杏「箱の中身」 (22)

初ssかつ思いついた勢いで書いたものです。

キャラ崩壊、特にきらりの口調がおかしいかもしれませんがご了承願います。

100%>>1のオ○ニーですが暇つぶし程度にどうぞ。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1423927726

@事務所

2月14日。

世間ではバレンタインデー。浮き足立つ一日だ。

俺からしてみれば、浮くような足も気分もなく、ただ忙殺の24時間ってだけだ。

「プロデューサー、一緒に休まない?杏の前で忙しそうにされると疲れてくるからさ」

彼女にとってもただの一日に過ぎないのだろうか。

少なくとも普段通りぐーたらしているだけの彼女からはバレンタインのバの字も感じられない。

とはいえ、こういった日にはイベントが必ずといって入るのだ。

「杏、お前もこれから仕事だろう。さっさと準備してくれ」

事務所のソファでうつ伏せ、顔だけこちらに向けていた彼女は背もたれの方へ向き直る。

「イヤだ! 杏は働かないぞ!! ましてやチョコの手渡しなんて面倒じゃないか!!!」

半分本音、もう半分は俺がここ最近構ってられなかったせいだろうか。

「あー、ちっひー。この資料作り終えたんですけど」

「誰がちっひーですか!! 全く。わかりました、こちらで整理しておきますから」

「助かります」

給湯室からツッコミが飛んでくる。

ここにきて早三年。事務員の彼女のみならず、アイドルたちとも良好な関係が築けている。

「ぐーぐー」

ふぅ。んじゃ次のお仕事へ行きますかね。

「ほら、行くぞ杏。起きろって」

仕方ない、車まで抱えていくか。こんなことは滅多にしないが、今日ばかりは時間がないからな。

「よっこらせっ! せっ!! せい!!!!!」

こ、こいつ……。ソファにしがみついてやがるッ!

「はーなーせー!!」

「いーやーだー!!!」

杏ってこんなに力強かったか?

「なにをやってるんですか?」

おっと、ちっひーがコーヒー持ってやってきた。

「あー杏ちゃんですか……。お疲れ様です」

ほんと、お疲れ様ですよ。

「チャンス!!」

んなっ!? 人の注意が逸れた瞬間に逃げたな!!

「こらっ、待て杏ぅ!!」

「待てと言われて待つわけないだろ!」

逃げ足だけは速い、こりゃ遅刻も覚悟しなくちゃいけないか?

そう思った矢先だ、頼りになる杏の保護者もとい諸星きらりが杏の前に立ちふさがる。

「にょわー☆ 杏ちゃん、Pちゃんこまってるにぃ。きらりんも一緒だからお仕事いこ?」

「げっ」

ナイスだきらり。彼女が杏を小脇に抱えてこっちへやってくる。

「はーなーせー」

「はい、Pちゃん。これ食べて、一緒にはぴはぴするにぃ☆」

そう言って渡されたのは小さな小包。

想像に難くない。チョコだろう。

「杏ちゃんにはこれ☆ チョコ味の飴ちゃんだにぃ☆」

「よし、杏は飴舐めてるからきらりにはそのまま杏を運ばせてあげよう」

現金なやつめ。でもなんだかんだ言って仕事はほとんどすっぽかさないからな。その点では信頼してるさ。

「ありがとうきらり。早速いただくな。あむ。ん、美味しい。甘過ぎず苦いわけでもなく」

「当たり前だ、誰に向かって言っているんだ」

「少なくとも杏が言えるセリフではないよね」

よし、今度こそ現場に急がなくては。

「きらり、杏。いい加減行くぞ」

~~~
@チョコレート専門店

「も、もう、動けない。帰る気力すらないぞ」

確かにいい働きっぷりだったが、床の上に寝っころがるな。

アイドルなんだから、せめて控え室に戻るまでは耐えてくれ。

「ほら杏、控え室に戻るぞ」

流石に公衆の面前でアイドルを背負うことはできない。

半ば引っ張る形で杏を控え室に押し込んだ。

「じゃあ俺はこの後店長さんに挨拶してくるから」

これが終われば残りはレナさんの付き添いだけだな。

~~~
@控え室

ガチャ

「あ、杏ちゃんおっつおっつ☆」

「んーきらりもおっつおっつー」

本当に疲れたよ。

2時間も立ちっぱなしとか、なかなか酷なことを杏に要求してくれたねプロデューサー。

今まで製菓会社の陰謀論を説くつもりはなかったけど、今回に関しては杏に労働を強いるために謀ったんじゃないだろうか? とさえ思っちゃうね。

「そういえば、きらりはプロデューサーにチョコあげてたね」

口では平静を保とうとしていたようだけど、声が上ずってて相変わらず分かりやすいよプロデューサー。

「そうだにぃ☆ 他にも智絵里ちゃんとか莉嘉ちゃんからももらったみたいだよ」

ふーん。チョコ……ねえ。

~~~
@事務所

「ただいま戻りましたーっと。ん? ちひろさんはいないのかな」

やけに静かな事務所だ。

確かまだ夜の11時に届いていないはず。

こういう日ぐらい早く帰っていても文句は言わないけどね。

彼女だってチョコを渡す相手がいても不思議ではないし。

「あれ? でも鍵はあいてたよな?」

もしかして閉め忘れか? なんと不用心な。

なにも取られてないか心配だな。

「なに独りでぶつぶつ呟いているのさ」

給湯室から出てきたのは杏だった。

これはこれでまた珍しい。こんな時間まで杏が仕事関係なしに事務所にいるなんて。

「『明日は雨かな?』とか思っているんだろうけど、ただ忘れ物取りにきただけだからね」

そう言う彼女の足取りは重たい。午前中は収録もしたから疲れたのだろう。

「そんなこったろうとは思ったけどな。でもなんだ、せっかくだしお茶でもしないか?」

「えー、杏はさっさと帰って寝たいんだけど」

この返しは予想していた。別に彼女の本心ってわけでないのも何と無く分かる。

「そこ頼むよ。ちょっと話し相手になってくれ」

「仕方ないなー、じゃコーヒーと飴ね」

コーヒーと飴って……、人の好みに口は出さないけど、合うのか気になるな。

それから二人で他愛もない話をした。

節分だのバレンタインだのでなかなか落ち着いて話す機会がなかったから、久しぶりのコミニュケーションだった。

今季のアニメについてだとか、この間発売されたゲームについてだとか。

正直、そっちにはそこまで詳しくないんだが、杏も話す内容をあえて浅めにしてくれてたようで十分ついていけたよ。

気づいたらもうすぐ日付が変わろうとしていた。

「杏、ほらカップよこせ。俺が洗っておくから」

「ん、じゃあ杏は帰るね。プロデューサーもさっさと帰るといいよ。私の仕事増やされても困るし」

ふふ、そうだな。確かに今日は疲れたし、もう帰るのもいいかもしれない。

「はいはい。気をつけて帰れよー」

「あのさ」

~~~
@事務所

「あら、杏ちゃんどうしたの?」

事務所にはちひろさんしかいなかった。

「いや、ちょっとね」

流石に帰ってきてると思ったんだけど、仕事が長引いているらしい。

「プロデューサーさんならあと15分くらいで帰ってきますよ」

まあ分かるよね、杏の目的くらい。

ちひろさんは鋭いからさ。

「まったく、杏を待たせるとは。これは有給増やしてもらうしかないな」

少しだけ恥ずかしかったから誤魔化す。

「ふふっ、あ、そうだ。ちょっと買い忘れた備品があるので杏ちゃんに留守を頼みたいんですけど」

杏もだけど、ちひろさんも分かりやすいよ、まったく。

「仕方ないなー、飴も買ってきてくれるならいいよ」

…………。

……。

遅いな。

カラカラ

箱の中身を転がす。

やっぱ、やめようかな……。

拒否られたらどうしようか。

これまで散々我儘言ってきた自覚はある。

確かにプロデューサーはそれを受け入れてくれたけど、仕事だったからかもしれない。

ガチャリ

あ……。

帰ってきた。

プロデューサーからのお茶のお誘い。断るわけがない。

一回目では首を縦に振らないのはいつも通り。

大丈夫、いつも通り。

プロデューサーがちらりと時計を確認した。

時計はてっぺんの少し手前を指している。

一つ、深呼吸。

「あのさ」

隠してた箱をだす。

「は、はーい。バレンタインのチョコ。……箱がカラカラいってる? 違うよー、大きさとかより、杏からチョコを貰えるのはすごいことなんだよーっ」

覚えたセリフは言えた。

「それは午後のイベントで言ってたセリフだろ、まったく。ありがとな、杏」

ありゃ、知ってたか。

あの時近くにいなかったからバレないと思ったんだけどな。

「開けていいか?」

「い、家でゆっくり食べればー?」

「んじゃ、ここで食うか」

悪戯にわらってプロデューサーは箱を開ける。

「おい、なんだこれ」

次は杏が、私が悪戯に笑い返してやる。

「見てわかるでしょ? 鍵だよ」

「そりゃ分かるが」

「うん、だからさ。杏の家の鍵。それ使っていつでもうちに来て杏の面倒をみれる権利だよプロデューサー」

「はあ……」

流石に呆れられたかな……。

「あのな、男に家の鍵渡すってどういうことか分かっ」

「分かってるよ! 分かってるんだ……。プロデューサーだから、プロデューサーのことが好きだから渡したんだ!!!」

「……」

沈黙が、辛い。

今すぐにでも、冗談でもなんでもなく、逃げだしたい。

「杏」

プロデューサーの顔を見上げられない。でも俯くと泣いちゃいそうだ。

こんな時、どうすればいいのかな。

全然、いつも通りじゃない。

~~~

家の鍵か、大胆すぎやしませんかね。

女の子にここまでさせたんだ。俺も真面目になるべきだろう。

「杏」

「このチョコ、俺には勿体無いし、硬すぎて食べられそうにないからさーー」

「ーー大事にとっておくよ。杏がトップアイドルになった時には、もしかしたら柔くなってるかもしれないし、少なくともそれまでにはこれを持つに相応しい男になっているはずだからさ」

「だから、それまでは俺が大事に肌身離さず持っておく」

「それで手を打ってくれないか?」

鼻を啜る音が聞こえた。

涙を堪えて肩が震えている。

「し、仕方ないなープロデューサーは。さっさとトップになって多額の印税と世話役手に入れてやるからな!!」

真っ赤な目と鼻のまま、彼女は高らかに宣言した。

ホワイトデーまでにうちの合鍵作らなきゃな。

駄文、これにて終了です。

もし読んでくださった方がいらっしゃったら御礼申し上げます。

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