春香「事務所の冷蔵庫がゴソゴソと…」 (23)


最近、事務所で不思議な事が起きているのは知ってますか?

今朝、事務所の冷蔵庫にクッキーを入れて置いたのですが、仕事から帰ってきたら無くなっていました。


そうです…、冷蔵庫に入れられたスイーツが次々に無くなってしまうのです。


楽しみにしていたクッキーは、紙皿ごと綺麗に無くなっていました。

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次の日、ちょうど皆が事務所に集まったので、この事について口論になりました。

伊織が言います。

「私のスペシャルアーモンドプリンを食べたのは誰かしら。…うぅん、別に食べられたことに怒ってはないわ。黙って食べた上に名乗り出てこないことに腹を立ててるのよ」

続いて千早ちゃんが、

「私が持ってきたケーキも無くなってたわ。マンションで結局食べなかったから、事務所で食べようと持ってきたんだけど…」

私のクッキーも昨日食べられていた事を話し、皆思い出したようにそれぞれ口にし始めました。

「あらぁ〜、そういえば私のヨウカンも食べられてたわぁ。…ダイエット中だし、特に気にはしませんでしたけど」

「ミキのおにぎりも無くなってたの…」

「えっ、あれって律子さんがここで作ってたものなんじゃ…」

「ミキのなの」

皆の話を聞くと、最初に冷蔵庫の物が無くなりだしたのは、ちょうど一週間前でした。

「おかしいわね…」

伊織が不満そうに言います。

「皆…持ってきたものを食べられてる側だなんて」

そうです。
皆の口からは、食べた、という言葉が出ることはなく、食べられた、という事しか出てきませんでした。


……誰かが嘘をついてる?


不意に真が苛立ったように吐き捨てました。

「嫌だなぁ…嘘を話してる人がいるなんて」

あずささんが焦ったように言います。

「私は違いますよ…えぇ、本当に。皆の物を黙って食べるはずないですよね」

皆は無言のまま、しばらく静寂が周りを包み込みました。

しばらく経っても誰も話そうとしないので、伊織が口を開きました。

「取り敢えずこの話は一旦終わりよ。私は今から仕事があるし、また今度にしましょう」

その一言で、その場は解散になります。

私も仕事があるのを思い出し、急いで準備を始めました。

誰が食べたのか、分かりません。
疑いたくは無いのですが、誰も食べてないとなると、皆の話が嘘のように聞こえてきます。

こんな些細な事で皆のなかが悪くなってしまうのでしょうか


スケジュールを見ている時、ふとあることが思い浮かびました。

「あ、そういえば、今日私の現場にプロデューサーさんが来るんだったよね」

私は準備を済ませると、いそいそと事務所を後にしました。

現場に着くと、既にプロデューサーさんが来ていたので、この事について話をしました。

すると、プロデューサーさんは真面目な顔で話を聞いてくれました。

「そうか、そんなことが…。分かった、俺が何とかする。こんな事で、皆の関係を悪くはしたくないもんな。春香は目の前の撮影に集中するんだ」

「ありがとうございます!」


私は言われた通り、その後の撮影に張り切ってのぞみました…。

………
…………………

夜、仕事を終えた私は荷物を取りに事務所に戻りました。

私の足は、急ぎ足でした。
思ってたより仕事が長引いて、急がないと終電に乗り遅れてしまうほど遅くなってしまったのでした。


「いけないいけない…!」

階段を上がってると、事務所がまだ明るいのが見えます。
なんだか少しだけホッとしました。

「もう事務所に荷物置いていくの辞めようかなぁ…何で置いてきちゃったんだっけ」

ふと、反省していると、昼間の事が思い出されました。

(私のスペシャルアーモンドプリンを食べたのは誰かしら)

(私が持ってきたケーキも無くなってたわ)






…ドアノブに掛けた手が、ぴくっと止まりました。

考えてみれば、私のクッキーが無くなったのも、皆が持ってきたものが無くなったのも、誰もいない時に食べられていました。


もしかしたら今そこで誰かが食べているんじゃないのか…そんな気がします。


私はゆっくりとドアを開けました。

トン……トン……

ゆっくりと中へ入っていきます。


挨拶もせずに、足音も立てずに、
まるで幽霊のように、私は動くのでした。

…これじゃあ私が泥棒みたいです


そんなことを考えていた時……、


ガサゴソ!ガサゴソ!


…………物音がしたのでした。

物音は、冷蔵庫の方から聞こえてきました。


私は息を潜めて近づきます。
なんだが、少しだけ胸が痛く感じられました。
やっぱり、誰かが嘘をついていたんでしょうか

見たくはありませんでしたが、引くことはできません。




私はそっと、壁から冷蔵庫の方を覗きました。

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