野崎梅太郎「……ラビットハウス、か」  (251)

クロスオーバーです。
原作を読んでないので、口調等色々とおかしいと思います。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1424192226




「その店は、少女漫画化されてゆく」



野崎「……」

野崎「実際に現物を、か」

野崎(健さん曰く「喫茶店で話を広げるなら、実際に下見に行ってみれば」と)

野崎(たしかに一理ある。チェーン店じゃ分からない雰囲気もあるだろうし)

野崎(たしかに普段、そういう喫茶店を利用したことはない)

野崎(漫画にする以上、事前準備も必要だろうし……いい機会か)


野崎「――ん?」

野崎(ラビットハウス……兎の家?)

野崎(外装から見るに、喫茶店か)

野崎(まあ、いい。入ってみよう)


カランカラン


野崎「……」

ティッピー「……」

チノ「いらっしゃいませ。お一人様ですか?」トコトコ

野崎「……」ジーッ

ティッピー「……」ジーッ

チノ「お、お客様?」キョトン


野崎(この店員……バイト、か。それにしては年が……)

野崎(いや、佐倉みたいな例もあるし……どっちにも失礼か)

野崎(いやいや、そうじゃない)

野崎「……」ジーーーッ

ティッピー(な、なんじゃ、この客……)ビクッ

チノ「あ、あの……?」

野崎「あ、ああ。すみません」

野崎「それが一体なんなのか、ちょっと気になって……」

ティッピー「それとはなんじゃ、それとは!」プンスカ

野崎「」

チノ「……腹話術です」

野崎「い、いや、でも口が……」

チノ「き、気のせいです」アセアセ

野崎「そ、そうですか」

野崎(見間違いか……)

野崎(まあ、そうそう喋る動物なんているわけが――)


――野崎先生! この喋るタヌキ、僕のアイデアですよね!?


野崎「……」イラッ

チノ(い、いきなりどんよりとした表情に……)

ティッピー(なんなんじゃ、この客……)


チノ「ご注文はお決まりになりましたか?」

野崎「んー……」

野崎(マミコが飲んでいたのは――)

野崎「すみません、コーヒーに――」

チノ「はい、承りまし」カキカキ

野崎「塩を……」

チノ「……はい?」ピクッ

野崎「い、いえ。なんでもありません」

チノ「は、はぁ」

野崎(い、いかんいかん。つい漫画の世界の話に……)

野崎(マミコが、コーヒーに砂糖と間違って塩を入れてしまったくだりがよぎってしまった……)

チノ(なんだか悔しそうな表情をしてます……)

ティッピー(ここまでぶっ飛んでる客は初めてじゃのう……)


野崎「後は、パスタをお願いします」

チノ「かしこまりました。コーヒーは食前、食後、どちらになさいますか?」

野崎「ん。それなら食後で」

チノ「かしこまりました。それでは少々お待ちください」ペコリ

野崎「……」

野崎「激辛パスタを鈴木に、か」ボソッ

ティッピー(何を呟いてるんじゃ、一体……)アキレ


野崎「……」チラチラ

野崎「ふむ」

野崎(店内は外装から察した通り、なかなか洒落ている)

野崎(外も石畳が映えていて、いい景色だ)

野崎(……これはいい舞台になりそうだな)

野崎(さて、喫茶店でのマミコの描写だが)

野崎(……どう描こうか)カキカキ



カランカラン



野崎「ん?」ピクッ

リゼ「……」ジッ

リゼ(へぇ、この時間帯にお客とは珍しい)

リゼ「いらっしゃいませ、お客様」ペコリ

野崎「は、はい」

野崎(店員、か。俺と同い年くらいだろうか)

野崎(女性店員しかいないのか……って!)

野崎「……あ、あの、それ」

リゼ「え?」


チノ「も、申し訳ございませんお客様っ」アセアセ

チノ「リゼさん! ポケットから、銃が!」

リゼ「……あ」ハッ

リゼ「も、申し訳ありませんでした」アセアセ

リゼ「つい、持ってきてしまって……」カァァ

野崎(銃って『つい』持ってくるものなのか……?)

チノ「とにかく、着替えて厨房に来ていただけますか?」

リゼ「わ、わかった」


リゼ「失礼しました、お客様」

野崎「――おいしい」ボソッ

リゼ「はい?」キョトン

野崎「いや、なんでも」

リゼ「は、はぁ……」

野崎「……」

野崎「銃を持った店員とマミコ、か」

野崎(これはおいしいネタだな)

野崎(マミコが『これで、鈴木くんのハートも撃ち抜けたらいいのに、と……)カキカキ




――厨房


チノ「……あのお客様、ちょっと」

リゼ「ん? 怖いか? たしかに目つきがキツいけどな」クスッ

チノ「い、いえ。そうじゃなくて」

チノ「……コーヒーに塩を入れて欲しい、とか」

リゼ「……冗談で言ってたんだろ?」

チノ「いえ、一瞬だけ目が本気でした」

二人「……」


リゼ「『アイツ』以外にも、奇抜な人がいたんだな」タメイキ

チノ「……そういえば、今日は少し遅いですね」

リゼ「ん、そういえば……」




――河原


千代「……はぁ」タメイキ

千代(野崎くんに「今日は用事がある」と、お手伝いを断られちゃった)

千代(ま、まぁ、プロの漫画家さんなんだし……そういうこともあるよね)

千代「……あっ!」

千代(うわ、画材が……散らばっちゃったなあ)


千代「……拾わなきゃ」

?「大丈夫ですか?」

千代「……え?」

?「ああ、散らばっちゃってる……」

?「お手伝いしますね」

千代「あ、ありがとうございます」


?「……お絵かき、されるんですか?」ニコニコ

千代「は、はい。一応、美術部で」

?「へぇ、凄いですね! 私もお絵かきしたいですっ」テキパキ

千代「あ、あはは……」

千代(凄い……私に明るく話しかけながらも、その手はテキパキ動き続けてる)

千代(相当、器用な人だね……手付きも、人当たりも)

?(頭のリボン、可愛いなぁ……)テキパキテキパキ

千代「……どうもありがとうございました」ペコリ

?「いえいえ!」

?「全部拾えてよかったですね!」ニコッ

千代「そちらが助けてくれたからですよ」

?「そんなぁ、照れますって!」カァァ

千代(……可愛い)

千代(結月や鹿島くんたちに感じるものとは、また別の意味で)

千代(ストレートに、可愛い……)


?「それじゃ、私そろそろ行きますね」

千代「はい、本当に助かりました」ニコッ

?「……」ジーッ

千代「な、なにか?」

?「いえ……笑顔もそのリボンも、すごく可愛いなって」クスッ

千代「なっ……!」

?「それじゃ、さよならー!」タタッ

千代「……行っちゃった」

千代(敵わないなぁ)

千代(ああいう子がライバルだったら、きっと……)

千代(な、何を考えてるの私っ!?)アセアセ


千代「……帰ろ」ハァ

千代(明日は、お手伝い出来るといいなぁ)

千代(あ、でも……)

千代(結月が、この辺りに美味しい喫茶店があるって――)

千代「行ってみようかな」




――ラビットハウス



野崎「……」

野崎(今更、重大なことに気づいてしまった)

野崎(どんなに頑張っても、背景が描けない……)ズーン

野崎(奇妙な動物に銃を持った店員と、要素がてんこ盛りだというのに……)

野崎(仕方ない。ノートに特徴だけまとめて、堀先輩に――)



カランカラン


?「こんにちはー」

野崎「……?」ピクッ

?「遅れてごめ――って」

?「チノちゃんもリゼちゃんもいない……」

?「おーい、二人ともー!」

?「はぁ、厨房かな――って」ハッ

?「す、すみませんお客様! 気づかなくて!」アセアセ

野崎「……」

?「は、恥ずかしい……じゃなくて!」カァァ

?「いらっしゃいませ、お客さ……ま……」ピタッ

野崎「――もしかして」


野崎「保登、か?」

ココア「の、野崎くん……?」



千代「あ、ここだ」

千代(Rabbit House……お洒落な街にふさわしく、お洒落な外装)

千代(何というか、こういうお店にはいかにも可愛い子がいそう――)


――その笑顔も、そのリボンも


千代(だ、ダメッ! ああ、コンプレックス……)タメイキ

千代(と、とにかく! 中に入ってみよう!)



カランカラン



千代「……こ、こんにちは――」

ココア「へ、漫画家?」

野崎「ああ。少女漫画を一本な」カキカキ

ココア「……冗談だよね?」

野崎「冗談じゃない」

ココア「だって、どう考えてもそれ、漫画家の描く背景じゃ……」

野崎「……これはネーム。下描きだ」カキカキ

ココア「あ、そうなんだー。納得納得」ポンッ

野崎(危ない、バレるところだった……)ホッ


千代「」

野崎「ん? 佐倉……どうしてここに?」

ココア「さくら? あっ!」

ココア「さっきの……いらっしゃいませ」ニコッ

野崎「ん、知り合いか?」

ココア「ひみつー」クスクス

千代「」

野崎「おい、佐倉?」

千代「……う」


千代(嘘だーーー!)

一旦ここまで。
野崎くん×ごちうさがふと思いついたので、書いた次第です。どうしてだろう……。
次回はみこりん登場……かもしれません。それでは。



「ひと目で尋常でない可愛さだと見抜いたよ」


――厨房


リゼ「よし、っと」

リゼ「それじゃ、私は店内を見張ってるよ」

チノ「ええ、お願いしま……『見張る』?」キョトン

リゼ「ああ。いわば、張り込みだ」ニコッ

チノ(違うような気が……)


リゼ「あのお客が気になるんだ」

チノ「お客様ですか」

リゼ「ああ。挙動不審なお客を、店内に一人にしておくわけには……」

チノ「い、いや……恐らく悪い人じゃないと思いますよ?」アセアセ

リゼ「まあ、な。しかし、あの体格に、あの目つき」

リゼ「どこかで軍役についていた可能性もありそうだ……」ニヤッ

チノ「リゼさん、どことなく嬉しそうですね……」


リゼ「というわけで、ちょっと行ってくるよ」

チノ「……先走った行動はダメですよ?」ジッ

リゼ「わ、私は、そんなに信用がないのか……」ガクッ

チノ「こと、軍事絡みに関しては」

リゼ「そ、そうか……」

リゼ「それじゃ、行ってく――」ガチャッ

チノ「……あれ? 声が増えてる?」



――店内



ココア「へぇ、野崎くんの同級生兼アシスタントさんかぁ」

野崎「ああ。なかなかのやり手なんだぞ」

ココア「凄いなぁ……」

千代「あ、ありがとうございます……」

ココア「あっ、年上さんなんだから敬語使わなくていいですって」

千代「そ、そうかな――って」

千代「年上さん……?」ピクッ

ココア「はい! 私、保登心愛っていいます。高一ですっ」ニコッ

千代「……高、一」

ココア「? どうかしましたか?」

千代「い、いや! なんでもないです……よ」

ココア「……?」キョトン

野崎「佐倉……?」



――厨房・扉を少しだけ開け放しながら



リゼ「……あれはココア、だな?」

チノ「ま、間違いないです」

リゼ「あと、もう一人……お客が増えているな」

チノ「――ココアさんは、一体何をしているのでしょうか」

リゼ「最初に来た、例のお客に接近しているな……」

チノ「……」キュッ

リゼ「不安か、チノ?」

チノ「い、いえ! べ、別にココアさんが誰といようと自由ですし!」アセアセ

リゼ(声が震えてる……)



――再び店内



ココア「そういえば、お名前は?」

千代「あっ、そうだよね」

千代「私、佐倉千代っていいます」

ココア「佐倉さん、かぁ……」

ココア「――うーん」ジーッ

千代「ど、どうしたの?」

ココア「あの……もし、良かったらでいいんですけど」モジモジ

ココア「えっと……『千代ちゃん』って」

千代「……!」ピクッ

ココア「お呼びしてもいいでしょうか?」

千代「――あ」ハッ

野崎「おい、保登。お前、自分から佐倉のことを年上扱いしてただろ」タメイキ

ココア「いやー、野崎くんを呼び捨てしてるのに……何だか距離がある感じが」

ココア「あっ! 後、『佐倉さん』って呼び方に何か引っかかるものを感じる!」ポンッ

野崎「……変わらないな、あからさまにおかしい所は」ヤレヤレ

ココア「ふーん……相変わらず酷いね、野崎くんは」クスクス

二人「……」ジッ

千代(み、見つめ合ってる……)


ココア「――でも、佐倉さんが嫌なら無理にとは」

千代「いや、そのままで大丈夫だよ……『ココアちゃん』」

ココア「……あっ」

千代「野崎くんの知り合いなら、私も距離を感じたくないし」

千代「……それに」チラッ

野崎「?」キョトン

ココア「??」キョトン

千代「い、いや、なんでもっ!」


ココア「うん、それじゃよろしくね千代ちゃん!」

ココア「あっ!」

ココア「じ、時間こんなにオーバー……早く制服に着替えないと……」アセアセ

ココア「そ、それじゃね、二人とも!」

野崎「……」

千代「行っちゃったね……」

野崎「あのハイテンションぶり……何も変わってないな」カキカキ

千代(――野崎くん)キュッ



――厨房



ココア「ごめんなさい、二人とも!」

リゼ「あ、ああ。大丈夫だぞ、ココア」

チノ「す、少し遅すぎます……」

ココア「ごめんね――あれ?」

ココア「チノちゃん、お顔熱い?」

チノ「……!」カァァ

チノ「は、早くお仕事を始めて下さいっ」プイッ

ココア「わっ、チノちゃんに怒られちゃった……」ガーン

リゼ(まったく、チノのヤツは……)

ココア「――あっ、パスタ作るの?」

リゼ「最初の注文だ。あの男性客だな」

ココア「……へぇ」

ココア「それなら、私が作ってもいい?」

リゼ「え? あ、ああ、まぁ……」

ココア「リゼちゃんたちは店内に戻ってても大丈夫だよ」

チノ「……そ、そうでしょうか」

ティッピー(……ココア?)ピクッ

ココア「うん!」


ココア「……好み、変わってないよね?」


チノ「!?」ビクッ

ティッピー「!?」ビクッ

リゼ「コ、ココア……?」

ココア「――あ」

ココア「ううん、なんでもないよ。ごめんね」ニコッ

チノ「……そ、そうですか」

リゼ「そ、それじゃあ、私たちは店内に戻るよ」

ココア「うん!」



――店内



リゼ「……」

チノ「……」

リゼ「――聞こえたか?」

チノ「少しだけ……」

リゼ「好み、変わってない……」

チノ「料理の味、ですよね……」

二人「……」

ティッピー(あ、あの客は……)プルプル

一旦、ここまで。
みこりん登場までもう少しかかりそうです。おぼろげながら考えてはいるのですが。
それでは。

野崎「あ、店員さんが戻ってきたな」

千代「で、でも」

千代「何だかまるで、野崎くんの漫画みたいに目の下に縦線が引かれてるような……」

野崎「佐倉。あまり人の顔を気にしたらダメだ」

千代「……あ」

千代「そ、そうだね。野崎くんの言うとおりだよね……」

千代(うんうん、こんな風に意外としっかり者なんだよね、野崎くんは……)

野崎(そうだ、気にしたらダメだ)

野崎(今も頭に乗っかっている奇妙な物体は気にしたらダメだ、ダメなんだぞ俺……)ズーン

千代(野崎くん……創作に行き詰まっちゃったのかな?)


リゼ(あのお客同士も知り合い……なのか)

チノ(凄く仲良さそうです……)

チノ(あっ……女性のお客様から注文取ってこないと)

リゼ(チノ……足取りがどこかおぼつかないぞ)


チノ「い、いらっしゃいませ。遅れてしまって申し訳ありません」アセアセ

野崎(――って、近くにまで来た!?)ビクッ

千代「あっ、大丈夫ですよ。今、着いた所ですし」

チノ「そうですか、それでは……」チラッ

野崎「……?」

チノ「――」ジッ

野崎「――」ジッ

千代(え、何で店員さんが野崎くんを見つめてるの?)アセアセ

千代(ま、まさかこの子も、野崎くんの――って)

千代(嘘だっ!)ガクッ

千代(みこりんの好きなゲームじゃあるまいし……うおおおお)プルプル

リゼ(あの女性客も、只者ではなさそうだな……)


チノ(この人が――ココアさんの?)ジッ

野崎(この子の視線も気になるが……それ以上に)チラッ

ティッピー「……」ゴゴゴゴ

野崎(さっきよりコイツの表情が、険しい雰囲気になったような気がするのは何故だろう……)

千代(はぁ、この子も可愛いけど……)

千代(頭に載ってるぬいぐるみも……可愛いなぁ)

野崎(いや、引いたら負けだ……)

ティッピー(こんな目つきの男に、ココアは……!)プルプル

野崎(……そうか!)

野崎(マミコも頭に何か載せれば――個性が増える!)ニヤッ

ティッピー(い、いきなり嬉しそうな顔になりおった!?)

ティッピー(み、認めん! わしは認めんぞぉ!)ゴゴゴゴ

野崎(ありがとう、奇妙な物体(仮)……)ニコッ

千代(へぇ、このぬいぐるみ、表情まで変わるんだ……あれ?)キョトン

リゼ(あっちはあっちで何をやっているんだ……)


チノ「……」コホン

チノ「それでは、アイスティーを追加で……えっと」チラッ

野崎「?」

チノ「しょ、食後にお連れ様とご一緒にお持ちしましょうか?」アセアセ

千代「あ、それでお願いします」

チノ「かしこまり、ました……」

千代「――あ、あの」

チノ「はい?」キョトン

千代「そのぬいぐるみ、可愛いですね。どこで売ってたんですか?」

ティッピー「わしはぬいぐるみじゃない!」

千代「……へ?」キョトン

チノ「腹話術です。私の特技です」コホン

千代「い、いや……声音までいきなり渋くなりましたけど」

チノ「それも特技です」モジモジ

千代「い、いきなり目がくわっと……」

チノ「……全て、特技です」アセアセ

千代「へ、へぇ……凄いね」

チノ「自信の技です」

千代(ま、まぁ、そっか。気のせいだよね?)

野崎(マミコが頭に載せて登場→「鈴木くん! 私ね~」と……)カキカキ


千代「じゃ、じゃあ」

千代「その……ええと」

チノ「ティッピーっていいます。アンゴラウサギです」

千代「あんごら?」

野崎「兎? 冗談じゃないのか?」

ティッピー「!」ピクッ

チノ「あっ、えっと……普通の兎とは、また違う生き物ですね」

野崎「ふーん……初めてみたな。そんな『おかしな』兎は」

ティッピー「……!」プルプル

チノ(おじいちゃん、三度目はさすがに厳しいです……)

ティッピー(くっ……)

野崎(どう考えても、ただの動物じゃなさそうだが……)カキカキ

千代(アンゴラウサギっていうのは、感情表現豊かなのかな?)


千代(店員さんがオーダーを聞いて、向こうへ帰っていった……)

野崎「……あ、佐倉」

千代「なに、野崎くん?」

野崎「プロットみたいなものを書いたから、読んでみてくれないか?」

野崎「感想を聞かせてほしい」

千代「うん、わかったよ」

千代「どれどれ――」ペラッ


千代「……」

千代「『マミコの頭上に、喋る置物が突然現れて動揺する鈴木』」

千代「『それにおどけながら対応するマミコ』……」

千代「――置物、でいいのかな?」

野崎「ああ。ウサギとするには、明らかに不自然だしな」

千代「そ、そっか……」ペラッ

千代「……え?」ピクッ


千代「じゅ、『銃を持った店員が登場』」

千代「『おそるおそる指摘する鈴木』」

千代「『笑いながらその店員とコミュニケーションを図るマミコ』……」

千代「『鈴木がそれを見て、やっぱりマミコは違うな、と内心で感心』……」

野崎「これで、鈴木がマミコに対して抱いていた」

野崎「『どこか他の女子とは違うな』と思っていた、という伏線を回収できるな」ニヤッ

千代「い、いや!」

千代「マミコ、銃を持っている店員とコミュニケーションしてる場合じゃないでしょ! 通報されちゃうよ!」

野崎「佐倉。そこで普通に通報していたら、もはやマミコじゃないだろう?」

千代「……『あの銃で、鈴木くんも撃ち抜けたらなとマミコのモノローグ』」

野崎「どうだ?」

千代「――う、うん」

千代「ま、まあ、アリ、じゃないかな……?」

野崎「おう、そうか」

千代(言えない……ここまで自信満々な野崎くんを見て、意見なんて言えない……)

リゼ(さっきから何をやっているんだ、あの二人は……)

チノ「リゼさん。『張り込み』、お疲れ様です」

リゼ「あ、ああ。ありがとう、チノ」

リゼ「……どうだった? あの二人のお客は?」

チノ「いえ……なんというか」

チノ「――お互い、とても仲良しさんだと思いました」

リゼ「……」

リゼ「ということは」

リゼ「あの男性客は、あの女性客と仲良くしたままで」

リゼ「……ココアにまで、ちょっかいを」

チノ「は、早まりすぎだと思います」

チノ「……そうかも、しれませんけど」

リゼ「……そうだったとしたら」

リゼ「何だか、嫌な感じだな……」

チノ「そうだとしたら、ですね……」


野崎(なんだろう、さっきから敵意のようなものを感じるのは……)

千代「……『現れたのはマミコの幼なじみ』」

千代「『鈴木と意気投合して親しげに話す幼なじみに、マミコは複雑な気持ちに……』」

千代「……」

千代「あ、あのさ野崎くん?」

野崎「ん? どうかしたか?」

千代「――え、えっと」

千代「野崎くんとココアちゃんって、その……幼なじみ、なのかなって」

野崎「……」


チノ「あっ、何やら動きがあったみたいです」

リゼ「チノ……何気にノリがいいな」

チノ「い、いえ、その!」アセアセ

チノ「……ココアさんの、今後のアルバイトに響く可能性がありますし」

リゼ「まぁ、そうか」

リゼ(チノにとっては、それどころじゃないんだろうけど……)クスッ

チノ(うっ、リゼさんが笑ってる……)

ティッピー(あの客……この子たちまで困らせおって……)ハァ


野崎「……保登とは」

野崎「小学生の頃からの、付き合いになるのか」

千代「……な、長いね」

野崎「まあ、中学の頃に引っ越して、それっきりだったが」

千代「……」

千代「えっと、ココアちゃんと初めて会ったのは?」

野崎「ん? ああ……それは、たしか」




――回想


野崎「……」テクテク

野崎(はぁ……)

野崎(集団登校の班長なんて、やりたくなかった……)

野崎(任されてしまった以上、仕方ないか……)


野崎(うん……いつも通り、ほとんどみんな集まってるか)

野崎(それじゃ、すぐ出発ってことで――)


「え、昨日のあれ観たの!?」


野崎「……あれ?」

女子「うん。あれ、面白いよね」

ココア「うんうん! 私も、凄い楽しみにしてるんだ!」

男子「あっ、それなら俺も観た」

ココア「ほんと!? うわ……ファン、多いんだね」


野崎「……」

野崎(ああ、なるほど)

野崎(そうか、今まで集団登校に参加しなかったヤツがいたんだ……)

野崎(まったく……)

野崎「それじゃみんな、そろそろ行くぞ」



――そして到着


野崎「……」

ココア「オススメのはね……あれと、あれと」

女子「あっ、その辺、全部観てるよ」

ココア「ほんとに!?」

野崎「――あー」

野崎「それじゃ、そろそろ解散で」

ココア「え? もう解散しちゃっていいの?」

野崎「ま、まぁ……」

野崎「それじゃ」

ココア「あっ! 私、ちょっと職員室行かなくちゃ」

ココア「それじゃ、またねー」

野崎「……?」

野崎「な、なぁ」

女子「班長?」

野崎「……あの女子って」

野崎「誰だ?」

女子「……いや、私も知らないわ」

男子「というか、一体誰なんだろ、あれ……」

野崎「」


――再び店内


野崎「まあ、これが初めて会った時だな」

野崎「転校初日から、いきなり集団登校の班に入ってきたことになる」

千代「……ココアちゃん、何者?」

野崎「本当に、何者なんだろうな……」

野崎「ともかく、アイツの人当たりの良さには、誰も敵わないだろうな……」クスッ

千代(野崎くん……笑ってる)

千代(なんだろう、いつになく楽しそう……)キュッ


野崎「まあ、そんな風にして」

野崎「俺が小六の頃に、保登が転校してきて……」

野崎「中学まで、アイツと一緒の学校だったんだな」

千代「そう、なんだ……」

千代「そ、それじゃ、その……」

千代「ココアちゃんが、野崎くんに敬語を使わないのって……」

野崎「ん、そうだな……まあ、小学生からの知り合いだから、というのもあったが……」


――回想


野崎「……」

若松「野崎先輩、それで……」

野崎「ん、ああ。わかった」

野崎「それじゃ、次の試合はそういうことにするか」

若松「はいっ!」

若松「ありがとうございました! それじゃ、失礼します!」

野崎「……ふぅ」タメイキ

野崎「……さっきから何を見てるんだ」

ココア「あっ、バレちゃった? 『野崎先輩』?」

野崎「……」

ココア「……うん、ごめんね」

ココア「野崎くん、すっかり先輩になっちゃったんだね」

野崎「まあな。ああいう後輩が出来て、敬語を使われると何だかむず痒いが」

ココア「ふーん……野崎くん、意外とそういうの気にしないと思ってたけどなぁ」

野崎「……」

野崎(小学生からの付き合いのコイツとは、集団登校はなくなったとはいえ)

野崎(中学まで一緒だと、こうして話す機会は多くなる)

野崎(……正直、コイツから『先輩』と呼ばれると、何故かバカにされているような気がして)

ココア「野崎先輩っ、怖い顔しないでください」ニコニコ

野崎「……やめてくれ」

ココア「ん、わかった」クスクス

野崎(……やれやれ)タメイキ


野崎「何かあったのか?」

ココア「いや、別に……大したことじゃないんだけど」

ココア「私、転校しないといけなくなっちゃったから」

野崎「……ん、そうか」

ココア「あ、やっぱり驚かないんだ」

野崎「いや」

野崎「うちの母親から、お前の家が転勤族? という話は聞いてるからな」

ココア「そっかぁ……」


ココア「ね、野崎くん?」

野崎「なんだ、保登?」

ココア「高校に入ったら」

ココア「……野崎くんがタイプな子に会えるといいね」

野崎「……保登。お前な」

ココア「わっ、怒られちゃう!」


ココア「それじゃね、野崎くん。明日から転校だから」

野崎「唐突すぎる」

ココア「まあ、そういうものだよ」

野崎「年下に諭されると、何か負けたような気がするな……」

ココア「もう、野崎くんったら」

ココア「……それじゃ、またね」

野崎「……またな、保登」

ココア「ん、またね――」


――店内


野崎「……という感じだったな」

ココア「そうそう。で、その後、私は引っ越したんだ」

野崎「……保登」

千代「あ」


ココア「お待たせしました、スパゲッティナポリタンです」コトッ

野崎「……おお、なかなか」

ココア「ふふっ、家事ができない野崎くんのために本気出してみたよ」ニコニコ

野崎「ふむ……」パクッ

野崎「隠し味に、〇〇と☓☓。さらに△△を加えて……」モグモグ

ココア「」

千代「……あ。野崎くん、家事凄く出来るんだよ」

ココア「……嘘だぁ」ボソッ

野崎「なんだ、その失礼なセリフは」




>元はといえば、高校生にもなったのに、敬語を使わない保登は……

>あっ、なにさ野崎くん。中学の頃、使おうとしたら怒ったくせに。

>怒ってない。むず痒くなっただけだ。

>……


リゼ「……」

チノ「……」

リゼ(そうか、ココアの幼なじみだったのか……)

リゼ(とはいえ、小耳に挟んだ限りでは――『そういう関係』というわけではなさそうだな)

リゼ「良かったな、チノ……って」

チノ「――納得いきません」

チノ「そ、それだったら、さっきの『好み』って言葉は何だったんでしょうか?」

リゼ「た、たしかに……」

チノ「それに……」

チノ「――ココアさん、凄く楽しそう」キュッ

リゼ「それは、否定できないな……」

二人「……」

ティッピー(あの客のお陰で、大変なことになりそうじゃのう……)

ティッピー(くっ……あの笑顔……わしをバカにしおって……)ゴゴゴゴ


野崎「……うん、美味かった」

野崎「ありがとな、保登。まさか、お前が料理出来るとは思ってなかった」

ココア「……なんというか野崎くんって、ナチュラルに失礼なこと言うよね」

野崎「ああ。保登には言われたくないセリフだな」

二人「……」ジッ

千代(うう……見ていて辛い)

千代(だって、言葉とは裏腹に――)


千代(この二人、凄く仲良さそうだよぉ……!)アセアセ

ココア「お待たせしました。コーヒーとアイスティーになりますっ」

野崎「ああ、ありがとう」

千代「……あ。美味しい」

ココア「ふふっ、そうですか。嬉しいです」

ココア「ラビットハウスの飲み物は、絶品ですから!」

千代「……ココアちゃん、このお店のこと好きなんだね」

ココア「うん、もちろん!」ニコッ

野崎「……全く、変わらないな」クスッ

千代(の、野崎くん……)


チノ「……」アセアセ

リゼ「チ、チノ? 大丈夫か?」

チノ「――ココアさんが、遠くに行っちゃったような……」

リゼ「き、気のせいだろ、多分」

チノ「……そうでしょうか」

リゼ(……チノ)

ティッピー「……」


ココア「……あ」

ココア「そろそろ、別のお客さんが来る時間帯になるよ」

野崎「へぇ……それじゃ、そろそろ帰ったほうがいいか?」

ココア「うーん……野崎くんが、私やチノちゃん、リゼちゃんたちにお世話されなくてもいい、って言うなら、大丈夫だけど……」

野崎「……」ジトッ

ココア「冗談だって。もう、野崎くんが怖い顔すると、お巡りさんに捕まっちゃうよ?」クスクス

野崎「……」タメイキ

野崎「そうだな……そろそろ、帰るか」

野崎「ある程度、ネタは固まったし」

千代「きょ、今日は、お邪魔しました!」

ココア「いえいえ」

ココア「というか、千代ちゃんたちはお客様なんだから、ドーンとお舟に乗ったつもりで構えてていいって」

千代「……お舟、に」


野崎「それじゃ、清算を――」

リゼ「あっ、私が」

野崎「そうですか。それでは」

リゼ「はい……」ピピピッ

リゼ「……」チラッ

野崎「?」

千代(え、なに? このスタイル抜群の美人さんまで?)

千代(ココアちゃんといい、さっきの店員さんといい、この人といい……)

千代(……みこりん。世界って、広いんだね……)

リゼ(このお客のリボン……か、可愛い……!)キュン

野崎「あの、すみません。恐らく、0が一つ多いような……」

リゼ「――あ」

リゼ「も、申し訳ありませんでした!」ピピピッ

千代(照れた顔まで絵になる……うう、何なの今日は……)タメイキ



野崎「それじゃ、ごちそうさま」

千代「ありがとうございました」

ココア「それじゃ、またねっ」

ココア「あっ、なるべく忙しい時は来ないほうがいいよ」

ココア「私たちが相手してあげられないから」

野崎「……そうか」

ココア「わっ、返事してる風にして流してる……」


野崎「正直、また来ないと描けない場面もあるからな……」

ココア「とりあえず、この時間帯は、ほとんどお客さんはこないね」

野崎「そうか……それじゃ、また来るよ」

ココア「ん、わかった」


千代「……」モジモジ

ココア「ねぇ、千代ちゃん?」

千代「わっ!?」ビクッ

ココア「……」

千代「ど、どうかした、ココアちゃん?」

ココア「――ん、なんでもない」

ココア「アシスタント、頑張ってね」

千代「う、うん……」

千代「ココアちゃんも、アルバイト頑張ってね」ニコッ

ココア「……」

ココア「その笑顔、ちょっと反則だよ」クスッ

千代「そ、そっちだって」アセアセ

野崎(何をやってるんだ、この二人は……)



――夜・ラビットハウス


ココア「……ああ」

ココア「今日も、大変だったね」クタクタ

リゼ「ん、そうだな」

チノ「お疲れ様です、お二人とも」

ココア「チノちゃんもお疲れ様っ」ダキッ

チノ「……」

ココア「……あ、あれ?」

ココア(いつもだったら、抱きつこうとしたら離れちゃうのに……)キョトン

ココア「どうかしたの、チノちゃん?」ギュッ

チノ「ちょっとキツいです、ココアさん」

ココア「あ、ごめん」パッ


チノ「……」

チノ「あ、あの……ココアさん」

ココア「ん? なぁに?」

チノ「……そ、その」

チノ「えっと」モジモジ

リゼ「ココア、あの男性客と知り合いだったんだろ?」

ココア「あぁ、野崎くんのこと?」

リゼ「……あ、あのさ」

リゼ「さっき、『好み、変わって……』と呟いていたけど」

リゼ「あれは、ど、どういう……?」


ココア「――ああ、それ?」

ココア「それはね……野崎くんの好きな――」

リゼ「!?」

チノ「!?」

リゼ(好き……)

チノ(野崎くん、が……)


ココア「タイプが、今日一緒にいた人だったなぁ、って」

チノ「」

リゼ「」

ココア「そんなこと、思って」

チノ「そ、そうなのか……」

リゼ「そ、そうだったんですか」

ココア「うん」

ココア「昔、なんかのきっかけで」

ココア「野崎くんが好きな女子のタイプ、聞いちゃったんだよね」

ココア「だから……どうしたの、二人とも?」

チノ「な、なんでもありません……」アセアセ

リゼ「き、気にしないでくれ……」アセアセ

ココア「?? う、うん、わかったよ」

ココア「それじゃ私、お掃除してくるね!」



リゼ「……な、なんだ、気のせいか」

チノ「そ、そうみたい、ですね……」

チノ「ちょっと、安心してしまいました」ホッ

リゼ「私もだ、チノ」ホッ

ティッピー「……」



ティッピー(さっき、チラリと見えた冷蔵庫の中)

ティッピー(その中から、一部の食材が消えとったような気がした)

ティッピー(普段、客にナポリタンを作る時の食材だけではなく……それプラス何かが)

ティッピー(――二人には、言わないでおくか)タメイキ



――店外


ココア「……」

ココア「まさか」

ココア(野崎くんと、また会うなんて……)

ココア(――なんだか、嬉しいな)


ココア「千代ちゃん、か」

ココア(本当、可愛い人だったなぁ……)

ココア(……ふふっ、野崎くんも変わらないね)クスッ

ココア(今日はちょっとおまけしてあげたけど……)


ココア「……野崎くん、応援してあげちゃおうかな?」

ここまでです。
ごちうさ勢と野崎くんが目立ちすぎて、千代ちゃんが空気っぽくなってしまった感がありますね……

とりあえず、プロローグ的なものが終わりました。
これ以降、どうするのかはわかりませんが……何とか考えてみようと思います。
それでは。




「ご注文はギャルゲーですか?」



――放課後



野崎「木組みの家と石畳の街……か」テクテク

千代「お洒落な名前だよね、ここ」トコトコ

野崎「なんというか……」

野崎「明らかに、俺たちの通学路とは別世界のような気が」

野崎「日本に、こんな街があったのか……」

千代「野崎くんが描く漫画みたいなものだと思えば……」

野崎「――うーむ」


千代(結局)

千代(私たちは、昨日に続いて今日もこの街にやってきていた)

千代(まあ、野崎くんの現地取材みたいなものだし)

千代(アシスタントとしては、ある意味当然の――)


――うーん……野崎くんが、私やチノちゃん、リゼちゃんたちにお世話されなくてもいい、って言うなら、大丈夫だけど……


千代「……」キュッ

野崎「佐倉? どうかしたか?」

千代「い、いや! なんでもないよ!」

野崎「そうか……」

千代(……そうだ)グッ

千代(ラビットハウスに着くまでに、ココアちゃんに見せる顔を考えておかないと)

千代(あれ? どうして私、焦ってるんだろ……)アセアセ


野崎「ん、あれは……」

千代「服屋さんのセール、かな?」

野崎「……そうだっ」ポンッ

野崎「マミコも新しい舞台に来たんだし、衣装変更しないとな」

千代「え? の、野崎くん……?」キョトン

野崎「女性服コーナーは、と……」

千代「ちょ、ちょっと待って!」

野崎「ん、ここだな――」ピタッ

千代「ど、どうかした、野崎く――」ピタッ


リゼ「ああ……」

リゼ「可愛い――」ウットリ

リゼ「……って!」

リゼ「だ、ダメだ! 私は何を……」アセアセ


野崎「……」

千代「……」

リゼ「……」

野崎「佐倉。今日はやめとこうか」クルッ

千代「うん、そうだね……」クルッ

リゼ「ちょ、ちょっと待った!」


リゼ「こ、これは違うんだ!」アセアセ

野崎「いや、買い物くらい自由にしてもいいんじゃないですか?」

千代「そうですよ。せっかく美人さんなんだし……」

リゼ「び、びじん……い、いや、そうじゃなくて!」フリフリ

リゼ「私は別に……きょ、興味、なんて」フリフリ

千代(それだったら、どうしてさっきから手に持った服をフリフリさせてるんだろう……)


野崎「まあ、何にせよ」

野崎「俺たちは出るんで」

千代「お邪魔してごめんなさい」

リゼ「た、頼むから、ちょっとまってくれぇ……」




野崎「……」テクテク

千代「……」トコトコ

リゼ「……」テクテク

リゼ(あれ? どうしてこうなったんだ?)

リゼ(ああ、そうだ。『待ってくれ』と、私が言ったからだ……)

リゼ「……どう、しよう」カァァ

野崎(……何も言わないでおこう)

千代(よくわからないけど)

千代(冷静に考えたら――)

千代(ラビットハウスに着く前に、美人さんが野崎くんに――!?)

千代「……くぅぅ」

野崎「お、おい、佐倉? どうした?」

千代「な、なんでもない、よ……」

リゼ(ああ、どうしよう……何を話せばいいんだ?)アセアセ


リゼ「……あ、えっと」

リゼ「お、お二人は今日、ラビットハウスにいらっしゃるのか?」モジモジ

野崎「落ち着いてください。敬語が敬語じゃなくなってます」

リゼ「……あ」ハッ

千代「む、無理して敬語使わなくてもいいですって」

野崎「もう、さっきの時点で……いや、なんでも」

リゼ「――」カァァ


リゼ「まあ、ココアから聞いた所、私と同い年らしいし」コホン

リゼ「そういうことにするか」

リゼ「……佐倉さんに、野崎くんとやら」

野崎「ん? もう、知ってるのか?」

リゼ「当たり前だ。私の諜報技術を舐めてもらっちゃ困る」

千代「ちょうほうぎじゅつ?」キョトン

野崎「きっと、スパイ漫画に影響されたんだろう。最近うちの雑誌でも始まったし、流行りなんだ」

千代「あっ、そういうことなんだ」

リゼ「わ、私は、本物の……!」プルプル


千代「い、いや……そういうことなら」

千代「私は、『千代』でいいよ。えっと……」

リゼ「……天々座理世」

千代「へ? てでざ……?」キョトン

野崎「ザリゼって名前なのか、珍しいな」

リゼ「ち、違うっ!」ブンブン

野崎「冗談だ、『天々座』」

リゼ「……なるほど」

リゼ「ココアの言う野崎『くん』っていうのは、こういうヤツなんだな……」

野崎「そう露骨に強調されると落ち着かないから、呼び捨ててくれ」

千代「リゼちゃんかぁ……」

千代「あっ、私、佐倉千代。千代でいいよ」ニコッ

リゼ「……千代、か」

リゼ「……」ジッ

千代「ど、どうかした?」アセアセ

リゼ「いや――」

リゼ(ココア曰く)

リゼ(この子が、野崎の……?)

リゼ(本当、だろうか……)

千代(うう……美人さんに見つめられるのは慣れないなぁ)カァァ

千代(結月や鹿島くんだけでも手一杯なのに……)


千代「じゃ、じゃあ、リゼちゃんはココアちゃんの……」

リゼ「ああ。ココアは、私の後輩なんだ」

千代「え? リゼちゃんがバイトの先輩なのに……」

野崎「保登が年上に敬語使わないのは、今に始まったことでもないな……」

リゼ「い、いや……私にアイツが敬語を使わないのは、別にいいんだ」

野崎「ああ。アイツのことだから手々座のことを年上だと知らなかった、とかだろう」

リゼ「……まるで、見てたかのような口ぶりだな」

野崎「まあ、何となく見当はつく」

リゼ「……ほう」

千代(……や、やっぱり、野崎くん)


リゼ「いや、私も昨日は驚いたんだ」

リゼ「……ココアがあんな会話をしているのを見たのは、初めてだからな」

千代「あんな会話?」

リゼ「ココアは私たちのことをからかったりするが」

リゼ「大抵、悪気がないままだ」

千代(……結月に、似てたりするのかな?)

野崎(瀬尾と保登……ダメだ、イメージがわかん)

野崎「……」

リゼ「しかし」

リゼ「昨日、ココアと野崎の会話をぬすみぎ――ちょ、『諜報』した所」アセアセ

リゼ「……ココアは明らかに分かっていながら、からかっていた」コホン

野崎「深読みしすぎだろう」

リゼ「幼なじみっていうのは違うんだな、と思ったよ」

野崎「――まあ、否定はしない」

千代「……」

千代(そうだ……)

千代(年で行ったら私のほうが先輩だけど――)

千代(野崎くんと一緒にいた長さなら……ココアちゃんの方が、圧倒的に先輩なんだ)キュッ


リゼ「……ん?」

リゼ「二人は、今日も寄っていくのか?」

野崎「そうじゃないと、ここまで一緒に歩いてこないだろう」

リゼ「そ、そうだったな……」

千代(リゼちゃん……意外と、抜けてるのかな?)

千代(ギャップで余計に可愛いから、私は困るんだけどさ……)

リゼ「つ、着いたぞ」ガチャッ

ココア「あっ、野崎くん! 千代ちゃん!」ニコッ

チノ「……い、いらっしゃいませ」モジモジ

ティッピー(……むっ)ピクッ



ココア「なんだ、リゼちゃんも一緒だったんだ」

リゼ「ああ。偶然、そこで会ってな」

ココア「……へぇ」ジッ

野崎「なんだ、保登?」

ココア「野崎くん、隣に千代ちゃんがいるのに……」

ココア「リゼちゃんにまでちょっかい出しちゃうんだ」

千代「……えっ!?」

リゼ「ちょ、ちょっかい、って……!」

野崎「? 保登、何を言ってるんだ?」キョトン

ココア「……まあ、野崎くんがそれならいいよっ」クスッ

一旦ここまで。
次回、タイトル通り、あの男の登場。
それでは。

おつ
ごちうさ見てないんだけど、チノちゃんってこんなに可愛いの?

ココア「ほら、リゼちゃん。着替えて着替えて」

リゼ「お、おい……ココア」



バタン・・・



野崎「――あそこから、更衣室か」

野崎「……ふむ」テクテク

千代「ど、どうしたの、野崎くん?」

チノ「……!」ハッ

ティッピー(や、やはり、あの男……!)

ティッピー(そういう目でこの子たちを――くう)ゴゴゴゴ


チノ「お、お客様」モジモジ

チノ「そ、そちらは、従業員用なのでこまりま 「うん。大体の間取りは把握できた」

チノ「」

野崎「よしっ! これで、マミコと鈴木の更衣室イベントが描けるぞ、佐倉」ニコニコ

千代「よ、良かったね、野崎くん」

千代「でも、二人が着替えに行ったすぐ後にそういうことは……」

野崎「ん? 何か問題あるのか?」キョトン

千代「……いや、なんでもないよ」タメイキ


チノ「……」

チノ「――うう」グスッ

ティッピー「お、落ち着け、チノ」

ティッピー(あ、あの客はぁ……!)プルプル



――テーブル



野崎「……よし」

野崎「今日も描くぞ、佐倉」

千代「うんっ」


野崎「……ダメだ、背景が描けない」ズーン

野崎「堀先輩の部活が休みだったら……!」

千代「お、落ち着いて野崎くん!」

千代「あっ、そうだ! それだったら、小物描けばいいんじゃない?」

野崎「……小物?」

千代「うん!」

千代「このお店、ちょっと見ただけでも魅力的な小物ばっかりだし」

野崎「……そう、か」

>>43
某動画サイトで、一話だけなら観れるから観てもいいと思います。
ココア、チノ、リゼの可愛さなら、そこでよくわかるかと……あと、ティッピーもかな?


ココア「そうそう。このお店の小物、凄いんだよ?」ニコニコ

野崎「……保登。いきなり会話に入ってくるのはやめてくれ」

ココア「えー、野崎くんが気づいてくれないのが悪いんだよ」ジトッ

野崎「……もういいや」

千代「コ、ココアちゃん……」

ココア「ん? どうかした、千代ちゃん?」キョトン

千代「い、いや……」

千代(言えっこない……)

千代(新章で、「ココアちゃんをモデルにしたキャラが出るんだよ」なんて……)


野崎「そうか、そういうことなら」

野崎「御子柴を呼ぼう」

千代「うんうん――って」

千代「みこりんは今日、用事あるって……」

ココア「みこりん?」キョトン

千代「……あ」

千代「みこりんっていうのはね、凄く……ええと」

千代「――かっこいい、よ。うん」

ココア「わぁ、イケメンさんなんだぁ」キラキラ

千代「う、うん……そう、だね」


リゼ(……イケメン?)ピクッ

チノ(ま、また、新しい男性が来るのでしょうか?)アセアセ

リゼ(いやいや、野崎だけでも困りものなのに……)

チノ(……リゼさん、あのお客様と何かあったんですか?)ジッ

リゼ(い、いや、大したことじゃないよ)アセアセ

ティッピー(むぅ……)


野崎「それじゃ、かけるか」ピッピッ

野崎「……」プルルル


――その頃


御子柴「……」カチカチ


メイド『もう、私の秘密バレちゃったもん……』

メイド『先輩に顔向け、出来ないよっ!』

メイド『……どうすればいいの?』


   『……俺にも分からない』
 
   『じゃあ、俺がずっと一緒にいてやる』

御子柴「――」カチッ


   『……俺にも分からない』
 
  ニア『じゃあ、俺がずっと一緒にいてやる』


御子柴(どうだ……!)カチッ


メイド『……あ』

メイド『ありがとう、○○くん』

メイド『――私、ずっとその言葉を聞きたかった』カァァ


御子柴(よっしゃあああ!)グッ

御子柴(やった……これで、このルートはクリア……!)

御子柴(主人公がヒロインに抱きついて……イベントCGが来る、は、ず……)


主人公『……その後、アイツはどこかへ行ってしまった』

主人公『どこで何を間違えたのか……俺には何も分からない』

主人公『今日も俺は、そいつが働いていたメイド喫茶に来ていた』

主人公『向かい側には、アイツの友達だった茶屋の店員がいて――』



御子柴「」

御子柴「……ふ」

御子柴(ふざけんなああああ!)ゴロゴロ


御子柴(なんだ、どこで何を間違えたんだ!?)

御子柴(デートシーンでメイドをからかったのが悪かったのか……?)

御子柴(それとも、屋上でご飯を一緒に食べてやれなかったのがダメだったのか……?)

御子柴「……」チラッ


御子柴「攻略サイト、っと」カチカチ

御子柴「……」

御子柴「――ダメだ!」

御子柴(俺は相手が二次元だろうと、本気でいたいんだ……!)

御子柴(攻略サイトなんて、もう見ないっ!)


御子柴「……はぁ」カチカチ

御子柴「セーブデータからデートシーンロード、っと」

御子柴「今度は選択肢を間違えねえぞ……!」プルルルル



御子柴「ん? 野崎から?」ピッ

御子柴『……なんだよ、野崎? 今日は手伝えねえぞ』


ココア『あっ! 相手の人、出たねっ!』

御子柴「」

野崎『ああ、御子柴。そのことなんだが……』

野崎『用事が片付いたらでいいから、ちょっと――』

御子柴『……おい? 今の声は?』

野崎『空耳だろう。タチの悪い』

ココア『あっ、酷い!』プンスカ

千代『コ、ココアちゃん、落ち着いて』


御子柴『……』

野崎『というわけだから、都合つくなら俺が教えるラビットハウスって所に――おい、御子柴?』

御子柴『――俺はな、今忙しいんだよ』

野崎『ああ、用事か。もしキツいなら、今日は構わないぞ』



ココア「うわ、やっぱりイケメンさんは用事ばっかりなんだね……」

千代「う、うん……まぁ」

ココア「野崎くん、そんなイケメンさんと、どこで知り合ったんだろ?」

千代「あ、あはは……」



『こ、これ! べ、別に、あんたのために作ったわけじゃないんだからねっ!』



千代「」

ココア「あっ、女の子の声だ」

ココア「へぇ……さすが、女の子に何か作ってもらっちゃってるんだね」キラキラ

千代「そ、そうだね」



御子柴『聞いた通り、俺は今デート中だっ』

御子柴『今から噴水で、選択肢が出てくるんだよっ!』

野崎『……なるほど』

野崎『それだったら、御子柴。おそらく、そこの噴水で――』


ココア「へぇ、相手の人は公園にいるのかな?」

千代「う、うん。今日は公園の噴水を観に行ったんだって」

ココア「わぁ……」ウットリ

千代(ダメだ……この純粋さに、私は敵う気がしない……!)プルプル

野崎『――どうだ?』

御子柴『あ、ルートが……変わった!?』カチカチ

野崎『やっぱりな。思った通りだったか』

御子柴『の、野崎……ありがとう!』ウルッ

野崎『いいのか? 自分の力でやりたい、と言ってたじゃないか』

御子柴『そ、それはこの際、なしだ!』アセアセ

御子柴『おかげでやっと、TrueEndに行けそうだ!』グッ

野崎『そうかそうか』ニコッ

野崎『それなら、そこでセーブして、今から俺の言う所に来てくれないか?』

御子柴『おう! お安いご用だ!』カチカチ

野崎『それじゃ、ラビットハウスだから……木組みの家と石畳の街だ』

御子柴『わかった! 今すぐ行くぜ!』ピッ



野崎「……来るってさ」ピッ

ココア「え? さっきまでデートしてたのに?」

千代「あ、相手の女の子に予定があったらしいよ」アセアセ

ココア「ふーん……」キョトン



――それから


御子柴「……」

御子柴(やべぇ、勢いで出てきたけど……)

御子柴(どうして野崎の近くから女子の声が聞こえるのか、とか)

御子柴(そういうの、全部流しちまった……)ガクッ

御子柴「……アイツにハメられたのか、俺は」ズーン

御子柴「ん?」ピクッ


マヤ「あっ、凄いイケメン!」

メグ「マヤちゃん……あんまり見ちゃダメだよ」

マヤ「へぇ、何見てるんだろ……」

メグ「もう……」タメイキ


御子柴「こ、これは、さっきのキャラ……」


『フィギュアショップ』


マヤ「」

メグ「」

御子柴「――」スッ

御子柴「だ、駄目だ!」ガクッ

御子柴(攻略が終わってからじゃないと……こういうのは買えねぇ……!)ブンブン

御子柴「あぁ……」タメイキ

メグ「……いこっか」トコトコ

マヤ「う、うん」トコトコ

マヤ「ねぇ、メグ? 今日、国語の時間で教わった言葉ってなんだっけ?」

メグ「『人は見かけによらない』でしょ?」

マヤ「……ホントにね」ハァ

メグ「……そうだね」ハァ



御子柴「えっと、そろそろこの辺りか」

御子柴(というか、ホント俺たちの街とはえらく違うな……)

御子柴(ホントに日本なのか、ここ――)


御子柴(でも、どことなくさっきやっていたゲームの風景に似ている)

御子柴(そうだ、路地裏で不良に絡まれていたメイドを、主人公が――)


「いやーーーっ!」


御子柴「!?」ピクッ

「あ、あっち行ってぇ……!」

御子柴(ろ、路地裏から!?)

御子柴(これなんてギャルゲー……い、いや! それどころじゃねえって!)ブンブン

御子柴(この道か……!)ダッ



御子柴「……」ハァハァ

ワイルドギース「……」ジーッ

シャロ「いやぁ……」プルプル

御子柴(――えっと)

御子柴(どうしよう、これ……)

ワイルドギース「……」クルッ

御子柴「あ」ハッ

御子柴「あっちに餌あるぞー」

ワイルドギース「!」ダッ

御子柴「うわっ!?」

御子柴「……行っちまった」

シャロ「――あ」ハッ

御子柴「えっと」

御子柴「た、立てるか?」

シャロ「は、はい」モジモジ

シャロ「……あ、ありがとうございました」ペコリ

御子柴「……」


御子柴「ガラスのハートが壊れそうになってるってのに」

シャロ「……はい?」キョトン

御子柴「見捨てるなんて、出きっこないぜ」

シャロ「え?」

御子柴「ほら。怪我する前に、行けって」

シャロ「は、はい……」

シャロ「??」」キョトン


御子柴「……」

御子柴「――くぅ」ハァ

御子柴(また、カッコつけちまった……!)ズーン

御子柴(はぁ……)

御子柴(俺もあの、主人公みたいに――)


千夜「大丈夫ですか?」


御子柴「……え?」

千夜「シャロちゃんが、迷惑かけちゃったみたいで……」

シャロ「わ、私は、何も――」アセアセ

千夜「あら? 助けてくれたんでしょう?」

シャロ「……そ、そうよ」コクリ

千夜「もう。シャロちゃんのウサギ嫌いには困ったものねぇ……」

シャロ「に、苦手なものはしょうがないじゃない!」モジモジ

御子柴「……あ、あのー」


千夜「どうも、ありがとうございました」

御子柴「い、いや……ぐ、偶然、通りかかっただけ、っていうか、その」カァァ

千夜(お顔が真っ赤……)

御子柴「と、とにかく!」

御子柴「お、俺! ラビットハウス行かないといけないんで……」アセアセ

千夜「あら?」ピクッ

シャロ「え?」ピクッ

御子柴(うわ……キョ、キョドって、要らねえこと言っちまった!)

千夜「……ラビットハウスは、向こうの道ですけど」

御子柴「へ?」キョトン

シャロ「う、うん。あっち行って、それから……」

千夜「せっかくだし、一緒に付いて行きましょうか?」

御子柴「……」



――それから


千夜「ここに来るのは初めてですか?」トコトコ

御子柴「い、いや! ま、まぁ……たしかに」テクテク

シャロ「ふーん……」トコトコ

御子柴「……」


御子柴(この二人――)

御子柴(さっきからずっと、何か引っかかるかと思ってたけど……これは)

御子柴(――あっ、噴水)ピクッ


『べ、別にあんたのために作ったわけじゃ――』


御子柴「……」ジーッ

シャロ「? どうかしました?」

御子柴「い、いや……なんでも」アセアセ

千夜「疲れたでしょう? シャロちゃんのおかげで……」

シャロ「ち、千夜!」カァァ

御子柴(……ああ)



御子柴(冗談だよな……?)

千夜「大丈夫ですか? まだ体調悪いんでしょうか?」

シャロ「や、やっぱり私のせいだったのかな……」

御子柴(冗談だと言ってくれ――)


御子柴(俺はまだ、二次元にしか慣れてないんだ――!)モジモジ



――ラビットハウス


カランカラン


ココア「いらっしゃいま――あっ! 千夜ちゃんにシャロちゃん!」

千夜「こんにちは、ココアちゃん」

シャロ「こ、こんにちは」

チノ「――それに」

御子柴「……」

リゼ「!」

チノ「!」

リゼ(ま、間違いない!)

チノ(この方が、『イケメンさん』です!)

リゼ(ひと目で明らかにわかる……!)

チノ(で、では、この方が……)アセアセ


野崎「お、御子柴」カキカキ

千代「みこりんっ」

御子柴「……」

野崎「おい、どうかしたのか?」

御子柴「――い、いや、その」チラッ


千夜「あっ、やっぱり体調が……」

シャロ「わ、私のせいで……」アセアセ


御子柴「なんでもねえよ……」

野崎「うん、明らかに何かありそうだな」

千代「というか、みこりん……この人たちに何したの?」

御子柴「さ、佐倉! 何もしてねぇよ!」

御子柴「うっ……お、俺は、カッコつけちまったんだぁ……」ズーン

千代「……そ、そっか」

野崎「まあ、御子柴らしいといえば御子柴らしいな」カキカキ

御子柴「――お前ら、それでも友達なのか?」ジトッ


御子柴「……まぁ」

御子柴「ふ、二人とも……よかった、です、ね」

シャロ「……うん、ありがと」

千夜「ホントにシャロちゃんのために、ご迷惑を……」

御子柴「――それじゃっ」


御子柴「ほら、野崎っ! 用事あるなら、手を貸すぞ?」

野崎「ん……そうだな。それじゃ」スッ

御子柴「よし、わかった!」カキカキ

千代(みこりん……顔、真っ赤だ)

野崎(御子柴……)



千夜「あ、あのー……」

野崎「はい?」ピクッ

シャロ「そ、その人は悪くなくって」

千夜「そうです、悪いのはこの子なの」

シャロ「ち、千夜!」

千夜「言い返せるの?」

シャロ「……じ、事実だけど」

野崎「――あー」

野崎「なんというか……むしろ、アイツが何かしてないのかと」

御子柴「おい、野崎! お前、それでも友達かよ!?」カキカキ

千代「わっ……言い返しながら、どんどん小物を描いてる……」


千夜「いえ、むしろその方にこの子が助けられたので」

シャロ「何かお礼はできない……でしょうか」

野崎「――お礼」

野崎「おい、御子柴」

御子柴「なんだよ! 今、小物描きまくってるのによ!?」カキカキ

千代「……さすがみこりん、妙な所でプロだ」


野崎「この人たちが、何かお礼したいそうだ」

御子柴「――え?」ピクッ

千夜「……」

シャロ「……」

御子柴「ふっ、これからは精々気をつけるこt」

千代「みこりん!」

御子柴「……うっ」

御子柴「そ、それじゃ」


御子柴「――もう、路地裏に行かないでく、ください」


シャロ「……へ?」キョトン

御子柴「そ、それだけ、です」カァァ

千夜「……まぁまぁ」

野崎(御子柴……お前)

千代(みこりん……)



ココア「……二人とも、そろそろお話は終わった?」

千夜「あ、ココアちゃん」

シャロ「……ホントに、これでいいのかしら」

リゼ「おいおい、シャロ。相手の好意は、素直に受け取っておくものだぞ?」

シャロ「リ、リゼ先輩っ」アセアセ

チノ「……」ジッ

ティッピー(おい、チノ……何だか、さらに面倒そうな事態に)アセアセ

チノ(おじいちゃん……仕方ないですよ)タメイキ

ティッピー(……チノ)



――その後



ココア「お待たせしました! ご注文のココアと紅茶になりまーす!」ニコニコ

ココア「はい、千代ちゃんに紅茶!」スッ

千代「ありがとっ」ニコッ

ココア「……はい。注文のココアだよ」

野崎「ああ、サンキュ」カキカキ


ココア「……」ジッ

野崎「?」

ココア「何か、言いたいことは?」

野崎「……お前の名前が『心愛』だってことか?」

ココア「そんな感じかなー」ニヤニヤ

野崎「佐倉、そっちの紅茶と取り替えてくれるか?」

ココア「あ、ひどいっ!」


御子柴(……野崎)カキカキ

御子柴(何というか、どことなくいつものお前らしくないな)

御子柴(――相手のウェイトレスのせいか?)チラッ


シャロ「お、お待たせしました」

御子柴「ん、ああ。俺のコーヒーか」

御子柴「あ、ありがとうございま……」

シャロ「……」モジモジ

御子柴「――あ、あれ?」


御子柴「こ、ここのバイトとか、なんです、か?」

シャロ「い、いえ……それは」

千夜「はい、スープです」コトッ

御子柴「あ、ありがとう……え?」

御子柴「……ここの、バイトですか?」

千夜「いえいえ」ニコニコ

御子柴「……??」キョトン

千夜「せめて」

千夜「何もお返ししない、というのも何ですので」

シャロ「お、お持ちすることくらいは……サービスです」アセアセ

御子柴「――あ」

御子柴「どう、も……」ゴクゴク

御子柴「……」カァァl

千代(みこりん、顔真っ赤だ……)

野崎(ほう、御子柴……)


ココア「ふーん……なるほどなるほど」コクコク

野崎「――お前が意味深なことを呟くと、つい身構えるからやめてくれ」

ココア「……野崎くん、私を何だと思ってるの?」ジトッ

野崎「……腐れ縁だな」

ココア「それだけ?」

野崎「……『生意気な』幼なじみ、か」ゴクゴク

ココア「もう、野崎くん!」



千代「……はぁ」タメイキ

千代(結局)

千代(私のよくわからない所で、この二人の交友関係は広がっていくみたい……)

千代(はぁ――何だか寂しい)

リゼ「ご注文のオニオンスープ、お待たせしました」コトッ

千代「あ、リゼちゃん、ありがとう」

リゼ「……」ジッ

千代「な、なにかな?」ピクッ

リゼ「……」チラッ


ココア「野崎くんは、そういうことばかり言って」

野崎「あ、保登。お前だったら、こういうセリフ言うよな」スッ

ココア「あっ、うんうん。何となくそんな感じ――って」ハッ

ココア「野崎くん!」プンスカ

野崎「よし、『私、よく生意気だって言われるんだぁ』と……」カキカキ


リゼ「――野崎は聞いてないか」

千代「リゼちゃん?」

リゼ「……」コホン

リゼ「――その」

リゼ「千代は、野崎が――」



>こころぴょんぴょん待ち? 考えるふりして もうちょっと近づいちゃえ



リゼ「!?」

千代「!?」

シャロ「!?」

千夜「……あら?」

ココア「あっ、かわいー」

野崎「……御子柴」タメイキ

御子柴「――げっ」


御子柴「悪い、マナーモードにするの忘れてた」ピッ

野崎「いや、俺はいいんだが……」

千代「わ、私も知ってるから気にしてないよ」

御子柴「……何故かよくわからないダメージを受けてる気がするぞ」ズーン



御子柴「あっ」ハッ

シャロ「……え、えっと」モジモジ

千夜「へぇ、可愛い着メロですね」

御子柴「あ、ありがとうございます……?」

千夜「何かのテーマソングですか?」

御子柴「ま、まぁ……」アハハ

シャロ(――今の曲)

シャロ(私のバイト先で聞いたような……)


リゼ「……」

千代「あっ、ごめん、リゼちゃん」

千代「それで、何だったかな?」

リゼ「あ、いや……」ハッ

リゼ「やっぱり、何でもないよ……」

千代「そう? うん、わかった」

千代「何かあったら、いつでも言ってね」ニコッ

リゼ「あ、ありがとう」ニコッ

リゼ「……」タメイキ

チノ「リゼさん」

リゼ「あ、ああ、チノ……」アセアセ

千代「あっ……」ハッ

チノ「……」ジッ


チノ「初めまして、香風智乃といいます」ペコリ

千代「かふう、ちの……」

千代「チノちゃん、でいいかな?」

チノ「ええ、『千代』さん」

千代「わっ、名前知ってるの?」

チノ「……はい」

リゼ(――チノ)


チノ「それで、えっと……」

野崎「ほう、飲めば飲むほど、ほんのりとした苦味が……」ゴクゴク

ココア「それ考えたの私なんだよー?」

野崎「『ねぇ、鈴木くん。私、新しいブレンドを――』」

ココア「わっ、スルーされた」

チノ「……ココアさん、ちょっとよろしいでしょうか」

ココア「わっ、チノちゃん?」ピクッ

野崎「……ん?」チラッ


チノ「……」ジッ

野崎「……」ジッ

ティッピー「……」ゴゴゴゴ

野崎「――どうかしましたか?」

ティッピー(こ、今度は無視された!?)ガーン


チノ「……初めまして、香風智乃です」ペコリ

野崎「ああ、保登がよく叫んでる名前の」

ココア「叫んだ覚えはないよっ」プンスカ

チノ「……えっと」モジモジ

チノ「よろしくお願いします、『野崎さん』」

ティッピー「!」ハッ

野崎「……ああ」

野崎「よろしく……『香風』で、いいか?」

チノ「はい」

野崎「ん、わかった」コクリ

野崎「佐倉。次のセリフなんだが――」スッ

千代「わっ、の、野崎くん?」

チノ「……」

ティッピー(どうしたんじゃ、チノ?)

チノ(……私自身)

チノ(……野崎さんと面識を持っておいた方がいいと思いました)

ティッピー(……ココア絡みか?)

チノ(――き、きっと)モジモジ

ティッピー(そう、じゃな……)ハァ



――しばらくして



野崎「それじゃ、そろそろ帰るか」

ココア「うん、そろそろ他のお客さんが来店する時間だし」

ココア「野崎くんが漫画を描いてたら、他の人が面食らっちゃうよ」

野崎「……悪かったな」

ココア「ううん、冗談だよ?」

野崎「……」ジトッ

ココア「わっ、睨まれちゃった」


千夜「ココアちゃん、楽しそうね」

シャロ「そうね……一体、どういう関係かしら」

御子柴「……そ、それじゃ、俺も帰るから」モジモジ

千夜「あっ、わかりました」

シャロ「きょ、今日は、色々ありがとうございました」

御子柴「……」


御子柴「そんな風に、気に病んでると」

御子柴「大事な顔にしわ――」

千代「……」ジーッ

千夜「?」

シャロ「?」

御子柴「い、いや、こっちこそあ、ありがと、う……」


野崎「それじゃ――」

ココア「あ、そうそう、野崎くん」

野崎「なんだ、保登?」

ココア「……さっき、チノちゃんから」

ココア「野崎くんが、更衣室の場所を知りたいって言ってたんだけど……」

千代「わっ!?」

御子柴「お、おい、野崎!?」

チノ「!?」

ティッピー「!?」

千夜「まぁまぁ」

シャロ「ちょ、ちょっと!?」

リゼ「お、おい、ココア!?」


ココア「……漫画に必要なネタなら」

ココア「私が特別に、ここのマスターに聞いてもいいよ?」

野崎「何をだ」

ココア「野崎くんが、内部まで取材してもいいかって」

野崎「……」

ココア「それが野崎くんの漫画に、本当に役立つのなら」

野崎「……」


野崎「――それじゃあ」

野崎「今度、頼むよ。ありがとな、保登」

ココア「ふふっ、それじゃ今度何かおごってもらっちゃおうかな?」ニコニコ

野崎「原稿料から少し差し引く形で」

ココア「うわ、何かケチくさい……」ジトッ

野崎「文句があるなら、別にいいが」

ココア「嘘だよっ。期待してるよ」クスッ



チノ「……はぁ」タメイキ

ティッピー(チノ……)

リゼ「やれやれ……ココアのヤツは」

シャロ「あ、あの人、一体何者なんですか?」

千夜「ココアちゃんがあんな接し方するの、初めて見たわ……」

リゼ「ん、ああ。あの二人はな……」

御子柴「え? 幼なじみ?」キョトン

千代「う、うん……」

千代「小中学校が一緒だったんだって」

御子柴「ふーん……」

千代(野崎くん……ココアちゃん……)

千代(私――何だか凄く、落ち着かないよ)キュッ

千代(あの花火の日……野崎くんに、ほんのちょっとでも近づけたような気がしたのに……)モジモジ

御子柴(佐倉……)



――夜・ラビットハウス



ココア「それで、内部まで見学させてあげても」

ココア「いいですか?」

タカヒロ「……」

タカヒロ「ん、わかった」コクリ

タカヒロ「君が推す人なら、きっと間違いはないだろう」

ココア「ありがとうございます!」ニコッ

ココア「それじゃ、失礼します」ペコリ

タカヒロ「……ああ、一ついいかな?」

ココア「はい?」キョトン

タカヒロ「――その人は、君の『幼なじみ』ということでいいんだね?」

ココア「……はい!」

ココア「『腐れ縁』らしいですけどねっ」クスッ

ココア「それでは!」


タカヒロ「……」

チノ「お父さん……」ガチャッ

タカヒロ「ああ、チノ」

ティッピー「――よいのか?」

タカヒロ「……たしかに、お聞きした冷蔵庫の件などは少し引っかかりますが」

タカヒロ「やはり、娘の大切な人の頼みですし、ね」

チノ「コ、ココアさんは別に……」モジモジ

チノ「――ま、まあ、大切といえば大切ですね」

タカヒロ「……まぁ」

タカヒロ「あの子が信頼する人なら、きっと悪人ではないでしょう」

ティッピー「そうだったらいいのじゃが……」

チノ「……悪い人では、ないと思います」

チノ「――た、ただ」

チノ「ココアさんとは、凄く仲良さそうですけど……」キュッ

ティッピー(チノ……)



――その頃・野崎の部屋


御子柴『やった! 野崎、ついにTrueEndだ!』

野崎『お、それはよかったな……』

御子柴『ありがとな、野崎! 本当に恩人だ!』

野崎『――ところで、御子柴?」

御子柴『ど、どうした?』ピクッ


野崎『お前、あの二人とどういう……』

御子柴『べ、別に……どういうもこういうも、ね、ねぇよ!』カァァ

御子柴『そっちこそ、ギャルゲーみたいな関係作りやがって!』

御子柴『三人の美人なカフェ店員と親しいとか、何のギャルゲーだよ!?』

野崎『保登とは腐れ縁だし、荷風とも天々座とも、ちゃんと話したのは今日が初めてだ』

御子柴『……普通、初対面の女子と、名前まで使って会話なんてできねぇよ』タメイキ

野崎『普通、初対面の女子に、料理を運んでもらったりすることもないはずだが』

御子柴『あ、あれは――!』アセアセ

随分長くなってしまった。
タカヒロ(チノの父親)の口調がこれでいいのか、全くわかりませんが……
何にせよ、ここまでです。

みこりんが慣れない相手には格好つけたくなる、という特徴を書こうと思いましたが、いざ書いてみると難しい……
改めて、原作者の椿先生の上手さを感じました。

それでは、また。
「みこりんに春が来た」とありましたけど、たしかに……

チノ父は結構、歯に布着せぬ言い方するよ親父に対して




『Call him MIKORIN』




――ラビットハウス・ココアの部屋



ココア「……うーん」

ココア「朝、か……」


ココア(昨日は、楽しかったなぁ……)

ココア(野崎くんや千代ちゃんが言ってた『イケメンさん』も見れたし)

ココア(話してみたかったけど、何だか――)

ココア(千夜ちゃんやシャロちゃんと仲良しさんみたいだったし……)


ココア「……着替えよっと」

ココア(そうだ、今日は野崎くんに……ラビットハウスを見学させてあげる予定だった)

ココア(準備……って、なにすればいいんだろ)

ココア(まあ、いいや)



――ラビットハウス・店内


ココア「おはようございまーす」ニコニコ

チノ「あっ、おはようございますココアさん」

ココア「おはよう、チノちゃん!」ニコッ

ティッピー(ココア、随分早いな……)

チノ「随分、早起きですね」

ココア「早起き? ああ……」

ココア「今日、野崎くんたちが見学する予定だし」

チノ「……」ハッ

ティッピー(!)

ココア「だから、何か準備しなきゃって……チノちゃん?」キョトン


チノ「……ココアさん」

チノ「今日、ラビットハウスはお休みですよ」

ココア「……?」

チノ「もう……」

チノ「普段の定休日に加えて、月に一度はお休みの日だって伝えましたよね?」

ココア「――あっ」

ココア「そ、そっか……メモしておいたはずなのに忘れちゃってたよ」

チノ「もしかして、野崎さんや千代さんにもお伝えしてないとか……?」

ココア「ないなぁ。今日も来るものだと思ってたし」

チノ「そう、ですか……」

ココア「それじゃ、野崎くんに伝えとかなきゃ」カチカチ

ココア「えっと、この前のアドレスは……まあ、後で教えればいっか」ピッピッ

チノ「……ココアさん、野崎さんのメールアドレス知らなかったんですか?」

ココア「あっ、うん」

チノ「ケータイなら、中学の頃には持っていたんじゃないですか?」

ココア「まあ、そうだったんだけど」

ココア「――なんでだろうね」

ココア「何だか聞くのが……うーん?」

ココア「やっぱり、どっかで恥ずかしかったのかもね」

チノ「!」

ティッピー「!」


ココア「何となく、聞かないまま」

ココア「転校しちゃって……」

ココア「落ち着いたような、落ち着かなかったような……」クスッ

チノ「ココアさん……」

ココア「あっ、ごめんねチノちゃん。変なこと言っちゃって」

チノ「い、いえ。気にしないでください」

ココア「うん、チノちゃんは優しいね」ニコッ

チノ「……」


チノ(ココアさんは気づいてるのかな)

チノ(野崎さんとの昔話をする時)

チノ(……私たちには、見せたことのない表情をすることに)

チノ(笑顔なのに、どこか照れくさそうな――)キュッ

ティッピー(……チノ)



――少し経って・浪漫学園



野崎「……ん」

野崎(メール――このアドレスは)

野崎(そうか、保登か……)カチカチ



件名:ごめんなさいm(__)m


今日、ラビットハウスはお休みだったよ(T_T)
取材は、また今度でいいかな?
(m´・ω・`)m ゴメン…


野崎(顔文字が多いな……)

野崎(思い返してみれば、保登とメールを交わすのは初めてか……)カチカチ

野崎「……送信、っと」ピッ




――同じ頃・ココアたちの通う高校


ココア「あっ」

ココア(返信……)カチカチ



件名:マミコより

べ、別に、あんたのパスタを食べたかったわけじゃないんだからね


ココア(――あれ、誰だっけこれ?)

ココア(野崎くん、だよね?)

ココア(……おかしな人だとは思ってたけど、ここまでだったんだ)カチカチ

ココア(よし、送信っと)ピッ

千夜「ココアちゃん、なにしてるの?」

ココア「あっ、千夜ちゃん」

ココア「ううん、大したことじゃないよ」

千夜「そう?」

ココア「『おかしな人は、やっぱりおかしなままだなぁ』って思っただけ」

千夜「……え?」キョトン



野崎「……ん?」


件名:ティッピーより

「野崎くんって、やっぱり変な人だね」
って、うちのマスコットが言ってたよ(笑)


野崎(何だか無性にムカつくな……)




ココア「そういえば」

ココア「千夜ちゃん、昨日ラビットハウスに来た人と……仲良しさん?」

千夜「え?」

千夜「……ああ、あの人ね」

ココア「知り合いじゃないの?」

千夜「ううん、偶然会っただけよ」

ココア「……なんだか、その割には凄く仲良さそうだったけど」

千夜「ああ、あれはね……」

千夜「シャロちゃんを助けてくれた人だったの」

千夜「で、『ラビットハウスを探してる』って言うから連れて行ったのよ」ニコッ

ココア「そうなんだ……」

ココア(さすが千夜ちゃん、あっさりと見ず知らずの人と知り合いに……)

ココア「――あれ? あの人の名前ってなんだっけ?」

千夜「あっ、そういえば……」

ココア「うーん……」

ココア(野崎くんや千代ちゃんが言ってたような……あっ)

ココア「みこりんさんっ」

千夜「あっ、そうそう! みこりんさんだったわ」

ココア「珍しい名前だよねっ」クスッ

千夜「可愛らしい名前よね」クスッ




――その頃


御子柴「……ヘクチッ!」

御子柴(くしゃみ……)

御子柴(誰かが噂してたりするのか……?)

御子柴(ギャルゲーじゃあるまいし……)




千夜「ね、ココアちゃん?」

ココア「?」

千夜「昨日のあの人、ココアちゃんの……えっと」

千夜「お友達、なの?」

ココア「……ああ、野崎くんのこと?」

千夜「『野崎さん』っていうのね」

ココア「うん」

ココア「えっと……友達っていうよりは」

ココア「知り合い? いや、そうでも――うーん」

千夜「……幼なじみかしら?」

ココア「うん、そうかもっ」ニコッ

千夜「……」


千夜(聞いてみたものの)

千夜(昨日、リゼちゃんから教えてもらっていたことだった)

千夜(『ココアちゃんは、野崎さんという人の幼なじみ』ということは)

千夜(そのことについて話すココアちゃんは――)


ココア「全然変わってなくて、ビックリしちゃうけどね」クスクス


千夜(――いつものように笑顔を浮かべているけど)

千夜(それが、『いつも』とは何だか違うように思ったり……)

ココア「どうかした、千夜ちゃん?」キョトン

千夜「……あっ」

千夜「う、ううん、なんでも!」




――同じ頃・リゼたちの通う高校



リゼ「……うーん」

リゼ(やっぱり……野崎の周りがどうも気になる)

リゼ(今日はバイトは休みだが……なんだろう、何が引っかかるんだ?)

リゼ「……あっ」

シャロ「あっ」


シャロ「リ、リゼ先輩っ」アセアセ

リゼ「シャロか……」

シャロ「ああ、朝からリゼ先輩とお会いできるなんて……」モジモジ

リゼ「……」


リゼ「なぁ、シャロ?」

シャロ「? どうかしました、リゼ先輩?」キョトン

リゼ「――昨日」

リゼ「一緒にいた、えっと……」

リゼ(なんだっけ、名前名前……)


リゼ「みこりんとやらは、一体どういう人なんだ?」

シャロ「みこ、りん……」

シャロ「あっ! もしかして、Yシャツ開けっ放しにしてた人ですか?」

リゼ「う、うん……そうだな」

シャロ「そういえば、みこりんって呼ばれてましたね」

リゼ「みこりん……か」



――その頃


御子柴「……ヘクチッ!」

御子柴(さっきからのくしゃみ……なんだか、むず痒いような)

御子柴(むず痒くなるのは、ギャルゲーだけで十分だってのに……)



シャロ「い、いや……えっと」

シャロ「私が路地裏で、不良ウサギに絡まれてる所をですね、その……」

シャロ「助けてもらった、といいますか……」

リゼ「ああ。以前、私がシャロを見つけた場所か」

シャロ「そうですっ」

シャロ「一瞬だけ、あの時のリゼ先輩みたいに……」

リゼ「……シャロ?」

シャロ「い、いや、なんでもないですっ!」アセアセ

リゼ「そ、そうか」

シャロ(怖がっている時に私を助けてくれたのはリゼ先輩だった)

シャロ(そっと手を差し伸べて、大丈夫かとキリッとした表情をしながら、気にかけてくれた先輩……)

シャロ(……あの人はリゼ先輩と違って、何だかぎこちなかったっけ)クスッ

リゼ(シャロ……笑ってる?)


――同じ頃・チノたちの通う中学


マヤ「でね、チノ。昨日、ヘンタイな人を見たんだよ」

チノ「ヘ、ヘンタイさん、ですか?」

マヤ「うんうん、それがね……」

メグ「えっと……オタク? の人たちがいるようなお店で」

メグ「フィギュアを、こう……ジーッと」

マヤ「なんだ、メグも結構しっかり見てたんじゃん」

メグ「あ、あれはっ! マヤちゃんを止めないとって思ったから……」アセアセ

マヤ「ふーん……」ニヤニヤ

メグ「わ、笑わないでよぉ……」カァァ


チノ「まあ、何にしてもヘンタイさんなのはいけないことだと思います」

メグ「そ、そうだよね。チノちゃんの言うとおりっ」コクコク

マヤ(メグ、まだ照れてる……)

マヤ「まあ、そうなんだけどさ。私たちが気になったのは――」


マヤ「そのヘンタイさん、すっごくイケメンだったんだよね……」


チノ「イケ、メンさん……」

チノ(一体、誰でしょうか……?)

チノ(思いつきそうで思いつきません……)アレ?

メグ「う、うん。ピアスも付けてたし髪も……染めてた、のかな?」

マヤ「地毛かもしれないけど、それにしては派手だったもんね……」

メグ「うん。あと、あの髪型とか、何かワックス? っていうの付けてそうっ!」

チノ「……そ、そうだったんですか」


チノ(あっ、まずいです。結びついちゃったような気がします……)アセアセ



――その頃


御子柴「……なぁ、野崎? さっきからくしゃみが止まらないんだけど、どうしてなんだ?」ゴホゴホ

野崎「漫画だったら、誰かに噂されている場面と断定できるが……」

千代「……みこりん、何かダメなことしちゃったんじゃないの?」

御子柴「し、してねぇよっ!」

千代「女の子相手とかに」

御子柴「……し、してないはずだ。多分」アセアセ

千代(一気にトーンダウンした……)

野崎(御子柴……またギャルゲーの攻略でミスしたのか……)タメイキ

今回はここまで。
ごちうさ側から見た野崎たち、というコンセプトでした。

その中で、多少なりともシリアスに神子柴を描いてみようとしたら、タイトルに表れた通り結局みこりんのままでした。
というわけで、ただでさえ薄い予定だったシリアス要素は霧消した次第です。

次回で、野崎側の参加キャラが増える予定です。
それでは。


>>3
本当に今更ですが、☓野崎先生→○夢野先生でした。

>>64
ご指摘ありがとうございます。
再度書く時に修正して、おそらくタカヒロが別人のようになると思います。




『男には、買わねばならない、時がある。』



――木組みの家と石畳の街


結月「いやー、いつ来てもこの辺りは……」

結月「――どこだよ?」

若松「俺に聞かないで下さいよ……」

結月「いやいや、若には期待してないって」

結月「……うーん、どう考えても日本じゃない」

若松「きっと、みんな瀬尾先輩みたいな反応するんでしょうね」

結月「ん? バカにしてんの?」ジトッ

若松「何でそうなるんですか!」


若松「まったく……」タメイキ

若松「そもそも俺は今日、一応練習あったんですよ!」

若松「どうして瀬尾先輩に付き合わないといけないんですかっ!」

結月「……へぇ」

結月「いやぁ悪いね若、『付き合わせ』ちゃって」ニヤッ

若松「意味深に笑わないでくださいよ……」


結月「まぁ、いいじゃん?」

結月「予備練の日に誘った私に感謝しても……」

若松「感謝する要素がどこにあるんですか……」

結月「あっ、わかった!」ポンッ

結月「あたしが『おごる』っていうのを撤回したから恨んでんだろ?」

若松「恨まないほうがおかしいですよ!」

若松「そもそも、『全額おごる』っていうから、『それなら……』ってことで付いてきたのに!」

結月「いやー、ごめんね? 財布がちょっとピンチで……」

若松「……分かってました、瀬尾先輩がそういう人だって」ハァ

結月「あはは、照れるなー」ニコニコ

若松「照れる所じゃないですよ……」




――その頃



青山「……あら」

青山(随分、賑やかな……)

青山(カップルさん、でいいのでしょうか)

青山(仲睦まじいことで、なによりです)クスッ


青山(……こちらにも)



御子柴「……」ジーッ

御子柴「――あぁ」

御子柴「ごめんな……」

女性店員「あ、あのー……お客様?」


青山(異性に触れる、殿方の姿が――)



御子柴「お前のこと、攻略してやれなくて……」

女性店員「で、できればお買い上げの方を……」



青山(――そろそろ帰って、原稿を書かなくてはっ!)ダッ




――フィギュアショップ



御子柴「……」

御子柴(何だか今、視線を感じたような気がしたけど……)

御子柴(まぁ、気のせいだったか)


御子柴「……」

御子柴(俺は――俺は、一体何をしてるんだ?)

御子柴(こんな所で、ずっとコイツのフィギュアを手にとって……)

御子柴(……恥ずかしくないのかよ!)




御子柴(コイツを幸せにしてやれないことが……!)



マヤ「あっ、今日もいるね……」

メグ「わ、私……何だか恥ずかしいよ」モジモジ

マヤ「うん……見てる私たちも恥ずかしいのに」

メグ「は、恥ずかしくないのかな……」カァァ

チノ「」


チノ(いざ、目の当たりにしてみると……)

チノ(ものすごいまでの破壊力があります……)クラッ

チノ「……」スッ

マヤ「あっ、チ、チノ!?」ビクッ

メグ「チノちゃん!?」アセアセ


御子柴「……」

御子柴(何だか声がしたような気もしたけど――)

御子柴(それどころじゃない……そうだ、俺はコイツを)

御子柴(値札は……高い、高すぎるっ!)

チノ「あのー……」モジモジ

御子柴「ひゃっ!?」ビクッ



マヤ「ひゃって……」

メグ「――もしかして、女の人?」

マヤ「メグ……冗談だよね?」

メグ「そ、そうに決まってるよぉ」


御子柴「――お、おどかさないでくれよっ」

御子柴「というか……」

チノ「?」キョトン

御子柴「誰だ?」

チノ「――えっと」アセアセ

チノ(そうだ、千代さんが言ってました)ポンッ

チノ(えっと……あの可愛らしい名前の)


チノ「こんにちは、『みこりん』さん」

御子柴「」

マヤ「み、みこりん……?」

メグ「それって――えっと、偽名とかじゃなくて?」

チノ「はい、間違いありません」

チノ「この方のお名前はみこり――」

御子柴「……俺はみこりんじゃねえ」ボソッ

チノ「……え?」

メグ「ま、まあ、そうだよね……」

マヤ「仮にもこんな、えっと……イケメンが、そんな名前のはずが」



御子柴「か、勘違いしないでくれよ……まったく」カァァ



チノ「」

メグ「」

マヤ「」


チノ(――この方は)

メグ(や、やっぱり……)アセアセ

マヤ(ふ、二人とも! この人は男だからっ!)アセアセ

マヤ(男……のはず)チラッ


御子柴「……あっ」

御子柴(まずい――何だかよくわからないけど)

御子柴(佐倉よりちっこい女の子たちを困らせてる!?)ガーン

御子柴「……まったく」

三人「!?」ビクッ

御子柴「こんなキケンな場所は」

御子柴「可愛い子羊ちゃんたちの、来る所じゃねえんだよ……」

三人「」


マヤ(ど、どうしよう……ドン引きしてたのに)

メグ(今もちょっとこわいけど――凄く)

二人(格好いい……)

チノ(……はっ!)

チノ(み、見とれてる――いえ、見てる場合じゃありません!)ブンブン

御子柴「……ほら、分かったら、帰りな」

御子柴「食われちまう前に――」

チノ「い、いえ、違います、みこり――」

御子柴「……」グスッ

チノ「あっ」

御子柴「……俺は、みこりんじゃぁ」カァァ

チノ「――ごめんなさい、『御子柴』さん」

マヤ(あっ、戻った)ホッ

メグ(な、何だか安心したよ……)ホッ


チノ「……」

御子柴「?」

チノ(手に持っているのって……やっぱり)

御子柴(この子……どっかで見たことが)

チノ「えっと、ですね」コホン

チノ「――この近くに、ヘンタイさんがいると」

チノ「私の通う学校でお知らせがありまして」

マヤ(……それって、私じゃあ)

メグ(シッ! マヤちゃん!)


御子柴「……ふーん」チラッ

御子柴「まあ、それだったら気をつけた方がいいんじゃねえの?」チラチラ

御子柴「俺も変質者? は好きじゃねえしな」ジーッ

マヤ(うわ、手にフィギュア持ってるままで何か言ってる……)

メグ(話しながらお人形さん、見過ぎだよぉ……)カァァ

チノ「……」タメイキ


チノ「――みこり、いえ、御子柴さん」

チノ「とりあえずですね、ええと……」

女性店員「そちら7900円になりまーす」

チノ「!?」

マヤ「え?」

メグ「な、ななせんきゅうひゃく……?」

御子柴「……あの」

御子柴「やっぱり高いですよね、これ。どう考えても」

女性店員「ええ……実はですね、お客様」

女性店員「最近、摘発が厳しいのってご存知でしょうか?」ニコッ

御子柴「摘発……」

マヤ(てきはつ……?)

メグ(えっと、漢字で書くと……えっと)

チノ(て、てきはつ……?)←中学生組、全員意味が分からず


御子柴「ど、どうして俺が摘発なんて……」←高校生の面目躍如?

女性店員「今、お客様は、可愛らしい女子中学生を『三人も』囲っておられます」

御子柴「」

マヤ(かこう……?)

メグ(ど、どんな漢字だったかな?)

チノ(囲う……?)←漢字は分かるも意味が分からず


女性店員「で、連日やって来ては、そちらをずっとご覧になっているお姿には」

女性店員「感銘を受けると共に、そろそろお買い上げいただきたいな、と……」ニコニコ

御子柴「……え、えっと」

女性店員「店長ー、110番を-」

御子柴「ごめんなさい、この諭吉で……」



――店外



女性店員「ありがとうございましたー!」

御子柴「……ど、どうも?」

マヤ「……」

メグ「……」

チノ「……」

女性店員「――」チラッ

女性店員「やっぱ、イケメンは違うね」ボソッ

御子柴「はい?」

女性店員「いえいえ、なんでもないですよー?」

女性店員「それでは、今後ともご贔屓をー!」ペコリ

御子柴「??」キョトン

御子柴「……え、えっと」

マヤ「……」

メグ「……」

御子柴(うっ、無言のまま、睨みつけられてる……!?)

チノ「――みこり、いえ、御子柴さん」

チノ「そ、それは……ご趣味、だったのですか?」アセアセ

御子柴「……」

御子柴「ふっ」

御子柴「子どもには分からない『嗜み』っていうのが、あるんだよ」

マヤ「この前、うちのクラスの男子が持ってきてたよね……えっと、フィギュア」

メグ「う、うん……」

御子柴「」


チノ「……まあ、何にしても」

チノ「みこ、いえ、御子柴さんが――」

御子柴「さっきからのは、わざとか、わざとなのか……?」グスッ

チノ「……け、決して、そんなことは」アセアセ

チノ「――みこりんさん」

御子柴「な、何だか無性に恥ずかしい……」

チノ「で、でも、千代さんは、みこりんって」

御子柴「あ、あいつは、『特別』なんだよ!」

チノ「……え?」

マヤ「とく、べつ……?」

メグ「そ、それって……」


御子柴(――ああ、そうだ)

御子柴(佐倉の近くにいると、なんかこう……落ち着くっていうか)

御子柴(……何だか、自然体でいられるんだよな)

マヤ(や、やっぱり、この人……)

メグ(お、大人、なのかな……)

チノ(――千代さんが、みこりんさんの『特別』……?)←もはや改めることを諦めた

チノ「そ、それは……いわゆる」

チノ「こいびt  「佐倉は、俺と一緒にゲーム鑑賞もしてくれるんだ」


チノ「」

マヤ「ゲ、ゲーム……?」

メグ「ああ、最近流行ってる『何とかブラザーズ』とかかな?」

チノ(どうしてでしょう、恐らくメグさんが思っているのとは間違いなく違う気がしてなりません)

御子柴「いいだろ? 俺が攻略してると、右から佐倉が『ここ、こうした方がいいんじゃない?』とかさ」

マヤ「へぇぇ……」

メグ「隣からゲームのアドバイス……うん、それは『特別』な人かも」

チノ(どうしてでしょう、間違いなくメグさんが思っているのとは違う気がします)

御子柴「……まぁ、だから」

御子柴「佐倉は『特別』だよ。でも」

御子柴「それ以上じゃ、ねえって」

チノ「!」


御子柴「……それじゃ俺は、そろそろ帰るから」クルッ

御子柴「子羊ちゃんたち? 帰り道には狼に襲われんなよ」

御子柴「変質者なんて……悪魔にやられないようにな」

御子柴「――」プルプル

御子柴「さ、さよならっ」ダッ


マヤ「……」

メグ「……」

チノ「――い、行きましょうか」

マヤ「け、結局、あの人何者だったの?」

メグ「うーん……何だか悪い人じゃないみたいだったけど」

マヤ「うん、それは私も思った」コクッ

チノ「……」

チノ(――みこりんさんにとっての『特別』)

チノ(果たして野崎さんにとっては……)


マヤ「チノ? そろそろ帰ろうよ」

メグ「あっ、あの公園のクレープ、そろそろ終わっちゃうかも」

チノ「……そうですね。いきましょうか」

マヤ「はぁ……何だか色々思ったけど」

メグ「――ま、まあ、面白い人だったよね」

マヤ「それはそうだねっ」


チノ(――何か、引っかかりますね)モジモジ



――その頃


結月「……あれ」

若松「? どうしたんですか?」

結月「ここ――今日、休みじゃん」

若松「……マジですか?」

結月「うん、大マジ」コクコク

若松「全然、驚いてなさそうですね……」

結月「まあ、そうと決まれば……」

結月「ラビットハウスじゃなくてもいいや。別の店、探すかな」

若松「……見つかるんですか?」

結月「へーきへーき! 私を信じなって」ニコニコ

若松「信じてたら休みだったじゃないですか!」




――


御子柴「……」テクテク

御子柴「…」モジモジ

御子柴「・」アセアセ

御子柴(やべえ、滅茶苦茶恥ずかしい……)カァァ

御子柴(同い年の女子にああいう態度するのはキツいってのに……)

御子柴(あ、明らかに年下の女子に……ああああああ!)


御子柴「……帰ろ」

御子柴(とりあえず、袋の中にはさっきのフィギュア)

御子柴(――まあ、買う踏ん切りをつけてくれただけ、さっきの三人には感謝した方がいいのかも)

御子柴(……財布がピンチだけど)タメイキ


御子柴「……ん?」ピタッ

御子柴(適当にぶらつきながら帰ろうと思っていたら……)

御子柴(目の前に、店があった)

御子柴(いつの間にか、ここに流れ着いてたのか……)


御子柴「――ん?」

御子柴(看板が……なになに?)

御子柴(って、なんだこのウサミミ!?)ビクッ

御子柴(もしかして……メイド喫茶とかいう奴じゃ?)アセアセ

御子柴(いやいや、俺にはメイド趣味は――)ハッ

御子柴(袋に入っているコイツは――)

御子柴(メイドだったじゃ、ないか……!)


御子柴「よし、いこう」グッ


――


結月「……お」ピタッ

結月「さすが私。何か見つけちゃったよ?」

若松「……あれは?」

結月「さあ?」

若松「……」

若松「まあ何にせよ、お店らしい所を見つけられましたし、よしとしましょう」

結月「……何か若、疲れてる?」

若松「当たり前じゃないですか!」




――


御子柴(えっと、なになに……名前は、なんだこれ)

御子柴(『Fluer de Lapan』……え、英語じゃねえよな?)

御子柴(えっと、なんだなんだ――)ケータイカチカチ



――


結月「えっと、名前は……」

若松「『甘兎庵』……かんとあん?」

結月「あのさ、若? まさかマジで言ってる?」ジトッ

若松「本気ですよ!」

結月「……あのね、若?」

結月「もう高1だろ? 漢字くらい読めるようになろう?」

若松「どう考えても漢字テストの問題にはなりませんよね……」タメイキ

結月「いいか? この名前はだな――」





――




御子柴「……『フルール・ド・ラパン』?」





――




結月「『あまうさあん』だよ。ほら、私を敬え敬え」ニコニコ

若松「……ええ?」

もっとあっさりと済ませるつもりだった、みこりんパートが長くなってしまいました。
書いてたら、自然と長くなってしまうので仕方ないと思いました。
一番、筆が乗るキャラですね……。
結月と若松も書いてて楽しかったです。勿論、チマメ隊も。

次回、野崎陣営とごちうさ陣営の誰と誰が絡むのかは、説明不要かと思います。
漠然とした予定の上では野崎くんと千代ちゃんも出る予定ですが……どうなるかは、その時次第ですね。
それでは。

いずれ、堀ちゃん先輩たちも出る予定です。



――フルール・ド・ラパン


御子柴「……」

御子柴(見た感じ、普通の喫茶店か……)

御子柴(なんというかもっと、い、いかがわしい? 感じを想像してたんだけど……)モジモジ

御子柴(ま、まぁ、良かった――)



?「いらっしゃいませ、『ご主人様』!」ペコリ



御子柴「」

?「ようこそいらっしゃいました!」

?「さぁ、こちらのお席にどう……」ピクッ

御子柴「……」

?「ぞ……」

御子柴「――あ、あの時の」

シャロ「」

シャロ「――えっ」ハッ

シャロ「えぇ……?」カァァ

御子柴(金髪……)



御子柴「……」ソワソワ

シャロ「お、お冷、お持ちしましたっ」コトッ

御子柴「あっ、ど、どうも……」

シャロ「い、いえ……」モジモジ

二人「……」


御子柴(やべぇ、どうしよう……)

御子柴(入ったはいいものの、もう出てぇ……!)

御子柴(いや、無理もないよな? さっきから――)


シャロ「……はずかしい」カァァ


御子柴(目の前で、ずっと顔を赤くしてる女子を見てれば分かるだろ!?)

御子柴(どうしろってんだよ……まったく)


シャロ(この人の顔、凄く赤い……)

シャロ(――照れ屋さん、だなぁ)



御子柴「えっと……そうだな」

御子柴(なるべく安いのでいこう……財布がピンチだし)

御子柴(……ピンチなのに、何で飲食店に入ったんだろ、俺)

御子柴「あー……この、『オムライス ~トッピング付き』でお願いします」

シャロ「……え?」

御子柴「……あっ」

シャロ「か、かしこまりました!」ペコリ

シャロ「そ、それではっ!」

御子柴「……」


御子柴(やべぇ……)

御子柴(さっきのちびっ子たちとやり合ってたら、疲れて)

御子柴(小腹が空いてたからって……かなり高額なのを選んじまった!)カァァ

御子柴(……ああ、今月は一本、ゲーム減らさなきゃ)

御子柴「に、しても……」

御子柴(トッピングって、何だ……?)




――裏方



シャロ「……」

シャロ(ト、トッピング付き……)

シャロ(こ、これって、や、やらなきゃいけないのよね……?)アセアセ

シャロ(嘘でしょ……)

店長「あぁ、お客さんが来てくれたか」

シャロ「て、店長!?」ビクッ

店長「あぁ、桐間さん。お疲れさん」

シャロ「お疲れ様です」

店長「……一つ、頼みがあるんだが」

シャロ「?」

店長「今日は、客が来てないな」

シャロ「え、えぇ……そう、ですね」

店長「――そこでだ。あのお客の位置を――」



――店内



御子柴「……」

シャロ「……あ、あのー」

御子柴「……あっ」

シャロ「え、えっと……」モジモジ

御子柴「……」


シャロ(な、何て切り出せばいいの……)

シャロ(というか、今日ほど、この姿が恨めしく思った日はないわよ……!)カァァ

シャロ(知り合いの――し、しかも、男の人に見られる、なんて!)

御子柴(……やっぱり)

御子柴(この服装まで――袋の中にいる『あいつ』と似てる……)

御子柴(な、何なんだ一体……!)


シャロ「そ、その、ですね……」

シャロ「そちらのお席に移動していただけないかなー、って」

御子柴「……? 窓際に?」

シャロ「は、はい」

御子柴「……」ジッ

シャロ(わっ、こ、こっち見てる……!)アセアセ

シャロ(なんだろう、ホントに落ち着かないわ……!)

御子柴(このカチューシャまで……)

御子柴(まるで、この袋に入ってるあいつに……)

御子柴(――嘘だろ?)


御子柴「そういうことなら」

シャロ「……あ、ありがとうございます」

御子柴「い、いいって」

御子柴「――可愛いレディーを困らせるなんて、できっこないぜ」

シャロ「」

御子柴「……あ」ハッ

御子柴(やばい――照れ隠しに、つい……!)カァァ


シャロ「そ、それでは」ペコリ

シャロ「ま、またのちほど……」

御子柴「あ、ああ……」

御子柴「……」

シャロ「……」


二人(恥ずかしい……!)カァァ



――少し経って


御子柴「……」

御子柴(この時間帯は、あまり客も来ないのか……)

御子柴(昨日行った、えっと……ラビットハウスだっけを思い出すな)

御子柴(――とはいえ)


店員「いらっしゃいませー!」

男性「あっ……ど、どうも」


御子柴(男の客は、さっきから少しずつやって来てはいるみたいだけど)

御子柴(……やっぱりここ、女性受け、あまりしないのか?)

シャロ「お、お待たせしましたっ」

御子柴「あっ、どうも……」

シャロ「オムライスです!」コトッ

御子柴「あ、あぁ……」

御子柴「どうもありがと 「トッピング付きです!」


御子柴「……」

シャロ「……ト、トッピングです」カァァ

御子柴(そういう彼女の手にはケチャップ)

御子柴(……まてよ? これ、前にギャルゲーで見たことあるぞ?)

御子柴(そうだ、この後で……)


『べ、別に、あんたのために書くんじゃないんだからねっ!』


御子柴(――や、やっぱり、それか!)アセアセ

シャロ「……い、行きます」

御子柴「い、いや! ちょ、ちょっとタンマ!」

シャロ「?」

御子柴「……えっと」

御子柴「さ、さっきから、その……手が震えてるし」

御子柴「む、無理しないでくれ……」

シャロ「……あ」ハッ


シャロ「も、申し訳ございません、ご主人様!」

御子柴「……そ、その、ご主人様もやめてくれぇ」

御子柴(恥ずかしさで死にそうだ……)

シャロ「……あっ、そ、そうですか」

シャロ「それでは、えっと……」

シャロ(――そうだ! さっき、リゼさんと話した時の……)



シャロ「み、みこりんさん……」

御子柴「」

シャロ「それでは、書かせて頂きますね」

シャロ「えっと……」

御子柴「……お、俺は」

シャロ「?」


御子柴「み、みこりんじゃ……」カァァ

シャロ「」


シャロ(……さっきから思っていたけど……)

シャロ(この人――もしかして)


御子柴「みこりんって、さっきも言われたんだけどなぁ……」

シャロ(――女の人?)

シャロ(い、いや、まさか……どう見ても男だし)

シャロ(――気のせい、よね?)


シャロ「……え、えっと」

シャロ「それじゃ本名は……何ていうんですか?」

御子柴「……あ」

御子柴「み、御子柴です。御子柴実琴」

シャロ「みこ、しば……」

シャロ「――ああ」

シャロ(リボンを付けた人が何度も「みこりん」ってよぶものだから)

シャロ(インパクトが強かったわけね……そっか、みこしば……)


シャロ「……みこりんさんで、いいですか?」

御子柴「」

シャロ「な、何だか、そっちの方がしっくりくるもので……」

御子柴「……俺は」

シャロ「ダメ、ですか?」モジモジ

御子柴「――う」


御子柴「……わ、わかったよ」

御子柴「みこりんで、いいって……」

シャロ「あ、ありがとうございます」

シャロ「――えっと、私は」

シャロ「桐間紗路っていいます……」

御子柴「……桐間、か」

御子柴「わ、わかった」

シャロ「――えっと」

シャロ「ここをこうして……」

御子柴「……あ」

シャロ「そ、それでは!」ダッ

御子柴「あっ!」

御子柴「……」

御子柴(驚くほど、早く書かれたな……)

御子柴(オムライスの上にケチャップで書かれたのは――)



『ありがとう』



御子柴「……」

御子柴(ありがとう、か)

御子柴(あの時のこと、なんだろうな……)


御子柴「いただきます……」

御子柴(ん、うまい……)モグモグ

御子柴(――でも)


御子柴(それ以上に恥ずかしくて、味がよくわからねぇ……!)カァァ




――裏方



シャロ「……ああ」

シャロ(本当に照れちゃった……)

シャロ(というか、まさか私のバイト先に来るなんて思ってもなかった)

店長「お疲れ」

シャロ「あっ、店長」

店長「……そろそろ、効果は出始めるみたいだよ」

シャロ「……え?」キョトン



――店内


御子柴「……あれ?」


女性A「こんにちはー!」

女性B「わっ、初めて入ったけど……良さげな雰囲気」

女性C「あっ、この人よ!」

女性D「わぁ、イケメン……」


御子柴「」


シャロ「い、いらっしゃいませー!」

シャロ「お客様方、こちらのお席にどうぞー!」


御子柴「……え?」

女性A「あら、ありがと。それにしても」

女性B「凄いイケメンね……」

女性C「外から見えた時の直感は間違ってなかったわね」

女性D「……ほ、ホントにかっこいい」


御子柴「……お、俺!」

御子柴「そ、そろそろ、出るから!」

御子柴「ここに漱石置いとく!」

シャロ「え!?」ビクッ

御子柴「さ、さよならっ!」ダッ


シャロ「そ、それじゃ……ええと」

シャロ(あれ? 私、何言おうとしてるんだろ」

シャロ(……ここから、みこりんさんがいなくなることが何だか……凄く)



御子柴「……ま、また、来るからっ!」



シャロ「!」

御子柴「だ、だから……」

御子柴「ごめんっ!」カァァ

シャロ「……あっ」



シャロ(そう言って、みこりんさんはいなくなった)

女性A「いやー、やっぱり……」

女性B「イケメンは違うわねぇ」

女性C「……たしかに、最後まで」

女性D「か、かっこよかったね」


シャロ「――あ」

シャロ「お、お客様方! ご注文は……」


シャロ(――みこりんさん、ごめんなさい)

シャロ(……また、いつかお会いしましょう)




シャロ(その、時は……)



シャロ「お客様、お待たせしました――」




シャロ(ちゃんとお話ししたいと、思います……)カァァ

ここまでです。
次回は甘兎庵での予定です。

みこりんとシャロの再会でした。
照れるみこりんと照れるシャロ……結局、両者は似たもの同士?
一応補足しておくと、みこりんを窓際に配置させておくことで外からみこりんの姿を見た
女性がつられて入ってきたという感じです。
本当にそこまでのイケメンなのかどうかはともかく……「みこりんだったらそうなるかも」と納得して
頂ければ幸いです。

それでは。




――甘兎庵



千夜「いらっしゃいませー」ペコリ

千夜「二名様ですか?」

若松「はい、二人です」

千夜「それではこちらにどうぞ!」

結月「ありがとございまーす」

千夜「いえいえ」ニコニコ

結月「……」


結月「若、どう思う?」

若松「えっと……って、メニューがないですね」

若松「ああ、店員さんが持ってくる仕様か――」

結月「いや、注文じゃなくて」

若松「……飲食店に来て注文じゃないって」

結月「いや、それよりも大切かもしんない」

若松(何を言ってるんだ、この人は……)タメイキ


千夜「お冷、お持ちしました」コトッ

若松「あっ、ど、どうも……」

千夜「いえいえー」ニコニコ

結月「……」


若松「あ、あの」

千夜「はい?」

若松「メニューがなくて……その」

千夜「――あ」

千夜「ごめんなさい、うっかりしてました」アセアセ

若松「い、いえいえ……」

千夜「ごめんなさい……ありがとうございます」ニコッ

結月「……」


千夜「それでは、ただいま」クルッ

結月「ちょっといいですかー?」

千夜「はい?」キョトン

結月「店員さん――」


結月「凄く可愛いっすね」


千夜「……??」

若松「!?」

若松(せ、瀬尾先輩、何を言ってるんだ!?)

千夜「……え、えっと」

千夜「申し訳ありません、お客様」コホン

千夜「嬉しいのですが……当店には、値引きのサービスはございませんので」ニコッ

若松(わっ、大人の対応……)

結月「いやいや、大丈夫ですって」

結月「素直に可愛いって思っただけなんで、はい」

千夜「……そう、ですか」


千夜「それでは今、メニューをお持ちしますので」

千夜「少々、お待ちください」ペコリ

若松「は、はい。ありがとうございます」

千夜「それでは……」

結月「……」


若松「……せ、瀬尾先輩。何を」

結月「若。ちょっと行ってみる?」

若松「……え?」




――暖簾の奥



千夜「……」


――凄く、可愛いっすね――


千夜「……可愛い」ボソッ

千夜(あ、ダメ……顔が、赤く)カァァ

千夜(不意打ちは苦手なのに……)

千夜(い、いや! 嬉しいのは本当よ!)ブンブン

千夜(……で、でも)アセアセ

千夜「ああ……」タメイキ


結月「店員さーん」

千夜「!?」ビクッ

若松「ご、ごめんなさい……この人が勝手に暖簾を」

結月「え? 若も一緒に来たんだから連帯責任っしょ?」ジトッ

若松「……うう」


千夜「……あ」ハッ

千夜「い、いえ。お気になさらず」

千夜「ど、どうかされましたか?」モジモジ

若松(……声が裏返りっぱなしだ)

結月「えっと、トイレの場所はどこかなーって」

千夜「あ、それはですね……そこをこう行って」

結月「あ、そうだったんすか。ありがとうございます」

結月「それじゃ、失礼しまーす」ペコリ

若松「……えっと」

結月「ほら、若。戻るよ」

若松「せ、瀬尾先輩……わかりました」


千夜「……」

結月「あ、店員さん」

千夜「は、はい?」

結月「さっきの言葉、撤回しますね」

千夜「……?」

結月「『めちゃくちゃ』可愛いっすね」ニコッ

千夜「」

若松「……瀬尾先輩」タメイキ



――席に戻って


若松「……店員さんが可哀想ですって」

結月「いやいや。若は私を責められないだろ?」

若松「うっ……」

結月「いや……『可愛い』って思った相手には」

結月「私、素直に言っちゃうみたいだからさー」クスクス

若松「……はぁ」

結月「まあ、逆のこともはっきり言っちゃうみたいだけど」ニヤッ

若松「いや、それはやめてくださいって!」


千夜「メニュー、お持ちしましたー」

若松「あっ、店員さん……」

千夜「どうぞ」

若松「ど、どうも……」

千夜「そちらも、どうぞ」

結月「お、ありがとございまーす」

千夜「えぇ……」ニコッ

若松(うわ、手が震えてる……)

若松(表情は元に戻って、立ち居振る舞いもキッチリしてるのに……手だけが)

結月「あ、店員さん。かわい――」

千夜「!?」ビクッ

結月「――あ、違う。注文、いいっすか?」

千夜「……あ」

千夜「は、はい。どうぞ……」モジモジ

若松(店員さん……気の毒に)



結月「んー……」

千夜「いかがなさいました?」

結月「――えっと」

結月「なんというか……凄いネーミングっすね」

千夜「あっ……どうもありがとうございます」パァァ

若松(多分、というか間違いなく瀬尾先輩は褒めたわけじゃない……)

若松(意外と天然さんなのか……?)



結月「それじゃ、私はこれで――」

若松「あっ、俺はこれで」

千夜「承りましたっ! ありがとうございます」

千夜「それではお作りしますので少々お待ちください」ニコッ


結月「――結局、何を頼めばいいのか分からなかったな」

若松「そ、それは同感です……」

結月「というかこれ、解読できる客はいるのか」

若松「えっと……」



結月「まあ、それはいいや」

結月「若。唐突なんだけど」

若松「瀬尾先輩が唐突じゃない時なんてありましたっけ……?」

結月「さっきの店員、いくつだと思う?」

若松「え、さっきの店員さん……?」

若松「うーん……」

若松「高3くらい、ですかね?」

結月「へぇ、理由は?」

若松「……え、えっと」

若松「なんというか」

若松「俺はもちろん……瀬尾先輩より年上っぽいイメージが」

結月「なに、若? 私に喧嘩売ってる?」ジトッ

若松「い、いや! そうじゃなくて!」

若松「動揺した後で、あんな風に落ち着けるのって……そうそう難しいと思いますし」

結月「なるほど……たしかになあ」


結月「いやさー、実は私は大学生だと思ってるんだよねー」

若松「俺の言ったのより年上じゃないですか……」

結月「いや……同性だから何となく分かるんだけどさー」

結月「あんな風に、焦った後ですぐに立て直せるのって……高校生じゃ難しいんじゃないなーって」

結月「で。実は、私も年上……それも大学生じゃないかなって思ったんだよ」

若松「……『喧嘩売ってる?』ってセリフの意味は?」

結月「いやー……なんとなく?」

若松「はぁ……」タメイキ


結月「んじゃ、若? あんたは『高3』、あたしは『大学生』」

結月「ってことで賭けってことにしよっか」

若松「い、いやいや! 何勝手に決めてるんですか!」

結月「んー……まあ」

結月「私、勝つ自信あるから、若には負けてもらおうかなーって」

若松「瀬尾先輩はホント酷いですね……」

結月「んー?」ニコニコ

若松「……うう」


千夜「おまたせしましたー! ご注文の、『千夜月』と『トワイライト・オーシャン』になります!」

結月「あっ、どーも」

若松「あ、ありがとうございます」

千夜「ごゆっくりお召し上がりください」

千夜「それでは――」

結月「あ、店員さん。ちょいとお待ちを」

千夜「は、はい?」ビクッ


結月「――その」

結月「いくつ、なのかなーって」

若松(瀬尾先輩、ストレートすぎる……)ハァ

千夜「……あ」

結月「いや、さっき初めて会った時から」

結月「大人っぽいなー、憧れちゃうなー、って思ったもんで」

若松(嘘だ……明らかに棒読み口調じゃないか……)

千夜「……え、えっと」

結月「ああ、言いたくないのなら無理に言わなくてもいいっすよ」

結月「私も同性だからわかるけど、人に年齢聞かれるのってなんかなーって感じですよねー」アハハ

若松(ここまで胡散臭さ満載のセリフも珍しいな……)


千夜「い、いえ。その心配は……」アセアセ

千夜「……私は」コホン


千夜「15歳です、高1です」ニコッ

結月「……高」

若松「一……」

千夜「はい」

結月「……」

若松「……」


結月「――嘘っすよね?」

千夜「いえいえ」

若松「俺と……同い年」

結月「……若、興奮すんなって」ジトッ

若松「な、何言ってるんですか、瀬尾先輩っ」

千夜「こうふん……?」キョトン

一旦、ここまで。
次回、甘兎庵での話の後編をやる予定です。
……野崎とココアの話を見たい方には申し訳ありません。
千夜も結月も、いざ書いてみるとなかなか描写が難しいですね。おそらく、捉え方を間違ってると思いますし。
照れる千夜を描こうと思ってはいたものの、いざ書いてみるとなかなか……

それでは。
野崎くん2期を待ちわびながら。

結月「ってことは」

結月「……私の後輩?」モグモグ

若松「瀬尾先輩、食べながら話すのは行儀が……」

千夜「……その、おいくつなんですか?」

結月「私ー? 高ニ」

千夜「あ、そうだったんですね」チラッ

若松「?」モグモグ


千夜「……そちらは?」

若松「あ、俺ですか。俺は高一です」

結月「そうそう。店員さんと同い年で、ちょっとこうふ――」

若松「先輩っ!」アセアセ

千夜「……へぇ」


千夜「……」ジッ

千夜(それじゃこのお二人は)

千夜(先輩と後輩、っていう関係になるのかしら)

千夜(……ふーん)


若松「お、俺は興奮なんて……」

結月「え? じゃあもしかして……相手は私?」

若松「ど、どうしてそうなるんですか!」


千夜(――カップルさん、かしら)クスッ


千夜「ふふっ……」ニコニコ

結月「? 店員さん、どーかした?」

千夜「いえいえ」

千夜「――お客様も『可愛い』なぁ、と」クスッ

若松(!?)

結月「……へぇ」

若松(て、店員さん……もしかして、やり返した?)


結月「ありがとね、えっと……そうだ」

結月「せっかく話したし、名前教えてもらってもいい?」

千夜「……わ、私のですか?」

若松「いや、どうしてそうなるんですか……」

結月「なんだよ、若? お前、こんな可愛い店員さんの名前知らなくていいのか?」

若松「そ、それは……」モジモジ

結月「もしかして……若からすると、可愛くな――」

若松「そ、そんなわけないですって!」

結月「ほら、店員さん。この通り、男の若まで店員さんを『可愛い』って認めてるよ」

若松「!」

千夜「――あ」ハッ


千夜「……え、えっと」モジモジ

千夜「あ、ありがとうございます……」カァァ

若松(必死に赤くなるのを堪えてる……)

結月「ふふっ」ニヤニヤ

若松(というか、改めて瀬尾先輩って怖いな……)


千夜「……わ、私の名前、は」

千夜「千夜です。宇治松千夜、といいます」

若松「……宇治松さん」

結月「――名前まで綺麗だね」

若松「先輩……」


若松「あっ、俺、若松っていいます」

結月「下の名前は博隆だから、気に入ったら――」

若松「な、何言ってるんですか!」アセアセ

千夜「……なるほど、若松さんですね」

千夜「それでは、そちらは……」

結月「ああ、私? 瀬尾結月だよ」

千夜「瀬尾さん、ですか……」

結月「――結月、って呼んでくれてもいいよ?」

千夜「……え?」


結月「私、店員さん気に入っちゃったから」

結月「名前で呼んでくれちゃっても……」

千夜「そ、そういうことでしたら」モジモジ

千夜「え、えっと……ゆ、結月、さん」カァァ

結月「――おおう」

結月「可愛い……」

若松「先輩……俺、そろそろ店員さんが可哀想ですよ」

結月「なんだよ、若? 自分が名前で呼ばれないからって、ひがみ?」

若松「どうしたらそうなるんですかっ!」


千夜「……」

千夜(面白いお客様ねぇ……)

千夜(この時間帯、なかなかお客様は来なくて寂しかったけど……少し、楽しくなれちゃった)

千夜(嬉しいなぁ……)


結月「ああ、そうそう。そういえば、若」

若松「は、はい?」

結月「今日、学校で千代がラビットハウスに行ったって話してたんだけど」

千夜「!?」ピクッ

若松「う、うわっ!? う、宇治松さん!?」

千夜「――あ」

千夜「も、申し訳ありません」アセアセ

結月「……あ。いつの間にか、若が店員さんを苗字で呼んでる」

若松「そこツッコミどころになるんですか!?」


結月「まあ、いいや。ところで、千夜?」

千夜「……!」ハッ

若松(ごくごく自然に、名前で呼び始めた……)

結月「どうかした? 何かいきなりビックリしたみたいだけど」

千夜「……そ、それは」

千夜「千代さんというお名前を、どこかで聞いたような気がして」

結月「え? 千夜と千代の名前の響きがメチャクチャ似てるってだけじゃなくて?」

若松「何言ってるんですか……」

千夜「い、いえ。そうじゃなくて」


結月「――ってことは、千夜は千代のことを知ってるってこと?」

千夜「もしかしたら、なんですけど……」

千夜「その方、大きなリボンをお付けになってませんか?」

結月「ああ、そりゃ千代だね」

若松「……ホントに、それだけでいいんですか?」

結月「いいっていいって。千代といえばリボン、リボンといえば千代だから」

若松「佐倉先輩……」タメイキ

千夜「あっ、佐倉って苗字も聞いたことが……」

結月「あ、そりゃ間違いなく千代だね。確定確定」


結月「……ところで、千夜?」

千夜「は、はい?」

結月「私の千代と、どっかで会ったの?」

若松「いつから瀬尾先輩のものに……」

千夜「――それは」

千夜「ラビットハウスで、です」

結月「……ラビットハウス」

若松「って、今日俺たちが行こうとしてた」

千夜「あ、そうだったんですか」


結月「――いや、待てよ」

結月「ねぇ、千夜? その時、千代って誰かと一緒にいた?」

千夜「――ああ、そういうことなら」

千夜「とても身長が高い黒髪の方と」

千夜「赤髪でYシャツをはだけさせている方と、一緒に……」

結月「……あの三人か」

若松「今更ですけどあの先輩方、本当に分かりやすい特徴ですね……」

千夜「……もしかして、お二人の?」

結月「ん、ああ。あのロリコンとオタクなら、たしかに知り合いだよ」

若松「野崎先輩と御子柴先輩に謝ってください……」

千夜「まあまあ……」


結月「……それじゃ、千夜もあの三人と会ったんだ」

千夜「はい」

結月「でも、きっかけなくない?」

千夜「ラビットハウスには、私のお友達がいますから」

結月「いやいや。そうだとしてもさ」

千夜「――実は」

千夜「私の友達が、赤髪の人に助けられまして」

結月「え、マジ!?」

若松「御子柴先輩が……?」

千夜「ええ」

千夜「それで――友達が、あの方に恩返ししたいと」

千夜「で、私も一緒に恩返ししたんです」

結月「……あの御子柴がねぇ」

若松「たしかに、そこは少し意外ですね……」


結月「で、どうよ千夜? 惚れちゃった?」ニヤニヤ

若松「……瀬尾先輩、そろそろ宇治松さんが可哀想ですって」

千夜「いえ、お気になさらないでください、若松さん」

若松「……あ」ハッ

結月「あ、若が興奮してる」

若松「ち、違いますっ!」

千夜「……ゆ、結月さん」

結月「お?」ピクッ


千夜「たしかに、あの赤髪の方は、とても格好良かったです」

若松「た、たしかに……」

結月「御子柴が残念なのは中身で、外面は文句つけられないからなー」

千夜「でも――あの方が助けてくれたのは、私の友達ですし」

千夜「私は、そういう気持ちは……」

結月「それじゃ、その千夜の友達が惚れたとか?」

千夜「――まだ、わかりませんし、詳しくは聞けてないんです」

千夜「ただ……普段、あの子が見せる表情とは何か違った気はしてて」

結月「ふーん……」

結月「そっかそっか――あの御子柴が、現実の女子を」

結月「で? 実際、千夜は気にならないの?」

千夜「わ、私は……」

千夜「あの子を助けてくれたことに感謝してますけど……それ以上は、特に」

結月「またまたー、顔赤いよ?」

千夜「……!」カァァ

若松「ああ、宇治松さん気にしないでください。瀬尾先輩はいつもこうなんで……」

結月「『こう』ってなんだよ、若?」

若松「自分の胸に聞いてみてください……」


千夜「……」コホン

千夜「と、ところで」

結月「お、スルーしちゃう?」

千夜「……わ、私は、みこりんさん」

結月「みこ、りん……」

若松「そ、それって……」

千夜「い、いえ! あっ、御子柴さん、ですよね……」アセアセ

結月「――いやー、千夜。ずいぶん、御子柴に近づいてたんだなぁ」

千夜「……!」カァァ

若松(今日一日で、きっと宇治松さんの精神は相当消耗したんだろうな……)


千夜「……」

千夜「その……野崎さんという方と、私の別の友達が」

千夜「幼なじみ、ということを聞いたんですけど……本当、ですか?」

結月「……え、マジ?」

若松「も、もしかして……」

千夜「若松さん、何かご存知なんですか?」


若松「え、えっと……野崎先輩はバスケ部だったんですけど」

若松「時々、バスケ部の練習を見に来てる上級生の方がいて」

若松「その時は、一緒に下校していた、ような気がして……」

千夜「!」

結月「……マジか」

若松「はい。河原で二人でいる所を、よく部員が見かけてたみたいです」

千夜「……それはそれは」

結月「うひゃー……青春してんなー」


若松「何度か、俺も野崎先輩とその方と一緒に会ったことがあるんですけど……」

若松「ある日、いきなり来なくなって……野崎先輩に聞いたら、『転校した』って」

千夜「そ、そうだったんですか」

千夜「ココアちゃんと野崎、さんが……」

結月(というか、これって……)ヒソヒソ

結月(もしかして――千代が)

若松(……たしかに、一番心配なのは佐倉先輩ですよね)ヒソヒソ

結月(ってことは、千夜が呟いた『ココア』ってのも、またロリなのか)

若松(瀬尾先輩……)

結月「……それじゃさ、千夜は野崎たちが一緒にいる所を見たんだよね」

千夜「は、はい」

結月「――どうだった? 野崎と、ココアって人は仲良さそうだった?」

千夜「……見てる限り」

千夜「私は、ココアちゃんがあんな振る舞いをする所を見たことがないんです」

千夜「あの子が、あんな風に……人をからかって、笑い合ってる所を」

千夜「私たちの誰にも、あんなことはしなかったので……」モジモジ


結月(――普段、千夜みたいな友達にも見せない素振りをするココアとやら)ヒソヒソ

若松(な、何だか……佐倉先輩のことを思うと、胃が痛くなってきました)ヒソヒソ

ここまでです。
何故か直接的には関係してないのに、千代が不憫で胸が痛くなりました。
未定ですが、これから千代が目立つこともあると思います。

それでは。
ついに現実世界でも、みこりんはフラグを建てたのでしょうか……




――甘兎庵



結月「それじゃ、ごちそうさま、千夜」

千夜「はい。どうもありがとうございました」ペコリ

若松「……なんというか、ごめんなさい」 アセアセ

千夜「? 若松さんが謝られることは無いのでは?」キョトン

若松「そうかもしれませんけど……」

結月「ごめんごめん。若って初心だからさー」

結月「同い年の女子と話すことには慣れてないんだよ」ニヤニヤ

若松「勝手に設定を加えないでください!」

結月「な? 年上の私には、こんな感じなんだけどね」ニコッ

若松「……瀬尾先輩」タメイキ


千夜「……」ジーッ

結月「? どうかした?」

千夜「いえ」

千夜「……やっぱり、結月さんと若松さんは、とても仲良しさんだなぁって」クスッ

結月「――ああ、それはまあ」

若松「ホントに俺たち、そんな仲良いんでしょうか……」

結月「若? 可愛い異性の和菓子屋的同い年の前で水を差すもんじゃないだろ?」ジトッ

若松「その異様に長くて妙におかしな修飾語は何なんですか……」


千夜「やっぱり……」クスッ

結月「ちょい待ち、若。今、千夜が凄い悪どい顔してた」

千夜「そ、そんなことは!」アセアセ

若松「今日の瀬尾先輩の前じゃ、みんな霞みますよ……」

結月「聞かなかったことにしとくから、感謝してよ若」ニコニコ

若松「意味不明すぎますって……」ハァ



――外


結月「それじゃまたね、千夜ー」

千夜「ええ。またのご来店をお待ちしております」ペコリ

若松「……ホントに?」

千夜「もちろん」ニコニコ

若松「ごめんなさい、瀬尾先輩には後で強く言っておくんで」

千夜「若松さん、私、楽しかったんです」

若松「……え?」ピクッ

千夜「――普段、お越しになるお客様の中で」

千夜「あんな風に、私に接してくれた方はいらっしゃらなかったですし」

千夜「……そんな結月さんと仲良さそうな若松さんも面白かったです」

若松「……」カァァ

結月「若? お前が照れても誰も得しないぞ?」

若松「何言ってんですか!」


結月「――んー、千夜?」

千夜「はい?」キョトン

結月「千夜の可愛さと今日の注文品の美味しさを買って、また来ると思う」

千夜「……!」パァァ

若松(恥ずかしそうで嬉しそうだな……)

結月「というわけで……」


結月「少し、えっと……『ココア』さん、だっけ?」

千夜「ココアちゃん、ですか?」

結月「うん。私の友達も絡んでるみたいだからさ」

結月「――何か動きあったら、教えてくれない?」

若松「!」


千夜「……」

千夜「ええ、わかりました」コクッ

結月「ん、ありがとね」

結月「そんじゃ、また」

若松「あっ、そ、それじゃごちそうさま」

千夜「はい。また、結月さんと一緒にいらっしゃってくださいね」

若松「……!」アセアセ

結月「完璧に千夜にやられてんなー」ニヤニヤ

若松「せ、先輩!」




>バイバイ、千夜ー!
>ま、また頂きにきますっ!



千夜「……」

千夜(――ふふっ)

千夜(思ったより、ずっと友達思いなのね……結月さん)ニコニコ

若松「……ちょっと驚きました」テクテク

結月「? 何が?」テクテク

若松「いや」

若松「瀬尾先輩、佐倉先輩のこと大切に思ってるんだなぁって」

結月「……」

結月「ちょっと面白そうだな、って思っただけだって」

結月「まあ、『ココア』とかいう子がどうなるかも分からないしなぁ」

若松(……何度か一緒に行動してると分かる)

若松(瀬尾先輩、意外と取り繕うのは苦手らしいってこと……)




――それから・噴水前


ココア「ねえ、リゼちゃん? これで全部揃ったのかな?」

リゼ「とりあえず、マスターに言われたものは全部揃えたんじゃないかな」

ココア「そっか、良かったー……それじゃ、ちょっとここで休んでかない?」

リゼ「ん、そうだな」



ココア「今日は、バイトの日じゃないのにお疲れ様」

リゼ「おいおい、それはココアも同じだろ?」

ココア「私は居候だから……お手伝いしないと」

リゼ「私は働くことは好きだし、そう気を遣わないでくれ」

ココア「ふふっ、ありがとね、リゼちゃん」


ココア「……明日から、またお仕事かぁ」

リゼ「何だ、イヤなのか?」

ココア「ううん、そうじゃなくて」

ココア「……明日は、来るのかなぁって」

リゼ「……」


リゼ「――な、なぁ、ココア?」モジモジ

ココア「うん?」

リゼ「……」

リゼ「そ、その――」アセアセ

リゼ(……聞いたほうが、いいんだろうか?)

リゼ(千代のことも気になるが……何より)

リゼ(同僚としてチノのことが気になるし――うん、そうだ! 聞くべきだ、多分!)コクコク

ココア「? リゼちゃん?」

リゼ「……そ、その」


リゼ「の、野崎とは、どういう――」

千夜「あっ!」

シャロ「わっ!?」

チノ「……!」ビックリ


ココア「あっ、みんな!」

リゼ「……あ」ハッ

千夜「二人とも、ここにいたのね」

シャロ「ぐ、偶然」

チノ「……ホントです」

リゼ「ま、まあ、この噴水って集まりやすいな、たしかに」アセアセ

チノ「……リゼ先輩、何か焦ってますか?」キョトン

リゼ「ま、まさか!」


ココア「いやー、今日は私たち以外、みんなお仕事だったんだよね」

ココア「お疲れ様」ニコッ

シャロ「う、うん。ありがとね」アセアセ

ココア「……? シャロちゃん、何だか顔赤い?」

シャロ「べ、別に、そんなことは……!」カァァ


チノ「……そういえば」

チノ「私は今日、マヤさんとメグさんとの帰り道で――」

チノ「みこりんさんとお会いしました」

シャロ「!?」ピクッ

ココア「……みこりんさんって、まさか」

リゼ「あの『イケメン』だな……」

チノ「は、はい……」モジモジ

ココア「わぁ! ね、どこで会ったの?」ズイッ

チノ「そ、それは……」


チノ(――正直に言ったほうがいいんでしょうか?)

チノ(で、でも! も、もしかしたら、嫌がることだったかもしれませんし!)アセアセ

チノ(……うう)


チノ「――こ、公園でクレープを食べてる所です」

チノ(みこりんさん、これでいいですよね……?)タメイキ

ココア「え? もしかして、彼女さんと?」

シャロ「……!」ハッ

千夜「まぁまぁ……」

チノ「い、いえ……」

チノ「その時は、一人、でした」

チノ(さすがに、そこは嘘はつけません……)

リゼ「――そうか」

リゼ(みこりんさんとやらも、チノと接触していたのか……)

リゼ(何だか、落ち着かないな……野崎だけでも手一杯だっていうのに)ハァ

ココア「リゼちゃん、何だか困ってる?」

リゼ「! そ、そんなことは!」ブンブン

ココア「大丈夫だよ。野崎くんも、えっと……みこりんさんも悪い人じゃないと思うから」ナデナデ

リゼ「……な、撫でないでくれ」

リゼ(まったく――ココアは人の心を読めすぎるっ)カァァ


シャロ「……」

千夜「シャロちゃん、どうかした?」

シャロ「千夜……」

シャロ「……うーん、何だか」

シャロ「やっぱり、なんでもない」

千夜「――みこりんさん?」

シャロ「そ、そういうわけじゃ……」アセアセ

シャロ「正直、彼女さんがいても驚かないし……それに」

千夜「それに?」

シャロ「わ、私……そういう風に見てるなんて」モジモジ

千夜「どういう風に?」

シャロ「……千夜のイジワル」プイッ

千夜「あらあら」クスッ


千夜「――ところで、ココアちゃん?」

ココア「? どうかした、千夜ちゃん?」キョトン

千夜「……えっと」

千夜「今日、野崎くんと同い年の人と、その後輩の人にお店で会ったんだけど」

チノ「!」

リゼ「!」

シャロ「……野崎、さん?」

シャロ(ああ、そういえばラビットハウスでリボンの人が言ってた、ような……)


ココア「へぇ、野崎くんと同じ高校の人かぁ……」

ココア「世間は狭いねっ」

千夜「……ココアちゃん」

ココア「?」

千夜「え、えっと……」アセアセ

千夜「やっぱり、何でもない、かな」

ココア「??」

千夜「ごめんなさい」

ココア「ううん、大丈夫だよ。千夜ちゃん」ニコッ

ココア「何かあったら、いつでも言ってね」

千夜「あ、ありがとう……」

千夜(ごめんなさい、結月さん)

千夜(まだ私は、野崎さん絡みについては踏み込めません……)タメイキ


チノ「……リゼさん」

リゼ「ああ――私たちの知らないところで、確実に野崎絡みの交友関係は広がってるみたいだな」

シャロ「リ、リゼ先輩……その野崎さんって人は、一体?」アセアセ

リゼ「……」

チノ「……」


二人「少女漫画家だ(です)……」タメイキ

ここまでです。
甘兎庵での出来事が終わり、一応ごちうさ勢のみで集まるという話でした。

もしかしたら、みんなもう「御子柴」という呼称を使うことはないかもしれませんね……
これでいいのか、みこりん。いや、一応メイドと接触持ったりしてるからいいんでしょうか……

それでは。
次回は野崎くんがラビットハウスに訪れる予定です。
……千代ちゃん、頑張れ。

――木組みの家と石畳の街



野崎「やっと、更衣室を見れそうだな」

千代「野崎くん……そ、そういうことは呟かない方が」アセアセ

野崎「? どうかしたか、佐倉?」キョトン

千代「う、ううん……何でもないよ」


千代「……」

千代(なんというか――この街に来ると)

千代(普段、見れない風景を見れてときめく感じと……)



――もう、野崎くんったら!――



千代(……可愛い女の子絡みで、何だか焦る気持ちで)

千代(うう……複雑だよ)


千代(結局、昨日はみこりんや堀先輩たちも来なくて)

千代(私も部活で、野崎くんとは別行動だった)

千代(……で。今日、みこりんはお休みみたい)

千代(何でかは――)



御子柴『お、俺! きょ、今日はあの街に行けねぇ!』

御子柴『許してくれ……さ、さすがに、恥ずかしすぎるんだ……!』カァァ


千代(という感じで、「ああ、何だかみこりんらしい……」と納得しちゃった)

千代(きっと、この街で何かあったんだろう……相手は、きっと)


野崎「佐倉? ついたぞ」

千代「――あ」ピクッ

千代「ご、ごめん、野崎くん」アセアセ

野崎「……何だかボンヤリしてるな。大丈夫か?」

千代「う、ううん! 大丈夫だよ、大丈夫!」

千代(みこりんの相手の人は置いといて……野崎くんの『相手』といえば)


野崎「……」カランカラン

ココア「あっ、野崎くん!」トコトコ

野崎「――保登」


千代(この子――ココアちゃんが思い浮かんじゃうし、なぁ……)タメイキ




『千代と悪意なきウェイトレス』



リゼ「……ん、来たか」

チノ「い、いらっしゃいませ」

ティッピー(……今日も、二人か)ジーッ

野崎「ああ、二人とも」

千代「こ、こんにちは」

リゼ「? 千代、どうかしたか?」

千代「え?」

チノ「お身体が強張ってる、ような……」

千代「――あ」


千代「あ、ありがとね、二人とも」

千代「ちょっと最近、疲れちゃったのかなーって」

ココア「え!? 千代ちゃん、大丈夫?」ズイッ

千代「い、いやいや! 大丈夫だよ、ココアちゃん」

リゼ「……そうだったのか、心配だな」

チノ「わ、私たちに出来ることなら……」

千代「ありがとね、みんな……」

千代(はぁ……この子たち可愛くて、その上、底なしに優しいって……)


リゼ「――おい、野崎?」ヒソヒソ

野崎「なんだ?」

リゼ「……そ、その」アセアセ

リゼ「あ、あまり、千代のことを困らせちゃダメだぞ?」

野崎「……?」

チノ「……き、きっと」

チノ「千代さんは、その――」モジモジ

ココア「そうだよ野崎くん、千代ちゃんは……」

千代「ス、ストップストップ!」アセアセ


野崎「……佐倉?」

千代「の、野崎くん! なんでもないから! 大丈夫だから!」

リゼ「……あ」

リゼ「す、すまなかった、千代」

チノ「つい、焦ってしまいました……」

ココア「ごめんね、千代ちゃん」

千代「う、ううん。みんな、ありがとね」

千代「……でも」タメイキ

リゼ「千代……?」

チノ「千代さん?」

ココア「……千代ちゃん」

野崎(――女子トーク、か)

野崎(ふむ。ああいう描写が少し足りないと思っていたし……取り入れてみるか)

ココア「そろそろ行くよ、野崎くん」

野崎「『わ、私……ホントは、あの人の』とマミコが……」カキカキ

ココア「原稿は後回しでしょっ」

野崎「ん、ああ。保登……いたのか」

ココア「――野崎くんって、ホントに漫画バカなんだね」タメイキ

野崎「失礼な。プロと呼んでくれ」

ココア「やだよー」クスッ


千代「そういえば……」

千代「ホントに、中に入ってもいいの?」

リゼ「ああ……まあ、大丈夫だ」

チノ「一応、内部までチェックしましたし」

チノ「この時間帯は、あまりお客様もいらっしゃいませんから……」

千代(淀みなく言いながらチノちゃんの表情は、何だか切なそう……)


リゼ「ま、まぁ、ココアと千代がいれば大丈夫だろう」

リゼ「……野崎一人だと、何をしでかすか分からないけどな」

千代「あ、あはは……」

千代(まあ野崎くん、デリカシーは……)

リゼ「その点、二人が付いていてくれれば安心だ」

チノ「私たちは、ここでお待ちしていますので……」

チノ「――お帰りになったら是非、何か頼んでくださいね?」ニコッ

千代「……!」

千代(うわ、チノちゃんって笑うと……こんな可愛いんだ)

チノ「? な、なにか?」キョトン

千代「ううん、なんでも」

千代「……ココアちゃんの気持ちが、少し分かった気がして」ニコッ

チノ「はい?」

リゼ「……ふふっ」クスッ


ココア「それじゃいこっか、二人とも」

千代「あっ。よ、よろしくね、ココアちゃん」

ココア「もう、千代ちゃんったら。そうかしこまらなくていいんだよ?」

ココア「お客様なんだから、これくらい当然なんだし」

千代「……」

千代(本当に、出来た子だなぁ……)

野崎「そうだぞ、佐倉。かしこまる必要はないんだ」

ココア「あ、野崎くんは違うからね? もう少し、かしこまってくれてもいいよ?」

野崎「……扱いが違う」

ココア「千代ちゃんは可愛いんだから、当たり前だよねー」

二人「……」


千代(――はぁ)

千代(この二人……言い争ってるように見えても、ずっと優しげなんだよね)

千代(一緒にいて楽しいのに――何だか、寂しくもなっちゃうんだよ?)


リゼ「……千代、何だかしょんぼりしてないか?」

チノ「そ、そうですね……」

チノ(千代さん――やっぱり、あのお二人を見て)

ティッピー(……本当に、色々と厄介な男だわい)タメイキ



――更衣室



ココア「――それじゃ、開けるよ」

ココア「……」

千代「え、ノック?」

野崎「まだ、従業員がいるのか?」

ココア「ううん、そうじゃなくて」

ココア「……前に開けたら、中に美人さんがいたことがあってね」

千代「え、美人さん?」

千代(って、まだ美人さんがいるの……このお店って、一体?)

ココア「うん! ここの昔のマスターと知り合いだったらしいんだけど……時々、働きに来るの」

野崎「あまり美人キャラがいたらいたで、描写がくどくなっちゃうんだけどな……」

ココア「――野崎くんって、何か本当に色々と残念だよね」

野崎「失礼な」


ココア「……うん、今日はいないみたいだね」

ココア「それじゃ――どうぞ、二人とも」

千代「お、お邪魔しまーす」

ココア「大丈夫だよ、千代ちゃん。千代ちゃんだって女の子なんだし、そう緊張しなくても……」

野崎「ふむ、なるほど。クローゼット型のタイプで、デザインは……」

ココア「……野崎くんは、もう少し遠慮してくれてもいいんだよー?」

野崎「さて、描くか」

ココア「スルーされたぁ……」

一旦、ここまで。
久しぶりの野崎くん再登場でした。みこりんは出番はなさそうですね。
次回で、見学編も終わるかもしれません。

それでは。

――その頃・店内



チノ「……リゼさん、ご自分のお洋服とかは」

リゼ「ああ。それなら今日、野崎たちが来るというから、別の場所に置かせてもらった」

リゼ「まったく、あの二人のおかげで手間がかかってしまったよ」クスッ

チノ「――そう言いながら、何だか楽しそうですね」

リゼ「そ、それは……まあ、二人ともココアの友達らしいし、な」コホン



――再び・更衣室



野崎「――ん?」

野崎「このロッカー、少しだけ開いてるな。閉めておこう」

千代「わっ!? の、野崎くん、勝手に触ったら」アセアセ

ココア「の、野崎くん! ここ一応、女子更衣室――」


カランッ


野崎「……あ」

千代「……わっ」ビクッ

ココア「……これ」

野崎(閉めようとしたら、隙間から何かが落ちてきた)

野崎(どうやら、これが挟まっていたということらしい)

野崎(……なるほど)


野崎「……銃、か」スッ

野崎「おそらく、手々座の……」

ココア「うん。ラビットハウスで銃を持ってるのは、リゼちゃんくらいしか……」

野崎「多分ここだけじゃなくて、全ての喫茶店だと思うけどな……」

千代「――え、リ、リゼちゃんの?」アセアセ

野崎「ん、ああ。そういえば、佐倉は知らなかったか」

野崎「あいつはどうやら……ミリタリーオタクらしくてな」

ココア「……みりたりーおたく?」キョトン

千代「あれ? 何か、聞いたことありそう、だけど……」」

野崎「……本当に知らないのか?」

二人「うん」コクッ

野崎「――いや。それなら、手々座の名誉のためにもやめておくか」


野崎「とりあえず、これは……」カキカキ

ココア「――へぇ」

千代「どうかした?」

ココア「あ、千代ちゃん」

ココア「……思ったより、真剣に取り組むようになったんだなぁって」

ココア「ちょっと、ビックリしちゃったんだ」クスッ

千代「……野崎くん、漫画のことにかけては本気だから」

千代「私も、アシスタントしがいがあるんだよ」ニコッ

ココア「――あ」

千代「な、なに?」ピクッ

ココア「今の千代ちゃん……」

ココア「凄く可愛かったよ」ニコッ

千代「コ、ココアちゃん……」

千代(――あれ?)

千代(『取り組むようになった』……?)キョトン


野崎「おーい、二人とも」

ココア「どうかしたー?」

野崎「これ、誰かの忘れ物じゃないのか?」ユビサシ

千代(野崎くんが指しているのは、更衣室の隅っこだった)

千代(なるほど、なかなか見えにくいけど何かはみ出て――)

千代「……って!?」ピクッ

千代(白い服と、もうひとつ……?)

ココア「――そ、それって」ハッ

ココア「リゼちゃんの体操服じゃ……」

千代(ああ、きっと学校帰りにラビットハウスに来て、そのまま忘れちゃったのかな……?)

千代(それにあの色と形……し、下の方ってまさか、ブル……)アセアセ

千代(い、いや! そうじゃなくて、そ、それってつまり――)カァァ


野崎「なるほど……後で渡しといてやるか」スッ

千代「ダ、ダメ! 野崎くん!」アセアセ

野崎「さ、佐倉?」

千代「そ、それは……」

千代「ま、まだ、洗濯してない服だろうし……」

野崎「……?」キョトン

千代「そ、そこでキョトンとしないでほしいかな……」モジモジ


ココア「ありがとね、野崎くん。見つけてくれて」

ココア「リゼちゃん、意外と忘れんぼさんだから……」クスッ

野崎「――保登」

ココア「でも」ジトッ

ココア「……野崎くん。女の子の服に簡単に触ろうとしちゃうのは、やっぱりダメじゃないかな」タメイキ

野崎「――うーむ」

千代(あの表情……納得したいけど、何だか引っかかってる顔だ)

ココア「……もう、変わらないなぁ」 クスッ

千代(ココアちゃん……)




――その頃・店内


リゼ「……」プルプル

チノ「リゼさん、大丈夫ですか?」アセアセ

リゼ「あ、ああ。ありがとう、チノ」

リゼ「……何だか、とても不本意な感じがして」

チノ「不本意……?」キョトン

リゼ「ああ、後……」

リゼ「――何故か、無性に恥ずかしい、ような」カァァ

チノ「か、考えすぎでは……?」

ティッピー(何故じゃろうか……あの漫画家の男が関係しているように思ってしまうのは)タメイキ



――それから


野崎「……よし、そろそろか」カキカキ

千代「あっ、もう大丈夫なの?」

野崎「ああ」パタン

野崎「――特徴は文章にまとめたから、後は堀先輩とかに」

千代「……あ、ああ。そうなったんだね」

ココア「ふーん……やっぱり背景は苦手?」

野崎「……いきなり話に入ってくるのは」

ココア「聞こえちゃったし」

野崎「――まぁ、な」

ココア「ふふっ」

千代(……『やっぱり』?)




――更衣室



ココア「それじゃ二人とも、もう大丈夫?」

野崎「ああ。助かったよ、保登」

ココア「……そんなに素直に感謝されると、何だか照れちゃうね」

野崎「それじゃ、何て言えば?」

ココア「少女漫画家さんでしょ? 何か思い付かない?」

野崎「……む」

ココア「さてと。リゼちゃんの忘れ物は、後で私が渡すとして……」

ココア「帰ろっか」

千代「あ、ありがとね、ココアちゃん」

ココア「ううん。気にしないで、千代ちゃん」

ココア「……私、今日こうして案内できて嬉しかったんだ」

千代「え?」キョトン

ココア「私――ラビットハウスに来てから」

ココア「教えてもらうことばかりで……こうして、誰かをリードすることなんて、あまりなかったと思うから」

ココア「むしろ、私の方が――」

千代「……ココアちゃんは、絶対いい店員さんだよ」

ココア「……千代ちゃん?」ピクッ


千代「だって」

千代「普通、どんなに仲良しでも……と、友達が漫画を描くからって」

千代「こうして引き受けてマスターの人と話をつけてくれて……案内してくれる店員さんなんて、あんまりいないと思うよ」

ココア「……」

千代「ありがとね、ココアちゃん。本当に助かったんだよ」ニコッ


ココア「――ふふっ」ニコッ

ココア「千代ちゃんは、やっぱり……」

千代「ココアちゃん……?」

野崎「どうかしたのか?」

ココア「ううん、なんでもないよ」フルフル

ココア「――うん。特に、野崎くんには内緒、かな」クスッ

野崎「……やれやれ」タメイキ

千代(……ココアちゃん?)




――更衣室の外・廊下



ココア「――実はね、お二人とも」

野崎「なんだ? まだ銃でも落ちてたのか?」

ココア「……野崎くん、実はリゼちゃんのこと好きでしょ」

千代「す、好き……!?」

野崎「面白いヤツだな、とは思うな」

ココア「……そうやって素で返されると、リアクションに困っちゃうよ」ハァ


ココア「まあ、いいや」

ココア「実は、ちょっとしたサプライズがあってね……」

千代「サプライズ……?」

野崎「なんだ、それは」

ココア「――きっと、内装まで描きたいんだったら」

ココア「更衣室だけじゃなくて、まだ『材料』が必要じゃないかな、って」

野崎「……ああ、たしかに」

ココア「でしょ?」

千代「……!」ピクッ

千代(な、何て気が利く……)

ココア「――ここ、どういう部屋か分かる?」

野崎「……香風の部屋、か?」

ココア「……野崎くん、リゼちゃんだけじゃなくてチノちゃんも好き?」

野崎「まあ、嫌いじゃないな。頭に載ってる『アレ』が気になるけど」

ココア「もう。ティッピーは、このお店のマスコットなのに……」


千代「――あ」ハッ

千代「もしかして……」

ココア「ん、さすが千代ちゃんだね」

ココア「アシスタントさんの方が賢かったり?」

野崎「……俺は、最初から知ってたぞ」プイッ

ココア「嘘つきー」クスクス


ココア「うん。それじゃ整理も済んでるし、どうぞどうぞ」

野崎「本当に、いいのか?」

ココア「え? 今更、遠慮し始めちゃう?」

野崎「……それもそうか」

ココア「まあ、千代ちゃんが一緒にいたら、野崎くんも大丈夫かなって」チラッ

千代「わ、私……?」

ココア「ね、野崎くん?」

野崎「……まあ、な」

千代「――!」カァァ

ココア(良かったね、千代ちゃん……)クスッ


ココア「それじゃ、入っていいよ」ガチャッ


ココア「――ようこそ。私の部屋へ」ニコッ

ここまでです。
リゼに謝らないといけませんね……こんなに抜けてるわけもなく。

次回は、千代とココアがメインになる予定です。
それでは。
ごちうさ放送から、丁度1年が経過しましたね。




――ココアの部屋


千代「……ここが」

野崎「保登の部屋、か」

ココア「わっ……」

千代「ココアちゃん?」

ココア「や、やっぱり何だか照れるね」モジモジ

野崎「そうか? 別に、恥ずかしいものなんてないと思うが……」

ココア「野崎くん、そういうことじゃないんだよ……」カァァ

千代(あっ、何だかホントに恥ずかしそう……)


千代「ね、ねぇ、ココアちゃん?」

ココア「どうかした、千代ちゃん?」

千代「――その」モジモジ

千代「どこまで描いていいのかな、って」

野崎「なるほど、ここのインテリアは……おっと」

野崎「そういえば、さすがに保登の部屋だしな……どこまでならいい?」

ココア「――そう思い出したように言われても、私、何だか恥ずかしいよ」

野崎「ああ、すまん。大丈夫だと思うぞ、恥ずかしいと思われるようなことは描いてないから」

ココア「何というか、気の遣い方を間違えたままだね……」タメイキ


ココア「まあ、いいや」

ココア「大丈夫だよ。私の部屋なら、どこまで使っても……」

千代「え、ホントにいいの?」

ココア「うん、大丈夫」

ココア「……一応、野崎くんの漫画と私は無関係ってわけじゃなさそうだし」ボソッ

千代「……え?」

ココア「ところで……」

ココア「野崎くん? 描くのはいいけど、引き出しとか開けたらダメだからね?」

野崎「――あ」

野崎「大丈夫だ、さすがにそれは分かってる」

ココア「もう……」ハァ

千代「……」

千代(ココアちゃん……)

千代(何だかまるで……野崎くんの)

千代(い、いや、そうじゃなくて……でも)ブンブン

千代(――私じゃ、やっぱり野崎くんを)

ココア(……あれ、千代ちゃん?)ピクッ


野崎「なるほど……ここが、こうなって」

野崎「よし、わかった……これで堀先輩に」カキカキ

野崎(――佐倉?)ハッ


千代(アシスタントをしてきて)

千代(慌てることがあっても、楽しいことばっかりだった毎日なのに……)

千代(――何だか、今は)


ココア「千代ちゃん……?」

野崎「――あっ、健さんですか?」

ココア「!?」

千代「……え?」

野崎「ああ、すみません。もう少し、お時間を……」

野崎「――あ、今なら大丈夫です。少しだけ、待っていて頂けませんか」

野崎「ええ、それでは――」ガチャッ



パタン・・・



千代「……行っちゃった」

ココア「千代ちゃん、健さんって?」キョトン

千代「あ。野崎くんの担当さんだよ」

ココア「へぇ……やっぱり野崎くん、プロなんだね」

千代「え? ココアちゃん、信じてなかったの……?」

ココア「ううん。何だか意外だなぁって」

ココア「……あの頃は、全然」クスッ

千代「……あ」




――ラビットハウス・店内



ガチャッ



リゼ「……ん?」

チノ「あっ」

ティッピー「むっ」

野崎「……はい。わかりました」

野崎「ええ、大丈夫です」

リゼ「……」

野崎「それでは……」

野崎「――これでよし、っと」

リゼ「の、野崎……?」

野崎「ん、手々座か」

リゼ「いや、そうじゃなくて……二人は?」

野崎「……佐倉たちなら、二人で保登の部屋にいるぞ」

チノ「二人、で……」

ティッピー(――どうして、この男だけ?)


リゼ「……それじゃ、野崎は一人で出てきたのか?」

野崎「ああ。ちょっと俺の担当の人から、電話が来てな」

リゼ「――本当に?」ジッ

野崎「……」

リゼ「私は一応、軍人の娘なんだ」

野崎「いや、初耳なんだが……」」

リゼ「そ、それはともかく」アセアセ

リゼ「少し見た所、今の電話は……」ジッ

野崎「――」

チノ「の、野崎さん……」

ティッピー(――まさか、リゼ)



――ココアの部屋



千代「あ、あの頃?」

ココア「――あ」ハッ

ココア「ううん、大したことじゃなくて」

ココア「……昔、野崎くんにね」


ココア「部活帰りに、漫画を見せてもらってたことがあって」


千代「――!」

千代(そうか、だから……)



――思ったより、真剣に取り組むようになったんだなぁって――

――ふーん……やっぱり背景は苦手?――



千代(ココアちゃんは、野崎くんの――)

ココア「私、全然絵とか描けないんだけど」

ココア「それでも、明らかにおかしい所とかは口を出させてもらったり……」


千代(野崎、くんの……)


ココア「素人ながらアドバイスとかもしてた、かな?」



千代(最初の、アシスタント……)

ここまでです。
次回は、ココアたちのちょっとした過去の話の予定です。

それでは。





――回想・河原



ココア「……」ペラッ

ココア「うーん……」

野崎「それはかなりいい出来だったぞ」

ココア「あ、うん……野崎くん」

ココア「それはいいとして――」


ココア「どうして、川の中にマンションが建っているのかなって……」

野崎「――それは、河原に建っているあのマンションが高過ぎるのと、そこから川までの距離が大きすぎるのが――」

ココア「うんうん、わかったよ」

ココア「だとしても、普通……水の中に家は建たないよね?」アキレ

野崎「……保登は手厳しすぎる」

ココア「あ、これで厳しいんだ……」タメイキ


野崎(――きっかけは、よく覚えていない)

野崎(中学に入った辺りで勉強用のノートの余白に、適当なキャラを描くようになっていた)

野崎(そうしていると宿題に取り組んでいる時とか、ちょうどいい気分転換になって――)

野崎(いや。漫画というものに興味を持ち始めたきっかけは、こんな具合によく覚えている、けど……)



ココア「あ、野崎……せんぱ、い?」

野崎(俺が中ニに上がった辺りで、コイツも同じ中学に入ってきた)

野崎(通学路で会うと、こうしてよくわからない挨拶をしてくる)

野崎(……いや。元々、コイツの引っ越してきた所がそれなりに家から近くて、それでちょくちょく顔を合わせていた)

野崎「――疑問形になるなら、もう『先輩』はいいから」タメイキ

ココア「……あぁ」

野崎「なんだ?」

ココア「そっか――野崎くん、『先輩』呼びに弱いんだ」ニヤッ

野崎「……それじゃ俺、先に行くから」スタスタ

ココア「図星?」クスクス

野崎「……うるさい」


野崎(――きっかけは、ほんの些細なこと)

野崎(部活帰りに、帰り道の河原のベンチに座って、ノートを見返していた)

野崎(腫れている日は、川面に夕焼けが綺麗に映えていて……気分も良かったし)

野崎(それに、自分の描いた絵を見直すことも……こうやって)

野崎「……描くか」

野崎(何の気負いもなく、綺麗だなぁ、と感じた景色を描くことも自然になっていた)

野崎(……それが半ば習慣化した、ある日のこと)




「あれ? 野崎くん?」


野崎(スケッチブックに向かっていた俺の頭上から、声がした)

野崎(聞き覚えのある声が――)



野崎「……保登」

野崎(そこにいたのは、制服姿の知り合いだった)

野崎(手にはビニール袋……どうやら、買い物帰りらしい)

ココア「何してるの、こんな所で?」

野崎「――夕焼けを見ていた」

ココア「へー、綺麗だね……いいなぁ」

ココア「――で? それ以外には?」クスッ

野崎「……」

ココア「ね?」ニコニコ

野崎「――絵を、描いていたんだ」



野崎(それが、きっかけ)

野崎(色々あって、保登は……俺の絵を見るようになっていた)

野崎(最初は興味本位なのがアリアリと分かったけど……途中から)



ココア「私、絵のこと何も分からないけど……この太陽、何か形が」

ココア「ねぇ、野崎くん? この服って、ワンピースなの? ハーフパンツなの?」

ココア「ところで野崎くん、これって……何のぬいぐるみ?」


野崎(意外と、参考になるアドバイスを無意識かもしれないもののしてくれるようになって)

野崎(結局――何だかんだで、保登と一緒に河原にいる日は増えた)




ココア「うーん……」ペラッ

ココア「いくらなんでも、この背景じゃ……なかなかキツいんじゃ」

野崎「大丈夫だ、保登。いずれ俺はプロになって少女漫画家デビューすることは決まってるから」

ココア「一体どこからそんな自信が湧いてくるのか、私にはよくわからないよ……」ハァ


野崎「――背景はさておき、人物画はなかなかじゃないか?」

ココア「それは……たしかに、段々と上手くなってるけど」

ココア「それにしても――それを目立たせる背景とか小物が」

野崎「……それじゃ、保登が描いてみてくれ」ジトッ

ココア「え、ここまで来て八つ当たりなの?」ジトッ

野崎「冗談だ、感謝してる」

ココア「……はぁ、野崎くんは」タメイキ

ココア「――それより」

ココア「私以外に、こうして漫画を見せられる相手の人はいないの?」

野崎「いや、なんというか……」

野崎「女子の意見を聞いてみたい、と思って」

ココア「最近、少女漫画を読む男の人も増えてるみたいだけどね」

野崎「……」

ココア「ホントは他に見せられる人がいない、とか?」

野崎「――これだから保登は」ヤレヤレ

ココア「その言葉、そっくりそのまま野崎くんに返していい?」ヤレヤレ


ココア「まあ、素直じゃない野崎くんのことは分かってるからいいとして」

野崎「わかっててからかったのか」

ココア「まあ、どっちでもいいけど」ニコッ

野崎「……」

ココア「――前にも言ったけど」

ココア「私、もうすぐ転校しちゃうかもしれないんだからね?」

野崎「……そうか」

ココア「そうしたら――野崎くんの漫画を読んでくれる人がいなくなっちゃうかもしれないんだよ?」

野崎「――」

ココア「その時のために……そうだね」

ココア「今、相手の人がいないなら――目を付けたりしておいた方がいいかも」

野崎「……目を」

ココア「あ、ストーカーとかしたらダメだからね? お巡りさん来ちゃうよ?」

野崎「――保登は、俺を一体」ジトッ

ココア「うーん……絵のことになると、暴走しがち?」クスッ

野崎「む……」


ココア「――もうすぐ、野崎くんも受験」

ココア「私も、もしかしたら……今年、転校」

野崎「……」

ココア「色々、変わっちゃうんだよ。野崎くん」

野崎「――年上みたいなことを言うんだな、保登は」

ココア「物語のアドバイスをするなら、色々と言ってくれる人の方がいいと思うけどね」

野崎「……それは一理あるな」

ココア「ほら。私、明らかにおかしいって思ったことくらいしか指摘できないし」


ココア「それに――登場する男の子や女の子の作り方は、何もわからないもん」

野崎「保登は、それなりに漫画を読んでいただろう?」

ココア「まあ、たしかにそうだけどさ……」

ココア「私が思ったあれこれは、野崎くんがその子たちに持ってる気持ちとは何か違うでしょ?」

野崎「――保登?」

ココア「私たちは、小学校から何だかんだで付き合いあるけど……」

ココア「野崎くんだって、同じことを思わない?」

ココア「私と野崎くんって、やっぱりどっかで絶対に感じ方が違うよね?」

ココア「だから――野崎くん、高校に入ったら」


ココア「ちゃんと、私より絵のことをちゃんと知ってて……」

ココア「野崎くんと気が合いそうなアシスタントさんを探すんだよ?」ニコッ


野崎「……」

ココア「あ」

ココア「ごめんね。何だか……しんみりしちゃった?」

野崎「お前がそういうことを言わなければ、もしかしたらそうなっていたかもしれないな」

ココア「……もう」クスッ


ココア「それじゃね、野崎くん。今日はここまで」

野崎「ん、わかった」

ココア「……またね」

野崎「辛気臭いな……」

ココア「……高校に入ったら」

野崎「?」キョトン


ココア「――絶対」

ココア「いいパートナー、見つけるんだよ?」

野崎「……」

野崎「ああ。努力する」




――現在・ココアの部屋



ココア「――というわけで」

ココア「私もやっぱり……野崎くんの漫画とは無関係じゃないのかなぁ、って」

千代「……」

千代(野崎くんが行ってしまった後、私とココアちゃんは、彼女のベッドの上に隣り合って座っていた)

千代(そんな中、聞かされた話は正直、私にはちょっとショックなものだった)

千代(何となく、思っていた通り……ココアちゃんと野崎くんは、やっぱり)

千代(――思っていたより深い繋がりがある、ということが分かっちゃったから)


ココア「でもね、ちょっとビックリしたの」

千代「ビックリ?」キョトン

ココア「うん」ニコッ

ココア「あの時、野崎くんね――」

ココア「きっと、私以外の学校の人には……漫画を描いていることを、ちゃんと言ってなかったと思うから」

千代「……あ」ハッ

ココア「だから」

ココア「――例えば、千代ちゃんみたいな」

千代「!」

ココア「いいパートナー……見つけられたんだなって」

千代「……ココアちゃん」

千代(――でも、どうしてだろう)

千代(いざ、こうしてココアちゃんから、きちんとお話を聴いていると……)

千代(ココアちゃんの優しさとかがいっぱいに感じられて――何だか、熱い気持ちにもなるから)

千代(ダメージは受けてるけど……思ったより、全然痛くない)


ココア「――ちょっと、心配だったんだけどね」

ココア「野崎くん、ちゃんと……仲間の人、見つけられるかなって」

千代「――」

ココア「でも、安心したの」

ココア「絵も描けるし、ちゃんと野崎くんに意見も言えて」

ココア「何より……野崎くんが信頼できてて」

ココア「……それに」

ココア(野崎くんの好みの――)


千代(そこで言葉を切ると、ココアちゃんは微笑みながら私を見つめた)

千代(整った可愛い顔、優しげな瞳、気さくな性格――)

千代(……どれを取ってもきっと異性の人は心惹かれること間違いなしの、そんな子……)


千代「――ココアちゃん」

ココア「ん、なぁに?」クスッ

千代(聞きたいことは、実はある)

千代(今の話を聞いていれば――きっと、私じゃなくて聞いてみたくなると思うような質問が)

千代(……それを飲み込んで)


千代「――その雑誌って、『月刊少女ロマンス?』」ユビサシ


千代(敢えて、別のことを聞いてみた)


ココア「――あ」ハッ

ココア「これ? うん、そうだよ」スッ

ココア「バイト代で、買ってきちゃったの。面白いね、これ」ニコニコ

千代「……お目当ては、『恋しよっ』?」

ココア「……」

ココア「うん」コクッ


ココア「実は私、最近あまり漫画を読んでなくて……」

ココア「こうして、ラビットハウスに居候するようになってから――ちょっと、緊張しちゃってたのかも」

千代「面白かった?」

ココア「うん」

ココア「……作者の人が知り合いって、分かっちゃったからね」

ココア「野崎くん、全然教えてくれないんだけど。もう、原稿見せられたらバレちゃうのに……」クスクス

千代「良かった」ニコッ

ココア「……千代ちゃん」

千代「私、もしかしたら初めてかも」

千代「こうして――今まで知り合いだった子以外で、野崎くんの漫画を」

千代「そんなにいい顔で『面白い』って言ってくれる子を見たのって」

ココア「……」

千代「そのベタ塗り……って、分かるかな?  塗りつぶし、私がやって」

千代「それで、小物はみこりん――この前、ココアちゃんも見たあの人がやって」

千代「背景は先輩がやって、トーン貼りは後輩の子が――」

ココア「――そっか」ニコッ

千代「うん」ニコッ


千代「大丈夫だよ、ココアちゃん。野崎くんには、仲間が沢山いて」

千代「……もしかしたら、ココアちゃんが野崎くんに言ってくれたお陰かもしれないんだよ」

ココア「……」

ココア「良かった」

千代「嬉しいよね」

ココア「うんっ」


ココア(――野崎くんに千代ちゃんみたいな仲間が出来たのは、たしかに嬉しいよ)

ココア(でもね、私がもしかしたら――もっと嬉しいのは)


千代「ああ、良かった。野崎くんの漫画のファンから、直接、感想を聞けて……」ニコニコ


ココア(――野崎くんのタイプ、らしい子が)


千代「ね、ココアちゃん? 出来たら、単行本も買ってあげてね?」

千代「あ、いやっ! わ、私も関係してるから……買ってほしいかな、って」アセアセ


ココア(千代ちゃんみたいな最高の子で、ホントに良かったって……思うんだ)

ここまでです。
ココアと千代の時間でした。

>>26でココアが転校する前に、二人はどうしてたのか。
色々と考えてはいたのですが、こういう形になりました。

それでは。



――ラビットハウス・店内


野崎「……」

チノ「の、野崎さん……お冷、どうぞ」コトッ

野崎「ん。すまないな、香風」

チノ「いえ……」

チノ「――千代さんたち、どうしているのでしょうか」モジモジ

野崎「……それは」


リゼ「まったく……」タメイキ

リゼ「野崎。千代たちがどう思ってるか、わかってるのか?」ジトッ

野崎「――お前には分かるのか?」

リゼ「……そ、そういうのは野崎が分からなければいけないだろう?」アセアセ

野崎「わからないのか……」


リゼ「――やっぱり」

リゼ「さっきの電話は嘘だったしな」ジトッ

野崎「……仕方ないだろう」

野崎「あの場から離れる適当な口実が必要だったからな」

チノ「……ど、どうして離れたかったのですか?」

チノ「その――ココアさんや千代さんたちから」

ティッピー(返答次第では……覚悟はいいか、お主?)ゴゴゴゴ

野崎(何故だろう――香風の声をかき消すような、禍々しい気配がするのは)


野崎「……俺は、それなりの付き合いで」

野崎「保登が、どういうヤツなのか分かってるつもりだから」

リゼ「!」

チノ「……そ、それは」アセアセ

野崎「――もしかしたら、二人よりも長い付き合いだからな」

ティッピー(こ、この男……予防線まで張りおって!)プルプル


野崎「だから」

野崎「……何となく、悩んでいる佐倉と保登が一緒になれば」

野崎「悪くないことにはなってくれるかも、と」

リゼ「――いいのか?」

リゼ「もしかしたら、その……い、今のココアと千代が一緒になったら」アセアセ

チノ「……何といいますか」アセアセ

ティッピー(ホントはわかってるんじゃなかろうか、この男……)

野崎「それは大丈夫だ」

野崎「俺のアシスタントの佐倉と、腐れ縁の保登」

野崎「この二人が一緒になったら、無敵だと思ってるからな」コホン


リゼ「……わ」

チノ「ま、まさか」

ティッピー(この男……何も考えてないんじゃ……)

野崎「まぁ」

野崎「……今の佐倉には、俺より保登の方が話を聴いてくれるだろうから、な」

リゼ「ココアが?」

チノ「そ、それって……」

野崎「――佐倉の悩みを、ちゃんと汲んでやれたことは覚えにないしな」

野崎「まあ……不本意ではあるけど、保登の話の上手さは俺から見ても相当なものだから」

野崎「きっと、佐倉の意も汲んでくれるだろう。アイツなら」

リゼ(の、野崎のヤツ……)

チノ(本当に千代さんのことも大事に思いながら)

リゼ(ココアのことも信頼している……)

ティッピー(な、なんて罪作りな男じゃ……)タメイキ



――ココアの部屋


ココア「……良かった」

ココア「野崎くんのアシスタントさんが千代ちゃんで」

千代「え? そ、それって、どういう?」キョトン

ココア「野崎くん、きっと……千代ちゃんみたいな人が欲しかったと思うんだ」

ココア「たまには意見もしながら、それでも自分の作品を好きって言ってくれる」

ココア「そんな人が、ね」

千代「……私は、ココアちゃんもいいアシスタントになれたと思うけど」

ココア「え、私が? まさかー、私、漫画のことなんて、何も……」

千代「そうじゃなくて。さっきの話を聴いてたら、そう思っちゃうよ」

ココア「……千代ちゃん」

千代「野崎くん、ココアちゃんに見せるのを凄く楽しんでたと思うよ」

ココア「えー、いつも仏頂面だったけどなぁ」

千代「それでも、楽しそうだったんじゃない?」

ココア「それは、まぁ……」

千代「――野崎くん、ココアちゃんに漫画を見せてる時間が好きだったと思うよ」

千代「だから……きっと、ココアちゃんも、って思っちゃったりするかな」

ココア「――好き、かぁ」

ココア「……まったく、野崎くんったら」

千代「? ど、どうかした、ココアちゃん?」

ココア「ううん、なんでもない」

ココア「――千代ちゃんにここまで言わせる野崎くんに、何だかイラッとしちゃったよ」

ココア「千代ちゃんがいい子すぎて……」クスッ

千代「わ、私は別に!」


千代「……ココアちゃんが助けてくれたから、野崎くんは漫画家になれたのかもよ?」

ココア「――千代ちゃんは、ちょっとズルいよ」

ココア「いい? 野崎くんの最高のアシスタントさんは千代ちゃんなんだから」

ココア「私は、ちょっと違うんだよ?」

千代「……ココアちゃん」



ココア(……なんだろう)

ココア(別に、野崎くんのこと――そりゃまぁ、漫画家になれたら、なんて思ってたけど)

ココア(千代ちゃんにここまで言われると……何だか、ちょっぴり複雑かも)アセアセ


千代(ココアちゃん……何だか、最初に会ったときより、色んな顔見せてくれるなぁ)

千代(照れくさそうだったり、何か困ってる顔つき……そうそう、さっき更衣室で野崎くんに見せたような、ちょっとばかり怒ったような表情も)

千代(何というか――本当に可愛いね、ココアちゃんは)クスッ

ここまでです。
そういえば一ヶ月ルールでしたね……保守すみませんでした。

千代が野崎に対する思いと、ココアのそれとではちょっとばかり違うかもしれませんね。
このSSでも、最後まで「答え」は出さないと思います。

それでは。

保守、ありがとうございます。そして、ごめんなさい。
かなり先行きが見えなくなっていて、厳しい状況です。
それでも、このSSを続けていきたいと思っているので……なるべく早く復帰したいですね。

ところで、ここまでの流れで、「このキャラ、違うんじゃないか」という意見がある場合は、是非ともお願いします。
参考にしたいので……。
未だに、どちらも原作をきちんと読んでいない状態なので。




――ラビットハウス


野崎(……ここはこうして、っと)

リゼ「……な、なぁ、野崎?」

野崎「ん?」

リゼ「いや……ホントにココアたちを放っておいていいのか?」

リゼ「結構、時間が経ったのに戻ってくる気配がないんだが」

野崎「……それも、自称・軍人の勘か?」

リゼ「だ、だから! 私は本物の――」

チノ「はい。軍人の娘さんです」

リゼ「……チ、チノ」

野崎「手々座は、軍人になりたいのか?」

リゼ「……し、知らんっ」プイッ


野崎「まぁ、それはいいとして」

野崎「大方、どこかで遠慮している佐倉を、保登が促してるんだろう」

野崎「それで話してる内に、いつの間にか保登のペース……変わってないだろうな」

リゼ「……どういうわけか」

リゼ「野崎にココアたちのことを話されると落ち着かないな……」ジトッ

野崎「……手々座より、二人との付き合いは長いかもしれないしな」

リゼ「そ、それは分かってるっ!」

リゼ「おそらく、お前が全部分かってるといった風に話すのが引っかかるんだ」

野崎「いや、外れてるかもしれないぞ?」

リゼ「……そう思ってないだろ?」

野崎「――あっ、ところで手々座」

リゼ「ろ、露骨に話題を逸らすのか……」ガクッ

チノ(ああ……リゼさんが)

リゼ「な、何だ? そんな話題の逸らし方に、私が気づかないとでも――」

野崎「忘れ物だ」スッ

リゼ「……ん?」

野崎「いくらなんでも、更衣室に置き忘れるのはマズいんじゃないか?」

リゼ「……の、野崎が見つけたのか?」

野崎「ああ。クローゼットを開けたら、いきなり転がり落ちてきたんだ」

野崎「まったく……保登と佐倉をごまかすのに苦労したんだぞ」

リゼ「……の、野崎に言うのもアレだが」

リゼ「あ、ありがとう……」

野崎「ああ。二人には、手々座がミリタリーオタクということはバラしてないからな」

リゼ「わ、私は別に、そういうものでは……!」

野崎「まぁ、何にせよ。これからは気をつけてくれ」

野崎「いきなり銃が転がってくるのは、やっぱり落ち着かないし」

リゼ「……き、気をつけよう」カァァ


チノ(――何だか当たり前のように)

チノ(リゼさんが野崎さんと会話してます……)

ティッピー(あの男が来る度に、厄介なことになっていくような気がするんじゃが……)


リゼ「――ま、まぁ」モジモジ

リゼ「野崎に指摘されると、これもまた癪ではあるが……認めないといけないな。うん」

野崎「……そうだ、いい忘れてた」

リゼ「?」

野崎「えっと……後で、保登が持ってきてくれると思うんだけど」


ココア「みんな、ただいまっ!」ガチャッ

千代「た、ただいま……?」

リゼ「おおっ、二人ともっ! 帰ってきたか」

チノ「ココアさん、お疲れ様でした」

ココア「ありがと、チノちゃんっ。お客様とかは?」

チノ「いえ、今のところ……お一人様だけですね」

ココア「……野崎くんって、やっぱり物好きだよね」クスッ

野崎「……物好きで悪かったな」

ココア「ふふっ、冗談だよ?」


千代「の、野崎くん……」

野崎「佐倉、お疲れ」

千代「あ、ありがと……えっと」

野崎「保登と話して、気分とかは晴れたか?」

千代「……え?」

野崎「保登の話の引き出し方は、認めないといけないからな」

ココア「へぇ……野崎くんが認めてくれる所なんてあったんだね」

野崎「それ以外は生意気というか何というかだけど……」

ココア「……上げて落とすとか、野崎くんらしいよね」

リゼ(――まったく)

リゼ(私も少し癪ではあるが、今回は野崎が気を遣ったわけだしな)

リゼ(さすがに認めないと……)

リゼ「軍人の娘の名折れ、か」ボソッ

チノ「えっと……きっと、軍は関係ないと思います」

リゼ「チ、チノ? 心を読めるようになったのか?」アセアセ

チノ「……そうだとしたら、リゼさんが心の声を漏らしたんですね」

リゼ「……ゆ、油断してたのか」カァァ


ココア「『油断』と言えば、リゼちゃん?」

リゼ「ココア?」

ココア「更衣室に忘れ物しちゃってたでしょ」

リゼ「……そ、それは、銃のことか?」

ココア「あっ、野崎くんに返してもらったんだね」

ココア「それだけじゃなくて、ほら……」スッ

リゼ「――!?」

ココア「これは忘れちゃいけなかったって思うかな……」

リゼ「……た、体操着」アセアセ

ココア「うん」

リゼ「す、すまん。ありがとう、ココア」カァァ

リゼ「……そ、その」チラッ

千代「リゼちゃん?」

リゼ「千代も、見たのか?」

千代「う、うん……まぁ」

リゼ「――そうか」


リゼ「と、いうことは……」

野崎「ああ、香風。このコーヒー、美味いな」

チノ「あ、ありがとうございます。カプチーノは得意なので」

野崎「そうか。……この味もマンガに活かせたら」

リゼ「……野崎?」

野崎「ん? どうかしたか?」

リゼ「お前も、見たってことなのか?」

野崎「……というより、それを見つけたのは俺だしな」

リゼ「」

野崎「保登が持ってきてくれたんだ。手々座のために」

野崎「まぁ……根は悪いヤツじゃないし、な」

ココア「根『は』って辺り、やっぱり野崎くんだね……」

千代「そうだよ。ココアちゃん、真っ直ぐないい子なのに……」

ココア「わっ。ありがと、千代ちゃん」ニコッ

千代「うん。……え、えっと、でも今って」

リゼ「……そ、そうか」

リゼ「さっき私が感じた妙ないたたまれなさは、野崎のせいだったんだな……」プルプル

野崎「……よく分からないけど、濡れ衣か?」

リゼ「と、とにかく! もう、これから更衣室には立入禁止だっ!」ビシッ

野崎「ああ、それならもういいんだ。保登もそうだけど……」

野崎「手々座や香風の協力で助かった。これでやっと、話も動かせるし」

リゼ「……」

野崎「礼を言わないとな」


リゼ「――はぁ」

リゼ「本当に、野崎は……人の調子を狂わせるのが好きなんだな?」カァァ

野崎「……今は、手々座が勝手におかしくなってただけのような気もするけど」

リゼ「……!」ガチャッ

チノ「リ、リゼさんっ! 銃を構えたらダメですっ!」アセアセ

ココア「そうだよ! 野崎くんとかならともかく、他にお客様が来たらどうするの!?」アセアセ

千代「……何というか、ごめんね。みんな」

野崎「ん? どうして佐倉が謝るんだ?」キョトン

千代「まぁ……女の子には色々、事情があるんだよ」

野崎「……そういうものなのか」

千代「の、野崎くん、少女漫画家だよね……?」

間が空いてしまい申し訳ありません。
今回は、リゼがメインという運びになりました。
次回辺りで、ラビットハウス内部取材編(?)は締めになると思います。

乙~

リゼちゃんの本名は「天々座理世」ですよー

今更感はあるけど、リゼの苗字は天々座だぞ
密かに応援してる

>>173
>>174

あ、そうでしたね……。
序盤では「天々座」としていましたが、途中から間違えたままでした。
ご指摘ありがとうございます。


――その後


野崎「……そろそろ、客入り時か」

ココア「あっ、うん。そうだね」

野崎「それじゃ、今日はここまでってことで……」

野崎「――えっと」チラッ

ココア「?」

野崎「いや……保登にも礼を言っておかないといけないな」

野崎「ありがとう。お陰で助かった」

ココア「……わ、わっ」

ココア「野崎くんが、私に『ありがとう』って……」

千代「ココアちゃん? 野崎くんは、ココアちゃんが思ってるほどイジワルな人じゃないんだよ?」

ココア「千代ちゃん……うん、どういたしまして」ニコッ

ココア「今日のことを活かして、いいマンガにしてくれたら嬉しいかな」

野崎「……ああ。何とかする」

ココア「うん。私も楽しみにしてるからね?」

野崎「……買ってたのか?」


ココア「まぁね。一応、今月号だけは買ったよ」

ココア「ただ……背景とか、時々凄いことになってた気がするけど」

千代「あっ! そ、それって……トーンかな?」

野崎「ああ。そういえば、健さんが疲れてた時期に載ったんだったな……」

ココア「え? 野崎くんの遊び心とかじゃなかったの?」

野崎「――これでも俺は、一応プロの漫画家だ」

ココア「……プロなら、もう少し背景を自分で描けるようにならないと、じゃないかな?」

野崎「……うっ」

ココア「ああ、野崎くんにダメージが……!」


リゼ「――はぁ」

リゼ「結局、恥ずかしい目に遭ったまま、終わってしまったな……」タメイキ

チノ「リ、リゼさん……気にしない方がいいと思います」モジモジ

リゼ「チノ……」

チノ「――相手は、『あの』ココアさんの、その……お、幼なじみさん、みたいですし」

チノ「一筋縄じゃいかないんじゃないかと……」

リゼ「……ああ。まったくだ」

リゼ「それに、ココアがあんな接し方をするヤツを、私は見たことがないし……」

チノ「……はい」

ティッピー(……わしがマスターだった頃なら出禁にでもしたかもしれないが)

ティッピー(くぅ、あの客……チノのコーヒーを褒めるわ、ココアのパスタを美味しそうに食べるわ)

ティッピー(他に客を呼んできて、和気あいあいとしてるわ――ホント、厄介じゃわいっ!)プルプル

チノ(お、おじいちゃん……気持ちは分かりますが)

チノ(きっと、おじいちゃんが思ってるほど悪い人じゃないと思います)

ティッピー(――そうじゃろうか?)

チノ(はい。……ほら、あちらの様子を見てると)

ココア「――あっ、描けたんだ?」

野崎「一応な。まぁ、背景は今度だけど……」

ココア「……今度っていうのは、お手伝いの先輩の人に描いてもらうって意味かな?」

野崎「……佐倉から聞いたのか?」

千代「ご、ごめんね、野崎くん。千代ちゃんが知りたいって言うから……」

ココア「ううん、千代ちゃんが謝ることはないって」

ココア「野崎くん? 苦手なことがあるのはしょうがないけど……私だって、英語とか苦手だし」

ココア「それでも、野崎くんはプロなんだから……努力してみても、いいんじゃない?」

野崎「……耳が痛いな、まったく」タメイキ

ココア「そうだよ。千代ちゃんみたいに、可愛くて凄いアシスタントもいるんだから」

千代「わ、私、別に……そ、そういうわけじゃっ」アセアセ

ココア「ううん、可愛くて凄いんだよ? 千代ちゃんは」

ココア「……私が出来なかったこと、しっかりしてくれてるし」

千代「……ココアちゃん」カァァ


ココア「ね? 野崎くん」

ココア「――こうして」

ココア「野崎くんを支えてくれる人が、千代ちゃん以外にもたくさんいることを知れたし……」

ココア「良かった。私が言ったこと、ちゃんと聞いてくれたんだ……」

野崎「――『助けてくれる人を探すように』、だったか」

野崎「そうだな……確かに、その通りだと思ったから」

ココア「……え、えっと」

ココア「野崎くんに素直に話されると、何だか落ち着かないね」モジモジ

野崎「……素直に話したくなくなる反応だな」

ココア「わっ、怒っちゃった?」

野崎「……佐倉と色々、話してくれたみたいだし」

野崎「今日は別に、怒ってないから」


ココア「……そっか」

ココア「それじゃ、そういうことで……そろそろ帰った方がいいかもね」

野崎「そうだな、そうするか」

ココア「うん。また今度、ゆっくりと描きに来たらいいと思うし……」クスッ

千代「……」

千代(ココアちゃん……ほんの少しだけ、顔が赤くなってる?)

千代(み、見間違いかな……でも、凄く嬉しそうなのは確か、だよね)

ココア「千代ちゃん?」

千代「ひゃっ!? コ、ココアちゃん?」

ココア「今日は、ありがとね。お陰で、楽しかったよ」

千代「……私も」

千代「ココアちゃんと色々お話し出来て……ホントに嬉しかったし、楽しかった」

ココア「……もうっ」

ココア「最高のアシスタントさんだよね、千代ちゃんは……」ニコッ

千代「……ココアちゃん」ニコッ

チノ(――そう、思いませんか?)

ティッピー(くぅ……)

ティッピー(あ、あの男……ココアも、連れ合いの女子も笑わせおって)プルプル

ティッピー(あんな顔を見たら……何も言えなくなってしまうだろうに)

チノ(ええ……私も、フクザツではありますけど)

チノ(おじいちゃんに近い感じなのかも、しれません)

ティッピー(……チノのカプチーノも褒めてきたし、な)

チノ(そ、それは……まぁ、素直に嬉しいとは思いましたけど)モジモジ


リゼ(――チノ? 腹話術の練習なのか?)

一旦、ここまでです。
もう一度で、今度こそ内部取材編はおしまいになるかと。
それからは新章になると思います。

野崎「それじゃ、俺たちはそろそろ帰るから……」

チノ「あっ、お勘定ですね」

千代「チノちゃん、ありがとね」

チノ「い、いえ……お仕事、ですし」モジモジ

千代(か、可愛い……!)

千代「ねぇ、野崎くん? チノちゃんもモデルにしてあげられない?」

チノ「!?」

ティッピー(むっ!?)

野崎「あっ、香風。0が二つほど増えてる……」


チノ「――わ、私は」

チノ「マンガの登場人物になるほど、その……個性的では、ありませんし」アセアセ

千代「……チノちゃんって、十分過ぎるくらい個性的だって思うけど」

野崎「ああ、それは同感だな……」

野崎(中学生、誰に対しても敬語……それに)


ティッピー「……」ゴゴゴゴ


野崎(頭の上に載せてる、奇妙な物体……)

野崎(というか、コイツ……また、顔とか変わってないか?)

ティッピー(……う、うちのチノにまでちょっかいを出すようなら、さすがに――!)

千代(す、凄い……チノちゃんのぬいぐるみって、はいすぺっく? なんだ……)


チノ「――え、えっと」

チノ「わ、私をモデルに使っても、まぁ……構いませんけど」

ティッピー(……チノ!?)ピクッ

野崎「……香風も、モデルにさせてもらっていいのか?」

チノ「……ココアさんたちだけじゃ、寂しいかもしれませんし」

チノ「い、一応、私も一緒じゃないと、お二人がちょっと心配ですし……」


ココア「リゼちゃん……私、チノちゃんに、そんなに心配されちゃってたのかな?」

リゼ「そ、そうだな……まさか私まで、そこまで心配されていたとは」


野崎「――二人とも、香風から信用とかないのか?」

ココア「わ、私! チノちゃんの、お姉ちゃんだもんっ!」

リゼ「そ、そうだ! 私は、えっと……チノの先輩で、い、一応、姉貴分みたいなもので――」

野崎「……香風も大変だな」

チノ「い、いえ。お二人とも頼れる人ですし……」アセアセ

千代「……チノちゃんって、ホントに可愛くていい子だよね」

チノ「ち、千代さん……べ、別に、そんなこと」カァァ

ココア「……うう。チノちゃんだけ、千代ちゃんたちに好かれちゃってる?」

リゼ「ま、まぁ……チノは可愛いし」

リゼ「千代に好かれるのも当然だな。……まぁ、例外もいるが」ジトッ

野崎「……保登? こういう時、どうしたらいいんだ?」

ココア「えっとね。反応してあげれば、いいと思う」

野崎「そうか。……えっと、天々座? 大丈夫か?」

リゼ「……そ、そういう反応なら、されない方が良かったんだが」

野崎「……保登?」

ココア「え、えっと……綾ちゃんもフクザツなんだね」

リゼ「お、おい、ココアッ!?」


野崎「――そうか。すまん、天々座」

リゼ「……どうして、何も言われてないのに、無性に落ち着かないんだろうな?」

野崎「……それじゃ、佐倉。そろそろ帰ろうか」

千代「ちょ、ちょっと、野崎くん!?」

リゼ「の、野崎っ!」


リゼ「――や、やっぱり、野崎は危険人物なんだな」アセアセ

野崎「香風。これで、お金は問題ないか?」

チノ「あっ……は、はい。大丈夫です。ピッタリです」

野崎「そうか……天々座? ちゃんと、お金は払ったぞ」

リゼ「そ、そういう問題じゃなくてだな……!」

千代「……リゼちゃん」

千代(顔、真っ赤で野崎くんに怒っちゃってて……ちょっと怖いかもしれないけど)


リゼ「の、野崎のヤツ……」カァァ


千代(そうして顔を赤くしてるリゼちゃんは、それ以上に凄く可愛くて……)

千代(ああ……それじゃどんなに、そういうのに鈍い野崎くんでも――)


野崎「落ち着け、天々座。頭にゴミが付いてる」

リゼ「つ、付いてないっ!」

野崎「……保登?」

ココア「えっと……あっ。ここに糸クズが」

リゼ「」

野崎「接客業なら、気を遣わないといけないんじゃないか?」

リゼ「……の、野崎」プルプル

ココア「リゼちゃん、ちょっと待ってて? 今、取るから……」

リゼ「コ、ココア……え、えっと」

リゼ「あり、がとう……」

ココア「……気づいた野崎くんにも言ってあげたほうがいいと思うけど」

リゼ「そ、それは……」カァァ

千代(――鈍いまま、なんだよね……)

チノ「千代さんも、お疲れ様です」ペコリ

千代「あ、ありがと、チノちゃん……うん」

チノ「?」キョトン

千代「チノちゃんも……いい、お姉さんたちに恵まれたなぁって」

千代「そんなこと、思っちゃった。私、年上のきょうだいとかいないし……」

チノ「そ、それは……まぁ」モジモジ

チノ「――認めないと、ですね」コホン

千代「……チノちゃんって、ホントに可愛いね」

チノ「ち、千代さんだって、可愛いです」

千代「ふふっ。ありがと」ニコッ

チノ「……ちょっと、困っちゃいます」カァァ

千代(……ココアちゃんが「チノちゃんが好きっ」て言う理由、分かる気がする……)



――その夜


チノ「――という感じでした」

タカヒロ「……なるほど。どうやら、その男性客は」

ティッピー「うちの大事な子たちを、次々と混乱させておるっ!」

タカヒロ「い、いや、親父……そういうことを言いたいんじゃなくて」

タカヒロ「――チノも含めて、みんなと仲良くやってるのか?」

チノ「あっ……そ、それは」

チノ「そう、なのかもしれません……」

タカヒロ「なるほど。バイトの一人と幼なじみということなら……」

チノ「……ココアさんとは、本当に仲良さそうです」

タカヒロ「そうか……それで、いつも来てくれてるのか」

チノ「マ、マンガの材料で、ということみたいですけど……」アセアセ

タカヒロ「なるほど。マンガの舞台設定とかか……」

チノ(――背景は上手く描けない、らしいですけど)


タカヒロ「――まぁ、何にせよ」

タカヒロ「ラビットハウスに、お客さんが来てくれるのは嬉しいな……」

タカヒロ「親父も、そう思うだろう?」

ティッピー「……それは、そうじゃが」

ティッピー「あの男が来ると……チノも含めて、みんなが調子を崩して――」

チノ「わ、私は、いつも通りだと思いますけど……」

ティッピー「……」

チノ「お、おじいちゃん!? そこで静かにされちゃったら困ります……」アセアセ

タカヒロ「――まぁ、何はともあれ」

タカヒロ「チノたちが楽しく過ごしてくれてれば……それで満足だしな」

チノ「……お父さん」

タカヒロ「それじゃ、そろそろ夜の部ということで――BARを始めるから」

タカヒロ「チノ? 早く寝るんだぞ?」

チノ「……わ、分かりました」

タカヒロ「……親父? チノ、何だかフクザツそうだから、助けてあげてくれよ?」

ティッピー「……息子に言われなくとも、分かっとるわい」

チノ「え、えっと……そういうお話は、私のいない所でお願いしたいです」カァァ

とりあえず、ここまで今回の話はおしまいです。
次回から新章に入る予定です。

>>181
☓ココア「え、えっと……綾ちゃんもフクザツなんだね」
○ココア「え、えっと……リゼちゃんもフクザツなんだね」

ごめんなさい。
何故か入れ替わってました。

新章のプロローグだけ投下します。



――浪漫学園


堀「……おお」

堀「なるほど、そうくるか――」ペラッ

鹿島「堀ちゃんせんぱーい」

堀「おお、鹿島」

鹿島「何読んでるんですかー……冊子?」

堀「ああ、これはな。アンソロジーだ」

鹿島「アンソロジーって……色んな作家が集まって作られる作品でしたっけ?」

堀「その通りだ」


堀「昨日、書店に寄ってみたら、この冊子が置かれてたんだ」

堀「無料というから、一部もらってきた」

鹿島「でも、随分薄いですよね、それ……」

堀「俺も思ったんだが……どうやら、本格的に発売されるのはしばらく後で」

堀「作家たちの書いた作品の最初の部分だけ掲載する、って形だったんだ」

鹿島「へぇ……最近の出版社って思い切ったことするんですね」

堀「まぁ、意外と面白い試みではあるな」


堀「――まぁ、ただのアンソロジーなら俺も持ってきたりはしない」

堀「鹿島。ここを見てくれ」

鹿島「あ、作家陣の名前ですね……あっ!」

堀「気付いたか」

鹿島「……『青山ブルーマウンテン』」

堀「そうだ。この前の劇でも一部だけ使わせてもらった『うさぎになったバリスタ』の原作者だ」

鹿島「堀ちゃん先輩、気に入ってますよね……」

鹿島「でも、たしかにアレは面白かったです」

堀「そうだよなっ。最近出た『カフェインファイター』って作品も、なかなかだった」

鹿島「また映画化するんですかねー」

堀「するかもな。売上も上々らしいし」


堀「――ただ、今回のは一味違うんだ」

鹿島「あっ。今、青山ブルーマウンテンの作品読んでたんですね」

堀「ああ。……ほんの少しだけなのに、一気に引き込んでくるな」

堀「そうだ。鹿島も読んでみたらどうだ?」

鹿島「え? でも、堀ちゃん先輩が読み終えてからじゃなくていいんですか?」

堀「それは大丈夫だ。俺も最後の1ページは残してある」

堀「1ページ前まで読んでみてくれ。10ページ足らずだから、そんなに時間もかからないだろうし」

鹿島「そういうことなら……」

鹿島「何というか――最初からクライマックスですね、これ」

堀「ミステリー風味らしいな。最初に結末のようなものを持ってきて――」

鹿島「……相変わらず、面白いですね」

堀「俺は、野崎の作ってくれる脚本を高く買っているが」

堀「もしかしたら……青山ブルーマウンテンは、その上をいくかもな」

鹿島「かもしれませんね。……わっ、ホントに面白い」


鹿島「――1ページ前まで読みました」

堀「ああ。それじゃ……一緒に読むか」


『一体、誰が自分たちを追ってきていたのか。
 それは分からないままだったけれど、一つだけ分かるのは……追いつかれた、ということだった。
 恐る恐る、私は後ろを振り返り――』


鹿島「……結局、主人公たちを追ってきたのは誰だったんですかね」

堀「そこが醍醐味なんだろうな……一体、誰が」

鹿島「――行きますか?」

堀「ああ……行こう」

鹿島「そ、それじゃ――」ペラッ

堀「……」ドキドキ


『……そこにいたのは』


鹿島(そこに――)

堀(いたのは――)


『タヌキ、だった』


鹿島「……」

堀「……」

鹿島「え?」

堀「え?」



『Daydream artists』



――木組みの家と石畳の街


野崎「……何だか」

野崎「ここに来るのも当たり前のようになってきたな」

千代「そうだね。最近、ずっとここでマンガ描いてる気がするけど」

野崎「まぁ、堀先輩とか若松とかが手伝いに来てくれるなら、さすがに家の方がいいと思うけど」

千代「だよね……あんまり人数が多すぎると、ココアちゃんたちも困っちゃうかもしれないし」

野崎「そうだな。まぁ、今日くらいなら――」


御子柴「……け、結局、付いてきちまった」

千代「今日は、みこりんも来てくれてるんだよね」

野崎「まぁ、ここで何かしたいことでもあるんじゃないか?」

御子柴「い、いや……少し気になっちまった店が」

御子柴(うう……この前のオムライス思い出しちまった)

御子柴(恥ずかしいってのに、どうしてまた来てるんだ。俺は……)


千代「え? 何か欲しいものとかあるの?」

御子柴「そ、それだけってわけじゃ……」

野崎「ああ。あそこか?」

千代「フィギュアショップ……」

御子柴「あっ、そこだっ! いやー、助かった……」

御子柴「って、ちげーよ! そこもそうだけど、ちげーよ!」カァァ

千代「……どっち?」

野崎「御子柴。寄ってきてもいいぞ」

千代「う、うん……近くで女の子たちが歩いてるけど」

御子柴「だ、だから、そうじゃ――って! あ、あれは……」


マヤ「あれ? 何か……」クルッ

メグ「こ、この声……」クルッ

御子柴「」

千代「み、みこりん? どうかしたの?」

野崎「……ほう。あの制服のデザイン、使えるかもしれないな」

千代「の、野崎くん……女の子を前にして、そういうことは」アセアセ


マヤ「……今日もフィギュア見に来たとか?」

御子柴「い、いや! そういうわけじゃ……」

メグ「や、やっぱり……エッチな人?」モジモジ

御子柴「ち、ちげーって!」

御子柴「というか、別に……エロいフィギュアとか見てたわけじゃねえし」

メグ「……か、可愛い女の子好き、とか?」アセアセ

御子柴「……お、男なら、当たり前だろ?」

マヤ「うわ、開き直っちゃってる……」

千代「――み、みこりん? その子たち、知り合いなの?」

御子柴「あ、ああ……実は、えっと」

御子柴「――俺の親戚、なんだ」

メグ「……え?」

マヤ「……え?」

野崎「おい。『何言ってるんだ、御子柴』って顔してるぞ、そこの二人」

御子柴「そ、それは野崎のことだろっ!」

メグ「……あ、そっか」ポンッ

マヤ「親戚ってことにしないと……ヘンシツシャみたいになっちゃうから」

御子柴「……もう、どうにでもしてくれ」プイッ


マヤ「ううん、それなら親戚ってことでもいいよ。えっと……」

メグ「……み、みこりんさん、だっけ?」

千代「――みこりんって、やっぱりモテるんだね」

野崎「ああ。それに年下の女子に丸め込まれてる辺り、御子柴らしいな」

御子柴「……うう」カァァ


マヤ「――まぁ、えっと。みこりんだっけ? がこの店に寄りたいなら、私たちはジャマかもだし」

メグ「そ、そうだよね……」

マヤ「チノも先に帰っちゃったし。私たちはちょっとブラついて帰ろっか」

メグ「うん」

千代「――え? チ、チノちゃん?」

マヤ「? お姉さん、チノのこと知ってるの?」

千代「え、えっと……まぁ、知り合いというか何というか」

メグ「ま、まさか……チノちゃんの生き別れの双子のお姉さん……?」アセアセ

マヤ「メグ。マンガの読み過ぎだよ……」タメイキ

マヤ「お姉さんが似てるのは身長くらいだし」

メグ「そ、そっか。そうだよね……」

千代「あ、あはは……」

御子柴「……えっと」

御子柴「ま、まぁ……とりあえず、今日はまたな」

マヤ「え? また会いたいの?」キョトン

メグ「え、え?」アセアセ

御子柴「た、ただの挨拶だっての!」アセアセ

マヤ「まぁ……私たちは、フィギュアショップにみこりんがいてもスルーするから」

メグ「……さすがに、恥ずかしいもんね」

御子柴「……ぐっ」

野崎「おお。御子柴がダメージを……」

マヤ「それじゃねっ」ニコッ

メグ「えっと……さ、さよなら」

千代「う、うん……」


千代「――あれ? あの子たち、名前なんていうの?」

御子柴「い、いや……俺も知らねえけど」

野崎「……名前も知らないのに、会話してたのか」

千代「ある意味、凄いね……みこりんって」

御子柴「お、お前ら……あれが会話だって思うのか?」




一旦、ここまでです。
次回、プロローグとタイトル通り、本格的に彼女の登場予定です。

野崎「……着いたな」

千代「うん。もう、常連さんみたいになっちゃったね……」

野崎「そうだな……」

御子柴「俺は、そんなに来てねえけど」

御子柴「お前ら、ホントによく来てるんだな……」

千代「ま、まぁね」

野崎「色々あってな――あれ?」プルルル

野崎「着信? すまん。二人とも、先に入っててくれ」ピッ

千代「え?」

御子柴「野崎? ……って。まぁ、アレか」

千代「うん。担当の人から、だよね」

御子柴「それじゃ先に入るか。佐倉」

千代「うん……」


野崎「あっ、剣さんですか?」

野崎「何か? ……え? これからの展開について?」

野崎「――銃を待ち構える店員は厳しいかも?」

野崎「いきなり、更衣室に案内する店員もおかしい?」

野崎「剣さん……一応、今月分の原稿通りのつもりなんですが」

野崎「それではいけないのでしょうか? ……え?」

野崎「一番マズいのは、喋るウサギもどき――?」


御子柴「……なぁ、佐倉」

千代「なに、みこりん?」

御子柴「野崎のマンガ……いいのか? アレで?」

千代「い、いや。そもそも、私たちが手伝ってるマンガだし」

御子柴「そ、それは、そうだけど……」

御子柴「――せっかく描いた、よく分からない形の置物まで不評ならキツいなって」

千代「……や、やっぱりアレ、置物だって思う?」

御子柴「え? いや、そうだろ?」


チノ「――あっ」

チノ「い、いらっしゃいませ。千代さんに、えっと――」

ティッピー(むっ……!)ピクッ


御子柴「あんな個性的な置物とか、ないって思わないか?」


チノ「!」

ティッピー「!!」

千代「い、言われてみたら……確かに」

千代(だよね。チノちゃんの頭に乗っかってるのって……ぬいぐるみのはずだもんね)

千代(個性的、だよね……たしかに)



ティッピー「わ、わしは、置物じゃないっ!」


千代「……?」

御子柴「ん?」

チノ「……」

ティッピー(チ、チノ……)

チノ(おじいちゃん、ごめんなさい……口、塞いでしまって)

チノ(ただ。さすがに、マズいと思います)

ティッピー(そ、そうじゃが……いや)

ティッピー(たしかに、そうじゃな。すまん)

チノ(はい。……大丈夫です。おじいちゃんが、私たちのことを想ってくれているのは知ってます)

ティッピー(チノ……)


御子柴「――なぁ、佐倉?」

千代「なに、みこりん?」

御子柴「いや……」

御子柴「あの店員って、腹話術とか得意なのか?」

チノ「!?」ビクッ

ティッピー「!?」ビクッ

千代「え、えっと……聞いたことはないけどね」

御子柴「そうなのか……えっと」

チノ「……そ、その」アセアセ


チノ「お、お久しぶりです。みこりんさん」ペコリ

御子柴「……ひ、久しぶり。えっと」

御子柴「誰かさん?」

千代「み、みこりん……それは酷いんじゃないかな?」

御子柴「い、いや……名前、知らねえし」

御子柴(一回、偶然会っちまったけど……)

チノ(そ、そうですよね。みこりんさんは、私の名前を知らないはずですし……)←自分も相手の本名を知らない

ティッピー(こ、この男……孫娘と、そんな仲だったのか……!?)←祖父特有の勘違い


チノ「……え、えっと」

チノ「私は、香風――」


千代「この子は、チノちゃんっていうんだよ」

御子柴「そ、そうなのか……えっと」

御子柴「チ、チノ、で、いいのか?」


チノ「」

ティッピー「!?」

千代「……あ、あれ?」

千代「チノちゃんが困っちゃってる……?」

御子柴「お、おい佐倉? これって、もしかして――」

千代「え、えっと……もしかしたら」


チノ「――そ、その」モジモジ

チノ「私は、香風智乃といいます」カァァ

千代「そ、そうだよね。この前、野崎くんに、そう言ってたもんね」

千代「ごめんね? 名前で呼ばれたら恥ずかしいよね?」

千代(私の周りで、女の人を名前で呼ぶ男の人って一人もいないし……)

チノ「だ、大丈夫です、千代さん。ちょっと、ビックリしてしまっただけなので」


チノ「――え、えっと」

御子柴「……悪い」アセアセ

御子柴「えっと……か、香風、だっけ?」

御子柴「こ、これからは、そう呼ぶから」

チノ「だ、大丈夫です」モジモジ

チノ「別に、気にしてませんし……」カァァ

ティッピー(……!)ピクッ


御子柴「――そ、そっか」

御子柴(い、いつも、こうだ……)

御子柴(よく分からないまま、相手が勝手に恥ずかしがって……)

御子柴(そうされると……お、俺が困るってのに……!)アセアセ

千代(……イケメンってホントに苦労するんだね、みこりん)

御子柴(そ、そうだっ! 佐倉も少しは、この気持ちを分けあってくれ!)

千代(こ、心の声で会話するのはムリだからっ! マンガじゃないんだし……)


ティッピー(――この二人)

ティッピー(信頼し合っているように見える……)

ティッピー(あ、あの男が呼ぶ人間は、どうしてこう厄介なんじゃ――!)プルプル

チノ(……いえ。いいんです、おじいちゃん)

ティッピー(チノ?)

チノ(私、さっきまで焦ってしまっていたはずですが)

チノ(何だか……この、お二人を見てると落ち着いてしまいました)

ティッピー(!?)

チノ(ですから――このお二人は、悪い人ではないと思います)

ティッピー(む、むぅ……)

チノ(――それよりも)

チノ(お二人がいらっしゃるのなら……もう一人)

ティッピー(……あの男か)

チノ(はい。まだ来ないというのは、ちょっと――)



?「――お邪魔します」ペコリ

野崎「佐倉、御子柴。ありがとう、助かった」


チノ「」

ティッピー「」

千代「あっ、野崎くん。お疲れ……あれ?」

御子柴「の、野崎……その」

千代「と、隣の人は?」アセアセ

野崎「――ああ。この人か」

野崎「そう言えば……言ってなかったっけな」

千代(……あれ? ど、どこかで見たような)

御子柴(待てよ、この人……たしか)

御子柴(鹿島が見せてくれた雑誌に――ま、まさかっ!?)


野崎「……二人とも知ってるのか?」

千代「も、もしかしたら……」

御子柴「……え、えっと。そうかもな」

野崎「良かったですね、ご存知みたいです」

?「夢野先生……そう仰られると照れてしまいます」カァァ

野崎「本当に人気作家ですね」


ティッピー(……ま、まさか、この男)

チノ(この方とも……お知り合い、みたいですね)

ティッピー(むぅぅ……!)


千代(に、人気作家……やっぱり)

御子柴(そうか――やっぱり、あの)


?「――お二人とも、初めまして」

野崎「ここの前で偶然会ったんだ」


野崎「青山ブルーマウンテンさん。小説家だ」

青山「よろしくお願いします」ニコッ

千代「……あ」

御子柴「青山ブルーマウンテン……?」


チノ(……あのお二人、本当に息がぴったりだと思います)

ティッピー(……くぅっ)

ティッピー(わ、わしの昔からの知り合いが……まさか、この男たちにまでっ?)

チノ(……野崎さん)

すみません、遅れてしまいました
ごちうさ2期まで間もないのに……
次回、青山さんが本格的に関わってくる予定です

それでは
野崎くん2期も、ずっと待っていたいですね

青山「――まぁ」

青山「夢野先生……可愛らしいアシスタントさんたちがいらっしゃるんですね」クスッ

野崎「ええ。とても頼りになる奴らです」

青山「そうなんですか。羨ましいです」

青山「なかなか、小説となると……アシスタントさんとの交流も出来ないので」

野崎「……そうかもしれませんね」


野崎「ただ……小説家は、漫画家とは違って」

野崎「自分のアイデア通りに書きたいと思うことが多いと思います」

野崎「だから、『うさぎになったバリスタ』などの作品を書けたのでは?」

青山「――ありがとうございます、夢野先生」

青山「励まされてしまいますね……いつも」ニコッ

野崎「それは言いすぎですよ、青山先生」


千代「――の、野崎くんがっ」

御子柴「ゆ、有名小説家と、いい感じに話してる……!」


ティッピー「……!」プルプル

チノ(お、おじいちゃん……その)

チノ(あ、あの、お二人は……漫画家さんと小説家さんで)

チノ(わ、分かり合えることもあるんじゃないでしょうか……?)

ティッピー(むぅ……)

ティッピー(た、たしかにチノの言うとおりなのかもしれん)

ティッピー(た、ただ――わしは)

ティッピー(あの子の……あんな表情を見たことがないんじゃ)

チノ(は、はい。私も、です……)


ティッピー(――そんな風に)

ティッピー(あ、あの男が話してるのが……気になって)

チノ(……わ、私も、同じかもしれないです)


野崎「――新作を、お書きになってるんですね」

青山「ええ……サスペンス物に挑戦しようかと」

野崎「サスペンス物、ですか」

青山「はい。前作まで、全部違った作風だったので」

青山「この辺りで、違った作品も書けるということをアピールしたいと思って」

野崎「ええ。いいと思います」

野崎「――小説家は、そういう挑戦が早目に出来るのが強いですね」

青山「はい。……漫画家さんだと、なかなかそういうことはやりにくいとお聞きしました」

野崎「ええ、そうですね」

千代(――の、野崎くん)カキカキ

御子柴(ど、どんだけ、その人と仲良しなんだよ……!?)カキカキ

千代「み、みこりん」

御子柴「さ、佐倉?」

千代「……え、えっと」

千代「私、今……凄く辛いんだけど、どうしたらいいのかな?」

御子柴「……」


御子柴「えっと……か、香風?」

チノ「!」ピクッ

ティッピー(むっ……!)

チノ「……は、はい」

御子柴「そ、その……さ、佐倉が好きな飲み物、出してあげてくれないかな」

千代「……!」ハッ

チノ「ち、千代さんの、ですか……?」

御子柴「あっ……な、名前、知ってたのか」

御子柴「う、うん。俺、コイツが好きな物とか分からないけど……」

御子柴「か、香風なら分かるんじゃないかなって」カァァ

千代(み、みこりん……)

ティッピー(こ、この男……!)



チノ「――は、はい」コクッ

チノ「わ、分かりました」

チノ「……あ、あの、千代さん? カプチーノで、よろしかったでしょうか?」アセアセ

千代「あっ……う、うん」

千代「チノちゃんが淹れてくれるカプチーノ、大好きだから」ニコッ

チノ「……あ、ありがとうございます」カァァ

チノ「そ、それでは、少々お待ちください」

千代「うんっ」


御子柴「――え、えっと。佐倉」

千代「あのさ、みこりん。ちょっと言っていい?」

御子柴「な、なんだよ?」ビクッ

千代「え、えっと――」


千代「みこりんって」

千代「誰かのためだったら……凄く、一生懸命になれちゃうんだなって」


御子柴「――!」

千代「そんなこと、思っちゃった」

千代「何だか、いつものみこりんと違ってて……ホントに嬉しかった」ニコッ

御子柴「……あ、あのな。佐倉」カァァ


千代「それじゃっ! 私たちも、お仕事しよっか」

御子柴「……そ、そうだな」

青山「――夢野先生は」

青山「いいアシスタントさんに恵まれてますね」ニコッ

野崎「はい。自慢のアシスタントです」

野崎「俺自身、何度も助けられてます。色んな意味で」

青山「……本当に羨ましいです」

野崎「……青山さん」

野崎「たしかに、小説家だと……アシスタントは持ちにくいと思いますけど」

野崎「青山さんの実力は、それなりに分かっているつもりです」

青山「……夢野先生」


ティッピー(……あ、あの男)

チノ(……野崎さん。青山さんとも、関係が深いみたいですね)

ティッピー(も、もしも不埒な気持ちだとしたら……許さんぞ)ゴゴゴゴ

チノ(お、おじいちゃん……それは、早合点しすぎかと)アセアセ


千代「……野崎くん」カキカキ

御子柴「……野崎」カキカキ


青山「――あの」

青山「実は、あまり私の作品にダメ出しをして下さる方がいらっしゃらなくて……」

野崎「そうですね。……漫画家さんのキツい所だと思います」

青山「はい……」

青山「出来たら……色んな方に、感想をお伺いしたいと思いまして」

野崎「そうですか――それなら」


野崎「佐倉? 御子柴?」

千代「の、野崎くん?」ガタッ

御子柴「の、野崎?」ガタッ


チノ(――お、お二人とも、すぐに)

ティッピー(た、立ち上がったのう……)

ティッピー(くっ、あ、あの男! わ、わしが思ったより……信頼、されてるのか?)プルプル

チノ(お、おじいちゃん……と、とりあえず)

チノ(千代さんへのカプチーノを運ぶ時に……私たちも、お話を伺いませんか?)

ティッピー(……そ、そうじゃな)

一旦、ここまでです。
今回の話では、みこりんがかなり目立つと思います。
投下した話でも、みこりんの描写に力を入れたつもりですので……。

それでは。
青山さん絡みの話を書いた後で、みこりんメイン回の予定です。

>>207
☓漫画家さん→○小説家さん


野崎「青山先生が、このアンソロジーの感想を伺いたいそうだ」

野崎「良ければ、少し読んでみてくれないか?」

千代「あっ、う、うん。わかったよ」

御子柴「でも、野崎? お前の原稿はいいのか?」

野崎「まぁ、そんなに長くもなさそうだし……青山先生とは色々あってな」

チノ「……!」

ティッピー(い、色々、じゃと……!?)

千代「そ、そうだったんだ……ふーん」

御子柴(あぁ、佐倉がまた気落ちしてるような気がする……)


御子柴「と、とにかくっ。読んでみようぜ、佐倉」

千代「みこりん……うん、そうだね」

青山「どうもありがとうございます」

チノ「あ、青山さん! わ、私もよろしいでしょうか?」

青山「チノさんも? ええ、是非お願いします」ニコッ

ティッピー「……」


青山「それでは、どうぞ」

野崎「ありがとうございます。……なるほど、たしかにサスペンス物ですね」

千代「……やっぱり上手」

御子柴「ああ。引き込まれるな……」

チノ「さすが青山さんです……」

ティッピー(どうやら、もうスランプからは脱することが出来たようじゃな……良かった)ホッ



――数分後


全員「……えっ?」

青山「あっ、読み終わりましたか?」

野崎「は、はい。あの、青山先生?」

青山「はい?」

野崎「……どうして、この展開で出てくるのがタヌキなんでしょうか?」

青山「……」

青山「どうしてなんでしょう?」

チノ「あ、青山さんも、ご存知じゃないんですか?」

青山「いえ、一応……とある方のアドバイスを参考にしたのですが」

千代「とある方……」

御子柴「何でだろうな、嫌な予感しかしないのは……」

野崎「青山先生。もしかして、その方って」

青山「はい。夢野先生もご存知かもしれませんが――」



――


剣「ん?」

剣(電話か。相手は……夢野さん?)

剣「はい、もしもし」ピッ

野崎「もしもし、剣さん。少し、よろしいでしょうか?」

剣「どうかしたんですか? こっちも仕事があるので手短にお願いしますよ」

野崎「はい。それでは手短にいきます」

野崎「前野さんに少し厳しく言ってきて頂けませんか? 以上です」

剣「端折り過ぎだっ!」


剣「……何かあったんですか?」

野崎「いえ。実は、前野さん絡みで困っている人がいるようなので」

剣「あのですね、夢野さん。あの人絡みの問題に関わってたら、いくら時間があっても――」


『……私、困っているんでしょうか?』

『青山さん。多分このままだと……読む人たちも納得しないと思います』

『チノさん……そうですね。きっと、私は困っているんでしょうね』


剣「……青山さん?」

野崎「あっ、聞こえましたか。そうです、青山ブルーマウンテン先生です」

剣「なるほど……」

剣「分かりました。少し、待ってて下さい」

野崎「さすが剣さん。頼りになりますね」

剣「それじゃ」


――


野崎「これでよし、と」ピッ

野崎「とりあえず一応、話はつけておきました」

青山「夢野先生、ありがとうございます……」

青山「ただ、私は本当に困っているんでしょうか?」

野崎「え?」

青山「この『タヌキ』というアイデアは、その前野さんのアドバイスを受けたものなんです」

青山「私、なかなか他の人から具体的なアドバイスは頂けないので……喜んで使わせてもらったのですが」

千代(よ、よりにもよってアドバイス相手が)

御子柴(あの人じゃなぁ……)

野崎「青山先生。たしかに、アドバイスはありがたいものです」

野崎「ただ、相手によっては……ありがた迷惑ということもあります」

野崎「それを無理に使う必要はないと思います」

青山「……夢野先生は、そういうスタンスなんですね」

野崎「ええ。特に、あの人絡みだとそう思いますね」


――


剣(小説の編集部は、ここだったな……)

編集「あっ。み、宮前さん」

剣「あっ、どうも」

剣(青山先生の担当編集者……すぐに会えるのはラッキーか)

編集「どうかしましたか?」

剣「いや、あのですね……単刀直入に言いますと」

剣「何か、困ってることとかありませんか?」

編集「……」

編集「え、えぇ? 特にありませんよ?」

剣「今の間は怪しいですね……」

編集「ほ、本当に何でもないですって」

剣「声も裏返ってますね。まぁ、原因は――」


「あれ、宮前くん? どうかした?」


剣「――すぐ近くにいるみたいですね」

編集「ま、前野さん……え、えっと」

前野「宮前くん、どうしたの? あっ、もしかして……僕の閃きを知って、来たのかな?」

剣「そういうことでも何でもいいです。そもそも、どうして小説のエリアにいるんですか?」

前野「えー? 僕のアイデアは少女漫画だけにってだけじゃもったいないかなってね」

剣「……それ、いわゆる越権行為に当たると思いますがね」

前野「いやー、権利を越えてでも広めたいアイデアがあるんだよねぇ」

剣「それで、青山先生の作品に『タヌキ』でも混ぜたんですか?」

前野「さっすが、宮前くん! よくわかってるねぇ」


編集「……あ、あの?」

剣「ところで、青山先生の作品には目を通しましたよね?」

編集「も、もちろんです。ただ、最後の『タヌキ』は、どうしてって思いました」

編集「ただ、発売日が未決定時点でのアンソロジーなので、青山先生も冒険しようとしてるのかなと通したのですが……」

剣「恐らくですが、青山先生は冒険しきれないと思いますよ……」

前野「えー? せっかくのアイデアなのになぁ」

剣「せっかくのアイデアとやらは、全然活かせないシロモノですし」

編集「そ、そうなんでしょうか」

編集「青山先生に私、あまり意味のあるアドバイスを出来た記憶がないので……」

編集「そういったアドバイスをして下さる前野さんがありがたかったのですが」

剣「これからは、簡単にアドバイスを受け取らない方がいいかもしれませんね。特に、この人とか」

前野「宮前くんは、つれないなぁ……あっ! 僕の才能に嫉妬しちゃったとか?」

剣「というわけで、今から青山先生に連絡をしてみては?」

剣「『自分の思ったように作品を考えてみては?』といったことを話すのは、どうでしょうかね?」

編集「そう、ですね。たしかに、そっちの方がいいのかも」

編集「そうします。……宮前さん、いつもありがとうございます」

剣「いや。そちらとは、浅い関係じゃありませんし」

編集「ふふっ、ありがとうございます」ニコッ

編集「それでは、前野さん。申し訳ありませんが、そちらの案は……」

前野「うわー、残念だなぁ……」

前野「絶対、面白くなると思ったのに」

剣(お前だけが面白くても、作品としてはダメなんだよ……)


――


青山「――あっ、電話?」

青山「もしもし……え?」

青山「『タヌキ』は無かったことにして、続きを……そ、そうですか」

青山「でも、本当にそれで……そっちの方がいいと思ったから?」

青山「わ、分かりました。はい、わざわざありがとうございます」

青山「それでは」

チノ「……青山さん、それでは」

青山「はい。どうやら、ここの『タヌキだった』っていう文章は無しになりそうですね」

千代「そ、そうした方がいいと思います」

御子柴「だ、だよな。このままじゃ収拾つきそうにねえし」

青山「……うーん」

青山「ただ、本当にこれで良かったんでしょうか? アドバイスを裏切った形になってしまったような」

野崎「そのことなら、さっきも言ったように心配無用です」

野崎「むしろ、青山さんが書きたい話を書けないことの方が大変でしょう。……もう、スランプからは抜けだしたんですよね?」

チノ(……あ)

ティッピー(こ、この男……まさか、あの時のことを)


青山「……ええ。もう、大丈夫です」

野崎「そうですか。俺としては、青山先生が引退したらどうしようかと思っていたので……心配していました」

青山「ありがとうございます。色々あったおかげで、何とか復活できましたし」

青山「……今回は、夢野先生に助けて頂きましたね」

野崎「助けた、というか……他人事とは思えなかったですし」

野崎「何より、相手が青山先生でしたし」

青山「もう。そこまで言われると照れてしまいます……」カァァ

千代「……ね、ねぇ、みこりん?」

御子柴「佐倉? どうした?」

千代「その……あ、青山、さんと野崎くんって、どういう?」

チノ「それは、私も気になります」

御子柴「か、香風?」

チノ「みこりんさんは、何かご存知なんですか?」

御子柴「い、いや。俺は何も……」

御子柴(というか、ナチュラルに「みこりん」になってるし……)


野崎「ああ。それなら、俺から話そう」

千代「の、野崎くん?」

野崎「青山先生も人気作家だしな……いつか、話さないととは思ってた」

青山「え? それを言ったら、夢野先生も人気漫画家では?」

野崎「青山さんには敵いませんよ。きっと、これからも」

チノ「……の、野崎さん。青山さんと、どういう?」モジモジ

野崎「香風と青山さんも、知り合いだったのか?」

チノ「は、はい」

ティッピー(わしもじゃぞ! こ、この男、やはりこの子とも……!)プルプル

チノ(おじいちゃん……)


千代「そ、それで」

御子柴「どういう関係なんだ?」

野崎「ああ、実はな――」


野崎「青山先生は……俺にとっての恩人なんだ」

青山「そして私にとっても、きっと……」

ここまでです。
青山さんの編集の参考画像を探そうとしましたが見つかりませんでした……。
公式で登場しているキャラになります。

次回で青山さんと野崎の話は終わり、御子柴メイン回に突入する予定です
それでは

諸事情で入院することになりました
1ヶ月ほど書き込みできないかもしれません
ごめんなさい



――回想・ファミレス


野崎「……」

野崎(ダメだ。これでもない)

野崎(どうしたら……もっといいアイデアが浮かぶんだろうか?)


野崎(――中学から少しずつ描き始めた漫画が、編集部の新人賞を獲ったのはつい最近だった)

野崎(そうして俺は、少女漫画家としてデビューした。……思い出すのは、やはり)

野崎「……保登」

野崎(何となく、スランプ状態になって……何となく、アイツの名前を呟く)

野崎(よく分からないけど、そうすると何となくホッとするのは少し癪だったものの……でも、不思議と心地悪いわけじゃなかった)


野崎「……しかし」

野崎(どうしたらいい? ……他の連載陣に比べて、俺の作品は出来が悪すぎる)

野崎(担当の前野さんの意見は、どうでもいいとして……誰を頼りにしたらいい?)

野崎(ここに、あのおせっかいで生意気で素人なのに……頼りになった「アシスタント」だった保登はいない。どうしたら……)




?「あのー……こちら、よろしいですか?」


野崎「……あ」

?「空き席、なかったもので。……夢野先生、ですよね?」

野崎「……ご存知、なんですか?」

?「ええ。最年少デビューの作家さんがいるというのは、小説界隈でも有名ですし」

野崎「……俺も、あなたのことはよく知っています。青山ブルーマウンテン先生」

青山「ふふっ、ありがとうございます」

野崎「史上最年少で、あの有名な賞を獲るなんて、という話はこっちでも耳にするもので」

青山「本当ですか? それはそれは……」

野崎(……まあ、お互い)

野崎(同じものがあったんだろう。……史上最年少でデビューした者同士の、何となく感じる親近感のようなもの)

野崎(それが偶然にも、俺たちを混みあったファミレスで付きあわせた、というわけだ)

青山「……」

野崎「……」

野崎(俺たちは、ただ静かに描き続ける)

野崎(苦手な背景とかは、後で何とかするとして。……とにかく、ストーリーだ)

野崎(デビュー作が通った後の、この喪失感……これを「スランプ」、というのか?)

青山「……うーん。浮かびませんねえ」

野崎「浮かばないな。……え?」

青山「あら? 夢野先生も、ですか?」

野崎「ええ。本当に、何も思いつかないんですよ」

青山「奇遇ですね。私もなんです」

青山「出だしだけは決まっているんですが……そこから、話を広げられなくて」

野崎「……俺も、そんな感じなんです」

青山「え? そうだったんですか?」

野崎「はい。つかみだけは決めていて(不本意ながら)担当さんの了承も、もらってるんです)

青山「そうなんですか? そこまでも同じです」


野崎「……」

青山「……」

二人「あの」

野崎「――考えていることは」

青山「同じ、みたいですね……」

二人「……」



――数分後


野崎「……もしかしたら」

野崎「このキャラを、こういう設定にして……イメージ画は、こんな感じでしょうか」

青山「わっ、上手。……私も、夢野先生のキャラを見させて頂いていると」

青山「どうでしょう? ここは、こういう心情描写にする、というのは……」

野崎「おお……さすが、プロの小説家ですね」

青山「そんな……私なんて、全然」

野崎「それを言うなら、俺もです」

二人「……」


野崎「――似た者同士、ですね」

青山「そうですね。本当に……」


野崎(――それから、青山先生との交流が始まった)

野崎(交流、といっても大したものじゃない。何となく、ファミレスとかで同席になった時にアドバイスし合ったり)

野崎(参考になりそうな漫画や小説を紹介し合ったり……そんな感じの関係だった)

野崎(結局、その後しばらくして俺は『恋しよっ』で何だかんだでヒットして、青山先生は『ウサギになったバリスタ』が映画化されるまでになった)

野崎(「あそこで偶然会わなかったら?」なんてことは時々、考えるものの……まあ、結果として、そんな風に落ち着いた)

野崎(そうだ。堀先輩も、青山先生の大ファンだった。もしかしたら今頃、誰かに紹介してるのかもしれない――)



――回想終了・ラビットハウス


千代「……そ、そうだったんだ」

御子柴「へえ。まさか、野崎が……『あの』青山ブルーマウンテンと」

チノ「……ビックリしました」

ティッピー(……うう)

ティッピー(ま、まさか、この男がこの子を助けていたなんて……くぅっ)


野崎「……そうだな」

野崎「で、担当も剣さんに変わって……その時のことを話したら、青山先生に恩を感じるようになってな」

青山「それは、私も同じでした。担当さんに、そのことをお話ししたら……」

野崎「それで、会った時は、お互いに……えっと」

青山「『切磋琢磨』、でしょうか?」

野崎「ああ、そうですね。……そんな感じなわけだ」

千代「……」


千代(――あ、あれ?)

千代(ちょ、ちょっと待って? それって……)

御子柴(青山ブルーマウンテンと野崎の関係……何というか、その)

チノ(言葉にしてはいけない「何か」を感じる、ような……)

ティッピー(そ、そんなことは断じて許さんぞ……!)

野崎(……コイツはいつ、「にらみつける」という技を身につけたんだろう?)


野崎「――まあ、会った時にコーヒーを飲んだり」

青山「ランチとか、ご一緒することもありますね。……偶然にお会いした時は」

千代(うう……この人が言ってるのは嘘じゃなさそうだけど)

御子柴(佐倉……大丈夫かな)

チノ(……まあ、でも)

ティッピー(この子をよく知っているわしから見たら、「そういう関係」じゃなさそうじゃな。うむ)

ティッピー(と、なると……やはり、問題は「ココア」ということになるわけ、か)

チノ(お、おじいちゃん。あまり、人を見つめるのは……)

一旦ここまでです
次回からみこりんメイン回の予定です
お待たせしてすみません

青山「……何にせよ、同じクリエイターさんがいるとがぜん張り切って来ました」

野崎「奇遇ですね。俺もそう考えていた所です」

青山「それでは、夢野先生。……お仕事、しましょうか」

野崎「ええ。今度は締め切りに間違いなく間に合いますね」

千代(うっ、ナチュラルに意気投合……)

御子柴(ダメだ、佐倉が不憫で見てられない……!)チラッ


チノ「――み、みこりんさん? どうかしました?」

御子柴(って、目線逸らしたら香風がいるー!?)ガーン

御子柴「い、いや、まあ……別に、何でも!」

御子柴「そ、そうだ! そういや、他にも店員いたよな?」

チノ「え、ええ。……ただ、お二人とも今日はちょっと遅くなるとのことなので」

御子柴「そ、そうなのか」

チノ「ですので……お手伝いさんを頼んでるんです」

御子柴「お手伝い……?」

御子柴(何だろう? 近所のおばさんとかその辺か……?)

ティッピー(……わしは、この男も心配しないといけないんじゃろうか?)




千代「……ふぅ」

千代「それじゃ、みこりん。野崎くんが張り切って来たみたいだし、私たちもがんばろ?」

御子柴「あ、ああ。……佐倉、無理すんなよ?」

千代「……みこりんはホントに優しいよね」クスッ

チノ「……」

チノ(この方々の関係が、ますます分からなくなってきました……)

ティッピー(全く同感じゃ……)


野崎「――それじゃ、御子柴。ここにいつものアレを」

御子柴「ああ、『花』だな。任せてく――」


マヤ「こんちはー! 手伝い、来たよー!」ガチャッ

メグ「こ、こんにちは……」


御子柴「……」

御子柴「は?」

野崎「おい、御子柴。線、はみ出てるぞ?」

メグ「……あれ?」キョトン

マヤ「ど、どうして、ここに!?」

御子柴「それはこっちのセリフだ!」

チノ(あ。やっぱり、こんな感じになりますよね……)

野崎「何だ、御子柴? そんなに、その子たちと親しいなら話してきてもいいぞ?」

御子柴「お、俺は別に……」カキカキ

千代「おお、みこりんの執筆速度が上がった……」


――数分後


メグ「……じょ、上手だね」

マヤ「た、たしかに……まさか、みこりんにこんな才能が」

御子柴「だから! 俺には『御子柴』っていう名前がなぁ……」カァァ

マヤ「いいじゃん、別に。『みこりん』……うん。こっちのがいいよ」

メグ「か、改名します?」

御子柴「誰がするかっ!」


野崎「……御子柴、モテるなー」

千代「ホントにねー」

御子柴「お、お前らまでバカにして……!」

チノ「み、みこりんさん。また、線がはみ出して……」

御子柴「あ、ああ、悪いな。香風」

チノ「い、いえ……」モジモジ

ティッピー(むむっ……)プルプル



マヤ「――あれ? もう、チノのこと呼ぶようになったんだ?」

メグ「そういえば、チノちゃんの苗字って珍しいよね……」

御子柴「……じゃあ、お前らは何なんだよ?」

マヤ「私? 条河麻耶だけど?」

メグ「わ、私……奈津恵です」

御子柴「条河と奈津か。……お前らも大概じゃねえか」

マヤ「えー? ……そんじゃ、名前でよくない?」

御子柴「……は?」

メグ「マ、マヤちゃん。それは、ちょっと……」

マヤ「えー? だって、みこりんいちいち面倒くさいし」

千代「……言われまくってるね、みこりん」

野崎「まあ、しょうがないんじゃないか。……ああ、佐倉。ここのベタよろしく」

千代「あっ、うん。分かったよ」

御子柴「お、お前ら、助けろよ!」

野崎「え? 何を?」

千代「いいじゃん、仲良くやってる分には」

御子柴「……ああ、分かった。お前ら、面白がってるな?」

野崎「……」

千代「……」

御子柴「何か言えよ!?」


青山「――夢野先生には賑やかな方々がいらっしゃっていいですねえ」

野崎「まあ、漫画家にはアシスタントがいた方がはかどりますしね」

青山「羨ましいです……」


ティッピー(……あ、あまりにもカオスになり過ぎてわけがわからなくなってきたぞ?)

チノ(お、おじいちゃん。……もう、流れに身を任せましょう)


御子柴「――チ、チノ?」


チノ「!?」ピクッ

ティッピー「!?」ピクッ

マヤ「おー、呼べた呼べた」

メグ「でも、すっごい照れちゃってる……」

御子柴「……や、やっぱやめるか。うん」カァァ

チノ「わ、私は……みこりんさんが呼びやすい方で、いいです」モジモジ

御子柴「そ、そっか。……うん」

ティッピー(こ、この男ぉ……!)プルプル


千代「……みこりんが楽しそうで何よりだねー」

野崎「ああ、御子柴。落ち着いたら頼みたいことがあるんだけど、いいか?」

御子柴「もう落ち着いたよ! つーか、コイツらがうるせーんだよ!」

マヤ「ねえ、みこりん? ここの演出、ちょっとなくない?」

メグ「わ、私も思うかな……」

御子柴「ああ、もういい!」


御子柴「それで? 頼みごとってのは?」

野崎「ああ。しばらく、小物類とかはいいから」

野崎「ちょっと、買い出しに行ってきてくれないか? ペンを買ってきてほしい」

御子柴「ん、わかった。ってことは文具店か」

野崎「ああ。……場所は、分かるか?」

御子柴「ここに来るまでにあったし、その道たどれば何とかなるだろ」

御子柴「GPS機能もあるし、何とかなるって」

野崎「すまないな。それじゃ、よろしく頼むぞ」

御子柴「ああっ! ありがとう、野崎!」


マヤ「ねー、みこりん? ここにどうして、こんな小物があるの?」

メグ「な、何か雰囲気と合ってないかも……」

チノ「お二人とも。きっと、みこりんさんには何か考えが――」


御子柴「――コイツらから逃げ出せるっ!」ダッ

マヤ「あっ、行っちゃった」

千代「え、えっと……みんな?」

千代「面白いから見てた私が言うのもアレだけど……みこりん、ああ見えて照れ屋さんだから」

千代「からかうのも程々に、ね?」

メグ「わ、分かりました!」

チノ「そ、そうですね……」

ティッピー(……どうして、この男が連れてくる者は一癖も二癖もあるんじゃろうか?)

一旦ここまでです
みこりん書くのが楽しすぎて辛い



――文具店前


御子柴「……っと」

御子柴「ここだな。それじゃ、行くか」

御子柴「……」

御子柴(なるべく時間を稼ごう……野崎には悪いけど)

御子柴(さすがに戻って、あのチビ達とやり合うのは疲れるから……)


店員「いらっしゃいませー」

御子柴「……うん」

御子柴(このGペンとか、なかなか良さ気だな……野崎が使ってるのと似てるし)

御子柴(あっ、いや。こっちのペンの方が……って、こっちは佐倉が好きそうだったな)


御子柴「……」


マヤ『えー、みこりんセンスわるーい』

メグ『わ、私もそう思うかなー……』

チノ『も、もうお二人とも! あまりみこりんさんをいじめたら――』


御子柴(ははっ……もう脳内再生すら余裕になっちまったよ。どうすんだよ、これ)

店員(あのお客さん……何か悩んでるのかな?)



――その頃


シャロ「……」

シャロ(今度のポップ絵に使うからってポスターカラーの買い出しを頼まれちゃったけど)

シャロ(この辺りだと、ここくらいしか大き目の文具店無いのよね……とりあえず、行こうかしら)

シャロ「……」


――こ、ここに漱石置いとくからっ!


シャロ「……みこりんさん」

シャロ(お釣りの百円、忘れちゃうんだから……もう)

シャロ(今度、会ったら返さないといけないのに……でも、どうしてかしら)


シャロ(あまり考えたくない気がしちゃうのは――)


店員「いらっしゃいませー」

シャロ「あっ、どうも――」


御子柴「ああ、違う……これでもアイツらにバカにされる」

シャロ「」

店員「お、お客様?」

シャロ「い、いえ! なんでもないです!」アセアセ

店員「?」

御子柴「……」

御子柴(今、どこかで聞いたことある声がした気がするけど……気のせいか)

御子柴(うん。これならアイツらにバカにされないだろ。多分)

御子柴(はあ。……俺、年下の女子が苦手なのかな)


シャロ(ど、どど、どうしてここにみこりんさんが……?)

シャロ(思わず隠れちゃったけど、これじゃまるで……だ、だから、そういうのじゃなくて!)

シャロ(ああ、もう。どうしたらいいのよ、もう……)カァァ

シャロ(……とりあえず、気づかれないようにポスカ売ってる所に移動しよう。うん)


――数分後


御子柴「それじゃ、これください」

店員「はーい」

御子柴(ふぅ、何とか探し終えたな。これなら時間的にも上出来だろ)

御子柴(後は……あのチビ達を相手する方法でも考えるか。憂鬱だけど……)


シャロ「……」

シャロ(け、結局、会えないままじゃない……)アセアセ

シャロ(この百円、返さないとダメなのに……こ、これじゃ)

御子柴「えっと……それじゃ、これで」

店員「はい。……あれ、お客様?」

御子柴「はい?」

店員「これ、五十円玉ですよ? これじゃ足りませんね……」

御子柴「……あっ!」

御子柴(やべっ。憂鬱なこと考えてたら、ぼやっとしちまってた)

御子柴(えっと、百円百円……って、ない!?)

御子柴(やべぇ、どうしよう……これ、一度帰らないといけないパターンだよな?)

御子柴(くっ……あのチビ達に何てからかわれるか……!)プルプル

店員(このお客さん、ホントに何があったんだろう……?)


シャロ「……!」

シャロ(み、みこりんさんが困ってる……)

シャロ「……」


御子柴「……それでも」

御子柴「しょうがない、な。うん」

御子柴「すみません。それじゃ一旦――」


シャロ「こ、これ! 百円ですっ!」

御子柴「……え?」

店員「あっ。それで足りますね」

シャロ「……」

御子柴「き、桐間……?」

シャロ「あっ……」

シャロ(名前、覚えててくれたんだ……)



――店外


シャロ「……ま、前にお店に来てくれた時のお釣りです。渡し忘れてたので」

御子柴「そ、そうだったのか。……それじゃ、これでチャラだな」

シャロ「は、はい……」

二人「……」

二人(な、何か気まずい……!)


御子柴「……え、えっと。俺、帰りこっちなんだわ」

シャロ「あっ。わ、私も……途中までは」

御子柴「……い、一緒に帰るか」

シャロ「……そ、そうですね」

二人(や、やっぱり気まずい……!)



――数分後


御子柴「……」

シャロ「……そう、いえば」

シャロ「みこりんさん、面白いものを買ってましたね」

御子柴「お、面白い?」

シャロ「は、はい。あまり見慣れない感じの……」

御子柴「ああ。あれ、漫画書くのに必要なんだよ」

御子柴「だから、色々考えて選んだんだ」

シャロ「そ、そうだったんですか……」

御子柴「桐間はポスカだったよな」

シャロ「は、はい。お店のポップ絵に使うからって……」

御子柴「そ、そっか……」

シャロ「は、はい……」

二人「……」


御子柴(何でだろう……)

シャロ(この人といると)


二人(何だか、落ち着くようで落ち着かない……)

ここまでです。
メインヒロインのターンでした。
しかし本当にみこりんに春が訪れるのかは……未知数ですね。

それでは。

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