向日葵「愛慕」 (63)



貴女のことをこんなに愛しく思い始めたのはいつ頃からだったろう。

貴女のいない時間がこんなに寂しくなったのはいつ頃からだったろう。


「好きです」


貴女と出会ってからの13年間。
貴女に恋してからの数年間、私はずっとその一言が言えないでいた。
言えるはずがなかった。

この気持ちを伝えてしまえば、私たちは恐らく元の私たちでいられなくなってしまう。
喧嘩ばかりの幼馴染で、いられなくなってしまう。

湧き上がる瞳の滴を抑える一心で、私はおもむろに携帯電話を取り出した。
慣れた動作でササッとメール画面を開くと、ずっと下書きになったままのメールを開封する。

送信されることのない、貴女宛てのメールを開封する。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1422030232

そこに記された4文字の言葉を眺めて、私は微笑んだ。
そうだ。
伝えなくていい。

伝えられなくて、いい。

バカみたいに喧嘩して、はしゃぎ合って、争い合って。
そんなかけがえのない時間が永遠に続けばいい。
この想いは、ずっと胸に秘めておこう。
いつか“そんなこともあったなぁ”と、笑いあえる、その日まで。

だって私たちは―――――……

女同士だから。



ピロン♪


えっ。


携帯『送信しちゃった☆』


「……」

「の……」

向日葵「ノォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!」

向日葵「テガスベッタアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」

向日葵「やっちまいましたワァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!」ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ

向日葵「アイエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!!サクラコ!?サクラコナンデ!?!」ゴロゴロゴロゴロゴロ

向日葵「やっべええええええええええええええ」ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ

向日葵「ですわアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ

向日葵「アゥッアゥオゥウアアアアアアアアアアアアアアーゥアン!」ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ

向日葵「どォォォォォォォォォォォォォォしましょォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ」ゴロゴロゴロゴロ

向日葵「ですのォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!」ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ


―――
ウォアァァァァァァァァァァァ…
ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ…


撫子「誰だよこんな夜中に吠えながらドラミングしてんの……」

「野生のウサギでも発情してんじゃない?」

撫子「なにそれこわい」

「あら、それとも発情してるのはこっちのウサギちゃんの方かな?」

撫子「い、いじわるぅ///」

―――
向日葵「な、何か方法は!いい方法はないかしら!?」

向日葵「櫻子にメールを見られない方法……!」

向日葵「もしくはメールを見られる前に櫻子を消す方法……!」


向日葵「……ッッッ!!!!」ピコーン

向日葵「そうだッ!!!!今は深夜の3時半!!!!!!」

向日葵「櫻子なら寝てる時間!!!今ならまだ間に合いますわ!!!」

向日葵「そうよ!見られる前に携帯から情報を抹消してやればいいじゃありませんの!!!」

向日葵「なんて天才的!なんて革新的!!なんて、なんて圧倒的発想なんでしょう!!!」

向日葵「そうと決まれば櫻子が起きる前に携帯電話を回収するまでですわ!!!!」


向日葵「オーッホッホッホ!!!!!」

楓「お姉ちゃんうるさいの」ガラッ

向日葵「ごめんなさい」

楓「今六法全書読んでるから静かにしてほしいの」

向日葵「はい、ごめんな……え、六法?」

楓「あとさっきの頭悪そうな笑い方はなんなの?」

向日葵「えへへ、一度言ってみたくて」テレテレ

楓「……次やったらお姉ちゃんの犯罪歴の数々(主に櫻子関連)を白日の下に晒してあげるの」

向日葵「くっ……肝に銘じておきますわ」


楓「それと……櫻子お姉ちゃんのおうちに行くなら気を付けて」

向日葵「……楓?」

楓「今日の大室家には魔物が潜んでるの」

向日葵「……ありがとう、楓。気を付けますわ」


向日葵(楓が怯えている……これはよっぽどのことみたいですわね……)

―――
シュタッ

向日葵「よっしゃ大室家の敷地への侵入成功ですわ」

向日葵「とはいっても、二階の屋根から飛び移っただけですけど……」

向日葵「櫻子の家が隣でよかったですわ」

向日葵「櫻子の家が団地の向かいじゃなくてよかったですわ」

向日葵「大事なことなので二回言いましたわ」

向日葵「よし、このまま壁伝いに櫻子の部屋を目指しましょう」


ギシッ…ギシッ…


向日葵「え、この家、中からめっちゃギシギシいってるんですけど……」

向日葵「花子ちゃんにも妹ができるかもしれませんわね」

向日葵「ともかく、そんなことで当初の予定を変更するわけにもいきませんし」

向日葵「ちゃちゃっと携帯を回収してずらかりましょう」

向日葵「よし、ここのベランダから櫻子の部屋に繋がってるはずですわ」

向日葵「まずは部屋の様子を確認して……」ソロー


櫻子「Zzz……Zzz……」


向日葵「うわぁ、櫻子の寝顔、可愛すぎなのではー?」

向日葵「はぁ……正気を保つのが辛いわー。櫻子が可愛すぎて正気を保つのが辛いわー」ゴロゴロゴロゴロ

向日葵「いっそ襲い掛かりたいわー。何もかも投げ出して襲い掛かりたいわー」ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ

向日葵「このままお持ち帰りしたいですけど、ここは我慢我慢……」

向日葵「まずは誕生日に船見先輩から頂いたガラスカッターで……」


スーッ カシャン


向日葵「ふふ、チョロいですわね」ガララッ

向日葵「うほっ、生櫻子可愛すぎかよー!!!!」

向日葵「あぁ^~心がぴょんぴょんするんじゃぁ^~」ウットリ

向日葵「っといけないいけない。櫻子を前にするとどうも集中力がかき乱されますわね」

向日葵「早速携帯電話を探しましょう」

―――30分後

向日葵「全然ないんですけどー……」

向日葵「他探してないところありましたっけ?」

向日葵「引き出しは探した、タンスの中も探した、櫻子の下着の中も探した……」

向日葵「やっぱり全部探しましたわよね……」

向日葵「と、なると他の部屋、ひいてはリビングあたりに置きっぱなしという可能性が考えられますわね」

向日葵「ちょっと危険ですが一旦リビングに向かって……」



櫻子「んう……?あれ、そこに誰かいr」


向日葵「バストォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!」ブルンッ

櫻子「おぼぉー!?!?!?」ドゴォッ


向日葵「豊胸力……たったの5か……ゴミめ……」ファサッ

櫻子「」チーン

向日葵「ふぅ……こんなこともあろうかと船見先輩から巨乳拳法を学んでおいてよかったですわ」

向日葵「とは言いつつも櫻子がいつ目覚めるかも分かりませんし、一刻も早くリビングへ向かい……」



ガチャ



撫子「ちょっと櫻子?なんか大きい音したけど大丈b」


向日葵「おっぱいキック!!!!!!!!!!!!」バルルンッ

撫子「へげぇっ!?!?!?!?!?!?」メキョュッ


向日葵「その歳で豊胸力12とは……お可哀そうな血筋ですこと……」クスッ

撫子「」ゲザーン

向日葵「ふぅ、不可抗力とはいえ撫子さんまで堕としてしまいましたわ……」

向日葵「この調子では先が思いやられ……!」


向日葵(殺気ッ!?)バッ


シン…

向日葵「気のせい……ですの?」

向日葵「そういえば……」


(楓「今日の大室家には魔物が潜んでるの」)


向日葵「……ッ!」ゾクゾクッ

向日葵「体が震えている……」

向日葵「もしかして怯えていますの……?この私が……?」

向日葵「いや違う……私は怯えてなどいませんわ……」

向日葵「既に船見先輩でさえ相手にならない巨乳拳法を持つこの私が、恐れを成すなどあってはならないこと!」

向日葵「そう、これはきっと武者震いよ……」

向日葵「ふふふ、面白く……なってきましたわね」


向日葵(この先に……)

向日葵(魔物がいる……ッ!)

―――
向日葵「特に問題なくリビングに到着してしまいましたわ」

向日葵「なんだか拍子抜けですけど何もないに越したことはないですものね」


キラリ


向日葵「アァッ!?あのテーブルに見える携帯型情報端末はッ!!!」

向日葵「間違いなく櫻子のものですわ!!!」

向日葵「見つけたッ!第3部完!」


向日葵「よし、あとはこの家からドロンするだけで……」



ガララッ



花子「喉かわいたし……」トテシトテシ


向日葵「おっぱい踵落としッ!!!!!!!!」ボヨンボヨンッ

花子「がふっ!!!」ドゴォッ


向日葵「恨まないでくださいね花子ちゃん……恨むなら……」

向日葵「呪われし大室家の血を恨みなさい……」


花子「ッ……ケホッガハッ……」ヨロッ

向日葵「何……だと……?」

向日葵「豊胸力……3ッ!今の攻撃に耐えられるはずがない……ッ!どうして……」


花子(よく分からないけど貶されてる気がするし……)



ヒュッ


向日葵「風切り音……ッ!?」


その刹那、向日葵の脇腹に衝撃が走った。

向日葵「カハァッ……」

肺にため込んでいた酸素は一瞬のうちに体外へと吐き出され、
身体は抵抗する術もなく壁へと叩きつけられる。

遅れてやってくる轟音、立ち込める砂煙。
彼女が痛みにもがき苦しんでいると、やがて砂煙の中から、一人の見慣れない女性が姿を現した。
そして向日葵は悟ってしまった。


「その理由を教えてあげようか?」



楓の言う魔物が、コイツであることを。

向日葵「……あなたは……一体」


「大室家(2巻まで絶賛発売中☆お求めは近くの書店にて)高校生組四天王の中で最も高い豊胸力を持ち」

「その力を使い撫子を我が物とした」

「陽の出でる時間は仮初の姿」

「ある時はドMな同級生、ある時はケーキを運ぶウェイトレス、そしてある時は―――」


「巨乳拳法の使い手」


向日葵「……!?」

花子「えっ何この状況」


「どうも初めまして、ひま子ちゃん」



めぐみ「園川めぐみと申します」

向日葵「あなたが……撫子さんの……」

めぐみ「あら知ってた?」

向日葵(う~ん、でかい……)

めぐみ「あはは撫子の言った通りだー。おっぱいおっきいんだねー」


めぐみ「てかダメだよひま子ちゃん。家主を片っ端から潰してっちゃ」

めぐみ「櫻子ちゃんは軽傷で済んだけどさ、撫子、見たところ全治1ヶ月ってとこなんだけど」

向日葵「なッ……!?僅かとはいえ、なぜ豊胸力の高い撫子さんの方が重傷を……!?」

向日葵「そうですわ……それに花子ちゃんが私の攻撃を耐えたもの……」


めぐみ「……将来性の差だよ」

向日葵「将来性の差……?」

めぐみ「ふふっ、その反応を見るにひま子ちゃんは近い年齢の子としかやりあったことが無いみたいだね」

向日葵「くっ……」

花子(なんか面倒そうな方向に話が進んでるし……)


めぐみ「巨乳拳法はね……まだ将来性のある相手に対しては効力が半減するんだよ」

めぐみ「つまり将来まだ巨乳になる可能性が僅かでも残されてる花子ちゃんや櫻子ちゃんは比較的軽症で」

めぐみ「未来のない撫子は重傷ってわけ」

向日葵「な、撫子さん……!」ブワッ


何ソレ。チョー切なぃ。
ぁたくしは泣ぃた。



花子(明日から牛乳2L増やそう)

「ま、それはさておき……よっと」

「痛ァッッッ!!!!!」

めぐみはまるでボロ雑巾でもつまみ上げるかのように、向日葵の髪を無造作に掴んで、持ち上げた。
経験したことの無い激痛に悲鳴を上げた向日葵を見つめ、めぐみは愉快そうに笑う。

「アンタが何のつもりで侵入してきたかは知らないけどさ……撫子を痛めつけたこと、その身で償ってもらわないとね?」

「ヒィ……!」

至近距離で微笑むめぐみの顔はとても綺麗だ。
撫子が惚れてしまうのも無理はない。
向日葵は激痛と恐怖の狭間でそんなことを思った。
しかし撫子にとっては天使のようなその微笑みも、今の向日葵にとって悪魔の嘲笑としか据えられない。
確かにめぐみは笑顔だったが、その瞳の奥は殺気に溢れていたからだ。

屈辱的だった。
今すぐにでもその腕を薙ぎ払い、必殺の一撃をお見舞いしてやりたかった。
しかし、それほどの余力が今の向日葵には残されていない。
先制で受けたあの一撃は、それほどまでに熾烈だった。

今なら、はっきりと分かる。


この魔物には勝てないと。
力量差が、開きすぎていると。



向日葵は、そう確信してしまった。

豊胸力でいえば向日葵とめぐみの間にそう大きな差はなかった。
めぐみがただの巨乳拳法の使い手であったなら、向日葵としては互角以上の勝負が望めただろう。
しかし、そうではなかった。
向日葵が想像している以上に、めぐみという人物は数々の修羅場を潜って生き抜いてきた。

今でこそめぐみの恋人である大室撫子は、かつて数多くの同級生から求愛された。
その勢いは留まることを知らず、やがて争いを生み、血が流れ、力が全てを支配する、
彼女を巡った過酷なバトルロワイヤルが始まったのだった。
求愛者のうちの一人であっためぐみは、そんな辛辣な環境の中でも巨乳拳法を駆使して生き残り、
時には生死の境を彷徨いながらも、ついには大室撫子のハートを射止めることに相成った。

そんな経験の差、戦場における判断力の差、そして何より覚悟の差が、二人の力関係を確かなものにしてしまっていた。
向日葵も決して温室でぬくぬくと育ってきたわけではなかったが、あまりにも相手が悪かった。

「さて、そろそろお祈りの時間は済んだかな?ひま子ちゃん」

「ハッ……中学生相手に手を上げて大人げないですわね……。生きてて恥ずかしくないんですの……?」

それでも向日葵はめぐみを睨みつけ、精一杯の罵声をプレゼントする。
どんなに敵が巨乳であれ、決して背中を見せてはいけない。
それが師匠である船見結衣の教えだった。


「いや、ひま姉がいうなし」

もっともである。

「あっはっは、そういう命知らずな人間、嫌いじゃないよ」

「だったら見逃して下さりませんこと……?」

「うん、それ無理」


次の瞬間―――二度目の轟音が鳴り響く。
向日葵が床に叩きつけられた音だった。

向日葵の身体はそのまま大きくバウンドすると、
まるでフィギュアスケート選手のように華麗な回転をキメながら、無様に落下した。

「ウガアァァァァ!!!!!!!!!!!!」

「あれ、まだ意識あるんだー。伊達におっぱい大きくないね」

頭の割れるような痛みに、向日葵は獣のような雄叫びを上げる。

めぐみの言う通り、確かに意識はあった。
しかし、同時に限界でもあった。
頭部を大きく揺らされたことにより、正常な思考、判断がままならず、
脳が全身に電気信号を送ろうとしない。
身体が、動こうとしない。

やがて石のように重たい身体が、徐々に軽くなっていくのを感じる。
痛みと恐怖で狂いそうな意識が、曖昧な安堵で満たされていく。
月に照らされ少しだけ明るかったリビングが、瞼の裏の暗闇に侵されていく。

ジ・エンド、ここで全て終わりだ。
あんな強い相手を前に勝てるはずがない。
私はよくやった。携帯を見つけられただけでも大したものじゃないか。
向日葵は朦朧とした意識の中で、自己を必死に肯定した。
肯定してやらねば、敗北という二文字の前に自我を保てなかった。



向日葵は、暗闇の世界の中に身を委ねることにした。




『向日葵を負かすのはこの私だ』



声が聞こえた気がした。

こんな時でも聞こえてくるのは、最愛の人の声だった。

いつも突っかかってきて、胸のことでバカにして、
自分がいなければ何もできない、世話の焼ける幼馴染。

ライバルなどとほざいて、勝てもしない勝負を挑んできて、
負けても懲りずにまた勝負を挑んでくる、幼馴染。




『他の誰かに負けるようなことは、この私が許さん!』



そうだ。

まだ、負けていない。
負けるわけにはいかない。


あの子以外に、負けるわけにはいかない!!!

向日葵「うおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!!」ガバッ

めぐみ「た、立ち上がった!?」

花子(チッ……早く終われし……)


向日葵(クッ、意識は朦朧、身体はフラフラで立ってるのがやっと、手足はまるで棒のようですわ……)

向日葵(ですが……身体なんて所詮飾りですわ!!!)

めぐみ「まだ叩きのめされ足りない?大人しく寝ておけば終わりだったのに……」

向日葵「生憎わたくし、諦めが悪いんですのよ……」フラッ

めぐみ「その有様で言ってくれるね」

向日葵「ふふ、そんな余裕面してられるのも今のうちだけですわ」

めぐみ「あはは、ホント威勢だけは一人前だよね」


向日葵「……園川さんは一つ忘れているみたいですわ」

めぐみ「ん?何か忘れてたっけ……?」

向日葵「分からないなら教えて差し上げます……」

向日葵「花子ちゃんや櫻子のおっぱいに将来性があるように……」

向日葵「私にもまだまだ将来性があるんですのよ……」

めぐみ「……フン、それでどうかした?」


めぐみ「確かにひま子ちゃんはこれからまだまだ強くなれるでしょう。私が保証するよ」

めぐみ「でも今は違う!今のひま子ちゃんじゃ私には敵わない!」

めぐみ「自分でも分かってるんでしょう!それは先ほどまでの結果が如実に証明している!」

めぐみ「それとも何?今すぐ私の攻撃が耐えられるようにでもなるっていうの!?」

めぐみ「戦いの中で成長するなんて、所詮漫画の世界だけの話なんだよ!」


向日葵「……」

向日葵「それはどうでしょうか」

めぐみ「……なに?」

向日葵「何も成長するのはおっぱいだけではありません」

向日葵「思考、価値観、戦略性、その他諸々……むしろ戦闘を通じなければできない成長って、多いと思いますの」


向日葵「…あなたに攻撃されている間、ずっと考えていました」

向日葵「私とあなたの決定的な違いを……」

向日葵「豊胸力は対して変わらない私たちなのに」

向日葵「何故こうも戦闘力に差があるのか」

向日葵「そればっかりをずっと考えてましたわ」

向日葵「そして、分かったんです」


向日葵「それは……修羅の道、戦いの道に身を置くという“覚悟”」

向日葵「恋人の妹を囮に使ってでも不意打ちを完遂させようとする、勝利に対する“貪欲さ”」

向日葵「私に足りていないかったのは、その二つですわ」


花子「えっ私囮にされてたの」

めぐみ「えぇ~?何のことかなぁ~?めぐみ分かんなぁ~い?」シラー

向日葵「その結果、私が導き出した勝利への方程式は……こうですわ」

向日葵「ウフフ……」プチッ


ズドン


めぐみ「なっ……!?」
     ブラジャー
めぐみ(拘束具を外した!?ノーガード戦法!?)

花子(うっそー……床がえぐれたんですけどしー……)

向日葵「この私にこれを外させるとは大したもんですわ」スッ

めぐみ(……あの構えは……まさか!?)

めぐみ「アンタ正気!?本当に死ぬぞ!!!!」

向日葵「至って正気ですわ!!!」グッ

めぐみ「クッソ狂ってやがる!!ダメだ花子ちゃん、逃げるよ!!!!!!!!!」

花子「なんだし!?!?!?!?」

向日葵「おっぱい・サンシャイン!!!!!!!!!!!!!!!!」



                | |
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          ,.r-、 ,ry | |  ヒ;;;::}
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     ー'’._ ,r'う {::jj ,.、、 _,...::::::''ヽ  ,.,´  {{::::::::ヽ.
    ,;'"'" ̄ヾ´,.., r::';;〃l'l::::;;:::::::f'_ ヾ'〃) `ヾ::::::/
   〈::::::::/ノ ヾ,jヽ='. ,,ヽへ-(ヾ::゙、 ゞ',.,.、 //::::/

    ヾ:::::゙、゙、 {{) {:::jj' ",,,,、 c;、ヽ='  ゙、::゙;ヾヾ/_
    ヾ::::/:ノ ,,,,_ (:ヾ'''⊆|:::::|P,r,r:、 ,:'''7  ``' ゙/〃
     ゙ー' /:::::;}}`",.,rt:、゙´ //::::/ ゙ー',.r::::、  _`'’
     r:::、、ヾ-''n.く:::;:::゙、゙、 ヾー' { ̄:::::ノ!,ィ'r':::|
     |::::::| |''ヽ`_,,.`'ヘ;r'ノ,..-:、_ _ `='-'" | |:::::|       ← 大室家
  ___.   |::::::| |_`__|`ii'"''" /7 i'i::l´______|_|:::::|
___|:::「____|:::::::`::::::::::::::::::::}}f´ヽ、`,..,゙、}:::::::::::::::::::::::::::|
 ̄ ̄ ̄| ̄|::::::::::::::::::::::::::ゞヾ;;;jj{{;;;ノ{{:::::::::::::::::::::::::::|
:::::: [][]::|:::::|:_i二二二ユ;;::「   ,...., ,f;ノ「 ̄ ̄ ̄「|::::||ヾヾ ̄ ̄
、,...... ._: |:::::|]]]]]]]]]]]]]]]'i||__ ヾ-’_|::::|_____」」;;;;||_ `ヽ、_
,I、ー'_,!::| :::|--------/'|::::::'゙、 ,i'j:::::::::::::::::::::::::| ヽ...|、`ヽ、 |lllll
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TTTTTTTTTTTTTT:::;' :|l'| ̄ ̄「「「ニ|ニf(二二..))\ `゙、===
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ニニニニニニニニ]' ::::|.|'|::::::::::::::|.|.|..|ヾ.| : :::::::::::::|゙、  `、!::::::

めぐみ「ふぅ、危なかったね」

花子「う、うちが……」

めぐみ「ま、どうせ明日にはすぐ直っちゃうんでしょ?さすがお金持ち」

花子「そうなんだけど……そういう風に思ってほしくないですし……」


めぐみ「ひま子ちゃんが最後に放ったあの技……」

めぐみ「身体にかかる負担があまりにも大きいからって理由で、巨乳拳法では禁じ手とされてきたんだ」

花子(うわ、なんか語りだしたし……)

めぐみ「ふふ、そこまでして負けたくなかった理由って一体なんだったんだろうね?」

花子(わりとどうでもいい!)

花子「それより撫子お姉ちゃんと櫻子はどこいったんですし?」

めぐみ「撫子なら回収しといたよ」ドサッ


撫子「いゃん……巨乳拳法で責めるのは……もうらめぇ……」


花子(どんな夢見てるし……)

めぐみ「ただ櫻子ちゃんはちょっと見かけなかったんだよね……」



めぐみ「部屋にもいなかったしさ」

―――
ガチャ

向日葵「ただいま、楓……」

楓「おかえりなの……ってお姉ちゃんボロボロなの!」

向日葵「フフ、こんなのかすり傷ですわ……」

楓「もしかして魔物とやりあったの……?」

向日葵「ええ……生憎逃げられてしまいましたけれど」

楓「生きて帰ってこられただけで幸運なの」

向日葵「そうですわね……」


向日葵(例のブツもなんとか無事できたし、何とかミッションコンプリートですわ……)

向日葵(正当防衛とはいえ大室家を半壊させてしまいましたけれど……ま、どうせ明日には直るんでしょう)

楓(さすがお金持ちなの!)

向日葵(楓。人の思考に勝手に介入してこないの。教えたでしょう?)

楓(そうだったの……ごめんなさい)

向日葵「さて、お姉ちゃんはお風呂に入ってきますわ。楓はもう寝なさい」

楓「はぁい」ニパー

向日葵「いい子いい子」ナデノナデノ

―――
向日葵「よし、この部屋なら誰もいませんわね……」

向日葵「さーてここにあるのは櫻子の携帯ですわ」ワキワキ

向日葵「やっべ、櫻子の私物ってだけでオラわくわくしてきたぞ」ウキウキ

向日葵「パスワードは……まぁあの鳥頭がかけてるわけないですわね」ポチポチ


向日葵「……ん?なんですのこの待ち受け。ちくわの磯部揚げ?」ポチポチ

向日葵「趣味悪いですわね」

向日葵「さてとメールメール……」ポチポチ


向日葵「あ、間違えて画像フォルダ開いちゃいましたワー」ポチポチ

向日葵「人の携帯って難しいデスワネー」ポチポチ

向日葵「ふむふむ……友達との写真ばっかりですわ」ポチポチ

向日葵「友達の多いあの子らしいというか……」ポチポチ


向日葵「アレ、そういえば……」ポチポチ

向日葵「私の写真が……無い?」

向日葵「無いですわ……!一枚も!一枚も無い!」ポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチ

向日葵「……」


向日葵「は、はぁー?べ、別に泣いてなんかないしー?」

向日葵「ダイエットだしー?体内から水分をこそぎ落として痩せるんだしー?」

向日葵「はぁ。死にてーですわ……」

向日葵「……ん?」

向日葵「なんでしょうこのサンフラワーってフォルダ……」ポチポチ


向日葵「こ、これは……!」

向日葵「私の写真だけ……フォルダ分けされてる……?」


向日葵「……」


向日葵「え、えー……ちょっと恥ずかしいんですけどー……」ニヤニヤ

向日葵「あ、ヤバ、顔のニヤケが止まりませんわ……」ニヤニヤ

向日葵「もうあの子ったら……明日会ったらホールケーキをプレゼントですわ♪」ニヤニヤ

向日葵「本当は私自身をプレゼントしたいですけど♪」ニヤニヤ

向日葵「はぁ櫻子は人生、ですわね」


向日葵「さて、とっととメール削除しましょうか……」ポチポチ

向日葵「あったあった。確か受信メールはここで……」ポチポチ

向日葵「……え」





向日葵「開封済……?」

向日葵「中身は……やっぱりさっき送ったメールですわ!」ポチポチ


向日葵「えっどういうこと……?」

向日葵「撫子さんか花子ちゃんが勝手に開封したとか……?」


向日葵「いや、それこそありえませんわ……そんな事するような人たちじゃ……」

向日葵「それじゃ……やっぱりあの子が……」ワナワナ




「そうだよ」

向日葵「なッ!?その声は……」

「寝てる人にいきなり頭突きかましてくるなんて酷いじゃんか」

向日葵「……アレが私だって気付いてたんですの?」

「あんなメールもらって、ぐっすり眠れると思う?」

向日葵「……もう、その時点から起きていたんですのね」

「うん、急なメールで私も混乱してたから、返事は明日するつもりだったんだ」


「とりあえず、寝て冷静になろうと思った矢先だったよ」

「ガサゴソ音がすると思ったら、向日葵が私の部屋とか体とか漁ってるんだもん」

「咄嗟に寝たふりしちゃった」

向日葵「そう……だったの」


向日葵「ということは、全部知ってるんですのね」

「……どしたん?そんな俯いて」


向日葵「はは、おしまい……ですわね」

「何が?」

向日葵「私たちの関係以外、他にあって?」


「何で?」

向日葵「……少しは自分で考えなさいよこのおバカ」


「分かんないよ。向日葵、私のことが好きなんじゃないの?」

向日葵「……」


「好きってことはもっと一緒にいたいってことじゃないの?なんでおしまいになっちゃうのさ」

向日葵「……」


「黙ってちゃ分からないんだけど」

向日葵「……」

「てかさぁ、こっち向いてよ」

向日葵「……向けませんわ」

「何で?」

向日葵「あなたに合わせる顔なんてありませんもの……」


「誰が決めたの」

向日葵「私ですわ」


「勝手に決めんなよ」

向日葵「……貴女にバレてしまったら、こうするって決めてましたから」

「だから勝手に決めんなって……」



向日葵「もううううううほっといてよッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」



「……」

向日葵「私が何をしたか分かっているの!?!?!?!?!?!?」

向日葵「一線を越えてしまったの……ッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!」

向日葵「私は越えてはいけない一線を越えてしまったのよ!!!!!!!!!!!!!!」


「何だよ越えちゃいけない一線って」


向日葵「ダメなのよ……女同士なのよ……」

向日葵「女の子が……女の子に……」

向日葵「そういう感情を持っちゃ……ダメなの……」

向日葵「分かってるのよ……おかしいって……」

向日葵「自分が一番分かってる……普通じゃないのよ……私……」

向日葵「でもどうしようもないの……」

向日葵「どんなに忘れよう……忘れようって思っても……」

向日葵「いや、そう思えば思うほど……」

向日葵「貴女に募る思いは大きくなるばかり……」

向日葵「ごめんなさい……こんなの気持ち悪いですわよね」

「……別に気持ち悪くないし」

「それに恋愛に男も女も関係ないと思うけど」


向日葵「そう言って下さるのは一部の理解のある方たちだけですわ」

向日葵「世間一般の人たちは決してそうは見てくれない」

向日葵「奇異な目で私を指さして、嘲笑って、気味悪がって……」

向日葵「まるで腫れ物に触れるような扱いをされるんですわ……」


「……」


向日葵「普通はね、ちゃんと男性と恋をして……」

向日葵「やがて結婚して、子供を産んで……」

向日葵「そういった幸せを掴むべきなのよ……」


「いいじゃん普通じゃないって。なんかカッコよくない?」


向日葵「カッコいいわけ……ないでしょう……」

向日葵「……お願い」

向日葵「もう私に話しかけないで……」


「ヤダよ。無理に決まってるじゃん」


向日葵「無理なら……」

向日葵「このまま何も見なかったことにして帰ってちょうだい……」

向日葵「それで、また明日からいつもみたいな笑顔を見せて……」


「……私が今日の出来事を無かったことにしたところで」

「向日葵は明日からいつも通りに戻れるの?」


向日葵「……戻れますわ」

向日葵「いえ、必ず戻ってみせます」

「信用できない」

向日葵「信用しなさいよ……」

「信用できるわけない」

向日葵「信用しなさいって……」


「じゃあこっち向いてよ」

向日葵「何でよ」

「ちゃんと顔見ないと明日から大丈夫か分かんないじゃん」

向日葵「……顔を見せたら信用してくれる?」


「多分」

向日葵「多分って何よ」

「多分は多分だよ」

向日葵「……はぁ、分かりましたわ」

向日葵(たった一度だけ……ほんの一度、顔を合わせるだけ……)

向日葵(それで全て終わるのなら……)

向日葵(いえ、それで全て終わらせる……)

向日葵(終わらせてみせますわ……!)

向日葵(それで明日からいつも通り……!)


「まだ?早くしてよ」


向日葵「ちょっとくらい待ちなさいよ」

向日葵(これで……終わりですわ……!)

私は俯き気味の首を上げ、身体を勢いよく半回転させる。
二つに結った短い髪が遠心力に抗えずフワッと浮くと、
ちょっぴり焦げ臭いにおいが鼻についた。

そういえば、あの戦いの後から風呂に入っていなかった。
貴女に会うと分かってれば、せめてシャワーくらいは浴びたのに。

そんな取り留めの無いことを考えていたら、貴女の白いワンピースの裾が目に留まる。
さっき部屋に侵入した時は、確か着ぐるみのパジャマを着用していたはずだ。
わざわざ着替えたのだろうか。


少し目線を上げる。
貴女はちょっぴり不機嫌そうな顔をして、私の瞳をじっと見つめている。
白いワンピースが、よく似合っていた。


「向日葵―――…」


貴女は私の名前を呟いた。
一歩、二歩、私に近づく。
すぐ眼前に、貴女がいる。


貴女は、口を開く。




す、



き、



だ、



よ。






貴女が囁いたのは、私がメールで送った4文字の言葉。



急激に、体温が、上昇する。
思考が、停止する。

「……ななななななななァァッ!?!?」

「あっはっは、向日葵さ、そんな顔真っ赤にして信用してもらえると思ったの?」

「ななな、ひ、卑怯ですわ!!!」

「何が卑怯なんだよ。本当の事を言っただけだし?」

貴女はそっと私を抱き寄せる。
布越しに感じる貴女の体温は、私の鼓動を更に加速させた。

「だって、そんな事言われたら……」


ああ、そうだ。思い出した。


「……いつも通りになんて……戻れるわけないもの」


私が貴女に恋した理由。


「いいじゃん、いつも通りになんて戻らなくたって」

「それに私だって、いつも通りになんて戻れないよ」



―――…

私がまだ昔、今よりもずっと弱虫だった頃。
貴女にずっと、頼りっきりだった頃。

私は“向日葵”という自分の名前がどうしても好きになれなかった。
いや、はっきり言って嫌いだった。

弱虫な私には元気で力強いイメージのある“向日葵”の名は荷が重く、また、
“今のままではいけない”と、“明るく元気に過ごせ”と強要されているような気がして、
いつしか名前を呼ばれること自体に嫌悪感を示す様になっていた。

もっと地味な花の名にしてくれていれば。
そう思ったのは、一度や二度の話ではない。

更に追い打ちをかけたのは、貴女の存在だった。
快活で強くて優しくて、いざという時にいつも私を守ってくれた貴女は、
私なんかよりもよっぽど向日葵の名に相応しくて。

『さーちゃんがひまわりだったらよかったのに』

そんな言葉をぶつけたこともあった。
おバカな貴女は、そんな言葉の裏に隠された意味も分からず、ただ明るく笑った。
大好きな貴女のことも、この時ばかりは嫌味に見えた。
けれど……。

『ひまわりはね、たいようの花なんだって。おねえちゃんからきいたんだー』

『ひまちゃんはわたしのたいようなんだから、わたしがひまわりになっちゃだめなんだよ!』

『ふふ、ひまちゃんがひまわりってなまえでよかったー!』

貴女は後日、そう言って私を励ましてくれた。
包み込むように、力いっぱい私を抱きしめてくれた。

貴女のその言葉を聞いたとき。
胸の内に引っかかっていたものが、スッと取れたような感じがしたのをよく覚えている。

ああ、私は今の私のままでもいいんだ。
私は無理に変わる必要なんてないんだ。
そう思った時、自然と涙が溢れた。


貴女に、恋をした。

それから私は変わった。
自分から変わろうとした。
貴女に見合う人間になるため、強くなろうとした。

バカにされないよう、たくさん勉強をした。
貴女を守るために、生徒会に所属した。
ひもじい思いをしないよう、料理もできるようになった。
弱虫に見えないよう、丁寧な言葉づかいを心掛けた。
いざという時のために、よく分からない拳法も学んだ。

私は強くなった。
些細なことでは泣かなくなったし、貴女に頼ることもなくなった。


つもりだった。



…―――

「おいおい、泣くなよ」

「櫻子……櫻子ぉ……」

あの時と同じ涙が私の頬を伝う。
弱虫の涙は櫻子の白いワンピースに溶け込んで消えていく。
結局私は、少しも強くなんかなっていなかった。
弱い自分をひた隠すために、重い鎧で理論武装を施していたに過ぎなかった。

弱かったから、周りの視線を気にしてしまった。
弱かったから、非難され、傷付くことを恐れた。

「よしよし……」

櫻子は泣き止まない私の頭を優しく撫でながら微笑む。
弱虫の涙は枯れることを知らない。
それもそのはずで、この涙は私が数年間、ずっと我慢してきたものだったから。

「私たち、女同士なんですのよ……」

「性別なんて関係ないじゃん」

うん、関係ない。


「周りから冷ややかな目で見られるかも……」

「そうしたい奴はそうさせとけよ」

そうそう、放っとけ放っとけ。


「時には……罵声や暴力を浴びるかもしれませんわ」

「その時は私が守ってやる」

本当に?豊胸力5の櫻子が守れる?


「他の子と楽しそうに話してたら、嫉妬しちゃうかも……」

「そしたら向日葵とはもっと楽しそうに話す」

普通は“もう他の子とは話さない”とか言うもんじゃないの?
……でも、こっちの方が櫻子らしい気もする。

「あとは……」

「ひーまわり」

次の言葉を紡ごうとすると、櫻子は私の名前を呼び言葉の先を制してくる。
その表情は満面の笑みに溢れていて、泣きっ面の私とは対照的だ。

もういいんだよ。
もう大丈夫なんだよ。

そう言ってくれている気がして、私は口を動かすのをやめた。
依然として涙は滝のように流れ続けたままだったが、櫻子は満足そうにうん、うんと頷く。

「何があったって大丈夫だから」

「だって向日葵は……私の太陽だもん」

「え……お、覚えてるんですの……!?」

「あったりまえじゃん」

「どうして……?」

「だって向日葵、あの日からよく怒ったり、笑ったりするようになったから」

「……そうだったんですのね」

驚いた。
あの出来事は私にとっては特別なことでも、
櫻子にとっては何気ない日常の一部でしかないと思っていた。

櫻子はあの日から、強くなろうとしていた私をずっと見ていてくれたんだ。


「ありがとう、櫻子」

「へへ、少しは自分の名前好きになった?」

櫻子はさっきとはまた違う、いたずらっ子のような笑顔を見せながら言った。
その答えはもちろん……。


「ねぇ、知ってます?」

「なに?」



「向日葵の花言葉」

「……知らない」

「ふふ、自分で言うのもなんですけど、私にピッタリなんですのよ」


あの頃は嫌いだった“向日葵”という名前。
今は大好きになった“向日葵”という名前。

そんな元気溌剌な印象を与える向日葵の花には、
そのイメージを大きく崩す花言葉があてられている。



その花言葉は―――――




おしまい

タイトル詐欺がやりたかった。今では反省している。

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