所恵美「誰も知らない」 (1)

  「大丈夫よ。クリスマスまでには帰ってくるから」

 ビール缶を片手に母さんがケラケラ笑う。
 これまでにも何度かあった。男の人を信用しすぎるのはこの人の悪いくせだ。

 「莉緒母さんがそういって本当にそうなったことないじゃん……」

 
 やはり、母さんはまた帰ってこなかった。
 いつものことだと言い聞かせながら、目の前に置かれた封筒と相対する。
 金額にして10万円。これだけのお金で親子5人、2ヶ月後まで生き残らなければいけない。

 ――ああ、大人ってやつになるには。一体あといくら必要なんだろう。

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