【艦これ】提督「全ての艦娘を落としてやる」 (118)

前作もよろしければご覧頂けると嬉しいです。今回と繋がりはありませんが。

叢雲「私のバレンタイン・デイ」
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「失礼するぜ」


ノックもなく、扉が開かれる。女の、しかし威勢のいい体育会系の声だ。

入室者はこの部屋の主である俺への不遜などお構いなしと言った様子で、部屋の中央まで歩いてきた。


「失礼しまあす」


続けて、間の抜けたのんびりとした声。
先に入室した女の子の斜め後ろが定位置、と言わんばかりに直立する。

「天龍、水雷戦隊。おめーの命令通り、帰投してやったぜ」


提督である俺をあえて『おめー』呼ばわりし不機嫌な表情を作って。
先に入室してきた—-天龍と名乗った少女—-艦娘が俺を睨む。


精一杯、自分が不本意な帰投をした、とアピールせんとしているのが丸分かりだ。

言葉の激しさとは裏腹に、天龍の眼は努めて冷静で、俺を見極めんとしている。

両腕を組んで、少しでも自分を大きく見せようとしているのだろうが、その効果が出ているのかは疑問だ。



・・・胸に抱えている装甲の大きさを強調するという、当人には不本意な戦果なら上げているのだが。

「あらあら、天龍ちゃん。提督に対してそんな言葉遣い、駄目じゃないの~」


天龍の後ろに控える艦娘、龍田がちっともすまなそうじゃなく、そう発言する。

俺に対する敬意からではなく、単にこの場の雰囲気を悪くしない用にするだけの発言。

こちらの方が少々手強そうだと、内心俺は思った。

「何だか、不機嫌な様だな。天龍?」
「・・・あたりめーだろ」


天龍に水を向けると、あっさりと食いついてくる。
想定通りの反応。俺は予定通りすっとぼけることにした。


「もしかして、俺が君の水雷戦隊に出した、撤退命令が原因かな?」
「ったりめーだろ!」

バン、と大きな音がする。


さっきまで組んだ両手を執務机に叩きつけて、天龍が叫ぶ。


おお、中々の迫力だ。揺れる胸部装甲を含めて、中々の。
ヒュゥ、と口笛を吹きたくなるのを我慢して、俺はまだ彼女に視線を置かない。


書類に目を向けたままだ。

それにしても、天龍は不器用な方だと思っていたから驚いた。

中々の役者だ。演技にしては十分。

龍田はもう、形だけでも止めようとしない。
静観する構えだろう。


「何であそこで撤退命令を出した?」
「お前たちだけなら、問題なかったんだけどな」

ひと呼吸置いて、呟くように俺は言った。

「電、暁。この二人の損害を見て、撤退を判断した」


実際、執務室に乗り込んできた二人の服装は塵一つ付いていない。

さっきまで鎮守府近海海域へ出撃していたとは思えないほどだ。

でも、それは彼女たちだけ。随伴艦たちは違う。


「二人は中破。おっと、雷も小破しているのか。ドックから報告が入っているよ」

響は、こいつら二人と一緒で無傷。これは優秀だ。


ここまで言って、俺はやっと天龍の方へ視線を向ける。
彼女が望む答えを、半分ほど口にしたからだ。

天龍の顔は、相変わらず作ったような仏頂面だ。

だけれど、甘い。

表情は変わっていなくても、眼に明らかに安堵の色が灯っている。


「だからなんだってんだ!」


まだ演技を続けるらしい。

「何だって、重要なことだろう。駆逐艦の子達が損傷を負っているんだ。戦闘の継続は困難だっただろう」
「俺らは、まだ戦えた。あのまま戦闘を続けていたら、間違いなく敵を全滅させていたはずだ。そうだろ、龍田!?」


天龍が振り返って、後ろの龍田へ話を振る。お前も協力しろ、ということか。


「そうね~、少なくとももう2,3隻は敵を倒せたかもしれないわ~」


相槌を打つ龍田。

そうは言っても、と口に出して。
俺は困惑の表情を作る。


まさか自分の判断が批判されるとは思っても見なかった、という表情を。
そこから、激怒の表情を形作る。


怒りに任せて、怒鳴るように声を張り上げる。


「お前は、駆逐の子たちが犠牲になっても構わないと言うのか!?」
「へ?」
「あら」


天龍たちにとって俺の反応は予想外だったらしく、間の抜けた声を漏らした。

「あの状態のまま・・・『中破』のまま追撃を開始していたら、沈む可能性だってある」


だが、俺は気づかないフリをして続ける。
きょとん、とした天龍の間抜けな表情に、気づかないフリを。


新任の、経験は無いが情熱を持った提督の空回りを演じるのは、ここからだ。

「俺は、君たち艦娘を犠牲に・・・轟沈させてまで、勝利を得たいとは思えない」
「だが、お前は違うのか。天龍。」


あちゃあ、そういう事か、と呟いて。
天龍が気まずそうに頬をかく。


「違うのか、と聞いている天龍。お前は勝てさえすれば、轟沈者が出ても構わないと?」

「あのう、提督?」


いささか不安げな声。
もう演技を続ける気は無いようで、素の表情を覗かせている。


やはり、上官に反抗するのは怖かったのだろう。


でも、『欲しかった、一番望ましい答え』も俺から引き出せて。


もう眼だけでなく、表情全体に安堵が拡がっている。
やはり役者としては大根だ、と俺は天龍の評価を下方修正する。


やるなら最後まで演じなきゃ駄目だよ、天龍。


最後まで、騙し通さなきゃ。

「なんだ、意見があるなら言ってみろ。大切な仲間を犠牲にする事を正当化する意見があるならな」
「提督は多分、勘違いしているんじゃないかなあと思う」


申し訳なさそうに、探るように、天龍。

身長差のせいで、自然と上目遣いになるのが結構可愛い。

「提督、進軍や追撃をした時に轟沈の危険性があるのは『中破』じゃなくて、
『大破』状態からなんだ・・・多分、勘違いしてただろ?」

「へ?」


今度は、俺が間の抜けた声を出す番だった。

ただしこちらは演技の、予定通りの、だけれども。

ああ、やっぱりなと呟く天龍はもう、はにかんだ様な笑顔を覗かせている。


対して間違いを犯した『新任提督』は焦る。

焦って、すぐ隣へ視線を移す。


「どうなんだ、叢雲?」
「はぁ、そうね」


提督の執務机の隣に、机がもう一つ。

そこから退屈そうなため息が漏れる。

そこに座った秘書艦は、この騒動を最初から我関せず、といった顔で見ていたのだ。

「天龍の意見が正しいわ。昔は『中破轟沈説』が取られたこともあるみたいだけれどね」

「俺が読んで勉強した資料は、相当昔に作られたものだった、ということか・・・」


天を仰いで、自身の間違いを悟る『新任提督』は、続いて天竜に向き直る。

すまなそうな表情をして。

「すまなかった、天龍。俺の指示が間違っていた!」

「いや、オレはてっきり無意味な指示を出したと思っていたもんだからよ、もういいよ」


へへへ、と笑う天龍。


「提督は駆逐のチビたちが沈むと思ったから、撤退命令を出したんだよな」

「ああ、だから天龍が勝利のためなら轟沈も厭わない酷い奴だと・・・本当にすまない」

「いや、もう良いって」

あれだけ怒鳴られたのにもう水に流そうとする天龍は、本当に気がいいやつだ。

駆逐の子たちに慕われているという評判も、なるほど納得できる。


だからこそ新任の俺がどんな提督か、こうして確かめに来たのだろう。

何よりもまず、自分の仲間たちの安全を確かめるために。

だから、確信した天龍は、今日のことを広めてくれる。

今度の提督は、艦娘のことを気遣う信頼できる提督だと、鎮守府の仲間たちに。

・・・少し頼りないところもあるけれどという、親しみやすいオチまで付けて。



これこそが、俺の狙いだ。

最初に相手の信頼を勝ち取ること。

これが、事を起こす為に何よりも必要なことだから。

「良かったよ、お前みたいな提督が来てくれて」


そうやって照れながら笑う彼女は、年相応の少女にしか見えなくて。

彼女を騙して信頼を得たことに、僅かながら俺は罪悪感を感じるのだった。

じゃあな、今度から正しい指示を頼むぜとすっかり気をよくした天龍が退出した。

少し遅れて、ほとんど喋らなかった龍田が続く。

天龍が外の廊下を進んでいったのを確認して、彼女が振り向く。



「あのう、提督?」

「龍田も、すまなかったね。天龍にももう一度伝えてくれ。すまなかった、と」



目的を終えて、安心しきっていた俺に、一言。

「あんまり天龍ちゃんをからかっちゃ駄目よ~?何が目的か知らないけれど」

「・・・」

「天龍ちゃんを傷つけたら、許さないから」


じゃあね、と。
今度はこちらを振り向きもせず、龍田が退出していった。


全く。

天竜のことを大根役者なんって、笑えないよ、これじゃあ。

「まあ、80点といったところか」
「全く。うんざりだわ」


寡黙に徹していた隣の相棒から声がする。


「何、さっきまでの三文芝居は。昔の熱血ドラマでも見たければ、仕事が終わってからにして頂戴」

「さっきまでのが仕事なんだけどね。提督としての」


「言っておくけど、あんなので騙されるのは天龍くらいのものよ。他の艦娘たちにも同じ手を使おうとしているなら、考え直すのね」


下手な芝居に付き合わされて不機嫌そうな叢雲は、さっきまで黙っていた鬱憤を晴らすかのように饒舌だ。

最も、叢雲が不機嫌そうなのはいつもの事だけれども、といったら殴られるだろうか。

「アンタ今何か、失礼なこと考えてないでしょうね」
「そんな、滅相もない」


龍田と同じで勘が鋭い様だ。秘書艦様はおっかない。

「まあ、これでアンタの提督業の第一歩は、踏み出せたようね」

「ああ、まずは早期に艦娘たちに慕われること。信頼を勝ち取ること」



もちろん、時間をかけて、結果を出して信頼してもらう自信はある。

けれども、艦娘たち一人ずつに「信頼してもいいかも」という最初のステップを踏んでいくのは、莫大な時間がかかる。


だから。

「だから、あんな面倒くさい芝居を演じたのね」

「新任提督の微笑ましい失敗談。良いだろう?」

「まあ、明日には鎮守府中に広がっているでしょね、この噂は」


年頃の女の子たちが集まっている場所だ。そんなの俺じゃなくても容易に想像できる。


だから、気のいい、仲間内から慕われているだろう天龍を利用することにした。

これで艦娘たちの間では、自分は親しみやすい提督というイメージが浸透するだろう。

一瞬で、手っ取り早く。

前任者の人気が無かったようだから、なおさらだ。


それを踏み台にして。
「鎮守府の全ての艦娘たちを、落としてやる」

そして。
「全ての深海棲艦どもを、この世から消し去ってやる」


隣で叢雲がビク、っと震えるのが分かる。

ギラつく目を、努めて押し隠しながら。

俺は静かにそう宣言した。

<幕間>
今日は以上です。今後も書き溜めたものを投下します。

前作がシリアスだったので、萌え萌えキュンな作品を作ろうとしたらドシリアスに。
叢雲は秘書艦に置くと本当に締まる艦娘です。叢雲最高。

それでは、よろしくお願いします。

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