幼馴染「……チョコ、あげる」プイッ (87)




男「はぁ、来てしまったか」

男(今日はバレンタイン。女性が好きな男性にチョコレートを贈る日だ)

男(しかし、俺は貰える手はずなんてありゃしない)

男(強いて言えば幼馴染が義理でもくれればいいのだが)

男(まあ、淡い期待だろう)

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学校


友「はよー」

男「おはようさん」

友「さて、今日は何の日か聡いお前ならわかるだろう?」

男「……知らん」

友「バレンタイン。俗称、悲劇の日ともいう」

友「大抵の人間はチョコをあげるなんてないだろう。しかし、裏では物の受け渡しが行われているのだ」

男「おまえ、なに言ってんだ」

友「そう、今日はいつもと同じ。土曜日でもいつも通り夕方まで授業を受け部活をし、帰宅する」

男「…・」

友「だから貰えなくても決してモテナイというわけではないことだよっ!!」

急用ができてしまったのであとで書きます

友「わかったか!?」

男「あっ、はい」

友「返事が淡泊でつまんねぇ」

男「えー」

友「まあ、いい。とりあえず今日はいつもと同じ。期待してはいけないということよ」


男「わかった」

友「そうかそうか。わかってくれたか」ニコッ

男(そんな濁った目で見られたら何も言えない.....)

友「1日の始まりだー!!」

男「おー」

ガラッ


幼馴染み「......」スタスタ

「「「......」」」チラッ


男(なんだこれは......来たとたんに空気が変わった)

友「普通の1日と言ったが、幼馴染みさんについては別だ。なんせ幼馴染みさんだからな」

男「ふぅーん」

友「誰だって彼女から貰えたら嬉しいだろうよ」

男「......そうか」

幼馴染み......ねぇ
改めて観察してみる
まずは上からいってみよう
黒髪が肩を通り越し背中の肩甲骨までかかるほど長い
横をすれ違うとき、髪からいい匂いが鼻をツンとつかせ、男性を魅了するそうだ
まあ、俺にはよく分からんが

お次は顔
うん、美人というのが一番当てはまる
可愛い系でなくおしとやかという感じを漂わせている
見慣れているけどこれは事実
さて、鎖骨を通り越して胸部へ
うーむ......むむむ
服の上からでは見当もつかない
少しだけ膨らみがあるような、ないような
まあ、小さいほうと断定していいだろう



はい、次はお腹と腰について
いやー普通。普通としか云いようがない
痩せすぎというわけでもなく、太っているとも言えない
うん、こちらも一般的

次に尻
ふむ、今回はでかくない
デカイ尻でもない
特に述べることがない
それから下に下っても同様
これくらいでいいか
だって、昔から知ってるしなー
今さらだし

男「ふぅ」

幼友「おっはー」

幼馴染み「おはよう」

幼友「んで、持ってきた?」

幼馴染み「知らない」

幼友「持ってきたんでしょ?」

幼馴染み「知らない」



幼友「またまたー」

幼馴染み「知らない」

幼友「わたしは義理のことを言ってるんだよ?」

幼馴染み「分かってる」

幼友「持ってきたんでしょ?」

幼馴染み「知らない」

幼友「はなしにならない......」ガクッ

幼馴染み「冗談」

幼友「なんだーじょーだんかー」

幼馴染み「ごめんね」

幼友「いいって。わかってたしー」プイッ

幼馴染み「拗ねてる」

幼友「拗ねてないです」

幼馴染み「嘘はだめ」

幼友「嘘じゃないですー」

キーンコーンカーンコーン


幼友「あっ、準備しないと」

幼馴染み「わたしもだ」

幼友「またねー」

幼馴染み「うん」ヒラヒラ

男(俺もはやくしないと)

昼休み


友「あー疲れた。なんかいつもよりきついなぁ。なんでたろ。いつもと同じなのに......不思議だ」

男「まだ言ってたのか」

友「はて、なんのことやら」

男(......救えない)

幼友「そういえば結局聞けなかったけどさ」

幼馴染み「知らない」

幼友「まだ何もいってない」

幼馴染み「あれについて」

幼友「ほうほう、あれとはもしかして--チョコのことでは?」

幼馴染み「......」

幼友「ふむ。素直になれない人だね。では、わたしが代わりに」ガサゴソ

幼馴染み「ぁ」

幼友「ん......これは--いわゆる義理チョコに分類されるべきもの。本命は?」ガシッ

幼馴染み「っ、痛い」

幼友「おっととっと、ごめん」サッ

幼馴染み「もう」

幼友「ごめんなさいごめんなさい」

幼馴染み「うん、いいよ」

幼友「さすが幼馴染!」ギュッ

幼馴染み「やめて」

幼友「いやじゃ」ギュー

幼馴染み「......」

幼友「へーへーわかりましたよーだ」サッ

幼友「んで、あげるんでしょ。行ってきなよ」

幼馴染み「う、うん」


スタスタ

友「んでーそうなったんだよ」

男「はは」

幼馴染み「これあげる」サッ

友「えっ、俺?」

男「......」

友「あ、ありがとう!」


なんだこの気持ちは......頭皮からなにかがとびたしそうな感じ
嫉妬? 独占欲? 憎しみ?
......分からんが、なんかモヤモヤするいやな感じ
とりあえず言えることは不健全な感情ということ、それだけだ


友「よし!」

男「......」


イライラする
こんな風になったのは初めてだ
俺はこんな性格だったろうか
友はいつもいいやつ。互いに助けあってきた
そんな友人をぶん殴りたいと思った俺は最低だ
実際の行動に移せるほど俺は勇気がない臆病者で、心の内でこいつをいたぶっている
いやだ、いやだ
なんでこんな気持ちにならなくてはいけない
あぁ、気持ち悪い気持ち悪い

友「よかったー」

幼馴染み「......」クルリ

男「......」

幼馴染み「......チョコ、あげる」プイッ

男「----えっ」

男「えっ、えっ、なに、なに?」アタフタ

友「まさか俺ももらえるなんて思いもしなかった!」

幼馴染み「義理チョコだから」

友「ですよねー」

男「あ......はは......は」

幼馴染み「......またね」スタスタ

友「ではたべようぜ」

男「ん、あ、あぁ」

友「んー」モグモグ

男「......」モグモグ

友「うまいっ!!」

男「うん、そう......だな」


危ない危ない。俺は何て言うことをしようとしているんだ
義理チョコを貰ってただ喜んでいる友を殴るなんて
ふぅ。頭が落ち着いてきた
本当に、本当によかった
俺は安心しているのか。何に?
......分からない。

幼友「おかえり」

幼馴染み「うん」

幼友「うーむ。ごはん、食べよっか!」

幼馴染み「うん」

放課後


幼馴染み「また月曜日ね」

幼友「じゃねー」

幼馴染み「うん」タタタッ

男(急いでどこに行くのだろうか?)

男(まあ、俺には関係ない。今度それとなく聞けばいい)

友「あーやっと終わったぜー」グッタリ

男「疲れすぎ」

友「だってさーなるべく普通にしようとしても周りの空気が重いしピリピリしてるからさ、気を張っちゃって」

男「お疲れさん」

友「たまにはどっか遊びにいくか」

男「あぁ」

友「うおおおおおおお!!」


ガッシャアアン


友「よっしゃあ! ストライク! 俺の勝ちぃ!


男「俺の負け。つまり、お前がチャンピオンだ!」

友「アイアムチャンピオン!!!!」

男「すごーい」

友「だからジュースをおごれい」

男「仕方ないのぉ」

友「いやーいい勝負だった。前回は負けたからな。雪辱ははらせた」

男「ふぅん。また今度やるから。そのときは俺の勝ち」

友「また今度な。じゃあな」

男「またなー」

男家


男「ただいまー」

男母「まあ、まあ。もう夜の10時なんですけど。どこ行ってたのかしら?」

男「ボウリング」

男母「少し遅い」

男「ごめん。今日は遅くなってしまい申し訳ありません」

男母「たまにはこのくらい遊んでもいいと思うから別に怒らないけど」

男「なんて寛大な母親なのだ!!」

男母「もういい。そんなことより幼馴染みちゃんが来てた」

男「えっ」

男母「久しぶりに見たけど綺麗になったねー。懐かしくなっちゃってあんたの部屋に上げといたから」

男「なんということを......。まさかずっといるのか?」

男母「けっこういたけどもう帰ったわよ」

男「えっ」

男母「いくら待っても来ないから愛想つかされたんじゃない?」

男「......そういうのじゃない」

男母「はいはい。あとで詫びをいれといた方がいいんじゃない?」

男「だから!」

男母「あはは」スタスタ

男「ちがうってのに......」

休憩

男「......」

男「とりあえず部屋にいこ」スタスタ

男母「あっ、そうだ」ヒョコッ

男「うわっ!?」

男母「しっかりと応えてあげるのよ。これは約束」

男「ん?」

男母「それだけ。んじゃ」スタスタ

男(なんなのだろうか)

ガラッ


男「あぁ......疲れた」

男「よく分からないこと言うし。なんなんだ全く」

男「----ってなにこれ?」

男「チョコと......手紙?」

男「たぶん......幼馴染み......だろうな」

男「でもチョコは義理として昼に受け取ったはず。なぜ、また?」

男「最初に読んだ方がいいよな」ペラッ

こんにちわ。お元気ですか


男「今日学校で会ったんだけど......あと今は夜だ」


今回は手紙となってしまいごめんなさい
このようことは面と向かい、口から出さなくてはいけないと一般的に認められています

それに口に出さなければ伝わらないものがあることも理解できます
けれども文字でしか伝えられない思いもあるとわたしは信じています
根拠はわたし自身です
内に秘めたる想いを貴方に向かって素直に伝えられないんです
ごめんなさい
今時、こんなことをする人なんてわたしか、もしくは小学生くらいでしょう
いや、小学生でさえしないでしょう

貴方の前に出ると声を素っ気ない態度をしてしまいます
本当は昔のようにもっと仲良く他愛ない話がしたいのに。もっと貴方の顔が見たいのに
どうしても緊張してしまいます
いつからこんな感じになったのかはわたしにも分かりません
いつのまにかなっていたんです
いわゆる恋に恋していると勘繰った時期はありましたが、日に日に増していくばかり
胸のドキドキは中学生のときに比べていささか収まりその時期は終わったのでしょう
けれども、貴方のことを頭に浮かべるだけで滅多に笑わないわたしの顔が、いとも簡単に笑顔になってしまいます

ですが、勘違いしないでください
昔からの友達、つまり幼馴染だからこんな風になったわけではありません
貴方自身の他人を思いやり、親身に支えてくれる、その人間性に惹かれたのです

ようするにわたしは貴方のことが好きということです
好きです。大好きです
こんな重いことを重い形で重く真面目に伝えるなんて、とても重い女であるとわたし自身でさえ理解できます
ごめんなさい
でも、男君が好きなんです
どうかわたしと単なる幼馴染ではなく、恋人としてお付き合いしていただけませんか
おねがいします
付け加えときますが、隣に添えてあるチョコは本命です。昼間のあれは義理です
男君と友君への感謝として渡しました
恥ずかしくて学校でなんて渡すことができません
こんなわたしをお許し下さい


幼馴染みより

男「......」

男「真面目なやつ」

男「そうだ。幼馴染みは昔からこういうやつだった」

男「いつも真面目で曲がったことが嫌い、許せない正しい人間で、俺も色々と言われた記憶がある」

男「そんな風にしてれば、周りからやり返されることなんて少し考えればわかるはずなのに」

男「それで、確か幼馴染みを助けた記憶がある。それからはずっと一緒だった気がする」

男「あのときはきつかった。なんせクラスの男子ほとんどが敵なんだぜ。心が締め付けられる思いだった」

男「......」

男「......ふぅ」

男「次は幼馴染み......か」

男「お前が俺の心をこんなに苦しめるのか」ドキドキ

男「なるほど。やっと昼間に身体を駆け巡った気持ちの原因がわかった」

----俺は、幼馴染みが好きなんだ

いや、ちがうな。正しくはあのとき、正しくあろうとしたあの頼もしい背中に既に惚れていたんだ
はは、こんな簡単なことを忘れていたなんて、忘れようとしてたことを忘れるなんて
幼馴染みみたいな立派な人間に俺は見あっているのかということを、下らない感情で押さえつけていた
危なかった
本当に大事なことを、俺は......俺は分かっていなかった
幼馴染み......ありがとう
俺も幼馴染みのことが信頼している
好き
大好き
愛してるし、もっと愛したい
結婚したい
いっしょに過ごしていきたい
暮らしていきたい
人生をいっしょに謳歌したい
そして、手を繋ぎたい


そのようなことを胸に抱くと、幼馴染みに返事をするために男は腰をゆっくりとあげ、一歩一歩を力強く踏み締めて部屋を後にした

ここでおわりだけどまだオマケ書くから少しお待ちください

おまけ


ピンポーン


男母「はーい」ガチャッ

幼馴染み「こんにちわ」ペコッ

男母「あらあらー久し振り。大きくなったわねー」

幼馴染み「はい」

男母「男に用事? でもまだ帰ってきてないけど」

幼馴染み「部屋で待ちます」

男母「そう? じゃあ上がって」

幼馴染み「おじゃまします」

男部屋


男母「ごゆっくりー」バタン

幼馴染み「はい」

幼馴染み「......」

幼馴染み「中学生以来......かな」

あんまり変わってないなぁ
高校生になったんだからもっと変化がありそうだけど
......
でも、部屋は人を写す鏡とよく言われるし
学校で見ていても昔と全然変わっていないことがよく分かる
うん、よかった
昔と変わっていない
あの頃と同じ
わたしの......好きな......ひと

幼馴染み「----ふふっ」ニコニコ

幼馴染み「あ......」カァァ

幼馴染み「また、顔が紅くなって笑ってる......ううっ」

幼馴染み「あぁ、こんなこと考えちゃだめ。不純だ」

幼馴染み「少し男のことを考えるだけて頭がグルグルになるなんて」

幼馴染み「わたしはだめな女の子」モジモジ


幼馴染み「他のことでは全くこんな気持ちにならないのに」

幼馴染み「落ち着いて、落ち着いて」

幼馴染み「ふぅ......ふぅ......」

幼馴染み「はぁ」

幼馴染み「再確認してみましょう。さて、わたしはここになにをしに来たのかしら?」

幼馴染み「本命チョコを男に渡すためにここまで来ました」

幼馴染み「それから、男が帰ってきたらチョコとわたしの......」

幼馴染み「そして、その、あの、......す......好き......って告白......」カァァ

幼馴染み「う、ああ、うあぁっ、ぁ」

幼馴染み「はぁ......結局、また」ドキドキ

幼馴染み「少し前よりは慣れてきたけど......それでも......頭が回らなくなってくる」ドキドキ

幼馴染み「はぁ......溜め息ばっかり」

幼馴染み「そういえば最近......会話が少ない」

幼馴染み「まあ、原因はわたし」

幼馴染み「わたしが恥ずかしくて前に出れないだけ」

幼馴染み「このままじゃだめ」

幼馴染み「これでバレンタインは何度目?」

幼馴染み「何回も何回も告白する機会はあった」

幼馴染み「でも、結局は義理チョコをあげるだけで本命をあげられない」

幼馴染み「今年は勇気を出してわざわざ家にまで押しかけて渡すつもり」

幼馴染み「今年は違う」

幼馴染み「このまま居れば必ず会える」

幼馴染み「そして、告白できる」

幼馴染み「完璧。障害はない」

幼馴染み「ふぅ......ふぅ......」

幼馴染み「あまり考えないようにしよう」

幼馴染み「というわけで目を閉じて気を落ち着ける」

幼馴染み「......」

幼馴染み「......」

幼馴染み「......」

幼馴染み「......」

幼馴染み(......まだ帰ってこないの?)

幼馴染み(そのまま帰宅すればもうつくはず)

幼馴染み(まさか、友君と遊んでいるのでは)

幼馴染み(その可能性は高い)

幼馴染み(よくいっしょに遊ぶと男が自分で言っていた)

幼馴染み(はやくはやく)

幼馴染み「......」

幼馴染み「......」コクッ

幼馴染み「......」

幼馴染み「......」コクッコクッ

幼馴染み「......」コクッ

幼馴染み「......」

幼馴染み「......」ムニャムニャ

4時間後


幼馴染み「......」スヤスヤ

幼馴染み「......ん」パチッ

幼馴染み「あれっ......もしかして寝ていたのかしら?」

幼馴染み「今は」クルリ

幼馴染み「----8時半!?」

幼馴染み「男、男は? もう帰ってきた?」

幼馴染み「......」キョロキョロ

幼馴染み「なにも変わっていない」

幼馴染み「つまり、まだということ」

幼馴染み「よかった」

幼馴染み「わたしの寝顔なんか見せられない」

幼馴染み「よかった。本当によかった」

幼馴染み「もし見られたら大事なものを失ってしまうところだった」

幼馴染み「ふぅ......ふぅ......」

幼馴染み「......」

幼馴染み「でも、こんなに帰ってこないなんて」

幼馴染み「まさか」

幼馴染み「......」

幼馴染み「......」

幼馴染み「......帰ろ」

幼馴染み「家に帰ろう」

幼馴染み「そうしよう」

幼馴染み「......」バタン

幼馴染み「......」スタスタ

男母「あら、帰るの?」スッ

幼馴染み「はい。もう遅いので」

男母「ごめんね。おそらく友君と遊んでいると思う」

幼馴染み「はは......そうだといいですね」シュン

男母「......」

幼馴染み「久しぶりに来れて、それに男母さんに会えてとても嬉しかったです」

幼馴染み「では、失礼しました」

男母「----待ちなさい」ギュッ

幼馴染み「えっ」

男母「幼馴染みちゃん、分かる?」

幼馴染み「な、何をです?」

男母「とても悲しそうな顔で今にも泣きそうな雰囲気よ」

幼馴染み「......そんなことないです」プイッ

男母「そう。ならいいの」

幼馴染み「はい。わたしは大丈夫です」ニココッ



男母「幼馴染みちゃん。あなたは昔と比べて明らかに笑うことが下手になってるように見える」

幼馴染み「そんなことありません」

男母「いえ、それは違う。小学生のときのあなたを思い出せばすぐに分かる」

幼馴染み「そんなこと......ありません」

男母「うちの子といっしょにいるときのあなたはいつも笑っていた。心の底から楽しんでいた」

幼馴染み「......」

男母「けれども、今は見ているこっちがはらはらしそうなくらいに苦しんでいる。違う?」


幼馴染み「......」

男母「わたしは、あなたにはいつも元気でいてほしいの」

幼馴染み「もう、わたしは思春期を過ぎて高校生で、昔みたいには振る舞えませんよ」

男母「うん。まあ、確かにいい年だしね。別にいつも笑顔でなくてもいい」

幼馴染み「そうです! だから----」

男母「だけどね、せめてうちの子といっしょにいるときくらいは笑っていてもいいんじゃない?」

男母「だって、笑っているときのあなたは女の私から見ても、とても綺麗で魅力的なかわいい女の子。わざわざその魅力をそぎおとすことはないわ」

幼馴染み「......」

男母「好きなんでしょ」ギュッ

幼馴染み「......えっ」

男母「私には分かる。うちの子が好きで好きでたまらなくて仕方がない」


幼馴染み「......はい」カァァ

男母「やっぱり」

幼馴染み「......」

男母「なんたってバレンタインの日に、家まで来るんだもの。元々知っていたけどバレバレよ」

幼馴染み「......はい」





男母「そんなあなたが悲しい顔で、うちの子の部屋から出て立ち去ろうとしているのを見たら、ほっとけるわけない」

幼馴染み「......」

男母「我慢してきたのね。いいのよ、たまには感情を吐き出しても」ギュッ

幼馴染み「......」

男母「発散しないと頭がパンクするから 、ねっ?」ナデナデ

幼馴染み「っ......うっ、ぐすっ」

幼馴染み「う、うう、あ、あ、うあ、うああ、ううあ、うああああああああ」

男母「はいはい」ナデナデ

幼馴染み「うあ、あああ、ごめん......ぐすっ......なさい......うっ」

男母「いくらでも受け止めてあげるから」ギュー

幼馴染み「ごめんなさい......ごめんなさい......」

それから30分ほどわたしは泣き続け、男母さんはそんなわたしをまるで子どもをあやすように大きな胸で包み込んでくれた
いや、勘違いしてはいけない。すがりつくわたしはどう見ても子どもだ


幼馴染み「......」

男母「落ち着いた?」ナデナデ

幼馴染み「......はい」

男母「んー、うん。大丈夫そう」

幼馴染み「ありがとうございました」

男母「あはは。いーの。うちの子が悪いんだから」

幼馴染み「ふふっ、そうですね」

男母「うんうん。それでいいの」

幼馴染み「はい!」

男母「それで、どうするの。このまま帰るつもり?」

幼馴染み「まだ用事がありますから帰りません」

男母「......そう。あなたなりの方法であなたらしく気持ちを伝えるのよ。健闘を祈るから」

幼馴染み「はい」スタスタ

男母(うちの子をお願いね)

どうしよう
男の目の前に立って告白?
無理、絶対に無理
他の人ならなんてこともないけど男は別
顔を見るだけで恥ずかしくて、面と向かってなんかできるわけがない
よし、これは却下。わたしらしくない

全く寸分たがわずにわたしの想いを正直に伝えたい
何か、何かないかな


うーん......あっ
そうだ。手紙だ。手紙ならそうできる
これなら、これならできる
よし、これでいこう
よいしょっ
はい、準備は完了
あとは書くだけ
ふふっ、まるで夢のような心地
......
......そういえば、わたしの夢はなんだったろうか
確かわたしの夢は、好きな人といっしょに手をつないで人生を過ごすこと
そうだ。小学生のときはそんな風に考えていた
夢も小学生時代に男といっしょにいて、心の底から笑えていたことを、わたしは久しく忘れていた
でも、今日思い出した
あのときの気持ち、男君と呼んでいたことも全て
うん、決めた
小学生に戻ったつもりで書いてみよう
心の壁を崩して今までの想いを、一切の感情を。包み隠さずに、ありのままに。

----わたしは男君のことが好きです



おわり

おやすみなさい

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