犬耳狂化?気狂ひの呪? (46)

「本当は、とうの昔に狂っていたのかも知れないわね」

「あれはただの切っ掛けでしかなかったわ」

「そんな素振りなんて見せなかったでしょ?」

「だって必死に隠していたもの」

「でもね、人は誰しも心に闇を飼っている生きるものよ」



それは人を狂わす病でした


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俺は何を見ているんだ……?

「死んでっ!」ブンッ

「嫌よ」キンッ

女の子が戦っている

しかも、よく見知ったふたりが、である

「いつもいつも、邪魔ばかりしてっ!」ガンッ

「邪魔してたのはどちらかしら?」ドンッ

とめたい、こんな不毛な戦いなんてやめさせたいのに……

しかし、体が石のように重く動かないのだ

だから、俺は目を背けることも出来ずに、ただただ見ていることしか叶わなかった

そんな横たわった俺の顔にふと影がさした

「あのふたりがやったの?」

これまたよく知った顔だ

しかし、いつものあの天真爛漫な、そしてどこか儚げな笑顔ではなく、怒りのせいか酷く歪んだ笑みを浮かべている

そして何より恐ろしいのは、彼女のあの澄んだ瞳の色が全く違うの色なのだ


赤かった


まるで生き血を啜ったように

「許さない……」

違う、違うんだ!

「許さないんだからっ!」

彼女たちにやられた訳ではない!!

「大丈夫、すぐに終わらせるから」

やめろ!!!

あぁ、彼女もまたそちらに行ってしまった


カラン

「終わったよ」

これで貴方は独り占め

ポタポタ

「えへへ、だって頑張ったんだからね」

貴方に誉めてもらいたくて

ヒタヒタ

「ねえ、なにか言ってよ?」

寂しかったから

ピト

「……」

貴方の頬に触れて

ギュッ

「何も言ってくれないなんて」

貴方の手に触れて

ギュー

「つめたいんだね……」

貴方はもう

ホロリッ

「うぅ……」

だからせめて最後に、貴方の大きな手のひらに

ポロポロ

「…………」



ーーそっとあなたの名前を手のひらに呟いた


今は昔、斬巳磨(きりしま)という名の豪族がここ一帯を治めていた時代

この村はかつてない厄災にみまわれた

毒を吐く大蛇が村に住み着き、人々を襲い、そして喰らったのである


それを知った斬巳磨の当主は大蛇討伐がため、ひとりの男を都より呼び寄せた

男は六匹の犬霊を使役する犬神使いであった

当主や男と犬霊、そして村人たちは奮戦した

当主を含む多くの者が無惨に散って逝ったが、最後にはひとりの巫女と五匹の犬霊を道連れに大蛇は死んだのだ

その時の皆の死を悼むべく、犬神使いと村人は町の各所に祠を建て、当主のいなくなった斬巳磨の者は、その祠と大蛇にとどめを刺した宝剣を祭り上げた

そして、この一族は後に祠島(しじま)の名を名乗るようになったのだ


それから長い時が流れた

その頃になると、人々の記憶からこの物語がお伽噺としてさえ忘れ去られ、ひとときの安寧が皆の心を包んでいた

誰もがこの平和な時代が自分の生きている、その間は続くものだろうと信じていたのだ







あの祠から悪夢が滲み出す、その時のまでは





.

貴方の側にはいつもあの子がいました

なんで?

どうして?

なんであの子なの?

でもね、理由は知っていますよ


同じだけど、同じじゃない人だから


だって同じ家族だけど所詮はよそ者ですものね

なんで知っているか、ですって?

こんな小さな町だもの、皆が教えてくれなくとも自然と耳にその話は入ってきます

貴方はあの人を守りたかったのでしょう?



同じ家族として


ええ、貴方の考えはよく理解しておりますよ

それ以下でも、ましてはそれ以上でもないってことは

だから優しい貴方はいつも彼女を気にかけていた

いいえ、それは貴方のせいではありませんから

でも、やっぱり心の奥ではいつもこんな思いがくすぶっているのです

そこは本当はあの人の場所ではないのにって

あの人にそこを盗られて

あの人に奪われたその場所より先に行きたくて

だから、こう願ってしまいました



ーーいつの日か焦がれたあの場所の向こうへ


「では、今季最後の生徒会会議はこれにて終了とする」

「お疲れさまです」

所々寒風の入ってくる古い木造校舎の小さなひと部屋にギィという音が鳴り、皆が席を立つ

しばらく室内は喧騒に包まれていたが、時間がたつにつれ、ひとりまたひとりと数は減っていった

「さて、俺らもそろそろ帰るか?」

机の角に掛けていた鞄を手にとり、表人(ひょうと)はふたつ隣の席に座る女の子に声をかけた

「はい、宗寛(むねひろ)兄様も待っていると思いますしね」

兄のその呼び掛けを待っていましたとばかりに、耳にかかる長い黒髪をかき上げて、詠瑠(えいる)はその大きなふたつの赤眼のまなざしを彼に投げ掛けた

このふたりに表人の弟の宗寛と末っ子の祟羅(たたら)を加えた四人が祠島(しじま)家のご子息とご息女である

祠島家といえば、いにしえよりこの土地周辺を治めていた士族の末裔で、今なおこの地域では影響力の強い一族のことだ

ちなみに今の当主はそこの優男、表人その人であるが、学生という身であるため、一族間の行事や有事の際は専ら、後見人の彼の叔父が取り仕切ることとなっていた


「おー、ふたりとも意外とと早かったなー」

図書室の奥の窓際に座る眼鏡をかけた声の主は兄たちの姿を見つけると気だるそうに返事した

「まあ、行事もしばらくはないからな」

「そうですね」

「よく生徒会なんて面倒臭い仕事なんてするよな?頼まれたって僕なら絶対やらないよ」

「確かに宗寛には無理だろうな」

やれやれと手を上げて表人は図書室から出て行った

「なんだとー」

「兄様、待ってください」

それを追って弟たちもパタパタと慌ただしく図書室を後にしたのだった


「ただいま」

「さて、帰ってきましたよー」

「ただいま戻りました」

三者三用の呼び掛けに、箒やちりとりを肩に担いで雑談していた三人の女中が

「やっと帰ってきたか!」

「おっかえりなさーい」

「およ?三人とも早かったねー」

と、これまた三者三用の返事を返した

「貴方たち、お出迎えくらい普通になさい!」

中まで響く声を聞き、玄関からまた別の女中が現れた

「うへ、埜比(のび)だ」

「逃げる?」

「逃げよう逃げよう」

「こら、貴方たち!?」

先程の女中たちは逃げ出し、埜比といわれたその女性は眉で深い谷をつくり彼女たちを追いかける

それを見た表人はまたやれやれと手を上げたのだった


家の中に入ると、まず表人たちは奥の居間まで出向いた

いつもなら妹の祟羅がいるはずだからだ

すーっとふすまを横に引く

部屋には大きなストーブとコタツが置いてあり、かすかな熱気が表人の頬を撫でた

「あれ?」

いつものコタツに潜った小さな背中が見当たらない

「祟羅がいないね」

「どこにいるのでしょうか?」

さて、困った

いや、さがしているのが違う人であれば他の場所を当たるのだが、相手が祟羅であれば話は別なのだ

彼女は生まれつき体が弱く、学校にも通わずに埜比に勉強を習っているくらいだ

だから普段であれば、この時間は帰ってきてから、ここで遊んでくれる兄の帰りをまだかまだかと待ちわびているはずなのだが……

埜比に聞いてみるか、と思っていたその時である

玄関のほうでバタバタと大きめの音が聞こえた

「なんだろー?」

「行ってみますか?埜比さんかもしれませんし」

表人は、そうだな、と小さく返事をし、玄関に向かった


玄関は喧騒に包まれていた

「なにかありましたか?」

集まっていた何人かの女中のひとりに聞くと、慌てたように

「ああ、表人様」

と言い、悲しむように

「実は祟羅様がお外で倒れたそうで」

と続けた

見るとその何人かの女中の間から長い黒髪と細く処女雪のように白い腕を垂らした、巫女服を着た女の子が埜比に抱えられて横たわっている

「祟羅っ!」

思わず声を荒げて駆け寄った

見ると頭を打ったのだろうか、頭部にタオルが被せてある


「なにがあった?」

その問いを投げ掛けられた埜比は困った顔をして

「私もよくは存じません」

と、ふいに後ろに目をやった

「でも、この子たちが……」

目線を追うと、先程玄関で挨拶を交わした女中三人組みがふるふると震えて立っていた

「なにがあったんだ?」

興奮した口調を極力抑えて話しかける

するとひとりが

「実はさ、埜比に追われて家の裏の森に走って逃げたんだけどね」

と話し始め、またひとりが

「森の入口に祠があるでしょ?」

と続け、最後のひとりもおどおどと口を開いた

「そこにたーちゃんがいたの……」


たーちゃんとはこの三人組みの祟羅の愛称のことである

他の女中は皆、祟羅様と呼んでいる

しかし、この三人に祟羅はよくなついており、祟羅もその愛称を気に入っていたようなので、別段呼び方を直せとは言わなかったのである

まあ、埜比にはその愛称で呼んでいるところを聞かれるとキッと睨まれていたのではあるが


「たーちゃんが祠に向かって手を合わせてお祈りみたいのしてたんだけど」

「急に祠がペカーって光ってさ」

「たーちゃんが倒れたのー」

「これはマズイと思って、私たち」

「たーちゃんの所に走っていったんだけど」

「そこで私たち見ちゃったのー」

そこで三人はお互いの顔を見合って、一呼吸置いて一同にこう言った




「たーちゃんの頭に耳が生えてたの!!」


.


「は?」

表人たちは思わずそう言ってしまった

「だーかーらー」

「頭に耳が生えてるんだって」

「いや、頭に耳があるのは普通だろ?」

と当たり前だろうにと聞き返すと

「むー、そこまで言うなら見てよー」

と、祟羅の頭に乗ったタオルに手をかけ、パッと引き剥がした

それを見た時、目を疑った

「これは……?」

「耳……?」

それは確かに頭に生えていた

しかし、それは人のそれとは違う形をしていた



ケモノのミミだ



それが祟羅の弱々しい呼吸と共に僅かに揺れていた

と、ここまでがプロローグです

読み返すと誤字脱字多いですねえ

そしてスレタイの文字化け……

書き貯めも消えたので遅々と進めていきますので御了承を


祟羅を寝室に運んでから一時間程たった頃だろうか

「んっ」

うなされるような一声と共に彼女の瞳がふわりと半分開いた

まだ状況が掴めないのだろう

天井・壁・兄の顔・握られている手と順番に見て、はっと目を見開いて、最後にまた兄の目を見た

「兄上様……」

と呟いくと、表人はすぐさま手に優しく力を込めた

「心配したぞ」

祟羅もそっと握りかえす

「ご心配お掛けしました」

「いや、無事でなによりだ。それよりも、いったいなにがあったんだ?」

「…………」

彼女はバツが悪そうにまた目を瞑り布団に深く潜ってしまった

しかし、手はしっかりと握ったままだ


「祟羅」

「はい……」

おずおずと顔を掛け布団から半分だけ出した

例のミミはしゅんと後ろに垂れている

「まったく困った妹様だ」

表人は手持ちぶさたな左手で頭を撫でた

「あっ」

不意討ちに祟羅は目を細めた

「こんなミミまで連れて帰ってきて」

「はい?」

「ん?もしかして気付いてないのか?」

パッと立ち上がった表人は祟羅の机の上に置いてある手鏡を持ってきて、祟羅に見てみろと押し付けた

「ななな、なんですか。これは!?」

「やっぱりか」

「なにか頭の上にに付いてます」

「ああ、見た目はケモノのミミのようだな」

ふにふにとつまんでみせた

「あ兄上様、やめてください!」

「痛いか?」

「いえ、痛くはありませんが……」

「そうか」

ふにふにふにふに

「やめてください」

ふにふにふにふにふにふにふにふに

「やーめーてー!」

ひとしきり妹で遊ぶ兄であった


「はー、はー、なにをニヤニヤしているんですか!」

布団の上に正座した祟羅は肩を上下させながら兄に抗議する

「いや、ついな」

「なにがついなんですか!もおっ」

「しかし、そうなるとこれはなんなんだ?」

またミミを触ろうとするが手は空を切った

「やめてください!」

「はいはい。他に変わったら所とかはないのか?」

「ええ、別段変わりは」

「しかし、なんで祠なんて行ったんだ?」

「それは……あっ」

「ん、なにか?」

「首にこんなものが掛かっていました」

「これは、首飾り?」


彼女が取り出したそれは、拳よりひと回り程小さい鉱石が麻でできた紐に通してあるだけの、簡素な作りのネックレスであった

鉱石は六角柱状の形で、半透明の神秘的な物だ
おそらく水晶の類いなのであろう

手に持ち、くるくると回してよく見ると光の加減でやや青みを帯びて光っている


「か、返してください!」

「なんだよ急に」

「それを見られていると、なぜか胸がざわざわします」

嘘ではないのだろう

彼女の頭を見ると、またミミが後ろにぺたんと倒れている

「おかしなことだ」

妹に首飾りを返して、兄はやれやれと肩をすくめた

「ミミと水晶か」

「なんなのでしょうか?」

「わからん」

「うう……」

まだミミは倒れたままだ

身の変化への戸惑いからだろう

少しでも不安を和らげようとポンポンと頭に手のひらを乗せて優しく撫でてやった

「兄上様……」

「まあ、どうにかなるだろ」

「はい!」

目を細くし、微笑みながら彼女は答えた

ミミだけでなく尻尾もあれば、犬のようにパタパタと扇ぐように勢いよく振っていただろうなと兄は思った


ギシッ

不意に部屋の外で床の軋む音が鳴った

「誰か?」

「私です」

霧を晴らすような澄んだ声が返ってくる

「ああ、なんだ詠瑠か」

「はい。入ってもよろしいでしょうか?」

「どうぞ」

急な来客に兄の手が止まったのが余程不服なのか、祟羅が無愛想に返す

「祟羅さんの具合はいかがですか?」

「今起きたところだ。例のミミ以外は別段変わったらことは無さそうだ」

やはり水晶を見られるのは嫌なのだろう

詠瑠が部屋に入る前、懐にさっと隠すのが目の端に見え、そのことは黙っておくことにした

「それは良かったです。では、夕食の仕度が整ったそうですので、いただきませんか?」

「そうだな。祟羅はどうする?」

「食欲がありませんので、わたくしはご遠慮しますね」

「そうか、じゃあ行ってくるな」

「ええ」


ふたりが部屋から離れたのを確認して、祟羅は水晶を真上の白熱灯にかざしてぼーっと眺めていた

半透明の水晶は濁りを増した様に妖しく輝いていた


ーーそれはいつからだったろう、後ろばかり気にして過ごしてた


ヒソヒソと聞こえる、奇異を蔑むような他人の陰口

まるで物珍しい渡来生物を眺めるような好奇の眼差し

だけれど決してハッキリと対面して言わず、互いに目を見ることもしないのです

もしかしたら同じ人としてすら、この人たちは思っていないのでしょうね

どうしてこんな容姿で生まれてきたのか、父や母、と呼ぶべきなのでしょうか?

物心付く前にお亡くなりあそばされた、その方たちに聞きたくても聞けませんし、ましては私たちは血の繋がりが無いのでしょうから、今となっては誰に聞いても、答えは教えてもらえないのでしょう

だから、私は昔からこの金色の髪の毛と赤い瞳が憎かったのです


幼い頃が一番辛かったですね

かといって、家のこともありますから、誰かから手を出されるということはありませんでしたが、友達も出来ず、先生からも腫れ物を触れるように扱われ、周囲の振り撒く言葉や眼差しが、私にはただただ痛かった、そう覚えております

そんな私を、いつも彼は本当の家族同然に守ってくださいました

気にしていた金の髪を黒く染めて、優しくあの櫛でさらさらとすいてくださりました

学校から帰るときはいつも一緒にいてくださいましたね

この赤い瞳が潤む程に、彼のお心遣いが嬉しかったものです


やっと居場所を見つけられた、そんな気分になれました

でも最近は家に帰ると、すっかり彼女をかまってばかりで、私は寂しかったのでしょうね

そんな時にそれに会ってしまって、己の弱さに漬け込まれたのです

やはりそれは、体中を巡ってさえしまえば、心踊り血の沸き立つような、甘美な毒でした

ついに私は私でなくなってしまったのでしょうか?


イチョウの葉を手元まではらりと運ぶ軽やかな風が吹く

皺のない濃い墨色のセーラー服の裾と、膝裏まで伸びた烏羽色に染められた髪がその風でさらさらとそよいだ

三日月よりも細い月夜にその後ろ姿を見ると闇色に溶けて、彼女がそこに本当は存在していないような、そんな危うさが昔から彼女にはあった

「やっぱりここにいたのか」

「月が、見たくて」

嘘だ

こんな真夜中に家から抜け出した理由なんてわかっている

この歳の近い方の妹は、昔からひとりを好んだ

いや、正確にはひとりにならなければ己を守れなかったのだろう

今晩のように分家が集まるときなどは、決まって家から抜け出してここへ来ている

特に今日は気の合わない従姉がいるので尚更だろう


「帰ろう。いくらこの時期とはいえ、さすがに夜は冷える」

「兄様はあの祠はなんのためにあると思いますか?」

妹は少しばかり離れた小さな祠を指差す

「家の裏にある祠は我が家の守り神が奉ってあると聞いているが。しかし、形といい、大きさといい、うちの祠によく似ているよな」

「ええ、きっとあちらの祠にも関係のある物なのでしょうね」

「なにか、あったか?」

今晩の妹はなにか様子がおかしかった


当の本人はこちらの問いかけにも答えようとはせず話続ける

「あちらの祠には神様が奉ってあるそうですね。こちらの祠にも奉られているのでしょうか?」

「ここのは土地神ではなく、仏や菩薩かもしれないぞ」

「いいえ、いるのは神様ですよ」

「なぜわかる?」

彼女は兄の上着の裾を引き、祠の前にある大きな石まで寄ってみせて、土か砂を払うためか石の上をさっさっと撫ぜた

「ここに書いてありますか」

なにぶん闇夜のため、しゃがんで目を凝らさないとなにも見えない

「どれどれ」

なるほど、確かに大小さまざまな文字が彫ってある

かろうじて大きな文字は見えたが、残念ながら草書体のため詳しくは読めない


「いぬかみとみずちをふんず」


不意に後ろから耳打ちされ、驚き振り返ると彼女の首から垂れたイチョウ色のリボンタイが鼻に当たった

淡い桜草の香りがし、黒髪の間からちらりと覗くその白い首筋に小さなふたつの赤い点が見えた

彼女も急に振り向いたことに驚いたのか半歩下がり、しかし、彼女の後ろに佇む細い月のようににこりと微笑んだ

「そろそろ帰りましょうか」

彼女は反転するとゆっくりと歩きだし、やがてするりと闇色に溶けて見えなくなった

桜草の香りはもう残ってはいなかった

オリジナルなのかな?

>>40
いえ、元ネタはあります

エロゲですけれど

伏線等を投げっぱなしにされたのでムシャクシャしてやった

後悔はしていない

設定は元ネタの100年くらい前のお話ということで登場キャラは ほ ぼ オリジナルです


従姉と顔を合わせるのが嫌だった私はまたいつもの如く、家の近くの目的の場所に向かって歩いていました

この少し続く、静かな竹林の獣道を抜けると、開けた場所に小さな泉があります

この泉の脇には小さな祠が建ててあり、その祠の下に大きな石がいくつか並べてあるのですが、そのなかでも膝丈程の丸みを帯びた白っぽい石に腰掛けて月の映る泉を眺めて、後から追いかけて来る兄様を待つのが好きなのです

まるで逢瀬のその時を待つ恋人のよう、なんて

「ふふっ」

つい強張っていた頬も綻んでしまいますね


そういえば、今夜の月はどんな形なのでしょうか?

黄金に輝く満月でしょうか

それとも、優しく光る半月ですかね

もしかしたら、妖しい赤い三日月かもしれませんね

そんなことを考えているとあっと言う間に目的地に着いてしまいます

そして私は見てしまいました

祠の前で巨大な黒い蛇が大きな白い犬と噛みつき合い、絡まり、もつれて闘っている様を

日も暮れかけた緋色の竹林はざわざわと揺れていました


それからいく月かたって、どうにかこの体に慣れて、周りも上手く騙してきました

でも、まさかアノ子もアレを持つようになるなんて思いもしませんでしたね

やはり祠島の血がそうさせるのでしょうか?

「祠島の呪い……ですか」

最近調べてわかったのですが、昔から祠島の家系では、長女が産まれると不治の病や不慮の事故、あるいは奇異の姿で産まれ、やがて死に至る者が多かったとのこと

それは太古に厄災を鎮めるために人柱とされた、ひとりの巫女の呪いなのだと伝えられているそうなのです


だから、私は拾われたの?

あの子の身代わりに呪いを受けるようにと
奇異の赤子を拾ったのでしょうか?

戸を隔ててすぐそこに兄がいます

そっと、ほんの少し戸を開き中を覗きました
後ろ姿の兄は腕を肩の高さまで上げて手を左右に小さく動かしています

「兄上様……」

アノ子の声が耳鳴りのように響き、兄の先にそれが見えました

青く光水晶が

「まあ、どうにかなるだろ」

「はい!」

アノ子の微笑みを見た瞬間、ぱっと頭が真っ白になったのです


いいのかな、もう我慢しなくても

いいかな、邪魔しても

いいよね、壊しても

いいんだね、奪っても

懐に忍ばせた黒い水晶を服の上からきつく握りしめて、私はわざと音の鳴るように、そちらに一歩踏み込みました

ギシッ

狼煙はあげられたのです

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