「反抗」(42)

久々に実家に帰った。

久しぶりに見る両親の顔は変わっておらず。

特にすることもなかったので近くをブラブラと散歩していた。

すると、一件の駄菓子屋を見つけた。

看板には「駄菓子屋!」とでかでかと書かれていた。

わざわざ感嘆符をつけているところに必死さを感じる。

入ってみると、懐かしい菓子が並んでいて、少しうれしくなった。

奥に進むと、アルミ缶の中に、バラバラに割れたキャンディーが入っていた。

アルミ缶の前には「自由」という札が置いてあった。

気になって、店員を呼ぶことにした。

すると奥から、見るからに胡散臭い5~60代の男性が出てきた。

「この自由というのは?」と聞くと

店員は「自由は自由」と答えた。

「いくらですか?」と尋ねると

「お金はいらない」と言われたので

バラバラに割れたキャンディーを袋詰めしてもらい、店を出た。

キャンディーは、いくら割れてても美味しいのに、なぜ割れているだけで値段が付けられないのだろう、そんなことを考えた。

キャンディーを舐めながら歩いていると、自動販売機が目についた。

商品のところには、この間雑誌の広告で見た飲料水が並んでいる。

気になって購入しようとしたが、あいにく売り切れのようだ。

居ても立ってもいられなかったので、携帯電話でその飲料水の評価を調べると。

「広告の割には美味しくない」「微妙」「大々的に宣伝する程でもない」と書かれてあった。

しかし売上を見てみると、かなりの量が購入されていた。

おそらく、同じようにどのようなものなのか知りたく、買った人が沢山いたのだろう。

きっとその情報を利用して「売上○万」などの謳い文句が書かれていくのだろうな。

そんなことを、同じようにキャンディーを舐めながら考えていると少し遠くの駅に来ていた。

駅のひろばの真ん中には50周年の記念象が建てられている。

少し前までは「不気味」「センスが無い」などと言われていたが。

灰色からカラフルな色に変わると「可愛い」「素晴らしい」などの評価がついたという話を両親から聞いた。

少し凝っただけでこの人気、くだらないなぁ、と思いながら、駅をあとにした。

更に進むと少し古い映画館が建っていた。

広告を見ると「ラブ・ストーリー」だの「感動の物語」などの謳い文句がずらりと書かれていた。

映画の中の世界はなんでもありだ。

そんな映画を見ている人たちは、実際の世界には楽しいことだらけではないということを知っているのだろうか。

例えば、楽しく喋りあっている近所の友人でも、裏では一人を蔑んだりしているのだ。

そこまで考えたところでふと、あることに気づいた。

自分はそこまで物事について考えたことはなかったのだ。

ほとんど何も思わず行動し、なにも思わず生きて、なにも思わず今まで過ごしてきた。

それが急にこんなことを考え始めている、とても不思議な事ではないか。

とても開放された気分になった。

これが「自由」ということなのだろうか。

見れば袋の中のキャンディーはなくなり、最後は今現在、口の中に残るものだけになっていた。

おそらくこのままキャンディーが溶けてしまえば、また自分はなにも深く考えず、この世界を生きていくのだろう。

そう思いながら、最後の一欠片を噛み締めた。



「悲劇」

祖父は、明るくて、誰にでも元気を与えてくれる人間だった。

しかし数年ほど前から、何かに怯えるようになり。

昔からよくしてもらっていた自分は、とても心配していた。

仕事も楽になり、長期の休日が取れるようになったので。

祖父の元へ訪れることにした。

自分が、祖父が怯える何かを振り払ってやろう、そんな思いだった。

「時の流れっちゅうもんは…」

対面し、初めて言われた言葉はそれだった。

それから祖父は、ぼそりぼそりと話を始めた。

「ワシは…ある国の兵隊をやってた」

「でもすっかり忘れとった…」

「あんなことを…忘れるはずなんかないっちゅうに…」

「ワシがいた国はあっという間に負けちまった…」

「高台で好機を待ってたワシは、とんでもねぇものをみた…」

「あるところは火の海になり、あるところはもう動かなくなった死体を躊躇なく踏みつぶして戦車が通り…」

「信じられんかった…」

「数日まで、貿易がうまくいったと言って宴を開いていた場所が、今となっては修羅場じゃ…」

そこまで言うと祖父は、体をがたがたと震わせた。

そんなことがあったなんて、とてつもないショックが襲った。

祖父は震えながら言葉を続けた。

「テレビを…見た時じゃった…」

「どっかの国のお偉いさんが、とてもいい事をいっとった…」

「だけども、場面が切り替わると、その国の人々は、戦車を乗り回し、虐殺の限りをつくしとった…」

「そんな時、ぱっと思い出したんじゃ…あの惨劇を…」

それからも何度か祖父を訪ねたが、自分が話を聞いたあの日以来、まともに会話ができなかった。

たまにぶつぶつとしゃべっていると思い、耳を傾けると

「奈落と言ったらあの場所じゃ…」

「外道と言ったらあの場所じゃ…」

「鬼畜と言ったらあの場所じゃ…」

そんなことを延々とつぶやいていた。



「支配」

あるところに支配者がおりました。

彼は言いました

「このまま生きていてもなにも良い事などありません!」

「目を塞ぎなさい、そうすればあなた達に素晴らしいものを与えましょう」

と。

「あなた達は自由、なんでもできるのです」

「しかもそれにほとんどリスクなどありません」

「あなた達は自由です。自由なのです。」

支配者は言葉巧みに人々を信用させました。

支配者の言うとおりに、人々は目を閉じていました。

少し経ち支配者は

「さぁ、目を開いてください」

と人々に言います。

人々は目を開くと、あるものを目にしました。

なんと、今まで自分たちを苦しめていた人々が、全員殺されていました。

支配者は大声で言いました

「どうです!これであなた達は自由です!!」

「声を張り上げ私を称えなさい!そうすれば幸福が訪れるでしょう!」

人々は口を開き、支配者を称えました。

支配者はその後も、人々が喜ぶような様々な事をおこなって来ました。

しかし、人々の中には、少しずつ支配者に対し疑いを持つものも出てきたのです。

そんなある日、支配者に対し疑いを持っていた人間は、支配者によって罪人扱いにされてしまいました。

そして支配者は言いました。

「私に対し、なにを思って構いません、しかしそのような人間には、罵詈孤立を授けましょう」

「そして、私の言葉に耳を傾け、私を信用すれば、絶え間なく享楽を与えましょう」

と。

今現在も、どこかで、その支配者は様々な人々に称えられています。



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