響「貴音!?」たかね「めんような!」 (1000)



  響(……ん、 ……あー、朝かぁ)


  響(今日はオフだし…… さむそうだし、まだ寝てよ……)


  響(そうだ、貴音…… は、もう起きたのかな? いないや)


  響(起きてるなら、早く朝ごはん作ってあげなきゃ……)


  響(でも、ちょっとだけ…… あと5分だけごろごろしたら、起きよ)


<ガシャーン

  響「!?」ガバ



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  響(なんだろ、貴音、お皿でもひっくり返したかな)

  響(まったくもう、おかげですっかり目が覚めちゃったぞ!)

ガチャ

  響「貴音、どうしたの? 今の音、いったい」



たかね「!」



  響「…… んん!?」



たかね「……」

  響「えっ…… ええと、あの、キミ、誰かな……?」


  響(この子…… 見たとこ小学生くらい? にしても、臙脂色の目に、腰までの銀髪って、まるで……)

  響「……その髪の色とか、長さとか、それに目の色とか…… もしかして貴音なの!?」

たかね「む…… そなた、なにやつです。なぜわたくしのなまえをしっているのですか!」

  響(やたら時代がかったしゃべり方もそっくり…… って!?)

  響「ちょっ、えっ…… 自分のことわかんないの!? ほら響だよ、我那覇響!」

たかね「…… がなは、ひびき……? しらぬなです」

  響「そ、そんな!」

たかね「それより、わたくしをこのようなところにつれてきたのはそなたですか!?」

  響「うがっ!? 違うよ、自分そんなことしてないぞ!」

たかね「おだまりなさい! わたくしをかどわかしてどうするつもりですか!」

  響(あ、この話聞かないあたり間違いない、これ貴音だ!)


  響(ど、どうしよう…… そうだ、とりあえずプロデューサーに連絡!)

たかね「……? そなた、そこでなにをしているのです」

  響「ごめん貴音、ちょっと待ってて。すぐ終わるから」

たかね「……なぜわたくしのことをきやすくよぶのか、りかいしかねますが、まあよいでしょう」

  響(しっかりしてるようで案外チョロい! やっぱりこれ貴音だ!)

プルルルル

  響(プロデューサー、早く電話出てよ……! 今日はお休みだし、朝だから大丈夫なはず……)


ガチャッ

   P『……んぁ、響か? まだ8時過ぎたばっかりだぞ…… いきなりどうしたんだ、いったい』

  響「プロデューサー! 休みの日にごめん。あのさ、落ち着いて聞いてほしいんだ」

   P『あ、ああ……? どうした、なにか問題でもあったのか?』

  響「そうなんだ…… あのね、た、貴音が、ちっちゃくなっちゃったんだぞ!」

   P『……』

  響「……」

   P『……響。お前な、せっかくの休日の朝に電話してきてマギー審司の改変とか、そりゃないだろ』

  響「ほ、ホントなんだってば! っていうかマギー審司って誰さー!?」

   P『待て、俺はそのジェネレーションギャップが地味にショックなんだが』


   P『まあいいや…… 貴音がちっちゃくなっちゃったってなんだよ、どういう意味だ?』

  響「いや、どういう意味もなにもそのまんまだぞ! 朝起きたら貴音が小学生くらいになってて!」

   P『……ん? ちょっと待てよ響、起きたら貴音がちっちゃい子になってた?』

  響「もう、だから自分がさっきからそう言ってるじゃないかぁ!」

   P『なぁ、そもそもなんで朝起きた時点で響と貴音が一緒にいるんだ』

  響「えっ? だって今日は貴音も自分もオフだから、貴音、自分の部屋に昨日から泊まりに来てて……」

   P『お泊まりィ!?』


  響「うわぁっ!? なに、プロデューサー、どうしたのさ突然」

   P『泊まりって…… 響お前、貴音とそんな関係だったのか!?』

  響「え? そんな関係って…… えっ、どういうこと?」

   P『そ、そんなって…… あれだよ、その…… なんだ、百合百合しいというか、キマシタワー的な』

  響「キマシ……? ゆりゆりし…… ……は、はあぁ!?」

   P『い、いや、響、いいんだ、愛の形にはいろいろあっていいと思う、俺は気にしないぞ?』

  響「ななななに言い出すんだプロデューサー!? やっぱり変態だったんだな!」


  響「だ、だいたい、仲のいい同性の友達が家に泊まりに来ることなんて珍しくないだろ!」

   P『そ、そうか? 俺はそういうのって怪しいんじゃないかなーと思うんだけど……』

  響「全然怪しくないよ! そもそもプロデューサーだってそういう経験あるでしょ!?」

   P『……』

  響「プロデューサー?」

   P『なかった』

  響「えっ」


   P『俺、友達が泊まりに来たことも、友達の家に泊まったこともないし』

  響「あ、そ、そうなんだ」

   P『そういえば、仲のいい友達ってもの自体、あんまり』

  響「ごめん! プロデューサー、自分が悪かったぞ! だからもう」

   P『ノート貸してとか頼まれることはあっても、俺、飲み会とか、合コンとか、ぜんぜん』

  響「ぷ、プロデューサー! しっかりして、元気出して! もうこの話やめよう!?」


  響「ごめんってば、プロデューサー…… 落ち着いた?」

   P『うん…… グスッ、うん大丈夫、もう大丈夫』




  響「なんにしてもさ、貴音がちっちゃくなっちゃってるのはホントなんだ」

   P『そうは言われてもなぁ…… やっぱり俺もにわかには信じがたい』

  響「んー…… あっ、そうだ! じゃあちょっと待ってて、自分、証拠の写メするから!」

   P『写メ、なぁ…… まあいいや、わかった、とりあえず待ってるよ』


たかね「……」

  響「よーし、じゃあ貴音、ちょっと動かないで、そのまんまだぞー」

  響(えっと…… ピント合わせて、っと) <ピピッ

たかね「!」サッ

  響「あっ!?」 <カシャッ

  響「もー! なんで動くの!」

たかね「……わたくしの、たましいをぬこうとは」

  響「はぁっ!?」

たかね「かくしてもむだです。そのめんようなきかいのこと、わたくしはしっております」

  響「え、面妖な機械って、これただのスマホだよ?」

たかね「いいえ、それで"かしゃっ"とされると、たましいがぬかれるとききました」

  響「めんどくさいなこの子ホントに!」


  響「……ここだぁっ!」 <ピピッ

たかね「あまい!」 シュッ

<カシャッ

  響「うがーっ! だーかーら、写真撮るだけで魂抜いたりしないから! 大丈夫だから!」

たかね「だいじょうぶだから、さきっちょだけだから、などといってわたくしをたぶらかすつもりですね……」

  響「ど、どこでそんなことば覚えたんだー!? いいからじっとするさー!」

たかね「いやです! わたくしのたましいはわたしません!」

  響「ぐぬぬ…… しょうがない、こうなったら最終手段だぞ…… おーい、ちょっとこっち来てー!」

たかね「ふん、しょうし! たすけなどよんだところで、このわたく」


へび香「……?」 ニョロ


たかね「しじょっ」 キュウ

  響「よくやったへび香! ナイスタイミング!」


  響「目を回してるこのスキに、まずは撮影して…… っと」 <ピピッ カシャ

  響「…… しかし、貴音、なんでこんなことになっちゃったんだ……」

  響「さておき、これならプロデューサーも信じてくれるはずさー。よし、送信っ」


<ピロリン

  響「わっ、返信早いなぁ…… でも当然だぞ、こんな一大事だもん。えーと、なになに?」


   『1枚だけじゃ判断がつかない もっと沢山、それもいろんなアングルから撮った写真が必要だ』


<ピロリン

   『はよ  画像はよ』

  響「」






<ピロリン

   P「お、響もさすが対応が早いな」

   『この変態ロリコン』

   P「!?」


  響「……で、変態プロデューサー、自分の言ってること信じてくれた?」

   P『ああ…… 確かに写真見る限り貴音が幼児化してるな…… あと俺は断じて変態じゃ』

  響「この子、喋り方とかも貴音によく似てるし、間違いないと思うぞ。でもさ……」

   P『なんだ、この上まだなんかあるのか』

  響「……貴音、自分のこと、覚えてないみたいなんだ」

   P『なんだって!?』

  響「まだはっきり確かめたわけじゃないけど、記憶もこの年齢のころに戻ってるとかじゃないのかな……」


   P『なんてこった…… 貴音が直近で大きな仕事とか控えてないのは不幸中の幸いってやつだな』

  響「うん、どうすれば元に戻るかとか、現状ぜんぜんわかんないからさ……」

   P『そうだな。とりあえず、響はその子をしっかり保護しといてやってくれ』

  響「もちろんそのつもりだぞ。プロデューサー、貴音のスケジュール調整とかお願いできる?」

   P『ああ、できるだけのことはやっとく。明日、事務所で相談しよう。少し早めに来れるか?』

  響「うん、大丈夫。今日は自分もできるだけこの子から話聞いてみるね」

   P『それがよさそうだな。そっちは任せたぞ』






たかね「……ううん」

  響「!」

たかね「……はっ! あ、あのかいぶつはいずこに!?」

  響「ここにはもういないから大丈夫だぞ。それよりさ、ねえ貴音、ちょっと自分とお話ししよう?」

たかね「わたくしには、そなたとはなすことなどありません」




  響「……"ひびき"!」

たかね「え?」

  響「さっきも言ったでしょ? 自分の名前、響って言うんだ。ひ、び、き」

たかね「……ひびき?」


  響「そ、ひびき。そなたなんて他人行儀じゃなくてさ、名前で呼んでよ」

たかね「なぜですか、わたくしは、ひび…… そなたのことを、しらないのに」

  響「……ん、でもね、自分は貴音のことよく知ってるんだ」

たかね「そうなのですか? あったこともないのに、なぜですか?」

  響「まあ、いろいろ事情がね。だから、貴…… たかねも、自分のこと、これから覚えてよ」

たかね「……」

  響「それに自分たち、しばらくは一緒に暮らすことになりそうだしさ」

たかね「なんと!?」

  響「だってたかね、ここ出てったとして行くあてとか、あるの?」

たかね「う…… それは……」


  響「たかね一人くらいなら、家族が増えても自分、なんくるないぞ。なんたって自分はカンペキだからな!」

たかね「…… いたしかたありませんね。では、こんごについてはなしあいましょう」

  響「よし、そうこなくっちゃ」

たかね「なによりも、さしあたっては…… その……」

  響「うん?」


< ぐぎゅるるるるる


  響「!」

たかね「……わたくし、たいへん、おなかがすいておりまして」

  響「…… あははは! うん、やっぱりたかねは貴音なんだな、間違いないよ、絶対」

たかね「めんような…… もう、なにをひとりでなっとくしているのです!」


本日の投下は、これでおしまいです。


  響「まあ、あとのことはおいおい話するとして、まずは腹ごしらえしなきゃね」

たかね「ええ、そのとおりですとも」

  響「たかね、何が食べたいとか希望はある?」

たかね「いえ、とくには。ひび……、そなたにまかせます」

  響「あはは、なんでそこ言い直すの? 自分のことは"ひびき"でいいよ、って言ったでしょ」

たかね「かんちがいしてもらってはこまります」

  響「えっ、何が?」

たかね「わたくしはまだ、ひ……、そなたに、きをゆるしたわけではないのですよ」

  響「まだそんなこと言うのかー、たかねはやっぱり強情だなー」

たかね「とうぜんでしょう、わたくしからすれば、わからないことだらけなのですから」


  響(さてと…… 食べ物で記憶が戻る、なんてことがないともいえないし、ここはやっぱり!)

たかね「……」ジーッ

  響(これ、貴音が大事にとってたやつだけど…… うん、貴音自身が食べるのと変わんない、はず)

たかね「…… そのつつのようなものは、いったいなんですか?」

  響「出来上がってからのお楽しみさー」

たかね「…… とても、おりょうり、というか、たべものにはみえませんが……」

  響「たかねはきっと気に入ると思うよ。ちょっと待ってて、すぐ作るからね」


  響(あ…… でもそういえば、こんなちっちゃい子にカップ麺って食べさせていいのかなぁ?)

たかね「……」キョロキョロ

  響(うーん…… たかねの年齢的には、たぶん問題ないと思うんだけど……)

  響(念のためネットで調べてみよっと。スマホどこに置いたっけ…… あった)スッ

たかね「!」

  響「ん?」

たかね「ま、またそのめんようなきかいを!?」バッ

  響「うがっ!? ちょっと待ってたかね、そうじゃないよ落ち着いて!」


たかね「た、たべものでつっておいて、やはりそなたのねらいはわたくしのたましいなのですね!?」

  響「ちーがーうってばー! ほ、ほら自分、今これそっちに向けてないでしょ、ね?」

たかね「……ほんとうですか? "かしゃっ"としませんか?」

  響「本当本当、絶対しないぞ! あ、じゃあ背を向けとくよ、これならいいでしょ?」

たかね「まぁ…… それならば、よしとしましょう」

  響(……さっき目回してるときにもう撮ってるって、絶対言わないようにしなきゃ……)


  響(うん、ざっと調べた感じ、幼稚園児くらいならたまに食べさせる分には問題なさそう)




  響「ってことで、お湯を入れまして、ふたをする!」

たかね「つつに、おゆをいれて…… それでどうしようというのですか?」

  響「これがね、ちょっと待つとたかねのご飯になるんだぞ」

たかね「なにをいっているのですか。そのようなことがあるわけ、ありません」

  響「ふふふ、どうだろね? っと、自分のもついでに作っとかなきゃ」


たかね「……?」スンスン

  響「どう? いいにおい、してきたでしょ?」

たかね「これは…… そこにずっとすわっているだけなのに、ふかしぎな……」

  響「ちょうどいいくらいだな、じゃ、ふたを開けるぞ!」

たかね「ふた……?」

  響「はい、ごたいめーん」ペリペリ


たかね「……おお!? な、なんなのですか、これは!」

  響「ラーメンっていう食べ物さー」

たかね「らぁ、めん?」

  響「そ、ラーメン。ねえたかね、見た目とかにおいとかで、なんか思い出したりしない?」

たかね「いいえ…… しかし、とてもおいしそうなかおりがします……!」ゴクリ

  響「あー、まあ、そううまくはいかないよね…… よし、まずは食べようよ」

たかね「これを、わたくしがしょくしてもよいのですか?」


  響「もちろんだぞ。貴音が言ってたんだけど、これ限定ものかなんかでおいしいらしいから」

たかね「……わたくしがいっていた?」

  響「あ…… ああ、いや、ごめん、気にしないで。それより、早く食べないと伸びちゃうよ」

たかね「のびちゃう…… とは、どういうことです」

  響「えーと…… おいしくなくなっちゃう、ってこと。それに、ほっとくと冷めちゃうし」

たかね「そ、そうですね、では、いただきます」

  響「はい、おあがりなさい」


たかね「これが…… らぁめん……」

  響「出来立てであつあつだからね、気を付けて」

たかね「では…… いざ……!」ズズズ

  響(においや見た目じゃ思い出さなくても、実際味わったら…… ひょっとして……!)

たかね「……」ズズズズズ

  響(…… うーん、わかってたけど、無理っぽいかな…… 表情も変わんないし、淡々と)

たかね「……」ズズズズズズズズズ

  響(…… って、 ん……?)



たかね「……」ズズズズズズズズズズズズゾゾゾゾゾゾゾ



  響「!?」

たかね「……ぷはっ」




  響(麺とスープはおろか…… ね、ネギの一片すら残さずに! やっぱり貴音だ!)


たかね「ひびきっ!」

  響「は、はい!?」

たかね「わたくし、おなじものをもうひとつしょもうします! いますぐに!」

  響「ダメに決まってるぞ」

たかね「なんと! なにゆえですか!?」

  響「いや、あのね、おいしいのはわかるけど、あんまり身体によくないからね」

たかね「ごしょうです、もうひとつ、もうひとつだけ!」

  響「だいたいその体格でそれひとつ食べたら十分でしょ!」

たかね「いいえ、たりません! まったくもってたりません! ひびき、どうか、どうかぁ!」

  響「そもそもそれ、さっきも言ったけど限定だとかで1個しかないんだってば」

たかね「ううう…… そ、それなら、そこのひびきのぶんをください! それでがまんしますから!」

  響「そのムチャクチャな理屈とか、もう貴音で間違いないな!?」






たかね「むぅ…… ひびきは、いけずです……」

  響「なに言ってるの、自分のぶんだいぶ分けてあげたでしょ。 ……あ」

たかね「どうしたのです?」

  響「たかね、いま、"ひびき"って呼んでくれてたね」

たかね「え…… …… あ…… これは、その……、そうです、らぁめんとやらのおれいです」

  響「そっかそっか。ありがと、たかね」

たかね「む、き、きやすくあたまをなでないでください」

  響(……貴音のときは、なかなか手が届かなかったもんなー)


たかね「なにをにこにこしているのです、ひびき! きいているのですか」

  響「聞いてるぞー、うりうりー」

たかね「きいていないではありませんか、かるがるしくなでてもらっては」

  響「たかねは自分になでられるの、イヤなの?」

たかね「……べつに、いやとは、いいませんが」

  響「じゃあ、いいってことだよね!」

たかね「む、そういうことに…… いえ、しかし、そういうことでは…… ああっ、もう……」


本日の投下は、これでおしまいです。

乙です
6歳のたかね書いてたのと同じ人?


  響「さて、お腹もふくれたことだし…… たかね、いくつか確認させてね」

たかね「わたくしで、こたえられるはんいであれば」

  響「まずさ、名前、フルネームだとなんていうの?」

たかね「……ふるねえむ?」

  響「あー……、ええっと…… そうだ、つまり、名字はなに?」

たかね「…… しじょう、たかね、ともうします」


  響「やっぱりそうなんだ…… じゃあたかね、年はいくつ?」

たかね「とうねん、とってごさいになります」

  響「5歳かぁ…… へー、5歳のころの貴音は、こんな感じだったのかー……」

たかね「ひびき?」

  響「あ、ご、ごめん。それから…… ここに来る前どこにいたか、たかねは覚えてる?」

たかね「くににおりました」


  響「くに?」

たかね「はい。くにです」

  響「くに…… そのくにって、どこにあるんだろ?」

たかね「……それは、とっぷしいくれっとです」

  響「うがっ、そんな歳のころからもうそれ使ってたのか!?」

たかね「な、なにがですか?」

  響「ああ、いや、ごめん、こっちの話」


  響「その…… "くに"ではお父さんやお母さんと一緒だったの?」

たかね「もちろんです。わたくしがきのまたからうまれたとでもおもっているのですか」

  響「い、いや、そういうことじゃなくて」

たかね「ほかに、おてつだいのものもたくさんおりました」

  響「へえー、そうだったのか。ひょっとして、じいやさんもいた?」

たかね「む…… なぜひびきは、わたくしのことをそんなにしっているのです」

  響「ふふん、たかねのことよく知ってるって言ったの、嘘じゃないってわかった?」

たかね「ますますあやしいですね……」

  響「もー、もうちょっと信用してくれてもいいでしょー」


  響「じゃあさ、どうやってここに来たのかって、覚えてる?」

たかね「それが…… めがさめたら、ここでねていたようなしだいで……」

  響「そうかー…… まあ、そりゃそうだよね……」




  響「それから、さ…… ねえ、たかね。アイドル、って言葉に、聞き覚えない?」

たかね「あいどる……? ありませんね。それはなんでしょう、たべものですか?」

  響「いやいや、食べ物じゃないぞ。 ……そっか、 ……覚えがない、かぁ」


たかね「ところでひびき……、は、っくちゅっ!」

  響「……あ! うっかりしてたぞ、寒かったよね、ごめん」

  響(たかね、貴音のパジャマの上だけ羽織ってるんだもん…… そりゃ冷えもするさー)




  響「とりあえず自分のカーディガンと、あとスリッパと…… これで少しはマシだろうけど……」

たかね「ふわふわして、あたたかですが…… てが、てがでません……!」

  響「…… 当然、そうなっちゃうよなぁ…… ちょっと今はそれで我慢してて、ね?」

たかね「む、むむ…… いたしかたありませんね」

  響(だぼだぼずるずるのカーディガンと髪のボリュームのせいで、毛玉みたいだぞ……)


  響「何よりもまずは、たかねの服を用意しなきゃいけないな」

たかね「ふく、ですか?」

  響「そ、いくら小柄っていっても、自分の服じゃたかねが着るにはまだ大きすぎるからね」




  響「ってことで、とりあえず間に合わせのもの買ってくるぞ。たかね、その間お留守番してて」

たかね「わたくしをひとりにして、だいじょうぶですか? こっそりにげだすかもしれませんよ」

  響「たかねはそんなことしないって自分、信じてるさー。じゃ、ちょっと待っててね」

ガチャッ パタン

たかね「……まったく、ひとのよい。いってらっしゃいませ」


  響「あったかい部屋着と、いちおう外出用の服と、靴…… ああ、下着とか靴下とかもいるなぁ」

  響「あんまり一人で待たせてちゃさびしいだろうし、早く済ませよっと」




  響「……あっ! そういえばあの子たちにたかねのこと、ちゃんと紹介してなかったぞ」

  響「たかねにも説明しとけばよかった…… ま、そんな長い時間じゃないし、大丈夫かな」

  響「帰ったらお互いちゃんと、顔合わせさせてあげなくちゃ」






たかね「……さて、することがありません」

たかね「そうです、このやしきのなかをたんけんしてみましょう!」




たかね「ふむ…… ここが、おだいどころのようす。あまりひろくありませんね……」

たかね「これでは、おりょうりをするのにくろうしそうですが」

たかね「こちらのおへやには、なにが?」


ガチャ


いぬ美「! ばうっ」

たかね「!?」

バタン


たかね「…… な…… い、いまのけだものは、いったい?」

たかね「い、いえ、おちつきましょう、きっとみまちがえたのです」

たかね「あらためて、いざ!」

ガチャ

いぬ美「はっはっはっ」ダッ

たかね「ひいい!?」

いぬ美「へっへっへっ」ペロペロペロ

たかね「ちょっ、やめ、ひゃあっ、お、おかおをなめないでくださ、ああっ」

いぬ美「はっはっはっ」ペロペロペロペロ


たかね「うう…… わるぎはなかったのでしょうが、ひどいめにあいました」

たかね「あのようなけだものがいるとは…… これは、きをひきしめねばなりませ……」

ねこ吉「……」スタスタスタ

たかね「!」

ねこ吉「!」

たかね「そなたはさきほどのものより、だいぶちいさいですね。こちらへよりなさい」

ねこ吉「……」ススス

たかね「む、なぜさがるのです。まちなさい」

ねこ吉「……!」ダッ

たかね「あっ!?」




たかね「……いってしまいました」シュン


たかね「それにしてもこのやしき、どれだけのけだものがいるのでしょうか」

たかね「つぎはいったい、どのようなものが……」

モモ次郎「……」

たかね「!?」

モモ次郎「……」ビューン

たかね「…… めんような…… へやのなかで、このようなものをみることになるとは……」




ブタ太「ブヒッ」

たかね「なんとっ!?」


たかね「ひびきは、よほどけだもののたぐいがすきとみえます」

たかね「…… まさか、わたくしも、あいがんどうぶつとしてみられているのでは……」

オウ助「……」

たかね「……こんどはとりですか、もうあまりおどろかなくなってまいりました」

オウ助「……」

たかね「つぎはなにがでるやら…… ゆだんしないようにしなくては……」

オウ助「オハヨー」

たかね「なにやつですっ!?」バッ

オウ助「……」

たかね「…… はて、たしかに、おはようというこえが…… そらみみでしょうか……?」キョロキョロ

オウ助「カンペキダゾ!」

たかね「!?」バッ

オウ助「……」

たかね「ひびきがいないのに、ひびきのこえが! ど、どこです、どこにいるのです!?」キョロキョロ

オウ助「……」



たかね「おへやのなかをあるきまわるだけで、これほどつかれるとは…… む?」


シマ男「……」

ハム蔵「ジュイッ」

うさ江「……」


たかね「まだいたのですか!? ……はっ!?」


モモ次郎「……」

いぬ美「はっはっはっ」

ねこ吉「……」

ブタ太「ブヒッ」

オウ助「ウガー」


たかね「な、なんというおおじょたい……」


たかね「いつのまにか、かこまれてしまいました…… ここは、ひくがとくさく!」

ガチャ バタン




たかね「ふう…… こうしてとをしめておけば、さすがにおってはきますまい」


たかね「さて」クルッ


ワニ子「?」

へび香「?」


たかね「」



たかね「しじょっ」 キュウ




  響「んしょっと、ただいまたかね、ちょっと荷物運ぶの手伝ってー! たかねー? おーい、たかねー!」






  響「……でもみんな、特になにもしてないって言ってるぞ?」

たかね「いいえ! そやつらは、くちうらをあわせているのです!」

  響「……そうなの、いぬ美? 誰かウソついてる子とかいる?」

いぬ美「ばうっ」

  響「ほら、違うって。たかねのこと歓迎しただけだって」

たかね「なにが『ほら』です!? ひびきにはなにがきこえているのですか!?」


  響「ま、そんなことよりさ、たかねの服買ってきたからお着替えしよっか」

たかね「そんなこととはなんですか、ひびき! わたくしがどれほど……」

  響「みんなには改めて言い聞かせとくからさ。それよりたかね、動きづらいでしょ?」

たかね「……たしかに、しょうしょう、ひきずるかんじはします」

  響「だよね? 見た感じのサイズで選んできたから、ぴったりってわけにはいかないかもしれないけど」

たかね「かまいません、きられればじゅうぶんです」


  響「はい、ちゃんとバンザイして」

たかね「は、はい」

  響「じゃ、かぶせるよ、よいしょっ」

たかね「わぷっ!?」

  響「あ、ちょっとたかね、あんまりじたばたしないで」

たかね「し、しかし、まえが、みえ…… あの、あたまはここでよいのですか?」

  響「えっ、なにが?」

たかね「ど、どうも、あなのおおきさが、いたたた!」

  響「……ああそこ袖だ! ごめん、すぐ抜くからちょっとじっとしてて!」


  響「……うん、とりあえずで選んだ割にはなかなか!」

たかね「ほう…… このようなふくが、こちらではふつうなのですね……」

  響「自分で言うのもなんだけど、けっこうオシャレだと思うぞ」

たかね「それに、うごきやすいのに、あたたかです。すばらしいですね」

  響「見立てがカンペキだからなー。アイドルに服選んでもらえるなんて、なかなかないんだからね?」

たかね「…… しかし、こう…… その、あしがだいぶでているきがしますが、はしたなくはないでしょうか?」

  響「うっ……」ギク

たかね「ひびき?」

  響(…… 言えない…… 貴音に着せてみたかったコーディネート試してみたなんて言えないぞ……!)


  響「ありあわせだけど、どうだったかな、夕ごはん」

たかね「ええ、びみでした。ひびきは、おりょうりもできるのですね」

  響「そりゃね、一人暮らしもけっこう長いし、家族みんなのご飯も作ってるし!」

たかね「ずっと、ひとりでくらしているのですか?」

  響「いや、違うよ。前は沖縄ってところにいたんだけど、引っ越してきたの」

たかね「おきなわ……」

  響「そうそう。ちょっと遠いけど、あったかくて、海がすごくきれいなんだ」

たかね「……うみ?」

  響(そこから!?)


  響「さて、お風呂できたよ。おいで、たかね」

たかね「おふろ…… ああ、ゆあみのことですね」




  響「たかね、ちゃんと目つぶってないと、しみるよ」

たかね「しじょうのいえのものは、よのなかのあくにめをつぶったりはせぬのです」

  響「いや、悪とかじゃなくて、シャンプーするからなんだけど」

たかね「しゃんぷう……? きかぬなですが、なにするものぞ」

  響「…… まあ、たかねが大丈夫だって言うならいいんだけどさ……」


たかね「い、いたい、ひびき、いたいです、めが、めがああ!」

  響「だから言ったのに…… って、わわっ、暴れるなたかね!」

たかね「だっていたいのです、ひびきぃぃ! いやああああ!」

  響「だっ、ちょっと、落ち着いてってば、あっこら目こすっちゃダメだって!」

たかね「うわあああん! うわああああああああん!!」




  響「あーあーもう、ただでさえ赤い目が真っ赤になっちゃって」

たかね「うえっ、ぐしゅ、ひ、ひびきは、いけず、でしゅ」

  響「だから目を閉じとくようにって言ったのさー、自分……」


たかね「ひっく、ぐす、うええ、え、ひぐ、っ、げほ、ぐしゅ」

  響「ほーら、たかね、もう大丈夫だから…… 目、まだ痛い?」

たかね「い、いたく、など、ひっく、あり、ましぇん……」

  響「うん、ちゃんと強く言わなかった自分も悪かったぞ…… そうだ、ちょっと待ってて」

たかね「ぐすっ、すん、ひっ、く、……」






  響「お待たせ。はい、これ」

たかね「……ひびき、なんですか、このどろみずは」

  響「ど、泥水って! ま、いいから飲んでみてよ。あったまるし、おいしいぞ」

たかね「わたくしをいじめておいて、これできげんをとろうというのですか?」

  響「そんなつもりは全然なかったんだけど、痛かったよね。それは、ごめん」

たかね「……」

  響「機嫌をとるっていうか、お詫びのしるし。冷めないうちに、ね?」

たかね「…… たしかに、よいかおりがします。それほどまでにいうのであれば……」ズズ


たかね「!」

  響「いかがでしょう、姫さま…… なんちゃって」

たかね「あまいです…… たいへんあまくて、ぽかぽかします!」

  響「ん、喜んでくれてよかった。おいしいでしょ?」

たかね「とてもびみです! ひびき、これはなんというのみものですか?」

  響「それはね、ココアっていうんだぞ」

たかね「ここあ…… ここあ、ですね、ではひびき、」

  響「ときどき飲ませてあげるけど、これから毎日作ったりはしないからなー」

たかね「なんと!? なぜわたくしのいうことがわかったのです!?」

  響(……だって、初めて貴音にココア出したときの反応と、ばっちり一緒だから)

  響「んー? そりゃ、自分、完璧だからね」

たかね「うぬぬ…… めんような……!」


たかね「……」ポケー

  響(ココアでおなかふくれて眠くなったんだな、いぬ美のちっちゃいころみたいだ)

  響「じゃあたかね、そろそろ寝よっか」

たかね「……ふぁ、そう、でしゅね」




たかね「……これは、いったい」

  響「ベッドだけど…… ああ、ひょっとしてこれも知らない?」

たかね「おふとん…… ではないのですか?」

  響「似たようなものだけど、まあちょっと違うかな」

たかね「……わたくし、おふとんになれておりますので」

  響「うーん、じゃあ布団出そうか。でもたかね、ひとりで寝られる?」

たかね「なっ! とうぜんです、もうごさいなのです! ばかにしないでください!」

  響「あはは、ごめんごめん」


  響「今日のところはとりあえず、この布団使ってよ」

たかね「はい」

  響(いつもは貴音にベッド譲って、自分が布団使ってたけど…… わかんないもんだなぁ)

  響「自分はもうしばらく起きてるから、何かあったらすぐ呼んでね」

たかね「わかりました」

  響「よーし。じゃ、おやすみ」

たかね「…… あの、ひびき」

  響「ん?」

たかね「その……」

  響「なあに? あ、寒い? それとも、なにか欲しいものある?」

たかね「いえ…… ……なんでもありません」

  響「そう? それじゃあたかね、おやすみ」






  響(…… ん、この感じ…… ああ、ねこ吉だな)


  響(あの子、自分が呼んでも絶対来ないのに、夜中勝手にベッドに入ってくるからなぁ)


  響(まったく、寒いなら最初から素直に来ればいいのに……)




  響(……それにしてもねこ吉、ずいぶん大きくなったなぁ)ナデナデ


  響(自分と暮らし始めて結構経つもんね…… 毛もだいぶ伸びてる、そのうち刈ってあげよう)



  響(…… 最近カットしてないとはいえ、ねこ吉の毛、ここまで長かったっけ……)サワサワ


  響(というか、ちょっと大きすぎないか……?)


  響(サイズ的に、いぬ美……? いや、あの子はお行儀いいから、ベッドに入ってきたりは)




たかね「…… ん、くぅ…… すぅ……」

  響「…… なるほど、ね」


  響(いつの間に入ってきてたんだろ? 自分に気づかせないなんて、気配消すの上手だなぁ)

  響(……「ひとりで寝られる」なんて言ってても、やっぱり寂しかったんだろうなー)

  響(ああ、寝る前に何か言いかけてたの、そういうことか。素直じゃないんだから)ツンツン

たかね「…… むにゃ…… らぁめん……」

  響「ぷっ…… くくっ、どんな夢見てるのさ」

  響(まったくもう。 ……ちっちゃくなった以外、ほとんど変わってないじゃないか)




  響「これからどうなるか、わかんないけど…… いまは、おやすみ、たかね」


本日の投下は、これでおしまいです。

今回のように、更新は少々不定期になる予定です。
どうかよろしくお願い致します。

>>42
いえ、違います。
もちろんあの作品には大きな影響を受けていますし、
参考にさせて頂いていますし、大好きです。


※※※※

 今更ですが、作中の季節は冬、かつ現実のそれより少し前の時期です。
 漠然と、もうすぐクリスマス、くらいをイメージしていただければ幸いです。

※※※※


  響「もう一回確認するぞ、たかね」

たかね「はい、なんなりと」

  響「今から自分たちが行くところは?」

たかね「なむこぷろの、じむしょです」

  響「そのとき気をつけることは?」

たかね「だれにもみつからぬように、ちゅういします」

  響「よーし、よく覚えたね。ちなみに特に危ないのは?」

たかね「ええと…… ふたご! そうでした、あみとまみのふたごです」

  響「そうそう。もし見つかっちゃったら…… どうなるか、わかんないぞ」

たかね「は、はい、こころします……」


  響「じゃあ、次に、今日の予定は?」

たかね「まず、ぷろぢゅ…… ぷろで、ぷろじゅ……」

  響「プロデューサーね」

たかね「はい、ぷろで…… ぷろぢ…… ぷろ…… そのひとにあいます」

  響「よしよし、ちゃんとわかってるな。ほかに、たかねが会っていいのは?」

たかね「ことりじょうと、しゃちょうだけです」

  響「うん、カンペキだぞ、たかね」
  
たかね「このくらいはとうぜんです!」

  響(まだみんなには伏せといたほうがいいだろうって、プロデューサーも言ってたからなー)


  響「あとは…… 念のためにもう一度聞くけど、留守番しとく気はな」

たかね「ございません!!」クワッ

  響「あ、そ、そう」

たかね「ひびきはわたくしを、あのけだものたちのただなかにおいてゆくつもりですか!?」

  響「ひどい言いぐさだなあ…… 自分の家族は賢いし、たかねをいじめたりしないってば」

たかね「あれはいじめなどではありません! いのちのきけんをおぼえたのですよ!?」

  響「うん、それだけぎゃーぎゃー騒げる元気があれば大丈夫さー」

たかね「とにかく! わたくしはひびきについてゆきます!」

  響「わかったわかった、もう言わないよ」


  響「よし、じゃあ行こうか、たかね」

たかね「…… ひびき、なんです、このては」

  響「はぐれちゃ困るからね。しっかり手にぎって、自分についてくるんだぞ?」

たかね「む…… なんどもいっております、こどもあつかいはやめてください」

  響「なに言ってるのさ、どこからどう見てもお子様のくせに」

たかね「ちがいます、わたくしはれっきとしたしゅくじょです!」

  響「あはは、ちっちゃいレディもいたもんだな、よしよし」

たかね「ま、またあたまを、なでて…… うぬぬ、ぶれいなー!」






たかね「…… おお、おおお! こんなにたくさんのひとが……!」

  響「今日は平日じゃないから、いつもよりは少ないけどね」

たかね「ひびき、ひびき。このかたがたは、なぜここへきているのです?」

  響「え? そりゃみんな電車に乗りに来てるんだよ、ここ駅だから」

たかね「えき……? でんしゃ……?」

  響(…… これもたかねには未知の領域かぁ。ほんと、世間知らずのお姫様、だなー)

  響「Suica1枚しかないから、先にたかねの分の切符を…… あ、そうか、5歳の子はいらないのか」

たかね「はて…… わたくしがごさいだと、なにかあるのですか?」

  響「ん、そうだね、タダで電車に乗れるの」

たかね「すると、わたくしはとくべつあつかいなのですね」エッヘン

  響「特別…… まあ確かにそうなんだけど、別に勝ち誇った顔するところじゃないぞ?」

たかね「なんと!」


たかね「これが…… えき、ですか」

  響「そう、出かけるときにはちょくちょく使うことになるからね」

たかね「ふむ、ずいぶんとひろいのに、かべがなく…… ……む?」

  響「おっ、ちょうどいいタイミングで来たさー。あれに乗るよ」

たかね「…… ひびき、なにかむこうから、ちかづいてきております」

  響「うん、あれが電車だぞ」

たかね「ど、どんどん、おおきくなってきました……! めんような……」

  響「大丈夫だよ、乗り物だから。それともなあに、こわいの? 淑女なのに」

たかね「なっ! ……いいえ、わたくしは、こ、こわくなどありません!」

  響(お、これ使えるな、ふふ)


ガタンゴトン

たかね「おお……! こんなにながくておおきなものが、こんなにはやく……」

  響「ねっ、乗っちゃえば楽しいでしょ」

たかね「そとのけしきが、どんどん、とぶようにうしろへ……!」

  響「たくさん人が乗れるし、時間通りに来るし、速くて便利。電車のこと、もう怖くないよね?」

たかね「はい、もうだいじょうぶです。これは、すばらしいのりものです!」

  響「……ぷっ、ほんとはやっぱり怖かったんだな、たかね」

たかね「え? …… あ、あっ、ちがいます、はじめから、こわくなど、もう、わらってはなりません!」




  響「よーし、着いたぞ! ここが765プロの事務所さー!」

たかね「……これはまた、ずいぶんと、てぜまなところですね」

  響「ば、バカにしたもんじゃないぞ!? 確かにあんまり大きくないけど!」

たかね「ひびきは、ここではたらくのですか?」

  響「そうそう。ここでっていうか、ここに集合して、お仕事に出かける感じかな」


 小鳥(……夜も遅くなってプロデューサーさんからメールが来たから、ちょっとドキドキしたのに)

 小鳥(ふたを開けてみたら仕事のお話、しかも事務所に定時前に来てほしい、だなんて)

 小鳥(えーえー、期待なんかしてなかったですよーだ、今年のクリスマスもおひとりさまですよーだ)

 小鳥(今日のことは響ちゃんと貴音ちゃんに関係があるらしいけど、なんでわたしまで……)

 小鳥(……どうせ予定なんかないから、早出残業なんでもアリですけどね! いいですよーだ!)

ガチャ

  響(よし、まだほかのみんなは来てないみたいだな)

  響「……いいかたかね、音を立てないように、静かにそっと入るんだぞ」ヒソヒソ

たかね「こころえました」コソコソ

 小鳥「…… あら、響ちゃん? おはよう」

  響「わああっ!? って、ピヨ子か、よかった。おはよう!」


 小鳥「プロデューサーさんに呼ばれて待ってたのよ。本人がまだ来てないけど」

  響「迷惑かけてごめんね、ピヨ子…… プロデューサーからはどこまで聞いてるの?」

 小鳥「実はまだ、貴音ちゃんと響ちゃんになにかあったってことだけ。ねえ、説明してもらえる?」

  響「説明、って言っても…… 見てもらうしかないよね、たかね、おいで」

 小鳥「あら、貴音ちゃんももう来てるの? それにしては姿が見え……」


たかね「……おはつに、おめにかかります」ヒョコッ


 小鳥「ん? …… んんん?」

  響「……こういうこと、なんだけど」

たかね「おなまえはきいております、ことりじょうでいらっしゃいますね?」

 小鳥「んん? どういうことなんですって?」

  響「ピヨ子の見ての通りだぞ」


たかね「わたくし、しじょうたかね、ともうします。ひびきのせわになっております」

 小鳥「えっ? なに、夢?」

  響「自分も最初はそう思ったんだけどね……」

 小鳥「……」

  響「……ピヨ子? おーい、ピヨ子聞いてる?」


 小鳥「これはッ!」クワッ


たかね「!?」


 小鳥「765プロのアイドルの中でもいちばん背が高くてスタイルも雰囲気も大人っぽい貴音ちゃんがロリ化することで普段との大きなギャップを生み出しつつも高貴な印象は変わらず漂わせそして王道と名高い響ちゃんとの組み合わせ自体はそのままに――」


たかね「ひいぃっ!? ひ、ひびきぃ!」

  響「…… あー…… たかね、とりあえずこっちにおいで」



 小鳥「――ただでさえ萌え要素の塊である凸凹コンビと呼んでも過言ではない年の差や身長差が逆転した状態で響ちゃんに甲斐甲斐しくお世話をされるロリ貴音ちゃんという光景の癒され具合はまさに萌えと萌えの足し算ならぬ掛け算いやもはやこれは累乗いいえ階乗とすら呼ばれるべき」


  響「なんとなくやな予感はしてたけど、やっぱりこんな風になっちゃうのか」

たかね「あ、あの…… ふつつかものですが、いご、おみしりおきを……」

 小鳥「ヒビタカッ」バターン

たかね「ひゃあっ!?」

  響「ちょっ……!? ピヨ子!? ピヨ子ぉぉー!!」




  響「よいしょっと…… ふう。やっぱりピヨ子には刺激が強すぎたかぁ……」

 小鳥「」

  響「プロデューサーもたぶんこうなるってわかってたから、事前に情報あげなかったんだろうなー……」

たかね「いまのおはなしで、どこにしげきがあったか、わたくしにはわかりかねるのですが……」

  響「うーん、自分もよくわかんないぞ。たぶんそうだろうな、ってだけ」


ガチャ

   P「おはようございます」

  響「プロデューサー! おはよ!」

   P「おっ響、早かったな。おはよう」
  
たかね「……」


   P「そして、君が…… たかねちゃん、だね」

  響「ほらたかね、これがさっきも言ってたプロデューサーだぞ。挨拶、あいさつ」

たかね「……しじょう、たかね、ともうします。ゆえあって、ひびきのせわになっております」

   P「ああ、事情は響からも聞いたよ。はじめまして。俺は響のプロデュースを担当してるプロデューサーだ」


たかね「ぷろじ…… ぷろで、ぷろでゅーす……」

   P「えーと、つまり、アイドルとして活躍する舞台を準備してるって言えばいいかな」

たかね「ひびきもいっていましたが、その"あいどる"というのは、なんなのですか」


  響(……ね? こんな感じで、本当にアイドルやってた時の記憶とかないみたいなんだ……)ボソボソ

   P(本当だな…… いずれ思い出すか、年齢的にももとに戻ってくれればいいんだが……)ボソボソ


   P「アイドルってのは…… 人に夢を与えて、人を笑顔にする職業のこと、かな」

たかね「ひびきもその"あいどる"である、と?」

   P「ああ、そうだよ。 ……それに、貴音もそうだったんだ」

たかね「わたくしが? "あいどる"……?」

  響「ちょっとプロデューサー、そんなこと急に……」

   P「嘘じゃないし、恥じるようなことでもないだろ? 知っといて悪いことはないと思うんだ」


   P「で、たかねちゃん、君の今後についてちょっと相談しなきゃいけないな」

たかね「ひびきのせわになっていれば、よいのではないのですか?」

  響「基本的にはもちろんそれでいいんだけど、自分、学校にも行かなきゃいけないしなー……」

たかね「がっこう……?」

   P「……マジか。このくらいの歳の貴音の一般常識、そういうレベルだったのか」

  響「貴音ならそれもありえるかな、って思えちゃうのがまたこわいぞ……」




   P「そういや響、音無さん見てないか? 一緒に相談しようと思って声かけたんだけど」

  響「ピヨ子ならそこのソファでノビてるよ」

   P「ハァ!? なんで!? 何があった!?」

  響「たかねを一目見たら、なんかいろいろ止まらなくなったみたいで……」

   P「…… ああ、なるほどな……」


  響「幼稚園とか保育園とかに通うのが、この年の子なら普通だと思うんだけど」

   P「でも書類なんかがまず用意できないし、そもそも施設のほうに空きがあるかも怪しいな」

  響「といって、うちで留守番させとくのも、もしものことがあったら怖いしさ」

   P「うーん…… あ、でも、響の部屋ならお前の家族たちがいっしょに」

たかね「いやです! わたくしはまだしにたくありません!!」

   P「……この反応、どういうこと?」

  響「あんまり深く聞かないでほしいぞ」




  響「自分が学校とか現場とかにたかねを一緒に連れて行く、ってのは無理があるよね?」

   P「そりゃちょっとな。子連れアイドルなんて斬新ではあるけど、どんな噂が立つかわからないし」

  響「だよね…… そういえばプロデューサー、貴音の仕事のスケジュールは大丈夫そう?」

   P「ああ、それはだいたい調整がついた。むこう1か月くらいはどうにかなりそうだ」

  響「1か月、かぁ…… その間に、解決の糸口でも見つけられたらいいんだけど……」



 小鳥「うーん…… ひびたか…… たかひび…… ピヨッ!?」ガバッ


  響「あ、ピヨ子が復活した」

   P「おはようございます音無さん。なんていうか…… 俺のせいで、すみません」

 小鳥「プロデューサーさん! おはようございます、それより貴音ちゃんが!」

   P「ええ、幼児化してるんですよ…… もう直接会ったそうですね」

 小鳥「なんでそんなに冷静でいられるんですか!? ロリ貴音ちゃんですよロリ貴音ちゃん!!」

   P「…… まあその、俺は事前に響から聞いて、それに画像も見てましたので……」

 小鳥「画像!? 響ちゃん、なんでわたしには見せてくれなかったの!? いいえ、今からでも」

  響「うん、きょうのピヨ子の反応見てる限り、送らなかった自分の判断は正しかったよね」



 小鳥「……で、あれ? そのたかねちゃんはどこにいるんですか?」

  響「!?」

   P「!?」


  響「…… い、いない! 自分たちが話し込んでるスキに出てったな!?」

   P「まずい! もうぼちぼちみんな事務所に来てる時間だ、先に見つけないと!」

 小鳥「……どうして隠さなきゃいけないんです? 事務所の仲間なんですし、別に問題は――」

  響「仲間だからこそだよピヨ子ぉ!! 亜美や真美がたかね見つけでもした日にはどうなるか!」

   P「みんな仕事どころじゃない騒ぎになることは確実です! 音無さんも手伝ってください!」




たかね「…… ちょっとだけ、おへやをみてまわるだけのつもりだったのが……」

たかね「かってのわからないないばしょで、うかつにうごいてはなりませんね……」

たかね「ひびきと、ぷろ…… あのかたと、それからことりじょうのいるおへやに、はやくもどらねば……」


  響「やっぱりもうビルの外に出てるんじゃないか!?」

   P「可能性はあるな…… 響、音無さんも、手分けして探しましょう!」

 小鳥「は、はいっ!」




たかね「はて、どうしたものでしょうか…… む?」

たかね「あちらのほうから、あしおとがきこえますね。きっと、ひびきがきたのでしょう」




 春香「ふふふふーん♪ ふふふ ふふふっふーん♪」

たかね「ひびき、さがしましたよ、はぐれてはこま」ヒョコ

 春香「ふふふ ふんふん♪ ふーんふふふー」

たかね「なっ!?」

 春香「んッ!?」


 春香「…… え、貴音さ…… えっ、あれ、なんか…… ちっちゃい?」
 
たかね「……ぬかりました!」ダッ

 春香「あっ、ちょ、ちょっと貴音…… さん、待っ、あっわっ、きゃあああああっ!?」


ドンガラガッシャーン


 千早「!? 着いて早々に…… いったいなんの音?」




 千早「こっちの方だった気がするのだけれど…… って、ちょっと!」

 春香「っ、あいったたたぁ……」

 千早「どうしたの春香、大丈夫!? 怪我はしていない!?」

 春香「あっ、ち、千早ちゃん! あのね、幼女が、古風で! 銀髪の、ていうか貴音さんが、ちっちゃくなって!」

 千早「どうしたの春香、大丈夫!? 頭を打っていない!?」

 春香「ほ、ほんとなんだってば!」


 雪歩「あずささーん、お茶、入りましたよぉ」

あずさ「は~い。ありがとう、雪歩ちゃん」

 雪歩「きょうは寒いですから、ほうじ茶にしてみました」
 
あずさ「素敵、温まりそう。そうだ、頂きもののお饅頭、持ってくるわね」

 雪歩「あっ、いいですねぇ。じゃあわたし、これ注いでおきますから」




あずさ「お待たせ~。はい、これ、どうぞ」

 雪歩「わぁ、ありがとうございます」

たかね「きょうしゅくです」

 雪歩「!?」


あずさ「じゃあ、わたしも…… うん、美味しい!」

 雪歩(えっ…… えっ!? いつの間に…… この子、誰!?)

たかね「ふむ、まこほ、よひあひでふ」

 雪歩(あ、あずささん、全く動じてないけど…… 知り合い、なのかなぁ?)

あずさ「またこのほうじ茶が、お饅頭とすごく合うわ~…… うふふ、しあわせ」

 雪歩(…… 銀髪で、きれいな目の色…… 四条さんがちっちゃいころって、こんな感じだったのかな……)

たかね「あのう、もし」

 雪歩「……は、はいぃ!?」

たかね「わたくしも、おちゃをしょもうします」

 雪歩「あ…… は、はいぃ、すみません、すぐに!」パタパタ

あずさ「お饅頭もまだいっぱいあるわよ~、もうひとつ食べる?」

たかね「なんと! ぜひに!」


たかね「たんのうしました…… では、わたくしはこれで」

 雪歩「あ、ああ、それじゃあ……」

あずさ「あら、そうなの? じゃあ、またね~」フリフリ




 雪歩(…… 行っちゃった……)

あずさ「ところで雪歩ちゃん、今の子、雪歩ちゃんの知り合いかしら?」

 雪歩「え、えええっ!? わ、わたし、あずささんの知り合いだとばっかり!」

あずさ「あら~…… どうしましょう、お饅頭、みんなの分に足りなくなっちゃったかも……」

 雪歩「あずささん、今気にするべきは絶対そこじゃありませんよね!?」


 亜美「ねえー、まーみー、ヒーマーだーよー」

 真美「真美だってヒマだよ亜美ぃー……なーんか面白いことないのー」

 亜美「ないから真美に聞いてるんじゃーん……」

 真美「んー、そーだよねー…… モンハンでもやるー?」

 亜美「そだねいー…… とりあえず、ひと狩りいっとこっかぁ」

たかね(……! あれがひびきのいっていた、あみとまみにそういありません!)

ガタッ

たかね(はっ!? ふ、ふかく!)

 真美「ん?」

 亜美「お?」

たかね「……」ダラダラ

 真美「んんん!?」

 亜美「……ねえ、亜美にはあの子お姫ちんに見えるんだけど、真美的にはDo-dai?」

 真美「ちょっと縮んでるよーな気もするけど、キホン的にはお姫ちんだね、まちがいない」

たかね(い…… いけません、これは)


 亜美「どーしよっか?」

 真美「そんなの聞くまでもないっしょ?」

 亜美「だよねー……? んっふっふー」




 真美「いっくぞぉ亜美ぃ! ミニお姫ちんをつかまえろー!」ダッ

 亜美「がってんだ真美ぃ! おっひめちーん!!」バッ

たかね「ひいっ!?」

たかね(なんというちゅうちょのなさ! つかまるとなにをされるかわかったものでは!!)ダッ

 亜美「あっお姫ちん逃げたっ!! こらー、まてぇーい!」

 真美「超絶レアモンスだよ亜美! のがすなー!」

たかね("ひとかり"とはこういうことですか!? なんとおそろしい!!)

 亜美「エモノはなかなかすばしっこいよ真美っ!」

 真美「だてに面妖やってないね!? 亜美右、真美左!」

 亜美「おっけぇーい!」

たかね(むれでれんけいのとれたかりをするなど、きゃつら、ほんとうにひとでしょうか!?)






 < マーテェー!

ドタバタ

 < ヒィィッ!

ダダダダ

 < ソッチイッタヨー!

バタバタ




 律子「…… またあの子達ね。がっつりお灸すえてやんなきゃ、わかんない、ってことね?」


 律子「いいわ。今日という今日は、お望みどおりにしてやろうじゃないの」


たかね「はぁ、はぁ……、はぁ……」

 真美「よーし、ミニお姫ちんだいぶスピード落ちてきてる!」

 亜美「あと一息ってトコだねっ真美、んっふっふー」

 真美「つかまえたらどうしちゃおっか!? んっふっふー!」


たかね(ああ…… まえが、もう、みえなく……)


バターン!!


 律子「くぉぉぉらぁああ! 亜美、真美、さっきからドタバタ何やってるの!?」


 真美「げぇっ! 鬼軍曹!」

 亜美「こんないいトコでそりゃないっしょー!?」

たかね(ま…… また、あらてが!?)

 真美「それよりまずいぞ亜美隊員、センリャク的撤退を――」

 律子「逃がすわけないでしょーが!」ガシィ

 真美「ぎゃーっ!?」

たかね(こ、これは、ねがってもないこうき!)スタタタ

 亜美「ああ真美隊員! くっ、キミの犠牲は決して無駄には」

 律子「わたしは おまえも つかまえた」ガシッ

 亜美「ひええーっ!?」


 律子(……ん? あれ…… 今、三人いたような気が……?)

 亜美「ねえちょっと律っちゃんってば大ニュースなんだよー!」

 真美「そうそう、そのへんにちっこいお姫ちんがいるの!」

 律子「……はぁ? 何バカなこと言ってるの、そんなので誤魔化されないわよ」

 亜美「あーん、ホントなのにー!」

 真美「お願い律っちゃーん、ちょーっと時間くれたらすぐ捕まえてくるからー!」

 律子「その前にちょっとあんたたちの時間もらうわよ」

 真美「へっ……?」

 亜美「り、律っちゃ…… いや律子さま、これからなにが始まるのかなぁ、なんて……」

 律子「そうね、胸に手を当ててよーく考えてみるといいわ」




      \\ ぎぃやーーーーっ!? //


たかね「なんとか、いわれていたとおり、あみとまみにはつかまらずにすみましたが……」

たかね「…… にげているうち、どこがどこやら、ますますわからなく……」グス




やよい「げんきにはじめればオールおっけー! ……って、あれ?」

たかね「っ!?」

やよい「こんにちは! ……ねえあなた、ひょっとして、迷子になっちゃったのかな?」

たかね「あ、あの、その、あやしいものでは……」

やよい「えらいなあ、むずかしいことば、知ってるんだね。お母さんとはぐれちゃったの?」

たかね「おかあさん…… とはちがうのですが、はぐれた、というか、その」

やよい「ここ、誰でも外から入れちゃうもんね…… よーし、わたしが一緒に家族の人さがしてあげる!」

たかね「いえ、そ、そんなことは、べつに、わたくしひとりでも」

やよい「遠慮しなくて大丈夫だよー。ひとりよりふたりの方が探しやすいし、ほら、おいで」

たかね(な、なんと、こがらなのにやたらとちからづよい……!?)ズルズル


やよい(何かお話してあげたら、気もまぎれるかなぁ…… そうだ!)

やよい「ね、あなたのお名前はなんていうのかな?」

たかね「わたくし、たかねともうします」

やよい「ええっ!?」

たかね「ど、どうかしましたか」

やよい(言われてみると…… はわっ、この子、貴音さんにそっくり!!)

たかね「あのう……」

やよい「ううん、ごめんね、ちょっとわたしの知ってるお姉さんと同じ名前で驚いちゃったの」

たかね「そうでしたか……」

やよい(髪の色とか、それにしゃべり方とかも…… 貴音さんがちっちゃくなっちゃったみたい!)


やよい(お母さんかお父さんがいるの事務所の外だろうから、まずはビルの外に出なくちゃ)

たかね(…… よくわかりませんが、どうも、さいしょのおへやからはなれているような……!)

やよい「あれ…… どうしたの?」

たかね「あ、あの、そとへでるほうにすすんではおりませんか?」

やよい「うん、そうだよ、お母さん…… お父さんかな? この中にはたぶん、いないからね」

たかね「いえ、それではわたくし、こまるのです、だってひびきが」

やよい「ひびき? ……響さん? えっ、あなた、響さんのこと」

 伊織「あら、やよい?」

やよい「あっ、おはよう伊織ちゃん!」

 伊織「おはよう。ねえ、こんなタイミングでなんでわざわざ外…… に……」

たかね「……」

 伊織「……え?」

やよい「あのね伊織ちゃん、これは」


 伊織(そろそろ朝のミーティングも近いのに、わざわざ事務所から出てくるやよい)

 伊織(しかも一人じゃなくて、銀髪紅眼なんて他じゃまず見ないルックスの幼女のおまけつき)


 伊織(……はっはーん、読めたわ。これいわゆるドッキリね、間違いない)


やよい「この子、家族とはぐれて、事務所の中にうっかり入っちゃったみたいなの」

 伊織(やよいと、それからこの貴音そっくりの子役。アイツの考えそうなことよね)

やよい「だからいったん外に出て、保護者のひと、探してあげようと思って」

 伊織(ここはまあ、テレビ的にはノってあげないといけないんでしょうね…… まったく、世話の焼ける)

 伊織「ふーん、そうだったの…… それにしてもどっかで見たような子ね、なんだか貴音みたい」

たかね(ま、またわたくしのながしられている……! ここはなんなのですか、ひがんですか!?)


やよい「す、すごい、伊織ちゃんなんでわかったの? この子のお名前も、たかねちゃんっていうんだって!」

 伊織「へえ、ホント? それは意外ねえー」

 伊織(裏表のないやよいにしてはなかなかの演技だわ。きっと結構前から動いてたのね、この企画)

やよい「うん、貴音さんにそっくりだよね。ねえ、伊織ちゃんもたかねちゃんの家族探すの手伝ってくれる?」

 伊織(……これも一緒に行かないとドッキリとして成り立たない、と)

 伊織「仕方ないわね、つきあってあげてもいいわよ。感謝しなさいよ、えーっと……、貴音」

たかね「は、はあ、その、ありがとうございます……」

 伊織(しっかしよくこんな子見つけてきたわね。ウィッグやカラコンはともかく、立ち居振る舞いが妙に似てるわ)


やよい「えーと、外に来たのはいいけど…… そうだ、たかねちゃんはどっちの方から来たの?」

たかね「わたくしは…… その、あちらのほうから……」

 伊織「……あのねえ、そういうお約束はいいから。なんでそこで真上を指さすわけ?」

やよい「あはは、そっちはお空だよー」

たかね「…… そ、そうでした、きょうは、こちらのほうから……」




< キキイッ

  真「……よーし、いい感じに温まってきたー! あっ、伊織、やよい、おはよっ!」


やよい「真さん! おはようございまーすっ!」ガルーン

 伊織「真、あんた…… この寒空に自転車通勤なの……?」

  真「だってせっかくのこの晴れ具合だよ? 冷えた朝の空気がまた気持ちいいんだ!」

 伊織「理解に苦しむわ」

  真「いいじゃないか、トレーニングにもなるしさ。ところでふたりともなんで中…… に……」

たかね「……」モジモジ

  真「……」

やよい「あっ、じつは、事務所でたまたま迷子になっちゃってた子がいたんです」

 伊織(ああ真、教えといてあげるけど、これ間違いなくドッキリだから……)ボソボソ


たかね「お、おはようございま……」

  真「なんなのさこの子ー! うっわあああ、かーわいいぃー!!」

やよい「へっ?」

 伊織「ちょ、ちょっと、まこ」

たかね「あ、あの、……ひゃあっ!?」

  真「すごいすごい! 髪の毛ふわっふわで銀色で、お人形みたいでかわいいなあ、連れて帰りたーい!」

たかね「ひ、ひい、あの、たかいです、おろし、ふりまわさ、ないで、ちょっ、めが、ああ」

やよい「真さん、真さん!? 落ち着いて、あのっ、下ろしてあげてくださーい!」


 伊織(……やよいの反応からしてもこの真は素ね。やれやれ、さぞドッキリ映えするでしょうよ)

  真「ねえこの子どこの子なの? やよいの知り合い? うちの事務所も子役アイドル始めるとか?」

やよい「どっちも違うと思います、その子、さっきも言いましたけど、たぶん迷子で」

  真「そうなのかぁ、残念…… この子貴音そっくりだし、貴音の妹ってことにしてデビューとかどうかなぁ!」

たかね「ちが…… たか、ねは…… わたくしで…… ああ…… せかいが……」

 伊織「真、そろそろマジで止めてあげなさい、お姫さまがグロッキーよ」

  真「えっ? あ、ごめんごめん」


  真「安心してよ、いざとなったらボクが責任もって抱っこでもおんぶでもして連れてって……」

たかね「……」プルプル

 伊織「……大丈夫? お仕事とはいえ災難だったわね、同情するわ」サスサス

やよい「落ち着くまでちょっとじっとしてようね、たかねちゃん」サスサス

  真「…… んーと、なんとなくボクが悪いみたいな空気感じるんだけど、気のせいかな?」

 伊織「なんとなくで終わってるんなら、悪いのは空気じゃなくてあんたの頭よ」

  真「んなっ、そんな言い方ないだろ!? ちっちゃい子といえば高い高いって常識じゃないか!」

 伊織「程度があるでしょうが! それにどっちかっていえばそれは男の子向けの遊びでしょ!?」

  真「だれが男の子っぽいだって!?」

 伊織「まだ言ってないわよ!!」

やよい「ちょ、ちょっとふたりとも落ち着いてっ、ね、けんかは……」




たかね(こ、これいじょうここにいては、いのちにかかわります……)ヨロヨロ






  真「……まあ、確かにボクも、ちょっとはしゃぎすぎてたところはあったよ」

 伊織「わたしももう少し言葉を選ぶべきだったわね。反省してる」

やよい「えへへ、そうそう、ちゃんと仲直りすればだいじょーぶですっ」

 伊織「……さて、そろそろネタバレしていいころじゃないの、やよい?」

やよい「えっ?」

  真「そういえばさっき伊織が言ってたドッキリって、いったい何のこと?」

 伊織「真もほんとに純粋ねー、あのミニ貴音のことに決まってるでしょ」

  真「ええっ!?」

やよい「あのたかねちゃん、どっきりだったんですかー!?」

 伊織「えっ」


 伊織「待ちなさいよ、やよいは仕掛け人のほうでしょう?」

やよい「しかけにん……? なんのこと、伊織ちゃん?」

  真「えええっ、じゃあさっきのお姫さま、あれメイクとかそういうのなの!?」ガーン

やよい「そ、そうだったんですかー!? 全然気づきませんでした!」ガーン

 伊織「ちょっと待って、お願い、二人でいちいちパニックを倍にするの、やめて」




 伊織「らちがあかないわ、当人に確かめたら済むことでしょ…… ……あら?」

やよい「……た、たかねちゃんは?」

  真「いなくなっちゃった!? あの子実在すらしてないの!? お化けとかなの!?」

 伊織「そんなわけないでしょうが! いいからすぐ探しに行くわよ!」

やよい「う、うん!」

  真「どっ、どうしよう伊織、ボクさっきあの子のこと思いっきり触っちゃったよ!」

 伊織「そんなことわたしが知るかぁ!!」


たかね(ああ…… まだ、ふらふらします、どこかで、やすみたい……)

たかね(…… おおきないすがあります、ふかふかで、ここちよさそう……)


 美希「ふにゃ…… あふぅ……」


たかね(すでに、せんきゃくがいますが…… ねていますし、あいているところで、すこし……)

たかね「……」ソローリ

 美希「……んにゃ?」パチ

たかね(な、なんと!? あしおとはたてていないのに!)

 美希「あー…… たかね、なにしてるのぉ?」フラリ

たかね(なんたること……! ここでもまた、なまえをしられているとは!)ゾーッ


 美希「ほーらぁ、そんなとこ立ってないで、こっちおいでよ、貴音ぇ」ガシィ

たかね「な…… なにをするのです、はなしなさい、はなすのです」

 美希「んー……? あれぇ、貴音、なんだかちっちゃくなってない?」

たかね「や、やめなさい、わたくしは……!」ジタバタ

 美希「……まー、そんなこと、どーでもいいのー、あふ」ボスン

たかね「ふみゃっ!?」ポスッ




 美希「…… すぴー…… むにゃむにゃ……」ギュー

たかね(これは…… どうしましょう、かんぜんに、とらえられてしまいました……)

 美希「…… えへへぇ…… おにぎりなのー……」

たかね「おにぎり!? どこです、どこなのですか」キョロキョロ

 美希「んー…… ええ、こんなにいいのぉ? ミキ、しあわせぇ……」

たかね「お、おにぎり、おにぎりはどこにあるのです!?」ジタバタ






 千早「おはよう、萩原さん。ねえ、プロデューサーがどこにいるか知らない?」

 雪歩「あっ、おはよう千早ちゃん。わたし、今日はまだ会ってないけど…… なにか用事があるの?」

 千早「実は、春香がちょっと調子を悪くしてるみたいで……」 

 雪歩「えっ、そうなの? 大変!」

 春香「ち、違うよ雪歩! 千早ちゃんが勝手に言ってるだけで!」

 千早「さっきから、四条さんそっくりの小さい女の子を見たって言って聞かないの」

 雪歩「えっ」

 千早「萩原さんもおかしいと思うでしょう? でも春香は――」

 雪歩「そ、その子なら、さっきわたしとあずささんのところにも来たよ!?」

 千早「えっ」

 春香「ほらぁー!! だから本当だって言ったでしょ千早ちゃん!」

あずさ「あらあら…… じゃああの子、やっぱり誰かの知り合いだったのかしらね?」


 亜美「その話ちょーっと待ったぁぁ!!」

 雪歩「ひぅっ!?」ビクゥ

あずさ「あら亜美ちゃん、おはよう」

 春香「あれっ、亜美、それに真美も…… なんで涙目なの?」

 真美「そのへんは置いといてさ、その前! お姫ちんそっくりのちっちゃい子って言ったよね!?」

 春香「う、うん」

 亜美「ほら律っちゃん!! ミニお姫ちんの目撃じょーほー、亜美たち以外にもあったよ!?」

 律子「え、えええ…… だってそんな、本当、なの……?」

 真美「はるるんにゆきぴょん、それにあずさお姉ちゃんまで見たって言ってるんだよー!」

 千早「偶然にしては、確かにできすぎている気も……」


バタバタ

 伊織「ねえ! ちょっと聞きたいんだけど、貴音そっくりの子がここに来なかった!?」

やよい「えっと、小学生くらいの身長で、髪が長くて銀色で、あっ、名前もたかねちゃんっていうんですっ!」

  真「で、でもそれはどっきりの演出で、ほんとはメイクで、ひょっとしたら幽霊かもしれなくて!」

 千早「…… また新しい目撃談? どうなっているの……」

 雪歩「ゆ、幽霊っ!?」

 亜美「ちょっとまこちん、言ってるイミがぜんぜんわかんないんだけど」

 律子「どっきり? ……そんな企画あるなんて話、聞いてないわよ?」

あずさ「ええと…… 律子さんが知らないってことは、冗談ではないんですよね」

 真美「でもこれだけの人数が見てるんだよ、ゼッタイなんかいるっしょ!」

 春香「と、とりあえずさ、みんなで手分けして探してみよう!」


   P「どうだ響、見つかったか!?」

  響「ど、どこにもいないぞ…… どうしようプロデューサー、ねえ、どうしよう……!」

 小鳥「とりあえず一度事務所に戻ってみましょう! 帰ってきてないとも限らないですよ!」




 伊織「ひとりだけいないと思ったら、この騒ぎの中ですら例によって寝てたのね、美希……」

 律子「……で、プロデューサー殿。これについて説明をお願いできますか」

   P「…… だそうだぞ、響」

  響「う、うがーっ!? よりによってそこで自分に振るのか!?」




 美希「ふにゃ…… くぅ……」ギュー

たかね「すー…… らぁめん…… ひびき、らぁめんが……」

 小鳥「●REC」






  響「……ってわけで、きのう朝起きたら、貴音がこんなことになっててさ」

  響(ダメだ、自分で言っててうさんくさいにもほどがあるぞこれ!)

  響「その、自分もまだ信じられないところがあるし、みんなもそうだと思うんだけど……」

 一同「……」

  響(ああ…… そりゃそうだ、絶句しちゃうのも当たり前さー……)




  響「記憶もなくなっちゃってるけど、でもこの子、貴音なんだよ! お願い、信じて」

 春香「うん、いやまあ、そういうこともあるんじゃないかなぁ」

  響「は、はぁ!?」


 雪歩「あの悠然とした態度は四条さんそのものって感じでしたし……」

あずさ「お饅頭もほんとに美味しそうに食べてたもの。貴音ちゃんなら納得だわ」

 律子「……というかそもそも、その見た目で貴音じゃないって言われる方が意外よね」

 亜美「うんうん、それにミョーにカンがいいし」

 真美「亜美と真美のタンデムアタックから逃げ切るくらいだもんねぃ」

やよい「や、やっぱりたかねちゃんが貴音さんだったんですねー!」

 伊織「ドッキリじゃなかったけどドッキリどころじゃない感じね、これ」

  真「よかったぁぁー! お化けでもメイクでもなくて貴音だったなら安心だよ!」

  響「自分が言うのもなんだけどみんな適応するの早すぎじゃないか!?」


  響「そ、それに、どうしてこんなことになったか、原因もぜんぜんわかんないし……」

 千早「それは多分我那覇さんの言うとおりなのだけれど、それ以前に……」


 美希「…… 貴音ならそういうことがあってもしょうがないかな、ってフンイキがあるの」


 一同「確かに」

  響「……そ、そうかなあ」




たかね「むにゃ…… ひびきぃ…… そのおにぎりは、あげませんよ…… わたくしの、ものです……」


   P「まあ結果論だけど、これだけ大々的にバレたのはかえってよかったのかもしれない」

  響「うーん、そうといえばそう、なのかも」

   P「しかし、結局のところ問題は解決してないわけで…… どうしたもんだろうな」


 小鳥「……じゃあ、響ちゃんの手が空かない間、たかねちゃんを事務所で預かってあげたらいいんじゃないですか?」


  響「え?」

 小鳥「ここなら毎日、少なくともわたしはいるわけですし、お金もかかりませんよ」

   P「いや…… でも音無さん、それだと音無さんの負担が増えちゃいませんか」

 小鳥「まったく増えないって言ったら嘘になりますけど、そのくらいの余裕はありますから」

あずさ「そうだわ~、レッスンやお仕事の合間で、わたし、遊び相手くらいはしてあげられますよ」

 律子「…… 私も常に外回りってわけでもありませんから、手伝うことは可能ですし」

 春香「それに、わたしたちだって学校終わったあとならお世話できちゃいますねっ!」


 亜美「それなら亜美たちの方が学校早く終わるから、お姫ちんと長く遊べちゃうってスンポーだよ!」

 真美「そうそう、中学生の特権ってやつだね? んっふっふー」

やよい「たかねちゃん、うちの弟とも歳が近いですし、わたしも役に立てると思いますー!」

  響「そ、そんな! ピヨ子にもみんなにも悪いよ!」

 美希「んー、それくらいいいんじゃないの?」

   P「いいんじゃないの、って、美希お前なぁ」

 雪歩「でも実際、響ちゃんの負担を考えてもそれが一番じゃないですか?」

  真「そうだよ、いくら響でも、通学とお仕事とたかねの世話を全部一人でってのは無理があるよ」

 千早「それに我那覇さんの場合、ほかの家族のみんなもいるわけでしょう?」

 伊織「頼れるところは素直に頼っときなさいよ。みんな進んで言ってるの、わかってるでしょ?」

  響「う、うん、それは確かにそうだけど……」


 高木「ではそれで決まりだね」

   P「うおっ!? 社長! いらしてたんですか!」

 高木「事情はどうあれ、事務所のメンバーの苦境に違いない。できることはしようじゃないか」

   P「それはもちろんですけど、社長にまでわざわざお手伝いいただかなくても」

 高木「私だって音無君と同じく、日中はだいたいここにいるからね。話し相手にくらいはなれよう」




   P「……じゃあ、とりあえず、だ。明日から響は通学前にたかねをここに連れてきて、音無さんか社長が迎える」

  響「うん、わかったぞ」

 小鳥「ええ、大丈夫です」

 高木「うむ」

   P「そして、響のレッスンなり仕事なりが終わったら、こっちに寄って連れて帰る、ってことで」

  響「それが今のところ、たかねのためにも一番いいよね」

   P「そうだな。で、たかねが事務所にいる間、余裕があるメンバーは相手してあげる。みんな、それでいいな?」

 一同「はーい!」


たかね「…… ん、んん……」

 伊織「ああ、お姫様の目が覚めたみたいよ」

 律子「この状況で今までずっと寝てられるあたり、貴音らしいっていうか、大物ね……」


たかね「……ひびき? ひびき、どこですか……?」

  響「あー、はいはい、ここにいるぞ。それより勝手に動き回っちゃダメじゃないか、たかね」

たかね「あの…… その、ちょっとだけ、たんけんしてみようと……」


 春香「あはは、かわいい、目が覚めたらまず響ちゃん探すんだ。鳥のひなみたい」

あずさ「一日しか経ってないのに、ずいぶん響ちゃんになついてるわね、たかねちゃん」

やよい「動物にもあんなに好かれる響さんだから、当然なのかなーって気もします」

 美希「それに響と貴音の付き合い、かなり長いし。たぶんあんなカンジで当たり前なの」

 千早「とりあえず、ここは我那覇さんに任せておきましょう。急に私たちが出張ったら混乱させてしまうわ」






  響「ってことで、たかね。明日から、日中はここで自分のこと待っててね」

たかね「…… なんだかわたくしひとりのために、おおごとになってしまったきがいたします」

  響「自分も、まさかこんなことになるとは思わなかったさー」

たかね「もうしわけありません、ひびきにも、みなにも、めいわくを……」

  響「なんでたかねが謝るの?」

たかね「えっ?」

  響「原因はわかんないけど、たかねにもどうしようもないことなんだしさ」

たかね「…… それは、そうなのですが……」

  響「誰かが大変だったら助け合うの、普通のことだもん。たかねも含めて、みんな事務所の仲間なんだから」

たかね「ひびき…… …… ありがとう、ございます」


  響「ん、いいってば。 ……っていうか、むしろ、たかねが大変な目に遭うのは今からだぞ?」

たかね「はい? ……それは、どういう?」

  響「うん、自分が説明しなくてもすぐわかると思うから、がんばって」

たかね「…… あの、ひびき、わたくし、わるいよかんがいたしま――」




 亜美「ひびきーん! もうお話終わったー!?」

 真美「ひびきんばっかりずるいよー、真美たちもミニお姫ちんと遊びたいよー!」

たかね「ひい!?」

  響「あー、ごめんごめん、今説明すんだとこ」

 雪歩「四条さんの…… あの四条さんの、幼女時代の姿がぁ……!」

  真「雪歩、ねえ雪歩? ……ああダメだこれ、聞こえてないや」

 小鳥「メモリもバッテリーも十二分にあるわ、さあ撮るわよぉ……!」




  響「みんなたかねのこと、"歓迎"したくて待ち構えてたんだ。 ……大丈夫、命までは取られないぞ」

たかね「!? め…… めんようなああぁぁ!?」


本日の投下は、これでおしまいです。


  響「どうしたのさ、たかね。くたびれた顔しちゃって」

たかね「…… ほぼいちにち…… みなに、もてあそばれて、わたくしはもう……」

  響「あはは、みんなたかねに初めて会うから興奮してたのさー。明日からは大丈夫だよ」

たかね「だと、よいのですが……」

  響「それに、誰もたかねのこといじめたりしなかったでしょ?」

たかね「…… あさのだんかいで、まことにふりまわされました」

  響「自分のいないとこで何があってたの、それ」

たかね「あみとまみには、あやうく、かられそうになりましたし……」


  響「かられそう……? 刈られそうに? なんでまたそんなことに……」

たかね「みきはわたくしにだきついて、はなしませんでしたし」

  響「それは自分も見たけど、っていうかたかね、一緒にぐーすか寝てたよね?」

たかね「きわめつけに、ことりじょうは…… えんえんと、めんようなきかいをもって、おいかけてきて……」ブルブル

  響「それはまあ…… でも、結局いま魂抜けてないんだからなんくるないでしょ」

たかね「そういうもんだいではありません!」

  響「ピヨ子の密かな楽しみみたいなもんだから、我慢してあげてよ」

たかね「ほほえみ、はなぢをだしながらはしるすがたが…… どれほどおそろしかったか……!!」ガクガク

  響「…… うん、あれは確かにちょっと同情するぞ」


  響「さて、ほかの家族の分の買い物もあるし、ちょっとスーパー寄ってくぞー」

たかね「すうぱあ?」

  響「ああ、お店だよお店。すぐ近くだから」




たかね「おお……! なんとひろく、そして、なんとたくさんのものが!」

  響「初めて見たらそうなるよね。ほら行くよたかね、ちゃんとついてきて」

たかね「……はっ!? ひ、ひびき、あれは!」

  響「んー? なにかあった?」


たかね「あのつつのようなものは、まさしく! さくじつしょくした『かっぷめん』!!」キラキラ

  響「お、よく覚えてたね。よっぽど気に入ったんだな」

たかね「しかし…… こんなにも、たいりょうに…… むむむ」

  響「最近はたくさん種類があるからなー。で、なにをそんなにうなってるの?」

たかね「これだけあると、わたくしといえど、たべきれないおそれが」

  響「なんでたかねが全部食べていい設定になってるのか知らないけど、買わないぞ?」

たかね「なにゆえ!?」ガーン

  響「いや、なにゆえって」


たかね「あれほどびみなものを、なぜかわないのです!?」

  響「昨日も言ったでしょ、いくらおいしくてもたかねの身体によくないんだよ」

たかね「しょうしょうのことにはめをつぶるべきです!」

  響「いーや、大人もカップ麺ばっかりじゃすぐ身体壊すんだから。たかねみたいなちびっ子はよけいダメだぞ」

たかね「いいえ、わたくしはしゅくじょですから、もんだいございません!」

  響「そもそも淑女はふつう、カップ麺食べたいなんてダダこねないからね?」

たかね「むぅぅ…… ああいえば、こういう……!」

  響「どっちがさ!? はいはい、ほら、行くよ」

たかね「ああ…… とうげんきょうが、はるかかなたへ……」

  響「ずっとたどり着けないから桃源郷なのさー」

たかね「だ、だれがうまいことをいえともうしました!?」


たかね「ひびき…… せんこくから、おかしいとおもいませんか?」

  響「なにが?」

たかね「たしかに、いまはふゆです。さむいきせつです」

  響「うん、その通りだぞ」

たかね「しかし…… 『すうぱあ』のなかでも、このあたりにきてから、よりつめたさをかんじます」

  響「ああ、言われてみれば、多少は」

たかね「それになにか、しろいけむりのようなものがみえるきも……」

  響「そういえば、目をこらしたら見えなくもないね」

たかね「ひびき、ゆだんはなりませんよ…… なにやら、あやしげなくうきをかんじます……!」




  響(…… 冷蔵コーナーのこと説明しても…… たぶんわかんないだろうなあ、これ)


 店員「いらっしゃいませ。袋はおつけしますか?」

  響「お願いします。それと、別に小さい袋をひとつもらえますか?」




  響「はい、これはたかねの持つ分」

たかね「このちいさいふくろは……? なぜ、わたくしに?」

  響「ちょっとくらいお手伝いしてくれても、バチはあたんないでしょ?」

たかね「たしかに、それはそうですが……」

  響「ん、じゃあ、よろしく。 ……ついでに中も見てみたら?」

たかね「なか、といっても…… ……こ、これは、かっぷめん!! いつのまに!?」パァァ

  響「ふふん。たかねが見てないときに、こっそりカゴに入れといたのさー」


  響「あのさ、たかね。1週間に1個だけなら、カップ麺食べてもいいよ。買ってあげる」

たかね「はい、はいっ! なのかかんに、いちどですね!」

  響「…… たーだーし!」

たかね「?」

  響「これ、自分との約束だからね。けさ事務所でやったみたいに勝手なことしたら、もう絶対買わないぞ。できる?」

たかね「…… はい! ちゃんと、まもります!」

  響「よーし、じゃあ指きりしよう」

たかね「はいっ」


   「「ゆーびきーりげーんまん、うーそつーいたらはーりせんぼんのーます! ゆーびきった!」」






たかね「みてください、ひびき、いろとりどりで…… まるで、ほうせきばこのようです」キラキラ

  響「ホント、綺麗だね。たかね、なかなか詩的なこと言うじゃないか」

たかね「ふふ、わたくし、そのみちのさいのうがあるでしょうか?」

  響「その歳でそれなら立派だと思うさー。ケーキのこと、宝石だなんて」

たかね「ほんとうに、うつくしくて…… おもわず、ほおばってしまいそうです……」キラキラ

  響「あんまりショーケースに張り付いちゃダメだぞ、お店にも迷惑だしね。 ……そういうわけで」




  響「たかね、ほら、行くよ、ってば……!」ググググ

たかね「いま、すこし…… ひびき、いますこしだけ……!」グググ

  響(さっきまで、あんなにへたばってたくせに……! ケーキ屋さんの前で急に、根っこでも生えたみたいに……!)


  響「ぜえ、はあ、やっと動けたぞ…… たかね、あとはまっすぐ家に…… っ!?」

たかね「ひびき!! このおみせ、かんばんに『らぁめん』とかいてあります!!」

  響(…… よし。明日からはこのルート通るの、絶対やめよう)

たかね「それに、なかから、かっぷめんとにたにおいがただよってきます!」

  響「そりゃね、ラーメン作ってるからね」

たかね「まさか…… ここは、かっぷめんをつくるおみせなのでは!?」

  響「それはかなり失礼だから、あんまり大声で言うのやめような、たかね」




  響「だから、ね、もう、今日は、おとなしく、帰ろう!?」グググググ

たかね「いま、すこし、いますこし、ここに、おり、ましょう、ひびきぃ!」ググググ






  響「たかね、おいでー、お風呂だぞー」

たかね「……」

  響「どうしたの? ほら、こっち」

たかね「…… また、しゃんぷうをするのでしょう?」

  響「そりゃまあ。たかね、ただでさえ髪の毛多いんだから、ちゃんと洗わなきゃ」

たかね「いやです」

  響「え」

たかね「わたくし、にどとしゃんぷうはいやです」


  響「でも、シャンプーしないと、どんどんきたなくなっちゃうぞ」

たかね「いやです、ひとはしゃんぷうなどせずとも、いきてゆけます」

  響「そんな大げさな話じゃないってば。すっきりして気持ちいいよ?」

たかね「なんといわれようと、おことわりします!」
 
  響「…… お、へび香! そんなとこにいたのか!」

たかね「ひいぃっ!?」クルッ




  響「よし、捕まえたぞー」ガシィ

たかね「!? ひ、ひびき、はなしてください、はなすのです、いやああああ!」ジタバタ

  響「はいはい、いけずいけず」


たかね「はなしてくださいませ! おに! あくまー!」

  響「で、これを、よいしょ、っと」

たかね「ふぎゅ…… なんですこれは!」

  響「おー、なかなか似合ってるぞ、たかね」

たかね「ひびき、わたくしになにをかぶせたのです!?」

  響「とっておきの秘密兵器だよ」

たかね「ひみつへいき……?」

  響「さてと、じゃあシャンプーするぞー」

たかね「みゃっ!? ひびき、お、おねがいです、やめてください、いいこにしますから!」

  響「よーしたかね、いい子でじっとしてようなー」


たかね「い、いやあああああ! ……おや?」

  響「たかね、かゆいとこないー?」

たかね「これは…… ひびき、めが、めがいたくありません!」

  響「そのためのシャンプーハットさー。やっぱり買っといて正解だったぞ」

たかね「しゃんぷう、はっと?」

  響「そ、これかぶってたら、目に水が入んないでしょ」

たかね「なんと……! このような、すばらしいものが……!」




  響「いや、だからね、それはお風呂でかぶるためのものなの!」

たかね「いいえ! おでかけにもかぶってゆきます!」


たかね「 …… すー、くぅー…… むにゃ……」

  響「ふー…… さすがに、あっという間に寝ちゃったな」


  響(まあ実際、きょうは一日みんなに引っ張りだこだったからね……)


  響(とりあえず、明日からは事務所でピヨ子や社長、みんなも手伝ってくれる分、だいぶ安心だぞ)




  響「……あ、そうだ、忘れないうちに」



  響「もしもし、プロデューサー? 遅くにごめんね、お願いがあるんだけど」


  響「ん、自分のスケジュールのこと。あのね、夕方以降のレッスンとかお仕事とか…… ちょっとだけ減らせないかな?」


  響「え? うん、そう…… できるだけ、たかねと一緒にいてあげられるようにしたいんだ」


  響「もちろん大丈夫さー、自分、日中に倍がんばるから! 迷惑はかけないぞ!」


  響「……ありがと! うん、また明日、おやすみ!」


本日の投下は、これでおしまいです。


【五つ子のたましい】




  響「たかね、たかね。朝だぞー、起きてー」ユサユサ

たかね「ぐう…… ふにゃ、すー……」

  響「ちっちゃくなっても、寝起きの悪さは一緒なんだな…… たーかーねってば!」

たかね「…… ん…… ぅむ、む」

  響「もう朝だよ、ごはんの時間だぞー」


たかね「…… ごはん……」ムクリ


  響「食事だって言ったら起きるとこまで一緒かー、ぶれないなぁ」


【はやわざ】

たかね「ねむたい、です、ひびき……」

  響「そんなときはまず、顔を洗うとしゃきっとするぞ!」

たかね「…… ふぁい……」

  響「あ、でも洗面台に届かないか。じゃあ自分が抱っこしとくから、その間に洗ってね」

たかね「こころえ、ました……」

  響「水出しっぱなしにしてっと…… いくよー、よいしょっ」ヒョイ

たかね「……」

  響「? どうしたのさたかね、早く洗って……」




たかね「…… くぅ…… すぴー……」

  響「なんなのその早寝。美希もびっくりだぞ」


【こなもん】

  響「すぐごはんできるから、もう少し待っててね」

たかね「ひびき、これはなんのかおりでしょうか?」

  響「ん? これはね、たかねと自分の朝ごはんに、パンってものを焼いてるの」

たかね「ぱん、ですか」

  響「そうそう。ラーメンと同じで小麦粉使ってて、こねて、焼いたやつ」

たかね「らぁめんっ!?」

  響「ああ、でも材料が一緒ってだけで、見た目とかはぜんぜん」

たかね「らぁめんと、おなじ……! そのぱんというものも、さぞびみなのでしょう……!」ペカー

  響「おいしいのはおいしいけどさ、たかねの期待してるのとはちょっと違うかな」


【ちゅっと吸って】

  響「これからたかねが顔洗ったりするときのために、踏み台みたいなのがいるなー」

たかね「どういうことでしょう?」

  響「蛇口に手がとどきづらいし、鏡も見えないでしょ? さておき、はいこれ」

たかね「はて、これは……」

  響「歯ブラシだよ。ごはん食べたあとは、ちゃんと歯を磨かなくちゃね」

たかね「この、うえにのっているものは、なんでしょうか」

  響「歯磨き粉。ちゃんとたかねの分は、子供用のやつ買っといたぞ」




たかね「ひびき!」

  響「ん、どうかした?」

たかね「はみがきこ、たいへんびみでした! おかわりをください!」

  響「おかわっ……!? たかね、それ食べ物じゃないんだってば!」


【×水蒸気 ○湯気】

  響「うう、今朝もなかなか冷えてるなー…… たかね、寒くない?」

たかね「いえ、わたくしはだいじょう……?」

  響「どうしたのさ、急に黙っちゃって」

たかね「…… ひびき! ひびきのくちから、しろいけむりのようなものが!?」

  響「これだけ冷えてたらね。ていうか、たかねも口から出てるよ?」

たかね「えっ!? はーーっ…… ……なんと! これはいったい……」

  響「…… 実はな、たかね、それ、魂なんだぞ。だから、あんまり出してると……」




  響「冗談! さっきのは冗談だから! むしろ止めてると魂抜けちゃうから!!」

たかね「……! ……!!」ブンブン


【朝いちばん早いのは】

たかね「おや? ひびき、あちらをとおるのではないのですか?」

  響「いつも同じ道じゃつまらないでしょ。たかね、このへん探検してみたくない?」

たかね「たんけん……! はい、したいです!」

  響(ふふふ…… これこそ、きのうの失敗を踏まえて選んだカンペキなルートさー!)

たかね「…… まだ、あまりひとがいないのですね」

  響(ケーキ屋さんもラーメン屋さんもない、そもそもこの時間はまだ開いてない!)

たかね「む? これは……」スンスン

  響(これなら、昨日みたいにたかねがいきなり動かなくなることもなく……)

たかね「ひびき! このこうばしいにおいは、もしや、さきほどの!」

  響「え」


たかね「まこと、すばらしきかおり…… このおみせは、はやくからあいているのですね」

  響(……ぱ、パン屋さん!? うぎゃーっ! よりによって!)

たかね「これまた、いろとりどりの…… それに、なんとも、しょくよくをしげきするにおいが……!」キラキラ

  響「ああそうだね、うん、おいしそうだね」

たかね「もうすこしちかくでみましょう、ひびき! ……ひびき?」

  響(とりあえず、このルートも今日限りだぞ)




たかね「なにゆえぇぇ! なにゆえ、わたくしを、ひっぱるのです!?」グググ

  響「あのね、自分ね、時間、決まってるんだ、遅刻しちゃうからね!?」ググググ


【いってきます】

  響「たかね、ピヨ子や社長やみんなの言うこと、ちゃんと聞かなくちゃダメだぞ」

たかね「もちろんです。わたくし、もうごさいですから、だいじょうぶです」

  響「じゃあ、ピヨ…… 小鳥さん。自分のいない間、たかねのこと、よろしくお願いします」ペコッ

 小鳥「響ちゃんったら、そんなに改まらなくたっていいのに」

  響「自分、今日は…… そうだなあ、17時すぎには戻れると思う」

 小鳥「わかったわ。遅くなっても大丈夫よ、響ちゃんが迎えにくるまで待ってるから」

  響「ありがとっ! じゃあたかね、ピヨ子、行ってくるね!」

 小鳥「はーい、気をつけてね」

たかね「いってらっしゃいませ、ひびき」


【ほろりとぐさりと】

 小鳥「……」

たかね「どうかしたのですか、ことりじょう」

 小鳥「ん? ちょっとね…… 子供を見送るお母さんって、こんな気持ちなのかなあ、って」

たかね「おかあさん…… では、わたくしがいもうとで、ひびきがあねですね!」

 小鳥「やだ、もう、たとえばの話よ。わたし、まだ響ちゃんのお母さんってほどの歳じゃないんだから」

たかね「すると、わたくしのははうえとしては、おかしくないのですか?」




 小鳥「ぐふうっ」ガクッ

たかね「ことりじょう!?」


【いつも片手に】

たかね「それではあらためて、どうぞ、よろしくおねがいします」

 小鳥「こちらこそ。たかねちゃん、わからないことは何でも聞いてね」

たかね「ありがとうございます。ではさっそくですが、ひとつ、よいでしょうか」

 小鳥「あら、なあに?」




たかね「ことりじょうはやはり、そのめんようなきかいをつかわなくてはいけませんか?」

 小鳥「ええ、いけないわね」 ●REC

たかね「いけませんか」

 小鳥「いけないわね」 ●REC


【今日から本気出す】

 小鳥「じゃあ、わたしはしばらくお仕事してるから、何かあったらいつでも言って」

たかね「はいっ」

 小鳥「事務所の中なら好きに遊んでていいけど、あんまり遠くには行かないでね」

たかね「は、はい…… それはもう、きのうで、こりましたので」

 小鳥「それならオッケー。響ちゃんだって、昨日はすごく心配してたのよ?」




 小鳥「……よーしっ、だいたい片付いたわ! お待たせ、たかねちゃん」

たかね「はて……? さきほどから、あまりたっていないきがしますが……」


ガチャ

 律子「おはようございまーす」

 小鳥「律子さん、おはようございます」

たかね「おや、りつこじょう。おはようございます」

 律子「ああ、今日から来てるんだったわね、たかね。おはよう」

 小鳥「さてと…… たかねちゃん、何かしたいこととかない?」

たかね「あの、ことりじょう、おしごとはもうよいのですか」

 律子「小鳥さん? たかねを構ってあげるのはいいですけど、昨日お願いしてた資料とかは……」

 小鳥「そこのデスクの上に全部揃えてます。ついでに今日の事務処理も、あらかた済んでますよ」

 律子「!?」


 律子「これ…… 頼んでた内容全部おさえてある上に、改善案まで盛り込んで……!」

 小鳥「どうですか、それならけっこう役に立ちません?」

 律子「……えっ、あの、小鳥さん、どうしたんですか一体。っていうかあなた本当に小鳥さんですか」

 小鳥「ひとつ覚えておいてください、律子さん」

 律子「な、何をですか?」

 小鳥「たかねちゃん眺めたり撮影したりする時間を確保するためなら、わたしは阿修羅すら凌駕しますよ」

 律子「ああよかった、やっぱり小鳥さんですね」

たかね(なにか…… ことりじょうから、ただならぬようきのようなものが……!)


【双海亜美&双海真美の場合】

 小鳥「15時も回って、そろそろ誰か来始めるころかしら」

ガチャ

 真美「やーっほー! 亜美と真美、さんじょ→だよー!」

 小鳥「噂をすれば亜美ちゃん、真美ちゃん、お疲れさま。今日はいつにもまして早いわね」

 亜美「ねえねえピヨちゃん、それより、まだほかのみんな誰も来てないよね!?」

 真美「ミニお姫ちんと一番乗りで遊びたくてさ、授業終わってソッコーこっち来たんだYO!」




たかね「おかえりなさいませ。あみ、まみ、あらためて、よろしくおねがいしま……」

 亜美「あっ、いたいたーっ!! ミニお姫ちん、会いたかったぞよー!」ギュー

 真美「かたっくるしいのはナシだよー、楽しくやろっ!」ギュッ

たかね「きゃっ!? な、なにをするのです!」

 小鳥「もう、亜美ちゃんも真美ちゃんも、あんまりびっくりさせちゃかわいそうよ?」 ●REC


 亜美「やっぱりさ、『お姫ちん』要素は入れるべきっしょー」

 真美「まーね、ショージキあれはあだ名としてカンペキな完成度だったかんね」

たかね「ふたりとも、なんのはなしをしているのです?」

 亜美「お姫さま的イメージは残しつつ、同時にこのちまっこさを表したいってゆーか!」

 真美「…… そーだ! じゃあじゃあ『やよいっち』の流れでさ、『おひめっち』なんての、どうよ?」

 亜美「お……? おお!? いいね、ちっちゃい感じ出てるよ真美! ほめてつかわす!」

たかね「あの…… わたくしを、おいていかないでほしいのですが……」

 亜美「ってことでミニお姫ちん…… いや、おひめっち! 今日からキミは『おひめっち』だ!」

 真美「あっ、漢字じゃないのもポイントだかんね、『おひめっち』!」

たかね「はい!?」

 真美「いやあー、まーたいい仕事しちまったずぇー」

たかね(は…… はなしが、まったくわかりません! めんような……!)


 真美「ってことでさ、おひめっち。真美たちと一緒にゲームしようぜぃゲーム!」

たかね「げーむ…… とは、なんですか?」

 亜美「まーまー、やってみればわかるって! はいこれDSっ!」

たかね「……? このひらたいはこが、なんなのです?」

 真美「んっふっふー…… これはここからこう、パカッとやってだね?」

たかね「おお!? これは、ひらくのですね!」

 亜美「そんでもってー、電源スイッチポチッとな!」

たかね「す、すごい! こんどは、あかるくなりました……!」

 真美「この世間知らずっぷり、ほんとにお姫様ってカンジするよねぃ」

 亜美「うんうん、お嬢様ってゆーか」


 真美「はいじゃあおひめっち、これ持って!」

たかね「あ、あの…… わたくし、いったい、なにをすれば」

 亜美「んー、そだ、まずはかるーくオープニングとか見てもらおっか」

たかね「おおぷにんぐ?」




たかね「!!」

(※参考: https://www.youtube.com/watch?v=-crDEcdbEKY

たかね「あみ! まみ! このようなちいさなはこのなかに、ひとがはいっております!!」

 亜美「はいっ、ベタなリアクションいただきましたー!」

 真美「まー実際、初めて見たらびっくりするよね、これ」

たかね「おお、それに…… とのがたが、おにくをたべています!」

 亜美「あ、まず反応するのそこなんだ」
 
 真美「さすがは腹ペコおひめっち……」



たかね「このかたたちは、なにをしているのですか」

 亜美「そりゃハンターだから、狩りの準備してるんだよん」

 真美「そうそう。そんで、もうすぐ出てくるよ、すっごいのが!」

たかね「すごいのですか! それはまこと、たのしみ――」ワクワク


< ドバシャアアアアア (砂を巻き上げてディアブロス登場)

(※参考: https://www.youtube.com/watch?v=-crDEcdbEKY#t=107



たかね「」




たかね「しじょっ」 キュウ

 亜美「ちょっ」

 真美「おひめっち!?」






 真美「…… ほんっっとーにごめんっ!!」

 亜美「もー二度とおひめっちにモンハンは見せない! 約束するからっ!」

たかね「ひっく、えぐ…… し、しんぞうが、どまる、がど、おもっだのですよ!?」グスグス

 真美(そーだった…… お姫ちん、ワニとかヘビとかダメだったもんね……)

 亜美(そーでなくても、ちっちゃい子にはシゲキ強すぎたかなー……)

たかね「ふたりとも! きいているのですか!?」

 亜美「ひいっ! 聞いてます、きーてますっ!」

 真美「ごめんなさーいっ!」


 亜美「たぶん、これならだいじょぶだと思うんだ」

たかね「……もう、さきほどのようなばけものは、でてこないのですね?」

 真美「うん、それは保証する! ぜーったい出ないから!」




たかね「くぬ、こ、この……!」ズイー

 亜美(ま、真美、笑っちゃダメだって……!)

たかね「こんどは、みぎに、ふぬっ、ぬぬ」グイー

 真美(だって……! お約束すぎるよおひめっち!)

たかね「あっ! みましたか、いちだい、おいぬき…… ああ!?」

 真美(本人、ぜんぜん気づいてないみたいだけど!)

 亜美(マリカーでカーブするたびめっちゃ左右にかたむいててチョ→かわいい!!)

 小鳥(それこそが正解のチョイスよ、二人とも) ●REC


【本人談】




  響「たかね、事務所でなんかおもしろいこととか、あった?」

たかね「きょうは、あみとまみといっしょに、げーむであそんだのです」

  響「おー、やってみてどうだった?」

たかね「わたくしのかれいな『どらいびんぐてくにっく』を、ひびきにもみせたかったですね」

  響「あはは、そっかぁ、見られなくて残念だったぞー」

たかね「『まりおかーと』は、たいへんたのしかったです!」

  響「うんうん、たくさん遊んでもらってよかったな」


【ぴぃてぃえすでぃ】

  響「あれ、でもマリカーだけ? ほかのゲームはやってないの?」

たかね「しておりません」

  響「そうなんだ。亜美と真美なら、いろいろ遊ばせそうなもんだけど」

たかね「ほかには、なにもしておりません。ええ、なにも」

  響「さてはたかね、よっぽどマリカー気に入ったんだろー。二人に無理言ったんじゃ……」

たかね「わたくしがみたのは『まりおかーと』だけ、『まりおかーと』はたのしい、わたくしは」ブツブツ

  響「……ちょっと、たかね?」

たかね「しかし、とのがたが、おにくを…… いえ、そのような…… さばくで、りゅうが、ああ」ガクガクガク

  響「たかね、たかね!? 大丈夫!? 聞こえてる!?」


【ブラウン管ならあるいは】

たかね「ごちそうさまでした。ほんじつのゆうげも、たいへん、おいしかったです」

  響「そう言ってもらえると作りがいがあるぞ。自分、お皿洗ってくるから、テレビでも見てて」

ピッ

< ワッハハハハハハハ

たかね「!? ひびき! とつぜん、あんなにたくさんのひとが!」

  響「ああ、まだ見たことなかったっけ? これもゲームと似たようなもんさー」

たかね「『でぃーえす』より、ずいぶんとおおきいですが……」

  響「確かにサイズはだいぶ違う…… って、なにやってるの、たかね」

たかね「…… げーむのときもそうでしたが、めんようなはこですね……」

  響「ぷっ…… 後ろのぞきこんだって、誰もいないってば」

たかね「わたくしも、このはこのなかにはいれるのでしょうか?」

  響「うーん、たかねみたいな食いしん坊だと、太すぎて無理かもなー」

たかね「な…… わ、わたくしへのぶじょくです! とりけしなさい、ひびき!」


【滑ると案外暑い】

たかね「…… おお…… なんと、めんようなうごき……」

  響「フィギュア中継、気に入ったみたいだね、たかね」

たかね「このかたはなぜ、あしをあまりうごかさずにうごけるのでしょう?」

  響「そこからなのか。それ、下が氷でできてて、その上を滑ってるんだよ」

たかね「なるほど…… しかし、それにしてはずいぶん、さむそうなかっこうですが」

  響「まあね、衣装も演技のうちみたいなもんだからさ」

たかね「ふむ…… では、ひびきもおでかけのとき、えんぎをしているのですか?」

  響「えっ、自分が? なんで?」

たかね「けさも、おしげもなく、あしをだしていたではありませんか。とてもさむそうでした」

  響「うがっ!? いや、あれは制服っていって、そういうんじゃないから!」


【上下関係】

  響「あれっ、たかねは、毛布の上にふとんかぶせるんだ」

たかね「はい? なにをいっているのですか、あたりまえでしょう」

  響「でも羽ぶとんの場合、毛布を上にかけたほうがあったかいらしいよ」

たかね「はぁー…… ひびき、よいですか? てでふれたとき、あたたかいのは、どちらですか?」

  響「いや、それはもちろん毛布だけど、そういう話じゃなくてさ」

たかね「ふれたとき、あたたかいものを、はだにちかいところでつかう。とうぜんです」

  響「だから、感覚的にはそうなんだけど、科学的には……!」

たかね「やれやれ…… ひびきは、ききわけがないのですね」

  響「うがーっ、なんなんだその上から目線!? 納得いかないぞ!」


【暖かくしてやすみましょう】


たかね「……」


たかね「……」ムク




ガチャ


たかね「……」ソローリ


  響「…… 夜中にようこそ、姫さま」


たかね「ひあぁ!?」ビクゥ


  響「なあに? 一人で寝てるの、さびしくなっちゃった?」ニヤニヤ

たかね「い、いえ、これは、その…… そうです! わたくし、しらべにきたのです!」

  響「んー? なにを?」

たかね「ねるまえ、ひびきは、もうふをふとんのうえにかける、といいましたね?」

  響「うん、言ったぞ」

たかね「それが、まちがいだと…… つまり、ひびきがさむくてふるえているのを、たしかめにきたのです!」

  響「ふーん…… で、たかねの見たところ、どう? 自分、寒そうかな?」

たかね「…… ええ、さむそうですね。もう、みていられません」

  響「そっかー。でも自分は、パジャマでうろついてるたかねがすごく寒そうだと思うなー」

たかね「それは…… ひびきのきのせいですっ、わたくし、さむくなど」




  響「いいからほら、入っておいで。風邪引いちゃうぞ?」
  
たかね「……しかたありませんね。あくまで、さむくはないのですが、ひびきが、それほどいうのであれば」


  響「うんうん、お子様は素直が一番」

たかね「もう……! また、こどもあつかいをして!」

  響「だってホントにお子様だからしょうがないさー。で、試してみて、どう?」

たかね「どう、とは?」

  響「ふとんと毛布の話。今は毛布に直接さわってないわけだけど、寒い?」

たかね「……、です」

  響「ん? なんて?」

たかね「あたたかいです、といったのです! ひびきのいけず!」

  響「へへー、だよね? それにさ、ふたりで一緒にいるから、もっとあったかいんだよ」

たかね「…… ふふっ。たしかに、それはもっともですね」

  響「わかればよし。じゃあ改めて…… たかね、おやすみ」

たかね「おやすみなさい、ひびき」


本日の投下は、これでおしまいです。

前回の投下から少々期間が空いてしまい、申し訳ありません。
今後も不定期更新が続くと思いますが、どうかよろしくお願い致します。


【りっか】

たかね「…… むにゃ…… ひびき、なんですか…… なにが、あったのです……?」

  響「ふふふ…… 外の様子見たらそのねぼけまなこもぱっちり開くはずさー、ほらっ!」シャッ

たかね「ただでさえ、さむいのに…… そとが、なんだと……」




たかね「……! これは! やねや、このはが、しろくなって!」

  響「夜中から降ってたみたいだぞ。さすがに積もってはいないけど」

たかね「すごい…… すごいです! それに、しろいものが、そらからたくさん!」

  響(…… 雪見たこともないってことは、案外南のほうの出身なのかなぁ)

たかね「はっ…… こうしてはいられません! ひびき、はやく、あさごはんを!」

  響「あはは、はいはい、ちょっと待ってね」


【カウントアップ】

  響「…… きょうのてんびん座の運勢、8位かー。微妙なとこだなぁ」

たかね「はちばんめなら、よいようにおもいますが」

  響「でもこれ、全部で12のうちの8番目だからさ」

たかね「なるほど…… それはたしかに、いまひとつですね」

  響「そういえば、たかね、誕生日とか星座とかって覚えてる?」

たかね「たんじょうび…… せいざ? いえ…… わかりません」

  響「じゃあとりあえず、自分が知ってる日だってことにしたらいいよ。1月の21日」

たかね「いちがつ、にじゅういちにち。そのばあい、『せいざ』はどうなるのです?」

  響「ああ、ちょうど次で出てくるぞ」

たかね「そうでしたか。ほかならぬわたくしのことです、さぞすばらしい――」

<  『そして今日最も悪い運勢なのは、ごめんなさーい、みずがめ座のあなた!』

たかね「な…… なんとっ!?」

  響「てんびんもみずがめも風の属性だから、だいたい順位近いんだよね」


【Carmine】

  響「雪降ってるくらいだから、うんと暖かくしてかないとなー」

たかね「きょうもわたくし、ちがうふくを?」

  響「もっちろん! ちっちゃくたって女の子なんだから、おしゃれには気を遣わなきゃ!」


たかね「ところで、かみどめは、いつもおなじものなのですね」


  響「あ…… あー、うん。ごめん、それ、イヤだった?」

たかね「いえ、そんなことは…… ただ、どうしていつも、これなのですか?」

  響「…… たかねにはさ、それがいちばん似合うと思うんだ。まあ言っちゃえば、自分の趣味なんだけど」

たかね「ひびきがえらんでくれたのなら、わたくし、これがいいです!」

  響「……ふふ、ありがと。さ、行こっか!」


【割とレア】

  響「……おっ? たかね、ちょっとこれ見てみて」

たかね「じめんが、どうかしましたか?」

  響「もうちょっと近寄るとわかるかな。ほら、白くてきらきらしてるでしょ」

たかね「…… おお、ほんとうですね。ただのつちでは、ないようですが……」

  響「うん、自分もこっちに来るまで見たことなかったんだよね。たかね、これ踏んでごらん」

たかね「よいのですか?」

  響「いいよ、思いっきりぐっと」

たかね「それでは…… えいっ」

ザキュッ

たかね「!?」


  響「ふふ、どう? ちょっと面白くない?」

たかね「あしのしたで、くずれるような…… ひびき、これはいったい、なんですか?」

  響「霜柱っていってね、土のなかの水分が凍ってできるんだ」

たかね「しも、ばしら…… もうすこし、ふんでもよいでしょうか」

  響「うん、いいぞ。よーし、自分も久しぶりだし、ちょっと踏んでみようかな!」


サク ザキュッ

  シャリッ ザクッ 


たかね「これは…… このかんしょく、なかなか、くせになります」サクッ

  響「でしょ?」


  響「おっ、まだあった、えい」ザクッ

たかね「ああ!? そこのかたまり、わたくしがいま、ふもうとおもっていたのですよ!」

  響「ふふん、こういうのは早いもの勝ちだぞー」

たかね「むむ…… ひきょうな! つぎをさがさねば!」




  響「…… うがーっ! 電車乗り逃がしたぁーっ!!」

たかね「あんなにむちゅうでふむからです。ひびきは、こどもなのですね」

  響「……『もうすこしだけ』って、さんざん粘りまくったたかねがそれ言うのか、ん?」ギュー

たかね「い゙っ!? いひゃ、いひゃい……! ひびひ、ひゃめへくだはい!」


【ピンチキャッチャー】

たかね「おはようございます」

  響「はいさーい! ……って、あれ、ピヨ子ー?」

 高木「おお、二人とも、おはよう。音無君は席を外していてね、今日は私で我慢してくれたまえ」

  響「おはようございます! そんな、我慢なんてとんでもないぞ、社長」

たかね「たかぎどの、おはようございます。どうぞ、よろしくおねがいします」

 高木「うむ、いい返事だ。我那覇君、こちらの小さなレディは引き受けたよ」

  響「はーい! それじゃ自分、行ってきまーす!」

たかね「ひびき、どうぞ、きをつけて」

 高木「しっかり頑張ってきたまえ!」


【予想通り】

 高木「そろそろお昼だな、音無君。たかね君もいることだし、今日は出前でも取ろうか」

 小鳥「えっ、わたしもいいんですか?」

 高木「もちろんだよ。さて、たかね君、なにか食べたいものはあるかね?」

たかね「でまえ? でまえとは、なんですか?」

 小鳥「お店に注文して、お料理を配達してもらうことよ」

たかね「おりょうり…… と、いえば……!」

 高木「このあたりは食堂が多いから、和食でも洋食でも、だいたいのものは――」

たかね「らぁめん! たかぎどの、『でまえ』にらぁめんはありますでしょうか!?」

 高木「……」

 小鳥「……ぷっ」
 
たかね「あの……? ふたりとも、なにか……」

 高木「…… ははは! やはりそう来たか、さすがだね!」

 小鳥「社長もわたしも、たかねちゃんならきっとそう言うと思ってただけよ、うふふ」


【吸引力の変わらない】

たかね「おぉ…… かっぷめんとは、またちがったおもむきが……」

 高木「…… 本当に大丈夫だろうか。ここの大盛りは、私でも少々持て余す量だが」

 小鳥「まぁ、無理だった場合は社長もわたしもいますし、なんとかなるんじゃないでしょうか」

 高木「いくら健啖家だったとはいえ、あの年齢では……」

 小鳥「さておき社長、まずは、冷めないうちにいただきましょう」

 高木「ふむ…… それもそうか。では、頂きます」

たかね「いただきます!」




たかね「ああ…… ゆめのような、じかんでした……」ケプ

 高木「まったくの杞憂だったな」

 小鳥「ですね」 ●REC


【如月千早の場合】


 千早「……♪ ……♪」


 千早「♪ ……  ♪ ♪」


たかね「……」ジーッ


 千早(…… や、やりづらい……)




 千早「どうしたの、四じょ…… たかね……、ちゃん。我那覇さんなら、もうすぐ帰ってくると思うけれど」

たかね「ちはやは、なにをしているのですか?」


 千早「えっ…… 私? これは、譜読みをしているの」

たかね「ふよみ……」

 千早「ごめんなさい、わかりにくかったわね。つまり、歌を歌うための準備みたいなもの」

たかね「おうた、ですか」

 千早「そう。音の高さや長さ、声の強さや弱さをしっかりとイメージしながら、楽譜を見て声を乗せるのよ」

たかね「おとのたかさ、ながさ…… いめーじ…… わたくしにも、できるでしょうか」

 千早「し…… たかね、ちゃんが? ……そうね、じゃあ、一緒にやってみる?」

たかね「はいっ!」


 千早「そういえば、たかねちゃんは楽譜を見たことはある?」

たかね「…… じつはわたくし、このおたまじゃくしのようなものは、よめないのです」

 千早(そうだった、四条さんとしての記憶はないって、我那覇さんも言っていたわね……)

 千早「それじゃ、まず、簡単な音階を覚えましょう。私について歌ってみて」

たかね「は、はいっ、おてやわらかに」

 千早「ふふ、緊張しなくて大丈夫。じゃあ最初は、"ド"の音からね」

たかね「ど?」

 千早「昔の人が、音に名前をつけたの。それをこのおたまじゃくしで表せるのよ」

たかね「なんと! おとを、めにみえるようにできるのですね!」

 千早「そうよ。音階を覚えていれば、かんたんな楽譜は読めるようになるわ」






 千早「これで音階は大丈夫ね。…… そうだ、ちょっと待っていてくれる?」

たかね「はい……? もちろん、かまいませんが」




 千早「……できたわ。これで、たかねちゃんにもこの楽譜が読めるようになったはずよ」

たかね「! さきほどの、おとのなまえがかいてあります!」

 千早「さっきの音階と合わせたら、頭の中でも音をたどれるでしょう?」

たかね「はい! このおうたのせんりつが、めにみえるようになりました」

 千早「そう、それが譜読みの第一歩よ。上手に歌うために、とても大切なことなの」

たかね「わたくしも、いつか、ちはやのようにうたえるようになれるでしょうか?」

 千早「ええ。しじ…… たかねちゃんなら、きっと」


たかね「ひびき、おかえりなさい」

  響「ただいまー! たかね、ちゃんといい子にしてたかー?」




 真美「……いーなー、おひめっち。千早お姉ちゃんのマンツーマンレッスン受けるなんて」

 千早「あら真美、お疲れ様。 ……ちょっと待って、いつから見てたの?」

 真美「ドレミやってたあたりからかな。お姉ちゃん、デレッデレだったよねー」ニヤニヤ

 千早「そ…… そう、かしら? 小さい子相手なら、誰でもあんな感じだと思うけれど」

 真美「そーかなぁ? 見た目はぜーんぜん似てないけど、ホントの姉妹みたいだったってゆーか――」

 千早「……」

 真美「あ…… っ、ご、ごめん千早お姉ちゃん! あのね、真美、そういうつもりじゃ」

 千早「いいの、気にしていないわ。本当よ」


 千早(…… ああ、そうか…… なんだか懐かしいような気がしたのも、勘違いじゃないわけだわ)


【らーにんぐ】

たかね「ゆきが、すっかりやんでしまいましたね」

  響「いくら冬でも、このへんで一日じゅう降るってことはあんまりないからなー」

たかね「もっとたくさんふると、つもるのですか?」

  響「そうだね。そうなったらたかねの足なんか、完全に埋もれちゃうぞ」

たかね「しかし、ぜひいちど、みてみたいものです」

  響「積もったら積もったでいろいろ大変なんだよ。電車も止まっちゃうかもしれないし」

たかね「そ、それは、こまります! じむしょにいけないと、でまえもいただけません……」

  響「……出前?」

たかね「はい! きょうはたかぎどのが、でまえのらぁめんをごちそうしてくださいました!」

  響「ええっ、ホント!? うわー、今度ちゃんとお礼言いに行かなくっちゃ」

たかね「かっぷめんも、びみですが…… おみせのらぁめんも、まこと、すばらしくびみで!」トローン

  響(…… 味覚えちゃったか。こいつはやっかいだぞ)


【なめられてる】


たかね「ひびきがよういしたごはんです、のこさずたべるのですよ?」


たかね「…… では、ここに、おきますので」


たかね「ま…… まだです、まだですよ」


たかね「まだ、といっているではありませんか!?」


たかね「…… あの、な、なぜ、こちらへ、よって」




  響「うーん…… いぬ美のやつ、まだたかねのこと遊び相手だと思ってるな」

いぬ美「はっはっはっ」ペロペロペロペロ

たかね「ひびき! み、みていないで、ひゃんっ、たすけ…… ひびきーっ!?」


【まるっと】

たかね「おや…… ひびき、ひょっとして、それは『ふよみ』をしているのでは」

  響「そうだけど…… あれ、どうしてたかねが譜読みなんて知ってるの?」

たかね「ふふ、わたくしにかかれば、かんたんなことです」

  響「ほほー、さすがだなー」

たかね「ひびきのために、とくべつに、おとのよみかたをおしえてあげてもよいのですよ?」

  響「それはすっごく助かるぞー。じゃあ、どうかお願いします、たかね先生!」

たかね「そこまでいわれては、しかたありませんね」フフン

  響「……ってことはつまり、きょうは千早がかまってくれたんだ?」

たかね「ふぇっ!? な、なぜわかったのですか?」

  響「あ、そういうこと教えてくれそうなのって言ったら千早かなと思ったんだけど、やっぱりか」

たかね「…… あてずっぽうだったのですか!? ずるい!」

  響「それに引っかかっちゃうほうが悪いのさー。さて、じゃ、一緒にやろっか」


【とっても甘くて、ふわふわの】

たかね「ひびき。ねるまえに、せんじつの、あまくてあたたかい、ちゃいろいものがのみたいです」

  響「あのとき名前教えてあげたよね。なんて言うんだった?」

たかね「ええと…… ちょこ、ではなく…… ここあ! そう、ここあです!」

  響「おっ、ちゃんと覚えてたなー。作ってあげるから、飲んだ後はちゃんと歯磨くんだぞ」




  響「はい、できたよー。まだ熱いからちょっと待っててね」

たかね「ふあぁ…… まことに、あまい、よいかおりです……」

  響「で、今日は、仕上げにこれも」

たかね「!? な、なにをいれようというのです!?」

  響「え、これ」


たかね「いやです! わたくしのぶんには、そのようなまぜもの、やめてください!」

  響「そう? じゃ、自分の分にだけ入れよっかな」




たかね「…… ひびき、そのしろいものは、いったいなんですか?」

  響「んー? まぜものは要らないんじゃなかったの?」

たかね「いらない…… のですが、しじょうのものとして、けんしきをふかめなくてはなりませんので」

  響「ふーん…… これはね、マシュマロっていうんだ」

たかね「ましゅまろ……?」

  響「そ、お菓子なんだけどね、ココアに入れるとほら、こんな感じでとろっと溶けるの」

たかね「お、おかし…… ここあで、とろっと……」ゴクリ

  響「甘さが増すし、泡みたいに溶けたマシュマロがふわふわして、すごく美味しいんだぞー」


たかね「……あ、あの、ひびき」

  響「でもなー、まぜものが嫌な子に、無理にすすめるわけにいかないしなー」

たかね「…… そう、でした…… やめてください、といったのは、わたくしで……」シュン




  響「もー、子供なら子供らしく、欲しかったら欲しいってすなおに言えばいいの!」

ポチャ

たかね「!」 パァ

  響「たかねはマシュマロ、ひとつでいい?」

たかね「……ひびきのおすすめは、いくつですか?」

  響「んー、そうだなぁ…… たかねみたいなお子様には、あまあまで2個くらいいいんじゃない?」

たかね「むっ! おこさまあつかいはやめてください!」

  響「じゃあ、ひとつでいいの?」

たかね「いいえ、もちろん、ふたつください!」


本日の投下は、これでおしまいです。


【意外と間違う】

  響「きょうの朝ごはんは卵料理にしようと思うんだけど、どう?」

たかね「たまご! たまごはえいようもありますし、だいすきです!」

  響「よーし、決まりだな!」

たかね「しかし、ひびき、なぜたまごなのですか?」

  響「余ってる分を使い切っちゃいたいのさー。たかね、なにが食べたい?」

たかね「それなら…… わたくし、いりたまごをしょもうします!」

  響「炒り卵? オッケー、作ってくるから待っててね」

たかね「しょうちしました」






  響「はーい、お待ちどおさま」

たかね「……」

  響「…… あれっ? たかね、どうかした?」

たかね「ひびき、これは、なんですか」

  響「え、スクランブルエッグだけど」

たかね「す、すく……? いりたまごはどうしたのです!?」

  響「ん? ……え? 炒り卵ってスクランブルエッグじゃないの?」

たかね「『すくらんぶるえっぐ』はいりたまごなのですか!?」

  響「えっ…… あれっ、違うっけ、同じじゃないんだっけ!?」


  響「うん、勘違いしたのは自分が悪かったぞ…… とりあえず、冷めないうちに食べよ?」

たかね「むぅ…… いりたまご……」

  響「まぁまぁ、たかね、これもきっと気に入るって。なんたって自分が作ったんだ、おいしいぞー」

たかね「…… ふむ…… ひびきが、そういうならば…… いただきます」

  響「はい、いただきます」

たかね「……」モグモグ


たかね「!」


  響「…… どう?」

たかね「ふわふわで、でも、とろとろで……! びみです! まことにびみです!」

  響「そっかそっか、よかった! おかわりもあるから、いっぱい食べてね」


【不純な】

たかね「さあ、ひびき! ごはんのあとは、ちゃんと、はをみがきましょう!」

  響(世のお母さんたちが聞いたら、泣いて喜びそうなこと言ってるけど)

たかね「では…… いつものはみがきこを、おねがいします」キラキラ

  響(動機が明らかにおかしいさー……)

たかね「ああ、たのしきさんぷんかん…… いえ、もっとながくても、わたくしはかんげいですが」

  響「たかね、何度も言うけど、歯磨き粉は食べ物じゃないんだからね?」

たかね「…… わ、わかっておりますとも」

  響「なんで目そらすの」




たかね「ああ…… おなごひおひゅう、ごじゃいましゅ……」シャコシャコ

  響「はいはい、ちゃんとペッてするんだぞ」

たかね「ふぁい」


【不意打ち】

たかね「おべんとう?」

  響「うん。たかねのこと預かってもらってる上に、お昼までご馳走になるのは、さすがにね」

たかね「ひびきが、つくったのですか?」

  響「もちろんだぞ。あー、さては自分の料理の腕、信用してないなー?」


たかね「はて…… なぜです? ひびきのつくるおりょうりは、いつも、なんでも、びみですよ」


  響「……!」

たかね「ひびき? どうしたのですか?」

  響「い…… いやっ、な、なんでもないよ! もー、たかねは口がうまいんだから」ワシャワシャ

たかね「な、なぜみゃくらくもなく、あたまをなでるのですか!? もう!」


  響(…… いっきなり貴音とおんなじこと言うなんて、反則さー……)


【護摩焚き】

ガタンゴトン

たかね「ひびき、ひびき。きょうも、えきにつくまで、しりとりをしましょう!」

乗客1(このちっちゃい子の髪、すごい色だけど綺麗だなぁ)

  響「たかねはしりとり好きだなー。よーし、なんでもこいっ」

乗客2(制服着てるし、どう見てもお母さんじゃないよな…… でも姉妹にも見えない……)

たかね「わたくしからですね。では…… "けまり"」

乗客1(けまり…… ああ、蹴鞠…… 蹴鞠!?)

  響「り、か。うーんと、じゃあ、"りんご"」

乗客2(次は…… 普通なら、"ゴリラ" "ごみばこ" あたりだろうけど……)

たかね「ご…… ご……、"ごまだき"!」

乗客1(なんだっけ、なんだっけそれ! 『ゆく年くる年』でよく聞く感じの!)

乗客2(そこ普通に"胡麻"じゃダメだったのかよ!!)


【まちどおしい】

たかね「ことりじょう、いまは、なんじでしょうか?」

 小鳥「10時をちょっとすぎたくらいね。どうしたの? なにか見たいテレビとかある?」

たかね「いえ、すこし、きになっただけです」




たかね「あの…… ことりじょう。もう、いちじかんほどたちましたか?」

 小鳥「えっ? えーと…… まだ10時半にもなってないわ」

たかね「そうでしたか…… たびたび、もうしわけありません」

 小鳥「わたしはぜんぜん構わないけど、たかねちゃん、なにか待ってるの?」

たかね「い、いいえ、ちがいます、なにもないのです」




たかね「……」ジーッ

 小鳥(……うふふ。響ちゃんお手製のお弁当、よっぽど楽しみなのね) ●REC


【まちにまった】

たかね「みてください、たかぎどの! わたくしのおべんとうです!」

 高木「ん、どれどれ? おお、彩りもあざやかで、とても美味しそうだね」

たかね「はい! ひびきが、もたせてくれたのです!」

 高木「ほう…… これは我那覇君が作ったのか。忙しいだろうに、見事なものだ」

 律子「たかね、それ、ちょっと私にも見せてよ」

たかね「どうです、りつこじょう! おいしそうでしょう!」

 律子「ほんとね、それに栄養バランスもよさそう。伊達にカンペキ名乗ってないわね、響も」




 高木「…… それで、音無君、なぜ君がそんなに打ちひしがれているのかね」

 小鳥「響ちゃんのお弁当から溢れる女子力が高すぎるんですピヨ……」ズーン

たかね「んむ…… これもびみでふ、これも、あむ」


【菊地真の場合】

  真「ねえたかね、ボク今からランニングに行くんだけど、よかったら一緒に来ない?」

たかね「はて…… らんにんぐ……、とは?」

  真「走るってこと。ちょっと寒いけど、たまには外に出て体動かすのも楽しいよっ!」

たかね「おそとをはしる…… おもしろそうです!」

 伊織「…… ちょっと真、高い高いでたかねをグロッキーにしたの、忘れてないでしょうね?」

  真「も、もちろん。今日はボクのトレーニングっていうより、たかねを外に連れてってあげようと思ってさ」

 伊織「どうだか。あんまり無理させたらダメよ」

  真「ちぇっ、信用ないなぁ…… そんなことしないって」

たかね「まこと。わたくしも、ごいっしょしたいです」

  真「よおし、じゃあさっそく行こう!」


  真「ちょっと歩くけど、たかね、大丈夫?」

たかね「もちろんです。わたくし、もうごさいなのですから」

  真「あははっ、そうだったね! 頼もしいや」

たかね「まことはまいにち、うんどうをするのですか?」

  真「うん、ボクはやっぱり身体を動かすのが好きだからさ。トレーニングにもなるし」

たかね「それはやはり、あいどるとして、かつやくするために?」

  真「一番はそれだね! ダンスはもちろん、それ以外でも何かと体力いるから」

たかね「なるほど。くろうがおおいのですね」

  真「あとは女の子として、スタイルをきれいに保てるようにってのもあるかな」

たかね「すたいる…… というと、たいけいのことですか?」

  真「そうそう。たかねみたいによく食べる子には運動するの、おすすめだよ!」

たかね「うっ…… け、けんとう、いたします……」






  真「よーし、じゃ、まずは準備体操から! ボクがやってみせるから、マネしてみて」

たかね「すぐにはしるのではないのですか?」

  真「うん、いきなり動こうとしたら、身体がびっくりしちゃうからさ」

たかね「む、それはいけませんね」

  真「一通りやったらいよいよ走ってみよう。大丈夫、いきなり無茶はさせないよ」

たかね「おてやわらかに、おねがいします」

  真「まっかせといて! そうだ、のどがかわいたらしっかり水分をとることも大事だからね」

たかね「はいっ!」


  響「はいさーい、ただいまー! ……ん、あれっ? たかねは?」

 伊織「ああ、さっき真が、一緒にランニングしようって誘って連れて行ったわよ」

  響「へえ、真が? たかねにはハードな経験になりそうだなぁ」




ガチャ

  真「ただいまー……」

たかね「…… も、もどりました…… うっ」ヨロヨロ

 伊織「あら、もう終わり? おかえりなさい、ずいぶん早かったわね」

  響「お、ちょうどいいところに。おかえり真、たかねも…… って、たかね、どうしたの」


  真「それがさー…… たかねが出発前にアクエリ飲み干しちゃって、ランニングどころじゃ……」

 伊織「……とんだアクシデントね」

たかね「うぷっ…… そんな! すいぶんをとれ、といったのは、まことではありませんか!?」

  真「運動中に補給しようねって話で、スタート前に飲めなんて一言も言ってないからね、ボク」

  響「っていうか、たかね…… 味につられたんでしょ」

たかね「…… な、なんのこと、でしょうか……? ぬれぎぬは、やめてください」

  響「こんなお腹しちゃって、説得力ないぞ」タプタプ

たかね「ああっ、ひびき、おやめなさい…… うっぷ」

  響「ごめんなー、真。せっかく連れて行ってくれたのに」

  真「や、ボクはぜんぜん構わないけどさ。じゃ、改めて自分の分、ランニングしてくるよ!」

たかね「おお…… なんというたいりょく……」

  響「感心してる場合じゃないぞー」タプタプ

たかね「うぷっ」


【再戦】

ガタンゴトン

たかね「いきますよ。では…… "めんような"!」

乗客3(なんでそれで始めようと思ったんだろう、この子)

  響「こっちの番だね、"な"…… じゃあ、"ナポレオンコクジャク"」

乗客4(…… 孔雀って、種類とかあったんだな……)

たかね「なかなかやりますね、ひびき。く…… "くしなだひめ"」

乗客5(面妖とかってレベルじゃねえ…… こどもクイズ王決定戦かなんかに出てろよ……)

  響「よくそんなの知ってたなー。"メンハタオリドリ"」

乗客6(両方とも、さっきからなに縛りなんだ、これ)

たかね「れんぞくして、とりにこだわるとは…… わたくしをあなどっておりませんか?」

  響「カンペキな自分には、ハンデくらいないとね。それよりたかね、"り"だぞ、"り"」

たかね「り、り…… ううん……」


【初めての共同作業です】

たかね「ごちそうさまです。さて、ひびき、わたくし、ひびきのおてつだいをしたいです」

  響「うん? たかね、今でもお皿運んでくれたりするじゃない、十分だよ」

たかね「もっとなにか、ありませんか?」




  響「じゃあ次のお皿渡すぞー、いい?」バシャバシャ

たかね「いつでもだいじょうぶです」

  響「ほいっ、よろしく。表も裏も、よーく拭いてね」

たかね「はいっ!」キュッ キュッ

  響「しっかしたかね、どうしたのさ、急に」

たかね「びみなおべんとうのおれいに、とおもったのです」

  響「そんなこと気にしなくていいのに。いや、ありがたいけど」

たかね「『はたらかざるもの、くうべからず』、というではありませんか?」

  響「あはは、なるほど。それなら、明日もおいしいおべんと作ってあげないとな!」


【天地無用】

たかね「…… ふむふむ」ペラ

  響「……」カリカリカリ

たかね「ほほう…… ……ほう!」ペラッ

  響「……」カリカリ

たかね「おお、なるほど……」ペラ

  響「…… ラノベ、おもしろい? たかね」

たかね「ええ、さいこうです。ちわき、にくおどる、とはこのこと!」

  響「そりゃよかったさー。自分の課題終わるまで、もうちょっとそれ見ててねー」カリカリ

たかね「ふふ、わたくしがよみおえるまえに、おわるとよいですね、ひびき」

  響「そーだなー。ところでさ、たかね」カリカリ

たかね「はい?」ペラ

  響「それ、上下逆さまだぞー」カリカリ


【傷つけられたぷらいどは】

  響「もー、スネなくていいってば。5歳でラノベ読めるほうが珍しいんだから」

たかね「……」ムスー

  響「それより自分、ストレッチしたいから、ちょっと手伝ってよ、たかね」

たかね「…… なにをすれば、よいのです?」プクー

  響「自分が座って前に身体倒すから、背中を押してもらえるかな」

たかね「わかりました」




  響「じゃ、始めるねー」グイー

たかね「はい」グイー


  響「おっ、そうそう、そんな感じ、うまいぞたかね」ググー

たかね「はい」グイー

  響「ありがと、そのくらいでもういいよー」ググー




たかね「はい」グイー

  響「…… おーい、たかねー? 押すのはもういいって――」グググ

たかね「……はい」グイー

  響「ちょっ、たかね、もう、あだだっ、やめっ!?」ググググ


【やられたら】




  響「さーて、じゃあ、今度はたかねもストレッチ、しようか」ゴゴゴゴ

たかね「あの、その…… あれは、ほんの、できごころというもので……」ガクガク

  響「そういえば、貴音、最初のうちは身体すっごく硬かったもんなー」

たかね「ひ、ひびき、なにをいっているのです……?」

  響「子供の頃からやってれば、いくらかマシになるよ、きっと」ワキワキ

たかね「…… そのてのうごきは、なんなのですっ!?」






      \ めんようなーっ!? /


本日の投下は、これでおしまいです。

なお、今更ですが、誤変換の訂正をさせていただきます。

>>68
× 完璧 → ○ カンペキ


【手も届かない】

  響「もう5歳だもんね、たかね。ひとりでお顔洗えるよね?」

たかね「も、もちろんです。そこで、しかとみていなさい、ひびき」

  響「おっけー」

ジャー

たかね「…… では、いざ……!」パシャ

たかね「ひゃっ!? つ、つめたっ!」

  響「大丈夫ー?」

たかね「…… い、いまは、ゆだんしただけなのです、こんどは…… ひゃあ!」バシャ

  響「……」

たかね「……あの、ひびき。きょうはなぜか、おみずが、つめたいです」グス

  響(お湯の出し方わかんないって、素直に言えばいいのに)


【もとは左右非対称】

  響「んしょっと…… よし、きょうもカンペキっ!」ギュッ

たかね「……」ジーッ

  響「ん? どうしたの、たかね。自分の顔になんかついてる?」

たかね「ひびきはいつも、そのかみがたなのですね」

  響「うん、そうだぞ。これが自分のトレードマークだからね」

たかね「あたまのうえのつのも、そうですか?」

  響「つの……? ああ、これもまあ、そうかな」

たかね「わたくしも、なにか、とれえどまーくがほしいです」

  響「うーん…… でも、たかねの場合は髪の色だけで目立つし、それに髪留めもあるしさ」

たかね「そうです! ひびき、わたくしにもつのをつけてください!」

  響「はあ!?」

たかね「かみがたをかえると、『じょしりょく』があがるともききました。さあ!」

  響「いや、これは意図的にやってるわけじゃないんだってば!」


【ほっとけない】

たかね「あっ、ひびき! みてください、ねこさんです」

野良猫「……」

  響「あれっ、ここらでは見かけたことない子だなぁ。おっはよー!」

野良猫「……」ジリッ

たかね「おびえているのでしょうか?」

  響「知らない場所で緊張してるのかも。ねえねえ、キミ、どのへんから来たの?」

野良猫「シャーッ」

たかね「…… きげんがわるいようですね。いきましょう、ひびき」

野良猫「……」タタタッ

たかね「ひびき……? たちどまって、どうしたというので――」

  響「ちょっと待ってー! そっちはここらのボスの縄張りど真ん中だから、こっち行ったほうが!」

たかね「ひ、ひびき!? そちらは、ちがうみちで…… ああっ!?」ズルズル


【二度あることは】

たかね「まったく。みずしらずのねこさんに、どれだけかまけるのですか」

  響「で…… でも、あのままだとあの子、ケンカになるのが目に見えてたし……」

たかね「それで、ひびきがちこくしたらどうするのです。ほんまつてんとうですよ」

  響「大丈夫だってば。現にほら、十分間に合う時間だから」

たかね「それとこれとは、はなしがべつです!」

  響「ううー…… それは、そうかもしれないけど……」

たかね「たしかに、ねこさんはかわいいです。しかし、しょせん、ゆきずりのえんで……」

  響「だって…… ……ん?」




たかね「……そのために、がくぎょうのためのだいじなじかんを、おろそかにしては…… ひびき?」

野良犬「ぐるるるるる」

  響「そんな邪険にしないでよー。自分、今から学校なんだけど、キミはこれからどこ行くの?」

たかね「ひびき、とりあえず、そこになおりなさい」


【つのつの二本】

たかね「ことりじょう」

 小鳥「ん、なあに?」カタカタカタ

たかね「あたまにつのをはやすには、どうしたらよいのですか?」

 小鳥「…… 頭に、ツノ……? ええっと、どういうこと?」カタカタ

たかね「ひびきや、みきや、まこと…… あずさもですね。みなのあたまにはえている、つのです」

 小鳥「あ…… ああ、なるほど! あのねたかねちゃん、それはアホ毛って言うのよ」

たかね「あほげ……?」

 小鳥「そう、元は美容用語だったらしいんだけど……」




 小鳥「……というように、キャラクターの外見を構成する重要な要素であるだけじゃなく、内面をもある程度表現することのできる画期的な記号としてのアホ毛が」

たかね「あ、あの、ことりじょう、もうじゅうぶんです、よくわかりましたから」


 小鳥「いいえ、まだよたかねちゃん、大事なのは――」

たかね「……? ことりじょう、きゅうにだまって、どうしたのですか?」




 律子「……続けていいですよ。大事なのは、なんですか、小鳥さん」

たかね「おや、りつこじょ…… ……!?」

たかね(りつこじょうのあたまに、ないはずの、つのがみえて……!? めんような!)




 小鳥「だいじなのは、おしごとをすることです」カタカタカタカタ ターンッ

 律子「そうですよね」

 小鳥「はい、そうです、りつこさん」カタカタカタカタカタカタ

 律子「……たかね。この通り、案外かんたんに生えるのよ、ツノなんて」

たかね「そ、そのとおり、ですね……」ブルブル


【萩原雪歩の場合】

 雪歩「はい、どうぞ、たかねちゃん」

たかね「ありがとうございます、ゆきほ。では、さっそく」ズズ

 雪歩「……」

たかね「む…… これは、さきほどのものより、ほのかにあまいきがします」

 雪歩「じゃあ次は、これ。どうかな?」

たかね「いただきます。 ……はて、これは、みっつまえにのんだのと、おなじものでは?」

 雪歩「…… すごい! 本当にちゃんと違いがわかるんだね、たかねちゃん」

たかね「ゆきほの、おちゃのいれかたがじょうずだから、あじがわかるのだとおもいますよ」

 雪歩「そんなぁ、えへへ、わたしなんか……」


 高木「律子君。萩原君は、たかね君を相手に何をしているのかね」

 律子「なんでも、"利き茶"みたいですね。たかねが微妙な味の違いもわかるとかで」

 高木「ほう…… ところで、音無君はなぜ体育座りを?」

 律子「たかねがやってるのを見て、小鳥さんも一緒に挑戦したんですよ。それで、見事に――」

 高木「音無君にそうした嗜みがあったとは。いや、こう言ってはなんだが、意外な」

 律子「――雪歩が冗談のつもりで出したペットボトルのお茶と最高級の玉露を、逆に答えちゃったんだそうです」

 高木「…… それは…… うむ、なんと言ったらいいのか……」

 小鳥「違います、違うんです社長! わたし今日、お昼に激辛カレーなんか食べちゃったから舌の調子がぁぁ!」ガバッ

 高木「うおっ、お、落ち着きたまえ…… 事務所で玉露をいただく機会などそうないのだから、仕方がないよ」

 律子「社長、そんな悲しいフォロー、やめてください」


 雪歩「じゃあせっかくだから、おいしいお茶の淹れ方も教えてあげるね」

たかね「どうぞ、よしなにおねがいします、ゆきほ」

 雪歩「うふふ、はい、こちらこそ。では、まずこうやって…… 人数分のお湯呑みに、お湯を注ぎます」

たかね「おゆのみに? ……ただのおゆを、ですか?」

 雪歩「こうするのには、いくつか理由があるんだよ。ひとつは、これでお湯呑みを温めるため」

たかね「…… なるほど。うつわがつめたいと、おちゃがひえてしまう、ということですね」

 雪歩「そう、正解。それに、どれくらいの量のお湯がいるか、計ることもできるし」

たかね「たしかに、ごうりてきです!」

 雪歩「あと、あんまりお湯が熱いとお茶が苦くなっちゃうから、ちょうどいい温度に冷ますためでもあるの」

たかね「む、わたくし、にがいのはにがてですから、きをつけなくては」


 雪歩「じゃあ次は、お急須にお茶っ葉を入れます。だいたい一人ぶんがおさじ一杯くらい」

たかね「ひとりにつき、いっぱいですね」

 雪歩「そうそう。そしてここに、お湯呑みで冷ましてたお湯を注いで…… ちょっと待とうね」

たかね「すぐについでは、いけないのですか?」

 雪歩「うん、お茶の成分がお湯に浸み出すのを静かに待つの。お茶っ葉の種類によって、30秒から1分半くらいかな」

たかね「はい! それでは、まちましょう!」




 雪歩「出来上がったら、人数分のお湯呑みに、少しずつ順番に注いでいくよ。さて、どうしてでしょう?」

たかね「ええと…… おちゃのこさが、ばらつかないように…… でしょうか」

 雪歩「よくできました! 注ぐのは最後の一滴まで、お急須に残らないように、しっかりとね」


たかね「なぜさいごまでなのですか?」

 雪歩「お湯が残ってるとね、次に同じ葉っぱでお茶を淹れたときの味が変わっちゃうんだよ」

たかね「ほほう」

 雪歩「それに、お茶のおいしさは最後の一滴にぜんぶ詰まってるって言うくらいだから、飲まないのはもったいないの」

たかね「おお、そうだったのですか……!」

 雪歩「うん。だから今回のその一滴は、たかねちゃんの分に注いでおくね」

たかね「なんと! ありがとうございます、ゆきほ」

 雪歩「どういたしまして。淹れ方もだけど、結局、おいしく飲んでもらいたいな、って気持ちが大事なんだよ」


 雪歩「というわけで社長、律子さん、お茶が入りましたよ。少し休憩しませんか?」

たかね「わたくしも、おてつだいしました!」

 高木「それはいいね。さっそくいただこう」

たかね「わたくしがおもちします! どうぞ、たかぎどの、りつこじょう」コト

 律子「ちょうど喉が渇いたとこだったわ。ありがとう雪歩、たかね」




 小鳥「…… そうよね、雪歩ちゃんのお茶の味もわからない味オンチのわたしに、出すお茶なんてないわよね……」

 雪歩「あっ、小鳥さんには別メニューを用意してます!」

 小鳥「えっ?」


 雪歩「やっぱり淹れ方がダメダメだから、玉露とペットボトルのお茶を間違われちゃうんですぅ……」

 小鳥「そ、それは…… あの、雪歩ちゃん、わたし本当に申し訳ないと思ってて」

 雪歩「いいえ! 悪いのは小鳥さんじゃありません、わたしが未熟なのがいけないんですっ!」

 小鳥「…… ええと、それはそれとして、別メニュー、って……?」

 雪歩「決めたんです…… 二度と小鳥さんが間違わないくらい、おいしくお茶を淹れられるようになってやる、って!」

 小鳥「そ、そう、それはすごくいいことだと思うわ」

 雪歩「だから、小鳥さん! 試飲役として特訓に付き合ってほしいんですぅ!」

 小鳥「えっ」




 律子「ああ、おいしい…… 日本人でよかったわ」ズズ

 高木「温まるな、生き返るようだ。とても上手にできているよ、たかね君」ズズー

たかね「あ、あの、ふたりとも、ことりじょうはほうっておいてよいのですか……?」ズズ


【土か金属か】

  響「おっ、豚肉が安いなー! たかね、夕飯はお鍋にしようか」

たかね「なっ!? お、おなべを…… たべるのですか?」

  響「うん、寒いんだし、あったかいもの食べようよ。自分がおいしいの作ってあげる!」

たかね「…… あじつけのもんだいでは、ないようにおもいますが……」

  響「甘いなーたかね、シンプルだからこそ味付けとかが大事なんだぞ」

たかね「それに、あしたからのおりょうりにさしつかえませんか」

  響「え、どうして?」

たかね「だって…… おなべを、たべるのでしょう?」

  響「そうだけど、それが明日からとどう関係するの?」

たかね「…… あとはもう、わたくしがかくごをきめるだけ、ということですね……」

  響「ちょっと待って、なんかひどい勘違いがある気がしてきたぞ」


【ミニでも大きい】

たかね「ふむ、つまり…… ぶたのおにくを、おなべでにるのですね」

  響「そうそう。牛はちょっと値が張るし、お鍋にはあんまり合わない気がするし」

たかね「ほかには、なにもいれないのですか?」

  響「まさか! ほうれんそうをメインにして、にんじんとかごぼうとか、色々とね」

たかね「どのようなあじになるのか、そうぞうがつきません……」

  響「そこは自分にまかせといてよ」

たかね「…… ところで、まさかとおもいますが、ひびき…… ぶたたは、いずれ……?」

  響「今度はなに言い出すんだたかね!? ブタ太は自分の大事な家族だぞ!」

たかね「だ、だいじにそだててから…… おもむろに……!?」

  響「うがーっ、ちがーう! そんなことしないってば!」


【速攻型】

グツグツグツ

たかね「じょうやなべ?」

  響「毎夜、常に食べても飽きないくらいおいしいから『常夜鍋』っていう名前なんだって」

たかね「なんともすばらしいなまえですね。 ……さて、ひびき、まだですか?」ソワソワ

  響「お肉の色も変わったし、そろそろかな。じゃあ仕上げに、ほうれんそうを入れてっと」

たかね「おお…… みどりが、めにもあざやかです」

  響「…… よし、もうよさそう。お皿ちょうだい、取ってあげるよ」

たかね「はいっ! おねがいします!」

  響「こんなもんかな、っと…… はい、まだ熱いから気をつけてね。好き嫌いもダメだぞー」




  響「さて、じゃあ自分の分……」

たかね「ひびひ!! なふなっへひまいまひふぁ、ふぎをくだふぁい!」モゴモゴ

  響「うん、気に入ったのはよーくわかったから、落ち着いて食べような、たかね」


【〆】

  響「どうだった? シンプルだからこそのおいしさでしょ?」

たかね「たんのう、しました…… たしかに、これなら、まいにちでもかまいません」ケプ

  響「よかった。それじゃあ、最後にもう一品作ってくるぞ」

たかね「もうひとしな……? しかし、もうほとんどおつゆだけですし、それに、おなかも……」

  響「そこは出来てからのお楽しみ。やっぱりお鍋を食べるなら、シメがなくちゃ!」

たかね「しめ?」




たかね「……こ、このかおりは!?」

  響「ふふふ、お待たせー。たかねが喜ぶのっていえば、やっぱりこれだよね」

たかね「らぁめん!! おなべが、らぁめんになっております!」

  響「お肉とかのダシが出てるからすごくおいしいんだ。どう、これならまだ入るんじゃない?」

たかね「もちろんです! はやく、はやくいただきましょう!」


【めらんこりぃ】

たかね「これと…… このかーどです!」ピラ

  響「あー、違ってたなー、ざんねーん」

たかね「むむ…… どうぞ、ひびきのばんですよ」

  響「じゃあ、さっきたかねの開けたこれと…… これっ!」ペラ

たかね「あ、ああっ!?」

  響「あっ、しまっ…… じゃなかった、ラッキー。カンで選んだやつが当たったぞ!」

たかね「なんとひれつな! わたくしを、りようするとは、ひびきぃ……!」

  響「ふふふ、勝負の世界はきびしいのさー。さて、ペアができたから、次も自分のターンだなー」

たかね「…… い、いたしかたありません……」

  響「じゃあ、これと…… ……たしか、これだったかな?」ピラ

たかね「あっ!」

  響「あっちゃー、しまったあ! これじゃ、次でたかねに取られちゃうぞー」

たかね「ふふふ、ゆだんしましたね、ひびき! わたくしのばんです!」


【炭酸には違いない】

  響「きょうはお風呂にこれ、入れようか」

たかね「それは……? せっけんですか?」

  響「いや、違うよ。ほら、見てて」 チャポ

たかね「……? なにもおこりませんよ、ひびき」

  響「それが、もうちょっとすると……」

ジュワワワワワ

たかね「ひゃっ!? あ、あぶくがたくさん!」

  響「これ入れると、温まりやすくなるんだ。じゃ、溶けてる間にシャンプーしようか」

たかね「おお…… しゅわしゅわとして…… あっ、それに、おゆにいろが!」

  響「確かに見てると楽しいよね。ま、さておき、シャンプーを」

たかね「……はたして、どんなあじがするのでしょうか?」キラキラ

  響「言うんじゃないかと思ってたぞ」


【ふぁむれうた】


  響「えーっと、たかねは寝かせた、みんなケージに戻した、モモ次郎は出した、家計簿もつけた、っと」


  響(うーん、寝るにはちょっと早いかな? まぁでも、明日もあるし、自分もそろそろ……)


ガチャ


  響「ん?」

たかね「……ひびき? ひびき、ですね?」

  響「あれっ、たかね、どうしたの。眠れない? トイレ?」

たかね「…… ふ、ふぇ、う、わぁ、うわああああん……」

  響「え、ええ!? ちょっと、どうしたの、大丈夫!? どこか痛い? たかねってば!」






  響「そっかー…… 怖い夢、見ちゃったかー」

たかね「わっ、わたくし、おきて……、も、ひっく、どこにも、……ひびきも、だれも、いな、くてっ、ひっ、えぐ」

  響「だーいじょうぶさー、たかね。それはただの夢で、自分、ちゃんとここにいるからさ」




たかね「あの、ひびき…… そこに、いますか……?」

  響「だいじょうぶ。自分、ここにいるよ。たかねが眠れるまで、一緒にいてあげるから」

たかね「ひびき…… どうか、ずぅっと、そばにいてくださいね」

  響「当たり前だぞ。自分はたかねを置いていなくなったりしないよ、約束する」

たかね「はい……」

  響「…… そうだ、たかねが安心して寝られるように、子守唄を歌ってあげるよ」



  響「……♪ まいぬはま うりてぃ あしぶわらんちゃが わらいぐぃぬちゅらさ ゆすにまさてぃ」

   (前の浜に下りて遊ぶ子供たちの笑い声は、ほかのどんなものよりきれいさー)


  響「♪ ふぃしうちゅる なみうとぅや わんなちぇる うやぬ ふぁむれうたぬぐとぅに うたぬぐとぅに」

   (さんご礁に打ち寄せる波の音は、自分を産んでくれた親の歌う、子守唄みたい)


  響「 ♪ しゅらよい しゅらよ にごたくとぅ しゅらよい しゅらよ かなしょーり……」

      (かわいい子、きみが願ったことが、どうか、叶いますように)








  響「…… たかね、もう眠れたかな? 今度はちゃんと、いい夢見るんだぞ」


本日の投下は、これでおしまいです。

響の歌った子守唄に興味のある方は『ファムレウタ』で検索してみてください。
曲名は「子守唄」を八重山方言で読んだものだそうです。とても良い曲です。

方言に詳しくありませんので、歌詞の意味の正確性は保証できません。
解釈のひとつとして捉えていただければ幸いです。


【寝て起きて忘れて?】

たかね「…… むにゃむにゃ……」

  響(幸せそうな顔しちゃってまぁ…… よく眠れたみたいでよかったけどさ)

  響「たーかねー、朝だぞ、あさー! 起きる時間だぞー」

たかね「ん、むぅ…… ひび、き……? ……ひびき!」ガバ

  響「おっ、今日はねぼすけじゃないね。えらいぞ、たかね…… って」

たかね「ひびきぃ……」

  響「おっと……、どうしたのさ、急に」

たかね「……」ギュウゥ



  響(まだゆうべの夢のこと、引きずってるんだな。この歳じゃそれも仕方な――)


たかね「なんだか、いつもよりおなかがすきました……」グゥ

  響(……そりゃね、あれだけ泣いたら、体力使うしおなかも減るよね)

  響「はいはい、すぐ準備するからちょっと待ってて」

たかね「それから、ひびき?」

  響「なあに?」


たかね「とてもすてきなおうたでした。また、きかせてください」


  響「……ふふ、泣き虫のたかねが寝られないときは、また歌ってあげるよ」

たかね「わ…… わたくしは、ないてなどおりません!」

  響「ん、まずは顔洗っておいでー」


【しりある】

  響「今日の朝ごはん、たまにはちょっと違うもの食べよっか」ザラザラ

たかね「ふむ……? ぱんでも、ごはんでもないのですね」

  響「そう、コーンフレーク…… って言ってもわかんないか。はい、どうぞ」

たかね「このままいただいてよいのですか?」

  響「そうだなぁ、自分はそのままで食べるのも結構好きかな」

たかね「では…… いただきます!」

たかね「む…… …… ふぉれは……」サクサク

  響「どう?」

たかね「あまくて、びみですが、しょうしょうかたいですね」カリカリ

  響「じゃあ、ちょっと牛乳入れるといいよ」

たかね「ぎゅうにゅう? どこにいれるのですか?」


  響「どこ、って…… そりゃもちろん、おなじ器にだぞ」トクトク

たかね「ひびき!? な、なにをするのです!」

  響「大丈夫だって。もともとはこうやって食べるものなんだから」

たかね「はあ…… しかし、ぎゅうにゅうびたしになってしまいましたが……」

  響「だまされたと思って、まずは食べてみて」

たかね「ふむ、それでは……」ムグムグ

  響「ね? どう、食べやすくなったんじゃない?」

たかね「…… おお……! しっとりと、やわらかになって、これはこれでびみです」

  響「最後に残った牛乳は甘くなってておいしいから、それも飲んでみるといいぞー」

たかね「はいっ! たくさんのんで、はやくおおきくなります!」

  響「…… あー、それはほどほどでいいかな。前以上に差がついても困るし」ボソッ

たかね「?」


【おでかけしましょ】

たかね「そういえばきょうのひびきは、いつものせいふくではないのですね」

  響「土曜日だし年末近いからね。今週は授業がないのさー」

たかね「では、あさからおしごとですか?」

  響「うん。自分、今日はレッスンがメインだから、いつもより早く戻ってこれると思うぞ」

たかね「ならば、わたくし、かえりにつれていってほしいところがございます!」

  響「へえ? たぶんその時間はあると思うけど…… どこ行きたいの?」

たかね「それは…… ふふふ、そのときまで、とっぷしーくれっとです」

  響「どうせラーメン屋さん行きたいとか、ケーキ屋さん行きたいとか言うんでしょ」

たかね「ち、ちがいます! まだないしょです!」


【重大任務】

   P「よーし、みんな揃ったな。今日のスケジュール確認するぞー」

 一同「はーい!」

 律子「竜宮の三人は、午後からの収録に備えて最終の打ち合わせするわよ。それから……」




   P「みんな、ちゃんと確認できたな? それじゃ各自、時間が来るまで――」

たかね「ぷろで…… ぷろ…… ぷろじゅーしゃーどの! わたくしはほんじつ、なにをいたしましょう」

   P「うん? たかねは…… そうだな、事務所で音無さんと社長と一緒に待機だ」


たかね「それでは、いつもとおなじではありませんか」

   P「そんなことはないぞ。響や俺たちがいない間、事務所をしっかり見張る、重要な役割だからな」

たかね「じゅうような……! つまり、わたくしが、さいごのとりででございますね?」

   P「ああ、たかねにしか頼めない。やってくれるか?」キリ

たかね「……こころえました。このつとめ、りっぱにはたしてみせます!」キリ

   P(まあたかねの言うとおり、いつもと一緒なんだけどな)

 小鳥(ちょろかわいい) ●REC


【天海春香の場合】

たかね「む、これは…… なにやら、あまいにおいが……」スンスン

 春香「あれ、たかねちゃん。どうかした?」

たかね「はるか、おつかれさまです。このあたりから、よいかおりがしたもので」

 春香「お、さっすがたかねちゃん、鋭いなー」

たかね「はるかは、これがなんのかおりかしっているのですか?」

 春香「たぶん…… これじゃないかな?」ゴソゴソ

たかね「?」

 春香「……じゃん! 今日ね、クッキー作ったから持ってきたの」

たかね「ああ! まさしく、このかおりです! ……ところで、くっきーとはいったい?」

 春香「これはね、お菓子。小麦粉とかお砂糖とか卵とかを混ぜて、焼いて作るんだよ」

たかね「こむぎこ……? ということは、らぁめんとおなじでございますね!!」

 春香「えっ…… と、う、うん、小麦粉ってくくりだけでいえば、ね」


たかね「はるかが、その『くっきー』をつくったのですか?」

 春香「うん、そうだよ。新しいレシピ試してみたから、みんなに食べてもらおうと思って!」

たかね「な、なるほど、そういうことですか」ジーッ

 春香「……! あっ、でも、そうだなあ、まず最初に誰かに味見してもらったほうがいいかなー?」

たかね「おあじみ……! そうですね、それはまこと、だいじなことです!」ソワソワ

 春香「どうしよ、誰か食べてみてくれる人、いないかなぁー……?」チラ

たかね「……! ……!!」

 春香(めっちゃ見てる! 全身全霊でアピールしてる!)

 春香「…… そうだ! たかねちゃん、よかったら味見してみてくれない?」

たかね「!! ええ! きぐうですね、わたくし、ちょうど、ここにいあわせましたので!」パァァ

 春香(わっかりやすい! かわいいぃ!!)


たかね「……」サクサクサク

 春香「たかねちゃん、どうかな?」

たかね「…… おいひい……! ふぁいこうに、びみでふ、はるか!」

 春香「ほんと? やったあ!」

たかね「あまくて…… さくさくとしたかんしょくが、たまりません……!」

 春香「実はこれ、けっこう自信作だったんだ。こんなに気に入ってもらえたら、もうばっちりだね!」

たかね「それに、おくちのなかで、ほろっと、とけるようで……」

 春香「ふふふ、そうでしょー? まだまだたっくさんあるから、もう少しいかが?」

たかね「よいのですかっ!? では、もういちまいだけ、いただきます!」

 春香「うんうん! おいしいって食べてもらえるのが、わたしも一番うれしいからねっ」






 春香「…… ね、ねえ、あのさ、たかねちゃん、そろそろ……」

たかね「はるかのくっきーは、ほんとうにびみです!」サクサク

 春香「えへへ、そ、そうかな。そんなにおいしい?」

たかね「はい! わたくし、いくらでもたべられます!」

 春香「そうかぁ、そう言ってもらえるとうれしいなぁ…… じゃあ、もう一枚いっちゃう?」

たかね「はいっ! ぜひ、ください!」キラキラ

 春香(ああぁ、もう…… なんなのこれ! かーわいいなぁもう!!)




 春香「…… なんてことがあって、今日のおやつはたかねちゃんのおなかの中だよ」

 亜美「ええーっ…… でもまぁ、おひめっちなら、ちかたないね」

あずさ「春香ちゃんのクッキーが食べられないのは残念だけど、この幸せそうな顔を見ちゃうとねぇ」ナデナデ

たかね「…… むにゃ、…… あまくて…… さくさく……」


【突撃となりの】

 真美「ねーねーおひめっち。ひびきんと一緒に住んでてさ、どんなごはん食べてんのー?」

 美希「あ、それ、ミキもちょっと気になるの」

たかね「いつもびみなごちそうをいただいております。ゆうべは、じょうやなべでした!」

 美希「へー…… ジョーヤナベ? ってミキ知らないけど、響が作ったならきっとおいしいの」

 真美「じゃあじゃあ、きょうの朝ごはんはなんだった?」


たかね「けさは…… ええと、なまえはわすれましたが、『かりかり』をいただきました」


 真美「」

 美希「」


たかね「……おや? ふたりとも、どうしたのですか」

 真美「カリカリ!? おひめっち今カリカリって言った!?」

たかね「は、はい、そうですが……?」


 美希「ええっ!? じゃあたかねは今日の朝ごはん、カリカリをそのまま食べちゃったってコト!?」

たかね「あ…… いえ! ちゃんとあとから、ぎゅうにゅうをかけてもらいました!」

 真美「まるっきりペット扱いじゃん!!」

たかね「ぺっと!? しかし、ひびきもおなじものでしたが……」

 真美「な、なんだってー!?」

 美希「…… これ、響が帰りしだい、ちょっとハナシ聞かせてもらうべきだって思うな……」




  響「たっだいまー。あ、真美、美希も、たかねの相手してくれてたの? ありがt」

 真美「ちょっとひびきん!! おひめっちになんてことしてるのさ、もうギャクタイだよこれ!?」

  響「ぎゃ、虐待!? なんの話してるんだー!?」

 美希「あのさ、響…… 響が自分でカリカリ食べるのはともかく、たかねにまでってのは、さすがにミキも引くの」

  響「美希までなに言ってるのさー! さっぱり意味がわかんないぞ!?」


【シアトル系】

  響「それでたかね、行きたいところってどこなの? そろそろ教えてよ」

たかね「はい! ではひびき、わたくしを"かへ"につれていってください!」

  響「か、かへ……? かへ…… ……ひょっとして、カフェ?」

たかね「せけんでは、そうともいうようですね」

  響「カフェ、ねえ…… なんでまたわざわざカフェに行きたいのさ」

たかね「おや、ひびきはしらないのですか?」

  響「知らないって、なにを?」


たかね「『いしきたかいけい』のおなごは、かへ…… かふぇで、かちゃかちゃたーん、とするのがたしなみなのです!」

  響「」


たかね「そのときはもちろん、じぶんをさつえいし、それから『ついったあ』で『かふぇなう』と」

  響「ちょっと待って、誰に吹き込まれたのそれ」

たかね「あみとまみから、おそわりました」

  響「やっぱりそうか」

たかね「そして、かかせないのみものが…… から…… ええと、か、からむ……」

  響「……キャラメルマキアート?」

たかね「! そう、それです、さすがはひびきですね」

  響「それは美希から教えてもらったんでしょ?」

たかね「なんと、そこまでわかるのですか? すごい!」


【5歳児は見た】

たかね「ひびき、ひびき! あれをみてください!」

  響「んー? なにか面白いものでもあった?」

たかね「あのとのがたは、ひとりでてーぶるをせんりょうして、かちゃかちゃたーんしています!」

  響「ちょっ……!? たかね、そんなこと大声で言わないの!」

たかね「あれが、『いしきたかいけい』のとのがたですね? わたくし、おちかづきになりたいです!」

 周囲「……」プルプル

  響「こ、こら、やめるんだたかね! きっとお仕事してるんだよ、邪魔しちゃダメだぞ」

たかね「でも、うしろをとおるときみたら、がめんにとらんぷがたくさんうつっていました」

 周囲「ブフォッ」

たかね「…… あっ、もし、どちらへいかれるのです? そこの『いしきたかいけい』のかた! もし!」

  響「やめてあげて! たかね、もうやめてあげて!」


【トラベラーリッド】

たかね「これが、みきおすすめの、からむるまきゃあと……」

  響(……そういえばベースはコーヒーだけど、大丈夫かなあ、たかね)

たかね「ところで、ひびき…… これはいったい、どのようにしてのめばよいのでしょうか」

  響「ああ、ふたに小さい穴が空いてるでしょ? そこから吸い出すみたいにして飲むの」

たかね「…… む、ここですね。では、さっそくいただきましょう」

  響「でも当然、中身はすごく熱いから気をつけ――」

たかね「!? ひゃ、あ、あちちちっ!?」

  響「あー、遅かったかー……」


たかね「…… さて、いかにすべきか……」

  響「そんなに警戒しなくても大丈夫さー、さっきのでこりたでしょ?」

たかね「さきほどは、ふかくをとりましたが…… しかとあじわうために、さいぜんをつくさねば……!」

  響「じゃあ、もうふた外しちゃうといいよ。ちょうどよく冷えるから」カパ

たかね「……おお! しろいあわが、ふわふわとして、ゆきのようです」

  響「そうそう、ふたがあると冷めにくい反面、見た目とか香りとかわかりにくいんだよね」




たかね「これは……! あまさと、ほのかなにがさと、まろやかなあわが…… おくちのなかで、いっしょになって!」

  響「……」プルプル

たかね「みきがすすめるのも、どうりというもの…… ……ひびき、なぜふるえているのです?」

  響「な、なんでも、くふっ……、ない、ぞ…… ふふ、ふ」プルプル

たかね「? おかしなひびきですね」

  響(泡が! ミルクの泡が! サンタさんのひげみたいに!!)プルプルプル


【目標達成】

たかね「ひびき…… たべないのですか?」チラッ

  響「ん…… そうだね、自分はいいや。これ、たかねにあげるよ」

たかね「まことですかっ!」

  響「時間はじゅうぶんあるから、ゆっくり落ち着いて食べるんだぞー」

たかね「はい! では、えんりょなく…… ふむ、これもまたびみ!」




たかね「ああ…… わたくし、なんと、いしきがたかいけいなのでしょう……!」

  響「キャラメルマキアート飲んで、ケーキとスコーン食べただけだけどなー」

たかね「しらないのですか、ひびき? なにごとも、きのもちようなのですよ」ドヤー

  響「たぶん言うタイミングがだいぶ違うぞ、それ」


【人をダメにするアレ】

たかね「おや、まだおやすみするにははやくありませんか」

  響「ああ、これは寝るためのじゃないんだよ」

たかね「はて……? しかし、それはおふとんでしょう?」

  響「今年はばたばたしててまだ出してなかったから、この機会にと思ってさ」




  響「よーし、完成!」

たかね「……なぜ、つくえにおふとんをかぶせてあるのです?」

  響「こたつって言うんだぞ。入ってごらんよ」

たかね「はいる…… といっても、ひびき、これは、つくえにおふとんをかぶせただけでは……」

  響「まあまあ、いいからいいから」




たかね「ひびき。わたくしはきょうから、このなかにすみます」

  響「とりあえず、せめて上半身はこたつから出してしゃべろうか、たかね」


【おーるどめいど】

たかね「さあひびき、はやくおひきなさい」

  響「うーん、そうだな、どれにしようかなー、っと」ウロウロ

  響(自分がババ持ってないってことは、たかねが持ってるわけだけど……)

たかね「……」

  響「このへんかなー? それとも…… ここらへん?」

たかね「……!」パア

  響(……なるほど、今のやつか。まったく、わかりやすいんだから)

  響「よーし、じゃあこれ…… と見せかけて、そのとなり!」スッ

たかね「!!」

  響(もうちょっと普通に遊んで、手札が減ってきたらわざと…… って、今のがババっ!?)

たかね「…… どうですか、ひびき。わたくし、えんぎがじょうずでしょう?」ニヤリ

  響「め、面妖なっ!?」


【寝落ちのしまつ】

たかね「ふにゃ……」コックリ

  響「おーい、たかねー?」

たかね「…… は!? ふぁ、は、はいっ!」

  響「トランプもこのへんにして、もうそろそろ寝よっか」

たかね「い、いえ…… まだ、わたくし…… ねむたくありません」

  響「無理しないの。明日は自分がオフだから、一日一緒にいられるしさ」

たかね「…… わたくし、ねません…… ただ、この、こたつが…… たいへん、ぽかぽかと…… するので……」カクッ


  響「あー、そこで寝ると風邪ひいちゃうから、ちゃんとお布団で…… たかね?」


たかね「…… くー……」コックリ


  響「……ふふ、まったくもー…… 言うこと聞けない子は、自分のベッドに放り込むからなー」


本日の投下は、これでおしまいです。


【寝てていい朝に限って】

たかね「ひびき、ひびき。あさですよ」ユサユサ

  響「…… ん…… たかね、とけい、とって」

たかね「はい!」

  響「……まだ、6時にもなってないんだけど……」

たかね「わたくし、おなかがすきました」

  響「それに、自分さ…… きょう、オフなんだけど……」

たかね「わたくしのおなかはつねにおんです!」

  響「…… それでうまいこと言ったつもりなのか、このぉ!」ガバ

たかね「ひゃんっ!? な、なにをするのですか、ひびき!」

  響「せっかくの朝寝を邪魔する悪い子は、二度寝に付き合わせてやるー!」

たかね「ち、ちがいます、わたくしはわるいこでは…… やつあたりはおやめなさい!」ジタバタ


【ぎぶあんどていく】

  響「あーあ、もう…… きょうくらい、ゆっくり寝とこうと思ってたのに……」

たかね「おやすみのひこそ、はやおきすれば、ゆうこうにつかえます」

  響「自分だけ早く寝てたからって、気楽に言ってくれちゃって。まあ、いいけどさ」

たかね「ひびき、きょうもおでかけをしましょう!」

  響「いいけど、まずは家の中のことを片付けてからね」

たかね「いえのなかのこと、とは?」

  響「お掃除とか、洗濯とか。たかねもちゃんと手伝ってよ?」

たかね「のぞむところです。そのためには、まず、びみなあさげをようきゅうします!」

  響「…… ふふ、結局いつもと同じじゃないか。パンとごはん、どっちがいいの?」

たかね「ごはん…… いえ、やはり、ぱんがいいです」

  響「りょーかーい」


【配膳係】

たかね「ひびき! いぬみどのとねこきちどののごはん、わたしてきました」

  響「おー、ありがと。うさ江もシマ男もオウ助もモモ次郎も済んだし、あとは……」

たかね「はむぞうどのと、ぶたたどのには?」

  響「どっちにも自分がもうあげてきたぞ。だから……」

たかね「そうですかそれではわたくしはきゅうにたいせつなようじをおもいだしましたので」ダッ

  響「……へび香とワニ子のごはんだけだな」ガシィ

たかね「そ、それだけは、ゆるしてください!」ジタバタ

  響「あんまり嫌わないであげてよ、いい子たちなんだから」

たかね「じぶんではどうしようもないことが、よのなかにはあるのですーっ!!」


【警戒態勢】

ブォォォォォォ

  響「…… もー、ねこ吉ったら。いい加減慣れてくれないかなぁ」

ねこ吉「フゥーッ」

  響「だから、掃除機は敵じゃないってば。お部屋をきれいにしてくれる便利な機械なんだぞ?」

ブォォォォォォ

ねこ吉「シャーッ!」

  響「ねこ吉の落とす毛だって吸い取ってくれるんだし、そんなにおびえなくても」

ねこ吉「……ニ゙ャッ」ダッ

  響「うーん、やっぱりダメかぁ…… まあ、理屈じゃないんだろうけどさー」




  響「で、たかねはそこで何してるの」

ブォォォォォ

たかね「ひぃぃぃ!! そ、そのめんようなものを、どこかにやってください、ひびきぃぃ!」


【縦型より危ない】

たかね「ほう……」ジーッ

ゴウンゴウンゴウン

たかね「おおお……」ジーッ

  響「…… それ見てて、そんなにおもしろい?」

たかね「ええ、ぐるぐると、なかではねまわって…… みあきません」ジーッ

  響「ふーん? まあ、たかねがじっとしててくれる分にはいいんだけどさ」

たかね「ところでこれは、なんのためにぐるぐるしているのですか?」

  響「たかねと自分のお洋服を洗ってるんだ。もうしばらくは回ってるから、見てていいよ」

たかね「はい! ところで、ひびき」

  響「なに?」

たかね「つぎのときは、わたくしもこのなかにはいってみたいのですが」ワクワク

  響「うん、絶対ダメ。命にかかわるからね、ホントに」


【約束が違うけど】

  響「ところで、今気がついたんだけどさ」

たかね「どうかしたのですか?」

  響「ワニ子とへび香のごはんは、最終的に自分が持っていったよね」

たかね「…… いずれ、なれてみせます。いずれは」

  響「掃除機かけてる間はたかね、ずっと逃げまわってたし」

たかね「あ、あのようなめんようなものをつかうというおはなしは、きいておりませんでした!」

  響「そしてその後、たかねは洗濯機をずっと見てたね」

たかね「はい! とてもおもしろかったです!!」

  響「……どうも結局、全部自分ひとりでやってる気がするぞ」

たかね「?」キョトン

  響(…… ふふ、まあ、いいか)


【氷上デビュー】

  響「さて、じゃあ洗濯物干してる間、お出かけしようか。ところでたかね、どこか行きたいの?」

たかね「わたくし、すけーとをしてみたいです」

  響「スケート!? え、テレビで見たあれ、そんなに気に入った?」

たかね「はい! わたくしもこおりのうえを、まいおどってみたいのです!」

  響「いきなりあんな動きは無理なんじゃ…… まずそもそも、この近くにリンクとかあるのかなぁ」

たかね「だめ、でしょうか……?」

  響「ダメっていうか、自分もそんなに詳しくないからね…… っと、意外と近くにあるみたい」

たかね「ならば!」

  響「……まあ、何事も経験っていうしね。でもそれなら、ちゃんと準備していかなきゃなー」


【ここでそうびしていくかい?】

  響「えーっと、なになに? 『初めての人は転びやすいため、長袖と長ズボンが基本』か」

たかね「だいじょうぶですよ。わたくし、そうそうころんだりいたしません」

  響「あとは、『手袋は必須、頭の保護と防寒を兼ねて帽子もあるほうがいい』…… なるほど、じゃあ」ゴソゴソ

たかね「なんといってもわたくしですから、はじめてでも、かれいに、わぷっ!?」ズボ

  響「よしよし、サイズもちょうどよさそう」

たかね「い…… いきなり、なにをするのですか!?」

  響「ん、それ、編んでみたの。似合ってるよ、たかね」

たかね「このぼうしを、ひびきが……!? それはすご…… ではなく! とつぜんかぶせないでください!」

  響「あはは、ごめんごめん。ちょうどいい機会だと思って」

たかね「…… たしかに、あたたかですし、よくできてはいますが」

  響「ふっふーん、そうでしょ? 実は、それとおそろいの手袋とマフラーもあるんだぞ」ゴソゴソ

たかね「なんと、まことですか! はやくみせてください!」


【逆ハの字】

たかね「おお…… ここが、すけーとりんぐ!!」

  響「一文字違うだけで、なんかずいぶん物騒な感じに聞こえるなー」




たかね「…… こ、これは、なかなか、しんけいをつかいますね……」プルプル

  響「ええっとね、まずは、足を揃えるんじゃなくて、V字型にして立つのが最初なんだって」

たかね「ぶい、じ? ぶいじとは、なんですか?」プルプル

  響「え? ああそうか、アルファベットじゃわかんないか…… となると……」

たかね「…… あの、ひびき、かってに、すすんでしまうのですが……」ススー

  響(V字…… なんて言えばたかねに伝わるかなあ、山型…… じゃなくて谷型?)

たかね「ひびき、ひびき!? と、とまれなっ、あいたっ!」ステーン

  響「……たかねっ!? なにやってんの、大丈夫!?」

たかね「だれのせいだとおもっているのです!?」


【秘訣】

たかね「…… さきほどは、おしえてくれないだれかのせいで、ふかくをとりましたが」

  響「うー、だからあれは悪かったってば……」

たかね「わたくし、もうすでに、こつをつかみました」スイー

  響「おっ、ホント? すごい!」

たかね「つまるところ、きをつけることはただひとつ、それは」ススー

  響「それは?」




たかね「ころびそうになったら、さからわず、そのままおしりからいたああっ!」ステーン

  響「…… さすが、み、みごとな転がりっぷりで……」プルプル


【南国出身故】

たかね「…… ところで、ひびき?」

  響「あははは! あははははは、ひぃ、あはは…… ん、どうしたの、たかね」

たかね「なぜひびきは、ずっとてすりをつかんでいるのですか?」

  響「え? …… えーと、んーと、これはね……」

たかね「これは?」

  響「……そう! ころころ転ぶたかね見てたら、笑っちゃって倒れそうだから、その支えにさ」

たかね「はなしてみてください」

  響「えっ」

たかね「てを、はなしてみてください、ひびき」


  響「いやぁ、それは無理だぞ。自分、さっき言った通りで立ってられないかも」

たかね「……」

  響「な、なに? 言っとくけど別に滑れないとかじゃないよ、なんたって自分――」

たかね「…… かんぺき(笑)」

  響「」




  響「そこまで言われたら黙ってられないさー! 見てなよたかね、自分の完璧な滑あいだぁっ!?」ズデーン

たかね「ほう…… ひびき、みごとにすべりましたね」スイー

  響「うがーっ! は、腹立つ!」

たかね「ふふふ、そのようにすわったままでは、わたくしをつかまえら…… ああっ!?」ステーン


【あらがえない】

  響「よーし、洗濯物の取り込みはおしまいっ」

たかね「こうしてみると、ぞんがいにたくさんあるものですね」

  響「確かにねー。じゃあたかね、服は自分がやるから、こっちのタオルたたんでくれる?」

たかね「しょうちしました!」




  響「やっぱり二人いると作業が早いなー。ありがと、たかね」

たかね「……」ウズウズ

  響「ん? どうしたの?」

たかね「……えいっ!」ボフー

  響「ああっ、ちょっと!? なにしてるのさ、せっかく畳んだタオルに!」

たかね「てざわりが、たいへんよかったので…… ああ、まことにふかふかです……!」スリスリ

  響「気持ちはわかんなくもないけど。ほら、もういいでしょ?」

たかね「ひびきもいっしょにいかがですか。とても、ここちよいですよ」


  響「ば、バカ言わないでよ。自分子供じゃないし、そんなことしないぞ」

たかね「そうですか? では、わたくしは、もうすこし!」ゴロゴロ

  響「……」

たかね「おや、ひびき? どうしました?」

  響「…… おりゃーっ!」ボフーッ

たかね「ふふ、やはり、そのきになりましたか」

  響「まあ…… たかね一人に遊ばせとくのもあれだからね。付き合いだぞ、付き合い」

たかね「そういうことにしておいてあげましょう」

  響「……言ったなー、このぉ!」ガバー

たかね「あ、あはははっ!? や、やめっ、くすぐったいです、ひびき!」


【始めようか】




  響「たかね、夜になったらさ、ちょっとまたお出かけしようよ」

たかね「おでかけ…… ごはんをたべにゆくのですか? もしや、らぁめんでしょうかっ!?」

  響「あ、いや、食事は食べてからね」

たかね「むう…… そう、ですか……」

  響「もー、そんな露骨にがっかりしないでよ。それに、たかねはきっと気に入ると思うぞ」


  響「ただでさえこの時期の夜は寒いからね。しっかり準備してかないと、風邪引いちゃう」

たかね「それはよいのですが…… ひびき、いったいどこへいくのです?」

  響「ふふふ、そこは着いてからのお楽しみさー」

たかね「むむ…… あっ、でも、きょうひびきのくれたぼうしや、てぶくろのでばんですね!」

  響「うん、それにしっかり上着も着込んでね。ああそうだ、カイロも持っていっとかなきゃ」

たかね「なんと!? それほどさむいところへ?」

  響「まあ暖かいとは言えないけど、歩いていけるとこだから大丈夫。さ、じゃあ行こうか」

たかね「はいっ!」






  響「よーし、着いたよ」

たかね「…… ここは? ただの、こだかいくさちのようですが……」

  響「たかね、そっちじゃなくて。ほら、上見てごらんよ」

たかね「うえ?」




たかね「……おお! すごい!!」

  響「ね、ちょっと中心部を離れたら、街中でもけっこう星が見えるんだ」

たかね「きらきらしたひかりが、あんなにたくさん…… あれがすべて、ほしなのですね!」

  響「そうだよ、全部。今だけは、ひとりじめできちゃう」

たかね「はて…… それをいうなら、ふたりじめ、では?」

  響「えっ? ……あはは、なるほど、確かにね!」


  響「たかね、わりと低いとこに、すごく明るい星があるのはわかる?」

たかね「…… あれ、でしょうか?」

  響「そうそう。で、そのちょっと左でけっこう上のほうに、赤っぽいのがあるよね」

たかね「……ひびき、みつけました! かなり、たかいところのほしですね」

  響「そして最後に、いまのふたつと三角になる左のほうにも、明るい星があるでしょ?」

たかね「はい! あります!」

  響「その三つを結んだのが、『冬の大三角』って言うんだぞ」

たかね「ふゆの、だいさんかく…… それぞれのほしに、なまえはないのですか?」

  響「あるけど…… カタカナの苦手なたかねに言えるかなー?」

たかね「もちろんです。しゅくじょのわたくしなら、あさめしまえです!」




たかね「べて、べてりゅ、べてるぎゅ、…… ぷろ、ぷりょき、ぴゅ…… うう……」ウルウル

  響「あ、あのさ、たかね…… 名前なんて言えなくても別に困らないから、ねっ?」

たかね「『しりうす』は、いえたのです!! あとふたつだって……!」


  響「さてと、たかね、これ広げるのちょっと手伝って」バサッ

たかね「はて…… これは?」バサー

  響「レジャーシート。ずっと立って上を見上げてたら、首が疲れちゃうからさ」

たかね「このしきものがあると、くびがつかれないのですか?」

  響「うん、こうやって寝転んでみて?」ゴロン

たかね「はい……? ……おお!!」コロン

  響「こうすれば、横になったままで空全体が見渡せるって寸法さー。たかね、寒くない?」

たかね「たしかにすこし、ひえますね」

  響「だと思った。カイロ出すからちょっと待っ……」

たかね「ですので、ひびきにくっついていることにします!」ピト

  響「…… ふふ、確かにこれならお互い、あったかいね」


たかね「それにしてもひびき、なぜこんなさむいときに、ほしをみようとおもったのですか?」

  響「それはね…… 時間的に、そろそろ見えるんじゃないかな」

たかね「なにがです?」

  響「…… あっ、今流れた!」

たかね「えっ?」

  響「今日はね、ふたご座流星群っていって、流れ星がたくさん見えるタイミングなんだ」

たかね「ながれぼし!? ほしが、ながれるのですか!?」

  響「そう、かなりたくさん流れるはずだから、気をつけててごらん」

たかね「し、しかし…… そうはいっても、どちらをみればよいやら」キョロキョロ

  響「特にどっちとかは決まってないはずだから、空全体を眺めてればそのうちに……」

たかね「あっ……!?」

  響「!」

たかね「ひびき、ひびき、みましたか!? いま、あちらからあちらへ、ひかりが、すうっと!!」

  響「うん、見えた! ね、こんな調子でどんどん見られるはずだから」






  響「ちょっと休憩しようか、たかね。やっぱり冷えるし、それにのども渇いてこない?」

たかね「ほしにむちゅうで、きづきませんでしたが、たしかに……」

  響「あったかいココア、入れてきてるんだ」ゴソゴソ

たかね「まことですかっ!?」

  響「ふふ、冬の夜に外で飲むココアってのも、なかなかおいしいんだよ」

たかね「ましゅまろ…… ましゅまろもあるでしょうか!?」

  響「…… あー、マシュマロ…… それは……」

たかね「そうですか……」

  響「……もちろん、ちゃんと持ってきてるぞ!」

たかね「!」パァ


たかね「ああ…… あたたかくて、あまくて…… しみわたります……」ズズ

  響「もう、たかねはココアくらいで大げさだなぁ」ズズ




たかね「それにしても、すごいです! こんなにくわしいとは、ひびきは、てんたいかんそくのぷろですね!」

  響「…… いや、そういうわけじゃないよ。こういうの全部、自分は教えてもらっただけでさ」

たかね「そうなのですか?」

  響「うん。まあでも、たかねが楽しんでくれたなら、それで――」

たかね「あの…… ひびき?」

  響「ん、どしたの?」



たかね「――なぜ、ないているのですか?」



  響「……え?」


  響「ちっ、違うよ、やだなあ、たかねの見間違いだぞ」

たかね「いいえ。それは、うそです」

  響「嘘じゃないって。泣いてなんかないよ、自分」

たかね「どこか、いたいのですか? ぐあいがわるいのですか?」

  響「違うってば! ほら、自分はどこもおかしくないし、いつも通り元気でカンペキだって――」



たかね「かくさないでください!!」



  響「っ!」

たかね「ひびき…… わたくしは、ひびきのかぞくでしょう? ちがうのですか?」

  響「違わないよ、だけど……!」

たかね「わたくしには、いえないことですか? わたくしが…… おこさまだから、きいても、むだなのですか……?」






  響「…… ごめん。ちょっとさ…… しばらく会ってない友達のこと、思い出しちゃって」

たかね「それは…… ちいさくなるまえの、わたくしのことですね?」

  響「……うん、そう。天体観測のこと自分にいろいろ教えてくれたのも、その子でね」

たかね「そう、でしたか」

  響「この時期に流星群が出るっていうのも聞いてたから、今日、たかねと一緒に見ようと思ったんだ」

たかね「…… ひびきのしっていたわたくしは、どんなひとだったのです?」


  響「うーん…… そうだなぁ。一言で言えるようなやつじゃなかったのは確かだぞ」

たかね「ふむ…… それは、どのように?」

  響「気高い感じで、でも食いしん坊で…… 結構がんこで、そのわりに泣き虫で」

たかね「…… きいたかぎりでは、かなりめんようなひとがらのようですね……」

  響「でも…… なんていうかなあ、隣にいて、いつも、張りつめてるような感じがしてたよ」

たかね「はりつめている?」

  響「うん。強がってる、っていうか、弱みを見せないようにしてるっていうか……」

たかね「…… なにか、じじょうがあったのかもしれません」

  響「そう、かもね。……結局、ずっと一緒にいたわりに、自分がよくわかってなかっただけかもしれないや」



たかね「わたくしでは…… そのひとのかわりには、もちろんなれません」


  響「うん? そんなこと、たかねは気にしなくても――」


たかね「ですが、ひびきのそばに、いることはできます。それが、ほんのすこしでも、ひびきのたすけになれば」








たかね「あの…… ひびき? しょうしょう、くるしいです、そんなにだきしめられては」


本日の投下は、これでおしまいです。


【ろんぐ・たいむ・のー・しー】




 貴音「お久しゅうございます、響」

  響「…… あれっ…… えっ、た、貴音!? 貴音じゃないか! いつの間に元に戻ったのさ?」

 貴音「はて、元に戻った、とは……? わたくしが、何かに変わってでもおりましたか?」

  響「え、ええっ……? じゃあ、あの小さいたかねは貴音じゃなかったの!?」

 貴音「ふふっ、もう、いったい何を言っているのです。響のほうが、よほど小柄でかわいらしいというのに」

  響「うがーっ!? やっと戻ってきたと思ったら、気にしてることを!」

 貴音「相も変わらず、響はにぎやかですね。さあ、では一緒に事務所へ参りましょう」


  響「うん、貴音が戻ってきたって知ったら、みんなもきっと驚くぞ! ……って、あれ……」


  響「…… ねえ貴音、ごめん、ちょっと待って。なんかおかしいや、自分、足が動かなくて」




  響「貴音、貴音っ! なんで先に行っちゃうのさ、待ってってば…… 貴音、聞いてるの!?」






  響「貴音ぇっ!! ねぇお願い、待ってよ、置いていかないで、貴音、」



  響「たかねぇえ――っ!!」ガバァッ




  響「…… っ、あー……、 ゆめ、かぁ……」

  響(ひっどい夢だったなぁ…… 昨日たかねに話して、まだ引きずってるのかな、自分……)

  響「…… それにしても」

たかね「ふにゅー…… くー……」

  響(……ゆうべはやたら大人びたこと言い出したかと思えば、今はこんな幸せそうな寝顔しちゃって……)

  響「実際のとこ、どうすればいいのか…… 自分も、よくわかんないなぁ……」ナデナデ

たかね「ん…… ふあ……」モゾッ

  響「でも…… そうだ、今しなきゃいけないことは、ひとつだけ……」




  響「たかねーっ! 起きて、今すぐ起きて! いつもよりちょっと遅れてるからっ!」ユサユサユサ

たかね「ん、んう、ぅむむ」


【アク抜き必須】

たかね「……ふぁぁ」

  響「昨日は遅くまで自分が引っ張りまわしてた分、眠いよね。ごめんな、たかね」

たかね「いえ…… それは、かまわないのですが…… むにゅ……」

コツン

たかね「いたっ!? ……なにをなげたのですか、ひびき」

  響「えっ、自分、なにもしてないよ?」

たかね「かくしてもむだです。なにかちいさなかたいものが、たしかに、あたまにあたりました!」

  響「ええ……? あっ、たぶんこれがちょうど落ちてきて当たったんだよ。ほら」ヒョイ

たかね「…… これは? このみ、ですか?」

  響「どんぐりだね」


たかね「どんぐり? どんぐりとは、このみとはちがうのですか」

  響「えーとね、木の実の一種なんだけど、こういう形のはだいたいどんぐりって呼ぶの」

たかね「ほう…… どんぐり。つやつやとして、きれいですね」

  響「そうだね。秋に落ちてるイメージだけど、このぐらいの時期にもまだあるんだなー」

たかね「たしかに、よくみると、ほかにもおちています」ヒョイッ

  響「ほんとだ、今まで気づかなかったぞ…… よくピンポイントでたかねに当たったなぁ」

たかね「これをうえると、またきがはえてくるのですか?」

  響「たぶんそうだと思うよ。あ、それに確か、食べることもでき――」

たかね「どんぐり、どのようなあじなのでしょうか! さっそく」キラキラ

  響「――るとは聞いたことあるけど待って待って、そのまま食べるものじゃないからねっ!?」


【おすそわけ】


 高木「おや? たかね君、なにかあったのかね?」

たかね「たかぎどの、これをどうぞ。けさてにいれたばかりのおみやげです!」

 高木「おお、私になにかくれるのかい?」


たかね「ことりじょう、いま、すこしよろしいですか?」

 小鳥「たかねちゃん、どうしたの?」

たかね「わたくしから、こころばかりのおくりものです」

 小鳥「えっ、なあに?」


たかね「あっ、りつこじょう、りつこじょう!」

 律子「ん? たかね、どうかした?」


【大人気】

 高木「私がもらったもののほうが色つやが美しいと思わんかね」

 小鳥「そう仰いますけど社長、明らかにわたしのもらったやつの方が大きいですよ?」

 律子「もう…… 大の大人が、なにをどんぐり一つで盛り上がってるんですか、お二人とも」

 高木「律子君の判断を聞かせてもらいたいな。どちらが見事だと思う?」

 小鳥「ねえ律子さん、わたしがもらったのの方が立派ですよね!」


 律子「……私がもらったやつ、お二人のと違ってちゃんと帽子まで付いてるんですよ。ほら」 バァーン


 高木「何ィィ!?」

 小鳥「な、なんてこと……!」


たかね「あの…… わたくしも! わたくしもおはなしに、まぜてください!」ピョンピョン


【高槻やよいの場合】


 小鳥(さて…… こっちの準備はオッケー。時間的に、そろそろ授業も終わって……)


ガチャ

やよい「おはようございまーすっ!」

たかね「やよい。おつかれさまです、おかえりなさい」

やよい「あっ、たかねちゃん、ただいまー! 元気でお留守番してたかなー?」

たかね「はいっ、おべんとうをのこさずたべて、いいこにしていました」

やよい「おおーっ、えらいなぁ! それじゃあ今日も、いつものあれ、やろっか」

たかね「はい! おねがいします」


 小鳥(……来た!! いつものアレが来たわっ!)ガタタッ



やよい「よーし、じゃあ、いくよ?」

たかね「はいっ」


 小鳥(いつもは背伸びする側のやよいちゃんが、たかねちゃんに合わせて少しかがんで……) ●REC

 小鳥(たかねちゃんは精いっぱい背伸びして手を伸ばして、やよいちゃんに合わせようと……!) ●REC


やよい「せーのっ、はいたーっち!」

   「「いえい!」」パンッ




 小鳥「ああ…… ああ……! 神様、ありがとうございます……!」 ●REC

 高木「微笑ましいのはわかるが、はたして泣くほどのことかね」


たかね「ところで…… やよいには、たしか、きょうだいがたくさんいるのでしたね」

やよい「うん、そうだよ。わたしが一番お姉さんなんだー」

たかね「わたくしはごさいですが、やよいのきょうだいはみな、もっとおさないのですか?」

やよい「ううん、上の二人はたかねちゃんより年上。でも、たかねちゃんのほうがしっかりしてるかも」

たかね「それはいたしかたのないことです。わたくしは、しゅくじょですから」

やよい「あはは、そうだね。たかねちゃんはオトナだなぁ」ナデナデ

たかね「あの、やよい、ひとつききたいのです」

やよい「わたしに? もちろんいいよー、なあに?」


たかね「…… おさないおとうとやいもうとのおせわは、たいへんではありませんか」

やよい「うーん…… そうだなぁ、たしかに大変なときもあるけど、わたしは毎日楽しいかなー、って」


たかね「そういうものなのですか?」


やよい「うん、みんな大好きな家族だから。成長してるのをそばで見られる楽しみもあるしね!」

たかね「ふむ……」


やよい「…… 心配しなくても、響さんも、たかねちゃんと一緒にいるのが大変だとかつらいとか、ぜったい思ってないよ」


たかね「!」

やよい「頼られたり、甘えられたりするのって、やっぱりうれしいものだもん。だから、だいじょうぶ」

たかね「……やよいは、するどいのですね。まいりました」

やよい「えへへー、わたし、こう見えてずっとお姉さんやってるからね」

たかね「わたくしも…… いもうとのようなものだと?」

やよい「そうそう。ちっちゃい妹の考えることなんて、おねえちゃんはお見とおしでーす!」ワシャワシャ

たかね「ふふ、く、くすぐったいです、やよい」


たかね「やよいはおりょうりもするのでしょう?」

やよい「そうだね、うちの家族のごはんは、だいたいわたしが作ってるよ」

たかね「どんなおりょうりが、とくいなのですか?」

やよい「うーんとね、けっこうなんでも作るんだけど…… そうだ、たかねちゃん、もやしって好き?」

たかね「もやし? ……らぁめんなどにはいっている、しろい、あのもやしですか?」

やよい「そう、そのもやし。あれはすごいお野菜なんだって知ってた?」

たかね「すごい…… ですか? たしかにしゃきしゃきとして、びみですが」

やよい「おいしいだけじゃないんだよー。もやしのすごいところはね……」




やよい「……つまり、こんなにお財布にやさしくて、簡単にお料理できるのに!」

たかね「びたみんがおおく、びようによく、なにより、たくさんしょくせる……!! すごい!!」キラキラキラ


【幼児と保護者の一見ありふれた攻防】

たかね「ひびき…… あのう、じつはわたくし、おりいってほしいものが」

  響「んー……? 今週ぶんのカップ麺はこのあいだ買ったよね? たかね、自分とお約束したよね?」ジトー

たかね「ちっ、ちがいます! かっぷめんのことではないのです」

  響「ほほー。じゃあ、なにが欲しいの?」

たかね「ええと…… まずは、おやさいのうりばへつれていってください!」

  響「野菜売り場……?」




たかね「いったい、どこに……」キョロキョロ

  響「なに探してるのさー、どうせ自分が買うんだから教えてくれてもいいでしょ?」

たかね「いえ、わたくしじしんでみつけてこそ、あっ、ありました!」


たかね「これです! これがほしかったのです!」キラキラ

  響(…… なんでそこでわざわざもやしなんだー!? 予想外すぎるぞ!)

たかね「ひびき! おねがいです、もやしをかってくださいませ」

  響「え、ええー…… でも、すぐに使う予定はないし、もやしって結構すぐダメになるから、今日は……」

たかね「だめ、ですか……? わたくし、ようやっとめぐりあえたのですが、だめですか……?」ウルッ

  響「うーん、いや、ダメっていうか、今日買っても使うアテがさ…… ……ん?」


 客1(あんな小っちゃな子が、自分からお野菜欲しがるなんて!)

 客2(普通あのくらいの歳ならお菓子とかねだるのに、ずいぶん健康志向な子ね)

 客3(せいぜい袋で30円とかだし、なんにでも使えるじゃん…… そのくらい買ってやれよ……)

 客4(タッパーに水張って漬けとくと日持ちするんだよね。栄養素は減るらしいけど)


  響(…… な、なんか、周囲から無言のプレッシャーみたいなのを感じる!?)

たかね「……ふふふ。よろんをあやつるものが、かつのですよ」

  響「!?」


【じんとり】


たかね「……いいえ、だめです。このばしょは、ゆずれません」


たかね「そのようにすごんだところで、むだですよ。わたくしはここをししゅします」


たかね「ほう…… よいどきょうですね。あえてたたかいをいどみますか」


たかね「な"っ、つ、つめはひきょうです! おやめなさい、や、やめ」




たかね「……ひびき。ねこきちどのが、わたくしに、いじわるを」グスッ

  響「あー…… あの子、あれでなかなか気が強いし、それにこたつ大好きだから……」

たかね「わたくしもこたつにはいりたいのです! なんとかしてください!」

  響「はいはい、自分と一緒のところに入れば大丈夫だから」


【可否】

  響(さてっと、たかねも寝たし…… うわー、片付いてない宿題、まだ結構あるなー……)

  響「泣き言言ってても仕方ないか。さっさとやっちゃおう、っと、その前に」




ガチャ

たかね「……む。おはよぅごじゃます、ひびき」フラフラ

  響「あれ、たかね。どうかした?」

たかね「おてあらいに、いこうと」

  響「そっか、冷えたらいけないから、なんか羽織って行きなよ」ゴソゴソ

たかね「……?」ジーッ

  響「ん、どしたの?」

たかね「ひびき…… そのこっぷには、なにがはいっているのです?」

  響「え?」


  響「ああ、これ? うっかり寝ちゃうといけないからさ、自分用に……」

たかね「そのゆげ! わたくしのいぬまに、ここあをのもうというのですね!?」

  響「えっ、違うよ? 寒い夜はココアもいいけど、今は眠気覚ましがメインだから」

たかね「ずるい! ずるいです! ひびき、わたくしものみたいです!」

  響「いやだから、さっきから言ってるとおり、これはココアじゃなくて」

たかね「いいわけはききません! おてあらいからもどったら、あらいざらいはいてもらいます!!」

  響「…… ええと、うん、とりあえず、トイレ行っておいで」

たかね「いいのがれはできませんよ…… かくごしておいてください!」タタッ

  響(……ぷぷっ、なにを洗いざらい吐けっていうんだろ)


ガチャ

たかね「ふう…… さて、ひびき。なにか、いいぶんは?」

  響「言い分って言われても…… 自分は、眠くならないようにこれを作っただけだぞ!」

たかね「これは、どうかんがえてもゆうざいですね……」

  響「なにがっ!?」

たかね「ひびき、ちゃんすをあげましょう。わたくしにもわけてくだされば、みのがしてあげます」

  響「……ココアじゃないけど、いいんだな?」

たかね「やれやれ、まだしらをきるつもりですか。かんねんなさい」

  響「ははー、お代官…… いや、姫さまー」


  響「では…… これを、どうぞ」

たかね「やはり、ちゃいろいではありませんか。どうみてもここあ!」

  響「飲んでみてお確かめください、姫さま」

たかね「もちろんです。いただきます」


ズズ

たかね「……! ……!? !!」


  響「いかがですか、姫さま!」

たかね「うえぇ、に、にがい!? ひびき、にがいです! これはここあではありません!!」

  響「だから、あれだけ何度も言ったのに…… 自分の言うこと聞かないからだぞ」


  響「これはコーヒーって言ってね。この通り、にがいの」

たかね「みをもって、おもいしりました…… これはあくまののみものです」

  響「これ好きな人、いっぱいいるんだからね? それに、今日は牛乳混ぜてカフェオレにしてるし」

たかね「とてもりかいできません…… なにゆえ、こんなものを!?」

  響「味と成分が眠気覚ましになるんだよ。まあ、どっちみち、大人の味だからね」

たかね「…… おとなの……?」ピク

  響「そう、大人はこれが好きなのさー。たかねが飲めないのも、しかたないよなー」ニヤ

たかね「そ、そんなことはありません! わたくしだってのめます!」

  響「無理しなくていいって。自分も小っちゃいころは苦手だったし」

たかね「ばかにしないでください! わたくしはちいさくないですし、このようなもの、へいきです!」

  響「じゃあ、残りも遠慮しないで飲んでいいぞ?」

たかね「ぐ、ぐぬぬ……」

  響(…… 正直、ブラックは自分もまだちょっと苦手なんだけど…… 黙っとこっと)


【かふぇいんのせい】


たかね「……」


たかね「……」パッチリ


たかね「……どうしましょうか。ねむれません」ムク


ガチャ

たかね「ひびき、ひびき」ユサユサ

  響「ん、んんー…… たかね? ……えっ、ごめん、もう朝!?」ガバ

たかね「いえ、よるです」

  響「はぁ!?」

たかね「めがさえてしまいました…… それになにか、どきどきします」


【ふんわり落ちてくる夜】

  響「自分がカフェオレ飲ませたせいだね、ごめん。考えが足りなかったぞ……」

たかね「いえ…… ただ、どうにも、よこになっていても、ねむれなくて」

  響「いいよ、それよりどうしようか。トランプでもする?」

たかね「……」ジーッ

  響「たかね?」

たかね「ひびき、なぜ、べらんだがあんなにあかるいのでしょう?」

  響「…… ああ、月が出てるんだよ。この時期だと…… ええと、下弦の月、に近いはず」

たかね「つき…… おつきさま?」

  響「そう、お月様。ベランダに出ようか…… あ、帽子とマフラー持っておいで、寒いから」






たかね「…… きれい、ですね」

  響「だねー。冬は空気が乾燥してるぶん、月や星がよけい綺麗に見えるとかって言うし」

たかね「あれは、かげんのつきというのですか?」

  響「厳密にはちょっと違うかも。そのへんも…… 自分、教えてもらってただけだから」

たかね「なんだか、すこし、なつかしいようなきがいたします……」

  響「そう? …… ひょっとして…… なにか思い出すようなこと、ある?」

たかね「…… ……いえ、そういうわけでは。すみません、ひびき」

  響「謝るようなこと、なにもないって。じゃ、寒いし、そろそろ中に入ろうか?」


たかね「もうすこしだけ…… いますこしだけ、わたくし、ここでみていたいです」

  響「ん。じゃあ、自分も一緒に見てるよ」


本日の投下は、これでおしまいです。


【諸説あるので知らなくてもしかたない】

たかね「おや? きょうのぱんは、いつもとなにか、ちがいますね」

  響「フレンチトーストって言ってね、牛乳とか卵とか混ぜたものにパンをつけて、焼いたやつ」

たかね「ほう、それはずいぶんと、てまのかかった……」

  響「こう見えて結構かんたんだぞ。凝る場合は、前の晩から漬け込んだりするらしいけど」

たかね「とおすと…… は、やいたぱんのことですが、ふれんち、とはなんですか?」

  響「フランスって国があって、そこのもの、っていう意味だよ」

たかね「するとこれは、そのふらんすのおりょうりなのですね!」 

  響「ううん、違うぞ?」

たかね「えっ?」


  響「説はいろいろあるけど、とりあえずフランス発祥じゃないんだって」

たかね「ほほう、そうなのですか…… さすが、ひびきはものしりです!」

  響「当然さー、自分は頭脳もカンペキだからなー」

たかね「しかし、はて……? ひびき、それなら、なぜ『ふれんちとおすと』なのですか?」

  響「……さてと、冷めないうちに食べようか、たかね!」

たかね「ごまかさないでください。なにゆえ、ふらんすの、というのです」

  響「よーし、はい、手を合わせて、いただきまーす!」

たかね「しらないのですか? かんぺきなのに! それでよいのですか、ひびき!!」

  響「い、いただきまーす!!」




たかね「ふわふわで、あまくて…… たまごやきのようです! おかわりはございますか?」キラキラ

  響(ときどき鋭いこと言う一方で、このへんチョロいから助かるぞ)


【ふくら】

たかね「あそこにいるのは、なんというとりさんですか?」

  響「んー? ああ、あれはスズメだよ」

たかね「すずめ…… とてもたくさんで、むれています!」

  響「最近減ってきてるらしいけど、いまいち実感がないんだよね」

たかね「しかし…… おようふくのないすずめさんたちは、さぞ、さむいでしょう」

  響「羽があるとはいってもねー。でもさ、よく見てごらん、体がぷくっとして見えるでしょ?」

たかね「…… なるほど、いわれてみれば、まるまるとしています」

  響「ああやってふくらんで、空気を羽の間にためて、寒さをしのぐんだぞ」

たかね「ひとが、うわぎでまるまるとするのとおなじですね?」

  響「だね。たかねも、上着にマフラーと帽子とでもっこもこだもんね」

たかね「わたくし…… もっこもこ、なのですか?」

  響「うん、ふくらたかねになってるなー」


【そもそも雇用外】

たかね「たかぎどの、おりいって、ごそうだんがあるのですが……」

 高木「私にかい? 珍しいな、私で答えられるようなことだとよいが」

たかね「わたくしがじむしょにおせわになるようになって、いくにちかすぎました」

 高木「ああ、そうだね。おかげで事務所の雰囲気がなごやかになって、助かっているよ」

たかね「ここへきて、わたくし、まいにち、みなにめんどうをみてもらっております」

 高木「気にすることではないさ。たかね君の状況から考えれば、当然のことだ」

たかね「みなのおはなしをきいたり、おかしをごちそうになったりと、たいへんここちよいです」

 高木「そうか、それなら何よりだ…… ん? それで、いったい何が問題なのだね?」

たかね「ふと、おそろしいことに、きがついてしまいまして……」




たかね「わたくし、これは、『しゃないにーと』とよばれるそんざいなのではないかと……!」

 高木「待ちたまえ、どこでそんな言葉を聞いてきたのかね」


【星井美希の場合】

 美希「あっ、いたいた、たーかねっ!」

たかね「! ……み、みきではありませんか、ごきげんよう」

 美希「ねえねえたかね、たかねはさ、お昼寝って好き?」

たかね「おひるね…… は、すきです」

 美希「だよね、気持ちいいもん。ミキも大好きなの!」
 
たかね「しかし……、あいにくわたくし、いまは、あまりねむくないもので」

 美希「あれっ、そーなの?」

たかね「そ、そーなのです、それでは、そういうことで……」ススス


 美希「でもさ…… たかね、お昼寝は好きなんだよね?」ズイ

たかね「ええ、その…… すきは、すきなのですが……」

 美希「ですが、なーに?」

たかね「……おさらば!」タタタッ

 美希「あはっ、追いかけっこなら負けないのー!」ダッ




たかね「み、みき! はなしなさい!」ジタバタ

 美希「ふっふっふー、たかねの運動神経でミキから逃げきれると思った?」


たかね「このようなくつじょく! わたくしは、そふぁになどくっしません!」

 美希「まーまー、いいからいいから。それっ」ボスン

たかね「ま、またこうなるのですかっ!? めんようなーっ!」




 美希「あーっ…… やっぱり、ふかふかのソファとたかねのセットは何度やってもサイコーなの!」ギュー

たかね「…… なぜみきは、まいど、わたくしをかかえてねるのですか」

 美希「だって、あったかいし、もふもふしてて気持ちいいし、ぎゅってするのにちょうどいいんだもん」

たかね「わたくしのつごうはどうなるのです!?」


 美希「でも…… たかね、特になんの用事もないでしょ……?」

たかね「いいえ! わたくしのすけじゅーるは、いっぱいなのですよ!」

 美希「…… ええー、そうなのぉ……? たとえば、どんな……?」

たかね「はるかにおかしをもらったり、ゆきほのおちゃをいただいたり、あみやまみとげーむをするなど、だいじな……」




 美希「…… くう…… すぴー」ギュー

たかね「じ、じぶんからきいておいて、そのたいどはなんなのです!?」


たかね(いまは、かんぜんにかかえられていますが…… みきのちからが、ぬけるのをまてば!)キッ






やよい「真さーん、すみません、そこのタオルケットとってもらっていいですかー?」ヒソヒソ

  真「えっと…… ああ、これだね、はい」ヒソヒソ

やよい「ありがとうございます。 ……んしょ、っと」ファサ


 美希「…… あふぅ……」

たかね「むにゃ……」


やよい「美希さんがたかねちゃん抱えて一緒に寝てるの、もうすっかりおなじみですねー」

  真「ホントにね。まあ、二人とも幸せそうだし、いいんじゃないかな?」

 小鳥「美希ちゃん、今日の予定はもうないはずだから、そっとしておいてあげましょう」●REC


【おくめんもない】

たかね「ひびき、わたくし、とてもよいことをきいたのです」

  響「えっ、なになに?」

たかね「ふふふ…… ききたいですか」

  響「うん、知りたいな、早く教えてよ」

たかね「きいて、おどろくなかれ…… じつは……!」

  響「実は……?」ゴクリ

たかね「えきまえのでぱあとで、ほっかいどうぶっさんてんがあるそうなのです!」

  響「あ、そうなの」

たかね「しかもそこで、げんていの、ほっかいどうのらぁめんがしょくせると!!」

  響「そうか、そりゃよかったなー。さ、帰ろうか」

たかね「なっ! そこは、『たかねはいいこだから、ごほうびにつれていってあげるぞ』でしょう!?」

  響「ごほうびを自分から要求する時点でたぶん、いい子じゃないよね」

たかね「なんと!」


【シースルー】

たかね「おうちのえれべーたあと、なにかちがうのですか?」

  響「乗ってみたらすぐにわかるさー。あっ、ちょうど着いたよ」

チーン

たかね「! すごいですっ、ひびき!! かべからおそとがみえます!」

  響「でしょ? ほかのお客さんもいるんだから、あんまり騒がないでね」


たかね「うごきはじめました! おお、ぐんぐんと……!」

  響「はいはい、そんなに張り付いてたらほっぺの跡がついちゃうぞ」


たかね「…… あの、ひびき…… まだ、うえにあがるのですか……?」

  響「そりゃそうだよ、催事場ってだいたい一番上のフロアだから」


  響「そろそろ着くよー。 ……たかね、自分にしがみついてたらお外が見えなくない?」

たかね「け、け、けっこうです、もう、じゅうにぶんにみたので、いりません」ブルブル


【函館札幌旭川】

  響「早く決めちゃいなよ、たかね」

たかね「しお…… いえ、やはりみそ…… ああ、しかし、しょうゆもすてがたく……!」

  響「もう店員さん呼ぶぞー?」

たかね「まってください! ひびき…… このかっとう、ひびきもわかるでしょう!?」

  響「いやごめん、全然」

たかね「なにゆえです!?」

  響「自分、こういうとき、悩まないでぱっと決めちゃう方だからさ」

たかね「ああ…… しょせん、ひびきには、このすうこうななやみは、りかいできませんか……」




  響「よーし、たかね、帰りもさっきのエレベーターに乗ろうなー」

たかね「いやです! それだけはいやでございます!!」ガクガク


【らんぐどしゃ】

たかね「あちちっ…… のうこうで…… あひゅ、たいへんに、びみで、あちっ!」ズズ

  響「無理にしゃべらなくていいから、落ち着いて食べなよ」ズズズ

たかね「このかんどう! くちにせずには、あちっ、いられな、あちち」

  響「味噌ラーメンって、ただでさえ熱いんだからさ…… 少し冷めるの待てば?」




たかね「…… ひびきのしおらぁめんも、まこと、おいしそうですね」ジーッ

  響「うん、すごくいい味。あっさりしてるんだけど、深みがあるっていうか」ズズ

たかね「ひびき。みそらぁめんがほどよくさめるまで、わたくし、てもちぶさたです」

  響「だろうね。おとなしく待ってるんだよ」

たかね「…… そのしおらぁめん、こがらなひびきには、おおすぎませんか?」ダラダラ

  響「よだれふいて、素直にくださいって言えたら、ちゃんと分けてあげるぞ」ズズ


【新井式廻轉抽籤器】

  響「じゃあ、これでお願いします」

 店員「かしこまりました」

たかね「ごちそうさまです! たいへんに、びみでした!」

 店員「あら…… ふふっ、ありがとうございました。はい、お嬢ちゃん、抽選券をどうぞ」

たかね「おや、これは?」

  響「…… へえ、今、キャンペーンで福引やってるんだってさ」

たかね「ふくびき?」




たかね「すると、きんいろがでたら、おにくのせっとがいただけるのですねっ!?」

  響「当たれば、ね。何分の一の確率かもわかんないけど」

たかね「わたくしが! わたくしがあててみせます!」

  響「はいはい…… すみませーん、抽選2回分、お願いしまーす」


 係員「いらっしゃいませー。おっ、お嬢ちゃんが引くの?」

たかね「はい! きんいろで、おにくがもらえるとききました!」

 係員「そうだよ、まだ1等は出てないから頑張って当ててね」

たかね「では…… まいります!」メラメラ

 係員「おおー、いい気合の入り具合だ。じゃあ、張り切ってどうぞ!」

たかね「…… とおおーっ!!」

ガラガラガラガラ




たかね「しろ…… しろがふたつ! これは、なにがいただけるのですか!?」

  響「そこに張ってあるでしょ。見事に残念賞だぞ」

たかね「なんと!?」ガーン

 係員「んー、惜しかったね。さっきの気合に免じて、1個おまけしといてあげよう」


【ロゴbyダリ】

たかね「……」ズーン

  響「元気出しなって、たかね。あんなの、まず当たらないんだから」

たかね「おにく…… おにくが……」ウルウル

  響「それより、さっき残念賞でもらったもの、なんだか知ってる?」

たかね「…… いえ。もちろん、わかりません」

  響「だよね? チュッパチャプスって言って、要は棒のついた飴なんだけど」

たかね「あめ…… ということは、つまり、おかしですか?」パァ

  響「そうそう。さっき三本もらったからさ、帰ったら一緒に食べようよ」

たかね「では、わたくしがもらったのですから、わたくしがふたつでひびきがひとつですね!」

  響「あはは、しょうがないなあ、それでいいよ」


【ことしもやってくる】

たかね「しかし、よるだというのに、まちなかは、ひるのようにあかるいですね」

  響「時期が時期だからなー。もうすぐクリスマスだもん」

たかね「その、くりすます、というのは、なにかくるしいぎょうじなのでしょう?」

  響「え? 違うよ、お祭りみたいなものだぞ。苦しいって、なんで?」

たかね「せんじつことりじょうが、ひどく、にがにがしげなかおでいっておりましたので」

  響「あ、ああー…… たかね、今後ピヨ子にその話題振るのはやめとこうね」

たかね「では、くりすますとはなんなのですか?」

  響「簡単に言えば、昔の有名な人の誕生日なんだ。みんなでそれをお祝いするんだよ」

たかね「ふむ。ならば、ことりじょうは、そのひとにうらみでもあるのですね」

  響「絶対違うからね!? 間違ってもピヨ子に言っちゃダメだぞ!」


  響「色々あって今では、大事な人に贈り物をあげる日、ってことになってるのさー」

たかね「おくりもの、ですか?」

  響「誕生日のお祝いだったのが、家族とか親しい人とかに贈り物するように変わった感じかな」

たかね「ふむ、なるほど」

  響「最近じゃまた違ってきて、大事な人と二人で過ごす、ってのが一般的だしね」




たかね「となると、ことりじょうはなぜ、あれほどにがにがしいようすだったのでしょう?」

  響「え、ええと…… まだ、誰と一緒に過ごすか決まってない…… とか……、じゃないかな?」

  響(ごめんピヨ子! ……なんで謝ってるのか自分もよくわかんないけど、とにかくごめん!)



たかね「たしかに、いっしょにだれもいないのは、さびしいでしょうね……」

  響「…… ま、そういう意味じゃ、自分もピヨ子と大差ないんだけどなー」

たかね「そうですか? ひびきは、さびしくないはずですよ?」

  響「えー、どうしてさ?」


たかね「だって、わたくしが、となりにいるからです。ふふっ」ギュッ

  響「…… ああ、うん、そっか。うん、おかげで、さびしくなんかないぞ!」ギュ


本日の投下は、これでおしまいです。


【透明キャンパス】

たかね「さむいので…… わたくし、おふとんからでるのをだんこ、きょひします」

  響「もー、そんなこと言ってー。どうせ起きなきゃいけないんだからさ」

たかね「いいえ! いざとなれば、おふとんとしんじゅうするしょぞん!」キリッ

  響(…… どうせいつもどおり、ご飯できるころには出てくるだろうけど…… そうだ!)

  響「ふーん、そうかぁ。じゃあ自分、お絵かきでもしよっかなー」スタスタ

たかね「…… おえかき? こんなあさから……?」

  響「おおー、指だけでどんどん描けて楽しいぞー!」キュキュッ

たかね「ゆ、ゆびだけで…… おえかき……?」

  響「まだスペースいっぱいあるなー、よーし、自分だけで使い切っちゃおーっと」キュキュキュ

たかね「…… ひびき、わたくしも、おえかきしたいです!」ムク

  響「じゃあ、早くおいでー。ちゃんとあったかい格好するんだよ?」

  響(……結露が役に立つのって、こんなときくらいだなぁ)






  響「どーだっ! 我那覇響作、題して『いぬ美とたかね』!」

たかね「ほほう…… これは、なかなかのりきさくですね」

  響「カンペキだから、絵だってすらすら描けるのさー。たかねもいぬ美も毎日見てるし」

たかね「しかし、このわたくしにはいっぽ、およばないようです」フフン

  響「そういえばたかねの描いたの見てなかったな、どれどれ?」




たかね「どうですか。わたくしのうでまえに、こえもでないようですね、ひびき?」

  響「こっ…… これは!?」

たかね「これこそは、だいして」

  響「すごいぞ、アメーバ上手に描けたな! え、たかね、見たことあるの?」

たかね「あめえば!?」


【明】

たかね「おや…… ひびき、あそこにみえるのは、おつきさまですか?」

  響「そうだよ。時期によって、朝とか昼とかでも見えるのさー」

たかね「なぜですか? ひるはおひさまが、おつきさまはよるに、でるものでしょう?」

  響「えーっと、それはね……」

  響(地球の自転と月の公転が、なんて話してもわかんないだろうしなぁ……)

  響「…… きっと、お日様が一人ぼっちに見えたから、お月様が遊びにきてあげたんだよ」

たかね「ふふ、すると、あかるいようで、おひさまはさびしがりなのですね」

  響「でも案外、お月様が、一人じゃ寂しいからって会いにきたのかも」

たかね「む、りょうほうとも、ありそうです…… ひびきは、どちらだとおもいますか?」

  響「なんとなく、お月様が寂しがってそうな気がするぞ。たかねはどう思う?」

たかね「ならばわたくしは、おひさまがさびしがり、というほうをとります!」


【1520mm】

   『…… お立ちのお客様は、吊り革や手すりなどにおつかまりください……』

ガタンゴトン

たかね「どうしてでんしゃのなかには、わっかがぶらさがっているのですか?」

  響「立ってるお客さんがあれを持って、体を支えるためだよ」

たかね「いったい、どのようなてざわりなのでしょう……」

  響「いやぁ、別に、そんないいものでもないと思うけど」

たかね「わたくし、とどかないので、きになります。ひびきは、もったことがあるのですね」

  響「えっ…… え、ああ、も、もちろんだぞ、自分はたかねと違ってちゃーんと手が届くからな!」

たかね「どのようなかんじなのです? つるつるしているのですか? やわらかいのですか?」

  響「その、えっと、……まったりとして、それでいてしつこくないっていうか」

たかね「ひびき、どうしたのですか、めがおよいでいます」


【修行】

たかね「ことりじょう、あまっているかみはありませんか?」

 小鳥「紙? たかねちゃん、なにか書くの?」

たかね「はい、わたくし、おえかきをしたいのです」

 小鳥「なるほど、それなら大きめで真っ白のがいいわね。ちょっと待ってて」




 小鳥「お待たせー。これ全部コピーのし損じだから、どれだけいっぱい使っても大丈夫よ」ドサ

たかね「こんなに! ありがとうございます、ことりじょう」

 小鳥「どういたしまして。すてきな絵が描けたら、わたしにも見せてね」

たかね「ええ、もちろんです。にどとひびきに、あめえばなどとはいわせません……!」ゴゴゴゴ

 小鳥「アメーバ?」


たかね「ちなみに、ことりじょうは、おえかきはすきですか?」

 小鳥「わたし? そうね、うん、嫌いじゃないわ」

たかね「よろしければ、いっしょにおえかきはいかがでしょう」

 小鳥「じゃあ…… こっちの作業もちょうどひと段落したし、ちょっとだけ」




 小鳥「よーし、完成っと。たかねちゃんと響ちゃん描いてみたわ、どう?」

たかね「わたくしもできました! だいして、『みそらぁめんとわたく ……!?」

 小鳥「……たかねちゃん? ごめんなさい、イマイチだったかしら」

たかね「ことりじょう…… いえ、ししょうとよばせてください!!」

 小鳥「ええ!?」


【秋月律子の場合】


 律子「うーん……」カタカタカタ


 律子「……」ペラ カリカリ


 律子「…… あー…… なんか、どうにもしっくり来ない……!」


 小鳥「だいぶお疲れみたいですね。律子さん、ちょっと息抜きとかしてみたらどうですか?」

 律子「ありがとうございます。企画書、もう一息なんですよ」

 小鳥「根を詰めすぎないでくださいね。それじゃあわたし、ちょっと買い物へ行ってきます」

 律子「わかりました。お気をつけて、小鳥さん」






 律子(ううーん…… もう一息、なんて言ってはみたけど、どうにも……)

たかね「……」ジーッ

 律子(……ぐだぐだ考えてたって始まらないわね。やるしかないんだから)

たかね「あの、りつこじょう?」

 律子「…… あー、たかね? ごめん、今ちょっと手が離せないの、もう少ししたら――」

たかね「これをどうぞ」

 律子「え、これ…… 私にくれるの? あ、ありがと」


たかね「それは、ちゅぱちゅ…… ちゅっぱ、ちゅぱっち……」

 律子「ああうん、チュッパチャプスね?」

たかね「はい、そういうなまえのあめで、あまくてびみなのです」

 律子「たかね、自分で食べたらいいじゃない。これ、おやつ用に持ってきたんでしょう?」

たかね「あまいものをたべると、げんきがでるといいます、りつこじょう」

 律子「!」

たかね「おつかれのように、みえたので…… ごめいわくでしたか?」

 律子「……いいえ、助かったわ。じゃあこれ、ありがたくもらうわね」

たかね「はいっ!」






ガチャ

あずさ「戻りました~」

 亜美「ただいまー…… って、あああああーっ!?」

たかね「ひゃっ!?」ビクゥ

 律子「ちょっ…… なにごふぉ!? ほうかひはの!?」

 亜美「あ、あずさお姉ちゃん! 律っちゃんが、律っちゃんがグレちゃったぁーっ!!」

 律子「……は?」

あずさ「えっ? 亜美ちゃん、何を言っ…… ……!?」

 律子「?」

あずさ「…… あのぉ、律子さん、それ…… たばこ……、ですか……?」

 律子「え?」


 律子「たふぁこ……? ……あ、あっ、ふぇ、ひが…… ええい!」

チュポン

 律子「ほ、ほらっ違いますって! ねっ!? これ飴です飴の棒! チュッパチャプス!」

あずさ「あ、ああ…… なぁんだ! もう、びっくりしちゃいましたよ」

 亜美「…… だ・と・し・て・も、さぁ?」

 律子「こ、今度はなによ?」

 亜美「律っちゃんともあろうお方がさー、お仕事中にチュッパチャプス舐めたりしていいのかなー?」ニヤニヤ

 律子「え……、これは、その、だって!」

あずさ「うふふ、しかたないですよね~? 甘いものがほしいときって、ありますよね」ニコニコ

 律子「あ、あずささんまでっ!?」






たかね「ふふ、すっふぁりげんひになっふぁようでしゅね、りふこじょお」ペロペロ

 律子「……おかげさまでね。とりあえずそれ、私からお礼、ってことで」

たかね「ひかひ、こんふぁにおおひな、ぼうふひのあめを、いたふぁいてよいのでふか?」ペロペロ

 律子「食べながら言う台詞じゃないわよね、それ」

たかね「む…… たひふぁに……」ペロペロ

 律子「ま、たまにはそういうのもいいでしょ。危ないから、歩きながら舐めるのは絶対ダメよ?」

たかね「ふぁい!」ペロペロ

 小鳥(……律子さん、ペロペロキャンディなんて、どこで見つけてきたのかしら) ●REC


【商標登録済】

たかね「ひびき、れいのものをだしてください」

  響「例の…… ああ、あれか。ふふ、あれなら掃除機と違って怖くないもんね?」

たかね「こ、こわいのではありません! おそうじのこうりつがよいだけです!」

  響「まあ確かに、夜にあんまり掃除機使うわけにもいかないもんなー……」ゴソゴソ

たかね「おともせず、てがるにつかえますし…… それに、わたくしがたのしいです!」

  響「最後のがメインの理由だよね、知ってるぞー」




  響「じゃあ、これ。よろしくね」

たかね「はい! わたくしがこの"ころころ"で、おへやじゅう、ぴかぴかにしてみせます!」



たかね「むむ…… やはり、るすのあいだにみなが、けやはねをちらかしていますね」コロコロ


たかね「やわらかで、あまりながくないこのけは、ねこきちどののもの」コロコロ


たかね「こちらにはこまかい、わたのようなものが…… おうすけどのの、はねでしょう」コロコロ


たかね「これは…… うさえどのか、ぶたたどの、はたまた、ももじろうどのの……?」コロコロ




たかね「む。この、ながくてなみうった、しろいけは…… いぬみどののものですね」コロコロ

  響「なに言ってるのさ。どう見てもそれ、たかねの髪の毛だぞ」

たかね「なんと!?」


【弟子入り志願】

たかね「そういえば、ひびき。わたくし、ひびきにおそわりたいことがあるのです」

  響「自分に? へえ、いったい何?」

たかね「あみもののつくりかたを、おしえてください」

  響「編み物? ……セーターとかマフラーとか、そういう編み物?」

たかね「はい、そのあみものです」

  響「教えるのは全然かまわないけど…… なんで?」

たかね「…… わたくしも、ゆくゆくは、まふらーやぼうしをつくれるようになりたいのです」

  響「ふーん? まあ、なんにでも興味もつのはいいことだぞ!」


  響「たかね、最初はなにを作ってみたいの?」

たかね「はじめてあむのに、おすすめはなんでしょうか」

  響「定番は…… やっぱりマフラーかな。セーターとか帽子とかは、立体的で難しいからね」

たかね「それならば、まふらーにします!」

  響「よし、じゃあ…… 毛糸はこのへんの番手がいいかな」

たかね「お、おお……!? おもっていたより、ずいぶんふといのですね」

  響「最初はこれくらいがいいよ。あんまり細いと、完成まで時間がかかっちゃうのさー」

たかね「ふむ…… まるで、おうどんのようです」

  響「言われてみれば、確かに。しかし、たとえがうどんって、ぶれないなホントに」


【What kind of color】

  響「あ、そうだ、色はどうする?」

たかね「いろ?」

  響「そう、毛糸の色。これ次第で、けっこうできあがりの印象が違うぞ」

たかね「どんないろでも、あるのですか?」

  響「だいたい揃ってるよ。こないだ自分が使ったのに似た、臙脂っぽいのとかはどう?」

たかね「…… あの、ひびき、あおいけいとはありませんか」

  響「青? なくはないけど…… でも、たかねには臙脂色、よく似合うと思うけどなー」

たかね「わたくしも、たまには"いめちぇん"をしてみたいのです」

  響「んー、じゃ、これなんかどうかな? 明るめの青、ライトブルーって感じだけど」


【前途多難】

  響「それじゃまず、作り目ってものの作り方から説明するね」

たかね「つくりめ、ですか」

  響「編み物の、土台になる部分っていえばいいかな。これを作って、そこから編み始めるの」

たかね「なるほど。よろしくおねがいします」

  響「じゃあ最初は、編みたいマフラーの幅の3倍ぶんくらい、毛糸玉から糸を引き出すぞー」

たかね「このはしっこを、ひっぱればよいのですね?」

  響「端っこ? ……ちょっと待った、たかね、玉の外じゃなくて、内側から――」

たかね「えいっ」ズルッ

コロコロコロ

たかね「おや? たまが、ころがってしまい…… はっ!?」

ねこ吉「ニャッ」 ダッ

たかね「なっ、わ、わたくしのけいとになにをするのです!?」

  響「ねこ吉っ!? なんてお約束な…… じゃなくて! こらーっ!」


【冷気と熱が両方そなわり】

たかね「わたくし、おもうのですが……」

  響「んんー? なあにー?」クター

たかね「こたつは、にんげんのかんがえた、もっともいだいなはつめいではないでしょうか……」トローン

  響「冬場はそう思うよねー…… そうだ、ちょうどいいから、別の偉大な発明も足そう」




たかね「? ……なぜ、このさむいのに、れいとうこをあけるのです?」

  響「寒いからこそ、ってね。はい」

たかね「これは…… いったい? こおっているのですか?」

  響「アイスクリームだぞ。たかねの言ったとおり、凍ってるお菓子」

たかね「おかし! ……とはいえ、こおっているのでは、たべられませんね」

  響「それが食べられるんだなー。それ、開けてみて」


たかね「しかし…… ひびき、これはいかにもつめたそうです」

  響「冷たくなきゃアイスはおいしくないぞ。こたつに入ってるんだから、寒くないでしょ?」

たかね「それはたしかに、そうですが……」

  響「ん、それじゃあまず、自分のぶん一口あげるよ。大丈夫、すごくおいしいから」

たかね「ふむ、そういうことなら」

  響「はい、あーん」

たかね「…… あーん」 パク




たかね「!! つ、つめた…… あま! おおお!?」

  響「ね、おいしいでしょ」

たかね「あまくて、おくちで、とけて…… ああ、なくなってしまいました!?」

  響「どう? もっと食べたくなった?」

たかね「ひ、ひびき、わたくしのぶんは、どうやってあけたらよいのですかっ!」ワタワタ

  響「ふふ、焦らなくてもアイスは逃げないぞー。ほら貸して、開けてあげるから」


たかね「ああ…… なんという……! つめたくて、あまくて、とろけて……!」パクパク

  響「これもすごい発明だと思うんだよね。凍ってるのに、こんなにおいしいなんてさ」パク

たかね「ええ、ええ、まことに」パク

キーンッ

たかね「!?」

  響「たかね、どうかしたの?」パク

たかね「い、いたあぁぁぁっ!? あ、あたまが、きーんとなって……!!」

  響「…… あー、冷たいもの食べるとそうなる人、いるらしいね」

たかね「ひびきは…… ひびきは、いたくならないのですか!?」

  響「うん。自分はそれ、経験ないんだ」パク

たかね「そんな、めんような…… っ! ふこうへいです!! ああ、いたた……!」


本日の投下は、これでおしまいです。


【Catch!】


  響「……うん、たぶん、ただの風邪だとは思うんだ」


  響「熱が出てるくらいで、あとはちょっと咳をしたりとか」


  響「とりあえず、家にあった風邪薬は飲んだから、少しはマシになったと思う」


  響「うーん、もっとひどくなるようなら考えるけど…… でも、ほら、保険とかさ……」


  響「えっ? ああ、学校の方は大丈夫だぞ、もう連絡入れといたから」


  響「ごめんプロデューサー、迷惑かけて。みんなにもよろしく伝えといてね。うん、それじゃ」


ピッ


  響「さてと、お待たせ。たかね、気分はどう?」

たかね「…… ゆうべよりは、けほ、だいぶ…… らくです」


【くーるだうん】

  響「うん、お薬、きいたみたいだね。熱はまだあるけど、ちゃんと下がってるよ」

たかね「そうですか…… じぶんでは、よく、わかりません」

  響「だよね。あんまり気にしなくていいぞ」

たかね「はい……」

  響「とはいえ、まだ冷やしといたほうがよさそうだな…… 冷えピタ、交換しとこう」

たかね「おでこの、これですか?」

  響「そう、貼ってるやつ。今ついてるぶん、ぬるくなっちゃったでしょ?」

たかね「そうですね…… もう、ひんやりはしません」

  響「ん、よし。じゃ、新しいのと替えようね」

たかね「こころえました…… ただ、あの、ひびき?」

  響「なあに?」

たかね「ゆっくり、おねがいします。きゅうに…… ひやっとすると、どきっとしますゆえ……」


【ただでは寝ない】

たかね「…… おねがいが、あるのです、ひびき」

  響「なぁに、たかね。なんでも聞くよ」

たかね「わたくし…… らぁめんが、とてもすきです」

  響「うん、知ってるぞ…… ラーメン食べたい? 作ってこようか?」

たかね「もし…… もし、わたくしの、やまいがなおったら……」

  響「たかね……」

たかね「そのときは…… かっぷめんを、まいにちたべてもよいという、やくそくを……」

  響「ちょっと待って、ホントに熱あるんだよね?」

たかね「……げんちをとりそこねましたか」

  響「!?」


【見舞い客ズ】

  響「なにか食べられそうなもの用意してくるよ。自分、見えるとこにいるから、大丈夫だよね?」

たかね「はい…… もちろんです。わたくし、もう、ごさいですから……」

  響「そうだったなー、えらいぞたかね。眠かったら、気にしないで寝ちゃっていいからね」ナデナデ




たかね「…… おや、いぬみどの、ねこきちどの。わざわざ、きてくれたのですか」

たかね「はむぞうどのに、しまおどの…… うさえどの、ぶたたどのまで」

たかね「ふふ、おうすけどのと、ももじろうどのが、そろってとぶのは、はじめてみました……」




たかね「へ、へびかどの、わにこどの…… おきもちは、まこと、こころから、うれしいのです」

たかね「ただ…… あの、ごはんのおすそわけは、あの、ほんとうに、けっこうですので、ひぃ」


【ド定番】

  響「昔から、風邪をひいたときにはこれって決まってるんだぞ」

たかね「……だれが、きめたの…… ですか?」

  響「さあ…… ふふ、そう言われてるだけで、ほんとは誰でもないんだろうね」

たかね「ひびき…… それは、なんですか」

  響「食べたときのお楽しみ。きついだろうけど、何かおなかに入れたほうがいいからさ」

たかね「…… いちり、ありますね。では……」

  響「ああ、いいよ、食べさせてあげる。ちょっとだけ体起こすよ?」

たかね「はい…… おねがいします」

  響「ん、しょっと…… よし。じゃあ、はい、あーん」

たかね「あーん……」


たかね「…… ひんやりして、ここちよいです」ムグムグ

  響「よかった。これなら熱があるときでも、すっと食べられるからね」

たかね「これは、おりんごですね?」

  響「そう、すりおろしたりんご。蜂蜜と、ちょっとだけショウガも足してるの」

たかね「おいしいです…… まだ、ありますか?」

  響「たかねならきっとそう言うと思って、たくさんすっといたよ。はい、あーん」

たかね「……あーん」

  響「自分もひどい風邪のときは、あんまーに食べさせてもらってたさー。懐かしいなー」

たかね「んむ…… たいへん、びみです。もうすこし、ください、ひびき」

  響「しっかり食べて、早くよくなるんだぞ。ほら、あーん」


【"FAIRY" Tale】

たかね「ひびき。ねむれないので、なにか、おはなしをしてほしいです」

  響「え? ああ、お話、お話かあ…… どんなのでもいい?」

たかね「はい!」




  響「――とある南の島にね、元気な女の子がいたんだ」

たかね「おんなのこ……」

  響「その子は、家族に大事にされて、すくすく元気に育ったの」

たかね「ふふ、わたくしとにています」


  響「大きくなって、どうしてもやってみたいことができたその子は、住んでる島を離れることにした」

たかね「かぞくからはなれて、ひとりになるのは、さびしかったでしょうね」

  響「きっとね。人前じゃ泣かなくても…… ひとりの時とかは、どうだっただろうなー」

たかね「そのこは、やってみたいことは、できたのでしょうか?」

  響「ふるさとから離れてまで始めたことだから、すごく頑張ったんだ。寝る間もないくらい」

たかね「すごい…… わたくしには、なかなかまねできそうにありません」

  響「でも、出てきたばっかりで友達もいないし、やっぱり大変だしで、くじけそうになっちゃったの」

たかね「ああ、むりもないことですが…… それから、それからどうなったのです?」

  響「そこで、同じ目標を持った友達ができたんだ」

たかね「おお! それはいったい、どのような?」


  響「それがまあ変わった友達でさ、実力はあるし性格もいいんだけど、どこか抜けてるの」

たかね「ぬけている、とは?」

  響「うーんと…… そうだなぁ、ちょうどたかねみたいな感じ」

たかね「し、しつれいな!?」

  響「…… とまあ、それで、友達もできた女の子は、改めて目標に向かって頑張った」

たかね「みかたもできて、がんばりやさんですから、きっと、うまくいったのですね!」

  響「ところが、そうでもなかったのさー」

たかね「え?」

  響「その子と友達は一緒に大きな勝負をしたんだけど、負けちゃったの」

たかね「なんと……」


  響「悪いことって続くもので、負けたのを理由に、それまで味方してくれてた人に見放されちゃって」

たかね「それは、あんまりです。だれだって、いつもかてるわけではないのに」

  響「たかねの言う通りだぞ。でも、それでも許してもらえない場合って、あるんだよね」

たかね「しかし…… うう、それでは、そのこと、おともだちは……」

  響「そう、目標は変わらずあるんだけど、そこからどうしていいかわからなくなっちゃった」

たかね「……」

  響「…… でもね、悪いことばかりでもなかったのさー」

たかね「なにかいいことがあったのですか?」

  響「行くところがないなら一緒においで、がんばろう、って誘ってくれる人たちが現れたの」

たかね「お、おお!!」


  響「ちょっと悩んだけど、その子も友達も一緒に、その誘いを受けることにしたんだ」

たかね「ばしょはちがっても、こころざしがあれば、がんばれますからね」

  響「そうだね。いろいろ変化があった分、苦労もあったみたいだけど」




  響「そうやってその子が新しい居場所を見つけたところで、お話はおしまい。おもしろかった?」

たかね「ええ、とても、それで、いま、そのおんなのこは?」

  響「さあ、どうなったのでしょう…… たかねは、その子がどうなってると思う?」

たかね「わたくしの、かんですが…… おさないながら、よくできたしゅくじょと、くらしていそうです」

  響「…… ふふ、さて、どうだろうね?」


【いまいるもの】

  響「さて、たかね、ほかになにか欲しいものとか、食べたいものとかはない?」

たかね「たべたい、もの……? ほしいもの……」

  響「うちに今ないものなら、言ってくれればすぐ買ってくるよ」

たかね「…… そうですね、とくになにも、いりません」

  響「そう? 冷たいものとかいらない? ほら、前に飲んだアクエリとか、アイスとかさ」

たかね「いまのところは、だいじょうぶそうです」

  響「そっか。あ、もし気を遣ってるんだったら、遠慮なんかしなくても――」

たかね「ですので、ひびき…… わたくしが、ねむるまで、てをにぎっていてくれませんか?」

  響「……ふーん、それだけでいいの? お安い御用だぞ」


本日の投下は、これでおしまいです。


【まなばない】

  響「たかねー! ほーら起きた起きた、朝だよ朝ーっ!」

たかね「…… くうう、すぴいいー」

  響「わざとらしい寝息立てたってダメだぞ。目が覚めてるの、わかってるんだから」

たかね「ですが、ひびき、おそとはさむいです」モゾ

  響「確かにね。でもそこをえいやっ! と起きちゃえば大丈夫さー」

たかね「しかし、このおふとんのぬくもりは、なにものにもかえがたく……」

  響「……実はきょう、雪が積もってるんだけど」

たかね「まことですかっ!?」ガバ

  響「まことまこと。さ、見に行っておいでよ」

たかね「はいっ!」タタタ






たかね「どこにもつもっていないではありませんか! だましたのですね!?」

  響「…… たかね、これでひっかかるの何度目だっけ。そろそろ気づこうよ」

たかね「ああっ!? いまのあいだに、おふとんをあげてしまうとは! なんとひれつな!」

  響「ここまでチョロいとかえって不安になってくるぞ、自分」

たかね「おに! あくま! いけず! ひびき!!」

  響「はいはい、まず顔洗っておいでー」


【櫛にながるる】

  響「今に始まった話じゃないけど、頭が毎朝すごいことになるよね、たかねは」

たかね「わたくし、かたにはまらないおなごなのです」ボワン

  響「なんの自慢なんだか…… 梳かしてあげるからほら、こっちおいで」

たかね「はい、いつもどおり、おねがいいたします」ボワ-




たかね「…… なぜ、わたくしのかみはこうなるのに、ひびきはならないのですか?」

  響「うーん、なんでかなぁ。髪の質とか?」

たかね「そうです! きっと、わたくしのかみのほうが、ひびきのものよりげんきなのです!」

  響「なるほどね。でも、それを言うなら、自分の髪のほうがおしとやかなのかもよ?」

たかね「むっ…… ちがいます、しゅくじょのわたくしのほうが、おしとやかです!」

  響「あー、こら、あんまり動かないでよ、うまく梳けないからさ」


【あさらー】

  響「さてと。きょうはパンとごはん、どっちが食べたい?」

たかね「ときにひびき、わたくし、こんしゅうぶんのかっぷめんを、まだいただいておりません」

  響「そういえばそうだなー…… って、たかね、まさかと思うけど」

たかね「あさ、しょくしてはいけない、というるーるは、ありませんでしたね?」

  響「ええー…… ホントに? 夜とかの方がよくない?」

たかね「これはわたくしの、せいとうなけんりです! ひびき、らぁめんをください!」




たかね「ひさかたぶりの、たいめん……! ああ、おなつかしゅうございます!」

  響「…… うがー、見てるだけで胃にきそう。よく朝からそんなの食べられるなぁ、たかね」

たかね「ふふ、あさのらぁめんはきん、ひるのらぁめんはきん、よるのらぁめんはきん、ともうしますよ?」

  響「自分の人生で間違いなく初耳だぞ、それ」


【in a sense】

たかね「ひびき、このうわぎなら、したはなにがおすすめですか?」

  響「そうだなぁ。このスカートとか、合うと思うよ」

たかね「ふむ、これが、こおでぃねえと、というものなのですね」

  響「そういえばたかね、最近は、自分で何着ていくか決めなくなったなー」

たかね「…… はなすも、くつじょくなのですが」ギリギリギリ

  響「え…… えっ、屈辱? なにが?」

たかね「ひびきにふくをえらんでもらったひは、みな、『おしゃれだね』といってくれるのです」

  響「そりゃ当然さー、カンペキな自分のチョイスだからね!」

たかね「そして、わたくしがじぶんでえらんだときは……」

  響「選んだときは……?」

たかね「……『きばつだね』『さすがたかねちゃん、めんようだね』などと!!」

  響「えーっと……、それもさ、みんなきっと褒めてくれてr」

たかね「みえすいたきやすめはおやめなさい!!」クワッ

  響「うん、ごめんなさい」


【カンガルー状態】

たかね「うう、かぜがしょうしょう、こたえます……」

  響「駅のホームって、壁がなくて吹きさらしだからねー」

たかね「ひびきのうわぎは、ぶあつくて、あたたかそうです」

  響「ダッフルコートって言うんだぞ。もともとは漁師さんが海で着てたやつ」

たかね「なるほど……」ブルブル

  響「…… あ、そうだ、いいこと思いついた。たかね、こっちにおいでよ」

たかね「いいこと? なんでしょうか、たのしいことですか?」トコトコ

  響「ふふ…… よっと!」バサッ

たかね「ひゃあ!?」






  響「どう? 寒いの、少しはマシになったでしょ?」

たかね「はいっ! ぽかぽかです! だっふるこおとは、いだいですね」

  響「だぼっとしてる分、たかねくらいならこうやって、一緒にくるんであげられるからなー」

たかね「それにひびきも、わたくしがくっついたぶん、よりあたたかでしょう?」

  響「うん、お互いいいとこどりさー。 ……おっ、電車来たよ」

たかね「でんしゃのなかでも、このままがいいです、ひびき」

  響「えー、さすがにそれは暑苦しくない?」

たかね「さきほどまで、たいへんさむかったので、しばらくだんをとらせてください!」ヌクヌク


【立ち往生】

  響「はいさーい! ピヨ子、おはよーっ」

 小鳥「おはよう響ちゃ…… あら? たかねちゃんは?」

  響「ふっふっふっふ…… たかねなら……」


たかね「ここにおります!」ヒョコッ


 小鳥「ピヨッ!?」


  響「へへー、どうどう? びっくりした? 人間カンガルー、なんちゃって!」


たかね「ふふっ、おどろいたでしょう、ことりじょ…… あの、ことりじょう?」

  響「ん、あれっ、ピヨ子……?」

 小鳥「」ダラダラ




たかね「ひびき。ことりじょうはなぜ、はなぢをながしているのですか?」

  響「…… ええっと、その、ちょっと衝撃が強すぎたのかも」

たかね「それになぜ、ほほえみをうかべて、たちつくしているのですか?」

  響「だいたい察しはつくけど、とりあえず幸せそうだからいいってことにしとこう、ね」


【水瀬伊織の場合】

 伊織「……なあに、人のことじっと見て」

たかね「いおりはいつも、そのうさぎさんをつれているのですね」

 伊織「そう、だけど…… なによ、なんか悪い?」

たかね「いえ、うさぎさんがとてもかわいらしいと、わたくし、つねづねおもっておりまして」

 伊織「えっ…… あ、そ、そう? ふーん、なかなか見る目があるじゃない」

たかね「もしよろしければ、わたくしにも、だかせてもらえませんか?」

 伊織「…… 仕方ないわね、そーっとよ? 落っことしたりしたら承知しないんだから」

たかね「は、はいっ! こころします」


たかね「おお…… このうさぎさんは、ふわふわで、てろてろです」

 伊織「……シャルル、よ」

たかね「え?」

 伊織「この子の名前。シャルルっていうの」

たかね「しゃりゅ…… しゃ、しゃるりゅ……」

 伊織「…… あー、そうだった、あんた元々カタカナはダメだったわね……」

たかね「はい…… どうにも、はつおんがふえてで……」

 伊織「じゃあ仕方ないわね、特別に、"うさぎちゃん"って呼んでもいいわよ」

たかね「うさぎちゃん……どの?」

 伊織「殿、はなくても…… まあいいわ。あ、そうそう、間違っても"うさちゃん"じゃないからね」

たかね「こころえました。うさぎちゃん……どの、うさぎちゃんどのですね!」


 伊織「ところでたかね、あんたのど渇いてない?」

たかね「はい? いえ、さほどは」

 伊織「そうかしら。ここ、結構乾燥してるし、それなりに渇いてるはずよ」

たかね「ふむ……、そういえば、しょうしょう……」

 伊織「そ、じゃあちょっと待ってなさい」

たかね「?」




 伊織「はいこれ。シャル…… うさぎちゃんから、お近づきのしるしよ」コト

たかね「これは…… おれんじじゅーす?」

 伊織「そうよ。のどが"すっっごく"渇いてるならしょうがないわ、ちょっとだけ分けてあげる」

たかね「まことですか! ありがとうございます、いおり。では、さっそく……」


 伊織「……どう?」

たかね「びみです…… これはたいへんにびみです! まさに、かんろ!」

 伊織「ふ、ふん、当然よ。この伊織ちゃんが愛飲してる特製なんだから」

たかね「いおりは、いつもこのようなおれんじじゅーすをのんでいるのですか?」

 伊織「まあね。あ、勘違いしないでよ、特別に今日はちょっと分けてあげただけで――」

たかね「…… これからはもう、いただけないのですね」ウルッ

 伊織「え…… ……えっと、その」

たかね「いまいただいたぶんが…… こんじょうの、わかれのさかずきに……」ウルウル

 伊織「…… あー、もう、大げさなんだから。今後あげない、とは言ってないでしょ」

たかね「!」

 伊織「のどが渇いてしょうがない、ってときは言いなさい。分けてあげなくもないから」

たかね「……いおりっ! いおりが、まばゆくかがやく、めがみにみえます!」キラキラ

 伊織「な、なによ、やめなさいよ…… もう、現金なんだから」


【黒蝸牛】

 真美「…… ショージキ、真美はこれ、いらないかなぁ」

 春香「ううーん、といって、捨てるのもなんだかね…… どうしよっか」

たかね「おや? ふたりとも、どうしたのですか?」

 真美「あ、おひめっち。いやー、これなんだけどさあ……」

たかね「…… なにか、どくとくなにおいがしますね」

 春香「今日収録のあった番組で扱ってた余りを、スタッフさんがくれたんだけど……」

たかね「この、くろいうずまきのようなものは、いったいなんですか」

 春香「一応、分類上はお菓子なんだよ。……分類の上では、ね」

たかね「おかし!?」キラキラ

 真美「ちょっとはるるん、それフェアじゃないって。おひめっち反応するに決まってるじゃん」


たかね「す…… しゅ、しゅにぇけん?」

 真美「おしい、ちょーっと言えてないなー。"シュネッケン"っていうんだって」

 春香「ただ、番組内での触れ込みからして…… 世界で一番まずいグミ、っていうコピーで……」

たかね「ぐみ……? おかしなのに、おいしくないのですか?」

 春香「……うぷっ、おえ」ズーン

たかね「!?」

 真美「はるるん!? まずい、フラッシュバック起こしてるYO!」

たかね「そ、それほどまでに……」

 春香「…… その、なんていうか、養命酒に漬けたタイヤを噛んでるみたいな……」

たかね「たいや……? ようめいしゅ?」

 真美「真美もほんのちょっとかじったけど…… お菓子っていうか、食べ物とは認めたくないかな」


 春香「うん、だから、こればっかりはたかねちゃんもやめといた方がいいよ」

たかね「…… しかし、おかしはおかしなのですね?」

 真美「いやいやいや、おひめっち。よーく考えてみなよ、この見た目とにおいなんだし」

たかね「いえ、いただいてみます」ヒョイ パクッ

 真美「うえええっ、マジで!?」

 春香「そんな、丸ごとなんて自殺行為だよたかねちゃん!!」

たかね「……ふむ? それふぉろ、ひろいあじれもないれふが?」ムグムグ

 春香「ええーっ!? いや、たかねちゃん、ホントに無理しなくていいんだよっ!?」

 真美「はるるんですら素のリアクションしたんだよ!? 耐えても別にえらくないよおひめっち!」

たかね「んく…… かんぽうやくのようで、なかなかにいけます」

 真美「…… うわー、マジかー。はらぺこおひめっち、おそるべし、だぜぃ……」

 春香「ねえところで真美、はるるん"ですら"ってどういう意味かな」






たかね「ひびき。きょうは、はるかとまみから、めずらしいがいこくのおかしをいただきました」

  響「へえ、ほんと? よかったなー! ねえねえ、それって自分のぶんもある?」

たかね「もちろんですよ、たくさんあります。かえったら、いっしょにたべましょう!」

  響「いいねー、どんなのか楽しみだぞ」




  響「な、なにこれ、どう見ても食べ物じゃないでしょ!? たかね、絶対だまされてるって!!」

たかね「ひびき! なぜにげるのです! みためのわりにびみですから、ほら、さあ!」

  響「や、やめ、いらないってば…… ちょっ、口に、むぐっ!?」

たかね「どうです? かおりたかく、ほのかなあまみと、にがみが…… ……ひびき?」




      \ うぎゃーっ /


【らいくらいすけーき】

  響「……」ボー

たかね「……」ポケー

  響「……」




  響「……」ムニ

たかね「…… にゃにを、ひゅるのでふ、ひびひ」

  響「なんか、たかねのほっぺ、お餅みたいだなーと思って」

たかね「はなひてふだはい」

  響「よく伸びるなあ、ほんとにお餅みたい」ニュー

たかね「ひゃめなはい、ひゃめゆのでふ」

  響「なに言ってるかわかんないぞー」ムニュー






たかね「……わたくし、たいへんくつじょくをあじわいましたので、やりかえします」ゴゴゴ

  響「でも、自分のほっぺはそんなにぷにぷにしてないよ」

たかね「もんだいはそこではありません。おもうさま、つねられたことです」

  響「力もそこまで入れてたつもりはないけどなぁ」

たかね「もんどうむよう! ひびき、むくいをおうけなさい!」バッ




  響「手触りも含めて、やっぱりお餅だなぁこれ」ムギュ

たかね「ひ、ひひょうな! ひびひ、てをのふぁふのは、ひひょうでふ」ジタバタ

  響「あはは、今度もなに言ってるかわかんないなー」ムニー

たかね「めんひょうにゃーっ!」


本日の投下は、これでおしまいです。

なお、これも今更ですが、脱字の訂正をさせていただきます。

>>286
× たかね「…… ところで、まさかとおもいますが、ひびき…… ぶたたは、いずれ……?」

○ たかね「…… ところで、まさかとおもいますが、ひびき…… ぶたたどのは、いずれ……?」

あれ放送局どこなんだろ


【摘出】

  響「よいしょっと……」ゴソゴソ

たかね「おふとんというのは、そとがわと、うちがわがあったのですね」

  響「この外側のはシーツっていうんだよ。いい天気だし、ちょうどいいから洗っとこう」

たかね「うちがわのほうはあらわないのですか?」

  響「そっちは洗うんじゃなくて、干すの。ふかふかになって気持ちいいよ」

たかね「ふかふか……! なんと、かんびなひびきでしょう」

  響「よーし、じゃあたかね、ベランダに出すの手伝ってくれる?」

たかね「はいっ!」


【お砂糖てんぷら】

たかね「ごはんには、まだはやいきがしますが…… ひびき、おりょうりをするのですか?」

  響「うん、明日は久々に事務所におみやげ持って行こうかと思って」

たかね「なにができるのです?」

  響「自分の地元の名物でね、サーターアンダギーっていうの」

たかね「さ、さーた……?」

  響「だから、"サーターアンダギー"だぞ」

たかね「さー、しゃーた……、しゃ、さーた、あんだ、ぐゅ」

  響「……」

たかね「さ、さた、あん…… それは、いったいなんですか」

  響「あー、たかね、うまく言えないからってごまかしたなー?」

たかね「ちがいます! きょうは、その、したのちょうしが、しょうしょう……」

  響「名前がちゃんと言えない子には、タダじゃ教えてあげられないなー」

たかね「せっしょうなーっ!?」


  響「ということで、詳しく知りたかったらお手伝いをしてもらうぞ!」

たかね「むうぅ、いたしかたありません」




  響「じゃあ、まずは卵を混ぜてね」

たかね「きみをつぶしてしまって、よいのですか?」

  響「うん、いいよ。どうせ全部混ぜちゃうから」

たかね「では…… しょうしょう、なごりおしいですが」シャカシャカ

  響「そこにお砂糖と、それからサラダ油も足すぞー」

たかね「これが、おさとう……? しかし、ひびき、いろがしろくありませんよ」

  響「黒砂糖っていって、これはこういう色のがふつうなの。たかね、はい、あーん」

たかね「? あーん」

  響「ほいっ」ポイ

たかね「むぐ!?」


たかね「お、おお、これは? あまいなかにも、どくとくなふうみが」ムグモグ

  響「黒砂糖って、もともと固まりやすいの。そうやって飴みたいに食べてもおいしいでしょ?」

たかね「はい、はじめてたべるあじです」

  響「やっぱり、サーターアンダギーにはこれ使わないとなー」

たかね「ということはつまり、その、さたん、だ…… それは、あまいおかしなのですね!?」キラキラ

  響「そうだよ。何度か事務所に持っていったことあるんだけど、なかなか好評だったんだ」

たかね「どのようなものができるか、たのしみです!」




  響「今度は…… 小麦粉とベーキングパウダー入れるんだけど、それ混ぜるのは自分がやるね」

たかね「む、なぜです? わたくしのうでを、しんようしないのですか」

  響「たかねにはこの後、大事な作業をしてもらいたいんだ。そのために今は休んでてよ」

たかね「なんと、そのようなじゅうようなにんむが!? わかりました! ここは、おまかせします」

  響(……粉を入れて『さっくり混ぜる』って、貴音もなかなか要領つかめなかったからね)


  響「さて、お待ちかね。たかねの出番だよ!」

たかね「まちくたびれましたよ、ひびき。うでがなります」

  響「いいかー、これ次第で出来栄えが変わるから、心してかかるんだぞ」

たかね「ほう…… のぞむところです。して、わたくしはなにをすれば?」




たかね「こ、これは、なかなかにてごわい……!」

  響「けっこう生地の粘り気があるからね、こう、ぱぱっとやっちゃった方がいいよ」

たかね「しかしさきほどは、これを、まるくするようにと」

  響「だいたいでいいのさー、だいたいで。同じくらいの大きさになってれば」

たかね「くっ、この、ぬ、むむ…… てに、くっついて!」

  響「うーん、ちっちゃいたかねにはまだ難しかったかなー?」

たかね「そ、そんなことはありません!」


  響「初めてでこれなら上出来さー、よくがんばったね」

たかね「なかなかのしれんでしたが、わたくし、やりとげました!」

  響「うんうん、ご苦労だったなー、たかね。あとは自分にまかせといて!」

たかね「もうおてつだいはよいのですか?」

  響「うん、今からは油とか使うし、危ないからね。いぬ美やみんなと遊んでてよ」

たかね「しょうちしました!」




  響「おー、よしよし、いい色になってきたぞー」ジュウウゥゥ

たかね「あのう、ひびきー? ほんとうに、わたくしのたすけは、いりませんかー?」

  響「大丈夫ー! それより油がはねると熱いからなー、しばらくこっち来ちゃダメだぞー」ジュワ-


いぬ美「……! ばうっ!」

たかね「いぬみどのも、わかりますか? とてもあまくて、こうばしいかおりです!」ワクワク




  響「できたぞー、お待たせっ!」

たかね「おお! これが、さーて…… さ、しゃーたんだぎゅう!」

  響「そう、サーターアンダギー、ね」

たかね「おや? わたくしがせっかくまんまるにしたのに、ひびがはいっています」

  響「ああ、これはね、油で揚げるときにふくらむから、かりかりになった表面が割れるの」

たかね「なるほど…… ところで、ひびき」

  響「どうかした?」

たかね「これを、じむしょへのおみやげにするなら、ひつようなことがありますね?」

  響「必要なこと? えーと、なにかなぁ?」

たかね「もちろん、おあじみです! あじをみないで、みなにわたすわけにはいきません!」キラキラ

  響「あはは! たかねなら絶対、そう言うと思ってたよ」


たかね「では…… あ、あちちっ!?」

  響「こら、揚げたてだから熱いのも当然だよ。もうちょっと待っといたほうが……」

たかね「いいえ! あげたてだからこそ、いまいただくのがれいぎ!」

  響「まあ確かに、作ったほうとしてはその方がうれしいけどさ」

たかね「でしょう? それでは、いただきます!」




たかね「んん! んむ、はむ……! こへは…… んく、これは!」

  響「どうどう? これは自分よく作るし、けっこう自信あるんだけど」

たかね「…… ひとつだけでは、はんだんできないので、もうひとつ、いただくひつようがあります!」

  響「ふふ、適当なこと言っちゃって、食いしん坊なんだから」

たかね「おあじみも、だいじなおてつだいです。ひびき、はやくつぎをください!」

  響「はいはい、ちょっと待っててねー」


【スライディング】

たかね「とりこんだおふとんが、まだあたたかで…… それに、よいかおりがします」スンスン

  響「お日様のにおい、ってやつさー。自分、このにおい、大好きなんだ」

たかね「わたくしもとてもすきです!」

  響「なんだか落ち着くよね。あ、そうだ、たかね、ねこ吉どこにいるかわかる?」

たかね「ねこきちどのなら、さっき、おとなりのへやでねていましたよ」

  響「ホント? じゃあちょうどいいや、さっさとお布団にシーツかけちゃおう」

たかね「はて…… ねこきちどのがいると、なにか、もんだいがあるのですか?」

  響「そうなんだよ、あの子、シーツとふとんの間のすきまに突っ込んでくるの。ズサーって」

たかね「しーつと、おふとんのあいだ? というと、ずいぶんせまいのでは……」

  響「その狭さが猫には魅力的みたい。よくわかんないけどさ」

たかね「めんような…… ねこきちどのは、いったいなにがたのしいのでしょうか」






  響「んしょ…… ファスナー開けてお布団突っ込むの、意外とめんどくさいんだよね……」

たかね「……」ジーッ

  響「よしっ、と。これでだいたい入ったかな?」

たかね「……とぉーっ!!」ズサー

  響「ちょっ、ちょっとーっ!? たかね、何してんの!?」

たかね「おお!! ひびき、これはなかなかにたのしいです!」

  響「もー、せっかくねこ吉に邪魔されずに済んだと思ったら…… いいから、早く出ておいでよ」

たかね「ふかふかのおふとんのうえで、しーつがやねになり、まるで、かくれがのような」

  響「…… よーし、もうこのままファスナー閉めて、たかねも閉じ込めちゃう」ジー

たかね「な、なんと!? おまちを! まってください、ひびき!」ガサゴソ


【ともだおれ】

たかね「まったく…… ひびき、おどろかせないでください」ムス

  響「たかねこそ、ねこ吉がなんでそんなことするかわかんない、なんて言ってたくせに」

たかね「やってみなければわからないこともあります!」

  響「そりゃ確かにそうだけど、あれはやんなくていいことでしょ!」

たかね「むむむ……」

  響「ぬぬぬ……」

たかね「…… よしましょう、ひびき。このおふとんのうえでは、ささいなことです」

  響「そーだなー。ね、シーツ洗って干したお布団、気持ちいいでしょ?」

たかね「ええ、このまま…… ねむって、しまいそうな、ほどに……」

  響「もー、しょうがないなー、ちょっと寝ててもいいよ。少ししたら起こしてあげる」




たかね「……くぅ」

  響「すー…… むにゃ……」


【半分こ】

たかね「ひさしぶりに、たくさんおかいものをしましたね、ひびき」

  響「そうだね…… って、しまった、牛乳も買うんだったぞ! まあ、コンビニでいいか」

たかね「さきほどのすうぱあには、いかないのですか?」

  響「ここからだとけっこう戻らなくちゃいけないから、近いところで済ませちゃおう」




 店員「いらっしゃいませー」

たかね「すうぱあと、にていますが…… ちいさいですね」

  響「うん、そのかわり、どこにでもあるのがコンビニだから」

たかね「…… ところで、ひびき、よいかおりがします」スンスン

  響「そ、そう……? 自分はわかんないなぁ。なんのにおいだろうなー?」

たかね「こちらのほうから、ですね……」

  響「あ、たかね、勝手にうろついちゃダメだってば…… こら、ちょっと待って!」


たかね「わかりました! このあたりで、たいへんよいにおいがします!」

  響「へ、へえー…… そうかなぁ……」

たかね「ひびき、あそこのとうめいなはこには、なにがはいっているのですか?」キラキラ

  響「…… さあ、なんだろうね?」

たかね「たべものですか?」

  響「どうだろうなー?」

たかね「たべもの、ですね?」

  響「どうだr」

たかね「たべものなのですね!?」




  響「…… すみません。この牛乳と、あと、肉まんをひとつ、お願いします」

 店員「ありがとうございます。二点のお買い上げで、合計……」






たかね「その…… とうぜん、さめてしまうまえに、たべなくてはなりませんね?」ソワソワ

  響「時間的にもうすぐ夕ご飯だから、半分だけだぞ」

たかね「なんと!?」

  響「だいたい、分けなくっちゃ自分が食べる分がないしさ」

たかね「ひとつまるごと、わたくしのものではないのですか!?」

  響「欲張りだなぁ、たかねは。肉まん、自分には分けてくれないの?」

たかね「…… むむ…… いたしかたありません」

  響「よーし、決まり! まだ熱いから、自分が割ってあげるよ」


  響「はい、これ。やけどしないようにね」

たかね「……ひびき。わたくしのぶんのほうが、ずいぶんと、おおきくみえますが」

  響「んー? たかねはお子様だから、ちっちゃいほうあげたら怒るでしょ?」

たかね「な"っ、い、いつもいうとおり、わたくしはしゅくじょで!」

  響「じゃあこっちと交換する?」

たかね「う…… ぐぬぬ、ううー…… しかし、それでは……」

  響「あはは、だから、子供は我慢しなくていいんだってば」

たかね「…… あくまで、こどもではありませんが、そういうことにしておきます」

  響「よしよし。さ、冷えちゃう前に食べよ?」

たかね「はいっ! いただきます!」


【一目ゴム】

たかね「ええと…… けいとを、てまえがわにだして、あみぼうを、わっかにとおして……」

  響「そうそう、裏編みはその順序。それからどうするんだった?」

たかね「この、とおしたぼうに、けいとをまいて…… てまえに、ひきだします」

  響「ああ、ちょっと待って。そのとき、毛糸はたかねから見て反時計回りに巻かなくちゃ」

たかね「む、そうでしたね。とけいまわりの、ぎゃくですから……」

  響「そうそう、逆だから?」

たかね「おはしをもつてから、おちゃわんをもつてのほうこうです!」

  響「正解! で、最後は作り目の端っこの輪を、左の編み棒から抜くの」

たかね「…… うまくできました!」

  響「ね、慣れてきたらけっこう楽しいでしょ? ゆっくりやれば大丈夫さー」


  響「ところでさ、たかね、そろそろ教えてよー」

たかね「なにをですか?」アミアミ

  響「急に編み物やりたいなんて、なんか目的があるんでしょー?」

たかね「ですから、わたくしもじぶんでつくってみたいのです、ともうしたでしょう?」アミアミ

  響「ほんとかなぁ。それだけで、こんなめんどくさいことするの?」

たかね「それに、これはしゅくじょのたしなみともいえますし」アミアミ

  響「どうだか。本物の淑女なら編み物なんて、お付きの人にまかせてそうだけど」

たかね「ですから、ひごろはひびきにまかせて…… あっ!?」

  響「ん?」

たかね「か…… からまってしまいました! ひびき、たすけてください!」

  響「ああ、大丈夫、ゆっくり落ち着いて戻せばいいから。ちょっと貸して」






  響「ね、ほら、ちゃんとリカバリーできたでしょ」

たかね「ほっ…… つい、あせってしまいました。ありがとうございます」

  響「ところでさ、たかね」

たかね「どうかしましたか?」

  響「さっき、さらっと"日ごろは響にまかせて"って言ったよね」

たかね「…… そ、そうでした、でしょうか?」

  響「つまり淑女のたかね様は、自分のことお付きの人だと思ってるってことかなー、ん?」

たかね「え、ええと…… それはきっと、ひびきのききちがいで…… あの、ひびき?」




  響「だーれがお付きの人さー、このーっ!」コチョコチョコチョ

たかね「ひゃっ、きゃっ、きゃははははっ!?」


【いんびてーしょん】

たかね「ああ、ふかふかで、おひさまのにおいがします!」ボフッ

  響「それにシーツも洗いたてだから気持ちいいぞ。きっといい夢見られるよ、たかね」

たかね「そういえば、ひびきのおふと…… べっどは、ほさなかったのですか」

  響「あはは、ベッドそのものはさすがに無理さー。もちろん、シーツとか敷きパッドとかは干したよ」

たかね「しかしそれでは、ふかふかぐあいがたりないのでは?」

  響「うーん…… まあ、確かに。今日のたかねのおふとんにはちょっと負けちゃうかもね」

たかね「ふむ……」

  響「仕方ないからたかねに譲ったげるよ。それじゃ、おやすみ」

たかね「ひびき?」

  響「ん、なあに?」

たかね「その…… たまには、おふとんでねたいのではありませんか?」


  響「んー? そういえば、最近は自分、お布団で寝てないなぁ」

たかね「そうでしょう、そうでしょう」

  響「それに、よく干したふかふかのお布団は確かに魅力的だぞ」

たかね「ええ、わたくしがほしょうしますよ」

  響「でもなぁ、たかねが使ってるから、自分が一緒に入るわけにはいかないもんなー」

たかね「もちろん、ほんらいは、わたくしがひとりじめするところですが……」

  響「だよね。じゃあ自分はおとなしく、いつもどおりベッドに行くよ」

たかね「その…… ひびきが、どうしてもというなら、とくべつに、まねきいれてさしあげますが?」

  響「そうなの? 自分、お邪魔なんじゃないかな?」

たかね「ですから、とくべつです。ふかふかのおふとんでねられる、またとないきかいですよ」

  響「うーん、それじゃあ、お言葉に甘えちゃおうかな?」

たかね「!」パァ


たかね「さ…… さいしょから、そういえばよいのです。まったく、ひびきはすなおではありませんね」

  響「……くくっ、どっちがさ」

たかね「む。あくまで、ひびきがどうしてもというから、いれてあげるのですよ」

  響「はいはい、そういうことにしといてあげる」

たかね「それではまるで、わたくしがひびきといっしょにねたがっているようではありませんか!」

  響「あれっ、そうだと思ってたんだけど違うの?」

たかね「ち、ちがいます、わたくしは、ひびきがいうのでしかたなく」

  響「そっかー…… それじゃあ残念だけど自分、やっぱりベッドで……」ゴソ




たかね「……ごめんなさい、ひびき、うそです。ときには、いっしょでもよいでしょう? だから……」ギュ

  響「ふふ、わかってるよ、たかね。ちょっと意地悪しちゃっただけさー」

たかね「あの……、ひびきにも、ふかふかのおふとんをつかってほしいというのは、ほんとうですよ?」

  響「それもちゃーんとわかってるぞ、ありがとね。じゃ、お邪魔します」


本日の投下は、これでおしまいです。

最近は更新間隔が開き気味になってしまい、申し訳ありません。
これからもよろしくお願い致します。

>>489
ググってみた
<TVアニメ「アイドルマスター」(第1クール)再放送情報>

放送局 曜日 放送時間 放送開始日

TOKYO MX 金 24:00~ 4月17日

チバテレ 金 24:00~ 4月17日

群馬テレビ 金 24:00~ 4月17日

とちぎテレビ 金 24:30~ 4月17日

テレ玉 金 24:30~ 4月17日

tvk 金 25:00~ 4月17日

KBS京都 金 24:00~ 4月17日

サンテレビ 金 24:00~ 4月17日

岐阜放送 金 24:00~ 4月17日

三重テレビ 金 24:20~ 4月17日

TVQ九州放送 火 26:35~ 4月21日

BS11

金 24:00~ 4月17日


木(リピート放送) 25:00~ 4月23日

※放送日時は変更になる場合があります。予めご了承下さい。

そりゃそうだろ、ちなみにアニデレ二期終わったあとに14話からやるもよう

>>490

たかね「ふかふか……! なんと、かんびなひびきでしょう」

貴音「ふかふか…(おっぱい)! なんと、甘美な響でしょう」ペロペロ


貴音「ふかふか…(おっぱい)! なんと、敏感な響でしょう」ペロペロに見えた


【ホワイトアウト】

  響(…… なんだか、背中の感触が、いつもよりちょっと硬い感じがする)

  響(そうか、ゆうべはたかねと一緒に、お布団で寝たんだっけ)




  響(…… あれ? 目が覚めたと思ったのに、変だぞ)

  響(真っ白い、霧みたいな…… 全然前が見えない。どうなってるんだろう、まだ夢?)

  響(それにしても、なんか、これ…… 鼻とか、妙にむずむずする……!)

  響(って、いうか)




  響「ぷはあっ!? ……たかね! 髪の毛自分の顔にかぶせたまま寝るとかやめてよ、息苦しいよ!」

たかね「…… ん、んん、あさから、いきなり、なんでしゅか、ひびきぃ……」


【ムチン+ポリグルタミン酸】

たかね「なぜなっとうは、いとをひくのですか?」

  響「なぜ、って…… うーん、納豆菌のはたらきとかじゃないのかなぁ」

たかね「わたくし、なっとうはすきですが、このいとのしまつのわるさは、どうにも」ネバー

  響「それならあんまり混ぜないようにすれば、そこまで糸引かないよ」

たかね「それではなっとうをたべるいみがありません!」

  響「じゃあ、我慢するしかないよね」

たかね「むう…… よのなかは、いつも、りふじんにみちております……」

  響「納豆混ぜるかどうかでそこまで思い至る、ってのもなかなかすごいと思うぞ、自分」

たかね「……はっ!?」

  響「おっ? たかね、なにか悟った?」

たかね「ごはんがなくなってしまいました。おかわりをください!」

  響「ああ、うん、幸せそうでなによりだよ。お茶碗ちょうだい」


【耳が痛い(物理)】

たかね「ひびき、そのみみかざり、わたくしもつけてみたいです」

  響「え…… これ? これはそもそも耳飾りじゃなくて、透明ピアスって言ってね」

たかね「しかし、きらきらしてみえます。みみかざりでしょう?」

  響「どっちみちたかねにはまだ早いよ。これはね、大人にならないとつけちゃダメなんだ」

たかね「それならば、わたくしはもんだいないはずです! もうごさいなのですから」

  響「そっかー。 ……耳に穴、あけなきゃいけないんだけど」

たかね「えっ」

  響「それくらい、大人で淑女のたかねならへっちゃらだよね。うんうん、そりゃそうだ」

たかね「み、みみに、あなを……? それは、なにかのじょうだんですね、ひびき……」

  響「じゃあ、たかね…… さっそく、つけてみる?」ズイ




  響「悪かったってば、たかね…… 絶対穴あけたりしないからさ、出てきてよ」

たかね「いいえ! わたくし、このこたつで、てっていこうせんのかまえ!!」モゴモゴ


【=やせ我慢】

  響「今朝もスズメがいっぱい群れてるなー。やっぱり寒いから、みんなふくらんでるよ」

たかね「……」プイ

  響「おっ、今日もいつもの野良にゃんこがいるぞ。ほら、あっちの塀の上!」

たかね「……」ムスッ

  響「……ねえ、機嫌なおしてよー、たかね。おどかしたのは自分が悪かったからさー」

たかね「…… ひびきの…… ひびきのみみには、あながあいているのですか?」

  響「えっ? ああうん、さっきも言ったけど、その穴にこの透明なやつを通してるんだよ」

たかね「なにゆえです!? なにゆえにそのような、おそろしいことを!」

  響「恐ろしいってそんな。まあ、あえて理由をって言うならおしゃれのため、かな?」

たかね「みみにあなをあけなくては、よのなかでは、しゃれものとしてみとめられないのですか!?」

  響「え、ええっと…… いや、そんなことはないと思うけど……」


【穴場的物件】

  響「それじゃ自分、行ってきまーす! たかね、サーターアンダギー、預けたからね」

たかね「いわれるまでもありません。ひびきも、がんばってください」

 小鳥「響ちゃん、行ってらっしゃーい。気をつけてねー!」

 高木「うむ、たかね君のことは我々に任せたまえ。しっかり精進してくるといいよ」

ガチャ

あずさ「おはようございま~す。あら、響ちゃん、今から学校?」

  響「あっ、あずささん、はいさい! うん、ちょうどたかねを連れてきたとこだったんだ」

あずさ「そうだったわね。寒いから、風邪なんか引いちゃわないようにね」

  響「ありがと、あずささんも気をつけるんだぞ? じゃ、改めて行ってきます!」


たかね「おや、あずさ、にこにこして、なにかいいことがあったのですか?」

 小鳥「あれっ、本当ですねあずささん。なんですか、わたしにも教えてくださいよー」

あずさ「いえ、うふふ…… なんだか、社長と音無さん、響ちゃんとたかねちゃんで家族みたいだなぁって」

 小鳥「かぞ……ッ!?」

 高木「ははは、三浦君、こんなロートルとセットにしては音無君に失礼だよ」

あずさ「あら~、そうですか? 不思議ですね、全然違和感がなくって、つい……」

 小鳥(確かに年齢差は小さくないけど…… 考えてみれば、これっていわゆる玉の輿じゃ……!?)

 高木「たかね君にしても、私からすれば娘というより孫のような年齢だしね」

 小鳥(なんだかんだで一城の主、それにずっと同じ屋根の下で勤めていて気心も知れた仲!)

たかね「…… ことりじょう? やけにおもいつめたおかおで、どうしたのです?」


【はいどあんどきゃんとふぁいんど】

たかね「はて、いったい、どこへいったのでしょう……」

 小鳥「どうしたの、たかねちゃん。何か探しもの?」

たかね「おや、ことりじょう。わたくし、かくれんぼのおになのです」

 小鳥「かくれんぼ?」

たかね「はい、いま、あずさとしょうぶしているのです」

 小鳥「あずささんと? ……かくれんぼ?」

たかね「あれだけせいのたかいあずさのことです、かんたんに、みつけられるとおもったのですが……」

 小鳥「ねえ、たかねちゃん、かくれんぼ始めたのはいつごろだったかわかる?」

たかね「はい? そうですね、じゅうごふんほどまえだったかと」




 小鳥「もしもし、律子さんですか? ……ええ、そうです、事務所はわたしと社長でもう一度……」

たかね「あ、あの、これはいったい……」


 高木「音無君、一通り確認したが建物内にはもういないようだ。私も外へ出てみるよ」

 小鳥「すみません、お願いします。 ……律子さん? 今から社長も探す範囲を広げますので」

たかね「わたくしは…… どうしたらよいでしょうか?」

 小鳥「ああ、たかねちゃんは心配しなくて大丈夫よ。ちょっとあっちのソファで待っててくれる?」

たかね「は、はい!」




たかね「うう…… わたくしが、かくれんぼをしたいなどと、あずさにいったばかりに……」

ガチャ

あずさ「あっ…… たかねちゃん! いけない、見つかっちゃったわ~」

たかね「!?」

あずさ「でも、これだけの間逃げていられたって意味では、わたしの勝ちかも! うふふ」

たかね「あ、あずさ!? なぜ、きゅうとうしつから!?」

あずさ「すぐ見つけられちゃつまらないだろうし、ちょこちょこ動き回ってたのよ~…… あら?」

たかね「ことりじょう、ことりじょう!! あずさが! あずさがでました!!」


【三浦あずさの場合】

たかね「あずさ。こんごは、すわったままで、ぜったいに、うごかずにできる、あそびをしましょう」

あずさ「音無さんにも律子さんにもそう言われたし、それがよさそうね~」




たかね「そういえば、あずさは、うらないがじょうずだとききましたが」

あずさ「上手、なんて言われると照れちゃうわ。ただ好きで、ちょっとやってるだけだから」

たかね「それはやはり、おみくじや、きとうをするのですか」

あずさ「ええと…… そういう和風なのはわたし、あんまりわからないの」

たかね「というと、なにか、ようふうなしゅだんを?」

あずさ「そうね~、だいたいはこれを使ってるわね」スッ

たかね「これは…… とらんぷ? ……にしては、おおきいですね」


あずさ「タロットカード、っていうのよ。これが今のトランプの元になった、ってお話もあるみたい」

たかね「たろっと?」

あずさ「そう、タロット。全部で78枚のカードがあってね、これを組み合わせて占うの」

たかね「ほう…… いろとりどりで、しかも、たくさんのえがあるのですね」

あずさ「そうよね~。ながめてるだけでもきれいで、楽しいでしょ?」

たかね「とてもびれいです。しかし、これをつかって、なにを、どううらなうのですか?」

あずさ「占う内容も、やりかたもいろいろあるの。たかねちゃんもやってみたい?」

たかね「はい! ぜひ、わたくしのうんせいもみてください!」

あずさ「うふふ、わかったわ~。じゃあ、さっそく始めましょう」


あずさ「たかねちゃんは初めてだろうから、いちばんシンプルなやり方がいいかしら?」

たかね「そうですね、ふくざつなものは…… よしなにおねがいします」

あずさ「それなら今回は、22枚のカードだけ使ってやりましょう。まず、これを混ぜてね」

たかね「とらんぷのように、きるのですか?」

あずさ「ううん、ちょっと違うの。こうやって、テーブルにざあっと広げて……」

たかね「おお、しんけいすいじゃくのようです」

あずさ「確かに似てるわね~。これを全部、かきまわすみたいにしてもらえる?」

たかね「つまり…… こうして、うらむきのまま、まぜまぜすればよいのですね!」ワシャワシャ

あずさ「そうそう、上手上手。自分の運勢はどうなるのかな~? って、考えながらやってみてね」

たかね「はいっ!」


たかね「もう、だいたいまざったでしょうか?」

あずさ「そうね、そろそろいい感じだと思うわ。ここからは、わたしがやるわね」




あずさ「……よし、っと。それじゃ、この中から一枚、たかねちゃんの好きなのを選んでちょうだい」

たかね「むむ…… どれが、わたくしのうんせいにふさわしいでしょうか……」

あずさ「じっくり悩んでいいのよ~。そのほうが、わたしも占いがいがあるもの」

たかね「…… きめました! では、このいちまいにします!」

あずさ「決まったのね? はい、じゃあ、それを引き抜いて」

たかね「はいっ」スッ

あずさ「そしたら、そのカードをわたしに――」

たかね「さて、これは、なにがえがかれているのでしょうか」クルッ

あずさ「……あ!」

たかね「えっ……? ……な、なにか、まちがえてしまいましたか!?」

あずさ「ああ、ううん、大丈夫よ~。そうしたら、いよいよ実際に見ていくわね」


あずさ「たかねちゃんの引いたのは…… まぁ、『月』のカードだわ」

たかね「おつきさまですか! わたくし、おつきさまは、うつくしいのでだいすきです」

あずさ「うん、夜のお月様はきれいよね。それに、このカード、たかねちゃんにはぴったりかも」

たかね「わたくしに……? あずさ、なぜですか?」

あずさ「うふふ、理由は、ないしょ。さ、それじゃあ、改めて説明していくわね~」

たかね「はい……? では、よろしくおねがいします」

あずさ「その前に、たかねちゃん。わたしの言うことが絶対じゃない、っていうのは知っておいてね」

たかね「はて…… どういうことですか? あずさが、うらなってくれるのでしょう?」

あずさ「占いっていうのはね、あくまできっかけみたいなものなの」

たかね「きっかけ……」

あずさ「そう。それを聞いて、たかねちゃんがどうするか、がいちばん大事なのよ」


あずさ「『月』のカードはね、意味が難しいの。不安定とか、あいまいだとか…… 先のことがわからない、とか」

たかね「む…… あまり、よくないうんせいということですか?」

あずさ「そこだけ聞いたら、たしかにいいイメージは持ちにくいかもしれないわ」

たかね「むぅ…… なるほど……」

あずさ「でもね~? タロットカードって、描いてある絵のほかに、上下も大事なの」

たかね「じょうげ、ですか?」

あずさ「どっちが上を向いているか、ってこと。いま、たかねちゃんから見て絵の通りでしょう?」

たかね「はい」

あずさ「一般的には、占いをする側…… つまり、この場合はわたしから見て判断するの」

たかね「…… と、いうと?」

あずさ「今回は、『月』のカードで、上下は逆、ってことになるわね」


あずさ「そして、カードが逆さまになると、意味もだいたい逆になるのよ」

たかね「おお……! ということは、よいうんせいなのですね!」

あずさ「だいたいそういうこと。『月』が逆さまだから…… 希望があるとか、状況がよくなる、とかかしら」

たかね「ほんとうですか! あずさ、ありがとうございます」

あずさ「うふふ、わたしは何もしてないわ。このカードを引き当てたのは、たかねちゃんだもの」




あずさ(…… たかねちゃんがカードを引いたあと、縦方向に裏返したか、横方向に裏返したか)

あずさ(それ次第では、今回の『月』が正位置か逆位置か、変わっちゃうんだけど……)

あずさ(……いきなりめくっちゃうと思ってなかったから、どっちだったか、自信がないのよね~……)


【つまむってレベルじゃ】

ガチャ

 雪歩「ふぅー、今日は一段と寒かったね、千早ちゃん」

 千早「ええ、本当に…… お疲れ様です、戻りました」

たかね「ゆきほ、ちはや。おかえりなさいませ」

 雪歩「あっ、たかねちゃん。お迎えしてくれたの? ありがとう」

 千早「ただいま、しじ…… たかねちゃん。 ……あら、それは?」

たかね「おしごと、おつかれさまでした。これはほんじつのおやつです!」

 雪歩「もしかして、わたしたちの分をとっておいてくれたの?」

たかね「はい! ちゃんと、みなにいきわたるように、わたくしがくばっております!」

 雪歩「そうなんだ、ありがとう! じゃあわたし、さっそくお茶を淹れてくるね」パタパタ


 千早「これ、我那覇さんのサーターアンダギーね。たかねちゃんも、作るお手伝いをしたの?」

たかね「もちろんです。なにをかくそう、まるいかたちにしたのは、このわたくしなのですよ」エヘン

 千早「ふふ、とても上手ね。じゃあ、お茶を淹れてもらったら、萩原さんと一緒にいただきましょう」

たかね「はい!」

ガチャ

  響「ううー、今日も冷えるぞ…… お、千早、レッスン帰り?」

 千早「ああ、我那覇さん。ちょうど今、サーターアンダギーの話を聞いていたところよ」

たかね「ひびき! おかえりなさい!」

  響「ただいま、たかね。……ん? あれ、その数……」

 千早「? 我那覇さん?」

たかね「ど…… どうかしましたか、ひびき?」


  響「…… たかね、唇のはしっこ、食べかすくっついてるぞ」

 千早「えっ?」

たかね「なんと!? そんな、ちゃんとかがみでみて、おとしておいたはず…… はっ!?」

  響「語るに落ちたなー、たかねぇー……」ゴゴゴゴ

たかね「ひっ」




 雪歩「たかねちゃん、千早ちゃん、お待たせー。おいしいお茶が入っ……」

たかね「いひゃ、いひゃいれふ! ご、ごべんなはい、ひびひーっ」

 雪歩「!?」

  響「昨日、一人二個は食べられるようにって、数えながら一緒に袋詰めしたよね!?」ムギュー

 千早「あ、あの、我那覇さん、まだみんなの食べる分はちゃんとあるわけだから……」

  響「いーや、犬でも猫でも人でも、悪いことしたらその場で怒らないとダメなんだぞ!」ギュウウ

たかね「わたくひをよんれいたのれふ、あみゃいかおひが! くろじゃとうがー!」ジタバタ

 雪歩「ちょ、ちょっと、響ちゃん!? たかねちゃんがおたふくみたいになっちゃってるよぅ!」


  響「まったく。昨日だって、うちであんなに食べてたってのに」

 千早「まあまあ、我那覇さん。たかねちゃんも反省しているんだから、許してあげて」

 雪歩「すっごく美味しかったから、ついまた食べたくなっちゃったんだよ。ね、たかねちゃん?」

たかね「はい…… だめとわかっていながら、どうしても、りせいでおさえきれず……」ウルウル

  響「……まあ、千早と雪歩に免じて今日は許してあげるよ、たかね」

たかね「もうしわけ、ありませんでした、ひびき……」

  響「雪歩のお茶はもらっていいけど、罰としてたかねの分のサーターアンダギーはナシね」

たかね「……はい」




  響「ちょっとばたばたしちゃったけどさ、せっかくだから食べてってよ、二人とも」

 千早「え、ええ。じゃあ……」

 雪歩「うん…… それじゃ、いただき……」

たかね「……」ウルウル


  響「ああ、たかねのことは気にしなくていいって。自業自得なんだから」

たかね「……」ポロポロ

 千早(そ、そうは言っても、これは……!)

 雪歩(いたたまれないよ! この空気の中でわたしたちだけ食べるなんてムリですぅー!!)




  響「…… はー、それにしても、今日の自分のレッスン、かなりハードだったなー」

 雪歩「え?」

 千早「……我那覇さんは今日、ダンスのレッスンだったかしら?」

  響「そうそう。体力が売りの自分でもなかなかこたえてさ、あんまり食欲がわかなくって」

 雪歩「……! へえ、じゃあ、響ちゃんの分のサーターアンダギー、余っちゃうね?」チラッ

  響「んー、そうだね。おなか空いてないわけじゃないけど、半分あればいいかな」

 千早「でも、私も萩原さんもすでに1個いただいているから、量としてはこれで十分だし……」チラ


  響「あーあ、どうしよう。せっかく作ったのに、余っちゃうのはもったいないなぁ」

 千早「本当ね、こんなにおいしそうなサーターアンダギーだから、誰か食べてくれればいいのに」

 雪歩「それに一個の半分だったら、かんたんに食べちゃえる量なのにね」

たかね「……」

  響「たかね。ちゃんと反省した?」

たかね「……はい、もうにどと、しません。ごめんなさい、ひびき」

  響「じゃあ、『たかねの分』はナシだけど、自分のを半分あげる」

たかね「!」

  響「一人でこそこそつまみ食いするより、みんなと一緒に食べるほうがおいしいよね?」

たかね「…… はい…… はい、ごべんなざい…… ぎっど、おいしいでず……」グスグス

  響「もう、泣かないの。味がわかんなくなっちゃうぞ」




 千早「一件落着…… というところね。それじゃあ、私たちもいただきましょうか?」

 雪歩「うふふっ、そうだね」


【実用性はないそうです】

たかね「ひびき、これは、なにをつくっているのですか」

  響「ギョウザっていう中華料理だよ。お肉とかお野菜とかを混ぜて、この皮で包んで焼くの」

たかね「なぜ、かわはぺたんとしているのに、できあがりはおりめがあるのです?」

  響「包むときに、こうやって…… ね、ひだを寄せるみたいにしたらこうなるのさー」

たかね「ほう、おもしろそうですね。わたくしもやってみたいです!」




たかね「こ、こんどこそは、……ああっ!?」ボロッ

  響「あー、あんまり強くひっぱると、そんな感じで皮がちぎれちゃうぞ」

たかね「うう…… みているのと、じっさいにするのとで、こんなにもさがあるとは……!」

  響「慣れたら簡単なんだけどね。どうする? もうちょっとやってみる?」

たかね「だいたい、このおりめは、いったいなんのためにつけるのですか!」

  響「やれやれ。うまくできないからって八つ当たりなんて、かっこ悪いぞー、たかね」

たかね「ちっ、ちがいます! わたくし、やつあたりなどしません!」


【辛辣の辣】

  響「お待たせー。冬はお鍋で煮てもおいしいんだけど、今日はシンプルに焼いてみたよ」

たかね「なんとも、しょくよくをそそられるかおりです! はやくたべましょう、ひびき」

  響「うん、そうしよう。いただきます!」




たかね「ひびひ、ほれは、はんのびんでふは?」

  響「こーら。口に食べ物入れたまましゃべるなんて、淑女のすることじゃないぞ」

たかね「む…… ん、んく。そのびんにはいった、あかいどろどろは、なんですか」

  響「……あ、あー、これ? たかねは気にしなくていいよ」


たかね「さきほどひびきが、そのどろどろをたれにたしているのを、わたくし、ちゃんとみました!」

  響「今のままでもギョウザ、おいしいでしょ? あってもなくても大して変わんないって」

たかね「かくすあたりが、ますますあやしいですね。わたくしにも、それをください!」

  響「…… なら、ほんのちょっとだけね。お皿貸して、自分が入れてあげるよ」

たかね「いいえ、わたくし、じぶんでやります」

  響「うーん、そう? それじゃ、いきなりドバッと出ることあるから気をつけ――」

たかね「ふふふ、では、いざ!」ダバー

  響(あっちゃー)




たかね「か、からっ! あつ、いたた!? ひ、ひびき、したが、おくちが、ひりひりします!」

  響「大人の味、ってやつだよ、しっかり味わうといいさー」


【ESPと維管束】

  響「うん…… 甘くておいしい! 今回買ったぶんは当たりが多いなー」モグモグ

たかね「ええ、やはり、こたつにはみかんがなくてはなりませんね」ムグムグ

  響「そんなこと誰から聞いてきたの?」

たかね「ことりじょうが、じむしょでりきせつしておりました」

  響「あー…… なるほど、ピヨ子か…… それなら納得だよ」

たかね「さて、もうひとつとってください、ひびき」

  響「手がどんどん黄色くなっちゃうぞー?」

たかね「そのようなささいなこと、このえつらくにはかえられません!」


  響「……あ、そうだ」

たかね「ひびき? はやくわたしてください」

  響「たかね、実はなー…… 自分、超能力があるんだ」

たかね「…… はい?」

  響「証拠として、今からたかねが食べるこのみかんに、袋がいくつ入ってるか当ててみせるぞ」

たかね「なにをいいだすかとおもえば…… そのようなこと、できるはずがありません」

  響「むむむ…… んん…… よし、わかった。このみかんの袋は10個入りさー!」

たかね「はいはい、ひびきはこどものようですね」




たかね「さて、むけました! では、せっかくですから、ふくろのかずをかぞえてあげます」

  響「そうこなくっちゃね」


たかね「ひとつ、ふたつ、みっつ…… やっつ、…… ここのつ、…… とお……」

  響「ふふん、どう? 自分、カンペキだからなー」

たかね「……このみかんはひびきがえらんだからです、なにか、しかけが!」

  響「それなら今度は、たかねが好きなやつ選んでいいよ」

たかね「むむむ…… では、このとびきりおおきいもので!」

  響「よーし、じゃ、ちょっと貸して?」




  響「……わかったぞ、今度のこれは9個だ!」

たかね「いいましたね? では、わたくしがむいてたしかめます!」

  響「ん、よろしくー」






たかね「…… ほんとうに、ここのつ…… なんと…… なんとめんような……!」

  響「だから言ったでしょー、自分、超能力があるんだって」

たかね「ひ、ひびき! ぜひわたくしにも、そのちょうのうりょくをあたえてください!」

  響「ふふふ、残念だったなぁ、たかね。これは自分みたいにカンペキじゃないと使えないんだよ」

たかね「そんな! そこをなんとか!」

  響「……じゃあ、今度から朝はちゃんと起きる?」

たかね「は、はい!」

  響「もう自分が見てないときに、こっそり歯磨き粉吸ったりしない?」

たかね「もちろんです!」






  響「ほらね? こうやってヘタをはずして、裏の点々の数をかぞえれば……」

たかね「……」プルプル

  響「あれっ、たかね?」

たかね「しれものーっ! このぺてんし!」

  響「な、なんてこと言うんだ!? 自分はバカでもペテン師でもないぞ!」

たかね「このような…… このような、こてさきのまめちしきで、わたくしをたばかろうとは!」

  響「それにコロッとだまされてたのはどこの誰さー!?」

たかね「なにがちょうのうりょくですか! はじをしりなさい!」

  響「…… 『ぜひわたくしにも、そのちょうのうりょくをあたえてください』」キリッ

たかね「い、いっておりません! そのようなこと、わたくしはもうしておりません!!」


【明日には会える そう信じてる】

たかね「ひびき、こんやははれておりますね。おつきさまは、みえるでしょうか?」

  響「え? えー…… っと、この時期はちょっと無理だと思うぞ」

たかね「むっ、やってみなくてはわかりませんよ? ぼうしとまふらーを、もってきます」タタタ

  響「えっ、ちょっと、たかね! ……言い出したら聞かないの、昔からなんだから、まったく」




たかね「べらんだとはいえ、やはり、なかなかひえますね」

  響「当たり前だよ。真冬の、それも夜なんだから」

たかね「それにしても…… おや、おそらに、くもはないようなのに、みあたりません……」キョロキョロ

  響「実はね、ちょうど今の時期はほぼ新月って状態だから、夜中には見えないんだよ」

たかね「なんと…… そういうものなのですか、ざんねんです」

  響「タイミングの問題だからしょうがないさー。それより、急に月が見たいなんて、どうしたの?」


たかね「じつはきょう、じむしょで、あずさにうらないをしてもらったのです」

  響「あずささんに? ってことは、タロット使ったやつ?」

たかね「そう、その『たろっと』です! そのとき、おつきさまのかーどがでまして」

  響「へえー。よくピンポイントで引けたなぁ、たかね」

たかね「あずさにもいわれたのですが、おつきさまとわたくしは、なにかかんけいがあるのですか?」

  響「関係…… っていうか、イメージみたいなものかな」

たかね「ということはつまり、わたくしは、おつきさまのようにうつくしいのですね!」

  響「どうかなー? やせてるようですぐまるまると太っちゃう、ってことかもよ」

たかね「な、なんということを!? わたくし、そんなにふとっておりません!」


たかね「さておき、あずさによれば、わたくしのみらいは、きぼうにみちあふれていると!」

  響「おー、いいなぁ! あずささんの占い、よく当たるって事務所でも評判なんだぞ」

たかね「なんといってもわたくしですから、とうぜんです」

  響「…… えーっと、あれ? で、それと月を見るのとはなにかつながりがあるの?」

たかね「いえ? さいきん、あまりみていないとおもったので」

  響「なんだ、そうなのか。もう少しして年末とか、年が明けるころになれば、また綺麗に見えるよ」

たかね「そういうことなら、いたしかたありませんね。こんやはあきらめましょう」

  響「あれ、今日はずいぶんものわかりがいいなぁ、たかね」

たかね「む…… どういういみです? まるで、ひごろ、ものわかりがわるいようにきこえますが」

  響「あはは、気のせい気のせい。じゃあ月が見られなかった残念賞ってことで、ココア作ってあげる」

たかね「なんと! まことですか!? ならば、わたくしのぶんのましゅまろは」

  響「もちろん、いつも通り、ふたつだよね? ほら、寒いから、部屋に戻ろ」

たかね「はいっ!」


本日の投下は、これでおしまいです。

またしても今更ですが、誤字の訂正をさせていただきます。

>>102
× たかね「かってのわからないないばしょで、うかつにうごいてはなりませんね……」

○ たかね「かってのわからないばしょで、うかつにうごいてはなりませんね……」

投下の間が今まで以上に大きく空いてしまい、大変申し訳ありません。
よろしければ今後もどうぞお付き合いください。

なお>>512では『間隔が「開き」気味に』と誤変換までしておりました。
今後気をつけます。


【おおかみ少女】

  響「すごいよっ、たかね! 早く起きて、早く早く!」

たかね「…… んん…… いちおう、たずねますが、なにがあるのですか」モゾモゾ

  響「雪だよ! きれいに積もってるんだ、ホワイトクリスマスになったぞ!」

たかね「ひびき。わたくし、きょうというきょうは、だまされませんよ」

  響「今までさんざん引っかけたのは悪かったってば。今日こそは、ホントにホントだから!」

たかね「ふっ…… そのてにはもう、かかりません。わたくし、きょうこそはひゃああっ!?」

  響「えーい、それなら実力行使! このまま抱えて窓際まで連れてってやるさー!」

たかね「ひ、ひきょうなっ!? くちでかてないからと、ちからにうったえるなど、やばんで……」




たかね「…… ふわあぁ、すごい!! いちめん、まっしろです!!」

  響「ねっ、言ったとおり自分、今日はウソついてないでしょ?」

たかね「ひ、ひびき、はやくおそとへでましょう! いっこくもはやく!」

  響「まずはご飯食べてからね。これだけ積もってたら、すぐにはとけないから大丈夫」


【だいのじ(XS)】

たかね「ひびき、ひびき、みてください、みわたすかぎり、ゆきが……!」

  響「うん、すごいなー! こんなに積もったのは自分もあんまり見覚えないよ」

たかね「はやく、はやくまいりましょう!」タタタッ

  響「ちょっと、気持ちはわかるけど落ち着いてってば、たかね。そんなに走ったら――」

たかね「ふふ、ついてこないのなら、わたくしゅぶほっ」ボスッ

  響「うわああっ!? だ、だから言ったのにーっ! 大丈夫!?」

たかね「……」ムクリ

  響「あーあー、顔がまっしろだぞ。ほら、じっとしてて、雪払ってあげるから」

たかね「……とうっ!!」バフーッ

  響「え、ええっ!? たかねっ、なんでわざわざ自分からっ!?」

たかね「……」ムクッ

  響「うわあ、もっと雪まみれになっちゃって…… どうしたっていうの、一体」


【だいのじ(XS&S)】

たかね「みてください、ひびき! わたくしのからだのかたが、はんこのように!!」

  響「う、うん、それはわかったから。でもたかね、身体が冷えちゃうよ、もう……」

たかね「ふわふわで、ひんやりしていて、たいへんここちよいです! もういちど、えいっ」ボフー

  響「な…… っ、なに考えてるのさ、もーっ!? 三回もやればもう十分でしょ、ね」

たかね「さあ、ひびき、つぎは、ひびきもいっしょに!」

  響「はあっ!? い、いや、自分はいいよ、それより早く事務所に行こ?」

たかね「えんりょするものではありませんよ、ひびき、さあさあ」グイグイ

  響「ちょっ…… わわ、いきなり引っ張んないでって、ああっ、うぎゃーっ!?」




  響「……ぷあっ!? もう、何するのさたかねぇ!」ムク

たかね「ふふっ、ひびきのおかおも、まっしろです! わたくしとおそろいですよ!」

  響「…… ……ぷっ、くくく、あはは! ホントだなー、まったくもう!」


【福利厚生のためにお休みなのであって仕事がないわけじゃありませんってば!】

ガチャ

  響「みんな、おっはよー! メリークリスマース!」

やよい「あっ、響さん、それにたかねちゃんも! おはようございまーすっ」ガルーン

たかね「めりー、くりしゅみゃ…… こほん、くりすましゅ!」

 千早(言い直してもなお言えていない! ……のに、勝ち誇った顔したりして、ふふっ)

 春香「おはようっ、二人とも! ステキなホワイトクリスマスになったねっ」
 
 伊織「まーたにぎやかなのが増えたわね…… 約一名言えてないけど、メリークリスマス」

  真「もー、遅いよ響ってば。たかねと響のこと、みんな待ってたんだから」

  響「え? 自分たち、集合時間には遅れてないよね。何かあるんだったっけ?」

 真美「おやおやー、とてもカンペキなひびきんの言うこととは思えませんなー?」


 亜美「そーだよっ! こんだけ雪積もってるのになんにもしないとかモグリっしょー!」

あずさ「時間もあるし、この雪でしょう? みんなで雪合戦しよう、ってことになったのよ~、うふふ」

たかね「かっせん!? みなで、かっせんをするのですか!?」

 雪歩「た、たかねちゃん、あくまで遊びだからね? 雪で玉を作ってね、みんなで投げあうの」




 律子「……まったく。本当なら、クリスマスにそんな暇があることを気にするべきなのに」

 小鳥「ふふ、いいじゃないですか、律子さん。みんなが揃うこんな機会、この先あるかわかりませんよ?」

   P(…… 片手にビデオカメラ握り締めてさえなければ、もっとキマる台詞なのになぁ)

 美希「えーっ、ホントに雪合戦するの……? ミキ、お留守番しとくから寝てていーい?」

 律子「あんたはあんたで、ちょっと寒い思いするくらいがちょうどいいのよ。ほら起きなさい」グイ

 美希「やーん、なのー」


【小鳥謹製あみだくじ:情熱の赤組】

 美希「あふ…… ぅ、これもう、チームわけの時点で勝ち確定だって思うな」

 真美「だーよねぃ! あっちで気をつけなきゃいけないの、ひびきんくらいっしょ」

 春香「ほんと、ものの見事に偏ったよね……」

  真「でもクジ運も勝負のうちだからね、手は抜かないよっ!」

やよい「わたしもがんばります! ……あれ、亜美、どうかしたの? 浮かない顔しちゃって」

 亜美「いやぁ、たぶん大丈夫だとは思うんだけどさー…… あっち、律っちゃんいるじゃん?」

 真美「なーに言ってんの亜美っ! 律っちゃんのひとりやふたり、どーってことないってば」

 春香「そうだよ、わたしはさておき、運動神経のいいメンバー、ほぼ全員こっちだもん!」


【小鳥謹製あみだくじ:純情の白組】

 律子「みんな、いいわね? この作戦でいけば、たぶん勝てるわ」

 伊織「……いや、確かに可能性はなくもないだろうけど、どうなのよ、それ」

 雪歩「か、考え方がえぐいですぅ……」

 千早「あの、律子…… 遊びにそこまでする必要はあるのかしら?」

 律子「やるからには勝ちを狙わなくてどうするの。それに本人、すっごく乗り気よ」

たかね「ええ! うでがなります!!」

あずさ「あらあら…… うふふ、これは頼もしいわね~」

 伊織「わたし、止めたからね」

  響「う、うーん、そんなにうまくいくかなぁ……」


【いくさがはじまる】

 小鳥「それでは、不肖音無小鳥、本日の審判をつとめさせていただきます!」

   P(ホイッスルまで持ってきて気合入ってるなー、音無さん)

 小鳥「両チーム、準備いいわねっ? では…… 開始ーっ!」ピピー




  真「よおーっし、さっそく…… !?」

たかね「まことがあいてですね! さあ、きなさい!」

 春香「た、たかねちゃん一人だけが突出して……!?」

やよい「はわっ! ほかのみんなは、遠すぎてねらえないですー!」

  真「えっ、ちょっと…… え、これ、ぶつけちゃっていいの?」

 美希「真くん、ためらってる場合じゃないの!」

  真「そんなこと言ったってさぁ!?」


たかね「そこですっ、まこと! すきあり!」ヘロッ

  真「え、ああっ……!? しまったーっ!」ベシャ

 小鳥「ヒットぉ! 当てられた真ちゃんはコートから出てねー!」ピーッ

 真美「ああ!? こっちの最強こーほのまこちんがあっさりと!」

 亜美「だーっ! やっぱこれ絶対、律っちゃんが裏で指示してるっしょー!?」




 律子「読み通りね。たかねにためらいなく雪玉投げられる子なんて、うちにいるわけないもの」

 伊織「ねえ、これ、やってることは割とはっきり外道よね?」

  響「…… まあ、本人、盾にされてる自覚ないみたいだし、いいんじゃないかな」

 律子「みんな、コートの端ぎりぎりからたかねの援護に徹すること! 絶対近寄らないのよ!」


たかね「さあさあさあ! つぎに、わたくしのゆきだまのえじきになりたいのはだれです!?」


【うらみはらさで】

  真「あのさ、提案があるんだけど。チーム替え、しようよ」ゴゴゴゴゴ

やよい(ま、真さん…… 笑って言ってるけど、目がぜんぜん笑ってないですっ!)

 亜美「そんで、そのとき、律っちゃんとおひめっちだけは絶対別チームでね?」

 美希「……っていうか、メンドーだから、たかねをこっちのチームにくれるだけでいーの」

 真美「うんうん。あ、なんならはるるんとおひめっちのトレードでもいいよん」

 春香「ひどくない!?」

たかね「ふふふ…… わたくしのようにつよいものが、ひくてあまたなのは、とうぜんですね」

 律子「…… いいわ、じゃあ、たかねだけチームチェンジってことでいきましょう」


 伊織「ちょっと律子! あっさり要求に応じちゃってどうすんのよ!」

 雪歩「うう…… 絶対、あっちもたかねちゃんを盾にしてくるはずですぅ……!」

 千早「しかも、メンバーの運動神経的に、遠巻きにされるとより不利になってしまうわね……」

あずさ「勝ち負けがすべてじゃないのよ~。楽しかったらいいんじゃないかしら?」

 律子「いいえ。もちろん次も勝ちに行きます」

 雪歩「えっ、律子さん、なにかいいアイディアがあるんですか?」

 律子「当然よ。というわけで雪歩、それに響、ちょっと耳貸しなさい」

  響「え…… ええっ、自分!?」

 伊織「……だいたいどんな手で行くのか、もう察しがついたわ、わたし」


【リベンジマッチ】

 小鳥「じゃあ改めて、両チーム、覚悟はいい? 二回戦、始めーっ!」ピピーッ




  真「よぉし、じゃあさっきあっちでやってたみたいに頼むよっ、たかね!」

たかね「おまかせください!」

 亜美「バンバンやっちゃっていーかんねおひめっち、んっふっふー」

 美希「あふぅ…… ミキ、今度は寝てても大丈夫そーなの」




たかね「ふっふっふ…… ちーむがかわっても、わたくしはむてきです!」

  響「おーい、たかねー」

たかね「む、ひびき。さきほどはみかたでしたが、いまはおたがい、てきどうしで……」


  響「いいこと教えてあげる。実はさっき、あっちで霜柱見つけたんだ」

たかね「しもばしら!? まことですかっ! どこですか?」

  響「んーとね…… ずーっとあっちの方。今日は、たかねが全部ひとりで踏んでいいぞ!」

たかね「なんと! やくそくですよ、ひびき!」タタタッ




  真「…… あ、あれっ?」

やよい「ちょっ…… ええっ、たかねちゃん!?」

 真美「おひめっちーっ!? カムバーック!」

 小鳥「たかねちゃん、コート外に出てしまったので失格でーす!」ピピピー

 春香「ひ、響ちゃん、そんなの反則でしょー!?」

  響「なにが? 自分、霜柱があった、って世間話しただけだぞー」




たかね「しもばしら♪ どこでしょうかっ、しもばしら♪」


 美希「……響がこんなこと考え付くわけないの、これゼッタイ律子……さんの作戦なの!」

  響「ちょっと待つさー、美希、さりげなく自分にすごく失礼なこと言ってない!?」

 美希「はっ…… ってことは!? みんな、気をつけ……」


 律子「混乱してる今がチャンスよ! 全員とーつげきーっ!」バッ

 千早「……!」ダッ

 伊織「あーっもう、こうなったらヤケクソよっ!!」ダダダ


やよい「わあぁっ、あっちのチームみんな、まとまって突っ込んできましたーっ!?」

 真美「まずいYO! みんなおひめっち任せだったから、早くゲーゲキしなきゃ――」

あずさ「よぉし、頑張っちゃうわよ、え~い!」ポイポイ

 真美「ぶへえっ!?」ボスッ

  響「え…… あ、あずささん!? 自分は敵じゃな…… うぎゃーっ!」ベシャ-

 亜美「ああ! 真美ついでにひびきんまであずさお姉ちゃんのノーコン球のギセーに!」

 小鳥「真美ちゃん、それに響ちゃんもアウトー!」ピーッ


 千早「まずは美希、次に春香、あとは亜美と真美、真の順……」ビュッ

 美希「ちょっ、千早さんっ…… 一人狙いはズルいの! なんでミキばっかりーっ!?」

 千早「高槻さんは天使だから除外」ヒュッ

  真「み、美希が危ない! 待つんだ千早、ボクが相手――」

 千早「さっきも言ったとおりで、今はまだ真の番じゃないの。そこをどいて」

  真「あっ……、はい、ごめんなさい……」スッ

 美希「ま、真くん!? 真くーんっ!?」




やよい「も、もう、あっちもこっちもめちゃくちゃで…… わけがわかんないです!」

 亜美「えーい、こうなったらこっちもやってやろうわあああーっ!?」ズボォォ

 雪歩「……うふふふふふ、雪って、すっごく掘りやすいから助かりますぅ」

 春香「み、みんな、気をつけてーっ! このへん落とし穴だらけだよっ!?」




たかね「おお、ここにも…… それにこちらにも! ふふ、えいっ♪」ザクッ


【ノーサイドとは名ばかりの】

 高木「今年も皆、よく頑張ってくれたね。ささやかだが本日のパーティ、楽しんでくれたまえ」

たかね「なんと……! すばらしい、ごちそうのかずかずが!」キラキラ

 高木「それでは、見事なホワイトクリスマスを祝して、また来年の我々の成功を祈って、乾杯!」

 小鳥「はーい、乾杯ーっ!」

元白組「「「「「「かんぱーいっ!!」」」」」」

元赤組「「「「「「…… かーんぱーい」」」」」」

   P「か、乾杯!」




 高木「キミ、一部アイドル諸君が浮かない顔をしている気がするのだが、何かあったのかね?」

   P「……ええ、と、いえ、特に問題はない、と思います、多分」

 高木「それに美希君や亜美君・真美君の、律子君を見る目に妙にトゲがあるような気もする」

   P「は、ははは、まさか! きっと社長の気のせいですよ!」

 高木「ふむ、それもそうか。どうも年をとると心配性になっていかんね、ははは!」


 美希「律子……さんは、やることがえげつないの」

 亜美「そーだそーだー、それがオトナのオンナのやることなのかーっ!」

 真美「コドモを盾にしよーなんてヒキョーだぞーっ!」

 律子「別にルール違反はしてないでしょ。それに2戦目は、油断しきってたそっちにも問題あるわよね」

 亜美「ぐ…… ぐぬぬー、テラス口をたたきおってー!」

 真美「…… やめよう亜美、口ゲンカじゃあ律っちゃんにはかなわないよ……」

 律子「だいたい亜美も真美も動きが直線的すぎるわ。こういうときこそ連携して動かないと」

 亜美「ちょっ、律っちゃん、こんなときまでダメ出しとかやめてよね!?」

 美希「……じゃーミキは、おコゴト言われるまえにさっさとソファで――」ススッ

 律子「待ーちなさいってーの。あんたのやる気のなさはそれ以前の問題なのよ」ガッ

 美希「やーん!?」


 千早「さっきから一体どうしたの、真。私が何かしてしまったのなら教えて、謝るから」

  真「い、いやっ、ホントになんでもないんだってば千早!」ビクビク

 春香(千早ちゃん、自分がどんなオーラ出してたかとかぜんぜん自覚ないんだろうなぁ……)




 雪歩「うう、またやっちゃいましたぁ…… 簡単に掘れるからって、ついハイになっちゃって……」

 伊織「雪歩、あんたの落ち込むポイントも毎度よくわかんないわね……」

 雪歩「落ち込む…… あ、穴だけに?」

 伊織「ねえ、ほんとは全然気にしたりとかしてないでしょ?」




あずさ「うーん、最高! たくさん運動したあとは、お料理がいつも以上に美味しく感じるわ~」モグモグ

やよい「ホントですねっ、あずささん! みんなはあんまり食べてないみたいですけど……」ムグムグ


【常在戦場】

  響「はー…… ちょっと遊ぶくらいのはずが、こんなにハードとは思わなかったさー……」

たかね「ひびき! じっとしているばあいではありませんよ!!」

  響「……一人で霜柱踏んでた分、元気なのはわかるけど、たかねはもうちょっとじっとしときなよ」

たかね「あっ、あちらにあるおりょうり、わたくし、まだいただいておりません!」

  響「大丈夫だって、そんなすぐにはなくならないから」

たかね「いいえ、わかりませんよ? さあ、ひびき、さあさあ」

  響「もう全種類制覇しそうな勢いだなぁ。ちゃんと味わって食べなきゃダメだぞ」

たかね「とうぜんです。ですが、すべていただくことも、おなじくらいじゅうようです!」

  響「やれやれ…… それで? たかね、どれが食べたいって?」

たかね「ほら、そこの、それです! めろんにおにくがのっているそれです!」キラキラ

  響「生ハムメロン、ねぇ…… また人を選びそうなものに行くんだなー」

たかね「わたくし、てがとどかないので、ひびきがたよりなのです! はやくとってくださいませ!」


【音無小鳥の場合】

 小鳥「さすが社長の知ってるお店のケータリング、レベル高いわ…… あ、これ、おいしい」モグモグ

たかね「あの、ことりじょう」
 
 小鳥「そしてこの、春香ちゃんのおみやげのケーキがまた……! ああ、幸せ……」ムグムグ

たかね「ことりじょう!」

 小鳥「きゃっ!? ……あ、ああ、たかねちゃん? どうしたの、急に」

たかね「どうです? その…… ことりじょうは、たのしめていますか?」

 小鳥「えっ?」

たかね「その、わたくしは、くりすますをたいへんたんのうしているのですが」

 小鳥「うふふ、そうでしょうね。さっきの雪合戦じゃたかねちゃん、大活躍だったじゃない?」

たかね「ひょっとするとことりじょうは、たのしめていないのではと、きになりまして……」

 小鳥「……もしかして、わたしが前にぼやいてたの、気にしてた?」

たかね「はい、おせっかいかとはおもったのですが」

 小鳥「あっちゃー、たかねちゃんに気を遣わせちゃうなんて、事務員失格だわ……」


 小鳥「たかねちゃん。わたしももちろん、今日のクリスマス、すっごく楽しんでるわ」

たかね「しかし、ゆきがっせんでもことりじょうは、いっしょではなかったでしょう?」

 小鳥「ふふ、それは確かにそうね。でもね、わたしの場合、みんなを見てるだけでも満足なのよ」

たかね「みんな?」

 小鳥「そう。たかねちゃんもだし、響ちゃんや、春香ちゃん、千早ちゃん…… 765プロのみんな」

たかね「ですが、みなといっしょにうごきまわるほうが、もっとたのしいのではありませんか?」

 小鳥「そうできたら楽しいかな、と思うこともあるけどね。そばで見ててこその楽しみもあるの」

たかね「そういうもの、なのでしょうか」

 小鳥「そういうものなのよ。見守る楽しみ…… っていうのかしらね」




たかね「なるほど…… やはり、ことりじょうは、みなのははうえのようなひとです」

 小鳥「は…… 母上!? そこ姉上ってわけにいかない!? ねえっ!?」


【あなたのお目目はなぜあかい】

  響「たかね、お買い物して帰る前にさ、ちょっとそこの公園に寄り道して行こうよ」

たかね「まだだいぶ、つもっていますね…… はっ! もしや、ふたりでゆきがっせんですか!?」

  響「それ絶対くたびれるし、それ以上にすごく空しくなると思うぞ……」




  響「あったあった、これこれ」

たかね「これはなんのきですか、ひびき?」

  響「ナンテンって言うんだよ。お薬とかに使えるって聞いたことがあるぞ」

たかね「あかいみが、あざやかで、おいしそうです!」

  響「食べられるって聞いたことはないなー、さすがにそれはやめとこうか」

たかね「ふむ、そうですか…… ざんねんですが、あきらめましょう」


  響「それより今は、この実と葉っぱがほしかったんだ」

たかね「えっ? しかし、たべられないのでしょう? なんにつかうのですか?」

  響「ふふふ、それはまだナイショ」

たかね「む…… ひびき、なにをかくしているのですか。あやしいです!」

  響「それからさ、たかね、両手で持てるくらいの雪玉作ってくれる?」

たかね「ゆきだま? ……やはり、ゆきがっせんをするのですね!?」

  響「違うってば。このナンテンがあれば、かわいいものができるのさー」

たかね「かわいいもの?」

  響「そうそう。ほら、雪玉、早く早くー」


たかね「ひびき、いわれたとおり、ゆきのたまをつくりましたよ」

  響「お、ありがと。これに、今とった実と葉っぱを、こうやってくっつけると……」




  響「よーし、できたぞー。ほらっ、たかね、これなーんだ?」

たかね「……おお!! これは、うさぎさんです」

  響「そう、雪でできてるから、雪うさぎっていうの」

たかね「なんてんのはっぱがおみみで、あかいみは、うさぎさんのめですね!」

  響「うさ江の目も赤いけど、この子の目はもっと真っ赤だなー」

たかね「それに、おみみがみどりのうさぎさんは、めずらしいです、ふふっ」


たかね「おや? このゆきうさぎさんは、つれてかえってあげないのですか?」

  響「うん、あったかいお部屋だとこの子はすぐとけちゃうから、ここにいた方が幸せじゃない?」

たかね「たしかに…… そのとおりです。では、ひびき、ゆきだまをひとつ、つくってください」

  響「雪玉? なんで?」

たかね「ゆきうさぎさんも、ひとりではきっと、さびしいでしょう?」

  響「……! ふふ、そうだね。じゃあたかねは葉っぱと実、とってきてよ」

たかね「はいっ!」




たかね「おみみと、めをつけて…… できました!」

  響「よし、そしたら、さっきの子の隣に並べてあげよう」

たかね「おともだちがまいりましたよ、ゆきうさぎさん。これで、さびしくありませんよ」


たかね「ひびきのつくったゆきうさぎさんは、さきほどのゆきうさぎさんより、ちいさいですね」

  響「そっちがたかねで、最初にできた大きい方が自分なんだぞ」

たかね「ふむ、いわれてみれば…… いろじろで、めもあかいですし、わたくしににているきもします」

  響「おっ? たかね、ちっちゃいって言われてるのに怒らないのー?」

たかね「ええ。だって、さびしがりのひびきのために、わたくしがきたことになります!」

  響「…… うまいこと、言っちゃって。今日は、自分が一本とられたことにしとくさー」




  響「さ、それじゃ、そろそろ行こっか」

たかね「そうですね。ひびき、つぎにゆきがふったときは、ゆきだるまをつくりましょう!」

  響「うん、そのときは大っきいのを作ろうなー。たかねや自分より背の高いやつ!」

たかね「おやくそくですよ? つぎはいつ、つもるでしょうか、あすでしょうか?」

  響「たかねがいい子にしてたら、きっとすぐ降るよ。それまでのお楽しみだぞ」


【吸引力の変わ(ry】

たかね「しかしきょうは、せかいじゅうで、けーきをたべるひなのだ、とききましたが」

  響「いやいやいや。事務所で春香のもって来てくれた分とか、さんざん食べてたでしょ、たかね」

たかね「それはそれ、これはこれ、ですよ、ひびき」

  響「まーた妙なことばっかり覚えてきて。ほら、帰るよ」グイ

たかね「そんな!? あえてよのながれにさからうひつようは、ございません!」

  響「よそはよそ、うちはうちなの!」

たかね「おうぼうです! わたくし、けーきをようきゅういたしますーっ」グググ

  響「ヤモリじゃあるまいし、どうやったらショーケースにこんなに吸い付けるんだー!?」ググググ

たかね「よいでは…… あり、ません、かっ! ひびき、よいではありませんか!!」グググググ

  響「ちっ、ともっ、よく、なーい! いいから、っ、離れるさーっ!」ググググググ


【丸太とか薪とか】

たかね「……」ムスー

  響「おーい、たーかねー」

たかね「……」プイッ

  響「ちょっとこっち見てみてよー、ほらほらー」

たかね「……どうせ、ここあかなにかで、わたくしをつろうというのでしょう」

  響「ん、ココア飲みたい? 作ってあげようか?」

たかね「なんと、まことで…… ち、ちがいます! わたくし、いまは、おかんむりなのです」

  響「そうなの?」

たかね「そうなのです。ここあくらいでは、わたくしのこのぜつぼうは、いやされません!」

  響「そっかー。じゃあ、このブッシュドノエルでもダメかなー」

たかね「…… ぶ…… ぶしどう? の、える? それはなんのじゅもんですか、ひびき」クルッ


たかね「!!」

  響「二人用にと思って作ってたけど、たかねがいらないんなら自分ひとりで……」

たかね「いりますっ!! おまちください、いります!!」

  響「あれれ、たかねはおかんむりだったんじゃないの?」

たかね「お、おかんむり…… では、ありますが、いえ、おかんむりだからこそ、いります!」




たかね「まっはふ、ひびひも、ひふぉがわるいでふ」ムグモグ

  響「ごめんごめん、せっかくだから、たかねをびっくりさせたかったの」

たかね「はるはのふくっふぁものとは、いんひょうふぁ、ことなひまふね」モゴモゴ

  響「これ、ビスケット使って作ったんだ。その分、ケーキとしてはちょっと独特かも」

たかね「んぐ…… みためも、まるたのようで、おもむきがあります!」

  響「フランスとかじゃこれが普通なんだって。まだあるけどおかわり、どうする?」

たかね「!! しれたこと! ぐもんですっ!!」

  響「あはは、だよね」


【ジェルジェム】

たかね「ところでひびき、それは?」

  響「飾りつけの余り、もらってきちゃった。窓に貼ったらにぎやかかなーと思って」ペタ

たかね「おほしさまや、もみのきに…… あっ、それは、ゆきだるまですね」

  響「さわった感触も、ぷるぷるしてて面白いぞ。ゼリーっていうか、グミみたいな」ペタ

たかね「わたくしも、わたくしもはりたいです、ひびき!」ピョンピョン

  響「よーし、じゃあ、たかねは窓の下半分お願い。上半分は自分がやるよ」

たかね「こころえました!」




  響「思ったとおり! ね、ずいぶんクリスマスっぽくなったでしょ」

たかね「はい! きらきらして、いろとりどりで…… みているだけで、たのしくなります!」






  響「それで、たかね。なんでこんなことしたの」

たかね「な、なんのことでしょうか?」

  響「このジェムについた歯形、どう見ても、いぬ美でもねこ吉でもないよね」

たかね「…… ぜりーや、ぐみみたい、といったのは、ひびきです」

  響「自分、さわった感触が似てる、としか言ってないよね?」

たかね「いいえ! みためもよくにています!!」

  響「そこは否定しないけど! どうしてそこでかじってみようと思うのさ!」

たかね「…… しょうじきなところを、もうしますと……」

  響「うん、間違っちゃうことは誰にでもあるんだ、そこでちゃんと謝れるようになれば」

たかね「しゅねぇけんよりも、おいしくありませんでした」

  響「誰も聞いてないぞ!?」


【Present for】

  響「たかね、きょう一日過ごしてみて、どうだった?」

たかね「はい、ゆきがっせんも、ぱーてぃも…… ぶしどうおのれも! どれも、さいこうでした!」

  響「それはなによりだぞ。じゃ、最後にこれがなくちゃ、クリスマスは終われないよね」ゴソゴソ

たかね「なんと! まだ、なにかあるのですかっ!?」

  響「前に説明したときにも言ったでしょ。家族とかに贈り物をあげる日なんだって」

たかね「あっ! だからきょうは、はむぞうどのやぶたたどののごはんも、ごうかだったのですね?」

  響「そうそう。あの子たちも、なんとなくわかってくれてるんじゃないかな」

たかね「たしかに、ゆきもつもりましたし、とくべつだ、とかんじているかもしれません」


  響「ってことで、たかねにはこれ、あげるよ」

たかね「ちいさいですが、きれいなはこです! すぐに、あけてもかまいませんか?」ワクワク

  響「もちろんだぞ。そのためのプレゼントなんだから」

たかね「ありがとうございます、ひびき! では、さっそく……」




たかね「これは……?」

  響「イヤリング。耳飾りだよ」

たかね「そ…… それは、つまり、わたくしのみみに、あなをあけろと!?」

  響「そう来ると思った。安心してよ、それは穴を開けなくて大丈夫なやつだから」

たかね「ほ、ほんとうですか……?」


  響「それにほら、見てみて。これ、小さいけど、お月様のかたちしてるんだ。きれいでしょ?」

たかね「おお…… ぎんいろの、これは、みかづき…… でしたか?」

  響「そうそう、三日月。自分がつけてあげるからさ、たかね、ちょっと横向いて」

たかね「うう、しかし、だいじょうぶでしょうか…… ぜったいに、いたくありませんか?」

  響「痛くないって。気をつけてゆっくりやるから、信用してよ」

たかね「…… わかりました。では…… おねがいします、ひびき」




  響「…… はい、できたぞ! どう? 痛かった?」

たかね「い、いえ、しかし…… しょうしょう、きんちょうしました……」

  響「それより自分でも見てごらん、ほら、鏡あるよ」






たかね「…… どうなのでしょうか、ひびき」

  響「ん? どうって、なにが?」

たかね「わたくし、こういうものははじめてなので、よいのかどうか、わかりません……」

  響「あー、それはそうかもね。選んだ自分が言うのもなんだけど、ホントにすごく似合ってるよ」

たかね「そう…… なのですか?」

  響「たかねの髪の銀色と、白い肌に、銀のお月様が映えててさ。とっても綺麗」

たかね「まことですか? ひびきのおすみつきなら、こころづよいです」

  響「そりゃそうさー、カンペキな自分が選んだんだもん。似合わないわけないぞ!」


たかね「……あっ!?」

  響「わっ、びっくりした……! 今度はなんなのさ、たかね」

たかね「ど、どうしましょう、ひびき……」オロオロ

  響「何かあったの? 落ち着いてよ、いったいどうしたの」

たかね「わたくし…… あの、わたくし、ひびきへのおくりものを、よういしておりません」

  響「……ああ、なんだ、そんなこと? ぜんぜん気にすることじゃないさー」

たかね「しかし、わたくしだけおくりものをもらうのでは、ふこうへいです」

  響「不公平なくらいでちょうどいいよ。たかねがいるおかげで、毎日飽きないもん、自分」

たかね「いいえ、しゅくじょとして、それはみとめられません!」

  響「そうは言ってもねー…… あ、それなら、ひとつお願い聞いてもらおうかな?」

たかね「はい! わたくしにできることなら、なんでも!」


【つめたいよるに】

たかね「……ほんとうにこれで、よいのですか?」

  響「うん、お布団ひくのちょっとめんどくさかったし、今夜は特に温度下がるらしいしね」

たかね「だからといって、いっしょにべっどでねるだけでは、おくりものにならないのでは……」

  響「たかね、できることならなんでもしてくれるんでしょ?」

たかね「ええ…… たしかに、そうもうしましたが」

  響「じゃあ決まりー。ほらほら、入って入って」




たかね「……ひびき、まだ、おきていますか?」

  響「もちろん。たかね、眠れないの?」

たかね「わたくし、ゆきうさぎさんたちのことを、かんがえていました」

  響「へえ?」


たかね「あすにはきっと、あのゆきうさぎさんたちは、いなくなってしまいますね」

  響「…… うん、たぶんね。予報だと、明日は晴れるって言ってたし」

たかね「でも、おともだちがいっしょですから、さびしくないはずです」

  響「……」




たかね「ひびき。あの、おつきさまのみみかざりですが」

  響「あれがどうしたの?」

たかね「……ほんとうは、もっとまえから、よういしていたのでしょう?」

  響「!」

たかね「ちがいますか?」

  響「…… どうして?」

たかね「しょうしょう、わたくしには、おおきすぎるかんじがいたしました」


  響「…… たかねって、妙なとこで察しがいいから困っちゃうな」

たかね「ふふ、やはり、そうでしたか」

  響「でもさ、たかね"にも"きっと似合うって、心からそう思ったから、あげたの。それはホント」

たかね「ええ。わかっておりますとも」

  響「別に使いまわしとか、そういうんじゃないからね?」

たかね「もちろん、わかっておりますよ、ひびき」

  響「むーっ…… なんなのさー、そんな何もかもお見通しー、みたいな!」

たかね「わたくし、しっていますから。ひびきは、おおきくてもさみしがりの、ゆきうさぎさんです」

  響「う、うがーっ! ベッドに呼んだのはそういうんじゃなくて、今日は冷えるからだって――」

たかね「しんぱいせずとも、わたくしは、とけていなくなったりいたしませんよ」

  響「……当たり前でしょ。そんなことしたら、もうめちゃくちゃ怒っちゃうぞ、自分」

たかね「おこられるのは、いやですから、きをつけなくてはなりませんね。ふふっ」






たかね「まえに、ひびきはいいましたね。こうして、ふたりでいっしょのほうが、あたたかいと」

  響「ああ、そうだったね」

たかね「ゆきうさぎさんなら、とけてしまいますが、ひびきとわたくしなら、だいじょうぶです」

  響「ん、確かに。 ……じゃあ、今夜はすっごく寒いからさ、たかね、もうちょっとこっちに来ない?」

たかね「おや…… よいのですか? またわたくしのかみのけが、かぶさるかもしれませんよ」

  響「いいよ、それくらい。たかねが、すぐそばにいてくれるほうがいい」

たかね「しょうちしました。それでは、しつれいして」




  響「……ありがとね、たかね」

たかね「はて、なんのことでしょうか?」

  響「なんでもないよ。それじゃ、おやすみ。メリークリスマス」

たかね「おやすみなさい、ひびき。 ……めりー、くりすます」


本日の投下は、これでおしまいです。

性懲りもなく今回も大変お待たせしてしまいました。
また大きく期間が空いてしまいそうな場合は、生存報告などさせていただきます。
今後もどうぞよろしくお願い致します。

生存報告です。
すでに前回の更新から2週間ほど空いてしまっているところ、大変申し訳ありません、
もう少し時間をいただいてしまうことになりそうです。今しばらくお待ちください。

また、雪歩の誕生日に関しては、決して忘れていたわけではないのですが
(イブ=誕生日オンデイに、クリスマス会とは別にみんなで雪歩の誕生会をした、という脳内設定でした)
響とたかねをメインに書きたいがために省略してしまったのは事実であり
雪歩や、雪歩を好きな皆様には、特に申し訳ありませんでした。

よろしければ、これからもどうぞお付き合い下さい。


【年の終わりのためしとて】

たかね「ひびき、しまっているおみせがおおいのは、どうしてです?」

  響「年末だからねー。みんな、自分のおうちの年越しの準備とかで忙しいんだよ」

たかね「なんだか、さびしいかんじがいたしますね……」

  響「あと一週間もしたら、また元に戻るから大丈夫さー」

たかね「ふむ。ところで、おかいものは、これでおしまいでしょうか」

  響「いーや、まだまだ。次はいつものスーパーだぞ。たかね、そろそろ疲れちゃった?」

たかね「わたくし、げんきいっぱいです! ぼうけんでもしているようで、たのしいです」

  響「そっか、なら良かった。迷子にならないように、しっかりついてきてね」

たかね「はい! ちゃんとてをにぎっておりますから、だいじょうぶです!」


【※お姫様と王子様は入ってる具がちがいます】

たかね「ひびき、ひびき」

  響「どうしたの?」

たかね「おせちもいいけど、かれーもね、とは、どういういみですか?」

  響「また唐突な…… どこで聞いてきたのさ、そんなの」

たかね「あちらのうりばで、こえがながれておりましたよ」

  響「なるほどね。まあ確かに、ちょうどそんな時期だもんなぁ……」

たかね「そもそも、かれー、とはなんでしょうか」

  響「あー、そういえば、たかねが来てからカレー作ったことってまだなかったっけ」


たかね「わたくし、いただいたおぼえはありません。たべものなのですね? びみなのですか?」

  響「そりゃもう。子供ならだいたいみんなカレー大好きだもん」

たかね「となると、ひびきもすきなのですね」

  響「なんかちょっとひっかかる言い方だけど、もちろん自分も好きだよ?」

たかね「しかし、ひびきやおこさまがこのむおりょうりでは、わたくしのこのみにあうかどうか……」

  響「そう? 作ってあげようと思ってたけど、じゃあ止めとこうかな」




たかね「ごめんなさい、ひびき、しょくしてみたいです、どうか、つくってください」

  響「ん、よし。人間、素直なのが一番だぞ」


【雲をつかむような】

たかね「……」ジーッ

たかね「…… そこですっ!」バッ

たかね「む、もうすこしで、この、くっ」シュッ

たかね「あっ…… うう、やはり、かんたんにはいきません……」




  響「…… さっきから加湿器の前でなにしてるの、たかね?」

たかね「あっ、ひびき。わたくし、このけむりをつかもうとしているのですが、なかなか」

  響「それ煙じゃないし、そもそもなんでつかめると思ったのさ」

たかね「はて…… みていなかったのですか? いまも、おしいところだったでしょう?」

  響「いやいやいや」

たかね「さきほどは、てにかすりました。ふふふ、あといっぽです!」

  響(……ねこ吉ですら無理だって気がついて、最近やんなくなったのになぁ、これ)


【奥から手前へ上から下へ】

  響「さて、っと。そしたら、新年を気持ちよく迎えるために、まずは大掃除をするぞー!」

たかね「こころえました! おそうじですね!」

  響「……ん? たかね、大掃除だよ、お・お・そ・う・じ」

たかね「はい? いまから、おそうじをするのでしょう?」

  響「うん、お掃除はお掃除だけど、特に年末にやるのは"大"掃除っていうんだ」

たかね「…… ええ、ですから、おそうじ、ですね?」

  響「うーん、わかんないかなぁ。別に間違いじゃないんだけど、大掃除っていうのは――」

たかね「いったいなにをいっているのですか、ひびき。だいじょうぶですか?」

  響「自分はいつも通りカンペキだよ? どっちかっていうと、たかねの耳の問題かな」

たかね「よいですか、ひびき。じしんのまちがいをみとめるのには、ゆうきがいりますが」

  響「ねえ、なんで自分がおかしいことになってるのさ」


【aquascutum】

たかね「よいしょ、よいしょ……」キュッキュッ

  響「おっ、がんばってるなー、たかね」

たかね「じゃぐちどのにも、ひごろ、おせわになっておりますから」キュキュッ

  響「ふふ、いい心がけだね。自分、もうちょっと浴槽のほうやるから、しっかりみがくんだぞー」

たかね「もちろんです、おまかせを!」

  響「ところでそれはいいとして、たかね、ひとつ聞いていい?」

たかね「おや、なんでしょう。なにかございましたか」




  響「あのさ、お掃除するだけなのに、どうしてシャンプーハットかぶってるの?」

たかね「これはまた、いなことを…… おふろばでかぶるものだといったのは、ひびきですよ?」


【なんとかと煙は】

  響「こんどは窓拭き! 上半分は自分が拭くから、下半分はたかね、よろしくね」

たかね「それなのですが、ひびき」

  響「なあに?」

たかね「たまには、やくわりをこうたいすべきだとはおもいませんか?」

  響「えっ? でもたかね、背が届かないでしょ」

たかね「そういうひびきも、うえのほうは、だいにのってふいているでしょう」

  響「う…… ま、まあ、それはそうなんだけど」

たかね「ならば、わたくしがだいにのっても、おなじことでは?」

  響「んー、一理あるといえばあるか。じゃあ今日は、上をお願いしようかな」






たかね「ひっ、ひびきっ! だいは、まちがいなく、おさえてくれていますね!?」ブルブル

  響「だからちゃんと支えてるって。そんなに気になるなら、ほら、こっち見て確認してごらん」

たかね「このたかさで、したをみろと!? わたくしにしねというのですか!?」

  響「大げさだなー。もし仮に落っこちたって、自分がここにいるから受け止めてあげるよ」

たかね「え、えんぎでもない! そのようなこと、くちにしないでください!!」

  響「……ねえ、たかね、やっぱり今からでも自分と交代したほうがいいんじゃない?」

たかね「はっ、そういえば! わたくし、このたかさから、どうやっておりたらよいのです!?」ガクガク

  響「どうしてそのレベルで台にのぼって窓拭き、いけると思ったかなぁ」


【頭は下げるのがコツ】

  響「じゃ、あっちの廊下の端っこまで、どっちが早く雑巾がけできるか競争だぞっ!」

たかね「ふふふ。もちろん、わたくしがかつにきまっています」

  響「おっ、自信満々だなー」

たかね「まえにもいいましたが、わたくしの"どらいびんぐてくにっく"はすごいのですよ?」

  響「へえー? でも自分も運動神経にはけっこう自信、あるからね」

たかね「のぞむところです。では、かいしのあいずを」

  響「恨みっこなしの一本勝負だぞ。よーし、位置についてぇ…… よーい、どんっ!」


ダダダッ
ダッズルッベチンッ


  響(……べちんっ?)

たかね「…… う、ぇ、うぁ、うわあああああん……!」






  響「うん、痛かったね、よしよし…… スタートダッシュはすごかったぞ、うん」ナデナデ

たかね「う"ぇぇぇぇ"ぇ"ん……」ギュー

  響(あれだけ見事に顔面ダイブしちゃうとは、さすがに予想してなかったさー……)

  響「ほーら、たかね、こんなときのためのおまじない、してあげるよ」

たかね「ひっぐ、えぐ、…… おま"、じない?」

  響「そう、これですぐよくなるぞ。痛いの痛いの、飛んでけー」

たかね「…… ……い"っごうに"、どん"でゆぎまぜん"!!」

  響「え…… えーと、そこはほら、気の持ちようっていうか、言葉のあやっていうか……」

たかね「うう"、ぐしゅっ、えほっ…… うえ"、うああぁん」

  響「……ちょうどいいや、少し休憩しよ? あまーいココア作ったげるからさ、ね、泣かないの」


【cocoa break】

たかね「……」ズズ

  響「どう、おいしい? ちょっと落ち着けた?」

たかね「…… まだ、おはなが、じんじんします」グスッ

  響「勢いつけて思いっきり床にぶつかっちゃったんだもん、仕方ないさー」

たかね「あのじこさえなければ、わたくしが、かっておりましたのに!」

  響「うんうん、きっとそうだったなー。惜しかったよ、たかね」

たかね「……ほんしんから、いっておりませんね、ひびき」

  響「えっ、い、いや、そんなことないぞ」

たかね「いいえ! わたくし、わかるのです! いまからあらためて、もういちどしょうぶを――」

  響「そういえばココアのおかわりあるんだけど、どうする?」

たかね「…… あ、あまっては、もったいないですね。さめないうちに、くださいませ」ソワソワ

  響「はーい。ちょっと待っててねー、ふふふっ」


【こな耳べた耳】

  響「はい、じゃあたかね、ここに横になって」ポンポン

たかね「わ…… わたくし、これから、なにをされるのです?」

  響「さっきのやりとりで、たかねの耳がちょっと気になってさ。耳そうじ、してあげる」

たかね「わたくしのおみみと、ひびきのおひざにねるのは、なんのかんけいがあるのですか?」

  響「だって横になってくれなきゃ、耳の中が確認できないでしょ」

たかね「し、しかし、けいけいに、おみみをのぞかれるのは……」

  響「だーいじょぶだって、優しくするから。実家でも自分、上手だって評判だったんだぞ?」

たかね「むむ…… そうまでいうならば、いたしかたありませんね」コロン

  響「はいはい、ありがたき幸せです、姫さま」


  響「どれどれ…… おおー、これはこれは……」

たかね「あ、あまりみないでください、ひびき」

  響「だけど、まずは見て確かめなきゃ取れないからね。じゃ、さっそく」

たかね「ひゃあぁ!?」

  響「おっ、と……! ごめん、たかね、痛かった?」

たかね「いえ、いたいわけでは…… ただ、これは、おみみをこちょこちょされるようで、その……」

  響「そっか、痛くないなら大丈夫だよね。続けるよー」

たかね「ちょっ…… そんな、ひびき、おまちを、ふにゃんっ!」

  響「もー、たかね、あんまり変な声出すもんじゃないぞー」

たかね「だって、くすぐったいのです! わざとやっているのではありませんか!?」

  響「まっさかー、そんなことないってー。くっくっく」

たかね「そ、そのあやしげなわらい、どういうことです!? ひびき! ひびきーっ!?」






  響「よし…… こんなもんかな? はーい、おしまいっと」

たかね「…… はぁ、はぁ……」グター

  響「お疲れさま、たかね。ほら、けっこう取れたぞー」

たかね「よ、よくも、わたくしをもてあそびましたね、ひびき……」

  響「だから違うってばー。自分、ちゃんと真剣にやったんだからね?」

たかね「つぎは、ひびきがおみみをのぞかれるばんですっ!!」ガバッ

  響「えっ」


たかね「ほら! ひびき! はやく、わたくしのおひざに!」バシバシ

  響「……い、いやあ、自分は遠慮しとこうかな、うん」

たかね「なぜです? わたくしは、ひびきをしんじ、みを…… みみを、まかせたというのに!」

  響「だいたい、たかねのひざに自分の頭は重たすぎるだろうしさ」

たかね「かんけいございません! それに、わたくしだけそうじしてもらうのでは、ふこうへいです!」

  響「気持ちはうれしいけど、自分は耳掃除くらい自分でできるから大丈夫だよ」

たかね「ひとりではみえないでしょう? わたくしがみたほうが、かくじつにきまっています!」

  響(うっ…… たかねのやつ、妙なところで正論を……!)

たかね「さあ、ひびきっ! かんねんして、わたくしにおみみをみせるのです!!」

  響「いや、いらないって…… ちょ、こらっ、耳ひっぱるのはやめ、あでででっ!?」


【いんたらぷしょん】

たかね「ひびき」

  響「どしたのー」カリカリ

たかね「せっかく、あそんであげようとおもったのに、いぬみどのがねているのです」

  響「そっかー。ちょっと待っててあげてねー」カリカリカリ




たかね「ひびき!」

  響「んー?」カリカリカリ

たかね「はむぞうどのが、けーじからぬけだしました!」
 
  響「えっ!? もー、またあの子はっ」ガタッ

たかね「ですので、つかまえて、つれてきました」

ハム蔵「ジュイィ……」

  響「あ、なーんだ…… よかった。ありがと、たかね」


たかね「ひびき?」

  響「なーにー」カリカリ

たかね「なぜ、ふゆはさむいのですか」

  響「……うえっ!? え、えっと…… そうだ、あれだよ、雪の妖精さんがね」

たかね「そういうこどもだましは、わたくし、もとめておりません」

  響「うがっ!?」




たかね「ひびきー」

  響「ねー、たかね、あのさぁ」カリカリカリ

たかね「なんでしょう?」

  響「さっきから、自分が宿題してるの、わかってやってるよね?」

たかね「…… は、はて?」

  響「はてじゃなくて」


  響「いくら自分がカンペキでもさ、勉強するからには集中したいんだけど」

たかね「ほんとうにかんぺきなら、そのくらい、きにならないでしょう」

  響「うぐっ…… いやでも、そういうことじゃなくてね」

たかね「わたくし、あえて、ひびきにしれんをあたえているのです」

  響「試練? ……宿題の邪魔しにくるのが?」

たかね「しゅういにまどわされない、つよいこころをえられますよ」

  響「なんちゃって、本当はたかね、自分にかまってほしいだけなんでしょー」

たかね「なっ、ちっ、ちがいます! しっけいな!」

  響「ごめんね、今やってるこれ終わったら、たっぷり相手してあげるからさ」

たかね「ちがう、ともうしております! かってに、きめつけられては――」

  響「あと15分…… いや、10分で片付けちゃうぞ。それまで、ねっ?」

たかね「……じゅっぷん、ですね。おやくそくですよ」


【長毛種の宿命】

いぬ美「はっはっはっはっ」

たかね「ひいっ!? ちかよらないでください、いぬみどの!」

いぬ美「くぅーん……」

たかね「そ、そのようなこえをだしても、だめなものはだめなのです!」




  響「あれ、たかね、どうしたの? いぬ美が起きるの、待ってたんじゃなかったっけ」

たかね「それが…… さきほど、いぬみどのにふれたとき、いたみがはしったのです」

  響「えーと、それってなんかこう、ちくっとするって言うか、ばちっ! て来る感じ?」

たかね「そう、そうです! なにがあったのか、わたくし、わからなくて」

  響「まあ、たかねも体格に対する髪の量で言えば、自分とあんまり変わんないもんね……」

たかね「かみのりょう? どういうことですか?」


  響「そのばちっとするの、静電気って言ってさ。この時期、毛の多いいぬ美とかに近づい…… あ」

たかね「ひびき? きゅうに、どうし――」

ねこ吉「ニャーゴ」スリスリ

バチンッ

たかね「な"ぁっ!? ……ねこきちどの! ひごろはよりつかないくせに、なぜこんなときだけ!」

ねこ吉「ゴロニャー」スリスリ

バチッ

たかね「あいたっ! な、なにゆえわたくしにすりよるのです!? どうせなら、ひびきに!」

  響「…… ねこ吉、たかねがもっと遊んでほしいって言ってるぞー」

たかね「なんと!? ひびき、や、やめっ」

ねこ吉「ウナー」スリスリスリ

たかね「めんようなー!」 バチィッ






たかね「…… この『ばちばち』は、どうにかならないのですか、ひびき」

  響「壁にまめに触ったりすればある程度予防できるけど、完全になくすのは無理かなー」

たかね「そうなのですか……」

  響「それにいぬ美たちに限った話じゃなくて、人どうしでも起きることあるからね、これ」

たかね「えっ!?」

  響「特に、たかねや自分みたいに髪の毛が多いと、ねこ吉とかと条件はあんまり変わんないもん」

たかね「そ、そんな、こまります!」

  響「まあでもそうしょっちゅう起きるわけじゃないし、自分は別に静電気体質じゃないから――」


たかね「……」ススッ

  響「んー? あれれ、たかね、どこ行くのー?」

たかね「い……、いえ、べつに、どこ、というわけでは……」

  響「どうしたのさー、なんか腰が引けちゃってるぞー」ニヤニヤ

たかね「そのようなことは…… きっと、ひびきの、きのせいで」

  響「ふーん? あ、なんか急に、美希みたいにたかねのことハグしてみたくなってきたぞ、自分」

たかね「…… はいっ!?」

  響「たっかねーっ!」ダッ

たかね「ひ、ひびき、わかってやっておりますでしょう!?」ダダッ




  響「ふふん、つかまえたー。ね、あれだけ逃げ回ってたけど、案外大丈夫でしょ?」ギュ

たかね「……たしかに、いたいめをみずにすんだので、よしとします」


【そこに触れたらあとはもう】

  響「せっかくお正月迎えるからには、おせちも作らないとね」

たかね「おせちとは、どんなおりょうりなのです?」

  響「うーん、けっこういろんな種類があるから、一言じゃ言えないかなぁ」

たかね「ほほう」

  響「まあ、今回はちっちゃいたかねと自分の二人しかいないし、簡易版って感じでいこっか」

たかね「む。おまちなさい、ひびき。ちっちゃい、というのはとりけすのです」

  響「そこはどう転んでも事実なんだからさ、そろそろ認めなよ、たかね」

たかね「…… まえまえからおもっておりましたが、ひびきだって、ちいさいではありませんか!」

  響「う、うがーっ!? そんなことないよ!」

たかね「ぷろぢ…… ぷろじゅーさーどのや、あずさのほうが、ひびきよりずっとおおきいです!」

  響「うっ、で、でもそれは…… そう! プロデューサーもあずささんも自分より年上だから当然なの!」


たかね「ですが、とししたのみきや、それにあみも、まみも! ひびきよりおおきいではありませんか!?」

  響「う、うるさーい! あんまり身長のこと言うと、もうたかねのおせち作ってあげないからね!?」

たかね「なんと!? そのようなおうぼう、ゆるされません!」

  響「だいたいたかねと自分とで比べたら、たかねの方がずーっとちっちゃいんだし!」

たかね「とうぜんでしょう? ひびきのほうが、としうえなのですから」

  響「ぐっ…… い、いきなり立場変えたりして、たかね、ずるいぞっ!?」

たかね「これこそ、おとなのよゆうというものです。ひびき、もっとせいちょうしなさい」フフン




  響「……へび香! ワニ子も! 今すぐ台所に集合ーっ!」

たかね「な、ひ、ひびき!? えんぐんなどと、ひきょうです!!」

  響「卑怯だっていいもん! 大人には引けない戦いってやつがあるのさー!」

たかね「まるでだだっこではありませんか! それの、なにがおとなですか!?」

ギャーギャー






  響「……はあ。さんざんバカみたいに騒いだおかげで、ちょっとは落ち着いたぞ……」ゼーゼー

たかね「き、きぐう……、ですね、わたくしも、です」ハーハー




  響「で、おせちってのはね、お正月に食べる特別なお祝いのお料理なの」

たかね「なかなか、てがかかりそうですね」

  響「なんて言っても、かんたんなものいくつか作るだけで十分それっぽくなるんだよ」

たかね「あらためて、どのようなものができるのか、おしえてください!」

  響「そうだなー…… 黒豆を煮て、伊達巻ときんとん作って、あとは紅白なますくらいあればいいかな?」

たかね「くろまめ……? だて…… こうはく、なまず?」

  響「ごめんごめん、いっぺんに言われちゃわかんないよね。まず、黒豆っていうのはさ……」


【だぶる・らいすけーき】

たかね「ところでひびき、それは?」

  響「これ? 鏡餅っていって、新年の飾りつけみたいなものだよ」

たかね「はて…… あたらしいとしのものを、まえのとしからかざるのですか?」

  響「自分もよくは知らないんだけど、年が明ける前に出しといていいんだって」

たかね「それに、かがみ、とはいいますが…… おかおがうつりませんよ」

  響「あー、そういえば確かにこれ、なんで鏡って言うんだろうね」




  響「お餅…… あっ、お餅といえば……」

たかね「……」ジリッ

  響「あれ、たかね、今度はどうして後ずさるの?」

たかね「なんというか、まえにもおぼえのある、とてもわるいよかんがするのです」

  響「へえー…… どんな?」ズイ

たかね「ひ、ひびき、わたくしのほっぺに、てを、のばひゅのは、ひゃめっ」


【細くて長ければいい(急進派)】

ハム蔵「ジュジュイイ」カラカラカラカラ

たかね「はむぞうどのは、はしるのがすきなのですね」

ハム蔵「ジュッ!」カラカラカラ

たかね「ふふ、きっと、まことときがあいま…… ……この、かおりは?」スンスン




パタパタ

  響「おっ、早速来たなー、たかね。匂いで反応したんでしょ」

たかね「らぁめんのかおりがいたします!! らぁめんが、わたくしをよんだのです!」

  響「テーブルで座って待っててよ。すぐ持っていくから」

たかね「いそぎましょう! ひびき! のびてしまいます! はやく、はやく!」

  響「大丈夫だよ、まだゆで上がっては…… お、ちょうど時間だ」


たかね「いちねんのおわりのゆうげを、らぁめんでしめくくる…… なんとすばらしい!」

  響「ふつうは年越しそばだけど、まあ、麺類には違いないわけだからね」

たかね「ひびき、あまりおしゃべりしていては、さめてしまいますし、のびてしまいます」ソワソワ

  響「ふふ、はいはい、そうでした。じゃ、いただきます!」

たかね「いただきますっ!!」




たかね「いまさらですが、としこしそばとはなんですか?」ズズ

  響「一年の最後におそばを食べる習慣があるんだよ。いわゆる縁起物ってやつ」ズズッ

たかね「ほほう。なぜおそばなのですか、ひびき」

  響「いろいろ説があるらしいぞ。おそばは切れやすいから、厄を切る意味がある、とかさ」

たかね「となると、らぁめんではいけないのでは……?」

  響「いいのいいの、気持ちの問題だから。ラーメンのこと中華そばとか言ったりするし」


  響「それともたかね、ラーメンよりおそば食べたかった?」

たかね「いいえ! おそばもすきですが、らぁめんのほうが、もっとすきです!」

  響「聞くまでもなかったね。で、今日は大晦日だから、ラーメンも特別仕様にしてみたの」

たかね「とくべつしよう?」

  響「……じゃーん! ほらこれ、麺だけ別に追加で買っといたから、替え玉ができるよ」

たかね「かえだま、というと…… はっ! お、おかわりがあるのですか!?」

  響「麺だけだけどね。だから、あんまりスープ飲んじゃわないようにするんだぞ」




たかね「……! ……!!」ズズズズゾゾゾゾ

  響「たかね、麺は逃げないし、自分は替え玉いらないからさ、落ち着いて食べてねー」


【Bath Tour】

たかね「きれいになったおふろは、いつもいじょうにここちよいですね……」

  響「うん、大掃除がんばったかいがあったぞー」

たかね「ほんじつの、にごっているこれは、どこのおゆなのです?」

  響「えーっとね…… これは熊本の黒川温泉ってところなんだって」

たかね「くまもと、ですか。そこは、とおいのでしょうか」

  響「そうだね、けっこう離れてるよ。九州っていう、ここからかなり南の方にあるの」

たかね「ひびきのいた『おきなわ』よりも、みなみですか?」

  響「ううん、そこまでじゃないさー。沖縄はそれよりももっとずーっと南なんだ」


たかね「いつか、わたくしもいってみたいものです」

  響「お、いいねー、その時は自分がいろんなとこ案内してあげる!」

たかね「まことですか! たとえば、なにがおすすめですか?」

  響「いっぱいあるぞ。まずは首里城でしょ、万座毛もいいし、それに美ら海水族館とか……」




たかね「あの…… ひびき」

  響「そこにね、地元の人しか知らないすっごくきれいな砂浜が…… ん、たかね、どした?」

たかね「おきなわの、おはなしの、せいか…… あ、あづい、です」 キュウ

  響「…… わーっ、ごめん! テンション上がって喋りすぎちゃった、早く上がろう!」


【源平試合】

たかね「ひびき、ひびき! すごいですよ、あんなにたくさん、ひとがならんでいます!」

  響「おー、ほんとだー。もうこれ、年末恒例のお祭りみたいなもんだしね」

たかね「このかたがたは、これからなにをするのですか?」

  響「踊ったり喋ったりいろいろだけど、メインはやっぱり歌うんだよ。歌合戦、だからさ」

たかね「それでは、うたがどれだけじょうずか、きそいあうのですね!」

  響「うーん…… 建前としては、そういうことのはずなんだけどなー」

たかね「たてまえ?」

  響「たかねは気にしなくていーの、大人の事情ってやつ。ほら、続き見よう」


たかね「ひびきや、じむしょのみなは、このぶたいにでないのですか?」

  響「あはは、出られたらよかったんだけどね。さすがにまだそこまでは難しいさー」

たかね「なぜですか? まいにち、あんなにうたやおどりをがんばっているのに」

  響「んーと…… 今はね、まだちょっとだけ実力不足なの。でもいずれ、みんなで絶対あそこに立ってやるんだ」

たかね「おお、そのいきです! きっと、ひびきとみななら、だいじょうぶですよ」

  響「…… そのときは、貴音…… それともたかねかな、も、一緒に立てるといいなぁ」ボソ

たかね「? ひびき、なにかいいましたか?」

  響「いーや、なんにも? ……おっ、たかねの好きなサバニャン出てきたぞー!」

たかね「なんとっ! ああ、さばにゃんどの!! きょうもちあいのいろが、さいこうです!」


【進捗どうですか?】

たかね「♪ ……♪」アミアミ

  響「たかねの編み物姿も、ずいぶん堂に入ってきたね」

たかね「ええ。わたくしにかかれば、このていどはとうぜんです」アミアミ

  響「どれどれ、今どんなふう? ……おー、長さもこれだけあれば、たかねが巻くには十分だぞ」

たかね「そうですか? せっかくですから、もうすこし、あみます」アミアミ

  響「でも、あんまり長すぎると今度は取り回しが悪いかもよ?」

たかね「ながいほうが、たくさんまけますから、あたたかいにきまっております!」アミアミ

  響「まあ確かにそうか。にしても、あんまり根詰めすぎないようにね」

たかね「はい、そのあたりはわたくし、こころえておりますので、だいじょうぶです」




たかね「…… くぅー……」コックリ

  響「あーもーほら、たかね! せっかく編んだとこによだれ垂れちゃうってばー!」ユサユサ


【Ring out the old, and ring in the new】

たかね「……さきほどまでのばんぐみから、きゅうに、しずかになりましたね」

  響「この落差がいいのさー。いよいよ年が変わるんだなー、って感じで」

たかね「このいちねんも、いろいろなことがございました……」

  響「あはは、なに言ってるの。うちに来てからまだ一月も経ってないくせに」

たかね「きもちのもんだい、ですよ、ひびき」

  響「えーっ、それはちょっと違うんじゃないかなぁ?」




たかね「…… それにしても、こんなさむいよるに、おおぜいひとがいるものです」

  響「年越しの瞬間を誰かと一緒に迎えたいんだよ、きっと」

たかね「しかし、それなら、わたくしとひびきのように、おうちにいてもできますよ?」

  響「……ふふっ、ほんとだなー。ここなら、こたつもあってぽかぽかだしね?」

たかね「ええ、それに、おみかんも、ここあもそろっております!」


【乙未】


  響「…… あと10秒、9……」

たかね「はち、なな、ろく、ご、」

  響「4、3、2、1、ゼロ!」


たかね「…… こほん。あけまして、おめでとうございます、ひびき!」

  響「新年明けましておめでとう、たかね。よくこの時間まで起きてたね?」

たかね「わたくし、もうごさいですから、ねむくなったりしないのです」

  響「へーえ? そんなこと言うわりには、紅白の間もけっこう船こいで……」

< ヴィーッ ヴィーッ

  響「おっ? 一気にメール何通も…… あっ、そうか! うっかりしてたぞ!」

たかね「こんなよなかに、めーるですか。はためいわくな……」

  響「今日この日ばっかりはそうでもないんだよ。えーと、これは春香と、亜美も真美も……」

たかね「なんと!? みなが、めいわくめーるを!?」

  響「いやいや、だから、そうじゃなくって」


< ヴィーッ ヴィー  ヴィーッ

  響「わわ、どんどん……! すっかり忘れてた、すぐ返事書かなくっちゃ」

たかね「きょうは、やけにみじかいあいだに、たくさんおくられてくるのですね」

  響「…… そうだ! たかね、ちょっとこっち来てくれる?」

たかね「はい? しかし、ひびき、わたくしたちはおなじこたつにはいっておりますが」

  響「いいからいいから。ほら、早くー」

たかね「もう、しかたがありませんね…… いったい、なんだというのです?」

  響「よし、そしたらここ、自分のひざに座って?」

たかね「やれやれ。ここでよいのですか」ポス

  響「そうそう、いい感じ! あっ、そうだ、あとこれ、頭にのっけてね」

たかね「はて…… なんですか、このもこもこは」

  響「こないだのクリスマスパーティのとき、事務所の飾りつけに使ってたわたの余りだよ」

たかね「これを、あたまに、というと…… このようなかんじでしょうか?」モフッ

  響「おおー、うん、ばっちり!」


  響「じゃ、1枚だけ写真撮るよー」

たかね「またなのですね。みな、なぜそのようにしゃしんがすきなのでしょう……」

  響「まーまー、すぐ済むからさ。それに魂抜いたりもしないし? くくっ」

たかね「そ…… そのはなしは、もうおやめください、ひびき」

<ピピッ カシャッ




  響「で、今のをちょいちょいっと加工して……、こんな感じで! ほらたかね、どう、これ?」

たかね「…… おおっ!? わたくしが、このように、へんしんして!?」




  響「えーっと、そして文面はどうしよう。なんて書こうかな…… ……よし」

  響「『遅れてごめん、あけましておめでとう! 今年もたかねと自分のこと、よろしくお願いするぞっ!』」

  響「そして、たかねのとこに吹き出しくっつけて…… 『めぇぇんような』、なんちゃって」

  響「よーし、できたー! これでみんなに送信っと!」


【りあくしょんず】


 春香「もー、返信遅いぞー、響ちゃん…… って、なにこれ、たかねちゃんが羊になってるっ! かーわいいー!!」




 千早「写真を撮るのに時間がかかったのかしら? それにしても、め、『めぇぇんような』って…… くっ、くくくっ」




 美希「あふ…… たかね、まだ起きてるんだ…… いくら…… 新年でも、ミキ、もーゲンカイなの…… すぴー」




やよい「うちの弟たちも、たかねちゃんみたいにおりこうだったらなぁ…… 長介っ、歯はみがいたのー!?」




  真「すごい、こんなスマホのスナップでも写真写りいいなあ、たかね! ボクもコツ教えてほしいくらいだよ」




 雪歩「二人とも楽しそう。ああ、わたしも四条さ…… たかねちゃん、お膝に乗せてみたいなぁ、えへへ」



 真美「おおーっ! おひめっちの部屋着姿って初めて見たよ、すっごいレアじゃない!?」

 亜美「ひびきんのプライベート部屋着も実はお宝だってば! まずは画像保存しなきゃだよっ!」




あずさ「まぁ…… うふふ、かわいい羊さん。響ちゃんが羊飼いさんみたいなものね、ぴったりだわ~♪」




 律子「こんな時間まで夜更かしさせたりして、全く! ……たかね、これ案外デビューとか狙えたりして」




 伊織「へぇ、見たとこ、たかねもすっかり写真に慣れたみたいね。撮ってるのが響だから、かしら?」








 小鳥「1ヒビ2タカ3ヒビタカッ」バターン


【2 in 1】

  響「さ、もうそろそろいい子は寝る時間だぞー」

たかね「そうですか? わたくし、まだまだおきていられますよ?」

  響「そりゃちょこちょこ居眠りしてたからね。でも夜更かししすぎると、明日がつらいよ」

たかね「はっ、そうでした! あしたはみなと、はつもうでにいくのでした」

  響「明日っていうか、もう今日だけどなー。晴れたらいいね」

たかね「それより、ゆきがふってほしいです! みなと、またゆきがっせんができますゆえ!」

  響「あはは、明日はみんな晴れ着で来るだろうから、ちょっと難しいんじゃないかな?」






たかね「……ひびき。しんねんになったことですから、ていあんがあります」

  響「えっ? なあに、急に。改まっちゃって」

たかね「まいばん、ひびきにふとんをしかせるのはこくであると、わたくし、こころをいためております」

  響「ふとん? いや、別にそれくらい大したことでもないけど……」

たかね「それにわたくし、このべっどというものについても、じゅうぶんけんしきをふかめました」

  響「ベッドってそんなに奥深いものだったのかぁ。知らなかったなー」

たかね「つきましては…… としのかわりめですし、その……、こんご、ねるときは――」

  響「ま、続きはちゃんと中で聞くからさ、早く入りなよ。からだ冷えちゃうよ?」


  響「ああー、あったかい! やっぱり毛布はお布団の上からかけるに限るさー。ね、たかね」

たかね「……」

  響「そうそう、ごめん、提案があるって話だったね。なあに?」

たかね「…… もう、いいです」プイ

  響「えー、なんで? 聞かせてよ」

たかね「しりません。ひびきの、いけず」




  響「えーと、『今年からは毎晩、響と一緒にベッドで寝ます』、ってことで合ってる?」

たかね「……いいえ! ちがいます! ねてあげても、かまいませんよ、ですっ!」

  響「あははっ、そうか、嬉しいなー! じゃあ毎晩、自分がおうかがい立てなくちゃね」ワシャワシャ

たかね「で、ですから、わたくしのあたまを、きやすくなでないでくださいませ! もう!」


本日の投下は、これでおしまいです。

おそろしく今更ですが、誤変換の訂正をさせていただきます。

>>337
× 自分の完璧な → ○ 自分のカンペキな


本当に長らくお待たせしてしまい、申し訳ありませんでした。

まずは生存報告をすべきではないか、いや本編をそろそろ投下できるだろう…… 
という目算が甘く、ずるずる引っ張り続けてしまいました。

更新ペースはともかくとしても(改善に努めます)、
かならず完結させますので、どうぞ今後ともよろしくお願い致します。

生存報告です。
毎度期間が大きく空いてしまい、申し訳ありません。
今しばらくお待ちいただけると幸いです。


【はうめに】

  響「あ、そうだ、たかねはいくつにする?」

たかね「はい? ひびきもしってのとおり、わたくしはごさいですよ」

  響「ああ、いや、年の話じゃなくて、お雑煮のお餅のことさー」

たかね「おぞうに……? けさは、『おせち』をたべるのでは?」

  響「おせちだけじゃ物足りないよ。お雑煮っていうのは、具がいろいろ入ったスープみたいなやつ」

たかね「すうぷですか。めんは、はいっていないのですか?」

  響「残念ながら麺は入れないなー。だけど、お餅が入ってるぶん、ボリュームはあるから」

たかね「なるほど、それはそれでたのしみです!」


  響「うん、もうちょっとでできるからね。で、お餅、いくつ欲しい?」

たかね「そうですね…… ならば、わたくしのとしにちなんで、いつつで!」

  響「はぁっ!? い、5つ!?」

たかね「む、なにかおかしいですか」

  響「いくらたかねでも、それはちょっとないんじゃないかなぁ……」

たかね「…… わたくし、しょうしょう、せんたくをあやまったようにおもいます」

  響「そうそう、わかってくれればいいの」




たかね「ではここは、やっつでおねがいします!」

  響「あのね、数が多いとえらいとか、そういうやつじゃないからね」


【アミロペクチン】

たかね「これが、おせち…… それに、おぞうに!」キラキラ

  響「本格的とまでは言わないけど、我ながら雰囲気は十分だと思うぞ!」

たかね「いちねんのはじめの、おめでたいおしょくじです。こころして、いただかねば」

  響「うん、自分が腕によりをかけて作ったんだから、気合入れて食べてね」

たかね「はいっ! それでは、いただきます!!」




たかね「ふぬぬぬぬぬぬ!!」

  響「…… おおー……」

たかね「お、おもひ、とは…… ほ、ほのように、のびゆものほは!」

  響「そんな長さまで切らずに伸ばせるなんて、たかねは器用だなあ」


【西と東でモノがちがう】

たかね「……おや? ひびき、かがみもちは、そのままなのですね」

  響「んー? そうだよ、あれは新年の飾り物なんだって言ったでしょ?」

たかね「わたくし、おぞうにのおもちが、かがみもちだとおもっておりました」

  響「鏡開きっていって、鏡餅には食べる決まったタイミングみたいなのがあるんだぞ」

たかね「ふむ、それはいつなのです?」

  響「1月の…… えーっと、だいたい10日くらいかな。もうすぐだよ」

たかね「そのときはまた、おぞうにをつくるのですか」

  響「決まりはないと思うけど、おぜんざいとか、おしることかにすることが多いかも」

たかね「おぜんざい? おしるこ……?」


  響「そのふたつはあんまり違わないんだけどね、甘く煮たあずきとお餅を一緒にして食べるの」

たかね「あまい、あずき……! それも、たいへんにおいしそうです」ジュルリ

  響「寒いときにはあったまるしね。ってわけで、そのときまでは、鏡餅はおあずけ」

たかね「ああ、おしるこに、おぜんざい! どのようなあじなのでしょう、まちどおしいです!」




  響「…… えっ、ちょっと待って、両方は作んないよ?」

たかね「なんと!?」

  響「いや、だって、ほとんど同じもの作ったってしょうがないし」

たかね「そ、そんな! わたくしのいきるたのしみのはんぶんを、うばおうというのですか!?」

  響「さっき存在知ったばっかりで何言ってるの、たかね」


【debutante】

たかね「あの、ひびき。ほんじつの、わたくしのこおでぃねえとなのですが」

  響「それなら心配ないぞー。新年最初のお出かけだもんね、ばっちりおしゃれに決めてあげる!」

たかね「そこはひびきのことですから、しんようしております」

  響「うん、自分に任せといて! で、コーディネートがどうしたの? なにか注文ある?」

たかね「そうなのです。ひとつ、ぜひともみにつけたいものがございまして」

  響「ふんふん、じゃあ今日はそれをメインにしよっか。どれが着たいの?」

たかね「いえ、その…… おようふくではなくて、ですね」

  響「洋服じゃない? ……たかね、前にも言ったけど、シャンプーハットはお外には――」

たかね「ちがいます!! それではありません!!」


【周囲に植わってる】

  響「やっぱりお正月の街って、独特な雰囲気があるなー」

たかね「ひびき、さきほどから、あちこちにたけがたててあるのはなぜですか?」

  響「ああ、あれ? あれは門松って言って、鏡餅とかと同じお正月の飾りのひとつなの」

たかね「ほほう…… しかしなぜ、『かどたけ』ではなく『かどまつ』なのでしょう」

  響「えっ?」

たかね「たけが、まんなかで、とてもめだっています。しゅやくはたけなのでは?」

  響「…… いい、たかね。目立ってる人やものが、いつも主役だとは限らないんだよ」

たかね「はっ……!」




たかね「いえ、そういうことではなく、りゆうをきいたのです。ごまかさないでください」

  響「さあてたかね急がないとみんなとの待ち合わせに遅れちゃうぞー」

たかね「ひびき、ひびき! こちらを! わたくしのめをみてはなすのです!!」


【暗くないところで】

 亜美「おっ、二人とも来たみたいだよん」

 真美「やっほーひびきん、おひめっち! あけおめー!」

  響「ごめんみんなー、お待たせー! あけましておめでとーっ」

たかね「あけましておめでとうございます。ことしも、よろしくおねがいします」

あずさ「うふふ、こちらこそよろしくね~、たかねちゃん」

 律子「ああそうだ、響? ゆうべのメールだけど、あんな遅くまでたかねを起こしとくのは……」

 真美「げげっ……!? り、律っちゃん、その話は今はしなくていーっしょ!」

 亜美「そーそー律子サマ、年のはじめくらいカタいこと言いっこナシでさ、ね?」


【ふぁっしょんちぇっく】

たかね「みき、それに、はるかも、いつもとおようふくがちがいますね」

 美希「ミキはメンドくさいからいいって言ったんだけど、ママがせっかくだからって」

 春香「わたしはみんなでお参りするこの機会に、と思ったの。どう、たかねちゃん、似合うかな?」

たかね「はい! はるかもみきも、とてもきれいで、すてきです」

 春香「本当? えへへ、ありがとう!」

 美希「……まあ、ホントはこういう和服って、貴音のほうがぴったりってカンジもするけど」

 春香「ああ…… うん、それはわかるかも」

たかね「? わたくしが、どうかしたのですか?」

 春香「んーん、なんでもないよ。きっと、たかねちゃんが着ても似合うよね、って話」

たかね「おお! まことですかっ!」


 美希「……あれ? たかね、イヤリングなんて前からつけてたっけ?」

たかね「ふふふ、ほんじつはわたくし、おめかししているのです!」

 春香「えっ? あっ、ホントだ! おしゃれさんだねー、たかねちゃん」

たかね「ふたりとも、さすが、おめがたかいですね。どうでしょうか、にあっておりますか?」

 春香「うん、とっても! 銀色がたかねちゃんの髪と引き立てあってて、すごく綺麗だよ!」




 美希「へえー…… それに、これ、三日月の形してるんだ」

 春香「…… ねえ、たかねちゃん。これ、響ちゃんからもらったんでしょ?」

たかね「ええ、そうです。やはりわかりますか」

 美希「ミキたちにはすぐわかっちゃうの。たかね、それ、大事にしなくちゃダメだよ」

 春香「きっとね…… 響ちゃん、選ぶのに時間とかいっぱいかけたと思うんだ」

たかね「もちろんです。ひびきが"わたくし"にくれた、たいせつな、おくりものですから」


【ご対面の前に】

たかね「としのはじめから、たくさんのひとがあつまっているのですね」

  真「初めだからこそ、だよ。お参りしたら、なんとなくいいことありそうな感じがするしさ」

たかね「いちりあります。では、さっそくまいりましょう!」

 雪歩「あっ! ちょっと待って、たかねちゃん。まずこっちで手とお口をすすがないと」




たかね「そういえば、ゆきほも、きょうはわふくなのですね?」

 雪歩「うん、わたしはお洋服にしようと思ってたんだけど、お父さんがどうしてもって……」

  真「いいなあ。ボクも振袖着てみたかったんだけど、父さんがどうしてもダメだって……」

たかね「…… よのなかは、いずこも、かなしいすれちがいばかりです」


たかね「ところでわたくし、おうちをでるまえに、てはあらっておりますよ」

  真「うーんとね…… 今から神様に会うんだから、もう一度ちゃんと洗うのがルールなんだよ」

たかね「そういうものなのですか」

 雪歩「ちょっと面倒かもしれないけど、そういうものなの。はい、たかねちゃん、ひしゃくをどうぞ」

たかね「ありがとうございます。これで、おみずをくむのですね?」

 雪歩「そう、それで両手を片方ずつ洗ってね、それからお口もすすぐの」

たかね「こころえました!」




たかね「ところで、このおみずは、のんでもよろしいのですか?」

  真「うん、よろしくないね」

 雪歩「マナー的にも衛生的にもやめとこうね、たかねちゃん」


【いざお目見え】

たかね「……」

 千早「…… あら? たかねちゃん、どうしたの?」

 伊織「あとは参拝するだけでしょ? なにをぼーっと突っ立ってるのよ」

たかね「その…… じつは、さほうが、わからないのです」

 千早「ああ、なるほど……」

 伊織「日ごろの振舞い見てると忘れそうになるけど、あんた5歳だものね……」




 伊織「いい? まずは、この紐をひっぱって鈴を鳴らすのよ」

たかね「…… あっ、よくみると、うえにまるいものが! あれが、すずなのですね」

 伊織「そうよ。この鈴の音には、神様をお招きする意味があるんですって」


ガラガラガラ

 伊織「……っと、こんなものかしら」

たかね「……」ジー

 伊織「ん? なあに、鈴を鳴らす仕草もパーフェクトな伊織ちゃんに思わず見とれちゃった?」

たかね「いえ、いおりがせのびをしているのは、あまりみないものですから」

 伊織「なぁっ!?」

 千早「…… くすっ」

 伊織「ち、千早、あんた今笑ったわね!? あとで覚えてなさいよ!」

たかね「はて…… せのびをするのは、なにかはずかしいことなのですか?」

 伊織「たかね、いい!? 念のために言っとくけど、響よりはわたしの方が身長高いんだから!」

たかね「なんと! ほとんどおなじとおもっておりました」

 伊織「なんですって!? 1cmよ!? 1cmも違うんだから今後は気をつけなさいよね!」

  響「ところで念のために言っとくけど、自分、ちゃんと聞いてるからなー?」


 千早「さて、それじゃあたかねちゃん、改めて参拝のしかたを教えてあげるわ」

たかね「ちはや、よしなにおねがいします」

 伊織「ちょっと待ちなさい千早、なにさらっと流してるの!?」

  響「それより伊織はさ、身長の件で自分とちょっと話、しようか」ガッ

 伊織「い、いやああああ!?」ズルズル




 千早「最初は、さっき水瀬さんがしたように鈴を鳴らしてから、お賽銭を投げるの」

たかね「おさいせん、というのはしっております! ひびきから、このごえんだまをもらいました」

 千早「そうだったのね。それは、目の前の賽銭箱に投げ込めばいいわ」

たかね「はい! では…… とおっ!」

チャリン

 千早「ふふ、上手。この後はいくつか決まった作法があるけど、すぐ覚えてしまえるから」

たかね「わたくしに、おぼえきれるでしょうか。しょうしょうふあんが……」

 千早「大丈夫。少しくらい間違ったとしても、神様はそんなことで怒ったりしないわ」






 千早「まずは、おじぎを二回するの。神様に尊敬の気持ちを表すためね」

たかね「さいしょは、おじぎがにかいですね」

 千早「そう。そうしたら次は、手を胸の高さに持ち上げて、手のひらを重ねて」

たかね「むねのたかさで、りょうてを…… ゆびは、のばしていてよいのですか?」

 千早「それでいいわ。じゃあ、合わせた手をこうして、肩幅より少し狭いくらいに開きましょう」

たかね「……はい! ひらきました!」

 千早「そして、二回、拍手(かしわで)…… つまり、手を打ち合わせて音を立てるの」

たかね「なんと。それでは、かみさまがびっくりしてしまいませんか?」


 千早「たかねちゃんは嬉しいときや驚いたとき、思わず手を叩いてしまいたくなることがない?」

たかね「そういえば、ほんとうにするかどうかはべつで、あります」

 千早「もともとこの拍手は、そういう自然な感情の表れが由来だと聞いたことがあるわ」

たかね「なるほど…… かみさまにあえた、うれしさがこもっているのですか」

 千早「そうね。素敵な音楽や歌を聴いたときに思わず拍手(はくしゅ)をするのも、きっと同じ」

たかね「すると、ごちそうをまえにしたとき、てをうちたくなるのもおなじですね!」

 千早「ふふっ…… そうね、それも一緒に違いないわ」




 千早「ここまで済んだら、最後にもう一回おじぎをして、それでおしまい。簡単でしょう?」

たかね「おじぎ、おじぎ、てをうつ、てをうつ、おじぎ…… で、あっておりますか?」


 千早「ええ、ばっちりよ。ああ、それと最後のおじぎのときに、お願い事をするのも忘れずに」

たかね「おねがいごと?」

 千早「拍手までが神様へのご挨拶みたいなもので、その後でお願いをする感覚ね」

たかね「おねがいごと…… といっても、どのていどのことをおつたえすれば?」

 千早「確かに、複雑だと神様も困ってしまうかしら。じゃあ、好きなもののことを考えてみたら?」

たかね「おや、それだけでよいのですか」

 千早「シンプルなほうがわかりやすくていいと思うわ。神様もきっと、察してくれるでしょう」

たかね「それならかんたんです。わたくしのおねがいごとは、もうきまりました!」

 千早「そう? だったら早速、実際に参拝しましょうか」


【でざいあ】




ガラガラガラ


        パン  パンッ


 千早(…… さすが元四条さん、ちゃんと一度の説明で全部覚えているわね)

 千早(あとは一礼して…… ふふ、小さな手を合わせて、いったいどんなことをお願いし――)



たかね「らぁめん!!!!」



 千早「!?」

 周囲「ブフォッ」


 千早「ちょっ、ちょっと、四じ…… たかねちゃん、別に声に出す必要はなくて――」



たかね「それから、もちろん…… ひびき!!!!!」



 千早「!」

 周囲「……」ザワザワ

たかね「……はっ!? わ、わたくし、ねんじるあまり、つい、くちに……!」




  響「なんか大声で呼ばれた気がしてこっち来たんだけど…… たかね、どうかした?」

たかね「い、いえ、なにもありませんよ、ひびき」

  響「そうなの? ねえ千早、たかねと一緒にいたんでしょ、何か知らない?」

 千早「さあ? 私は何も。それより我那覇さん、今年はきっといい年になるわ」

  響「?」


【Green-Eyed-Carmined-Eyes】

 伊織「まったく。わたし、本当のこと言っただけなのに……」ズズッ

やよい「でも伊織ちゃん、人が気にしてることを言うのって、あんまりよくないかも」ズズ

 伊織「う…… わ、わかってるわよ」




たかね「あっ! ふたりとも、それはなにをのんでいるのですか?」

やよい「たかねちゃん、おかえりー。これはね、甘酒っていうの。あっちでもらえるよ」

たかね「おさけですか。わたくし、もうごさいですから、だいじょうぶかとはおもいますが……」チラ

  響「はいはい、飲んでみたくてしょうがないんだよね?」

たかね「とうぜんです! いろいろなあじをしってこその、しゅくじょですから」

  響「仕方ないなー。やよい、伊織も、いっしょに行かない?」

やよい「ええっ? でもわたし、もう一杯もらっちゃいましたし……」

 伊織「まあおめでたいお正月だし、神様もそうケチじゃないでしょ。付き合ってあげるわ」


たかね「…… こうしてみると、たしかにいおりのほうが、ひびきよりも、すこしおおきいですね」

 伊織「ちょっと!? たかね、やめなさい、その話はもういいから!」

  響「そりゃしょうがないさー、1cm"も"違うんだもん。1cmも」ジトー

 伊織「だ、だから、悪かったって言ってるじゃないの」

やよい「でも、うらやましいなあ。わたしなんて、まだ150センチにもとどいてないんですよ」

  響「なに言ってるの、やよいはそれがいいんじゃないかー」ナデナデ

 伊織「そうよ、突き詰めたら小柄なのも立派な個性になるんだから」ナデナデ

やよい「えへへー、そうですかー?」

  響「うん、絶対そうだぞ!」ナデナデ

たかね「……」




  響「もう事務所で自分よりちっちゃいのやよいくらいだし、いっそ連れて帰っ…… ん?」

たかね「ひびき、はやく、あまざけをもらいにまいりましょう」クイクイ


  響「どうしたのさ、たかね。焦らなくたってなくならないよ」

たかね「……」ギュッ

 伊織「…… よく考えたらわたしたち、わざわざ二杯目もらいに行くこともないわね、やよい」

  響「え?」

やよい「うん、まだたっぷり残ってるもんね。待ってますから、二人で行ってきてください!」

  響「急になに言い出すの、二人とも。さっきまでは一緒に行こうって……」




 伊織(…… 響、ちょっと耳貸して)

  響(えっ、なになに? なんか内緒話でもある?)

やよい(あの、響さん。たかねちゃん、すごくむくれちゃってます)

  響(え、ええっ!?)チラッ

たかね「……」

 伊織(きっと、あんたがやよいにとられちゃったような気がしてるんでしょ)


  響(だって自分、ちょっとやよいの頭なでたくらいだよ?)

やよい(ちっちゃい子って、そういうのよく見てますし、けっこう気にするんですよー)

 伊織(しっかりしてるように見えても、まだまだ子供ってことよ。ちゃんと安心させてあげなさい)




  響「…… よし、たかね。それじゃ改めて、甘酒もらいに行こっか」

たかね「……」

  響「あったかくて、ちょっと不思議な味で、おいしいぞ。期待してていいよ」

たかね「…… ひびき」

  響「なあに?」

たかね「ひびきは、わたくしよりやよいのほうが、かぞくにほしいですか?」

  響「!」


たかね「たしかに、やよいは、しっかりしていて、おうちのこともできますし――」

  響「…… ここで、たかねに問題!」

たかね「は、はい?」

  響「お餅はお餅でも食べられないお餅って、なーんだ?」

たかね「たべられないおもち? …… そのようなめんようなものが、あるのですか?」

  響「あるんだよ。しかも今、ちょうどたかねが持ってるね」

たかね「わたくしが? というと…… ひびきがよくいう、わたくしのほっぺですか?」

  響「ブッブー。それじゃないぞ。ほかには?」

たかね「む、むむむ…… おもち、たべられない、おもち……」

  響「どう、もう降参?」

たかね「うう…… こうさんいたします。こたえはなんですか?」

  響「…… "やきもち"」


たかね「む…… わたくし、べつに、やきもちなど、やいておりません」

  響「ごめん。自分、ちょっと無神経だった」

たかね「……やよいがこがらで、かわいいのはじじつです。でも、わたくしだって、こがらです」

  響「うん、たかねは自分より、やよいより、ずっとちっちゃいもんね」

たかね「けっしておおきくはないひびきが、かんたんに、あたまをなでられるほどに!」

  響「そうそう。ちょうどいい高さだから、ついなでちゃうんだよなぁ」

たかね「どうせ、いやだといっても、ひびきはやめないのですから」

  響「そんなことないよ。はっきり言ってくれたら、自分、やらないように……」




たかね「いまだけは、もんくをもうしません。ですから、その…… すきになでても、かまいませんよ」

  響「お、そうなんだ? それじゃ遠慮なく、お言葉に甘えて」ナデナデナデ

たかね「…… んふふ、ふふ」






たかね「あっつ、あちっ…… あちちっ!?」

  響「無理しないほうがいいよ、たかね。冷めるまで自分が持っといてあげるってば」

たかね「いいえ! これは、あち、わたくしがいただいたぶんですから、わたくしがじぶんで!」

  響「心配しなくても、誰も取ったりしないって」

たかね「そうではないのです! おとなとして、そのくらいのことは、じしんで、あちち!!」

  響「大人ならちゃんとそのへん、聞き分けてくれたっていいでしょ!?」

ギャーギャー




やよい「あっ、響さんとたかねちゃん、帰ってきたよ! 大丈夫だったかなぁ?」

 伊織「…… ここからでも見えるくらい、にこにこしてるじゃない。心配するだけ損ってやつよ」


【実力のうち】

 亜美「さーて、おひめっち! 亜美たちとことし最初の勝負といこーぜぃ!」

たかね「ほう…… わたくし、まけませんよ。なにでたたかうのです?」

 真美「んっふっふー、読みが甘いぞよおひめっち。みんなで初詣とくれば、アレっきゃないっしょ?」

たかね「はて、あれ、とは?」

 亜美「これだよこれっ! 年のはじめの運だめしといえばこれ、おみくじなのだー!」




 律子「はぁ、全く、勝負って…… あの子たち、縁起物だってことわかってるのかしら」

あずさ「でもお正月には引きたくなりますよね~。そうだ、律子さん、わたしたちもやりましょう!」

 律子「は!? え、いえ、私は別に……」

あずさ「わたしもたまには、誰かに運勢を見てもらいたいんですよ。ほらほら♪」

 律子「ちょっ、あずささん、わ、わかりましたから、引っ張るのは!」


 真美「そんじゃ、いっせーのせ、でみんな開くんだよっ!」

 亜美「おひめっち、負けを認めるならいまのうちだよん」

たかね「ふっ、なにをいっているやら…… あみもまみも、てきではありません」

あずさ「うふふ、何が出るかしら~。どきどきしちゃうわ」

 律子「…… ねえあずささん、なんで私たちまで一緒に混じってるんです?」

 真美「よーし、行っちゃうかんねー!? いっせえのー…… せっ!!」




 亜美「…… しょ、小吉…… うあうあー、ビミョーすぎてコメントしづらいよー!」

 真美「真美は吉ゲットだーっ! ……ねえ亜美、小吉と吉ってどっちがいいんだったっけ?」

あずさ「えいっ…… わあ、中吉! 二番目にいいのを引けるなんて、いい年になりそう♪」

 律子「どうして私までこんな…… …… あっ、大吉……」

あずさ「まあ、おめでとうございます律子さん。きっと今年は最高の年ですよ~!」

 真美「あーっ、いいなー、律っちゃん」

 亜美「ていうかもうこれで勝者確定じゃーん、つまんないのー!」


 真美「あ、そーいえば、おひめっちはどうだったのさ?」

 亜美「黙りこくってるとこ見るとー? んっふっふ、さては……」

たかね「…… ……ふふ、ふふふ」

 律子「た、たかね? どうしたの、大丈夫?」

あずさ「たかねちゃん、前も言ったけど、占いやおみくじの結果ってそんなに気にしなくていいのよ?」

たかね「ふふふ。わたくしがだまっていたりゆうは、そのようなことではないのですよ、みな」

 真美「んんー……? どゆこと?」

 亜美「およっ、てことはおひめっちも大吉だったの?」

たかね「さあ、これをごらんなさい! きっと、たいへんにめずらしいものにそういありません!!」



   「大凶」 バァーン








 真美(……ねえ亜美、おひめっちアレ読めてないっぽいから、ホントのこと教えてあげなよ)

 亜美(うええっ、なんで亜美!? そーゆーのはズノーどーろ担当の律っちゃんっしょ!)

 律子(それこそどうして私なのよ! ……確か一番いい運勢引いた人が勝ちで、偉いのよね?)

あずさ(り、律子さん、どうしてそれをわたしの方を見ながら言うんですか~!?)

 律子(だって占いやおみくじに一番造詣が深いのはあずささんじゃありませんか!)

あずさ(で、でもっ! たかねちゃん以外でいちばん結果が悪かったのは真美ちゃんですよ!?)

 真美(にゃ、にゃんだってー!? あずさお姉ちゃん、真美のこと売るつもりなの!?)




たかね「ふふふ、みな、わたくしのごううんに、こえもありませんか」ドヤァ…

 亜美(声が出てないのはホントだけど理由が全然ちがーう!!)


【氏名住所を忘れずに】

 春香「うーんと…… どうしようかなぁ……」

 美希「あふぅ…… ミキは、こんなカンジでいーかな、っと」

 春香「は、はやっ! え、美希、もう書いちゃったの!?」

 美希「神様へのお願い、でしょ? ミキの自力じゃできないことなんて、ケンコー祈願くらいなの」

 春香「う、うわあ…… これだけ言い切られて説得力があるの、なんかくやしい……!」

  真「雪歩ー、できたー? あんまりのんびりしてたら、いい場所とられちゃうよー」

 雪歩「あ、あうぅ、ごめんね、真ちゃん…… もうちょっと待ってて」

  真「待つのはいいけど…… そんなに熱心になに書いてるのさ、ちょっとボクにも見せてよー」

 雪歩「わあっ!? ダメ、見ちゃダメー!」




たかね「はて。みなできのいたをてに、なにをしているのです?」

 春香「あっ、たかねちゃん。これ、絵馬っていう、お願い事を書くものなんだよ」


たかね「…… おねがいごとは、さんぱいのときにおつたえするのではないのですか?」

 春香「あ、そういえば……」

  真「言われてみればそうだね…… 絵馬って、なんのために書いてるんだっけ」

 美希「単に口で伝えるだけじゃなくて、書いてショーコも残しとく、ってことじゃないの?」

 春香「証拠、かぁ…… なんか世知辛いけど、そんなところかもね」

 雪歩「…… ええっとね、みんな。昔は、本物のお馬さんを神様に捧げてたんだよ」

  真「ええ!?」

たかね「なんと!?」

 雪歩「貴重なお馬さんをあげるから、かわりにお願いを聞いてください、ってことだったの」

 春香「じゃあ絵馬って、本物の馬のかわりにこれで、ってことだったんだ……」

 美希「ふーん。それでオッケーなんだったらずいぶん安上がりなの」

 雪歩「ちょっ、美希ちゃん!? ストレートすぎるよぉ!」


  真「さてと、せっかくだからたかねも書いていけば?」

たかね「それはよいですね。かみさまに、ねんをおしておきましょう!」

 春香「そうだ。たかねちゃん、絵馬の書き方のコツ知ってる?」

たかね「いえ、わたくし、みるのもはじめてですので」

 春香「あはは、だよね。これ、お願いするんじゃなくて、言い切るといいんだって」

たかね「いいきる?」

 美希「『○○できますように』じゃなくて、『○○する!』みたいに書くといいってコトだよ」

たかね「なるほど! では、すこし、かえまして……」




たかね「これで…… できました!」

  真(三文字!)

 美希(ミキよりシンプルなの!)

 雪歩(漢字はまだ難しいよね。あの字は、特に)

 春香(ふふっ、たかねちゃんなら当然、そうなるよねっ)


【注連/三五七】

たかね「ひびき、さきほどから、きになっているのですが」

  響「なあに、どうしたの?」

たかね「おみせやおうちのとびらのまえに、みかんがあります! ほら、あそこにも、ここも!」

  響「…… さっきからやたらそわそわしてると思ったら、それが原因だったんだな」

たかね「どれもたいへんおおきく、いろもきれいです! いただいてもよいのでしょうか」キラキラ

  響「ダーメ。っていうかそもそもあれ、みかんじゃないからね?」

たかね「ぬ…… わたくしをあきらめさせようとして、うそをついていますね、ひびき」

  響「嘘じゃないよ。確かにみかんの仲間だけど、ダイダイって言って、種類が違うんだぞ」

たかね「だいだい?」

  響「お家や子孫が代々栄えるようにって、そういう願いをこめてあるの」

たかね「なんと! ただのだじゃれではありませんか!」

  響「縁起物なんて、どれも案外そういうものさー」


【いま明かされる衝撃の】

たかね「えんぎもの、といえば…… ひびきは、おみくじはひきましたか?」

  響「おみくじ? ああ、そういえば今年は引かなかったなー」

たかね「おや、それでは、わたくしとしょうぶできませんね」

  響「たかねは引いてたんだ。 ……ちょっと待って、勝負ってなに?」

たかね「もちろん、おみくじのけっかのよしあしできそいあうのですよ」

  響「どうせ亜美と真美が言い出したんでしょ、それ。で、たかねはどうだったの」

たかね「このとおり、わたくしにふさわしい、さいこうのものでした!」ピラ

  響「へえー? まあ、初詣のときは大吉多めに入れてる、なんて話もあ――」




たかね「ふふふ、どうです? それをみるとみな、ひびきのように、おしだまってしまうのですよ」

  響(……ってことはつまり、その場にいた誰もまだホントのこと言ってないんだな!? もー!!)






たかね「……」ズーン

  響「えーとね、その…… そう、珍しいのは間違いないから、ある意味運はいいんだって!」

たかね「…… そのようななぐさめ、けっこうです……」ズーン

  響「ただの運試しなんだから、そんな気にするようなことじゃないさー」

たかね「よりによって…… あたらしい、いちねんのはじめに……」

  響「いやでもおみくじってだいたい、年の初めくらいにしか引かないし」

たかね「それにくわえ、みながこのことをひみつにしていたのもゆるせません!」

  響「みんな、たかねがショック受けないようにって気を遣ってくれたんだよ、きっと」

たかね「あとできかされるほうが、よりしょっくです!!」

  響「…… あー、そこはさ、あのー…… あれだよ、ほら、その……」


  響「…… でもさ、たかね、考えようによっては大凶って、すごくいいのかもよ」

たかね「なにがですか!? まずみかけない、さいあくのけっかなのでしょう!」

  響「今が最悪なんだったら、これから先はいいことしか起こらない、ってことじゃない?」

たかね「え? …… あっ、なるほど……」

  響「それに、たかね一人だったら大変だけど、自分もいっしょにいるんだから大丈夫だよ」

たかね「…… ふふふっ。それならば、わるいことはすべて、ひびきに、ひきうけてもらいましょうか」

  響「えーっ、何それ。ひっどいなぁ」

たかね「おみくじをひいていないひびきへの、おすそわけですよ」




  響「…… 夕飯、たかねの食べたがってたカレーの予定だったけど、やめちゃおうかな?」

たかね「な、そ、そんな!? さっそく、わるいことがはじまっているではありませんか!?」

  響「いーや、これに関してはたかねの自業自得だぞー」


【もはや日本料理】

たかね「おおお…… これは、はじめてかぐ、えもいわれぬかおり……」スンスン

  響「確かにこの匂いって、これでしか味わえないからね」

たかね「みためにも、こがねいろ…… ともうしますか、つやつやと、かがやいていて!」

  響「あんまり眺めてばっかりいると冷めちゃうから、早く食べようよ、たかね」

たかね「なりません! まずは、めとはなで、しっかりとたのしまねば!」

  響「まったくもう。どこの美食家なのさ……」




たかね「んん! んんんん!!」ムグモグムグ

  響「どう? これが、日本人のソウルフードのひとつとか言われることもあるカレーだぞ!」

たかね「んんむ…… こ、これは、まさしくびみです!!」


たかね「ほどよいからさで、とろみが、ごはんとからみあって!」

  響「そうそう、カレーはお米でこそだよね。いや、ナンとかでもおいしいけどさ」

たかね「なん……? ごはんのほかにも、かれーとくみあわせられるものが!?」

  響「え? ああ…… うん、外国のパンみたいなのがあるんだよ」

たかね「なんと! それは、ほんじつはないのですか!?」

  響「ごめん、今日は準備してないや。次にカレー食べるときはそっちにしようね」

たかね「むぅ…… いたしかたありませんね。つぎのたのしみに、とっておきます」




たかね「さきほどひびきのいっていた、"そうるふーど"とはなんですか?」

  響「ようは、その国の人ならたいてい好きで、よく食べるお料理のことさー」

たかね「ではたとえば、ごはんや、おにぎり…… それに、おみそしるなどでしょうか」

  響「そういうのだぞ。それ以外に、カレーとか、ラーメンもそうだって言う人もいるね」

たかね「らぁめんもですか! ではわたくしは、みもこころも、まぎれもないにほんじんです!」


  響「間違いないね。ちなみに、組み合わせたカレーラーメンなんてのもあるよ」

たかね「まことですか!? ではつぎのときは、ぜひそれを!」キラキラ

  響「それはいいけど、そうするとナンが食べられなくなっちゃうぞ?」

たかね「あっ…… うう、それはこまります……」

  響「ふふふ、いっぱい悩むといいよ。そうだ、ラーメンとカレーならどっちが好きだった?」

たかね「どっち? ……らぁめんと、かれーで?」

  響「そ、あえてひとつだけ選ぶとしたら、たかねはどっちが好き?」

たかね「……」




たかね「…… ……」ポロポロポロポロ

  響「ちょっ!?」




  響「ホントにごめん、ちょっと聞いただけだから、ね、自分が軽率だったぞ、ごめんね」

たかね「う、うう…… わたくし、じしんのこころは、うらぎれませんでした……」ポロポロ


【計画倒れ】

たかね「『いちねんのけいは、がんたんにあり』…… たいへん、よいことばです」

  響「昔の人はためになること言うよね」

たかね「それにまなび、わたくし、ことしのもくひょうをたてることにします!」

  響「ほほー。まさかと思うけどラーメン何杯食べるとか、そういうのじゃないよね?」

たかね「ふっ…… わたくしをあまくみないでください、ひびき。もちろん、ちがいます」

  響「へえ、じゃあ、どんなの?」



たかね「ことしは…… たくさんたべて、わたくし、ひびきよりもおおきくなってみせます!」



  響「……たかね、目標って、一般的には努力でなんとかなるものにするんだよ?」

たかね「やってみないで、あきらめるのはよくありませんよ」

  響「何事にも限度ってあると思うぞ、自分」


【昔は大人ももらえました】

たかね「ときに、ひびき。なにかわすれていることがございませんか?」

  響「え? ……あれ、自分、なにか約束とかしてたっけ?」

たかね「おやおや、そのようなことでは、かんぺきのながないてしまいますよ」

  響「えーっと…… ごめん、まだ思い出せないや。なあに?」

たかね「いたしかたありませんね、おしえてさしあげます。わたくしの、おとしだまですよ」

  響「えっ」

たかね「おとしだま、です。 ……ま、まさか、しらないのですか!?」

  響「いやもちろん自分は知ってるぞ。じゃなくて、なんでたかねが知ってるのかなぁ、って」


  響「やっぱりこれも亜美と真美が元凶かー…… ほんと、ロクなこと教えないんだから」

たかね「それはさておき、わたくしにも、もらうけんりがあるはずです」

  響「ちょっと待ってよ。むしろ、自分だってまだもらってておかしくない立場なんだからね?」

たかね「ですが、いまのわたくしのほごしゃは、ひびきでしょう?」

  響「そりゃそうだけどさー」

たかね「ならば、まずはひびき、ほごしゃとしてのせきむをはたしてください!」

  響「お年玉あげるのが保護者の義務だなんて話、初めて聞いたぞ、自分……」




  響「はい、じゃあ、たかねにはこれあげる」ペラッ

たかね「まっておりました!」


たかね「…… はて、これは? きっぷ、ですか?」ピラピラ

  響「できたてのほやほや、しかも自分のお手製で、ほかじゃ手に入らない超レアものさー」

たかね「しかし、ひびき。おとしだまとは、おもに、おかねだとききましたが」

  響「たぶんそれ、たかねにとってはお金よりよっぽど嬉しいと思うよ」

たかね「そうなのですか? なぜですか?」

  響「そこに使い方も書いといたから、まずはちゃんと読んでみて」

たかね「む。そのようにてまをかけずとも、ひびきがせつめいしてくれれば、すむのでは?」

  響「たかねももう5歳のりっぱな淑女なんだし、たまにはお勉強しなくっちゃ」

たかね「…… いわれてみれば、たしかにそうです」

  響「ん、がんばってねー」






たかね「ひ、ひびき! ひびき!!」タタタッ

  響(おっ、きたきた)

たかね「このきっぷにかいてあることは、まことなのですか!?」

  響「もちろん、まことだよー」

たかね「では、これをだせば…… しゅうにふたつめのかっぷめんをしょくしても、よいのですね!?」

  響「うん、自分も大人として、アイドルとして、二言はないぞ」

たかね「なんと……、なんとすばらしいのでしょう!! ゆめのようなきっぷです!」キラキラ

  響「でも使えるのは週に一枚限り、全部で七枚だけだから、タイミングはよーく考えるんだよ?」

たかね「む、むむむ…… たしかにこれは、いつつかうか、はんだんがじゅうように……!」

  響(……苦しまぎれの思いつきだったけど、喜んでるみたいでなによりだぞ。ふふふ)


【Waxing Gibbous】

たかね「あっ、そうです! ひびき、ことしさいしょのおつきさまをみましょう!」

  響「初日の出見に行くかわりの、初お月見かー。うん、風流でいいかもね」

たかね「もうそろそろ、まんげつになっているでしょうか?」

  響「んーと、ちょっとタイミングが早いかなぁ。でも、あと一週間もしないくらいのはずだよ」

たかね「そうですか、わたくし、はやくみてみたいです」

  響「そっか、そういえば、たかねはまだ満月見たことないんだったっけ」




  響「おおー。もう、半月よりけっこう大きくなってるなー」

たかね「こんばんも、おつきさまはきんいろで、あかるくて…… とてもうつくしいです!」

  響「うん、ホントに。今日は雲もないからよく見えるね」

たかね「まんげつのばんは、あれがまんまるになるのですね?」

  響「そうだよ。この感じなら一週間もかかんないかな、あと三、四日くらいだと思うぞ」


たかね「そういえばひびき、しっていますか? おつきさまには、うさぎさんがいるのですよ」

  響「へえー、たかね、それは誰に教えてもらったの?」

たかね「むっ…… だれでもありません。これはわたくしのはっそうです!」

  響「そうだったんだ。ごめんごめん、その言い伝え、もともと有名なんだよ」

たかね「おや、そうだったのですか? ざんねんです」

  響「それにしても、どうしてうさぎさんがいると思ったの?」

たかね「せんじつのゆきうさぎさんが、きっと、おつきさまへいったとおもいまして」

  響「なるほど。じゃあ、お友達も一緒に、かな?」

たかね「もちろんです!」




たかね「それより、そのいいつたえは、なぜできたのでしょうか?」

  響「満月じゃなくても、これだけ大きかったらわかるかな。ほら、あのお月様の模様がさ」

たかね「もよう?」

  響「そう、影みたいになってるでしょ。あれがうさぎに見えるって、昔から――」

























  響「――ね! たかね? たかね、ねえ、たかねってば、聞こえてる!?」


たかね「……おや、ひびき? どうしました?」

  響「あ…… もうっ、『どうしました?』じゃないぞ!? 急に黙り込んで、ぼーっとしちゃってさ」

たかね「…… ……わたくしが、ですか? ぼおっと?」

  響「気になったから声かけても全然返事もしないし。自分、心配したんだからね?」

たかね「こえをかけていたのですか? ひびきが、ずっと?」

  響「…… ちょっとたかね、ホントに大丈夫なの? 自覚もなかったなんて……」

たかね「い、いえ、なにもないのです。だいじょうぶ、ですよ」

  響「まぁ、今なんともないならいいんだけどさ」




  響「さ、もう十分見たでしょ? まだまだ寒いし、お部屋に戻ろうよ」

たかね「…… そう、ですね」


たかね「ひびき。さきほどの、おはなしなのですが」

  響「先ほどの? どの話?」

たかね「あとどれくらいたてば、まんげつになるのか、というおはなしです」

  響「あはは、そんなに楽しみなんだ。ちょっと待っててね、ちゃんと調べてみるから」




  響「えーっとね…… うん、自分の見立てで合ってるみたい。あと四日ってところかな?」

たかね「よっか…… まんげつは、よっかごなのですね?」

  響「うん、そしたら真ん丸なお月様が見られるぞ! もちろん晴れてれば、だけど」

たかね「きっと、はれますよ。そんなきがいたします」

  響「だといいね。そうだ、前の日になったらてるてる坊主とか作ろっか!」


本日の投下は、これでおしまいです。

生存報告です。
相も変わらずお待たせしてしまっており申し訳ありません。
今月中には更新できる予定ですので、どうかもう少々お待ちください。

ここへきて今更ですが、誤記の訂正をさせていただきます。

>>730
× 【Green-Eyed-Carmined-Eyes】

○ 【Green-Eyed-Carmine Eyes】

生存報告です。
少々立て込んでしまっており、まだ時間をいただきます。
先月のうちには更新を、などと言っておきながら、すみません。
今少しお待ちくださると幸いです。


  響「じゃあみんな、おつかれー! 自分たちはお先に失礼するぞー」

 雪歩「あれっ…… 響ちゃん、もう帰っちゃうの?」

  響「うん、冬休みもそろそろ終わっちゃうし、今日はたかねのことかまってあげるつもり!」

 伊織「なるほど、そういうこと。よかったじゃないの、たかね」

たかね「……ええ、そうですね」

 伊織(あら……? てっきり大喜びしてると思ったのに、意外と反応薄いわね……)

 律子「正月休み終わりがけで交通量も増えてきてるし、気をつけて帰りなさいよー」

 小鳥「今日もお疲れさまでした、響ちゃん」

あずさ「また明日ね~、響ちゃん。たかねちゃんも、ばいばい」

  響「うん、また明日! たかねもほら、ちゃんとあいさつしよう?」

たかね「あ…… そうでした。みな、おつかれさまでした」






  響「はーっ、寒い寒い……! こんな日は急いで帰って、こたつであったかいもの食べなきゃね」

たかね「……そう、ですね。それがよいでしょう」

  響「あれ…… ねえたかね、具合でも悪いの?」

たかね「はい? いえ、とくには…… なぜですか?」

  響「だっていつもなら『ほんじつのめにゅーはなんですか!?』って、すぐ食いついてくるのに」

たかね「…… じつは、すこし、かんがえごとがございまして……」

  響「考え事?」


たかね「あの…… ひびき。こんばんが、まんげつなのでしたね?」

  響「そうだよ。よく晴れてるし、きっときれいに見えるぞー。たかねがいい子にしてたからさー」

たかね「そこでわたくし、おりいって、おねがいがあるのですが……」

  響「あはは、今日はまたえらく神妙だなぁ。なに、どうしたの?」

たかね「またてんたいかんそくをしたいのです。あのおかへ、つれていってくれませんか?」

  響「え…… えぇ!? こんな寒い日に、わざわざ? たかね、また風邪引いちゃうよ」

たかね「わたくしなら、だいじょうぶです」

  響「今日はベランダから見ればいいでしょ。あそこに行くのはもっと暖かい日にしない?」

たかね「どうか、おねがいします、ひびき。わたくし…… どうしてもこんやは、あのばしょがよいのです」

  響「……もーっ、しょうがないなぁ。それじゃ、しっかり寒さ対策してかなくっちゃ」






  響「よーし、とうちゃーく、っと! ……ううー、わかってたけど、すっごい冷えてるなー……」

たかね「…… ……」

  響「たかねは大丈夫? ホントに寒くない?」

たかね「ひびき」

  響「ん? なあに?」

たかね「いつも、わたくしのわがままをきいてくれて、ありがとうございました」

  響「……ちょっと、今日はどうしちゃったのさ? たかね、ずいぶんおとなしいじゃないか」

たかね「そう、でしょうか」

  響「間違いないぞ、口数も少ない感じだし。なにかあったの?」

たかね「…… ……ひびき、じつは、わたくしは……」

  響「うん、たかねが?」

たかね「ひびきと、おわかれせねばなりません」

  響「……え?」







【きみのふるえる手を】






  響「お別れ、って…… えっ、たかね、なんの話してるの?」

たかね「てんたいかんそくがしたいのは、ほんしんですが…… ここにきたのは、べつのりゆうです」

  響「な、なに言ってるのさ。あのね、そういう冗談ってぜんぜんおもしろくないぞ」

たかね「きょう、このよる、おむかえがある、とれんらくがありました」

  響「お迎え……? だから、いったい、なんのことなのか――」




たかね「…… ……きた、ようです」

  響「えっ?」






  響「……なに、あれ?」






  響「え…… え、ええ!? ゆ、UFO!?」

たかね「こちらでは、そのようによぶことがおおいようですね」

  響「なに平然としてるの、たかね!? 早くここから――」

たかね「だいじょうぶです。ひびきに、もちろんわたくしにも、きけんはありません」

  響「…… ……ねえ、待って、『こちらでは』ってどういうこと?」

たかね「あれが、わたくしのおむかえです」

  響「さっきからさっぱり意味がわかんないよっ! たかねのお迎えって、なんなのさ!?」

たかね「わたくしが…… "くに"へかえるときがきた、ということです、ひびき」

  響「くに? くに…… って、かえる、ってそれ、どういう意味……?」






  響「…… なんだあれ、今度は、人が出てきて…… どうなってるの、これ……」

たかね「……」

  響「夢、きっと、夢だ…… 早く覚めてよ、こんな意味のわかんない夢なんかうんざりだぞ……!」






???「お久しゅうございます、姫君。先般お伝えしました通り、お迎えに上がりました」

たかね「…… ……おやくめ、ごくろうにぞんじます」


  響「だ、誰なんだ、あんた! たかねのこと、どうするつもり!?」

???「姫君。これは?」

たかね「こちらでの、わたくしのかぞくで、ともです」

???「…… ご家族で、かつご友人…… ですか?」

たかね「はて。それになにか、おかしなことがありますか」

???「いえ、これは失礼を。承知仕りました」

たかね「ひびき。こちらは――」


 使者「そのようなお気遣いは無用です、姫君。いずれにせよこの方とは二度とお会いしませんゆえ」


  響「だから、自分を残して勝手に話を進めないでってばっ!!」

たかね「あの…… どうか、どうかおちついてください、ひびき……」

  響「これが落ち着いてられる!? それよりたかね、自分から離れるんじゃないぞ!」

 使者「……ご友人、ということですので大目に見ますが、あまり気安い口をおききになりませんように」

  響「うるさい! さっきも聞いたけど、姫君うんぬんより前にまずあんた誰なの!?」

 使者「私は、姫君にお仕えする家臣がひとりに過ぎませぬ」

  響「家臣だの姫君だのって…… まるで、たかねが本当にお姫さまかなんかみたいな、」

 使者「実際に姫君であらせられるとしたら?」

  響「……え?」

 使者「この方こそ、月世界の第一王女である姫君でございます」

  響「月……? 月、って、あの…… あそこで空に浮かんでる、あの月?」

 使者「いかにもその通りです」

  響「……はは、あはは、は! 冗談、冗談だよね? ドッキリとか…… そういうの、でしょ……?」

 使者「お信じになるかどうかは、ご随意に。こちらとしては事実をお伝えするのみですゆえ」


  響「…… ……じゃあ、その、月の人、が…… なんで急にたかねを迎えに来るの?」

 使者「所定の期間が経過したゆえにございます」

  響「期間? 所定の、って……」

 使者「姫君がこのたび地球に参りましたのは、王族の子女としての試練をお受けになるためでした」

  響「し…… 試練? はは、ははっ、アイドルやるのがなんの試練だっていうのさ!?」

 使者「そうではありません。地球を訪れること、それ自体が試練でございます」

  響「…… つまり、大事に育ててきた子に、あえて一人で旅させる…… みたいな?」

 使者「概ね、そのようなものと捉えていただいて結構です」

  響「一応…… 理屈としてはわかるよ。でも、なら、なんで貴音はちっちゃくなっちゃったの?」

 使者「ああ、そうでした。その点で大きな認識の齟齬があるのですね」

  響「そご? ……どんな勘違いがあるっていうんだ?」






 使者「姫君は "小さくなってしまった" のではございません。"元にお戻りになった" のです」




  響「…… ……はっ?」






  響「な、なに言ってるの……? 小さくなったんじゃない、って、でも現にいま、こんなちっちゃい子に――」

 使者「おわかりになりませんか。現在のそのお姿こそが、姫君本来の風采である、ということですよ」

たかね「……」


  響「えっ、ま…… 待って! どういうこと!? 自分、意味がわかんないよ!」

 使者「そのままの意味でございます。一時的に成長しておられたのが、こうして元に戻られただけのこと」

  響「バカ言わないでよ!! そもそも一時的に成長だなんて、そんなこと、できるわけが……」

 使者「我々の技術をもってすれば、さほど困難なことでもありません」

  響「でも、じ、自分のよく知ってる貴音は…… 自分より2歳も年上で、背だってずーっと高くって!」

 使者「ですから、それらはすべて、この姫君の仮の姿であった、ということですよ」

  響「見た目だけの話じゃないよっ! 態度とか知識とか、話の内容とかも…… 貴音は!」

 使者「当然でしょう。身体の成長に合わせ、精神年齢を引き上げない理由などありますでしょうか?」

  響「そ……、んな! じゃあ…… 貴音と、自分が、初めて会ったときから、ずっと……?」




 使者「左様でございます。貴女が知っていたとお思いの"四条貴音"なる存在は、幻想に過ぎません」


  響「…… なんで、なんでそんなことしたの!? たかねを無理やり成長させて、なんの意味があるのさ!?」

 使者「先ほども申しました、試練をお受けいただくための準備のひとつです」

  響「こんなちっちゃい子を、大人に見せかけて…… それでよそにひとりぼっちで放り出すのがあんたのいう試練なの!?」

 使者「ああ、ようやくご理解いただけましたか。その通りですよ」

  響「ふざけてるのか!? そんな危ないことやらせるなんて、いったいなに考えてるんだ!」

 使者「どんなものであれ、試練というからには相応の危険が伴うものだと存じますが」

  響「そういう問題!? それに、あんたの話だとたかねは月のお姫様なんでしょ!? なのに!」

 使者「王族だからこそ、この程度も乗り越えられぬようでは到底務まらない、ということでございます」

  響「それで―― それで、もし万が一のことでもあったら、取り返しつかないじゃないか……!」

 使者「ええ。間引き…… とまでは申しませんが、ふるいにかけるような面もございまして」

  響「…… ……なんだって?」

 使者「過去には、政治的に対立する者らが試練の機会を利用し、王族を亡き者にした例もあったとか」

  響「…… おかしいよ、そんなの…… 絶対おかしい、間違ってるぞ……!」


たかね「いままで、なにもおつたえできなくて…… ごめんなさい、ひびき」

  響「…… たかねも、このこと…… 初めから、全部、知ってたの……?」

たかね「いいえ!! ちがいます! それだけはぜったいにちがいます、しんじてくだ――」

 使者「姫君は本当にご存知ありませんでしたよ。少なくとも、四日前の晩までは」

  響「なんであんたがそんなこと言い切れるのさ?」

 使者「その時点でようやく、我々と姫君との間で連絡が取れたからでございます」

  響「は!?」

 使者「お迎えにあがる旨、その日時…… 同時に、姫君がお忘れだった情報もお伝えした次第でして」

  響「忘れてた……?」

 使者「……致し方ありませんね。ここまでお話しした手前、もう少しご説明して差し上げましょう」


 使者「まずそもそも、試練に臨むにあたり、対象者は月の民としての記憶を一時的に抹消されます」

  響「えっ…… どうして?」

 使者「地球の民として溶け込めるように、ですね。その際、地球人としての仮の記憶も与えられます」

  響「それじゃ、貴音の名前なんかのプロフィールも、全部うそっぱちだってことなのか……」

 使者「苗字に関してはその通りです。『四条』という姓は、月の民が代々名乗ってきた仮の苗字でして」

  響「! つまり、貴音って名前だけは本名だってこと?」

 使者「はい。少なくとも音としては、もっとも近い表記と言って差し支えないでしょう」

  響「……そう、なんだ。少なくとも自分、貴音のこと、全然知らなかったわけじゃないんだね」

 使者「まあ、そういうことである、としておきましょうか」


 使者「ただ問題は、我々の有する地球についての記録がいささか現状に即していないことにあります」

  響「…… もしかして、貴音の言葉づかいがやたら時代がかってたのって……」

 使者「そういうことです。数十年、部分的には数百年単位での乖離が生じてしまっていたようですね」

  響「なるほど、ね…… さもそれが普通みたいな感じで喋ってたけど、そんな理由があったのか」

 使者「また、当然ですが、年齢を成長させる施術の維持にはそれなりの熱量を必要と致しまして」

  響「つまり、なに? 貴音が食いしん坊だったのも実はそこが原因だってこと?」

 使者「仰る通りです。もちろん、姫君にその意識はありませんので、無自覚だったはずですが」

  響「なんだか話が急すぎて、現実味はぜんぜんないけど…… 確かに、理にはかなってるね」




 使者「さて…… では改めて、私が今回姫君をお迎えに参るまでの経緯をご説明しておきましょう」

  響「うん。聞かせてもらうぞ」


 使者「本来であれば、定められた試練の期間が終わり次第幼子に戻られ、迎えの者がすぐ参ります」

  響「今あんたがここにいるのも、そのルールに従ったからじゃないの?」

 使者「その前に、そもそもまず私含め、ほとんどの者は試練の正確な期間を知らされておりません」

  響「……じゃあ、どうやって迎えにくるタイミングを合わせられるんだ?」

 使者「元に戻られたことが我々に自動的に伝わる仕組みになっており、それを確認してから伺うのです」

  響「おかしいじゃないか! だって、貴音がたかねになっちゃったのはもう一月くらい前なのに!」

 使者「今回に限り、少々事情が異なっておりましたゆえ」

  響「事情……?」

 使者「はい。姫君は、王位継承の優先権で言うと第一位にあたるお方です」

  響「女王様の候補として、優先順位が一番上、ってこと?」

 使者「その通りです。その分、試練も常と比べると困難なものとなります」

  響「あんたたち……、こんなちっちゃい子にどれだけ要求したら気が済むんだ!?」

 使者「そう申されましても、こちらにはこちらの慣例がございますので」


  響「っ……、もういいよ! それで、たかねの場合が普通とはどう違ったっていうの?」

 使者「単純なことです。姫君の側から、接触を図ってもらう必要がございまして」

  響「接触…… っていったって、たかねが自分から誰かに連絡を取る手段なんて…… ……まさか」

 使者「お気づきになりましたか。こちらで言う『満月』直前の月を、姫君がご覧になることが必要でした」

  響「じゃあ…… この間の晩、たかねが急にしばらく反応しなくなったのって……」

 使者「お察しの通り、その折に我々と交信しておられたためです」

  響「それで、貴音がたかねになっ…… "戻ってる"のがようやくわかって、あんたがのこのこ来たってわけだ」

 使者「ええ。すでに一月近くも経っているとは、さすがに思いませんでしたが」

  響「それで家来とかよく言えるよ! ふつう、心配でいてもたってもいられないんじゃないの!?」

 使者「我々は決め事に従うのみです。仮に姫君が失敗なさったとして、そこまでの器だっただけのこと」


  響「……もうこの際、あんたが本当に月の人で、たかねを連れ戻しに来た、ってのは信じるしかなさそうだぞ」

 使者「それは大変に助かります」

  響「でも…… なら、あんたが、たかねをちゃんと無事に連れて帰ってくれる、って保証は?」

 使者「かえって疑念を抱かせてしまいましたか。しかし、もしも私が姫君に害意を抱く身なら――」フッ


  響(なっ…… き、消え…… っ!?)


 使者「――貴女相手にゆるりと言葉を交わしている必要など、特にないのでございまして」


  響「…… ひっ!?」


  響(い、いつの間に自分の後ろに!? 見えもしなかったし、気配も、全然……!)

 使者「ここまでで『そうした行動』を取っていないこと、それ自体をもって信用していただければ、と」


  響「…… じ、自分のこと、どうにか、するつもり…… なの?」

 使者「申し上げましたでしょう。そうする必要があれば、最初からそのようにしております」

  響「っ……!」

 使者「むしろ貴女には感謝しているのですよ。この一月ほどの間、姫君を保護してくださったのですから」

  響「それ、は…… だって当然でしょ、友達が、困ってたんだから」

 使者「…… なんにせよ、おかげで何事もなく無事に試練が済みましたこと、改めて礼を申し上げます」

  響「あ…… ああ、ごていねいにどうも…… 別に自分、たいしたことはしてないけど」


  響(どうにもペースが狂わされちゃうぞ…… そういう意味では貴音と似てるけど、でも……!)


 使者「それでは、私どもはこれで失礼致します。もうお会いすることもありませんゆえ、ご安心を」

  響「…… 気に入らないぞ、自分。やっぱり、どうしても気に入らない」

 使者「礼ならば申し上げましたし、貴女をどうこうするつもりもございませんが…… 他に何かご不満でも?」

  響「いっぱいあるよ。その中でもいっちばん気に食わないこと、言っていいかな」

 使者「構いませんが、手短に願えますか」

  響「ありがと。じゃあ、教えてほしいんだけど」


  響「ねえ、あんたさ…… なんでたかねに謝らないの?」


 使者「…… はい?」

  響「さっきからずーっと気になってたんだ。自分でおかしいと思わない?」


 使者「私は役目通りお迎えに上がったまでで…… 姫君にお詫びするようなことは、特にないかと思いますが」

  響「…… たぶん、自分、あんたとは一生わかりあえないさー」

 使者「立場も何もかも異なる以上、当然かと。それで、つまり、貴女は何が仰りたいのですか?」

  響「なにが、って……? ホントにまだわかんないのか?」

 使者「ええ。解りかねます」

  響「こん…… っの、ふらー!! あんた、やっぱりどうしようもない大バカだぞ!」

 使者「…… どういうことでしょうか。さすがに聞き捨てなりませんが」

  響「迎えに来たあんたがいまここで、たかねに言わなきゃいけないことなんてひとつだけでしょ!?」




  響「『ずっとひとりぼっちにさせてさびしかったよね、待たせてごめんね』って!!」




  響「お姫様とかの前に、お母さんや、……お父さんと、一緒にいるのが当たり前の年の子なんだよっ!?」

たかね「……!」

  響「よくがんばったねって、もう心配ないよって…… どうして言ってあげられないのさ!!」


 使者「……やはり、貴女の仰ることは、私には理解の及ばないところが多いようです」

  響「自分も、だぞ。たかねの知り合い相手にこんなこと言いたくないけど、わかりたくもないよ!」

 使者「まあ、どうとでもご自由に。それでは、もうよろしいですね?」

  響「……」

たかね「あ、あの……」

 使者「お待たせ致しまして申し訳ございません、姫君。さ、参りましょう」

たかね「…… ……」






 使者「……はて。もうよろしいですね、と、つい今しがた確認させていただいたはずですが」

  響「…………」

 使者「私の袖を、放していただけますか?」


  響「…… 待って……、やっぱり自分、いやだ、これでお別れなんて納得できるわけない!!」

たかね「…… ……ひびき」

 使者「失礼ながら、貴女が得心されるかどうかは私になんら関わりのないことです」

  響「お願い、お願いしますっ、せめて最後にたかねと話をさせて!」

 使者「お断りします。貴女とお会いするのは勿論、ここまで時間を割いたこと自体、特例中の特例のようなもので――」

たかね「……よいのです。すこしのあいだ、はなれていなさい」

 使者「なっ、しかし姫君! この者の振る舞いはあまりにも目に余ります、本来ならば」


たかね「ひかえよ!!」


 使者「!?」

  響「っ、た、たかね……?」

たかね「すこしのあいだ、はなれていなさい、と、わたくしはそうもうしましたよ」

 使者「……っ。仰せの、通りに」




たかね「おおきなこえをだして、ごめんなさい、ひびき。あちらで、おはなししましょう」


たかね「…… あのもののことを、わるくおもわないであげてくださいね」

  響「う、うん。まあ実際、無理言ってるの、たぶん、自分のほう、なんだし……」

たかね「きっと、なれないばしょで、きんちょうしているのですよ。ふふ、いつぞやのねこさんのようです」




  響「…… たかね、ホントに、お姫様だったんだね」

たかね「はい…… しかし! ほんとうにおぼえていなかったのです。それはどうか、しんじてください」

  響「そこはもう疑ってないよ。たかねが最初から覚えてたら、隠しとけるわけないもんね」

たかね「む。どういういみです?」

  響「だって…… 自分にばれずに隠し事なんて、たかねはできないでしょ?」

たかね「そっ、そんなことはありません! わたくしのえんぎをもってすれば!」

  響「よく言うよ。サーターアンダギーつまみ食いしてたのとか、バレバレだったのに」

たかね「う…… ……ふふっ。たしかに、そのとおりですね」


  響「それより、ねえ、たかね…… ……ホントに、もう月に、"くに"に帰っちゃっていいの?」

たかね「……」

  響「あと5日もしたら、前に教えてあげた鏡開きだぞ。おぜんざいも、おしるこも、まだ食べてないでしょ」

たかね「そうでした…… きっと、ひびきがつくってくれたら、びみなのでしょうね」

  響「そうだよ、甘くて、あつあつでさ…… 食べたかったら、両方作ってあげたっていいし」

たかね「…… くすっ…… かがみもちだけでは、たりなくなってしまいそうです……」

  響「事務所のみんなにもお別れのあいさつ、していこうよ」

たかね「ええ、したかったですね…… これほど、きゅうなはなしでなければよかったのに」

  響「確かに急だけど、きっとみんなわかってくれるよ。自分もいっしょについてってあげるからさぁ!」

たかね「…… ひびきは、ほんとうに、やさしいですね」


  響「自分の家族だっているぞ! 今日のおでかけが実は最後だったなんて、みんな絶対さびしがるって!」

たかね「でも、おわかれをいうためだけにもういちどあうのも…… きっと、さびしいです」

  響「それ、は…… そうかもしれないけど、だけど……!」




  響「それにさ…… そうだ、たかね、まだお年玉のきっぷだって1枚も使ってないじゃないか!」

たかね「ああ、それについてはまこと、おしいことをしてしまいました」

  響「今からだって使えばいいよ! なんだったら、毎週2個くらいまでは食べたって――」

たかね「とてもみりょくてきな、ていあんですが…… それは、わたくし、おことわりいたしましょう」

  響「どうして!? たかねは立派な淑女なんだから、カップ麺のひとつやふたつ!」

たかね「ひびきとの、たいせつな、おやくそくです。わたくしのいままでのがまんを、むだにするのですか?」


  響「なんで…… なんでこんなときだけそんなに物分かりがいいんだよ、たかね!」

たかね「……わたくしも、わからないのです。なぜでしょうね……」

  響「無理にいい子ぶらなくていいから…… 自分に今までさんざん言ったみたいに、わがまま言いなよ!」

たかね「…… ふふっ…… これは、こまってしまいました」

  響「なにがさ!?」

たかね「いままで、ひびきに、たくさんわがままをきいてもらったから…… もう、おもいつかないのです」

  響「…… ねえ、やだよぅ…… たかね、行かないで、もっと自分にわがまま言ってよ……」

たかね「ふふ…… あべこべではありませんか、ひびきが、わがままをいって、どうするのですか……」

  響「あべこべでいい、わがままだって言うよ、たかねがいなくなるなんて自分絶対やだ、だから――」






 使者「さて。そろそろよろしいですか、姫君」グイ

たかね「あっ……!」



  響「そんな! ちょっと待ってよ、まだ話は―― っ!?」ガクッ


  響(な、なん……、で、こんな…… 急に、眠気が…… っ……!?)


  響(…… だ、めだぞ…… ここ、で、……寝ちゃ、っ、たら! たかね、と―― にど、と…… ……)








  響「……」

たかね「ほんとうに…… ぶじなのですか? ねむるだけ、なのですね?」

 使者「はい。時間が来れば、問題なくお目覚めになります」

たかね「ここはとてもさむいです。ひびきが、かぜをひいてしまいませんか?」

 使者「ご心配なく。目を覚まされるまで、危険がないよう、監視および温度の調節を行います」

たかね「……そう、ですか。それなら、だいじょうぶ、ですね」


 使者「さあ、もう十分でしょう、姫君。参りますよ」

たかね「あの…… まってください、さいごに、いますこしだけ」タタッ

 使者「……! 姫君、どちらへ?」

たかね「きてはなりません!!」

 使者「!」

たかね「すぐです。すぐにもどります。ですから、あとほんの、ひとときだけ」

 使者「…… やれやれ。お気の済みますように」






  響「……」

たかね「ひびき。これで、おわかれです」

たかね「いままで、わたくしも、ほんとうにたのしかったですよ」




たかね「……ひびきは、いつも、わたくしのあたまを、なでていましたね」


たかね「わたくしがとめてもきかず、それはもう、すきなように、わしわしと……」


たかね「じつはわたくし、ずうっと、ひびきにしかえしをするきかいをねらっていたのです!」


たかね「しかし、てがとどきそうにないので、あきらめていましたが……」


たかね「ふふふ…… ねているいまならば、わたくしでも、かんたんにさわれます」


たかね「かくごしなさい、ひびき。いままでのぶんの、おかえしですよ。ふふふふ……!!」





たかね「おお…… これが、ひびきのあたまのてざわりですか。これは、なかなか」


たかね「ふふふ。はるかにせのちいさいわたくしからなでまわされるとは、いいきみです!」




たかね「さきほど、わたくしが、ひびきにはかくしごとをできない、といいましたね」


たかね「それはほんとうですが…… わたくし、ひとつだけ、ひびきをだましおおせましたよ」


たかね「この、よっかかん…… ひびきと、おわかれせねばならぬと、しってから……」


たかね「そのことを、ひびきにけどられぬよう、わたくしはひっしでした」


たかね「どうです? ひびき、きづいていなかったでしょう? ……ふふっ、わたくしのかちです!」





たかね「それにしても……、ほんとうに、ひびきのかみは、くろくて、ゆたかで…… つのも、はえていて……」


たかね「……っ、つやつや、と、していて…… ふれて、いて、とても…… ここちがよい、ですね……」


たかね「これが…… さいご、ですから…… っ、いますこし、いま、すこし、だけ……」






たかね「…… ごめんなさい、ひびき。ちゃんと、さよならを、いえなくて、ごめんなさい」


たかね「どうか…… わたくしのことは、わすれてください」


たかね「わたくしが、ひびきをおぼえていれば…… それで、いいのです」











たかね「……じかんをとらせました。まいりましょう」

 使者「ご随意に」

たかね「もう、てはずはととのったのですか?」

 使者「万端です。もっとも難儀するであろうこの方には無事お休み頂きましたので、あとは順次」

たかね「ひびきも、ほかのみなにも…… くれぐれも、きけんなど、ないようにしてください」

 使者「もちろんでございます、姫君。すべて心得ておりますので、ご安心を」

たかね「ならば、よいのです」

















  響「…… ん、ううん……」




  響「んんー……? う、うわっ!?」


  響「寝て…… たのか、自分。ううー、それにしても寒いぞぉ……」

  響「…… ちょっと、だいたいここ、どこ!? 丘…… っていうか、山っていうか……?」

  響「あっ! そ、そうだ、スマホで見てみたらわかるかも!」ゴソゴソ

  響「えっと…… って、うぎゃー! もう真夜中じゃないか!? と、とりあえず、今は場所を……」

  響「うわー、うちから結構遠いなあ…… まあ、歩いて帰れない距離じゃなさそうだけど」

  響「ああもう、なんでこんなとこにいるんだ自分!? あのまま寝てたら凍え死んじゃってもおかしくないぞ!」

  響「とりあえず、そんなことより今は早く帰らなきゃ。明日にも差支えちゃう」














  響「……あ」

  響「今日、満月なんだ…… ここから見るお月様、すごく、きれいだなぁ……」




  響「は……っ、 くしゅんっ! …… ああ寒いぃ、風邪ひいてないといいけど……!」















【"As Usual"】

ガチャ

  響「はいさーい、おっはよーっ!」

 小鳥「あら、おはよう、響ちゃん。今日はずいぶん早いわね」

  響「う…… うん。実は昨日の夜、あんまり寝られなくって……」

 小鳥「そうなの? まだまだ毎日寒いんだし、あんまり無理したらだめよ」

  響「ありがと、ピヨ子。でも自分カンペキだから、このくらいへっちゃらさー!」

 小鳥「ふふ、そうよね、響ちゃんなら大丈夫よね」



 小鳥「あら、そういえば…… 今朝は響ちゃん、一人なの?」



  響「えっ? うん、そうだぞ、特に誰とも一緒にならなかったもん。どうして?」

 小鳥「…… あれ? なんでわたし、わざわざこんなこと聞いたのかしら……」

  響「もー、自分みたいにカンペキになれとは言わないけどさ、しっかりしてよピヨ子ぉ」






   P「よーし、みんな揃ったなー? それじゃあミーティング始めるぞー」

   P「今日は…… スケジュール見ての通り、だいたいみんなレッスンとレコーディングだな」

   P「まず春香、真美、それに雪歩。午前中にボーカルレッスンだからすぐ移動な、遅れないように」

   P「あずささんと千早はスタジオでレコーディングだ。千早、あずささんの先導頼むぞ」

   P「伊織と亜美は…… と、そうか、雑誌取材だったな、ちゃんと律子の指示に従えよー」

   P「真に響、美希、それとやよいは、ダンススタジオでレッスン。俺が車で送ってく」




   P「えーと、とりあえずは以上だけど…… なんか確認しときたいこととか、あるか?」

   P「大丈夫そうだな。じゃあ、765プロ全員、今日も一日しっかり頑張ろう!」

 一同「「「「「「「「「「「「はーいっ!」」」」」」」」」」」」


本日の投下は、これでおしまいです。


【Waning Gibbous / 15.8】

  響(……ん、 ……あー、朝かぁ)

  響(そうだ、もう学校始まるんだったぞ。ぐずぐずしてらんない)

  響(でも…… 寒いし、まだ時間は余裕あるし…… もうちょっと、あと5分だけ――)

いぬ美「ばうっ!」

  響「うわ、わわぁっ!? ……あー、いぬ美、ありがと。おかげで目が覚めたよ」

いぬ美「くぅーん……」

  響「あはは、大丈夫だってば。すぐ朝ご飯作るからね、ちょっと待っ……」


  響「……え? いぬ美、ごめん、もう一回言って?」


  響「あの、子……? はどこだ、って…… 待って待って、なんの話?」


  響「へ、変な冗談やめてよ、もう…… いくらカンペキでも自分、そういうの得意じゃないんだから」


【双海亜美&双海真美の場合:2】

 真美「ねーえ、亜ー美ー」

 亜美「なーにさー」

 真美「ヒマー。ヒーマーだーよーぉ」

 亜美「だねぃ…… にーちゃん、早く帰ってきてくんなきゃ、亜美たち待ちボケ殺しだよー」

 真美「あーあー。どーせレッスンまで待っとかなきゃだし…… ひと狩りしとこっか?」

 亜美「いやいやいやそれはダメっしょ。亜美たち、事務所じゃハンターはいぎょーって決めたじゃん!」

 真美「あっ……、そーだったそーだった! いやー、へへへ、うっかりうっかり……」




 真美「…… ありっ? ねえ、真美たち、どうしてモンハンやんないことにしたんだっけ?」

 亜美「何言ってんの真美、そりゃ…… ……えっ、と? あれっ、なんでだったっけ……」


 真美「あ、それはそーとさ、亜美?」

 亜美「なんだい、どしたい真美さんや」

 真美「これ、マシンセッティングさぁ、変えるのはいーけど、ちゃんと戻しといてよねー」

 亜美「は?」

 真美「トボけたってムダだよー? どーしてこんな初心者向けなのかは知んないけど」

 亜美「え、ちょっと待ってってば。最近、亜美はマリカーさわってもないよ?」

 真美「真美も久々だったから、すぐには気づかなかったYO…… ああ、別に怒ってるわけじゃないから」

 亜美「いやいやいや! 勝手に亜美が変えたことにしないでよ、知らないって!」

 真美「オージョー際が悪いよん、亜美ー。次から気をつけてくれればそれでいい……」

 亜美「違うよ! 亜美がこだわってるのはそこじゃないってば!!」

 真美「もー、なんなのさ、しつっこいなぁ……」


【Waning Gibbous / 16.2】

  響「まーったく、プロデューサーもいいかげんさー。レッスンの終了時間、勘違いするなんて」

  響「時間潰しといてくれ、って言われてもなぁ…… 落ち着いて、座れるようなとこ……」

  響「……あ! ちょうどいいところに!」




  響(どれにしよう。レッスンでちょっとくたびれてるし、甘いの飲みたいなー)

  響「えっと、じゃあ、このココアで」

  響「…… あの、ごめんなさい、やっぱり変えていいですか?」

  響「こっちのキャラメルマキアートにします。レギュラーサイズで!」

  響「えっ? セットのほうがお得? んーと…… それじゃあ、スコーンもください」

  響(……ここのお代くらい、あとでおごってもらってもバチはあたんないよね? くふふ)


【如月千早の場合:2】

 千早「…… ~♪ …… ♪ ♪」カリカリ

 千早「~♪ …… ~♪」ペラ カリカリカリ




ガチャ

 真美「ひゃーっ、たっだいまーっ!!」

 亜美「ううう…… なんで傘もってない日に限って雨なんかーっ! あ”ー、さぶいぃー……」

 千早「ああ、お帰りなさい、二人とも。エアコンの温度、ちょっと上げる?」

 真美「女神だ…… 千早お姉ちゃんマジ女神!」

 亜美「ぜひ、ぜひともおねげーします!」




 真美「あれっ? ねえねえ千早お姉ちゃん、なんで楽譜にわざわざドレミなんか書いてんの?」


 千早「…… ……えっ?」


 亜美「ホントだー。どしたのさ、千早おねーちゃんなら音符読むのなんかアホの子はいさいでしょ?」

 千早「あほの……? ひょっとして、お茶の子さいさい、かしら?」

 亜美「えへへ、うん、それそれ!」

 真美「あー、亜美ってば、今のひびきんに聞かれたらメッチャ怒られちゃうYo」

 千早「もう…… スマホやゲームもいいけれど、たまには本も読まなくちゃだめよ」




 千早(…… でも確かに、私、どうしてこんなことを……?)


【Waning Gibbous / 16.4】

  響「そうだ、たまには違うルート通って帰ってみようかな。なにか新発見があるかも!」




  響「お! こんなとこにケーキ屋さんあったんだ、知らなかったぞ」

  響「うわー、どれもきらきらしてて…… 全部おいしそうだなー、目移りしちゃう」

  響「春香はここのお店、知ってるかな。今度教えてあげよっと」




  響「…… はっ、この匂い! これ、間違いなくラーメン屋さん……」

  響「ああ、ダメだー、ただでさえ寒い上、おなか空いてるときにこれ嗅いじゃったらダメだぞー……」

  響「今月はそんなにお金使ってないし…… うん、たまにはいいよね!」


 < イラッシャイマセー









【Waning Gibbous / 18.8】

  響「みんな、おはよー。ごはんできてるぞー、おいでー」

  響「はいはい、まだ、まだだぞー? 食べるのは全員にちゃんと行き渡ってからね」




  響「ふーっ。お正月気分もずいぶん抜けてきたなー」

  響「お飾りもそろそろ撤収しないと。……ああ、それに、そういえば今日って」

  響「んー、朝からそこまで甘いの食べたいわけでもないし。帰ってきてからにしよう」

  響「というか…… ひとりでおぜんざいとかお汁粉とかって、なんかわびしい気がするぞ」

  響「だいたい自分、いつもはそこまで準備しないのに。なんで今年はこれ買ったんだっけ……?」

  響「まあ、あるものは仕方ないよね。事務所で誰か、誘ってみようかな」


【菊地真の場合:2】

  真「さーてっ、今日もいつものコース行ってこようっと!」

 美希「こんなに寒いのにお外でランニングなんて、真くん、ホントに元気だね……」

  真「トレーニングは毎日欠かさないのが基本なんだよ。たまには美希もいっしょにどう?」

 美希「ヤなの。ミキ、毎日かかさずソファで寝なくちゃ死んじゃうもん」ボフ

  真「それなら、ひとっ走りしてから寝てみたら? きっといつも以上に気持ちいいよ!」

 美希「うーん…… そんなこと、しなくても…… 気持ち…… いい、から、だいじょーぶ……」




  真「…… まーた話してるうちに寝ちゃうんだから。これってもう才能だよ」

  真「いくら暖房きいてても、このままはちょっと…… タオルケット、どこかなぁ?」



  真「じゃあボクは…… っと、出かける前に、ちゃんと持つもの持ったっけ?」


  真「えーっと。タオルよーし、お金よーし、iPodよーし、飲み物よ……」


  真「…… あれー、おっかしいなぁ。なんでボク、アクエリなんか持ってきちゃったんだろ」


  真「これ、甘すぎるんだよねー…… ランニングで飲んでたら、すぐお腹たぽんたぽんになっちゃうし」


  真「……まあ、でもいつも水ってのもあれだし、たまにはいいかな?」


  真「よおーしっ、改めてしゅっぱーつ! いってきまーす!」


【萩原雪歩の場合:2】

 雪歩「さてと。今日もみんなのぶんのお茶、おいしく淹れられますように……」

ガチャ

 雪歩「はうぅ!?」




 伊織「ちょっと、今の声なに!? なにかあったの!?」

 雪歩「……えっ、な、なにこれ? どうして、こんなにたくさん……!?」

 伊織「雪歩? どうしたの、お茶がなんだっていうの?」

 雪歩「い、伊織ちゃん! 伊織ちゃん、お家からお茶っ葉持ってきてくれたりした!?」

 伊織「…… はぁ?」

 雪歩「だって、だってほら、給湯室のストックがいつの間にかこんなにいっぱいぃ!!」


 伊織「え……? いや、わたしは何もしてないわよ」

 雪歩「ええっ、そしたら…… わ、わたしが買ってきたんだっけ? うう、覚えがないよぅ……」

 伊織「そもそもここ、雪歩の聖域じゃない。誰も勝手に手を加えたりしないと思うけど」

 雪歩「そ、そうかな、うん、そうかも……?」




 雪歩「ああ、しかもこれ全部、ちょっとだけしか使った跡がないよ…… なんてもったいない!」

 伊織「ふーん。ねえ、これ、似てるように見えるけど全部違うやつ?」

 雪歩「そうだよ。せっかくだから今度みんながいる時に、飲み比べとか、してもらおうかなぁ」

 伊織「ああ、いいんじゃない? 普通はなかなかそんな機会ないもの」

 雪歩「うーん、でもでも、わたしの淹れ方のせいで、味がわかってもらえなかったりしたら……」


【Waning Gibbous / 19.3】




  響「んっ? なんだろ、これ」

  響「……あ、そっか。飾りつけの余り、せっかくだからってもらって帰ったんだった」

  響「自分でもらって貼っといて、自分で忘れてたら世話はないなー」

  響「クリスマスどころかもうお正月も過ぎちゃったし、固まっても困るし、はがしとこうっと」




  響「…… しっかし、これ、なんでこんな低いところに貼ったんだっけ?」




  響「うわっ、しかも噛んだあとまで! どうせねこ吉かブタ太あたりだろ、ほんとにもー……」









【天海春香の場合:2】

 春香「よーっし、時間ぴったり! さてさて、本日のマドレーヌはっと……」

 春香「どれどれー? ……わぁ、ばっちりきれいなきつね色っ♪」

 春香「でもお菓子って、見た目だけじゃダメだもんね。かんじんのお味はどうでしょうか!」




 春香「えへへ、焼きあがってすぐのお味見は、お菓子を作るひとだけの特権だよねー」

 春香「それじゃ、早速…… いただきまーす」

 春香「……んん! おおー! 我ながらこれはいい感じですよ、いい感じっ!」

 春香「よしよしっと。うち用のは別にして、今日の事務所のおやつ用にラッピングしよっ」






 春香「…… あれれ? おかしいなぁ…… やだなあ、わたしってホントにドジだなぁ」

 春香「なんか自信なくなってきちゃった、念のためもう一回、確認してみよっと」

 春香「千早ちゃんでしょ、あずささんでしょ、それに律子さん、伊織、亜美と真美」

 春香「真、雪歩、やよい、美希、響ちゃん、そして、わたし。うん、12人、誰も忘れてない」

 春香「それからプロデューサーさん、小鳥さん、社長で…… みんな合わせて15人。間違いないよね」




 春香「……なのに、なんでわたし、16人分作っちゃったんだろう?」


【Waning Gibbous / 19.8】

  響「よく晴れてるなー! 冬の朝は空気が澄んでる感じで気持ちいいさー」

  響「…… うぅー、しかし、つめた……! やっぱりホームは風がモロに来るからきっついぞー……」

  響「これ着ててまだ寒いってなんなのさー、もー! うちなーじゃこんなの、絶対いらないのに」

  響「だぼだぼな分、ちょっと子供っぽい感じもするけど…… 背に腹はかえられないや」

  響「それにしても、生地がもったいないなぁ。余裕ありすぎっていうか」

  響「ちっちゃい子一人くらいなら一緒に入れちゃいそう。そしたらきっと、あったかいだろうなー」

  響「…… なーんて。そんなの、まだまだずーっと先の話だよね」




  響「あっ、よかった、電車、時間通りだ。はーっ、やっと少しはマシになる!」


【Waning Gibbous / 19.9】

  響「お、もう明るいのに…… そっか、そろそろ下弦の月だっけ」

  響「夜空の月はもちろんきれいだけど、青空に月っていうのもいいよね」

  響「太陽と月がいっしょの空で見えるなんて、よくよく考えたら不思議っていうか」

  響「ふつうは対照的だけど、コンビにしたらそれはそれで――」




  響「……ん?」

  響「下弦の、月……? なんでそんな名前、急に出てきたんだろ」

  響「確かに習ったはずだけど、今見えてるあれ、それで合ってるんだっけ……」

  響「今度誰かに聞いてみようっと。律子…… それか、あずささんも占いつながりで詳しいかな?」









【Last Quarter / 21.8】

  響「よしっ、きょうもいい天気。傘はなくても大丈夫そう!」

  響「…… それはいいんだけど、この窓一面の結露。これ、なんとかなんないかなぁ」

  響「暖房入れる以上は仕方ないけど、なんかすっきりしないぞ」




  響「……」スッ


  響「…… うひゃっ、つ、つめたっ!?」




  響「もう、何やってるんだ、自分…… 窓にお絵かきなんて年でもないのにさ」


【高槻やよいの場合:2】

やよい「あっ、真さん! おはようございまーすっ!」

  真「おはよっ、やよい。そうだ、いつものあれ、やってくれる?」

やよい「! わかりましたっ! じゃあ、行きますよー?」

  真「よーし、思いっきり頼むよっ」

やよい「はい! せーのっ、はいたーっ――」

  真「いえ……」

やよい「………… あれっ……?」

  真「……っっとぉ!? ちょっとちょっと、やよい、なんで途中でやめちゃうの?」

やよい「え? …… あ、あっ、ご、ごめんなさい真さん! 大丈夫でしたか!?」

  真「うん、思いっきり空振りしただけだよ、あははは……」


やよい「…… 真さん。ちょっとだけ、ヘンなことお願いしてもいいですか?」

  真「変なこと? なーに?」

やよい「ハイタッチするときに、しゃがんでほしいんです」

  真「えっ? ……ん、んん、ええ? ボクがしゃがんだらそれ、ハイタッチにならなくない?」

やよい「あのっ、一回! 一回だけでいいんですっ、お願いします!」

  真「いやまあ、ボクのほうは別になんの苦労もないけどさ」




  真「えーと、そしたら……、よっと。こんな感じ?」グッ

やよい「あっ…… それ、その高さですー! ありがとうございます真さん! 今度こそ、いきますよっ」

  真「あはは、やっぱりこれじゃ低すぎて、やよいもちょっとかがみ気味じゃない」


   「「はいたーっち! いえい!」」パンッ


【Last Quarter / 22.4】


  響「うわっ、これ…… ちょっとねこ吉! またオウ助にちょっかい出したな!?」


  響「言い訳しない! こんなに羽とか毛とかが散らばってて、自分にばれないとでも思ったの?」


  響「ああもう、今からだと掃除機かけるには微妙な時間だぞ…… ん、そうだ!」




  響「あったあった、コロコロ。ちゃんとこういう時にも備えてる自分って、やっぱりカン……」

  響「…… あれっ、これ、開けてからそんなに経ってないよね?」

  響「残りがずいぶん少ないなぁ…… 今までしまいこんでたし、大して使ってないはずなのに」

  響「まあ、いいか。次の買い物のとき、買うの忘れないようにしとかなくちゃ」









【Waning Crescent / 22.8】

  響「この時間なら十分間に合うな、よしよし…… ん?」

  響「おっ……? キミ、このへんじゃ見かけない子だね。おっはよ!」

  響「そんなに緊張しないでよ。ねえねえ、キミはどのへんから来――」

  響「…… えっ、ごめん、そうだっけ……? 前にも会ってたっけ? ど忘れかなあ」

  響「前のときに、一緒にいた…… ちっこいの? ちっこいの、って…… 子猫とか?」




  響「じゃあ、自分はそろそろ学校に行かなくちゃ。呼び止めてごめんねー」

  響「あ、待って、そっちはやめといたほうがいいよ。このあたりのボス猫の縄張りが……」

  響「それも聞いた……? そっか、ならいいんだ、何度もごめん」


【秋月律子の場合:2】


 律子「……」カタカタカタカタ


 律子「…… ……ふぅっ。あとは細かいところ詰めたらオッケー、かな」


 律子「よし、もうひと頑張り…… と、その前に……」ゴソゴソ






 亜美「ねーえー、律っちゃーん」

 真美「軍そ…… 律っちゃんどのぉー」

 律子「…… ふぁによ」カタカタカタカタ


 真美「真美たち、ヒマでしょーがないんだけどー…… って」

 亜美「あれれ、なに今の? 律っちゃん、今日カツゼツすっごい悪くない?」

 律子「ひょうろいいわ、これあふぇるから、おとなひくひてなさい」コロン

 真美「えっ? おおっ、キャンディだー!」

 亜美「これ亜美たちがもらっちゃっていいのー? わーい!」

 律子「わたひ…… ん、ん、こほん。私の好みで選んでるから、味の文句は受け付けないわよ」

 亜美「ぜんぜんいーよ! あんがとー律っちゃん!」
 
 真美「…… でもさー、なんか意外ってゆーか、めずらちーね」

 亜美「だよねー、お仕事しながら律っちゃんがお菓子食べてるなんてさー」

 律子「べ、別に、それくらいいいでしょ? 最近、飴舐めてる方がはかどるのよ」


【星井美希の場合:2】

 律子「……」ペラッ

 小鳥「……」カタカタカタ ターンッ

ガチャ

 美希「ねえ小鳥、律子…… さん」

 律子「あんた、寝てたんじゃなかったの。どうしたのよ」ペラッ

 小鳥「あら美希ちゃん、何かあった?」カタカタカタカタ

 美希「ミキね、眠れないの」

 律子「ああ、そう」ペラ

 小鳥「へえー、珍し」カタカタカ




 律子「なんっですって!?」ガタタッ

 小鳥「み、美希ちゃんがおかしくなった!」ガタッ

 美希「ちょっ…… な、なんなのなの、二人して」


 律子「美希あんた、熱でもあるんじゃないでしょうね」

 小鳥「だ、大丈夫なの? 病院にはもう行った?」

 美希「ミキのこといったいなんだと思ってるの!? いまいち寝つけないだけなのー!」

 律子「あんたが眠れないなんて異常事態以外のなにものでもないわよ……」

 美希「むー…… あ、ねえねえ小鳥、抱き枕みたいなものってなーい?」

 律子「あのねえ、毎度のことだけど、あんたこそ事務所をなんだと思ってるの?」

 小鳥「うーん、タオルケットくらいしかないわね…… これ、丸めたらかわりにならないかしら」

 律子「小鳥さんも! そんなに甘やかしてやらなくていいんですよ!」

 美希「んー…… もっとあったかくて、もふもふしてて、ぎゅってできるくらいのサイズのがいいな」

 小鳥「ああ、そうなるとちょっと難しいかなぁ……」

 律子「だいたいあんた、今までそんなのなくてもぐーすか寝てたじゃない」

 美希「そのハズ、なんだけど…… なーんか、物足りないの」


【Waning Crescent / 23.4】


  響「…………」カリカリカリ


  響「……」カリカリ ペラッ


  響「…… ……あ、違った。こっちか」


  響「…… ……」カリカリ


  響「…………」ペラ カリカリカリ




  響「…… ふーっ。でーきたっ!」


  響「今日はなんだかいつもより集中できた気がするなー。なんでだろ?」


  響「ああ、そっか、誰も邪魔しに来なかったからか! いぬ美、ねこ吉も、ありがとね」









【Waning Crescent / 24.8】

  響「さてと、忘れ物はしてないよね? よし、大丈夫……」

  響「……あー! 透明ピアスつけてなかったぞ、危ない危ない」




  響「よーし、今度こそばっちり…… って」

  響「…… ……? あれ、自分、こんなイヤリング買ったっけ……」

  響「記憶にないぞ…… これ、誰かうちに来たときに忘れて帰ったんだったかな?」

  響「銀の、三日月かー。デザイン的には…… シンプルだし、伊織か千早あたりが好きそう」

  響「でも付けてるの見た記憶はないし、置いてったら自分に聞くだろうし……」

  響「うーん。今度事務所で、みんなに確に…… って、うぎゃー! 時間ーっ!!」


【水瀬伊織の場合:2】

 伊織「…… どう考えても、おかしいわ。いったい誰が……」

やよい「あれっ、伊織ちゃん? 冷蔵庫になにか探しもの?」

 伊織「えっ?」

やよい「えーっと、用事が済んだなら、扉は早めに閉めたほうがいいかなー、って」

 伊織「あ…… ああ、そうね、うっかりしてたわ、ごめんなさい」




やよい「それで、どうしたの? 伊織ちゃん、なにか困ったことでもあったの?」

 伊織「…… 誰にも言わないでくれる?」

やよい「ええっ、そんな大変なこと……!? う、うん、わかった、わたし、約束する」

 伊織「実は…… オレンジジュースが、減ってるの」

やよい「えっ?」

 伊織「名前書いたびんに入れて、勝手に飲むな、って注意書きまでしてるのに!」


やよい「でも、みんな伊織ちゃんがオレンジジュース大事にしてることは知ってるし、そんなこと……」

 伊織「だから悩んでるんじゃないの…… まさか、プロデューサー……?」

やよい「そんな、それこそありえないよ。プロデューサーは黙ってそんなことしないよ!」

 伊織「わ、わかってるわよ。言ってみただけ」

やよい「うーん、でもたしかに、どうして少なくなっちゃったんだろう……」

 伊織「……わたしが自分で、無意識に飲んだのかしら」

やよい「それはちょっと無理があるんじゃないかなぁ、伊織ちゃん」

 伊織「疲れてたりで記憶にない、とか…… あるいは、誰かに分けてあげたのを覚えてないとか」

やよい「ひょっとして、そういう心あたりがあるの?」

 伊織「ぜんぜん。そうとでも考えないと、この状況に説明がつかないってだけよ」


【Waning Crescent / 25.5】


  響「…… んー。なんか、寒いなぁ」


  響「あれ、なあに、ねこ吉。どうしたの?」


  響「…… いや、これはこの順番でいいの。毛布を上にかけたほうがあったかいんだよ」


  響「なんででも! ふとんの上に毛布ってしたほうが熱が逃げないんだぞ!」




  響「そのはず、なのに、どうしても、なんか寒い感じがするぞ……」


  響「…… 誰かいっしょにいてくれたら、この寒いの、少しはマシになるのかなぁ」


  響「って、うぎゃー!? じ、自分のバカ、なに考えてるんだ!?」


  響「ああもう、ねこ吉でいいよ、おいで…… って、どうしてそこで出て行っちゃうのさー!」









【Waning Crescent / 25.8】


<  『そして今日最も悪い運勢なのは、ごめんなさーい、てんびん座のあなた!』


  響「うがっ…… 今日の自分、ワースト!?」

  響「いやまあ、別に本気で信じてはいないけど、朝からこれだとテンション下がっちゃうぞ……」


<  『でも大丈夫! そんなてんびん座のツキを回復させるラッキーパーソンは「最近会ってない人」!』


  響「最近会ってない友達、かぁ…… うちなーのみんな、元気にしてるかな」

  響「でもこれ、ラッキーパーソンって、つまりはその人に会えってことだよね?」

  響「しばらくぶりの人にばったり会えるなら、それ自体がラッキーなことなんじゃ……」

  響「……ま、どうでもいいか。さっさと準備しなくっちゃ」


【三浦あずさの場合:2】


あずさ「…… ふむふむ?」


あずさ「えーっと、ああ、でも、そうねえ、それなら……」


あずさ「じゃあ最後は…… さあて。何が出るかしら~、っと!」


あずさ「…… ……あら? 今度も、まただわ」




 雪歩「あっ、あずささん、タロットですか。いい運勢でした?」

あずさ「ああ雪歩ちゃん、おかえりなさい。それが、ちょっと変なのよねぇ」


 雪歩「ヘン? そういえばあずささん、すっごく難しい顔してましたね」

あずさ「ええ。レッスンの時間まで、ちょっと暇つぶし程度のつもりで始めたんだけど……」

 雪歩「…… ま、まさか、すごく悪い結果が出ちゃったとかですかぁ!?」

あずさ「ううん、そんなことじゃないの。むしろ運勢自体は好調そう♪」

 雪歩「そ、そうですか? よかった…… ほっとしました」

あずさ「ただ…… さっきから、何度やってもおんなじカードが必ずどこかに出るのよね~」

 雪歩「それって、やっぱり珍しいことなんですか」

あずさ「そうね、78枚もあるのに毎回、ってなると、ちょっと気になっちゃうかも」

 雪歩「へえ…… ちなみに、よく出るのはどのカードなんですか?」

あずさ「『月』と『太陽』の2枚。う~ん…… 不思議ねぇ。もう一度、やってみようかしら」


【Waning Crescent / 26.1】

ガタンゴトン

  響「ぁーっ、くたびれたぞ…… でも、レコーティング、大変だったけどいい感じ!」

  響「事務所戻ったら次は即ダンスレッスンだっけ。急がなくちゃね」


   「ねえ、おかーさん、しりとりしたい!」

   「いいわよ、ふふっ、ほんとに好きなのねぇ。じゃあ、――ちゃんからスタートよ」

   「よーし、それじゃあ…… しりとりの"り"!」

   「り、ね? そうね…… さっきいっしょに買った、"りんご"」

   「ご、ご…… うーんと、あっ、あった! "ごみばこ"!」


  響「……子供って、なんであんなにしりとりが好きなのかな?」


   「何にしようかしら。"こ"で始まることば、たくさんあるし……」


  響「しりとり、かぁ…… 最後に自分が真剣にやったのって、いつだったかなぁ」


【音無小鳥の場合:2】

 小鳥「…… なんだか、そろそろ降り出しそうですね」

 高木「ん? ああ、確かにね。予報では午後もせいぜい曇りと言っていたはずだが」

 小鳥「にわか雨で済めばいいんですけどね。けっこう冷えてますし」

 高木「まったくだ。音無君は傘の用意はあるのかね?」

 小鳥「わたしより社長、みんなの方が心配なんです。今日はほぼ全員、現場の移動がありますから」

 高木「ああ…… いかん、アイドル諸君のことにまで頭が回っていなかった」

 小鳥「一応、傘のストックはあるので、事務所に寄って帰る子たちのフォローはできると思うんですけど」




 小鳥「…… あー、やっぱり。響ちゃんと真ちゃん、それに伊織ちゃん、今日は直帰だわ」

 高木「ふうむ…… 彼女たちが傘を持っていてくれることを祈りたいものだ」


 小鳥「伊織ちゃんには新堂さんがいらっしゃるので大丈夫でしょう。問題はあとの二人ですね……」

 高木「……音無君は、まるでアイドル諸君の母のような存在だな」

 小鳥「はは? 母…… え、ええっ、急になに言い出すんですか社長!」

 高木「いや、変な含みはないよ。君は本当に、皆のことを娘のように思っているのだな、と、今更感じたまでだ」

 小鳥「そんな、大げさですよ、わたしにできることはしてあげたいな、ってだけです。それに」

 高木「それに?」

 小鳥「一番年下の亜美ちゃん真美ちゃんだって、わたしの娘としてはまだまだ大きすぎますっ!」

 高木「ははは、確かにその通りだね。幼児、せいぜいが幼稚園生くらいなら――」

 小鳥「社長?」ギロッ

 高木「……と、すまない。軽口が過ぎたようだ」

 小鳥「ホントですよ、もうっ」

















【我那覇響の場合】

  響「うひゃーっ、思いっきり降られちゃった…… みんなー、ただいまー!」

  響「おー、よしよし、ちょっとだけ待っててね。すぐ着替えないと自分、風邪引いちゃう」




  響「さて…… と、みんなお待たせ。はいっ、じゃ、食べていいよーっ!」

  響「あとは自分の分だな。ううー、おなかすいた……」

  響「でもなー、外すっごく寒かったし、まだ雨はひどいし。買い物に行くの、めんどくさいなぁ……」

  響「帰りにスーパーでも寄っとくんだったぞ…… 冷蔵庫になんか残ってないかなー?」

  響「……あっ! よかった、卵がまだあった! 今日はこれでなんとかなる!」

  響「何つくろっかなー…… お腹空いてるし、ちゃちゃっとできる炒り卵にでもしようっと」



  響「2個でいいかな…… いや、今日は豪勢に3ついっちゃおう!」


  響「あ、バターも少なくなってる。今度買ってくるの忘れないようにしなきゃ」




  響「固まりすぎないように、火を通しすぎないように、外から中に、寄せる感じで……」


  響「まだ、ちょっとだけ、やわらかすぎる、かなー? ……ってタイミングですぐお皿にあける!」


  響「…… よしよし、いい感じにとろっとろのふわふわさー。ふふふ、我ながらカンペキっ!」


  響「生クリームあったらもっとふわっとするんだけどなー、今日は牛乳でがまんだぞ」


  響「この前作った時は自分でも最高の出来だったもん、   だってあんなに大喜びして――」



  響「……ん? そういえばこの前炒り卵作ったのって、いつだったっけ?」


  響「やだなー、こんなことも思い出せないなんて。自分、ボケちゃってるんじゃないか? あはは!」


  響「ああ、そうだ! 卵が余ってて、使い切っちゃいたいから卵料理にしよう、って、   に言って」






  響「んん……? …… あれ…… うーん……?」






  響「なんだろ、これ…… おかしいぞ?」




  響「あはは、まいったなぁ…… ホントに、自分、きょうは、どうしちゃったんだろ……」








  響「………… なん、で…… なみ…… だ、とま、ら、 な、っ…… ……」









  響「そ、うだ…… よ、そう、だ……」




  響「そう、だっ、た、…… これ……、炒り卵、じゃ、ない…… スクランブル、エッグ、だ」




  響「…… そうだ、自分…… 前にも、おなじ、こと……、炒り卵の、つもりで…… お願いされて、」










  響「誰に?」



  響「…… ……決まってる…… じゃないか、そんなの、っ」










  響「たかね」






  響「貴音」






  響「貴音!」






  響「なんで…… なんで、自分、こんな大事なこと…… 大事な友達のこと、今の今まで!!」














【いまだにぼくは】


本日の投下は、これでおしまいです。


【我那覇響の場合:2】

ガチャッ

   P「おはようございまーす」

やよい「あっ…… よかった、プロデューサーっ!!」

   P「お、やよい。おは……」

 伊織「あんたやっと着いたのね!? いいからこっち、すぐ来て! お願い、早くっ!!」

   P「うわっ、い、伊織っ!? 待ってくれ、一体どうしたんだ? わけが――」




   「――だからっ! なんで、どうしてみんなわかってくれないんだ!?」

   「落ち着いてよ!! おねがいだから話を聞いてほしいの!!」




   P「な、なんだ!? 誰か喧嘩でもしてるのか?」


  響「美希、美希なら覚えてるよね!? プロジェクト・フェアリーは、三人のユニットで!」

 美希「…… やめてよ…… なに、言ってるの? 響とミキは、二人で、ずっといっしょに……」

  響「ちがう、違うよっ、美希と、自分と…… それに貴音と! 三人で一緒にやってきたんじゃないか!!」

 美希「ねえ…… さっきからずっと言ってる、その"たかね"って、いったい誰のこと……?」

  響「……美希、まで? 美希も、やっぱり、忘れちゃってるの……?」




 春香(あっ…… プロデューサーさん!!)

   P(今来たところなんだ、状況がわからない! 春香、二人に何があったんだ?)

 春香(わたしもわからないんです! わたしが来たときから響ちゃん、ずっとあんなふうで……)

   P(あんな風、って?)

 春香(この事務所にはもう一人、"たかね"ってアイドルが所属してるはずだ、って言い張ってるんです!)


   P「お、おい、響……」

  響「プロデューサー……? プロデューサー!! プロデューサーは貴音のこと、思い出せるでしょ!?」

   P「たかね……?」

  響「そうっ、貴音! 髪が銀色で、すっごく背が高くて! 自分と一緒に765に入社したアイドルの!!」

   P「…… あのな、響、落ち着いて聞い……」

  響「ちょっと不思議な、でも高貴な感じでっ、そう、だから亜美や真美はお姫ちんなんてあだ名を――」




   P「………… すまん、響。嘘はつけない。お前の言ってることが、俺には…… わからない」

  響「~~~~~~~~っっ!!」




ガチャ

 小鳥「おはようござい…… って、あれ? みんな集まって、何かあったんですか?」


  響「ピヨ子…… ……あっ、そ、そうだ!! そうだよ、ピヨ子っ!!」

 小鳥「え……? わ、わたし!? わたしが、なに?」

  響「ピヨ子はさ、事務所にたかねがいるとき、たっくさんビデオ撮ってたよね!?」

 小鳥「なに、なんの話!? ちょっと落ち着きましょ、響ちゃん、ねっ?」

  響「あのビデオカメラ、どこにあるの!? メモリーにきっと映像が残ってるはず! 」

 小鳥「カメラの…… メモリー? それがなにか必要なの?」

 律子「…… いい加減にしなさいよ、響。小鳥さんも困ってるでしょう」

 小鳥「いえ、大丈夫ですよ、律子さん。よくわかりませんけど、響ちゃんの役に立つなら」




 小鳥「ええと、最近だと…… これね。ここ1ヶ月くらいずっと使ってたと思うわ」

  響「ほんとにありがとっ、ピヨ子! これがあれば絶対みんなも思い出してくれるぞ!」


  響「じゃあ、いい? みんなよく見ててよ……」

 千早「我那覇さん……? その映像で、いったい何が……」

  響「あっ、これ、ほらここっ! 朝のミーティングのあとで、プロデューサーと、たか…… ね……」




   P『みんな、ちゃんと確認できたな? それじゃ各自、時間が来るまで――』




 亜美「…… ねえ、これさ…… ずーっとにーちゃんしか写ってないよ、ひびきん……」

 真美「しっ! 黙ってなよ亜美、それがなんか大事なのかもしれないっしょ!?」




  響「…… そんな、なんで…… あ、あっ、そうか、たかねが小柄すぎて写せてないんだ!」

 美希「響、あのね――」

  響「そっか、そうだ、美希がたかね抱えて寝てるとこだったらもっと見やすいはず!」






 伊織『例によって寝てたのね、美希……』

 美希『ふにゃ…… くぅ……』




 美希「……ミキが、ソファで寝てるだけだよ。その、えっと…… たかねだっけ、その子、どこにいるの?」

  響「なん……で、どうして!? あんなにずっと事務所にいたのに、なんでどこにも写ってないの!?」

 小鳥「響ちゃん…… わたし、確かによくビデオまわしてるけど、そのたかねちゃんって子は、一度も……」

  響「……ピヨ子! ピヨ子もグルなんだな!?」

 小鳥「えっ?」

  響「後から編集してたかねのことだけ消しちゃったんだな!? ピヨ子ならきっとそんなの簡単に!」

 小鳥「きゃっ……!? やめて響ちゃん、待って、わたし、そんなこと全然……!」

  響「そうなんでしょ、ねえっ!? そうだって言ってよピヨ子ぉぉ!!」


  真「ちょっと響っ!? 小鳥さんに何してるんだよっ! やめ――」

  響「放してよ!! こんなのありえない、おかしいよ、自分絶対信じないぞ!」

  真「うわっ、この……っ、落ち着いてってば響! プロデューサー、押さえるの手伝ってくださいっ!」

   P「あ…… ああ、すまん!」


  響「うがああああっ!! 放して! 二人とも、放せよっ、はなせぇえーっ!!」

   P「響、いったいどうしたっていうんだ、落ち着け、頼むから落ち着いてくれ!」


あずさ「音無さんっ、大丈夫ですか!? 怪我とか、してないですか」

 雪歩「わ、わたし、救急箱取ってきますっ!」

 小鳥「けほ、っ、げほっ…… わたし、っ、だいじょうぶ、ですから、響ちゃんを……!」




  響「うそだ、うそだ、うそだ、こんなの絶対うそだぞ! 映像にも写真にもどこにもたかねがいないなんてうそだ!」






   P「…… 社長。これから響を自宅まで送り届けてきます。すみませんが、その間……」

 高木「わかっている。事務所は私と律子君で取りまとめておくよ。幸い、音無君も大事ないようだ」

   P「申し訳ありません、お手数をおかけします」

 高木「何、気にしないでくれたまえ、いつもキミには苦労をかけているからね。それよりも」

   P「はい?」

 高木「我那覇君を、しっかり支えてあげてほしい。彼女に何があったのか、私にはわからないが……」

   P「……はい。正直なところまだ原因はわからないんですが、全力を尽くします」

 高木「うむ。とはいえ、今日のところはまず、しっかり休ませてあげるべきだろうな」

   P「そう思います。話を聞くにしても、もう少し落ち着いてからがよさそうですね」


   P「それじゃあ社長、しばらく空けます。後のことをお願いします」

 高木「ああ、引き受けたよ。大変だと思うがキミも、よろしく頼む」

   P「もちろんです。失礼します」

ガチャ

   P「……! お前たち」

 春香「あのっ、プロデューサーさん! 今から響ちゃんのこと、送っていくんですよね?」

   P「……ああ、そうだ。今日の響は、レッスンとかできる状態じゃなさそうだからな」

 春香「だったらお願いします、わたしにも手伝わせてください!」

   P「春香…… 気持ちはありがたいが、いまの響には……」

 春香「何ができるわけじゃなくても、響ちゃんのそばにいてあげたいんです」


  真「ボクも、一緒に行きます。万が一、またさっきみたいなことになったら危ないですし」

 美希「ミキもついていくの。みんなの中で、響といちばん一緒にいる時間が長いの、ミキだから」

   P「ダメだ…… って言っても来るんだろうな、三人とも」

 春香「はい!」

  真「へへっ、もちろんですよ」

 美希「トーゼンなの」

   P「…… 女の子の部屋に俺だけで入るのはマズいだろうし、どうしようかと思ってたとこだ」

 春香「じゃあ!」

   P「今日は三人ともレッスンだけだったな?」

 美希「えーっと、そうだったっけ? でもこの際、そんなのどーでもいいよ」

  真「こら、美希、何言ってるのさ。プロデューサー、ボクら三人とも午後からですよ」

   P「……よし、わかった。それまでには戻れるようにしよう」






ガチャ

 春香「…… おじゃま、しまーす」

 美希「ミキ、響の家族とはだいたい顔見知りだから、ちょっとアイサツしとくね」

 春香「そうなんだ? 助かるよ、そっちはよろしくね。……真、大丈夫?」

  真「うん、オッケー。響、歩ける? ゆっくりでいいからね」

  響「……」

   P(…… 真、俺も手を貸そうか?)

  真(ありがとうございます、ボクひとりで大丈夫ですよ)


 美希「みんな、久しぶりー。ごめんね、今日はちょっとだけお騒がせするの」


 春香「えっと…… 響ちゃん、まず、シャワーでも浴びてきたらどうかな? きっとさっぱりするよ」

  響「……」






 春香「じゃあ、すみませんけどプロデューサーさん、リビングで待っててもらえますか?」

   P「ああ、わかった、そうする。お前たちに来てもらってよかったよ」

 美希「ぜーったい、のぞいたりしちゃダメだからね?」

   P「なっ…… なに言ってるんだバカ! そんなこと、するわけないだろ」

  真「あははっ。それまで響の家族のこと、ちょっと見といてあげてください」

   P「そ、そうだな…… 三人とも、よろしく頼む」




   P(…… 響の部屋、か。こんな形で足を踏み入れることになるとは思わなかったよ)

   P(大家族がいる分広めだけど、それ以外はいたって普通だな)


   P(……少なくとも昨日までの響は、特に変わった様子はなかったと思う)

   P(だから恐らく、何かあったとしたら、昨日…… それも事務所を出た後のことなんだろうが)

   P(響の場合、一人暮らしだから、ご家族に話を聞くって手も使えないし……)

ねこ吉「ニャーゴ」

   P「…… お前さんに話が聞ければいいけど、俺は響と違って、そんなことできないからなぁ」

ねこ吉「ウニャー」

   P「ああいや、それより、まずは謝らなくちゃな……」

ねこ吉「……」

   P「お前のご主人の様子が違うことに、すぐに気づいてやれなかった。すまない」

ねこ吉「ニャッ」

   P「…………ん? お前、なにくわえてるんだ?」

ねこ吉「……」ジリッ

   P「おい、ちょっと待てってば。ダメじゃないか、それ、ご主人様のだろ」

ねこ吉「……!」タタタッ

   P「あ、こら! ……っと、持って行っちゃったか」






ガチャ

   P「!」

 春香「お待たせしました。プロデューサーさん、もういいですよ」

   P「ああ、ありがとう。……響はどんな様子だ?」

 美希「なんとかベッドに入らせて、やっと寝ついたの。泣き疲れちゃったカンジ」

   P「そうか、よかった。今はまず何よりも休息が必要だろうからな」

  真「わりと落ち着いてはいました。ただ、すごく沈み込んでて、反応も薄くって……」

   P「そうなるのも当然だよな…… 誰とも話が合わない状態になってたわけだし」


   P「担当として本当に恥ずかしい話だけど、俺は思い当たる原因が何もないんだ……」

 春香「それは…… 仕方がないと思います。わたしたちも、ほとんどついていけてませんでしたから」

   P「お前たちはなにか心当たりがないか? どんなことでもいいんだ、聞かせて欲しい」

 美希「やっぱり、響がずっと言ってた『たかね』って名前がヒントなんじゃない?」

   P「そうだな、そこは間違いないと思う」

  真「その子がまるで、ずっとボクらともいっしょにいた、みたいな口ぶりでしたもんね」

   P「そもそもこの『たかね』って名前自体、響は前に口にしたこと、あったか?」

 春香「えっと、響ちゃんの学校のお友達のこととか、全部は知らないですけど…… 記憶にないです」

 美希「ミキも、なの。961プロにも…… たぶん、いなかったと思うな……」

  真「……あ! いっしょに仕事したことのある、べつの事務所のアイドルとかじゃないですか?」

   P「そう思って、待ってる間、今まで付き合いのあった事務所のHPとかを記憶の限り確認してみた」

 春香「それで…… どうだったんですか?」

   P「『たかね』という名前も、それに苗字も…… 今のところ、どこにも該当がないんだ」


 美希「…… 今までずっといっしょにいたはずなのに、ミキ、響のこと全然知らなかったのかも」

  真「美希よりは響との付き合い、短いけどさ。ボクも同じこと思ってるよ」

 春香「響ちゃん…… なにか、わたしたちがしてあげられることってないかな……」

   P「今はそっとして、休ませてやるのが一番大事だと思う。それに、三人とも、そろそろ時間だ」

 春香「……そうだ! プロデューサーさん、レッスンまでまだ余裕ありますよね?」

   P「まあ…… 車だし、直接スタジオに向かえばいいからな。もうちょっと大丈夫だけど」

 春香「じゃあ、響ちゃんごめんね、ちょっとだけ台所借りちゃいます!」

  真「え? 春香、何するの?」

 春香「ちょっとねー。そうだ、真と美希、それにプロデューサーさんは、その間に……」













  響(……ん、 ……あー、朝 ……?)


  響(………… ちがう、ここ、自分の部屋だ…… あれ、事務所に行ったんじゃ、なかったっけ?)


ムクッ


  響(いまは…… うわっ、もう暗くなっちゃってる。どうして……?)

  響(…… ああ、そうか。思い出した…… 自分、事務所でパニックになって……)

  響(そこから…… どうしたんだっけ、覚えてないぞ…… ん?)

  響(なんだろ、これ。何枚も…… 書置き?)ガサッ



    響へ

    とりあえずきょうはゆっくり休むといい。
    明日についてもレッスンのみの予定だったから、こっちでオフにしといた。

    響の許可もなく勝手に部屋に入るのはよくないとは思ったんだが、
    緊急だったし、春香と真、美希に一緒に来てもらったので勘弁してほしい。
    実際のところ俺はろくに何もしてない。三人が全部やってくれたから安心してくれ。

    気が向いたらでいいので、目が覚めてから余裕があるときにでも連絡をくれると助かる。

    それとは別に、困ったこととか、悩みとかがあるなら、いつでも相談してほしい。
    俺がすぐに解決できるようなことじゃなくても、できるかぎり力になりたいんだ。




  響(…… プロデューサー……)


  響(こっちの…… この字は真ので、これは、美希の……)ガサガサ


    響へ

    春香がいまおいしそうなお料理作ってくれてるから、起きたらまずはしっかり食べなきゃだよ!
    おなか空いてると人間、頭まわんないし、気も弱くなっちゃうから。

    実は、響の家族みんなにもごはんをあげるべきかなって話になったんだけど、
    下手なことしないで響にまかせたほうがいいよね、ってことでなにもしてないんだ。
    響のことすごく心配してるみたいだから、春香のごはんで元気出たら、相手してあげてね。

    いろいろ考えちゃうときは、思いっきり体動かすのもかえっていいと思うんだ。
    言ってくれればトレーニングとかいっくらでも付き合うからね、ボク。

    今度のダンスレッスンのときにはいつもの調子取り戻してくるの、待ってるから。
    響がうかうかしてたら置いてっちゃうよ!



    響サマ

    よく眠れた?
    心配ごととかって、寝ちゃえばわりとカイケツしちゃうの。

    ミキはね、響のこと、とくに心配はしてないよ。
    だって響は、ちょっとちっちゃいだけでカンペキだって知ってるもん。

    でも、ミキにこっそり話したいこととかあるんだったら教えてね?
    ずっとコンビ組んでた響とミキの間にかくしごとなんてナシなの!

    そうそう、響の家族ね、みんなミキのこと覚えててくれたみたい。
    あらためてミキからよろしくって伝えといてほしいな!
    じゃ、また事務所でね☆


   響(最後のこれは、春香のだ……)




    響ちゃんへ

    わたしもプロデューサーさんにくっついてお邪魔しました。
    響ちゃん、きっとすごく疲れちゃってるんだと思うから、たっぷり眠れますように。

    さすがの響ちゃんも、起きてすぐはおなか空いてるんじゃないかな? と思って、
    お台所を借りてかんたんなごはんを作っておきました。よかったら食べてね。
    ちなみに材料は冷蔵庫の中身を勝手に使わせてもらっちゃいました! ごめん! >_<

    いつもがんばり屋さんな響ちゃんだから、たまにはちょっとお休みしても大丈夫。
    くれぐれも無理はしないでゆっくり過ごしてほしいです。

    P.S.
    いつでも連絡待ってるからね!
    わたし、最近は夜更かし気味だから、ちょっとくらい遅くても大丈夫だよー!






  響(…… プロデューサーも、春香も、真も美希も。それにきっと、事務所のみんなも)

  響(自分のこと、本気で心配してくれてる。それはわかるし、すごく嬉しい)


  響(――でも)


  響(ここでいま、たとえば自分が、プロデューサーに、それか春香に、電話でもかけて)

  響(もう一度…… 今度は落ち着いて、全部、説明できたとして)

  響(心配とか同情はきっと、今以上にしてくれる。大変なんだなって、心から気遣ってくれる)


  響(でも…… ……でも、それだけ、それでおしまい)


  響(一番わかってほしい、思い出してほしい、貴音のことは―― 伝わらない)


  響(みんなが忘れてるのは、貴音がたかねになっちゃってからのことだけじゃない)

  響(そもそも、貴音が…… 最初から、いなかったことになってるんだ……)

  響(けさ、事務所についたときからそうだった。春香も、千早も、やよいも、伊織も)

  響(あずささんも、律子も、亜美も真美も、雪歩も、真も、みんな…… みんな、覚えてなかった)

  響(最後に来た美希に聞いても―― そうだ、それで自分、かっとなって)

  響(そうだ…… それから、ピヨ子に、最低の八つ当たりして…… 謝らなくちゃ……)

  響(まず誰よりもピヨ子に謝って、迷惑かけたみんなにも、プロデューサーにも謝って……)




  響(謝って、 ……それから? それから、自分、どうしたらいいんだ?)



  響(みんなに謝って? "貴音"なんていなかった、自分の勘違いだった、って、言って?)


  響(勘違いなんかじゃないのに? 貴音は、たかねは…… たしかに自分たちの仲間で、友達で)


  響(自分は―― 自分だけは、こんなにはっきり、全部、全部覚えてるのに!?)


  響(…… なんで…… なんで、なんで、なんで、っ!!)






  響「………… わかんない…… わかん、ない、よ、貴音ぇ…… 自分、どうすればいいの、わかんないよぅ……」


本日の投下は、これでおしまいです。

生存報告です。

毎度ぎりぎりのお知らせで本当に申し訳ありません。
来月上旬までには更新できる予定です。

どうか、今しばらくお待ちいただけると幸いです。








たかね「――びき、ひびき。おきてください! ひびきーっ!」




  響「ん、ううん…… わかった、わかったぞ、すぐ起きるって、たか、ね…… ……!?」

たかね「あっ、ようやくおき…… ぷっ! どうしたのですか、ひびき。おくちが、ひらいたままですよ」

  響「たかね…… たかね!? たかねぇっ!!」

たかね「ひゃあっ!? ひびき? ど…… どうか、したのですか?」

  響「たかねだ、たかね、よかった…… ウソじゃなかった! ちゃんと、たかねはここにいるじゃないか!」


たかね「…… ふふ、とうぜんでしょう。わたくしは、とけていなくなったりしない、ともうしましたよ?」

  響「うん…… うん、そうだよねっ…… あはは、自分寝起きでちょっと混乱してたぞ、ごめんごめん」

たかね「まったくもう…… さあ、ひびき! びみなあさごはんを、おねがいします!」

  響「まかせといて、びっくりするくらいおいしいの作ってあげるから!」


  響「そうだよ、やっぱりなんかの間違いだったんだ、今までのは全部、悪い――」








  響「ゆ、 め ……か。だよね、わかってたよ…… わかってたさー」

  響「………… 悪い、夢、なら、もういいかげん、覚めたっていいはずだぞ……」


【Waning Crescent / 28.9】


  響(いくらカンペキだって言っても、自分だって風邪くらいひいたことはあるし)


  響(お仕事の関係で、公欠扱いにしてもらったこともあるけど……)


  響(………… 二日続けて学校サボったのなんて、考えてみたら、初めてかもしれないや)


  響(昨日はオフにしといた、ってプロデューサーが書いてくれてたけど)


  響(きょうもお休みさせてほしい、って言い出したのは、自分)


  響(プロデューサーも、何も聞かないで、すぐわかったって言ってくれて……)


  響(こんなことしてたって、なんにもならないのはわかってる…… わかってる、けど)



  響(おととい、目が覚めてから。何度も家中ひっくり返して、なにか痕跡がないか、ずっと探した)


  響(…… なんにもない。ほんとに、きれいさっぱり残ってない)


  響(ジェルジェムとか、たかねに直接関係ないものはいくつか見つけたけど)


  響(たかねが着てた服とか靴とかはもちろん…… 使ってたお箸や歯ブラシなんかも、全部、なくなってる)


  響(ピヨ子のカメラだけじゃない。自分のスマホのデータも、そこだけ抜け落ちたみたいに消えてた)


  響(送信履歴まで…… みんなに送ったメールも画像も、当然、残ってないらしくて)



  響(自分の家族も、いぬ美とねこ吉、それにハム蔵は、断片的に覚えてるみたいだけど……)


  響(あとのみんなは、ほとんど忘れてる。そもそも、貴音にすら会ったことないって感じになってる)




  響(結局、ほかに見つけられたのって言ったら)


  響(自分が選んであげた髪留めと…… なんでか残ってた、シャンプーハット。そして)


  響(貴音にプレゼントするつもりで買って、クリスマスにたかねにあげた、三日月のイヤリング……)


  響(………… こんなので…… 貴音が、たかねがいたことの証拠になるわけない……!)


  響(昨日も今日もみんなが、なにかにつけてメールをくれる)

  響(絵文字をいつもよりいっぱい使ったり、事務所とかで撮った写真を送ってくれたり……)

  響(気にかけてくれてるのが、痛いくらいわかる)



  響(だから、言えない。言えるわけ、ない)



  響(そういうことしてほしいんじゃない、って)


  響(自分のことなんてどうでもいいって、気なんかぜんぜん遣ってくれなくっていいんだって)


  響(自分がみんなにしてほしいことなんて、ひとつだけ)


  響(ただ、貴音の…… たかねのこと、せめて思い出してくれたら、それでいい。それだけ、なのに)




  響(結局、ここに戻ってきちゃう。昨日からずっと、堂々めぐりだ)



  響(みんなに貴音のことを、思い出してもらうために)



  響(もう、アイドル、一緒にできないとしても…… せめてもう一回、貴音に会うために)



  響(いま、自分にできることって、なにがある?)



  響(それがずっとわかんない。…………わかんないから、なにもできない)



【Waning Crescent / 29.3】

  響「…… よし、っと」

  響「お待たせみんなー、夕飯、できたぞー。おいで」




  響(自分がどうだろうと、みんなのご飯はちゃんと用意してあげなきゃいけない)

いぬ美「くーん」

ねこ吉「ニャン」スタスタスタ

  響(でも、準備してる間は、ほかのこと考えなくていいから…… ちょっと助かってるとこもある)

ブタ太「ブヒッ」

うさ江「……」ピョン

  響「買い置きのがメインでごめんね、みんな。明日には買い物、行けると思うから」

  響(買い物、か。 ……自分一人だから、持てる荷物、減っちゃうな)


  響(ああ、でも、食材買うにしても、料理するにしても……)

  響(…… ひとり分だけあればいいんだから、結局そんなに変わらないのか)



  響(おとといも昨日も、自分、レトルトやインスタントのものばっかり食べてる)

  響(料理すると…… 無意識に、ふたり分作っちゃいそうになるから)



  響(それに気づいちゃったせいで、買い物行くのすらずるずる先延ばしにしてたけど……)

  響(いいかげん、そんなことも言ってられないぞ。自分には家族がいるんだから)

  響(自分用にはまだカップ麺なんかもあるから、当面はいいとして……)


  響(…… だいたい、カップ麺にしても)

  響(もともと自分、そうしょっちゅう食べるほうじゃなかったのに)

  響(貴音が味を覚えたせいで、うちに必ずストックがある状態になっちゃって)



  響(たかねがうちに来てからも、結局毎週ひとつは必ず買ってたし)

  響(…………お年玉にあげたきっぷ、たかねなら絶対すぐ使うと思ってたから)

  響(その分も、と思って、ちょっとよけいに買い込んでたのに…… ははっ。自分、ばかみたい)



  響(たかね、今ごろ、どうしてるんだろう。無事に帰れたのかな)

  響(あっちにはカップ麺なんてないだろうから、今ごろ、食べたいってだだこねてたりして)

  響(週にひとつってだけでも散々ぐずったのに、それを2回もおあずけなんて――)


  響(…… そうか。もう、あの満月の夜から、2週間ちょっと経つんだ)

  響(自分が毎週、カップ麺買うの、やめて…… たかねのこと、すっかり忘れて)

  響(学校行って、貴音も、たかねもいない事務所に行って、レッスンしたりお仕事したりして)

  響(みんなも、たかねがいないのが当たり前になってから、まだ2週間…… いや、もう2週間、か)






  響(満月見るのを楽しみにしてたたかねに、見せてあげられたのはよかったけど)

  響(それが最後になっちゃうって、もし知ってたら…… 絶対、連れて行かなかったのに)

  響(でも考えてみたら、貴音がたかねに変わっちゃってからは、あれが最初の満月だったわけで……)



  響(……ああ、そうか)


  響(満月の夜から、ほぼ2週間、ってことは)


  響(きょうの夜が、ちょうど…… そうだ、間違いないや、新月になるんだ)


  響(月が見えないのはそのせいなんだよって、ひと月くらい前、たかねに教えてあげたっけ)




  響(…… どのみち何していいかわかんないなら、きっと、シンプルに考えたほうがいい)




  響(もう一度、今夜、行ってみよう。あの場所に)





  響(なにか、意味があるのかもしれない)


  響(自分がたかねを連れて流星群を見に行ったのは、ただの偶然だけど)


  響(貴音がまだ"貴音だった"ころに、何度か一緒に星を見に行って)


  響(そして、たかねとお別れしたのも同じ場所だったんだ)


  響(きっとみんなは知らない、と思う。でも、たかねも、自分も…… 貴音も、よく知ってる場所)


  響(それに…… 今晩がちょうど新月なのは、たまたまだとしても)


  響(自分は、消えちゃったお月様を探しに行くんだ。タイミングとしてはぴったりだぞ)



  響(もちろん、行っても何もない可能性のほうがずっと高いし……)


  響(…… 何かあったらあったで、どうなるか、わかったもんじゃない)


  響(だって、自分やみんなの記憶をいじったのも、たかねに関係してるものがなくなってるのも)


  響(たぶん…… っていうかほぼ確実に、たかねを連れてっちゃったあいつの仕業だ)


  響(そんなワケわかんないこと、一晩のうちに簡単にやっちゃうような相手なんだから)


  響(たかねついでに、自分に関するみんなの記憶とかだって……)


  響(むしろ―― 自分そのものを消しちゃうこと、だって、きっと、楽勝なはず)



  響(でも、そうだとしても)


  響(自分には、ほかに思いつく手がかりはないし)


  響(それにウジウジ引きこもってたって、なんにも変わらないんだ)


  響(……なんか、考えてたらムカムカしてきたぞ。この状況にも、自分自身にも!)


  響(なんで自分、カンペキなんて言っといて、あっさり尻尾巻いて引き下がっちゃってるんだ?)






  響(貴音のこと覚えてるのが、世界中でホントに自分だけなら――)


  響(貴音のためになにかできるのだって、自分ひとりしかいないんじゃないか!)


本スレでの投下は、これでおしまいです。


お話はもう少し続きます。

1スレで収まらなくなったのは完全に想定外でした。
続きは以下のスレで投下します。どうぞお付き合いください。

響「貴音!?」たかね「めんような!」 その2
響「貴音!?」たかね「めんような!」その2 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1458643267/)


【すねーく・れっぐす】


※※※

 これらは番外編であり、いわゆる埋めネタです。

 いろいろな事情で本編からは省くことにした没ネタや
 本編終了後の日常ネタ的なもの等等、時系列も統一されていないごった煮です。

 パラレルということで、箸休め程度にお楽しみください。
 また、性質上、次スレ読了後にお読みになることを強くおすすめします。


 (なお、言うまでもないことかとは思いますが、
  snake legsでは「蛇足」の意味になりませんのでご注意ください。)

※※※


【千早ちゃんはどうしてそうなっちゃったの?】

※ >>104

 春香「っ、あいったたたぁ……」

 千早「どうしたの春香、大丈夫!? 怪我はしていない!?」

 春香「あっ、ち、千早ちゃん! あのね、幼女が、古風で! 銀髪の、ていうか貴音さんが、ちっちゃくなって!」

 千早「どうしたの春香、大丈夫!? 頭を打っていない!?」

 春香「ほ、ほんとなんだってば!」

 千早「……待って、春香。今、四条さんが小さくなった、と言ったのよね?」

 春香「うん、うんっ、そう! よかった千早ちゃん、信じてくれ――」

 千早「具体的にはどのあたりが小さくなっていたの?」

 春香「え?」

 千早「とても大事なことなの、答えて。やはりあの立派なお尻? それともひょっとして」

 春香「何言ってるの千早ちゃん!? 頭打ってないよね!?」


【ずー】

たかね「ひびき、ひびき。あすは、おでかけするおやくそくですよ」

  響「あー、そうだったね。たかねはどこに行きたいの? どうせラーメン屋さんとか……」

たかね「わたくし、どうぶつへんへいきたいです!」

  響「は、はぁ!? ええー、この寒いのにわざわざ動物園なんて……」

たかね「ではひびきはこのさむぞらに、すいぞくかんのほうがよいのですか?」

  響「なんでその二択しかないの?」


  響「とかなんとか言って、結局動物園来たけど…… やっぱりめちゃくちゃ寒いぞぉぉ!!」

たかね「なさけない。うちなーんちゅは、そのていどなのですか?」

  響「ううー…… そんなこと言ったって、寒いものは寒いんだもん……」




たかね「あっ、ひびき! みてください、とらさんです!」

  響「お、おおー、うん、でっかいなぁ、かわいい、ああ寒いぃ……」

たかね「こちらには、らいおんさんが!」

  響「ああ、たてがみ暖かそうでいいなあ…… 寒いぞ、うん、だよね、やっぱり寒いよなキミも……」

たかね「ひびき、ひびき!? ふたりのせかいにはいらないでください!」






  響「あれ…… たかね? ちょっ、たかね、どこ行ったの!?」

  響「ああもう! きっと自分が話してる間に、ほかの動物に気を取られたかなんかしたんだ……」


< ピンポンパンポーン

   『ご来園のお客様に、迷子のお知らせを致します』


  響「あっ、さてはこれ、たかねだな? まったく、どこまで迎えに行けばいいんだろ」


   『えー…… 髪が黒くて、つの……? が、生えていて」


  響「あれっ、髪が黒? そしたらたかねのことじゃないなぁ…… って、つの?」


   『ええ、と、…… 年の割に、ちっちゃい? がなは、ひびきちゃん』


  響「」


   『お連れ様がお待ちです、正門そばの園内事務所まで――』


  響「…………」






  響「…… たぁかねぇぇえええ!!!!」ダッ






  響「勝手にうろついたらダメでしょ、たかね! きょうはすぐ見つかったからよかったけど……」

たかね「……どうですか、ひびき。すこしは、きがはれましたか?」

  響「え?」

たかね「おせっかいかともおもいましたが…… さいきん、ひびきのげんきがないように、おもいまして」

  響「…… たかね、動物園に来たいって言ったの、もしかして自分のためだったの?」

たかね「い、いえ、わたくし、いろいろなどうぶつをみてみたかったので! けっしてひびきのためというわけでは!」

  響(この寒いのに、水族館か動物園か二択って、ちょっとおかしいとは思ったけど……)

  響「……もう、そんなとこ、やっぱり貴音だなぁ」ナデナデ

たかね「あ、あの、その……」


  響「おかげでばっちり元気になったぞ、自分! たかね、売店でソフトクリーム食べてかない?」

たかね「そふとくりーむ…… なにやらすてきなおなまえですが、それはいったい!?」

  響「ちょっと違うけど、アイスクリームの親戚みたいなやつだよ」

たかね「あいす!! はいっ、たべたいです! ぜひたべましょう!」

  響「よーし、決まり! 行こっ!」






  響「…… さ、寒いぞぉぉぉぉ……!」ブルブル

たかね「か…… かんがえてみれば、いえ、かんがえずとも、あたりまえでした……」ガタガタ


【千早さんはどうしてそうなっちゃったの…?】

 千早「四じ…… たかねちゃん。今、少しいいかしら」

たかね「おや、ちはや。どうしたのですか?」

 千早「ちょっと教えてほしいことがあるの。時間はかからないから」

たかね「わたくしでよろしければ、なんでもおききください!」

 千早「ふふっ、ありがとう。じゃあ…… たかねちゃんの胸囲はいくつあるの?」

たかね「きょうい? きょういとはなんのことですか?」

 千早「ああ、胸囲っていうのはお胸の大きさのことよ」

たかね「おむね、ですか…… じつはわたくし、はかったことがないのです」

 千早「そうなの? ちょうどよかったわ、私、今日は思いがけず偶然たまたまここにメジャーを持っていて」




 美希「………… ち、千早、さん……? たかね相手に、なにしてるの……?」

 千早「」

たかね「きゃははっ! く、くすぐったいです、ちはや! ……ちはや?」


【あほのこ】

※ >>463


たかね「どこにもつもっていないではありませんか! だましたのですね!?」

  響「…… たかね、これでひっかかるの何度目だっけ。そろそろ気づこうよ」

たかね「ああっ!? いまのあいだに、おふとんをあげてしまうとは! なんとひれつな!」

  響「ここまでチョロいとかえって不安になってくるぞ、自分」

たかね「おに! あくま! いけず! ひびき!!」

  響「はいはい、まず顔洗っておい……」




  響「…………ちょっと待って!? "ひびき"って悪口あつかい!?」

たかね「いささか、おそすぎませんか?」

  響「否定しないの!?」


【我那覇響と四条貴音の場合:えくすとら】

 律子「あれ? あんたたち、もうちょっとでレッスンの時間でしょう?」

 貴音「はい、そうなのですが…… 響、律子嬢の言う通りですよ、そろそろ出立しなくては」

  響「だよね、でもちょっと待って、えっと…… 台本、どこに置いたかなぁ……」

 貴音「まったく、なぜ前もって準備しておかないのですか」

  響「うぅ、ご、ごめん…… すぐ見つけるからさー」

 千早「我那覇さん、これ? ソファのところにあったのだけれど」

  響「あ、それだー! ありがと千早! ごめんごめん、お待たせ貴音。さ、行こっ」

 貴音「ええ、参りまし…… ……あの、響?」

  響「ん? どうしたの、早くー」

 貴音「その…… これは、いったい?」

  響「急に黙っちゃってヘンなの。ほら、いつも通り手を…… っ!?」


  響(う、うぎゃー!? たかね連れて歩いてたときのクセでつい無意識にっ!!)

 亜美「ちょっと見ましたオクサマ? 今めっちゃ自然に手ぇ握らせようとしましたザマスよ」

  響「なんなのざますって!? どういうキャラなのさそれ!?」

 真美「んっふっふ~…… ひびきんってば、けっこーガンガンいっちゃう系?」

  響「な、な、なっ、そんな、別にそういうんじゃないってば!」

 貴音「はて…… "そういうの"とは、どういうのを指すのですか、響」

  響「話がややこしくなるから貴音はちょっと黙っててね!?」

 美希「あふ…… そーいえばさっき、響が『いつもどおり』って言ってた気がするの」

 雪歩「や、やっぱり? あれ聞き違いじゃなかったんだ……」

やよい「わたしも聞きましたー! 響さんと貴音さん、なかよしさんですねっ」

あずさ「あら~? なにか面白そうなお話の気配がするかも~、うふふふ」

  響(……まずい! この流れはまずいって自分のカンが言ってるぞ、さっさと出てかないと!)


  響「そ、そうだほら…… その、そう自分たちレッスンに遅れちゃうからね!?」

 春香「えー、響ちゃーん、そんなこと言わないでもうちょっと詳しく……」

  響「貴音っ、ぼーっとしてないでさあ行こうすぐ行こう急いで逃げよう!!」

 貴音「は…… きゃっ、あ、あの、響っ!?」

  響「じゃーねみんなっお疲れーっ!!」

バタバタバタ




  真「けっきょく思いっきり手つないで行くんじゃないか」

 伊織「ツッコんだら負けよ。ほっときなさい」




   P「お疲れさまで…… お、音無さん!? 鼻血ですか、大丈夫ですか!?」

 小鳥「………… 生ぎでて…… 生ぎでで、よがっだでず……」


【過ぎたるは】

 貴音「あぁ…… まさに、至福です……」

  響(ちっちゃかったころもだけど、ホントにいい顔してココア飲むんだから。ふふ)

 貴音「改めて実感致しました。ここあにはやはり、ましゅまろがなくてはなりません」

  響「それも、ひとつじゃなくてふたつ以上、でしょ?」

 貴音「もちろんです。ところで、響」

  響「なあに?」




 貴音「…… このうえ、おやつにお善哉とお汁粉をいただくことになるのでしょうか?」

  響「……………うん、合わないし、甘味に甘味はキッツいなー。夕ご飯のあとにしよう」


【タイトルに忠実に】




 貴音「そういえば、わたくし秘蔵のらぁめんが、確かまだ戸棚に入っておりましたね」

  響「え? 貴音秘蔵の…… って、ひょっとして、カップ麺?」

 貴音「ええ、そうですよ」

  響「……だいぶ前に買ってきてた、限定ものだとかっていう?」

 貴音「その通りです。これは特別な時に食べるのだ、とわたくし、申しましたでしょう」

  響「あ、ああ、そうだったね、ところでさ、貴音」

 貴音「ひとり占めするつもりでしたが、たいへん気分がよいので、響にも分けて差し上げます♪」

  響「あのね、貴音…… ほかでもない、そのカップ麺についてのことなんだけどね?」


 貴音「はい?」

  響「そういうわけでね、もうないの」

 貴音「…… はい?」

  響「もう、ないんだよ、あれ」

 貴音「…………響が、わたくしに黙って、食したのですね?」

  響「ちがうよ」

 貴音「ではなぜなくなったのです!?」

  響「貴音…… じゃなくて、たかねが、ね。食べちゃったの」

 貴音「なななな何を言っているのですか、響、だ、だいじ、だいじょうぶ、です、か」

  響「貴音こそ大丈夫? 目が泳ぎまくってるんだけど……」

 貴音「…………」ワナワナワナ

  響「ちょ、ちょっと、貴音? ショックなのはわかるけど…… 聞いてる? ねえ、貴音、貴音――」






  響「貴音!?」






 貴音「めんようなーっ!」






  響「貴音!?」たかね「めんような!」

  【すねーく・れっぐす】 おしまい。



…………本当におしまい?















【りばーさる・りはーさる】



 貴音(…… 朝、ですね)


 貴音(本日は、ひさびさのおふです。存分に羽を伸ばすと致しましょう)


 貴音(それはそうと、響は…… ああ、やはりもう起き出しているようですね)


 貴音(そうです、本日は響のつくる朝食がいただけるのでした! ふふっ、わたくしは果報者です)


 貴音(すぐに起きてもよいですが…… いま少し、べっどのぬくもりを堪能してから……)




<ガシャーン

 貴音「っ!?」ガバ


 貴音「どうしました、何があったのですか、響! 無事で――」




ひびき「あれっ、ここどこ……? それに、おねえさん、だれ?」

 貴音「!?」




 貴音(口元からのぞく八重歯、小麦色の肌…… 聞き紛うはずもない、独特のいんとねえしょん……)

 貴音(それに、腰より下まで届く豊かな黒髪…… なによりこの、碧く澄みきった瞳……!)

 貴音「………… まさか…… 貴女は、響、なのですか!?」

ひびき「おじいー? おばあ、いないの……? いぬみどこ!? う、うぁ、うえぇ……」

 貴音「ちょっ、あの、待っ――」

ひびき「うぎゃー! あんまー! にぃにー、たすけてぇー! うわあああぁーん!!」

 貴音「ああ、どうすれば!? と、ともかく落ち着いてください! 泣かないで、ね、よしよし……」



ひびき「ずびっ…… じぶん、な"いてない、もん。かんぺき、だもん」


 貴音「ええ、そうです、偉いですよ。ところで…… 貴女のお名前を、わたくしに教えてくれませんか?」


ひびき「えっと、ひびき…… がなは、ひびき。ごさいだぞ…… じゃない、ごさい、です」


 貴音「やはりそうなのですか…… とても良い名ですね、ひびき」


ひびき「えへへー、そうでしょ? じぶんもすきなの!」



ひびき「ねえ、どうしてかぞくいないの? たかねはいぬとかねことか、きらいなの?」


 貴音「い、いえ、特にそういうわけではないのですが……」


ひびき「それにたかね、ひとりでくらしてるの? あんまーは? おばぁとかは?」


 貴音「よいですか、ひびき。人にはそれぞれ、"ひみつ"がたくさんあるのですよ」


ひびき「ひみつ?」



ひびき「たかね…… あのね、じぶん、おなかすいちゃった」

 貴音「おや、これはしたり! 少々お待ちください、すぐ用意しますからね」




 貴音「どうです、ひびき。これこそは人類の誇る至宝のひとつ、らぁめんです!」

ひびき「おいしい! でもじぶん、めんなら、そーきそばがいちばんすきだぞ!」




 貴音「ひびき。お尻を出しなさい」

ひびき「あいっ!?」

 貴音「悪い子には、お尻ぺんぺんです。さあ。はやく」


   P「確かに見た目はよく似てるけど…… その子、本当に響なのか?」

 貴音「はい、おそらくは。いかがしたものかと思い、とりあえずは事務所まで一緒に……」

 小鳥「はーいひびきちゃん、おねえさん怖くないからねー、まずはお写真とビデオ撮らせてねー」

ひびき「う、うとぅるさん……」ガクガク

 貴音「小鳥嬢!?」

   P「ちょっ、音無さん!? めちゃくちゃ怯えてるじゃないですか! やめてくださいよ!」




 真美「ねえねえ、亜美。真美はこれお姫ちんがカンケーしてるとニラんでるんだけど、どーよ」ヒソヒソ

 亜美「間違いないね。お姫ちん、ひびきんが好きすぎて、黒まほーかなんかでコドモにしちゃったんだよ」ヒソヒソ

 貴音「二人ともわたくしを一体なんだと思っているのです!?」


あずさ「あらあら…… ほんとにそっくり。可愛いですね~、響ちゃんの親戚の子ですか?」

 律子「あずささん、話聞いてましたか!? この子が響本人なんですよ!?」

 春香「かーわーいーいー!! ちっちゃかった響ちゃんがもっとちっちゃくなったらもっとかわいいぃー!!」

やよい「……う? 千早さん、どうしたんですかー? 寒いんですか?」

 千早「いいえ、大丈夫よ高槻さん。新たな世界が開けそうなだけ。これはいわば、武者震い」ブルブル

 伊織(いざという時はアレ止めなさいよ、真)

  真(え、ごめん。ボク今の千早をどうにかできる自信ないんだけど)

 雪歩「ねえひびきちゃん四条さんと一緒に住んでるんでしょちょっとお話詳しく聞かせてほしいなねえねえねえねえ」

 美希「もー、なんなの、みんなうるさいの…… ひびき、ミキといっしょにソファいこ?」

ひびき「あいえなー! あきさみよー!!」ガタガタガタ




 亜美「マズいよ真美、お姫ちんよりヤバいメンツがちょこちょこいるよーな気がするよ」ヒソヒソ

 真美「ちびっ子ひびきんのパゥアーをナメてたね…… ま、あとはがんばってね、お姫ちん」ヒソヒソ

 貴音「二人ともわたくしに一体どうしろというのです!?」


 貴音「よいですか、ひびき? 小鳥嬢や高木殿の言いつけを、ちゃんと聞くのですよ」

ひびき「うんっ、だいじょうぶだぞ! じぶん、かんぺきだもん!」

 貴音「ふふ、その様子なら心配なさそうですね。では、行って参ります」

ひびき「いってらっしゃーい! たかね、きをつけてねー!」




ひびき「ねえねえ、ことり。ことりっておなまえなのに、おうむとか、かわないの?」

 小鳥「うーん、一人暮らしだとなかなか難しいのよねえ」

ひびき「えっ、ことりもかぞく、いないの? ひとりでおうちにすんでたら、さびしくない?」

 小鳥「…………」




 小鳥「ガフッ、ゴハァッ」

ひびき「うぎゃーっ!?」

 高木「我那…… ひびき君、こちらへおいで。それ以上は音無君が危ない」


 貴音「動物園…… ですか?」

ひびき「うちなーよりずーっとおおきいのがあるんでしょ? たかね、おねがい、つれてって!」

 貴音(はて…… 困りました、本来なら響のほうがよほど詳しいはずですが……)




ひびき「なんでだめなの!? じぶん、はいってみたい! いこうよたかねぇー!」

 貴音「な、なんででも、絶対に駄目です。あの館だけはいけません」

ひびき「やだやだーっ!! せっかくきたんだからぜんぶみたいぞー!」

 貴音「聞き分けなさい、ひびき。世の中にはこれ以上の理不尽など、いくらでもあるのですよ」

ひびき「う…… うぎゃー!! たかねのけちんぼー!! ばがー!! うわあぁぁん!!」

 貴音(ひびきの涙を見るのは胸が痛みますが…… 心を鬼にするのです、四条貴音……!)

 貴音(爬虫類館、など…… 絶対にあれがいるに決まっております! そこだけはなりません!!)ガクガク


ひびき「たかね、たかねっ!! みてみて! そらからいっぱい、しろいのがおちてくるぞ!」

 貴音「ふふっ…… あれは、雪というのですよ。おや、ひょっとして、ひびきは初めて見るのでしたか」

ひびき「うん! きらきらしてて、きれい…… たかね、おでかけしよ! じぶん、あれさわってみたい!!」




ひびき「うわぁ、わぁぁーっ……! すごい、まっしろ! せかいじゅうまっしろ!!」

 貴音「まことよく積もりましたね。どうぞ、存分にさわってごらんなさい」

ひびき「わっ…… つ、つめたい! でも、かるくて、あっ、なくなっちゃった!?」

 貴音「雪は、触れると溶けてしまうのです。すぐになくなってしまうからこそ、美しいのかもしれませんね」




 貴音「ひびき、お母様にもお兄様にも、ずいぶん会っていないでしょう。寂しくありませんか?」



ひびき「うーん…… さいしょはそうだったけど、いまはたかねがねえねだもん! さびしくなんかないぞ!」



 貴音「ねえね? …………わたくしが?」



ひびき「うん! ふしぎでやさしくて、きれいで、かっこいい、じぶんのじまんのねえね!」




 貴音「確かに、本当に楽しく…… そして心地よい毎日です。しかし、このままでよいわけがありません」


   P「元に戻る方法だって見つかるかもしれないし、あんなに貴音になついてるんだ。そう急がなくても……」


 貴音「いずれ迎えねばならぬことなら、早い方がよいに決まっております。ですから、高木殿」


 高木「もちろん手配自体は、そう難しいことではないが…… それで本当によいのかね。四条君」


 貴音「二言はございません。ひびきのためを思えば、それが最善かと」




 貴音「ひびき。お夕飯のあとで、大事なお話があります」






ひびき「えっ、なになに? ひょっとして、たかね、またどこかつれていってくれる?」




ひびき「どうして……? どうして、かえれなんていうの!?」



 貴音「貴女は故郷にご家族がいるのです、ひびき。わたくしと居続けても、ためになりません」



ひびき「たかね、たかねは、じぶんのこときらいになったの? もう…… ねえねじゃ、いてくれないの……?」



 貴音「…………っ!!」



   P「本当に行かなくていいのか、貴音。ひびきと約束したんじゃなかったのか」

 貴音「わたくしがいては余計に収拾がつかなくなるでしょう。ひびきのこと、どうかよろしくお願い致します」

   P「…………」






ひびき「なんで! なんでぇっ!? ねえはるか、たかねは!? なんでたかねいないの!?」

 春香「…… あのね、ひびきちゃん。貴音さんは急にお仕事が入っちゃって、今日はどうしても……」

ひびき「うわああああん!! うそつき、たかねのうそつきーっ! おみおくりしてくれるって、やくそくしたじゃないかぁぁ!!」



ひびき「たかねー!」貴音「面妖な……」
http://ex14.vip765ch.com/test/read.cgi/uso800desu/xxxxxxxxxx/








※埋めネタです。続きません。



最後にもう一度、次スレを紹介させていただきます。
当スレッド >>959 から続いております。

響「貴音!?」たかね「めんような!」 その2
響「貴音!?」たかね「めんような!」その2 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1458643267/)



本スレッドは、これで本当におしまいです。


改めまして、どうもありがとうございました。

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