咲「外は大雨」和「ここは船、そして二人」 (39)

ザアアアアアアアアアアアアアアア

うるさくとも心地の良い、雨の音、風の音

外に人の姿は見えず、そこらの家には人の生活の象徴とした明りが付いている

しかしその中で、ポツンと光が差さない大きな家があった

和「降って来ちゃいましたね」

咲「うん...それにしてもごめんね、いきなり来ちゃって」

和「良いですよ、この雨の中で帰らすなんてことは出来ませんし」

和「それに誰かと一緒に居ると、この雨の中でも落ち着けますしね」

咲「そう言ってくれると嬉しいけど...」

和「取り敢えず、タオル持ってきますね」

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咲「ありがとう」フキフキ

和「いえ、濡れている友達に手を貸さないわけがありません」

咲「そうだよね...」

少し曇った表情になるが、顔を下げているため気付かない

和「今、お風呂も沸かしているので」

咲「い...良いよ、そこまでは流石に」

和「いえ、明日も学校ですし、体を壊してはいけませんよ」

咲「そうだよね」

和「しかし、明日までに晴れるでしょうか?」

咲「今年で一番の大型だっけ?」

和「はい、動きも遅いですし、珍しいですね」

和「もし、夜まで止みませんでしたら、泊まって行ってください」

咲「そ、そんなー、悪いよー」

同じような受け答えをしているうちに、風呂が沸いた

ジャアアアア

先程とは変わり、水の音でも生活の必需品となった音が部屋に響き渡る

和「洗い終わりました」

咲「それじゃあ、私が...」スクッ

そこには、互いに相手を想いあう故に、噛みあわない少女たちが奇跡的に噛みあった結果があった。

おそらく、さっきと同じ問答を風呂の優先でも続けていたのだろう。

咲「シャンプーは...」

和「奥の方です」

お湯と恥ずかしさで頬の色が赤く染めあがった、二人はそれ以上の事を期待しつつ、肌を交える

咲「失礼しまーす」チャプン

和「どうぞ」スッ

互いに触れ合う、肌、吐息、それらに圧倒され、口を開けずにいる。

膠着状態にも似たその状況を最初に破ったのは和だった

和「なんだか、少し、恥ずかしいですね」

咲「うん、何度か同じお風呂に入った事はあるけど、こんなに近くで入る事は無かったからね」

数回の合宿、IHの時に泊まった宿泊施設、それら思い出すと、同時に今年の思い出が蘇る

咲「楽しかったね...」

和「はい...とても」

咲「でも...まだ一年なんだね」

和「....もっと長く感じました」

咲「私は...まだまだ物足りないかな?」

いつもは、聞き手に回ることの多い咲が話題を引っ張っていくのは

和に比べそれまであった人との関わりが乏しいからか

彼女が心から許した唯一の少女だからか

だが、そんな事は関係なしに話題は進んでいく

数十分後、そんな会話も佳境に入っていた

和「お姉さんとはどうですか?」

咲「えへへ、それが...前よりは良いかもってぐらいで」

和「そうですか...大きな傷は時間をかけてでしか治せませんからね」

咲「気長に頑張るよ、今は前とは状況も環境も違うから」

和「頑張ってください」

この状況と環境をくれた、目の前の少女に心の中で感謝の言葉を浮かべながら、顔を伏せる

そうした行動で自分の体の変化にようやく気付いた

咲「あれ...もう逆上せてる...」

和「おそらく数十分は過ぎてましたね、もう上がりましょうか」

咲「そうだね...」「やっぱり、時間は経つのが早いや」

何も起こらなかったことにガッカリしながら、風呂場を後にした

用意した寝巻に着替え、廊下を出ると、点滅する光に気が付いた

和「留守電ですね」

咲「私達がお風呂に入ってる間に掛かって来たのかな?」

和「そうですね....どうやら、この番号は父の携帯です」

咲「お父さん?」

和「はい、少し失礼しますよ」

「メッセージイッケンメッセージイチ
   .......すまない和、この雨なので、今日は職場に泊まる事にするよ、何か不備があれば携帯へ掛け直してくれ
                                                  ピー」
  
和「どうやら、このまま明日まで二人きりのようですね」

咲「そうみたいだね...そうだ、私も家に連絡しなきゃ」ピッ

比較的新しい携帯電話に耳を必要以上に近付ける。それは、会話に必要な動作では無く

期待を膨らませた表情を隠すための動作だった。

今日は終わり、のんびりとやって行くからよろしく

再開

人の気配がしようとも、そこの家には明りは灯っていなかった。

日常とは大きく違う色、二人だけの閉鎖空間。

それは、ロマンチストのような二人を「もっと非日常へ」と誘い込むには十分な材料だった

咲「ねえ、和ちゃん」

和「なんですか?咲さん」

咲「もしも、もしもだよ?」

和「もしも?」

咲「この家全体が船だったとして」

和「と...して」

咲「明日にはその家以外の物が全て海に沈んでたら、どうしよう?」

和「....そうですね」

和「取り敢えずは学校に行ってみますね」

咲「学校?どうして?」

和「皆が居るかもしれないので」

質問の趣旨を理解していないのか、むしろこれが普通の反応なのか
 
それでも、咲にはこの返しは納得がいく結果ではなかった

咲「違うよ、皆沈んじゃったの」

和「皆...ですか?」

咲「私達以外全員」

和「それは....悲しいですね」

咲「うん...」

咲「いや!そうじゃなくて!」

和「?」


咲「ええと...どういえばいいのかな?」

和「私に至らない所が在ったようで...すみません」ションボリ

咲「そんなんじゃないよ!和ちゃんは悪くないよ!悪いのは...」

咲(勇気のない、私...)

和「あの...咲さん、あんまり自分を責めないでください...」

咲「えっと...ごめん...」

擦れ違う心と、伝えたい想い

諦めたくない少女は、少しずつ図り始める。

彼女らしい言い方で。傷付けなくて済む位置を、想いが伝わる位置を

咲「そうだ...それじゃあ、和ちゃん」

和「なんでしょうか?」

咲「私と、二人きりの世界で、何がしたい?」

和「二人きり...ですか?」

咲「うん...」

和「そうですね、いろんな話をしていたいです」

咲「..........いつも出来るよ」

和「そ、そうですね?ハハハ...」

咲「・・・」

和「・・・」

咲「ねえ...和ちゃんはさ...」

和「?」

咲「私が、お姉ちゃんと仲直りをしたく無くて、部長たちも皆居なかったら」

咲「私の事、好きじゃなかった?」

和「・・・」

和「...そうですね...ハッキリ言うと」

咲「」ゴクリ

和「分かりません」

咲「」ガクッ

和「ただ、少しだけ思った事があります」

咲「えっと...何を?」

和「もしも、初めて会った時に会話をしていたら、まったく別のストーリーになったのではないかと」

咲「どういう...」

和「上手くは言えないのですが...」

和「もしも、初めて会話したのが麻雀の部室では無くて、あの桜の木の下だったのなら」

和「どこにでもありがちな、親しい間柄の人と過ごす、それだけの青春になっていたのではないかと」

咲「そうしたら...私は、登場人物にはなれないね」」

和「いいえ、そんな事はありません、例えば、そうですね...」

和「劇的な出会いをした将来結ばれるヒロインとかになるのではないでしょうか?」

咲「え!?///え?////」

咲「そ、そんなこと////」

和「でも、桜の下で運命の出会いをするなんて、よくある話ですし」

和「何より憧れるじゃないですか!」

咲「そうだね、普通だったら皆憧れちゃうシチュエーションなんだよね...」

和「ですから...私は他の皆は居なくても、咲さんとは仲良くなっていたと思います」

咲「え?」

和「もしも、麻雀付けじゃなくても、恋愛に主軸を置いた青春でも」

和「横には、咲さんがいるんです」

咲「・・・」

和「ですから、そんな寂しい事は言わないでください」

和「私は咲さんが好きです、ですから」

和「どんな世界でも一緒に居たいです」

咲「...そうだね」

咲「ありがとう和ちゃん」ニコッ

和「いえいえ」

咲「それで...もう一度、同じことを聞いて良い?」

和「はい」

咲「私と二人だけの世界で何がしたい?」

好きという気持ちは本物と確信した少女はまた一歩踏み出す

それに応えられるように、もう一人の少女は、想いを巡らす

そうした結果、やっと、少女は本当の意味に辿り着けたのだろうか。

和「...咲さん」

咲「何?和ちゃん」

和「近くに行っても良いですか?」

世界は大雨と船と二人だけの世界

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