戒斗「IS学園?」一夏「バナナ・スパーキング!」 (240)

 IS<インフィニット・ストラトス>と仮面ライダー鎧武のクロスSSの本編完結編になります。
 今回も舞台およびストーリーのベースはIS(の原作3巻あるいはアニメ9~12話)。IS世界に駆紋戒斗が乱入した形となります。

 IS原作1巻(アニメ1~4話)の話は↓
戒斗「IS学園?」一夏「バナナ・スカッシュ!」
戒斗「IS学園?」一夏「バナナ・スカッシュ!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1419961833/)

 IS原作2巻(アニメ5~8話)の話は↓
戒斗「IS学園?」一夏「バナナ・オーレ!」
戒斗「IS学園?」一夏「バナナ・オーレ!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1420913661/)

 あ。今回もどうにもならなくなったら地の文が入ります。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1422595570

■序幕
<夜・屋上>

 ――織斑一夏は、空中に投影された個人用通信端末のスクリーンを凝視していた。

一夏(検索ワード『仮面ライダー』。ヒット数……0件)

一夏(表にもアングラにも『仮面ライダー』の情報は無い。噂話すらも)

一夏(でも……)

 ――仮面ライダーは、みんなの自由と平和を守るんだ。

一夏(泊進ノ介さん。俺を助けてくれた『仮面ライダー』は、確かにこの世界にいたんだ)

一夏(仮面ライダー……)

一夏(戒斗が『なれなかった』と言っていた存在)

一夏(俺は……)

一夏(仮面ライダーという在り方が、眩しい)

<同時刻・学生寮1025室>

 ――戒斗は存在の薄くなった手を、月明かりに透かしていた。

戒斗「消滅まで半月……といったところか」

戒斗「……」

戒斗「盗み聞きとはいい趣味だな、戦極凌馬」

 ――部屋に設えられた通信端末が勝手に起動する。

 ――空中に投影されたスクリーンに、戦極凌馬が映っていた。

凌馬「君に褒められるとは光栄だなぁ、『神様』。フフッ」

凌馬「メガヘクスとの戦いから五十年。科学は発達し、インターネットは世界中に張り巡らされた」

凌馬「先進国は言わずもがな。電子の海はアマゾンの奥地まで広がっている」

凌馬「そして――電子の海は、私の支配領域だ。フフッ。データ人間の私は、世界の全てを同時に監視しているのさ」

戒斗「相変わらず無駄口の多い」

凌馬「フフッ」

凌馬「駆紋戒斗。君に、宣戦布告しよう」

凌馬「半月もかけさせない」

凌馬「消える前に、殺す」

戒斗「ふん」

戒斗「『私の才能が、研究が、唯一価値のあるものなんだ。この世界の真理なんだ』だったか」

凌馬「君に殺される直前の、私の台詞だね」

戒斗「つまらんプライドだ」

凌馬「フフッ」

凌馬「私のドライバーに頼らずに人間を越えた男、駆紋戒斗」

凌馬「その存在、必ず否定してみせるよ」

戒斗「吠えてろ」

 ――戒斗は、存在さえ不確かな拳を握る。

戒斗「貴様には、もう一度俺の真理を叩き込んでやる」

■第一幕
<日曜日・朝・学生寮1025室>

一夏「水着買おうぜ!」

戒斗「朝からバカを言うなバカ」

一夏「っさいこのオトメン! 来週は校外特別実習なんだぞ」

戒斗「それがどうした」

一夏「校外特別実習は海に行くんだよ! 水着がいるだろ、水着が!!」

戒斗「……」

一夏「ぐ、ぐぐ。そんな怖い顔されても引かないぞ」

一夏「……うん? あ、もしかして」

戒斗「……」

一夏「戒斗。お前もしかして、泳げないのか?」

戒斗「違う」

一夏「じゃあ水着買いに行こうぜ! そんで、校外特別実習で水泳勝負だ!!」

戒斗「いいだろう。安い挑発だが、乗ってやる」

一夏「んじゃ決まりだな。みんなも、正門の前で待ってるぜ」

戒斗「……」

戒斗「ずいぶんと用意がいいな」

一夏「ぎくっ」

戒斗「一夏。貴様、何をたくらんでいる」

一夏「お、おおお俺が何をたくらんでてもお前は噛み潰すだろ……?」

戒斗「……」

戒斗「ふん」

 ――戒斗は、部屋を出ていった。

一夏「……ふう」

一夏「音声認識。テレフォン」

 ――通信端末が立ち上がる。

一夏「こちらワンサマー。ターゲットの誘導に成功した」

『すばらしいっ! では、引き続き誘導をお願いするよ! エージェント・ワンサマー!』

<沢芽市・斎場>

 ――『棺』に、花を詰めていく。

 ――そうすることで、喪失を埋めるように。

千冬(辛い葬儀だ……)

千冬(呉島さんの死から一ヶ月。こんな、無念な形で葬儀を行うことになってしまった…)

千冬(……)

 ――『棺』には、花“だけ”が詰められていた。

<昼前・沢芽市・ショッピングモール>

箒「ここに来るのも久しぶりだな」

鈴「見て見て箒。あっちで、『サガラくん』がティッシュ配ってるわよ」

箒「おお! 懐かしいな、『サガラくん』」

戒斗(デフォルメされたDJサガラのきぐるみがティッシュを配っている……だと……)

シャル「それで、一夏。どのお店に入ればいいのかな」

一夏「あっち。……アー、人数多イシグループ分ケシヨウカナー」

ラウラ「……」

セシリア(ラウラさんの番ですわよ)

ラウラ(そうだった!?)

ラウラ「ア、アー! ナラ私ハ嫁ト行クゾー!」

鈴(ラウラの演技下手すぎィッ!?)

箒「ワ、私モ一夏ト行クゾ!」

鈴(こっちも大根役者だった!?)

セシリア「ナ、ナラ私ハ戒斗サント……」

鈴(あんたらそろって演技下手ァー!?)

シャル「あはは……。じゃあ、一夏とラウラと箒と鈴が一緒かな」

鈴「! ソ、ソウネー!」

鈴(あたしも演技できなかったー!?)

戒斗「……」

戒斗「ふん」

<ショッピングモール・一夏組>

一夏「ここまでは順調だな!」

鈴「どこがよ!? バレバレだったわよ!!」

ラウラ「まあ、戒斗を学園から引き離すことには成功したんだ。任務は達成している」

箒「あとは夕方まで時間を稼げばいいんだな」

一夏「……」

箒「どうした、一夏?」

一夏「いや……。あいつら本当に大丈夫かなぁ、って」

鈴「……あー」

<IS学園・1年1組>

 ――戒斗、一夏、ラウラ、シャルを除く1年1組のメンバーが勢ぞろいしていた。

クラスメイト1「これより、1年1組の学級会を始める!」

クラスメイト2「オリムラ達は見事に役目を果たした。今度は、私達の番だ」

クラスメイト3「書記は任せたよ、後藤君」

クラスメイト5103「はい」

クラスメイト1「んじゃ、意見のある奴は――」

<ショッピングモール・戒斗組>

セシリア「戒斗さんに似合うのは、ブーメランですわ!」

シャル「ブーメラン水着は流石に恥ずかしいんじゃないかな……」

セシリア「ギターを背負っているシャルさんがそれを言いますの……?」

シャル「オッケーセシリア。表出ようか」

セシリア「ふぁっ!?」

戒斗(姦しい奴らだ)

戒斗(……)

戒斗(学生は、そんなものか)

セシリア「か、戒斗さんはどんな水着をお召しになりますの……?」

戒斗「……」

シャル(あれ。戒斗の視線の先にあるのって……)

 ――戒斗の視線の先には、ふんどしが陳列されていた。

<火葬場に向かう車の中>

千冬(みんな、涙を流している)

千冬(呉島さんは多くの人に愛されていた。彼は、偉大な英雄だった)

千冬(私だって、じいさんが亡くなってからずいぶんと助けられた)

千冬(……)

 ――千冬は、ふと窓の外に視線を向けた。

千冬(いいや、勘違いだろう。私も相当参っているようだな)

千冬(黄金のミニカーが空を飛んでいる、なんて幻覚を見るとは……)

<IS学園・1年1組>

クラスメイト2「王侯のように華やかにすべきだ!」

クラスメイト3「大きなケーキは必要だ!」

「握手会とか!」
「鑑賞会とか!」
「花道オンステージ!!」

クラスメイト1「ッ~~~だーッ! お前ら全然ダメだ! そんなんで本当に満足できんのか!!」

クラスメイト達「「…………」」

クラスメイト1「もう一度よく考えようぜ」

クラスメイト1「駆紋の大将との、お別れ会のシナリオを」

<ショッピングモール>

 ――戒斗が、店舗の片隅にたたずんでいた。

戒斗「……」

一夏「あれ。何だ、戒斗も女子から逃げてきたのか」

戒斗「ふん」

一夏「女の子ってすごいよなー。なんで、水着一つ選ぶだけであんなにはしゃげるんだろうな」

戒斗「……」

一夏「……」

一夏「ありがとな、戒斗」

戒斗「何がだ」

一夏「今日、付き合ってくれて」

戒斗「ふん」

一夏「あはは。こんな、なんてーか普通の日常って奴はさ。戒斗には退屈だろ」

戒斗「ああ」

一夏「あはは……。即答かぁ」

戒斗「だが」

一夏「うん……?」

戒斗「いや、やめておこう。忘れろ」

一夏「? わかった」

<IS学園・1年1組>

クラスメイト3「すばらしいっ!」

クラスメイト2「ああ! ク・モーンとの最後の思い出に、これ以上のものは無いだろう……!」

クラスメイト1「よしっ。じゃあ決まりだ!」

 ――クラスメイト1は、黒板をバンッ! と叩いた。

クラスメイト1「校外特別実習で仕掛けるぞ!」

クラスメイト1「今日から、秘密の地獄特訓だ!!」

<夜・職員寮・千冬の部屋>

千冬「呼び出してしまって、すまなかったな」

戒斗「用件は何だ」

千冬「……」

千冬「呉島さんの葬儀に出席してきた」

戒斗「そうか」

千冬「知っての通り、呉島さんが亡くなったのは一ヶ月前だ」

戒斗「だが」

戒斗「呉島貴虎の遺体が盗まれたために、葬儀は延期していた」

千冬「そうだ。……結局、遺体を見つけられないまま空の棺を燃やしたよ」

戒斗「……」

千冬「話しはそれだけだ」

戒斗「そうか」

千冬「……ああ」

千冬(駆紋戒斗。無関心を装っているが……)

千冬(強く握り込んだ拳だけは、隠せなかったみたいだな……)

<同時刻・沢芽市・御神木の神社・宝物庫>

 ――宝物庫に“怪盗”の姿があった。

 ――“怪盗”は黄金のミニカー。その名は、アルティメットルパン!

ルパン「木枠の窓から射し込む月明かり。いいロケーションだ」

ルパン「フフッ」

 ――ルパンは宝物庫の中を飛ぶ。

ルパン「メガヘクス事件のすぐ後に建てられたこの神社には、ある物が奉じられた」

ルパン「奉じたのは、呉島貴虎。彼は、沢芽の御神木こそが駆紋戒斗であると、葛葉紘汰に聞かされていた」

ルパン「だからこそ、あれをこの神社に奉じたのだろう」

 ――宝物庫の奥に、戦極ドライバーがかけられていた。

 ――フェイスプレートは『バロン』

ルパン「フフッ。ハハハハハッ!」

ルパン「まるで護り神のようだな!」

 ――ルパンは、音が立たないよう慎重に、戦極ドライバーを外す。

 ――その裏に隠されていた空間に納められていた“宝”に、心の中で舌舐めずりをした。

 一先ずここまでになります。サムィ……雪降ッテル……。
 寝て起きたら、のんびり投下再開します。
 今回の本編は前スレの本編より長いので、うん。のんびり投下していきまする。

 それでは。ここまでお付き合いありがとうございました。

乙です

今回で最終回なんでしょうか?

乙ありがとうございます!?

>>22
スレ立てをした目的「戒斗と一夏の物語」は、このスレで決着させます。

外出する時間が迫ってるので、ガンガン投下していきます。

■第二幕
<沢芽市・ユグドラシルタワー跡地・地下>

 ――新たなISが生まれようとしていた。

凌馬「フフッ。ハハハハハハハハハッ!」

凌馬「実に素晴しい! これには興奮せざるを得ないよ! そうだろう、束!」

束「……。そうですね、お父様」

凌馬「ハハハハハハッ!」

凌馬「細身であるが力強く、描くラインは美しく、その造形は神の域!」

凌馬「いい! 実にいい! これそこ、僕の趣味とこだわりの実現だ!」

凌馬「ハハハハハハッ!!」



<校外特別実習初日・浜辺>

「海だー!」
「海ってテンション上がるよね!」
「やっほーーー!!」
「それ山ァッ!?」

一夏「……気付いたことがある!」

戒斗「何だ。言ってみろ」

一夏「水着女子ばっかりだ!!」

戒斗「バカ」

一夏「勘違いするなよ、戒斗。俺はお前に感謝してるんだ。お前がいなきゃ俺は、水着女子空間に男一人になるところだったんだ……」

戒斗「ふん」

一夏「でも戒斗。正直、ふんどしはどうかと思うぞ?」

戒斗「うるさい」

<浜辺>

一夏「お。みんな来たな」

鈴「やっほ!」

シャル「お待たせ」

セシリア(シャルさん、海でもギターを……)

ラウラ「ん」

箒「……」

戒斗(……何故、全員タオルで身体を隠している。そういうものなのか?)

一夏「ふっふっふっふっふっ」

戒斗「?」

一夏「今こそ“時”だ! みんなー! 準備はいいかー!!」

1組クラスメイト達「「おーーー!!!!」」

戒斗(何だ……?)

戒斗(……)

戒斗(本当に、あれは何だ……?)

 ――浜辺が震えていた。

 ――“それ”は大地を割り、そそり立つ。

クラスメイト1「レディーーース&ジェントルメーーーン!!!」

 ――浜辺に“ステージ”が出現していた。

クラスメイト1「駆紋の大将! これは俺達1年1組からあんたへの、挑戦状だ!!」

 ――ステージに看板が上がる。

 ――看板には“ダンス・バトル・フェスティバル!”と書かれていた。

戒斗「……」

戒斗「ふん!」

戒斗「面白い! その挑戦、受けて立つ!!」

<舞台裏>

クラスメイト3「何とか間に合ったね、ステージの建造」

クラスメイト5103「大変でした」

クラスメイト3「ふふ。よくがんばってくれた、ありがとう」

クラスメイト3「それじゃあ、ゲストの紹介だ!」

<ステージ>

クラスメイト1「まずは、この大会を盛り上げてくれるMCの紹介だ! カモン!」

 ――ステージに“MC”が上がる。

DJサガラ「HELLO~!! IS学園! 最高にホットな夏が始まるZE!!」

戒斗「」

DJサガラ「おやおや、主賓は早くもオーバーヒートか? 熱暴走にはまだまだ早いぞ!」

一夏「!? あれは――DJサガラ!?」

鈴「沢芽のマスコット『サガラくん』の元になった、伝説のMC!?」

箒「けれど、どうしてこんなところに……!?」

クラスメイト1「沢芽の公園で野宿してたとこを見つけたんだ」

鈴「伝説のMC何してんの!?」

DJサガラ「さーて、ルールを発表するぞ! 審査員は出場者以外の1年生全員だ。審査員には、『興奮度』を測れるヘッドギアを配布済みだ! 審査員の興奮を最も引き出したチームが優勝DA!」

千冬「なるほど。アイカツシステムか」

ラウラ「教官。アイカツとは何ですか?」

千冬「……」

ラウラ「教官?」

千冬「忘れろ。いいな?」

ラウラ「は、はい」

DJサガラ「早速、最初のエントリーだ! トップバッターはクラスの垣根を越えたスペシャルチーム『セシリア・オルコットと愉快な仲間達』!」

セシリア「出番ですわよ、みなさん!」

DJサガラ「名前はダサいが、華やかなメンバーの歌とダンスには期待がかかるぜ!」

セシリア「だ、ださ……」

鈴「ま、ダサいわねえ」

シャル「それより、ほら。行くよセシリア。戒斗にアピールするんでしょ?」

セリシア「そ、そうでしたわ……!」

 ――セシリア、鈴、シャル、箒、ラウラがステージに上がる。

戒斗「なるほど。身体に巻いたタオルは、ステージのための演出だったというわけか」

セシリア「その通りですわ!」

 ――セシリア達のタオルが宙に舞う。

 ――ステージに立った五人の少女は、和装をベースにアレンジしたダンスユニフォームをまとっていた。

DJサガラ「チーム『セシリア・オルコットと愉快な仲間達』。ダンスミュージックは……『E-X-A Exciting x Attitude』!」

セシリア「――ッ」

 ――世界を変える準備はいいか?

<沢芽市・ユグドラシルタワー跡地・地下>

 ――凌馬は、ダンス・バトルの映像を眺めていた。

凌馬「いやはや、涙ぐましい友情だねぇ」

凌馬「駆紋戒斗が消滅する前の、最後の思い出作りか……」

凌馬「……」

凌馬「下らない」

<浜辺・ステージ>

クラスメイト1「――本気(Magic)か!? 本気で!? 本気だ!!!! Show Time……」

DJサガラ「最高のディナータ……じゃなかった、ショータイムをありがとう! まるでハイパーバトルビデオを見ているようだったZE!!」

クラスメイト3「すばらしい! だが、私達はもっとすばらしいよ! 駆紋君。この演目は私達からの挑戦状であり、メッセージだ! ――後藤君」

クラスメイト5103「はい!」

 ――クラスメイト3率いるチームが舞台に上がる。

DJ「チーム『誕生日』! 将軍みたいな衣装のリーダーに注目せざるを得ないッ! ダンス・ミュージックは――!」

クラスメイト3「手を繋ごう! マツケンサンバ!」

 ――オーレ・手を繋ごう~!

 ――オーレ・手を繋ごう~!

 ――オーレ・手を繋ごう~!

 ――この世界~ 大きなファミリー♪

 ――どんなに時代変わったとしても 絆とは絶えず続いていくもの――

<舞台裏>

 ――ステージ衣装を着た一夏が、出番を待っていた。

一夏「……」

 ――衣装は、青を基調としたパーカー。背中には、武将の浮世絵が描かれている。

一夏「よし!」



<ステージ>

DJサガラ「さーて! 次は大本命! 駆紋戒斗への最後の挑戦者――織斑一夏の登場だッ!」

戒斗(あれは、チーム・鎧武のユニフォーム……?)

鈴「一夏ーーー! がんばりなさいよー!!」

箒「がんばれ一夏!」

ラウラ「がんばれ嫁ー!!」

一夏「よっしゃー!!」

 ――ステージに、一夏が躍り出た。

一夏「みんなー! こっからは、俺のステージだッ!!」

DJ「ナイスな気迫だ! 織斑一夏に期待がかかる! ダンス・ミュージックは――」

戒斗(このライトの色調は……)

戒斗(まさか……)

一夏「――『Never Surrender』」

戒斗(……)

戒斗「く、くく、ははははは!」

戒斗「一夏! その曲、無様なダンスは許さんぞ!!」

一夏「へっ。見てろよ戒斗。こいつは――千冬姉仕込みだ!!」

 ――ぶつかる度にIgnision

 ――密か 心 燃やす

 ――1歩だってしないぜ BackStep――

<観客席>

千冬(『Never Surrender』)

千冬(私がじいさんから教わった、チーム・バロンのミュージック)

千冬(まさか、戒斗の前で一夏が躍ることになるとはな)

<ステージ>

 ――誰にも渡さない 誰にも譲らない

 ――信じられるのは自分だけ

 ――頂点《トップ》極めるまで

 ――誰もが従い 誰もがひれ伏す

 ――最強の果実この手で

 ――掴むまでNever Surrender!

一夏「――――ッ」

一夏「どうだ、戒斗!!」

 ――観客の『興奮度』は、最高潮を示していた。

DJサガラ「魂の震える熱いダンスだったぜ! もちろんゲージはカンスト!! これは、優勝は決まったかーーー!!!」

戒斗「何を言っている。――勝利とは、俺こそが掴むべきものだ!」

DJサガラ「気合い十分だなラストダンサー! なら、踊ってもらおうか!!」

戒斗「ふん」

DJサガラ「ダンス・ミュージックは、どうする?」

戒斗「分かっていることを一々聞くな」

DJサガラ「オーケー! ……ユニフォームは、その褌かい?」

戒斗「……」

 ――戒斗は指を鳴らす。すると、いつものチーム・バロンのユニフォーム姿に変わっていた。

DJサガラ「流石は神様! 王者のダンスを期待しているZE!」

DJサガラ「ダンス・ミュージックは――」

戒斗「ふん」

一夏(な、なんかこっち睨んでる……!?)

戒斗「『Rise Up Your Flag』!」

 ――EyEy・Oh!

 ――EyEy・Oh!

 ――EyEy・Oh!

 ――Rise Up Your Flag――

<観客席>

山田「お、織斑先生テンション上がっていますね!?」

千冬「そうか?」

山田「ええ。なんだか、すっごくわくわくしています」

千冬「……。フフッ」

千冬(『Rise Up Your Flag』。駆紋戒斗のライバル、葛葉紘汰のミュージック)

千冬(それを駆紋が演るなど。ふ、ふふふっ)

山田(織斑先生、ダンス好きなのかな……?)



<ステージ>

 ――出陣 勝鬨上げ!



<観客席>

千冬「Oh!」

山田(合いの手完璧!?)

ttp://i.imgur.com/u7qTALG.jpg
ここで戒斗のふんどし姿を見てみましょう

<ステージ>

 ――もう迷うことなかれ!

観客「「Oh!」」

 ――新たな力が俺のこと

観客「「Oh!」」

 ――試そうとしていたって

観客「「ソーレ!」」

 ――高く旗を掲げ!

観客「「Oh!」」

 ――大きな声叫べ!

観客「「Oh!」」

 ――ネクストレベルに たどり着く

観客「「Oh!」」

 ――未知の強さこの手に!

観客「「ソーレ!!」」

 ――EyEy・Oh!

戒斗「一緒に!!」

戒斗・観客「「EyEy・Oh!」」

戒斗・観客「「EyEy・Oh!」」

 ――Rise Up Your Flag――



<観客席>

山田「まだ音楽が終わっていないのにステージの端へ……?」

千冬「ここからだ……!」

<ステージ>

戒斗「行くぞ……ッ!」

 ――戒斗が、バク転しながらステージ中央に舞い戻る。

 ――観客達に向き直ると

 ――華麗なバク宙を決めた。



<観客席>

山田「お、おお……!!」

千冬「うむ」

山田「駆紋君、バク転できたんですね!」

千冬「それいじょういけない」

<ステージ>

 ――観客の『興奮度』は、最高潮を示していた。

DJサガラ「王者のダンス、決まったーッ! 観客の興奮度は、こちらもカンスト! 織斑一夏、駆紋戒斗、どちらも甲乙つけがたいパフォーマンスをありがとう!! 優勝はお前達二人に――」

戒斗「待て」

戒斗「同率優勝などありえない。最強の勝者を決めるべきだ」

DJサガラ「しかし、『興奮度』ゲージはカンストだ。これ以上のパフォーマンスなんてありえないだろう?」

戒斗「バカを言うな」

戒斗「そのゲージが限界を超えて砕け散るほどのパフォーマンスを見せてやる」

DJサガラ「オーケー。王者の矜持を尊重しよう。曲はどうする?」

戒斗「……」

戒斗「『乱舞Escalation』」

一夏「……」

一夏「……!」

<ステージ>

 ――ステージのホログラムは、漆黒の背景を映していた。

 ――戒斗は漆黒の中にたたずんでいる。

戒斗「サガラ。とっとと始め――」

一夏「待った!」

 ――ステージに、一夏が乱入する。

 ――ステージ背景の半分が、純白に変化した。

一夏「『乱舞Escalation』。知ってる。踊れる。だから戒斗」

戒斗「一緒に踊る、なんてたわけたことを言うなよ」

一夏「ふん」

一夏「勝負、だよ」

戒斗「……」

戒斗「いいだろう」

 ――戒斗と一夏。二人の視線は交錯し、火花を散らしていた。

DJサガラ「何だ何だ!? 何が始まるのか! いずれにしても、この一曲が王者を決める! 『乱舞Escalation』ミュージック・スタート!!」

 ――俺達が

 ――最強の 力 手に入れたとして

 ――その後に

 ――この目には どんな世界 映るのか

一夏「戒斗ッ!」

戒斗「一夏ッ!」

DJサガラ「おおっと、これは――ッ!?」

<観客席>

山田「!?」

千冬「あ、あいつら……!?」

 ステージでは、一戒斗と一夏の蹴り足が激突していた。



<ステージ>

 戒斗と一夏は、歌って踊りながら戦っていた。

一夏「誰も戦う理由があり!」

戒斗「誰も止めることはできない!」



<観客席>

山田「お、織斑先生!? あれは止めなくていいんですか……!?」

千冬「……」

山田「織斑先生……?」

千冬「い、一夏が、駆紋戒斗と一緒に踊っている……!」

山田「ダメだこのブラコン……」

<観客席>

鈴「やっぱりあいつらバカだー!?」

ラウラ「だが、私は大好きだ!」

箒「ラウラは本当にさっぱりしているな!?」

セシリア「……ふふっ。お二人とも、楽しそうですわね」

シャル「そうだねえ」

クラスメイト1「いいぞー! 大将ー! 一夏ー!!」

クラスメイト2「男同士のぶつかり合い……。それもまた高貴……」

クラスメイト3「すばらしいッ!」

クラスメイト5103「本当にすばらしいのでしょうか……?」

クラスメイト3「すばらしいさ。――だって、ここまでバカをやれば、私達は駆紋戒斗との思い出を絶対に忘れないだろう?」

クラスメイト3「歌って踊りながら戦うバカなんて、そう見れるものじゃないからね」

<ステージ>

一夏「俺が今! 手に入れた! 力がどんなものでも!」

 《白式》を展開し、一夏は声高に歌う。

戒斗「誰よりも! 先を行く! 理屈に変わりはないさ!」

 戒斗はロードバロンに変身。

 二人は、激突する。

 火花を散らしながら歌い続ける二人の、歌声が重なった。

 ――俺達が最強の力手に入れたとして

 ――その後に この目には どんな世界映るのか

 ――状況打開していくほどに

 ――……支配するほどに

戒斗・一夏「「極《きわみ》・Escalation!」」

<沢芽市・ユグドラシルタワー跡地・地下>

 ――凌馬が見つめるスクリーンの向こうでは、熱狂のダンス・ステージの幕が下りようとしていた。

凌馬「……」

凌馬「下らないよ」

凌馬「内輪のノリの、刹那の享楽だ」

凌馬「……」

凌馬「人の絆なんて、何の役にも立たない」

凌馬「……」

凌馬「そうだろう。貴虎」

 ――その声に、応えられる者は死んでいた。

<夜・浜辺>

 ――ステージの撤収作業をする人々を眺める、サガラの姿があった。

戒斗「貴様、何故ここにいる」

サガラ「そう悲しいことを言うなよ。俺のMC、最高だったろ?」

戒斗「……」

サガラ「睨むなって。悪かった」

サガラ「……」

サガラ「地球にはヘルヘイムの果実が残っている。葛葉がこの星を離れる時に“掃除”したはずだったのに。だから、ちょっと、様子を見に来たのさ」

戒斗「ふん」

戒斗「最初は、葛葉の奴が雑な掃除をしたせいだと思っていた」

サガラ「ははは! 確かに葛葉紘汰は掃除が下手だ。部屋は汚いし、あいつの星だって『始まりの女』がいなきゃもっとごちゃごちゃしてたろうな」

サガラ「だが、地球にヘルヘイムの果実があるのは葛葉のせいじゃない」

戒斗「戦極凌馬か」

サガラ「そうだ。あいつが万が一の時のために隠し持っていた果実が、ISのコアになった」

サガラ「果実のストックは467。466個は各国に配られてISのコアになった。1個は研究用に篠ノ之束が持っていたが、お前さんが叩き潰しちまった」

戒斗「何だと」

サガラ「無人機だよ。クラス対抗戦の」

戒斗「なるほど」

サガラ「現在、世界に存在しているISは469機。戦極凌馬のヘルヘイムの果実のストックから生まれたものが466」

戒斗「そして、ザックのクルミロックシードをコアにしている《白式》と、貴虎のメロンロックシードをコアにしている《斬月》」

サガラ「最後に。やはり、ロックシードをコアにしている《紅椿》だ」

戒斗「……」

サガラ「久々に楽しい時間を過ごさせてもらったお礼をしてやる」

戒斗「何だ」

サガラ「470番目のISが生まれようとしている。とびっきりのコアを使った、最強のISだ」

戒斗「ふん」

戒斗「どうせ、戦極凌馬が造ったのだろう」

サガラ「その通りだ」

戒斗「俺のやることは変わらない」

戒斗「立ちふさがる者を叩き潰す。それだけだ」

サガラ「くくっ。変わらないねえ、お前さん」

サガラ「いや。一周回ったのかな?」

戒斗「失せろ」

サガラ「はいはい……」

サガラ「……」

サガラ「駆紋戒斗。今日のお前、良い顔してたぜ」

戒斗「ふん」

<浜辺>

 ――浜辺にたたずむ戒斗に、一夏達が駆け寄ってきた。

一夏「こんなとこにいたのか、戒斗」

鈴「探しちゃったわよ」

ラウラ「海を見ながら黄昏ていたのか?」

セシリア「それは絵になりますわねぇ……」

箒「セシリアが悦に入っている……」

シャル「あ、あはは……」

戒斗「何の用だ」

一夏「大事な用だよ」

 ――ラウラが、一歩前に進み出る。

 ――小さな手の上に、七体の『ふうとくん』が乗せられていた。

ラウラ「先日、風都で買ってきた『虹の七色セット』だ。私達は七人。ふうとくんは七色。ちょどいいだろう?」

一夏「一人一つ。みんなで持つんだ」

戒斗「思い出の品、というわけか。感傷など――」

ラウラ「違う」

戒斗「……」

ラウラ「これは、約束だ」

ラウラ「このふうとくんは、七つ揃って初めて虹になる」

ラウラ「一つでも欠ければ、ただの愛らしいキーホルダーだ」

ラウラ「戒斗に限らず、私達はいずれ別々の道を行くだろう。人生とは別離の連続なのだから」

ラウラ「だが……」

ラウラ「再会はできる。私達に、その意思があれば」

ラウラ「ふうとくんはそのためにある」

ラウラ「虹を揃えよう。遠い未来の、どこかで」

ラウラ「これは、そういう約束だ」

戒斗「……」

一夏「だめ、か?」

戒斗「……」

戒斗「五十年だ」

ラウラ「……?」

戒斗「神になった俺が仮初めの肉体を得るまでに、五十年かかった。恐らく、次もまた五十年かかるのだろう」

 ――戒斗は、黄色の『ふうとくん』を取った。

戒斗「俺は神だ。約束を忘れることはない。だが、お前達はどうかな」

一夏「へっ。忘れるわけないだろ」

 ――橙色の『ふうとくん』がラウラの手を離れる。

鈴「五十年かぁ。その頃にはあたし達、おばあちゃんね」

 ――鈴は緑色の『ふうとくん』を掴んだ。

セシリア「ふふっ。皺くちゃになるわけにはいかなくなりましたわ」

 ――青色の『ふうとくん』が選ばれる。

シャル「想像もできない長い時間だけど。……うん。忘れないよ」

 ――シャルは紫色の『ふうとくん』を大事そうに抱き締める。

箒「約束だ。戒斗と、みんなと」

 ――箒は藍色の『ふうとくん』を手に、微笑んだ。

ラウラ「……」

 ――ラウラは、最後に残った赤色の『ふうとくん』を見つめていた。

ラウラ「必ず」

ラウラ「もう一度、七人で……」

<同時刻・沢芽市・ユグドラシルタワー跡地・地下>

 ――研究施設に、戦極凌馬の高笑いが木霊していた。

凌馬「ハハハハハッ! ついに完成だ! これぞ究極のIS!」

凌馬「このISによって、僕は黄金の果実になる……!!」

凌馬「もう、こそこそと隠れる必要はない!」

凌馬「決起の時は来た!!」

 ――上機嫌な戦極凌馬を、束は震えながら見つめていた。

凌馬「――さて」

 ――凌馬が束に向き直る。

 ――束は「ひっ」と小さな悲鳴を上げた。

凌馬「束。ISの発表、普及活動。君はよくやってくれた」

束「……。ありがとう、ございます」

凌馬「……」

凌馬「しかし」

凌馬「《白式》と《紅椿》に君が施した細工。あれは、よくないねえ」

束「ッ!?」

凌馬「許せないのはそれだけじゃない。束、君は《紅椿》にあのロックシードを使ったね?」

束「そ、それは……っ」

凌馬「おやおや、私が気づいていないとでも思っていたのかい?」

凌馬「フフッ」

凌馬「準備は整った。――もう、“端末”は必要ない」

 ――“IS”が、束に銃口を向けていた。

凌馬「さよならだ、束」

 ――銃声が鳴り響く。

 ――銃弾は束を貫いていた。

凌馬「……どうやら、優秀に作りすぎたようだね。この距離で致命傷を避けるとは」

凌馬「だが、次は避けられまい」

束「……ッ」

 ――肩を押さえた束に、再度銃口が向けられる。

 ――しかし

 ――引き金が引かれるその瞬間、煙幕が吹き上がった。

凌馬「……ふむ。ISのハイパーセンサーまでだます煙幕か。こんなものを用意していたとはね」

 ――煙が晴れると、そこにはもう束の姿はなかった。

凌馬「まあ、いいだろう」

凌馬「あの娘にどうにかできるものではないさ」

凌馬「僕の神は」

 ――凌馬は、“IS”をうっとりと見上げていた。

>>38
有能

 以上になります。最後の日常回にして、それぞれの立ち位置の確認的な話でした。
 残すは決戦の物語のみです。

 では。ちょっと外出してきます。
 ここまでお付き合いありがとうございました。

乙―
プロフェッサーはなんなの、ヤンデレなの? どこまでも永遠に輝くの?



……歌詞書いちゃって大丈夫なんだろうか

「戦極凌馬」の一人称について。
 鎧武本編で「私」と「僕」の二種類の一人称があったプロフェッサーですが、SS中ではテンションが上がってくると「僕」になる、という感じで書いています。

>>61
 一部引用かつ本文量が引用文量を圧倒していれば何とか。
 厳密な権利の問題を始めると、そもそも二次創作活動そのものがアウトです。ライダー系なら「ハイブリットインセクター」騒動を思い出していただければ。
 インターネットの普及でかなり「見える」ようになってしまいましたが、二次創作活動は基本的にアングラ文化です。「アウト」「セーフ」の話を始めると「アウト」ですね。

 ライダーなどのいわゆる「ナマモノ」は特に規制が厳しいので、ここ(匿名掲示板)に投下しています。
 それでは、投下を再開いたします。

■第三幕
<早朝・ハワイ・米軍基地>

 ――基地は、炎に包まれていた。

凌馬「ハハハハッ! 銀の福音《シルバリオ・ゴスペル》。アメリカとイスラエルの共同開発機。完成度は、さほどでもないね」

 ――白いISが、《シルバリオ・ゴスペル》を踏みつけていた。

 ――白いISのフォルムは《斬月》に似ている。

 ――白を基調にした、スマートなデザインの全身装甲。頭部には黄金の飾り。

 ――腰にはISサイズの無双セイバーを帯びている。

凌馬「試運転はこんなところでいいだろう」

凌馬「さて」

凌馬「駆紋戒斗を狩りに行こうか」

 ――白いISは飛翔する。

 ――後には、破壊され尽くした米軍基地だけが残されていた。

<朝・浜辺>

 ――箒が、浜辺を散歩していた。

箒「朝の海というのも、中々に趣があるな」

 ――浜辺を歩く箒は、波打ち際に何かが打ち上げられているのを見つけた。

箒「あれは……。……!」

 ――“それ”に駆け寄った箒は、抱き起こして声をかける。

箒「姉さん! しっかりしてください、姉さん!! ……こ、これは、銃傷!?」

 ――浜辺に打ち上げられていたのは、負傷した篠ノ之束だった。

束「……ほう……き……ちゃ……ん……?」

箒「姉さん!? 姉さん、そうです、私です! ……ああ、人を呼ばないと。音声認――」

千冬「その必要は無い」

箒「千冬さん!?」

千冬「お前を探していたんだが、ちょうどよかったな。束は私に任せて、お前は旅館へ行け」

箒「で、でも」

千冬「早く行け!」

箒「は、はい!」

 ――箒は走り去った。

千冬「……ふむ」

千冬「……」

 ――千冬は束の容体を確認する。

千冬「ふう」

 ――すると、ほっと胸を撫で下ろした。

千冬「抜け目ない女だ。……そういえば、《白騎士》の装着者の生体再生能力を造ったのもお前だものな」

<旅館・大広間>

クラスメイト1「待機命令だあ?」

「うん。校外特別実習は中止! 連絡があるまで旅館で待機!』だって」
「何かあったんだとは思うんだけど」

クラスメイト1「……」

クラスメイト3「考えても分からないだろう。なら、私達は私達のすべきことをするべきだ」

クラスメイト2「――できたぞ!」

クラスメイト3「おお! すばらしい!」

クラスメイト2「当たり前だ! 私はシュウジ・ジツにおいても頂点に立つ女なのだからな!」

 ――クラスメイト2は『駆紋戒斗君お別れ会!』という看板の前で得意気に胸を反らしていた。

<旅館・風花の間>

 ――『風花の間』は“司令部”と化していた。

 ――千冬、山田の教師二名。

 ――戒斗、一夏、箒、セシリア、鈴、ラウラ、シャルの七人の専用機持ちが揃っている。

箒「あの、姉さんはどうなりましたか……?」

千冬「大丈夫、あいつはしぶとい女だ。今は別室で寝かしてある」

箒「そうですか……」

千冬「さて」

千冬「状況を説明する。山田先生」

山田「はい」

 ――スクリーンに、燃え盛る米軍基地が映し出された。

山田「二時間前。所属不明のISがハワイの米軍基地を襲撃しました」

 ――スクリーンに《斬月》に似たISが映し出される。

山田「基地に配備されていた第三世代型の軍用IS、銀の福音《シルバルオ・ゴスペル》が応戦しましたが……」

 ――《斬月》に似たISと《シルバリオ・ゴスペル》の戦闘の様子が流される。

 ――《斬月》に似たISは、無双セイバーのような武器を振ると、《シルバリオ・ゴスペル》を一撃で戦闘不能にした。

山田「このように、一瞬で制圧されてしまいました」

山田「恐らく、《零落白夜》のように絶対防御を無効化する能力を所持していると思われます」

千冬「その後、衛星による追跡の結果、所属不明機はここから二キロ先の空域を通過することが分かった。時間にして五十分後。学園上層部からの通達により、我々がこの事態に対処することとなった」

一夏「ちょ、ちょっと待てよ千冬姉! どうして俺達が!?」

千冬「学校では織斑先生と――まあ、いいか」

千冬「ここには、世界最強のIS操縦者がいる」

 ――千冬は、真っ直ぐに戒斗を見ていた。

千冬「お鉢が回ってくるのも、まあ、当然だな」

一夏「……」

千冬「そう苦い顔をするな。軍用ISが撃破されているんだ、上もそう無茶は言ってきていない。我々の目的は、足止めと情報収集だ」

千冬「現在、各国の軍用ISが日本に向かっている。本命はそちらだ」

一夏「な、なるほど……」

千冬「しかし、足止めも骨だぞ」

千冬「所属不明機は超音速飛行を続けている。最高時速は二四五〇キロを超えるとある。アプローチは一回が限度だ」

戒斗「織斑」

千冬「何だ。もしかして、怖気づいたか?」

戒斗「まさか」

戒斗「その作戦。一夏も連れて行く」

一夏「へ……?」

戒斗「俺は強い」

一夏「そ、そんなことは分かってるよ!?」

戒斗「だが、万が一ということはある」

一夏「……う、うん?」

戒斗「その時は、お前が戦うんだ」

一夏「え? ……え?」

千冬「分かった。いいだろう」

一夏「え、ちょ!?」

戒斗「ふん」

戒斗「怖いか?」

一夏「そ、そんなことない! やるよ! やってやるよ!」

戒斗「くくっ」

千冬「……では。作戦の具体的な内容に入る。現在、この専用機持ちの中で高機動戦に対応しているのは誰だ?」

セシリア「それなら、わたくしの《ブルー・ティアーズ》が。二か月前に強襲用高機動パッケージ『ストライク・ガンナー』が送られて来ていますし、超高感度ハイパーセンサーもついています」

箒「私の《紅椿》も、展開装甲の調整だけで高機動戦闘に対応できるはずです」

<旅館・風花の間>

千冬「確認するぞ」

千冬「本作戦では、駆紋・織斑・篠ノ之・オルコットの四名による目標の足止めと情報収集を目的とする」

千冬「篠ノ之とオルコットは、駆紋と織斑の運搬役だ」

千冬「所属不明機には、まず駆紋が対処する」

千冬「駆紋が失敗した場合は、織斑だ」

千冬「いいな」

一夏「お、おう!」

一夏(……)

一夏(万が一、か)

一夏(何か、戒斗らしくない言葉だったな……)

<浜辺>

 ――千冬と山田、そして専用機持ち達が揃っていた。

鈴(……)

鈴(箒、大丈夫かしら)

鈴(あの所属不明機。戒斗の《斬月》に似てた。だから、たぶん……)

鈴(戦極凌馬っていう、箒のお父さんが関係しているはず)

鈴(箒はお父さんを恐れてた)

鈴(本当に、戦えるの……?)

箒「…………」

鈴(やっぱり震えてるじゃない!?)

鈴(……)

 ――鈴は、箒の手を取った。

箒「り、鈴……?」

鈴「行ける?」

箒「……」

箒「怖いけど、行くよ」

箒「お父様の罪から逃げてしまえば……。みんなの友達だと、胸を張って言えなくなってしまうから」

鈴「……そっか」

 ――鈴は、気合いを入れるように箒の背中を叩いた。

鈴「じゃあ、めいっぱいがんばんなさい!」

箒「ああ!」

<旅館・大広間>

 ――『お別れ会』の準備が進んでいた。

クラスメイト1「正直な話。入学式の日に駆紋の大将を見た時には、ぎょっとしたぜ」

「わかる」
「それな」
「赤黒のコートを着た二十歳の高校生って、どう考えてもギャグだもんね」

クラスメイト2「だが、ク・モーンはその実力を示すことで私達の仲間となった。今日は彼に習った技をもって、ケーキのイチゴをスライスする……!」

「駆紋君が作り方を教えてくれたフルーツタルトね! すっっっごく美味しかったよ!」
「今度食べさせてよ!」
「っていうか、私にもそれ教えて!!」

クラスメイト3「駆紋戒斗! 彼はすばらしい! その強すぎる存在に、誰も無関心でいられない! 彼は、ただそこにいるだけで周囲の変化を――進化を促す、黄金の果実だよ!!」

「織斑君とか、ボーデヴィッヒさんとか、デュノアさんとか見てるとねー。ほんとそう思うよ」
「何て言うかな。たぶん、駆紋君色に染め上げられちゃうだね」
「駆紋戒斗は王だもの。それが世界を滅ぼす魔王でも、私は……」
「キライジャナイワ! キライジャナイワ!」

クラスメイト5103「……」

クラスメイト5103「みんな、あいつのことが好きなんだな」

「「「当然よ!!!」」」

<太平洋・上空>

 ――戦極凌馬は上機嫌だった。

凌馬「《斬月・極》! 私は神が纏うにふさわしい鎧を作り上げたよ! ハハハハハッ!!」

凌馬「駆紋戒斗。『神』たる君を殺して、証明してみせよう!」

凌馬「私の研究は、人間を『神』にする力があると!」

 ――白いIS、《斬月・極》。

 ――アーマードライダー斬月に似たこの機体こそ、戦極凌馬の集大成だった。

凌馬「……」

凌馬「来たか」

 ――《斬月・極》の進行方向に、四機のISがいた。

戒斗「戦極凌馬。俺の拳をくれてやりに来てやったぞ」

凌馬「フフッ。今は好きに吠えているがいい」

 ――《斬月・極》はスピーカーから凌馬の声を吐き出すと、ISサイズの無双セイバーを引き抜いた。

<旅館・風花の間>

山田「駆紋君達、目標と接触しました」

千冬「よし、作戦開始」

山田「あ!」

千冬「どうしました、山田先生」

山田「その。篠ノ之さんの様子がおかしいんです……」

<太平洋・上空>

 ――箒が、震えていた。

一夏「だ、大丈夫か箒!」

箒「あ、あ、あああああ……ああああああああああああっ!!」

一夏「箒!?」

 ――恐慌状態の箒を嘲笑うように、《斬月・極》は無双セイバーを肩に担ぐ。

凌馬「無理もない。創造主への反逆をしようというのだから、ね」

一夏「お前が箒に何かしたのか!」

凌馬「何か? うーん、そうだねぇ……」

凌馬「まず。箒や束には、私への潜在的な恐怖を刷りこんである。反逆対策という奴だ」

凌馬「そして、その子を捨てたね」

一夏「……!」

凌馬「しょうがないだろう?」

凌馬「その子は《斬月・極》のテストパイロットにするために造ったんだがね。予定が変わって、いらなくなったんだ」

凌馬「いらないものを捨てて何が悪い? 君だって、ゴミは捨てるだろう? 葛葉紘汰じゃあるまいし」

一夏「お、お前……ッ!」

戒斗「待て、一夏!」

 ――戒斗の静止を無視して、一夏は加速する。《零落白夜》を発動した《雪片弐型》は、眩く輝いていた。

凌馬「愚かだねぇ」

 ――《斬月・極》は、一夏の単調な突進を難無く躱す。

 ――そして、ガラ空きの背中に無双セイバーを突き刺した。

 ――絶対防御を、突き破って。

セシリア「お、織斑さん……っ!?」

 ――凌馬は無双セイバーを一夏の身体の中から引き抜くと、刀身にべったりと付着した鮮血を振り払った。

一夏「あれ……何で……」

凌馬「この《斬月・極》は他のISとは格が違う。ISのコアであるヘルヘイムの果実の、支配者たる力がある」

凌馬「《斬月・極》の前では、絶対防御なんて無意味なんだよ」

一夏「…………」

 ――意識を失った一夏は海面に落下していく。

戒斗「ッ!」

 ――弾かれたように、戒斗が翔けた。

戒斗「戦極……凌馬ァッ!」

 ――戒斗は《斬月》の無双セイバーを抜刀すると、《斬月・極》に斬りかかっていた。

 ――《斬月》と《斬月・極》。二機の無双セイバーは鍔迫り合い。火花を散らす。

戒斗「セシリア! 一夏と篠ノ之を回収してこの空域を離脱しろ!」

セシリア「は、はい!」

 ――セシリアが翔る。

 ――海面すれすれで一夏を確保すると、今度は箒に接近した。

箒「あ、あ、あ……」

セシリア「ごめんなさい、箒さん。今はあなたに優しくしている余裕がありません」

 ――セシリアは箒の《紅椿》を掴むと、離脱を開始する。

セシリア「戒斗さん!」

戒斗「……」

セシリア「必ず回収に戻ります。ですから、全力で戦って、どうぞ」

戒斗「ふん。言われるまでもない!」

 ――セシリアは、一夏と箒を連れて戦闘空域を離脱した。

<旅館・風花の間>

山田「織斑君のバイタルゲージ、どんどん低下していきます……!」

千冬「……」

千冬(一夏……)

鈴「千冬さん! 救急車の手配を!」

千冬「そ、そうだな……」

 ――混迷の『司令部』に、新たな人物が現れる。

束「大丈夫……だよ……」

千冬「束!? もう動けるようになったのか……?」

束「何とかね」

 ――束は風花の間の壁に、気だるそうによりかかる。

束「いっくんの《白式》は、元々は《白騎士》だよ。だからあのISには、装着者の生体再生機能があるから……」

山田「あ……。織斑君のバイタルゲージ、安定しました……」

束「ね?」

千冬「……」

束「心配なのは箒ちゃんだよ。……お父様と対峙するなんて、心が壊れちゃうよ」

千冬「……。束。お前は、あの所属不明機の正体を知っているのか」

束「うん」

束「あれは、《斬月・極》。お父様が造り上げた――」

 ――黄金の果実の欠片。

<太平洋・上空>

 ――《斬月》をまとった戒斗と、《斬月・極》が睨み合っていた。

戒斗「戦極凌馬。貴様も、懲りん男だ」

戒斗「俺に一度、呉島貴虎に一度。合わせて二度も殺されておきながら、まだ現世にしがみついている」

凌馬「俺が屈しない限り、貴様が勝ったわけではない!」

戒斗「……」

凌馬「だった、ね」

戒斗「ふん」

凌馬「駆紋戒斗。君の言葉を借りれば――」

凌馬「――僕はもう、負けている」



<旅館・風花の間>

山田「あ、あの人は何を言おうとしているのでしょうか……?」

シャル「……」

千冬「わからん……」

<太平洋・上空>

 ――《斬月・極》は、子供番組の感想を語る男の子のように両腕を振り乱していた。

凌馬「勝てなかったよ! 僕は、勝てなかった!」

凌馬「仮面ライダーに、勝てなかった!!」

凌馬「五十年前のメガヘクス事件! あの事件で僕は、小粋なマスクを付けて蘇った!!」

凌馬「ゲネシスドライバーを携え、最高のエナジーロックシードを手に戦った!」

凌馬「仮面ライダー……呉島貴虎と対決したんだ!」

凌馬「貴虎は……」

凌馬「貴虎は、すごかった!」

凌馬「絶望の中にあっても諦めずに戦い、圧倒的な戦力差を覆して奇跡の逆転勝利を掴んでみせた!」

凌馬「あの戦いを目にした者なら、誰もが同じ感想を抱いただろう!」

凌馬「――呉島貴虎は、本当にすごい男だ!!!」

凌馬「流石、呉島貴虎だ!!!」



<旅館・風花の間>

千冬「……」

千冬「あの見るからに狂っている調子に同意するのは癪だが」

千冬「呉島さんがすごい人だった。という主張だけは頷かされてしまうな……」

<太平洋・上空>

凌馬「貴虎にね……」

凌馬「貴虎に思い知らされたよ」

凌馬「僕が戦ったんじゃあ――仮面ライダーには、勝てない……」

凌馬「五十年間!」

凌馬「仮面ライダーと戦い続けてきた……」

凌馬「敗北の連続だったよ」

凌馬「けどね」

凌馬「仮面ライダー達との戦いが、僕の道の正しさを証明してくれた」

戒斗「……」

戒斗(仮面ライダーと戦い、負けることで証明されるもの、か)

戒斗(……)

戒斗(まあ。俺の目に映った世界とは、別のものを見たのだろうがな……)

戒斗「……」

凌馬「ハハハハハ! ハハハハハハハハハハッ!!」

凌馬「僕はね!」

凌馬「……」

凌馬「――黄金の果実になるんだよ!」

凌馬「この手で、神を生み出すんだ!」



<旅館・風花の間>

千冬(呉島さんは“突き抜けた”方々には特に好かれていたが……)

千冬(“あれ”もその類か)

ラウラ「神を生む……? プロフェッサー。男だと思っていたが、女だったのか。そういえば、ISを動かしているからには女性なのだろうな」

鈴「えっと……」

束「違うよ。お父様は、ネットワークを介して《斬月・極》を操っているの」

束「《斬月・極》のパイロットは……」

<太平洋・上空>

 ――戦極凌馬の熱狂は、最高潮に達しようとしていた。

凌馬「仮面ライダーに敗北した!」

凌馬「僕の才能と研究はこの世界の真理ではなかった! 唯一価値のあるものでは、なかった!」

凌馬「“戦極凌馬”は価値を失った!!」

凌馬「この世界の真理は!」

凌馬「最も価値のあるものは!」

凌馬「――仮面ライダーだ!」

凌馬「だから僕は!」

 ――《斬月・極》から蒸気が噴き上がる。

 ――装甲が開き、“操縦者”の姿が露出した。

凌馬「仮面ライダー《呉島貴虎》を僕の力で『神』にすることで、自分の価値を取り戻す!!」



<旅館・風花の間>

ラウラ「何だ、あれは……」

シャル「人間……だけど……」

鈴「血の気がまったく無いわよ。まるで、死体みたい……」

千冬「あれは……」

山田「知っているんですか、織斑先生……?」

千冬「ああ、よく知っているよ……」

千冬「あの人こそが、呉島貴虎」

千冬「死した英雄だ」

千冬(戦極凌馬……。呉島さんの亡骸を盗んだのは、お前だったのか)

<太平洋・上空>

 ――《斬月・極》のスピーカーは、戦極凌馬の高笑いを吐き出していた。

凌馬「呉島貴虎を『神』にする!」

凌馬「この五十年! そのために活動してきた!」

凌馬「悪の組織を潰した! 仮面ライダーを排除した!」

凌馬「英雄を失った世界に、IS《インフィニット・ストラトス》という超兵器を知らしめた!!」

凌馬「これは全て、呉島貴虎という新しい『唯一人の神』を人類に認めさせる下準備だった……」

凌馬「今の世界は――潜在的に、IS操縦者を崇めている!」

凌馬「だから、世界は女尊男卑となった」

凌馬「女だけがIS操縦者になれるから。人類の『神』だから。女を尊重する世界に変わったんだ」

凌馬「そういう歪んだ世界に、僕が導いた!!」

凌馬「ISの力を示し! 情報統制の文法を駆使して、ゆるやかに、だが確実に、五十年の活動の末に世界を変えた!!」

凌馬「……」

凌馬「人類は『IS操縦者』という概念を『神』として信仰している……」

凌馬「……」

凌馬「あとは、簡単な話だ」

凌馬「人類は『IS操縦者』と『女』を等号で結んでいる」

凌馬「その認識を書き換える」

凌馬「『IS操縦者=女』から『IS操縦者=呉島貴虎』へ……」

凌馬「貴虎が人類の信仰を集める唯一の存在となった時……」

凌馬「唯一人の英雄になった時……」

凌馬「呉島貴虎は『神』になる」

凌馬「……」

凌馬「僕は、貴虎を『神』にする『黄金の果実』だ」

凌馬「貴虎を『神』の座に押し上げるインフィニット・ストラトスは、進化した戦極ドライバー」

凌馬「僕の研究、僕の才能から生まれた力」

凌馬「……」

凌馬「貴虎を『神』と崇める世界は、僕が維持する」

凌馬「悪の組織を潰したのも、仮面ライダーを消したのも、ISを普及させたのも」

凌馬「貴虎を『神』と崇める世界を運営するための、予行演習だ」

凌馬「僕は貴虎という『神』の鎧を造る職人であり、政治を預かる摂政となる」

凌馬「その力をもってこの身は『黄金の果実』となる!」

凌馬「それを成すことで!」

凌馬「……」

凌馬「“戦極凌馬”は価値を取り戻す」

凌馬「誰からも認められる『神』を造ることができたなら……」

凌馬「……」

凌馬「僕が敗北を認めた《呉島貴虎》こそ!」

凌馬「『神』になるべき偉大な英雄!」

凌馬「僕の最高傑作《斬月・極》を装着した呉島貴虎は!」


 ――僕が考えた最強のヒーローだ……ッ!!

<旅館・風花の間>

鈴「あ、あの人は何を言っているの……。正気なの……?」

束「狂ってるよ。お父様は、狂ってる。……データ人間は、人間じゃないよ」

束「だって」

束「死んでいるのに生きている、なんて人がまともなはずないじゃない」

束「あの人は、妄執だけで存在を保っている電子の怪人なの……」

<太平洋・上空>

 ――戒斗は、《斬月・極》に納められた呉島貴虎の遺体を見つめていた。

戒斗「死体を玩具に人形遊びか。悪趣味な男だ」

凌馬「仕方ないだろう? 生きている限り、貴虎は神にならない。ならば、死んだ貴虎を神にするしかない」

凌馬「フフッ。この《斬月・極》はね。貴虎の身体の腐敗を防ぐ機能はもちろん、身体と脳に蓄積された全てを読み取って的確な判断をする機能も搭載しているんだよ」

凌馬「仮面ライダー呉島貴虎の力を、十二分に発揮させるツールなのさ」

凌馬「貴虎の力がある限り《斬月・極》は誰にも負けない」

凌馬「フフッ。ハハハハハッ!」

戒斗「……」

戒斗(憐れな男だ。戦極凌馬)

戒斗(貴様は、呉島貴虎の強さをまるで理解していない)

戒斗(呉島貴虎を仮面ライダーたらしめていた『意思力』という強さに、気づきもしなかった)

戒斗(呉島貴虎を殺してしまえば、それは永遠に失われてしまうというのに……)

戒斗(が。人の話を聞く男でもないか)

戒斗(本当に、憐れな男だ。……救いようのまるでない、弱者だ)

戒斗「……」

戒斗「呉島貴虎は、俺が認めた男だ」

戒斗「貴虎の魂を」

戒斗「人類を救うという、強固な意思を!」

戒斗「貴虎の強さを汚す貴様の所業! 許さん!」

 ――《斬月》が空を滑る。

凌馬「フフッ。君に許してもらう必要は無いなぁ?」

 ――《斬月・極》は装甲を閉じる。

戒斗「戦極……凌馬ァッ!!」

凌馬「フッ」

戒斗「なんだと!?」

 ――斬りかかった《斬月》を、《斬月・極》は軽々とさばいてみせた。

凌馬「分かってないなあ、駆紋戒斗。この最強のIS《斬月・極》のパイロットは、最高のアーマードライダー呉島貴虎なんだよ?」

 ――《斬月・極》が《斬月》ににじり寄る。

凌馬「君のISのコアは貴虎の物だ。返してもらうよ」

 ――《斬月・極》の腕が、《斬月》を貫いた。

戒斗「ぐぅっ……」

 ――《斬月・極》は、《斬月》のコア・メロンロックシードを引き抜いていた。

 ――コアを失った《斬月》は、光の粒子となって空に溶けていく……。

戒斗「ウ……ォオオオオオオオッ!!」

 ――咆哮を上げた戒斗は、ロード・バロンに変身。

 ――身体を液状化し、空を翔けた。

凌馬「フフッ。フフフフフッ!」

凌馬「その姿だよ! 忌まわしき、我が仇!!」

 ――《斬月・極》は手をかざす。まるで、空を翔るロード・バロンを掴もうとしているかのように。

 ――そして。

 ――《斬月・極》の手が閉じられた瞬間、ロード・バロンは動きを止めてしまった。

凌馬「駆紋戒斗。一つ、宣言しておく」

凌馬「貴虎には敗北を認めた僕だが、君にはそれを認めていない」

凌馬「貴虎との決着と君との決着では、意味が違う」

凌馬「貴虎は人間であるまま、奇跡の逆転勝利を見せてくれた」

凌馬「だが君は……人間を辞め、僕よりも上位の存在になることで僕を殺した」

凌馬「フフッ」

凌馬「君はね。君よりも弱い者にしか勝てない存在だ」

凌馬「それは何故か? ――君が、仮面ライダーではないからだ」

戒斗「……」

凌馬「今ある命を否定して、滅ぼして、新しい世界を作ろうとした駆紋戒斗。君は身勝手な支配者だ」

凌馬「だから仮面ライダーに敗北した」

凌馬「君は奇跡を起こせない」

凌馬「僕は君には、憧れない」

 ――《斬月・極》が腕を振りまわすと、空中のロード・バロンもぶん回されてしまう。

戒斗「フン。サガラ、そういうことか……」

戒斗「戦極凌馬。そのISのコア……極ロックシードだな」

凌馬「ご明察」

 ――《斬月・極》のスピーカーが、戦極凌馬の高笑いを吐き出した。

凌馬「ヘガヘクス。彼らはよくやってくれたよ。彼らが極ロックシードを取りこんでくれたおかげで、私はデータを得られた」

凌馬「彼ら自身が私を端末として再生してくれたからね。ハッキングは簡単だったよ」

戒斗「ふん」

戒斗「ウ……ォオオオオオオッ!」

 ――雄叫びと共に、ロード・バロンは《斬月・極》の不可視の拘束を打ち破る。

 ――長剣《グロンバリャム》を召喚すると、《斬月・極》に突撃した。

凌馬「駆紋戒斗。学習しない男だねぇ」

 ――《斬月・極》の腰部が開く。操縦者の腰に、戦極ドライバーが巻かれていた。

戒斗(あの戦極ドライバー……? 葛葉と同じ……!)

凌馬「ふん!」

 ――《斬月・極》はロード・バロンの突撃をいなし、ドライバーにメロンロックシードをセットする。

凌馬「変身」

 ――ソイヤ!

 ――メロンアームズ!

 ――天・下・御・免・!

凌馬「呉島貴虎なんだ!!」

 ――ソイヤ!

 ――メロン・スカッシュ!!

凌馬「誰が相手でも――貴虎が負けるはず……無いッ!!」

戒斗「……!」

 ――《斬月・極》の無刃キックが、ロード・バロンに突き刺さった。

<旅館・大広間>

 ――戦闘空域は、爆炎に包まれていた。

鈴「戒斗……!?」

山田「煙晴れます……。映像、来ました!」

シャル「あ、ああ……」

<太平洋・上空>

 ――半身を消しとばされたロード・バロンが、辛うじて浮遊していた。

凌馬「ハハハハハ! どうだい。貴虎はすごいだろう?」

戒斗「……」

凌馬「オーバーロードの力さえ得た貴虎は、やはり神の座にふさわしい。フフッ。古き神よ、新しき神の誕生を見ているがいい」

戒斗「フッ……」

戒斗「フハハハハハハハハハハハハハハハハッ!」

戒斗「下らん」

戒斗「短い夢だ、存分に浸るがいい」

戒斗「この世界は、貴様の身勝手な夢を受け入れるほど終わってはいない」

戒斗(……)

戒斗(学校なんて場所でそれを信じさせられることになるとは、思わなかったがな)

戒斗「くくく」

戒斗「先輩大魔王からのありがたい神託だ。感謝しろ」

 ――鼻につく笑い声を残して、駆紋戒斗は消滅した。

 ――ただ一つ。

 ――黄色の『ふうとくん』だけが残り……やがて、小さな小さな水音を立てた。

凌馬「……」

凌馬「ふん」

凌馬「駆紋戒斗。ずいぶんと余裕があったねぇ」

凌馬「フフッ。ハハハハハ!」

凌馬「分かっているよ。君の本体は沢芽の御神木だ。仮初めの身体を壊そうとも、御神木がある限り、君は何度でも蘇る」

凌馬「だから、御神木を破壊する」

凌馬「『神』は、貴虎一人でいいからね」

 ――《斬月・極》は、進路を沢芽市に取った。

<旅館・大広間>

 ――大広間に『駆紋戒斗君お別れ会!』の看板がかけられていた。

クラスメイト1「よっし。飾り付けは終わりだ!」

クラスメイト2「料理も続々と出来上がっているぞ!」

クラスメイト3「すばらしい! 駆紋君との最後の思い出だ。悔いの残らないよう、精一杯準備に勤しもう」

クラスメイト1「しっかし。一体、何が起こってるのかね」

クラスメイト2「ク・モーンやオリムラ達とは、まだ連絡が取れない……」

クラスメイト3「恐らく、守秘義務のある任務に着いているのだろう。彼らは専用機持ちだからね」

クラスメイト1「なら、任務お疲れ様会も兼ねるか!」

クラスメイト3「すばらしい! 彼らなら、きっと無事に帰ってきてくれるだろうからね!」

クラスメイト2「ならば、新たなケーキのためのイチゴをスライスしなければなるまい……!」

クラスメイト3「ふふっ。よろしく頼むよ」

 以上になります。
 プロフェッサーは『虐殺器官』や『ハーモニー』をSF的素養の無い人に語り続けてドン引きされるタイプだと思います(偏見

 一旦休憩!
 昼食の準備から食事などなど終えたらまた投下していきます。

 それでは。ここまでお付き合いありがとうございました。

>>56
 一度アンチに転向した古参ファンが再びファンに戻った、という究極にめんどくさい存在

 投下再開します。
 第四幕は長いので、とりあえず前半の投下を終えたらまた休憩に入りますー。

■第四幕
<墓地>

 ――とある墓石の前に、黄金のミニカーの姿があった。

ルパン「何度立ち止まっても再び走り出す、熱い仮面ライダー魂」

ルパン「ベルトさん……クリム・スタインベルトが憧れたその『意思』こそが、君を英雄たらしめていた」

ルパン「君が“そう”であったように――」

ルパン「……」

ルパン「このアルティメットルパンにも、『意思』がある」

ルパン「怪盗の矜持を守りたい! ……という意思だ」

ルパン「だから、泊進ノ介。これは君のための行いではないのだよ。勘違いしないでくれたまえ」

ルパン「百年も生きていない小童に、このアルティメットルパンが負けるわけにはいかないのだ!」

ルパン「……」

ルパン「仮面ライダー。その、英雄の名を盗むのは、このルパンでなければならないのだから」

 ――黄金のミニカーは、墓地を後にした。

<旅館・風花の間>

セシリア「織斑さんは隣の部屋に寝かせてきました……」

千冬「御苦労。……《白式》の装着者再生能力が《白騎士》と同等のものなら、もうしばらくしたら目を覚ますだろう」

山田「問題は……」

山田「いっぱい、ありますね……」

千冬「状況を整理する」

千冬「所属不明機改め《斬月・極》は、沢芽市を目指して移動中。一時間以内に、市内に到達するだろう」

山田「現在、各国の軍用ISが沢芽市に向かっています。《斬月・極》が沢芽市に到着するのとほぼ同時に部隊を展開できるはずです」

千冬「駆紋のおかげで時を稼げたな……」

山田「ええ……」

千冬(沢芽市……。十年前、私と束が《白騎士事件》を起こした場所。戻ってきた、というべきか)

千冬(いいや。もしかしたらこれは、五十年前からの因果なのかもしれんな……)

セシリア「……」

千冬「《斬月・極》を操る戦極凌馬の目的は、二つ」

千冬「一つは、『呉島貴虎を神にする』。その具体的な手段は、現段階では不明だ」

千冬「一つは、『沢芽市の御神木の破壊』。駆紋戒斗の本体は御神木だ。駆紋を、本当の意味で殺すつもりなのだろう」

ラウラ「教官」

千冬「何だ?」

ラウラ「我々にも出撃の許可をいただけませんか」

千冬「……」

ラウラ「教官」

ラウラ「許可をいただけなくても、私は行きます」

ラウラ「友を……。戒斗を、守りに行きたいのです」

千冬「……」

千冬「貴様らは代表候補生だ。志願すれば、戦いに参加できる」

ラウラ「そうですか……」

千冬「五分後、貴様ら全員の意思を聞く。山田先生、束、私達は外へ」

山田「は、はい!」

 ――教師達と束が退室する。

ラウラ「『意思』、か……」

 ――ラウラは仲間達を。

 ――そして、部屋の隅で震える箒を見た。

<夢の中>

 ――御神木を見上げていた。

一夏「……」

一夏「…………」

 ――ふいに、一夏の頭に手が乗せられる。

 ――大きくて温かな手だった。

一夏「……!」

一夏「じいちゃん……!」

<旅館・風花の間>

セシリア「わたくしは、戦います」

 ――セシリアは固い意志を表すかのように、握り拳を作っていた。

ラウラ「私もだ。嫁を傷つけられた。その上に、一人の友を永遠に失うなど……耐えられるものか!」

鈴「あたしも同感よ。……だけど」

 ――みんなの視線が、箒に集まった。

箒「わ、私は……」

鈴「大丈夫よ、箒。分かってる」

 ――鈴が、震える箒の手を取った。

鈴「箒だって悔しいって思ってるってこと。それに……戦極凌馬って人が本当に怖いんだ、ってこと。ちゃんと分かってるから、大丈夫よ」

箒「すまない……。ち、父に刃向かうことを想像するだけで、身体が震えるんだ……。戦うなんて、考えるだけで頭が真っ白になって……ッ」

鈴「大丈夫、大丈夫だから。無理しなくていいから……!」

 ――鈴が、“袋”を広げる。

 ――嘔吐の音を、仲間達は聞かなかったフリをした。

ラウラ「……創造主への恐怖を刷りこんである。奴は、そう言っていたな。直接対峙したことで、それが発動したのだろう……」

シャル「効率的だよね」

ラウラ「しゃ、シャル……?」

シャル「とっても効率的だよ。……人の心を何とも思っていないから出来る、悪魔の所業だ」

シャル「許せないよ……ッ」

ラウラ「シャルロット……」

 ――シャルは、ジローのギターを撫でた。

シャル「僕も戦うよ」

 ――シャルは、箒に歩み寄る。

 ――青白い顔をした箒を安心させるように微笑むと、優しく抱きしめた。

 ――シャルは抱擁を終えると、恐怖に震える箒の手を包む。

シャル「箒。僕はこれから、ひどく残酷なことを口にするよ」

箒「……」

シャル「守れる力があるのに、それを使わなくて後悔しない?」

箒「わ、私にそんなものは……」

シャル「あるよ」

シャル「君の《紅椿》は、世界で唯一の第四世代ISだ。世界中のどんなISよりも高スペックの、特別製。それは戦う力だ」

シャル「そして、箒自身も、剣道の全国大会の優勝者だ。君には、戦う力がある」

箒「そんな、私は……」

シャル「あるんだ」

シャル「君には、守れる力がある」

箒「……っ」

シャル「あの人……戦極凌馬に立ち向かうのは、怖いよね。あの人はサイコパスで、しかも戒斗すら倒してしまう力がある」

シャル「……正直、僕も戦うの、怖いよ」

箒「シャル……」

シャル「でも、戦わないと守れないから」

シャル「僕達の、友達を」

箒「とも……だち……」

シャル「うん。怖いけど、友達を守るために勇気を振り絞るよ。友達を守るために戦う。それが僕の――」

シャル「――意思だから」

 ――シャルは語り終えると、もう一度ジローのギターを撫でた。

箒「自分の、意思……」

 ――風花の間に、千冬が戻ってきた。

千冬「時間だ。志願者は……」

千冬「篠ノ之以外の、全員のようだな」

 ――箒以外の面々が、うなずいていた。

<旅館・大広間>

 ――個人用の携帯端末が、勝手に立ち上がった。

「え? 私、端末起こしてないのに」
「あ、こっちも」
「私のも!?」

 ――個人用の携帯端末が次々に立ちあがっていく。

 ――空中に投影されたスクリーンには、笑顔で手を振る青年が映っていた。

『やあ、人類。ああ、安心したまえ。私の言葉はあらゆる地域に対応した音声翻訳がかけられているよ』

『私は優秀だからね! ハハハハハハッ!』

「な、何これ……」
「っていうか、この人、誰……?」

クラスメイト1(……)

クラスメイト2(……)

クラスメイト3(戦極凌馬……)

『私は戦極凌馬。今日は、君達に嬉しいお知らせをもってきた』

『世界を変える準備ができた』

『紹介しよう。君達が崇めるべき新たな神。――《斬月・極》だ』

<沢芽市・上空>

 ――世界中の通信回線をジャックした“戦極凌馬オンステージ”が強制配信されていた。

凌馬「人類よ。まずは、歴史のおさらいだ」

凌馬「十年前。《白騎士事件》によってISの圧倒的な性能を知った君達は、『IS操縦者を頂点とする社会』を受け入れた」

凌馬「すなわち、女尊男卑社会だ」

凌馬「人類よ。君達は『IS操縦者』を信仰している。ISが女性しか操縦できないから、女尊男卑社会になったわけだねぇ」

凌馬「現在、世界には469機のISがある」

凌馬「だが、君達の『神』は469柱もいない」

凌馬「『IS操縦者』という概念が君達のたった1柱の『神』だ」

凌馬「フフッ」

凌馬「おさらいはここまでだ」

凌馬「ここからは、『これからの神』の話をしよう」

凌馬「何、心配することはない。本質は何も変わらない」

凌馬「人類よ。君達は旧時代と変わらず『IS操縦者』を信仰すればいい」

凌馬「ただし」

凌馬「『IS操縦者』は、世界に一人になる」

凌馬「だから君達は、その『ただ一人のIS操縦者』を『神』と信仰すればいいんだ」

凌馬「どうだい? スマートだろう?」

 ――《斬月・極》は天を仰ぐ。

 ――各国の軍用ISが、《斬月・極》を包囲していた。

凌馬「ちょうどいい。何故、『ただ一人のIS操縦者』を信仰することになるのか。その理由の一つを見せてあげよう」

 ――《斬月・極》は無双セイバーを引き抜く。

凌馬「チャンネルは、そ・の・ま・ま・♪」

<旅館・客室>

 ――箒と束が膝を突き合わせていた。

箒「……お父様が本格的に行動を起こしましたね」

 ――個人用端末のスクリーンには、軍用ISの大群を蹂躙する《斬月・極》の戦いが強制配信されていた。

束「……」

箒「姉さんも、お父様が怖いのですか……?」

束「うん……」

束「ずっと、お父様の声が聞こえてた。私は、私なのかお父様なのか、よく分からなくて。怖かった。えぐかった。ぐちゃぐちゃだった」

束「仮面ライダーだったおじさまの傍にいる時だけは声が聞こえなくなって、私は私でいられて、幸せだったけど……」

束「おじさまは、お父様に殺されて……」

束「……」

箒「姉さんは、お父様に振り回され続けていたのですね……」

束「にゃはは……。そういうことになるね」

箒「……」

束「ねえ、箒ちゃん」

箒「何でしょう?」

束「逃げよう?」

箒「……」

束「私と、ちーちゃんと、箒ちゃんと、いっくん。そして……おじさまの魂が刻まれてる、クルミロックシード」

束「五人で宇宙に逃げようよ。お父様の声が届かないところまで」

束「お父様が目的を達成しようとしている今なら、きっと、私達は逃げられるから」

束「五人で……」

箒「……」

箒「姉さん。私の人生は、お父様と、姉さんに振り回され続けたものでした」

束「箒ちゃん……?」

箒「お父様には勝手な理由で造られて、また勝手な理由で捨てられました」

箒「姉さんがISを発表してからは、政府の重要人物保護プログラムによって、転校を繰り返してきました」

箒「何も得られない日々が続きました」

箒「剣道の大会では優勝しましたが……。それは、私にインプットされた『呉島貴虎』の戦闘モーションの影響が大きい」

箒「私にとって確かなことなんて、『一夏が好き』という幼い恋心くらいのものです」

箒「いえ……。“でした”」

束「……」

箒「姉さん。私、IS学園で友達ができました」

箒「……楽しかった」

箒「まだ、ほんの数か月の付き合いなのに……。友達は、私の十五年の空白を埋めてくれました」

箒「姉さん」

束「……」

箒「五人だけの世界は、私には狭すぎます」

束「……」

箒「お父様がインプットした『呉島貴虎』の戦闘モーション」

箒「姉さんが造ってくれた《紅椿》」

箒「守るために使います」

箒「友達を、守りたいんです」

箒「それが、私の『意思』です」

束「……」

箒「……それでは。行ってきます」

 ――箒は、客室を後にした。

<旅館・客室>

千冬「束」

 ――箒が去った客室に、千冬が入ってきた。

束「盗み聞きはよくないよ、ちーちゃん……」

千冬「それを十八番にしているお前に言われたくはないが……。まあ、いい」

 ――千冬は束の正面に正座する。

 ――そして、深々と頭を下げた。

千冬「すまなかった」

束「な、何してるのちーちゃん……!」

千冬「何もしなかった贖罪だ」

束「頭を上げてよちーちゃん」

千冬「……」

束「説明して……。よく、わかんないよ」

千冬「……」

千冬「私には三つの罪がある」

千冬「一つ。お前を救えなかった罪」

千冬「一つ。お前と共にISを開発した罪」

千冬「一つ。ISによって世界を変えた罪」

千冬「……」

千冬「なお悪いのは、この罪の清算を私達の次の世代に押し付けたことだ」

束「……」

千冬「今更だが……。一つ一つ、罪を贖おうと思うんだ」

束「ちーちゃんに罪があるなら……。私も罪人さんだね」

千冬「そうだな。……お前の罪を数えてみるか?」

束「あはは。数えきれないなぁ……」

束「……」

束「何をすれば、許されるかなぁ……?」

束「どうすれば、おじさまは許してくれるかなぁ……」

千冬「……」

千冬「次の世代が未来を勝ちとれるよう、手助けをすることだと思う」

 ――千冬は、壊れた戦極ドライバーを束に差し出した。

千冬「じいさんの遺品だ。直せるか?」

束「……」

 ――束は壊れた戦極ドライバーを受け取ると、大切な人を思い出すように抱き締めた。

束「任せてよ。私は天才の束さんだから、直すどころかパワーアップさせてみせるよ」

千冬「そうか。それは、心強いな」

束「……。ふふっ」

 ――それは弱々しくも、確かな微笑みだった。

<沢芽市・御神木の神社>

 ――『駆紋戒斗』である御神木を祀った神社に、

 ――全滅した軍用IS部隊が、倒れ伏していた。

凌馬「人類よ! 見ての通りだ。何故、『ただ一人のIS操縦者』を信仰するべきか。その理由の一つが分かっただろう?」

 ――声高に叫ばれた戦極凌馬の言葉は、インターネット回線を通して全世界に強制配信されている。

 ――倒れ伏した軍用ISを踏みつける《斬月・極》の圧倒的な勝利は、世界中の人々に衝撃を与えていた。

凌馬「最強なんだよ。《斬月・極》は!」

凌馬「《白騎士》はミサイル2341発、戦闘機207機、巡洋艦7隻、空母5隻、監視衛星8基を撃破することで、『IS操縦者』という概念を『神』にした!」

凌馬「《斬月・極》は『IS操縦者』の頂点に立つことで、『唯一神』足り得ると証明してみせよう!」

凌馬「『最強』こそが、『神』の条件の一つだ!!」

凌馬「ハハハハハッ!」


「ふーん。だったら、あんたをぶっ飛ばしちゃえばその野望をぶっ潰せるってわけね!」


凌馬「……君達か」

 ――鈴、セシリア、ラウラ、シャル。四人の専用機持ちがISを展開していた。

セシリア「あなたに戒斗さんのお命は奪わせませんわ!」

鈴「あたし達の友達は、あたし達が守る!」

ラウラ「プロフェッサー、覚悟してもらおうか」

シャル「……ッ」

シャル「行くよ、みんな!」

 ――四人はISの武器を、一斉に《斬月・極》に向けた。

凌馬「フフ……。ハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!」

凌馬「涙ぐましい友情だねぇ! 怪人にそうまで肩入れするとは恐れ入る。君達、頭がおかしいんじゃないかい?」

シャル「人形遊びに夢中なあなたに言われたくはないね。プロフェッサー」

凌馬「よく吠えるね、“可愛いシャルロット”」

シャル「……ッ! お前ッ!!」

凌馬「ハハッ!」

凌馬「――人類よ!!」

凌馬「君達が『ただ一人のIS操縦者』を信仰すべき、もう一つの理由をお教えしよう!!」

凌馬「そもそも!」

凌馬「――ISは『神』の『黄金の果実』たる僕の支配下にある」

凌馬「キルプロセス」

 ――そのコードを引き金に、シャル達のISが一斉に機能停止した。

 ――四機は落下。地面に叩きつけられる。

凌馬「五十年経っても世界は馬鹿ばかりだねぇ。他のIS操縦者と衝突することは分かり切っていた。だから、ブレーカーを仕込んでいたのさ」

凌馬「いかにも私のやりそうなことだろう? “可愛いシャルロット”。ハハハハハッ!」

シャル「…………ッ」

凌馬「ISに勝てるのはISだけ」

凌馬「《斬月・極》は最高のISで、そのパイロットは最強のIS操縦者だ」

凌馬「極めつけに、ISは私の支配下にある」

凌馬「この意味は、流石に分かるだろう?」

凌馬「ハハハハハハハハハッ!!」

 ――《斬月・極》のスピーカーは戦極凌馬の高笑いを吐き出す。

凌馬「さて」

凌馬「邪魔者は全て潰した」

 ――《斬月・極》は、御神木に無双セイバーの切っ先を向ける。

セシリア「や、やめ……」

凌馬「やだね」

 ――メロン・スカッシュ!

セシリア「戒斗さん……っ!」

 ――《斬月・極》は、御神木を両断した。

セシリア「あ、あ……ああ……ああああ…………」

 ――セシリア達は悔しさと激痛の中で、意識を手放した……。

<夢の中>

 ――大きな手が一夏を撫でていた。

「大きくなったな、一夏」

一夏「じいちゃん。どうして……」

「……」

一夏「じいちゃん……?」

「一夏。お前に紹介したかった奴が、ここに来ている」

一夏「じいちゃんが紹介したかった人……?」

 ――新たな訪問者が現れる。

戒斗「……」

一夏「戒斗!? お前、無事だったのか!」

戒斗「……」

一夏「戒斗? ……何か様子がおかしくないか……?」

戒斗「一夏」

一夏「な、何だよ」

 ――戒斗は、黄色の『ふうとくん』を掲げる。

戒斗「俺は、約束を守れない」

 ――『ふうとくん』は、光の粒子となって消えていった……。

一夏「何言ってんだよ、バカ! 諦めるなんてお前らしく――」


戒斗「一夏!」


一夏「!?」

戒斗「お前は強い! 強くなった……!」

一夏「……!?」

戒斗「お前はザックから、『守ることの誇らしさ』を受け継いでいる」

戒斗「優しさを知っている」

戒斗「それを忘れないでくれ……!」

 ――戒斗の強い瞳が、一夏を射抜く。

戒斗「お前は!」

戒斗「仮面ライダーになるんだ……!」

 ――戒斗は胸に手を当てる。

 ――“中身”を取り出すように強く握ると、

 ――その手の中にあったものを、一夏に託した。

一夏「……ッ!?」

 ――戒斗の胸にあったものを、一夏はしっかりと受け取る。

戒斗「織斑一夏!」

戒斗「お前が手にした強さは、俺が手に入れられなかった本当の強さだ……!」

<旅館・客室>

一夏(あ、れ……)

一夏(俺、寝てたのか……?)

一夏「……」

一夏(何かを、握っている……?)

一夏「……」

一夏「あ……。ああ……」

 ――織斑一夏は、バナナロックシードを握りしめていた。

 ――客室の扉が開かれ、千冬姉が入室する。

千冬「目を覚ましたか」

一夏「千冬姉! 戒斗は! 戒斗はどうなったんだ!」

千冬「……」

一夏「千冬姉!」

千冬「太平洋上で戦極凌馬の《斬月・極》と戦い、敗北。肉体は消滅した」

千冬「そして……。本体の御神木も、破壊された」

千冬「駆紋戒斗は、死んだ」

一夏「……ッ」

 ――バナナロックシードを握る手が、痛かった。

千冬「こんな時だが、一夏。お前に渡すものがある」

一夏「な、何だよ……」

 ――今にも泣きだしそうな一夏に、千冬は古い木箱を差し出した。

千冬「じいさんの遺品だ」

 ――木箱の中には、折りたたまれたコートと戦極ドライバーが納められていた。

束「いっくん!」

 ――束が部屋に入ってきた。

一夏「束さん!? もう身体は大丈夫なんですか!?」

束「うん! いっくんを直したのと同じものを使ったからね。ほら、いっくんだって刺されたところ何ともないでしょ?」

一夏「あ……。ほんとだ」

束「私は天才の束さんだからね! ……天才だから、戦極ドライバーも強化したよ。ほら、ここ見て」

 ――戦極ドライバーの左側が、一夏の知る形とは異なっていた。

一夏「真っ黒でつるつるだったところが、ロックシードを入れられるようになってる……?」

束「それだけじゃないよ! 戦極ドライバーと《白式》の間にパスを繋いだから、エネルギーを共有できるようになったんだ」

一夏「束さん……。どうして……?」

束「……」

一夏「……」

束「さあ、お前の罪を数えろ!」

一夏「それは、風都の……」

束「束さんの罪は数えきれないけど、一個一個償っていこうって思ってさ。じゃなきゃ……おじさまに合わせる顔が無いもん……」

一夏「……」

千冬「一夏」

 ――千冬は、コートを一夏に手渡した。

千冬「これは、じいさんが若い頃に着ていたものだ」

一夏「……」

一夏「これってさ。戒斗のコートと同じものだよな……?」

千冬「そうだ。五十年前、じいさんは駆紋をリーダーとするダンスチームにいたんだ」

一夏「じいちゃんは戒斗の仲間だったのか……?」

千冬「そうだ」

千冬「そして。戦極ドライバーをつけて、駆紋と共に戦ったこともあったそうだ」

一夏「じいちゃんが、戒斗と……」

一夏「……」

一夏「何て名前のチームだったんだ。戒斗達のチームは、さ」

千冬「『バロン』」

一夏「バロン……」

千冬「じいさんは言っていたよ。チーム・バロンの駆紋戒斗は、俺達のヒーローだった……。とな」

一夏「……」

 ――バロンのコートを掴み、一夏は立ち上がる。

 ――コートに袖を通すと、苦笑した。

一夏「俺には、まだちょっとだけ大きいな……」

束「直そっか?」

一夏「いや、このままでいいよ。いつか、俺がコートに合わせてみせるから」

<旅館・中庭>

 ――決意を秘めた顔をした一夏が、空を見上げていた。

一夏「それじゃあ、行ってくる」

千冬「ああ。行ってこい」

束「サポートは任せてよ!」

一夏「頼りにしてます!」

 ――《白式》をまとい、一夏は出撃する。

千冬「……む?」

 ――その後を追う、黄金のミニカーがいた。

<沢芽市・御神木の神社>

 ――断ち切られた御神木が、炎に包まれていた。

 ――《斬月・極》は空を見上げる。

 ――真紅のISが、空にたたずんでいた。

凌馬「一足遅かったねぇ、箒」

箒「……ッ」

箒(御神木が燃えている……)

箒(……)

箒(友達を、守れなかった……)

凌馬「ハハハハハッ! そう悲観することはない。役に立たなかったのは、みんな同じだ」

 ――《斬月・極》は両腕を広げる。

 ――周囲に無様に転がった、セシリア達を嘲笑うかのように。

箒「……あ、アナタはッ!」

凌馬「んー? 私に口応えするのかい、箒」

 ――《斬月・極》が箒を見やる。

 ――ただそれだけで、箒の身体は金縛りにあったかのように硬直した。

凌馬「ハハハハハッ!」

凌馬「《紅椿》と《白式》。束がキルプロセス対策を施していた機体。……君が装着者じゃ、宝の持ち腐れだねぇ」

凌馬「心にキルプロセスを仕込まれている君じゃあ、ねぇ?」

 ――無双セイバーの銃口が、《紅椿》に向けられた。

凌馬「君はそこで震えているといい!」

凌馬「《紅椿》のコアに用がある」

凌馬「それ、返してもらうよ」

<御神木の神社>

 ――激痛によって意識を取り戻した。

鈴(あれ……どうなったんだっけ)

鈴(そうだ。『キルプロセス』とか言われてISが動かなくなって、墜落して……)

 ――鈴は状況の把握に努める。

 ――鈴と同じように墜落したセシリア、ラウラ、シャルが呻き声を上げていた。

 ――破壊された御神木が燃えていた。

 ――《斬月・極》が、空に銃口を向けていた。

 ――《紅椿》に乗った篠ノ之箒が、銃口を向けられていた。

鈴(箒の奴、震えてるじゃない。顔も青ざめてるし、今にも泣きだしそう……)

鈴(でも、ちゃんと来てくれたんだ……)

 ――鈴はISを起動しようともがく。

鈴(コアは生きてる。でも、機体は動かない。エネルギーのパスを壊されたか……)

鈴(……)

凌馬「君はそこで震えているといい!」

凌馬「《紅椿》のコアに用がある」

凌馬「それ、返してもらうよ」

 ――鈴の行動は、早かった。

 ――動かないISから這い出ると、弾かれたように駆け出す。

鈴「あたしの友達にッ! 手を出すなぁああぁあああああああああっ!」

 ――勢いよく飛び蹴りを浴びせかけて、

 ――ISの絶対防御に弾かれた。

凌馬「……」

 ――《斬月・極》は、無双セイバーの銃口を鈴に向け直す。

凌馬「馬鹿だね、君。蛮勇に身を任せなければ、生きながらえたのに」

鈴「蛮勇? 友達守るために身体張る。それは、勇気よ」

鈴「友達見捨てたら、それこそ弱者だーって笑われちゃうわ。どっかのバカにね!」

鈴「だから、あたしの『意思』は間違ってない! ……バカだけどね!」

凌馬「ふうん。遺言はそれだけかい? じゃあ、死――」

 ――銃声が鳴り響いた。

 ――銃弾は、《斬月・極》の絶対防御に阻まれて、神社の石畳に落ちる。

ラウラ「拳銃ではこんなものか。まあ、友は守れたようだ。良しとしよう」

 ――銃を構えたラウラが、しれっと言い放っていた。

凌馬「……」

 ――《斬月・極》は無双セイバーの銃口を、ラウラに向け直す。

 ――《斬月・極》が引き金を引く。より早く。

 ――戦場に、音楽が奏でられた。

シャル「……」

凌馬「デュノア君。君はもう少し利口な子だと思っていたが……」

 ――《斬月・極》は、無双セイバーを引き金を引いた。

 ――銃弾は、『ジローギター』にぶち当たる。

 ――シャルは吹き飛ばされてしまったが、『ジローのギター』は彼女の身体を銃弾から守っていた。

凌馬「な、何だと……!?」

凌馬「そうか! それは、ARKプロジェクトの……!!」

シャル「そうだよ! 僕の友達が残してくれたものだ!」

凌馬「……」

凌馬「友達友達と……。さっきからうるさいんだよ、君達は! 馬鹿の一つ覚えのように。もっと知的な言葉選びはできないのかい!」

セシリア「あら。みるからに友達のいなさそうな貴方には、わたくし達の友情は毒かしら? おほほほほほほほほ」

凌馬「……」

凌馬「安い挑発だね」

 ――《斬月・極》は、銃口をセシリアに向けた。

セシリア「その挑発に乗る貴方も、ずいぶんと自分を安売りしていますわ。……ああ。大安売りしても売れ残ったのですね。かわいそう」

凌馬「人の絆が大切になる生き方もあれば、何の役に立たない生き方もある。私は後者を選んだ、というだけだ」

セシリア「にしては、ずいぶんと執着なさっていましたわ」

凌馬「何……?」

セシリア「呉島貴虎さん、でしたか」

凌馬「……貴虎は神の器だ。科学者として、興味深い。それだけだ」

セシリア「ふふ。男の人って、いくつになってもバカなのね」

凌馬「その侮辱を、君の最後の言葉にしてあげよう」

 ――無双セイバーの引き金が引かれる。

 ――吐き出された銃弾を、割りこんだ《紅椿》が受けとめた。

箒「みんな、無茶をする……」

 ――箒は、苦笑していた。

鈴「しょーがないじゃない。身体が勝手に動いちゃったんだから!」

ラウラ「右に同じだ」

シャル「そういうことだね」

セシリア「箒さんだって、結局は同じでしょう?」

 ――箒は仲間達を見渡してから、今度は微笑んだ。

箒「そうだな」

 ――もう、箒は震えていなかった。

箒「お父様。私は、あなたに反逆します」

 ――箒は、燃え盛る御神木に視線を向ける。

箒(戒斗……)

 ――そして、仲間達の盾になるように、歩み出た。

箒「……」

箒「まだ。守れるものが、あるから」

箒「それが私の『意思』です!」

 ――その想いに応えるように、《紅椿》の展開装甲から黄金の粒子が溢れだした。

箒「こ、これは……?」

 ――《紅椿》に通信が入る。

束『それは《紅椿》の単一仕様能力《ワンオフ・アビリティー》だよ、箒ちゃん!』

箒「姉さん!?」

束『箒ちゃん達の友情が《紅椿》の性能を引き出したのだー!!』

束『すごいよ箒ちゃん! ……本当に、五人だけの世界じゃ、箒ちゃんには狭かったんだね』

箒「姉さん……」

束『《紅椿》の《ワンオフ・アビリティー》は《絢爛舞踏》! その力は……』

箒「ち、力は……?」

束『無限のエネルギーだーーー!!!』

箒「……」

箒「ありがとう、姉さん。私、やってみます!」

 ――黄金の粒子をまとった《紅椿》が、《斬月・極》と対峙する。

箒「お父様――覚悟ッ!」

 ――《紅椿》は二振りの長刀を手に、《斬月・極》に斬りかかる。

凌馬「……」

凌馬「はあ……」

 ――《斬月・極》は、凌馬の倦怠をスピーカーから吐き出した。

凌馬「『神』たる《斬月・極》の力は、そういう次元じゃないんだよ」

 ――《斬月・極》が右手を突き出す。

 ――その掌から、衝撃波が放出された。

箒「……!?」

 ――衝撃波は《紅椿》と鈴達を吹き飛ばす。

凌馬「ふん」

 ――《斬月・極》が手を振るうと、クラックが開いた。

 ――ヘルヘイムの植物が伸び、《紅椿》を拘束する。

 ――拘束された《紅椿》はヘルヘイムの植物によって《斬月・極》の前に引きずり出された。

 ――《斬月・極》は、《紅椿》の背面を踏みつける。

凌馬「ぬるい友情ゴッコはおしまいだ。ここからは偉大なる、圧倒的な『神』の時間だよ!」

 ――《斬月・極》は《紅椿》の背面装甲を引っぺがす。

凌馬「ふふっ。このロックシードが無ければ、『神』は完成しないからね」

 ――コアを奪われた《紅椿》は、光の粒子に変わって消滅した。

 ――《斬月・極》は箒を蹴り飛ばすと、高笑いを響かせる。

凌馬「……ふふっ。ハハハハハハハハハッ!」

 ――《斬月・極》は、レモンエナジーロックシードを手にしていた。

 以上になります。一旦休憩!
 ばたばたと夜に向けた準備をしてきます。

 では。ここまでお付き合いありがとうございました。

無意識のうちに中古戦極&ゲネシスドライバーを買ってしまったのは、お店で目を奪われたのが原因で…それは私が戒斗カッコイイと思ったせいだから…つまり、このSSを読んだせい…はっ!全部>>1せいだ!ハハハハハッ!湊くん、全部>>1だ!フフッ(誉め言葉)

>>133
これからはSSを読む前に玩具を買う覚悟をしておけ!!

僕はこれ書いてるうちにバナナロックシード買っちゃったので、これから戦極ドライバーとゲネシスドライバーとマンゴーとレモンとロックシード付きDVDとISのフィギュアを……うわぁああああああっ!?

あ。投下再開します。ラストまで行きますー。

<御神木の神社>

 ――「人類よ!」と言う言葉が、世界中に強制配信されていた。

凌馬「君達に示した通りだ。《斬月・極》は、二つの理由をもって『神』を名乗る」

凌馬「一つは、『最強』であること」

凌馬「一つは、『全てのISを支配している』こと」

凌馬「なぁに、怖れることはない」

凌馬「《斬月・極》は、人類に完璧な『平和』を与えよう」

凌馬「君達は今まで通りに生きればいい」

凌馬「『平和』を脅かす『悪』は、この《斬月・極》があらゆる手段をもって排除する」

凌馬「だから、崇めたまえ」

凌馬「最新の『神』――《斬月・極》を!」

凌馬「君達の、唯一人の英雄を!」

 ――その、演説に。

「待てよ」

 ――と、異を唱える者がいた。

一夏「あんたの世界は、間違ってる」

 ――チーム・バロンのコートをまとい《白式》を装着した一夏が、戦場に降り立った。

<御神木の神社>

 ――二機の白いISは、燃え盛る御神木の熱風に煽られていた。

凌馬「間違ってる、ねぇ」

凌馬「《斬月・極》を頂点とする完璧な社会だよ? 怪人はいない、仮面ライダーはいらない。完全なる『平和』な世界を約束するよ」

凌馬「それのどこが間違いなのかい?」

一夏「それを……」

一夏「どうやって実現する。どうやって維持する」

凌馬「……フフッ」

凌馬「この五十年、実践したように」

凌馬「二十四時間三百六十五日、世界中を監視し続ける」

凌馬「悪の組織を生み出すそぶりを見せたものは、殺す」

凌馬「《斬月・極》による支配体制を脅かす可能性のある存在も、殺す」

一夏「殺される者は、誰が選ぶ」

凌馬「私だ」

一夏「……」

一夏「やっぱり、あんたの語る『平和』は間違ってるよ」

凌馬「何をもって、そう断じる」

一夏「それは――」

一夏「仮面ライダーの正義だ」



<某所>

一夏『それは、仮面ライダーの正義だ』

「ほう!」

 ――その言葉に、感嘆した者がいた。

 ――その者は、黄金のミニカーだった。

<御神木の神社>

一夏「仮面ライダーは、みんなの『自由と平和』を守る」

一夏「その仮面ライダーを、お前は殺した……」

一夏「殺さなければならないと判断した」

一夏「それは……」

一夏「仮面ライダーが、お前の世界を許さないからだ!」

一夏「お前の『平和』な世界に生きる者は、お前が、お前の勝手な基準で決める!」

一夏「みんなお前を恐れて! 恐怖に抑えつけられながら生きることになる……ッ」

 ――織斑一夏は、傷つけられた少女達を守るように前に出た。

一夏「みんなの『意思』を踏みにじる!!」

一夏「そんな世界は――『自由』じゃない!!」

一夏「そんな『平和』を! 暗黒郷《ディストピア》を! 仮面ライダーの正義は、許さない!」

 ――織斑一夏は『仮面ライダーの正義』を叩きつけるように、人差し指を戦極凌馬に突きつけた。

凌馬「……」

凌馬「ハハ。ハハハハハハハハハハッ!!」

凌馬「面白いことを言うねぇ、君は」

凌馬「ふふ。ふふふふふふ」

凌馬「確かに。僕は人間の『意思』に興味が無い」

凌馬「『夢』とか『未来』なんて言葉を声高に叫ぶのはカッコワルイと思っている」

凌馬「うーん」

凌馬「しかしだね?」

凌馬「仮に、君の言う『仮面ライダーの正義』こそが正当だとしよう」

凌馬「しかし。誰がその正義を執行する?」

凌馬「この世界は『仮面ライダー』を失った。私が消した」

凌馬「私が『仮面ライダーを盗んだ』と言ってもいい」

凌馬「英雄は《斬月・極》ただ一人でいいからね」

凌馬「『仮面ライダーの正義』が正しかったとしても、その正義を行う者は誰もいないんだよ」

凌馬「ハハハハハハハッ!」

 ――凌馬の高笑いが、境内に響く。

 ――その嘲笑を、

 ――『バナナ』という音声が切り裂いた。

一夏「いるよ」

 ――ロック・オン

一夏「仮面ライダーはここにいる」

 ――カモン! バナナアームズ!!

一夏「俺が仮面ライダー……」

 ――Knight・of・Spear!

一夏「『バロン』だ!」

<御神木の神社>

 ――ISサイズのバナスピアーと無双セイバーが、激突していた。

一夏「戦極凌馬ッ! 仮面ライダーの正義をもって!」

一夏「みんなの『自由』を守るために!」

一夏「俺が、お前の『平和』を否定する!!」

凌馬「ハハ! ハハハハハハハハハッ!!」

 ――《斬月・極》は《白式》を蹴り飛ばし、飛翔する。

凌馬「仮面ライダー……! 君が本当にその英雄の名を名乗る資格があるとしても!」

凌馬「この《斬月・極》に敗北は無い!」

凌馬「何故ならば、《斬月・極》の操縦者が貴虎だからだ!」

凌馬「呉島貴虎は――誰にも負けないんだッ!!」

 ――《斬月・極》のパルプアイが真紅の光を発する。

 ――クラックが開き、ヘルヘイムの植物が現れた。

凌馬「僕の才能によってオーバーロードの力すら得た貴虎は! 最強の『神』なんだ!!」

 ――ヘルヘイムの植物が、一夏に襲いかかる。

一夏「へっ!」

 ――バナナ・スパーキング!

凌馬「……な、何だ!?」

 ――大地割り、バナナ型のエネルギーがそそり立つ。

 ――『バナナ』はヘルヘイムの植物を蹴散らすとそのまま伸び上がり、クラックを消滅させた。

凌馬「クラックに干渉した!? それは……オーバーロードの力だぞ……!?」

一夏「俺だって!」

 ――バロンの鎧をまとった《白式》が飛翔する。

 ――バナスピアーを突撃槍のように構えると、カッティングブレードを2連続で倒した。

一夏「俺のヒーローと一緒に戦ってるんだ! 負けるはずないだろ!!」

 ――バナナ・オーレ!

凌馬「な、何を言っている!!」

一夏「俺のヒーローが一番強いって言ってんだよぉっっ!!!」

 ――メロン・オーレ!

 ――空中で、二機のISが激突。

 ――両者は弾き飛ばされ、大地に叩きつけられた。

凌馬「な、なるほど……。そのロックシードを通して、駆紋戒斗が力を貸しているというわけか……」

凌馬「だが……。ふ、ふふ。そのロックシードは、バナナだ」

凌馬「君はバナナの戦績を知っているかい? ――最低だよ」

 ――《斬月・極》は地を舐めるように飛び、一気に間合いを詰める。

 ――対応の遅れた《白式》に、突進の勢いを乗せたメロンディフェンダーを叩きつけた。

 ――《白式》は、弾き飛ばされる。

凌馬「『バナナでは勝てない』。知らないのかい?」

 ――メロン・スパーキング!

 ――エネルギーをまとった《斬月・極》のメロンディフェンダーが、《白式》に投てきされた。

一夏「……勝てるよ」

 ――バナナ・スパーキング!

 ――大地割りそそり立ったバナナ状のエネルギーが、盾となって一夏を守った。

一夏「だってこれは、バナナなんだ!」

 ――態勢を立て直した一夏は、バナスピアーを真っ直ぐに突き出す。

一夏「このロックシードは知っている……。戒斗の、戦いを!」

一夏「不屈の魂という、戒斗の強さを!」

 ――バナナ・オーレ!

 ――《白式》の推進力を全開にして、突進。

 ――輝くバナナ状のエネルギーが、《白式》に重なった。

凌馬「……ッ」

 ――《斬月・極》は、メロンディフェンダーで《白式》の突進を受ける。

 ――二機の白いISは、エネルギーの奔流をまき散らしながら競り合っていた。

一夏「武装展開! 《雪片弐型》!」

 ――《白式》の左手に、長刀が出現する。

一夏「《零落白夜》発動!」

 ――《雪片弐型》の刀身が開き、エネルギーの刃が伸びた。

 ――ISの絶対防御すら貫く、最強の刃が。

一夏「喰らえぇっ!!」

凌馬「!?」

 ――《雪片弐型》が、《斬月・極》に突き刺さる。

 ――その、直前に。

 ――《斬月・極》は、メロンディフェンダーをスライドさせた。

一夏「う、うぇっ!?」

 ――拮抗していたメロンディフェンダーとバナスピアーの、力の均衡が崩れる。

 ――態勢を崩した一夏は、つんのめった。

 ――その隙を逃さず。《斬月・極》は《白式》を蹴り、間合いを切った。

凌馬「……は、はは」

 ――凌馬の声は、驚きと感嘆に満ちていた。

凌馬「流石貴虎だ……。僕では今の攻防は凌げなかった……」

凌馬「……」

凌馬「織斑一夏。君が仮面ライダーであるかどうかはともかく。手強い相手であることを認めよう」

 ――《斬月・極》の腰部が開く。

 ――呉島貴虎の身体に巻かれた“ゲネシスコア”を持つ戦極ドライバーが露出した。

凌馬「このロックシードは、五十年前に私が使っていたものだ。私自身は死に、ゲネシスドライバーも壊れてしまったが、このロックシードは運良く残った」

凌馬「織斑一夏。君のロックシードが駆紋戒斗の魂を記録しているように、このロックシードは私の魂を記録しているんだよ」

 ――レモンエナジー……。

凌馬「君の強さに敬意を表そう」

 ――ロック・オン

凌馬「『神』の完成形を見せてやる……!」

 ――ミックス! メロンアームズ!

 ――天・下・御・免・!

 ――ジンバーレモン!

 ――ハハッ!

凌馬「貴虎のメロンロックシードと、僕のレモンエナジーロックシードが融合したこの姿こそが!」

凌馬「『神』の…………完成形だ」

凌馬「貴虎は唯一人の英雄として君臨する! 僕は、貴虎を英雄と崇める世界を運営する!」

凌馬「それこそが『神』! それこそが《斬月・極》だよ!!」

 ――ジンバーラングとジンバーアーマーを装着した《斬月・極》は、笑い声を上げるように胸を反らしていた。

 ――無双セイバーは腰に納められていた。

 ――メロンディフェンファーは粒子となって消え、変わりにISサイズのソニックアローを手にしている。

凌馬「『神』の前にひれ伏せ、織斑一夏!」

 ――ソニックアローから、エネルギー弾が射出される。

一夏「ごめんだね! 俺はみんなを守るんだ!」

 ――《雪片弐型》を振るい、ソニックアローのエネルギー弾を切り払う。

凌馬「すぐに分かるよ。君は『神』を見上げるしかないのだ、と」

 ――《斬月・極》は、間髪入れずにエネルギー弾を撃ち出し続ける。

凌馬「ソニックアローはエネルギー兵器。あらゆるエネルギーを消失させる《零落白夜》との相性は最悪だ。でもね」

一夏「……ッ」

 ――ソニックアローの光弾を撃ち落しながら、一夏は状況の不利を悟っていた。

凌馬「《零落白夜》は、エネルギー消費の激しすぎる欠陥兵器だ。さて、あと何秒持つかな?」

一夏「ち、ちくしょう……っ」

 ――凌馬の指摘通り、《白式》のエネルギーは底を尽きかけていた。

一夏「こうなったら……ッ!」

 ――《白式》の推進力を解放。一夏は、《雪片弐型》を盾に突撃する。

凌馬「君がそうすることは読めていたよ。君のこれまでの戦いは、一応閲覧していたからね」

凌馬「天才だって、予習復習はするんだよ?」

 ――《斬月・極》は腰部を開き、レモンエナジーロックシードをソニックアローにセットする。

 ――レモンエナジー……。

 ――ソニックアローの射出光に、メロンとレモンが混ざり合った輝きが灯っていた。

一夏「そんなもの、《零落白夜》で斬り裂いて――」


凌馬「重加速、発動」


一夏「――え?」

 ――《斬月・極》を中心に、重加速粒子が散布された。

 ――世界が、凍りつく。

 ――《白式》も例外ではなく、空中に、標本のように固定されていた。

凌馬「忘れていたようだねえ。私が、重加速を操る術を得ていたということを」

凌馬「ハハッ! 泊進ノ介は無駄死にだったねぇ。こんな愚か者を救うために命を投げ出したんだから」

凌馬「ハハハハハハハハッ!」

 ――メロンスカッシュ!

 ――ソニックアローから、光弾が撃ち出された。

一夏「……ッ!?」

 ――真っ直ぐに伸びた光の矢は、


「訂正してもらおうか!」


 ――戦場に乱入した、黄金のミニカーを撃ち砕くに留まった。

<御神木の神社>

 ――《白式》の身代わりになった黄金のミニカーが、石畳に転がっていた。

 ――黄金のミニカー……《ルパンブレードバイラルコア》は、身体こそ砕けかけながらも、誇り高く叫ぶ!

ルパン「戦極凌馬! 《仮面ライダードライブ》泊進ノ介が救ったのは、バカではあるが愚者ではない!」

ルパン「この少年は、仮面ライダーなのだから!」

凌馬「ハ……ハハハッ。盗賊風情が何を言っている。と言うか、君は仮面ライダーの敵だろう? 英雄の名を盗むと言っておきながら失敗した、敗者だ」

ルパン「その通り。このルパンは、仮面ライダーに敗北した。……英雄の名は、盗めなかったよ」

ルパン「だから、許せん」

ルパン「貴様のような、百年も生きていない小僧に英雄の名を盗まれるなど……。アルティメットルパンの誇りが許さない!」

ルパン「それが私の『意思』だ!」

凌馬「威勢だけはいいがね。その壊れかけた身体で何をするのかね」

ルパン「英雄に、英雄からのメッセージを届けるのさ……」

 ――ルパンは、よろよろと浮き上がる。

 ――ブレードに引っかけていた“宝”が、ふらふらと揺れていた。

凌馬「そんな暇を与えるとでも?」

 ――《斬月・極》は、ソニックアローを構える。

ルパン「盗んでみせるさ」

凌馬「ほう?」

ルパン「戦極凌馬――」

凌馬「……」

ルパン「君の『神』は、偉大かい?」

凌馬「……フフッ」

凌馬「フフッ。ハハ! ハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!」

凌馬「貴虎は奇跡を起こす偉大な英雄だ!」

凌馬「いいだろう、怪盗。その暇、神の余裕の下に盗まれてやる」

ルパン「フッ」

 ――ルパンはブレードにかけていた“宝”を《白式》の手に落とす。

 ――すると、一夏の時間が解凍された。

ルパン「そいつの裏のスイッチを押せ。仮面ライダードライブからのメッセージが流れる」

一夏「泊さんの……?」

 ――手の中の“ドライブロックシード”のスイッチを押し込んだ。

一夏「……」


 ――『次の仮面ライダーへ』

 ――『仮面ライダーは絶対に負けない。負けられない』

 ――『……後ろを振り返ってみるんだ』

 ――『そこには、君の負けられない理由があるはずだ』


一夏(後ろ……?)

 ――振り返った一夏は、見た。

 ――箒

 ――鈴

 ――ラウラ

 ――シャル

 ――セシリア

 ――そして、燃え盛る御神木

一夏(ああ……)


 ――『みんなの未来は、君が守るんだ!』

 ――『受け継いでくれ!』

 ――『俺の相棒の、憧れを!』

 ――『何度立ち止まっても再び走り出す、熱い仮面ライダー魂を!』

 ――『最後の仮面ライダー……《仮面ライダードライブ》より』


一夏「……」

ルパン「織斑一夏」

ルパン「いや……」

ルパン「《仮面ライダーバロン》! 君のすべきことは理解しているかい?」

一夏「ああ」

 ――《織斑一夏》は、燃え盛る御神木を見た。

一夏「分かってる」

 ――ドライブ

 ――ロック・オン

 ――カモン! ドライブアームズ!!

 ――ひとっ走り・Together!

一夏「……」

一夏「俺は、友達を守れなかった」

 ――その声は、涙に震わされていた。。

一夏「俺の不甲斐無さのせいで、泊さんは死んだ」

一夏「俺の弱さのせいで……。ルパンという、俺を助けてくれた人もまた死にかけている」

一夏「この罪を背負って、また、走り出す」

 ――けれど、とても力強い声だった。

一夏「俺は、仮面ライダーだから……!」

 ――強い瞳で、《斬月・極》を睨む。

一夏「俺は、自分の罪を数えたぞ……」

一夏「風都の仮面ライダーからの伝言だぜ、戦極凌馬!」

 ――《仮面ライダーバロン》は、ハンドル剣の切っ先を戦極凌馬に突きつけた。

一夏「さあ。お前の罪を数えろ!」

<御神木の神社>

 ――重加速によって凍りついた時の中。二機のISだけが、激しい戦いを繰り広げていた。

凌馬「僕は『平和』な世界を実現する! どこに罪があるというのだね!!」

 ――《斬月・極》は、ソニックアローから光弾を撃ち出す。

一夏「最強の力を手に入れたお前はッ!」

 ――バロンは《零落白夜》で光弾を撃ち落し、《ハンドル剣》の力で加速する。

一夏「その目は、人間の『意思』を映していない!」

凌馬「『神』なんだ! 『神』とはそういうものだろう!! 『神』から見れば、人間の『意思』なんてゴミと変わらない!!」

凌馬「『夢』なんて無価値な幻想だッ!」

 ――《雪片弐型》を振り上げたバロンに、《斬月・極》は突っ込んだ。

 ――バロンと《斬月・極》は揉み合い、転げ回った。

凌馬「君こそ、どうするつもりだ!」

 ――《斬月・極》はバロンを弾き飛ばし、空に翔け上がる。

凌馬「ISという力! 仮面ライダーという力! 何も変えずにはいられまい!」

 ――メロン・スカッシュ!

 ――ジンバーレモン・スカッシュ!

凌馬「かつて、オーバーロードとなった駆紋戒斗は大魔王になった! 世界を滅ぼそうとした!」

凌馬「『バロン』を名乗る少年よ! 君はその力、何に使う? 何になる!」

 ――ソニックアローが、光弾を吐き出した!

一夏「俺は仮面ライダーだって言ってんだろこのバカ天才!」

 ――《雪片弐型》で光弾を切り払い、バロンも飛翔する。

一夏「俺は守るよ! 人間の自由と、平和を!!」

一夏「みんなの未来を!!」

一夏「だってッ、俺は――ッ!」

 ――迎撃の光弾を切り裂き、バロンは《斬月・極》に迫る。

一夏「戒斗に育てられて!」

一夏「泊さんからバトンを受け取った!」

一夏「仮面ライダーなんだ……ッ!」

凌馬「フッ……」

 ――《雪片弐型》の刃は、《斬月・極》を捉える直前で消滅した。

一夏「エネルギー切れ!?」

凌馬「どうやら、志に実力が追い付かなかったようだねぇ!」

 ――《白式》は無様に落下して、境内の石畳に激突した。

一夏「うぐ……っ」

凌馬「ハハハハハハッ!」

凌馬「人間の『意思』に、価値なんて無いよ」

凌馬「君の敗北が証明している」

凌馬「僕の『神』を頂点とする社会が」

凌馬「完璧な『平和』の世界こそが」

凌馬「価値のあるものだ」

凌馬「その世界を実現することで」

凌馬「“僕”は、価値を取り戻す」

 ――メロン・スパーキング!

 ――ジンバーレモン・スパーキング!

<御神木の神社>

ルパン(やれやれ。自分のしぶとさが恨めしいね)

 ――壊れかけたルパンは、バロンと《斬月・極》の戦いを見上げていた。

一夏「エネルギー切れ!?」

凌馬「どうやら、志に実力が追い付かなかったようだねぇ!」

ルパン(……)

 ――ルパンは、壊れかけた身体で飛ぶ。

 ――そして、箒の肩に乗った。

 ――箒が、重加速の影響から脱した。

ルパン「君は戦極凌馬の娘で、篠ノ之博士の妹だろう。逆転勝利を盗む手段、知らないかい?」

箒「……」

ルパン「……そうか」

束『あるよ!』

箒「姉さん!?」

 ――通信端末に束の姿が映っていた。

束『ISのコアをいっくんに渡して! そうすれば、《白式》のエネルギーが回復するよ!』

箒「ISのコア……!」

 ――箒の《紅椿》はコアを奪われて消滅している。

 ――しかし。

箒「すまない、車さん。時間が無いから、ちょっと手荒に行くぞ!」

 ――箒は、ルパンをぶん投げた!

ルパン「お、おおっ!?」

 ――ぶん投げられたルパンは、鈴の胸に張り付いた。

 ――鈴が、重加速から解放される。

ルパン「ふむ……。君は誰かに胸の脂肪を盗まれたのかい?」

鈴「あんた後で沢芽の海に沈めるからな!?」

 ――鈴は、沈黙した《甲龍》のハッチを開く。

鈴「ISのコアって、こんなんだったんだ……」

 ――コアを野球選手のように振り被る。

鈴「一夏! これ使って!!」

 ――そして、コアをぶん投げた!!

<御神木の神社>

 ――バロンがコアをキャッチする。

 ――ヘルヘイムの果実であったそれは、戦極ドライバーの力によってロックシードに変化した。

一夏「これは……!」

 ――バロンは、“束によって強化された”戦極ドライバーの左側に増設されていた“ゲネシスコア”にロックシードをセットする。

 ――《斬月・極》のエネルギー弾は、すぐそこまで迫っていた。

一夏「間に合ってくれ!」

 ――ミックス! ドライブアームズ!!

 ――ひとっ走り・Together!

 ――ジンバーメロン!

 ――ハハッ!

一夏「《零落白夜》!」

 ――復活した《雪片弐型》の刃は、エネルギー弾を切り裂いた!

<御神木の神社>

 ――バロンが、《斬月・極》を追いつめていた。

一夏「そらよ!!」

 ――《雪片弐型》が、ソニックアローを両断する。

ラウラ「嫁!」

 ――肩にルパンを乗せたラウラからコアを投げ渡されると、バロンはロックシードをチェンジした。

一夏「ありがとう、ラウラ!」

 ――ミックス! ドライブアームズ!!

 ――ひとっ走り・Together!

 ――ジンバーチェリー!

 ――ハハッ!

凌馬「何故だ! 何故、僕の『神』がこうも圧される!? 最強のはずなのに! 呉島貴虎なのに!」

 ――バロンは、高速移動で《斬月・極》を翻弄する。

 ――《斬月・極》は無双セイバーを引き抜くと、あえてバロンに突撃した。

 ――至近距離で、ガンモードの銃弾を吐き出す。

 ――しかしバロンは、ダメージを無視して《雪片弐型》を振るった。

 ――《斬月・極》は無双セイバーと引き換えに、バロンの斬撃をしのぐ。

一夏「答えなんて分かり切ってるだろ!」

 ――強引な攻撃は《白式》のエネルギーを大幅に消費していた。

 ――しかし。

セシリア「織斑さん!」

 ――バロンは《ブルー・ティアーズ》のコアを受け取ると、アームズを変更する。

一夏「サンキュ、セシリア!」

 ――ミックス! ドライブアームズ!!

 ――ひとっ走り・Together!

 ――ジンバーピーチ!

 ――ハハッ!

一夏「俺が、一人じゃないからだ!」

凌馬「くっ……。メロンディフェンダー展開!」

 ――メロン・スパーキング!

 ――ジンバーレモン・スパーキング!

一夏「みんなが、俺を守ろうとしてくれるから!」

 ――エネルギーをまとったメロンディフェンダーを、多量のエネルギー消費と引き換えに強引に切り裂く。

シャル「一夏!」

 ――ミックス! ドライブアームズ!!

 ――ひとっ走り・Together!

 ――ジンバーマツボックリ!

 ――ハハッ!

一夏「俺だって、みんなを守りたい!」

一夏「それが――俺の『意思』だッ!!」

 ――《雪片弐型》の刃が、《斬月・極》に突き刺さる。

 ――あらゆる防御を突破する最強の刃は、《斬月・極》のコアを貫いた。

<御神木の神社>

 ――コアを破壊された《斬月・極》が、石畳に倒れ伏していた。

一夏「……」

 ――《斬月・極》の中から、操縦者が這い出てくる。スーツ姿の、貫禄ある老人だった。

 ――その現象にもっとも驚いたのは、

凌馬「な、何故だ……!?」

 ――戦極凌馬だった。

凌馬「どうして! ……どうして!?」

 ――戦極凌馬の声は、破壊された《斬月・極》のスピーカーからではなく、レモンエナジーロックシードから上がっていた。

「…………」

 ――《斬月・極》の操縦者は、戦極ドライバーのカッティングブレードに手をかける。

「織斑一夏君。……いや、《仮面ライダーバロン》」

「救いたい友がいる」

 ――強固な意思を感じさせるその声は、メロンロックシードから上がっていた。

「一勝負、付き合ってもらおう」

 ――ソイヤ!

 ――ミックス! メロンアームズ!!

 ――天・下・御・免・!

 ――ジンバーレモン!

 ――ハハッ!

凌馬「どうして君が動いているんだ、貴虎!? 既に死んでいる君は、《斬月・極》なくして動けるはずは……!?」

一夏「…………」

一夏「分かりました」

一夏「その勝負、仮面ライダーとしてお受けします!」

 ――バナナ!

 ――カモン!

 ――ミックス! バナナアームズ!!

 ――Knight・of・Spear!

 ――ジンバーマツボックリ!

 ――ハハッ!

一夏「……」

一夏「あ、あれ」

 ――《白式》が輝いていた。

 ――バナナ、マツボックリエナジー、クルミ。

 ――パスの繋がった三つのロックシードが、《白式》をチーム・バロンのカラーに塗り替えていた。

一夏「……ははっ」

一夏「絶対負けらんなくなった!」

 ――《仮面ライダーバロン》は軸足を据える。

「……フッ」

 ――《仮面ライダー斬月》も軸足を据えた。

「仮面ライダーバロン。君に、一つ教えておこう」

「掛け声は――ライダーキックだ!」

 ――メロン・スカッシュ!

 ――ジンバーレモン・スカッシュ!

一夏「はい!」

 ――バナナ・スカッシュ!

 ――ジンバーマツボックリ・スカッシュ!

 ――《インフィニット・ストラトス》・クルミ・スカッシュ!



「「ライダー……――キィーッック!!!」」



<ひかりのなか>

 ――戦極凌馬は、白い光の中にたたずんでいた。

 ――その孤独な肩が、気軽に叩かれる。

貴虎「久しぶりだな、凌馬」

凌馬「貴虎……!?」

貴虎「まったく。お前は本当にめんどくさい男だな」

凌馬「……」

凌馬「へ?」

 ――呉島貴虎は肩をすくめていた。

貴虎「お前という男は常に他人を振り回し続ける。正に、マッドサイエンティストだ」

貴虎「そして、空気を読めない」

貴虎「いつだったか。お前が、我が家のメイドに『虐殺器官』の内容を語り続けたことがあっただろう? 最後にはメイドを泣かしたあれだ」

貴虎「ビデオで『ブレードランナー』を観賞していた時は、『ブレードランナーの原作は「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」だけど、作者のフィリップ・K・ディックはヤク中のアル中で、5回結婚したんだけど5回とも離婚したんだ。ところでディックと言えばヴァリス三部作だけど――』だとか、どうでもいいことを隣で喋り続けていた」

凌馬「え。ちょ。た、貴虎。君は何を言っているんだ……!?」

貴虎「凌馬」

貴虎「俺は神の器ではない」

凌馬「わぁお、君の異次元接続話法も久々だね!?」

貴虎「俺が誰かに誇れることなんて、ちょっと頑固すぎるところくらいだ。これだけは、まあ、神にも認められたからな。フフッ。光実にも自慢してきた」

凌馬「君は本当に弟が好きだなぁっ!? いや、そういう話ではなく……!」

貴虎「凌馬」

凌馬「今度は何なんだい……?」

貴虎「俺だって、負けることはある」

凌馬「……」

貴虎「妻には頭が上がらなかったよ」

貴虎「それに」

 ――貴虎が、視線を“外”に向ける。

凌馬「……」

 ――凌馬もまた“外”を見ると、肩を落とした。

凌馬「そう、みたいだね……」

貴虎「勝手な思い込みと決め付けを信じて突っ走る。それはお前の悪い癖だ、凌馬」

凌馬「耳に痛いよ……」

凌馬「でも貴虎。……君、ブーメラン突き刺さってない?」

貴虎「……」

貴虎「こほん」

貴虎「まあ」

貴虎「めんどくさくて」

貴虎「マッドサイエンティストで」

貴虎「空気を読めなくて」

貴虎「猪突猛進」

貴虎「戦極凌馬という男はそういう人間だ」

貴虎「それが、俺の友だ」

凌馬「……は?」

凌馬「君は何を言っているんだ? 僕が君の友達だって? 君を裏切った僕が? 君の死を辱めた僕が?」

凌馬「そんなこと本気で言っているのかい? 頭がおかしくなったのかい?」

貴虎「フッ……。歳を取ったのさ」

貴虎「目を閉じて思い出すのは、いつだって“あの時代”だった」

貴虎「五十年以上前の……お前と一緒に、理想を追いかけた日々」

貴虎「お互いに間違いは多かったが、充実していた」

貴虎「“あの時代”を共に生きた俺達は、やはり、友達だ」

凌馬「……」

凌馬「どうして、それを僕に伝える……? 何のために? 何の意図があって?」

貴虎「フッ」

貴虎「俺は人類を救う」

貴虎「だから、戦極凌馬という友も救う」

貴虎「俺が生きていようと、死んでいようと、変わらん」

貴虎「お前が生きていようと、死んでいようと、変わらん」

貴虎「救う。救ってやる。救ってみせる」

貴虎「もう、誰も切り捨てない」

貴虎「それが、俺の『意思』だ」

貴虎「“あの時代”から追い続けている『俺達の夢』だ」

凌馬「……」

凌馬「…………」

凌馬「は、はは、はははははははははははは!」

凌馬「……」

凌馬「ああ……」

凌馬「やっぱり僕は、『仮面ライダー』には勝てなかったよ……」

<旅館・風花の間>

 ――束が端末のキーボードを叩いていた。

束「できたよちーちゃん! ……お父様を破壊するウィルスだ!」

千冬「束。よく、がんばった」

 ――千冬の手は、震える束にそえられていた。

束「……褒められるとちょっと辛いよ。本当は、もっと早くにやらなきゃいけないことだったんだ」

束「私がもっと早く勇気を出していれば、おじさまだって……」

千冬「束。今は、未来だけを見よう」

束「うん……」

束「……」

束「お父様はデータ人間。バックアップは世界中のコンピューターの中に、無数に潜んでる。物理的に破壊しようとすれば世界をふっ飛ばすくらいしないといけないけど……」

千冬「そのウィルスなら、全てを電子上で解決できるんだな」

束「うん。お父様に造られた私だから造れる、特別製だよ」

千冬「……」

束「……」

 ――千冬が、震える束を抱きしめた。

束「ありがと、ちーちゃん。……よし!」

 ――束は、ウィルスを流そうとして

束「あれ……」

 ――あることに気づいて、手を止めた。

千冬「どうした」

束「お父様が……」

千冬「戦極凌馬が……?」

束「自壊していってる……」

<御神木の神社>

 ――《仮面ライダーバロン》は、砕けたメロンロックシードとレモンエナジーロックシードを見つめていた。

一夏「……」

 ――《仮面ライダーバロン》は、変身を解除する。

一夏「……」

 ――燃え盛る御神木に視線を向けた。

 ――《織斑一夏》は守れなかった友達を見つめながら、

 ――頬を濡らす涙を拭うこともなく、

 ――意識を手放した。

■終幕
<旅館・大広間>

 ――1年1組のクラスメイト達は喝采を上げていた。

クラスメイト1「一夏よくがんばった!」

クラスメイト2「オリムラ達の、友情の勝利だ!」

「これで、織斑君達の任務お疲れ様会もできるね!」
「盛大に祝わなきゃ!」
「あれ。でも」

「駆紋君、スクリーンに映らなかったね」

クラスメイト1「そういや、そうだな。あんな奴、大将なら真っ先にぶん殴りに行きそうなもんなのに」

クラスメイト2「ク・モーン……。彼はまた別の任務に着いていたのだろうか?」

クラスメイト3「……」

クラスメイト3「みんなに、辛い話がある」

クラスメイト3「駆紋戒斗は、沢芽市の御神木を本体とする『神』だった」

クラスメイト3「その御神木は、みんなが見ていた通り、破壊されてしまった」

クラスメイト3「燃えてしまった……」

クラスメイト2「そんな……」

クラスメイト3「だから……」

クラスメイト1「鴻上!」

クラスメイト3「……」

クラスメイト1「みなまで……言うな……っ」

<旅館・客室>

一夏「あ、れ……」

千冬「ようやく目覚めたか」

一夏「千冬姉……?」

千冬「よくやった」

 ――千冬は、一夏の頭を撫でた。

一夏「……」

一夏「千冬姉。俺、悔しいよ……」

一夏「俺はみんなを守りたかったのに……」

一夏「そのために強くなったのに……」

一夏「俺は、一番の友達を守れなかった……ッ」

千冬「……」

千冬「一夏」

 ――千冬が、一夏の手に“あるもの”をそっと握らせる。

 ――それは、戒斗のバナナロックシードだった。

一夏「千冬姉……?」

千冬「あいつは教師向きみたいだ。私よりも、な」

 ――そう言い残すと、千冬は客室を出た。

一夏「……」

一夏「……?」

一夏「…………」

一夏「……ッ!?」

<旅館・風花の間>

 ――風花の間には、専用機持ち達が集まっていた。

鈴「戒斗ぉ……っ」

セシリア「鈴さん、こらえるのです……っ」

ラウラ「う、うう……」

箒「……っ」

シャル「……」

 ――悲しみに満ちた風花の間の襖が、勢いよく開かれる。

一夏「みんな!」

鈴「い、一夏!? あんたもう平気――」

一夏「一緒に来てくれ! 戒斗のこと好きだった奴は、みんな!」

<旅館・大広間>

 ――大広間に、セシリア達を引き連れた一夏が駆け込んできた。

 ――1年1組のクラスメイト達は、みんな、気丈に悲しみをこらえていた。

一夏「みんな!」

クラスメイト1「一夏……?」

クラスメイト2「ああ、そうだな……。ク・モーンは失ってしまったが、困難を成し遂げた君達を讃えなければならないな……っ」

クラスメイト3「織斑君! 君達は、がんばったよ! ……すばらしい!」

一夏「……っ」

 ――みんなの、悲しみに打ち勝とうとする姿に。

 ――目を赤く腫らした一夏は、バナナロックシードを掲げる。

一夏「みんな! 戒斗は死んじまった……!」

一夏「だからこれは、戒斗からの最後のメッセージだ……っ」

セシリア「え……?」

一夏「……」

 ――ロックシードのスイッチを押し込む。

 ――バナナロックシードは、戒斗の言葉を流し始めた。


『――たかだか三ヶ月半だ』

『お前達と過ごした時間など、人生の中の、ほんの一時だ』

『俺は七十年生きた』

『お前達も、長い時を生きるだろう』

『だが……』

『あえて、言葉にしておいてやる』

『……』

『お前達と過ごした三ヵ月半』

『……』

『悪くはなかったぞ』

 ――メッセージが終わると。

 ――大広間には、涙をこらえる健気な音が立った。

セシリア「ふふっ……。戒斗さんったら、こんな時に素直になるのはずるいです……わ……」

鈴「……泣いちゃ……ひっく……だめよ…、…セシリア……」

シャル「戒斗は……ぐすっ……とても、強い人……だったから……」

ラウラ「……別れ、に……。涙は……似合わない……」

箒「ぐすっ……。だから、今まで……っ……こらえて、いたのに……」


「ああ……。ちっくしょう、こんなんじゃ……駆紋の大将に笑われちまうよ……」
「誇り高いク・モーンだ……。『死を悼んで涙を流すなど弱者の姿だ!』 ……とでも、いう、だろう……なぁ……っ」
「すばらっ……。すばらしい強さの持ち主だった! ……だが、その強さは……っ。私たちに彼が残した強さは、この瞬間だけは残酷すぎる……っ」


一夏「……」

 ――涙をこらえようとするみんなを見渡すと、一夏はもう一度バナナロックシードのスイッチを押した。

『まったく。世話の焼ける連中だ』

『最後に。俺が信じる言葉を、お前達に残してやる』

『……』

『泣いていい』

『泣きながら進むのが、本当の強者だ』


一夏「……」

一夏「…………っ」

一夏「……」

一夏「戒斗がいなくなったのは、辛いよ……」

一夏「だから、泣こう」

一夏「友達を想って流す涙は……。戒斗が忘れないでくれって願った、優しさだから……」

一夏「でも……」

一夏「泣きながらでも、未来に向かって走っていこう」

一夏「その姿を、『俺は神』だなんて偉そうなこと言ってたアイツに見せつけてやろうぜ」

一夏「駆紋戒斗という、不屈の強さを示し続けた友達には……」

一夏「俺達が本当の強者になることが、何よりの弔いだから……」



戒斗「IS学園?」一夏「バナナ・スパーキング!」 了

 以上になります。
 
 1スレ目のスタートから一ヶ月。約400kbという長い物語にお付き合いいただき、ありがとうございました。
 織斑一夏という『守るために強くなろうとしている少年』と、駆紋戒斗という『守るために戦った仮面ライダーの強さを認めた青年』をクロスさせた物語は、何とか形になりました。

『IS(アニメ、原作)、鎧武(本編、キカイダーREBOOTコラボ回、ウィザード&鎧武、平成対昭和、ドライブ&鎧武)、キカイダーREBOOT』の設定をみんなぶち込んでSFで煮詰めた今回の物語は、書く方も読む方も大変なものになっていますが……。その分、好きな人には好きな話、に仕上がったんじゃないかなーと思います。
 と言うか。その好きな人が僕で、僕が好きな話を書いたから、僕はすごい楽しかったってだけの話なのですががが。

 ところで訂正です。

 前スレの短編で『千冬がザックに戒斗の話を聞かされる』短編がありましたが。あれ、短編中では『十八年前』と言っていましたが、十八年前だと一夏が生まれてないので十五年前くらいの出来事ということでお願いします……。

 また。

 3スレ目を書いている途中に気づいたのですが、ドライブ&鎧武後にルパンが憑依していたのは『ルパンブレードバイラルコア』ではありませんでした。『バットバイラルコア』だったのね……。
 2スレ目で『黄金のミニカー』と記述してしまったので、このスレでのルパンは『ルパンブレードバイラルコア』に憑依していたということでお願いいたします……。


 それでは。最後に短編を二つ投下したら、このスレを閉じます。

■お・ま・け「がんばれプロフェッサー!」

 ――これは《データ人間》プロフェッサー・凌馬の、仮面ライダーへの挑戦の記録である。



<50年前・電子の海>

凌馬「マヂヤミ……」

凌馬「っていうかさー…………」

凌馬「私、出力爆上げした特別性のゲネシスドライバーを使ったんだよ? とっておきの、ドラゴンフルーツエナジーロックシードを使ったんだよ?」

凌馬「その私に、戦極ドライバーとAランクのロックシードで勝利するとか何だよタカトラー……」

凌馬「かっこよすぎるじゃないか……!」

凌馬「さすが呉島主任だ!!」

凌馬「よし決めた!」

凌馬「僕の力で、貴虎を神にする!!」

凌馬「うーん。でも、貴虎は神になることになんて興味無いからなぁ……」

凌馬「……」

凌馬「よし、殺そう」

凌馬「で『神の波動に目覚めたタカトラ』を、僕の手で造ろう」

凌馬「よーし、がんばるぞー!」

<電子の海>

凌馬「隠されていたオルフェノクの王を処理した」

凌馬「これで、全てのオルフェノクは滅びる」

凌馬「まずは一つ、だ」

凌馬「……」

 ――スクリーンは『(0w0)』を映していた。

凌馬「問題は君だよ仮面ライダーブレイドッ!!」

凌馬「不死って何だ!? 反則だろう!!」

凌馬「だが!」

凌馬「僕の才能は屈しない!!」

凌馬「必ず貴様をこの世界から消してみせる……ッ!」



<電子の海>

凌馬「そういえば……」

凌馬「重加速粒子とタキオン粒子が激突すると、どうなるんだろうね?」

凌馬「うん。科学者として非常に興味深い。実験してみよう!」

<電子の海>

凌馬「ロイミュードにカブトの妹を攫わせてみた」

凌馬「仮面ライダーカブト! さあ! 重加速にどう対抗する!!」

 ――重加速粒子の中、カブトがクロックアップを発動する!

 ――戦闘領域は、重加速粒子とタキオン粒子が混在するセカイとなった……!

凌馬「こ、これは……っ!?」


 そ の 時 不 思 議 な こ と が 起 こ っ た !


凌馬「…………」

凌馬「重加速粒子とタキオン粒子が激突して世界の法則が乱れると」

凌馬「……」

凌馬「RXが、現れるのか……」

凌馬「これもうわかんねぇな」

<電子の海>

凌馬「だいたいね。カメ子なんてのがいるからいけないんだよ」

凌馬「あれがいるせいで、この世界は『平成対昭和』の世界が混ざってしまった」

凌馬「だから私は……ッ」

 ――スクリーンに『(0w0)』が映し出されていた。

凌馬「貴様の対処に手を焼かなければならなくなったんだぁああああああっ!!」



<電子の海>

凌馬「……」

凌馬「そうだ。ブレイドの戦いを見て、対処方を考えよう」

凌馬「ちょうど一挙放送してるしね」

すごく良かった
ISわからなかったけどそれでもすんなりと入っていけた


お疲れ様でした、短編も楽しみにしてます

~第1話~

テレビ『( 0w0)オンドゥルルラギッタンディスカー!』

凌馬「ウェーイ」



~第15話~

テレビ『( 0M0)ザヨゴォォォォォ! 』

凌馬「ウェーイ」



~第16話~

テレビ『( 0w0)ソウダナ ノリナンダナ』

凌馬「ウニダヨー」



~第19話~

テレビ『( 0w0)ウニナンダヨ』

凌馬「ノリダヨー」



~21話~

テレビ『( 0M0) 3!』

凌馬「ふぁっ!?」

~25話~

テレビ『( 0M0)スリップストリームだ! 』

凌馬「君は何を言っているんだ……?」



~37話~

テレビ『( 0M0)ゴッスゾサン 』

凌馬「ダディ……」



~47話~

テレビ『( 0M0)この距離ならバリアは張れないな! 』

凌馬「ダディャーナザァーン!!」



~最終話~

テレビ『剣崎ぃぃぃっ!! 』

テレビ『剣崎がどこへ行ったのか、それは分からない。やつは人であることを捨てることにより、人を、世界を守った……。だが彼は、今も戦い続けている……。どこかで。運命と……』

凌馬「…………」

凌馬「そうか……。だから君は不死になったのか……」

凌馬「は、はは。ははははは」

凌馬「無理だ。仮面ライダーブレイド。僕に君は殺せない」

凌馬「……」

凌馬「仮面ライダーには勝てないなぁ……」

凌馬「……」

<電子の海>

凌馬「ブレイドとカリスには宇宙旅行をプレゼントした」

凌馬「しかし。平成対昭和世界のブレイドなら、実は不死じゃなかったんじゃないか? 声も違うし」

凌馬「何故かBLACKとRXが共存してるし……」

凌馬「……」

凌馬「まあ、いいか」

凌馬「不死のライダーは対処した」

凌馬「これで計画はスムーズに進むだろう」



 …………



「絶望したゲートが希望を取り戻して魔法使いになった!?」
「アギトが生まれてアンノウンが!?」
「ギルスまで!?」
「オルフェノクの王がまた生まれたぁっ!?」
「魔化魍を倒し続けるのは骨だね……」
「鴻上コウセイィィィイッ! 何度叩けば諦めるんだ君はぁああああっ!!」
「ウェーイ」
「宇宙キターーーーーー!!」
「鴻上光生! 君は本当にこりないなぁっ!?」

<電子の海>

凌馬「はぁ……はぁ……。これで、残るは貴虎とザック、泊進ノ介だけに……」

凌馬「……」

凌馬「え、あ、嘘」

凌馬「…………」

凌馬「おのれディケイドォォオオォオオオオオオオオッ!!」

 ――がんばれプロフェッサー!!

 ――『仮面ライダーが盗まれた世界』を実現するために!!!



<2064年・太平洋上空>


凌馬「呉島貴虎を『神』にする!」

凌馬「この五十年! そのために活動してきた!」

凌馬「悪の組織を潰した! 仮面ライダーを排除した!」

凌馬(大変だったよ……)

凌馬(うん)

凌馬(僕、がんばった!)

 以上になります。
 このものがたりはスレほんぺんとはいっさいかんけいありません(棒)

>>177
ありがとうございます! 放送時期を考えると『鎧武を知っていてもISは知らない』層が大半だろうなぁと思ったので、その辺りは気を付けました。
ちゃんと読めるものになっていたならば幸いです。
……で、でも。短編こんなんでごめんなさい。

 続きましては、最後の短編になります。

■短編「ドラゴン・ロード2014」
<ひかりのなか>

ザック「いいスピーチだったぜ、戒斗」

戒斗「ふん。……少し喋り過ぎたか」

ザック「なんだかんだで面倒見がいいのがお前だからな。あれくらいでちょうど良かったんじゃないか」

戒斗「ふん」

戒斗「行くぞザック。いつまでも、こんな曖昧な場所にはいられん」

ザック「そうだな」

ザック「でも。お前の道はこっちじゃない」

戒斗「何?」

戒斗「……」

戒斗「なるほど。そういうことか」

戒斗「……」

戒斗「本当に、めんどくさい男だ……」

 ――光の中に、新たな二人組が現れた。

凌馬「誰がめんどくさいんだい?」

貴虎「……はあ」

 ――戒斗は、戦極凌馬を睨むと拳を振り上げる。

戒斗「貴様だァッ!!」

 ――戒斗の拳が、戦極凌馬に突き刺さった……!

 以上になります。
 ISアニメ第1期分のストーリーが終了しましたので、“本編”は完結。
 
 次回はお祭りストーリー!

“シリーズ”完結編のMOVIE大戦『仮面ライダーを取り戻せ!』になります。
 スレタイ↓

戒斗「赤と青の?」一夏「ヒッサーツ!マキシマムドライブ!」

 にて、お会いしましょう。
 では。ここまでお付き合いありがとうございました。

に、二週間以内に書き上げられるようにがんばります……(震え声
そして、御期待に添えられるようにがんばります……(震え声

補足!
いつも通り、このスレはHTML申請を出します。
本文が完成した段階で、>>188のスレタイで新スレを立てまする。
それではみなさま。またお会いしましょう!

 本編まだできてないんですが、このスレそろそろ落ちそう(なので誘導用)+自分に追い込みかけるために次スレ立てました(しろめ

 次スレ↓
戒斗「赤と青の?」一夏「ヒッサーツ!マキシマムドライブ!」
戒斗「赤と青の?」一夏「ヒッサーツ!マキシマムドライブ!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1423574895/)

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年02月04日 (水) 01:20:43   ID: Prk73w88

良SS過ぎる

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