我愛羅「お前に風影代行を頼みたいのだが……」 (139)



執務室に呼び出されたバキは呆気にとられたような面持ちで、目の前にいる五代目風影・我愛羅を見つめた。

今まで休暇を取らなかった我愛羅がそう言い出したのは驚きだ。

だがそれよりも、風影代行に自分を指名したことの方がもっと意外だった。


バキ「何故、俺なんでしょうか?」

我愛羅「不服か?」

バキ「いえ。ただそういったことは御兄弟に頼まれるものかと……」

我愛羅「……最初はテマリにでも頼むつもりだったのだが、あいにく都合が悪いらしい。そうなるともう、任せられるのはお前くらいしかいない」

バキ「……カンクロウは?」

我愛羅「ん?」


何を言っているのか分からないと言った風で聞き返す我愛羅。

バキはすぐに我愛羅の意を察した。



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1424958429



バキ「……間違えました。あのゴキブリは?」

我愛羅「あのゴキブリに任せたら一日で里が滅ぶ。あいつが風影になることなどありえない」

バキ「……分かりました」

我愛羅「くれぐれもよろしく頼む。風影の権限はすべてお前に委ねる」

バキ「す、すべてですか?」

我愛羅「ああ。処刑の必要があれば、特に俺に断らなくてもいい」

バキ「はッ」




クルリと我愛羅は背を向ける。

バキには見えないが、いつも無表情な彼の口の端が堪え切れずに上を向く。

部屋の隅っこには昨日の晩に用意したリュックサックがちょこんと置いてあった。


我愛羅(ふん、笑いを堪えるのがこんなに大変だとはな……)


悪そうな顔でニヤリとする我愛羅。

明日は木の葉の里のうずまきナルトの家に泊まりに行くのだ。

UNOやトランプはもちろん、ジェンガだってリュックに詰めた。

本当はこんな私用で風影という大役を休むのは気が引けるのだが、これまでもテマリやバキには散々休めと言われてきた。

ちょっとくらい羽を伸ばしたって誰も責めたりはしないだろう……。



我愛羅「……ナルトは一人暮らしらしいから、俺の枕を持っていかなければ枕投げが出来んな……」

バキ「……枕投げ、ですか?」

我愛羅「……何でもない。では明日から頼む。退っていい」

バキ「はッ」ボフン

我愛羅「……。さて……」


バキが去ると即座に、我愛羅は残っている事務仕事に取り掛かった。

とりあえず今日の仕事を片づけておかねばなるまい……。




***



そんな我愛羅の様子を天井裏から覗っている男がいた。

不気味な隈取が醜く歪む。

誰だろうか?

……考えるまでもない。





カンクロウ「なんで俺が風影代行に選ばれないじゃん……」




そう、御存じ砂隠れのクソ虫、カンクロウである。


なんでと訊かれてもお前がカンクロウだからとしか答えようがないのだが、本人はこれでも次期風影の座を虎視眈々と狙ってきた。

我愛羅が休暇をとるという情報を手に入れてからずっと、自分が風影代行に選ばれると信じて疑わなかったのだ。

テマリが選ばれる可能性も勿論あった。

しかし里中にあの奈良シカマルが木の葉の女に手を出しているというデマを垂れ流すことによって、その可能性は潰した。

案の定テマリは血相を変えて木の葉の里へと旅立っていった。

これで数日は里を思いのままに出来ると思っていたのに……。

まさかバキ先生が選ばれるとは……。



カンクロウ「納得いかねえ……。これは納得いかねえ……」




沸々と込み上げる怒り。

久方ぶりにカンクロウの邪悪な炎が燃え上がる。






砂隠れの革命の時が訪れようとしていた……。




***




我愛羅「……では行ってくる」

カンクロウ「おう、気を付けて行ってこい。こっちのことは任せるじゃん」

我愛羅「カンクロウには何も任せていない」


翌朝、我愛羅はパンパンに膨らんだリュックを担いで玄関前にいた。

見事な快晴。

空気も暖かで絶好のお出かけ日和だ。

今日は楽しい一日になりそうな気がする。


我愛羅「……そういえばバキの姿がまだ見えないのだが、何か知らないか?」

カンクロウ「バキ先生なら下痢で遅れて出勤するらしいぜ」

我愛羅「そうか……。いやまて、何でお前がそんなことを知っている……?」

カンクロウ「……。さ、さっきトイレットペーパーに血で書いてある手紙が鳥に運ばれて来たんだ。長期戦になるってよ」

我愛羅「……ふん、困った奴だ」

カンクロウ「まったくじゃん」


きっと慣れない仕事を任されたせいで緊張しているのだろう。

別に差し迫った仕事もないのだ。

書類に判を押して、会議に出て、カンクロウが問題を起こしたら後始末をするくらいなのだから、少しくらいの遅刻は目を瞑ろう。



我愛羅「……まぁいい。では」


宙に浮かぶ砂の塊に乗って、我愛羅は木の葉に向けて出発した。




***




カンクロウ「悪いけどバキ先生にはしばらくそのままでいてもらうじゃん」

バキin黒蟻「出せえええええええええええ!!!!」ドンドンドンドン


我愛羅が去ってから、カンクロウは物置小屋に安置していた自身の傀儡、黒蟻に話しかけた。


カンクロウ「中に携帯食料とエロ本と懐中電灯、それにティッシュもあるから自由にしててくれ」

バキ「カンクロウ! こんなことをしておいてただで済むと思うなよ!!」カチッ コスコスコスコス


昨晩バキに睡眠薬を飲ませ、黒蟻の中に閉じ込めてしまったカンクロウ。

バキの力が里に影響を及ぼさなくなったら解放するつもりだが、それまでは捕えておかなければならない。


バキ「何が……ウッ! ……。何が目的なんだ?」

カンクロウ「……ククク……革命じゃん」

バキ「……! 革命だと!?」

カンクロウ「そう、この砂と武力しかないくたびれた里を俺の手で建て直す。……究極の桃源郷に変える」

バキ「貴様……ッ!」


バキはカンクロウのその思想と、全ての性癖をカバーした書籍のラインナップに戦慄した……。




***




綱手「いやあ~よく来た! さぁお前達! 存分にもてなすんだよ!!」

シズネ「……」

カカシ「……」

ガイ「……」

アスマ「……」

紅「……」

アンコ「……」






我愛羅「」




木の葉の門をくぐると同時にやたら豪華な旅館に連れてこられた我愛羅。

なんでこんなことになったのか分からず、ひたすら厳しい顔で押し黙っている。



我愛羅「火影……俺はうずまきナルトの家に遊びに来たのだが……」

綱手「ああ! それならナルトから聞いてる! あのバカ、本気で風影をボロアパートに迎えるつもりだったからね。ゲンコツ喰らわせてやったよ」

我愛羅「……いや、俺はボロアパートでも全然構わない。というよりもそっちの方がいい」

綱手「そんなことしたら木の葉の威信に関わる! それにお前だってまさかホントにただのお泊り会のために来たんじゃないだろ? これからの忍界について語るならやっぱり酒がないとねえ!!」

我愛羅「……」


全然こちらの意を解してくれない火影。

もう何を言ってもダメなような気がする。



シズネ「……あの、綱手さま……。きっと風影様は同年代のナルト君と遊びたいんだと思うのですが……」

カカシ「我々と風影様だと世代が離れすぎてる気が……」

アスマ「特に綱手さまなんか風影様と晩婚の親子くらい離れてるんですが……」

綱手「なに言ってんだい! 楽しいひと時を過ごすのに年齢なんか関係あるか!」


周りにいた木の葉の忍たちも気を遣い始めた。

あのパンパンのリュックとはみ出したMy枕を見れば、何だかいたたまれない気分になってくる。



ガイ「じゃ、じゃあせめてナルトくんを呼びましょう!」

綱手「ナルトォ? ああ、アイツは酒が飲めないからダメだ! 素面の奴がいたらつまらん」

我愛羅「……俺も酒は飲めないんだが……」

綱手「ははは! 嘘つけ! よおし! 飲むぞおおおお!!!!」




無理矢理我愛羅の肩を掴んで自分の元に引き寄せる綱手。

我愛羅はうつむいて涙をこぼした。





***



カンクロウ「まずは全面ガラス張りの遊郭を砂隠れのシンボルとして建てる」コスコスコスコス

砂の忍「ぜ、全面ガラス張り!?」

砂の忍「そんな卑猥な!!」


暗い会議室に驚きの声が上がる。

会議中にも関わらず、カンクロウは片手で自分のイチモツをしごいていた。

しかし誰も非難する者はいなかった。

いや、非難できる者がいなかったという方が正しい。


カンクロウ「それから猥褻な出版物の規制も大幅に緩め……いや、なくす。エロはアートじゃん? それを法律で縛るのは間違ってるぜ」コスコスコスコス

砂の忍「で、でも女、子どもの目につかないようにすべきだと……」

カンクロウ「バーカ! 恥ずかしがる姿を見るのが楽しいんじゃん! それに正しい性知識を子どものうちから身につけさせるのは大切なことだ」コスコスコスコス

砂の忍「そんなことをしたら子ども達は次々にオナニーをする機械に変わりますよ!」

カンクロウ「お前らが何と言おうが、俺は我愛羅から風影代行の権力を授かっている。反対するようなら躊躇せず罷免するじゃん」コスコスコスコス

砂の忍「うぅ……」

カンクロウ「わいせつ物陳列罪も撤廃。むしろ陳列を強制するわいせつ物陳列法を作ろう」コスコスコスコス

砂の忍「……」

カンクロウ「とりあえず今日の会議はこんなとこだな。あ、そうそう。後で適当に綺麗どころを数人集めておれの部屋に連れて来てほしいじゃん」ドピュッ




独裁国家・オナの国の夜明けであった……。



***


綱手「いやあ若い奴と飲むのもいいもんだねえ! 新鮮だ! ///」

我愛羅(うぅ……帰りたい……///)


無理やり飲まされてうつらうつらとしつつも、我愛羅はこの状況から一刻も早く抜け出すことだけを考えていた。

周りを見回すと、上忍たちが気の毒そうな顔でこちらを見ている。

元々寡黙な我愛羅にとって、家族構成やら収入やら、人間関係やらを根掘り葉掘り聞かれるのはたまったもんじゃなかった。

しかし相手は大国・火の国の火影である。

こうしたもてなしを無下にするのは非常にまずい。

我愛羅は適当に相槌を打つしかなかった。



綱手「ええと、ろこまれ話したっけ? ああそうそう! つまり新しい世代を育てていくためにはらな、アカデミー等の仕組みをまる整えてらな! ///」

我愛羅「ああ///」

綱手「そんれ先生にはバランスの取れた人間を選ぶんら! こうすれば砂隠れらってきっろ安定した戦力を保持れきるようになる! ///」

我愛羅「うむ///」

綱手「……。なんらか退屈そうにしれるな……///」

我愛羅「そんなことはない……///」

綱手「そーか! お前も楽しいか! ///」

我愛羅「……///」



楽しいわけがあるか……。

酒臭い婆さんに絡まれ、ほとんど説教じみたような話を延々と聞かされ、正直我慢の限界だ……。


綱手「らが、そろそろあれの時間らな! ///」

我愛羅「ん? ///」

綱手「シズネ! 出番だ!! お前の温めてきた百八つの一発ギャグが日の目を浴びるときが来たぞ! ///」  

シズネ「あひィッ! そんなのないですよ!!」

カカシ(うわ……出たよ綱手さまの無茶振り……)

ガイ(スベっても続けなければならないという状況が強靭な精神力を培う、あの業か……)




***


その頃、砂隠れの里は早くも以前の質素な雰囲気を失いつつあった。

人々は裸で里をうろつき、甘味処はもれなく風俗店に早変わりしていた。

ネオンがまぶしいくらいに輝き、アルコールとポルノと暴力が里に溢れている。

無論、反対する者の方が圧倒的多数だった。

しかし風影代行と言う強力な肩書に加え、見せしめに反対派の一人をオナティッシュの詰まったゴミ箱しかない部屋に閉じ込めるという恐怖政治によって、そういった声を抹殺していった。



カンクロウ「いい感じになってきたじゃん? ///」


里を見下ろしながら周りに選りすぐりの美女を侍らせ、ご満悦のカンクロウ。

美女たちは皆死ぬほど嫌そうな顔をしているのだが、この絶対的な権力の前には到底逆らえなかった。


カンクロウ「よし、次はあの門のところに俺の銅像を建てるじゃん」




今の俺に出来ないことは何もない……。

何も怖いものは無かった……。


すまない…誰か過去スレを貼ってくれないか?

>>22
ONAROU 卑猥伝

カンクロウ「黒蟻いじくってたら閉じ込められたじゃん」
カンクロウ「黒蟻いじくってたら閉じ込められたじゃん」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1396805183/)
テマリ「最近、我愛羅の部屋が臭い」
テマリ「最近、我愛羅の部屋が臭い」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1416149858/)
カンクロウ「テマリのヌード写真、いくらで買うじゃん?」
カンクロウ「テマリのヌード写真、いくらで買うじゃん?」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1416415734/)
テマリ「当たったんだよ、一泊二日のペアチケット!」
テマリ「当たったんだよ、一泊二日のペアチケット!」 - SSまとめ速報
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カカシ「まぁシカマルの処分は追々考えるとして……」
カカシ「まぁシカマルの処分は追々考えるとして……」 - SSまとめ速報
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サスケ「うぅ……皆に会いてぇ……」
サスケ「うぅ……皆に会いてぇ……」 - SSまとめ速報
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カンクロウ「口寄せ・穢土転生・改ッ!」
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カンクロウ「じゃあな。また会おうじゃん?」
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>>28
卑猥伝の外伝もお忘れなく
テマリがメインだからオナロウはチョイ役だが…

テマリ「明日は家族でお出かけをしよう」
テマリ「明日は家族でお出かけをしよう」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1419394807/)

>>29
忘れてたじゃん




***



シズネ「なすびおじさん! なすびおじさん! ///」ヒョコヒョコヒョコ



綱手「……」

カカシ「……」

ガイ「……」

アスマ「……」

紅「……」

アンコ「……」

我愛羅「……」



シズネ「あ、あの……無言が一番辛いんですけど……///」


綱手「……」

カカシ「……」

ガイ「……」

アスマ「……」

紅「……」

アンコ「……」

我愛羅「……」





シズネ「あ、あの……///」ポロポロ













我愛羅「……ふん」





シズネ「////////」カアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア






シズネ「え、えー……続きましてー……////////」ポロポロシクシク



***



我愛羅「じ、実につまらん宴会だった……」



足元をふらつかせながらやっとのことで布団に辿り着いた我愛羅。

結局百八つの中でクスリときたのはじゃがいも行進曲とちくわ神父くらいのものだった。

明日の夕方には木の葉を発たなければならないのに、貴重な時間を粉々にされてしまった。

本当なら今頃ナルトと一緒にゲームや枕投げを楽しんでいたというのに……。


我愛羅「せめて明日は早起きをして、ナルトに会いに行くとするか……。でなければ、俺はホントに何しにこの里へ……」ポロポロ




投げる予定だった枕を涙で濡らしながら、我愛羅は深い眠りに落ちていった。




***



テマリ「いや、なんかすまん……。完全に誤解だったようだ///」アハハ

シカマル「すまんで済むか! なんでアンタは証拠もないのに暴力で問い詰めるんだよ!!」


翌日、すっかり日も傾いた頃。

奈良家の玄関先には照れ笑いを浮かべるテマリとたんこぶまみれのシカマルがいた。

身に覚えのないソープ通いの容疑で散々に殴られ、張り倒され、泣かれ、疲労困憊の末にようやく誤解が解けたのだ。

最初はてっきりデリヘルを呼んでたことがバレたのかとヒヤヒヤしたが、それはまだ大丈夫らしい。

それにしても何故そんなデマが砂隠れで広まっていたのだろうか……。


テマリ「ま、まぁなんだ! 今度砂隠れに遊びに来い! おいしい団小屋があるんだ。奢るぞ?」

シカマル「当たり前だ! むしろ団子くらいで許されると思ってんじゃねえ!」

テマリ「う……ホントすまん……」


どデカイ鉄扇を担ぎ直し、テマリはとぼとぼと門に向けて歩き出した。



***


我愛羅「……来たか」

テマリ「あ、我愛羅」


門の前に着くと我愛羅が疲れたような顔で待っていた。

そう言えばナルトの家に遊びに行くとか言ってたっけ……。


テマリ「どうだった? 初めてのお泊り会は?」ニヤニヤ

我愛羅「……訊くな」

テマリ「くく……なんだい、そのパンパンなリュック? 何詰めたらそんな……」ニヤニヤ


ここぞとばかりに我愛羅をいじり倒すテマリ。

いつも無口な我愛羅があれだけ興奮していたのはめずらしかった。

まぁぼっちな弟を持つ姉としてはやっぱり心配なわけで、ここは根掘り葉掘り訊いてやろう……。


我愛羅「……何でもない」

テマリ「ん? あ、これ自分の枕だろ? 用意周到か!」アハハ

我愛羅「……」

テマリ「……どした?」



ここで初めてテマリは我愛羅の悲しそうな表情に気づいた。






我愛羅「……。結局ナルトには会えなかった……」

テマリ「」




極限まで重くなる空気。

ずん、という効果音が聞こえてきそうだ。



テマリ「え、会えなかったって……」

我愛羅「昨日は火影に飲まされて泥酔した。……目が覚めたのはついさっきだ。さぁ里に帰るぞ……」

テマリ「」





***




数時間前






我愛羅「ん……」ムクリ




我愛羅「……」ボーッ



我愛羅「……」ポリポリ










我愛羅(;゚Д゚)ハッ








我愛羅(´・ω・`)










我愛羅(´;ω;`)ウッ…









一尾・守郭の影響で散々不眠症に悩まされてきた我愛羅……。

そんな彼が生まれて初めて寝坊の絶望感を味わった瞬間であった……。




***



テマリ「……な、なあ我愛羅……」


打ちのめされている弟を気遣うテマリ。

ここまでなんて声をかけてやればいいのか分からない状況も久々な気がする……。



我愛羅「……大丈夫だ。この虚無感も憎しみも全て、風影代行のバキにぶつける。細かいところでいちゃもんをつけてやろう……」


テマリ「」






寂しげに呟く我愛羅。




案外最低な上司だな……。


テマリはそう思った。



***



ドゥッドゥッドゥッドゥッ……




サケダアアア!!!!! サケヲモッテコオオオイ!!!!!!




イヤアアアア!!!! ハナシテエエエエエエ!!!!!!


ヘヘヘ……アバレンナヨ、ネエチャン……









我愛羅「」


テマリ「」






砂隠れの里に帰り着いた我愛羅とテマリは、余りの里の変貌ぶりに言葉を失った。


人々は衣類を捨て去り、欲望のままに生きている。


あちこちで下卑た笑いと悲鳴が聞こえ、犯罪に満ち満ちていた。


僅か数日の不在の間に何をどうすればここまで堕落と腐敗の街になるのか……。





テマリ「こ、これは……」

我愛羅「……分からん……。とりあえず屋敷に向か……」





我愛羅「」






バキ「まったく……この里はどうなってしまうんだ……」コスコスコスコス








たまたま我愛羅が向けた目線のその先に、全裸の風影代行がいた。



我愛羅「……おい」


バキ「なんだ? こっちは今忙し……ぎゃあああ!! 風影様!!!!!!」ドピュッ




振り返った瞬間、驚きとともに思わず発射してしまったバキ。

我愛羅の絶対防御が無ければ迷わず処刑されていただろう。



我愛羅「これはどういうことだ……。何故ここまで里の風紀が乱れている……。一体お前は何をした……」

バキ「ち、違うんです! コレは全部あのゴキブリが!!!!」コスコスコスコス

我愛羅「まず自慰をやめろ」

バキ「ギエッ!!」



砂の手でバキを締め上げながら、我愛羅は問い詰めた。



***


テマリ「……つまりカンクロウの奴が先生を監禁して、その間に里を支配下に治めてしまったと……」

バキ「そういうことだ」コスコスコスコス

我愛羅「やめろと言うに」ギリギリ

バキ「ギエッ!!」


テマリ「ハァ――ッ……」


テマリは頭を抱えこむ。

自分の弟がクソ虫だってことは知っていたが、まさかここまでとは……。


テマリ「いったいどうすれば……」

我愛羅「簡単なことだ。カンクロウを処刑して里を元に戻す」

バキ「……それがそう簡単にも行かないようです」

我愛羅「何故だ?」

バキ「砂の忍は皆、カンクロウの言いなりです。家族を人質に取られていまして……」

テマリ「」



バキ「そうなると敵はかなりの数です。しかも殺せば里の戦力は落ちてしまう……。我々だけではカンクロウ暗殺は難しいかと……」

我愛羅「……他里から仲間を集めなければならんな……。それもかなり腕利きの奴を」







こうしてカンクロウ暗殺計画はスタートした。



***


20日後



バキ「風影様、あちこちを飛び回って集めてきました!」

我愛羅「ご苦労。……それにしても随分早いな」


風影である自分やテマリが動くとカンクロウに警戒されると踏んだ我愛羅は、仲間集めのためにバキを各国に派遣していた。

てっきり1か月くらいはかかるかと思っていたが、流石は砂隠れ屈指の忍と言ったところか。




バキ「ええ、まぁ木の葉しか行ってないんで……」

我愛羅「」ポカン

バキ「痛い!」

我愛羅「あちこちじゃないじゃないか」

バキ「す、すみません、見栄はりました……」



テマリ「20日もかけて木の葉しか行ってないのかい?」

我愛羅「俺としては雲隠れのダルイたちも仲間にしておきたかったのだが……。というか20日間も何をしていた……」

バキ「こ、木の葉はここと違って面白いものがたくさんあったので……。ですが大丈夫です! 木の葉だけでも優秀な忍はたくさんいます!」


大きな紙袋をたくさん抱えて力説するバキ。

紙袋からフィギュアらしきものの足が覗いている。




我愛羅「……。まぁ確かに木の葉は人材が豊富だ……。暗殺メンバーくらいなら木の葉だけで十分事足りる」




……はたけカカシ。


我愛羅の頭に真っ先に思い浮かんだのは彼だった。


忍術、幻術、体術。

そのすべてに秀で、頭も非常に切れる五大国屈指の天才忍者。

確か暗部にも所属していたことがあるらしい。

そんな彼が味方に付いてくれればこれほど頼もしいものはいないだろう……。




テマリ「……で、その優秀な忍というのは……?」



バキ「ああ、彼だ」

イルカ「あ、どうも。うみのイルカです」






我愛羅「」


テマリ「」





我愛羅「」ポカン


バキ「痛い!」



我愛羅(……誰だこの人は。聞いたこともないぞ)ヒソヒソ

バキ(仕方なかったんです! 他の上忍たちは皆親睦会で出払ってて……)ヒソヒソ


イルカ「?」







バキにちょっとしたDランクくらいの任務だから来てくれと言われ、素直について来たイルカ。



砂隠れにくるのなんか久々だった。



それにしても何だろう、あの気持ちの悪い巨大な像は……。

あんなの前からあったかな……。





バキ(そ、それに彼はあのミズキを多重影分身の術でボコボコにしたとか……)ヒソヒソ

我愛羅(誰だミズキって……?)ヒソヒソ



実際に多重影分身でボコったのはナルトなのだが、噂に尾ひれがついてしまったのだろう。

だがそんなことを我愛羅たちは知る由もなかった。



我愛羅「……まぁいい。で? 他のメンバーは?」

バキ「え、これだけなんですが……」




我愛羅「」ポカン

バキ「痛い!!」



我愛羅「せめて5、6人は集めてこなくてどうする……! いい加減にしろ、お前!」ゲシゲシ

バキ「違うんです! こう見えて自分、口下手なもんで……。で、一番話しかけやすそうな人に話しかけたらこうなったんです!」

我愛羅「なら派遣する前に言え……!」ポカンポカン


全く使えないバキに制裁を加える我愛羅。

そんな様子を見てイルカは申し訳なさそうに切り出した。



イルカ「あのー、すみません……。俺、明日も授業あるんで……。すぐに任務終わらせないと帰れなくなっちゃうんですが……」

テマリ「え……いや、すぐに終わらせられるような任務じゃないんだが……」

イルカ「え、バキさんからはDランク程度の簡単な任務だッて……」


我愛羅「舐めてるのか、お前……!」バキッ

バキ「痛い!!」ドシャッ



***

イルカ「つ、つまりたった4人で全ての砂隠れの忍を相手にすると……」ガクガク

テマリ「まぁそういうことだ」

我愛羅「……勝算はある」

バキ「足を引っ張るなよ、ルーキー?」

我愛羅「お前だ、お前……! 一番の不安要素は……!」ゴチン

バキ「ギャッ!」



我愛羅から説明を受けて震えっぱなしのイルカ。

いくら木の葉ほどの規模の里じゃないにしても、流石に無茶苦茶だ。

そもそも何故こんな超高難易度の任務に俺なんかを……?



我愛羅「調べた限り屋敷の警備は厳重だが、常に里の力が全て集中しているわけではない。応援を呼ばれる前に殺しさえすれば済む話だ」


テマリ「まぁ難しいことには変わりないけどね。でも不可能じゃないってことだ」

イルカ「は、はぁ……」

我愛羅「……なんにせよ、先生が授業に遅れるのはまずい。手早く片づけるぞ……」



4人の人影は、風影の屋敷に向かって歩き出した……。



***


バキ「正門に中忍が3人、上忍が1人……。隠密にやるのは骨が折れそうだな……」

我愛羅「いきなり襲って声を出されるとまずい。ここは囮作戦でいこう……」

テマリ「私と我愛羅はまず間違いなく報告されるな……」

イルカ「他里の俺なんか特に……」

我愛羅「……となるとバキ、お前しかいない。行け」

バキ「はッ」



物陰に隠れながら屋敷の正門を伺う4人。

ただ倒すだけなら我愛羅だけで十分すぎるのだが、隠密かつ殺さずに倒すとなると少し厳しい。

しかしバキならば敵に警戒されることなく近づき、注意を逸らすことができるだろう。

そこをついて4人がかりで鎮圧する作戦だった。




バキ「よぉ、お前ら。こんな夜遅くまでご苦労」スタスタ



砂の忍「バキだあああああああああ!!!!!!!!!! バキが来たぞおおおおおおお!!!!!!!! 風影様のオナホールを勝手に使ったバキだあああああああああああああ!!!!!!!!!!!」




我愛羅「」

テマリ「」

イルカ「」



屋敷中に灯る灯り。

我愛羅やテマリ以上にその首に賞金がかかっていたバキがのこのこ屋敷にやって来たとあって騒然となっていた。

その上非番だった忍達も屋敷に向かってきているようだ。


バキ「あ……え? ちょ……」

砂の忍「覚悟!」


バキに向って一斉に飛びかかる4人の忍。

ギラリと光る忍刀がその首を切り捨てようと迫る。



テマリ「カマイタチの術!」


ゴオオオオオオオオオオ!!!!!!!! 





すんでのところでテマリが敵を吹き飛ばした。

バキはひいいと叫びながら敵に尻を向けてうずくまっている。



砂の忍「なんのこれし……グッ!?」


起き上がろうとする敵を砂で締め上げる我愛羅。

気絶させるというのは中々加減が難しい。



我愛羅「ん……?」




締め上げながら、我愛羅はイルカの方を見て少し驚く。



イルカ「少し眠っててもらうぞ……」ガッ




……実に手際よく相手を落としているではないか。





我愛羅「……見事なものだな」

イルカ「え? あ、いえ、こういった基本的なことくらいしか出来ないもんですから……///」




なるほど、アカデミーの教師をしているだけあって基礎がしっかりしている。

確かに特別変わった能力を持っているわけではなさそうだが、こういった基本が出来てる忍はいざというときに力を発揮する。

……あそこでうずくまっている俺の先生と違って……。




バキ「テマリ! もう敵はいないか!? もう安全か!?」

テマリ「い、一応は……。でもバキ先生のせいで警戒態勢に入られたからすぐに敵がくるけど……」



有能かと思いきや、とんだ役立たずだった……。

オナロウはエドテンセイして死んだのが最後に見たやつなんだけどこのスレの間に作品ある?



バン!!




我愛羅「!」



突如、一室の窓が開いた。




カンクロウ「よく来たじゃん……? しかも随分堂々となぁ……」コスコスコスコス


テマリ「か、カンクロウッ!!」






出てきたのはこの邪悪の街を作り上げた張本人、カンクロウ。

余裕たっぷりの表情で自分の息子をまさぐっている。

いつ見ても不気味な隈取が、今日はよりいっそう醜く歪む。




カンクロウ「てっきりこっそりと暗殺に来るかと思っていたじゃん……」コスコスコスコス



我愛羅「……殺されると分かっていてこのようなことをしたのか。……救えん奴だ……」


カンクロウ「へッ……殺されない自信があったからこの革命を起こしたんじゃん? 聞こえるか? 里中の忍の声がよぉ!!」コスコスコスオス






……ザワザワザワザワ……。




その音は次第に大きくなっていく。

>>97

テマリ「明日は家族でお出かけをしよう」

本スレは時間軸をあまり考慮してないので気にしないでください。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年03月17日 (火) 14:50:56   ID: Fs7ZkIrP

とても面白い!
これからも続けて欲しい。

2 :  SS好きの774さん   2015年04月16日 (木) 15:29:03   ID: Bb2R_7JB

続きが気になるじゃん

3 :  SS好きの774さん   2015年05月05日 (火) 17:19:47   ID: -xhXOukr

今でも待ってるじゃん

4 :  SS好きの774さん   2015年06月06日 (土) 08:20:56   ID: XgWi27rp

早く続きがよみたいじゃん

5 :  SS好きの774さん   2015年06月06日 (土) 23:02:52   ID: BZNVz2xU

更新がないのはなぜ?

6 :  SS好きの774さん   2015年07月30日 (木) 16:42:27   ID: 8xBVd3u0

元スレ見たらどうやら続き書かないみたいですね。
お疲れ様でした。
楽しませてもらったじゃん

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