朝潮「制裁」 (693)


~夕暮れの鎮守府~


比叡 「知ってる?」ヒソヒソ

霧島 「今日着任の子でしょ」ヒソヒソ

比叡 「そうそう、提督に怪我させたんだって~」ヒエー

霧島 「あっ・・・い、行きましょう、比叡姉さん」ソソクサ


 廊下を歩く朝潮の顔色は優れない。


加賀 「朝潮、止まりなさい」


 呼び止めた加賀の表情は険しい。


朝潮 「はい、加賀さん」


 立ち止まった朝潮は何を言われるか予期したのか、その暗い顔に一層影が差した。



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加賀 「提督に怪我をさせたそうね」

朝潮 「・・・はい・・・そうです」

加賀 「提督が上に訴えればあなた危険分子として処罰されるのよ、わかってるの?」

朝潮 「提督が」

加賀 「言い訳なんて聞きたくないわ」

朝潮 「・・・」

加賀 「処罰がどういうものかわかってるんでしょうね?」

朝潮 「はい」

加賀 「あなたが処罰されるのは構わないけど」

加賀 「お世話になった孤児院はあなたからの補助金が打ち切られたらどうなるでしょうね?」

朝潮 「・・・」

加賀 「その日の食べ物にさえ困るでしょうけど可愛そうとか思わないのかしら・・・」

朝潮 「・・・」

加賀 「あなたちゃんと聞いてるの? 聞いてるなら睨んでないで返事をして」

朝潮 「・・・はい」


バン

 加賀から放たれた平手打ちは、朝潮の右頬を真っ赤に染めた。


加賀 「返事が遅い・・・」

朝潮 「・・・」

加賀 「・・・」イラッ


バン

 痛みは余り感じない。


加賀 「悪いと思うならすぐ謝りなさい」

朝潮 「すいません」


 赤くなった頬に手を当てる。


加賀 「人の痛みはわからないのに、一人前に自分の痛みは感じるのね」

加賀 「次席卒業か何か知らないけど、ここは訓練学校じゃないの」

加賀 「調子に乗るなら実力を伴ってからにするのね」

朝潮 「はい」

加賀 「追って懲罰を言い渡すわ」

朝潮 「はい」


 加賀は朝潮を睨みつけると、振り返り執務室に戻って行った。

 朝潮の右頬の内出血は消え、痛みもひいていた。



―――――
―――


~執務室~


 提督と秘書官の加賀は机に向かい軍支給のパソコンで報告書と格闘している。


加賀 「駆逐艦の子にブラインドタッチの講習でも開こうかしら」

提督 「報告書の誤字脱字はそのままでいい」

加賀 「?」

提督 「どうせ上はその誤字脱字だらけの報告書に対して俺たちが作る総評しか見ん」

加賀 「なるほど」

提督 「上も報告書を全部見ることなんてとてもできんからな、見るのは総評とかの要点だけだ」

提督 「まぁ・・・かと言ってさぼったり戦果を偽装することには上官は目敏いからな、注意しろよ」

加賀 「そんなに監視が好きなら全艦娘に小型カメラでも付ければいいんじゃないかしら」

提督 「本部に何人用意して何時間かければそれを確認できる? 非効率的だ」

加賀 「比較的安全な本部に人手と時間をかけさせるのは」

加賀 「現場の艦娘に負担をかけるのとは話が違うと思わない?」

提督 「面白い話だな」

提督 「あくまで予算がもっとあればの話だが・・・」


 提督は机の引き出しから煙草を取り出し火をつける。


提督 「報告書が面倒そうな割りに読むのは好きなんだな」

加賀 「違う艦種の動きや所属艦娘の個性もわかるからためになるわ」

提督 「なるほど」


 加賀がモニターから紫煙をくゆらせる提督に視線を移す。


加賀 「余裕がおありのようなのでいいでしょうか」

提督 「なんだ」

加賀 「書類整頓中に提督を押し倒してしまった朝潮ですが」

提督 「んー」スパー

加賀 「注意も行いましたし夕飯抜きの懲罰くらいでいいでしょうか」


 提督は吸いかけの煙草を灰皿に押し付ける。


提督 「出撃禁止や自室謹慎、反省文さえない・・・子供のおしおきか?え?」


加賀 「軍組織とは言え、朝潮はまだまだ子供です!!」

加賀 「違いますか!?」


提督 「加賀にしては甘いな」

加賀 「仰る通りもっと重くしましょうか、後に残るような反省文も書かせて・・・」

加賀 「それでコトが外に漏れたら提督が困るんじゃないかしら」

加賀 「心配しているのよ、私は」


提督 「・・・何か勘違いをしていないか」

提督 「それぞれ作業をしていた時に不注意で朝潮がぶつかってきただけだ」

加賀 「不注意の事故か知りませんけど」

加賀 「新任の艦娘が一向に使われてないなんて異常は・・・」

加賀 「提督の言う目敏い上官は見逃さないでしょうね」


提督 「・・・ふん、わかった・・・出撃禁止も反省文もなしだ。夕飯抜きもいい」

加賀 「賢明な判断かと」

提督 「ただ、お前が考えるようなことはない」

加賀 「私が考えることって、提督が朝潮を襲ったと思ってることかしら」


提督 「何度も言わせるな、そんなことはない」

提督 「愛してるのはお前だけだ」

加賀 「あなたの愛してるという言葉は浅薄ね、龍驤の胸の方がまだ厚みがあるわ」

提督 「女は胸の大きさだけじゃない」

加賀 「あなたの選定基準に関係ないのは胸だけかしら」

加賀 「今度から年齢も付け加えたらどうかしら」

提督 「くだらん言葉遊びを止めろ」

加賀 「遊びじゃなくて本気で言ってるの、わかる?」

提督 「俺が誰に手を出そうと自由だろ?口を出すな!!」

加賀 「自由ね、主力の娘達ほぼ全員に手を出して」

提督 「それで加賀は今まで文句を言ったことがなかったろ」

加賀 「えぇ、そうね」


加賀 「主力の分別ある娘があなたにいくら股を開こうがどうでもいいわ」

加賀 「あなたの病気を看病してるくらいにしか思わない」

加賀 「けど、今回は違うわよね」


提督 「なんだ?」

提督 「体は小さい、世界も狭い少女をたぶらかすことに罪悪感はないかとか」

提督 「人並みなことでも言いたいのか?」


加賀 「・・・」

提督 「罪悪感、一切ないよ」

提督 「加賀はおれをロリコンと間違えてるだろ」

加賀 「違うのかしら?」

提督 「別に朝潮が好きという訳ではない」

提督 「だから、ロリコンがやるように無知につけこんで意のままにするつもりもない」

提督 「俺との経験で朝潮の狭い世界を広くしてやろうというのだ、何が悪い」

加賀 「軍事法廷でそれが通じると思ってるの? 朝潮のために襲いましたとでも?」

提督 「くだらん」

提督 「最前線の鎮守府を死に物狂いで守ってる俺を」

提督 「安全な内地にいるあいつらが裁く権利なんてない!!」

加賀 「どういう理屈よ・・・」

提督 「ふん、俺のお陰で広がった制海圏に地方本部を建てる時には長官にという話もある」

提督 「どうせ海軍の人間は手を出せんさ」

加賀 「海軍は見逃しても、憲兵が来るわよ」

提督 「主力の艦娘とは仲良くやってる積もりだ、丁重にお帰り願うだけだ」

提督 「加賀も守ってくれるだろう?」

加賀 「呆れた、追い返す積もりなの?」


提督 「あぁ、強引なのが売りでな」

加賀 「そうやって強引に制海圏を広げて戦果を稼いだのは事実でしょうけど」

加賀 「他の鎮守府より轟沈する娘が多い問題があるのに長官候補?寝言なら寝て言って欲しいわ」

提督 「激戦区だから轟沈は仕方ない、俺の落ち度じゃない」

加賀 「・・・そうかもね」

提督 「それに長官候補は今の地方本部で営業して得た情報だから確度は高い」

加賀 「営業?」

提督 「俗に言う社内営業だ」

加賀 「わからないから説明してくれるかしら」

提督 「大雑把に言うと、戦果を稼ぐのが通常の営業活動なら」

提督 「部下の艦娘と親交を深めることと地方本部で上官に媚びを売るのが社内営業だ」

加賀 「なるほどね」

加賀 「あなたでも媚びを売ることがあるのね」

提督 「意外か?」

提督 「それで昇進に繋がったり失敗をお目こぼししてもらうことを考えれば安い」

加賀 「媚びってどうやって売るの?」

提督 「高級なお店で接待したりだ」

加賀 「そんなお金どこから出るの?」

提督 「企業秘密だ」

加賀 「そう・・・」

提督 「そんなに不安な顔をするな」

提督 「俺が地方本部長官になったら鎮守府の全員本部付きに昇格させてやる」


加賀 「その前に二階級特進しないことを祈るわ」

加賀 「次に朝潮を襲って本気で抵抗されたら骨一本二本じゃ済まないわよ」

提督 「はっ、そんなことあると思ってるのか?」

提督 「提督や一般人に暴行したら反乱予備で重罪だ」

提督 「それに、これを見ろ」パラ


 提督が執務机を滑らして一束の書類を加賀の前へよこす。


加賀 「これは?」

提督 「訓練学校での朝潮の資料だ」

加賀 「・・・」ペラペラ

加賀 「艤装との同調・武装の具現化、ともに甲。天性の素質があるわね」

加賀 「加えて戦闘訓練の成績も優秀、これ以上ない人材ね」

提督 「こういう優秀な人材が送り込まれるのは上からおれが認められてるってことな訳だが」

提督 「今はそういう能力じゃなくて人物評を見ろ」

加賀 「どの教官からもべた褒めの優等生ね」

加賀 「けどこれ戦闘じゃ意味ないわよ」

提督 「相変わらず戦闘マシーンだな、お前は」

加賀 「あら、私が興味あるのが戦闘だけだと思ってるの?」


 加賀の射抜くような視線は提督を貫いた。



提督 「・・・思ってない」

加賀 「ふふ、話を人物評に戻して続けてくれるかしら」

提督 「あぁ」

提督 「どの教官からも高評価というのは成績だけでどうにもならん」

提督 「後、新任で今日来た時に朝潮はこちらを伺うような目で見ていただろ」

加賀 「そうだったかしら、よく見ているわね」

提督 「艦娘の状況把握も仕事の一つだからな」

提督 「事前に朝潮の書類を見てどんな娘かと思っていたよ」

提督 「それで確信できた」

加賀 「何を?」

提督 「空っぽなんだろ、中身が」

加賀 「若い子なんて少なからずみんなそうでしょ」

提督 「朝潮はその空洞にその時の相手の好むものを入れようとしてる」

加賀 「・・・」

提督 「どう思う?」


加賀 「優等生たろうとしてる感じは受けるわ」

加賀 「ただ、何で今日拒絶されたかの説明になってないわ」

提督 「誰でも初めては怖い、反射的なものだろ? たまたまだ」

加賀 「偶然とかは信じないの・・・一応手は打っておくわ」

提督 「?」

加賀 「それにしても、付き合ってる私の前でよくもそんな話ができるわね」

提督 「本当に愛しているのはお前だけだと言ったろ?」

加賀 「えぇ・・・提督殿」


 提督が椅子から手招きをする。

 それを待っていたかのように加賀の体が滑り出す。

 何度繰り返したかもわからないくらいその動きに迷いも無駄もなく。

 椅子に座る提督に対面する形で座った加賀の唇は提督のそれと絡み合う。



―――――
―――

ご読了有難うございます。
続きは追って書き込みます。

米有難うございます。

誤字がありました。
>>2 を次米に脳内変換お願いします。変更内容は朝潮の台詞「提督」→「司令官」です。

ストーリーに関係しない質問ありましたら全て答えます。
尚、ストーリーと関係すると私が思ったものはスルーします。申し訳ございません。

本日投下分はできていますので、推敲後投下再開します。


加賀 「提督に怪我をさせたそうね」

朝潮 「・・・はい・・・そうです」

加賀 「提督が上に訴えればあなた危険分子として処罰されるのよ、わかってるの?」

朝潮 「司令官が」

加賀 「言い訳なんて聞きたくないわ」

朝潮 「・・・」

加賀 「処罰がどういうものかわかってるんでしょうね?」

朝潮 「はい」

加賀 「あなたが処罰されるのは構わないけど」

加賀 「お世話になった孤児院はあなたからの補助金が打ち切られたらどうなるでしょうね?」

朝潮 「・・・」

加賀 「その日の食べ物にさえ困るでしょうけど可愛そうとか思わないのかしら・・・」

朝潮 「・・・」

加賀 「あなたちゃんと聞いてるの? 聞いてるなら睨んでないで返事をして」

朝潮 「・・・はい」


バン

 加賀から放たれた平手打ちは、朝潮の右頬を真っ赤に染めた。

再開します


~朝潮と荒潮の部屋~


 この鎮守府では駆逐艦の娘は、2-4人部屋だ。このように自分の部屋があればいい方で、

 予算の割けない鎮守府は隣接する港町から家をいくつかお借りして使わせてもらうそうだ。

 荒潮は支給の学習机で本日の遠征の報告書。

 朝潮は二段ベッドの一段目で枕に顔を埋め伏せる形で横になっている。


荒潮 「あらあらそうなの」ウフフ

朝潮 「あらあらそうなのって・・・」モゾモゾ


 枕から顔を離し、顔だけ横に向ける。


荒潮 「私なら喜んで応じてたわ、司令官の秘密を握れるなんて素敵じゃなぁい」


 孤児院育ちという同じ境遇で着任も数ヶ月しか差がない荒潮とは、

 朝に荷物を部屋に運び込む時には仲良くなっていた。

 朝から事件まで、朝潮に鎮守府を案内してくれたのも彼女だ。


朝潮 「あなたねぇ」

荒潮 「それにね、私なんてまだ襲われてないのよ~」

朝潮 「良いじゃない・・・」

荒潮 「それだけ、朝潮ちゃんが魅力的ってことよね」ウフフ



 気付くと荒潮が学習机から、朝潮のいるベッドに腰掛けてきていた。

 そのまま荒潮は興奮したような怯えたような朝潮の背中をさする様に手を乗せた。


朝潮 「っ・・・!!!」ビクッ


 今日襲われたことがフラッシュバックする。


朝潮 「な、何するのよ!!!」



  訓練校では数々の素晴らしい司令官の話を聞き、

  着任初日の仕事が、書類整理という瑣末なものでも司令官と一緒というだけで嬉しかった。

  その司令官が背後から抱き付いてきた感触

  理想から奈落にそのまま引きずり込まれるような感覚、嫌悪感で吐き気がした。

  気付いた時には、司令官を突き飛ばしてしまっていた。



 無意識に突き飛ばしてしまっていた荒潮が床から心配そうな目で見ている。


荒潮 「ごめんなさい、気が利かなくて」アタフタ

朝潮 「わっ私こそごっごめんなさい!!」シドロモドロ



 ベッドから飛び降り、立ち上がる荒潮に手を貸す。

 荒潮の服から埃を落とすため、朝潮が服を軽くはたく。

 終ると朝潮はベッドに腰掛け、荒潮は自分の学習机に戻った。


荒潮 「朝潮ちゃんはこういうこと初めて」

朝潮 「こういうこと?・・・えぇ・・・荒潮もそうでしょ?」


 正確に言うと初めてではない。


荒潮 「私は・・・初めてじゃないわ」


 今も夢に見る。


荒潮 「艦娘になる前よ。昔のことだし気にしなくていいわ~」フフ


 沿岸部の都市が灰燼となり日本の人口が二分の一となった開戦。

 そこで大量に生まれた戦災孤児の一人である朝潮には姉がいた。

 荒潮が当時の姉の姿に重なる。


朝潮 「あなたは絶対に守るわ」

荒潮 「へ?」

朝潮 「いや、なっ何でもないわ」


 振り返った荒潮は何時もの飄々とした顔に淡い朱が注していた。


荒潮 「うふふ、まだ出撃もしてない朝潮に私が守れるかしらねぇ~?」フフフ

朝潮 「同い年だし訓練校でだって次席だったのよ、すぐ追いついて見せるわ!」フンス

荒潮 「期待しているわぁ」フフフ


 お互いに微笑む。


 朝潮は荒潮の飄々とした態度のお陰で少し落ち着きを取り戻しつつあった。


電話 「トゥルルル」

朝潮 荒潮 「!」


 朝潮が取る。懲罰についてのものだと思っている。


朝潮 「はい、朝潮です」

加賀 「加賀です。懲罰の内容が決まりました」

朝潮 「はい」

加賀 「初日ということと、私の注意を持って今回の事件はなかったこととします、以上」

朝潮 「え?」

加賀 「返事は?」

朝潮 「りょ、了解しました」

加賀 「後・・・提督とのやりとりは誤解を生むので他言しないように」

朝潮 (もう一部で広まってるわよ・・・)

加賀 「最後に・・・艦娘が人に暴力を振るうのは夕方に言ったけど重罪よ」

加賀 「今後は絶対に同じことがないようにね」

朝潮 「はい」

加賀 「あなたの働きには期待しているわ、今回の温情処分をばねに一層奮迅なさい」

朝潮 「了解しました」

朝潮 (なんで、非が司令官にあるのに温情処分を有難がらなきゃならないのよ・・・)


 その後2,3語挨拶を交わし電話を置く。

 振り返ると荒潮が微笑んでいる。

 2人用の狭い部屋では電話の内容も筒抜けだ。


荒潮 「お咎めなしでよかったわね~」ニコニコ

朝潮 「当然よ」ブス

荒潮 「抵抗はいいけど・・・暴力を振るうのはやっぱりいけないと思うわ~」

朝潮 「・・・」

荒潮 「艦娘はか弱い女性じゃないのよ~」

朝潮 「確かに司令官より力も強いけど・・・」

荒潮 「そう!だから今度からは逃げるといいと思うわ~」

朝潮 (何か・・・ちゃかされているような)クビカシゲー?

朝潮 「・・・それにしても、加賀さんってどういう人なの? 本当に信じられない!」

荒潮 「この鎮守府最強の艦娘よ~」

朝潮 「え!この鎮守府大和さんいるのに加賀さんが最強なの?!」

朝潮 「って、そういうことじゃなくて・・・」

荒潮 「司令官のいい人よ~」

朝潮 「え?」

荒潮 「艦娘と司令官なら司令官の側に立つ人よ、あの人は」

荒潮 「聞きたいことはそういうことでしょ?」

朝潮 「そっそうだけど・・・」

朝潮 (あの態度にそういう理由が・・・)

荒潮 「強い女が好きなんですって~、司令官」

朝潮 「・・・へ?」

荒潮 「色々関係を持っているそうだけど、今は鎮守府最強の加賀さんが彼女で~」

荒潮 「加賀が来るまでは、その時最強だった大和さんが彼女だったわ~」

朝潮 「それ鎮守府で好き放題するために利用してるだけじゃ?・・・」

荒潮 「そうだと思うわ~」

朝潮 「そうだと思うって・・・」

荒潮 「ギブアンドテイクらしいわ~」

朝潮 「?」

荒潮 「あ、夕飯の時間。早く行かないと~」


 荒潮の言動はふわふわしている。

 朝潮は自分と180度違う荒潮に引っ張られることに嫌な感じどころか心地よさを感じていた。


 荒潮について部屋を出ると、廊下は食堂に向かう艦娘でごったがえしていた。


大潮 「あ! 荒潮さんとうとう同室の子が来たんですね!良かったですね!」

荒潮 「そうなのよ~ウフフ」

朝潮 「は、はじめまして」

霞 「霞よ、よろしく」

大潮 「大潮です、よろしくですー」

龍田 「あら~、新しい子かしら~」

荒潮 「そうなんです~、同室なんで同じ龍田先輩の艦隊で遠征になると思うので宜しくお願いします~」

龍田 「そうなのぉ、よろしくね~」

朝潮 「よ、宜しくお願いします!」(に、似てる・・・)


 そこからは話をしていたら食堂にすぐあっと言う間に着いた。


朝潮 「食堂に軽巡と駆逐艦だけしかいませんね」

荒潮 「艦種でご飯とか入浴は時間がずらしてあるのよ~」

大潮 「大きい鎮守府だからしかたないですよ」

龍田 「朝潮ちゃん、折角だから一緒にみんなに挨拶してまわろっか?」

朝潮 「一緒にしていただけるんですか?」

龍田 「同じ艦隊になるでしょうし、気にしなくてもいいわよ~」

龍田 「大きな鎮守府だから出入りも激しいしこういうときじゃないと自己紹介できないわよ~」

朝潮 「はい!有難うございます!」


―――――
―――


龍田 「こんな感じね~」

朝潮 「やっぱり多いですね」

龍田 「えぇ、一般的な鎮守府よりかなり大きいわ・・・」

龍田 「ドッグとかの増築も優先してもらってるし、保有艦娘の数も他より多いわ」

龍田 「総力戦だから全鎮守府に増築とか増員の話はあるけど~」

龍田 「ここまでうちのように優先して優遇されてる鎮守府は少ないわよ~」

龍田 「噂だと・・・提督が上に賄賂を流してるとか~体を売ってるとか~」

天龍 「こら龍田!何変なこと吹き込んでんだよ!」フフコワ

荒潮 「朝潮ちゃん本気にしないでね~」フフ

朝潮 「ははは・・・」

朝潮 (荒潮もみんなもいい人ばかりだ)


 その夜、朝潮は遠征艦隊で活躍する夢を見た。

 みんなも司令官も笑っていた。

 司令官の事件は自分が過剰反応しただけかもしれない。

 そう信じたいだけだとはわかっていた。


―――――
―――


―――――
―――



 翌朝、ドッグで艤装と初顔合わせ。何の苦労もなく同調し装着する。

 今日は艦隊の配置と任務が告げられるということで、

 艤装を背負ったまま、昨日の楽しい気分のまま、執務室に向かう。



朝潮 「失礼します、おはようございます」バタン

提督 「おはよう、待ってたぞ」

加賀 「おはようございます、朝潮」

提督 「さて、加賀説明を」

加賀 「朝潮の所属は第一艦隊に決まりました」

加賀 「ついては本日鎮守府周辺海域へ初出撃をしてもらいます」

朝潮 「?!」(えっ・・・)

加賀 「何か?」

朝潮 「しっ質問よろしいでしょうか?」

提督 「許可する」

朝潮 「一般的に駆逐艦は主に遠征任務で練度を上げてから実戦部隊に入ると習いました」

提督 「一般論だな」

提督 「まず、実戦部隊が敵艦隊に取り付くのに駆逐艦が重要な役割をするのは知っているな」

朝潮 「はい」

提督 「先日その駆逐艦が二隻轟沈した」

朝潮 (?!)

提督 「その補充を誰にするか選考した結果、朝潮と荒潮が選ばれた」


朝潮 「先日来たばかりで・・・実戦も初めてでご期待に添えるかわかりません」

提督 「謙遜はいい」

提督 「遠征組も練度が高いと言っても実戦経験がないのは変わらない」

提督 「なら、訓練学校で戦闘成績の良い朝潮のようなものを使おうと考えるのは間違っていると思うか?」

朝潮 「いえ・・・」

提督 「加賀、任務の説明に戻れ」

加賀 「朝潮は初出撃ということで・・・わかっているわね?」

朝潮 「はい」


 初出撃は通過儀礼として、中破以上の損傷を受けた状態で写真等の記録が必要になる。

 艦娘に支給される制服は、言うまでもなくかなり頑丈になっている。

 それだけなく、燃え落ち易いその繊維は、見た目で損傷率がわかるようになっていた。

 ただ、損傷に各人むらがある。同調した際の船形防御壁の強度が艤装と人により異なるからだ。

 それを視認できるようにするのが、この通過儀礼の意味である。


加賀 「出撃は私も行きたいけど他に仕事があるので提督と二人で行ってもらうわ」

朝潮 「えっ!?」

加賀 「引率が欲しいなら訓練学校に戻るのね、どうするの?」

朝潮 「す、すいません、出撃させてください」

朝潮 (どういう積もり・・・)

提督 「という訳で行こうか」

加賀 「朝潮は昨日みたいな粗相のないようにしなさいね」

朝潮 「はい・・・」(司令官に言いなさいよ)




―――――
―――



 指揮作戦艇は提督と艦娘が乗り込む足だ。敵艦隊群と接触した際には降りて戦う。

 艦隊の旗艦は自分だけでなく指揮作戦艇もかばいながら戦わねばならない。


 指揮作戦艇は素晴らしい速度で走り危険海域まで朝潮と提督を運んでいた。

 艇内は、艦娘が艤装を付けたまま6人と提督が入るスペースに、深海棲艦のコアを収容する格納庫も備わっている。

 決して狭くはない艇内であったが、司令官と二人で密室にいるのが耐えられない朝潮は甲板で風に吹かれている。



提督 「朝潮、艤装との同調の具合はどうだ?」


 提督が操舵席から声をかける。


朝潮 「好調です、いい艤装ですね」


提督 「旗艦のヲ級コアから精製した艤装だからな」

朝潮 「やはり強い深海棲艦からは強いコアが?」

提督 「そういうことは学校で習わないのか?」

朝潮 「はい、適性を見て・・・後は最低限の戦闘訓練のみです」

提督 「まぁ、数ヶ月の訓練ではそんなものか」

提督 「先ほどの質問だが、強い敵のコアほど精製時に強力な艤装を生みやすい」

朝潮 「勉強になります」

提督 「そうだな、折角だから学校で習わない俺の鎮守府の実戦理論についていくつか教えておくか」

朝潮 「はい」

提督 「実戦で何より大事なのは落ち着いて状況を把握することだ」

提督 「必要な状況は三つ」

提督 「一個目、自分の体調。これは艤装との同調や武装の具現化に関わるから説明するまでもないな」

提督 「二個目、風速・波の高さ・潮流という気象条件。この鎮守府の海域は特にこの気象が激しい」

提督 「自分の砲雷撃はずれるし、敵の着弾も予想以上に曲がってきて避けるのが難しいことがある」

提督 「これは出撃前に簡単に情報を伝える、自分が向いてる方向を常に意識してどうずれるか一瞬でわかるようになれ」

提督 「最後に戦況だ、ざっくり言うと仲間と敵の位置情報とこれからどう動いて攻撃し、してくるかだ」

提督 「これは経験がものを言う、鎮守府に戻ったら報告書の山を部屋に送るから読め」

朝潮 「な、なるほど・・・」

提督 「どうした? 驚いた顔をして」

朝潮 「いっいえ、何でもありません」

とりあえず提督のビジュアルイメージは伊藤誠でいいかな


提督 「まぁいい。加えて、駆逐艦である朝潮に求められることが三つある」

提督 「動け、旗艦を庇え、大破するな、だ」

提督 「自分の向く方角の把握は、目印がない海上という場所に加えて運動量の多い駆逐艦に一番難しい」

提督 「把握するために足を止めたり動きが緩慢になる奴もいる」

提督 「ただ、それだと駆逐艦の一番の強みであるアシを殺す」

提督 「アシを使ってとにかく動け、敵をかく乱し、指揮作戦艇といて動きの鈍い旗艦を庇い、攻撃を避けろ」

提督 「これが俺の駆逐艦運用理論だ」

提督 「最初はこまめに指示を出してやる」

提督 「俺の元にいれば、いずれは自分で考えられるようになり、最後には勝手に体が動くようになる」

朝潮 「勉強になります!」キラキラ

提督 「見直したか?」ニヤ

朝潮 「・・・」イラ


 理想の司令官像を見た朝潮の目は歳相応な輝きを見せていた。いや、見せてしまっていた。


朝潮 (なんでこんな奴に・・・)

提督 「ふん、レーダーに敵艦隊群、戦闘準備」

朝潮 「駆逐艦朝潮、出撃します!」

提督 「間違っても指揮作戦艇から離れてくれるなよ」


 朝潮が艤装を背負い指揮作戦艇から海面へ降り、走り出す。


提督 (波が高いのに初めての艤装でここまで滑らかに動けるとは驚かされる)


 普通、初戦ともなれば気がはやり艤装に振り回され波でこけ、水浸しの制服で指揮作戦艇に帰るのが常だ。


朝潮 「司令官!風と潮はでうでしょう?!」


 朝潮は波の高い海面を足で捕まえ動きつつ、

 先の会話からもらえるとわかった情報を提督から聞き出す余裕さえあった。


提督 「あ、あぁ。風は西より微風、潮は陸よりだ」

朝潮 「了解しました」

提督 「通過儀礼とは言え、朝潮の能力を確かめる意味合いもある」

朝潮 「全力でということですね」

提督 「そういうことだ、指示も出さないから自由にやってみろ」

朝潮 「ご期待に沿えるよう頑張ります」


 瞬時に朝潮の周りの空気が変わり、海面から12.7センチ連装砲が隆起する。

 完全に海面からそれが出るが早いか砲撃を開始した。

 放たれた砲弾はイ級の口に吸い込まれるように着弾、炸裂した。


朝潮 「いかがでしょう?」

提督 「素晴らしい、どんどん行こうか」

提督 (美しい・・・)


 イ級などを狩り続け、計測器で損傷率を確かめながら衣装の損傷を写真で収め、

 深海棲艦のコアが露出すればそれを指揮作戦艇に回収する作業を繰り返す。 


朝潮 「・・・」

提督 「変に隠すな、どうせ全部撮るぞ」

朝潮 「 / / / 」

朝潮 (司令官は昨日のことがありながら写真撮影にいやらしさがない・・・)

朝潮 (昨日の事は気のせいだったのだろうか)

朝潮 (それより、自分だけ恥ずかしがっていて恥ずかしい)

朝潮 「し、質問よろしいでしょうか?」

提督 「どうした?これ以上損傷するのが怖くなったか?」

朝潮 「いえ、そうではなくて駆逐艦が二隻轟沈と仰ってましたけど、何で轟沈したんでしょうか?」

提督 「怖いのか?」

朝潮 「いえ、轟沈事態は珍しいことではないですし」


 一つの鎮守府で年2、3人轟沈するのが常であった。

 それはいくら注意喚起しても交通事故で年数万人が確実に死ぬことと変わりなく、どうしようもないことであった。


朝潮 「希望鎮守府を決めるのに戦果を見て決めたので危険は百も承知です」

提督 「なるほど。轟沈の原因は二人とも事故だよ」

朝潮 「事故・・・ですか?」

提督 「ここの海域は、制海圏奪還のための最前線で言うなれば激戦区だ」

提督 「通常の海域より深海棲艦が強力でな」

提督 「一般的に危険域といわれる大破になっていない、小中破の艦を沈めるような攻撃をする深海棲艦が出る」

朝潮 「本当ですか?!」

提督 「あぁ、本当だ。ここではその深海棲艦に轟沈させられることを事故と呼んでる」

朝潮 「・・・」

提督 「どうした? 今日は確認のため大破までさせるつもりだが大丈夫か?」

朝潮 「問題ありません」 (そんな話聞けば怖いに決まってる)

提督 「冗談だ、そう睨むな」

提督 「そんな強力な深海棲艦が出るのはもっと前線の激戦区だから安心していい」

提督 「おっと・・・さぁ、次が来たぞ」


 レーダーにはまたイ級の艦隊群が映る。狩りが再開される。


―――――
―――



 朝一で出撃した朝潮が大破する頃には、時刻が既に夕方に差し掛かっていた。

 あれから朝潮はイ級などの弱い艦隊群のみと戦い続けたものの中破さえせず、

 大きくダメージを受けることができたのは昼をまわって燃料弾薬が減り艤装が満足に動かなくなってからであった。


提督 「艤装との同調能力、武装の具現化力、防御壁、射撃能力、運動能力、どれも素晴らしい」


 提督は満足げだ。

 朝潮は大破で艤装との同調が落ちぐったりしている。

 艦娘は艤装と同調すると、身体能力上昇だけでなく治癒力や痛みを緩和させる能力が強化される。

 それが切れかけている今、朝潮は体の節々に疲れや痛みを感じていた。


朝潮 (轟沈の時、どういう気分になるのだろう・・・)


 落ちかける意識の中でぼんやりと考える。

 そんな虚ろな朝潮の肩を提督が叩いた。瞬時に身構える。


提督 「朝潮、昨日の続きをしないか?」

朝潮 「はぁ?!」


 自分でも驚くほど出た大声は大海にむなしく響き渡った。朝潮を助けるものはいない。

 荒潮の言葉を思い出し、狭い甲板上を逃げようと手を振り払い飛び出すも足がもつれる。

 体が上手く動かない。艦娘になって初めてだ。それでも甲板の上を逃げようとする。

 ただ、少女ほどの力しかなくなった朝潮が提督に捕まるのにそう時間はかからなかった。


朝潮 「軍人として子供を襲うって恥ずかしくないの?!」

提督 「何で恥ずかしいんだ?」

朝潮 「えっ!?な!?」


 提督の手が大破でぼろぼろになった制服に触れ剥ぎ取られ上半身が下着だけになる。


提督 「朝潮、お前はやっぱり美しいよ」ニヤ

朝潮 「きゃっ何するのよ!」


 提督は満面の笑みで朝潮は抱え上げ、甲板上の固定机に上半身をうつ伏せに押さえつける。


 提督は更にそんな朝潮を覆いかぶさる形で押さえ、朝潮の耳の近くで語りかける。


提督 「朝潮、学校では習わなかったろうが、艦娘は大破したとき一般女性並みの力に戻る」

朝潮 「離しなさいよ」ジタバタ


 朝潮の手足はむなしく宙をかく。

 提督は動けない朝潮を見て満面の笑みを浮かべている。


提督 「暴れても意味ないぞ」

朝潮 「やめてー!!!」バタバタバタバタ

提督 「朝潮に気持ちいいことを教えたくてな、大破する時まで待ってたんだ」


 提督が朝潮の太ももの間に手を入れてゆっくりさする。同時に提督の舌が朝潮の耳をはう。


提督 「いい形の耳だな」

朝潮 「きゃっ・・・」ハァハァ

提督 「興奮してきたか?」

朝潮 「誰が!!」

提督 「別に体が正直とか言う気はない、触れられて興奮するのは生理現象だからな」

提督 「正直になればいい・・・下ろすぞ」


 そこからの朝潮の記憶は曖昧だ。

 絶望が頭に充満し、正常な思考の働く余地はない。

 赤子のようにただひたすら泣いていた気がする。

 朝潮の姉は朝潮と開戦の混乱を逃げる途中に男達にまわされた。

 そのときの幼い朝潮も、近くでその様子を見せられ泣いていた気がする。
 
 その産声で生まれたのは恐怖か憎しみか。



 暫くして意識を取り戻すとタオルにくるまれていた。


提督 「気付いたか?」

朝潮 「・・・??」


 まだ夢の中にいるようなぼんやりする頭、痛みは完全に引いていた。

 股間の気持ち悪い感触だけが現実を感じさせた。


朝潮 「っつ・・・」ギロ

提督 「お、気付いたか!」

朝潮 「殺してやる!!!」


 朝潮が穴だらけの艤装に駆け寄り砲撃しようとするも不発に終った。

 提督は朝潮にもう気がないように余所見で煙草をふかしながら鼻で笑った。


提督 「大破すれば当分力は戻らないぞ」ニヤ

朝潮 「ひっ・・・」


 提督の笑みに朝潮は獣のように提督に犯されたことがフラッシュバックする。


提督 「おびえるな、陸も近いしもうしない」

朝潮 「訴えてやる!社会的に破滅させてやる!」

提督 「難しい言葉を知っているな」ニコニコ


 ただ、テレビや本を読んで浮かんだ意味もわからない脅し文句は提督に何の動揺も与えなかった。


提督 「しかし、服はもともと大破で破れていた、乱暴した跡は艦娘の治癒能力で残らない」

提督 「証拠がないから訴えても誰もお前を信じないぞ」


朝潮 「・・・」

提督 「それにおれはやった女は優遇する」

提督 「第一艦隊で優先して採用して使ってやる、評価も良くしてやる、他にも何かあれば頼っていいぞ」

提督 「最後に・・・お前が俺を殺そうとしても加賀か大和が俺を守るから無理だぞ」

提督 「それで朝潮が捕まれば、お前の姉がいる孤児院は補助金が切れて運営できなくなるなぁ」

提督 「困った孤児院は孤児を金持ちに売るんだってな」ニコ

朝潮 「くっ・・・」

提督 「これからも仲良くやろう!な!朝潮!」ニコニコ

朝潮 (何時か殺す・・・)ギロ


 最悪の第一艦隊生活が幕をあけた。



―――――
―――

本日投下分終了です。
ご読了有難うございました。


どのくらいの長さ予定?

>>34
 米有難うございます。
 伊藤誠さんを知らなかったので調べました。
 残念ながら伊藤さんのような清潔感のある優男な主人公顔とは違います。
 本作の提督は、自信に満ちているダンディな肉食形であぶらののった濃いおっさんです。

>>44
 米有難うございます。
 話の大筋ができていて文章化している状況でざっくりとした見通しになります。
 今のところまでで全体の1/3くらいになります。

 ただ、遅筆でして時間的にはかかりそうです。目標は2週間となっています。


朝潮の大破写真集ほしいです(ゲス顔)

>>47
いいっすねー
こうやって朝潮好きが増えて時報ボイスに繋がればなぁと思います(

お米有難うございます。
少ししたら投下再開



 朝潮が襲われた夜、月明かりも遮断する厚い雲が空を覆っていた。

 広がる深い闇は光を吸う。懐中電灯の2m先は何もわからない。


提督 「おっ」

大和 「誰かいますね」


 一つの懐中電灯を頼りに進む二人の行く手に指揮作戦艇が見える。

 ゆらいでともる指揮作戦艇の光は乗っているものがいることを伝えていた。


提督 「おい、誰だ!こんな時間に!」

大和 「・・・」

加賀 「あら、提督・・・と大和さんもいましたか」

大和 「こんばんは」ニコニコ

加賀 「こんばんは」ニコニコ

提督 「おい、加賀何してた?」

加賀 「提督、朝潮を襲ったでしょう?」キッ

提督 「何のことだ?」シラ

大和 「・・・」ジト

加賀 「あなたのものと血が混ざった汚れが甲板に残ってたわ」

提督 「よくこんな暗い中で探し出したな、さすが加賀」

加賀 「はぐらかさないで」

加賀 「言ったわよね、朝潮を次に襲ったら骨の一本や二本じゃ済まないって」

加賀 「・・・死ぬわよ」

やったぜ期待


提督 「驚かすなよ」ハ

加賀 「私が冗談を言わないことはよくご存知よね」

加賀 「あれから朝潮を偵察機で監視していたけど、言動が危ないわ」

加賀 「いっそこちらから殺す?」

提督 「めったなことを言うな!大事な戦力だぞ!!」

加賀 「大事なら!!・・・襲わないでよ!!!」

提督 「おい、加賀お前おかしいぞ」

加賀 「おかしいのは提督でしょう」

大和 「提督・・・」

提督 「わかった。加賀、続きは後でだ」

加賀 「また大和と舟遊びですか?私があなたの彼女なんですよね」

提督 「そういう拘束はしないって約束だろ」

加賀 「・・・指揮作戦艇は綺麗にして返してくださいよ」フン


 加賀は船から降り、振り返らず鎮守府に向かった。


 指揮作戦艇は真っ暗な海を沖へ向かう。



提督 「大和何してるんだ?」

大和 「いえ・・・発信機のようなものが載っているといささか不味いかなぁと」ガサゴソ

提督 「心配性だな、この雲があるから場所がわかっても何も確認できんだろ」

提督 「そんなことより、加賀の件をどうにか進めろ」

大和 (狸が・・・)

提督 「聞こえてるか?」

大和 「すいません、探すのに夢中になっちゃって、何でしょう?」

提督 「加賀同伴でも大丈夫なように調整しろ」

提督 「いつも大和だけという訳にもいかんからな、何かあった時のためにもな」

大和 「あのぅ、こういうことは余り人を増やすのは得策でないかと思うのだけれど」

提督 「どうにかしろ、でなければ加賀に勝て」


 提督は鍛錬を建前に第一艦隊所属艦を単艦同士で演習させていた。

 この演習で大和は加賀に負けた。


大和 「それはそうなんだけれど・・・」


 提督は歪んでいた。

 加賀の他に所属する強力な艦もことごとく手篭めにしていた。

 提督は、強い女を自分に屈服させ自分の与える快楽に酔わせることに何よりも興奮した。


 そんな歪んだ性癖が問題化しないのには理由がある。

 優れた指揮、評価を行う立場を巧みに利用、行為が上手いということ、これらもその一つだろう。

 何より一番の原因は、鎮守府最強の艦娘、今は加賀を提督のものとしていたことだ。

 付き合うことで言うことを聞かせ、他の艦娘達に対する監視と抑止力としていた。


 一般的な鎮守府の提督が艦娘達の顔を伺い勝ちなのに比べると、尊大に指揮を行うこの提督はかなり異質だ。

 誰も逆らう艦娘はいなかった。


提督 「色々な女とやっているが定期的に舟遊びするのは大和だけだ」

提督 「加賀の手前このままだと変な憶測を生む、調整を急がせろ」

大和 「はい、わかりました・・・」


提督 「強く言い過ぎたな」

大和 「いえ、変に勘ぐられないようにするためなら・・・そうだ、話は変わるけど提督」

提督 「何だ」

大和 「加賀さんは朝潮に対して何か因縁が? 攻撃的過ぎる気がしませんか?」

提督 「嫉妬しているんだろ」

大和 「あの加賀さんが?」

提督 「将来有望だからな、朝潮は」

大和 「提督が加賀さんから乗り換えると?」

提督 「朝潮の適性は元々空母にあるんだ」

提督 「年齢的にまず駆逐艦ということになってるが、子供の成長は速いからな」

大和 「加賀さんが交代ですか・・・」

提督 「可能性の話だ、絶対にない」

提督 「加賀は轟沈しないからな」

大和 「でしょうか・・・」

提督 「子供の可能性なんてものはよく大人の目を騙くらかすもんだ」

提督 「可能性なら誰にでもある、それを手にして加賀やお前のように大成するのは一握りもいない」

大和 「はぁ・・・」

提督 「大和お前も本当に美しい、愛してるぞ」

大和 「もう・・止めてください・・・終ってから、あ・・・」


 大和がもたれかかった固定机は朝潮の時も使った机だ。

 机には発信機もなかったが、加賀が見つけたはずの汚れも掃除された跡もなかった。



―――――
―――


 大和と提督の夜の出航の少し前。。。


 トイレに声だけが響く。


朝潮 「おぉおぉぇぇぇ」


 吐きつくしても嘔吐感が止まらない。

 少々の欠損なら治る強力な治癒能力でも、元々再生しない処女膜は治らないし、精神を癒すこともなかった。


荒潮 「朝潮大丈夫?」

朝潮 「荒潮、ごめん落ち着いたら部屋に戻るから・・・帰って」

荒潮 「そんな・・・」

朝潮 「お願い」


 後ろで背中をさすってくれる荒潮の苦しそうな顔を見ていると朝潮は更に辛くなった。


朝潮 「お願い」

荒潮 「・・・わかったわ」


 個室から出て行く荒潮。

 少しして個室から朝潮が顔を出すとトイレの入り口で荒潮が待っていた。


朝潮 「恥ずかしいの、帰って、ね?」

荒潮 「わかったわぁ」ハァ


 とぼとぼ歩く荒潮の後ろ姿を見て個室に戻りまた吐く。


朝潮 「えぇぇ・・・はぁはぁ」

朝潮 (あんな最低な奴に、あんな最低な奴に、あんな最低な奴に、、、)


 今日の船上でのことが頭でぐるぐるする。

 卑劣で最悪な提督に無理やり犯され屈した事実は

 自身が提督のような最低人間以下なんだという屈辱的な想いを朝潮に抱かせた。

 朝潮の細胞は屈辱にまみれ生きる意味を見失い緩やかに死滅を始め、

 一部の臓器が体から脱出しようともがき嘔吐感となっていた。


朝潮 「殺してやる」


 便器と同じ冷たい感触に我を取り戻すと執務室のドアノブを握っていた。

 暗い廊下にドアの下から明かりが漏れている。

 ドアノブをゆっくりとまわす。


ドア 「キィィィィー」


 朝潮が音に驚き勢いよくドアを開けると中には加賀しかいなかった。


加賀 「誰?」


 加賀は提督の執務机とドアを背に棚の書類を乱雑に下ろして何かを探していたかのようだ。

 来訪者の確認にゆっくりと振り向く。


 そこに加賀は走り寄る朝潮を認めた。

 今朝任務を言い渡す時に見た、幼さを残す可愛らしい顔はどこに行ったのか、

 綺麗な黒髪は乱れ、顔は不自然なほど青白く、強い力を持った目はそのままに兎のように真っ赤になり、

 幽鬼もかくやという仕上がりになっていた。 


加賀 (このまま殴りかかる気かしら)


 加賀は至って冷静だ。


朝潮 「このぉぉぉ!!」


 涙で声は枯れていた。



 今加賀と自分の間にある執務机のように、加賀は提督までの障害物だ。殺さねばならない。

 朝潮は執務机に足をかけ乗り、そのまま膝蹴りをしようかという体勢に移る。

 瞬間、加賀の右手が朝潮の足元を払い、朝潮は体勢を崩したまま宙に浮いた。

 次の瞬間、加賀は浮いた朝潮に右手を振り下ろし、朝潮の体は勢いよく執務机に叩きつけられた。

 机に並べられていた電話、書類、筆記具もろもろが床に散らばる。


朝潮 「カハッ!!はっはっはっ」


 数十メール落下したような衝撃が朝潮を襲い肺が自由に動かない。

 浅い呼吸しかできず苦しむ朝潮を加賀が見下ろす。


加賀 「何してるの?」

朝潮 「はっはっはっ」

加賀 「無作法よ、机から降りなさい」


 加賀はごみを払うように無造作に朝潮を押し、朝潮を床に転がした。

 そのまま、朝潮を無視して散らばった机の上にあったものを拾い元あった位置に並べていく。


朝潮 「ふーふーふー」


 そうこうしている間に呼吸は落ち着いてきた。

 そして、脳に酸素が送られた朝潮には更なる絶望と無力感が襲ってきていた。


朝潮 「何で・・・何で・・・」ポロポロ


 枯れたかと思っていた涙が床に落ちる。

 床に倒れているのではなく、どうしようもない壁にぶち当たっている感覚。

 立ち上がろうと両の手に力を入れようとしても、床から離れる力さえこめることができない。


加賀 「起きなさい」


 加賀が朝潮を引き摺りあげ何時の間にか近くに移動させた椅子に投げ座らせる。


加賀 「大方襲われて絶望、提督を殺すことを希望に乗り込んで来たってところかしら・・・」

加賀 「本当に頭がお花畑ね」


 朝潮は無言で加賀を睨みつける。


加賀 「昨日も言ったけど、あなたの独りよがりで周りはいい迷惑よ」

加賀 「お姉さん、孤児院にいるのよね? 昨日も言ったけど、孤児院立ち行かなくなるわよ」


 加賀は何事もなかったかのように、朝潮の前で執務机に腰掛けて書類をぱらぱら眺めている。


朝潮 「うるさい!!提督のような男のせいで姉が壊れたのよ!!!」


 朝潮は今でもわからない。日々何かに怯えて過ごす壊れた姉は幸せなのか。


加賀 「ふ~ん、それくらいで壊れたの? 現実逃避もそこまで行くと凄いわね」

朝潮 「加賀あああああああ!!!!!」


 朝潮の勢いよく立ち上がり振り上げた手はおろされることなく、加賀の中段前蹴りが命中して朝潮は椅子に沈んだ。


朝潮 「ぐっ・・・」

加賀 「甘えるんじゃないわよ!!!!」

朝潮 「はぁ!?」

加賀 「お姉さんは治らないって決まっているの?孤児院にもお世話になったでしょ!」

加賀 「勝手に何にでもすぐ絶望して予防線張って傷付かないようにしてるのはあんたでしょ!!!」

朝潮 「・・・」

加賀 「このことはなかったことにするわ、提督にも言わない。下がっていいわ」

加賀 「廊下の荒潮と一緒に部屋に戻りなさい」


 開け放たれたドアを見ると廊下で荒潮が先ほどと同じ心配そうな目で朝潮と加賀を眺めていた。


加賀 「あなたが心配をかけた仲間よ、これからは大事にすることね」

朝潮 「・・・はい」

荒潮 「加賀先輩、おやすみなさい」

加賀 「えぇ、おやすみ。明日は言ってある通り、第一艦隊での出撃があるから宜しくお願いね」

荒潮 「は~い、宜しくお願いします。では失礼します~」


 荒潮が朝潮の手を引いて退室する。


加賀 「無駄に時間を食ったわ・・・」


 加賀は棚の物色を再開する。水平線に指揮作戦艇が現れないか警戒しながら。



―――――
―――




 暗くて寒い廊下を歩く。真っ暗な窓から波音だけが入ってくる。


荒潮 「私慌てちゃって~」フフ

朝潮 「ごめんなさい」

荒潮 「大潮ちゃんと霞ちゃんにも探すの手伝ってもらってたんだ~」ウフフ

朝潮 「ごめんなさい」

荒潮 「もう・・・しない?」マガオ

朝潮 「・・・」


 朝潮にはわからなかった。冷却された頭で考えても提督が許せないことは確かだった。


朝潮 (けど・・・)

朝潮 「もう荒潮たちを心配はさせるようなことはしない」

荒潮 「そう」ニコ


 そこからは何も話さなかった。


 部屋に戻ると霞が心配そうに待機していた。

 霞は開いたドアに駆け寄り朝潮を確認するとビンタした。


霞 「いい加減にしなさいよね!」

朝潮 「ごめんなさい」

霞 「はぁ・・・・・張り合いないわね。大潮は私が探すから!おやすみ!」プンスコ


 霞は荒潮と朝潮をかきわけ暗い廊下に消えた。

 朝潮達は静かに蒲団にもぐりこむ。


荒潮 「元々この部屋は私と・・・もう一人いたの」

朝潮 「?」

荒潮 「あなたはいなくならないでね」

朝潮 「え、じゃあ・・・」

荒潮 「それに私も守ってくれるのよね、約束よ」

朝潮 「・・・うん」


 二段ベッドの上で荒潮はどういう表情をしていたのか。朝潮はのどまで出かかった疑問を留めた。

 何より朝潮の疲れ切った体と精神は休憩を求めていた。そのまま意識が沈みこむ。


―――――
―――



 翌日


 第一艦隊所属と言っても四六時中出撃するわけではない。

 所属の艦娘から6人選ばれ、入れ代わり立ち代わり指揮作戦艇に乗船し出撃する。

 朝潮と荒潮は特例で指揮作戦艇へ当日一杯の乗船を指示された。


加賀 「勉強のために乗ってもらうのだから、決して邪魔をすることがないように」

提督 「加賀の進言で乗せたのに厳しいな」

加賀 (あんたのせいでほうっておくと何するか怖いのよ)ギロ

提督 「何でもない」

提督 (大和と出た翌日はいつもこうだ・・・)


愛宕 「わー、駆逐艦の子ちっさーいかっわいー!!」ハグ

荒潮 「あわわ」ムギュー

千歳 「じゃあ、私はこっち」ハグ

朝潮 「あわわ」ムギュー

加賀 「そのまま聞きなさい」

朝潮 荒潮 (えっ?!)

加賀 「出撃の始めにやることはわかる?」

朝潮 「敵艦隊の捕捉ですか」

加賀 「正解よ、私の艤装を触る権利をあげるわ」

朝潮 (いらない・・・)

加賀 「出撃は衛星情報か鎮守府と指揮作戦艇のソナーによって深海棲艦の艦隊群を捕捉することから始まるわ」

加賀 「そこから敵艦隊群の分析よ、ここからは提督のお仕事ね」

加賀 「この分析の仕事で勝敗の7割は決まるわ」

荒潮 「残りはどうなるんですか~?」

加賀 「2割が戦闘、1割が運ってところかしら」


朝潮 「具体的に分析っていうのは何を分析するんでしょうか?」

提督 ズイ「俺たちの艦隊と同じく、敵の艦隊にもそれぞれに旗艦と編成と陣形がある」

提督 「それらの情報に加えて、敵は艦隊群だからボスと言われる艦隊群を指揮する艦隊と艦隊群の陣形がある」

提督 「それらの情報を総合して既にある分類に当てはめて対処する、これが分析だ」

朝潮 「・・・」プイ

荒潮 「な、なるほど。それを調べて艦隊を組むんですね」アセ

提督 「そうだ。情報を元に編成した艦隊で、敵艦隊群のどの艦隊を叩きボス艦隊に突入して倒すかが提督の腕の見せ所だ」

提督 「そして戦果の稼ぎどころでもある」

荒潮 「戦果ですか?」

提督 「遠征艦隊にいた荒潮は行う遠征で戦果が変わっただろうが、出撃は違う」

提督 「ボスを叩かないと上から戦果が認められない」

荒潮 「何ででしょう?」

提督 「深海棲艦は強力なものほど高い知性を持っている、艦隊群のボスともなれば当然利口だ」

提督 「そのボスを叩かないとどこからともなく減った艦隊を補充して自分の身を守ろうとする」

荒潮 「なるほど、ボスを叩かないと周辺海域は危険なまま・・・」


提督 「そうだ。だから、本部もボスを倒すことに高い戦果を与えるわけだ。わかったか?」

荒潮 「はい」

朝潮 「・・・」


パン


 加賀の平手打ちが朝潮に命中した。朝潮は全く動じない。


千歳 「きゃっ!」プルン

朝潮 「・・・」キッ

加賀 「ちゃんと話を聞いているの?」

朝潮 「戦闘では敵艦隊の分析・・・」

加賀 「いいわ・・・、いずれにしろ提督が言うことには返事をしなさい」

加賀 「ここは戦場なの私情を持ち込んで感情を乱すと死ぬわよ」

朝潮 「はい」

千歳 「・・・」ナデナデ


 母にもこうやって撫でられていた気がした。

 その時、視界に入った提督に襲われた情景がよぎる。瞬間、船上にいる全ての人間が気持ち悪いものに見えた。

 朝潮は千歳を降り払い甲板の端で嘔吐した。


朝潮 「おぇぇぇ」

千歳 「どうしたの?大丈夫?」

朝潮 「・・・すいません」


 心配してさすってくれる千歳を一瞬間でも汚物のように見ていたことに、朝潮の胸は酷く締め付けられた。


 提督と加賀が離れたところで朝潮を見つつ会話をする。


加賀 「あなたのせいですよ」

提督 「は?」

加賀 「あなたが襲ったせいで朝潮は当分不安定で使い物になりませんよ」

提督 「知るか、お前らでフォローしろ」

加賀 「第一艦隊編入を止めないつもりですか? 死にますよ」

提督 「艦隊のフォローはお前の仕事だろ?」

加賀 「分析と編成は提督のお仕事ですよ?」


 二人で見合っていたが、ため息を付くと諦めたように加賀が動いた。

 提督が譲らないのはわかっていた。


加賀 「朝潮、私の艤装と同調してみなさい」

朝潮 「?」

千歳 「そんな無茶な・・・それに危険です!」


荒潮 「加賀さんの強力な艤装に同調するのが無茶なのはわかりますけど、何で危険なんですか?」

千歳 「同じ艦隊に同じ艦種を組み込めないなのは何故かわかる?」

加賀 「どうでもいいわ、やりなさい朝潮」


 千歳は口を閉じ朝潮をさするのを止め、朝潮の動くに任せた。

 朝潮は素直に加賀に渡された艤装を受け取る。

 千歳は首を振った。


荒潮 「愛宕先輩、何でなんですか~?」

愛宕 「ん~、同じ艦種が近くにいると艤装との同調をお互いに阻害して力が出せないのよ~」

荒潮 「それはわかりますけど、なんで・・・千歳先輩があんなに」

愛宕 「一人の艦娘が数種類の艤装と同調するのは難しいの」

愛宕 「加賀さんの艤装と同調できたら、朝潮は自身の艤装との同調に影響が出るし」

愛宕 「何より艤装の同調ってのは無意識下で周囲に影響するから、これから行う戦闘で加賀さんに悪影響があるかも・・・」

愛宕 「だから一般的に戦闘に参加しない艦娘は安全のため乗船させないのよ」

荒潮 「そんな危険なことだったんですか?!」

愛宕 「んー、実際はそうなんだけど、加賀さんだから・・・」

愛宕 「朝潮に自身の同調が乱されない自信があってのこととは思うけど」


 朝潮が自身の艤装を降ろし、加賀の艤装を手に持ち目をつむる。

 集中してすぐ、驚くほど簡単に朝潮は加賀の艤装と同調した。

 艤装の空母甲板が地面をする様はちぐはぐで滑稽だが、朝潮の年齢で加賀と同調できるのは凄いことであった。


提督 「素晴らしい」ボソ

千歳 「すっ凄いわ朝潮ちゃん」

愛宕 「わ~ぉ」

比叡 「やっるー」

荒潮 パチパチ

霧島 「・・・」アングリ


 朝潮に加賀の艤装は想像以上に馴染み、歓声は朝潮にとって自信となった。


加賀 「あなたはやはり才能があるわ」

加賀 「潜在的な能力は私を凌駕するかもしれないわね」

朝潮 「ありがとう・・・ございます」

加賀 (ちょろいわね)

加賀 「しかし、今は朝潮の艤装を使いこなさないと意味がないわ」

加賀 「戦闘の合間に見てあげるから次は朝潮の艤装と同調しなさい」


千歳 「うわーん、朝潮ちゃんが取られちゃった」

愛宕 「おーよしよし」

荒潮 「むぎゅ」


 加賀は戦闘中は戦闘の内容を朝潮と荒潮に考察させ、

 戦闘外では朝潮に朝潮自身の艤装の同調に影響がないように、朝潮と加賀の艤装両方で交互に同調を教えた。


 戦闘で加賀には愛宕が想像したような悪影響は一切なく、開幕攻撃で確実に一隻は沈めた。

 この手際で射程外から大和を一方的に攻撃して演習に勝利したらしい。


 提督は真面目に指揮を執っていた。朝潮は獣のような指揮でもとるのかと邪推していたので拍子抜けした。


 まだ出撃があるとのことだったが、その出撃で朝潮と荒潮は指揮作戦艇を降りた。加賀の指示だった。

 折角なので一緒に乗っていた第一艦隊の艦娘達と戦闘内容の反省会議に参加した。


比叡 「霧島は当たらないからって近付きすぎよ」

霧島 「そういう比叡姉さんも命中率そこそこなんだから叫ぶ以外に努力したらどうかしら?」

比叡 霧島 「ぬぬぬ」

朝潮 「いつもは提督と加賀さんも参加するんですか?」

愛宕 「提督と加賀さんは書類仕事で忙しいから基本こっちは第一艦隊の艦娘達だけ」

荒潮 「いつもこんな感じなんですか~?」

霧島 「かなり今はぬるいわよ、色々あって・・・」

比叡 「そうそう」


 霧島が目を流すと比叡も愛宕も千歳も目を外した。


霧島 「まず、言っておくわ。実はね・・・この艦隊には暗黙の了解があって」

朝潮 「はい?」

霧島 「轟沈した娘の話をしないって・・・」

荒潮 「・・・」

霧島 「この鎮守府は多いのよ、轟沈する娘が・・・だから」

霧島 「けど、安心して。最近は殆どないから! ね!」アセアセ

荒潮 「・・・」

比叡 「荒潮・・・おいで」ダキ

霧島 「轟沈する娘が多いときは・・・どうしても皆暗くなるし、ぴりぴりして荒れるから」

霧島 「だから、ない今はちょっと落ち着いて出撃できてるのよ」


 全員疲れた顔だ。

 朝潮にはあの提督と加賀がいてそんなに轟沈が起こることがわからなかった。



朝潮 「そんなに・・・轟沈が多いんですか?」

愛宕 「近くの鎮守府に友達がいるから聞いたけど多いわよ」

愛宕 「交通事故で無作為に数万人亡くなるように、普通の鎮守府でも年2-3人亡くなるそうよ」

愛宕 「けど、うちは年数十人レベルで亡くなっているわ」

朝潮 「そんな・・・なんで・・・」

霧島 「強力な深海棲艦が出るからよ、この理由はお上公認よ」

朝潮 「皆さん・・・怖くないんですか」

比叡 「怖いよ」

比叡 「けど、艦娘は鎮守府を選べない」

比叡 「嫌なら辞めるしかない、異動できるのは加賀のような強力な艦娘だけ」

比叡 「異動できても、第一艦隊にまたなれる?もっと酷い提督の下で轟沈?鎮守府に合わなくて艤装を解体されて無職?」

比叡 「いずれにしろ、ろくでもないわ。ゆっくり死ぬだけ・・・轟沈の方が遺族補償が出る分マシ」

比叡 「轟沈は怖いしや提督に手癖の悪いところはある。けど、戦果が高くて第一艦隊なら我慢できるってこと」

比叡 「朝潮も背負っているものがあるならわかるはずよ・・・」

朝潮 「・・・はい」


 朝潮の提督への感情は変わらないが、加賀への感情は変化していた。

 ただ、提督を擁護する加賀の側面だけは全くわからなかった。


朝潮 「すいません、不謹慎かもしれませんが、故意って可能性はないんですか?轟沈」

霧島 「提督の? ないわ。この目で轟沈をしているのを見ているしおかしいことなんか・・・」

霧島 「それに割りに合わないと思うわ」

千歳 「本当にそうでしょうか」

皆 「え?!」

千歳 「他の鎮守府の娘と飲んだ時に言われたんですけど」

千歳 「うちの提督ってかなり出世してますけど、艦娘の死骸を足場に今の地位まで上り詰めた提督って他じゃ話題らしいですよ」

千歳 「轟沈を霧島さんが言った通りお上公認でお目こぼししてもらってるから、それをいいことに大破進軍してるんじゃないかって」

霧島 「突拍子もないこと言うわね・・・」

千歳 「実際に私達の鎮守府のボス到達率と撃破率って他鎮守府より遥かに高くて大破進軍でもしないと無理な確率らしいです」

千歳 「それで戦果を好き放題に稼いでるって・・・」

霧島 「千歳!うちで大破進軍なんて見たことないでしょ?!根拠のないこと言わないで!!」

千歳 「後知られてないけど、轟沈艦の戦力を補充するという名目で艦の解体より多く資源が支給されるらしくて」

愛宕 「そんな、じゃあ私達の使う燃料弾薬に・・・それが・・・」

霧島 「千歳!!!!」


 霧島が殴りかかろうとするのを比叡が抑える。愛宕は泣き出した。


比叡 「朝潮と荒潮、今聞いたことは忘れなさい!大和さん呼んで部屋に帰って!!」


 昨日とは逆で虚ろな荒潮を朝潮が連れて歩く。

 朝潮の通るところが悉く壊れていく不気味さを全身でひしひし感じていた。


 朝潮からことの顛末を聞いた大和は血相を変えて会議室に向かった。


―――――
―――




 月に一度はどの提督も地方本部に参勤交代をする。

 その際は、近在鎮守府の提督に自鎮守府の警戒海域を分けて警備をお願いする。


 地方本部では鎮守府で王様の提督も借りてきた猫のように大人しい。

 提督は地方本部長官に呼ばれていた。そういう仲だ。


 ~地方本部、長官室~


地方本部長官(以下長官) 「君~、不味いことになったよ」

提督 「何事でしょう?」

長官 「実はね~。兼ねて話があった新地方本部設立に向けた話が本格始動するってことになってね」

提督 「はい」ゴクリ

長官 「長官を誰にするかって話も本格始動するんだよ」

提督 (いよいよか)


 この時のために提督は各方面に媚びを売り待っていた。


長官 「ぼくはね、勿論ね、君を推したいよ」

提督 「有難うございます」

長官 「ただね~」

提督 「どうされました?」

長官 「他の近在地方本部と総本部がさぁ、邪魔してくるんだよ~」


 ここまでは利権争いでよくある話だ。


長官 「やっぱり君が沈めすぎたのがね~」

提督 「それは、以前も説明申し上げたとおり事故で・・・」


 地方本部から監査が来た時に武蔵が轟沈した。他にも駆逐艦から戦艦まで幅広く轟沈していた。

 規則性は殆どない。空母が轟沈しないことを除いては。

 それを偶然と思ったのか、そもそも気付いてないのか、本部は事故と認めている。


長官 「そうそう、それで事故がないように私が厳命して今期はないよね」

長官 「ただ、その代わりに今期戦果低いよね~、まぁ上位ではあるんだけどさ~」

提督 「事故がないように注意する余り、少し腰が引け気味であったかもしれません」

長官 「君が沈めすぎたのは、もう仕方ないよ」

長官 「今でも新種の深海棲艦や、同種でも強力な個体が発見されてるからさぁ」

長官 「私が君を評価してるのは、そういう逆境でもしっかり大きい戦果を出しているところなの」

提督 「はい」

長官 「長々と喋ったけどさぁ」

長官 「沈めすぎたのは仕様がないから、君の大きい戦果で周囲を納得させたいんだ」

長官 「で、今期の戦果は何?」

提督 「申し訳ありません」


 腐っても上位であり、言われるいわれはなく。伝えたいことは他にある。


長官 「これじゃ推薦できないな~困ったなー」

提督 「何とかできませんか」


 提督は手持ちのカバンから100万円の束を取り出し、長官の机に置いた。


長官 「ぼくはね~元々推薦するのはやぶさかじゃないのよ」ニコニコ


 長官はさっとひったくるように取ると机に収めた。


提督 「有難うございます。長官あっての私です、新長官に拝命された暁には・・・」

提督 (轟沈しろ・・・)

長官 「お礼の言葉は早いよ~」

長官 「ぼくはいいんだよ、ぼくは。けど、こういうのはさ、周囲も納得させないといけないからさ」

提督 「そこまでの心遣い痛み入ります、長官の下にいられて幸せです」


 提督はカバンからさらに五束取り出し、机に置く。


長官 「いや、ぼくも君のような部下を持てて幸せだよ」


 長官は引き出しに札束を掻きこむ。


提督 「そんなお言葉いただけるなんて光栄です・・・」

長官 「最後に話を戻すけど、今期の戦果が低いのはいずれにしろ不味いよ」

長官 「推薦書を作る今期はやはり地方区一位で、できる限り圧倒的な戦果で終れるように頑張ってほしいな」

提督 「激励有難うございます」

提督 (結局そうなるか)

長官 「そうそう、来月初孫が生まれるんだ」

提督 「おめでとうございます、お祝いにお納めください」

提督 (・・・)


 笑顔を崩さずもう一束机に乗せ失礼する。


 帰途、感情を殺した顔で提督は思う。


提督 (あれを・・・使うしかないか)




―――――
―――


本日投下分終了です。
ご読了有難うございました。

続きが気になります
次の更新はいつですかな?

ガサガサッ

アヤ「お、ほたる戻って来たか?」

きらり「にょわー☆」ガサッ

蓮実「きらり…さん?」

美里「それと頭に杏ちゃんのせてるわねぇ…」

きらり「にょわ?」キョロキョロ

きらり「にょ?」キョロキョロ

きらり「にょー…」ジロジロ

蓮実「あの…?きらりさん?」

きらり「美しい森だ…この森を切り開いてきらりんハウス建てよう」

杏「どしたのきらり!? 言葉使い変だよ!?」

>>53 様 >>84
お米有難うございます。終わりまで頑張ります。

>>84
当初の予定通り、後10日までに確実に終る予定です。
早くできるよう、次の土日を目指して書いています。

>>85
どこを縦読みですか?

他ほとんど何でも答えます

キンクリばかりでねっぷりとした夜戦描写は無いんですかねえ…

>>87
お米有難うございます。
あるなし回数は今後のストーリーに関わるので回答を控えさせてもらいます。申し訳ありません。
どちらにしろ個人的に寸止め描写の方がげふんげふんするので、余りご期待には添えないと思われます。

朝潮ちゃんとの夜戦見たかった(血涙)

>>89
お薬出しときましょうね~

投下再開



 朝潮と荒潮は第一艦隊配置から少し経ち、日々練度を上げていた。

 第一艦隊の話は同鎮守府の駆逐艦寮の艦娘たちに好評で、

 いつだって英雄のようにもてはやされ話を聞かせてと引っ張りだこで忙しい。



 提督が本部に向かう休日には、実家がある娘はそちらへ、遊びたい娘は地本部のある近くの大きい町へ向かう。

 他の艦娘から開放された朝潮と荒潮は、霞と大潮と空いた食堂でお菓子を広げ話をしていた。

 何時も賑わう食堂はがらがらで自分たちのいる場所だけが熱を持っていた。


 朝潮が暴走したあの夜から任務外は荒潮と霞と大潮の誰かが気を遣って朝潮の傍にいてくれた。

 朝潮が落ち着いてからも気が合ってずっと一緒にいる。

 適性の近い同型艦は気も合うのかもしれない。


霞 「ふーん」パク

大潮 「凄いですー」モグモグ

朝潮 「そこまでじゃ・・・」

荒潮 「うふふ」

霞 「そういえば、あんたたち町に行かなくて良かったの?」パクモグ


 有力な提督や地方本部は、港町の近くに置かれており町の防備をも行っていた。

 この鎮守府の提督も有力者だ。ただし、この鎮守府は前線で危険ということで近くに人のいる町は存在しない。


朝潮 「町って人気だけど行く人って何するものなの?」キョトン

荒潮 「買い物と美味しいお店は基本よね~」

荒潮 「後は~大人の人はエステとか合コンとかするらしいわ~」パクパク

大潮 「いいなー」キラキラ


霞 「私と大潮は遠征艦隊だからお給金少なくて行く気がしないのよね」パクパク

荒潮 「それくらい出すわよ~、一緒にパフェとか食べに行きましょうよ~」フフ

霞 「命かけて稼いだんだから自分で使いなさいよ」

大潮 「そうですよー」モグモグ

霞 「私たちに気使って行かないなんて馬鹿なことしないでよね」プイ

大潮 「お給金たまったら一緒にいきましょー」

朝潮 「みんなで行ったら楽しそうね」

荒潮 「うふふ、そうね~」

朝潮 「そういえば、いつも出撃の話ばかりだけど遠征艦隊って何やってるの?」


 朝潮は遠征を何も知らなかった。


霞 「聞いてもなーーーんにも面白くないわよ」

大潮 「やることは地方本部の全海域を通る商船の警護が一番多いですー」

霞 「そうそう、それでやることって言っても殆どないのよね」

霞 「近くに深海棲艦がいたら威嚇射撃するだけで、基本商船の甲板で待機よ」

朝潮 「え? 強力な空母とか潜水艦とか来たらどうするの?」

霞 「ないない、制海権の取れてる安全な海域だからイ級レベルしか出ないわ」

朝潮 「イ級でも普通の商船には危ないんじゃ・・・」

霞 「大丈夫大丈夫、今の商船はソナーもしっかりしてるし速力もあるから単艦でも実は問題ないのよ」

霞 「万が一のために乗ってるだけよ、ほんと」

朝潮 「そうなんだ」

霞 「張り合いないったらありゃしないわよ、甲板で干物になるんじゃないかって思うわ」

荒潮 「私好きよーひなたぼっこ」フフ

大潮 「大潮もですーぽかぽかします」

朝潮 「日焼けとか大丈夫なの?」

荒潮 「日焼けなら出撃の方がひどいわ~」

朝潮 「え?」

荒潮 「海上は上からはもちろん海面からの反射があるから二倍よぉ二倍」

荒潮 「治癒能力のせいか防御壁でさえぎられてるせいか私たち日焼けしないけどね~」

朝潮 「確かに艦娘って白い人しかいないわね」

荒潮 「黒い人もまれにいるけどね~」

霞 「・・・」

朝潮 「そうなんだ」


大潮 「それに商船のおじさんたちお菓子とか一杯くれます」

霞 「餌付けされてんじゃないわよ」パクパク

荒潮 「任務中はお腹壊したらまずいから食べちゃ駄目よ~」モグ

霞 「荒潮の言うとおりよ、危ないもんでも入ってて襲われたらどうするのよ」

大潮 「大丈夫ですよー、今食べてるお菓子ももらったものですよ?」

霞 「・・・」

荒潮 「美味しいからいいじゃない、それにしても大潮ちゃんは可愛がられる体質よね」ナデナデ

大潮 「そぉですかね?」

荒潮 「私が遠征艦隊にいたころ、他の鎮守府の軽巡のお姉さんとか商船の乗組員さんとかに可愛がられてなかったかしら」

大潮 「うーん」

霞 「荒潮、この子いつでも自然体だから自覚ないわよ」

朝潮 「他の鎮守府の娘も来るんだ」

大潮 「楽しいですよー、おじさんたちや同じ艦娘の子とお話するの」

朝潮 「いいなぁ、遠征行ってみたいなぁ」


霞 「荒潮も大潮も良いことばかり言ってるけど、遠征って退屈よ、お給金だって低いし」

霞 「それにもっと嫌なことがあるわ。何って服よ、制・服」

荒潮 「わかるわ~」

霞 「制服が高性能で高価ってのはわかるけど、年頃の私たちに一種類数着着まわしって何よ、本部ってなんていうの・・・」

大潮 「なんていうんでしょー」

霞 「でりかしーがないわよ!ほんと!」

大潮 「でりかしーってどういう意味です?」

霞 「・・・」ガツガツパクパク

荒潮 「遠征艦隊だと成長とかよっぽどの理由がないと新品くれないものね~」

荒潮 「第一艦隊の今は制服が破れるお陰で毎日新品で気持ちいいもの~」

大潮 「第一艦隊のお姉さまたちは何時もぱりっと綺麗な制服着こなしてうらやましいですー」

霞 「私たちが遠征で稼いだ資源で出撃してるくせに不公平よ!」

大潮 「うーん」

朝潮 「けど、大和さんと加賀さんは余り新しい制服を着ているイメージないけれど」

荒潮 「大和さんはいざという時にしか出撃しないし、加賀さんは朝潮も見てる通り殆ど被弾しないから~。凄いわよね~」

大潮 「そういうの格好いいですー」

朝潮 「そうね、私もそうなりたい」

霞 (いいわね)


 霞は褒めるのが苦手であった。


朝潮 「あ、そうだ」

朝潮 「同型だから同じ制服だし交換しようか?私まだ弱いからどうせすぐ服かえることになるし」

霞 「いやよ、お古着るの朝潮になるじゃない」


 霞は甘えるのも苦手であった。


荒潮 「私もいいわよ~、折角同じ朝潮型じゃな~い」

霞 「そういう問題じゃないの、青葉新聞のこともあるじゃない。危ないわよ」


 千歳の噂は燎原の火のごとく広がった。

 地本部で注意を受けるくらいだから、いずれはと提督は覚悟していたことだ。

 青葉新聞には第一艦隊所属の艦娘へのインタビューが載っており、全員が大破進軍を否定していた。

 記事は青葉が陰謀論を展開し真相の究明を続けるという言葉で締められていた。


大潮 「青葉新聞は日付しか正しくないってみんな言ってますよー」

朝潮 「日付だけって・・・」

霞 「いーや!あのクズよ、やりかねないわよ」

大潮 「そんなことより、青葉新聞は伊八先生の連載小説『かん空』を楽しむものですよー」

大潮 「私もあんな純愛してみたいです」キラキラ


 『かん空』、鎮守府を渡りながらセックスと妊娠中絶を繰り返す一人の艦娘の物語だ。

 過度なエロ描写と秋雲の挿絵が受けている。内容は『恋○』に似ていた。


霞 「またあの女妊娠してたじゃない?!4回前に子宮全摘出したはずじゃないの?」

大潮 「そうでしたっけ?」

荒潮 「詳しいわね~」ニコニコ

朝潮 「霞ちゃん、そういうの読むんだ・・・」ジト

霞 「ちっちがうわよ!しょしょじょ食堂で話す子がいたから!!!」

荒潮 「あらあら~」ニコニコ

霞 「もうっ、そんなのどうでもいいのよ!荒潮と朝潮は轟沈したりしないでよね?」

荒潮 「大丈夫だと思うわ、朝潮ちゃんは~?」

朝潮 「・・・問題ないと思う、多分」


 朝潮を提督に対して人間性を除いた部分で尊敬するようになってきていた。


霞 「朝潮まであいつの肩持つの?」

霞 「あの事件もあったし、最近は報告書届けに執務室行ったらって話あったわよね」

朝潮 「そう、陸奥さんを・・・後ろから・・・ / / / 」プシュー


 あれから提督の視線を感じても求められることはなかった。

 ただ、提督は相変わらずやりたい艦娘を秘書艦にして指揮作戦艇か執務室でよろしくやっていた。


霞 「何これくらいで真っ赤になってんのよ」

大潮 「むっつりさん2号です」

霞 「・・・」 ←1号

荒潮 「あらあら・・・まぁ、人間性は別として指揮は優れてると思うわ」

朝潮 「そう・・・よね」


 言葉に出来ない部分で気の利く提督だった。

 人間関係を加味した連携のとれる艦隊の編成。

 経験の浅い艦娘には、弱い艦種から弱いクラスからと少しずつ強い敵の経験を積ませる心遣い。

 戦場でも広い視野で指揮を取り、女性関係は爛れていたのに信望は厚かった。

 一部先輩は手篭めにされることを喜んでいるように朝潮は感じている。


 朝潮の中の提督は分裂してきていた。


霞 「荒潮たちがどう言っても轟沈させるクズなのは事実よ!」

霞 「私が第一艦隊入りするまで死ぬんじゃないわよ!」

荒潮 「待ってるわ~」

朝潮 「霞はこれからの艦種どうする積もりなの?」

霞 「希望は重巡よ」


 駆逐艦から始まる鎮守府生活は、戦艦or空母or潜水艦orその他で四つの方向があった。

 多くの艦娘が軽巡や重巡から花形の戦艦になるルートを目指した。


霞 「あくまで希望だから、適性試験が無理なら軽巡でも・・・」

霞 「どっちにしても最後は戦艦目指して行くわよ」

大潮 「お~私もそれがいいなー」

荒潮 「私もそうかな~、朝潮ちゃんはやっぱり空母?」

朝潮 「うーん・・・」

霞 「何を迷うことがあるのよ? 加賀の艤装と同調できるって凄い話じゃない」

荒潮 「個人的には本部で量産できるようになってる赤城もいいと思うわ~」

大潮 「もしかして、朝潮ちゃん戦艦が好きなのに加賀先輩に勧められて引けなくなってどうしようとかです?」

霞 「うわっ、それ本当だったら確かに気まずいわね、どうなのよ?朝潮」

朝潮 「いや、まだ少しピンと来なくて・・・」

霞 「自分で聞いておいてそれ?!」

朝潮 「だから聞いてみたというか・・・」

大潮 「潜水艦はどうです?」

朝潮 「うーん・・・」

霞 「潜水艦が嫌ってのはわかるけどね。制服が水着ってのがねぇ・・・超激務って話も聞くし」


荒潮 「折角だから聞きたいけど、急ぐことはないわよね~」

大潮 「朝潮ちゃんが空母になると荒潮ちゃん霞ちゃんと私の戦艦でバランスがいいので空母オススメです!」ビシッ

霞 「何よそれ」フ

大潮 「あー笑ったー霞ちゃんんのそういうところ嫌いだなー」プンスコ

荒潮 「あらあら~」ニコニコ

朝潮 「ふふふ」


 そんな騒がしい食堂と比較して執務室はいつもの活気がなく、

 持ち主が離れていた部屋は無機物のくせに人を拒絶するようなすねた空気をまとっていた。


 その空気を意に介せず、加賀は自分の机に座って執務を行う。

 ふと、加賀が強化された聴力で提督の足音を捉え、何時もより早い戻りに驚きつつ暖房を入れた。

 艦娘は紫外線だけでなく暑さや寒さにも強い。


加賀 「おかえりなさい、早いわね。提督」ダキ

提督 「あぁ、ただいま」ダキ

加賀 「どうしたの?」

提督 「加賀お前は満足したことがあるか?」


 提督と加賀には身長の差があった。

 そして、加賀の豊満な胸のふくらみのお陰で顔が丁度交差している。

 お互いの体の熱を感じ、声はお互いをふるわせた。


加賀 「?」

提督 「おれはない」

提督 「金で贅沢をしても、女を抱いても、戦果で一等になっても、地本部や鎮守府でもてはやされても・・・」

提督 「唯一満たされる感覚のある深海棲艦狩りも今の規模じゃ満足にはほど遠い」

加賀 「・・・」

提督 「地方本部長官から、総本部の要職に就いて、総本部で上に行って・・・今はそれで満足できるかもしれないと思ってる」

加賀 「私は今でも十分幸せなのだけど」

提督 「そうか・・・」


 語勢の落ちた提督に加賀が優しい言葉で続ける。


加賀 「けど、あなたが満足できればもっと幸せになれると思うわ」

提督 「そうか」

加賀 「えぇ」


 抱き合っているので、お互いの顔は見えない。

 だから、加賀も提督も会話の間お互いが終始仮面を被ったように無表情であったことを知る由もなかった。


 抱き合ったまま提督は加賀の美しい黒髪を何度も手ですいた。

 肩口まである真っ直ぐな黒髪は、ごつごつした男の指を滑らかに上下させ、提督を落ち着かせた。


 暫くして、提督は加賀の肩を両手で持ち、静かに身を離した。

 提督は加賀をそのままに自分の椅子に座った。

 加賀は何かの予見が外れたのか不思議そうな顔をしつつ、自分の椅子に戻る。


加賀 「今日は本部の近くの町で贅沢してないんでしょ?」


 加賀に濡れた目で見つめられ提督の体の芯に火花が飛ぶ。


提督 「何時もはもっと遅いが、そういうことしてると思われてたのか」

提督 「そんな金もないし、今日はそういう気分じゃない」


 いつもは金があるので、地方本部から夜の街に消えていた。

 加賀に気付かれていたことにはさして驚かない。

 提督の渋い顔は何の不満か。体の芯の火花は消えていた。


加賀 「そう・・・どうしたの?」

提督 「地方本部長官になるために、明日から通常の出撃体勢に戻すことになった」

加賀 「だからね・・・」


 加賀の顔も暗くなる。


加賀 「元々この轟沈しない出撃体勢は地方本部の命令だったわよね?」

提督 「あぁ」

加賀 「振り回してくれたことに文句は言ったの?」

提督 「言わないな、ころころ命令が変わるのは慣れてる」

加賀 「そう」


 二人でため息を付く。


提督 「それに、上に文句を言っても評価が落ちるだけだ」

加賀 「そこまで愚鈍?」

提督 「老人は自身が正しいと思うもんだ」

提督 「自身の命令に従わないもの、自身の行っていた行動と違うことをするものは、彼らにとって排斥対象だ」

提督 「自身が築いてきたものを否定されたくないんだよ、奴らはな」

加賀 「そう・・・」

提督 「また・・・轟沈するな」ハァ

加賀 「轟沈しても海域の安全を守らないと人がもっと死ぬわ、私はそう思う」

提督 「そうだな」


 気が重いことを加賀に伝え終わり、提督は椅子に深く体を預ける。


加賀 「・・・他の娘の話は大和から聞いた?」

提督 「あぁ」

提督 「第一艦隊の所属艦娘が俺が大破進軍しているんじゃないかと疑心暗鬼になっている問題か?」

加賀 「それもそうなんだけど・・・」

提督 「?」

加賀 「表面化していないけど、この頃の出撃で彼女達の士気が落ちているわ」

提督 「当然そうなるな、俺のような大破進軍してるかもしれない提督の下で戦いたくない」


 提督は冗談めかした話し方を使う。

 実際は艦娘達がそう思っていない確信が提督にはある。

 轟沈しない限りには比叡の言葉通りこの鎮守府は給金と名誉が手に入る天国だ。


加賀 「彼女達も提督が大破進軍していないことはわかっています」

提督 「なら何で士気が落ちる?」

加賀 「轟沈への恐怖や悲しみの矛先を求めているのよ、無意識に」

加賀 「・・・そこにあなたがいた、それだけよ」

提督 「わからないことに理由付けしたがるのは人間のさがだな」

加賀 「そうね」

提督 「その士気低下で問題は出そうか?」

加賀 「殆どないと思うわ」

加賀 「今は轟沈が出るような熾烈な攻撃を行ってないせいで内省する余裕があるからこうなってるけど」

加賀 「これから制海戦闘を本格化させれば、その余裕がなくなるし・・・」


加賀 「喜ばしいことではないけど、轟沈する艦が出ればそれ自体が潔白の証明になるでしょ」

提督 「そうか」

加賀 「ただ・・・」

提督 「何だ?」

加賀 「いずれにしろ、今の内に潔白を証明する行動を起こした方がいいと思うわ」

加賀 「今は無意識に士気が下がる程度に済んでるけど、何が引き金に爆発するかわからないわよ」

提督 「それは考えてるがな」

加賀 「考えておいて・・・それと深海棲艦のコアの入出庫数が所々違うわ」

提督 「どこだ・・・」

加賀 「紙にまとめておいたわ、ココとココ・・・ココ・・・かしら、もっとあるかもしれないわ」


 紙の上を動く人差し指は、紙の白さと比してなお泳ぐ白魚のように美しい。


提督 「それはコアが実は死んでたり傷付いていたり開発失敗したやつでな」

提督 「本部に出すのも面倒だから大和と捨てたんだ」


 食品・リネン・日用品の管理担当は軽巡以上の艦娘が当番で行い。

 軍需資材・深海棲艦のコア・制服、等の軍需品は、この鎮守府では信頼のできる大和型と長門型が管理を担当していた。


加賀 「そうなの? なら、ちゃんと修正しておいて」

提督 「あぁ、すまない・・・」


 加賀は提督が冷静な顔を崩さないまま視線を少し右上に動かしたのを見逃さなかった。



―――――
―――




 翌日から、戦闘を避けていた深海棲艦の制海圏へ出撃が始まる。

 大会議室で朝一に行われる編成の発表で提督が最後に強く言葉を発した。


提督 「人類の海を取り戻すのは勿論・・・轟沈した艦娘達への手向けとなる戦いだ」

提督 「各員一層奮起せよ」


 こう言われ部屋の第一艦隊所属の艦娘達は沸き立った。

 轟沈の経験がない朝潮は周りの熱に浮かされることはなく、どこか冷静にその場を見ていた。


 出撃が始まる。


 朝潮と荒潮は朝一の出撃艦隊に組まれていた。

 二人で指揮作戦艇に向かう。


朝潮 「頑張らなきゃね」

荒潮 「そうね・・・」


 いつもふわふわとしている荒潮は、轟沈が絡むと朝潮にとって完全につかみどころのない何かになった。


 指揮作戦艇に乗った後に、敵艦隊群の情報説明と作戦の指示が行われる。

 荒潮は普通を装っていた。しかし、朝潮には荒潮が何も聞いていないことがわかった。

 指示が終わり接敵までの時間は自由だ。集中力を高めるのに各々の時間を過ごす。


朝潮 「荒潮・・・荒潮・・・」

荒潮 「・・・ん、なぁに?」

朝潮 「朝の会議から顔色が悪いわよ」

荒潮 「心配かけたかしら」

朝潮 「これ、さっきの敵艦隊群の情報と作戦をまとめたから」

荒潮 「あ、ありがと~」


 朝潮には荒潮がそれでも集中力を欠いている気がした。

 朝潮は横に付いて渡したメモを指差しながら説明する。


朝潮 「今日の敵艦隊群はフラグシップタ級を中心として潜水艦が混ざった編成で」

荒潮 「朝潮ちゃん」

朝潮 「ん?」

荒潮 「あのね」

朝潮 「うん・・・」



加賀 「朝潮、また艤装を貸すから同調しなさい」


 加賀に話をさえぎられる。

 荒潮は力なく手を振り、朝潮に加賀の元に行くよう促す。

 後ろ髪を引かれる思いを感じるものの、加賀の命令は艦隊で絶対であった。


加賀 「今日からは同調して海面を走ってみましょうか」

朝潮 「・・・はい」


 朝潮は深呼吸をして切り替える。


加賀 「同調が遅いわ」

朝潮 「はい!」


加賀 「海面の移動も駆逐艦と違うのよ、加賀を潜水艦にする積もり?」

朝潮 「すいません!」


 朝潮の特訓はもう常態化し、危険を指摘する娘も賛辞を送る娘もいない。それでも朝潮は止めなかった。

 加賀は朝潮に課す訓練を適度に難しくして行き、それをこなす度に起こる達成感は朝潮を酔わせた。

 朝潮は加賀の艤装にのめりこみ、同調を上げるため空母加賀の戦歴等も調べ自分のものとしていた。


 お陰で朝潮は初出撃の事件など忘れ自信を取り戻していた。

 ただ、加賀の艤装との過度な同調は朝潮の艤装との同調に少しずつ影響を与え始めていた。


日向 「おーい、加賀そろそろ敵艦隊群が視認できるぞ」

加賀 「今日はここまでにします」

朝潮 「はい、有難うございます」


 敵艦隊群に突っ込むともう訓練する余裕はない。

 一つの敵艦隊を倒したらすぐ次の敵艦隊と、艦隊群を突きぬけボス艦隊を倒すか逃げるまで休めない。

 だから、艤装の損傷を悠長に時間のかかる検査機器で調べず、制服の損傷で即断できるようにしていた。


提督 「総員戦闘準備、複縦陣」


 掛け声を元に旗艦以外の艦娘は陣形の位置に移動する。陣形と配置は事前に伝えられている。

 敵艦隊群を捕まえるために朝潮と荒潮は陣形の先頭で並列だ。

 皆が指揮作戦艇から飛び降りる時に、


朝潮 「対潜攻撃は私達に一任されているから頑張ろうね」


 確認の意味で朝潮が放った一言に荒潮は軽くうなづいた。

 朝潮は荒潮の動きに力を感じることができなかった。

 しかし、加賀の訓練後で朝潮の艤装との同調に集中力を保たねばならない朝潮は、それ以上の思考を止めた。

 いざとなれば、かばってでも助ける。それだけだと思った。


 旗艦以外の艦娘は以降の提督の命令を旗艦を通じてテレパシーのようなもので受け取る。

 インカムで行っていたこともあるそうだが、すぐ吹き飛ぶか壊れてかえって混乱を招くので採用されなくなった。


提督 「またフラグシップとエリートばかりだな」

加賀 「そうね」


 提督の覗く双眼鏡に黄や赤の光を放つ異形の深海棲艦が現れる。


提督 「まずは定跡通り雑魚掃除だ、先制の爆撃で派手に挨拶しろ」

加賀 「任せなさい」


 言うが早いか構え放たれた矢は光を帯び艦載機を具現化し敵に攻撃を始める。

 深海棲艦の軽空母も大きく口を開け、艦載機を放出し迎えうった。

 艦隊と艦隊の空中で火花が爆ぜ、折れた矢や深海棲艦の艦載機のかけらが雨のように落ちる。

 その間隙を縫った加賀の艦上爆撃機が、狙いをつける敵駆逐艦の直上から爆弾を投下した。

 沈みこそしないものの、先頭の被弾と大破に敵艦隊の陣形は混乱をきたしていた。


提督 「よくやった加賀ぁ、順次砲撃を始めさせろ」

加賀 「了解」


 すぐ日向の大口径主砲が大音響で砲撃を始め、敵の雷巡が火を噴き沈降する。

 かばうことのできる深海棲艦を最初に落とす。これはセオリーだ。

 かばわれるということは、当初狙っていた目標へ攻撃できないだけでなく、着弾がずらされ攻撃が十分な威力を発揮しなくなる。


 追って、利根筑摩加賀朝潮荒潮、次々と有効射程に入り次第攻撃を開始する。

 先頭の朝潮と荒潮から射程が短い順に複縦陣形で並んでいたため、

 陣形のしんがりにいた日向の攻撃から間髪入れず艦娘の攻撃が雨あられに続き面白いように当たった。


 随伴潜水艦は朝潮が一撃目で沈め、早々に朝潮と荒潮は爆雷投射を止め砲撃に移っていた。

 深海棲艦は次々と火を噴き、一応の撃ち合いが続いていたものの優劣は明らかで消化試合の様相を呈していた。


 艦娘が海面から具現化した武装を隆起させ攻撃するのに対し、

 深海棲艦は自身に付いた砲塔からの攻撃が光を帯び威力を持っていた。

 艦娘が深海棲艦を真似て武装を付けないで自身の艤装からの攻撃だけに頼ると威力は全くでない。

 今の朝潮・荒潮は正にその状態であった。

 対潜装備だけの朝潮たちは威力のない砲撃を、少しでも敵をかく乱させることを祈りつつ繰り返していた。


 頬を優しくはたくようなその行為がひそかに生き残っていたフラグシップタ級の戦意を焚きつけた。

 敵が武装を具現化しないことは、艦娘の攻撃が具現化を経ることで予想が付きやすいのと対照的に、


加賀 「荒潮、危ない!!!!!!」


 敵の攻撃が読みにくいことを示していた。

 フラグシップタ級の大口径主砲の砲撃は、消化試合で断続的砲撃が続くのみとなった戦場の静かな大気をつんざき響き渡った。

 朝潮がタ級の砲撃に気付いた時には、背後の荒潮に着弾音と炸裂音がし悲鳴が響いた。


荒潮 「きゃあああああ!!!」



 朝潮の体は勝手に動き荒潮の方向に向かった。ただただ心配だった。

 爆煙の中から制服がぼろぼろで煤で黒くなった荒潮が何とか立っているのが見える。


朝潮 「荒潮!!!!大丈夫?!」


荒潮 「もう・・・ひどい格好ね」ケホケホ


 荒潮は虚ろな目で自身を払いながら朝潮が目の前にいないかのように言葉を発した。

 朝潮が支えようと近付くと朝潮に気付いたのか荒潮はなんでという顔で眼を見開いた。

 瞬間荒潮の瞼が落ちかけ、海面に両手と膝をついた。朝潮が駆け寄る。


 それを見た提督と加賀は青ざめた。陣形を乱されたからではない。


提督 「馬鹿・・・戦闘中だぞ」

加賀 「ちっ・・・朝潮!!離れなさい!!!」


 矢を弓につがえタ級を狙う。

 艦隊全員が、誰が当てたか噴煙を上げて沈没寸前と思っていたタ級は無傷であった。

 大破し火と煙を上げる深海棲艦の軽空母を背負っていただけだったのだ。

 深海棲艦は人型に近いほど、帯びる光が強いほど、強く賢くなった。


 タ級はすぐ砲撃体勢に移る。同じ砲撃をすれば弾着補正も何もいらない。難なく朝潮に当たるのだ。


日向 「沈めえええええ!!!!」ドォン


 日向の主砲がタ級に向かい火を噴いた。

 加賀は日向の攻撃に期待するしかない。

 空母の攻撃はタイムラグがあるため、タ級を止めるには遅すぎる。

 弓でタ級を狙ったままとどまり、万が一のために備えた。


 日向の砲撃を眺めながら提督は煙草に火をつけていた。


提督 (大破か想定以上に弱い弱すぎる・・・退却か)

提督 「あほくさ・・・」ボソ


 提督が紫煙を風に乗せる。


提督 「加賀、風が変わった。日向の当たらんから撃て」

加賀 「間に合わないわよ」キリキリ

提督 「知ってる」ニコ

加賀 「あっそ」ヒュン


 艦載機は艦娘の意思によって進行や爆撃地点を変えられるので風の影響は砲撃ほど強く受けない。


 提督の予想通り日向の砲撃はタ級をかすって外れた。

 加賀の艦載機は最短距離を飛んだものの予想通り間に合わず、タ級は砲撃体勢を解かずに最大威力で砲弾が発射された。


日向 「朝潮おおおおおお!!!!よおけろおおおおおお!!!!」

提督 「うるさいな、あいつ・・・」

加賀 「提督黙って!!」


 加賀は艦載機の操作に集中する。

 タ級の攻撃の着弾音とともに大きな水柱が上り、朝潮が荒潮を抱えたまま吹き飛んで海面を転がった。


加賀 「今!!」


 その時、艦載機の決めた急降下爆撃は着弾音に隠れる形で敵に最接近していた。

 誰がどう見てもベストタイミングな攻撃であった。

 しかし、タ級はあらかじめそれを察していたかのように背負っていた仲間である深海棲艦の軽空母を放り投げ、爆撃を相殺した。


加賀 「くっ・・・」

提督 「このまま複縦陣形のまま艦隊行動、この指揮作戦艇で朝潮と荒潮を拾って退却するぞ」

加賀 「夜戦まで持ち込めばタ級を倒せますが・・・」

提督 「いい、皆に安全海域まで緊張を崩すなと言っておけ」

加賀 「了解しました」ハァ


 夜戦は、艦隊同士の近距離殴り合いだ。何故か夜戦と言う。

 誤爆の可能性で空母の攻撃は禁止、真下近くに来る潜水艦には攻撃が通りづらい。


 遠ざかるタ級は笑っているように見えた。


―――――
―――


朝潮 「動ける?荒潮」

荒潮 「いえ、もう疲れちゃったぁ」

朝潮 「私も・・・」

荒潮 「心配かけてごめん」

朝潮 「うん・・・」


 疲労と痛みで二人とも動けないで浮かんでいる。喋るのも億劫だ。

 指揮作戦艇が近付き浮き輪を投げられ、順に拾われた。

 朝潮が虚ろなまま甲板で横になっていると、安全海域まで来れたのか日向が指揮作戦艇に戻って来た。


 突然、朝潮は加賀に髪を掴み引き摺り起こされる。何とか、甲板の端にある柵を支えに立つ。


加賀 「朝潮、中破なのに何寝転がってるの?!」ギロ

朝潮 「っつぅ・・・」


 朝潮は何を言っているかわからない。この痛みと無力感は、初出撃で大破したときと同じ感覚の筈だ。

 加賀は益々引き上げる手に力を入れ朝潮を睨んだ。

 朝潮が柵を支えにしなくても立てそうなくらい入った加賀の力で朝潮の体は浮きかける。


朝潮 「えっ・・・中破??」

加賀 「被害妄想も大概にしなさい、制服見れば一目瞭然じゃない!!」

提督 「おい、一応中破でも損傷があるんだから、横にさせておけ」


 提督が慌てて仲裁に入る。


日向 「そうだ、中破だって立派な損傷だぞ!!」

加賀 「一々五月蝿いわね、このぽんこつ戦艦」

日向 「なにぃ!」

朝潮 (どういうこと?!大破しているはず)

加賀 「提督も甘いわ!どれだけこの子が艦隊を危機に晒したかわかってるの?」

朝潮 「すいません・・・」ボロボロ


 朝潮はことの重大さに気付いた。

 実際に、先の敵艦隊群は先頭深海棲艦の大破で総崩れになっていた。


 ここで指揮作戦艇に最後に上ってきた利根と筑摩は甲板の不穏な気配を察し、

 二人でこそこそ話した後に気を失った荒潮を艇内のベッドに運ぶ振りをして逃げた。


日向 「それはそうかもしれないが謝ってるじゃないか」

加賀 「そうやって甘やかすから覚えないのよ!!」


パン


 髪を放され体勢を崩した朝潮に加賀のビンタが飛んできた。

 食らった朝潮は初日のことを思い出しながら甲板を転がり、柵の下から海に投げ出された。

 ビンタはあの時と違って凄く痛かった。

 海面に着水する一瞬間に水面に朝潮の姿が映る、制服の損傷具合は中破だった。


朝潮 (なんで・・・・・・・・・・)


 海中に体が沈んだと同時に朝潮は意識を失った。


日向 「やりすぎだ!馬鹿!」

加賀 「!?」

日向 「おい、提督!作戦艇を止めろ!」

提督 「わかったっ」


 提督が操舵室へ走り、日向は海に飛び込み朝潮を引き上げる。

 それを加賀は何か考え込むように難しい顔をしながら眺めていた。


 甲板に上った日向は加賀に馬鹿力と言い放ち、朝潮を背負ったままベッドのある艇内に消えた。

 気まずいのか操舵室にこもる提督を確認した加賀は甲板に残った制服の切れ端を懐に収めた。


―――――
―――

本日投下分終了です。
ご読了有難うございました。

お米有難うございます。

大変申し訳ありません。
当初は今週金曜前後に終る予定でした。
しかし、色々設定を膨らました結果、終らないことが判明致しました。
完走は間違いなくしますので、何とか寛大なお心で引き続きお付き合い頂ければ幸いです。

お米ありがとうございます。期待されるのは嬉しいものです。本日23:00杉に投下再開します。

投下再開します

もし、今から読む方がいれば、投下ごとに分けて読んだ方がいいと思われます。
長くなっている上に、地の文多用を途中から解禁しているため疲れるかと存じます。


 暫くして操舵室から出た提督は、甲板で風に吹かれ続ける加賀を認めた。


提督 「お前でも今艇内に入るのは気まずいか?」

加賀 「別に・・・」


 風は刃物のように提督の顔を打った。顔はただ痛く、寒さは感じない。


提督 「うぅ・・・さむ」

加賀 「あなたは暖かい艇内で朝潮と荒潮でもなぐさめたら?」

提督 「なぐさめなきゃいけないほど締め上げたお前がそれを言うか?」


 加賀の表情は動かない。

待ちに待った更新だー!


加賀 「怒る時に怒る、痛くないと覚えない」

提督 「男みたいだな、お前は」


 加賀はすぐ手を出した。

 そして、加賀は怒った後に決していびり続けるような女々しいことはしない。

 ただ、加賀の乏しい表情に怒られた方はまだ怒っているのかと萎縮したり、ねちっこいと反感を持つことが大半だ。

 だから、加賀は鎮守府の艦娘に嫌われていた。


提督 「もっと素直になれないのか」

加賀 「無理だとわかっているのでしょう?」


 加賀が人と仲良くしようとするところを見たことがない提督はそれ以上何も言わない。


 ふと気付いたように話を切り替える。


提督 「・・・なぁ」

加賀 「?」

提督 「加賀は・・・目は口ほどにものをいうって言葉を知っているか」

加賀 「何がいいたいの?」

提督 「人間の目は白目と黒目の部分があるだろう」

加賀 「他の生物もみんなそうでしょう?まぶたの裏に白目の部分があるだけで」

提督 「そうだ、よく知ってるな」ハハハ

提督 「白目と黒目がある眼球の構造はどの生物も不思議なことに殆ど同じだ」

加賀 「それがどうしたの?」

提督 「この白目部分が人間にあるのは進化の過程でできたと言われているのは知っているか?」

加賀 「今そんな情報が必要?」

提督 「まぁ、聞け。人間も昔は猿同様黒目か黒目勝ちだったといわれてる」


提督 「それが狩りなどで協力する時にアイコンタクトが発達して、人間の白目が大きく発達したらしい」

加賀 「なら三白眼の強面の人間が一番協調性があって」

加賀 「黒目勝ちな俗に可愛いといわれる子は協調性のない自己中心的な人物が多いの?」

提督 「そこまでいってないが、そうかもしれん」

提督 「ここで加賀に問題だ」

提督 「人間と違って黒目や黒目勝ちな生物の利点はなんだと思う?」

加賀 「さっき言った通り可愛い感じがするけど・・・利点ではないかしらね」

提督 「不正解。黒目や黒目勝ちの利点はアイコンタクトと逆で」

加賀 「相手に情報を伝えないこと・・・目は口ほどにものを言うの逆ですか」

提督 「遅いが正解だ。黒目は草食動物のような弱い生物に多い、ねずみ・馬・牛とかな」

提督 「そんな動物に白目があると黒目の動きが見えて体調から逃げる方向まで相手に伝えてしまい捕食される危険が増す」

加賀 「なるほど」


提督 「人間でも同じだ。目は情報を伝えすぎる」

提督 「古今東西あらゆる一流の剣豪や拳法家も相手の目を見れば繰り出す技を読めると言ってる」

提督 「だから要人護衛とか特殊部隊では色入り眼鏡を付けて視線を隠す」

提督 「ところで、深海棲艦の目は何色だ?加賀」

加賀 「色も何も眼球は全て同じ色で発光してるわよね、黒目とは言わないでしょうけど」

提督 「そうだな・・・なんで、荒潮への攻撃に気付いた?」


 タ級の第一撃の砲撃寸前、タ級は背負っていた敵軽空母の噴煙で指揮作戦艇の付近からは姿は見えなかった。

 見えていたのは、噴煙の中に微かに光るタ級の目だけだった。加賀も提督と同じ状態であったはずだ。


提督 「あの時加賀には何が見えていた?」


加賀 「何も見えてはいなかったわ」

提督 「目もか?何も見えていなかったのか、ならどうやって気付いた?」

加賀 「どうやって気付いたと言われるとカンと言うほかないのだけれど・・・」

加賀 「艦娘の同調が他に影響を及ぼすのは知っているわよね」

提督 「あぁ」

加賀 「私は仲間の同調や具現化に敏感というか・・・おおよそなら察知できるわ」

加賀 「その感覚でおぼろげに深海棲艦の感情なのか攻撃する意思、殺意と言ってもいいかもしれない」

加賀 「それがわかるのよ」

提督 「そう・・・か」

加賀 「感覚だけじゃなくて実戦経験からのカンの部分もあるからそこまであてにならないけどね・・・」

加賀 「余り広めないでくれる?」

提督 「あぁ・・・しかし、本当か?」

加賀 「私の被弾率を見たらわかるでしょ」


 こう言われると提督も認めざるを得ない。加賀は殆ど被弾しない。


 提督は諦めた風に首を振る。


提督 「そうだな」

加賀 「残念そうね」

提督 「あぁ、教えられることなら良かったと思う」

加賀 「そう都合よくいかないものよ、ところで・・・」

提督 「ん」

加賀 「朝潮の処分はどうするの?」

提督 「・・・」


 提督は朝潮の才能を認めていた。


提督 「加賀・・・わざとか?」

加賀 「?・・・先ほどの命令違反に付いて聞いているだけなのだけど」

提督 「加賀、顔が怖いぞ」

加賀 「処分をどうするか聞いてるだけじゃない」

加賀 「それに朝潮はこの頃成績も振るわないわよね」


 最近の朝潮の成績は至って普通だ。悪いわけではない。

 ただ、最初の才能から提督が期待した伸びは一切なかった。


加賀 「第一艦隊からおろしたら?」

提督 「第一艦隊所属の駆逐艦としてはまだ新入りなんだから大目に見ないといかんだろ」

加賀 「そうかしら」

加賀 「寧ろ他に改二持ちの高性能な駆逐艦がいるのだから、朝潮と荒潮はもういらないんじゃない?」


 夕立時雨など他にも第一艦隊所属の駆逐艦は他にも存在する。

 基本的に二隻一組で運用されていた。


提督 「加賀・・・おかしいぞ」

提督 「二隻轟沈したまま運用できていたのに、念のため駆逐艦を補充しようと言ったのは加賀だっただろ」

加賀 「そうだったかしら」


 朝潮が着任した時に、加賀が提督に進言したことだ。


提督 「それに朝潮の成績が落ちているのは、少なからず加賀の訓練が影響しての部分があるだろ」

加賀 「・・・」

提督 「沈黙は肯定ととらえるぞ」

加賀 「くだらない」


 加賀は無表情で声は低く平坦に話している。

 こういう時は不機嫌な時だと提督はわかる。


提督 (これだからプライドの高い女は・・・)


 男が妥協するまで、こういう女は妥協点に気付いていても知らない演技をするか折れない。


 こういう女の面倒な姿勢は提督を苛立たせもしたが、行為の時にその女を屈服させるのは提督を強烈に興奮させた。

 この加賀の姿勢にイラつきより興奮を覚えた提督は、気付かないうちに加賀に調教されていたのだろうか。

 提督自身もわからないまま苛立つ演技を続ける。


提督 「少しずつ確実に加賀の艤装との同調を朝潮に上げさせているだろ」

提督 「常態化して誰も文句を言わんがな」

加賀 「あなたのせいで落ち込んだ朝潮に自信をつけようとしただけですよ」ニコ

提督 「ならもう止めろ」

提督 「呼応するように朝潮の同調が落ちている、成績にも出ているし傍目にもわかる」

加賀 「まぁ、私は止めてもいいのだけれど」

提督 「すぐ止めろ」

提督 「お前がいるから朝潮はここでは加賀になれん」

提督 「意味がないのに何故続けるだ?」

加賀 「この頃は朝潮から私に訓練をお願いしてくるんですよ」ニコニコ

提督 「同調に敏感な加賀なら尚更気付いてるだろ」

提督 「これ以上同調が落ちると危険だ」

加賀 「だから?」

提督 「朝潮を殺す気か」

加賀 「さぁ?・・・」ニッコリ


 加賀が提督に朝潮を殺す提案をしたことは何度かあった。冗談・・・と提督は思っていた。

 それを本気のように感じさせる不気味な笑顔だった。


提督 「この出撃体制だといずれにしろ駆逐艦は足りん、旗艦にして練度を上げてでも使うからな」


 提督は独り言のように言い放つ。

 言葉は風と一緒に後方に流れ、加賀は素知らぬ顔だ。

 もうそろそろ前方に陸が見えるはずだ。



―――――
―――



 港には第二陣の面々が待っていた。


提督 「ちょっと早くなったがすぐ出るぞ」


 さっさと乗り換えを済まし指揮作戦艇はすぐ出発した。


加賀 「荒潮の回復を待ちたいので反省会は夕方にしましょう」


 それだけ伝えると加賀は早歩きで執務室に向かい。

 五月蝿い加賀のいなくなったのを待ち、利根と筑摩はすぐどこかへ消えた。

 日向は荒潮を背負ったまま朝潮に話しかける。


日向 「荒潮を医務室に寝かせてくるから、艤装を入渠ドッグにお願いできるか?朝潮」

朝潮 「はい」

日向 「加賀の奴、少しは部下を・・・」ブツブツ トコトコ


 正直に言えば、朝潮もすぐ艤装と一緒に意識を投げ出したいほど疲れていた。


朝潮 (コンクリート・・・柔らかそう、横になりたい)


 少し休もうと自分の艤装を降ろし腰掛ける。

 すると一瞬だけ意識が飛んだ。


 視界が暗くなり夜になったかとびっくりして意識を取り戻す。

 目の前で大和が朝潮の顔を覗いていた。

 暗くなったのは大和の傘の影に入ったからであった。

 お気に入りの傘をさして微笑む大和は戦場を微塵も感じさせない優雅さがある。


大和 「どうしたの?」

朝潮 「?!」

朝潮 (どれだけ意識を失ってたのかしら?)

大和 「風邪引くわよ、怪我とかに強くても病気はかかるんだから」


 中破してぼろぼろの制服はよく風を通した。


朝潮 「すいません、心配おかけして」


 立ち上がるもふらつく。それでも何とか艤装二つを動かせるくらいには回復していた。


大和 「加賀さんにしごかれたの? 随分お疲れだけど」

朝潮 「いえ、不注意で被弾しました」

大和 「そう? 中破の参り方じゃないけど」

朝潮 「・・・」

大和 「その様子だと色々あったようね。もし何かあったら言ってね」

朝潮 「はい・・・」

大和 「艤装運ぶの手伝いましょうか?」

朝潮 「いえ、大丈夫です。有難うございます、失礼します」タタッ

大和 「無理そうなら、そこらへんの娘捕まえてお願いしなさいね~」フリフリ

大和 「さて・・・あの様子だと衣料室にすぐ来るかしら」トコトコ


 加賀が嫌われていた分、大和は人気があった。

 千歳の事件も大和がなだめたお陰で収束していた。


 時間は朝潮が気を失ってそんなにたっていなかった。


朝潮 (早く入渠ドッグに艤装を預けて荒潮のお見舞に行こう)


 入渠ドッグまで途中幾人かとすれ違ったが、皆が朝潮を他人のように気にかけなかった。

 中破はこの鎮守府の出撃において当たり前すぎて気にするほうが可笑しかった。


 朝潮は何度か休んでやっと入渠ドッグにたどり着く。

 入渠ドッグに建造ドッグが並ぶここは鼻が曲がりそうな異臭を放っている。

 この異臭に安堵を覚える日がこようとは朝潮は今日まで思わなかった。


 入渠ドッグで一番目に付くのは、見た目から危なそうな緑色の液体がみなぎる四つの巨大な試験管だ。

 この試験管の中の液体に艤装を浸けることで修復される仕組みになっている。

 中の液体は修復材と呼ばれ、海水と艤装の素材と軍事機密の怪物質を混ぜて作られていた。


 試験管の上下左右は修復材の上記構成物質を供給する配管とタンクが大量に並びかなりごちゃごちゃしていた。

 それらの供給を掌るモーターが絶えず駆動音を発し、

 雑多な配管で反響したそれは心臓の鼓動のような重低音を施設内に満たした。


 入渠自体は、艦娘が試験管の前にあるクレーンに艤装をセットすると後は自動で行われた。

 朝潮はチェーンで先に荒潮の艤装を固定すると、ボタンを押した。

 すると、チェーンが巻き上げられ高いところにある試験管の口に艤装が移動する。


朝潮 (ユーフォーキャッチャーみたいだ・・・したことないけど)


 破損でできた穴たちが液体を吸い込みつつ、ぼこぼこ音を立てながら荒潮の艤装が沈んでいく。


朝潮 (私をあの日から支えてくれた荒潮を・・・今度は私が・・・)


 その決心を鈍らせないように朝潮は荒潮の艤装が完全に修復材に沈むまで見守った。

 片手間でセットした自分の艤装は朝潮に想われるでもなく見られるでもなく寂しく沈んでいく。

 その側面は荒潮同様に穴だらけであった。



―――――
―――



 艤装を浸けたら後はやることはない。

 入渠ドッグから出た朝潮は荒潮の元に向かう。

 医務室は、ベッドと薬品棚だけが並ぶ部屋だ。担当の艦娘が一人詰めている。

 回復能力の高い艦娘は大破した時くらいしか使わない。

 季節によっては、共同生活で感染拡大しやすい風邪などの病気にかかった娘を隔離するのに使われたりもする。


朝潮 「失礼します」ガラリ


 静かに入室し荒潮を探す。


 壁の側面に薬品棚が並んでいるのに目が行く。

 ここから避妊薬をもらったことはつい最近のことなのに遠い過去のように思えた。


朝潮 (医務室担当の人いないのかしら・・・)


 がらんとした部屋でカーテンの引かれたベッドは一つで荒潮の居場所はすぐわかった。

 ベッドを囲む間仕切りりのカーテンをめくる。

 中ではベッドで横になる荒潮の横で日向が椅子に座って本を読んでいた。


日向 「お・・・朝潮来たか」パタン

朝潮 「日向さん」

日向 「荒潮ももう落ち着いてきたよ」

朝潮 「そうですか、良かった・・・」

朝潮 「今日はすいませんでした」

日向 「朝潮、そう気に病むな。仲間を思いやることは大切なことだよ」

日向 「伊勢の時・・・私も駆け寄れていればと思うことがあるよ」

朝潮 「・・・」

日向 「湿っぽくなったな、言ってることは無茶苦茶だしな」

日向 「仲間のために私たちができることは、より多くの深海棲艦を倒すことだけなのだから」

朝潮 「はい・・・」

日向 「もう行くよ、二人で話すこともあるだろう」

日向 「夕方の会議までに風呂に入ってさっぱりするといい」

朝潮 「はい、お疲れ様です」


 日向は手を振りながらカーテンを割って出て行った。

 日向が座っていた見舞い用の四脚丸いすに朝潮は腰を下ろす。


 荒潮を見ると時々苦しそうな顔をするものの呼吸も落ち着き穴だらけの制服から見える肌の傷は殆ど癒えていた。


荒潮 「朝潮ちゃん?」

朝潮 「!」

朝潮 「心配したのよ、大丈夫?」

荒潮 「えぇ」ニコ

朝潮 「体はどこも痛くない?」


 荒潮が上半身を起こし体を軽く動かした。


荒潮 「えぇ、大丈夫」ゴソゴソ

朝潮 「じゃあ、お風呂でも行かない?」

荒潮 「いいわね~、体の煤は日向先輩が軽くぬぐってくれたみたいだけど綺麗にしたいわ~」

朝潮 「決まりね」


 微笑むと荒潮は軽快にベッドから降りた。

 一緒にベッドを軽く整えて、囲っているカーテンを開けると死角のベッドで加古が寝ていた。


朝潮 「もしかして・・・」

荒潮 「多分、今日の医務室当番ね」フフ


 置かれている管理ノートに使用終了の旨を静かに記入する。


朝潮 「まず、制服を受け取りに行かなくちゃね」

荒潮 「そうね~」


 大和のいる衣料室に向かい新品の制服をもらう。

 入渠ドッグに行き艤装を預け、衣料室で新しい制服をもらうことは、第一艦隊所属の艦娘には手馴れた作業だ。


大和 「朝潮ちゃん待ってたわ、荒潮ちゃん大変だったわね」

荒潮 「いえいえ~」

大和 「荒潮ちゃん朝潮ちゃん、今回も同じサイズで大丈夫?」

荒潮 朝潮 「はい」

大和 「はい、これね」

朝潮 「ありがとうございます」

荒潮 「ありがとうございます~」


 新品の制服は綺麗に袋詰めされている。


大和 「これからお風呂?」

朝潮 「はい」

大和 「破れた制服はいつもどおり、脱衣所の専用かごにお願いね」

朝潮 「了解しました」

荒潮 「失礼します~」

大和 「いってらっしゃーい」フリフリ


 部屋を出た朝潮と荒潮は大浴場へ向かう。

 二人の抱える制服を包むビニール袋がぱりぱり小気味いい音をたてた。



―――――
―――



カポーン


 早い時間でも人がちらほらいる、ここはこの鎮守府に一つだけの大浴場。

 一番大きな湯船には鉱泉を暖めたお湯が常時注がれ小さい滝のようになっていた。

 小さな滝の音と鉱泉の臭いのにぎやかさが、入浴する艦娘たちに安らぎを与えていた。

 美肌効果があるということで足しげく通う艦娘も多い。


 朝潮と荒潮はお互いの髪を洗いっこするのが日課になっている。

 風に流れる美しい長い髪は洋上から戻る時には塩気を吸い痛みべたついた。



 今は朝潮の髪を荒潮が洗っている。


荒潮 「朝潮ちゃんは綺麗な黒髪ね、お母さまもそうだったの~?」クシクシ

朝潮 「うーん、お父さん似かもしれない」


 災厄直後から父親は行方不明だ。

 親が~なんてことは鎮守府でよくあるのでタブーでもなんでもない。皆あけすけに聞いた。

 死は私生活においても艦娘の生活においてもすぐそばにあった。


荒潮 「女の子は父親に似るって言うものね」

朝潮 「荒潮は?」

荒潮 「母親似かな~くせっ毛とか。朝潮ちゃんの真っ直ぐの髪素敵ね~」

朝潮 「ありがと」

朝潮 「そんなこと言うけど、私は荒潮のくせのある髪カールが可愛くて好きよ」

荒潮 「ふふふ、ありがとう~」


 荒潮が朝潮を洗髪してくれる間、朝潮は安心感に包まれる。

 荒潮が頭皮に走らせる指、髪をすく指、終った時に背中をぽんと押す手の平の感触。

 どれも心地よかった。


荒潮 「流すよ~?」

朝潮 「うん」


ザバー


ポン

荒潮 「終わり!」

朝潮 「次は荒潮ね」

荒潮 「は~い」


 背中を押すのは荒潮流の終わりの合図だ。朝潮の母も同じことをしていた。


朝潮 (姉と私でどちらが先にお母さんに髪を洗われるか喧嘩したっけ・・・)

荒潮 「どうしたの~?朝潮ちゃんぼーっとして」

朝潮 「ごめん・・・荒潮がうまかったからどうしたら同じようにできるかなって」

荒潮 「ふふふ、私ほどの腕前になるのは難しいわよ~」ニコニコ


 朝潮は荒潮ほど髪を洗うのはうまくない。

 水で流すまで目をつむらないでもいい朝潮と、終始目をつむる荒潮を見ても一目瞭然であった。


朝潮 「なんでそんなに上手なの?」

荒潮 「ん~妹と弟が多かったからかな~」

朝潮 「みんなの髪洗ってたの?」

荒潮 「洗えない子たちのだけよ~」

朝潮 「たち・・・」

荒潮 「ふふふ、孤児院でもずっと一緒」

朝潮 「いいわね」

荒潮 「うん、けど・・・だから私寂しがりやなのかもしれないわ」

荒潮 「朝潮ちゃん・・・私」


 急に荒潮の声が小さくなり、気になった朝潮が半身をずらし荒潮を写す鏡を見る。


荒潮 「第一艦隊から外してもらおうと思うの」

朝潮 「・・・そう」


 荒潮の目はつむって見えないものの、表情はいつも通り微笑んだままだった。



朝潮 「聞いてもいい? 理由」

荒潮 「このまま話したら寒いし、湯船でお話しましょ~」

朝潮 「うん」


 そこからは無言で髪を洗いタオルで巻き、それぞれ体を洗った。

 いつもなら話しながらすることを無言でするのは寂しかった。


朝潮 (出撃も一人だと寂しいだろうな)


 荒潮の覚悟が決まっていて今日の大破でそれが確定的となったことを朝潮は感じていた。



―――――
―――


本日投下分終了です。ご読了ありがとうございます。

>>145
お米ありがとうございます!

乙でした
朝潮ちゃんprpr

>>171
お米ありがとうございます。
朝潮型は最高ですね。
こういうSSは初めてなんでお米ご指導ご感想いただけると嬉しいです。

米も感想も書くから早く続きを書きやがれお願いします

>>173
お米ありがとうございます。お待ちしています。

朝潮分が切れて禁断症状起こしちゃうからはよはよ

>>175
お米ありがとうございます。

投下再開します。お風呂シーンからです。




 少し高いところから注がれる鉱泉が落水音を絶えず放つ。

 湯の表面は音と一緒に常に発生する波で海のようだ。

 朝潮と荒潮は湯船でも注がれる場所の近くにいて、二人の話し声は殆ど漏れない。


 朝潮と荒潮は二人並んで座っている。

 朝潮はこんな時でも背筋を伸ばし荒潮はふちにもたれかかっている。


荒潮 「知ってる~?昔の鎮守府のお風呂」

朝潮 「まぁ、こんなにしっかりしたお風呂ではなかったでしょうね」

荒潮 「艦娘も少ないし、運用に慣れてなかったから、自衛隊のお風呂そのまま作ったらしいわ」

朝潮 「自衛隊のお風呂?」

荒潮 「凄く浴槽が深かったらしいわ」

朝潮 「どれくらい?」

荒潮 「朝潮ちゃんの身長くらいかな」

朝潮 「なんで?」

荒潮 「立つことになるから長風呂にならないでしょ~それに一緒に沢山入ることができるから~」

朝潮 「おぼれそう・・・」

荒潮 「鎮守府の数少ない娯楽だから艦娘に不評ですぐ終ったらしいわ」

朝潮 「そうなんだ」


 言葉少なに朝潮は返す。


 朝潮はこの浴槽で色々なことを荒潮から聞いた。

 荒潮は周囲への気配りの延長で色々な情報を持っている娘だった。


 荒潮が両手でお湯をすくい、それを見つめる。


荒潮 「何で第一艦隊を外れたいかよね~」

朝潮 「その前に聞いてもいい?」

荒潮 「な~に~?」


 荒潮はすくったお湯が手から零れ落ち尽くしたらまたすくうを繰り返していた。

 朝潮は荒潮を見たり周囲に視線を配ったりしている。


朝潮 「今日の出撃であんなに気が散ってたのは何で?」

荒潮 「このことを提督に言おうか迷ってて、そのまま戦闘になったから~」

朝潮 「本当なの?」

荒潮 「えぇ」


 小中破から轟沈させる深海棲艦のいる海域で気を散らすなんて異常だ。

 深く考えなくても嘘とわかる。


朝潮 「そう・・・」

荒潮 「そんなに真面目だと疲れない?」

朝潮 「え?」

荒潮 「茶化す気はないわよ~」


 荒潮は手を止めていつもの微笑みをたたえた顔で朝潮を見る。


荒潮 「第一艦隊を外れたい理由を話すわね」

朝潮 「うん」

荒潮 「一言で言えば轟沈したくないからかな」

朝潮 「ん?」

荒潮 「不思議~?」

朝潮 「うん」


 出撃となれば轟沈の危険はあった。


朝潮 「これまでも戦って危険なことは何度もあったでしょ?」

荒潮 「今更?って思うわよね」

朝潮 「えぇ」

荒潮 「朝潮ちゃんにはわからないだろうけどね」

荒潮 「これからの出撃で仲間がどんどん轟沈するわ」


 平時の語り口調で淡々と轟沈を口にする荒潮。

 湯に温められいつもは健康的に朱が挿す少女の顔も肩も白い、朝潮もそうだった。


朝潮 「今日の会議で提督が言った通常の出撃体制に戻すって話?」

荒潮 「そうよ~」

朝潮 「会議じゃそんな風には・・・」

荒潮 「普通怖いし動揺するわよね?」


 ふと朝潮の頭に千歳のことが思い浮かぶ。


荒潮 「けど、ここは轟沈が多いから・・・今更怖がる娘はいないわ」

朝潮 「そんなことありえるの?」

荒潮 「怖がると同調が崩れて轟沈する危険は増すから」

朝潮 「そうなの?」

荒潮 「そうよ。だから、怖いと思ってもみんなその気持ちを抑え込んで戦ってる」

荒潮 「今朝も動揺してるように見えなかったでしょう」


 朝潮が少し距離を置いて見てた限り、荒潮の言うとおりに思えた。

 そこに動揺はなく轟沈のあった海域へ敵討ちに行く一体感があっただけだ。


荒潮 「それに・・・」

朝潮 「それに?」

荒潮 「さっき言ったとおり、精神の不安定は同調に影響するでしょ?」

朝潮 「そうね」


 精神の不安定や疲労による集中力低下は同調に影響した。

 同調の際は波打つ海上であろうと精神はコップの水のように静かでなければならなかった。


荒潮 「轟沈する娘は怖さに囚われて同調を乱したからとみんな思ってるわ」

朝潮 「そんなこと思い込みじゃ」

荒潮 「同室の子、轟沈した満潮ちゃんは・・・」


 荒潮はすくったお湯に映る自分を見る。


荒潮 「そうだ、朝潮ちゃんは轟沈ってわかる?」

朝潮 「言葉は」

荒潮 「言ってみて」

朝潮 「戦闘中に同調が切れて絶命することよね」

荒潮 「教科書通りね~、凄く正しい」

荒潮 「ところで、轟沈した艦娘がどう死ぬかわかる?」

朝潮 「・・・」

荒潮 「朝潮ちゃんは考えなかっただけでわかるはずよ~・・・大破した時の痛みで、傷で」

荒潮 「同調が切れた瞬間に艦娘は死ぬそうよ」

朝潮 「そうなんだ」


 荒潮の指摘通り朝潮はおおよそわかっていた。初出撃の大破のときから。

 けど、今荒潮がその話をすることが朝潮にはわからない。


荒潮 「痛覚を抑える能力が落ちて絶命するほどの痛みを感じるからか」

荒潮 「防御壁が消えて生命維持が不可能なほど体がボロボロになるからか」

荒潮 「正確なことはわからないらしいわ」

荒潮 「けど、朝潮にもここまでは想像が付くでしょう?」


 朝潮は無言でうなづく。


荒潮 「で、死体はどうなると思う?」

朝潮 「海上に浮翌遊する能力も消えるから・・・沈むんじゃない?」

荒潮 「正解よ」

荒潮 「轟沈した艦娘はね、沈むの」

荒潮 「艤装に海底へ引きずり込まれるとか言われているわ」

荒潮 「だから死体は出ないし、出ても千切れた部位だけ」

荒潮 「満潮ちゃんも・・・何も・・・帰ってこなかった」


 荒潮のすくったお湯の波が強くなる。

 手が震えていた。涙はぬれた頬に流れているかはわからない。


荒潮 「轟沈した艦娘に鎮守府がすることはないの」

荒潮 「葬式も何も・・・動揺するからってないわ」

荒潮 「千歳さんが言ってたように、緊急の戦力補強を名目に資材が少し多く配当されるだけ」

荒潮 「轟沈してすぐ満潮ちゃんは完全に消えたわ」

荒潮 「みんな忘れようとしてた」

荒潮 「泣いてる私に遠征が何度も指示されて・・・」

荒潮 「轟沈した時に同じ第一艦隊だった時雨ちゃんも何もないように・・・」

荒潮 「むしろ、満潮ちゃんの轟沈前より張り切って出撃していたわ」

朝潮 「だから、それは・・・それしか満潮ちゃんのためにできることがなかったからじゃないの?」

荒潮 「そうすることを満潮ちゃんが望むの?」


 朝潮は答えられない。


荒潮 「みんな時雨ちゃんのように・・・提督の言葉に近い想いを持って出撃してるわ」

荒潮 「轟沈した仲間のために・・・いい言葉よね」

朝潮 「そうするしかないじゃない」

荒潮 「そうかもね、何があったって深海棲艦の侵攻は止まらないのだから」

朝潮 「そうよ、悲しみを抑え込んで必死に戦うしかない」

荒潮 「悲しみ?必死に戦う?最初だけなのよ」


 少し話すトーンの変わった荒潮に朝潮が視線を向けると無表情な荒潮がこちらを見ている。

 話し方は機械の様に平坦で、目に力はない。


荒潮 「本当に最初だけ」

朝潮 「最初だけ?」

荒潮 「無茶な出撃が益々出撃と轟沈に拍車をかける」

荒潮 「轟沈した艦娘の分まで出撃しなければならない疲労と精神的な重圧・・・」

荒潮 「私の涙が枯れた頃に満潮ちゃんの轟沈のせいで出撃が増えたと愚痴る時雨ちゃんを見たわ」

荒潮 「怖がって同調を乱して勝手に沈んでいい迷惑だよって」


 前を見据える荒潮の声は震えてきていた。


朝潮 「時雨ちゃんも本心で言ったんじゃ・・・」

荒潮 「本心よ。それに別に時雨ちゃんだけじゃない」


 鎮守府の事情に通じた荒潮がいい加減なことを話すことはなかった。


荒潮 「よくあることなのよ」

朝潮 「そんな・・・」

荒潮 「だから轟沈した娘のために出撃するのはほんの最初だけ」

朝潮 「人間そんなにすぐ忘れられないわよ」

荒潮 「いつも誰かが轟沈してるから一々深く悲しんだりしてられない」

朝潮 「そんな・・・異常よ」

荒潮 「異常なことも頻繁にあればそれが普通になるわ」

朝潮 「おかしいわよ」

荒潮 「信じられない?」

朝潮 「だってそんなに轟沈があるなら高い戦果と士気が説明できない」

荒潮 「いつも誰かが轟沈してるって言ったでしょ?」

朝潮 「えぇ」

荒潮 「毎日変わるのよ、轟沈した仲間のためにの”仲間”がね」

朝潮 「どういうこと?」

荒潮 「満潮ちゃんのために出撃があったのが三日と言えばわかる?」

朝潮 「次の轟沈が起こったってこと?」

荒潮 「そう」


 轟沈は熟練提督なら年で一人出るか出ないかだ。

 この頻度は異常と朝潮でもわかる。


荒潮 「満潮ちゃんは・・・仲間だって帰ってこない」

荒潮 「それなのに日々変わる轟沈した仲間のために出撃してまた轟沈する」

荒潮 「そうやってるから結果的に士気と戦果が高いだけよ。この鎮守府は」


 荒潮がすくったお湯が指の隙間からこぼれる。


朝潮 「言い過ぎよ・・・」

荒潮 「満潮ちゃんは・・・いい子だったわ、朝潮ちゃんみたいに真面目で」

荒潮 「人を思いやって鎮守府のみんなが大好きで!」

朝潮 「荒潮だってそうじゃない」

荒潮 「私は違う!・・・違うのよ」


 荒潮はすくったお湯で時々顔をぬぐった。


荒潮 「満潮ちゃんは」

荒潮 「この鎮守府の朝潮型で初の第一艦隊になった艦娘よ」

荒潮 「それでも私たちと気取ることな接してくれていたわ」

荒潮 「私と朝潮もそうだけど、こっちの方が異常なの。お給金も待遇も違うのだから」

荒潮 「他にも第一艦隊所属の駆逐艦がいるのに私たちに集まるのはそういう訳なのよ」

朝潮 「そう・・・」


荒潮 「満潮ちゃんは今の私たちみたいに色々話してくれたわ」

荒潮 「深海棲艦それも戦艦の強力な攻撃をかいくぐって砲撃して小破させたとか、色々ね」

荒潮 「私と霞と大潮の憧れだった、大切な友達だった」

荒潮 「轟沈する前日も二段ベッドの上下で明日も頑張ってねと話してたわ、私たちがするように」

荒潮 「変わらない日常だったのよ、何の前触れもなく満潮ちゃんは轟沈した」

荒潮 「誰も悲しんでいないから言われるまで轟沈に気付かなかったの、笑えるでしょ」

荒潮 「翌日満潮ちゃんに家族がいないから前いた孤児院に残った荷物を送ることになったわ」

荒潮 「同室だから私が作業に当たった」

荒潮 「荷物を整理していると読んだことのない満潮ちゃんが大事にしてた日記が出てきたの」

荒潮 「今でも読まなければと思うことがあるわ」

荒潮 「日記の方は殆ど私たちと一緒だった時のことばかり嬉しそうに書いてあった」

荒潮 「誇らしげに話してた出撃の日記の内容は危なかったとか怖い辞めたいばかりだった」

荒潮 「私たちは誰も何も満潮ちゃんの気持ちをわかってなかった」

荒潮 「今思えば轟沈への恐怖の中で私たちと話してたのが一番楽しい思い出だったのかもしれない」

荒潮 「私は同じ部屋にいる満潮ちゃんのことを自分の半身のように思ってた」

荒潮 「戦果を上げたことを自分のことのように喜んでたわ」

荒潮 「けど、それだけで・・・悲しさも恐怖も共有できていなかったのよ」

荒潮 「満潮ちゃんは寂しかったと思う」

荒潮 「それでも勇気を振り絞ってそれを見せないで出撃してた」

荒潮 「それなのに私・・・自分勝手よ」

朝潮 「そんなことない!!」

荒潮 「慰めなんていらない・・・」


荒潮 「満潮ちゃんの勇気を見てきたのに、もう第一艦隊から外れたいなんて」

荒潮 「けど怖いのよ、亡くなって数日で忘れられて、それどころか陰口を叩かれるのが」

荒潮 「寂しがりやだから嫌なのよ、何もなくなるのも。朝潮にも忘れられたくない、家族にも、みんなにも・・・」

荒潮 「そう思っちゃいけない?」

朝潮 「・・・」


 こちらを見た荒潮の目の赤さが未だ白い肌に際立った。


荒潮 「死ぬのが怖いの」

荒潮 「こんなこと朝潮に話すことじゃないわよね、ごめんなさい」

朝潮 「じゃあ、今日の出撃は」

荒潮 「満潮ちゃんの日記で恐怖の部分だけが現実味を帯びて大きくなっていってるのよ」

荒潮 「この頃夢で見たことない満潮ちゃんの轟沈した場面を見るの」

荒潮 「自分が第一艦隊で出撃しているから日に日に内容が鮮明になるのよ」

荒潮 「さっきのは嘘、今日の出撃では平静を保つので精一杯だったのよ」

荒潮 「よくできてたでしょ?」

朝潮 「大破しちゃってたじゃない」

荒潮 「そうね」フフ


 荒潮が自嘲気味に笑う。初めて荒潮がそう笑うのを朝潮は見た。


朝潮 「満潮の戦いも、残された第一艦隊の戦いも無駄じゃない」

朝潮 「誰かがやらないといけないことだから」

朝潮 「私たち艦娘が」

朝潮 「艦娘だけが戦って守ることができるのだから」

荒潮 「そうね」

荒潮 「勝手に適性を与えられて生死の狭間で戦わされるのは私たちにしかできないことよ」

荒潮 「それを誇らしいと思わないことはない、今も意味がないこととは思わない」

荒潮 「けど、私には無理なの、さっき言った気持ちの部分だけじゃないわ」

荒潮 「私は何より孤児院の家族が大切で見捨てられない」

朝潮 「見捨てる?」

荒潮 「満潮ちゃんのいた孤児院から手紙が来たの遺族補償じゃ足りないから献金が欲しいって」

荒潮 「日記を読んだんでしょうね、私の名前が一番多く書いてあったから」

荒潮 「駆逐艦が轟沈しても大して遺族補償なんて出ないのよ」

荒潮 「階級や仕官年数で遺族補償が変わるように入って間もない駆逐艦に大した額が支給される訳ない」

朝潮 「払ったの?」

荒潮 「払ったわ・・・少し」

朝潮 「・・・」

荒潮 「妹たち弟たちのためにも。私は[ピーーー]ないのよ・・・」


 朝潮は何もなぐさめることができないのが悔しかった。

>>189  訂正
次の私の米と入れ替えを


朝潮 「満潮の戦いも、残された第一艦隊の戦いも無駄じゃない」

朝潮 「誰かがやらないといけないことだから」

朝潮 「私たち艦娘が」

朝潮 「艦娘だけが戦って守ることができるのだから」

荒潮 「そうね」

荒潮 「勝手に適性を与えられて生死の狭間で戦わされるのは私たちにしかできないことよ」

荒潮 「それを誇らしいと思わないことはない、今も意味がないこととは思わない」

荒潮 「けど、私には無理なの、さっき言った気持ちの部分だけじゃないわ」

荒潮 「私は何より孤児院の家族が大切で見捨てられない」

朝潮 「見捨てる?」

荒潮 「満潮ちゃんのいた孤児院から手紙が来たの遺族補償じゃ足りないから献金が欲しいって」

荒潮 「日記を読んだんでしょうね、私の名前が一番多く書いてあったから」

荒潮 「駆逐艦が轟沈しても大して遺族補償なんて出ないのよ」

荒潮 「階級や仕官年数で遺族補償が変わるように入って間もない駆逐艦に大した額が支給される訳ない」

朝潮 「払ったの?」

荒潮 「払ったわ・・・少し」

朝潮 「・・・」

荒潮 「妹たち弟たちのためにも。私は死ねないのよ・・・」


 朝潮に反論する気は元からなくても、何もなぐさめることもできないのが悔しい。

 唇をかみ締める朝潮にいつもの顔の荒潮が話しかける。


荒潮 「話したらすっきりしちゃった」

朝潮 「・・・」

荒潮 「満潮ちゃんならこんな相手に何かを背負わせるような話はしなかったわ」

荒潮 「私は満潮ちゃんになりたかったけどなれなかった」

朝潮 「荒潮と満潮は違うのだから仕方ないわよ」


 それ以上何も言えなかった。


荒潮 「あがる~?」

朝潮 「うん」



ちゃぽん


 浴室内の水滴が付いた時計は朝潮が思ったより時間が経過していないことを示していた。

 大浴場にいるメンバーは余り変わっていない。

 しかし、朝潮にとって脱衣所まで目に映る人間が全て当初より別人のように思えた。



―――――
―――




パリパリ


 新しい制服を包むビニール袋を開ける。

 新しい衣服のにおい、のりのにおい、それと・・・。


朝潮 クンクン

荒潮 「いつもしてるけど、何してるの~?」


 朝潮を覗きこむ荒潮。格好は二人とも下着のみ。

 艦娘の制服は常在戦場を旨とする鎮守府内では着用必須だ。

 ただ、女性ばかりの寮関係施設では、夏は下着のままうろつく艦娘さえいる。


朝潮 「引かないでね?」

荒潮 「うん?」

朝潮 「新しい制服のにおいをかいでいるの」

荒潮 「何かにおうかしら?」クンクン

朝潮 「潮とすっぱい?においかな・・・」クンクン

荒潮 「工場のにおいじゃないんだ、へ~」クンクン

朝潮 「少し前までそうだったわ、今はこんなにおい」

荒潮 「なるほど、すえたにおいね・・・」クン


 荒潮が難しそうな顔をする。


朝潮 「どうしたの?」

荒潮 「朝潮ちゃん、このこと余り話さない方がいいかもしれないわ~」

朝潮 「ごめん、はしたないよね?」

荒潮 「違うわよ~」フフ

朝潮 「な、なんで?」

荒潮 「   」ヒソヒソ

朝潮 「えっ」

荒潮 「今でも提督は大和さんと衣料室で仲良しみたいねー」ウフフ

朝潮 「ハハ・・・」


 提督が艦むすと二人きりになることができる空間は割と少ない。


荒潮 「朝潮ちゃんは下着にこだわりあるのー?」


 損傷がわかる高性能な制服は艦種で完全指定だ。

 しかし、制服以外の部分はいくらか選ぶことができた。

 (靴下タイツスパッツ手袋腕当てリボンネクタイ髪留めアクセサリー下着etcetc)

 と言っても選択できるのは全て海軍の審査を受けたものだけだ。

 当然、制服のように対衝撃耐熱対磨耗に優れていた。

 時々、審査外の化繊下着やアクセサリーを付けた艦娘が、

 戦闘の熱で皮膚にそれを癒着させてしまい自己回復能力が働かなくなる事故があった。


朝潮 「んー、ニーソックス?少しでも体を覆う布の面積があった方が安全かな・・・なんて」

荒潮 「なるほど、朝潮ちゃんらしいわね」フフ


 朝潮は他にも色々想像していた。

 足に艤装を付けるような艤装を緊急で任される時があるかもとか、色々だ。


朝潮 「荒潮はスパッツにこだわりがあるの?」

荒潮 「なんで~」

朝潮 「朝潮型は足に艤装付けないから特にスパッツじゃなくてもいいわよね」


 朝潮型が腕当てを付けるのは艤装を腕に付けるからで、

 同様に足に艤装を付ける艦種はスパッツやタイツで艤装の触れる部分を覆う艦娘が多かった。


荒潮 「そうね~・・・こだわりはないけど」

荒潮 「艦娘になる前に余りスカートってはかなかったから~」

朝潮 「そうなんだ」

荒潮 「スカートって小さい子が引っ張るから」

朝潮 「そういえば私も小さい頃お姉ちゃんのひっぱってたかも・・・」

荒潮 「どこも同じね~」フフ

朝潮 「けどそうやってはけなかったなら尚更スカートでおしゃれしたいとかは?」

荒潮 「私も同じこと考えてのたけど、いざ慣れないスカートだけだと」

朝潮 「?」

荒潮 「すーすーするのが」

朝潮 「なるほどね。ふふ、それにしても意外」

荒潮 「ん~?」

朝潮 「荒潮はそういうのみんなに合わせるイメージがあるから」


 艦隊や寮の割り振りは、指導や運用の都合から同じ艦種かつ~型で一緒にされやすい。

 当然、同じ艦種や~型で仲良くなれば制服以外の格好を揃える娘も多かった。


荒潮 「同調するのに集中力を使うから慣れた格好を今から変えるのもね~」

朝潮 「そういうこと荒潮も気を付けるのね」

荒潮 「私は人一倍気を付けてるわよ~」

朝潮 「そう・・・」


 着替えの終わった二人はお互いの髪を乾かす。

 ここでも荒潮は上手だ。乾かし方より頭を走る指が気持ちいい。

 してあげる妹や弟に静かにしてもらうためのテクニックなのだろう。


朝潮 「うーん・・・衣装を変えないって言うほど効果あるの?」

荒潮 「ないかな~気休めとか験をかつぐために近い感じよ~」

朝潮 「験をかつぐ?」

荒潮 「うん、そういえば他の人も同じようこと色々してるわ~こういう鎮守府だから」

朝潮 「そうなんだ、気付かなかった・・・」

荒潮 「朝潮ちゃんはそういうの信じなさそうよね」

朝潮 「そうかも・・・」

荒潮 「そうだと気付かないわよね」

朝潮 「具体的にはどういうことやるものなの?」

荒潮 「人によるわよ~、気付いてるだけでも沢山」

荒潮 「よくあるのが朝食を決めたものにしたり、指揮作戦艇に乗る足を限定したりね~」

朝潮 「そんなにあるんだ、気付かなかった」

荒潮 「気にしていなければ気付かないわよ~」

朝潮 「そうかな?」

荒潮 「そうよ、わざわざ人に言うことじゃないから~」


朝潮 「荒潮は信じてるの?」

荒潮 「信じてると思うわ」

朝潮 「思う?」

荒潮 「それで少しでも気持ちが上向きになればいいなって、いいことしか信じないの」

朝潮 「荒潮らしい」フフ

朝潮 「荒潮の験担ぎって何か教えてもらえる?」

荒潮 「制服をまめに新しいのに変えたりかしら~」

朝潮 「綺麗好きだなとは思ってたけど」

荒潮 「朝潮ちゃんは真面目すぎよ~」

朝潮 「え?何が?」

荒潮 「少しの損傷なら制服変えないでしょ、制服も貴重な物資だからとか思ってる?」

朝潮 「そうかも・・・」

荒潮 「それは験担ぎ以前の問題よね~」

朝潮 「うーん」

荒潮 「制服より朝潮ちゃんの方が大事なんだから~」

朝潮 「ありがとう、けど孤児院のくせでものを捨てられないというか・・・」

荒潮 「気持ちはわかるけどね~」

朝潮 「でしょ?」

荒潮 「でも、ものを大切にする朝潮ちゃんが危険な目にあうのをそのものは喜ぶかしらね~」

朝潮 「うっ、ものさん心配かけてごめんなさい」

荒潮 「フフフ」


 これまでも色々話してきた。

 けど、このようなお互いを改めて確認するような話はしなかった。

 それはそれが必要なかったからだ。今はこの時間が惜しい。


朝潮 「荒潮、ごめん」

荒潮 「な~に~?」

朝潮 「荒潮は、タイミングとか考えてると思うけど」


 だから朝潮は、風呂から出てからこの話題には触れなかった。


朝潮 「今執務室にいる加賀さんにさっきのこと話した方がいいと思う」


 それにいいようのない卑怯さを朝潮は感じていた。


荒潮 「提督に言った方が・・・」

朝潮 「そんなこと言ってたら出撃の時みたいになるかもしれないじゃない」

荒潮 「それはそうだけど」

朝潮 「一緒に行くから言いに行こう」


 朝潮は荒潮の穴だらけの制服を自分の破れた制服と一緒に脱衣所すみの専用かごに投げ込むと、荒潮の手を引く。


荒潮 「うーん・・・」


 何かいいたげに考え込む荒潮が気にかかった。


―――――
―――




~執務室~



加賀 「・・・無理よ」


 加賀は視線をPCのモニターに向けたまま言い放つ。


加賀 「これ以上、用がないなら下がりなさい」

荒潮 「・・・」

朝潮 「何でですか?」

加賀 「この出撃体制が当分続くからよ」


 加賀は目の前の機械より冷たく機械的に話した。


朝潮 「轟沈するからですか?」

荒潮 「朝潮ちゃん・・・」

加賀 「そうよ、だから減ると回らないの」

朝潮 「轟沈が前提なら尚更一人くらい抜けても大丈夫ではないでしょうか?」

荒潮 「朝潮ちゃん!!!」

朝潮 「」ビクッ

荒潮 「朝潮ちゃん、加賀さんじゃどうにもできないわ」

朝潮 「?」


 荒潮が何か言いたそうにしてるのを、朝潮は決心が鈍らないよう無理やり引っ張って来ていた。


加賀 「その通りよ、わかったら帰って今朝の報告書を作りなさい」

荒潮 「ごめんなさい、朝潮ちゃん・・・わかってたの」

荒潮 「それなのに朝潮ちゃんが引っ張るのに抵抗しないで」

朝潮 「どういうこと?」

大和 「編成の決定権は司令官にあるのよ」


 執務室のドアを開けて大和が入って来た。空気が変わる。


加賀 「何の用?」


 加賀はようやく視線を上げる。


大和 「廊下まで聞こえる声で話してたから諌めに来ただけよ」

加賀 「・・・声を荒げた積もりはないけど」

加賀 「丁度いいから、そこの二人を連れて出て行ってくれるかしら?」

大和 「諌めに来たのはあなたよ」

加賀 「・・・」


大和 「話を聞いて提督に進言するくらいできるでしょう?」

加賀 「無意味よ」

加賀 「私は朝潮と荒潮を第一艦隊から除外するよう既に提督に進言したわ」

加賀 「成績が低い上に今日の大破もあったから」

大和 「提督は何とおっしゃって?」

加賀 「提督は朝潮と荒潮を第一艦隊で使い続けるお積もりよ」

大和 「加賀が口下手だから説得できなかったんじゃないかしら」

加賀 「提督は彼女達を一時旗艦にすえて鍛えてでも、第一艦隊から下げないと強くおっしゃったわ」

朝潮 荒潮 「!?」

加賀 「外れるなんて無理でしょうね」

大和 「士気の低い子を送り出して轟沈したらどうするの?」

大和 「加賀さんあなた・・・責任を取れるの?」

加賀 「あなたが秘書艦だった時も轟沈する艦娘がいたようだけど責任はどう取ったのかしら」

大和 「私は人員が不足するようなことがなければ無理やり戦闘に駆り出すことはしなかったわ!」


 大和が加賀を睨む。朝潮と荒潮は蚊帳の外だ。


大和 「無理かどうかは別よ」

大和 「荒潮ちゃんの気持ちを汲んで提督をもう一度精一杯説得すべきなんじゃないの?」

加賀 「・・・そうね。そうやって子供を騙して気持ちよく出撃してもらうなんて方法、勉強になるわ」

大和 「・・・」キッ


 大和に睨まれても加賀は何もないように執務を再開した。

 当然放たれる加賀の言葉はまた温度を失った。


大和 「加賀さん、荒潮ちゃんに顔をちゃんと向けて説得することを約束してくれる?」


 やっと顔を上げた加賀は、表情を一切動かさず荒潮に言った。


加賀 「あなたが第一艦隊から外れることで」

加賀 「練度の足りない仲間が出撃して轟沈しても・・・あなたは耐えられるのね?」


 この言葉に朝潮と大和は一瞬硬直し、荒潮を見る。


荒潮 「・・・」


 荒潮は少し固まった後に静かにうなずいた。


大和 「そんな言い方

加賀 「わかったわ。その覚悟があるなら大丈夫ね」


 加賀は顔をPCに戻し執務を再開した。


大和 「・・・」イラ

荒潮 「ありがとうございます。失礼します」グイ

朝潮 「しっ失礼します」

加賀 「待って」

朝潮 荒潮 「!?」ドキ

加賀 「この件は朝潮と荒潮しか知らないわよね」

荒潮 「・・・はい」

加賀 「これからも口外しないことね、後提督の説得は期待しないことよ」

荒潮 「はっはい」

加賀 「下がっていいわ」

朝潮 荒潮 「失礼します」


 朝潮の服を荒潮が強く引いた。


―――――
―――


今回投下分終了です。
ご読了ありがとうございます。

乙ゥ
轟沈させた責任言うなら相手が違いますぞ大和さん

大和と提督が何やってるかも気になるし、スレタイにどう持っていくのかも気になるねぇ。

>>206
お米ありがとうございます。アニメの大和さん可愛かったですね。

>>207
お米ありがとうございます。菱餅掘ってるんじゃないですかね。

投下再開します



~朝潮と荒潮の部屋~


荒潮 「最低だと思った?」


 先に部屋に入った朝潮の背中に、荒潮はドアを閉めながら話しかける。


朝潮 「ううん」

荒潮 「嘘でも嬉しいわ」

朝潮 「嘘じゃない」


 万が一代わりに艦娘が出たとき一番苦しいのは満潮の死に誠実に向き合った荒潮だろうと朝潮は思った。


荒潮 「編成権は提督が持ってるから、私からできるのはお願いだけ」

荒潮 「元から無理だとわかっていたのよ」

朝潮 「そう」

荒潮 「ごめんなさい、朝潮ちゃんにこんなに気持ちを背負わせて」

朝潮 「そんなことない」


 ドアの前で涙ぐむ荒潮を朝潮は抱きしめた。

 今の荒潮に朝潮型のお姉さんとしてみんなをまとめていた包容力はない。

 強く抱きしめると折れてしまいそうだった。


荒潮 「大丈夫、ありがとう」

朝潮 「・・・」


 そっと朝潮から離れた荒潮は席につき報告書の作成を始める。

 朝潮はその背中を見つめる。


朝潮 「荒潮は」

朝潮 「荒潮は艦娘になれたことを後悔してる?」

荒潮 「・・・してないわ」

荒潮 「朝潮にも会えた」

朝潮 「うん」


 こういう時に満潮という子はどうなぐさめたり話したりしたのだろうか。

 朝潮はこの部屋が荒潮と自分を乗せたまま沈降していくかのような気がした。


―――――
―――




~埠頭~


 今日最後の出撃からの帰港。時間は夕暮れ。

 緊張を解かれた艦娘たちが安堵の表情で桟橋をカタカタ踏み下船する。

 その桟橋の近くで無表情な加賀が立っている。

 提督が艇内から現れ桟橋を渡る。


加賀 「お疲れ様」

提督 「どうした」

加賀 「お話が」

提督 「珍しいな」


 提督は加賀に構わず執務室の方向に向かうと加賀も並んで歩き出した。


加賀 「戦果は?」

提督 「ぼちぼちだ」

加賀 「そう」

提督 「加賀の艦隊と同じだ、全員浮き足立ってる」

加賀 「私の艦隊が浮き足立ってる・・・ね」


提督 「心当たりがあるか?」

加賀 「反省会でもそういう話になったわ」

提督 「ふむ」

加賀 「提督の所見を聞かせてもらえる?」

提督 「いいぞ」

提督 「まず荒潮と朝潮の大破だ」

提督 「あれは単に練度の低いあいつらが原因じゃない」

提督 「朝潮や荒潮は最初対潜メインで攻撃してるから敵戦艦の動きまで把握できん」

提督 「加賀も同様だ、制空権争いがあるからな」

加賀 「そうね」

提督 「あれは索敵値の高いほかの艦で敵の状況を確認し合うべきだった」

提督 「落ち度があるなら艦隊の目なのにそれをおろそかにした・・・利根や筑摩になるだろうな」

加賀 「彼女達にしては初歩的なミスよね」

提督 「実際の反省会ではどういう話になった?」

加賀 「提督が今言った通りの内容で会議が進んだわ」

提督 「そうなるだろうな」

提督 「他の艦隊も同じだ、冷静さがないからくだらんミスが多い」

提督 「クズどもが・・・」

加賀 「なるほどね」

提督 「初日とは言え酷い」

提督 「この戦果が続くようなことがあれば地方本部長官の椅子が遠のく・・・」


 イラついた様子で歩きが少し速くなる。


加賀 「ところで、轟沈防止の件覚えてる?」

提督 「覚えてる」

加賀 「今日のような状況の建て直しもしないといけないから急いだ方がいいと思うの」

提督 「何か考え付いたか?」

加賀 「出撃中の損傷確認を提督だけでなく旗艦も行うというのはどうかしら?」

提督 「私と旗艦でダブルチェックするのか」

加賀 「えぇ」

提督 「いいんじゃないか、それで浮ついた奴らも落ち着くだろう」

加賀 「・・・」

提督 「どうした?」

加賀 「いえ、それと荒潮が第一艦隊から外れたいと言ってるわ」

提督 「そんな話を上げるな」チッ

加賀 「そう思って断ったのだけど」

加賀 「大和さんが秘書艦なんだからどうにかしろと嫌味を言うものだから」

提督 「大和には後で言っておく」

提督 「轟沈より士気に影響するぞ、第一艦隊から外れることを許したら」

加賀 「荒潮が希望していたことが漏れなければ文句はないでしょう?」

提督 「それはな」

提督 「低成績で外すという体裁が整うからな」

加賀 「口止めしたから知っているのは恐らく朝潮と大和だけよ」


提督 「外せと言うのか、加賀は」

加賀 「判断の材料を用意しただけ」

提督 「加賀の意見は?」

加賀 「外さない方がいいと思うわ」

提督 「そう言うだろうな」

加賀 「編成に艦娘が口出しするなんてご法度よ」

提督 「建前は別として、荒潮の士気は艦隊に影響しそうか?」

加賀 「荒潮はかしこいから無理だってわかってるわ」

提督 「だから?」

加賀 「第一艦隊に大きな影響はないでしょうね」

提督 「今日の大破を加味してもか?加賀」

加賀 「そうよ」

提督 「ふむ」

加賀 「ただ、朝潮に影響するかもしれないわ」

提督 「ありそうな話だな」

加賀 「どうする積もり?」

提督 「旗艦で運用して決める」

加賀 「使えるなら第一艦隊継続ね」

提督 「あぁ、荒潮の後継を考えておけ」


加賀 「現時点での荒潮の評価は?」

提督 「いいよ」

加賀 「意外ね」

提督 「おれ好みかと言われればNOだ、才能がない」

提督 「艦娘の保有人員上限がなくなるくらい溢れて選べる事態になればすぐ解体という名の解雇だ」

加賀 「でしょうね」

提督 「ただ、孤児院育ちの艦娘に多いが、周囲の顔色をうかがう癖が強いだろ、荒潮は」

加賀 「そうね」

提督 「あの若さで珍しく視野が広い、戦況と艦隊の状況を加味して動けてる」

提督 「今は交代させる気は一切ない」

加賀 「そう・・・」


 提督が執務室の厚いドアを開け息を吐きながら椅子につく。加賀も自分の椅子に。


提督 「ダブルチェックの話に戻そうか」

加賀 「はい」

提督 「戦闘に影響を出さずに簡単に実行できると思うか」

加賀 「問題ないと思うわ」

加賀 「面倒なのは旗艦になる艦娘は損傷資料の暗記が必要なことくらいね」

加賀 「提督は気になることはあるかしら?」

提督 「ないと言えば嘘になるか、元々何で提督だけで確認するかという話だ」

加賀 「それもそうだけど」

提督 「気にしなくていい。そんなやわなのはおらんだろ」

加賀 「どうかしらね」

提督 「構わん、ダブルチェックは採用だ」

提督 「専用のマニュアルと報告書の策定を頼めるか?」

加賀 「はい」

提督 「上にも提出できるように丁寧にな」

加賀 「そうね」

提督 「第一艦隊の士気と集中力を最盛期まで戻すのが第一義だ」

提督 「一緒に地方本部の疑いも晴れるなら尚いい」


加賀 「そうそう、よく旗艦になる娘なら損傷具合は元からわかるでしょうけど朝潮は

提督 「朝潮は明日から旗艦にするぞ」

加賀 「は?」

提督 「決断は早い方がいいからな」

提督 「荒潮もそうだが、朝潮も結果を出せなければ一緒に第一艦隊から下ろす」

加賀 「時間がなさ過ぎるわ」

提督 「そうでもないだろ、艦隊の一人は荒潮にするから覚える必要があるのは四人だ」

提督 「加賀も入れれば、加賀の損傷は覚えなくていいから三人だな」

加賀 「数字の上ではね」

加賀 「旗艦ならやることがそれだけじゃないことはわかるでしょ?」

提督 「問題ない」

提督 「損傷はおれも確認するし、旗艦といっても駆逐艦だからいつもより多めにおれがフォローする」

加賀 「無茶よ」

提督 「御託はいい」

提督 「朝潮を呼べ、明日の出撃を打ち合わせる」

加賀 「・・・」


 旗艦は提督と執務室で調整に当たる。


 加賀は無言で執務室を出て行く。

 加賀のこういう時は不満を感じている時と提督にはわかっている。


加賀 「また悪い癖・・・」



―――――
―――




~朝潮と荒潮の部屋~

 提督が執務室に戻る少し前。


 朝潮は命令違反以上に出撃後の反省会議で責められることはなかった。

 むしろ、敵を見失った日向と利根と筑摩が責められた。

 合理的且つ冷静に戦局が見直された。

 それはそれで朝潮にはこたえた。


 荒潮はあれから諦めからか表面はいつも通りにもどっている。


荒潮 「加賀さんたち予想以上に私たちを責めなかったわね~」

朝潮 「そうね」

荒潮 「何かご不満~?」

朝潮 「いえ・・・」

荒潮 「責められた方がスッキリするのにとか思ってる?」

朝潮 「そんなこと・・・」


荒潮 「引き摺らないことよ、精神状態って同調に影響するから」

朝潮 「・・・そんなことできる?」

荒潮 「私はできなかった」

荒潮 「けど、この鎮守府の第一艦隊にいればいずれはそうなるわ~」

荒潮 「精神的不感症にならないと辛すぎるの」

朝潮 「みんなそうなるもの?」

荒潮 「日向さんみたいな人もいるけど少数派よ」

荒潮 「利根さん筑摩さん加賀さんみたいに余り他の人と交流を持たない方が気楽よ」

朝潮 「そうかもしれないけど・・・」


 飄々と荒潮が話す内容は実際の荒潮と乖離していた。


コンコン


朝潮 荒潮 「はい」

加賀 「私よ、いいかしら?」

荒潮 「・・・」

朝潮 「今あけま


ガチャン


 朝潮の言葉を無視して加賀が部屋に入りドアを閉める。

 荒潮は加賀に椅子をすすめる。


荒潮 「どうぞ」

加賀 「ありがとう」

荒潮 「どうされました?」

加賀 「荒潮、あなたの第一艦隊からの離脱は却下されました」

荒潮 「はい」

朝潮 (そんな・・・)

加賀 「提督は朝潮と荒潮に期待しています」

加賀 「付いては旗艦にして鍛える話を進めるそうです」

朝潮 荒潮 「はい」


 旗艦としての成績次第とは加賀は言わない。

 それは加賀の配慮だったものの朝潮と荒潮を絶望させた。

 加賀に椅子を譲り立っていた荒潮は近くにある二段ベッドの柱を強く握っている。


加賀 「先に旗艦になるのは朝潮、あなたよ」

朝潮 「了解しました」

加賀 「旗艦になるのは急だけど明日からよ」

加賀 「説明と打ち合わせがあるからすぐ執務室に来るように」

朝潮 「すぐですか?」

加賀 「二回も言わせないで」

朝潮 「はい、すぐに!」


 手早く準備を済ませると加賀を見つめる朝潮。


加賀 「行くのはあなただけよ」

朝潮 「え?」


 加賀はそう言うと唖然とする朝潮を置いて次に旗艦となる荒潮を連れてどこかに行った。


―――――
―――




~執務室~



提督 「待ってたぞ、朝潮」

朝潮 「遅れて申し訳ありません司令官」


 朝潮は執務机の前に立って敬礼する。


提督 「加賀の椅子に座るといい」

朝潮 「はい」


 秘書艦用のキャスター付きの一般的な事務椅子は誰でも使えるように高さが調整できた。

 机が使えるように加賀が使ってた時より椅子の高さを上げる。

 朝潮は足が床から離れ少しふらふらする。


提督 「旗艦になることは加賀が伝えたな、何をするかわかるか」

朝潮 「教科書上の知識は一通り」

提督 「よろしい」

提督 「教科書と違う点がある」

提督 「旗艦にはなってもらうだけで秘書艦は変わらず加賀だから書類仕事は殆どしなくていい」

提督 「だから朝潮がやることは戦闘海域での指揮と戦闘の総報告書をまとめることだけだ」

朝潮 「なるほど」メモメモ

提督 「実際の戦闘はおれが殆ど指示をするし、総報告書も加賀が手伝う」

提督 「難しいことはないから安心しろ」

朝潮 「はい」

提督 「後はこれを覚えろ」


 書類が投げられる。


朝潮 「これは?」

提督 「明日の出撃で朝潮が指揮する艦隊のメンバーの損傷表だ」

朝潮 「???」

提督 「明日からより安全な進軍のため損傷をダブルチェックすることになった」

朝潮 「ダブルチェック?ですか?」

提督 「おれがする損傷の確認を旗艦の朝潮にもしてもらう」

朝潮 「なるほど二重に確認ですか、責任重大ですね」

提督 「これも安心しろ、おれが間違うことはない」


 朝潮は損傷表を眺める。

 写真には特徴的な損傷にマークがされていてわかりやすくなっていた。


朝潮 「このマークは提督が?」

提督 「そうだ」

朝潮 「覚えやすくて助かります」

提督 「自分のためだ、礼はいい」

朝潮 「他に覚える方法等はありますでしょうか?」

提督 「ない」

朝潮 「提督は苦労しなかったんですか?」


 200人超の損傷を覚える提督に対する純粋な好奇心だった。


提督 「轟沈が多くて人の出入りが多いから大変かってことか?」

朝潮 「いえ、そんな積もりは・・・」

提督 「朝潮がどういう積もりでも気にはせん」

提督 「おれは苦労しなかったよ」

提督 「特徴的な損傷は艤装の元である艦の轟沈時の損傷に符合する」

提督 「それさえ覚えておけば応用がきく、後は個人個人の特徴を覚えるだけだからな」

朝潮 「なるほど」

提督 「今回は急だしおれもチェックする、だから気負うことはない」

朝潮 「ありがとうございます」


 暫くボードの出撃表と損傷表を見比べていると自分の写真が目に入った。

 あの場面がフラッシュバックする。吐き気がした。

 朝潮が逃げるように顔を上げると提督は何食わぬ顔で各艦隊の報告書を確認している。


 朝潮の提督への憎しみはそのまま不信に繋がり、

 荒潮を平気で沈める提督の様子が頭でぐるぐるする。


朝潮 「質問いいですか?」

提督 「なんだ?」

朝潮 「荒潮を第一艦隊から外すことは絶対にできないのでしょうか?」

提督 「・・・その話か」

朝潮 「・・・」

提督 「加賀にも言ったが、今回の旗艦出撃の成績次第だ」

朝潮 「成績次第?」

提督 「あぁ、悪ければ荒潮の意思と関係なく外す」

提督 「ただ、現時点で経験のある荒潮を抜くことは考えていない」

朝潮 「なら旗艦のときに失敗をすれば」

提督 「朝潮が荒潮ならできるか?そんなこと」

朝潮 「・・・」


 小中破から轟沈させるような深海棲艦がいる海域だ。

 自分の命は勿論、仲間の安全を考えても不可能だ。


提督 「その様子だとこのことは加賀が伝えなかったようだな」

提督 「いたずらに動揺させるよりはいい、荒潮には話すな」

朝潮 「はい」

朝潮 「成績次第とのことですが、現時点で提督の荒潮に対する評価はどうなのでしょうか」

提督 「加賀にも同じことを聞かれたな」

提督 「おれの荒潮への評価は低くない」

提督 「朝潮お前はそこそこ才能あるよ、荒潮にはそれさえない」

提督 「が、周囲の状況に対応して動ける賢さがあるから大きな失敗をしない」

提督 「そこを評価してる」

朝潮 「じゃあこのまま問題がなければ・・・」

提督 「下げない」

朝潮 「どうにかならなりませんか」

提督 「朝潮は外して欲しいのか、何でだ?」

朝潮 「荒潮は限界です、満潮の轟沈に今日の大破だって

提督 「荒潮だけと思うなよ」

提督 「金剛型は金剛と榛名が轟沈しても比叡と霧島は第一艦隊で活躍してる」

朝潮 「大破して轟沈しかけたんですよ!」

提督 「大袈裟だ、馬鹿らしい」

提督 「駆逐艦ならよくあることだ」

提督 「朝潮は初めての仲間だからと気にしすぎじゃないか」

朝潮 「そんなこと・・・ありません」

提督 「初めてというだけで特別になるからな」


 初めてという言葉が朝潮の耳に嫌に響く。

 鎮守府初めての友達荒潮。朝潮の初めてを奪った提督。

 提督のにやついた顔はそれを同列に語るような下劣な感を朝潮に与えた。

 違う。


朝潮 「第一艦隊になりたい駆逐艦なら他にいます」

朝潮 「やる気のある艦娘が第一艦隊の方がいいのではないでしょうか」

提督 「編成権に口出しとはお前何様の積もりだ、朝潮」

朝潮 「っ・・・、すいません」


 無茶を言っているのは朝潮にもわかっているのだ。


 編成権は提督の牙城だ。

 力関係が逆転した鎮守府世界で唯一の提督の艦娘への強権だ。

 そして、国を守る鎮守府で最重要の機能だ。

 鎮守府を統制し、深海棲艦に勝利するために。


 それでも。


提督 「不満そうな顔だな」

提督 「これで荒潮を第一艦隊から外して代わりの練度が低い艦娘が轟沈したらどうなる?」

提督 「おれが上からどやされるぞ、ただでさえ轟沈が多くて目をつけられているんだ」

朝潮 「・・・」

提督 「上からどやされるからじゃない」

提督 「こういう危険な海域を任されているから少しでも轟沈をなくしたい、わかるか?」

朝潮 「はい・・・」

提督 「そもそも何で荒潮は外れたがってる?」

朝潮 「加賀さんから聞いてないんですか?」

提督 「加賀には言わないよう命じた、聞いても仕方ないからな」

朝潮 「・・・」

提督 「加賀にあたるなよ」

提督 「で、何だ?」

朝潮 「荒潮は轟沈が怖いそうです」

提督 「そうか」

提督 「そのままの気持ちで出撃したら本当に轟沈するな」

朝潮 「・・・」キッ

提督 「にらむな、事実を言っただけだろ」ハァ

朝潮 「荒潮が轟沈してもいいとお考えですか?」

提督 「いついいって言った?!」

朝潮 「いえ・・・」ビク


提督 「轟沈を減らすため合理的に考えた結果だ」

提督 「やる気のある娘より練度が高い荒潮の方が生存可能性は高い」

朝潮 「そうかもしれませんけど、今の荒潮は!!」

提督 「轟沈が怖ければ注意するだろ」

朝潮 「そんな」

提督 「さっきから外せ外せと偉くなったなもんだな」

提督 「荒潮が轟沈するのは嫌、やる気がある娘だったら轟沈してもいいってことか?」

朝潮 「そんなことは・・・」

提督 「そう言ってるのと変わらん」

朝潮 「・・・」


 朝潮は提督に口で勝つのが難しいと自覚する。

 何か言わないとという思いだけ走り提督を見つめるも言葉は出ない。

 提督が口を開く。


提督 「朝潮、お前にとって正義とは何だ」

朝潮 「正義ですか?」

提督 「そうだ」

朝潮 「正義・・・」

提督 「命令違反をして荒潮を守ることか?」

提督 「おれの編成に文句をたれることか?」

朝潮 「・・・」

提督 「迷うことはない、お前の大好きな教科書には何て書いてある」

朝潮 「国と一般市民を守るため、ですか」

提督 「そうだ」

朝潮 「何で今

提督 「黙っておれの質問に答えろ」

提督 「そのために荒潮を外すことは必要か?」

朝潮 「・・・」

提督 「速く答えろ、朝潮」

朝潮 「必要ではないです・・・」

提督 「だったら必要なことは何だ」

朝潮 「・・・」

提督 「答えられないなら教えてやる」

提督 「必要なことは深海棲艦をより多く殺すことだ」

提督 「未だ深海棲艦が跋扈する国土を回復し、沿岸の市民を守り、海運を守って経済を守る」

提督 「通常兵器で傷付けられない深海棲艦を傷付けられるのは艦娘だけなんだ」

提督 「艦娘が守らなくて誰が守る」

提督 「海にのさばる深海棲艦を、その艦隊群の中枢を、より多く叩け」

提督 「黙って迷う暇があったら深海棲艦を皆殺しにすることを考えろ」

提督 「違うか?」


朝潮 「その通りかもしれませんが・・・けど、今の荒潮は精神的に不安定で・・・」

朝潮 「轟沈の危険もあるし戦果だって期待できません」

朝潮 「艦娘の所属上限がある理由が艦娘適合者の不足である現状」

朝潮 「荒潮に轟沈の危険が見えるなら避けるべきできはないでしょうか」

提督 「偉そうにわかりきった講釈をおれにたれるな」

朝潮 「そんな積もりは」

提督 「そう相手に聞こえたらそうなんだよ」

提督 「ここは軍隊でおれはお前より偉い、逆らうな」

提督 「お前は艦娘をクラブ活動とでも間違えてるのか?」

朝潮 「違います」

提督 「艦娘には責任があるんだ」

提督 「力を持っているから力のないものを守る責任がな」

朝潮 「・・・」

提督 「お前は深海棲艦を狩ることだけ考えればいい」

提督 「でないと荒潮と一緒に轟沈するぞ」


朝潮 「荒潮の轟沈を軽々しく口にしないでください」

提督 「少しでも朝潮の迷いがなくなればという優しさだったが無駄だったようだな」ハッ

提督 「まだ荒潮を第一艦隊から外して欲しいのか?」

朝潮 「はい?」

提督 「どうなんだ?」

朝潮 「外してほしいです」

朝潮 「このままではいずれ荒潮は轟沈します、しなくても心が・・・」

提督 「そのために何でもできるか?」

朝潮 「?」

提督 「おれなら外せる、編成権を使ってな」


 突然の甘い言葉に警戒する朝潮は提督を見て言葉を発しない。

 そんな朝潮に痺れを切らしたように提督は机の引き出しを漁る。

 その引き出しから保湿クリームのような小振りのチューブが取り出された。


提督 「あったあった」

朝潮 「何ですか?それは」

提督 「ほれ」


 提督から投げられたチューブを朝潮が受け取る。

 チューブの表面にある名前や成分表示は英語のようなもので書かれている。


提督 「わかるか?」

朝潮 「・・・」ジー

提督 「当てられたら荒潮を第一艦隊から外してやる」

朝潮 「?」

朝潮 「本当ですか!」

提督 「荒潮の旗艦が終ってからになるがな」

朝潮 「あ、ありがとうございます」

提督 「回答できる回数は3回まで、どうだやるか?」

朝潮 「やらせてください!」

提督 「じゃ、始めだ」


 上下左右に持ち替えて眺める。

 チューブの薬品となると朝潮にはそんなに思い浮かばない。

 そんな甘い話があるわけがないことも。


朝潮 「保湿クリームですか?」

提督 「違う、一回目だ」

提督 「塗って湿度を保つってのはあってるけどな」

朝潮 「ピンクだから消炎剤ではないでしょうし・・・う~ん」

朝潮 「美容クリームでしょうか?」

提督 「違う、二回目」

提督 「悪くない推理だ、女性を魅力的に見せるという点は間違ってない」

朝潮 「???af・・・di・・・?」


 表面に書かれた英語はわからない。

 可愛い容器、半分以上使われ潰れたチューブ、提督が持っていること、推理材料は殆どない。

 チューブの上下左右を触る朝潮の白魚のような指に提督の視線が絡みついていた。


朝潮 「艦娘からの没収品?」

朝潮 「麻薬ですか・・・?」

提督 「お前はおれを何だと思ってるんだ」

提督 「中毒性はあるかもしれんが、ヨーロッパじゃゴールデンタイムにCMしてる合法な商品だぞ」

朝潮 (中毒性・・・?)

提督 「今ので三回目だ、残念だったな」

朝潮 「そんな」

提督 「冗談だよ、こんなクイズで編成をどうこうするわけないだろ」ハッハッハ

朝潮 「そ、そうですよね」


 編成権をおもちゃにしなかった提督への安堵と、荒潮への申し訳なさで朝潮は少し戸惑う。


朝潮 「これ・・・消炎剤だったんでしょうか?」

提督 「違う」

朝潮 「肩こりを解消するCMのやつですか?」

提督 「知ってるか?肩こりするのは日本人だけなんだそうだ」

朝潮 「んん・・・」

提督 「そうだな。どうだ、ここからはいくらでも回答していいぞ」

提督 「景品はないけどな」


 CMをうつような商品なら触れたことはありそうなのに、いくら見てもぴんと来ない。

 純粋な興味がわいてこの製品が何なのか当てたいと朝潮は思った。


朝潮 「開けてにおいをかいでも?」

提督 「いいぞ」


 首をかしげる朝潮を見る提督の目はあからさまに火を帯び口の端が吊りあがっている。

 朝潮は不振そうに提督を見ながら好奇心のままチューブのキャップを外してかいだ。


朝潮 「くどいにおいですね」


 南国の花のような、おりもののような臭いがした。


提督 「媚薬だからなぁ」ハッハッハ


 朝潮はあらん限り目を見開き提督を見た。

 提督は愉快そうに笑っている。



―――――
―――


本日投下分終了です。
ご読了ありがとうございます。


次回は朝潮ちゃんと媚薬セックスかな?
股間が熱くなるな


朝潮ちゃん可愛いよ朝潮ちゃん

>>242
お米ありがとうございます。
ヨーロッパのゴールデンタイムにCMやってることで有名な媚薬は
実際はチューブ型でなくタブレットの経口型だったりします。

>>243
お米ありがとうございます。
私生活でも敬語を使う馬鹿かわいい朝潮もいいですが、
曲げられない自分を持って不器用に生きる朝潮も可愛いですよね。

投下再開します



提督 「それをつけて30分言うこと聞いたら荒潮を第一艦隊から外してやる」

提督 「どうする?」


 提督の顔は満足そうに笑っている。さも予定調和だと言わんばかりに。

 先ほどの会話で何でもすると朝潮が言っても同じことになっていたのだろう。


 今の朝潮を支えるにはキャスター付きの椅子では不安定すぎる。


提督 「お前の考えなら荒潮はこのまま出撃を続けると轟沈しそうなんだよな?」

提督 「余程お前はおれを無能だと思っているようだな」

提督 「おれはそうは思ってはないんだがなぁ、どうする?」

提督 「もう初めてじゃないんだ、失うものはない」

提督 「30分言うことを聞くだけだ」

提督 「荒潮の命とどっちをとるんだ?」


 朝潮は迷い頭では自分の貞操より荒潮の命が大事だと考えていても言葉が出なかった。

 提督に刻まれた恐怖と恨みが混ざり合ったどろどろしたものが心に渦巻き動けない。


提督 「ならこの話はなしにするか」

朝潮 「え?」

提督 「何だ?」


 脅しをすぐ取り下げた提督の気持ちが朝潮にはわからなかった。

 良心か気紛れか。

 提督が指で机をコツコツ叩く。


朝潮 「待ってください」

朝潮 「他の条件になりませんか」

提督 「おれが折角出してやった条件が気に食わないのか」

朝潮 「お願いします」

提督 「別におれはしたくなかったんだ」

提督 「けど、朝潮がどうしてもというから親切で提案してやっただけだ」ハッ

提督 「この条件がダメならこの話はなしだ」

朝潮 「そんな・・・」

提督 「明日からの荒潮の出撃が楽しみだな」ニコ

朝潮 「っ・・・」


 「荒潮を轟沈させかねない無能提督と侮るおれに服従しろ」と提督の目が朝潮にささやきかける。


朝潮 (最初に襲われた事件からこの男は何も変わってなんかない)


 朝潮は見たくもない提督の本質を垣間見た気がした。

 その本質は異質で朝潮には理解できなかった。

 朝潮に今わかるのは提督に従えば荒潮の命が助かるということだけであった。


朝潮 「しますから」

提督 「何か言ったか、声が小さくて聞こえなかったな」

朝潮 「しますから!!」

提督 「あぁ?何か勘違いしてないか?!」バン

朝潮 「」ビク


 提督が執務机を叩く。

 一瞬浮いた灰皿がカラカラ音を立てながら着地する。


提督 「しますぅ?じゃねぇよ!!!」

朝潮 「すっすいません」ビク

提督 「すいませんじぇねぇ!!お願いなら、頼み方があんだろうが!!」ブン

朝潮 「ヒッ」


 提督が瞬間灰皿を朝潮に投げつけた。

 灰皿は灰を撒き散らしながら飛び朝潮の近くをかすめ壁にぶつかった。


カーン


 金属の衝突による高音は若い朝潮の耳に痛いほど響き脳を揺らす。

 少し前までの朝潮が提督の気紛れに感じていた不安が見事に恐怖にすり替わった。


朝潮 「」ケホ

朝潮 「や・・・やらせてください・・お願いします」

提督 「誠意が感じられんな」


 提督が上げた手に朝潮がびくりと体を揺らすと提督は人差し指で床を指す。


提督 「土下座してお願いしろ」

朝潮 「え?」

提督 「土・下・座」


 朝潮は怯えていた。

 突きつけられた理解できない提督の命令に、その人格に。


朝潮 「します。します・・・から。。」


 朝潮は何のためらいもなく椅子から離れる。

 提督は満足そうにその様子を眺めている。


朝潮 「第一艦隊から荒潮をちゃんと外すことを約束していただけますか?」

提督 「おれがぐだぐだ先延ばしするような男に見えるのか」イラ

朝潮 「すいません」

提督 「さっき言ったとおり荒潮を旗艦にした後に外す、約束する」

提督 「後お前は言わないが外した後いつまで外すかも約束しよう」

提督 「艦種が変わるか荒潮の自信が付くまでは第一艦隊にしない」

提督 「これでいいか?」

朝潮 「あ・ありがとう・・・ござい・・ます」


 提督が朝潮を手懐けるためにやった一瞬の優しさに飛びつく形で朝潮は了承した。

 その条件はそこまで好条件であったか。


提督 「これ以上生意気ならその時点で止めるからな」

朝潮 「はい」

提督 「やるんなら早く土下座しろ!!」ドン

朝潮 「ひっ」ビク


 朝潮は提督の座る椅子の横に近付き無言で床に膝をつく。

 両手を付き頭を下げると視界がふさがり安心できた。


提督 「額を床につけてお願いしろ」

朝潮 「はい」


 額にひんやりした床のタイルの感触がつたわる。

 少し冷えた頭は朝潮の情けなさを容赦なく自身に突きつける。


提督 「お願いをしろと言ったんだ。日本語がわからないのか?!」

朝潮 「」ビク

朝潮 「30分提督の言うことを聞きます!荒潮を助けてください!!」

提督 「いいぞ」


 見上げると提督がこの様子を携帯で撮影していた。

 今その映像の使い道は考えたくなかった。


提督 「ほら、その媚薬をあそこに塗れ」


 朝潮が気付くと何時の間にか媚薬のチューブを握り締めていた。

 開いた朝潮の手のひらには半透明のジェルがべっとりとはみ出ていた。


提督 「そんなに塗りたいのか」

朝潮 「全部、ですか?」

提督 「全部だ」

提督 「ヨーロッパルートの貴重品だ、喜べ」


 得体の知れない物を大事なところに塗るのは誰でも躊躇う。


提督 「奥までな、まず下を脱ぐか」ニヤニヤ


 べっとりと媚薬が付いた左手がふさがれた形となり、片手で脱ぐしかない。

 その動きは自然ぎこちないものになった。

 まず朝潮は肩ひもをずらして落とす。すると、支えていたスカートがぱさりと落ちる。

 スカートを拾う朝潮のブラウスのすそからショーツとそれに付く小さなリボンがちらちらのぞく。

 下に伸びる足は日本人にしては長く普段見えない太ももまで露出した足は理想的な曲線を描いている。

 豊かな肉感のあるそれは黒いニーソックスも相まってサラブレッドの後ろ脚のように力強く美しい。


提督 (あぁ・・・)

朝潮 「何ですか?」

提督 「何でもない続けろ」


 ショーツを下ろし片手で取ると産毛のような細い毛も生えそろわない割れ目があらわになる。

 好きな人間でもないのに羞恥心でどきどきが治まらないのが朝潮は嫌だった。


 朝潮の指がニーソックスに伸びると提督は制止する。


提督 「それはいい」

朝潮 「?」

提督 「上も脱がないでいい、もう塗れ」


 提督の趣味など朝潮にはどうでも良かった。

 少しでも提督を落胆させて終らせたい、それだけが今の朝潮にできる抵抗だった。


 朝潮が改めて手のひらを見つめる。

 はみ出たジェルは朝潮の手の汗を吸って益々光沢をましていた。


提督 「30分は塗ってからだぞ」

朝潮 「・・・」

提督 「塗ってやろうか」ニタ

朝潮 「やっやります!」


 立ち上がろうとする提督を静止するように目をつむって左手をあそこへ押し付ける。

 朝潮は塗った。言葉のまま。不器用に上下に動かした。


提督 「自慰しないのか?朝潮」

朝潮 「じいですか?」

提督 「オナニーだ」

朝潮 「おなにー?」

提督 「まぁいい、しっかり塗れないと始めないからな」

朝潮 「はい・・・」


 産毛が絡みとったジェルを指で塗り広げる。


提督 「指で割れ目とその奥まで念入りに塗るんだ」

朝潮 「はい・・・」


 膣穴の入り口を満遍なく塗る。

 人差し指を穴にいれて、出し入れする。

 提督に初めて襲われた時の気分と違う少し浮揚するような不思議な気分に朝潮はなってくる。


提督 「そんな塗り方じゃ、30分がいつまでも始まらんぞ」


 提督が呆れたようにため息をはきながら朝潮の動く指を見つめる。

 提督を焦らせていることに朝潮の溜飲が下がる。

 焦らしたことの後の反動などこの少女が知る由もない。


提督 「もっと指の方向を変えて出し入れして塗るんだ」


 朝潮は言われるがまま体勢を変え、指の方向を変え、出し入れをした。

 少しずつ膣口が柔らかくなり指の可動範囲が増える。

 襲われた時に痛みしか感じなかった膣が気持ちよさを感じ出していた。

 慣れない新しい快感に体が喜び勝手に動く。

 体をよじりつつ膣に指を出し入れする様子に提督は生唾を飲んだ。

 朝潮にそれを見る余裕はなかった。

 朝潮の動悸は激しくなり苦しいのに気持ちいいという新感覚に脳がとろける。


朝潮 「ん・・・」


 朝潮が指を奥まで入れた時、快感の波に抗えず喉から声が溢れた。

 それでも構わず、朝潮は膣に指を出し入れする。

 朝潮が夢中になる様子を見ながら提督は指示を追加する。


提督 「穴にある側面のひだ全部の奥までだ」

朝潮 「は・・い・・・」


 朝潮は上気した顔でこくりとうなづく。

 興奮からか夢中で体をよじっていたせいか汗が噴き所々ブラウスが肌に張り付いていた。


 今まで媚薬を塗るためただ出し入れしていた指を、膣の壁面を確認するように押し付けて走らせる。

 先ほど以上の快感に犬のように可愛い口を時々だらしなく開き喘いだ。

 朝潮の口の中はべたつき喉の渇きを感じる。


提督 「塗る間に話をしようか」

提督 「麻薬が止められないのは何でか知ってるか?」

朝潮 「知りません」ハァ


 自分では止まらなくなってきていた。

 快感の波に脳はとろけ、その快感の波がひいたら次の快感に渇いた。


提督 「麻薬が止められないのはな」

提督 「人間が幸福を感じる時に出す脳内物質を強制的に作らせるからなんだと」

朝潮 「知り・・・ませんでした」モゾ

提督 「ところで、セックスで男より女が2、3倍気持ちいいって知ってるか?」

朝潮 「はい?」ハァハァ


 朝潮の体が勝手に動き快感を貪る。

 膣と指は自分のものでないかのように快感のまま動いた。

 自慰を知らない朝潮は新種の快感に耐える法を知らない。


提督 「あれも科学的根拠があってな」

提督 「さっき麻薬の時言った幸福を感じる時に出す脳内物質、あったな」

朝潮 「はい」ハァハァハァ


 快感に時々足が震えかかとがビクンと上る。

 それでも体をよじりながら指を出し入れして動かした。

 下腹を押すような体の芯を震えさせる大きな快感の波が近付いていた。

 獲物を追う猟犬のように指と呼吸のリズムを速める。


提督 「あれセックスの時出る量が女の方が多いんだ、計測するとな」

朝潮 「はい」ハァハァハァ

提督 「この媚薬はその脳内物質が出るのを促進するんだよ」

提督 「どうだ効いてきたか?、朝潮」

朝潮 「あっ。。。」ビクン


ぷゅ、ちょろろろ  ぱちゃぴちゃ


朝潮 「はぁ、あぁぁ」


 下腹の奥の膣がキュッとしてすぐ力が抜けるような高揚感に朝潮はしおをふいた。

 突き刺した指と手に当たり跳ね返った液体は太ももの内側を伝い、朝潮の足元に水溜りを作った。


 朝潮は既にとろけ紅潮していた顔を更に恥じらいで赤くした。


朝潮 「すいません」


 うつむき自身の作った水溜りを朝潮は見つめる。


提督 「何かわからんだろう、興奮したら出るもので尿じゃない」


 提督が優しく話しかける。


提督 「塗りきれたか確認するからおれの指を入れさせろ」

朝潮 「それで30分を開始ですか」

提督 「あぁ、そうだ」


 朝潮はやっと始まることに安堵する。

 早く始め、済ませたい。

 羞恥心もとろけてきていた。


 提督は座ったまま片手を女性器の高さまで下げると、人差し指だけ上げて朝潮を招いた。

 まるで人を挑発するような格好だ。


提督 「ここに朝潮から差せ」


 朝潮はゆっくり提督に近付き人差し指が伸びる提督の手を小さい両手で掴む。


朝潮 (ただの棒、ただの棒)


 決心を固め深呼吸をする。

 下腹の奥、膣の部分がむずむずしていた。

 かかとを上げて膣に指を恐る恐る挿入する。


朝潮 「あっ・・・はぁ、ぁああ!!」

提督 「おい大丈夫か?」


 提督の指に朝潮の全身に電流が体を突き抜けるような快感が走った。

 背筋が伸び、下腹の奥が先ほどより締まった。

 動かしていない時点で、自分の指とは比べ物にならない快感。

 こみ上げてくる何かを朝潮は必死に抑える。

 朝潮は快感に抗うように眉を八の字にして口を強く結ぶ。

 一方でその目はうるみ顔は紅潮し時折だらしなく開く口は快感に服従しているようにも見えた。

 快感と苦痛が同居した朝潮の顔を提督は満面の笑みで見る。

 提督は女のこの快感に抗う顔が好きだ。

 そしてその顔を快感で塗りつぶすことがもっと好きだった。 


提督 「よくぬれてるな、30分を始めよう」


 そういうと、提督はぬるりと膣から指を引き抜いた。

 指は糸を引き、それを名残惜しそうに朝潮は見る。


朝潮 「あ・・・」



提督 「机の上でM字開脚しろ」

朝潮 「執務する机ですけど」

提督 「言うことを聞かないのか?」

朝潮 「やっやります」


 朝潮は靴を脱いで揃えまず机に腰掛ける。

 そのまま躊躇いがちに両手を支えに乗り上げる。

 動作は30分の時間を稼ぐようにゆっくりと行われた。

 快感のとりこになりかけている朝潮の最後の抵抗だった。


 提督は椅子から離れ朝潮の正面に立った。

 今や朝潮の姿勢はM字に股を開き上半身を少しのけぞらせ、それを後ろ手に支える状態となっている。


 そんな朝潮に提督が近付く。

 1m・・・50cm ・・・30cm、キスをされるのかと目を閉じると提督に抱きしめられる。

 朝潮は目を開きびくっと体をこわばらせる。

 提督は交差した顔を朝潮に向け、耳の近くで囁く。


提督 「いい耳の形だな」


 提督はその手で髪を避けつつ耳を触った。

 小指がつつつと耳をなで、提督の生暖かい息がかかる。

 普段、豊かな黒髪で覆われたそれはそのような感覚になれていない。

 朝潮が反応を示したのを提督は見逃さない。


 提督は息を止め耳の一番外側で張り出した部分に沿って舌を走らせた。


朝潮 「ひっ・・・」


 耳の内側内側へと舌が移動しながら走る。

 耳の穴の周囲は朝潮の反応を確かめながら特に念入りに舌が走った。

 ぞくぞくする快感に震える朝潮が慣れて落ち着いた時に耳の穴に舌を出し入れし刺激した。

 くすぐられているようなぞくぞくした感覚が全身に伝播し朝潮を襲う。

 少しして舌が止まったかと思うと唾液で濡れた耳に提督が息を吹く。

 ひんやりとした感触は電気ショックを与えたかのように朝潮を跳ねさせた。


朝潮 「っ・・・」ビクン

提督 「敏感になって来た」

朝潮 「そんなことありません」

朝潮 「それに前も耳から攻めてきてましたよね」

朝潮 「ワンパターンですね」

提督 「そうだったか?」

朝潮 「私にはどうでもいいですけど、こんな会話いらないですよね」

朝潮 「急がなくていいんですか?」


 少し強気な調子で朝潮が発する。

 するといきなり提督に耳を甘噛みされる。

 余りの驚きに体を支えていた腕が外れ、提督と一緒に倒れる。

 朝潮は提督の下敷きになる。


ドン


朝潮 「あっ・・・」

提督 「気付かれてない積もりか」


 提督は朝潮を抱いていた手を外しその両手で体を支え朝潮と見合う。

 顔と顔の距離は殆どない。

 提督の目にはあの日と同じ火が赤々と燃え、それが朝潮を萎縮させた。

 提督の片手が抵抗を忘れ固まる朝潮のブラウスのボタンを上から外していく。


提督 「次、時間稼ぎしたら約束はなしだ」

朝潮 「・・・」

提督 「朝潮はおれに感謝すべきなんだぞ」

朝潮 「何をでしょうか」ブル


 提督の片手はブラウスのボタンを外し終え、それをはだけさせる。

 無防備になった気がして朝潮は体が震えた。


提督 「おれは朝潮に言うことを聞けないような無理難題をふっかけることもできるんだからな」

朝潮 「そんな・・・」

提督 「今からでもふっかけてやろうか?」


 提督が睨む。

 あの日のことを忘れたことはない。

 恐怖がよみがえり朝潮の思考を鈍らせる。

 それにともない思考を捨てた獣のように感覚は益々敏感になっていった。


提督 「どうせやるんだから気持ちよくなればいいだろ」


 言って提督は朝潮の口を奪う。

 朝潮の耳でストレッチを終えた提督の舌は朝潮の歯茎を絶妙にくすぐり、固く閉じられた歯をすぐ篭絡させた。

 舌は少し開いた歯の隙間から侵入し、押しだそうとする朝潮の舌と絡み合った。

 提督の片手は朝潮の大陰唇と小陰唇の間、クリトリスの近くを二本の指で押してさすった。

 既に充血し可愛くふくらんだ陰核亀頭が出たり入ったりし淡い快感を朝潮に与える。

 口では唾液の交換が行われ提督から送られる煙草の苦い味が口を包みビターチョコのように快感と溶け合う。

 提督は顔の向きを変えながら朝潮の歯並びのいい口を隅々まで蹂躙する。

 提督の片手はクリトリスから膣口に動き、そこで膣口を優しくなでて広げる。

 朝潮は震えていた、それは恐怖からか快感からか。朝潮にもわからなかった。

 次第に朝潮は舌による抵抗を止め涙を一杯にためた目で許しを請うように提督を見る。

 提督はそれを見て敢えて、指を膣に突き刺した。

 朝潮の横に伸びていた足が痙攣するように折れ太ももがきゅっと提督を挟む。


提督 「そろそろ欲しいか」


 言いながら朝潮の口から離れると提督は自身の衣服に手をかける。

 まだ30分は始まったばかりだ。


―――――
―――




コンコン


加賀 「私よ」

提督 「加賀だけか?」

加賀 「えぇ」

提督 「入っていいぞ」

加賀 「失礼するわ」


 入ると朝潮が糸を切られた人形のようにだらしなく横たわっている。

 股から白と透明がまだらになった液体が広がっている。

 提督は半裸でタオルを使って汗をぬぐっている。


加賀 「またやったの?」

提督 「また?」

加賀 「戦果が芳しくない時はいつもこう・・・」

提督 「そういう時の方が燃えるんだよ」

加賀 「しかも・・・」スンスン

提督 「?」

加賀 「あれも使ったのね」

提督 「加賀の鼻はいいな」


加賀 「もう言っても無駄だと思うけど罪悪感とかないの?」

提督 「男はなぁ加賀」

提督 「話したら付き合いたくなる、触れたらやりたくなる、付き合ったら幸せにしたくなる」

提督 「一発出したらどうでもよくなる生物なんだよ」

加賀 「一発どころじゃなさそうだけど何の積もりよ」

提督 「三,四発か、入り口は狭いが名器だな朝潮は」

加賀 「感想なんて聞いてないわ」

提督 「最後は気をやってたから勝手にやった」

加賀 「だから感想なんて。って朝潮もよくあなたを殺さなかったわね」

提督 「そういう約束だった」

加賀 「約束?」

提督 「朝潮が30分言うこと聞いたら荒潮を第一艦隊から外すってな」

加賀 「ふ~ん、本気?」

提督 「一応な」

加賀 「で、朝潮は何分で気をやったの?」

提督 「加賀、お前鬼畜だな」

提督 「30分言うこと聞けなかったから反故にしろって言うのか」

加賀 「どうせ同じこと考えてたんじゃないかしら」


 提督が笑う。


提督 「お前は本当に好きだよ、全ての相性が最高だ」

提督 「ここは片付けるから、加賀は朝潮を洗って部屋へ帰してくれ」

加賀 「何で私が」

提督 「一つ言うこと聞くからさ」

加賀 「では」


加賀 「大和との夜の舟遊びを止めて私としてください」

提督 「・・・考えさせろ」

加賀 「コアの出入違い、差分のコアをどこかに流してるんでしょ?」

提督 「なんのことだ?」

加賀 「とぼけても無駄よ」

加賀 「提督が朝潮を襲った日だったわよね、前回の舟遊び」

加賀 「作戦艇で襲った形跡を調べていたら報告書との差分のコアが載ってたのを見たわ」

提督 「めったなこというな、朝潮だっているんだぞ」

加賀 「過度な感情は精神を疲弊させるものよ、それが快感でもね」

加賀 「明日まで目も覚まさないわよ」


提督 「加賀、何が目的だ?」

加賀 「金よ」

加賀 「流しているのはどこかしら?」

加賀 「国土奪還作戦が行われている無政府地帯の非政府組織?暴力団?禁足地域の不法住民?」

加賀 「どこでもいいわ、お金になるでしょうね」

提督 「ふふっ、金か。いいだろう。前向きに考えておいてやる」

加賀 「そうして頂戴」

加賀 「でないとくさい飯を一生食べることになるわ」

提督 「憲兵に突き出す気か」

加賀 「そうよ、次の舟遊びは周期を鑑みるにそろそろのはずよね」

提督 (そこまで・・・)

加賀 「お願いね、提督殿」


 加賀は備え付けの毛布に朝潮をくるむ。

 完全に見えないようにくるむとそれを抱え朝潮の衣服も持って出て行った。


提督 「さて・・・」


―――――
―――




~大和の部屋~

 同型の武蔵が轟沈し二人部屋に大和が一人で暮らす。


大和 「いらっしゃい提督」

提督 「明後日の舟遊び加賀で行く」

大和 「私の何が不満なんですか?」

提督 「黙れ」

提督 「前から調整するよう言ったのにできなかったのが悪い」

提督 「おれが言った通り加賀に変に勘ぐられてるんだ、諦めろ」

大和 「コアの改ざんが杜撰だったからでしょ、私の責任じゃない」

提督 「どっちにしろ加賀は少しストーカー体質だし疑われてたよ」

大和 「そういう子が好きじゃないのに今回はやけにご執心ですね」

提督 「お前と違って強いからな」

大和 「私だって強いです、加賀が異常に強いだけで」

提督 「そうだな。お前は加賀より弱い」

大和 「そんな言い方ないでしょ、加賀が来るまで私に頼っていたくせに」

提督 「そんなこともあったな」

大和 「私のほうが加賀より役に立ちます、艦娘の子から人望もありますし」

提督 「お前がそうやっていい顔するから、対加賀で変に派閥ができそうになってるだろ」

提督 「そういうのは鎮守府が混乱する元になるからすぐ止めろ」

大和 「そんな・・・」


 提督はこの部屋に入ってから一度も大和と目を合わせていない。


大和 「そうだ、私じゃなく加賀だったら有利に取引ができるとでもお考えなんでしょ?」

提督 「そうかもな」ハァ

大和 「ちゃんと聞いてください!!」

大和 「加賀がいなくなればいいんですか?」

提督 「あぁ?!何する積もりか知らんが止めろ、憲兵が動くぞ」

大和 「だったら!!」

提督 「この話は終わりだ」

大和 「あれだけ尽くしてきたのに捨てる積もりですか!!」

提督 「知るか、お前のためでもあっただろ」

大和 「憲兵に通報しますよ」

提督 「破滅したいなら一人で自殺しろ、巻き込むな」


 提督はうんざりした顔で足早に部屋を出ると思いっきりドアを締めた。


―――――
―――


本日投下分終了です。
ご読了ありがとうございました。

朝潮ちゃんに対する愛が伝わってきて良いね
じゃんじゃん濡れ場を挟んでくれると俺が喜ぶからはよはよ

ちょっと愛が歪み過ぎじゃないですかね…

轟沈回収策はほぼ廃れてるよ。イベント海域出撃に勝率が関わり始めてるから

キラ付け随伴轟沈回収のことじゃないのか?

まだかよ風邪引いちまうよ

なんで脱いでるんだよwwwwww

そりゃこんなエロい朝潮ちゃん見せられて脱がなかったら男じゃねえよな
無知ックス最高だわもっと夜戦描写をはよはよはよはよ

マダー

投下再開します



 開戦の混乱で誰もを少なからず襲った不幸は姉妹には重すぎた。

 その時は朝潮も姉も非力な少女でしかなかった。


 母親は家で朝潮を庇って目の前でヲ級に殺された


 大きい触手が貫いた体は穴だらけというよりぼろ雑巾のように千切れ千切れで

 千切れた部分からはほつれた糸のように内臓が垂れ下がっていた

 痛みを感じずに逝ったと思う

 体から飛び散った鮮血は小さい朝潮を真っ赤に染めるのには十分で

 あの全身を這う生ぬるい液体の感触を今も鮮明に思い出せる

 目の前の惨劇に朝潮は逃げたり抵抗もできたのだろうけど

 脳は恐怖で一杯になり思考はできず体は一切動かない

 これは横にいた姉も同じだった

 ヲ級は私達の状態を知ってか知らずか

 壁にはりつけにしていた母親だったものを触手から外そうとゆっくり振り回す


 いつもの夢の景色だ


 死んでいるはずの母親だったそれが壁に当たった時に

 肺が潰れたせいか「あ゛あ゛あ゛」と声にならないうめきを発し

 それで意識を取り戻した姉に引き摺られて朝潮は家から脱出するのだ

 そこで目が覚める


 今日の夢では壁に打ち付けられた母親だったものは呻き声を出さなかった

 振り回され打ち付けられたそれは無言で壁をずるずるとゆっくり床へ落ちた

 いつもと違うことに驚いた朝潮が視線を周囲へ配ると

 ヲ級と姉と母親、血まみれの三人全員が顔をぎゅるりと朝潮に向けて言う


 「お前には誰も救えない」



―――――
―――




~朝潮と荒潮の部屋~


 その日の朝、朝潮の体調は最悪だった。


荒潮 「朝潮ちゃん大丈夫?」

朝潮 「えぇ・・・」


 ベッドに座った顔の青い朝潮の背中を横に座る荒潮がさすっている。


 朝潮はあれから意識を失ったまま体を加賀に洗われ自室に投げ込まれていた。

 脱水症状に加えて媚薬の副作用で生理痛のよう腹部への鈍痛も朝潮を襲っていた。

 ピルにしろ間接的に生物の生死に関わる強力な薬物が安全なわけがなかった。

 あの媚薬も効果と副作用が強く少女への使用は元来禁止されている。


荒潮 「加賀さんが執務室で寝てたから連れてきたとか言ってけど」

朝潮 「あっ・・・そうなのよ、ふ、ふふ、ふふふふ」

荒潮 「?」


 昨日のことを思い出すと今更ながら荒潮を第一艦隊から解放できる嬉しさが朝潮にこみ上げた。

ついに来たか待ち望んでたぞ


朝潮 (荒潮を守れた)

荒潮 「一つ聞いてもいい?」

朝潮 「何?」

荒潮 「司令官と何でやったの?」

朝潮 「ん?執務を?」

荒潮 「脅されたの?」

朝潮 「何を言ってるの?」

荒潮 「・・・司令官とセックスしたのね」

朝潮 「・・・」


 荒潮の言葉が重く朝潮にのしかかる。

 朝潮はこの鎮守府で荒潮に初めての嘘を付く。


朝潮 「してない!!」

朝潮 「証拠もないのに変なこと言わないで!」

荒潮 「あなたの態度とにおいでわかるわ」

朝潮 「執務室がくさいからじゃ

荒潮 「嘘を言わないで正直に言って・・・何で今回は逃げなかったの?」

朝潮 「・・・」

荒潮 「朝潮ちゃん・・・」


 さっきまで優しい目をしていた荒潮が悲しそうな目で朝潮を見つめていた。


朝潮 「この話はおしまい、旗艦だから早めに執務室に行かないと」

荒潮 「朝潮ちゃん、言って」

朝潮 「やってないわ」

荒潮 「嘘、朝潮ちゃんは嘘付くの下手なんだから」

朝潮 「わかった風なこと言わないで!!!」

荒潮 「・・・」

荒潮 「そうよ、わからない」

荒潮 「だから・・・話してよ!!」

朝潮 「私はあなたの妹や弟じゃないの!放っておいてよ!!!」

荒潮 「満潮ちゃんの時のような後悔はしたくないの・・・話してよ・・・」

朝潮 「・・・行くから」

荒潮 「お願い・・・」


 ふらつく体を何とか立たせて着がえる。

 弱り鈍った頭は言い訳も気の効いた言葉も朝潮に教えてくれない。


 今日が初めての第一艦隊旗艦ということも朝潮を焦らせていた。

 朝潮にそれ以上荒潮を省みる余裕はない。


荒潮 「私が朝潮ちゃんと旗艦を代わってもいいって言ってたと提督に伝えて」

朝潮 「・・・」

荒潮 「きっとよ」


 朝潮の背中に向けた荒潮の言葉は、ドアの締まる音に跳ね返った。


―――――
―――



~執務室~


提督 「加賀」

加賀 「なんですか?」

提督 「明日の舟遊びなんだが、大和と一緒でいいか?」


 提督が出した妥協案だ。

 加賀はあからさまに苦い顔をする。


加賀 「構いませんけど、そんなことすれば怪しまれると思うけど」


 狭い鎮守府だ。

 提督を取り合う二人が提督と舟遊びしてれば格好の噂のたねだろう。


コンコンコン


朝潮 「朝潮です」

提督 「入れ」


ガチャ


朝潮 「おはようございます」

提督 加賀 「おはよう」

加賀 「朝潮、体調が悪そうね」

朝潮 「大丈夫です」

加賀 「荒潮と旗艦の日を交換したら?」

提督 「いや、もう決めているからこのままで行く」

加賀 「体調が悪いと同調が乱れるわよ」

提督 「加賀、心配性だな」

加賀 「旗艦の朝潮が轟沈すれば提督も指揮作戦艇と一緒に沈むのよ」

提督 「心配するな」

加賀「?」


 提督の顔に不安な様子は豪とも感じられなかった。


―――――
―――

誤字修正
>>292
を、次のレスと入れ替えお願いします。


~執務室~


提督 「加賀」

加賀 「なんですか?」

提督 「明日の舟遊びなんだが、大和と一緒でいいか?」


 提督が出した妥協案だ。

 加賀はあからさまに苦い顔をする。


加賀 「構いませんけど、そんなことすれば怪しまれると思うけど」


 狭い鎮守府だ。

 提督を取り合う二人が提督と舟遊びしてれば格好の噂のたねだろう。


コンコンコン


朝潮 「朝潮です」

提督 「入れ」


ガチャ



朝潮 「おはようございます」

提督 加賀 「おはよう」

加賀 「朝潮、体調が悪そうね」

朝潮 「大丈夫です」

加賀 「荒潮と旗艦の日を交換したら?」

提督 「いや、もう決めているからこのままで行く」

加賀 「体調が悪いと同調が乱れるわよ」

提督 「加賀、心配性だな」

加賀 「旗艦の朝潮が轟沈すれば提督も指揮作戦艇と一緒に沈むのよ」

提督 「心配するな」

加賀「?」


 提督の顔に不安な様子は毫とも感じられない。


―――――
―――


~作戦海域~


 空はくもり薄暗く風は強く海は荒れていた。

 いつも忙しそうに船の周りを旋回するウミネコは、

 上空で更に強いであろう風に乗り灰色の空に静止しているように見えた。


 敵艦隊群の情報説明と作戦の指示が終わり、

 いつでも動けるよう艦娘たちは甲板で待機する。

 加賀と提督、ビスマルクとプリンツオイゲン、朝潮と荒潮がそれぞれ体を寄せ合い時間を消費する。

 一人話し相手のいない羽黒がおろおろしている。


荒潮 「また同じ敵艦隊群だそうね~」

朝潮 「そうね」


 言い換えれば小中破から轟沈させる深海棲艦がいるということだ。


荒潮 「朝潮ちゃん、旗艦は代わらないで良かったの?」

朝潮 「えぇ」

荒潮 「上の空、昨日と逆ね」ウフフ


 朝潮は脳内で旗艦の予行をする、何度も。

 遅れて荒潮の言葉に気付いた朝潮は何となく思いついた言葉を放つ。


朝潮 「荒潮は大丈夫?」

荒潮 「大丈夫よ~」


 荒潮の顔も恐怖からか白かった。目元にはくまもある。


朝潮 「強がり・・・」

荒潮 「朝潮ちゃんも私のことわかってきたじゃない」ウフフ

朝潮 「朝はごめんなさい」

荒潮 「なんで~?」

朝潮 「酷い言い方して」

荒潮 「そんなこといいわよ」

朝潮 「心配させたかもしれないけど・・・大丈夫だから」


 今日は嘘をついてばかりだ。


荒潮 「そう・・・」

荒潮 「朝潮ちゃん」

朝潮 「何?」

荒潮 「私はもし朝潮ちゃんに悲しいことがあったら抱え込まず話して欲しい」

荒潮 「私にも背負わせて欲しいと思ってるの」

荒潮 「私の話を逃げないで聞いてくれた朝潮ちゃんだから」

朝潮 「・・・」

荒潮 「けど、朝潮ちゃんは私に話さない」

荒潮 「私って信頼できない?」

朝潮 「そんなこと!な


提督 「敵が近い、陣形に散れ」


荒潮 「行くね、朝潮ちゃん」


 それぞれの艦娘が持ち場へ向かう。

 朝潮は旗艦なので指揮作戦艇を自身の防御壁で一緒に守らねばならない。

 着水すると波は朝潮の想像より高かった。

 小さい朝潮では時々視界が波でふさがるかというくらい大きい。

 同じような体躯の荒潮が持ち場へ進んでゆく背中が見えたり消えたりした。

 波しぶきがまとわりつく。


朝潮 「司令官、今いいですか?」

提督 「なんだ?」


 朝潮と並走する指揮作戦艇の欄干にもたれつつ提督が受ける。


提督 「手短にな、敵が近い」

朝潮 「司令官は怖くないんですか?」

提督 「深海棲艦が、か?」

朝潮 「はい」

提督 「狩人が獲物を怖がるか」

提督 「その様子だと朝潮は怖いようだな」

朝潮 「怖いです」

提督 「それは失うものがあるからだ」

朝潮 「提督はないんですか?」

提督 「あると言えばある、ないと言えばない」

朝潮 「どういうことでしょうか」

提督 「おれの失うものは深海棲艦によって奪われるものじゃないからな」

朝潮 「?」

提督 「きたぞ」

提督 「総員戦闘準備、複縦陣」


 提督の言葉を受け朝潮は艤装を通じ艦隊の全員に戦闘準備を伝える。

 視認できた敵艦隊は、前回と全く同じ編成だ。

 こちらの編成も艦種で言えば全く同じで、戦艦1重巡2空母1駆逐2となっている。

 しかし、艦種は同じでも朝潮・荒潮・ビスマルク・プリンツ・羽黒・加賀と艦娘は変わっている。


提督 「敵艦隊群中央のボス艦隊までは、敵艦隊の展開から見て多くて二戦、少なくて三戦だ」

提督 「この波と風じゃ命中はお互い期待できん」

提督 「一戦目は体に風と波の影響を覚えさせるように各員に伝えろ」


 朝潮は提督の言った内容を艦隊に通信する。

 強く念じれば艤装から勝手に通信が行われた。

 了解の反応を5つ確認する。


提督 「後、加賀には他艦が砲撃に集中できるよう攻撃より制空権争いに注力するように」

朝潮 「了解しました」


 朝潮の遠目に頷きつつ矢筒から矢を取る加賀が見える。



―――――
―――



 一戦目は終ってみれば天候に比べ戦況が荒れることはなかった。

 天候を除けば昨日と殆ど同じ条件にも関わらず、だ。

 砲撃は波の揺れと強風で双方当たらず、

 艦隊同士が接近しての雷撃は双方大きい弧を描き外れた。


朝潮 「夜戦はどうされますか?」

提督 「しない、戦闘海域から速やかに離脱しろ」

朝潮 「了解です」

提督 「加賀が旗艦の縛りがないお陰で生き生きとしてるな」

朝潮 「その前衛の加賀さんから司令官に通信が」

提督 「なんだ?」

朝潮 「戦艦タ級フラグシップが昨日の強かった個体と違うらしい・・・と」

朝潮 「あと、状態のいい深海棲艦のコアがあったので指揮作戦艇進路上に流すと」

提督 「おぉ、幸先いいな」

朝潮 「司令官!」

提督 「なんだ?」

朝潮 「艦隊が見えないので、指揮作戦艇に登っていいですか」

提督 「損傷のチェックか、いいぞ」

提督 「まだ全員小破未満だ」


 旗艦になった朝潮は艦隊の損傷確認を除いても出撃中にやることがまだ沢山あった。

 艦隊への命令伝達、指揮作戦艇の護衛、コアや深海棲艦の投棄資材の積み込み、などだ。


提督 「よく物怖じせずにできているな」

朝潮 「何がですか」

提督 「旗艦の仕事だ」

朝潮 「加賀さんや司令官を見てましたから」


 荒潮ほど心情を察することはできなくても朝潮も孤児院出なんだなと提督は再確認する。

 話しながら甲板を精一杯ちょろちょろ動く朝潮を提督は眺める。

 あれだけのことをされれば朝潮が今日は安定しないかと提督は思っていた。

 結果として戦闘に入れば影響はなく初めての旗艦も難なくこなしている。


 実際の朝潮の内情は戦闘に注力する以外の精神的余裕がないだけだ。

 その追い詰められた余裕のなさが集中に、いい結果に繋がっている。

 昨日覚えた表を頭の中で思い出しつつ損傷を確認する。

 提督の言うとおり全員の制服に損傷どころか汚れさえない。


 朝潮を眺めながら、提督がぼそりと言う。


提督 「昨日のタ級とやはり違ったか」

朝潮 「やはりですか?今戦ったのも同じ戦艦タ級フラグシップでしたよね?」

提督 「ぱっと見は同じだ」

提督 「しかし、同じ戦艦タ級フラグシップでも違う」

朝潮 「確かに強さが違いましたけど」


 煙の中から荒潮を打ち抜いた凄みが一戦目のタ級にはなかった。


提督 「便宜上わけているが同じ戦艦タ級フラグシップでもピンキリだ」

提督 「艦娘と同じだよ」

朝潮 「そんなに違いますか」

提督 「あぁ、違う」

提督 「同じ艦娘でも練度で強さが違うのと同じだ」

朝潮 「提督は・・・次にあのタ級が来たらわかる自信がおありですか?」

提督 「ある」

朝潮 「発光が違うからですか」

提督 「それもある」

提督 「朝潮は深海棲艦が強力になるほど人間に近くなるという話は聞いたことがあるか」

朝潮 「あります」

朝潮 「強くなるほど武装を外部化して人型に近付くと」

提督 「そうだ」

提督 「鬼や姫と言われる強力な深海棲艦の外見は化け物というより艦娘に近いとさえ言われる」

提督 「ただ、それだけじゃない」

朝潮 「?」


提督 「本部からの命令で所属鎮守府合同で作戦に当たるよう言われることがままある」

提督 「おれはその時、鬼や姫に何度か会ってる」

提督 「人語を解して喋るぞ、奴らは」

朝潮 「本当ですか?」

提督 「軍事機密だ、緘口令が出てる」

朝潮 「知性が・・・」

提督 「そうだ、鬼や姫以外の深海棲艦も強力な個体ほど高い知性を持っている」

提督 「昨日の戦艦タ級フラグシップもその一種だろうな」


 劣勢と見るや仲間を盾にやり過ごすことを画策し、艦隊の油断を確認し反転攻勢に出る。

 近付く艦娘をただただ攻撃する一般的な深海棲艦とは一線を画していた。

 それは朝潮でもわかった。


提督 「高い知性といっても昨日みたいな気紛れな奴だけじゃない」

提督 「旗艦、練度の低い艦娘、損傷が激しい艦娘を優先的に狙って足止めを図る奴もいるし」

提督 「千差万別だ」

朝潮 「しかし、知性は見てもわかりませんよね?」

提督 「お前は中破してたからわからなかっただろうな」

朝潮 「あの時タ級が何か?」

提督 「お前と荒潮を大破させたとき・・・あのタ級は笑ってたんだよ」

提督 「感情があるんだ、知性と一緒にな」ニヤ

朝潮 「」ブルッ


朝潮 「・・・」

提督 「このままあいつが現れないといいが」

朝潮 「他の鎮守府に倒された可能性はないんでしょうか?」

提督 「この海域は小中破から轟沈させる深海棲艦がいるからな」

提督 「怖がって他の鎮守府から来るのはいない」

朝潮 「そうなんですか」

提督 「だからこそ戦果も優遇されているし狩り放題で助かる面もあるがな」


 朝潮が艦隊全員を確認し終えた時、指揮作戦艇前方に加賀から通信のあったコアが波間に見えた。

 深海棲艦の武器部分から発生するコアは艤装や武装の開発資材となる貴重な資源だ。


提督 「ゆっくり積んでいい」

朝潮 「次の敵艦隊がすぐ来るのでは?」

提督 「運がいい、上手く敵艦隊群の防衛ラインを一つ抜けた」

朝潮 「?」

提督 「ボス艦隊まで一回分戦闘を回避できたと言えば、わかるか」

朝潮 「三戦の見通しで一戦回避できたから・・・ボス艦隊まで後一戦ということでしょうか?」

提督 「正解だ」

朝潮 「みんなに伝えます」

提督 「この悪天候も捨てたものじゃないな」

提督 「深海棲艦の索敵能力が落ちるのも仕方ない」

朝潮 「加賀さんから了解という通信とともに進路上に深海棲艦が投棄したと見られる資源が流れていると」

提督 「無理のない程度に積み込め」


 こういう時も旗艦に休みはない。

 前衛の加賀と荒潮はそれぞれ対空・対潜の警戒。

 ビスマルクとプリンツが通信を私事で使っている。

 内容はドイツ語でわからない。

 旗艦の後方にいる羽黒は朝潮が取りこぼした投棄資材のドラム缶をおろおろ避けていた。


 波のせいで投棄資材の多くは回収できなかった。

 それでも止まれば敵の艦隊が殺到する可能性もある。

 損傷の確認と同様に投棄資材の回収に時間をかけることはできなかった。


朝潮 「司令官!加賀さんからボス艦隊前の最終防衛ラインの敵艦隊が接近と」

提督 「こちらもレーダーで捉えた」

提督 「軽空母3に軽巡1と駆逐2か、こちらの航空戦力を削ぐ気だな」

提督 「加賀に航空戦に集中させるため、荒潮は加賀の護衛に注力させろ」

朝潮 「了解です」


加賀 (敵の軽空母ヌ級エリートの制空能力は空母ヲ級フラグシップ並み、妥当な判断)

加賀 (けど・・・)

加賀 「荒潮、対潜装備以外はないのだから無理は禁物よ」

荒潮 「装備がなくても艤装で頑張ります、大丈夫ですよ」


 複縦陣で加賀と並ぶ荒潮が微笑む、能面のように白い顔で。


加賀 「朝潮の旗艦出撃を成功で終らせたいとか考えているの?」

荒潮 「いえ・・・轟沈がないように、それだけです」

加賀 「でしょうね」

加賀 「そのまま生きることだけを考えなさい、それで集中できるなら」

加賀 「でないと死ねわよ」

荒潮 「はい」


 言葉と目に力はない。

 近い艦の同調状態がわかる加賀には荒潮がどうしようもなく不安定に感じられた。

 ただ、加賀ほどの艦娘でも戦闘中に他艦に気をかけられるような生ぬるい海域ではなかった。


 先に仕掛けたのは深海棲艦だ。

 敵軽空母3隻から艦載機が放出されいなごの群れのように無軌道に散開した。

 加賀も弓を引く。


 何時見ても綺麗だと朝潮は思う。

 パラパラ機銃の音がするかと思うと空中のそこかしこで火を噴き花火のように戦闘機が炸裂した。

 加賀のように強い艦娘になりたい朝潮は加賀に似たニーソックスをどこか誇らしげにはいていた。

 朝潮は今日なかった加賀の特訓を思いつつ加賀の姿に自分を重ねていた。


 敵艦載機の圧倒的物量に加賀もとりこぼす。

 朝潮は近付く敵艦載機に対空砲火を浴びせつつ、

 指揮作戦艇から離れない範囲で敵を引き寄せて回避をする。

 荒潮も同様に加賀を守るように動く。

 何度も練習した動きだ。


提督 「そろそろ砲撃の射程距離だ」

提督 「加賀には悪いがセオリー通り軽空母の護衛役軽巡以下から砲撃するよう伝えろ」

朝潮 「了解」


 軽空母を護衛する深海棲艦三隻は軽巡以下とは言え手強かった。

 軽巡洋艦ホ級フラグシップ一隻と駆逐艦ロ級フラグシップ二隻で、全艦がフラグシップだからだ。

 一戦目で風や波の影響を覚えた戦艦と重巡の攻撃が操艦で避けられた。


提督 「優秀な深海棲艦だな、護衛艦としての役をしっかり果たしてる」

朝潮 「どうします?」

提督 「このまま同じ目標に砲撃を続けさせろ」

朝潮 「はい・・・」


 風や波の影響を受けやすく一向に当たらない砲撃に比べ、

 近距離から投下され当たりやすい艦載機の攻撃はこの悪天候で脅威だ。

 加賀がどうしてもとりこぼす敵艦載機が少しずつ味方艦隊にダメージを与えつつあった。


朝潮 「司令官!!ビスマルクと羽黒が敵艦載機から被弾!!」

提督 「見えている、小破ごときで慌てるなと言っておけ」


 味方の砲撃で発生する水柱から海水を浴びた深海棲艦は黒勝ちな体を更に妖しく光らせた。

 敵艦隊が味方艦隊に肉薄しつつあった。


朝潮 「雷撃は?」

提督 「まだだ!!」

提督 「これなら少しは当たるだろ」

提督 「目標を敵軽空母に変更して可能全艦に砲撃させろ」

朝潮 「え?」


 護衛役の残った状態から、敵軽空母を攻撃しても庇っていなされるのがわかっていた。


提督 「速くしろ!!!」

朝潮 「はい!」


 通信をするとビスマルクの大口径主砲が重低音を鳴らし回頭する。

 空気を振動させて主砲が発射され、うるさい風の音が一瞬止んだ。

 続いてプリンツ・羽黒による軽空母への面攻撃が行われた。


 近付いたお陰で精度が上った砲撃が集中し何本も水柱が上り軽い霧が発生する。

 霧が晴れてくると大破した深海棲艦の姿があらわになる。

 その姿は軽空母ではなかった。


朝潮 「なんで・・・」


 大破して炎上するのは軽巡洋艦ホ級だ。


提督 「あのタ級のようなのもいれば、こういうのもいる」

提督 「人間と同じだ、知性や感情があるということは個性が生まれるということだ」


 提督は敵の誰かが庇いに来るとわかっていてやったのだ。

 炎上する軽巡洋艦ホ級は、仲間の軽空母に対する攻撃の殆どを庇って被弾していた。

 その操艦技術に驚くとともに朝潮は後味の悪さを感じた。


提督 「ぼやぼやするな。お望みの雷撃だ」

朝潮 「了解しました」


 瞬間、駆逐艦ロ級フラグシップ二隻が不気味な叫びを上げた。

 仲間を失った慟哭か。

 悲しい響きのする叫びは朝潮に向けて放たれたかのような圧力を朝潮に感じさせた。

 朝潮は知らない。これが悪意や害意を越えた殺意であるということを。


朝潮 「各員、雷撃を」


 通信が終るか終らないかで深海棲艦から雷撃が放たれる。

 全雷撃の目標は朝潮だ。


朝潮 「司令官、数本命中コース!!!」

提督 「な?!」

朝潮 「対ショック体勢!!!司令官!掴まってっ!!!」


 波間に雷跡が見える。

 旗艦は避けられない。指揮作戦艇を守らねばならなかった。

 他の艦は雷撃の準備中だ。


―――――
―――


 魚雷のコースに走りこむ影が見え朝潮の手前で魚雷が爆発した。

 一緒に放たれた魚雷が誘爆し爆発が続き、林立する水柱で壁ができる。

 最後に魚雷に割って入った影自身が少し遅れて爆発し視界の水しぶきを吹き飛ばした。


 影は荒潮であった。


朝潮 「大丈夫?!」

荒潮 「ハァハァハァ」

提督 「狼狽えるな!!雷撃の準備中に庇ったから装填中の魚雷が誘爆しただけだろ」

荒潮 「そうよ・・・大丈夫・・大丈夫」


 荒潮の制服は見紛うことなく中破であることを示している。

 ただ、限りなく大破よりの中破だ。

 制服に血がにじむ。


提督 「荒潮、加賀だけでなく旗艦の護衛までやるとは大したもんだ」

提督 「すぐボス艦隊と接触する、陣形の持ち場にもどれ」

朝潮 「な?!進撃するお積もりですか?」

提督 「中破ごときで騒ぐな、朝潮」

朝潮 「司令官!!」

提督 「黙れ」

提督 「昨日の約束に今日の進退は含まれてない」

荒潮 「約束?」

朝潮 「司令官!!!!」


 朝潮は荒潮から視線を感じつつ提督をにらみつけた。


提督 「おぉ、こわいなぁ」ニヤ

提督 「荒潮は知らなかったのか」

提督 「朝潮のお陰でお前は明日旗艦で出撃したら第一艦隊から

朝潮 「荒潮!!!持ち場にもどって!!!!」

提督 「そうだ、それでいい」ニヤニヤ

荒潮 「う、うん」


 朝潮は震えた。

 同時にタ級へ感じた恐怖、それに対する既視感の原因がわかった。


朝潮 (この司令官がばらまく悪意に対する恐怖と同じなんだ)


 ただ、戦艦タ級フラグシップには抵抗も砲撃も雷撃もできた。

 抵抗の出来ない安全圏から悪意を振るう提督は何なのか。


提督 「おい、ぼやっとするな。速く損傷の確認をしろ」

朝潮 「はっはい」


 持ち場へもどる荒潮の後ろ姿が見える。

 足は海面に少し沈みよろけながら進んでいた。


朝潮 「ビスマルク・プリンツオイゲン・加賀が小破、羽黒と荒潮が・・・中破、でしょうか」

提督 「正解だ」

提督 「加賀が小破とは珍しいな」

朝潮 「荒潮がこちらの護衛に回りましたから」

提督 「それでか」

朝潮 「コアは発見できなかったようです」

提督 「どちらにしても残存兵力が多い中コアの回収は危険だからやらん」

朝潮 「司令官」

提督 「何だ?」

朝潮 「昨日のことは荒潮に言わないでもらえますか」

提督 「お願いか?」ニヤ

朝潮 「っ・・・」

提督 「お、ボス艦隊のお出ましだ」

朝潮 「加賀さんが艦隊のみんなにもう伝えてます」

提督 「そうか」

提督 「総員戦闘準備、陣形は複縦陣のまま」

朝潮 「了解しました」 


 天候は荒れたままだ。

 彼方に深海棲艦の黄色い光が朧に見え始めた。

 手前には波に手を付きながら進む荒潮がいるが今敵を見据える朝潮には見えていない。


―――――
―――


本日投下分終了です。
ご読了ありがとうございます。

>>278
お米ありがとうございます。
アニメ続編ですってね。
お陰様で古参の吹雪改二を解体したい衝動に駆られて困ってしまいます。

>>279
お米ありがとうございます。
いちゃらぶを書きたいのに、こういう話になってしまいました。
お詫び申し上げます。

>>280
お米ありがとうございます。
廃れましたね。轟沈ありますとB勝利以下ですからね。
捨て艦がいる艦隊で轟沈してB勝利は厳しいので当然の趨勢。
ただ、廃な人ほど勝利数が多いので多少の敗北は痛くもかゆくもなくないものです。

>>281
お米ありがとうございます。
仲間の轟沈を見て士気の上る・・・
轟沈があると見えない鯖での処理でペナルティあると面白そうですよね。
危険鎮守府として艦娘が着任したがらずドロップ率低下とか。
士気が下がって命中などが落ちるとか

>>282
お米ありがとうございます。
脱がした女性がユニクロとかの安い下着つけてると萎えますよね。

>>283
お米ありがとうございます。
最終的に音楽を楽しむのって肌で感じるために裸で聞くに行き着くと思うんですよね。

>>284
お米ありがとうございます。
もろ描写あります。ご期待ください。

>>285
お米ありがとうございます。
お待たせし申し訳ありません。

>>289
お米ありがとうございます。
嬉しいお言葉です。もう忘れられてるかと思っていました。


もろ描写あるのか楽しみ
こりゃ次の更新まで全裸待機だな

おつおつ
朝潮ちゃん可愛すぎて朝潮依存症の禁断症状が出ちまうよ
あ~朝潮ちゃんと夜戦したいんじゃあ~


俺の息子が夜戦はまだかといきり立っておる

後生だから教えて欲しい
タイトル通り糞提督が制裁を受けるのか、
朝潮が堕とされるのかそれだけ教えてくれ
すごく大事なことなんだ

>>317
ネタバレはやめちくりー

朝潮ちゃんとイチャイチャしたいだけの人生だった

>>318
俺はゲスが成敗される展開が好きでリョナや凌辱はあんまり好きじゃないねん
どっちに転ぶかでかなり俺内での評価が割れそうなんでともすればイッチに迷惑かけないうちに離脱せなアカン

迷惑かけるってなんだよ
自分の気に入らない展開になったら荒らす気なの?

なんでssの核心に近いネタバレをてめえの評価なんて糞どうでもい理由でいわなきゃなんねえんだよフザケンナ

朝潮ちゃんが陵辱される展開も好きやで俺は
朝潮ちゃん堕としたいんじゃあ~

マダー
早くしないと風邪引いちまうよ

おうあくしろよ

>>314
お米ありがとうございます。
前米が前回投下前に米する予定のものでして、
モロ描写は前回投下の朝潮母のモツを指しています。

>>315
お米ありがとうございます。
禁断症状の対処法としてかわいい朝潮のssを書くという方法を当院はおすすめしています。

>>316
お米ありがとうございます。
力みなくして解放のカタルシスはありえねぇ・・・

>>317 >>320 様 >>322
お米ありがとうございます。
この朝潮がどうなるかはお楽しみに以上のことを今は言えません。
話の本筋は前述の通り米しません。
ストーリーものということで先のことを話すとつまらなくなるためです。仕方ないね。
そのため、地の文多用・SS初心者等の注意書きもできず、
不快に思われる方にはただただ申し訳ないと思っています。

>>318
お米ありがとうございます。
朝潮の乳輪は小さめで色素は薄いでしょうけど
どす黒くでかい乳輪というのもギャップがあっていいかもですね。

>>319
お米ありがとうございます。
個人的には娘に欲しい。

>>321
お米ありがとうございます。
おれも荒潮にあらあらされたい。

>>323
お米ありがとうございます。
真面目勢はおとしてもよし、めでてもよし、さげすまれてもよし、隙がない。

>>324
お米ありがとうございます。
お体心配です。大事になさって。

>>325
お米ありがとうございます。
ほもはせっかち。

投下再開します

投下再開します

文中の陣形と配置

複縦陣

進行方向↑

加賀 荒潮
ビス 朝潮
プリ 羽黒



 荒潮が体を引き摺るように加賀に近付く。


加賀 「よく旗艦を守ったわね、お手柄よ」

荒潮 「・・・」

加賀 「荒潮、聞いているの?」

荒潮 「え?」

加賀 「ここは私の持ち場であなたの持ち場じゃないわよ」

荒潮 「あら・・・」キョロキョロ

荒潮 「すいません」

加賀 「戦闘中じゃないからって気を抜きすぎ」

加賀 「手柄を上げた後は油断しやすいのだから気をつけなさい」

荒潮 「・・・はい」

加賀 「いいわ、早く自分の持ち場に行きなさい」

荒潮 「・・・」

加賀 「危ないと思ったら私の後ろに来なさい」

荒潮 「?」

加賀 「足手まといに前でちょろちょろされると集中できないの」

荒潮 「・・・大丈夫です、中破ですから」

加賀 「この海域での中破は轟沈しない保証にはならないのよ」

荒潮 「大丈夫です」

加賀 「?」


 か細い声はうるさい風の音に半ばかき消され霞む。

 荒潮のボロボロの制服は所々が赤く滲んでいる。


加賀 (艤装による治癒力が落ちてる?)


 足は時々ひざ下まで沈み足元はおぼつかない。

 腕に装着した艤装の重さが辛いのか腕は垂れ気味だ。

 ぼろぼろの制服から晒された皮膚は血と爆煙に塗れ浅黒く汚れている。


 荒潮はそのまま何事もないかのように加賀の横を通り持ち場へ向かった。


加賀 (まるで・・・)


 大破進軍すると轟沈する。

 それは大破した戦闘において艦娘は轟沈しないという意味でもある。

 大破した艦娘は、その戦闘中だけはいくら攻撃を受けてもゾンビのように立ち上がることができた。

 理由は大破してから時間がある程度経たないと轟沈しないから等言われているが正確なことはわかっていない。



―――――
―――

ずっとずっと待ってたんだ
良かったよ来てくれて



 指揮作戦艇と平行して進む朝潮へ欄干にもたれた提督が指示を出す。


提督 「荒潮に加賀を死んでも護衛しろと伝えろ」

朝潮 「中破とは言えふらふらですし難しいのではないでしょうか?」

提督 「ほぅ・・・なら朝潮は荒潮がどう動くべきと考える?」

朝潮 「定跡通り対潜対空戦闘で艦隊全体を守るべきです」

提督 「理由は?」

朝潮 (守れと言われれば・・・)


 先ほど荒潮は自分の命を差し出して旗艦の朝潮を守った。

 その時、荒潮に後悔の表情はなかった。


 朝潮は荒潮が第一艦隊から外れたい理由が少し理解できた気がした。

 この荒潮の強すぎる責任感が、この危険な海域でいずれ確実にわが身を滅ぼすとわかっていたのだと思う。


朝潮 (言ってもわからない)

朝潮 「二点・・・あります」

朝潮 「一点目、大破よりの中破で荒潮には庇うような動きが難しいと思いました」

朝潮 「それと航空戦力だけでなく砲撃戦力も守ることで火力の底上げができると思いました」

提督 「教科書通りの回答か」

提督 「一般的な戦場を想定した一番失敗しない戦法だ」

提督 「そして、現実から一番遠い」

提督 「折角だから講義してやる」

提督 「今考えられる最悪なパターンは何だ?」

朝潮 「相手の攻撃で損傷がかさみ艦隊火力が落ちることでは?」

提督 「ここは教科書にある戦場とは違う」

提督 「ここにおいての正解は、加賀が中破して武器の弓矢が破損、航空攻撃ができなくなることだ」

朝潮 「加賀の航空攻撃はそこまで重要でしょうか」

朝潮 「ビスマルクや重巡たちだって砲撃ができますし・・・」


 朝潮は彼女達に目を走らせる。

 悠々と強力な艤装に包まれた彼女達が荒れた海面を進む。

 その勇壮さは小中破の損傷を感じさせない。



提督 「今日、航空攻撃以外の攻撃がまともに当たったか?」

朝潮 「いえ・・・しかし、弾着修正だってしています」

提督 「そんなものは一戦目からしているんだよ」

提督 「覚えておけ、実戦と言うものはなぁ現在の状況から最良の手を選ぶことを言うんだ」

朝潮 「しかし、荒潮が余り動けないのは明白です」

提督 「だからいい」

朝潮 「!?」


 提督は前方を進む荒潮を見る。


提督 「敵だって弱っている荒潮には攻めっ気が出る」

提督 「加賀の近くにいるだけでいい囮になる」

朝潮 「小中破で轟沈する海域です」

朝潮 「集中して攻撃を受けるのは危険です!!!」

提督 「確かにな、だが言葉は選べ」

提督 「昨日ビクビクしてたのに艤装を付けて気が大きくなったか?あ?」

朝潮 「」ビク


 提督の低い声と視線が朝潮を萎縮させる。


提督 「次口答えすれば・・・そうだな」

提督 「明日荒潮が旗艦の時に昨日の朝潮がよがる様子でも話して聞かせようか」

朝潮 「そんなこと荒潮は信じません」


 信じないどころかもうばれているかもしれない。


提督 「さっきおれの発言を止めておいてよく言う」

提督 「いや、荒潮と親しいお前がそう言うなら動画も見せるか」


 提督が懐からスマホを取り出しいじった。


朝潮 「っ・・・旗艦は艦隊運用に付いて司令官に意見具申できるはずです」

提督 「おっと、もう口答えか?」

提督 「お前はそんなに自分の痴態を荒潮に知って欲しいのか?」

提督 「背徳感で興奮するのか?」

朝潮 「っ・・・」



 朝潮は提督が嫌いだ。

 なんでこんなに酷いことをするんですか、と泣き言を吐きたい気持ちを抑え込む。

 そんな言葉を吐いても俯いたり唇を噛んだり口惜しさを見せても、提督を喜ばせるだけだ。

 そんな気がしていた。

 朝潮は提督を真っ直ぐと見据える。


提督 「お前はおれに似ている、近いと言ってもいい」

朝潮 「私は・・・変態じゃありません」

提督 「ハッ、面白い、口答えにカウントしないでやろう」

提督 「似ているのは目的のために手段を選ばない、そういう人間性がだ」

朝潮 「私と司令官が似てる?」

提督 「そうだ、お前は荒潮を守るために倫理に囚われず選びうる最良の選択をした」

朝潮 「・・・」イラ

提督 「後悔しているのか?昨日のことを」

提督 「それは違う、お前は正しいことをした」

朝潮 「正しい?何を・・・」

提督 「荒潮を救いたかったんだろ?」

朝潮 「手段が正しいかの答えにはなりません」

提督 「本当に間違いと思うなら何で拒否しなかった?」

朝潮 (誘導したくせに・・・)

提督 「責める訳じゃない、寧ろ褒めている」

提督 「誰にもできることじゃない」

提督 「おれもお前のように正しい目的のために手段は選ばない」

朝潮 「正しい?荒潮だけを、一人の少女を危険に晒すことを正当化できる目的があるんですか」

提督 「そうだ、国と国民を守るという崇高な目的のために必要な手段だと言っている」


 提督は気味の悪い笑顔を浮かべている。



朝潮 「私はあなたを軽蔑します」

朝潮 「何であなたみたいな人間が司令官に・・・」

提督 「軽蔑する相手を間違っているぞ」

提督 「お前の憧れる他の鎮守府や提督がおれより優れてるとでも思っているのか」

朝潮 「?」

提督 「自由な意見を言い合い、弱い艦や損傷した艦をいたわる、挙句始まる友達ごっこ、恋人ごっこ」

提督 「これが朝潮、お前が幻想を抱く一般的な鎮守府の提督と艦娘だ」

提督 「上からお咎めがない戦果だけ稼げばいい、過度な出撃は艦娘に嫌われる」

提督 「殆どの提督がそういう倫理に縛られたまま、中級提督という海に溺れて沈む」

提督 「それで海は安全になるのか?」

提督 「何時かは深海棲艦も絶滅するだろう」

提督 「誰かが鬼を姫を倒してくれるだろう」

提督 「逃げ道という鎮痛剤で責任を誤魔化し麻痺した感覚で合同作戦で醜態を晒す」

朝潮 「それは一般的な鎮守府の話ですよね?」

提督 「上級の鎮守府も変わらん・・・いや、もっと酷い」

提督 「資源のかからない潜水艦で深海棲艦に威嚇射撃を繰り返し・・・」

提督 「かすり傷を付けたことをさも一方的に攻撃を加えたかのように報告書に喧伝し戦果を稼ぐ」

朝潮 「信じられません・・・そんなこと・・・」

提督 「ハハッ、脳内お花畑か、余り失望させてくれるなよ」

提督 「ニュースで、訓練学校の空気で、鎮守府への見学で 、選考試験で」

提督 「少なからず感じていた筈だ、お前なら、弛緩した空気を」

提督 「誰も深海棲艦の駆逐なんて考えちゃいないんだよ」

提督 「上からも下からも評価が良く、欲を言えば執務椅子の座り心地も良ければそれでいい」

提督 「それが今の鎮守府と提督だ」


 脳天を殴られたような感覚がする。

 戦闘の興奮で忘れていた頭痛がもどってきた。

 風と波の音がうるさい。



朝潮 「それと・・・私が司令官に似ていることに関係がありますか?」

提督 「大破艦はおとりに使う、上下関係をはっきりさせる、奇策妙策を迷いを持たせず実行させる」

提督 「能力の低い艦は使わない、轟沈があっても厳しい戦闘の見込まれる海域であろうと出撃を減らさない」

提督 「全部だ、全部深海棲艦を皆殺しにして国を、国民を守るためだ」

提督 「おれが間違っているか?」

朝潮 「っ・・・」


 正しいはずの大義名分が提督の手が触れるだけで汚いものに思えた。

 それでも言っていることはどこか正しく、朝潮にどす黒い感情が鬱積してゆく。


提督 「荒潮への指示を速くしろ」

朝潮 「・・・わかりました」

提督 「安心しろ、荒潮は沈まない」

朝潮 「何でですか?」


 提督はそれ以上何も言わない。

 大人の男である提督の手にさえ余る大きい軍用双眼鏡で敵艦隊を眺めている。

 荒潮に通信を行う。


朝潮 「荒潮」

荒潮 「・・・」

朝潮 「荒潮!」

荒潮 「なに~?」

朝潮 「司令官が対潜対空戦闘を捨てて加賀さんを護衛するようにと」

荒潮 「了解~」

朝潮 「気を付けて」

荒潮 「・・・」

朝潮 「荒潮?」

荒潮 「大丈夫よ、ふふ」


 波しぶきに洗われる衣服は荒潮の出血を隠してしまっていた。

 朝潮は荒潮の異常に気付かない。


提督 「加賀は目標を問わず積極的に航空攻撃を狙うように」

提督 「砲戦はセオリー通り護衛重巡以下から撃破、その後は旗艦を狙わせろ」

提督 「後、戦艦と重巡たちにはいい加減仕事しろと言っておけ」

朝潮 「了解しました」


 荒潮の異常より朝潮に今明確だったのは既に反転撤退する余裕がないということだった。

 敵はもう目前に迫っている。

 朝潮の頭痛はいつのまにか消えかけている。

 雑念を振り払い集中力を高めた朝潮には加賀の弓を引く音が聞こえるような気がした。



―――――
―――



提督 「敵艦隊は輪形陣で旗艦が空母ヲ級フラグシップ」

提督 「残りは、戦艦タ級フラグシップ1・重巡1・軽巡1・駆逐2」

朝潮 「司令官、敵の艦隊にいるタ級は・・・あのタ級でしょうか」

提督 「だからなんだ?作戦に変更はない」

提督 「お前は、いや・・・艦隊全員が旗艦を潰すことだけを考えればいい」

朝潮 「B勝利では駄目なのですか?」

提督 「くどい」

提督 「潜水艦で水遊びして喜ぶカスどもと一緒になれというのか?」

朝潮 「いえ・・・」

提督 「一番海域の安全に繋がるのは旗艦の撃破だ、おれはそれしか狙わない」


 戦闘に入れば、提督の悪意は全て深海棲艦に向けられる。

 そのせいか否か戦闘に近付き益々落ち着いてくる自分を朝潮は感じる。


朝潮 「加賀が航空戦を開始」


 パラパラと音がして、最初に戦闘機同士の制空権争いが始まる。

 ヲ級の周囲から湧き上がった奇形の戦闘機が加賀の戦闘機に襲い掛かる。

 エンジン音の独特な音が空中戦の熾烈さを表わすかのようにめまぐるしく変化する。

 三次元で狂ったような軌道を描き加減速を繰り返す戦闘機たちを加賀は冷静に操る。

 艤装の能力をただ爆発させる戦艦と違い空母系は繊細な同調や能力の使用が求められた。



 やがて双方に被弾し墜落する戦闘機が出る。

 墜落する戦闘機は不整脈を起こしたかのようにエンジン音を乱し

 火と黒煙を吹き落下し空中もしくは海面で炸裂してゆく。

 戦闘機による空中戦の間隙を狙い双方の攻撃機・爆撃機が飛び交う。

 それを狙い、おとりにし、空母同士の駆け引きは戦闘中絶え間なく続く。


 その中で加賀が撃墜した敵爆撃機が空中に大輪の花を咲かせた。

 大きさに息を呑む。

 その大きさは二戦目の敵軽空母が放った爆撃機のそれと比べ物にならない。


 ただ、二戦目の敵軽空母3隻から放たれた戦闘機より数が減ったそれを加賀は何とか抑えていた。

 対空戦闘を準備している陣形先頭の荒潮の元にさえ空母ヲ級の刃は届いていない。


 そんな中、制空権争いの激しい空域を加賀の爆撃機数機が抜け、敵駆逐艦直上を掠める。

 直後、その敵駆逐艦が炸裂し損傷から火を噴き連続した爆発音と叫びを上げつつ沈んだ。


朝潮 「敵輪形陣六時駆逐艦一、撃沈 」

提督 「艦隊最後尾の進路が予測しやすい艦から潰したか」

朝潮 「何か問題でも?」

提督 「いつもの加賀なら陣形の先頭から叩く」

提督 「陣形の先頭を叩けば敵も動揺するし、陣形の進路が制限されて追撃もし易い」

提督 「この鎮守府必勝のパターンだ」

朝潮 「それだけ航空戦が厳しいということでは」

提督 「そうだな・・・」


朝潮 「続いて砲撃始めます」

提督 「全艦に通信、敵艦隊とすれ違いから減速して急旋回、艦隊の進路を敵艦隊のけつに向けろ、と」

朝潮 「撃沈した敵駆逐艦の隙を狙うんですね」

提督 「それもある」

朝潮 「?」

提督 「ケツについたら航速を上げ出来る限り接近させる」

提督 「胸ぐらを掴み合って殴りあいだ」

朝潮 「え?」


 艦娘には実際の艦と違う点がいくつかある。

 その一つが、具現化や艤装による攻撃は全方向への全力の砲撃を可能としたという点だ。

 現実の艦の欠点である方向により稼動できる砲が増減し攻撃力が変わるという問題がない。

 ただ、それは深海棲艦も同じだった。

 つまり、実際の海戦のように横合いや背後から殴りつければ、一方が有利不利ということがない。

 一方が最大火力で攻撃を加えられる位置にいる時、相手もまた同様な状態にあった。


朝潮 「荒潮が護衛に失敗すれば同じく陣形先頭の加賀が危険です」

朝潮 「司令官が重視している加賀の航空攻撃ができなくなる可能性が高くなります」


 朝潮の艦隊は複縦陣を取っており、

 一列目が加賀・荒潮、二列目がビスマルク・朝潮、三列目がプリンツ・羽黒の二列縦隊となっている。

 既に戦闘が始まり陣形の変更が出来ない今、

 過度な接近が一列目の加賀と荒潮の二人を危険に晒すことは火を見るより明らかであった。



 提督を値踏みするような目で朝潮の目を覗く。


提督 「本音は荒潮の心配か」

提督 「お前の言ったとおり加賀が苦戦してる」

提督 「原因までわからなかったようだな」

朝潮 「制空権は取ることができているのに加賀が本来の動きをしていないように見えました」

提督 「殆ど正解だ、加賀の艦攻艦爆が攻撃態勢に入るのを敵戦闘機がうまく邪魔している」

提督 「二戦目に加賀の艦載機を減らしすぎたか・・・」

提督 「このまま加賀に頼るとジリ貧になる可能性さえある」

朝潮 「だから砲雷撃ですか」

提督 「そうだ」

提督 「さて、砲雷撃を当てるにはどうすればいい?」

朝潮 「それで接近ですね」

朝潮 「しかし、加賀が被弾して航空攻撃ができなくなってもいいのですか?」

提督 「その時はもっと近付けばいい」

朝潮 「そんな・・・」

提督 「悲観し過ぎだ、お前は」

提督 「言うほど悪いことにはならん」

朝潮 「何を根拠に・・・」ボソ


 聞こえないよう文句を言いつつ艦隊各員に作戦を伝達する。

 各艦娘の反応は予想以上に良かった。

 砲戦に入る直前の作戦変更に浮き足立つことはない。

 提督に期待されていると思ったビスマルクプリンツ羽黒は意気軒昂に了解と答えてくる。



 直後、一番射程の長いビスマルクが最初に海面を隆起させ主砲を具現化する。

 具現化した主砲を目標の品定めをするようにゆっくり回頭させると主砲側面を伝い海水が勢いよく零れ落ちる。

 同時に深海棲艦側も最長射程のタ級が砲身を妖しく光らせ砲撃準備を始めるのが見えた。


 先に砲撃をしたのはビスマルクだった。

 自慢の主砲が火を噴き渇いた発射音を戦場に響かせ、風や波の音を吹き飛ばす。

 発射後の砲塔は残っていた水気が発射の振動と熱で散り湯気を放っているように見えた。

 放たれた主砲弾は折からの天候に曲げられながら飛んでゆく。


提督 「まだ遠いか」


 提督が呟き砲弾から視線を外す。

 確かに砲弾はこれまでと同じく大きく曲がり見る艦娘たちをも絶望させた。

 次に砲撃を行うプリンツと羽黒がどこか迷いを持ったまま武装の具現化に入る。

 また外れるのか、気紛れな天候にため息を吐く。

 ただ、これまでと違ったのは。

 曲がりに曲げられたビスマルクの砲弾が意思を持っているかのように敵駆逐艦の一隻に命中したことだ。

 まだ静かな戦場を引き裂く炸裂音に各自作戦行動を行っている艦娘全員の視線が集まる。


朝潮 「敵陣形零時駆逐艦一隻、撃沈」

提督 「陣形先頭の駆逐艦か」

朝潮 「そうです」

提督 「見てみろ、あいつ」

提督 「これまで当てられなかったくせに、当たるのが当たり前かのように平然なふりしてるぞ」ク


 ビスマルクは驚きか喜びか顔色を変えないまま強く拳を握っていた。

 提督はそれを見て嘲笑か喜びか顔をゆがませる。


 駆逐艦ハ級は被弾したことに理解が追いつかないのか、黒煙を噴きつつ静かに波にのまれた。

 ほぼ同時に発射されたタ級の荒潮を狙った砲撃は外れて落ちる。



提督 「ビスマルクから弾着修正の情報を他艦に伝えさせろ、急げ」

朝潮 「はい!!」

提督 「この撃沈が艦隊全員の心に火をつける」

提督 「朝潮もわくわくするだろう?」

朝潮 「少し」

提督 「誰でも心が躍る」


 双方の重巡以下の砲撃戦が始まとうとしていた。


提督 「この撃沈の意味は大きい、なぜかわかるか?」

朝潮 「撃沈だけなら加賀もしてます・・・」

朝潮 「今日初めてまともに砲撃が当たったからですか?」

提督 「正解でいいだろ」

提督 「初弾、一番長く難しい距離を目標に当てた」

提督 「当てられることに対する希望だ」


 まだ射程に入らないプリンツオイゲンと羽黒が具現化した砲を並べ今か今かと砲撃開始を待つ。

 その中で、交わされるビスマルクとタ級の砲撃は、ビスマルクの精度の優位を更に露にした。


朝潮 「プリンツ、羽黒がビスマルクからの情報を元に射程に入り次第砲撃を開始」

提督 「陣形に二つも穴ができればたてなおしに距離を起きたがる」

提督 「敵艦隊は撃沈した先頭敵駆逐艦の左舷へ進路を取る」

提督 「そこに砲撃をばら撒け」

朝潮 「了解しました」


 全艦による本格的な砲撃戦が始まる。


 艦娘と深海棲艦、双方の砲が灰色の中空に大小の火を噴き上げ熱を帯びた鉄塊が発射される。

 砲弾は着弾し水を巻き上げ水柱を築きその水柱は風になぎ倒され散る。

 少しずつ砲撃が増え砲の渇いた音と水の塗れた音が交差し徐々に大気に満ちる。

 やがて音を肌で感じられるほどに空気の響きが飽和する。



―――――
―――



 激しい砲撃戦の中、背後に迫る艦娘たちの艦隊を振り切ろうとする深海棲艦の艦隊は蛇行する。


提督 「こちらも蛇行する」

朝潮 「?追うのなら当然蛇行になりますよね」

提督 「そういうことじゃない、蛇行する敵艦隊を蛇行しながら追うということだ」

朝潮 「それでは移動距離が伸びて敵艦隊に接近するのが難しくなるのでは?」

提督 「進路の予測し易い最短距離を追撃して蜂の巣になりたいのか?」

提督 「軽くなったら航速も上りそうだな、やってみるか?」

朝潮 「・・・」

提督 「黙るな、聞こえてるかわからん」

朝潮 「はい」

提督 「お前はおれの指示通り進路を艦隊に伝えればいい」

提督 「安心しろ、想像すればわかるがお互い蛇行すれば嫌でも交差する」


 提督の言葉通り航跡は絡み合う蛇のように錯綜した。

 航跡が交差する場所は特に多くの水柱の跡ができ上空からは火花が飛んでいるかのように見える。

 砲撃戦が始まり飛ぶ高度を上げたウミネコからはさぞ綺麗に見えたことだろう。



 交差において何度も危険な近距離砲撃戦が起こるも深海棲艦を仕留めるまで行かない。

 深海棲艦は輪形陣の先頭としんがりの二隻が撃沈されても動揺はなく。

 喪失した艦の隙に残存護衛艦を配し巧みに艦隊行動を続ける。


提督 「荒潮が先ほどから先行し過ぎだ」

朝潮 「はい」

提督 「こちらの方が至近弾を加えているからと言って焦らないように伝えろ」

朝潮 「伝えます」


 艦娘の戦闘可能時間は限られている。

 深海棲艦の艦隊群にいる他艦隊が救援に来るまでに退却を完了させねばならないからだ。


 それを知っているかのように敵は逃げに専念した。

 提督の近距離砲撃戦を狙った過度の追撃はその深海棲艦が最も嫌がることであった。


 だからこそ、深海棲艦は足止めを狙い追撃する艦娘の進路を中心とした砲撃が増え。

 皮肉にも陣形先頭の加賀と荒潮、当然他艦娘への直接攻撃の手数が確実に減っていた。

 これも提督の狙い通りか。


提督 「荒潮が今度は下がりすぎだ、二列目にぶつかるぞ」

朝潮 「そうですね・・・」

提督 「おとりになれとは言ったが敵砲撃の散布界に二隻入れるまでサービスする必要はない」

提督 「荒潮を執拗に狙っているのがタ級だから臆すのは多少仕方ないがな」

朝潮 「伝えます」


 初撃から荒潮はずっとタ級に付け狙われている。

 少しずつ射撃誤差を修正したタ級の砲撃は至近弾となって絶えず荒潮を襲っていた。



提督 「それにしても、旗艦のヲ級はいい仕事をする、艦隊の航路・陣形の配置・喪失艦の補填」

提督 「手堅い戦法をノンタイムで打ってくる」

提督 「お前が大きくなったらあんな感じになりそうだ」


 そう言うと、艦娘に目標の指示のみして戦況を見ているだけだった提督が動く。


提督 「相手にそろそろ慣れも出てくる、時間もないし本格的に狩るか」

朝潮 「?」

提督 「ここからの指示は機械的に全艦娘に伝えろ、迅速に寸分違わずな」

朝潮 「了解しました」

提督 「さて・・・残り四隻、空母ヲ級・戦艦タ級・重巡リ級・軽巡ト級か」

提督 「中央の旗艦ヲ級を守る形で前方タ級で後方はリ級とト級が配されてる」

提督 「輪形陣をよく理解している」

提督 「こちらも向こうも小中破ばかりで決定打を出せていない」

提督 「朝潮ならどうする?」

朝潮 「まさか・・・もっと距離を詰めるお積もりですか!?」

提督 「それを敵が許すと思っているのか」

朝潮 「すいません」

提督 「謝るな、意味がない」

提督 「着眼点がずれてる」

提督 「何で敵が砲撃を避けることができていると思う?」

朝潮 「???」

提督 「こちらの戦法が読まれている」

提督 「ビスマルクは頑なに本体狙い、プリンツはビスマルクと合わせて同目標を斉射」

提督 「残った羽黒は補助と威嚇だけ、と砲撃主力三艦の動きが今こうなってる」

提督 「一隻ずつ潰すには悪くない戦法だ」

朝潮 「はい」

提督 「大方敵は寸前の弾着でおれたちの砲撃のずれを確認」

提督 「それに加えてビスマルクの操艦と砲塔の向きだけに注目して砲撃を避ければ」

提督 「続く二艦の砲撃も外れるという寸法」

朝潮 「そんな馬鹿な」

提督 「あぁ、普通ならわかってても避けられん」

提督 「ただ、ここは小中破から轟沈させる深海棲艦がいる元より異常な海域だ」

提督 「これくらい驚くことじゃない」

提督 「そのままビスマルクは好きにやらせておけ」

提督 「プリンツと羽黒を敵の予想回避進路に砲撃させる」

提督 「通用するのは一回のみ、タイミングは指示する」

朝潮 「了解しました」



 提督の指示の下、敵艦隊の進路を制限するために砲撃での牽制が行われる。

 敵に気付かれないように、平静を装い重巡のプリンツと羽黒が敵艦隊に最大限接近するのを見計らう。


提督 「次のビスマルクの砲撃に合わせて・・・やる」

朝潮 「はい」


 深海棲艦の動きのくせ、ビスマルクの射撃誤差から敵の回避進路を予想する。


提督 「目標軽巡ト級、三時方向50-100mに砲撃をばら撒け」

朝潮 「了解しました」


 プリンツと羽黒に通信した時、何も知らないビスマルクの砲撃が盛大に外れた。

 それを回避した軽巡ト級にプリンツと羽黒二隻の砲撃がスコールのように降り注ぐ。

 林立する水柱とそれが崩れる滝のような水音に紛れ低い爆音が響く。


朝潮 「敵は?!」

提督 「無事でないことは確かだ」

提督 「次、ビスマルクとプリンツに重巡リ級、十時方向50-100mに砲撃」

提督 「護衛艦も減った、羽黒には単独で旗艦を狙わせろ」

朝潮 「はっはい!!」


 重巡リ級は未だ霧のたつ軽巡ト級の被弾地点へ提督の予想通り舵を取った。

 そして、待ち構えるビスマルクの砲撃に当たりに行く形で轟沈。

 加速していた船体は黒い泡を吹きながら潜水艦が潜航するように沈んで行った。

 重巡リ級の向かう筈だった進路の先、霧の晴れた後には軽巡ト級の残骸しか浮いていなかった。


朝潮 「重巡リ級と軽巡ト級の撃沈を確認」

提督 「重畳重畳、後二隻か」


 敵戦力は空母ヲ級フラグシップと戦艦タ級フラグシップの二隻のみとなった。



朝潮 「提督、二隻目の重巡リ級の進路は何でわかったのでしょうか」

提督 「敵旗艦のヲ級は慎重で手堅い戦法を取ってる、お前のようにな」

提督 「抜けた軽巡ト級の穴に重巡リ級を向かわせるのはわかっていた」

朝潮 「なるほど、なら・・・」

提督 「次はタ級か?無駄だ」

提督 「こんなの一回しか通用しない」


 提督が視線をやる先にいるタ級は先ほどの二の舞にならないよう、

 陣形の先頭から慎重に航路を取り艦娘達の艦隊と敵艦隊の間に移動していた。


 この出撃の最終決戦が始まろうとしている。

 今や最高潮に達していた砲撃音の飽和は収まり始めていた。

 しかし、減少した砲撃の一発一発が持つ殺意は未だ衰えないどころか増しつつ飛び交っている。

 砲撃音にかき消されていた戦闘機の音、波の音、風の音がもどってくる。



提督 「このタ級はフラグシップのくせにポンコツだな」

提督 「目ぼしい戦力は旗艦のヲ級のみか」

提督 「無視しても構わんが一応羽黒にタ級を狙わせろ」

朝潮 「はい」


 馬鹿の一つ覚えにただただ荒潮を狙ったタ級の砲撃は一発も命中していなかった。


提督 「ビスマルクとプリンツは旗艦目標で一斉射、砲撃は二人に任せる」

提督 「ヲ級を釘付けにしろ」

提督 「砲撃が当たればよし、当たらなくてもいい」

提督 「回避行動で空母ヲ級の発艦が難しくなればとどめは加賀が刺す」

提督 「すぐ伝えろ」

朝潮 「了解しました」


 全員に通信すると荒潮からのみ返答がない。

 荒潮を見るとタ級からの砲撃をふらつきながら避けていた。


提督 「どうした?」

朝潮 「荒潮から返答が」

提督 「捨て置け、どうせ残った二隻には駆逐艦じゃお話にならん」

朝潮 「司令官、タ級は何でこんなに執拗に荒潮を狙うのでしょうか?」

提督 「こんな時に何だ」


 提督は砲撃を避ける旗艦ヲ級を舐めるように観察していた。


提督 「荒潮?護衛の駆逐艦からやるのは敵でも同じだ」

朝潮 「それは荒潮に庇われて加賀への攻撃が減衰させられるから、ですよね?」

提督 「そうだ」

朝潮 「荒潮はあんなに元からぼろぼろなんですよ」

朝潮 「加賀に直接攻撃しても今の荒潮ならさっきのように庇いに行けません」

提督 「ん・・・」


 違和感を覚えたのか提督がタ級と荒潮に顔を向ける。

 ぼろぼろの荒潮が避ける姿は余りにも痛々しかった。

 足はひざ下まで沈み底なし沼にもがく鹿のようだ。



提督 「タ級が砲撃が当てられなくてやけになっているんじゃないのか?」

提督 「おれたちの艦隊も当たるようになったのはこの戦闘からだ、おかしくない」

朝潮 「それであんなに正確に至近弾を加えることができますか?」


 タ級は羽黒の砲撃を避けながら同じ距離を刻み至近弾を荒潮に加え続けている。

 ダメージがあるかないかという距離で、正確に。


提督 「荒潮をもてあそんでいると言いたいのか」


 タ級の様子は捉えて弱った獲物を逃がしては捕まえてを繰り返して遊ぶ猫かのようだった。

 朝潮にはタ級が笑っているように見えた。

 提督に悪意を向けられた時の比じゃない悪寒がする。


朝潮 「こんな・・・酷い、このままじゃ」


 制服の損傷、全身の傷、半ば沈みかけた足、全てが荒潮が大破し轟沈しかけていることを表している。

 轟沈の二文字が、風呂場で聞いた荒潮のエコーの聞いた声が、頭を走る。

 恐怖に飲まれ、同調を乱し、轟沈していく。この鎮守府の話が。


提督 「落ち着け!!!」


 目を白黒させる朝潮に叫ぶ提督の額にはこの風と寒気の中にも汗が光っている。

 朝潮は考えるより先に体が荒潮のもとへ前へ出そうになる。


加賀 「待ちなさい」


 突如、加賀から通信が入る。



―――――
―――

今回分投下終了です。
ご読了まことにありがとうございました。

おつ



面白い
でも
ターン制限や撃沈基準みたいなゲーム設定にあまり拘る必要ないんじゃないかな

と、感じた

>>332
お米ありがとうございます。
お待ちになってくれる人がいるなんて本当に申し訳ないやら有難いやら。
今後も宜しくお願い申し上げます。

>>352
お米ありがとうございます。
投下中に気付くことが多く、訂正や書き直しをすると投下に時間かかってしまいます。

>>353
お米ありがとうございます。お褒めに預かり光栄です。
ご指摘の件、私の作意を酌んでいただけているようで嬉しく感じています。
ゲーム設定に近くしているのは世界観をわかりやすくするためという側面が強いです。
強いですと言ったのは、自身の貧弱な文章力でリアル海戦をしたり世界観の説明を始めたり変な展開を描ききれるか不安だったのが多少。
このssは最後まで骨子が決まっているので、次書くことがあれば冒険する勇気を持とうと思います。

まだでちか?

更新ないなぁ

>>355
しゅ

>>356
まだ大丈夫でち

>>357
お待たせ致しました。
今後ともよろしくご愛読のほどお願い申し上げます。

投下再開します。



朝潮 (戦闘前に荒潮の損傷を確認した時は間違いなく中破だった筈)

朝潮 (けど、今は・・・)


 朝潮は昨日のことを思い出していた。

 大破し意識を失った荒潮に肩を貸し指揮作戦艇へ運んだことを。


朝潮 (あの時みたいに大破から時間が経って同調が切れかけてる?)

朝潮 (荒潮・・・)


 朝潮は砲艤装を持つ右手を固く握り構える。

 加賀の通信で、飛び出す寸前だった朝潮はその場に踏みとどまっていた。

 提督は予期した朝潮の暴走が止まったことに疑問を感じるのもつかの間、

 加賀が勝手に動き出したことに気付いた。


提督 「どうなってる!?」

朝潮 「加賀が・・・荒潮が異常だから援護に行くと」

提督 「ぁあ!?どういうことだ!!」

朝潮 「荒潮に一番近い加賀が荒潮を救出、即時反転撤退します」

提督 「加賀自身でか!?」

間に合ったか良かった
ここの掲示板は作者の書き込みが二ヶ月無い時点で落とされるから気をつけろよ
投下する文章が書き上がってなくても定期的に生存報告を書き込む事を推奨する


 勝手に動いているのは加賀だけではない。

 加賀は可能全艦に提督の命令を無視しヲ級の集中攻撃を命じていた。


 加えて艦隊運動においても、艦隊の前進を止め陣形の変更を指示。

 複縦陣の右列(先頭から荒潮・朝潮・羽黒)の前方、

 敵との間に割り込むように加賀を除く左列(先頭から加賀・ビスマルク・プリンツ)の前進を指示していた。

 命令に基づき、ビスマルク・プリンツが速やかに砲を旗艦のヲ級に向け斉射しつつ前進する。


 ここに荒潮救出作戦が始まった。


 呼応するように敵艦隊も前進を止め、

 荒潮への攻撃しかしていなかったタ級が初めて動き、艦娘達とヲ級の間に立ちふさがる。


 お互いの艦隊は陣形を変えつつ危険な距離を保って静止した。

 艦娘達の顔には緊張がみなぎっている。

 対するタ級の顔に動揺は一切感じられない。

 他の同個体のような無表情でない意味不明な微笑を保ったままであった。


提督 「この作戦が成功すると思っているのか?」

提督 「止めるよう加賀を説得しろ、朝潮」

朝潮 「荒潮を見捨てろと言うんですか?」

提督 「馬鹿馬鹿しい」

提督 「荒潮は沈まん」

朝潮 「???」

朝潮 (何を・・・)


 提督は戦場で根拠のないことを言わない人間だった。


朝潮 (止めさせるための嘘か・・・)


 朝潮の脳はその時そう処理していた。


 はっとして、加賀に視線を戻し対空戦闘の準備にもどる。

 加賀の援護が、それだけがこの場の朝潮にできることだった。


 加賀は機関銃のように目にも取らぬ速度で矢を放っていた。

 そこに弓道の型は存在しない。

 艦娘たる人外の能力を遺憾なく発揮した連射が行われる。

 弦に弾き出された矢が加速し切った瞬間に輝き、艦載機を具現化し次々と飛んでゆく。

 最後に加賀は矢筒の淵をなで矢がないことを確認し、荒潮に向け飛び出した。


 タ級の砲が狙うのは走る加賀か沈みかける荒潮か。

 艦娘からの砲撃に晒されているのにも関わらず、

 タ級は子供がお菓子を選ぶ時のように上気した顔で加賀と荒潮の間で砲を揺らしていた。

 時間は刻々と進む。


提督 「今ならまだ遅くない、戻るように言え」

朝潮 「もう止められません」

朝潮 「それに司令官は沈まないと言いますけど、荒潮の様子が見えないんですか?!」


 あれからタ級の砲撃が止んでいるにも拘らず、

 波濤に上下する荒潮の四つん這いに突っ張った手足は刻一刻と海に取り込まれていた。


提督 「轟沈はしない」

提督 「荒潮には轟沈の兆候がない」

朝潮 「兆候?」

提督 「今は説明する暇がない」

提督 「そもそも救出作戦自体が無茶だと言っている」

提督 「艦隊全員が危険に晒されるぞ」

朝潮 「どういうことですか?」

提督 「すぐわかる」


 タ級はその標的を加賀としたようだ。

 走る加賀をタ級の大口径砲が襲う。


提督 「忠告も・・・もう手遅れか」


 提督は舌打ちをする。


提督 「すぐだ、すぐ後悔することになる」


 朝潮は提督の言葉を無視し、

 加賀の進路を邪魔する敵艦載機に艤装による対空射撃を加える。


 ビスマルク・プリンツ・羽黒は集中砲火を続けていた。

 砲弾達がホースでまかれた水のようにヲ級とタ級に襲い掛かり、

 その周囲に水柱が数え切れないほどそそり立つ。

 砲に掻き混ぜられたヲ級とタ級の周囲の海面だけが、

 他の波打つ海面と全く別の生き物のようにうごめいていた。


 ヲ級とタ級はその不安定な足場で、

 踊るように艦娘の砲撃をあるいは避けあるいは防御壁で弾きつつ加賀を攻撃していた。

 堅牢なタ級の防御壁の側面は、弾かれた艦娘の砲弾が走り綺麗な火花をいくつも散らしていた。


朝潮 「何でこれだけの攻撃を・・・」


 歯軋りする朝潮へ戦況を覚めた目で見ていた提督が言葉を発す。


提督 「おれたちの砲はここまでの砲撃で加熱され精度が落ちてる」

提督 「あちらは二隻になり、艦隊という己を守るだけでなく縛っていた鎖が解かれた」

提督 「そうやってただでさえ当たらないのにあれだけの防御壁」

提督 「砲弾が芯から当たっても抜くことができるか」

提督 「まぁ、当たっていないのは加賀も同じか」


 敵の砲撃と艦攻の雷撃による線、艦爆による点の飽和攻撃を、

 加賀はほぼ最短距離を最小の挙動で避けながら進んでいた。

 敵の攻撃がぬるい訳ではない。

 水柱の高さは艦娘による砲撃のそれ以上の高さで上っており、

 全ての攻撃が致命傷を狙って加賀予想進路の正中線に正確にばらまかれていた。


朝潮 「凄い・・・どうやって」

提督 「敵の位置、砲や艦載機の向きや動き、視線や構えからの情報」

提督 「それだけでなく、戦艦空母は偵察機や艦載機の視界も二次視覚的に把握できる」

提督 「ここまでは常識だし、朝潮も知っているだろ」

朝潮 「はい」

提督 「加賀はそれに加えて深海棲艦の同調状態がわかる」

朝潮 「同調がわかる?」

提督 「敵の艤装による行動の予兆を掴む事ができるという意味だ」

提督 「加賀が逃げに専念すれば、そう当たらん」

朝潮 「そうなんですか」

提督 「攻撃に使えば相手の進路を先読みすること」

提督 「戦闘中で一番隙ができる相手の攻撃に合わせてこちらが仕掛けることも可能だ」

提督 「これが加賀の能力だ」

提督 「驚いたか?」


 提督は戦いを忘れたかのように満足した顔で語る。

 実際、演習に飽き足らず自鎮守府の艦娘同士を戦わせる提督から言わせても、加賀は異質の存在だった。

 一般的に強いと言われる艦娘よりも頭一つ以上飛びぬけて強かった。

 何より、この異能を持っているのが、

 提督の広く知っている艦娘たちの中で加賀のみだったことが大きい。

 だからこそ次に朝潮から出る言葉は提督を驚かせた。


朝潮 「私も集中すれば少し感じることがありますけど、避けられるまでは・・・」

提督 「何?」


 提督の間の抜けた言葉に、朝潮は対空射撃をしつつ横目で提督を見る。

 提督はいぶかしむような目で朝潮を見ていた。


朝潮 「いえ、今の敵みたいな強い深海棲艦の攻撃だけなら・・・ですけど」

朝潮 「艦隊同士が接近しているからかもしれません」

提督 「・・・敵の艦載機の攻撃に合わせて対空射撃を加えてみろ」

朝潮 「はい?」

提督 「やってみろ」

朝潮 「いえ、だから私は集中しないと難しいので、時間がかかります」

朝潮 「それより多く撃って敵を牽制する方が・・・」

提督 「かすりもしない対空射撃に牽制の意味があるのか?」


 事実、朝潮はヲ級の艦載機の動きに翻弄され有効な射撃が一回もできていなかった。


提督 「やらないなら、これから一切の対空射撃は加賀の進路に合わせようとするな」

朝潮 「何故ですか?」

提督 「当たらないまま撃ち続ければ、加賀の進路情報を相手に与えるだけだ」

朝潮 「それは・・・」


 ビスマルクの砲撃が軽々避け続けられていた情景が朝潮の脳裏に浮かぶ。

 あの時、確かにヲ級はビスマルクからの何らかの情報を持って避けていた。

 運よく全弾避けることなどできないのだから。

 提督の言うことは正しい。


提督 「おれの言ってることに間違いがあるか?」

提督 「どうせ負ける戦闘だ・・・が」

提督 「当たらないなら当たらないなりに悪あがきしてみろ」

提督 「一発だ・・・敵艦載機の攻撃に合わせて撃て」

朝潮 「・・・はい」


 対潜装備しか積んでいない朝潮は、原寸に近い巨大な砲を具現化できない。

 腕に付いた貧相な艤装の攻撃では、残った戦艦タ級と空母ヲ級にダメージは期待できなかった。


 それでも、艦載機なら。

 しかし、ヲ級に巧みに操られる奇形の艦載機にはこれまでかすってもいない。


朝潮 (どうせ当たらないなら・・・か)


 今も提督がこの作戦に賛同しているとは思っていない。

 それでも、荒潮を助けるためなら何でもできたし、提督の指揮に置ける有能さだけは信じることができた。


 ヲ級とタ級の攻撃は、加賀を殺すだけでなく荒潮に近付かせないようにばら撒かれていた。

 朝潮の対空射撃が当たっていれば、もう加賀は荒潮に手が届いていたかもしれない。


朝潮 (当てる、荒潮のために・・・)


 攻撃軌道はどのような艦載機も一定の軌道をたどる。

 艦爆なら急降下、艦攻なら低空侵攻、と、

 艦載機自体や武装の特性から攻撃軌道が制限されるからだ。


朝潮 (狙うなら機種は比較的攻撃軌道が読み易い艦攻、けど・・・)


 深海棲艦は異様な形だけでなくかなりの速度で動き回っており、

 それら敵艦載機ををはっきり判別するのは難しかった。


朝潮 (時間がない、敵艦載機の中でも機数の多い機種に絞って攻撃軌道を覚えるしかない)

朝潮 (そうすれば狙える目標も増える)


 朝潮のこの判断が功を奏す。

 今、ヲ級が加賀を攻撃するのに一番多く用いているのは、幸運にも艦上攻撃機であった。


 これは手堅い戦略を取るヲ級が、

 全力で制空権争いをしていた先ほどまで、艦上爆撃機を中心とした編成で攻撃を行い、

 正に今まで攻撃軌道が読みやすく落とされやすい艦攻を温存していたためであった。


 狙った一機の攻撃までの飛行ルートを、全力で朝潮は目に焼き付ける。

 敵艦載機は水面すれすれを低空侵攻した。


朝潮 (よし!!!艦攻!!!)


 すぐさま朝潮は同じ機種を目標として狙いを定め、右手の艤装に力を込める。


朝潮 「落ちてッ!!!」


 敵が攻撃する寸前の気配を頼りに裂帛の気合と共に砲撃を行う。

 気紛れな風と大口径主砲の轟音渦巻く戦場に小さい発砲音はかき消される。


 小さな砲弾は誰にも注目されず静かに飛翔した。

 その砲弾の進路に敵艦載機は吸い込まれるように飛び込む。

 敵艦載機はガンと高い音を立てると上下に回転しながら爆弾を抱いたまま炸裂した。

 空中で不自然に赤々と爆発した敵艦載機は戦場で一際目立った。

 加賀の瞳が燃え熱風が脇をすり抜ける。


朝潮 「やった・・・やりました司令官!!!」

提督 「見ればわかる、喋る暇があれば牽制を混ぜながら続けろ」


 ヲ級が朝潮を細目で見つめていた。

 同じように提督も朝潮を見ていた。


提督 「続けながら聞け」

朝潮 「はい?」

提督 「朝潮、お前、荒潮の同調状態がわかるか?」



―――――
―――



加賀 「立ちなさいっ」


 加賀がうつ伏せで沈みかける荒潮の片手を乱暴に掴み引き上げる。

 だらんとした荒潮の体を血と汗と海水が伝った。


 朝潮の援護もあって、加賀は攻撃を避けつつ遠回りしながら荒潮の元にたどり着いていた。


 その時、加賀の死角からタ級の砲弾が二人を襲う。

 加賀は荒潮をかき寄せ、素早く後方へ飛びそれを何とかかわす。


加賀 (荒潮はさながら目標ブイか)

荒潮 「なんで??」

加賀 「危ないなら私の後ろに来なさいと言ったわよね」

荒潮 「すいま・・せん」


 荒潮は加賀の中で両手を握り静かに震えている。

 傷が治癒せず血が流れ続けたせいか健康的だった肌は青白く。

 精神的にも、長く恐怖に晒された影響か、意識を保つのさえぎりぎりな様子が見て取れた。

 声に力はなく、目がにごっている。


加賀 「頑張ったわね」

荒潮 「はい・・・」

加賀 「逃げるわよ」


 加賀は撤退するタイミングを見計らう。

 ヲ級とタ級は、その様子を静観しながら何か話すような素振りをしている。


提督 「終わりだ」


 提督が煙草に火を付け呟く。


朝潮 「もう撤退するだけではないでしょうか?」


 あれから朝潮は数機の敵艦載機を落としていた。


提督 「時間がかかり過ぎたんだよ」

朝潮 「後は先ほどのように加賀が荒潮を抱えて避けながら逃げるだけですよね?」

提督 「空を見ろ」


 提督が指差す空は先ほどより不気味に静かになっていた。


朝潮 「あ・・・」

提督 「今、最後の一機が落ちた」


 一本の矢がくるくるときりもみしながら静かに水面に着水した。

 大気には敵艦載機の唸り声だけが舞っていた。


提督 「具現化した矢は一定時間しか飛べない」

提督 「それが切れればあぁなる」

朝潮 「え・・・」

提督 「加賀には弓を構え矢を番える余裕も着艦させる余裕もなかった」

提督 「あれだけの攻撃を避けながら全速で移動していればできるわけがない」

提督 「こうなるのはわかっていた」

朝潮 「それでも・・・艦載機の二次視覚がなくなっても加賀なら・・・」

提督 「現実を見ろ」

朝潮 「・・・」

提督 「お前は敵の艦載機を見るので精一杯だったようだがなぁ」

提督 「加賀は避けながら自分の戦闘機で命中ルートの敵艦載機だけは落としていた」

朝潮 「では・・・」

提督 「これからは敵の攻撃が当たる、それも加賀にだけじゃない」

提督 「我が物顔に飛び交う敵艦載機に四方八方から蹂躙される」

提督 「当然こちらの攻撃は観測機を落とされ命中しない」

提督 「ふふ、いつも深海棲艦に沈み方を教えてやれと激励する側がこうなるとはな」

朝潮 「・・・」

提督 「笑えよ、お前が招いた事態だ」


 提督は涼しい顔で話す。

 それは諦めか、何なのか。


朝潮 「どうすれば・・・」

提督 「それをおれに聞くのかぁ?」

提督 「ヲ級とタ級に命乞いでもしたらどうだ」クク

朝潮 「っ・・・」


 苦笑した顔から一変、表情を冷たくした提督は、

 もう何度もしてきたかのように機械的な言葉で言い放つ。


提督 「幕を引くのだけは手伝ってやる」

提督 「逃げる準備をしろ」

提督 「それと・・・ないと思うが荒潮が万が一の時の覚悟をしておけ」

提督 「轟沈したくなかったらな」

朝潮 「・・・」


 朝潮は提督の言っている意味がわかった。

 仲間の轟沈で同調を崩せばお前も死ぬぞ、と言っているということが。


 朝潮の前方で加賀は深海棲艦最後の猛攻に備え身構えていた。

 頼れるのは自身の感覚のみになった今、

 攻撃寸前の深海棲艦特有のどす黒い同調の高まりを逃さないよう集中し神経を張り詰める。

 周囲をハゲワシのように旋回する敵艦載機の一機一機の動きを加賀は掴んでいた。

 加賀は諦めていない。


加賀 (どう来る?!)

荒潮 「無理なら私を・・・」

加賀 「轟沈するのは許さないわ」

荒潮 「提督が指示したんですか」

加賀 「・・・えぇ、朝潮が頼み込んでね」

荒潮 「朝潮ちゃん・・・」


 友人の名前を聞き目に涙をためる荒潮は年相応の少女でしかなかった。

 加賀は未だ震えが止まらない小さい荒潮を強く抱きしめた。


加賀 「一緒に逃げるの」

加賀 「朝潮が待ってるから絶対に諦めないで、同調を保ちなさい」

荒潮 「はい・・・」


 加賀の初めて聞く優しい声と体温に慰められ、荒潮は顔を加賀に押し付け涙を隠す。


 加賀はその時、水柱の林にいるタ級の砲撃を見逃していた。

 油断していたからではない。

 過剰な砲撃でできた水柱により、見えた者は艦隊にもいなかった。

 ただ、その瞬間にあの加賀が何ゆえ気付かなかったのか。


加賀 「!!」


 直後、加賀は背後で敵艦載機の攻撃の予兆を捉え、後ろを向く。

 視界に入った敵艦載機は朝潮の対空射撃を避けながら抱えている魚雷を投下した。

 魚雷進路を見極めようと着水する魚雷を注視する。


加賀 (何で一発、しかも十分に避けられる遠い位置に・・・)


 その時、加賀の背中を不意に鈍い痛みが襲った。


ドン


加賀 「くぅっ・・・(どこから?!)」

荒潮 「きゃっ」


 衝撃に加賀が荒潮を抱えたまま水面を勢いよく転がる。

 タ級の砲弾は加賀の防御壁でかなり威力が弱められていた。

 それでも、加賀の背中に直撃したそれには加賀を弾き飛ばすくらいの威力は残っていた。


 加賀が海面を転がるのを何とか踏みとどまろうとするも、

 折からの高波に体が跳ねすぐ止まることができない。

 踏み止まり体を起こせた時には敵艦載機の魚雷は直前まで来ていた。

 雷跡の先端にある魚雷から出る異様な気配に加賀の感覚は明らかな危険信号を発していた。


加賀 (当たったら不味い)


 瞬間、加賀は荒潮を突き飛ばした。


加賀 (荒潮だけでもっ)

加賀 「離れてなさい!!」

荒潮 「きゃっ」


 大破で同調が切れかけた荒潮は加賀と違い水面に半ば沈みながら転がった。

 そのため、波に捕まった荒潮は殆ど加賀から離れられずに止まる。


加賀 (しまっ・・・


 ヲ級の雷撃は加賀に直撃した。

 爆発が荒潮をも襲う。


朝潮 「荒潮ー!!!!!」


 強烈な爆発音が海上にこだました。



―――――
―――





 爆発により生じた熱線が距離のある朝潮の皮膚をヒリヒリと焼いた。

 黒煙の渦巻く爆心地から加賀が弾き飛ばされ出てくる。


朝潮 「加賀、大破!荒潮は・・・?」


 荒潮は未だ爆煙に包まれたまま確認できない。

 黒煙は根元である海面付近がゆらゆらと輝いている。

 その輝きから新たな煙をぼこぼこと沸き立たせながら、黒煙は風をものともせず灰色の空に聳え立つ。


提督 「・・・荒潮は爆発に弾き飛ばされなかったな?」

朝潮 「今も・・・煙の中です」

提督 「同調が残っていれば防御壁があるなら、攻撃を受ければ弾き飛ばされる」

朝潮 「何が言いたいんですか?!」

朝潮 「荒潮は轟沈しないんじゃなかったんですか?!」

提督 「・・・」


 朝潮は提督のいる指揮作戦艇に詰め寄る。

 睨みつけた提督の冷たい目は朝潮の視線を跳ね返した。

 朝潮に焦燥感だけが募っていく。


 その時、一陣の強風が朝潮達の海域を吹き抜け、朝潮の長い黒髪をなびかせた。

 上空の敵艦載機と指揮作戦艇を中心に旋回していたかもめ達がふわりと上下し揺れる。

 荒潮を包んでいた黒煙が吹き散り、そこに皆の視線が集まった。

 戦場が静止した。


提督 「戦争とはよく言ったものだ」

提督 「交戦規定も何もないこの深海棲艦との闘争を」

提督 「降伏も許されず・・簡単に死ぬことも許されない」


 冷静に語る提督をよそに朝潮は声が出ない。


 石に潰された蛙のように艤装に潰され荒潮はうつ伏せにされ、

 その背中でぼろぼろの艤装が重油の血を流し黒煙を噴き燃えている。

 火の海に浮かぶ荒潮のほぼ焼け落ちた制服は体中に刻まれた無残な傷をあらわにさせていた。

 そこから覗く皮膚は炎に炙られ火傷でぷつぷつと泡立って爆ぜ黒ずんで行っていた。

 荒潮は残る力を振り絞り立とうとしていた。

 海面に突いた手は海面を突き抜け、それでも何度も何度も手で燃える海面をかき荒潮はあがいていた。


 提督がぼそりと呟く。


提督 「沈ませてやれ、お前が」


 荒潮の生存への喜びが希望が、荒潮の痛み苦しみへの同情が、

 朝潮の中でどろどろに混ざり合い、抱いていた熱い焦燥感は押し潰され冷たい絶望に変わる。


 朝潮を除く艦隊の全員がその惨状から目を逸らし、敵を恨めしそうに睨んでいた。

 その視線誘導を待っていたかのように、タ級は戦場を見渡すと悠々と砲身を荒潮に向けた。

 朝潮はどす黒い同調の高まりを感じ、追ってタ級に視線を投げる。


朝潮 「止めて・・・お願い・・・まだ」


 タ級の砲身が禍々しい光を放ち砲弾が発射されていた。


―――――
―――

今回分投下終了です。
ご読了ありがとうございました。

>>360
お気遣いありがとうございます。
生存報告了解です、そしてそれしなくていいようにせっせと書きます。


何かご指摘ご質問ありましたら、できる範囲で全て答えます。

話が変わりますが、
朧でSS一本書くほど好きなんで今回の水着グラ最高で涙出そうになりました。

期待してるよ

こんな時間ですが再開します。
くたびれた方たちにとって一抹の清涼剤にでもなりましたら幸いです。

―――――
―――



 あれほど痛かったのに、もう痛覚はない。

 体の震えも止まっていた。


荒潮 (もう・・・・・・疲れたわ・・・)


 頬を火が舐めるに任せる。

 体どころか顔を上げる力さえ込められなくなっていた

 視界は赤から真っ白に霞み音はもうしない。

 細胞が静止してゆく。


 感覚が閉じて行く中で、荒潮は自分の精神の中へ落ちてゆく。

 恐怖で摩耗しきった精神も、安息を求め深海に沈むんでゆくように暗く冷たく静かになってきていた。


荒潮 (あれほど生きたいと願っていたのに)

荒潮 (もう開放されたい・・・)


 遠くから朝潮の声が聞こえたような気がした。



―――――
―――




 タ級の砲撃がなされたと同時に朝潮は指揮作戦艇を離れ荒潮へ向けて走り出していた。

 正面からは殺意の塊が迫っている。


 提督は朝潮を止めなかった。

 一寸一秒も無駄にできないのは朝潮だけではない。

 圧倒的優位にある敵から、どう損耗せずに撤退するか。

 次の戦いは始まり、艦隊の命運は提督の采配にかかっていた。

 指揮作戦艇に付いた拡声器で艦隊をまくしたてる。


提督 「羽黒は全速前進して一時旗艦となって指揮作戦艇に付け」

提督 「ビスマルク・プリンツは砲撃と合わせて雷撃をばらまいて敵を近づけさせるな」

提督 「同時に砲弾を撃ち切って体を少しでも軽くして指揮作戦艇へ後退を始めろ!」

提督 「加賀ァ!!!」


 加賀は弦の切れた弓を支えに海面に何とか立っていた。

 大破の影響で今も肩で息をしている。


提督 「ビスマルク!命令を追加だ、隙を見て加賀を拾え!!!」


 了解の合図に手を挙げるビスマルクのすぐ横を、タ級の砲弾が通過する。

 飛翔する敵砲弾をビスマルクは自身の防御壁で弾こうとも防ごうこともしない。

 それが荒潮への優しさだとビスマルクは思っていた。

 風圧で飛びそうになった帽子を目深に押さえビスマルクは手で十字を切った。


 朝潮は走っていた。

 走っても間に合わないのは明確だった。

 砲弾が荒潮に接近するほど不思議に朝潮の集中は増し時が遅くなるように感じた。


朝潮 (荒潮の死を遠ざけるため?)


 走る朝潮の目から涙がこぼれた。

 にじむ視界の中で砲弾は荒潮に着弾した。


朝潮 「荒潮!!!!!!!」



―――――
―――




 砲弾は防御壁を貫き四つん這いで伏せる荒潮の背部艤装に直撃。

 聞きなれた重い着弾音とほぼ同時に、

 命中した荒潮の艤装はアルミ缶を一瞬で潰したような甲高い金属音の悲鳴を発して歪んだ。

 次の瞬間、砲弾が炸裂し光と衝撃を放つ。

 朝潮は反射的に両手をかざし耐ショック姿勢をとり目をきつく閉じた。

 閉じた視界が真っ白に焼き付く。

 衝撃波で朝潮の体はほぼ水平に数メートルずれた。

 飛びそうになる意識を衝撃波につづいて巻き起こった熱風が引き戻す。

 かざした両腕の艤装が甲高く連続して鳴り、

 朝潮の皮膚がやすりをかけられたように熱く痛む。

 四散した艤装の鉄片が衝撃波に混ざり凶悪に吹き荒んでいた。

 爆音でほぼ失われた聴覚に機関銃弾が掠めたような音がする。

 暴風の弱まりにかざした両手の隙間から着弾地点を伺う。

 砲弾の衝撃で海面が異様に大きくおわん状にへこんでおり、荒潮は見えなかった。


朝潮 (荒潮はどこ・・・


 爆発に押し付けられ圧縮していた海面が元にもどろうと膨張を開始していた。

 朝潮は耐ショック姿勢をとり、その目は再び闇を迎える。


 水柱が空中を駆け上る。

 同時に質量を持った水の塊が横なぶりに朝潮を襲った。


 つむった目、爆発で一時的に失っている聴力でも、違和感はしていた。

 肌を伝う海水の温度や粘度。

 どれもいつも浴びる海水のものと違った。

 朝潮は色も音もない静止した世界から、固く閉じた瞼を開き外界を見た。

 腕、いや全身が、視界が全て真っ赤に染まっていた。



―――――
―――




 朝潮にとってコマ送りのように起こった一連の出来事は、

 艦隊の他の人間からは一瞬に起きた出来事に過ぎなかった。


羽黒 「ひっ・・・」


 既に旗艦代理として指揮作戦艇に付いていた羽黒が悲鳴を小さく上げる。

 しかし、それ以上の悲鳴を飲み込み羽黒は震えながら砲を再び構え直した。

 荒潮を喪った悲しさより、死に対する恐怖が勝っていた。

 その恐怖が羽黒を素早く現実に引き戻した。


 悲しむ暇などない戦場だった。

 頭上では我が物顔で敵艦載機が飛び交い、殺気を含んだ重圧を振りまいている。


提督 (いつでも殺せるとでも言いたいのか)

提督 (いや・・・なら、何故攻撃を始めない?)

羽黒 「ど、どうしました?」

提督 「敵艦載機・・・」

羽黒 「え!?敵艦載機が来てますか?!」ビクビク

提督 (気のせいか?)


 赤い水柱がその形を崩そうとしていた。



―――――
―――




 海水と混ざり生臭く生暖かい粘度を持った赤い液体が体にまとわりつく。

 朝潮の顔や体に粘り付き酸鼻な臭いが鼻の奥の奥を刺激する。

 朝潮は突きつけられた現実に押し潰されるように、

 両膝から四つん這いになるように海面に崩れ落ちた。


朝潮 (荒潮が死んだ・・・)


 支えにした両手からは気味の悪い感触が返ってきていた。

 手の周り、目の前の海面はじんわりと赤く染まり、

 爆発に押し付けられ沈んでいた艤装の破片と肉片が浮いてきていた。

 手のひらに温度の残る肉片が触る。

 吐き気がした。


朝潮 「・は・・・あ・・」


 髪が付いた皮膚、腕、どこかの内臓のような奇怪な肉片、

 白い骨が覗く大きな肉、紐状の筋張った肉片、艤装の破片、肉片肉片肉片、、、

 凄惨な光景に現実感を失ったまま、朝潮はそれらが浮沈し漂うのを眺めていた。


 目の前で高く聳え立つ水柱が崩壊を始め生暖かい赤い雨が降り注いだ。

 艤装や肉片交じりのそれはべちゃべちゃと不快な音をたてて落下し、更に朝潮を赤く染めた。


朝潮 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛


 朝潮は四つん這いから上体を起こし虚空へ叫ぶ。

 どうにかなりそうだった。

 上空へ避難していたウミネコたちが鳴きながら海上に漂う肉片めがけて一斉に舞い降りてきていた。


羽黒 「・・・うぷ、おぇぇぇぇ」

提督 「・・・」


 提督は吐く羽黒に何も言わないで上空を眺めていた。


提督 「やはり・・・敵の艦載機が撤退を始めている・・・」


 ヲ級は、艦娘達に警戒もせず艦載機の収納を始めていた。


提督 「全艦に通達、攻撃を止めさせろ」

羽黒 「え?」

提督 「敵が見逃してくれるそうだ・・・攻撃を止めて撤退させろ」

羽黒 「はっはい」

提督 「敵が心変わりせんとも限らん、警戒は解かせるな」

羽黒 「はい」


 じきに、悔しそうなビスマルク、焦った表情のプリンツ、暗い表情の加賀、

 三者三様の表情で指揮作戦挺に足早に集まってくる。

 指揮作戦艇への集合は、撤退の完了と同義であった。

 高速で移動可能な指揮作戦艇上で、

 集まった艦娘が協力して防御壁を張ることで、

 深海棲艦から安全に逃げることができた。



提督 「朝潮は何をしている」

ビス 「まだ震えているわ」

提督 「・・・呼び続けろ、長くいれば相手の気が変わらんとも限らん」


 ビスマルクが提督に詰め寄る。


ビス 「仲間を殺されて何もしないどころか敵に情けを受けるなんて、恥を知りなさい」

提督 「情けで逃されたと思っているのか?」

提督 「そういう判断しかできないからお前は・・・」

ビス 「なんですって?!」

提督 「瀕死の獣ほど危ないものはない」

提督 「石橋を叩いて渡る慎重な敵だ」

提督 「これ以上追撃する危険が成果に見合わないと冷静に判断した、それだけだ」

提督 「それもわからないから、敵に砲撃を当てられないし、命令違反したことにも気付かない」

ビス 「はぁ!?」

プリ 「姉様!!」

提督 「その様子だとプリンツは気付いていたようだな」

提督 「今日の旗艦は朝潮だ、加賀の命令を何で聞いた?」

提督 「命令違反で更迭されたくないなら今日は視界に入るな、屑が」

ビス 「・・・」ギリ

プリ 「姉様、命令違反は最悪反乱罪として死刑にもなりますから・・・」

ビス 「提督!!精々加賀と一緒にいるようにすることね・・・死にたくないのならね」

提督 「止めてくれ、貴様ごときに忠告をもらうと惨めになる」フフ

ビス 「なんですってぇ・・・」イラ


 プリンツがビスマルクの艤装を引っ張って、提督から遠ざけようとする。

 朝潮は一人呆けたようにその場で座り込んでいた。



―――――
―――




羽黒 「撤退してくださいー」


 羽黒の艤装無線が朝潮の脳内に響く。

 荒潮の轟沈でざわついていた海面は、いつもの脈動を取り戻していた。

 朝潮などお構いなしに高い波と風が吹き付ける。

 海面の漂流物や朝潮の小さい体を伝っていた血は、殆ど消えていた。

 半身を開いて正座するような姿勢の朝潮の周りで、

 僅かに残ったものをウミネコ同士が取り合いギャアギャアやかましい。


朝潮 (救えなかった)


 今日の夢が、これまで失くしたものたちがよぎる。


朝潮 (今度からあの夢に荒潮も・・・)


 変な笑いが出た。

 荒潮との楽しい思い出がぐるぐるとまわり、

 続いて荒潮と一緒にいたらこれから起こったであろう楽しい日常が浮かぶ。

 荒潮と楽しく普通の日常を過ごし荒潮の結婚式に参加して子供を見せてもらって、

 空想の中でいくら時間がたっても荒潮は今死んだ姿のままであった。

 矛盾と悲しみで脳裏の景色が歪んだ時、

 失くすのに慣れている積もりだった朝潮の頬を再び涙が伝う。


朝潮 (荒潮、荒潮を守ろうと思った、だから提督と・・・)

朝潮 (なんで・・・なんでなんでなんで・・・)



 悲しみで萎縮した感情が変質し膨張し始めていた。

 心臓に針で縫われるような鈍痛を感じる。

 あの夜、提督に感じたような怒りが、怨みが、

 心臓を叩き溶岩のように熱い血液を体中へ送り出していた。


朝潮 (深海棲艦の攻撃を、恐怖を、精一杯耐えていた荒潮を・・・)

朝潮 (いたぶって、おもちゃのように弄んで、恐怖させて、轟沈させた)

朝潮 (タ級!!!!)


 これまで朝潮は奪われてきた。母を姉を自身の貞潔を、そして今は荒潮を。

 片時も忘れたことはない。

 その時の情景が夜ごと朝潮を苦しめ、

 心の傷は時間が経っても膿むばかりで治らなかった。


 奪われたことも、奪う人間も許せなかった。

 誰にもこんな思いをさせたくない。

 子供ごころに純真で凶暴な正義感を抱いていた少女は艦娘になり力を手に入れていた。


朝潮 (許さない・・・)



 この時、タ級の砲弾にあてられていた朝潮を不思議な感覚が襲っていた。

 海面に座り虚空の一点しか眺めていない筈の朝潮に、

 タ級やヲ級、果てはヲ級の艦載機の位置や動きまでが、

 戦闘海域を俯瞰しているかのようにわかった。


 その感覚の正確さは、虚空の一点を眺めていた視線を流すことで確認できた。

 ヲ級艦載機の動向を読んだ時のように、

 それぞれの深海棲艦が発する波長を今の朝潮は感じていた。


朝潮 (加賀にはこれが見えていたの?・・・)


 初めての知覚は、高揚感を与えることなく朝潮を冷静にさせた。

 日本刀が火と水で鍛えるように、

 朝潮は復讐に燃える心を感覚で鍛え研ぎ澄ましていた。


 タ級の薄ら笑いと息の根を止めろと朝潮の全細胞が叫んでいた。

 ふつふつと煮えたぎる感情を、抑えこみ敵をどう殺すか考える。


 朝潮から貞潔を奪った提督は、朝潮に狡猾さを。

 朝潮から復讐の機会を奪った加賀は、この新知覚の利用法を。

 それぞれ朝潮に与えてくれていた。



朝潮 (私の体は殆ど無傷、対する敵も小破前後)

朝潮 (有効な攻撃を加えられそうなのは、具現化できる対潜装備の爆雷・・・)

朝潮 (敵には私が加賀のような知覚を使って動けることは知られていない)

朝潮 (けど、加賀の避けられない攻撃を私が爆雷を抱えて避けて接近?・・・無理か)

朝潮 (この知覚を中途半端に発揮するなら、隠した方が・・・)

朝潮 (もっと、もっと敵が嫌がり苦しむような物理精神両面の死角を突くような)


 考えこむ朝潮の足を何かが撫でる。

 見ると具現化が剥がれ墜落した加賀の矢の一つが波に乗って朝潮の足に当たったようで、

 何食わぬ顔で正面プロペラをくるくるさせながら波間を揺れていた。

 お腹には可愛い魚雷が付いている。


朝潮 (艦攻の矢・・・)


 朝潮の思案顔が一瞬緩む。

 それを周囲に気付かれないように、矢をゆっくりと水面下に押し付けると折って沈めた。

 悪意を撒き散らす提督のような歪んだ笑顔を、朝潮は心の中で存分にしていた。


朝潮 (表情のある深海棲艦で良かった)


 空中を飛ぶヲ級の艦載機はあと僅かとなっていた。



―――――
―――




 ヲ級の艦攻が、

 下手な動きをすれば殺すとでも言うかのように、

 飛行音を指揮作戦艇の上空で撒き散らしていた。


提督 「朝潮に意識はあるのか?」

加賀 「少し動いているからあるんでしょう」

提督 「羽黒、確かに艤装無線は通じているな?」

羽黒 「はぃ・・・」

加賀 「私にも羽黒の艤装無線は聞こえているし間違いないわ」ゲホ

提督 「なら何故指揮作戦艇に戻らない?」


 提督たちの注目が朝潮に集まっている時、

 座っていた朝潮がおもむろに前かがみになると思いっきり水面を両手で叩いた。


提督 「あぁ?!」


 小さい波が起こり、驚いた周囲のウミネコが風に流されながら慌ただしく一斉に飛び立つ。

 ぎゃあぎゃあと羽を散らしながらウミネコが飛び立つ中で、

 朝潮は糸に吊られるかのように肩からうつむきがちのまま立ち上がる。

 立って顔を上げると同時に朝潮は右手の砲艤装を左腕で支え、

 タ級とヲ級に狙いをつけて砲艤装を乱射し始めた。



 戦艦や重巡より連射の効く小口径砲が、

 これまでの騒音に比べればおもちゃのような軽い発射音を鳴らしている。


提督 「はぁ!!?」

提督 「狂ったか?」

加賀 「何であんなこと・・・」

羽黒 「ひぃぃ、どうしますかぁ?司令官」


 海域の敵味方が呆気にとらわれていた。

 匕首を喉元に突きつけられている指揮作戦艇の面々は、

 戦々恐々としつつも何もせず見守る他なかった。


提督 「浮足立つな、このままの距離で様子を見る」

提督 「変に動いて敵を刺激するな」

提督 (朝潮を置いて逃げるのならいつでもできる)

提督 「このまま上空の敵艦載機から目を離さず警戒を保て」

羽黒 「わ・・・わかりましたぁ」


 飛び立ちかけたウミネコが大混乱を起こし、

 押し合い圧し合い数匹が朝潮の射線に入り赤い花を咲かせた。

 朝潮は構わず指揮作戦艇に背中を向けたまま、

 その場を動かず反動に上半身だけ揺らしながら滅茶苦茶に連射し続ける。


提督 「タ級とヲ級に動きは?!」

加賀 「ないわ」

加賀 「タ級はこちらを向いたまま」



 朝潮の右腕砲艤装は12.7連装砲。

 お世辞にも強いと言えるような武装ではない。


 艦娘本来の具現化を伴った攻撃は、

 砲艤装と具現化砲の砲撃のタイミングを合わせ

 艤装の砲弾を具現化した砲弾の寄り代とすることで行われる。


 しかし、その本来の攻撃を12.7連装砲が行えたとしても、

 戦艦や正規空母にかすり傷さえ負わせられる能力はなかった。

 ウミネコをミンチにできても、それだけだ。


 実際、乱射されてばらまかれた砲弾の内、

 辛うじて当たった数発もタ級の防御壁に弾かれて乱れ飛ぶだけだ。

 そもそも、集中を欠き一発ごとの砲弾に威力はなく、

 反動を抑えられないような連射で精度さえ失っていた。

 武器に関わらず、脅威となる攻撃と思えなかった。



 自然、タ級とヲ級がそれを気にすることなどない。

 ヲ級は、朝潮の砲撃を一切意に介さず、そのまま撤退の用意を進めていた。

 タ級は、元いる位置を動かず、指揮作戦艇に向いたまま、朝潮を一瞥もしない。

 たまに当たる砲弾がタ級の防御壁に弾かれる度に弱々しい音を発する以外、静かなものだった。


提督 「相手にさえされてないな」

提督 「ビスマルク!朝潮を回収する準備をしろ」

ビス 「ふん・・・」

提督 「しかし・・・何の積もりだ」

提督 「今のあいつに何ができる」


 指揮作戦艇からは、一言も発せず表情も見ることができない朝潮は不気味の一言に尽きた。

 そして、その不気味の感は、艦娘側より深海棲艦側の方が強かった。


 強力な敵として相対していた艦娘側からの、

 突然の非力で意味のない挑発的攻撃に深海棲艦の二人は少なからず動揺していた。

 タ級とヲ級はそれをおくびにも出さず、

 朝潮を無視し指揮作戦艇を向き睨んでいた。


提督 「朝潮の攻撃を扇動や囮と決めつけたようだな、隙がない」

提督 「羽黒、手でも振るか?」

羽黒 「結構です!!」

提督 「・・・朝潮の砲で敵を粉砕することは可能か?加賀」


 加賀は普通に話せる程度には回復していた。

 しかし、制服と艤装の破損は直らない。

 戦闘に再度参加するのは難しい。


加賀 「無理です」

加賀 「そもそもかすり傷さえ付けられないでしょう」

加賀 「防御壁でも一番外側の強度が低い部分はビスマルクたちが既に砲撃で破壊しています」

加賀 「朝潮がいくら撃っても、残った堅牢な防御壁に阻まれて弾かれるだけです」

提督 「死にたいだけか」

加賀 「それは・・・」



 悩む提督の横で加賀には思い当たる節があった。

 提督に伝えていないあの夜、朝潮は感情のまま暴走していた。


加賀 「提と・・・

プリ 「提督ぅ、朝潮は左腕の魚雷艤装は破損してました?」

提督 「いや、破損してない筈だ」

提督 「海面を叩く時に見えた限り目立った破損はなかった」

提督 「荒潮へタ級の砲弾が着弾した時、防御に使っていたから内部は壊れてるかもしれんがな」

プリ 「ん~???」

ビス 「どうしたの?プリンツ」

プリ 「いえ、立ち上がる時にちらりと見えた左腕の魚雷艤装が壊れていたような」

羽黒 「あ、私もそう見えました、壊れて魚雷が全部なくなってたました」

提督 「そういうこと・・・か」

提督 「しかし、それでタ級が殺れるか」ブツブツ

プリ 「どういうことです??」

提督 「・・・それはな」


 加賀だけが、提督が察したことを解していた。


加賀 (それでも足りない・・・あの夜の狂気にはまだ)


 朝潮の狂気に触れた加賀だけが、あの夜より静かな朝潮に違和感を覚えていた。


提督 「というわけだ」

ビス 「ふん、私はわかっていたわ」

プリ 「さすがお姉様!!」

提督 「・・・」


 朝潮は指揮作戦艇に背中を向けたまま、無意味な連射を続けていた。



―――――
―――




朝潮 (くそっ、こんなに・・・)


 指揮作戦艇から見えない左腕の魚雷艤装の破損は、朝潮の肉をもえぐっていた。

 削れて覗く肉から血が流れる。

 これは誤算だった。


 朝潮は提督の想像通り左腕の魚雷艤装から魚雷を放っていた。

 深海棲艦に気付かれないように細心の注意を払い、

 砲艤装乱射の寸前、海面を叩いた時に、水面下で。


 魚雷は普通ならば投射機から炸薬で押し出され、

 着水してからは自身の推進力で目標まで進む。

 この炸薬が問題だった。

 水中は空中より衝撃が伝わる。

 有名な言葉通り、魚雷を押し出す炸薬の爆発は、

 通常より強い衝撃を投射機に伝え、投射機は耐えられず破裂した。


朝潮 (魚雷が誘爆しなかったからいい・・・けど)


 タ級は、艦載機を収納するヲ級を朝潮から庇う位置から動かず、

 相変わらず、朝潮でなく指揮作戦艇を向いて警戒していた。



朝潮 (荒潮の血が付いていると錯覚してくれることを祈るしか・・・)

朝潮 (それでも、この血の量・・・いや、タ級ならいずれ気付く)


 確信に近かった。


朝潮 (どうする・・・何か・・・)


 朝潮は、弾けた左腕の痛みをこらえ、苦しい表情を押し隠す。


朝潮 (荒潮はもっと痛かったはず)


 タ級の気を海面から散らせるために、タ級の防御壁でも上部を狙って乱射する。

 砲撃の反動を制御する余裕がないという演技でもあった。


朝潮 (あと少し、あと少しで)


 高い波がただでさえ見分け難い四本の酸素魚雷の雷跡を隠した。

 その時、朝潮から漏れた殺気を感知したかのように、タ級の視線がぎょろりと朝潮をとらえた。

 動揺した朝潮の演技が崩れ一瞬乱射を止めてしまう。


朝潮 「うっ・・・」

朝潮 (気付かれた!?)


 タ級は、この狂ったように攻撃をしてくる小さい者が、

 宿敵とする自身の視線に歓喜せず焦りを見せた様子にすぐ何かを察した。

 タ級は膝をつき、その手を海面に当てた。



提督 「海中の音速は空中の4倍。ばれたな」

羽黒 「司令官さん。どちらにしても魚雷が当たったとして倒せるんですか?」

提督 「お前らの方がわかってるだろ?」

プリ 「最大限同調を高めて集中して撃ったら、手傷くらいは」

提督 「その程度だろうな」

羽黒 「それだけ・・・なんですかね?」

提督 「?」


 タ級はすぐ体を上げると、ヲ級に何か指示を出す。

 タ級は体がやっと朝潮を向いた。しかし、その位置を動くことはない。

 ヲ級は、朝潮に対してよりタ級の影に入るように、少し動く。ただ、それだけだった。


 朝潮は諦めたように乱射を止め、赤く爛れた砲身を海中に突き刺した。

 海水が泡を吹きながら蒸発する。

 
プリ 「何で敵は魚雷がくるのをわかっているようなのに動かないんでしょう??」

提督 「今日は波も海流も強くて魚雷がよく曲がる」

提督 「変に動くと、元々いた位置を狙った魚雷が曲がって、タ級の後ろのヲ級に当たる可能性もあるからな」

提督 「元いた位置から動かないのが安全を考えれば正解だ」

提督 「大したダメージにもならないとは言え、今のヲ級は艦載機を殆ど収納して火薬庫に近いからな」

プリ 「ほぇー」

提督 「ビスマルク、朝潮を拾いに行け。遊びは終わりだ」




 朝潮の乱射も終わり、全員の視線が海面に向いていた。

 波に隠れて見えない魚雷はどこまで進んだのか。

 いくら良く見ても、海面には艦載機の飛行音と波の音だけがこだまし、何の動きもない。


 タ級が身構えると、それを待っていたかのように爆発音と伴に水柱が上がる。

 水柱はタ級を綺麗に挟むような位置で四本、

 非具現化の魚雷としてはできすぎな位に高く上がった。

 タ級はその時、水柱と水柱の間に朝潮のまだ死んでない瞳を捉えていた。


 朝潮は、静かに海中に刺した砲身を引き抜き。

 また宙空へ乱射し始める、ように見えた。


 またかという弛緩した空気が戦場を支配していた中で、

 タ級だけが緊張を取り戻し、身構えた姿勢を解かない。


 朝潮は皆が想像するより、ゆっくりと構えると呼吸を整えて数発速射した。

 海上に響いた朝潮の砲撃音は相変わらず悲しいほど軽い。

 その音に異音が混ざった。


 ガン


 聞き覚えのある音だった。

 海面を見ていた全員が朝潮の砲撃した先を見る。

 深海棲艦の操っていた艦攻が制御を失い、

 火を吹きながら上空からタ級とヲ級に向けて墜落していた。



―――――
―――




朝潮 (やった・・・)


 朝潮は全身が泡立つのを感じる。


朝潮 (死ね・・・焼かれて死ね)


 深海棲艦の艦攻は、錐揉みして燃料を撒き散らしながら墜落。

 タ級の防御壁にぶち当たり、戦闘開始に見た強烈な爆発をタ級の至近で起こしていた。

 タ級とヲ級の周囲海面が、火と黒煙にあっという間に包まれる。

 見えない黒煙の先で、爆発が勃勃と起こり黒煙がもこもこと生き物のように形を変えながら立ち上った。


 砲艤装の乱射、乱射した砲弾の跳弾、魚雷、魚雷の水柱、全て朝潮の計算尽くだった。


 ヲ級が、こちらへの警戒のため、いつでも殺せるという示威のため、

 艦攻数機を指揮作戦艇上空に最後まで待機させていたのは、手に入れた知覚で掴んでいた。


 残り少なくなった艦攻たちの限られたヲ級への着艦侵入ルートを、

 乱射と跳弾で誘導し、それに気付かれぬよう魚雷で海面へ注目させる。

 最後に魚雷の水柱で侵入ルートを更に追い込み、そこを砲艤装で狙い撃った。


 四方八方から加賀を攻撃した艦載機を狙うより、

 方向の限られる着艦しようとする艦載機を狙う方が遥かに容易だった。

 波長に対する知覚が研ぎ澄まされたのも、狙い撃ちするのを助けた。

 朝潮には数秒先の艦載機の動きを読むことができていた。

 
 火と黒煙に包まれる寸前、最後に見えたタ級の表情は笑っていたようにも見えた。

 黒煙の中から遠ざかるタ級とヲ級の波長を感じる。


朝潮 (けど、無事じゃいられない)


 朝潮は確かに手応えを感じていた。

 敵へのダメージでなく、自分の才気と知覚に。


朝潮 (荒潮・・・)


 天高く濛々と湧き上がる黒煙を見上げながら、朝潮は荒潮にさよならを言う。

 そして、もう目の前で仲間を失わないことを強く誓った。



―――――
―――

本日更新分終了です
ご読了ありがとうございました。

期間が空いたことをお詫びします。
夏イベを全甲クリアしたり、厄年的なことも続き、公私多忙に付き遅れました。

何か、ご質問ご指摘ありましたら、お願い申し上げます。
物語の先に触れないものなら何でもお答えします。

>>382-385 様
>>419-421 様
乙お米ありがとうございます。

>>386-388 様
>>395
保守ありがとうございます。

>>392-394 様
ご期待ありがとうございます。

まとめての返信で恐縮です。
恐らく残り半分となります。
最後までおつきいただければ恐悦至極でございます。

保守お米ありがとうございます
投下再開します




~指揮作戦艇内作戦室~


 指揮作戦艇は一人減った艦娘たちと提督を乗せて鎮守府へ走る。

 帰途、甲板に集められた彼女たちを船内の一室に一人ずつ提督が呼び出した。


 それぞれの艦娘が話した内容は朝潮にはわからない。

 朝潮が呼ばれたのは一番最後だった。


 短い階段を降り向かう窓のない船内の一室。

 光源は電子機器の棘々とした明かりのみで薄暗い。

 暖気された生ぬるい空気が中破で風通りの良くなった制服から染み入る。

 繰り返すエンジン音と揺れが暗い室内と相まって朝潮を何かの体内にいるような気分にさせた。


 作戦の説明用に海図を映し出すモニターがはめ込まれた机を挟んで提督と対面する。

 朝潮と提督が話したのは、最終戦の内容・荒潮の損傷度、そして・・・。


提督 「最終戦闘での命令違反・・・二回」

提督 「荒潮轟沈前の暴走未遂、轟沈後の単独攻撃」

提督 「・・・どういう処罰が下るかわかっているな」

朝潮 「反乱予備罪で死刑もしくはそれに準ずる重刑、ですか」

提督 「知っていてやるか?普通」ハァ

朝潮 「申し訳ありません」

提督 「・・・なんでそうなっているかわかるか?」

朝潮 「艦娘は鎮守府と提督の厳格な統制下に置かれなければならない」

朝潮 「この軍規を破ったからですか」

提督 「40点だ、まぬけ」


提督 「一から教えてやる」

提督 「お前は艦娘が人間の瞳にどう映るか、考えたことがあるか?」

朝潮 「人間にですか?」

朝潮 「・・・深海棲艦に有効打を与え得る唯一の戦力にして人類の希望ですか」

提督 「訓練学校ではそうやって煽てられたか?」クク

提督 「現実を見ろ」

提督 「艤装という装備を持つだけで人のサイズで深海棲艦並の戦闘力」

提督 「その力の根源である艤装自体にはまだ謎が多い」

提督 「人間ってものは強力なものに畏怖し、わからないものには不安になるものだ」

朝潮 「艦娘を・・・恐れているとでも言うのですか」

提督 「そうだ」

提督 「人間と艦娘を分かつものは力だ」

提督 「そして、力を持たないということは、力を持つものに屈するしかないということだ」

提督 「深海棲艦に蹂躙され放題だった苦い経験を持つ今の人間なら誰でも知ってる」

提督 「お前も力に屈し、過去に姉、今日は荒潮の命を奪われた」

提督 「違うか?」

朝潮 「それは間違いありません、しかし

提督 「あの災厄を経験した人間は誰しもパワーバランスに敏感だ」

提督 「艦娘が反乱を起こしたら、艤装が暴走し深海棲艦化したら・・・」

朝潮 「馬鹿げてる・・・」

提督 「人間は日々お前ら艦娘の攻撃の矛先が自身に向かないか怯えている」

朝潮 「私達は、艦娘は、人間が安全に暮らせるよう深海棲艦から命懸けで守っています」

朝潮 「それなのに・・・そんなこと!!」


提督 「何度も言わせるな」

提督 「お前の内心がどうかは関係ない、今は現実的にどう見えるかの話をしている」

提督 「まだわからないようだから、わかりやすく言ってやろうか」

提督 「人間が核爆弾や兵器を愛し感謝すると思うのか?」

朝潮 「それは・・・」

提督 「そんな危ないもん、できるだけ手にしたくないのが心情ってもんだ」

朝潮 「艦娘を兵器だと仰るのですか?」

提督 「同じ力の塊だ、何が違う?」

朝潮 「っ・・・」

提督 「ここまで聞いて、艦娘の編成権・作戦指揮権が全て提督のものである理由がわかるか?」

朝潮 「艦娘を・・・縛るためですか」

提督 「わかってきたようだな」

提督 「提督は人間側の代表として、艦娘を束ね監視し従える」

提督 「だから提督の意思に沿わない艦娘には、人間への反逆として重刑が課されるわけだ」

提督 「それが今の人と艦娘の関係だ、朝潮型一番艦朝潮」

提督 「お前らはもう人間ではない、強力な兵器の一つだ」

提督 「意思に反して動く積もりなら、処理するしかない」

提督 「そう、不発弾のようにな・・・」

朝潮 「私達だって人間です、そして人間のために戦っています」

提督 「人間が深海棲艦と戦えるか?あほう」

提督 「本当に人間のためと思うならおれに絶対服従しろ」

提督 「おれが進軍しろと言えば進軍しろ、死ねと言えば死ね、命令を下されたら完遂しろ!」


 提督が机を思い切り叩く。


朝潮 「・・・」

提督 「だんまりか、いい度胸だな」

提督 「これからも人間へ安心じゃなく恐怖を振りまく積もりか?、その力で」

提督 「深海棲艦と変わらんなぁお前は」


 権力という名の力で、恐怖を振りまいてきたのは誰か。


提督 「これまで言った軍規的建前を抜きにしても、だ」

提督 「戦場において指揮官と兵卒を分けるのは太古の戦争から存在する合理的な仕組みだ」

提督 「その合理性を否定し、タ級の挑発に乗ってお前が暴走しかけてどうなった?」

朝潮 「・・・」

提督 「言えよ、お前が暴走しかけた結果を」

朝潮 「しかし・・・荒潮は」

提督 「日本語がわからないのか?口答えなんて聞いてない」

提督 「結果を言ってやろうか・・・」

提督 「お前が暴走しなければ、制空優勢のまま荒潮を囮に攻撃を続けて勝てたんだ」

提督 「お前が・・・命令無視をして、荒潮を殺し、加賀をも殺しかけた」

朝潮 「しかし!荒潮の同調は!!!」

提督 「昨日大破して時間が経った轟沈前の同調と同じ?」

提督 「そんなの関係あるか」

提督 「この海域はどんな海域だ、言ってみろ」

朝潮 「深海棲艦との戦争の最前線にして、小中破から轟沈する危険海域ですか」

提督 「そうだ」

提督 「轟沈が度々あるこの海域で、轟沈前の乱れた同調?」

提督 「そんなもん掃いて捨てるほど今までもあっただろうよ」

提督 「ごく普通なことだ」


朝潮 「それは・・・」

提督 「あのまま苦戦に耐え攻撃を続ければ荒潮が生きる目があった」

提督 「制空優勢を落とし確実な敗北へ舵を切ったのはお前だ」

提督 「荒潮を殺したのは朝潮、お前なんだよ」

朝潮 「私が・・・」

提督 「認めろ!!!!!」


 提督がその握りこぶしを朝潮の頬に当てつつ横薙ぎに振りぬいた。

 朝潮はその場から微動だにしない。

 口の中で鉄の味がする。


提督 「おれが許せないのはお前が荒潮を轟沈させたことだけじゃない」

提督 「辛うじて加賀が荒潮救出に行くと言いお前が暴走を思い止まったな?」

提督 「しかし、お前自身が荒潮救出に向かっていればどうなっていたかわかるか!?」

提督 「防御に隙ができた指揮作戦艇を見逃すヲ級とタ級じゃない」

提督 「奴らの攻撃で指揮作戦挺と言う足を潰されれば、撤退できなくなった艦隊全員はどうなった?!」

提督 「荒潮同様・・・いや、それ以上に一人ずつじわじわと嬲り殺しにされただろうよ」

提督 「お前は艦隊全員を殺しかけたんだ」

朝潮 「私が・・・艦隊を・・・」

提督 「これだけのことを起こせば死刑は確定だ」

提督 「奇しくも荒潮の元に行けるわけだ、良かったな」

朝潮 (殺しかけた・・・荒潮を守ろうとして)



 机にはめ込まれたモニターから漏れる青白い光を受けて尚、提督の顔の紅潮がわかる。

 朝潮は艇内の揺れを酷く大きく感じ、足が震える。

 自分の犯したことの重みに朝潮はふらつく。


朝潮 「艦隊を危険に晒したこと・・・反省しています」

提督 「当たり前だ」

朝潮 「何とか・・・なりませんでしょうか」

提督 「何とかぁ?情状酌量を得られるように嘘の報告でもしろと言うのかッ?!」

朝潮 「すいませんっ・・・」


 提督の怒りの声は、朝潮を脊髄反射的に萎縮させた。

 その時、朝潮が最終戦で見せた華々しい戦果で付けた自信は元より、

 その戦果により提督が懲罰を多少加減してくれるかもしれないという甘い考えは一瞬で溶けてなくなっていた。


朝潮 (なんで、けど、死にたくない・・・)


 提督の視線に耐え切れず朝潮は俯く。

 すると薄暗く殆ど見えない筈の足元が絞首刑台のように開きそうな錯覚に襲われる。


朝潮 (あのタ級とヲ級、深海棲艦に一矢報いることもなくこのまま陸で・・・死ぬ?)


 死ぬこと自体はどうでも良かった。

 自身にこれから訪れるであろう刑死が勇敢に戦った荒潮の死を無駄にさせることが虚しかった。


朝潮 「すいません・・・どうにか・・・・」


 語尾は自然と震えた。



―――――
―――




 責任に押しつぶされそうな朝潮を見ながら提督が長い息を吐く。


提督 「ふー・・・」

提督 「十分反省しているようだし・・・・今回は許してやる」

朝潮 「は?え?ゆるす?」


 頭が付いて行かない朝潮は上げた顔で提督を見る。


提督 「最終戦の行動は全部おれが指示したことにしてやる」

提督 「荒潮救出作戦も、お前の単独攻撃も全てだ」

提督 「これで命令違反はなくなる」

朝潮 「・・・」

提督 「お前が艦隊全員を殺しかけたことは当然おれの胸にしまっておく」

朝潮 「はぁ・・・????」

提督 「つまり・・・だ」

提督 「今日からお前は荒潮の仇討ちにヲ級とタ級を駆逐艦ながら倒した英雄となるわけだ」

提督 「不足はないだろ」

朝潮 「えっと・・・・あっありがとうございます」


 朝潮は笑顔で応えていた。

 喜びでなく安堵で生み出された卑屈な笑顔の下にはいびつな首輪が付けられていた。



提督 「後なぁ、タ級とヲ級は撃沈したことにする」

朝潮 「はい?」

提督 「・・・」

朝潮 「既に申し上げました通りっ」


 朝潮は自身の知覚を信じ、煙の向こうで撤退しているヲ級とタ級のことは既に報告していた。


朝潮 「私の感覚が正しければヲ級とタ級は撤退しているはずです」

朝潮 「それに

提督 「黙れ」


 空気が凍った。


提督 「朝潮」

朝潮 「・・・はい」

提督 「今回は特別に許すと言った」

提督 「初めての轟沈、しかも親友だ、動揺もする」

提督 「だが、次は・・・ない」

提督 「命令違反にも今のような考えなしの口答えにもな」

提督 「もし、そんなことがあれば・・・そうだな」

提督 「お前が命令違反を脅迫してもみ消したと、熨斗を付けて上に報告してやる」

朝潮 「申し訳ありません」


 提督の言いたいことが朝潮にはよくわかった。

 昨日まで脅す材料だった荒潮の命が朝潮自身の命になっただけだった。



提督 「・・・お前の代わりはいくらでもいる」

提督 「それなのにお前を救ってやる意味を・・・恩を忘れるな」

提督 「いいな?」

朝潮 「はい・・・」

提督 「話を戻す、おれの決定に問題でもあるか?」

朝潮 「っ・・・ありません」

提督 「遠慮するな、言おうとしたことを言ってみろ」

朝潮 「強力な深海棲艦の生存は・・・」

朝潮 「周知されないと他鎮守府の艦隊や民間船舶が危険ではないかと・・・思っただけです」

提督 「問題ない」

提督 「本出撃の海域は荒潮がそうであるように小中破轟沈がある危険海域だ」

提督 「お前には言ってなかったかも知れんが、当海域に挑むのは我々の鎮守府だけだ」

提督 「よって、我々が内々に処理をして注意をすればいい話だ」

提督 「そうだな?」

朝潮 「・・・はい」

提督 「それにお前も荒潮の最終評価が良い方がいいだろう?」


 最終戦闘の内容、突き詰めれば轟沈時の働き如何で、死後の昇進や遺族への保障が変わった。



朝潮 (荒潮・・・)


 荒潮の家族を考えれば迷う余地もなかった。

 しかし、朝潮にとって戦果を水増しするという不正行為に未だ抵抗感があった。


提督 「何を迷う」

提督 「既に命令違反の隠蔽と虚偽報告、二つの罪に加担してるだろうが・・・」


 提督が急かすようにモニターを指で叩く。

 その目は、穴を覗き込むような暗い瞳をしていた。


朝潮 (違う!!私は!!!)

朝潮 「・・・」

提督 「そもそも・・・だ」

提督 「お前の知覚とやらは正確なのか?」

朝潮 「提督も見ていらっしゃいましたよね?」

朝潮 「私は敵の動きを掴んで攻撃ができていました!!!」

朝潮 「私の知覚は・・・正確です」

朝潮 (そう荒潮の時も・・・)


 朝潮の語気が荒くなる。

 それを気にも留めずに提督は子供をあやすようにゆっくり言葉をつなげる。



提督 「たまたま運良く予想が当たっただけじゃないのか?」

提督 「一戦だけだぞ?それだけの成功で何でそんなに自信が持てる?」

朝潮 「そ、それは・・・」

提督 「朝潮、戦果の誤認が第二次大戦で日常茶飯事だったのは知ってるか?」

朝潮 「よくあることだから問題ないと仰りたいのですか?」

提督 「違う」

提督 「誤認したのは熟練した兵士が多かったんだ」

提督 「戦場で興奮状態、加えてその作戦で命を落とした仲間もいる」

提督 「歴戦の経験があった彼らが目で耳で直に確認できていても」

提督 「冷静な確認や判断ができなくなる」

提督 「お前は経験がないどころか実際に見たわけでもないのだろう?」

提督 「知覚というあやふやなもので感じただけに過ぎない」

提督 「それなのにヲ級とタ級が撃沈できていないと何で断言できる?」

朝潮 「断言は・・・」


 苛立たしさを感じる。

 朝潮の新知覚への自信が提督の言葉に溶かされる。

 確信や自信を持つには朝潮の経験は浅く、

 この新しい知覚のことは朝潮が拠り所とする教科書に書かれていない。



朝潮 (本当に私はヲ級やタ級を捉えられていたの)

朝潮 (集中力が高まって時間を遅く感じたのは荒潮の死の直前から)

朝潮 (あの時の現実逃避が続いて都合のいい幻影を見続けていただけ?)


 既に提督からの圧力で潰されそうな朝潮の自我が、唯一縋っていた知覚への信頼が揺らぐ。


朝潮 (司令官の前だと、私が壊されてゆく)


提督 「お前も火が収まったあの場所に大量に落ちていた深海棲艦の艤装片を見ただろ?」

朝潮 「見ました」

提督 「そういうことだ」

朝潮 「しかし、コアが・・・」

提督 「戦果の確認まで時間を明ければコアが見つからないこともある」

提督 「ヲ級とタ級の撃沈は・・・戦果の虚偽報告ではない、客観的事実だ」

提督 「そうだな?」

朝潮 「・・・はい」

提督 「安心しろ」

提督 「事実はどうあれ、虚偽報告をしてもばれるどころか疑われすらしない」

提督 「命懸けで戦う者を疑うのは卑しい・・・美しい日本の美徳だな」

朝潮 「はい・・・」

提督 「もういい、下がれ」

朝潮 「了解・・・しました」



 ドアノブに手をかける朝潮の背中に提督が更に言葉を投げる。


提督 「待て」

朝潮 「何でしょう?」

提督 「それとな」

提督 「お前が最終戦闘で得たという新しい能力」

提督 「その知覚に付いては許すまで今後一切口に出すな」

提督 「おれが言った通り運がいいだけという可能性も残ってる」

提督 「また何かあれば・・・おれにだけ報告しろ」

朝潮 「はい・・・」

提督 「そうだ、今日からお前は英雄だったな」

提督 「亡き親友の仇、ヲ級とタ級を勇敢に討ち果たした・・・な」

提督 「命令違反がばれたくなければ胸をはれ、辛気臭い顔は止めろ」

朝潮 「・・・はい」

提督 「これも命令だ」

朝潮 「はい・・・失礼します」ガチャ


 朝潮は敬礼して退室した。

 ドアを閉める音が静かな室内に響く。



提督 「・・・加賀、どう思った?」


 無言で横に立っていた加賀が口を開く。


加賀 「命乞いなんて可愛いところもあるのね」

提督 「・・・違う、朝潮の知覚のことだ」

加賀 「そちらね・・・はっきりとは言えないけれど」

加賀 「以前話した私の能力と同質のものかと」

提督 「そうか、今はそれだけわかればいい」

加賀 「それだけ・・・ですか」

提督 「当然まだ聞きたいことはある・・・が後は鎮守府で聞こう」

加賀 「そうですか」


 提督が立ち上がり加賀に目をやると、

 損傷で破れ煤けた衣服の隙間から美しい白い肌が全身にちらちらと見える。

 提督の手が吸い寄せられるように、加賀のはだけた首元に触れる。

 左の肩は、肩紐以外の衣服ははだけ肌が完全に露出していた。


提督 「もう傷は治っているのか?」


 首元から左の肩に向けて提督のごつごつした手がなでる。

 加賀の白磁のように白くきめ細かい肌は程よい弾力で提督の手を押し返し、

 その手を女性らしい丸みを帯びた肩の稜線にそいって首元鎖骨肩先へ氷上にあるかのように滑らせる。


加賀 「えぇ」

加賀 「体の傷だけは・・・殆ど治っています」

加賀 「同調は艤装を直さないとどうにもならないから大破した今、戦闘は無理ね」

提督 「そうか」



 提督がなでたことで袖を絞る肩紐が少しずれ、

 そこに白い皮膚に真っ直ぐ薄紅を引いたような跡をのぞかせた。

 死にかけた故の生殖本能か、加賀の艶めかしい色気か、

 湧き上がる情欲に提督は体の芯に熱を感じていた。


 視線を感じた加賀が肩紐を直し、知ってか知らずか提督から離れ部屋の出口に向かう。


加賀 「鎮守府が見える前に口裏合わせが必要でしょう?」

提督 「ふ・・・そうだな」


 加賀が開けたドアを出て提督は甲板に上がる。

 そこで以下二つの指示が提督から艦隊全員に下された。


 ・最終戦闘は全て提督の指揮で行われたことにする

 ・現場海域の漂流物からフラグシップタ級とフラグシップヲ級は撃沈したこととする


 敵艦隊全滅で戦闘評価が通常Sのところ、荒潮轟沈による減点でBとなることも告げられた。



―――――
―――




 指揮作戦艇が鎮守府の港に着岸するときには、

 鎮守府所属艦娘全員が荒潮の沈没した海域に向けて整列していた。

 作戦に参加していた朝潮たち第一艦隊所属の艦娘たちもすぐ列に加わる。

 簡単な葬儀が行われた。

 提督の弔辞、全員による黙祷が捧げられ、大和の弔砲が澄んだ空を震わせた。

 何かぎこちなさを朝潮は感じた。


 最後に提督から荒潮の勇敢な死と深海棲艦を許さないとの演説がされた。

 場にあった死の悲しみは、朝潮がそうであったように恨みや戦意へと容易に転換したようだった。
 
 ぶつけどころのない悲しみよりそうした方が救われることを鎮守府全員が知っていた。


 解散の号令で散っていく艦娘たちをかきわけ朝潮は加賀の元に向かっていた。


朝潮 (私の知覚は本当に正しかったの?)


 知っているのは加賀だけだった。


朝潮 (知りたい・・・)

朝潮 「加賀さ

大和 「加賀さん」


 朝潮より先に大和が加賀に話しかけていた。

 朝潮の声は風音とともに掻き消された。

 加賀の肩に大和が背後から手をかける。




大和 「あなたが付いていながら荒潮が轟沈するとはどういうことですか?」

加賀 「どうもこうも駆逐艦が一人轟沈しただけじゃない?」

朝潮 「・・・」ズキ


 加賀が振り返りながら大和の手を払う。


大和 「良くもそんな不謹慎なことが言えますね」

加賀 「事実でしょう?」

加賀 「それに大和さん・・・」

加賀 「あなたが秘書艦をしていた時は轟沈が私の時より遥かに多かったわよね」

加賀 「慣れてるんでしょ?私より・・・轟沈に」フフ

大和 「発言を撤回してください!!」


 大和の艤装砲塔が静かに揺れる。


大和 「確かに大和が秘書艦をしていた時はあの海域の敵艦隊群と接触したばかりでしたし」

大和 「轟沈が多かったのは認めます!!」

大和 「けれど、一つ一つの轟沈の悲しみと経験を糧に轟沈を減らしていったんです」

大和 「轟沈を気にもかけない、あなたとは違うんです」

加賀 「違う?秘書艦が私に変わっても轟沈数の減少は変わらず続いているじゃない?」

加賀 「悲しみを糧にしてやっと私と同等なの?」

加賀 「・・・笑わせるわ」

大和 「大和が今も秘書艦ならあなたよりもっと轟沈を減らせています!」

大和 「惰性で減ってるに過ぎない現状に満足しているあなたに言われたくありません!!」

加賀 「言われたくない?あなたがふっかけてきたんでしょう」


 加賀が特大のため息をつく。



大和 「加賀さん、今日は随分ご機嫌が優れないようですね」


 大和が加賀の損傷を服から艤装、上から下まで眺める。


大和 「珍しく被弾なさったみたいですね」

大和 「そのせいですか?」

大和 「慣れてないんでしょうけど・・・」

大和 「艦娘が大破如きで動揺するなんで敵の攻撃に当たらな過ぎるのも考えものですね」

大和 「ふふ・・・」

加賀 「・・・」

大和 「ご自慢の回避能力は?僚艦が庇ってくれなかったんですか?」

大和 「あっ、そうだ」

大和 「今日は旗艦じゃないんでしたね」

大和 「庇ってくれる僚艦がいないと加賀さんもこんなものなんですね」フフフ

加賀 「大和さん、嬉しそうね」

加賀 「一対一僚艦なしの模擬演習で私に手も足も出なかったからって」

加賀 「深海棲艦の活躍を喜ぶなんて轟沈した仲間達もさぞ浮かばれるでしょうね」

加賀 「今度爪の垢でも貰いに行ったらどうかしら」

大和 「・・・」

>>462
誤字訂正次レス



大和 「加賀さん、今日は随分ご機嫌が優れないようですね」


 大和が加賀の損傷を服から艤装、上から下まで眺める。


大和 「珍しく随分被弾なさったみたいですね」

大和 「そのせいですか?」

大和 「慣れてないんでしょうけど・・・」

大和 「艦娘が大破如きで動揺するなんて敵の攻撃に当たらな過ぎるのも考えものですね」

大和 「ふふ・・・」

加賀 「・・・」

大和 「ご自慢の回避能力は?僚艦が庇ってくれなかったんですか?」

大和 「あっ、そうだ」

大和 「今日は旗艦じゃないんでしたね」

大和 「庇ってくれる僚艦がいないと加賀さんもこんなものなんですね」フフフ

加賀 「大和さん、嬉しそうね」

加賀 「一対一の模擬演習で私に手も足も出なかったからって」

加賀 「深海棲艦の活躍を喜ぶなんて轟沈した仲間達もさぞ浮かばれるでしょうね」

加賀 「今度爪の垢でも貰いに行ったらどうかしら」

大和 「・・・」


長門 「止めないか、お前たち」


  長門と陸奥が歩み寄る。


長門 「鎮守府の多くが聞いてるぞ」


 朝潮が振り返ると朝潮から更に遠巻きに、

 解散したと思っていた艦娘たちがぞろぞろと集まり加賀と大和を見つめていた。


長門 「加賀、大和の方が鎮守府では古株なんだから立てたらどうなんだ?」

加賀 「今の秘書艦は私よ」

陸奥 「まぁまぁ~」

陸奥 「もう寒いし解散しましょ、ね?」


 誰ともなく大和からその場を離れ他の艦娘たちも散った。

 朝潮の前を加賀が通り過ぎる。

 その時には加賀への失望で話しかける気は消えていた。



―――――
―――




 艤装を入渠させ、新しい制服を大和に支給してもらい、お風呂に入る。

 今日の新しい制服は普通にノリの臭いがした。

 清潔な体で新しい制服に袖を通す。


 自室まで色々な艦娘に賞賛や慰めの言葉をかけられた。

 言葉少なに応じても荒潮の轟沈に気を落としていると思われるのか

 提督が心配したように命令違反を疑われることはない。


 自室に入りベッドへ手に持っていた畳まれたダンボールを投げる。

 大和から新しい制服と一緒に支給されていた。


 椅子へ座りため息を吐く。


コンコン


朝潮 「はい」

霞 「入るわよ」

朝潮 「どうぞ」

大潮 「朝潮ちゃん?」

朝潮 「いらっしゃい」


 霞と大潮の大きい目は赤くなっていた。



霞 「もうダンボールがあるなら話は早いわね」

霞 「手伝うわ」

大潮 「いつまでなんですー?」

朝潮 「できればと言われてるけど」

朝潮 「大和さんに夕方の周回トラックに載せるよう言われているわ」

霞 「早いわね、ならとっとと始めましょう」


 言葉少なに作業が始められる。

 荒潮のような轟沈した艦娘の私物は遺族へ送られる。

 当然その作業は同室の朝潮に命令されていた。


霞 「まず、荒潮の私物を全て並べてからね」

霞 「種類を分けて綺麗にダンボールに入れるわよ」

霞 「その方が隙間が減って物同士で傷付け合うことないし」

霞 「それに、一つの箱に沢山入って節約にもなるわ」

大潮 「おー」


 霞が朝潮を気遣って陣頭指揮を執る。

 荒潮の私物は少なく、並べるのはすぐ終わった。


朝潮 「これ・・・全部どうするのかしら」


 荒潮らしい少し大人びて落ち着いた私物が多かった。

 文具や本、日用品や私服は持ち主を喪ったせいか、どこか寂しげに並んでいる。


霞 「孤児院で他の子に使うか・・・」

霞 「艦娘の適正は遺伝みたいなところもあるって言うから」

霞 「荒潮の妹に適正があればそのまま使うんじゃないの」

大潮 「妹ちゃんたちはなりたいと思いますかね?」

霞・朝潮 「・・・」

霞 「ばっかねぇ、なりたいって思うわよ」

大潮 「そうですよね」

朝潮 「・・・」

朝潮 (荒潮は勇敢だったとだけ伝えられる)

朝潮 (けど、その活躍のために乗り越えてきたものは伝えられない)



 並べられた私物に目を落とす。

 朝潮の目にふと一つのノートが飛び込む。


朝潮 「このノート・・・」

霞 「あっ!」


 ノートはキャラクターものや可愛い動物のシールが貼られた実に少女趣味なものだった。

 ただ、荒潮の私物たちからは浮いていた。


大潮 「満潮ちゃんのノート・・・」

霞 「とってたのね・・・」

朝潮 「満潮?・・・以前轟沈した満潮?」

大潮 「そうです・・・」

霞 「・・・」

朝潮 「これが?・・・荒潮が昨日お風呂で言ってた満潮の日記?」

大潮 「朝潮ちゃんに話してたんですね」

霞 「知ってるなら、止めないけど・・・読む気?」

朝潮 「うん、読んでおきたい」


 朝潮はノートを開く。

 ノートの前半は荒潮が昨日風呂で語っていた満潮の日記となっていた。

 パラパラめくると日々の思いや出撃の苦悩がそれに合わない可愛い字で綴られている。

 内容は荒潮が話した通りだった。



朝潮 「あれ・・・日記の後半から文字が変わってる?」

朝潮 「これ、荒潮の字だ・・・」

霞 「えっほんと?!」ズイ

大潮 「見せてくださいー」ヒョコ

霞 「文字が変わってる日、満潮が轟沈した日付と同じ・・・」

大潮 「満潮ちゃんの日記の後ろに荒潮ちゃんの日記が続いてますね」


 朝潮は日記を三人の真ん中に広げ読み進める。


大潮 「凄く・・・報告書に似てますね」

朝潮 「あぁ・・・」

霞 「そうね・・・」


 日記にしては病的なほど思いも感情もない報告書のような文体は、

 満潮のそれと対照的で自身の感情を殺そうとする荒潮の苦悩が感じられた。


霞 「「~だと思いました」「頑張ります」を連発する大潮の報告書よりよっぽどしっかりしてるわ」

霞 「本当に日記なの?これ」

大潮 「さり気なくバカにされた気がします」


 客観的過ぎる荒潮の日記は一見わかりくいものだった。

 しかし、一緒に出撃していた朝潮にとってその全てが目新しいものではなかった。


朝潮 「間違いなく荒潮の日記よ・・・一緒に出撃してたからわかる」

大潮 「そうですかー」


 しかし、一部わからないものがあった。



朝潮 「これ・・・霞交換、大潮交換って何かわかる?」


 最後数日の日記末尾に付く、暗号のような文字。

 ページを見せながら霞と大潮に尋ねる。


大潮 「んー・・・」

霞 「あ・・・知らないわね」

朝潮 「?」

大潮 「あっ思い出したそれ、制服交換 モガモガ

霞 「もうっ!!・・・」

朝潮 「制服交換?」


 霞がためいきを吐きながら、大潮の口から手を外す。


霞 「はー・・・そうよ」

朝潮 「荒潮と?」

大潮 「そうです!」

霞 「もう・・・」

朝潮 「???」

霞 「この前、遠征艦隊だと制服の交換が基本的に認められないって話したでしょ?」

朝潮 「あぁ・・・あの話」


 少し前の食堂で、荒潮を含めた四人で話していた時の話題だ。

 あの時、霞が古い制服を着続るのは辛いと愚痴っていたのを朝潮は思い出す。



朝潮 「そういえば、あの時は霞と大潮の制服によれと汚れがあったけど・・・」

朝潮 「今はなくなってるわね」

朝潮 「荒潮と交換してもらってたのね」

霞 「余り驚かないのね」

朝潮 「荒潮だから」

大潮 「・・・」

朝潮 「私も言ってくれたら交換したのに・・・」

霞 「あきれた、ばれたら懲罰ものよ」

朝潮 「けど、ばれないでしょ?」

朝潮 「廃棄される制服はぼろぼろでチェックされないじゃない?」

霞 「確かに足はつかないかもしれないけど、イコールばれないじゃないのよ?」

大潮 「そうです、朝潮ちゃんみたいに制服の変化に気付く人もいるかもしれませんし」

朝潮 「それはそうかもしれないけど・・・」

朝潮 「言ってくれたら何時でも交換するわよ」

大潮 「大潮はもう交換しなくて大丈夫ですー」

大潮 「余り綺麗な制服を遠征艦隊で着てるとばれないかと気が気じゃないですし!」

霞 「私もパス」

霞 「孤児院出身なんて、ものは壊れてからが本番でしょ?」

霞 「新品の制服なんて着慣れてないからむず痒くなっちゃうわ」

霞 「それに、荒潮もあなたを巻き込みたくなくて言わなかったんじゃないの?」

朝潮 (荒潮・・・)


 目を落とすと一番新しいと思われる交換のしるしが目に入った。



朝潮 「最後のしるしは・・・一昨日で霞が交換でいいの?」

霞 「そうよ」

朝潮 「一昨日はあの危険海域でなく通常海域への出撃だったわね」

朝潮 「私と荒潮二人で小破したの、覚えているわ」

霞 「その時支給されたピッカピカの制服を荒潮と交換したのよ」

霞 「交換?って言うより追い剥ぎされたというか」

朝潮 「?」

大潮 「あー・・・」

霞 「一昨日急に荒潮が部屋に入ってきてね」

大潮 「ありましたねー」

霞 「新品の制服を着てきて「交換しましょ」って言ってきたのよ」

朝潮 「じゃあ、霞は一昨日に荒潮が手に入れた新しい制服を着てるのね」

霞 「そうなるわね、私最初は断ったんだけど・・・」

霞 「荒潮は妹や弟いるじゃない?」

霞 「それで慣れてるせいか良いように脱がされちゃって・・・」

大潮 「騙されてばんざいして一瞬でしたねー」

霞 「何すんのよって言って取り返そうとすると既に私の制服を奪って着た荒潮がね」

霞 「「脱がす気?!やだ~ウフフ」って茶化してきてね」

大潮 「あの時の霞ちゃん可愛かったですねー」

霞 「・・・何言ってんのよ、そんなことないわよ」

朝潮 「そうよ、霞は何時も可愛いじゃない」

霞 「あのねー・・・」


 朝潮は霞の視線を躱し最後の数ページへ進む。



―――――
―――




朝潮 「『朝潮が執務室に呼ばれたまま、戻らない』」

朝潮 (昨日の日記・・・)


 荒潮の第一艦隊所属を止めてもらうよう提督に身を捧げ交渉していた、昨日。

 朝潮には力がなく、そうすることでしか荒潮を守ることができないと思った。

 同じ決意で挑んだ今日の戦闘で荒潮を喪い艦隊を危険に晒した。


朝潮 (もっと早く知覚を手に入れてれば・・・)

朝潮 (いや、知覚を知っている提督の発言、加賀の無言)

朝潮 (私の知覚は本物?)


大潮 「この時、朝潮ちゃんは執務室で何してたんですー?」

霞 「今日は朝潮が旗艦で活躍したって提督が言ってたでしょ?」

大潮 「凄いですよねー」


朝潮 (最終戦闘・・・)

朝潮 (覚醒する前の弱い知覚で戦闘中に荒潮の同調の大きな変化は感じなかった)

朝潮 (だから最後の砲撃まで全くと言っていいほど荒潮に被弾はなかったと思う)

朝潮 (同調は変わらないまま、気付いた時には轟沈前の弱い同調だった)


霞 「だから、旗艦として執務室であのクズと作戦とか打ち合わせしてたんでしょ?ね?朝潮」

朝潮 「あぁ・・・うん」

大潮 「打ち合わせって何するんです?」

大潮 「・・・朝潮ちゃん?」



朝潮 (最終戦闘の最初から・・・最初から荒潮は・・・大破してた?)


大潮 「朝潮ちゃん?」オズ

朝潮 「ん!何?!」

霞 「あんた大丈夫?」

朝潮 「あっごめん!・・・執務室のことね」

朝潮 「今日から制服の損耗判定を提督だけでなく旗艦もすることになってね」

朝潮 「その打ち合わせと他の第一艦隊の先輩たちの損耗表を覚えるのが長引いちゃって・・・」

大潮 「あー、だぶるチェック?ってやつですか」

霞 「あのクズも必死よねー」


朝潮 (そうだ、私だけじゃない・・・提督も制服の損耗判定をしたんだ)

朝潮 (大破進軍なんてあるわけない)

朝潮 (なら、私の知覚がやっぱり間違ってたの?・・・)


大潮 「慎重なのは良いことだって龍田さんいつも言ってます!」

霞 「まぁ、そうよ」

霞 「特に轟沈の危険がある第一艦隊にはね」


朝潮 (確かなのは荒潮が轟沈したことと艦隊を危険に晒してしまったことだけ・・・)


 許されることではなかった。

 その責任を差し置いて知覚について思い悩むことが、

 生真面目な朝潮にとって責任から逃げているように感じられ、知覚への思考を鈍らせた。



霞 「ね、朝潮!・・・朝潮?」

霞 「あんたさっきから顔色悪いわよ・・・大丈夫?」

大潮 「後は大潮たちに任せて休んでもいいですよ?」

朝潮 「いや、大丈夫。ごめん、心配かけて・・・」

霞 「馬鹿ねぇ、気にせず頼りなさいよ、仲間でしょ?」

大潮 「何かあったら大潮も力になります!」

朝潮 「ありがとう」


 止まっていた手でページをめくる。


朝潮 「『朝潮の代わりに自分と朝潮の艤装を入渠ドッグに取りに行く』」

朝潮 「『入渠ドッグに着いた時、艤装の入渠はバケツが使われたのか両方終わっていた』」

朝潮 「『艤装倉庫に二つとも収める』」

朝潮 「あぁ、そうか」

朝潮 「昨日は艤装を入渠ドッグへ引き取りに行けなかったんだ」

霞 「そうそう、あんた執務から部屋帰ったらすぐ寝て今日の出撃まで起きなかったんでしょ」

霞 「修復液まみれの艤装は流石にこの時期つらいわよ」

朝潮 「そうね、荒潮にはお世話になりっぱなし・・・」

朝潮 「それにしても入渠時間の短い駆逐艦に高速修復材を使うものかしら?」

朝潮 「大破の荒潮はまだしも私は中破よ」

霞 「昨日はあの後も出撃繰り返していたでしょ」

霞 「そういう時は状況が変わって途中から高速修復材なんてザラよザラ」

霞 「別に珍しいことじゃないわ」

朝潮 「そうなんだ」


朝潮 (中破と大破・・・)


 昨日の中破で帰港した時を思い出そうにも、虚ろだったことで記憶や感覚がはっきりしない。


朝潮 (虚ろだった?虚ろだったのは・・・?)


 考えがまとまらない。



―――――
―――



 固まった朝潮を置いて、大潮が荒潮の最後の日記を読み上げる。


大潮 「『朝潮が深夜まで帰ってこない』」

霞 「あんたが執務室に殴り込みした日と同じで荒潮心配してたわよ」

大潮 「私は部屋で待機してました」

霞 「一応また探したのよ」

朝潮 「また夜遅くまで探してくれてたんだ」

朝潮 「ごめん・・・」


 朝潮の脳裏に今朝の体調が悪そうな荒潮の顔が浮かぶ。


霞 「気にすることないわ」

霞 「悪いのはあの海域よ」

霞 「朝潮は悪くない」


 知らず朝潮の顔に浮かんでいた苦悩の表情に霞が慰めの言葉をかける。



 大潮も朝潮の気分を転換させるため、頭を捻って話題を絞り出す。


大潮 「そう言えば、葬儀がされたのは荒潮が初めてですね」

霞 「そうね、荒潮はあれで寂しがりやだったから良かったじゃない」

朝潮 「初めて?」

大潮 「いつもは葬儀しないんです」

朝潮 「あ」


 荒潮が昨日お風呂で話していたことを思い出す。


霞 「いつもは葬儀しないどころか、轟沈を報告するだけで次の部隊で出撃してるのよね」

霞 「あいつ艦娘を何だと思ってるのかしら」

大潮 「深海棲艦がいる限り戦争が続いて轟沈がなくならないなら、大潮は仕方ない気もします」

霞 「まぁね、出撃するしかないのもわかるけど・・・」

大潮 「その御蔭か、あの海域の轟沈って減ってたんですね!」

大潮 「大和さんと加賀さんの話を聞いて初めて知りました」

朝潮 「私も・・・」

霞 「はぁ・・・それくらい知っておきなさいよ」

大潮 「霞ちゃんは

霞 「物知りさんですー?」

霞 「大潮、あんた私を褒めとけば便利とか黒いこと考えてないでしょうね?」

大潮 「黒い?」

霞 「まぁいいわ」


霞 「あの海域の轟沈は減ってるのよ」

霞 「本当に少しずつだけどね」

朝潮 「ふーん」

大潮 「いつか轟沈はなくなるんですかねー」

霞 「このペースだと十数年かかりそうよ」

大潮 「うえぇぇ」

大潮 「そんな少しの減少で大きい小さいって加賀さんと大和さんはやってたんですかー」

霞 「あんた言い難いこと割と容赦なく言うのここだけにしなさいね」

朝潮 「轟沈の話もそうだけど、加賀さんと大和さんは仲が良くないの?」

霞 「見てたらわかるでしょ?」

霞 「険悪ってレベルじゃないわよ」

朝潮 「何かあるの?」

大潮 「あります、恋のライバルです!」

霞 「そんな綺麗事じゃなくてもっと根深いわよ!」

朝潮 「そうなの?」

霞 「あの危険海域って元々出撃禁止が検討されてたの知ってる?」

朝潮 「え?!」


霞 「少中破からの轟沈が多発するんで異常だって、当然よね」

霞 「それで何度も大本営から査察、不正を疑われて憲兵から臨検とか色々あったらしいわ」

霞 「そういう面倒事や疑惑を晴らして、あの海域攻略のレールを引いたのが大和さんなのよ」

霞 「それをぽっと出の加賀さんにとられたようなもんだから・・・誰だって面白くないでしょ?」

朝潮 「とられた?」

大潮 「加賀さんが大和さんから秘書艦をとった話ですー?」

霞 「そう、それ」

霞 「正確には大和さんが秘書艦としてさっき言ったレールを引き終わった後ね」

霞 「加賀さんが配属になってすぐ模擬演習で大和さんを倒して提督のお気に入り」

霞 「で、すぐ大和さんに代わって新しい秘書艦になったってわけ」

朝潮 「あの司令官ならやりそうね」

霞 「まぁ、そういうわけよ」

大潮 「大潮は大和さんは秘書艦とあの危険海域に思い入れがあるって聞いてますねー」

霞 「ふーん」

朝潮 「思い入れって・・・あの海域攻略のレールを引いた以外に?」

大潮 「ですですー」

霞 「何それ話してみなさいよ」

大潮 「大和さんは加賀さんと違って、前任の秘書艦が轟沈して秘書艦になったらしいんです」

霞 「あー聞いたことあった」

大潮 「大和さんが継いだ・・・轟沈した前任の秘書艦が仲の良かった武蔵さんで」

大潮 「その武蔵さんが轟沈したのがあの海域らしいですー」


霞 「そりゃ、あの危険海域で秘書艦として暴れて敵討ちしたいでしょうね」

朝潮 「え?!武蔵があの海域で轟沈してるの?!」

大潮 「そうです、間違いなく大和型二番艦の武蔵さんですよ」

霞 「別に驚くことじゃないわ」

霞 「殆どの艦種で轟沈は起こってるし、戦艦が例外ってこともないわ」

朝潮 「殆ど?」

霞 「って、こんなんじゃ作業終わらないじゃない」


 時計を見上げれば、周回トラックの来る刻限が迫っていた。

 霞の号令の元、三人でダンボールに荒潮の私物を積めて行く。


 荒潮が朝潮に言った通り、轟沈した荒潮の体は骨も何も一切残らなかった。

 その荒潮の全てとなった私物が一つずつ、ダンボールに埋葬される。

 それぞれの私物に三人それぞれ荒潮との思い出が詰まっていた。


 大潮がまん丸い目玉に今にも溢れんばかりに水を貯める。霞も上を向く。

 この時、朝潮は気付く、霞と大潮は涙が枯れたのでなく朝潮の前で泣かまいとしていることに。

 それが優しさからの心遣いだと思うと朝潮は素直に泣けなかった。


 無理やり涙を止めすぎて大潮は涙を止めたまま引きつけを起こしたかのように震えた。

 霞はぼそぼそと馬鹿とつぶやきながら作業を続ける。

 積め終わる頃には三人の目から涙が止めどなく溢れ声を出して泣いていた。



―――――
―――




 加賀が執務室をノックすると、入れ違いで大和が出てくる。


大和 「・・・」キッ

加賀 「・・・こんにちは」


 大和はひと睨みすると挨拶もせず廊下へ消えた。

 加賀は執務室に入る。


提督 「遅かったな」

加賀 「そういう割にはぎりぎりまで大和さんとよろしくやっていたようね」

提督 「離してくれなくてな」

加賀 「座っても?」

提督 「許可する」


 加賀は秘書艦用の机に着く。

 執務室は何時もより煙たい。

 提督の机の灰皿は一杯になろうとしていた。



提督 「さてと・・・どこから話してもらおうか」スパー

提督 「まずは荒潮の救助作戦だ」

提督 「何故おれの命令を無視して荒潮を助けようとした?」

加賀 「提督が朝潮に言っていた通り・・・提督の安全のためよ」

提督 「・・・他に方法はなかったのか?」

加賀 「朝潮と旗艦を交代するとか他にも方法はあったでしょうね」

加賀 「けれど、どの方法も朝潮の暴走の可能性を考えると・・・無理ね」

加賀 「指揮作戦艇の防御に隙を生まないためにはあの方法しかなかった、断言できるわ」

提督 「そうか」

提督 「しかし、制空圏を抑えなければいずれ負けることもわかっていただろ?」

加賀 「あの時、私が何より優先したのは朝潮を指揮作戦艇の側にいさせることよ」

加賀 「負けることや、それで荒潮が轟沈しようがどうでも良かったわ」

提督 「その割には荒潮を守るのに必死だったように見えたが」

加賀 「必死?」

加賀 「本気で言ってるの?」

提督 「・・・」


加賀 「いつもなら・・・いつもなら荒潮が轟沈しようがどうでも良かった、けれどね」

加賀 「新地方本部長官の選考中で轟沈を控えるように言われて出撃を止めていた危険海域」

加賀 「そこへの出撃を再開した途端に轟沈となれば・・・どうなると思う?」

加賀 「当て付けと思われるか、能力不足と思われるか」

加賀 「どちらにしろ上の心証は最悪よ」

提督 「それでお前らしくもなく駆逐艦如きを命懸けで守りました、と」

加賀 「茶化さないで」

加賀 「私の進退にも関わるのよ、本気にもなるわ」

提督 「ふふ、悪いな」

加賀 「聞いていい?」

提督 「何だ?」

加賀 「何でいまさら小規模とは言え荒潮の葬儀をしようと思ったの?」

加賀 「それに何時もなら轟沈に構わず連続出撃してたわよね?」

提督 「お前にくらい話しておくか」

提督 「出撃再開してすぐの轟沈、おれも目が付けられるとわかってる」

提督 「だから、反省している振りをするためというのが一つ」

提督 「後は単純に出撃頻度を減らして轟沈数を減らしたいという理由からだ」

加賀 「本当に新地方長官になるつもり?」

提督 「・・・」

加賀 「なら何で荒潮を殺したの?」



―――――
―――




提督 「ごほっごほっっ・・・・はぁ?!」


 むせた提督が灰皿の残った狭いスペースに煙草を押し付け加賀を睨む。


提督 「冗談がきついぞ」

加賀 「私の知覚が確かなら、荒潮は最終戦闘開始時には大破していたわ」

提督 「なんだと?!」

加賀 「昨日荒潮が大破したばかりで、その同調の乱れを私が覚えていたこと」

加賀 「最終戦の前に陣形を乱した荒潮が同調を感じられる距離まで私に近づいてきたこと」

加賀 「この2つでおぼろげながら知覚することができたの」

提督 「なら何で進言しなかった」

加賀 「おぼろげながらと言ったでしょ」

加賀 「この知覚について他言無用と言った時に・・・言ったはずよね」

提督 「不安定で実戦の勘も絡むから精度は低いというやつか?」

加賀 「そうよ、不正確なことはわざわざ進言できないわ」

加賀 「それに、さっきも言ったけどこの時期に轟沈があると思わないでしょ?」

提督 「はぁ?!」

提督 「何でおれの都合が悪い時に轟沈が起こらないと思っているんだ?」

加賀 「どう取ってくれても結構よ」

加賀 「けどね」

加賀 「これまでの轟沈では、沈む娘を、囮にしたり、煙幕代わりにして奇襲したり」

加賀 「轟沈がわかっていたかのようにそれを利用して勝利してきたわよね?」

提督 「今日は敗走しようとしてただろ」

加賀 「何かイレギュラーなことが起こったんじゃないの?違う?」


 提督は新たな煙草に火を付け吸って吐くという作業を繰り返すだけだ。



加賀 「まぁ、いいわ」

加賀 「私だって深く知りたくない」

提督 「なぁ」

加賀 「何かしら?」

提督 「お前らの知覚はそうポンポン手に入るものなのか?」

加賀 「ないわ、地方本部に一人いるかいないかじゃないかしら?」

提督 「この鎮守府に二人いるぞ」

加賀 「今まで見たことある?」

提督 「ない」


 色々な鎮守府と交流する提督の立場から聞いたことさえない能力だった。


提督 「できることは、損傷度の把握・敵の行動の予知、の2つだけか」

加賀 「多分・・・」

提督 「多分?」

加賀 「私も我流でやっているのよ」

加賀 「提督が言った2つだけと断言はできないということよ」

提督 「ほぅ」


加賀 「それに朝潮・・・」

提督 「朝潮がどうした?」

加賀 「蝙蝠は人間より広い可聴域によって耳を音を聞くだけでなくレーダー代わりに使っているわ」

提督 「お前より知覚が優れているから使い方も増えるということか」

加賀 「可能性の話よ」

提督 「朝潮はその可能性を加賀に感じさせるほどには優れているわけだ」

加賀 「・・・」

提督 「言うほど朝潮は優れているのか、信じられんな」

加賀 「私が覚醒したのは朝潮よりもっと後よ」

加賀 「加えて、荒潮の損傷度に対する感度ね」

加賀 「私は近距離でやっとわかるのに、朝潮は集中すれば距離があっても問題なかった」

提督 「加賀がべた褒めか、これなら明日からの出撃が楽しみだ」

加賀 「果たしてそう上手く行くからしらね・・・」

提督 「問題でもあるのか?」

加賀 「明日、朝潮は満足に動けないまますぐ大破すると思うわよ」

提督 「今日の最終戦闘ではそのような素振りはなかったが・・・」

加賀 「朝潮に対してヲ級とタ級からの攻撃はあった?」

提督 「・・・」

加賀 「なかったでしょ?」

加賀 「知覚に慣れるまでは、新たな感覚に脳みそをかき回されてる状態よ」

加賀 「避けるとか、撹乱するとか、動きが伴うとボロが出るわよ」


提督 「慣れるまでどれくらいかかる?」

加賀 「さぁ?不確定要素が多過ぎるわ」

加賀 「このまま駄目になる可能性もあるわ」

加賀 「確かなのは、朝潮の知覚を提督が否定したから慣れるまでの期間が延びてるだろうことだけよ」

提督 「嫌味か?」

加賀 「・・・」

提督 「まぁ、いい」

提督 「一応、明日の出撃は朝潮を旗艦に据え、挙動が怪しければすぐ撤退するよう配慮しよう」

加賀 「お優しいことね」

提督 「貴重な能力だからな」

提督 「ところで、この能力は大和みたいな強力な艦娘なら習得できたりしないのか」

加賀 「不可能ね」

提督 「お前に艦種の相性で負けても大和が弱いわけではないだろう」

提督 「あいつに何が足りない?」

加賀 「砲艦はこの知覚に対して適正がないのよ」

提督 「どういうことだ」

加賀 「この知覚というのは、端的に言えば同調に対する感覚よ」

加賀 「必要なのは、繊細な同調といかなる時も冷静でいられる心の強さ」

提督 「同調ねぇ・・・」


加賀 「艤装だけでなく艦載機とも繊細な同調を求められる空母はまだしも砲艦にはとても無理よ」

提督 「そこまで違うのか」

加賀 「砲艦は・・・感情の爆発を同調に乗せることで砲撃の威力を出すのでしょ?」

提督 「同調に感情という異物が入るというのか」

加賀 「どちらかと言うと、感情を出すから冷静でいられないことが問題ね」

提督 「大和も、轟沈した金剛も、戦艦で強いのは確かに直情的かもな」

提督 「だからこそ強かったとも見ることができるが・・・」

提督 「それに比べて確かに空母には冷静な落ち着いた奴が多いな」

加賀 「五航戦のような例外もいるけどね」

提督 「余りいじめるなよ」

加賀 「ふん」

提督 「だから、加賀の艤装に適性のある朝潮が覚醒できたのか」

提督 「そうなると・・・益々大和の考えがわからんな」

加賀 「どうしたの?」

提督 「お前と模擬演習をさせてくれとさっきまでゴネられててな」

加賀 「ふーん・・・」

提督 「あれだけ加賀に惨敗して挑むには勝算があってだろ」

加賀 「ふふ、どんな奥の手を用意しているのかしらね」

提督 「挑むだけなら可愛い、けどなぁ秘書艦を賭けろと言うんだ」

加賀 「じゃあ、明日の舟遊びの同伴も」

提督 「当然そうだ」

提督 「大和に損はなく加賀に何の利益もない」

提督 「だから、加賀の回答次第だと言ってあ

加賀 「良いわよ、大和と遊んであげても」


 提督は、驚きを隠さず加賀を見つめる。



―――――
―――




提督 「お前に何の意味がある?」

加賀 「意味?格の違いを教えてあげるくらいかしら」

提督 「・・・大和に同情するよ」

加賀 「さて、そうなるかしらね」

提督 「ん?」

提督 「まぁ、大和に知らせておくか」


 提督は電話へ手を伸ばし、受話器を取り内戦のボタンを押す。

 瞬間、電話がけたたましく鳴り提督の手が止まる。


加賀 「外線よ」

提督 「わかってる」


 受話器を耳にかけたまま、フックを押す。


提督 「はい、こちら鎮守・・・これは地方長官」

提督 「お孫さんが生まれまし・・・はぁ・・・え?・・・存じ上げませんが」

提督 「はい・・・・いえ、全く身に覚えが・・・・・・・・はい、その通りです」

提督 「いえ・・・そうです、はぁ・・・承知しました」

提督 「恐らく、新地方長官レースの対抗馬からでしょう・・・・そうです・・・デマですよデマ」

提督 「・・・はい、勿論です」

提督 「ありがとうございます・・・では失礼します」


 提督は受話器を置きため息を付く。



加賀 「どうしたの?」

提督 「今日の命令違反をチクったのがいる」

加賀 「はぁ?!」

加賀 「ありえない・・・」

加賀 「命令違反を密告させないように艦隊全員に対して朝潮同様きつく脅しをかけたじゃない?!」

加賀 「本当なの?」

提督 「・・・憲兵隊から地方長官に、おれの身元について照会があったらしい」

提督 「反乱、命令違反の疑いがあるから戦績や人柄などの情報を出すよう言われたそうだ」

加賀 「チっ・・・」ギリ

提督 「犯人探しはいい」

加賀 「しかし・・・」

提督 「リンチでもする気か?それをすれば本当に問題になるぞ」

加賀 「はぁ・・・そうね」

加賀 「けど、安全を考えて明日の舟遊びはなしね」

提督 「ふふ・・・」

加賀 「何が可笑しいの?」

提督 「この件のもみ消しでもっと金がいる・・・舟遊びはやる」

提督 「楽しみだな、そうだろ?」

加賀 「・・・」


 舟遊びという名のコアの密売への同行へ加賀は不安な表情を見せる。


提督 「不安か?」

加賀 「普通はそうよ・・・」


 提督からは髪に隠れて見えない加賀の右耳にはめられた受信機が微音を発していた。


受信機 「ガガ・・・ガチャ・・・朝潮・さん」



―――――
―――

本日投下分はこれまで。
ご読了まことにありがとうございます。
恐らく後二回前後の投下で終わる見込みです。
何卒最後までお付き合いをよろしくお願い申し上げます。

>496 様
ただいまです。お米ありがとうございます。
後投下は二回前後と書いたものの、いまさら二桁回かかりそうな気もしてきました。
気長にお付き合いいただければ幸いです。

投下再開します




加賀 「提督、間違いがないように第一艦隊の所在を確認だけしてくるわ」ガタ

提督 「他の人間に気取られんよう慎重に行え」

提督 「おれの名前を使ってもいい」

加賀 「提督も密告した犯人が第一艦隊なら、もう鎮守府にいないと思う?」

提督 「思う」

提督 「証人保護プログラムで身をくらましてるだろ」

加賀 「そうね」

提督 「いない奴がいれば、そいつが嘘を言ってるように口裏合わせ」

提督 「もし、全員残っていれば、口が軽いのから聞いた第三者だ」

提督 「その時は第一艦隊に口止めを徹底すれば事足りる」

加賀 「同感ね」

加賀 「あ、そうそう」

提督 「何だ?」

加賀 「大和さんと話したのは模擬演習のことだけ?」

提督 「?そうだが・・・」

提督 「大和とすれ違った時に煙草以外の臭いでもしたか?」

加賀 「いえ、戦果が悪い時の癖でも出たのかと思ったけど違うのね」

提督 「ふっ・・・」

提督 「いる間は始終、模擬演習に出せ出せだったよ」

加賀 「残念そうね」

提督 「言わせるな」

提督 「代わりにお前が付き合うか?夜にどうだ?」


 加賀は思案顔をしつつ椅子を机に収めると後ろ手を振りながら口を開く。


加賀 「今日の夜は明日の模擬演習に向けて集中したいから・・・」

加賀 「それに提督とは明日できるでしょ?」

提督 「そうか、しょうがないな」

加賀 「もう行っていい?」

提督 「あぁ、問題があればすぐ言え」

加賀 「わかったわ」


 提督の振る手を見て加賀は執務室を出た。


 結果として出撃した第一艦隊のメンバーは全員鎮守府にいた。

 提督と加賀はこれ以上動揺させないよう軽い口止めを行うに留めた。



―――――
―――




~訓練所~


 月はなく星だけが照らす暗い夜。

 倉庫街の間を艤装を装備して歩く朝潮。


朝潮 「はぁ・・・」

朝潮 (荒潮の私物が詰まったダンボールを送り出し・・・)

朝潮 (戦闘後の会議が終わったと思ったら、その後に加賀さんに集められて口止め)

朝潮 (やっと開放されたかと思ったら・・・)

朝潮 (荒潮のことを忘れたかのように加賀さんと大和さんの模擬演習で食堂の話題は持ち切り)

朝潮 (明日も出撃があるのに悲しむ暇さえ・・・)


 目的地のすぐ側にいくつかの倉庫をぶちぬいて作られた射撃訓練所があった。

 朝潮が中を覗くとレーンは全て第一艦隊所属の艦娘で埋め尽くされていた。

 あるレーンでロープに足を吊られた羽黒が射撃訓練をしている。

 その羽黒を吊るロープを那智が竹刀で不規則に叩き揺らしていた。


羽黒 「ひいいいいいい」

那智 「馬鹿者ォ!!!荒れた海上はこんな揺れでは済まんぞ!!!」

羽黒 「はっはい」

那智 「言われんでも、もっと・・・腰を、入れんかああ!!!」

羽黒 「ひゃいいいい!」


 羽黒のレーンに限らず訓練場は戦闘前の指揮作戦艇のように殺気に満ちていた。

 全員が何かを拒絶し振り払うかのように訓練に打ち込んでいる。


朝潮 (みんな恐いんだ・・・)


 朝潮は静かに訓練所を出て、指定された場所に歩を進める。

 波の音が大きくなり訓練場から連発する発砲音と競り合うように響く。

 指定された訓練所すぐ裏の埠頭で海に向かい、朝潮に背を向けてある艦娘が立っていた。


朝潮 「先にいらっしゃってたんですね」

朝潮 「遅れて申し訳ありません・・・・・・大和さん」



―――――
―――




大和 「大和も今来たところです」

朝潮 「何を見てらっしゃるんですか?」

大和 「そうですね・・・朝潮さんは知ってますか?」

朝潮 「え?・・・何をですか?」

大和 「海の向こうでは日本と違って深海棲艦に脅かされない広大な内陸があるそうですよ」

朝潮 「陸が・・・見えるのですか?」


 訓練所の砲撃音に負けないようお互い大きめの声で応酬する。

 大和と朝潮の視界の先には飲み込まれそうに暗く海が広がるだけだった。

 大和が海から背後の朝潮へ振り返る。

 夜の帳に包まれ大和の表情が朝潮にははっきりとわからない。

 顔と艤装の輪郭だけが、弱い星明かりに照らし出されている。


大和 「荒潮さん、残念でしたね」

朝潮 「・・・」

大和 「大和も親しかった武蔵が轟沈したから気持ちがわかります」

大和 「仲・・・良かったんですよね?」

朝潮 「・・・はい」

大和 「・・・聞くまでもないですよね、ごめんなさい」

朝潮 「いいえ、それより・・・」

朝潮 「私の部屋で仰っていた、ここでしか話せないこととは何でしょうか?」


 湿気を孕んだ冷たい風が二人を削るように吹く。

 ビリビリと体を揺するほど砲撃音がする訓練所のすぐ近くとは言え、

 季節的に長居するような場所でもなく、この時間に人が来ることのない場所だった。



大和 「命令違反の件、全て提督に聞きました」


 大和の言葉が朝潮の心臓を鷲掴みにする。


朝潮 「!・・・」

朝潮 (脅すつもりなの・・・?)


 朝潮は身構える。

 朝潮は大和との接点が少ない。

 荒潮の第一艦隊除隊のお願いで助太刀してくれたこと以外にはほぼなかった。

 辛うじて大和に付いて知っていることは、

 霞と大潮から聞いた大和と加賀が提督を取り合っているということだけだった。


朝潮 (この人は提督側の・・・)

朝潮 (知っていてもおかしくない・・・)


 吐き出すように真意を尋ねる。


朝潮 「仰りたいのはっ・・・命令違反に付いてでしょうか?」

大和 「落ち着いて・・・朝潮さん」

大和 「命令違反を咎めるためとかで呼んだ訳ではないの」


 心なしか強めの発言となってしまった朝潮に対し、

 大和は優しい言葉使いと両手を振ることで害意がないと伝える。

 朝潮はそれを理解し、提督にするように大和へ警戒を抱いていたことを恥じた。



朝潮 「すいません、作戦の責任で猛省するべきなのは私なのに・・・」

朝潮 「こんな失礼な言い方を・・・」

大和 「気にしないでください」

大和 「朝潮さんが不安なのも痛いほどわかりますから・・・」

大和 「いつ命令違反が露呈するか心配なのでしょう?」

朝潮 「・・・」

大和 「ごめんなさい、言えないですよね」

大和 「怖がらせたくて言ったんじゃないんです、それに安心して下さい」

大和 「提督が告発することはありえませんから」

朝潮 「?」

大和 「信じられないってリアクションですね」

朝潮 「はい・・・」

大和 「命令違反が露呈したら提督にとって損なんです」

大和 「命令違反を部下に当たる艦娘が起こすなんて・・・」

大和 「上に向かって私は指揮能力がありませんと大声で言うようなものなんですから」

大和 「あのプライドの高い提督がわざわざ自身が不利になる告発なんてすると思いますか?」

朝潮 「・・・思いません」

大和 「そうでしょ?」

大和 「少しは安心できましたか?」

朝潮 「はい・・・ありがとうございます」


 闇の向こうで優しく微笑んでいるであろう大和に朝潮は心を開きかける。

 荒潮の死は慰められても、命令違反の責任を慰めてくれる人はいなかった。

 自身の責任なので慰められるものでないと心で分かっていても、

 朝潮は一人で抱えていた心の傷が少し軽くなるのを感じていた。



朝潮 「このことで私を・・・?」

大和 「それもあります、けど・・・」

朝潮 「けど?」

大和 「本題は別です」

朝潮 「ここ・・・でないと言い難いことなのでしょうか?」

大和 「寮の一室ですと誰に聞かれているかわかりません」

大和 「万が一朝潮さんがそれで困るようなことがあれば大和も悲しいです」

朝潮 「ありがとうございます」

朝潮 「・・・では、お話しになりたいこととは一体?」

大和 「最終戦闘の終盤・・・」

大和 「加賀さんが制空権を放棄して、荒潮さんを助けに行ったそうですね」

大和 「そして・・・荒潮さんはタ級に殺された」

朝潮 「はい・・・」


 フラッシュバックのような一瞬のものではない、

 隙があれば壊れたビデオデッキのようにあのシーンが朝潮の脳内で繰り返し再生されていた。

 悲しみや怒りの感情だけじゃない、浴びた血の感触まで鮮明に思い出せた。


朝潮 「戦闘報告書は鎮守府の全員に公開されています」

朝潮 「御存知の通り、報告書の命令系統は虚偽のものです」

朝潮 「しかし、戦闘行動は間違いなく全て本当です」

朝潮 「確認すべきようなおかしい点でもあるのでしょうか」

大和 「・・・あります」

大和 「今日はそのことで呼んだんです」

朝潮 「はぁ・・・」

大和 「落ち着いて聞いて下さい」

大和 「荒潮さんを殺したのは・・・タ級ではなく加賀さんです」

朝潮 「はい?」


 訳がわからない。



大和 「訳がわかりませんか?」


 頭から血がスッと引いていく感じがする。


大和 「正確には加賀さんが・・・荒潮さんを意図的に見殺しにしたということです」

朝潮 「確かに荒潮は最終戦闘のタ級から最後の砲撃を受ける前に・・・」

朝潮 (轟沈寸前だったけれど)


 知覚のことを話すなと言う提督の言葉が頭をよぎり、朝潮は言葉を引っ込める。


大和 「朝潮さん?」

朝潮 「すいません。何でもありません」

大和 「朝潮さん・・・大和が聞いたのは命令違反だけではありません」

大和 「当然・・・知覚のことも提督から聞いています」

大和 「今、言いかけたのはそのことではありませんか?」

朝潮 「え・・・」

大和 「図星のようですね」

大和 「もしかして、あなたも薄っすらと・・・」

大和 「荒潮さんが最終戦闘開始時点で大破していたのに気付いていたのではないですか?」

朝潮 「?!!」

大和 「その反応ですと・・・心当たりはあるようですね?」

大和 「覚醒前で荒潮さんの大破に確信まで持てなかったのでしょう?」

大和 「なので朝潮さんは仕方ないでしょう」

大和 「けれど・・・加賀さんはどうかしらね?」


朝潮 「加賀さん?」

大和 「そう・・・あなたより早く知覚に覚醒して使いこなしている加賀さん」

朝潮 「加賀さん?・・・・」

朝潮 「え・・・まさか・・・」

大和 「想像の通りよ」

朝潮 「加賀さんは気付いていた?!荒潮の大破に????」

大和 「当然ですよねぇ」

大和 「覚醒前の朝潮さんでも薄っすら気付くのに加賀さんが気付かない訳がないですよね」

朝潮 「な、何で・・・」

朝潮 「加賀さんが大破進軍を?意図的に?」

朝潮 「ありえません・・・加賀さんは命懸けで荒潮を守っていました」

大和 「加賀さんは提督と艦隊を守るために演技をしただけですよ」

大和 「あなたに指揮作戦艇を守らせるためにそうしたに過ぎません」

朝潮 「確かに・・・それは提督にも同じことを言われました」

大和 「そうでしょう? その目的のために命懸けの振りをしただけです」

大和 「そして怪我をしない内に切り上げようとした」

朝潮 「あれが・・・演技?」

大和 「まんまと騙されていたようですね・・・」


大和 「考えてもみて下さい」

大和 「加賀さんの大破要因は何でしたか?」

朝潮 「タ級の砲撃に当たり、体勢を崩されてヲ級の攻撃を

大和 「不自然とは思いませんでしたか!?」

大和 「報告書の通りなら、かすっただけで四肢を吹き飛ばすような猛火の中で・・・」

大和 「それまで全弾避けられていたのに急に被弾したことに!!!」

大和 「しかも!!被弾した攻撃では体勢を崩しただけです」

大和 「まるで・・・」

大和 「タ級の弱い砲弾を選んでわざと当たりに行ったかのようだとは思いませんか?」

朝潮 「荒潮を守る演技を切り上げるために、意図的に被弾した?」

大和 「そうです」

朝潮 「荒潮が大破しているのがわかっていて?」

大和 「そうです」


 頭がくらくらする。息苦しい。

 底なし沼に体を保ったままずぶずぶと沈んでいくような感覚。

 大和の背後に暗闇は果てしなく続いている。


朝潮 「冗談なら・・・止めて下さい・・・」

大和 「・・・」

朝潮 「そうだ・・・私の知覚は提督に否定されているんです」

朝潮 「だから、私が戦闘開始から荒潮が大破していたかもと思うのは間違っていたんです」

大和 「あなたの知覚は・・・紛れも無く本物です」


 朝潮の頭はあれほど信じたかった知覚の存在を拒否している。

 何か触れてはならないものに触れてしまう、全身が最終戦闘の時と違うアラームを発していた。



朝潮 「そんなわけない!!!提督が!!」

大和 「その提督が否定したのも・・・加賀さんの差し金だとしたら?」

朝潮 「!!!」

朝潮 「・・・加賀さんにそれをする意味があると思えません」

大和 「大破進軍をするとどういうメリットがあるか朝潮さんはご存知ですか?」

朝潮 「大破進軍???」

大和 「そうです、答えて下さい」

大和 「加賀さんの意図的な大破進軍、この真相を知るのに重要な質問です」

朝潮 「海域突破率やボス到達率の上昇・・・ですか」

大和 「その通り、秘書艦として戦果を稼ぎ出世するには重要です」

朝潮 「まさか・・・」

大和 「加賀さんは戦闘マシーンと言われるほど職務に真面目です」

大和 「それは私も認めていますけど、この頃は行き過ぎなんです」

大和 「朝潮さんが言ったようなメリットを求めて大破進軍をするようになってしまいました」

大和 「戦闘マシーンだからこそ・・・弱いものを省みることができないからかもしれません」

大和 「加賀さんには朝潮さんや荒潮さんのような大破し易い駆逐艦は・・・」

大和 「足手まといでしかないんでしょうね、悲しいことに」

朝潮 「加賀さんがそういうことを考えていも、不可能です」

朝潮 「提督も・・・私も・・・荒潮の制服の損傷は確認したんです」

朝潮 「間違いなく中破でした」

大和 「制服の損傷はそうでしょうね・・・」

朝潮 (制服の損傷は?・・・)


大和 「信じられない、信じたくない気持ちはわかります」

大和 「ですけど、中破と誤認させる方法なんていくらでもありますよ」

朝潮 「はぁ?!」

大和 「あなたは深夜に立ち入り禁止の執務室にいる加賀に会ったことがありますね」

朝潮 「何で知っているんですか?!」

大和 「それは今どうでもいいことです」

大和 「あの時、加賀さんは大破進軍する準備をしていたんですよ」

大和 「そう、入れ替えていたんですよ」

大和 「損傷表の写真をね」

朝潮 「!!!!!」


 激高した朝潮が殴り込み逆に叩きのめされた執務室。

 加賀が書類を漁っていたのを朝潮は見ていた。


朝潮 「加賀さんが?・・・本当に?」

朝潮 「そんな・・・」


 緊張による発汗が顔を叩く海風で更に冷やされちりちりと顔が痛い。

 風の圧力が、痛みが、加賀に床へ叩き伏せられたあの日の絶望的な感覚を蘇らせる。



大和 「今なら朝潮さんの知覚を加賀さんが提督に否定させた理由がわかるでしょう?」

朝潮 「損傷度を隠すためですか・・・」

大和 「そうです」

大和 「加賀さんは損傷度が制服以外でわかると都合が悪いんです」

大和 「提督が損傷確認に利用する損傷表に記録される写真は大破直前のみ」

大和 「だから大破進軍を防ぐことができます・・・普通なら」

大和 「その写真を入れ替えているんですからね」

大和 「大破でも轟沈寸前の酷い損傷度の写真のものと」

朝潮 「そんな損傷表で確認を行えば・・・」

大和 「提督でも誰でも大破していないと誤認して進軍をしてしまうでしょうね」

朝潮 「では、加賀さんが否定させるということは、私の知覚は・・・」

大和 「本物です」

大和 「思えば加賀さんは朝潮さんが覚醒することもわかっていたんじゃないでしょうか」

大和 「加賀の艤装と同調させることで朝潮さん自身の艤装との同調を下げる」

大和 「証拠を残さず殺すためとは言え、こんな危険なこと普通ならさせません」

朝潮 (あの強力な加賀が殺そうとしていた?私を?)


 大和が軽く話すほど事態は甘くないと朝潮が一番わかっていた。

 朝潮と加賀はあの夜に格付けが済んでいる。

 寒さからでない震えがした。


朝潮 (この会話が加賀に知られたらただで済むわけがないっ・・・)


 周囲を見渡して確認し、大和に少し近付き声を落とす。



朝潮 「・・・大和さん!!!」

朝潮 「もう憲兵か海軍上部に通報はしているんですか?!」

大和 「していません」

朝潮 「何でですか?!」

大和 「残念ながら加賀さんを通報するには証拠が足りないんです」

朝潮 「荒潮を殺したんですよ?」

大和 「加賀さんが知覚に付いてしらばっくれれば終わりですよ」

大和 「通報しても証拠不十分で不起訴か・・・」

大和 「下手をすれば無実の提督や他の艦娘になすりつけてくる可能性さえあります」

朝潮 「どうすればいいんですか・・・」

大和 「いい案があるんです」

大和 「加賀さんを・・・こらしめる」

朝潮 「本当ですか?!」

大和 「模擬演習のことはご存知ですか」


朝潮 「聞いています、明日大和さんと加賀さんが行うと・・・」

大和 「知っているのなら話が早いです」

大和 「第一艦隊の朝潮さんは一番近い指揮作戦艇から見学ができるはずです」

朝潮 「それも聞いています」

大和 「大和の攻撃に合わせて朝潮さん・・・加賀さんの艤装との同調に干渉してください」

朝潮 「干渉?どうしてですか?」

大和 「ピンと来ませんでしたか」

大和 「同じ艦の艤装が一つの艦隊に入ることができない理由は知っていますね」

朝潮 「あ・・・」


 同じ艦の同調はお互いに干渉してしまうため、

 一つの艦隊にいれば二人共艤装と同調できなくなる。

 なので、例えば加賀と加賀を同じ艦隊に組むようなことはできなかった。


朝潮 「加賀さんの同調に干渉して艤装との同調を妨害するんですか?」

大和 「そういうことです」

大和 「加賀さんはあなたを殺すために自身の艤装に朝潮さんを同調させたんでしょうけど」

大和 「自身がそれで危機に陥るなんてとんだ誤算でしょうね」フフ

大和 「明日の加賀さんの反応が楽しみです」


朝潮 「殺す・・・ことになりませんか?」

大和 「殺すなんて野蛮なことをする積もりはありません」

大和 「傷めつけるだけでいいんです、後はもうしないように脅すだけです」

朝潮 「しかし、加賀さんの同調が下がるどころかなくなれば・・・」

大和 「死ぬことだってありますね」

大和 「けれど、仕方ないと思いませんか?」

大和 「加賀さんは荒潮さんを殺したんですよ?」

大和 「それに、加賀さんはあなたをも殺そうとしていたのですよ?」

朝潮 「そっ・・・それは」

大和 「それに何よりこれは朝潮さんのために言っているんです」

大和 「・・・知覚が覚醒した今、もっと露骨に加賀さんは朝潮さんを殺そうとしてくるでしょう」

大和 「止めるにはこうするしかないと思いませんか?」

大和 「当然やってくれますよね?」

朝潮 (加賀さんを殺す???)

朝潮 「・・・」

大和 「朝潮さんどうするんですか?」


 パチ・・・パチパチ・・・パチパチパチ


 朝潮の背後の暗闇から拍手が聞こえてきた。



―――――
―――


大和 「誰!?」


 朝潮も振り返るが訓練所までの暗闇に潜んでいるであろう存在が掴めない。

 暗闇から拍手だけが続く。


大和 「朝潮さん、誰かわかりますか?」

朝潮 「えっ・・・何で私に聞くんでしょうか?」

大和 「わからないんですか?!」

朝潮 「はいっ」

大和 「提督ですか!!」


 訓練所の砲撃音を背に暗闇から人型が現れた。

 ただ存在だけわかる程度にそこにあり、未だ暗闇に溶けている。


加賀 「名演技だったわよ、大和さん」パチパチパチ

加賀 「艦娘を止めても食べていけそうなくらいにはね」パチパチ

朝潮 「加賀ッ・・・!」


 声のする方へ振り向いた朝潮の艤装を大和ががっしりと掴む。

 背負い紐はがっちりと固定され身構えて前傾姿勢になろうとした朝潮を抑えた。

 朝潮は不満を表すかのように大和へ振り向く。


大和 「待ちなさい」

朝潮 「どうしてですか?!」

加賀 「何にでもキャンキャン吠えて・・・まるで臆病な小型犬のようね」

加賀 「強がるならその震えを止めてからにしたら?」

朝潮 「五月蝿いっ!!!荒潮を返して!!!」

加賀 「ふふ、飼い犬はしっかりと躾をしてくれる?大和さん」

朝潮 「大和さんっ!!!離してっ!!!」

加賀 「そりゃ止めるわよねぇ」

朝潮 「今なら!!」

加賀 「朝潮に同調を干渉させないと私に勝てる道理がないものね」

加賀 「前回の模擬演習で手も足も出ず大破轟沈判定を出されたんですから・・・」

加賀 「今朝潮を失えば致命的よね」

加賀 「命綱は離しちゃ駄目よねぇ」フフ

朝潮 「・・・」

加賀 「それにしても、あれだけこてんぱんにしたのに模擬演習をしたいと言うから」

加賀 「どんな奥の手があるのかと思ったら・・・ふッふふふ」

加賀 「他力本願とはね、演技もそうだけど芸人の素質もあるわね」


大和 ギリッ「・・・どういうつもりですか?」

加賀 「どういうつもり?」

加賀 「そうね・・・大和さん、あなたと二人だけで話をしたいの」

加賀 「まずは朝潮を下げなさい」

大和 「命綱を離せ・・・と?」

加賀 「朝潮が感知しなかったことでわかるでしょう?」

加賀 「私は今艤装と同調していないの」

朝潮 (そういうこと・・・)


 大和が朝潮に拍手した存在の名前を聞いた理由に気付く。

 そして、加賀が朝潮の知覚を認めていることも。


大和 「それでも、艤装を持っていないとは限らないですよね」

加賀 「隠しても仕方がないから言うけど艤装は持っているわ」

加賀 「けれど・・・ご存知の通り空母は夜間戦闘能力が乏しいの」

加賀 「弓で射抜くことはできるけど、それなら砲撃できるあなたと対等でしょう?」

大和 「・・・」

加賀 「改めて言うわ」

加賀 「朝潮を下げて・・・・対等に二人だけで話がしたいわ」

大和 「朝潮さん下がってくれますか?」

朝潮 「しかし、今なら!!」

大和 「下がってください」

朝潮 「っ・・・」



 気圧される。

 鎮守府トップ2が殺気をぶつけ合う狭間で

 朝潮は自身の存在がちっぽけなのを否応なく痛感させられていた。

 朝潮の足は手で抑えても小刻みに震えていた。


朝潮 「わかり・・・ました」

大和 「ごめんなさいね」

大和 「しっかり加賀さんとは話をつけますから」


 大和が朝潮の艤装を離す。

 朝潮はぎこちない足取りでゆっくり歩を寮の方へ進める。

 暗闇から加賀に言葉をぶつけられる。


加賀 「上官の命令はすぐ聞きなさい」


 怯える体と怒る心で朝潮は壊れそうになっていた。

 朝潮の足音が遠ざかるのを確認して加賀が大和へ口を開いた。



―――――
―――

本日分投下終了です。
ご読了ありがとうございました。

お待たせし申し訳ありません
投下再開します




加賀 「話をつける・・・ね」


 深夜に向け気温は落ちる。

 僅かな星明かりも薄まり、加賀の人型は再びすっかり闇に溶け込んでいた。


大和 「単刀直入に言いましょう」

大和 「明日の模擬演習、負けてください」

加賀 「言うことを聞かなければ?」

大和 「聞こえていたんでしょう?」

大和 「・・・不幸な事故が起きるだけですよ」

加賀 「私を殺すんでしたっけ?」

大和 「・・・そうなるかもしれません」

加賀 「負けたら事故が起こらない保証は?」

大和 「信じてもらうしかありません」

加賀 「ふっ・・・何それ、信じられると思うの?」

大和 「加賀さんに決定権はないんですよ」

加賀 「そうかもしれないわね」

加賀 「でも・・・負けるだけで良いの?」

加賀 「違うわよね」

大和 「・・・」

加賀 「正義として、フフ・・・私をこらしめる?裁く?・・・積もりなんでしょ」

加賀 「どうせなら今から私に説教してみる?」

大和 「何のことか・・・大和はただ勝ちたいだけですよ」

加賀 「なーんで、とぼけるのかしらね・・・」

加賀 「聞かれたら不味いことでも、朝潮に話していたのかしら?」



大和 「・・・」ハァ

大和 「・・・どこから聞いてらしたんですか?」

加賀 「・・・全部、ね」

大和 「全部?」

加賀 「あなたが朝潮の部屋へ、彼女を呼びに行ったところから」

大和 「はぁ?」

加賀 「ここにあなたと朝潮の会話の全てを録音したデータもあるわ」

大和 「・・・」

加賀 「不味いことがわかっているから・・・朝潮に話していた内容を私に伏せていたのでしょう?」

大和 「何を仰ってるのかわかりませんね・・・」

加賀 「私でも気付いたのよ」

加賀 「録音データを提督に聞かせたらどうなるかしらね・・・」

大和 「加賀さんが悪趣味な盗聴女ということがわかるだけではないですか?」

加賀 「・・・お互い様よねぇ」

加賀 「私は朝潮に・・・けど、大和さんは執務室に盗聴器をしかけているんでしょう?」

大和 「いい加減なことを言わないでもらえますか?」

大和 「執務室を盗聴なんて、加賀さんの命令違反ほどじゃなくても軍事裁判ものですよ」

加賀 「明らかなことをとぼけてもね、追求する相手を逆なでするだけよ」

大和 「証拠がないのに明らか?・・・加賀さん日本語は大丈夫ですか?」

加賀 「大和さん、まだ・・・「朝潮を呼ぶ時まだ加賀は提督と話していたのに不可能よ」・・・とか」

加賀 「そう思ってる?」

大和 「・・・」



加賀 「朝潮が提督を殺そうと執務室に乗り込んだ夜・・・」

加賀 「あの夜から朝潮を監視する必要を感じていたわ」

大和 「はぁ?」

加賀 「私の提督のために・・・」

大和 「・・・」ギリ

加賀 「朝潮に、脱走されたり、レイプされたと通報されれば、証拠はなくても提督の評判が落ちるもの」

加賀 「だから内線をかければ良い呼び出し如きで朝潮と荒潮の部屋を尋ね・・・」

加賀 「その時、勧められた椅子に盗聴器を仕掛けていたのよ」

加賀 「まさかそれが、こんな場面で役に立つなんて私も驚いているのよ」フフ

大和 「心底気味の悪い自白ですね」

大和 「大和でなく憲兵にでもしてもらえませんか」

加賀 「提督には、”朝潮が暴走しないよう手を打つ”と執務室で言ったのだけど・・・」

大和 「先ほどから大和が知っている前提でお話ししているようですけど・・・」

大和 「何度も言ってます通り、執務室の盗聴なんてしていませんので何もわかりませんよ」

加賀 「なら、朝潮に話した話していた内容は?」

加賀 「提督と私しか知らない会話の内容をどうやって知ったというの?」

大和 「提督に聞いたとか、色々方法はあるでしょう・・・」

加賀 「それは不可能ね、命令違反の密告者探しで提督も私も忙しかったから」

大和 「・・・今回はたまたま提督と加賀さんが執務室で話しているのを、ドア越しに聞いただけです」

大和 「加賀さんが、暗闇から大和と朝潮さんの会話を盗み聞きしたように、です」

加賀 「執務室のドアは艤装を付けたまま入れるように大きいけどね」

加賀 「防諜のために一般的なドアより数倍厚くて多少の音は通さないわ」

加賀 「ドアのノックや提督が致す時のように大きな振動や大声なら話は別だけどね」

加賀 「ドア越しに会話を聞いた?・・・普通の会話の盗み聞きなんてまず不可能よ」

加賀 「これからも嘘を付いて行く積もりなら最低限できるかを試した方がいいわよ」



大和 「・・・何時からですか」

加賀 「はぁ?」

大和 「何時から執務室の盗聴に気付いていたんですか」

加賀 「随分と素直ね」

大和 「・・・」

加賀 「私が気付いたのは、朝潮が荒潮の第一艦隊除隊を頼んできた時に都合よくあなたが現れた時からかしら」

大和 「・・・そうですか」

大和 「でしたら、大和や朝潮さんを殺すよう提督に提案していたのは、大和を釣るためだったんですか?」

加賀 「・・・さぁ?」

大和 「はぁ?」

加賀 「そんなことどうでもいいけれど、役に立ったでしょ?」

大和 「・・・随分急ごしらえに感じますけど、本当に録音できているんですか?」

加賀 「ご心配どうも」

加賀 「朝潮の部屋に仕掛けた盗聴器と同じものを、入渠していた朝潮の艤装に仕掛けるだけ」

加賀 「砲撃音に負けないように馬鹿みたいに大声で話していたから、音質も問題ないわ」

加賀 「ところで大和さん、自身がどういう状況にいるかわかっているの?」

加賀 「余裕そうだけど」

大和 「当然でしょう?、未だ大和の方が有利なのですから」

加賀 「有利・・・有利ねぇ・・・」

大和 「おわかりでないんですか?」

大和 「大和が執務室を盗聴していたことを自白した意味を・・・」

大和 「こちらにも加賀さんが命令違反をした確たる証拠があるということです」

大和 「命令違反という重罪を犯した加賀さん・・・それに対し執務室の盗聴をした大和」

大和 「罪の重さも交渉の材料においても大和が勝っていることは、火を見るより明らかです」

加賀 「ふふ、交渉に置いて、要求や条件を出せるのは、有利な立場にある者だけど、まぁ・・・」

加賀 「大和さんにも、交渉しているという意識はあったのね、驚いたわ」



大和 「どういう意味ですか」

加賀 「大和さんはご自慢の証拠に価値があると本当に思っているの?」

加賀 「私と艦隊の命令違反を上や憲兵に訴えたとして提督が認めると?」

加賀 「大和さんが朝潮に言っていたのと同様に、提督が保身のため揉み消すのがオチだとわからないの?」

大和 「もう揚げ足を取ることしかできませんか?」

大和 「それにもみ消しは加賀さんの盗聴についても言えますよね」

加賀 「そうね」

大和 「なら・・・

加賀 「出撃が減って、頭でも錆びついているの?」

加賀 「私が言いたいのは、お互いの情報自体には価値がないということよ」

大和 「はぁ?・・・交渉だなんだと偉そうに仰っておいて何が仰りたいんですか」

加賀 「わかりやすく説明してあげるわ」

加賀 「私の情報は、提督に聞かせて、初めて価値が出るということよ」

大和 「最初に加賀さんが「録音を聞いて提督が気付くことがある」と言っていたことですか?」

大和 「そんなの恥ずかしながら、大和が嫉妬で盗聴していたと思われておしまいですよ」

加賀 「恐竜並の脳みそしかないと思っていたけど、記憶力だけは良いのね」

大和 「加賀さん、立場を弁えずに吠えても痛々しいだけですよ」

加賀 「そういえば、今日の命令違反を密告した人間がいることはご存知よね?」



大和 「・・・」

加賀 「今更隠す必要もないじゃない?」

加賀 「提督と私で密告者を探そうとしていたことまでは知っているわね?」

加賀 「結果として、密告者は出撃艦隊の艦娘にはいなかった」

大和 「どうしてそう判断したんですか」

加賀 「本当に命令違反を密告していた艦娘がいたら、すぐに鎮守府から逃走しているもの」

加賀 「提督と私で探したと言っても、彼女たちを呼んで所在を確認するだけの簡単な作業だったわ」

大和 「何で密告していたら鎮守府にいないと言い切れるんですか」

加賀 「密告した裏切り者がいるとわかれば、出撃艦隊の他の娘が放っておくと思う?」

加賀 「自身の命が懸かっているのよ・・・聖人君子だって、その手を汚すわ」

加賀 「こういう時、口止めに艤装で木っ端微塵にして海に流すくらいはよくある話よ」

加賀 「だから密告者は安全のため、鎮守府から身を隠すよう憲兵から指導されたり、保護される筈なのよ」

加賀 「それもなかった」

加賀 「出撃艦隊に犯人がいないことを示す、これ以上に有用な証拠があるかしら」

大和 「ないかもしれませんね」

加賀 「さて・・・じゃあ、出撃艦隊以外の誰が密告したのかしらねぇ?」

大和 「・・・さぁ、大和にわかるわけないじゃないですか」

加賀 「わからない?嘘も大概にして欲しいものね」

加賀 「出撃艦隊以外の艦娘で、命令違反を唯一知っているのは、執務室を盗聴していた大和さんだけなのよ」

大和 「・・・」

加賀 「あなただったのね・・・密告した裏切り者は・・・」



―――――
―――




大和 「断定的な物言いですね、証拠もないのに」

加賀 「証拠なんていると思っているの?」

加賀 「お利口にも、軍法・軍規違反を交渉材料として用意したあなたを見てて思っていたけど・・・」

加賀 「ほんっと・・・ずれてるわね、大和さん」

大和 「軍の統制を軽視した危険思想ですよ、訂正してください」

加賀 「別に良い子ぶることないでしょう、ここには私とあなたしかいないのだから」

加賀 「あなたも軍法や証拠なんかに意味がないことはわかっている筈よ、この鎮守府において」

大和 「・・・」

加賀 「この鎮守府唯一にして絶対の権力は、大本営とか軍上層部とか憲兵とか軍法とか・・・そんなものじゃないでしょ」

大和 「提督ですか・・・」

加賀 「そう、提督が全てよ」

加賀 「提督を動かせない交渉材料しか用意できない時点で、大和さんは負けていたのよ」

加賀 「さて・・・私の録音データを聞いた提督は大和さんをどうするかしらねぇ・・・」

大和 「提督に渡す積もりですか・・・」

加賀 「止めて欲しい?」

大和 「・・・」

加賀 「外に出してない積もりでしょうけど動揺しているようね」

加賀 「艤装との同調が不安定になってるわよ」

加賀 「ほら・・・」

大和 「?」



 ビンッと聞き慣れない音に続いてめりと肉が軋む音が、訓練所の砲声の中で微かに響いた。


大和 「あ゛」


 大和の制服から露出した太ももを、細い線が貫いている。


加賀 「ただの矢が簡単に刺さる」

大和 「あ゛、あ゛あ゛あ゛っ」

加賀 「体は正直ね」

大和 「いたぁっ・・・」

加賀 「一々五月蝿いわね、返しもない弓道用の普通の矢よ」

大和 「ふ、普通の矢??そんな・・・」


 大和は自身に刺さった矢を手で抑えつつかがみ、闇を上目で睨む。


加賀 「感情が同調に出やすい砲艦というのが災いしたわね」

加賀 「防御壁が一瞬途切れていたわよ?」

大和 「な・・・」

加賀 「あなたが密告者ということは、今ので確信に変わったわ」

大和 「ぅ・・・確認のためだけに矢を?」


 大和は、矢に手をかける。


加賀 「あぁ、抜かないで」

加賀 「抜こうとしたら、また射るわよ」

大和 「はぁ?!」

加賀 「この暗闇で制服と急所を避けて撃つのは難しいから大人しくして欲しいわね」

大和 「痛ぅっ、加賀さんっ、あなた頭がおかしいんじゃないですか・・・」

加賀 「私を殺そうとしていたあなたがそれを言うの?」フフ

大和 「っ・・・」

加賀 「それに、吹けば飛ぶような命の軽い鎮守府で、足の一本二本が何よ」

加賀 「艦娘だから、傷はすぐ癒えるし、痛みもそこまで感じないでしょう」



大和 「・・・一体何が目的ですか?」

加賀 「いくつかの質問に答えてほしいのよ」

加賀 「肉が締まって艦娘でも悶絶するほど矢を抜くのが痛くなる前にね」

大和 「っ・・・拷問のつもりですか」

加賀 「あなたが答えないと言ったら、そうなるわね」

大和 「何が・・・聞きたいんですか?」

加賀 「何で密告なんてしたの?」

大和 「明日の舟遊びを、中止してもらう・・・ためにです」

加賀 「ふーん」

加賀 「憲兵の調査が入れば中止せざるを得ないし、そうでなくても提督が止めると思った?」

大和 「そうです」

加賀 「あなたなりに提督を動かそうとしたようね」

加賀 「けど、残念ね」

加賀 「憲兵にはいたずらと思われたんでしょうね」

加賀 「上官に問い合わせるだけの杜撰な捜査、いえ確認だけで片付けられてるわよ」

加賀 「提督もそれがわかってるから、明日の舟遊びはやると言ってるわ」

加賀 「私は念を入れてやらないよう進言したのだけど」

大和 「あなたが秘書艦に代わるまで、何でも・・・提督のためにしてあげていたんです」

大和 「それなのにないがしろにされて・・・大和と提督の最後の繋がりである舟遊びまで奪われたら」

加賀 「何でもしてた・・・ねぇ」

大和 「大和の燃費が悪いから、そう多く出撃できないのはわかります」

大和 「けれど、艦隊最強で提督の最愛は大和であるべきなんです」

大和 「大和に相性が良くて勝ったくらいで尊大な加賀さんが嫌いでした」



加賀 「私が好かれたいとか考えているように見える」

大和 「・・・どうでもいいんでしょうね」

大和 「そういう人を見下した態度も全部・・・」

大和 「あなたでは提督は幸せにできません」

大和 「加賀さんが好きなのは地方長官候補というブランドや、提督の地位や名声でしょう?」

加賀 「正解・・・」

大和 「そうですよね」

大和 「大和なら関係ありません!!提督を、提督の全てを愛することができます」

加賀 「馬鹿ねぇ・・・」

加賀 「私がそうであるように・・・提督も同じように地位と名声を欲していた」

加賀 「結果として、強い私を選んだだけ・・・提督に近いのは大和さんより私だったということよ」

加賀 「それにしても、私をハメようと思ったのでしょうけど、とんだ墓穴を掘ったものね」

加賀 「地位と名声を求める提督が、密告の犯人を許さないことは大和さんにもわかっていたでしょう?」

大和 「っ・・・」

加賀 「あなたの愛は実際のところ、自分に都合の良い自分だけの提督が欲しいだけ・・・」

大和 「ちがっ・・・」

加賀 「想像以上に初心ね、提督が初めてだったの?」

大和 「・・・違います!!!」

加賀 「まぁ、どうでもいいわ・・・」

加賀 「次の質問、大和さんがしてた執務室盗聴の目的は何?」

加賀 「提督か私の弱みを握るために?・・・それとも、提督に処分されるのを恐れたの?」

大和 「処分?・・・大和を提督が?、ありえません」

加賀 「・・・」

大和 「あなたの弱みを握るためです」

大和 「わかりきっていますよね、大和と朝潮さんとの会話で」

加賀 「・・・そう」



加賀 「次、全ての轟沈は、私が大破進軍をさせたせいだ・・・と、本当に思ってる?」

大和 「・・・」

加賀 「答えなさい!」


 弓を張る音と弾く音と矢が走る音が混ざり異様な音を一瞬に立る。

 闇から伸び出た矢は大和に避ける暇を与えず飛び、一本目と違う大和の足がまためりと悲鳴を上げる。

 大和は刺さった矢が体内で動く痛みを抑えるのに、立った姿勢を崩さず顔を伏せた。


加賀 「さすが”元”筆頭秘書艦・・・二本目は情けない声を上げないのね」

大和 「あなた・・・本当に・・・」


 その時、大和は矢の飛んできた方向、加賀のいる方向におもむろに手をあげる。

 闇を背景に蠢く大和の艤装主砲達が、その手の動きに確かに連動していた。

 吹き上げるような戦艦特有の同調の高まりが、質量を持っているかのように加賀を押した。


加賀 「!」


 その時、闇を介し睨み合う二人と離れた場所から、ガンと無機物がぶつかる音が響く。


大和 「誰ですか!!!」


 声は闇に吸われて消える。

 大和も加賀も音の発生源へ視線が吸い寄せられる。


加賀 「同調も感じないし、風でゴミが転がっただけでしょう」

大和 「そうですか・・・」


 加賀が気付いた時には、大和の同調の高まりは嘘のように消えていた。

 加賀は闇の中で位置を変えた。足音は砲声が消す。

 お互いの声は砲声に潰され平面的に聞こえ、その位置を正確には捉えることができなかった。


加賀 「怯えすぎて神経過敏なんじゃない?」

大和 「・・・そうかもしれません」



加賀 「私の知覚で周囲の艦娘の位置はわかるのよ、安心するといいわ」

加賀 「そんなことより答えなさい・・・全ての轟沈が私のせいだと思っているの?」

大和 「全ての轟沈までは・・・わかりません」

加賀 「歯切れが悪いわね、はっきり答えてくれない?」

大和 「轟沈は、海域の強力な深海棲艦によるものが殆どかと」

加賀 「はっきりと答えなさいと言ったわよね?」

大和 「轟沈したのが加賀さんのせいだと思ったのは、荒潮さんの轟沈した今日の出撃においてのみです」

大和 「他はわかりません」

大和 「これでいいですか」

加賀 「今日の出撃のみねぇ・・・」

加賀 「傍から聞いていたら、全ての轟沈が私のせいみたいな言い方になってたわよ」

加賀 「大和さんも酷なことをするのね」

加賀 「正義感の強い朝潮なら、なりふり構わず動くと思ったんでしょ」

大和 「違います」

大和 「轟沈自体は、大和が秘書艦の時から、加賀さんの赴任前からあるのですから・・・」

大和 「そんな勘違いを朝潮さんがするとは思えません」

加賀 「轟沈の話が基本タブーな鎮守府で、朝潮が、知ってると思った?」

加賀 「引っかかるけど、まぁ・・・いいわ」

加賀 「次・・・」

加賀 「私が損傷表を入れ替えたと本当に思うなら・・・」

加賀 「何で大和さんは損傷表を証拠として密告しなかったの?」

大和 「今の質問で確信に変わりました」

大和 「既に損傷表を、偽物から本物へ入れ替えているんでしょう?」

大和 「それに加賀さんがした証拠がないと、損傷表を管理する提督にも疑惑がかかって迷惑が・・・」

加賀 「私でなく提督が損傷表を入れ替えた可能性はないの?」

大和 「大和が秘書艦をしていた時に、提督はそんなことしていませんでしたから・・・」

加賀 「ふーん、そう」



加賀 「そういえば、損傷を誤認させる方法はいくらでもあると朝潮に言ってたわよね」

加賀 「例えば、制服に細工するという方法もあるわよね?」

大和 「制服の損傷を都合よく誤認させる方法があるとでも?」

加賀 「可能性の話よ」

大和 「・・・制服を管理する私を疑っているんですか?」

加賀 「さぁ・・・提督にも言ったけどね、今はどうでもいいのよ」

加賀 「話のついでに聞いただけ・・・」

加賀 「聞きたいことはもうないわ、矢を抜いても構わないわよ」

加賀 「見る限り肉が締まり切っちゃってるけど」

大和 「・・・」


 大和は両手を添えると少しためらった後に、緊張で震える手に力を加える。

 自身の体を傷付けないよう、体外へ真っ直ぐにゆっくりと引く。

 眉根に皺を寄せ呼気を荒げ白い息を吐き呻きながら、大和は矢を体から少しずつ抜いてゆく。

 体外へ出てゆく矢の表面は血で赤く染まり鈍く煌めく、最後に体外へ出た先端の鏃は血の糸を引いた。

 艦娘の治癒力で締まり切ってしまった肉にも関わらず、加賀の宣言通り出血は少なく、

 唯一の出血は、矢の刺さっていた傷から一条の涙のように皮膚を伝い黒いストッキングの縁を黒く染めるだけだった。

 大和は抜いた矢を折り海へ落とし、二本目へ移る。



大和 「はぁ・・・・はぁ・・・」

加賀 「喘いでいるようで絵になるわ」

大和 「人の苦しむ様を見てそんなに楽しいですか」

加賀 「愉快ねぇ、それが自分の嫌いな相手なら尚更・・・」

大和 「っ・・・」イラ

加賀 「私のいない方向に睨んでいる姿が実に滑稽ね」フフ

加賀 「最後に質問でなく、命令があるわ」

加賀 「これを守れば、暫くは録音データを提督に渡さないようにするわ」

大和 「・・・今後、大和が加賀さんの意に沿わないことをすれば、暴露するお積もりですか」

加賀 「言うまでもないことね、精々私を満足させるように踊ってね」

加賀 「そうそう、話を戻すけど・・・大和さん、明日の模擬演習を辞退してもらえる?」

大和 「・・・」

加賀 「・・・」

大和 「・・・訓練所の砲声で、少し聞こえませんでした」

大和 「できればでいいですけど・・・加賀さん、もう少し近付いてもらえませんか?」

加賀 「は?」

大和 「・・・両足が痺れて大和はまだ動けないんです」

加賀 「ふーん・・・無理ね」

大和 「・・・近付いた加賀さんを大和が攻撃するとでも?」

加賀 「するわね」

加賀 「あなたが本気で艤装を使って砲撃すれば、どうなるか・・・」

加賀 「艤装と同調していない私なんて塵一つも残さず消滅して、大和さんの秘密は守られる」

加賀 「多少残った悪い風評は、私を消した後に力で正当化していけば良い話よね」

加賀 「提督は私がいなくなれば、また大和さんを重用するのは明らかなんだから」



大和 「ご冗談を・・・そんなことをするわけありません」

加賀 「本当かしら?」

加賀 「提督のためなら、何でもてきるんでしょう?」

大和 「それは・・・そうですけど」

加賀 「二本目の矢が大和さんに刺さった時、私の位置を確かめるためわざと同調を解いたわよね?」

大和 「違います」

加賀 「そもそも密会場所を訓練所の裏にしたのも、砲声に紛れて攻撃ができるし、艤装を持っていても怪しまれないからでしょう?」

加賀 「やる気満々ね、邪魔者がいれば消すつもりだったんじゃないかしら?」

大和 「違います!!もっと常識的に考えてください」

大和 「加賀さんの後ろの訓練所に大穴があけば、訓練所にいる艦娘たちが押し寄せるんですよ?」

大和 「悔しいですけど、前回の模擬演習では大和が大敗してるんです」

大和 「"明日の模擬演習でも勝てないと思った大和が、加賀さんを闇討ちした"」

大和 「なんて駆けつけた艦娘たちに思われれば、大和の強者としてのブランドはお終いですよ」

加賀 「そうね・・・訓練所を背にする限り私は安全ね」

加賀 「なら朝潮は?」

加賀 「会話で最初に「海の向こうには~」なんてとぼけたことを言って海岸に誘導していたわね」

加賀 「もし、朝潮があなたを拒否したら・・・木っ端微塵にして海にまいて、処理する積もりだったんじゃないの?」

大和 「ありえません、妄想が過ぎるんじゃないですか?」

大和 「ご自身で知覚の精度は良くないと仰ってましたよね?・・・執務室で、提督に」

加賀 「そうね・・・けど、このままの距離で話をさせてもらうわ」

加賀 「慣れ合う関係でもないでしょ」

大和 「お好きになさってください・・・そこまで怪しまれるのは大和も気分が悪いですし」

加賀 「元々決定権は大和さんにないのよ」

大和 「・・・そうでしたね」

大和 「それだけ録音データで大和が言いなりになる自信がおありなら、負けろと言えば良いじゃないですか?」

大和 「何故はっきりとさせずに、大和に模擬演習を辞退させるのですか」



加賀 「何が聞こえにくいよ」

加賀 「聞こえてるじゃない?模擬演習を辞退するようにって私の言葉が」

大和 「明瞭に聞こえなかっただけですから・・・勘違いさせていましたか?」

加賀 「食えない女・・・」ボソ

大和 「何ですか?」

加賀 「何でもないわ、辞退してもらうのはあくまで念のためよ」

大和 「はぁ・・・わかりました」

大和 「他に命令はないんですか?」

加賀 「やけに従順ね、何が言いたいの?」

大和 「朝潮さんが勝手に暴れて、大和のせいにされて提督に秘密を暴露されても困るんで」

加賀 「大和さんが、朝潮に「加賀が荒潮さんを殺してなかった」と言ってくれるの?」

大和 「そうです」

加賀 「・・・好きにしたら?」

大和 「はぁ?」

加賀 「あなたの大破進軍の推理材料にした、私と提督の会話は本物よ」

加賀 「だから、私が荒潮を意図的に殺したというのは、実に筋が通ってるわ」

加賀 「今更否定したら逆に怪しい位にね」

加賀 「けど、私と同じ能力者の朝潮だけが気付くことがある」

大和 「?・・・どういうことですか」

加賀 「あなたにはわからないことでしょうね」

加賀 「そして、教える義理もないわ」

大和 「そうですか・・・」

加賀 「もう、何もなければ解散しましょう・・・じゃあね」


 加賀が気配を消した。

 大和も頭を整理するためか、少し海を眺めた後に時間を置いて歩き出した。

 最後に暗闇でごとりと音を立て、朝潮が艤装を持ち上げた。


 朝潮は、暗闇からこの会話を全て聞いていた。

 艤装を下ろし、同調を消し、完璧な・・・筈だった。

 大和の同調に当てられ、音を立ててしまうその時までは。

 静かにその場を去る朝潮の心は、破裂寸前の風船のように混乱で一杯になっていた。



―――――
―――


本日分投下終了です。
ご読了有難うございました。

重ね重ねとなりますが、予告を違え申し訳ありません。
書き直しに書き直しを重ねていたところ、際限がなくなり時間がかかっていました。
次はお盆前に一本投下できればと思っています。何卒今後とも宜しくお願い申し上げます。

このSSは俺にとっては設定も展開も悪趣味で好きになる要素など一つもない
だのに続きが気になって更新の度に見に来てしまうから困る(´・ω・`)

いいね、面白い


待っててよかった


朝潮ちゃああああああああああん

あと38年くらい見といたら確実に完結するかな

遅ればせながら保守お米の皆様有難うございます。

>>568
読んで頂けるだけで大感謝です。
お上品な文章を書けるよう精進してまいります。

>>569>>570>>572
お米励みになります、有難うございます。

>>571
朝潮ちゃああああああああん
エタってらっしゃいますね。私とどちらが先に終わりますかね。

>>573
お米有難うございます。今後も頑張ります。

最後に以前作った作品の宣伝を。
両方ラブストーリーで、片方は夏にぴったりなものなので。
今作と違い、今作の投下一回分8000文字前後の文量でさっくり読むことができるものとなっています。
尚、作品ごとの全て(鎮守府・提督・艦娘・世界観等)が全く別物となっていますので、ご注意を。

時雨 「西村艦隊はむらむら」
http://elephant.2chblog.jp/archives/52106640.html

提督「朧駕籠」
http://elephant.2chblog.jp/archives/52110528.html

投下再開します




 息の白さがはっきりわかる外灯の元でようやく人心地がつく。


 噴き出すような大和の同調の高鳴りに四肢を吹き飛ばされたような錯覚が全身に残る。

 朝潮は自身の両手両足をさするようにあらためた。


朝潮 (良かった・・・)


 艤装との同調を解除していた小さい体は冷え切っていた。

 かじかむ手をニギニギしつつ、深呼吸をすると朝潮は艤装と同調する。


 暗闇で背負い直したためか、艤装の肩紐は変によれていた。

 肩紐と制服の間に小さい親指をすべらせ、それを正しつつ考える。


朝潮 (艤装に付いた盗聴器で、私が盗み聞きしてたのはばれるかもしれない)

朝潮 (どうしよう・・・)

朝潮 (いっそ今、艤装に付いた盗聴器を壊す?・・・・・・)

朝潮 (そんなこと・・・盗み聞きしてたのを自白するようなものよね)ハァ


 闇に吸い込まれるように、ため息が風に流され消えていく。

 白い息を照らす外灯は、訓練所のものだった。


朝潮 (訓練所・・・)

朝潮 (さっきの埠頭と殆ど同じ音のする訓練所にいたということにすれば・・・)


 誤魔化せるかもしれない、淡い期待で朝潮は訓練所に入る。

 ドアを開けると、室内に充満した熱気と火薬の匂いが朝潮を出迎える。

 間近に感じる砲声による振動が、冷やした肌に心地いい。

 戦場にいるという異常な感覚は、今の朝潮を逆に冷静にさせた。


 朝潮は壁際に並べられた待機用の椅子に腰をおろす。

 吹き荒れる混乱は、朝潮の心の風車を音が鳴るほどかき回す。


朝潮 (・・・どうなっているの?)

朝潮 (味方だと思っていた大和さんは、提督を好きで・・・命令違反を密告してた)



 提督に裏切られた時の怒りや絶望がごちゃ混ぜになった感覚が朝潮に蘇る。

 命令違反をした艦娘の末路・・・、提督に言われた「死刑は確実だ」という言葉が頭で響く。

 朝潮は体を震わせる。


朝潮 (あんな親身になってくれていた人が密告して、私を・・・殺そうと・・・・・・)

朝潮 (いえ・・・命令違反未遂は事実。大和さんだって好きで通報したわけじゃ・・・)

朝潮 (いや、大和さんの行動は・・・いや、そんなわけ・・・)


 信じたくない気持ちから、朝潮は自身の善良な心根を大和へも投影していた。

 それが提督に裏切られていたにも関わらず。


朝潮 (そんなことより、荒潮の轟沈に真実はあるの・・・)

朝潮 (大和さんが私に話した情報は、執務室を盗聴して得たもので正しいのよね?)

朝潮 (加賀も、大和さんの推理材料を事実だと言ってたもの)

朝潮 (なら、加賀が私を殺そうとしたことも、私の能力を認めていることも・・・事実)

朝潮 (加賀は否定しなかった)

朝潮 (けど、加賀が荒潮を殺した犯人というのは本当だったのかしら?)

朝潮 (否定はしていないけど、肯定もしてない)

朝潮 (寧ろ…荒潮の轟沈に関して私が知覚で気付くこと、これで何かわかるっていうの?)

朝潮 (完全にわからないこともある)

朝潮 (舟遊び?損傷度を誤認させる方法?過去の轟沈?・・・)

朝潮 (いえ、わからないことがあっても問題ないわ)

朝潮 (私の知覚が、確かであるとわかったのだから・・・それで、きっと十分・・・)


 危険を冒してまで盗み聞きして良かったと思えた。

 決意を固めるように、右腕の砲塔艤装を強く握る。



朝潮 (この力で・・・


瑞鶴 「朝潮、大丈夫?」

朝潮 「・・・え?」


 瑞鶴と翔鶴が並んで朝潮の前に立っていた。

 戦場にそぐわない美しさを感じた。


朝潮 「大丈夫?・・・ですけど」

翔鶴 「思い詰めた顔をしていたから・・・」

瑞鶴 「悩み事があるんなら聞くわよ、色々あったでしょ?今日」

朝潮 「あ、はい・・・ご心配ありがとうございます」

朝潮 「けど・・・大丈夫です」

翔鶴 「?」

瑞鶴 「なら、いいけど・・・」

瑞鶴 「そうだ、朝潮の前を空母の人が通らなかった?」

朝潮 「すいません、考えこんでたので・・・」

瑞鶴 「そうかー」ガックリ

朝潮 「どうされたんですか?」

翔鶴 「実は訓練用の矢が所定の数から減ってて探してるの」


 訓練所では、専用の模擬弾や訓練用の矢が使われた。

 専用弾は、弾頭や炸薬量が違うという物理的な違い以外に、

 海上より狭い射撃場で同調が互いに干渉しないよう、同調を必要としない作りになっていた。



朝潮 「どなたかが、間違えて持ち帰ったかもしれないんですか?」

翔鶴 「訓練場を一通り探してなかったから、そうだと思うんだけど・・・」

翔鶴 「こうなると、訓練所にいた空母の人たち全員に聞くしかないわね」

瑞鶴 「あーもう最悪・・・全員に聞けば流石にばれるわよね、大目玉だわ」

翔鶴 「困ったわね」

朝潮 「ばれるって誰にですか?」

瑞鶴 「決まってるじゃない、加賀さんよ」

朝潮 「・・・加賀・・・さん」

瑞鶴 「空母のトップなのはわかるけど、ことある毎にうるさいったらないわ」

瑞鶴 「ほんと、あおっちろい顔のまま無表情で怒るから不気味だし怖いのよねぇ」

翔鶴 「瑞鶴、陰口はお止めなさい」

瑞鶴 「別にいいじゃない、加賀さんの前でも言うんだし」

翔鶴 「あのねぇ・・・」

瑞鶴 「翔鶴姉は加賀さんの肩を持ち過ぎじゃないの?」

翔鶴 「加賀さんがいて上手く回ってる部分もあるのよ」

瑞鶴 「上手くって空母に轟沈がないこと?」

朝潮 「?」

瑞鶴 「だったら、赤城さんが仕切ってた時からでしょ」

朝潮 「空母に轟沈がない?」

瑞鶴 「知らなかったの?」

朝潮 (自身の仕切ってる空母艦娘に轟沈がない?)

朝潮 「はい・・・、え、じゃあ空母の人で轟沈した人はいないんですか」

瑞鶴 「そういうことになるけど」

朝潮 「これまでずっとですか?」

翔鶴 「ずっとね、鎮守府が始まって以来じゃないかしら」

朝潮 「凄い・・・」



瑞鶴 「そんなに凄いことじゃないのよ」

朝潮 「どういうことですか?」

瑞鶴 「提督が原因なの、空母を旗艦に編成することが多いのよ」

瑞鶴 「別に空母が特別強いからとかじゃないわ」

朝潮 「旗艦は、陣形の中心にいるから比較的安全とは聞きますけど・・・」

瑞鶴 「よく知ってるわね、その通り」

瑞鶴 「射線が通らなくて元々狙われにくいし、攻撃されても庇われることが多いの」

瑞鶴 「だから、この鎮守府は元々空母が轟沈しにくいってわけ」

朝潮 「ほぉ・・・何か、加賀さんが特別にやっていることはないんですか?」

瑞鶴 「何か?空母が轟沈しないために?」

朝潮 「はい」

瑞鶴 「訓練訓練訓練、訓練くらいよ・・・」

翔鶴 「訓練ね」

朝潮 「ただの訓練ですか」

瑞鶴 「文字通りただの訓練よ、それも実戦を離れた基礎的な内容ばかりよ」

瑞鶴 「何の意味があるんだか」ハァ

瑞鶴 「普通の訓練で轟沈しない同じ成果を出してた赤城さんの方が、よっぽど優秀だったわよ」

朝潮 「そうなんですか・・・」

翔鶴 「余り言いすぎては駄目よ、瑞鶴」

翔鶴 「空母だって重点育成艦娘がいる時は旗艦を外れるのだから、轟沈する危険はあるわ」

翔鶴 「それに、訓練で私達空母の攻撃力が増せば、それだけ他艦の轟沈を防ぐことに繋がる」

瑞鶴 「あの基礎的な訓練で?!」

翔鶴 「基礎が一番大切って言うでしょう?」

翔鶴 「それを別にしても、轟沈がないせいで空母に対して他艦の子から風当たりが強かったわ」

翔鶴 「あの時の、お互いにぎすぎすしてた空気を瑞鶴は覚えてるでしょ?」

瑞鶴 「まぁね・・・」

翔鶴 「轟沈しないのは空母が卑怯だからとか、轟沈は空母のせいじゃないかとか・・・」

翔鶴 「言われてたわよね?」

瑞鶴 「・・・」

翔鶴 「加賀さんが猛特訓を始めたお陰で、あの空気がなくなったのも事実じゃないかしら」

瑞鶴 「加賀さんの訓練が厳しすぎて他のみんながドン引きしただけでしょ?」

翔鶴 「それもあるでしょうけど、結果は結果よ」

翔鶴 「基礎的な訓練も何か深い目的があってのことと思うわ」

瑞鶴 「うーん・・・」

瑞鶴 「私達への嫌がらせじゃない?」

翔鶴 「もう・・・」



朝潮 「具体的にどんな訓練をするんですか?」

瑞鶴 「艤装との同調・解除を100セットとか」

朝潮 「え、えぇ・・・」

瑞鶴 「ほら、朝潮も引いてるじゃない?翔鶴姉」

翔鶴 「はぁ・・・そうね」

瑞鶴 「朝潮も似たようなもんでしょ、戦闘の合間に加賀の艤装と同調させられてるんでしょ?」

翔鶴 「朝潮さんの同調は、他艦種艤装への同調で私達と比べられるものじゃないわ」

瑞鶴 「まぁね」

瑞鶴 「なんであんな危険なことさせるのかしら。いつも考えてることわからないわ、あの人」

翔鶴 「上には上の考え方があるのだし、余り考えすぎても混乱するだけよ」

瑞鶴 「その考え方が私達下々のもののためでもあってほしいわねー」

朝潮 「あの・・・」

瑞鶴 「ん?」


 朝潮は喉から出掛かった加賀のことを聞きたい、知りたいという気持ちを抑える。

 まだ艤装には盗聴器が付いているはずで、怪しい動きはできなかった。


朝潮 「・・・訓練用の矢を探すの手伝いましょうか?」



瑞鶴 「ありがとう、けどさっき言った通り訓練所は一通り探したのよ」

翔鶴 「もう覚悟するしかないわね」

翔鶴 「訓練用とは言え備品を失くすのは不味いものね」

瑞鶴 「訓練用の矢なんて弓道に使われるような普通の矢だから殺傷力は低いけど・・・」

瑞鶴 「そういう問題じゃないもんね・・・」ハァ

朝潮 「弓道・・・訓練用の矢・・・」


 大和の足に刺さった矢が、折られて海に投げられたのを思い出す。

 あの矢は訓練用の矢と、加賀が言っていた筈だった。


朝潮 「矢なら加賀さんが・・・も・・・」

瑞鶴 「加賀さん?」

朝潮 「!」


 朝潮は背後から急に現れた同調に、振り返る。


朝潮 「加賀っ・・・さん」

瑞鶴 「げぇっ!!」

翔鶴 「すいません!!訓練用の矢を紛しっ

加賀 「朝潮・・・何で矢のことを知っているのかしら?」

朝潮 「!!!」


 朝潮は弾かれたように飛び出した、加賀の脇を縫って出口へ。

 朝潮が加賀の脇を抜けようかという瞬間に、加賀は艤装をがっちりと掴み引き戻す。


朝潮 (くっ・・・・・・)


 慣性で突き進む体に肩紐が大和の時より深くめり込み、朝潮の小さい心臓だけが前に飛び出しそうになる。

 少し漏れたような気がした。



―――――
―――





 朝潮は、自身の艤装を武器庫に収めるために暗い廊下を歩いていた。

 非番の時、警戒要員以外の艤装は、武器庫に保管することになっている。


朝潮 (加賀の言葉)


 あの後、加賀は一言耳打ちすると、朝潮をすぐ解放した。


加賀 「死にたくなかったら・・・明日の出撃で、全ての攻撃を避けなさい」


朝潮 (どういうこと?)

朝潮 (加賀には、会話を盗み聞きしていたのはばれてる、それは間違いない)

朝潮 (あそこで殺すことができなくても、私を捕まえて連れ出すなり出来たはず)

朝潮 (そんな素振りもなかった)

朝潮 (だったら、加賀にとってあの会話は聞かれても問題ないということ???)

朝潮 (それより・・・言葉の意味は?)

朝潮 (加賀の言った”荒潮の死に付いて私が能力で気付くこと”・・・)

朝潮 (それが、明日の全ての攻撃を知覚で避ければ、わかるってこと?)


 考え込みながらも体はいつもの通り動き、武器庫に着いていた。

 朝潮は定形の挨拶をして、自身の艤装を担当の陸奥に差し出す。


朝潮 「艤装をよろしくお願いします」

陸奥 「はーい、お疲れ様」

朝潮 「陸奥さんもお疲れ様です。では、失礼します」

陸奥 「あ、朝潮ちゃん、ちょっと待って」

朝潮 「はい?」

陸奥 「大和さんが朝潮ちゃんが来たら衣料室に呼ぶようにと言ってたから」

朝潮 「そうですか・・・」

陸奥 「制服に何かあったの?」

朝潮 「あっ・・・っはい、そうなんです」

陸奥 「?」

朝潮 「・・改めて失礼します!」ササッ

陸奥 「行ってらっしゃ~い、若いんだから早く寝なさいよ~」ヒラヒラ

朝潮 (大和さんと加賀の会話で呼ばれるのはわかってたけど)トコトコ

朝潮 「早すぎる・・・」ボソ


 加賀に盗み聞きが露呈したことへの動揺がぶり返す。

 大和にも盗み聞きがばれるのではないかという不安が、朝潮の頭をかすめた。


朝潮 (ありえない・・・わよね?)



 歩く朝潮の横で海風に吹かれ窓がカタカタと鳴っていた。

 朝潮は立ち止まり、窓に映る自分の顔を見る。

 疲れて血色が悪くハリのない顔が、廊下の切れかけた蛍光灯に照らされていた。

 それを拭うように首を振る、意味がないのはわかっていた。

 悶々としたまま衣料室に着く。部屋の前で大和が待っていた。


大和 「顔色が優れませんけど、大丈夫ですか」

朝潮 「いえ、頭を整理しようと訓練所にいたら加賀が来て・・・逃げてきました」

朝潮 (本当のことだ、これなら・・・動揺していてもおかしくない)

大和 「そうですか、何もなかったんですか?」

朝潮 「はい、すぐ逃げたので」

大和 「本当ですか?」

朝潮 「え・・・本当です」


 大和が朝潮を覗き込むように見ている。

 緊張から来る汗が朝潮の皮膚を這う。


朝潮 (話を変えないと・・・)

朝潮 「そうです!何で私を呼んだんですか?」

大和 「ここからは・・・衣料室の中で話しましょうか」

朝潮 「はい」

大和 「どうぞ」


 大和の手に導かれて入室する。

 武器庫からそう遠くない白い一室。

 窓口が付いており、ここで朝潮は何度も新しい制服を支給してもらっていた。

 しかし、中に入るのは初めてだった。


朝潮 「失礼します」


 中は窓口近くに机と椅子が二つずつある以外、棚が壁に沿って所狭しと並んでいる。

 朝潮は純粋な興味のまま、並んだ棚を眺める。



朝潮 「この棚は・・・制服を収める棚ですか?」

大和 「そうです」

朝潮 「これ、全部が・・・」

大和 「ふふっ、中を見るのは初めてですか」

朝潮 「はい」

大和 「この鎮守府も300人を超える大所帯ですから」

大和 「種類だけでなく皆さんが安心して戦えるようにそれぞれの在庫の量も多くなってます」

朝潮 「なるほど・・・、棚の中を見てもいいですか?」

大和 「どうぞ」


 棚の側面には艦種・艦型のタグが貼り付けられていた。

 朝潮は一通り棚の側面を歩きながら眺めると、「朝潮型」のタグが付いた列に入る。

 自身や同じ朝潮型の制服が、綺麗に積み重ねられていた。


朝潮 (霞、大潮・・・荒潮・・・朝潮、これが)コ


 朝潮がちらりと横目で見ると、大和は窓口にカーテンを引いている。

 朝潮は、それを確認すると梱包された自身の制服に無言で手を伸ばす。


朝潮 (この制服が・・・原因かもしれない)ゴクリ


 鼓動は速く、手は慣れないことに戸惑い止まりかけのオルゴールのように小刻みに震えた。


朝潮 (盗る?盗ってもどうやって隠して持ち出すの?)


大和 「初めてで興味深く気になってしまうのはわかります」

朝潮 「っ」ビクッ

大和 「しかし、制服も燃料弾薬のように重要な戦略物資です」

大和 「触るだけにして、間違いのないよう元に戻してくださいね」

朝潮 「はっはいっ」パッ


 朝潮は、反射的に手を引っ込める。

 声の方を見ると、大和は朝潮が入った棚と棚の入り口にもたれかかって朝潮を見ていた。

 棚は部屋の壁面に垂直に並べられており、朝潮から見て大和の反対側には壁しかない。

 息苦しさを感じ、引っ込めた手を再び伸ばし自身の制服を手に取り、食い入るように見る。

 梱包する半透明の袋が、パリパリとその場の空気にそぐわない軽快な音を発している。

 その奥の制服は、何時も支給されている何の変哲もない制服でしかなかった。



朝潮 「何時もの制服ですね」シゲシゲ

大和 「それはそうですよ」

大和 「梱包で密封されて、空調の利いたこの部屋で数量を含めしっかり管理されています」

大和 「轟沈を防ぐためのものですから、当然ですけどね」

朝潮 「なるほど・・・」

朝潮 (無理・・・か)


 手に取った自身の制服を元あった場所に置く。

 大和の方を向くと、大和が悲しそうな顔で口を開いた。


大和 「朝潮さん、重要な話があります」

大和 「大和は明日の模擬演習を辞退します」

朝潮 「え??・・・何でですか!?」


 衣料保管のためか、空調のきいた室内は清浄で乾燥していた。舌が乾く。


朝潮 「説明してもらえますか?」

大和 「申し訳ありませんが、理由は言えません」

朝潮 「加賀が・・・犯人ではなかったんですか?」

大和 「何で、そう思ったんですか?」

朝潮 「あ、いえ・・・止めるということはそういうことかと」

大和 「・・・加賀さんとは決着をつけます」

大和 「後日、改めて、模擬演習を挑んで」

朝潮 「加賀が受ける保証はあるんですか?」

大和 「受けざるを得なくします」

大和 「けれど、加賀さんが懲らしめられる姿は、朝潮さんは見られないかも知れません」ニコ


 質問を許さない大和自信満々の笑顔。


朝潮 (加賀がやられる姿を私が見られない???・・・)

朝潮 (再戦を加賀に約束させるために邪魔な私を・・・)


 制服は密封されており、少々の血が付いても簡単に処理できるだろう。

 この密室は、朝潮を縊り殺すのにちょうどよく思えた。


朝潮 (まさか・・・)ハハ



朝潮 「何で見られないんでしょうか?」

大和 「私達の会話は全て聞かれていましたから」

朝潮 「えっ・・・」

朝潮 (ばれたの?!)

大和 「そんなに驚かなくても・・・」

大和 「会話を聞かれていたのは、加賀さんの口振りから想像がつくかと思いましたけど」

朝潮 (・・・大和さんと加賀のじゃなく、大和さんと私の会話か)

朝潮 「すいません・・・全てということは、作戦の方も?」

大和 「勿論です」

大和 「なので、加賀さんに再戦してもらうため、朝潮さんに新たな協力をしてもらいたいんです」

朝潮 「出撃中に加賀の同調に私が介入する、とかですか?」

大和 「作戦は聞かれていたんです」

大和 「あの抜け目ない加賀さんなら何か対策をするでしょうし、同じ手は通じないでしょう」

大和 「そもそも、その方法では同調の解ける朝潮さんが実戦だと非常に危険です」

大和 「それに、同調が解けていれば犯人というのも周囲に丸わかりです」

朝潮 「確かに…」

朝潮 (そうか、同調を解けば沈むわよね・・・)

大和 「なので、朝潮さんに同調へ介入してもらうのは止めるということです」

大和 「ただし、大和が模擬演習を加賀さんに改めて申し込む日に・・・・」

大和 「大和が提督にお願いして、朝潮さんには遠征などで鎮守府を離れてもらうことになります」

朝潮 「私がいなければ、公正な模擬演習として加賀も受けざるを得ないということですか…」

大和 「その通りです、今日も一度は受けたんです」

大和 「改めて申し込んでも、プライドの高い加賀さんなら絶対に受けるでしょう」

朝潮 「わかりました」

大和 「ありがとうございます」

大和 「協力して頂けると思っていました」ニコ



 言い終えるか、大和が朝潮に近付いた。

 抜き身の刃物のような威圧感が、朝潮のほぼ直上から叩きつけられる。

 朝潮は直前の様子から想像できない事態に、後ずさる。


大和 「ところで・・・」

朝潮 「?」

大和 「何を聞いたんですか?」

朝潮 「っ!!!!!!」

朝潮 (今度こそ埠頭での盗み聞き?!ばれっ?!!何で!!!)


 想定した問答を終え、朝潮は油断していたのもある。

 後退する朝潮の体を、大和がしっかりと両腕で捉えた。



朝潮 「なっ、何のことですかっ?」

大和 「朝潮さんはわかりやすいですね」

大和 「何か隠していることはわかっていました、最初から」

大和 「大和と話していた時に比べて、加賀さんに対し攻撃的でなくなっていませんか?」

大和 「大和と話していた時のままなら、訓練場で一悶着ある方が自然というものです」

朝潮 「・・・」

大和 「訓練所で加賀さんに何かされたか・・・吹き込まれたんじゃないですか?」

大和 「その動揺が証左です、素直に教えてくれませんか?」

朝潮 (埠頭の盗み聞きは、ばれてない!??)


 ほっと吐きたい息を飲み込み、俯き動揺したふりをしたまま答える。


朝潮 「ここで言わなくても良いようなことでしたので・・・」

大和 「というのは?」

朝潮 「”明日の出撃で全ての攻撃を避けなさい”、と」

大和 「・・・」

朝潮 「どういう意味なんでしょう?」

朝潮 「あんな危険海域で、わざと攻撃に当たることなんてありえないのに・・・」


 頭に突き刺すような大和からの視線を感じる。



大和 「そうですか・・・」ジッ

大和 「本当のようですね」パッ

大和 「しかし、それは・・・大和にも意味がわかりませんね」トコトコ

大和 「気負わせて朝潮さんにプレッシャーをかける積もりではないですか?」

大和 「現に朝潮さんは動揺していらっしゃるわけですから」

朝潮 「なるほど・・・」

大和 「しかし、朝潮さん、安心なさってください」

大和 「提督が朝潮さんを気遣って、明日出撃させる際は旗艦にして様子を見ると仰っていました」

朝潮 「そうなんですか・・・」

朝潮 (執務室盗聴で得た情報?)

大和 「正直に話してくれてありがとうございます」

大和 「また何か加賀さんに言われたり、されたら、大和に話して下さいね」

大和 「出来る限りお力になりますから」

朝潮 「はい」

大和 「さ、話はお終いです。夜も遅いですし解散しましょう」

大和 「これから大和は提督に明日の模擬演習辞退を伝えないといけないんです」

大和 「おやすみなさい、朝潮さん」

朝潮 「はい、おやすみなさい、大和さん」


 追い立てられるように朝潮は衣料室を出される。

 時間を置いて、大和も衣料室を出て鍵をかける。

 提督のもとへ向かう大和の手元の紙袋から、パリパリと音がなっていた。



―――――
―――




 朝潮は、鎮守府から寮への廊下を歩く。

 消灯時間の過ぎた寮は非常灯以外の照明が切れ暗く、闇が住人に代わり息づいている。


朝潮 (大和さんに会っても、わからないことが多過ぎる)

朝潮 (もう、私がどうするかを考えるしかない)

朝潮 (次の轟沈が出る前に、轟沈が人の手によるものか・・・私が判明させる)

朝潮 (でも・・・できるの?未だに何をすればいいのかもわからないのに・・・)


 思い出したように、歩く足が震えていた。


朝潮 (情けない・・・)

朝潮 (そもそも犯人がいたとして、こんな私に何ができるのかしら・・・)


 悪い考えは蓋を外すと一斉に溢れ出しそうになる。

 それでも両足に力を込めて進む。


朝潮 (わかること、できることからやっていくしかないわよね)

朝潮 (まず、加賀の言うように知覚で逃げ回って何が・・・)


加賀 「死にたくなかったら・・・明日の出撃で、全ての攻撃を避けなさい」


朝潮 (死にたくなかったら・・・死にたくない、ん?)

朝潮 (この意味って・・・被弾したら危ない、ということじゃ・・・ない!??)

朝潮 (明日の出撃で私が被弾すると、加賀に不都合だから許さない殺すって意味にも・・・)

朝潮 (だとしたら・・・)

朝潮 (損傷度の確認で、加賀に不都合な事実があるってこと??)


 制服を触ったり引っ張ったりしてみる。いつもの制服だ。



朝潮 (大和さんの言葉を信じるなら、明日は私が旗艦)

朝潮 (まず轟沈しないのも、この予感を裏付ける・・・)

朝潮 (私が確かめるしかない・・・被弾してでも)

朝潮 (もし、本当に被弾が危険でも、私なら損傷度が知覚でわかる)

朝潮 (私にしかできない!!)

朝潮 (けど・・・私が損傷度や制服におかしい点がある、と出撃中に報告しても・・・)

朝潮 (提督は進撃を止める?)

朝潮 (止めなければ・・・その時は、同調が落ちていようが、知覚で避けるしかない)

朝潮 (同調が、落ちていようが?・・・無理よね、昨日は中破でさえ・・・あれ・・・)

朝潮 (昨日の荒潮大破と私の中破・・・違和感・・・荒潮の日記・・・一昨日の制服交換)


 記憶が手品師の口から出る万国旗のようにハタハタと繋がり飛び出してくる。

 朝潮は自身の部屋の前で踵を返し、霞と大潮の部屋へ歩き出した。


朝潮 「・・・」コンコン

大潮 「は~い」

霞 「誰よ、こんな時間に」ガチャ

大潮 「朝潮ちゃん?」

霞 「はぁ・・・寂しいの?しょうがないわね!一緒に寝てあげてもいいわよ」

大潮 「お泊りですか?!」

朝潮 「霞・・・」

霞 「?・・・何よ?じろじろ見て」

朝潮 「服、脱いで」

霞 「はぁ?!///////////」



―――――
―――





~翌日 深夜 洋上~


 指揮作戦艇は照明も付けず、自動操縦である地点に向かって闇の中を走っている。

 艇内、朝潮を絞った部屋に提督と加賀はいた。


加賀 「二日連続で出撃が少なかったわね」

提督 「そんなこともある」

加賀 「朝潮のせいよね?」

提督 「お前の言った通り・・・混乱した朝潮が、戦闘中やけに被弾してな」

加賀 「報告書を見たけど、旗艦の朝潮を狙った攻撃には殆ど当たっていたようね」

提督 「そうだ・・・で、加賀に聞こうと思っていた」

提督 「何で朝潮がこうなったかわかるか?」

加賀 「元々不安定な能力なのよ」

加賀 「友人の死、能力の否定、不幸が重なったとしか言えないわね」

提督 「そんなことくらいで満足に能力も発揮できないのか」

加賀 「これまでも言ってきた筈よ」

提督 「それにしても、一戦目二戦目・・・雑魚ばかりの海域で満足に動けんとは」

加賀 「ふーん・・・」

提督 「おい、まさか・・・、知覚は強い敵の動きしか察知できないとは言わんよな?」

加賀 「半分正解ね」

加賀 「光に例えるとわかりやすいわ」

加賀 「強力な深海棲艦ほど同調の高まりは大きい、言い換えれば強い光だと思えばいいわ」

加賀 「その中で、弱い深海棲艦の攻撃、つまり弱い光を捉えるのは、慣れや経験がいるわ」

提督 「知覚に開眼したばかりの朝潮は、文字通り目の開いたばかりの赤子と同じということか」

提督 「だから、昨日”朝潮が混乱の末に大破する”と言ってたのか」



加賀 「そうよ」

提督 「見えてきたぞ」

提督 「昨日の戦闘で、加賀が弱い攻撃にわざと当たって、荒潮を見捨てたように見えたのも」

加賀 「ご名答、タ級は弱い攻撃で意図的に私の体勢を崩しに来ていたわ」

提督 「矢張り・・・」

提督 「敵はお前の能力に気付いていたのか?」

加賀 「さぁ・・・、タイミングやタ級の戦闘能力を考えれば限りなく黒でしょうね」

加賀 「こちらからも質問いいかしら?」

提督 「ん?」

加賀 「被弾が多かったとは言え、報告書で朝潮は中破となっているわよね」

加賀 「何で大破もしていないのに撤退したの?」

提督 「被弾を怖がってな・・・」

加賀 「ふーん」

提督 「何だ」

加賀 「てっきり・・・制服が中破なのに大破してる気がする、と朝潮が言い出したのかと思ったわ」

提督 「やけに具体的だな」

加賀 「違うの?」

提督 「間違ってない、これも朝潮の不安定な知覚のせいか」

加賀 「かもしれないわね」

加賀 「それにしても・・・出撃後、あなたが私でなく大和さんを執務室に呼んでいたけど」

加賀 「あなたも大和さんと朝潮が仲がいいのを知っていたのね」

提督 「・・・あぁ、大和には朝潮の精神的フォローを頼んだ」

提督 「PTSDだったら、除隊させることも考える」

加賀 「ありえないわね」

提督 「PTSDがか?」

加賀 「そう」

提督 「だろうな」クク

提督 「朝潮はもう壊れてるよ」



加賀 「?」

提督 「加賀は艦娘が人を殴る時に、何%の力が出るかわかるか?」

加賀 「身体を壊さないよう脳がストッパーをかけて、人間は10%前後しか力が出せないって話?」

加賀 「そうなら、艦娘はそのストッパーを外すから、100%じゃないかしら?」

提督 「次第点の回答だな、実際は50%かそこいらだろ」

提督 「人を殴るのに脳内でかかるストッパーは、自身の保護だけじゃない」

提督 「一人の人間を終わらせることへの躊躇い、いわゆる精神的なストッパーも働く」

提督 「非力な女に多いと思われてる滅多刺しな、確実に殺すために何度も刺すことだが」

提督 「余り知られていないが男も多い、無意識に加減して男でも人一人簡単に殺せやしない」

加賀 「それと朝潮に何か」

提督 「朝潮はな、荒潮が轟沈した戦闘で、タ級へ攻撃した時、躊躇いが一つもなかった」

加賀 「はい?人間の話から何で対象が深海棲艦の話になるの?」

提督 「深海棲艦は強いものほど、人型に近付き知識を持ち人語を解し感情を持つ」

提督 「言ってしまえば、人間臭くなる」

加賀 「そこに躊躇いが生まれる・・・」

提督 「そうだ、お前のように生粋の職業軍人のように処理できる者は少ない」

提督 「が、朝潮にもその資質がある」

提督 「おれがそうした」

加賀 「それを壊れてるというなら、この鎮守府は崩壊しているも同然ね」

加賀 「これだけ沢山深海棲艦を殺し、轟沈で味方に死人を出し、戦意が落ちないのだから」

提督 「理想の鎮守府だ」

加賀 「偉くなったら離れることになるわよ、この海とも」

提督 「そうだな」

加賀 「あなたはどうする積もりなの?偉くなって」



提督 「おれは何も変わらない、これまで通り力を求めるだけだよ」

加賀 「力? 私や大和さんじゃ足りないの?」

提督 「あぁ、足りんな」

提督 「それに、そもそも力として質が違う」

加賀 「質が?」

提督 「お前は力を何だと思ってる?」

加賀 「敵を打ち倒す能力じゃないの?」

提督 「実にお前らしいな、間違ってない」

提督 「力とは、目的を実現する能力だ」

提督 「その目的が、お前は敵を打ち倒す能力だったということだ」

加賀 「だとしたら、あなたの目的は?」

提督 「おれの戦術・思想で結果を出し、軍をおれ色に染めることだ」

加賀 「本気?」

提督 「人間どこかで欲望の限界を知る」

提督 「法、社会、道徳、能力、どこかでな・・・おれは未だ折れたことはない、が」

提督 「おれの目的を、我を通すのに、いつしかおれじゃなく周囲を折れば良いと気付いたんだよ」

加賀 「回りくどいことをしないで、政府でも転覆させれば?」

提督 「できると思うか?」

加賀 「・・・」

提督 「艦娘が兵器として優れていることは論を俟たないが、所詮生身の小娘よ」

提督 「補給がなければ戦闘継続は困難、毒でも盛られれば一瞬で終わるだろうな」

提督 「それに艦娘としての弱点もある」

加賀 「海から離れるほど艤装能力が発揮できなくなること?」

提督 「それも一つだ」

提督 「入居ドックと開発工廠の技術を一部の国が握り込んで離さないのも大きい」

提督 「だから、商売になる訳でもあるが・・・」

加賀 「取引のこと?」

提督 「それはいいとして、今はこんなものもあるしな」


 提督が鉄の塊を加賀に投げてよこす。

 加賀はそれを受け取ると、手で回しながら見る。



加賀 「ただの自動拳銃じゃ・・・ないわね」

提督 「お前ならすぐ気付くと思ったよ」

提督 「横のマガジンリリースボタン、そうだ、その出っ張りを押してマガジンを見てみろ」

加賀 「これ・・・まさか」

提督 「そのまさかだ」

提督 「この拳銃弾は、深海棲艦のコアを削り化学処理をかけて作られた特殊弾頭になってる」

加賀 「地上軍が、対深海棲艦用に火砲弾として使ってるとは聞いていたけど・・・」

提督 「拳銃弾まで小型化されてるのは極秘だ、これは一部提督にしか配られていない」

加賀 「轟沈などが多くて、艦娘に寝首をかかれそうな提督かしら?」

提督 「そうだ」クク

加賀 「つまり、これなら艦娘も・・・」

提督 「防御壁を中和して貫通し殺せる、ということだ」

提督 「今や、人間にとって艦娘はそこまで脅威でないということだな」


 一頻り眺めた加賀は、マガジンを拳銃に収めると、提督に手渡す。



提督 「ところで、女には男の権力・身分・地位と結婚する人種がいる」

加賀 「は?」

提督 「そういう女にお前を見習わせたいよ」

加賀 「いきなり何?」

提督 「月が綺麗ですね、という言葉を知ってるか」

加賀 「文豪が英語の愛してるを翻訳したという話かしら」

提督 「そうだ」

提督 「愛とは、究極なところ価値観や思想の同化もしくは共有とは思わんか?」

加賀 「セックスしてお互い気持ち良ければ愛なのかしら?随分チープね」

提督 「確かにそれも一つの愛だ」クク

提督 「おれはこの鎮守府を愛し、おれ色に染めた」

提督 「死と戦闘への恐怖は練度に、怒りは戦意に」

加賀 「次は地方本部を愛して、血みどろの戦場に変えるの?」

提督 「おかしいのは制服の損傷度でほぼ安全に戦える今と思ったことはないか?」

提督 「剣、弓、鉄砲、大砲、空爆、ミサイル、ドローン、兵器だけじゃない」

提督 「命令系統も、上に上にと、上意下達の絶対服従、殺し殺される対象は今や国が決めてる」

提督 「戦争の歴史は、殺し殺される感覚・意識からどれだけ兵士を遠ざけるかという歴史と言っていい」

加賀 「士官学校の復習は結構なのだけど」

提督 「まぁ、聞け」

提督 「それで強い兵士ができると思うか? Noだ」

提督 「空爆やドローン、地上戦ではNVゴーグルで一方的な戦闘を展開してる某軍隊が」

提督 「年々排出するPTSD患者がどれだけいると思う? 大戦時より多いぞ 」

提督 「人間は弱くなったんだよ、戦争が安全に清潔になってな」

提督 「おれはその戦場に牙を取り戻そうというんだ」


 その時、提督はモニターに現れた輝点を認める。



提督 「時間だ、上がるぞ」

加賀 「本当に私は何もしなくていいの?」

提督 「あぁ」

提督 「この紙袋と相手のブツを交換したら、下部扉を解放してコアを流しながら当海域を離脱するだけだ」

提督 「取引はスマートにしないとな」

加賀 「そう」


 歩く提督が揺らす紙袋からパリパリと音が漏れる。

 天気は曇り、甲板からは宇宙を臨むような暗黒が広がっていた。

 提督は甲板に上がるとライトを振る。

 すると、暗闇からエンジン音とともに外国語で識別記号の書かれた船体が滑り出してきた。

 同時に、指揮作戦艇と取引相手の正体不明の船体が、カッと照らされる。


?? 「そこの所属不明艦二隻、臨検を行うので直ちに停止しなさい」

提督 「はぁ?!・・・甲板から身を隠せ!!!」

加賀 「はいっ!」


 二隻の船上でカンカンと、騒がしく人間が蠢く音が交差し、ほぼ同時に逆方向に発進した。


提督 「ははははは、憲兵か」

加賀 「そのようね、どうするの?」

提督 「鎮守府に戻る」

加賀 「正気?」

提督 「あぁ」

提督 「少ししたら、加賀は甲板に上がって憲兵が追ってくるか確認しろ」

提督 「もし、追いつきそうなら・・・そうだな」

提督 「向こうが証拠と誤認しそうな艇内の備品をばらまけ、追撃の手も鈍る」

加賀 「わかったわ」


 重い沈黙が、艇内を包む。

 それでも提督に悲壮感はなく、寧ろ胸が踊っていそうなほどにこやかだった。


―――――
―――




 提督の指示で加賀は甲板に立ち、後方を警戒している。

 あれから暫く、提督は指揮作戦艇を蛇行させ続けていた。

 加賀が、追手が確認しないのを待って鎮守府へ戻る算段だ。

 加賀の後ろで足音がする。


提督 「追手は来ているか?」カツカツ

加賀 「いえ、今のところは」

提督 「そうか」

加賀 「無事で良かったわね」

提督 「ハッ、憲兵も流石にいきなり撃ってくることはないだろ?」

加賀 「そちらじゃないわ、取引相手よ」

加賀 「こちらを沈まない程度に攻撃すれば、指揮作戦艇が沈まないように憲兵隊を一隻・・・」

加賀 「こちらが重傷を負えば、軍病院への搬送でもう一隻、足を止められたわ」

提督 「なるほど」

加賀 「殺されるかもしれなかったのよ?!」

提督 「心配してくれて嬉しいよ」

提督 「けど、お別れだ」ゴリ


 冷たい鉄の感覚が加賀の頭に押し付けられる。

 さっき触った対艦娘用自動拳銃が、自身に突きつけられていることに加賀は気付く。



加賀 「どういうことかしら」

提督 「シナリオはこうだ」

提督 「お前に脅迫され、嫌々取引に参加していたおれが、隙を突きお前を殺す」

提督 「鎮守府の再評価には時間がかかるが、仕方ないだろう」

加賀 「あなたに情はないの?」

提督 「残念だと思ってるよ」

提督 「できれば、追ってくる憲兵にお前が証拠品を投棄する姿を見せ、主犯と思わせてから殺したかったんだがな」

加賀 「人でなし!!」

加賀 「私の能力がなくて、やっていける積もり?!」

提督 「問題ない、知覚のある朝潮をおれ色に染めて使うことにした」

加賀 「っ・・・!!!!」

提督 「せめてもの情けで楽に殺してやる」


 引き金は軽かった。

 パンパンパン、三発の乾いた銃声が海上に響き、すぐ波音に消えた。



―――――
―――


本日分投下終了です。
ご読了有難うございました。
次回、最終投下予定です。最後まで宜しくお願い申し上げます。

誤字修正
>>611
を、次のレスと入れ替えお願いします。


提督 「おれは何も変わらない、これまで通り力を求めるだけだよ」

加賀 「力? 私や大和さんじゃ足りないの?」

提督 「あぁ、足りんな」

提督 「それに、そもそも力として質が違う」

加賀 「質が?」

提督 「お前は力を何だと思ってる?」

加賀 「敵を打ち倒す能力じゃないの?」

提督 「実にお前らしいな、間違ってない」

提督 「力とは、目的を実現する能力だ」

提督 「その目的が、お前は敵を打ち倒す能力だったということだ」

加賀 「だとしたら、あなたの目的は?」

提督 「おれの戦術・思想で結果を出し、軍をおれ色に染めることだ」

加賀 「本気?」

提督 「人間どこかで欲望の限界を知る」

提督 「法、社会、道徳、能力、どこかでな・・・おれは未だ折れたことはない、が」

提督 「おれの目的を、我を通すのに、いつしかおれじゃなく周囲を折れば良いと気付いたんだよ」

加賀 「回りくどいことをしないで、政府でも転覆させれば?」

提督 「できると思うか?」

加賀 「・・・」

提督 「艦娘が兵器として優れていることは論を俟たないが、所詮生身の小娘よ」

提督 「補給がなければ戦闘継続は困難、毒でも盛られれば一瞬で終わるだろうな」

提督 「それに艦娘としての弱点もある」

加賀 「海から離れるほど艤装能力が発揮できなくなること?」

提督 「それも一つだ」

提督 「入渠ドックと開発工廠の技術を一部の国が握り込んで離さないのも大きい」

提督 「だから、商売になる訳でもあるが・・・」

加賀 「取引のこと?」

提督 「それはいいとして、今はこんなものもあるしな」


 提督が鉄の塊を加賀に投げてよこす。

 加賀はそれを受け取ると、手で回しながら見る。

投下再開します。
投下の遅れに加え、レスにて指摘のあった最終回詐欺を強行することをご容赦願いたく。




 ~少し前 鎮守府~


 カーテンの隙間から差し込む夜の暗い光が、机の上のきれいに畳んだ制服に当たる。

 朝潮はベッドに体を倒し、布団を被り暗闇を睨んでいた。


朝潮 (今日の出撃も・・・私は絶対に大破してた)

朝潮 (それは間違いないけど・・・)


 連日の事件で朝潮は心も体も擦り減っていた。

 しかし、掴み取った事実は、モルヒネを打ったように朝潮の意識を覚醒させていた。

 その時、窓から入る複数のエンジン音に気付く。


朝潮 (司令官に来客?・・・それにしては少し時間が遅いような)


 ベッドから身を起こし、窓のカーテンを開ける。

 艦娘寮からは鎮守府の建物に遮られて、姿形は確認できない。

 しかし、動く照明と駆動音から、数台の車が鎮守府正面に乗り付けたのがわかった。

 続いて、暗闇に砂利を踏む音が大量に聞こえ、最低限の明かりを残し消灯されていた鎮守府が全灯される。


朝潮 「何?・・・」


 明るくなった鎮守府の廊下を、見慣れない制服を着た人間が列を成し進んでいる。

 統率のとれた集団は、執務室と提督の自室に綺麗に吸い込まれていった。


朝潮 「・・・!」


 朝潮が部屋から出ると、同じように異変を察知した艦娘が薄暗い廊下のそこかしこで塊を作っていた。

 その塊を縫いながら寮と鎮守府を繋ぐ連絡通路へ歩き出す。

 そこでは、先程の制服を着た男が二人、集まった艦娘たちを押し留めていた。

 前列で年長者である戦艦や空母の艦娘が、その男たちと押し問答をしている。


憲兵 「この鎮守府の提督に、軍を脱走した嫌疑がかかっている」

憲兵 「証拠品の押収に、鎮守府は一時閉鎖する」

憲兵 「寮も一部艦娘の部屋には、証拠品の押収に立ち入る予定だ」

艦娘達 「ざわざわ」


 男の背後に見える鎮守府の廊下では、同じ制服の男たちがダンボールをせわしなくピストン輸送している。




長門 「深海棲艦が強襲してきたらどうする積もりだ!」

憲兵 「鎮守府にいた当直の艦娘たちには、そのまま部屋で待機してもらっている」

憲兵 「代わりに指揮できる者、代理の提督と指揮作戦艇も用意してある」

憲兵 「安心して部屋で休むといい」

長門 「そうは行くか!!提督がいなくなったらこの鎮守府はどうなる!?」

憲兵 「それを決めるのは我々ではない」

長門 「明日からの出撃は?代理提督がずっと指揮をするのか???」

憲兵 「明日と言わず沙汰が下りるまで、緊急事態を除き出撃はありえない」

憲兵 「それだけでなく、鎮守府と寮からは出ないでもらうことになる」

長門 「軟禁か?!私達も疑っているということか!」

憲兵 「変に抵抗をすれば、その嫌疑も濃くなるだろうな」

長門 「ぐぅ・・・」

赤城 「すいません」オズ

憲兵 「何だ?」

赤城 「加賀さんがいないのですけど・・・」

憲兵 「その者は、提督と一緒に脱走した疑いがある」

赤城 「え?!」

憲兵 「代わりの加賀の艤装は既に武器庫に収めてある」

憲兵 「後、大和は臨時秘書艦としての引き継ぎと事情聴取のため、鎮守府にいる」

憲兵 「もし、他に寮にいない艦娘がいるようだったら、可及速やかに申し出るように」

憲兵 「以上だ、これ以上話すことはない」


艦娘達 「ざわざわざわざわざわ」


 その後、男たちは寮の加賀の部屋にも立ち入り、全ての荷物を運び出し、深夜には消えていた。

 空のダンボールが転がされた執務室にいる代理提督は、外出禁止を命じる以外は何も知らないと言う。

 残された艦娘たちの喧騒は行き場をなくし、やがて静かになる。

 静寂の中でゆったりと夜が更け、提督がいないことは実感に変わり、

 残された艦娘の殆どが、鎮守府の、地獄の終わりを受け入れ始めていた。

 しかし、朝潮は違った。


朝潮 (何も終わってない・・・何も・・・)


 部屋に戻った朝潮は、机に向かいボタンのようなものを手で転がしている。

 その時、部屋のドアノブが回った。



―――――
―――




ドア 「ガチャ」

提督 「っ・・・」ビクッ


 ドアの音に覚醒した提督は、起き抜けには眩しい光に目を細める。

 その目は、何かを察したように正面のドアに向けられ動かない。

 ドアから顔の白い女が入ってくる。

 その存在は白い部屋の壁に相まって虚ろに感じられた。


提督 「どこだ、ここは」

?? 「さぁ・・・」

提督 「天国か?」

?? 「面白い冗談ね」


 提督がポケットを探ると煙草だけで、ライターはなくなっていた。

 凝り固まった首を鳴らしながら回す。

 腰に手を当てるとベルトは抜き取られ、椅子を触っても一切動く気配がない。


提督 (溶接されて動かない椅子、机もか)グルリ

提督 (右手の壁面には大きな鏡・・・いや、マジックミラーか)コキコキ


 椅子に座ったまま部屋を見渡し、腕を回し体の各所をひねってほぐす。


提督 「俗に言う・・・取調室か」

?? 「ほぼ正解」

提督 「ほぼ・・・ね」


 目の前の女は、持ってきた書類・電気じかけの四角い箱を机に置き、そのまま座った。


提督 「しかし、いつも見られているような気はしていたが、まさかお前がな・・・」

提督 「てっきり好意からのものだと思っていたが」クク

??「・・・」ガサリ

ビニール袋 「ゴトン」


 女が最後に懐から何かを取り出し机に置く。

 ビニールに包まれたひしゃげた黒い鉄塊に、提督は見覚えがあった。



―――――
―――




 ~数時間前 海上~


提督 「せめてもの情けで楽に殺してやる」


 加賀の後頭部に突き付けた拳銃の引き金を絞る。

 薄明りの中、加賀が両手を挙げようとしているのを提督は辛うじて確認していた。


提督 (超常の力を持つ艦娘でもここからの脱出はできまい)

提督 (だからといって、命乞いか? つまらん・・・)


 哀れみの表情を浮かべる提督の前で、

 上げられかけた加賀の左手は腰に付けられた矢筒の底に到達していた。

 加賀はその左手の掌底で、矢筒の端を思い切り叩き回転させる。

 矢筒は繋がれた腰紐を中心に戦闘機のプロペラのように回転し、

 後頭部に突き付けられていた提督の拳銃を弾いた。

 勢いで飛び出した矢が矢筒から船上に散らばりバラバラと音を立てる。


提督 「くっ」


 提督は飛ばされそうになった拳銃を握りしめると、再度狙いを定めようとする。

 しかし、次に提督の視界が捉えたのは自身に対し正面を向いた加賀であった。

 加賀は矢筒を押すと同時に、体を捻り提督の正面に向きを変えていた。

 提督は本能的に加賀と距離を取るために後ずさろうとする。

 しかし、自動拳銃がぴくりとも動かず、その行動は中止された。

 視線を落とすと銃身がガッチリと加賀に握られている。



 ~現在 白い部屋~


提督 (あの時、おれは即座に引き金を引いていた)

提督 (スライドの抽挿で加賀の手が離れると思ったからだ)

提督 (甘かった・・・三発目の発砲でスライドは後退したまま動かなくなった)

提督 (拳銃が軋む音がした時には、天地がひっくり返っていた・・・)

提督 (強かに投げられ、堅い甲板に叩きつけられたところから今まで記憶がない)

提督 (それより、どれだけ経ってる!?)


 腕時計を見ると、正午を回っていた。

 提督は薄ら笑いを浮かべる。


提督 「で、この取調室ではVIPをどうもてなしてくれるんだ・・・加賀」

?? 「もう私はあなたの加賀じゃないの・・・加賀は死んだわ」

提督 「なら、お前をどう呼べばいい?」

?? 「今の制服でわかるでしょう?」


提督 「加賀・・・いや、あきつ丸、煙草を吸うから火をよこせ」

あきつ丸 「・・・」

提督 「だんまりか」フー


 あきつ丸は表情を変えずに提督を見つめる。

 一方で提督はマジックミラーに向かい、髪を整えていた。



―――――
―――





提督 「あの馬鹿みたいな陸軍言葉で話さなくていいのか?ん?」

あきつ丸 「陸軍言葉?・・・あきつ丸のかしら」

あきつ丸 「あれは敢えてあの特徴的な言葉遣いをしているだけよ・・・憲兵隊所属のあきつ丸は、ね」

提督 「敢えて・・・か」

あきつ丸 「他艦娘として内偵をする、もしくは内偵任務から戻る時に口調を間違えないようにね」

提督 「ハハハ、廓言葉みたいなものか」

あきつ丸 「・・・」

提督 「今思えば、その強さで前いた鎮守府が手放したこと、出撃したことが殆どないのかというほど青白い肌・・・」

提督 「不審感を持つべき点はいくらでもあったな」フフ

提督 「気付かなかったおれも悪いが、お前も悪いぞ」

あきつ丸 「何が?」

提督 「周囲に溶け込めないばかりか、突出して戦果を上げて目立つ・・・スパイとしてどうなんだ?え?」クク

あきつ丸 「今回は慣れないことをしたと思ってるわ」

あきつ丸 「確かに内偵のために、あなたの鎮守府にいた」

あきつ丸 「けれど、本来私は内偵要員ではないのよ」

提督 「内偵要員でないなら憲兵隊でのお前の役目は何なんだ?」

あきつ丸 「憲兵隊付きの機動部隊よ、抵抗する艦娘の鎮圧が主なお仕事」

提督 「ほぉ、なるほど」


提督 「加賀の艤装は、鎮圧任務に使っていたから同調できたわけだ」

あきつ丸 「いいえ、任務中はあきつ丸の艤装を装備しているわ」

提督 「はぁ??あきつ丸の艤装じゃまるゆ位としかまともに戦えないだろう?」

提督 「改造されたらすぐ放逐されるからまるゆに不満分子が多いのは有名だが・・・」

提督 「お前、まるゆ専用の鎮圧部隊か?」ハハハ

あきつ丸 「・・・」

提督 「それにしても、機動部隊のお前に内偵をさせるほど人員不足なのか、憲兵は」

あきつ丸 「違うわね」

あきつ丸 「轟沈が多発するような鎮守府に、貴重な内偵要員を潜らせるのは博打過ぎるというだけよ」

提督 「だから戦闘能力の高いお前が抜擢された・・・」

あきつ丸 「その通りよ・・・結果としてあなたも気付かなかったし、正解じゃないかしら?」

提督 「尤もだ」クク

提督 「で、そんなにペラペラ内情を喋ってもいいのか?」

あきつ丸 「わかっているでしょう?」

あきつ丸 「あなたには、外患通謀・殺人・殺人未遂・贈賄・横領・強姦・偽造その他の嫌疑がかかってる」

あきつ丸 「あなたが日の当たる場所に出ることはもうない」

提督 「なら、そのまま軍法会議にぶち込めば良い」フ

提督 「できないから、おれを取調室に呼んだんだろう?違うか?」

あきつ丸 「・・・」



―――――
―――





提督 「で・・・何時からおれを疑っていた?」

あきつ丸 「ここ数日ね」

提督 「ん?・・・随分と最近だな」

提督 「危険海域への出撃を再開した辺りか」

あきつ丸 「それまでは特に何の疑問も抱いてなかったわ」

提督 「疑問も抱かない?あれだけ轟沈があって?」

提督 「内偵で潜り込んだんじゃなかったのか?」

あきつ丸 「轟沈多発に対しての内偵ではないわ、地方長官に足るかという内偵だったのよ」

あきつ丸 「それに着任前に一通り資料に目を通して、轟沈が多いことは知っていたわ」

提督 「ふん・・・道理でな、着任当初に動揺も怪しさのかけらもなかった訳だ」

提督 「ここ最近の不穏さは大和との痴話喧嘩の延長かとすっかり騙された」

提督 「で、危険海域へのどの出撃で気付いた?」

あきつ丸 「朝潮」

提督 「朝潮?」

あきつ丸 「大破進軍の可能性に気付いたのは三日前、荒潮が轟沈する前日・・・」

あきつ丸 「初戦にて、荒潮が大破・朝潮が中破した出撃があったわよね?」

提督 「あったな」

提督 「編成は、加賀・日向・利根・筑摩・朝潮・荒潮」

提督 「結果は、荒潮の大破で道中撤退」

あきつ丸 「よく覚えているわね」

提督 「当然だろう?」

提督 「お前が自身で第一艦隊入りを推した朝潮の危険海域への初出撃だったというのに・・・」

提督 「中破した朝潮を殴るわ、帰投中に殺せと言い出すわ・・・お前が情緒不安定過ぎてな」

提督 「・・・朝潮よりお前を心配した記憶がある」クク

あきつ丸 「艦娘を心配する良心が残っていたのね」

提督 「艦娘を・・・か」フ


提督 「そういえば、知覚についてお前がおれに話したのもこの出撃の帰投中だったな」

あきつ丸 「そうね」

あきつ丸 「あの説明の時、他人の同調から損傷度を計るのは難しいと言ったわよね?」

提督 「近くないとできない上に精度が低い、というやつだな」

提督 「ん、近くないとできない?・・・まさか・・・だから朝潮を殴ったのか」

あきつ丸 「そうよ、だから殴ったの・・・朝潮の損傷度を正確に調べるために」

あきつ丸 「・・・そしてあの時・・・朝潮の同調は弱く、間違いなく大破していた」

あきつ丸 「制服の損傷は中破だったのに、よ」

提督 「ふむ・・・」

あきつ丸 「わかっていたことでしょう?」

あきつ丸 「大破していても、外見は中破のままの艦娘を進撃させて轟沈しようが戦果を稼ぐ」

あきつ丸 「そうしてきたんでしょう?」

提督 「どうだったかな」フ

あきつ丸 「私は急がないといけなかった」

あきつ丸 「この時点で私はあなたが大破進軍させる方法さえわからなかった」

あきつ丸 「制服への細工か、損傷表の改竄か、他の方法か」

あきつ丸 「調べようにも元々私の任務はあなたの身元調査、大破進軍の捜査までは許可が下りてなかった」

提督 「許可を取ればいい」

あきつ丸 「もし私がのんびり正式に許可を取っていたら、十数人は追加で轟沈していたでしょうね」

あきつ丸 「だから、私で勝手に捜査を進めた」

あきつ丸 「中破した朝潮の制服、その切れ端を伝手のある科学捜査員に渡し・・・」

あきつ丸 「本来なら上から取り寄せるだけで済む損傷表を、あなたのいない執務室にもぐりこんで逐一確認した」

提督 「執務室に侵入していたのは大和から聞いていたよ」

あきつ丸 「大和さんから?」

提督 「おれのいない間に朝潮と喧嘩までしていたそうじゃないか・・・見損ねてがっかりだ」


提督 「にしても、何であの出撃の帰投中あのタイミングで知覚について説明したのかとは思っていたが」

提督 「時間稼ぎだったとはな・・・」

あきつ丸 「知覚を知れば、慎重なあなたなら大破進軍を止めると思ったいたわ」

提督 「そんな仏心を見せながら、同じ帰投中に朝潮を殺そうと提案したのか」フフ

提督 「おれが朝潮を轟沈させれば、轟沈の真相がわかると思ったのか?」

あきつ丸 「そうね」

提督 「加賀の艤装と同調させたり、てっきり本気で朝潮を殺そうとしてるのかと思ってたがな」ハハハ

提督 「なるほど・・・これもか」

あきつ丸 「恐らく想像の通り、朝潮に触れて損傷度を確認する機会を作るためよ」

あきつ丸 「一番新しく入隊して未熟な朝潮が狙われ易いと思ったから」

提督 「酷なことをするなぁ、お前も」

提督 「生贄にしたのか、入隊して間もない朝潮を・・・」フ

あきつ丸 「あなたほどじゃないわ、それに私は朝潮を買っていたのよ」

あきつ丸 「加賀の艤装へ同調させたのは、私が抜けた後に加賀の艤装を任せたかったから」

提督 「朝潮の上昇志向なら、それを受け入れていたかもな」

提督 「それにしても・・・完全に騙されていたのか、おれは」

提督 「知覚の説明でお前が心を開いたのかと油断して、取引にまで連れて行って・・・」ククク

あきつ丸 「そうでもないわよ」

あきつ丸 「私の目論見は殆どが外れた」


提督 「・・・」

あきつ丸 「あなたは私を朝潮殺しに巻き込まなかった」

あきつ丸 「それに、私の警告を無視して二日前に荒潮を殺し、昨日また朝潮を偽物の制服で出撃させてる」

あきつ丸 「あなたの嗅覚には驚かされるわ」

提督 「”偽物の制服”か・・・どこまで知っている?」



―――――
―――




あきつ丸 「大和さんが知ってる範囲で素直に話してくれたわ」

あきつ丸 「取引で、あの国に本物の制服とコアを流して、見返りに金銭と偽物の制服を受け取る」

あきつ丸 「偽物の制服は大和さんに保管させ、秘書艦と出撃部隊を決めた後、制服の交換を大和さんに指示する」

あきつ丸 「偽物の制服で出撃した娘は、実際は大破していても制服は小破から中破の損傷しかしない」

あきつ丸 「当然そのまま進撃すれば・・・轟沈する」

提督 「なんだ、そんなことまで喋ったのか」

あきつ丸 「実に協力的だったわ」

あきつ丸 「あの子が好きだったのは、あなたでなく・・・あなたの地位や名声だったみたいね」

提督 「違いない」クク

あきつ丸 「艦娘の技術は、当時艦艇を持っていた国の半独占状態」

あきつ丸 「あの国も沿岸の国防は、日本から支給されるコアと制服に頼っている状態」

あきつ丸 「あなたの流したコアと制服は、あの国の予備戦力としてだけでなく・・・」

あきつ丸 「制服量産とコア精製の技術研究に、さぞ役立ったでしょうね」

あきつ丸 「あなたはあなたで、見返りの金銭を上官にばらまいて買収・・・」

あきつ丸 「偽物の制服で大破進軍を繰り返し、戦果を上げ昇進を重ねる」

あきつ丸 「ここまで何か違うところはある?」

提督 「実に面白い作り話だ」パチパチ

提督 「そんな極悪人がこの世にいると思うと肝が冷える」

あきつ丸 「大和さんが、本物と偽物の制服交換記録まで素直に提出してくれたわよ」

あきつ丸 「大和さんはよく知らないで記録を取っていたと言っていたけど」

あきつ丸 「無理もないわよね」

あきつ丸 「大した縫製技術よ、外見は完全に同じで容易に判別が付かないような仕上がりだもの」


提督 「・・・もう鎮守府には踏み込んだのか?」

あきつ丸 「数時間前に」

提督 「それでも・・・さっき言ったように軍法会議に持ち込めない」ククク

あきつ丸 「・・・」

提督 「理由を当ててやろうか?」

提督 「おれを犯人と示す直接的な証拠が見つかってない、違うか?」

あきつ丸 「・・・」

提督 「国として外交衝突は避けたい、軍は腐敗を隠したい」

提督 「関係者の証言や状況証拠だけでは重い腰を上げないだろうな」

提督 「同情するよ」

あきつ丸 「同情するなら、証拠の在り処を教えてくれない?」

提督 「・・・」フ

あきつ丸 「ここに呼んだ目的はそれだけじゃないわ」

あきつ丸 「共犯者の有無・海外との繋ぎをどう作ったのか・・・それに、あなたのその余裕がどこからくるのか」

あきつ丸 「いくらでも聞きたいことはあるわ」

提督 「おれは最初から無実だと言っている」

提督 「なら、そんなこと知るわけがないし、焦る必要だったてないだろう?」

あきつ丸 「話す積もりはないのね、その方が燃えるからいいけれど」

提督 「ははは」

提督 「しかし、犯人がおれとしても証拠がない可能性もあるんじゃないか」

あきつ丸 「贈賄していた金額と期間から考えても、取引の記録がないと管理は不可能よ」

提督 「ほう」

あきつ丸 「それに、偽物を使うよう大和さんに何度も命令しているのだから、いくらか証拠として残っているのが自然でしょう?」

提督 「・・・それをおれが白状すると思うか?」ニヤ


あきつ丸 「観念してこちらに協力した方が身のためよ」

提督 「”協力した方が身のため”というのは、極刑にホイップクリームか何かオプションでも付けてくれるのか?」

提督 「犯人と確定すれば、極刑未満はあり得ないのに自白する・・・と本当に思うか?」

あきつ丸 「どれだけ殺したと思ってるの?・・・あなたはそれだけのことをした」

あきつ丸 「いずれ死ぬなら教えてくれてもいいんじゃないの」

提督 「どれだけ殺した?・・・語弊があるな、あきつ丸」

提督 「おれは、艦娘をふるいにかけただけだ」

提督 「自然が弱肉強食であるように、この社会が無能を弾き出すように、な」

あきつ丸 「そうね・・・そして、おめでとう」

あきつ丸 「あなたも弾き出される無能の仲間入りじゃない」

あきつ丸 「時計はもう見たのかしら?」

提督 「はぁ?」

あきつ丸 「あなたに余裕があるのは、何か助け舟を期待してでしょう?」

あきつ丸 「来るのなら遅すぎるんじゃないの?もうお昼よ」

提督 「時計ねぇ・・・この時間が進められた腕時計のことか?」コツコツ

あきつ丸 「・・・」

提督 「何故わかったのかという顔だな・・・腹具合だよ」

提督 「・・・というのは冗談だが、細工されてることくらいわかる」

提督 「何故なら、本当にこの時間なら、おれはもうここにいないからな」

あきつ丸 「いない?・・・逃げられるとでも思っているの?」

提督 「なんだ、外交ルートでお前の上に話が行ってないのか?」

提督 「てっきり、それを知ってて、おれを焦らせるために腕時計の時間を進めたのかと思っていたが」

あきつ丸 「どういうことか説明してもらえる?」

提督 「じきに向こうの国の大使館から、おれの書いた亡命申請書とあちらの認定書類一式を持った外交官が来る」

あきつ丸 「まさか・・・」

提督 「その”まさか”だ」

提督 「そしたら、おれはあちらの国へ亡命、この国ともおさらばだ」

あきつ丸 「取引先の国にコアや制服だけじゃなく、自分も売っていたとはね」

提督 「お前はおれが轟沈させた数が気になるようだが、同時にどれだけの深海棲艦を屠ったと思ってる?」

提督 「おれの能力・経験・実績を欲しがる国はいくらでもいるということだ」

提督 「この問題を公にしたくないこの国も軍も、あちらの国も、全てそう望んでいる」

あきつ丸 「公にしないと思う?」

提督 「できるか?・・・偽物の制服が出回ってるなんて情報」

提督 「全鎮守府の士気を下げ、提督と艦娘の不和を招くだけじゃない」

提督 「おれの鎮守府精鋭数百の艦娘が憲兵庁舎に殺到するぞ・・・おれを殺しにな」

提督 「お前らに止められるかな?」

あきつ丸 「・・・」



―――――
―――





提督 「折角だから教えてやろう」

提督 「この国や軍より、あの国はおれをずっと高く買ってくれてるよ」

提督 「おれは、あちらで高い地位を得て、今より遥かに大きい権力を扱うことになる」

あきつ丸 「あれだけ殺して、のうのうと自分は国外に脱出するつもり?」

提督 「素直に捕まるなんて、力のない屑だけだ・・・おれにはある」

あきつ丸 「・・・」

提督 「そう睨むな」

提督 「おれだって一応死んだものには感謝してる・・・ありがとう死んだ艦娘、ありがとう死んだ深海棲艦」

提督 「お陰様で、おれは向こうの国で鎮守府の運用を教えながら贅沢三昧・・・」

提督 「国内が沿岸だらけで深海棲艦の侵攻に心休まることのない日本とあの国は違う」

提督 「死にものぐるいで足掻くこの国を肴に内陸で安穏な隠居暮らしも良い、今からでも楽しみだ」

あきつ丸 「・・・ふざけてる」

提督 「おれを殺すべきだったなぁ」ハハハハハハ

提督 「取引の直前に臨検に入ったのは、万が一向こうが証拠隠滅におれを殺すのを防ぐためだろう?」

提督 「おれに銃を突き付けられたのをいなした時も事故を装って殺せたよな?」

提督 「お前と出撃した回数を加えれば、いくらでも殺す機会はあった」

提督 「悔しいか?殺したいか?」

あきつ丸 「・・・」

提督 「もう加賀の演技をする必要はない、感情を出しても問題ないだろう?」

あきつ丸 「隠された証拠、亡命の準備・・・」

あきつ丸 「危ない橋を渡るには渡るなりの準備をしていた・・・別にそれだけよね」

提督 「犯罪者にありがちだ、怒るまでもない・・・とでも言いたいのか?」

提督 「はぁ・・・あきつ丸、お前にはつくづく落胆させられる」

あきつ丸 「煙草を吸えないのをまだ根に持ってるの?」

提督 「違う・・・」

提督 「お前の正義や、その取り澄ました態度に・・・だ」

あきつ丸 「自分のやることを粛々とこなしているだけよ」


提督 「あきつ丸・・・おれは、欲望を実現する能力が力だと言ったな?」

あきつ丸 「それがどうしたの?」

提督 「・・・もっと欲望を、感情を、開放しろ」

提督 「お前の力はそのためにある」

あきつ丸 「人間は社会的な動物よ、我儘ばかりで生きてはいけるほど甘くない」

提督 「我儘を通さないで何の生きる意味がある?」

あきつ丸 「これでも楽しく生きている積もりよ」

提督 「お前には力がある、もっとそれを使えと言っている」

あきつ丸 「・・・」

提督 「力は行使せずに飾っておくものじゃない、使ってこそ意味がある」

提督 「強烈な自我が形成した欲望や激情にのせて力が行使され、より自我は強烈さを増し輝きを放つ」

提督 「おれはそこに美しささえ感じる」

あきつ丸 「・・・」

提督 「欲を言えば、その力は圧倒的で、無秩序で、大多数の人間を虐げる性質のものであれば・・・尚、素晴らしい」

提督 「この世界は力のあるもののためにあると教えてくれる」

あきつ丸 「まるで戦争や災害ね」

提督 「だから、鎮守府を戦場に変えた」

あきつ丸 「で、私にも感情的になれと?・・・あなた私に殺されたいの?」

提督 「できるならな・・・しかし、お前にはできない」

提督 「お前が弱いからだ」

あきつ丸 「力があるのに弱い?」

あきつ丸 「あなたにとって弱者って何なの?」

提督 「弱者?・・・自身の実現できない欲望から目を反らしている屑だ」

提督 「挑戦せず責任を負う気もない癖に、家族・友人・仲間・国・正義のためと大義に寄りかかり、ちっぽけな自我を保つ」

提督 「いただろう?おれの鎮守府にいくらでも、そして死んだ」

あきつ丸 「それを煽っていたのはあなたでしょう?」

提督 「そう、屑どもが踊りやすいように大義を用意してやった、このおれが」

あきつ丸 「・・・・」

提督 「あいつらが死に物狂いで踊る様は、まだ見てて楽しかったよ」

提督 「それに対しお前は何だ」


提督 「力があるのに体制に用意された正義なんかに従って・・・」

提督 「お前の正義では、許可が下り諸々の手続きが終わるまで、おれに何の裁きも与えられまい」

提督 「そんなことだから証拠を逃す」

あきつ丸 「・・・」

提督 「おれにはな、力を持っているくせに正義の奴隷になってるお前のことが、屑どもよりよっぽど窮屈に見えるよ」

提督 「こんな国で燻るくらいなら、あきつ丸・・・お前もおれと一緒に来い」

提督 「国を変え欲望の果てで自分の正義を探せばいい、楽しいぞ」

あきつ丸 「お断りよ・・・窮屈かどうか決めるのはあなたでないわ、私自身よ」

提督 「ふ、間違いではないな」

提督 「それにしても、頑固だな・・・朝潮もそうだった、才能があるのにがっかりさせてくれた」

提督 「おれを殺そうと朝潮が暴れたのを、執務室に忍び込んでたお前がなだめたらしいな」


あきつ丸 「?・・・あぁ、大和さんからそこまで聞いていたのね」

提督 「おれを殺すより、家族を優先したんだってな」

あきつ丸 「そう説得したわ、姉のため止めるよう私が言った」

提督 「そんなことだから本来の目的を、欲望を見失う」

あきつ丸 「本来の目的?」

提督 「欲望は自分を写す鏡だ」

提督 「あいつの本来の目的は、欲望は何だ?」

提督 「姉のような悲劇を起こさないことが大事なんだろう?」

提督 「なら、朝潮はおれを排除すべきだった何が何でも、な」

提督 「くだらん秩序や情にほだされ、自分を折った」

あきつ丸 「戦争開始の混乱期を朝潮は経験しているのよ、秩序に縋るのも仕方ないでしょう」

提督 「そういう自分以外に責任を押し付けるのは弱者がすることだと言った筈だ」

あきつ丸 「・・・」

提督 「その点、荒潮轟沈時の朝潮はぞくぞくさせてくれた」

提督 「おれを見捨ててタ級の殲滅を優先しやがった、終わった後の怯えはあっても朝潮は自分を通した、立派だよ」

提督 「これからのあいつが楽しみだった・・・それだけが、唯一この国での心残りだ」

あきつ丸 「それだけ・・・ね」

提督 「無論、お前と話すのも最後と思うと寂しいよ」

あきつ丸 「良く舌が回るわね」

提督 「ものわかりの悪い人間相手だとな」

提督 「さて、どうしようもないことが理解できたら、いい加減たばこの火をくれないか?」

あきつ丸 「わかったのは、あなたが轟沈させた艦娘に対する謝罪の念が一片もないことよ」

あきつ丸 「それに、あなたが自白する気がないこともね」

提督 「わかったらどうする?」

あきつ丸 「・・・一番効果のある拷問って何かわかる?」



―――――
―――





提督 「はぁ?」

あきつ丸 「答えてみて」

提督 「爪を剥がしたり、局部を爪切りで切ったり、口にドリル突っ込だり、とかしか知らないが・・・」

あきつ丸 「神経が多く通う部位、人体の急所、後遺症を残すような方法・・・」

あきつ丸 「実に創作物が好みそうな説得力だけはある拷問の数々ね」

提督 「無茶を言うな、専門家じゃあるまいし3つも挙げられただけでも褒めてもらいたいね」

提督 「そうだ、ヒントをくれ」

あきつ丸 「そうね・・・」

あきつ丸 「殺すのも目的ならまだしも、余り酷い外傷を与えるのは合理的じゃないわね」

提督 「熱したコテを当てるのも・・・火傷の処理が面倒か」

提督 「そうだな・・・水だ、水攻めは?」

あきつ丸 「落ち(気絶)グセが付いたら終わりね」

提督 「なら、自白剤か?」

あきつ丸 「虚ろにさせたり、不安定にさせたり、広義では麻薬中毒にするのも自白剤の一種ね」

あきつ丸 「ただ、そう都合の良い物ではないわ」

あきつ丸 「時間がかかるし、効果の有無が明確にわからないという致命的な問題がある」

あきつ丸 「不正解よ」

提督 「もう降参だ、わからん」


 あきつ丸はスッと立ち上がる。

 そして、提督に背を向けた機械仕掛けの箱の後ろから伸びるプラグを持ち上げる。

 そのプラグを壁に向かいコンセントへ差し込んだ。

 あきつ丸は席に戻ると箱の頭をなでる。



提督 「・・・その箱が関係あるのか?」

あきつ丸 「さぁ・・・」

提督 「・・・電気ショックか」

あきつ丸 「正解よ、これなら軽い火傷で延々痛みを与えられる」

あきつ丸 「しかも、その痛みも外傷と違い神経に直接働きかけるから、慣れることがないそうよ」

提督 「ということは、その箱は電気ショックを与える装置か」

あきつ丸 「・・・」


 あきつ丸は、機械仕掛けの箱の両脇を持ち笑う。


あきつ丸 「冗談よ・・・お腹すいてない?」フフ


 あきつ丸の方向に向いていた機械仕掛けの箱を滑らせて回転させ、提督の方向に向ける。

 それはありふれた電子レンジだった。

 中は見えない。


提督 「・・・さっき腹具合とは言ったが、腹はすいてない」

あきつ丸 「遠慮しなくていいわよ」

あきつ丸 「それに、VIPに食事も出さなかったと後で言われては敵わないわ」

提督 「メニューは何だ? カツどんでも食べさせてくれるのか」

あきつ丸 「肉なのは正解よ」

あきつ丸 「加熱してすぐ、熱々のまま食べてもらいたくて」

提督 「サービスがいいな」

あきつ丸 「自分で押して貰える?」

提督 「こった演出だ」フ


 今や提督の方に向いた電子レンジを提督自身が押すことに何の違和感もなかった。

 提督が温めのボタンを押し込む。


 すると、ブーンと言う駆動音と重なって微かに肉が焼ける音と連続した破裂音が静かな室内に響いた。


電子レンジ 「プシュー」


 暫くすると、電子レンジ内に煙が充満し一部が扉の隙間から湧き出る。



提督 (なんだ、この鼻の奥を突き刺すような臭いは・・・)

提督 「大丈夫か?、これ・・・」

あきつ 「大丈夫」

電子レンジ 「電子音」


 加賀が電子レンジの扉をあけると、閉じ込められていた黒煙が机を床を這って逃げ出した。

 同時にこれまで以上の臭気が提督を襲い、提督は鼻呼吸を止め口呼吸へ反射的に移行していた。


提督 「カッハ・・・」

提督 (この臭い・・・酷い赤潮で鎮守府周辺に魚の死骸が大量に打ち上げられた時と同じ)

提督 (・・・死の臭いだ)


 口をぱくぱくさせる提督の前で、煙のベールを脱いだそれが現れた。


提督 「おい、モルモットか?これ」

あきつ丸 「そうよ」

提督 「そうよって、パット見じゃわからんぞ」

あきつ丸 「白色と茶色と黒色の三色が可愛いでしょ?・・・今は四色だけど」

提督 「何のモルモットだ?食用な訳ないよな?」

あきつ丸 「自白剤の治験用モルモット」

あきつ丸 「奇しくも名前はあなたが殺した一人、武蔵と同じよ」

あきつ丸 「色が似ているでしょう?」


 一目ではモルモットとはわからないほど変形したものが白い皿の上に横たわっていた。

 皿の上に鎮座したそれは、嗅覚的にも視覚的にも提督の吐き気を誘った。


 毛はちぢれて焦げ、所々の毛の間からぶつぶつと肉がめくれて飛び出し、

 まるで黒い蛆虫がモルモットの全身を今なお這っているかのような、そんな絶望的な汚さがあった。

 今なお泡と一緒にジュクジュク音を発しながら噴き出ている赤い体液は、モルモットの下の皿にべっとりとした沼を作っている。



提督 「・・・」


 黙った提督を見据えながら、あきつ丸は立ち上がる。

 そして、ゆっくりと提督の周りを歩き出す。


あきつ 「どうぞ、遠慮しなくていいわよ」テクテク


あきつ 「おいしそうでしょ?」テクテク


 提督は直視に耐えないそれから目をそらし、あきつ丸を苦い目で追っていた。

 あきつ丸が視界内にいればそれを、いなければマジックミラー越しに。


あきつ丸 「私に何か付いてる?」

提督 「どういうつもりだ、やはりここは

あきつ丸 「拷問室よ」

提督 「おれに何かして無事に済むと思っているのか、記録はとっているんだろう?」

あきつ丸 「よく知っているわね」


 あきつ丸が懐のスイッチを押すと、マジックミラーの向こう側が照らし出され見えるようになる。

 そこにはテレビのミキサー室のように幾つもの機材とモニター、それにPCが並んでいた。

 しかし、全ての機器が電源の赤ランプさえ消え沈黙している。


あきつ丸 「カメラ、心音・呼吸・瞬きのセンサー類、サーモグラフィー、瞳・体表面上の水分計、声紋採取機、他色々」

あきつ丸 「便利な時代よね、拷問する相手にパットをベタベタ貼らなくてもわかるって」

提督 「全て止まっているようだが」

あきつ丸 「私とあなただけにするようお願いしたの」

あきつ丸 「だからここは記録も一切されない本当の密室よ」

提督 「・・・なんのためだ、亡命する気にでもなったのか?」


 あきつ丸は、未だゆっくりと提督の周囲を歩いていた。

 その歩みを提督の背後で止めると、自身のポケットから白い手袋を出し両手に嵌める。

 マジックミラーを失い背後を確認できない提督は、気付かないまま機器類を眺めている。

 あきつ丸は提督の背後に静かに近づくと、顔を提督の耳に近づけ囁いた。


あきつ丸 「拷問しても、記録に残らないようにするためよ」ボソリ

提督 「なっ



 あきつ丸は提督の片腕を後ろ手に捻り上げて極める。

 もう一方の手でモルモットののった皿を提督の顔の前にずいと突き出した。

 提督は自由なもう一方の手で暴れたものの、船上の一件もありすぐ諦めた。


あきつ丸 「口と目が見える?」

提督 「んんんん」


 提督が何とか顔を背けようとすると、あきつ丸は皿を少しずつ提督の口に近づける。


提督 「見える!止めろ!」

あきつ丸 「どうなってる?」


 提督はせめてと背けていた目をモルモットだったものに向ける。

 あきつ丸が止めていた皿をまた口に近づけようとした。


提督 「言えば良いんだろう!!目は赤く窪んでる!!」

あきつ丸 「もっと詳しく」

提督 「目から・・・目には赤い血と違う赤黒い液体?がたまってる」


 あきつ丸は更に皿を口に近づけ、傾斜させる。

 皿の底に溜まっていた液体がどろどろと少しずつ提督の方へ、そしてポタポタと降下を始めた。

 提督の顔と制服に赤い斑点が付く。


提督 「お、おい、言っただろ、止めろおおお」

あきつ丸 「口は?」

提督 「ッ・・・目と同じ?あ、赤黒い粘液、いやワタみたいなものが出てる」

あきつ丸 「そうね」


 あきつ丸の満足した声に安堵し気を緩めた提督の口からは

 堰を切ったように吐瀉物が噴射され机と自分の制服を吐瀉物まみれにする。


提督 「うおぉああああぁぇ」

あきつ丸 「服に付いた吐瀉物がよだれかけみたいね、赤い斑点の付いた」

提督 「うおあぇ」

あきつ丸 「ふふ」

あきつ丸 「どう?吐いた気分は?証拠のある場所も吐く気になった?」

提督 「・・・誰が」

あきつ丸 「じゃあ、食べましょうか」


 あきつ丸は、モルモットだったものごと皿を提督の口にあてがいねじる。



提督 「んん、んんんんんんn」

あきつ丸 「ふふ、ふふふふふ」


 押し付けてねじられたため、モルモットだったものはぼろぼろとこぼれ落ちる。

 あきつ丸が押し付けた皿を離すと、そこには毛と肉片が混ざりあった粘液がこびり付いた提督の顔があった。


提督 「酷い臭いだ、お前こんなことして・・・おえぅぺっぺっ」

あきつ丸 「どうなるのかしら、残るような傷はないようだけど」ニコニコ

提督 「モルモットの自白剤で吐かせる気か?」

あきつ丸 「自白剤は麻酔より投与量が繊細なの、わかる?」

あきつ丸 「こんないい加減な量を摂取させても吐かせるなんて、到底不可能」

あきつ丸 「安心していいわよ」

提督 「どうだかな」ッペ

あきつ丸 「そもそも、あなたのように意思が強く、頭の回る人間に拷問は無意味なのよ」

あきつ丸 「適当なこと・裏付けの取りにくいことを延々と話して捜査を混乱させるだけでしょうね」

あきつ丸 「だから、上に言って治験までしてた自白剤を止めさせた」

あきつ丸 「そして、あなたと二人だけになった」

提督 「憂さ晴らしにおれへ嫌がらせするためか・・・」

提督 「人間らしいところもあるじゃないか、お前が今更ながら好きになれそうだよ」ッペ

あきつ丸 「私は嫌いよ・・・殺したい位に」ニコリ

提督 (背後のあきつ丸の顔は見えないが・・・間違いなく笑ってやがる)ゾッ

提督 「・・・気が済んだら離せ」ググ

あきつ丸 「始まったばかりじゃない?」グイ

提督 「!?」


 そう言うと、あきつ丸は提督の腕を決めていない方の手で、提督の襟後ろを掴んだ。

 そして、少しずつ提督にお辞儀をさせるように下へ向けてゆっくりと押した。



提督 「おいッ、これ以上ッッ何を!?」

あきつ丸 「さっきのモルモット・・・目と口と鼻から赤い血と違う赤黒いワタが出てたわよね」

提督 「?」

あきつ丸 「あれ、なんだと思う?」グググ

提督 「知るか!おい、何をする気だ?止めろ!」

あきつ丸 「正解なら止めるわよ」グググ

提督 「血だ!静脈血が熱で固まったとかか?!」

あきつ丸 「不正解なので20度ダウン」グググググ

提督 「もう20度・・・どころか・・・机が目の前だぞ、なんで頭を下げさせるッ?」

あきつ丸 「こうするためよ」ガッ


 言うが早いか提督の頭が鐘付き棒のように衝撃音を発しながら、電子レンジに対し真っ直ぐ突き刺さる。

 3重構造の扉が割れ、すっぽりはまった扉の隙間から提督の呻き声が聞こえる。

 提督が電子レンジに食われているかのような異様な光景が机の上に広がった。


あきつ丸 「提督、どうかしら?真っ暗?」

提督 「っ痛ぅー・・・お前とうとうおれに怪我をさせたな」

あきつ丸 「先ほどの正解だけど、あのワタ

提督 「どうでもいい!!!すぐに出せ!!」ガンガン

あきつ丸 「あー、もう暴れないでくれない? 反響してご自身も五月蝿いでしょう」

あきつ丸 「それに、割ったガラスの扉が鋭い刃物となって提督の首を囲んでるのよ、危ないわよ」

提督 「ぐっ・・・」ピタ


あきつ丸 「赤黒いワタの話にもどるけれどね」

あきつ丸 「説明のために、この中に入ったモルモット武蔵ちゃんの話をしましょうか」

あきつ丸 「電子レンジは液体を振動させて加熱する偉大なる発明というのはご存知?」

提督 「知るかッ、お前は早くおれを出せば良い、丁寧になッ」

あきつ丸 「この電子レンジに生き物を入れるとどうなるか?」

あきつ丸 「肉体を構成する蛋白質は加熱で硬化するのに、体の60パーセント超を構成する水分が膨張する」

あきつ丸 「これは大変なことよ」

提督 「既に大変なことになってるぞ、この馬鹿」

あきつ丸 「体のいたるところで熱膨張と破裂が起こるわけだから」

あきつ丸 「まず最初に体液でも水分の多い血液が気化するわ」

あきつ丸 「血管は破れ、血の集まる心臓は膨張に耐えきれず爆発」

あきつ丸 「次に体液の多い順に体の各内蔵が変形もしくは破裂していく」

提督 「その説明に何の意味がある??」ッペ

あきつ丸 「頭部も例に漏れずよ、特に脳や眼は80パーセント超と水分が多い」

あきつ丸 「眼球は膨張して眼窩に収まり切らなくなり、飛び出しやがて破裂する、あなたが見た通りね」

あきつ丸 「では、脳はどうなるかしら?」

提督 「脳だぁ?」


あきつ丸 「頭蓋骨って意外に固いのよ」

あきつ丸 「膨張する脳、堅い頭蓋骨、上がる圧力・・・電子レンジに入れた卵を想像するとわかりやすいかしら」

提督 「爆発するってことか」

あきつ丸 「その通り」

あきつ丸 「熱膨張で脳内の圧力が高まり、沸点が上昇、限界まで温度が上がり熱膨張が進む」

あきつ丸 「限界を迎えた圧力は、眼窩や鼻骨といった脳に面する比較的柔らかい骨を破壊し噴出する」

あきつ丸 「それがあの赤黒いワタの正体・・・脳よ」

あきつ丸 「実際に昔のエジプトでミイラ加工をするのに脳を取り出す時も、骨が柔らかい鼻や目から掻き出したそうよ」

あきつ丸 「実に合理的だったようね」

提督 「だから何だ、何でそんな説明がいる?」

あきつ丸 「わからない?今あなたがいる場所で」

提督 「気は確かか?」

あきつ丸 「いたいけな少女たちを殺すほど狂ってはいない積もりよ」

提督 「お前もおれも立派な狂人だと思うがな」

提督 「それにしても、ボートで深海棲艦のいる海域に放置とか、もっと皮肉に富んだ拷問の方法はなかったのか」

あきつ丸 「贅沢ね」

あきつ丸 「今・・・真っ暗でしょう?」

提督 「見たらわかるだろう」

あきつ丸 「人間は、暗闇とか未知のものに対して遺伝子レベルで恐怖を感じるようになっているそうよ」

あきつ丸 「だから、視覚や聴覚を奪って拷問すると、その拷問を普通にするより効果的なの」

あきつ丸 「ところで、暗闇でいつ何の拷問をされるかわからないあなたの状況、似てると思わない?」

提督 「・・・鎮守府か」

あきつ丸 「鎮守府の少女達も、原因のわからない轟沈の恐怖と戦いながら出撃してた」

提督 「だから、おれも恐怖と戦ってみろと?」

提督 「ここまでお膳立てされて未知の恐怖も糞もあるか」


あきつ丸 「そうかしら?」

あきつ丸 「さっき一番効果的な拷問は電気ショックと言ったわよね」

提督 「だから何だ」

あきつ丸 「電気ショック以外の拷問で感じる苦痛は、経験や経験からの延長で想像ができる」

あきつ丸 「想像ができるから、覚悟もできるし我慢もできる」

あきつ丸 「けれど、電気ショックの苦痛は未知の苦痛なのよ」

あきつ丸 「想像ができないから、頭の中で恐怖は際限なく高まって行き簡単に精神が壊れるの」

あきつ丸 「未知の苦痛と言えば、提督殿は電子レンジでチンされた経験は?」

提督 「あったら生きてないだろうな」

提督 「そろそろ猿芝居を止めて諦めたらどうだ? おれはいくら脅しても証拠の場所も何も吐かん」

あきつ丸 「諦める?それはあなたの願望でしょう?」

提督 「国賓を殺すのか?」

あきつ丸 「国賓?えらく大きく出たわね」

あきつ丸 「私は外交官じゃないから、知るわけないじゃない」

提督 「それで済むと

あきつ丸 「そもそも外交問題にならないわよ」

あきつ丸 「軍法会議にかけられそうになった提督が自殺しようとした、それだけよ」

提督 「はぁ??・・・」

提督 「まさか、電子レンジのボタンを押させたのはッ

あきつ丸 「そう、あなたの指紋だけがボタンに残ってくれないと、自殺にでっち上げられないから」


 あきつ丸は襟後ろを抑えていた手を離し、

 その手で提督の首を手袋の感触を確かめさせるようにゆっくりなでる。



あきつ丸 「最後に一応聞くけれど、証拠の場所を話す気になった?」

提督 「ふぅ・・・黙ってとっとと押せッ」

提督 「力を信奉するおれが力に殺される・・・悪くない結末だ」

あきつ丸 「望んだ結末とでも言いたいの? 殺さないわよ?・・・あなたを壊すだけ」

提督 「はぁ???」

あきつ丸 「電子レンジにかけたあなたの脳は外側の大脳から加熱され固まっていく、そこで止める」

提督 「??」

あきつ丸 「