キョン「俺はこの世界で」 (50)

※キャラ崩壊クロス




たった1人、こんな場所にいるのは何故なんだろうか
自問自答を繰り返しても答えなんてありはしない



まどか「ねぇねぇ!ほむらちゃん!見て!この本の王子様すっごくかっこいいんだよ!!」

ほむら「朝比奈みくるに貰ったの?」

まどか「うん!ほら白馬に乗った王子様!ほむらちゃんも私の相棒ならこのくらいカッコよくないと!」

ほむら「フフフ・・・まどかったら」

絵本を広げ憧れの王子様の話をする桃色の髪の少女と、それを少々困ったように聞きながらも
否定も肯定もしない黒髪の少女

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キョン「馬鹿らしい・・・」

ポツリと呟けば空気が冷たくなるのが分かった

まどか「えっと、うるさかったかな・・・ごめんね」

キョン「別に」

冷たく、返事をするとそのまま立ち上がる
暁美ほむらの何か言いたげな視線を無視して
手にしていた本を片手にその場を離れた

すると、1人の人物とぶつかりそうになる

マミ「あ、っと・・・ごめんなさい」

キョン「・・・。気をつけろ」

戸惑った表情で謝罪を口にした様子を不快な表情で見つめた俺は
そのまま立ち去ろうとする

マミ「その、私は・・・」

キョン「巴マミ、だっけ?悪いが俺に関わらないでくれないか」

マミ「ッ・・・」

意を決して喋りだそうとした所を先手を打って中断させる
酷く傷ついたような顔をされたが、罪悪感なんて微塵も感じない

全く、困ったもんだ。自分の言葉に傷ついてるのは分かるが
それなら近づかなきゃいいのに

谷口「おいおい、いくらなんでもあの対応はないだろ?」

少し進んだ廊下でまた声をかけられ、面倒だという意味を込めて息を吐く

キョン「・・・やれやれ。今度はお前か。俺がどう行動しようと関係ないだろ?お前らの知ってる人間じゃないんだから」

壁にもたれて腕を組んでいる様はよく見ていた光景だが
厳密に言うなら初めてになるんだろう

谷口「確かに、俺の知ってるお前はそんなに冷たい目はしなかったな」

キョン「別人なんだから当たり前だろ。それを他人に求めるほうが間違ってると思うがな」

不快を隠さず、睨みつけると逃げるように視線を外す
あぁこの動作は全く同じだなぁなんて他人事のように考えた

谷口「けどなぁ」

キョン「ほっとけないって?随分と寛大だな。裏切り者の、常習犯、のくせに・・・」

態と言葉を区切って淡々と言い放つ

谷口「なっ!てめえ!!それこそ俺と別人だろうが!!」

キョン「悪いな、どうにもその顔には胡散臭さしか感じないんだ。文句があるならその顔に生まれてきた自分に言ってくれ」

谷口「お前な・・・」

驚きを含んだ顔は随分と見慣れたが、困惑を含んだ表情は新鮮かもしれない
未だに何か言って来る谷口を無視して外に出た

みくる「キョンくん、どうしたんですか?」

キョン「・・・。朝比奈さんは俺のことあだ名で呼ぶんですね」

今度は朝比奈さんか、と悪態染みた反応をしてしまったが
よく考えれば自分が後から外に出てきたわけで
先ほどの2人とは状況が違う

簡単に自分のあだ名を呼んだことに違和感を感じて
そのまま質問としてぶつけた

みくる「あなたのあだ名で間違いはないでしょう?」

キョン「勿論ですよ。だけど、この世界の俺とは区別しているんで」

みくる「ふふっ、不快に思ってしまったら申し訳ありません。でも私が知っているキョンくんとあなたは別人ですので」

そう言ってくすりと笑う美少女に
この人間と張り合おうと少しでも思った自分の浅はかさを知る
やっぱりこの人には簡単には勝てない

キョン「いえ、はっきり言ってもらったほうが気持ちがいいですよ」

キョン「勿論、俺もあなたと俺の知っている朝比奈さんは別人だと思ってますから」

みくる「ごめんなさい」

一瞬、会話の流れから別人と判断している謝罪かと思ってしまった
けれど、この人の態度はそんな単純なものではない

直ぐに言わんとすることを理解して
小さく肩を落す

キョン「・・・朝比奈さんに謝ってほしいわけじゃない」

寧ろ、そんなもの望んでもいない

みくる「皆、あなたに対してどう対応していいのか分からないの」

キョン「身に染みて分かっています。けど正直うるさいのも本当ですよ」

みくる「・・・キョンくんは強いね」

キョン「さぁ、どうだろう。単純に冷たい人間なのかもしれないですよ」

自虐染みた笑顔を浮かべ、俺は空を見上げた
別人である朝比奈さんの視線なんて気にならない


俺にとってこの世界は偽者


まわりにとって俺は偽者のキョン

朝比奈さんと別れた後
見慣れた図書館に足を踏み入れる
ぐるりと周囲を見回すと目的の物は予想を裏切らない形で存在していた

キョン「あぁ、やっぱり・・・か」

棚にあった分厚い本を手にして深いため息をつく

どうやらこの世界の俺も同じ本に日々あったことを記録していたらしい
自分よりも雑な字の並び、パラパラとページをめくり
その文字を目で追っていく

この世界の自分を知りたいと思ったのは興味本位だったのかもしれない
だけど、そんな安易な感情は間違いだったと直ぐに思い知らされた

半分まで読んだところで、目を伏せる。
そこに何が書かれていても、今は開く時じゃない

別の本を手に取り、既に何度も読み返した後があることに
こんな部分まで同じなのかとあきれ返るしかなかった

ほむら「・・・少し、いいかしら?」

数時間経った頃だろうか
戸惑い気味に声をかけられ思考を中断される

キョン「何か様か?」

周囲に詰まれた本で姿は見えない
それでも声で誰か分かってしまう

無関心を決め込んで
此処にいる理由を問えば、戸惑うような声が漏れた

返事が無いのなら無視でいいだろう
再び視線を本に戻そうとしたが予想以上に反応が早かった

ほむら「・・・もう少し私達を信じてほしいの」

キョン「信じる?そんな随分と子供っぽいことをわざわざ言いに来たのか?魔法少女とやらは物好きが多いな」

この世界の魔法少女という存在
俺の元居た世界ではそんなものは存在していなかったんだがな

笑う俺とは反対に彼女は酷く必死だ

ほむら「けれど、あなたの世界を壊したのは私。だから・・・」

キョン「だから何?お前のその行動は罪悪感からだろ?」

キョン「それとも、たった1人世界の異物になっている俺に対する同情か?」

酷く冷たい視線で射抜けば
僅かに怯むが、揺らいだ瞳は決して自分から離れない

ほむら「そうじゃないわ!私は・・・あなたの助けに・・・」

キョン「助けになりたい?よくそんなことが言えるな」

キョン「俺の世界はお前が壊した。戻りたくても戻る術も、世界すら存在しない」

キョン「それよりもこの世界の俺を探したほうがいいんじゃないのか?行方不明なんだろ?」

皮肉をこめて、自分の感情を曝け出す
今まで控えめだった声が変化する

ほむら「そんな悲しいこと言わないで!」

キョン「事実だろ?それに・・・お前が助けたいのは俺じゃない」

ほむら「ッ!!何を・・・」

叫んだ言葉すら、あしらう様に聞き流す
的を得た指摘だったのだろう言葉を詰まらせる態度にどうしようもなくなった
分かりやすくて本当に嫌になる

キョン「・・・。見てれば分かる、お前が誰よりも大切に思っている存在が誰か、な」

ふと、先ほど目にしていた文字の並びが頭を掠めた
本の中に紛れていた彼女への想い
無自覚ながらも確かに生まれている感情に憤りしか感じない

そして、今目の前にいる人物も同じ位置にいるのだろう

ほむら「私は・・・」

キョン「悪いが、俺のこの顔は変わらないんだ。攻めるような目で見ないでくれないか」

ほむら「攻めてなんかいないわ!」

反論こそ直ぐに出るが、表情と言葉は矛盾していた
なんでそんな泣きそうな顔するんだ

否定ではなく肯定になる態度は
見ているだけの自分を攻めているようにしか見えない

今だけじゃない。
俺を見るお前の目はどう取り繕うと、求めるものを妨害する存在
表には出さなくとも俺には分かる

キョン「じゃあ、お前は俺の中に自分のキョンでも探しているのか?それこそ失礼極まりないだろうが」

ほむら「違うわ!!私は・・・」

そう言ったきり
彼女は言葉を失った

大きく息を吐き捨て
此処での読書はもうできないなと肩を竦める

立ち尽くし、動けなくなっている彼女の横を素通りすると
自分でも驚くほど低い声が出た

キョン「俺に近づくな・・・暁美ほむら」

その時の彼女がどんな顔をしていたのかなんて知りはしない
きっと知るべきではないのだから

録でもない未来なんて知りたくも無い
この世界を好きになるなんてありはしない

ここは俺の世界じゃない
何時か消えるべき存在なんだから何もするべきではないんだ


そう・・・思っていたのに






長門「なぜあのようなことをしたの?」

壁に叩きつけられ、俺のひ弱な身体は簡単に悲鳴を上げる
肩の痛みに表情を歪めても目に入っていないようだ
普段の長門有希からはありえない行動だろう
だが、怒りに支配されたこいつは気にならないらしい

感情的になり周りがみえなくなる所は俺の知っている長門とは少し違うな、と
状況とはまったく違った思考がはたらく

憎しみを込めて下から睨みつけると彼女の憤慨している表情が良く見えた

キョン「お前が朝倉をどう思っているかは知らんが、俺にとってあいつは敵だ」

長門「だからと言っていきなり殴りつけるのはおかしい」

長門「あなたの世界と何もかも一緒にしないで」

俺の世界の朝倉涼子は過去に2回も俺を殺そうとした人物であり
俺からしてみれば敵でしかない
でも、その事実はこの世界では何の形も持たない

ただの偽り

長門の言うとおりだ
この世界は俺の世界じゃない

俺の感情なんて関係のない無機質なモノに変わり果てるのに

頭に血が上って無抵抗な少女を殴って
それを長門に止められて、こうして罵倒されている

ふっと今の状況を冷静に理解できた瞬間に
自分の行動の無意味さを実感して一気に力が抜けていく
はは、何してるんだろうな俺

長門「・・・すまない」

言いすぎたと思ったのだろうか
戸惑った長門が俺を支え起こそうとするがその手を払う

キョン「確かに、この世界は俺の世界じゃない。だからって何もしないで崩壊を見ているわけにはいかないからな」

長門らの話によるとこの世界もまた俺の世界と同じように崩壊の危機に直面しているらしい
理由は不明だが、そんなもの興味もないしどうでもよかった

長門「それは・・・つまり、あなたもこの世界を救いたいと思っているの?」

キョン「さぁ・・・な」

人という生き物は真実か嘘かを必要以上に知ろうとするが
自分の本当の気持ちなんて分かりはしない
それは長い時の中で何度も入れ替わる形の分からないモノだからな

なんであんなことを言ってしまったのだろうか
干渉しないでおけばよかった。後悔しても遅すぎる
情という名の感情が貼り付いて離れないほどにこの世界で長い時間を過ごしてしまった

キョン「馬鹿だなぁ・・・まったく」

呟いた言葉なんてなんの意味も無い
大切な彼女の手をとり、何処までも行きたかった
そんな望みはもう無意味なのにな

たった1人、漆黒の闇に覆われている空を見上げれば瞬く星が見える
この場所がどこだろうと、変わらない景色
その下で彼女を思えば悪くない夜になるだろうか

もう遠くに感じる記憶の中、あいつと2人で見た同じ世界

笑った顔も、不機嫌そうな顔も、悲しそうな顔も
目を閉じればこんなにもあいつで溢れているのに

押さえ込んいた感情が零れ落ちる

キョン「・・・ハルヒ」

彼女の名前

口にした瞬間に

溢れて、溢れて

止まらない

ふと
冷たい指に何かがふれた

キョン「ッッ!!」

ハルヒ「あんた泣いてるの?」

振り返った瞬間に宙に散った滴
不覚にも近づいてくる気配に気づかなかった

震えている指に温もりが灯る

キョン「お前には関係ない」

掴れていた腕をおもいっきり振り払い
溢れてくるものを止めようと必死に両手で覆い隠す

なんで、居やがるんだ

なんで、こんな時に・・・

ハルヒ「関係あるわよ!あんたになくてもあたしにはある!仲間なんだから!」

キョン「・・・仲間?俺はお前らの仲間じゃない」

俺は偽者だ
この世界のキョンじゃない

だから、仲間じゃない
そんな風に言われる理由がない

ハルヒ「仲間でしょ!今までずっと一緒にいて、一緒に戦ってきたわ」

簡単に言う彼女の言葉に偽りはない
純粋で真っ直ぐで、だからこそ余計に辛い

キョン「俺には他に行く所もやることも無いから暇つぶしだよ」

ハルヒ「嘘よ、この世界を救おうと色々と調べてくれてるじゃない」

キョン「気まぐれでしていることを勝手に勘違いするなよ。俺なんか信じても仕方ないだろ」

どんなに冷たく返しても、温かい言葉で絡みついてくる
振り払いたいのに上手くいかないのは何故なんだろうな

ハルヒ「それでも、あたしは信じたいの。少なくともあたしはあんたを信じてるって言ったら子供っぽいって笑うかしら?」

キョン「なに・・・を」

どうして、同じ顔で同じ声で

同じことを言うんだ

なんで

お前はいつも

そうなんだ

ハルヒ・・・






――――――




キョン『騙そうとしてくる人間をお前が信じても仕方ないだろハルヒ』

擦り切れた腕に包帯をあてながら盛大にため息をつく
もう少しで拉致でもされそうな勢いだった状況を思い出し
こんな怪我ですんで本当によかったと安堵するしかない

ハルヒ『それでも、あたしは信じたいの。少なくともあたしはキョンを信じているって言ったら子供ぽいって笑うかしら?』

キョン『・・・寧ろ呆れる』



もう少し遅ければ、そう考えるだけで背筋が凍る
最も、古泉にこの言い訳を考えなくてはと思うだけで頭が痛いのだから似たようなものかも知れない
確実に自分が怒られるのだろうが

ハルヒ『もぉ、相変わらずの反応ね』

そんな不安なんて知りもしないで笑う彼女はどこか頼りないくせに強い
危険な目にあっても、自分が傷ついても信じることを止めなかった
そんな彼女が一番に信じてると言ってくれる存在になれた嬉しさ

楽しかった、幸せだったんだ

だが直ぐに崩壊が訪れた

古泉一樹が殺された

誰に・・・なんて言う必要も無い

ハルヒ『なんで古泉くんが・・・なんでよ!!』

キョン『落ち着けハルヒ!大丈夫だ!俺が守る・・・お前を絶対に』

ハルヒ『ッ・・・違う、あたしがキョンを守るから・・・もう誰も傷ついて欲しくないの』

長門や朝比奈さんが行方不明の中
今までずっと古泉達機関が守っていてくれた
糧がはずれてしまったからには

もう

元には戻らない

ハルヒ『キョン!逃げなさい!!』

キョン『嫌だね。お前を置いてなんかいけるか』

ハルヒ『あたしが嫌なのよ!!あたしのためにあんたが傷つくことなんてない!!』

キョン『あいつ等が狙ってるのはハルヒお前なんだぞ!少しは自覚もてよ!』

ハルヒ『どうして・・・あたしは、こんな存在で生まれてきたの。神、なんて・・・こんな力望んでなんかいないのに』

古泉とその機関の手によって必死に隠されていた事実
それを知った敵対勢力は古泉達を殺した

ハルヒを
否、神の力を手に入れるために

追っ手は日に日に近づいて
確実に俺達を追い詰めていった

ある日
ハルヒの必死な頼みで1人で買出しに出た
1人になるのは危険だと言っても大丈夫だからと諌められ

どうしても俺の手料理が食べたいなんて悲しそうな顔で言うから
仕方なく俺は買い物に出かけた

お前の好きなものを沢山買ってきたのに

そんなに長い時間じゃなかった

なのに

戻った部屋の中はトマトと同じ赤で染められていた

キョン『ハル、ヒ・・・?』

ハルヒ『キョン、よかった・・・無事で』

手にしていたものが床に落ちるのなんか気にならない
部屋の奥にいるハルヒに駆け寄る

キョン『何でだよ!?どうして、こんなッ・・・』

ハルヒ『あたしがこんな存在で生まれなければ、古泉くんも死ななかったし、あんたを泣かせることもなかったのかな・・・』

キョン『そんな、そんなこと言うなよ!ハルヒは悪くない!何も悪くないだろうが!!』

必死に首をふって否定すると
微笑んでいたハルヒの手が俺の頬に触れる

冷たい手は俺の頬を赤く染めていく

ハルヒ『もっと、いっしょにいたかった・・・』

キョン『馬鹿やろうッ!!そんな、終わりみたいなこと言うなよ!俺は嫌だぞ!絶対に・・・助けてやる!!』

傷口を必死になって手で押さえるが
血がまったく止まらない

ハルヒ『いいわよ・・・そんなことしなくて』

キョン『何言ってやがる!!』

震える俺の手をハルヒの手が包み込む

ハルヒ『もう、むりよ。無駄なことはしないで』

キョン『ふざけんな!』

ハルヒ『キョン・・・』

困ったように笑うハルヒ
いつの間にか涙が頬を伝っていた
頬についたハルヒの血が混ざって床に落ちる

ハルヒ『あたしね・・・古泉くんが死んでから自分も死のうと思ってた』

キョン『もう喋るな!傷口が開く』

ハルヒ『でも、死ねなかった。キョン、あんたがいたから』

キョン『なに・・・を』

ハルヒ『あんたを守りたいって思ったから』

守りたいけど、自分が傍にいたら危険なのに
矛盾するわよね
なんて笑いながら言う

キョン『ッ・・・だったら、これからも俺を守ってくれ!ずっと傍にいてくれよ!!』

ハルヒ『ごめん、ね。キョ・・・ン』

キョン『なんで謝るんだよ!』

謝って欲しいわけじゃない

俺はただハルヒが幸せになってくれればいいって
そんな簡単な願いですら
どうして世界は許してくれないんだ

ハルヒ『キョン、は・・・あたしや古泉くんのぶんまで、いきて、しあわせに・・・』

途切れ途切れになる言葉

キョン『ふざけんな!俺はお前のいない未来なんて生きたくない!お前のいない世界なんていらねえよ!!」

キョン『だから、だから、死ぬなハルヒ!!』

泣きじゃくりながら必死に縋りつく俺をハルヒは片腕で引き寄せ
その唇を塞いだ

キョン『ッ!?』

驚いて目を見開く俺に
優しく、微笑んだハルヒ

ハルヒ『・・・好きよ、キョ・・・ン』

閉じかけている左目から伝った滴が俺の頬に落ちた

キョン『ハ・・・ル、ヒ?』

ずるりと崩れた身体

名前を呼んだのに反応がない
触れている部分から急に熱がなくなっていく

キョン『ハルヒ・・・?おい?うそ、だろ?』

冷たく、動かなくなった身体を必死に揺する
その度に赤い液体が嫌な音を立てて床に飛び散る

胸の中心に突き刺さった赤いナイフはハルヒの身体を抉り壁に食い込んでいた

キョン『ハルヒぃぃいいいいい!!!!!』

声がかれるほど叫んだ
喉が潰れて血が零れても、何度も幾度も彼女の名を呼んで
何をしていたのかなんて記憶に無い

そしてこの日を境に俺の元居た世界は壊れた
何故こんなことになってしまったのか、知識があるということは皮肉なもので
俺を別の世界へ連れてきたのは暁美ほむらという名の魔法少女
つまり・・・この少女が・・・

今思えば、ハルヒは全部分かっていて俺を買い物に行かせたんだろう
それを気づくことができなかった不甲斐なさ

俺は守れなかった、ハルヒを
だから同じこと言われると酷く苦しい





ハルヒ「・・・どうしたのよ?」

黙ったままだったことを不振に思ったハルヒが
恐る恐る尋ねてくる

キョン「俺はな、白馬の王子様を待ってるくらいなら乗ったほうがいいと思うんだ」

ハルヒ「は?」

少女が望む白馬の王子様

この世界に来た頃、そんな会話を聞いたことを思い出し
悪戯染みた顔で笑う

お前には分からない

俺の大切な人の手をとる側でいたかった
彼女は決して許してくれないと思うけど

逆に俺の手をとりたいと言うと思うけど

それでも

キョン「・・・。お前が俺を信じてくれるなら、俺はお前を守るよ」

今度こそ、ハルヒを守れるのなら

ハルヒ「守るって・・・」

キョン「お前が本当に会いたい人もきっと俺が見つけてみせる」

だから、俺の存在なんて見なくていい

俺もお前を見ないから

それが互いのため

惹かれてはいけない

決して、心を残してはいけない





キョン「離せ!」

ハルヒ「駄目よ!!ここから落ちたら死んじゃうわ!!」

キョン「いいんだよ。お前が俺を助ける意味なんてないだろ。俺はこの世界の人間じゃない偽者だ。本物のキョンじゃない」

ハルヒ「本物とか偽者とか関係ない!!あたしは・・・あたしはキョンを守りたいのよ!!」

この手を離してくれれば全てが終わるのに

キョン「守りたい・・・ね」

ハルヒ「ッ、なに笑ってるのよ!!」

キョン「俺はもう・・・お前を失いたくないんだよ、だから御免な。ハルヒ」

色々と調べているうちにわかったんだよ
異物である俺の存在がこの世界の崩壊の原因であること
偽者の俺がいるから、お前の本物のキョンが戻ってこれないってな

だから必死に俺の手をつかんでいるお前の行為は何の意味も無い

この手は無理やりにでも離して貰う
お前の手を傷つけてでも


ハルヒ「キョン!!!」

あぁ

嫌だ

そのあだ名は俺に向けるものじゃないだろ

そんな顔しないで欲しかった

身勝手だが最後くらい笑った顔が見たかったがな

ほら

お前が守るべきキョンのお戻りだ

今度は

ちゃんと守れたかな

なぁ、ハルヒ




--End--

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