乃々「もりくぼのとある一日」 (22)

目が覚めると憂鬱です。

朝から、あたしが森久保乃々であることを知るからです。

でも事務所に行かないと怒られるので、行きます。
家にいて、家族にも途中で投げ出したなんて思われたくないです。

でも、アイドルというお仕事は、もりくぼには向いていないお仕事です。


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名古屋のお仕事終了記念

ひたすら後ろ向き。
ゲーム内の乃々ちゃんが意外と前向きでかわいいのは承知のうえで書いてます。

前はかわいいお洋服を選んでましたけど、最近は着ません。
そもそも、お洋服を選ぶ気がしないです。
休みの日ですけど制服です。

駅まで歩く途中、帰りたくなって……そんなことしたらプロデューサーさんから電話がかかってくるのがわかってますから…歩きます。
満員電車…やっぱり憂鬱です。


なんとか、着いた、事務所。
既に疲れてます。
帰りた

「おはよう」

「おはようございます…」

なんで…なんで気づくんですか…。

もしかしてもりくぼは、もりくぼが気づかないだけで実は匂うんでしょうか。
プロデューサーさんもみなさんもやさしいから、言わないだけかもしれません。
だからどこにいたって気づかれるんですね。

納得している間に、プロデューサーさんはそのまま外に行ってしまいました。

こっそり事務所に入ります。

「乃々ちゃん、おはようございます」
「おはようございます…」

入り口にいたちひろさんにあいさつをして、こっそり事務所の奥に向かいます。
事務所にはもう冴島さんがいて、フレデリカさんになにか注意してるみたいです。
大西さんももう机に座ってなにかを書いています。

みんな、朝から偉いなあ。
もりくぼとは大違いです。

なるべく体を小さくして、息を潜めてもりくぼの机に座ります。
誰も見ていないといいんですが…。
一番見つかりたくないのは、向井さんです。目がこわ…いえ、なんでもないです。



いつもは学校に行っているので、朝から出勤できる日は書類を処理します。
でも、もりくぼはお仕事がありませんから、やることがありません。

例えば岡崎さんは、営業に行った交通費や、差し入れ代を経費に書いています。
輝子さんは今度出すCDのカバー曲を聞いているみたいです。

もりくぼはなにもしていません。

たまにパソコンの画面を見て、ノートと見比べるふりをします。
仕事ができないやつと思われていることでしょう。
もしかしたら、もりくぼが仕事をしていないことがバレているかもしれません。

でも、誰も怒らないのでいいです…。

ちょっとの交通費を書いて、うそっぱちの来週やりたいことを書いて、お外に出ます。

ご飯を食べるためです。

でもお腹は空いていますが、食欲がありません…。
食べないと今日一日が乗り切れないことはわかっています。
だから歩きます。

牛丼屋さん、ファミレス、中華屋さん……。
人がいっぱいいます。
もりくぼが入っても、満席でお断りです。

イタリアンのパスタ屋さん、喫茶店、居酒屋のランチ…。
あまり人がいません。
ちょっと怖いです。
それに、イタリアンに一人で入るのは怖いです。
友だちがいない暗い奴って思われるに決まってます。
一応、もりくぼにも友だちいるんですけど……。

ご飯を一緒に食べるならお話しますよね。

でももしその時に、うまく喋れなかったら…そもそも話す話題が見つからないですが…つまらないやつって思われます。嫌われます。
それに、お相手の方とランチで食べたいものが違っていたら、とても申し訳ないです。
もりくぼが食べたいものが食べられないのも、ちょっとイヤです。

ああ、ふらふらしているうちにお昼の時間が終わってしまいます…。

コンビニで、いえ、スーパーがいいです。安いから。
おにぎりを買いました。

駅の近くの大きなビルの下に、少しだけ広い公園があります。
スーツの人がいっぱい通ります。
隅っこの方に石のベンチがあるので、そこをお借りしておにぎりを食べます。
いっしょに骨なしチキンも買いました…ちょっと贅沢、です。

冷たいおにぎりを食べていると、通りかかる人がいました。
三人で並んでなにかお話しています。

暗い奴がいるって話してるんでしょうか…それとも、目が変なやつとか…顔が赤いことも……もしかしたら迷惑がられていたり…。

そう思ったら落ち着かなくなって、あまり噛まずにおにぎりを飲み込んでしまいました。
喉からお腹に冷たいものが落ちていく気がします。


お昼の時間が終わったので、事務所にこっそり入ります。

プロデューサーさんは事務所の机でお弁当を食べていました。
てづくりでしょうか。
美玲さんや乙倉さんも一緒で、笑っています。楽しそうです。

いつか、もりくぼもプロデューサーさんを笑わせてあげられるといいんですけど。

鞄を持って、こっそり事務所を出ました。



営業に行きます。

電車に乗って、ライブハウスに行って、ポスターを貼ってもらえるかお願いしようとして…。
カウンターの奥の事務室が、忙しそうなのを見てやめました。

そういえばもりくぼ、お化粧してきませんでした…こんな格好で行っても、アイドルだって気づかれません。
だから入り口のカウンターの前で引き返そうとしたんです。

「あれ、キミ…」

「うひっ」

ライブハウスの人が後ろから現れて、とてもびっくりしました。

ああ、手が震えます。口がからからです。ほっぺたが熱いです。

ライブハウスの人もびっくりしています。
なにしにきたんだこいつって顔をしてます。
見たことある人ですから、もりくぼがアイドルだって知ってるはずです。
アイドルなのに笑顔も作れないのかとびっくりしています。

「もり、あたしは……その…ごめんなさい!」

ポスターをカウンターにおいて、もりくぼは外に逃げました。

もりくぼはダメな奴です。
いつもいつも失敗ばかりです。
次の場所に行ったところで失敗するから、もう行きません。
どうしたらみんなみたいになれるんでしょうか。
ますます気分が憂鬱になって、なんだかお腹も痛い気がします…。

そもそももりくぼはアイドルになりたいわけではないので、ここにいるのがそもそも間違っている気がします。
でも、プロデューサーさんがいるから、そう思ってましたけど…。

歩くのも嫌になって、喫茶店に入りました。
レジの横に少女漫画が置いてあったので、こっそり借ります。
漫画の主人公みたいになれたらいいんですけど…無理です。

プロデューサーさんに帰って来いと言われるまで、もりくぼは喫茶店にいました。


就業の時間ですけど、プロデューサーさんはまだパソコンとにらめっこをしています。
もりくぼがやることはとっくにありません。
だから帰りたいんですけど…。
でも、プロデューサーさんもお疲れですから、早く帰って休んで欲しいです。
一緒に帰りませんかと誘ってみようかと思います。

「あの……」

声を出してから、迷いました。
もしかしたらプロデューサーさんは急ぎのお仕事かもしれません。
それなら話しかけたら迷惑です。
それに、もりくぼが誘っても迷惑がられて断られるかもしれません。
だってもりくぼはちゃんとお話できませんし、笑えませんし、今だってプロデューサーさんと一緒に帰ることを考えただけで汗が出てきました。

手が震えます。
顔もてかてかして、おかしいくらい真っ赤です。



プロデューサーさんが見たら大笑いします。

がんばって慣れないことをして、断られたらもりくぼは生きてゆけません。

それに、もりくぼがプロデューサーさんのお仕事を邪魔したことがみんなに知られてしまうかもしれません。
プロデューサーさんだけでなくみんなから嫌われてしまいます。
それは、イヤです…。

「あの…おつかれさまです」

「あ、遅くまでいたね。おつかれさま、乃々」

結局、黙って帰ることにしました。

「また明日」

プロデューサーさんはパソコンから顔を上げて、のの…もりくぼに挨拶してくれました。
プロデューサーさん以外にも、事務所にはまだたくさんの人がいます。

みんな、偉いなあ。
さすがです。もりくぼとは大違いです。

もりくぼはどうして、なにも出来ないのでしょう…。

おしまい。


乃々は見た目のとおり可愛い子です。
赤面症でもないし、手も震えていないし、たまに目が合わないくらいです。

ライブハウスの人は乃々のことをなんとも思っていません。
プロデューサーは乃々のことが大好きです。

でも乃々は一ミリもそんな好意が及びもつかない。
自己評価が低く、完璧主義で、他人の顔色を伺ってしまう。

人見知りの思考はこんな感じ。
これがこじれて対人恐怖症になっていく。


乃々が人見知りを克服できるよう、ポジティブになる魔法をプロデューサーにかけてもらう予定でしたが気力が尽きました。

HTML化は明日中にします。

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