少女「記憶の中でずっと二人は生きていける」(100)

少女「……」

男「……」

少女「え、ここ、どこ??」

男「……あん?? なんだ、ここ」

少女「……」

男「……」

少女「あんた、誰」

男「お前こそ誰だよ」

少女「あれ、私、死んだはずじゃあ」

男「あ、そういやおれも、死んだ気がする」

少女「……」

男「……」

少女「じゃあここ、天国??」

男「んん、地獄ではなさそうだけど」

少女「真っ白だね、この部屋」

男「地獄は真っ黒か赤いイメージだしなあ」

少女「地獄に行くほど悪いこと、してないし」

男「ああ、おれもだよ」

少女「でも天国というには殺風景すぎるよね」

男「なんの部屋だろう」

少女「ドアも窓もないし」

男「あそこにノブだけあるぞ」

少女「死んだ人が来る部屋かなあ」

男「じゃあ、続々と後からもやってくるのか」

少女「うわ、いやだな」

男「死んだときの姿でってことはねえよな」

少女「やめてやめて!! 気持ち悪い!!」

男「ちょっと、あのノブ回してくる」

少女「うん」

男「ん……」グイ

少女「どう??」

男「開かない」

少女「ま、そうでしょうね」

男「閉じ込められてんのかなあ」

少女「どうせ死んだんだし、どうでもいいよ」

男「さっぱりしてんなあ」

男「君、いくつ??」

少女「14」

男「死ぬには若すぎないか」

少女「そっちだって、たいして変わんないじゃん」

男「まあ、そっか」

少女「あんた、いくつ」

男「18」

少女「受験のストレス??」

男「おい、自殺だと決めつけんな」

少女「違うのか」

男「違うよ、事故だよ事故」

少女「事故かあ、私も一緒」

男「車??」

少女「うん、交差点でね」

男「そっか、痛かった??」

少女「覚えてないよ」

少女「知らないうちにこの部屋に来てた」

男「そっか」

少女「あんたも車の事故??」

男「いや、学校の屋上から落ちて」

少女「それ自殺じゃん!!」

男「いや、違うんだって、友だちと、その、じゃれあってたらさ」

少女「付き落とされたの!? 殺人じゃん!!」

男「いや、違う違う」

少女「犯人はその友だちじゃん!!」

男「違うって」

少女「痛かった??」

男「覚えてない」

男「ふわっと落ちてる間に気を失ったんだと思う」

男「あーこれ死ぬわ、って思ってるうちに、この部屋に来てた」

少女「楽に死ねて、良かったんじゃない」

男「んん、不幸中の幸いというか」

少女「あ、それ、まさにその言葉が合うね」

男「なんだろう、この、死んだはずなのに実体がある違和感」

少女「ね」

少女「夢って感じでもないし」

男「ドッキリ??」

少女「誰がそんなこと仕掛けるのよ」

男「共通の知り合いが……」

少女「いるわけないじゃん」

男「実はおれたちには血のつながりが……」

少女「安いドラマかい」

いつも言われる
癖なんですよねえ
!!と!?と??を使い分ける感じ
直してみよかなあ

はむはむ

とりあえずクエスチョンマークは一つにしてみます
半角はなんか微妙なのでとりあえず全角で

男「でも、死んだっぽいのは本当だと思うんだよなあ」

少女「私も」

男「あ、そうだ、君はなんで死んだの?」

少女「だから、交差点で、車が突っ込んできて」

男「余所見でもしてたの?」

少女「私が? 運転手が?」

男「君が」

少女「ああ、いや、余所見って言うか……」

男「ん?」

少女「友だちがさ、危なかったのよ」

男「友だち?」

少女「そう」

少女「一緒に交差点を歩いてた友だち、ね」

男「ふうん」

少女「で、そいつを突き飛ばして、代わりに私が轢かれたっていうか」

男「自分が犠牲になって友だちを助けたわけか」

少女「ああ、うん、結果的にはそうなんだけど、そんな風には考えてなかったし」

男「美しい友情だな」

少女「ううん、そういう風に言われてもなあ」

少女「無我夢中だっただけだから」

男「じゃあ間違いなく天国行きだな」

少女「んー」

男「まだ若いのに、良くできた子だ」

少女「もう、その上から目線の言い方、やめてくんない」

少女「あんたもまだ若いでしょうに」

男「『でしょうに』っていう言い方は、若くないな」

少女「うるっさい!!」

男「大人ぶってるのか?」

少女「違う!! お姉ちゃんの影響だっつうの」

男「お姉ちゃんがいんのか」

少女「そうよ、私より何倍も何倍も良くできるお姉ちゃんよ!!」

男「なに怒ってんだよ」

少女「怒ってなんかない」

男「いつも優秀な姉と比べられたのか」

少女「……」

男「図星か」

少女「わかんないわよ、あんたには」

男「わかるよ」

少女「適当なこと言わないで」

男「おれにも優秀な兄がいたからなあ」

少女「……そう」

少女「でもまあ、私じゃなくてお姉ちゃんが死んでたら、もっと辛かっただろうし」

男「……」

男「なんで」

少女「代わりに私が死んでたらよかった、みたいに言われたり」

男「やめろって」

少女「聞いたの、あんたじゃん」

男「ん、そうだけどさ」

少女「あんたも、同じこと思ってるんじゃない?」

男「死んだのが兄貴の方じゃなくてよかった、てか」

少女「……うん」

男「はっ」

男「誰かの代わりに死ぬ、なんてのは死ぬ側の身勝手な妄想だ」

男「そんな現実はないんだよ」

男「死んだのはおれ!! 兄貴に代わりでもなんでもなく」

男「ただただ平凡なおれという人間が死んだだけ!!」

少女「……そうね」

男「君もだよ」

男「姉ちゃんではなく君という人間が死んだんだ」

男「友だちの代わりに、ではなく、君個人が死んだんだ」

少女「……うん」

男「君は、あれだろ、友だちがどう思っているかを気に病んでいるんだろ」

少女「……」

男「私の代わりに、あの子が死んじゃった、どうしよう」

男「そんな風に友だちが思ってないか、心配してるんだ」

少女「……」

男「優しい子だね、君は」

少女「女の子じゃないの」

男「あん?」

少女「男の子よ、その友だちって」

男「あ、そう、そりゃあ早合点してたな」

少女「今どう思ってるかな、って、ちょっと不安になる」

男「……わかるよ」

少女「あのねえ、さっきからさあ、なんか人を見下してない?」

少女「私の気持ちがわかるって言うの?」

男「わかるよ」

少女「どうしてよ」

男「おれも、似たような死に方をしてるからだよ」

少女「ん……」

少女「そ、そう」

男「自分の死のことを、自分のせいだ、なんて重荷に思ってほしくない」

少女「……」

男「だけど、なにも感じていないのも寂しい」

少女「……」

男「そういう、曖昧な感じだろ」

少女「……なんで、わかるの?」

男「だから言ったろ、おれも同じような死に方をしたんだって」

少女「どんな?」

男「屋上でさ、友だちとじゃれあってたって、言っただろ」

少女「うん」

男「友だちのさ、ハンカチがさ」

少女「ハンカチ?」

男「そう、気に入らなくてさ、取り上げて」

少女「取り上げて? あんたガキじゃないの!?」

男「おっしゃる通り」

少女「友だちのハンカチを気に入らないからって?」

少女「そんなのその人の勝手じゃん!!」

男「おっしゃる通り」

少女「はあ、ちょっと意味わからない」

男「あの、その友だちってのはさ、女でさ」

少女「ああ」

男「別の男からもらったプレゼントらしくてさ」

少女「はあ」

男「なんつーか、嫉妬って言うか」

少女「その女の人、あんたのなんなのよ」

男「……友だち」

少女「じゃあ、あんたに嫉妬される筋合いはないじゃんか」

男「……おっしゃる通り」

少女「片思いってわけね」

男「うん」

少女「で、他の男のプレゼントに嫉妬して、取り上げて、それで?」

男「屋上で走り回って、バランス崩して」

少女「ハンカチは?」

男「握りしめたまま、落ちた」

少女「もう、なんていうか、最低な死に方ね」

男「返す言葉もないよ」

少女「その人にしてみたら、ほんと、5割増しで最低ね」

男「……はあ」

少女「わからないでも、ないけどね」

男「嘘つけよ」

少女「慰めで言ってるんじゃないよ」

少女「私も、そうだったもん」

男「はあ?」

少女「その男の子のこと、好きだったもん」

男「……」

少女「だから、自分の命のことなんか、全然考えてなかったもん」

男「……」

少女「あいつが死んだら嫌だって、そんなことしか、考えてなかったもん」

少女「付き合ったりとかじゃなかったけど、でも、それでもいいっていうか」

少女「一緒に帰れるだけで、嬉しかったし」

少女「一緒にいられるだけで良かったんだもん」

男「……」

少女「大袈裟じゃなく、あいつじゃなくて、死んだのが私でほんと良かった」

男「……」

男「それって……」

ガチャリ

少女「!!」

男「!!」

また明日来ます

少女「ドアが……開いた?」

男「……」

?「失礼します」

?「御二方、御自分の状況を把握しておられますか?」

少女「……は、はあ」

男「死んだってことくらいは、まあ」

?「ええ、十分です」

少女「あの、ここはなんなんでしょうか」

男「ああ、それ、それを聞きたかった」

?「ここは、天国と地獄の間です」

少女「はあ」

男「なるほど?」

?「正確には、天界と冥界の間です」

少女「うん?」

男「な、なるほど?」

?「まあ、簡単に言いますと、天界へ行くか冥界へ行くか、その審判の待合室です」

少女「ああ、それが一番わかりやすい」

男「いつまで待ってりゃあいいの?」

?「ええと、今は待っている人が少ないので、一日もあればどちらも呼ばれると思います」

少女「一日!?」

男「それって遅いんじゃないの?」

?「人死にが多いと、何日も待つ場合もありますので」

少女「はあ」

男「よくわかんねえけど、呼ばれるまで待ってたらいいのか」

?「ええ」

少女「貴方は天使?」

天使「ええ、そういう役割を仰せつかっております」

男「天使ね、実在するとは」

少女「ここで一日過ごしてたらいいのね」

男「ヒマだなあ」

天使「四方の白い壁は、念じれば現実世界の様子が見られるスクリーンになります」

少女「へえ」

男「すげえ」

天使「それを見て、現世との別れを惜しむのも悪くないかもしれません」

少女「ううん、どうしよ」

天使「見る見ないは自由ですから、お好きになさっていてください」

バタン

男「なんの話、してたっけ」

少女「もう、いいよ」

男「あ、そうだ、君の友だちの話」

少女「うん、もう、いいの」

男「好きだったんだろ、見ないの? スクリーンで」

少女「……どうしよっかなあ」

男「怖いか」

少女「そりゃあね」

少女「あんただって、そうでしょ」

男「まあね」

少女「あんたもさ、そのハンカチの持ち主の女の人がさ、重荷に思ってないか心配なんだ」

男「ていうか、おれの場合は完全におれが悪いからなあ」

少女「そうだけど」

男「目の前で自分のハンカチ持ったまま落ちて死んだ同級生に、同情はできないよなあ」

少女「そうだけど、さ」

男「トラウマになってないか、心配」

少女「あはは、そっちか」

男「おれは、見てみようかな」

少女「……そう」

男「別に、君も見てもいいからな」

少女「……うん」

男「んっと、どうやんのかなあ」

ヴォーン

男「お、出た出た」

少女「……」

男「……」

『あいつは……まだ……18だぞ!!』

男「兄貴……」

『どうして……どうして……くぅっ』

男「ははは、なんか、申し訳ないな」

『馬鹿野郎……おれより先に死にやがって……』

男「親父……」

『くそっ……くそっ……』

男「……」

少女「ねえ、辛くなるなら見ない方が……」

男「いい、全部見る」

少女「でも」

男「辛くなってもさ、仕方ねえじゃん」

男「そもそもおれが阿呆な死に方をしたのが悪いんだし」

少女「ん……」

男「反省して、うん、天界でも冥界でも行って、もっと反省する」

『馬鹿な死に方して……あの子はほんとに……』

男「母ちゃん……」

『なんで……なんでこんな……』

男「母ちゃん、御免」

男「おれが悪いんだよ」

『屋上でふざけあってたって言う、あの子たちが悪いのよ……』

男「違う!! おれが悪いんだ!! あの子は悪くないんだ!!」

男「おれが……」

少女「……」

ヴォーン

『あの子は、優しい子だった』

少女「お姉ちゃん……」

『私には、ないものを、たくさん……うぅっ』

少女「……」

『早すぎる……早すぎるわよぉっ……』

『本当に……どうしてあの子が……』

少女「ママ……」

『あの子が事故に遭っているとき……おれは……涼しい部屋で……書類なんか見ていて……』

『あの子の苦しみも知らず……あの子を想ってやれず……』

少女「パパ……」

『もっと……もっと構ってあげれれば良かったっ……』

少女「うっ……うっ……」ポロポロ

『それは、私も同じよ……』

『あの子……ずっと私に遠慮していたもの……』

『もっとお姉ちゃんらしいこと……してあげるんだったわ……』

少女「そんなこと……言わないで……」ポロポロ

プツン

男「……」

少女「見るの、やめちゃったの?」

男「ああ、ちょっと、精神的に来るものがあるな」

少女「……私も」

男「なんだ? 目が赤いぞ?」

少女「……気のせい」スイッ

男「泣いたのか」

少女「……」

少女「いいじゃない、別に」

男「悪いなんて、言ってないよ」

男「悲しくて泣けるなら、人間らしい」

少女「人間らしくなかったら、どうなるの?」

男「悲しくても泣かない」

少女「そんな人、いっぱいいるでしょう」

男「じゃあ、えっと、悲しいとき笑う」

少女「それ、ただの変な人じゃん」

男「悲しいという感情がない」

少女「ああ、それは人間らしくないね」

男「……」

男「……なんの話をしてたんだっけ」

少女「忘れちゃった」

男「悲しいのはどんなとき、って話だっけ」

少女「そんな話、してたかな?」

男「おれさ、15のときにさ、ばあちゃんが死んで」

少女「うん」

男「病院で、めちゃくちゃ泣いたんだ」

少女「……うん」

男「身近な人が死ぬのって、それが初めてだったから」

少女「……うん」

男「なんか、リミッターが外れたって言うか、ボロボロ涙が勝手に出てさ」

少女「……うん」

男「でも、落ち着いたら、すごくすっきりしたんだ」

男「ばあちゃんは、高齢だったし、大きな病気とかもしなかったし」

男「天国で幸せに暮らしてね、って素直に思えたんだ」

少女「寿命なの?」

男「うん、まあ、そうかな」

少女「私、おじいちゃんもおばあちゃんも、まだ生きてるの」

男「そっか、羨ましいね」

少女「でもいつか、死んじゃうんだよね」

男「そうだね」

少女「私ね、お葬式って、行ったことがないの」

男「そう」

少女「どんな感じ?」

男「ん、みんな下向いてて、寂しくて、暗い感じ」

少女「行ったことあるの?」

男「ばあちゃんのとき、一回だけだけどな」

少女「悲しかった?」

男「おれは、病院でひたすら泣いたから、葬式では泣いてないよ」

少女「そっか」

男「なんか、気になる?」

少女「ん? んっと、私のお葬式って、どうなるのかなあ、とか」

男「ああ、そうか」

男「明日は、おれたちの葬式か」

少女「今日じゃないの?」

男「今日はお通夜かな、たぶんね」

男「宗派にもよるだろうけど」

少女「宗派ってなに?」

男「仏教か、神道か、みたいな」

少女「仏教はわかるけど、神道ってなに?」

男「えっと、家に神棚か仏壇かある?」

少女「神棚があるよ」

男「じゃあ君んとこは、神道だ」

少女「そうなの?」

男「たぶんね」

男「それ以上の細かいことは、詳しくないけどさ」

少女「ふうん」

男「今日、お通夜があって、明日は火葬して……」

少女「火葬って……」

男「焼いて、埋めるんだよ」

少女「私たちの身体、焼かれちゃうの?」

男「……そうなるね」

少女「身体、なくなっちゃうの?」

男「……そうだね」

少女「なんか、実感わかないなあ」

男「まあ、まだ実体はあるもんねえ」

少女「お通夜の様子、見てみようかな」

男「悲しくなるよ?」

少女「悲しくて泣くのが、人間らしいって、さっき言ってたじゃん」

男「そうだけど……」

少女「泣いてすっきりするの、私も」

男「そうかい」

あんま展開しなくてすみません

少女「今何時なんだろうねえ」

男「わっかんねえなあ」

少女「ここに来てからどれくらい経ったんだろうねえ」

男「わっかんねえ」

少女「なんかさあ、こういう映画あったよね」

男「どんな?」

少女「なぜか、見知らぬ部屋に閉じ込められてるってやつ」

男「よくあるよな」

少女「ホラーにもコメディにもあるよねえ」

男「ああ」

少女「ああいう人たちって、どうやって時間を知ってたんだっけ」

男「さあ?」

少女「携帯とか、持ってない?」

男「ポケットにはなんも入ってなかった」

少女「そっか」

男「ハンカチも、持ってなかった」

少女「それは、いいでしょ、別に」

男「あいつの」

少女「ああ」

男「まだ、現世は明るいみたいだったけれど」

少女「お通夜って、夜だよね、だいたい」

男「まあそうだろうな」

少女「それまで、なにしようかなあ」

男「あの、友だちの」

男「やっぱなんでもない」

少女「ははは、私もそれ考えてたんだけどさ」

男「……うん」

少女「やっぱちょっと、勇気、いるよね」

男「ああ」

少女「でも、見ないと、きっと後悔する」

男「そうだな」

少女「だから私、見るよ」

男「偉いな、君は」

少女「え?」

男「おれがビビって足踏みしてる間に、どんどん先に行くんだもんな」

少女「でも、スクリーンを最初に見たのは、あんたの方だったでしょ」

男「そうだっけ」

少女「あんたも、友だちの姿を見るのを怖がってる」

男「……ああ」

少女「私も、怖いよ」

男「……だろうね」

少女「だからさ、せーので見ようよ」

男「……はは」

少女「なによ」

男「いいアイデアだ、と思ってね」

少女「……でしょ」

……

男「よし、じゃあ見よっか」

少女「うん」

男「背中合わせで座ろうか」

少女「……うん」

男「ふーっ」

少女「ふーっ」

男「よし、いくぞ」

少女「や、や、や、ちょっと待って!!」

男「なんだよ」

少女「心の準備が」

男「ったく、さっきまでの威勢はどこ行った」

少女「大丈夫、大丈夫」

男「そうそう、大丈夫」

少女「うん」

男「どうせさ、おれらは死んでるんだから、客観的に見てようぜ」

少女「そんな自信ないけど……」

男「いいから、ほら、いくぞ」

少女「うん」

ヴォーン

男「あれ、もう、お通夜の時間?」

ざわざわ

男「クラスのやつら……先生……叔父さん……叔母さん……」

『あんなにいい子が……』

『このたびは誠に……』

『お悔やみ申し上げます……』

男「みんな……」

ぐすっ……えぐっ……ひっく……

男「みんな……おれのために……」

ヴォーン

少女「これが……お通夜?」

ざわざわ

少女「みんな……先生……」

『このたびは……』

『あのトラック……許せない……』

『神も仏も……ありませんね……』

少女「パパ、ママ……」

『本日は、あの子のために、ありがとうございます』

少女「ほんと、こんなに集まってもらえて、私、嬉しいよ」

ヴォーン

男「みんな……泣いて……」

男「おれなんかのために……」

『あいつは、真面目で、いつも一生懸命勉強して……』

男「先生……」

『いつも、おれ、相談聞いてもらってました』

『今でも、あいつには感謝しています』

『……もっと……伝えたかったっ……』

男「くぅっ……」ポロポロ

ヴォーン

ぐすっ……ひっく……うぇ……うぇ……

『うぇえ……悲しいよ……悲しいよ……』

『もっと一緒に……遊びたかったよっ……』

少女「私も……だよ……」ポロポロ

『いつもみんなのことを考えて動ける、優しい子でした……』

『私たちが喧嘩したときも、間を取り持ってくれて……』

『なんで……死んじゃったの……うぅっ』

少女「御免ね……御免ね……」ポロポロ

ヴォーン

男「お開きか……みんな帰っちゃったな……」

男「ていうか、おれの遺影、もっと男前のやつなかったのかよ……ふふっ」

男「あ……」

女『……』グスッ

男「残ってくれてたんだ……」

女『……』グスッ

男「でも、どうして……」

男「……」

女『御免ね……御免』グスッ

男「なんで、謝ってるの」

女『私、酷いこと、したね』グスッ

男「なんで? 君はなにも悪くないよ」

男「おれが勝手に嫉妬して、勝手に死んだんだから」

女『なんで、あんなことしたんだろうね、私』グスッ

男「なに、言ってるの?」

ヴォーン

少女「お通夜って短いんだね……」

少女「もうみんな、いないのかな……」

少女「あ……」

少年『……』ポロポロ

少女「残ってくれてたんだ……」

少年『……』ポロポロ

少女「でも、泣いてる……」

少年『御免なさい、御免なさい……』ポロポロ

少女「あんたは悪くないよ、あんたが無事だったら、それでいいの」

少年『僕、僕、トロくて、いつも、君に迷惑かけて……』ポロポロ

少女「そんな風に思ってない!!」

少女「ずっと大好きだった!!」

少年『僕の代わりに君が死んで……うぅっ』ポロポロ

少女「今でも大好きなんだから!!」

明日完結予定です

ヴォーン

女『私ね、君にね、焼きもち焼かせたかったんだぁ……』グスッ

男「え……?」

女『いつも、さ、曖昧な関係だったでしょ、私たち』グスッ

男「え? え?」

女『だから、私のこと、どう思ってるのかなって、それであんなこと、しちゃって』グスッ

男「……」

女『御免ね……御免なさい……』ポロポロ

男「そんな……」

女『許してなんて……もらえないの……わかってる……』ポロポロ

男「そんなこと……」

男「はは……死んでから気づくなんて……遅かったな……おれ」

男「ほんと、馬鹿だなあ……」

女『御免ね……御免ね……』ポロポロ

男「謝る必要、ないよ」

男「おれが馬鹿だった、ただそれだけだ」

女『……』ポロポロ

男「ハンカチ、御免ね」

ヴォーン

少年『あのとき……僕……フラフラしてて……また君に迷惑をかけて……』ポロポロ

少女「そんな風に言わないで!!」

少年『僕が死ねば……』ポロポロ

少女「そんな風に言わないでったら!!」

少女「もう十分だから!! 自分を傷つけないで!!」

少年『御免ね……ほんと……ダメだ……僕……』ポロポロ

少女「もう!!」

少年『もう一度会って……君に……謝りたい……』ポロポロ

少女「ぅうっ……」

少年『御免ね……御免ね……』ポロポロ

少女「わ……私だって……もう一度……会いたいよ……」

少年『……』

少女「会いたい!! 会いたい!!」

少年『……』

少女「まだ!! まだ死にたくないよぉ!!」ポロ

少女「死にたくない!! もっと生きて……生きていたかった!!」ポロポロ

少女「うああ……ああああん」ポロポロ

少女「死にたくないよぉ……なんで……なんで……」ポロポロ

少女「もっと、お喋りして、一緒に、帰って」ポロポロ

少女「ぐす……ひっく……」ポロポロ

少女「楽しい毎日を……もっと……もっと……」ポロポロ

少女「過ごしたかったのに!!」ポロポロ

少女「もっと続くと思ってたのに!!」ポロポロ

少女「ぅあぁああああん……」ポロポロ

男「……」

少女「……」グス

男「ねえ」

少女「……なに?」グス

男「おれが偉そうに言うことじゃないかもしれないけれど」

少女「……」

男「おれたちはさ、やっぱさ、死んだんだよ」

少女「……わかってるわよ、そんなこと」

男「おれもさ、わかるよ、生きてたいって気持ち」

少女「……うん」

男「だけど、その、なんていうか、おれたちは死んだけど、存在が消えるわけじゃない」

少女「?」

男「現にさ、あの男の子は君のこと、心に刻んでくれてるじゃないか」

少女「心に?」

男「そう」

男「あの子が君のこと、忘れると思う?」

少女「……ううん」

男「だろ?」

男「思い出に残ることができるじゃないか」

少女「……」

男「おれたちは死んだけどさ、みんなの記憶の中で、ずっと二人は生きていけるんだよ」

少女「記憶の中で……ずっと二人は……生きていける……」

男「そう」

男「君のパパも、ママも、お姉ちゃんもさ、君のこと、忘れないよ、きっと」

少女「……うん」

少女「あんたも……家族と、あの子の心の中で……」

男「ああ、生きていけるんだ」

少女「ありがと」

男「ん?」

少女「なんか、すっきりしちゃった」

男「ははは」

少女「泣いてすっきりするって、こういう感じなのね」

男「そうそう」

少女「一つ勉強になりました」

少女「さすが、私より長く生きてるだけあるのね」

男「そんなに変わんねえよ」

少女「ねえ……こっちからさ、現世に言いたいことは伝わるかな」

男「ん……どうだろう」

少女「あいつに、思いっきり叫びたいんだけど、色々と」

男「ああ、おれもだ」

少女「叫んだらさ、ちょっとは伝わるかな」

男「やってみようか」

少女「うん」

ガチャリ

天使「……?」

男「おれは!! お前が好きだった!!」

男「ていうか今でも好きだ!!」

少女「ねえ!! いっつも一緒にいてくれて、ありがとう!!」

少女「大好き!! すっごく好き!!」

男「気付かなくて馬鹿な真似して御免!! 嫉妬して御免!!」

男「あんな死に方して御免!! 目の前で死んじゃって御免!!」

少女「あんたは悪くないよ!! むしろあんたを庇って死んだこと、胸を張れる!!」

少女「今までありがとう!! ずっと忘れないから!!」

女『許してくれるまで……ずっと償い続けるから……』

男「気持ちだけで十分!! もうもらってる!! 十分!!」

少年『僕……君の分まで……一生懸命生きるから……』

少女「重いよ!! もっとリラックスして!! 気楽に元気に生きて!!」

女『御免ね……でも、ありがとう』

男「!!」

少年『ずっと忘れないから!!』

少女「!!」

男「ありがとう……か」

男「そうだよ、『御免』なんかより、そっちの方がいい」

少女「忘れないで……いてくれるの……?」

少女「嬉しい……嬉しい!!」

天使「……」

男「伝わったかな、気持ち」

少女「どうかなあ」

男「まあ、伝わんなくても、すっきりしたからいいか」

少女「そう!! 終わりよければすべてよし!!」

天使「……」

男「うおっと!! いつの間に」

少女「や!! びっくりした」

天使「ええ、ええ、邪魔してしまって申し訳ありません」

天使「御二方、スクリーンをご覧ください」

男「ん?」

少女「なあに?」

天使「私からの、ささやかな悪戯です」

男「……?」

少女「……?」

男「うお!!」

少女「や!!」

『遺影がウインクした!!』

天使「では、失礼します」

男「ははは、びっくりした」

少女「あんなん見たら、腰抜かすよね」

男「ははは、あいつ、ポカーンてしてる」

少女「あはは、あいつも目が点になってる」

男「でも、これで、伝わったかなあ」

少女「素敵なプレゼントだったね」

男「ああ」

天使「あ、そうそう、忘れていました、仕事」

男「仕事?」

天使「大天使様がお呼びです」

天使「今から御二方とも、審判が下ります」

少女「ああ、そっかそっか」

少女「天国行きか地獄行きか」

男「へいへい、そうだったな」

天使「まあ、そんなに身構えなくて大丈夫ですよ」

天使「地獄で拷問を受けたり、なんていうのはありませんから」

少女「そっか」ホッ

男「あのさ、生まれ変わりって、あるの?」

天使「ありますよ」

少女「じゃあ、またあいつと会える?」

天使「さあ、それは……貴方の頑張り次第ですね」

少女「ふうん?」

男「おっし、行こうか」

少女「うん」

男「じゃあな!!」

女『……じゃあね』

少女「またね!!」

少年『……また、会えるといいな』


★おしまい★

またどこかで

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