レ級戦記 (54)

幼女戦記の内容の一部のパロです。というかまんまです。

元ネタ知らなくても楽しめると思いますが、かなり内容を削っています。

元ネタの方が面白いので気になったら是非読んでみてください。

深海側の話です。かなりシリアスなので注意。艦むすが大量に沈みます。覚悟してください。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1423419233

 作戦とは明瞭な目的・目標に基づいて発動されることが望ましい。

 その点において参謀本部にとって、戦艦棲姫と飛行場姫によって起草された『衝撃と畏怖』と名付けられた作戦は模範たりえる明瞭さを有していると評される。

 その作戦目的は単純にして明瞭なもの。

 すなわち、敵司令部を直接たたく衝撃によって指揮系統を麻痺させ、最終的には敵戦線を崩壊に導くという過激にして単純な手法。

 理屈は明瞭だ。頭のない軍隊は、戦争など出来ない。

 それだけならば、それこそ駆逐イ級ですら理屈は即座に理解できることだろう。なんなればこの戦法の要点は、艦むすにとって死活的に重要な司令部機能という頭脳を一撃で刈り取ることに他ならない。

 だが、だからこそ、その成算については早くから多くの重大な疑念が提起されている。

 当然ながらそれだけ重要な司令部だ。どのような鎮守府であろうと、司令部というのは敵の手から当然の如く離れた安全地帯に設置するものである。

 常識的な発送からして、大本営の司令部ともなれば厳重に防護されていると想定せざるを得ない。そして、その予想は多大な犠牲を払っての強行偵察を通じて確認されていた。

 敵艦むすの濃密な迎撃網の存在と、周辺に展開する邀撃線力の存在をクリアしなければ成算はおぼつかない。だが、それらを考慮した深海幹部の大半は損害度外視で突破するとしても旅団規模の空母・戦艦隊でさえ全滅判定を受けざるを得ない程の損害を出すだろうと認識しているのだ。

 当たり前だが、リアリスト揃いの参謀らにとって目的に異論はない。敵戦線を突破し、敵司令部を強襲することで敵の指令系統を崩壊させるということならば、どれ程の損害を払ってでも惜しくはない。成算さえあれば如何なる犠牲を払ってでもやるだろう。

 成算が高ければ、犠牲も度外視しよう。だが、リターンがいかほどに高かろうと成算が乏しい作戦に戦局打開を賭ける?それは、もはやどうしようもない末期だと一様に将校ならば吐き捨てざるをえないものだ。

 敵司令部を直接叩くなど出来るのであれば、そもそも、佐世保戦線は膠着などしていない、というつぶやきが大多数の深海参謀らにおける本音だった。

 故に、本来ならば一顧の価値すら見い出さずに、その作戦計画書は屑籠に突っ込んで忘れられたことだろう。
……その作戦の立案者が、他ならぬ戦艦棲姫並びに飛行場姫の連名でなければ。

 対艦むす戦の権威である両名が、現実的な戦術行動の一環として提言しているらしいと理解したとき、誰もが始めは困惑する。
そうして渋々提出された計画書へ目を通し、精読するに至ってようやく余りに馬鹿馬鹿しい提案が大真面目に検討するに値することを悟らされる。

 最終的には、渋々ながら……そう、相当に渋々ながらも「あるいは可能といえるかもしれない」という事実を認めるに至る。

 迎撃不可能に近い高度を、追尾不能な速度で飛翔する追加加速装置と、戦艦レ級の指揮する百戦練磨の第二○三戦艦大隊であれば、と。

 追加加速装置のカタログスペックと、投入される部隊の積み上げてきた実績を加味すれば、少なくとも、紙の上では議論が出来る程度にその提案は魅力的だった。

 だが、逆に言えばそれほどのカードを見せられても躊躇せざるを得ない代物でもある。

 なにしろ、よりにもよって戦艦棲姫と飛行場姫はこの衝撃と畏怖作戦を次の大規模計画である解錠作戦と連動させる意向を示唆していた。
解錠作戦に先立ち、衝撃と畏怖作戦を断行することによってのみ、解錠作戦の円満な成功が望みうるという但し書きは特に多くの議論を招く。

 解錠作戦の成功に賭けた参謀本部は既に佐世保戦線の後退という尋常であれば許可されないような危ない橋を渡っている。
その賭けがそんな博打のような作戦の成功に左右されると言われて冷静さを保つのは決して容易くない。

 内部において相当な異論が噴出し、会議室の内外で交わされる激論で参謀らが真っ二つに分かれるほど過激な代物として形容してなおまだ穏やかな表現だろう。
白熱する議論の最中に髪をつかみあい、この分からず屋とお互いに罵り合う深海参謀らの実情は、殆ど取っ組み合いとでも評すべき荒れ具合だ。
最終的に公式には「転倒して大破した」と自己申告する参謀らが、複数人出現するほど参謀本部内部で大荒れに荒れたといえばその凄まじさが察せられるだろう。

 だが、最後のところで参謀本部は”敵司令部を直撃する”という本計画の極言された軍事目的一点を極めて高く評価した。
なにより、仮に敵大本営を沈黙させられずとも直撃する時点で擾乱の成果はあるだろうと判断したのだ。

 すなわち、ただ一度でも、首狩り作戦を深海棲艦軍が実行したという実績があれば、艦むす達は常にそれへ備えねばならない。
彼女たちは今後、長期的に自分達の大事な大本営防護のために貴重な戦力を後方の大本営司令部付近に割り増しする必要が出てくるだろう、と。

 それに、と幾人かの参謀らは心の底で一言付け加えるべく呟く。

 『あのレ級ならば、或いは多少の成果を力ずくでだが叩き出せるかもしれない』と。

 とはいえ、リスクが高い作戦だということは誰にも否定できない。
下手をすれば、文字通り百戦錬磨の精鋭を徒労の作戦に投じて全滅させうる博打でもあるのだ。
無論、全滅したところで艦むすに脅威を与えるという一定の結果は出せる。
出せるが……しかし、高価な犠牲だ。

 まして、投入が予定されている第二○三戦艦大隊はかけがえのない深海棲艦の虎の子とでもいうべき豊かな実戦経験を持つ即応展開部隊。

 一朝一夕には決して代替となる部隊を手配できそうにないという問題と、それほどの精鋭だからこそ成功が見込めるのだという究極のジレンマ。
だからこそ、参謀本部は期待しつつも躊躇うという二律背反に苦しんだ末に一個中隊規模の投入を決断する。

 そして、ひとたび投じられる戦力が定められると精緻な戦闘機械である深海棲艦軍はその機能を万全に発揮する。

 追加加速装置(秘匿呼称V-1)を使用し、敵戦列後方を強襲する中隊として、第二○三戦艦代替の中から十二名が即座に選抜され、直ちに後方の射出拠点へ移動。

 技術者から、取り扱い方法のブリーフィングを受けつつ、敵地に関する講習で戦闘任務概要を叩き込む予備作業は遅滞無く遂行される。

 ただ、指揮官であるレ級の懇願した実機演習は、秘匿性の都合で遂に見送られる。
戦略的奇襲という性質上、演習は防諜面から到底看過しがたいという視点を考慮すればやむをえない決断だった。

 無論、ぶっつけ本番になることはリクスが高い。
当然、多数の危惧や意見具申が参謀本部に出されていたほどである。
それらを押し殺してでも奇襲の重要性が強調されたのは、偏に作戦の成算は敵の意表を突けるかどうかにあればこそである。
その点に対しては、最終的には渋々ながらレ級も防諜の必要性に理解を示した。

 実機を使っての操作演習までは、ハンガーで行うものの、実射はなし。
その代わり、レ級の要請もあり追加加速装置の整備は殊更念入りに行われることになった。

 作戦の行程は厳密に定められ、最低でも艦むす大本営指揮系統への打撃ないし通信能力の一時的破壊を目的とする本作戦が定められる。
敵司令部直撃後は北上し予め伏せておいた深海艦隊によって保護されるとされた。

 作戦本部での議論も最終的には関係者が概ね合意し、秘匿呼称V-1部隊にその旨が通達され、そしてそのX-DAYを迎えたのは五月二十五日のことであった。



 結果は、今日でも驚きをもって見られている通りである。(艦むす戦史編纂局『佐世保戦線史第三巻』より)

書き溜めが終わったのでひとまずここまで。
誰も読んでいないようなら続きません。

これは期待
更新の頻度を教えてほしいです

期待
艦娘のむすが平仮名なのは外史っぽい感じなのだろうか
後ちらほら誤字が見られた

>>11
出来るだけ毎日更新するつもりです。

>>13
平仮名であることの意図は全く無かったです。
漢字にします。

===五月二十五日 深海棲艦軍V-1投射秘匿拠点===

 その日、戦艦レ級は毅然と飛行場の滑走路に仁王立ちした胸中にて「おはようございます」と呆然と呟き、いつものごとく地平線から昇り来る太陽を死んだ魚も逃げ出す濁った瞳で眺めていた。

 受け取った軍令によれば、自分は指揮下の選抜中隊でもって敵司令部を直撃し、頭を刈り取れとのこと。
外貨的な一撃による致死的な切除手術というわけだ。

 敵司令部を選抜中隊で叩けと言うふざけた内容もさることながら、その戦術目標達成のために用意された手段もレ級を凹ませる。

 通常の手段では、艦娘の防御を突破出来ない。
それを上も理解したらしい。
そして、何故か突破せよとの命令と共に尋常ならぬ手段を用いるほかなしという決意で上が持ち出してきたのは誘導式噴進弾。
ただし、誘導方式は人力だ。

 言葉を飾らずに言えば人間ロケットで突っ込めという訳である。
外聞さえなければ、レ級はどうしてこなった、と頭を抱え叫んでいたことだろう。

 理性では、自分が今から実行を命じられている作戦行動が決して無謀な賭けではないことは理解している。
確かに、合理的に考えれば成算は確かにある。

 が、合理性という観点から別個の視点で考慮すればそもそも戦争をすることそのものが壮大な浪費なのだ。
もちろん、この恐るべき無意味に等しい各種資源の浪費を最小限に抑えるための損切りが必要であるという視点には反対しない。
それは、道理だ。

 各種統計で全ての数字は、損切りが必要であるということを示しているのだ。
財源を講和条約なりなんなりで敵から巻き上げない限り、深海棲艦側も戦費の重みで潰れるというのは確実だろう。
賠償金は、何としてももぎ取りたいと上が考えているだろうと察するのはレ級にしてみれば実に簡単である。

 統計データを活用して議論を行うことで常識を裏付けたり、その裏をかいたりするのは理屈では道理だ。
それをレ級は道徳や感情では否定しない。
人を否定する前に、真にそれが正しいのか、と自問自答する健全さを忘れない心構えは常に抱いているつもりであった。

 だからこそ、と死んだ魚のように濁りきった瞳で、レ級は視線の先にある巨大な代物を眺めながらどうしてこうなったのか、と答えが出ないまま繰り返し、自問自答する。
 よりにもよって、一体全体どこのマッドな科学者が、こうまでも狂った考えを軍組織に認めさせるまでに合理化させたのだろうか、と。

 秘匿呼称V-1による中隊投射。
それを、あの戦艦棲姫と飛行場姫に決断させる次元で合理化できる頭脳を持った頭の良い物狂いは……ああ、まあ、ヤツだろう。
深海棲艦軍の技術者は大なり小なり大半が自分の世界に住んでいるが、あのチ級はその中でさえ別格だった。

 くたばれチ級。あの糞ったれめ!と思い出すなり罵りたいほどだ。

 それほどまで、いや、レ級にして感情のままに脳内でチ級を散々轟沈させなければ収まりがつかない理由は単純だ。

 なにしろ、友軍を守るための遅滞戦闘で活躍し、多数の負傷者を抱える羽目になって半壊した大隊の大隊長として、辛うじて友軍後方基地に辿り着いた途端に新作戦の受領だった。
喜び勇んで、どんな配慮が施されたのかと見てみれば、期待したベクトルとは真逆に危険な戦場に信頼できない危うい兵器で送り込まれるのだ。

 あえて言うなら、レ級はもう危険な任務はこりごりなのだ。リスクヘッジという概念をどこかに吹き飛ばしたかのような無茶な軍事行動を「可能だから」という一言で行わされる側としては実に順当な感情と言えるだろう。

 いや、戦功抜群と讃えられ、内々ながらも、階級が特進することも伝えられたので、リスクに対する健全な評価が機能していることまでは否定できないのだ。

 だからこそ、自分の中野葛藤に戦艦レ級は苦悩せざるを得ない。高く評価され、己の功績に対して正当な褒賞すら与えられている手前、故なく任務を放棄することは深海棲艦として出来ないのだ。

 「やるしかない。やるしかないのであれば、私達は成功させないといけない」

 滑走路に佇みひたすら艦娘軍の大本営の方を睨みながら戦艦レ級はそれが自分の義務であるかのように繰り返す。

 そうして、すぐ隣でまじまじと自分を凝視している視線に気が付きもせずにレ級は繰り返す。
堅固な意志と戦意を滾らせて。

 「やるしかない。これをやるしかないんだ。
私は、与えられた任務をしくじるわけには断じていかない。」

 「……レ級、思索中に悪いけど、少しいい?」

 だがその思案でさえも、呼びかける声に対して条件反射的にレ級の頭からは蹴り飛ばされていた。

 「っ、失礼いたしました。もしろんです、泊地棲姫殿。いかがされましたか?」

 咄嗟に欠礼していた己の迂闊さに思い至り、一歩後ろに下がって、一枚の絵になるような見事な敬礼の姿勢。
咄嗟に場をとりつくろいつつもレ級の頭脳は今、余計な一言を漏らしていなかったかと急激に回転していた。

 滑走路上で、呟いたのは二つだけ。
やる気があると捉えられる言葉と断言できるかは微妙だが、やらねばと自分に言い聞かせていた言葉にさほど問題があるとは思えない。

 ただ、それは単独で問題がないだけであって……文脈次第では非常に重大な結果を招きかねない部分があったこともまたすぐに理解できてしまう。

 「いや、あなたが、その、あなたにしては、と言うべきなのか」

 「はっ?」

 故に、声をかけてきた泊地棲姫が少し意外そうな雰囲気で言いよどんでいる時点でレ級はおおよその状況を最悪だと判断していた。
参謀本部の泊地棲姫はどう希望的観測に縋ったところで盆暗ではない。

 仮に、泊地棲姫によって戦意に対する疑義が申告されてしまえば、その後はいったいどうなるだろうか?

 今日の自分の裁量権も、自由行動権も、全ては参謀本部の戦艦棲姫閣下による働きかけで認められればこそだ。
逆説的に言えば、戦艦棲姫・飛行場姫両名が渾身の手配りを行っている作戦に批判的どころが消極的であるという報告はどんな厄介ごとを誘発するか分かったものではない。

 「あなたにしては珍しく乗り気でないようにみえるのでね」

 そうして、どこか苦笑するような表情で言葉を紡ぐ泊地棲姫はレ級を見つめながらぼやくような口調で続ける。

 「あたなのことだし、何か、渋るに足る相応の存念があるのではないの?」

 ぐさり、と心臓に釘を打ち込まれた吸血鬼の気持ちは、多分今の自分と同じなのだろうなぁとレ級は内心思う。

 「ああ、なるほど。……いえ、少し疑問がありまして」

 「疑問って?」

 故に、レ級は咄嗟にダメージコントロールで損害を最小化することを決意していた。
これは、何としても乗り越えなければならない障壁である、と。
さらに言えば、自分の戦意不足を糊塗するためだけにまるで大規模攻勢が得られないのは残念極まると語ることさえ彼女は即断していた。

今日はここまで。
ペースがかなり遅いので気になる人は幼女戦記3巻を読んでください。

どんな作品かは
http://www.nicovideo.jp/watch/sm25316195?ref=search_key_video
これ聞けば分かると思います。

出来るだけ毎日更新するつもりです。 (毎日更新出来るとは言っていない)
今読んでる人がいるか分からないですが、現状この進行速度で行くと終わらないので今以上に簡潔にまとめようと思います。

「これほどの装備、これほどの事前準備、そしてこれほどの情報秘匿努力。
全てにおいて、驚くべきレベルで軍が動いています。」

 だからこそ、疑問なのですとレ級は口に出し、そして答えを求めるかのように泊地棲姫を凝視しながら問いかける。

「この奇襲作戦はそれほどの準備を払った上で、敵司令部を混乱に陥れるという単一目的のためだけに行われるのですか?」

 地上の滑走路にもうけられた追加加速装置の射出用レール。
その上に鎮座ましますのは頭のおかしなレベルでブースターを連結した追加加速装置本体である。
揮発性の高い液体燃料が燃料タンクに、これでもかと注入されている。

 だからこそ、それらを指差し、レ級は大真面目に泊地棲姫を相手に主張するのだ。
あれらは、幾ら敵司令部を狙うにせよあまりに大掛かりすぎて勿体なくはありませんか、と。

「敵司令部を突くとなれば、相応の準備を事前に終えねばならないと考えるのは間違っていないでしょう」

 泊地棲姫から憮然と返される言葉は、予想通りのもの。

「その通りであります。泊地棲姫殿。
ですが、自分としては……せめて、大規模会戦のような機会であれば、と」

 より一層の戦果拡張も期待できるのではありませんか、と言外に含んだ言葉。
もちろん、一度揮発性の高い液体燃料を入れてしまえば中々中止が困難だという技術的な理由はレ級も理解している。
だが、それでもレ級としては真面目くさって指摘しておくのだ。

「そう、つまり、現状ではあまり効果がないと?」

「というよりは、機会損失が大きいかと。
敵司令部を動揺させたところで……効果がないとは申しませんが……」

レ級は何ら後ろめたいことがない愛国者を装って堂々と機会損失を説いていた。
それは、余りにも勿体ないという視点で、だ。
現状で自分に与えられている敵司令部を吹き飛ばす任務は、他の物と組み合わせるべきではないのか、という提言。

「私に言わせていただければ、これでは入念な準備の挙げ句に小さな花火を打ち上げるがごとき費用対効果の微妙な……」

 だが、そこまで主張したところで、レ級はハタと違和感に気がつき言葉を詰まらせていた。
そうだ、そこがおかしい。

「レ級?」

 呼びかけてくる泊地棲姫の訝しげな表情すら一瞬だけ思考の外に押しだし、レ級はたった今脳裏をよぎった言葉を再度、反芻し違和感を確信する。

 費用対効果が怪しい。
単一の目的のためにこれほどの費用を投じる?

そんな作戦行動を、消耗戦に対して冷徹な思考を示すあの飛行場姫閣下が提案するものだろうか?

「いや、しかし?……敵司令部の混乱。……大規模会戦?ちがう、遊兵化か!」

 その瞬間、レ級の脳裏に浮かぶ幾つもの疑問が、一つの連想となって答えを導き出す。
敵大本営を壊滅させれば、間違いなく艦娘は混乱する。
そうなれば、近代軍も烏合の衆。
そして、それこそが、参謀本部の真の目的だ。
……敵の混乱を利用し、戦艦棲姫閣下が行動するとすれば。
それは、すなわち膠着した戦線から機動線への回帰に他ならない。

「全ては包囲殲滅を目的とし、つまり艦娘軍を誘引?」

 敵に要地を敢えて取らせ、そして無理やり会戦にもちこむ手口。
それは、目の前に差し出されれば決して無視できないほどに魅力的な。

 ……まさか、佐世保戦線の後退自体が全ては敵の動きを誘導する餌か?

 だとすれば……、これは、、機動線は機動線でも単なる突破ではなく回転ドアか!

 何故、要衝であるはずの佐世保戦線を限定的に放棄し、全戦線の再編に踏み切らなかったのかという理由は、それで全て説明がつく。

「つまり……回転ドアのスイッチ?」

 そして、その一言がトリガーだった。

「レ級!それは、どこで耳にした!?」

 血相を変えて自分にかみついてくる泊地棲姫の剣幕にレ級はああ、なるほど、と得心した笑みを浮かべて見せる。

「ああ、その、自分の思いつきでありますが……そのご様子では自分の仮説はあまり的を外していないとお見受けしますが」

「……本当に、戦艦棲姫閣下から伺ったわけではないのだな?」

「ええ。ですが、ずっと奇妙には感じていたのです。
何か、こう、小骨が喉に刺さったような違和感がありまして」

 大規模な戦線再編は補給線の都合と聞いたとき、その瞬間は少し奇妙に思った程度だった。
そして、参謀本部の計画通りに無事に後退できた時には安堵すら覚えていたがために、少々気が付くのが遅れていた。

 防衛線再編というならばああまでも下がる必要があるのだろうか、という疑問。
だが、今ようやく理解出来た。
それは、全ては回転ドアをまわすための事前準備なのだ。
さながら、自分達は回転ドアの除幕式を告げる小さな打ち上げ花火というやつだろう。

「……結構。では、レ級。あなたならば、参謀本部が本作戦に対して寄せている絶大な期待を理解してもらえるわね」

「はっ、泊地棲姫殿。十全に理解いたしました」

 それは、大規模包囲戦に向けた参謀本部の遠大な機動作戦の先鋒だ。
だが、此処まで戦線を後退させている以上、並々ならぬ損失を覚悟で打たれている手だ。
何としても、成功させねばならないという覚悟が感じられる。

「全深海棲艦の期待を双肩にに担うは我が大隊にとって無上の光栄であります。
我が第二○三戦艦大隊の選抜中隊に全てお任せください。
我らが武威にて参謀本部より寄せられる悲願を達成してご覧にいれる所存であります」

 調練の成果である見事な気を付けの姿勢で頭を上に向けつつレ級は断言する。

「誓って、撃滅して御覧に入れます。参謀本部におかれては、朗報をお待ちいただきたく」

「相変わらずね、レ級。よろしい、貴方の成功を祈っているわ。神の御加護があらんことを」

 そして、どこか達観したような言葉にしかねる微妙な表情ながらも、苦笑を浮かべると泊地棲姫はさっと手を差し出していた。

「深海棲艦に神の御加護があらんことを。
されど、我らが将兵があるうちは神の仕事を肩代わりして御覧にいれましょうとも」

次はレ級の指揮する選抜中隊が見事艦娘大本営を直撃し撃滅せしめる節になるのですが、
文量の都合上まるまるカットしようと思います。
詳しくは元ネタの方で。

現状でも結構な部分をカットしているため、話が理解出来るか不安なのですが、
このまま進んで宜しいですか?
質問等あればその都度答えるつもりです。

乙流石に原作通りだと長いし仕方ない
二○三大隊って原作だと人数は少なめだけど何人くらいだっけか
カットされるようだけど艦娘側の対空放火って対魔導師ではなく対(小さな)艦載機のイメージ…効果は抜群だろうな

>>32
ありがとうございます。
ではこのまま続けていきます。

大隊は原作と同じく36人を考えています。
因みにレ級はフラ改二クラス
大隊の副長はタ級、それ以外の構成員はル級を考えています。
全員フラ改二クラスだと思ってください。

=== 同日 参謀本部 作戦局 ===
 その日、参謀本部を行き交う各課の課員らは、ピリピリとした緊張感の中に抑えかねる高揚感を漂わせながら足早に次に備えて自身の任務を行っていた。

 大規模作戦前の高揚感に包まれた参謀本部だが、中でも、衝撃と畏怖作戦の成功報告を受けた際の参謀本部作戦局に至っては、一様に肩をたたきあっての大騒ぎに包まれたほどだ。

 艦娘軍の佐世保方面軍司令部を吹き飛ばすという予想外の奇策。
よもや、此処まで完璧にやり遂げられるとは、と誰もが驚愕するほどの戦果。
それを第二○三戦艦大隊は見事な手際で完遂してのけたのだ。

 ニンマリと成功電報を読み上げた戦艦棲姫にとって、だからこそ、それは幸先の実に良いスタートだった。
最悪の場合でも、せめて敵司令部を一時的に混乱させることが出来れば……と悲観視する声もある中で、あの子ならば、と見込んだ成果がこれだ。

 隣にいる飛行場姫ですら、戦艦棲姫のヤツめ、まったく、とんだ虎の子を用意してくれたな、と歓喜している。
今だけは外聞も何もなく執務室で乾杯を叫びたいところだ。

 衝撃と畏怖作戦に必要な諸々の機材と人員の手配。
それらを戦務が見事にやり遂げてくれたおかげで、解錠作戦は殆ど予定通りに進展しているのだ。

 大砲が無い時代に城壁を壊すために使われた手段こと坑道戦術。
今こそ、それを活用するときが来ているのだ。
古い知恵も馬鹿にしたものでないと、あの傲慢な艦娘共に思い知らせてやろうじゃないか。
そう思うだけで、戦艦棲姫は愉快な気分になれる。

「……重要なのは、回転ドアの原理よ。さて、戦史はどちらに重きを置いてくれるのか」

「どちらも、だ。戦史に残る大規模包囲戦だからな。さて、戦争を終わらせるぞ、諸君!」

=== 同日 艦娘軍 佐世保前線基地 ===

 深海棲艦軍の後退を許してしまったがために、空白地帯となった低水位地方。
そちらへ、佐世保戦線に展開していた艦娘南部方面軍の左翼が軒並み前線を押し上げるべく進撃する中、深海棲艦軍左翼とにらみ合いを続ける艦娘軍の右翼に位置する部隊は、相変わらずの拮抗状態に飽きが蔓延しつつあった。

 公式発表を聞く限りにおいて、取り上げられるのは深海棲艦を追い求めて突き進む低水位地方の戦局ばかり。
自分達はといえば、戦線に異常なしの代わり映えのない日常だ。
前線指揮所もまた武運に恵まれる低水位方面への嫉妬と、忸怩たる焦燥感に駆られる艦娘が雁首並べていらだっているとすれば誰にとっても楽しい空間ではない。

 そのような雰囲気の中にあっては、取り分け不機嫌そうに眉をひそめ仁王立ちになっている一佐官など珍しくもないものだ。

 その佐官、足柄は並々ならぬ憤怒を隠そうともせずに全身から漂わせ、飢えた狼のように全身に闘志を張り巡らせる。
しかし、それをぶつけることが許されないという矛盾に彼女はどうしようもない憤怒を滾らせていた。

 ……佐世保戦線での後方破壊作戦は、結果として深海棲艦軍の兵站を脅かした。
それは事実だ。
だから、と軍上層部が『深海棲艦軍の戦線後退』という成果を語るのはまだ理解出来る。

 だが、とそこで足柄は付け加える。

 本来ならば『深海棲艦の後退時に追撃戦に移るべき』だったのだ。
そうすれば、今頃は深海棲艦の幸福という理想すら達成できていたに違いない。

 だが、実態は敵に逃げられ、残された海域を乞食のように恵んで貰ったことを大勝利と宣伝しているようなもの。
自分に与えられた任務を果たした結果が、これとは馬鹿馬鹿しくてやってられない、と彼女は山のような嘆願書と抗議文を送り続けている。

 だが、悲しいことに彼女が文句を言いにいけるのは直属の前線指揮所の将官の妙高だけだ。
つまるところ、ガス抜きにされているだけなのだろう。

 あまりに馬鹿馬鹿しく、耐えかねる事実。

「くそっ」

 足柄はゆっくりと立ち上がると偵察許可申請を海域管制に求めた。

 こんなところで燻っているわけには行かないのだ。

 せめて、深海棲艦を倒すまでは、なんとしても前線に張り付いて奴らを叩きのめさねば死んだ羽黒と、守れなかった人々に手向けができん。

 ひたすらにらみ合いの続く戦線で燻っているのは我慢がならない。

 何より、進軍時につきものの様々な『摩擦』によって低水位方面に進軍している部隊の状況が、いまひとつ明瞭に把握できないで居るということは奇妙なすわりの悪さがあった。
経験則上、進軍している部隊との連絡線は絶えず諸々の障害に直面するというのは理解している。

 ならば、と、足柄はせめて状況を把握するために自分で行って、見てくるつもりになっている。

 幸い、というべきか。
特殊作戦軍として敵情把握に努めるという名目には事欠かないだけに、飛行許可自体は彼女自身、驚くほどあっさりと許可される。

 ついでに、前線との連絡が不定期なので出来れば将校偵察と伝令も非公式にしてほしい、と言伝を預かる始末。
加えて、純然たる好意からなのだろうが、前線で苦労している艦娘に送ってほしい、と上は参謀から、下は下士官まで色々かき集めてきた菓子や飲料の入った行李を背負わされる破目になっていた。

 これでは、自分は伝書鳩とさして変わらないわね、と自重したくなるほどメッセージを山のように持たされた足柄だが、しかし自分に託されたものの意味は理解している。

 最前線に必要とされているものを、届けてくれという思い。

 前線で苦労している艦娘らにとって後方からの便りや嗜好品がどれほど心の慰めになるかということは足柄自身理解している。
だからこそ、重量物を担いでの航行は疲労度合いが桁違いになるとはいえ断らずに全て背負って見せている。

「こちら足柄、コールサインはハングリーウルフ。
CP航行許可願う。」

「ハングリーウルフ、こちらCP。
佐世保海域管制担当各位への通達発信済み。
既に複数の通信施設より一様に一刻も早い到着を待ち願うと、低水位方面の各部隊から熱烈な歓迎の言葉が届いておりますよ」

「ふふっ、それは、遅刻したらさぞ気を揉ませるわね。
じゃあ、行って来るわ!」

 笑い混じりにCPの担当官と遣り交わす言葉の端々に、よほど苦労しているのだろうなぁということを察する。
進軍中の兵站というのは、ともすれば容易く乱れるということを足柄は経験則で学んでいる。
それだけに、これはなんとしても届けなければ。
足柄は苦笑しつつも、なるべく遅れないようにしなければ、と自分に言い聞かせていた。

「CP了解!よい航路を!」

 足柄はさっと海域に出て進行を開始。
前線に届ける物をいくつも抱えているだけに慎重に出撃したにせよ、それは足柄が幾度となく繰り返した手順だ。
だからこそ、危なげなく進行し沖に出たとき、足柄にとってそれは代わり映えのないいつもの出撃だった。

 次の瞬間までは。

 何の前触れもなく襲い掛かってくる閃光と、大気に轟く恐ろしい爆発音。
荒れ狂う濁流に振り回される方向感覚の喪失と、姿勢制御すらおぼつかない亡失の感覚。

 衝撃波の大きさと、腹の底に響くような巨大な爆音に、足柄は殆ど無我夢中で体勢を崩さないように眩む頭で水に浮かぶことだけで精一杯になっていた。

 本当に、一瞬の衝撃。

 数秒後に辛うじて落ち着きを取り戻した感覚器官が、体に違和感こそあれども異常が無いと告げていることに安堵した。

 彼女がそのままホッとして一つ溜息をもらす。

 そこでようやく、足柄の頭脳が、今の衝撃波は一体、と疑問を抱く。

 はっ、と。そこで、周囲を見渡す思考力を取り戻した足柄だが、次の瞬間に最前線の方角から立ち込める巨大な黒煙を仰ぎ見て、唖然と思考を凍らせていた。

 仰ぎ見なければならない高さで黒煙?それも、複数、最前線から立ち上がっている?

 爆音と衝撃、そして、煙。

 第一に思い至ったのは、前線基地の弾薬庫に着弾して誘爆したのか、という可能性だ。
大量の火薬が一瞬で炸裂すればあるいは、あのような……。

「……複数?」

 だが、口に出した事実によって、足柄は自分の予想が決定的に間違っているという事実を認めざるをえなくなる。

 黒煙が、複数だ。

 それも、見る限り、規則正しく等間隔だ。

 その意味するところは、人為的な爆発であると頭で理解し、ようやく把握できた事実。

 人為的な爆発?

 佐世保戦線で、人為的な爆発それは、すなわち……戦闘行動が繰り広げられているということに他ならない。
弾薬庫が巻き込まれたのだろうか?

 だが、と足柄はそこで自分の認識が間違っていることを即座に悟る。

 最前線の弾薬庫が一斉に誘爆したところで、ああまでも綺麗に等間隔で黒煙を見上げることは有りえない、と。

 そこまで考えるに至ったとき、足柄はようやく事態が想像以上に、碌でもない事態の前触れであることを理性でなく、経験で体が悟っていた。

 これは、深海棲艦による攻撃だ。
そうである以上、と彼女は咄嗟に煙の下の光景を求めた。
艤装を全力で起動して高速航行をして、観測できるほどの距離で目の当たりにした光景。
ーーそれに、彼女は思わず息を飲む。

 そこには、無人島に設けられていた前線基地があるはずだった。
が、彼女が目の当たりにしたのは、煙のような土砂と瓦礫に飲まれた荒漠たる大地だけ。

 今や、全ての前線基地が地表から消えていた。

 文字通り、地表から、全てが消えているのだ。

「CPよりウィスキードッグ、状況知らせ!
今の爆音と衝撃は!?」

「……ない」

 だから、ほとんど無意識のうちに足柄はそれを口にする。

「は?足柄殿?すみません、もう一度お願いします」

 無いんだ、と。

 震える声で、彼女は、絶叫していた。

「吹き飛んだ!前線が、全て、吹き飛んだのよ!もう、前線はない!」

うわ…コールサイン間違えてる…
さっきから誤字と誤植が多すぎて読めたものじゃありませんね…
ごめんなさい

「消えた?足柄殿、失礼ですが……」

 まだ事態を把握しかねているCPの悠長さにもどかしいものを感じつつ、足柄は望遠鏡越しに動く集団に焦点合わせる。
その次の瞬間に全部隊に対する警告を喉を嗄らさんばかりに絶叫していた。

「っ!敵影確認!空母ヲ級と戦艦タ級の混成艦隊、規模は……視野一杯……」

「なっ」

 一瞬、言葉を失ったCP。

「た、直ちに前線に警報を!」

 思い出したように告げられる言葉。

 その瞬間、足柄は前線に警告を送らねば、という普通の文面にどうしようもなく奇妙な違和感に襲われた。

 何に違和感を抱いたのかと、自問し、ああ、と疲れ果てた顔で苦笑していた。

 警告を送る必要は、もうないんだ。
送る相手は、もう、これより先には居ないのだから。

「ハングリーウルフよりCP、その必要は疑わしい」

「はい?」

 何を言っているんだという声色で訊き返されたとき、ああ、理解していないのだなと思いながら彼女は、違うのよと言葉を続ける。

「今や、ここが最前線よ。
前線基地は全滅したと認む」

「……足柄殿?」

「私は見てしまったの。前線基地は、私達の前線は、全部、全部が、吹き飛んだ。
大穴がこじ開けられたのよ!」

 ここが、最前線だ。
今や艦娘軍の防衛戦はこじ開けられつつある。
それも、かつてないほど大規模に。
そして、その事実は数多の戦を経験した足柄の背筋をして震え上がらざるを得ない物だ。

「今戻る!赤城さんをお呼びしてちょうだい!早く!一刻の猶予もないわよ!」

 あの、深海棲艦軍が、戦争機械が一度行動を起こせば、奴らを食い止めるのは決して容易くないのだ。
それはこの佐世保戦線で痛感した。

 奴らは、本当に、手抜かりのない気ちがいじみた完璧主義者どもだ。

「佐世保方面軍司令部に緊急!機動予備と戦略予備をありったけ、ここに投じないと、穴が塞げなくなってしまう!早く!」

 無線越しに危機のの深刻さをまくし立てながら、地上に戻る。
司令部区画へ突進するように駆け込んだ足柄だが、しかし、彼女を待ち構えていた赤城の表情は酷く苦悩に歪んでいた。

「足柄、直ちに方面軍大本営司令部へ飛んでちょうだい!
警報を友軍に発するのよ!」

「失礼ですが、赤城さん、何故です!?」

「足柄、私達は全ての通信手段を喪失しているの!
有線だろうと、無線だろうと!
全てが、つながらない!」

 今、何故、佐世保方面軍司令部にわざわざ伝令を出す必要が、と口に仕掛ける足柄を遮り赤城が口にする事実。

 通信手段の喪失?……それは、つまり。

「……なんですって!?」

 警告は、どこにも届いていない!

 愕然とした表情で、足柄が事態を飲み込んだとき、彼女は殆ど絶望せざるを得なくなっていた。
前線基地が吹き飛ばされた今、残った艦娘で軍規模で守っていた前線を防衛しなければならないのだ。

 だからこそ、一刻も早く援軍が必要だというのに。

「足柄、深海棲艦は、ここに向かっているのね?」

 なんということ、と足柄は殆ど暗澹たる思いで頷き報告を続ける。

 司令部は、現状を把握していない。
だから、援軍は送られていない。
それどころか、おそらくは突破されようとしている事実に対し、未だ気が付いてさえもいないだろう。

「事態の説明は実に簡単よ。
深海棲艦軍は、私達を吹き飛ばす為に、相当念入りに電波妨害ばかりか後方の有線まで切ったと判断するしかないわ。
偏執的な手際だけど、忌々しいことに有効ね」

「っ、了解しました!
直ちに方面軍司令部へ航行します!」

 呆れ果てるほどに、徹底した連中だと知っていたはずなのにこのざま。
だが、ここでしてやられたと悔しがっている時間さえも今は惜しい。

「殴り書きだけど、私が一筆したためたわ。
頼みます、司令部に状況を伝えて!
このままでは、戦線が!
援軍が、援軍が絶対に必要なの!今すぐに!」

 全てを理解した瞬間、足柄はさっきから背負ったままであった菓子や姉妹艦に充てた手紙の詰められた背嚢を投げ出していた。
そのまま、身軽になった彼女は赤城が差し出す一枚の封筒をぐるぐると布で覆い、胸元にしまいこんで差し出される赤城の手を強く握り返すと誓っていた。

「必ず。必ず、お届けします!」

 それ以上の言葉は無用だった。

 司令部を駆け出し、艤装を装備する足柄の胸中。

 姉妹艦や仲間の艦娘を遺して一人逃げ出すことへの抑えがたい激情が荒れ狂う中で、しかし、艦娘としての義務感だけが彼女に命じていたーー味方に、危機を知らせるのだ、と。

 第十師団の艦娘達。
……彼女たちは、ここで死ぬつもりだ。
祖国を守るために、祖国の門番として。
だから、彼女たちが時間を稼ぐ間に、何としても。
何としても、自分は、援軍を呼んでこなければならない。
自分が遅れれば、それはつまり、あたら勇者たちの挺身を無意味にしかねないのだ。

 故に、足柄は混乱しつつも迎撃命令と警告を叫び、行き交う艦娘たちの合間を縫って水上に降り立つなり、全速力で後方の司令部に向けて我武者羅に航行していく。

 が、次の瞬間、充分に速度を上げきらないうちに、彼女は早くも回避機動を開始しなければならない羽目に追いやられていた。

 降り注ぐ砲弾の規模は、僅か中隊規模。
だが、規模よりも深海棲艦軍の戦艦がこんな地点にまで進出しつつあるという事実に思わず足柄は悪態を漏らさざるをえない。

 いや、あるいは敵の手際の良さにあきれ返るべきだろうか?
深海棲艦軍というのは、実に嫌になるほど戦争がお上手だ、と。

「っ!くそっ!手癖の悪い深海棲艦共め!」

 吐き捨てつつ、撃退ではなく逃走を目的として弾幕を展開。
並行して、悲鳴を上げる体に鞭打ち速力37ノットへ。

 その直後に、こちらを追う姿勢を見せていた敵タ級らは牽制を兼ねたのか数射、砲弾を統制射撃も取らずに放っただけでこちらを捨て置き反転。

 距離があるうえに、敵の指揮官にとって最優先目標は自分の撃破ではなく司令部施設の掃討なのだろう。
嫌になるほど、明瞭な目的意識の証左を見せつけられる思いはぞっとするほどに非人間的な合理主義の匂いさえ感じられる。

 敵に追われずに済むという安堵と、それ以上に、味方を犠牲に逃げているのだという忸怩たる思い。
自分の状況はどうしようもない憤怒を招くものだ。

「姉さん達、ごめん、くそっ、どうして、どうしてこんなことに!」

 握り締めた拳は、怒りに震え、途切れ途切れ吐き出された言葉は喘ぐような嘆き。
ひたすら前線指揮所周囲へ我が物顔に攻撃を加え始める敵深海棲艦部隊に対する忸怩たる憤慨は、本来ならば、それは、自分達が防ぐものではないのか、と。
それが、何故、姉妹艦や仲間の艦娘達を囮にしてまで自分は、逃げているのだ?

 己の惨めさと屈辱。

 形容しがたい感情の津波がこみ上げてくるものの、それさえも彼女は押し殺し、後方へとただひたすら懸命に航行する。

 それらは、全て、友軍の戦線崩壊を防ぐ為に、全てを犠牲にしてでもやらねばならない任務だから。

「……司令部応答せよ、司令部?
くそっ、繋がらない。
こんな時に防海管制官はなにをやっているの」

 だからこそ、彼女は焦燥に駆られて応答のない佐世保方面軍司令部宛の回線に憤りを込めて呼びかける。
無論、この状況だ。
大混乱に陥っていることは察しがつく。

 だけど、と足柄は胸中で侮蔑交じりに呟かざるをえない。
ここまで警告なしで深海棲艦軍の空母・戦艦混成部隊の侵入を許すとは、と。
佐世保方面の防海管制官たちは昼寝でもしているのか。

「佐世保方面軍司令部、佐世保方面軍司令部、応答せよ!
繰り返す、佐世保方面軍司令部、佐世保方面軍司令部、応答されたし!」

 まだ、距離があるだけに電波が届きさえないのか?
そんな苛立ちすら混じりながら呼び掛け続ける足柄にとって、手ごたえがないという事実はどうしようもなくもどかしい。

 どうして、こんなときに限ってと吐き捨てながら彼女は焦燥感に身を焦がしつつ飛ぶしかない。

「くそっ、当直は眠りこけているの!こんな大事なときに!」

だからこそ、彼女は司令部に怒鳴り込んでやると激高し続けて限界に近い戦闘速度で航行し続け、そして、それを目の当たりにすることになった。

「……なんなの、これは」

 陥没した大地。
煙を上げ、炎上している司令部施設。

 それは、佐世保方面軍司令部と呼ばれていた施設軍だ。

 地上で消防活動で右往左往していると思わしき少女たちは、艦娘特有の艤装を背負っている。

 では、ここは、佐世保方面軍司令部のあった場所なのだ。

 ここが、その場所だったのだ。

 黒煙が漂い、手の付けようのない混乱の坩堝に突き落とされたここが……ここが?

「ここが司令部? そんな馬鹿な……」

切りが良いというのと、疲れたのでここらへんで落とそうと思っています。

一応これからの展開としては

→レ級が艦娘佐世保方面軍を蹂躙
→艦娘の一部が希望を繋ぐ行為をする
→レ級全力でそれを阻止に動くが友軍に邪魔される

こんな感じです。
もし先が気になる人が多ければ続けます。

すみません、何かレス乞食になってますね…パロ作品なのに…
やっぱり落とします。
ありがとうございました。

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