【モバマスSS】ウォーク・ザ・キャット (5)


 片側二車線の幅広の道路、その車道沿いにある歩道を俺は歩いていた。
 日は今にも沈みかけようとしていて、橙色の空は物悲しい雰囲気を滲ませている。
 往来にはスーツを着たサラリーマン、駅に向かって歩いていく賑やかな四人組、制服を着た学生などが居て、人通りが激しい。
 目当ての少女を見逃さないように、俺は向かってくる歩行者の顔を遠慮なくじろじろと見ながら歩く。
 
 見つけた。
 
 制服に身を包んだ少女は、トレードマークとも呼べるものを頭に付けているはずもなく、代わりに赤い縁の眼鏡をしていた。

「やあ、久しぶり」

 歩行者に紛れてしまわないように、大きめの声を出す。
 向こうもこちらに気がついたようだ。
 が、俺の顔を見た途端、表情をこわばらせ、踵を返して来た道を引き返そうする。

「ちょ、ちょっと待て!」

 俺は慌てて追いかけて回り込み、彼女の進行方向を塞いだ。

「何も逃げることはないだろうが……みく」

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 久方ぶりに会った少女、前川みくは不満げな顔を隠そうともせず、言った。

「……こんなところで、何してるの?」
「何してるって、お前を待ってたんだよ。無視することはないだろ」
「久しぶりだね、Pチャン」

 まだ俺をプロデューサー扱いしてくれるのか、と安堵する。
 しかし今はそんなことで喜んでいる場合でもない。

「とりあえず立ち話もなんだから、どっか店に入ろう」
「みくはPチャンと話すことなんて何もないんだけど」
「俺には、山ほどあるんだよ」

 辺りを見回すと、往来の人々がこちらを好奇の目で見ていくのがわかる。
 中には明らかに不審げな視線を投げかけてくる者も居た。
 思い出すのは、とあるプロデューサーの話だ。
 一人の女の子をアイドルに勧誘するべく、連日通学路に張り込み、名刺を渡そうとする男が居た。らしい。
 もちろんそんな奴は不審者以外の何者でもなく、当然のごとく警察に通報された。
 その男と俺との共通点は二つある。
 プロデューサーであることと、女子高生に話しかけている、ということだ。
 もし通報されて、警察の厄介になれば、共通点が三つになってしまう。それは避けたかった。

「とにかく、頼むよ。久しぶりに会ったんだし、お茶を飲むだけでもいいからさ」
「それ、完全にナンパだよ」
「ナンパでもなんでも良い。とにかく話をさせてくれ」


 みくは大きなため息を一つついた。

「Pチャンのそういう頑固なところ、全然変わってないね」

 俺はその時、というかさっきから強烈な違和感を覚えていた。
 その正体にすぐに思い至った矢先、みくは歩き出した。

「いいよ。どうせ今日断っても、また来る気なんでしょ?」

 俺はみくの後を追いながら、それに答える。

「明日にでも」
「だったら、Pチャンの負担になるのも嫌だしね」
「負担だなんて思ってない」
「負担だよ。今日だってどうせ仕事の合間を縫って、わざわざ来たんでしょ?」

 負担だと思っていないことも、仕事の合間を縫って来たことも、事実だった。

「だからさ。もうはっきりさせるよ」

 みくはそれが何でもないことであるかのように、平坦な口調で、続けた。

「みくはもう、アイドルを続ける気はない、ってこと」

 日は完全に沈み切り、夜の闇が空を覆っていた。

書き溜めがないのでのんびり進行でいきますー。
どうぞよろしくお願いします。

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