麗奈「これでもくらえぇー!!」あやめ「ンアーッ!」 (28)


【モバマスSS】です

注意点
・ニンジャな武内Pとシンデレラガールズ劇場451話と久しぶりに95話を見て思いついたネタ
・地の文=サンの再現は実際難しい、あと長い
・ニンポとジツは違う、いいね?

以上が許容出来る方は楽しんでいただければ、駄目でしたら閉じて頂いて

よろしくお願いします


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今回のいたずらは亜季から教わった簡単な爆発物の作り方を参考に、標的が罠の場所に来たら
爆発と共に火柱が上がるもの。罠の作り方もマキノから教わったため、簡単に見破ることは不可能な
出来になった。そう自負している麗奈は、今か今かと息を潜め、標的を待つ。

そのうち、隠れている彼女の視界に標的の少女が現れる。今日は学校から直接プロダクションに来たのか、
標的は制服のままあるが、そんなことは麗奈には関係がない。これはもはやイクサなのだ。かつて
バズーカによるいたずらを邪魔された時から麗奈自身が定めた因縁なのだ!

そして標的の少女は麗奈の仕掛けた罠の場所へと足を踏み入れる! KABOOOOOM! 「ヤッター!」
辺りに轟く爆発音と木より高い火柱を確認した麗奈は、いたずらの成功を確信してその場から立ち上がる。

「紗南! 光! 上手くいったわ! 打ち合わせ通りに周りをごまかすの手伝って!」
『うわー、ほんとにやっちゃったんだー……』『アタシは一応止めたからな!』携帯を通じて
近くで待ってもらっていた友人たちに隠蔽工作の合図を送る。いたずらとはいえこれほどの仕掛けを
プロダクション内に作ってしまったのだ。うまく誤魔化さなければあとが実際コワイのである。

(だけど、それでもいいのよ、ついにやってやったわ! あの忌々しいエセニンジャに、あやめに!)
「いたずらを成功させられたと思っていますね?」「そうよ! ……エッ?」 振り向き、麗奈は
驚愕する。「アイエエエ!? ナンデ!? さっきまであそこにいたのに!」

罠にかかったと思われていた制服の少女……あやめは、麗奈の真後ろで笑みを浮かべながら、遠くで
沈静化していく罠の火柱の感想を述べる。「なかなかに見事ないたずらでした。ですが少々火薬を
盛り込み過ぎましたね。実際かなり危ない代物になっていましたよ?」「ちゃんと人に危険のない
ギリギリの所で調整したわよ! というかこれじゃまたいたずら失敗じゃない! もぉー!」


麗奈にとっていたずら成功とは、標的が驚き平然としていられない姿になることを見ることであり、
そこを基準にした時、目の前のあやめの態度はいたずらが失敗であると断定するのには十分であった。

「このレイナサマがまたしても……! くぅううう……」悔しがる麗奈であったが、失敗したからといって
落ち込むような性格でもないため、すぐさま落ち着きを取り戻しあやめを見つめる。
「まぁいいわ、今回が駄目でもまた次よ! 次こそは覚悟しなさいあやめ!」「おおそれは、楽しみにしておきます」
まっすぐ指差し宣言してくる麗奈にあやめは賞賛の拍手を送るが、同時に接近してくる一つの強大な気配に
感ずき、とてもきまりが悪そうな表情になる。

「その、ところで麗奈殿、今回のいたずらに関して武内殿に許可は……?」「武内にこのこと言ったら
許可されない決まってるわよ。だから気付かれない内にやってすぐに撤収」「どこにでしょう?」
「……ア」地獄の底から響くような声に言葉を遮られ、自分の後ろに誰がやってきたかを悟った麗奈は、
ぎこちない動作で首だけを後ろに向ける。

「アハハハハ……武内、えーと、これはね」「…………」「アイエエエ……」無言で立つ武内Pの
全身から放たれるアトモスフィアはそれだけで相手を萎縮させるには十分であり、見下ろされる形も
あってか、麗奈の姿はまるで狩られる寸前のネズミめいた怯えようであった。

「……話は自分の部屋で聞きます、いいですね」「ハイ……」抵抗できるはずもなく、麗奈は先立って
歩き出した武内Pの後ろをとぼとぼとついていく。
それを見送りながら完全に火柱が鎮火した罠のほうへと意識を向けたあやめは、ある重要なことに
気付くのだった。
「……これ、もしかしてあやめが片付けるんですか……?」


こうして今回のいたずらの件で武内Pの説教を受けることになった麗奈達が解放されたのは、もはや
西の空に日が沈もうかという時間になってからのことである。
「あぁーもう! 武内ったら説教長いのよ!」「でもそれだけ危ないことしちゃったわけだからな」
「というかあたしと光ちゃん完全にとばっちりなんだけど……」

女子寮へと戻ってきた麗奈、光、紗南の三人はいつものごとく紗南の部屋に集合して今日のことを
反省しあう。反省といっても原因が誰にあるかは明白のため、光と紗南はもはや半分くつろぐ形で
麗奈の愚痴に耳を傾けているだけであったのだが。

「ともかく今回のいたずらはあやめをちゃんと拘束出来なかったのが失敗なのよ! 爆発と火柱だけじゃ
避けられることを想定してなかったのも悪い!」「でもあれだけ大きな火柱って普通避けれるのかなぁ?」
冷蔵庫から引っ張りだしてきた星マークのラベルを貼られたビン……スタミナドリンクを配りつつ、
紗南は最もな疑問を口にする。

「んー、このプロダクションってなんかすごい人いっぱいいるし、避けれる人は避けられると思うよ。
アタシももうちょっと武内P達と特訓すれば出来る気がするし」「え?」「光ちゃん……?」渡された
ドリンクを一気飲みしつつ、紗南の部屋のゲーム機を起動させながら答えた光は、二人から唖然とした表情を
されて不満そうな口ぶりになる。

「なんだよう、ヒーローならむしろあれくらい避けれなきゃダメだじゃないか!」「そうじゃなくて
光っていつの間に武内とそんな特訓やってたのって話なんだけど」
通う学校も同じでレッスンも仕事の時間もほぼ同じ3人であるためか、お互いがなにをしているか
だいたい理解しあっているからこその反応である。


「え? あー、日曜日の朝早くとか、金曜日の夜遅くとかかな。二人共そのころは寝てるかゲームに
熱中してるでしょ?」「そうだけど……へぇー、そんな時間に武内さんと一緒なんだ……っと!」
お菓子の袋を開きながら紗南は少しだけ羨ましそうな目で光を見つめる。

「んー、武内P以外にもあやめさんや早苗さんなんかが一緒に特訓してくれることが多いかな。紗南が
心配してるような二人っきりってことは特に無いよ」「あ、あたしは別にそういう意味で言ったんじゃ……」
照れくさそうに顔を赤らめながら、誤魔化すようにドリンクを飲む紗南。そんな二人の反応に麗奈も
釣られてドリンクを一口飲み、思い出したように叫ぶ。

「ってそんなことはどうでもいいのよ! 問題は次こそどうやったらあやめにいたずらを成功させられる
かっていうことで!」「でも今回である意味記念すべき100回目の失敗だよ? いい加減諦めたら麗奈ちゃん?」
もはや心底どうでもよさそうに、光の準備しているゲーム機に「GUILTY GEAR Xrd -SIGN-」というラベルの
貼られたソフトを入れていく紗南。

「諦められるわけないでしょ! いずれ世界を獲るこのレイナサマが、あんなエセニンジャ一人に
負けっぱなしじゃ沽券にかかわるのよ!」置かれたお菓子を口に入れ、ドリンクで流しこみながら
麗奈はふてくされたようにクッションにもたれかかる。

「あぁーもう、なにか弱点でもないの? そこさえ付ければあのエセニンジャをぎゃふんと言わせられそうなのに」
「弱点って言ってもな……あ、でもあやめさんって確かニンポが使えないってのは聞いたことあるような……」
始まったゲームを遊ぶ傍ら、記憶の中で断片的な会話内容を思い出した光は、自信なさげにそうつぶやく。


「へぇ……光、その話もうちょっと詳しく」これはなにか攻略の糸口になると判断した麗奈は、光の
すぐ側で座り込むと、ゲームの邪魔ならない程度に先を促す。
「詳しくって言っても、うろ覚えだから……でも、ニンポが使えなくて色々練習はしてるらしいよ」
「あやめさん、ドラマのアクションシーンをスタントなしでこなしちゃうくらいには運動能力すごいのに、
やっぱりそういうのってカトゥーンの中だけなのかなぁ」

様々なゲームを遊ぶ中でニンジャキャラの凄さを見ている紗南はニンポに多少憧れが有り、実際大きな
蛙を呼び出したり、人より大きな火の玉を吹けたらどんなに面白いだろうかと考えることもあった。
「ヒーローだって必殺技は最後までとっておくし、ニンジャならニンポを隠してる可能性もあるけどね」
「でもだったらわざわざ光にもバレちゃうほどニンポの練習をしたりしないでしょ、これはやっぱり
使えないとみていいわね……! よし!」

悪い笑みを浮かべた麗奈は突然部屋を飛び出し、しばらくして両腕に大量のスタミナドリンクを
持って戻ってきた。「うわ、麗奈ちゃんそれどうしたの?」「フフンッ! こういう時のために
貯めておいたのよ! これ飲みながら作戦会議よ二人共!」「えぇー……」

目の前に並べられていくビンを見ながら、紗南はうんざりしたように麗奈を見る。「またあたし達も
協力しないと駄目なの?」「当たり前よ! ここまで来たら一蓮托生!」「でもアタシ達明日も
レッスンなんかが……」「そのためのドリンクよ!」


346プロダクション内限定で配られているスタミナドリンクには肉体疲労回復効果があり、一つ飲む
だけでもかなりの力を発揮する。さらに僅かにだが秘密裏に混ぜられている麻薬的有効成分が精神にも
影響するため、連続で飲んだ場合は数日は眠らずに行動出来るほど、非常にハイな気分になれる。

無論一般に知られている効果は肉体疲労回復効果だけであるが、レッスン後などにちひろからドリンクを
貰うことも多いプロダクションの者たちの間では、連続摂取による気分の異常高揚はもはや暗黙の了解
めいて知られていることだった。

「うーん、確かにこれだけあれば次のお休みまで大丈夫かもしれないけどさー」「心配しなくても
次のいたずらは必ず成功させるわ! ……ううん、むしろ次を最後のいたずらにする、
だからお願いよ、光! 紗南!」「ちょ、麗奈!?」
あのプライド高い麗奈がドゲザめいた格好で頼み事をしてくることに驚いた光と紗南は困ったように
見つめ合う。二人にしてみれば、麗奈のいたずらに付き合っていい目にあった経験など一度もないからだ。

けれども一方で、これだけ頑張っている麗奈のいたずらを何度も失敗させているあやめには、微妙に
不満が募っていることもまた事実であり、お互い沈黙のまま悩んだ末、麗奈の差し出してきたドリンクの
ビンを掴みとる。

「あ……」「しょーがないな、本当にこれが最後だぞ麗奈。そもそもヒーローの立場としては止めなきゃ
いけないんだから」「ま、今更止めたって聞かないしどうせそれなら一人でするでしょ麗奈ちゃん? 
そんなの危ないからね」「二人共……」


今日の長いお説教でもはや二人からの協力は得られないことも覚悟していた麗奈は、あまりの
嬉しさに涙をにじませる。そんな友人に苦笑しながら、二人の少女は手にとったビンの蓋を開けて
乾杯する形をとる。

「さ、麗奈もドリンクを開けて乾杯だ!」「そして作戦会議ってね!」「うん……ありがとう……ハッ!」
気弱な所を見せすぎたことに今更ながら恥ずかしくなった麗奈は、涙を拭くといつもの大胆不敵な
笑みを浮かべて自らもビンを開ける。

「ゴホンッ! ともかく、次のいたずらで必ずあやめをとっちめるわよ! ユウジョウ!」
「ユウジョウ!」「ユウジョウ!」勢いよくビンをぶつけあい、同時に中身を飲み干した三人は、
すぐさまどのようないたずらにするかの作戦会議へと移るのであった。


次の日! 武内Pとあやめはちひろからとある重要な情報を聞かされていた。「それが本当だとするならば、
再びLIVEバトルが仕掛けられる可能性が高いと……?」「ええ、893プロダクション内にいる個人的な
お客様からの情報ですから、信ぴょう性は高いかと」

部屋に満ちるアトモスフィアは重く緊張感があり、それだけでちひろからもたらされた情報が
武内P達にとって無視できないことを示す。「対策としては、どのように?」
思案していた武内Pは、どこか返答などわかっていると言わんばかりの表情で問う。

「いつものごとく、プロデューサーさんとあやめちゃんお二人で対処して欲しいと上からの通達です」
「またですか……? いい加減、鍵付きクローゼットの使用許可くらい降りて欲しいです。それかせめて、
早苗殿辺りにも参加してもらえないのでしょうか」
やる気の感じられないプロダクション上層部の指示に少々不満が漏れるあやめ。
「ごめんなさい。LIVEバトルを仕掛けてきたプロダクションを道具を使ってではなく、あなた方が撃退して
くれたほうが、後々の展開にどうしても有利になるんです。人員の増加も皆さんお仕事の都合で……決して、
あやめちゃんは必ずいるタイミングで調整している訳ではないのですが……」

心の底から申し訳無さそうな顔をするちひろに、あやめもそれ以上の不満の口をつぐむ。そもそも主である
武内Pがこのことを了承している以上、彼女には最初から拒否する気も反抗する気もなかったのだが。
「ですが、武内殿を便利に利用しすぎるのであれば、わたくしにもそれなりの……」「浜口さん、
それ以上は」「……わかりました」牽制を窘められてしまったあやめは、しぶしぶと引き下がり、ちひろは
安心した表情に戻るとさらに詳しい情報を話しだす。


「893プロダクションがLIVEバトルを仕掛けてくるのは今日の14時ごろ……」その時である! 緊張感
漂うアトモスフィアを切り裂くように、あやめの携帯電話が鳴り始めたのは!
「あわわわ……」「あやめちゃん、こういう場所ではマナーモード重点ですよ」「は、はい気をつけます!
そもそも誰が……」
慌てて携帯画面を確認するあやめ。そこに書かれていた名前は。

「光殿? すみません、電話に出てきても……?」武内Pは無言で頷き、電話への応答を優先させる。
「失礼します」この間に武内Pに先に詳細を伝えておくことにしたちひろは、あやめが完全に退出したのを
確認してから先ほどの続きを話しだすのであった。

「――……はい、あやめです。珍しいですね、光殿がわたくしに電話など」『ごめんあやめさん! 今電話
大丈夫だった!?』光の妙な興奮状態が気になるあやめであったが、ちひろの情報からあまりのんびり
していることも出来ないことも分かっているため、手短に要件をすませることにした。

「ええ、大丈夫ですよ。ところで、わたくしになんの御用で」『実はアタシちょっとした必殺技の
練習をするつもりなんだけど、あやめさんに練習を見てもらいたくて!』
「はぁ……それは結構ですが、練習はいつの予定で?」『今から!』「今から!?」予想外の提案を
され、あやめは焦る。893プロダクションがLIVEバトルを仕掛けてくる予定時刻までもう30分を切っており、
悠長に練習に付き合っている暇などなかったのだ。

「ええと光殿? その練習なのですが、明日では駄目なのでしょうか?」『ええー!? もう道場に
練習用の道具も持ち込んじゃったよー!』「で、では他の方が練習を見るというのは」『この必殺技の
アイディアは紗南のなんだけど、これの練習はあやめさんじゃなきゃ駄目なんだ……』
どうやら譲ってくれる気はないらしく、あやめは困惑する。いつもであれば素直な光がここまで
強引なのはなにか理由があるのだろうか。


しかし頼られた以上は練習を見てあげたいという気持ちもあり、さりとてLIVEバトルの件も無視することが
出来ないあやめは、コンマ5秒悩んだあと、仕方ないといった口ぶりで光に返答する。

「分かりました、すぐにそちらに向かいます。場所は道場でしたね?」『……! うん! それじゃあ
あやめさん、待ってるからね!』「はい、ちょっと待っていてください」そうして電話を切ったあやめ。
だがどうするというのだ、LIVEバトルと光の練習時間は被っているぞ!
(非常事態ですし、武内殿も許可してくれると思いますが……)

なにやらLIVEバトルと練習を見ることを同時にこなす秘策があるらしいあやめは、その許可をもらいに
部屋に戻り、しばらくして許可を得たのかすぐさま退出して道場へと向かっていった。だが、練習を
見に行ったということはLIVEバトルに参加は……いや、これは!?

「大変ですねえあやめちゃん、練習を見てくれなんて」「いえいえ、慕われているというのはありがたい
物です。昔であれば考えられなかったことでありますし」
ゴウランガ! これは一体どういうことだ! 部屋の中を見てみると、先ほど退出したはずのあやめが
残っているではないか!?

「武内殿も許可をくださって感謝しております」
「道場はLIVEバトル予定地点のすぐ近くにあります。南条さん達がなにか練習される以上、
巻き込まさせないためには……仕方ないことです」
平然としている武内Pとちひろであるが、彼らはあやめがなにをしたか知っているのだろうか。その答えは
無論知っているである。


特にちひろは知っているのだ、ニンジャになにを出来るかを。なぜなら、ここには二人のニンジャがいるのだから。
……二人? あやめは確かにニンジャである、ではもう一人はどこに……? ……おお、まさか!?

「ではアヤメ=サン……行きましょう」「ハイヨロコンデー」
ナムサン! なんたることか! マフラーを使って顔半分を隠したあやめと同じく、武内Pもメンポを
取り出し、顔に装着したではないか! そう、彼もニンジャなのだ! 
武内Pはプロデューサーでニンジャなのだ!

「お二人とも、お気をつけて」ちひろに見送られながら、武内Pとあやめは窓から飛び出してく。「イヤーッ!」
残されたちひろは、もしものことがあった時のために、隠蔽の準備を開始するのであった。


一方、道場であやめの到着を待つ麗奈達三人は、今回の作戦内容の最終確認を行っていた。
作戦の第一段階であるあやめの呼び出しは、光の機転で成功したが、ここからはさらに慎重な行動が
必要となる。「ともかく、アタシが準備したこのレイナサマのスペシャルバズーカ再び改善を命中させることが、
今回のいたずらの絶対条件よ」

かつてあやめによって防がれたいたずらに使用していた物を様々な人たちのアドバイスによって改良して
いった結果、今麗奈の持つそれは、バズーカというにはあまりにも大きく、そして無骨ながらも軽く
狙いもつけやすく扱いやすいというとてもハイテックな代物へと進化していた。

「そのバズーカから発射する水玉であやめさんを水浸しにするんだろ? 外すんじゃないぞ麗奈」
「言われなくても外す気はないわよ。光がちゃんととりもちを使えたらね」さらに麗奈は命中率を
上げるため、武内Pを捕まえることを想定して作成したとりもちを光に持たせていた。

「そのためにあたしが上手くあやめさんの心をえぐる質問をする! ……でもうまくできるかなぁ」
いたずらの道具を持っていない紗南の役割は、ニンポが使えないというあやめの悩みを的確についた質問攻めによって、
光と麗奈がいたずらを仕掛ける隙を作るというもので、実際一番重要な役どころである。

「トークバトルショーで見せたあの勢いはどうしたの! 紗南なら大丈夫よ! このレイナサマが太鼓判を
押してあげるわ!」「……はいはい、麗奈ちゃんのじゃちょっと残念だけど、貰っておくね!」
一瞬流れた不安のアトモスフィアを吹き飛ばす麗奈の勢いに勇気づけられ、紗南は笑みを浮かべる。
「さて、そろそろあやめが来る頃ね。アタシはバズーカを持って隠れるから、二人共、頼んだわよ!」
「ああ!」「うん!」


視線を交わしあって別れた三人は、それぞれ打ち合わせ通りのポジションに付く。光はあやめに練習姿を
見てもらうために道場の中央に位置取り、紗南はそこから離れて壁側に、麗奈は道場内の掃除道具が
収められたロッカーの中にバズーカを持って隠れる。

その直後、道場の入り口が開いてあやめが現れた。「すみません、お待たせしました!」
「お、あやめさん、いらっしゃい!」「光殿、それに……紗南殿?」光の元へと歩いてきながら、
道場内で携帯ゲーム機を持って座っている紗南に気付いたあやめは、不思議そうな表情を浮かべる。

「あの、紗南殿はなんのために?」「電話でも言ったと思うけど、アタシが練習しようとしてる必殺技は
紗南のアイディアなんだ、だから練習にあたって紗南の意見も聞いてもらいたくて」
その言葉を合図に、紗南も行動を開始する。彼女は持っていたゲーム機の画面をちょうどニンジャキャラが
技を発動する直前で止めると、それをあやめへと見せに行く。

「実はあたしが生で見たいだけってのもあるんだけど、光ちゃんにやって欲しい技はこれなんだ」
「どれど……れ……?」ゲーム機の画面を覗き込み、再び再生され始めたキャラの技を見てあやめは
固まる。それはあからさまにニンジャと分かる格好をしたキャラが、無数のスリケンを投げて相手を
浮かせた後、印を結んで雷撃を召喚し相手にぶつけるといるというものであったからだ。

「えーと、これは……」「カッコイイよねこれ! 光ちゃんに似合うスゴイヒーローっぽい技だし!」前日に
大量摂取したスタミナドリンクの影響も再び出てきたのか、紗南の喋りの勢いと熱は増していく。
「こういの色んなゲームでよく見てて、必殺技の欲しい光ちゃんにぴったりだと思ったんだけど、実際に
やってもらうとなるとこれだけじゃイマイチどうやってるのか分からないから、ここはニンジャの
あやめさんに実際やってもらおうと思って!」


「あ、ええと、これはニンポです……よね?」「そうだよニンポだよ! かっこいい! ゲームでも
迫力あってアタシ好きなんだ!」あまりの勢いにもはや演技ではなく素の感想が出始めている紗南で
あったが、それが返ってあやめを追い詰めていく。

「見たいー! すごく見たいー! あやめさん出来るよね! ニンジャなんだからニンポ!」
「えっと、そのですね」「アタシも実際に出来る人のを見れれば練習頑張れると思うんだ! だから
最初に見せて欲しい!」そこに光の追い打ちの言葉! ゴウランガ! 何たる仲の良さからくる
連携プレーか!

「ぐ、ぐぅう……」キラキラとした純粋な眼差しで見られてあやめは怯む。彼女としても使っている
所を見せてあげたいのが本音なのだが、ゲームのようなニンポなど、今のあやめに使うことは出来ない。
「す、すみません。わたくしこういったニンポは……」「え……まさか出来ないの……?」
「ニンジャなのに……?」(ンアーッ!)

光と紗南の落胆の態度にあやめのニューロンは強い衝撃を受けてしまい、それが一瞬表情にも現れてしまう。
あやめが屈辱の表情を浮かべたことを見逃さなかった光は、ここが攻め時だと判断して紗南にさらに
捲し立てるよう合図を送る。

「……! そんなわけないよね、ニンジャだもの、ニンポの一つや二つ出来るよね!」「え、ええと……
あ、火遁! 火遁なら出来ますよ!」なんとかこの場を乗り切ろうと、あやめはどこからともなく竹筒を
取り出すと、それを吹くような動きを見せる。


「……まさかそれで火を吹いて勢い強めるのを火遁なんて言わないよね?」(ギクッ)「しかもそれだと
どっちかっていうと風遁とかになるから絶対違うよね?」(ンアーッ!)
やろうとしていたことを紗南に見破られた上、その間違いを指摘されたあやめのニューロンには再び
強いダメージ! それはついに彼女の身体の動きを止めてしまう!

「今だ! 麗奈ー!」固まってしまったあやめの足元にとりもちを投げつけた光は、巻き込まれないよう
紗南を引っ張ってすぐにその場から離れる。「え……?」呆然としてたあやめはとりもちの感触で
自分を取り戻すが、すでに手遅れだ! 麗奈がロッカーからバズーカを構えて飛び出る!
「これでもくらえぇー!!」

BOOOOOM! まずはスペシャルバズーカ再び改善から放たれた巨大な玉があやめを直撃! 「ンアーッ!?」
その勢いは凄まじく、とりもちごと床から剥がされ吹き飛ぶあやめ! さらに衝撃によって弾けた水玉から
大量の水が津波めいてあやめを襲う! SPLAAAASH! 「ンアーッ!」 彼女はそのまま壁にたたきつけられる!

な、なんという水量か! これほどの量の水を圧縮して発射出来る物を作るなど、麗奈のいたずらへの
執念恐るべし! 

「ヤッター! ついにあやめにいたずらを成功させてやったわー!」101回目にしてついにいたずらが成功した
ことを確信し喜ぶ麗奈。光と紗南もやっと麗奈の努力を実を結んだことに喜ぶも、それ以上にバズーカの
威力が強すぎることに慌て始める。


「ちょ、ちょっと麗奈! いくらなんでもこれまずいって!」「そうだよ、あたし達ここまで威力強いなんて
聞いてなかったんだけど!」狼狽える二人に対し、しかし麗奈は平然としている。「あのね、今まで
信じられない避け方や耐え方してきたあやめにはこれくらいしないとバズーカの弾なんて当たらないし
当たった所で驚くはずないじゃない。だから最高の物を用意したのよ!」

「だからって! ……あれ?」さすがに怒ろうとした光は、ふとあやめの身体の異変に気付いて
目をこする。「どうしたのよ」「……アタシの見間違いじゃなきゃいいんだけど……あやめさんの身体、
ぼやけてきてない?」「「エ?」」

光の指摘に麗奈と紗南も改めてあやめに注目する。確かに言われてみれば、先ほどよりも輪郭が
不鮮明になっているような……。
「あ、あはは……バズーカの威力が強すぎて服が破れちゃったとかそういうことなんじゃないかしら」
「それも問題あると思うけど、でもあれそんなレベルじゃないよ!」

三人の見ている前であやめは更に形を失っていき、ついには粒子状になって完全に霧散してしまう。
「き、消えた……」「ナンデ?」「分からないよ!」まさかいたずらで人が消えるなど想定もしていなかった
麗奈達は、言いようも知れない恐怖を感じ始める。だがスタミナドリンクを大量摂取したことによる
ハイ状態すら沈静化させるその恐怖は、直後さらなる別の恐怖によって上書きされることとなる!



KRAAAAASH! 「アバーッ!」 道場の壁を破壊して、なにかが吹き飛んでくる! 「伏せて!」
光の咄嗟の機転で三人ともなんとか床に伏せ、その飛来してくるものを避ける。そして彼女たちは
飛んできたものがなにかを見る! 人だ! ヤクザスーツを身に纏った人間だ!

「「「ア、アイエエエ!?」」」「……わたくしのブンシンが消されたため、道場にも敵が入り込んで
いたのかと思ったら、まいりましたね」「エ?」さらに破壊された入り口から侵入してくる人物を見て、
麗奈はマヌケな声を漏らしてしまう。その場に立っていたのは。「あ、あやめ……?」


「ザッケンナコラー!」「スッゾコラー!」そこへ新たなヤクザスーツの男達が、恐ろしいヤクザスラング
を叫びながら道場の入り口より侵入してくる! どうやら道場内に吹き飛ばされてきた仲間を救援に
来たらしく、床に伏せている麗奈達には目もくれずに、壁際に立つあやめのみを威圧している。

「スッゾスッゾスッゾコラーーー!!」さらに道場内の男達が威圧している隙をついて、別のヤクザスーツの
男があやめを後ろから急襲! アブナイ! このままではあやめは攻撃を喰らってしまうぞ!

だが! 「Wasshoi!」さらに新たな人物のエントリー! 「アバーッ!」 威圧的メンポを付けた
スーツ姿の男のトビゲリを喰らい、あやめを襲おうとしていたヤクザスーツはあさっての方向へ吹き飛んでいった。

「油断大敵……ではなく、自分が来ることを分かっていましたか」「勿論です。ところでさきほどわたくしの
ブンシンが消された件ですが、どうやら麗奈殿達のいたずらが原因のようです」
威圧的メンポの男は、あやめの報告に驚いて道場内を見る。そして怯えて自分を見る三人の少女と、今だ
ヤクザスラングを口にしつつも仲間を引きずって撤退するか応戦するかで迷っている二人のヤクザスーツを
確認してから、地獄の底から響くような声で警告する。

「去れ、他の仲間はもうすべて片付けた。……それともまだ行うか、LIVEバトルを」
「ソマシャッテコラー……」「コウコスネッゾコラー……」ヤクザスーツの男たちは完全に戦意を
喪失し、倒れた仲間を引きずっていそいそと道場から逃げていく。

もはやなにがなんだか分からない麗奈達は、残ったあやめとメンポの男に視線を向けて、これが
なんなのか尋ねようとする。「すみません」「「「アイエ!?」」」しかし先んじてメンポの男に深々と
オジギをされ謝られてしまい、三人の混乱に更に拍車がかかる。


「巻き込まないように注意していましたが、皆さんを危険な目に合わせてしまい……なんと謝れば」
「ま、待ちなさい! そもそもあんた誰よ! アタシ達の知り合いにあんたみたいなコワイ顔してる
奴なんて……」そこで三人の脳裏に一人の人物の顔がよぎる。それは彼女たちにとって最も頼もしい人物であり、
そしてもしも暴れる時はこんなにも恐ろしいアトモスフィアを放つだろうと納得できる人物であった。

「ま、まさか……」「武内Pなのか……!」「えっと、武内さんとあやめさんがニンジャで、あやめさんは
ニンジャだからいいけどなんだかいつもと様子が違って、武内さんはコワイメンポつけて……ニンジャ?
……ニンジャ!? アイエエエエエ!? ニンジャナンデ!?」 真っ先に恐怖にニューロンを
支配されたのは紗南であった。もはやゲームやカトゥーンの中の存在でしかないと思っていたニンジャを
現実で目の当たりにし、彼女の思考は混濁していく!

「ニンジャ、嘘よ! いるはずがない! いるわけない! あの二人が本当にそんなコワイもののわけ!」
そして紗南の恐怖に感染したかのように、麗奈もニンジャリアリティショックを発症し泣き叫びだす。
光も一見冷静に見えるが、それはもはや親しい人物が本物のニンジャであったことの衝撃と、
ニンジャリアリティショックによる精神へのダメージで声が出せないだけである。それを証明するかのように
彼女たちの足元は!

「イヤーッ!」刹那、麗奈は確かに見る。あやめが色のついた風になる光景を。そして朦朧とする思考を
断ち切る、けれどどこか優しい一撃を首に受けて、彼女の意識は闇に沈んでいった。


893プロダクション撃退から二日後。武内Pは首筋に手を当てながら、ちひろから渡された資料に目を通していた。
「今回の件、お咎めはないと」「はい。お二人が893プロダクションに致命的な損害を与えてくださったため、
今後彼らとの交渉がとても素晴らしい物になることが確定しましたので、そのご褒美といった所でしょうか」
笑顔でENERGYと銘打たれたドリンクを渡してくるちひろ。それを力なく受け取りながらあやめはつぶやく。

「ですが、麗奈殿達を危険な目に合わせた上、ニンジャリアリティショックまで発症させてしまいました。
これもすべてあやめがブンシンの強度を最低にしていたのが原因です……まさか麗奈殿のいたずらで消えるなど」
「それはこちらからの指示のミスですから、あやめちゃんが心配する必要はありません。そもそもあなたの
ブンシン・ジツは実体を伴うのですから、使用は制限されて当たり前なんですよ。それにわざわざCGを使って
ブンシンユニットを作ったのも、こういう時に誤魔化せるようにじゃないですか」

落ち込むあやめの頭の撫でながら、ちひろは笑みを崩さない。武内Pもなにか声を掛けようとするが、
それよりも早くちひろは二人に良い情報を提供する。
「お二人とも元気だしてください。先ほど連絡がありまして、麗奈ちゃんも光ちゃんも紗南ちゃんも、
無事に意識を取り戻し、今こちらに向かっているそうです」「本当ですか!」「はい!」

「良かった……本当に……」「ニンジャリアリティショックの発症からすぐに、あやめちゃんが三人を
気絶させたことが良かったようですね。後遺症もなく、記憶の混乱のほうも、芳乃ちゃんの力を使って
辻褄のあう記憶を作りましたから問題ありません」


記憶操作の点だけは素直に納得出来ずとも、麗奈達が無事であることに武内Pもあやめも安堵する。
ただ二人共、もし三人になにかあったらプロダクションをやめて一生償う覚悟すら決めていたためか、
その表情は嬉しさと共に自分勝手な喜びに打ち震えないように反省している険しさも見て取れる。

「ここの所、ニンジャに耐性のある方ばかりと会っていたため気が緩んでいたようです。今後はニンジャと
なる時、さらに気を引き締めねば……」「同感です。この力で、プロダクションの方を傷つけないためにも……」
「あのぉ~……」険しく重くなっていくアトモスフィアにいたたまれなくなっていくちひろは、時間を
確認して今か今かと扉を見つめる。予定が正しければ、そろそろのはずなのだが……。

バンッ! 

「わっ!?」勢いよく明けられた扉に視線を向けたあやめは、そこに立つ三人の顔見て目に涙を浮かべる。
「ちょっと武内! このレイナサマと光と紗南が入院してて見舞いにもこないってどういう」「麗奈殿!
光殿! 紗南殿! 良かった、本当に良かったぁー!」「ちょ」「うわわ」「ひゃあ!?」

入院見舞いに来なかったことを怒ろうとしていた麗奈は、ものすごい速さで抱きついてきたあやめに
反応できず、そもまま抱きしめられてしまう。側にいた光と紗南も巻き込まれためか、とても暑い。

「わたくし、三人になにかあったらもうどうしようかと……本当に、本当にご無事で!」
「ええい暑いのよ離れなさいよ! そもそもあんたがアタシ達を病院に連れてってくれたんでしょうが!」
「……はて?」なんのことだか分からないあやめは、首を傾げる。


「あれ? アタシ達がいたずらの準備してたら麗奈の作ったバズーカが暴発して、それで倒れてた所を
あやめさんが見つけて病院に連れてってくれたって聞いたんだけど……」どうやら記憶操作で自分が
麗奈達を助けたことになっているらしいと判断したあやめは、罪悪感を覚えつつも話を合わせる。

「アッ、ハイ。本当に驚きました、まさか道場で倒れているなんて思いもしませんから」「でもまさか
いたずらしようとした相手に助けられちゃうなんて。ねぇ麗奈ちゃん、やっぱりあやめさんへのいたずら
もうやめない?」

「なっ……うぅ……確かに紗南と光まで入院させちゃったから、反省はしてるけど……でも」責任を
感じていたとはいえ、いたずらをやめる気まではなかった麗奈は、紗南の提案に素直に頷くことが出来ない。
それ以上に心の何処かでいたずらが成功した感覚が残っていることが、彼女を奮起させていた。

そんな麗奈の心情を読み取ったあやめは、三人の記憶に混乱が生じない程度に宣言する。
「なにを弱気になっているのです。ニンポの使えないニンジャなど油断さえさせてしまえば簡単にいたずらに
引っかかります! あやめはいつでも挑戦を受けますよ! ニンッ!」
「ほんと!? ……じゃなかった、フン! そういう態度がムカつくのよ! いずれあんたはこのレイナサマに
ひれ伏し世界を制するための駒になるんだから、せいぜいいたずらに怯えた日々をすごしなさい! 
アーッハッハッハッ……ゲオゲホ……!」

いたずらをしても良いと本人から許可を得れた麗奈は嬉しそうに笑う。それを見た光と紗南も呆れつつも
つられて笑い、またいたずらに巻き込まれる楽しみに心を震わせる。


(流石ですね……)
重たくなっていたアトモスフィアが一転して朗らかなものに変わったことを静かに喜びながら、武内Pは
立ち上がる。「では、退院祝いとお見舞いに行かなかった罰も含めて、皆さんとなにか美味しい物を
食べに行きましょうか」

「えっ! いいの武内さん!?」「美味しいものヤッター!」「なら高級レストランよ! このレイナサマに
ふさわしいようなとびっきりの高い所よ!」途端に喜びようがました麗奈達を見て、武内Pとあやめとちひろは
顔を見合わせて苦笑する。

これが、ありふれたプロダクションの1日。多くの人を喜ばせる裏で、恐ろしい陰謀や危険な力を持った存在が
蠢き争い合う。けれどそれは決して人の目につくことはなく、闇の中から人々を狙う。
けれど、だからこそ、ここにはいるのだ、笑顔のため、プロデューサーが、ニンジャが!

〈終〉


久しぶりに最初のほうの劇場見直すとレイナサマとアヤメ=サンにはいたずらで結構な因縁ありそうだったもので
そしてニンジャスレイヤー物理書籍版の第2部「キョート殺伐都市」完結記念も兼ねて
長いですが読んでくださった方ありがとうございました

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