ユルユリプリキュア! (247)


【第一話:「私がプリキュアに!?キュアチェリー誕生!」】



「あなたは、好きな人がいますか?」


「その好きな人は、あなたのことが好きですか?」


「好きだという想いは、伝えましたか?」


「自分の気持ちに、素直になれていますか?」


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櫻子「おっそいなー、向日葵のやつ……」

櫻子「自分から呼び出しといて遅刻するなんて! 私の日曜日が終わっちゃうよー!」


良く晴れた日曜日。家でごろごろしていると、急に向日葵から電話がかかってきた。


向日葵『今日は町に出て買い物に来てるんですけど、もし暇してたら今からでもこっちに来てくれません?』

櫻子『えー? まったくしょうがないなー……今日はちょっと忙しいけど、そんなに言うなら行ってあげよう!』ごろごろ

向日葵『ありがとう、八森公園で待ち合わせましょう?』


本当は全然忙しいことなんか無かったけど、暇してると思われるのもシャクだし、仕方ない風を装って駆けつけた。


買い物途中に呼び出されるということは、私に急用があるのだと思ったのだが……向日葵がなかなか待ち合わせの公園に来てくれない。

うっかりしていたのか向日葵は時間を指定してこなかったので、何時に来るかがまったくわからなかった。


櫻子「まったく、こんなところで座ってるだけの時間なんてもったいないよ! これならお家でゆっくりしてた方がよかったなぁ……もー」


櫻子「はぁーぁ……」

ほのぼのとした、お昼の公園。目の前では幼稚園生くらいの女の子たちが遊んでいる。


この公園は昔からよく来る。特に小さいころは、毎日のように来て遊んでいたものだ。

だがこうして中学生になってから久しぶりに来てみると、今まで遊んでいた世界のなんと小さいことか。

砂場ってあんなに狭かったっけ? ブランコってこんなにちいさかったっけ?

私の思い出の中にある公園は、もっと大きくて、もっと立派だった気がする。


いつも向日葵を誘って、二人でここに来て……


櫻子(……予定なんか無くても、毎日一緒だったなぁ)


仲良さそうに遊ぶ女の子たちに、幼いころの自分を重ねる。


櫻子(あんな感じに遊んでたんだっけ……)



櫻子「…………って、思い出に浸ってる場合じゃない! 向日葵遅すぎ!」

櫻子「もしかして、私が忙しいフリしてたから、それに合わせて多少遅らせて来るつもりなのかなあ……?」

櫻子「だったらもう着いてるよって連絡しようかな? いやまて、それだと本当は暇してたのがバレる……でも待ってるだけの時間なんてやだし……ってか、やべえ!
私携帯忘れてるじゃん!!」


櫻子「あーもー……早く来いよ~向日葵ぃ……」

「せんせいやく、やるひとー!」

「やだー」

「あたしも……」


「「「…………」」」



「あ! せんせいやくはっけん!」びしっ

櫻子「えっ?」


「おねえちゃん! せんせいやってー!」

「やってー!」ぐいぐい

櫻子「わっ、私!? ああ、おままごとかな……?」


手を引かれるままに、遊んでいた子供たちの輪に入れられる。

どうやらこの3人の女の子の中に、先生の役をやりたがる子がいないらしい。

櫻子(うう、こんなとこ向日葵に見つかったら笑われちゃうかな……///)


櫻子「な、何かな? 学校の先生をやればいいの?」

「せんせーはやくじゅぎょうしてくださーい」

櫻子「もう始まってんのかい! くう、仕方ない……」


櫻子「えー、では授業をはじめます。教科書をひらいてください……///」

「「はーい!」」


櫻子「…………これなんの授業!?」ひそひそ

「こくごでーす」


櫻子「こ、国語か。じゃあ今日はひらがなの練習をしまーす。あいうえおから順番に書いてくださーい」

「「はーい!」」


元気な返事の女の子たちは、木の枝を使ってそれぞれお地面にひらがなを書きだした。


櫻子(しばらく書かせとこう……)

櫻子「ところで、みんなは何歳なの?」

「「ろくさいー!」」

櫻子「そっか、じゃあ来年小学生になるんだね……それで授業ごっこしてるわけか」

「たのしみー!!」

「はやく小学生になりたいの~♪」

櫻子(楓と同い年か……もしかして、同じ幼稚園だったりするのかな)


子供たちはどうやらまだ知らない字もたくさんあるようだが……ひとりだけ、目を見張るスピードで次々と書いていく子がいた。


櫻子「き、君すごいね! 全部合ってるよ!」

「わたし、しょうがくせいになるのがたのしみだから、いっぱいおべんきょうしてるんだ!」

「す、すごーい!」


櫻子「マジですごいんですけど! ま、まあでも私も君たちと同じくらいの時はこれくらいできたけどねー?」

「ほんとにー?」

櫻子「あははは……」

「…………」ぴたっ


櫻子(ん……?)ちらっ


「んっ、ぅ、ううぅ……」

櫻子「え、ええっ!? ど、どしたの!?」


3人の子のうち、おとなしくしていた一人の子が、字を書く手を止めたかと思うとなぜか急に泣き出してしまった。


まったく原因がわからずに困っていると、他の二人が教えてくれた。


「ゆうかちゃんはね、らいねん、わたしたちとはちがうしょうがっこうにいくの……」

櫻子「えっ……」


「おうちのつごうで、とおくにいっちゃうんだって……」


櫻子(そ、そんな……)

櫻子「じゃあ来年は、この子たちとは離ればなれに……?」

ゆうか「いやだよぉ……わたしもみんなといっしょがいいよぉ……!」ぽろぽろ

「ゆうかちゃん……」


櫻子(…………)


私も今まで、友だちが何人か転校してしまった経験がある。

みんな嫌がっていたけど、それでも、その別れを止めることはできない。


この子の涙を止めてあげることは……



『悲しいわね』


櫻子「えっ?」

唐突に後ろから声がかかった。

振り返って見ると、この子たちとそう大差ないくらいの別の女の子が、髪に隠れた目をこちらに向けて立っていた。


櫻子「あ、この子も君たちのお友達なの?」

「えっ? こんな子知らない……」


『家の都合で離ればなれ。どうあがいたって来年からはもう一緒にいることはできない。今まで仲良くしてきた時間はすべて水の泡……』つかつか

櫻子「な、なに……?」きょとん


長髪の女の子がゆっくりとこちらに近づいてくる。

その幼さに見合わない大人のような口ぶりは、明らかに普通の女の子ではないことを感じさせた。


『本当に可哀想……こんなにつらい思いをするくらいなら、もう一緒に遊ばなければいいのに』

櫻子(えっ……)

『どうせ、一旦離れてしまえばもうお互いの関係は戻らないのよ……? そして時間がたてば、その存在すらも記憶から消えて、忘れ去られてしまうに違いない……』


『ああ、こんな想いをするくらいなら、最初から出会わなければよかったのにね……ふふふ』


櫻子「そ、それは違うよ!!」ばっ

『ん……?』


気づけば私は、長髪の女の子の腕をつかんでいた。

冷ややかに注がれる視線を見据えて、言い返す。


「お、おねえちゃん!?」

櫻子「仲良くした時間は、無駄になんかならない! 別れが辛いから最初から出会わなければいいなんて……それじゃあ友達は一人もできないよ!!」


『…………』

櫻子「確かに時間がたてば、思い出は薄れていっちゃうかもしれないけど……どんなに距離が離れてたって、繋がることはできる!
手紙でもなんでも送ればいい、お互いを忘れないようにすることはできるはず!」

『ふん……いくらあなたがそうやって頑張っても、もし相手があなたのことを大切に思っていなかったら、なんの意味もないわよ』

櫻子「う……」


『片方だけが想っていたとしても……もう片方が忘れてしまえば、もう元には戻らない。二人の距離は、もう縮まることはない……』


『そしてその悲しみこそ、私が追い求めるもの……!』ゴゴゴ


櫻子「!?」


『その悲しみの想いが、私の力になる……!!』すっ


女の子が片手をあげると、どこからか薄黒いオーラが現れ、泣いているゆうかちゃんを一瞬で包んだ。

ものすごい轟音と共に竜巻のような強風を巻き上げながら、そのオーラは砂場全体に広がる。


「「きゃああああーーー!!!」」

櫻子「あっ、危ない!!」ばばっ

『いでよ……! ウィザー!!』しゅっ


砂場を取り囲んでいたオーラは、その中で急激に、大きな砂の像を作り上げた。

まるで巨大な砂塊でできたゴーレムが、そこに現れる……!


櫻子「えっ……ええええええええええええ!!?」

「「うわああああああああ!!!」」


『さあウィザーよ、思い切り暴れなさい! この町のどこかに、プリンセスリリーを持ったあいつがいるはずだわ!!』

ウィザー「ウィザー―――――!!!」どかーん


櫻子「いやあああああーーーー!!!!」だだだっ


女の子たちを両手に抱えて、私はとにかく逃げた。

後ろの方から、あらゆるものを破壊せしめるものすごい音と地響きが伝わってくる。現実とは思えない光景が、確かな質量をもって私たちに襲いかかってきている。


櫻子「なんなのこれ! ほんとなんなのー!? 夢ー!?///」

「おっ、おねえちゃーん! ゆうかちゃんがぁーー!!」

櫻子「あっ、ゆうかちゃん……! で、でも君たちだって危なかったでしょ!! 早く逃げなきゃ!!」

「そ、そうだけど~!」

櫻子(どうすればいいの……あの化け物は何!? いったい何が起こってるの……!?)たったったっ

櫻子「……よし、このあたりまで来れば……! じゃあ、君たちは向こうの方に逃げていって!」

「「えっ!?」」

櫻子「町の方に逃げれば、大人たちもたくさんいるはずだから……できれば、事実を誰かに伝えてほしいの!」


「おねえちゃんはどうするの!?」

櫻子「わ、私は……」


櫻子(もしかしたら、向日葵がこの近くまで来ちゃってるかもしれない……!)ぐっ


櫻子「私は探さなきゃいけない人がいるの!! みんな、早く逃げて!!」





櫻子(向日葵は町で買い物をしてるって言ってた……だとしたら、公園にやってくるルートを予想して辿れば……!)はぁはぁ


櫻子(こ、公園……)ぴたっ


櫻子(ゆうかちゃん、どうなっちゃったんだろう……)


櫻子「…………なんとかして、ゆうかちゃんだけでも助けてあげらあれるかなぁ……」


櫻子「ええーーいもう! どうせ夢なんでしょこんなの!! だったら助けた方が寝覚めがいいってのーー!!」だっ



ウィザー「ウィザーーーーー!!!」どしゃーん

『ふん……早いところ出てきた方がいいわよ、プリンセスリリーの持ち主さん? あなたのせいでこの町が破壊されつくしたら、故郷の人たちが泣くわよ……くすくす』

???「くぅぅ…………!」


櫻子「うわーまだいるよあいつら~……ううう」


櫻子「なんとかして、気づかれないようにゆうかちゃんだけ攫ってこよう!」こそこそ


『あら……? あなたはさっきの』くるっ

櫻子「バレたーーーー!! 全然だめだーーー!!」がーん


『あなた、さっきは色々言ってくれたわね。このスズラン様にたてついたからには、ただじゃおかないわよ』

櫻子「くっそぉ……ゆうかちゃんを返して!! その子にはまだまだやることがたくさんあるの!!」


スズラン「やること? やることって何かしら? もう二度と会うこともない友人たちと無駄な友情を育むこと?」


櫻子「無駄なんかじゃないもん! 想いあっていれば、人はどんなに離れていたって繋がっていられる!
お互いが想いあっていれば、どんなに離れていたとしても、会うことはできる!」

櫻子「ゆうかちゃんは、まだまだみんなと一緒に遊びたいんだよ! みんなと一緒にいたいの!
たとえ離れても、その友情を忘れてしまわないような……そんな関係になりたいって思ってるはずなの!!」


スズラン「なんでそんなのあなたにわかるの? 人の心でも読めるわけ?」

櫻子「こんなに悲しく泣いている子を見て、その気持ちを読み取ってあげられない方がおかしいよ! ……ゆうかちゃんはもらっていくからね!」ばっ


スズラン「無駄なことを……今その娘の心の闇を最大限に放出させて砂の像を作り上げているのよ。これを断ち切らない限り、目を覚ますことはないわ!」

櫻子「そ、そんな……!」


???「待つナモーーーーー!!」ばばっ

スズラン「ん……?」


???「スズラン! もう町を壊すのはやめるナモ~~!!」


大きな声をあげて飛び出してきたのは、白色の……ふわふわ浮いている謎の物体だった。

その物体はあわただしくスズランに詰め寄ったかと思うと、いきなりくるりと回転して私のほうに近づいてきた。


櫻子「うわーー!!」びくっ

???「キミ!! キミには伝説の戦士プリキュアの素質を感じるナモ!」

櫻子「な、なんだこいつ!! 変なぬいぐるみが浮いてるー!」

???「変なぬいぐるみなんかじゃないナモ~!!」


スズラン「現れたわね、ナモリン……さあ、痛い目を見たくなかったら、プリンセスリリーをこちらに渡しなさい!」

ナモリン「だ、誰が渡すもんか! これを使って私はユルユリアのみんなを元に戻すんだから!!」


櫻子「あ、あの~……」


ナモリン「キミっ! 名前は!?」くわっ

櫻子「えっ! えっと、大室櫻子……」

ナモリン「サクラコ、君のその強い正義の心! 人の想いを大切にする、純水でけがれないその心に、このキュアリングが強く反応してるナモ!!」ぴかーん

櫻子「キュアリング……?」


ナモリン「さあ、この指輪を握って! そして強く想うナモ! ゆうかちゃんを助けたいという想い、そして大切な人を助けたいという想いを……!」


櫻子(大切な人を、助ける……)


櫻子(そうだ、向日葵を守らなきゃ……!!)


ナモリン「今こそ叫ぶナモ! 伝説の戦士、プリキュアーーーっ!!」


櫻子『プリキュアッ!! ブルームマイハート!!』



カッッ!!!!


スズラン「な、何ッ!?」

櫻子『愛に染まるは櫻の花っ!! キュアチェリー!!』ばばーん


スズラン「キュア、チェリー……!?」


リングを手にした私は、自分の意志とは関係なく謎の台詞を叫んだ。

すると身体が浮き上がり、あたたかな光が身体全体をつつんで……気づいた時には、まるで女児向けアニメの変身ヒロインのような格好になってしまっていた。


ナモリン「やったナモーー!! やっぱりプリキュアになれたナモーー!」


櫻子「なっ、なんじゃこりゃあああ!? なにこの格好!! ってか、プリキュア……今プリキュアって言った、私!?///」

ナモリン「そうナモ! 君の強い心とキュアリングが反応して、君はプリキュアになれたんだナモ!!」

櫻子「プリキュアって……あのプリキュア!? あの日曜日の朝にやってるやつ!? 今日もちょっとだけ見たよ朝ごはん食べながらーー!」

ナモリン「さあキュアチェリー! その力を使ってあの砂のゴーレム、ウィザーを倒すんだナモ!」

櫻子「本当にプリキュアになっちゃったの私!? 今回の夢はなかなかアクロバティックだなあ……!」

ナモリン「冗談言ってる場合じゃないナモ! 早くしないと、ウィザーが町に出て町の人を襲ってしまうナモ!!」

櫻子「はっ、そうだった!! 向日葵がこっちに向かってるかもしれないんだ!」


櫻子「こらーー待てーー!!」ぎゅーん

ナモリン「早っ!!」


櫻子「うわー! 超足早くなってる! たのしーーーー!!!///」だだだだっ


櫻子「おいでかいの! お前の相手はこのキュアチェリー様だ!」


ウィザー「グゥゥ……グオオオオオオ!!!」ぶん

櫻子「わおっ!!」ひゅん

ナモリン「キュアチェリー! そのウィザーを倒せば、ゆうかちゃんの心の闇を断ち切ってあげることができるナモ~!」

櫻子「そっか、これでゆうかちゃんを助けられる……!!」


櫻子「はぁぁあああああああっっ!!!」ぼかん


ウィザー「グァアア――――!!?」どしゃーん


櫻子「うおおおーー強ええ! 私のパンチつええ!」


スズラン「こ、これが伝説の戦士プリキュア……!?」

ナモリン「さすがナモーー! その調子でどんどんやっちゃえナモー!」


櫻子「確かに私、幼稚園ぐらいのころは将来プリキュアになりたいって思ってたかもしれない……夢の中だけどそれが叶ったんだね!
だったら思いっきりプリキュアとして戦うまでよ!!」ばしーん

櫻子「一気にケリつけちゃうもんね!!」くるっ


櫻子『プリキュアッ! チェリ―――ダイナマイトォーーー!!!』


ドガ――――――ン!!!


櫻子「うわーーーー!!」ぴゅーん


ナモリン「ちょっとーー!? 自分で使った爆発技で自分まで吹っ飛ばないでほしいナモ~!」

櫻子「こ、こんなに威力が出るとは思わなかった……はっ、ひょっとして今ので私が町を壊しちゃった!?」

ナモリン「大丈夫ナモ! ウィザーが消えてゆうかちゃんの心の闇が切り離されたら、壊れたものは全部元通りになってるナモ!」

櫻子「そうなの? よかったー」


スズラン「くっ……おとぎ話の中だけの存在だと思っていたわ、伝説の戦士プリキュア! あなたはもう私の敵……次に会うときは覚えていなさい!!」しゅん

櫻子「あっ、待てーー! ……くぅ、逃げちゃった……」

櫻子(なんだったんだろう、あの子は……)


櫻子「はっ、そうだ! ゆうかちゃん!!」だっ

櫻子「ゆうかちゃん、大丈夫!? ゆうかちゃん!!」

ゆうか「あ……ありがとう……」

櫻子「ああ、よかった……気が付いたんだね」

ゆうか「おねえちゃん、本当にプリキュアなの……?」

櫻子「えっ!? あ、やべ、変身解いてなかった」


櫻子「ま、まあいいや。私はキュアチェリー! 困ってる女の子がいたら絶対に私が助けに来るんだよ!」ぶいっ

ゆうか「キュア、チェリー……?」

櫻子「ゆうかちゃん、君が友達と離れたくないっていうその気持ち! その強い気持ちがあれば、君たちはずっとつながっていられるよ!」

ゆうか「あ…………」


櫻子「遠くにいったって、きっとまた会える! そして君の友達思いな心は、これからもきっとたくさんの良い友だちを作ると思う!」


ゆうか「ありがとう、キュアチェリー……!」


がくっ

櫻子「ああっ、ゆうかちゃん!?」


ナモリン「どうやら気絶してしまったようナモ。チェリー、そろそろ人が集まってくるから変身を解くナモ!」

櫻子「そ、そっか」




「「ゆうかちゃ~~ん!!」」

ゆうか「み、みんな!!」


「よかったぁ、ゆうかちゃん……」

「だいじょうぶだったの!?」

ゆうか「あのね、プリキュアが来てくれたの……! プリキュアが助けてくれたんだよ!」

「プリキュア……?」



警察「じゃあ、君たちは特に詳しいことはわからないのかい?」

櫻子「ええ、変なおっきい化け物みたいのはちょっとだけ見たけど……いつの間にか消えちゃってましたよ?」

向日葵「私はちょうど今しがたこの公園についたので、何にも見てませんわ……町の方では、ただならぬ事態だと騒いでる人が何人かいましたけど」

警察「そうか、いや、ご協力ありがとう」

櫻子「ふう…………」

向日葵「まったく、いったい何があったのかしら……」

櫻子「まあ、あれでしょ? プリキュアが来てくれたんでしょ? その子たちが言ってるようにさ」

向日葵「プリキュアって、あなたねぇ……」


櫻子「ゆうかちゃん、プリキュアは何か言ってた?」

ゆうか「いってた! わたしがともだちをつよくおもっていれば、どんなにはなれてもずっとつながってられるって!」

櫻子「うん……そうだね。みんなのこと忘れちゃわないように、これからもたくさん遊んだ方がいいね」

ゆうか「うん!!」


櫻子「まあ大丈夫だよ! こいつなんて私に待ち合わせの時間も教えずに呼びつけてさ、でもそれでもこうして会えたんだよ?
ちゃんとその人のことを想ってれば、時間や場所なんて関係なく会うことができるんだと思う!」

向日葵「いや、私は普通に洋服見てて、公園に化け物が出たっていうから急いでかけつけただけなんですけど……」

櫻子「うるさいな! いっとくけど私めちゃめちゃいっぱい待ってたんだからね!? 呼びつけたならさっさと迎えに来てよ!」

向日葵「だってあなた忙しいって言ってたし、いつも待ち合わせに遅刻してくるし、多少時間置いたほうがよかったのかと思ったからですわ」

櫻子「なんだとー!?」


ゆうか「くすくす……」

「「あははははは!!」」




櫻子「た、タイムセールごときでこの私を呼びつけたってのか……」

向日葵「ごときとは何ですの? 洋服とかも見たじゃない」

櫻子「あんなのただ迷ってるところに背中押して欲しかっただけでしょ! 迷うくらいなら買っちゃえばいいのに」

向日葵「そんなお金の使い方できるくらいなら、タイムセールなんか狙いませんわよ」

櫻子「ちぇー……楽しい日曜日が終わっちゃうよー」


大量の買い物袋を持たされ、向日葵と一緒に家路につく。

急いで駆け付けたのに、呼び出された用事は大したことものではなかった……


櫻子(……ま、いいか)

櫻子「あーもー、今日は疲れたー」

向日葵「そんなに疲れたことしてましたっけ……ああ、さっきの事件のこと?」

櫻子「んー……まあそんなとこ」


向日葵「でもあなたも真相はよくわからなかったんでしょう? みんな騒いでたけど、なんだったのかしらね」

櫻子「…………」


櫻子「……あれ!? そういえばあの夢いつ覚めたんだろ」

向日葵「夢?」

櫻子「いや、私夢見ててさ……たぶん公園で居眠りしちゃってたんだけど。いつ覚めたんだっけなあと思って」

向日葵「もう、若いんだからモーロクしないでちょうだい。それに明日は学校なんですから、居眠りしたからって夜更かしはダメですからね?」

櫻子「はいはいわかってますよー」


櫻子(……ふふ、なんだかんだで楽しい夢だったな)

昔は年相応の女の子のように、ああして戦う美少女に憧れたものだ。

夢とは言えど、あそこまでリアルに体感できる女の子も珍しいものであろう。

一体どこからが夢だったのか、どこまでが夢だったのかもわからないが……


櫻子(ラッキーだったんだなー。また見てみたい気もするけど……)


向日葵「ちょっと、どうしたんですの? さっきからにやにやして」

櫻子「なんでもないもーん。ところで向日葵、幼稚園の頃とかさ、プリキュアって見てた?」

向日葵「プリキュア…………って、あの週末の朝にやってるやつ?」

櫻子「そうそう!」

向日葵「んー、たぶん何度か見たことはあると思いますけど、全話ちゃんと追ったことはない気が……というか、なんでそんなこと聞くんですの?」

櫻子「んーん? べっつにー!」


~fin~

〈ユルユリプリキュア! 一話 設定資料〉


『キュアチェリー』

―――困っている人を見過ごせない、誰かを助けたいという気持ちが人一倍強い櫻子ちゃんがプリキュアになった姿。
純水でけがれのないその心に、ナモリンのもっていたキュアリングが反応した、桃色のプリキュア。

変身時共通セリフ『プリキュア! ブルームマイハート!』

キュアチェリー変身時セリフ『愛に染まるは櫻の花! キュアチェリー!』


『ナモリン』

櫻子ちゃんの世界とは別のところにある、妖精たちの世界『ユルユリア』、その国の第二王女さま。
クラゲのような形をしている。

ユルユリアは、ある日突然ウィザーたちの侵攻によって壊滅的な被害を受けてしまう。
ナモリンはその襲撃の際、愛する姉であり、ユルユリアの第一王女『リアーネ』の手によって、秘宝『プリンセスリリー』を持たされ亡命させられる。
ユルユリアを元に戻すためには、想いの器たるプリンセスリリーに、人々の幸せの力『白のリリオーラ』を集めなければいけない。
ナモリンはオーラを集めようと幸せの星・地球にやってきたが、プリンセスリリーを追い求める敵に追われており、助けを求めるべくプリキュアになれる子を探していた。


『ウィザー』

ユルユリアを襲った敵たちの総称、「Wither」は「枯れる」の意。
人々の悲しむ心、嫉妬、そういったマイナスの感情が物に乗り移らされ、ウィザーとして人を襲うようになる。
ウィザーを倒す・浄化することによって、犠牲となってしまった人の心の闇を取り払うことができる。


『スズラン』

ウィザーたちを操る敵の幹部的存在。長い黒髪が特徴的。
見た目こそ幼い子供のようだがその力は強く、ナモリンの持っているプリンセスリリーを奪おうとして騒ぎを起こす。
人のマイナス感情、とりわけ女の子が見せる失恋、嫉妬、悲しみの感情を特に好み、利用してくる。

【第二話:「失われし悲劇の王国、ユルユリア!」】


〈朝〉

ちゅんちゅん……


櫻子「ん、ん~……」ごろん


櫻子「あー…………」むにゃむにゃ


櫻子「はっ、やば! 今何時!?」ばばっ

櫻子「あ、あれ? まだこんな時間か、なんだ……早起きできたんだ」


櫻子(ああ、頭が重い……昨日何してたんだけっけ、ずっと長い夢を見てた気がする)

櫻子(プリキュアになって、怪物と戦って……)


公園で遊んでいた、幼稚園生の女の子たち。

その中の一人、ゆうかちゃんは、来年からその友達たちとは別の小学校に入学することになる。

その涙を利用して生まれた怪物、ウィザー……


櫻子(変な夢だったなあ……夢なのに全然忘れられないし、妙にリアルで、ずっしりした感触があるというか……本当の現実みたいな)


櫻子(…………現実??)


櫻子「……って、そんなわけないっつーの」ころん

「夢じゃないナモ?」ひょんっ


櫻子「えっ…………あああ~~~~~!!!」


「おはようナモ、サクラコ!!」

櫻子「あっ、あんた! 夢に出てきた人形……っ!!」わなわな

「もう、だから人形じゃないナモ!」


白くて丸っこい、クラゲ……? みたいな人形。

それは昨日の夢に出てきて、私をプリキュアにした妖精のようなやつだった。


櫻子「なんだっけ……あ、ナモリン!!」

ナモリン「そうナモ~~! 覚えててくれたナモね♪」

櫻子「覚えてたっていうか、あれは夢の中で……あれ? もしかしてまだ夢の中なの!?」

ナモリン「もう、だから夢じゃないんだって何回も言ってるナモ!」

櫻子「え……」

ナモリン「あらためまして、私はナモリン! サクラコ、昨日は私を助けてくれて、本当にありがとうナモ!」

櫻子「な、ナモリン……」


もにゅもにゅ

ナモリン「あーっ! どこ触ってるナモ!?///」

櫻子「やわらか~い……何この材質……」


ナモリン「ちょっ、痛いナモ! だからお人形じゃないって何回も言ってるナモ~!」

櫻子「ナモナモうるさいなぁ、夢のくせに」

ナモリン「もう、まだそんなこといって……!」


「櫻子ー?」コンコン


櫻子「うわっ!!」びくっ

ナモリン「や、やばいナモ!」こてん

撫子「おはよ。早起きなのはいいけど、朝からうるさいよ。どうかした?」ガチャ

櫻子「ね、ねーちゃん……いや、なんでもないよ??」

撫子「ああそう……?」


撫子「なにこれ、クッション? かわいいね」もにゅもにゅ

ナモリン(ひーーーーー!!///)

櫻子「あーっ! それは触っちゃダメ!!」ばっ


撫子「ゲーセンとかでとってきたの? 私のも今度とってきて」

櫻子「そ、そんなんじゃないから……もう、ちょっと今忙しいんだから出てってよ~!」

撫子「な、なにさ……まあいいか。せっかく早起きしたんだから、遅れないように準備しな?」

櫻子「はいはいわかってますよー」


ぱたん


ナモリン「あ、あぶなかったナモ……」

櫻子「ねーちゃんにも見えてるんだ、ナモリン……」

ナモリン「当たり前ナモ。というかサクラコ、なるべく私のことは家族にも誰にも知られない方がいいナモ……! 危険に巻き込んじゃうかもしれないナモ!」

櫻子「危険……?」


ナモリン「サクラコは昨日、ウィザーに心を利用されたゆうかちゃんを助けたナモ」

櫻子「あっ……」


ナモリン「……ゆうかちゃんのこと、忘れてないはずナモ! あれは夢じゃない……サクラコは本当にプリキュアになって、本当にこの町を救ったんだナモ」


櫻子(ゆうかちゃん……)


ナモリン「ゆうかちゃんは今頃きっと寝てるかもしれないけど……昨日サクラコが、泣いていたゆうかちゃんの心を助けてあげたから、今日もまた笑顔で友達に会いに、幼稚園に向かうと思うナモ!」


櫻子(そうだよ、私が言ったんだもん……たとえ離れても、また会える時までずっとつながっていられるような、強い関係になればいいって……)


櫻子「夢じゃ、ないんだ……!!」


ナモリン「……信じられないのも仕方ないナモ。でも受け止めてほしい現実ナモ」

ナモリン「ほら、これが昨日サクラコが変身したきに使った魔法の指輪、キュアリングナモ!」

櫻子「これ……」

ナモリン「これを手に握って強い想いを込めれば、キミはいつでもプリキュアになれるナモ。まだ信じられないなら、やってみても良いナモよ?」


櫻子「…………」


ぐっ


櫻子『プリキュア! ブルームマイハート!!』ぼんっ


ナモリン「ほら、鏡を見るナモ!」


櫻子「ほ、ほんとだ……本当にプリキュアに……!!///」


ナモリン「愛に染まる櫻の花、キュアチェリー。 ……自分でつけた名前ナモ!」

櫻子「た、確かにつけたかも!」


櫻子(か、かわいすぎる、この格好……!///)ふりふり

ナモリン「その指輪はサクラコ、キミにあげるナモ」

櫻子「へっ?」

ナモリン「これから先、いつウィザーが襲ってくるかわからない……そのためにも、すぐに変身できるようにしておいた方がいいナモ。だからこの指輪はずっとつけててほしいナモ!」

櫻子「…………」


櫻子「……ねえ、昨日襲ってきたあの怪物はなんだったの? あれが悪役なの?
私、本当のプリキュアみたいに、これからずっとあれと戦わなくちゃいけないの……?」

ナモリン「……うーん、本当なら今すぐにでも説明してあげたいけど……」


ナモリン「サクラコ、学校の準備しないと遅刻しちゃうナモよ?」

櫻子「えっ……うわ! もうこんな時間!?」


ナモリン「とりあえず今は学校に行った方がいいナモ。隙を見て詳しいことを話したいナモ!」

櫻子「う、うん……」

「櫻子ー、ごはんできたしー」コンコン


櫻子「わーーっ!!///」びくっ

ナモリン「へっ、変身を解くナモ!!///」



花子「どうしたの? なんか大きな声が……」ガチャ

櫻子「や、な、なんでもないよ? ごはんたべなきゃねー」

花子「うん……?」


花子「なにこのクッション、かわいいし」もにゅもにゅ

ナモリン(ひぃーーーーー!!///)


櫻子「あーもう、それは触っちゃダメ!! ……っていうかそんなに可愛いか!?」

花子「花子は結構可愛いと思うけど……」



向日葵「おはよう櫻子。ちょっと遅いですわよ?」

櫻子「ごめんごめん。よし行こうか」


向日葵「ねえ、見ました? 今朝の新聞」

櫻子「新聞……? いや、見てないけど」

向日葵「昨日のことが載ってたんですわよ。私そこだけもらってきましたわ……ほら、これ」ゴソゴソ


櫻子「『謎の目撃証言、昼下がりの公園に現れた巨大な石像』……!?」

向日葵「これって昨日私たちがおまわりさんに聞かれたことですわよね。あなたも少し見たんでしょう?」

櫻子「う、うん……」


向日葵「『昨日昼ごろ八森公園にて、謎の地響きや轟音、そして巨大な石像のようなものが現れたとの証言が多発。警察は事実を視認できなかったが、同じような証言をする人がパニックになりかけていたため捜査。しかし一切の痕跡は見つからなかった』……ですって」


向日葵「『器物の破損や怪我人も見られなかった。その場にいた子供たちの間では、現在放送中の女児向けアニメ作品のキャラクター、プリキュアが来てくれたとの声もあり、一部専門家は、マニアがプロジェクションマッピングによってアニメを映しだしていたのではないかとの予想を……』」


櫻子(や、やべえ……!///)

向日葵「はあ、プリキュアですってよ。そういえば昨日そんなこと言ってましたわよね、あなたも」

櫻子「いや、あそこにいた幼稚園児たちが言ってたからさ……そうなのかなーって」

向日葵「なかなか不思議なことが起こるものですわねぇ……私もちょっとだけ見てみたかったですわ」

櫻子「…………」


櫻子「……ねえ、もし本当にプリキュアだったら、どうする?」

向日葵「……え?」


櫻子「もし本当にプリキュアがこの世にいたとしたらさ……向日葵どうする?」

向日葵「どうする? って言われましても…………別に私にはどうにもできませんけど」

櫻子「あ、そっか」


向日葵「それにもし本当にプリキュアがいたとしたら、きっと今頃こんな感じの目撃証言とかがそこらじゅうで出てるはずですわ。その姿とかだって目撃されてなきゃおかしいでしょうし」

櫻子「そうだよね~……あはは」


向日葵「……なんでそんなこと聞くんですの?」

櫻子「べっ、べつにー? いたら面白いんじゃないかなーって思っただけ!」

向日葵「ふーん……」

櫻子(確かに向日葵の言うとおりだけど……それなら私の指にはまってるこのリングはいったい何なの……?)


向日葵「きゃっ! あなたどうしたんですのその指輪!?」

櫻子「えっ……ああ、これ?」(や、やばっ……!)


櫻子「お、おもちゃの指輪だよ、花子が友達からもらったんだってさ。綺麗だからって私にくれたの」

向日葵「なんでおもちゃの指輪を学校につけてきちゃうんですの……先生に見つかったら取り上げられちゃいますわよ?」

櫻子「あっ……そ、そうだよね! 外しとかなきゃ」

向日葵「もう……櫻子ってそんなに指輪とか好きでしたっけ? おもちゃを学校にまでつけてくるなんて」

櫻子「ちっ、ちがうよ! 昨日つけて遊んでたら、外すの忘れちゃったってだけー!」

向日葵「なんだ、そういうこと」


櫻子(そうだ……中学生が指輪なんてしてたら変じゃん。無くさないようにしなきゃ……)



櫻子「おはよーみんな!」がらっ

あかり「あっ、櫻子ちゃんおはよ~」

ちなつ「おはよー!」

向日葵「おはようございます」


櫻子(……みんな、別に普通だな。そりゃそうか……みんなはいつも通りの変わらない日常なんだもんなぁ……)


ちなつ「向日葵ちゃん、宿題やってきた? 私ちょっとわからないところがあって……」

向日葵「やってきましたわ。何ページですか?」

ちなつ「えーっと……」


櫻子「や、やばい宿題! やってなかったかも……!!」あせあせ

あかり「今からでも急げば間に合うかもしれないよ、櫻子ちゃん!」

櫻子「そうだよね、よーしやらなきゃ……ん?」


もにゅ


「ひっ!!」


櫻子(わーーーーー!! ナモリンがカバンに入ってるーーーー!!///)


ちなつ「ん? 今の声だれ?」

櫻子「あっ、ああ、私ー! 宿題やってなさすぎて変な声出ちゃったー!」

向日葵「ちょっと、大丈夫ですの……?」

櫻子「だいじょぶだいじょぶー! こんなのちゃちゃっとやっちゃうもんねー、あははは……私トイレいってくるー!」ぴゅーん



ぱたん


櫻子「ちょっとー! なんでカバンの中に入ってるわけ!?」

ナモリン「いや、いつウィザーが襲ってくるかわからないしサクラコと離れない方がいいと思って……カバンの中は暗いけど、私我慢するナモ!」

櫻子「がまんするったって……ちょっと触ったぐらいで声出ちゃってたじゃん!」

ナモリン「それはだって、あんなところ急に触られたら声出ちゃうに決まってるナモ……!///」

櫻子「あんなとこってどこだよ……全身まんまるのくせに……」


櫻子「と、とにかく、今日は家に帰ってて! みんなにばれちゃったらどうするの!」

ナモリン「で、でも私が一人になったらプリンセスリリーが奪われちゃうかもしれないナモ……サクラコのそばが一番安心なんだナモ!」


櫻子「う~……本当に大丈夫なんでしょうねぇ、授業中とか絶対声出さないでね?」

ナモリン「大丈夫ナモ! 私の世界にも学校はあったから、どういう場所かはわかってるナモ」

櫻子「あっ、そうなの? じゃあ大人しくできるかな……今日はちょっと早く学校終わると思うから、それまで静かにしててね」

ナモリン「わかったナモ、ありがとうナモ!」

櫻子「ふぅ……」



〈授業中〉


櫻子(あーあ……これから私、どうなっちゃうのかなぁ……)

櫻子(また悪い奴が現れたら、私が戦わないといけないんだろうなぁ……)

櫻子(というか、あのウィザーとかいうのはなんなんだろう。あの髪の長い女の子は、なんでナモリンを狙ってたんだろう……プリンセスリリーって何?)

櫻子(わかんないことだらけだよ~……)


ぐぅぅ~~


櫻子「えっ」


『…………』

櫻子「な、なんか今変な音しなかった?」

隣の子「したした……誰かお腹空きすぎて、音鳴っちゃったんじゃない?」

櫻子「ふふっ、誰だろ~も~」

ぐぅ~~


櫻子「…………」


隣の子「……今櫻子から音しなかった?」

櫻子「や、私じゃないよ!? 私お腹へってないもん!」

先生「大室さん? おしゃべりはいけませんよー」

櫻子「ああっ! はい、すみません……///」


櫻子(ナモリン~~~!!)ごそごそ


櫻子(ちょっと! 今の音あんたでしょ!)ひそひそ

ナモリン(サクラコ……お腹すいたナモ~……)

櫻子(妖精もお腹減るの!? 今授業中だからどうにもできないよ!)

ナモリン(うう……ひもじいナモ……)

櫻子(参ったなぁ……)



〈昼休み〉


櫻子「ナモリン、やっぱり教室じゃ大人しくできないでしょ? 私は学校にいるってわかってるんだから、学校の周りにいればいいじゃん」

ナモリン「うう、確かに……お腹が空いても身動きとれないのは辛いナモ」

櫻子「あ、そうだ…………はいこれ、給食のときのパンだけど。食べ物って、こんな感じで大丈夫?」

ナモリン「ありがとうナモ!」ぱくぱく

櫻子(ふふ……///)


ナモリン「確かに、これから先サクラコと一緒に頑張っていかなきゃいけないし……この町のことをもっと知っておく必要があるナモね!
私、サクラコが学校にいる間はいろいろと町を見学してるナモ」

櫻子「まあカバンに押し込められてるよりはその方がいいよね……変な人に捕まったりしないでね?」

ナモリン「そ、そんなにノロマじゃないナモ!」

櫻子「ねえ、ナモリン……ナモリンが言ってるその、プリンセスリリーってのは何なの? 敵はそれを狙ってるの?」

ナモリン「うん……じゃあ詳しく話すナモ。よく聴いてて欲しいナモ」


ナモリン「サクラコが今いるこの地球とは別の世界に…… “ユルユリア” という、自然の美しい国があるナモ。私はそこの第二王女として生まれたんだナモ」


櫻子「えっ、王女様なの!?」


ナモリン「クインダム・ユルユリアは女王国……つまり女王様が一番偉い国ナモ。私のお母さんがユルユリアの女王様で、私のお姉さんが次期女王なんだナモ!」


櫻子「へーすご! こんな妖精みたいのがわんさかいる国なのかなぁ……」


ナモリン「わ、私の今の姿じゃないナモ? ユルユリアに戻れば、私だってサクラコのような人間の姿になれるナモ」


櫻子「そ、そうだったの!? じゃあ元は人間……!?」


ナモリン「そうナモ。でもユルユリアを出てしまうと、何故か今のクラゲ型マスコットみたいな見た目になっちゃうんだナモ」


櫻子「ふーん……」

ナモリン「……ユルユリアはとても平和な国で、人が人を愛する心を大切にする、素晴らしい国だったナモ。でもある日突然、謎の黒い霧が王国全体を覆ってしまったんだナモ」


ナモリン「その霧と共にやってきたのが、たくさんのウィザーと、サクラコもこの前会った女の子、スズラン……多くの軍勢がユルユリアを襲ったナモ」


ナモリン「霧の影響で、ユルユリアの民たちは皆、心を無くしてしまったんだナモ……人を愛することもできず、人に対して何の感情も抱くことなく、そこは無音で虚ろな世界になってしまったナモ……」


櫻子「えっ……!?」


ナモリン「私はウィザー侵攻の際、王国の宝物庫に逃げ延びて……そこでお姉様に言われたナモ。ユルユリアに伝わる宝具、 “プリンセスリリー”
を使えば、心を失った人たちを助けることができると……」


ナモリン「私はお姉様と離れるのが嫌だったけど……プリンセスリリーを持たされて、強制的に亡命させられてしまったナモ。巨大な鏡に吸い込まれて……気がついたら、クラゲみたいな姿になってこの世界にいたナモ」


ナモリン「お姉様は今もユルユリアの玉座で、心を無くしたままでいるはずナモ!
だから私は……私は絶対にプリンセスリリーを咲かせて、ユルユリアを元に戻してみせるんだナモ!」


櫻子「ナモリン……」

ナモリン「敵は今でも私を追って、この地球にやってきているナモ……だから私は、私と一緒に戦ってくれる人を探してた。伝説の戦士プリキュアになれる子を探していたナモ!」


ナモリン「サクラコ……いや、キュアチェリー! 君がその選ばれし最初の勇者だったんだナモ!」


櫻子「な、なんで私だったの? もっと強そうな人は他にもいっぱいいると思うけど……」


ナモリン「サクラコ、プリキュアの強さは肉体的な強さだけじゃないナモ。誰かを守りたいという心や、夢に向かっていける心……そういった心の強さが、プリキュアには一番大事なんだナモ」


ナモリン「そして、困っている女の子を助けたい……ゆうかちゃんを助けたいというサクラコの強い気持ちが、あの時私の持ってるキュアリングに反応したナモ!
だから私は飛び出していって、サクラコを最初のプリキュアに選んだんだナモ♪」


櫻子「わ、私が最初か~……うーん……」


ナモリン「でも私の目に間違いは無かったナモ。サクラコは優しくて良い子ナモ!」


櫻子「う……ま、まあ私にかかれば、ウィザーの一匹や二匹、アニメのプリキュアよりももっと簡単にやっつけられるからねー! プリキュアは私しかいないっしょ!」


ナモリン「頼もしいナモ~♪」

櫻子「はっ…………っていうか一番聞きたかったのは、そのテレビのプリキュアだよ! あれは何なの!? 私が今やってるプリキュアと同じものなの!?」


ナモリン「うん、あれは本当によくできたものナモ……女の子たちにあの作品を見せることによって、自分たちがもしプリキュアになったときにパニックを起こさない、どうすればいいかを学べる、いわばプリキュアの教科書みたいなものナモ。あのアニメを作っているのは、みんな本物のプリキュアと関わったことのある妖精ナモ」


櫻子「そうだったの……!? 作り話じゃないってこと!?」


ナモリン「まあ作り話だけど、あのアニメがあるから櫻子だってパニックにならずにプリキュアになれて、そのままウィザーを倒すこともできたんだナモ。ちゃんと効果は大きいナモ!」


櫻子「パニックになってなくはないんだよ……? プリキュアになれた夢を見てるんだなーってずっと思ってただけだから……」


ナモリン「プリキュアは、本当にいるんだナモ!」ひょんっ


櫻子「プリキュア……か……」

櫻子「あっ、そうだ。私が小さい頃に見てたプリキュアはさ、もっと仲間が何人もいて、カラフルなやつだったんだけど……私の他にプリキュアはいないの?」

ナモリン「とりあえず、今はサクラコだけナモ。私が王国の宝物庫で見つけた、3つのキュアリング……そのうちの1つを使って、サクラコはプリキュアになったナモ!」

櫻子「え……ってことは、残ってるキュアリングはあと2つ?」

ナモリン「そうナモ! サクラコと一緒に戦ってくれるプリキュアは、あと2人いるはずナモ! サクラコ、誰かリングと反応してプリキュアになってくれそうな子はいないナモか……?」

櫻子「えー、プリキュアになれそうな子かぁ……! 心の綺麗な子……向日葵はダメだな。あ、あかりちゃんとか!?」

ナモリン「私も探すけど、サクラコにも探して欲しいナモ。仲間はいっぱいいた方がいいナモ!」

櫻子「そうだよね……よーし、じゃあこれからは私と一緒にプリキュアになってくれる子を探すぞー! けってーい!」びしっ

ナモリン「頑張るナモ~!」


『櫻子ーー?』

ナモリン「ひーーーー!///」こてん


向日葵「あっ、こんな所にいた! もう、次調理実習なんですから、早めに行った方がいいですわよ?」

櫻子「ごっ、ごめんごめん! 今行くー!」たたたっ



ナモリン(2人目のプリキュア、誰になるか気になるナモ……でもサクラコならきっと良いパートナーを見つけてくれると思うナモ!)

ナモリン(あの隣の家に住んでたヒマワリって子、昨日もサクラコと一緒だったし……あの子が2人目になってくれたら、サクラコも頑張れると思うナモ……!)


ナモリン(ん……?)


「それってどういうこと!?」

「どういうことって言われても……!」


ナモリン(け、喧嘩してる子がいるナモ……!)ささっ


「私と付き合ってくれるって言ったじゃない! なのになんで関係を秘密にしたがるの? なんで他の子と遊んだりするの!?」

「そ、そりゃあ遊ぶよ! 私にとってはみんな友達なんだし……みんなと一緒がいいから、私たちのことも秘密の方が良いのかなって思って……」

「あ、あなた、本当は私と付き合うのが嫌なんでしょ……女の子しか好きになれない私を、あいつらと一緒に影で笑ってるんでしょ!?」

「そ、そんなことないよ!!」

「じゃあなんで……!!」


ナモリン(い、今は授業時間のはずナモ……あの2人、授業を抜け出してまで言い争って、ただごとじゃないナモ……!)ふるふる

「も、もういい! そんなに言うなら……もう付き合うのもやめるよ! 君のこと笑ってなんかいないけど……そんなひどい事言うなら、もう終わりにしたい……」

「終わりって……どういうこと!? あなたがいつまでもはっきりしなかっただけのくせに!」

「も、もう無理だよ……私と君は分かり合えないと思う……ごめんね」たたたっ

「あっ、逃げないでよ!!」


「…………」


「なんで……なんでいつも、私……うまくいかないの……」ぽろぽろ


『可哀想に』


「えっ……」

ナモリン(えっ……?)


スズラン「あなたの気持ち、わかるわよ……誰にも関係を邪魔させたくないのよね? 自分だけを見て欲しいのよね?」

ナモリン(す、スズラン!!?)

「な、何……誰?」

スズラン「でもどうかしら……あの子、あなたの言う通り本当に、影ではあなたのこと笑ってたのかもね……」


スズラン「 “頭のおかしいレズがいる” って……」くすくす


「そ、そんな……!!」


スズラン「きっと最初から別れるつもりで、あなたと遊びで付き合ってたんじゃない?
ああ、今頃あの子、また仲間たちとあなたのこと馬鹿にして笑ってるんだわ……」


「や、やだ……やだぁ…………!!」がくっ


スズラン「うふふ、泣きなさい……嘆きなさい」


スズラン『その悲しみの想いが、私の力になる……!!』すっ


ナモリン(あっ!!!)


スズラン『いでよ……! ウィザー!!』しゅっ

「や……いやああああぁぁぁぁぁ!!!」


ナモリン(た、大変ナモ~~~!!!)




櫻子「調理実習久しぶりー!」

あかり「美味しいクッキー作ろうねぇ♪」

ちなつ「向日葵ちゃん、確かお家でもよく作ってるんだよね? いろいろ教えて~!」

向日葵「ふふ、もちろんですわ」


あかり「おいしくなーれって心を込めながら作れば、技術は無くても美味しくできるはずだよぉ」

櫻子「さっすがあかりちゃん! あかりちゃんは本当に良い子だなぁ~」

あかり「えへへへ……///」

櫻子(あかりちゃんがプリキュアになったら、きっとすごい強い力を発揮するかもしれないなぁ……///)

ズズン……!


櫻子「うわっ!」ぐらっ


ちなつ「な、何!? 地震!?」

向日葵「お、大きいですわ! 家庭科室で地震は危ない……!」

先生「皆さん、とりあえず廊下に出ましょう! ここは危ないです!」


ドゴォォン!!


あかり「す、すごい大きい音がするよお!」

ちなつ「なんなのこれ、ずっと地震が止まないんだけど!」

向日葵「一体何が起こって……!」


櫻子(も、もしかして…………!!)ばばっ

向日葵「あっ、櫻子どこ行くんですの!? 危ないですわ!!」

あかり「櫻子ちゃーん!!?」



ウィザー「ウィザーーーーー!!」ずがーん


「に、逃げろーーー!!」

「なんなのあの化け物はーー!?」


櫻子(や、やっぱり! ウィザーだ!!)


ナモリン「サクラコ~~~!!」ぴゅーん

櫻子「あっ、ナモリン!!」


ナモリン「大変ナモ、女の子の悲しい気持ちが大きいイチョウの木に乗り移ってしまったナモ!
しかもその女の子はすごく泣いていたナモ……昨日より強敵かもしれないナモ!!」

櫻子「そ、それでもやるしかないんでしょ!? このままじゃ学校壊されちゃうもん!」


ナモリン「サクラコ、お願いナモ……!!」


櫻子「私、やるよ!! 学校のためにも、みんなを守るためにも、ナモリンを……ユルユリアのみんなの心を取り戻すためにも!!」

ナモリン「!!」


櫻子『プリキュアッ! ブルームマイハート!!』


櫻子『愛に染まるは櫻の花っ!! キュアチェリー!!』ばばーん

櫻子「こらーー! 学校を壊すなー!」ぎゅーん


スズラン「あら、来たわねキュアチェリー……昨日のお礼をしてあげるわ! ウィザー、キュアチェリーを倒しなさい!!」


ウィザー「ウィザーーーーー!!」ぶん

櫻子「あぶねっ!!」しゅんっ


「お、おいなんだアレ……誰か戦ってるぞ!」

「女の子だ……女の子があの化け物と戦ってる!」


ちなつ「なっ、なにあれ~~!?」

あかり「どういうことぉ……なんであんなのが……!」


向日葵「あ、あれもしかして新聞に載ってた、櫻子も見たっていう怪物かしら…………はっ、そうだ櫻子はどこに……!?」

ウィザー「ウィザーーーーーーー!!」ゴォォッ


櫻子「うわーっ! 葉っぱで何も見えない~~!」びゅううっ


ナモリン「チェリー危ないっ! 後ろナモーーっ!!」

櫻子「えっ……うわああああっ!!」べしん


櫻子「ぐぅっ!!」びたん

ナモリン「ち、チェリー!!」


スズラン「ふふ……この女の子が抱える闇は深いわよ……昨日のようにはいかないわ、プリキュア!」


櫻子「いったたたた……くそぉぉおお!!」ぎゅんっ


櫻子『プリキュアっ!! チェリーダイナマイトォォオオ!!!』ぶんっ


ウィザー「ウィザーーーーー!!」ばさっ

櫻子「きゃああああああっ!!」


ナモリン「だ、だめナモ! 葉っぱに邪魔されて全然効いてないナモー!」

スズラン「うふふふふ……キュアチェリー、やはりあなたは急繕いのプリキュアのようね。戦い方もロクにしらない、お子ちゃまプリキュア! ……あなたには何も守れはしないわ!」


櫻子「う、ううぅ……!」くらっ


ナモリン「ああっ、チェリー!! 大きいのが来るナモ~~!!」


櫻子「確かに私は、喧嘩なんか全然したことないし……戦い方なんて知らない!」


櫻子「でもこんな私でも、何かを守りたいって気持ちが強いからプリキュアになれたんだってさ! だったら……」ぐっ


櫻子「学校を、みんなを守る! この気持ちを力に変えていくしかないってのーー!!」ぎゅん


スズラン「なっ!?」


櫻子(葉っぱが邪魔なら、全部ぶった切る!!)


櫻子『プリキュアっ!! チェリーシャムシール!!』じゃきん


ナモリン「おおっ、剣を出したナモ!」


櫻子「うぉらぁぁあああああっ!!」ざんざん

スズラン「なっ……どういうこと!? 急に力が増して……!」


櫻子「学校に現れたのが間違いだったね! ここには私の大切なものが全部あるんだから!」


櫻子「大事な友達、大事な先輩、大事な思い出! それを守るためなら、私はいくらだって力を惜しまない!!」


櫻子「それにまだ、クッキー完成してないんだからぁーーーー!!!」


すぱーーーん!!


ウィザー「ガァァアアアアアッ!!?」ずずーん


スズラン「なっ、た、断ち切られた……!?」


ナモリン「やったナモ~~!!」


櫻子「スズラン! あんたがナモリンにしたこと、今日全部聴かせてもらったよ! 私はあんたを許さないから!」じゃきっ


スズラン「くっ……ふふふふ!! 面白いわ、キュアチェリー……次に会うときは必ず倒してみせる!」しゅんっ

櫻子「…………よ、よかった……勝てた……」がくっ


「うおおおーーーー!!」

「女の子が勝ったぞぉおおおお!!」

「あの子プリキュアって言ってたわ!! 本物のプリキュアよ!」

「ありがとうプリキュアーー!!」



櫻子「あっ、や、やばいな~……みんなの前で戦いすぎた……あははは」

ナモリン「サクラコの正体がバレたらまずいナモ! 早くみんなの目の届かない所に逃げるナモ!」

櫻子「そ、そうだ! 向日葵たちが心配してるから戻らなきゃ!」たたたっ



櫻子「向日葵~~!」たったっ

向日葵「あっ、さ、櫻子!! どこ行ってたんですの!? 探してたんですわよ!?」

櫻子「ええっ、えっと……」


あかり「おっきい木のお化けが現れて、校庭で暴れてたの! さっきの地震はそのせいで……」

櫻子「わ、わかってるよ。私もみんなと一緒に見てたもん」


向日葵「心配かけないでちょうだい!! あんな時に勝手な行動しないで!」

櫻子「ちっ……違うよ! 職員室! 家庭科室はガスがあるから、地震で事故が起こらないようにガスを止めてもらいに行ってたの!」

ちなつ「そ、そうなの?」

あかり「櫻子ちゃん偉いよぉ……!」

櫻子「えへへへ……そうでしょ?」ぴーす


向日葵「そ、それはいいですけど……黙って走っていっちゃったら困りますわ! 私本当に心配で……!」

櫻子「はいはい、わかったわかった」ぽんぽん

向日葵「も、もう……!///」



「起きて……ねえ起きてよ、お願いっ……!!」

「………ぁ……」ぱちっ


「あぁ……っ! 気がついた!?」

「あ、あなた……なんで、私のこと笑ってたんじゃ……」

「笑ってなんかないよ……ずっと心配だったんだから!! 私にとって君は、君は特別なんだよ……! いつだって君のことが心配なの!」

「え……」


「君のことが好き……特別に思ってる。だからこそ、他の人に知られてそれが壊れるのが嫌なんだ……それに、他のどんな子と遊んでたって、君のこと忘れたことは無いよ……!」

「…………」

「本当は別れたくない、もっとずっと、一緒にいたい……君のこと、もっとわかってあげられるようになりたいんだ……!」ぎゅっ

「……ふふ、ありがとう…………私もあなたのこと、まだあんまりよくわかってなかったみたいね。あなた、私が思ってたよりもずっと優しくて臆病な子みたい……」

「え……」


「こんな私のことでも、心配してくれて、大切に思ってくれて……私その気持ちが見えてなかったわ、ごめんなさい……」

「い、いいよ……謝るのはこっちだもん……」

「いいえ、私の方よ。でも……こんな私でよかったら……もう一度、付き合ってくれますか……?」


「も、もちろん……!!///」ぎゅっ


ナモリン(ふふ……よかったナモ!)


しゅぃぃん……

ナモリン(あっ、プリンセスリリーに二人の幸せオーラが吸い込まれてく……!)


ナモリン(これでまた少し、大いなる願いに近づいたナモ……!///)



櫻子「はぁー、一時はどうなることかと思ったよ……」

向日葵「あなたの言う通りでしたわね……プリキュアって本当にいたんですのね」

櫻子「びっくりだよねー。私が昨日公園で見たのもたぶんプリキュアが戦ってた怪物だったんだろうなー」

向日葵「本当に信じられないけど……まあ何はともあれ、みんな無事だったからよかったですわ」


櫻子「……向日葵見たの? そのプリキュアの人」


向日葵「ええ、見ましたわよ。どうして?」

櫻子「いや、私職員室行ったりしてたからさ、見れてなくて……その……どんな子だった?」


向日葵「どんな子と言われましても、すごい遠くから見てたからなんとも……ピンク色のプリキュアでしたわね。主人公って感じしましたわ」

櫻子「ほうほう!? それで!?」


向日葵「それで、えっと……ちょこまかと逃げるように戦ってましたわ」

櫻子「ずこーーっ! な、なんか弱そうじゃん!」ずこー

向日葵「ええ、あまり戦い慣れていないような……ちょっとピンチに陥ったりもしてましたわね」

櫻子(う、うるさいなぁ……大変だったのに……!///)

向日葵「でも……かっこよかったですわ」

櫻子「えっ?」


向日葵「やっぱりプリキュアって、正義のヒロインですわね。どんな形であれ、頑張ってるところを見たときはかっこいいと思ってしまいましたわ」

櫻子「ほ、ほんとに!?///」


向日葵「ええ。でも櫻子が見たら、私もああなりたーいって言い出しちゃいそうで怖いですから、見てなくて正解だったかもしれませんわね」

櫻子(いや、私だけがプリキュアなんだけどね……)


向日葵「……あっ、そうだ。はいこれ」がさがさ

櫻子「ん? ……あ、クッキー!!」


向日葵「私、みんなの見本でいっぱい作ったので、その……おすそ分けですわ。ガスを止めるために動いてくれたお礼とかもありますし……」

櫻子「私にくれるの!?」

向日葵「ええ、どうぞ」

櫻子「やったーー!!」さくさく


向日葵(……ふふ、こんなお子ちゃまみたいな子には、プリキュアは無理でしょうね)

櫻子「うまうぃ~……♪」もしゃもしゃ



櫻子「ただいまー」ガチャ


花子「あっ、櫻子きた!! これこれ、テレビ見て!?」

櫻子「なに? …………って、うわ」


『本日昼ごろ、富山県七森町にある女子中学校で、巨大な木が動いて人を襲っていたとされる事件で、我々はその木を倒したとされる1人の少女の姿をカメラに収めることに成功……』


櫻子(ば、バッチリ映っちゃってるんですけど~~~!!///)


撫子「櫻子、これ本当なの……? あんたも見たんでしょ?」

櫻子「か、怪物は見たよ。プリキュアの子は見れなかったんだけど……」

撫子「まさかこんなのが本当にいるなんてねぇ……何が起こるかわからないね、世の中」

櫻子「ほんとだよね……」


『地元の人の証言では、少女は自らをあのプリキュアだと言い張っていたそうで、喧嘩の強いコスプレ好きの少女が暴れていたのではないかとの見解も……』

櫻子(んなわけあるか!!)

撫子「はぁ、プリキュアって本当にいるのかもねぇ……私も子供の頃は少しだけそう思ったこともあったなぁ」

花子「ええ? 撫子お姉ちゃんが?」


撫子「昔だよ、ほんと昔。夢中でテレビ見てた頃は思ってたよ……でも実際こうして怪物が身近で出たって聞かされたら、それどころじゃないね」

櫻子「どういうこと?」


撫子「櫻子が心配でしょうがないって話だよ……あんたすぐにこういうのに影響されるんだから、真似してプリキュアごっことか絶対しないでね?」ぽんぽん

櫻子「う…………///」


撫子「こういう世界とは無関係な人間なんだから、騒ぎがあっても常に “いのちだいじに” 。戦闘入っても逃げるコマンド押し続けること、わかった?」

櫻子「な、なんだよそれー! せめて “バッチリがんばれ” くらいやらせてくれても良いんじゃないのー!?」

撫子「そんなのに頑張らなくていいから、自分の身を守ることだけに集中しな」

櫻子(くそ~、私だけが頑張ってるとも知らず~……!)

撫子「……本当は私だって、櫻子や花子が危険な目に遭いそうだったら、例えプリキュアになってでもみんなを守りたいよ」ぎゅっ


櫻子「は、はぁ……?///」


撫子「二人とも……お願いだから、危ないことには巻き込まれないでね……」


櫻子(ね、ねーちゃん……///)どきっ


花子「だ、大丈夫だし! 花子だって撫子お姉ちゃんがピンチの時は絶対守るもん!」

撫子「あははは……ありがと、花子」なでなで


櫻子(……ねーちゃんたちも、絶対私が守るからね……///)



ナモリン「サクラコ~、今日頑張ってくれたから、プリンセスリリーに幸せのリリオーラが溜まったナモ~! よく頑張ったナモね~」

櫻子「うん、勝ててよかったよ……なんか私、プリキュアになれてちょっと嬉しいかな、なんて思ってるんだ……///」

ナモリン「サクラコはやっぱりプリキュアの素質があるナモ! サクラコに会えてよかったナモ~」


櫻子「ありがと、ナモリン……あ、そうだ! 私今日クッキー作ったんだよ、ナモリンの分も作っといたんだー♪」

ナモリン「ほんと!? 嬉しいナモ~♪」

櫻子「たべてたべてー!」

ナモリン「いただきまーすナモ!」


がきっ


ナモリン「かっ……固っっっったい!!」じーん

櫻子「えっ? うそ?」


ナモリン「か、固すぎるナモ~! こんなの食べ物じゃないナモ、ただの手裏剣ナモ~!」

櫻子「手裏剣ってオイ!」

ナモリン「チェリーシャムシールよりも全然攻撃翌力の高い武器だと思うナモ~……」

櫻子「な、なにをー!?///」


~fin~

〈ユルユリプリキュア! 二話 設定資料〉


『クインダム・ユルユリア』

思いやりや愛情を大切にする心の国、ユルユリア。
女王制を採しており、現女王はローゼス。第一王女にリアーネ、第二王女にナモリンが生まれている。王位継承権は長女のリアーネが持つ。

しかし、突然のウィザーの侵攻、そして国全体を覆ったバッドリリオーラによって人々は感情を無くし、もはや廃国となってしまった。
誰も言葉も交わさず、誰も視線を交えず……そこは無音で空虚な世界になってしまい、今や見るに堪えない。


『プリンセスリリー』

ユルユリアに伝わりし、王家の宝具。花形の綺麗に透き通ったガラスのような器。
想いを取り込むことができ、その想いによって様々な花を咲かせる。
幸せのリリオーラをぞんぶんに取り込めばホワイトリリーに咲き、バッドリリオーラを取り込んでしまえばブラックリリーに咲く。

ホワイトリリーが咲いた時には、世界中の人々の心に幸せと愛をもたらすほどの効果を見せるが、ブラックリリーが咲くと人々の負の感情を暴走させ、世界崩壊レベルの影響を及ぼすと伝わっている。

スズランなどの敵はこのプリンセスリリーにバッドリリオーラを取り込み、世界を悲しみに包み崩壊させようとしている。


『キュアリング』

ユルユリアに伝わりし王家の宝具。小さな宝石のついたささやかなシルバーリング。
女の子の強い心に反応し、プリキュアになれる女の子には光を放って反応する。これを手に握り想いを込めることによってプリキュアになれる。

このほかにも、キュアリングに祈りを込めると、リングを持つもの同士がテレパシーで疑似会話を行える。

指輪をつけちゃいけない櫻子は、ペンダントにして皆から隠すことにした。


『チェリーシャムシール』

櫻子の想いが生んだ、桃色の光を放つサーベル型の武器。
刀身の材質は不明だが、恐るべき硬度とありえないほどの軽さを誇る。

櫻子曰く、「持ち手の部分の重さしか感じない。うまい棒を持って振り回してる感じ」だそう。

【第三話:「まさかの2人目!キュアシスター!」】


櫻子『プリキュアっ! チェリーダイナマイトォォオオ!!!』


どがーーーーん!!


ウィザー「オオオォォォ……」ずずーん


スズラン「ちっ、またしても……!」


櫻子「スズラン! この子はね、自分を変えるために頑張ってたんだよ! どうすれば好きな子に振り向いてもらえるか、どうすれば自分を気にしてもらえるか……!
そんな純情を利用するなんてひどいよ!」

スズラン「ふん、それで勝手に失敗して、ひとりでに絶望して……所詮は心が弱いだけの人間だったようね。まあいいわ……次会う時は覚えていなさい、キュアチェリー!」しゅんっ


「おおおお……!」

「ま、またプリキュアが勝ったぞーー!!」

「ありがとう、キュアチェリ~!」


櫻子「ふ、ふう……なんとか勝てた……」

ナモリン「お疲れ様ナモ! これでまた、プリンセスリリーに幸せのリリオーラが溜まったナモ~!」

櫻子「ふふ、よかった……よし、それじゃ家に帰ろっか」



櫻子「ただいまーっ」


花子「…………」きらきら


櫻子「ただいま花子、何見てるの?」

花子「こ、これっ! また町で怪物が出て、プリキュアが来てくれたみたいだし!///」

櫻子(えっ、はやっ!? さっきのがもうテレビに出ちゃってる……!)


『プリキュアッ! チェリーダイナマイトォォオオ!!』ぼかーん


花子「わぁぁ……!」

櫻子(こ、こんな風に映ってるのか私……///)


花子「プリキュア……かっこいいし……!」

櫻子「えっ」

花子「そうだ、櫻子は本物のプリキュア見たことあるんでしょ!?」

櫻子「えっ、な、ないよ!? 怪物みたいのは見たことあるけど……プリキュアはまだないかなー」


花子「はぁぁ……///」ぱぁー

櫻子「め、目が輝いてる……花子ってそんなにプリキュア好きだったっけ? 子供っぽいしーとか言って、確か小学校入った頃にはもう見なくなってたよね?」


花子「でっ、でもあれはアニメだから! 本物のプリキュアはやっぱり全然違うし!」


花子「キュアチェリーは……かっこいいんだし……!///」

櫻子(!!)


花子「今やプリキュアはみんなの注目の的だし。学校でも毎日その話題で持ちきり、未来なんて休み時間になるたびにプリキュアごっこしてるし!」

櫻子「ま、マジで!?///」

花子「でもこんなのどこでも同じだと思う。今や日本全国の子供達が、毎日キュアチェリーの活躍を見たがってるし」

櫻子(う、うそ……///)

撫子「ただいま」ガチャ

櫻子「あっ、ねーちゃんおかえり」


花子「撫子お姉ちゃん! また今日もプリキュアが勝ったみたいだし!」

撫子「うん……そうみたいだね。なんか私の友達が今日のこれを偶然見てたみたいでさ……写メ送ってくれたよ。キュアチェリーの」

花子「えー、見たい見たい!」

撫子「はい、これ」ちゃっ

花子「わぁ……!」


撫子「…………」はぁ

櫻子「ねえ、やっぱり高校でもすごいの? プリキュアの話題って」

撫子「ん? そりゃすごいよ……どこ行ってもプリキュアプリキュア、本物のキュアチェリーが見たくて町をうろついてる子もいるみたい」

撫子「うちの校内新聞も、写真部も、みんなプリキュア追っかけてて……『プリキュアは実在するんだ』ってわかっちゃったもんだから、今や全国のプリキュアファンや子供達がこの町に注目してるんだってさ」

櫻子「へ、へぇ……」たじたじ

撫子「この怪物……ウィザーだっけ? ……がうちの近所で毎回出現するってことは、このプリキュアの女の子、どうやらこの町の子らしいんだよね……」

櫻子(まさしく……)


撫子「私……本当は嫌いなんだよね、このプリキュアが……」


櫻子(えっ……!?///)どきっ


櫻子「な、なんで!? 頑張って戦ってるじゃん、キュアチェリー!」


撫子「確かに頑張ってるけどさ、この子がこの町に住んでるってことは、今後も私たちの周りでしか怪物は出ないってことだよ?」

櫻子「っ……!」


撫子「現に櫻子の学校で出たりもしてるわけだし……それが嫌なんだよ。櫻子や花子や、私の友達が巻き込まれたりしないか心配で……」

櫻子「でっ、でも怪我した人とかはまだ出てないんだし、大丈夫じゃない?」

撫子「それは偶然だよ。キュアチェリーはまだ負けてないから、一応今は平和だけど……もしこの子が負けちゃったら、一番最初に被害を受けることになるのはこの町なんだよ?」

櫻子「!!」


撫子「戦ってるとこの映像は、私もテレビで見たけど……なんか危なっかしいじゃん。今勝ち続けてるのは、偶然としか思えないよ……」


撫子「はぁ、なんでこの町の子なんだろ……キュアチェリー。どこか遠くに引っ越してくれないかな……」

花子「撫子お姉ちゃん……」

櫻子「…………」


櫻子(それは……無理だよ……)

撫子「……いい? 櫻子も花子も、危ないことがあったらとにかく自分を守るんだよ? 危険なことには絶対に関わらないって、約束してね……」


撫子「あと、何かあったらすぐに私に教えて。どんなところにいたって、絶対お姉ちゃんが助けにいくから……」ぎゅっ

櫻子「わ、わっ……///」


撫子「櫻子と花子は、私の一番大事な宝物なんだからね……」


花子「お、お姉ちゃん……」

櫻子「…………」


撫子「あ、ああごめんね、急に深妙になっちゃって……すぐご飯作るから、宿題とか終わらせてきな?」

櫻子「うん……」

花子「わかったし!」



<櫻子の部屋>


がちゃっ

櫻子「はぁ……」


ナモリン「サクラコ……」

櫻子「あ、どしたのナモリン……お腹すいた?」

ナモリン「違うナモ、今の……ナデシコの話、私も聞いてたナモ」

櫻子「あ……」


ナモリン「キュアチェリーに、どこか行って欲しいって言ってたナモ……」


櫻子「……い、いいんだよ。ナモリンは気にしないで?」

ナモリン「で、でも……」

櫻子「いいの! 私はみんなを守りたいからこうしてプリキュアも続けてるんだし、私がいなくなったらユルユリアを元に戻せないんでしょ?」

櫻子「私が勝てばいいだけの話だもん……! そしたらこの町はずっと平和だし、ねーちゃんを心配させることもなくなる……」


ナモリン「だけど、キュアチェリーがいつまでもこうして勝ち続けていられるか、心配ナモ……」

櫻子「あーっ! ナモリンまでそんなこと言って! 大丈夫だもん、私は負けないもん!」ぷんすか

ナモリン「そっ、そんなのわからないナモ! スズランやウィザーはどんどん強力になっていってるナモ……このままだと、いつか負けてしまう時が来るかも……」

櫻子「じゃあどうすればいいの!? パワーアップできるアイテムとかあるんならちょうだいよ!」

ナモリン「そ、そんなの持ってないナモ~!」

櫻子「ならしょうがないじゃん! このままやるしか……ないじゃん……」


ナモリン「それは、そうだけど……」

ナモリン「……サクラコ、誰か2人目のプリキュアになってくれそうな子はいないナモか?」


櫻子「そんなの……私の周りにはいないよ……!」


櫻子「私は、私の周りの人たちを守るためにプリキュアやってるんだから、誰も危険には巻き込めないよ……」

ナモリン「さ、サクラコ……」


ナモリン「う、うぅ……」ぽろぽろ

櫻子「ちょ、ちょっと……どうしたの?」


ナモリン「サクラコをプリキュアにして、いつも守ってもらって……私はサクラコに全部してもらってるけど、私はサクラコに何もしてあげられてないナモ……!」

櫻子「もう……いいんだよ? そんなの。私が好きでやってることなんだから」

ナモリン「でも、でもぉ……」


櫻子「私にとってはナモリンも、もうすっかり守るべきもののひとつなの! これからも頑張って戦うから……私が絶対に、ユルユリアを元に戻してあげるから!」

ナモリン「サクラコぉ……」うるうる


櫻子(絶対に……負けない……)



<夜>


ナモリン(お姉様……リアーネお姉様……)じっ

ナモリン(この月は、ユルユリアからも見えていますでしょうか……)


ナモリン(サクラコはとても良い子です。明るくて、元気で、友達想いで……)

ナモリン(でもそんなサクラコだからこそ、戦いに巻き込んでしまったことを後悔しています……サクラコはプリキュアになるには、守るものが多すぎた気がするのです……)

ナモリン(でももう後には引けません……お姉様、どうか加護を……)


ナモリン「サクラコの力になってあげたいナモ……!」

むにゅっ


ナモリン「ひっ!!?///」びくっ


撫子「こ、この人形……今喋ってなかった……!?」

ナモリン(ひーー! 見られてたナモ~~!)


撫子「これ……櫻子のやつだっけ。なんでこんな所に置いてあるんだろ」


撫子「持って行ってやるか」ひょいっ

ナモリン(な、なんとか人形で隠し通せてるみたいナモ……)


撫子「櫻子ー?」コンコン


撫子「あれ、起きてる?」がちゃっ


櫻子「……ぐぅ……」すぴー

撫子(あらら、寝ちゃってるや……)


撫子(枕元にでも置いとくか)とすっ

ナモリン(ふぅ……)

撫子「…………」


撫子「……櫻子…………」ぎゅっ

ナモリン(わっ……!///)


撫子「あんたは絶対に、私が守るからね……」


ちゅっ


ナモリン(!!)


撫子「……はぁ、私ももう寝よう」


ぱたん


ナモリン(……す、すごいもの見ちゃったナモ……!///)


ナモリン(ナデシコ……サクラコにとっての、お姉様……)


――――――
――――
――

<翌朝>

撫子「櫻子ー? そろそろ起きないと遅刻するよー?」

櫻子「もう起きてるよー……ふぁぁ……」

撫子「早く着替えな、ひま子待たせないようにね」

櫻子「あいあーい……」ぬぎぬぎ


撫子「……櫻子、それなに?」

櫻子「ん?」

撫子「その首につけてるやつ……ネックレス?」

櫻子「わっ、わあああっ!! こ、これは、その……///」

撫子「可愛いじゃん、どしたのこれ、指輪?」


櫻子「そ、そうそう! 向日葵がくれてさ……でも学校に指輪してっちゃいけないから、こうしてネックレスみたいにしたんだー」

撫子「ひま子が……? 私そんなに指輪とか知らないけど、高いんじゃないのこれ……?」

櫻子「たっ、高くないよーおもちゃだもん、1000円くらいって言ってたっけな?」

撫子「なんだ、そんなもんか……でもシャレてるね、指輪なんて。ひょっとして婚約の証?」

櫻子「はぁ!? か、からかうなー!///」

撫子「ふふふ……冗談だよ。でもせっかく貰ったものなんだから、無くさないようにね」

櫻子「わ、わかってるよぉ……」



『続いてのニュースです、ここ数日の間に世間を賑わせている “プリキュア” 、いったいプリキュアとは何者なのか?
我々は、過去に放映されたアニメからその特徴を……』


花子「おお、朝からプリキュア特集やってるし」

櫻子「うわ、ほんとだ……」


花子「それにしても、櫻子がこんなに冷静なのが意外だし。てっきり未来みたいにプリキュアになりたいなりたい! って騒ぐと思ってたのに」

櫻子「私だってもう中学生なんですー、そんな子供みたいなことはしないのー」しっしっ

花子「ふーん……」


撫子「あれー……おかしいなぁ」

花子「撫子お姉ちゃん、どうしたの?」

撫子「いや、昨日まであったロールパンが見つからないんだよ。朝ごはん用だったのに……」

櫻子(げっ!!///)

撫子「櫻子、あんた昨日ロールパン食べた?」

櫻子「えっ! あ、んーと……ごめん、食べた」


撫子「いつの間に……夕飯食べた後ってこと? あんた昨日早めに寝ちゃってたよね」

櫻子「ご、ご飯食べてすぐ……ねーちゃんがお風呂入ってるときに」

撫子「もう、なんでそんなことしちゃうの? パン食べないで夕飯もっと食べればよかったじゃん」

櫻子「うん……」


撫子「しょうがないなぁ……何か代わりになるものは……」ごそごそ

花子「なにやってんだし櫻子……」

櫻子「ご、ごめんね……あはは」


撫子(……?)


櫻子(ナモリンにあげるためだなんて、言えないよなぁ……)はぁ


撫子「…………」



花子「いってきまーす」ガチャ

撫子「行ってらっしゃい」


撫子「櫻子ー? あんたもそろそろ出ないとひま子来ちゃうよー」

櫻子「う、うん、すぐいくよー!」


撫子(…………)


撫子「…………」そーっ


「ヒマワリに話してみてほしいナモ!」

「もう、だから向日葵はダメだって言ってるじゃん! 向日葵は一番ダメなの……! 私の正体明かさないだけでも精一杯なのに……!」

「だからいっそのこと打ち明けた方が、櫻子にとっても……!」


撫子「櫻子?」がちゃっ

櫻子「わーーっ!!///」びくっ


ナモリン(…………)こてん

櫻子「な、なに……? どしたの?」

撫子「いや、なんか話し声が聞こえたからさ……今誰かと話してた?」

櫻子「え、えー別にー? ただのひとりごとだよ……」


撫子「…………」

櫻子「…………」


撫子「……櫻子、何か私に隠し事してるよね」

櫻子「ひぇっ!? し、してない……///」


撫子「うそっ、怪しいよ! なんか昨日から変なことばっかり……!」ずいっ

櫻子「あっ、ああぁあーー! もうこんな時間じゃん遅刻しちゃーう! 私そろそろ行かなきゃっ!」だっ

撫子「あっ、櫻子!!」

櫻子「じゃーねー! いってきまーーす!」ぱたん


撫子「…………」


撫子(櫻子……あんたのことは、ねーちゃんが一番受け入れてあげられるんだよ……?)


撫子(生まれてからずーっと、あんたのお姉ちゃんやってきてるんだからさ……!)


撫子「…………」じろり

ナモリン(ひいっ!!///)びくっ


撫子「……ま、帰ってきたら聞くか」すたすた


ナモリン(や、やばいナモ~……!)



向日葵「世間はすっかりプリキュア一色ですわね」

櫻子「んー……うちも花子がそのテレビばっかり見てるよ」

向日葵「楓も同じですわ。今は幼稚園でもプリキュアの話題しか無いそうで……」

櫻子「…………」


『プリキュアのこと、ヒマワリに話してみてほしいナモ!』


櫻子(絶対やだよ……向日葵は一番巻き込みたくないんだから……)


向日葵「あ、そうだ櫻子、ちゃんと今日の小テストの勉強してきました?」

櫻子「う……してない」ぎくっ


向日葵「はぁ、まったく……あなた最近全然勉強してませんわね」

櫻子「し、仕方ないでしょ? 私だって忙しいんだから」

向日葵「学生の本分は勉強ですわよ。一体何が忙しいって言うんですの?」

櫻子「うう~……///」


櫻子(……あんまり向日葵から離れても、怪しまれるかな……たまにはまた一緒に勉強したりしなきゃ)


櫻子(……今日くらい、出てこないで欲しいな。ウィザーのやつ……)



美穂「あっ、撫子おはよ~♪」

撫子「おはよ美穂。なんか機嫌いいね」

美穂「見てみて~これ、写真部の子が売ってくれたの! キュアチェリーちゃんの写真!」


撫子「うわっ、これすご……! よく撮れてるね」

めぐみ「写真部渾身の一枚なんだってさ。なかなか高値で取引されてるらしいよ」

藍「すごいわよねぇ……」


撫子「美穂好きなの? プリキュアとか」

美穂「だってこんなに可愛いじゃない! それに実際戦ってるところも見ちゃったことあるし……あれを見たらファンにならざるを得ないわよ~」

めぐみ「確かに美穂、こういうフリフリの衣装とか好きそうだもんね」

藍「でもこれはちょっと派手すぎじゃない……?///」

撫子「何歳なんだろうね、この子。こんな格好してみんなの前で戦ってさ、恥ずかしい気持ちとかないのかな……」

美穂「ちょっと撫子、そんなこと言うなんてひどいわよ? せっかく私たちを守ってくれてるのに~」


撫子「いやいや、そういう意味じゃなくてさ……この子も大変だよねってこと。私だったら、こんなの耐えられないよ……」

藍「そうね、今のところこの子1人だけが、世界中の人の期待を背負ってる状態だもの……相当メンタルの強い子よね」

めぐみ「私もさすがに、この格好してみんなの前では戦えないな~……うんうん、想像しただけで怖い」


撫子「めぐみ、300円あげるからこの子と一緒にプリキュアやってあげてよ」

めぐみ「なんで!? 今想像して怖いって言ったばっかりなんだけど! しかも300円じゃさすがに動かないよ!///」

撫子「だってこの子、一人じゃん……プリキュアって普通何人か仲間がいるものでしょ? 早く誰か力になってあげてほしいんだよ……」

藍「そうね……一人きりで勝ち続けるプリキュアなんて見たことないわ。早く仲間が増えてもらわないと、いつか負けるときが来ちゃうかも……」

めぐみ「うーん、私も負けて欲しくはないけど、プリキュアになりたいって言ってなれるものでもないとも思うし……」


美穂「まあまあ、今の私たちにできることは、キュアチェリーちゃんを応援することだけよ。さあ、みんなも写真買いましょ?」

めぐみ「この写真を買うことが応援に繋がるんですか!?」

撫子(…………)



スズラン「…………あら」ぴくっ

スズラン「ふふふ……感じるわ、女の子の心の泣き声が……」すうっ


スズラン(ここは……高校ね)


「あいつ、ガチらしいよ……」

「だって見た? あの写メ……あれマジでしょ?」

「こっわ……大人しい顔してガチレズだったんだ……」


「…………」


裏切られた。

好きだと言ってきたのは向こうなのに、

一瞬で唇を奪われたと思ったら、

何故かその時の写真がばらまかれている。

まるで私が、あの子を襲っているかのような撮られ方をして。


「あいつはレズだから気をつけろ」……そんな噂と一緒に、今やその写真は消えないデータとして、全校中に回ってしまっている。

典型的なイジメだ。


こんなの慣れっこだ。中学の時もそうだったのだ。

だから私は、中学校をやめてからも勉強を続け、家から遠くの高校に通うことにした。

女の子しか愛せない自分、それがバレないように、大人しくしていた。

でもそれが裏目に出た。

大人しくしててもイジメられるのだ。私たち少数派の人間は、いつだって気持ち悪がられる。


もうこの学校にはいられないだろう。

きっとまた逃げることになるだろう。


私の人生は散々だ。

逃げて、逃げて、自分を偽って。そうして掴み取ったものも、無残に壊されて。


こんな人生に意味はない。

こんなに意味のない人生を続ける元気は、もう私にはない……

「殺してやる……あの女……」ちゃっ


『あらあら、こわぁい……♪』くすくす


「……誰?」

スズラン「可哀想に、自分は何も悪くないのにねぇ……好きなものを好きになれない、少しでも心を許したらイジメられる……ああ、本当に可哀想」

「…………」


スズラン「憎いわよね、あなたの唇を奪った女が……今なお被害者面をして、のうのうと仲間と笑ってるあの女たちが……! 殺したいほどに……!!」

「な、なにアンタ……」


スズラン『その悲しみ、そしてその殺意……その想いが私の力になるの……!!』ゴゴゴッ

「っ!?」


スズラン『いでよっ……ウィザーーー!!』しゅっ



向日葵「じゃあ私は先に生徒会の方に行ってますから、掃除終わったら、また」

櫻子「うん、じゃねー」


櫻子「はー、掃除めんどー」さっさかさっさか


ナモリン「サクラコ、サクラコ~~!!」ぴゅーん

櫻子「んっ!? ……ど、どしたの?」こそこそ


ナモリン「大変ナモ! ものすごい邪悪なオーラを感じるナモ~~……!!」

櫻子「ええっ!? やばっ……!」

ナモリン「早くしないとまずいナモ~!」

櫻子「わ、わかった! すぐにいくよ!」かたーん


向日葵「そうそう櫻子、言い忘れてましたけど今日の放課後……あら?」


向日葵「あれっ、いない……」きょろきょろ



櫻子『プリキュアっ! ブルームマイハート!!』


櫻子『愛に染まるは櫻の花っ! キュアチェリー!』ばばーん


ナモリン「チェリー、こっちの方ナモー!」

櫻子「おうよっ!」ぎゅーん



ウィザー「ウィザーーーーーーー!!」じゃきーん


「きゃあああああああっ!!」

「逃げろおおおおおぉぉ!!」


櫻子「うわっ、でっかいハサミのウィザーだ!」

ナモリン「めちゃめちゃ強い負のオーラを感じるナモ……チェリー、気を引き締めていくナモ!」


櫻子「うん……っていうかここ、ねーちゃんの高校じゃん! 生徒さんの気持ちが利用されちゃったのかな……」

櫻子「こらーー! やめろーー!!」ぎゅーん


スズラン「来たわね、キュアチェリー……ふふ、今回のウィザーはあなたでは手が付けられなくてよ。とびっきり強い殺意を手に入れたから……うふふふ!」

櫻子「さっ、殺意って……! 何があったかは知らないけど、わたしは絶対負けないんだから!」


櫻子「くらえーっ!!」ばんっ


ウィザー「グァァアアアアッッ!!」ぶんっ

櫻子「ひぇー!! 危ない!!」


ナモリン「気をつけるナモ、チェリー! 刃に切られたらひとたまりもないナモ~!」

櫻子「くっそー、ハサミの弱点ってどこなの!?」

スズラン「あはははは!! 偶然だけど、まさかこんなに鋭いハサミを持ってるとはね……どうやらこの子、本当に相手の女の首元に突き立てるつもりだったんじゃない? 怖いわねえ最近の若い子って……」


櫻子「刃には刃だ!! プリキュアっ! チェリーシャムシール!!」じゃきん


ウィザー「グォォアアアア!!」

櫻子「てやああああっっ!!」


ガキィン!!



めぐみ「何やってんの美穂、早く逃げなきゃ!!」

美穂「ちょ、ちょっとだけ! 一目でいいからキュアチェリーちゃんを見てみたい~……!」

撫子「バカなこと言ってんじゃないよ! この状況かなりヤバいってことわかんないの!?」

藍「屋上から物凄い音がするわ! きっとあそこで戦って……ああっ!!」

撫子「っ!!」


撫子「めぐみ危ないっ!!」どんっ


がっしゃーーーん!!


めぐみ「な、撫子ーーっ!!」

撫子「いっ……つ……!」


藍「お、屋上のフェンスが滅多切りにされて落ちてきてるのよ! 早く離れないと危険だわ!!」

「おい君たち何やってるんだ!! 早く逃げろ!」


美穂「ちょ、ちょっと押さないで! 私の友達が怪我したかもしれないの~!」

めぐみ「撫子っ! 撫子ーー!!」


「怪我人は大人に任せるんだ、君たちは早く安全な所へ……!!」


櫻子「うわああああああああああっっ!!」びゅんっ


どっしゃーーーーん!!


撫子「きゃあああああっっ!!」

「うおおおおおっっ!?」


櫻子「いっ………たぁ! くっそぉ……強い……!!」


「きゅ、キュアチェリーが劣勢だぞ! 早く逃げろーー!!」

「うわあああああああ!!」

撫子「きゅ、キュアチェリー! 大丈夫ですか!?」ばっ

櫻子「うわっ、ねーちゃん!! なんでこんな所に!?」


櫻子「あっ」


撫子「…………えっ?」


櫻子「ああっ、やばっ……!」ぎくっ


ウィザー「ゴァァアアアッ!!」びゅんっ

櫻子「あっ、危ないっ!!」ばっ

撫子「きゃーっ!?///」


櫻子(ね、ねーちゃんを安全なところに避難させなきゃ……!!)

撫子「ちょっとあんた、今ねーちゃんって……もしかして櫻子なの!? ちょっと!!」

櫻子「もう、うるっさいなー!! 危険に巻き込まれたら真っ先に逃げろって言ってたのはねーちゃんでしょ!?
あんなところで転んでたら本当死んじゃうよ!?///」


撫子「さ、櫻子……っ!!///」

櫻子「ったく、しょうがないなー! キュアチェリーは私だよ!! ちょっと今回マジでピンチなんだからさ、手わずらわせないでよほんとー!」

撫子「そんな……そんな……!」


ウィザー「ウィザーーーーーーー!!!」

櫻子「ちぃっ、追いつかれたっ……!」


ガキン!!


櫻子「ぐぅぅぅっ……!!」ぎりぎり


撫子「さっ、櫻子……!!」

櫻子「ねーちゃん逃げてっ! 早くっ!!」

撫子「でもっ!!」

櫻子「いいから行ってってばーー!!」

ウィザー「グァァアアアーーッ!!」ぐぐぐ

櫻子「きゃああああぁぁっっ!!!」ガキン


ナモリン「ちぇ、チェリぃぃーーー!!」

スズラン「良いわよウィザー!! そのままキュアチェリーを真っ二つにしなさい!」


櫻子「ぁぁああああっっ……!!」ギリギリ


撫子「櫻子っ、さくらこぉーー!!!」


櫻子「負け、ない……まけなぃぃいいっ!!」ぐぐぐ


櫻子「絶対にねーちゃんは守ってみせる……絶対、絶対に……!!!」


櫻子「ねーちゃんは、私の、いちばんだいじな、宝物なんだからぁぁ……!!」


櫻子「世界一の、ねーちゃんなんだからああああああああっ!!!」

撫子「!!!」

ぴかーん!!


ナモリン「わっ!! きゅ、キュアリングが……!!」

ナモリン(ふ、2人目のサインだナモ!!)


ナモリン「ナデシコ~~~っ!!」ぴゅーん

撫子「あっ、あんたは……!」


ナモリン「ナデシコ! もうわかってると思うけど、キュアチェリーの正体はサクラコなんだナモ!!
そして今、サクラコを助けたいというナデシコの強い想いが、このキュアリングと反応してるナモ!!」

撫子「キュアリング……!!」


ナモリン「さあこれを握って! サクラコを助けてあげてナモ~~!!」


『プリキュアっ!! ブルームマイハート!!』

撫子『風に染まるは撫子の花……キュアシスター!!』ばばーん


スズラン「なっ、2人目のプリキュア……!?」


ナモリン「キュアシスター!! 新たなプリキュアの誕生ナモ~~!!///」


櫻子「うぅぅぅ~~!!」ギリギリ


撫子「らああああああっっっ!!!」ぶんっ


バゴン!!!


ウィザー「ガァァッ!!??」ドッシャーン

ナモリン「うおおおおーー!! ものすごい馬鹿力ナモーー!!」

撫子「櫻子っ、櫻子!!」ゆさゆさ

櫻子「ね、ねーちゃん、かぁ……2人目……ははっ」


撫子「櫻子……ああっ……!!///」ぎゅっ


櫻子「ま、まあいっか……もう完全に怪しまれてたもんね……しょうがないや……」


櫻子「ロールパン、食べちゃって、ご、めん……なさい…………」がくっ


撫子「ああっ、櫻子ー!!」

ナモリン「大丈夫ナモ、気を失ってるだけナモ!!」


スズラン「ふふっ……2人目のプリキュア……キュアチェリーの姉、キュアシスター! お手並み拝見と行きましょうか?」くすくす


撫子「…………さなぃ……」ぶつぶつ

スズラン「?」

撫子「妹を泣かせるやつは、誰だろうと…………」


撫子「私がっ、ぜっっったいにっ、許さないっっっっ!!!!」ぎゅんっ


スズラン「なっ!?」


撫子「はあああああああっっ!!!」バキン

ウィザー「ゴォォオオオアアア!!?」ぱりーん


ナモリン「わあっ、ハサミの留め金が砕けたナモーー!」

スズラン「そ、そんな!! キュアチェリーをここまで追い詰めたウィザーが、一発で……!!?」


ずずーん


撫子「ったくバカ櫻子……困ったときはねーちゃん呼べっていつも言ってんのに……」


ウィザー「ァ……ア……!」


撫子「こういうのは全部っ、ねーちゃんに任せとけばいいんだよっ!!」ぶんっ


バッキィィィン!!

ナモリン「ひいいいい!! ハサミが折れたーー!!///」

スズラン「つっ、強すぎる……! キュアシスター……今日のところは勘弁してあげるわ、覚えていなさい!」ひゅんっ


撫子「……ふんっ」


撫子「……ほら櫻子、帰るよ」

櫻子「…………」


撫子「もう……よいしよっ、と……」ひょいっ

櫻子「ぁ……」


ナモリン「あ、あの……キュアシスター……」もじもじ

撫子「…………」


撫子「……あんたも一緒に帰るよ。帰って夕飯にしよ」

ナモリン「!!」


ナモリン「し、シスター……かっこいいナモ~~~!!///」ぺたぺた

撫子「こら、ひっつくな……ったく……///」


「な、なんだ……終わった、のか……?」

「あの怪物がいないぞ! プリキュアが勝ったんだーー!」

「うおおおおおプリキュアーーーっ!!」




櫻子「あ……」ぱちっ


ナモリン「あっ、サクラコ起きたナモ!」

櫻子「う、あれ……ねーちゃん……?」

撫子「やっと起きた? ほら、ちゃんと自分で歩きな。中学生にもなっておんぶされてんじゃないよ」

櫻子「おっととと、……ちぇー、いいじゃんかおんぶのままだって」


ナモリン「サクラコ、あのハサミのウィザーはナデシコが倒しちゃったナモ!」

櫻子「そ、そっか……よかったあ」

撫子「ったく心配かけて……あんなのに負けるタマじゃないでしょキュアチェリーは。もっとシャキッとしな」

櫻子「うう、厳しいなあもう……」

櫻子「……ねーちゃん、ごめんね」

撫子「なに?」


櫻子「……わたしが、私が強かったら、負けることなんかなかったのに……ねーちゃんがプリキュアになることなんかなかったのに……」

撫子「……それはまた後で話そう? とりあえず帰って夕飯、風呂……やることいろいろ終わったら、寝る前に私の部屋に来てね」

櫻子「ね、ねーちゃん……///」


ナモリン「ふふ、良い姉妹ナモ♪」

撫子「あんたにも聞きたいことが山ほどあるんだからね!」もにゅもにゅ

ナモリン「ひーーーー!!///」

櫻子「ただいまー」ガチャ

撫子「ただいま」


花子「あっ、撫子お姉ちゃん、櫻子! きてきて、テレビテレビ!」ぶんぶん


『これは、校内の監視カメラの映像です。ご覧のように、ピンチになったキュアチェリーの後ろから突然まばゆい光が放たれると、新しいプリキュアとおぼしき水色のプリキュア、
“キュアシスター” が現れ、ウィザーに強力な一撃を……』


櫻子「…………」

撫子「…………」


花子「つ、ついに新しいプリキュアが現れたんだし! しかもめっちゃ強いんだし!///」わくわく

櫻子「ふ、ふ~~ん2人目かぁ……ほんとだーつよーい……」

撫子「ふ、2人目の人が来てくれたからには、もうキュアチェリーも安心だね~……」

花子「二人ともどうしたし……? あんまり驚いてないみたいだけど」

撫子「いやいや驚いてるよ? でもほら、プリキュアってなんだかんだで仲間が揃うじゃん……2人目が来るのはわかってたことだもん」

櫻子「そうそう! なんならちょっと遅いくらいじゃない?」

花子「そ、そうかもしれないけど……」


花子「それにしてもキュアシスター、かっこいいし……!///」


櫻子(ま、まずいよ~……)

撫子(花子にはなんとしてもバレないようにしなきゃ……!)


撫子「よ、よし! すぐにご飯にしようか。今日当番櫻子だっけ?」

櫻子「えっ、私!? すっかり忘れてた……!」

撫子「しょうがないな、今日は私も手伝ってあげるよ」

櫻子「わーいやったー!」


花子「……? なんか二人とも仲良くなった?」

撫子「そ、そんなことないよ? ほんともう櫻子はバカだよねぇ」

櫻子「なんだよそれ!///」がーっ

ぴんぽーん♪


撫子「あれ、誰かきた」

櫻子「誰だろ……」


がちゃっ


櫻子「あっ、向日葵!」

向日葵「…………」


櫻子「ど、どしたの? なんか用?」


向日葵「櫻子……今までどこ行ってたんですのっ!!」


櫻子「えっ……」


向日葵「掃除の途中でいなくなったと思ったら……生徒会も来ないし!! 私終わってからもずっと待ってたんですのよ!?」

櫻子(や、やば!)

向日葵「いったい今まで何してたんですの!? なんで何も言わずに帰っちゃうんですの!?
今日終わったら宿題見てほしいって、言ってきたのはあなたの方じゃありませんの……!!」ぽろぽろ

櫻子「な、泣かないでよぉ……」

向日葵「泣きますわよ!! もうバカ櫻子、こんな危ない時に……!」

櫻子(ど、どうしよ~~!!)


「あーっ! ひま子来るの早いよーー!!」


櫻子「えっ」

向日葵「……え?」


撫子「ちょっと何やってんの櫻子、ひま子をうちに近づけないようにしとけって言ったじゃん!」

向日葵「な、撫子さん……?」

撫子「あーあ、せっかくサプライズパーティーしかけようと思ったのに……準備する前からばれちゃってどうすんのさ」

櫻子(あ……!!)ぱあっ

櫻子「そ、そうだよーー! ほんと向日葵は早とちりなんだから~、これじゃ全然サプライズになんないじゃんか~」

向日葵「さ、サプライズ……?」ぽかん


撫子「櫻子が普段世話になってる向日葵にお礼がしたいって、私に相談してきたんだよ。だったらやっぱりサプライズでおもてなししてあげようってことで、今日がそのパーティ決行の日だったのに……まだ準備全然できてないんだよ?
もう」

向日葵「…………」


向日葵「な、なんだ……そういうことだったんですのね……!///」ぱああっ


櫻子「ごめんね向日葵、このパーティー大成功させたくってさ、向日葵に秘密でいろいろしてたんだけど……逆に心配させちゃったんだね」

向日葵「ほ、ほんとですわよ……でもまあサプライズなら仕方ないですけど……」

撫子「じゃあ今から急ピッチで料理作るからさ、ほら楓も呼んできて? 今日はぱーっといこう」

向日葵「え、ええわかりました……ありがとうございます! 私もお料理お手伝いしますわ!」

撫子「もう、ひま子が手伝っちゃったら全然おもてなしパーティじゃないじゃん」

向日葵「いえ、私も撫子さんにはいつもお世話になってますし、何かお礼がしたくて。それじゃ楓呼んできますわね!」たっ

ぱたん


撫子「ふぅ…………」

櫻子「……ね、ねーちゃん……」


撫子「……いいよ。あんた今までずっと一人でやってきたんでしょ……みんなの期待背負って、誰にも秘密にしてさ……」


撫子「……こんくらいするのが、姉としての務めだっての」ぽんぽん


櫻子「あ、ありがとう……!///」

撫子「その代わり、これからはちゃんとうまくやんなよ? ひま子巻き込みたくないってのはわかるけど、あんたはいろいろと不器用なんだからさ」

櫻子「わ、わかった……」


撫子「はい……というわけで、今からパーティーすることになっちゃったから、急いで準備するよ!」

櫻子「了解!」


撫子「花子も準備手伝って! 今日パーティすることになったから! 」

花子「キュアシスター……かっこいい……」ぽわぽわ

櫻子「聞いてねえ!!」がーん



<夜>


櫻子「それでね、たしか、ゆうかちゃんって子を……助けようと、したときが、さいしょで……」


櫻子「…………」すぅ


ナモリン「ぜ、全然話してないうちに寝ちゃったナモ……」

撫子「……ま、仕方ないよ。櫻子は今日までずっと一人だったんだから……今日の戦いで、すっごい疲れてるんだと思うし」なでなで

ナモリン「ナデシコ……」


ナモリン「ナデシコは本当に妹想いのいいお姉さんナモ。ナデシコが二人目のプリキュアになってくれて、一番よかったかもしれないナモ!」

撫子「…………」

ナモリン「サクラコは大事なものを全部守ろうとして、がむしゃらに頑張ってて……でもナデシコがいてくれたら、きっと心の拠り所ができるナモ!」

ナモリン「それにナデシコだって、サクラコのことが大好きなんでしょう? 昨日見ちゃったナモよ、ナデシコが寝ているサクラコにキスしてるとこ……」


撫子「あのさ、ナモリン」


ナモリン「?」


撫子「櫻子には、今日限りで……プリキュアやめさせようと思う」


ナモリン「え……」


ナモリン「な、何を言い出すナモ!? プリキュアをやめるって……!!」


撫子「そのまんまの意味だよ。櫻子には……もう戦わせない」すっ


撫子「櫻子のキュアリング、返すね」


ナモリン「そ、そんなぁ……!!」がーん


~fin~

〈ユルユリプリキュア! 三話 設定資料〉


『キュアシスター』

―――大切な妹を守る。その強い想いにキュアリングが反応し、撫子がプリキュアになった姿。
皆の幸せを願う気持ちが人一倍強い、水色のプリキュア。

単純な力、思考力、戦闘センス、どれをとってもキュアチェリーより数段強い。
しかし親しい友人や愛する妹に危害が及びそうなときは冷静さを失い、力を暴走させてしまう。

撫子曰く、「この衣装は恥ずかしすぎるから嫌い」だそう。


キュアシスター変身時セリフ『風に染まるは撫子の花! キュアシスター!』


『ハサミのウィザー』

ひどすぎる苛めに会い、絶望に打ちひしがれた悲しい少女の想いが、そのとき手にしていた散髪用鋏に乗り移った。
少女は明らかな殺意を持っていた……もはや自分の未来は考えず、一人でも多くの人に復讐をしようと。
暴走状態のキュアシスターでようやくその強さに釣り合い、想いを断ち切ることができた。

しかし少女はこれで幸せになったわけではない。
眠りから目を覚まし、目の前で粉々になっていた鋏を見て、少女はまた歩き出した。
自分が素直で在ることができる、新たな世界を求めて。

よって今回、プリンセスリリーにオーラは溜まっていない。

【第四話:「撫子の決意!櫻子のキュアリング剥奪!?」】



櫻子「…………ん……」ちゅんちゅん


櫻子「う……朝だ……あれ、なんで私、ねーちゃんのベッドで…………」


櫻子(……そうだ、昨日はねーちゃんにプリキュアのこと話して……いや、あんまり話せないまま寝ちゃったんだ)


櫻子「二人目のプリキュアは、ねーちゃんになったんだよね……///」


櫻子「はっ、やばい遅刻する!」ばっ



花子「いってきまーす」

撫子「行ってらっしゃい」


櫻子「あれ!? 花子なんで私服で……学校は!?」どたどた

花子「はぁ……? 今日は土曜日だし」

櫻子「え……そうだっけ」


花子「毎週土日を楽しみにしてる櫻子がお休みの日を忘れるなんて珍しいし。花子今日は未来のお家に遊びに行ってくるから」

櫻子「あーそうなんだ、行ってらっしゃい」


ぱたん


櫻子「なんだ今日土曜だったのか~……てっきり学校かと思って飛び起きちゃった」

撫子「よく眠れた?」

櫻子「うんバッチリ! こんなに良く寝たのは久しぶりー」えへへ

撫子「朝ごはん作ったから。食べよ」

櫻子「うん!」

撫子「……ナモリン、いるんでしょ? もう私たちしかいないし、一緒にご飯食べよ」

ナモリン「いっ、いいナモか~?///」ひょんっ


撫子「あんたもお腹減るんだもんね。だったらちゃんとご飯は食べなきゃ……櫻子がロールパンとったりしてたのって、あんたのためなんでしょ?」

ナモリン「そ、そうナモ……櫻子はいろいろ秘密にしながら、頑張って私のお世話もしてくれてたんだナモ!」

撫子「これからは私も協力するから。なるべくちゃんとしたご飯出せるようにするよ」

ナモリン「うっ、嬉しいナモ~~……!///」

櫻子「よかったね、ナモリン!」

ナモリン「うん!!」

『昨日昼ごろ、富山県の女子高校に現れた巨大なハサミ型の怪物、そしてそれを倒した新たなプリキュア “キュアシスター”
、当番組スタッフは現地の人々にインタビューを……』


櫻子「あー、またねーちゃんテレビ出てるよ!」

撫子「…………」

ナモリン「あ…………」


シスター『妹を泣かせるやつは、誰だろうと…………』

シスター『私がっ、ぜっっったいにっ、許さないっっっっ!!!』


バッキィ!!


櫻子「えっ……!?」


住民『遠目からしか見えなかったんですけど、ありえないほど強かったんですよ! 』

生徒『キュアチェリーをあそこまで追い込んだあのハサミが、気付いた時にはもうバラバラだったんです……!』


櫻子「ば、バラバラって……なにこれ……」

ぷちっ


櫻子「あっ、ちょっと! なんでテレビ消しちゃうの?」


撫子「……櫻子」かたん


櫻子「な、なに……?」


撫子「櫻子はもう今日から、プリキュア禁止ね」


櫻子「は……」

ナモリン「…………」


櫻子「な、何言ってんの!? 禁止って……どういうこと!?」

撫子「今後ウィザーが現れても……櫻子はもうプリキュアとして戦わせない。私が一人で戦う」

櫻子「なにそれ……い、意味わかんないよ!! 一緒に戦えばいいじゃん! ……って、あれ!? 私のキュアリングが無い!!」

撫子「リングは昨日ナモリンに返しておいたよ。もう櫻子は戦わせない」

撫子「アンタと一緒じゃなくても……私は勝てるんだ。だから櫻子が戦う必要は、もう無いんだよ」


櫻子「わ、私だってみんなのために戦いたいよ! 確かにねーちゃんよりは弱いかもしれないけど……!」


撫子「足手まといなんだよ、櫻子」


櫻子「っ…………」


櫻子「……ふざけんなぁっっ!!」ばんっ


ナモリン「さ、サクラコ……」

櫻子「なにさ、自分がちょっとばかし強いからって!! 私のことまで勝手に決め……!」


撫子「櫻子……」なでなで


櫻子「……!?」ぴくっ


撫子「お願いだから、お姉ちゃんの言うことを聞いて……」


櫻子「えっ……」

撫子「昨日、寝る前にずっと考えてた……」

撫子「もしあのとき私がプリキュアになれてなかったら、櫻子は殺されてたかもしれないんだって……!」

櫻子「っ……」


撫子「あのハサミに締め上げられてる櫻子を見て、私は理性が飛んでた……櫻子を失うと思ったら、もう何も考えられなくなってたんだ」


撫子「櫻子がいなくなるなんて、考えただけでも耐えられないんだよ、私は……!」ぎゅっ


櫻子「…………」


撫子「この前も言ったよね……私は櫻子や花子が危険な目に遭いそうだったら、例えプリキュアになってでもみんなを守りたいんだって」

撫子「あんたたちが一番大事だから、危険なことに巻き込まれそうになったら真っ先に逃げろって。覚えてるでしょ?」

櫻子「う、うん」


撫子「でももうあのときには、櫻子はプリキュアだったんだよね……誰にも何も言わずに、私たちを守ってくれてた……」

撫子「まったくバカみたいだよ、私……妹が危険な目に合ってるのに、そんなの全然気づいてあげられなくて、のうのうと守られておきながら、私が守るなんて大口叩いてさ……」


櫻子「そ、そんなことないよ! ねーちゃんは……!」

撫子「なにもできなかった!
……なにもできてなかった……妹に相談のひとつもしてもらえない、あげくには世界を一人で背負ってる妹に『どこか行ってほしい』なんて言ってさ……お姉ちゃん失格だよ……」


撫子「……でも、もう話は違う。私もプリキュアになれたんだ」ぐっ


撫子「ほんとはこんなの嫌だよ? なんで私が戦わなくちゃいけないのかわかんない……いい年してこんな恰好で、みんなの前で、恥ずかしいって気持ちもある……」

撫子「でもこれで櫻子を、みんなを、自分の力で守ることができるようになったんだ! 叶わない願いが、叶った……!」


撫子「やっと櫻子を、ちゃんと守ってあげられるようになったんだ……!」


櫻子「…………」

撫子「私はね、あんたが一秒でも危険な目に合うのが嫌なの……苦しさを抱え込んで、家族にも秘密にして……あんたのそんな顔は、もう見たくない」

撫子「いつも元気に笑ってる、普通の女の子でいてほしい……」

撫子「戦いなんかとは無関係な世界で……ずっと平和でいて欲しい……!」


櫻子「……!」


撫子「私があんたを守るから……この世界も、ユルユリアも、すぐに全部解決してみせるから」


撫子「だから、あとは全部、お姉ちゃんに任せて……?」ぽんぽん


櫻子「ね、ねーちゃん……」


ナモリン「……昨日、ナデシコに相談されたナモ。サクラコをもう戦わせないで欲しいって……」

ナモリン「戦わなくて済むんだったら、それが一番良いんだって、私も思うナモ……!」

撫子「ひま子も昨日言ってたよね。櫻子は最近全然勉強やってないって」

撫子「確かにプリキュアは大事なことだけど、櫻子にだって大事な未来があるんだからね?
あんたがプリキュア始めてから、学校も勉強も、ひま子のこともおろそかになってたじゃんか……」


撫子「もういいんだよ。あんたは十分頑張ったんだ。今までありがとう、キュアチェリー……」


撫子「これからは普通の女の子として、私がいない間の花子やひま子たちを守っていってほしい。やってくれるよね?」


櫻子「…………」


撫子「大丈夫……私は、櫻子がいてくれさえすれば、どこまでも頑張れるよ……///」にこっ

櫻子「っ……!///」



撫子「……さて、そろそろ出かける準備しなきゃ。私今日めぐみと約束があってさ。留守番お願いね、櫻子」

櫻子「えっ……」


撫子「ナモリン、もし何かあったら困るから、バレないように私についてきて。ウィザーが出たらすぐに教えてくれる?」

ナモリン「わ、わかったナモ!」

櫻子「…………」




櫻子(…………)


櫻子(もう、戦わなくていい……)


櫻子(ねーちゃんは強いから、一人でも大丈夫……)


櫻子(私はもう、普通の女の子……)


櫻子「……無理だよ……そんなの」


櫻子「もう全部知っちゃったのに、今更普通の女の子になんて、戻れるわけないじゃん……」


櫻子「私がいないと、ダメでしょ……」


櫻子「ピンクのキュアチェリーは……主人公なんだからさぁ……!」ぐっ

ぴんぽーん


櫻子「わっ…………は、はーい!」ごしごし


がちゃっ


向日葵「おはよう櫻子」

楓「おはようなの!」

櫻子「ひ、向日葵、楓……どしたの?」


向日葵「いや、さっき撫子さんがうちにきて……櫻子が暇してるから遊んでやってって言われたから、とりあえず来たんですけど……」

櫻子「なっ……!?」

楓「昨日もぱーてぃーしたけど、今日も櫻子おねえちゃんとあそびたいの!」

向日葵「うちも今日暇ですし、特に用事ないなら楓と遊んであげてくれます? あっ、昨日やる予定だった勉強とかやってもいいですわよ」

楓「櫻子お姉ちゃんと遊ぶの、久しぶりなの♪」

向日葵「そうですわねぇ、先週は出かけてましたし……あれ、櫻子?」


『これからは普通の女の子として、私がいない間の花子やひま子たちを守っていってほしい。やってくれるよね?』


櫻子(今は、普通の女の子として、できることをやらなきゃ……!)


櫻子「……よし、わかった。今日は一緒に遊ぼっか」

楓「わあい♪」




撫子「あっ、いたいた。おまたせ」たたたっ

めぐみ「撫子……!」


撫子「ごめんね遅れちゃって、ちょっと家で話してて……」


ぽふっ


撫子「えっ」


めぐみ「うう、なでしこぉ……」

撫子「な……なに、めぐみ……どしたの?」


めぐみ「ぐす……ご、ごめんね。顔見たら急に安心しちゃって……昨日あのときから撫子のことずっと心配だったから……」

撫子「ああ、そっか……そうだよね、私もめぐみのこと心配だったよ。怪我はなかった?」

めぐみ「それはこっちのセリフだよ! 撫子、降ってくるフェンスから私をかばって転んで……あのとき足怪我してなかった? もう大丈夫?」

撫子「大丈夫大丈夫。もうなんともないよ」

めぐみ「はあ、それならよかったけど……あの後人ごみに押されてバラバラになっちゃってさ……撫子はどうしてたの?」

撫子「あーっと……キュアチェリーに助けられたんだ。安全なところまで避難させてもらって。だから大丈夫だったんだ」

めぐみ「そう、よかった……///」


撫子「心配かけちゃったね、めぐみ……でも無事でよかったよ」

めぐみ「昨日撫子からメール返ってきたときは本当にほっとしたなぁ……今回のキュアチェリー大ピンチだったし、どうなることかと思って」

撫子「そうだね……まあ、過ぎたことは忘れよ? なんだかんだで昨日もウィザーは倒されたんだしさ。これからも気を付けていこうね」


めぐみ「そ、そうだよね! 楽しくいかなきゃ! ……ところで今日は何かしたいことある?」

撫子「したいことかぁ……ってか今日私だけ? 他の子は呼んでないの?」

めぐみ「うん、撫子だけ……今日は、二人っきりがよかったんだ、なんて……///」もじもじ

撫子「ふーん……」


めぐみ「いっ、いいでしょ、本当に心配だったんだから! それに助けてもらったお礼でもあるし……私、今日は撫子にとことん付き合うからね♪」

撫子「ふふ、ありがと。じゃあ今日は私の行きたいところ回ろうかな」

めぐみ「りょうかーい! どこまでもついてくよ~!」


――――――
――――
――

<夕方>


櫻子「うーわかんない……」

向日葵「どこですの?」

櫻子「ここ、全然……」

向日葵「これはおとといの授業でやったところですわよ。よく思い出して?」

櫻子「んー……寝ちゃってたかもその時」

向日葵「もう仕方ないですわね、えーっと教科書は……」ぺらぺら


櫻子(一週間くらいしかたってないのに、勉強だいぶ遅れちゃってるな……)


ぶーっ、ぶーっ


櫻子「あ、メールだ」

向日葵「あら、私の携帯にも……」ちゃっ

櫻子「子ども安心メール……? なにこれ」

向日葵「こ、これは市が小学生や中学生に向けて出してるものですわよ。緊急の連絡とか保護者への呼びかけとか……楓、テレビつけてくださるっ?」

楓「わかったの!」

櫻子「?」


ぴっ


『たった今入った情報によりますと、現在富山県内にある公園で巨大なブランコ型のウィザーが確認された模様です! 現地と生放送が繋がっております』


櫻子「えっ!?」どきっ

向日葵「や、やっぱり! 新しい敵が出たみたいですわ!」


『こちらは富山県上空です!
画面中央の青白い光が見えますでしょうか、おそらく先日現れた第二のプリキュア、キュアシスターがブランコ型のウィザーと交戦中の模様です!
これは生放送です! 近隣の住民の方は、一刻も早い避難を……!』


楓「この公園、楓もいったことあるの……!」

向日葵「ここからそう遠くないですわね……大丈夫かしら」

櫻子(ね、ねーちゃん……!!)




ウィザー「ウィザァァァアアアッ!!」ぶんぶん

撫子「ちぃっ、危ない……!」ひゅんひゅん


スズラン「あらあらどうしたのキュアシスター! 昨日のような覇気がまるで無くてよ。やはり前回はまぐれの強さだったのかしら?」

ナモリン「シスター!! 逃げてばっかりじゃだめナモ~!」

撫子「わかってる、けど……!」


撫子(めぐみが近くにいるんだ……時間を稼いで逃げてもらわないと……!)


「なでしこ~っ!」


撫子「!!!」


めぐみ「撫子っ、どこー! 撫子ー!!」きょろきょろ

撫子(あっ、くそ……!)

ウィザー「オオオォォォッ!!」ぶんっ

めぐみ「きゃああああっ!!」


撫子「危ないっ!!」ばっ


めぐみ「……あ、あれ……?」


撫子「大丈夫? こんなところにいたら危ないよ」

めぐみ「きゅ、キュアシスター!!」


撫子(私がめぐみを遠くに避難させちゃおう……!)ぎゅーん


めぐみ「きゅ、キュアシスター、まだ私の友達が向こうの方に……!」

撫子「わかった、すぐに戻って探してみるから、君は向こうの方に逃げて!」すたっ


めぐみ「あ、ありがとうございます……!///」

スズラン「あら? そういえばキュアチェリーの姿が見えないわねぇ……キュアシスター、あなたの妹はどこに行ったのかしら?」

撫子「ふん……あんたの相手は私一人で充分なんだよ」

スズラン「ふふっ、何を考えてるのか知らないけど一人とあらば好都合……ウィザー、キュアシスターを倒しなさい!」

ウィザー「ウィザー―――!!」ぶんっ


撫子(くっ、振り回されるブランコが危なくて近づけない……どこを狙えば……!)


ナモリン「シスター! プリキュアは自分の思った通りの技が使えるんだナモ! ブランコは素手で戦うには分が悪い……シスターも武器を使ったほうがいいナモ!」

撫子「武器……よしっ」


撫子『プリキュアっ!! セーブ・ザ・シスター!!』じゃきん


撫子「これで鎖を断ち切る……!!」びゅんっ

ウィザー「ウィザー――――!!」ぶんっ

撫子「はああぁぁーーっっ!!」


バキンっ!!


スズラン「なっ、ブランコが……!」

ナモリン「その調子ナモ! ブランコさえ無くなっちゃえばただの鉄の棒ナモ~!」


撫子「全部ぶったぎってやる……!」ざんざん


ウィザー「ガアアアアッ!?」びしっ


撫子「そうやすやすと負けやしないよ、私はっ!!」ぶんっ




櫻子「あ……あ……」

向日葵「つっ、強いですわねキュアシスターは……あっという間に倒しちゃいましたわ」

楓「すごいの……」


櫻子(ねーちゃん……本当に一人で勝っちゃうんだ……)


櫻子(私なんか、いらないんだ……)


ずずーん


『ど、どうやらウィザーは消滅した模様です! キュアシスターが勝ちました!!』

『現場に怪我人は出ていない模様……詳しい状況はまた追ってお伝えします!』


向日葵「よ、よかった……今回もプリキュアが勝ったんですのね」

楓「きゅあしすたー、かっこいいの!」

向日葵「ええ……でも今日はキュアチェリーがいませんでしたわね」

櫻子(!!)


向日葵「てっきりこれから二人でやっていくものだと思ってたのに。ふたりはプリキュアってよく言いますものね」

櫻子(ふたりは……プリキュア……)はっ


櫻子(そうだよ……プリキュアが二人なのは……お互いがお互いを守るからだ……!)


櫻子(片方のピンチを片方が助けて、どちらかが弱ったらどちらかが頑張って……)


櫻子(私が一番守らなきゃいけないのは向日葵でも花子でもない、ねーちゃんだ……!!)ぐっ


向日葵「櫻子? ほらプリキュアはもう勝ったんですから、ここの続きやりますわよ」

櫻子「…………」


向日葵「ちょっと、聞いてますの?」

櫻子「あっ……ああ、うん」




撫子「めぐみーー!」たったっ

めぐみ「あ………な、撫子っ!!///」


撫子「よかった、こんなところにいたんだ」

めぐみ「う、うん、キュアシスターが私を安全なところまで運んでくれて……っていうか撫子どこに行ってたの!? 私ずっと探してて……!」

撫子「逃げ遅れてる子供とかがいたから、その子たちを避難させたりしてたんだ……ごめんねめぐみ、心配かけて」

めぐみ「なんだ……もう、撫子ったらこんな時でも人のことばっかり……!」ぽふっ

撫子「……仕方ないでしょ……困ってる人見たら、ほっとけないよ」

めぐみ「もう、もう……!!」ぽろぽろ

撫子「…………」ぎゅっ

撫子(今日の敵は、昨日より手ごわかった……それは私が迷ってるからだ)


撫子(みんなに秘密にしながらプリキュアを続けていけるのか、これからも本当に勝ち続けていけるのか……)


撫子(今の私は雑念ばっかりで、想いを力に変えていけてない……プリキュアとしての力じゃない、ただの意地で戦ってるだけ……)


撫子(……でも、それでも、勝つしかない……!)


めぐみ「撫子……私、嫌なんだよ……最近、撫子がいなくなっちゃうんじゃないかって心配で心配で……!」

撫子「!」


めぐみ「いっつも人のことばっかり気にして、自分のことなんか全然見てないんだもん……もっと自分を大事にしてよぉ……!」きゅっ

撫子「うん……」


撫子(ごめんね……めぐみ……)




<夜>


花子「櫻子も見てた? きょうのキュアシスターの活躍!」

櫻子「う、うん……向日葵とテレビで見たよ」


花子「やっぱりキュアシスターはすごいし……キュアチェリーもかっこよかったけど、シスターの方がかっこいいし」

櫻子「…………」

撫子「花子、お風呂まだでしょ? ご飯食べたら入っちゃってね」

花子「わかったし」


撫子「…………」もぐもぐ


櫻子(ねーちゃん……)じっ


花子「ごちそうさまー」

撫子「あ、私が食器洗っとくよ。先にお風呂入っちゃって」

花子「ん、ありがとー」ぱたぱた

撫子「…………ナモリン、出てきていいよ。夕飯食べよ?」

ナモリン「あ、ありがとうナモ……♪」ひょんっ


撫子「ふふ、あんた触手で箸持てるんだね」

ナモリン「このくらい簡単ナモ!」ぱくぱく

櫻子「…………」


ナモリン「今日ナデシコが頑張ってくれたから、プリンセスリリーにまた少しオーラが溜まったナモ! 本当にありがとうナモ……!」

撫子「お安い御用。昨日より力は出せなかったけど……それでも私一人でなんとかなるみたい。きっとすぐにプリンセスリリーも咲くよ」


櫻子「……ねーちゃん、今日めぐみねーちゃんと何してたの?」


撫子「え、なにって……普通に買い物とか。なんで?」

櫻子「……いや、まあ……鏡見ればわかるよ。ねーちゃん首が赤いから」

撫子「えっ?」


櫻子「強く抱きしめられた跡がついてる……どうせめぐみねーちゃん泣かせたちゃったんでしょ。そのくらいわかるよ」

撫子「う、うそっ……///」

櫻子「ねーちゃんが昨日より強くなれてなかったのは、テレビで見ててもわかった……」


櫻子「だってさ、女の子の悲しい心から生まれたウィザーに、女の子泣かしてるような人が勝てるわけないでしょ……」


撫子「…………」


櫻子「これじゃあねーちゃんは、いつか絶対負けちゃう……! そしたらねーちゃんを守れるのは誰!? 同じプリキュアの私しか……!」

撫子「櫻子」ぎゅっ

櫻子「っ……!!」


撫子「櫻子がそう思ってくれてるだけで、私は十分なの。ありがとう……」なでなで


櫻子「ありがとうじゃ……ないよ……」ぽろぽろ


撫子「泣かないで……花子に見られたらどうすんの」

櫻子「ねーちゃんが泣かしてるんだっての……ばかぁ……!!」

撫子「…………」


櫻子「ばかっ……ばかぁぁ……!」

ナモリン「サクラコ……」


――――――
――――
――

それから数日、撫子は一人で戦い続けた。


櫻子は普通の女の子に戻った……が、どこかでウィザーとプリキュアが戦ってるという情報が入るたびに、顔を曇らせていた。


撫子はプリキュアとしての勝利を重ねてはいたが、学校生活、友人関係、家族……今まで大切にしてきたものとの同時並行に、心も体も疲弊していた。


<夕食>


花子「んー、最近プリキュアの番組も減ってきたし」かちゃかちゃ

櫻子「そうだね……」


花子「確か今日もどこかで戦ってたはずなんだけど……まあいっか」


花子「それより最近キュアシスターばっかり戦ってて、キュアチェリーが全然出てこないし。どこに行っちゃったんだろう?」

櫻子「…………」

花子「キュアチェリーはピンクだから、てっきりプリキュアのリーダーなんだと思ってたけど。どっちか一人しか戦っちゃダメなのかなあ……」

櫻子「そんなこと、ないと思うけど……」

花子「二人で戦ったほうが絶対良いに決まってるし。あ、撫子おねえちゃん醤油とって?」


撫子「…………」すぅ


花子「あれ……? お姉ちゃん寝ちゃってる……!?」

櫻子「……!」はっ


花子「ちょっとちょっと、ごはんの時に寝ちゃだめだし。撫子お姉ちゃん!」ゆさゆさ

撫子「あっ、ああ……あれっ?」


花子「そんなに疲れてるの? だったら早く寝た方が……」

撫子「ううん、大丈夫。疲れててもご飯は食べなきゃね、ごめん花……」



ばんっ!!!


花子「きゃっ!!」びくっ

撫子「!!」

櫻子「…………」ぷるぷる


花子「さ、櫻子どうしたし……!?」


櫻子「…………」


櫻子「……うっ、う、うぅぅぅっ………///」ぽろぽろ


花子「え……」


撫子「さ、櫻子……!」ばっ


櫻子「やだ……もう、やだぁ………!」

撫子「さ、櫻子どうしたの……泣かないで……」なでなで


花子「ど、どうしたんだし……」


撫子(櫻子……ごめん……)ぎゅっ


櫻子「うぅあああぁ……ぅぅぅ………」




<夜>


櫻子「…………」がちゃっ


櫻子「ねーちゃん…………」


撫子「……zzz」すぅすぅ


櫻子「あぁ……ねーちゃん……!」

ナモリン「サクラコ……」ひょんっ


櫻子「ナモリン、もう私、嫌だよぉ……こんなねーちゃん見たくない……」


ナモリン「…………」


ナモリン「……ナデシコは、私のお姉さまによく似ているナモ」

櫻子「えっ……」

ナモリン「私のお姉さまは、ユルユリアの次期女王……でも王位継承権を持たない私が嫌な思いをしないようにって、いつも私のことを一番に気にかけてくれる人だったナモ……」


ナモリン「何の取り柄もない私は、いつも優秀なお姉さまに守られるばっかり……距離を置いたこともあったナモ。私なんかに構っていたらお姉さまはダメだって……」


ナモリン「でもそれでも毎日私の部屋に来て、声をかけてくれて……私は本当にお姉さまが大好きだったナモ。本当に、世界で一番……」


ナモリン「だからユルユリアが襲われたあの日、私はお姉さまだけは守ろうとしたのに……結局何もできなかったどころか、お姉さまにまた守られてしまったナモ……!
こんな何もできない私に、国の命運を預けて、自分がおとりになって……」

櫻子「ナモリン……」

ナモリン「……おねえちゃんという生き物は、いつの時代も勝手ナモ! 妹の気持ちなんか考えないで、自分のやりたいようにやって……!」

櫻子「そ、そうだよ……! ねーちゃんだって同じだ!
私が危険な目に合うのが嫌だから戦わせないなんて……私だってねーちゃんが危険な目に合ってるのを、テレビから見てるだけなんてもう嫌だ!!」

ナモリン「私は今でも悔やんでる……あの時お姉さまを助けられなかったこと。それは私が弱くて、何もできなかったから!
サクラコの気持ち、痛いほどにわかるナモ……!!」


ナモリン「サクラコ……キミに強くなってほしい! 私だってこんなナデシコを見続けるのはもう嫌ナモ!
ナデシコは毎日学校でも疲れてて、授業中も寝ちゃって、友だちに心配もされてて……!!」


ナモリン「ナデシコを助けるには……お姉ちゃんを助けるには、方法はひとつだけ。お姉ちゃんよりも強くなることナモ!」

ナモリン「ナデシコよりも強くなって、ナデシコを守ってあげられるようになるのが一番ナモ……!」


櫻子「教えてナモリン……私は、ねーちゃんを助けたい!! ねーちゃんのためなら何でもする! どうすればいいの!?」


ナモリン「……サクラコは、想いを力に変えるプリキュア……ナデシコを助けたいというその想い、どう考えても今のナデシコより強いパワーを持ってるナモ……」

ナモリン「でもそれだけじゃ、ナデシコは納得してくれない! だからサクラコ!」


ナモリン「私と一緒に、ユルユリアに来てほしいナモっ!!」


櫻子「ゆ、ユルユリアに……!?」




めぐみ「…………」

めぐみ(寝るのが……怖い……)


めぐみ(最近いつも、撫子がいなくなった世界の悪夢ばっかり見るよ……そんなの見たくないのに……)


めぐみ(撫子は、どこにもいかないよね……?)


めぐみ(ずっといつまでも、私の前にいてくれるよね……?)


『こんばんは、お嬢さん』


めぐみ「うわああああっ!! だ、誰!?///」びくっ


スズラン「うふふふ……やっとこの時がきたわ……あなたをずっと狙っていたのよ……」くすくす

めぐみ「誰!? どこから入ったの!?」

スズラン「私、本当は夜に動けないんだけど……キュアシスターしか出てこない今だから、ずっと力をためさせてもらっていたのよ?
そのおかげでこうしてあなたに会えた……うふふ、闇討ちってわくわくするわね」

めぐみ「な、何を……キュアシスターって……」


スズラン「園川めぐみさん、あなたのその悪夢……残念だけど、現実にさせてもらうわ!!」


スズラン『あなたの強い片想い……そして悪夢、それが私の力になるの……!!』ごっ


スズラン『闇夜に出でよっ……ウィザー!!!』すっ


めぐみ「いや……いやあああああああああああああああ!!!!」


~fin~

〈ユルユリプリキュア! 四話 設定資料〉


『セーブ・ザ・シスター』

撫子の想いが生んだ、青白い光を放つ細身の大剣。
チェリーシャムシールとは違い、確かな重さと破壊力を持っている。
強い力を持ったキュアシスターは使いこなせるが、キュアチェリーでは重くてうまく扱えない。


『こども安心メール』

櫻子ちゃんたちの学区で、もとは保護者への連絡・情報提供用の手段として扱われていたメールシステムが、ウィザーの登場で危険が多くなったことに際して、任意で誰でも受け取れるようになった。
ウィザーが登場した場所と、それに対応した安全な避難場所をいち早く教えてくれる。櫻子ちゃんのお母さんが、櫻子ちゃんたちの携帯にもメールが届くように設定してくれていた。


『夜のスズラン』

スズランの主な活動時間は正午から夕方にかけて。それ以外の時間はほとんど眠りについており、力を溜め込んでいる。
誰かの心をウィザーに変えるという行為は、彼女でも相当の力を要する。何度も連続で使えるものではない。

小さな敵を小出しにして力を抑えながらシスターを牽制していたスズランは、ずっとめぐみを狙っていた。

撫子に対して強い想いを持っていためぐみ、そしてそれによって生まれたウィザー……その力は、撫子の心に突き刺さるように特効となる……

【第五話:「妹たちの想い!キュアチェリー覚醒!」】


ナモリン「サクラコ、この家で一番大きな鏡はクローゼットの姿見で間違いないナモか?」

櫻子「う、うん……何で知ってるの?」

ナモリン「この家のことはとっくに把握してるナモ。そこを使ってユルユリアに行くナモ!」


櫻子「ま、待ってよナモリン。なんでユルユリアに行くの? というかユルユリアってそんな簡単に行けるの?」


ナモリン「ユルユリアに繋がる道は、私の力を使えば開ける……今まで秘密にしていて申し訳ないナモ。でもプリキュアになりたてのサクラコが行っても危ないと思ったんだナモ!」

櫻子「危ない……!?」

ナモリン「サクラコ、スズランが普段どこにいるかわかるナモか? あの子はこの世界にいない間は、ずっと征服したユルユリアの王宮で眠ってるんだナモ」

ナモリン「夜から昼にかけて眠り、そして目を覚ましてこの世界に来て私たちを襲う……私はこの家の鏡にユルユリアの景色を映して、スズランの行動をたまに確認していたから間違いないナモ!」


ナモリン「今ならスズランは眠っているはず。どうかユルユリアに行って、その世界がどうなっているかを見てきてほしいんだナモ……!」


櫻子「ユルユリアを……見て来ればいいの?」


ナモリン「今までサクラコは、ユルユリアのことをよく知らないままに戦ってくれていたけど……惨状を見てもらう時がきたナモ……」


ナモリン「……今から見てくる光景は、プリンセスリリーが敵の手に渡ってしまった場合に、この世界が辿る最悪の未来だと思っていい……」


ナモリン「ブラックリリーが咲いてしまったときの世界を……よく目に焼き付けておいてほしいナモ……」



ナモリン「サクラコ、キュアリングを指に通すナモ。依然として指輪はサクラコを主と定めてるみたいだから、ちゃんとプリキュアになれるナモ」

櫻子「うん、ありがとう」


ナモリン「いいナモか……今から行くところはいわば敵の巣窟。動くものは皆敵と思っていいナモ……」


ナモリン「でも今のサクラコなら、ある程度は渡り合えると思うナモ。危なそうになったら全力で逃げてこの世界に帰ってくる……バッドリリオーラに包まれた世界だから、もとより長居はできないんだナモ」


ナモリン「あと……申し訳ない話だけど、ユルユリアに戻ったら私はサクラコみたいな人間の姿にもどっちゃうナモ。だから私をだっこして欲しいナモ……///」

櫻子「よし、わかったよ。行こう……ユルユリアに」


ナモリン「変身してから行った方がいいナモ。サクラコ……キュアチェリーになって?」

『プリキュア! ブルームマイハート!!』


櫻子『愛に染まるは櫻の花……キュアチェリー!』ばばーん


ナモリン「チェリー、久しぶりナモ……やっぱり主人公って感じするナモ!」

櫻子「えへへ……そうだよね!」


ナモリン「じゃあ、行くナモよ……」


ナモリン『王家に流れし我が血の権限により、今こそその扉を開け……』ふぉんっ


ナモリン『アンロック!!』かっ


ビュゴオオオオッッ!!!


櫻子「わっ!! うわあーーーっ!!」


しゅううぅぅぅ……


――――――
――――
――

櫻子「あ……たたたた……」ぱちっ


櫻子「あ、あれ……ついたのかな……」


「サクラコ、大丈夫?」

櫻子「う、うん……あれっ!?」


ナモリン「今はこっちの世界も夜なの。ここからの月はとても明るいから、視界には困らないわ」


櫻子「う、嘘でしょ……!? キミがナモリンなの!?///」

ナモリン「しーっ! 声がでかい……!」

櫻子「だ、だって全然イメージと違う……超お姫様じゃん……!」


ナモリン「これでも王女なんだから当然よ……悪い?」

櫻子「いや悪いことは……ってかナモナモ言わないんだね」

ナモリン「あれはクラゲのときだけ勝手についちゃうの」

ナモリン「いい? ここはこの世界の……言ってみればお墓のような場所ね。王墓に祀られし大鏡を通って、ここに来たの」

櫻子「ひえー、こんなきれいなところがお墓……」


ナモリン「そしてあそこに見える大きな建物……あれがユルユリアの王宮よ」すっ

櫻子「す、すっごい……テーマパークのお城みたい」


ナモリン「王宮の周りには幽兵がいると思うから、あそこは後回し。先に町に行きましょう」

櫻子「よし、わかった」


ナモリン「……じゃあ、抱っこして。お姫様だっこだからね」

櫻子「…………」




ナモリン「ユルユリアの町は……基本的にはサクラコがいる町とそこまで変わらないわ。民家があって、市場があって……とても活気があるところだったの」


櫻子「め……めちゃめちゃになってる……」

ナモリン「うずまくバッドリリオーラが何かに乗り移って、ウィザーが自然発生してしまうことがある。それで町が壊されてるの……」

櫻子「ひどい…………」


ナモリン「あっ……あそこ、女の子が倒れてる」

櫻子「えっ……ほ、ほんとだ」


「…………」

櫻子「あ、あの……大丈夫……?」ちょんっ


「…………」


櫻子「うそ……ねえナモリン、この子死んじゃってるの……!?」ゆさゆさ


ナモリン「……死んではいないの。でも生きてもいない……身体は生きていても、心が死んでしまってるって言ったほうがいいかしら」

櫻子「そ、そんな……」


ナモリン「しゃべることも、自分の意志で自由に動くこともできない……何を聞かされても、何を見させられても、何も感じない……」


櫻子「や、やだ……怖いよぉ……」


ナモリン「サクラコにはまだ早いと思ったけど……これが現実なの。プリンセスリリーが黒い花を咲かせてしまったとき、全世界の人々がこうなる……」


ナモリン「あなたも含めて、あなたの大切な人も、みんな……」


櫻子「う、う……」

ナモリン「この子、とっくに枯れてるけど、花を握ってる……きっと襲われる前は、花が好きな普通の女の子だったのね」


櫻子「や、やだ……やだぁ……!」


ナモリン「泣いちゃダメ! 幽兵やウィザーは悲しい心に反応するの……あなたが泣いたらバレちゃう……!」

櫻子「こ、こんなの、見たくないよ……!!」


ナモリン「サクラコ、何のためにここに来たと思うの? あなたは今まで、ずっとこの人たちを助けるために戦ってたのよ!?」

櫻子「!!」


ナモリン「プリンセスリリーに白い花を咲かせれば、この子の目には色が戻り、心が戻り、枯れた花だって咲かせられる……!」


ナモリン「この子を助けてあげられるのはサクラコ、あなたたちしかいないの!」

ナモリン「自分が何のために戦っているか……それをあなたに見てほしかったから、危険を冒してまでここに連れてきたのよ」


櫻子「私は……この子たちのために……」はっ


ナモリン「サクラコやナデシコが今まで助けてきた女の子たち……ゆうかちゃんたちのリリオーラは確かにプリンセスリリーの中に溜まってる。それがこの子の心を取り戻すことにつながっているの……」


櫻子「…………」


ナモリン「今まで、ただユルユリアを助けたいって私が言ってただけなのに、サクラコはよく協力してくれた。本当に感謝してもしきれない……」


ナモリン「あなたは私の、私たちの、希望の戦士なの……! だからどうか心を強く持って!」


ナモリン「誰かを助けたいという気持ちが人一倍強いサクラコに出会えたこと、偶然じゃないって、私は思ってるわ……!」ぎゅっ

櫻子「…………ぜったい……っ」


櫻子「絶対、元に戻してあげる……!」


櫻子「だからそれまで待っててね……きっと、君の大好きな花を咲かせてあげるからね……!///」


ナモリン「さ、サクラコ……!」


櫻子「……王宮に行こう」すっ

ナモリン「あっ……」


櫻子「ナモリンのお姉さんに……王女様に、挨拶にいかなきゃ……」


櫻子「絶対この国をもとに戻して見せるから、待っててくださいって、言ってあげなきゃね……!」


ナモリン「うん……うん……!」



ナモリン「私が小さいころによく使ってた抜け道があるの……ここから宮殿内に入れるわ」


ナモリン「いい? ちょっとでも誰かに見つかったら一目散にさっきの大鏡まで戻るのよ……」

櫻子「うん……王女様を少しでいいから見てみたいんだ。ナモリンが大好きなお姉さんがどんな人かだけ……」


ナモリン「お姉さまは玉座にいると思う……私、サクラコの家の鏡から時折見てた……」


ナモリン「ねえサクラコ……スズランが普段この王宮で何をしているか知ってる?」


櫻子「えっ……寝てるんじゃないの?」


ナモリン「だから起きてるとき……」


ナモリン「あの子はね、いつも動かないお姉さまに話しかけているの……まるでお人形と遊ぶように」


ナモリン「お姉さまの髪を梳いて、化粧をしてあげて……そうして綺麗になったお姉さまの膝の上に座って、笑顔で安らいでいるの……」


櫻子「す、スズランって……何者なの……?」


ナモリン「私にもわからない……なんであの子が世界を滅ぼそうとしているのか、あの子にどんな過去があるのか……」


ナモリン「でもね、私が見たスズランの笑顔は……とてもそんな恐ろしいことを考えてるとは思えない、普通のかわいらしい女の子の顔だったの……」




「…………」


櫻子「あ……あれが……」

ナモリン「ああ、お姉さま……!!」ぎゅっ


櫻子「お……王女……様……!」


ナモリン「お姉さま、見えていますか……サクラコが来てくれましたよ……」


ナモリン「あなたが託した希望を守る、伝説の戦士プリキュアです……」


ナモリン「お姉さま、どうかこの者に加護を……」


櫻子「…………」すっ


櫻子「王女様……王女様はなんでナモリンにプリンセスリリーを託したんですか?」

ナモリン「えっ?」

櫻子「それは、あなただけは知っていたからですよね。ナモリンを一番近くで見てきて、一番いいところがわかってて……一番自分を想ってくれてる子だってことを」


櫻子「それは間違ってなかったと思います……ナモリンは本当にお姉さん想いの、優しい妹です」

ナモリン「さ、サクラコ……」


櫻子「妹は、お姉ちゃんから全部もらって育つんです。お姉ちゃんのいいところを見て、お姉ちゃんに憧れて、お姉ちゃんのような人になりたいって真似をして……」


櫻子「そうしてナモリンは、これだけ素晴らしい妹になったんですよ。あなたを見て、あなたを助けたいという一心でここまで来たんです……」


櫻子「だから、最後まで信じてあげてください……妹を信じてあげてください……!」


櫻子「お姉ちゃんにすべてを貰って、妹は大きくなる……わかりますか、お姉ちゃんは、妹にとってのすべてなんです!」


ナモリン「!!」

櫻子「見ててあげてください! あなたの妹が、どんな風に育ったかを!」


櫻子「妹は、自分がどれだけ大きく育ったかを、一番おねえちゃんにわかってもらいたいんです……!」


櫻子「いつまでも守られてるだけじゃない……おねえちゃんを守れるくらい大きくなったんだよって、言ってやりたいものなんですよ!!」


かっ!!!



櫻子「わ、うわっ……! 眩しい……///」

ナモリン「あ、あああああ……!!」


櫻子「ナモリン! ナモリンどしたの!?」

ナモリン「わ、わからない……力があふれて……!」

「ナモリン……」


櫻子「こ、この声は……!」

ナモリン「お姉さま……お姉さまなのですかっ!?」


「あなたの声……そしてその者の声……しかと私に届いています……」


「あなたたちの強い想いが……私の心につのる闇を一時的に振り払ってくれているのです……」


櫻子「そ、そんな……!」

ナモリン「お姉さま、ああ……っ!!///」だきっ


「あなたたちの想いは、今一つに重なり合っています……それが張り付いた闇を飛ばすほどに強い力を生み出しているのです……」


「その力は……必ずやあなたたちの助けとなることでしょう……」


「強、い子に……育っ…わた……は……」しゅうぅ


櫻子「あっ、あっ!」

ナモリン「お姉さまっ!」


「…………」

ナモリン「さ、サクラコ……今のは確かに、お姉さまの声……!」

櫻子「声が届いたんだ……私たちの強い気持ちにこたえてくれたんだよ!」

ナモリン「そ、それはいいけど、私の身体から光が消えない……これじゃすぐに敵にバレちゃ


―――櫻子、櫻子っ……!!―――


櫻子「えっ……!?」どきっ


ナモリン「ど、どうしたの?」


櫻子「聞こえる……撫子ねーちゃんの声が聞こえる!!」

ナモリン「あっ、指輪!! 今二人とも指輪をしてるから、ナデシコのテレパスが届いてるの!」


櫻子「ね、ねーちゃんが助けを求めてるよ! 何かあったんじゃ……!?」

ナモリン「そ、そういえばさっきから大声をあげても光を発してもスズランが起きない……こんなはずは…………はっ!!」ぎくっ


櫻子「ナモリン、すぐに戻ろう!! ねーちゃんが危ない!!」

ナモリン「ナデシコの身に、何かあったに違いないわ……!! 急いで帰らなきゃ!!」


――――――
――――
――

<深夜>


花子「な、撫子おねえちゃん!! 起きてー!!」どんどん

花子「ウィザーがこの近くに出たんだって!! 早く逃げなきゃいけないのに、櫻子が、櫻子がどこにもいなくて……!!」ガチャッ


花子「あ、あれ……いない……!?」がばっ


花子「なんで……なんで二人ともいないんだし……!!」





撫子『プリキュアっ!! ブルームマイハート!!』


撫子『風に染まるは撫子の花……キュアシスター!!』



ウィザー「ウィザー―――――!!!」どがん

撫子「くそっ、なんだってこんな夜中に……!!」

スズラン「あははは!! もっと、もっと暴れなさい……!」

撫子「この先へは絶対行かせないよ。私の可愛い妹たちが寝てるんだからね!!」じゃきっ

スズラン「ふふっ、来たわねキュアシスター……夜分遅くにご足労煩わせちゃってどうも」


撫子「まったくふざけないでほしいよ……あんたのせいでこっちは連日、散々な目に合ってるってのにさ!!」ぎゅんっ

ウィザー「ウオオォォッッ!!」ぶんっ


ガキンっ!!


撫子(くうっ……一撃が重い……! なにこれ……っ!?)ずざっ


スズラン「戦う前にひとつだけあなたにお話しておきたいのだけど……このウィザーちゃんをどこかで見たことなぁい?」

撫子「はぁ……? いったい何……


撫子(あっ!!?///)

ウィザー「ウィザーーーー!!!」ゴゴゴ


スズラン「見たことあるわよねえ? だってあなたがプレゼントしてあげたテディベアちゃんだものね……?」くすくす

撫子(こ、このぬいぐるみは……私が、めぐみにあげたやつ……!!)


スズラン「一撃一撃を通して、この子の悲痛な想いがあなたの心に刺さっているはずよ。このウィザーは、園川めぐみの弱い心から生まれたもの……」

撫子「ゆ、許せない……あんた、わざとめぐみを狙ったんだね!?」ふるふる


スズラン「うふふふ……今夜は長い夜になりそうね……///」


撫子「ふざけんなあああああああああああっっ!!!!」ぎゅんっ

ウィザー「ゴアアアァァッ!!!」どんっ

撫子「ぐううっ!!」


撫子(なに……これ……心が張り裂けそうになるっ……!!)


スズラン「園川めぐみの、あなたに対する想いから生まれたウィザー……今までのウィザーとは比較にならないでしょう?
あなたのことだけを考えて……いえ、あなたのこと以外何も考えられないくらいの強い想いなんだもの」


スズラン「それがあなたに対して、効果バツグンってわけよ……」くすくす


ウィザー「グワァァァァ!!!」みしっ

撫子「ああああっっ……うああああああぁぁぁ……!!!」


スズラン「ねえどうしてなの? あなたはこの子の気持ちにとっくに気づいているんでしょう?」


スズラン「この子はあなたのことが大好き……なのになんで気持ちにこたえてあげないの?」


スズラン「もしかしてこの子のこと……嫌いなのぉ?」

撫子「あ、あんた……」ぱしっ


撫子「あん、た、なんかに……めぐみの何がわかるのさ……!」ぐぐぐっ

スズラン「…………」


撫子「めぐみはねぇ……誰よりもまっすぐで……隠し事なんかできる子じゃないんだよ……」


撫子「だからより一層、強い気持ちを人にぶつけられる……!」


撫子「本気で人を大切に思える、本気で人のために頑張ってあげられる子なんだ……!」


撫子「この子が私にしてくれることは……全部本気の愛だったよ……不器用だから、たまに失敗もしちゃうんだけどね……」


撫子「そんな子を、嫌いになるわけないじゃんか……本気で私を好いてくれる人を、どうして嫌いになんかなれるの……?」


撫子「私はこんな子に、ずっと隣にいてもらいたいよ……この子とずっと一緒にいたい……!!」


撫子「でもだからこそっ!! この子を守れる選択肢を選んでるんだ!!」

撫子「自分の彼女になる人が、世界背負ってるプリキュアだったなんて知ったら……泣かせちゃうっての……!!」



スズラン「ふん……あっそう。まあどっちにしろ可哀想な未来を辿ることになるわね」

スズラン「今この瞬間をもって、大好きな人も、大好きな世界を守る人も失うことになるんだから……それも自分の手で」くすっ


撫子「ぐっ!! ああああああぁぁぁっっっ!!!」ぎりぎり


スズラン「……とどめを刺しなさい? ウィザー……いえ、園川めぐみ!!」すっ



ドゴオォォン!!!


ウィザー「グォォォオオオッ!!?」どしゃーん


スズラン「なっ……何!?」

撫子「……!!!」

「やーやー、待たせたね……」

「ふう、なんとか間に合ったみたいナモ……」



スズラン「い、今の桃色の爆発は……まさか!!」

撫子「あ……あ……!」ふるふる



櫻子「あとはこの主人公に任せときな……ねーちゃん!!」ばばーん

ナモリン「スズラン!! もう好き勝手させないナモ!!」


スズラン「きゅ、キュアチェリー……!!」ぎりぃっ




櫻子「まったく、おねえちゃんってやつはどうしてこうも上に立ちたがるもんなのかねえ」

ナモリン「そうそう、妹の気持ちも考えてほしいナモ!」


撫子「ば……ばかっ!! あんたじゃそいつには……!」

櫻子「そんなボロボロのくせに何言ってんの! ねーちゃんが負けたら後は私しかいないでしょうが!」


スズラン「キュアチェリー! 姉に守られるだけだった弱いあなたが、今更ノコノコと何の用なの?」

櫻子「なんだとー!? 言っとくけど私結構アンタに勝ってたんだからね!?」がーっ


ナモリン「スズラン……あんたが留守してる間に、ユルユリアのお姉さまに挨拶させてもらってきたナモ!」ふふん


スズラン「……なんですって?」

櫻子「あんな美しい王女様を助けるためとあっちゃあ、プリキュアになるのも断れないってもんだよ。なんてったってスズランお手製のお化粧だもんね?」

スズラン「っ……!!///」

スズラン「ウィザー……キュアチェリーを黙らせなさい!!」

ウィザー「ウィザーーーーー!!」しゅっ


櫻子「スズラン……あんたのことはよく知らないけど、私は守るものを見つけてきた!
自分がプリキュアになった意味も、自分が何をするべきなのかも、たった今全部学んできたよ!」

櫻子「私は絶対にユルユリアを元に戻す……荒れ果てたあの世界に花を咲かせて、みんなに笑顔を取り戻してみせる!」

櫻子「それに王女様に約束しちゃったもんね、あなたの妹が世界を救う様をよーく見とけって!」


櫻子「ナモリンも私も、本当に良いお姉ちゃんを持ったよ……そんな最高のお姉ちゃんたちに大切にされて、ここまで大きくなれたんだ!」


櫻子「だから今度は私たちが……大切なねーちゃんを守る番だっ!!」ぎゅんっ


ドゴォ!!


ウィザー「ウゴオオオォォッ!?」ずずーん

撫子「ち、チェリー……その光は……!?」

櫻子「私の想いとナモリンの想い! お姉ちゃんを守るため、ユルユリアを救うための想いが合わさって、全部私の力になってるの!」

ナモリン「これが私たちの、本当の強さナモ!!」


スズラン(ちいっ、キュアチェリー相手では園川めぐみの想いは特効にならない……!)


櫻子「あんたを倒して、ねーちゃんを休ませなきゃ! ごはん食べながら寝ちゃうほど疲れてるお姉ちゃんなんて、もう見たくないもんね!」

ナモリン「授業中寝ちゃって友達に心配されてるところも見たくないナモ!」

撫子「さ、櫻子……ナモリン……!!」


櫻子「というわけでクマちゃん! 私の新しい力を見せてあげるーー!!」


ウィザー「ゴアアアアアアッッッ!!!」ぶんっ


櫻子『プリキュアっ!! チェリーエクスプロージョンッッ!!!』ぴかーん



スズラン「なっ……なあっ……!!?」



どっかーーーーーーーーーーーん!!!




櫻子「あーあ、なんか空が明るくなってきた……」

ナモリン「すっかり徹夜ナモ……まあでも明日は土曜日ナモ!」

櫻子「えっ、そうだっけ!? やったー寝れるー♪」


撫子「…………」


櫻子「……ねーちゃんもちゃんと寝てね。溜まった疲れが全部ふっとぶくらい」

撫子「ふふ、ありがと……」


櫻子「ねーちゃん……もう私に、戦わせないなんて言わないでね? 私、ユルユリアの女の子や王女様に、絶対助けてあげるからって約束してきちゃったんだから」

撫子「…………」

櫻子「ねーちゃんが一人きりで頑張ってるところも見たくない。ねーちゃんが大変なときは力になってあげたい。だって、ふたりはプリキュアだもん!」


櫻子「ねーちゃんを守れるのは、私しかいないんだもん……でも私がピンチのときも、ねーちゃんしっかり助けてに来てよね? 指輪でもなんでも使って呼ぶからさ」

撫子「うん……わかったよ」


櫻子「これからは一緒に戦うんだ……私たちが力を合わせれば、勝てない敵なんていないっしょ!」


櫻子「向日葵も、花子も、一緒に守っていこうね……?」


撫子「…………」はぁ


撫子「いつの間にこんなに大きくなったんだか……この間までこんなちっちゃかった妹がさ」

櫻子「えへへへ……///」


撫子「あんたは妹であると同時に花子のおねえちゃんでもあるんだから、それを忘れんじゃないよ? 花子があんたみたいになったら困るからね」

櫻子「ぶー、ひどいなー」




櫻子「はー、やっと帰ってこれた……」ぽすん

撫子「ちょっとちょっと、寝るなら自分ベッドで寝てよ」

櫻子「えぇーいいじゃん今日くらーい……昔はいつも一緒に寝てたんだからさー」

撫子「そうじゃなくて、今やったらお母さんにも花子にも怪しまれるでしょ……」

櫻子「大丈夫だってそのくらい。例え一緒に寝てたってプリキュアってことがバレるわけじゃ……」


櫻子「…………」もふもふ


撫子「……なに?」


櫻子「こ、このふくらみはなんですか……?」

撫子「えっ……ふくらみって……」

ばっ


櫻子「あっ!!」

撫子「あっ……!!」


花子「…………zzz」すぅ


櫻子「は、花子がここで寝てるってことは……」

撫子「夜中私たちがいないってこと、気づかれちゃった……!?」


櫻子・撫子(ま、まずいよ~……!!)


花子「…………むにゃ」ごろん



~fin~

〈ユルユリプリキュア! 設定資料〉


『ユルユリアの現状』

ユルユリアは自然の美しい国であったが、今や植物は枯れ荒廃してしまっている。
人々はバッドリリオーラで心を失い、死んでこそいないものの感情のない人形のようである。
町には鎧兜に亡霊が宿った幽兵やウィザーがいたりもして、とても単身で乗り込むには危険である。

大室家の姿見とリンクした大鏡があるのは、町から少し外れたところにあるロザリア王墓という場所。


『ユルユリアのスズラン』

スズランがなぜプリンセスリリーを奪おうとするのか、なぜ世界を崩壊させようとしているのか、それは誰にもわからない。
彼女にいったいどんな過去があるのか、彼女の思想はどこから来るものなのかは謎である。
しかし、その幼さに見合った外見通り、普段は子供のように、心無い人間を人形代わりにして遊んでいる。
なかでもリアーネ王女はお気に入りのようで、彼女のおめかしを欠かした日はない。


『テディベアのウィザー』

過去に撫子さんがめぐみちゃんにプレゼントしてあげたテディベア、それにめぐみちゃんの強い片想いや悪夢への恐怖が乗り移って生まれたウィザー。
めぐみちゃんの撫子さんへの想いを元にして生まれた物であるゆえ、その力は撫子さんに対して特効となる。特効はふだんの何倍ものショックを一身に受けることになる。
確かに強いウィザーであったが、新たな力を手に入れた櫻子ちゃんの前には消え去ることとなった。

目を覚ましためぐみちゃんは、悪夢を見ずに済んだことを喜び、そして撫子さんにメールを送った。

「昨日は良い夢を見ちゃったの……えへへ、秘密! ……でも、撫子は夢の中でもかっこよかったよ!」

【第六話:「ついに登場!三人目のプリキュア、キュアフルール!」】


<公園>


未来「ぷりきゅあっ! ちぇりーだいなまいとー!」ぴょーん

きゃーきゃー……


花子「…………」きぃ


花子(撫子おねえちゃん……櫻子……)


花子(二人とも、絶対花子に隠し事してるし……)


花子(最近様子がおかしい……二人とも! 撫子おねえちゃんは毎日変に疲れてて、ごはん食べながら寝ちゃうほどで……)


花子(櫻子なんかもっとおかしい……全然元気ないし、笑わなくなったし、夜に一人で泣いてるとこも見たことあるし……)


花子(昨日の夕飯のときも……急に机叩いたと思ったら、泣き出して……全然意味がわかんない……)

こころ「未来……花子様今日元気ないねー」

未来「うん……どしたんだろ」


みさき「……とりあえず、どうしたのか聞いてみなさいよ未来」

未来「えーっ、なんで私が! なんか怖いよ……みさきち行ってよ!」

みさき「み、みさきだってなんか怖いんだもん……じゃあこころ行ってきて」

こころ「今日はみんな未来のお誘いで集まったんだから、未来がリーダーでしょ……?」

未来「あーもー、じゃあみんなで一緒にいこう!」


未来「は、花子さまー?」もじもじ

花子「えっ……」


未来「花子さま、さっきから元気ないけど……どうかしたの? みんなで遊ぼうよ!」

みさき「ぼ、ボール持ってきたから、ほら!」てーん

こころ「それとも今日は、公園で遊びたくない感じ……?」

花子「い、いや……そんなことないし、大丈夫っ」


未来「いっぱい遊んだらきっと楽しくなるよ! よーし今日は全力でドッジボールだー!」

こころ「ほら花子様、一緒にみさきちをたおそう?」

みさき「なんで!?///」

花子「みんな……」




櫻子「…………zzz」


櫻子「……ん、ん~……」むにゅ


櫻子(やわらかい……あったかい……なにこれ……)もぞもぞ


櫻子(ん?)


撫子「……何してんの」


櫻子「のわーーーっ!! ね、ねーちゃんのおなかだった……!///」


撫子「あーもう、あんたがもぞもぞ動くから目がさめちゃったよ……って、もうお昼すぎてんのか」

櫻子「び、びっくりした……向日葵のおっぱいにしちゃ固いなと思ったから……」

撫子「悪かったねぇ……!」こちょこちょ

櫻子「ひーー! ひーー! やめて!///」

櫻子「ってか、あれ? 花子は? 昨日は三人で一緒に寝ちゃって……」


撫子「花子は私たちよりとっくに早く起きたんでしょ……でもやけに家が静かだし、出かけてるのかもしれないけど」


櫻子「…………」

撫子「…………」


櫻子「バレてないかなぁ、私たちのこと……」

撫子「わかんないよ、そんなの……」


撫子「ナモリン、いる?」

ナモリン「ここにいるナモ!」ひょんっ


撫子「あんた、花子に姿ばれたりしてないよね、大丈夫?」

ナモリン「たぶん大丈夫だと思うナモ……でもたまにハナコは私をクッション代わりに使おうするから危ないときもあるナモ」

櫻子「花子はナモリンクッション気に入ってるからねぇ」

撫子「例え怪しまれてても、隠さなきゃ……花子はまだ小さいんだし、余計な心配かけたくないよ」

櫻子「まあ花子だけじゃなくて、誰にも言えないけどね……」


ナモリン「でもナデシコが二人目のプリキュアになれたのはラッキーなんだナモ!
みんながバラバラの場所にいるよりも、一か所に集まってた方が助け合えるし、秘密がバレる可能性も少なくなるし」

撫子「櫻子、あんた誰かに感づかれたりしてないよね、大丈夫?」

櫻子「大丈夫だもん! これでも結構うまくやってたんだから。向日葵にも気づかれてないと思う」

撫子「私は少しピンチだよ……昨日の件でめぐみがどう思ってるか……」


撫子「……気をつけな櫻子、私たちがプリキュアだってことを知ってるのは、この世界に4人いるんだ」


櫻子「4人……? ねーちゃんでしょ、私でしょ、あとは……ナモリン?」

ナモリン「もう一人は誰ナモ?」


撫子「……スズランだよ」

櫻子「あっ!!」

撫子「あの子、めぐみの心をウィザーにするためにずっと狙ってみたいなんだ……」


撫子「ってことは、普段の私たちがどうしてるかも見られてる。どんな生活をしてるかとか、どんな人と付き合いがあるとか……それがどこかで知られてるんだ」


櫻子「ま、まずいよ……もし花子の目の前で『あなたのお姉ちゃんたちはプリキュアなのよ』なんて言われちゃったらどうすんの!?」


撫子「こればっかりは……隠せない……」


櫻子「ひょっとしたら……もうこの家の場所とかもばれてて……!!」


撫子「その可能性は……無くはな


ぴんぽーん♪


櫻子「っ!!」びくっ

撫子「…………!」

櫻子「だ、誰か来たよ! スズランが来ちゃったんじゃない!?///」

ナモリン「そ、そんなわけないナモ! スズランは昨日夜遅くまで力を使っていたから、まだ寝てるはず……!」


撫子「よし、私が見てくる……」すっ

櫻子「きっ、気を付けて、ねーちゃん……!」

ナモリン「あわわわ……」


撫子「……はい」ぴっ



『あ、私ですわ』


櫻子「なんだよ!///」ずこーっ

ナモリン「ふぅ……」


撫子「ひま子か。今開けるね、待ってて」

向日葵「こんにちは撫子さん、櫻子。あら……二人とも髪がぼさぼさですわよ?」

櫻子「あはははは、さっきまで寝てたから……」

向日葵「まあ。櫻子はいつものこととして撫子さんまで……」

撫子「すっ、すぐに顔洗ってきます……」


向日葵「でも確かに昨晩は大変でしたわよね、急にこの近くでウィザーが出て……」

櫻子(うっ!///)


向日葵「すぐにプリキュアが来てくれたから大丈夫でしたけど……困りますわよねえ。櫻子はもしかしてあの騒ぎの中でも寝ちゃってた?」

櫻子「あー……うん、ぐっすりだった」あはは

向日葵「まったくずぶといですわねぇ」

櫻子「わ、私寝てたからわかんなかったんだけど……そんなに騒ぎになってたの?」

向日葵「ええ、心配な家は避難区域まで逃げたって人もいたみたいですし……うちも楓が起きちゃって、怖がってましたわ」

櫻子「…………」


向日葵「深夜のことでよく撮れなかったのか、まだあんまりテレビに出てたりはしてないみたいですけど。なんかキュアチェリーが来てくれたって言ってる人もいましたわ」


撫子「昨日はチェリーもいたっぽいね。ピンクの爆発がこっちにまで届いてたよ」ふきふき

向日葵「撫子さんは起きてたんですの?」

撫子「私は櫻子と違って、うるさい中じゃ寝てられないんでね」

櫻子「どういう意味だ!///」

向日葵「キュアチェリーとキュアシスター……これからは一緒に戦ってくれるんでしょうか」

櫻子「た、たぶんそうじゃない? だって一緒に戦った方がいいもん」

向日葵「何でか知らないけど、いつもどっちかしか出てきてくれないんですもの……見てるこっちはハラハラしますわ」


撫子「さすがにピンチになったら協力すると思うよ。あんまり深刻にならない方がいいって」

向日葵「そうでしょうか……」


櫻子(向日葵……)ぐっ



向日葵「……櫻子そのぬいぐるみ可愛いですわね」

櫻子「あっ、ああこれ? ゲーセンでとってきたんだー」もにゅ

ナモリン(ひーーーー! あんまり触っちゃだめナモ!///)

向日葵「そういえば、私や櫻子がよく見てた時のプリキュアって、5人とか6人くらいで戦ってましたわよね?」

櫻子「んーと……確かにそうだね」


向日葵「うちのプリキュアは、二人だけなんでしょうか……せめてもう少し仲間を増やしてあげてもいいと思うんですけど」

撫子「ちょっとちょっと、私が見てた時代のは二人でやってたよ? 二人でだってやれないことはないでしょ」

向日葵「あらっ、世代間のギャップですわね」

櫻子「ちょっと古いよね~」

撫子「……なにか言った?」こちょこちょ

櫻子「わーっ!!///」


向日葵「私……プリキュアには絶対に負けてほしくないんですの」


櫻子「!」

撫子「!」

向日葵「私は昨日……おびえてる楓を見て、大丈夫だと言い聞かせることしかできませんでしたわ。大丈夫かどうかなんて、私にもわからないのに……」


向日葵「撫子さんは、どうしてますか? 花子ちゃんが怖がったりしてるときは……」


撫子「え、えっと……花子はそんなに怖がったりしないんだよね」

向日葵「まあ……さすがですわね」


櫻子「し、仕方ないよ向日葵……プリキュアになりたいっていってなれるもんでも無いと思うし、それに向日葵はよく頑張ってると思うよ……?」


向日葵「でも……私たちと同じくらいの女の子が、目の前でみんなの期待を背負って戦ってるんだと思うと、何もできない自分が嫌で……」


向日葵「プリキュアになれたら、みんなを守れるのにって、思うこともありますわ……」ぐっ



ぴかーーん!!


向日葵「えっ?」


櫻子「えっ」

撫子「えっ」


ナモリン(きゅ、キュアリングが……!!)


櫻子・撫子「「えええええええええええ~~~~~~~!!!!!」」

向日葵「な、なんですのそのぬいぐるみ!? 急に光って……!」


櫻子「うそっ、うそーー!!///」


撫子「じゃ、じゃあひま子が……!!」


向日葵「えっ?」


ナモリン(ま、まさかの事態ナモ~……!!)


向日葵「電池でも入ってるの? すごい明るいんですのね」

櫻子「いや、まあそんなとこ……あはは、あは……」

向日葵「??」


櫻子「あ、あーっと、……私トイレいってくる!!」だっ

向日葵「あっ、櫻子? ……なんでぬいぐるみトイレに持っていっちゃうのかしら」

撫子「ん、ん~……」




櫻子「ちょっと! うそでしょ!?」ひそひそ

ナモリン「きゅ、キュアリングが光ってるナモ……あの子はプリキュアになれるナモ……!」ぴかぴか

櫻子「ダメダメそんなの! 向日葵は巻き込みたくないっていつも言ってるじゃん!!」

ナモリン「で、でも私はわかるナモ……! あの子は口にしてないけど、妹だけじゃなくてサクラコやナデシコのことも心配してるんだナモ!
その想いがこうしてキュアリングに反応してる……!」


撫子「……櫻子」がちゃっ

櫻子「あ……」


撫子「やっぱり、全部話した方がいいんじゃない……? 3人目はひま子なんだよ……」

櫻子「ううぅ……」

撫子「ナモリン、リングに対応する子って、最初から決まってるものなの?」

ナモリン「いや、そんなことはない……本当に強い想いを持っているなら、女の子は誰でもプリキュアになれるものナモ。でもその資格を見せるのはごく少数の人なんだナモ!」

櫻子「…………」


ナモリン「サクラコの幼馴染で、家も隣で、いつもサクラコを気にしてくれる……色々見てきたけど、私は偶然とは思えないナモ。あの子がプリキュアの資格を持っていること……」


ナモリン「リングを光らせるだけの、ヒマワリの強い想い!
それがみんなを守ろうとする3人目のプリキュア……守りの力を持つ、黄色のプリキュアの資格になってるんだナモ!」


撫子「櫻子……」すっ


撫子「3人目は誰になるか、ずっと考えてたけど……でも一番良さそうだなと思ったのは、私もひま子だったよ」


撫子「ひま子は他でもない、あんたのことが一番心配なんだ……今までずっと一緒で、ずっとあんたを支えてきて、一緒に大きくなって……」


ナモリン「サクラコ、今こそ隠してきたことを全部……」


櫻子「待って!!!///」だんっ

ナモリン「!」びくっ

櫻子「ねーちゃん、ナモリン……お願いだから、もう少し待って! 向日葵をプリキュアにしないでっ……!!」

撫子「えっ……」


櫻子「私がすぐに3人目を見つけるから、なんとかしてみせるから! お願いだから、向日葵だけは……!!」きゅっ


ナモリン「さ、サクラコ……」



向日葵「撫子さん、どうしたんですの? 大丈夫ですか?」

櫻子「!」ぱたん


撫子「あ、ああいや、なんか櫻子お腹痛いみたいでさ……」


向日葵「まあ、本当に……? 大丈夫ですの櫻子」こんこん

櫻子「う、うん平気だよ! 気にしないでー」

向日葵「ちゃんと規則正しい生活しないから体調崩すんですわよ? もう」

櫻子「う、うるさいなーあっち行っててよ!///」


撫子「ほらほら、トイレの前なんかで喧嘩しないで……そういえばひま子今日はうちに何しに来たの?」そそくさ

向日葵「あっ、それなんですけど……」


ナモリン「…………」ぴかぴか

櫻子(向日葵……)



<夕方>


花子「……ただいま」がちゃっ


撫子「あっ、花子。おかえり、どこ行ってたの?」

花子「今日はずっと友達と遊んでたし」

撫子「ふーん……未来ちゃんとか?」


花子「うん……あれ、櫻子は?」

撫子「櫻子なら、部屋にいると思うけど」

花子「じゃあちょっと呼んできて欲しいし。話があるから」


撫子(えっ)ぎくっ


撫子「ど、どうしたの花子、そんなに怖い顔して……」

花子「早く呼んできて」


撫子「は、はい……」


撫子(やっばい……!)




撫子「櫻子、やばい! 花子が帰ってきた……!」

櫻子「えっ? 何がやばいの?」

撫子「話があるから降りて来いって言ってるんだよ! なんかばれちゃったんじゃ……昨日のこととかさ」

ナモリン「えーっ!?」


櫻子「ちょ、怖いよそんなの……ねーちゃんなんとかしてよ!」

撫子「花子は私じゃなくてあんたを呼んでるんだよ、いいからとりあえずリビングに……!」


花子「こらーーーっ!!」がちゃっ


櫻子「わーー!///」びくっ

撫子「あ、花子……?」

花子「最近二人はいつもそうやって、花子から隠れて部屋でこそこそと……いったい何なんだし!」ぷるぷる


櫻子「ち、ちがうよ、私たちは何も……」

花子「何もないわけない! 絶対おかしいし……そこに座って!!」

櫻子「うう……」

撫子「…………」


花子「今日は隠してること全部しゃべってもらうから」もふっ

ナモリン(ひっ!)


櫻子「あ、だめだよそのクッションは……返して?」

花子「二人がおかしくなりだしたのは、1週間くらい前だし。最初は不自然に仲良くなりだして……」

ナモリン(さ、サクラコ~!///)

櫻子(ダメだ……助けてあげられない)

撫子(花子、どうやら本気みたいだね……)


花子「こら! ちゃんと聞いてるの!?」くわっ

櫻子「き、聞いてます!!」ぴしっ

花子「花子の目はごまかせないし、それにいろいろ見ちゃったんだから……櫻子、最近夜いつも泣いてたでしょ」

櫻子「えっ、な、泣いてなんか……」

花子「うそつき! 泣き声が聞こえてくるときもあれば、朝起きて目真っ赤になってたときもあったし!」

櫻子「…………」


花子「撫子お姉ちゃんにもいろいろあるし……! なんで最近そんなに疲れてるの?」


撫子「私はほら、結構勉強が忙しくてさ……今テスト期間なんだよね」

花子「あーっ、嘘ついた!!///」

撫子「えっ!?」


花子「花子は今日みんなと遊んでて……その途中に美穂お姉ちゃんに会ったの!
だから撫子お姉ちゃんのこと聞こうと思って、『最近学校忙しいの?』って聞いたら、『テストも終わって今は気楽な時期なのよ』って言ってたのに……!」

撫子(……やばい)

花子「なんでそうやって隠そうとするの!? 花子に知られたらまずいことなの!?」

撫子「そ、そんなことないんだけど……」

花子「嘘つくなんてサイテーだし!!」

撫子「」ぐさっ


撫子「う、うう……」

櫻子「ああ、ねーちゃんが心にダメージを……!」


花子「あとは昨日の夕飯!! 櫻子はなんで急に怒ったの!?」

櫻子「うぇー……お、怒ったっけ?」

花子「怒ってたじゃん! 急に机叩いて、泣き出して……明らかに撫子お姉ちゃんに怒ってたし!」

櫻子「ん~……」


撫子「花子、もういいよ……もうやめよ? お腹減ってイライラしちゃってるんだよね? すぐご飯に……」

花子「ごまかすなー!」

撫子「うっ……」

花子「櫻子の様子が変なのはしょっちゅうあることとして、撫子お姉ちゃんまでそんな感じだから花子は嫌なんだし!! 絶対隠し事してるもん!!」

撫子「…………」

櫻子「…………」


花子「今日は本当のことを話してもらうまで、この部屋から出さない! ご飯も食べさせないから!」ふんっ


櫻子「ね、ねーちゃん……」

撫子(もう、だめか……)


花子「それと昨日の夜……なんで二人ともいなかったの」


花子「昨日はこの近くでウィザーが出て……危ないから逃げようって思ったのに、撫子おねえちゃんも櫻子ももぬけの殻で……!」


花子「花子は、ずっと心配で心配で……! 二人がいなくなっ、ちゃうと、思っ……」ぽろぽろ

撫子「花子……」

櫻子「ん……なんか下で音がする」

撫子「お母さん帰ってきたみたいだね。櫻子出てやって」

櫻子「う、うん」ばっ


花子「あっ、まだ話は……!」

撫子「花子っ」ぎゅっ

花子「きゃっ……!」ぽすん



撫子「ごめん……ごめんね花子、確かに私たちは、花子に隠し事をしてる……」


撫子「でも花子にそれは言えないんだよ。わかってもらえないと思うけど、どうしても言えないんだ……」


花子「な、なんで……?」


撫子「何でかも言えない……でも悪いことをしてるわけじゃないんだよ? 花子にだけ秘密にしたいことなの……」

撫子「おねえちゃんがここまで秘密にしたことなんか、今まで無かったよね? つまりはそれくらい大事なこと、それくらい花子には知られたくないことなんだ」


撫子「花子に知られちゃったら、私たちが困っちゃうことなんだよ……」


花子「撫子おねえちゃん……」


撫子「でもね、これはいつか絶対言うときが来る。必ず花子に、ちゃんとした事実を教えるから……」


撫子「だからどうかおねえちゃんに免じて、櫻子にもあんまり聞かないであげて……?」なでなで


花子「う、うう……///」


撫子「花子の見てないところでね、櫻子は本当はすごい頑張ってたりするんだよ? 私もびっくりするくらい……」

撫子「それに泣いてたって言ったって、今日の櫻子を見たでしょ? いつも通りじゃなかった?」


花子「……いつも通りだったかも」


撫子「私もあんまり知らないけど……ひま子と喧嘩でもしてたんじゃないかな。でももう元に戻ったみたいだしさ、花子が心配することないって」


撫子「私たちはいつだって、花子のことが大事なんだよ……?
花子にひどいことしようとか、思ってるわけないことくらい、花子もわかってるよね。もう二年生だもんね?」


撫子「お姉ちゃんたちはいつだって花子の味方だよ……それを忘れないでね」ぎゅっ


花子「…………」


撫子「さ、お腹すいたでしょ? ご飯食べよう?」ぽんぽん

花子「うん……」


ぱたん


ナモリン(ナデシコ……さすがナモ……!///)




<夜>


櫻子「はあ、今日はどうなることかと思った……」

撫子「いよいよ隠し切れそうにないね……とりあえずなんとかしといたけど」

櫻子「向日葵にも3つ目のリングが光っちゃうしさ……そうだ、私明日から3人目のプリキュア探さなきゃだった……!」


撫子「……誰か候補いるの?」

櫻子「んーと、前はあかりちゃんとか強い心を持ってそうだしいいかなーって思ってたけど……かよわいあかりちゃんを巻き込むわけにはいかないよなぁって……」

撫子「まあ私たちが誰にしようって思ったところで、その子がプリキュアの資格を持ってるかどうかなんだよね……」

櫻子「そ、そっか……」


撫子「とりあえず今日はウィザーが出てこなくてよかったよ。それが救い」

櫻子「あっそうだ……! よくよく考えたらさ、まだ二人で一緒に戦ったことってないんじゃん!!」

撫子「あっ……」


櫻子「だったら3人目が必要かどうかもまだわかんない……私たちが頑張れば、3人目なんかいらなくなるってことだよね!」

撫子「確かに……私にとっては、もう昨日より強いウィザーなんて出てこないと思うし……」


櫻子「ねーちゃん頑張ろ! 二人で一緒に……花子も向日葵も守ってこうよ!」


撫子「私と櫻子が一緒なら……どんな敵が来たって負けないよね……!」

櫻子「うんうん!」

ナモリン「二人とも、その意気ナモ~♪」

撫子「と、とりあえず櫻子は、もうあんまり私の部屋に来ない方がいいって……花子がずっと気にしてるんだからさ」

櫻子「ああ、そっか……」


ナモリン「二人の距離がどれだけ離れてても、指輪に祈りを込めればテレパシーで会話できるナモ。本当に何か伝えたいことがあったときや、敵に片方だけ遭遇しちゃったときはそれで呼び合うと良いナモ!」

撫子「なるほど。これなら櫻子の周りでウィザーが出てもすぐに助けに迎えるね」


櫻子「じゃ、じゃあねーちゃん……おやすみ」

撫子「うん、おやすみ」

ナモリン「おやすみナモ~」


櫻子「しっかり休んで、花子に心配されないようにしてね」

撫子「あんたももう泣き寝入りしないでね」

櫻子「するもんか!///」


ぱたん


『ねーちゃん、おやすみ……』


撫子(あっ……)


撫子(ふふ、さっそくテレパシー使っちゃって……)


――――――
――――
――

花子「…………」とぼとぼ


『こんにちは』

花子「ん……?」


『どうしたの? そんなに暗い顔して……』


花子「い、いやなんでも……ないけど」


『何か悩みでもあるのかしら? これからどこにいくの?』


花子「これから友達の家に……今みたいに花子がいろいろ考え事ばっかりしてるから、みんなにも変な心配させちゃってるんだし。今日はたくさん遊ばなきゃって」


『あらあら、でもそんな感じで遊びに行くのに、また暗い顔してるようじゃダメじゃない……どう? よかったら私がお話聞くけど』

花子「えっ? で、でも……」


『そんなに時間はかけないわ。でもあなた、遊びに行くような楽しい顔してないんだもの……そんなんじゃまた心配されちゃうわよ?』

花子「そ、そうかなぁ……」


『悩み事ってね、自分以外の人に打ち明けてみるだけで軽くなっていくものなの。私でよかったら聞くわ、そこに話しやすそうな公園もあるし』


『花子ちゃんって言ったかしら。苗字は?』


花子「大室……大室花子だし」


スズラン『そう。私は鈴木蘭っていうの。よろしくね? 花子ちゃん……うふふ』



花子「花子にはお姉ちゃんが二人いるんだけど……最近、なんか二人が花子にだけ秘密でこそこそやってるみたいなんだし」


花子「昨日はそれを聴こうとしたけど、結局ごまかされちゃって……いつか必ず教えるって言ってくれたけど、花子はずっと気になっちゃうの……」


スズラン「ふぅん……」


花子「悪いことしてるわけじゃないけど、花子には秘密にしたいんだって……全然見当もつかないけど、二人きりでこそこそされるのが嫌なんだし!」


花子「突然泣いたり、突然抱き合ったり……二人にしかわからないことで嫌な気持ちにさせられるのは、もう嫌なんだし……」


花子「ご、ごめんね。急にこんなこといわれて、全然わからないと思うけど……」

スズラン「わかった!」

花子「えっ……?」


スズラン「わかっちゃった……あなたのお姉さんの秘密にしてることが……♪」

花子「ほっ、ほんと!?」

スズラン「ええ。でもこれは秘密にするのもわかるわ……だってあなたに知られたら、あなたが可哀想なんだもの」

花子「そ、それでも教えてほしいし! いったい、どんなことが……」ぐっ


スズラン「落ち着いて……じゃあ心して聞いてね」

花子「…………」ごくっ



スズラン「あなたのお姉さんたちは、付き合っているのよ」


花子「……えっ」


スズラン「あなたの一番上のお姉さんと、二番目のお姉さんは、お互いが好き同士……両想いってわけね」

花子「そ、そんな……!」


スズラン「だってそうでしょう? 悪いことをしてるわけじゃないけど、妹であるあなたには秘密にしなければならない……」


スズラン「二人きりで部屋にこもってこそこそすることが増えたり、二人にしかわからないことで泣いたり抱き合ったり……」


スズラン「それってつまり、あなたを抜きにして二人は付き合っているということよね!」


花子「な……」

スズラン「あなたのことは一応妹だから大切にしてるけど、あなたにだけは関係がばれたくないんだわ……だってあなたがひとりぼっちになっちゃうもの」


花子「あ……あ……」


スズラン「どう? 最近二人が妙に仲良かったりしていない? あなたを抜きにして、二人で遊んでたりすることってない……?」


花子「そっ、そんなことしない!! 確かに二人とも仲良くなったけど、撫子お姉ちゃんも櫻子も、花子だけ仲間外れにするようなことは……!」


スズラン「でも実際されているんでしょう? 仲間外れに」きっ

花子「っ……!」


スズラン「花子ちゃん……人間は、一人の人しか好きになれないの……あなたのお姉さんたちは、その想いが互い同士に結ばれてひとつになった……」


スズラン「……そこにあなたの入る余地なんてないの。あなたを抜きにして、ずっと二人きりでいたいと思ってるのよ……」


スズラン「あなたはもう妹じゃない、ただの邪魔者なの」


花子「い……いやだ……やだぁ……!」ぽろぽろ


スズラン「悲しいわね……あなたにとってお姉さんは自分の居場所であり憧れであり、家族であり……いろんな大事なものなのに、そのお姉さんたちからは嫌がられている……」


スズラン「いい……いいわ……その絶望よ……!!///」にやり

花子「えっ……!?」


スズラン『あなたの深い悲しみ、寂しさ……その想いが、私の力となる……!』ゴゴゴ


スズラン『いでよっ!! ウィザーー!!!』しゅっ


花子「い、いやああぁぁぁぁっっっ!!!」




ナモリン「サクラコ、ナデシコ~!」ひゅーん


撫子「どしたの?」

ナモリン「すごく嫌なオーラを感じるナモ……ウィザーが出たナモ!」

撫子「大変っ……どの辺り!?」

ナモリン「あっちの方から……たぶん七森公園あたりナモ!」

櫻子「やばいよねーちゃん! そっちの方は未来の家があるから……花子もその近くにいるかもしれない!」


撫子「急ぐよ!!」

櫻子「よしっ!!」



『プリキュアっ!! ブルームマイハート!!』


櫻子『愛に染まるは櫻の花っ! キュアチェリー!!』

撫子『風に染まるは撫子の花……キュアシスター!!』

櫻子「こらーー! やめろーー!」ぎゅーん


ウィザー「ウィザアアアアアッ!!」

櫻子「うおっ、でかいタンポポのウィザーだ!」


撫子「スズラン……懲りないねあんたも」ふっ

スズラン「あらあら、姉妹揃って仲良くどうも。こんにちは良いお日和ね」

櫻子「冗談言ってる場合かっての! 『プリキュアっ! チェリーシャムシール!』」じゃきん


櫻子「らあああっ!!」ざんざん


ウィザー「ゴァァアアッッ!!」

櫻子「わ! きゃああああっ!?」ばしっ


ナモリン「チェリー!!」

撫子「ばか、いきなり無茶してんじゃないよ」


櫻子「なっ、なに……これ……」どくん

撫子「えっ?」


櫻子「し、しびれる……身体が……」わなわな

撫子「チェリー!? 何が……」


スズラン「うふふふ、チェリーちゃんは初めての痛みよねえ、ソ・レ♪」

撫子「チェリーはって、どういう……はっ! まさか……!!」


スズラン「前回キュアシスターはコテンパンにされてたわよねぇ。あそこでキュアチェリーが来るとは思ってなかったけど、あなたの綺麗な顔が苦痛に歪む様は忘れていないわ……」くすくす


撫子「チェリー、特効だ! このウィザーは、誰かがあんたに対して想ってる気持ちから生まれたものなんだよ! その力はあんたに対して何倍も強く伝わるんだ!」

櫻子「そ、そんな……くっ」

撫子「誰か心当たりはいない!? あんたに対して何か強い想いを抱えてる……!」

スズラン「よそ見してていいのかしら? プリキュア!」すっ

ウィザー「ウィザーーーーー!!」ぶんっ

撫子「くそっ!!」ガキン


撫子「はあああああっ!!」ざしゅっ


スズラン「よかったわね、私との戦いも今日で終わるようよ? あなたたちの敗北を持ってして!」


撫子「ふん……例えチェリーを封じたところで、この私がいることを忘れんじゃないよ!」じゃきっ

スズラン「あらあら、感受性の強い妹に比べてお姉ちゃんは鈍感なようねえ……まだ気づかないとは……♪」

撫子「な、何言って……」


櫻子「あああああーーっっ!!?」がーん

撫子「チェリー!?」


櫻子「花子っ! 花子ーーーー!!!」ゆさゆさ

花子「…………」ぐったり

撫子「っ……!?」


ナモリン「な、なんてことを……!」

スズラン「言ったでしょう? この戦いは今日で終わるの……」


スズラン「あなたたち二人に対して強い想いを抱く唯一の人間……あなたたちの妹、大室花子!」


スズラン「不安、悲しみ、絶望……全ての負の感情から生まれし特効ウィザー、これに勝てる者はもはやこの世界にいな……」


撫子「ああああああああああああああっっっ!!!!」どんっ

スズラン「なっ……!!」


櫻子「し、シスター!!」

撫子「よくも……よくもぉっっ……!!」ふーっ


スズラン「ふふっ、理性が飛んだわね、キュアシスター……」


撫子「絶対許さない……絶対……ぜったいっっ!!」ぎゅんっ


ウィザー「グォアアアアアァァ!!」


撫子「お前だけはっ、お前だけはああああああああ!!!」ぶんっ

ガキィン!!

櫻子「シスター危ない!! そんな闇雲にやっても……!」

スズラン「もはやあなたの声は届かないわ。でも自分の心を壊したところで、このウィザーに勝てると思うのも間違っていてよ!」しゅっ

櫻子「うわあああっ!」がきっ


スズラン「あなたを倒して……世界は終わる……!」ぎりぎり

櫻子「く、くそ……そんなちっちゃいくせして、あんたもすごい力なんだね……!」

スズラン「当然でしょ……今日で全てを決するつもりなんだから!!」がきん


櫻子「あんたがどうして世界を滅ぼしたいのかなんて知らない! でも私はユルユリアの皆にも約束したんだから! 絶対助けてみせるって……!」じゃきっ


櫻子「あんたなんかにっ、絶対負けないんだからあああああ!!」ばんっ

スズラン「ぐうっ……!」

櫻子「花子! どうしてなの!? なんでウィザーなんかに……!」


スズラン「ふっ、それはあなたたちの自業自得と言うものでしょう? 一人だけ仲間はずれにして、寂しさを味わわせて……」


櫻子「仲間外れになんかしてないよ!! だって私たちは……!」

スズラン「うるさいっ!!」ばしん

櫻子「きゃあああっっ!///」


スズラン「あなたたち幸せな者はいつもそうやって、不幸せに陥るものの気持ちを考えない……この世には幸せでいられる人もいれば、それにあぶれる人だって必ずいるのに……!」


櫻子「な、なにを……っ」


スズラン「思い通りにならない世界なんか、私の幸せを奪うだけの世界なんか、壊れてしまえばいいのよ!!!///」


櫻子(す、スズラン……!?)

撫子「うぁぁあああああああああっっ!!」べしっ

櫻子「わっ! シスター!?」


撫子「ぐ、ぐぅぅうう……くそぉ…………!!」

ウィザー「ウィザーーーーー!!」


スズラン「さあ、全てを終わらせなさい、ウィザー!!」

しゅるしゅる!


櫻子「きゃあああああっっ!!」ぐぐっ

撫子「わああああああっっ!」


スズラン「そうよ……意地悪なお姉ちゃんなんて絞め殺してしまいなさい、大室花子……!」


櫻子「んんんうぅぅー……!!」ぎりぎり


撫子「花子っ、はなこおぉ……!!」

櫻子「いじわるっ、なんか……してないのに……!!」


櫻子「いつだって私たちは……花子のことが心配で……!」


撫子「いつだって花子のために、動いてて……!」


櫻子「ねえ花子! 聞こえてるでしょ!! 私たちは花子のことが一番大切なんだよ!」


櫻子「他の誰でもない、私たちの大事な妹!!」


櫻子「一番近くで見てきたんだから、わかるでしょ!?」


撫子「おねえちゃんたちはいつだって、花子の味方だよ!!」


スズラン「何を言っても聞こえるわけない! ウィザー、やれっっ!!」しゅっ

ナモリン「ああああっ、プリキュアーーー!!」


櫻子「いつも心配してくれてた!! いつもそばにいてくれた!!」


撫子「可愛くて、誰にでも優しくて、おねえちゃんにいつも着いてきてくれる、最高の妹!!」


櫻子「私たちが一番守りたいのは、花子のその笑顔なんだからぁぁーーーーーーーーーーー!!!!」

ぴかーーーーーーん!!!


ナモリン「えっ!?」


ナモリン(こ……この光は……!)


ナモリン「き、聞こえる……ハナコの想いが……!」


スズラン「とどめをさせっ、ウィザー―!!」

ウィザー「ウィザー―――――――!!!」

櫻子「うああああああぁぁっっ!!」


ナモリン(3人目の……プリキュア……まさか……!)ひゅーん


花子「…………」

ナモリン「やっぱり!! リングを光らせているのは花子ナモ!!」


ナモリン「お願いナモー!! おねえちゃんたちを助けてあげてナモ~~!!」すっ


『プリキュアっっ!! ブルームマイハート!!!』きらーん

スズラン「な、なっ……この光は……!!?」


櫻子「あ……」

撫子「は、花子……!!」


花子『光に染まるは満開の花っっ!! キュアフルール!!』ばばーん


スズラン「きゅ、キュアフルールですって!?」

ナモリン「やったナモーー!! ハナコもプリキュアになれたナモ~~!!」


花子『プリキュアっ! シャイニングフルーレ!!』しゃきん


花子「お姉ちゃんを離せええええええっっ!!」ずぎゅん

ウィザー「ガアアアアァァァァッッ!!?」ずばっ


櫻子「きゃっ!」とさっ

撫子「は、花子!! ああ……!」


花子「撫子お姉ちゃんは下がってて。あとはこのキュアフルールに任せるし!」

スズラン「どういうこと……心を闇で覆われていたはずのあなたが、なぜプリキュアに……!」


花子「闇の中でも聞こえたし……櫻子たちの声が!!」

ナモリン「想いの感受性、人の心への共感性が人一倍強いハナコが、チェリーとシスターの気持ちを受け取ってくれたんだナモ!」


花子「どういうことかよくわかんないけど……お姉ちゃんたちを助けるためなら、プリキュアでもなんでもやってやるんだしーー!!」

櫻子「ふ、フルール……!」


スズラン「いっ、忌々しい光のプリキュア、キュアフルール……! 姉に守られていただけの弱虫のあなたに何ができるというの!!」

ウィザー「ウィザー――!!」がーっ

撫子「フルール、危ないっっ!!」


花子「はぁっ!!」


ごーん


ウィザー「ゴアッ!?」


櫻子「ば、バリアが……!」

ナモリン「黄色のプリキュアは守りの力を持ってるんだナモ! 並大抵の攻撃じゃ破れないナモ~!」

花子「撫子おねえちゃん、櫻子……」つかつか


花子「今日も帰ったらお説教だから、覚悟しとけしぃーーー!!!」ぎゅんっ


ずばずばずばっ!


ウィザー「グアアアアッッ!!?///」 ざしゅざしゅ

櫻子「つ、つよい……!」


ナモリン「このウィザーは花子の弱い心から生まれたんだナモ。その闇を自力で振り払った今、フルールにとっては楽勝なんだナモ!!」

撫子「み、みるみるうちに……」


花子「はああああぁぁぁぁっっ!!」ざんざん


スズラン「そ、そんな……ああ……!!」


ずばーん!


ウィザー「オ、オオォォォ……」どすーん


櫻子「か、勝った……!」

スズラン「く、くぅぅ……プリキュアはこれで3人……私はどうすれば……!!」しゅんっ

撫子「あっ、スズラン!!」

ナモリン「……行っちゃったナモ」


花子「…………」

櫻子「…………」

撫子「…………」



ナモリン「わ、わーい!! 勝ったナモ~~♪」


櫻子「わーいじゃねえだろーーーーー!!///」


撫子「ナモリン!! あんたなんで花子をプリキュアにしちゃったわけ!?」

ナモリン「ひーーー!! だって二人とも大ピンチだったから……///」

櫻子「これじゃ何にも意味ないじゃん!! 花子思いっきり戦いに巻き込まれてんじゃん! 巻き込まれてるっつーか巻き起こしてるよ!」

撫子「何のために今まで隠してきたと思ってんの! あんたも私たちのそばで見てたんだからそのくらいわかるでしょ!?」

ナモリン「う、ううぅ……」しょぼん


花子「こらーーーーーーーーーーー!!!///」


櫻子「ひっ!」びくっ


花子「この子を怒るのはおかしいし……怒られるのはお姉ちゃんたちでしょ!! こんなの秘密にしてーー!!」


撫子「だ、だってそれは花子を危険に巻き込まないように……!」

櫻子「これが知られちゃったら花子はずっと心配しちゃうじゃんか……!」

花子「うるさいうるさいうるさーい!! 花子だけ仲間外れにして、最近起こってたおかしなことは全部これだったんでしょ!?」

撫子「確かにそうだけど、これからは二人で頑張っていこうって昨日櫻子と決めたのに……!」

花子「二人だけになんて頑張らせないし!! 花子も一緒にプリキュアやるのーーーー!!」わーわー

櫻子「だめだこりゃ……」

ナモリン「結局プリキュア三姉妹ナモ……」


撫子「あんなの私たちでだってどうにかできたんだよ? なのにナモリンがおせっかいやくから……!」

ナモリン「そんなの見栄っ張りナモ!! シスターなんか一番ぼろぼろだったナモ~~!!」

花子「ナモリンを責めるなし! 花子が来なかったら絶対撫子おねえちゃんたちは負けてたんだから!」


「お、おいプリキュアたちが喧嘩してるぞ……」

「みて、あれがさっきの新しいプリキュアよ……!」


櫻子「うおーやばい! 人が集まってきちゃうよ、帰らなきゃ!」

花子「ちょっと待って!? 花子今から未来の家に行かなきゃいけないんだけど!」

撫子「じゃあフルールは誰にも見られないところで変身解きな? 私たちは帰ってるから」

ナモリン「フルール、ありがとうナモ~~!」

花子「帰ったらいろいろ聞くから、覚悟しとけしーー!」ぴゅーん


櫻子「あーあ……」


撫子「……帰ろっか」




ぴんぽーん


未来「ああっ、花子様きた!!」

みさき「もう、遅いじゃない!」

花子「ごめんごめん、今そこでウィザーが出て……大人たちに言われて逃げなきゃいけなくなっちゃって」

こころ「テレビでなまちゅうけいやってるよ~」

花子「えっ、ほんと!?」


『光に染まるは満開の花っ! キュアフルール!!』ばーん

『ご覧いただいているのは、ついさっき七森公園で目撃された、新たな3人目のプリキュアと思われるキュアフルールです。先ほど入った情報によりますと……』


花子(あ……///)

未来「新しいプリキュアが来たんだってー! キュアフルールって言うんだよ!」

こころ「かわいいー」

みさき「しかもすっごい強いのよ!」


花子「きゅ、キュアフルール……」


花子(これが……花子……!)


未来「私キュアフルールが一番好きかも~!」

みさき「ちょっと! 未来はキュアチェリー派だって言ってたじゃない、私がキュアフルール派になるの!」

こころ「みさきちだってシスター派って言ってたのに~」

花子「ちょ、ちょっとみんな……///」

未来「ちなみに花子様はどれが好き!?」


花子「えっ? 花子は……」


花子(…………)


花子「花子は、3人とも全部好きだし……///」


花子(撫子お姉ちゃんも、櫻子も……)


花子(これからも、ずっと一緒だから……!)


こころ「花子様、意外とよくばりー」

みさき「そうよ、どれか一つに絞らないとダメよ!」

花子「みさきち、キュアフルールを選んでくれてありがとう……///」

未来「なんで花子様がお礼言うの?」

花子「な、なんとなくだし!」



~fin~

〈ユルユリプリキュア! 六話 設定資料〉


『キュアフルール』

想いの感受性、心への共感性が人一倍高い花子が、姉たちを守ろうという一心でプリキュアになった姿。フルール(fleur)は花の意。
スズランに心を闇で覆われていたが、それでもなお想いを受け取りリングを光らせ、寝ている花子の指にナモリンがリングを通すとプリキュアとして覚醒した。
守りの力を司るプリキュアで、バリアやレジストはお手の物。三姉妹の中では背が一番小さいが、それでも通常時の花子の身長よりは少し大きくなっている。
黄キュアは可愛いの法則で、一気に世間にファンを持つことになる。

キュアフルール変身時セリフ『光に染まるは満開の花! キュアフルール!』


『シャイニングフルーレ』

花子の想いが生んだ、眩しい光を放つ二双のレイピア。
細身ながら切断性も高く、フルールは舞いながら敵の懐に飛び込んで斬る。
チェリーシャムシール同様とても軽い。二本とも振り回すと光が動きについていけず、櫻子曰く「花火みたいになる」らしい。

とりあえずここで区切りです。

まだまだキュアチェリーたちの戦いは続いていきます。

またその時によろしくお願いします。


ありがとうございました。

26話付近で追加戦士枠来るか……?

にしても櫻、姉、花かぁ
チェリーとブロッサム(HC)が
フルーレとブルーム(S☆S)、フラワー(HC婆)が名前の意味かぶりしてるのが悔やまれる……

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