パワプロ「あ、そうだ。今日○○の誕生日だ」 (8)


 「ふぅ・・・」


 今日もいつもの様に練習を終える。けど、今日は特別な日。
 他の皆にとっても特別な日だけど、僕にとっては皆よりも特別な日なんだ


 「お疲れ様。進君っ」


 進「あ、お疲れ様。パワプロ君」


 僕のチームメイトであり、キャプテンであった僕の兄、猪狩守の遺志を受け継いでキャプテンに任命された同級生。と言うよりも友達かな?
 

 パワプロ「いやぁ、今日も練習疲れたよ」


 バックからタオルを取り出して汗を拭く。しかし決して帽子は取らない。それは1年生の頃から気にかけていた疑問だった。
 一度だけ、橘さんが釣竿で釣り上げて取ってみようと試みた。けど、引っかけた所までは良かったけど何故か帽子は取れず無理矢理引っ張り上げたらパワプロ君が釣り上げられた。あれには皆口が閉じれてなかった


 進「そうだね。兄さん達が抜けて、僕らが頑張って後輩の皆を引っ張れるようにならないといけないからね」


 パワプロ「うん、そうだね。俺はキャプテンだから一番頑張らないとなぁ」


 進「期待してるよ、キャプテン」


 パワプロ「ははっ、任せてよ。進君」


 そう言っていつもの明るい笑顔で接してきてくれるパワプロ君はやっぱりどこか頼りになると思えてくる。
 これが兄さんが選んだ理由なのかもしれない。
 パワプロ君は拭き終えたタオルを、1年生の頃から使い込んでいるボロボロのバックの中に押し込んで、時計を見る。そして焦った様な声を出した。


 パワプロ「あ、そうだ!今日俺用事があるから帰るね!じゃっ!」


 進「あ、うん。また明日」


 慌ててバックを引っ掴み、ドアを開けて勢いよく飛び出すと風の様に去って行った。この場に残ったのは僕だけになった
 流れる沈黙の中で僕は寂しさを覚え、重い溜息をついた。


 進「・・・僕も帰ろうかな」


 そう思うと手が先に動き、パワプロ君と同じく1年生の頃から使っているのだが、毎日欠かさず綺麗にしているピカピカのバックを手に取るとドアを開けて部室を後にした。


 聖「む、進先輩。今日はもう上がるのか?」


 この子は六道聖さん。パワプロ君や僕より一つ下の後輩の同じ野球部で、僕と同じキャッチャーをしている。
 入部当初はさほど珍しいとは誰も思っていなかった。それは早川先輩やみずきちゃんの2人の女性選手が先に入部しているからだと思う。
 小山先輩は女性みたいけど男性なんだよね・・・


 進「うん。兄さんも早くに上がっちゃったから、僕も帰ろうと思って」


 聖「そうか。気を付けてな」


 進「うん、じゃあまた明日」


 聖「うむ」


 お寺育ちの女の子だからか、古風な話し方で別れを告げて僕はそのまま歩いて行った。
 グランドを横断して校門を出ると、一度振り返ってまだ自主練習をしている後輩や同級生を見た。
 その中には多少話したり、練習をしたことのある人は居るけれど先ほど会った、六道さんの様な親しい人が見当たらない。
 

 進「・・・きっと、何か用事なんだよね・・・」


 そう自分に言い聞かせる。しかし孤独が僕の胸を締め付けてくる
 

 今日は僕の誕生日だ。


 でも、皆は何も言わない。去年は僕が言うのが遅れてしまって、後日皆がお祝いにプレゼントをもらったりした。
 もしかして忘れちゃったのかな?と思ってしまう
 僕は少し乾燥した空気のせいか、唾液で乾いている唇を潤すのと一緒に噛みしめて、孤独を紛らわすかのように走り出した。

 
 


 しばらく走っていくと僕は少し息が上がってしまい、立ち止まった。そこで横を首を横に向けると、いつの間にか河川敷の隣の道に着いていたのに驚いた。
 僕はそこそこ足が速いから考え事を振り払っている内にこんなところまで来ちゃってたんだ、と半ば自分に呆れた。
 夕日が水面に映って綺麗なオレンジ色に染めている。綺麗だなぁ、と心底本当に思う
 僕の家にお父さんが買って来たり貰ったりして飾ってある、美術品よりもすごく美しく感じる。
 

 進「・・・兄さんにも見せてあげたい・・・」


 僕の兄さんはいつでも野球に専念している。こういった景色とかには興味はさらさら無いのはわかっている
 でも、一度だけでいいから見せてあげたいと思っている。
 そんな事を考えていると、カバンの中に入れている携帯電話が振動した。取り出して表示されている名前を見た。
 それは意外な人物からだったので、少し緊張気味に電話に出た
 

 進「もしもし、兄さん?」


 猪狩『進、今何処にいるんだ?』


 電話の相手は兄さんだった。普段は僕の携帯に電話なんてかけて来ないのに・・・


 進「えっと、河川敷に居ます」

 
 猪狩『そうか・・・すまないが、もう一度学校に戻って部室へ来てくれないか?』


 進「え・・・?あ、はいっ。わかりました」


 猪狩『ん・・・じゃっ』


 僕は兄さんが電話を切ったのを確認してから、僕も電話を切る。何かあったのかなと、気にしつつもカバンの中に携帯電話を入れて踵を返し、来た道を走り出した。

  
 進「おっと・・・!」
 

 途中小石に躓いて転びそうになっちゃった


 進「あはは・・・気を付けないと」



 走り続けてまた学校の校門の前に辿り着いた。帰る頃には夕方で河川敷に居た時には、夕日が沈んでいっていたから今はもう夜に近い位に辺りが暗くなっていた。
 僕は走ってばかりだったので深呼吸をして息を整え、少し乱れた髪を整えて、部室に向かう。

 
 
 進「あれ・・・?明かりが付いてない・・・?」



 部室に近づいていくと室内の電気が付いていない事に気づいた。


 進「(兄さんが部室に居ると思っていたけど、まだ来てないのかな・・・?)」

  
 そう思いながら僕はドアノブを手に掛け、中に入ろうとした
 その時


 -パンッ! パンッ!-

 
 進「わっ!?」


 パワプロ「進君誕生日おめでとぉーーー!!」


 「「「「「おめでとう!!」」」」」

 
 進「え・・・?え?」


 突然大きな音がして頭に何か掛かった様な感覚がした後に、電気が付くと目の前に皆が笑顔で拍手をしていた。
 用事があると言って先に帰ったはずのパワプロ君が言った事に少し反応が遅れて状況の整理がつかない
 その時、後ろからポンポンと軽く誰かが肩を叩いた。振り返ると兄さんが立っていた。


 進「に、兄さん・・・これはっ・・・?」


 猪狩「決まっているだろう。お前の、誕生日祝いだ」

 
 その言葉に僕は数秒固まってしまったが、その後に不思議と安心感が込み上げてきた。
 あぁ、よかった・・・皆覚えててくれてたんだ、と思う気持ちでいっぱいになる。


 パワプロ「もしかしてさ、俺達が進君の誕生日忘れてたと思ってた?」


 進「ま、まぁ、うん・・・」


 パワプロ君が僕の思っていた事をそのまま言い当てたのに僕は戸惑いながら答える。それに橘さんは「えーっ」と少し不機嫌そうに頬を膨らませる。


 みずき「そんなわけないじゃーん!」


 あおい「ちゃーんと覚えてるよ。君の誕生日が今日だって事」


 聖「うむ。去年は一日遅れだったからな、今年はぴったり今日やるとパワプロ先輩が決めていたんだ」


 進「・・・もしかしてこの為に皆、何も言わなかったの?」


 パワプロ「あはははは、バレた?」


 矢部「進君をビックリさせようと思ってたんでやんすが、ちょっとやりすぎたでやんすね。ごめんなさいでやんす」


 パワプロ君は頭を掻いて照れ臭そうに笑い、矢部君は申し訳なさそうにペコリと頭を下げた。
 

 進「あっ。だ、大丈夫だよ、矢部君。ありがとう・・・皆・・・」


 僕は自分でもわかるくらい頬が熱くなるのを感じた。恥ずかしさと嬉しさで涙が出そうな、そんな気持ちが同時に込み上げてきたからだ。
 

 ほむら「さぁ、パァーッといくッスよ!」


 はるか「あ、その前にやる事があるんじゃないですか」


 ほむら「あっ。そうッスね!うっかり忘れるところだったッス」


 星川先輩が恥ずかしげに笑い、皆もそれにつられて笑う。


 パワプロ「じゃあ、俺から渡そっかな。はい、進君。プレゼント!」


 まず最初に僕の前に出てきてくれたのはパワプロ君だった。差し出しているのは茶色い紙袋


 進「あ・・・ありがとう、パワプロ君。何が入ってるの?」


 パワプロ「それは中身は帰ってきてからのお楽しみって事で♪」


 進「えー・・・ふふっ。そっか」


 中身が何なのか楽しみだなあぁ。その後皆が順番にプレゼントを渡してくれた
 

 猪狩「僕の番か・・・ほら、進。僕からのプレゼントだ」


 そう言って最後に兄さんが差し出したのは、サービスワゴンとその上に乗っている何かを覆い隠している白い箱だった


 進「兄さん、これは・・・?」


 猪狩「僕のプレゼントは今開けてくれ」

 
 進「う、うん・・・」


 僕は恐る恐る白い箱の両側を手で優しく挟んで、持ち上げた。
 
 そこにあったのは、ケーキだった。
 熟れたイチゴに少し片寄った様なクリームが乗っていて、数字型のロウソクは今年からなる18歳の意味で「18」と立っている。

 進「ケーキ・・・。・・・兄さんが作ったの?」


 猪狩「まぁ、大半はパワプロ君に作り方を教えてもらったんだがな」


 パワプロ「いえいえ、俺は教えただけで作り上げたのは先輩じゃないですか」


 進「・・・ありがとう、兄さん」


 猪狩「・・・ああ」

そして、誕生日祝いを終えて家に帰ってきた。そこでも同じように僕の誕生日会を開いていてくれた。
 今年は親戚の人は忙しい為、150人と一般の人は多いと思う人数のパーティーになった。
 僕は走ったりして疲れていたので、早めにパーティーを抜けて自分の部屋に入った。


 進「ふぅ・・・あれ?」


 部屋に入って、部屋の中央に大きな箱が置かれていた。ピンクの箱に赤いリボンで結ばれている箱だ
 僕は皆から貰ったプレゼントを机の上に置いて、箱に近づいた。
 そして興味津々に、箱に手を付けた瞬間


 「バァーーー!」


 進「おぉっわ!!?」


 本日二度目の驚かせに僕は尻もちをついた。少し痛む腰を擦りながら箱から出てきた人物を見ようと顔を上げた
 その瞬間に唇に暖かくて柔らかい感触が、僕の唇に触れる。  


 進「・・・!?」


 僕は驚きのあまり、ジタバタと暴れるが唇に当たる柔らかい感触は離れない。
 しばらくすると僕も落ち着きを取り戻し、鼻から深呼吸をする。
 そして、唇から柔らかい感触が離れた。


 「エヘヘ。びっくりシタ?」


 進「・・・エ、エミー?」


 僕はその人物を見て思考が停止した。僕の目の前に居るのは、エミリ=池田=クリスティン
 アメリカで知り合った・・・僕の彼女だ。
 彼女とは中学生の頃一度だけアメリカ留学をした。そこの学校で同じクラスメイトになり、色々教えてくれた彼女に魅かれて恋心を抱き、僕から告白をした
 その時の返事は「少し考えさせて」と心配しか残らない返事だったが翌日「OKだヨ」と打って変わっての返事になっていた

 
 進「な、何で日本に・・・!?」


 エミー「フフーン。私は進がいるところだったら、どこへにでもついて行くヨ!」


 エミーは胸を張って自慢げに言うが僕は唖然とした。まさか来るとは本当に思っていなかったからだ
 でも、少しだけ嬉しいと思え始めた。僕と彼女が会える日がこんなにも早く来るとは思ってみなかったからだ


 エミー「あ、ソウソウ。今日からヨロシクね♡」


 進「へ?え?ど、どういう事?」


 エミー「ここにしばらく泊めさせてもらえることになったから」


 進「・・・僕の部屋に?」


 エミー「yeーs♪」


 その返事を聞いた僕の叫びは家じゅうに響き渡ったとさ。おしまい




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 進君、誕生日おめでとう! by>>1


 -完-

単発なネタでした。ありがとうございました


そして、進君、お誕生日おめでとう!


これからもキャッチャーとして頑張ってね!

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