響「ふたりのしくみ」 (169)

@沖縄。波止場。夏。

空を仰ぐと太陽が頂いていた。
漁には遅すぎる時間帯で、波止場に人気はない。
麦わら帽を被った少女を除いては。

彼女はひとり、体育座りで海を眺めていた

チェックのワンピースは涼しげ。
小麦色に焼けた腕が、ひしと両膝を抱きしめている。

彼女の顔をよく見たかった。
しかし目深に被った帽子の所為で、表情は伺えない。

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ふっと、柔らかい風が吹く。

風にさらわれた麦わら帽が、宙を流れた。
そして、彼女が現れる。
 
櫛が落ちそうな黒髪。
露わになった両頬は、チークが入ったように薄紅色だ。
揺れる前髪の間から、両目が覗く。

カラカラとアスファルトを擦って、麦わら帽が私の足元へと流れ着いた。

はたと少女は顔を上げて、私を見やる。
互いの視線が合い、そこで始めて気づいた。

「……おじさん、なにみてんのさー?」
 
強気な口調と共に、彼女はぐっと目じりを拭った。

沖縄の離島で、私は我那覇響を見つけた。

黒井「……これは無礼を。不躾な視線でした」

黒井「私は961プロの黒井社長と申します。ところでお嬢さん――」

響「くろい……プロ!?」がばっ

響「もももしかして、961プロって芸能プロダクションの、あの961プロのこと!?」

黒井「ウ、ウィ。そうだが」

響「なんって自分ラッキーなんだ! こんなタイミングでやってきてくれるなんて!」

響「あ、あ、あ! もしかして、スカウトしにきてくれたのか!?」ずいっ

響「この前のお祭りで、自分のエイサーみてくれたとか!!」ずずいっ

響「それでファンになっちゃったとか!!!! あははは、照れちゃうぞ~」///

黒井「お、落ちつきたまえ」

黒井「(……少々、忙しないが。コイツ、光るものがあるな)」ジロジロ

響「えへへ」テレテレ

黒井「(おまけに、扱い易そう奴だ)」

黒井「(くくく。辺境の地までやってきた甲斐が合った)」

黒井「(まさかこんな逸材を見つけるとはな!)」

黒井「可憐なマドモアゼル」

響「か、かれんなんて。うへ、うへへ」///

黒井「よかったら私に、先の涙の理由を教えてくれないだろうか」

黒井「微力ながら力になれるかもしれない」ニヤァ

我那覇響は器械体操が得意らしい。
趣味は編み物に卓球。母親と兄の三人暮らし。

響「にぃに、兄貴はいいよ! 自分より年上だし、力持ちだし」

父親とは幼い頃に死別したと聞いた。

響「すぐにでもあんまーを助けられる」

我那覇響には人を惹きつける才能がある。
それは彼女の立ち振舞いから感じた直感に過ぎなかったが。

響「自分だってあんまーに苦労かけたくないのに! 早く働いて、少しでも楽にしてあげたいのに!」

そして彼女は、現状に不満を頂いている。

響「でも兄貴は上京に反対で。お前にアイドルなんてできっこないって」ジワッ

響「……!」ゴシッゴシッ

付け入る隙は、十分にあった。

響「ごめんっごめん! いきなりこんな話してっ」

甘い言葉で言いくるめば、こいつは簡単に私についてくるだろう。

響「ほんのちょびっとだけ、挫けそうになっただけだから。あはは……」

だが、その前に。どうしても言わなければならない事があった。

黒井「響ちゃん。泣くんじゃない」

響「っ。泣いてなんかない」

黒井「……きみは、本当にアイドルになりたいのか?」

響「もちろんさ! 自分、歌ったり踊ったりするの好きだし、それがお仕事になるなら」

黒井「だったら、泣くんじゃない!」

響「もう泣いてなんかっ」

黒井「いいかい、響ちゃん。これから私達が進む道にそんな感傷は不要なのだ」

黒井「王者とは、古来より孤独なものである!」ビシッ

黒井「己を価値の絶対基準としろ! それが961プロの方針だ」

響「……」

黒井「他人に否定された所で何だ。それで響ちゃんの価値が変わるわけでもない」

響「……うぅ」ぽろぽろ

黒井「だから言っているだろう、泣くんじゃ」

響「うぅ! わかってる! これは嬉しくて泣いてるんだよ! 嬉し涙だ!」ぽろぽろ

響「今まで、そんな風に言ってくれる人いなかったから」

響「みんなみんな、お前には無理だって。でも、黒井社長はちがくて……うわあーん!!!!」

黒井「もうその辺りでやめるんだ。繰り返すが、トップアイドルに感傷は無用」

響「う、ひっく、ひく。う、うん!」ゴシゴシ

響「……わかったぞ。自分、もう泣かない! トップアイドルになって、絶対みんなのこと見返してやるさー!」

黒井「くく、そうだ。もう一つ、良い事を教えてあげよう」

響「いいこと?」

黒井「ああ。これから響ちゃんがアイドルをやっていく上で、最も大切な事だ」

黒井「良く聞くんだよ」

黒井「――――」

我那覇響は、素直に何度も頷く。

――
――――
――――――――

すべて、むかしの話だ。

だが、いまでも思い出す。

@現在。カラフルに塗られたテレビスタジオ。
中央には、赤・青・緑のジャケットを着た三人組。
大きな笑い声と共に、モニター中継からスタジオに映像が移った。

春香「あはは。今日の貴音さんのラーメン探訪おもしろかったね!」

美希「第二ロッターが揃った時のドキドキといったら、もうたまらなかったの!」

千早「ええ。私もあそこは肩に力が入ってしまったわ」

春香「というわけで、気になるロットバトルの結果は次週に持ち越しです!」

千早「今週もお別れの時間が迫ってきました」

美希「来週も絶対面白いから、また見て欲しいって思うな☆」

響「ちょぉーーっと、待ったーーー!!」

美希「どうしたの響、いま本番中だよ?」

響「うぎゃー! そんなこと知ってる! 響チャレンジがまだ始まってないの」ジタバタ

響「みんな、忘れてるんじゃないだろうなっ」ニラミッ

春香「わ、わ。響ちゃん、そんなことないって!」

千早「今日のチャレンジは少し特殊だから、最後に発表するつもりだったのよ?」

美希「そうそう。響にはすぅぅぅっごいチャレンジしてもらうんだから」

響「……なんか嫌な予感」

響「で、自分は何をすれば良いんだ? 番組時間も残り少ないぞ?」

春香「まぁまぁ響ちゃん。もうちょっと待ってね」

春香「じゃあチャレンジ発表の前に……準備はいい? 千早ちゃん、美希!」

美希「もっちろんなの!」

千早「ええ。いつでもいいわ」

響「え、え。何が始まるんだ?」

春香「よぅし。じゃあ会場の皆さんも一緒にーーー」

千早・美希・春香「せーっのっ」

「「「響ちゃん、アイドル賞、受賞おめでとぉぉぉ!」」」ワーワー

響「ふぇ、なんだ、みんな、ちょっと」ヒビキー、ヒビキチャーン、オメデトー

美希「おめでとーなの、響っ!」だきっ

春香「私も同じ765プロの仲間として鼻が高いよ」えへへ

響「春香も美希もそんな抱きつかないってっば! というか千早っ、はやく説明してっ」////

千早「ふふ、わかったわ」

千早「もうご存知の方もいらっしゃると思いますが」

千早「この度765プロの我那覇響が」

千早「NIA主催ブリリアントアイドルアワードから栄えある賞を頂く事が出来ました」

パチパチパチパチ!!!

千早「おめでとう、我那覇さん」にこっ

美希「ハニ、じゃなかった」

美希「プロデューサーに褒められて羨ましかったけど。でも同じぐらいに嬉しいの!」

春香「私たちも負けてられないけど、いまは素直に響ちゃんと喜んでいたいな」

> ヒビキー、コレカラモ、オウエンシテルゾー

美希「あはっ☆ ファンのみんなもおんなじキモチみたい!」

響「うう、うう」まっかっかー

美希「どうしたの響、もしかして泣きそう?」

春香「強がってないで、春香さんの胸で泣いてもいいんだよ?」

響「うっぎゃーーー! ちっがーう!」

響「なにさー、なんなんのさー いきなし自分のこと持ち上げてさー!!」

響「こんなの、打ち合わせに無かったじゃないかっ」

千早「あ……、ごめんなさい」

千早「私なりに考えてみたサプライズだったのだけれど……嫌だった?」

響「ふえ? 千早が考えてくれたのか?」

美希、春香「」じっとー

響「あ……う」タジタジ

響「違うぞ、ぜんっぜん違うぞ。うれしーな、あはは。こんなの嬉しくないわけないさー」

春香「ほーら、響ちゃんホントは嬉しいんじゃない」わしゃわしゃ

美希「響はもっと素直になるべきって思うな」わしゃわしゃ

響「ちょ、そこの二人は調子にのるなっ」ぺしっ

響「もちろん皆のこういう言葉はすごく嬉しいぞ。でも、こんな不意打ち……」もじもじ

美希「あ、響がデレたの」

春香「響ちゃん、あらためて受賞おめでとう!」

春香「この受賞は、響ちゃんの努力の結果なんだよ」

春香「でもね。これはきっと響ちゃんだけの力じゃないと思うんだ」

春香「プロデューサーさんだったり、番組のスタッフさん、トレーナーさんだったり」

春香「いろいろな人の応援があったから、ここまで来れたんだよ」

春香「もちろん、765プロの仲間の助けもあってね」

響「……もしかして春香、自分に恩着せようとしてる?」ケゲンソー

春香「ち、ちがうよ?」

千早「もう、春香は下手ね」はぁ

春香「うぅごめんね、千早ちゃん」

千早「我那覇さん、これはね。今回の響チャレンジに関係していることなのよ」

響「響チャレンジに? んー、何だか話が見えてこないぞ」

美希「考えるより感じろなのっ。響にチャレンジしてもらうのはコレ!」

『ひびきんズ レター』じゃじゃーん

響「ひびきん……ズ、レター?」

千早「今回我那覇さんには、感謝の気持ちを手紙に込めるチャレンジをして貰います」

美希「つよがりな響は、もっと自分の気持ちを正直に伝えていくべきなんだって思うな」

美希「コレはそんな響の為の企画なのっ」

美希「恥ずかしがり屋さんの響だって、お手紙ならだいじょうぶでしょ?」

響「うぎゃー! なんだよそのチャレンジ! 手紙だって、は、恥ずかしすぎるぞ!」

響「というか、お礼なんて自分のタイミングで言うさ! 企画でやることじゃないでしょっ」

千早「……やっぱり余計なお世話だったかしら」

千早「美希の言う通り、我那覇さんは少し頑な所があるから」

千早「この受賞を機会に、少しでも我那覇さんの気持ちを皆に伝えられたらなと思って」

響「……」

千早「ふふ。そうね、確かにおかしいわ。こんな事、私が言える立場じゃないのにね」

響「…………」

響「……ゃぅ」

千早「え?」

響「やるって言ったんだぞ! やればいいんだろっ」

響「千早にそんな顔されたんじゃ敵わないし……」

千早「我那覇さん」ぱぁぁ

美希「というわけで、響のツン期はこれで終わりなの」

春香「これからはデレデレの可愛い響ちゃんが見れちゃいますよ!」

響「二人はもっと自重してっ」クワッ

春香「近い内、ひびきんズレターが、アナタに届くかもしれませんっ。お楽しみにっ!」

美希「それじゃ皆さんまた来週なの~」

そして。

@961プロ社長室。
黒塗りのデスクの上には様々な番組の企画書。

眉間に皺を寄せて、この部屋の主は一通の便箋を眺めていた。

「ふん」

並べられた書類の上に、淡いピンクの便箋を投げ捨てる。
宛先には丸い文字で「黒井社長へ」とあった。
封は、切られていない。

「くだらん」

その上に、更に企画書を放る。
"ゲロゲロステージ ジュピター VS 765プロアイドル"の文字。

出演リストには三人の名前。如月千早と天海春香、そして我那覇響。

「くそっ765プロめ」

黒井「最近は生意気にもオファーが増えているようじゃないか」

黒井「それだけでも腹立たしいが、我が至高のアイドルと同じステージに立つとは!」

黒井「くそっくそっ。目障りな765プロめ!」

翔太「荒れてるねー黒ちゃん」

北斗「今日はいつにもないですね」

黒井「……お前たちか」ジロリ

冬馬「心配すんなよ。おっさんは俺たちが負けるとでも思ってるのか」

黒井「そういう問題ではない」

黒井「お前たちのような高貴な存在に近づいていい連中ではないのだ!」ドンっ

冬馬「関係ねえさ。ダンスだろうが、ゲームだろうが、何でも相手にしてやればいいだろ」

冬馬「俺達はあいつらに勝つ自信、あるぜ」

北斗「ゲロゲロステージ、765プロと共演」

北斗「この企画、断ったそうじゃないですか。何故です?」

黒井「それを問い質しにきたわけか」

黒井「そういうわけでは。ただ今回の貴方は、何と言うか」

翔太「目の色が違うよね。……親の敵って感じ、とも違うのかな」

北斗「こらっ。翔太、口のきき方に気をつけろ」

黒井「何を言い出すかと思えば」

黒井「私は仕事があるのだ。さっさと出て行け」

冬馬「俺達ジュピターにとっても、今は大事な時期だ。敵前逃亡なんて真似したくねえんだよ」

北斗「それに、エンジェルちゃん達に罪はない」

黒井「罪がない? 塵芥に過ぎない彼奴等が、お前たちと並び立つ事自体重罪なのだよ」

黒井「この企画に出演する765の田舎娘どもに、961が関わることさえ我慢ならん!」

黒井「まずは如月千早だ」

黒井「直近は歌番組に加え、バラエティにも意欲的に参加し、活動範囲を広げているようじゃないか」

黒井「近頃は以前のような影はナリを潜めたと聞く」

黒井「日蔭者なら日蔭者らしく、大人しくてればいいものを!」

翔太「……よく調べてるよね」

北斗「……ああ」

黒井「次に天海春香。こいつがやっかいだ」

黒井「没個性などというアイドルにとって致命的である要素を、逆手にとった売り出しはまったくもって舌を巻く」

冬馬「は? いみわかんねえよ」

黒井「天海春香は見境がないのだ! 教育番組から果ては旅行記のナレーションまで、何でもそつなくこなす」

冬馬「? どうしたって、天海春香は」

黒井「それは、彼女が他のアイドルと比べて、突出したイメージを持たないからだ。歌なら如月千早、美貌なら星井美希といったようにな」

黒井「だが天海春香は違う。どんな場面だろうとごく自然に溶け込める。画面を喧しくせずにな」

冬馬「!」

黒井「彼女は中庸の徳をその身で表現しているといっても過言ではない」

冬馬「そうか盲点だったぜ。何も派手さだけがアイドルの武器じゃないってことか!」

黒井「そうだ。天海春香はこのアイドル業界のフロンティアといえるだろう」

黒井「しかし! その開拓精神がいつまで続くだろうか! いつだって時代は新しい風を求めているのだ!」

冬馬「そうだ! おっさんの言う通りだぜ」

北斗「……それで、我那覇響にはどんな魅力があるっていうんです?」

黒井「……」

冬馬「なんだよ、もったいぶるなよ」

黒井「我那覇響は」

冬馬「おう」

黒井「……沖縄出身だ」

冬馬「おう」

冬馬「……で?」

黒井「それに、いぬ美という名のセントバーナードを飼っている」

冬馬「おっさん、ふざけるなよ」バシッ

冬馬「情報はそれだけじゃないだろ!」

翔太「ペットの名前知ってる時点で驚きだけどね」

黒井「ええい! 我那覇響の事なんぞ知ってどうするというのだ!」

翔太「んん? そういえば我那覇響っていうと。昔961にいたんだよね」

北斗「そうだな。俺達の前身、確かユニット名はプロジェクトフェアリー」

黒井「」ッッビクッッ

翔太「(動揺が体にでるよね)」ヒソヒソ

北斗「(見るからにポーカーフェイス得意そうなのにな)」ヒソヒソ

冬馬「そんな話聞いたことねえよ!」

冬馬「そしてこのおっさんの反応……何か隠してるな。まさか!」

黒井「貴様ら! いい加減にしろ! 私の崇高な腹の内を探るなぞ言語道断!」

冬馬「……」

黒井「さっさと出て行け! 今すぐに! 即刻!」

冬馬「おっさん」

黒井「聞こえなかったか? 出ていけ、といったのだ」

冬馬「我那覇響に弱みを握られているな」

黒井「なぜそうなる!」バンッ

冬馬「わかってる、もう言うな」

冬馬「ふざけたことしやがって765プロ。昔の恩を忘れ、おっさんをゆすってやがったな」

冬馬「ますます逃げるわけにはいかねえよ」

冬馬「あいつ等もテレビの前じゃ汚い真似できない。しても俺が許さねえ!」

黒井「」

冬馬「こうしちゃいられねえ! お前らレッスン行くぞ!」ガラっバタッ

黒井「お、おい! 待て!」

翔太「んじゃ、僕たちも行きますか」タッタッタ

北斗「まったく冬馬は」フー

北斗「では、すいません。リーダーの意向なので」スッ

黒井「おまえ達まで!」

バタン。
@961プロ社長室前、廊下。

翔太「なーんか、黒ちゃん。過剰反応だったね」

北斗「フェアリーとは並々ならない因縁があるんだろうな」

北斗「解散当時は、社長も相当荒れたらしい」

翔太「ふぅん?」

翔太「まあいいけど。冬馬君のおかげで、また暫く退屈しなさそうだし」ケラケラ

北斗「その通り。俺達は冬馬について行くだけだ」ミ☆

北斗「……けれど案外、あの人は」

北斗「昔泣かせたエンジェルちゃんの事を想ってるのかもな」

@再び961プロ社長室内。

黒井「くそっくそっ。どいつもこいつも。何故こうも上手く回らんのだ!」

黒井「一体どこで掛け違えた! くそっくそっ!」

腹いせにデスク上の企画書をひっかきまわす。

すると、資料の中に埋もれた便箋に目が留まる。
憎々しげに便箋を凝視する。

差出人の名前は。

黒井「我那覇」

黒井「我那覇響めぇぇぇ」

便箋を資料の山から強引に引きぬき、滅茶苦茶に引きちぎる。

黒井「こんなものを寄こしおってっ!」

千切れた紙片が、社長室に舞い散った。

黒井「どこまでも。おまえはこの私を――」

@過去。いつの日か。

響「自分、今日もオーディション合格したぞ! デビューシングルだってオリコンにチャートイン!」

響「鮮烈なデビューかざっちゃったー」えへへ

響「そうだ! ねえ、黒井社長」

響「今日、つまんない奴と会っちゃったんだよ」

響「そうそう! まえ黒井社長が言ってた765プロとさ」

響「うん! ヘンタイ事務所と話す事はないって。しっかり言ってやった!」あはは

響「でも、春香、とかいったかな。その娘にプロデューサーがいてね」

響「そいつがおっかしいんだ! はいさいじゃなくて、はくさーいってさ」あははは

響「っ」びく

響「も、もう。怒んないでよ。ちゃんと言われた通りにしてるから」

響「だって、トップアイドルに友達は必要ないもんねー。すっごいアイドルになって、みんなを見返してやるんだ!」

響「……でも。春香は楽しそうだったな」ボソ

響「プロデューサーがいるって、どんなだろう」

765プロの新しいプロデューサーと会話したらしい。
貧乏事務所にも人材を雇うだけの金があったのか。
端金で動くプロデューサーの力量など、タカが知れているが。
害悪765プロに、響ちゃんが感化される事だけは避けたい。
この娘は、孤高でいるから今の地位を保っていられるのだ。

――――

響「黒井社長! 今日はレッスン見にきてくれたの!!」てってって

響「そっか。今日はダンスの先生に用があったんだね」

響「あ……。もういっちゃうの?」

響「あ、あの。ちょっとだけ」もじもじ

響「ちょっとだけ、レッスン見てってくれると嬉しいさー。自分、万倍は頑張れちゃうかも!」

響「…………うん。ごめん、困らせたりして。うん、わかってる。ひとりでも平気さー」

一度でも、頼れる人間を得てしまうと、こうして寄りかかろうとする。
それでは駄目なのだ。
いったいステージ上で踊る人間は誰なんだ? マイクを持つ人間は?
それは響ちゃん、きみ一人なんだよ。
日常から両足で立てない人間が、どうやってステージで生き残るんだ。
弱音を吐くな、涙を流すな。
響ちゃんが自分の感情を全て律せた時、初めてきみはカンペキなアイドルになれる。

――

響「黒井社長? なに、はなしって」

響「! 765プロと買い物行ったって、なんで知ってるの?」

響「ちがっ。そんなことない」

響「っ! なんでそういうこと言うんだよ! 765プロに唆されてなんかないっ」

響「もうなんだよ! 社長はさっきから自分の都合ばっかり!」

響「知らないっ! そんなトップトップいうなら、黒井社長がトップアイドル目指せばいいだろっ!」ダァツ

響「ううっ、ううう」

響「はっ。泣いてない、泣いてないぞ!」

響「……黒井社長。探しに来てくれたの?」

響「玄関で泣いてたら、そりゃ気付くよね。あはは」

響「……じぶん」

響「さっきも言ったけど765プロに唆されたり、してないから」

響「自分は、黒井社長を信じてる」

響「社長から教えてもらったやり方で最後まで進むから!」

響「だから。社長も、もっと自分を信じて?」

黒井「……」

「また同じこと繰り返すのか。黒井よ」

不愉快なセリフが耳朶をうつ。

黒井「繰り返すものか。今度は確固たる自信がある」

黒井「響ちゃんは私が描く究極のアイドルになれる。その道を今まで拓いてきたのだ」

黒井「弱小プロの貧弱なアイドルに負ける筈がない! 素地と環境が違うのだよ!」

黒井「だが。響ちゃんの言うことも、もっともだ」

黒井「プロデューサー、か」

黒井「ふむ。複数人のトレーニングコーチをローテーションでつけても良いな」

黒井「それが叶えば。更にフレキシブルなトレーニングができそうだ」

黒井「次のオーディションに勝てば、専属のプロデューサーを雇っても良いな。効率がずっとよくなるぞ」

黒井「くくく。まあ、響ちゃんが勝つことは自明の理。さっそく人員リストを取りよせるか」

だが、私の期待は裏切られる。
我那覇響は、オーディションに敗退した。それも765プロ相手に。

@オーディンション終了後。待合室。

響「くろいしゃちょう」ボロボロ

黒井「……」

響「ごめん。自分がんばったんだけど。とどかなかったんだぁぁ」ぽろぽろ

黒井「……」

響「うっぐ。ごめん、ごめん。くろいしゃちょう」

黒井「……だ」

響「……え。今なんて」

黒井「おまえはクビだ」

響「どうして? え?」

黒井「必要がなくなった」

響「え?」

黒井「利用価値がなくなった。……あと何回言いかえれば理解できる?」

響「そんな。でもじぶん、つぎは!」

黒井「つぎなどない!」

黒井「いいか。この世界は印象が全てだ。一度でも敗者の汚名を着せられたなら二度と返り咲くことなどできないんだよ」

黒井「それに、私の言いつけを守らず。765プロなんぞとつきあうから!」

響「くろいしゃ」

黒井「お前などやめてしまえ!」

私を失望させて。

黒井「毒に染まりきったアイドルなんて切り捨てて当然だ」

可能性があったのに。

黒井「大枚はたいて世話してやったが」

完成されたアイドルになれたのに。

「この私に唾を吐きおって!」

この小娘はふいにしたのだ! 私の理想をゴミ当然に打ち捨てたのだ!

P「黒井社長!」ガッ

春香「やめてください、プロデューサーさん!」

春香「ここで黒井社長と争っても何にもなりません!」

P「くっ。春香」

黒井「……自分のアイドルに手綱をにぎられるとはな。つくづく愚かな男だよ」

P「俺の、じゃないです」

黒井「?」

P「"俺の"アイドルじゃないです。春香をモノのように言うのは、やめてください」

黒井「それが愚かだと言っているのだよ!」

黒井「いいか? アイドルとは偶像だ。それは一片の隙もなくデコレートされていなくてはならない」

黒井「それをおまえ達は、絆だの仲間だの生ぬるい戯言を並びたてて」

黒井「アイドルの本質を少しも理解できていない!」

P「いい加減にしてください!」

春香「プロデューサーさん!」ぐっ

P「……わかってる。わかってるよ春香」

黒井「ふん。わかったら私の前から消えろ。目ざわりなのだよ」

P「……黒井社長」

P「俺は、アンタがどうしても好きになれません」

黒井「ほう。それはざんねんだ」

黒井「私はおまえ達が憎くてたまらない」

おまえも、高木もだ。

――――――――
――――
――

すべてむかしの話だ。

だが、いまでも思い出す。

新しいグループ、ジュピターを手掛けるようになってからも。昔の記憶は薄れなかった。
なぜなのだろう。

「もっと、自分を信じて?」

黒井「……」

ある日。過去を蒸し返す、一通の手紙が届いた。

アイドルアワードを受賞した我那覇響からの手紙。

どうせ碌な事は書かれていないだろう。読まずに破り捨てて正解だ。

もう、奴と私の間には何の関わりもないのだから。

@再び現在。
某テレビスタジオ。廊下。

黒井「いいか。お前たち! 気を抜くなよ。一分の油断がそのまま破滅に繋がると思え!」

冬馬「おっさんは大げさだっての。毎週やってる番組なんだぜ?」

黒井「甘い! その甘さが原因で、転落していった奴を私は何人も知っている」

黒井「あの五月蠅い765プロもその筆頭候補だな!」

黒井「最近はどうも調子づいているようだが、どうせ、すぐ足もとを掬われる!」

翔太「(今日も変わらず、荒れてるね)」ひそひそ

北斗「(先日からずっとな。765プロへのバッシングもいつも以上だ)」

黒井「北斗! 翔太! 聞いているのか!?」

北斗「ええ。もちろん聞いてますよ☆」

黒井「私はこれから、TVプロデューサーと話がある。お前たちは先に楽屋へ行っていろ!」

冬馬「怒鳴るなよ……わかった。じゃあいくぞ、お前ら」クルッ

黒井「……」スタスタ

黒井「奴ら気が抜けている! そんなことだから、仕事の依頼も増えんのだ!」

黒井「961プロの業績が横ばいに対して……」チラッ

黒井「局内は、765プロ一色か。番宣ポスターがあちこちと」ギリギリ

黒井「(……それも我那覇響ばかりだ)」

黒井「……」

黒井「……打ち合わせまで、時間があるな」

黒井「少し、そこで休むか」

@自販機前。

黒井「(喉が渇く)」ピッ、ガシャーン

「あ」

黒井「(なんだ? 呆けた声が)」チラッ

黒井「っ」

響「は、はいさーぃ」

缶ジュースを片手に、我那覇響がそこにいた。

黒井「……ボンジュール」

黒井「おーやおや、765プロの貧乏アイドルじゃないか」

響「こ」

響「こんなところで会うなんて奇遇さー!」

我那覇響の胸元を見ると、星型のネームプレートがあった。

響「もしかして、自分の人気にあやかりにきたとか?」ピカーン

あれは、某有名音楽番組の出演者が付けるプレートだ。

響「ふふーん。そうかそうか、じゃあ特別に自分を拝んだっていいぞ?」

きっと、アイドル賞受賞の効果だろう。世間は今、目の前の小娘に注目している。

響「……あの? 黒井社長、聞いてる?」

黒井「……」

無性に気に入らなかった。
私が見限ったアイドルが、周囲から評価されていることに。

響「……だまってないでよ。自分ばっか喋って、バカみたいじゃないか」

黒井「……」

響「あの、さ! ところで」

響「て、てがみ。よんでくれた?」

響「いっしょうけんめい、書いたから」

黒井「ノン! 読むわけがないだろう」

響「っ」

響「ど、どうして……」

黒井「わかりきったことを。時間の無駄だからだ」

黒井「読まずに捨てた」

響「っ!!」

黒井「話はそれだけか。私は忙しいのでな」スタ…

響「」バッ

黒井「……なにをする? 目の前に立たれては邪魔だ」

響「黒井社長は」

響「黒井社長は! どうして、いつもそんな言い方しかできないのっ!」

響「自分は、ただ……」

黒井「優越感に浸りたかったのだろう?」

響「!」

黒井「アイドル賞だか何だか知らんが。得意気な顔で私を見下したいのだろう」

響「ちが」

黒井「これだけの才能を黒井崇男は見逃した。我那覇響、お前はそう言いたいんだ」

響「やめてよ!」ぐっ

黒井「離せ。襟を掴むな」

響「話を聞いてよ! いっつもいっつも、黒井社長は自分の話ばっかり!」

黒井「離せ」

響「黒井社長!」

黒井「……」

響「……」

響「」すっ

黒井「ふん。幾らするスーツだと思っているんだ」

黒井「まったく。余計な時間をとらせおって」ぱっぱっ

響「……黒井社長は、むかしと変わらないね」

黒井「」ぴくっ

響「自分もいじっぱりな方だけど。黒井社長は筋金入りさー。あはは……」

黒井「……失礼させていただく」

黒井「オルヴォワール」スタスタ

翔太「うわっ、黒ちゃんこっち来るよ!」

黒井「なんだ、お前たち。盗み聴きとは品が良いな」

北斗「い、いえ、偶然そこを通りかかっただけで、他意は」

冬馬「……」

黒井「……まあいい。私はこれから打ち合わせだ。ではな」スタスタ

翔太「ふいー。一触即発って感じだったね」

北斗「物影に隠れず、止めに入るべきだったかもな」ヤレヤレ

北斗「あの二人の確執。どうも根が深そうだ。なあ、冬馬」

冬馬「……」

翔太「なぁに、冬馬くん。さっきから物憂げな表情しちゃって」

翔太「似合わないよ?」

冬馬「うっせー。ところでよ、北斗」

北斗「なんだ?」

冬馬「おっさんが最後に言ってた”オルヴォワール”だっけか」

北斗「ああ、フランス語で、さようなら、だな。それが?」

冬馬「べつに。おっさんがフランス語喋ってんの初めて聞いたぜ。お前たちは?」

北斗「いや」

翔太「言われてみれば。フランス語好きなのは入社時に聞いたけど」

翔太「僕も聞いたことない。唐突になに?」

冬馬「……」

翔太「ほんとに変だよ?」

冬馬「なんでもねーよ。うだうだ言ってねーで、さっさと行くぞ」スタスタ

私は、昔と変わらないままなのか?
違う。
私は我那覇響が765プロに負けた後も、敗因を探し続けた。
最適な環境、確かなトレーニング。どれも最高のものを、我那覇響に提供してきた。
にも関わらず我那覇響は負けた。それも弱小765プロに。

理由は簡単だ。
それは彼女が孤独になりきれなかったから。
どうせ765プロの若造の入れ知恵があったに違いない。
お友達ごっこが響に慢心を生み、そして敗退した。
原因はわかったのだ。

「むかしと変わらないね」

素人め。私のどこを見てのたまうか。
私が手掛けているジュピターはどこまでも孤高を貫く。
奴らは自分達が王者だと理解しているからだ。故に奴らは心の隙を突かれることはない。
過去の失敗から私は学んでいる。
そしてジュピターは成果を上げている。

「黒井よ。お前はまた同じ過ちを繰り返すのか」

私が昔と変わらない?
は。笑わせるな。

「――社長?」

TVプロデューサー(TP)「黒井社長、聞いてますか?」

黒井「……考え事をしていた」

黒井「では、いつも通り頼んだ」

TP「へへ。いつもありがとうございます。黒井社長」

TP「これからも長いお付き合いよろしくお願いしますよ」

黒井「そうだな」

TP「あ、ちょっと待ってください」

黒井「なにかね」

TP「あの、もしお手すきだったら構わないのですが。こちらを」おそるおそる

黒井「なんだ、この紙は?」

TP「あの。丁度いま、番組の企画で各界の著名人から女性アイドルに対するご意見を集めていまして」

黒井「……」

TP「もし! おおお時間があったらで良いんです!」

TP「アイドル戦国時代のトップランナーである961プロ社長のご意見を是非伺いたく」

黒井「ふん。時間があったらな」バタン

TP「は、はい! ありがとうございます!」

黒井「まったく卑しい男め」スタスタ

黒井「しかし、こんな”取引”は、961の財力があるからこそ出来ること」

黒井「当然ながら、ジリ貧事務所の765プロなんぞには、到底できない」ククク

黒井「765プロ、か」

黒井「我那覇響。久しぶりに近くで見たが……」

黒井「随分と不抜けた顔をしていた!」

黒井「まあ、それも当然だ。私の下だからこそ、あの娘は輝いていたのだ!」

黒井「……」

黒井「これ以上は止めるか。あの連中に思考を割くことすら無駄だ」ガチャ

@961プロ楽屋
ガチャ。

黒井「ジュピターは出番か」

黒井「」ぴらっ>TPから渡された用紙。

黒井「……ご丁寧に便箋まで用意しおって。最近は下らんネタが流行るようだな」

黒井「なんてアナログな企画だ」

黒井「なになに? お題は、【アナタの理想のアイドルとは?】」

黒井「仕方ない。三人が帰ってくるまで時間がある」くくく

黒井「私が思う存分、至高のアイドル論を語ってやろうではないか」

カキカキ

黒井「……これで良いだろう」ピラッ

黒井「ん? この番組名は」

黒井「! 我那覇響が出演する予定のっ」

黒井「くく。これは丁度いい。この手紙に細工をして、奴に精神的ダメージを――」

ガチャ。

冬馬「おっさん居たのか」

黒井「む」

黒井「お前たち番組は?」

北斗「スタッフの手違いで時間が後ろにズレたんです」

翔太「? 黒ちゃん、何してたの?」

黒井「お前たちには関係のない事だ。無駄口叩かず、目の前の仕事に集中しろ」

冬馬「」カチン。

冬馬「おっさん。いい加減にしろよな。何で機嫌悪いのかしらねーけど」

冬馬「所構わず辺り散らしてんじゃねえよ!」

黒井「なんだ、その反抗的な態度は!」

冬馬「女々しいっつてんだよ! 我那覇響の事で文句があるなら――」

黒井「その名を口にするなっ」

黒井「その名前を、二度と、口にするな」

黒井「765のポンコツアイドルの名前がどうしてここで上がる!」

冬馬「見え見えなんだよ! 意識してんのがっ」

黒井「」

北斗「おい、冬馬っ」

冬馬「ここで言っておかなきゃ治まらねえんだ!」

冬馬「おっさんが昔プロデュースしたアイドルなんだろ? 我那覇は」

黒井「」ガタッ、スタスタ

冬馬「おい、逃げんのか! おっさん」

冬馬「なんで話してくれねえんだよ」

黒井「……」

冬馬「……俺達はそんなに信用ないのかよ」

黒井「っ」

ガチャ、バタン。

冬馬「おいこらっ! おっさん!」

北斗「冬馬! お前も落ちつけ」

冬馬「……わあってるよ。くそっ」

冬馬「けどよ」

翔太「ねえねえ。二人とも、コレ見て」

冬馬「?」

北斗「便箋だな。社長が落としたのか」

翔太「なんて書いてあるだろう? ま、まだめ?」

北斗「Madame. ……まあ、社長が書いたんだろうな」

冬馬「それって」ハッ!

北斗「どうした――って」

冬馬「それ貸せっ!」バッ

翔太「ちょ。冬馬君!?」

冬馬「今何時だ!?」

翔太「いや、5時過ぎだけど」

冬馬「まだ、番組まで時間あるな……、俺行ってくる」

北斗「おい、冬馬。理由を説明してくれよ」

翔太「行くってどこに?」

冬馬「決まってんだろ!」

冬馬「我那覇響のとこにだよ!」

黒井「」カキカキカキ

ふざけるな。

黒井「」カキカキ

どうして私の過去を掘り返す。

黒井「」カキ

我那覇響のプロデュースをしていた頃にあったのは間違いだけだ。

黒井「くくく。書けたぞ」

呪いの言葉なら、こうして掃いて捨てるほどある。

黒井「この罵詈雑言のメッセージを、番組の最中に読み上げてやる」

信用? そんなものはない。駒なんだ。ジュピターも、フェアリーも。

黒井「お前の一番のファンという名乗りでな」くくく

@副調整室。
スタジオを映したモニター画面が並ぶ。

TP「あ! 黒井社長、来てくださったのですね」

黒井「ああ。頼まれていた手紙も用意した。特別に私が読み上げようじゃないか」

TP「ありがとうございます! 丁度、キャストの皆さんがひな壇に並んだところですよ」

TP「お手紙のコーナーは響ちゃんの出番の後ですので」

黒井「くく。いるな、我那覇響。晴れの舞台で赤っ恥をかかせてくれるわ」

@某有名番組スタジオ。本番。

司会「さて、お次は話題沸騰中! 沖縄からやってきたこの子です!」

司会「元気はなまるっ! 我那覇響ちゃん!」

響「はいさーい! みんな!」ワァァァ、ヒビキー

司会「おお! すごいファンの歓声ですね」

響「えへへ。みんな、自分の登場が待ち遠しかったのかな」

司会「アイドルたるもの、やっぱりファンの声援は嬉しいですか?」

響「当然! ファンのみんなも、沖縄の友達も、普段お世話になっている色んな人の応援があったから、今の自分があるんだ」

響「こんな風に、言葉にするのは恥ずかしいけど。やっぱり言わなきゃダメなんだよね」

響「みんな、ありがとう」

客>ワアアアア

響「みんな……」ウルル

響「ありがと。……自分、ホント嬉しいさー」

司会「そんな響ちゃんは今、生っすかサンデーの企画で、みんなに感謝の手紙を書いているとか。どんな事を書いてるのかな」

響「そ、そんなの、話題にするような事じゃないぞ」///

司会「これは失礼しました。たしかに野暮でしたね。じゃあ、曲の方いってみようか」

響「……」

司会「ん? どうしたのかな、響ちゃん」

響「あの、ちょっとだけ自分に、時間ください」

司会「?」

響「ほ、ほら。こうやってテレビに出たらみんなが自分を見てくれるでしょ?」

響「だから、この機会にお礼を言いたいんだ。……なかなか話づらい人もいるからさ」

司会「なるほど。まだステージの準備中、みたいだし。……うん、よさそうだ」

響「ありがとう!」

司会「じゃあ、響ちゃん。どうぞ」

響「あの、自分は、ずっと沖縄で暮らして、ました。

響「アイドルになって初めて出てきた東京は知らないことばかり。

響「だって東京はいつもお祭りの日みたいに人がいるんだぞ?

響「人波にもみくちゃにされちゃって、右も左もわからない時、自分は本当に心細かった。

響「辛いことだってあった。でも。そんな時。自分は心に支えがあったから、頑張ってこれたんだ。

司会「むむ? それってつまり……」

響「あはは。そんなんじゃないんだぞ」///

司会「まあ、深堀は止しておくとして」

響「違うってばっ」

司会「自分を支えてくれたその人は、響ちゃんにとって大切だったんだ」

響「人っていうか、言葉、かな。

響「その言葉をくれた当の本人は、厳しい人だったさー

響「自分が失敗して落ち込んでるときだって、知らん顔。

響「でもオーディションで勝つ事だけは厳しく言われた。

響「真剣だったんだ。自分を輝かせる方法を、いつだって考えてくれた。

響「……本当はそんなつもり、なかったのかもしれないけど。

響「でも、自分にはそう感じたんだ。

司会「響ちゃん、その人は

響「最初に出逢った日、覚えてる? 自分にくれた言葉を覚えてくれてる?」

@番組副調整室。

あの小娘は何を言ってるんだ。

違う。

私がお前に与えたのは、言葉や心なんてものじゃない。金と技術だ。
最高の環境を我那覇響にくれてやったのだ。

支えになった言葉なんて知ったことか。
感謝などやめろ。

私は失敗したんだ。我那覇響のプロデュースに。
恨まれはすれど、礼を言われる筋合いなどない。

黒井「胸が悪い」

TP「え?」

黒井「もういい。私は暫く部屋で休む」

TP「はぁ。わかりました」

響「自分は」

聞くに堪えず、私は部屋を抜け出した。

我那覇響、お前は気付いているか?

お前の語る言葉すべてが。お前が歌うステージが。
961のやり方ではない、他の道で輝くお前の姿が。

私の存在を踏みにじる。

響を迎える歓声が、耳元を離れない。

もう、やめろ。

なぜだ。私は全てを提供してきた。私が考えられる全てをだ!

それなのに、なぜ。

黒井「……私が間違えていたのか?」

>ワァァァァァ

司会「響ちゃん、ありがとうございました! 素晴らしい歌とダンスでしたね」

司会「では、一旦CMです! 響ちゃん、すこし休んでていいよ」

響「う、うん」はぁはぁ

響「はぁはぁ」テクテク

響「……はぁはぁ」ペタン

響「……ちゃんと、伝わったかな」ウルウル

響「自分ってば、何泣きそうになってるんだ」ウル

響「……ばかだなぁ」グイグイ

冬馬「っ! こんなとこに居やがったか!」ぜぇぜぇ

響「え?」

私が間違っていただと?

黒井「は」

そんな事、口に出してはならないのだ。想うことすら、許されない!

黒井「私は間違っていない!」

私は、961プロは王者でなければならないのだ。

黒井「間違ってなど、いるものか!」

北斗「そうですよ。貴方は間違ってなどいない」

翔太「黒ちゃんてば、それをずっと悩んでたんだ」

黒井「……何をしにきた」

北斗「俺達はただ、冬馬に言われてきただけですよ」

翔太「黒ちゃんの様子を見にってさ」

翔太「そしたら黒ちゃん顔真っ青なんだもん。大丈夫?」

黒井「やかましい。お前たちも私を嘲笑いにきたか」

北斗「はぁ。どうしてこの人は」

北斗「どうしたんです? いつも通りにもっと堂々と振舞ってくださいよ」

北斗「貴方が考えている以上に、961は強いですよ」

翔太「そーそー。レッスン環境は揃い踏みだし。業界にも顔が効くしね」

翔太「僕たちがこんな風に活動できるのは全部黒井社長のおかげ」

黒井「……」

北斗「効率やシステマチックなやり方だって間違いじゃないんです」

北斗「その成果が俺達、ジュピターなんでしょう?」

黒井「じゃあ、なぜ」

黒井「765の――我那覇響は、名声を得ているのだ!」

黒井「961のやり方よりずっと輝いているのだ!」

冬馬「そんなこと、知ったことか」

冬馬「知りたきゃ、我那覇に直接聞けよ」

北斗「冬馬!」

翔太「待ってました、我らが王子様!」

冬馬「つまんねーことで悩んでじゃねえよ。ちょっと話すれば済むことじゃねえか」

冬馬「おっさんが気になってんのは、我那覇が765でどんな風に過ごしたか、なんだろう?」

黒井「私は」

冬馬「王者が人に教えを乞うことなんてできるかってか?」

冬馬「もう、やめようぜ。そういうの」

冬馬「俺達の大将が、ビビってる姿なんて見たくねえんだ!!」

冬馬「黒井崇夫!! さっさと走れ! 走って我那覇と話つけてこいよ!」

黒井「……」

冬馬「ったく」

冬馬「……早く行かねえと、手紙、見られるかもな」

黒井「! 何の話だ?」

冬馬「お。喰いついたな」

黒井「おい! 何の話だ!」

冬馬「マダメ。確かフランス語だったよな。なぁ。北斗」

北斗「Madameな」

黒井「まさか」

冬馬「楽屋に落ちてんの見つけたんだ」

冬馬「手紙はちゃんと宛先に届けてやらないとな」ニヤ

黒井「冬馬! 余計な真似をしおって!!」

冬馬「陸橋で待たせてある」

黒井「なんだと?」

冬馬「大通りの陸橋で待ってろ。我那覇に、そう声かけたからな」

冬馬「伝えることは伝えた。俺達も、もう番組だ」

北斗「! 本当だ。もう開始まで時間ないぞ」サッ

翔太「さっさと行かなきゃね!」クル

冬馬「じゃあ、行ってくる」

冬馬「あー、あとな」

冬馬「少なくとも、俺達は感謝してるぜ。おっさんの手腕にさ」

黒井「……」

冬馬「ちっ。俺は何を言ってるんだ。じゃあな」タッタッタ

翔太「にしても良く気づいたよね。あの便箋、宛名なんてなかったじゃん」

翔太「どうして765のお姉さん宛てだってわかったの?」

冬馬「はあ? そんな事簡単だろうが」

冬馬「おっさんがフランス語使うのって、我那覇の前だけじゃねえか」

翔太「……まさか、それが理由?」ポケー

冬馬「おう。違ったらそれはそれだ」

冬馬「おっさんが何か溜めこんでた事は事実なんだしな」

翔太「ぷっ。なにそれ」クスクス

北斗「はは、直球で冬馬らしい☆」

北斗「それに愛の運び人なんて素敵じゃないか」

冬馬「うっせー。おっさんが凹んでる姿なんか見たくねえだろ。気持ち悪くて」

翔太「え。冬馬くん、もしかしてそっちのケが」

冬馬「ちっげぇぇよ!」

冬馬「にしても。どうしておっさんは我那覇響だけにフランス語を?」

北斗「さあ。けど、考えるに」

北斗「あの人にも格好をつけたくなる時があったんだろうな」

冬馬「はぁ。わっかんねえな、あのおっさんも」

翔太「まあ、これでお膳立てが整ったわけだし」

北斗「ああ。後は、あの人だけの問題さ」

@通り。くもり空。凍てつくような冷気。
走る黒スーツを、行き交う人々は怪訝そうに見送る。

なぜ、私は走っている?

黒井「――っ」タッタッタ

セレブの私がどうしてこんな真似を。

黒井「今日に、限って、タクシーが、つかまらんとは」

風は身を切るように冷たい。

黒井「わたしは、なにをやっているのだ」はぁはぁ

季節を感じる暇なぞ、ずっとなかった。
いつの間にか、冬が来ていたのだ。

我那覇響は、もうテレビスタジオを出ていた。

あの手紙を見られたくない。
他の誰かが見る分には構わない。
しかし、我那覇響に見られることだけは。

黒井「かはっ」ぜーぜー

黒井「たいりょ、くが、持たん」ぜーぜー

黒井「りっきょう……はぁはぁ。アレか」

あの手紙には、私のアイドルに対する信条が書かれている。
我那覇響に見られてもみろ。
奴は笑うだろう。

765プロも。

そして高木も。

黒井「……バカが」

「おっさんが気になってんのは、我那覇が765でどんな風に過ごしたか、なんだろう?」

765プロに、そして高木にかこつけるのはやめろ。

黒井「はぁはぁ」テクテク

私は確認したい。自分のしてきた事の正しさを。
そして響のプロデュースにケリをつけるために。

黒井「ぜーぜー」カンカン

醜態を晒そうとも。

黒井「よう、やく……到着。だ」ゲホゲホ

「え? ……うそ」

そのために、私はここまで走ってきたのだ。

@大通り、陸橋。喧しくクラクションが鳴る道路の上。
さぁさぁと、足元から車が走る音が聞こえる。

溜まらず、手を膝につく。肩で息を繰り返す私に、
「だっだいじょうぶか!?」
声をかける姿があった。


にび色のアスファルトから視線を上げると、
真っ赤なマフラーを巻いた我那覇響がいた。

黒井「……これしきの事。なんとでもなる」

響「いやいや! 顔色! まっさおを越して紫色になってるぞ!」

黒井「やかましい、女め。大丈夫だと言っておるだろう」ぜーぜー

響「むぅ。どうしてこんな時まで減らず口たたくかなぁ」

黒井「それは、お前が憎たらしいからだ」

響「どっちがだよっ!」

響「まったく、もう……はは」

響「なんだよもう。笑っちゃうぞ」

黒井「なにを笑ってる。薄気味悪い」

響「薄気味悪いのは黒井社長でしょっ。汗ダラダラで走ってきたと思えば顔は紫色で」

黒井「……それは忘れろ」

響「はは。ほんと、信じらない。言った通りだ」

響「ここで待ってれば黒井社長が来るって」

黒井「お前もよく信じたな。961の工作とは思わなかったのか」

響「思わなかったぞ」

黒井「即答か」

響「うん。だってこんな手紙を書く人だもん」ピラッ

黒井「おい、それはっ」

響「これ、黒井社長が書いたんでしょ?」

黒井「な、なぜ。これが私のものだと」

響「こんなこと書くの黒井社長以外の誰がいるのさー」ピラピラ

【アナタの理想のアイドルとは?】

『カンペキであること』

響「いっつも口癖のように言ってたもんね!」

響「それにしてもシンプルにも程がある回答だぞ」あははー

黒井「っ! 返せ! それをとっとと!」

黒井「へへーん。やだよー。これは自分が貰ったんだからな! あまとうからね!」

黒井「あまとう? ……冬馬か。余計なことを。あいつめ!」

響「そんなんじゃ、またアイドルに逃げられるぞ」

黒井「ノン! 逃がすんじゃない。私から捨ててやるのだ」

響「はは。かわんないなぁ」

黒井「言っておくが。お前に宛てた手紙ではない。奴らが勝手に誤解をしたのだ」

響「え。そうなのか」ションボリ

響「……ううん。でも、嬉しいぞ!」

黒井「……つくづくノーテンキな奴だな、お前は」

響「だって、自分も……おもってたことだから。どんなときも」

黒井「?」

響「あは。あははー!」

黒井「――」ムッシュー

私はこれ以上、何を話す? 結局手紙は見られてしまったのだ。

響「――」ダゾー

先から約体のない会話が続く。

黒井「!!!!」

取り戻したいのか響を。いや。違う。

響「~~」アハハハー

それとも彼女を貶めたいのか。それも違う。

黒井「響」

私は知りたいのだ。響が961を抜けてからを。
彼女はどんな道を辿りここまでやってきたのかを。

響「なに?」

それならば。問いは一つだけだ。

黒井「……今まで元気だったか」

響「!」

我ながら、間の抜けたセリフだ。

響「うん……、うん! うん! 元気だった! とってもっ」

はち切れそうな笑顔で響は言った。

黒井「そうか」

二人を隔てた時間はあまりにも長過ぎたのだ。

響「黒井社長は、元気だった?」

だから。彼女のこれまでを知るには、これで十分なのだろう。

黒井「ああ」

いつか涙に濡れた彼女は、もう、ここにはいない。

黒井「元気だった」

それを確かめられただけで。

響携帯>ヴーヴー

響「うぎゃ。プロデューサーだ。黙ってきちゃったから心配してるかも」

響「ちょ、ちょっとごめん」ケータイトリダシ

黒井「……」

響「もしもし、プロ――、ごめんってば! 一応ピヨ子には連絡入れたんだぞ?」

響「もう、プロデューサーは心配性さー」あはは

響は笑う。私の見たことのない顔で。

響「うんうん。もう帰るから。うん。じゃあね」ぴっ

彼女の煌めきの理由が、わかった気がした。

響「……じゃあ自分、そろそろ」

黒井「ああ」

響「あの」

響「今日は話せてよかったぞ」

黒井「……」

響「自分ね。ずっと黒井社長に――」

黒井「もう行け」

響「え?」

黒井「お前のボンクラPが待ってるんだろう」

黒井「こんなとこで油を売っている暇はないはずだ」

響「……」

響「ふ、ふんっ。そうだよっ。黒井社長なんかと話してたら時間がもったいないぞ!」

黒井「そっくりそのままお返ししよう。我那覇響」フン

響「わかってるよーだ」ベー!!

響「じゃあ、自分行くから。ほんとのほんとに行っちゃうから!」

黒井「ふん」

響「――じゃあね、バイバイ!」タッタッタッタ

黒井「……」

「……」

自動車のヘッドライトが街路を照らし始める。

「寒い」

灰色の雲が立ちこめていた。
雪が降りそうな空だ。

「もう、帰るか」

このまま、ここに突っ立っていても何もない。
冷たくなった身体を引きずって、私は陸橋を後にする。



その晩は予報どおりに、雪が降った。

@後日、961プロ社長室。
今年一番の降雪量を記録したあの日から、数日後のこと。

DVD-ROMが社長机の上にある。
『見ろ! by冬馬』乱暴な字でそうあった。

あの日の、響の収録が入っているらしい。

冬馬『俺が個人的に録画したんだよ。悔しいが、あいつのステージは本物だ』

冬馬『ばっ、からかうじゃねえよ、翔太! 北斗、お前もだよ!』

冬馬『だからよ。おっさんも見とけって。どうせ765プロの映像は見てないんだろ?』

冬馬『きっかけさえあれば、おっさんだって』

冬馬『ちっ。言葉が過ぎたな。今のはナシだ』


黒井「そして、無理やりコイツを置いて行ったわけだが」

黒井「わざわざDVDを作ってくるとはな。……几帳面な奴らだ」

黒井「これも市場調査。見てやるのも吝かでない、か」カチャ>DVD挿入。





司会『自分を支えてくれたその人は、響ちゃんにとって大切だったんだ』

響『人っていうか、言葉、かな』

黒井「私がお前に、与えた言葉か」

響『最初に出逢った日、覚えてる? 自分にくれた言葉を覚えてくれてる?』

黒井「……」

響『カンペキになれ、だよ』

響『どんな時だって、自分を認めてやれるカンペキなアイドルを目指せ、だよ』

響『その言葉があったから、自分は強くあろうとしたんだ。一人だけで頑張れたんだ』

黒井「……」

響『それは今だってそう。でもね』

響『自分には、たいせつな仲間ができたんだ』

響『転んでも、へこたれても、手を差し伸べてくれる仲間ができたんだ』

響『それで普段通りの自分を、可愛いって言ってくれるファンもできた。えへへ』

響『ステージ上ではたった独りだ。誰も手を貸してくれない』

響『でもやっぱり。自分独りじゃ、ステージには立てなかったんだ』

響『誰も寄せ付けない孤高の我那覇響じゃ、自分、頂点には立てなかったけど』

響『独りで戦う事の大切さは、ちゃんと覚えているから!』

響『765プロ、そしてファンのみんな。色んな人との出会いが自分を強くした』

響『だからこそ。自分は全力をステージでぶつけられるの』

響『独りきりのステージでせいっぱい戦えるんだ!!』

響『……ちょっと、熱くなりすぎちゃったかな』

響『こういうのって御託ばかり並べてるみたいで、なんかかっこ悪いぞ……』

響『うん! それじゃ歌おう、それが一番早いしねっ。そうしよう、それが良い!』

響『それじゃあ聞いてください! 新曲!』


響『Destiny!!!!!!』

~♪♪♪~
ステージ上を所狭しと駆け回る響。

黒井「そうか」

響は言った。
独りでも戦える強さ。それは仲間がいて全身全霊を込められこそ、生まれる。

黒井「――孤独の強さとは、他人を顧みない事ではなかったのだな」

黒井「悪くない」

黒井「くく。悪くない、か。私の口からそんな言葉が出るとはな」

黒井「……響ちゃん」

黒井「そうか、そういえばこんな風に呼んでいた。くくく」

私の理想、私の望み。私は成し遂げたかった。

響ちゃんは辿りつけたのだろうか。

響ちゃんは、なれたのだろうか――カンペキなアイドルに。

黒井「くくく。まったく、笑わせる」

黒井「くくっく。アハハ、アーッッハハハハハハ」

出来る事なら、この先を他ならぬ自分自身の手で見せてやりたかった。

らしくもない、取り返しのつかない気持ち。

そんな後悔を上書くように、高らかな笑い声が室内に溶ける。

だが彼は数秒後、思い知ることになる。

以前自分が投げかけた言葉の重みを、
それは確かに彼女の心の一部となっていたことを、
彼は知る。

やがて音楽が終わり、響はインタビューに応じる。

司会「今日も全力パフォーマンスでしたね!」

うっすら蒸気した顔で彼女は笑った。

響「もっちろん! でも、なんくるないさー」

響「だって自分、カンペキだからね!」

社長室の高笑いが力強さに変わったのは、その数秒後のこと。


季節は巡る。想いは受け継がれる。

春は、もうすぐそこだ。

――
――――
――――――――

@過去の日のいつか。

黒井「響ちゃん。私とカンペキなアイドルを目指そう」

うっすら涙をためた少女に、語りかけた言葉。

黒井「そして、誰よりも先に自分を認めてやるんだ」



沖縄の離島で、私は我那覇響を見つけた。

それは。
うだるような夏の日の、午前の事だった。


おしまい。

コメントありがとうございます。嬉しいです。

次はまこちんを書きたいので、そっちも良かったら読んでください。

html化申請だしました

乙!

>>136

黒井「……今まで元気だったか」

この台詞は反則でしょ。黒井社長で泣くことになるとは思わなかった


28: [saga] 2015/02/27(金) 22:20:15.30 ID:GhM3D/6x0(28/155) AAS
北斗「ゲロゲロステージ、765プロと共演」 

北斗「この企画、断ったそうじゃないですか。何故です?」 

黒井「それを問い質しにきたわけか」 

黒井「そういうわけでは。ただ今回の貴方は、何と言うか」


一番下の台詞はたぶん北斗だと思う 

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