【艦これSS】提督「壊れた艦娘と過ごす日々」07【安価】 (1000)

※艦これのssです。安価とコンマを使っています。

※轟沈やその他明るくないお話も混じっています。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1423299889

好感度的なもの

133 睦月(YP1)
69 榛名
50 加賀
51 浜風
44 夕立
32 鈴谷
30 伊58
27 雪風
17 大淀
07 清霜
00 金剛

※攻略は出来ないけど絶対に病まない癒し的な存在
曙・阿武隈・阿賀野

・好感度30 トラウマオープン

・好感度60 トラウマ解消
ここから恋愛対象&好感度上昇のコンマ判定でぞろ目が出たらヤンデレポイント(面倒なのでYP) +1

・好感度99 ケッコンカッコカリ

・好感度は150まで

・YPは5がMAX、5になったら素敵なパーティ(意味深)

沈んだ艦娘24人

一回目の襲撃事件で沈んだ艦娘
大和・朝雲・那珂・武蔵・弥生
(雪風は生還)

二回目の襲撃事件で沈んだ艦娘
深雪・大鳳・如月・雲龍・龍驤
(雪風は生還)

三回目の襲撃事件で沈んだ艦娘
白露・時雨・村雨・五月雨・涼風・皐月・文月・長月
伊19・伊168・伊8・北上・神通

???
春雨


現在の資源とか建造とか
燃料259 弾薬242 鋼材241 ボーキ282

A【燃料30 弾薬30 鋼材30 ボーキ30】
いわゆる最低限レシピ。駆逐艦・軽巡洋艦が対象です。

B【燃料250 弾薬30 鋼材200 ボーキ30】
軽巡洋艦・重巡洋艦・潜水艦が対象です。

C【燃料400 弾薬30 鋼材600 ボーキ30】
重巡洋艦・戦艦が対象です。

D【燃料300 弾薬30 鋼材400 ボーキ300】
軽空母・正規空母が対象です。

E【燃料500 弾薬500 鋼材500 ボーキ500】
駆逐艦・軽巡洋艦・重巡洋艦・潜水艦・戦艦・軽空母・正規空母「以外」が対象です。


・装備
今いるヒロイン候補の新しい装備を作ります。
と言っても錬度とか戦力数値も無いスレですので、要は資源と引き換えに好感度を上げるだけです。
まず【燃料100 弾薬100 鋼材100 ボーキ100】を支払います。
次に誰の装備を作るか選択し、その後はコンマ次第で好感度が上がります。
ただし実際のゲームと同じで失敗する場合もあります。勿論その場合資源は帰ってきません。
具体的には3割の確率で失敗します。

戦闘システム


【戦闘判定】
コンマ+好感度+艦種

【艦種】
軽巡洋艦=20
重巡洋艦=30
軽空母・戦艦=45
空母=65

潜水艦=相手の艦種が重巡洋艦・戦艦・空母・潜水艦の場合、引き分け以上が確定。
コンマで相手より上ならば勝利、下なら引き分け。

立て乙

変な荒らしが湧いてるようだが気にせず頑張ってくだされ

浜風さんにしても叢雲さんにしても、ドロップして思うのは「君なんでそんな格好で海に居るの?」って言うことですね。
深海棲艦にクッキー配ってるんですかね浜風さん? 榛名さんもおかしな方向でチョコにアグレッシブで笑うしかないです。
20時ごろになったら始めます。


提督「以前、君の司令官と話をした」

雪風「そうですか」

 戦線に戻る意思を持つ雪風と、それを憂う司令官。

提督「君を、こちらの鎮守府に異動させる事も考えた」

 今の鎮守府に戻って、身体と心を痛めたまま海に出るのであれば、こちらの鎮守府で少しずつ慣らしていくのも一つの案だと思った。

 だけれど。

提督「君は、やはり、今の鎮守府に戻るべきだ」

雪風「……」

 ぴくりと雪風の動きが止まる。

 しかしそれも一瞬のことで、すぐに先ほど通りの穏やかな表情に戻った。

提督「君の事は心配だ。これは嘘ではない」

 それでも、あの鎮守府で、あの夏の出来事に遭遇した艦娘は雪風以外にも多く居る。

 例えば金剛。彼女は、手足の代わりに声と感情を失った。

 例えば大淀。彼女は、俺の代わりにあの現場に出くわした。

 他にも阿賀野や曙、阿武隈達だって、見たくもない景色を見せ付けられた。

 そんな中で雪風一人を、選んでしまって良いのだろうか。

 彼女一人を選ぶことは、彼女以外を選ばない事にならないだろうか。

 俺に、そんな権利はあるのだろうか。

雪風「……そうですか」

 彼女が助けを望むか、あるいは手を差し伸べられる人が他に居ないのであれば、きっと俺は身を差し出す。

 だけれど、彼女はそれを望む素振りを見せていないし、今の司令官は優秀だ。

 俺が彼女の意思や、司令官の前を遮って手を差し伸べるのは、出すぎた真似なのではないだろうか。


 彼女が今こうなってしまったのは、俺の責任である。

 その責任を取るといえば聞こえが良いが、望んでいない相手にそれをするのは自己満足というものだろう。

雪風「昔から、そう言う所だけは変わらないんですね」

 雪風の呟きは、しかし俺には真意を測りかねるもので、詳しくは聞けなかった。

 ただ、微笑みの中に寂しさが映ったのを見ると、どちらかと言うと非難めいたもののようだった。

雪風「分かりました。そういう事であれば、元のいるべき場所に戻ります」

提督「……ああ」

 雪風が窓の外に目線を向ける。晴れた空は穏やかだ。

雪風「良い空ですね」

提督「……ああ」

 その空と同じ様な口調で、しっとりと声を零した雪風の表情は、微かに夏の雨を見ているようだった。

雪風「ああ、そういえば、今日はこれから検査があるんですよ」

 思い出したように雪風がそう言った。

 いつもこの時間に来ているが、彼女がそう言うのは初めてだった。

提督「そうか」

雪風「すみません」

提督「いや、俺の方こそすまない」

 椅子を畳み、再度雪風を見下ろす。

提督「また来るよ」

雪風「はい」

 またきてください、という言葉はなかった。

 それが何故だか、俺の言葉に対する雪風の答えの様な気がして。

 胸の奥に小さなわだかまりを残したまま、俺は病室を後にした。



【雪風が退院後中央鎮守府に戻ることが決定しました】

中央鎮守府に戻ることが決定した、というだけで
別に攻略ルートから外れたというわけじゃないと思うが・・・その辺どうなんだろう

まあ内容読む限り雪風だけでなく金剛や大淀とかと一緒になら
まだ可能性あるんじゃないか?
提督のトラウマが払拭できた時にワンチャンあるんじゃないか
てかこの内容だと金剛とかほかの中央にいる艦娘の引き抜きもできなくなったような

>>57
無理に「引き抜く」必要は無いんじゃね?
向こうの方から「引き取ってくれ」と押し付けられるというのも展開としてはあるだろうし
所属艦娘が自発的にやってくる可能性も場合によってはあるだろ


【二月一週 後半】


提督「……ふう」

 先週の演習。

 あの際に起きた出来事は、驚くほどすぐに沈静化した。

 ペイント弾の中に実弾が混在すると言う、あってはならない“事故”だし、ましてや浅くはない怪我を負った子もいる。

 にも拘らず、本部からは一切何も聞かれることはなかったし、こちらから書類を提出したりすることもなかった。

 もしかしたら北の鎮守府ではそのようなやり取りがあったのかもしれないが、それは知る由もないし、仮にそうだとしたら、片方にだけ事情を聞くと言うのはおかしな話だ。

提督「やはり、ここだからか……」

 それはつまり、この鎮守府と言う場所が、そういう扱いを受けていると言うものに他ならない。

 もしあの“事故”を受けたのがここではなく、かつての中央の鎮守府だったなら、きっと事情聴取などを受けているはずである。

 本部からすれば、ここは鎮守府と言う名前だけ残った廃墟に等しい。

 そんな場所に、わざわざ話を聞きになどくる気も起きないのだろう。

 ましてやそれが、被害者側であるのだから。

提督「……」

 全てが全て、嫌な方向に閉じきっている。

提督「いけないな、これでは」

 頭を振って、思考を切り替える。

 今日も外は晴れている。

 昼の温度も少しずつ上がってきて、動けば汗ばむ位にはなってきた。

提督「街が騒がしいな……」

 春はもう少し先である。

 それでも、遠くから喧騒が聞こえるようになってきた。

提督「今日は、何をしようか」




↓2

1.出撃

2.演習

3.遠征

4.工廠

5.その他(自由安価。お好きにどうぞ)

NGが多くて困る・・・>>1が有能なのが救いか・・・


司令官「なるほど」

提督「いかがでしょうか」

 外れの外れの鎮守府。

 本部の指揮からは外れたあの場所では、鍛錬を積むのにも手段が限られる。

 今までは東に居る友人と、たまたま浜風で繋がりのあった南西の提督が演習に応じてくれたが、彼らだけに毎回頼むのも忍びない。

 そこで考えたのが、この中央の鎮守府と定期的に演習を組ませてもらうことだった。

司令官「ちなみにではあるが、友人である東の彼に頼まなかったのには、何か理由が?」

提督「ええ、まぁ……」

 確かに普通に考えれば、彼のほうが頼みやすい上に賛同してくれる確率は高い訳ではあるが。

 しかし戦艦と重巡洋艦しか持たない彼の鎮守府との演習は、恐らく毎回似たようなものになるだろう。

 戦艦と重巡洋艦以外との戦い方が身につかなさそうだった。

司令官「ああ……」

 合点が言ったと言う風に頷いた。

 もし人間用の艤装があれば、間違いなく自ら海に出ようとするのが彼である。

 戦術と言うものは殆んどない。夕立と息が合いそうな男だった。

提督「ですので、こちらの鎮守府で経験を積ませていただければ幸いです」

司令官「ふむ……」

 口元のひげに一度触れながら、立ち上がり窓の外を見る。

司令官「確かに良い案だね」

提督「ありがとうございます」

司令官「その前に、一つ良いかな」

 窓の外を見たまま、司令官が背中越しに話す。

 その声は、少し疲弊したものだった。

司令官「雪風君のことなんだがね」

提督「……」

 身が強張った。

うぇーやっぱりタイミングがタイミングだったかしら
雪風問答よりもう少し早めに提案するべきだったかも

>>110
北とのひと悶着もあったということを絡めればいい安価だと思うけどね


 聞かれないとは思っていなかった。

 先日彼女と話したばかりで、かつ一つの結論を提示したからだ。

 なので驚きはない。

 それでも、彼女の名前を聞いて何も思わないほどに引きずっていないわけでもなかった。

司令官「君がああいう答えを出すとは思っていなかった」

提督「自分なりに考えた結果です」

司令官「君がいい加減な気持ちで物事を答える人間だとは思っていない。君なりに考えて導き出した案だと信じているよ」

 数回頷いて、しかし微かに溜息を吐いた。

司令官「それでも……。……、……」

司令官「いや、やめよう。これは愚痴でしかないな」

 はは、と少し苦笑をしながら声を漏らす。

 司令官は俺に、雪風へ手を差し伸べて欲しかった。

 俺はそれを躊躇い、そして見送った。

 それが間違いだったかどうかは分からない。少なくとも現時点では、何も言えない。

 この先雪風がどうなるか、すべてはそれ次第だ。

司令官「演習の件だがね。今すぐにどうとは言えないな」

提督「はい、それは承知しております」

司令官「私自身が選ぶのは簡単だが、実際に戦うのは彼女たちだからね。検討してみるよ」

提督「ありがとうございます」

司令官「そうだな……遅くとも今月中には回答しよう」

提督「分かりました、ありがとうございます」

司令官「そうだ、折角だから誰か呼ぼうかね。この件の話も含めて」

提督「そうですね……」


↓1

阿賀野or阿武隈or曙or大淀or金剛 から一人選んでください


大淀「定期演習、ですか」

 今この鎮守府で秘書艦を務めているのは彼女らしい。

 冷静沈着な彼女が務めるのはなんらおかしくはなかった。

提督「ああ。うちの鎮守府にとっては、演習を引き受けてもらうだけで一苦労なんだ」

 何度も断られたのを思い出し、つい溜息を吐いた。

 大淀はそんな俺の言葉をどうでもよさげに聞き流しながら、司令官に視線を流す。

 それに答えるように司令官が頷き、補足した。

司令官「私は良い案だと思うが、即決する前に君たちにまず聞こうと思ってな」

大淀「良い案、ですか」

 何か言いたげな声色だ。

 大淀からすれば、俺がこの鎮守府と関わりを持つのには後ろ向きなのだから、その反応も無理はない。

 俺が接することで、あの夏の出来事を思い返す事を懸念しているのだろう。

司令官「君達が反対するのであれば、私としても無理強いはできない。私に遠慮せず考えてくれ」

大淀「そうですか。では、検討します」

 特別感情を込めることなく、そっけない反応で答える。

提督「よろしく頼むよ、大淀」

大淀「別に、私一人がどうこうするわけではありませんから」

 一度眼鏡に手をやった。

大淀「尤も、他の子は恐らく断るよりも賛成する割合の方が多いでしょうけどね」

 それだけはつまらなさそうに、やや硬い声だ。

大淀「特に阿賀野さんや曙さん、あと阿武隈さんあたりは相当喜ぶでしょうね」

 阿賀野はまだしも、残りの二人は今一そんなイメージがわかなかった。

 特に曙は、断りそうなものだが。

 というより、単に阿賀野の感情表現がおおっぴらすぎるというのもある。

大淀「あの人は……まぁ、私にも良く分かりません」


大淀「そういえば。雪風さんの件ですが」

 大淀もまた、司令官と同様に雪風の名を口にした。

大淀「貴方にしては珍しい判断だと思いますよ」

 続けた言葉も同様に、司令官の跡を辿るものだ。

 しかし大淀の表情は、どちらかと言うと司令官とは違い、重くはない。

大淀「貴方のことなので、てっきり抱えて持って帰ると思っていましたが。そこまで錯乱はしていなかったようですね」

 やや皮肉めいた口調であるが、その口ぶりからするとどうやら大淀は俺の結論を悪く思っていないらしい。

 俺と雪風が離れたほうが良いと思っている彼女からすると、まさに俺の判断は英断と表現できるだろう。

提督「雪風の事、よろしく頼む」

大淀「言われなくても、最初からそのつもりです。私は」

 私は、と言う言葉に、果たして誰が例外に当たるのかどうか少しばかり考えてやめた。

 それはきっと目の前に居る司令官のものだろうし、ましてやそれが雪風であって欲しいだなんて、欠片だって思ってはいけない気がしたのだ。

大淀「またこちらから返答いたしますので」

提督「ああ、分かった」

 恐らくこれ以上は話す内容もないだろう。

 未だ窓の外を見たままの司令官の背中に頭を下げ、大淀と共に部屋を出る。

 大した会話もないまま鎮守府を出て、ゆっくりと街を歩く。

 街の規模は中央の方が大きいので、賑わいも目新しい。

 ここ最近はこちらの街もやけに音が響いており、そういえば工事だったか区画整理だったかがあるのを思い出した。

 あれがどこまでの範囲なのかは詳しくは見ていないが、鎮守府自体に影響はないだろう。

 その工事が、誰かの何かに影響するとしても、今の俺にはそれを把握する事は出来ない。

提督「……帰るか」

 街の喧騒を流し見ながら、鎮守府に戻る。

 最近は少しずつ変わってきた鎮守府も、こう見るとまだまだ寂れたものである。


大淀の好感度上昇
↓1のコンマ十の位

×批判
○ただの愚痴と文句と荒らし

荒らしてるのはせいぜい2、3人だ
NGに入れとけば問題無い

まあそのNGがやたら多いのが難点だがな・・・


【二月二週 前半】


榛名「提督、おはようございます」

提督「ああ、おはよう」

 食堂でお茶を飲んでいると、榛名がやってきた。

提督「清霜と浜風は、もう大丈夫か?」

 あれからおよそ二週間である。

榛名「はい、もうお二人とも問題ありません」

 負傷直後は入れなかったドックも、一度入ることが出来れば外傷は治せる。

 雪風のような複雑なものには作用しない辺り、ドックの効果もまだ分からないことが多いが、今それを言っても仕方あるまい。

榛名「今週は、どうしますか?」

提督「そうだな……」




↓2

1.出撃

2.演習

3.遠征

4.工廠

5.その他(自由安価。お好きにどうぞ)

これで金剛の好感度表記が00じゃなくなるなww

まあこの>>1のことだから清霜解体とか安価取れても
うまいことスルーされて終わるだろうけどな


金剛「……」

 子供のように頭を揺らしながら、にこにこと笑う金剛。

 ように、とは言ったものの、実際今の彼女はそういう内面になってしまっている。

 外見だけは殆んど変わらず、しかしそれ以外はまるであの夏とは違う。

 変わった外見といえば、髪型くらいだろう。

提督「ああ、ほら、あそこ。カモメだ」

 指差した先に小さくカモメが飛んでいる。

 風で髪が揺れた。

金剛「……」

 無邪気な表情で金剛が手を挙げた。

 そのまま指をカモメにむけ、つまりは俺の真似をしながら見上げる。

 海の前、母港。

 ぴったりと金剛が横に並ぶ。

提督「ああ、金剛。地べたに座ると寒いぞ」

 直接コンクリートの地面に座ろうとした金剛を止める。

 笑顔のまましばし考えた金剛だったが、スカートを両手で押さえながらしゃがんだ。

 膝を曲げただけなので地べたには座らなかったが、しかし長い彼女の髪は地面に着地した。

提督「金剛、髪が汚れるぞ」

金剛「……?」

 以前は肩甲骨辺りの長さだった髪。確かシニヨンといったか、一部を纏めていたのでそこまで広がることはなかった。

 しかし今はその結びも解け、ただ真っ直ぐな髪の毛が垂れ下がっている。

 今の金剛が、自分で自分の髪を結うことはないのだろう。

提督「ほら」

金剛「……」

 以前の金剛なら、きっと髪が地面につくなんてことはしなかった。

 今はただにこにこと、首を傾げながら微笑むだけだった。

お前が新しく書いた方が早いぞ


提督「……」

 髪を結ってあげたいとは思ったが、やり方がわからない。

 それはそのまま、金剛に対してどう接すれば良いか悩んでいる自分の心を映している様だった。

 ただ髪を触られたまま、カモメを見つめる金剛。

 もしもこれが昔なら、彼女はどうしていただろう。

 情熱的と言えば良いのか、ともかく感情を分かりやすく口にするタイプだった彼女の事を考えると、少なくともこうして大人しく髪を触られているだけではないだろう。

 髪を結うようにねだったり、あるいは腕を掴んだりして何かしらの甘えに似た行動をとっていたと思う。

 この距離で、ただ髪を触られるだけの金剛というのが、まずありえなかった。

 ねだる声も聞こえない。

 昔のような心地良い喧騒はもうなかった。

提督「……」

 悩んだ末に、髪をそれぞれの肩に乗せ、前へ垂れるようにする。

金剛「……?」

 自分の髪を触りながら、不思議そうな表情で笑う金剛。

 その瞳に昔を思い出す。

 息を呑み、思わず目を逸らしてしまった。

 髪に触れたのもあるかもしれない。あるいはすぐ横に彼女が居るからかもしれない。

提督「……すまない」

 結局彼女に対して言える言葉は、それしかなかった。

 何も答えが帰ってこないと分かっていながら、ただそう呟く。

 それはある意味では卑怯なのかもしれない。

 謝りの言葉に対して、罵りや侮蔑が返ってこないと分かっているから。

 だからそう言えるのではないか。

 そう指摘されても仕方なかった。

 彼女が言葉をなくしたのは、厳密にいつなのかは分からない。

 彼女が本部に捕らえられ、再び会ったのは俺が今の鎮守府に異動になってからだ。

 厳密には一度、本部で同じ場所に居たらしいが、その時俺は金剛の事を確認していない。後からそう知らされただけだ。

金剛「……」

 言葉なく金剛が笑う。

 彼女の視界は、同じ空を見ているのだろうか。

 もしくは、過去の景色を振り返っているのだろうか。

 俺には、わからなかった。



金剛の好感度上昇
↓1のコンマ十の位


【二月二週 後半】


提督「……」

 春雨の夢を見た。

 最近は少し頻度が減ったかと思ったものの、雪風や金剛に会うと必ず見ている。

 彼女たちに会うという事は、やはり過去の記憶を掘り起こすことは避けられないのだ。

提督「……」

 吐き気を堪えながら起き上がる。

 榛名や睦月が来る前に一度トイレで戻してしまおう。それが一番だ。

 ドアを開ける。ひんやりとした空気が背筋を震わせた。

 そこでようやく自分が私服姿をしていることに気がついたが、今更戻るのも億劫だったので、そのままトイレへと向かった。

提督「……う」

 寝起きだからか、胃液しか出てこない。

 その胃液も僅かなもので、口の中を不快な酸っぱさと刺激が覆う。

提督「戻らないとな」

 口をゆすぎながら、自分に言い聞かせるようにそう呟いた。



↓2

1.出撃

2.演習

3.遠征

4.工廠

5.その他(自由安価。お好きにどうぞ)

4
自由安価で好感度アップも捨てがたいが
いい加減開発で装備とかどうにかしたい

4秒・・・安価取りに行く時は文章なんか読むなってことか・・・


提督「……、しまった」

 中央鎮守府にまで来てから気がついた。

 あれから雪風に会えていなかったので様子を見に来たのだが、良く考えたらまだ彼女は退院していなかった。

 ここ数日同じ場所を訪れていたので、ついそのまま足を伸ばしてしまったのだ。

 無駄足も良いところである。

提督「ううむ……」

 いっそ大淀に、先日提案した演習の件でも確認してみようかとも思ったが、相手の返答を急かすのは失礼でしかない。

提督「仕方ない、引き返すか」

 全くもって無駄な時間ではあったが仕方ない。事前の連絡もなしに訪れた上に勝手に鎮守府内をうろつくわけにもいかない。

提督「……ん?」

 そう思い、改めて病院へ向かおうとすると、誰かが鎮守府からこちらに向かってきていた。

 手には紙袋を持っている。

 もしや雪風の見舞いだろうか。だとしたら、一緒に行くこともできるか聞いてみよう。



↓1 阿賀野or曙or阿武隈 から選んでください

確かに幼児退行なんてしないよな
最初から幼児なんだからこれ以上幼児になんぞなるかっての


提督「阿武隈か」

阿武隈「ひぇっ!?」

 全く予想していなかったのか、聞いたことのない様な変な声で驚いた阿武隈である。

阿武隈「な、なんで提督がここに!?」

提督「ああ、いや、その。雪風の見舞いに」

 行くつもりが、間違えて鎮守府にきてしまった。

 ……と言っても、伝わらないだろう。

 案の定阿武隈は頭にクエスチョンマークを浮かべながら首を傾げた。

提督「気にしないで良い。それより、君は?」

阿武隈「あ、えと、あたしもお見舞いに。着替えとか、色々」

提督「なるほど」

 長い入院なので、確かに着替えは必要である。

提督「良かったら、一緒に行くか?」

阿武隈「ひぇ!?」

提督「嫌なら別に……」

阿武隈「い、嫌じゃないです、そうじゃないです! むしろあたし的にはオーケーです!」

 その言葉を最後に聞いたのは、阿賀野の物まねだったので、何故か感慨深い。

 いや、別段、聞けたところで何もないのだけれど。

提督「荷物持とうか」

阿武隈「ひぇ!?」

 驚きすぎて倒れてしまわないか、心配である。

阿武隈「あ、いえ、何も別に提督に触られるのが嫌なわけじゃなくて、その」

提督「ああ、うん。分かってる。気にはしていない」

阿武隈「ただちょっといきなりだったので、心の準備的なのが! あとこれ雪風ちゃんの服とか下着とか入ってるので、提督でもちょっと渡しづらいと言うか!」

 聞いていないことまで話し出した。

阿武隈「ってあたし何言ってるんだろ、今の忘れてくださいこの通り!」

提督「ああ、うん……」

 基本的には良い子なのだけれど、テンパるのが早いというか、動揺しやすいと言うか。

 まぁ、良い子ではあるのだ。


阿武隈(なんで提督が来るんだろぉ、もう)

阿武隈(昨日寝るのが遅くなったから眠いしあんまり前髪うまく決まらなかったし)

阿武隈(しかも今日風強いから別の日が良かったのに)

阿武隈(いや別に提督に会いたくなかったわけじゃなくて、むしろあたし的には嬉しいんだけど、タイミングが悪いよ)

阿武隈(せめて昨日か明日、とにかく今日以外にしてくれれば良かったのに)

阿武隈(ああでも、それは雪風ちゃんに悪いか、うん)

阿武隈(セット持ってきといてよかった、病院ついたらすぐにトイレで直そう)

阿武隈(……あ。でも、病院ついてすぐトイレに駆け込むのって、イメージダウンだよね)

阿武隈(雪風ちゃんの部屋にいって、紙袋渡して、それからにしよう)

阿武隈(あくまで急がずゆっくり、飲み物を買うって言えば大丈夫)

提督「……隈。阿武隈」

阿武隈(というか、提督と雪風ちゃんって仲良いのかな。あ、なんか気になってきた、どうしよう)

提督「……阿武隈。聞いてるか?」

阿武隈「ひぇ!? な、なんですか!?」

提督「ああ、いや。もう病室に着いたんだが」

阿武隈「えぇ、もう!?」

雪風「唸ってましたね」

提督「すごい考え事をしていたが、何かあったのか?」

阿武隈「嘘でしょ!?」

提督「いや、本当だが……」

阿武隈「あっ、いえ、今のは提督に言ったんじゃなくて……」

提督「まぁ、落ち着け」

阿武隈「あっ、そ、そうだ、あたし飲み物買ってきますね!」

雪風「え、今提督に頂きましたけど」

提督「道中買ったんだが……」

阿武隈「ふわぇ!?」

阿武隈「あ、あー、あー……」

阿武隈「すみません、ちょっとすぐ戻ります!」

提督「あ、おい阿武隈!」

雪風「せめて着替えを置いていって……って、聞いてませんね」

提督「よほどトイレにでも行きたかったんだろうか」

雪風「思ってても、言わないであげてください」

阿武隈(あたしの馬鹿ぁ!)


提督「……」

雪風「……」

提督「……」

雪風「……」

 阿武隈がいなくなり、部屋に沈黙が流れる。

 先日雪風に告げた言葉もあって、何を切り出すべきか悩んでしまった。

提督「……阿武隈、遅いな」

雪風「まだ十分ですよ」

 結果出てきた言葉は、天気の話題より展開のないもので、我ながら中身がないと思った。

 案の定雪風にそう言われ、再度言葉を探す事になる。

提督「ああ、そうだ。飲み物、持ってきたんだ」

雪風「ありがとうございます」

 缶飲料のココア。利き腕に力が入らない雪風では開け辛いだろうと思い、替わりにプルタブを起こした。

 小気味いい音がして缶が開く。

提督「雪風」

雪風「ありがとうございます」

 ホットのココアは、買ってから少し歩いたため丁度良い温度になっていた。

 同じく自分用に買ったコーヒーを傾ける。

雪風「またコーヒーですか?」

提督「たまたまだ」

雪風「そうですか?」

提督「鎮守府ではお茶も飲んでる」

 以前であればそこに紅茶も加わったのだが、しかし今の鎮守府には淹れてくれる人が居ない。

 金剛の淹れた紅茶を最後に飲んだのは、いつだったか。

雪風「どっちにしても、カフェインばかりですね」

 見透かしたかのように雪風が笑った。

雪風「夢を見るのは、辛いですか?」

提督「……」

 答えに窮し、抵抗するようにコーヒーを口に含んだ。


提督「君は、どうなんだ。君もあの日の夢を見たりするのか?」

 自分の事を答える替わりに、そう聞き返す。

 質問の解答になっていないと思っていながらも、それ以外に言葉が思いつかなかったのだ。

 酷な質問をしている。

 自分でもそう思った。

雪風「……そうですね」

 しかし雪風は、質問に答えなかったことにも、そんな質問で逃げたことにも怒ることなく、馳せるように宙を見た。

 ココアを一口含み、ほうと息を吐く。

 雪風「やっぱり、私も夢に見ます。大和さんのときのこと、大鳳さんのときのこと……それから、色々」

 大和のちぎれた腕を抱えて帰還した時の事。

 大鳳のちぎれた足を掴んで脱出した時の事。

 鎮守府で起きた三度目の襲撃事件の時の事。

 それから更に反対の足を切断された時の事。

 それらが入り乱れ、混ざり合い、繋ぎ合わされ。音のない映画のように雪風の脳を焼く。

雪風「辛くないといえば嘘になります。でも、忘れてしまうよりはまだ良い」

提督「……」

 視線を手元の缶飲料に移した。

 その缶を、まるで親の形見のように両手で優しく包みながら、思い返すように穏やかな表情を浮かべる雪風。

 地獄のような日々を切り取った、地獄のような夢をみながら、それでも彼女は笑っていた。

 そんな表情が出来なくなってしまった自分には、彼女があまりにも強く見えた。

 右手で左手の裾を少しめくる。病院着のサイズは、小柄な彼女には少し大きいようだ。

提督「……」

 左手の袖をめくる。

 右は、めくらない。


雪風「ああ。それと、もう一つ良く見る夢がありました」

提督「何だ?」

雪風「提督の夢です」

 ごん、と鈍い音が背後に響いた。

 金槌で床を叩いたような音で、何事かと思い振り向くと、そこには何故か阿武隈が頭を抱えてしゃがみ込んでいた。

提督「何をしているんだ……」

 扉を少しだけ開け、涙目で頭を抑える彼女。

阿武隈「違うんです、決して盗み聞きしてたわけでは……」

 そんな阿武隈を見て、雪風が微かに笑い声を漏らした。

 ……雪風の位置からなら、ドアの隙間からこちらを見やる阿武隈に気付けるだろう。

 俺は背後なので気付かなかったが、雪風なりのからかいだったのかもしれない。

阿武隈「入りにくい空気だなって思って我慢してたんだけど、まさか雪風ちゃんも……」

雪風「冗談ですよ、冗談」

 ぶつぶつとお経のように呟く阿武隈を見ながら、笑いをかみ殺してそう言った。

阿武隈「本当かなぁ……」

雪風「本当ですよ」

提督「何にせよ、大丈夫か?」

 結構な音だった。

提督「見せてくれないか。……あぁ、赤くなってる」

阿武隈「ひぇ、だ、大丈夫です!」

 音が聞こえるほどの勢いで後ずさる。

阿武隈「折角髪直したのにもうなにやってるのあたし、あぁもう」

雪風「ふふ」

 慌てる阿武隈を見ながら、雪風が再度微笑んだ。



雪風の好感度上昇
↓1のコンマ十の位


【二月三週 前半】


提督「新年度からか……」

 ここ最近続く街の喧騒。その原因である街の大規模工事だが、先日市の会議で可決されたようだ。

 多くの住民の反対や抗議があったのにも拘わらず、半ば強引に決めたようで、四月には工事が始まるようだ。

 厳密に言ってしまえば、その準備のために前倒しで整備やらが入る事を考えると、来月辺りには少しずつ影響が出るに違いない。

 よりよい方向に街が改善されるのであればそれは良いことだが、何もそこまで性急にする必要があったのだろうか。

 その辺りの政治的企みは、俺には分からないのでなんとも言えないが。

提督「……」



↓2

1.出撃

2.演習

3.遠征

4.工廠

5.その他(自由安価。お好きにどうぞ)


榛名「出撃ですね」

提督「あ、ああ」

 ずい。

 いつもよりも二歩近く榛名が執務机越しにそう言った。

 思わずその分俺が引き下がる。

 別段、机があるので触れ合うほどの距離ではないのだが、勢いに気圧されたようなものだ。

榛名「す、すみません。ただ、このところあまり出撃していなかったので、つい気合が入りすぎてしまいました」

 それに関しては、何も言い返す言葉もない。

 遊んでいたわけではないにせよ、雪風に対する行動は、突き詰めて言えば俺の個人的な感傷でしかない。

 彼女をこちらの鎮守府に招かなかった以上、榛名達にとっては俺の行動はあまり利益にはならなかっただろう。

提督「すまない、色々とあってな」

榛名「あ、いえ、榛名のほうこそすみません」

 気を取り直して、執務机に海域資料を広げる。

 鎮守府海域と、南西諸島海域。

榛名「南西諸島は、もう少し探索が必要かと」

 まだ一度しか出撃していないので、新たな海域に足を伸ばすよりは、もう少しこの辺りを調べた方が良いだろう。

 先の海域に行けば行くほどこの鎮守府からは遠ざかるので、その分行き返りに襲われる危険が増すのだ。

榛名「どちらの海域に行きますか?」

提督「そうだな……」


↓1

1.鎮守府海域(いわゆる1面)

2.南西諸島海域(いわゆる2面)

あれですね、二度手間になってしまうのでこれからは出撃安価を選ぶ場合はそのまま面数も一緒に書いてもらって良いと思います。
12みたいな感じで。


榛名「南西諸島海域ですね」

提督「ああ、榛名。くれぐれもロープで夕立を結ぶのはなしにしてくれ」

 さっと榛名が頬を染めた。

榛名「だ、駄目ですか」

提督「夕立の牽制にはなるが、危険すぎる気がしてな……」

 海で何度もすっ転んでいる夕立は、冷静になって考えたら隙だらけにも程がある。

 あの時はあまりのインパクトと、なぜ真面目な彼女がそんな突拍子もない発想に至ってしまったのかと言う疑問で見落としてしまっていたが。

榛名「そうですよね……すみません」

 少しだけ俯いた榛名だったが、すぐに顔を上げる。

 そして意を決したように宣言した。

榛名「別の案を考えてあります、今日はそれを試します!」

提督「……ちなみに、どんな内容だ?」

榛名「夕立さんを中心に、全員で円を描くようにして……」

 ロープよりはまだ良い案ではあるが……。

提督「それでは五人で戦うようなものだろう」

 むしろ夕立が円から逃げ出さないように随時目を光らせなければいけないので、戦闘効率は更に落ちる。

榛名「そうですね……。では、円ではなく、彼女の前に横一線に並んでですね」

提督「形が変わっただけで、やってることは一緒じゃないのか……」

榛名「そうでした」

 少し頭を抱える。

 どうしたものか……。


榛名「夕立さん、ロープはありませんが、ロープがあると思ってくださいね」

夕立「ちょっと何言ってるのか分からないっぽい」

浜風「ロープやめたんですか」

睦月「やめて正解なのです」

加賀「そうね」

清霜「今更だけど、ここ、変わってる人しかいないじゃない」

加賀「頭に来ました」

清霜「あっ、いえ、加賀さんは別という事で……」

睦月「睦月も加賀さん側なのです、一緒にしないで欲しいな」

清霜「う、うーん……」

浜風「私は?」

清霜「ちょっと怖いから、榛名さん側……」

浜風「一緒に撃たれた仲なのに」

睦月「そう言うところじゃないかな」

榛名「皆さん、準備は出来ましたか? 大丈夫ですか?」

夕立「っぽい……」

睦月「結局夕立ちゃん対策はどうなったのです?」

榛名「気合です!」

浜風「あぁ……」

睦月「あぁ……」

清霜「あぁ……」

加賀「……」


そんなわけで出撃コンマ

↓1のコンマの数+30だけ燃料
↓2のコンマの数+30だけ弾薬
↓3のコンマの数+30だけ鋼材
↓4のコンマの数+30だけボーキ

↓1、↓2にぞろ目でドロップ(安価)
↓3、↓4にぞろ目でドロップ

深海棲艦の判定
↓5のコンマ

00-24 3体
25-49 4体
50-74 5体
75-99 6体


相手の艦種決め

↓1~4です。
00-39 駆逐艦
40-59 軽巡洋艦
60-79 重巡洋艦
80-89 戦艦(軽空母)
90-99 空母
ぞろ目 潜水艦

相手の艦隊が決まった所で、今日はここで終わりです。

6対4なので相手の戦闘の時の数値を割り振ってなんやかんやします。
数値の差がダメージなので、小破中破大破はおおよそゲームどおりです。

進軍するか撤退するかの選択肢が欲しい方は仰ってください。
明日また判断致しますので。

連戦はなしという感じでいきますね。


【戦闘判定】
コンマ+好感度+艦種

【艦種】
軽巡洋艦=20
重巡洋艦=30
軽空母・戦艦=45
空母=65


榛名 ↓1のコンマ+好感度69+艦種45
加賀 ↓2のコンマ+好感度50+艦種60
睦月 ↓3のコンマ+好感度133
浜風 ↓4のコンマ+好感度51
夕立 ↓5のコンマ+好感度44
清霜 ↓6のコンマ+好感度7

敵艦隊
戦艦 ↓1のコンマ(反転)+錬度20+艦種45
重巡 ↓2のコンマ(反転)+錬度20+艦種30
重巡 ↓3のコンマ(反転)+錬度20+艦種30
駆逐 ↓4のコンマ(反転)+錬度20

※より優勢な方が勝ちです。
※夕立と清霜の数値は、自動的に数値の低い味方に援護として割り振ります。


榛名 152(120+清霜援護32)
加賀 198
睦月 206
浜風 127(72+夕立援護55)

敵艦隊
戦艦 125
重巡 138
重巡 87
駆逐 32


友情パワーで勝ちました(またも勝てない榛名から目を背けながら)


加賀「鎧袖一触……」

 加賀がすっと息を吐く。標的を睨む目線は酷く冷たいものだ。

加賀「……」

 さっと海全体と、同時に空を見渡す。

 空は晴れた水色で、それを汚すものは一切見当たらない。

 それはつまり、艦載機の存在が見当たらないという事だ。

 自身が本来空母であることはさておき、それは戦いの面においては強く背中を押すものだった。

 海面の砲撃、海中の魚雷、そして空の艦載機。一口に海戦と言っても、必ずしも攻撃は一つの空間で行うものではない。

 三種類全ての方向に気を向けながら敵を薙ぎ払うのは大変だが、その内ひとつでも欠けてくれるのであれば、それは彼女にとっては大きな手助けだった。

加賀「ふっ……!」

 思い切り海面を蹴る。決して速度に自信があるわけではないが、その足取りは力強い。

 元より海中の魚雷など、目を凝らして見ている余裕もない。

 ある程度は砲撃によって誘爆させられるとしても、突き詰めていってしまえば運だ。

 当たる時は当たるし、当たっても死ぬ前に敵を滅ぼせば良い。それが加賀の考えである。

 注意を海面に向け、砲弾の隙間を縫うように進む。

加賀「……っ」

 視界に捕らえた重巡洋艦にめがけて容赦なく砲弾を撃ち抜く。

 少しの反動と手応え、そして爆ぜる敵の身体を見て少しだけ頬を緩める。

 それはなにも、加賀が敵を撃ったことに快楽を得ているわけではない。

 加賀の脳裏には、先の演習で、同じ軽空母相手に主導権を明け渡してしまったことが今もまだ色濃く残っていた。

加賀(私があんな軽空母に劣るだなんて。ましてや軽空母に……)

 意外に、彼女は自尊心と言うか、プライドが高かったりする。

加賀(やはり、こうでなくては)

 深海棲艦を倒しながら、加賀が一つ満足げに息を吐いた。

 やや心持ちすっきりとした顔である。


榛名「ううう……!」

 ちらちらと視線を左右に送りながら、敵の砲撃をかわす榛名。

 相手の艦隊の中で最も厄介なのがこの戦艦だろう。

 その深海棲艦に、半ば立候補するように相手取ったのは良いものの、ここまでは互いに決め手を欠いた展開だった。

 連装砲を撃ち合い、近づいたかと思えば縄張りを避けあうように距離をとる。

 よもや戦艦の重火力でインファイトを仕掛けるほど榛名も血迷ってはいなかった。

 というより、最初こそ張り切って前に出たものの、いざこうして敵を前にしたら、途端に冷静になってしまったのだ。

 時間を掛ければかけるほど、変に後ろ向きな考えばかりが浮かぶ。

 もっと距離をとったほうが良いのではないか。もっと敵をおびき寄せた方が良いのではないか。などなど。

 別段自分がネガティブな性格ではないと思ってはいる榛名ではあるが、根が真面目であるのには変わりない。そのせいで、こんな状況でも“正しい行動は何か”と考えてしまうのだ。

 優等生といえば聞こえは良いが、言ってしまえば教科書どおりの戦いが身に染み付いてしまっているのである。

睦月「にゃっはっはっはー! 圧勝なのです!」

加賀「やりました」

 その上自分の視界の両隣では、気持ち良さそうに敵を屠る二人が映る。

 睦月は素早い動きで敵をかく乱し、ネズミ花火の様に敵を四方八方から撃ちまくる。

 加賀は加賀で、ほぼその場に立ち止まり、豪快に敵の身体を吹っ飛ばした。

 艦種が違う以上戦い方が異なるのは当然であるが、いずれにしても二人に共通して言えるのは、何の苦労もせずに、あっさりと敵を倒したことである。

 未だ自分は、有効打さえも打てていないのに。

榛名「くっ……」

 そんな余計なことを考えていたせいか、敵の砲弾でバランスを崩しかけた。

 身体に傷はつかなかったものの、体勢を立て直すために再度敵から距離をとる。

 悔しさのあまり、少しだけ唇を噛んだ。

 潮の味が余計に気持ちを萎えさせる。


 そんな榛名に援護をしたのは、意外にも清霜だった。

 敵の艦隊がこちらよりも少数だったので、手が空いているといえばそれまでではあるが、それでも榛名にとっては予期せぬものだった。

 加賀と睦月が本領を発揮したこの時点で、残った相手の戦力は、今榛名が戦っている戦艦。それともう一つ、浜風が相手取っている駆逐艦だ。

 当初の陣形で言えば、榛名よりも浜風の方が清霜に近い。

 なので榛名からしたら、よもや清霜が自分の援護をしてくれるとは、思っても見なかったのだ。

 榛名を追う様に敵の戦艦が海面を切る。

 その戦艦を挟み込むように清霜が斜め後ろから砲弾を放った。

清霜「ま、守りますよ!」

 少しだけ声を裏返しながら、清霜が連装砲を放つ。

 お世辞にも命中率は高いほうではなかったが、放った十数発の砲弾のうち二発ほどが敵の背面に直撃した。

榛名「清霜さん……!」

 円を描くように榛名が逃げる足を止める。と同時に、深海棲艦に砲弾が当たる瞬間を確認し、すぐに自身も砲弾を構えた。

 おあつらえ向きに、深海棲艦の意識が清霜に向かった。

 これ以上ないチャンス。そして、ここを逃せば、今度は清霜が危険に晒される。

 先ほどまでの絡まった糸のようなゴチャゴチャとした意識が全て消えうせる。

榛名「主砲! 砲撃開始!」

 遠くに感じた相手との距離が、くっきりと見える。

 放った砲弾が余すことなく深海棲艦を捉え、その身体が海に傾いていく。

 一瞬惚けるようにその弾幕に目を取られた清霜。

 ややもすれば、最後の抵抗を試みた深海棲艦が彼女に砲弾を向けることもありえたわけだが、それすらも許さず榛名の攻撃が敵の息の根を止めた。

榛名「ふう……」

 ほっと息を吐き、胸を撫で下ろしながら榛名が砲撃を止める。

 敵の体はもう動くことはない。

清霜「すごい……」

 清霜の呟きは小さなものだったが、潮風にでも乗ったのか、何故か榛名の耳にも届いた。

 とはいえ、榛名からすれば、清霜の協力がなければ未だ決着がついていなかっただろう。

榛名「清霜さん、お心遣い、ありがとうございます」

 感嘆の言葉は嬉しかったが、それより彼女が力を貸してくれたことのほうが、榛名にとっては大切だった。

清霜「あ、いえ、そんな」

 両手を振りながら清霜が答える。

榛名「浜風さんのほうが近かったのに、どうして榛名を?」

 彼女の協力があったから勝てたのは事実だが、しかし榛名はそれが気になった。

 思わずそう尋ねると、今度は溜息を吐くように清霜が頬をかく。

清霜「いや、それが……」


夕立「あはは!」

浜風「ちょっと、夕立……! 流れ弾くるから……!」

 駆逐艦を駆逐艦二人が蹂躙する光景。

 元より有利に戦況を進めていたはずの浜風ではあったが、そこに押し入るように加わったのが夕立であった。

 夕立からすれば、意気揚々と敵に向かおうとした瞬間、榛名が戦艦を相手取ってしまい、珍しく出遅れてしまったわけだ。

 仕方なく次いで強そうな重巡洋艦でも倒そうかとも思ったが、その時には既に加賀が砲弾をぶっ放しており、ならば残ったもう片方の重巡洋艦に手を掛けようと思ったら、そこに睦月が向かっていた。

 改めて睦月の背中を追うのも面倒になった夕立に残されたのは、浜風が適当に相手している駆逐艦だった。

 ストレス発散か、あるいは苛立ち紛れと言わんばかりに九十度方向転換した夕立が、浜風から獲物を掻っ攫うのは言ってしまえば当然の流れだった。

夕立「だって他に敵がいないっぽい!」

浜風「戦艦が居たじゃない」

夕立「榛名さんがなんかキリッとしてたからやめた!」

浜風「だったら睦月の所にでもいってくればいいのに」

 深海棲艦を挟んでそんな事を言い合う二人。無論その間も砲弾は続けており、下手をしたら二人が喧嘩して撃ち合っているようにも見えなくはない。

 というかキリッとってなんだ。キリッとって。

榛名「……」

 別段そんなに意気込んでいたつもりはないものの、傍から見たらそう見えたらしい。

 途端に恥ずかしくなって榛名が顔を赤くした。

清霜「清霜もあそこに混ざる勇気はないです」

 当然である。

夕立「倒したっぽい」

浜風「夕立が居なくても勝てたけどね」

夕立「最後のとどめは夕立が刺したっぽい!」

浜風「最後もとどめも似たような意味……」

榛名「……」

 先日ロープで夕立を結んだ時のやりとりを思い出した。

 もしかしたら他人からはこんな風に見えていたのだろうか。

 加賀と睦月の疲れたような引いたような目線はまさか自分に対してのものだったのだろうか。

榛名「あああ……」

 先ほどの戦いとは違う、別の意味での変な感情に囚われ、その場にしゃがみ込みたくなってしまった。

清霜「ま、まぁ。帰りましょう」

 清霜にそう言われながら、十分ほど海に言葉を吐き続ける榛名であった。

そんなわけで好感度上昇

榛名 ↓1のコンマ十の位(ぞろ目でYP+1)
加賀 ↓2のコンマ十の位
睦月 ↓3のコンマ十の位(ぞろ目でYP+1)
浜風 ↓4のコンマ十の位
夕立 ↓5のコンマ十の位
清霜 ↓6のコンマ十の位

榛名さんが70超えたので小話を入れます。時期的に今回はバレンタインということで


榛名「バレンタイン?」

睦月「そうなのです」

 食堂に入った榛名に最初に訪れたのは、甘い香りだった。

 それが厨房でなにやらせっせと勤しむ睦月によるものだと気付いた榛名が、そう言われ首を傾げたのが先ほどである。

 睦月曰く、思い人に甘味を渡す日だそうだ。

 初めてそれを知った榛名は、さも感激したといわんばかりに目を輝かせ、

榛名「なるほど、そうなんですね。感激しました!」

 そして実際に感激した。

 睦月の作るチョコレートを見ながら、榛名が尋ねる。

榛名「睦月さんは、どなたに渡すのですか?」

睦月「えっ」

 一瞬困惑した睦月であったが、しかしすぐに気を取り直し、考え直し、そしてやっぱり困惑した。

 これがバレンタインを知っている人の反応ならばまだ分かる。

 睦月は、バレンタインについてはそれなりに知っている。以前いた南西の鎮守府で、やたら提督に懇切丁寧に説明され、作って欲しいと懇願されたからだ。

 面倒だった上にあまりに必死だったので逆に気分を害し、結局例の提督にはそこいらで買った格安の品を渡したような渡さなかったような記憶しかない睦月だったが、なんにせよバレンタインがそう言うものだという事だけは理解していた。

 それから紆余曲折あってここに来た睦月が迎えた今年のバレンタインは、今までとは違い明確に渡したい相手が居た。

 その為に色々と予め調べたのが睦月である。

 その結果、バレンタインが何も必ず意中の相手に何かを送るものではないと知った訳で、勿論浜風達にもいわゆる“友チョコ”というのを渡すつもりではいたが、あくまで本命は提督だ。

 一方で榛名は、そもそもバレンタインについて知らなかった。

 彼女の場合は、以前の鎮守府がそんな事をする雰囲気でなかったので、仕方ないといえば仕方ない。

 なので彼女にとってのバレンタインは、今睦月が説明した、“意中の相手にチョコを送るもの”という知識しかないわけで。

 その状況で、いざそう面と向かって聞かれると、さすがに答えづらい。

 一応これでも乙女なのだ。例えこの鎮守府で、渡すべき異性が一人しかおらず、問うまでのない愚問だとしても、それでも乙女なのだ。

 自分の口から宣言するのは憚られる。

榛名「……あ」

 そう言い淀む睦月に、勘が良いのか悪いのか、今度は納得したように頷いた榛名。

 彼女は基本的には頭が良い。

榛名「提督ですね」

睦月「!?」

 頭は良いが、しかし、どこか抜けているのが彼女だった。


榛名「ふむ……」

 睦月からバレンタインの本を借り、読みふける榛名。

 詳しく話を聞くべく、それこそ根掘り葉掘りの勢いで矢継ぎ早に質問を重ねた榛名だったが、当の睦月が答えてくれなかったので、こうして本だけ借りたのだ。

 いやまぁ、それもそのはずで、言ってしまえば榛名の質問は、

「バレンタイン? 誰にあげるの? 提督? なんで?」

 といったもので、

「そらあんた、提督に恋しちゃってるからだよ」

 と答えさせるようなものである。罰ゲームか辱め以外の何者でもない。

 しかしそんな質問をした榛名本人はというと、

榛名(チョコ作りで忙しい所に質問をするのも、確かに失礼でしたね)

 と全く見当違いな所に思考を着地させて今に至っている。

榛名「なるほど、なるほど」

 本に並ぶ洋菓子に目を滑らせて、一人頷く。

 洋菓子作り自体は未経験であったが、彼女は普段自炊をしている。

 加えて彼女が作ろうと決めたのは、初心者でも簡単に作れるというブラウニーだった。

 本の角が僅かに折られたページに目を移す。

 それは先ほど睦月が作っていた物の完成品が乗っており、彼女がそのページを参考にしていることが窺えた。

 本の角を折って目印をつける事をドッグイヤーというが、しかし睦月はどちらかと言うと猫である。そんなどうでも良い事を考え、くすりと榛名が微笑んだ。

榛名「……出かけましょう」

 洋菓子の材料を買わなければならない。

 そう思い、立ち上がると同時に、ふとある疑問が榛名の内に沸いた。


 ──思い人って、なんでしょう。


 なんとなく睦月に触発されてチョコレートを作ることに決めた榛名だったが、しかし彼女の言う思い人というのが今一良く分からなかった。

榛名(本には載っていませんでしたね)

 正確に言えば、それらの単語自体は本には書いてあった。というより、至る所に飾られていた。

 やれ思い人の心を掴むだの、やれ思い人に気持ちを伝えるチャンスだの、そういうお節介極まりない無責任なエールが入り乱れていた。

 しかし具体的に、思い人が何を指すのかまでは、ついぞ榛名には分からなかった。

 分からなかった結果、彼女の中でそれは、お世話になった人という意味に落ち着いた。

 とはいえそれでも腑に落ちない榛名は、ふわふわとした漠然な疑問を抱えながら街に出るのだった。


榛名「砂糖。ベーキングパウダー。バター……」

 買って来た品物を手に取りながら、依然榛名の頭の中には先ほどの疑問がぐるぐると渦巻いている。

 思い人とはなんぞや。

 自分の知らない単語である。

 自分の手料理を振舞う相手のことを指すのだ、まさか悪い意味ではあるまい。

 本の書き方を見ても、決して嫌いな相手に対して使うものにも感じなかった。

 であれば、やはり好意的な相手に対する表現なのだろう。

 そこまでは榛名にも分かった。しかし、そこからが分からなかった。

 一口に好意的と言っても色々とある。

 家族に対する感情、友人に対する感情、好敵手の対する感情、世話になっている上司部下に対する感情……他にも、他にも。

 そのどれを指すのかが榛名には分からず、結果として睦月と提督の関係を彼女の知識に当てはめた結果、それが先ほど彼女が導き出した結論なのであった。

睦月「榛名さんも作るんですね」

榛名「睦月さん」

 既に睦月の作業は終わっていたので、厨房を使う。

 本を見ながら丁寧に作業をする榛名に睦月が尋ねた。

睦月「榛名さんも、提督に?」

榛名「はい」

 事も無げに頷く榛名であったが、睦月の心中は穏やかではなかった。

 当然といえば当然である。睦月からしたら、突然ライバル宣言をされたようなものだ。

 しかも相手は美人である。頭も良い。スタイルもいい。

 告白までして独占してきた提督を、まさか一日で掻っ攫われるとは思わなかったが、それでも複雑な気持ちなのには変わりなかった。

 尤も、睦月のそれは半ば杞憂で、榛名自身はそもそも恋愛感情自体理解していないのだが、彼女にそれを知る由もない。

 榛名の白く細い手に見とれそうになりながら、睦月がじっと見つめる。

榛名「そんなに見られると、恥ずかしいのですが……」

睦月「おりょ、すみません」

 思わずかぶりつくように見ていた睦月であった。


睦月「提督、ちょっと良いですか?」

提督「睦月、それに榛名。どうしたんだ」

 食堂全体に漂う甘い香り。

睦月「突然ですが、問題です。今日は提督にお渡ししたいものがあるのです」

提督「そうか……なんだ?」

睦月「ヒントは、少し過ぎちゃいましたけど、先週にあったものです」

 今は二月三週。そこから一週間ほど遡るわけか。

 しばし考える。

提督「分かった」

睦月「はい、どうぞ」

提督「建国記念日だろう」

睦月「ちょっと」

榛名「確かに」

睦月「ちょっと」

 睦月が双方に向かって言葉を向けるが、しかし他に祝日は思い当たらない。

睦月「そう言うのは良くないですよ。今時そういう知らなかったアピールはどうかと思うのです」

 じとりと睦月が半眼で俺を見やるが、榛名がそんな彼女を宥める。

榛名「でも、榛名も知りませんでしたし、もしかしたら提督もご存じないかもしれません」

睦月「そんな筈はないのです、もう睦月が先週あげる約束をしたんですから、とぼけてるだけなのです」

榛名「そうだったんですか」

提督「……すみませんでした」

 少し気恥ずかしくて、つい誤魔化したわけだが、睦月はお気に召さなかったらしい。

榛名(恥ずかしい……? やっぱり榛名の結論は間違っていたのでしょうか)

榛名(後で調べてみましょう)

睦月「睦月と榛名さん、二人分です」

提督「榛名……も、なのか」

榛名「あ、はい」


提督「……まさか、睦月、これはラム酒入りか」

榛名「?」

 酒は得意ではないのを知っていて、どうして混ぜたのだろうか。

睦月「ラム酒じゃなくて林檎酒なのです。それに、ちょっとだから大丈夫にゃしぃ」

提督「それを判断するのは俺だぞ、全く……」

睦月「……残しても、良いのですよ?」

 言葉ではそういいながら、睦月の表情は寂しげなものだった。

 少しだけ目元を潤ませながら、俺を見上げる。

提督「……」

睦月「……」

提督「……演技だな」

睦月「およ。気付いちゃいましたか」

 ようやく最近になってだが、睦月の仕草を見分けられるようになって来た、と思う。

 まぁ、それでも、やはりどきりとする程度には動揺してしまうのだが。

榛名「駄目です提督」

 しかし口を挟んだのは榛名だった。

榛名「折角睦月さんが手作りで頑張ったんですから、残してはいけません」

 ずいと榛名が迫る。

提督「あ、ああ。分かってる」

 とはいえ、酒が苦手なのは如何ともしがたい。

 ……って、そうか。榛名は俺が酒に弱いのを知らないのか。

 彼女からしたら、俺がワガママを言っているようにしか見えないのだろう。

榛名「チョコレートの食べ残しは、榛名が許しません」

提督「わ、分かった。食べる。食べきる」

睦月「おお……」

 結局睦月の作った林檎酒入りのチョコレートを食べ終えた俺である。

提督「来月、お返しに俺がチョコレートを作ろう」

睦月「それは……遠慮したいかにゃあ」

榛名「感激です!」

 当然くらくらとしながら、その晩はいつもより早く床に着く羽目になった。


榛名「さて」

榛名「ええと。思い人、思い人……」

榛名「……思い人、想い人。思いを寄せている相手のこと」

榛名「好きな人、意中の人、好い人、恋愛の対象、恋心を注ぐ対象」

榛名「……」

榛名「……ううん?」

榛名「恋心。恋しいと思う心」

榛名「ううん?」

榛名「恋……」

榛名「……特定の異性に強く惹かれること。会いたい、寄り添いたい、一緒になりたいと思う気持ち」

榛名「……」

榛名「提督は異性ですね」

榛名「会いたい……そうですね、秘書艦ですから、会わないと指示を仰げません」

榛名「寄り添いたい……一緒になりたい?」

榛名「寄り添う。ぴったりと傍へ寄る」

榛名「分かりませんが、確かに提督に対して距離を詰める癖があるといわれました。多分これもそうなのでしょう」

榛名「一緒になりたい、というのは良く分かりませんが……確かに秘書艦として共に鎮守府の為に行動したいとは思っています」

榛名「……」

榛名「……」

榛名「……なるほど。つまり、榛名は提督を想い人だと思っているんですね」

榛名「早速この事を明日、提督に伝えましょう」


 ──翌日、榛名の言葉に彼がお茶を噴出し、睦月が壊れた人形のように立ち尽くし固まったことは、言うまでもない。

榛名さんは優等生だけど教科書に書いてないことに対しては鈍いイメージ。
今日はここで終わりです。

卯月と天津風ドロップでお迎えしたんですけど、この二人虐めがいがあって可愛いですね。

今日は更新出来ません、ご了承下さい。


 深海棲艦。

 彼らは一体何者なのか、という疑問に対する有効な答えはない。

 海洋生物が独自に進化したという説もあれば、不法投棄された産業廃棄物が突然変異をもたらしたという説もある。

 はたまたどこかの国が秘密裏に開発した生物兵器であるという話もあれば、宇宙からの侵略者だと言う突拍子もない都市伝説のような話まで広まる始末である。

 とはいえ、国民の関心はそれらの諸説の中に正解があるのか、という海の脅威そのものに対するものよりは、いつ平穏を取り戻せるかというものの方が強かった。

 国民は深海棲艦と戦うわけではない。陸上の高台から、特効薬のように誕生した艦娘の活動を見下ろすのみである。

 深海棲艦という脅威の正体がどういったものなのかは別段彼らにとってはどうでもよい。深海棲艦がサメの親戚だろうがクラゲの仲間だろうが、大三次世界大戦に備えた秘密兵器だろうが火星人だろうが、それによって彼らの食卓が変わるわけではない。

 変わるとしたら食卓ではなく、食卓を彩る会話の内容だろう。

 何も国民が深海棲艦に恐怖をしていないわけではない。現実問題、艦娘という対抗策が登場するまでの数年間は少なくない数の一般市民が犠牲になったし、今でも海で命を落とす物が少なからず存在する。

 だがそれは、彼らの遺族にとっては悲劇だろうが、そうでないものにとっては、数あるニュースのうちの一つでしかないだろう。

 艦娘と言う盾を得た国民からすれば、深海棲艦はテレビの中の出来事とまでは言わないまでも、高台の足元を濡らす津波なのだ。

 深海棲艦は脅威であり、恐怖である。それが未知であるから、なおさら。

 しかし恐怖は時に興味になる。

 そしてそれは決して遠くない所にある、幻想ではない確かな存在だ。

「君は考えたことはないか。“もしも明日世界が滅びたら”と」

「……いえ」

 まだ湯気の残るコーヒーを飲み干して男が笑う。

 対して女性の表情は窺えない。

 何も感情を映していないのか、それとも意図的にそうしているのかは分からないが、いずれにしてもカーテンを閉め切った部屋の中では、彼女の顔は男の飲むコーヒーよりも無味だった。

「あるいは、“もしも殺人事件に巻き込まれたら”と考えたことはないか」

「全く考えたことはありません」

 女性の答えはいずれも淡白なものだったが、しかし男に機嫌を損ねた様子はなく、むしろくつくつと喉の奥から笑みを零した。

 嫌な笑みだ、と女性は思った。

 そして男も、それを理解している。

 理解したうえで、嫌な笑みを続けた。

 先日どこかの鎮守府に対しては一切見せなかった笑みである。


「国民が深海棲艦に恐怖し、怯えていたのももう昔の話だ。今の彼らにとって深海棲艦は、半ば娯楽のようなものだよ」

「……」

 演説のように男は語りだした。

 否。それは実際に演説と言って良いだろう。

 男の言葉を遮る者はいない。ただ男の気の済むままに、男の思うがままを言うだけである。

「俺が以前いた鎮守府の、近くの街にはね。遊園地があったんだ」

「ジェットコースターやらフリーフォールやらお化け屋敷やら色々あるけれど、俺が一番好きだったのは巨大迷路でね」

「ああいう知的好奇心をそそるものは良い。実にいい。……まぁ、それは良いとして」

「……」

 男が一度言葉を区切る。コーヒーカップに手を伸ばすも、既に中身は空だった。

 芝居がかった様子で天を仰ぐも、やはりその表情は晴れやかなものだ。

 表情と仕草のずれが、殊更男の異常さを演出しているように見えて、女性は激しく心の中で嫌悪した。

 左手でコーヒーのソーサーを取り、空いたカップに注ぐ。

 満足した表情で男が頷いた。

「どうして遊園地が人間にとって人気なのか。分かるか?」

「……さぁ、なんでしょうか」

 日常では味わえないスリルや好奇心を満たせるからだ、という解答をしようと思えば女性にはできた。

 しかしそうするよりも、目の前の男の問いに真面目に答えるのが億劫だったので、適当に相槌を打つ事を選んだのだ。

 それに、女性の考えでは、別段彼が、自分に対して正答を望んでいるようにも思えなかったというのもある。

 この男は、例えどんな状況であろうとも、自分の考えを曲げない。

 自分で自分に心酔し、自分で自分を信仰している。

 男にとっては、自分以外の全てが、自分を満たすための道具にしか過ぎなかった。

「君の考えは正しい。日常では味わえないスリルや好奇心を満たすから、遊園地は人気なんだよ」

「……」

 心の内を透かす様に、寸分たがわずそう言った男に、女性はもはや吐き気さえ覚えた。

 自分の考えは、酷く一般的で、確かに同じ発想や解答にたどり着いてもおかしくはないだろう。

 しかしそれを補って余りあるほどの、邪悪にも似た不快感が彼女を全身くまなく包み込む。

 男の言葉の一つ一つが、動作の一つ一つが、腐ったヘドロのようだった。

 あるいは、男の存在は、深海棲艦よりももっと海底に佇む闇のような恐怖だった。


「日常の退屈を紛らわすために人は遊園地に行く。普段味わえないものを味わい、自分を満足させる」

「とはいえ毎回遊園地に行くのは手間も金もかかる。そして飽きる。だから人は妄想をする。妄想ならば、自分の好きなようにいくらでも出来るからね」

 男が椅子に座り、足を組みながら女性を見やる。

 ただ微笑んでいるだけにも拘らず、女性は頭上から泥をかけられたような気分になった。

「そして得てして人の妄想というのは、どこか危険が伴うものなんだよ」

「……危険、ですか」

 興味をそそられたわけでは全くなかったが、一応相槌を打つ。

 それはややもしたら、男に飲み込まれるのを拒んだようにも見えた。

 そんな彼女の言葉に一度頷き、再度続ける。

「ああ。何故ならその方が面白いし、楽だからだ」

「何のメリハリもない日常生活の延長のような妄想よりも、普段の自分ならばまず遭遇しない様な摩訶不思議な出来事の方が、想像して楽しいだろう?」

 その言葉だけを聞けば、なるほど確かにと思わなくもない。

 しかし言葉の主は目の前の男だ。女性にとってはそれだけでどんな詐欺よりも信じられないものとなる。

「ついでに言えば、そう言うものの方が、考えるのも楽だ。例えば起承転結という言葉があるが、危険が訪れ、それを乗り越えるといった妄想は、それだけで物語になるからね」

「……」

 女性は口をつぐんだ。

「そして妄想はいくらしても誰も何も傷つかない。妄想の中で世界が滅んでも、殺人事件が起きても、誰も現実には悲しまない。だから人は妄想をする」

 現実として世界が滅べば、自分も死ぬ。

 現実として殺人が起きれば、自分も危ない。

 現実では起きて欲しくない出来事も、妄想であればそれは自分を満足させるツールでしかない。

 妄想は、現実でないから気持ちが良い。

「そう。現実には何の影響も出ないから妄想は気持ちが良い」

「遊園地も同じだ。ジェットコースターに乗ったって、本当に地面に叩きつけられるわけじゃない。“そうなるかも”というちょっとした恐怖に、人は酔いしれる」

「人は恐怖が好きなんだ。程度の違いはあれ、心のどこかで、恐怖に怯える自分を愛している」

「そして妄想や娯楽で恐怖を体験して、いざ現実に戻ることで、退屈な日常を愛するんだよ」

「“ああ、自分は生きてるんだ”、とね」

 歪んでいる。そう思いながら、しかしそれも真理な様な気がした。

 そう考え、そう考えている自分がいることに気付き、思わず顔をしかめた。

 この男の思考に、この男の思想に少しでも理解を示そうとしている自分が情けなく思えた。

 それほど男は間違っており、そして男は口がうまかった。

 口だけではなく、手腕や態度、行動力や度胸、そして人身掌握といった、ありとあらゆるものが、男は秀でていた。

 だからこそ女性は男が嫌でしかなかった。

 あまりにも男は完璧で、そして完全だった。

 そしてその秀でた才や長所を、余すことなく一つのことに注ぐ姿は、もはや異質だ。

 人は恐怖が好きだと男は言う。

 しかしこの男が愛されることだけはあり得ないと、女性は思った。

 純粋な恐怖そのものは、人は愛せない。

 境界線を、何の躊躇いもなく男は越えていた。


「そこに現れた深海棲艦。これは、いやはや素晴らしい」

 本当に恍惚とした声で男が声を細める。

 女性の背筋に、何度目か分からない悪寒が走った。

「妄想よりもリアルで、現実に近い。いや、限りなく現実だ。そして遊園地よりも手軽だ」

「深海棲艦と言う恐怖に慣れた人類は今、深海棲艦を娯楽として愛している」

「手近にある、だけれど近づかなければ死ぬことはない、丁度良い所にある玩具として」

 高台の下にある水。

 妄想よりもはっきりとしたそれは、対岸の火事よりも近い。

 実像を伴った妄想は、リアルであればあるほど臨場感を増し、興奮を煽る。

 深海棲艦によって死亡する者は今も居る。

 しかしその殆んどが眼下の水との距離を測り間違えた者で、悲運な事故かその類だ。

 その度に人は恐怖を思い出し、考える。

 もし自分が深海棲艦に襲われたら。

 もし自分が深海棲艦と戦ったら。

 そんな妄想を、妄想と理解しているからこそ人は描き、普段の日常を送ることでそれも薄れて行く。

 彼らが本当に深海棲艦と戦うことになったら、それは妄想ではなくなり、現実という名の恐怖になる。

 そうなれば、彼らは深海棲艦を妄想のツールに使う事はなくなるに違いない。

 そうではなく、そうはならないと分かっているからこそ人は、深海棲艦という妄想をするのだろう。

 何故なら、そこに艦娘が居るから。

 妄想と現実を隔てる境界線上に、彼女たちが居るから。

 だから人は安心し、彼らに現実を任せる。そして自分たちは妄想に浸る。

 深海棲艦を、人類の妄想で留める為に。その為に、彼女達は命を盾に海に立つ。

「深海棲艦、そして艦娘。こんな素晴らしいツールを、手放すわけにはいかないな」

 そこで言葉を切ると、すっかり冷めたコーヒーを一気に飲み干した。

 そのまま女性のもとまで近寄ると、そっとカップを手渡した。

 花弁でも渡すようなたおやかなものだったが、しかし女性からすれば嫌悪感しか抱かない。

 この男には何をされても、そういう負の感情しか沸かないだろう。女性はそう確信していた。

 左手に渡されたカップは、微かにコーヒーの香りを残しながらも冷たい。

 それがまるで、何をしても底なしの恐怖しか感じさせない男のようで、カップを床に捨てたくなる衝動に駆られる。

 そんな女性を見て、男は衒いもなく笑った。

 女性が自分に嫌悪し、恐怖していると見抜いていながらそんな態度で居られるこの男は、やはり異常なのだろう。


「北の彼も失敗したことだし、そろそろまた動こうか」

「……と言いますと」

「駒は多い方がいい」

 事も無げに男は言った。

「と言ってももう手は打ってあるから、それに見合った動きをしてもらうだけだけどね」

「私ですか」

「君は不味いだろう。色々と外見が目立つからね」

 苦笑しながら男が喉をひくつかせ、無表情の女性を見て慌てて言葉を付け足した。

「いや、失礼。決して君の身体を馬鹿にしたわけじゃないんだ。不快に感じたら謝るよ、すまない」

「別に、気にしていません」

 表面上は心底申し訳なさそうな声で、労わりながら謝る男であったが、しかし相変わらず笑顔を絶やさない。

 恋人をリードするかの如く、男が女性の左肩に手を添えた。

 それが余計に女性の神経を逆撫でし、背を向けて拒絶を示す。

「つれないね」

 傷ついた声色を出してはいるものの、男の顔は緩んだままだ。

「まぁ、良いか」

 案の定男はさして気にした様子も見せずにそう言った。

「いくらかあの鎮守府に、ストックがまだあったはずだから。少し拾ってこよう」

「そうですか」

「君は俺の右腕として、ここに居てもらわないと困るからな。誰か別のに行かせよう」

 そう一人頷いたあと、思いついたかのように再度言葉を繋げた。

「おっと。今のも別に皮肉ではないんだ。いや、すまない」

 嬉しそうに、楽しそうに男が謝る。

 どこまでも男の感情は捻じ曲がって、折れ曲がっていた。

 こうも表情と言葉が乖離している人間を、彼女は見たことがなかった。

「お詫びに、駒の中で気に入ったのがあったら、ひとつくらいなら食べても構わないよ」

「……」

「他の駒も、彼らに食べさせるか、刷り込むかは君に任せよう」

「考えておきます」

「ああ」

また夜にやります。

E4までクリアと引き換えにバケツが70個と燃料が8,000近く無くなって呆然としてます。
3分の1くらい加賀さんがバケツ持ってってる……。
もう少ししたら始めます。


【二月三週 後半】


提督「寒いな……」

 年明けから徐々に気温の上がってきた最近であったが、今日はいやに寒い。

 今年何番目かの寒さではないだろうか。

提督「これは降るかもな」

 空は灰色で淀んでいる。いつ雨が降り出してもおかしくはない。

 もしくは雨ではなく、雪が降るかもしれないが、いずれにしても溜息を止めるほどの違いにはならないだろう。

提督「動けるうちに動いておかないとな」



↓1

1.出撃

2.演習

3.遠征

4.工廠

5.その他(自由安価。お好きにどうぞ)


 寒空の下の中に、清霜が掌を擦り合わせて立っていた。

 食堂の大窓に面した庭である。

 榛名と睦月、そして浜風が雑草を抜いた地面からは、ほんの数ミリ新たな緑が見えていた。

 灰色の空を見上げながら、何かを呟くように息を吐いた。

提督「何をしてるんだ?」

清霜「あ、司令官?」

 やや不意をつかれた清霜であったが、さして動揺もしていない。

 空と同じ色の髪を揺らしながらこちらを見やる。

清霜「何、って言われるとちょっと困るかな」

 別段何かしている様子ではない。恐らく本当に、見た目のまま、ただ景色を見ていたのだろう。

清霜「あんまりここからの景色は見てなかったから」

 ここでの暮らしが一番短い彼女ならではの言葉である。

 とはいえ、何もこんな寒い日を選ばなくてもいいものを。

 再び両手を包むように息を吐いた。

清霜「まぁ、確かに、ちょーっと寒いかもしれないかな」

提督「だから言っただろう」

 同じ景色を見るのであれば、食堂から見てもさして変わらない。

清霜「ん、まぁ、そうなんですけど」

 ここ最近では、食堂には良く人が居るようになった。

 たいていは睦月か榛名で、次いで浜風と夕立。

 加賀や鈴谷はあまり見ないし、伊58は珍しい頻度ではあるが、それでも彼女達だって食堂は利用する。

 現に今も食堂には駆逐艦が揃って四人おり、食事を作っている。

 尤も、厨房に居るのは三人で、残りの一人である夕立はテーブルに顔をくっつけ、料理が出来上がるのを待っているようだが。

 そんな食堂と窓を隔てたこの場所で、わざわざ一人、海や空を見る必要は無い。

提督「……、居心地が悪いのか?」

 あまりコミュニケーションがとれていないのかもしれない。

 来たばかりでいきなり他の艦娘と仲良くしろと言うのも難しいかもしれないが、しかし孤立してしまうのも問題だ。

清霜「そういうわけじゃないんですけど」

>>644
すみません、訂正です


 寒空の下の中に、清霜が掌を擦り合わせて立っていた。

 食堂の大窓に面した庭である。

 榛名と睦月、そして浜風が雑草を抜いた地面からは、ほんの数ミリ新たな緑が見えていた。

 灰色の空を見上げながら、何かを呟くように息を吐いた。

提督「何をしてるんだ?」

清霜「あ、司令官?」

 やや不意をつかれた清霜であったが、さして動揺もしていない。

 空と同じ色の髪を揺らしながらこちらを見やる。

清霜「何、って言われるとちょっと困るかな」

 別段何かしている様子ではない。恐らく本当に、見た目のまま、ただ景色を見ていたのだろう。

清霜「あんまりここからの景色は見てなかったから」

 ここでの暮らしが一番短い彼女ならではの言葉である。

 とはいえ、何もこんな寒い日を選ばなくてもいいものを。

 再び両手を包むように息を吐いた。

清霜「まぁ、確かに、ちょーっと寒いかもしれないかな」

提督「だから言っただろう」

 同じ景色を見るのであれば、食堂から見てもさして変わらない。

清霜「ん、まぁ、そうなんですけど」

 ここ最近では、食堂には良く人が居るようになった。

 たいていは睦月か榛名で、次いで浜風と夕立。

 加賀や鈴谷はあまり見ないし、伊58は珍しい頻度ではあるが、それでも彼女達だって食堂は利用する。

 現に今も食堂には駆逐艦が揃って三人とそして榛名が、食事を作っている。

 尤も、厨房に居るのは三人で、残りの一人である夕立はテーブルに顔をくっつけ、料理が出来上がるのを待っているようだが。

 そんな食堂と窓を隔てたこの場所で、わざわざ一人、海や空を見る必要は無い。

提督「……、居心地が悪いのか?」

 あまりコミュニケーションがとれていないのかもしれない。

 来たばかりでいきなり他の艦娘と仲良くしろと言うのも難しいかもしれないが、しかし孤立してしまうのも問題だ。

清霜「そういうわけじゃないんですけど」


清霜「一応駆逐艦同士とは、仲良くやれてるのよ?」

提督「なら、良いんだが」

 自由奔放な夕立を除けば、基本的には物腰は柔らかい。

清霜「いえ、まぁ、浜風さんも不気味ではあるんだけどね」

提督「……」

 少し苦笑した様子で清霜が付け足す。何か言っておいた方がいいかとも思ったが、否定は出来ない。

清霜「だけど……その」

 そして言いづらそうに言葉を濁す清霜が、代わりにちらりと食堂に目線を向けた。

 厨房では、浜風と睦月に混じって榛名が菜箸を握っている。

 その言葉と仕草に、やはり彼女の中での榛名に対する何かが感じ取れた。

 それこそ、部屋を最も遠い位置に用意するくらいには。

 清霜もまた、伊58や雪風のように、俺の知らない所で榛名と接点があったりするのだろうか。

 そしてそれは、清霜の心に影を落とすようなものなのだろうか。

清霜「えっ?」

 俺の疑問に、清霜がきょとんと首を傾げる。

清霜「あ、ええと。そういうわけではないんだけれど」

 慌てたように手を振って、それでもはっきりしない口調で言葉を濁した。

清霜「ええと……」

 清霜が食堂を眺める。

清霜「……うん。誰が、って言うわけじゃないんですけど」

 少し眉根を寄せて、白い息を吐いた。

清霜「苦手、かな」

提督「……」

 窓一枚の向こうに、榛名が微かに笑顔を零す。

 それを見ながら、清霜が寂しく表情を落とした。

 寒さと心を誤魔化すように、清霜が足を震わせる。


提督「でも、君はこの間の戦いで、榛名をフォローしたじゃないか」

清霜「あの時は必死だったから」

 やや憮然とした表情で答える。

 苦手意識があるからと言って、深海棲艦との戦いにそれを引き出すほど彼女は浅はかではない。

 彼女もそう言いたくて口を尖らせたのかもしれない。そう思い、小さく謝ると、ふふんと鼻を鳴らした。

 とはいえ、あの時の清霜には、二つの選択肢があった。

 浜風と榛名、どちらに足を向けるかという選択肢だ。

提督「助けようと思えば、というより、位置的には浜風の方が近かったはずだ」

清霜「それは……」

 思い出すように一度視線を宙に浮かせ、髪に触れる。

提督「何故浜風でなく、遠くの榛名に援護をしたんだ」

 それがましてや、苦手意識を持つ相手であればなおさらである。

清霜「……分かりません。なんとなく、体がそう動いて」

 別段彼女を責めているわけではないのだが、しかし彼女の言葉はやや小さく不安げなものだった。

 恐らく実際に不安なのだろう。

 何故自分が、苦手意識を持つ榛名を援護しようと思ったのか。

 自分で自分の行動を理屈で説明できないのは、確かにどう考えれば良いのか分からない。

 だから彼女はこうして、一度一人になって考えているのかもしれない。

 寒空の下、答えの出ない自問自答をしながら。

清霜「変かしら」

 ぽつりと呟いた言葉は、俺に向けたものと言うよりは、自身に対しての疑問の様に思えた。

 清霜がそっと息を吐き、指先を暖める。

 後ろに結ばれた髪が風に揺れた。

 もう少し、彼女が自分に何かしらの答えを出し終えるまではここに居たほうが良いかもしれない。

 彼女に明確な言葉を掛けてやれない以上、それくらいのことはしてあげなければならないと、そう思った。



清霜の好感度上昇
↓1のコンマ十の位


【二月四週 前半】


提督「もう二月も終わりか……」

 北鎮守府との演習が先月末。

 それからじきに一ヶ月が経つわけか。

 先日の寒さも相まって、まだ二月前半くらいの気持ちになってしまう。

 今週末には雪風が退院し、そして中央鎮守府との演習の件の返答が来るはずだ。

 どちらも今俺が動いてどうにかなるものではないが、気にならないといえば嘘になる。

提督「……何かしよう」

 こういう時こそ、自分のやるべき事をやらないといけない。

 色々なことに気をとられすぎて、見落としてはいけないことに気付けなくなってしまうからだ。

提督「じきに榛名も来るか」

 時間に正確な彼女であれば、十分ほどでここにやってくるだろう。

 今日は何をしようか。


↓1

1.出撃

2.演習

3.遠征

4.工廠

5.その他(自由安価。お好きにどうぞ)


睦月「なんですかなんですかぁ~?」

 執務室で書類を整理している時に見つけたビラを、睦月に見せる。

 てっきり執務机を挟んで向かい側から見るのかと思ったら、何の淀みもなく隣に並ばれた。

 あまりに自然な流れで一瞬見逃しかけたが、腕を絡めようとしてきたところではっと我に返り、それを解いた。

 唇を尖らせ肩同士で触れ合う睦月。それも制すと、今度は背後から腕を首に緩く回してきた。

 これも断ろうと思ったが、あまり何度も避けるのは可哀相だと思い、今度は何も言わなかった。

 幸い椅子の背もたれがあるので、首許に回された腕以外は睦月にくっつかれないですむと思ったからだ。

 彼女の温もりは、気付けば確かに居心地の良いものになっていたが、しかしだからと言って気を許しすぎるのも良くない。

 というより。

 どこまで彼女の温もりに答えれば良いのかが、正直に言って分からなかったのである。

 それらを纏めて端的に、かつ惨めに言い表すのだとしたらきっと、

睦月「提督、恥ずかしがってます?」

提督「……」

 ……そういう事なのだろう。

 猫撫で声を囁きながら、睦月が体重を預ける。

 椅子の背もたれでそれらは殆んど感じられなかったが、代わりに頬に添えられた彼女の顔が、酷く温かかった。

睦月「……にゃは」

 顔の赤さが、そのまま温度を示していた。

 動揺を悟られないように書類に目を落としたまま、すっと息を吸う。

 甘い、甘い、彼女の香り。

 呼吸をするたびに睦月に引き寄せられるようで、いっそ今だけは呼吸を止めてしまおうかと思うくらいには、書類は頭に入っていなかった。

睦月「提督、顔温かいのです」

 それはきっと君の体温だ。

 そういいかけて、やっぱり止める。

 そう言った所できっと彼女はまた猫の様に笑い、甘く囁くだけだろう。

 それで余計に体温を上げるくらいなら、黙秘するのも一つの作戦だ。

睦月「黙っちゃ駄目なのですよ?」

 何だか、それはそれで、睦月に主導権を握られそうではあったけれど。


提督「いや、これだ」

 話を誤魔化すが如くビラを睦月に差し出す。

睦月「誤魔化しましたね……どれどれ」

 あっさり目論見は看破されていたが、それでも睦月の注意はビラに向いたようだ。

 少しだけ首許の腕が緩み、それにほっとする。

 とはいえ元より殆んど力は加わっていなかったので、さして違いはないのだが。

 小さい睦月の手の甲を眺めながら、説明をする。

提督「街の大規模工事があるらしい。それの抗議ビラだ」

睦月「ほうほう」

 微かに睦月が首を縦に動かし、その度に彼女の髪が隣で揺れる。

 ふわりと柑橘系の香りが、甘さと混じって鼻を抜けた。

提督「抗議している住民側のビラだから、詳しいことが分からなくてな」

睦月「確かに」

 これが工事をする側のビラや告知であれば、色々と詳しいことが書かれているのだろう。

 日時や範囲、工事の内容やそれに伴う住民への呼びかけ。

 それらを予め伝えておかなければ、工事はスムーズに出来ないだろう。

 しかしこれはそれに反対する、住民側のビラである。

 工事側に対する抗議や、自分たちの生活を主張する文章は書かれていても、具体的に何をいつどうする、などは書かれていない。

 なので、この紙では、ただ街で工事がある、という事しか読み取れなかった。

 住民がこうして反対運動をするのだから、やはり文字通り大規模な工事なのだろうが、しかしそんな漠然とした情報は、何も知らないのとほぼ同義である。

提督「せめてこの鎮守府にまで影響があるのかどうかくらいは調べておかないとな」

睦月「なるほどー」

 街と言えば、以前睦月や鈴谷と出かけた事もある。

 たった片手で数えられる程度の数とはいえ、それがなくなってしまうのも物悲しい。

睦月「よし。出かけましょう」

提督「出かける、って。街にか?」

睦月「はい」

 きゅっと睦月が僅かに身を寄せた。

 念を押すような仕草である。そんな行動に、小さく溜息を吐きながら頷いた。

提督「分かった。そうしよう」

 街がしばらく使えなくなれば、鎮守府の生活にも影響が出る。

 調べておくに越したことはないだろう。

睦月「にゃは」


睦月「そうだ。鈴谷さんも一緒に誘うのです」

提督「鈴谷?」

 睦月の言葉に一度首を捻るが、すぐに合点がいった。

 この鎮守府で一番あの街に詳しいのは、恐らく鈴谷だろう。

 彼女であれば、街の工事の事も何か知っているかもしれない。

提督「この時間だと……眠っている、だろうか」

 腕時計に目線を落とし、そう呟いた。

 今は午前八時である。彼女であれば眠っている、とも思えるが、しかしここ最近の彼女を見ていると、どうにもそうは思いきれない部分もある。

 朝方の早い時間に、執務室の前で会うこともあった。

 ただ単に、これから眠る鈴谷と遭遇したとも言えるかもしれないが、しかし何故かそうではない様な気がしてならない。

 勘と言ってしまえばそれまでである。骨格のないおぼろげな思いだ。

 とはいえ何故だか、それを追い払う気にはならなかった。

提督「どちらにせよ、一度確かめてみる必要があるな」

睦月「睦月が行って来るのです」

 睦月の言葉に頷く。女性の部屋、ましてや相手は鈴谷だ。男性に対して強い嫌悪感を持つ彼女と接するのは、睦月の方が適任だろう。

提督「鈴谷が部屋に居てもいなくても、俺は玄関で待つ」

 執務室は、鈴谷にとってこの鎮守府である意味最も嫌いな場所だ。

 そんな場所で待ち構えるよりも、街に行くのだから玄関で待った方が得策である。

 こくりと睦月が頷いて、鈴谷の部屋に向かう。

 それを見送りながら一度ビラに目を落とし、息を吐いた。

提督「鈴谷、か」

 朝早く、通る必要のない、訪れたくもない執務室の前に居たのは何故か。

 彼女は、工事について何か知っているだろうか。

 知っているとして、何を知ってるいるのか。

 そして何故、知っているのか。

 どこか必死に見える彼女の行動は今、何に向けられたものなのか。

 全ての答えは、本人に聞かないことには始まらない。


 玄関から外を眺めていると、後ろから足音が二人分聞こえた。

鈴谷「……」

提督「おはよう」

 返事の代わりに腕を組む。手を伸ばしても届かない距離を保ちながら、鈴谷が硬くその場に不動する。

睦月「鈴谷さん、さぁいきますよ!」

鈴谷「ちょっと……!」

 そんな鈴谷の手を取る睦月。突然のことに驚きながら手を引かれる。

鈴谷「……っ」

 俺の横を通り過ぎる瞬間、僅かに息を呑んだ鈴谷だったが、表情を確認できたのはその一瞬だけで、すぐに後ろ姿に切り替わる。

 息を呑んだのは、恐らく俺の近くを通ったからだろう。確かにあの瞬間は、手を伸ばせば彼女の身体に触れられたかもしれない。

 そしてそれを鈴谷も考えたから、恐怖に身をすくませたのだ。

 幸いそれが睦月に腕を引かれる事で一見露見することはなかったが、しかし鈴谷の過去を知ってしまった俺からすると、それも理解してしまう。

 殆んど彼女の意思とは関係なく、反射に近い状態で彼女は“提督”を避けてしまう。

 右手を睦月に引かれ、反対の腕は未だに自分の身体の前に折ったまま。

 きっと、身体の前に腕も何も置かないことも苦痛なのかもしれない。

 少しでも身を隠そうという思いで、腕だけを身体の前に持ってきている。

 辱めを受けた後遺症は、今もなお強く彼女に残っているのだ。

鈴谷「何、どこ行くのさ。ていうか引っ張りすぎ」

睦月「街に行きましょう」

 睦月の存在は、今この状況においては非常に大きい。

 俺と鈴谷の二人では、彼女から話をうまく聞きだせないだろう。

睦月「提督も、早くいきましょう」

提督「ああ、分かった」

鈴谷「……」

 鈴谷は何も言わないが、抵抗しないという事は、一応ついていっても良いようだ。

 折を見て彼女に質問を出来ればそうしよう。


睦月「鈴谷さんはどこに行きたいですか?」

鈴谷「別に、特にないよ」

 少し落ち着いたのか、鈴谷も徐々に平静を取り戻しつつある。

 睦月と接する分には鈴谷も問題はないだろう。以前から二人は接する機会が多かった。

 本来ならば鈴谷も友人の墓にいきたいだろうが、しかし良く考えたら睦月はその事を知らない。

 鈴谷自身、積極的に話したい内容ではないだろう。仮に話すとしても、話す部分とそう出ない部分の取捨選択は鈴谷はすべきである。俺の口から言う必要はない。

 ……そういえば、鈴谷は睦月が立ち直った事を知っているのだろうか。

 鈴谷が出撃や演習に最後に参加したのは、未だ睦月が心を塞いでいた時である。

 それから睦月は自身と向き合い、こうして立ち直ったわけだが、少なくとも一緒に海に出た事はない。

 俺の知らない所で二人が話をしていても別段全く不思議はないのだが、睦月は大抵俺と居ることが多いし、鈴谷も鎮守府にいない事が多かった。

 なので、ひょっとすると鈴谷が、睦月の今を知らないのではないか、とも思えたのだ。

 以前も今も、こうして笑っている分には変わりない。

 厳密に言ってしまえば、今の笑顔の方が自然で柔らかいものではあるが、そこまで鈴谷が違いに気づいているかどうかは正直定かではない。

睦月「ならば遊園地に行きましょう!」

鈴谷「行かないよ、こんな朝早くにやってないし」

睦月「ならば開くまで待つのです!」

鈴谷「なんでそこまでして行かなくちゃならないの」

 くいくいと睦月が鈴谷の手を引く。傍から見たら姉妹のようにも見えなくもない。

 ……そう言ったら、睦月はむくれるだろうか。

睦月「提督はどうするのです?」

提督「俺か」

 丁度そんな事を考えていたら睦月に声を掛けられ、内心どきりとしながら返事をする。

睦月「遊園地か、その他か!?」

 本来の目的は、工事について確認を取ることだったはずだが、よもや忘れてはいないだろうか。

 いつの間にか睦月の目的が変わってしまっている気がしないでもない。

 やや深く溜息を吐いて、考えた。


割とお話の上で重要な選択肢です。
↓4

1.街の工事について調べる

2.遊園地に行く

3.鈴谷の過去と睦月の今を話し合う


提督「睦月、目的が逸れてる」

睦月「およ?」

 とぼけた表情で睦月が首を傾げた。

提督「鈴谷、俺と睦月は街の工事について調べてるんだが。何か知らないか?」

鈴谷「……、またなんでさ」

提督「鎮守府の生活にも関わりがあるからな」

 まさか工事の範囲に鎮守府まで含まれているとは思えないが、しかし何らかの形で生活に支障が出るのであれば、それを事前に把握しておく必要がある。

鈴谷「そうだね」

 先ほどまでは二人の後ろに居たが、それではさすがに会話がしづらい。

 睦月を真ん中にして三人で歩く。

鈴谷「それで、なんであたしが何か知ってると思ったのさ」

提督「うちで一番街に詳しいのは、多分君だからだ」

鈴谷「……ま、そうだね。一番遊び惚けてるのはあたしか」

 過去を知っている俺からすれば、その言葉は嘘偽りの自虐でしかないのだが、きっと彼女は睦月の手前そういわざるを得なかったのだろう。

 そしてそれは暗に、墓のことについて触れないでほしいという願いにも聞こえた。

 難しい選択だった。

 鈴谷は遊ぶために街に来ているわけではない。親友を弔うために足を運んでいるのだ。

 しかしそれを睦月の前で言ってしまえば、必然鈴谷の過去も浮き彫りになる。

 彼女の今の名誉を守るために、彼女の昔の純潔を汚さなければならない。

 どちらを選んでも正解にならないような、意地の悪い問題だ。

提督「……」

 悩んで、悩んで。

 睦月が不思議そうな表情で俺を見上げているのに気づくまで、悩んで。

 それから鈴谷の寂しそうな表情を見て。

提督「……ああ」

 必死の思いで、俺は鈴谷に頷いた。

 頷いても、頷かなくても、きっと苦しいと分かっていながら。

 それでも、頷いた。

 頷くしかなかった。


 ふっと微かに鈴谷が微笑みながら、辺りを見回す。

鈴谷「そうだねぃ……。大体は知ってるよ」

睦月「おおー」

鈴谷「工事は四月だね。範囲はとにかく殆んど全部。あそこからあそこまで」

睦月「ふえー」

 軽やかな声で鈴谷がそう答える。

 睦月はそれに感嘆しながら、鈴谷が指し示す指先に食いつくように視線で追いかける。

 胸の内では苦しいはずなのに、それを言えないジレンマ。

 本当は遊び惚けてなんかいない、と。

 本当はただ、ただ大事な人を弔っているだけなんだと。

 そう睦月に言ってやりたかった。今君の隣に居る少女は、本当は凄く苦しんでいるんだと。

 しかしそれを言っても、きっと鈴谷は救われない。

 それで救われるのであれば、ただ過去を話すだけで彼女が呪縛から解き放たれるのであれば。とうに、あの雨の夜に、俺が彼女を救えていたはずだ。

 しかし過去と言うのはそんなに簡単なものではない。辛いものを辛いと言ったからと言って、救われるだなんて話はない。

 恐らくそこがスタートライン。それが最低限。

 苦しみや悲しみを全てさらけ出した所が始まりで、そこからどうやってその傷を埋めるのかが、立ち直るという事だ。

 それを俺は、鈴谷にしてあげなければいけない。

睦月「遊園地もなくなっちゃうの」

鈴谷「まぁね。しょうがないんじゃない」

 鈴谷が指し示す指先が、通ったことのある場所を点々と通り過ぎていく。

 半円を描くように白い指が踊り、そして端で止まる。

鈴谷「……大体、あの辺りかな」

提督「……」

 視線の先。指の先。

 街外れの、コンクリートの道路が途切れていくその場所を、俺は知っている。

 冬の夜、雨の降ったあの日。

 鈴谷の心の慟哭を聞いた、その場所だ。

鈴谷「全部取り壊すんだ」

提督「……」

鈴谷「……ぜんぶ」

 微かに声が湿って聞こえた。

 彼女を今まで支えてきた場所が、遠くない未来に、なくなってしまう。

 約一ヵ月後のその時に。


提督「それだけの大規模な工事となると」

 意を決するように言葉を吐く。

 このまま鈴谷の表情を見ているのは寂しいと思ったからだ。

提督「役所に行けば、何か分かるかもしれない」

睦月「おお。確かにそうなのです」

鈴谷「何も教えてくれなかったよ。当たり障りのない内容だけ」

 淡々とした様子で鈴谷が言葉を断った。

提督「一般市民だからか」

鈴谷「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」

 艦娘が一般市民に当たるかと言うのはさておき、鈴谷の言葉ははっきりしないものだった。

 既に友人の墓の方角を指していた指は降り、苛立ちを隠すように髪を梳いた。

鈴谷「意図的に何か隠しているようにも感じられた……まぁ、あくまで、あたしの穿った見方だけど」

 実際に尋ねた鈴谷がそう思ったのならば、そういう思惑が少なからずあったのかもしれない。

 もとよりこの工事は住民の反対を押し切り、無視して行われるものだ。

 当然鈴谷以外にも役所に抗議しにいった人は大勢いただろう。役所からしたら相手にしたくもあるまい。

 鈴谷が強く抗議をしたかどうかまでは分からないが、役所からしたら声の大小問わず面倒な相手に違いない。

 判を押したように他の住民に向けた言葉と同じものを彼女にも押しやり、追い返したことは容易に想像できる。

提督「役所がわざわざ隠すとしたら、よほど大きな相手からの圧力ということになるが」

鈴谷「少なくとも国家権力だろうね」

睦月「ええ、政府ですか?」

 スケールが大きくなり、睦月が驚愕して口を押さえた。

提督「あくまで可能性の一つだ」

鈴谷「国家権力だとしても、なんで理由を隠すかの説明にはならないんだけどね」

 その通りである。

 扉を一つ開けた先に、別の扉が立ちふさがっているような感覚だ。


鈴谷「……大体あたしの知ってることは話したよ」

 大体、と言う言葉が引っかかったものの、それでも鈴谷とこうして話を出来ただけでも今は上出来だ。

鈴谷「そろそろ自由行動で良いでしょ」

睦月「どこか行くんですか?」

鈴谷「まぁねぃ」

 睦月の手を解き、踵を返す。

 睦月が再度鈴谷の手を引こうとするが、それより早く鈴谷がその場を離れた。

 ひらひらと後ろ手を振りながら、雑踏に紛れていく。

 口を尖らせて小さく唸りながら、睦月が小さくなる鈴谷の姿を目で追いかけた。

睦月「むー……」

 墓の方角とは違ったが、恐らく花や飲み物を買うのだろう。

 追いかけて鈴谷と共に墓に行ってあげたかったが、最後まで鈴谷がそれを話さなかった以上、それもできない。

 コンクリートの地面に張り付いていた足を何とか引き剥がし、鈴谷とは反対方向へ進む。

提督「睦月、鈴谷には鈴谷の用事があるみたいだ」

睦月「はぁい」

提督「睦月の気持ちも分かるが、今日のところは別々に動こう」

 ん、と睦月が頷き、数歩歩いて、思いついたように手を叩いた。

睦月「じゃあ、改めて二人になったので……」

提督「やめなさい、やめなさい」

 そしてきゅっと腕を絡めてくる睦月である。

 引き離そうとしたが、右腕を両腕を回してがっちりと掴まれてしまった上に、軽いとはいえ身までくっつけられてしまっては強引に動けない。

睦月「にゃう」

 甘えた声で見上げる睦月。

提督「……途中までだからな。鎮守府に着く前には、放すんだからな」

睦月「はぁい」

 猫が匂いをこすり付けるように、すりすりと頬を揺らす。

 何だか、どんどんと睦月に甘くなってしまっている気がする。

 いや、睦月が甘いから、俺も甘くなってしまっているのだろうか。

提督「……どっちでも変わらないな」

睦月「?」

 小首を傾げる睦月に、なんでもない、と答えながら。このまま睦月の甘い香りで全身が包まれるのではないかと言うおかしな感覚さえ感じた。



好感度上昇
睦月↓1のコンマ十の位(ぞろ目でYP+1)
鈴谷↓2のコンマ十の位

今日はここで終わりです、おやすみなさい。

鈴谷の場合「鈴谷に絡む安価を取って(好感度を上げて)解消する」「工事関連(お墓)を何とかして救う」の2パターンがあるかな?
前者をやれば自動的に後者も解消する可能性もあるけど

加賀に「さん」付ける奴のお察し率

>>810
どんな作品にも敬称を付けたくなるキャラっているしそこは別によくね?
鳳翔なんかは全体的に見て「さん」付けの方が多いと思うぞ

すみません、今日は更新出来ません。

そう言えば、昨日ので睦月の好感度が140を越えました。忘れまくってましたが小話の希望をどうぞ。
↓2つくらいまで

料理を習う提督

本当にすみません、今週は更新出来ないかと思います。仕事と体調がコラボレーションしてます
イベントはもう諦めました レベル60越えが球磨だけの鎮守府なりに頑張った(自己弁護)

去年の年末出した異動願が通ったので来週からはもう少し早い時間に更新できそうです、やったぜ。
あとせっかくなので小話用の>>858の料理の出来をまた↓1のコンマで決めておきます。なお食べるのは睦月。

次スレです。
【艦これSS】提督「壊れた艦娘と過ごす日々」08【安価】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1424082603/)

21時くらいに更新します。


 睦月は激怒した(一ヵ月半ぶり二回目)。

 必ず、かの味覚音痴な提督を躾けなければならぬと決意した。

 提督には料理がわからぬ。提督は、ただの提督である。書類を書き、艦娘と共に暮して来た。けれども味覚に対しては、人一倍に鈍感であった。

睦月「何ていうか……何ていうか」

提督「……」

 料理の載ったテーブルを挟んで向かい合う二人。

 この日は提督の料理下手を直すために、睦月に引っ張られ、朝から厨房を占拠していたわけだが……結果は見ての通りである。

 ほろりと目元に手をやりながら項垂れる睦月。

 料理をしている最中はむくれ、食べている最中は悲しみ、そして今はそれらを通り越して薄く笑っている。

提督「以前よりは美味くなったから……」

 へっ、と小さく笑いを零す。拗ねている子供のようだ。

睦月「睦月が手取り足取り教えたのに、どうしてこうなるんですか」

提督「……むしろ、それのせいではないだろうか」

 確かに俺は料理が下手なようだが、全く何も出来ないと言うわけではない。

 少なくともいちょう切りや桂むきなどの、包丁での作業は一通りこなせると思っている。

 その事は睦月も知っているはずなのだが、それでも彼女は隣でべったりとくっついてくるのだ。

睦月「はっ、それはもしや提督、睦月に誘惑されちゃってるということかにゃ?」

提督「……もう、それで良い」

 実際問題、半身をくっつけて服をつまみながらアドバイスをされた所で、彼女の体温や甘い香りを意識しないようにすることに気をやってしまい、話半分程度にしか言葉が入ってこない。

 睦月の感情や気持ちは知っているし、別段彼女とて俺の邪魔をするつもりでそんな事をしているわけではないというのも分かってはいるのだが、とはいえ近すぎる距離にはどうしても中々慣れないものだ。

睦月「およ。今日は素直ですね。睦月にメロメロ?」

提督「そうだな」

 彼女のこういう、揺さぶりのような言葉にさえ実は未だに慣れない。

 真剣にとりすぎてもからかわれるだけだし、真っ向から否定するのも睦月が悲しむだろう。

 なのでここは彼女を持ち上げる、わけではないが受け流すように賛同することにした。

 ……、いや、何も全く、彼女に魅力がないと言うわけではなく。

 肯定してもそれを嘘だと思わない程度には、俺も彼女の気持ちに靡いているわけだけれど。

 それをあえて睦月に言ったところで、きっとまた体温を包むことになるだけなので、伏せておくことにした。


睦月「今日はやけに素直ですね」

 怪訝な表情を一瞬だけ浮かべたものの、すぐに笑みに変わる。

睦月「やっと提督も睦月の気持ちに答えてくれるようになったんですね」

提督「そうだな」

睦月「もっと褒めても良いのですよ」

提督「……、可愛い」

睦月「にゃは」

提督「可愛いし、料理も出来て、面倒見も良く、笑顔が似合い、他人の痛みも分かってあげられる子で、それと、可愛い」

睦月「……にゃは」

提督「……」

睦月「……」

提督「……他には」

睦月「きょ、今日のところはその辺で勘弁してあげるのですよ」

提督「そうか」

睦月「そうです」

 いつの間にか顔を赤くして、俺の言葉を遮った睦月である。

 意外と褒め続ければ照れてくれるのかもしれない。

 今後彼女にからかわれることがあったら、というよりあるだろうから、その際は今のような対応をすれば逃れることもできるかもしれない。

 尤も、俺自身先ほどの言葉を何度も言うのは尋常ではない恥ずかしさがあるので、多用は出来ないが。

睦月「それより」

 照れを隠すように一つ咳払いをし、話を再開する。

睦月「睦月が教えて約20点分の上増しと言うのはおかしいのです」

提督「そうは言ってもな……」

睦月「良いですか、提督。料理は愛情なのですよ。相手の事を想って作れば、自ずと美味しくなるはずです。提督に作る睦月の料理、美味しいでしょ?」

提督「それはそうだが」

睦月「ちゃんと睦月の事考えて作ってますか?」

 じとりと俺を見る睦月であるが、その頬は先ほどのまままだ少し赤い。

提督「当たり前だ」

睦月「ならどうしてこんな事になるんです。壊れるほど愛しても三分の一も伝わらないってレベルじゃないですよ」

提督「ううむ……」

睦月「良いですか、料理は絵画と違うんですよ。調味料を適当にぶちまけたって味の上書きは出来ないのですよ」

提督「分かってはいるんだが」

睦月「あと困ったら蜂蜜を入れるのもなしです、隙あらば蜂蜜も駄目です」

提督「弱ったな」

睦月「弱ったのは睦月の胃ですよ」


 そして口直しに喫茶店に連れて行く事をせがまれたのが数時間前である。

 断ろうとしたものの、使った食材の補充という名目を立てられたら俺としても強くは言えない。

 睦月に手を引かれて入った喫茶店の椅子の背もたれに体重を預けながら、溜息を細く吐いた。

睦月「映画館とかも行ってみたいのです」

 街の工事が本格的に始まれば、観られなくなる。新しく出来るかどうかも分からない。

提督「いずれ、な」

 メニューの出だしに書かれた紅茶から目を切り、コーヒーを頼む。

睦月「お勧めはー……スコーンですか」

提督「そうだな」

睦月「という事は、ここは紅茶もしっかりしてるはずなのですよ。何と言ってもスコーンと言ったら紅茶なのです」

提督「そうだな」

 グラスの水を傾ける。この時期にはまだ氷水はやや寒い。

 少しだけ睦月が口を開けて、次いで眉をひそめた。

睦月「あ……。ごめんなさい」

提督「いや、別に良い」

 開いたメニューで口元を隠す。申し訳なさそうな表情を浮かべ、そしてテーブルの脇で注文を待つ店員に言葉を続けた。

睦月「えと、すみません、やっぱり注文を変えて……」

提督「睦月」

睦月「……」

提督「気にしなくて良いから。好きなものを頼めば良い」

 紅茶とスコーン。

 それを聞いて思い出すのは、今は言葉をなくした彼女の姿だ。

 睦月はそれに気付いて、注文を変えようとした。

睦月「……でも。気にします」

提督「良いんだ」

 そう言いながら、一番気にしているのは誰なのか。それは言うまでもない。

 いつだって生活の端々に、睦月の言葉の端々に、目の前に居ない彼女たちを見ている。

 みっともないと分かってはいるけれど。女々しいと分かってはいるけれど。

 この後悔だけは、未だ拭いきれない。


 砂糖を小さじ一杯分入れたコーヒーを一口啜る。それを観てから睦月が、遅れながらティーカップを持った。

 両手で包むようにして持ち、香りを確かめる。確か頼んだのはオレンジティーだったか、何だったか。

 湯気を払うように小さく息を吐き、緩く啜る。それからゆっくりとカップを置いた。

 それから遠慮がちに一つスコーンをとり、啄ばむように齧った。

提督「美味しいか?」

睦月「えと……」

 少し悩みながら、こくりと頷く睦月。どこか申し訳なさそうな顔をしている。

提督「気にしなくて良い、いつも通り笑ってくれ」

 そう言いながら、一つスコーンを貰う。

提督「そのまま食べるのか」

 一口にスコーンと言っても色々とあるらしい。

 彼女が良く俺に振舞っていたのには、他にジャムだったりが付属していたのだが、この喫茶店の品にはそれがない。

睦月「提督は、違うのを食べていたんですか?」

提督「ああ。蜂蜜と、後は……なんといったかな。クリームを一緒につけて食べたよ」

睦月「クロステッドクリーム」

提督「そんな名前だったかな」

睦月「クリームティーですね」

 紅茶には詳しくないので、睦月の言葉に首を傾げる。

睦月「えと、アフタヌーンティーなのですよ。紅茶と、スコーンと、クロステッドクリーム」

提督「そうなのか」

 確かに良くこの時間帯……昼下がりに口にしていた記憶がある。

睦月「本当ならラズベリーとか苺のジャムなのです。きっと提督が蜂蜜好きだからわざわざ用意してくれたんじゃないでしょうか」

 それだけは知っていた。

 彼女はいつでもそうだったから。

提督「……甘くないな」

 ジャムも何もつけないスコーンは、あの時よりも薄く感じた。

 それが何だか、記憶の上書きを避けているみたいで、殊更自分を惨めにしている様な気がする。

 少なくとも、今目の前で自分を好いている少女を悲しませてまで馳せるべき思いなのかという疑問を抱く程には、無味に感じられた。


 喫茶店を出て、百メートルほど歩きながら、それでも睦月は静かなままだった。

 先ほどの事を気にかけているのだろう。それは嬉しくもあり、そして申し訳ない気持ちにもなった。

 当たり前ではあるが、俺の昔の出来事について、睦月が心を痛める理由は一つもない。

 それが彼女の優しさであり、恋をしている相手というものだとしても、やはりそれは俺の押し付けによるものだ。

 過去の出来事で、今の睦月を悲しませることはあってはならないと思う。

提督「睦月」

睦月「なんですか?」

 隣を歩く睦月との距離は、人一人分程度。軽く手を伸ばせば届く距離だ。

 十分近いけれど、それでもいつもの睦月ならば遠い。

 それこそ睦月ならば隙間など空けずに、むしろ腕を掴んで身を寄せてくるはずだ。

 それさえもしない程度には睦月も気にしており、そしてそれが気になる程度には温もりが欲しくなっていた。

 人一人分の間がもどかしい。

 そう考え、そういう答えに行き着き、思わず自分の口を手で覆った。

 今朝のあの時だって、睦月の体温に困惑していたくせに。

 それが今になって、惜しいと思っている自分がいる。

 それを果たして感情で表すとしたら何色になるのかが分からず、つい口を隠したのだ。

 当然睦月には聞こえないであろう、呟きや囁きを掌に零す。

 むず痒いような落ち着かないような躊躇いが胸の内にこみ上げる。

 唇が動いた。話すためでなく、意味もなく動いた。

 ぴくぴくと動く口角を止めるように、強く掌に力を込める。

 前歯がやや軋み、それから歯を噛み合わせて、ようやくそれが収まった。

睦月「提督、何してるのです?」

 怪訝そうな表情で睦月が見上げる。

 そういえば、尋ねておいて何も彼女に告げていなかった。不審がるのも当然だ。

提督「ああ、いや」

 空いた方の手で彼女を制する。その手が彼女側の方だったことに気がつき、睦月と自分の手を交互に見やった。

提督「……」

 空いたままの小さな睦月の手を握る。


睦月「ふにゃっ?」

 全く考えていなかったのか、睦月が驚きながら再度俺を見上げた。

 思えば、自分のほうから彼女の手を握ったのは初めてだ。

 いつもは彼女のほうから強く抱きついたり、くっついたりしてきたので俺はされるがままだった。

 それに困惑したり、躊躇したりしてきてはいたけれど、思い切り跳ね除けたことはない。

 それはやはり俺も彼女の温もりを求めているからなのだろう。

 彼女の寂しげな表情を見て落ち着かなくなるくらいには、

 人一人分、距離一歩分でさえ遠いと感じるくらいには。

 それくらいに、きっと睦月を求めている。

提督「……、すまない」

睦月「え、え?」

提督「睦月、やはり君には笑っていて欲しい」

 哀しい表情をさせたのは自分で、半ば傲慢な願いではあるけれど。

 それでも隣の彼女には、そうであって欲しい。

 睦月の甘さが、いつの間にか恋しい。

睦月「ふぉぉ……」

 良く分からない深い息を睦月が吐いた。

睦月「本当に、今日の提督は変なのですよ。そんな正直な人でしたっけ……」

提督「嫌か?」

睦月「そんな。大好きですけども」

 ひとつ間を置いて、睦月が足を斜め前に出す。

 着地点は、俺の真横。朝までの定位置だ。

 すっと身を寄せる。腕に睦月の柔らかさを感じ、それから髪が少しそよいだ。

睦月「……えへ」

 甘い香り。

睦月「やっぱり、ここが一番落ち着くのですよ」

 ふにゃりと睦月が微笑んだ。

 それを見て、また俺の口角がぴくりと動く。

提督「……ああ」

睦月「提督、さっきからどうしたのです?」

 なんでもない、と睦月に言いながら考える。

 もしかしたら、きっと。

 この口の動きは、笑おうとしたのかもしれない。

 睦月の優しさや甘さに溶かされて、そうしようと思えていたのかもしれない。

 俺にもまた、笑える日が来るだろうか。

 笑っても良いと思える時が、くるだろうか。

 睦月の笑顔に応えられたら、それはどれだけ甘くなれるのだろう。

 そんな事を、考えてしまう。


提督「睦月よ」

睦月「……なんでしょう」

提督「……」

睦月「……」

提督「……」

睦月「……」

提督「……今日のところは、帰らないか」

睦月「さ、賛成です」

 日本海軍本部。

 ……の前の大通りを挟んだ反対側の、路地の影。

 二人して見張りの置かれた大きな門を見ながら、そう話し合う。

睦月「あそこに入るのはちょっと勇気が要りますね」

提督「そうだな」

 事の発端は、話の流れで睦月が再度ねだったケッコンカッコカリの書類である。

 手を握られたことで、睦月の中でスイッチが入ったらしい。先ほどまでのしんみりとした空気はどこへやら、俺の静止も聞かずにここまでやってきてしまったのだ。

提督「言っただろう、きっとくるだけで気後れするからやめた方がいいと」

睦月「うー。もっと強く止めてくれればよかったのに」

提督「無茶言うな」

 止めても聞く様子はなかったし、ましてや提案した二択が酷すぎる。

 本部にカッコカリの書類を取りに行くか、これから食堂のテーブルにゼク○ィをわざとらしく置き忘れる系のアピールをする、と言われたら前者を選ばざるを得ない。

 万一後者を選んで、それを他の誰かに見られた場合の想像をしただけでも恐ろしい。

 榛名や清霜、あるいは夕立あたりならまだ平和的解決が望めそうではあるが、加賀の場合は冷ややかに侮蔑されそうだし、浜風ならば間違いなく俺で遊ぶ。鈴谷にいたっては考えるまでもない。

 であれば前者を選んで失敗する方がまだ良い様な気がした。

 ……しかし、何度きても本部は嫌なものだ。思わず春雨の出来事が頭をよぎる。

睦月「……また余計なことしちゃいました?」

提督「そんな顔をするな」

 手を握ったまま、反対の手で頭を撫でた。

睦月「……ん」

 少し照れた顔をしながら睦月が寄りかかる。

 そのまま睦月と目が合う。

 弱い磁力で引かれ合うように、睦月の唇が近づく……が。

通行人「……」

提督「……」

睦月「……」

 これはいけない。


睦月「いっそ役所でもらえないんでしょうか」

提督「聞いたことがないな……」

 ケッコンカッコカリは、あくまで仮だ。本当のものではない。

 彼女達艦娘を非人間扱いしているようで好ましくないのだが、国がそうしている以上はどうしようもない。

 ついでに言えば、忘れがちではあるが、彼女の外見は割りと幼い方である。

 カッコカリという名目であればまだしも、区役所で本当の方をもらうのは、何と言うか、危うい気がする。

 いや、何とは言わないけれど。何とは言わないけれど。

睦月「堂々と居ていればなんとかなるかもしれないのです」

提督「睦月はそうかもしれないがな……」

 俺はそういうわけにもいかない。

 あの夏の出来事や、本部での春雨の件などはまだたった半年前である。

 俺が本部をうろつけば、すぐにばれるだろう。

提督「とはいえ。睦月の希望ならば、な……」

睦月「今だけは前の提督が心強く思えない事もないかもしれません」

 彼ほどに開き直って特定の女性だけ愛でられたら、確かにそれはそれで楽しいのかもしれない。

睦月「今日のところは退散しましょう……」

提督「そうだな……」

 仕方なく、本部に行くことはせずに、遠巻きに眺めて引き返すことにした。

睦月「……帰りに本屋に寄っても」

提督「いやいや」

睦月「……」

提督「無言で抱きついても駄目なものは駄目だ」

睦月「くっ」



【睦月の好感度が140を越えました】


【二月四週 後半】


 今日は中央鎮守府に提案した、演習についての返答期日である。

 恐らくは書類での返答になるだろう。わざわざ是非を言いに来るためだけに訪れるとは考えづらい。

 それに何より、時を同じくして、雪風が退院する日でもある。

 大淀も恐らくそちらに向かうだろうし、彼女以外の誰かが来るとはやはり考えられないので、そういう結論に落ち着く。

 書類を相手にただ待っていても仕方あるまい。

 今出来る事をまずはしよう。


↓1

1.出撃

2.演習

3.遠征

4.工廠

5.その他(自由安価。お好きにどうぞ)


榛名「出撃ですね」

提督「……どうした榛名?」

榛名「今日こそ……今日こそ榛名は、結果を出します!」

提督「あ、ああ。そうか。気合が入っているな」

榛名「はい!」

睦月「空回りしなければ良いですけど……」

加賀(本当ね……)



そんなわけで出撃コンマ

↓1のコンマの数だけ燃料
↓2のコンマの数だけ弾薬
↓3のコンマの数だけ鋼材
↓4のコンマの数だけボーキ


↓1~↓4のコンマの一の位で一番小さい数字の数だけ敵出現
↓1、↓2にぞろ目でドロップ(安価)
↓3、↓4にぞろ目でドロップ


榛名(今日こそは、ちゃんと旗艦として頑張ります)

榛名(イメージトレーニングはしっかりしてきました、体調も問題ありません)

榛名(海面も天候も穏やか)

榛名(いける……いけます!)

夕立「敵いないっぽいー」

加賀「そうね……」

睦月「居ないに越したことはないのです」

夕立「つまんない!」

加賀「そうね」

睦月「ええっ、睦月が悪いの!?」

清霜「二人とも出撃の時は息が合うのね……」

浜風「資源回収できましたけど、榛名さん、どうします?」

榛名「……」

浜風「……榛名さん?」

榛名「……」

榛名「……汚名挽回のチャンスが」

浜風「……良く分かりませんけど、汚名は返上したほうが良いですよ」

榛名「……」

榛名「(´・ω・`)」

浜風「知りませんよ」


榛名「提督、帰投しました」

提督「あ、ああ。お疲れ……? 元気がなくなっているが、どうした?」

榛名「いえ。大丈夫です」

提督「そうか……」

榛名(今度こそ、と思ったのに)

榛名「あ、あとお手紙が届いていました」

提督「ん……」

 そういって榛名が取り出した手紙。

 あて先は勿論この鎮守府なのだが、ひっくり返して確認し、一度動きを止めてしまった。

 中央鎮守府。

 それは恐らく、演習の件だろう。受けてもらえるか否かの回答だ。

 雪風は再び中央鎮守府に戻っただろうが、もし演習を受けてもらえれば、彼女に再度会うことは出来るかもしれない。

 今更どんな言葉を掛けるのか、と言う問題はさておき、そういう環境を用意できるに越したことはない。

 それに、雪風だけでなく、金剛達も居るのだ。

 彼女たちにも、俺に出来ることがまだ残っているに違いない。

 その為に、この回答が架け橋になってくれれば良いのだが。

提督「……」

 封筒を開ける。

 いつぞやの時と同じく、回答はシンプルなものだった。


大淀・雪風・金剛の好感度分でコンマ判定です。
(23)+(28)+(2)ですので、

↓1のコンマが
00-53 受諾
54-99 却下

おお、もう……。
一応攻略はまだ可能です、一応

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年02月09日 (月) 22:37:31   ID: s6qV9Hlf

いつも楽しく拝見しています!
自身の体を労わりつつ、頑張って下さい!応援してます!

2 :  SS好きの774さん   2015年03月03日 (火) 22:25:30   ID: lcnyBQF3

やっぱり提督がヒロインなんだよなぁ…

3 :  SS好きの774さん   2015年03月10日 (火) 02:03:08   ID: wRyV4vnm

名誉返上
汚名挽回

最悪だなこれ

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