咲「どうしようもない私に天使が舞い降りた」 (57)

その日、白糸台レギュラーは練習試合の為他校へと赴いていた。

淡「咲~、勝ったよ。すごいでしょっ!」

咲「うん良かったね。偉い偉い」

淡「なによ、心がこもって無い言い方に聞こえるけどー!?」

膨れる淡に、咲はそんな事無いよと笑った。
実際には淡の言う通り心がこもっている訳じゃなかったが、
さすがに友人に対して失礼な対応だ。

適当にフォローしておけば、淡の機嫌はすぐに直る。
熟知しているからこそ咲はさっきの試合で淡が見せた打ち筋を褒め始めた。

淡「やっぱり私ってすごい?」

咲「だからそう言ってるじゃない」

淡「ごめんー、だって咲の言葉ってなんか軽いから」

咲「ひどいなあ、淡ちゃん」


咲(実際ひどいのは私の方だけど)


顔には出さず、咲は心の中で呟く。

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宮永咲、白糸台高校の1年で現在15歳。
まだ子供の年齢のはずなのに、すでに色んなことを冷めた目で眺める性格へと育っていた。

決して意地悪とか非情というのでは無い。
ただ、少しだけ心の中へ他者との距離を置いているだけ。
そして自分自身のことも。

熱くなれない。
夢中で何かを成し遂げようという気持ちが持てない。

「次!咲、試合だよ!」

顧問の声に、咲ははいと返事する。

淡「咲~、応援してるからね!」

淡の声に手を上げて、咲は卓へと向かう。

咲(面倒くさいなあ。どうせ勝つのはわかってるのに・・・)

相手の学校の副部長が相手とはいえ、無名の選手だ。
顔を合わせた時点でもう腰が引けてるのがわかる。

つまらない。
そう思ったがおくびにも出さず、咲はほどほどの力で試合に望んだ。  

どうしてだかわからないけれど、
ここの所ずっと気持ちが沈んでいるような感覚が続いている。
冬、の所為かもしれない。

早く沈んでしまう太陽、冷たい空気、葉の落ちた木々。
暖かい春はまだ遠い。
冬は嫌いでは無かったはずだが、鬱陶しいと思う自分に咲は気付いてた。

咲(早く春が来ればいいのに)

そうしたら今の環境も変わり、色々忙しくなって来る。
悩む暇も無いくらいに。
早くそうなればいい。
冬なんて一瞬で去ってしまえばいい。


役満を和了り、咲の勝ちが決まった。
ちっとも嬉しくない勝利に、それでも咲はチームメイト達に笑ってみせた。

~~~~~~~~~~~~~~~

淡「テルーって強いよね、やっぱり」

咲「そう、だね」

帰り道、淡に誘われてファーストフードに立ち寄った。
特に用事も無いからいいか、と思ったが少し後悔する。
照の話は出来るだけしたくないので。

淡「私、一度も勝ったことないよ。そりゃ強いのは認めるけどさー」

咲「まあね。インハイチャンプだし、勝てる人はそういないよね・・・」

私を含めて、と咲はその言葉を飲み込む。
家族麻雀でも咲が照に勝ったことはただの一度もない。

咲(あーあ・・・いやだなあ)

考えないようにしよ、と頭から追い払う。
咲の考えていることなど知るはずも無く、
淡はハンバーガーを食べながら、思ったことを口に出す。

淡「でも咲が本気出せば勝てるんじゃない?咲も相当強いじゃん」

咲「・・・お姉ちゃんには敵わないよ」

咲(やめてよ、そんな話)

そんな簡単に勝てる相手じゃない。
わかってて言うのか、と声を上げたくなってしまう。

淡「またそうやって諦めたこと言う~。私、本当に咲の実力認めてるのにさっ。咲は本気出したら絶対強いよ」

咲「ありがとう」

淡「もー、それだけ?」

咲「それだけって、他になんかあるの?」

淡「褒めてくれたお礼に、そのポテト一個ちょうだい?」

咲「いーよ」

話題が変わるのなら、そんなもの位いくらでもあげる。


咲がポテトを差し出すと、淡は大喜びでぽいっと口に運ぶ。

淡「美味しい~。試合の後はお腹空くからねえ」

咲「そんなに食べて大丈夫?またこないだみたいにダイエットしなきゃ~とか言い出すんじゃない?」

淡「う・・・わかってるよぉ」

照の話から逸れたことで、やっと咲は安堵する。

咲(お姉ちゃんの麻雀が特別なんて、わかってるじゃない。敵わないのも・・・)

同じ血を分けた姉妹なのに、決して埋まることの無い実力差。
ふっと淡に気付かれないよう小さく息を吐く。


試合が終わった後、照が一瞬こちらを見ていたのに気付いた。
例の失望したような視線だ。
いつからか、覚えていない。

照は本気を出せない自分を咎めている。

気付いてもどうしようも無い。
変われないまま咲は、熱くなれない麻雀を続けた。

~~~~~~~~~~~~~~~

咲(寒い・・・)

淡と別れた後、真っ直ぐ家へ帰る為に歩き出す。
急がないとすぐに真っ暗になってしまう。
早足で、咲は夕陽で照らされた道を歩いていた。
もう10分もすれば、家に到着する所まで来ている。

そして住宅街の中、ぽつんと建てられた公園を通り掛った時。
中央に誰か立っていることに気付く。

咲(女の子?)

目を引いたのは、その子の格好が季節にそぐわなかった所為かもしれない。
薄いピンクの、ノースリーブのワンピース。
寒くないのかと咲は目を丸くしてしまう。

その視線に気付いたのか、横を向いていた少女がこちらへと顔を動かす。

和「・・・・・・・・・」

随分と綺麗な少女だ。

咲(こんな子、近所にいたっけ)

見ていれば、絶対覚えているはず。
なのに記憶には無い。

もしかして越してきたばかりで、迷っているのかもしれない。
そんな風に考えていると。

和「宮永咲さん」

その少女が唐突に咲の名前を呼んだ。

咲「えっ!?」

どうして会ったことも無い子が自分の名前を知っているのだろう。
首を傾げる咲に、少女はゆっくりと近付いて来た。

和「宮永咲さんでしょう」

咲「そうだけど・・・」

あなたは誰、と言う前に少女は自分の名前を告げる。

和「私、和といいます。よろしくお願いします」

咲「はあ」

頭を下げる少女を前にして、ますます混乱はひどくなる。

咲(よろしくって、何が?やっぱりこの近くに引越ししてきた子なの?)

困惑している咲にも構わず、和は顔を上げて話を始める。

和「いきなりのことで驚いているとは思いますが、信じて欲しいんです」

咲「えーっと、何を?」

目を瞬かせる咲に、和はゆっくりと語る。
それは突拍子も無い話だった。
とてもじゃないけれど信じ難い、理解不能な話。

和「私はあなたの願いを叶えにやって来た天使なんです」

咲「は!?」

和「あなたが今の状況から、一歩踏み出す為のお手伝いをする為に」

咲「え?ちょっと?」

和「今日から10日間の間に、お願い事をよく考えて決めてください」

和「何が欲しいか、何が必要なのか。細かいルールはこれから説明しますけど」

咲「待って!ちょっと・・・待って・・・」

止めに入らないといつまでも続けそうな話を、咲は遮った。
大きく深呼吸して、そして問い掛ける。

咲「一体何なのかよく把握出来ないんだけど。悪戯とかからかってるのならすぐに止めて」

和「そんな事はありません。だから最初に言ったでしょう。信じて欲しいって」

和と名乗った天使は、真面目な顔してきっぱりと否定した。
でも咲には何もかもが信じられない。

咲「信じるも何も、天使だなんて冗談にも程があるよ。あなたは何者?どうして私のこと知ってるの?」

和「だから、私はあなたの所に来た天使なんですって」

咲「それが一番信じられないんだって・・・」

和「信じてください。私はあなたの願いを叶える為に来たんですから」

ひょっとしてテレビ番組の企画か何かだろうか。
咲は辺りを見回す。
他に人はいないようだが、どこかに小型カメラで撮影されてるかもしれない。
そうだ、そうに違いないと咲は結論を出した。
だとすれば、さっさと逃げ出すに限る。

咲「悪いけど私に叶えて欲しい願いなんか無いよ。他を当たってよ」

そう言い放って、咲はさっと駆け出した。
つまらない企画に乗ってやる義理は無いと判断したからだ。

和「ちょっと、咲さん!」

和の呼ぶ声が聞こえたが、無視して走る。

咲(天使って、今時そんなの信じる馬鹿がどこにいるの・・・)

おかしな事言うなと咲は走りながら考えた。
どうせ誰かを騙すにしても、もっと上手くやれるだろうに。
一体何を考えているんだか。

ダッシュで家の前に辿り着いたところでようやく足を止める。
乱れる息を整えながら、咲は玄関のドアに手を掛けた。
ここまで来れば、もう追い掛けて来ないだろう。

だが。

和「ひどいです、いきなり置いていくなんて」

後ろから聞こえた声に、中途半端に開けたドアをそのままに振り向く。

咲「なんで!?追って来たの!?」

和「当たり前でしょう」

得意そうに言って和は咲の背中に張り付いた。

和「だって、願いを叶えていないのに離れてどうするんですか」

咲「なんで抱き付くの!?放してよっ」

和「嫌です。また逃げられたら困りますから」

咲「困るって、一体なにが!」

玄関で声を上げている所為か、
聞きつけた照がどうかしたのかと姿を現した。

照「咲。おかえり。そんな所で立ってないで早く入ったら?」

咲「お、お姉ちゃん・・・あのね、この子は」

腰に張り付いている自称天使をどうしたものか。
困った表情をする咲に、照はきょとんと目を瞬かせる。

照「この子って?何を言ってるの?」

咲「え・・・」

驚いて咲が体を強張らせた瞬間。
和は腰にしがみ付いていた腕を解いてするっと家の中に入ってしまう。

咲「ちょっと・・・!」

咲には和がハッキリと見えている。
だが照は玄関の中へ入った和の姿に気付いた素振りすらしない。

和「私の姿が見えるのは、咲さんだけですよ」

こうして声も聞こえているのに。

照「咲?どうかしたの?」

和などいないかのように、照はまっすぐ咲だけを見ている。
すぐそこに不審人物がいるのにだ。

咲「ううん。なんでも無い・・・」

照「そう?なら早く入りなさい」

咲「あ、うん」

薄っすらと笑う天使の視線から目を逸らし、
咲は靴を脱いで中へと入る。

咲(まさか、本当の本当に・・・?)

姉がこんなタチの悪い冗談に乗るはずが無い。
顔を引き攣らす咲に、和はまだ信じて無いんですかと尋ねる。

和「ではこうしたら、信じますか?」

咲「・・・!」

何を思ったか、突然和は早歩きをして照が行こうとした方向へと先回りする。
普通ならぶつかる距離だ。
危ない、そう口に出そうとした瞬間信じられないものを目撃する。

咲(通り抜けた・・・!?)

トリックも何も無い。たしかにこの目で確認した。
和は確かに立っていたのに、
照はその体を通り抜けて歩いていた。

自室へと消えてく照を見送った後、
咲はそこで確かに立っている和へと視線を移した。

咲「あ、あなたは・・・幽霊なの?」

咄嗟にそう口にしたが、幽霊とは違うと咲にもわかっていた。
先程しがみ付いてきた和にはちゃんと体温があった。そしてちゃんと触れられる。
そんな幽霊、聞いたこと無い。

和「私は幽霊じゃありません」

和「それに咲さんだってそろそろ信じ始めているんでしょう」

咲「・・・・・・・・」

和「ここで話していると、またお姉さんが出てきますよ?妹が独り言を言ってるって」

和の指摘は最もだった。

咲「わかった、私の部屋へ行こう」

詳しい話を聞く必要がある、と咲は判断した。

~~~~~~~~~~~~~~~~~

咲「一から話してくれる?」

和「いいですよ。最初からそのつもりでしたし。今度は逃げないで聞いてくださいね」

咲「・・・・・わかった」

さっき走って逃げたことを、ちくっと言われる。
天使なのに随分人間っぽい反応だな、と咲は眉を顰めるが、
今は和の話を聞かなくてはならない。

まず、そのお願い事とやらのルールが始まる。

和「人間には一生で一回だけ願いを叶えられる機会が与えられます」

和「いつ叶えられるかは人によってそれぞれ違います。10歳以下の場合もあるし、年を取ってからの人もいます」

和「でもその人にとって人生で一番必要な場面で、私達みたいな天使が派遣されるんです」

で、あなたは今その時なんです、と天使が告げる。

咲「一生に一回だけ・・・それを覚えている人はいるの?」

今までそんな話、聞いたこと無い。
咲の質問に和は首を振った。

和「いませんよ。期間が過ぎるのと同時に記憶は消されます」

咲「え・・・」

和「例え願いが叶わなくても、その人間は天使と会った全てのことを忘れるんです」

和「この規則は絶対だから、誰の記憶にも残りません」

咲「期間、って?」

色々なルールがあるのだと気付く。
和は更に説明を始める。

和「願いを何にするか、皆悩むと思うんです」

和「だから、天使が現れた日から10日間までどうするか考える猶予を与えます」

和「勿論決まっているのならさっさと口に出して叶えてしまえばいい。その時点で終了。記憶は消されます」

咲「そのリミットが来ても願いを決めれなかったら・・・?」

咲が何気なく言った言葉に、
それまで勝気な表情だった和の瞳が揺れた。

咲(あれ?おかしなこと口にしたかな?)

だが次の瞬間、和の表情は元に戻っていた。

和「願いを決められなかった場合も、記憶が消されるのは同じです」

和「ただ何の願いも叶わないままで終わったということ。折角の機会を棒に振っただけです」

咲「・・・成る程」

それは勿体無いかな、と流石の咲も思う。
決められなかったら何でもいいから口に出しておいて損は無い。

和「それと願い事の内容ですが。色々制限があります」

咲「そうなの?」

はい、と和は頷く。

和「叶えられるのは、本人に関することだけです」

和「金品や財産の希望も、本人に見合ったものしか与えられないのも決まっています」

咲「じゃあ、例えば私が100億欲しいって言ってもダメってこと?」

和「はい。その人の環境に応じた額しか叶えられません」

咲「そっか」

和「でも咲さんはお金なんかいらないタイプに見えますけど」

天使の言う通りだったので、咲は否定もせずただ曖昧に笑った。
かといって、他に願いがある訳じゃないが。

和「永久的な願いもダメです」

和「あくまで現状で抱えている問題の解決の手助けとして、私達は派遣されるようなものですから」

咲「難しいなあ・・・」

現状で抱えている願いか、と考える。
色々あるけど、どれも天使に叶えて欲しい程では無い。

和「ゆっくり考えたらいいですよ。まだ時間はありますから」

そう言って笑う天使に、咲は一歩近付く。

咲「あなたは本当に天使なんだよね?」

和「ええ。そう言ってるじゃないですか」

咲「でも見た目は普通の人間と変わらない。でも認識しているのは私だけなんだよね?」

さっき照は和のことが見えて無かった。
おまけに体はぶつかることなくすり抜けてしまった。

和「はい。見えるのも声が聞こえるのも触れられるのも咲さんだけです」

和「私は咲さんの為に来た天使、ですから」

咲「私の為に?」

和「そうです」

屈託の無い笑顔で言われ、咲は一瞬言葉を失うが
もう一つ聞きたかった質問を口にする。

咲「あのさ、もう一つ。あなたが天使だって証拠を見せてくれない?」

和「見せるって、何をですか?」

咲「羽・・・あるんでしょ?少しだけ見せてくれないかな?」

天使のイメージといったら、やっぱり背中にある羽だろう。
だけど和にはそれが無い。
自分にしか見えないのなら隠す必要は無いのに。
姿形は全く普通の少女だ。

和「見たいんですか・・・?」

咲「うん」

何故か躊躇している表情に、好奇心が疼く。
人間がイメージしている羽と違うかもしれない。
どんなのかと更に興味が湧く。

咲「見せて。そうしたら、あなたが天使だって今度こそ認めるから」

そこまで言われたら和も嫌とは言えない。
渋々という感じで、咲に背を向ける。

和「わかりました」

そして服をそっと捲くって背を晒す。
細い少女の体のラインに生えてるそれを見て咲は目を見開く。

咲「本当に・・・羽があるんだ」

和「当たり前でしょう」

居心地悪そうに揺らめく羽が、そこにあった。
だけど、何故かそれは・・・。

咲「左翼しか、無い?」

右と左二つあるものだと思っていた羽は、左にしかついていない。
天使って一つの翼で飛ぶんだ・・・。
驚いている咲を察知したのか、和はさっと服を引っ張って羽を隠す。

和「本当は右と左両方あるのが普通です」

咲「え、じゃああなたはどうして」

和「私は見習いだから、片方しか無いんです」

咲「ええ?」

見習いと聞いて、咲は驚く。
天使にそんな制度があるなんて思わなかったから。

和は和で、咲が見習いと聞いて不安に思ったと判断したらしい。
くるっと顔を正面に向けて、大丈夫だと力強く声を上げる。

和「見習いは必ずこの仕事から始めるんです!だから咲さんの願いもちゃんと叶えますから!」

咲「え・・・あ、私は別に不安に思っている訳じゃ」

和「これが終わったらもうひとつの羽が生えます。ちゃんとした天使になれるんです」

和「絶対に成功させるんですから、真面目に願い事を考えてくださいね!」

和の迫力に思わず咲は黙って頷いた。
特に願いなんか無い、とは言える雰囲気じゃない。
ここは反論しない方が良いだろう。

咲の態度に、和は満足げに笑みを零した。
そしてベッドに横になる。

和「一通り説明したら疲れました。ちょっと眠ってもいいですか?」

咲「いいけど・・・って、どうして私のベッドに潜ってるの!?」

勝手に布団を捲って寝ようとする和に、
咲は慌てて止めに入った。

和「どうしてって、まさか床で寝ろなんて言いませんよね?」

和「いつも雲のベッドで寝ていますから、そんな所硬くて寝られませんよ」

咲「だったら一旦帰ればいいじゃない」

和「願い事を叶えるまでは帰れません。その人間とずっと一緒にいるルールなんです」

なんだそれはと咲は呆然とする。
ということは、ずっとこの天使と一緒に過ごす・・・?

ぼんやりしてる間に和はさっさと布団に入り、
横になって目を閉じてしまう。

咲「ちょっと待って。今夜、私の寝る場所は!?」

床で寝るにしても布団は必要だ。
しかし母に説明のしようが無い。
天使が寝ているから自分の布団が無いんです・・・なんて。

和「ここ、スペース空けておきますから。一緒に寝ればいいじゃないですか」

咲「は、あ?」

和「このベッド広いですし。私も咲さんもそんなに体が大きくないから大丈夫でしょう」

咲「何勝手に決めて」

和「おやすみなさい」

すう、と天使は一瞬で意識を手放してしまった。

咲「寝つき良過ぎるんじゃない・・・・?」

咲は頭を抱える。
出ていってもらう為には願いを口にするしか無い。
だけど折角与えられた機会を、適当なことで不意にしてしまうのも癪に障る。
一生に一度のチャンスなのだ。

咲(願い、願いね・・・)

母親が夕飯の支度を手伝ってと声を掛けるまで、
咲はじっと天使の寝顔を見て悩み続けた。

~~~~~~~~~~~~~~~~

続きます。

乙です

>>27 >>28
ありがとう。レスもらえると嬉しいもんですね。
次は未定だけどなるべく早く投下できるよう頑張ります。


知名度低いけど不安の中に手を突っ込んでとかも好き

暖かな体温を感じ、咲はぎょっと目を開いた。

咲「そういや、いたなあ・・・」

夢じゃなかった、と呟く。

ぎゅっと咲の胸に顔を押し付け、ぐっすりと傍らで眠っているのは
・・・見習い天使の和。

和『私はあなたの願いを叶えにやって来た天使です』

昨日、一通りの説明を終えたら勝手に寝てしまい、それからずっと目を覚まさない。
ベッドで寝ている和を見てどうしようかと
風呂から上がった後少しばかり考え込んでしまった。

会って間もない天使とベッドを共にするなんて、普通じゃ考えられない状況だ。
しかし寝る場所はここしかない。床でなんて寝たら風邪を引いてしまう。
こっちが追い出される必要は無いと判断し、咲は和の隣に潜り込んで寝ることに決めた。

と。
その時はたしかに並んで寝ていたはずだった。

咲「なんで私にくっついてるんだろ」

寝ている間に移動していたらしい。
ぴとっとくっ付いてる寝姿は可愛らしいが、よくもまあこんなに無防備になれるもんだと呆れてしまう。
起きないかな、と鼻をくすぐると和は「うーん」と唸っただけでやはり眠ったまま。

溜息をついてベッドから起き上がる。
すると天使が寒そうに肩を震わせたので、布団を掛け直しておく。
姿が見えないのならここで寝かせておいても問題は無いだろう。
放っておけばいつかは起きるはずだ。

咲はパジャマを脱いで制服に着替え、
洗顔と朝食を取る為に階下へと降りていく。

照「おはよう咲」

咲「おはようお姉ちゃん」

洗面所へ向かうと姉が出て来た。
髪のセットを終えたところのようだ。
一旦鏡に向かうと長いので、終わってて良かったと内心で思う。

それからキッチンでお弁当を作り、朝食をとるためテーブルにつく。

母「咲。コーヒーのお代わりはいる?」

咲「うん、ありがとう」

朝食を平らげて、最後にコーヒーのカップを手に取って一息つく。
そろそろ朝練へ行く時間だ。
歯を磨いたら出掛けようかと咲がコーヒーを口に含んだ瞬間、
階段から足音が聞こえて来た。

まさかと思ったが、ドアがそっと開かれる。
幸いなことに母は後ろを向いていたのでその事に気付かない。

和「咲さん!良かった、まだいましたか」

まだまだ寝てるとばかり思っていた和が顔を出す。

和「起こしてくれればいいのに。なんで先に行っちゃうんですか」

飲み掛けていたコーヒーを、咲はごくんと飲み込んだ。

咲「当分寝てるだろうと思ったからね・・・」

照はもう出て行ってしまっている。
洗い物をしている母に聞こえないように咲は小声を出した。
起きずにいてくれれば良かったのに、と本音は胸の内で呟く。

和「咲さんのベッド、寝心地が良かったですから」

咲「そりゃどうも」

そんな事褒められてもなあ、と軽く首を振って咲は立ち上がった。

咲「ご馳走様」

母にそう告げると、ぱっと顔を上げてそろそろ行く時間かしらと言われる。
やっぱりすぐ側にいる和は目に入っていないようだ。
頭ではわかっていても、妙な気分だ。

咲「うん。準備したら出るよ」

食器を洗ってから、咲は洗面所へと歩き出す。
その後ろを何故か和が付いて来る。

和「どこに行くんですか?」

咲「歯磨きするんだよ。それから学校」

和「こんな朝早くからですか?」

咲「朝練があるからね」

和「朝練って何ですか?」

一々質問をしてくる天使に咲は大きく溜息をついた。

咲「ねえ、そんな事知ってどうするつもり?」

咲の問いに和は大きな目を瞬かせる。
まるで何故そんな事聞くのかと言いたいようだ。

和「だって、私は咲さんの願いを叶える為に来たんですよ?」

咲「それは聞いたよ」

和「だから咲さんが今何をしているか、色々知った上でどんなことを叶えたいか」

和「私なりに一番ベストな願いを調べてみようと思いまして」

そんなことを考えていたのか。
和に背を向けて歯ブラシを手に取る。
そのままの状態で咲は言葉を返す。

咲「別にそんなことしなくてもいいよ。願い事なら私なりに今考えている所だし、大人しく待っててくれないかな」

和「でも・・・」

和は小声で何か呟いたが、歯を磨き始めた咲の耳にそれは届かなかった。

願いなんて自分で適当に考えられる。
色々考えて、ベストな願いを叶えるだって?
大きなお世話だ。
人の内側に踏み込んで来る権利は、例え天使であろうと無いはず。

咲「とにかく、私が結論出すまであなたは待っているだけでいいよ」

咲「あまり余計なことはしないこと。いいね?」

自室に戻り、咲は鞄を手に取った。

咲「じゃあ、私は学校へ行ってくるから」

ここに居るようにと和に言い聞かせ、外へと出る。
もたもたしていたら遅れてしまう。
走る程じゃないが、少し急ぎ足で咲は冷たい空気の中を歩く。

淡「咲ー、おはよー!」

咲「おはよう。淡ちゃん」

交差点の途中、手を振りながら淡が走って来た。
そんな大声出さなくてもいいのに、と思いながらも咲は淡が追い付いて来るまで止まって待つ。
置いて行ったらそれこそ後がうるさい。

淡「今日も寒いねー!朝早くだと特に堪えるよね」

咲「毎朝同じこと言ってる気がするんだけど。いい加減慣れたら?」

淡「もー。だったら咲は寒くないとでも言うの?」

咲「寒いとは思うけど、わかりきってるから口にしないだけ」

淡「わかってるけど、寒いものは寒いんだもん!」

ほら、息も白いと淡はハァとわざわざ口で呼吸をしてみせる。

咲「しょうがないでしょ。冬なんだから」

嫌でも春が来るまでこの状態は続く。
素っ気無く返す咲に、淡は咲の顔を覗き込む。

淡「なんか咲、今日は機嫌悪い?」

咲「そんな事無いけど」

淡「でもいつもより咲の顔が怖いというか」

何か感じる所があるらしい淡に気のせいだよときっぱり告げる。

淡「そうかなー」

咲「そうだよ。あ、そうだ。今日の帰り本屋に付き合ってよ。今日発売の新刊が欲しくって」

淡「いいけど、ついでに近くのペットショップ寄っていい?あそこのにゃんこに挨拶したいから」

咲「うん、いいよ」

淡「で、お腹空いたら温かい肉まんでも食べたいねー」

咲「そうだね」

話題は逸れて他愛の無いことを喋りながら、二人で学校へと向かう。
淡と会って普通の日常を取り戻した所為か、咲は和がどうなってるかもう気にしなくなっていた。
部屋にいろと言ったし出てくる訳が無い。そう高をくくっていた。

だがそれはとんでもない誤りだった。
咲が思っている程、和という天使は甘くは無い。

淡「ふえー、朝からスパルタだよー」

咲「あはは。菫先輩容赦ないからね。ほら、次淡ちゃんの番だよ」

淡「えー、もう?」

朝練といえども一切手抜きは無い。
夏の大会が終わっても、白糸台麻雀部では三年生も引退せずに部活を行っている。

菫「淡、尭深。卓につけ」

淡「ふぁーい」

尭深「はい」

部長の菫の声に、淡はよろよろと卓へ向かう。
朝からハードなメニューをこなすことでばてている部員もいるが、
文句を言う者は誰もいない。

次の大会でも全国へ行きたい、そう思うのは皆同じだ。
それに、照の存在。
インハイチャンプである照がいるだけで部員達の士気が上がっていく。
大した牽引力だな、と咲は皮肉っぽく笑った。

全国に行きたいのは咲とて同じ気持ちだ。
ただ何だろう。
上手く言えないが、反発心のようなものも湧きあがるのも事実だ。

姉には敵わない、そういった嫉妬やつまらない感情から来るとわかっているが、
簡単に整理出来るものじゃない。
咲だってまだ15歳の子供だ。

咲(嫌だな。最近どうも憂鬱になりがちだよ)

気持ちを切り替えよう、と咲は軽く頭を振る。
そろそろ咲の番だ。
いつものようにそつなくこなさなくちゃ・・・と思ったその時だった。

和「なるほど。咲さんの言う朝練っていうのはこれのことですか」

本日二度目の衝撃。
だが顔には出さず、咲はさりげなく後ろを振り向いた。
予想通り、そこには和が立っている。

咲「・・・・・なんで?」

口の形だけで伝える。
こんな人目が多い所で声を出す訳にはいかない。
帰って、と更に続けるが、和は知らん顔で入り口から堂々と入って来てしまう。

和「驚きました?実はずっと後を着けてたんです。咲さんは全然気付かなかったですけど」

咲「・・・・・・・」

これだけ大勢の人がいるのに、誰もこの子の存在に気付かない。
‘何しに来たの’
誰も見ていないことを確認して、小声で告げる。
それに対しての回答は、やはりあり難くも無いものだった。

和「何しにって、咲さんがどんな生活送っているか調べに来たんです」

はあ、と咲は溜息をつく。
何を願うかなんて人の勝手なのに、何故そこまで干渉してくるのか。
それとも何か目的でもあるというのだろうか・・・?

菫「咲、次はお前の番だ」

考え込んでいる間に淡たちの練習が終わったらしい。
菫の声に、咲は我に返りさっと踵を返す。

咲「はい」

和にとやかく言っている場合じゃない。
背を向けて歩き出すと、後ろから頑張ってくださいねと和の声が被さって来た。
げっそり気力が削がれるのを感じながらも、咲は何とかメニューのノルマをこなして行く。

和「これって麻雀って言うんですよね。こっちの世界のことを学んだ時にありました」

咲「・・・・・・・」

とりあえず今は注意している時間が無い。
朝練が終わるまで、もう少し。
着替え終えたら、授業が始まる前になんとか帰ってもらおう。


お疲れ様の声が終わるか終わらないかの間に、咲はダッシュで部室から出ようとする。
勿論、和も咲の後をぴったりくっ付いてきた。

淡「咲、宿題でも忘れたの?やけに早いけど」

咲「ごめん!ちょっと先に行かせて!」

淡達を残して、咲は人影のいなさそうな校庭の隅へと向かった。
早い所、天使を家に戻さなければいけない。
このまま付き纏われるなんて冗談じゃない。

咲「すぐに帰っ」

和「咲さんはすごいですね。ルールは知りませんが、麻雀の腕が他の人とはケタ違いなのはわかりました」

とにかく帰れと言う前に、天使の方が先に言いたいことを喋ってしまう。
馬鹿にしてる風じゃなくきらきらした目でスゴイです、なんて言われたら
流石の咲も気が削がれてしまう。

咲「・・・大したことじゃないよ、別に」

和「そうですか?でも咲さんの動きは特別綺麗に見えましたよ」

咲「それはどうも」

調子狂うなあ、と咲は指で頬を掻いた。
ここまで無邪気に言われると、さっきまで言おうと思っていた文句も言えなくなる。
だが和が次の言う言葉にまた気分が下降してしまう。

和「あの中で、咲さんが一番上手なんですか?」

咲「・・・・・・違うよ」

和「え?」

咲「私が一番なんじゃない・・・」

照は指示を出していた菫の隣にいただけで、卓には入らなかった。
だから和は照の打つ所を見ていない。
見ていたら、自分が一番上手なんて言わなかっただろう。決して。

和「咲さんよりも強い人がいるんですか?」

咲「いるよ。・・・・・・お姉ちゃん」

和「咲さんのお姉さん、そんなに強いんですか」

咲「お姉ちゃんはこの麻雀部で一番強いよ。全国の個人戦でも優勝した位だし」

和「全国・・・色んな所で麻雀をしている人の中でもぬきん出て強いってことですか?」

咲「うん。私なんて到底敵わない位にね」

言ってて虚しくなる。
段々と投げ遣りな気分になって来た咲は、そうだとある事を思い付く。

咲「私の願いだけど、一度だけでもいいからお姉ちゃんに勝つっていうのはどうかな?」

永久的なものは敵わないと説明にあった。
でも、一度だけでも。
あの姉に勝つことが出来たら、こんな鬱屈した気持ちも少しは晴れるんじゃないだろうか。
そんな馬鹿な考えがふと浮かんだ。

咲「ねえ、お願いはそれにしない?」

咲の言葉を聞いて、和はゆっくり頭を振った。

和「お願い事を使って勝ったとして、それで咲さんは嬉しいんですか?」

咲「そりゃ、当たり前・・・」

言いながらも口篭る。
真っ直ぐ何もかも見透かすような和の目に見つめられ、何も言えなくなる。

和「後悔すると思いますし、私はその願いはお薦めしません」

和「まだ時間はあります。もっとちゃんとした事を考えるべきです」

真面目な口調に、心がギリギリと嫌な音を立てるのを感じる。
吐き捨てるように呟く。

咲「…何を願おうと、私の勝手じゃない」

くるっと背を向けて咲は早足で歩き出す。

和「咲さん!待ってください」

咲「ついて来ないで。あなたがいると何か苛々するから」

突き放すように言って、更に距離を縮める。

咲(あんな、会って間もないのに・・・)

ずるをして勝っても、嬉しくないなんて自分がよくわかってる。
ただ、一度だけでも姉の鼻を明かしてやりたい。
それだけの為に勝ってもなんの意味が無いのも知ってる。

でもそれを自分以外の・・・昨日会ったばかりの天使に言われ、どうにも面白くない気分が収まらない。
ベストな願いとか何かごちゃごちゃ言っていたが、さっさと願いを叶えて帰ってもらおうと心に固く決める。
これ以上心を掻き乱される前に。

~~~~~~~~~~~~~~~~~

続きます。

>>33
良い曲なのにあまり知られてないのは寂しいですよね。
槙原さんはもっと評価されても良いと思います。

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