少女「殺人依頼、承ります」(36)

朝、目が覚める。

いつものように、くたびれたソファから体を引き剥がし目をこすりながら周囲を見渡す。
殺風景な事務所。そこにはデスクが1つとパソコンが1台、そして・・・

男「おはよう」

童顔の男が1人、パソコンで何やら作業をしている。

にこりと私に笑顔を向けたら画面に向き直りすぐに作業に戻った。

季節は初夏。私は男に向かって歩みながら答える。

少女「おはようございます、男さん。今日は少し暑いですね。」

日本の夏は嫌いだ。

主な要因はジメジメとした湿気だが、東京の人ごみがさらにそれを増幅させ私の不快指数を青天井へと引っ張り上げる。

男「暑いかい?そろそろエアコンを付けようか。」

そう言って男はリモコンを探し、何やら困った顔をしている。

男「・・・・ごめん、リモコンの電池が切れてる。」

少女「・・・!?」

エアコンが・・・使えない!?

こ、これは危機的状況だ。肉体的な負担は精神面へも影響を与える。

替えの電池は・・・無い。

私の不快指数パラメーターがどんどんと点滅してシンレッドラインを超えそうになる。

そんな私の『わなわな』とした雰囲気に気付いたのか、

男「ごめん、悪いんだけれど電池を買ってきてくれないかな?」

もう、30だというのに童顔のせいで20代前半に見える。そんな顔の表情筋を緩やかに力ませ、にこにこと提案する男。

少女「・・・・・報酬は?」

笑顔に騙されてはいけない。私は頭の中で、ブンブンと頭を振るイメージをして理性を固める。

男「快適な職場環境、でどうかな?」

少女「それは雇用主として、当然の義務なのではありませんか?」

男「そ、それはそうなんだけどね・・・あはは・・・・」

『まいったなぁ』という素振りをしながら俯いて答える男。

少女「・・・アイスクリームで手を打ちましょう。」

私の提案があるまでずっと考え込んでしまいそうな様子だったので、助け舟という名の要望を伝える。

男「わかった。じゃあコンビニでアイスと電池を買ってきて。はい、お金。」

そういって男は隅に1000と書かれた紙幣を私に渡す。

『大抵の物品の1つや2つはこれでことが足りる。』

私はそういう認識でしかまだ『お金』というものの本質を理解できていない。

少女「了解。現時刻、マルキューサンロクを持って作戦を開始する。」

私はソファの下からs&w社製のm49を取り出しホルスターに放り込んだ。

男「えっと・・・・え?」

予備の弾丸を10発ポケットに放り込んでいる私に向かって男が恐る恐る声をかける。

少女「なんでしょうか?」


ピンクのワンピースの上にショートデニムジャケットを羽織った私はくるりと踵をかえし、男に向き直る。

ワンピースがふわりと揺れ、揺れが収まるのを待っていたかのように男が話し出す。

男「そこまで警戒しなくても・・・コンビニは徒歩でも5分のところだよ・・・?」

相変わらずの無警戒ぶり。怒りを通り越して呆れてしまう。

少女「いいですか、男さん・・・」

っと私が説教モードに入ろうとしたところ

男「なんでもありません・・・行ってらっしゃい・・・・。」

っと、降参の意思を見せて私の罵詈雑言を退けた。

本当に何を考えているのか・・・先が思いやられる・・・・

私は2階にある事務所を出て階段を降り、外に出る。

少女「うぅ・・・・」

予想していたとはいえ、待ち受けていたのは強い日差しと人ごみと湿気。

ジリジリと照りつける日差し

ガヤガヤとうるさい人ごみ

ねちねちと皮膚に染み込む湿気

少女「もうやだ、この国・・・」

ポツリとそんな言葉が出るが、もう諦めた。

さっさと仕事を済ませて快適職場空間を手に入れるのだ!

私は心の中で元気にガッツポーズをしながら、それとは正反対に重い足取りでコンビニに向かった。

とぼとぼ・・・・・

ビルの屋上などスナイピングポイントを警戒しつつ歩を進める。

しかし目に入ってくるのは、時間的に考えて明らかに遅刻をしているというのに

開き直っているのかダラダラと歩く女子高生やサラリーマンばかり。

やる気というか戦意というか、この国にいると自分の中の『警戒心』が薄れていくのが分かる。

それを厳しく正すように私は背筋を伸ばして、コンビニという名の戦場へ向かった。

コンビニに入る。客は少ない。電池はこの辺・・・

少女「い、いっぱい・・・ある!?」

どうしよう・・・サイズがわからない。リモコン用の電池は、どれ!?

少女「あうあうあう・・・・」

致命的なミス。ここぞという時に私はいつも致命的なミスをしてしまう。

お札を握り締める手に力が入る・・・一旦戻って、男に尋ねるか?

ダメだ、それこそ失態。それにこの暑さの中をもう一往復したくない!

私はチラリと店員の方向に目をやる。

そ、相談してみようか・・・どうしようか・・・・

チラチラ・・・チラチラ・・・・

そうこうしていると、店員の様子がおかしいことに気づいた。

横目でこちらを見ている!

ま、まさか・・・気づかれた!?

私が殺し屋であることを!?

ますます私の頭の中がパニックに陥る。

少女「これは・・・まずい・・・・!」

ポツリと項垂れながらつぶやいたと同時に、店員に声を掛けられた。

いつのまにこんな至近距離まで!その気配に気づけなかった私の不甲斐なさを情けなく思っていると

店員「君、万引きでもしようとしているんじゃないだろうね!」

険しい顔をした40代の男。

ま、万引き!?

誤解だ!誤解を解かないと!

少女「ち、違います!私はそんなことしません!お金だってあります!ほらっ!」

そう言って、半ばパニックになりながら目をつむり店員にお金を差し出した。

すると店員はそれ以上言及してこなくなったが、何かただならぬ雰囲気を醸し出していた。

恐る恐る目を開けると・・・・私はm49を店員の心臓に向けて突きつけている状態になっていた。

お金を出したつもりが、パニックで拳銃を、それも突きつけるなんて・・・

少女「こ、これは違うんです、おもちゃです!おもちゃなんです!お金は、えっとえっと・・・」

ポケットを漁るが、出てくるのは弾丸が10発。

場の空気が一瞬にしてどんよりと冷たい空間に包まれた。

言い逃れはもうできない・・・

私は変な汗をかきつつ俯いてしまった。

店員も変な汗をかいて俯いている。

すると、床にお金が落ちているのに気づいた!やった!これで信じてもらえる!

すぐにそのお金を取り上げ店員に見せる

少女「これです!お金あります!」

店員「は、はい・・・・」

なんだこの空気は・・・さっきのことは見なかったことにして欲しいという視線を店員に投げ続ける。

泣きそうな顔、っという奴だろう。

店員もそれを察してくれたのか

店員「お、おもちゃだね。うん、おもちゃだ・・・。子供だぞ・・・・そうに決まってる」

ぶつぶつと何やら聖書でも唱えているようだった。

やった!これで嫌疑は晴れた!

店員「そ、それで・・・何を買いに来たのかな?」

ギクッ・・・

満点の笑顔が膠着し、一気に現実に引き戻される。

仕方ない、この人に聞こう・・・。

少女「リモコンの電池・・・だけどサイズがわからないからどれを買えばいいか・・・・」

店員「リモコンか・・・恐らく、これか、これだね。」

『3』と書かれたものと『4』と書かれたものを差し出してきた。

この店員・・・・結構できるぞ!

一気に二択にまで絞り込むことはできた・・・だけど・・・・

少女「どっちだ・・・・」

間違った方を買ってしまえば、もう一往復・・・しかもお金が無駄になってしまう!

それに、あとで男になんと言われるか・・・

ここは確実性を優先すべきだ。

どちらも買う、という選択肢が頭に浮かぶ。

しかしそうするとアイスが買えない!

男にお釣りを返した時に色々文句を言われるに決まっている・・・

ここは・・・私情を捨てて任務の遂行だ!!

私は泣きそうな顔をしながら、震えるような声で店員に言った。

少女「じゃあ、どっちもください・・・。」

私はアイスを諦めた。

事務所にもどる。

少女「た、ただいま・・・・」

男「やぁお帰り。さぁ、電池を貸して?」

少女「ちょ、ちょっと待って。その前にリモコンを見せてくれる?」

左ポケットには『3』が。右ポケットには『4』の電池が入っている。

当てはまるサイズを確認したのち適切な方を引き渡すことで、任務がベストな形で遂行されたと思わせるべきだ。

男「いいけど・・・はい。」

少女「見切った!!」

男「え?」

私は右ポケットから『4』の電池を取り出し男の前に自信満々に差し出す。

男「あぁ、うん。ありがとう。」

完璧に依頼をこなす。これがプロの仕事だ。

私が鼻高々に腰に手を当てていると・・・

男「ところでアイスは?」

ギクッ

少女「あ・・・歩きながら食べた・・・。」

男「レシートは?」

少女「あぁ~、え~っと、捨てちゃったかもぉ・・・・(汗」

完全に目が泳いでいるのは承知の上で嘘を突き通す。

男「ちゃんと会計つけてるんだから今度からはレシートか領収書、貰ってきてね。」

男は少し念を押すように私に言いつける。

少女「わ、わかりました・・・」

そういってお釣りを渡す。

とりあえず、これで嵐は過ぎ去った、そして・・・

ピピッ・・・ブォオオオオオ・・・・・・

部屋の温度と湿度を快適なものにするため、エアコンが部屋の熱気を吸い込み冷気を吐き出しはじめる。

これで今年の夏は問題なく過ごせそうだ。

少女「ふぅ・・・」

私はソファに寝転びながら目をつむった――――――

少女「ん・・・」

どれくらい眠っていただろうか、もう夕方だ。

男に声をかけられてソファから起き上がる。

少女「どうしました、男さん?」

男はしゃがみこんで私の顔を少し見上げる形になると、

男「お仕事、入ったよ。急ぎの。」

ニコニコ笑いながら、男は書類を私に見せる。

今回、殺害するターゲットに関する書類。

少女「またヤクザ絡みですか・・・」

英文で書かれた書類をソファに放り投げ愚痴をこぼす。

男「彼らは支払いはしっかりしてるから、取引相手としてはとても良好な関係を築けているんだ。だから無碍に断れないんだよ。」

男「それに内容もシンプルなものが多い。我々殺し屋としては結構良い目をみさせてもらっているんだ。」

少女「でも、報酬が安いです。」

男「そこは、数でカバーだよ。」

そう言って日本語がわからない私の為に英文化した書類の数カ所を指さす。

日本語に関しては日常会話程度なら既に問題無いのだが、読み書きはまだできないというのが私の現状なのだ。

その為、毎回男はわざわざ依頼内容を英訳してくれている。

男「メインターゲットは組長だけど、周りの組員も殺害しただけ報酬が上乗せされるんだ。」

男「殺害方法についてはいつも通り、君に一任するよ。何か質問は?」

少女「特にはありません。周辺地図を見せてください。スナイピングで済ませます。」

少女「体格的にちょっと不安なので。あと、数も稼ぎたいので。」

男「観測手はいるかな?」

少女「いりません。足でまといです。」

男「て、手厳しいね・・・あいかわらず・・・あはは・・・・・」

少女「男さんは撤収時の車の運転にだけ集中してください。そっちの方があなたには向いています。」

男「そう言われちゃうと、何も言えないなぁ・・・」

そう言って男はロッカーのキーを私に渡す。

この部屋で唯一異彩を放っている、見るからに頑丈そうな金庫のような大きなロッカー。

ガチャ・・・ギィー・・・・・

中にはありとあらゆる重火器が揃っている。

今回は、数をこなさなければいけないことと・・・標的までの距離が短いことからセミオートのものにした

h&k社製 msg90

レミントンのm24もあるが、ボルトアクションはやはり連射性で劣る。

あとはnato弾が30発入った箱と、ベレッタm93rとその予備マガジン2つを取り出しロッカーを施錠した。

『もしも』居場所がバレた場合の護身だ。可能ならサブマシンガンとハンドガンを1丁ずつ欲しいが逃走時に邪魔になる。

その点ベレッタなら3点バーストができるため、サブマシンガンほどでは無いが面制圧力が必要十分確保できる。

私は『最後の出発準備』をしたいことを男に伝える。

少女「男さん、準備をしたいので。車を取りに行ってきてください。」

男「わかったよ。じゃあいつも通り15分後に。」

そう言って男は車のキーを取り、事務所を出た。

最後の準備、それは『着替え』だ。

可能な限り皮膚を隠す黒い服。

ふりふりのワンピースではバレてしまう。

ゴソゴソ・・・・

可憐さや見栄えなどまったく無視した、黒いロングtシャツと黒のカーゴパンツを着る。

少女「人目についたら、逆に目立つような気もするけどなぁ・・・」

っと、長い黒髪を束ねてポニーテールにしながら呟く。

作戦開始時刻まであと1時間半。

標的の御一行が海外旅行から帰ってくるところを狙撃する。

狙うは標的の本拠地である屋敷の入口。

依頼主がそう依頼してきたのだ。

『他の組員に、組長死亡がわかり易く絶対隠すことはできないから』だそうだが、趣味が悪い。

少女「まぁ、お金さえ貰えれば何も口は出しませんが・・・よいしょっ。」

私は15分経過したことを確認した後、重火器が入ったバッグを抱えて外に出る。
総重量12~13kgほど。

少女「・・・・昔に比べれば、随分軽く感じるようになったかな」

っと、昔のことを思い出す・・・。

私がまだ7歳の頃、両親と3人でアメリカへ海外旅行へ行った。

その時の記憶はほとんど無い。ただ覚えているのは、ギャングの抗争の流れ弾に当たって両親が死んだこと。

息絶えてもなお私を抱きしめて守ってくれた父の腕の温もりだけ。

そして私はギャングに誘拐された・・・その後は人殺しの訓練ばかり・・・・

私が10歳になった頃、初めて人を殺した。

あっけなかった。至近距離から心臓に2連射。罪悪感は無かった。

感情を無くし、ただの殺人マシーンと化した私は幹部連中からの注文通り仕事をこなしていた。

そんな日々が4年続いたある夜、中年の幹部の一人が私のアパートにやってきて私を強姦しようとした。

もちろん殺した。そして私は組織に追われる身になって、逃げるように故郷である日本にやってきた。

しかし日本語が分からない。いや、覚えてはいたのだろうが全て銃声と血肉で上書きされてしまってどこかに行ってしまった。

ただできることは、上手に人を殺すことだけ。

道端で途方にくれていた私を、今のあの男が拾った。

男曰く、『目を見た瞬間、もう声をかけていた』らしい。

男も殺し屋だ。同業者同士、通じるものがあったのだろう。

セダンの窓に肘を付き、外を眺めながらそんなことを思い出す・・・。

男は必要以上の言葉は話さない。

仕事の前ともなると更に拍車がかかる。

一体何を考えてそのハンドルを握り、アクセルを踏んでいるのか・・・

男「着いたよ。ここでいいんだね?」

っと、思考の途中で声をかけられ、少し動揺してしまう。

少女「あっ、はい。ここです。」

定石と言えば定石か。見晴らしがいいマンションの屋上。普通の8階建てだ。

周りにも似たような建築物があるから、特にここに執着はなかったのだが・・・

男「終わったら教えてね」

そう言ってイヤホン型のレシーバーを私に渡す男。

少女「はい。そちらこそ逃走ルート、お願いします。」

そう言うと荷物を抱えて、非常階段を音を立てずに昇り所定位置に着いた。

時刻は午後8時。予定ではあと20分程で標的が来る。

私はmsg90にマガジンを静かに叩き込み、床にシートを、体に黒い大きな布をかぶせてスコープの調整に入る。

距離は450m、無風、簡単な仕事だ。

夜になると一層湿気が不快感を高まらせる。

私は、体を指先から足の先までを全て銃と一体化させる。

そうすれば何も感じない。私自身が銃になれば、罪悪感もどこかへ行ってしまう。苦しまなくて済む。


準備は整った。

少女「準備完了」

男『了解』

雑音混じりのレシーバーの声に耳を傾ける。

次にその声を聞くのは撤収時になることを祈って・・・。

待つこと10数分。屋敷内から3人の屈強そうな男たちが出てきた。

お出迎え、っといったところだろう。

今殺してしまっては気づかれてしまう。あれはデザート用にとっておかなければ。

そしてそれから数分後、メインディッシュがやってきた。

黒塗りのベンツに乗って。

私にはあのベンツが霊柩車に見える。

彼らは私の手によって、その車で病院へ直行することになるのだから。

さぁ、出てこい。

門に対して真正面に構えている私は、あなたを真後ろから狙撃することになる。

何もわからぬまま脳漿を撒き散らしながら絶命する。

どうせド派手なセミオート射撃で位置はすぐにバレるだろうが、気づいた者から肉塊にしていくから問題は無い。

少女「ノルマは・・・・5人にしとこう。」

ポツリと言葉を漏らす私。宣言をすることで自分に緊張感を持たせる。

車が止まる。時間がスローになる。

組員が外からドアを開け、頭がにょきっと出てくる。横顔を確認。メインターゲットだ。

そしてゆっくり歩きだし、門を潜ろうとする瞬間に・・・・

ドムンッ!

スコープの視界が一瞬ぼやけるがもう片方の眼で倒れるのを確認し、デザートを狙い撃ちしていく。

ドムンッ!ドムンッ!ドムンッ!ドムンッ!ドムンッ!

その場に居た人間は全員絶命した。

運転手もついでに殺しておいた。

私は急いでレシーバーに指を当て小さく呟く。

少女「任務完了。撤収準備」

男『了解。』

私は大急ぎでカバンにライフルと布類、それに空薬莢を放り込み、ベレッタを構えながら非常階段を駆け下りる。

普通のマンションだ。住人だっている。

銃声で既に通報されている可能性もある。

見つかるわけにはいかない・・・

だが、パトカーのサイレンどころか誰かがベランダに出て外を確認するような気配も無い。

日本じゃ銃声もただの騒音として聞き流されるのだ。

相変わらず無警戒な国だ・・・。

カンカンカンカンカンッ!

安っぽい階段が私に踏みつけられ悲鳴を上げる。

そろそろ1階・・・!

私は、既に開かれた後部座席のドアに荷物ごと飛び込む!

バタンッ!ブォォオオーーーン・・・・・

男「お疲れ様。いい手際だったよ。」

少女「ありがとうございます。」

私は少しリアシートに倒れ込んだ、少し間抜けな状態で律儀に言葉を返す。

さて、後は帰るだけだ。

男は携帯電話で依頼主に報告をしているようだが・・・勘弁して欲しい。

それで警察に止められたらどうするんだ・・・。

目が覚める。

くたびれたソファから体を引き剥がす。

時刻は午前9時過ぎ。

男「お目覚めかい?」

少女「おはようございます、男さん。」

眠気を飛ばす為に顔を洗いに行く。

顔を上げ、鏡に目をやる。

そこに写っているのは人殺しの顔だ。

何度顔を洗おうと、返り血は落ちても心まで染み込んだものは洗い流せない。

だからと言って今更普通の生活なんかに戻れないのは自分が一番よく知ってる。

男「ほら、tvを観てごらん?」

ソファに向かって歩いていると男に声を掛けられ、言う通りにtvに眼をやる。

昨日、私が殺害したヤクザの件だった。

私の右目がスコープ越しに殺し、左目が実況中継で死亡を報告してくれたのだから、今更tvで確認する必要は無いのだが

少女「手応えはありました。わざわざtvで確認しなくても・・・・」

そう言うと、男は私に向き直って言った。

男「違うんだ。これはね、宣伝なんだよ。『組長は死んだ。』事実はそれだけだけれど、このことを依頼主が確信できる。」

男「それに政治的要因も入ってくる。他の組が動く、抗争が起きる、お仕事が舞い込む♪」

最後の方はとっても嬉しそうな顔をしながら流暢に話す男。

少女「ちなみに、その抗争に巻き込まれるのは御免ですよ、私は。」

少女「いつのまにか彼らの標的にされてる可能性だってあるんですからね、こっちは・・・」

男「大丈夫大丈夫、手は打っておいたからさ」

少女「はぁ・・・そうですか、いつも手際がいいですね。」

そう言うと男はパソコンに向き直り、また事務仕事に戻った。

私は、というと銃のメンテナンスに入る。

銃のメンテナンス作業は必要不可欠だ。

実戦時に作動不良を起こされては溜まったものではない。

それに日本では銃のパーツが手に入りにくい。

メンテをせずに無理をさせてしまうとパーツへの負荷がかかり壊れてしまう。

予備パーツがあるとはいえ、極力そういう類の物の取引回数は減らしたい。

多少敏感なくらいがちょうど良い。そうしなければこの世界では長生きできない。

昨日使った銃器はメンテをし終え、昼になった。

男「もうお昼だね。」

深い意味を持たせた一言を発する男。

男は私に手料理を作らせたいという意図を含めて発言した。

少女「そうですね、外食がいいです。昨日はお仕事大変でしたから。」

などと、わざとらしく伸びをしながら私も牽制球を投げる。

男「・・・そうだね、そうしようか。」

なんだか残念そうな口調で男は私の提案を了承した。

そんなに私の手料理が食べたいのなら、報酬を出して欲しいものだ。

だが、その報酬を外食に使ってしまえば豪華な料理が食べられるのだから、男も提案はしてこない。

男「じゃあ、中華にしようか。」

少女「昼から中華、ですか・・・まぁいいですが。」

私たちは、2流ホテルの食事フロアにある中華料理屋に行った。

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