ユキ「弟の目」 (43)

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伊奈帆「姉の腕」
伊奈帆「姉の腕」2

姉弟 たぶんエロ 16話までのネタバレ



「何が、しばらくよ……しばらくにも程がある」

とユキは思うものの、もちろん弟のせいではない。

「あなたが怒ってるのって、だいたい伊奈帆のことでよね」

隣を歩いていたライエが言った。
久々に会った彼女は、以前よりも落ち着いていた。
成長したのか。
感慨深いものをユキは感じつつ、頬を膨らませる。

「怒ってないわ、別に」

「素っ気ない挨拶に腹が立っているんでしょ」

ライエを見る。
穏やかな瞳で、口の端を少し斜めに上げていた。

「ライエちゃん……」

「あははッ……変わらないわね」

「大人をからかうものじゃないわ」

「ごめんなさい」

嫌味のない笑みを浮かべる。自らの意思でこの船に残った彼ら。
自分ができるのは補給の間だけの護衛くらいで。
何を言っても聞かない彼らに、心中穏やかではない。

「あの子、何考えてるのかな」

「本心は墓場まで持っていきそうよね」

「小さい頃はだいたい顔を見たら何を考えてるのか分かったのに……」

「それっていつくらい?」

「身長がこのくらいだった時かな?」

手のひらをライエのお腹辺りの位置に止める。

「可愛かった頃?」

「そう、可愛かった頃」

足音。
ユキは振り向いた。

「今は可愛くないってこと?」

伊奈帆が立っていた。



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急に用事を思い出したと言ってライエは去っていった。
ユキはやや居心地の悪さを覚えていたが、久しぶりの弟に感極まって無意識の内に抱擁していた。

「ユキ姉、苦しい」

「ちょっとだけいいじゃない」

先程まで、文句を言ってやろうかと思っていたのに、会ってしまうとやはり自分は弟には甘いようだった。
されるがままなのは、嬉しく感じていると取っていいのだろうか。

「ここでの生活は慣れた?」

身体を離す。

「それは私の台詞。私は鞠戸大尉もいるしね。体の方はどう?」

伊奈帆の瞳が動く。

「生活には支障ないね。戦闘では問題がないわけではいけど、調整していく予定かな」

ユキは弟の瞼の上に触れる。
自分の右手が震え始めたのに気がつき、さっと後ろ手に回した。

「ユキ姉? 大丈夫?」

「ええ……」

代われるものなら、自分がと何度思ったか。
そんな姉の心配を他所に、意識が戻った途端、すぐ自分の義眼の微調整に取り掛かるのだから、我が弟は本当に人間なのかと時たま疑ってしまう。

「なお君は疲れとか溜まってない?」

「まあ、多少はね」

「お休みとか取れないの?」

「それ、冗談?」

「む、なお君ちゃんと休んでるの?」

「休んでるよ。ちなみに、ユキ姉」

「なに?」

伊奈帆はユキの腕を掴む。

「少し痩せた?」

「あ、わかる? そうなの、そうなの」

「それに、ちょっと貧血気味」

「そこまで分かるの?」

「数値的にはね。それと、血圧・血糖値が少し上昇してる。β-エンドルフィンの分泌が活性化してきてるね」

ユキは咄嗟に、伊奈帆の目に手のひらを押し当てた。

「こらッ、勝手に覗かないの!」

「ユキ姉」

「な、なに?」

「ボクに会えて、嬉しかった?」

「……そんなの言わなくても、なお君は分かるんでしょ」

彼は、ユキの手を掴み、自分の唇に押し当てる。

ユキは羞恥から、手をさっと引いた。

「言わなきゃ、分からないよ」

「う、嬉しいもん、すごく嬉しいもん! 言わされなくても、嬉しいんだから!」

彼は多少分かりやすく微笑んだ。

「そう」

「なお君は、心配性なんだから」

「それは、ユキ姉の方。ずいぶん、走り回ったみたいだね」

「げ……知ってたの」

「情報はどこからでも入ってくるからね」

「鞠戸大尉かなあ?」

ユキは首を捻る。

「彼とは上手くやってる?」

「そりゃもう腐れ縁ですから。そうそう、この間の戦闘では世話になったなって伝えてって」

「ああ。あれは、ユキ姉を助けようとしたら、偶然鞠戸大尉がいた、と言った方が正しいかな」

「……そんなこと言わないの」

「冗談だよ」

「今ではけっこう戦闘とかもこなされてるんだから」

「彼は、船に乗ると思っていたんだけどね。まさか、ユキ姉と同じ所に配属になるなんて」

「大尉がいた方が、なお君も安心でしょ?」

間。

「……うん、そうだね」

「なお君?」

と、彼は足を止めた。

「どうしたの?」

「ボクの部屋に着いた」

「え? あ」

「どうするの?」

「他にも挨拶したい人がいるから……これで」

踵を返そうとして、ユキは伊奈帆に腕を掴まれていた。

眠いのでここまで
明後日くらいまでには終わります

「そうじゃない。わかるよね」

「なお君……ダメなの」

「ユキ姉は諦めてるかもしれないけど、僕は違う」

彼は、自分勝手で、傲慢な少年らしい眼差しを向ける。
ユキは目を伏せた。
俯いたまま、言うべき言葉を言った。

「聞いて、私……大尉と付き合うことに」

二人闇に落ちるよりも、この方がきっと幸せだろう。

「……」

沈黙。
耳を澄ますと、微かに、本当に微かに電子音が聞こえた。

キュイン―

「嘘はついてないんだ」

「あなたに嘘なんて言う訳ないじゃない」

もしかしたら、あの目でそんなことまで分かるのか。

「もう、寝たの?」

「寝たって……か、関係ないでしょ。なお君にはっ」

「寝たんだ」

「なおく……っ!?」

伊奈帆が両腕を拘束しながら、ユキを部屋の扉に押し付ける。
ユキは壁際に背中を打ち付け、顔を歪ませた。

「それだけは聞きたくなかった」

耳の傍でロック解除音が聞こえた。
気が付くと、ユキは彼の部屋に倒れ込んでいた。

「っ……いたっ」

背中をさすりながら見上げると、ゆっくりと扉が閉まっていくのが見えた。

「な、なお君!!」

締まり切る前に見えた彼の横顔。
ほんの一瞬で、見えなくなってしまう。
ユキはすぐに、扉を叩いた。

「何するの!?」

声はない。
内側からは開かない。
このアームで無理やりこじ開けるべきか。

「……っ」

しかし、扉を開けて弟になんと言えばいい。
自分のことは諦めて、と伝えればいいのか。
賢い彼が、こんなにも感情をむき出しているのに。

「……私は逃げてるだけなのかな」

彼とそういった行為をしたのは、ごく最近のことだった。
本当は、そんなつもりはなかったのだ。
付き合うことに決めただけで、返事はまだしていない。
ただ、酔った彼の弱々しさに哀れを誘われて。
彼の体はとても逞しかった。
ただ、心は余りにも繊細で。

気持ちが良かったのか、と問われるとそうではない。
話に聞いていたよりも随分と痛みが伴った。
興奮する彼の下で、ただ唇を噛み締めて、シーツを握りしめていた。

とさり、とユキは地べたに横座りになった。
見ようによっては都合のいい関係だ。
傷を慰め合う。
大尉は違うのかもしれないが。

けれど、不純だ。
どこを切り取っても、伊奈帆――弟にとっては。
身勝手な姉に、愛想を尽かしてくれれば、それでもいい。
どうしたって、愛し合えないのだから。
どうしたらいいのかなんて、考えなくてもわかるではないか。

「……バカみたい」

どうして、自分の守りたい人間は、
みな渦中に飛び込もうとするのだろう。
伊奈帆が怪我をせず、平穏に暮らせる。
そんな世界は今やどこを探しても存在しない。
ならば、せめて前線から身を引いて欲しい。

ため息。
彼にだって、ここ最近で沢山の出会いがあった。
それが彼を戦場へと向かわせているのか。

ユキは立ち上がる。
見回すと、様々な計算式が書かれたメモが何枚も散らばっていた。
用紙の罫線を無視してもなお、一つの証明が美しく成り立っている。

弟の頭の中はたぶんこんな感じなのだ。
ベッドへと視線を転じる。
姉弟で、半サイボーグの仲間入り。

ユキはベッドへ寝転がった。
ふて寝してやろう。
閉じ込めるなら、逆にテコでも動かない。
いずれ、誰かが見つけるだろうし。
カサリと、頭の下で何かが擦れた。

「?」

ピンク色の付箋。
半分以上血糊がついている。
ユキはそれをつまみ上げる。
映像がフラッシュバックする。

身体が震えた。
両腕で自分を抱きしめた。

ここまで

『なお君、ガンバだよ!』

頑張り過ぎなくて良かったのに。こんな結末誰も望んでいなかった。
自宅の朝食の風景がさっと脳裏をかすめる。寝坊する姉の代わりに、いつも温かいご飯を用意してくれた。
戦争が急激な変化をもたらした。彼はもう姉のために朝食を用意することはない。
伊奈帆が血を流して倒れている映像に引き戻される。

目を閉じて、ユキはベッドに身を委ねる。
伊奈帆の匂いが、やたら落ち着く。
大尉とは違う。
家の匂い。
好き。

「……やだなあ」

自己嫌悪。
初めから、分かっていたのに。
不誠実なことを想ってしまう。
最初から大好きなのは分かっていた。

諦められるわけがないのに。
諦めさせて欲しいのに。
どうして、彼は離してくれないのか。

あの日、両親が亡くなり、
あの子を守らなくてはと思った。
二人で生きていこうと思った。
それが、間違いだった。

彼の好意に浸っていた。
まだ大丈夫と。
その先へと、近づきながら。

プルル――

「……鞠戸大尉」

ピッ

「なんでしょうか?」

『どこにいるんだ?』

「艦内にいます。弟の部屋です」

『買い出し行くから、頭数揃えてたんだが……姉弟水入らずのとこ邪魔したな』

「いえ、いつ出られますか?」

『30分後。来れそうなら、南ゲートへ集合してくれ』

「了解です」

『じゃ』

ピッ

ユキは立ち上がり、もう一度部屋の扉を叩いた。

「なお君? いないの?」

返事がない代わりに、扉が開いた。

そこにいたのは、耶賀頼先生だった。

「耶賀頼先生……どうされたんですか?」

「弟くんに用があったんですが……いや、今は界塚少尉でしたか」

「弟は今、外出中でして……」

「そうですか。目のことで少しお話があったのですが。准尉も腕の調子はどうですか?」

「え、ええ大丈夫です」

「何かあれば教えてください」

「ありがとうございます」

「でも、おかしいな……」

「どうされたんです?」

「今朝……調整について話があるから昼頃に医務室に伺うと聞いていたのですが……」

「あ……」

たぶん、私のせいかもしれない。

「私、ちょっと探してきますね」

「あ、かまいませんよ」

「いえ、弟の不手際です。ごめんなさい」

ユキは一礼して、その場を走り去った。

途中、カームに会った。
彼は格納庫で伊奈帆を見かけたと教えてくれた。
他にも何人かの整備士達がいて、
専門用語を用いて、たぶんデューカリオンのエンジンについて話ながら歩き去っていった。

休憩時間だろうか。
ユキは足早に向かう。

格納庫は静まり返っていた。
数名の整備士がちょこまかと動き回っている。
だだ広い空間に、やや途方に暮れつつ、ユキは弟の名前を呼んだ。

「なおくーん……?」

遠くにいた男性が振り返ってこちらを見ていたが、
すぐに作業に戻った。

「どこにいるの……」

ゴウン―と音が鳴った。
見上げると、オレンジの機体――KG-6 スレイプニール――の傍のリフトが作動していた。
人が2人程乗れるくらいの小さなリフトの上に、伊奈帆が立っていた。

「なお君!」

声が格納庫に響く。
彼に届いていないはずはないが、伊奈帆はそのままコクピットへ搭乗していった。

「なによお……ッ」

その態度に少し腹立ち、彼女は地団駄を踏む。
ユキは反対側のリフトに乗り込み、彼の後を追った。
コクピットの位置で止めて、機体を左手で叩いた。

「もしもし? 開けてもらえるかしら?」

重厚な音を立てて、入口が開かれる。
弟が、いつもの怒っているのか真顔なのかよくわからない表情でこちらを見ていた。

「出られたんだ」

「耶賀頼先生が開けてくれましたけど!」

「……あ」

「忘れてたでしょッ。私のことは困らせてもいいけど、他の人に迷惑をかけるのはダメだからね」

「ごめん。後で謝っておくよ」

それから、すぐに備え付けられたインジケーターの一つに視線を移した。
機体とエンジンの冷却システムに異常が見られたのがユキにも分かった。
大気圏突入の時に何かトラブルでもあったのか。
また、無理をしたのか。それも、計算上の。

「ユキ姉、何か用?」

こちらを見ずに伊奈帆。

「用があったのは、なお君じゃなかったの」

「いいよ、もう」

「私が良くないの」

「ユキ姉が言ったんじゃない。関係ないって」

「そ、そうだけど」

拍子抜けて、ユキは言葉に詰まる。

「なら、もう、仕方がないよ」

「なお君……」

「僕が、ユキ姉の未来を奪う訳にはいかないしね」

彼は手を休めて、ユキに向かい合う。

「さっきは突き飛ばしてごめん」



――おお、鞠戸大尉!


下でそんな声が聞こえた。
ユキは咄嗟に、

「ユキ姉?」

コクピットに転がり込んでいた。

「いた……」

「ご、ごめんなお君ッ」

弟の顔を胸の辺りで押しつぶしていた。

「……」

ピッ

「え?」

コクピットが閉まっていく。
完全に密室になり、外の光が消えた。
計器類のランプが爛々と点っていた。
薄暗い。
弟の顔がぼんやりと映し出されている。

「閉めなくても……」

「同じだよ」

「?」

「ユキ姉、大尉に会いたくなかったんでしょ? 僕も同じだった。ユキ姉の理由はよく分からないけど。それより、少し退いてくれる?」

下で身動きの取れない様子の伊奈帆が言った。

「それが、けっこういっぱいいっぱいで……」

「顔の前に胸が合って、困る」

「ちょっとッ」

「だから退いてと言ってるのに」

分かっている。
さっさと扉を開けてしまえばいいのだ。
同じじゃない、と言ってしまえ。
スイッチの場所は知っているから。

ユキは計器類を左手で破壊してしまわないように、そっと身体を捩る。
空調をやや暖かく設定しているのか、手のひらがじわっと汗ばんでいた。
伊奈帆が重くないように、体重を預けないよう足と腰で踏ん張っていたが、
それも限界に近い。

「なお君、ここちょっと熱くない?」

「そう?」

それとも自分の体が火照っているだけなのだろうか。
弟の微かな息遣いが、耳をくすぐった。
心なしか荒い。
荒いのは、自分の鼓動もだ。

「それとも、出る?」

二転三転するユキの心を見透かすように、伊奈帆は言った。
ユキはそこで頷くつもりだった。

「私は……」

なのに、彼は最後の最後に言い残していた言葉のように、

「行かないで」

ユキを抱きしめながら言った。

「そんなこと……」

動けなかった。
嬉しくて。
あまりにも、愛おしすぎて。
身動きがとれなかった。

弟を守れなかったと泣いたあの日。
失ったと思ったあの日。

病室のベッドで、
伊奈帆が目覚めるのを、
待ち焦がれていた日々。

覚醒したあの日。
ユキは思った。
弟を守りたいと。
離れたくないと。


この手を離したくないと。

「いつか、他の誰かの所へ、鞠戸大尉の所へ行ってしまうのかもしれない。でも、今はそうじゃない」

ユキは唾を飲み込んだ。諦めたいと思ったのに。
認めたくない。本当に、諦めたくなかったのは自分だったことを。

「だから……おっと」

伊奈帆を抱きしめ返す。

「ユキ姉?」

「こんな酷いお姉ちゃんの……どこがいいの」

「こんな酷い弟をずっと守ってくれた所かな」

ユキは顔を上げた。
強さと優しさが彼の瞳の中にあった。
吸い込まれるように、唇を寄せた。

「んッ……」

水音が跳ねた。

「……ぅむッ」

柔らかな感触が、背筋を戦慄かせる。

いつの間にか、唾液を吸い取るように、口内を蹂躙されていた。
満足そうに、伊奈帆が口を離す。
ユキは腰に甘美な刺激を受け、へなへなと弟の足に跨っていた。

「はッ……ぁ」

息をつく暇もなく、何度もキスをされた。
しだいに、シャツの上から身体を弄られ、
丁寧に乳房を揉みしだかれた。

「んぅ……ッ」

その刺激に耐えながら、
ユキはキスを繰り返す。
伊奈帆の舌に、自分のを絡ませる。
先程より、さらに熱い。
むわっとした火照りを嗅ぐように、
伊奈帆か顔をずらし、ユキの脇に鼻頭をぐりぐりと押し付けた。

「やだやだッ……ちょっとなお君ッ」

「却下」

右手でブラのホックを外される。
一瞬の手際で、ユキは弟に悪態を吐こうとした。
が、

「なお君……手際良くな……んあッ?!」

ぷっくりとした二つの突起部分をシャツの下から摘まれた。
切なさに、口元が弛緩しいやらしく声が出た。

「硬いね……。もしかして、胸弄ったりしてるの?」

「そんなわけ……ぁ」

「ボタン、外してもらっていい?」

伊奈帆が触りにくそうにしていたので、
ユキはシャツのボタンを取り外していく。
その間も、彼は乳房の形が変わるのを楽しむように、たゆませていた。
ブラを外し、シャツの袖を腕から抜き取った所で、
彼が動きを止めてこちらを眺めているのに気がついた。

「やらしいね」

ユキは咄嗟に胸を隠す。
肉感的な肌は自覚していたが、羞恥が込み上げる。

「何度か見てるのに、興奮する」

言いながら、両手の親指をぺろりと舐めた。
ユキの腕をどかせ、唾液を塗りこむように、両乳首をぐりぐりとこねる。

「ッひん………ぁ」

さきほどより滑らかな攻めに、ユキは腰をびくつかせた。

「ユキ姉の顔、すごくクる……」

耳元で囁き、

「そういうこと言わないで……ッんむ」

キス。
このまま食べられてしまうんじゃないかと思うくらい、
彼は執拗に入念に唇や肩口や、胸に唇を落としていった。
触れ合うたび、快感が増して。
ユキは鞠戸大尉との違いに驚いていた。

「……ユキ姉」

「な……に」

「下、触るよ」

「え」

くちゅり、と聞こえたような気がした。

「……ッふあ」

「もう、濡れてるね。タイツ越しなのに、すごい」

スカートを腰までずり上げて、タイツとパンツ越しに擦られている。
なんとなく自分でも湿っているのは分かっていたが、
言われると余計な恥ずかしさがこみ上げた。




伊奈帆はユキの手を取って、興奮気味に、

「こっちもお願い」

ズボンの膨らみをまさぐらせた。
恐る恐るチャックをひいて、トランクスをかき分けると、勢いよく男性器が姿を現す。
暗がりで詳細に分からないため、性欲の塊のような強烈な匂いが意識される。

「ッ……」

ぬるっとして生暖かいそれを握りこむと、伊奈帆が小さく呻いた。

「気持い?」

「うん」

余裕のない表情。
可愛らしい。
上下に擦りながら、刺激を与えるうちに、
先程より硬さが増していった。

「うあ……」

突起の先端を人差し指で引っ掻くようにこすると、
伊奈帆は腰を浮き上がらせた。
少し楽しくてもっと続けようとしたら、腕を掴まれる。

「待って」

「あ、ごめんね……痛かった?」

「違うよ。大丈夫」


彼の吐息がやけに艶っぽくて、ユキは喉が震えた。
興奮しているのが分かり、情けないような切ないような。
前に、弟が自分で慰めているのを見たことがあったが、
その時とはまた違うエロスがあった。

「今度は舐めて欲しい」

端的に言われ、一瞬ユキは意味がわからなかった。
数秒ほどで、

「え、舐めるの……」

と、惚けた。

「嫌なら、僕が舐める」

「自分で?」

彼はそれには返事をせず、ユキの下腹部のスパッツを引き伸ばして、無理やり引き裂いた。
下着を手元にあったハサミで切り裂く。
はらはらと、布切れが落ちていった。

「こっち」

「きゃッ!? ひ、ひど……いよぉ」

「だって、脱ぐの大変でしょ」

「そうだけど……」

ユキは涙を我慢して、伊奈帆に抗議の視線を送った。

「どっちが舐める?」

弟にこんな所を舐められるわけには。
しかし、こんな所を舐めるのも。

「わ、私が……する」

「OK」

位置をずらして、ユキはそそり立つ男根の前まで顔を移動させた。
両手で彼のズボンを握り締める。
伊奈帆が頭を撫でる。目線だけを上に向けると、少し笑っていた。
それがなんだか癪だった。負けたような気がする。

それでも、ユキはゆっくりゆっくり口をそれに近づけていく。
匂いに慣れたのか、あまり気にしなくなっていた。

「噛まないでね」

言われて、頷く。
とにかく舌の先を出してみた。
ちろちろと先端部分を舐め上げる。

「ッ……」

伊奈帆の足が動く。

「わッ」

ユキもびっくりして、口を離した。

「続けて」

「う、うん……」

「唾液、絡ませて」

言われるがままに、ユキは唾液を含ませながら、
ねっとりとしかし小さく舐め続ける。

「こ、こんな感じ……かな?」

邪魔な髪の毛を横耳にかけながら、伊奈帆に確認する。

「うん……」

拙いながらに、良かったのだろうか。
こんなことをどこで覚えてきたのか。
後で、問いただしたい所である。

「ユキ姉、もういいよ。ちょっと腰上げて」

「こう?」

「うん……」

伊奈帆が見ている先を確認する。
破れた下着。
ぱっと手で隠す。

「エロすぎ」

「なお君のエッチ!!」

両足を閉じようとすると、こじ開けられる。
陰核をなぞられ、腰が落ちそうになった。

「きゅ、急に触らないでよ……」

「ごめん」

つぷりと、人差し指を差し込んでくる。

「んッ……」

「こんなんじゃ、もう満足できないよね」

「え……」

寂しく口元を緩めた。
何を言っているのだろう。
まさか、大尉のことだろうか。

「な、なお君あのあッひィ!?」

クリトリスをつまみ上げられ、ユキは言葉が出なかった。

「ぐちょぐちょだね」

粘膜をほじくるように、指を増やしつつ刺激を増やしていく。

「あ……あッ……まって」

指から逃れるように腰を振るが、
伊奈帆の指がさらに絡みつくだけだった。

じゅぷじゅぷ、と蜜が掻き出される。
熱い。
腫れぼったい熱が下腹に集中していた。
意識がぼやっとして、呼吸が乱れる。

伊奈帆が指を引き抜いた。
刺激に敏感になった秘所が、ヒクヒクと蠢いているのを感じた。
彼はユキのお尻を両側から掴み、自分の方へ寄せる。

「ユキ姉、入れて欲しい」

思ったより力強く、後方に仰け反る所だった身体が引き戻される。

「……ユキ姉」

ユキは彼が到底我慢ができるような状態ではないとわかっていた。
この前とは違う。
自分から誘った。
受け入れた。
怖さは、あった。
それは、
痛みにであり、
これからのことにであり、
そして――変わってしまうことにであり。

「一緒に……生きていこう」

伊奈帆が言った。
真っ直ぐに。
コクピットの中には、
伊奈帆と自分だけ。
二人の小さな世界すら、
ぐらぐらと揺れる。
なのに、彼は言うのだ。

一緒に、と。

「誰にも渡さないよ」

それだけで、
こんなにも満たされて。
おかしいのは、自分なのか。
彼なのか。
世界の方か。
一度死んで、生き返った彼が、
忘れなかった気持ちが、
諦めなかった想いが
こんなにも嬉しくて愛おしい。

「なお君……」

「なに」

「クサイ……」

「言うことはそれだけ?」

「……」

ユキは涙を隠すように、キスをした。

「愛してる……」

「僕も」

彼の下半身の中心部を、ゆっくりと女の入口へ誘っていく。
ぐちぐちと、膣を押し広げて挿入されていく。
柔らかな肉が、避けることなく彼を包み込んでいった。

「……ッんあ」

温かい。
大尉の時とは違う。
興奮も、快感も。
伊奈帆が言った。

「動くよ」

「あ、あんまり激しくしないで」

「むり」

大きさや形がさほど変わるわけではないのに、
剛直が肉腔を巻きつけながらピストンを繰り返すたび、
下腹が持っていかれそうになった。

自分の思うように腰が動かず、
伊奈帆に体を預ける。
彼の肩に腕を伸ばして、抱きしめる。

「あッ……ん……もうちょっと、ゆっくり」

「……ッふ」

「……やだッ……はやい……ッ」

「ごめん、止まらないッ……」

ガタガタと座席が揺れて、
外に音が漏れてしまうのではとさえ思った。

「ユキ姉こそ……締めつけ過ぎ」

「ちが……私はッ」

彼の先端が最も刺激を受けやすい所を何度も擦る。

「やだッ……あッ……むり……ッ……だめッ……」

「ダメじゃッ……ないでしょッ……」

お互いの嬌声が絡み合う。
野太い亀頭が膣道を何度も擦りあげて通っていく。
伊奈帆が乳首にむしゃぶりつく。
ユキはたまらず、彼の背中を引っ掻いた。
それでも、彼は動きをやめない。
むしろ、一段とスピードを上げた。
子宮まで届いてしまうのではと思うくらい、奥を責め立てられる。

「そこだめええッ……壊れる……なお君ッ……こわれちゃ……あッ」

「いいよッ。壊れてよ」


もう、自分を保っていられない。
ユキは頭をふりしだいて、快感の熱の昂ぶりを感じていた。
自ら腰をくねらせる。淫らな自分に、より興奮を高め、伊奈帆に口づけた。
唇を交わらせたまま、上下に揺れ動いていく。
もっと、奥へ。
胎内へと。
伊奈帆が欲しくてたまらない。
彼の男根がさらにむくむくと膨張している。
イきたいのだろう。
イかせてあげたい。

「なお君……ッあ……もうッ」

自らも果てたい欲求に駆られ、
絡みつくように腰を振る。
伊奈帆が痙攣するように、
小刻みに動いた。

ユキは小さな波のようによがった。

「あッ……くるッ……うんん……ッあ」

「出るよッ……」

「やッ……んああああッ!」

はしたない声を上げて、ユキは至った。

ちょっと抜けます

伊奈帆の怒張が身を潜めていくのが、下腹の刺激で分かった。
ユキは喘ぐように息を吸った。
身体を動かすには、気だるすぎる。
弟もまだ動けないのか、体内に挿入したまま肩で息をしていた。

初めて絶頂を味わった。
体は重たいのに、陰核の周辺部分は未だに敏感だった。

計器類のガラス面が曇っていて、
コクピット内の熱の高まりを実感した。
いつまでも繋がったままではおれず、
ユキはゆっくりと引き抜こうと腰を上げる。

ぬるぬるとした粘膜が剥がれ落ちるようだ。
身体を仰け反らせながら、彼から身を離す。

伊奈帆の腕がユキの腕を掴む。

「どこへ行くの」

「……」

「ユキ姉」

伊奈帆の目を見た。

「僕は、本当は、心のどこかで思っているんだ。これは全て演技で、ただ僕を傷つけまいとして辻褄を合わせるために、身体を許したんじゃないのかって」

「そんなことないわ……」

「昨日から目の調子が良くないんだ。だから、嘘発見機はホントは使えない」

「じゃあ……朝のは引っ掛けだったの」

それについて何か言及しようと思ったが、止めた。
彼の目はあまりにも綺麗だった。

「……なお君」

ユキは彼を抱きしめる。

「ごめんなさい……。大尉とは付き合ってないの。そういう雰囲気になって……それで。でも、今は後悔してる。本当に、ごめんなさい……馬鹿なことした」

「いいんだ。それが聞けて。僕は……ありのままの全てが欲しいから。それで、いいんだよ、ユキ姉」

懺悔の後に、伊奈帆からキスをされた。
もう戻れない日常に思いを馳せながら、
せめて彼だけは守ると、
そう、心に誓った。






終わり

突貫ssでしたが、ありがとうございました。
ユキ姉が生き残れますように。

乙!とってもよかった

乙です。
次回作があったら全力で支援します。

ごめん質問
>>10の"彼"ってイナホじゃなくて大尉?

>>39
>>40
ありがと!
ユキ姉にスポット当たったらまた書きたいです

>>41
すいません、分かりにくい文章になってましたね
大尉です

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