千早「昔の貴方に、戻って」 (30)


Pと千早、二人だけのお話です。(P視点)
少し短めの作品ですが、お楽しみ頂けたらと思います。
良くあるパターンだと? だが、良くあるパターンならではの面白さもある!

※処女作故、至らない点が多くあろうかと存じます。
※Pのキャラクター性に関しては違和感があるかもしれません。
※Pの考え込むシーン多め。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1369818774

俺は数か月前から765プロにてプロデューサーをやっている。
そして、俺がプロデュースしているのは「如月千早」と言う名前の少女だ。
彼女はとても真面目で努力を惜しまない。
その懸命な姿を見て、俺はこの子を絶対にトップアイドルにしようと決心した。
その為に今日もレッスンに励んでいるのだが……
P「ほら、気を抜くな。 足が動いていないぞ」
ダンスレッスンの最中、どうにもミスが目立つのだ。
P「どうした? 調子でも悪いのか?」
千早「いえ、そういう訳じゃ……」
P「ならしっかりやれ。 これは千早の為なんだから」
普段は絶対にしないようなミスすらしているのだ。
調子が悪いのかと聞いても千早は違うと答え、頑張ろうとはしている。
それなのにミスが続いているのだ。

ちょっと読みにくいので行を開けながら続けます。
失礼致しました。

P「明日はオーディションだ……念には念を入れよう。 ほら、もうワンセットいくぞ」

彼女の為だと自分に言い聞かせながら、油断をしないように日々レッスンを積み重ねてきた。
それに答えるように彼女は成長を続けていたのだが、オーディションが近づいてくるにつれて今までしなかったようなミスが目立ってきたのだ。

P「ほら、またダメだ。 しっかりしろ」
千早「はい……ごめんなさい」

言葉が強いという事は自覚している。
しかし、これは何度でも言うが彼女の為にやっている事であって断じて間違った事をしているつもりはない。
この方法で彼女は様々な技術を身に着けて来た事がその証拠であり、俺が同じ方法を取り続ける理由にもなっているのだ。

P「本当にどうした? いきなり調子が悪くなったぞ。 無理だけはするな」
千早「大丈夫ですから……心配しないでください」

千早には少し意地っ張りな一面もある。今、まさにその一面が出ていると言った所だろうか。
彼女が負けず嫌いなのは知っているのだが、少し我慢しすぎな気がする。

そのまま時間は過ぎて行き、翌日。オーディション当日。

P「よし、今まで覚えてきた事をしっかり出し切ってこい。 俺は待ってるから」
千早「はい……いってきます」

オーディションを受けに行く千早の背を見送り、俺は一息ついた。
突然目立ちだした千早のミス。一体どうしてミスが出だしたのだろうか?俺のやり方は間違ってはいない筈だ。
 千早自身もこのやり方に納得している筈だし、俺自身も間違った事をしているつもりはない。
……いや、その思い込みこそが間違いなのか?これは一度千早と相談してみる必要性がありそうだな。
そんな事を考えている間に時間はあっという間に過ぎ去っていた。

 オーディションを終えた千早が俺の元へ戻ってくる。

P「千早、どうだった?」
千早「ダメ……でした。 ごめんなさい」

千早はとても悔しそうで、目尻に薄っすらと涙を浮かべている。
P「そうか。 でも、良く頑張ったな。 後で今後についての話をしたいんだが、大丈夫か? 気分が落ち着いたらでいいからさ」
千早「はい。 気分は大丈夫なので場所だけ変えませんか?」
P「わかった。 帰ろうか」

こうして、俺は千早を連れてオーディション会場を後にした。

事務所に帰って来た俺は応接室にて、千早と今後の話をする事にした。

P「最近調子が悪いよな。 本当に、無理はしてないんだな?」
千早「してません。 体調管理が重要なのは私自身、良く知ってます」

そういえば、俺が765プロに来てすぐの頃に千早が体調を崩した事があったな。
その時は体調を崩した千早の分まで俺が色々な仕事を背負ったんだったか。

P「そうか、余計な心配してすまない。 後、一つ重要な話し合いたい事がある」
千早「何ですか?」
P「レッスンについての事だ。 俺は今までやってきた方法が正しいと思い込んできたが、少し考え直そうかと思ってな」
千早「…………」

やはり、俺の予想は正しかったのだろうか?
レッスンについての話を切り出した瞬間、千早の顔色が変わったのだ。

P「やはりレッスンの内容のせいなんだな? なら、今すぐにでも——」
千早「変えないでください」

千早は今まで見た事も無いような真剣な目つきでこちらを見つめている。

P「……なら、何故ミスが出るようになったんだ?」

俺は彼女にトップアイドルになって欲しい。その一心でここまで突き進んで来たんだ。
些細なミスも許されない世界だからこそ、俺は千早を完璧に育て上げなくてはいけない。
そんな事を考え続けている俺は少し睨み付けるような形で問いかけた。

千早「私が集中しきれていないからです……ごめんなさい、プロデューサー」
P「なら、今度から絶対に気をつけてくれ。 次こそは合格しないと俺達も窮地に立つ事になってしまうからな」

やはり、俺は厳しくしすぎなのか……?
だが、千早本人が大丈夫だと言っているんだ。間違いは無いに決まっている。
そうだ、間違っていないんだ……

翌日。結局、いつも通りのレッスンを行う事にした。
内容としては、オーディションで減点の原因となったダンスのレッスンだ。

P「……ほら、手の位置を意識しろ。 そんなんじゃダメだ」
千早「はい」

いつもと変わらないレッスンの光景。
しかし、変わらない筈のレッスンなのに何故か少し千早が悲しそうにしているような気がして、俺は軽く後悔をしていた。

本当にこれで良かったのだろうか。
俺は彼女に無理を強いているのではないのだろうか?

そんな事ばかり考え続け、レッスンが少し疎かになっていた時の事だった。

千早「プロデューサー、何か考え事でも?」
P「え? あ、ああ……そんな事は無い。 ほら、レッスンに集中しろ。 ミスを少しでも抑えられるようにしないとダメだからな」

折角千早から声を掛けてくれたのに俺は何も言葉を掛ける事はできなかった。

そんな自分がもどかしい。
プロデューサーには向いてないのだろうか?
ただレッスンに打ち込ませるだけではダメだと言う事ぐらいは俺も分かっている。

しかし、今の俺にはどうする事もできないんだ……
後一歩のような気がするのにその一歩が踏み出せないんだ。
 何かが凍りつき、止まってしまったかのように……

そんな事を考え続けた俺はレッスンに完全に打ち込む事はできなかった。

千早「ありがとうございました」
P「ああ、今日もお疲れ様」

レッスンを終え、他愛ない会話を交わしている最中。

千早「プロデューサー、レッスン中に何か考えていましたよね?」
P「ん……ああ。 だが、千早は気にしなくていい事だ」
千早「でも、レッスンに打ち込めないようでは困りますし……」

俺は少しこの言葉に苛立ってしまった。

P「いいんだよ、気にしなくて! これは俺の問題だ。 口出しされるような事じゃない」

つい、強く当たってしまった。

千早「……ごめんなさい。 お疲れ様でした」

悲しげな挨拶を受け、千早の背中を見送る。

やはり、こういう所が俺はダメなんだろうな……

そう考えると、最初の頃とは変わってしまった気がする。
最初の頃はレッスンの事よりも千早の事を第一に考えていた。
その頃は、千早も楽しそうにレッスンに打ち込み、メキメキ実力を伸ばしていっていたのだ。

なのに、今はどうだ?強く当たり、レッスンとオーディションの事しか考えてないじゃないか。

いつから俺はこんなに変わってしまったのだろうか?
千早をトップアイドルにしたいと言う決心が俺をこんなにも変えてしまったのだろうか?

……しかし、その決心が無ければ逆にここまでこれなかった筈なんだ。
何が……間違っているのだろうか?

俺にはそれだけが理解できなかった。

そして、翌朝。俺は千早がやってくるのを事務所で待っていた。

千早「おはようございます」

千早が挨拶をしにきた。
しかし、やはりその表情はどこか悲しげなのだ。

P「おはよう。 今日も頑張ろう」
千早「……はい」

千早のむすっとした態度に俺はまたも苛立つ。
しかし、その苛立ちをこらえて

P「……昨日の事、気にしているのか?」

気遣いの言葉をかけてみる。
自分自身、昨日は失敗したと思っているからだ。

千早「いえ」

短く一言だけ、千早が返してきた。
それに対しまたも俺は苛立ちを感じる

P「……とりあえず、今日もオーディションの反省を踏まえてのレッスンだ。 始めるぞ」

苛立ちを感じた俺は、それを抑え込むようにしてレッスンへ向かった。

所々ズレがありますね……
申し訳ありません。

気をつけながら続けていきます。

やはりいつもと変わらぬレッスン。
そして、一向に減る気配を見せない千早のミス。

その時、俺の苛立ちはとうとう沸点へ達した。

P「千早、ちょっと来い」
千早「……はい?」

P「お前はやる気があってレッスンをやっているのか?」
千早「勿論です。 何故そんな事を聞くんですか?」

P「それなら、何故ミスが減らない? 俺は何度も指摘し、気を付けろと言っている筈だぞ?」
千早「そ、それは……」

P「やはりやる気が無いからなんじゃないか?」
千早「…………」

俺の勢いに押された千早はとうとう黙り込んでしまった。

P「黙り込んだと言う事はそういう事なんだろう?」
千早「くっ……」
P「悔しがっても無駄だ。 実際にミスを無くせなければ意味を成さない」

俺は苛立ちを千早にぶつけ続ける。

P「やる気が無いなら何故続ける? 無駄だと分かっているだろう!」
千早「私だって……望んでミスをし続けているんじゃない……」
P「何だと? なら直せばいいだけの話だろ! やる気が無いなら帰れ!」

俺はとうとう「帰れ」と言い放ってしまったのだ。

千早「もう……いいです」

千早は涙声でそう言って、走り去ってしまった。
……どうして俺はこんな事しかできなくなってしまったのだろうか。

何故だ……何故なんだ……
そんな事を俺は一人で一日中、延々と考え続けた。

休日を挟み、休み明け後も俺は普段と変わらない様子で事務所に居た。
しかし、次のオーディションが近づいている……手を打たなければ。

そして千早が普段のように来たが、様子が変だった。

千早「…………」

挨拶もせず、俺の方を見ているだけ。

P「おはよう」

声を掛けるも、一向に返事は無い。

P「……おい、何のつもりだ」

俺はまたも苛立つ。

千早「……レッスン、お願いします」

千早はその一言だけポツリと呟いた。
その言葉を聞いた俺は即座にレッスンを開始する事にした。

P「今日は調子がいいな」

目立ったミスも無く、俺が指摘していたミスの大半が無くなっていた。

P「練習でもしたのか?」
千早「…………」

一向に千早は口を開こうとはしない。
すると、突然千早は俺に背を向けて棒立ちになった。

P「おい、どうした」

呼びかけても返事は無い。

P「……何なんだ、何のつもりだ?」

強めに声をかけても微動だにしない。
怪しく思った俺は千早の傍に駆け寄った。

P「——!?」

顔を覗き込んだ瞬間、俺ははっとするのと同時に血の気が引いて行くのを感じた。

P「おい、千早……」

千早は無表情のまま涙を流していたのだ。
微動だにせず、俺の言葉にも一切答えようともしない。

 まるで、どこか遠くへ行ってしまったかのように……

その時。
俺の中の何かが突然動き出した。

P「千早……戻ってこい! おい!」

俺は必死に千早に声を掛け続ける。

P「おい……頼む! おい!」

しかし、それでも一向に動こうとはしない。

ずっと俺が考え続けてきた事は全て事実だったのだ。
俺は知らず知らずのうちに彼女の心を傷付け、強く当たってしまっていた。

状況が、千早が変わったのではない。

知らず知らずのうちに俺の中の何かが欠けてしまっていたのだ。
決心でも無い。レッスンの内容でも無い。

俺は目の前の事に必死になりすぎて「思いやる心」を忘れてしまっていたのだ。

P「俺が……俺が間違っていたんだ。 頼む、戻って来てくれ!」

一向に動かない千早。
それを見た俺は自然と涙声になってきていた。

P「なあ……頼むよ……」

昔、笑い合いながらレッスンをした事を思い出しながら。

P「頼む……」

俺の事を慕い、必死になってくれていた事も。

P「また……笑ってくれよ……」

一緒に目標に向けて突き進んでいた事も。

P「千早……」

俺の目からは自然と涙が溢れていた。

俺が彼女に与えられなかった物……

それは「優しさ」だったのだと言う事。

P「また……前みたいに……」

俺は泣きながら、途切れ途切れの声で必死に呼びかけ続け、そして——

P「笑ってくれよ……!」

千早を、強く抱きしめた。

千早「プロ……デューサー……?」

千早がはっとしたように声を出す。

P「千早!」
千早「やっと……前みたいに笑ってくれた……」

彼女もまた、涙声で俺に言葉を返してくる。

P「ずっと……忘れていたんだ。 本当に必要な物を……」

俺は必死に声を振り絞る。

P「目の前の目標に固執しすぎて……忘れていたんだ……!」
千早「プロデューサー……」

俺はそのまま、泣き崩れた。
千早は涙ぐみながらも必死に俺の事を慰めてくれた。

そして、彼女は最後に俺に向かってこう呟いた。

千早「昔の貴方に戻ってくれて……良かった……」

それからの日常は最初の頃のように笑顔に溢れ、とても充実した日々となった。

また、それに応えるように千早も技術を伸ばしていき、問題点とされていたダンスも完璧な物となっていた。

そして、オーディション当日。

P「よし、頑張れよ! 応援してるから!」
千早「はい、行ってきます!」

俺はオーディションを受ける千早を元気良く見送り、合格を祈った。

本当に、俺は千早をプロデュースする事になって良かったと思っている。

俺は彼女から様々な物を貰い、そして様々な物を与えてきた。
それと同時に俺は彼女から様々な事を学んだ。

優しさを。
思いやる心を。

暫くして、笑顔で千早が俺の元へ戻って来た。

P「おかえり。 どうだった?」
千早「私の顔を見てわかりませんか?」

この笑顔は……間違いない。

P「合格したのか!? やったな、千早!」
千早「プロデューサーのお陰です! 貴方が色々な事を教えてくれたから合格できたんですよ」
P「はは、でもそれに応えたのは自分自身だろ? 俺は何もしてないさ。 本当に、おめでとう!」

これで——本当に始める事ができる。
彼女をトップアイドルにする事を。
俺達が……物語の続きを紡いで行く事を。

物語は少し短めですが、以上になります。
初投稿故に不手際が目立ち、大変失礼致しました。

お付き合い下さった方々、ありがとうございました。

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