたいニャー)

海未「……分かりました。じっくりと考えてみようと思います」

絵里「ええ、いい返事を期待してるわ」

にこ「じゃあついでに穂乃果に言っておくわ」

穂乃果「ん?」

にこ「予選突破がなるかどうか分からないけど、ラブライブが終わったらあなたに部長を引き継いで欲しいのよ」

穂乃果「えっ、穂乃果が?」

にこ「というか消去法で穂乃果しか居ないのよ」

穂乃果「あー……うん、そうだね。海未ちゃんは青春満開だったのになんかすっごい雑だね」

にこ「部長の引継ぎなんて普通そんなものでしょう?」

穂乃果「それはそうだけどさー」

にこ「穂乃果は部長として作曲できる子をメンバーにスカウトするなり協力を得る任務もあるのよ」

にこ「それから衣装作れる子も必要になるわ。今のうちに同級生なり下級生を見繕っておく必要あるかもね」

穂乃果「扱いが雑だったのに役目が重過ぎるよ!」

あんじゅ「でもそうだね。にこが衣装作って私が作曲してたから」

穂乃果「そうだ! 最悪はことりちゃんに作ってもらおう!」

海未「ことりは只でさえ忙しいのです。更に負担を掛けようなんて私が許しません!」

穂乃果「じょ、冗談だよ」

海未「今の穂乃果の目は本気でした。シンデレラをいびる王子なんて存在しませんよ」

穂乃果「ミカなら裁縫とかできそうだし、来週にでも話してみるよ。最悪は私が裁縫練習するし」

凛「そういえば穂乃果ちゃんがデザインしてるんだよね?」

穂乃果「うん、そうだよ」

凛「自分でデザインして自分で作れたらすっごく格好いいよ!」

あんじゅ「穂乃果ちゃん入部以前はそれをにこがやってたんだよ」

凛「意外とにこちゃんって有能?」

にこ「意外って何よ! にこはスーパー有能女子なんだからね!」

絵里「家事の面では文句なしなのは確かだけど、勉強面が些か難ありだけどね」

あんじゅ「総合評価微妙に有能かもしれない女子だね」

にこ「滅茶苦茶微妙じゃないの!」

凛「足もそんなに早くないもんね」

にこ「ぐぬぬ!」

海未(私が生徒会長……想像できませんね。穂乃果だったら不思議としっくりくるのですが)

穂乃果「海未ちゃんどうかしたの?」

海未「いえ、なんでもありません。大変な夏になりそうですね」

穂乃果「そうだね! でも、上手くいけば大きな舞台でことりちゃんと競えるんだよね」

海未「随分と嬉しそうですね?」

穂乃果「嬉しいよ。だって、穂乃果がスクールアイドルになろうって思ったのはことりちゃんのファーストライブだもん」

穂乃果「あの時の胸のドキドキを超えるインパクトはこれしかないよ!」

海未「穂乃果はよくも悪くも目標に真っ直ぐになれて羨ましいです」

穂乃果「穂乃果は海未ちゃんやことりちゃんと違って馬鹿だから。だから真っ直ぐしかないの。ススメ→トゥモロウ♪」

――夜 レストラン 個室

ここあ「えへへ~おいしかった♪」

こころ「ほっぺたが落ちちゃいそうだった☆」

ママ「よかったわね」

虎太郎「喜んでもらえて嬉しいよ。好きなデザートを頼むといいよ」

こころあ「ありがとうにこ!」

虎太郎「それで電話で言っていたお願いというのは何かな?」

にこ「正直言って今の条件ですらとてもありがたいことです。普通の学生にはありえないものです」

にこ「こんなことを言うのは厚かましい以外のなんでもありません。パパの娘として恥じるべきことかもしれません」

にこ「ですがそれでもお願いしたいんです。その舞台で歌うのを私達だけでなくてもっと多くの人と共有したいんです」

にこ「同じスクールアイドルのライバル達と。この夢舞台で歌って踊って笑顔になりたいんです」

虎太郎「……ふむ」

にこ「私達だけでなく二十一位から三十位までの計十グループで下克上を起こしたいんです」

虎太郎「それはにこちゃん達が不利になるんじゃないのかな?」

にこ「そうですね。本戦に進めるのは二十位まで。現在私達は二十五位です」

にこ「今の人気で順当に繰り上がるとしても二十五位までは食い込めるかどうかと言えば少し無理なラインかもしれません」

にこ「でも、だからこそ自分達を信じて挑戦したいんです。それにこう言ったら失礼かもしれないけど」

にこ「元々ある筈もないチャンスなんです。チャンスは挑戦しない者に与えられる物ではないと思います」

にこ「挑戦するからこそチャンスを掴む権利を得られると思うんです。そうじゃないとズルいから」

虎太郎「ズルだと感じたとしても、結果を残せなかったら意味がないんじゃないのかな?」

にこ「そんなことありません。私達の全力を出し切って届かないのであれば最初から無理だったんです」

にこ「その時は皆で泣いて、泣きながら歌って笑顔になりますから、それもまた一生の宝物です」

虎太郎「はははっ。顔は完全にお母さん似なのに性格はあいつにそっくりだ」

虎太郎「あいつも不器用なのにすごく真っ直ぐで。だからこそ人を惹きつけて笑顔にする魅力があった」

虎太郎「自分が信じた道を進む時は後悔したとしても最後は笑顔を浮かべる。そんな生き方をしていた」

虎太郎「だからこそ、僕もまた家に縛られるを良しとせずに海外に出る決意をもらえたんだ」

虎太郎「今の僕の成功はあいつがくれた奇跡だと思っている」

ママ「流石にそれは言いすぎだと思うけど」

虎太郎「いや、そんなことないさ。あいつに出会わなければ僕はいつか大きく膨れた不満を家族にぶつけていた筈だ」

虎太郎「最悪な形で勘当されて一生後悔していたよ」

ママ「くすっ。そうなるとどうあっても勘当される運命だったのね」

虎太郎「この世界には数え切れないくらいに家族がある。だから僕のように切れる運命だった家族の縁だって存在する」

虎太郎「問題はその後にどう行動を次第だ。僕の場合はそれが仕事だったというだけだね」

あんじゅ(……その後の行動次第)

虎太郎「一番肝心なのは過去に捕らわれない心。それに、血の繋がりだけが家族というわけでもない」

虎太郎「そうでないと夫婦は一生他人扱いだからね」

にこ「そうですね。それに、血の繋がった家族も大切ですけど、自分の意思で見つけた家族もまた同じくらい大切ですから」

あんじゅ「にこがデレた」

にこ「もう少し場にあった言葉を返しなさいよね!」

あんじゅ「うふふっ♪」

虎太郎「さて話を戻そうか。どれくらいの人数になりそうなのかな?」

にこ「私達含めて……えっと」

あんじゅ「全員で四十五人。一グループ三人から六人です」

虎太郎「なるほど。それなら一グループにつき一部屋を用意しておけばいいようだね。提案を受け入れるよ」

虎太郎「その代わり一つだけ」

にこ「は、はい」

虎太郎「あいつも必ず観に来る。今見せられる最高の物を出して欲しい」

にこ「SMILEはいつでもその時その時の最高を魅せてます。パパと虎太郎さんがくれたチャンス物にしてみせます」

虎太郎「楽しみにしているよ」

にこ「はい! ただ、虎太郎さんの許可を取ってからと思ってまだ参加の呼びかけをしてないんです」

にこ「もしかしたら参加グループが減る可能性もあります」

虎太郎「なるほど。何か変化があったら電話でもメールでも連絡をくれれば構わないよ」

にこ「ありがとうございます」

こころ「にこにーとあんじゅちゃんのライブをこころも見に行くの!」

ここあ「ここあも見に行くんだよ!」

にこ「そうね。ママが無理でも亜里沙か雪穂ちゃんに頼んで――」
ママ「――その日は何があっても見に行くわ。そうじゃないとあの人に怒られちゃうもの」

虎太郎「直接会場にこれない人も考えてネットでライブ中継するつもりだけど、大丈夫かな?」

にこ「はい、その方が正直ありがたいです。ライブの翌日の正午が予選の終了なので」

あんじゅ「これでにこが最大の見せ場で失敗でもして一気に急降下だったら面白いよね」

にこ「変なこと言うんじゃないわよ」

あんじゅ「大丈夫だよ。私が言う分にはフラグは立たないから」

にこ「そんなのわかんないでしょ!」

あんじゅ「MCだけが心配だよ。凛ちゃんの加入の時だって一番いいシーンなのに『SMILEへようこう』だったし」

にこ「ぐっ……誰にだって失敗くらいあるわ」

あんじゅ「にこの失敗回数と私の失敗回数を比べてみたら圧倒的だよね。今までの洗剤と新しい洗剤並だよ」

にこ「そんなに差があるわけないでしょ! 話を盛ってるんじゃないわよ、この愚妹!」

――翌日 午前 部室 三年生組

にこ「それで午前中に呼び出すなんて何の用よ」

絵里「予選も本格的になることだし、そろそろ話をしてくれてもいいんじゃないかと思ってね」

にこ「話って何よ?」

あんじゅ「もしかして《あの事件の話》なんじゃないかな?」

にこ「あの事件の話?」

あんじゅ「神田明神でお百度をしていた女の子が行方不明になったっていうあの事件。にこはその真相を知ってるんでしょ?」

にこ「行方不明になった女の子なんて居ないわよ! あんたじゃないんだからあんな所でお百度にチャレンジする馬鹿はいないわよ」

絵里「にこ、真面目な話よ」

にこ「肝心な用件言われないと分からないわ」

絵里「綺羅ツバサとの出会い。いい加減私にも聞かせてくれていいでしょう?」

にこ「私にもって話したでしょ」

絵里「あんなの話した内に入らないわよ」

あんじゅ「それは言えてる。にこってその時のことを詳しく聞かせてくれたことないよね」

にこ「小学五年生の話なんて詳しく話す必要ないでしょ。あんた達のその頃の話だって私も聞いたことないし」

絵里「聞きたいなら聞かせるわよ。その頃の私はにこと同じで夢に向かって努力をしてたわ」

絵里「あのトウシューズを履いてね。コンクールに出ては一位になれずに泣いてた」

にこ「いや、別に聞きたいとは言ってないわよ。それに今は新しい夢ができたんだからそれでいいじゃない」

絵里「自分で不公平アピールしてきたんじゃない」

にこ「だからって人の語りたくない過去まで無理に聞きだそうとしないわ」

あんじゅ「にこはツバサちゃんとの出遭いは語りたくない過去じゃないから語ってくれるってことだね★」

にこ「……別に詳しく聞かせる程の内容じゃないのよ」

絵里「それでも私とあんじゅはその時のことを詳しく聞きたいの」

にこ「しょうがないわねぇ。別段面白い話じゃないから期待するんじゃないわよ」

あんじゅ「大丈夫だよ。にこに面白い話を期待する人類なんて居ないから!」

絵里「そうね。滑るからこそにこだものね」

にこ「ぐっ……こほんっ。キラ星と出会ったのは小学五年生の四月。週二のレッスンが始まった最初の日ね」

にこ「芸名をイメージさせる為に本名は伏せたまま、スクールネームというので呼び合うって変な決まりでね」

にこ「私はにこにー。ツバサはキラ星。といっても初日から話したりはしなかったのよ」

にこ「というか、最初の内は色んなレッスンをすることに必死で他の子を気に出来る余裕がなかったの」

にこ「当時の私はアイドルになるってことがとても重要なことだったから。パパが望んでくれたことを叶えたかったから」

にこ「二ヶ月目で漸く慣れてきてキラ星に目がいったの。あ、これは別に特別な雰囲気が出てたってわけじゃないわ」

にこ「最初は一人だけすっごい不機嫌そうで拗ねてる感じでさ。わざわざレッスンに来てるのに何でだろうって不思議だった」

にこ「今まで自分のことに精一杯だったけど、一度気になるとモヤモヤするでしょ?」

にこ「それに、笑顔じゃない子を笑顔にしたいっていうのが私の最優先事項だったってのもあるわ」

にこ「でも最初話掛けた時はすっごい不機嫌そうな顔されてどうしようかって思ったけどね」

にこ「でもアイドルになったらお客さんがどんな不機嫌でも笑顔に変えられなきゃ嘘でしょ?」

にこ「だから毎回話しかけるようになって、二人組のレッスンも一緒にやって、不機嫌な顔も少なくなっていったの」

にこ「といっても六ヶ月目に近かったけどね。真っ直ぐな性格だけあって、一度曲がると強情みたいでさ」

にこ「でも、半年っていう遅れを取り返すみたいにグングンと頭角を露わにしていったわ」

にこ「一度大きなミュージカルの子役のオーディションを受けることになったのよ」

にこ「初めてのことに二人してかなり緊張したわ。お互いにくすぐりあって緊張を解いたのを覚えてる」

にこ「オーディションには落ちちゃったんだけど、もし最初からキラ星がやる気だったら間違いなく受かってた」

にこ「悪戯っぽく笑う笑顔がすごく素敵でね、カリスマ性と相まって破壊力は抜群だったわ」

にこ「今は更に格好良さもプラスされてるけど。で、レッスンが終わる頃になってキラ星がスクールアイドルのことを口にしたの」

にこ「その時はもうにこみたいな子じゃ本物のアイドルにはなれないって悟ってた」

にこ「だからせめてスクールアイドルとして輝く姿をパパに見せようって。だからスクールになることをキラ星に告げたの」

にこ「そうしたらキラ星もスクールアイドルになるって答えてね。後は知ってのとおりよ」

にこ「スクールアイドルとして再会しようって約束して別れたの。その時から今までキラ星と会ったことはないわ」

にこ「ま、大体こんなところよ。別段面白い話じゃないでしょ?」

絵里「にこにとってスクールアイドルにはそういう想いが込められてたのね」

絵里「だからあんじゅ以外の部員が辞めても諦めなかった。それなのに私はそんなにこに酷いこと言ったわね」

絵里「解散するのが一番いいだなんて。過去の自分を叩いてやりたいわ」

にこ「あれは無神経にバレエのことを口にした私が悪いのよ」

あんじゅ「そうだね。にこが悪い」

にこ「あんたもこっち側だったでしょうが!」

絵里「ふふっ。人選ミスだったのは間違いないわよね。邪道なしでの交渉をにこがするだなんて」

あんじゅ「あの頃の私は情緒が不安定でにこのことしか見れてない状態だったから交渉は無理だったよ」

にこ「冗談なく痛い子だったものね」

あんじゅ「そうだね。でも、人に黒歴史ありって昔の人も言ってたし」

にこ「黒歴史って単語がある時点で昔じゃないわよ」

絵里「三日前にも思ったけど、その頃のあんじゅが全然想像つかないわ」

あんじゅ「兎に角私は今も昔もにこが大好きってことは変わらないにこ♪」

にこ「はいはい」

絵里「なんとしてもこの大合宿とライブを成功させてラブライブ本戦に繋げないとね」

あんじゅ「邪道シスターズは闇属性だから下克上得意そうだし、しっかり成功させないとね」

絵里「それもそうね。私も一度くらい暗躍してみようかしら」

にこ「絵里には向いてないわよ。そういうのは」

絵里「もうすぐ出逢って二年になるのよ? かしこいエリーチカになら出来るわ」

あんじゅ「んー、それが出来たとしても宣言しちゃうと暗躍の効果が薄れると思うけど」

絵里「……」

絵里「うわぁ──ん! エリチカ、おうちに帰る!!!」

あんじゅ「言葉とは裏腹に言い終わると同時にドヤ顔されたけど、どう反応すればいいのかな?」

にこ「絵里は疲れてるのよ。もしくは憑かれているのよ、そっとしておきましょう」

絵里「違うわよ! 『にこぉ』や『ほむぅ』に対抗したオリジナルをきちんと考えた成果じゃない」

あんじゅ「自分でかしこいって言った後だから余計にくる物があるね」

にこ「まぁ、こういう残念な部分が我等が長女だもの」

あんじゅ「それもそうだね。完璧だったらにこがコンプレックス感じて」

あんじゅ「うわぁ──ん! にこにー、おうちに帰る!!! とか言い出してたもんね」

にこ「そんなダサいこと言わないわよ!」

絵里「……ダサい」

あんじゅ「にこが酷いこと言うから絵里ちゃんが落ち込んじゃったじゃない」

にこ「あんたの前フリが悪いんでしょ!」

あんじゅ「大丈夫だよ、エリーお姉ちゃん。亜里沙ちゃんの受けはいいと思う」

にこ「それってフォローなの?」

絵里「鋭いわね。亜里沙にはとても好評だったから良いと思ったのに」

にこ「ま、そういう残念さを隠さずに前に出した方が応援したくなるし、そういう意味でなら私はいいと思うわ」

あんじゅ「ある意味でにことキャラが被るけどね」

にこ「だからいい加減にこが残念キャラってイメージ払拭しなさいよ!」

あんじゅ「三つ子の魂百まで諺があるよね。生まれ持った性分は拭うことは出来ない呪いみたいなものなの」

あんじゅ「いくらにこが自分は残念じゃないと思い込んでも、絶対に変わることはできないんだよ」

にこ「ちょっと待ちなさいよ! 海未のファーストライブの時は三つ子の魂百までは嘘だって言ってたじゃないの」

にこ「思い込みで変われる物も変われてないだけって」

絵里「確かにそう言ってたわね。私も同意したのを覚えてるわ」

あんじゅ「にこは思い込みの深さが刷り込みレベルだからしょうがないね」

にこ「なにそれ!?」

絵里「あんじゅの言いたいことは分かるわ。ツバサさんのことが一番其れに当てはまるもの」

にこ「……」

絵里「何度も言うとにこが拗ねて意固地になっちゃうからあんまり言わないけど」

絵里「不器用な次女が私より先に夢を叶えてくれることを祈ってるのよ。まずは夢を取り戻すのが先だけど」

にこ「私はそんな勝手な期待に応えられないわよ」

絵里「分かってるわ。今集中すべきはラブライブ本戦に出場することだものね」

あんじゅ「それなんだけど、他校の子達を出迎える準備が出来たら新曲を作らない?」

にこ「相変わらず唐突ね。凛の練習も考えると今から新曲はかなり厳しいわ」

絵里「そうね。海未だって本戦で初披露するって曲だと頭を悩ませて簡単に作れるものでないでしょうし」

絵里「その所為で練習に集中出来なかったら本末転倒になっちゃうわよ」

あんじゅ「うん、だから歌詞をみんなで考えてみるのはどうかな? SMILEとして出場する最初で最後の大会だもの」

にこ「気持ちは分かるけど……穂乃果ってすごいセンスがないのを忘れたの?」

あんじゅ「……あっ」

絵里「ふふふっ。じゃあ、一応みんなで作詞することを提案しておきましょうか」

絵里「もし完成することが出来たらあんじゅが作曲。間に合えば穂乃果のデザインとにこの衣装作成」

絵里「それから振り付けの練習と歌の練習。って、こうして挙げてみるとやはり無謀感が凄いわね」

あんじゅ「だけど私達ならなんとか出来る気がするから」

にこ「『歌姫より...』の練習もあるし、凛は陸上部の夏の大会もあるし。現実的じゃないけどね」

にこ「でも、そういう無謀をひっくり返してこその私達ってのもらしいわよね」

絵里「そうね。諦めから入るのは間違いだってにこが反面教師してるのに弱気だったわ」

絵里「善は急げって言うし、さっそく三人にメールを送っておくわ」

あんじゅ「うふふ。二人共ありがとうにこっ♪」

にこ「やれやれ。色々許可や参加を貰う前から更に難易度を上げるとか私達って邪道じゃなくて只のMなのかもね」

あんじゅ「え、私は絶対にSだよ。だからMのにこと相性バッチリなんだよ★」

絵里「私はどっちでもないわね。きっと普通よ」

にこ「その場のノリってものをもう少し大切にしなさいよ!」

あんじゅ「いや、この方がMのにこは悦ぶのかなーって」

にこ「ぐぬぬ!」

絵里「よしっと、メール送信完了。それでこの後はどうする?」

にこ「……私は理事長に挑んでくるわ。あんじゅはいつものように美術部にポスター依頼してきて」

にこ「今回のポスターはネットの広報用に使うのと、大会として大々的に使うのの二種類依頼になるわ」

にこ「今までと違ってSMILEのみをイメージしたものじゃなくて、全てそっちのセンスに任せるって伝えておいて」

あんじゅ「了解!」

にこ「絵里は各校の連絡先を調べておいて。許可が下りたらいつでも連絡できるようにね」

絵里「ええ、任せておいて」

にこ「それじゃあ、各自行動を開始するわ!」

――にこVS理事長

理事長「それでお話というのはなんでしょうか?」

にこ「……はい」

理事長「矢澤さんが緊張してるなんて珍しいですね。まるで、あの時を思い出します。またサインが欲しいのかしら?」

にこ「いえ、今回は正々堂々真っ直ぐにお願いにきました」

理事長「子供の成長は早いものですね」

にこ「というよりも規模が大きいので正面から攻略する以外道がなかっただけです」

理事長「ふふっ。正直なのはいいけど、何を要求されるのか恐ろしくもありますね」

にこ「最大級の問題児として語り継がれる覚悟はできてます」

理事長「その言葉を聞いて一昨日来て下さいと言いたいけど、さすがに理事長という立場ではそんなこと言えませんね」

理事長「本題をお願いします」

にこ「来月の二十二日から三十日なんですが、スクールアイドルの合宿を考えています」

理事長「どんな大事になるかと思いましたが、それくらいでしたら許可の種類を書いてもらえれば大丈夫ですよ」

理事長「寝泊りは部室で――いえ、待ってください。SMILEの合宿と言わなかったことに意味があるのですね?」

にこ「はい。現在予選二十一位から三十位各校のスクールアイドルを合宿に招いて大合宿したいと思っています」

理事長「……前代未聞のお願いということですね」

にこ「そうです。泊まるということで家庭科室も使いたいと思いますし、空き教室をいくつか使わせて欲しいです」

にこ「勿論何かあった際は発案者でSMILEのリーダーである私が責任を取ります」

理事長「教師の方で問題児であれば記憶に残るという言葉を度々耳にしてきましたが、今それを強く実感しています」

理事長「家庭科室の使用ということは昼間は信用しても、夜は危険ですので監督する先生が必要となります」

にこ「そうですよね」

理事長「寝具は布団と枕とシーツは確かにありますが、洗濯やお風呂の問題もあります」

にこ「その問題は今はまだ対策を模索しています」

理事長「ということは勿論事後承諾ではなく、各校への連絡はまだしていないということですね?」

にこ「はい。今回の場合は事後承諾でなんて軽々しい真似は出来ませんから」

理事長「……事後承諾でなくても頭の痛い問題ですね」

にこ「申し訳ありません」

理事長「こればかりは私が許可を出せば済むという問題ではありません」

理事長「ですが、他校の方の都合もあるでしょう。丁度明日の放課後に会議がありますのでそこで提案します」

にこ「ありがとうございます」

理事長「あくまで提案するというだけです。今回の会議で私はあなた達の味方を出来ません」

理事長「先生方の判断に全て任せる形になります。それでも構いませんか?」

にこ「はい! よろしくお願いします!」

理事長「あなた達がこの学院に活気を与えてくれました。結果がどうなるか分かりませんが、心情的に応援しています」

理事長「ただ、矢澤さんは幼い頃の穂乃果ちゃんに似ていますね」

にこ「穂乃果にですか?」

理事長「無鉄砲で自分のやりたいことを真っ直ぐやる。大人としてはハラハラさせられますけど」

理事長「ですが、それこそが子供の持ち味。もう直ぐ大人になってしまうとそういうことも出来なくなります」

理事長「悔いのないように精一杯今を突き進んでください。そして、責任は大人が取るものです」

にこ「……理事長」

理事長「スクールアイドルなんですから無駄なことを考えずに元気な笑顔で頑張ってください」

にこ「はいっ!」

――美術部依頼 あんじゅ

美術部長「いつもの依頼じゃないの?」

あんじゅ「今回はいつもよりちょっと規模が大きくて」

部長「学園祭みたいな感じで講堂使ってライブするとか?」

あんじゅ「ううん、今回は参加グループの数も違うんだよ」

部長「つまり?」

あんじゅ「最大参加グループ十。お客さんの数は推定いっぱい。野外ライブ用の特設ステージで行われるの」

部長「……は?」

あんじゅ「縁あってスクールアイドルの規模から掛け離れた場所でライブ行えることになって」

部長「まっ、待って待って! そんな大舞台のポスターを描けっていうの?」

あんじゅ「うん。ネット広報用の物と、実際に会場とか色んな場所に張る用のポスターと最低二種類」

部長「……い、あの……えぇー」

あんじゅ「駄目、かな?」

部長「ダメっていうか、だって……あの、私達が描いていいの? だって、こんな大切な――」
あんじゅ「――大切だからこそ、お願いしてるんだよ」

部長「えっと、だとしても私達なんかじゃきっと色々と批判されるだろうし」

あんじゅ「そんな外野の声なんかどうでもいいの。私達は貴女達に描いて欲しいの」

あんじゅ「というか、SMILEを一緒に立ち上げたんだから最後まで責任取って貰わないとね♪」

部長「ゔ……それを言われると弱いわ」

あんじゅ「バラバラにはなっちゃったけどさ、連れていきたいんだ。初期のSMILEの想いも一緒に」

あんじゅ「ラブライブ本戦っていう全国の舞台に。最近漸くにこが吹っ切れたけど、ね」

あんじゅ「それにさ、批判されない完璧なポスターを作製すればいいんだよ。それなら何も怖くないでしょ?」

部長「簡単に言ってくれるなー」

あんじゅ「芸術は込める想いでその見かたを変えるって教えて欲しいな」

部長「そんな口説き文句言われたらやらないなんて言えないよ」

あんじゅ「うふふ」

部長「あの子もSMILEのそれもあんじゅちゃんの口説き文句付きとなったら恥ずかしいとか言わずに描いてくれるだろうし」

部長「それに、私達なんかよりずっとそっちの方が忙しいんだろうし」

あんじゅ「ラストスパートって感じかな。この夏を終えれば緩やかに卒業を視野にって感じ」

部長「じゃあ、私もそのラストスパートに一枚噛んで頑張らせてもらうよ」

あんじゅ「うん、お願いね!」

――火曜日 お昼休み 理事長室 にこあん

理事長「結果をまずは教えます」

にこ「……ゴクッ」

理事長「会議の結果、合宿の件の許可がおりました」

にこ「本当ですか!?」

理事長「ええ、本当です。最初は難色を出していた先生方も多かったのですが、山田先生と井上先生の説得で承諾しました」

あんじゅ「山田先生と井上先生が」

にこ「井上って、うぅん! 井上先生って学年主任のあの井上先生ですか?」

理事長「うちの学院に井上先生は一人しか居ませんよ」

にこ「……すいません、意外だったもので確認を」

理事長「井上先生はこの学院の元生徒ですから。思い入れが強いということでしょう」

理事長「もし井上先生が反対派だった場合はまず間違いなく今回の件は許可がおりなかった筈です」

あんじゅ「学年主任だけあって教師陣の人望や発言力があるってことですね」

理事長「ええ、そういうことです。山田先生も人望はありますが、発言力という意味ではまだ若い先生ですから」

理事長「音ノ木坂体験も井上先生だったからこそ通ったんですよ。きちんとお礼を言っておいてくださいね」

にこ「そうですか、分かりました」

理事長「許可が出た肯定も大事ですが、当番制で寝泊りする先生達にもお願いしますね」

あんじゅ「はい、当然です」

理事長「ただ寝具を干したり空き教室の掃除をするのはあなた達任せになります。食器類や洗剤とスポンジもですね」

にこ「はい、最初からそのつもりです」

理事長「後は参加する人数の最終する人達の名前と学校名を記入して提出してください」

理事長「他の書類もありますが、今回は頑張りに免じて私が書き込んでおきましょう」

理事長「これは他の先生方には内緒ですよ」

にこあん「ありがとうございます!」

理事長「いい返事ですね。それでは色々とあるとは思いますが頑張ってください」

――SMILEの軌跡 放課後 廊下 にこあん

あんじゅ「無事に許可が下りて良かったね」

にこ「山田先生には私がお礼に行くわ。あんじゅは井上に挨拶してきて」

あんじゅ「こういうのは部長が誠意をみせてお礼に行く場面だよ」

にこ「前にも言ったでしょ? 私あの先生苦手なのよ」

あんじゅ「成績が悪いから学年主任の先生に苦手意識を抱くんだよ」

にこ「得意不得意ってのは生まれながらに差があるのよ。それを平均的にしようとする学校のシステムが駄目なの」

にこ「そんなやり方を時代変わっても続けているから、生徒の心が歪んだりするのよ」

あんじゅ「自分の問題より大きな問題を扱うことで、あたかも些細な問題であるかのように思わせる話術だね」

にこ「くっ」

あんじゅ「赤点だけは取らないでね? それを理由にラブライブ出場を剥奪されたら全て水の泡だから」

にこ「大丈夫よ。苦手だからって目を背けたりなんかしないわ。穂乃果と凛の悪い手本になりたくないからね」

あんじゅ「流石にこにー部長」

にこ「あんたに部長って言われるとからかわれてる気がするのよね」

あんじゅ「そんなことないにこ♪」

にこ「勉強も今から追い上げてするように言わないとね。特に凛は掛け持ちしてるから大変だろうけど」

にこ「練習時間を少し削ってでも練習の時間を取っていきましょう」

あんじゅ「それがいいね。にこと穂乃果ちゃんのは私がみればいいし、凛ちゃんのは海未ちゃんにお願いすればいいしね」

にこ「そうね。絵里は元々予習復習してるから心配ないし」

あんじゅ「それはそうとして、後は合宿の準備の予定も切り詰めていかないとね」

にこ「そうね。出来れば私とあんたで用意出来るように長い予定にしないとね」

シカコ「こんにちは、にこ先輩にあんじゅ先輩」

あんじゅ「あっ、シカちゃん。こんにちは」

にこ「元気そうね」

シカコ「大きな合宿をするという話しを聞きましたよ。陸上部も私の権限でお手伝いします」

にこあん「え?」

部長「待って待って! まだ夏の大会終わってないから私が部長だから! 権限は私にあるから!」

シカコ「なんですか。まだ部長の座を譲る気がないんですか?」

部長「当然でしょうが! でも、練習に差し支えない程度なら充分に力になるわ」

にこ「それはすごく嬉しいけど、いいの?」

部長「気持ちを切り替えるという意味ではそういう手伝いはメンタル的にも助かるわ」

「待ちなさい! 陸上部だけに格好良い真似はさせないわ」

「ええ、私達も当然ながら力を貸します」

あんじゅ「あれは! サッカー部とバレー部の部長さん」

バレー部「元々補欠もいないようなカツカツな状況だったのを音ノ木坂体験のお陰で今は二軍も居るくらいですからね」

サッカー部「私達なんて十一人居なかったからミニゲームしか出来ない状況を救われたのよ」

「みんな考えることは一緒ね」

「当然だよ。この学校が賑やかになったのはSMILEのお陰だもん」

「それを私達が特に実感している」

あんじゅ「バトミントン部に卓球部にバスケ部に剣道部に弓道部の部長さん達まで続々と集結してる」

にこ「部長会議なんて私は聞いてないけど」

美術部「にこちゃん、あんじゅちゃん。集まってるのは運動部だけじゃないよ!」

あんじゅ「SMILEの立ち上げメンバーにして現美術部部長!」

にこ「なんであんたはさっきから実況役になってんのよ」

あんじゅ「いやだってなんか凄いから。まるでハガキ子マッハ2の最終回みたいだね」

にこ「なにそれ?」

あんじゅ「そんなことより見て、放送部一年にして見事部長の座についた期待のルーキー」

あんじゅ「学園祭で連続で人形劇を出して本当に料理が出来るのか謎のクッキング部」

あんじゅ「それから仕入れる本が部員の好みに偏る図書部に動かざること山の如しを地で行く登山部まで!」

あんじゅ「何故この学校にアルパカが居るのか分からないけど居るんだから飼育しよう部までいるよ」

にこ「部の名前が説明的かつ長すぎるわよ!」

「私も居るわ!」

あんじゅ「SMILE立ち上げメンバーが一人。受験なんて何のその、ウェイトレスをしながら社会勉強をしてる、」
ウェイトレス「しーっ! 学校には内緒だってば!」

元部員「そしてSMILE立ち上げの最後のメンバーであり、音響と照明を同時に操作する帰宅部代表!」

にこ「自分で自己紹介してるし!」

「アイドル研究同好会を立ち上げた時に同じに同好会を立ち上げて部にした私達も居ます」

にこ「誰だっけ?」

あんじゅ「にこってば酷い。ロボット部だよ」

ロボ部「合宿でホスト側になってゲストを迎えるんですよね? でしたら是非試作ロボ三号通称サンちゃんの出番です」

にこ「ネーミングセンスがアレだけど、何だか凄そうね」

ロボ研「ええ、こないだの春に何故か書類審査で落とされたのですがサンちゃんは自慢の娘です」

あんじゅ「どんな機能が付いてるの?」

ロボ部「一定のリズムでオモチャのタンバリンを叩けるという優れものなんですよ!!」

一同「……」

ロボ部「驚きで声も出ないようですね。そうでしょうそうでしょう。サンちゃんは素晴らしいのです!」

にこ「い、いや……。それって私達が生まれる前からおもちゃ屋さんで売ってるでしょ」

ロボ部「売ってるからなんです! 自分達で作れるのとは別物です。見た目は無骨ですが、サンちゃんは可愛いです!」

にこ「一番癖が強いわね。恐るべしロボット部」

「……とても個性的で羨ましいです」

にこ「うわっ! びっ、ビックリした」

あんじゅ「音ノ木坂学院を裏から操る組織を自称しているけど、影の薄さはピカイチのオカルト研究部だね」

あんじゅ「それから書道部にコンピュータ部に珠算部に合唱部に音ノ木坂研究同好会にカードゲーム愛好会にまで」

にこ「聞いたことがないのも幾つかあるわね」

あんじゅ「どうして音ノ木坂オール部の部長面々がどうしてここに?」

にこ「そんなの簡単でしょ。さっきからその目立つ金髪がチラチラと見え隠れしてるのよ!」

「ゲェーーーーーー!」

あんじゅ「あ、あれは会長超人・かしこいかわいいエリーチカ!?」

にこ「超人って、今度は何が元ネタよ」

絵里「なぁんだ……バレちゃってたのねぇ。私の正体に気付いちゃったのなら、До свидания.」

「それにしても、この会長ノリノリである」

にこ「ダビスタニャ? 競走馬を育ててどうするのよ」

あんじゅ「ダスヴィダーニャだよ。ロシア語でさよならだった気がする」

絵里「また会いましょうの意味もあるわ」

にこ「生徒会の仕事が忙しいんじゃなかったの?」

絵里「本格的に忙しくなる前に決めることを決めておかないと身動きが取れなくなるからね」

絵里「ここに居る部長連盟は夏の大合宿の為に、来るSMILEのラブライブの為に力を貸してくれる同士よ」

にこ「あんたね、生徒会長が一つの部に介入するようなことしちゃ駄目よ。寧ろより厳しくするくらいじゃないと示しが」

絵里「私から話をした訳じゃないわ。然る部が今回の件をいち早くキャッチして裏で手を回したみたい」

絵里「私はその話し合いの場を作る為にこうして集まってもらうように声を掛けただけよ、混乱を招かない為にね」

あんじゅ「ということは皆が自分の意思で応援してくれたってことだね」

にこ「」

絵里「ええ、改めて感謝するわ。本当にありがとう」

部長「持ちつ持たれつ。伝統しかない学校なんて言わせない為にも力合わせていかないとね」

弓道部「以前にも言ったけど今はまだ弱小。でも、園田さんの教えのお陰であと二年もすれば形になって結果を紡いでくれると信じている」

剣道部「私達はただの肥料でいい。でも、それはあくまで花が実れる花壇があってこそ」

卓球部「花壇である学校がまた生徒数が少なくなって廃校なんて噂が立ったら最悪っしょ」

バトミントン部「で、あるならば。注目度の高いSMILEには結果を残して貰わねば困る」

オトノキ研「元々この敷地の使い道がなかったことから国立の学院が誕生したんです。廃校でFINなんて美しくないです!」

カード「いつか母校を訪れた時、部になっていることを信じて。だから力になりたいんです」

クッキング部「是非とも学祭の人形劇の伝統を見る側で体験していきたいし」

元部員「いやいや! 料理を提供しようよ」

オカ研「私達の部が音ノ木坂を組織化している昨日を迎えたいですから」

あんじゅ「あははっ。もう応援なのか自分達の願望なのか分からないね。……にこ?」

にこ「……っ。な、なによぉ」

あんじゅ「あ~もう。こうならない為にシリアスブレイクしてたのに。ほら、にこおいで~」

にこ「ぎゃっ! ――うぅっ」

あんじゅ「よしよし。にこは敏感だからこういう不意打ちには弱いもんね。早く泣き止もうね。いいこ~いいこ~」

にこ「っぐ、うっ……な、な゙いでないわ゙よ」

絵里「……。さ、皆乙女の情け。見ないであげて。会議室の方に案内するわ」

絵里「あんじゅ、私がアイドル研究部の代表として話はまとめておくから安心して」

あんじゅ「うん、よろしくね」

にこ「まっで! わだしも」
あんじゅ「はいはい。にこはまずはその涙を全部出し切ってからにしようねー♪」

絵里「それからにこ。こないだも言ったけど、これがにこのカリスマ性の一欠片。だからもっと自信を持って。じゃあね」

あんじゅ「流石エリーちゃん。決める時はビシッと決めるね」

にこ「ひっぐ、うっく」

あんじゅ「にこは一杯頑張ってきた。色んなところの問題に首を突っ込んで。引っかきまわして。賑やかにしてきた」

あんじゅ「その過程を受け入れてさ、巨大化して必殺サニーサイドアップを撃てるようになろう!」

にこ「うでるかっ!」

あんじゅ「うふふ」

「ふむふむ。にこあん百合説は八割方信憑性がありっと、メモメモ。写真一枚失礼します」

パシャッ!

「また美味しい記事をありがとうございます。新聞部も会議に出るのでまたお願いしますね」

にこあん「……」

あんじゅ「いやぁ~一番の曲者は新聞部の部長さんだったね」

にこ「ウワアアア――ン!」

あんじゅ「あぁっ。色んな意味で緊張の糸が切れてにこが子供泣きに!?」

あんじゅ「ひゃうっ! くすぐったいから顔をぐりぐりしないで。ねぇにこってば聞いてるにぽぉ?」

にこ「うぇぇん!」

あんじゅ「誰かたすけて~」

にこ「びえぇぇぇぇん!」

あんじゅ「どなたかガラガラかミルクを持ってる方はいませんかー!」

穂乃果「あれはにこちゃんとあんじゅちゃんの新手のコントなのかな?」

海未「こんな廊下でコントをしたりは……いえ、否定できないですね」

あんじゅ「あっ! 穂乃果ちゃんに海未ちゃん! ちょっと助けてよ」

海未「このまま巻き込まれると厄介なので先に行っておきましょう」

穂乃果「そうだね。凛ちゃんと先に練習しておこうか」

海未「ええ、それが一番ですね」

あんじゅ「ああ゙っ! SMILEの絆を疑った瞬間だよ。もうにこってば泣き止んでよ~。笑顔の魔法☆にっこにっこにー♪」

にこ「ひっぐ、うっぐ、うっう~……うあぁぁぁあああん!」

あんじゅ「逆効果だし! 出逢った時のにこの嘘吐き~!」

――水曜日 お昼 部室 SMILE

海未「無謀もここまで通り越すとなんとかなりそうだから困ります」

穂乃果「やれると信じないと何も始まらない。それを穂乃果に教えてくれたのはSMILEだもんね。頑張らないと!」

凛「今から更にもう一曲……自信があるとは言えないけど、穂乃果ちゃんの言うとおりだよね」

絵里「みんながやる気出してくれてありがたいわ」

あんじゅ「できるのかどうか分からないけどね。でも、私達の歴史をラブライブに刻みたいから」

にこ「まだ本戦出場の権利すら決まってないけどね」

あんじゅ「にこってばそんなことを言いながらも口元緩んでるにこ~」

にこ「これはお弁当のから揚げが美味しかっただけよ」

絵里「ふふっ。子供の言い訳じゃないんだから……でも、本当に美味しそうね」

にこ「交換はしないからね。で、昨日の話し合いだけど結局どうなったわけ?」

絵里「今回のことの告知はコンピュータ部がHPを製作してくれることになったわ」

絵里「ポスター依頼はいつもとおり美術部が。一応迷ったりしないように周辺の地図等はオトノキ研が製作してくれるわ」

絵里「料理のお手伝いとしてクッキング部が朝とお昼メインとして加勢してくれるから助かるわ」

絵里「他の部の人は掃除や布団干し等の雑用を手伝ってくれるという感じね」

海未「空き教室の掃除まで手伝ってもらえるのは助かります」

絵里「そうね。撮影関係は新聞部が機材を貸してくれるということだから」

穂乃果「こういうお祭りの準備中の屋台とか見た時のドキドキって言葉に出せないよね!」

海未「言葉に出せないと言いながら例えを使ってるではないですか」

凛「部長さんに聞いたところ、陸上部の合宿もあるから楽しみが二倍だよ♪」

にこ「となると、凛の体調のことも考えて勉強の時間をきっちりと取り入れないとね」

あんじゅ「にこの口から勉強が出るなんて……成長したんだね」

にこ「学生の本分を疎かにするのは愚かな極みだもの。凛は私と穂乃果と同じ臭いがするし」

凛「……なんのことだか分からないにゃー」

海未「どうやら八月三十一日が近くなってから泣きを見るタイプで間違いないようですね」

穂乃果「うっ……夏休みは嬉しい単語なのに、その日付を聞くと胸が痛む」

凛「分かる、分かるよ穂乃果ちゃん!」

にこ「スクールアイドルは本物のアイドルとは違うからね。そういうのをきちんとしないと廃部にされるわ」

にこ「だからって別に勉強好きになれってまでは言わないけどね。やらなきゃいけないことは早めにこなす方がいい」

にこ「どんなトラブルが待ち受けてるか分からないからね」

絵里「どうしてかしら。まともなことを言ってたのに何故かツッコミを入れようとしてしまったわ」

あんじゅ「今のはにこじゃなくてエリーちゃんが言ってこそだった気がするからね」

にこ「ふんっ。自分で言ってて私もそう思ったわ!」

海未「自覚しながらであるなら先ほどの言葉にも意味があります」

絵里「穂乃果と凛は今のにこの言葉を忘れないように。来年は穂乃果が、再来年は凛が自覚して使えるように祈ってるわ」

穂乃果「凛ちゃん。ファイトだよ!」

凛「穂乃果ちゃんもだって!」

海未「やれやれ。穂乃果の精神が成長するにはまだまだ時間が掛かるようですね」

あんじゅ「ゆっくりと成長出来るのは贅沢なことだと思うよ」

海未「そうでしょうか? 穂乃果の場合はただの甘えのような気もしないでもないですが……」

絵里「海未の穂乃果に対する厳しさは相変わらずね」

にこ「何にしろ一緒に成長してくれる人が居るっていうのは幸せなことよ。これは凛にも言えることだけど」

凛「うん! 学校は違うけどかよちんと真姫ちゃんと一緒に成長するんだ!」

絵里「じゃあ勉強面でも負けないようにしないとね。嫌なことを努力することを覚えれば今以上に成長出来るから」

海未「上手いこと言いますね。穂乃果」

穂乃果「あ~あ~! 何も聞こえな~いっ!」

海未「子供ですか」

にこ「取り敢えず報告としては今日の放課後に各校に連絡してみるつもりだから」

にこ「提案を受け入れてくれるかどうかは相手次第。内容が内容だけに直ぐに返事するかどうか分からないけど」

海未「そうですね。それに、まだ問題点がいくつか残っていますからね」

絵里「問題点は洗濯・お風呂・材料費ね。最後の材料費は部費が残ってるからそれを当てるにしても人数が多いから」

にこ「最悪は参加者のカンパを求める感じでいくわ。快適にを目指したいけど背に腹は代えられない」

あんじゅ「その辺は割り切っていこう」

絵里「そうね。洗剤とか持参してくれると助かる話も伝えてもらえる?」

にこ「ええ、かなりホスト側としては微妙かもしれないけど。でも、ライブ会場のことを考えれば充分よね」

穂乃果「そうだよ。普通じゃありえない経験が出来るんだもん。寧ろお小遣い全払いするより価値があるよ」

凛「確かにそうだよね。ただ、移動費を考えると遠くの人は少し厳しいよね」

海未「そうですね。甘えになりますが同じ東京都のグループの方にお願いしたいですね」

にこ「そうね。とにかくまずは連絡をしておくことが先決だから問題点の解消は追々の課題としましょう」

絵里「煮詰めてもいい案が浮かぶわけじゃないものね。今はお弁当を食べて栄養補給をしましょう」

穂乃果「そうだね。夏休みの宿題のことを今から考えたって胸が痛むだけだもんね」

凛「うんうん!」

海未「いえ、そこはずっと胸を痛めて覚悟を決めておいてください」

あんじゅ「勿論にこもね」

にこ「言われるまでもないわ」

絵里「色んな意味でみんなの覚悟が一つにならないと乗り越えられないわね」

海未「SMILEの真価を問うといった場面ですね」

あんじゅ「ちょっと中二っぽいけど、そうだね☆」

――放課後 部室

あんじゅ「いざ電話を掛けようとすると指が震えるのが分かった。震えているのは……私? にこは戸惑いを隠せない」

にこ「うっさいわね! あんたも早く練習に行きなさいよ」

あんじゅ「今練習に参加してもにこが気になって怪我するだけだよ。にこに傷物にされるにこ!」

にこ「わざと語弊がある使い方するんじゃないわ」

あんじゅ「んー? だったら傷物の正しい使い方って何か教えて★」

にこ「なんて厄介で面倒な妹なのかしら」

あんじゅ「にこは無駄に考え過ぎるんだって、いつも言ってるでしょ。能天気に電話すればいいんだよ」

にこ「馬鹿の考え休むに似たりみたいな言い方すると誤解されるでしょ」

あんじゅ「誤解する人間はここには居ないからへーきへーき♪」

にこ「……はぁ~。リラックスさせるならもう少しやり方があるでしょう」

あんじゅ「にこは甘やかすと駄目になる子だからね。スパルタでいかないと」

にこ「甘やかされてるあんたに言われたくないわ!」

あんじゅ「甘やかしてる筆頭のにこに言われたくない!」

絵里「……どんなやり取りしてるのよ」

あんじゅ「あれ、絵里ちゃん。練習は?」

絵里「三人共集中出来ないみたいだから、私が視察に来たの」

にこ「心配性な連中ばかりね。にこに任せておけば大丈夫だってのに」

絵里「みんなにこのことは信頼してるのよ? でも、時々盛大なミスをするから安心は出来なくて」

にこ「くっ!」

絵里「なんてね、冗談よ。信頼してるから心配しないで済むってわけじゃないでしょ?」

絵里「姉にとって妹はいくつになっても無条件で心配になっちゃうものよ」

あんじゅ「流石みんなのエリーお姉ちゃん」

にこ「いくつになってもって。あんたに妹扱いされるようになってどれくらいだと思ってるのよ」

絵里「姉妹にともに過ごした時間なんて関係ないの。亜里沙とだって数年一緒に住んで居なかったんだから」

あんじゅ「妹関係になると一気に残念化が進むエリーちゃん」

にこ「もう何でもいいわ。というか、こうなったらあんた等姉妹にも仕事を分配するわ!」

にこ「SMILEの名において各校に電話するのを手伝いなさい」

あんじゅ「始めから素直にそう言っておけばいいのに」

絵里「この素直にならなさがにこだもの」

にこ「うるさいニコ! グダグダ言ってる暇なんてないんだからね」

あんじゅ「ぐだぐだ~♪」

にこ「なんてムカつく妹なのかしら」

絵里「にこ。そんなグダグダ言ってる暇なんてないわよ」

あんじゅ「全くだよ。にこは隙あればグダグダ言ってるんだから」

にこ「何この理不尽!?」

あんじゅ「うっふふ」

絵里「ふふっ」

にこ「笑ってないで真面目にやるわよ」

あんじゅ「うん!」

絵里「ええ、任せて」

――部室前廊下

海未「どうやらこれで心配はなさそうですね」

凛「三年生組みは分かり合ってるって感じだよね」

穂乃果「来年は私達もこんな感じの三人になれてたら素敵だよね」

海未「そうなる為にも日々精進です」

穂乃果「海未ちゃんはあんじゅちゃんと自主的な朝練。凛ちゃんも陸上部で朝練。穂乃果も朝練した方がいいのかな」

海未「おや、自主的にそんなことを言うなんて成長しましたね」

凛「でも穂乃果ちゃんって朝が弱いんだよね?」

穂乃果「その分早く寝れば大丈夫……だといいなって」

海未「本気でするのであれば私達も手伝いますよ」

穂乃果「……海未ちゃんは容赦ないからなー」

凛「陸上部なら練習参加しても誰も文句言わないよ」

穂乃果「陸上部って練習が厳しいイメージあるし」

海未「三日坊主も裸足で逃げ出すくらいに口だけじゃないですか」

凛「穂乃果ちゃんって基本的に怠け者だよね」

海未「既に凛にすら見透かされてますよ」

穂乃果「じょ、冗談だよ。そうだね、海未ちゃん達の練習を体験して、陸上部の練習にも参加させてもらって」

穂乃果「自分に合いそうな方の練習に参加するようにするよ」

海未「今はその言葉を信じましょう。そして、もう心配する意味もないでしょうから屋上で練習を再開します」

凛「うん。今はいくら時間があっても足りないくらい。早くみんなに追いつかなきゃ」

海未「その意気です」

穂乃果「よし! 穂乃果もそろそろ本気モード発動するよ」

海未「ええ、期待しています。穂乃果の背中に見える羽根がレプリカではなく本物であることを」

穂乃果「うん。ことりちゃんに追いつかなきゃ!」

――家路

絵里「問題がもう一つ追加されたわね」

にこ「一校を除いて予想してた良好な反応だったわね」

あんじゅ「でも、こればかりは私達じゃどうしようもないし」

絵里「交通費の面がやはりネックだったわね。大きい学校なら部費の使用で賄えるけど」

にこ「でもなんとかしたいじゃない。廃校が決まって、最後の卒業生がスクールアイドルとしてラブライブ本戦に出場する」

にこ「ドラマみたいで素敵だもの。その光景を実際に見てみたいわ」

絵里「だからって本戦出場出来たらの場合の交通費を予選で使わせたら本末転倒じゃない」

にこ「分かってるわよ。……青森は近そうで遠いわね」

あんじゅ「こういう時に子供と大人のどうしようもない差を実感するよね」

絵里「移動できる範囲が圧倒的に違うからね」

にこ「その代わり大人は子供より自由が少ないもの。全部が全部いいって訳でもないわ」

あんじゅ「それは……分かってるけど」

絵里「私が連絡先を調べた時に学校の都合を調べておけばよかったわ」

にこ「それはにこの方よ。いくらA-RISEに集中してたとはいえ、そういう詳細を知らなかったなんて」

にこ「スクールアイドルファンとしては失格よ」

あんじゅ「今はそんなことを考えるより、どうにかすることを考えないと」

絵里「……そうね」

にこ「この問題と平行して他の問題も解決策を考えないと」

あんじゅ「新曲は難しいかもね」

にこ「そうね」

絵里「そんなこともないんじゃないかしら?」

あんじゅ「えっ?」

絵里「よくよく考えてみたら色んな問題をなんとかしてきたから今のSMILEがあるんだもの」

絵里「だったら今回の問題だってなんとか解決して新曲だって作っちゃいましょう」

にこ「そうね。弱気でいたら寂しがり屋な奇跡は逃げ出しちゃうものね」

あんじゅ「そうだったね。それに、真の絶望はこんなものじゃないもの。幸せ過ぎて忘れてた」

あんじゅ「よ~し! 夢の中でも解決策を考えてどうにかしよう!」

――絆は巡る 金曜日 商店街 にこあん

にこ「せっかくの機会なんだから全グループに参加して欲しいわよね」

あんじゅ「そうだね。まだ結果はどうなるか分からないけど、そういうのは関係ないもんね」

あんじゅ「ここで参加出来なくちゃほぼ終わりが決まっちゃうし」

にこ「どうにかしたいわよね。何も思いつかずに日数だけ過ぎてるけど」

あんじゅ「そうだね。それに廃校問題は音ノ木坂だって人事じゃなかったもんね」

にこ「私達の時は三クラスの三十人だから新入生が百人切ってた訳だからね」

あんじゅ「みんなが頑張ったから廃校の噂も何時の間にか消えてたけど」

にこ「あんじゅの言うとおりみんなで頑張って、みんなで誇れる母校を築いてるわよね」

あんじゅ「うん! にこが感動でわんわん泣いちゃうくらいにね」

にこ「あ、あれは忘れなさいよ」

あんじゅ「にこの涙は忘れられないにこよ☆」

にこ「そう言われると何度も泣いてるみたいじゃない」

あんじゅ「二十五回くらいかな」

にこ「思い切り捏造されてるじゃない。絵里の時と合わせて二回だけでしょ!」

あんじゅ「あと最低三回は泣きそうだね」

にこ「にこは強い子だからそんなに泣かないわ」

あんじゅ「フラグと言うまでもないフラグだー♪」

にこ「フラグじゃないわよ!」

あんじゅ「ついでに他の小さなフラグも立てておこうか。大人になったら会いに行きたい先生っている?」

にこ「……あんたってば卒業後にわざわざ会いに行きたい先生なんていんの?」

あんじゅ「当然だよ。やっぱり一番は井上先生かな」

にこ「なんで井上よ。あの先生堅物だからにこはわざわざ会いに行きたくはないわね」

あんじゅ「あの先生が居たから私達は今もSMILEを続けられてるんじゃない」

にこ「なにそれ!? どこ設定よ。にこの知らない間にどんな過去があったの!」

あんじゅ「も~。にこってば忘れたの? 音ノ木坂体験を許可するのに力になってくれたのが井上先生でしょ」

あんじゅ「ついこないだ理事長先生だって言ってたじゃない」

にこ「そういえばそうだったわね。嫌いな人の話題って自然と耳を素通りしちゃうし」

あんじゅ「にこってば失礼だよ」

にこ「だって苦手なんだから仕方ないでしょ。ま、音楽のイヤミー酒井よりはマシね」

あんじゅ「……にこ、基本的に歌が苦手だからしょうがないね」

にこ「スクールアイドルにそれは禁句でしょ!」

あんじゅ「でも一年生の時よりは上手くなったよ☆」

にこ「痛々しいからそんな安易なフォロー入れるんじゃないわよ!」

あんじゅ「さて、そんなことよりもどうするかだよね」

にこ「何も思いつかないわね。新幹線じゃなくて各駅で来たとしても相当な金額になるだろうし」

あんじゅ「そんな疲れた状態で来ても大変だろうしねぇ」

にこ「とはいえ、うちの部だって衣装代とか今回の合宿の分で寄付するお金もないし」

あんじゅ「こういう現実的な問題は策の打ち様がないから困るにこぉ」

にこ「結局考えれば考える程に絵里と同じように大人との差を嘆く結果になるのよねぇ」

あんじゅ「大人は何も分かっちゃくれないにこ!」

にこ「いつの不良の言葉よ」

お姉さん「あら、にこちゃんにあんじゅちゃん。何か困ったことでもあるの?」

にこ「げっ! 内田のお姉さんに遭遇してしまったことが一つの困ったことだけど」

お姉さん「中々の先制攻撃ね。別に私はにこちゃんの弱みなんて握ってないから平気よー。呉服屋のお婆ちゃんに睨まれちゃうし」

お姉さん「あのお方に睨まれたら最後、この商店街じゃ生きていけないからさ」

にこ「どんな殺伐とした商店街なのよ! にこのお婆ちゃんにそんな背景はない!」

あんじゅ「極道商店街。堅気が迷いこんだら最後……骨の一つも残らない」

お姉さん「それいいわね。でも、うちのとこは男が少ないからそういうの書いても盛り上がらないかなー」

お姉さん「で、何か困ったことがあるんでしょ? そんな風な声が聞こえたわ」

にこ「……お姉さんに相談したところで解決するとは思えない悩みなの」

お姉さん「何言ってるのよ。困ってる時に私に出遭う。それ即ち運命じゃない」

にこ「面倒だから相談するけど……」
お姉さん「……うんうん、なるほどなるほど」

お姉さん「そんなことで悩んでたの? だったら私が力になってあげる。私がどれだけ人の弱みを握ってると思ってるのよ」

にこ「それは人に誇ることじゃないニコ!」

あんじゅ「でも、なんとかなるんですか?」

お姉さん「簡単じゃない。六人ならバンでもいいけど、移動で疲れちゃ意味ないし、小型バスなら少しはマシでしょ」

にこ「小型バスって、そんなの借りるお金も運転手も居ないから困ってるんでしょ!」

お姉さん「こっちで用意するから平気よ、平気。運転手も初対面の男だと緊張するだろうから女を手配してあげる」

お姉さん「信用出来ないって顔してるわね。仕方ない、ちょっと待ってて。今から電話して予定組ませるから」

お姉さん「もしもし、何よ、電話出た途端にそんな嫌そうな声出すんじゃないって」

にこ「怪しいわ」

あんじゅ「何か裏があるってこと?」

にこ「なんせ内田のお姉さんは裏しかないような人間だからね」

あんじゅ「でも、以前カメラ借りたのってこのお姉さんなんだよね?」

にこ「まぁね。あの時は穂乃果加入の準備が押しててそんなこと考える余裕なかったし」

にこ「というか、新田電気のお姉さんを脅して借りたから感謝の念も薄いし」

お姉さん「別に無駄に大型貸せって言ってるんじゃないの。小型で許してやるって言ってるんじゃない」

お姉さん「はぁ~ん。そんなこと言っちゃえるんだー。この私に、この内田書店次期店長の私に!」

お姉さん「謝るなら最初から提案受け入れておきなさいよ。時間の無駄でしょ。これで全て0だから安心しなさい」

お姉さん「あ、運転手の手配だけど愛乃ちゃんに頼んでおいて。今度何か美味しい物奢るからって。日程はね」

あんじゅ「……邪道じゃなくて完全に脅迫」

にこ「だから言ったのよ」

あんじゅ「でも誰かの不幸の上に世界は成り立ってるわけだし。今のシーンは忘れよう」

にこ「そうね。精神衛生上それが一番だわ」

お姉さん「これでよしっと。後は詳しい住所を教えておいて」

にこ「分かったわ。向こうに連絡入れて、返事を貰ったら直ぐにお姉さんのお店に連絡入れる」

お姉さん「ここでアドレス交換した方が早いと思うけど」

にこ「破滅フラグに繋がりそうだから遠慮するにこ!」

あんじゅ「にこにしては賢明な判断」

お姉さん「寂れてきてた商店街に活気を戻してくれた英雄を破滅に導いたりしないわよ」

お姉さん「こう見えても感謝くらい出来るんだから。小さな店だし、そう遠くまでは続かないかもしんないけど」

お姉さん「それでも、一日でも延命出来ることが嬉しいのよ。それはうちの店だけじゃなくて、ここにある店全部に言えること」

にこ「……お姉さん」

お姉さん「ま、利用できる相手はとことん利用するけどね!」

あんじゅ「根っからの悪人気質」

にこ「見直して損した」

お姉さん「他に何か必要になるものがあるんじゃないの?」

にこ「あるにはあるけど」

お姉さん「ラブシステムだっけ? 大会に優勝すればここだって大いに賑わうかもしれないし、協力は惜しまないわよ」

にこ「ラブライブよ! だったら練習風景をネット配信するから、それ関係に必要な物が一式欲しいわね」

あんじゅ「使えると思った途端、相手関係なしに使うにこも流石としか言えない」

にこ「ちょっと待って! 私をお姉さんと同類みたいな言い方しないでよ!」

お姉さん「にこちゃんなら私すら利用する逸材だと信じていたわ」

にこ「何その唐突な師匠設定みたいなやつ!」

あんじゅ「うふふ。ともかくこれで懸案事項の一つが片付いたね。よかったよかった」

にこ「その前にさっきの発言訂正しなさいよね!!」

――土曜日 にこの部屋 朝 にこあん

にこ「うぅ~ん! はぁ~……なんか背水の陣って感じで、こうなると逆にスッキリとした目覚めになるわね」

あんじゅ「にこ、おはよう」

にこ「おはよう。……あんた、朝なのに目が充血してるわよ」

あんじゅ「色んなことに本腰入れる為に一気に願いの旅人最後まで書き上げたから」

にこ「無茶するわねぇ。ま、無事完結したのはおめでとう。最初の感じだと絶対にエタると思ってたのに」

あんじゅ「うん、そうだね。投げ出そうと思ったことは数知れないけど」

にこ「ラブライブ終わった後は卒業まで暇な時間も多くなるだろうし、次は荒れない作品書けばいいんじゃない」

あんじゅ「ううん。物語を書くのはこれでおしまいにする」

にこ「どうしてよ? せっかくめげずに最後まで書けたんでしょ? 批判した連中を見返してやればいいじゃない」

あんじゅ「書き終わった時にね、気付いたの」

にこ「何を?」

あんじゅ「上手く言葉に出来ないこの想い。多分、私の中での達成感の最上位だと思うの」

あんじゅ「次にまた物語を書いて、今回の失敗箇所とか書き方とか変えて上手く書けたとするでしょ」

あんじゅ「今回みたいに荒れずに、評価されるかもしれない。批判じゃなくて素直にアドバイスを貰えるかもしれない」

あんじゅ「それによってもっともっと上手く書けるようになっていくかもしれない。でもね」

あんじゅ「きっと今の私の中にあるこの大きな想いには敵わないと思うの」

あんじゅ「それっていうのも私は書くことが楽しいって思って、完結させた時点で終わっちゃうタイプだから」

にこ「それって普通のことじゃないの?」

あんじゅ「きっとね、書き手に一番必要なことはその先の感情を抱けることなんじゃないかなって」

にこ「その先?」

あんじゅ「うん。作品を完成させた時の達成感は生まれて当然だと思う」

あんじゅ「でもね、その後作品を世に出して、そこでの評価を受けた後、漸く自分の中でその作品が終わりを迎えるの」

あんじゅ「私のように自分の中でだけで終わっちゃうタイプは書くことに向いてないんだよ」

にこ「それってただ単に荒れたからじゃないの?」

あんじゅ「そういうのは関係ないの。だって、今はあれだけ憎かったりムカっとした感情すら思い出に変わっちゃったから」

あんじゅ「一番最初に自分で踏んだ1000の事。立てても荒れて1000までいくスレッド」

あんじゅ「五年先、十年先、もっともっと未来。にことお酒でも飲みながらこれをつまみにして笑える自信があるよ」

にこ「……強がってる、訳じゃないみたいね」

あんじゅ「うん。にこも書いてみれば分かると思う。書き終わった時にもうこの先どれくらい書いてもこれを超えられない」

あんじゅ「自然と悟れるこの気持ち。そう思ったらそこがゴールなんだよ」

あんじゅ「人生に二度目はない。一秒すらどれだけお金を積んでも戻ったりはしない大切な物」

あんじゅ「そんな価値ある時間を無駄遣いするのは勿体無いもの。だから私の物語はこれ一作でいいの」

にこ「あんたにとってこの作品を書く為に使った時間は無駄だったってこと?」

あんじゅ「ううん! 完結するまでは何度も時間の無駄だって思った。でも、完結させた今は価値のある時間だったって信じてる」

あんじゅ「お陰でこんなにも胸が熱くなったんだもん。二度と経験出来ない想いだと分かってるから最高なんだよ」

あんじゅ「この気持ちを超えられないのに続けるのは完全に時間の浪費に過ぎないから」

にこ「例え上手くなって多くの読み手を満足させられるかもしれないのに?」

あんじゅ「うん! 一つのことに固執し過ぎて視野が狭くなったら本当に勿体無いから」

にこ「ま、それでいいならいいわ」

あんじゅ「それに、私が書くのに夢中になってたらにこが寂しがるからね」

にこ「寂しがらないわよ!」

あんじゅ「私に声を掛けても独り言になっちゃうにこなんてもう見たくないから」

にこ「聞こえてたなら返事しなさいよ!」

あんじゅ「うふふ。さ、次は何にチャレンジしようかな♪」

にこ「その前に今はラブライブに集中するんでしょうが」

あんじゅ「うん。でも隙あれば何か挑戦しなきゃ」

にこ「だったら料理の一つでも覚えなさい」

あんじゅ「SMILEの作曲家に刃物を持たせるなんてとんでもない!」

にこ「……くっ。一理あるわね」

あんじゅ「山ガールにでもなろっか♪」

にこ「上る山がないし、遭難した時の費用を考えたらゾッとするから却下よ」

あんじゅ「海もないし……アルバイトでもして何か資格とるのはどうかな?」

にこ「ああ、それはいいわね。資格があれば就職先次第では活かせるし」

あんじゅ「就職といえばまずは面接だね。この特技の欄の魔法とは何ですか?」

あんじゅ「笑顔の魔法です。にっこにっこにー♪」

あんじゅ「ありがとうございます。貴女の未来をお祈りしております。では、ご退室お願いします」

にこ「なんでよ!!」

――夜 にこの部屋 にこ

あんじゅが眠った後、許可を得ていたので睡眠薬代わりに願いの旅人の最後までを読んでみた。

長い旅路の果てに待っていたのは最果て町。

相変わらずのネーミングセンスに脱力感を覚えたりもしたけど、そこはもう慣れた。

ニコフィラが辿り着いた時は流行り病が蔓延し、生まれ持って耐久があるのかアンジュリカだけが無事だった。

まぁ、ニコフィラも一緒に町の人達を介護し、当然のように病に犯されてしまう。

人間よりも耐久が少なかったのでニコフィラは誰よりも早く生死の境をさまよった。

願いの宝玉を使った今までの子達が願ってニコフィラは無事治り、この世からその病が消えた。

ニコフィラはそのまま村に戻ることなく、最果て町でいつまでも幸せに暮らした。

あんじゅらしくない、なんの捻りもないご都合主義。

でも、一話で「いってきます」と言って以来一度も台詞を入れてなかったのに、最後に「ただいま」をアンジュリカに使った。

そのことでこの物語の本当の意味というか答えを知った。

掟なんて言葉を使ってはいるけど、どうして十五歳で旅立つ必要があるのか。

その答えは主人公にある。

ニコフィラは私をモデルにしてるけど、これは優木あんじゅ自身に違いない。

そして、最果て町こそが矢澤家そのものであり、そこに居たアンジュリカこそが私。

あんじゅにとって戻れる村がない現実を再確認して溜め息が零れた。

今になって思えばスクールアイドルみたいに目立つことは進んでしたいとは思ってなかった筈だ。

嫌味な元同級生でも現れたりした可能性だってあった。

今でもその可能性は一応あるけど。

来るとすればお嬢様だから嫌味な奴だろう。

『優木さんが貧乏学校の生徒としてアイドルの真似事をしてると聞きまして会いにきましたの』

『まさかあの優木さんがアイドルなんて物に興味があるなんて知りませんでした』

『ふふふっ。わたくしは皆の意思を代表して会いに来たのです。そう邪険になさらないで下さい』

妙にリアルに想像出来たお陰で落ち込んでいた気持ちは怒りに変わった。

ま、そんな相手くらい今のあんじゅなら軽くあしらえるでしょうけど。

そんな来るかどうかの相手を気にするより、私と一緒に居たかったんでしょうね。

こうして思うと、部長として当時の私は本当に失格だったわ。

自分のことしか考えていなかったんだもの。

それなのにあの子達は恨むどころか明るい笑顔と元気をくれて、手伝いまでしてくれるなんてね。

部長失格だけど最高に見る目があったってことだわ。

何はともあれ、あんじゅが今は幸せだっていうのなら過去なんてどうでもいいわね。

って、過去に捕らわれてる私が言うのもなんだけど。

本当にラブライブの舞台でキラ星と再会出来たら、私はその後どうなっちゃうんだろう。

夢を諦め、目標を達成した時、私の中で何が残るのかしら?

何も残らなかった時も怖いけど、絵里の言うとおりになったらもっと怖い。

こんな臆病者がアイドルなんて目指せるわけないないのに。

あんじゅ「ん~……にこ?」

にこ「私も今から寝るからそのまま寝なさい」

あんじゅ「んぅ」

いつかあんじゅが惚れ込むような男性が現れるか、独り立ちするその日まで。

私があんじゅにとっての最果て町のアンジュリカとして一緒に居てあげる。

あんじゅ「ずっとにこといっしょにいる」

まるで心を読んだような言葉に笑いが零れる。

いかず後家になりそうな予感を感じながら、それでも退屈はしないだろう。

電気を消してあんじゅの横に体を寝かせると、捕食するように抱きついてくる。

にこ「私はあんたの抱きまくらじゃないのよ。あっついっての」

あんじゅ「ん~」

間延びした返事の後、寝息が再び聞こえてきた。

寝ている時くらい言うこと聞きなさいよね。

でも、きっと出逢う前のあんじゅは願いの旅人の最後のようにストレートなくらい素直だったのだろう。

運命に翻弄され、強くなる為に色んな物を一気に吸収してこうなった。

にこ「……」

いつか大人になって引っ越したとしても、こうやって一つの布団なりベッドで寝ることになるんだろうし。

せめて、夏場は扇風機じゃなくてクーラーがある生活をさせてあげたいわね。

にこ「おやすみ、あんじゅ」

どうか明日は悩み事が解決して幸せな日常が待っていますように。


■ネクストストーリー:そらまる(仮)■
次回こそ本当にクライマックス!

◆今日もにこといっしょ!◆

――レンタルショップ にこあん

にこ「私達に許されたのは三本!」

あんじゅ「一本はここあちゃんとこころちゃんの分だね」

にこ「そうよ。勿論、新作及び準新作はNG!」

あんじゅ「無駄に高いもんね」

にこ「準新作ですら旧作約二本分するからね。さ、ハズレを引かない為にもチェックよ!」

あんじゅ「うん! でも、こうやってにことレンタルショップにくるのって半年振りくらいな気がする」

にこ「はぁ? 先週も来たじゃない」

あんじゅ「そうなんだけど、なんとなくそんな気がしただけ」

にこ「あんたって時々不思議ちゃんになるわよね」

あんじゅ「女の子は誰でも不思議な魅力を持ってるものだよ☆」

にこ「良いように曲解してるんじゃないわよ。さ、まずは依頼の品がきちんとあるかチェックよ」

あんじゅ「マジハロ3の三巻」

にこ「今テレビ放送してるやつはこの頃の二倍はキャラが出てくるから誰が誰だか分からないわよね」

あんじゅ「今時のアニメってそういうものだよ。取り合えずシリーズ毎に増やせばいいって感じ」

あんじゅ「アニメだけじゃなくてアイドルグループやバンドグループもそういうのがちらほらあるし」

にこ「増殖するんじゃなくて上手く世代交代が出来るグループが一番よ」

あんじゅ「でも時代が質より量だから」

にこ「SMILEは時代に逆らって量より質が増していくとか言われれば最高ね」

あんじゅ「SMILEが続くかどうかは凛ちゃんの肩に掛かってるかも」

にこ「そうね。でも、陸上に専念したいからって理由で再来年にはSMILEが消えてたとしてもそれはそれでいいけど」

あんじゅ「にこってばそんなこと言いながら絶対に凛ちゃんなら一人でも続けてくれるって信じてるんでしょ?」

にこ「何よそれ」

あんじゅ「にこは嘘吐くと鼻が伸びるから直ぐに分かるよ」

にこ「私はピノキオじゃないわよ!」

あんじゅ「そういえば実写版のピノキオもあったよね。でも、私はホラーがいいなぁ」

にこ「あんた本当にホラー好きよね」

あんじゅ「少し怖いくらいが刺激的でしょ♪」

にこ「ま、私もホラー好きだからその気持ちは同じだけど」

あんじゅ「あ、見つけた。マジハロ3の三巻!」

にこ「これで後は私達の分だけね」

あんじゅ「早速ホラーコーナーに行こう!」

にこ「私は別に今日はホラー借りるとは言ってないんだけど」

あんじゅ「そんなことはどうでもいいよ。にこは私と一緒に居ないと駄目なの」

にこ「はいはい」

あんじゅ「本当にあったのよ怖い話シリーズは旧作分全部借りちゃったし、映画にしようかな」

にこ「ホラー映画の定番は何だかんだで借りたものばかりじゃない?」

あんじゅ「そうだね、ホラー映画の金字塔『十三日の金曜日』『エルム街の悪夢』を筆頭に概ね観ちゃったもんね」

あんじゅ「でもたまにはB級ホラーもいいかも」

にこ「たまに観たくなる気持ちも分かるわ。愛すべき駄作があるからこそ、より名作が光り輝くものね」

あんじゅ「愛すべき駄作……なんかいいね。願いの旅人もいつか誰かにそう言われたら最高かも」

にこ「ま、ネットにUPしたんだからいつかそんな奇特な奴だって現れるんじゃない」

あんじゅ「そうだといいなー。あっ! ホラーじゃないけど『バタフライエフェクト』がある」

にこ「こないだ絵里が言ってた蝶が竜巻起こすってやつね」

あんじゅ「映画の内容はそんな怪獣大戦争っぽい内容じゃなくて、記憶を持ったまま未来を変えようとする男性の話だけど」

にこ「面白いの?」

あんじゅ「悲しいハッピーエンドだった」

にこ「悲しいの後にハッピーって矛盾してない?」

あんじゅ「自分にとっての幸せについて考えさせられる作品だよ」

にこ「よくわかんないわねぇ」

あんじゅ「にこはもし過去に戻れるとしたら戻る?」

にこ「私が戻るわけないでしょ。もし過去に戻ってその時に牛乳を飲む筈だったのにお汁粉缶を飲んだ」

にこ「それだけでもう今という私とは別の未来が構成されるじゃない。私は今が幸せだから戻るなんて選択肢はないわ」

あんじゅ「矢澤にこは振り返らない! 絶賛放映中★」

にこ「自分で振っておいてネタにするんじゃないわよ!」

あんじゅ「でもにこの言うとおりだよね。忘れてる記憶でも自分が通った過去が今とは違うことになっちゃうんだもん」

あんじゅ「そういうズレが積み重なればどう努力しても今と同じ道を歩むことは出来なくなりそう」

にこ「ま、映画なんかだとそういう細かい部分は影響しないからいいんだろうけど」

あんじゅ「にこって変なところは思考がリアルだよね」

にこ「にこは常に心はピュアで瞳はクリアで思考はリアルなのよ」

あんじゅ「ふーん」

にこ「スルーするなら無視にしなさいよ! 中途半端が一番反応に困るでしょ!」

あんじゅ「うふふ。たまには違う反応しないとマンネリになっちゃうからね」

にこ「そんな意味ない努力は要らないわ」

あんじゅ「そんなことより見て!」

にこ「ハイパーエンド?」

あんじゅ「……高校三年生にもなってハッピーとハイパーを間違えるなんて、にこの頭はハイパーハッピーだね」

にこ「じょ、冗談よ」

あんじゅ「うんうん、そうだね。冗談だよね。あははは」

にこ「その棒読み笑い止めなさい! 分かったわよ、私が間違えたわよ。悪かったわね」

あんじゅ「にこ弄りはこの辺にして『HAPPY END』が旧作になってるよ。こないだ来た時はまだ準新作だったのに」

にこ「面白いの?」

あんじゅ「えぇっ!? にこってばホラー映画ファンの風上にも置けない発言してるよ」

あんじゅ「続編の『2nd night』が放映開始したばかりじゃない。あっ、だから旧作にしたんだ」

あんじゅ「最後の一つ残ってる! これはもう借りる以外の選択肢はないね!」

にこ「興奮してるところ悪いけど、残ってるソレってブルーレイよ」

あんじゅ「……ハイパーショック」

にこ「ショックを受ける時くらい私を弄るのやめるにこっ!」

あんじゅ「う~るる~」

にこ「で、改めて聞くけどそんなに面白い作品なの?」

あんじゅ「うん。凄く好評で何かの賞も受賞したくらいだよ。桜ちゃんって主人公の子が弱々しくも頑張る話なんだって」

にこ「いや、漠然と頑張るとか言われても」

あんじゅ「見知らぬ校舎の中で複数の男女が脱出する為に彷徨う話らしいよ」

にこ「後半はきっとパニックホラーになりそうね」

あんじゅ「どうだろう。楽しみだからレビューは今まで見てないんだ」

にこ「ま、今回は残念だったわね。来週に期待しましょう」

あんじゅ「……うん」

にこ「未練がましく待ってても都合よく店員が戻しに来たりしないわよ」

あんじゅ「準新作が旧作になった時の一体いつになったら借りられるんだろうという焦燥感」

にこ「来る度に胸がドキドキできるなんて幸せなことじゃないの」

あんじゅ「今にこってばいい事を言ったわ風の顔が憎い!」

にこ「勝手な被害妄想で人を憎んだりするんじゃないわ」

あんじゅ「……こんなことになるのなら、準新作で借りておけばよかった。にこ、私は過去に戻りたい!」

にこ「ハイパーハッピーな頭してんのはあんじゅの方じゃないの」

~回想 約二年半前 矢澤家~

あんじゅ「ねぇ、にこさん」

にこ「んー?」

あんじゅ「私、邪魔じゃないかしら?」

にこ「ばっかねー。邪魔ならわざわざ声掛けたりしないってば。そんな遠慮するような家じゃないわよ」

にこ「親御さんが帰ってくるのかなり遅い時間なんでしょ? だったら一緒にご飯食べた方がいいじゃない」

にこ「といっても、大した料理は出せないけどね」

あんじゅ「そんなことないわ。私はにこさんの料理好きよ。温かくて今まで食べた料理が霞むくらい」

にこ「怪しい薬が入ってるみたいな言われようね」

あんじゅ「本当に美味しいから」

にこ「お世辞としてもそこまで言われて悪い気分はしないわ」

あんじゅ「お世辞なんかじゃないわよ」

にこ「それより、そんな畏まった口調しなくっていいってば」

あんじゅ「私の口調変かしら?」

にこ「変ってことはないけど、お上品過ぎてなんか構えちゃうのよね」

あんじゅ「……そう」

にこ「あ、別に深い意味はないのよ? 私の回りって上品な子なんていなかったっていうのが原因なだけで」

にこ「口調よりも一番気になるのはそのさん付けよ。私が呼び捨てで呼んでるんだからあんじゅもにこって呼んでよ」

あんじゅ「え、ええ」

にこ「乗り気じゃない?」

あんじゅ「人を呼び捨てになんてしたことないから、難しいわ」

にこ「最初は抵抗あるかもしれないけど、慣れちゃえば普通に呼べるようになるにこよ」

あんじゅ「慣れる前に一度呼ぶのも無理そうなのだけど」

にこ「呼ぶ前から諦めるんじゃないわ」

あんじゅ「……そうですけど」

にこ「じゃあ練習してみましょうよ。ほら、にこって呼んでみなさい」

あんじゅ「そんな」

にこ「こころとここあもまだ帰ってないんだし、恥ずかしいことないでしょ?」

あんじゅ「……頑張ってみるわ」

にこ「ええ、頑張ってみなさい」

あんじゅ「……にこさん」


あんじゅ「にこ、さん」


あんじゅ「にこ さん」


あんじゅ「にこさん」


あんじゅ「にこ……さん」

あんじゅ「はっ!? あんまりにもショックで意識が過去に飛んでた。これが走馬灯の一種とも呼ばれる強制回想モード!」

にこ「ただの現実逃避も言い方変えると死亡フラグになるのね。勉強になったわ」

あんじゅ「それで、何をしてたんだっけ?」

にこ「そこまで忘れてるの!? 今日何を借りるかを探しに来たんでしょ」

あんじゅ「そうだった。……あ、思い出したらショックが蘇ってきたにこぉ」

にこ「はいはい。今日は豆腐じゃない普通のハンバーグなんだから元気出しなさい」

あんじゅ「おぉ! 矢澤家二大人気メニューのハンバーグ! 元気出たにこっ♪」

にこ「相変わらずご飯関係になると単純になるわね」

あんじゅ「そんな大食いキャラみたいに言わないでよ。にこの料理だからに決まってるじゃない」

にこ「そんなこと言わなくても分かってるわよ」

あんじゅ「そうと決まったら早く決めて早く帰ろう」

>>435 の前の入れ忘れです

にこ「だからさんは要らないってば」

あんじゅ「分かっているのだけど、やっぱり難しいわ」

にこ「まずはちゃん付けの練習からの方がいいのかしら? ちゃん付けならしたことあるでしょ?」

あんじゅ「それも経験なくて」

にこ「……あ、そう」

あんじゅ「ごめんなさい」

にこ「別に謝るようなことじゃないけど、音ノ木坂に行くんだからちゃん付けくらいは慣れた方がいいわ」

にこ「でもちゃん付けならおちびちゃん達を呼んでればその内に慣れるでしょう」

にこ「あの二人もさん付けされるのが当然慣れてないというかほぼ初めてだから呼ばれるとキョトンとしてるし」

にこ「何度も名前を呼んで頑張って慣れなさい」

あんじゅ「ええ、努力してみるわ。それにしてもいい匂いね」

にこ「今日はカレーよ。ハンバーグと合わせて矢澤家では二大人気メニューなんだから。楽しみにしてなさい」

あんじゅ「……ええ」

~回想 終了~

にこ「急かすんじゃないわよ。私は今日は何のジャンルにするかすらまだ決めてないんだから」

あんじゅ「そんなの適当でいいじゃない。ほら、これとかどうかな?」

にこ「えっと『慟哭 どうして・・・』ね」

あんじゅ「パッケ裏は……完全に黒歴史! え、それだけしか書いてないよ」

にこ「時々ある何で映画化したのか分からない系のやつかもね」

あんじゅ「これは借りちゃ駄目だね」

にこ「ただ主役の二人がなんだか海未と穂乃果に似てるわね」

あんじゅ「もしかしたらあの夢共有の時の床が抜けるとかのってもしかしたらこれを見てそう錯覚したのかも」

にこ「いくら穂乃果でもこんなの借りないでしょ。さ、そんなことはどうでもいいから借りるの決めましょう」

あんじゅ「うん! なんとなく気分が変わったから今日はホラーじゃなくてアットホームな作品がいいかも」

にこ「そういうのは中々借りないから新鮮でいいかもね」

あんじゅ「じゃあ話に聞いたアットホームで面白いって噂のアレを借りよう。今の気分は完全にフルハウス♪」 了

――六月三週目 UTX学院 レッスン室 ツバサ

ツバサ「二人共お疲れ様。スクールアイドル顔負けの頑張りね」

希「んーっ、ウチこんなに一生懸命になって運動するの初めて」

副会長「それは私も同じよ。数の暴力をこれほどまでに実感したことはないわ」

ツバサ「数の暴力?」

希「ウチと副会長が学園祭でライブすることになったのは生徒会からのアンケートで繰り上げ一位になったからなんだよ」

ツバサ「ああ、なるほどね。二人がレッスンしてるのが余りにも自然だったから理由まで気に掛けてなかったわ」

ツバサ「でも凄いわね。普通生徒会のトップ二人にライブをして欲しいなんて思わないでしょ」

ツバサ「それほど二人にはカリスマ性があるってことよね。運命が違えば一緒にスクールアイドルをしていたかも」

副会長「ありえないわね! 私はそもそも生徒会長になることしか頭になかったんだから」

希「とか言いつつ副会長は甘えん坊な一面もあるし、ツバサさんに誘われたら何だかんだでスクールアイドルやってそう」

副会長「ないわよ。そもそも私は甘えん坊じゃないわ」

希「とか言ってこのライブのことで生徒会辞める~とか甘えてきたじゃない」

副会長「そのことは忘れなさいよ!」

ツバサ「ふふっ。随分と仲がいいのね」

希「生徒会の激務を共にこなしてきたから息ピッタシだよ」

副会長「寧ろ希に主導権を奪われて半強制的って言う方が正しい気がするけど」

希「駄々っ子の手を繋いで導いてあげるお姉さんってところやね」

副会長「だから人を変な解釈で、しかもそれがさも真実なように言わないで」

希「この素直じゃない辺りが魅力だね」

ツバサ「本当に仲がいいわね」

副会長「恥ずかしいから二度も言わないで!」

希「あ、そうそう。来月の予選終了前のライブ会場の使用は決まった?」

副会長「そうだったわ。チケットの販売が遅くなっても完売はするのは確実だけど、準備があるから早く決めて欲しいわ」

ツバサ「そのことで今悩んでるのよ」

真姫「私、はぁはぁ……もう、限界」

花陽「ごめんなさい。私も、げんかい、です」

英玲奈「十分休憩。きちんと水分補給して汗を拭くように」

ことり「私が水とタオル持ってくるから、二人は休んでて」

花陽「すいません」

真姫「……はぁはぁ……はぁ~」

ツバサ「ご覧のとおりのありさまで。ライブに慣らせる為にも連続でやりたいけど、それまでに体力がついてるかどうか」

希「二人共一般の子だから仕方ないよね」

副会長「生徒会の立場としては芸能科からメンバーを選んで欲しかったんだけど」

ツバサ「それはことりさんに言ってくれる? 今回のスカウトはことりさんに全て一任したから」

副会長「これで来年も一般からA-RISEのメンバーを選ぶことになったらと思うと来年の生徒会長が可哀想で仕方ないわ」

希「そうなったらそうなっただし。副会長は無駄に心配し過ぎだって」

ツバサ「本当に無駄な心配よ。だって来年はA-RISEの問題児のことりさんがリーダーなんだし、常識は通用しないわ」

希「それはとても興味深い。ツバサさんはどんなスカウトすると思う?」

ツバサ「そうねぇ……例えばラブライブでは全くの無名校から生徒を引き抜きとか、かしらね」

副会長「――ああ、よかった。一年遅く生まれてたら生徒会を辞めていた自信があるわ」

希「くすっ。でもハラハラするのは生きてる実感を貰えていいじゃない」

ツバサ「実際に傍で見守ってる分にはこれ以上ない位に胸が痛むわよ。主に自分の配慮不足に対してね」

希「見た目だけならことりちゃんは優等生にしか見えないけど」

ツバサ「スクールアイドルやってて言うのもなんだけど、人は見た目じゃないってことよ」

ことり「はい、二人共汗を充分に拭いてから水を飲んでね。あ、真姫ちゃん。寝たまま水を飲もうとしちゃ駄目だよ」

ツバサ「問題児だけど後輩の面倒見もいいし、とってもいい子なのが一番性質が悪いわ。怒る時も余り怒れないし」

ツバサ「努力だって中学生の途中からこっちの我が侭に付き合ってレッスンと被服科の課題をこなして今に至るし」

ツバサ「だから来年の生徒会長になる子に言っておいて。破天荒だけど最高のスクールアイドルだから見守ってあげてって」

副会長「ある意味死刑宣告にも似た伝言ね。生徒会長の希に任せるわ」

希「これを伝えた瞬間に次期生徒会長の座を事態されそうな気がする」

ツバサ「んふっ♪ 私達の代以上に来年はより大変になりそうね」

――六月四週目 休憩室 A-RISE

ツバサ「ふふふっ、あはははっ!」

休憩室に設置されているPCを見ていたツバサのいつも以上の笑い声に他のメンバー全員が注目した。

それも構わずに本当に楽しそうにツバサは笑う。

英玲奈「何があった?」

真っ先に反応を見せた英玲奈がツバサの後ろから画面を覗き込む。

開かれていたのは音ノ木坂学院のホームページの特設サイト。

《ラブライブ現在21位~30位による大連続公開合宿開催!!》

英玲奈の脳裏に下克上という単語が浮かぶ。

英玲奈「……驚いた。こんなことを仕出かすとは想像すらしていなかった」

ツバサ「言ったでしょ? にこにーが沈んだままでいる筈がないって」

二人の会話に興味を抑え切れなかった他のメンバーも駆け寄り、画面を見た。

真姫「野外特製会場でライブ? 待って! こんなのってありえないわよ。スクールアイドルでこんな大規模のライブなんて」

花陽「真姫ちゃん、嘘でこんな告知しないよ。というか出来ないよ」

ツバサ「こんなことを可能に出来るのは数多く生まれてきたスクールアイドルの中でもにこにーたった一人でしょうね」

誇らしげに語るツバサに若干呆れたような英玲奈がツッコミを入れる。

英玲奈「特設サイトが音ノ木坂に設置されているのは確かだが、個人一人で開催の有無が決まったとは思えない」

ツバサ「甘いわね、英玲奈。私には分かるのよ」

真姫「で、ことり。ツバサさんの言ってるにこにーって何者よ?」

ことり「SMILEのリーダーのにこちゃんのことだよ。ほら、凛ちゃんと対決した時に見たんでしょ?」

真姫「ああ、あのジャージで帰ってた小さい子ね」

花陽「ツバサさんとにこさんって何か関係があるんですか!?」

アイドルの裏話に目がない花陽の目が怪しく輝く。

ことりが口を開くより先に英玲奈がその問いに答える。

英玲奈「ツバサは矢澤にこのことになると熱狂的なファンの其れと紙一重になる」

英玲奈「去年A-RISEとして初めて商店街のライブをすることになったのも矢澤にこが関係している」

ツバサ「ファンであるというのは否定しないけど、同時に至高のライバル。私が今こうして在るのはにこにーのお陰」

花陽「そっ、それってどういうことなんですか!?」

グイッと顔をツバサに近づける花陽に対し、ツバサは悪戯っ子のようにウインクすると「秘密♪」と可愛く囁いた。

花陽「あぁ~……気になるぅ」

床に崩れ落ちながらツバサとにこの色んなサクセスストーリーが頭の中で想像される。

真実が分からないからこそ、真実以上の物語が生まれては消えていく。

真姫「たまに出るわよね、花陽の病気」

ことり「病気って言い方は駄目だよ。花陽ちゃんは大のアイドルファンだから気になるのは仕方ないよ」

英玲奈「話を戻そう。この大会も面倒だけどこの合宿もまた厄介なものだ」

ツバサ「ええ、練習を見せずに結果で魅せるのが本来のやり方。それを逆手に取って大会で魅せる」

ツバサ「何よりも大会開催日が絶妙。大会の翌日の正午がラブライブ予選の締め切り」

ことり「つまりこれが予選突破を賭けたラストスパート開始の先制布告ってことだよね」

ツバサ「先制布告? そんな甘いものじゃないわ。油断すれば死刑台に送り込むっていう死神の予告よ」

言葉は恐ろしげでありながら、ツバサは目を細めて愛おしむようにタイトルを優しく指でなぞった。

ツバサ「当然、気を抜けば私たちだって危ないかもしれない。初優勝を目指すつもりで気合い入れ直すわよ!」

英玲奈「流石にそれは言いすぎだろう。妄信するのは勝手だが、リーダーが弱気になられるの困る」

ツバサ「弱気? 私が弱気になってるですって?」

一人で画面を見ていた時の楽しそうな笑いとは対極な冷たい微笑みを浮かべ、英玲奈に告げる。

ツバサ「その逆よ。この状況で楽観視してたら勢いそのままに上ってきたグループに首を取られるわよ」

ツバサ「色々と迷っていたけど考えを一新するわ。今のままだと本気で優勝の座を奪われる可能性が出てきた」

ツバサ「私達がすべきことは今のシステムで行われるラブライブの最後と言われてる大会で優秀の美を飾ること」

ツバサ「A-RISEはファンを信じて予選を捨てる!」

英玲奈でさえツバサが最後に述べた答えの意味を理解するには至らなかった。

いや、正確にはそこまでする必要性を感じていなかったので答えを導き出すことを拒んだといえる。

そんな英玲奈を見て敢えてツバサは答えを口に出す。

ツバサ「最後の一週間は連続ライブをする予定だった。それまでに真姫さんと花陽さんの体力的な面での心配はなくなってるだろうし」

ツバサ「そうなれば後は大会に慣れさせてしまって、本戦までにダンスの方を力を入れて完璧にさせればいい」

ツバサ「そうすべきか連続ライブの回数を減らして体力を重点につけさせるべきかを迷ってたの」

ツバサ「でも、どっちもやめるわ。七月二十九日に一度ライブをする以外週末ライブもA-RISEは行わない」

ツバサ「地の力を完全に鍛えあげて一度のライブで全てを感じてもらう。真姫さん、花陽さん。これからは弱音を吐く暇も与えない」

ツバサ「A-RISEに入ったことを死ぬ程後悔した後、その気持ちをライブで浄化させてあげる♪」

真姫「」
花陽「」

真姫と花陽は後のメンバーになった後輩達に語ることになる。

その時の綺羅ツバサの笑顔は誰よりも綺麗でありながら、地獄に引き込む悪魔に見えたと。

――数日後 夕方 帰路 まきぱな

花陽「……体以上に今日は精神的にきつかったね」

真姫「人間の想像力をフルに使わされたわね。こういうのって演劇をする人だけがするものだと思ってた」

花陽「最後の方は観客が居ないステージの上なのに大勢の人達に見られてる気がしたよ」

真姫「絶対にこれって本物の観客が居る以上に精神的にくるわよね。プレッシャーも想像だから際限がないし」

花陽「うん。手を抜こうにもツバサさんが色んなことを言ってくるから耳から勝手に情報が入ってきちゃって」

花陽「その度により鮮明に思い浮かんで、サイリウムの色が変わったりするところは綺麗だった」

真姫「そうよね、私よりそういうのを詳しく知ってる花陽の方がより鮮明に思い浮かべられるのよね」

花陽「本当にあんな凄い所でライブなんて出来るのかなって自信が揺らいじゃった」

真姫「私はことりを見返すっていう明確な目標があるからね。それまでは絶対に何があっても辞めないわ」

花陽「真姫ちゃんは強いね」

真姫「ううん、真の強さを知ってるからこそ……その強さを自分の物にしたいの」

真姫「そうすればきっと私は今以上の私になれる」

花陽「今以上の真姫ちゃん?」

真姫「ママが言ってたんだけどね、高校生の時って一番心が揺れ動く多感の時期だから一番成長出来るんだって」

真姫「今ある一日は後の十日分にもそれ以上にも匹敵するって」

真姫「正直、私は中学の時は自分に対して絶対的な自信があった。一人でだって何でもこなせるって思ってた」

真姫「でも、まこちゃんって元クラスメートの子と友達になる切っ掛けを作ろうとしてね、ある失敗をしたの」

真姫「その失敗がことりとの出逢いなんだけど、それはファーストライブが終わった後にでも聞いてもらうわ」

花陽「うん」

真姫「それでね……色々と思ったの。何でも一人で出来るっていうのは幻想で、私は自信はあってもまだまだ未熟者」

真姫「でも、一人じゃ駄目なことも二人なら乗り越えることが出来るって知って、一つ成長出来た」

花陽「あっ、真姫ちゃんと初めて会った時も二人なら乗り越えることが出来るって言ってたよね」

真姫「ええ、そうよ。お陰で私はまこちゃんと友達になれた。そして、花陽ともこうして友達になれた」

真姫「花陽の幼馴染の凛とも友達になれた。成長する度にこうして輪が広がって私の世界が広がっていく」

真姫「自信とプライドに見合った世界になっていける。青春時代の大切な時間を有意義に過ごせてる」

真姫「だから――」

花陽「あっ」

真姫「――あの日言ったように花陽が自信が足りなくて逃げ出しそうになったらこうして私が手を握ってあげる」

真姫「だから花陽はゆっくりと自信を体と心に馴染ませていけばいいわ。それが本物になった時により私を輝かせて」

真姫「この真姫ちゃんも花陽がより輝かせられるように今よりもっともっと成長するから」

花陽「……真姫ちゃん」

真姫「あの時はスクールアイドルになるってだけの目標だったけど、スクールアイドルのトップを目指しましょう」

花陽「……あの」

真姫「何? 自信がないとか言うの?」

花陽「そうじゃなくて、A-RISEは既にスクールアイドルのトップだよ」

真姫「……」

花陽「……」

真姫「私達の代のA-RISEが過去最高だったって言わせればいいのよ。それこそが真のトップでっしょー!」

花陽「ふふふっ。それはとっても難しいかな……でも、真姫ちゃんと一緒なら夢が現実になるかも」

真姫「当然よ。そうだ、夢といえば花陽の夢は今もアイドルなの? 昔から憧れてるって凛が言ってたけど」

花陽「小さい頃からの夢なんだ。でも、私って今もそうだけど自分に自信が持てないから」

花陽「ううん、それを理由に夢を夢として目を逸らして何もしてこなかった。でも、変われると思う」

花陽「大切な人の言葉とゆっくりとした成長の私を支えてくれる真姫ちゃんが居てくれるから」

花陽「そして、私の夢が叶うことをずっと信じてくれた凛ちゃんが応援してくれるなら真っ直ぐに向き合える、と思う」

真姫「締まらないわねぇ。最後の『と思う』は要らないわよ」

花陽「まだ言い切れるくらい自信がないよぉ」

真姫「ふふっ。ま、それくらいが花陽らしいわね」

花陽「ありがとう。真姫ちゃんの夢ってお医者さんなの?」

真姫「ええ、そうよ。お医者さんになって最終的にはパパの跡を継ぐのが夢よ」

花陽「そうなんだ。真姫ちゃん歌が上手いから……歌手とか目指すんじゃないかなって思って」

真姫「まこちゃんにも言ったんだけど、私の音楽の集大成はスクールアイドル」

真姫「だからここを卒業する時が私の音楽のFine」

花陽「フィーネって音楽記号で終わりだったっけ?」

真姫「そうよ。女子医大に入ったら息抜きに歌うくらいで丁度いいわ。そう思えるように歴代最高を目指すの」

花陽「真姫ちゃんはやっぱり強いなぁ」

真姫「強く在れる一因はこうして手を繋いでる花陽なのよ」

花陽「……」

真姫「今すっごく大変だけど、逆に言えば今が一番大変なのよ。つまりここを乗り越えればもう怖いものなんてないでしょ?」

花陽「そっか、今が一番大変なんだ」

真姫(ことりも卒業して私達が後輩を引っ張る立場になったら今以上の大変な目に遭うかもしれない)

真姫(だけど、そんなことを言う必要なんてないわよね。そうならない可能性もあるし)

花陽「未来の一日より十倍くらいの価値があるなら尚のことだよね」

真姫「そうよ。だから頑張りましょう。凛なんて陸上部との掛け持ちでも楽しんで頑張ってるんだから」

花陽「そうだよね。うん、弱音を吐いても頑張らなきゃ」

――同日 夜 帰路 ツバサと英玲奈

ツバサ「こうして最後まで二人でレッスンしたのは随分と久しぶりな気がするわ」

英玲奈「そうだな。一年の途中まではこれが普通だったのに」

ツバサ「……口に出してはいたけど、こうして英玲奈と二人きりになるとより実感するわ」

英玲奈「何を?」

ツバサ「この夏が私達スクールアイドルの一番の煌きなんだって。ラブライブが終われば流れ星のように瞬く間に流れそう」

英玲奈「ツバサにとっては夢への準備期間なんだ。そんな直ぐに流れるような時間じゃないだろう」

ツバサ「そうなんだけどね。なんか、私が想像してた以上に今までが充実してたから」

ツバサ「最後のラブライブに相応しい最高のサプライズまで用意してもらっちゃったし」

英玲奈「あの時は突っ込むのは控えたが予選で一度だけするライブの日程のことだが」

英玲奈「三十日ではなく二十九日にしたのは客層が向こうに流れることを危惧した訳ではなく、見に行くつもりだろう?」

ツバサ「再会は本戦でだけど、一度くらいこの目でその成長を確認したいからね」

英玲奈「やれやれ。リーダーとしてはどうなのかと思うが、その自由さがツバサの魅力か」

ツバサ「勿論それだけじゃないわ。ライブ会場の規模の違いと参加グループの多さが全てではないと比べてもらえるから」

ツバサ「新生A-RISEの真価を委ねるという意味でも最高の試練になるわ」

英玲奈「後付けの言い訳にしか聞こえない。野外会場と違ってこっちは観客数が限られている」

英玲奈「比べるにしても上限の決まっている状態であれば意味は薄い」

ツバサ「うふっ♪ 私があの告知を見てからこの数日で何も手を打ってないと思ってるの?」

英玲奈「……言い訳ではないということか?」

ツバサ「当然でしょう。私はファンを信じてこの大事な予選で一度しかライブをやらないのよ」

ツバサ「こっちの我が侭はファンの人にとってはただ迷惑なだけにしか過ぎないわ」

ツバサ「新生A-RISEの完璧なお披露目だけじゃインパクトに弱い。だったら更なる手が必要となる」

ツバサ「他のメンバーには当日まで内緒にしてくれるなら聞かせてあげる」

英玲奈「約束しよう」

ツバサ「今は生徒会のトップ二人が学院側に交渉してくれてる最中で決まるかどうかは別だけどね」

ツバサ「お詫びとして無料ライブに出来ないかどうか。それだけだと普段チケットを購入してくれてる人に失礼だから」

ツバサ「今回はライブ映像をネットで生配信する形にするつもり。これなら無料であるのも納得してもらえると思うし」

ツバサ「これなら翌日ににこにーの大会に行く人達にも比べてもらえる」

英玲奈「だから矢澤にこの大会では……いや、もういい。しかし、学院側が受け入れるかどうかは難しいと思う」

英玲奈「そんな特別なことをしなくても私達が優勝すると思っているんじゃないか?」

ツバサ「そうかもしれないわね。だけど、生徒会長と副会長の手腕次第では不可能な懸案も可能になる」

ツバサ「オトノキとの合同学園祭なんてありえないことを押し通せたあの二人なら……ってね。可能性感じるでしょ?」

英玲奈「確かにあの二人なら先生方を説得し得るかもしれない」

ツバサ「こういう変化を取り入れてこそ、次の世代にも繋がっていくのよ」

英玲奈「ツバサがアイドルになると業界が色んな意味で革命を起こしそうだな」

ツバサ「自分の存在が多くの波紋を描いて広がっていく。想像しただけでわくわくするわ」

英玲奈「生まれ持ってのアイドル体質だな」

ツバサ「でも、ことりさんが一年早く生まれてたらこういう思考を持つこともなかったと思う」

英玲奈「どういうことだ?」

ツバサ「あくまでもしもの話だけどね。一年生の時にことりさんがメンバーに参加してくれてたとするでしょ?」

ツバサ「そうすると自惚れでなくA-RISEは一年目で優勝出来てたと思うの」

英玲奈「確かにことりが私達が一年生の時に加入していれば優勝が必然だな」

ツバサ「そうなれば私達は三人で充分。A-RISEは今のやり方で間違いない」

ツバサ「そういう固定概念が生まれて新しいものを取り入れる考えを遮断していた」

英玲奈「今のように新入生という新メンバーもなく、今回のような案も不要……確かに、そうだったかもしれない」

ツバサ「前人未到のラブライブ三年連続優勝なんてだけで満足した自分では到底及ばない成長を得ることが出来る」

ツバサ「最高の運命を歩んでいるわ」

英玲奈「その言葉を使うのはまだ早い。ツバサの策が上手くいって、ラブライブ本戦に出場し、優勝した時にこそだ」

ツバサ「そうね。にこにーと再会して、ラブライブで優勝してこそ使っていい言葉ね」

英玲奈「言葉上手く使ってるが、全て矢澤にこの影響を受けただけのような気がしてきた」

ツバサ「それについては否定はしないわ」

英玲奈「悪い影響であれば強く非難出来るが、いい影響だから本当に性質が悪い」

ツバサ「んふっ♪」

――UTX生徒会役員共。 会議室

希「ということで、今回A-RISEはラブライブ予選には七月二十九日の一度きりを予定しています」

希「そして、そのライブは今回までとは違って無料にして、ライブもネット生配信という形を希望します」

「ライブ回数を想定より減らして尚且つ無料? それは通らない」

「そんな愚を起こす必要性が感じられませんね。普通にライブを行ってもラブライブに優勝はA-RISEで決まりでしょう?」

「そうですね。そもそも新メンバーは来年度以降に繋がるから良かったですが、ライブを減らすなんて意味がない」

「当初の予定通り七日間連続ライブをすべきではないですかね」

副会長(当然ながら先生方の反応は難色を示すだけね)

希(ま、経営者としては明らかにマイナスでしかないから)

副会長(でも、綺羅さんに頼まれた時に長考してから受け入れたのだから納得させられる言葉でも考えてきたんでしょ?)

希(なんとかなるかなってね。ウチ何にも考え付かなかったし)

副会長(はぁ? あの時何考えてたのよ! それにこの数日だって考える時間くらいあったでしょうが)

希(無駄に考えて思考が空回りするよりも、副会長の信頼出来る頭脳に期待しようかなってね)

副会長(あ、呆れた。生徒会長ともあろうものが他力本願とかありえないでしょ)

希(丸投げするわけじゃないし。言わばここは二人のコンビネーションの見せ所やん)

副会長(……はぁ~。希のそういうところに慣れた自分が嫌になるわ)

副会長「発言よろしいでしょうか?」

「ああ、どうぞ」

副会長「先生方の言い分は正しいとは思います。私達UTX学院の生徒も今年もA-RISEの優勝を疑っていません」

副会長「ですがそれは一つの問題が発生しました。かなりの脅威だと考えています」

「問題とはあの連続合宿とかいうやつのことですか? 所詮は番外の学校が手を組んだというだけでしょう?」

「ああ、あれですか。あんなのを脅威に感じる程でもないですね」

「あるのは話題性だけだ」

副会長「そう思うのは先生方が失礼な言い方ですが青春時代を終えてから随分と経つからだと思います」

「どういう、ことかしら?」

副会長「連続でライブをすればそれだけ利益にも繋がります。無料ライブなんて逆に損だけしかないでしょう」

副会長「ですがそれはあくまで目先の得でしかありません」

「目先の得? 無料でライブをすることに後の得があるとでも言うつもりかね」

副会長「生まれ持ってのお姫様みたいな存在はこの世界に余り存在しないでしょう。存在したとして不幸によって地に堕ちるかもしれない」

副会長「逆に普通に生まれてきてから物語のようなお姫様のような暮らしを体験出来る立場になる可能性は低い」

副会長「だからこそ思春期の女の子はシンデレラストーリーに淡い期待を持ちます」

副会長「今回のこの大会は一度でも行われたという事実が残ることこそが真の脅威」

副会長「劇場のあるUTX学院に通えなくても、それこそ国立で授業料の無料の音ノ木坂学院だとしても夢を見れるかもしれない」

副会長「実際にはそんな可能性はないに等しい。でも、一番夢見がちな中学生にとってはそのない筈のものがあるように見えてしまう」

副会長「寧ろスクールアイドルになれれば可能性があると感じてライバルの多いUTX学院を逆に視野から消すかもしれない」

副会長「そうなってから何か案を出そうとしては遅すぎます。今こそ新しい扉を開いていく岐路が訪れたんだと思います」

副会長「丁度ラブライブも来年度からはシステムを一新するという噂が実しやかに囁かれています」

副会長「もしそのシステムが王者であるUTX学院にとって枷になるシステムだったとしたら」

副会長「今から試作的でも色んなことに挑戦していればいざそうなった時も何か手を打つことが出来ると思います」

副会長「変化を受け入れられる者こそが強者であるという言葉もあります。私は母校が廃れる可能性を残したくありません」

副会長「今回の提案はUTX学院が新たな道を歩みだす一歩目という狼煙にしたい。それこそが生徒会とA-RISEの意思です」

「……」

副会長「正しき道は時に正しく見えない。だからこそ踏み込む勇気を試されます。どうか勇気のある決断を期待します」

――会議後 廊下 のんたん

希「ウチが口を挟む隙すらなかった」

副会長「希が考えなしっぽいから代わりに奮闘したのよ」

希「考えがない訳じゃないけど、ウチが口にするよりずっといい言葉を聞かせてもらったよ」

副会長「あ~あ。今回のことで内申点がかなり下がった気がするわ」

希「いいやん。内申点より大事な物をウチは見せて――ううん、魅せてもらったよ」

副会長「そんなの何の役にも立たないわよ」

希「とか言いながら顔を逸らすのはなんでかなぁ~♪」

副会長「うるさいわね!」

希「くすくすっ。賽は投げられた。後は果報を待つだけ」

副会長「果報かどうかは微妙だけどね。でも、あんな風に綺羅さんに頼まれては結果を出すしかないわ」

希「スクールアイドルのトップは迫力が凄かったね」

副会長「そうね」

希「それに負けないくらいさっきの副会長も――」
副会長「――もういい加減にしなさいよ!」

希「顔が真っ赤だよ」

副会長「一生忘れられない恥の記憶になること間違いなしだわ!」

希「ウチも今日のことはお婆ちゃんになっても絶対に忘れない自信がある」

副会長「希は忘れなさいよ!」

希「大人になって会う度に今日のことで盛り上がれるって」

副会長「だから忘れなさい!」

希「今回のことを新聞部に伝えれば副会長の名前が絶対に残ること間違いなし☆」

副会長「やめてっ! こんな恥ずかしいことで名前を残すくらいなら誰にも覚えられてない方がいいわ」

希「ツンデレの副会長の言葉を通訳すると『是非お願いします』ってことだね」

副会長「本気で言ってるのよ!」

希「今日は良いもの見れたし、練習はお休みにしてケーキ屋にでも寄って行こう。ウチが奢ってあげるから」

希「副会長はどこのお店がいい?」

副会長「……あぁ、もう。なんでもいいわ」

希「じゃあ、表参道のあのお店にでも行こう」

副会長「はぁ~。希に捕まったことが人生の間違いだった。出会ってなければこんなことには……」

希「運命を否定するなんてとんでもない♪」

――新しき道へ 生徒会室 ツバサ

ツバサ「先生から報告があったわ。私のお願いを通してくれてありがとう。やっぱり二人はとても優秀ね」

希「二人というより副会長が獅子奮迅の活躍で切り伏せたって感じだけどね」

副会長「もうその話はしないで」

ツバサ「何かあったの?」

希「うふふ。それはもう青春という華が咲き乱れって感じだったんよ」

副会長「だからそのことは忘れてって言ってるでしょ!」

ツバサ「あら、顔が赤いわよ?」

副会長「~っ!」

希「こんな風に思い出すだけで顔が赤くなるくらい恥ずかしい台詞で先生を説得したんだよ」

ツバサ「それは是非見てみたかったわね」

副会長「本来掻く恥は学園祭のライブだけだった筈なのに……」

希「副会長のお陰でUTXは新しい時代に向かって突き進むことが出来るんだし。胸を張れることだって」

希「それこそ前会長がここに居れば合同学園祭を実現させる私よりも評価してくれる」

副会長「あんな人に認められても嬉しくないわよ」

希「素直じゃないんだから。ということだから、A-RISEは何の心配もなく完成度を満足いくまで高めて」

ツバサ「ええ、誰の目から見ても最高と謳われるようなステージにしてみせるわ」

副会長「投票が翌々日で翌日にはオトノキの大会がある。タイミング的に不利になるんじゃないの?」

ツバサ「それは重々承知してるわ。予選の一位通過は完全に諦めてるから」

ツバサ「私達が目標としているのは本戦の完全優勝のみ。その為に形振り構ってなんていられない」

副会長「そこまで気合入れる程のグループがいるの?」

ツバサ「本当の意味でそのグループの魅力を知ることになるでしょうね。七月三十日のあの大会で」

副会長「ふぅん。ま、私としてはA-RISEの優勝を疑ってないから別に他のグループはどうでもいいけど」

希「色々と変わってもUTX以外の学校に対して淡白なのは変わらないね」

副会長「それだけUTX学院のレベルが高いのよ」

ツバサ「だったら是非とも三十日に見に行って欲しいわね。きっとその認識も少しは変わるようなライブがそこにあるから」

希「随分とご執心だね」

ツバサ「頑張ってくれた二人にだから言うけどね。私にとって憧れであり、ライバルであり、親友でもある」

ツバサ「そんな人が0からスタートして私達と同じ舞台までたった二年半で上り詰めてこようとしている」

ツバサ「こんな熱い展開で本気になれないようじゃ、私はスクールアイドルなんてやってないわ」

副会長「青春してるわね」

希「ブーメラン」

副会長「希、何か言った?」

希「な~んも言ってないよ♪」

ツバサ「二人はいつまで生徒会に?」

希「私の引継ぎの時と同じにしようと思ってる。だから合同学園祭の片付けまでだね」

ツバサ「ということは二学期始まって少しね。生徒会を辞めると寂しくなるんじゃない?」

副会長「寂しがってる暇なんてないわ。受験勉強に切り替えないといけないからね」

ツバサ「貴女なら推薦くらい簡単に貰えるでしょ」

副会長「私は不確実な物に縋る趣味はないの」

希「ふふっ」

希(ツバサちゃんには内申点下がった可能性高いから推薦貰えないかもと頭抱えてたことは内緒にしておこう)

ツバサ「逞しいわね。それじゃあ、私はこれから一年生に鬼と言われる存在にならなきゃだからこれで失礼するわ」

希「ほどほどにね」

ツバサ「A-RISEに妥協という言葉は要らないわ」

副会長「一年生の冥福を祈っているわ」

希「冗談にならなそうなツバサちゃんの迫力がまた恐ろしい」

――ことりぼっち レッスン室 A-RISE

ことり「英玲奈ちゃん。私は何すればいい?」

英玲奈「ラブライブ本戦の衣装もデザイン済みだし、特にないな」

ことり「おかしいよ! ツバサちゃんがあんなに一年生を特訓してるのに、私だけ最近は練習軽めで早く帰らされるし」

ことり「私だってA-RISEのメンバーなのに」

英玲奈「その言葉は以前も聞いたし、あの頃よりもずっと深いものになっている。が、自分の胸に手を当てて考えてみろ」

ことり「……」

英玲奈「この時期から普通に練習量増しのメニューをこなした場合、ことりはどんな無茶をやらかすか」

英玲奈「今までが今までだ。本戦が始まる前に故障なんてことになりかねない」

ことり「私はそんな無茶しないよ!」

英玲奈「ファーストライブに学園祭。心当たりが何もないというのであれば練習メニューを組もう」

ことり「えへへ♪」

英玲奈「そういうことだ。抑える時はきちんと抑える。そういう我慢を学んでいると思っておくといい」

ことり「我慢、かぁ」

英玲奈「名実共にリーダーとなるんだ。そんなリーダーが無茶や無謀をしていたらA-RISEが崩壊する」

英玲奈「完全オフにするタイミング。練習時間を短くする代わりに濃厚な練習にする方法」

英玲奈「今までの練習を振り返って私とツバサが組んだメニューの意味を考えておくことだ」

英玲奈「ラブライブが終わってからは基本的にことりに任せることにしようという方針になってるから」

ことり「……私が」

英玲奈「リーダーが無茶をすれば他のメンバーはより無茶を強いられることになる」

英玲奈「西木野は自分のことを客観的に見れている節もあるが、ことりに対して対抗心が強い」

英玲奈「結局は限界を超えてでも食いついてくるだろう。小泉の方はアイドルに対する情熱が非常に高い」

英玲奈「今はまだ弱音を吐いたり出来るが、もう少し体力がつけば我慢することを選択するだろう」

英玲奈「自分でスカウトした個性的な二人だ。しっかりと観察して癖や表情を把握しておくように」

ことり「うん、ありがとう。気をつけるね」

英玲奈「これからは特に色々な節目になる。ラブライブにUTXありと言わせられるかどうかはことり次第だ」

英玲奈「ことりの活躍はアイドルを目指すツバサの応援にもなる。時々でいいからそのことを思い出せ」

英玲奈「恩を仇で返す性格ではないから、無意識にセーブすることを心掛けるようになるだろう」

英玲奈「……しかし、とても心配だ」

ことり「英玲奈ちゃんは心配性だなぁ。私だってきちんと出来るんだから」

英玲奈「そういう台詞に説得力が生まれないからこそ心配なんだ」

ことり「はぅん」

英玲奈「まぁ、あと半年以上はあるんだ。それまでに心配要素を減らし、安心して卒業させてくれ」

ことり「笑顔で卒業してもらえるように努力します」

英玲奈「ということだ。私だけ練習がなんて愚痴ってないですることがないなら早く上がれ」

ことり「うん。じゃあ、シャワー浴びてくる」

英玲奈「時間があるんだからマッサージも受けていくといい」

ことり「そこまで疲れてないから今日はいいや。あ、そうだ。明日は学校お休みだし、今日英玲奈ちゃんの家に泊まりに行ってもいい?」

英玲奈「ああ、勿論だ。美伊奈も喜ぶ」

ことり「じゃあお土産持ってお泊りに行くね!」

――躍動のことり! 家路 ことり

ことり「あっ! ほのかちゃ~ん!」

穂乃果「ことりちゃん! 今帰りなの?」

ことり「うん! 穂乃果ちゃんも?」

穂乃果「最近凛ちゃんの底上げってこともあるし、合宿があるから今のうちに穂むらのお手伝いしろってさ」

穂乃果「穂乃果としては家の手伝いより練習の方が楽しいし、なんだか仲間ハズレみたいで嫌だなー」

ことり「その気持ちすっごいよく分かるよ! ことりもね、今穂乃果ちゃんと同じような扱いなの」

穂乃果「ことりちゃんも?」

ことり「うん。一年生を鍛えるのをツバサちゃんがしてて、私は無茶するから今は軽めの練習以外NGだって」

ことり「だからこんな早い時間なのに下校してるの。きちんと理由があるから駄々捏ねるわけにもいかないし」

穂乃果「あははっ。ことりちゃんが駄々こねてるところを見てみたいかも」

ことり「もぅ。笑い事じゃないよー。えっへへ」

穂乃果「いやぁ~穂乃果一人だけだと思ってたけど、グループは違ってもことりちゃんと一緒なら我慢出来る」

ことり「そうだね。私も穂乃果ちゃんとお揃いならいいかなーって思う」

穂乃果「これから家に遊びにこない? これからは夏休みだけど、お互いに遊ぶ暇もなくなるだろうし」

ことり「うん! じゃあ、少しだけお邪魔しようかな。丁度穂むらでお買い物しようと思ってたんだ」

穂乃果「お買い上げありがとうございます♪」

ことり「今夜は英玲奈ちゃんのお家にお泊りだから、お土産にしようと思って」

穂乃果「統堂英玲奈さんか。絵里ちゃんみたいに大人びた感じの人だよね」

ことり「そうなの。お姉ちゃんが居たら英玲奈ちゃんみたいな人がよかったなって思うくらい頼りになるんだよ」

穂乃果「見た目通りなんだね。絵里ちゃんは……時々年下みたいになったりするんだー」

ことり「メンバーだからこそ見れる素敵な一面だと思う」

穂乃果「そう言われるとそうだね。ファンの子の前では素敵なお姉さんの一面が基本的だし」

穂乃果「そうそう、絵里ちゃんで思い出した。まだ返答はしてないけど、次期生徒会長に海未ちゃんがなるかもなんだよ」

ことり「あの恥ずかしがり屋さんの海未ちゃんが生徒会長っ!?」

穂乃果「うん、絵里ちゃんにすっごい熱いアプローチされて今は絶賛考え中みたい」

ことり「そっかー。私達三人の中で一番変わったのは海未ちゃんかもしれないね」

穂乃果「えぇー。穂乃果に厳しいのは相変わらずで全然変わってないよ」

ことり「ふふふっ。そこは変わらないかもだけど、誰よりも早くスクールアイドルになって作詞もするようになったし」

ことり「出逢った頃は本当に恥ずかしがり屋で声を掛けると瞳を潤ませてたり、中学の時だってポエム見られて泣きそうになって」

穂乃果「あの時の錯乱、ううんもはや狂乱状態の海未ちゃんは凄かったよねぇ」

ことり「忘れられない思い出だよね」

穂乃果「作詞した歌詞にも自信持ってるし、きっと生徒会長の件も受けると思う」

穂乃果「ことりちゃんの言うとおり一番変わったのは海未ちゃんかも。……穂乃果ももっと頑張らなきゃ」

穂乃果「一応消去法だったけど次期音ノ木坂学院アイドル研究部部長だから」

ことり「じゃあ、来年はお互いに皆を引っ張るリーダーってことだね」

穂乃果「ラブライブが終わったら練習メニューの組み方とか指導の仕方とか覚えないといけないと思うと頭が痛いよ」

ことり「それに自分の代になったら地位が落ちたらって思うと責任重大だよ」

穂乃果「A-RISEはまだいいよ。SMILEなんてにこちゃんとあんじゅちゃんの一代の成り上がりからなってるから」

穂乃果「偉大な三人が抜けたら一気にファンが減るんじゃないかと胸が痛い」

ことり「新入生が入ってくれるといいね」

穂乃果「絵里ちゃんの実妹の亜里沙ちゃんが入るのは確実で、雪穂もなんだかんだ興味ありそうなんだよね」

ことり「新入生が確実に入ってくれるっていうのは羨ましいなぁ。私がリーダーで入ろうと思ってくれる子が居るかどうか」

ことり「ツバサちゃんの様なカリスマ性もないし、英玲奈ちゃんのような凛々しさもない」

ことり「頼りになりそうなんて言われたこともないし、決断力も乏しい。デザインなら自信がついてきたんだけど」

穂乃果「ことりちゃんがそんな自信なくっちゃ、穂乃果なんてもっとないよー」

穂乃果「それにことりちゃんは自己評価が海未ちゃんと似て厳しすぎるよ。断言出来るのはことりちゃんなら大丈夫ってこと!」

穂乃果「【脳蕩ボイス】南ことりを応援するスレッド【ちゅん♪】が今どれくらいか知ってる?」

ことり「ううん。アンチスレならたまに覗くけど、応援スレッドは恥ずかしくて見れないから分からない」

穂乃果「256だよ! 256! これだけ応援されてるのに自分で評価下げたらファンが悲しむよ」

ことり「ホノカチャー」

穂乃果「【実家が】高坂穂乃果の笑顔になるスレッド【和菓子屋】なんて55だよ!」

穂乃果「入ったばかりの凛ちゃんを覗けばメンバーで一番少ない」

ことり「でもそれは穂乃果ちゃんが加入したのが遅かったから当然なんじゃない?」

穂乃果「ちなみに海未ちゃんは128」

ことり「……あ、はは」

穂乃果「それなのに次期部長兼リーダーなんだよ。本当に不安だよ」

ことり「SMILEで一番人気なのは誰なの?」

穂乃果「にこちゃんだね。ろうにゃんにゃんにょ関係なしに人気だから」

ことり(老若男女って言いたかったのかな? かわいいっ)

ことり「でも、穂乃果ちゃんの人気は今回の大会とラブライブ本戦に進むことで一気に加速する可能性高いよ」

穂乃果「そうなるといいんだけど」

ことり「少なくともことりの中で一番のカリスマは穂乃果ちゃんだよ。それは絶対に変わることのない心理です♪」

穂乃果「ことりちゃん」

ことり「お互いにこの夏に沢山の経験値を貰って、リーダーとして成長しよう」

ことり「穂乃果ちゃんと海未ちゃんが押してくれた背中。大きく飛躍してリーダーとして胸を張れるようになろう」

穂乃果「そうだね! それに大事なのは今の評価じゃなくて、リーダーになってからだよね」

ことり「その前向きさこそが穂乃果ちゃんの魅力だよっ!」

穂乃果「よ~し! 私とことりちゃんはリーダーとして絶対に成功するよーーーーッ!」

ことり「ひゃぁっ!」

穂乃果「ことりちゃんっ、私の家まで競争だよ。負けた方が飲み物奢り」

ことり「うん、いいよ。中学生までなら絶対に勝てなかったけど、今なら負けないよ」

穂乃果「じゃあよーいどんでスタートだよ。よーい……ドーン!」

――メッセージ 七月某日 UTX学院 廊下 ことり

ことり「あ、ツバサちゃん。おはよう、丁度よかった渡したい物があったの」

ツバサ「おはよう、ことりさん。渡したい物?」

ことり「これと言付けを預かってきたの」

ツバサ「これってにこにー大会のライブチケットじゃない。というかチケットありだったの?」

ことり「前列の方だけ招待客用にチケットが作られてるの」

ツバサ「そうだったの。それでこれは誰から?」

ことり「予想はついてるでしょ?」

ツバサ「――にこにーから私に」

ことり「うん。それで言付けなんだけど」

『キラ星! 見に来る時は完璧な変装をして分からないようにすることね! 全力で下克上する私達に恐怖しなさい』

ことり「だって」

ツバサ「くすっ。そう……それじゃあ、誰も私と気付かないような変装をして見に行かないとね」

ツバサ「ことりさんは見に行くの?」

ことり「勿論。穂乃果ちゃんと海未ちゃんのライブだもん」

ツバサ「いくら楽しみだからって前日のA-RISEのライブを疎かにするような真似はしないでね」

ことり「それは私の台詞だよ。英玲奈さんだって同意してくれると思う」

ツバサ「にこにーが最高を演出するのなら、私もまた最高を魅せるまでよ」

ツバサ「理想としてはどちらが良かったと比べるのではなく、どちらも最高だったと思われることね」

ツバサ「優劣を競うことになると分かっている。最終的には私達が優勝する」

ツバサ「その気持ちに偽りもないし、気持ちが揺らぐこともない。でも、そんなことを思ってしまうわ」

ことり「大丈夫だよ。私達も穂乃果ちゃん達も皆が全力を出し切る。優劣は付けられるけど、二日間が最高だった」

ことり「忘れられないライブだったって思ってもらえるよ」

ツバサ「そうなったら最高ね。そして、ラブライブ本戦も」

ことり「なったらじゃなくてなるんです。だから私達はライバルとして切磋琢磨できるんです」

ツバサ「A-RISEの問題児に諭されるなんて私もリーダーとしてまだまだ甘いわね」

ことり「も、問題児」

ツバサ「さ、今日はいつも以上に気合を入れてレッスンするわよ。夏の日は長そうで短いのだから」

◆矢澤家夜の会◆

ママ「なんてこともあったわ」

あんじゅ「なるほど。そういう部分はにこが色濃くパパさんの性格を受け継いでいるみたい」

あんじゅ「にこってば私が居ないと本当に無理して潰れちゃいそうだからね」

ママ「その気持ちよく分かるわ。私もパパに対してそういう気持ちが強かったもの」

にこ「ママはいいけどあんじゅはおかしいでしょ! いつもいつもまるで私が一人じゃ何も出来ないみたいじゃない」

あんじゅ「何も出来ないなんて言ってないよ。何でもしようとするから心配なの」

ママ「そうそう。誰かの為となると自分のこと以上に力を発揮するんだけど、一人で無茶しようとして」

ママ「周りが沢山手を貸して分担して乗り越えてきたわ。懐かしい」

あんじゅ「本当ににこそっくり」

にこ「私は言う程無茶はしてないでしょ」

あんじゅ「無茶をしなかったことが少ない気がするけど」

にこ「そんなことないわよ。無茶したのは穂乃果加入の時の衣装作りくらいよ」

あんじゅ「本気で言ってるなら一番其れが性質が悪いにこよ」

ママ「お姉ちゃんの苦労性は私の所為でもあるから。家政婦さんでも雇えるような家庭ならね」

ママ「もっと楽をして子供っぽいことをして過ごせてたんだろうけど」

にこ「ドラマじゃないんだから家に家政婦なんている家庭なんて存在しないわよ」

あんじゅ「……」

にこ「それに私より小さい頃からずっと鍵っ子なんて子だって沢山いるんだから。ママが気負う必要なんてないわ」

あんじゅ「そうそう! それにお陰でにこの料理の腕は音ノ木坂一番になったし☆」

にこ「いや、私以上なんて何人でもいるわよ」

あんじゅ「そんなことないよ。にこなら味王にだって一勝一敗一引き分けっていう伝説を再現できるよ」

にこ「味王って誰よ」

ママ「あら、随分と懐かしいわね。私も読んでたわよ、劣勢からの陽一君の追い上げは胸を熱くさせたわ」

あんじゅ「最終バトルに相応しい展開だったよね」

ママ「そうね」

にこ「私が言うのもなんだけど、本当にあんたってば商店街の人達に毒されてるわよね」

にこ「時代が戻りすぎて私も拾えないネタばかりになってきたわよ」

あんじゅ「努力が足りない証拠だよ。もっと時間遡行しないと」

にこ「する必要がないわよ。お婆ちゃんがくれる生活に使える知識だったら必要だけど」

あんじゅ「使えない知識を溜め込んで悦に入るのは人間だけっていう説があるよ」

にこ「……その説が既に要らない知識よ」

あんじゅ「そういえばママとパパさんの出逢いってどんなのだったの?」

ママ「それはね――」
にこ「――待って! 実の娘の前でそういう話をされると何とも言えない感情が湧いてくるからやめて」

あんじゅ「こころちゃんとここあちゃんはもう寝ちゃってるから大丈夫だよ」

にこ「私のこと言ってるのよ!」

ママ「ふふっ。あれは私が高校一年生の時だったわ。校内音楽コンクールっていうイベントがあってね」

にこ「って! ママまで私の言葉スルーしてるし!」

あんじゅ「にこがスルーされるのはもはや人間国宝レベルだね」

にこ「意味わかんない!」

ママ「当時カラオケなんて行くことないくらい真面目だったし、お世辞にも歌が上手ってわけじゃなかった」

ママ「皆で歌うから音程を外すとかなり目立つし、公園で練習することにしたの」

ママ「冷静になればお風呂場で練習した方が効率よかったんだけど、必死だったから気付けなかった」

ママ「今ではそれこそが運命だったと思うんだけどね」

あんじゅ「よかったね、にこ。もしお風呂場で歌ってたら私もにこも生まれてなかったんだよ」

にこ「いや、あんたは関係なく生まれてるでしょうが!」

あんじゅ「じゃあ訂正。死亡フラグが立ってたところだった。死因:にこ欠乏症」

にこ「生まれてない相手を欠乏症ってどんなパラダイスよ!」

あんじゅ「うっふふ。そうだね、そうだね。どんなパラダイスだろうね★」

ママ「朝早い時間なら散歩してる年配の方か犬の散歩の人くらいしかいなかったのよ」

ママ「だから大丈夫かなって思って、恥ずかしいから目を瞑って歌ってたの」

ママ「歌い終わって目を終わったらランニングしていた当時のパパと視線が通ってね」

あんじゅ「視線と一緒に運命までも通っちゃったんだっ♪」

にこ「うわぁ、もう恥ずかしい!」

ママ「……それでね、テンパっちゃって。咄嗟に走りよってパパにデコピンをしてた」

あんじゅ「これは予想してなかった」

にこ「予想出来たら恐ろしいっていうか、パパ何も悪いことしてないのに」

ママ「しかも当たり所が悪かったのかパパ気絶しちゃって」

あんじゅ「ママは秘孔の使い手!? 北斗指弾忘却拳――にこにこにこにこにこっ! 既にお前は忘れている」

にこ「どうでもいいけど、指弾って小石とかを指で弾くんじゃなかったっけ?」

あんじゅ「ツッコミの入れる所がそこなのも想定外だったにこ」

ママ「人生初めての膝枕を余儀なくされたわ。クラスの男の子と話すのも緊張するくらいの優等生だった私が」

にこ「完全に自業自得だけど」

ママ「パパが目覚めてから謝って、それから自己紹介。色んな意味でお互い一番強いインパクトある出逢いだったわ」

にこ「パパに至ってはダメージ付きのインパクトっていうおまけまであったら忘れられないわね」

あんじゅ「私も初めてにこに逢った時にデコピンするべきだったね」

にこ「何の対抗心よ!」

ママ「人の縁はどんなところで生まれるか分からないから、一つひとつを大事にするのよ」

あんじゅ「うん!」

にこ「今更言われるまでなく大事にしてきてるわ」

あんじゅ「でもそっか……。そんなママとパパさんの子供だからにこはちっちゃいのにこんなにも優しくて大きいんだね」

にこ「盛大に矛盾してるわよ。というかちっちゃいは関係ないでしょ!」

あんじゅ「正直、羨ましいな」

にこ「……あんじゅ」

あんじゅ「でも、だからこそこうしてにこと出逢えたから何も不満はないけどね」

にこ「あんたの場合はこんな風にならなくても、どこかで必ず出逢ってたと思うけどね」

あんじゅ「その場合も仲良くなれたかな?」

にこ「さぁね。ただ、あんたと仲良くならないって可能性が今の私には想像出来ないわ」

あんじゅ「うふふ♪」

ママ「ふふふ。本当に二人は喧嘩しない分、こころとここあ以上に姉妹仲がいいわね」

にこ「あの子達はあれも一つのコミニュケーション」

あんじゅ「そうだね、なんだかんだ楽しそうなコミュニケーションだよね」

ママ「あんじゅちゃんのこともパパに会わせてあげたかったわ」

あんじゅ「私も会ってみたかった」

にこ「ま、会わせてあげることは無理だけど、見てもらうことは出来るわ」

あんじゅ「えっ?」

にこ「パパと虎太郎さんの縁で開かれる大会だもの。絶対にパパが今度のライブを見に来てくれるわ」

にこ「私の自慢の妹って紹介してやるから、ヘマするんじゃないわよ」

あんじゅ「最近デレ分が増してきたのでほっぺたニマニマしちゃうね」

あんじゅ「あっ、そうだ! だったら《歌姫より...》を披露する時はパパさんに合図を送ったらどうかな?」

にこ「合図?」

あんじゅ「右手を真っ直ぐに上げて、人差し指で大きく宙に円を描くの。パパさんとの縁が繋がる円を」

にこ「ソラにマルをねぇ」

あんじゅ「どうかな?」

にこ「一昔前のパフォーマンスって気もするけど……でも、いいかもね。パパへの合図はそれにするわ」

あんじゅ「にこの合図がパパさんに届くといいね」

にこ「ええ、そうね」 了


◆ネクスト◆
ちょっと忙しいので予定変更。にこ誕の前には完結したい
次回こそクライマックスのそらまる!

※長すぎて終わりが見えないので、仕方なく分割します。クライマックス前半。SMILEに覚醒の風が吹く...

◆それは僕たちの奇跡◆

――日曜日 矢澤家 朝

にこ「全てクリアしてから各校に連絡を入れる筈だったのに、嬉しくてついつい先倒しにしちゃった分を消化しないとね」

にこ「一校の移動手段が~って問題は内田のお姉さんのお陰で……人の不幸の上に立ってると知ってそういうのは間違いかも」

にこ「ともかく、小型バスを出してくれるお陰で片付いた。残る問題は三つ」

にこ「一つは洗濯物ね。歴史ある割には洗濯機もないなんてね」

あんじゅ「普通の学校に洗濯物はないと思うよ」

にこ「だったら逆に普通じゃない音ノ木坂だからこそあって欲しかった」

あんじゅ「ないものねだりしたって解決しないよ」

にこ「そうね、次の問題はお風呂ね。シャワーはあるけどお風呂はないからね。まったく駄目な学校だわ!」

あんじゅ「可愛さ余って憎さ百倍なのは分かるけど、学校にお風呂は余りないよ」

にこ「温泉がある学校も中にはあるって話よ。だったら普通のお風呂くらいあってもいいじゃない!」

あんじゅ「例えあっても小さいお風呂だから結局あっても時間かかって意味がないよ」

にこ「あんたは私がああ言えばこう言うんだから」

あんじゅ「今回は全くの正論を言ってるだけだよ。にこがおかしいの」

にこ「確かにね!」

あんじゅ「素直に納得しちゃった!?」

にこ「で、最後の問題は食材。人数が多い分どうしても多くなっちゃう」

にこ「やっぱりカンパって形にしないと駄目かしらね」

あんじゅ「こればかりは仕方ないと思うよ。食材は策でどうにか捻り出せるものでもないから」

にこ「そうよね。痛んでた物を貰うくらいは出来るけど、人数が人数だけに焼け石に水」

あんじゅ「何もかもにこが背負う必要はないよ。私達高校生に出来る限界は確実にあるんだから」

にこ「あんたに正論ばかり言われるとこれは夢なんじゃないかと思っちゃうわ」

あんじゅ「何気に失礼なこと言ってるニコ!」

にこ「普段は百倍は私に失礼なこと言ってるでしょうが」

あんじゅ「確かに!」

にこ「素直に納得された!? って、漫才じゃないっての!」

あんじゅ「うふふ」

にこ「はぁ~……よしっ! 気分転換も兼ねてお婆ちゃんの家に行きましょうか」

あんじゅ「うん!」

――お婆ちゃん家 にこあん

にこ「お婆ちゃん家で食べるご飯はなんか落ち着くわ」

あんじゅ「分かる分かる。落ち着く匂いがするんだよね。歴史のある匂いって感じ」

にこ「いや、それは意味が分からないけど」

お婆ちゃん「それで、何かあったのかい?」

にこ「え、何かって?」

お婆ちゃん「今のにこちゃんは悩んでる顔をしているよ」

にこ「そんなことないわ。むしろ一昨日悩み事が(一つだけど)解消されてホッと一息吐いてるくらいだし」

お婆ちゃん「心配掛けないようにしているつもりだろうけど、そっちの方が心配になるんだよ」

にこ「……はぁ~。お婆ちゃんに隠し事は出来ないわ」

あんじゅ「亀の甲より年の功だね」

にこ「昔の人は上手いことを言うわよね。漫才のルーツって意外と諺からきてるのかもしれないわ」

あんじゅ「いや、それはないって。それよりも心配させない為にも白状しないと」

にこ「分かってるわよ。今度ね、他校の子達を招いて学校で合宿を行うの。九日間泊まることになるからお風呂問題」

にこ「音ノ木坂にシャワー室はあるんだけど、女の子だからやっぱり毎日お風呂は入りたいの」

にこ「アイドル活動をしてると色々とお金も使うことがあるし、毎日お風呂代を必要とすると積み重なればって感じで」

にこ「だからといって私達の家のお風呂を貸すのにも人数的に問題があるし、ちょっと困ってるの」

にこ「この問題を口にすれば大会の為だしシャワーでも我慢できるって子も多く居ると思う」

にこ「我慢するよりお金出してでもお風呂に入りに行くって子も当然出てくる筈」

にこ「そこが一番問題なの。自分達は我慢しないといけないのに、我慢しなくても済む子が居る」

にこ「今回の合宿は仲間同士の身内で行うわけじゃないから、集団生活でそういう亀裂に繋がる可能性があるの」

にこ「精神的に優劣が生まれると普段なら出せた筈の結果が出せなくなる、なんてことになったら合宿の意味がない」

にこ「それに裸の付き合いって本音で語り合えるから出来るのなら絶対に必要なんだけど……解決策の糸口も見えてこないの」

にこ「高校生しかスクールアイドルにはなれないけど、逆にそのことが私達を縛り付ける」

にこ「だけど、これすら贅沢な悩みなんだけどね。環境もなく、たった一人で頑張り続けたせんちゃんに比べれば」

お婆ちゃん「まったく。にこちゃんは昔から背負わなくてもいいことまで背負おうとするんだから」

あんじゅ「でもパパさんに似たんじゃしょうがないよね」

にこ「分かってるじゃないの」

お婆ちゃん「お風呂の件は私に任せておきなさい」

にこ「でも、にこってば最近は特にお婆ちゃんに甘えてばかりで」

お婆ちゃん「何を言ってるんだい。本当の孫とほとんど会えない生活をしてる身としてはねぇ」

お婆ちゃん「にこちゃんは本当の孫以上に可愛い存在なんだよ」

にこ「……お婆ちゃん」

お婆ちゃん「それに以前にも言ったけどね、わたしはにこちゃんの周りに笑顔が咲くのが好きなんだよ」

お婆ちゃん「今回合宿に来る子もまた、にこちゃんの魅力に当てられて笑顔になって欲しい」

お婆ちゃん「これは私の願いでもあるねぇ。だからお風呂の問題は任せておきなね」

にこ「うん、ありがとう。とっても嬉しいにこっ♪」

にこ「でもどうやって解決するつもりなの?」

お婆ちゃん「商店街にある銭湯の主人に話をつけるだけさ。ちょっと頑固なところがあるけど、きちんと説得するからね」

あんじゅ「内田のお姉さんと違って安心感あるね」

にこ「ええ、そうね。というか比べるのが失礼過ぎるわ。とにかくお婆ちゃんにお任せするにこ!」

お婆ちゃん「ああ、任せておきな」

あんじゅ「高校生じゃ無理なことを次々とその絆で可能にしていく。にこってばまるで漫画の主人公みたい」

にこ「ふっふーん!」

あんじゅ「本屋さんから返品殺到するような漫画か、十話で打ち切りの主人公みたい」

にこ「なんで変な単語が追加されてんのよ、この愚妹!」

お婆ちゃん「ふぇっふぇっふぇっ。そうやって嬉しそうにしているにこちゃんとあんじゅちゃんが一番の宝だよ」

にこ「そうだ、お婆ちゃん。今年は私の誕生日を延期するから、七月三十一日に延期になるの」

にこ「だから三十一日は空けておいてね。とびっきりの料理を――」
あんじゅ「――はいはーい! カレーがいい☆」

にこ「誕生日までカレーって、まぁいいわ。カレーとか色々用意するから遊びに来てね」

お婆ちゃん「何があってもその日は予定を空けておかないとねぇ」

あんじゅ「色んな人招いたら入りきらなくなるかもね。みんなに愛されにこにー♪」

にこ「いや、流石にそんな多くは集まらないけど。いや、あの子達にもお世話になってるし招きましょう」

あんじゅ「新旧SMILE勢揃いだね。シカちゃんとか陸上部部長さんも招いて、あとは練習ないようならだけど」

あんじゅ「ことりちゃんと花陽ちゃんも招きたいな。亜里沙ちゃんと雪穂ちゃんは言わずもがなだし」

あんじゅ「ミカちゃん達三人も招いて、お仕事なければいつものお礼に理事長も招きたいな」

にこ「本気で家に入りきらないっての!」

お婆ちゃん「どこかのホールを借りるのもいいかもしれないねぇ」

にこ「いやいやいや! お婆ちゃん何言ってるにこ!」

お婆ちゃん「お風呂のついでに何処かいい所がないか話してみるよ」

あんじゅ「さっすがお婆ちゃん。話が早くて行動派!」

にこ「あんたも称賛してないで止めなさいよ!」

あんじゅ「にこの記念すべき十八歳の誕生日は一生に一度しか訪れないんだから盛大にするのは大賛成♪」

にこ「十八歳限定じゃなくても一生に一度しかその歳の誕生日は訪れないっての。しかも実際の誕生日が過ぎた後だし」

お婆ちゃん「誕生日はお祝いする気持ちが全てだよ。実際に生まれた日でなくても充分に意味があるさね」

にこ「ま、それもそうね。この妹も実際の誕生日に祝ってないし」

あんじゅ「にこと出逢った日こそが私の誕生日。お婆ちゃんの言うとおりなんだよ☆」

あんじゅ「それにラブライブ予選通過記念と合わせて三十一日は盛大にするのに賛成以外ないよ」

にこ「……もう、負けたわ。お婆ちゃん、色々とよろしくね」

お婆ちゃん「にこちゃんは背負い過ぎずにね」

にこ「うん、もう少し気楽にやってみるにこよ!」

――火曜日 教室 えりにこあん

あんじゅ「あとの問題点は食材と洗濯だよ」

にこ「ま、こう次々と助けられるとなんとかなりそうな気がしてきたわ」

絵里「にこにしては随分ポジティブな発言ね」

にこ「まるでいつも私がネガティブみたいに思われる発言するんじゃないわよ」

絵里「そうね。ポジティブな筈なのになんとなくにこっていつも自分で解決したがる所為かそんなイメージがするのよ」

にこ「そんな失礼なイメージ持つとか長女失格にこよ!」

絵里「馬鹿ね、にこってば。長女に失格なんてないわよ」

あんじゅ「なんか凄い女神みたいな笑顔で返した。これにはにこもたじたじ!」

にこ「この反応はどう切り返せばいいのか……よく分からないけど、私の負けだわ」

絵里「当然ね」

「絢瀬さんって意外とお茶目だよね」

「うんうん。別クラスだったから有能な生徒会ってイメージしかなかったけど、意外とコミカル」

「一年生の時はすっごい近寄りがたかったけど、今は親しみあるよねー」

にこ「そういえば本当に出会った頃の絵里ってば氷の彫刻みたいなやつだったわよね」

絵里「どうして度々そのことを思い出すのよ」

あんじゅ「インパクト抜群だったからね」

絵里「あ、そうだ。前生徒会長が学園祭の二日目、つまりは音ノ木坂の開催の日に来てくれるそうよ」

にこ「あの人は私達の恩人だし、満足してもらわないと」

あんじゅ「そうだね。来て良かったって思ってもらえるようにしようね」

絵里「恥ずかしくて夢を見つけたこと言えてないから、直接伝えなきゃ」

あんじゅ「そう言えば絵里ちゃんは物語書いてるんだよね。どんなの書いてるの?」

絵里「今は習作だから何を書いてるっていう訳でもないけど、にこを主人公にした物語を書ける日まで頑張るわ」

にこ「そういえばそんなこと言ってたわね」

絵里「ミュージカルで見栄えよくする為にもラブライブで優勝しないとね」

にこ「予選通過前に本戦のことばかり口にしてたら足元崩れていつかの海未と穂乃果みたいに落ちていくわよ」

あんじゅ「大丈夫だよ。落ちてもあの時みたいに上ってくればいいんだから」

にこ「夢と現実は違うわ。チャンスは一度きりなんだから」

あんじゅ「にこは鉄仮面が似合いそう」

にこ「はぁ? スクールアイドルが顔隠してどうするのよ」

あんじゅ「にこなら顔を隠しても人気が落ちることはないよ!」

にこ「なんでよ!」

あんじゅ「ぐふふ★」

絵里「取り敢えず今日は海未が剣道部と弓道部に付きっ切りになるそうだから、凛のことは私に任せて」

絵里「穂乃果は今日も家の手伝いをしてもらうとして、二人は早く帰って充分にリラックスして」

にこ「分かったわ。たまには姉の言葉を素直に受け入れてあげる。問題に頭を捻らせるのは明日からにするわ」

あんじゅ「久しぶりに二人でカラオケでも行く?」

にこ「それもいいかもね。私の森のパンダさんに酔いしれなさい!」

「そういえば学園祭でにこちゃん森のパンダさん歌ってたよね」

「見た見た。小さい子と手を繋いで歌ってた」

「あれにはすっごい和んだ」

あんじゅ「そんなことしてたんだ」

絵里「そういえば聞いたわ。迷子の子を面倒見たって」

にこ「にこは小さい子の扱いは手馴れてるからね」

あんじゅ「にこ自身も小さい子だけど」

にこ「ぐっ……なんであんたが伸びる分の身長を私にくれなかったのよ」

あんじゅ「あ、ごめん。過去形になってるのを聞くともう罪悪感で背のネタは使えないにこぉ」

にこ「そんな反応される方が傷つくわよ!」

あんじゅ「ごめんね」

にこ「瞳のハイライトが消えてて怖いっての!」

あんじゅ「ごめんねごめんねごめんねごメんねゴめんねごめんネネネごめんね」

絵里「ひぃっ!」

にこ「絵里がマジで怖がってるから元に戻りなさい」

あんじゅ「よし、今度から弄るのは胸の方だけにしよう!」

にこ「そっちの方がムカつくニコ!」

――放課後 昇降口 にこあん

あんじゅ「そう言えばにこが森のパンダさん歌うようになったのって私が切っ掛けだったよね」

にこ「あ~そう言えばそうね。あんたが勝手に私の番にあの曲入れて歌ったら波長が合ったのよね」

あんじゅ「つまり私がいなければにこはカラオケの十八番がなかったってことだね」

にこ「否定出来ない」

あんじゅ「もし十八番がなかったらどんなやり方で海未ちゃんを勧誘してたんだろうね」

にこ「どうだったのかしら。どっちにしろあんたの手の平で踊らされてたに決まってるわ」

あんじゅ「うん、そうに決まってる♪」

にこ「くっ! 自分で言ったけど肯定されるとムカつくわね」

あんじゅ「にこはそういう星の下に生まれた子だからね」

にこ「そんな残念な運命を背負って生まれてないわ」

あんじゅ「ううん。私はにこと出逢った瞬間にピーンときたね。この子は私の手の平の上で踊るにこなんだって」

にこ「名前すら知らなかったでしょうが!」

あんじゅ「私の存在に驚いて尻餅をついて印象付けるなんて面白いアプローチなんだろうって思ったよ」

にこ「誰だって驚くわよ。空き部屋だった隣の部屋のドアの前に気配もなく座ってるんだもの」

にこ「でも尻餅まではついてないわよ! 勝手に過去を捏造するんじゃないわ」

あんじゅ「あれはもう尻餅をついてたって言っても平気なくらいの驚きだったって」

にこ「犠牲になったのはにこのお尻じゃなくて卵達よ」

あんじゅ「にこだけに二個生き残ってよね」

にこ「全然上手くないわ!」

あんじゅ「あんな驚いてたのに怖い話は平気なのはおかしい。絵里ちゃんみたいに怯えるべきだと思う」

にこ「怖い話と肝試しは別物でしょ? それと同じよ」

あんじゅ「つまりそれは合宿で肝試しをやるってフラグ?」

にこ「やらないわよ。夜に騒いでたら先生に怒られるでしょ。この合宿は先生の後押しあってGOサインが出たのよ」

にこ「恩を仇で返すようなことは出来ないわ」

あんじゅ「流石にこ。普段はおちゃらけ弄られキャラなのに真面目な時は真面目!」

にこ「当然なこと言ったのにこの仕打ち。あんたも少しは私に恩を返しなさいよね」

あんじゅ「大丈夫だよ。私が傍に居ることでにこの心は常にハッピー!」

にこ「何その頭の中がお花畑な発想」

あんじゅ「事実だよ☆」

にこ「その自信がどこから湧いて出るのかが不思議でならないわ」

あんじゅ「発生源はにこからの愛情にこっ♪」

にこ「そんなことよりせっかくだしカラオケ勝負しましょうか」

あんじゅ「だからどうしてにこはいつも敗北フラグを自分から立てるの?」

にこ「ずっと言い続けてるけど、どうして敗北フラグにされてんのよ!」

あんじゅ「蓄積されてきた過去の統計結果=にこの敗北フラグ」

にこ「式にされるとこれはこれでダメージがくるわね」

あんじゅ「私が居ることでそんなダメージも直ぐに回復」

にこ「あんたの言葉にダメージ受けてるのよ!」

あんじゅ「ダメージを与えた後に回復してあげることで、相手により感謝されるジゴロのやり方」

にこ「将来詐欺師にならないようにしっかりとリードを握っておかないとね」

あんじゅ「にこってば私に首輪とリードをつけたいの? しょうがないなー。ボブキャット耳と尻尾も用意してね」

にこ「そんなマイナーな耳と尻尾なんて売ってないわ」

あんじゅ「じゃあにこが作ってよ。そしたら雌ボブキャットのポーズを決めてあげる」

にこ「そのポーズとやらが私を捕食してるイメージしか湧かなくて怖い」

あんじゅ「にこを食べちゃうニャー♪」

にこ「凛が言えば可愛いけど、あんじゅが言うとあざとい以外のなんでもないって」

あんじゅ「ごろろろろ♪ ……じゅるっ」

にこ「なんで喉を鳴らした後に獲物を前にしたような舌なめずりするのよ」

あんじゅ「ワタシニコクウ。ニコノチカラテニイレル」

にこ「どこの大猿よ!」

あんじゅ「四十秒で捕食しな!」

にこ「作品が違うし。どんな酷い海賊よ」

あんじゅ「はむはむっ。にこを捕食中~♪」

にこ「ぐあっ! 重いから圧し掛かるんじゃないわ」

あんじゅ「お姉ちゃんなら妹をおんぶして帰るくらい出来るよ」

にこ「おんぶしたらスカートの中身が見える上に、自分より身長高い相手をおんぶなんて出来ないニコ!」

あんじゅ「ツッコミより女子力を優先させるなんて……まるでにこが小学生じゃなくて女子高生みたいに思えるね」

にこ「女子高生よ!」

あんじゅ「そういうことにしておこう★」

にこ「事実以外のなんでもないわ。あんたが絡むからカラオケ屋どころか、あの校門すら遠い蜃気楼に思えてきた」

あんじゅ「無事に学校を出れる普段が如何に幸せなことか知ることが出来て良かった良かった」

にこ「いい話風に纏めてもただ疲れるだけよ」

あんじゅ「しょうがないなー。早く行かないとこころちゃんとここあちゃんが帰って来ちゃうから普通に行こう」

にこ「……最近理不尽と友達になってきたわ。そろそろ涙ちゃんとも友達になる日も近いかしら?」

あんじゅ「大泣きしても今度は動揺することなく捌くことが出来るから安心して泣いていいよ」

あんじゅ「予行練習も兼ねてにこが泣くようなイベントを用意しなきゃ」

にこ「絶対に用意するんじゃないわよ」

あんじゅ「そうだね。今回はやめておこうかな」

にこ「何よ、随分とあっさりね」

あんじゅ「七月三十日に勝手に泣きそうだから。SMILEが予選通ったにこ~って」

にこ「そんなことで泣く程にこは涙脆くはないわ」

あんじゅ「ついこないだあれだけ人前で泣いて涙脆くないと言い切るにこにーお姉ちゃん」

にこ「あれは……しょうがないでしょ。同じ学校の仲間ってだけで皆が手伝ってくれるって言うんだから」

あんじゅ「同じ学校だけってわけじゃないよ。にこが蒔いた種が芽吹いたんだよ。私達は栄養剤」

にこ「生徒会長の絵里の力と海未の力が大半でしょ」

あんじゅ「にこの頑固さに訂正入れるのも面倒になってきた。だからあの言葉を拝借しよう」

にこ「あの言葉?」

あんじゅ「にこがそう思うならそうなんだよ。にこの中ではね」

にこ「何そのムカつく言い方」

あんじゅ「文句があるなら私にカラオケ勝負に勝ってからにしてもらうニコ!」

にこ「望むところニコ!」

少女「あっ! にこちゃん来た!」

あんじゅ「おぉっ。出待ち最年少更新かな?」

にこ「あの子に見覚えがあるわ」

あんじゅ「商店街の子かな?」

にこ「住んでる所は知らないけど学園祭に来てた子ね」

あんじゅ「噂の迷子ちゃん?」

にこ「そうそう、徳井あいなちゃん。あーちゃんお久しぶり」

少女「うん! にこちゃんもおひさしぶり」

ママ「その説では娘がお世話になりました」

にこ「いえ、それよりもどうかしたんですか?」

少女「にこちゃんにあいにきたの!」

にこ「私に?」

少女「うん♪」

ママ「あれからSMILEのことを知って、ファンになったんです」

少女「あーちゃんはスマイルがだいすきなんだよ」

あんじゅ「可愛い♪ にこより小さいのににこよりもしっかりしてる」

にこ「にこよりをわざわざ付ける必要ないでしょ」

少女「えっへん。あーちゃんはしっかりものなの」

にこ「わざわざ会いに来てくれたんですか?」

ママ「それだけではなくてOGとして力になろうと思ってきたんです」

にこ「力にですか?」

少女「にこちゃんがおとまりかいするってきいたの!」

あんじゅ「お泊り会。大連続公開合宿のことだね」

にこ「自分で名付けておいてなんだけど、あんじゅの言うとおり無駄に長いわね」

ママ「一時は廃校になってしまうんじゃないかって噂があったのに、学園祭では生徒達の活気で溢れてて」

ママ「切っ掛けは何かを調べたらスクールアイドルのSMILEに行き当たったんです」

少女「にこちゃんはすごいの☆」

あんじゅ「そうだよ。にこちゃんは小さいけど誰よりもすごいんだよー」

にこ「小さいは余計だっての」

にこ「というか、私達はただの切っ掛けです。卒業していった先輩達の助けが多くあって、みんなが音ノ木坂を大好きで」

にこ「だからこうして生徒数も増えた今に繋がってるんです。お世話になった先輩にすら恩を返せてないくらいですし」

にこ「私達の我が侭に力を貸してくれた先輩。物凄い無茶を受け入れてくれた先輩達のお陰なんです」

少女「せんぱい?」

にこ「同じ学校の年上の人のことなんだけど、あーちゃんにはまだ難しいかしらね」

少女「んー……えっへへ♪」

にこ「勿論先輩だけじゃなくて同級生や下級生にだって色々迷惑かけてるくらいですし」

ママ「それは手を貸したくなる魅力があるってことではないかしら?」

ママ「現に私は娘がお世話になったこともあるけど、矢澤さんだから力を貸したいと思ったんです」

ママ「それで話は戻りますけど合宿の際に困ってることがあると耳にしました。洗濯物が多くてどうすべきかと」

にこ「ええ、音ノ木坂に洗濯機はないですのでどうしようかと」

ママ「そのことで力になろうと思って来たんです。洗濯は私に任せてくれませんか?」

にこ「いえ、一人でどうにか出来る量じゃないです。只でさえ夏場で汗を掻き易い状態なのに激しい運動をしますし」

にこ「人数だって私達を除いても三十九人ですから」

ママ「ということは四十五人ですね。大丈夫です」

少女「だいじょうぶー♪」

にこ「洗濯だけで一日が終わるレベルですってば。洗濯機フル稼働で干しては洗っての繰り返しですよ」

ママ「勿論私一人という訳じゃないの。元々はコインランドリーを経営してる私の友人、その子も音ノ木坂卒業生なんですけど」

ママ「その子からの提案で、駄目元で当時の同級生に声を掛けたら母校の為に頑張ってるなら私達もって二つ返事を貰いまして」

ママ「プチ同窓会兼部活動みたいな感じになるって勝手に盛り上がったくらいです」

ママ「ボランティアですから勿論お金は要りません。ただ、流石に個別でという訳にはいかないので」

ママ「学校別で洗濯する形でよければなんですが、どうでしょうか?」

にこ「そんな迷惑掛ける訳にはいかないです」

ママ「ここで断れることが初めて迷惑になるんですよ」

あんじゅ(虎太郎さんと同じで最初から退路を断ってからの提案。私もこの大人のやり方を使えるようにならなきゃ!)

少女「あーちゃんもね、にこちゃんたちのおてつだいするんだよ♪」

にこ「……分かりました。お願いします。ですが無料という部分だけは了承しかねます」

にこ「元々コインランドリーは有料ですから。それを使わせてもらうのに無料なのは心苦しいので」

ママ「そう言うと思ったわ。そういう切り返しできたらって伝言を頼まれてます」

ママ「学園祭で食べたカレーをラブライブが終わった後に御馳走して欲しいとのことです」

ママ「私達はカレーを食べに行ってないんですけど、あの子は食べに行ったそうで大変お気に入りのようです」

にこ「私の作ったカレーなんかじゃ釣り合いが取れてません」

ママ「人が持つ価値観は誰かが言葉で否定できる物ではないわ。だからこそ個性があるんですよ」

ママ「あの子は両親が仕事好きで家庭の味に憧れが強いんです。学園祭のカレーはそんなあの子の憧れの体現だったみたいで」

ママ「あの子にとっては其れが適正の報酬ということです。あ、勿論私達にも振舞ってくれるなら喜んで頂きますよ」

あんじゅ(これはにこの負けだね。もっともっと知識を吸収して早く大人にならなきゃ)

にこ「…………。分かりました。十日近くの間とても大変だとは思いますがよろしくお願いします!」

少女「うん! あーちゃんにおまかせなの☆」

ママ「断られたら一人で勝手に話を進めただけで頓挫したって責められるところでした」

あんじゅ(さらりとした一言でアフターケアーも万全。大人恐るべし)

にこ「伝言をお願いします。今回の報酬に見合う特製カレーに仕上げてみせますと」

ママ「きちんと伝えておきます。洗濯物の回収と届ける時間帯等の詳しいことは追々決めていく形でいいですか?」

にこ「はい。では連絡先を交換させてください」

ママ「ええ、赤外線のやり方がわからないのでメモって来ました。これです」

にこ「では登録してメールでこちらの番号をお伝えしますね。それから漂白剤と洗剤は各自で用意しますので」

ママ「残念だけどそれはもうこっちで用意してしまったので大丈夫です」

にこ「そこまで甘える訳にはいきません!」

ママ「どちらかと言うとこっちの方が甘えなんですよ。だって持ち込まれた物を運ぶのも一苦労ですから」

ママ「それに用意した洗剤でしたら全部同じで済みますから。持ち込まれてどこの学校がどの洗剤とか変えるのは一苦労です」

あんじゅ(容赦ないくらいのにこの完封負け。自分の邪道が子供の遊びに思えちゃう)

にこ「私のメンバーの幼馴染がご飯を炊くのが凄く上手らしいので、その子にもお願いして過去最高のカレーを提供することをお約束します」

ママ「はい。楽しみにしてますね。あーちゃんもにこちゃんのカレー楽しみだよね?」

少女「うん♪ あーちゃんカレーだいすきだもん」

――十分後...

にこ「カラオケって気分じゃなくなったわね」

あんじゅ「そうだね。もっと精進しないと駄目って分かったね」

にこ「えっ? なんの話よ」

あんじゅ「こっちの話。それよりも流石にこだね。勝手に解決フラグを立ててたなんて」

にこ「全てフラグで管理されてるみたいな言い方するんじゃないわ。これは音ノ木坂学院の魅力でしょうが」

にこ「無駄に歴史がある学校だからこそ、そこで過ごした卒業生達にとって他の学校より馴染みがあるんでしょうね」

にこ「所謂フルハウスみたいなものよ。ここはもう一つの家で、色んな家族がごっちゃになってる感じね」

あんじゅ「フルハウス?」

にこ「海外の長寿ドラマ。アットホームで面白いわよ」

あんじゅ「へ~。じゃあ、今度機会があったら借りなきゃね」

にこ「とか言ってあんたが借りるのはホラーばっかりでしょ」

あんじゅ「そろそろ旧作で借りられる限界が訪れた気もするんだよね。早く準新作が旧作に落ちてこないかなー」

にこ「ああいうのって店舗によっても差があるから落ちない物は中々落ちないのよね」

にこ「今日は早く帰って、あの子達が何か借りたいのあるか訊いてレンタルショップにでも行きましょうか」

あんじゅ「そうだね。映画を観て敗北感を一層して明日から頑張ろう!」

にこ「何のことよ? ま、いいわ。残る解決すべき問題は食材だけだし。今日はそのことを忘れましょう」

――水曜日 部室 SMILE

あんじゅ「夕方になると雨になるって、もう梅雨を通り越して夏みたいだよね」

絵里「そうね。でも、明日の放課後までには屋上は完全に乾いているからその辺は助かるわね」

海未「グラウンドより優れている少ない利点ですね」

穂乃果「屋上に屋根があれば万全だったのに」

凛「そうだね。そうすればもっと快適に練習出来るのに」

にこ「屋上がこうして解放されてるだけありがたいと思いなさい」

にこ「環境に愚痴を言うのは肉体的には余裕があるけど心にゆとりがない証拠よ」

絵里「にこの言うとおりね。環境で全てが決まるのなら、スクールアイドルなんて流行ってないでしょ」

海未「そんな甘いことを考えられないように筋トレを始めますよ」

凛「雨になると陸上部の練習と一緒にゃ~」

穂乃果「筋トレよりダンス練習の方が楽しいのに~」

海未「そんなこと知りません。ここは他の人が通ることは滅多にありませんからね。遠慮なく始めますよ」

海未「二人は私が見てますから三人はするべきことをしてください」

あんじゅ「それじゃあ、ちょっと生徒会の手伝いをしながら頭悩ませてくるね」

にこ「うーん。頭悩ませたところで食材だけはどうしようもないと思うけど」

絵里「せめて両親だけでも日本に住んでれば何とか力になれたかもしれないけど、ロシアだから……」

あんじゅ「考えつくかどうかは置いておいて、生徒会のお手伝いは必須だから」

絵里「悪いわね。もうちょっと楽になると思ったのだけど、やっぱり夏休み前に決めるべきことを決めておく必要が出てきて」

絵里「生徒会とはいえ生徒だからね。家庭の事情で出席出来ない子が多くなったら困るから」

海未「生徒会長はやはり大変ですね」

絵里「今回は特別よ。それに、合同学園祭が成功したら苦労に見合った達成感が待ってると思えば苦じゃないわ」

絵里「何より私よりも向こうの生徒会長の希さんの方が何倍も大変だもの。弱音なんて吐く暇ないわ」

海未「穂乃果と凛も絵里を見習って下さい。二人共やる気が燃えると一気に燃え上がるタイプなのは分かってます」

海未「ですがその火をより強い状態で維持することを学んでこそより強い魅力になります」

海未「ということで、まずは腕立て二十回始めますよ!」

穂乃果「凛ちゃん、頑張ろう!」

凛「うん、頑張ろうね!」

あんじゅ「三人共頑張ってね」

にこ「くれぐれもやり過ぎには気をつけなさいよ。海未にはいつも言ってるけど自分を基準にしないこと」

海未「分かってます。蒸し暑いですし、水分補給も兼ねて小まめに休憩を入れますので」

絵里「それじゃあよろしくね」

――二十分後... 小休止中

穂乃果「三年生は練習だけじゃなくて色んなこと抱えてて大変そうだね」

海未「合同学園祭が毎年もしくは三年に一度くらいに行事の一つだったら別だったんですけど」

凛「でも、凛はそのお陰でかよちんと真姫ちゃんが通うUTXでライブが出来て嬉しいよ☆」

穂乃果「初めて観たスクールアイドルのライブ。その場所で自分が歌うことになるなんて不思議だなー」

海未「ことりのファーストライブですか。私も見たかったです。そう言えばそのライブに凛も居たんですよね?」

凛「うん。凛はかよちんの付き添いだったけどね」

穂乃果「そう考えると不思議だね。あの場に居たスクールアイドルじゃなかった二人が音ノ木坂でスクールアイドルになっただなんて」

凛「かよちんを奪ったスクールアイドルなんて大嫌いだったのに……本当に不思議」

海未「合宿には他校のスクールアイドルが大勢来ますが大丈夫ですか?」

凛「大丈夫だよ。カテゴリー的に嫌いってだけで個人が嫌いって訳じゃないから」

凛「二人には悪いけどことりさんのことはすっごい大嫌いだったけどね」

穂乃果「あー……そっか。凛ちゃんにとっては花陽ちゃんを奪った悪代官みたいなものだもんね」

海未「ことり自体は誰よりも優しい部類の子なんですよ?」

凛「それはかよちんと真姫ちゃんからも話を聞いてるから知ってるよ。でも、まだ直接会ったりはしたくないなー」

凛「会ったら一言くらい文句言っちゃいそう」

穂乃果「ことりちゃんなら絶対に謝るね」

海未「そうですね。謝った後に花陽さんがA-RISEには必要な人材ですとか言いそうです」

凛「かよちんが憧れた人に認められたっていうのは嬉しいんだけどね。複雑な気分でもあるんだー」

穂乃果「その気持ちは分かるよ。私もUTXにことりちゃんを奪われた気分になってUTXに対して嫌な気分はあったし」

穂乃果「UTXはことりちゃんのことを誰よりも評価してくれたからこそ新しい被服科の特待生としてスカウトしてくれたのに」

穂乃果「分かってても……寂しかったし、一緒に通う筈だった音ノ木坂に通えないのが悲しかったもん」

海未「私も確かに寂しいとは思いましたがUTXに対しては悪い気持ちは抱きはしませんでした」

海未「むしろ私は……これはにこには内緒ですが綺羅ツバサが憎いです」

凛「A-RISEのリーダーが?」

海未「間接的とはいえにこのアイドルになるという夢を奪った相手ですから」

海未「私にとってにこは誰よりもアイドルに向いています。それなのに本人が其れを否定してしまう現状」

海未「悔しくて仕方ありません。もし綺羅ツバサに出会ってなければもっとにこは自分に自信を持てたでしょう」

海未「でも、そんな事を今言ったところで意味がありません。だから私はにこにもう一度アイドルを目指して欲しい」

海未「にこがアイドルを目指してくれることが夢を持つことを許されなくなった私の新しい夢です」

穂乃果「海未ちゃん」

穂乃果(……そっか。海未ちゃんが最近特に輝いて見えたのは新しい夢を持ったお陰なんだ)

凛「夢を持つことを許されなくなったってどういうことなの?」

海未「家を継ぐことが決まっているからです。だから夢を持つことなんて本来はもうありえなかったことなんです」

凛「そっか海未ちゃんのお家って道場なんだっけ」

海未「いえ、道場も確かにありますが私が継ぐのは家元の方です」

凛「そっか。あれ? そうなると穂乃果ちゃんもお饅頭屋さんを継ぐのが決まってるの?」

穂乃果「お饅頭屋じゃなくて和菓子屋だけどね。うーん、多分私が継ぐのかな? 雪穂と年が近いしもしかしたら雪穂かもだけど」

海未「長女なのですからしっかりしないといけませんよ。私達ももう高校二年生なんですから」

穂乃果「そっか。もう直ぐのことなんだよね」

凛「色々と大変なんだね」

海未「そうでもありません。何もないからこそ悩み苦しむという場合があるのですから」

穂乃果「にこちゃんと絵里ちゃんのこと?」

海未「ええ。二人は夢を諦めた経験者ですから。それでも絵里は新しい夢を見つけた。流石邪道シスターズの長女ですね」

穂乃果(私も同じ長女としてしっかりしないと……)

海未「今は夢のことより目先の問題です」

凛「生徒会のお仕事は手伝わせてくれないけど、食材の問題は何か知恵でも貸せたらいいよね」

海未「人数と日にち的にかなり厳しいですね。やはり参加者による有志のカンパが必要不可欠になるかと」

海未「こうなると社会勉強としてアルバイトをしていなかったことが悔やまれます」

穂乃果「海未ちゃんは只でさえ忙しい身なんだから、バイト経験なくてもしょうがないよ」

海未「……なんとかなればいいのですが」

凛「移動費があるし、学生だからお小遣いも高がしれてるもんね。厳しいにゃ~」

穂乃果「にこちゃん達でも解決が無理そうな問題を私達で解決出来る訳ないよね」

海未「私は諦めませんよ。絶対に無理なようなことを可能にしてきた姉達の背中から学びました」

海未「自分の常識に捕らわれていては突破出来る壁も超えられないと」

海未「それに何か案を出さないとにこが無理を抱えこみそうで不安なんです」

穂乃果「あっ……そうだね。にこちゃんって本当に無理するもんね」

凛「凛の時がそうだったよね」

海未「私がなんとか出来ればするのですが」

穂乃果(なんとかする方法……。皆が思いつかないからこそ、出来ること)

穂乃果(家を継ぐのかどうか。長女としてしっかりする。食材問題…………にこちゃん達の背中)

穂乃果「穂乃果に出来ること、見つけた」

海未「何か言いましたか?」

穂乃果「ううん。なんでもないよ」

穂乃果(可能かどうかなんて考える前にまず行動。それこそが穂乃果の背中の羽根がレプリカから本物に戻る方法だよね!)

海未「それでは練習を再開しましょうか」

凛「うん! 凛はやっぱり考えるよりも体を動かす方が似合ってるみたい」

穂乃果「……」

海未「穂乃果? ボーっとしてるようですがまだ休憩が必要ですか?」

穂乃果「あっ、ごめんごめん。大丈夫だよ、さぁ頑張ろう!」

――生徒会室 三年生組

絵里「今回のような合宿も初の試みだから先人の案を参考にしたり出来ないのが厄介よね」

あんじゅ「こんなことを考える人は居ないし、例え居ても実行には移さないよ」

にこ「そう聞くとにこがまるで非常識みたいじゃない。いや、今更否定は出来ないけど」

あんじゅ「進んで肯定しない辺りがにこらしさ」

絵里「あんじゅなら胸を張るところだけどね」

にこ「そんなことで張る胸なんてないわ」

あんじゅ「そうだね。にこには胸がないもんね★」

にこ「なんですってー!?」

あんじゅ「にっこにこ♪」

にこ「にこにこっ!」

絵里「でもほら、胸は成長期を越えても大きくなる可能性はあるからまだ大丈夫よ」

にこ「まるで身長はもう伸びないみたいな言い方するんじゃないわ」

あんじゅ「……まだ希望を持ってたんだね。もう無理だよ。にこの身長は154で止まっちゃったんだよ」

にこ「ま、まだ高校生の内は伸びる可能性が0じゃないと信じてるの」

あんじゅ「希望は時に人を殺すって言うし。早く捨てた方が身の為にこ!」

にこ「嫌なこと言うんじゃないわ。というか、身長が伸びないからって死んだりするわけないでしょ」

にこ「モデル目指してる訳でもないんだから」

絵里「そうね。モデルは高身長が望まれるから大変ね」

あんじゅ「ファッション誌のモデルくらいなら身長そんなに要らないけどね」

にこ「絵里くらいならなってもおかしくないわ」

絵里「私の夢は聞いたでしょ? それにモデルは基本短命だから目指すにはちょっとね」

あんじゅ「その短い間に女優なりなんなりの道を見つけて……って、かなりハードモードだよね」

にこ「そういうのを夢見れる程、私はシンデレラじゃないわ」

あんじゅ「にこは赤ずきんちゃんだもんね。私に捕食されるの」

にこ「最近なんなのよ、その意味不明の捕食ブーム」

あんじゅ「にこへの愛情とい名のヤンデレレベルがアップしたから、捕食して一つになりたい願望が生まれた設定」

にこ「何その滅茶苦茶怖い設定。却下よ却下!」

絵里「ヤンデレは奥が深いわね」

にこ「極端な例だから参考にしない方がいいわ。というか、絵里はどちらかというと被害者の方よね」

あんじゅ「そうだね。元スクールアイドルで女子高で生徒会長を勤めたクォーター美人さん。思い切り危ないね」

あんじゅ「男女関係なく大学では色んなフラグが待ち受けてる気がしてならない」

にこ「でも大丈夫でしょ。佐藤のお姉さんと内田のお姉さんが穂乃果の勧誘の時の縁で仲がいいらしいから」

にこ「何かあっても内田のお姉さんが処理するでしょ」

あんじゅ「ふ、フラグ消滅フラグ。純粋な悪の前にはフラグも無意味だね」

あんじゅ「ということでエリーちゃんのキャンパスライフは安心みたい」

にこ「告白祭りはあるでしょうけど、それくらいじゃない。よかったわね」

絵里「話が見えてこないけど二人がそう言うなら安心出来るわ。でも、今は私の大学生活よりも合宿の問題よ」

にこ「軽い現実逃避してたわ。あんじゅは何かいい邪道とかないの?」

あんじゅ「最近純粋の悪と大人のイロハを見せられたから、邪道スランプに陥ってるの。だから多分無理」

絵里「……? 何かあったの?」

あんじゅ「まだまだ自分が子供なんだなーって思い知らされただけだよ」

にこ「人生はまだまだ深いってことね」

あんじゅ「私より幼い――じゃなかった。私より青いにこに言われたくないにこっ!」

にこ「わざと言い間違えるんじゃないにこよ!」

絵里「解決への道は険しいそうね。合宿までまだ日はあるとはいえ、余裕なんてないし」

にこ「でもま、打てる手もない現状だもの。諦めもまた時として必要だと思ふぁふぇふるのほぉ!」

あんじゅ「ほっぺたむにむに♪ だからにこは諦めるって単語使っちゃ駄目だってば」

絵里「そうそう。余裕はなくても、現実的に難しくても……信じることを諦めちゃ駄目よ」

絵里「絆の力で解決してきたのなら、この問題も私達が紡いできた絆によって解決する」

絵里「そんな風に思って笑顔で過ごしてた方が福がやってくるわ」

あんじゅ「そうそう。笑う角にはラッキーがくるんだもん♪」

にこ「楽観的ねぇ」

絵里「にこが運んできてくれた奇跡だもの。後はこのエリーチカに任せておきなさい。無事に解決してみせるわ」

絵里「私を誰だと思ってるの? 邪道シスターズ長女・エリーチカよ!」

あんじゅ「今解決フラグが立った気がする」

絵里「でしょ? だから私に任せてにこは安心して待ってなさい」

にこ「すっごい絵里のが噛ませ犬フラグに思えるんだけど」

あんじゅ「うん、そうだね。絵里ちゃんのは絶対に何も出来ずに終わるフラグだよね」

にこ「間違いないわね」

絵里「うわぁ──ん! エリチカ、おうちに帰る!!!」

――ススメ→トゥモロウ 高坂家 穂乃果

ママ「どうしたの? 改まって私とお父さんに話があるだなんて。もしかして数学で赤点でも取ったの?」

穂乃果「そこまで悪くは……悪くは、なくはないけど。そんなことで改まったりしないよ」

ママ「何がそんなことよ。あんたは全くもう誰に似たのか。どうして経営者の娘でありながら数学が苦手なの」

ママ「算数の時から苦手で二年生の時の掛け算覚えてる?」

ママ「担任の先生に九九がクラスで唯一覚えられてないから家庭でも勉強して欲しいって言われたこと」

ママ「あの時は本当に顔から火が出るかと思うくらいに恥ずかしかったわ」

穂乃果「そんな忘れたいこと今更言い出さないでよ!」

ママ「結局ことりちゃんが根気良く教えてくれたお陰で覚えられたけど」

ママ「ことりちゃんだけじゃなくて海未ちゃんもそうだけど、あの二人が居なかったらと思うとゾッとするわ」

穂乃果(これからお願いしようと思ってたのに、なんだか嫌な方向に話が進んじゃってるよ)

ママ「ことりちゃんはUTX学院の特待生。海未ちゃんは次期生徒会長なんでしょ?」

穂乃果「ま、まだ生徒会長になるって返事はしてないけど」

ママ「責任感の強い子だもの。断る筈がないわ」

穂乃果「そうかもしれないけど」

ママ「私の娘なのに生徒会長に推薦されないなんて……私は立派に生徒会長として勤めたのに」

穂乃果「立派かどうかは分からないけど、穂乃果は部長を務めることになってるから」

ママ「どうせ海未ちゃんが生徒会に入るからそのお零れでって形でしょ」

穂乃果「うっ、鋭い」

ママ「ま、中学三年生の途中からことりちゃんのライブを見に行くまでのように元気がないよりはマシだけど」

穂乃果(海未ちゃんを鬼とするならば、お母さんは般若だよ)

ママ「それで、何の話なの?」

穂乃果「お母さんの般若」

ママ「穂乃果っ!」

穂乃果「わっ! ごめん、思ってることが口に出ちゃった」

ママ「そう、つまりは本音ってことね」

穂乃果「ひぃっ! そ、そんなことよりも大事な話があるんだってば」

ママ「明日から一週間おやつ抜き」

穂乃果「せめて三日に……」

ママ「いいから早く話を進めなさい。私達は穂乃果と違って忙しいのよ」

穂乃果(忙しいのは主にお父さんだけじゃんか)

ママ「何か?」

穂乃果「何でもありませんっ」

ママ「よろしい」

穂乃果「お父さんとお母さんに一生のお願いがあるの」

ママ「あんたって小さい頃から何度一生を繰り返してるわけ。一番使ったのはケーキ屋の娘になりたいだったわね」

ママ「その次は毎日おやつが洋菓子になりますようにだったかしら」

穂乃果「そんな昔のことは忘れてよ。叶わなかったお願いは無効だよ」

ママ「はいはい。何度か叶えてあげたお願いもあったけど忘れてあげましょう」

ママ「高校生になって使うんだからそれなりのことなんでしょ?」

穂乃果「うん」

ママ「胃薬残ってたかしら」

穂乃果「何なら穂乃果が走って買って来るよ」

ママ「胃の心配は無用とか優しい言葉は返ってこないのね」

穂乃果「そこは覚悟して欲しいなって」

ママ「長引かせると余計に胃に悪そうね。ちゃっちゃっと本題を言ってちょうだい」

穂乃果「穂むらの歴史とその絆を信じてお願いがあるの」

穂乃果「合宿の約十日分・四十九人+先生の分のお米と食材を用意して欲しいんです」

穂乃果「勿論その分に掛かったお金は穂乃果が出世払いで払うから。それだけじゃないよ」

穂乃果「これからは今よりももっと勉強するし、スクールアイドルをやりながらだけどお店の方もきちんと手伝うから」

穂乃果「だからお願いします!」

ママ「確かに穂むらのお得意様にお願いしていけば量は多くとも良い物が揃うでしょうね」

ママ「一つ訊きたいんだけどそれは皆で決めたことなの?」

穂乃果「ううん。これは穂乃果の勝手な我がまま。にこちゃん達は穂乃果達に負担を強いるようなことはしないから」

穂乃果「でも、だからこそこのまま何もしないで居るなんて出来ないの。だって、もう直ぐ三年生は卒業しちゃう」

穂乃果「甘えて、守られて、卒業していく時に恩を何も返せなかったなんて後悔したくない」

穂乃果「今回のことだけで穂乃果が与えられた恩を返せるなんて思ってないよ」

穂乃果「だけどソレを理由に行動しないなんて絶対にヤダもん!!」

穂乃果「新しい目標をくれたにこちゃんとあんじゅちゃんと絵里ちゃんの力になりたいの」

穂乃果「本当は自分ひとりで解決しなきゃ意味ないのかもしれない。でも今の穂乃果には一人で解決出来る力なんてない」

穂乃果「そんな時にこちゃん達は自分の絆を使って多くの人を笑顔にしてきた」

穂乃果「そのお陰で穂乃果も元気になれた。自分でデザイン出来るようになったからより分かるんだ」

穂乃果「あの日の穂乃果の為に作ってくれた衣装がどれだけ難しくて、どれだけ大変だったのか」

穂乃果「でもそんな大変を見せずに笑顔で私の入部を受け入れてくれた。普通ならあんな苦労してまで勧誘なんてしないのに」

穂乃果「えっと……ごめん。何を言いたいか分からなくなっちゃったけど、とにかく穂乃果のわがままに力を貸して下さい!」

ママ「……まったく。変なところで熱くなるのはお父さんに似たのかしら」

穂乃果「お父さんに?」

ママ「今でこそ丸くなったけど、お父さんは昔はブイブイ言わせてたんだから」

穂乃果(ブイブイってなんだろう? とにかく死語だよね)

ママ「考えなしに取り敢えず喋って纏めきれなくなるのは中学生の頃までの私に似たわね」

穂乃果「中学生の頃のお母さんに」

ママ「高校生になってからは生徒会に入ったから考えなしで喋ったりはしなくなったからね」

穂乃果「想像出来ないけど」

ママ「想像出来なくても事実よ。お馬鹿な生徒会長なんてのが許されるのは穂乃果が無駄遣いして買う漫画の中くらいよ」

ママ「お願いを聞き入れたら、その漫画も暫くは無縁の関係になりそうだけどね」

穂乃果「……うん」

ママ「このお願いを聞き入れるってことは穂むらを正式に継ぐことになるということと同じよ」

ママ「小さい頃はケーキ屋さんになりたいってずっと言ってたけど、穂乃果に覚悟はあるの?」

穂乃果「夢ってよく大人に近づくに連れて現実を知ってなくなっていくみたいに言うよね」

穂乃果「穂乃果とことりちゃんと海未ちゃん。三人の中で一番早く現実を知ったのが海未ちゃんだった」

穂乃果「穂むらをいつか継ぐっていうのは分かってるけど、私の場合は年の近い妹の雪穂が居るからって思考を逸らしてた」

穂乃果「ことりちゃんはしっかりと未来を見据えながら夢を叶えようと努力してる」

穂乃果「穂乃果だけが宙ぶらりんのまま。そんな中ね、海未ちゃんは最近になって新しい夢を見つけたんだって」

穂乃果「自分のことじゃないけど、にこちゃんをアイドルにするって夢」

穂乃果「夢を持った海未ちゃんは今までで一番輝いてる。まるで今が人生のピークみたいに」

穂乃果「正直羨ましいなって思っちゃくらい。だからそろそろ私も夢を現実にしようと思うの」

穂乃果「穂むらを継ぐということを夢にして、現実にする為にその退路を断つ」

穂乃果「私はころころと考えが変わるからね。でも、退路がなければどこにも行けない」

穂乃果「餡子が飽きたなんて言葉はもう言わない。いつかお父さんの味を受け継いでみせるよ」

ママ「軽々しく宣言するといつか今日の自分を恨むことになるわよ?」

穂乃果「というか絶対に恨むし後悔すると思う。でも、何も返せないままで見送る方が比べられないくらいの後悔だもん」

穂乃果「だったら未来の私もしょうがないなーって苦笑いして許してくれるよ」

ママ「……いい先輩達に巡り会えたわね。生涯の宝物よ」

穂乃果「うん!」

ママ「分かったわ。じゃあ、穂むらの伝を使った完璧な用意してもらいましょう。お婆ちゃん達にもお願いしないとね」

穂乃果「ありがとう。それからカレー! にこちゃんはカレーが得意で初日はカレーにするから、カレーの食材をよろしく」

ママ「分かったわ。お父さんは何か言うこと……あら、もう。娘の前で泣いたりしないの」

穂乃果「くすっ。お父さんってば気が早いよ。まだ継ぐって決めただけじゃない」

穂乃果「泣くのは穂乃果が穂むらの味を再現出来た時に取っておいてよ。でも、喜んでもらえて嬉しいな」

穂乃果「高坂穂乃果はお父さんとお母さんの娘として生まれてきて良かったよ。穂むらの娘で最高に幸せだよ!」

雪穂(……せめてそういう話するんだったら私も呼んでくれればいいじゃんか)

雪穂(まったくもう、お姉ちゃんは自分勝手なんだから)

雪穂(しょうがないから、お姉ちゃんが結婚するまでは看板娘として穂むらを手伝ってあげようかな)

雪穂(私もお父さんとお母さんの娘に生まれてきて良かったよ。そして、お姉ちゃんの妹でよかった)

穂乃果「穂乃果はこれから頑張ってみせるよーッ!」

ママ「だから高坂家が馬鹿に思われるから叫ぶなって言ってるでしょうが!」

――土曜日 屋上 SMILE

海未「穂乃果、どうかしたのですか? 携帯電話を見ながらニヤニヤと笑って」

穂乃果「吉報が届いたからついね」

海未「吉報……ですか?」

穂乃果「うん。にこちゃん! 最後の心配事は無事解決出来るみたいだよ」

にこ「最後の心配事? 穂乃果と凛がきちんと夏休みの宿題を終えられる算段がついたってこと?」

凛「はっ! そうだ、今まではかよちんが同じ学校に居たからどうにかなってたけど……全部自分でしなくちゃなんだ」

海未「それが当然のことです」

凛「でも、穂乃果ちゃんがなんとかしてくれるってことかな!?」

穂乃果「えっ!?」

海未「穂乃果が人に教えられる訳がありません」

穂乃果「事実だけど酷いよ!」

あんじゅ「賑やかだけど何かあったの? ほら、にこ。お花摘んできたよ」

にこ「トイレ行くこと比喩してるのかと思ったら、何で本当に花を摘みに行ってるにこ!」

あんじゅ「うふふ。冗談冗談。これはトイレから帰る時に貰ったの」

にこ「どんな奇特な生徒よ!」

あんじゅ「オカ研の部長さん」

にこ「……あー、納得」

あんじゅ「それで何があったの?」

にこ「なんか穂乃果が夏休みの宿題の解決策を思いついたらしいわ」

絵里「漸く生徒会の仕事が終わったと思ったら、面白い話をしてるわね。穂乃果、ズルは駄目よ。めっ!」

穂乃果「違うよっ! それとどうして子供を叱るみたいに注意するの」

絵里「冗談よ。穂乃果はそういう小細工する子じゃないって分かってるわ」

海未「小細工する知恵を考える間に熱を出すタイプですね。まぁ、知恵熱は実際には赤ちゃんが出すものらしいですが」

凛「やっぱり自分でなんとかしなくちゃ駄目なのか~」

絵里「大丈夫よ。コツコツ勉強をみてるんだし、夏休みに入ってる間には苦手教科もスムーズに解けるようになってるわ」

絵里「ううん、そうしてみせるから安心して」

凛「……最近悪夢を見ると必ず絵里ちゃんか海未ちゃんが出てくるんだよね。二人共物凄く怖い笑顔を浮かべてるの」

穂乃果「分かる分かる。特に海未ちゃんは角と金棒持ってて怖いんだよ。恐ろしいんだよ。ひぃっ!」

海未「なんて失礼な夢をみているのですか、貴女は……」

絵里「穂乃果はともかくとして、凛にそんなイメージをもたれてることがショックだわ。まだ短い付き合いなのに」

あんじゅ「でもそれだけ相手のことを親身になれるのが二人の魅力だよ。いつか二人もそのことに気付いてくれるよ」

にこ「そうね。勉強なんて何の役に立つんだーみたいに言うけどさ。こういう苦労を出来ない人間が社会じゃ役に立たないし」

にこ「何よりもさ、こういう苦労を分かち合えることが一番の宝物って感じがするのよ」

にこ「これがもし個人で進み方が変わるようなシステムだったらほとんど孤立してて、学校がまるで墓地みたいな静けさになってそう」

にこ「分からない箇所を教えてもらったり、逆に得意分野ではその恩を返したり。支え合う喜びを教えてくれる」

にこ「そういう小さな積み重ねは大人になった時の掛け替えのない思い出なのよ」

にこ「その一つひとつは忘れちゃうのかもしれない。でも、皆で勉強した思い出は消えたりはしないわ」

にこ「……そう思って乗り越えるのよ。これが私の高校に入ってからの地獄の夏休みの宿題を支えた心の在り方よ」

絵里「凄くいいことを言ったと思っていたら最後で台無しね」

海未「まぁ、そこがにこらしいですね」

凛「そっか。そうだね……うん、その思い出凛も乗り越えてみせるよ。夏休みの宿題は三回もあるんだもんね」

穂乃果(お父さんとお母さんに言ったんだし、泣き言は控えて結果を積み重ねていこう)

穂乃果「よ~しっ! 穂乃果も頑張るよ!」

あんじゅ「結果オーライなのかな? じゃあ、練習再開しようか。絵里ちゃんはまず準備体操からね」

絵里「ええ、直ぐに済ませるから」

凛「ところで穂乃果ちゃんは結局何が言いたかったの?」

穂乃果「あぁっ! そうだよ。SMILE時空に巻き込まれて言いたいことを言うの忘れるところだった」

にこ「変な造語が生まれたのに意味が自然と伝わるのが怖いわね」

穂乃果「発表します! 合宿の食材問題なんだけど、穂乃果がSMILEの活動をしてることを知っている古くからの常連さん達」

穂乃果「実家が農家だったりする人が多くて、その人達のプレゼントという形で食材の方はなんとかなります!」

にこ「それ本当ッ!?」

穂乃果「うん。穂むらに歴史ありだからね♪」

にこ「ありがとう穂乃果! ありがとう穂むら! 全ての常連さんにありがとう!」

あんじゅ「まさか絵里ちゃんが何かをする前に解決するなんて……噛ませ犬フラグ以前の問題だったね」

にこ「そうね! 流石邪道シスターズの長女ね。何もせずとも解決に導くなんて」

あんじゅ「フラグ管理委員会、見た!? 長女エリーチカお姉ちゃんの実力を!」

絵里「何か行動起こす前に解決されたのにこの言われよう……本当にお家帰りたい」

海未「絵里、何があったか分かりませんが合宿の問題点はこれでお風呂だけになりましたね」

凛「そういえばお風呂問題はきちんとは解決してなかったよね?」

にこ「ああ、言い忘れてたわね。お婆ちゃんから連絡があったの。銭湯の女湯を八時から貸切にしてくれるって」

海未「それだと余りにも銭湯としての利益が」

にこ「元々四時から六時までがメインらしいから。と、言ってるけどラブライブが終わったら色々とお手伝いに行くわ」

あんじゅ「にこが石鹸を踏んで扱けるんだね。頭を打って入院しないようにキャッチしてあげるね」

にこ「そんなコントみたいな展開あるわけないでしょ!」

絵里「銭湯……私銭湯は初めてだわ」

凛「凛は久しぶりにゃー」

海未「私もお婆上様と住んでた頃はよく連れて行ってもらいましたが、最近は全くですね」

穂乃果「お風呂が壊れた時以外行かないもんね」

あんじゅ「私も絵里ちゃんと同じでお風呂屋さんは初めて」

にこ「初めてでもそうでなくても、銭湯を存分に楽しみましょう。緊張してる子が居れば気を配ってリラックスさせてね」

にこ「でも良かったわ。これで無事に大連続公開合宿を開催できる。今日中にグループリーダーに連絡入れないとね」

絵里「それは私に任せて。それにしてもやっぱり地域に根付く絆っていうのは強いわね。とってもハラショーだわ」

あんじゅ「この青空のように大きく広がってるんだね。歴史も絆も熱さも」

海未「しかし、与えられた恩が多すぎて返すのが些か大変そうですね」

にこ「確かにね。ゆっくりでもいいから返していきましょう」

あんじゅ「そうだね」

穂乃果「合宿も大会もラブライブも頑張ろうね」

絵里「あ、そうだ。コンピュータ部から三十日の大会に名前をつけて欲しいって話よ」

絵里「サイトで一日限りの大会みたいじゃインパクトが弱いって」

にこ「だったら簡単ね。《大下克上》単純だけど分かり易くていいでしょ?」

あんじゅ「それしかないもんね」

海未「見事成しえてみせましょう。咲かせてみせます、邪の華を」

穂乃果「大逆転があってこその人生だもんね」

凛「胸がドキドキしてきたよ。楽しみにゃ~!」

――日曜日 部室 SMILE

あんじゅ「無事に全て解決したね」

絵里「本番はこれからなんだけど、でも上手くいったことが弾みになるわ」

海未「この調子で合宿をこなして、ライブを成功させたいものです」

穂乃果「そうだね。そして、目標であるラブライブ本戦!」

凛「でも、そういうの忘れて今日はこれからラーメンを食べに行くにゃ!」

あんじゅ「うん、食べに行こう。餓えて死にそう。にこ~骨までしゃぶらせて」

にこ「にこっ!? 捕食のレベルが進化してる!」

あんじゅ「ヤンデレレベルが究極になった為、骨まで食べられるヤンデレに進化したの。……傍にいるよ」

にこ「そんな恐ろしいヤンデレなんて傍に居させないわよ!」

あんじゅ「しかしにこ頭巾ちゃんはあんじゅちゃんに食べられてしまいました。ハイパーエンド★」

にこ「食欲なくなるようなこと言ってるんじゃないわよ。無事乗り越えたご褒美という名の親睦会に行くわよ」

絵里「ラーメン屋は凛のお薦めのラーメン屋よね?」

凛「うん! どの味のラーメンも美味しいから行く度にどれを食べようか迷うんだよっ♪」

海未「ラーメンを食べに行くのは久しいですね。最後に行ったのはいつのことか」

穂乃果「私と海未ちゃんとことりちゃんの三人で行ったのは確か中二の冬だったかな?」

穂乃果「屋台のラーメン屋があったからついつい食べたんだよ。あの日のラーメンは美味しかったなぁ」

海未「確か仲直りの切っ掛けだった気もします」

あんじゅ「三人も喧嘩することあるんだ」

海未「ええ、忘れたい記憶なので詳細は伏せますが」

穂乃果「海未ちゃんのポエムを私とことりちゃんが読んだことに海未ちゃんが怒ってさー」

海未「ちょっと穂乃果! 私が伏せたのに何故言うのですか!」

穂乃果「だってあれ程恐ろしい海未ちゃんはかつてなかったんだもん」

穂乃果「鬼を超えた形容し難い何かだったよ」

あんじゅ「紅蓮女と同じで《恐人》の部類になってたったことだね」

凛「きょうじん?」

にこ「小説で出てきた独特の言い方で、簡単に言えば恐ろしいと思わせる人って意味ね」

穂乃果「そんな生易しくなかったよ!」

絵里「そういえば作詞をお願いした時にも海未が言ってたわね」

絵里「去年のポエムブームが忘れたい歴史だって」

海未「よく覚えてましたね」

凛「でも海未ちゃんがメンバーに入ってからの去年だと中学三年生のことじゃないの?」

あんじゅ「言ってなかったっけ? 海未ちゃんは中学三年生の秋からメンバーだったんだよ」

凛「ことりさんがそうだったって言うのはかよちんから聞いたことあったけど、海未ちゃんもなんだ」

にこ「私が考え付くような策はキラ星だってお見通しってことよ。一等星の輝きは伊達じゃないわ」

穂乃果「にこちゃんはツバサさんの事を話す時は嬉しそうだよね」

絵里「……」

にこ「当然でしょ。キラ星は私の憧れなんだから」

絵里(話を聞いた後だからツバサさんが何か悪い事をしたって訳じゃないのを十二分に理解してる)

絵里(でも、素直にその実力を認めることを感情が拒む。何よりA-RISEに勝ったとしてにこは夢を取り戻せるのかしら?)

絵里(根付いた諦めの力がどれ程強いのかはメンバーの中で私が一番深く知っている)

絵里(でも、にこは強い。何よりもにこの心を深く包み込むあんじゅも居る。そして私達も……)

海未「絵里、どうかしましたか?」

絵里「……考え過ぎなのが私の悪い癖ね。周期的に陥る思考なのに解決策がないのが厄介」

海未「にこの夢のことですね」

絵里「自分が新しい夢を見つけたからよりもどかしいわ。喉から手が出るほどに」

海未「気持ちは分かりますが、その使い方は間違えてます」

絵里「え、そうなの?」

にこ「さってと、それじゃあそろそろ行きましょうか」

凛「うん! お昼だから早くしないと混んじゃうよ!」

穂乃果「決めた! 何を食べるのかはお店についてから決める!」

にこ「決めてないじゃない」

あんじゅ「今決めないことを決めたんだよ。結局は決めてないんだけど……決めないことへのパラドックス」

穂乃果「なんか格好いいね☆」

――店内にて

絵里「これが噂の券売機!?」

にこ「切符だって同じようなものなんだから衝撃を受けるようなものじゃないでしょ」

絵里「切符と注文するメニューじゃ別物よ」

凛「ロシアにはこういうのないの?」

絵里「ないわね。多分日本独自の文化だと思うわ」

海未「穂乃果は何を食べるんですか?」

穂乃果「うーん……悩むんだけど、普段食べないものがいいかなって。だから豚骨にする!」

海未「太りますよ?」

穂乃果「大丈夫だよ。運動沢山してるんだから」

海未「確かにそうですけど」

あんじゅ「微妙にフラグっぽい会話だったね」

にこ「ま、穂乃果が太ったところで海未が鬼となってダイエットさせるから心配ないでしょ」

あんじゅ「それもそうだね。にこは何を食べる?」

にこ「二択で悩んでるのよねー。今日は暑いし塩分補給に塩ラーメンにするか、それとも好きな味噌ラーメンにするか」

あんじゅ「だったら私が味噌ラーメン頼むからにこは塩ラーメン頼んで。半分ずつにしようよ」

にこ「ラーメンを半分って難しいけど、でもいい案だわ。そうしましょう」

絵里「凛は何を頼むのかしら?」

凛「今日は野菜が沢山食べたい気分! だから野菜ラーメン。絵里ちゃんは?」

絵里「私は最初から決まってるの。初めてくるラーメン屋の券売機は左上ってね」

絵里「一番のお薦めが左上にするのが基本なんだって、亜里沙がそうテレビで言ってたって言ってたわ」

にこ「回りくどっ! それって普通にテレビで見た情報だったら重要視しなかったでしょ」

あんじゅ「今日も今日とてエリーお姉ちゃんのシスコンっぷりは健在だね」

凛「シスコンより今はラーメンだよ。早く買って渡さないと迷惑になっちゃう」

絵里「それもそうね。券売機にはしゃいでたわ。早く席に着きましょう」

――お食事中

あんじゅ「そっちのスープが飲みたいな」

にこ「飲めばいいでしょ。レンゲあるんだから」

あんじゅ「あ~ん♪」

にこ「しょうがないわねぇ。ほら、飲みなさい。あーん」

あんじゅ「んーっ♪ 美味しいにこ☆」

にこ「それは良かったわね」

あんじゅ「今度は私がお返しする! はい、あ~ん♪」

にこ「はいはい。あーん……んっ、ごほっごほっ。小さいメンマまで丸呑みしちゃったわ」

あんじゅ「にこってばお茶目さんだよね」

にこ「あんたの掬い方が悪いのよっ!」

海未「とても平和ですね」

穂乃果「頭を悩ます問題が全部解決したんだもん。平和にもなるよ」

絵里「その解決もまたにこを中心とした絆のお陰なのよね」

凛「にこちゃんを中心とした?」

絵里「ええ。もしにこがツバサさんともしスクールアイドルになって再会することを約束していなかったら」

絵里「きっとにこはなろうと思いながらも、きっと高校生になってアイドル研究部を立ち上げることはなかった筈よ」

絵里「そうなってたら虎太郎さんという方のにこのお父さんへの約束が果たせぬことになってしまっていた」

海未「ありえますね」

絵里「今回の問題を解決したのはにこのお婆様との絆。商店街の方との絆。学園祭で迷子をお世話した絆」

絵里「そして、」

穂乃果「私との絆だね」

絵里「そうよ。それも海未を勧誘し、その結果穂乃果を勧誘した。全てにこのお陰でしょ?」

絵里「運命すら感じるこの道こそカリスマと言わずに何と呼ぶのかしら」

にこ「……あのねぇ、絵里のシスコンっぷりを私にまで振るうんじゃないわよ。私はそんな凄いもんじゃないって」

にこ「自分の力で解決できてない時点で全然ダメダメなのよ。って、こういうといつもの切り替えしするんでしょ?」

絵里「にこが頑固なのが悪いのよ」

あんじゅ「はい、にこ今度は交換。私が塩食べる~」

にこ「絵里はあんじゅくらいお気軽でいいのよ。誰が中心かなんて連続ドラマの脚本が今回は誰だったのかくらい気にもしないことよ」

穂乃果「あ~確かに一人が書いてるものですら脚本が誰だったのかとか気にしないなー」

凛「凛も面白ければそれでいいって思っちゃう」

あんじゅ「スープでフヤフヤになった海苔って好きじゃないからにこにあげるね」

にこ「しょうがないからメンマを少しあげるわ」

海未「にこ」

にこ「んー? 話してばかりだとラーメンが伸びちゃうわよ」

海未「誰が書いているのか気にする人だって居るんですよ。そして、そのことに強く影響を受ける人もまた居るんです」

海未「色々と悩んでいましたが、この場の方がSMILEらしいので言いますね」

海未「にこ達姉の影響を受けて成長した私、園田海未は次期生徒会長になることを受諾します」

絵里「本当!?」

海未「ええ、自信がなかったのですが……妹が先に勇気を見せれば姉のにこの退路を断つことになりそうですから」

にこ「……」

海未「私はにこにアイドルになってもらうという夢を叶える為に手段は選びません。邪道大歓迎です」

にこ「……海未」

絵里「ここまで妹に言わせたら逃げてばかりじゃいられないわよ。本格的に覚悟を決めるべきじゃないかしら?」

にこ「絵里」

あんじゅ「予選を通過して、本戦を終えたら今度は合同学園祭。楽しい行事がいっぱい待ってるよ」

あんじゅ「楽しいことを体験しながら自分の中でゆっくりと答えを見つけ出すくらいでいいと思うの」

あんじゅ「普段から無駄に考えると答えが遠ざかるんだよ。焦らせちゃ駄目だよ。……はい、あ~ん」

にこ「あんじゅ――んぐっ!」

凛「感動してる瞬間に容赦なく麺を食べさせる。すごいにゃー」

あんじゅ「ということでシリアス終了。というか、ラーメン屋さんで青春トークなんて恥ずかしいよ」

あんじゅ「カラオケ屋で正義や邪道を語るくらいに恥ずかしい」

海未「うっ! ……わ、私の忘れたい歴史の一つ」

穂乃果「噂の海未ちゃん勧誘の邪道だね。海未ちゃんとにこちゃんがあんじゅちゃんの手の平で踊らされたっていう」

凛「その話詳しく聞きたいな」

海未「止めて下さい! あれは若気の至りです」

絵里「ねぇ、にこ」

にこ「んー?」

絵里「もし、にこが考えた末にアイドルにならなくてもいい。でもその時はお願いがあるの」

にこ「何よ?」

絵里「私がいつか立ち上げるだろう劇団の団員になって欲しいの。そのカリスマ性を買いたいのよ」

にこ「ま、その時にやることなかったら手伝ってあげるわ」

あんじゅ「にこがするなら私も勿論一緒にやるよ!」

絵里「ええ、大歓迎だわ。そうだ、凛は夢ってあるの?」

凛「んーっ、難しいなぁ。でも凛は走るのがやっぱり好きだからマラソン選手とか目指すかも」

海未「体育大学ですか。音大程ではありませんがかなり知性が必要とされた筈です」

絵里「だったら猛勉強が必要ね。今から苦手科目を徹底的に潰していけば大学受験には間に合う筈よ」

穂乃果「うわぁ……大変だね、凛ちゃん。陸上にスクールアイドルに猛勉強」

海未「何を他人事みたいに言ってるんです。穂乃果だって経営者になる為には大学に行くんでしょ?」

穂乃果「家業なんだから大学なんていいんじゃないかなー」

海未「よくありません! 大学に通いながらおじさんに鍛えてもらって穂むらの味を継ぐ努力をするのが穂乃果の未来です」

海未「穂乃果は『頑張る頑張る』と言いながら昔のような加速的頑張りが出てませんからね」

海未「王子様詐欺になりつつあるので私もそろそろ本格的に厳しくしていこうと思います。生徒会長にもなることですし」

穂乃果「穂乃果に厳しくするのと海未ちゃんが生徒会長になるのって関係ないよね!?」

穂乃果「それに穂乃果は穂乃果で色々と……正体を知られちゃいけない変身ヒロインの気持ちが分かったよ」

海未「何を言ってるのですか?」

穂乃果「頑張ってないわけじゃないんだよ?」

海未「問答無用です!」

凛「……勉強は嫌だにゃー」

穂乃果「海未ちゃんの熱血モードの扱きに比べたら絵里ちゃんによる猛勉強なんてマシな方だよ!」

海未「そうですか。では面倒かもしれませんが絵里、時間があれば生徒会で忙しい時は穂乃果の勉強を見てあげてください」

絵里「ええ、いいわよ。私の猛勉強が海未よりマシなのかどうかその身を持って知ってもらうわ」

にこ「お、おかしいわね。今日は親睦会にきたのに空気が無駄に重いわ」

あんじゅ「そうだねー。このチャーシュー美味しいね。噛むと口の中で蕩けていくみたい」

にこ「そうね。今度くる時はチャーシュー麺にしようかしら」

あんじゅ「じゃあ私は凛ちゃんが美味しそうに食べてた野菜ラーメンにしようかな」

にこ「チャーシューと野菜を半分ずつにすればバランスいい感じになるわね」

あんじゅ「そうだね♪」

絵里「その時は亜里沙とこころちゃんとここあちゃんも連れて来てあげましょう」

あんじゅ「ハーフラーメンとハーフチャーハンのセットもあるみたいだし、満足してもらえそう」

にこ「そうね。ただ、少なくとも予選を終えた後ね」

穂乃果「どうして明日ってくるのかな?」

凛「眠らなくてもきちゃうよね」

穂乃果「たまに昨日に戻ってくれてもいいのに」

凛「そうだね。そうすれば一日分お得だもんね」

海未「穂乃果だけでなく凛まで。二十四時間体勢で勉強したいということですか」

海未「分かりました、ラブライブ後の夏休みの過ごし方のスケジュール表を二人分製作しましょう」

穂乃果「そんなこと言ってないから!」

凛「そんなことになったら凛は明日に向かって走り続けるよ!」

あんじゅ「平和だねぇ」

にこ「そうね。あ、チャーシューが下に隠れてた。ほら、半分あげるわ。あーん」

あんじゅ「あ~ん♪」

――七月 生徒会 三年生組

理事長「お仕事中ごめんなさいね。今大丈夫かしら?」

絵里「理事長。お疲れ様です。どうぞ、今から休憩を入れようと思ってたところです。どうぞそこの椅子に座って下さい」

理事長「それじゃあ、少しの間だけ失礼するわね」

にこ「理事長がここに来るなんて何か問題がありましたか?」

あんじゅ「きっとにこが処理した懸案全てが問題だったんだよ」

にこ「ミスがないように二人よりゆっくりやってるわよ!」

理事長「ふふっ。悪い知らせではありません。寧ろ応援というべきかもしれませんね」

にこ「応援、ですか?」

理事長「これらのスクールアイドル雑誌の編集者から取材の申し込みがありました。全て合宿中ですね」

絵里「凄い……取材が五件もですか?」

あんじゅ「これってもしかしてスクールアイドル雑誌の全部じゃない?」

にこ「いいえ。A-RISEの表紙が特徴の元祖スクールアイドル雑誌の『BiBi』だけないわ」

にこ「あそこは本当に上位のスクールアイドルを特集する雑誌だからね。私達はそういうレベルじゃないわ」

にこ「二十位以内に入り込んでない時点でお呼びでないのよ」

あんじゅ「そう言われると悔しいなぁ」

絵里「しょうがないわ。というより、それ以外のスクールアイドル雑誌関連の人達が取材してくれるだけでも追い風でしょ」

あんじゅ「それはそうだけど……」

にこ「今までは無料のタウン誌と『Printemps』で取材して貰っただけじゃない」

にこ「それがこんなに注目浴びてるのよ。悔しがるなんて贅沢。誇りに思うべきにこよ」

あんじゅ「……うん」

理事長「こちらの返事待ちですがどうしますか? 答えは決まっているみたいですが」

にこ「勿論受けさせていただきます。これに反対するリーダーは今回の合宿に参加する訳ないですし」

理事長「分かりました。日程の方は向こうの都合と折り合いをつける形で私の方から通しておきます」

にこ「ありがとうございます」

理事長「……それにしても凄いですね。スクールアイドル。正直あなた達が活動するまで詳しくなかったのですが」

理事長「設備も何もないような学院からこんなに注目される存在になるなんて」

絵里「理事長の厚い擁護があってこそだと思っています」

にこ「そうね。穂乃果勧誘の際のことなんて普通なら停学受けてもおかしくないことだったし」

あんじゅ「停学どころか美味しいお寿司まで頂いて」

理事長「私は未来に向かって輝く子供の味方なだけですよ」

にこ「SMILEの次期リーダーは穂乃果になります。最近は本当にやる気が目覚しいので、来年は色んな無茶をするかもしれません」

にこ「少しでも寛大な処置をお願いします」

理事長「流石に約束はし兼ねますが、でも穂乃果ちゃんの無茶は懐かしいですね」

理事長「昔はうちの子も穂乃果ちゃんみたいに腕白だったから色んな無茶をしては時に怪我をすることもありました」

理事長「沢山の無茶をしたお陰で最近は随分と女の子らしくなりましたが」

にこ(キラ星や英玲奈さんのブログだと随分と破天荒なことしてる子みたいに言われてるけど……言わぬが花ね)

理事長「どんな無茶を仕出かすのか少しだけ楽しみでもありますね。理事長という立場ではそうは言えませんが」

あんじゅ「でも穂乃果ちゃんには海未ちゃんがついてるから大きな心配は不要かもしれませんね」

理事長「いえ、普段は海未ちゃんは穂乃果ちゃんに厳しいです。ですが、一度正しいと思ったら一緒に無茶をする子なんです」

理事長「だからこそ今でも親友で居られるんですよ。常に一緒ではなくても、根っこの部分は同じなんです」

にこ(確かに認めた相手には若干甘くなるし、中二病という大きな発火点があるものね)

にこ(それも魅力なんだけど、悪い意味で病気が炸裂したらと思うと怖くもあるわ。反面、面白くなりそうだけど)

理事長「そうそう。生徒数が戻ってきたこともあって静かだった職員室にも活気が戻ってきているようですよ」

理事長「これも皆さんのお陰ですね。今回の合宿もUTX学院との合同学園祭も張り切っています」

絵里「ただ、合同学園祭は音ノ木坂にとって毒になるのか薬になるのか現状では分かりません」

絵里「私は今の音ノ木坂なら向こうに憧れるなんてことはないと信じています」

絵里「でも皆が皆私のように思ってくれるのかは分かりません。だから来年度の生徒数が其れが原因で減る可能性もあります」

絵里「そうなった時が一番申し訳ないです。よくしてくれている先生方に恩を仇で返すことになってしまうから」

理事長「大丈夫ですよ。それに噂に聞いて知っていたと思いますが、あなた達が入学した頃」

理事長「このまま減り続けるようなら学院は廃校にって上から通達があったんです」

理事長「それがこうして活気に溢れている生徒達に包まれている。夢のような光景があるんです」

理事長「それを生み出してくれたあなた達を悪く思うことなんてありえませんよ」

理事長「それどころか過去最高の生徒会長の一人として語られることでしょうね。穂乃果ちゃんのお母さんのように」

あんじゅ「穂乃果ちゃんのお母さんって生徒会長だったんですか?」

理事長「ええ。私の方が一年生の時にあの人は三年生で生徒会長をしていたんですが、二歳しか変わらないとは思えないくらい立派でした」

絵里(私にとっての会長のような存在だったのね)

理事長「絢瀬さんは今の一年生からはきっと同じように尊敬の目で見られていると思いますよ」

絵里「そうでしょうか? 正直、全然自信がありません」

理事長「即座に付く自信もあれば、後から付いてくる自信もあるんですよ。もう一つだけ思い出話」

理事長「きぃ先輩――あ、これは穂乃果ちゃんのお母さんのことね。きぃ先輩に凄く懐いていた先輩が居たの」

理事長「私の一つ上にあたる先輩だったんだけど、高校もきぃ先輩が居るからって音ノ木坂に入学して」

理事長「生徒会にも入って、一生懸命に仕事をしてて私達からみればその人もまた凄い先輩だったわ」

理事長「でも、本人はきぃ先輩を基準に考えてるから自分のことが凄いって気付いてなかったの」

にこ「人のことすっごい凄いみたいに言ってる割に自分の凄さに気付かない。どこかの長女にそっくりね」

絵里「だ、誰のことかしら」

あんじゅ「うふふ。長女と言えば穂乃果ちゃんもそうだけど、自分でもその単語を使ってる人は一人だけだよね★」

絵里「お、思いつかないわ」

理事長「ふふっ。秋になってきぃ先輩が次の生徒会長に指名したのがその先輩で本人は本気で無理だと思って断ってたの」

理事長「でも、尊敬する先輩に貴女しか居ないって強く推されて根負けしたの。推薦されるだけの存在だった」

理事長「それなのに生徒会長の時はずっときぃ先輩に比べて自分は全然駄目な生徒会長だって言ってたわ」

理事長「誰もが認めていながら自分だけが認めてあげないっていう可哀想なパターン」

理事長「でもね、学園祭の日にきぃ先輩が遊びに来て先輩に言ったの。貴女に任せて本当に良かったって」

理事長「色んな人に貴女の評価を訊いたけど、誰もが満足していたわ。私でも出来なかったことを貴女はやったの」

理事長「それを本人が認めないのは勿体無いわ。もっと自分に自信をつけて、心に栄養を与えてあげて」

にこ「……そんな素敵な人からあの穂乃果が」

絵里「にこ。それは穂乃果に失礼よ」

にこ「あ、うん。でも穂乃果って基本的にゆっくりマイペースみたいなイメージ強いから」

あんじゅ「でも最近は何か心の変化があったみたいで、今まで以上に熱心で集中してるよね」

絵里「そうね。それがずっと続いてくれれば来年も安泰なんだけど。それで、その先輩はどうなったんですか?」

理事長「きぃ先輩の言葉をきちんと理解し、生徒会長を終えてからも色んな生徒の相談役として大人気でしたよ」

理事長「それでね、きぃ先輩の去り際の『自信が付けば絶対に教師に向いてるわ』って言葉が夢になって」

理事長「今は中学校の先生をしているの。ことりと穂乃果ちゃんと海未ちゃんが三年生の時に担任を務めていたんですよ」

理事長「三者面談で再会した時は驚いたし、そこで知ったんですけど」

絵里「穂乃果のお母様は凄く素敵な方ですね。私も人に夢を与えられるような存在になりたいです」

にこ「どうしてそこでにこを見るのよ」

あんじゅ「私も人に夢を与えられるような存在になりたいです」

にこ「なんで絵里の言葉をあんたまで繰り返してんのよ! というか、あんたが敬語を使うと変な気分だからやめなさい」

理事長「絢瀬さんだけでなく矢澤さんとあんじゅさんも自分の心にきちんと栄養を与えられる人になってください」

理事長「少なくとも後から付いてくる自信もあるということを覚えておいて下さいね」

理事長「長々と私の昔話に付き合ってくれてありがとう。私は失礼するわね」

絵里「いえ、とても為になりました」

あんじゅ「面白かったです」

理事長「合宿にラブライブに学園祭。体を壊さないように体調管理は徹底してください」

にこ「はい、充分に気をつけます」

理事長「それでは」

絵里「縁は巡るって言うけど、素敵な縁が輪を描いて和を築く。そんな輪に入れればあの頃の私に誇れる自分になるわ」

絵里「ううん、もうその輪の中に入ってるのかもしれない。にこが作ったこの優しい輪の中に」

あんじゅ「うふふ♪」

にこ「……」

絵里「さ、休憩おしまい。二人共もう少し手伝ってね。そしたらお姉ちゃんが帰りにケーキ奢ってあげる」

絵里「ううん、待って。亜里沙も呼んで矢澤家で家族一緒にケーキを食べた方がいいわ。そうしましょう!」

絵里「そうと決まれば考え込んでる暇なんかないわよ。ほら、ちゃっちゃっと終わらせて笑顔の輪を作るわよ!」

あんじゅ「は~い♪ にこ、頑張ろうねっ」

にこ「なんというか、うちの長女こそ真のマイペースな気がしてならないわ」

――七月十二日 部室 SMILE

絵里「にこ、面白い連絡が入ったわ」

にこ「どんなの?」

絵里「十周年記念によるラブライブ仕様一部変更のお知らせ。十日後の二十二日の午前十時からランキングが非公開へ」

絵里「予選終了後の午後三時の発表は一位から順に公開って流れになるみたい」

穂乃果「まるで私達の合宿に合わせてランキングを隠すみたいだね」

凛「こんな偶然もあるんだね☆」

海未「いえ、これは確実に意図的に変更したとみて間違いないでしょう。どうでしょうか、あんじゅ」

あんじゅ「海未ちゃんの意見で間違いないと思うよ。私達へのエールというか大会を盛り上げて欲しいってメッセージだね」

穂乃果「どうしてエールになるの?」

絵里「合宿中に毎日ランキングを見て、変化がない日が続けばこの合宿には意味がないのかもしれない」

絵里「このままだと三十日の大下克上だって効果が表れないないんじゃないか。っていうことになったら凛はどうなると思う?」

凛「どんどんやる気が落ちていくと思うよ。自分では崩れたフォームを直してるつもりなのに、逆にタイムが落ちる時と同じで」

絵里「いい例えね、流石陸上部の期待の新人。それだけじゃなくて、変な焦りだって生まれてくる」

絵里「他グループ内でのギスギスした関係が生み出して、最悪は合宿は空中分解のままで失敗。大下克上もグダグダになる」

絵里「そんな可能性をなくす唯一の方法がランキングの非公開。私達じゃ出来ないことを大会本部がしてくれたのよ」

にこ「こんなこと十周年記念って免罪符がなければ贔屓と取られてもおかしくない暴挙だけどね」

海未「しかし、今までとおりの現在上位二十位まで入ってるグループがそのまま予選通過するだけよりは見る側としては面白くなるかと思います」

穂乃果「そうだね。隠されてる分、二十位から遠くったって入れてるかもしれないって希望が持てるし」

にこ「緊張感は維持しないといけなくなるけど」

凛「でも、こういう緊張感に打ち勝てないと大会で緊張し過ぎて何も出来なくなっちゃうにゃ」

穂乃果「凛ちゃんの言うとおりだよ。スクールアイドルならこれくらいの緊張に負けたりしないよ」

海未「穂乃果は本当に昔の感じに戻ってきましたね。何事にも捕らわれない自由な行動力」

穂乃果「完全にやる気モードだから!」

あんじゅ「何事にも捕らわれない自由さ……SMILE二代目リーダーはにこの邪道を受け継げる逸材になるかもしれないよ」

にこ「そんな駄目なところを受け継がせる訳ないでしょうが!」

海未「その点については安心してください。穂乃果は悪知恵は働きませんから」

絵里「真っ直ぐさが武器だものね」

凛「時々本当に何考えてるのか分からないことがあるくらいだし」

穂乃果「みんなして穂乃果のこといじめてる!?」

にこ「いじめてなんてないわよ。期待の裏返しってやつじゃない」

あんじゅ「残念ながらSMILEは引き継がれても邪道シスターズは私達の代で永久欠番だね」

海未「欠番って、言いたいことは伝わりますが間違ってますからね?」

穂乃果「まっ、なんでもいいや! 大会本部が応援してくれたんだから、見事に成功させて頑張らないとね!」

凛「よ~しっ! それじゃあ屋上に戻って練習再開しよう♪」

海未「ええ、練習をっと言いたいところですが。その前に二人には昨日出した宿題を返してもらいましょう」

海未「もしやっていなかった場合は……分かっていますね?」

穂乃果「も、勿論やってきたよ。やってきたんだけど、途中いくつか分からなくて後でやろうとしたら忘れちゃって」

凛「り、凛昨日は見たい番組があって、それを最後まで観てたらついつい忘れちゃって」

海未「穂乃果は解いてある問題の数に応じて罰を緩めます。凛、あなたには相応の罰を与えますので覚悟してください」

凛「絵里ちゃん助けて!」

絵里「自業自得よ。勉強は他の誰でもない自分の為なんだから。しっかりとすること」

凛「あんじゅちゃん助けて!」

あんじゅ「今から勉強をしっかりすれば、三年生になった時の夏休みが楽になるから頑張ってね」

凛「にこちゃん助けて!」

にこ「ちょっと待っててー。海未の罰が終わったら助けてあげるから」

凛「それ意味ないよ!」

海未「さて、凛。覚悟は出来ましたか?」

凛「にゃ~っ! 誰か助けてーーー!!」

――星と太陽 七月 ツバサ&英玲奈

英玲奈「今度のライブの件なんだが」

ツバサ「大下克上のことね。変装する準備はもう用意してあるわ。シークレットブーツって視点が大きく変わって面白いわ」

ツバサ「勿論変装だからね、当日は黒髪のツインテールで行くことにするから他の人にバレることはない筈よ」

英玲奈「自分達のライブの前に思い浮かぶのが向こうのライブか」

ツバサ「あ、もしてかしてA-RISEのライブのこと?」

英玲奈「真っ先に普通気が付くだろう」

ツバサ「花陽さんも真姫さんもベクトルは違えどいい感じよ。花陽さんは愛情の強さからラブライブが近づくにつれて根性が座ってきてる」

ツバサ「真姫さんの方は頭の回転が英玲奈みたいに速いから、後は身体が付いてくれば怖いものなしね」

英玲奈「若干心配していたが、きちんと見ているんだな」

ツバサ「当然でしょ。私はA-RISEのリーダーなんだから」

英玲奈「そう心配になるくらいに思考が音ノ木坂方向に向いている気がするんだが」

英玲奈「そもそも最初の頃はライバルだから優劣を付けるとか言ってた筈なのに、いざ対決出来るような状況が近づくと」

英玲奈「優劣なんかよりもお互い魅せ合いたいみたいな意見に見事変わっているし」

ツバサ「UTX学院のスクールアイドルとしては全てより優れていることを目指さなければいけない」

――星と太陽 七月 ツバサ&英玲奈

英玲奈「今度のライブの件なんだが」

ツバサ「大下克上のことね。変装する準備はもう用意してあるわ。シークレットブーツって視点が大きく変わって面白いわ」

ツバサ「勿論変装だからね、当日は黒髪のツインテールで行くことにするから他の人にバレることはない筈よ」

英玲奈「自分達のライブの前に思い浮かぶのが向こうのライブか」

ツバサ「あ、もしてかしてA-RISEのライブのこと?」

英玲奈「真っ先に普通気が付くだろう」

ツバサ「花陽さんも真姫さんもベクトルは違えどいい感じよ。花陽さんは愛情の強さからラブライブが近づくにつれて根性が座ってきてる」

ツバサ「真姫さんの方は頭の回転が英玲奈みたいに速いから、後は身体が付いてくれば怖いものなしね」

英玲奈「若干心配していたが、きちんと見ているんだな」

ツバサ「当然でしょ。私はA-RISEのリーダーなんだから」

英玲奈「そう心配になるくらいに思考が音ノ木坂方向に向いている気がするんだが」

英玲奈「そもそも最初の頃はライバルだから優劣を付けるとか言ってた筈なのに、いざ対決出来るような状況が近づくと」

英玲奈「優劣なんかよりもお互い魅せ合いたいみたいな意見に見事変わっているし」

ツバサ「UTX学院のスクールアイドルとしては全てより優れていることを目指さなければいけない」

ツバサ「そう心を偽っていたんだけど、再会出来るとなればそんな偽りは消えてしまったわ」

英玲奈「いや、最初から全く隠れてすらいなかった」

ツバサ「しょうがないわよ。私の始まりであり、憧れの存在なんだから」

英玲奈「今まではツバサの妄想というか、過大評価に過ぎないと思っていた」

英玲奈「でも、いざ調べてみれば中々に面白いことをしてきたようだ。スクールアイドルなき学院から上り詰めようとするのは伊達ではない」

ツバサ「漸く気が付いた? SMILEがスクールアイドル誌で初めて載った時に買った過去を誇れるわね」

英玲奈「それはどうかは知らないがあの雑誌は結局何冊買ったんだ?」

ツバサ「五冊か六冊だったかしらね。大事に取ってあるわよ」

英玲奈「買い過ぎだ。一応訊くが私達A-RISEが初めて載った雑誌は何冊買った?」

ツバサ「二冊ね。きちんと一冊は残してあるわよ」

英玲奈「……。まぁいい。まだ噂程度の話だがツバサには嬉しいだろう知らせがある」

ツバサ「何かしら?」

英玲奈「オトノキ合宿で複数の出版社から取材のオファーが入ったらしい」

ツバサ「変装するのにお小遣い全部使っちゃったのよね。子供の頃から貯めてるお年玉を切り崩す時がきたわね」

英玲奈「私やことりの前ではまだいいが、西木野と小泉の前ではそのファン過ぎる一面は隠してくれ」

英玲奈「大会の決まりの時にあれだけ嬉しそうに笑っていたからバレバレだが、やる気を削る可能性があるからな」

ツバサ「その辺はきちんと注意してるから安心して」

英玲奈「かつてない程に不安だからこそ、わざわざ口にしたんだ」

ツバサ「でもあの二人のライバルもSMILEに居るって話だし、やる気が燃え上がるとは思うけどね」

英玲奈「ことりもそうだが、中々にオトノキとは縁があるな」

ツバサ「縁があるなんてものじゃないわ。これは私とにこにーが再会する為に彩る為の運命よ」

英玲奈「そこまで言う割にはハロウィンイベントの矢澤にこに見に来るなという条件はなんだったんだ?」

英玲奈「逆の立場になった矢澤にこはツバサにチケットまでプレゼントしたというのに」

ツバサ「再会はラブライブでって盲目的に思ってたし、それに今回と違ってSMILEのライブ前に変装して私のライブを見てとは言えないでしょ?」

ツバサ「なんてそれは後付けの言い訳で、太陽と星の器の大きさの違いだったわ」

ツバサ「あの頃の私はまだにこにーに見られる自信がなかったのよ。でも、このメンバーなら別」

ツバサ「このまま本戦までに完璧に仕上げれば文句の付けようがないわ。にこにーに胸を張って見てもらえる」

英玲奈「そこまで言い切れるようなら何も言わない。後は好きにするがいいさ。私はただ最後まで付き合うだけだ」

ツバサ「ありがとう、英玲奈。好きにさせてもらうわ」

――ことりぼっちⅡ ケーキ屋

ことり「と言う訳なんですよ」

先輩「ふーん。というか、なんで私は南の愚痴ばかり聞かなきゃいけないわけ」

ことり「A-RISEの愚痴を語れるのはアンチ先輩しか居ないですから」

先輩「というか、特待生なんだから愚痴ってないで本業の方をやったらどうなの」

ことり「クラスに友達が居ないまま卒業まで行きそうですからね。お陰さまで効率を極めました」

ことり「だから課題の方も入学前とは比べ物にならないくらい簡単になってます」

先輩「頼る相手が居ないから強くなったわけね。寂しいと言うべきか逞しいと言うべきか」

先輩「でもUTXって元々はそういう学校だから。南の所為で忘れかけてたけど」

ことり「私の所為だけじゃないと思いますよ。生徒会長さんが助け合う雰囲気を出してますから」

先輩「そうね。有能だけど変わり者って話だけど」

ことり「凄く素敵な性格ですよ」

先輩「人柄の良さと性格は別物でしょ。あんまり知らないからどうでもいいけど」

ことり「どうでも良くないですよ。私もお世話になりましたし、花陽ちゃんもお世話になったみたいです」

先輩「そんなこと言われても私には関係ないし」

ことり「アンチ先輩とライブが出来るのは会長さんが合同学園祭を実行してくれたからです」

先輩「それ関係あるの?」

ことり「関係大有りです。新しい風を取り入れてくれたお陰でより自由な出し物が出来るようになったんです」

ことり「もし会長さんが違っていたらきっとA-RISEの私は個人として他の人と出ることは許されなかった筈です」

先輩「いや、私はそれはそれで別に良かったけど」

ことり「アンチ先輩は嘘を吐く時に視線を逸らす癖があります」

先輩「……南とのライブっていう目標があるから日々のレッスンに力を入れられる面があるのは確かだからね」

先輩「先生にも褒められることが多くなってきたし、感謝はしてるわ」

ことり「いいえ、こうして愚痴を聞いてもらってるのでお互い様です」

先輩「はぁ~。なんというかカリスマと言っていいのか分からないけど、本当に南って独特の雰囲気よね」

ことり「そうですか?」

先輩「私が後輩の面倒をこうして見ることになるなんて思わなかったもの」

ことり「アンチ先輩は何だかんだで面倒見いいから、大学だとモテる可能性大きいです」

先輩「卒業後をどうするか決めなきゃいけない時期だから、そんな未来はどうでもいいわ」

ことり「教師とか似合いそうです」

先輩「UTXの芸能科に入っておいて教師を目指すっていうのもなんだか癪ね」

ことり「じゃあアイドルを目指すべきです」

先輩「等身大の私じゃ限界は見えてるのよね。って、否定的な考えばかり浮かんできて思考が迷宮を彷徨ってるわ」

ことり「んーアンチ先輩ならある時に閃くみたいに将来を決めそうですね」

先輩「それでもいい。学園祭が終わるまでには閃いて欲しいものだわ」

ことり「取り敢えず今はケーキをお代わりするかどうかを考えましょう」

先輩「そうね。……私は南と違って今日も充分運動したし、もう一個くらい平気ね」

ことり「そういうことを言われるとお代わりし難いじゃないですか」

先輩「私だけ悩むのは不公平だもの。南は美味しく頂く私の前で大いに羨むといいわ」

ことり「はぅん。アンチ先輩の意地悪ぅ」

――いつか頂制する日まで まりぱな

真姫「ねぇ、花陽」

花陽「何?」

真姫「今日の練習って本当にスクールアイドルに必要だったの?」

花陽「ど、どうなのかな?」

真姫「絶対に意味ないと思わよ。だって即興劇とスクールアイドルじゃ関係ないじゃない!」

花陽「必ずしもって訳じゃないよ」

真姫「嘘、絶対関係ないわ」

花陽「ラブライブの歴史の中で一曲の時間を長くして劇を組み合わせたグループがあったの」

花陽「新しい試みが上手くいったお陰で予選を見事に突破したの」

真姫「でもA-RISEはそんなことしないから意味ないじゃない」

花陽「……でも、ツバサさんが考えてくれたことに無駄はないと思う」

真姫「私だってツバサさんを疑ってる訳じゃないけど、今回だけは納得出来ない」

真姫「それにそういう奇策って一度だけしか有効じゃないのが常でしょ?」

花陽「う、うん。確かにそういうのを真似ようとしたグループもあったけど、結局上手くはいかなかったみたい」

真姫「完全に意味がないことさせられただけじゃない。無駄に何度も何度もさせられて」

花陽「うーん、どうなのかなぁ」

真姫「明日も今日と同じだったら絶対に抗議するわ!」

花陽「でも真姫ちゃん」

真姫「何よ?」

花陽「無駄なことをさせられる余裕がないからライブの回数をただの一回にしたんだよ」

花陽「意味もないことをして一日のレッスンを無駄にさせるなんてやっぱりありえないよ」

真姫「……それは、そうだけど。今日の練習に意味があるなんてどうこじつけたって難しいじゃない」

真姫「それともアイドル好きな花陽になら考えつくの?」

花陽「アドリブを鍛える為。緊張に慣れてそれを自覚する為。レッスンすればする程頂の高さを実感して焦ってきてたからそれを解す為」

花陽「その何れか、もしかしたら全部なのかも。ううん、もっと他の思惑があるのかも」

真姫「驚いた。見ようによってはそういう見解もあるのね」

花陽「体力作りだけじゃなくて精神面も鍛えていくつもりなんだろうね」

真姫「上等よ。心身ともに完璧にならなきゃ意味がないもの。それがA-RISEのメンバーに与えられた使命でっしょー」

花陽「うん、私達の代が一番って言われる目標の為にも頑張らないと」

真姫「そうよ。私はピアノをやってたから大事な局面での失敗は何度か経験ある」

真姫「だから大丈夫。なんて言える程にはスクールアイドルのステージは甘くないんでしょうね」

真姫「ピアノは一人で演奏するし、ミスも自業自得で済むけど……スクールアイドルはそれだけじゃ済まされない」

真姫「私のミス一つで皆が練習してきた全てを台無しにするのと同じ。その瞬間に訪れる罪悪感は想像出来ないくらい」

真姫「正直ミスをしたら頭が真っ白になって動けないし歌えなくなるかもしれない」

花陽「真姫ちゃん」

真姫「でも、それはあくまで今現在の私の場合よ。そうね、疑って掛かって文句言うなんてしてたら最高にはなれない」

真姫「どんな理不尽すらも乗り越えてこそ精神面でも成長出来る。きっとそういうことなのよね」

花陽「そうだね。あのね、真姫ちゃん。私は他の人よりも成長が遅いかもしれない」

花陽「もしかしたら来年になった時、A-RISEに入ったばかりの後輩の子の方が上手くなるかもしれない」

花陽「でも、絶対に三年生になる時には完璧になってみせる。真姫ちゃんに花陽が居ないとA-RISEじゃないって言ってもらえる未来にしてみせる」

花陽「だから、それまで迷惑いっっっぱいかけちゃうかもしれないけど、よろしくお願いします!」

真姫「私の方が迷惑掛けるかもしれないし、そんな気負う必要なんてないわよ」

真姫「凛がこないだ言ってた。かよちんは誰よりも強い子なんだって」

真姫「まだ短い付き合いだけど野性の勘みたいに鋭い部分もある凛がそう言うんだから、花陽はきっと誰よりも強くなれる」

真姫「勿論、花陽が強くなることをを諦めないっていう前提が入ってのことだけど」

花陽「うん、ありがとう。絶対に諦めたりなんかしない。私は真姫ちゃんと一緒に凛ちゃん率いる音ノ木坂とラブライブで優勝争いしてみせる」

真姫「その活きよ。っと、それじゃあ私はこれから病院に行くから。ここでお別れね」

花陽「こんな遅い時間からでも病院に行くんだ」

真姫「まぁね。患者さんを診るんじゃなくて、病院内の雰囲気を肌で馴染ませて、雑用のお手伝いをさせてもらうだけだから」

真姫「帰りはパパと一緒に帰るから歩いて帰るより安心だしね」

花陽「真姫ちゃんはスクールアイドルも将来の夢も真っ直ぐですごいなぁ」

真姫「花陽がスクールアイドル頑張るのは夢のことと直結してるじゃない。A-RISEでリーダーしてラブライブで優勝」

真姫「そうしたら間違いなくプロのアイドルにスカウトされるわ」

花陽「わ、私が本物のアイドルに!?」

真姫「くすっ。今更何を驚いてるのよ。私や英玲奈さんみたいに実家を継いだり、ことりの様に他の夢があるなら別だけど」

真姫「花陽は小さい頃からの夢なんでしょ? 私より一足先に夢を叶えちゃいなさいよ」

花陽「どうしよう。今までA-RISEで頑張ることしか頭になくてそのことを考えてなかった。だっ、誰か助けてー!」

真姫「もう、何をパニックになってるのよ。ツバサさんに花陽は特に精神面を鍛えて欲しいって言っておかないとね」

真姫「って、いい加減に正気に戻りなさいよ。まったく……これじゃあ心配で別れられないじゃない」

真姫「しょうがないから家までこの真姫ちゃんが送ってあげるわよ。世話の掛かる未来のアイドルねぇ」

――UTX学院 会議室

希「今回の話し合いはここまで大丈夫かな?」

絵里「ええ、でも本当にごめんなさいね。本来ならもっと頻繁にこうして顔を合わせた会議をするべきなのに」

絵里「こっちの事情に気を使って、会議の数を減らしてメールや電話での対応にしてくれて」

希「スクールアイドルが盛り上がれば必然的にUTXを目指す生徒が増えることに繋がるから」

希「だから別に気にすることはないよ。それに、生徒会長なのに歌って踊れるなんて格好良いし」

絵里「そういう希さんだって学園祭一日目でライブを披露するじゃない」

希「生徒のアンケートで繰り上げ一位になっちゃったからね。ウチは運動とか得意じゃないからかなりキツイんだけど」

希「うちの副会長のやる気を出させる為にそんなこと言い出せなくて。だから練習が大変でも弱音吐けなくて苦労してるんよ」

絵里「謙遜することないわよ。ことりさん経由で希さんの凄さは耳にしてるわ」

希「ことりちゃんがどんな評価をしたかは分からないけど、それは完全な身内贔屓ってやつだよ。ただ」

絵里「何かしら?」

希「スピリチュアルパワーはなくなっちゃったんだけど、最後に見た光景の為にも頑張ろうかなって」

絵里「不思議な力は信じてないけど、以前占ってもらった時は本当に当たったのよね」

希「今のウチが占っても当たるも八卦当たらぬも八卦になっちゃったけどね」

絵里「それで、どんな光景が見えたの?」

希「それは……ふふっ。学園祭一日目のお楽しみ。未来は知ってたら面白くないやん」

絵里「焦らすわね。でも、その顔を見れば少なくとも明るい未来なのは察することが出来るわ」

絵里「ということは、無事に合同学園祭が開かれるのね。頑張る気力が増すわ」

希「そういうこと。ということで、今回の課題は次回の会議、もしくは時間をみての連絡ということにしようか」

絵里「ええ、分かったわ。こっちの生徒会でも色んな方針考えてみるから。他の案が出たらまた連絡する形で」

希「うん、了解」

絵里「本当ならこのまま場所を変えてお茶をしながら雑談したいところなんだけど、今は色々と忙しくて」

希「合宿問題があるもんね。ゆっくりとするのはラブライブが終わった後にでも」

絵里「くすっ。その時は学園祭に追われてとてもゆっくり出来ないわよ」

絵里「学園祭が終わって、お互いに生徒会長を引き継いだ後になるのかしらね」

希「もう直ぐ夏休みだっていうのに、ゆっくり出来るのが秋になってからっていうのも女子高生としては切ない話やね」

絵里「んー、でも恋愛は大人になっても出来るけど、こうした生徒会業務や学園祭の準備とかは今しか出来ないことじゃない?」

絵里「女子高生としては切ないかもしれないけど、高校生としては最高だと私は思ってるわ」

希「それもそうだね」

絵里「それに私の場合は可愛い妹達に囲まれてるから切ないなんて思う心の隙間がないわ」

絵里「っと、それじゃあ慌しくて悪いけど私はこれで。またね」

希「気をつけてね。ほな~」

希「……ふふふっ」

希(スピリチュアルパワーがなくなっても笑顔で居られるのはこの学院に入学したお陰やね)

希(人との距離を置く為の壁は私にはもう必要ない。神様がそう思って卒業させたのかも)

希(スピリチュアルパワーが最初からなければ私はとても臆病で人前になんて出れない性格だった筈だもの)

希(だから与えてくれていた神様にとっても感謝してる。生徒会に引き入れてくれた会長さん。共に歩んでくれる副会長)

希「私――ウチは幸せ者やんな」

――七月十二日 休憩室 ツバサ&英玲奈

英玲奈「……これは。ツバサ、面白いことになったようだ」

ツバサ「面白いこと? 今でも充分面白いことになってるんだけど」

英玲奈「ツバサは三十日を楽しみにし過ぎだ。それはともかく、これを見てみろ」

ツバサ「えっと……ラブライブ予選仕様一部変更のお知らせ。七月二十二日午前十時よりランキング非公開へ」

ツバサ「三十一日正午の締め切り後、発表の午後三時にランキング一位より順次公開」

ツバサ「ふふふっ。非公式の日付的に考えても明らかににこにーの連日の合宿を意識してるわね」

英玲奈「間違いないな。大会本部にとっても固定された上位陣だけが予選通過という動きのないままよりも」

英玲奈「大下克上と銘打った大会からのランキング外のグループの予選通過に期待しているということか」

ツバサ「それもそうよね。ラブライブ十周年記念の今のシステム最後の大会が動きのないままの予選より」

ツバサ「固定ファンが多いランキング上位すら覆せる可能性を秘めた大会なんだとイメージさせた方が来年以降の参加グループに影響が出るもの」

英玲奈「そういうことを期待しているのが分かった以上、新しいシステムはどんな学校でもチャンスが生まれる仕様になりそうだ」

ツバサ「そうね。でも、そういう型に嵌ってないやり方がことりさんの自由な行動を輝かせる結果に繋がりそう」

英玲奈「『A-RISE=ことりの破天荒』というイメージになりそうだが」

ツバサ「それはそれでいいんじゃない? 後輩達が塗り替えて行く方がA-RISEの歴史が深まるもの」

英玲奈「塗り替えて……か。そういう意味では矢澤にこは恐ろしい」

ツバサ「にこにーが?」

英玲奈「段々とツバサが注目する意味が分かってきた。矢澤にこには人を動かす力があるようだ」

英玲奈「商店街・私達A-RISE・今回の合宿に参加するグループ・今回のようにラブライブ大会本部すら」

英玲奈「ツバサのような人を魅了するカリスマ性と対になる、その時代の流れを動かすカリスマ性」

英玲奈「矢澤にこには後者の物を持っているように思える。そして、前代未聞の行為すら正しい行いのように感じさせる魅力」

ツバサ「今更にこにーの本当の魅力に気付けたのね。にこにーの魅力は努力しても身に付けられない類の物よ」

ツバサ「にこにーという太陽に近づく為にカリスマ性を磨いてきた。でも、星じゃあ太陽の輝きには及ばない」

英玲奈「もし、オトノキにもう少し設備があれば、スクールアイドルとしての歴史があれば……そう思うと背筋が寒くなる」

英玲奈「だが、ツバサが矢澤にこより輝いてないという点に置いては否定しよう」

英玲奈「ツバサに圧倒的なまでの魅力があるからこそA-RISEはトップに輝いていられる」

英玲奈「いつもみたいに自信を持つべきだ」

ツバサ「ありがとう。でもね、にこにーは人を良い方向に変えて、突き動かさせるっていう最高の武器があるの」

ツバサ「あれを実際にされた側になるとね、この人には敵わないって思わされるわ」

ツバサ「正にアイドルになる為に生まれてきたと言っても過言じゃない」

英玲奈「ファンを笑顔にして元気付けるだけじゃないアイドル……か」

ツバサ「それこそが私が目指すアイドルの究極系」

英玲奈「アイドルになることだけが目的の子が多い中、高すぎる目標だな」

ツバサ「目標は高くなくっちゃね。名前負けしない私でありたい」

英玲奈「私が最も認めているスクールアイドルだ。いつかその目標すら超えていくだろう」

ツバサ「そうありたいものだわ。それじゃあ、このことをあの子達にも教えて炊きつけてくる」

英玲奈「程々にな」

ツバサ「あら、英玲奈ってば面白いこと言うのね。キラ星と呼ばれた私に妥協や程々なんて生易しい言葉はないのよ☆」

◆No brand girls◆

――七月二十二日 合宿開始日 家庭科室

にこ「カレーは昨日の内に用意して寝かせてるけど、ご飯も用意しておかないとね」

にこ「みんな食べてくるとは思うけど移動の関係で朝食抜きの子も居るかもだし」

にこ「ということで、お米を研ぐわ。SMILEで戦力になるのは……絵里と海未。それから穂乃果は大丈夫?」

穂乃果「やだなぁ。流石にお米くらいは普通に研げるよ。穂むらが忙しい時期は穂乃果がお米炊いたりしてたんだから」

海未「当たり前のことが当たり前に見られてない証拠ですよ。そういうイメージを払拭する為にも頑張ってください」

穂乃果「うん!」

にこ「それで凛はどうかしら?」

凛「凛の得意料理はカップラーメンだよ!」

にこ「なるほどね。じゃあ、凛には悪いんだけど黄金の足を活かした役割を与えたいんだけどいいかしら?」

凛「そっちの方が凛としては嬉しいな☆」

にこ「じゃあ悪いんだけど、もしも駅前からここまでが不安ってグループが居たら駅まで迎えに行ってあげて欲しいの」

にこ「東京って遠くの子からするとけっこう緊張するみたいだし、慣れてない所を彷徨わせるのは心配だからね」

凛「了解ニャ!」

にこ「それからクッキング部。一応料理できるのよね?」

「うん、任せて。学園祭の人形劇は伝統だからやってるだけで、普通に料理できるよ」

「卵焼きでも目玉焼きでもオムレツだって作れるし」

「タコさんウィンナーもカニさんウィンナーもソーセー人だってお手の物」

「おやつだったらお任せあれですよ」

にこ「……その回答に恐ろしいくらいに期待値が下がったんだけど。本当に大丈夫なのかしら」

絵里「大丈夫でしょ。もし戦力にならないのならこの場に出向くわけないもの」

にこ「戦力外なのに椅子に座ってうたた寝モードのやつがいるんだけど」

あんじゅ「スー……スー……」

穂乃果「あんじゅちゃん、最近は特に甘えん坊さんだよね。今まで以上にベッタリって感じで」

凛「片時も離れたくないね。おトイレも絶対に付いて行くし」

海未「ラブライブが近くなって不安なのでしょう」

穂乃果「予選通過を通過出来るかってこと?」

海未「いえ、本戦に進める進めないはあんじゅにとっては些末なことだと思います」

凛「どういうことかな?」

海未「あんじゅにとっての一番はにこですから。そのにこに多大な影響を与えた綺羅ツバサとの再会が心配なんですよ」

絵里「海未の言うとおりね。夢を奪われただけでなく、再会した時にまたにこが傷つくんじゃないかって心配なのと」

絵里「にこが変わっちゃうんじゃないかって不安なのよ。だから最近甘えん坊で、中々寝付けなくて寝不足気味みたい」

にこ「……そういう勝手な憶測はせめてにこが居ないところでしてくれない?」

海未「憶測ではなく事実ではないですか。合宿も始まりますし、不安も少しは紛れてくれればいいのですが」

絵里「私達の間ではなるべくA-RISEの話題は控えるようにしましょう。せめてあんじゅの心が安定するまで」

海未「そうですね。特に綺羅ツバサの話題は厳禁とします」

にこ「あんた達は考え過ぎだっての。あんじゅが私に甘えてるのなんていつものことでしょう」

絵里「にこ、それを本気で言ってるの?」

にこ「……」

絵里「寝付けないあんじゅに付き合ってるんでしょ? 誤魔化してるんだろうけど、私だってにことの付き合いは長いんだから」

絵里「隠そうとしてることくらい気付くわよ。私と海未が言ったことも頭では理解してるんでしょ?」

絵里「でも自分だけじゃどうしようもないし、あんじゅの不安を解放してあげたいのに解放させてあげる手段がない」

絵里「違う?」

にこ「……理解力あり過ぎる長女っていうのは面倒なものね。絵里の言うとおりよ」

にこ「でも、そもそもあんたの言葉に惑わされてるんだからね!」

海未「絵里が何かを言ったのですか?」

にこ「にこは夢を諦めたんじゃなくて、ただ夢の時間が停止しているだけとか抜かしたのよ」

絵里「私はその可能性を信じているのよ」

海未「流石絵里ですね。停止してる時間が戻ればにこがアイドルを目指す夢のトビラが開かれます」

にこ「何度も何度も言うけど。あんたたちはにこを買いかぶり過ぎてるの」

にこ「私なんて……この子の不安すら拭えないくらいなんだから。アイドルなんて夢のまた夢よ」

穂乃果「夢のまた夢でもさ、いいんじゃないかな?」

にこ「えっ?」

穂乃果「にこちゃんの好きなせんちゃんの歌で《夢なき夢は夢じゃない》ってあるじゃない」

穂乃果「夢のまた夢だって夢に変わりないんだよ。だったら叶うよ。にこちゃんなら叶えられるよ♪」

にこ「――」

絵里「ハラショー!」

凛「穂乃果ちゃんってば良いこと言うニャー」

海未「穂乃果は本当に昔の誰をも惹きつける魅力を取り戻しつつあるようですね」

穂乃果「にこちゃんみたいにアイドルに詳しくないし、ツバサさんのことだって二度しかライブを観たことない」

穂乃果「でもね、一つ言えることがあるの。にこちゃんとツバサさんは異なる魅力を持ってるんだよ」

穂乃果「それなのに無理やり比べちゃうのがまず間違ってるんだよ。穂乃果にしてみれば海未ちゃんとことりちゃんだね」

穂乃果「二人共とっても素敵な魅力があって、でもその魅力は正反対なくらいに違ってる。そういうことなんだと思う」

にこ「……それでも比べられるのがアイドルなのよ。タイプが違うとかはただの言い訳に過ぎないわ」

穂乃果「でもにこちゃんが劣ってるって誰か言ったの?」

にこ「いや、だってそんなの訊くまでもないじゃない。A-RISEの人気は磐石でSMILEは――」
穂乃果「――それはグループの人気の差だよ。A-RISEは元々UTXのスクールアイドルっていうブランド力があるんだから」

穂乃果「にこちゃんはツバサさんがにこちゃんのことをどう思ってるのか知ってるの?」

にこ「どういう意味よ?」

穂乃果「これは本当は言っちゃいけないことなのかもしれないけど、穂乃果はいけない子だから言っちゃうね」

穂乃果「こないだことりちゃんにチケット届けて貰った後に届けた事を伝えてくれた時に言ってたの」

穂乃果「ツバサちゃんの理想はね、見に来てくれた人に自分達A-RISEとにこちゃんが居るSMILEと比べるのではなく」

穂乃果「どちらも最高だったと思われることだって言ってたんだって。これがどういう意味か分かるかな?」

にこ「……」

穂乃果「自分と対等だと思ってる相手じゃないとそんな言葉出てこないと思うよ」

穂乃果「にこちゃんとラブライブで再会するっていう約束があるだけでそんな言葉使うかな?」

穂乃果「自分と同等以上だと思ってる相手にしかそんな素敵な言葉が出てこないと思うんだ」

穂乃果「他のみんなはどう思う?」

絵里「そうね、自分より下だと思っていたら絶対に出てこない言葉なのは間違いないわ」

海未「誰よりも認めた相手にしか使えないですね」

凛「本気でにこちゃんをライバルだと思ってるからこそ、頂点にいるのに使える言葉だと思うよ」

穂乃果「ツバサちゃんがにこちゃんをどう思っているのかよく考えて欲しいの。直ぐに考えを改めるのは難しいよね」

穂乃果「でもにこちゃんなら出来ると思う。だって、誰かを笑顔にしようとする時のにこちゃんは無敵だもん」

にこ「どうしてにこが少し考えを変えるだけであんじゅが笑顔になると思うのよ」

穂乃果「今の自分を卑下した状態のにこちゃんだと不安になるけど、自信を持ったにこちゃんなら安心出来るもの」

穂乃果「あんじゅちゃんは強いにこちゃんを望んでる訳じゃないと思う。でもね、誰よりも自信を持ってて欲しいって願ってると思うんだ」

穂乃果「自信満々に間違えて、みんなを笑顔にしてくれるにこちゃんを待ってるんだよ」

にこ「なんで間違える前提なのよ!」

絵里「確かに。にこは自信満々の時はけっこう間違えてるわよね」

海未「ですがその方がにこらしくて安心出来ます」

凛「確かににこちゃんって失敗してる方が保護欲を掻き立てるよね」

にこ「二つも下の凛に保護欲とか言われたくないニコ!」

凛「えっへへ♪」

絵里「絶対な自信を取り戻したら、次は綺羅ツバサとラブライブ本戦で再会して夢の時間を取り戻しましょう」

海未「取り敢えずにこも他のグループの方達が集まるまでは少し休んでいてください」

海未「ご飯くらいなら私達で充分出来ますから」

にこ「クッキング部の実力がすっごい怪しいんだけど」

「えっ、もしかしてあんな噂本気で信じてるの?」

「さっきも言ったけど超戦力だってばー」

にこ「お米を洗う方法を答えなさい」

「勿論この洗剤を使って!」

「そんなベターな返しないわよ。てか、そんなのありえる分けないでしょ。洗剤って高いのよ?」

「そうそう。使うのはこのお手軽価格で購入出来る石鹸だよ!」

「いや、薬用石鹸レベルになるとけっこうなお値段するし」

「ああ、あのなんていったっけ?」

穂乃果「ミューズだね」

「それそれ」

「ミューズを使うのは中級家庭以上のステータスだからね」

「今までの石鹸を仕様した場合の九倍も美味しく炊けるって評判です」

凛「どうして九倍なの?」

「昔話にミューズって九人の歌の女神が出てくる話があってね。あの古いカラオケ屋のムーサイって名前もミューズの別名だね」

海未「昔話ではなく神話と言ってください」

にこ「九人の歌の女神ねぇ」

絵里「あれ? 今何か変わった音がしなかった?」

凛「変わった音? 何も聞こえなかったけど」

穂乃果「穂乃果も別に何も聞こえなかったよ」

海未「ええ、私もです」

絵里「おかしいわね。……確かに何かピーコンっていう音が聞こえた気がするんだけど」

にこ「何そのあんじゅが自称フラグが立った時の音みたいな効果音」

絵里「あっ、それかもしれないわね。これがフラグが立った時の音なのね」

にこ「あれはあんじゅの遊びであって、本当にそんな音がするわけないでしょ。それにどこの誰にフラグが立つのよ」

海未「ふむ。絵里関係のフラグとなると間違いなく妹関係。私か亜里沙かこころちゃんかこころちゃんの何れかですね」

絵里「謎は全て解けたわ!」

穂乃果「どこかで聞いたことがあるような?」

凛「いつも連続殺人を目の前で起こされるのに名探偵と呼ばれるようなアニメで使われる台詞だよね」

絵里「来年六人の新入生がSMILEに加入するフラグに違いないわ!」

にこ「……人のこと言えないくらい、こう自信満々の絵里の発言は空振るのがお約束よね」

海未「六人ですか。一気にそれだけ増えると色々な問題が起きそうですが、今の勢いの穂乃果なら安心です」

にこ「いつもは穂乃果に厳しいことばかり言ってるのに珍しい発言じゃない」

海未「昔の皆を引っ張るリーダー気質の穂乃果ならば、例えどんな困難でも乗り越えられる」

海未「なんていうのは大げさですけどね。そんな気持ちにさせてくれるんです。付いていくのが大変になることだってあります」

海未「けれど、そんな大変すらいい思い出に変えてしまうのが穂乃果の最大の魅力です」

海未「にこよりも心配させる度合いが高いので、残りの高校生活の間にもっと成長して欲しいと望んでいます」

にこ「まるで穂乃果の姉というか母親ね。面白いSMILEが出来上がりそうね」

凛「そんな個性的な二人の後のリーダーになるって思うと、少し心配になってくるにゃー」

絵里「そんなことで心配することはないわ。凛にはSMILE一の魅力があるじゃない」

凛「運動能力かな?」

絵里「それもあるけど女の子らしさね。料理も覚えれば間違いなくSMILEのアイドル乙女ね」

凛「凛が乙女だなんてありえないよー。寧ろ凛は男の子って思われることの方が多いと思うし」

穂乃果「でも凛ちゃんって外で座る時とか、制服だとハンカチひいて座るよね。ああいう所可愛いなって思う」

海未「普通に過ごしている時の仕草等も乙女らしいですし」

絵里「語尾のニャが何より可愛いわ」

にこ「その辺にしておきなさい。凛が耳まで真っ赤になってるにこよ」

凛「~~っ!」

絵里「くすっ。それじゃあお米を研ぎましょうか」

海未「そうですね」

「あ、もう私達でやっておいたから大丈夫」

「そもそもこれ無洗米だったから後は四十分くらい水につけた後に炊く感じでいいみたいよ」

新聞部「ということなので、SMILE青春劇を続けてください。裏話として使えます」

にこ「い、何時の間に居たのよ」

新聞部「今日から合宿開始ですからね。朝一からスタンバイ済みです。コンピュータ部も手伝ってくれてますし」

絵里「色々と面倒掛けて悪いわね」

新聞部「いいえ。私達新聞部はこういうお祭り騒ぎを心待ちにしていました。正に私達の躍動の時ですから」

絵里「私達はいいけど、他のグループの子には許可を取ってから取材なり撮影してね」

新聞部「勿論です。身内に厳しく、他人に優しくがモットーですから」

にこ「……そうね。こないだの新聞はとても厳しいものだったわ!」

凛「にこあん百合の花咲き乱れるだっけ?」

にこ「その言葉記憶から消しなさいよ!」

穂乃果「でもクラスメートのみんなもあの記事よかったって言ってたよ」

絵里「一応配慮してたみたいだけど、うちのクラスの子達も気に入ってたし、生徒会の子も嵌ってる子多いわよ」

にこ「何その知りたくない事実!」

凛「一年生は凛の時の勧誘劇と合わせて大盛り上がりだったよ☆」

にこ「追撃するんじゃないわ。どうして年頃になると性別すら超越してまで恋バナに発展したがるのよ」

にこ「というか、スクールアイドルなのになんで私とあんじゅがその標的になるのか謎過ぎるわ」

海未「そういう話にしたがるくらいに二人が仲が良いということでしょう」

穂乃果「同棲してるって点が一番話を広げ易いんじゃないかな?」

新聞部「そうですね。色んなことを想像出来ますからね。一緒にお風呂とか一緒の布団で寝てるとか」

にこ(……想像じゃなくて事実だけど、新聞部には絶対に黙っておきましょう)

にこ「風紀的にNGなんじゃないの?」

絵里「確かに恋愛物、しかも同性愛的なニュアンスを含めた内容だけど、あれくらいなら平気よ」

絵里「我が校の売りは生徒の自由さだからね。何よりも生徒会長がOKだしてるから安心して」

にこ「裏切り者が直ぐ傍に居た!?」

新聞部「元々新聞発行は許可を得てからになりますから。問題を起こして部費が減っては困りますし」

海未「なるほど。そういうのも生徒会の仕事なんですね。勉強になります」

新聞部「元々は他の誰も見てくれない可能性があるので、そういう建前をつけて生徒会に読んでもらうというものだったらしいですが」

凛「生徒数が少なければ校内新聞の最大読者数もまた少ないってことだもんね」

海未「誰か読んでくれるかもしれないという希望に縋るよりも、絶対に読ませる方法を見つけた。邪道の一手ですね」

新聞部「今はSMILEの皆さんの協力もあり、多くの方に読んでもらえていて幸せの限りです」

新聞部「お礼を兼ねて何かSMILEの名を頂に届かせる力添えを出来ればいいと思って、防水機能までついたビデオを用意しました」

穂乃果「気持ちは嬉しいけど防水機能付いてても意味あるのかな?」

新聞部「水浴び遊びをするかもしれないですし、プールで遊ぶかもしれないじゃないですか」

新聞部「スクープとはどんな時に生まれるか分からないものです。であればこそ、より良い物を用意すべきです」

「うわー。うちの部と違って大真面目だ」

「部活動のあり方は真面目であるだけが本質ではないと、かの有名な私様が仰ってます」

「ふざけて友達と思い出を作るのも部活の醍醐味だもんね!」

絵里「そうね。特に大会みたいな目標がない部は楽しむことが一番ね」

新聞部「発表の場が学園祭しかないようだと余計にそういう考えになるかと」

海未「その反面、二束草鞋でありながら両方頑張る生徒も居ます。凛は生徒の手本ですね」

凛「そんなこと言われると照れるちゃうよー」

絵里「当然のことだけど、色んな考えの人が居て、色んな部があって、でもこうして力を合わせられる」

絵里「この学院の流れがこの後も続いていけたら素敵よね。期待してるわよ、次期生徒会長園田海未さん」

海未「ええ、任せて下さい。絵里姉さんの意思を汲んだ素敵な学院を目指します」

新聞部「初耳です。次期会長は園田さんなんですね」

絵里「ええ、忙しくて伝えてなかったわね。そういうことだから、生徒募集の広報アイドルとして海未を立ててあげて」

海未「やめてください! 受験生を集うのであれば、生徒会長なんかよりも理事長の方が適任ではないですか」

にこ「でもUTXの学校案内のパンフにもきちんとUTXの写真と記事が載ってたし、今はそういうのを武器にすべきでしょ」

にこ「SMILEを知らない子でも海未みたいな生徒会長が居るならって音ノ木坂を選ぶかもしれないし」

にこ「生徒数は多ければいいって訳でもないけど、生徒が少なければ弊害も多い。なら生徒数を増やす手を打つべきよ」

海未「……にこがそういうのであれば、甘んじて受け入れましょう」

「にこちゃんの信頼って凄いよね。魔術的な何かを感じるよね」

「もしかしてあの存在感の薄いオカ研で何かを学んだとか」

絵里「今はこうだけど最初の頃は親の仇とまではいかないけど、かなりにこに冷たかったのよ」

「そういうの箇条書きでもいいからまとめて新聞部に提出してさ、字数の少ない読み易い話にまとめて欲しいなー」

「校内新聞だけじゃ勿体無いから、学校のHPに校内新聞号外みたいにしてその記事をUPしたらどう?」

新聞部「それは面白いですね。この合宿で一番良い園田さんの写真とSMILEの集合写真も貼り付ければ素晴らしい出来になりそうです」

穂乃果「名台詞は海未ちゃんが好きそうな『集え! ウミンディーネの名の下に!』みたいな感じかな?」

凛「それか『歌って踊れる生徒会長園田海未。気軽にウミンディーネ会長と御呼び下さい』みたいな感じかも」

「ウミンディーネってあんじゅちゃんの記事のやつ?」

「やっぱりウミンディーネって海未ちゃんのことなんだね」

新聞部「是非とも二人の台詞は有力候補としてメモさせてもらいます」

海未「そんな変な台詞やめてください!」

絵里「変って言ってもウミンディーネって言い出したのは確か海未よね」

にこ「邪道ポーカーが生まれた日よね。ことりに中二病を解説してもらったから色濃く覚えてるわ」

穂乃果「海未ちゃんってば恥ずかしがらずに吹っ切ってみたらどうかな? 穂乃果みたいに覚醒出来るかもしれないよ」

海未「そんな覚醒するくらいなら今までの私で充分です」

凛「覚醒?」

穂乃果「生まれ変わるっていうか、新しい状態にパワーアップすることだよ」

凛「凛初めて知った」

新聞部「一般的にはそういう意味合いは勿論含まれていません。目を覚ます的な意味合いですね」

にこ「海未は色んな物を背負ってる分溜め込み易いから。そういう方面を薦めるわけじゃないけど」

にこ「一度くらい好きにやってみたらスッキリするんじゃないかしら? もしそれが後の黒歴史になったとしてもね」

にこ「それに、今は私達姉が居るんだからやりたいことをやって失敗しても慰めてあげることくらいなら出来るわ」

にこ「何よりも、そんな思い出も大人になれば笑い合えるかもしれないじゃない?」

にこ「お酒なんか飲みながらあんなこともあったねって笑えたら素敵だと思うわ。これはあんじゅの受け売りみたいなものだけどね」

にこ「まだ立場上は一般生徒兼スクールアイドルなんだし。逆に言えば好きにやれるのは今だけなんだから」

海未「……そうですね。もっとにこの様に自分を出せるように精進します」

にこ「うーん、精進するっていうよりも力を抜く方が正しいかもね。海未は頑張り過ぎだもの」

にこ「もっと姉に甘えてきなさい。遠慮ばかりしてたら卒業しちゃうんだから」

海未「はい」

「……何あのイケメン」

「にこちゃんに似た何かかしら?」

穂乃果「にこちゃんは時々こうして真面目になるんだよ」

凛「あんじゅちゃんが甘えたくなる気持ちも分かるよね」

新聞部「今のを記事にするには私の感性では不可能です。もっと柔軟な文章を書けるようにならないと」

にこ「さってと。合宿初日の朝からこんな雰囲気にしてないで、もっと気楽で明るくしなきゃね」

にこ「まだ他のグループが来るまで時間あるし、何をしようかしら」

あんじゅ「んー……あれ? にこ、どこ?」

絵里「にこはあんじゅの隣に居てあげて。なんならSMILEの泊まる教室で布団引いて寝ていても構わないわ」

にこ「何言ってるのよ。私が寝てたら誰が出迎えるっていうのよ」

絵里「そういう役割は生徒会長の肩書きのある私で充分でしょ。校舎内の案内は私達だけじゃなくても出来るし」

「そうそう。私達はここが戦場だから別だけど、校舎に居る子は普通に案内出来るしね」

新聞部「事前に案内の札も出してありますし、もし校内で迷った時の為に色んな箇所に案内用のプリントも設置済みです」

新聞部「勿論校舎内用の物だけでなく、オトノキ研が製作した音ノ木坂を中心とした地図も置いてあります」

絵里「そういうこと。一団となって迎え入れようとしてるんだもの。にこ一人居ないくらいで何も変わらないわ」

穂乃果「そうだよ、にこちゃん。それでも気が咎めるっていうのならここは次期部長を育成させる場として譲ってよ」

にこ「……本当にあんた穂乃果なの? いつも何かある毎に頑張ると言うだけで特別頑張ってなかった穂乃果なの!?」

穂乃果「その反応は普通に酷いよ!」

海未「私も同じような反応をしましたが、これが正常の反応なんです。今までが弛み過ぎでした」

穂乃果「うぅ~。デザインなんて経験ほぼ0から頑張ってるのにこの言われよう」

海未「そうは言いますがにこは元々作詞・デザイン・衣装製作までこなしてました」

海未「あんじゅは他の誰も出来ない作曲を。絵里は生徒会を兼任しながら指導し、振り付けまで考えています」

海未「そういう意味では作詞とデザインだけの私達は評価の対象というよりは出来て当たり前だったんですよ」

穂乃果「それを言われるとぐうの音も出ない」

海未「過去を恥と思えるのは成長した証です。そして、これからは良いことを言うのが穂乃果らしいと言わせるように勤めましょう」

穂乃果「そうだね!」

絵里「見事な飴と鞭をみたわ」

あんじゅ「んぅ……にこぉ」

にこ「はいはい。隣に居るわよ」

あんじゅ「えへへ」

にこ「寝てるあんじゅを起こすのも忍びないし、暫くはここであんじゅと休んでるわ」

にこ「もし駅から案内欲しいって電話が着たら凛に連絡するから、その時は迎えよろしくね」

凛「うん、任せて!」

にこ「穂乃果。グループの三年生以外は来年の良きライバルになるんだから、粗相のないようにお願いね」

穂乃果「任せて。SMILEの中で一番接客が上手いのは穂乃果なんだから」

にこ「そういえばそうね。去年の学園祭で一番活躍したものね」

穂乃果「だからにこちゃんは安心して休んでいて」

にこ「張り切りすぎて無駄に体力使わないように海未、しっかり見守っててね」

海未「お任せ下さい」

にこ「絵里は私が何かを言う必要なんてないわね」

絵里「ええ。全体的に見回って何か不備がないか確認してくるわ。先生方にも挨拶しておきたいし」

絵里「用意してくれた食材は多いから先生方にも是非食べに来て下さいって伝えるわ」

絵里「勿論、他校の生徒の方が多い中で一緒にっていうのを遠慮する先生も居るだろうし」

絵里「職員室への出前も承る旨もしっかりと伝えるから安心して」

にこ「頼りにしてるわ」

新聞部「私もコンピュータ部とネット配信がきちんと正常に出来るかを確認してきます」

にこ「ありがとう。今回の合宿の出来次第ではあんじゅとの百合小説を許してやるわ」

新聞部「こないだのような素晴らしい写真を追加していただけると嬉しいです」

にこ「あのことは忘れなさいよ、このパパラッチ!」

絵里「日本人って変なところでドイツ語を使うのは何故なのかしらね?」

にこ「どうでもいいからどっか行きなさい! あんじゅが目を覚ましちゃうでしょ!」

穂乃果「一番声を張り上げてるのはにこちゃんだけど……ううんっ! なんでもないよ。それじゃあ、海未ちゃん行こう」

海未「はい。それでは行って来ます」

絵里「それじゃあ、私は最初は各グループの眠る教室のチェックしてるから。何かあったらコールしてね」

新聞部「それでは、失礼します」

にこ「……それじゃあ、悪いんだけどお米の方は任せてもいいかしら?」

「うん、大丈夫だよ。いいもの見たしねぇ」

「静かにソーシャルゲームでもしてるからゆっくりお休みよ」

「私達と違って練習があるんだしね。体力は温存しないと」

にこ「ありがとう。それじゃあ、絵里の言ってたとおり寝不足だから少し眠るわ」

あんじゅ「……んぅ」

にこ「お休み」

――UTX レッスン室 ツバサ

ツバサ「いよいよ今日からね」

英玲奈「なんだか上の空だと思ったら、合宿のことか」

ことり「十時になる直前に見たランキングは以前のそのままだったから、SMILEが本戦に進むには最低でも五位も順位を上げないと駄目だね」

ツバサ「本当に最低の条件でそれね。実際はもっと困難な状況よ」

英玲奈「招いた自分達より上位、つまりは本戦に届く可能性のあるグループが居るわけだからな」

ツバサ「ええ。最低でも十位は上げるくらいの活躍をする必要がある」

英玲奈「話題性のある合宿と大下克上という名の野外ライブ。注目度は確かにある。が、ある意味では諸刃の剣」

英玲奈「注目度が高い分、失敗すれば一気に失望されてランキング外に繋がる」

英玲奈「まるで冬場の朝方に池に張った薄い氷の上を歩いて渡れるかどうかの度胸試しみたいだな」

ことり「一番心配なのは何か失敗した時だよね。他グループと一緒ってことは色んな問題が起きそう」

英玲奈「ランキングが見えない以上、お互いどちらが現時点で上なのか分からずにギスギスとしそうだ」

ことり「もしそんな状態になったら……ライブ成功出来るのかな」

ツバサ「要らぬ心配ね。にこにーなら大丈夫よ。太陽の笑顔で人を魅了して、そんな無駄な思考は消されるわ」

ツバサ「寧ろ、失敗が駄目みたいに思ってるのはあくまで英玲奈とことりさんがこちら側の人間だからよ」

ツバサ「練習を公開するということは寧ろ失敗の方が多くなる。普段見えない努力の影を見せるなら完璧とは逆」

ツバサ「だからこそ応援したくなるし、今まで見てきたライブの成功には語り継がれない失敗があったんだと知ることが出来る」

ことり「つまり追い風になる確率が高いってことだね」

ツバサ「ええ、でも普通はそう頭で分かっていても実行する勇気はない。だから誰もしてこなかった」

ツバサ「前人未到の大地を照らし出すにこにーは語り継がれることになるでしょうね」

ツバサ「逆に言えば今回の成功によって、次のラブライブでは皆が使ってくる常套手段に変わる」

ツバサ「新システムだけでも苦戦するかもしれないのに、危険な種を蒔かれたわね」

英玲奈「危険と言いながらツバサは笑顔だな」

ツバサ「んふっ♪」

ことり「でも一番危険なのはそんな些細なことじゃありません」

ツバサ「あら、じゃあ何が一番危険なのかしら?」

ことり「ラブライブ本戦というステージを経験し、注目度も全国区になった来年のSMILE」

ことり「私の幼馴染の穂乃果ちゃんがやる気スイッチが入ったかもって海未ちゃんが言ってたから」

ことり「もし本当なら私にとって最大の壁になるのはSMILEしかないよ」

ツバサ「なるほどね。私達の代からA-RISEとSMILEの縁が生まれるのかしら」

英玲奈「それはどうだろう。こちらは磐石であるが、オトノキは設備があるわけじゃない」

英玲奈「SMILEが栄えるのは一時的な物かもしれない」

ツバサ「……流石英玲奈、クールな意見ね」

ことり「確かにそうかもしれない。でも、きっとみんなの心にSMILEってグループ名は残ると思うの」

ツバサ「過去のA-RISEの好敵手SMILE。例えSMILEがなくなっても、私達の記憶からは絶対に消えないしね」

英玲奈「一体どっちの味方なんだか」

ツバサ「勿論A-RISEよ。でも……」

英玲奈「でも?」

ツバサ「私には明確なライバルが居たから自分を磨き上げることが出来た。そういうグループが居るから凄く楽しい」

ツバサ「こういう気持ちを未来のA-RISEは味わえなくなるんじゃないかって思うと、SMILEには残って欲しいと願ってしまうわ」

ことり「そうだよね」

英玲奈「いや、別にライバルになり得るグループは他にも……いや、無駄か。使い方は間違っているが恋は盲目だな」

ツバサ「さて。合宿初日の様子や未来のSMILEも気になるけど、いつまでも一年生を休憩させて甘やかすのも問題だし」

ツバサ「練習を再開しましょう!」

――音ノ木坂 校門前 ほのうみ

穂乃果「海未ちゃん! あの子達って絶対にスクールアイドルだよね。なんだかキラキラしてるし」

海未「そうですね。あの子達は今回の合宿参加グループの中でにこが一番評価していたグループです」

海未「名古屋の《geroge》ですね。全員が一年生でランキング三十位。絵里曰く一番電話対応が元気だったとのことです」

穂乃果「五人全員が一年生で三十位って凄いね」

海未「ええ、これはにこが言っていました」

『来年のSMILEの壁はA-RISEとgerogeになりそうね』

海未「あのにこがそう言う程ですからね。私達のライバル候補です」

穂乃果「ことりちゃん達だけに目を向けてたら駄目ってことだね」

「あっ! SMILEの海未さんに穂乃果さんっ! 私は名古屋のスクールアイドルでgerogeリーダーの岡本楓って言います!」

楓「今回はこんな素敵な合宿に招待していただいてとってもとっても嬉しいです。それがあのSMILEさん……感激です!」

海未「ふふっ。話に聞いてたとおり元気な方ですね。移動で疲れているでしょうから、まずは皆さんが寝泊りする教室へ案内します」

穂乃果「普段は他の生徒や他のグループの練習の邪魔にならなければ基本どこに居てもいいから」

穂乃果「ただ、公開練習の時間は決まってるからなるべくその時間は参加して欲しいな」

楓「はいっ勿論です。あの、それでご飯のことなんですけど」

海未「事前の連絡したとおり食事も洗濯もこちら側で対処しますから大丈夫ですよ」

楓「いえ、そうでなくてですね……にこさんの料理を味わえたりするのかなって思いまして」

穂乃果「今日のお昼はニコ屋のカレーだよ。にこちゃんお手製で甘口・中辛・激辛の三種類用意されてるよ」

穂乃果「ただ、激辛は喉を考慮して他のと比べると少なめだから、カレーは激辛じゃないと駄目って子は気をつけてね」

楓「私達は甘口を希望するので大丈夫ですっ。嗚呼……あの憧れのにこさんのカレーを遂に食べれるなんて」

楓「ありがとうございます!」

海未「い、いえ。お礼は後でにこに直接言ってあげてください。一晩寝かせる為に昨日頑張って作ったので」

楓「その時の動画とかないんですか?」

海未「流石に料理してるシーンを映すなんてことはしてません」

楓「そう、ですか。あっ、希望すればにこさんの料理を手伝ったりとか出来ますか? それとも迷惑でしょうか」

穂乃果「ううん、料理が出来る子でお手伝いしてくれる子が居ればにこちゃんやクッキング部の人達も大助かりだから」

楓「では是非お手伝いさせてもらいます♪」

楓「それで今にこさんは――」
「――ぴょんちゃん。来たばかりで色々言うのも迷惑になるよ。他のグループの人もこれから来るんだから」

楓「あっ、そうだね。すいません。とっても嬉しくて興奮してました」

海未「いえ、元気なことはいいことです。それでは案内しましょう」

オトノキ研「丁度手が空いたところなので、案内は私にお任せ下さい」

海未「それではよろしくお願いします。お昼まで自由行動で、正午になったら呼びに行きますので誰か一人は残っていてください」

楓「分かりました。gerogeのリーダー岡本楓です。案内よろしくお願いします」

オトノキ研「gerogeの皆さん、ようこそ音ノ木坂学院へ。それでは案内させていただきます」

穂乃果「ねぇ、あの子って」

海未「ええ、にこのファンみたいですね」

穂乃果「そうじゃなくてなんでぴょんちゃんってあだ名なのかな?」

海未「そんなことどうでもいいです! 本人にでも訊いてください」

穂乃果「冗談だよ。あ~なんだかあんな風に楽しみにされるなんて素敵だよね」

海未「にこのカレーは正直な話、家で出るカレーよりも美味しいですから」

穂乃果「分かる分かる。なんだかすっごい安心するし、あれがお袋の味ってやつなのかな」

海未「それは間違ってます」

穂乃果「穂乃果もあんな風に楽しみに思ってもらえるようになれればいいな」

海未「そう思われたいのならにこや絵里のように毎日料理をしないと難しいですよ」

穂乃果「ううん、そうじゃなくて穂むらの味をだよ。お客さんに楽しみに思ってもらえたら良いなって」

海未「……そうですね。穂乃果がやる気ならきっと、いいえ絶対に叶います」

穂乃果「そうだといいなー」

海未「にこにあれだけ言ったんです。自分の夢も叶えられないでは説得力がありません」

穂乃果「あははっ。それもそうだね。じゃあ、一生懸命頑張らなきゃ」

海未「穂乃果がやる気を出した切っ掛けはもしかして」

穂乃果「ん?」

海未「いえ、なんでもありません。空が綺麗な蒼ですね」

穂乃果「そうだね。海未ちゃんの綺麗な髪が光に透けると蒼く見えるけど、それに似てるかも」

海未「…………恥ずかしい例えを持ち出さないでください」

穂乃果「海未ちゃんってば本当に照れ屋さんだなー。でも、私達変わったよね。ことりちゃんよりは遅いけど」

穂乃果「だけど、ゆっくりと成長出来てるよね」

海未「ええ、それは私が保証します。穂乃果のこの背中の羽根はもう本物で、疑う余地はありません」

海未「ことりと同じようにこの蒼い空を飛べる羽根です。サンライトウイングと名付けましょう」

穂乃果「そんな変な名前を勝手につけないで!」

海未「いい名前ではないですか。太陽のような穂乃果だからこそ似合っている羽根です」

穂乃果「そんなのが似合ってるとか嫌過ぎだよ!」

海未「どこが悪いというのですか?」

穂乃果「ハッキリ言ってあんじゅちゃん並みのセンスだよ。というか太陽と羽根って相性最悪じゃない」

海未「何故ですか?」

穂乃果「ほら、小学生の時に音楽の時間に習ったじゃない。イカロスだっけ? あの人が鳥の羽根で飛んで太陽に近づいて死んじゃうやつ」

海未「蝋を使って固めた鳥の羽根。熱く照らす太陽。広大なる海」

海未「なるほど。私と穂乃果とことりが出逢うのは遥か昔の神話で予言されていたのですね」

穂乃果「えっ?」

海未「鳥の羽根は勿論ことり。その羽根を燃やす太陽の穂乃果。墜落してきた者を包み込む海の私」

穂乃果「包み込む以前に海面に叩きつけられて死んでるし!」

海未「本当は助かっていました。私が言うのだから間違いありません」

穂乃果「間違いとかそれ以前の問題だよっ」

海未「これから私達を神話トリオと名付けるのはどうでしょうか? いつかギリシャに旅行に行きたいですね」

穂乃果「海未ちゃんが夏の太陽にやられて変なスイッチは入ってる」

海未「何を失礼なことを言っているのです。にこのアドバイスを忘れたのですか?」

海未「私はもっと自分を出した方がいいと。これはその為の練習です」

穂乃果「間違えた方向に自分を出しちゃってるよ。せめて出すならポエムとか聞かせるとかそういうのがいいと思う」

海未「ポエムは私の忘れがたい歴史です」

穂乃果「こっちの方が絶対に黒歴史っていうやつになるよ」

海未「なりません。おや、次のグループが来たみたいですね。無駄口を叩いてないで迎え入れましょう」

穂乃果「聞こえた。今間違いなく海未ちゃんの黒歴史になるフラグの音が穂乃果には聞こえたよ」

海未「そんな音なんてないとにこが言ってました。あんじゅや絵里の悪い部分の影響を受けないでください」

穂乃果「サンライトウイングとか言ってた海未ちゃんが正論言っても正しく聞こえないよ!」

――エリーチカVSロボット部 廊下

ロボ部「おはようございます。いよいよ今日から合宿開始ですね。サンちゃんが必要ではないですか?」

絵里「うちのメンバーが出迎えてるからその必要はないわ」

ロボ部「そうですか。無骨なのがいけないという意見を取り入れ、音ノ木坂の制服を着せてお洒落させてみたのですが」

絵里「あの場ではあんな反応だったけど、今にして思えば充分に凄いわよね。普通の高校生なのにきちんとした物を作れるなんて」

ロボ部「好きこそ物の上手なれという素敵な言葉を体現したまでです。それに、世間的評価としては不遇です」

ロボ部「ロボット系で注目されるのは結局は大学レベルからですし、何よりそこはもう大人の力を介入してます」

ロボ部「スクールアイドルのような大きな大会とまでは言いませんが、高校生ロボット大会が地区規模であってくれればとは思います」

絵里「難しい分野だと人が集まらないし、一部の人だけしか注目もしないから厳しい話ね」

ロボ部「ええ、分かっています。今のロボット部が私にとっての奇跡の時間」

ロボ部「正直言って、同好会を立ち上げた時は部になれる以前に誰も加入することなんてないと思ってました」

ロボ部「だからこそ、最初から一人ではなかったアイドル研究部長に少し嫉妬していました」

ロボ部「しかも直ぐに人数を集めて部になりましたから」

絵里「今でも私達アイドル研究部が憎い、とか?」

ロボ部「まさか。そうだったら私達の自慢の娘をお披露目しようなんてしません」

ロボ部「アイドル研究部が居てくれたから、憎しむべき相手が居てくれたから一人でも心が折れずに済んだんです」

ロボ部「だからこそ、私は今大切な仲間と一緒にロボットを育てることが出来てます」

絵里「心が強いのね」

ロボ部「いいえ、強くないです。でも、負けず嫌いだったんです。今は感謝しても足りないくらい」

ロボ部「だからこそ、大会のない私達の代わりに活躍して欲しいんです。ありきたりな言葉ですが、頑張ってください」

絵里「ええ、応援ありがとう。今の言葉はそれとなく他のメンバーにも伝えておくわ」

ロボ部「はい。サンちゃんが必要なようでしたらロボット部までお越し下さい」

絵里「……ええ、一応他のメンバーにもそれとなく伝えておくかもしれないわ」

ロボ部「それでは、私はこれで。失礼します」

――エリーチカと美術部

絵里「あら、こんにちは」

元部員「あ、会長さん。こんにちは」

絵里「素敵なポスターをありがとうね。今回はプレッシャーがあったんじゃない?」

元部員「ええ、そうですね。もう二度とこんな依頼はごめんだって思いました」

絵里「ふふっ。流石にもうこんな依頼はないから安心して」

元部員「それは安心です。でも、美術部一同で一致団結して一つの物を完成させる」

元部員「スクールアイドルでは出来なかったことを、美術部として成せたことで漸く罪悪感はほとんど消えました」

絵里「どれだけあなた達に救われているか……。にこももう辞めさせてしまったことを吹っ切れたんだから」

絵里「貴女もそんな悲しい気持ちに捕らわれないで」

元部員「頭で分かっていても、心が妙に頑固で許してくれないんですよ。物語みたいに夢に見ることはないですけど」

元部員「あの日の――にこちゃんに退部届けを出した時の泣きそうなのを我慢して笑うあの顔を何度も思い出して」

元部員「あんな風な顔をさせるなら、最初からアイドル研に入らなければ良かったんじゃないかって思って」

絵里「それだけは絶対にないわ。にこだってとっても苦しんだと思う、でも絶対に其れを肯定したりはしないわ」

元部員「ええ、知ってます。でも、後悔ばかりしてました。だから何があっても手伝おうって、応援しようって決めてました」

絵里「実際にファーストライブからずっと応援してくれてるし、手伝ってくれてきたものね」

絵里「言葉に出来ないくらい感謝してるの。だってね、あなた達が居なければアイドル研究部は同好会のままだった」

絵里「私がにこ達に出逢うことなく生徒会長についてたら、生徒数が少ないことを理由に同好会を減らさせてたかもしれない」

絵里「にこの笑顔を……私が奪ってたかもしれない。あなた達が居てくれたお陰で、そんな最悪は訪れなかった」

絵里「私にとても自慢の妹達を引き合わせてくれたのは、アイドル研究部が、SMILEがあって、メンバーが居なくなって」

絵里「それで漸く訪れる出来事だったの。だから、罪悪感を感じないで欲しい。自分勝手なことを言ってるけどね」

元部員「……変わりましたね。一年生の頃に初めて見た時は氷のような表情だったのに」

絵里「恥ずかしい過去よ。にことあんじゅにも酷いことしちゃったし、自分一人で何でも出来ると思ってたの」

絵里「今考えると本当にお馬鹿さんだったわ。沢山の人達と絆を結んで尚、出来ないことが多いっていうのに」

絵里「あのままだったら卒業する時に誰も見送ってくれないような、そんな最低の生徒会長になってた」

元部員「良い方へ変われたというのは素敵ですね」

絵里「にこのお陰よ。あの子は人だけじゃない、この学校や商店街までも良い方向へ変えてくれる」

絵里「魔法使いみたいに」

元部員「太陽みたいなあの笑顔で、ラブライブの歴史すら変えてくれそうですね」

絵里「それは面白いわね。あ、引き止めちゃってごめんね」

元部員「いいえ。美術部は自由参加ですが基本誰か美術室に居るので、何か手伝うようなことがあれば声を掛けて下さい」

元部員「部長権限で二つ返事で手伝うようにって伝えてあるので」

絵里「寧ろこっちが労わなきゃいけないくらいよ。カレーがかなり多めにあるから、よかったらお昼に家庭科室に食べに来て」

元部員「その誘いに逆らう術を知らないので、お邪魔させてもらいます。にこちゃんのカレー美味しいから」

絵里「他の部員の子も是非声掛けてみて。それじゃあ、またね」

元部員「はい。あ、にこちゃんとあんじゅちゃんに頑張れって伝えておいてください」

絵里「了解よ」

―― 一日目 二十三時 SMILE部屋

穂乃果「ねぇ、海未ちゃん。まだ起きてる?」

海未「……ええ。いつもなら直ぐに熟睡できるのですか、どうやら気分が高ぶっているみたいです」

穂乃果「だって仕方ないよ。こんなに楽しいんだもん。こんなに充実してるんだもん」

穂乃果「今年だけっていうのが勿体無いくらい。眠っちゃうのすら惜しいよ」

海未「今の私が言っても説得力に欠けますが、まだ一日目なんですよ? 気持ちをセーブしなければ怪我しますよ」

海未「穂乃果のやる気モードはストッパーがないから心配になってしまいます」

穂乃果「無理はしないよ。無茶はするかもしれないけどね」

海未「そんなことを自慢げに言わないでください。全くもう……困った王子様です」

穂乃果「海未ちゃんとことりちゃんを守れるくらいに強くもなるよ。夢を現実にする為にも」

海未「穂乃果の夢、ですか?」

穂乃果「うん。ことりちゃんがデザインしてくれた穂むらの制服を着て、海未ちゃんも納得するほむまんを作るの」

海未「それは素敵な夢ですね」

穂乃果「生半可な努力と気持ちじゃお父さんの味に追いつけないけどね」

海未「穂むらを継ぐ決意を固めたのですね」

穂乃果「うん」

海未「そうですか。喜んだでしょうね、おじさんもおばさんも」

穂乃果「お父さんなんてまだ覚悟決めただけなのに泣いちゃってさ。その時ね、改めて思ったの」

穂乃果「穂乃果ってば自分のしたいことだけばっかりして、言いたいことばかり勝手に言ってたんだって」

穂乃果「もっとするべきことがあって、言わなきゃいけないことがあったんだってさ」

穂乃果「今更になって気が付いて、だからこそ今まで以上に頑張ろうって思うんだ」

海未「なんだか一気に大人っぽくなりましたね」

穂乃果「うーん、どうだろう。きっと一ヵ月後にはまた勝手なことを言ってそう」

海未「ふふっ。それが穂乃果らしいとも言えますが」

穂乃果「でも、既に退路はないからね。穂乃果は夢を叶えることが約束されてるんだー」

海未「退路はない?」

穂乃果「えっへへ。ま、その話はもっと大人になるまで秘密。ふわぁ~あ……そろそろ眠くなってきちゃった」

海未「穂乃果は本当に自由ですね。ですが、穂乃果の話を聞いて私も何故か安心して眠くなってきました」

海未「明日も早いですし、そろそろ休みましょう。おやすみなさい、穂乃果」

穂乃果「うん、海未ちゃん。おやすみなさい」

――真・始まりの詩 合宿一日目 真夜中

「にこ……起きて、にこ」

体を揺すられながら夢の中から現実へと引き戻された。

起こしたのは誰でもない隣に寝ていた筈のあんじゅ。

「何よ、明日からは合宿も本番だって言ったでしょう」

「おトイレ一緒に行こう」

目を擦りながら電気の点いていない教室の時計を見た。

時間は二時四十分。

夜中だから一人でトイレにいけないなんてことは今までなかった。

「何よ、学校のトイレが怖いわけ?」

「ううん。にこと一緒がいいの」

どう返事を返したものか少し悩んだ後、起き上がって伸びをする。

「仕方ないから付き合ってあげるわよ」

「うふふ。ありがとうにこっ」

「本当に最近あんたは甘えん坊よね。完全にここあより甘えてるわ」

大げさな言い分ではなく、其れは紛れもない事実。

言われた本人もその自覚があるらしく、何故か自信満々に頷かれた。

この反応には苦笑いしか浮かべられない。

「今日は月のお陰で明るいし、電気消したまま行くわよ。電気点いてたら寝付けない子が起き出したりするかもだし」

「うん」

上履きを履くと、あんじゅが左手を握ってくる。

「それじゃあ、行こう♪」

「はいはい。早く行って早く寝るわよ」

眠気の残る足に活を入れ、静かに教室を後にした...

――トイレ後 ⇒ 廊下

「小学生の頃ならきっと夜の学校は恐ろしかったんでしょうね」

「成長と共に不思議な世界へのトビラは閉じていっちゃうよね」

夜はどうして暗いのか。

空はどうして青いのか。

ピーマンを残すとピーマンマンが出てくるのか。

謎が謎じゃなくなる度に、自分の中の不思議が一つ、また一つと消えていく。

大人になるってことは不思議が不思議じゃなくなることなのかもしれない。

そのことをあんじゅに告げると「そうかもしれないね」と同意された。

「だけど、不思議以上の物は残るんじゃないかな」

「不思議以上の物?」

「人は其れに気付いて以来こう呼んでるんだよ――運命って」

「運命、ねぇ」

皆でこうしている今すらも奇跡のような物で、ソレは確かに運命と呼べる物だ。

「だから少しだけ寄り道していこう」

なにが『だから』なのか分からないけど、何か言ったところで無駄そうなので手を引かれるままにする。

「何処へ行くつもりよ?」

「音楽室」

既に行き先は決まっていたらしく、即答で返された。

ううん、最初からトイレに行きたいから起こしたんじゃなくて、音楽室にでも行きたかったのかもしれない。

「そういえば音ノ木坂の音楽室って七不思議の一つよね」

「というか、どこでも音楽室は七不思議に入るんじゃないかな?」

「まぁ、それもそうだけど。あの図書館の物語でも定番のピアノだったわね」

「高校生になって肖像画の目が光ったところで何か仕掛けがあるんじゃないかと疑うだけだし」

大人に近づくと疑い深くなるということでもあるのかも。

それも当然のこと。

守られていた存在から抜け出し、自立して、今度は守ってくれた存在を守る側にならなきゃいけないのだから。

「でも本当の七不思議ってピアノも肖像画も関係なかった気がするけど」

「人によって色が変わる鳴かない猫ちゃん、だっけ?」

「と言ってもその目撃例は私達が入学する前には既になかったけど」

その猫が成仏したのか、それとも居場所を変えたのかは分からない。

そもそも最初から存在等していなかった方が現実的だ。

「学校の七不思議自体もいつかは風化しちゃうのかな?」

「どうかしらね。でも、子供って怖い話好きでしょ? 物語の中では残り続けるわよ」

「それでもって、想像力豊かな子が自分の通う学校に七不思議を作って、それが噂となって広まるんじゃない」

そうやって紡いでいくのが七不思議の本当の魅力なのかもしれない。

「なるほど。そして自作自演する為に変装したい願望に目覚めて第二第三の紅蓮女の誕生だね!」

「あんた本当にそのネタ好きよね。怖いメイクして街中歩いて人を脅かすようにならないか心配だわ」

「そんなことしないニコ!」

否定しておきながら「でもハロウィンの日はまた皆でコスプレしたいね」なんてことを笑顔で言っている。

これが後の変装徘徊フラグになってないことを切に願う。

――音楽室

「流石にピアノの音もしなければ、猫ちゃんも居ないね」

「肖像画にいたってはこの学院張ってないし。ま、何か不思議が起こられても困るけど」

「私ならこうするね。ここで話してる最中に絵里ちゃんが来るの」

左手の人差し指をピンと立てて名探偵のように解説を始めるあんじゅ。

「二人が居ないから心配したのよ。明日も練習なんだし、いつまでも起きてちゃ駄目よ」

「だからほら、早く帰りましょう。そうやって月明かりが雲に隠れ、より暗くなった中でもハッキリ分かる白い手を差し伸べてくるの」

「寝起きでまだ完全に頭の回ってないにこはその手を疑問も持たずに取ろうとしちゃって、私が慌ててにこの体を後ろに引くの」

「突然何すんのよあんたは! って怒鳴るんだけど、私はそれに答える余裕はなくて絵里ちゃんを凝視するの」

「でも絵里ちゃんは優しく微笑んで、小首を傾げて見せるの。ギャーギャー言ってたにこも私の無反応なのに気付いて怪訝に思う」

「そこで漸く目の前の其れの正体に気付いて身を固くするんだ。どうしたの、二人共。早く帰りましょう」

「再度手を差し伸べてくる白い手。一歩身を引いた時、雲に隠れていた月がまた教室を照らすの」

「暗かった中でも目立っていた白い手は、青白い色に変わっていた。顔を見るとそこには血を流す絵里ちゃんとは別の顔」

「一緒に帰るのよ。あなた達だけ生きているなんてずるい。地獄へ連れて帰る」

「ここでコマンド失敗するか捕まるとデッドエンド! しかも制限時間九十秒」

何故か最後はゲーム形式になっているところで溜め息が漏れる。

「寝惚けてたってあの暗がり怖い絵里が明かりも点けずに来た時点で本物じゃないって気付くわよ」

「そういう勘が良すぎる主人公はエスパーかって言われちゃうから駄目」

「何その理不尽!? というかどうしてにこが主人公になってるのよ」

「うふふ。にこは私の主人公なの」

いつかの絵里の誕生日で披露した怪談話よりはよく出来ている。

身近な存在を怪談にするとより怖さが増すし、唐突に怪談になるんじゃなくて気付ける要素がある分楽しめる。

これをもうちょっと肉付けして文にしてあげれば絵里はとても嫌がるだろう。

今度の絵里の誕生日に披露するのもありかもしれない。

「次の誕生日に絵里ちゃんにこの話するのもありかも★」

姉妹揃って長女に対する嫌がらせ回路は同じらしい。

「ま、それはそれでいいけど。音楽室にきて何かしたいことでもあるの?」

「うん。一曲だけピアノ弾きたいなって」

「ピアノって、もう三時よ。世が世なら草木も眠る時間よ」

「眠らない街と呼ばれる東京でそんなこと言われても困るにこ」

眠らない街とはいうけど、この辺は比較的早く静かになる。

秋葉だって賑わっているのは夜と呼ばれる時間帯までで、十時を過ぎると大体の店は閉まっていて閑散としている……筈。

そんな時間に外に出ないから本当の夜の世界を知らないけど。

「本当に一曲だけだから」

「しょうがないわねぇ。誰か起きてきたら一緒に謝ってあげるから、弾くなら早く弾いて戻って寝ましょう」

元気よく「うん!」と返事を返すと、あんじゅはピアノの蓋を開けて赤いカバーを取った。

椅子に座ると何故か自分の膝を叩いた後に、こっちに両手を広げる。

「何よ?」

「今日はにこをあんじゅの夜のピアノツアー特等席にご招待♪」

「もう招待されてるじゃない」

「違うよ。ここに座るの」

先ほどと同じように自分の膝をポンポンと叩いている。

つまり私があんじゅの膝に座らされたまま一曲弾き終えるのを待てと?

ツッコミを入れて話を長くすると睡眠時間を削られるだけなので、ここはもう素直に従うことにした。

他グループを招いておきながら、一日目に寝不足で動きがグダグダじゃ笑われる。

勢いをつけてあんじゅの両膝に座ると、キャッチするように両手を回される。

「……人の膝に座るなんていつ以来かしら」

「私と出逢う少し前くらいとか?」

「中学生でこんなことされる娘がどこに居るのよ!」

「あれ? にこって飛び級で高校生やってるだけで十歳じゃなかった? 髪の毛で空を飛べるんだよね」

「なにそれ!?」

そもそも日本に飛び級なんて制度はないし、私の学力では落ちることはあっても上がることはない。

もし日本が学力至上主義になってて、学力に見合ってない限り上にいけないような法律だったら危なかった。

「でも今のにこはツインテールじゃないから空は飛べないか」

「いつもの髪型でも空なんて飛べないわよ! 大体飛んだのなんて穂乃果くらいでしょ」

「今思うとおしいことをしたよね。屋上に居る時点で夢って気付けてたらアイキャンフラーイ出来たのに」

「なんで英語なのよ。そんなことより無駄話してないで演奏しなさいよ」

気を抜けば直ぐに脱線してしまう。

「うん。それじゃあ演奏を開始するけど、膝から落ちないようにね」

「落ちないわよ」

演奏の邪魔にならないように両手を膝の上で交差させるように起き、肩を中央に寄せる。

鍵盤の上にあんじゅの細くて長い指が置かれる。

こうして見ると、手のモデルになれそう。

そんなことを思っていると、指が優しく動き始める。

生まれたメロディはよく知るもので、高校の音楽室には不似合いなもの。

森のパンダさん。

子供の頃はお母さんや幼稚園で歌う童謡。

私のカラオケでの十八番でもある。

「私の演奏会はゲストに歌ってもらうのがルールなんだよ」

「……青く晴れた日に~森の中で出会ったパンダさ~ん♪」

あんじゅの演奏と私の歌声が音ノ木坂の音楽室に生まれては消えていく。

不思議な気分がした。

あんじゅと出逢った日、私は時間がなくて商店街まで行かずにスーパーで買い物をした。

丁度欲しかった卵が特売をしていて迷わずに買い、他のは最低限だけ買って家路に着く。

階段を上り、いざ家の前までっていう瞬間に今こうしている最中の光景を観た気がする。

そして、その光景は自分視点ではなくてとても低い位置から見上げるような感覚だった。

四つんばいになっているよりも更に低い。

そう、まるで猫の視点とでも言えば納得出来るようなそんな視線の低さ。

私と知らない子であったあんじゅがこうしてピアノを弾き、私が歌う。

幻のような光景が終わった瞬間、隣の部屋の前で膝を抱えているあんじゅを見て驚き買い物袋を落とした。

その時に落として割れた卵がショックで忘れていたけど、今完全に思い出した。

歌いながら視線を横に向ける。

正確には右横の床辺り。

そこには薄い白色の猫がこちらを見上げていた。

口を開いているけれど、その鳴き声は聞こえない。

目撃例すら途絶えた七不思議。

でも、今そこに本物が居る。

「大きな切り株の上~一緒に踊りましょう♪」

大人になるっていうのは不思議が不思議じゃなくなること。

でも、今目の前に不思議がある。

それはまるで……

自分勝手な解釈だと分かってる

……でも

まだ私は子供でいても良いんだって言われてる気がした

そう自分の中で思った時、猫の薄い白色が徐々に薄れて、最後に声なく一鳴きして溶けるように消えていた――。


「ねぇ、あんじゅ見た?」

「え、何を?」

とぼけているような声色ではなく、演奏していたあんじゅは余所見をする余裕はなかったようだ。

普通に演奏してる時ならまだしも、私を膝に乗せて演奏していたのだからそれも当然ね。

「運命っていうのはどこでどう繋がっているのか分からないものね」

不思議そうにしながら返答はせず、ギュッと私のお腹の前に回した手に力を入れて抱き締めてくる。

「それで、急にこんな風に演奏したりするなんて何かあったんでしょ?」

「というか、最近甘えん坊な理由も同じよね。一体あんたに何があったの?」

今ここは二人だけ。

誰かに話を聞かれることもない。

相手を気遣う必要もない

本音で喋っていい、そんな二人の世界。

「……ラブライブ」

暫くしてからあんじゅがポツリと呟いた。

いつもの明るい声ではなく、出逢った頃のような不安と怯えの含まれた声。

「全国中継だし、ラブライブは出たくない?」

「ううん、そうじゃない」

ギューッと抱き締められて一瞬息が出来なくなったけど、これでないとなると何が原因なのか分からない。

「規模が大きい大会なのが不安なの? それなら今回の代下克上だって同じだけど」

「違うの。ラブライブは……本戦にはA-RISEが居るから」

「A-RISEが怖いの?」

確かに争うという面で考えれば一番の強敵であるのは間違いない。

ランキングが見えていた今日の、日付的には既に昨日ね。

昨日の公開終了するまでの間に表示されていた一位はA-RISE。

「A-RISEじゃなくて……」

あんじゅらしくなく、弱々しく言葉が途切れた。

「もう、どうしたのよ。きちんと言ってみなさいよ」

元気付けるようにおへその前でロックされているあんじゅの手に自分の両手を重ねる。

「私は綺羅ツバサが怖いの。にこを連れて行ってしまいそうだから。にこに置いていかれてしまいそうで、怖いの」

不安を体現するように、あんじゅのその言葉は酷く震えていた。

でも、どうしてキラ星に怯えているのか検討がつかない。

「にこにとって綺羅ツバサは本当の家族を除いて一番特別な存在だから。にこには夢を取り戻して欲しいって願ってる」

「でも、夢を取り戻した時は綺羅ツバサと一緒に走って行っちゃうんじゃないかって不安で」

「今までは大丈夫だったけど、実際にラブライブ本戦に出場できる可能性が出てきた今、不安が大きくなってしまって」

「だから……ごめんなさい」

音楽室に零れた謝罪は誰の為なのか。

「あんじゅが謝る理由がないわ。それに、敬語はやめろって言ったでしょ!」

「私が弱いのがいけないのよ。あんじゅが不安にならないくらい強くて、夢をきちんと志すことが出来ないから」

「一生懸命考えてるんだけど、でもまだ答えが出なくて」

「ラブライブに出れば答えが出るかもしれない。キラ星と再会すれば答えが出るかもしれない。それでも出ないかもしれない」

「こればかりは自分のことなのに一番分からないの」

色んな事を思い出す。

パパの言葉。

キラ星と出会って感じた違い。

あんじゅとの出逢い。

SMILEのリーダーとして皆を纏められなかったこと。

キラ星と画面越しの再会をしたこと。

今のメンバー達と出会って、経験してきたこと。

それでも……私はまだ自分がどうしたいのか答えが出せないでいる。

「ただね、これだけは言えるわ」

「あんじゅは勘違いしてるわよ。キラ星が本物の家族を除いて一番特別な存在っていつ私が言ったのよ」

「だって、にこはいつもキラ星は憧れで一等星で誰よりもアイドルに向いてるって嬉しそうに言ってるもん」

拗ねるようなあんじゅの言葉に、場違いながら笑いが零れてしまった。

「キラ星が特別な存在であるのは間違いないわ。一等星の輝きを持っていて、誰よりもアイドルに向いていると思う」

「それは嘘偽りのない私の本音。でもさ、私も絵里のこと言えないくらいにシスコンなのよ」

「面倒臭くて、人の真似ばっかりして、家事は全然駄目で、最近は時代を逆走する知識ばかり見につけたりする」

「そんなお馬鹿な妹を私は一番特別だって思ってるわ。っていうか、そうでもなきゃ一緒に住んだりしないわよ」

「一緒にご飯食べて、一緒にお風呂入って、一緒の布団で寝て、一緒に登校する。誰よりも一緒に居るじゃない」

「それで不安になられたら困るレベルにこよ。それに、あんじゅとの出逢い程驚いた出逢いなんて他にないもの」

「運命って言葉を一度だけ使えるんだとしたらさ、あんじゅと出逢ったあの日にこそ相応しいわ」

「神様が間違えて私とあんじゅの指に赤い糸でも付けちゃったんじゃないかって疑うくらいよ」

「これでもまだ不安だって言うなら特別よ。本来はこんな素直に胸の内を語ったりしないんだからね」

「あんじゅが惚れ込むような男が現れるか、あんじゅが私に飽きるまでずっと一緒に居てあげるわ」

「私がどんな未来を歩むことになるなんて今は分からないけど、でもそれだけは約束できる」

「キラ星を一等星とするなら、あんじゅは私と同じ四等星。輝きなんか関係ないくらい寄り添う姉妹星」

天文学には疎いけど、姉妹星なんて単語は恐らくないだろう。

でも、そんなの邪道な私達には関係ないわ。

「……っ、ひっぐ」

小さな嗚咽と共に、首元に熱い雫が垂れ落ちた。

「そういえば、あんじゅが泣くなんて初めてね」

「んぐっ、うぅっ……ぐすっ」

「パパが言ってたわ。素直に泣けるのは強くなれる子だって。だからあんじゅは今よりももっと強くなれるわ」

慰めるように重ねている手を優しく、でも強く握る。

「でも、あんまり強くなり過ぎると何もしてあげられなくなっちゃうわね。只でさえ、あんじゅの手の平の上なのに」

「ぞんなっ、ことな゙い゙にこぉ」

「ま、あんじゅが強くなるなら私も強くなればいいだけの話だものね。さっきね、不思議なことがあったの」

「ここに来るまでの話がフラグだったのか、それとも他のどこかの絆と繋がっているのか知らないけど」

「でも、教えられたの。まだ私は子供なんだって。子供で居ていいんだって」

「だから……夢のことももっと悩んで、足掻いて、苦しんでみようと思うの。今までが逃げ腰過ぎたから」

「さっきも言ったけど、私は弱いから答えを出せるのがいつになるか分からない」

「でも、そんなに長くはないと思うの。ずっと見えなかった出口が今は見えてきた気がする」

「夢を諦めた私が辿り着く答えが何なのか、誰よりも真っ先にあんじゅに聞いて欲しい」

「うんっ!」

涙に濡れたあんじゅの元気な返事に自然と笑顔が生まれた。

「そんな訳だからさ、不安にならずに楽しみなさいよ。せっかくの最初で最後のラブライブなんだから」

「って、まだ出場出来るって決まった訳じゃないけどね」

「ううん、絶対にSMILEは出場出来るよ。だって、にこがリーダーを務めてて、その姉妹星の私も居るんだもん」

「だから出場出来ない筈がないよ! 私は今まで以上に輝いて、にこと一緒に一等星の姉妹星になるにこっ☆」

元気になったのはいいけれど、姉妹星を連呼されると無性に恥ずかしい。

私のネーミングセンスも、あんじゅや絵里のことを言えないかもしれない。

邪道シスターズは揃いも揃ってダメダメね。

だけど、そんな駄目な私達だから出逢う運命が生まれたのかもしれないわ。

「大下克上のSMILE最後に歌う《歌姫より...》の時は私とにこは小指に赤い糸巻いて出ようね」

「嫌よ! 只でさえ何か知らないけど百合疑惑が立てられてるって知ったんだから」

「ツンデレの了承入りました~♪ あ、でも百合って白いから白い糸の方がいいかな?」

「だから巻かないって言ってるニコ!」

私達は何でもない話を続け、部屋に戻ったのは外が完全に明るくなってからだった……。


これは学園祭も終わった秋の深まった頃になるのだけど、あの透明の猫の正体が判明することになる。

凛の過去に繋がっていることが判明し、その時にまた一騒動あるのだけど、それは語られることのない……秘密の物語。


■次回クライマックス後編■
次回の続きは合宿一日目のにこが目覚めるところからなので、少しだけ時間が戻ります
もう長くても妥協しないので残る更新はあと2回!

この物語が無事に完結したら、百合にこあんを再開するんだ...  ピコーン フラグの音色です

※これはまだ観れてない劇場版を予想した映画の予告です

【劇場版 ラブライブ! ~始まりのスクールアイドル~】

その日、四人の少女が同じような夢を見た

否、夢というには余りにもリアリティがあり、まるで起こりえた筈の未来を体験したかのよう

目覚めた時、そこが現実なのか夢の続きなのかそれぞれの少女達は気付くのに少なくない時間を要した

四人の内の一人

UTX学院のまだ真新しい制服を着込む綺羅ツバサは考える

スクールアイドルという新しい発想

アイドルを志す自分にとって、高校生活の最高の刺激になり得る

何よりも

ツバサ「夢と分かっていても、一勝一敗じゃ決着とは言い切れない。次こそ勝つわ」

夢であると認識して尚、現実にμ'sというグループが存在することになると確信するような強い想い

ただ、不思議なくらいμ'sのメンバーの顔や名前が抜け落ちる

覚えているのは自分と同じA-RISEになる二人は覚えていた

一人はクールが板につく統堂英玲奈

もう一人はふんわかお嬢様といった感じの優木あんじゅ

とても楽ではないグループ練習を重ね合い、一番の仲間でありながら最大のライバルでもあった二人

ツバサ「……そうだ、花よ」

A-RISEのことを回想する中で、μ'sに繋がる一人の名前を思い出すことに成功した

矢澤にこ

自分と同じくらいの背丈で、メンバーに愛される弄られキャラってところだったかしら?

でも、ファンの前ではどう見られるかを意識して行動に移せる小悪魔

学校は……オトノキだったわよね

霧が掛かっているような記憶の中で掬い取れた最後の情報

ツバサ「まずは行動からね。実在すれば夢は夢ではなくなるし、存在しなかったとしたらそれでもいい」

其れはただの夢だったんだと結果を出すという意味ではない

ツバサ「どちらにしてもスクールアイドルを始めるのは変わりはないもの」

無から有を作り出して魅了し、流行らせてこそアイドルになる資格がある

スクールアイドルは私がアイドルになれるかどうかの運命の賽のような物

夢から覚めた時点で綺羅ツバサの運命は動き始めた……。

とても変な夢を見た所為で朝食を作る時間が遅れて、指に火傷を負った

あんな夢をあたかも現実なんじゃないかと少しでも思ってしまった自分が憎い

アイドルになる夢を叶えたいとは思う

でも、その手段が何一つない現状では妹達よりもっと小さな子が描く将来の夢と同レベル

自分が誰かに影響を与えられるなんて……今はもう思えない

友達とアイドルの話で盛り上がることはたまにある

でも、それは小さい頃からアイドルが好きな自分にとっては本を開かずにその表紙だけ見て評価するような物

アイドルについて満足いくまで話せるような友達は一人として居ない

小学生の頃に満足いくまでアイドルの話をしたらウザがられたことを切っ掛けに自分の中の夢に陰りが生まれた

そして、その影響で根拠もなく輝いていた自信を曇らせて今に至る

音ノ木坂学院に入学しても自分でアイドル研究同好会を立ち上げることもせず、帰宅部として早く帰る

にこ「スクールアイドル……ねぇ」

あんな風に仲間達とアイドルのように輝くステージでライブが出来たらどれだけ幸せか

あの子と一緒にアイドルの話で満足いくまで盛り上がれたらどれだけ嬉しいか

私みたいな頼りにならない先輩の誘いに乗って、メンバーが離れても尚付いてきてくれるなんて夢は所詮夢よね

どうしてこんな夢を見たんだろう

にこ「……アイドルになりたいって気持ちが消えてないってことね」

部屋の机の引き出しにしまってあるUTX学院の学校案内が何よりの証拠

道端で倒れてる人を助けたらその人が大手プロダクションの社長で恩を返す為に君をデビューさせる

なんて夢の方が無駄に考えないで済んで良かったのに

にこ「……μ's」

九人の歌姫から取られたグループの名前

出来事は覚えているのに、メンバーの名前が思い出せない

何人かの顔がうっすらと思い出せるだけ

夢なんて目覚めていれば何れは忘れてしまうもの

にこ「そのくせに起きて抱く夢はいつまで経っても消えてはくれないにこね」

アイドルになりたい

その夢は諦めてしまいたくても、決して消えてはくれない

まるで呪いのように胸に刻まれている

そう、まだこの時は矢澤にこにとって消せない夢は呪いでしかなかった……。

突拍子もない夢を見た

それなのに目覚めてから夢であると知って尚、胸の高鳴りは収まらない

ずっと探していた宝物を見つけ当てたかのような気分

穂乃果「スクールアイドル!」

思わず声に出してみた

胸がその単語を発した瞬間、キュンっと呼応する

正直アイドルについてなんて何も知らないに近い

可愛い衣装を着てるという時点で幼馴染のことりの方が詳しいかもしれない

でも、そんな些細なことは高坂穂乃果には関係なかった

穂乃果「九人揃ってμ's」

素敵な言葉だと浸りながらもそのメンバーのことを誰一人として覚えていない

だけど知っている

自分が無茶をする時に一緒に無茶をしてくれる二人の名前を

ことりと海未

あの二人が一緒じゃない筈がないもんね!

勝手に納得し、どう説得しようか考える

スクールアイドルになろうと誘っても、あくまでも其れは夢の話でしかない

それに何より穂乃果達は受験生

アイドルを真似た練習に付き合ってくれるとは流石に思えない

受験が無事終わっても、恥ずかしがり屋な海未は首を縦に振ってくれるとは考え難い

考えれば考える程に夢は夢であり夢でしかないと感じた

穂乃果「でもいいや!」

不安に包まれる心に渇を入れるように声を張り上げる

穂乃果「夢なき夢は夢じゃない! 可能性感じたんだからやってみなきゃ!」

取り敢えずは学校に行く前にコンビニでアイドル雑誌を買おう

当然中学校でそんな雑誌を持って行ったのがバレたら没収後お説教コースだけどそんな考えは既に頭にない

穂乃果の頭に描かれているのは最高のステージで歌う自分達の姿

胸の高鳴りはまだまだ収まりそうにはなかった……。

とても不思議で素敵な夢を見た

自信のない私だけど、凛ちゃんを始めとした他の八人のメンバーに引っ張られて成長していくそんな夢

解散の危機もあったし、憧れのグループのライブを目の前で見て自信が揺らぎそうになったり

九人のメンバー全員で歌詞を考えて一つの曲を作り

そのお陰で最高と謳われたグループに勝手ラブライブ本戦へ

花陽「ラブライブって素敵な響きだよね」

小泉花陽は覚えていた単語を口にして、本当にあったら良いのにと残念に思った

本当にスクールアイドルがあって、ラブライブがあったのならもっともっと楽しい日常が待っている

だけど、その反面強く思うことになると思う

《私もスクールをやりたい》《花陽なんかじゃ絶対に無理だよね》

二律背反の思いが心の中で争って、結局は無理だと現実を見るのだろうと

あんな素敵な夢のように強くなんてなれない

幼馴染の凛のように強くなれない

花陽「……でも」

切っ掛けがあれば変われるのかも

都合の良い話なんて現実には落ちてない

だから自分で紡ぎださないと何も始まらない

この夢をただの夢として終わらせればいつもどおりの日常が待ってる

ただアイドルが好きな自分の日常が……

だけど、行動してみることで変われるのかもしれない

今より少しでも進歩した自分へと

夢の中の凛が大きな成長を魅せたように

自分も頑張って変わってみようと決意する

花陽「一人じゃ怖いから凛ちゃんに付き合ってもらえないかな……」

まだ自信はなく、幼馴染の後ろに隠れる臆病な花陽

μ'sという明るい太陽に注がれて花開くのはもう直ぐ……。

ツバサ「ねぇ、そこの貴女。この学校に矢澤にこさんって居るかしら?」

絵里「矢澤にこ? 何年生かしら」

ツバサ「存在しているのなら一年生よ」

絵里「存在していたら……ふざけているの?」

ツバサ「まさか。私はいたって真面目よ。こんな冗談を言う為にそこの階段を上ってきたとでも思う?」

絵里「馬と鹿の区別も出来ないような人間は、無自覚だから怖いのよ」

ツバサ「ハッキリと言うのね。そういうのは嫌いじゃないわ」

ツバサ「だけど確認だけはしておきたいの。貴女の信頼を損ねてもね」

絵里「矢澤にこなんて生徒は私は知らないわ」

希「ウチは知ってるよ」

ツバサ「本当!?」

絵里「……東條さん」

希「エリち酷いやん。先生に用事があるから少し遅れるって伝えてたのに先に出るなんて」

絵里「待ってるとは言ってないもの」

ツバサ「そんなやりとりは私が居なくなってからして! それで、矢澤にこは本当に存在するの?」

希「不思議な言い方するね。一年B組に矢澤にこさんって生徒がいるのは確かだよ」

希「B組のHRはウチが教室出る頃に終わりそうだったから、そろそろ出てくるんじゃないかな」

ツバサ「二人共どうもありがとう。機会があれば今度何か甘い物でも御馳走するわ」

絵里「……私は何もしてない。それじゃあ、二度と遭わないことを祈ってるわ」

希「ウチもエリちと帰るから行くね。甘い物期待してるから、ほな~」

ツバサ「ええ、またね」

ツバサ(矢澤にこは存在する。でも、夢の中のような子なのかどうかはまだ不明)

ツバサ「きたっ!」

ツバサ(でも、見た目は確かあんな感じの子。果たして私だけの夢なのか。それとも奇跡はあるのか)

ツバサ「矢澤さん♪」

にこ「ん? あんた誰よ?」

ツバサ「私は綺羅ツバサ。一緒にスクールアイドルを始めない?」

にこ「スクールアイドル!! 何であんたがその単語を知ってるの!?」

ツバサ「――運命が私と貴女を選んだから、かもしれないわね」

花陽「あのね、凛ちゃん。今日帰ってから付き合って欲しい所があるんだけど」

凛「別にいいよ。でもまたアイドル専門ショップは懲り懲りにゃー」

花陽「ううん、今日は違うよ」

凛「パンケーキでも食べに行くの?」

花陽「そうじゃないの。遊びに行くんじゃなくて……勇気が欲しくて」

凛「ゆうき?」

花陽「うん。その為に西木野総合病院に付き合って欲しいの」

花陽(私が覚えていたのは凛ちゃんと同い年の西木野真姫ちゃんだけ)

花陽(本当に存在する病院の一人娘って夢ではなってたけど、実際に居るのかどうか確かめてみたい)

凛「病院ってかよちんどこか怪我でもしたの!?」

花陽「そ、そうじゃなくて……その、夢が夢じゃなかったら勇気を貰えるから」

凛「意味がわかんないよ」

花陽「自分でもよくわかってないの。でもね、変われるチャンスなんだって不思議と分かるの」

花陽「ここで行動をすることで私は強くなれる……かもしれないって」

凛「かよちん?」

花陽「あのね、私今より強くなりたいの。凛ちゃんと一緒に成長したい」

花陽「変な話かもしれないけど、病院に行ってみることでそう成れるのかどうか分かると思うんだ」

凛「よく分からないままだけどいいよ。かよちんが納得するまで凛は付き合うニャー!」

花陽「ありがとう、凛ちゃん」


穂乃果(ry


ツバサ「ということで、私と一緒にスクールアイドルやってみない? A-RISEには貴女が絶対に必要なの」

英玲奈「そんな不明瞭なことに付き合う暇人ではない」

走り出したツバサに待ち受けるのは拒絶

ツバサ「後悔は絶対にさせないわ」

あんじゅ「面白いわね。私はそんなことをするより一分でも多くレッスンを受ける方が身の為になるわ」

あんじゅ「貴女は頑張って無駄な遠回りしていればいいと思う。ライバルは少ない方がいいからね」

アイドルになるという狭き門を信じて目指すUTX学院の生徒に隙はない

けれど、拒まれただけで諦めるツバサではない

A-RISE結成の為に二人のスカウトを諦めはしない

何度もめげることなく二人に話をし、次第に統堂英玲奈と優木あんじゅは綺羅ツバサのカリスマ性に惹かれていく

四人の主人公から紡がれるスクールアイドル創生の物語

それが劇場版ラブライブ!

スクールアイドルが流行り、見事にラブライブが開催されるのか……

答えは劇場にて!


★おまけ★

ツバサ「あんじゅ! メンバーになってくれるのならこの矢澤にこをプレゼントするわ」

にこ「何あんたは変なことを言い出すのよ!」

あんじゅ「……あら、素敵な子ね。うふふ、頂いておくわ」

にこ「にこぉ!?」

あんじゅ「可愛い鳴き方ね。にこにこっ♪」

にこ「んぅ」

優木あんじゅゲット! にこあんフラグが成立しました☆


……前回更新してからもう一ヶ月!?
ら、来週はお盆で三連休あるし、一日十時間ずつ書けばクライマックスなんて一撃で終わります。遅れたけど穂乃果誕生日おめでとー

○前回までのIFライブ!○

生徒会長がメンバーだったことを思いだしたにこ

時期生徒会長の絢瀬絵里を勧誘するも氷のような反応で返される

一方のツバサもまた一人目の勧誘をあんじゅに定め、何度となく話しかけるも鉄壁の拒絶

二人はスクールアイドルを再現する為に今日も会議をする……


ツバサ「こういう時はしつこくしても逆効果。だったら冷静になって発想を逆転させるべきだわ」

にこ「発想を逆転?」

ツバサ「押してだめなら引いてみろってこと」

にこ「なるほどね。で、どういうことよ?」

ツバサ「理解してないのになるほどって単語は使わない方がいいわ。つまりこういうこと」

ツバサ「相性の問題もあると思うからスカウトする相手を交換してみるのがいいんじゃないかってね」

ツバサ「冷静に理で詰めていけばクールの性格の絢瀬絵里は仲間に出来ると思うし、それなら私が適任でしょ?」

にこ「何よそれ。まるでにこの勧誘の仕方が悪いみたいじゃない」

ツバサ「そうじゃないわ。言ったでしょ? 相性だって。あんじゅは隙が出来そうでいてまるで隙がない」

ツバサ「だけどね、にこの天然で隙だらけの性格ならば天岩戸のように開けるような気がするの」

にこ「あまの……?」

ツバサ「知らないならいいわ。これで駄目そうならまた別の手を考えればいいし」

にこ「勝手に決めないでよ。私がわざわざUTXまで行くとか絶対に嫌だからね」

ツバサ「全てはスクールアイドルの為じゃない。我がまま言わないの」

にこ「我がままじゃなくて当然のことを言ってるのよ」

ツバサ「うーん、じゃあこういうのはどうかしら? にこは当然シャッフル6って聞き覚えあるわよね」

にこ「ついこないだ発売したアイドル企画番組を他のメンバーとシャッフルした豪華DVDよね。知ってるに決まってるじゃない」

ツバサ「あくまで販売専用だからレンタルはされていない。にこはもう観た?」

にこ「…………観てない」

ツバサ「んふ♪ 特別に貸してあげてもいいわよ。勿論、あんじゅをスカウト出来た時の成功報酬だけど」

にこ「餌で釣るなんてスクールアイドルを作ろうとする者の志として失格よ!」

ツバサ「そう。なら今の話はなかったことに――」
にこ「――心無い者はそう言うんでしょうね。でも、にこは違うわ!」

ツバサ「素直になれないのが小悪魔の悲しい性ね」

にこ「私が小悪魔とか皮肉にしか聞こえないって言ってるでしょ」

ツバサ「人は言われ続けるとそれに見合った自分になろうと努力し、己を磨くことが出来る生き物なのよ」

ツバサ「だから否定の言葉を吐くより前に、小悪魔を意識してそう成れるように努力なさいな」

にこ「そういう発言をサラッと言えるあんたの方が充分小悪魔の素質あるっての」

ツバサ「小悪魔は一人居れば充分。って、私達別グループだったっけ」

にこ「もはやツバサが同じグループじゃないって方が違和感あるけど」

ツバサ「奇遇ね。私もにこが同じグループじゃないっていうのが不思議に感じるわ」

そして、物語はシャッフル勧誘へとつづかない!

◇エピローグ◇

あんじゅ「くぅ~疲れたね。あっという間に九月かぁ」

にこ「早いものね。それほど充実していたっていうのもあるけど」

あんじゅ「夏終わらないでと願っても、時は進み続けるものだもんね」

にこ「ええ、だからこそ何事も愛しく思えるのよ」

あんじゅ「うん。……合宿楽しかったね」

にこ「大下克上と名づけておいて不甲斐なさ過ぎる結果だったけど」

あんじゅ「結局は私たちだけが予選通過。しかも十九位だもんね」

にこ「それなのに全部のグループが私達を応援してくれて。申し訳ない気持ちもあったけど」

にこ「とっても嬉しかったわ」

あんじゅ「穂乃果ちゃんのお陰でもあるよね」

にこ「……認めるには些か納得がいかないというか、複雑だけどその通りね」

あんじゅ「まさかあんな風になるなんて」

にこ「海未の中二病が感染するとは本気で思ってなかった」

あんじゅ「ホノカイザー。まさかファンタジーネームがないのがフラグだったなんて」

にこ「あんたの書いた物語がすべての原因の気がするわ」

あんじゅ「それは横暴だよ」

にこ「事実よ事実! なんであの三人組もあんな仮面とマントなんて用意するのよ」

あんじゅ「ひふみちゃん達に罪はないって」

にこ「わかってはいるけど……いや、お陰で注目度が増して結果予選通過に繋がったけど」

あんじゅ「結果オーライにこよ」

にこ「そうしとかないと胃が痛むから納得しておくわ」

あんじゅ「話は進むけどラブライブ本戦は凄かったよね」

にこ「ええ、夢のような舞台。ううん、夢の世界だった」

あんじゅ「そうだね、あれは舞台の域を超えて世界だった」

にこ「音ノ木坂がラブライブの歴史に名を刻むことになるなんてね」

あんじゅ「A-RISEとのW優勝だけど」

にこ「充分じゃない。本戦に進めることが奇跡だったのに、キラ星達と優勝を分け合うなんて」

あんじゅ「で、どうするの?」

にこ「どうするって何がよ」

あんじゅ「この話題からならこれしかないでしょ。綺羅ツバサの『にこにー。私との決着はプロのアイドルになってからね』って言葉の返事」

にこ「……」

あんじゅ「夢を奪ったのが綺羅ツバサなら、それを取り戻すアシストをするのも綺羅ツバサ。個人的にはムッとするけど」

あんじゅ「でも、それでもにこがまた夢を目指してくれるなら我慢する」

にこ「どんな言い分よ」



嘘エピローグの途中ですがここで本題に入ります
ノートパソが半壊れになって……正直困ってます
でも、いつまでも先延ばしにしてもしょうがないですし、今日から一ヵ月
どうにかそれまでにクライマックス後編を書いて更新出来れば最終回も続投
それが叶わなかった場合、素直にエターナルを宣言して完結までのあらすじを全部出して依頼を出すことにします

にこ「今日映画を観た。もう──」
あんじゅ「──やり直すのは恥ずかしいからやめるにこ!」

にこ「……にこっ♪」

あんじゅ「もう早く本題に入ろう」

にこ「A-RISEが次のステップに進むのなら私たちが歩みを止めるなんてありえないわ!」

にこ「毒は完全に消えた。後はもうこの胸に広がるキラ星&A-RISEへの愛で完結まで突き進むのみよ!」

あんじゅ「綺羅ツバサだけ個人名なのがムッとする。包丁どこかな?」

にこ「あ、あんたも充分可愛かったわよ。ええ、部室に居るとか……違う意味で胸熱だったし。誰かキラ星が百合にならないひたすらにかしこくかわいくかっこいい+心の広いSS書いてくれないかしら?」

にこ「漫画版UTXで英玲奈が男子生徒と淡い恋の物語でもいいわ! 『確かに君には感謝している。が、君に恋慕の念を抱くことはありえない』とか拒絶しながらその後些細なことで意識し始めて……みたいなのを誰か書かないかしら!!」

あんじゅ「私は?」

にこ「あんたは私といつも一緒なんだから必要ないでしょ」

あんじゅ「うっふふ♪」

にこ「月曜日また映画観に行かないと。PCの壊れ具合はお世辞にもいいとは言えないけど、愛さえあれば完結出来る。もはや怖いものはない」

にこ「ちょっと映画と方向性が被ってる部分があるけど、敢えて修正はしないわ。向かうベクトルは正反対だし、にしてもヤバイわ! 合宿編はけっこうはしょる予定だったけど変更よ!」

にこ「今にこが出来る最高を描いてみせるわ。A-RISEに、本物のキラ星の懐の大きさに負けないくらいに最高を目指してみせる。読んでくれた人にとってラブライブSS至上最も地味な長編だって思ってもらえるために!!」

あんじゅ「にこが燃えてる。にこの髪が心なしか赤くなってるように思える。まさにヒートエコ!」

にこ「ニコよ! とにかくもう少しだけ待ってて。絶対にきちんとしたゴールまで走りぬけるわ。姉妹星が一等星のように輝くその日を信じていてね!」

あんじゅ「……去年、九月に入ったから更新しなきゃと言ってそのまま更新が途絶えた作品があったよね。私とにこが出逢う勇気を与えてくれた作品だけど」

にこ「違うわよ! エターフラグじゃないわ。本当に完結させるから」

にこ「あと、パラレルつまりはIFストーリーだけど私の四人目のパートナーになれるキャラが居ないのよねぇ。にこのアイドル力は53万だから下手なアイドルじゃにこについてこれないのよ!」

あんじゅ「そうだね。そうだね」

にこ「何でいたわるような笑顔で繰り返すのよ!」

あんじゅ「今日もにこはかわいいね」

にこ「ぐぬぬ!」

あんじゅ「うふふ★」

にこ「ま、いいわ。佐藤やあんたみたいに邪道暗躍タイプが居ればパートナーにして書くと思う。ラブライブ愛が今のように灯り続けてるその限りね!」

あんじゅ「それでは最後のくぅ疲れでした」

にこ「次の更新の時は前回までのを入れる予定だから内容をあまり覚えてなくても問題ないわ!」

あんじゅ「地味なフラグを把握したい人だけ読み直しておいてね」

にこ「じゃあ、まずはPCをどうにかしないと!」

あんじゅ「ノートパソコンだからって遠慮してちゃだめだよ。キーボード部分を全部へし折ろう。入力系がバグってるのならもう必要ないもの」

にこ「あああ゙~! あんたなんてことを!?」

あんじゅ「外付けのキーボードでなんとかならないかやってみよう。スタート時の30秒くらいの不快音はどうしようもないけど、打てる手は全部打つニコ!」

にこ「にこのノーパソが人には見せられない姿に……にこぉ」

時系列は気にせず、本編との関係性も繋がってるか不明ですが、映画やライブから拾ったネタ等を使った簡易おまけ

リハビリ感覚なので今回のは本気でスルーOK。愛は滅びぬ!

スクールアイドルは花盛り


◇みんなのうた ~Ver.SMILE~◇

――放課後 部室 ほのうみ

海未「ノートと睨めっこなんて珍しいですね。自主的に勉強ですか?」

穂乃果「あ、海未ちゃん。ううん、勉強じゃないよ」

海未「だと思いました。相手は穂乃果ですからね」

穂乃果「何それひどいよ。穂乃果だって最近は家でも勉強してるのに」

海未「ふふっ。冗談ですよ」

穂乃果「海未ちゃんの冗談は冗談になってないよ。にこちゃんかあんじゅちゃんを見習ってよ」

海未「まだまだ精進が足りないということですか。それで、何をしていたのですか?」

穂乃果「うん、あのね。もう直ぐ学園祭でしょ?」

海未「ええ、もう一月を切ってますからね」

穂乃果「その時にSMILEでライブをするじゃない」

海未「学校を代表している以上、学園祭でスクールアイドルがライブをするのは当然の理です」

穂乃果「今度の学園祭は音ノ木坂のスクールアイドルとして一番輝くステージでありたいって思うんだー」

穂乃果「今のSMILEで迎える最初で最後の学園祭だから」

海未「……穂乃果」

穂乃果「だからね、それに相応しい歌を作りたいって思って。今書いてるの」

海未「今から新曲って正気ですか?」

穂乃果「正気だし本気だよ」

海未「ええ、そうですよね。穂乃果がそんな目をしてる時は本気ですよね」

海未「穂乃果の気持ちは凄くよくわかります。ですが、絵里にとっては初の合同学園祭を行う生徒会長として今も師走のような忙しさの中に身を投じています」

海未「それは手伝いをしているにことあんじゅもまた然りです。凛だって一年生の身でありながら陸上部との兼任でただでさえ苦労しているというのに」

穂乃果「それは分かってるよ。でも、」

海未「穂乃果はそろそろ実現が厳しいことは望まないことを学ぶ年頃です」

穂乃果「……」

海未「それに一ヶ月もないのに作詞作曲出来たとして、振り付けだって考えないといけないのですよ?」

海未「絵里が今までは考えてくれてましたが、今回は絶対に無理です」

海未「その場合一体誰が考えるというのですか? 私ですか? それとも穂乃果ですか?」

穂乃果「う……そ、それは」

海未「つまりはそういうことです。最初から不可能なことは諦める以外の選択肢はないのですよ」

穂乃果「やだ」

海未「はい?」

穂乃果「諦めるなんて絶対にやだ。やだったらやだ!」

海未「子供ですか!」

穂乃果「にこちゃんの前で諦めることは絶対にしたくない。私は海未ちゃんと違ってにこちゃんの妹じゃないよ」

穂乃果「でもにこちゃんには沢山お世話になってきた、迷惑かけてきた」

穂乃果「だけど穂乃果がにこちゃんに出来ることなんて悔しいけど何もないと思ってた」

穂乃果「けどひとつだけ見つけたんだ。不可能を可能にすること」

海未「それがにこに何の関係があるというのですか」

穂乃果「にこちゃんがアイドルになるって夢をもう一度見てもらうには不可能を可能にする道があるんだって知ってもらうのが一番」

穂乃果「だからこの不可能を穂乃果は実現させたいの」

海未「……穂乃果。でも、やはり今からでは」

凛「振り付けなら凛が考えるニャ!」

海未「凛!? いつから話を聞いてたのですか!」

凛「最初の方からかな。真面目な話だったから入るに入れなくって」

海未「だからって盗み聞きをするなど、」

穂乃果「そんなことよりも凛ちゃん! 振り付けとか分かるの?」

凛「ふっふっふ~。凛は伊達にかよちんの幼馴染をやってないよ。アイドルのDVDを観た回数ならにこちゃんにだって負けないくらい」

凛「だからどういう振り付けがあるのかとか、どういうのが可愛く見えるのかとか熟知してるよ」

海未「でしたらなぜ絵里任せにしていたのですか」

凛「知識はあっても凛は踊ることに関してはSMILEでは一番劣ってるから」

凛「バレエの経験もあって踊ることに一番長けてる絵里ちゃんに任せるのがいいと思って」

海未「なるほど」

凛「でも実際にオリジナルの振り付けって作ったことないんだけどね」

穂乃果「知識があるなら大歓迎だよ! ね、海未ちゃん。これで作曲してくれる?」

海未「……三年生組に無理を強いることになるのは変わらないのですよ?」

穂乃果「分かってるよ。それでも伝えたいんだ、今の私のこの気持ち!」

海未「やれやれ。その顔になってしまってはもはや何を言っても無駄ですね」

海未「しかし、昔のように意味のないことでその顔をしなくなったのは評価出来ます」

凛「意味のないこと?」

海未「雨上がりの公園で大きな水溜りを飛び越えようと頑張ったり、雨の中の滑り台を逆走してみたり」

穂乃果「えー、そんなことしたっけ?」

凛「穂乃果ちゃんは随分とわんぱくな子だったんだねぇ」

海未「腕白なんて生易しくありません。なんせ成功するまで諦めないという性質の悪さが備わってますから」

凛「そんなに根性があるのなら、今から凛と一緒に国立競技場を目指すニャ!」

穂乃果「SMILEの二代目リーダーとしての仕事と家の手伝いがあるから無理だよ~」

海未「一点集中こそが一番の武器ですから。リーダーに集中してもらった方が私としても安心です」

海未「学園祭が終わってからは私も生徒会長となって色々と忙しくなりますし」

凛「そういえばそうだよね。こうして考えるとSMILEって有能な人材ばかりだよね」

海未「自画自賛は趣味ではありませんが、私の尊敬する姉達が集めたメンバーですから」

穂乃果「海未ちゃんって本当に変わったよね。誰が妹ですか! 姉なんて呼びませんって言ってたのに」

凛「えっ、そうなの?」

穂乃果「そうだよ。海未ちゃんが貞子のコスプレして抱きついてたから去年のハロウィンイベントだね」

穂乃果「にこちゃんとあんじゅちゃんを初めてお姉ちゃんと呼んだのは」

海未「懐かしいですね。もうずっと以前から姉と慕っていたような気もします」

凛「そういえば亜里沙ちゃんも皆の妹なのにどうして穂乃果ちゃんは妹じゃないの?」

海未「穂乃果は私とことりの王子様ですから。誰かの妹になるなんて許可しません」

穂乃果「っていうことなんだー」

凛「でも海未ちゃん自体は妹なんだよね。けっこう我侭なの?」

海未「……わ、私はいいのです。お姫様と王子様では立場が違いますから」

穂乃果「海未ちゃんってば悪女みたいなこと言ってると、クリスマスの夜にガソリン掛けられて燃やされちゃうよ」

凛「報復が怖いよ!」

海未「誰が悪女ですか! それに凛が言うように報復が恐ろし過ぎです」

穂乃果「あんじゅちゃんが大好きな紅蓮女の誕生譚だよ。貢がせてた男に殺されて亡霊になったから」

凛「グレン女って時々マッチで遊んでるやつだよね」

穂乃果「そうそう。マッチ使いで何度となくその技で命を救われてきたんだよ」

穂乃果「あんじゅちゃんが好きなくらいだから邪道が出てくるかと思ったけど、読み終わりが爽やかな作品だった」

海未「そうですか。では今度貸してもらえますか? 私も是非読んでみましょう」

穂乃果「うん、いいよ。って紅蓮女は脇において置いて、みんなの歌だよ!」

凛「そういえばそうだったにゃ。作詞の方はどんな感じなの?」

穂乃果「SMILEだからこその歌詞にしたいなって思ってね。今のところはこんな感じだよ」

穂乃果「一文ずつを後でパズルみたいに組み立てるつもりだからその辺のツッコミはなしね」

穂乃果「貴方の横顔を見る度に勇気凛々。だけど紡げない臆病な心」

穂乃果「君の笑顔は僕の気持ちをより高め、愛しい想いを生み出す」

穂乃果「いつか貴方の襟を毎日直せる私になりたい」

穂乃果「ほんのりと香る本の匂いが僕たちを包み込む」

穂乃果「にこやかな二人の世界をいつまでも一緒に」

海未「勇気凛々・生み出す・襟を・ほんのり香る・にこやか」

海未「メンバーの名前を取り入れるからこそSMILEだからこその歌詞、ですか」

凛「でもあんじゅちゃんだけないよ?」

穂乃果「あんじゅちゃん難しくて。あんがつく歌詞で思いつくのはあるんだよ」

穂乃果「あるんだけど……夕方のヒーローか未来から来たロボットのしかなくて」

凛「そういえば二つともあんが出てくるね。あんかー、何かないかなー?」

海未「流石あんじゅ。こういう物でも一筋縄ではいきませんね」

あんじゅ「私がどうかしたの? 私は常ににこの隣に居るよ☆」

にこ「最近はもはやあんたが隣に居ないと不安になるレベルよ」

絵里「完全に依存し合ってるわね。遅くなっちゃってごめんなさい」

穂乃果「あっ、三人ともいらっしゃーい♪」

海未「お疲れ様です」

凛「こんにちは☆」

にこ「三人とも元気そうね」

あんじゅ「こんにちは。それで、私がどうかしたの?」

穂乃果「あのね、みんなの歌を作ろうと思って作詞してたの」

絵里「みんなの歌?」

海未「このノートを見てください」

絵里「どれどれ。……なるほどねぇ。あんじゅだけ案が思いつかないと」

あんじゅ「自分で言うのもなんだけど、確かに難しいかも」

穂乃果「作詞経験も豊富なにこちゃんなら何か思いつかないかな?」

にこ「あんなに練習した想いの言葉 充分な覚悟だったのに君を前にすると臆病になる」

海未「即答ですか。流石にこですね」

穂乃果「おぉ~すごいよにこちゃん♪」

凛「完璧ニャー!」

絵里「ハラショー」

あんじゅ「臆病にならなくてもにこの告白くらい、心の優しい妹あんじゅはいつでも受け止めてあげるよ」

にこ「あんたに何を告白するってのよ。しかも受け入れるんじゃなくて受け止めるだけって」

あんじゅ「にこの気持ちは嬉しいけど、お付き合いして友達とかに噂されると恥ずかしいし」

にこ「付き合うってところもおかしいけど、最悪な返事ね!」

海未「確かに其れは受け入れてはいませんね」

凛「悪女というよりただの性悪だよ」

穂乃果「漫才はおいて置いて。にこちゃんのお陰で完成に近づいたよ」

絵里「これって男女の曲よね? 一人が男の子パートを歌うのかしら?」

あんじゅ「ううん、これは半々に分かれるべきだよ。にこは女の子で私が男の子ね」

にこ「別にいいけど。あんたも女の子の方が似合ってるんじゃない?」

あんじゅ「にこと反対じゃないと駄目なの」

絵里「じゃあ、私は男の子役で凛が女の子役ね」

凛「そんな! 絵里ちゃんの方が絶対に女の子――」
絵里「――いつも口を酸っぱくして言ってるでしょ? 凛はSMILE一の乙女だって」

凛「うぅ~そんなことないのにぃ」

絵里「凛は何れ三代目リーダーになるんだから。自分の可愛さを一日でも早く受け入れてあげないと駄目よ」

海未「こうなると必然的に私が女性パートで穂乃果が男性パートだね」

穂乃果「うん! 穂乃果は王子様だから当然だね」

海未「しかしSMILEのメンバーが偶数で助かりました」

穂乃果「どうして?」

海未「もしも奇数だった場合誰か一人が余ることになるじゃないですか」

海未「男性と女性で振り付けを変えることに当然なるでしょう」

海未「しかし、一人の人だけは振り付けはペアでない分違うものになる筈です」

海未「皆がペアでわいわいと練習する中、一人鏡の前で黙々と練習」

海未「うっ……うぅ~。本当に偶数でよがっだです」

穂乃果「なっ、なんで勝手に想像して泣き出してるの!?」

凛「凛なんて可愛くないよ」

絵里「いいえ、凛は可愛いわ! 凛は可愛い! 凛は可愛い!」

凛「~~っ!」

絵里「凛は可愛い! 凛にはスカートが似合ってる! 可愛い衣装とか絶対に似合うわ!!」

凛「なんだか知らないけどこんなこと言われるの二度目のような気がするにゃ~!」

にこ「なにこのカオス! 収集つかないわよ」

あんじゅ「そして、二代目SMILEの最後のライブは……」

にこ「あんたはあんたで急に何の振りをしてんのよ!!」(完)

□キューティーパン○サー□

――秋 部室 三年生トリオ

絵里「困ったことになったわね」

あんじゅ「あんな期待の眼差しで言われたらどうにかしなくちゃだよね」

にこ「無理な物は無理よ。今からなんて時間があると思ってるの?」

絵里「正直なところ、UTXとの合同学園祭がなければの前提なら可能だと思ってる」

にこ「つまり不可能ってことね」

あんじゅ「でも、色んなことしてきた私達だからこそ可能だと思ってたよ」

絵里「そうね。邪道シスターズとして暗躍してきたのが仇となる日がくるなんてね」

にこ「スクールアイドルなのに目立ち過ぎたことが裏目に出るって、どんな因果よ」

あんじゅ「まぁまぁ。私たちはそれだけ特別ってことだよ」

絵里「嬉しくないって言えば嘘になるけどね。だけど、今から新曲一本仕上げるのは厳し過ぎるわ」

あんじゅ「でも、今まで色んなことに協力してくれたわけだし」

にこ「クラスの出し物として一曲ライブをするくらいは貢献してあげたいのも事実」

にこ「でも気持ちだけで結果を出せる程、この世の中は優しくないのよ」

絵里「……そうよね」

あんじゅ「だったら邪道シスターズの私たちが優しい世界にしちゃえばいいんだよ」

あんじゅ「不義理を取るより苦労に飛び込め。それこそが私達三人が共有してきた信念だった筈」

にこ「そんな信念初めて聞いたにこっ!」

あんじゅ「私も初めて聞いたにこっ!」

にこ「そこ初めて言ったってパターンじゃないの!?」

あんじゅ「変化球は大事だもん」

絵里「ふふふっ。でも、あんじゅの言う通りね」

絵里「不義理より苦労。だって私達を支え、見守ってきてくれた人達はいつも苦労掛けてばかりだったもの」

絵里「それなのにいざ自分たちの番になったら時間がありません。だから不可能です、なんて格好悪いわ」

絵里「だったらやるしかないわよね!」

あんじゅ「おぉ~! エリーお姉ちゃんの顔が不敵になった」

にこ「やれやれ。ま、こんなことになるだろうとは思ってたけどね」

絵里「生徒の見本である生徒会長として音ノ木坂学園に出来る最後のメッセージ」

絵里「私の我侭でもあるけど、にことあんじゅは協力してくれるかしら?」

あんじゅ「言うまでもないよ」

にこ「仕方ないわねぇ」

絵里「ハラショー♪ それでこそ私の自慢の妹達だわ!」

あんじゅ「でもどんな曲にするの?」

絵里「今からとなると本当に時間がないわ。単調でもいい、でもインパクトがある曲」

にこ「単調でもいいとか言っておきながらソレを否定するようなこと言うんじゃないわ」

絵里「自分でも分かってる。でも、メッセージを残したいという想いを諦めたくないの」

にこ「あっそ。あんじゅは何かインパクトが出る方法思いつく?」

あんじゅ「うーん……ピエロの格好で歌うとか?」

絵里「そ、それはちょっと」

あんじゅ「にこには似合ってるけど私達には似合わないもんね」

にこ「サラッと私の印象を落とすのやめなさいよ!」

あんじゅ「えー、凛ちゃん勧誘の時は自分でピエロって言ってたのに理不尽にこぉ」

にこ「志がピエロだったんであって、見た目は普通だったでしょ!」

絵里「まぁまぁ。私はにこがピエロの格好をしてても自慢出来るわよ」

にこ「慰めなのか本気なのか天然なのか……。どちらにしろ意味わかんない!」

あんじゅ「いつもの衣装よりずっとインパクトのある物にするのが一番現実的だと思う」

あんじゅ「今からだと曲で印象を生むとか考えて作詞作曲するのは大変だし」

にこ「ピエロは論外だけど、確かにそうね」

絵里「何かいい格好ないかしら?」

あんじゅ「ふっふっふ~。私いいこと思いついちゃった☆」

にこ「あんたのいいことがいいことだった験しが少ないから怖いわ」

あんじゅ「失礼だよ! こういう時は真面目なのが矢澤あんじゅんの魅力にこ!」

絵里「自分で言えるあたりがあんじゅの魅力かもね」

にこ「やれやれね。で、何をおもいついたって?」

あんじゅ「ボブキャットは今回の為のフラグだったんだよ。三人でボブキャットの耳と尻尾をつけて歌うの」

あんじゅ「振り付けは尻尾を上手く使って、こうやってくるくる回したり」

絵里「それは素敵じゃない!」

にこ「確かにいいわね」

あんじゅ「ボブキャットっぽく少し大人っぽい曲にして、ある意味雌豹のような――あっ」

にこ「なんでそこでにこを見て失言だったみたいに言葉とぎるのよ!」

あんじゅ「にこじゃ足りなかったね」

にこ「なんで視線を下げて胸を見つめたまま言うのよ! なっ、ななじゅうよんあるなら充分でしょ!」

絵里「にこ。声が裏返ってるわよ」

あんじゅ「71なのに虚勢を張るにこに私本気で涙。う~るる~」

絵里「長女な私も思わず貰い泣き。およよ~」

にこ「絵里まであんじゅの真似して変な泣き真似するんじゃないわよ!」

にこ「それより前にあんじゅの失礼な暴言を否定する方が先でしょうが!」

絵里「暴言なんて言ってないわ。事実を認めましょう。不可能は可能に出来る」

絵里「でもね、にこ。絶対に変えられない出来事もまたあるのよ。ありのままを受け入れましょう」

にこ「シリアス顔して人の胸に話掛けるんじゃないわよ、この馬鹿長女!」

あんじゅ「よし! 私と絵里ちゃんはボブキャット。にこはピエロの格好ってことで採用だね」

にこ「採用するわけないでしょうが! この愚昧!!」

あんじゅ「どんな衣装で本番当日を迎えたのかは伏せておくが、当日観に来た人たちの心に強いインパクトを与えたことだけは記しておくにこ」

にこ「変なナレーション風で誤魔化してんじゃないわよ!」

あんじゅ「じゃあ……その後、にこはピエロを見る度に頬が引き釣るようになったことだけは記しておこう」

にこ「完全にピエロで歌わされたって言ってるようなものでしょう。却下って言ったら絶対に却下なんだから!!」(完)

□ドゥーム?□

――夜 にこの部屋 勉強中 にこあん

あんじゅ「ねぇ、にこ」

にこ「んー?」

あんじゅ「今更になるかもしれないけど、一つ分からないことがあるんだけど」

にこ「あんたに分からないことが私に分かると思ってるの?」

あんじゅ「いや、勿論勉強のことじゃないよ。にこに訊くわけないじゃない」

にこ「事実だけどそれはそれでムカつくニコ!」

あんじゅ「理不尽にこよ」

にこ「で、何が分からないって?」

あんじゅ「うん、今回の大会のこと。なんで舞台が野外会場なのかなって」

にこ「私にはそこに対して疑問を持つことが理解出来ないんだけど」

あんじゅ「だってアイドルのライブだから野外会場より室内のイメージが強いから」

あんじゅ「虎太郎さんくらいならドームとか言い出しててもおかしくなかったんじゃないかなと思って」

にこ「ドームってあんたね。会場押さえるだけでどんだけ掛かると思ってるのよ」

あんじゅ「にこが想像してるよりもずっと安いよ。三時間五十万円くらいだった筈」

にこ「全然安くないじゃないの!」

あんじゅ「でも想像よりは安かったでしょ?」

にこ「それは……そうだけど」

あんじゅ「野外会場を一日貸しきるのだって相当掛かるだろうから不思議なの」

にこ「なるほどねぇ。でも、そんなの簡単じゃないの。私たちがスクールアイドルだからよ」

あんじゅ「えっ?」

にこ「つまりは虎太郎さんがパパとの約束をただの義理だけで返そうとしていない証拠」

あんじゅ「どういうこと?」

にこ「以前食事の際にスクールアイドルのことを調べたって言ってたでしょ?」

にこ「その時にアイドルとスクールアイドルの違いを本当の意味で知ってくれたってことよ」

あんじゅ「にこは説明が下手過ぎ!」

にこ「つまりね、人によってはスクールアイドルは夢への通過点なのよ」

あんじゅ「夢への通過点?」

にこ「そうよ。プロのアイドルになるって夢の為のね」

あんじゅ「それとドームが何の関係があるの?」

にこ「プロのアイドルって言ってもドームでライブが出来るくらいのレベルなんてそう何人も居ないわ」

にこ「去年なんてドームでライブをしたアイドルはせんちゃんただ一人よ」

にこ「つまりね、プロのアイドルになる夢の更に先にある夢こそがドームでのライブなの」

あんじゅ「夢の更に先の夢かー。でもそれでどうしてドームは除外なの?」

にこ「分からない?」

あんじゅ「うん」

にこ「あんじゅの言う通り、虎太郎さんにとっては野外会場もドームも押さえるという意味では大差なかったと思う」

にこ「でもね、さっきも言ったけど私たちはスクールアイドルなのよ」

にこ「会場を押さえた時点では私が夢を諦めてたって当然知る由もなかったわけ」

あんじゅ「エリーちゃんも言ってたでしょ。にこは夢を諦めたわけじゃなくて、夢の時間が止まってるだけだって」

にこ「あんじゅ」

あんじゅ「でしょ?」

にこ「ま、そういうことにしておくわ」

あんじゅ「うん!」

にこ「で、話を戻すけどね。……どこまで話したんだっけ?」

あんじゅ「いつものにこクオリティに私涙★」

にこ「メチャクチャ笑顔じゃないのよ!」

あんじゅ「うふふ」

にこ「まったくもう!」

あんじゅ「二度目の私たちはスクールアイドルって部分だよ」

にこ「あ、そうそう。プロのアイドルの夢の先をスクールアイドルで体験したらどうなるかを考えてくれたんだと思うの」

あんじゅ「つまり?」

にこ「満足して夢を終えちゃうんじゃないかって考慮してくれたのよ」

にこ「夢想するしかなかった理想のステージを体験したからアイドルを目指すのはもう充分、って考えたっておかしくないでしょ?」

あんじゅ「……そっか」

にこ「だからドームじゃなかったのよ。パパとの約束を、そしてパパの娘である私を大切に思ってくれた証拠」

あんじゅ「ママの言ってた通り、そういう絆の強さを紡げるところってパパさん似だよね」

にこ「ありがとう。最高の褒め言葉だわ」

あんじゅ「じゃあさ、にこ」

にこ「ん?」

あんじゅ「いつか私をにこのドームライブに連れてってね」

にこ「――」

あんじゅ「約束だよ!」

にこ「私は約束なんて――」
あんじゅ「――約束にこっ♪」

にこ「……まったくもう。あんじゅは本当に自分勝手な妹なんだから」

あんじゅ「うっふふ。だって私はにこの自慢の妹だからね☆」

にこ「自慢の妹って言われたいならもっとにこの言うこと聞きなさいよねぇ」

あんじゅ「にこの言うことを素直に聞いてたら、お馬鹿な子って思われちゃうよ!」

にこ「なんですってー!?」

あんじゅ「本当のことにこ!」

にこ「だったらお馬鹿かどうか、○×ゲームで勝負よ!」

あんじゅ「こころちゃんとここあちゃんに無双してた仇討ってみせるよ」

にこ「望むところだわ! かかってくるニコ!」(完)


以前合同ライブのことを教えてくれた637さんに感謝を!
A-RISEが出ると知らなかったら映画を観ることなく朽ち果ててました

感謝とエタりそうになったことへのお詫びに最後の安価を出します。安価↓1と2

[唐突な打ち切りエンド]や[実は夢だったエンド]みたいな振りでも答えてみせる!

……ただ、映画を何度か観るから書く時間がそれだけ奪われる幸せな罠...  ツバサ最高☆ミ

乙。
ピエロの格好で歌う…ニューロティカかな?

安価は「本編をしっかり完結させる」でオナシャス

安価なら次回作は前スレでやってたにこ×ツバサのやつ

>>694
世界一優しい安価をありがとうございます。安価は絶対。なのできちんと完結させますのでもう少しお待ち下さい

>>697
おまけの小話でもと思った安価でまさかの邪道を打たれるとは思いませんでした。確かににこの相棒はもうツバサくらいしか残されてないですが……安価下にはこれより難易度の高い脱出ゲームが待ってるので素直にこの邪道を受け入れます
前スレのはツバサへの想い故の思いつきだったのでさすがにあのままだと矛盾があります。なので少し出だしは変更しないとですね
いっそのこと開き直ってにことツバサとあんじゅと真姫ちゃん以外は音ノ木坂かUTXかを安価で決めるのとかありかも知れません

ちょっとだけ導入部分をダイジェスト版で練習してみようかなと思います。


あと、一期の六話を再生出来る心の広い方へ
インタビューのにこが髪を解くシーンからにこの指先とその先に何があるかに注目して再生してみてください……これこそがにこあん(この物語)のルーツ!

◇練習版次回作・ツバサとおまけのにこの邪道物語(仮)◇

何故私にと正直困惑の感情しか沸いてこなかった。

普通だったらここは喜ぶところだと思う。

それは確かに分かってはいる。

でも、私は普通ではないということが証明された。

担任「どうして? こんな名誉なことなんてないのよ?」

UTX学院の芸能科からのスカウト。

私はそれを断った。

担任の先生も他の先生(教頭先生までも)が勿体無いから思い直せと言ってきた。

その度に小説風に表現するなら世界から色が消えていく気がした。

最も、UTXのスカウトを蹴って進学する先が音ノ木坂学院となれば誰でも引き止めたくなる気持ちは分からなくもない。

でも、私は私の考えを理解し、賛同してくれる人が欲しかった。

私の両親は自分の好きにすればいいと反対こそしないものの、理解はしてくれない。

理解されたいと思う気持ちは私の我侭に過ぎないのだろうか?

心が満たされることなく、世界は灰色のまま時は進んだ。

そして、中学校を卒業して私は音ノ木坂学院に入学した……

音ノ木坂学院。

そこには歴史だけがあり、スクールアイドルはない。

今やどこの高校にもあると言われても不自然に感じない程浸透しているにも関わらずね。

だからこそ私はここを選んだ。

スクールアイドルとして本気でトップを、つまりはラブライブの優勝を目指すには不向きなのは誰が見ても分かる。

そんな学院からもし優勝出来たとしたら?

灰色の世界を壊すに足りる胸を焦がすこの気持ち。


理解されたい

共有したい

夢を共に歩みたい


もし、本当に奇跡のような確立かもしれない

だけど、私と同じ志を持っている人が居るのなら

私を理解し、共に夢に向かってくれる人が居るというのなら!

これから立ち上げるスクールアイドル研究部に入部して、この音ノ木坂学院から初のスクールアイドルとして立ち上がってくれる。

なんて都合のいいことが起こる筈がないって知っている。

だって私のクラスメート達も先生と同じ反応しかしてくれなかったものね。

諦めに支配されながらも、行動することが私の信条。

一人なら一人だって構わない。

ラブライブ出場の条件には一人で出場してはならないという決まりはないから。

強がりだってことは自分が一番分かってる。

でも、強がってないと寂しくて堪らないんだもの。

だからってこの気持ちを偽ることは出来ない。

正直、何処かへ捨ててしまいたいと思ったことも何度もある。

それでも捨てられないのはその想いを捨てることは夢を諦めることと同じだから……。

先生「同好会を立ち上げたい、ね。何の同好会かしら?」

ツバサ「はい。スクールアイドル同好会です」

先生「貴女まで?」

一瞬、本気で自分の耳を疑った。

その後、自分の願望が現実を蝕んだのかと意味の分からない心配をしてしまった。

そんな私を他所に、先生は少し離れた場所に居る生徒を指差した。

先生「ほら、あそこに居る矢澤さんっていう子が――」

先生が何かを呟いている最中、私は違う光景を目にしていた。

矢澤さんと呼ばれた少女と共にスクールアイドルを立ち上げ、ラブライブに出場し、プロのアイドルになる。

まだ経験していないというのに、懐かしさすら感じる思い出の数々。

私が小さい頃に流行った小説の描写を借りるのなら、

今私は未来を回想した

夢なき夢は夢じゃないと教えてくれる未来を。

この色の褪せた世界を照らす輝きを持つ少女との出逢いが運命なんだと。

にこ「そんな! にこが聞いた話だと一人でも同好会なら認められるって」

先生「規則が変わって、最低でも二人居ないと同好会として認められないのよ」

にこ「そ、そんな」

ツバサ「ねぇ! 私も貴女と一緒のことを考えていたの。一緒に同好会から始めましょう」

――それは綺羅ツバサと矢澤にこの序章

にここそが自分の理解者であるという勘違いを暴走させる行動派のツバサ

小学五年生の時、優木あんじゅと出会って夢を諦めたことを告げる暇もなく勘違いされるにこ

正統派の邪道を行いメンバーを増やしながら、ラブライブの頂点を目指す音ノ木坂学院に語り継がれることになる伝説の始まり

ツバサ「本当ににこは恥ずかしがり屋よね。同じことを思ってるくせに、私に全部言わせてあたかも自分は違うみたいに言うんだもの」

にこ「本気で違うから言ってるニコ!」

ツバサ「そんなに顔を真っ赤にしなくても分かってるわ」

にこ「あんたがそんな顔をする時は誤解120%じゃないの!」

ツバサ「んふっ♪ いつかにこのその恥ずかしがり屋な仮面を取ってみせるからね。覚悟しなさい」

にこ「人の話を聞けっての!!」


こんな感じでいかがでしょうか? 697さんどうですか?
基本書き慣れてるにこ視点なのは間違いないけど、たまに勘違いしてるツバサ視点を入れる方がいいかなーと。

あと今月末にノーパソ購入予定なので、それまでは更新出来ても短めになるかと思いますのでご了承ください。では、また来世...

書きたい物が多すぎて空回り中

◆未来予告:Graduate◆

学園祭の後片付けも終わり、正式に生徒会長が絵里から海未へ交代された

主人公は新生徒会長の園田海未

誰よりも長く姉たちの邪道を見てきた少女が贈る一世一代の大博打


海未「部長及び次期部長の一二年生方に集まっていただきありがとうございます」

シカコ「それはいいですが、三年生には絶対秘密というのが気になります」

新聞部「もしやSMILE特有の邪道ですか?」

穂乃果「邪道をするのはSMILEじゃなくてにこちゃん達三年生だけだよ」

オトノキ研「三年生というかにこ先輩とあんじゅ先輩だけじゃないの?」

海未「私の姉である前生徒会長の絵里は二度邪道に生徒会権限を使っています」

弓道部「二度も?」

海未「一度目はここに居る穂乃果の勧誘の時です」

剣道部「そういえば生徒会長――じゃなかった、前生徒会長がA-RISEの南さんを連れて来たんだっけ」

オカ研「魔女のコスプレが楽しくて忘れてた」

サッカー部「今更だけど部活紹介なのに皆で仮装って、今考えるとその時点で色々おかしいよね。勿論いい意味で」

バスケ部「運動部だってたまにはお洒落したいって願望叶えてくれて嬉しかったなー」

シカコ「一度目は分かりました。それで、二度目は?」

海未「二度目は凛の勧誘の時に」

新聞部「あーっ! 新聞部は先輩が当事者だったのに、発行部数最高に喜んでてすっかり忘れてた」

シカコ「盲点。そうでした……あの勝負は生徒会主催で行われたものでしたね」

剣道部「あの時は一年生のにこ先輩への評価の落胆っぷり凄かったよねー」

バトミントン部「私は見に行けなかったけど、後輩の子達が怒り心頭でぷんすかしてたなぁ」

登山部「部室から見てた。にこちゃん先輩の人の流れを生む魅力が存分に発揮されてたよね」

シカコ「私自身も見事に踊らされる結果となりました。ですが、お陰でライバルに巡り合えた。感謝しています」

穂乃果「あの日は正直胸が痛くてもどかしくて苦しくなったなー」

海未「あんじゅの邪道がなければと思うとゾッとします」

海未「と、脱線してしまいましたね。私の尊敬する姉たちは色んな邪道をしてきました」

海未「私自身がその邪道の最初の犠牲者。今はそれが誇りでもあります」

海未「そして、その姉たち三年生はもう半年なく卒業してしまいます」

「「「……」」」

海未「思い出が強ければ強いほど卒業という日が心に沸く感情が大きいでしょう」

穂乃果「……卒業、しちゃうんだよね」

シカコ「ずっと先のことかと思ってました」

ロボ部「先輩が一人で守り続けてくれたから、今楽しめてます。だけどその部長――先輩が卒業しちゃう」

海未「しんみりとしないでください。私たちは笑顔で見送る側なんです」

海未「正直、そう思ってはみても卒業していく三年生たちを前に涙しないなんて無理だと思ってます」

海未「どうにか耐えたとしても泣いている三年生が居れば涙腺を刺激されて貰い泣きすると思います」

シカコ「偏屈な私でさえ泣かない自信はありません」

穂乃果「私も無理だと思う」

卓球部「わ、私は泣かない自信あるというか泣かないし」

カード「今の時点で既に涙混じりの声なんだけど」

卓球部「涙なんて混じって……うっ、うぅっ!」

美術部「あの、泣かないでください。ハンカチどうぞ」

卓球部「ありがどう」

穂乃果「海未ちゃん! 泣かせちゃ駄目だよ!」

海未「私の所為なのですか!?」

穂乃果「冗談だよ。でも、今からそんな話する必要あったの?」

海未「私は生まれてこれまで邪道を行ったことがありません」

海未「そんな私ですが一度だけ邪道を行いたいと考えています」

海未「そうして思いついたのはにことあんじゅの邪道とは違ってとても淡いもの」

海未「一人でも秘密を漏らしたらこの邪道は朝日を浴びた人魚姫のように泡となって消えるでしょう」

海未「三年生を笑顔で送り出す為に私の邪道に力を貸してくれる」

海未「そんな奇特な方が居たら力を貸してください」

穂乃果「それって訊く意味あるのかな?」

新聞部「愚問というやつですね」

オカ研「逆に一人でも力を貸さないと思っているのなら地獄通信に名前を書き込むレベル」

卓球部「乙女の涙を安売りしない為に頑張るし!」

クッキング部「全員生徒会長と同じだよ。でも、一人でも漏らしたらってきついんじゃない?」

新聞部「話すつもりはなくてもポロリと出てしまう場合もありますから」

オトノキ研「私は泣くよりこっちの方が自信がないかも」

海未「皆さんの不安な気持ちは分かります。しかし、私は大丈夫だと確信しています」

海未「音ノ木坂学院の学生とその関係者達の絆の強さを姉の軌跡から学んでいます」

海未「いざとなった時の団結力は随一。漏れることなんてありえません」

合唱部「心地いい信頼には相応の覚悟で応えなければいけませんね」

珠算部「是」

コンピュータ部「信頼には信頼を。ところで何をするつもりなの?」

海未「間違いなく他の誰もがしたことがない、言葉通りの前人未到の邪道」

海未「私達に多くの恩を与えてくれた三年生達への最大のサプライズを敢行します」

穂乃果「最大のサプライズって結局何をするの?」

海未「盗むのですよ。つまり私達は怪盗になります」


海未が計画するのは邪道シスターズを超える至高の邪道

生徒会長として出来る最大規模の贈る言葉

尊敬する三年生の為に約半年の歳月を掛けて準備し、卒業生の《大切な物》を盗む

SMILEの居る音ノ木坂学院を舞台にした本編完結後のさよならの物語


乙女魂のEDを見て卒業は大事と学びました。そして、その後のくぅ疲れの大事さも……あれ?

ゆきあり入ってくるし一年後の物語も描けそう
原作だと三年だけだったアライズもちゃんと一、二年がいるし
全国大会もどこかからライバルができれば盛り上がるかも

◇ヤンデレとは...◇

海未「最近あんじゅが使ってますが、ヤンデレとは実際にはどんなものなのでしょうか?」

穂乃果「ツンデレはにこちゃんのあんじゅちゃんへの対応で学んだけどヤンデレはどんなだろ?」

凛「凛、聞いたことがあるよ」

海未「知っているのですか?」

凛「ヤンデレって相手を好き過ぎて病んじゃうくらいのことなんだって」

穂乃果「あー、なるほど」

海未「確かにヤンデレはあんじゅに相応しいものかもしれません」

穂乃果「あんじゅちゃんのにこちゃん大好きオーラは凄いもんね」

凛「本当の姉妹みたいに思えるし。二人はどんな出会いだったのかな?」

海未「何度訊いても話を逸らされるだけで教えてはもらえません」

穂乃果「ずるいよねー。ツバサちゃんとの出会いだって知ったの最近だし」

海未「オープンのようで秘密主義な部分がにこにはありますから」

凛「……んー」

穂乃果「凛ちゃん。何か気になることでもあった?」

凛「にこちゃんってツバサさんとの出会いもずっと言わなかったんだよね?」

海未「ええ。先に話を聞けたのはあんじゅと絵里の姉たちですけど」

穂乃果「海未ちゃん、そこは仕方ないよ」

海未「ええ、分かってます。それで凛の気になることはなんだったのですか?」

凛「あんじゅちゃんにヤンデレが似合うくらいにこちゃんを好きなのも確かだけど」

凛「それに負けないくらいにこちゃんもあんじゅちゃんのことが好きなんじゃないかなーって」

海未「私と出会った頃はあんじゅの言動に胃が痛いって何度も口にしてましたけど」

海未「それは口だけで甲斐甲斐しく面倒をみてましたから」

海未「ただ、あんじゅ程かどうかは素直なじゃないにこですから分かりかねますが」

穂乃果「うんうん。にこちゃんの素直にならなさは筋金入りだし」

凛「でも、きちんと答えが出てると思うにゃ」

海未「どういうことですか?」

凛「陸上部の次期部長のシカコ先輩も随分と素直にならない人でね」

凛「でも稀に部長への信頼と尊敬が見え隠れする時があって、だから敏感になってるだけかもしれないけど」

凛「にこちゃんがツバサさんとの出会いを語っても尚、あんじゅちゃんとの出会いを語らないってことは」

凛「それってにこちゃんにとってあんじゅちゃんが特別ってことじゃないのかなって」

海未「――」

穂乃果「あ、確かにそうかも」

凛「凛の勝手な想像なのかもしれないけどね」

海未「恐らく……いえ、絶対に合っていると思います」

海未「ふふふっ。素直じゃないにこの分かり難い素直さですね」

穂乃果「海未ちゃんとっても嬉しそう」

凛「満面の笑みだね」

海未「綺羅ツバサを尊敬しているにこには悪いですが、私たち姉妹にとって綺羅ツバサは敵ですから」

海未「にこがあんじゅのことの方が特別と思っていることが嬉しいんです」

海未「ですが二人とも、このことは秘密にしておいてください」

ほのりん「どうして?」

海未「こういうことは口にしないのがいい女の条件だからですよ」

海未「なんて冗談です」

穂乃果「海未ちゃんが海未ちゃんらしくない冗談を!?」

凛「明日は季節外れ過ぎる雪かにゃ!?」

海未「なんですか二人してその反応は……」

穂乃果「そうなっちゃうくらい珍しいから」

凛「海未ちゃんって基本真面目だし」

海未「私だって冗談くらい言う時はあります」

海未「さ、好いこともありましたし練習を始めましょうか」

穂乃果「うん!」

凛「はーいっ!」

海未「ビッシビシいきますからね。まずは――」

○おまけ・姉チャマのヤンデレレベルをチェキー!○

海未「ヤンデレについて私も自分で調べてみました」

穂乃果「本当に海未ちゃんって真面目だよねー」

海未「それが私の性分です。ヤンデレにも浅さ深さがあるようですね」

穂乃果「へー」

海未「心理テストではありませんが一つ穂乃果に問題を出します。いいですか?」

穂乃果「うん、いいよ」

海未「私とことりが崖から落ちそうになっています。一人だけ助けることが可能かもしれません」

海未「二人を助けることは絶対に不可能です。さて、穂乃果はどうしますか?」

穂乃果「海未ちゃんとことりちゃんが……」

海未「ちなみに助けようとしなければ自分は絶対に安全です」

穂乃果「自分だけが助かるなんて出来ないよ。でも、どちらかなんて」

海未「穂乃果はどうしますか?」

穂乃果「……」

穂乃果「……」

穂乃果「…………。穂乃果はきっと二人を助けようとして一緒に落ちちゃうと思う」

海未「そうですか。ふふっ、私と同じ回答ですね」

穂乃果「えへへ。海未ちゃんも同じことを考えたんだね」

海未「普通に見れば間違いなのかもしれません。ですが、いざとなったらそう行動してしまいますから」

穂乃果「だよね!」

海未「この質問をあんじゅにしてみようと思います。相手をにこと絵里に変えて」

穂乃果「あんじゅちゃんのヤンデレ度チェックだね!」

海未「なんて答えると思いますか?」

穂乃果「考えた末にやっぱりにこちゃんを選ぶと思うなー」

海未「私は悩まずににこを選びそうな気がします」

そして、質問後...

あんじゅ「絵里ちゃんを助けるよ」

海未「即答ですか。しかもにこではなく絵里を?」

穂乃果「絶対にって使われてるから邪道を使ってもにこちゃんを助けられなくなるんだよ?」

あんじゅ「邪道を使うなら《助けられない=死ぬ》とは勝手な想像にしか過ぎないし」

あんじゅ「崖の下がどうなってるのかも分かってないわけでしょ?」

あんじゅ「助けられないが引き上げられないという解釈も出来るわけだから」

あんじゅ「崖下1メートルくらいに安全ネットが張ってあるってことも可能だよね」

海未「さ、流石邪道シスターズの参謀。出会った時を思い出します」

海未「では質問を変えましょう。助けられなかった方は絶対に死にます」

海未「逆に助けた方と引き上げるあんじゅは絶対に生き延びることが出来ます」

あんじゅ「それじゃあ駄目だよ。人間はいつか必ず死ぬんだよ?」

あんじゅ「その言い方だとその場で死ぬとは限らないからさっきと同じだよ」

穂乃果「あんじゅちゃんと一休さんの対決みてみたいかも」

海未「では助けなかった方は崖下二十五メートル下に叩きつけられて死にます」

海未「その場で助かってから何十年後とかいうオチはなしです。その場で死ぬことになります」

海未「これならどうですか?」

あんじゅ「答えは変わらないよ。私は絵里ちゃんを助ける」

穂乃果「にこちゃんじゃなくて?」

あんじゅ「絵里ちゃんで間違いないよ」

海未「にこが死ぬのですよ?」

あんじゅ「うん。でも、その時は私も一緒だから」

海未「は?」

穂乃果「えっ?」

あんじゅ「絵里ちゃんを助けたらにこと一緒に落ちてあげる」

あんじゅ「私は一生にこと一緒。だからにこが死ぬなら私も死ぬよ」

ほのうみ「……」

続・おまけ

にこ「何よその不吉な質問は」

あんじゅ「……すー……んぅ、すーはー……」

海未「不謹慎ですが心理テストですから」

にこ「ま、身体的な問題で私が助けられるのかってツッコミはなしにして助けるなら絵里ね」

穂乃果「あんじゅちゃんじゃないの?」

にこ「あんじゅを助けると絵里を見殺しにした罪意識で私が駄目になると思うのよ」

にこ「結局近い内に私が壊れて自殺しそう。そうなると間違いなくあんじゅは後追いしそうだし」

にこ「だったら絵里を助けてからあんじゅも助けようとして、一緒に落ちてあげる方がいいでしょ」

にこ「絵里は弱々しい面も多々あるけど、私たち姉妹の中では一番強くなれる逸材だと思うし」

にこ「妹達の行く末を見届けるまではって泥を啜ってでも生きてくれると信じてるから」

ほのうみ「……」

穂乃果(ね、海未ちゃん。この場合ってどうなの?)

海未(にこもあんじゅと同様ヤンデレの可能性があるということ……ではないでしょうか?)

穂乃果(そう、なのかな? ともかく凛ちゃんも交えて後で結果を出してみよう)

海未(是非そうしましょう)

にこ「よく分かんないけど、絵里にそんな質問するんじゃないわよ」

にこ「思い込みは海未同様に強いんだから。変に凹まれても困るし」

海未「ええ、大丈夫です」

にこ「ならいいけど。ほら、もうすぐ休み時間終わるから戻りなさい」

穂乃果「うん、それじゃあありがとうね」

海未「失礼します」

にこ「あんじゅ。次の時間は数Aだから寝てたら怒られるわよ。早く起きなさ~い」

あんじゅ「んー……おはよー。うっふふ♪」

にこ「何よ、寝起きなのに随分とご機嫌じゃない。何かいい夢でも見たの?」

あんじゅ「うふふ。なんでもな~い☆」

にこ「変な子ねぇ」

あんじゅ「にこ大好きっ!」

にこ「はいはい。私も大好き大好き」 完

◇レンタルショップイベントその1・時をかけられそうな穂乃果◇

※合宿前だけど店を継ぐことを告げた後の展開という矛盾には目を瞑ってください

――合宿直前 レンタルショップ ほのうみ

穂乃果「私とことりちゃんは恋愛物好きだけど、海未ちゃんキスシーンも直視出来ないからね」

海未「とっ、当然です! ああいうのは演技でしていいものではありません」

穂乃果「うーん……そうなると映画はやめておこうかなぁ。私この私物語面白そうだったのに」

海未「こちらの全米が泣いた話でいいではないですか」

穂乃果「全米と日本人の温度差は激しいからなー」

海未「アイドルとは感情の機微を豊かにしてこそです」

海未「それを温度差等という言葉で壁を作るのはいけません。三年生を見習ってください」

穂乃果「生まれ持っての感性の違いはしょうがないと思うけど」

海未「そういう考えが感動を妨げているというのです」

海未「勝手な先入観や自己評価は時として人をもどかしい気持ちにさせますよ」

穂乃果「……にこちゃんのことだよね」

海未「ええ。三年生はもう進路を明確にしていなければいけない時期です」

海未「にこが夢の時間を取り戻すのと現実のタイムリミット」

海未「それを考えると胸が苦しくなります」

穂乃果「それで今回のお泊まり会を発案したんだね。合宿前なのに不思議に思ってたんだー」

海未「ええ、一人だとどうしても嫌な想像が浮かんでしまいまして」

穂乃果「だったら今日だけでもそういうの忘れて楽しまないとね」

穂乃果「現実逃避って意味じゃなくて、心を休めてよりいい未来が浮かぶようにする為に」

海未「はい。いいことを言いますね」

穂乃果「たまにはね。これでも王子様だから」

海未「ふふ。偶にがいつもに変わればいいのですが」

穂乃果「これからに期待だね。どうせなら童心に帰ってみるのはどうかな?」

海未「童心に、ですか?」

穂乃果「うん。昔みたいに三人でアニメでも観ようよ」

海未「そうですね。こんな機会でもないとアニメを観ることもありませんし」

穂乃果「私も少女マンガは読むけどアニメって観ないし。その少女マンガも卒業だけど」

海未「マンガを集めるのをやめるのですか?」

穂乃果「うん。色々とあってね」

海未「穂乃果も段々と大人に近づいているのですね。感傷深いものがあります」

穂乃果「う、うん」

穂乃果(この先もうお小遣いが貰えなくなるから、買えなくなるだけなんだけどね)

海未「何を借りましょうか。やはり映画でしょうか?」

穂乃果「そうだね。続きものだと量が多すぎるし。映画くらいが一番いいと思う」

穂乃果「海未ちゃんは何か借りたい物ってある?」

海未「最近の作品は基本CMくらいでしか知りませんので、何を借りるかは穂乃果に任せます」

穂乃果「ダメだよー。一緒に探してこそ童心に帰れるんだよ」

海未「そうは言いますが昔から穂乃果とことりが好きな作品と私の好きな作品は分かれてましたし」

穂乃果「あー……海未ちゃんって基本報われない話系が好きだったから」

海未「心に沁みる話が好きだっただけで、その言い方だと不幸になるのを観るのが好きみたいではないですか」

穂乃果「おんなじようなものだと思うけど。今日は頑張って明るめの作品を目指そう!」

海未「どうして励ますように言うのですか!」

穂乃果「大丈夫だよ。時間掛っても平気だから。ことりちゃんはまだ練習中だし」

海未「そういう問題ではありません」

穂乃果「取り敢えず見てみようよ」

海未「そうですね。決められなければ穂乃果に何を言われるか分かりませんからね」

三十分後...

穂乃果「ねぇ……海未ちゃん。穂乃果が悪かったから、だからもう勝手に決めてもいい?」

海未「駄目です! 私が決めるまで待ってください」

穂乃果「もうお店入ってから三十分は経ってるよ。ことりちゃんの練習も終わっちゃうよー」

海未「ここで妥協しては邪道シスターズの名折れ」

穂乃果「名折れでも何でもいいよ」

海未「穂乃果には忍耐というものが足りません。もっと我慢することを覚えてください」

穂乃果「大切な言葉なのかもしれないけど、このタイミングで言われても説得力がないってば」

海未「あっ、これは」

穂乃果「今度は何? 『時をかける少女』ってどこかで聞いたことあるかも」

海未「元々は小説ですが、実写映画やドラマに何度かなっている作品です」

海未「それに数年前はこの映画のCMがやってたではないですか」

穂乃果「そうだったっけ? あんまり覚えてないや」

海未「穂乃果らしいですね。このパッケージに描かれているシーン」

海未「この空を飛んでいる少女を見る度に思い出します」

海未「小さい頃に穂乃果が何度も大きな水たまりを飛び越えようとしたあの日のことを」

穂乃果「あはは……我ながら意味のないことに夢中だったなぁ」

海未「ええ、確かに意味はありません。ですが、見事に穂乃果は成し遂げた」

海未「その時の穂乃果にそっくりなんです」

海未「今もし穂乃果が同じように飛び越えようとしたらこのパッケージにそっくりになる筈です」

海未「今度は水たまりではなく時を越えるのではないかと」

穂乃果「いくら似てるとはいえ穂乃果は時までは越えられないよ」

海未「いえ、穂乃果ならありえるかと」

穂乃果「何その根拠のない自信!?」

海未「ふふっ。穂乃果はにこ同様常識が通用しませんからね」

穂乃果「常識の範疇を遥かに超越しちゃってるってば!」

海未「ではもしもの話です。時を遡って過去の……そうですね、中学三年生の頃に戻ったとして」

海未「丁度ことりがUTXに行くことを後押しした後あたりがいいですかね」

海未「もしその頃の自分にアドバイス出来るとしたらアドバイスしますか?」

穂乃果「アドバイス?」

海未「そうです。もしアドバイスすれば私やことりより早くスクールアイドルになるという過去が出来るかもしれません」

穂乃果「そういうことかー。私は絶対にアドバイスしないよ」

海未「しないのですか? 落ち込む期間がなくなるのですよ?」

穂乃果「そうだね。あの頃は人生で一番つまらなかったって確信してる」

穂乃果「でもね、じゃあ必要ないものだったのかって言われるとそうじゃないんだー」

穂乃果「ああやって腐ってた頃があったからあの日が訪れたんだもん」

海未「あの日、ですか?」

穂乃果「海未ちゃんが穂乃果の為に歌ってくれたあの日だよ」

海未「にこの邪道が行われた部活紹介の日ですね」

穂乃果「穂乃果にとって一生で一番幸せだった日」

穂乃果「にこちゃんとあんじゅちゃん達ががんばってくれた王子様に変身出来る服」

穂乃果「絵里ちゃんが立場を失うリスクを持ってことりちゃんを連れてきてくれたこと」

穂乃果「穂乃果の為に早退してくれたことりちゃん」

穂乃果「さっきも言ったけど穂乃果の為に歌をくれた海未ちゃん」

穂乃果「なかったことにするなんて絶対にヤダ」

穂乃果「だから時を戻れたとしても過去を変えたりはしないよ」

海未「そうですか。穂乃果も成長したということですね」

穂乃果「まだまだ成長するよ。だから時を戻ってなんていられない」

穂乃果「寧ろ未来に跳躍しなきゃ。……そうだ、髪を伸ばそうかな」

海未「唐突になんですか?」

穂乃果「海未ちゃんみたいに長いストレートの髪型にして」

穂乃果「ことりちゃんの作ってくれた穂むらの制服を着て」

穂乃果「お父さんの味をきちんと受け継いで」

穂乃果「お母さんみたいに店番の時につまみ食いをして」

穂乃果「なんだかんだ雪穂も看板娘として手伝ってくれてさ」

穂乃果「たまににこちゃん達が会いに来てくれるついでにお買い物してくれて」

穂乃果「みんなに穂乃果の作ったお饅頭を美味しいねって言ってもらうの」

穂乃果「だから髪を伸ばそうと思う。うん、今決めた!」

海未「なんだか照れますね。しかし、いい話なのにおば様のところだけが残念過ぎます」

穂乃果「だってお母さんのいいところってないし」

海未「そんなこと言うとおば様に怒られますよ」

穂乃果「だって事実だもん――あ、ことりちゃんから電話」

穂乃果「もしもし……。うん、まだレンタル屋さんに居るよ。……うん、待ってるね」

穂乃果「ほら、海未ちゃんが決めないからことりちゃんの練習終わって直接こっちに来るって」

海未「レンタルの数が多すぎるから迷ってしまうんです」

穂乃果「言い訳はいいから早く決めてよ」

海未「分かりました。本気を出しますので任せてください」

穂乃果「あ、今の完全にフラグだ」

更に三十分後...

穂乃果「ねぇ~まだぁ?」

海未「も、もう少しです。もう少し待ってください」

穂乃果「海未ちゃんってこういう選ぶセンスが微妙だよね。パジャマも可愛くないし」

海未「なんですか其れは!? それにパジャマに可愛さを求める方がおかしいです」

海未「寝る時にリラックス出来る物として開発されたのがパジャマなんですよ?」

穂乃果「人に見せない部分にもお洒落するのがアイドルの嗜みだよ」

海未「……うっ。そ、そうですね」

穂乃果「絵本だって不幸の王子が好きだったじゃない」

海未「私が好きなのは幸福な王子です。何の関係があるのですか?」

穂乃果「海未ちゃんのセンスのないって話の続きだよ」

海未「ここに来てからも言いましたよ。心に沁みる話が好きなんです」

海未「センスがないなどと変な括りをつけないでください」

穂乃果「センスないと思うけどなー」

穂乃果「あの話って暗くなるから穂乃果は好きになれなかったし」

海未「こないだ調べ物があって図書館に足を運んだ際に読み直してみたんです」

穂乃果「絵本を?」

海未「ええ。多少恥ずかしさがありましたが、描いているのも大人ですからね」

海未「穂乃果の好きだったシンデレラもことりの好きだった眠り姫も読みました」

海未「他の絵本も何冊か読んで思ったんです」

海未「子供の頃に読んだ時と印象は変わりましたが、幸福の王子は素敵な話でした」

海未「でも、私の一番好きな絵本は足長おじさんになりました」

穂乃果「え? でも、足長おじさんってハッピーエンドだよね?」

海未「ですから私は心に沁みる話が好きだと言ってるではないですか!」

穂乃果「でも正反対じゃない?」

海未「そうかもしれませんね。ただ、影響されたんです。私の尊敬する姉に」

穂乃果「あっ、そうだよね。幸福な王子ってにこちゃんみたいだよね」

海未「ええ、凛を笑顔にする為に行った邪道の時のにこに似ていて」

穂乃果「穂乃果の勧誘と同じ邪道なのにあの日の邪道は本当に苦しかった」

海未「私もです。その所為で足長おじさんが好きになってしまいました」

海未「裏で暗躍し、最後にその正体がバレる。とても素敵で心が温かくなります」

穂乃果「自己犠牲なんかよりハッピーエンドだよね!」

海未「その通りです」

海未「それから話を少し戻しますが」

穂乃果「うん?」

海未「穂乃果が人生で一番幸せな日と言ってくれたあの日ですが」

海未「その切っ掛けとなったにこへの相談しに行く時ですが」

海未「何度も自分の正気を疑いました。あの頃はまだにこへの評価が低かったので」

海未「でも自分の直感を信じて勇気を出して相談しました」

海未「私に内緒であんな大掛かりな仕掛けをして……望んだ以上の結果を残してくれた」

海未「私にとってもあの日は忘れられない、掛け替えのない幸せな一日です」

穂乃果「海未ちゃん!」

ことり「それはことりも一緒だよっ♪」

海未「ことり!?」

穂乃果「ことりちゃん!」

ことり「お待たせしちゃったかな?」

穂乃果「ううん。まだ海未ちゃん決めてないから寧ろこれから待たせちゃうくらいだよ」

ことり「えぇっ!? まだ決めてないの?」

海未「……申し訳ありません」

ことり「ふふっ。じゃあ海未ちゃんが決めるまであの日の可愛い海未ちゃんの話でもしてようか」

穂乃果「そうだね。お姫様な海未ちゃんすっごい可愛かったもんね」

海未「やっやめてください!」

穂乃果「海未ちゃんが早く決めればいいだけの話だよ」

ことり「遅くても全然平気だよ。思い出話に花咲くだけだから♪」

海未「それは私が平気じゃありません。今すぐに決めますから!」

穂乃果「一時間以上迷ってる人の発言とは思えないなー」

ことり「くすっ。海未ちゃん、ファイトだよ!」

海未「応援よりもはや私の好きそうな物をことりが選んでください」

ことり「人任せなんて海未ちゃんらしくないよ。頑張らないと」

海未「嗚呼……実力主義のUTXに揉まれてことりが逞しくなってしまいました」

穂乃果「ほらほら。そんなこと言ってないで早く決めちゃってよ」

海未「……にこぉ」 完

◇外伝 ~商店街の娘~◇

――合宿問題解決後 商店街 にこあん

にこ「何だかいろんな人に助けられちゃったけど、気が楽になったわ」

あんじゅ「にこが歩んだ道には絆が広がっていくんだね」

にこ「私が歩んだ道に繋がる人が良い人達ってだけよ」

あんじゅ「そうかもね。その代表が私にこっ♪」

にこ「あんたは私の胃に一番悪い代表でしょ」

あんじゅ「刺激がない人生なんて退屈だよ? 私はにこの為に胃にも刺激を与えてあげてるんだよ」

にこ「そんな刺激は要らないわよ!」

あんじゅ「そんなこと言いながらにこの心と胃は私に鷲掴みされているのでした」

にこ「そんな事実は存在しないわ」

あんじゅ「いつも通り素直にならないね」

にこ「あたかも事実は違うみたいに言うんじゃないにこ!」

あんじゅ「うっふふ♪」

にこ「ま、そんなことより買い物よ。最近はゆっくりと商店街巡りも出来てなかったし」

あんじゅ「にこと巡る商店街のお散歩」

にこ「散歩じゃなくて買い物だってば」

あんじゅ「私にとってはどっちも同じだよ。にこと一緒なら何でもOKにこ☆」

にこ「呑気な妹ねぇ」

あんじゅ「妹は呑気なくらいが丁度いいんだよ」

にこ「そういうセリフは本人以外が言うから意味を成すんでしょ」

あんじゅ「私はにこと違って素直だから自分で言うスタイルなんだよ」

にこ「それは素直というよりただ図々しいだけよ」

あんじゅ「にこっ♪」

にこ「あんた今日は随分とテンション高いわね」

あんじゅ「心配事がなくなって私のテンションは青空仕様だから」

にこ「……青空の割に霹靂が常に伴ってそうね」

あんじゅ「にこが難しい単語をきちんとした意味を伴って言ってるなんて、これぞ正に晴天の霹靂」

にこ「なんですってー!?」

おじさん「おっ、元気な声を響かせてるってことは面倒事は全部済んだのかい?」

あんじゅ「あっ、こんにちは!」

にこ「判断基準が随分と気になるけど、おじさんこんにちは」

おじさん「二人とも清々しい笑顔でいいことだ」

あんじゅ「にこは笑顔の申し子だから」

にこ「変な設定追加しないでよね」

あんじゅ「にこが変だから大体の設定が許されるのはいいよね」

にこ「あぁん?」

あんじゅ「にこがスクールアイドルらしからぬ声を出してて怖いにこぉ」

あんじゅ「そうだ! 買い物終わったら何か不良系のドラマか映画でも借りようよ」

にこ「人を置き去りに勝手に話を進めるんじゃないわよ、この愚昧!」

おじさん「はははっ。相変わらず仲が良さそうでいいことだ」

あんじゅ「ふっふーん♪ 姉妹仲がいいで有名なにこあんだから」

にこ「なんで得意げなのか不明よ。あ、今日は奮発してお野菜多めに買うからお勧めをよろしく」

おじさん「毎度! で、にこちゃん。悩み事が解決したところ悪いんだけど一つお願いがあってね」

にこ「何かしら? 私で力になれることなら協力を惜しまないわ」

あんじゅ「にこだけじゃ力不足なら私も要るしね」

おじさん「ありがとうよ。お願いごとの前に一つ報告があってさ」

おじさん「この報告は身内以外では最初ににこちゃんにってみっちゃんが言っててな」

おじさん「まぁ、商店街のみんなにゃバレバレみたいだけどよ」

にこ「話が全然見えてこないんだけど。私に一番にってことは音ノ木坂関連かしら?」

あんじゅ「報告って言ってたし、身内の後だからそれはないよ」

にこ「あ、そっか。じゃあ何かしら?」

あんじゅ「では正解をどうぞ!」

にこ「どうしてクイズの司会者みたいになってるのよ」

おじさん「それで正解は…………」

にこ「なんでおじさんまで正解を溜めるのよ!」

あんじゅ「みんなに弄ばれる愛されにこにー♪」

にこ「そんな歪んだ愛なんて要らないわ!」

おじさん「はははっ。冗談はこれくらいにして、みっちゃんがおめでたなんだ」

にこ「えぇっ!? おばさんがおめでた!!」

あんじゅ「赤ちゃんが出来たって意味ですよね?」

おじさん「ああ、そういう意味だ。年齢的には遅いけど、漸く授かったんだ」

にこ「それはおめでとう! でも、どうして身内の後ににこに報告なの?」

おじさん「それなんだけどさ、少しばかり昔話に付き合ってもらってもいいかい?」

にこ「うん、勿論にこよ」

あんじゅ「にこと同じく」

おじさん「ありがとう。結婚してからけっこう経ってから発覚したんだけど」

おじさん「みっちゃんって子供が授かり難い体質だったんだよ」

おじさん「俺もみっちゃんも子供が欲しいってよく言ってたから其れを知った時よりショックだったんだろう」

おじさん「本気で離婚を言い出して、どうにか離婚しないようにと宥めてたんだけど」

おじさん「それも限界を迎えて。いよいよ本当に離婚させられそうなくらいだったんだよ」

おじさん「ほら、みっちゃんって我が強いから」

にこ「というかおじさんがおばさんの尻に敷かれすぎてるだけじゃない?」

おじさん「違いねぇ」

あんじゅ「人に言うけどにこも私の尻に敷かれてるよね」

にこ「そんな訳ないでしょうが! それでどうなったの?」

おじさん「もう駄目かと諦めた頃だよ。一度離婚しても同じ相手と再婚出来ない訳じゃない」

おじさん「そう考えて心の傷を癒してくれればって。今思えば逃げだったんだけどさ」

おじさん「そんな俺とみっちゃんを救ってくれる存在が商店街にふと現れたんだよ」

おじさん「無邪気で誰にも笑顔を浮かべる好奇心の塊のアイドルがさ」

あんじゅ「それってもしかして今とあまり身長が変わらないにこ?」

にこ「前置きがおかしいし、あの頃よりは断然大きいわよ!」

おじさん「いや、あの頃と変わらなかった気もするなー」

あんじゅ「ほらほらほら!」

にこ「なんで得意気なのよ!? あんじゅの悪ふざけに乗るんじゃないニコ!」

あんじゅ「おじさんの照れ隠しなんだから察しないと」

にこ「あ、なるほど」

おじさん「そういうのは本人の前では言って欲しくないなー」

おじさん「ちょこちょこと現れるにこちゃんのお陰でみっちゃんの心が癒されて」

おじさん「離婚届も消えて、いつも通りの仲のいい夫婦に戻れてたんだよ」

にこ「でも少子化とはいえ商店街に子供は何人も居るじゃない」

おじさん「違うんだよ。誰々の家の子って分かってるとさ、他の子なんだ」

にこあん「んー?」

おじさん「にこちゃんは突然現れたからこそ、自分の子みたいに思えたってことさ」

おじさん「今は矢澤にこってフルネームを知ってるけど、当時は名前だけしか知らなかったから」

おじさん「寧ろそれが良かったんだろうなー」

おじさん「当然今でもにこちゃんは俺たちにとってはファミリーだ」

おじさん「だからこそにこちゃんが困ってる時は必ず力になるって決めてるんだ」

にこ「実際に穂乃果の勧誘に絶対不可欠の衣装作りは助かったわ」

あんじゅ「おじさんの手先の器用さがなければ完成出来なかったもんね」

にこ「あんた完成の瞬間は夢の中だったけどね!」

あんじゅ「うふふ。起きたらにこに膝枕されてたにこ☆」

にこ「だけど二人にそんな出来事があったなんて全然知らなかった」

おじさん「子供には知られたくない話だったし」

にこ「今聞かされてるけど」

おじさん「もう立派なレディだからな」

あんじゅ「にこがレディって冗談はともかく、にこは子供の頃からカリスマ性があったってことだね」

にこ「ちょっと! なんで真実が冗談で間違いないって反応なのよ!」

あんじゅ「和毛」

にこ「もういいわよ……体質なのかしら?」

あんじゅ「気にしないで。にこはない方が似合ってるから」

にこ「全ッ然! 嬉しくないニコ!!」

おじさん「それでさ、お願いの話に戻るんだけどいいかな?」

にこ「ああ、そうだったわね。で、何かしら?」

あんじゅ(この流れってもしかして……)

おじさん「みっちゃんと二人で話し合ってな、にこちゃんに決めて欲しいんだ」

にこ「決める?」

おじさん「ああ。俺たちの子供の名前を」

にこ「にこにこ!?」

おじさん「俺たちが別れずに済んだからこそ授かれた子だ。つまりにこちゃんのお陰なのさ」

にこ「だからって二人で考えるべきにこよ」

おじさん「二人で考えて出した答えなんだ。頼む、この通り」

あんじゅ(やっぱり。思い出話をして断れない状態にしてからお願いを公開する)

あんじゅ(大人のやり方。私の邪道なんてやっぱり子供の遊びに過ぎないのかな……)

にこ「わっ、分かったから! 頭なんて下げないでよ!」

おじさん「ありがとうよ。まだ男の子か女の子か分からないんだけどさ」

にこ「……分かった。色んな人に話を聞いて、色々と考えて名前を考えてみる」

おじさん「ああ、頼むよ」

実際ににこは大下剋上にラブライブに合同学園祭。

忙しさの中でもふとした時に名前を考え、メモ帳に記入していく。

秋も深まった頃、性別が女の子だと判明する。

商店街の人たち

メンバーや学院の子たち

尊敬するライバルであるツバサ

勿論大切な姉妹たち

多くの人たちに相談し、頭を悩ませ

冬になり漸く二人に考えた子供の名前を届けることが出来た。

自分の名前からも一文字取って夢子。

キラキラネームが多い現在では少し古い名前になるかもしれない。

それでも夢を持つ子であって欲しいという願いを込めてそう名付けた。

夢とはとても大きくて、ふとした瞬間に壊れてしまう脆いもの。

でも簡単に手放さないで夢を叶えて欲しい。

夢を諦めたスクールアイドルが願う想いの籠った名前。

その子はやがて名前に恥じぬ大きな夢を叶えるのだけど、それはずっと未来の話。 おしまい

>>720

海未「どうせならば合宿の時に雪穂と亜里沙も練習を与えればよいのではないですか?」

にこ「いきなり何を言い出すのよ」

穂乃果「そうだよ海未ちゃん」

海未「当然同じメニューとはいきません。こころちゃんとここあちゃんのこともあります」

海未「ですので、あのお二人も楽しめるような練習メニューを組むんです」

絵里「そんなメニューあるかしら?」

海未「我らが長女のエリーチカならば妹達を喜ばせる為に制作出来ると私は信じています」

絵里「ふふふっ。ええ、その通りよ! このかしこいかわいいエリーチカに任せなさい」

にこ「任されてんじゃないわよ!」

穂乃果「あははっ。さすが絵里ちゃんだねぇ」

凛「でも、中学生なのにスクールアイドルの練習してもいいのかな?」

絵里「大丈夫よ。公式がオッケー出したんだから」

にこ「公式? 公式って何よ。ラブライブ本部はそんな許可出してないわよ」

海未「映画でハッキリと言質を取りましたからね。中学生でも大丈夫、と」

にこ「映画でって更に意味が分かんないっての!」

あんじゅ「凛ちゃん。海未ちゃんも中学生からやってたんだし今更だよ」

穂乃果「ことりちゃんもだよ。それから別世界の凛ちゃんと花陽ちゃんもそうだったよね」

凛「そういえばそっか。あの世界線だと中学生だったもんね」

海未「ということで部長のにこ。どうでしょうか?」

にこ「どうも何もあんじゅ以外の発言がカオスにこ!」

変過ぎる夢から覚めると、目の前にあんじゅの寝顔があった。

「んー……にこのほっぺおいしいにこ」

あんじゅの寝言に現実に戻ってきたんだと胸を撫で下ろす。

そして、カオスなあんじゅの発言にツッコミを入れずに微笑む辺り、にこは完全に毒されていた。


みたいなやつのシリアス版でフラグを立てておく必要がありました

なかったということは、四年目はないです

それにA-RISEも芸能科からルーキー入れてあげないと、UTX学院芸能科が余りにも可哀想なので

佐藤「つまりわたくしの出番……というところでしょうか?」

何よりも未熟者なのでにこ(もしくはにこを支える者)が主人公じゃないと長編は無理です

最後に四年目にありそうなイベント(雪穂と亜里沙加入後の五月初頭)

穂乃果「……あ、またSMILEの順位が下がってる」

凛「いつになったら止まってくれるんだろう」

亜里沙「これって亜里沙と雪穂が入ったからなのかな?」

海未「それはありません」

雪穂「でも、実際に順位が下がってるし。他のグループは新メンバー加入しても順位を落としてないから」

海未「仕方ないことです。SMILEはにこ達前三年生が一代で築き上げたグループ」

海未「だからこそ、背景を持たぬ学院や背景を持つ学校より劣って見えてしまうのです」

凛「つまりにこちゃん達が凄すぎたにゃー」

穂乃果「そうだよね。特ににこちゃんのカリスマ性はずば抜けてたもんね」

海未「ええ。だから雪穂と亜里沙が気にすることはありません」

亜里沙「……だけど」

雪穂「気にするなと言われても気になるよね。敬語禁止より気になる」

穂乃果「さん付けと敬語禁止はSMILEの伝統だから」

凛「伝統と言ってもまだ二代目――じゃなかった、三代目だけど」

穂乃果「それよりも対策を練らなきゃ。偉大すぎる意外にも何か原因があると思うんだよ」

海未「…………ストの差です」

穂乃果「えっ?」

海未「バストの差だと言ったのです。二度もこんなこと言わせないでください!」

凛「バストの差?」

雪穂「確かに私と亜里沙は標準より若干小さいけど」

亜里沙「おっぱいが原因なの?」

雪穂「亜里沙。年頃なんだからおっぱいって言うのはやめよう」

凛「あんじゅちゃんと絵里ちゃんは確かに大きかったもんね」

穂乃果「そう言えばことりちゃんは今年になってからまた胸が大きくなってた」

凛「それならかよちんもだよ」

海未「アイドルとは艶もまた必要。そういう点で我々には代わる武器を手に入れなければなりません」

海未「もしくは……バストアップ作戦です!!」 チャンチャン★


――次回は本当に早く更新します!

・絵里誕
・ママといっしょ!
・にこはフラグ一級建設家
・レンタルショップ

次回でリハビリおしまいです。あ、A-RISEサイドの誰かの話も入れる可能性もあります

◇レンタルショップイベントその2・あんじゅの原点◇

――合宿前 レンタルショップ にこあん

にこ「さてと。おちびちゃんたちのリクエストのプリズムナナAはあったし」

にこ「次は私たちが何を借りるかね。あんじゅは何か借りたい物ある?」

あんじゅ「最近マンネリ化してきた気がする」

にこ「あんたが借りるジャンルが偏ってるだけでしょ」

あんじゅ「だからここは童心に帰ってみようと思うの」

にこ「ふむ、つまり?」

あんじゅ「私達もアニメを借りようよ」

にこ「アニメ……ねぇ。別に文句はないけど、あの子たちといつも観てるでしょうが」

あんじゅ「今のアニメじゃなくて昔の借りようよ。懐かしいのがいいな」

にこ「セーラームーンとか?」

あんじゅ「有名だけど私達の生まれる前にこ! あ、でもなんか主人公ってママに声が似てるよね」

にこ「自分で言ってなんだけど声まで覚えてないわ」

あんじゅ「うふふ。にこってば相変わらずおバカさんだよね」

にこ「なんでよ!?」

あんじゅ「考える前に口から言葉が出ちゃうのがにこらしくて安心するけど」

にこ「あんたはにこを弄り過ぎよ。それこそマンネリだわ」

あんじゅ「事実も熟年姉妹の域になってきたってことだね♪」

にこ「全然違うわよ! それに熟年姉妹って何よ?」

あんじゅ「熟練姉妹の意味は次号の新聞の記事で載ってるよ。先に原稿チェック手伝ったから」

にこ「なんであんたがチェックしてんのよ!」

あんじゅ「記事内容が内容だけに当人の許可が必要だっていうから。勿論OKサイン出しておいたにこ♪」

にこ「いやいや熟練姉妹って単語が出てるのにOK出すのはおかしいでしょうが」

あんじゅ「隠すような関係じゃないからいいかなって」

にこ「隠す隠さない以前に……もういいわ。あんたに口で勝てるとは思わないし」

あんじゅ「まるで何か一つでも私に勝ってる部分があるような言い方」

にこ「家事が未熟な時点で劣ってるでしょ」

あんじゅ「そうだった。にこには家事という唯一の特技があったんだよね」

にこ「唯一って何よ。他にもたくさんあるでしょうが」

あんじゅ「えっ!?」

にこ「何そのマジ驚き。本当に他にはないみたいじゃない」

あんじゅ「にこのふてぶてしい思い込みにあんじゅは驚きを隠しきれない」

にこ「ふてぶてしくないわよ! 事実でしょうが」

あんじゅ「そうだね。そうだよね。そうに違いないね」

にこ「事実はそうじゃないけどそういうことにしておこうオーラは何よ!?」

あんじゅ「そんなことよりも何借りようか? 今話題に出たセーラームーンにする?」

にこ「もはや完全になかった話題にされてるし!」

あんじゅ「そうだね、にこには誰にも負けない弄られ役という特技があったね」

あんじゅ「にこにー最強奥義のスルーされるもあるし」

にこ「そんな奥義はない!」

あんじゅ「あ、これ面白そう。今の時代にスケ番だって」

あんじゅ「そうだった。にこには家事という唯一の特技があったんだよね」

にこ「唯一って何よ。他にもたくさんあるでしょうが」

あんじゅ「えっ!?」

にこ「何そのマジ驚き。本当に他にはないみたいじゃない」

あんじゅ「にこのふてぶてしい思い込みにあんじゅは驚きを隠しきれない」

にこ「ふてぶてしくないわよ! 事実でしょうが」

あんじゅ「そうだね。そうだよね。そうに違いないね」

にこ「事実はそうじゃないけどそういうことにしておこうオーラは何よ!?」

あんじゅ「そんなことよりも何借りようか? 今話題に出たセーラームーンにする?」

にこ「もはや完全になかった話題にされてるし!」

あんじゅ「そうだね、にこには誰にも負けない弄られ役という特技があったね」

あんじゅ「にこにー最強奥義のスルーされるもあるし」

にこ「そんな奥義はない!」

あんじゅ「あ、これ面白そう。今の時代にスケ番だって」

にこ「って! 言ってる傍からまさかのスルー!?」

あんじゅ「にこってば何を一人ボケ一人ツッコミしてるの?」

にこ「あんたと会話してるんでしょうが!」

あんじゅ「うふふ。本当ににこは可愛いね。骨までしゃぶりたくなるくらい」

にこ「前後の繋がりがおかしいニコ!」

あんじゅ「ぺろぺろ★」

にこ「想像すると恐ろしいからその擬音やめなさい」

あんじゅ「……傍に居るよ」

にこ「ヤンデレな妹の最近のマイブームが怖い件でスレッドを立てたらどんな流れに試してみたくなってきたわ」

あんじゅ「ヤンデレならしょうがないねって言われるのがオチだね」

にこ「何そのヤンデレに理解ある世界」

あんじゅ「病むくらい人を好きになれるって凄いことだと思うよ」

あんじゅ「自分の心の容量をオーバーするくらいの好きが溢れるなんて普通はありえない」

あんじゅ「どこかで無意識にセーブして溢れないくらいで終わるのが普通だよ」

あんじゅ「つまりヤンデレとはこの世で最も尊い純愛にこっ!」

にこ「本当に病んでる人間の思考みたいで恐いわよ! ある意味恐人だわ」

あんじゅ「今にこ《きょうじん》のことを恐れさせる人って書いてきょうじんって読ませた?」

にこ「そうだけど」

あんじゅ「違うよ! 紅蓮女のきょうじんは脅かす人できょうじんだよ。脅人!」

にこ「別にどっちでも発音はおんなじなんだしいいじゃない」

あんじゅ「紅蓮女のステマな私には許せないの」

にこ「はいはい。脱線しまくりだけど何借りる?」

あんじゅ「全然反省してない。今夜猿夢を見ても助けてあげないからね」

にこ「夢の中じゃ助けに来ようがないでしょ」

あんじゅ「ヤンデレな私なら可能だと思うの」

にこ「……確かに。あ、いや待って。ここで納得すると忘れた頃にフラグだったとかになりそう」

あんじゅ「にこってばフラグ脳だよね。何でもかんでもフラグに直結するなんて病気みたい」

にこ「あんたの影響でしょうが!」

あんじゅ「こうして考えるとにこは私に色々と毒されてるね」

にこ「そうね。色々と毒されてるわね。得意料理もいつの間にかカレーになっちゃってるし」

あんじゅ「今年のニコ屋も繁盛するといいなー」

にこ「合同学園祭だからカレー屋やるのか分からないけど」

あんじゅ「やらないなんて選択肢はないよ。絶対にやるの」

にこ「でも前日はUTXの方の学園祭で色々とやるし見るだろうから作る時間がないと思うのよね」

にこ「A-RISEのライブもあるしね!」

あんじゅ「むぅ~」

にこ「なんで頬を膨らませてるのよ?」

あんじゅ「べつにー」

にこ「変な妹ね。ほら、スケ番がなんだって?」

あんじゅ「そうそう、これ面白そう。木刀持ってるのに飛び蹴りしてるんだよ」

にこ「木刀の意味がないじゃないの」

あんじゅ「スケ番バトル。青春という名の成長。変わってしまった友情。伝わる想い」

あんじゅ「なんか面白そう。このB級感が胸をくすぐる」

にこ「壮絶な地雷臭ね。そもそもスケ番ってママの時代ですら過去の物だったんじゃない?」

あんじゅ「でも格好良いよね。チェーンの絵里! ちなみにポニーテールは鎖で結ってるの」

にこ「なんだか物騒だけど金髪だけにそういうの似合ってそう。でも重くて首が凝るわよ」

あんじゅ「長刀のあんじゅ! 常に長刀を持ち歩いてるの」

にこ「そういえばまた見てみたいわね。あんたと海未の長刀対剣道の勝負」

あんじゅ「う~ん……海未ちゃんはずっと続けてるだけに勝ちへの道が見えないんだよね」

あんじゅ「リーチ的には長刀は有利なんだけど、それだけじゃ足りないくらいの差があるし」

にこ「でも十分攻めてたわよ。正直カッコ良かったし」

あんじゅ「ふっふーん♪ そうまで言うならラブライブ終わってから海未ちゃんとやってみる」

にこ「人のことを単純とかいうけど、あんたも私に毒されてるわよね」

あんじゅ「姉の駄目なところを真似てしまう妹っていうのは傍から見ると可愛いんだよ」

にこ「計算高い女アピールしたところで意味ないわよ。で、私はどうなの?」

あんじゅ「どうなのって、にこが計算高いわけないじゃない!」

にこ「真顔で検討違いな否定してるんじゃないわよ! チェーンと長刀ときて次は私でしょ?」

あんじゅ「なんだそっちかー。逃げ足のにこ!」

にこ「なんで私だけ明らかにザコなのよ!」

あんじゅ「だってにこってツインテール以外武器ないんだもん」

にこ「にこのツインテールは武器じゃないわ」

あんじゅ「そう言うと思ったからもう逃げるしかないかなって」

にこ「他にも何かあるでしょ。にこに相応しいやつが」

あんじゅ「んー? ……あっ! 成程ね。確かににこに相応しいものがあるね」

にこ「そうでしょそうでしょう」

あんじゅ「まな板のにこ!」

にこ「悪化してるし!」

あんじゅ「家事が得意っていう流れがこんなオチを生むフラグになってたなんてね」

にこ「あんたのフラグは悪意ある強制フラグじゃないの!」

あんじゅ「でもにこの純粋なフラグ建設能力には負けるけどね」

にこ「要らない物ばかり私に付加するんじゃないわ」

あんじゅ「にこはどうして自分のことになると無自覚モードになるにこ?」

にこ「そんな妄言はいいから。さっさと決めましょう」

あんじゅ「アニメじゃないけどひきこさん今度は貞子と戦ってたね」

にこ「ああ、そうね。口裂け女にこっくりさんといい現代の都市伝説で一番行動派ね」

あんじゅ「次は何と戦うのかな?」

にこ「有名どころで言えば一人かくれんぼの子だけど、名前がないとインパクトがないし」

にこ「そうなると八尺様かしらね」

あんじゅ「意外と鋭い推理! でも私は次の相手は紅蓮女だと思うの」

にこ「いや、あれは人間じゃない」

あんじゅ「紅蓮女は一応設定としては生霊扱いも出来るから。私としては望霊として戦う方かな」

にこ「紅蓮女はお腹いっぱいよ。おちびちゃん達がお腹空かせちゃうから早く決めるわよ」

あんじゅ「はぁい。…………あっ! にこ、これ借りよう」

にこ「ん? クレアの秘宝伝。ああっ、小さい頃に観た覚えがあるわ」

あんじゅ「にこも観たことあるんだ」

にこ「毎週楽しみにしてたんだけど、内容はうろ覚えね」

あんじゅ「エンディング曲は覚えてる?」

にこ「んー覚えてるようなないような」

あんじゅ「こういう曲だったんだけど――」

にこ「――ああ、確かにそういう感じの曲だったわね。当時の私は好きだったわ」

あんじゅ「名曲だよね。そしてね、この曲こそが私がSMILEの力になれるようになった原点!」

にこ「このアニメが原点ってどういうこと?」

あんじゅ「私ってね、すっごく意外に思うだろうけど小さい頃は凄く活発だったの」

にこ「別に意外でもなんでもないんだけど」

あんじゅ「えーっ!?」

にこ「素で驚かれても困るし。だってあんた陸上部次期部長にも短距離で勝つし」

にこ「長刀に見たことないけど合気道も学んでたんでしょ?」

にこ「ダンスだって上手いし。これを活発と言わずして何を活発というのよ」

あんじゅ「言われてみると……そうかも」

にこ「いつか合気道も見せて欲しいわ。なんかカッコ良さそう」

あんじゅ「いいけど。いくらにこがMだからって、投げられたら痛いよ?」

にこ「見せてって言ってるじゃない。なんで私が受ける側になってるのよ」

あんじゅ「芸人体質だからそういうフラグなのかなって。邪推しちゃった★」

にこ「わざとらしいウインクなんて要らないわよ!」

あんじゅ「でも空手と違って相手が居ないことには披露出来ないよ」

あんじゅ「合気道は相手の力を利用して自分の技を使う物だから」

あんじゅ「それでも見たいなら……やはりにこを投げるしかないよね!」

にこ「体を張る理由がないわ!」

あんじゅ「痛みを通じて私の愛をにこが感じるという壮大な理由があるけど?」

にこ「ないっての! で、エンディング曲がどうしたって?」

あんじゅ「あ、そうだった。活発なだけじゃなくてね、性格も我がままだったんだけど」

にこ「今も充分我がままじゃないの。ということは小さい頃からあんたは全然変わらないわね」

あんじゅ「その反応は完全に想定外」

にこ「自分のことを理解してるようで、意外と自分が一番理解出来てないのよねぇ」

あんじゅ「私は解ってます的な顔をされると反論したくなるけど」

あんじゅ「でも、にこ自身がその理論に当て嵌まってることを考えると反対しない方がいいのかも」

あんじゅ「意外とにこってば策士」

にこ「よく分かんないけど話が脱線し過ぎよ」

あんじゅ「にこの所為でしょ!」

にこ「ふっふーん♪ たまには私があんたをからかわないとね」

あんじゅ「ぐぬぬ!」

にこ「それで話の続きを語るといいわ」

あんじゅ「上から目線のにこに私は確かな殺意を感じたと事件の後に告白するにこぉ」

にこ「何その殺人予告!?」

あんじゅ「話の続きだけどエンディング曲のピアノヴァージョンが時々流れたんだけど覚えてる?」

にこ「超恐いフラグをスルーするんじゃないわ!」

あんじゅ「うっふふ♪ にこはそうやって私に弄ばれてるのが一番☆」

にこ「ぐぬぬ!」

あんじゅ「私ね、一度ピアノ習うの辞めたの。長刀と合気道と違ってつまらなくて」

あんじゅ「それに指の動きが左右違うっていうのが難しくて」

にこ「あー確かに。ピアノって指の動きがカオスだものね」

あんじゅ「盤上は混沌の逆で全てが整った世界だよ」

にこ「あくまで私のイメージよ」

あんじゅ「気持ちは少し分かるけどね。だからこそ辞めたんだし」

あんじゅ「でも、このエンディング曲のピアノヴァージョンが本当に好きで」

あんじゅ「自分の手で再現したくて。もう一度ピアノを習ったんだよ」

あんじゅ「うん。辞めたままでいたらSMILEの力にはなれなかった」

にこ「原点は言い過ぎかと思ったけど、意外な物が今に繋がってるのね」

あんじゅ「それに歌詞が私とにこみたいなの」

にこ「聴いてみるのが恐ろしいわね」

あんじゅ「なにそれー。でも、にこは泣き虫だから感動して泣いちゃうかも」

にこ「泣くわけないでしょ。にこは泣かない子なんだから」

あんじゅ「……ソウダネ」

にこ「棒読み辞めなさいよ。私が嘘吐いてるみたいに聞こえるじゃない」

にこ「にこは強い子なんだから!」

あんじゅ「自分のことを理解してるようで、意外と自分が一番理解出来てない」

あんじゅ「さっきの言葉を自らの言葉で実証するにこのそんなところ好きだよ」

にこ「それだと私が弱い子ってことになるでしょ」

あんじゅ「私が守ってあげるから大丈夫♪」

にこ「はいはい。寝言は夢の中で言いなさい」

あんじゅ「夢の中だと寝言じゃないよ」

にこ「細かいことは気にしないの。どんな曲か気になるからさっさと借りて帰りましょう」

あんじゅ「むぅ~むぅ~」

にこ「……妹は姉に守られる存在なのよ。無理して強くなる必要なんてないの」

あんじゅ「えっ? 今何か言った?」

にこ「なんでもな~い」

あんじゅ「真似っ子するのよくないニコ!」

にこ「今も私の真似してるあんたに言われたくないニコ!」

あんじゅ「プンプンモードだから手を繋いでくれないとここから動かないもん」

にこ「まったくもう! 我がまま妹なんだから。ほら、あんじゅ。行くわよ」

あんじゅ「うん! うふふ♪」

にこ「本当に単純なんだから」

あんじゅ「二度も振るなんて今日のにこは一味違う」

にこ「あんたがやるマンネリ防止ってやつよ」

あんじゅ「じゃあにこの振りにさっきとは違う答えで返さなきゃね」

あんじゅ「良いことも悪いことも影響されちゃうのが好きの魔法なんだよ」

にこ「ま、そうかもね。それが好きの魔法であり、家族の絆ってやつよ」

あんじゅ「なんか今なら分かる気がするの」

にこ「んー?」

あんじゅ「ピアノをもう一度習ったことがにことの運命を生んだんだって」

あんじゅ「諦めたままでいないで良かったって」

にこ「……」

あんじゅ「いつかにことこの気持ちを共有したいな」

あんじゅ「ううん。未来の私とにこは絶対に共有してる」

あんじゅ「そして言うの。あんじゅがピアノを諦めなかったからにこも夢を諦めなかった」

あんじゅ「あんたは私の最高の妹よって」

にこ「あんじゅ」

あんじゅ「でもまだその時じゃないから、いっぱい迷っていっぱい考えよう」

あんじゅ「合宿もあるし、出れるか未定だけどラブライブ本戦もあるし」

あんじゅ「その先には合同学園祭もあるんだし。ターニングポイントになりそうなイベントは盛り沢山」

あんじゅ「本当は私がこうして手を繋いだまま夢の元まで引っ張っていければいいんだけどね」

にこ「不甲斐ない姉で悪いわね」

あんじゅ「にこは誰より真っ直ぐだからしょうがないよ」

あんじゅ「今日のところはクレアの秘宝伝を観て楽しもう」

にこ「くすっ。ええ、そうね。今が楽しめなきゃ未来だって楽しめないものね」

あんじゅ「うん! 明日も明後日もその先も。ずっと晴れでありますように」 (完)

◆今はまだ立たぬフラグ◆

――部室 練習前 SMILE

凛「にこちゃんにお願いがあるの!」

にこ「凛がお願いなんて珍しいわね。出来ることなら力になるわ」

凛「ありがとう。部長さんって部活関係なしに頼りになるね」

絵里「にこが頼りになる……ですって!?」

あんじゅ「今ありえない幻聴が聞こえたにこ!!」

にこ「なんでわざわざ要らない発言挟んでくるのよ!」

絵里「姉としての義務かと思って」

あんじゅ「にこを弄れる時にスルーするのは妹として失礼かなって」

にこ「全然失礼じゃないし、そんな義務捨ててしまいなさい!」

海未「にこは本当に愛されていますね」

にこ「これが愛だなんて言うのなら、愛など要らないわ!」

あんじゅ「愛深き故に愛を捨てたスクールアイドル・にこにー!」

にこ「何それ!? ちょっとカッコ良いじゃない」

穂乃果「でも、愛と笑顔を与えるのがスクールアイドルなんだから、愛を捨てたら駄目なんじゃない?」

海未「確かにそうですね。ファンを要らないと言うようなものですし」

絵里「にこってば最低ね」

あんじゅ「スクールアイドル失格ニコ!」

にこ「あんじゅの所為で他のメンバーが完全に毒されてる。凛はこんな風になるんじゃないわよ」

凛「うん! でも、お願い聞いてくれなきゃ敵に回るにゃー」

にこ「なんて悪女!」

凛「あははっ。勿論冗談だよ☆」

海未「凛は順応性が高いですね」

あんじゅ「凛ちゃんならいつか私を超える悪女になれる気がする」

穂乃果「あんじゅちゃんって悪女だったの?」

絵里「確かに悪女と言われれば納得出来るわよね。にこを持て遊ぶ様とか」

にこ「だったら最近のあんたも充分悪女でしょう」

絵里「にこに悪女と言われると悪い気がしないわ」

にこ「なんでよ!?」

海未「それで凛のお願いとはなんですか?」

凛「合宿の時のことなんだけど」

にこ「私へのお願いなのに私抜きで話が進んでる!?」

穂乃果「なんかもうにこちゃんはスルーされて然るべきって感じだよねぇ」

にこ「何をお茶飲みながら呑気に悟ってるのよ!」

あんじゅ「もぐもぐ……正にそれこそ宇宙の真理にこ♪」

にこ「あんたはあんたで練習前にほむまん食べてるんじゃないわよ」

凛「凛ね、どうしても観たいテレビがあるの!」

凛「勿論お家で録画してもらうんだけど、生放送だからリアルタイムで観たくて」

凛「携帯電話で確かにワンセグがついてるから観えるけど、普通のテレビで観たいの!」

絵里「なるほどね。テレビの存在をすっかり忘れてたわ」

あんじゅ「毎週観てる番組とか当然あるもんね。こころちゃんとここあちゃんにもあるし」

海未「ニュースはネットの記事でも読めますが、番組となると別でしょうからね」

にこ「流石の音ノ木坂でもテレビなら複数台あるから使用許可さえ取ればいいだけだし」

にこ「私と絵里で責任持って許可をもらっておくわ。安心して」

凛「ありがとう!」

穂乃果「それで凛ちゃんは何をそんなに観たかったの?」

凛「全日本ラーメンフィスティバル王者決定トーナメント決勝戦!!」

あんじゅ「食べるだけじゃなくて、ラーメン観るのも好きなんだ」

凛「うん。美味しそうにラーメン食べる姿はやっぱり気持ちが弾むんだー」

凛「それに生放送は今回が初めてなんだよ」

凛「決勝戦に上がってきたのが歴代防衛記録タイの王者梅屋メン」

凛「女性で初の決勝戦まで上り詰めた挑戦者メンジョルノ」

凛「梅屋メンが勝てば連続防衛新記録。メンジョルノが勝てば初の女性王者」

凛「見逃せない戦いがそこにあるニャ!」

穂乃果「おぉっ! なんか穂乃果もワクワクしてきちゃったよ!」

絵里「穂乃果の気持ち分かるわ。私も是非観たくなってきた」

絵里「勿論同じ女性としてメンジョルノって人を応援するわ!」

海未「穂乃果は昔からですが、意外と絵里は流され易いですよね」

あんじゅ「というかエリーちゃんは意外と根が熱血だから」

にこ「何はともあれ凛、ありがとう。不満を与える要素を事前に取り除くことが出来るわ」

にこ「主にうちのおちびちゃん達が駄々こねることなくて助かったにこよ」

凛「ううん。凛もリアルタイムで観れそうで安心したよ」

にこ「今日は無理でも、明日には許可を取っておくから。取れたら真っ先に凛に報告するわ」

凛「ありがとう! それじゃあ、凛は陸上部の練習に行くからみんなも頑張ってね!」

絵里「きちんと柔軟体操をするのよ」

海未「怪我には気をつけてくださいね」

穂乃果「屋上から応援してるね」

あんじゅ「シカちゃんによろしく」

にこ「凛も頑張ってきなさい」

――屋上 休憩中

穂乃果「おぉ~。こうして見ると本当に凛ちゃんって足が速いよね」

海未「そうですね。素質もありますが、こちらの練習も陸上部の練習もしっかりとやっている証拠です」

絵里「身体の負担が心配だけど」

あんじゅ「凛ちゃんの練習メニューは抑え気味だから平気だとは思うけど」

にこ「合宿中も凛の挙動はみんなでしっかり確認しておきましょう」

にこ「少しでも無理してそうだったら強制的に休ませること」

にこ「後遺症でも残るようなことがあったら一生を掛けたって償えないし」

絵里「少し大げさかもしれないけど、短距離走をしてるから足への負担は大きいし」

海未「肉離れが恐いですね」

穂乃果「後遺症とかなくても、こっちの練習の怪我で陸上の大会に出れなくなったりしたら申し訳ないしね」

にこ「穂乃果。その気持ちを絶対に忘れちゃダメだからね」

にこ「あくまで凛の本命は陸上部。私達は凛を借りてるような状況だから」

にこ「来年は私と違って卒業間際まであなたが部長とリーダーを兼任しておきなさい」

にこ「ううん、もしかしたら凛は陸上部で部長するとなったらこっちでは部長を出来ない可能性もあるし」

にこ「来年入ってくれるなら雪穂ちゃんに部長になってもらう方がいいのかも」

あんじゅ「うふふ。にこってばスクールアイドルのことになると頭がフルスロットルだね」

絵里「でも勝手に色々と考えたところで、来年のことに口出し出来る立場じゃないわ」

絵里「気持ちは分かるけど、その立場になって色々と模索して考えて行動する」

絵里「それこそが成長に繋がるのだから、穂乃果や海未の成長の糧を奪うことになるわ」

海未「そうですね。そもそも、そんなに私と穂乃果は――私は頼りなく見えますか?」

穂乃果「ちょっと海未ちゃん! なんで穂乃果の名前をなかったことにしたの!?」

海未「自分の胸に手を当てて考えてもみてください。穂乃果のどこに頼りになる要素がありますか」

穂乃果「さ、最近は頼りになるように努力してるよ」

海未「そんな頼りのない事実に縋っている時点で頼りになってません」

海未「虚勢でも堂々と頼りになると胸を張れる方がまだマシです」

穂乃果「うぅ~海未ちゃんってば厳しい」

にこ「絵里のいう通りね。それに、海未が居れば安心だわ。姉妹の中で一番頼りになるからね」

あんじゅ「意義あり!」

にこ「何よ?」

あんじゅ「一番頼りになるのは私にこっ!」

絵里「待って。一番となると長女であるこのエリーチカよ!」

にこ「自分で頼りになるとか言い出す辺りがもうダメね。本当に頼りになる人は自分からは言い出さない」

にこ「さっきの海未のように頼りにならないかを訊いてくる程度よ」

あんじゅ「……た、確かに」

絵里「……にこに諭されるだなんて」

えりあん「一生の不覚」

にこ「なんでよ!」

穂乃果「すごい息ぴったり」

海未「最早こういうやり取りをみると安心感すら覚えます」

にこ「どんな安心感よ! ……それにしても、本当に凛は頑張ってるわよね」

絵里「合宿が終わったらラブライブの前に凛の好きなあのラーメン屋に皆で食べに行きましょう」

絵里「ご褒美ってわけじゃないけど、あの日の凛は嬉しそうだったし」

穂乃果「……う、今までのお年玉から切り崩さないと」

海未「もうお小遣いを使い果たしたのですか?」

穂乃果「いや、色々とあって」

海未「漫画等を買うからです。もう少し建設的なお金の使い方を学ぶべきです」

にこ「ご褒美に凛の好きなラーメン…………いや、それは流石に無理ね」

あんじゅ「何が無理なの?」

にこ「もう子供じゃないんだからしていいことと無理なことがあるって再確認しただけ」

海未「おや? にこがそんなことを言うなんて珍しいですね」

穂乃果「いつもはどんな無茶や無謀も邪道と言い張って我が道進むのに」

にこ「私は後輩にどんなイメージ持たれてるのよ」

絵里「何かするならバックアップするわよ」

あんじゅ「私もにこ以上の知恵を貸すよ★」

にこ「ううん。皆で食べに行きましょう。それが一番安心で安全よ」

にこ「さ、一区切りついたし練習再開よ!」

◆爆弾フラグ(九人の歌姫フラグの真相)◆

――矢澤家 にこの部屋 矢澤家四姉妹

ここあ「見つけたにこ! ほら、ここにいるよ!」

こころ「あーっ! またここあが指さした。まだこころさがしてるさいちゅうだったのに!」

ここあ「こころが遅いのが悪いんだもん!」

こころ「ここあが悪いニコ!」

にこ「ほらほら、こんなことで喧嘩しないの」

にこ「ここあも見つけたからって直ぐに教えないの」

ここあ「だって一番に見つけたんだもん」

にこ「それは凄いけど、みんなで楽しむものでしょ?」

にこ「それとも早くみつけられるからここあだけ他のことしててって言われても平気なの?」

ここあ「やだ!」

にこ「じゃあ次は見つけてもこころが諦めるか見つけるまで教えないでいられるにこ?」

ここあ「……うん」

にこ「ここあはいい子にこね。よしよし」

ここあ「えへへ!」

こころ「ここあだけずるい! にこにー! こころも!」

にこ「はいはい。こころもいい子いい子」

あんじゅ「むむむっ! カメラが何処にも見つからない。間違えてるに違いないよ」

にこ「あんたは一人で勝手に次の物みつけようとしてんじゃないわよ!」

あんじゅ「みんながウォーリーを探すなら、私は次の物をみつける! それこそが私の生き様にこ!」

にこ「胸を張るようなことじゃないでしょうが」

こころ「次はカメラ?」

ここあ「カメラさがすー!」

あんじゅ「それにしても擬態は上手いのに必ず落し物をするなんてお間抜けさんだよね」

にこ「問題の為にわざと落としてるだけでしょ」

あんじゅ「普通のウォーリーはね。でもこの本のウォーリーは賢いみたい」

あんじゅ「だってカメラ落としてないもの!」

にこ「あんたが見つけられないだけでしょ」

あんじゅ「そんなことないよ。だって本の端から端まできちんと見たもん」

にこ「ゴチャゴチャしてるから見ても見逃してるだけよ」

あんじゅ「にこじゃないんだから見逃しなんてしないもん」

にこ「もんもんって、あんた二人の幼さに引っ張られてるわよ」

あんじゅ「だって本当にカメラなかったんだもん」

にこ「そこまで言われると意地でもカメラを見つけて悔しがらせてや――」
ここあ「――カメラ見つけたにこっ!」

あんじゅ「嘘っ! カメラ実在したの!?」

にこ「……にこぉ」

ここあ「ほら、アンちゃん。ここにカメラ落ちてるにこ♪」

こころ「あーっ! またここあが指さした!!」

にこ「あんじゅ! あんたの所為でまたこころが不愉快の思いしたでしょ」

あんじゅ「えぇっ! 私の所為なの?」

にこ「あんたがカメラを見つけられていたらこんなことにはならなかったのに」

こころ「う~るる~」

にこ「うふふ笑いとその鳴き声はやめなさいって言ってるでしょ。あんじゅが移るわ」

あんじゅ「人をウイルスみたいに言うのは駄目ニコ!」

にこ「人の言葉を話す分ウイルスより性質が悪いわ」

あんじゅ「う~るる~」

ここあ「次のページ早く行くにこ☆」

こころ「今度先に教えたらゼッコーにこ!」

ここあ「ここあ悪くないもん」

にこ「しょうがないわねぇ。ほら、ここあのお手てはにこにーが逮捕~」

ここあ「きゃっ♪ ここあたいほされちゃったにこ☆」

にこ「これで見つけてもここあは教えられないから、こころも見つけるまで諦めちゃダメにこよ?」

こころ「うん! こころがんばるにこ!」

あんじゅ「今度はステッキ。絶対に見逃さないにこ!」

にこ「あんたはあんたで……いや、もういいわ。頑張りなさい」

――二時間後...

にこ「やれやれ起きてる時は喧嘩多いのに、寝る時は二人寄り添って眠るから不思議よね」

あんじゅ「二人の場合は喧嘩するほど仲がいいだからね」

にこ「今は別にいいんだけど、高校生くらいになったら本格的な喧嘩しそうで心配だわ」

あんじゅ「本格的な喧嘩?」

にこ「今の時点で基本的にこころの方が器用でしょ?」

あんじゅ「ウォーリーを探せはここあちゃんに分があるけどね!」

にこ「いや、それはどうでもいいし。反対にここあは我がままだし」

あんじゅ「我がままというか甘えん坊さんだよね」

にこ「そうなのよ。だからこそ我慢を覚えずに成長しそうで恐いのよ」

あんじゅ「でもママの子なんだから大丈夫だよ」

にこ「そうだといいんだけど。優秀なこころにここあの不満が爆発しそうな気がしてならないわ」

にこ「双子だとよりそういう鬱憤みたいなもの溜まりそうだし」

あんじゅ「にこがそんなこと言うから私まで不安になってきたじゃない」

にこ「成長の途中でここあが我慢を覚えられればいいんだけど」

あんじゅ「不安はあるけど、やっぱり私は大丈夫だと思うよ」

にこ「だといいんだけど。ま、取り返しのつかないことにさえならなければいいわ」

あんじゅ「――――――た」

にこ「ん?」

あんじゅ「今音が聞こえた」

にこ「音? 雨でも降ってきたのかしら」

あんじゅ「違う。フラグの音が聞こえた」

にこ「あーはいはい。明日も晴れるといいわね」

あんじゅ「何その困った時は取り敢えず天気の話題を出す日本人の悪癖!」

にこ「フラグに音なんてないし、誰もフラグなんて立ててないでしょ」

あんじゅ「にこはもっと自分のフラグ建設能力に気づくべきだよ」

あんじゅ「こころちゃんとここあちゃんにとっての大きな爆弾フラグが立ったようで心配にこぉ」

この予感――

否、爆弾フラグは遠い未来に現実の物となる。

こころとここあが高校生になり、スクールアイドルを始めた後に発動する。

ここあ「だから言ったにこ! こころがいつまでもリーダーなのはおかしいって」

ここあ「結局リーダーとして頑張った結果がこれでしょ?」

ここあ「何か言い返すことがある? ううん、言えることが何か一つでもある?」

こころ「……ない」

ここあ「だったらこころはリーダー失格! これに対しても文句ないわよね?」

こころ「うん。リーダーはここあがすればいいわ」

ここあ「だったらリーダーとして言ってあげる。μ’sはこの瞬間を持って解散」

ここあ「続ける意味なんてもうない。少なくともここあにはない。みんなは?」

「あたしは元々柄じゃなかったし。辞めでいいよ」

「姉さまがそう仰るのなら、私も辞めます」

「ことりちゃんは無理でも姉さんはもう超えたと思うし。だったら私もいいや」

「実際にするより記事を書いたりチェキする方が運命だったということね」

「始まりがあれば終わりがある、そういうことやんね」

「結果は残しましたし、ある意味ここで終わるのも伝説の一興。悪くはありませんわ」

「――待って」

こころの気持ちを代弁するように、たった一人だけ待ったを掛ける。

でも、その言葉は他の七人の心には響かない。

なかったことにされて消えてしまう。

少女は身動きの取れないこころの代わりにと、解散した後に勇気を振り絞って再度の勧誘に向かう。

だが、一度砕けた絆が戻ることはなく。

こころに泣きながら自分の無力さを嘆き、謝ることとなる……。

にこ「大丈夫よ。フラグなんてあんたの妄想だから」

あんじゅ「いや、なんかすっごい不安が胸を覆い尽くしてる」

にこ「仮に喧嘩したってさ、今は共通の友達が当たり前だけど」

にこ「成長するに連れて別々の友達を得ると思うのよ」

にこ「だったら喧嘩したってその友達に背中を押されて仲直りするんじゃない」

あんじゅ「そんな適当なこと言って誤魔化しても駄目にこ!」

にこ「適当じゃないわよ。それに、大きな喧嘩も結果的に良かったってなるかもしれないでしょ」

にこ「人生いいことばかりじゃ堕落するのよ。小さな不幸は成長の糧にってね」

あんじゅ「こころちゃんとここあちゃんが喧嘩しませんように」

にこ「例え修復不可能な喧嘩をしたとしても、よ」

にこ「私達姉妹には居るじゃないの」

あんじゅ「何が?」

にこ「そんなことを何があっても許さないような超絶シスコン長女が」

にこ「例え何か理由があってロシアに帰ってたとしても、その話を聞きつけたら飛んで帰って来て」

にこ「二人が根負けして仲直りするくらいにしつこく行動起こすんじゃないの」

あんじゅ「確かに!」

にこ「それに私とあんただって居るんだし。無駄に悲観する必要なんてないわ」

あんじゅ「それもそうだね。なんせ私達の妹だもんね」

にこ「そうそう。海未や亜里沙だっているんだし。どうにかなるわよ」

あんじゅ「うん! でも、本当にどうにかなるのかなぁ」

にこ「くすっ。あんたもシスコンが板についちゃったわね」

あんじゅ「にこみたいに楽観視してると、取り返しのつかない未来が待ってそうで不安なだけ」

にこ「言い方変えるとにこの未来が取り返しのつかないみたいじゃないの!」

あんじゅ「にこには私が居るから大丈夫☆」

にこ「今フラグの音とやらが聞こえた気がするわ。超不安になってきたにこぉ」

あんじゅ「にこは立てる側の人間だからフラグの音は聞こえないにこよ!」

あんじゅは願う。

どうか爆弾が不発弾でありますように、と。  (...........................................終)

《リサイクル》

あんじゅ「以前こんなこと言ったよね」

にこ「んー?」

あんじゅ「NIKOに髭が生えるとNEKOになるって」

にこ「そんなこともあった気がするわ。その場の思いつきのネタを思い返すなんてどうしたのよ?」

あんじゅ「よくよく考えると髭が三本だと中途半端だよね」

にこ「いや、別にどうでもいいけど」

あんじゅ「だから二本にしようと思って」

にこ「どうでもいいけど二本にしたら文字にならないじゃないの」

あんじゅ「うん。だからね、にこを今度は片仮名にするにこよ!」

にこ「カタカナ?」

あんじゅ「うん。ニコに二本髭を生やすの」

にこ「どこに生やすのか検討つかないんだけど。何になるのよ?」

あんじゅ「ニコからエロになるの」

にこ「なにそれ最悪!!」

あんじゅ「にこってばえっちにこ~♪」

にこ「あんたはにこの名前を何だと思ってるのよ!」

あんじゅ「猫にエロだと思ってるよ。にこがネコだから私はタチかな★」

にこ「意味分かんない!!」

《合宿の夜にありがちな事情》

――SMILE教室 真夜中

こころ「にこにー起きて」

にこ「んぅ……ふぁあ。どうしたの、こころ?」

こころ「おしっこ行きたいにこぉ」

にこ「おしっこ? 今起きるから……んー、眠い」

こころ「ごめんね、にこにー」

にこ「いいのよ。迷子になっちゃったら大変だものね」

こころ「うん!」

にこ「こころ、ちょっと待っててね。ここあー起きて」

ここあ「……んー、まだねむいにこぉ」

にこ「おトイレ行くけどここあはおしっこ行きたくない? それとも大丈夫?」

ここあ「だいじょうぶー。それよりもねむいにこぉ」

にこ「起こしちゃってごめんね。いい夢みてね、おやすみ」

ここあ「おやすみー」

にこ「さて、じゃあ行きましょうか」

こころ「うん!」

――30分後...

ここあ「にこにーおきておきて」

にこ「んっ……どうしたの、ここあ」

ここあ「おしっこ!」

にこ「…………あー、うん。行きましょう」

ここあ「夜の学校はちょっと恐いにこ」

にこ「恐い話は大丈夫なのにね。おばけが出そうで恐い?」

ここあ「おばけは恐いの! ピーマンマンも恐いから嫌いだけどピーマンもちゃんと食べるの」

にこ(私も小さい頃はピーマンマンに脅えてピーマンを食べたものだわ)

にこ(お陰で今は普通にピーマンが食べれるけど。でも、ピーマンマンってセンスがあんじゅ並よね)

ここあ「だからお手をつなぐにこっ!」

にこ「はいはい。手を繋いで行きましょうね」

――更に30分後...

絵里「にこ。起きて、にこっ」

にこ「……んんっ、何よ? どう見てもまだ朝じゃないでしょ」

絵里「緊急事態なの」

にこ「何かあったの!?」

絵里「ええ、あったの」

にこ「もったいぶらずに早い言いなさいよ」

絵里「……あのね、お」

にこ「だからもったいぶるなって言ってるでしょ」

絵里「おトイレに行きたいの。だから付いてきて」

にこ「おやすみ」

絵里「待ってよ! にこは部長でしょ」

にこ「あんたはお姉ちゃんでしょ。これを機に暗いところ苦手なのを克服しなさいよ」

絵里「恐いものは恐いの! 克服なんて無理よ」

にこ「そんな真顔で返されると困るんだけど……はぁ~。しょうがないわねぇ。付き合ってあげるわ」

絵里「にこ、ありがとう!」

――追加の20分後...

絵里「にこ。起きて、起きてってば」

にこ「…………うぅん。なによ、もう。あんたさっきトイレいったでしょ」

にこ「今度は何よ?」

絵里「亜里沙がおトイレに行きたいって」

亜里沙「ご、ごめんなさい。亜里沙一人だと恐くて」

絵里「私と一緒に行ければ良かったんだけど、一人でトイレで待つって恐いじゃない!」

にこ「そんな力説される方が恐いわよ」

絵里「悪いとは思うんだけど付き合ってもらえないかしら?」

亜里沙「お願いします!」

にこ「いいわよ。可愛い妹の頼みだもの」

亜里沙「ありがとうございますっ。私が恐がりだから」

にこ「女の子だものね。夜の学校が恐いのなんて普通よ」

絵里「明らかに私の時と反応が違うわ」

にこ「あんたはもう女の子より女性側でしょうが。さ、行きましょう」

――夜明け前

穂乃果「にこちゃん。起きて、起きてよぉ」

にこ「……なに?」

穂乃果「お手洗いに行きたくて。でもこんな時間だから一人だと恐くて」

にこ「海未に頼みなさいよ。穂乃果に厳しいとはいえ、そういう時は付き合ってくれるでしょ」

穂乃果「海未ちゃんは危険なの」

にこ「は? 寝ぼけてるなら寝るわよ」

穂乃果「ちっ、違うよ! 正確には寝てる時の海未ちゃんを起こすのは危険なんだよ」

にこ「何よそれ」

穂乃果「嘘だと思ってるでしょ。でもね……本当なの。私とことりちゃんは知ってるんだ」

穂乃果「海未ちゃんを起こす恐怖」

にこ「だったら余計いいじゃない。恐怖で漏らしたって理由が付くわ」

穂乃果「問題の根本的解決になってないよ!」

にこ「あなたは王子様となって海未とことりちゃんを守るんでしょ?」

にこ「だったら今トイレに行くという行為はいつかの二人守る行為に繋がるわ」

穂乃果「全然繋がらないよ。眠いからって適当なこと言わないでよぉ」

穂乃果「明るくなるまでって耐えてたんだけどね、穂乃果もう限界っ」

にこ「わ、分かったわよ。それを先に言いなさいよね!」

――朝

あんじゅ「にこーおはよう!」

にこ「……もうあさ?」

あんじゅ「いい天気だよ。正に快晴! 言葉通り雲ひとつない快適な晴れ具合」

にこ「……そう」

あんじゅ「私と海未ちゃんは明朝練習済ませちゃったよ。朝ごはん作りに行こう」

にこ「あんたはみてるだけだからねててもいいわよ」

あんじゅ「料理してるにこを見てるの好きだから一緒に行くよ」

にこ「……ねぇ、あんじゅ」

あんじゅ「ん?」

にこ「あんたって実はいい妹なのかもしれないわね」

あんじゅ「今更何言ってるの? 当然にこっ♪」

にこ「だから今晩はあんたがトイレ案内人やって」

あんじゅ「まだ寝ぼけてる?」

にこ「……寝ぼけてないわよ。物凄く眠いだけで」

あんじゅ「取り敢えず顔を洗いに行こう。冷たい水で洗えば目も冴えるよ」

にこ「ええ、そうね。海未の他にも起きてる子が居るみたいね」

あんじゅ「雪穂ちゃんだよ。さっき顔を洗いに行ったからもうすぐ戻って――きたね」

雪穂「あ、にこさんおはようございます。私も朝食の準備微力ながらお手伝います」

にこ「雪穂ちゃんは本当にいい子ね」

雪穂「えっ? ありがとうございます」

にこ「もしよかったら真夜中のトイレ案内人やってみない?」 おしまい★


え、絵里誕は次回。今度こそ早く更新したいです
それにしても完結編と銘打ったのに終わらない……うーん、スレタイどうしよう

◇次回作のツバサ&にこ物語の展開予想・上◇

――音ノ木坂学院

ツバサ「簡単だとは思っていなかったけど、こんなに時間が掛かるなんてね」

UTX学院から音ノ木坂学院への引き抜き。

無謀にも近いようでいて、本人のやる気さえあれば可能かのように思えていた。

だが、半年経っても自体は遅々としか進まず、東條希の編入は三月の今になって漸く決まった。

正式な編入は新年度となる四月からとなる。

ツバサ「しかし、不思議よね。あれだけ進まなかった話が一週間で一気に決まるなんて」

ツバサ「まるで今まで鍵を掛けられていた天空の扉を誰か内側から開けたみたい」

にこ「……きっとあんじゅの仕業よ」

ツバサ「優木さんの?」

にこ「でなければこんな唐突に決まったりはしないわ」

ツバサ「つまり敵に塩を送ったってことね」

――UTX学院

会長「私が休んでいる間に随分な勝手をしてくれたようね」

あんじゅ「あら、何のことかしら?」

会長「東條さんのことに決まっているでしょう。勝手に先生達を騙して編入を許可させて」

会長「敵に塩を送って自己満足に浸りたいってことかしら?」

あんじゅ「うっふふふ」

会長「何がおかしいのよ!」

あんじゅ「だってあんまりにも検討違いなことを言うんだもの。おかしくって」

会長「検討違い?」

あんじゅ「私がそんな余裕を見せると思ってることがおかしくて堪らないわ」

あんじゅ「相手は他の誰でもないにこなのよ。油断一つすれば設備や学院のブランドなんて関係ない」

あんじゅ「一気に差を詰められ、気がつけばその背中を追う立場に変わっている」

あんじゅ「それなのに敵に塩を送るなんて呑気なこと出来る訳がないじゃない」

会長「だったら今回の件を一体どう説明するつもりなのよ!」

あんじゅ「クールな会長さんらしくないわ」

あんじゅ「ああ、そういえば会長さんは東條さんと友達関係になっていたのよね」

あんじゅ「ごめんなさい。唯一の友達を転校させてしまって」

会長「そういうことで怒ってるんじゃないわ!」

あんじゅ「うふふっ。図星を突かれて声を荒げるなんて意外と年相応な反応も見せるのね」

会長「貴女最低な性格してたのね」

あんじゅ「会長さんが面白い性格しているからついつい。ごめんなさい」

会長「さっきから謝ってるけど誠意がまるで感じられない」

あんじゅ「それはごめんなさい。謝るつもりがないから」

会長「貴女ッ!」

あんじゅ「そもそもインフルエンザに掛かった会長さんが悪いのよ」

あんじゅ「いいえ、それすらも私とにこの二年目を彩る運命だったのかしらね」

会長「……何が運命よ。くだらない」

会長「それに東條さんを転校させた理由を正確に明かしなさいよ」

あんじゅ「答えだけを知っては考える力が衰えてしまうわ」

あんじゅ「だからヒントだけを与えてあげる」

あんじゅ「ヒント1.東條希の所属は来月である四月五日まではUTX学院である」

あんじゅ「ヒント2.新年度の始まりはスクールアイドルに関係なく目新しい物が多い」

あんじゅ「ヒント3.LDWは他の人に見向きもせずに東條希に対して執着を見せていた」

会長「LDWって何?」

あんじゅ「リトルダブルウイングの通称よ。ファンの中だと普通に使われてるいるの」

会長「そんなことしらないわ。それにヒントがヒントになってないじゃない」

あんじゅ「仕方ないわねぇ。なら最大限のヒントというか答えに近いんだけど」

あんじゅ「会長さんはインフルエンザ明けでまだ頭が眠ってるようだから大サービス♪」

あんじゅ「私とにこはとても似ているの。運命の糸が絡み合っているみたいに、ね」

会長「……今度は貴女が西木野病院に通院した方がいいわ」

あんじゅ「このヒントでも分からないなんて」

会長「貴女の言い方が一々遠回りなのが原因でしょ」

あんじゅ「だって全部言っちゃったらつまらないじゃない」

あんじゅ「人生には刺激が必要なのよ★」

会長「そんなことはどうでもいいわ。だけど覚えておいて、私は東條さんの件のことを許さない」

あんじゅ「それはそれは恐いわねぇ。UTXの生徒会長は氷の女帝って呼ばれるだけあるわ」

会長「その言い方やめて」

あんじゅ「うふふ。にこと同じグループになれなかったけど、これはこれで面白い」

会長「それより一つだけ言いたかったことがあるの」

あんじゅ「なぁに?」

会長「優木さん……貴女、今年に入ってから少し太ったわね」

あんじゅ「…………それもヒントの一つにしてあげる」

会長「意味不明よ」

四月六日になり正式に東條希が音ノ木坂学院に編入。

同時にLDWのメンバーの新メンバーとして発表された。

あのUTXから音ノ木坂へ転校し、そこでスクールアイドルを開始する。

そのプロフィールは確かな注目を浴びた。

だが、四月は他のグループでも多くの新メンバーの発表があり、注目が長続きすることはなかった。

そして、五月...

――ゴールデンウィーク 夕方 公園

海未「……穂乃果。冗談、ですよね?」

穂乃果「こんなこと本気でしか言えないよ」

ことり「海未ちゃんは戸惑いの中でどうにか言葉を絞り出すけど、それを穂乃果ちゃんが否定する」

ことり「もう一度言うね、穂乃果は海未ちゃんが好き。その言葉に戸惑う海未ちゃん」

ことり「お腹の中からの一緒のスーパー幼馴染として大切な存在」

ことり「掛け替えのない友であり、妹或いは姉であり、母である」

ことり「でも、恋人としては意識したことがなく、思考停止の中で思わず否定の言葉漏れる」

ことり「其れは海未ちゃんの本心とは決して違う物で――」
海未「――ことり! いい加減によく分からない現実逃避をしないでください!」

ことり「……あ、海未ちゃん。さっきのは夢だったのかなぁ?」

ことり「穂乃果ちゃんが剣道を辞めるって言いだしたの」

海未「現実です。そして、その後に言った言葉もまた本気のようです」

穂乃果「なんか混乱してるみたいだからもう一回言うね」

穂乃果「穂乃果は剣道を辞める。そしてね、ゴールデンウィーク明けからはUTXに編入することになったの」

海未「何故なのですか? どうしたらそんな展開になると言うのですか!?」

ことり「そ、そうだよ穂乃果ちゃん」

穂乃果「切っ掛けは今年に入ってから穂むらに通ってくれる美人なお姉さん」

穂乃果「お姉さんって言っても私と一歳しか変わらなかったんだけど」

穂乃果「海未ちゃんみたいにいつも美味しそうにほむまんを食べてくれるの」

穂乃果「不思議なことにね、音ノ木坂に入学して直ぐだったんだけど」

穂乃果「スクールアイドルに興味はないかって訊かれたのが切っ掛けだったんだー」

海未「スクールアイドル?」

ことり「高校生限定の部活動みたいな感じでアイドルをする人たちのことだよ」

ことり「元々は小さな有志の集まりでやってたみたいなんだけど、アイドルブームから規模が大きくなって」

ことり「今ではスクールアイドルがない学校の方が珍しいって言われる程なんだよ」

海未「そんなものがあったのですね。知りませんでした」

穂乃果「穂乃果も海未ちゃんと同じ。剣道やお家のお手伝いに一所懸命だったから」

穂乃果「だから話を聞いてもそういうのがあるんだーってただそう思っただけだったの」

穂乃果「……でも、ゴールデンウィーク初日。部活の後にお店にあんじゅさんが来てね」

穂乃果「お店の休憩の時にことりちゃんと初めて逢った小さな公園あるでしょ?」

穂乃果「あそこで見せてくれたの。スクールアイドルってどういうものなのか」

穂乃果「観客は穂乃果一人。スクールアイドルもあんじゅさん一人」

穂乃果「春とはいえ時間も時間で外灯の明りがないと暗くてハッキリと見えない状態」

穂乃果「なのにね、あんじゅさんが踊って歌い出したら変わったの」

穂乃果「まるで世界が塗り替えられたかのように」

穂乃果「他に誰も居ない筈の公園から満員のライブ会場へ」

穂乃果「胸がね、凄い高鳴ったんだよ! こんなにワクワクして楽しいと思ったの久しぶり」

穂乃果「もしかしたらあの町内会のお祭りで絵里ちゃんに出逢った時以来かもしれない!」

穂乃果「今までにないくらいの可能性を感じたんだ!!」

大連続公開合宿二日目にありがちな事情

にこ「本当に暑いわねぇ。今日は二日目だし余り飛ばさずに休憩を多めにした方がいいわ」

にこ「ということで水分補給の為の小休止にしましょう!」

絵里「ただ単に寝不足だから今日は激しい練習したくないだけでしょう」

海未「しかし熱中症の危険もありますし、多めの休憩を入れるのは賛成です。あくまで私たちの目標はこの日々の先にあるのですから」

穂乃果「穂乃果にもそういう優しさを多めに入れるべきだと思う!」

凛「凛も穂乃果ちゃんの意見に賛成! 海未ちゃんも絵里ちゃんも勉強見る時にもっと優しくしてくれた方がやる気出るニャ!」

絵里「凛ってば何を言ってるの? あれでも《まだ》優しくしている方なのよ」

海未「穂乃果に優しくするのはことりの役目です。私は穂乃果の甘えたその心を射抜く宿命があります」

穂乃果「さだめ!?」

あんじゅ「にこの汗拭いてあげるね☆」

にこ「悪いわね。お願いするわ」

あんじゅ「うふふ。にこの汗~綺麗にするね、ぺろぺろ♪」

にこ「擬音がおかしいニコ!」

あんじゅ「何もおかしくないよ。にこってば寝不足で頭が全然回ってないにこね。ぺろぺろり★」

にこ「おかしいのはあんたよ! 普段ならいいけど、他の子達が居るんだからね。まるで私まで変態に思われるでしょ」

あんじゅ「大丈夫。こんな時の為に私はある言葉を学んだよ」

にこ「どんな言葉よ?」

あんじゅ「みなさーん! 私とにこは百合営業です! だから安心してください」

にこ「何を安心するのかしらないけど、あんたガチじゃないの」

あんじゅ「まさかのにこの裏切りによる瞬殺!?」

にこ「じゃあ嘘でも私のことを好きじゃないって言えるの?」

あんじゅ「っ!? …………私の負けにこぉ」

にこ「あんたはにこを好き過ぎた! それが敗因にこよ!」

あんじゅ「相思相愛過ぎたの間違いだよ。にこも私のことを好きか愛してるってしか言えないもんね♪」

にこ「いや、普通に言えるし。寧ろそれ以外の言葉しか出てこないわ」

あんじゅ「なんで!?」

絵里「寝不足で自分でガソリンに火をつけてるわね」

海未「それだけが原因ではない気がします。寝不足の理由に二人の仲がより深まった出来事があったのではないでしょうか?」

穂乃果「深夜の学校で仲が深まる出来事……もしかして二人で七不思議俳諧デートしてきたのかも!?」

凛「凛はちょっと怖い話苦手だからそんなデートは嫌だなー」

絵里「わ、私は別に苦手ではないけどお、もっとロマンチックなデートがいいいわ」

海未「絵里、強がっていても言葉が少しおかしいですよ」

あんじゅ「にこは昨夜のあんじゅ攻略イベント最大の見せ場をクリアしたんだからツンデレからデレデレになるべき!」

あんじゅ「そして私は百合ヤンデレサイコレズversion電波に進化するにこっ!」

にこ「それのどこが進化っていうか、意味がかぶりまくってるというか水と油というか……大人しくヤンデレしてなさいよねっ」

あんじゅ「残念ながらあんじゅちゃんの進化は止められてしまいました。にこの愛の鎖は激しい」

にこ「愛の鎖なんてないわよ、この愚妹!!」


車内のツバサが可愛過ぎて全く打ち込めてない!
でも構想だけは色々溜まってるので、まずはこころあメインの小話集を今度の月曜日か火曜日にあげます。遅くなってごめんなさい

◇次回作予想・中◇

――ゴールデンウィーク 夕方 公園

海未「絵里との出会いを出すということは真剣なんですね」

ことり「じゃあ本当にオトノキからUTXへ転校しちゃうの?」

穂乃果「うん。小さい頃からずっとオトノキのお姉さん達の姿を見て憧れてきた」

穂乃果「制服だって可愛いし、家から近いし、お母さんもお婆ちゃんも通った学院だもん」

穂乃果「それに海未ちゃんとことりちゃんが傍にいてくれる最高の居場所」

穂乃果「でも、だからこそ飛び立とうと思うの」

穂乃果「甘えられる存在が居ると穂乃果は無意識に甘えちゃう」

穂乃果「それだといつまで経ってもあんじゅさんみたいに輝けない」

穂乃果「絵里ちゃんも自分の夢の為に大好きなここを飛び立ってロシアに行った」

穂乃果「ロシアとUTXじゃ距離が全然違うけどね」

海未「同じです」
ことり「同じだよ」

穂乃果「えっ?」

ことり「穂乃果ちゃんが居ないオトノキは別の国と同じだよ」

海未「そして、オトノキの生徒にとってUTXは近づくことも憚られる異国の地と同じです」

穂乃果「二人とも大げさだよ」

ことり「全然大げさじゃないよっ!」

海未「逆に穂乃果にとって私達はそんな軽い存在なのですか?」

穂乃果「違うよ。穂乃果の中で一番凛々しいのは海未ちゃん」

穂乃果「一番可愛いのはことりちゃん」

穂乃果「二人は穂乃果にとって何よりも大切な存在」

穂乃果「だからこそなんだよ」

ことり「どういうことなの?」

穂乃果「中学生の時は剣道やっててことりちゃんが応援してくれたよね」

穂乃果「最初凄くきつくて、何度も辞めたいって思って。実際にことりちゃんの応援がなければ辞めてた」

穂乃果「本当に感謝してるんだよ」

ことり「ほのかちゃー」

海未「そのことに関しては私も本当に感謝しています。ありがとうございます、ことり」

ことり「海未ちゃんまで。ううん、ことりには応援することくらいしか出来ないから」

穂乃果「それだよ!」

ことり「えっ?」

穂乃果「私は昔みたいに三人で一緒に楽しみたいの」

海未「成程、そういうことですか」

ことり「えっ、えっ? 海未ちゃんどういうこと?」

海未「出逢った頃のことりは勝気で負けず嫌いだったじゃないですか」

海未「色んな遊びをする中でもこの中の三人だけで遊ぶ時でも勝ちもし、負けもした」

海未「ですがことりは成長するにつれて女の子に磨きがかかり、剣道は私と穂乃果だけが戦える舞台」

海未「穂乃果はことりとも一緒に競い合いたいのですね」

ことり「じゃあ穂乃果ちゃんの転校はことりの所為?」

穂乃果「ううん、ことりちゃんの所為じゃないよ。これは穂乃果の我がままだから」

穂乃果「よく考えてみたんだー。考えれば考える程ね、今が最後のチャンスなんだって想いが強くなったの」

穂乃果「高校を卒業したら三人が一緒のことをするなんて出来ないと思うから」

穂乃果「穂乃果は穂むらの味を再現する為に今より店のお手伝いが多くなるし」

穂乃果「海未ちゃんは家元の修行が本格的になるでしょ?」

穂乃果「ことりちゃんは装飾関係のお仕事の為により時間を割くことになるよね」

穂乃果「あんじゅさんに言われなかったら気付けなかった」

穂乃果「だから、穂乃果はUTXに行くことにしたの」

穂乃果「海未ちゃんとことりちゃんと対等に勝負できる最後の舞台を整える為に」

穂乃果「スクールアイドルにはラブライブって大きな大会があるの」

穂乃果「限られた上位二十位のグループだけが本選に進めるんだけど」

穂乃果「その大会で競い合えたりしたら最高にドキドキすると思うんだ!」

穂乃果「UTXはスクールアイドルに力を入れてるから有利かもしれない」

穂乃果「でもね、さっきも言ったけど穂乃果の中で一番の二人が一緒ならその有利も霧散すると思うの」

穂乃果「穂乃果の我がままにして新しい夢。可能性の集大成!」

穂乃果「二人に何も相談しなかったことは謝るね。本当にごめんなさい!!」

穂乃果「でも引きとめられたら絶対に転校なんて出来ないって思ったから」

穂乃果「そうなって初めて絵里ちゃんがなんでロシアに行っちゃう直前まで黙ってたのか分かった」

穂乃果「生まれた夢を消したくなかったの。だから、ごめんなさい」

ことり「……穂乃果ちゃん」

海未「……」

穂乃果「海未ちゃん、怒ってる?」

海未「色々とあり過ぎて逆に冷静になってしまいました」

海未「正直な話、穂乃果は私のよきライバルです。経験の差が多かった中学では私の方が上でした」

海未「ですが高校三年生になった頃にはどちらが勝ってもおかしくない状態になっている」

海未「そう思っていたんです。ですから中途半端な気持ちで剣道を辞めると言っていたら」

海未「私は穂乃果のことを本気で怒っていたに違いありません」

海未「だけど、穂乃果の言葉を聞いて怒りなんて湧いてこなくて」

海未「ただ酷く混乱しています」

穂乃果「……そっか。ことりちゃんはどうかな?」

ことり「ことりはね、寂しいなって気持ちが大きかったよ」

ことり「でもね、嬉しい気持ちもそれに負けないくらいに大きいの」

ことり「だけどやっぱりことりが原因だよ」

ことり「中学生の時ね、穂乃果ちゃんも剣道をするって言い出した時に悩んだの」

ことり「ことりも挑戦してみようかなって。でも、でもね……止めたの」

ことり「海未ちゃん、ごめんね」

海未「何故ことりが謝るのですか? 穂乃果も言ってましたがことりの所為ではありませんよ」

ことり「ううん、ことりの所為なんです」

ことり「装飾関係の仕事に就くことを考えると剣道をして指の皮を厚くなるのは避けたいって」

ことり「自分のことだけを考えて止めたの!」

ことり「もし、あの時にことりも剣道をやってれば穂乃果ちゃんがUTXに行くって言い出すことはなかった」

ことり「ことりの身勝手な考えこそが今を作り出したんだよ!」

《天国と地獄の検索履歴》

――放課後 部室 あんじゅ

珍しく一人で部室のパソコンの前に座るあんじゅ。

答えは簡単でにこは進路希望のことで担任に捕まっていて、絵里は決まっている進路のことで他の先生と職員室で話をしている。

一、二年生は今の時間はまだ授業中。

その結果として部室で一人時間を潰していた。

特に調べ物もなく、見たい記事もなく。

あんじゅ「にっこにっこ~にこにこにこ♪」

即興な歌を奏でながらなんとなく『ヤンデレ』を検索しようとした。

すると、

あんじゅ「……」

他の誰かが入力したヤンデレでの検索履歴。

『ヤンデレな子を満たす方法』

『ヤンデレ 満足 方法』

『ヤンデレ あやし方』

『ヤンデレの幸せ』

――10分後...

にこ「まったく。白紙は悪いとは思うけどしょうがないじゃないの!」

にこ「一番納得いかないのが、あんたはデカデカと『にこといっしょ!』って書いて」

にこ「なんでそっちは呼び出されないのかってことよ!」

あんじゅ「うふふふふ♪」

にこ「なんで嬉しそうに笑ってるのよ」

あんじゅ「別になんでもな~い☆」

にこ「にんまりしてるじゃないの。スクールアイドルなんだから笑うならもう少し凛々しく笑いなさいよ」

あんじゅ「頬が緩んでて無理にこ!」

にこ「私が先生に呼び出されてる間に変な物でも食べたのかしら?」

あんじゅ「美味しい物を食べたんだよ。にこの愛っていう最高のお食事」

にこ「あんた憑かれてるんじゃないの。神田明神寄って帰る?」

あんじゅ「うん、いいよ。お神社デートだね」

にこ「デートって、女同士でしょうが。てかそれ以前に姉妹でしょうが」

あんじゅ「にっこにっこ♪」

にこ「はいはい。もう何でもいいわよ」

――翌日 放課後 海未

珍しく一人で部室のパソコンの前に座る海未。

答えは簡単で穂乃果は日直の仕事で少し遅くれ(ry

大連続合宿が迫り、自分でも手伝える料理を調べようと思っていた。

にこのように料理を毎日している身ではないので、単純で食べやすい物。

単純であっても練習と練習の合間であるお昼に食べるならそういう物を好む人も絶対に居るだろう。

実際に一日道場で練習したりする時は、朝はしっかりと食べるがお昼はおにぎりのような物がメインとなる。

塩だけのおにぎりでもとても美味しく感じられるのだ。

が、合宿でもあるので何か普段とは変わったおにぎりを提供するのもありだと思う。

海未「ら~ぶう~みぃちゅっちゅっちゅっ♪」

即興な歌を奏でながら『おにぎり』を検索しようとした。

PCに余り慣れてないだけに、入力がゆっくり目な海未。

お……に……と入力していくと、

海未「……」

他の誰かが入力した《おに》での検索履歴。

『鬼を宥める方法』

『鬼 鎮める 方法』

『鬼 あやし方』

『鬼から逃げる方法』

――14分後...

穂乃果「いやぁ~日直ってなんで先生の雑用まで押しつけられるんだろうねぇ」

穂乃果「別に嫌ってわけじゃないけど、自分のことは自分でして欲しいよ!」

穂乃果「それが先生自身の為だし。別に面倒だからって訳じゃないけどね」

海未「ふっふふ」

穂乃果「海未ちゃん何か面白いことでもあったの?」

海未「ええ、そうですね。面白いというか可笑しいというべきでしょうか」

海未「ありましたよ」

穂乃果「どんな可笑しいことがあったの?」

海未「ふふふっ」

穂乃果「海未ちゃんの笑いが止まらなくなるなんてよっぽどのことだね。聞くのが楽しみ」

海未「そうでしょうそうでしょう。私も是非穂乃果に聞いて欲しいです」

穂乃果「そんなに引っ張るなんてよっぽどなことなんだねぇ♪」

凛が部室に来た時、穂乃果は床に座っていた。

何があったのか尋ねてみたところ、

穂乃果「海未ちゃんがおむすびって言ってればこんなことにはならなかったのにぃ」

と、意味不明な言葉を繰り返すだけだった。

おにぎりの生んだ悲劇。

合宿中に穂乃果は一度としておにぎりを口にすることはなかったという……。 (完)

◇次回作予想・下の上◇

――ゴールデンウィーク 夕方 公園

海未「それは違います!」

穂乃果「そうだよ! ことりちゃんが小学五年生の時から夢を持ってたんだもん」

穂乃果「なのに剣道をやろうって考えてくれてたなんて、その事自体が嬉しいくらいだよ」

海未「そうです。私達と違ってことりは将来の夢を見つけなければいけない立場でした」

海未「現実を知りだす年頃にして、自分の好きなことと才能を見つけて志す」

海未「ことりの性格から真っ直ぐに夢まで走り続けるでしょう」

穂乃果「そうだね。ことりちゃんって可愛い見た目と反して海未ちゃんにも負けないくらい」

ことり「そんなことないよぉ」

海未「いいえ、幼馴染の二人が同意見なんです。そんなことある証拠ではありませんか」

穂乃果「うんうん♪」

ことり「例えそうだとしても、ことりの所為なのは変わらないよ」

海未「違います。穂乃果がUTXへ行く切っ掛けはそもそも私が原因です」

ことり「海未ちゃん!?」

穂乃果「ど、どうして今度は海未ちゃんが?」

海未「そもそも穂乃果が剣道を始めたのは私が誘ったからです」

海未「ことりと出逢う前から穂乃果は好奇心が旺盛でした」

海未「よく家出するような駄目な方面での行動力もありますし」

海未「だけどその反面、一つのことに拘るということがありませんでした」

海未「あ、これは違いますね。たった一つだけずっと拘っていることがあります」

海未「当然のことながら穂むらのお饅頭を作ることです」

海未「時々一口食べただけで廃棄したいくらいのアレンジをすることもありますけど」

海未「言い方を変えると夢に繋がること以外で穂乃果が一つに拘ることはなかった」

海未「それなのに私が我がままを言って穂乃果と剣道部に入ったんです」

穂乃果「あれは海未ちゃんの所為じゃなくて二年生がほとんど辞めてて、団体戦に出るのに人数が足りないから」

海未「いえ、補欠なしなら私だけでも良かったんです」

海未「ですがこれは穂乃果と剣道をする好機なのだと」

海未「ことりのことを考えずに自分の欲求を優先させてしまったんです」

海未「ですから今回の件で責任を取るのでしたら私です」

ことり「海未ちゃん」

穂乃果「……海未ちゃん」

海未「楽しかったからすっかり忘れてました。まだまだ未熟者ですね」

海未「最初から穂乃果を怒る資格なんて私にはなかったのです」

海未「感情に任せて怒鳴り散らしていたら穂乃果に合わせる顔がありませんでした」

穂乃果「……」

ことり「……」

海未「……」

穂乃果「あっははは」
ことり「あははっ」
海未「ふふふふっ」

穂乃果「もう二人して穂乃果に甘え過ぎだよ」

ことり「穂乃果ちゃんと海未ちゃんが自分に厳しすぎるんだよぉ」

海未「二人して責任感が強すぎます」

穂乃果「海未ちゃんとことりちゃんに似たのかも」

ことり「私も穂乃果ちゃんと海未ちゃんに影響されたから」

海未「穂乃果とことりの良い部分を吸収した結果です」

海未「やれやれ。幼馴染というのは嫌ですね。分かり合い過ぎていて引き止める事が出来ません」

ことり「そうだね。というか最初から穂乃果ちゃんを止めるなんて無理だったよね」

海未「ええ。一度として穂乃果を止めることに成功した試しがありませんから」

海未「ことりと出逢う前なんて穂乃果の家出に付き合わされて夜の神田明神に行ったことすらありました」

海未「そこでお化けを見たとかで大騒ぎ。おまわりさんにお世話になって、両親に私まで怒られたのは今ではいい思い出です」

海未「どうせおっちょこちょいな穂乃果が木か何かをお化けに見間違えだけでしょうが」

穂乃果「確かに居たんだよお化け。ありえないものが見えたの……何だか忘れちゃったんだけど」

ことり「高校生くらいの穂乃果ちゃんが居て、その驚きとありえなさにお化けと思い込んだとか?」

海未「今日のことりは思考が乙女チック過ぎます」

ことり「昨日そういう小説読んでたからかも」

穂乃果「そういうって……最初穂乃果と海未ちゃんのことを――」
ことり「――勿論普通の《男女》の恋愛物だよ!」

穂乃果「う、うん。そうだよね」

海未「話を戻しますが穂乃果。貴女がUTXでスクールアイドルを始めることを応援します」

穂乃果「うん、ありがとう!」

海未「ですが、私がスクールアイドルをすることはありません」

海未「ことりが剣道をやれなかったように、私にはスクールアイドルは不向き」

海未「穂乃果と争うのはことりだけ。私は二人を応援する側に回ります」

穂乃果「ううん、海未ちゃんは絶対にスクールアイドルになるよ」

穂乃果「だって穂乃果のスーパー幼馴染だもん。ならない訳ないよ」

海未「それは今関係がありません」

穂乃果「関係あるよ。海未ちゃんは穂乃果を見捨てられないの」

穂乃果「この胸に込み上げる情熱を冷めないように包み込んでくれるって分かってるから」

海未「私はそんな優しくはありませんよ」

穂乃果「それにことりちゃんが付いててくれるから」

ことり「私?」

穂乃果「うん。海未ちゃんの背中を後押ししてくれるからね」

穂乃果「だから絶対に三人はスクールアイドルになるんだよ!」

ことり「穂乃果ちゃんがそういうならそうかも♪」

海未「ことりも気軽に穂乃果の軽口に乗らないでください」

ことり「でもよくよく考えてみればスクールアイドルって可愛い洋服のデザインと制作を練習出来る場だし」

ことり「何よりも自分も着れちゃうし、海未ちゃんにも着せられるんだよ?」

ことり「それってとっても幸せだよぉ」

穂乃果「だよねっ!」

海未「……ことりが乗り気でも私の考えは変わりません」

海未「私には剣道がありますから。二足草鞋でやれるほど生易しいものではありません」

海未「それにスクールアイドルという物を本気でやっている人達にも失礼になりますからね」

穂乃果「うん、今はそれでいいと思うよ。その方が海未ちゃんらしいから」

海未「随分と素直ですね」

穂乃果「あんじゅさんの口癖だけどね、運命を信じてるから」

海未「……運命、ですか」

ことり「愛の運命っ」

海未「何か言いましたか?」

ことり「ううん! なんでもないのよなんでもっ!」

穂乃果「よ~しっ! 二人がスクールアイドルになる前に実力を付けて差をつけちゃうからね」

海未「ええ、頑張ってください。剣道のことは残念ですが応援します」

ことり「ことりも応援してるよ。海未ちゃんを動かせるのは穂乃果ちゃん次第だと思うから」

穂乃果「絶対に三人でスクールアイドルやってみせるよーーーッ!」

海未「穂乃果! 夕方に近所迷惑になるので叫ばないでください!」

こうして三人一緒に入学し、卒業する筈だった道は途絶えた。

高坂穂乃果はUTXの芸能コース特待生として編入し、即日A-RISE入りが発表されて注目の的となる。

勿論実力をつけてからの公開となるが、優木あんじゅ自身によるスカウト。

先月UTXから引き抜いた生徒が音ノ木坂でスクールアイドルになったことの報復か?

それともただの偶然なのか……。

ファンの中でも話題が止まらず、ただ穂乃果のカリスマ性だけは現状況でも仄見える。

プロフィール欄の剣道部に所属していたことから運動能力は充分であろうと期待する声も多い。

不安よりも圧倒的期待が募るそんな中、


会長「……新メンバーが高坂穂乃果?」


運命は動き始める――。



思った以上に全然進まず。でも、書き途中なんでそんなに間は開かずに済むと思います。予想遊びも次でラストー

――にこあんのプチ夏休み... 一日目

夏の激動な日々が過ぎ、二代目から三代目SMILEへ移行する為の心の準備期間。

そう称して三日間の完全休養を取ることになった。

正確に三代目になるのは来年度になってからだが、リーダーがにこから穂乃果へ移る。

これは世代交代を明確にする為の物。

そんな中、一日目の始まりとしてにこはあんじゅと共にスクールアイドルショップを訪れていた。

にこ「ラブライブが終わって一週間だっていうのに、もうラブライブの時のグッズとか早いわ!」

にこ「ああぁぁぁっ! これ見てよ、A-RISEの最新版ブロマイドにこよ!」

にこ「でもでもブロマイドって一つ手を出すと何枚も欲しがって、気がつくとお小遣いが消える悪魔の趣向品」

にこ「小学生の時にアイドルのブロマイドを集め、もう手を出さないと決めた悪魔の宝物」

にこ「だっ、だけど! 昨日のママからの特別お小遣いが悪魔の誘惑を可能にするわ!」

あんじゅ「にこってば煩いにこ。もう少し静かにしないと出入り禁止になるよ」

にこ「あんじゅに正論を言われるなんて……そうね、この溢れ出そうになる想いは心の中で留めないと」

にこ「だけど顔のにやけは収まらないにこ!」

あんじゅ「それは私とデートしてるんだから当然にこっ」

にこ「デートって、あんたがいつものように勝手に付いて来ただけでしょ」

にこ「っていうか、どうして繋ぐ手の形が恋人繋ぎなのよ。余計に暑いんだけど」

あんじゅ「ヤンデレ度が極限突破したからだよ。ふぅわふぅわ★」

にこ「あんたのヤンデレはどこにたどり着けばゴールなのやら」

あんじゅ「んー……結婚?」

にこ「意外と現実的な答え!? いや、女同士だから非現実と言うべきかしら」

あんじゅ「ふっふーん♪ 私はにこと違って現実的な女だからね」

にこ「同性結婚発言の後に得意気に言うセリフじゃないわ」

あんじゅ「にこの妹だからね!」

にこ「意味わかんないニコ!」

にこ「そんなことよりあんたは何か欲しいのないの?」

あんじゅ「私はほとんど使い道決めてあるから多分買わないよ」

にこ「勿体無いわね。この宝の山を前にして何も買わないとか」

あんじゅ「あっ、ことりちゃんの抱き枕がある」

にこ「A-RISEの抱き枕は売れてますマーク付きね。今年加入の二人はまだ抱き枕にはなってないみたいだけど」

にこ「しかし流石ツバサね。一人だけ売り切れなん――って! 痛いわよ」

あんじゅ「あ、ごめん。無意識に繋ぐ手に力が入っちゃった」

にこ「絶対に故意でしょうが。その目のハイライト消すの恐いからやめなさいってば」

にこ「白目とか寄り目なら分かるけど、どうやったらソレ出来るのよ」

あんじゅ「簡単だよ。まずはヤンデレになります」

にこ「その誰でも簡単にヤンデレになれるって前提が間違えてるっての!」

あんじゅ「人を究極に好きになるだけで誰でも簡単になれるのがヤンデレなのに?」

にこ「病む程好きになるなんて普通は出来ないのよ」

あんじゅ「つまり私は選ばれし愛のにこにーハンター」

にこ「はいはい。私の何がそんなにあんたを狂わせるのかしらねぇ」

あんじゅ「どうしようもないくらいに切ないその71胸かな?」

にこ「誰がナイ胸よ! 胸はこれから育つのよ」

あんじゅ「そうだといいね。せめて胸だけでも理想の74へ」

にこ「りっ理想じゃないし。74じゃ現状維持になるもの。本当だもの! あるもん! あるにこ!」

あんじゅ「あぁっ、悲しい現実に幼児退行するにこ可愛い」

にこ「幼児退行じゃなくて事実だもの」

あんじゅ「最近本気でもう少しだけでも大きくなればって私も折ってるんだよ」

にこ「折るって何よ。祈るでしょうが!」

あんじゅ「そんなにこに質問です」

にこ「何よ?」

あんじゅ「こういうのって売り上げどうなってるの?」

にこ「スクールアイドルグッズはね、純利益から何割をその学校に寄付って形ね」

にこ「学校によりけりなんだけど、大体3割くらいだって聞くけど正確には分からないわ」

あんじゅ「へー。この抱き枕とかこんな値が張るのに3割……普通に凄い額になりそう」

にこ「これはあくまで噂だけどUTXの被服科の特待生の分は全てこの売上だけでおつりがくるとか」

にこ「三年生つまりは来年になれば被服科の一部生徒の作品は販売されるらしいわ」

にこ「その売り上げがより多くの特待生を増やしていくんじゃないかしら」

あんじゅ「アイドル関係以外にこの記憶力を発揮出来ないにこが残念過ぎるね」

にこ「質問に答えてあげたのにその返しは酷くない?」

あんじゅ「じゃあ感謝の意味を込めてぺろぺろ☆」

にこ「何その嫌がらせ」

あんじゅ「でもにこに尻尾が生えてたら今凄い勢いでブンブンと振ってるよね」

にこ「そんな訳ないでしょ」

あんじゅ「素直にならないツンデレにこが可愛い」

あんじゅ「特に最近デレが多めになってきたからツン分を補充出来て幸せにこ♪」

にこ「はいはい。だったら私の幸せな時間を奪うんじゃないにこよ」

あんじゅ「私と居れば常に幸せだから問題ないね」

にこ「それはあんたの場合でしょ」

あんじゅ「と言いつつ、握る手に少し力を込めて『私もだけどね』と伝えてくるにこがキュート」

にこ「そういうことを口にするから私は素直にデレないのよ」

あんじゅ「デレた後にツンを見せるにこ。胸がキュンキュンして色々危ない」

にこ「その色々の部分が激しく恐いんだけど……」

あんじゅ「ぐふふ。あっ、そうだ! 抱き枕で思い出した」

にこ「その単語で何を思い出せるのよ」

あんじゅ「帰ったら膝枕して。以前してもらったのだいぶ前だから久々に堪能したいニコ!」

にこ「いやよ。足が痺れるもの」

あんじゅ「私もにこの膝枕に心が痺れるから大丈夫」

にこ「……はぁ~。分かったわよ。してあげるから私に今の時間を堪能させなさい」

あんじゅ「うん! あっ、SMILEのコーナーがあるよ」

にこ「この売上で少しでも備品とか来年度の部費が上がるといいわね」

あんじゅ「そうだね。未来に繋がれSMILEの絆」

にこ「大人になっても音ノ木坂学院にSMILEがあったら涙しちゃう自信があるわ」

あんじゅ「十八歳だから大人の定義を二十歳と定めれば絶対に存続してるよ。凛ちゃんがリーダーだし!」

にこ「いや、もう少し大人よ。二十九歳とか三十歳とかその辺」

あんじゅ「十年以上後にSMILEがあったら……確かにちょっとくるものがあるかも」

にこ「卒業する前からそんなこと言ってちゃダメよね」

あんじゅ「そうだね。まるで訪れることのない未来フラグになりかねないから」

にこ「嫌なこと言うわね。こころとここあが居るんだから可能性はあるでしょう」

あんじゅ「うーん、そうかも。私達の妹である亜里沙ちゃんもやる気満々だしね」

にこ「そうね。頼りになる雪穂ちゃんも乗り気だって話だし、SMILEをおちびちゃん達が継ぐ日がくるかもね」

にこ「っ! 想像したら鼻がツーンとしちゃったわ」

あんじゅ「学校や設備のことを考えると難易度高いけど」

にこ「まぁね。現実的に考えると……ね。だけど、期待しちゃうわ」

あんじゅ「案外廃校オチだったりね」

にこ「それ冗談にならないわよ」

あんじゅ「でも大丈夫だよ。持ち直した訳だし、他の部活動もこれからの活躍が期待されてるし」

にこ「紡がれていく絆がどれほど頑丈か。楽しみだわ」

あんじゅ「にこあんの愛の絆がどうなってるか楽しみにこね♪」

にこ「腐ってるんじゃないの?」

あんじゅ「それは薔薇でしょ? 私達は百合だよ」

にこ「んー?」

あんじゅ「ん?」

にこ「よくわかんないけどまぁいいわ。何を買おうかしらねぇ」

あんじゅ「私のブロマイド買おうよ。私はにこのブロマイド買うから」

にこ「何その悲しい買い物。あんたのブロマイド買ってどうしろっていうのよ」

あんじゅ「お守りにするの。効果バッチリ!」

にこ「ないわよ。あんたの写メが待ち受けなのにいいことは特にないし」

あんじゅ「今日も幸せな一日を迎えられた。これ以上の幸せなんてこの世にないにこ☆」

にこ「絶対に待ち受け変えても変わらないっての」

にこ「でも、他の待ち受けにすると呪われそうな気がするからこのままでいいわ」

あんじゅ「デ~レデ~レ♪」

にこ「デレてないニコ!」

結局、にこはあんじゅのブロマイド一枚だけ購入して帰宅することになった……。

――矢澤家 午後三時

にこ「こころとここあは夏休みの宿題は終わった?」

こころ「あとは絵日記だけー」

ここあ「ここあは絵日記と読書感想文のつづきがあるにこ!」

にこ「ここあの読書感想文はきちんと終わりそう?」

ここあ「うん! 今日の夜にはおわるー♪」

にこ「そう。ここあがこんなに順調なんて凄いわね」

ここあ「あんちゃんが手伝ってくれたから」

にこ「答え教えてたりしないわよね、このおバカは」

こころ「それは大丈夫だよ。こころも教えてもらったところあるけど、教え方だけだったにこ」

ここあ「ズルはめっだもん」

にこ「よかった。あんじゅも私と絵里のこと言えないくらいシスコンだからね」

あんじゅ「すー……はー……」

こころ「あんじゅちゃん気持ちよさそう」

ここあ「あとでここあもひざまくらして欲しいにこ!」

――矢澤家 午後三時

にこ「こころとここあは夏休みの宿題は終わった?」

こころ「あとは絵日記だけー」

ここあ「ここあは絵日記と読書感想文のつづきがあるにこ!」

にこ「ここあの読書感想文はきちんと終わりそう?」

ここあ「うん! 今日の夜にはおわるー♪」

にこ「そう。ここあがこんなに順調なんて凄いわね」

ここあ「あんちゃんが手伝ってくれたから」

にこ「答え教えてたりしないわよね、このおバカは」

こころ「それは大丈夫だよ。こころも教えてもらったところあるけど、教え方だけだったにこ」

ここあ「ズルはめっだもん」

にこ「よかった。あんじゅも私と絵里のこと言えないくらいシスコンだからね」

あんじゅ「すー……はー……」

こころ「あんじゅちゃん気持ちよさそう」

ここあ「あとでここあもひざまくらして欲しいにこ!」

にこ「読書感想文をきちんと終わらせたらね。ご褒美にしてあげるにこよ」

こころ「こころもして欲しい!」

にこ「こころはそうね、あんじゅがしてくれるわ。それでいい?」

こころ「うん! こころはあんじゅちゃんにしてもらうー」

にこ「昔と違ってこういう時は喧嘩しないで済むから便利だわ」

にこ「でも、二人ともごめんね。姉は増えても練習で遅くなったりして」

にこ「本当はもっと二人と遊んであげられればいいんだけど」

こころ「大丈夫だよ。こころがお料理できればにこにーも安心なのに、ごめんね」

にこ「こころは本当にいい子ね。このでっかいのより断然いい子だわ」

こころ「うふふ♪」

ここあ「ここあもいい子だよ!」

にこ「そうね。昔なら寂しいって泣いちゃってたもんね。ここあもいい子だわ」

ここあ「えへへ♪」

にこ「二人は明日も予定はないの?」

こころ「みんな夏休みの宿題をがんばるって」

ここあ「もうすぐ終わりだからしかたないにこ」

にこ「二人がきちんとしてたからね。私が小学三年生の時は最終日まで頑張ってた物」

にこ「その点で二人は本当に優秀だわ。今後に期待ね」

にこ「でもそうなると遊ぶ友達が居なくて少し暇になっちゃうのかしら?」

ここあ「ひまー」

こころ「ひまにこ!」

にこ「明後日は穂乃果の家のお手伝いをするつもりだからあれだけど、」

こころ「ぽのかちゃんのお家のお手伝い?」

ここあ「ぽのかちゃんのお家にここあも行きたいニコ!」

にこ「って、ここあ。別に遊びに行くんじゃないの」

にこ「穂乃果のお家は二人も知ってるでしょ?」

こころあ「おまんじゅう屋さん!」

にこ「和菓子やなんだけど、メインがお饅頭だからいいわ」

にこ「次期跡取り娘をいつも借り出してもらってるお詫びにお店のお手伝いに行くの」

ここあ「あやとり?」

にこ「違う違う。あやとりじゃなくて跡取り。将来は穂乃果がお店の店長さんってことよ」

こころ「ぽのかちゃんがおまんじゅう作るのー?」

にこ「大人になったらそうなるみたい。まだまだ先の話だけどね」

ここあ「ぽのかちゃんのおまんじゅう食べたーい♪」

こころ「こころはおまんじゅう一緒に作ってみたいにこ♪」

にこ「流石に一緒に作るのは難しいかもね。早くても二人が私達くらいの年頃になってもまだ継いでない可能性もあるし」

にこ「まぁいいわ。そんな訳だから、明後日は二人で仲良くお留守番しててね」

ここあ「ユッキーにも会いたいからここあもお手伝いに行くー!」

こころ「こころもお手伝いするー!」

にこ「二人にはまだ早いし、逆に迷惑になるから」

ここあ「だいじょぶー」

こころ「きちんとお手伝いするにこっ」

にこ(最悪は雪穂ちゃんが居れば迷惑かもだけど預かってもらえるし)

にこ「ちょっと待っててね、電話で確認してみるから」

――ネタバレなんて認められないわぁ 雪穂の部屋 二時五十五分

雪穂「それでね、お姉ちゃんに訊いてみたの」

雪穂「どうしてこころちゃんとここあちゃんに《ぽのか》って呼ばれてるのって」

亜里沙「それで穂乃果さんはなんて?」

雪穂「わかんないって。でも可愛いからいいじゃんってさー」

亜里沙「確かに可愛いわ」

雪穂「私はてっきりお姉ちゃんがそう呼ばせてたのかと思ってたけど違ったんだよ」

亜里沙「不思議な話ね」

雪穂「不思議と言えば二人の挨拶だよね」

亜里沙「あれは穂乃果さんの教えた挨拶なのかしら?」

雪穂「ううん、あれもお姉ちゃんはよく分からないって」

雪穂「でも二人が可愛いからそれでOKだよねって」

亜里沙「ハラショー。穂乃果さんは大らかね」

雪穂「いや、お姉ちゃんの場合は大らかじゃなくて雑なだけだから」

亜里沙「そんなことないわ。大らかだからこそにこお姉ちゃんの跡を継ぐのでしょう?」

雪穂「お姉ちゃん曰く『海未ちゃんが生徒会長になるからその余り』らしいけど」

亜里沙「にこお姉ちゃんがそんなことでリーダーを譲ったりしないわ!」

亜里沙「穂乃果さんがリーダーに相応しいと思ったからよ」

雪穂「……まぁ、最近のお姉ちゃんはやる気に満ちてるし、相応しいとは私も思うけどね」

亜里沙「あっ、これってツンデレのデレの部分なのよね!」

雪穂「私はツンデレじゃないよ!」

亜里沙「いいえ、ツンデレの特徴はよく聞いてるから亜里沙分かるわ」

亜里沙「雪穂はツンデレよ!」

雪穂「そんな断言されても嫌だよ!」

亜里沙「お姉ちゃんがよく言ってるわ。ツンデレは自分をツンデレと言われると嫌がるって」

亜里沙「まさしく今の雪穂の反応が当てはまるわ」

雪穂「普通の人はツンデレなんて言われたら嫌がるから」

雪穂「いや、ツンデレの意味を知らない人の方が多いかもしれないけど」

亜里沙「羨ましいわ。私にはツンデレみたいなものがないから」

亜里沙「スクールアイドルをした時に覚えてもらえないかもしれない」

雪穂「その見た目が既に目立ってるから大丈夫だよ」

雪穂「それに絵里さんの卒業と入れ替わりなんだから、絵里さんの妹ってだけでもインパクトあるし」

亜里沙「そうだといいのだけど。私達がSMILEに入った所為で人気が落ちたら恐いから」

雪穂「にこさんが言ってるじゃない。恐がる暇があればまず練習って」

雪穂「練習して自信をつけて、見てくれる人たちを笑顔にする」

雪穂「結果よりも笑顔を作り出すことがスクールアイドルの在り方なんだって」

亜里沙「そうね。お姉ちゃんも言ってたわ」

亜里沙「例え失敗してもそのことを後悔する必要なんてない」

亜里沙「そこから得た物を如何に生かすかが重要なんだって」

亜里沙「意味はよく分からないのだけど、とても良いことを言ってるに違いないわ」

雪穂「そこはきちんと意味を理解してあげようよ! 絵里さんが可哀想だから」

亜里沙「だってどういう意味なのか教えてって言っても顔を赤らめて逃げちゃうんだもの」

雪穂「そりゃー格好良く決めたセリフを理解されずに詳しく教えてって言われたら逃げたくもなるよ」

雪穂「それも自分の経験から得た教訓だから余計にね」

亜里沙「だったら雪穂が亜里沙に教えて」

雪穂「いや、これは自分でこの言葉の意味を知ることに意味があるのかも」

雪穂「誰かに教わっても実感が湧かないかもしれないし」

亜里沙「どうして意地悪するの?」

雪穂「意地悪じゃないよ。これは亜里沙の為」

雪穂「成功し続けることが出来る人間なんて居ないから」

雪穂「いつか実感してその意味を真に理解した時に立ち止まらずに歩き出せる」

雪穂「絵里さんは亜里沙にそういう人になって欲しいんだよ」

亜里沙「よく分からないわ」

雪穂「うん、今はそれでいいんだよ。私達はこれからグッと成長していくんだから」

雪穂「さってと、勉強もこれくらいにしてそろそろ練習に行こうか」

亜里沙「ええ! SMILEの名に恥じないスクールアイドルになる為に頑張らなきゃ」

雪穂「私達の後輩になる子達に入りたいって思ってもらえるようにならないとね」

亜里沙「そっか。私達の後にも続いていくんだものね」

雪穂「そうそう。私達でSMILEを終わりにする訳にもいかないじゃん」

雪穂「そうなったらお姉ちゃんになんて言われるか」

亜里沙「お姉ちゃん達に申し訳が上がらないわ」

雪穂「申し訳は元々上がらないから。申し訳が立たない、だよ」

亜里沙「そうだった。申し訳が立たないわ!」

雪穂「後輩だけじゃなくて、私達と一緒にやってくれる同級生だって出来るかもしれないし」

亜里沙「凄く楽しみね♪」

雪穂「うん!」

しかし、それはSMILEの最後を飾る二人には決して訪れることのない未来。

SMILEと音ノ木坂学院アイドル研究部は雪穂と亜里沙の卒業を持って終焉を迎えることになる。

雪穂「あ、噂をすればじゃないけどにこさんから電話だ」

雪穂「もしもし、雪穂です」

――矢澤家 にこの部屋

にこ「お手伝いに疲れたら雪穂ちゃんと亜里沙が遊んでくれるって」

ここあ「やたー♪」

こころ「お手伝いもがんばるニコ♪」

にこ「遊んでもらったらきちんとお礼を言うのよ?」

こころあ「うんっ!」

にこ「明後日の予定は決まったとはいえ、次は明日ね」

にこ「夏休みなんだし、たまには電車に乗ってちょっと遠出しましょうか」

ここあ「電車!?」

こころ「何処に行くにこ?」

にこ「ピクニックってことでどこか広い公園みたいな所はどう?」

こころ「たのしみー♪」

ここあ「さんせーい!」

にこ「良かった。じゃあ、特別なお弁当を作るにこよ」

にこ「何かお弁当に入れて欲しい物はある?」

ここあ「ソーセー人がいいにこ♪」

こころ「こころはうさぎさんリンゴがいいにこ☆」

にこ「他には何がいい? なんでもいいわよ」

ここあ「それじゃあね、それじゃあね。ミニハンバーグ!」

こころ「えっとね、玉子焼きがいい!」

あんじゅ「……カレー」

にこ「あんじゅ、起きた?」

こころ「あんじゅちゃん、おはよう」

ここあ「おはようにこ!」

あんじゅ「私いつの間にか寝てた?」

にこ「にこの膝に頭を乗せて三秒で夢の世界に旅立ってたわよ」

あんじゅ「そんな、のび太君じゃないんだから。それで何か食べ物の話をしてた?」

ここあ「お弁当のお話だよ!」

こころ「明日はピクニックに行くの!」

あんじゅ「……明日!?」

にこ「何よ。あんたにしては珍しく何か用事があるの?」

にこ「それなら三人で行ってくるけど」

あんじゅ「まずは引き留めることをするべきニコ!」

あんじゅ「何時頃?」

にこ「余り早いと逆に混んでる気がするし、でも遅いと帰りが混むし」

にこ「だからやっぱり早めの方がいいかしらね」

にこ「九時頃出るくらいでいいかなって思うけど」

あんじゅ「よし、大丈夫。寧ろ大丈夫にしてもらうから私も絶対に行く」

にこ「勿体ぶってるんじゃなくて本当に用事があるのね」

にこ「私が手伝うなら手伝うわよ?」

こころ「こころも手伝うにこ!」

ここあ「ここあもがんばるにこよ?」

あんじゅ「みんなありがとう。でもこれは手伝ってもらえないことだから」

あんじゅ「気持ちだけはありがたく受け取っておくね」

にこ「私が手伝えないことって何よ?」

あんじゅ「秘密★」

にこ「ぐぬぬ! 何だか凄く気になるじゃないの」

あんじゅ「極度のシスコンなにこは私が秘密事を一つ持つだけでこの反応」

あんじゅ「大丈夫だよ。帰ってきたら分かることだから」

にこ「変なことじゃないかって心配なだけよ」

あんじゅ「ヤンデレだからにこ一筋だから大丈夫にこ♪」

にこ「ヤンデレな時点で全然大丈夫じゃないわよ」

あんじゅ「お弁当ならカレーは無理かぁ」

にこ「って、切り替え早っ!」

ここあ「おにぎりは?」

あんじゅ「えっ?」

ここあ「カレーおにぎりがあるって聞いたよ」

こころ「ここあ、それ本当?」

ここあ「カレー好きのさくらこちゃんが言ってたー」

あんじゅ「にこ! 私はカレーおにぎりっていうのをリクエストするニコ!!」

にこ「未知過ぎるから味は保証しないけどね。さっそく調べてみましょう」


次の日になって、にこはとても後悔する。

何故、きちんとあんじゅのことを問い詰めなかったのかと。

でも、これは変えられない少し未来のお話。

それは《優木あんじゅ》との決別……。 つづく!

《訂正と危機》

穂乃果「間違えた、穂乃果に甘え過ぎじゃなくて甘過ぎだよ! あれじゃあ穂乃果だけ嫌な子みたいになってる!」

穂乃果「えなんて言葉がこの世になければこんな失敗しなかったのに」

穂乃果「この世から《え》なんて言葉が消えますように!!」

海未「穂乃果、自分のミスを世界規模で修正しようとしないでください」

ことり「そうだよ、穂乃果ちゃん。困る人だって大勢出てくるよ」

穂乃果「でもでもでもっあれじゃあ穂乃果かなり嫌な子なんだもん」

海未「私とことりが穂乃果に甘いのは確かですし」

ことり「そうだね。だって穂乃果ちゃんだもんね」

穂乃果「事実だとしてもそれを自分で言っちゃうなんて嫌だよ」

穂乃果「この世からえがなくなるっていうのなら、神田明神の階段でお百度だってするよ!」

穂乃果「ううん、してくる。そうすればきっとあの失敗はない優しい世界になってる筈だもん」

海未「ちょっと穂乃果!」

ことり「待って穂乃果ちゃん!」

穂乃果「私やるったらやる!」


会長「!?」

◇次回作予想 完結編★ミ◇

――五月半ば UTX学院 廊下 穂乃果

あんじゅ「あら?」

穂乃果「あんじゅさん、こんにちは!」

あんじゅ「うふふ。丁度いいところに居たわ」

穂乃果「あんじゅさんの丁度いいは余りよろしくないような」

あんじゅ「私って穂乃果さんからの印象が悪いのかしら?」

穂乃果「そういう訳じゃないですけど、練習はすっごい厳しいです」

あんじゅ「それは当然よ。A-RISEは生半可な気持ちでステージに立てるんじゃないの」

穂乃果「半分詐欺にあった気分」

あんじゅ「そんなこと言わないの。それとも不完全な状態でステージに立って気持ちよくなれる?」

穂乃果「いやー完璧に出来ても気持ち良くはなれないかと」

あんじゅ「そんなことないわ。完璧にこなせた時は凄い快感を得られるのよ★」

あんじゅ「冗談はともかくとして、自分に自信を持ってない状態で満足させられないのよ」

穂乃果「確かにそうかもしれないですね」

あんじゅ「それに有名だけど《練習は決して嘘を吐かない》って言葉通り、上手くなっているでしょう?」

穂乃果「それは毎日実感してます。昨日出来なかったステップが今日は踏める」

穂乃果「昨日までは知らなかったことが今日は出来るようにまでなっている」

穂乃果「すっごい疲れるけど心が弾んで楽しくて。でもその分心身ともにぐったりとなって」

あんじゅ「身も心も慣れてしまえば楽しめるようになるわ」

あんじゅ「それにライバルが二人もその背中を追ってくるのでしょう?」

穂乃果「はいっ! 海未ちゃんとことりちゃんは私の最大のライバルになります!」

あんじゅ「だったら厳しくても今を楽しまなきゃ。苦しいと思っちゃ成長も遅くなるものよ」

穂乃果「はぁい。肝に銘じておきます」

あんじゅ「私にもねとびっきりのライバルが居るの」

あんじゅ「誰よりも可能性を秘めていて、誰もを惹きつけるカリスマを持っている」

あんじゅ「そんな最強のライバルがね」

穂乃果「あんじゅさんがそこまで評価するなんて……本気で凄い人なんですね」

あんじゅ「ええ。でも、私との約束を反故にしてここには入学しなかったんだけど」

あんじゅ「だけどね、お陰で敵として最高の舞台を用意してくれる」

あんじゅ「私と同じ目線で物事を見れるのはきっと矢澤にこその人だけ」

穂乃果「矢澤にこ、さん」

あんじゅ「音ノ木坂学院のスクールアイドル。リトルダブルウイングの副リーダー」

穂乃果「オトノキの!? でも、リーダーじゃないんですね」

あんじゅ「あれ程の才能を持ってるのに自分より人を立てる方が好きなのよ」

あんじゅ「リーダーの綺羅ツバサも充分な素質があるのは確かだけどね」

あんじゅ「私としてはやはりにこにリーダーになってもらって、直接対決をしたいわ」

あんじゅ「其れがラブライブの決勝であったら何も言うことがない」

穂乃果「あんじゅさんの夢、ですか?」

あんじゅ「ええ、絶対に叶えてみせる。あっ、こんな長話してる場合じゃなかった」

あんじゅ「悪いんだけどこの封筒を生徒会長に渡して来てもらえるかしら?」

穂乃果「疑問形なのに押しつけてくる辺りがあんじゅさんらしいですよね」

あんじゅ「だって穂乃果さんは素直な子だから断ったりしないと信じてるだけよ」

あんじゅ「それとも私の用事を断らないといけない位の大事な用事があるのかしら?」

穂乃果「……はい、渡してきます」

あんじゅ「そんな嫌そうな顔しないで。今日の帰りにパフェでも奢るから」

穂乃果「分かりました!」

あんじゅ「現金ねぇ。あ、生徒会室の場所は分かる?」

穂乃果「最上階ですよね。地図で見たことあります」

あんじゅ「それじゃあ、よろしくね」

穂乃果「でも、これくらいなら自分で行けばいいのに」

あんじゅ「会長さんのお友達をオトノキにあげちゃってから機嫌が悪いのよ」

あんじゅ「ツンツンしてる会長さんも可愛いけど、向こうがストレスを感じると悪いでしょう?」

穂乃果「なるほど、納得です。それじゃあ生徒会長に渡して来ます」

あんじゅ「ええ、よろしくね」

――生徒会室 穂乃果

穂乃果(生徒会室に入るなんてちょっと緊張するなぁ)

穂乃果(でも大勢の人の前でライブをすることになるんだから、これくらいで緊張してちゃダメかも!)

穂乃果「しつれいしまーす」

「生徒会に何か御用ですか?」

穂乃果「はい、あの生徒会長は居ますか?」

「会長ならあそこに」

穂乃果「良かった。実は生徒会長に用がありまし――え?」

時は自分が生まれる前から流れ続け、止まることなんてありえない。

それでもこの瞬間、確かにその流れが止まったように感じた。

初めて出逢った時とは違うけど、胸の鼓動が高まったのは変わらない。

手紙の返事が途絶え、今ロシアでどうしてるのか心配だった。

バレエの練習が過酷で手紙を書く余裕もないのか。

それとも何か嫌われるような内容を書いてしまったのか。

返事がない限り決して答えの出ない筈の問題だった。

でも、その答えを与えてくれる唯一の存在がそこに居た。

穂乃果「絵里、ちゃん?」

会長「……それで私に用とは何かしら?」

穂乃果「どう、して日本に?」

会長「用件を訊いているのよ」

穂乃果「そんなことどうでもいいよ! どうして絵里ちゃんが日本に居るの!?」

「会長、お知り合いですか?」

会長「いいえ、知らないわ。初対面よ」

穂乃果「初対面って、どうしちゃったの?」

穂乃果「私手紙に絵里ちゃんに嫌われるようなこと書いちゃった?」

会長「用件だけを言いなさい。私達生徒会は忙しいの」

穂乃果「どうして? なんでそんなことを言うの?」

会長「初対面の相手と会話する程暇ではないからよ」

穂乃果「初対面なんて嘘じゃない! だって絵里ちゃんでしょ?」

穂乃果「町内会のお祭りで初めて逢った、一丁目の絵里ちゃんだよね!?」

穂乃果「お神輿に興奮してこけて膝を擦り剥いて泣いてた私にハンカチを差し出してくれて」

穂乃果「泣いてちゃお祭りは楽しめないわよ! って明るく声を掛けて慰めてくれたよね」

穂乃果「泣きやんだら笑顔で頭を撫でてそのままお神輿に乗って去って行った」

穂乃果「一丁目の絵里ちゃんだよね!?」

「ロシアにもお神輿ってあるの?」

「町内会ってことは日本なんじゃないかしら?」

「それにしても……クスクス」

「一丁目の絵里ちゃんって、クスクス」

「氷の生徒会長が一丁目の絵里ちゃんな訳がないわ!」

会長「あ、貴女はそういえばA-RISEの新メンバーの高坂さん、だったわよね?」

会長「初対面だけど貴女も私を生徒会長として情報を媒体に会っていたと誤認しているみたい」

会長「その一丁目のリーさんて方との思い出を私に被せているみたいね」

会長「屋上で話しましょう。そうすれば貴女の熱が入った思考回路も落ち着くでしょう」

会長「そういうことなので少し席を外すわ。勘違いしている彼女の間違いを訂正してくるから」

「分かりました。会長が今している分は私が引き継いでやっておきますので」

会長「ええ、お願いね。さ、行くわよ。高坂さん」

穂乃果「……うん」

――UTX学院 屋上 絵里

穂乃果「どうして絵里ちゃんが日本に居るの? どうして連絡くれなかったの?」

穂乃果「UTXに通ってるなら穂むらなんて歩いて行ける距離だよね。どうして遊びに来てくれなかったの?」

穂乃果「やっぱり手紙が原因なの? 絵里ちゃんは元気にしてる?」

激情が沢山の言葉となって溢れ出た。

絵里にとってそれら一つひとつが心に突き刺さる。

断じて手紙が原因な訳じゃない。

穂乃果・海未・ことり。

三人がくれる温かい手紙が練習で疲れた身体を優しく解してくれた。

自分の夢の所為で距離は離れてしまったけど、心の距離は変わってはいないんだと。

だから手紙が届いた日は、どんなに疲れていても次の日には手紙を出せるように返事を書いた。

手紙の数が増える度、絵里にとっての焦りも増えていった。

どれだけ練習しても結果が伴わない。

お婆様の期待に優勝という最高の結果で報いたいのに、何度も何度も落選。

自分の夢を叶える為にロシアに来た。

三人はその夢を叶えられると微塵も疑っていない。

それがとても苦しい物に変化してしまった。

届いたその日の内に書いていた手紙。

でも、書いている途中に涙が溢れ、また四人で遊んでいたいと逃げ出したくなって。

返事を書けなくなっていた。

それなのに、三人からの手紙は途切れることがない。

寧ろ、返事がないことで心配させてしまい逆に増えた。

いつしか手紙を開封することが出来なくなり、

『お婆様……私、もう踊れません』

輝かしい夢が大きな重みと変わり、追い求める道を諦めた。

才能がなかったなんて言い訳はしない。

努力が足りなかったなんてこともなかったと思う。

ただ、夢を追い続ける絶対の覚悟がなかった。

日本を発った時に紡いだ絆を全て無に戻すべきだった。

そうすれば日本に戻りたいなんて逃げ道を用意することもなく、ただひたすらに夢を追い求めるしかなかったのだから。

其れは絵里の後悔故の妄想。

しかし、その妄想は肥大するのを止めることは出来ないまま日本に戻ってきた。

日本に居たままなら進学していた音ノ木坂を選択せず、UTX学院に入学。

慣れない一人暮らしの中、後悔と悪夢にうなされる日々。

夢を諦める結果に繋がったのは人との絆。

絵里は心を閉ざし、表情豊かだった面影を無くし、氷のように冷たくなった。

そんな氷に負けずに声を掛け続けたのはたった一人。

目の前に居る高坂穂乃果とは正反対なのに、何処か同じ匂いのする不思議な少女。

東條希と出会ってから悪夢を見ることはなくなった。

だけど、後悔はより重く圧し掛かる。

人との絆が恐いのに、入り込もうとしてくる。

希が絵里を友達と言っても、絵里が希を友達と明言することはなかった。

そんな希も優木あんじゅによって音ノ木坂学園へ転校した。

何故か今までより深くて重い後悔が自分を押し潰そうとしてくる。

後悔と恐怖と悲しみに溺れそうになった今、その子が現れた。

身勝手で臆病でどうしようもなく弱い自分に対し、

穂乃果「穂乃果はずっと絵里ちゃんに会いたかった!」

涙が出そうになるくらい嬉しい言葉を投げかけてくれる。

ずっと会いたかったのは絵里も同じだった。

UTXに入学した理由は音ノ木坂学院に一番近い学校だったから。

偶然に再会して、あの元気な笑顔を貰えれば救われるんじゃないかと思った。

誰よりも絆を恐れながら、その絆に救いを求める。

二律背反な想いこそが絵里の本心。

絵里「……私はね、夢を諦めて……日本に逃げて来たの」

手紙を読めなくなって初めて、肥大した妄想から逃れ出た心の叫び。

氷の生徒会長と呼ばれる絵里とは思えない、迷子の子供のような震えた涙交じりの声。

まるで絵里が穂乃果と出逢った時の穂乃果のように。

穂乃果「絵里ちゃん」

先ほどまでの激情が嘘のように、母親のような優しい声色。

絵里を抱きしめ、その頭を撫でながら紡ぐ。

穂乃果「夢ってね、例え消えてもまた生まれるものなんだよ」

穂乃果「穂乃果は絵里ちゃんと出会う前はね、ケーキ屋さんになりたかったの」

穂乃果「絵里ちゃんと出会ってからはミュージカルのダンサーになるのが実は夢だったんだー」

穂乃果「そして今は穂むらの味を、受け継がれてきた伝統をこの手で再現すること」

穂乃果「夢は形がないし、人によってその大きさも重さも全然違うの」

穂乃果「これはお婆ちゃんの言葉なんだけどね、夢の一つひとつを大きく思える人は優しい人なんだって」

穂乃果「優しいからこそ傷つき易くて夢を失った時に悲しみに飲み込まれちゃう場合があるって」

穂乃果「もしそんな人と出会ったらこうして優しく抱きしめて頭を撫でて褒めてあげるなさいって言われたの」

穂乃果「言われた時はどういうことか実感が湧かなかったんだけど、今なら解る」

穂乃果「絵里ちゃんは夢の為に沢山努力してきた。近くに居なかったけど、手紙の返事で伝わってきたよ」

穂乃果「だって、海未ちゃんみたいに綺麗な絵里ちゃんの字が崩れてたりしてたもん」

穂乃果「そんな風に疲れるくらい努力して、なのに早く返事をしようとしてくれてたの伝わってきて」

穂乃果「迷惑なんじゃないかって思ってたけど、でも応援したくて手紙を早く書いて出して」

穂乃果「ごめんね」

絵里「なんで」

なんで穂乃果が謝るの?

そう言いたかった言葉は、涙が零れ落ちて途切れた。

穂乃果「きっと穂乃果達の手紙が絵里ちゃんを追い詰めちゃったんだよ」

穂乃果「夢の為に日本を発ったんだから叶えないとダメだって」

穂乃果「この夢だけを叶えないといけないなんだって」

穂乃果「絵里ちゃんの想いを汲み取れずにバレエのことを応援し続けてた」

穂乃果「夢は一つじゃないんだってお婆ちゃんに教えられてたのに」

そんなことはない。

寧ろ、夢に向かって努力している相手にそんな水を差すようなことを言う方が失礼だ。

なのに、穂乃果は謝るのを止めない。

穂乃果「本当にごめんね」

穂乃果「穂乃果は泣いている時に絵里ちゃんに救われたのに、穂乃果は絵里ちゃんが苦しんでる時に救ってあげられなかった」

穂乃果「それなのにさっきどうして会いに来てくれなかったのなんて、そんなこと言う資格なんてないのに」

穂乃果「絵里ちゃんの夢は一人の夢な筈なのに、穂乃果達三人分の想いまで背負わせて」

穂乃果「だから余計に苦しんだんだよね。ごめんなさい」

その言葉は肥大した絵里の妄想を打ち消すには充分な言葉であり、唯一の魔法でもあった。

なんて私は馬鹿なんだろうと泣きながら冷静な部分の頭が思う。

お婆様に謝ったように、日本に帰ってきてまずすべきことがあったのに。

そのすべきことを自分が言われる側になるなんて、とっても賢くない。

こんなに自分を心配してくれた子の想いを言い訳にして、逃げ続けていた。

本当に私って馬鹿ね……。

絶対的な後悔がありふれた悲しみに姿を変えていく。

だったら泣いてる場合じゃない。

絵里「……穂乃果」

穂乃果「漸く名前を呼んでくれたね♪」

場違いな程に幸せそうな声色。

だからだろう。

絵里「ただいま」

言おうとしていた言葉を間違えてしまった。

穂乃果「おかりなさい!」

ううん、それはきっと正解だったのかもしれない。

私は漸く本当の意味で日本に帰ってこれた。

昔みたいに臆病なんて知らない自分に戻っていける。

今なら見つけられる気がする。

お婆様に笑顔で新しい夢を見つけたって報告する未来を――。

――翌日 UTX学院 会議室 絵里

あんじゅ「それで、誰も居ない会議室に呼び出すなんて何の用かしら?」

あんじゅ「資料ならきちんと穂乃果さんに届けて貰った筈だけど」

絵里「……貴女には負けたわ」

あんじゅ「はい?」

絵里「まさか私の過去を調べ上げて穂乃果との関係を調べ上げ」

絵里「あの子のカリスマ性と呼ぶには非凡な魅力に気づきA-RISEに勧誘する」

絵里「接点のない貴女が穂乃果と出会うには穂むらを経由するのも納得がいくわ」

絵里「一度や二度じゃいくら穂乃果でも親しくなるのは難しい」

絵里「太ったことがヒントって言った時は何を言ってるのかと思ったけど」

絵里「穂むらに通って和菓子を沢山食べてたらそれは太るわよね」

絵里「東條さんを音ノ木坂学院に転校させて、その一ヶ月後」

絵里「この目新しさが落ち着く時に逆に音ノ木坂学院から穂乃果を特待生として編入させる」

絵里「ある意味で入れ替わりでありながら、新年度開始の向こうと違ってインパクトが強い」

絵里「優木さんのことだからその気になればスクールアイドルの発言力でそのことを先生に伝えればいつでも東條さんを転校させられた」

絵里「でも新年度に編入の形になる時期まで待ってたのね」

絵里「都合のいいことにその時に私がインフルエンザで休んだ」

絵里「ある意味敵を騙すにはまず見方からじゃないけど、見事に欺かれたわ」

絵里「あの時の言葉にこんな深い意味があったなんてね」

絵里「おまけじゃないけど私がバレエの経験者であり、穂乃果は私を慕っている」

絵里「諦めて帰ってきたけど、その努力を殺さずに活かすにはスクールアイドルは正に水を得た魚」

絵里「あの子の勢いに私が適う訳もないしね」

絵里「……全てが貴女の掌の上っていうのは癪だけど」

絵里「穂乃果の性格上見張り的な意味でも私が必要だったんでしょう?」

絵里「優木さんの糸に操られてって訳じゃなく自分の意思でスクールアイドルを始めるわ」

絵里「だからって東條さんの件を許した訳じゃないんだからね?」

絵里「私の唯一の友達を転校させたんだから。ま、今は穂乃果が居るし」

絵里「音ノ木坂学院には私の大切な友達が他にも二人居るから」

絵里「落ち着いたら東條さんにも会いに行ってくるわ」

あんじゅ「…………」

あんじゅ「なるほど。私の考えを読み切るなんて、流石氷の会長さんね」

絵里「その言い方やめてよ。もう、私は心を氷で閉ざしたりなんてしないんだから」

あんじゅ「じゃあ、なんて呼べばいいのかしら?」

絵里「絵里って呼びなさい。あんじゅ」

あんじゅ「分かったわ、絵里さん」

絵里「そういう訳だから、これからよろしくね。あ、生徒会長の方も代わりを見つけるから」

絵里「私は不器用だから。二足草鞋なんて無理だし」

絵里「だから少しの間は正式な練習参加出来ないから、穂乃果のことお願いね」

絵里「あの子は凄く無茶する子だから」

あんじゅ「ええ、分かってるわ」

絵里「それじゃあ、先に戻るわ」

あんじゅ「生徒会の方頑張ってね」

あんじゅ「…………」

あんじゅ「会長さんと穂乃果さんの繋がりがあっただなんて驚きだわ」

あんじゅ「あ、先生にメンバーが増えること伝えてこないといけないわね」

――同日 西木野邸 にこ

ツバサ「さぁ! この苦しい状態からの練習こそが未来の自分を支える力になるのよ」

にこ「いや、にこはそろそろ帰るから。今日はパパが早く帰ってくるから」

にこ「パパより遅く帰ったら不良になったんじゃないかと心配されるわ」

真姫「にこちゃんってば本当にファザコンよねぇ」

希「と、ファザコンの真姫ちゃんが言ってるよ、にこっち」

にこ「私はパパもママも二人の天使もみんな大好きなのよ」

ツバサ「羨ましいくらいに仲がいいもね、にこの家族は」

ツバサ「だからこそお父さんより帰りが遅くなっても心配は要らないわ」

ツバサ「それだけにこが将来のアイドルになる為に努力している証拠だもの」

にこ「それあんたの勝手な押し付けでしょ」

ツバサ「全く。二年目に入ってもにこは素直にならないんだから」

希「ある意味にこっちと真姫ちゃんって似た者同士やんね」

真姫「私はにこちゃんほど捻くれてないわよ」

にこ「まるでにこが捻くれ者みたいじゃない! どちらかというと希でしょ」

希「残念。ウチは不思議少女だから」

ツバサ「いいわね。不思議少女系アイドル」

希「スピリチュアルパワーで何でも解決!」

真姫「いや、それってアイドルと関係ないし」

にこ「ということで私は帰るわね」

ツバサ「しょうがないわね。今日の練習はこれでお開きにしましょう」

ツバサ「その代わり、にこは一人だと誘拐されそうだから私が送っていくわ」

にこ「あんたはそう言って私の家に泊まる算段でしょ!?」

真姫「……にこちゃんはもう少し勉強した方がいいわ」

希「でもおバカな方がアイドルって愛嬌があるし」

ツバサ「そうね。にこに頭脳を求めるのは駄目よ」

にこ「え、何よ? 私何か間違えた?」

ツバサ「その答えは今日寝る前に教えてあげる」

にこ「やっぱり泊まる気満々じゃない!」

希「しゃあないなー。小柄な二人が並んで歩いてても誘拐の対象だし」

希「のんちゃんが一緒に送ってあげる」

にこ「どうせ希もツバサと同じ目的でしょ?」

希「いいやん。ウチ一人暮らしだから人恋しいんよ」

ツバサ「そういうものらしいわね」

真姫「……しょうがないわねぇ。私もにこちゃんのお家に泊まりに行ってあげるわ」

にこ「なんでよ!? てか、主賓の私が誰一人誘ってないのになんで決まってるの!?」

ツバサ「リトルダブルウイングことLDWは今日も仲良しね」

にこ「勝手にいい話風にまとめてるんじゃないわよ!!」

――五月末 放課後 家路 海未

ことり「本当に海未ちゃんはこのままでいいの?」

海未「何が言いたいのですか?」

ことり「絵里ちゃんは夢を諦めたけど、今は穂乃果ちゃんと一緒にスクールアイドルを始めてる」

ことり「昨日練習を見学させてもらったけどね、バレエの経験があるだけあってとても綺麗だった」

海未「流石は絵里ですね」

ことり「海未ちゃんは今のまま剣道を続けてていいの?」

海未「当然です。寧ろ剣道を辞めてまですること等、私にはありません」

ことり「穂乃果ちゃんが言ってたよね」

ことり「穂乃果の中で一番凛々しいのは海未ちゃんだって」

ことり「このままだとその座を絵里ちゃんに奪われちゃうんじゃないかなぁ」

海未「そんなこと……」

ことり「ことりは可愛い一番だからスクールアイドルを始めても始めなくても大丈夫だけど」

海未「なっ!?」

ことり「剣道を一生懸命頑張る海未ちゃんは凛々しいと思うよ」

ことり「でも、穂乃果ちゃんが望んでるのは一緒のステージで競い合うこと」

ことり「大人になる私達の最後にして最大の遊び」

ことり「遊びって言うと不真面目に聞こえちゃうかもだけど、子供にとって遊びこそ真剣だから」

ことり「将来の夢に繋がること以上に大切な物だよね」

海未「……」

ことり「ことりは無理に海未ちゃんをスクールアイドルに誘いません」

ことり「でも、穂乃果ちゃんはUTXに通ってるから私達のこと分からないよね」

ことり「もしかしたら自分の努力が足りないからスクールアイドルを始めてくれないのかも!」

ことり「なんて考えてオーバーワークで練習して、倒れちゃったりするかも」

海未「……っ」

ことり「今までと違ってファンの人たちが待っているステージに自分の所為で立てない」

ことり「そんなことになったら穂乃果ちゃん傷つくだろうなぁ」

ことり「でも、海未ちゃんはスクールアイドルじゃないから穂乃果ちゃんを慰める資格もないし」

ことり「絵里ちゃんが泣いている穂乃果ちゃんを魔法を掛けたように泣き止ませるのかも」

ことり「あのお祭りの日みたいに」

海未「な、何が言いたいのですか?」

ことり「傷ついている時に慰めてくれるとやっぱり好感度が急上昇っ♪」

ことり「絶対不動な座も変動しちゃったりするかも?」

ことり「ことりは可愛い一番だからスクールアイドルを始めても始めなくても大丈夫だけど」

海未「何故二度も同じ言葉を繰り返すのです」

ことり「どうしてでしょう?」

海未「……」

ことり「例えば夜に雨が降ってる中でもランニングする穂乃果ちゃん」

ことり「当然無理がたたって風邪で熱を出して」

ことり「甲斐甲斐しく面倒をみる同じスクールアイドルの絵里ちゃん」

ことり「元気が出るおまじないと言って穂乃果ちゃんの熱いおでこにキスをするの」

ことり「でもね、絵里ちゃんがその所為で今度は風邪をひいちゃって」

ことり「穂乃果の所為だーってなって、同じスクールアイドルの穂乃果ちゃんが絵里ちゃんを看病するの」

ことり「でも、一つだけ違うのはおまじないの位置。一体穂乃果ちゃんは絵里ちゃんの何処におまじないを落とすのかなぁ?」

海未「さ、さっ最近のことりは変な物を読み過ぎですっっっ!!」

ことり「やぁん。海未ちゃんがことりに八つ当たりをしてくる。助けて、ほのかちゃー」

海未「変なことばかりを口にして」

海未「でも……夢に繋がる以上に大切な物」

海未「そうですね、そういう物が許されるのは今しかないのですよね」

ことり「穂乃果ちゃんの言葉をアレンジしただけだけどね」

海未「しかし、私にアイドルなんて物が相応しいとは思えないのですが」

ことり「穂乃果ちゃんの目に狂いがあると思う?」

海未「それは酷い口説き文句です。スーパー幼馴染としては反論を封殺されてしまいます」

ことり「ふふっ」

海未「ああ、もう。本当に幼馴染というのは厄介であり、お節介でもありますね」

ことり「一番お節介焼きなのは海未ちゃんだけど」

海未「言いますね。穂乃果が待っているのなら、やはりやるしかありません」

海未「ここで逃げては園田海未の名が廃ります」

海未「ことり、一緒にスクールアイドルを始めましょう」

ことり「はいっ!」

海未「ですがことり」

ことり「なぁに?」

海未「私は鍛えてるので平気だと思いますが、ことりは体力的に大丈夫なのですか?」

ことり「…………あっ」

海未「全く。人の世話ばかりして自分を疎かにするなんて未熟者の証ですよ」

海未「ですが私に任せてください。ことりが直ぐにスクールアイドルになれるくらいの練習を考えます」

ことり「ぴぃっ!」


まるで運命の糸に突き動かされるように、少女たちはスクールアイドルを始めていく。

スクールアイドルの祭典、ラブライブの舞台を目指して。

お互いを高め合い、競い合い、笑顔を見せ合って成長していく……。 おしまい★

◆合宿前フラグ強化期間にて...◆

――音ノ木坂七不思議 夜の校舎

幽霊『第四までの不思議が消えたのはそなたの仕業か』

海未「貴方達に何らかの感情を抱いてはいません」

海未「しかし、これも大連続合宿で姉や幽霊が恐い子達が平和な夜を迎える為です」

海未「ですから恨んでいただいて構いません」

幽霊『ふははは! 実に潔い。だが、はいそうですと消える訳にはいかぬ』

幽霊『同じ校舎に存在するだけで仲間意識等はなかった』

幽霊『だが、長き間を共に過ごした者同士。仇位は討とうではないか』

海未「……貴方に私が倒せると?」

幽霊『不可能とは言わせぬよ』

海未「私は愛弗精霊・ウミンディーネ」

幽霊『アイドル精霊ウミンディーネか。我に名はない。だが人は我を第五の不思議と呼ぶ』

幽霊『さぁ、掛かってくるがいい!』

海未「悪いですが一撃で終わらせてもらいます。放てば必中! ラブアローシュートで!!」

幽霊『ならば打たせぬまでだ!』

――部室

海未「愛弗精霊……とても良い響きです」

にこ「ちょっとあんじゅ! 変なこと言うんじゃないわよ」

あんじゅ「でも『コスプレ幽霊 紅蓮女』の隣に『愛弗精霊 ウミンディーネ』が置いてあったら両方買っちゃうでしょ?」

にこ「怪しさ二倍になって誰も買わないわよ」

凛「それよりもどうして第五の不思議なの? どうせなら第七の不思議の方が最後だし盛り上がりそうなのに」

あんじゅ「一応海未ちゃんが倒したって設定だからね」

凛「どういうことにゃ?」

あんじゅ「そっか、凛ちゃんは新入生だから七不思議に精通してないんだね」

にこ「いや、普通の子は高校生になってまで七不思議なんかには興味持たないわよ」

あんじゅ「今矢印が出てて私とにこに普通じゃないって書いてあったよ」

にこ「にこが恐い話を好きになったのはあんたの所為でしょうが!」

あんじゅ「こうやって一つひとつにこの好きを私色に染め上げるのが私の幸せ」

海未「そこだけ聞いていると素敵な言葉なのですが」

凛「あんじゅちゃんのセリフだと何故か怪しい感じがするよね」

あんじゅ「二人して失礼な! でも否定はしない謙虚なあんじゅちゃん★」

にこ「事実だから否定出来ないの間違いでしょ」

あんじゅ「うふふ」

にこ「で、凛の質問の答えだけど七不思議の内一つが鳴かない猫なのよ」

凛「ネコちゃん?」

にこ「音楽室に昔出たらしいわ。それでもってもう一つは少女の幽霊」

海未「少女? 女生徒ではないのですか?」

にこ「ええ、少女よ。七不思議とはいえなんで女生徒ではなく少女なのか理由は不明」

あんじゅ「オカ研と音ノ木坂研究同好会に話を訊いたんだけど」

あんじゅ「ここが昔小学校跡地に学院が建てられたとか、元々は女生徒だったとかはなかったよ」

あんじゅ「それなのに一番目撃例が多かったのがこの少女の幽霊なんだって」

海未「多いということは少なくとも誰かがねつ造した話ではないということですね」

凛「でも今は目撃例がないってことは居なくなっちゃったのかな?」

あんじゅ「どうだろう。一番目撃された場所が私達が練習に使ってる屋上らしいよ」

あんじゅ「これは同好会で得た一説なんだけど。普通の学校って屋上への出入りは禁止」

あんじゅ「もしくはOKの場合は転落防止の為に高めの柵やフェンスが設置されてるのが普通なの」

あんじゅ「でもね、知っての通りここはそういうのはないでしょ?」

あんじゅ「その理由があの少女にあるんじゃないかって話にこよ」

海未「どういうことですか?」

あんじゅ「最初に目撃したのが宿直の先生で、」

凛「しゅくちょくの先生って何?」

あんじゅ「昔は警備の為に先生が宿直室って部屋で寝泊まりして見て回ってたんだよ」

にこ「今の学校にはそんなのないけど、無駄に歴史のある音ノ木坂学院だからねぇ」

海未「警備員の人を雇っていた場合もあるようです」

凛「へぇ~。そっか、今は警備会社とかがあるからそういう必要もないんだね」

あんじゅ「その見回りの先生が屋上を見回った時にね、柵の上に座って町を見てる子が居て」

あんじゅ「慌てて危ないからこっちに来なさいって声を掛けたんだけど」

あんじゅ「その子は楽しそうに校歌を奏でながら見向きもせず、そのまま消えちゃったんだって」

あんじゅ「以降色んな生徒や先生がその子を目撃していって……でも、いつの間にか目撃例が途絶えたみたいだよ」

あんじゅ「その子を目撃しても不思議と恐怖感は沸かなくて、逆に楽しいと感じる人の方が多かったみたい」

凛「不思議な話だね。そう言えばあの廃校の夢も始まりは屋上だったけど関係あるのかな?」

あんじゅ「それは分からないけど、落下防止の高い柵を設けるとその子が座って町を見れなくなっちゃうから」

あんじゅ「なんて素敵な話があるんだって」

海未「他の学校なら笑い話になってしまうかもしれませんが、ここでは不思議とその理由でも納得出来ますね」

凛「その子は音ノ木坂の座敷わらしみたいなものなのかもしれないねっ」

にこ「理事長に話を聞けば実際なところどうなのか知ることが出来るけど」

にこ「こういうのはそのままにしておくのが一番よね」

あんじゅ「うんうん、オカルトはあくまでも秘められてこそ」

あんじゅ「逆に好きな人への想いは隠しちゃダメにこ!」

にこ「どうしてそこで私の顔をガン見するのよ?」

あんじゅ「そろそろツンデレのデレ期に移行していいころだし☆」

にこ「だからにこはツンデレなんかじゃないっての」

凛「傍から見るとデレデレに見えるけど」

海未「きっと今以上になるということです」

あんじゅ「そうそう。世間一般的に言われる百合ってやつに進化するんだよ」

にこ「百合なんて単語が世間一般であるわけないでしょう」

海未「しかし、今更ですが絵里は大丈夫なんでしょうか?」

凛「何が?」

海未「夜の校舎で寝泊まりするということは、夜中に目を覚ました時とかお手洗いのこととかです」

にこ「大丈夫でしょ? 暗い所は本気で苦手みたいだけど、ここの七不思議は話してないし」

あんじゅ「それにエリーちゃんのことだし、眠る時はこころちゃんとここあちゃんに挟まれて眠りそうだから」

あんじゅ「抱きしめて目を瞑ってればいつの間にか眠れるんじゃないかな?」

凛「でも夜のおトイレは凛も恐いかも」

にこ「んー、ロボ研にでも行ってランプみたいな物がないか訊いてみましょう」

にこ「なければ百均で買ってトイレまでの道のりに明りを置いておけば平気じゃない?」

凛「肝心なトイレの中が恐いニャー」

あんじゅ「はっ! もしかしてあのフラグはここで活用するのかも」

海未「どのフラグですか?」

あんじゅ「ロボ研のサンちゃん」

にこ「夜中のトイレで愉快な音楽を奏でる無骨な見た目な人形とか恐ろしいわよ」

にこ「眠る前に水分を取り過ぎない。グループのみんなでトイレに行っておく」

にこ「これを守ってもらえれば大丈夫でしょ」

海未「言うは易し、行うは難し。状況が違うことで興奮して寝付けずに水分を補給してしまう」

海未「なんてこともありえそうですが」

にこ「でもこればかりはどうしようもないわ」

凛「気になってるんだけど、七不思議にトイレってあるの?」

凛「確かあの夢ではトイレの花子さんって言ってたけど」

あんじゅ「あれは場を和ませる為の冗談で言っただけで、トイレ関係はないよ」

海未「意外ですね。トイレは定番という感じですが」

にこ「水場は室内プールがあるからね」

海未「なるほど。では、先生に許可を得てトイレだけは電気を付けっぱなしにしてもらうのは如何ですか?」

にこ「それが妥当よね。それでも恐い子は誰かを起こしてって感じになるけど」

あんじゅ「今のにこの台詞はフラグのような気がする。音は聞こえなかったけど」

凛「つまり夜におトイレ行きたくなったらにこちゃんを頼ればいいんだね」

にこ「それくらいなら遠慮しないで声を掛けて」

あんじゅ「あっ! 今完全にフラグの音が聞こえたニコ!」 (完)

《天使達の未来》

――矢澤家 リビング

ここあ「それでね、その時ここあがぱぱっと走って勝ったの!」

にこ「ここあは足が速いものね」

あんじゅ「将来はシカちゃんみたいに短距離走とか似合いそう」

こころ「こころはもっと長い方がとくいー」

あんじゅ「体力測定で一キロ走ることになるから長距離得意なのはいいね」

にこ「どちらにしろ学生時代に体育が得意なのは鼻が高いにこよ!」

ここあん「えへへ♪」

あんじゅ「でも個人的にはにこはカナヅチの方が萌えたのに泳げたことが残念でならないにこぉ」

にこ「相変わらず失礼なやつね。にこは万能キャラなんだからなんでも出来るわ」

あんじゅ「普段は変に謙虚なのに家族の前では自信満々になるよね」

ここあ「ここあも自信まんまん!」

こころ「でも時々失敗してるにこ」

ここあ「ぐぬぬ!」

あんじゅ「失敗は重ねてもいいんだよ。絶対に駄目な失敗だけはしちゃ駄目だけどね」

あんじゅ「にこなんて二人を足しても足らないくらいに失敗してきたんだから」

にこ「否定はしないけど他に例えはいくらでもあるでしょうが」

あんじゅ「そんな失敗だらけのにこを私が支えてるから平気なんだよ」

あんじゅ「二人もどちらかが失敗しても、もう一人が支えられるようになろうねー」

あんじゅ「お互いに支え合えれば最高だからね」

こころ「うん!」

ここあ「なるー!」

にこ「じゃあ喧嘩の回数も減らしていかないとね」

こころ「ここあが悪いの!」

ここあ「こころが悪いニコ!」

こころ「絶対にここあにこ!」

ここあ「違うもん! こころが悪いの!」

にこ「はいはい。言ったそばから喧嘩しようとしないの」

あんじゅ「でもでも、姉妹喧嘩出来るのも一人っ子じゃ出来ないことだし」

あんじゅ「それはそれで大切なイベントだと思う」

にこ「あんたはいい話の後に喧嘩を推奨してんじゃないわよ」

ここあ「ここあ知ってる! すいしょうって占いするやつだよね。触ってみたいにこ!」

こころ「こころも本物のすいしょう見てみたい!」

にこ「すいしょう違いなんだけど……ああいうのって幾らくらいするのかしら?」

あんじゅ「オカ研の部長さんに訊いたけど、水晶は需要が限られてるでしょ?」

あんじゅ「欲しいと思う人って占い師かオカルト好きが大半だから」

あんじゅ「大きさにもよるけど、小さいのでもかなり値が張るみたい」

あんじゅ「だからオカ研には水晶ないんだって。だから実物を用意するのはちょっと無理かなぁ」

あんじゅ「誰か裕福で占い好きの人でも居ればいいんだけど」

にこ「安直だけど裕福って言えばUTXね。……キラ星とことりちゃんくらいしか繋がりがないわ」

あんじゅ「絵里ちゃんなら向こうの会長さんと繋がりあるけど」

にこ「だったら絵里に言ってあっちのオカ研とか紹介してもらえれば可能性あるわね!」

にこ「二人とも。良い子にしてたらにこにーが水晶借りてきてあげるにこよ☆」

ここあ「いい子にしてる!」

こころ「お手伝いするにこ!」

あんじゅ「いや、にこ。どう頑張ってもUTXにオカ研はないにこよ」

にこ「……あ゙っ」

あんじゅ「どうするの? 二人とも水晶見れるって喜んでるのに」

にこ「ど、どうにかするわ。もしかしたら商店街の誰かが持ってる可能性もなくはないし」

あんじゅ「明らかに可能性ないよ」

にこ「UTXなら不可能も可能にしてくれるわ。だってキラ星が通う学院だもの」

あんじゅ「綺羅ツバサは関係ないよ。現実逃避よくない!」

にこ「…………そ、そうだ。二人は大きくなったら何になりたいにこ?」

あんじゅ「あぁっ! 明らか過ぎる話題変更。露骨すぎるよ」

ここあ「えっとね、えっとね。ヒートナナになりたい!」

あんじゅ「変身に憧れるのは男の子も女の子も変わらないよねー♪」

ここあ「ねー♪」

あんじゅ「私も昔はクレアちゃんっていう子が変身して大きくなるのに憧れたんだよー」

にこ「あんた今でも変身願望あるじゃないの。紅蓮女好きだし」

あんじゅ「女の子は何歳になっても綺麗になりたいって願望があるにこ☆」

にこ「はいはい。で、こころは何になりたいの?」

こころ「こころはやっぱりね、スクールアイドルになりたい♪」

にこ「スクール、アイドル?」

こころ「にこにーとあんじゅちゃんとエリちゃんみたいになるの!」

こころ「またステージで歌いたいにこ☆」

ここあ「あっ、あっ! ここあも踊って歌うにこ!」

こころ「だったらここあもスクールアイドルしようよ」

ここあ「うん。ここあもスクールアイドルする!」

にこ「……そっ、そう」

あんじゅ「うふふ。にこってば声が涙ぐんでる。泣き虫にこ~♪」

にこ「うっさいわね! 不意打ちだったんだからしょうがないでしょう」

あんじゅ「にこおねえちゃんはかわいいかわいい♪」

にこ「うぐぐ」

あんじゅ「でも二人とも。スクールアイドルは大変だよ?」

こころ「それでもがんばるー!」

ここあ「支え合ってがんばるにこ!」

あんじゅ「ほら、にこってば今は泣くんじゃなくて二人を祝福する時だよ」

にこ「わかっ、てるわよ!」

あんじゅ「よし、今日はお祝いのカレーにしよう!」

にこ「あんたが食べたいだけでしょ!」

――時は流れ、数年後の春 音ノ木坂学院

ここあ「いよいよ入学にこ!」

こころ「うっふふ。長い鍛錬の末、漸くスクールアイドルになれるわね」

ここあ「にこにーやあんちゃんと同じ制服。漸くこの時がきた!」

こころ「ここあってばテンション高過ぎにこよ。そんなことだと梅雨がくる頃にはバテてるにこ」

ここあ「こころがテンション低過ぎなだけだ。入学式なんだからこれくらいになるわ!」

こころ「今日からスクールアイドルになれるならテンション上がるけどね」

ここあ「なったも当然でしょ。だって今日から高校生なんだから」

こころ「本当に昔からここあは気が早いわねぇ」

ここあ「だって音ノ木坂学院にスクールアイドルはいないんだから」

ここあ「今日から名乗っても平気ニコ!」

こころ「部活扱いなんだから勝手に名乗ったら駄目よ」

ここあ「ぐぬぬ!」

こころ「うふふ。あと数日よ、何年も待ったんだからそれくらい待てるでしょう?」

ここあ「だからこそ待てないってこともあるにこ!」

こころ「焦る必要はないわよ。だって、ギリギリ間に合ったんだから」

こころ「スクールアイドルの祭典。最後のラブライブに」

ここあ「……そう、だね」

こころ「最高のメンバーを集めてラブライブの歴史に音ノ木坂の名前を刻むの」

こころ「SMILEとは違う伝説を作り、そして優勝する」

こころ「焦りは結果を濁す。私達の集大成を優勝以外で飾るなんて許されない」

こころ「いいえ、誰が許しても私が許さないわ」

ここあ「分かってるにこよ」

こころ「ここあもあんじゅちゃんみたいな冷静さがあればリーダーを任せられたのに」

こころ「今のままだと副リーダーにも向かないのが残念ね」

ここあ「別にいいの。ここあは自由に、誰にも縛られずに好きにやるから」

こころ「それがここあの魅力だから止めはしないけど問題だけは起こさないでね」

ここあ「はいはい。分かってるって」


一ヶ月後のゴールデンウィーク明け

綺麗な五月晴れのある日

スクールアイドル同士の暴力事件が起きる

そのフラグはこの会話だったのかもしれない... end.

《絵里誕記念SS二年目・前編》

――深夜 にこの部屋

亜里沙『こちら亜里沙。E作戦は順調です』

あんじゅ「無事に遂行出来そうかな?」

亜里沙『今夜中に決めてみせます』

あんじゅ「エリーちゃんは不審がってなかったかな?」

亜里沙『はい。全く疑ってません』

あんじゅ「流石邪道シスターズ一のシスコンは伊達じゃないね」

亜里沙『シスコン?』

あんじゅ「あっ、ううん! なんでもないにこよ」

亜里沙『そうですか?』

あんじゅ「時間はないけど今日どうしても決着つけなきゃいけないって分けじゃないよ」

亜里沙『いいえ。今日やりきってみせます。私もあんじゅさんとにこさんと海未さんの妹ですから』

あんじゅ「とてもいい返事だね。じゃあ、完了したらメールで知らせてね」

亜里沙『了解しました。亜里沙がんばります』

あんじゅ「うん、頑張ってね。それじゃあ、よろしく」

亜里沙『はい、それでは失礼します』

あんじゅ「にこ。今日中に亜里沙ちゃんのミッションクリア出来そう」

にこ「あの子も中々やるわね。うちの……えっと、五女は出来る子にこ!」

あんじゅ「うんうん。寧ろ私たち姉妹七人全員出来る子だよ」

にこ「だったら少しは家事のスキルを上げなさいよ。こころより低いじゃないの」

あんじゅ「こころちゃんは女子高生になったら今のにこみたいになると思うし」

あんじゅ「だったら私の方が家事スキルが劣ってるのはしょうがないね」

にこ「しょうがなくないわよ! 高校三年生が小学三年生より劣っていい部分なんてないのよ」

あんじゅ「……うん、そうだね」

にこ「何よ、いやに素直じゃないの」

あんじゅ「最近の小学生って発育がいいよね。昔と違って洋食がメインになってるから」

あんじゅ「成長も向こうに近くなってて」

にこ「何唐突に関係ないこと言い出してるのよ?」

あんじゅ「関係ない? 今、関係ないと言ったにこ?」

にこ「そう言ったのよ」

あんじゅ「果たして今の小学三年生の平均バストサイズを知っても尚関係ないなんて言えるにこ?」

にこ「なっ、ナナジュウヨンのにこにーには関係ないことだわ」

あんじゅ「そうだよね、にこにーはだいじょじょじょじょじょじょぶだよね♪」

あんじゅ「劣っていい部分なんてないももももももももんね★」

にこ「なんで途中でバグるのよ!」

あんじゅ「あんじゅは~嘘を吐くとバグっちゃう素直な子だから~」

にこ「ぐぬぬ!」

あんじゅ「うっふふ」

にこ「とにかく! 亜里沙の方は問題ないってことよ」

あんじゅ「エリーちゃんより天然が強いけど、根はしっかりしてるから最初から心配してないよ」

にこ「うちの五女は出来る子だからね!」

あんじゅ「ここでまさかの無限ループ突入!?」

にこ「なんで無限ループしなきゃいけないのよ」

あんじゅ「私に釣られてにこがただ普通にバグったのかなって」

にこ「コンピューターじゃないんだからバグったりしないニコ!」

あんじゅ「――えっ!」

にこ「なんでそこで驚くのよ」

あんじゅ「無自覚って怖いよね。いつも誰がにこの背中のゼンマイを巻いてると思ってるの?」

にこ「それってコンピューターじゃなくってロボットでしょ。しかもおとぎ話か絵本に出てきそうな古いやつ」

あんじゅ「にこが最新式なわけないじゃない」

にこ「旧式過ぎるわ! もっとこうロボにしたってにこに相応しいやつがあるでしょうが」

あんじゅ「あんじゅが例えてあげる~にこがロボコップなら、あんじゅは最新型のターミネーター」

にこ「ロボコップ見たことないのに何故か負けた気分がする」

あんじゅ「にこってばロボコップに失礼だよ!」

にこ「あんたが言うんじゃないわよ!」

あんじゅ「うふふ。大丈夫だよ」

にこ「何がよ?」

あんじゅ「私はにこが例えロボットになっても一緒に寝てあげるからね」

あんじゅ「あ、でも冬は冷たそうだからくっつかないでよね! ツンツン!」

あんじゅ「だけど……にこがどうしてもっていうならくっついて寝てあげてもいいわ。デレデレ」

にこ「理不尽を更に理不尽で染め上げるあんたに脱帽だわ。だけど、あんたヤンデレでしょうが」

あんじゅ「うん!」

にこ「得意げに頷かれても困るんだけど」

あんじゅ「事実だから☆」

にこ「ウインクされてもそんな事実捨ててしまえとしか言えないわ」

あんじゅ「それを捨てるなんてトンデモナイ!」

にこ「とんでもないのはあんたの大切な物フォルダの滅茶苦茶具合よ」

にこ「さてと、後の準備は穂乃果に確認とアレが無事に届くのを待つだけね」

あんじゅ「届いたら直ぐにお願いしなきゃね」

にこ「……でも、本当にいいのかしら?」

あんじゅ「逆に訊くけど何を不安がる必要があるの?」

にこ「だってさ、ある意味で過去を汚す行為って思われたら流石にショックじゃない」

あんじゅ「私たちのお姉ちゃんがそんな感情を妹に抱くと思ってるにこ?」

にこ「凄い説得力。世界一説得力のある言葉だわ」

あんじゅ「ぐふふ★」

にこ「だったら心の底から喜んでもらうだけね」

あんじゅ「うん。きっと救われると思うの」

にこ「救われるって絵里が?」

あんじゅ「今の絵里ちゃんじゃなくて過去の絵里ちゃんだけどね」

あんじゅ「過去に戻って絵里ちゃんを救うことなんて誰にも出来ない」

あんじゅ「でも、これはそんな出来なかったことを出来そうな気がするの」

あんじゅ「夢を諦めた絵里ちゃんが本当の意味で過去を過去と思える切っ掛けにってね」

にこ「ふーん。よくわかんないけど、そうかもね」

あんじゅ「なんでにこは時々本当におバカなの!?」

にこ「失礼ね。あんたの表現の仕方が分かり難いだけでしょ」

あんじゅ「何その願いの旅人第四話の364の人みたいな発言!」

にこ「根に持ちすぎよ。あんたこそさっさとそのトラウマを過去にしなさいよね」

あんじゅ「別にトラウマでもないし、根にも持ってないもん」

にこ「語尾が完全に幼児化してるじゃない。……やれやれ。ほら、いじけてないでもう寝るわよ」

あんじゅ「むぅ~」

にこ「まったく。ほっぺた膨らませてここあみたいなことしないの」

あんじゅ「むぅ~むぅ~」

にこ「はいはい。明日の朝食はただのオムライスじゃなくてゆるふわにしてあげるから」

あんじゅ「本当!?」

にこ「本当よ。だから膨れてないの」

あんじゅ「にこ大好き!」

にこ「食いしん坊なんだから」

あんじゅ「食いしん坊じゃないってば。にこの料理が大好きなだけ」

にこ「わかったから。あんたは海未との朝練があるんだから、そろそろ寝なさい」

あんじゅ「最近シカちゃんに負ける回数が増えてきたから頑張らないと!」

にこ「頑張るのはいいけど、怪我にだけは気をつけなさいよ」

あんじゅ「うん!」

にこ「それじゃあ電気消すにこ……。あんじゅ、おやすみ」

あんじゅ「おやすみ、にこ」

――翌日 学校 三年生の教室

絵里「そんな訳でね、亜里沙ってばお姉ちゃんお姉ちゃんって甘えん坊でね」

絵里「ここ連日で一緒に寝ようって。もう、可愛いんだから!」

にこ「ふーん」

あんじゅ「連日って何日くらい?」

絵里「もう四日になるわね。こころちゃんとここあちゃんの姉になってから成長したと思ってたけど」

絵里「やっぱり妹はいつまで経っても妹ね」

あんじゅ「私なんて四日どころかずっとにこと一緒に寝てるよ」

あんじゅ「それどころかお風呂だって一緒に入ってるし」

絵里「ぐぬぬ!」

にこ「なんで悔しそうなのよ」

あんじゅ「ふっふーん♪」

にこ「あんたもあんたで何で得意気なのよ」

絵里「……でもね、一つだけ問題があるの」

あんじゅ「問題?」

絵里「ええ、亜里沙と一緒に眠るようになってからなんだけどね」

絵里「恐い夢を見るようになって。不吉な予感じゃないといいんだけど」

にこ「恐い夢って、開けないでみたいなやつ?」

絵里「その話はいい加減やめて!」

あんじゅ「相変わらず恐い話が苦手な絵里ちゃんなのでした」

絵里「最初は気の所為だと思ってたんだけど、五日連続で見たから何かあるんじゃないかって」

絵里「二人はその手の話に詳しいから何か分かるかと思ってね」

にこ「恐い話は好きだけど何があったのよ?」

あんじゅ「もしかして何かの儀式をやっちゃったとか?」

絵里「私がそんな恐いことする筈ないでしょ!」

にこ「ま、幸せのサチコさんみたいな取り返しのつかない儀式してなきゃ大丈夫よね」

あんじゅ「あっちに行った瞬間に黒化する私。即喰べられるにこ。胸熱の展開!」

にこ「ヤンデレだけあってまるで冗談になってないわ」

絵里「黒化?」

あんじゅ「ゲームの話だから気にしないで。ちょっとグロありだけど面白いんだよ」

にこ「プレー動画を見ただけであたかもやったような感想を言うのはどうかと思うけど」

あんじゅ「あ、でもお漏らしは絶対ににこに似合うと思うし、鬼ごっこが必要だね」

あんじゅ「鬼ごっこしてから食べられるにこ★」

にこ「そんなもの似合わないニコ!」

絵里「ゲームなんてどうでもいいの。夢だからって言われればそうなのかもしれないんだけど」

絵里「連日悪夢を見るの。必ず足に関してのことなんだけど」

絵里「足首を捻ったり、膝を怪我したり、何者かに足を掴まれたり」

絵里「これから大連続合宿と大下剋上。その結果次第ではラブライブ本選もあるでしょ?」

絵里「だから不安なのよ。まるで足を怪我して出場出来なくなるんじゃないかって」

にこ「……」

あんじゅ「……」

絵里「時期が時期だけに敏感になってるだけかもしれないけど気になるのよ」

あんじゅ「バレエしてた時にオーディションの前に足を怪我した経験とかあるの?」

絵里「いえ、練習中に怪我をしたことは確かにあるけど」

絵里「大切な時期が近い時は怪我にはより注意してたから」

あんじゅ「ということは過去の経験からくる夢って訳じゃないんだね」

にこ「……っ」

絵里「ええ、だけど夢はあくまで夢だし。幽霊とかじゃ、その……ないわよね?」

あんじゅ「精神的なものか霊的なものかはこれだけだと判断付かないけど」

あんじゅ「呪われたりするようなことしてないよね?」

絵里「当然でしょ。寧ろそういうのとは絶対に関わらずに生きていくって決めてるんだから」

あんじゅ「虫の知らせなのかも。あ、そういえば昨日は何時くらいに寝たの?」

絵里「十一時頃には寝たわ」

あんじゅ「亜里沙ちゃんも一緒、だよね?」

絵里「そう言ったじゃない。私より先に寝付いてたわ」

あんじゅ「おかしいなー」

絵里「何がおかしいの?」

あんじゅ「昨夜なんだけど、夜の十二時頃に亜里沙ちゃんと電話してた筈なんだけど」

絵里「えっ? そんな訳ないじゃない。亜里沙は私と一緒に寝ていたわ」

あんじゅ「でも本当だよ。……ほら、見てよ。着信履歴にも残ってるでしょ?」

絵里「何の悪戯よ。あれでしょ? 内部時計を弄って着信時間をって手じゃないの?」

あんじゅ「以前にこに未来からメールが着た時に調べてみたんだけど」

あんじゅ「受け手の時間をずらしてもそういうのって無理だよ」

絵里「ちょっと待って。未来からのメールって何?」

あんじゅ「今回とは別件だし、語る程の事件でもないから気にしないで」

絵里「充分気になるわよ」

あんじゅ「にこはフラグ建設一級だから。色んなフラグが寄ってくるにこよ」

絵里「気になるけど今はいいわ。足だけじゃなく亜里沙の電話。何がどうなってるの?」

あんじゅ「そう言えばエリーちゃんの家のお風呂には幽霊が居るんだよね」

絵里「居ないって言ってるでしょ!」

あんじゅ「結果的に絵里ちゃんが亜里沙ちゃんと思って連日寝てる子」

あんじゅ「もしかしたら質量を持った幽霊、なのかもしれないね」

絵里「いやぁぁぁっ! もうこの話はおしまいよ!」

にこ「……うぷぷっ」

あんじゅ「――計画通り」

――同時刻 二年生の教室 ほのうみ

穂乃果「昨日すっごい悲しい夢をみたんだー」

海未「悲しい夢、ですか?」

穂乃果「そうなの。大切な場面でえを入れちゃって意味が変になっちゃって」

海未「言葉とは一つですらとても重要な物ですからね」

穂乃果「だから穂乃果ね、えなんてこの世からなくなれって願ったの」

穂乃果「そしたらさー、今度は別の大切な場面でえを抜かして言っちゃったんだよ」

穂乃果「にこちゃんみたいにしまらない感じになっちゃってさー」

海未「SMILEのリーダーに受け継がれる呪いなのではないですか?」

穂乃果「ひぃっ! 嫌なこと言わないでよ」

海未「いいじゃないですか。完璧すぎる人間より、親しみのある人間の方がリーダーに向いてます」

海未「其れをにこ自身が教えてくれてるではないですか」

穂乃果「確かににこちゃんのことは尊敬してるけど、それとこれとは別だよ」

海未「夢の話じゃないですか。そんなことよりも、例の件はどうですか?」

穂乃果「それはバッチリだよ。最初は流石に無理かなーって思ってたんだけど」

穂乃果「同じグループでお世話になってる先輩の為にって話を切り出してみたの」

穂乃果「そうしたら1も2もなくOKされちゃって。逆に拍子抜けしちゃったくらい」

海未「やはり商売柄人を見る目があるということでしょう」

海未「私の姉たちは凄いですからね!」

穂乃果「はいはい、分かってるよー。上手くいくかな? 普通ならバレそうだけど」

海未「にことあんじゅを敵に回して勝てる筈がありません」

海未「邪道シスターズ最強コンビですからね」

穂乃果「それもそうだね。要らない心配かぁ」

海未「しかし、こんなことまでもありなんですね」

穂乃果「普通は絶対にないけどね。邪道って範囲広いなー」

海未「ええ、勝手に志す正義より断然範囲が広いです」

海未「邪道シスターズとして、私もいつか邪道をする日がくるのでしょうか?」

穂乃果「えー。海未ちゃんが邪道を自分からするなんて想像つかないよ」

穂乃果「三人を欺けるような邪道なんて考えつかないでしょ?」

海未「絵里は簡単そうですけどね。奇跡的ににこを騙せたとしても、あんじゅは不可能です」

海未「そもそも次期生徒会長の私が邪道をするなんて許されませんけどね」

穂乃果「そうそう。こうして手伝ったりするだけでいいと思うよ」

海未「ええ、そうですね。それが正しいのですよね」

海未「…………でも、」

海未(正しいだけが正解じゃない。そう教えてくれたからこそ私は強くなれた)

海未(自分だけじゃ到底辿り着けなかった今を与えてもらえた)

海未(三人に一番可愛がられたのは中学からメンバーになった私です)

海未(それなのにこのまま卒業を見送るだけで本当にいいのでしょうか?)

海未(安心して卒業してもらうには、四女の成長を魅せつける必要があるのでは?)

海未(誰もが出来るやり方ではなく、今こうなった私だからこそ出来る方法で)

海未「……穂乃果」

穂乃果「んー?」

海未「もし、目の前に正しい道と間違った道があるとして」

海未「私はどうしても間違った道を進みたいと思っています」

海未「そして、穂乃果にも同じ道を通って欲しいとお願いしたらどうしますか?」

穂乃果「そんなの簡単だよ。海未ちゃんの背中を押して、一緒に間違った道を進むよ」

穂乃果「昔から穂乃果が間違ってても海未ちゃんとことりちゃんは付いてきてくれたようにね♪」

海未「……ありがとうございます」

海未(だったら見つけてみよう。私が姉達に出来ること)

海未(人生で一度きりの邪道を)

海未「今日も暑くなりそうですね」

穂乃果「そうだねぇ」

海未「本当に暑くなりそうです」 後編につづく

◇おまけ◇劇場版であったに違いない出来事!

―――部室 にこあん

あんじゅ「それじゃあ私はにこさんの隣でいいかしら?」

にこ「はっはい! どうぞ」

あんじゅ「うふふ。そんなに緊張することないじゃない」

にこ「う、うん」

あんじゅ「随分と可愛い小悪魔さんね。そうだ、最初に作った衣装を交換しない?」

にこ「へっ?」

あんじゅ「つまり、私がにこさんのを作ってにこさんが私のを作るの」

あんじゅ「そうねぇ。にこさんは笑顔が可愛いし、その瞳の色と一緒で赤が似合いそう」

にこ「じゃあ……あんじゅちゃんは温かいイメージあるし、髪の色に近い黄色で」

あんじゅ「うっふふ。完成したら真っ先に着て、見せ合いっこしましょうね♪」

にこ「うん!」


次スレから合宿編の続きからラストまでいきます。タイトルは

にこ「ユメノトビラ~夢を諦めたスクールアイドル~」

に決定しました
250レス前後の予定なのでさっくりと終わりますよ

本編を忘れちゃった?
次スレで前回までの夢を諦めたスクールアイドル拡大版やるので本編&フラグを忘れてても平気です
取り敢えず次回で前回と今回の続きを終わらせて、もしかしたら次でこのスレも1000ちゃんにいくかも?

すいません、今度の月曜日くらいにはこのスレを終わらせます
ぴったりで終わらせるので以降の書き込みはなしでお願いします!
ということでもう少しだけお待ちください


あと自信作は冗談です。邪道物語Ⅰは禁断の男主人公だから内緒

海未「太陽は海を想う」
穂乃果「海を照らす太陽」

邪道物語Ⅱ的ポジション
にこ「夢なき夢は夢じゃない」

この三つ以外は普通に変なのばかりなんで秘密で

――合宿前夜 矢澤家 深夜 あんじゅ

あんじゅ「だからね、にこはフラグ建設一級なんじゃないかと思うの」

にこ「……なによそれは」

あんじゅ「発言には常に気をつけて、妹に優しくしなきゃダメってことだよ」

にこ「いみわかんない」

あんじゅ「それから合宿中は他の学校の目もあるからって背伸びしないこと」

にこ「ふぁあ……にこはせのびなんてしないわ」

あんじゅ「あ、勿論肉体的な意味でも背伸びなんてしちゃ駄目だよ? 怪我の元だから」

にこ「そんなことしふわぁいわよ」

あんじゅ「にこは人のことになると無理するから心配だなー」

にこ「りょうりのにんずうがおおいふぁあ、それがちょっとたいへんにこね」

あんじゅ「みんなにこのカレーの虜になっちゃうね☆」

にこ「かれーきらいなこだっているれひょ」

あんじゅ「みんなにこのカレーの虜になっちゃうね☆」

にこ「かれーきらいなこだっているれひょ」

あんじゅ「嫌いな子だってにこのカレーだけは違うって完食するに違いないよ」

にこ「ないない」

あんじゅ「にこのカレーには他にはないにこの愛情がたっくさん詰まってるから平気なの」

にこ「んー」

あんじゅ「それからね」

にこ「すーはー……んぅ」

あんじゅ(にこ寝ちゃった)

あんじゅ「……」

あんじゅ「……」

あんじゅ「…………あっ!」

――玄関 あんじゅ

あんじゅ「ママーおかえりなさいっ」

ママ「ただいま。あんじゅちゃんまだ起きてたの?」

あんじゅ「中々眠れなくて。にこは先に寝ちゃったけど」

ママ「こんな時間だから仕方ないわ」

あんじゅ「……ママは明日お仕事早い?」

ママ「明日は午後出だから平気よ。あんじゅちゃんはまだ眠たくないの?」

あんじゅ「うん」

ママ「じゃあママとお話しましょうか。でもお腹空いてるから食べながらでもいい?」

あんじゅ「私準備するね。といってもお味噌汁温めたりするだけだけど」

ママ「充分よ。ありがとう」

あんじゅ「えへへ!」

――リビング あんじゅ

あんじゅ「ママに一つ聞きたかったことがるんだけど聞いても大丈夫かな?」

ママ「年齢は内緒よ」

あんじゅ「うふふ。違うよ、それも少し気になるけど」

あんじゅ「ただ、答えたくないことだったら答えなくて平気だから」

ママ「何を遠慮してるの? 娘がママに遠慮なんてしなくていいのよ」

ママ「特別になんでも答えちゃうわ」

あんじゅ「えっとね……不思議に思ってたの。呼び方なんだけど」

ママ「呼び方?」

あんじゅ「うん。ママってにこのことはお姉ちゃんって呼ぶでしょ?」

あんじゅ「なのにこころちゃんとここあちゃんは呼び捨てだから」

あんじゅ「にこも二人を呼び捨てだけど、にこの場合は普通なのかなって」

ママ「ふふっ。それはすごい単純な話よ」

ママ「何のアニメだったか忘れちゃったけど、こんな話があったんだって」

ママ「新しい子が出てきた時に、親しいなら呼び捨てにして当然って」

ママ「だからここあとこころが私とお姉ちゃんにちゃん付けないでーってお願いしてきたの」

あんじゅ「理由が可愛いっ♪」

ママ「それからね、私がにこちゃんをお姉ちゃんって呼ぶ理由なんだけど」

ママ「昔はね、お姉ちゃんは自分のことをにこちゃんって呼んでいたの」

あんじゅ「その名残で今もにこって言うことが多いのかな?」

あんじゅ「でも、にこちゃんって言ってるのは聞いたことないかも」

ママ「多分自分でにこちゃんって呼ぶことは二度とないと思うわ」

あんじゅ「どうして?」

ママ「お姉ちゃんが自分のことをそう言うようになったのは私とパパがそう呼んでたから」

ママ「だからこそ、パパが亡くなってからは自分のことをにこちゃんって言わなくなって」

ママ「にこにーって言い始めたの。にこちゃんだとパパを連想しちゃうからだったんでしょうね」

ママ「だから私も呼び方を変えたの」

あんじゅ「……」

ママ「学校の友達にもにこちゃんじゃなくてにこにーって呼んでって言ってたくらい」

ママ「こころとここあがお姉ちゃんをにこにーって呼ぶのもそういうこと」

あんじゅ「にこにとって当然だけどパパは偉大な存在なんだね」

あんじゅ「無理だと分かってても一度会ってみたかったにこ」

ママ「会わせてあげることは無理だけど、あんじゅちゃんだったなら会えるかもしれないわ」

あんじゅ「えっ、どういうこと?」

ママ「ううん、なんでもない。お姉ちゃんとあんじゅちゃんが運命だったならの話」

あんじゅ「んー? よくわからないけど私とにこは運命!」

ママ「本当にお姉ちゃんのことが好きねぇ」

あんじゅ「にこ大好き♪ でも、私ばかりにこに甘えてて不公平かなって」

あんじゅ「初めて逢った時からずっと迷惑ばかり掛けてて、私何も返せてなくて」

ママ「そんなことないわよ。私の目にはお姉ちゃんがあんじゅちゃんに甘えてるようにしか見えないわ」

あんじゅ「にこが私に?」

ママ「逆に思える?」

あんじゅ「思えるも何も其れが事実だし」

ママ「だったら一つ質問なんだけど、お姉ちゃんはあんじゅちゃんの前で泣いたことがある?」

あんじゅ「二回。一回目はスクールアイドルのことで普通に泣いてたんだけど、二回目は廊下でわんわん子供みたいに泣いて大変だったにこ」

ママ「つまりそれがお姉ちゃんの甘えてる証拠なの」

あんじゅ「えっ?」

ママ「私がお姉ちゃんからパパの教えと涙を奪っちゃったの」

あんじゅ「パパの教えと涙?」

ママ「パパはお姉ちゃんに……ううん、これはあんじゅちゃんがお姉ちゃんの前で泣くことがあればきっと教えてくれるわ」

あんじゅ「私は泣かないよ」

ママ「いいえ、そろそろ泣ける日がくるわ。ママの勘ってやつね」

ママ「話を戻すけどお姉ちゃんは人の笑顔にすることを目標にしてきたから」

ママ「だから泣くことをしなくなったの。多分私に見えないところでは何度も泣いてきたんだと思う」

ママ「でも決して私の前では泣かなくなった。いいえ、人前で泣くことをしなくなったの」

ママ「そんなにこちゃんが誰かの前で泣くなんてあんじゅちゃんに甘えてる証拠よ」

あんじゅ「……にこが甘えてる証拠」

ママ「一回目は誰かの前で泣くのを堪えようとしたから普通に泣けたんでしょうね」

ママ「でも二回目は二度目だからあの頃のような泣き方に戻ったんだと思うの」

ママ「パパが生きてた頃は一度泣きだすと本当に煩い子だったのよ。ふふふっ」

ママ「これからもお姉ちゃんのことをよろしくね、あんじゅちゃん」

あんじゅ「うん!」

――にこの部屋 ママ

あんじゅ「……んぅ、ママ……おやすみなさい」

ママ「ええ、おやすみなさい」

あんじゅ「にこぉ……たべるぅ」

にこ「んっ、それはにこのほっぺにこぉ」

あんじゅ「んふふ」

にこ「……スースー」

あんじゅ「スーハー……んんっ」

ママ「ねぇ、あんじゅちゃん。願いの旅人って物語を書いてネットに上げたことあったわよね」

ママ「凄い酷評されて本気で落ち込んでた」

ママ「今でも引きずっててトラウマになってるくらい」

ママ「でもね、私は嬉しかったのよ」

ママ「あんじゅちゃん自身もお姉ちゃんも気付いていなかったけど」

ママ「私に四人目の娘が出来て初めてお姉ちゃんのことと関係ないことで傷付いた」

ママ「それってあんじゅちゃんの心に余裕が生まれた証拠。しっかりと成長している証なのよ」

ママ「だからさっきも言ったけど嬉しかったの」

ママ「これから先、生きていればもっと傷付くと思う」

ママ「でも、あんじゅちゃんならお姉ちゃんと一緒にその傷を強さに変えていけるわ」

ママ「私の可愛い自慢の娘だもの。それじゃあ、おやすみなさい。二人とも良い夢をみてね」 了

※パパの教え:素直に泣けるのは強くなれる子

《絵里誕記念SS二年目/後編》

――部室

あんじゅ「今回は無理なお願いしちゃって後でにこと挨拶しに行くからね」

穂乃果「いいのいいの。お父さんも恩返しにって張り切ってるし」

にこ「恩返し? お願いしてるのこっちなんだけど」

穂乃果「んー、まぁ細かいことは大下剋上が終わったら話すから気にしないで」

凛「にこちゃんとあんじゅちゃんは凛の時にしたみたいに、遠慮なく味方を騙すんだね」

海未「味方すら騙すのはあんじゅだけですよ」

にこ「というか私を掌の上で弄ぶのがあんじゅの悪趣味なのよ」

あんじゅ「やだにこってば。私の心を掴んで離さないんだからお相子にこ☆」

にこ「あんたが勝手に張り付いて離れないだけでしょう」

あんじゅ「と言いながら私に百合という名の首輪を付け、白いリードを手にして話さないにこ」

にこ「私はどんな変態なのよ!」

あんじゅ「寒くなったら首輪をマフラーで隠し、リードをコートの中に通して手を繋ぐことでリードの先も隠すの」

あんじゅ「勿論コートだから尻尾も隠せる。傍から見るとただのコートにマフラー」

あんじゅ「でもその実態はにこによる私の調教散歩!」

にこ「にこが変態に思われるから変なこと言うんじゃないわよ」

あんじゅ「一般的には百合自体が変態なんだよ?」

にこ「いや、私が百合前提で話を進めてる時点でおかしいでしょうが!」

あんじゅ「今更そんなツッコミされても困るにこ」

穂乃果「そうだね。全校生徒が皆にこちゃんのこと百合だと思ってるかも」

海未「全校生徒は言い過ぎですよ」

にこ「そうよ、海未言ってやんなさい!」

海未「二、三年生は確実にそう思っているくらいです」

凛「一年生でもにこちゃんがあんじゅちゃん大好きだって皆知ってるよ」

凛「特に陸上部のにこあん説は凄い盛り上がるよ。凛はよく二人のエピソード聞かれるし」

にこ「……おかしい。この学校の生徒はおかしいわ」

あんじゅ「違うよ、私とにこが特別過ぎるだけ☆」

にこ「誇らしげに胸を張るんじゃないわよ!」

海未「ですがそういう雰囲気を学院内に生みだしたのはにこ達ですよね」

にこ「海未は私にトドメを刺したいわけ?」

海未「いえ、悪い意味ではありません。本来の学院学校だと一つにまとまる意思のような物ってそうそうないと思うんです」

海未「ですが音ノ木坂学院は色んな意味で一つになれる雰囲気があります。良い意味でも悪ノリでも」

穂乃果「そうそう、毎日が温かいお祭り騒ぎって感じするよねっ」

凛「確かに!」

海未「生徒だけでなく本当に良い意味で先生方が支えてくれていますし」

にこ「嫌な先生だっているわ。イヤミー酒井とかね!」

あんじゅ「にこの歌唱力アップにあれだけ貢献してくれてる先生なのに可哀想」

海未「にこが人を悪く言うなんて珍しいですね」

にこ「嫌味が本当に多いのよ。にこばっかり何度も何度も……ぐぬぬ!」

にこ「音楽教師は二人居るのよ? なのに三年連続イヤミー酒井っておかしいわよ!」

にこ「ねぇ、教えてよ。5割って100%なの!?」

あんじゅ「だけど私と三年連続同じクラスだし、愛を含めて幸せ250%にこっ♪」

にこ「あんたはどんだけ私が好きなのよ!」

あんじゅ「うふふ」

凛「本当に仲がいいよね。二人が離れて行動してるのなんて、あの新聞を作った時くらいかも」

海未「私が中学生の頃はもっと別行動をしてましたが、最近は常に一緒ですね」

にこ「商店街では別行動すること多いわよ」

あんじゅ「ネタ仕入れなきゃマンネリ防止しないとだから。愛に妥協を持つと駄目だからね」

穂乃果「おぉ~愛が深いね」

海未「どんな関係も油断してはならないと。穂乃果の件もありますし、説得力があります」

穂乃果「うぅっ! 穂乃果の黒歴史を」

凛「穂乃果ちゃんが暗かったんだっけ? なんか想像が付かないけど」

海未「いえ、凛が其れを言っても説得力がありません」

凛「あははっ。でも、さっき言ってた先生だけど凛も良い先生だと思うよ」

にこ「凛もあんじゅ同様にイヤミー酒井の洗脳済みなんて……被害は甚大だわ」

あんじゅ「にこが勝手に悪く思ってるだけだよ」

にこ「そんなことないわ! 担任とイヤミー酒井はこの学院の悪よ!」

あんじゅ「先生の場合も今の時期に白紙の答案を出されたら何度だって呼び出すにこよ」

にこ「ぐぬぬ!」

海未「真剣に考えてくれている証拠ではないですか。そして、にこもまた安易な答えを提示しない」

海未「良き生徒に良き教師。誇るべきことです」

凛「うーん、にこちゃんのそういう姿を見てるともっと勉強しないとなーってなるニャ」

穂乃果「つまりにこちゃんはおバカさんだってことだね!」

海未「にこを人身御供にして自分は違うような事を言うのは関心出来ません」

あんじゅ「そうだよ。にこだって夏休みの宿題対策で夜の勉強会に力を入れて……」

あんじゅ「にこは私と夜の勉強に日夜励んでるんだよ★」

にこ「どうしてわざわざ変な言い方に直すニコ!」

あんじゅ「変な言い方って、にこは何を想像したの? えっちな子にこ!」

にこ「言い方を改めたあんたの方がえっちでしょうが!」

あんじゅ「にこが溺愛してやまないあんじゅちゃんだからしょうがないね」

にこ「否定しなさいよ。まるで私もえっちみたいに思われるでしょ」

海未(な、何故今の言い方からはしたないような言い争いになっているのでしょうか?)

にこ「ともかく穂乃果も凛も進路も混ざってくるんだから、勉強をないがしろにしちゃダメよ」

あんじゅ「にこが先輩顔して誤魔化してる。心優しいあんじゅは突っ込まないでおくのでした」

にこ「そのナレーションネタは忘れた頃に出してくるわよねぇ」

穂乃果「にこちゃん。私は大丈夫だよ、頑張るから!」

凛「凛も体育大を目指す為にも勉強頑張るよ!」

にこ「ええ、凛は頑張ってね。夢は移ろう物だけど、自分を高める為になるならそこに意味が生まれるわ」

にこ「この先勉強を必要としない夢を見つけたとして、だから勉強はもうしない」

にこ「なんて言い出したら今の夢が無駄になっちゃうから。そんな風にはならないでね」

凛「……」

にこ「まだ実感湧かないとは思うけど、忘れててもいいから。肝心な時に思い出して」

凛「ううん、今のにこちゃんの言葉は忘れないよ。記憶に刻み込んだから!」

にこ「刻み込む程の言葉じゃないけどね」

あんじゅ「にこが白いにこになってる。私には愛してるって一言で良いよ♪」

にこ「まるで普段にこが黒いみたいに聞こえるわよ。愛してる愛してるー」

あんじゅ「なんておざなり。でも、胸がキュンってしちゃうヤンデレな自分が悔しい☆」

凛「そんなこと言いながらあんじゅちゃん頬が緩んでるよ」

穂乃果「…………あれ?」

海未「穂乃果、どうかしましたか?」

穂乃果「いや、にこちゃんにスルーされたんだけど」

海未「何度も何度も事がある度に頑張ると言っていてはスルーもされます」

海未「狼少年の話を思い出してください。嘘とは違いますが、似たり寄ったりですから」

穂乃果「ほむぅ」

海未「そろそろ王子様としてしっかりして欲しいものです」

穂乃果「大丈夫だよ。今度はしっかりとした王子様になるから」

海未「ええ、期待しています。が、UTXでの話を聞くとことりの方が現在王子様っぽいですが」

穂乃果「ことりちゃんは凄いよね。特待生としてもスクールアイドルとしても」

海未「ですが負けてはいられませんよ。私達には最高のメンバーが居るのですから」

穂乃果「そうだね。大切な時期なのにこんなこと仕掛けるくらいだもんね」

あんじゅ「でも今回の場合はただ単ににこが泣かされた腹いせなんだよ」

にこ「にこの涙は安くないってことを実感させてやるわ!」

あんじゅ「あれ? でもそう考えるとにこって絵里ちゃんに《しか》泣かされて、ない?」

あんじゅ「……どうして私はにこを泣かせてないの?」

あんじゅ「にこの涙は私の物なのに。どうして?」

にこ「ハイライト消してヤンデレ風なこと呟いてんじゃないわよ! 本当にそれどうやんのよ」

あんじゅ「エリーちゃんって今何処に居るんだっけ?」

にこ「そのエア包丁風な何かを持ってますアピール要らないにこ!」

あんじゅ「でもよく考えれば百合の花がぽとりと散る時に泣かせた後には鳴かせるからいっか★」

にこ「だから最近ヤンデレ百合からサイコレズ寄りになってるっての」

あんじゅ「邪道に慣れてるエリーちゃんもまさか合宿前にこんなサプライズがあって」

あんじゅ「合宿という間を挟んで大会当日に本当のサプライズがあるなんて疑わないよね」

凛「相変わらずあんじゅちゃんは切り替えが早い!」

海未「ですが規模は小さいのに色んな意味で大きいというか」

穂乃果「よくこんなこと考え付くよねぇ」

にこ「流石に私達も躊躇したのよ。でも、私達と絵里の仲を受け持ってくれた先代の生徒会長に相談して」

にこ「絶対にやるべきだって背中を強く押されたから実行に踏み込んだのよ」

海未「にこは本当に絆の幅が広いですね」

にこ「個人としての連絡先は知らなかったから山田先生経由で連絡貰ったから、私の手柄じゃないわ」

にこ「海未は最近私を過剰評価し過ぎニコ!」

あんじゅ「うっふふ。過剰評価じゃなくて過大評価だよ」

にこ「評価を下げる為のジョークよ。大人のジョークってやつ」

あんじゅ「あっ、にこの鼻が伸びた。金太郎飴みたい。ぺろぺろっ♪」

にこ「色んな意味でにこを舐めてるんじゃないっての!」

海未「空白の時間があっても知恵や力を貸してくれるのだから、やはりにこの魅力でしょう」

海未「普通の人なら相当な恩がなければ途絶えていますよ」

にこ「今回のは絵里の為なんだから私は関係ないっての」

にこ「亜里沙も一緒になって背中を押してくれたし、うちの五女の力でもあるのよ」

凛「絵里ちゃんって有能なのか無能なのかちょっと分からない時があるけど、基本凄い人なんだよね?」

海未「妹に対して甘いので無能に見えてしまう時もありますが、凄い有能な方ですよ」

にこ「一年の最初の頃から生徒会に入ってて、その秋には生徒会長に就任」

あんじゅ「何よりも邪道シスターズの長女だからね☆」

にこ「凛の前だとあの共通した夢でとか駄目な部分が強調されちゃったけど」

にこ「ああいう点が魅力に映るくらいには有能なのよ」

にこ「あんじゅが言う通り、伊達に三年生の中でリアル誕生日が一番遅いのに長女やってるだけあるのよ」

海未「おや? あんじゅの誕生日は私と近かった気がしますが」

にこ「あれは矢澤あんじゅの誕生日。元々の誕生日は私より先よ」

あんじゅ「その通り! 私は誕生日が二つある。生まれついての邪道体質!」

凛「なんだか強そうっ」

海未「……なるほど。やはりあんじゅはにこの妹ですね」

にこ「あ、そうだ。私ちょっと用事があるから先に屋上行って声出しでもしてて」

あんじゅ「何処行くの?」

にこ「ロボ部の愛娘を見に行く約束してんのよ。噂のサンちゃんとご対面」

あんじゅ「あっ、私も行く! ついでに帰りにオカ研寄って行こうね」

にこ「勝手に付いてきて行き場所を追加してんじゃないわよ。何か用事あるの?」

あんじゅ「怖い話の本を貸してもらう約束してるの」

にこ「怖い話を語るのがあんたの数少ない取り柄だもんね。いいわ、行きましょう」

あんじゅ「妹を貶めて自分の位置に少しでも近づけようとする器も心も小さなにこが大好き♪」

にこ「なんでよ!!」

あんじゅ「じゃあ、行ってくるね」

凛「行ってらっしゃい!」

海未「……」

穂乃果「海未ちゃんどうかしたの?」

凛「もしかして絵里ちゃんに二段構えがバレてるとか?」

穂乃果「大丈夫だと思うよ。バレない為の亜里沙ちゃんだから」

海未「そもそもあの二人が結託した邪道を見破るのは絵里でなくとも難しいと思います」

海未「しかも今回は当日の一段目で終わったと見せ掛けて、合宿という間を置いた後にもう一段ですからね」

海未「背中を押されたからといってこんなことを仕出かすのは絵里の魅力でしょうね」

海未「ですがにこ自身は本当にどうすれば自分の評価を正しく受け入れてくれるのでしょうか」

海未「あの行動力と柔軟な思考。人との繋がりを十二分に発揮するリーダーシップとカリスマ性」

海未「そして人を笑顔にする為の苦労を厭わず、泥を被ることすら構わないという尊さ」

海未「他に何を手にすれば自己を正当に評価し直してくれるのでしょうか」

穂乃果「にこちゃんの唯一の弱点だよね」

凛「やっぱり噂のA-RISEのリーダーとの再会が必要なんじゃないかな?」

海未「そうですね、綺羅ツバサとの再会は必要不可欠なのかもしれません」

海未「……更なる毒にもなり得る。次はにこの夢だけでなく、あの笑顔すら奪ってしまうのではないかと」

海未「要らぬ心配だといいのですが」

――ロボット研究部部室 にこあん

にこ「意外とって言うと失礼だけど、言う程無骨じゃないわね」

あんじゅ「にこよりは可愛いかも」

にこ「なんですってー!?」

あんじゅ「にこは私には常に可愛いって思われていたいんだね。大丈夫だよ、にこは宇宙一可愛いから」

にこ「比べられる対象がロボなのが気になっただけよ」

あんじゅ「と、このように可愛い反応を出来るようになればサンちゃんは可愛いより可愛くなるかと」

ロボ部「成程。しかし音に反応させられても、言語になると完全にプロの領域」

「部長。それは将来は開発者になれって言うエールかと」

「一生は言葉通り一度きりの生。目指すべき才能があるのなら目指さないと勿体無いです」

「孤独な子供達を救う愛ロボットを作りましょう。サンちゃんの妹達」

「今から名前を考えておけば前に進む道しかなくなりますよネ!」

にこ「随分と慕われてるじゃないの」

あんじゅ「一人でも続けてきた勲章だね。にこがもし私が居なかったら……嗚呼無情」

にこ「なんで悲劇確定みたいに思われてるのよ」

あんじゅ「私と出逢わないにこなんて悲劇としか言えないにこ」

にこ「言いたいのはそれだけでしょ」

あんじゅ「ほら見てにこ。背景に白い百合が咲いてるよ」

にこ「少女漫画じゃないんだから。って百合じゃないけど花ね。青春してるところ悪いんだけど」

ロボ部「なんでしょうか?」

にこ「この花達ってもしかして光るの?」

ロボ部「ええ、光りますよ。充電式の電池を使ってるので経済面でも安心です」

にこ「サンちゃんよりこの子達を貸し出して貰えない? 充電器も出来れば」

ロボ部「それはいいんですけど、サンちゃんじゃなくてもいいんですか?」

あんじゅ「ここまで推されるとその愛に負けてにこを貸し出したくなるね」

にこ「何に対しての対抗心よ。リーダー貸し出してるんじゃないわ」

あんじゅ「大丈夫だよ。勿論にこと私はセットレンタルだから」

にこ「レンタル不可よ。悪いんだけど合宿中貸して欲しいのよ」

あんじゅ「もしかして百物語でもするの?」

ロボ部「百個もないですよ。一人三つ以上作ったので二十個位ですね」

にこ「充分よ充分! これで皆の寝泊まりする空き教室からトレイまでの道しるべになるわ」

にこ「小さな明りでも灯って咲いてる花は不安を掻き消すと思うの」

にこ「百均のライトも幾つか揃えるつもりだけど、ないとあるとじゃ段違いだわ」

にこ「これさえあれば暗いの怖い絵里も一人でトイレ行けると思うし」

にこ「うちの長女のエリーチカは花が好きだからね」

にこ「これないと夜中に起こされるフラグが立ちそう。クックックこれで回避! 服毒した!」

あんじゅ「鼻と顎を尖らせてるところ悪いけど、それだとご臨終してるよ」

にこ「死んでないわよ。回避したもの、服毒したんだから」

にこ「そんなことよりありがとう! ロボ部があってくれて良かったわ」

ロボ部「……!」

あんじゅ「にこの眠りを妨げていいのは私だけだもんね」

にこ「あんたはどんだけ茶々入れたいのよ」

あんじゅ「うふふ。寧ろ私はにこの血肉を貪るタイプだから」

にこ「ヤンデレ恐るべしね!」

ロボ部「あはっ。二人は本当に仲良しですね。合宿頑張ってください」

ロボ部「私達一同はSMILEを応援してます。何かあれば声を掛けてください」

にこ「うん、ありがとう。出れるか分からないけど、ラブライブ関係が終わったら気軽に用事でも言いつけてね」

にこ「他の部もそうだけど色んな借りを返していかなきゃだから」

にこ「そうしないと……卒業が先になって借りを返せなくなっちゃうからね」

ロボ部「そう、ですね。もうあと二つの季節しか残ってないんですよね」

あんじゅ「三年生以外が居る時のしんみり禁止にこっ!」

にこ「ああ、そうね。逆に言えばあと二つも季節が残ってるんだし」

にこ「返すべき借りを返して、残すべき物を一つでも多く残していきましょう」

ロボ部「ええ、そうですね」

にこ「それじゃあ、数が数だし複数回に分けて取りにくるからよろしくね」

「皆さんは練習があるんですよね? でしたら私達が後で運んでおきます」

「こういう部分で練習時間を削られて予選通過出来なきゃ本末転倒ですから」

「音ノ木坂学院の代表として今は練習を第一に考えてください」

「ですです! 下剋上は果たせなきゃ下剋上に成らず、ですよ」

ロボ部「ということなので後でアイドル研の部室に運んでおきます」

にこ「本当に悪いわね。ありがとう、お言葉に甘えさせてもらうわ」

あんじゅ「音ノ木坂の絆に乾杯だね。それじゃあ、よろしくね」

――数日後...

元部員「面白いことを計画してると聞いてバイト戦士ここに!」

にこ「何よそのヘンテコなノリ。耳が良いわね」

元部員「フッフッフッ。バイトをしていると色んな趣味が加わるのだよ」

にこ「何よそれ。まぁ、元気そうで何よりだわ」

あんじゅ「にこの愛を受け、今日もあんじゅちゃんは元気にこ☆」

にこ「あんたの元気なんて気にもしてないわ」

あんじゅ「と言いつつ撫で撫でして元気付けるにこにーお姉ちゃんが可愛い♪」

にこ「人の手を勝手に掴んで頭撫でさせてるだけじゃない」

元部員「生徒会長に泣かされた報復するんだって?」

あんじゅ「そうそう。にこってば復讐の刃だから」

元部員「だったらもっと大きな舞台で、だけど生徒会長だからこその意味を込めてするのはどうかな?」

にこ「どういうことよ?」

元部員「廃校に成り得たかもしれないこの学院で生徒会長として頑張ってきたわけだし」

元部員「感謝してるのは現SMILEのメンバーだけじゃないのだよ、ワトスン君」

あんじゅ「つまりホームズを嵌めたアイリーネ・アドラーになろうってこと?」

あんじゅ「あ、ちなみに一般的な呼び方はワトソンとアイリーンだよ。書籍によって違うけど」

にこ「私ホームズとか興味ないから読まないし、どんな呼び方でもいいわよ」

元部員「本は良い物だよ。年齢差があっても共通の話題として振れるからね」

元部員「歌もいいんだけど、歌はけっこう世代で差が生まれるから」

にこ「今はまだどうでもいいアドバイスありがとう。で、話戻すけど絵里に何をするって?」

元部員「色んな人を説得しなきゃだけど、私が足となるから任せて!」

元部員「……で、結局にこちゃん達は何を計画してるの?」

にこ「壮絶な私全部分かってる感出してただけだった!?」

あんじゅ「うふふっ。なかなかにレベルを上げたね」

元部員「あんじゅちゃんにはまだ届かないけど」

にこ「一体何をしたかったのよ。で、ふざけに来ただけ?」

元部員「違う違う。何を計画してるかは不明瞭だけど、何かやるなら参加しようってね」

元部員「色んなところで話が出てるみたいでさ。私が代表で聞きに来たわけだよ」

にこ「そんなバレバレだったかしら?」

元部員「邪道オーラって言うの? オカ研部長がそういうのが見えるって」

にこ「なにそれ怖いっ」

あんじゅ「隠しきれないこの邪道。身体は子供、オーラは大人。ネコフィラ! 私はタチジュリカ」

にこ「名前変わってるじゃない! しかも誰が子供よ!」

元部員「元気よくぴょんぴょん跳ねて怒ってるにこちゃんみるとなんか安心する」

あんじゅ「だよね。これがあってこそのにこだもん」

にこ「ぐぬぬ! 私の怒りは何処に捨てればいいのか」

あんじゅ「私が全部受け止めてあげるから大丈夫だよ。にこの怒りは私の怒り。ぐぬぬ♪」

にこ「明らかに楽しんでるじゃないの!」

元部員「で、で? 何を企んでるのかな?」

にこ「別に企むって程でもないわよ。大げさにするような事じゃないんだけど」

元部員「いいからいいから。今白状すればこの二割引の件をプレゼントだ!」

にこ「しょうがないわねぇ」

あんじゅ「あっさりと物に釣られるにこの将来が心配。でも私が常に付いてるから安心」

あんじゅ「私がヤンデレで良かったね。もしそうじゃなかったらバッドエンド間違いなし!」

にこ「そんな断言するんじゃないわ。で、何をするかだけど――」

元部員「――ふんふん。なるほどね。らしいと言うのか破天荒だね」

あんじゅ「邪道を是とするのが邪道シスターズのやり方だから★」

元部員「でもそれが誰かを喜ばせるという結果なんだから誰も文句を言えない」

元部員「そこが一番の邪道だよねぇ」

にこ「別にそんなつもりで始めた訳じゃないけど」

あんじゅ「私達が通った道がそうなっただけ。最高の結果だね!」

にこ「自画自賛してんじゃないわよ」

元部員「それで、私達有志もその話に一枚噛ませて貰ってもいい?」

にこ「もう直ぐだから噛むも噛まないもないと思うけど」

あんじゅ「確かに。何かをするにも時間がないと思うよ」

元部員「甘い、甘過ぎるわ。カカオ99%よりも甘いわ!」

にこ「あれより甘いって当然じゃない。苦い以外の感想が湧かなかったわ」

元部員「こっちには部活もバイトもしていない暇な人達も大勢居るんだから!」

にこ「両方してないから暇って断言するのは失礼よ」

元部員「いいのいいの。寧ろ部活やってても暇を持て余してる人達だって居るくらいだし」

あんじゅ「高校生の部活だもんね。緩かったり情熱燃やしたり。色々あっていいと思う」

にこ「で、何をしようっての?」

元部員「ラインで拡散して放課後までに方向性を一致させるからもう少し待ってて」

にこ「メリットがないと思うんだけどいいのね?」

元部員「そんなの気にするような頭固い子はこの学院には居ないよ」

元部員「お祭り騒ぎを好きにした責任を取ってもらわないとね」

あんじゅ「それを言われたらおしまいだね。罪と詰みって感じ」

にこ「全然上手いこと言ってないのにそのドヤ顔やめなさいよ」

あんじゅ「ふっふーん♪」

にこ「胸まで張るんじゃないわよ!」

絵里「何か面白いことでもあったの?」

元部員「あ、生徒会長。おはようございます。にこちゃんが今日も可愛いなって話です」

絵里「おはよう。ああ、いつものあんじゅにからかわれてるのね」

絵里「楽しいのは分かるけど、もう直ぐ朝のSHRが始まるから教室に戻った方がいいわ」

元部員「はーい! じゃ、また後で連絡するから」

あんじゅ「面白い展開になってきたにこ」

絵里「?」

にこ「なんでもないわよ。朝一から生徒会の仕事ご苦労さま」

――放課後...

にこ「連絡があったわ。なんというか、ラブライブさえなければもっと騒ぎたくなる程ノリがいいわね」

あんじゅ「こういう雰囲気は音ノ木坂学院だからこそだよね」

にこ「そうね。文芸部と運動部の垣根を超えて仲良いし、部活やってる子とそうじゃない子も仲良いし」

にこ「ずっとこの学院で過ごして居たくなるわ」

あんじゅ「まさかのホラー展開フラグ」

にこ「違うわよ!」

あんじゅ「ある条件が揃うとループが発動し、卒業までの道を永遠に変えるかのように拒み続ける」

あんじゅ「そして、ふとした瞬間……主人公は気付いてしまう」

あんじゅ「ああ、そっか。だから卒業式は迎えられないんだって」

にこ「……」

あんじゅ「……」

にこ「で、なんで卒業式を迎えられないのよ?」

あんじゅ「オチがないホラー程怖い物なんてないよ」

にこ「気にしたちょっとの時間を返しなさいよ!」

あんじゅ「ブレーキを踏んで助かったの。もしさっきの声がなかったら自分は崖から落ちていたって」

にこ「その話有名過ぎてツンデ霊まであるじゃないの」

あんじゅ「走り出した後に耳元でさっきの女性の声が聞こえたの」

あんじゅ「貴方は死なないわ。私が守るもの」

にこ「まさかの綾波レイ!?」

あんじゅ「さっきの女性の声が聞こえたの。貴方は死なないわ。だって……貴方は明日死ぬんだから」

にこ「話す順番逆でしょ! それじゃあギャグに頭持ってかれて全然怖くないわよ!」

あんじゅ「それじゃあ、行こうか」

にこ「何処によ?」

あんじゅ「この学院のボスに話をつけに。皆がこんな風にエリーちゃんの為に集まってくれるなら」

あんじゅ「相応の舞台を用意しよう。たまには青春らしく邪道なしで誠意でお願いしてみよう」

にこ「嫌味? それで失敗した思い出があるんだけど!」

あんじゅ「あの頃はただの小生意気で世間を知らなかった子供だった」

あんじゅ「でも今のにこは違う。成長したもんね」

にこ「誰が小生意気よ! いや、確かに否定し辛いものがあったけど」

あんじゅ「でも私は今も昔もにこが好きだよ。にこは可愛い♪」

にこ「はいはい、ありがとう」

あんじゅ「本当ににこは可愛い。こんな可愛いととても心配。金庫に入れておかなきゃ」

にこ「だからなんでホラー展開にしようとすんのよ!」

あんじゅ「にこが緊張しないように解してるの。相手は理事長だからね」

にこ「知らない関係じゃないんだからそこまで緊張しないわよ」

あんじゅ「だからって今回も私達の我がままだし。理事長の顔は二度までかも」

あんじゅ「前回は娘の件もあってのことだから許されたってだけかもだし」

あんじゅ「顔見知りだから緊張せずに余裕って舐めプして泣かされるフラグなんじゃ?」

にこ「……ちょっとやめてよ。さっきのホラーより断然怖いんだけど」

あんじゅ「私の言葉に翻弄されて狼狽するにこは本当に可愛い。にこ大好き♪」

にこ「好きならもう少し言葉選びなさいよ!」

あんじゅ「あんじゅは素直になれずにからかっちゃう系女子だから★」

にこ「そんな女子は居ない!」

あんじゅ「否! ほらほら、ここに居るよ」

にこ「大好きとか言えるやつが素直になれないはおかしいでしょうが」

あんじゅ「確かににこの言う通りかも。じゃあ、二律背反系女子とかどうかな?」

あんじゅ「思春期でもあるし、素直な気持ちを伝える勇気がある時もあるんだけど」

あんじゅ「基本的には恥ずかしさから素直じゃない言葉を口走っちゃうの」

あんじゅ「それで部屋に戻った時に一人で落ち込む系ヒロイン」

にこ「あんた私と同じ部屋なんだから一人にならないじゃない」

あんじゅ「にこが落ち着いたみたいだからそろそろ真面目に理事長の所に行こう!」

にこ「……あんたは意味のあることでもないことでも全部裏がありそうよね」

あんじゅ「人を腹黒みたいに言うのは駄目。にこのお腹は真っ白。私専用とか落書きしたい」

にこ「落書き内容が色々とおかしいニコ! ま、いいわ。理事長退治と行きましょう」

あんじゅ「例え邪道という武器がなくてもにこにはある。たった一つの武器、絆ってやつにこ!」

にこ「ちょっとカッコ良いわね」

あんじゅ「どんな格好良い台詞もにこが言うと返り討ちフラグに変わる奇跡」

にこ「確かにね。でも、あんじゅって最高のパートナーが居れば最強のフラグになるじゃない」

にこ「さ、時間なくなるから早く行くわよ」

あんじゅ「はーい♪ にこは時々私をキュンキュンさせるよね」

にこ「いつもいいようにやられてる仕返しよ」

あんじゅ「惚れた弱みで直ぐに封じられるのが私の唯一にして絶対の弱点」

にこ「弱点とか言いながらニヤニヤするのやめなさいよ」

あんじゅ「うっふふふ♪ にっこにっこ☆」

――合宿開始直前の日曜日 午後三時 生徒会室

絵里「なんだか今日は休みだというのに騒がしいわね」

海未「夏休み前だからじゃないですか?」

絵里「それ関係あるのかしら?」

海未「ありますよ。夏休みになってしまえば用がなければ中々こないものですから」

絵里「でも、日曜日に来るのと変わらなくない?」

海未「いえ、同じ休みでも一番の大型連休とは違いますよ」

絵里「そんなものかしらね」

海未「……ですが、そろそろでしょうか」

コンコンコン! コンコンコン!

絵里「随分と元気なノックね。運動部かしら?」

海未「ふふっ。もっと元気な人だと思いますよ」

絵里「もっと元気な人?」

海未「私が出ます。……どうぞ入ってください」

ここあ「せいとかいしつー!」

こころ「エリちゃんきたー!」

絵里「えぇっ!? どうして学院にここあちゃんとこころちゃんが?」

亜里沙「お姉ちゃん。私も来ちゃった!」

絵里「亜里沙まで!」

ここあ「今日はおいわいの日にこ♪」

こころ「だから来てもいいにこ☆」

絵里「お祝いの日? 一体何を……?」

亜里沙「お姉ちゃん。これをどうぞ」

絵里「招待状。会場・夢の国って何よこれ?」

こころ「こころとここあはようせいさんなの!」

ここあ「エリーちゃんをゆめの国に連れていくの!」

亜里沙「私も今日は妖精なんだよ」

絵里「海未、貴女は何か知ってるの?」

海未「そうですね。今日の私は愛弗精霊ウミンディーネと言うことにしましょう」

絵里「って、人の話を聞いてない!?」

亜里沙「皆が待ってるから行こう、お姉ちゃん」

ここあ「おいわーい♪」

こころ「エリちゃん早く早く!」

亜里沙「さぁさぁ。なんでもいいからお姉ちゃん行こう」

絵里「ちょっと、私にはまだ仕事が――」
海未「――大丈夫です。その仕事はフェイク。今日までにやるべく仕事は終えていますよ」

絵里「えぇっ!?」

亜里沙「くすっ。お姉ちゃんってばさっきから驚いてばかり」

絵里「一体何が待ってるっていうのよ~!」

――夢の国(体育館)

「「「せーの! エリーチカ会長誕生日おめでとうございます!!」」」

絵里「え、えっ、えぇ!?」

亜里沙「本当にお姉ちゃんってば今日は驚いてばかり。お誕生日おめでとう」

ここあ「エリーちゃんおめでとうにこっ♪」

こころ「ハッピーバスデーエリちゃん♪」

海未「誕生日おめでとうございます。エリーチカ姉さん」

絵里「何よこれ、夢? というか、全校生徒居るんじゃないの」

絵里「そもそもだって私の誕生日は十月よ。十月の二十一日」

にこ「確かに絢瀬絵里の誕生日は十月かもしれないわね」

あんじゅ「でも、矢澤絵里の誕生日は今日この日にこ!」

絵里「ど、どういうこと?」

にこ「本当の誕生日は確かに大切な物よ。でも、それとは別にあってもいいでしょ?」

にこ「実際にあんじゅは誕生日が二つあるし。なら私達邪道シスターズにあってもいいじゃない」

にこ「ということで今日が絵里の誕生日になったって訳よ」

絵里「それ意味が分からないわ」

にこ「簡単に言えば絵里がこうして生まれてきてくれて、私達と出逢ってくれた。そのことを感謝したい」

にこ「生徒会として、生徒会長として頑張ってきてくれた。そのことを感謝したい」

にこ「皆がそう思ったからこうして学院の体育館が夢の国へと姿を変えたのよ」

にこ「それに今年は私も誕生日がズレるから三年生の中で絵里だけ一つのは仲間外れは嫌でしょ?」

穂乃果「絵里ちゃんはいつも仲間ハズレとか嫌うもんね」

凛「三年生は本当に仲がいいニャー♪ 凛も学校は違えどかよちんと真姫ちゃんとそんな三人になりたいな」

海未「なれますよ。私も穂乃果も学院が違えどことりとは仲の良さは微塵も変わってませんから」

凛「うん!」

にこ「今日この瞬間にただ絵里のことを祝いたいって思った人だけがここに居る」

にこ「全校生徒が日曜日にわざわざ集まったのは皆がそう思ったから」

にこ「中には予定をキャンセルしてまで駆けつけてくれた人も居るわ」

にこ「部活の時間を返上してまで集まってくれてる人達も居る」

にこ「それもこれも皆絵里に感謝しているから。出逢えて良かったって思ってるから」

にこ「他の学校ならあえりない出来事よね。でもそれが成りえるのがこの音ノ木坂学院」

にこ「そんな学校に育てたのが生徒会長であるエリーチカお姉ちゃん」

にこ「こんな滅茶苦茶な目的で体育館を使用したいって理事長にお願いしに行ったのよ」

にこ「そしたら笑顔で了承してくれたわ。それが絵里の頑張ってきた実績を加味しての結果よね」

あんじゅ「にこ長い」

にこ「……ま、細かいことはなしね。とにかく今日は矢澤絵里の誕生日!」

にこ「これが例え七月じゃなくても真冬の三月だって同じことよ」

にこ「だから改めて言わせてね。エリーチカお姉ちゃん、誕生日おめでとう。私と出逢ってくれてありがとう」

あんじゅ「エリーチカお姉ちゃん。誕生日おめでとうにこ! 生まれてきてくれてありがとう☆」

海未「エリーチカ姉さん。改めておめでとうございます」

穂乃果「絵里ちゃん誕生日おめでとう。こんな邪道もありだよね!」

凛「絵里ちゃんお誕生日おめでとう! いつも生徒会のお仕事お疲れ様」

絵里「……え、あ……うん」

ここあ「エリーちゃん! このクッキーね、ここあも手伝ったの!」

こころ「あっ、ずるーい。ここあはあじみしてただけにこ!」

ここあ「あじみも手伝いのうちにこ!」

こころ「ぜんぜんちがうにこ!」

亜里沙「二人とも手伝ったのは間違いないし、喧嘩はしちゃダメだよ」

こころあ「はーい♪」

にこ「さ、そろそろお祝いされる当人の言葉を皆に返したら?」

にこ「じゃないとパーティーが始まらないわ」

あんじゅ「終わらないパーティーだね」

にこ「くだらないことはいいのよ。ほら、絵里」

絵里「……え、あ、うん。うん……ありがっ――!」

絵里「うぅっ! タオル~タオル~!」

にこ「計画通り!」

あんじゅ「にこってば泣いてる絵里ちゃんみてあくどい顔してる」

にこ「やられたらやり返すのがにこ流なのよ!」

あんじゅ「そうだよね。やり返したら倍返しされるのがにこ流だよね」

にこ「なんでよ!?」

絵里「うぅっ……何この不意打ち。というか、皆暇人過ぎよ」

にこ「さっきも言ったじゃない。暇人どころかその逆の人も居たんだから」

絵里「あぁ~もう。その、皆私の為に集まってくれてありがとう」

絵里「前会長に比べたら未熟ですが、任期の内にUTX学院との合同学園祭もあります」

絵里「以前までの音ノ木坂学院でしたら向こうとの格差に実行なんてありえませんでした」

絵里「ですが今のように行動力と、人としての大切な物を皆さんは充分に持っています」

絵里「だからUTXがどれほど優れていたとしても見劣りもしなければ無駄な劣等感を抱くこともなく」

絵里「対等のまま活動し、両日共に過ごすことが可能になると思っています」

絵里「ですから……です、からっ」

絵里「よろしくおねがいします!」

あんじゅ「にこと違って泣いてても決める。流石邪道シスターズ長女」

にこ「ふーん。別ににこだって本気を出せばあれくらい簡単よ」

凛「あははっ。子供が強がってるみたい」

にこ「二つも年下の凛に子供なんて言われたくないわよ!」

穂乃果「大丈夫。にこちゃんは小学生にだって見えるから!」

にこ「何の保証よ!」

海未「こんな慕われて有能な生徒会長の跡を継ぐ。少し恐ろしく思います」

あんじゅ「海未ちゃんなら大丈夫だよ」

にこ「自分がやりたいようにやればいいのよ。思い切りの良さが海未には少し足りないわ」

にこ「元々背負ってる物が誰よりも重いから仕方ないかもしれないけど」

にこ「まだ学生なんだもの、せめて学内に居る間はもっと楽にしなさいよ」

にこ「海未が困った時に誰も助けてくれない……なんて状態なら別だけど」

にこ「そんなことはありえないでしょう?」

海未「はい」

にこ「ま、お説教っぽくなるから今日はそういう難しいこと忘れて楽しみましょう」

にこ「今日は私達のお姉ちゃんの誕生日なんだから」

絵里「涙がとまらない~」

ここあ「エリーちゃんだいじょうぶ?」

こころ「元気だすにこ!」

亜里沙「お姉ちゃん。新しいハンカチもあるよ」

絵里「……ぐすっ。嬉しくても涙って止まらなくなるのね」

◇矢澤絵里の最良の一日◇ おしまい

◇最後の寄り道◇

あんじゅ「ねぇ、こんな話を知ってる?」

にこ「その前にそのティーカップどこから取り出したのよ? 部室にそんな物なかったんだけど」

あんじゅ「約二年ほど前にこんな物語があったそうよ」

にこ「ってスルー!? というかその口調ヤメなさいよ!」

あんじゅ「始まりはね、にことオリキャラのそうだねAちゃんとしようか」

あんじゅ「にことAちゃんの二人以外がスクールアイドルを辞めたところから始まるの」

にこ「その展開どっかで覚えが……って、私とあんたじゃない」

あんじゅ「Aちゃんと二人で練習を頑張るんだけど、Aちゃんが引っ越しすることが決まったの」

あんじゅ「それでね、一人ぼっちに、ぼっちに、学内最弱ぼっちになっちゃうにこに――」
にこ「――ぼっちを連呼して強調すんじゃないわよ!」

あんじゅ「うふふっ。それで一人になっちゃうにこにAちゃんが元気付けるように言うの」

あんじゅ「転校先の学校にスクールアイドルは居ないけど、私が立ち上げるからラブライブ本選で再会しようって」

にこ「あれ? その展開も私とキラ星に似てるわね」

あんじゅ「それは全然似てないね」

にこ「どう見てもそっくりじゃないの! あんたはどうしてキラ星のことになると……まったく」

あんじゅ「プロローグが終わって本編は一期の最終回の後。つまりにこは本選出場出来ず」

あんじゅ「やっぱり私が傍に居ないとにこは駄目にこね★」

にこ「現在25位で言える立場じゃないわよ」

あんじゅ「約束が果たされなかったから直接Aちゃんが音ノ木坂に会いに来たんだよ」

あんじゅ「そしてメンバー皆の前で言ったの。スクールアイドルであるのは高校生の限りある間だけ。だから卒業する前にライブ対決しようねって」

にこ「2グループだけの決勝戦ってことね」

あんじゅ「そこで穂乃果ちゃんが提案したの」

あんじゅ「他のスクールアイドル達にも声を掛けて、勝ち負けじゃないいつもにこちゃんが言っている見てくれた人が笑顔になるそんなライブをしようって」

あんじゅ「舞台は講堂だからラブライブ本選みたいに華やかじゃないけど」

あんじゅ「そんな心配を覆すようにエントリーのメールがくるの」

あんじゅ「そんな告知を音ノ木坂HPで知ったA-RISEの私が二人に参加を呼び掛ける。私は謎のにこ推し。やはり運命!」

あんじゅ「ラブライブ優勝校であるA-RISEの参加にランク上位陣も参加を決める」

あんじゅ「参加グループが多くなり過ぎたことから企業が一枚噛み、三日間に及ぶ特設会場の野外ライブが決定」

あんじゅ「そんな話があったんだって。つまり何が言いたいか分かった?」

にこ「この話は盗作ってことね!」

あんじゅ「違うよ。この物語よりそっちの方が映画に似てたんだよって」

にこ「でも盗作なんでしょ?」

あんじゅ「アニメ一期のにこじゃないんだから盗まないよ。初めての黒歴史って誰にでもあると思うの」

あんじゅ「其れを経験値とするか封印するかでけっこう変わると思う」

あんじゅ「今回の物語を封印しますか? はい……お疲れ様でした。この物語はお忘れください」

にこ「なんで黒歴史封印せずにこれを封印するのよ。次スレに続くにこよ!」

あんじゅ「にこが辿り着く夢への答え。心の広い人だけ進むにこ!」


にこ「ユメノトビラ~夢を諦めたスクールアイドル~」
にこ「ユメノトビラ~夢を諦めたスクールアイドル~」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1457962878/)

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年04月14日 (火) 23:25:09   ID: NCC7C5oh

たのしみやん!

2 :  SS好きの774さん   2015年05月14日 (木) 05:19:22   ID: KGjR-JzB

好きなキャラが音ノ木

3 :  SS好きの774さん   2015年08月17日 (月) 17:24:39   ID: _rqCyR27

続き楽しみです!

4 :  SS好きの774さん   2015年09月20日 (日) 18:49:12   ID: zNxx-1gB

更新きたあああああ!!!
楽しみにしてたので頑張ってください!

5 :  SS好きの774さん   2015年09月20日 (日) 19:15:12   ID: WO4rcFEX

楽しみにしてるから頑張って欲しいな
ただエタってもあらすじ書いてくれるのは有難い…

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