宇佐「チョコ、くれるんですか?」【河合荘】 (54)

※誰得「僕らはみんな河合荘」SS

多分今日中に終わります。

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シロ「チョコレートファウンテンの中に突っ込みたいよね」

宇佐「何言ってんのさっそく」

シロ「あっつあつのチョコに包まれて徐々に冷えて固まっていく感覚って最高じゃん……」ハァハァ

宇佐「頼む溶けきってください!!」

麻弓「なにバレンタインで浮かれてんだよ宇佐。律ちゃんにお前のチョコバナナ咥えて欲しいとか言うんじゃねーぞ」

宇佐「一言も言ってないからな!?」

麻弓「律ちゃんからもしかしてーチョコくれるかもーとか思ってるだろうけど、童貞がソワソワしてても相手は好きな男以外に目線なんかいってないからな」

宇佐「何故そこまで人を潰しにかかるんですかね……」

シロ「期待して待ってても1ミリも意味がないとか、なんてコスパのよさっ……!」

宇佐「朽ちろ」

麻弓「バレバレなんだっての一週間前くらいから少しずつ『俺甘いもん好きなんだよねー』とか言い出す奴ってさぁ。そんな淡い期待だけで妄想が賄える男子高校生の燃費の良さな」

宇佐「なんなんすか!? そんなにバレンタインデーに期待しちゃだめ!?」

麻弓「宇佐って当日は朝学校きてちょっと靴箱あけるの躊躇ってそうだよな」

シロ「開けたらいつもと変わらず何も入ってないのにショック受けてね」

宇佐「なんて風評被害だ」

麻弓「周りでチョコ渡してるの見てながら席について、なんでもない風に装って机の中に手ぇ突っ込むんだろ? なんか指先に触れたと思って引っ張り出したらプリントの丸まったやつとか」ニヤニヤ

宇佐「やめてください不毛すぎる!!」

彩花「それで普段話さないような人からチロルチョコみたいの貰って『もしかしてこの人気があるのかも』って思うんだよね~」

麻弓「渡した方はハナから三倍返しなんて期待してないけどみんなに配る義理のやつな」

宇佐「やだこの人たちロマン潰してくる」

彩花「でもぉ~、何年か前に麻弓さんがすっごく気合いいれて笑えないレベルのデルレイのチョコ買って本命って言ってたときあったよね」

麻弓「おい」

彩花「それで当日の夜上から下までバッチリ決めて出て行って~」

麻弓「ちょ」

彩花「2時間後くらいにべろっべろになって、デルレイの袋持ったまま帰って……あ~でも、これって言っちゃいけないやつかもしれないからこの先は言わないね?」テヘペロ

麻弓「もう中身思いっきりこぼしまくってるからな」

宇佐「あー、ちょっとここで戦い出さないでくださへぶっ!!」

シロ「ああっ、何にもしてないのに流れ弾が飛んでくる宇佐君超羨ましい…っ!!」

宇佐「これで喜ぶのはシロさんだけだから!!」

ワイワイワイワイモットブッテモット!!

律「……何してるの?」ヒョコッ

宇佐「あっ、先輩すみません。うるさかったですか?」

麻弓「宇佐が突然誰かにどろどろのチョコぶちまけたいとか言い出してさ」

彩花「でも自分にはホワイトチョコレートしか用意できないからって落ち込んでるんだよ」

宇佐「マジで心の底から軽蔑する」

律「……住子さんに報告する?」

宇佐「やめてください、冤罪なんです」

彩花「律ちゃんもこっち来て話さない?」

律「なにを?」

麻弓「今年のバレンタインデーに宇佐がプライド捨てきって土下座してチョコを貰いに行くかどうか」

宇佐「そんなことしないから!」

シロ「土下座するときの社会不適合者感覚……!」ゾワゾワ

麻弓「シロの性癖にプライド云々も無かったな」

彩花「律ちゃんは誰かにあげるの~?」スッゴクオモシロイコトニナリソー

宇佐 (心の声漏れまくってるよこの人)

律「え、私は……」チラッ

宇佐「……っ!」

律「特に予定は……無いよ」

麻弓 (今ちょっと期待してたところからの紐なしバンジー超気持ち良かったろ?)グッ

彩花「そっか~、今年もあげる人は現れなかったかー」アウトオブガンチュウジャン

宇佐 (上からタライ落としてやりたい……)

シロ「俺には? ねぇねぇ俺にも無いの?」

麻弓「お前はチョコ溶かしてボウルに『ご自由にお舐めください』ってメモ貼ったやつの方が好きだろ」

シロ「麻弓さんそれちょうだい」

住子「律ちゃーん、もう行くよー」

律「あ、今行きます」

シロ「あれ、律ちゃんどこか行くの?」

住子「うん。住子さんと」

宇佐「あ、いってらっしゃい」

彩花「宇佐くん着いていかないの? ボディーガードとして」

麻弓「宇佐はまだ一人前の男のボディーになってないから無理に決まってるだろ!」

彩花「ゆるゆるガードなのは麻弓さんもでしょ?」チラッ

麻弓「どこ見て言ってやがる」

宇佐「もし本当に必要だったら荷物持ちくらいやりーー」

律「い、いいっ! 来ないでっ!」バッ

シロ「宇佐君の質の良い不憫さを生まれ変わったら享受したい」

宇佐「あ、そ、そうっすよね……ごめんなさい……」

律「っ! あの、ちがーー」

住子「律ちゃーん! 準備まだかしら?」

律「い、行かなきゃ。行ってきます!」

タッタッタッ……

麻弓「不幸の星の元に卑屈という才能を与えられて生まれたな」

宇佐「その元凶は大概麻弓さん達ですけどね」

彩花「まあまあ、期待しない方が良かったりするよ?」

麻弓「数々の男を腐らせてきた悪魔が言ってもな」

彩花「腐った男しか釣れない麻弓さんに言われるよりは」

ズバババババ

宇佐「ああ、もう争わない争わない」

シロ「今度戦うときは俺にリングをやらせてください!!」

宇佐 (でも確かに)

宇佐 (先輩からのチョコ、欲しいなぁ)

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2月14日

宇佐「ふぁ……おはようございます」

麻弓「おー、今朝はゆっくり抜けたかー?」

宇佐「朝の爽やかな気分、台無し」

シロ「あ、聞いてよ宇佐君! 昨日この寒い中夏用毛布一枚で耐久レースしたんだよ!!」

宇佐「勝者が一番の敗者ですよね、それ」

麻弓「自分を追い込むことが日に日に磨きかかってんな」

彩花「おはよ~。宇佐くん、今朝はちゃんと眠れた?」

宇佐「そんな、遠足前の子供じゃないんですから……」

麻弓「オカズは300円までか」

宇佐「おやつだ! そこ間違えんな!!」

彩花「ね~、今何時くらい?」

シロ「うーん、体内時計で言えば7時20分頃じゃないかな」

彩花「TVつけるねー」ピッ

シロ「全く信頼されてないね!!」

麻弓「うおっ、すげぇマジで7時20分だ……」

彩花「シロさんすごーい!」

シロ「目隠しプレイで覚えたカン……!」

彩花「たった今シロさんを褒めたことを忘れたいな」

宇佐「うそっ! 俺今日朝早いのに!」

麻弓「どうしたー? 教室僕一番乗りやりたいのか?」

シロ「犯罪はダメだよ?」

宇佐「一番犯罪者に近い人に言われたくないし、図書室の整理担当なんですよ!!」

麻弓「生理担当って字面がヤバイな」

宇佐「整理だ整理! もう一回上のセリフ読めや!!」

麻弓「……まあ、いいから早くイキなよ」

宇佐「行きなよ、だよね!? まあいいや、行ってきます!!」

バタバタバタ……


麻弓「……」

麻弓「律ちゃんは?」

シロ「多分いつも通りだと思うよ? 部屋にいるんじゃないかな」

麻弓「りょーかい」

シロ「……麻弓さんって、意外とおせっかいだよね」

麻弓「シロに褒められてもぜんっぜん嬉しくないな、何でだろう」

シロ「好意は折ってくるスタイル!!!!」

律の部屋



コンコン

律「っ!」ガサガサ

律「どうぞ」

ガチャ

麻弓「おはよ。宇佐はもう行ったよ」

律「……なんで宇佐くんの話?」

麻弓「あのねー、私だってそれくらいは分かるんだよ」






麻弓「……ソレ、宇佐のやつにあげるんだろ?」

律「っ!?」バッ

律「……」プルプル

麻弓 (一瞬で顔赤くなっちゃってさぁ)

麻弓「昨日住子さんと行ってたのは、それ作りになんだろ? バレバレだよ」

律「……でも、私宇佐君にあんなこと言っちゃった」

麻弓「……」

律「いつも優しくしてくれて、いろいろお世話になってくれるからお礼にって思って作ったんだけど……上手く出来なかった。それに、宇佐くんきっと怒ってるし、こんなの貰ってもしょうがないかなって……」

律「私があげても、宇佐くんはきっと他の人にしてるのと同じように笑って受け取ってくれる。だけど、もしかして面倒くさいって思われてるかもしれない。だからこれはーー」

ベシッ

律「あうっ」

麻弓「……ったくそういう考えをこんなときでもするからなぁ。これは宇佐の分のチョップな」

律「……」ムーッ

麻弓「律ちゃん。自己完結して楽しいか? 何でも分かってますって、結果出す前から考えるのつまらなくない?」

律「……」

麻弓「どう思っても私が口出すことじゃないけどさ。今その毛布に隠してるものは、少なくとも宇佐にあげたいって思ったから作ったんじゃないの?」

律「っ!」

麻弓「ゴタゴタややこしいのは後で考えなよ。結果より、まずはそれをきちんと宇佐に渡してあげる。それが律ちゃんのやらなきゃいけないことだよ」

律「……」

麻弓「だから、それはあの可哀想な卑屈童貞高校生にあげな。きちんと手渡しなよ」

律「……!」コクコク

麻弓「わかったな。じゃあ、行ってきな。応援してるからさ」

バタン

律「……」



律「……よし」

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律「行ってきます」

彩花「あ、待って律ちゃん」

律「なに?」

彩花「多分チョコ、渡すんでしょ?」

律「! ……彩花さんも知ってたの?」

彩花「うん。まだ誰かより幾分か乙女だから~」

麻弓「おいこら聞こえてるからな!」

彩花「律ちゃんおいで。髪、整えてあげる」

律「え、いいよ。いつも通りで」

彩花「だめだよ。ここ一番って時に、女はキメていかなくちゃいけないんだよ」

律「……お願い」

彩花「うん」サッサッ

律「……彩花さんは、チョコあげてる?」

彩花「う~ん、そうだね、ちょっと良い感じのお金持ってる人をガッチリ繋ぐ時にあげるかな」

律「聞いた私が間違ってた」

彩花「律ちゃんまでひどくない?」

彩花「……でも、手作りっていうのは、それほどの力で相手を繋ぐんだよ」

律「……そっか」

彩花「はい、出来た。あとピン貸してあげるね」

律「ありがとう……いってきます」

彩花「うん、いってらっしゃい」

ガラガラ……パタン

彩花「……律ちゃん、あんな顔するようになったんだね」

麻弓「宇佐が来てからだよな、ああいう良い表情するようになったのは」

彩花「そういえばそうだね」

麻弓「……ていうか今さっき話してたことさぁ、良い話のように見えて実は手作りと自称した市販品渡すっていうひっどい話だよな」

彩花「やだ、冗談キッツーい。麻弓さんの常套手段じゃん☆」




ズババババババババ

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図書室

律『あ、あのね、宇佐くん、これ……あげる』スッ

宇佐『え、マジっすか!? 嬉しいです!!』

律『それとーー』シュルシュル

宇佐『な、先輩! ちょっと……』

律『……ちょ、チョコ誰かに、か、かけたいって言ってたから、その……』プルプル

律『私も、あげる』





田神「おい宇佐!! ボーッとしてんなよそれ戻しとけって!!」

>>30ミス



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図書室

律『あ、あのね、宇佐くん、これ……あげる』スッ

宇佐『え、マジっすか!? 嬉しいです!!』

律『それとーー』シュルシュル

宇佐『な、先輩! ちょっと……』

律『……ちょ、チョコ誰かに、か、かけたいって言ってたから、その……』プルプル

律『私も、あげる』





田神「おい宇佐!! ボーッとしてんなよそれ戻しとけって!!」

宇佐「おっ、おうっ!!」

宇佐 (もう放課後になってるし、先輩も本に夢中だし、やっぱくれないかなぁ)

宇佐 (ま、まぁ、最初から分かってたし。こうやって楽しそうな先輩見てるだけでいいよな)

律「……」チラッ

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帰り道

宇佐 (とかなんとか言って、一緒に帰る時渡されるんじゃないかなーとか思ってた自分くたばれー!!)

律「……」ペラッ

宇佐 (いつも通り本に集中してるし……いや、期待しちゃってもいいじゃんか。もしかしてって思っちゃったじゃん。でも、なんというか、やっぱりなぁ)


宇佐 (先輩は俺のこと、特別には思ってないか)

宇佐 (先輩が俺に抱いていることは、河合荘のみんなに思っていることと同じなんだろう。どこかで自分は特別なんじゃないかって、そう信じてたけど。信じてただけだ)

宇佐 (それは悪いことじゃないし、不満なわけでもない。けどーーもう一人の俺は、どこか物足りないとぶつぶつ文句言ってるんだ)

河合荘前


宇佐「……ああ、もう着きましたね」

律「……」ピタッ

宇佐「先輩? 聞こえてますか?」

律「……さく……」

宇佐「え?」

律「うさ……くんっ……!」プルプル

宇佐 (えー何で急に泣きそうになってるの!? なんかしたっけ俺!?)

宇佐「あ、あの、俺なんか先輩にしましたか!?」オロオロ

律「えっ、ち、違う、宇佐くんは何もしてなくて、その」オロオロ

宇佐「いやもうなんかしてなくても俺が悪い気がしますごめんなさい!」

律「お、落ち着こう! お互い」

宇佐「は、はい」

律「……落ち着いた?」

宇佐「はい」

宇佐 (うわー上目遣いでうかがってくるとかもう俺死んでもいいや)

律「えっと、その、宇佐くん。……今日誰かにチョコ、貰った?」

宇佐「へ? い、いや、貰えなかったっす」

律「……そっか」

宇佐「……」

律「そ、その、今日だからってわけじゃないけど、今日はチョコあげる日、だからーー」ゴソゴソ


スッ






律「……いつもありがと、う……」

宇佐 (え、なんだこれ。目の前で先輩が本で顔を隠しながら赤い箱を渡してくれてる? ちょっと理解が追いつかない)

律「あっ、やっぱり嫌だった……?」

宇佐「いやいやいやいや!! そんなことないです!! いただきます!!」

律「う、うん。どうぞ」

宇佐 (自分で結んだようなリボンと、手書きのハッピーバレンタインの文字。これ、もしかして手作り……)

律「ホントは、あげたかったのはチョコじゃない。宇佐くんはいつも私を気にかけてくれてるから……お礼の気持ちを伝えたかった」

律「ありがとうね、宇佐くん」

宇佐「……そうですか。先輩、俺も言いたいことあります」

律「っ! ……何?」

宇佐「先輩。先輩は自分のために気にかけてくれてるって思ってるみたいですけど、俺は先輩と一緒にいたいからこうしてるんです」

宇佐「だから、先輩は気を負わないでください。こちらこそ、あ、ありがとうございます」ペコッ

律「か、顔上げて! ほら!」アタフタ

律「……宇佐くん」

宇佐「はい」




律「すごい、嬉しい」

宇佐 (……やばい、マトモに顔見れない)

宇佐「先輩! あのーー」








麻弓「いつまで青春ラブコメイチャイチャチュッチュしてんだよ!!」

宇佐「……は?」

麻弓「ったく様子見に行ったらすーぐこんなの見せられるんだから溜まったもんじゃねー!」

彩花「むしろ宇佐くんは溜まりまくってるんじゃない? 何かとは言わないけど~」

シロ「多数の視線に晒される感覚ってどう? 教えてくんない?」

住子「あらあら、律ちゃん渡せて良かったねぇ」

律「なっ……なっ……!」プルプル

麻弓「冷静に今の台詞考え直すと、数十年後まで語り継がれるレベルのクサさあるな」

彩花「『俺は先輩の近くにずっと寄り添っていたいんです』はすごいね~。マンガなら即抱いてレベルだよ」

宇佐「いや改変しすぎですよねそれ!!」

シロ「彩花さん『俺は先輩の近くで踏み台になりたい』だとBL界隈ではどうなるの?」

彩花「ん~彩花よくわかんないけど今夜シロくんぶちころがすことは決定したかな~」

シロ「今夜も楽しい夢が見れそうです!!」

ワイワイガヤガヤ

律「……宇佐くん。私今すぐ部屋にこもって本読みたい」

宇佐「……同感っす」

宇佐 (雰囲気とかなんとか、全部掻っ攫われた)

住子「さぁさぁ、みんな中に入りましょ。チョコに合う紅茶買って来たから、みんなで飲みましょうか」

麻弓「私日本酒がいい。今日の激甘空間を乗り越えたご褒美に辛口呑む」

彩花「麻弓さん女捨ててるね~」

シロ「僕カップと紅茶ギンギンに熱くしてもらっていいですか?」

住子「自分で淹れてくれるかしら?」

ワイワイワイワイソコモットツヨク……

宇佐「先輩、入りましょうか」

律「うん」

宇佐 (なんか結局いつも通りな気がするけどーーまぁいいか)



宇佐 (これも、河合荘のバレンタインらしいから)

終わり。

超誰得ですが読んでくれてありがとうございます。宮原るり作品は河合荘≧恋愛ラボ≧みそららの順で好き。
みそららアニメ化はよ。

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