【安価】リリネット「筋肉で十刃のトップに立つ」【BLEACH】 (183)

安価スレです

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リリネット「ふんぬうううう!」グググ…


彼女の名前はリリネット・ジンジャーバック。第1十刃コヨーテ・スタークの片割れであり従属官でもある。
今は暇つぶしの一環としてスタークと腕相撲をして遊んでいる。


リリネット「うぎぎぎぎぎ……!」ググッ…


スターク「ほい」グイッ


リリネット「うぎゃっ」パタン


当然、腕力でスタークに敵うはずもない。今の敗北を含めずとも、彼女の負け数はもはや両の手で数えられない程に膨れ上がっていた。


リリネット「くそぉ……」ポロポロ


スターク「おいおい、泣くなって……」


破面の中でも特に幼さの目立つリリネット。
彼女には非常に泣き虫であり負けず嫌いでもある。遊びとはいえスタークに負け続けた今の彼女に涙を堪える術などありはしなかった。



リリネット「えぐっ……ぐすっ……」


スターク「落ち着いたか?」ナデナデ


リリネット「うん……」


リリネットの心はえも言われぬ罪悪感にさいなまれていた。
それは改めて己の非力さを実感したことも大きな要因の一つではあったが、今はそれよりもスタークに余計な気苦労をかけさせてしまったことの方で頭がいっぱいになっていた。
日頃はガサツな言動が目立つ彼女だが、その心根は虚に似つかわしく無いほどに優しく繊細なのである。


リリネット「スターク、あたし決めたよ」


スターク「ん?」


リリネット「あたし強くなる!」


この時リリネットは一つの決心をした。
それは強くなること。ただし物理的にである。


リリネット「あたし今日から修行の旅に出るから! たぶん一ヶ月くらいは戻ってこないと思う!」


スターク「は?」


リリネット「そんじゃ!」


いきなり突拍子もないことを言いだしたリリネットに対し、半ば呆気にとられているスターク。
思考が纏まらない間に彼女はそそくさと宮を出ていってしまった。


スターク「まぁあいつのことだ、そんなに無茶なことはしないだろ……」


スターク「たぶん、な……」


リリネットのことがちょっぴり心配なスタークであった。



一ヶ月後


リリネット「うおおおおおおおっ!!!」ダダダッ!


強くなると決心した彼女。
その言葉の通り、今は虚夜宮の外で日々修行に明け暮れていた。


リリネット「ふーっ、ランニング終わり!」


最初のうちは少し走っただけで息切れをおこし倒れこんでいた彼女だったが、今は50kmの距離を全力疾走で駆け抜けることができるほどに成長していた。


リリネット「よし! 今日の修行はこれで終わりかな!」ムキッ


彼女の修行はいたってシンプルであり、筋力トレーニングと走り込みの二つだけである。
走り込みの成果は見ての通りであるが、単純な筋力に関しても今では1000tを超える巨大な岩石を軽々持ちあげられるほどに成長していた。


リリネット「そういえば、そろそろ一ヶ月か……」


リリネット「ようし、じゃあ鍛えに鍛えたあたしの修行の成果を見せちゃおうかな!」ムキッ


リリネット「ってワケでまずは>>↓2するよ!」




リリネット「…………」チラッ


彼女は修行の成果を存分に発揮できそうな相手を考えに考え抜いた。
その結果、十刃の中でも相当な実力者であり尚且つ慈愛の心も併せ持つハリベルが適任であると思いついたのである。
そんなリリネットは今、ハリベルとその従属官が住まう第3の宮の様子を窓から窺っていた。


リリネット(ようし、どうやらアパッチたちはこの部屋にはいないみたい……)


リリネット「とうっ!」ザッ


リリネット(ふふっ、なんだかスパイになった気分!)


誰にも気付かれることなく潜入に成功したリリネット。
ただしその肉体はお世辞にも隠密行動に適しているものだとは言えなかった。


リリネット(さあ、ハリベルのところまで一直線!!)ギュン!



リリネット「たのもーーーーっ!!!!」ドガンッ!


勢いよく扉を開けてハリベルが居ると思われる部屋に入るリリネット。
あまりの勢いに扉から嫌な音が聞こえた気もしたが、彼女は気のせいであると割り切った。


ハリベル「ヤミ……リリネットか。どうした、私に何か用か?」


リリネット「えっと……」


リリネットは全ての事情を説明した。
一ヶ月間修行に励んだこと、その成果を確かめるために闘う相手を探しているということ、他にも色々なことを説明した。


ハリベル「そうか、お前もお前なりに力をつけようと努力をしているのだな」


ハリベル「戦いは私の性分ではないが、ここでお前の意思を無碍にしてしまうのも忍びない」


ハリベル「お前のその頼み、模擬戦という形で引き受けよう」


リリネット「やったーーーーっ! ありがとうハリベルっ!」ムキムキッ


筋骨隆々の肉体で幼さの残る万遍の笑みを浮かべるリリネット。
その笑顔は最早ある種の神々しさすら感じられるものであった。



アパッチ「ってなわけで模擬戦の審判はあたしが務める!」


アパッチ「危ないと思ったらすぐ終わりにするからな、リリネット!」


リリネット「わかってるって」ムキッ


審判はジャンケンの結果アパッチが務めることになった。
ミラ・ローズとスンスンは観客としてこの戦いを見守る権利を得た。


ハリベル「準備はいいか?」


リリネット「おう!」ムキキッ


アパッチ「試合時間は10分! 開始っ!」カーン


試合開始のゴングが鳴る。
先に動いたのはリリネットであった。



リリネット「響転!!」ヒュン


日々の訓練で得た足腰の強さにより、彼女の響転の速度は以前とは比べ物にならなくなっていた。
いとも簡単にハリベルの背後をとる。


ハリベル「!」


リリネット「ふんがっ!!!!」ブンッ



ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!!!!!!!



その拳の一振りはまさしく巨人の一撃。
恐ろしい威力のその一撃はハリベルの立っていた床を見事に粉砕し、その拳圧で周囲の壁にすらヒビが入ってしまうほどであった。
リリネットは後にこのパンチを撃った自身の左腕を「巨人の左腕(ぶらそ・いすきえるだ・でる・でぃあぶろ)」と名付けた。意味は本人も理解していない。


ミラ・ローズ「ハリベル様っ!」ガタッ


スンスン「落ち着きなさいなミラ・ローズ。ハリベル様は今の攻撃など受けてはいませんわ」


スンスンの言葉の通り、響転で背後をとったはいいもののあまりに大振りな一撃だったためハリベルには簡単に避けられてしまったのだ。
おまけに床を粉砕した際の砂埃でリリネットはハリベルの姿を見失っていた。



リリネット「うっ、一体どこに……!」キョロキョロ


ハリベル「動くな」スッ


気付けば既にリリネットの喉元にはハリベルの斬魄刀が押しあてられていた。
この瞬間、リリネットは実質的な敗北を喫したのである。


リリネット「う……あ……」ガクン


敗けという一文字を心に深く刻み込まれたリリネット。
そのショックからか、彼女は膝から崩れ落ちるように倒れこんでしまった。


アパッチ「試合終了!!」カーン カーン


悲痛なゴングが鳴り響く。
リリネットの初めての闘いはわずか数十秒で決着がついてしまうという、彼女にとって非常に屈辱的なものになったのであった。



リリネット「ううっ……」グスッ


ハリベル「惜しかったな、リリネット」


リリネット「うわああああああん!!!!」ビエーン


リリネットは泣いた。ひとしきり泣いた。
悲しみの感情を抑えることなく涙を流すリリネット。その悲痛な姿を見た三人の従属官は、その目に薄っすらと貰い涙を浮かべていた。



リリネット「うっ、えぐっ……」


ハリベル「涙を拭け」スッ


さり気なくハンカチを手渡すハリベル。


ハリベル「そう気を落とすな、リリネット」


リリネット「う……」フキフキ



リリネット「ねえハリベル……」グスッ


ハリベル「どうした?」


リリネット「あたしの修行って、無駄だったのかなあ……」


力なく呟くリリネット。
それもそのはず、一ヶ月間の修行で得た自信がものの見事に打ち砕かれてしまったのだ。ナーバスになるのも仕方がない。
ハリベルの返答を待つリリネット。きつい言葉を投げかけられるだろうとじっと俯いていたが、ハリベルの返答は意外なものだった。


ハリベル「そんなことはない。さっきの一撃をまともに受けていれば私でも相当なダメージを負っていたはずだ」


リリネット「え……」


ハリベル「お前の敗因は探査神経を展開するのを怠ったことだ。索敵は攻撃面でも防御面でも戦闘の基本になる。どれだけ強い力を持っていても相手を認識できなければ何の意味もないのだからな」


ハリベル「それにお前にはその腕力を生かせる速さもある。模擬戦ではお前の力の全てが十分に発揮されていなかっただけだ」



リリネット「ほんとに!?」ムキッ


彼女は泣き虫ではあるが立ち直りも非常に速い。
その立ち直り具合は筋肉の隆起を見ればすぐにわかる。


リリネット「やったーっ! やっぱり無駄じゃなかったんだ!」ムキキッ


彼女の上腕二頭筋が喜びの咆哮をあげる。
仄かに浮き出たその血管からは溢れんばかりのバイタリティが見て取れた。


リリネット「アドバイスまでしてくれてありがとうハリベル! なんだか自信を取り戻せた気がするよ!」ムキムキッ


ハリベル「そうか」


リリネット「じゃあね! また会ったらよろしくっ!」


リリネット「よーし! じゃあこの調子で次は>>↓2をしちゃうかな!」




第5の宮


リリネット「おーっすノイトラ! 久っさしぶりい!」ムキッ


さっきとは打って変わってハイテンションなリリネット。ハリベルに褒められたこともあり、やや自信過剰気味になっているのだ。
そのため第5十刃に向かって大変失礼な口を訊いていることなど本人は全く気付いていなかった。


ノイトラ「あァ……?」


ノイトラ「なんだてめえは、死にてえのか?」ガシャ…


突然現れた見覚えの無い破面の傍若無人な振る舞いに対し、鬼のような形相で自身の武器である大鎌を構えるノイトラ。


リリネット「待って待って! あたしのこと忘れたの!? リリネットだって!」ムキキッ


ノイトラ「…………」スッ


指を地面に当てるノイトラ。彼はこうして地面に指で触れることにより地面越しに対象の霊圧を感知しその強度を測ることができる。
ただし今回の目的は霊圧の強度を測ることではなく霊圧の形を確認することだった。
当然のことながらノイトラの記憶には修行前のリリネットの姿しか残っていない。そのため目の前のこの肉塊が本当に第1十刃の従属官であるのか確認しているのだ。



ノイトラ「どうやら、てめえの言ってることは本当みてえだなァ……」


ノイトラ「だが、第1十刃の従属官がいったい何の用で俺の宮まで来やがった?」ギロッ


リリネット「うっ……そ、そんなに睨まないでよね……」ムキムキッ


彼女の肉体が恐怖からか自衛の形態をとる。
半無意識的に全身の筋肉を肥大化させると同時に硬直させ、己の身を守る肉の鎧を創りだした。ちなみにこの肉の鎧は鋼皮とも複合するため他を寄せ付けない圧倒的な硬度を誇る。


ノイトラ「俺の質問に答えろ」


リリネット「えーっと、あたしと腕相撲しない? なーんて……」


ノイトラ「腕相撲だァ……? てめえが俺に勝てるとでも思ってんのか」


リリネット「うん、ノイトラになら勝てるかなあって」


ちなみにリリネットはこの発言に悪意をこめたつもりは微塵もない。ただ正直な見解を述べたに過ぎないのだ。
ただしノイトラにとっては「お前が相手なら余裕で勝てる」と言っているようにしか聴こえず、結果的に彼の闘志を燃え上がらせることになった。



テスラ「では両者机に肘をついて右腕を前に」


審判はノイトラの従属官であるテスラが務めることになった。


ノイトラ「俺をコケにしやがった報いは受けてもらうぜクソガキ……!」グッ


リリネット「べ、別にコケにしたつもりはないんだけど……」ムキムキッ


テスラ「いきますよ。始めっ!」カーン


始まりのゴングが鳴った。
ノイトラ、リリネット共に自分が負けるとは微塵も思っていない。ただし残念なことに一対一の勝負ごとにおいての勝者は一人だけ。それはすなわちどちらかが必ず敗北するということを意味していた。



リリネット(うっ……! こんなに細身なのになんて力……!)ムキムキッ


ノイトラの見た目に反した怪力に驚くリリネット。


ノイトラ(ちっ、このガキ……! 気ィ抜いたら腕が一瞬で持ってかれちまいそうだ……!)ググッ…


リリネットの見た目通りの馬鹿力に納得するノイトラ。


テスラ(まさかノイトラ様と拮抗するほどの腕力とは……!)


リリネットの腕力にただ驚嘆するばかりのテスラ。
拮抗したこの状況で最初に動いたのはやはりリリネットであった。


リリネット「ふーっ……」


リリネット「BOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOW!!!!!!」ムキムキムキッ!!


言葉では形容しがたい叫び声をあげ全ての力を右腕に集結させるリリネット。
その筋骨隆々な右腕にはアートとも思える美しい血管が右往左往に浮き出ていた。
ちなみに顔は真っ赤っかである。


ノイトラ「!?」ググッ…


ノイトラ(くそっ……俺が、この俺が、こんなガキに敗けてたまるか……!!)


己の斬魄刀に左手を置くノイトラ。








ノイトラ「『祈れ!!』 『聖哭螳蜋(サンタテレサ)!!!』」








ノイトラ「褒めてやるぜ。まさかてめえみてえなガキが俺を刀剣解放させるまでに追い込むとはな……!」


ノイトラ「だがもう終わりだ……! てめえは俺のこの三本の右腕に倒されて敗ける!!」グググッ!!


リリネット(ぐっ……腕が三本ってことは単純に力が三倍に……!)


腕三本vs腕一本。正直ルール違反な気もするが当人たちは必死過ぎてそんなことを気にする余裕は全くなかった。


リリネット「ふふっ……」ムキムキッ


ノイトラ「何笑ってやがる……」ググッ!


リリネットは歓喜していた。今まで実力では全く手の届かなかった十刃、その一人が自分に勝つために帰刃をしてまで全力で闘っている。
ようやく自分の力が認められた。その事実にリリネットはふと笑みがこぼれてしまったのだ。


リリネット「負けないよ……! 本番はここから……っ!!」グッ


リリネット「AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!」ムキムキムキッ!!!


全身の筋肉駆動により身体中の血液を高速循環させアドレナリンを強制分泌。それにより力のリミッターを自力でこじ開けることを可能にした。
これがリリネットが修行の中で身につけた奥の手の一つである。


ノイトラ(コイツ、まだこんな力が残ってやがったのかっ……!)グググッ!!


リリネット(倒れろっ! 倒れろっ! 倒れろおおおおおおっ!!!!!)ムキムキッ!



勝者は? >>↓2




ノイトラ「はぁっ……はぁっ……!」


リリネット「ううっ……」


テスラ「し、勝者ノイトラ様!」


リリネット「ふふっ、負けちゃったか……」


二度目の敗北を喫したリリネット。だがその顔に悲しみの色は無かった。
第5十刃のノイトラと対等に闘えたこと。敗けはしたもののリリネットは不思議な満足感で満たされていた。
だが、それに反してノイトラの中にはやり切れない複雑な感情が渦巻いていた。
従属官を相手に刀剣解放を行い、さらにはルール的にグレーな腕を三本使うという愚行に出てしまったのだ。最早この男の頭からはリリネットに勝ったことなど完全に消え失せていた。


ノイトラ「用はすんだかよ……だったらさっさと出てけ……」


リリネット「え?」


ノイトラ「出てけっつってんだ!!!」


リリネット「ひゃ、ひゃい!」ムキッ


疲れきった肉体を引きずってリリネットはすたこらと宮を後にした。




リリネット「はあ、追い出されちゃったよ……」ムキシュン…


リリネット「でも、なんだかいい気持ち!!」ムキッ


リリネット「ふっふっふ! それじゃあ次は>>↓2をしよう!」




第6の宮


リリネット(よーし……グリムジョーはあたしに気づいてないみたい……)


リリネット(ちょっと脅かしてやろっと!)ムキッ


彼女は今、両手指の握力だけで天井にへばりついている。どうやら何かよからぬことを企んでいるようだ。


リリネット(とうっ!)シュタッ


天井から床に飛び降りるリリネット。
筋骨隆々な肉体の割にはしなやかで俊敏な身のこなしである。


グリムジョー「ん……?」クルリ


リリネット「BAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!」ムキムキッ


彼女はこれでもかと言うほどの大声を出してグリムジョーを驚かせた。
だが不幸なことにリリネットの発した大声は彼女の気配に感づいて振り向きかけたグリムジョーの顔の側面を思い切り叩いてしまったのだ。
凄まじい肺活量から生み出されたその爆音波はグリムジョーの両耳の鼓膜を見事に破壊した。



リリネット「おっすグリムジョー! プロレスごっこやらない?」


グリムジョー(なんだコイツは……!)


もちろんグリムジョーには何も聴こえていない。
そのため、彼にとってのリリネットは宮に奇襲を仕掛けてきた敵という認識で固まってしまった。
それに加えて彼女の今の姿は筋骨隆々。第1十刃の従属官とは似ても似つかない。当然グリムジョーは彼女がリリネットであると気付けるよしもなかった。


グリムジョー(俺の宮に土足で踏み込んでくるたあいい度胸だ……!!)ブンッ!


リリネット「危なっ! まだ始めって言ってないじゃんか!」ヒョイ


グリムジョーの不意打ちをむさ苦しいバックステップで躱す。


リリネット「じゃああたしからいくよ! プロレスは避けちゃダメだからね!」



リリネット「フライング・リリネットッッッ!!!!!!」ブンッ!


強靭な足腰に響転の動きを組み合わせることで生まれた超速の跳躍。現実のプロレス技に置き換えればフライング・ラリアットに近いものだが速度と威力はケタ違いである。
リリネットの乏しい知識から生まれたとは思えない恐怖の殺人技(本人は当然遊びのつもりだが)。そして圧倒的な暴力がグリムジョーを襲う。


グリムジョー(ちっ……!)ヒュン!


響転を駆使してリリネットの一撃を躱す。


リリネット「甘いよッッッッッッ!!!!!」ムキッ!


人体の構造からかけ離れたような動きで急激に方向転換をするリリネット。筋肉の超速膨張で空気を叩くことにより、その反動で叩いた方向とは逆方向に高速で動くことが出来るのだ。
もちろんリリネットは筋肉の超速膨張を五体全てで行うことができるため、無茶な動きもなんなく実行できる。


グリムジョー(っ! 防ぐしかねえ……!)バッ!



リリネット「ふんがっ!!!!!!」メキメキ!!


グリムジョー(ぐお……っ!!)ミシッ


バゴォン! バゴォン! バゴォン!!!


フライング・リリネットの直撃を受けたグリムジョー。当然受け止められる筈もなく数枚の壁を粉砕しながら吹き飛んでいく。
当然この騒ぎにグリムジョーの従属官たちが気付かないワケがなく、もの凄い形相でリリネットの下に向かってきた。


イールフォルト「なんだテメェは!!」ダダッ


ディ・ロイ「侵入者か!」ダダッ


ナキーム「見たことの無い面だ、はぐれ虚か……?」ダッ


しかしリリネットにとって今はプロレスごっこの真っ最中。そのためこの乱入者たちの存在を彼女は所謂「演出」の一つであると認識した。


リリネット(グリムジョーもなかなか粋な演出するじゃん!)


リリネット(よーし! それならこっちも全力で応えないとね!)ムキッ



リリネット「リリネット・ソバット!!」ブンッ


バキッ!!!!!


鋼のような下半身から繰り出される音速の蹴り。
その一撃は寸分の狂いもなくナキームの脳天に直撃した。


ナキーム「」ドサッ


ディ・ロイ「ナ、ナキーム!」


泡を吹いて卒倒するナキーム。だがリリネットの悠然たる暴力は終わらない。


リリネット「次はあなた! リリネットボディプレスッ!」ムキッ


グシャッ!!!


鍛え上げられた腹筋による押し潰し。加速もついたそれは例えればまさに悪魔の一撃。
超重量の肉体から繰り出されたそれはディ・ロイの意識を失わせることなど実に容易なことであった。


イールフォルト「ぐ……!」タジッ


目の前でおこった惨劇に思わずたじろぐイールフォルト。



シャウロン「何事ですか……」


エドラド「どうやら、とんでもねえことになってやがるみたいだな」


イールフォルト「シャウロン! エドラド!」


新たな救援。しかしリリネットにとっては「演出」の人数が増えた程度の認識でしかなかった。


リリネット「響転!!」ムキッ


超速の響転で悠々と三人の背後に回り込むリリネット。ハリベルの背後をとったその響転は並の破面に認識できるものではない。
そして更なる犠牲者の一人目に選ばれたのはエドラド・リオネスであった。


リリネット「ジンジャーバックドロップ!!」ムキキッ


エドラド「うおっ!?」


巨体のエドラドを何の苦も無く持ちあげるリリネット。
そして純粋無垢な暴力による死刑執行が行われた。


バゴォン!!!!!!


後頭部から床に叩き落とされたエドラドはそのまま床を突き破って下のフロアに落ちていってしまった。



シャウロン「くっ、イールフォルト! 撤退だ!!」ザッ


イールフォルト「ちっ!」ザッ


リリネット「逃がさないよっ!!!」ムキッ


悪役レスラーを完膚なきまでに叩きのめしてこそのプロレス。少なくともリリネットにとってはそうであった。
神速の響転がまたも二人を捉える。次の犠牲者はイールフォルトだった。


リリネット「つかまえたっ!」グイッ


イールフォルト「ぐおっ……!」


リリネット「腕ひしぎリリネット固めっ!!!」ムキムキッ


イールフォルト「ぐああああああああああああっ!!!!!!!」メリメリッ


形容しがたい叫び声が響き渡る。
シャウロンはイールフォルトが得体の知れない破面になすがままにやられている姿を見てこう思った。最早これは闘いなどではなく強者による一方的な蹂躙、拷問でしかないと。



リリネット「よーし! これで後はあなただけだね!」ムキッ


シャウロン「!!」


シャウロンは動けない。その原因は彼が久しく感じていなかったとある「感情」によるものだった。
彼の肉体をその場に繋ぎ止めたのは「恐怖」。彼は突如現れた得体の知れない破面に対して己の肉体が硬直してしまう程の恐怖を覚えたのだ。


グリムジョー「そこまでだぜ」ザッ


颯爽と現れたグリムジョー。突然吹っ飛ばされた挙句自分の宮で好き放題の限りを尽くされた彼の怒りは頂点に達していた。


グリムジョー「今のうちにてめえの名を訊いといてやる。名乗れ」


リリネット「えっ?」


リリネットは何故グリムジョーが今更自分の名前を訊くのかということがいまいち理解できなかった。


リリネット「なに言ってんの、あたしリリネットだよ。スタークの従属官のリリネット・ジンジャーバック」


グリムジョー「なんだと……?」


頭の整理が追いつかないグリムジョー。
それもその筈、目の前に立ちはだかる筋肉は自分のことを第1十刃の従属官であると語っているのだ。
しばらく考えたのち彼はこの破面が自分をおちょくってデタラメな返答を返したのだと判断した。一度は収まりかけたグリムジョーの怒りだが、今再びそれは頂点に達した。


グリムジョー「いいぜ、てめえがその気ならこっちも相応の力で応えてやるよ……!」


ここまで馬鹿にされて黙っているグリムジョーでない。
彼はおもむろに自分の腰の斬魄刀に手を掛けた。







グリムジョー「『軋れ』 『豹王(パンテラ)!!!』」







グリムジョーが帰刃してから時間にしておよそ二分が経過した。
ちなみにリリネットは未だにプロレスごっこの延長線上の出来事だと思っている。


グリムジョー「らあっ!!」ブンッ


帰刃形態のグリムジョーの蹴りがリリネットを襲う。


リリネット「ぬうっ!!」ムキキッ


とっさに筋肉を硬めて一点特化の肉の鎧を創りだすリリネット。
だが相手は第6十刃のグリムジョー。その超威力の蹴りがリリネットの肉体に大きな衝撃を与える。


リリネット(くうっ……!)メリッ


苦痛に顔を歪ませながらもなんとか耐えきるリリネット。


リリネット「虚閃っ!!」ドギャアアアン!!!


グリムジョー「!」


次にリリネットが選択したのは虚閃による一撃。ただし本人は毒液の代用品のつもりで撃っている。


グリムジョー「こんなモンが効くかよ!!」バシュッ!


片腕一本で虚閃を受け止めて後方に逸らすグリムジョー。第6十刃の名は飾りではないことが伺える。



グリムジョー「虚閃!!」ドッギャアアアアアアン!!!!


仕返しとばかりに虚閃を放つグリムジョー。やはりと言うべきか威力はリリネットの虚閃を大きく上回っていた。


リリネット「はああああああああッッッ!!!」ムキムキッ


全身の筋肉を膨張させ硬直させるリリネット。
ちなみにこれは虚閃を受け止めるために行ったことではない。彼女が筋肉を硬直させた理由は次の行動ではっきりした。


リリネット「だあっ!!!!」ギュン!!


彼女は虚閃に対して真っ向からぶつかってグリムジョーに接近することを選んだ。つまり先程の行動は防御のためではなく攻撃に転するためのものだったのだ。
得てしてその行動は一つの好機を作りだすことに成功した。


リリネット「捕まえたよっ!!!」ムキムキッ


グリムジョー「なに……!?」ググッ!


突如眼前から姿を現した筋肉に驚くグリムジョー。


リリネット「これで……終わりだっ!!!」ムキムキムキッ!!



勝者は? >>↓2




リリネット「うりゃあああああっ!!!!」ブンッ


リリネットの渾身の一撃がグリムジョーに直撃、するかに思われた。


グリムジョー「舐めんなッ!!」ギュルッ


豹のような身のこなしで身体を翻してリリネットの攻撃をすんでのところで躱すグリムジョー。


リリネット「な……!」


勝負を決めることが出来たはずの一撃を躱され一瞬ではあるが心に動揺が生まれたリリネット。
その動揺により生まれた隙をグリムジョーが見逃すはずもなかった。


グリムジョー「あばよ」シュッ


自身の指を傷つけ血を流すグリムジョー。
スタークの従属官であり第1十刃でもあるリリネットはこの行動が何を意味するのかすぐに理解した。


リリネット(マズいっ……!)ムキムキッ!


リリネットは再び筋肉を膨張させて肉の鎧を創った。
今度は攻撃用のものではなく耐久に重点を置き防御に特化させた超硬質の肉の鎧である。


グリムジョー「王虚の閃光!!!」


ドギャアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!!!!!!!


十刃のみに許された最強の虚閃である「王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)」。
それをまともに受けたリリネットはその衝撃で遥か彼方に飛んで行ってしまった。





リリネット「いててて……」


リリネット「はあ、危なかったあ……」ムキッ


防御に徹したおかげか大したダメージは負っていないようである。


リリネット「それにしてもグリムジョーのヤツっ! プロレスごっこにしてはやりすぎだってーの!!」プンプン


頬を膨らませて怒るリリネット。どうやら未だにあれがプロレスの一環であったと思い込んでいるらしい。


リリネット「ま、いっか!」ムキッ


リリネット「次は気を取り直して>>↓2をするよ!!」





第9の宮


リリネット「おーっすアーロニーロ!」


アーロニーロ「その声は第1十刃の従属官か」「相変ワラズ無駄ニ元気ミタイダネ」


リリネット「えっとさ、いきなりで悪いんだけどここ真っ暗でなんにも視えないんだよね……明かりか何かない?」


そう、第9十刃の宮は他の宮とは異なり基本的に部屋の内部が真っ暗なのだ。
その理由はこの宮に住まうアーロニーロが「陽の光」を苦手としているからである。


アーロニーロ「ちょっと待ってろ」「今ロウソクニ火ヲツケルヨ」シュボッ


仄かな光が宮に灯る。
そして灯りがつくと同時にアーロニーロは一つの疑念を抱いた。それは勿論目の前であぐらをかいてどっしりと座っている筋肉についてである。


アーロニーロ「なあ、お前なんか太ったか?」「チョット前ニ見タ時ハ僕ヨリ小サカッタ気ガスルンダケレド」


リリネット「頑張って修行したからちょっぴり筋肉がついちゃったのかもね!」ムキッ


ちょっぴりどころではない。



アーロニーロ「あー、そういや今更だけどよ」「キミハドウシテワザワザ僕ノ宮ニ来タノ?」


リリネット「あ!」ムキッ


まるで今まで目的を忘れていたかのようなリアクションをするリリネット。事実忘れていたのだが。


リリネット「アーロニーロと一緒に鬼ごっこやろっかなって思って……」


アーロニーロ「鬼ごっこだと?」「コレマタ素ッ頓狂ナ提案ダネ」


リリネットから発せられた突然の提案に首をかしげるアーロニーロ。


リリネット「これには理由があって……」ムキッ


リリネットは第3の宮でハリベルに説明した時と同じく全ての事情をアーロニーロに話した。
ついでにこれまでに三人の十刃と闘ってきたことも説明した。


アーロニーロ「なるほど、つまりお前は自分の修行の成果を試したいってワケだな」「他ノ十刃モキミノ提案ヲ受ケ入レタッテ言ウノナラ、僕ダケ断ルノモ癪ダシ付キ合ッテアゲルヨ」


リリネット「やったあ! ありがとうアーロニーロ!!」ムキムキッ


アーロニーロ「それで」「鬼ハドッチガヤルンダイ?」



鬼はどっち? >>↓1




アーロニーロ(ちっ、この化け物め……!)(コンナコト引キ受ケルンジャナカッタヨ……)ダッ


追われる側に立ったアーロニーロ。十刃である彼が「誰かから逃げている」場面などそうお目に掛かれるものではないだろう。
ちなみにこの鬼ごっこの制限時間は20分。それまでにアーロニーロを捕まえることが出来なければリリネットの敗けである。
鬼ごっこの範囲はアーロニーロの宮の内部及び周辺。アーロニーロは陽の光に当たらないように例の被り物をしている。


リリネット「待てーっ!」ムキッ


迫りくるは純粋無垢な暴虐なる悪魔。
鬼ごっこを楽しむその様相はまさしく地獄の番人である鬼と呼ぶに相応しいものだった。


リリネット「ふんがっ!!」バッ!


バゴォン!!


アーロニーロ(危ねっ!)(コレハ当タッタラ大怪我スルコト間違イナシダネ……)ヒュン


リリネットのダイビングキャッチを響転で躱すアーロニーロ。
アーロニーロを捕まえ損なった彼女は勢い余って壁に激突。当然壁は筋肉の硬度に耐えられず粉々に砕けてしまった。


リリネット「くっそー! じゃあそろそろ本気でいっちゃうよ!!」



鬼ごっこ開始から十五分。
リリネットはここで筋肉のリミッターを一段階解放した。
彼女とアーロニーロを単純な速さで比べたのならば、恐らく軍配は大差でリリネットに挙がるだろう。しかしこれは鬼ごっこであり闘いではない。いくらリリネットが速かろうと逃げに徹する相手を捕まえるのはやはり骨が折れるのだ。


リリネット「ふぅぅぅぅぅ……」ムキッムキッ


下半身の筋肉が凄まじい速度で膨張する。
これがリリネットの奥の手の二つ目。脚部に筋肉と血液を集中させることにより一時的に己の脚力を急激に上昇させることができる。
ただしこの形態は下半身以外の防御能力を大きく低下させてしまうこともあり、通常の戦闘では非常に使いどころを選ぶ諸刃の剣なのである。


リリネット「ぬんっ!!」ダッ!


地を駆ける巨大な筋肉。その圧倒的質量がアーロニーロの身に襲い掛かろうとしていた。


リリネット「見つけたっ!!」ギュンッ!


アーロニーロ(くっ、なんだあの速さは!)(コレハ流石ニマズイネ、防御ニ回ラナキャ僕タチノ命ガ危ナイカモ)


アーロニーロ「虚弾!!」バシュッ!


地面に向けて虚弾を放つアーロニーロ。恐らく埃を巻き上げてリリネットを撹乱しようといった目的だろう。


リリネット「隠れようったってそうはいかないよっ! ペスキスっ!」ムキッ


ハリベルのアドバイスを生かして砂埃の舞う空間でアーロニーロの霊圧を探るリリネット。
どうやら筋骨隆々の見た目とは異なりただの脳筋ではないらしい。


リリネット「捕まえたああっ!!!」ガバッ!


アーロニーロの霊圧を発見し跳びかかるリリネット。神速の肉塊が今、砂埃に浮かぶ第9十刃の影を捕えようとしていた。



リリネットはアーロニーロを捕まえることが出来た? >>↓2




リリネット「ふんぬっ!!」バッ


ズルッ!


リリネット「!?」


突如何かに足下をとられバランスを崩すリリネット。
本来ならば常に地面をがっしりと捉えている彼女の屈強な下半身が足下をとられるなどということはあり得ない。


リリネット(これは、水……!?)


リリネットが足下をとられた原因は紛れもない「水」であった。
ちなみに虚圏には天然の「水」というものが存在しない。そのため彼女がこの「水」というイレギュラーに対処できないのも当然といえば当然ではあった。


アーロニーロ「ったく危なかったぜ……」


そう呟くアーロニーロ。
彼の手には一本の槍。そしてどことなく声色と喋り方が変わったようにも見受けられた。


アーロニーロ「どうだ、なかなかの機転だったろ?」


リリネット「!」ムキッ


この瞬間リリネットはこの水がアーロニーロの能力によって生み出されたものであると推測した。
事実、この水の正体はアーロニーロが過去に「喰虚(グロトネリア)」で喰らったとある死神の能力によるもので間違いなかった。


アーロニーロ「それじゃ、オレは引き続き逃げさせてもらうぜ」ダッ


リリネット「ま、待てっ!!」ムキッ


おぼつかない足取りでアーロニーロを追うリリネット。



アーロニーロ「3…」


アーロニーロ「2…」


アーロニーロ「1…」


鬼ごっこ終了のカウントダウンを始めるアーロニーロ。


リリネット「うおおおっ!!!」ガバッ


間に合わないと理解しつつもアーロニーロを捕まえようと跳びかかる彼女。
だがやはりと言うべきか、必死で伸ばしたその剛腕は無情にもアーロニーロに届くことはなかった。


アーロニーロ「終わりだな、これでちょうど20分だ」


この瞬間、リリネットの筋肉に四度目の敗北という文字が刻まれた。


リリネット「くっ、くっそおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!」


虚夜宮の空、偽りの太陽に向かって悔しさをぶちまけるリリネット。
しかし彼女は悔しさを感じると同時に、己が確実に強くなっているという確かな充足感を得ていた。この感情はノイトラに敗けた時に心に浮かんだものとはまた違うものであった。


アーロニーロ「とりあえず、動き回って疲れたし早いとこオレの宮に戻ろうぜ?」クイッ


そう言ってリリネットを促すアーロニーロ。
被り物をしているとはいえ、陽の光が苦手な彼は疲れもあってか早く自宮に戻りたかったのだ。





リリネット「今回は敗けちゃったけど次は絶対勝つからねっ!」ムキッ


アーロニーロ「まったく生意気な奴だな」「次ニ来タ時ハモットコテンパンニシテアゲルヨ」


リリネット「なにおう!」ムキッ


宮に戻って談笑するリリネットとアーロニーロ。彼女たちの間には鬼ごっこを通じて微かな友情が芽生えていた。


リリネット「そんじゃ! そろそろ行くよ!」


アーロニーロ「ああ、またな」「スタークニモ宜シク言ッテオイテヨ」


リリネット「うん! じゃあね!」ブンブン!


大きく手を振って宮を後にするリリネット。その風圧で宮の壁が軋む。


リリネット「よっしゃ! じゃあ次は>>↓2をしよう!」





第3の宮・周辺


アパッチ「はっ! はっ!」ブンッ ブンッ


己の斬魄刀を一心不乱に振り続けるアパッチ。
彼女は今以上に主君であるハリベルの役に立てるようミラ・ローズ、スンスンと共に修行に励んでいるのだ。


ミラ・ローズ「かーっ疲れたっ! おいアパッチ、スンスン、今日はこのくらいにしとこうぜ」


スンスン「そうですわね。あまり根を詰め過ぎるのも逆効果というもの……」


程よい疲労感をその身に感じたあたりで修行を切り上げることにした三人。
急いでハリベルの下へ戻ろうと思っていた三人だが、そこへ思ってもみなかった来客が現れた。


リリネット「あ!」


そう、先程自分たちの前で大粒の涙を流していた筋肉ことリリネットである。


アパッチ「お! リリネットじゃねえか!」


ミラ・ローズ「どうした、また何かハリベル様に用か?」



リリネット「そういうワケじゃないんだけど……」


ワンテンポの間を置いて一つの提案を言葉にしたリリネット。


リリネット「えーっと、みんなでかけっこしない?」


アパッチ「か、かけっこ?」


聞きなれない言葉にやや驚くアパッチ。


ミラ・ローズ「徒競走ってヤツか、しっかしどうしてまたそんなことやろうと思ったんだ?」


リリネット「うーん……ちょっと気晴らしに、ね!」ムキッ


スンスン「いいですわよ。走ることで私たちの修行にもなりますし、是非やりましょう」


そこそこ乗り気なスンスン。それは彼女のみならず他の二人も同じであった。
この三人は基本的に勝負事が大好きなのである。


アパッチ「やるのはいいけどよー、敗けてもさっきみたいに泣くなよ? リリネット」ニヤッ


リリネット「むっ! もう泣かないってばっ!」ムキッ


戦う前から勝ちを確信しているアパッチ。
アパッチの挑発にやや不満顔のリリネットだが、心の内ではこの勝負を承諾してくれた三人に対して感謝していた。



話し合いの結果、ルールは3km先にある柱に最初に到着した者の勝ちということになった。


アパッチ「よっしゃ! 全員位置についたか?」ザッ


ミラ・ローズ「おうよ、こっちはもう準備万端だぜ」ザッ


スンスン「ではスタートの合図はリリネットにお任せしますわ」ザッ


リリネットにせめてものハンデを与えようと開始の合図を彼女に任せた三人。


リリネット「それじゃ遠慮なくやらせてもらうよ!」ムキッ


全員がクラウチングスタートのポーズをとる。非常にスポーティーで微笑ましい光景であった。


リリネット「位置についてっ! よーい……」


リリネット「どんッッッ!!!!」ムキッ



その時、一陣の風が吹き大地が爆発した。
それは自然現象によるものではなく、一人の鍛え上げられた筋肉により引き起こされたものだった。


リリネット「ふんっっ!!!」ムキムキッ


強靭な脚力で大地を踏みしめるリリネット。
大地とは生きとし生けるものその全てを優しく包み込み支える母なるもの。
しかし、その母なる大地ですらリリネットの莫大なる筋肉量を支えきるには至らなかった。


リリネット「はあっ!!!」ギュン!!


筋肉が動く。
その衝撃で大地は陥没し、砂塵が舞い、また筋肉の超速駆動による影響で生暖かい暴風が周囲に吹き荒れた。
そのまま目に追えぬほどの速度で前方へと進撃する筋肉の塊。その姿を形容するならばまさにそれは無道なる神速の風。


アパッチ「」


ミラ・ローズ「」


スンスン「」


目の前で起きた事態を把握できない三人。どうすればよいのかも分からず言葉を失い立ち尽くしていた。
その数瞬の間に目の前の筋肉は彼女らの前から忽然と姿を消した。





リリネット「ゴール!!」バッ!


孤独なかけっこを終えたリリネット。


リリネット「あれっ? 誰もいない……」キョロキョロ


ようやく異変に気づいた彼女だが時すでに遅し。


リリネット「うーん、みんな先にゴールして帰っちゃったのかな? ちょっと忙しそうだったし……」


的外れの見解を述べるリリネット。しかしこの考えは彼女の他者を気遣う心から来るものであった。


リリネット「ま、仕方ないよね! 今度会った時にお礼言っとこ!」ムキッ


リリネット「それじゃ身体も温まってきたし次は>>↓2をしよう!!」





第4の宮


リリネット「ふうっ……」


リリネットは柄にもなく緊張していた。
それもその筈、これから彼女が挑むのは十刃の中でも高位の破面である第4十刃のウルキオラ・シファーなのだ。
さらにもう一つ、彼女はウルキオラとはあまり話をしたことがないので手合わせの相手をしてもらえるのかどうかとても不安に思っていた。


リリネット「よっし! 悩んでてもしょうがないし行こう!」ムキムキッ


ウルキオラ「そこで何をしている」


リリネット「うひゃあっ!?」ムキッ


不意に現れたウルキオラに驚くリリネット。


リリネット「びっくりさせんなよっ!」


ウルキオラ「俺の宮に無断で侵入したのはお前だ。苦言を呈したいのは寧ろ俺の方だ」


リリネット「うっ」ムキッ


彼の発した言葉がぐうの音も出ない正論であったため言葉に詰まるリリネット。



ウルキオラ「その霊圧、第1十刃の従属官のものか」


霊圧から目の前の筋肉をリリネットであると見抜くウルキオラ。


ウルキオラ「俺に何の用だ」


リリネット「え、えっと……」


そしてリリネットはハリベルやアーロニーロに話した時と同じく事情を逐一説明した。


ウルキオラ「つまりお前は四度の敗北を重ねてなお闘いを求め続け、遂には俺の下へと訪れたというわけか」


リリネット「ま、まあ……そう言われればそうかな?」ムキッ


しばらくの沈黙。
眉一つ動かさないウルキオラの返答を彼女はただじっと待っていた。


ウルキオラ「お前の下らん遊びに付き合うほど俺は暇を持て余してはいない、他をあたれ」クルッ


あっさりと断られるリリネット。



リリネット「待って待って!」ムキッ


当然ここで簡単に引き下がる彼女ではない。どうにか相手をしてもらえるようウルキオラに懇願する。
しかしそんな彼女の願いも無情な一言で一蹴されてしまう。


ウルキオラ「お前と俺では戦いにすらならん。仮に戦ってもただ無駄に霊圧を消費することになるだけだ」


リリネット「なっ! そんなのやってみなきゃ分かんないでしょうが!」


珍しく声を荒げるリリネット。
ウルキオラの真意は汲めないが、リリネットにとって彼の言葉は自身と自身の筋肉を馬鹿にされているように聴こえたのだ。
ただし、それと同時に己の言い分は自己中心的な我儘であること、そして今の状況は面倒事をウルキオラにただ無理やり押し付けているだけであるということも十分に理解していた。


ウルキオラ「そんなところに立っていても何も変わらん。さっさと失せろ」


リリネット「う……」


そのためリリネットはこれ以上ウルキオラに迷惑をかけるのも悪いと思い、諦めて宮を出ようとしていた。
しかしここで彼女はあくる日のスタークとの会話を思い出す。
スタークによればウルキオラは普段は仏頂面だが案外おしゃべりなところもあり、表情には出さないがごく稀に感情的な部分を垣間見せることもあるらしい。
ここからリリネットが見出だした答えは、挑発でウルキオラを煽りそのまま闘う気にさせてしまおうという何とも幼い発想であった。



リリネット「ふっふっふ、あんたもしかしてあたしと闘うのが怖いんじゃないの?」ムキッ


ウルキオラ「…………」


リリネット「敗けたらどうしよう! とか思ってるんでしょ、にひひっ」ムキッ


実に幼稚な挑発である。
もちろんこんな挑発に乗るウルキオラではない。


ウルキオラ「どうやらお前は互いの力の差も押し測れん馬鹿らしいな」


やや呆れたように答えるウルキオラ。
しかし何を言っても退きそうにないこの筋肉に対して先に折れたのは彼のほうだった。


ウルキオラ「少し相手をしてやる。着いて来い」ザッ


リリネット「さすがっ! そう来なくっちゃ!」ムキッ


大喜びのリリネット。
彼女はウルキオラと共に虚夜宮の天蓋の上へと向かった。



リリネット「うわぁ、虚夜宮の中から出るのって結構久しぶりかも……」


彼女の眼前に広がるのは果てなき闇、そして青白い輝きを放ち虚圏全域を照らし続ける大きな月であった。
虚圏の夜は決して明けることはない。そのため彼女が天蓋の上から視ているこの終わりの無い闇こそが本来の虚圏のあるべき姿なのだ。


ウルキオラ「始めるぞ、準備が出来たら俺に声をかけろ」


リリネット「おうっ! もういつでも大丈夫だよ!」ムキッ


リリネットは薄々と理解していた。
何故ウルキオラがわざわざ天蓋を破ってまで虚夜宮の外へと移動したのか。
それは彼が虚夜宮の天蓋の下で禁じられている事項の一つである「第4以上の十刃の刀剣解放」を行うためであると。
それは即ち彼が全力を持ってリリネットの相手をするということに他ならなかった。


リリネット(ふうっ……)ムキッ


全身に力がみなぎるリリネット。
恐らく彼女にとって初めてであろう本当の闘い。彼女はこれから自身が踏み込むことになるであろう未知なる領域に対して筋肉を震わせていた。


リリネット「っしゃあ! どっからでもかかって来いっ!!」ムキムキッ


ウルキオラ「…………」


斬魄刀を抜き胸の前に構えるウルキオラ。刀剣解放の構えである。








ウルキオラ「『鎖せ』 『黒翼大魔(ムルシエラゴ)』」








ウルキオラが何故わざわざ刀剣解放をしてリリネットと闘うことにしたのか。
それは至って単純な理由であり、彼女に実力の差を見せつけることで早々に彼女の戦意を喪失させ闘うことを諦めさせてしまおうと考えていたのだ。
しかし彼のその思惑は奇しくも崩れ去ることになった。


リリネット「ぬうんっ!!!」ブンッ!!


リリネットの鍛え上げられた広背筋による強烈なブーメランフックが空を切る。
当たれば骨が粉砕してしまいそうな地獄の一撃である。


ウルキオラ「…………」ヒュン


彼女の一撃を紙一重で躱しすぐさま手に持った槍でカウンターを入れるウルキオラ。


リリネット「ぬんがっ!!」バキッ!!


振りぬいた拳の反動を利用した超速の後ろ回し蹴りでウルキオラの槍を弾き落とすリリネット。彼女は四度に渡る十刃との闘い(遊び)の中で明らかに成長していた。


ウルキオラ「…………」ズキッ


そう、リリネットは彼が思う以上に強かったのだ。



リリネット「だあっ!!!」ブンッ!


眼にも止まらぬ速さの貫手でウルキオラの右翼を貫くリリネット。
しかしリリネットが必死で与えた傷も彼の超速再生の前では全く無意味なものになってしまう。


ウルキオラ「何だそれは」


リリネット「えっ?」


突然のウルキオラの問いかけに動きを止めるリリネット。


ウルキオラ「お前は先程から俺の手脚と両翼だけを執拗に狙っているようだが、何故急所である頭を狙おうとしない」


リリネット「う……」ムキッ


彼の指摘にリリネットは狼狽えた。そう、彼女は仲間であるウルキオラに頭部や胴体などの急所がある箇所へ己の全力の一撃を加えることを躊躇していたのだ。
ウルキオラは彼女が力の全てを出しきれていないことに気が付いていた。


ウルキオラ「俺を舐めるな、やるならば全力で来い。でなければ……」ヒュッ


リリネット(消えたっ!?)


突如リリネットの眼前から姿を消すウルキオラ。


ウルキオラ「お前の命はない」ブンッ



リリネット「くうっ……!」ボタッ


今までとは明らかに違う移動速度からの一撃。
超反応で何とか身を逸らした彼女は幸運にも左肩を少し切り裂かれただけで済んだ。恐らく避けていなければ今の一撃で首を落とされていたであろう。
本気で自分の命を奪いに来たウルキオラに対して一抹の恐怖を覚えると同時に、彼女は一つの満足感を感じていた。理由は最早言うまでもない。


リリネット(やってくれるじゃん! だったらこっちもホンキの本気で闘ってやる!! そんでもって勝ってやるっ!!)ムキムキッ


左三角筋に力を込めるリリネット。
ウルキオラによって切り裂かれた左肩の傷がみるみる塞がっていく。これが彼女が修行の中で手にした奥の手の三つ目、血液の超速凝固による疑似超速再生である。


リリネット「いくよっ!!!」ギュン!


ウルキオラ「…………」スッ


真正面から突っ込むリリネットに対して、槍を構え直すウルキオラ。


リリネット「だりゃあっ!!」ブンッ!


先程と同じく大振りの右を撃ちこむリリネット。当然のことながら躱される。
しかしここからが違った。彼女はグリムジョーとのプロレスごっこで見せた筋肉の超速膨張による方向転換を駆使して不意の肘打ちをウルキオラに見舞った。


リリネット「ふんっっ!!!!」バキッ!!


ウルキオラ「……!」グラッ


リリネットが放った肘は故意か偶然かウルキオラの顎を的確に打ちぬいた。脳を揺らす一撃をまともに受けたことにより大きな隙が生まれる。


リリネット「ふぅぅぅ……」グググ…


右腕を大きく振りかぶるリリネット。
次の瞬間、メリメリと血管が浮き出た彼女の剛腕による一撃がウルキオラに炸裂した。



リリネット「ふんがぁっ!!!!」バキッ!!!


バゴォン!!!


全力で振りぬいたその一撃はウルキオラをいとも簡単に吹き飛ばし、眼前にそびえ立つ柱に激突させた。
リリネットはたった今このパンチを撃った自身の右腕を「悪魔の右腕(ぶらそ・でれちゃ・で・ひがんて)」と名付けた。もちろん意味や訳など知ったことではない。響きがかっこよければそれで良いのだ。


リリネット「どうよっ! さすがに効いたでしょっ!」ムキムキッ


神々しい笑顔を見せるリリネット。その光輝く笑みはまるで仏のようだった。


ウルキオラ「成程……」


身体に付着した埃を払いながら立ち上がるウルキオラ。その眼はどこか闘争心に満ち溢れているようにも見えた。


ウルキオラ「この程度のレベルについて来れるようになった事が余程気分が良いらしいな」


やや感情がこもった声でそう告げるウルキオラだがリリネットは意にも介していなかった。


リリネット「ふっふっふ、強がっても無駄だよっ! この勝負あたしの勝ちかな?」ムキムキッ


ウルキオラ「そうか、ならば見るがいい、これが……」



ウルキオラがリリネットに見せたものは?(二択)

1、黒虚閃(セロ・オスキュラス)
2、刀剣解放・第二階層(レスレクシオン・セグンダエターパ)

>>↓1から>>↓5までで多かった選択肢




ウルキオラ「これが真の絶望の姿だ」ズッ


リリネット「!?」ムキッ


ウルキオラの姿形が変化すると共に、辺りに異様な空気が流れる。


リリネット(なにこれ……!)ゾクッ


リリネットは己の肉体に何か妙な感覚を感じた。
それはウルキオラから発せられる「異質な霊圧」によるものだった。
空の上に海があるような感覚。なんとも言えない不可思議な感覚をリリネットは全身の筋肉で味わっていた。


ウルキオラ「刀剣解放・第二階層。十刃の中で俺だけがこの二段階目の解放を可能にした」


リリネット「なに馬鹿なこと言ってんの! そんなハナシ聞いたことないよっ!」


そんなものがあるわけがないと叫ぶリリネット。


ウルキオラ「当然だ。藍染様にもお見せしたことのないこの姿をお前が知っている筈もなかろう」


そして最後の忠告であるかのようにリリネットに問うウルキオラ。


ウルキオラ「この姿を目にして未だ闘う意志が在るのか?」


リリネット「…………」


一呼吸して筋肉を落ち着かせるリリネット。
もちろん彼女がこの闘いの勝利を諦めるはずもない。すぐさま彼女は自信満々に言い放った。


リリネット「あるに決まってんでしょうが! あたしはここであんたに勝つっ!!」ビシッ


己の肉体への絶対的な自信。その思いは最早何があろうと揺らぐことのない強固な意志へと昇華していた。


ウルキオラ「いいだろう……」


ウルキオラ「ならばお前のその五体、塵にしてでも解らせてやろう」



超速の肉弾戦が繰り広げられる。
手刀、足刀、貫手、拳撃、蹴撃。顔と顔がぶつかり合う程の距離で行われる泥臭い闘い。
しかしそれはリリネットが致命傷を何とか避け続けていることで成立しているものであり、やはり地力の差はウルキオラと大きく離れていた。


リリネット「はあっ……はあっ……!」ボタボタ


激しい攻防の中、右手右足の腱を切断されてしまい大量出血するリリネット。
一瞬でも隙を見せれば命を失う。この状況では奥の手の疑似超速再生による傷の修復をする余裕など無いに等しいものだった。
後手後手に回る彼女は徐々に追い詰められていく。


ウルキオラ「…………」ヒュッ


ウルキオラの背からのびる長い尾が凄まじい速さでリリネットに襲い掛かる。


リリネット「かあっ!!」ブチィッ!


まだ傷の浅い左腕で迫ってきた尾を引きちぎる。持ち前の筋力は未だ健在であった。
しかし折角力を賭して引きちぎった尾も超速再生により即座に回復してしまう。


ウルキオラ「無駄だ」ブンッ


バキィッ!!!


鈍い音と共にウルキオラの尾による一撃がリリネットの肉体に突き刺さる。


リリネット「げほっ!」ビチャッ



リリネット「ふうっ……」ヨロッ


ボロボロになりながらも立ち上がる彼女。


ウルキオラ「何故立ち上がる。これだけの力の差を目にしても未だ俺を倒せると思っているのか」


リリネット「ふふっ、当たり前でしょ……!」


不敵に笑うリリネット。
それは虚勢によるものではなく、絶対に勝てるという確かな自信から来るものであった。


リリネット「セグンダエターパだか何だか知らないけど、切り札があるのはあんただけじゃない……」


ウルキオラ「何……?」


リリネット「二段階目の解放があんたの切り札だってんなら、見せてあげる……」


リリネット「これがあたしの、レスレクシオンっ!!」


そう言葉を発した次の瞬間、その筋骨隆々の肉体に異変が起こった。
はち切れんばかりの質量を持ったその肉体が傷の回復と共に急速に収縮していったのだ。
肉塊とも形容できたほどの筋肉はなりを潜め、リリネットの身体は修行前の小柄な少女の体型へと回帰した。



リリネット「ふふっ、本当はもっと後に使いたかったんだけどね……」


当然だがこれは正式な帰刃ではない。
本来破面は斬魄刀に力の核を宿しており、それを自らに帰化させることによって刀剣解放を行う。それをリリネットは斬魄刀ではなく己の筋肉に宿したのだ。
その溢れんばかりの筋肉とそこに閉じ込めた霊圧を自らの肉体に収束させることにより、修行後の膂力をその身に残したまま己の全能力を大幅に上昇させることが出来る。
これがリリネットが修行の末に編み出した切り札。まさに彼女だけの帰刃である。


リリネット「さあ、いくよっ!!」


ただしこの強力な切り札には大きな欠点がある。
己の肉体にかかる負荷が凄まじい故、この形態を維持できる時間は多く見積もっても20秒程度しかないのだ。


リリネット「はあっ!!」ギュン!


彼女の移動の影響で空間が歪む。
瞬きをする間もないその一瞬のうちにウルキオラの右腕は彼女によって捻り切られていた。


ウルキオラ(馬鹿な……!)ボタッ


心底驚嘆するウルキオラ。彼がこれほどまでに驚いたのは第4十刃の座に就いて以降初めてのことであったのかもしれない。



しかしウルキオラもすぐさま超速再生を行い腕を修復する。
次の瞬間には再生した彼のその右腕に一本の光輝く槍が握られていた。


ウルキオラ「雷霆の槍……」


雷霆の槍(ランサ・デル・レランパーゴ)。自らの霊圧で生み出した超威力の爆槍を相手に向けて放つ非常に強力な技である。


リリネット「遅いよっっっ!!!」ギュン!


超速の響転で接近するリリネット。
探査神経を軽々とすり抜けるその移動速度は、最早誰の眼にも捉えられるものではなかった。


リリネット「ふぬうっ!!!」ググッ


ウルキオラ「!」


ウルキオラによって槍が放たれる前に彼女は右の掌で雷霆の槍を押さえつけ握りつぶした。爆風が少し漏れる。


リリネット「だあっ!!」ブンッ


さらに身を翻して裏拳をウルキオラの左肩に叩きこむ。
その拳圧の衝撃で左肩どころか左半身が吹き飛ぶウルキオラ。
重過ぎる一撃。それはリリネットの小さな身体から繰り出されているとはとても思えないものであった。


ウルキオラ(ちっ……)ボタボタッ


彼の超速再生は無限のものではない。
いくら他の破面に比べて再生能力に秀でたウルキオラといえど彼の超速再生が及ぶ範囲は脳や臓器以外の体構造のみ。
そのため彼には今の一撃で吹き飛ばされた自身の臓器を再生させることは不可能であった。


ウルキオラ「…………」バシュッ


それでも不完全ながら超速再生を行うウルキオラ。
彼もまた十刃の一人として、従属官であるリリネットに敗けるわけにはいかなかったのだ。


リリネット「決着、つけるよっ!!!」


残り少ない時間の中そう叫んでウルキオラに跳びかかる彼女。そして運命の刻が訪れた。



勝者は? >>↓2




リリネット「うりゃああああっ!!」ガガガガガ!!


容赦のない怒涛の連続攻撃。
一撃一撃が必殺の威力を持つその拳が余すところなくウルキオラにぶつけられる。


リリネット「これで、終わりっ!!」バゴンッ!!


とどめの一撃が直撃する。
最早意識の欠片すら残っていないウルキオラは力無く虚圏の大地へと堕ちていった。


ドシャッ!


リリネット「ふうっ……」ムキッ


長く短かった20秒が終わり彼女の帰刃が解ける。
その瞬間、たった今そこに存在していたはずの可憐な少女の姿は消え、彼女の立っていた場所には精力の滾った厚く巨大な肉塊が悠々と存在感を放っていた。


リリネット「やったやったあぁぁぁぁっ!! 勝ったああっ!!!」ムキムキッ


第4十刃を紛れもない実力で倒したリリネット。
彼女のその喜びようは言葉では言い表せないほどに凄まじいものだった。


リリネット「って喜んでる場合じゃない! ウルキオラはどこ!?」ムキッ


もしかしたらウルキオラはさっきの自分の一撃で死んでしまったかもしれない。
そんな一抹の不安が脳裏によぎった彼女は急いでウルキオラを探しに行った。



リリネット「ちょっとウルキオラ! だいじょうぶ!?」ムキッ


直ぐにウルキオラを見つけて声を掛けるリリネット。


ウルキオラ「止めを刺しに来たか……」


指先を動かすほどの力も残っていないウルキオラは掠れた声でリリネットに話しかける。


ウルキオラ「構わん、お前に敗北した俺に最早意味などありはしない」


リリネット「バカっ! 意味ないワケないでしょうがっ!!」バッチーン!!


自らの命を蔑ろにしようとするウルキオラに対してリリネットは怒りからかビンタを放つ。
仲間を想って放たれた彼女のその一撃は彼が持ち得ないはずの心に大きく響いた。ただし物理的にも大きく響いた。


リリネット「意味のない命なんてないっ! あたしもスタークもあんたや他のみんなが死んじゃったりしたら悲しいのっ!!」


そう、彼女は過去のとある出来事から仲間を失う悲しみを他の誰よりも知っていた。


ウルキオラ「…………」


得も言われぬ感覚に身を包まれるウルキオラ。
薄れゆく意識の中で、彼は日々疑問に感じていた心の在り処を知った気がした。
その時ウルキオラはおよそ彼に似つかわしく無い小さな微笑みを浮かべた。そして彼は虚圏の空に青白く輝く月に身体を照らされながら、その重い瞼をゆっくりと閉じた。


リリネット「どうしたの……?」


仰向けに横たわるその身体はもう動かない。しかしながら彼のその表情はどこか満足げなようにも見えた。




第9の宮


リリネット「かんぱーい!!」カツン!


アーロニーロ「乾杯」「カンパーイ」カツン!


紅茶で乾杯するリリネットとアーロニーロ。リリネットの勝利祝いである。


アーロニーロ「しかしまさかお前があのウルキオラに勝つとはな」「一体ドンナ卑怯ナ手ヲ使ッタンダイ?」


リリネット「むっ、卑怯な手なんて使うかっての! 実力だよ実力っ!」


リリネット「ねっ! ウルキオラ!」


ウルキオラ「…………」ズズッ


包帯でぐるぐる巻きの彼は仏頂面で紅茶を啜る。
彼はアーロニーロとリリネットの迅速な処置により事なきを得たのだ。
ちなみに彼に巻かれている包帯はリリネットが力任せに巻いたものであるため何の意味もない。
実際はアーロニーロが死神の記憶から得た回復用の鬼道である「回道」でウルキオラを治療したのだ。



リリネット「ぷはー!」


紅茶を豪快に飲み干すリリネット。


リリネット「それじゃ、あたしはそろそろいくね!」バッ!


あぐらをかいた状態から宙返りで起き上がる筋肉。完全に大道芸の領域である。


アーロニーロ「待て待て待て」「モウ少シユックリシテイッタラドウ?」ボソッ


リリネット「えーっ、どうして?」ムキッ


アーロニーロ「いや、どうしてって言われてもな」「格上ノ十刃ト二人ッキリッテ結構気ヲ遣ウシ……」ボソッ


何とかリリネットを引き留めようとするアーロニーロ。


リリネット「だーいじょぶだって! スターク曰くウルキオラって結構おしゃべりらしいし! この機会に仲良くなったらどう?」


リリネット「それじゃあねー!」ダンッ!


ノーモーションからのハイジャンプ。立ち幅跳びのような格好で宮から跳び出した彼女はあっという間に姿を消してしまった。


アーロニーロ「お、おい」「待テッタラ!」





リリネット「ふーっ、激闘だったっ!」ムキッ


大きく深呼吸をするリリネット。その勢いで小さな竜巻が発生する。


リリネット「結構長くなっちゃったけどこれからどうしよっか」


リリネット「ん~、決めたっ! >>↓2をしよう!」





第2の宮・入口


リリネット(やっぱり守りが厳重だね、門に見張りもいるし……)


彼女が訪れたのは第2の宮。
かつての虚圏の王、バラガン・ルイゼンバーンの住まう宮である。
そして彼女は今どうやって宮の中に入ろうか考えあぐねていた。今までとは違い入口に見張りの従属官が立っているのだ。


リリネット(バラガンの宮は規律が厳しいって言うし、こそこそ入ったりしたらホンキで怒られるかも……)


悩むリリネット。考えに考え抜いた末に一つの結論へと至った。


リリネット(よっしゃ! これは正面突破しかないねっ!)ムキッ


彼女らしからぬ脳筋の発想であった。


リリネット「あんたたちっ! 門を開けてくれるかなっ!?」ニッ


脅迫なのか疑問形なのかよく分からないイントネーションで門番に話しかけるリリネット。
門番は二人。もちろん眼前に現れたこの意味不明な筋肉に門をくぐらせるはずもない。


ニルゲ「なんだぁお前は……?」ザッ


ジオ「陛下の宮に堂々と踏み入ろうとはいい度胸だな」ザッ


見事に警戒されるリリネット。これではとても通して貰えそうにない。
普通の話し合いでの説得はやはり無理だと判断した彼女は、予定通り肉体言語での正面突破を試みることにした。



リリネット「響転!!」ヒュン!


相変わらずの速さを誇る響転で悠々と彼らの背後をとるリリネット。


リリネット「ふんっ!」グイッ


巨人の左腕でニルゲを、悪魔の右腕でジオを掴み上げる。
その姿はまさに罪人を裁く地獄の支配者。今の彼女は閻魔大王ですら裸足で逃げ出しそうな迫力であった。


ニルゲ「うおっ!?」


ジオ「なっ!」


リリネット「ちょっと痛いかもしれないけど我慢してっ!」ゴッチン!


ニルゲとジオの頭を激突させた彼女。
破壊の剛腕による強制的な同士討ちにより彼らの意識は一瞬で吹き飛んだ。


ニルゲ「」ドサッ


ジオ「」ドサッ


リリネット「それじゃあ進ませてもらうよっ!!」ググッ…


メリメリッ……!!


門を無理やりこじ開けるリリネット。
この門は本来手前に引けば簡単に開くものであるのだが、ただただ前に進むことに集中している彼女はグイグイと門を押して強引に宮の中に入ろうとした。


バキンッ!!


リリネット「よしっ! 開いたっ!」ムキッ



リリネット「ふっふっふ、このまま押し通るっ!!」ダダダッ!


門をこじ開けたテンションのまま宮の内部を走り抜ける。
見知らぬ侵入者に門番がやられたとあっては他の従属官も黙っていない。第6の宮の時と同じくリリネットの下に走り寄って来る従属官。ただし今回は一人であった。


アビラマ「ここは通さねえぞ侵入者!!」ザッ


リリネット「それなら力尽くで行かせてもらうよっ!」ブンッ!


アビラマ「おっとぉ!」ヒュン


軽快なステップでリリネットの一撃を躱すアビラマ。
第2十刃の従属官と言うだけあってやはり実力はそこそこに高いようである。
しかしリリネットにとっては相手がイナゴからバッタに変わったようなもの。動揺することもなく直ぐに二撃目の攻撃へと移った。


リリネット「とうっ!!」ベチンッ!


リリネットのデコピンがアビラマのおでこを襲う。
ちなみにこのデコピンは決して相手を馬鹿にしたものではない。これは指先一つに力を集中させた一点特化の迫撃であるのだ。


バゴォン!!


リリネットのデコピンをまともに受けたアビラマはその身体を数回転させながら壁に激突した。


アビラマ「」ピクピク


泡を吹いて気絶はしているもののどうやら致命傷には至っていないようだ。


リリネット「よっしゃあ! どんどん進むよっ!」ギュン!



ポウ「バラガン様に立てツク侵入者メ……」


次に彼女の前に現れたのは同じく第2十刃の従属官であるポウ。
巷では全従属官の中でも最強クラスの実力を持つと噂される巨大な破面である。


リリネット「でかっ!」


ポウ「アビラマとの闘イは見させてモラタ。いい一撃ダタけど、アレは本物の攻撃じゃァない」


リリネット「なにいっ!」ムキッ


自身の放った技を愚弄されてやや不機嫌になるリリネット。おのずとその肉体に力が入る。


ポウ「本物の攻撃とは、こういうコト言う」ブンッ!


ポウの巨体から放たれる重厚な一撃。
その巨体によるパンチが容赦なくリリネットの肉体に向かっていく。
しかし彼の一撃がリリネットに届くことはなかった。正確に言えば届きはしたのだが結果的に受け止められてしまったのだ。


リリネット「ふっふっふ……」ググッ


ポウ「な……!?」


自身の渾身の一撃を受け止められ驚愕するポウ。
次の瞬間にはポウのその巨体が反転し、宙を舞っていた。


リリネット「なかなかのパンチだけど、筋肉が足りないよっ!!!!」ブンッ!!


ガッシャァン!!!


リリネットの他を超越した腕力で投げ飛ばされたポウはそのまま壁を突き破り宮の外へと飛んで行ってしまった。


リリネット「いっちょあがりっ!!」ムキッ



リリネット「ふう……」


リリネットは立ち止まった。
眼前にそびえ立つのは第2の宮の中でも一際豪華絢爛な装飾が施された巨大な扉。
この先にバラガンがいることは誰の目にも明白であった。


リリネット「ようし、行こう……」


心臓の鼓動が高鳴るのをその身に感じながら、彼女はその引き扉を全力で押した。


メキメキッ……!


バキンッ!


リリネット「開いた……」


彼女はバラガンの座する王の間に一歩足を踏み入れる。
そこで最初に彼女が目にしたのは大きな椅子に威風堂々と腰かける「大帝」バラガン・ルイゼンバーン当人。
そして彼に付き従う従属官二人の姿であった。



リリネット(すごい迫力っ……!)


バラガンの迫力に気圧されながらも彼の前に立つリリネット。その緊迫した空気の中で第一声を発したのはこの宮の主であるバラガンだった。


バラガン「貴様、スタークの小僧の従属官で間違い無いな?」


王の座に腰を掛けながらリリネットに問いを投げかけるバラガン。
何気ないその一言にも彼の持つ威厳や迫力、元虚圏の王の貫録というものが見て取れた。


リリネット「ううっ……」ムキッ


リリネットは先程から常に防御態勢をとっている。
今彼女の身に突き刺さっている緊張感はウルキオラの時の比ではない。彼女のさっきまでのテンションはどこへやら、その顔は今にも泣き出しそうなものになっていた。


リリネット(ふうーっ、ふうーっ、深呼吸深呼吸……)


深呼吸をするリリネット。
本来ならばその衝撃で周囲になんらかの被害をもたらすのだが、それはバラガンから放たれる威圧感と霊圧によって相殺されていた。
そして彼女は筋肉と心を落ち着かせることで何とか平静を取り戻しつつあった。
ようやく彼女はバラガンの質問に答える。


リリネット「その通りだっ、あたしの名前はリリネットっ! そんでもって訊かれる前に言っとくよ! あたしは今日あんたを倒すためにここに来たっ!」


唐突な宣戦布告。
この傍若無人な振る舞いに陛下を神と崇める従属官の二人が反応した。



クールホーン「悪いけど、陛下に対してそんな失礼な口を訊く悪い子を生かしておくワケにはいかないわねぇ」ザッ


フィンドール「陛下を侮辱する無礼者は我々が始末する」ザッ


リリネット「むっ……!」ムキッ


敵意をむき出しにするクールホーンとフィンドール。主君に対してあのような発言をされれば彼らがこうして動くのも無理はない。


バラガン「クールホーン、フィンドール」


突如バラガンが従属官二人に声を掛ける。


バラガン「下がれ。この憐れな小娘にはこの儂が直々に灸を据えてやる」


クールホーン「し、しかし陛下……」


フィンドール「このような下賤な者の相手を陛下自らがすることなど……!」


バラガン「儂の言葉が聞こえんかったか……?」ギロッ


不満げに従属官の二人を睨みつけるバラガン。その瞳は見つめるだけで相手の心の臓を止めてしまいそうなほどに殺気立っていた。
忠義の心からとはいえ、陛下に口答えをしてしまったという事実を改めて認識した彼らは膝をつくと同時に心の底から謝罪の言葉を述べた。


クールホーン「申し訳ありません……!」ザッ


フィンドール「陛下への恐れ多き言動の数々……! 此度の罪、我々は如何なる罰をも受ける所存でございます!」ザッ


バラガン「フン。まあよい、今回は不問にしておいてやる」



バラガン「さて小娘。貴様は今「儂を倒す為にここへ来た」と言ったな」


リリネット「だ、だからなに……?」ムキッ


彼女はいつ飛んでくるか分からない攻撃に備えて防御態勢を取り続けている。


バラガン「幾ら貴様の様な小さき者とはいえ、そう思うに至った理由というものが存在するはずじゃろう。話してみろ」


リリネット「えっ? えっと……」


思った以上に話を聞いてくれそうなバラガンに驚くと同時に安堵するリリネット。
そして彼女はいつもの通り今までの経緯をバラガンに対して説明した。


バラガン「クク、フハハハハハハハハハ……!」


リリネット「な、何がおかしいのっ!」ムキッ


馬鹿にしたような笑いをするバラガンに対して異議を唱える彼女。


バラガン「ウルキオラの小僧を倒した程度の力でこの儂に挑もうとするとは、滑稽滑稽……!」


リリネット「むっ! あんまりあたしを馬鹿にすると痛い目見るよっ!!」ムキムキッ


戦闘の構えを取るリリネット。彼女の肉体に搭載された筋肉が今か今かと闘いを待ち望んでいた。


バラガン「クク……面白い、やってみろ」スッ


かかって来いとでも言うように椅子から立ち上がるバラガン。
その手には斬魄刀すら握られていない。そもそもリリネットのことなど敵と認識していないのだ。


リリネット「敗けても後悔すんなよっ! 吠えヅラかかせてやるーっ!!」ガバッ


最大限の侮辱をかまされたリリネット。その圧倒的な筋肉量を駆使してバラガンに跳びかかる。




リリネット「い、いひゃい……」ボロッ


二分後、そこにはボロ雑巾のように転がるリリネットの姿があった。
そう、いくら彼女がバラガンに攻撃を加えようとしても彼女の打撃はバラガンに当たる直前になるとその速度が急激に減衰してしまうのだ。攻撃など当たるはずもない。
これこそが第2十刃の誇る老いの力。リリネットの筋肉はその力の前に完全なる敗北を喫した。


バラガン「フン。拍子抜けじゃのォ」


リリネット「ズ、ズルいよっ! こんなの反則じゃんか!」


疑似超速再生で肉体の傷を癒やしながらバラガンに怒りをぶちまけるリリネット。
自慢の筋肉が全くと言っていいほど通用しなかったのだ。逆ギレとは言え怒りたくなる気持ちもわかる。


バラガン「何じゃと?」


リリネット「ズルだって言ってんのっ! こんなのどう闘っても勝ちようがないじゃんっ!!」


バラガン「負け犬の遠吠えじゃな。骨にされんかっただけ有り難く思え」


リリネット「くっ……」


あっけなく論破されるリリネット。
しかしどうしてもバラガンに勝ちたい彼女は彼にある一つの提案をする。
それは戦闘においてのハンデの要求か、はたまた全く別の提案か、その内容は貪欲にまで勝利を欲する彼女のみが知ることだった。



リリネットの提案は? >>↓2




バラガン「さァて、そろそろ終いにするかのォ」ガシャ…


身の丈はありそうな巨大な戦斧を手にするバラガン。
幼子を嬲り殺すのも忍びないので、仕置きの一環として腕の一本でも斬り落とすことにしたのだ。


バラガン「覚悟せい」


リリネット「待てっっ!!」ムキッ


バラガン「ほう、どうやらこの期に及んでまだ闘う気があるようじゃな」


戦意を失っていない筋肉を見てやや嬉しそうな表情を浮かべるバラガン。しかしそれもこの一瞬だけだった。


リリネット「すみませんでしたっっっ!!!!」ドゲザッ


バラガン「…………」


鍛え上げられた筋肉の高速駆動によって全力の土下座をかますリリネット。もう恥も外聞もない。
バラガンは肉塊の土下座というまさに滑稽な姿を見て呆れかえっている。


バラガン「フン、命乞いか」


落胆したと言わんばかりにリリネットにそう告げる。バラガンのリリネットに対する認識は筋骨隆々の小娘からただの肉塊へとグレードダウンしてしまった。



バラガン「貴様のような軟弱な破面に用はない。さっさとこの宮から出ていけ」


リリネット「言われなくても出ていきますよっ」ムキッ


やや怒気を含んだ声色で素直ではないがバラガンに従う彼女。
薄っすらと涙を浮かべたその瞳を拭って、彼女はバラガンの居る部屋から出ていこうとした。


リリネット「…………」ピタッ


入り口付近で立ち止まるリリネット。


バラガン「何じゃ」


立ち止まったリリネットに対して言葉を投げかける。


リリネット「バラガンのばーかっ! あたしがホンキだしたらあんたなんて二秒でチョンだからなっ!」ベーッ


振り返って精一杯の虚勢を張るリリネット。
敗けた悔しさからか普段より強い言葉を遣う彼女。今回の敗北はそれだけ彼女にとって屈辱だったのだ。


リリネット「勘違いすんなよっ! これは戦略的撤退ってヤツだっ! 逃げるワケじゃないからなっ!」ダダッ


あくまでもこれは勝利の為の撤退であり、決して逃げるわけではないと念を押しながら部屋から姿を消す。
今回のこの敗北は今までの闘いの中で最もリリネットの筋肉に響いた。





リリネット「くっそーっ、なんだよアレっ! あんなのズルじゃんかよっ!」


リリネット「攻撃しても攻撃しても届かないし当たらないしっ! カウンター食らうしっ!」ムキッ


リリネット「絶対いつかギャフンと言わせてやるっ!」ムキムキッ


そう心に誓うリリネット。その真っ直ぐな瞳には熱い炎がメラメラと揺らめいていた。


リリネット「ふうっ……」


リリネット「よしっ、今の敗けは一回忘れて次は>>↓2するよっ!」ムキッ





リリネット「ふーっ……」ググッ


彼女は今腕立て伏せをしている。
五度に渡る十刃との闘い(遊び)に明け暮れていたせいで筋肉を鍛える暇が無かったため、気晴らしを兼ねた特訓をしているのだ。


リリネット「ふっ! ふっ! ふっ!」グッ グッ グッ


もちろんこれはただの腕立て伏せではない。
彼女の行っている腕立ては逆立ち状態で行うものであり、なおかつ地面との接着面は小指だけという非常に辛いトレーニングになっている。
さらに彼女の場合自重だけでは筋肉に掛かる負荷が全く足りないため、自らの両脚に片方だけで500tはありそうな自作の重りをつけている。


リリネット「よいしょっ! ノルマ達成っ!」ムキムキッ


彼女はこの腕立てを毎日15万回行っている。最初は5回で音を上げていたがいつの間にやらこの回数を軽くこなせるまでに成長した。
ちなみに彼女の腕立て伏せの速度は音速など軽く超えているため、膨大な質量を誇る彼女が上下運動をするたびその衝撃で虚圏全域に小さな地震が起こる。


リリネット「はー! すっきりしたっ!」ムキッ


リリネット「筋肉も温まったし、>>↓2でもするかな!」



>>153

三行目訂正

×五度に渡る十刃との闘い~
○六度に渡る十刃との闘い~



第3の宮


リリネット「おっすハリベル! さっきぶりだねっ!」ムキッ


ハリベル「リリネットか」


リリネットは再び第3の宮に訪れていた。
それはアパッチ達三人に先程かけっこに付き合ってくれたお礼を言うためでもあり、多くの助言をくれたハリベルに恩返しをするためでもあった。


リリネット「あ! 聞いて聞いてっ! あたしあれからね……」


リリネットは嬉しそうに話す。
ノイトラと腕相撲をしたこと。グリムジョーとプロレスごっこをしたこと。アーロニーロと鬼ごっこをして仲良くなったこと。
アパッチ達とかけっこをしたこと。ウルキオラと死闘を繰り広げたこと。バラガンと闘って引き分けたこと。
どれもこれもハリベルのアドバイスがなければあり得なかったことだと彼女は言った。


ハリベル「そうか、お前も頑張ったのだな」


気丈に振る舞いつつも少しだけ照れるハリベル。やはり感謝されるのは嬉しいのだ。


リリネット「それでね、あたしから一つ恩返しがしたいんだけどいいかな……?」


ハリベル「恩返し……?」


気持ちだけで十分に嬉しい。そう言おうとしたがその言葉はリリネットによってかき消される。


リリネット「うん! とりあえず上に着てる服を全部脱いでくれるっ?」ムキッ


ハリベル「!?」


リリネットの発言に驚きを隠せないハリベル。
一瞬断わろうとも思ったが、やはり彼女にはリリネットの厚意を無下にすることは出来なかった。これもハリベルの生来の優しさによるものである。
そして、リリネットによる心からの恩返しが始まった。



アパッチ(おい! こりゃどうなってるんだっ!)カァァ


ハリベルの居る部屋の外で顔を真っ赤にして聞き耳を立てるアパッチ。


ミラ・ローズ(こっちが訊きてえよっ!!)カァァ


同じくミラ・ローズも顔を真っ赤にして部屋の外から耳を扉に押し当てて中の音を聞いていた。


スンスン(…………///)カァァ


いつもは何かと毒舌を吐くスンスンも今日はピタリと押し黙って他の二人と同じく顔を真っ赤にして聞き耳を立てていた。
それもその筈、ハリベルが居る部屋の中から身体と身体が擦れあう音とハリベル自身の妖艶な喘ぎ声が聞こえてくるのだ。


アパッチ(くそっ、これは突入したほうがいいのかっ!?)


顔を真っ赤にしながら部屋の中に入るかどうか悩むアパッチ。


ミラ・ローズ(馬鹿野郎っ! ハリベル様の、その、えっと、あれだっ! とにかく邪魔したらダメだろうがっ!)


彼女の顔も最早ゆでダコ状態である。普段の汚ない言葉遣いからは想像出来ないほどのピュアさであった。


スンスン()カクン


ショックからかとうとう失神してしまったスンスン。何にショックを受けたのかは彼女にしか分からない。



ハリベル「っぁ……リ、リリネット、そろそろ……」


リリネット「ダメだよっ、まだまだ終わらないんだからっ……」ツーッ


リリネットの指がハリベルの背を這う。


ハリベル「っあぁっ……! はぁっ……はぁっ……」


普段の彼女からは想像できないような艶めかしい声を上げるハリベル。
今の彼女にはもう抵抗出来るような力は残っていない。そのため彼女はリリネットに成すがままにされるしかなかった。


リリネット「こっち来てっ……」グイッ


ハリベル「くぅっ……あ、あまり強くっ……!」


ハリベルの細い腰に手を回して自身に引き寄せるリリネット。
身体を密着させたことにより、互いの身体に滲んでいる汗が交じり合う。
強引に身体を引き寄せられたことにせめてもの抵抗を試みる彼女だが、快楽からか手足すら満足に動かせない今の状態ではそれは全く無意味なことだった。


リリネット「だいじょうぶ、あたしが全部やるから……」ギュッ


リリネットは彼女の耳元でそう囁きながらさらに身体を密着させる。彼女のその行為にハリベルは小さな喘ぎ声を洩らす。



アパッチ「おっらぁっ!!!」


ドガァンッ!!!


アパッチ「どこの誰だか知らねえがあたしらのハリベル様になにしてくれとんじゃコラァ!!」


もう我慢ならないと扉を蹴破って入ってくるアパッチ。
威勢よく突入したものの彼女は眼前に広がる光景を見て言葉を失った。


ミラ・ローズ「ハ、ハ、ハ、ハリベル様がっ……」


彼女達の目に移ったのは上半身裸のハリベルがリリネットに強く抱きしめられている姿だった。
しかもそのハリベルは頬を紅潮させ虚ろな目をしながらリリネットに身体の全てを預けている。


スンスン「」


またも気絶するスンスン。
今度は気絶に加えて全身が痙攣しているようだ。彼女は本日二度目の大きなショックを受けた。



アパッチ「リ、リリネットーーっ! お、お前ハリベル様に何をっ……!!」


半泣きになりつつも鬼のような形相でリリネットを問い詰めるアパッチ。


リリネット「なにって、ハリベルの身体をマッサージしてるだけだよ……?」キョトン


ミラ・ローズ「う、嘘つくんじゃねえっ! マッサージならわざわざハリベル様を抱きしめる必要なんてねえだろうがっ!」


ミラ・ローズはそんなもの信じられるかと騒ぎ立てる。


リリネット「そんなこと言われても、柔軟だけはしっかりやっとかなきゃいけないし……」


スンスン「」ブクブク


ついには震えながら泡を吹き出すスンスン。放っておいたらこのままコロッと死んでしまってもおかしくない。


ハリベル「落ち着けお前たち……。リリネットの言っていることは本当だ……」


色っぽい吐息を洩らしながら三人に全ての事情を説明するハリベル。
最初は納得のいかなそうな三人であったが、これがリリネットの厚意で行われたものであると説明すると次第にその誤解も解けていった。



アパッチ「そうだよな! マッサージだよなっ! あたしは最初からそう思ってたぜ!」


最初から知っていたと言わんばかりに大声を張り上げるアパッチ。
もちろんその心の内では先程の出来事が自分の勘違いであったことに安堵していた。


ミラ・ローズ「はっ、あんなに顔真っ赤にしといて良くいうなぁオイ! ホントはやらしいことでも想像してたんじゃねえのか?」


こちらも安堵からかアパッチに対して軽口を叩く。先程までとは違い彼女の顔にも笑顔が戻っていた。


アパッチ「ンだとコラァ! どうせテメーもいかがわしいこと考えてたんだろうがっ!」ガッ!


ミラ・ローズ「お、お前と一緒にすんじゃねえっ!」ガシッ!


顔を真っ赤にして取っ組み合いを始める二人。すぐさまスンスンが仲介に入る。


スンスン「お止めなさいな二人とも、ハリベル様の前でみっともないですわよ」


誤解が解けたことで彼女も元気を取り戻していた。先程まで自動で口から泡を吹き続けるシャボン玉製造機状態であったとはとても思えない。



ハリベル「ありがとうな、リリネット」


リリネット「いいっていいって! さっきのはあたしがやりたくてやったコトだし!」


後ろで騒ぎ立てるアパッチ達三人を尻目に、ハリベルはリリネットに感謝の言葉を述べる。


リリネット「それじゃ、あたしそろそろ行くよ!」


ハリベル「ああ。だがあまり無茶はしないようにな、スタークの奴も心配するだろう」


リリネット「おうっ!」ムキッ


別れの挨拶を済ませて宮の外へと向かうリリネット。
身も心もスッキリとした彼女。ベストコンディションのこの状態で次はどこに向かおうかと考える。


リリネット「ふっふっふ、なんだか調子がいいよっ!」ムキッ


リリネット「よっしゃあっ! それじゃ次は>>↓2をしようかな!」

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