輿水幸子「シンデレラ前夜」 (36)

体の傷はいつか治るけれど、心についた傷は、自分が克服しなければ治りません。

非力なボクは、この現状を覆す術を持っていませんでした。

最初は小さな言葉の棘。ほんの少しの意地悪から。

そんな小さな言葉を気にしなければよかったのに、弱いボクは過剰に反応してしまいました。

そんな反応が連鎖して、また小さな意地悪が生まれます。

そして小さな意地悪は、他の意地悪を連れて、それが連なって、大きな意地悪になります。



「輿水のぶーす!」


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ほんの些細な言葉。それでも、小さいボクは酷く傷つけられてしまいます。
それが一人ならまだしも、一人言い出せば二人になり、二人言えば四人に増え、
いつの間にかクラスの男子全員、ボクに言葉の暴力をぶつけてきます。

女子が味方になってくれるならまだしも、
女子は女子でボクを遠ざけるようにヒソヒソと噂話をしているありさま。
少し前まではそんなことも無かったのに。

言い出した男子が悪かったのかもしれません。
クラスで一番の人気者の男子の発言ですから、
小さいクラスであれば誰でも彼の発言を真似したくなるものです。

何も言い返さないわけでもありません。
ですが、言い返せば言い返すほど、面白がるように、
反響しあうように同じ言葉を浴びせられます。

それでもボクは負けませんでした。
言われても、言い返されても否定し続け、反論し続けていきました。

それでも状況は変わることなく、一日が過ぎ、一週間が過ぎ、一か月が過ぎ…。

徐々に口数は少なくなり、クラスで一人、ノートとにらめっこの日々が始まりました。

一人静かに…という訳にもいきません。ボクが黙っていたとしても、
悪口を言いたい人間は気にせず投げかけてくるのです。

誰一人味方はいません。男子も女子も、無視か悪口を投げつけてくるか、それだけです。

ボクが一体何をしたというのでしょうか。何もボクは悪くないのに、悪く…ないのに。

ここ最近は、登下校も一人です。誰も側に居たくないみたいです。
女子の噂話ももっと小さい声でしてくれればいいものを、
わざわざご丁寧にボクに聞こえるように話すから性質が悪い。

誰もボクと遊びたがらないから一人ぼっちで放課後を過ごします。

こんな時に誰かが手を握って側にいてくれたらなんて…そう考えるのも辛いから、
何も考えないで、一人ぶらんこをこいで、時間が過ぎていくことを祈ります。

きっと明日には良くなっている、そう考えるのは辛いけれど、
そう考えなければ明日も学校に行こうという気力すら湧きません。

きっと良くなっている、そう思って毎日を過ごしていますが、
結局何も変わらないまま、一日一日が過ぎていきます。

テレビをつけると、キラキラした衣装を身に纏って、
楽しそうに笑っているアイドルが眼に入ってきて、
今のボクには眩しすぎて、すぐにチャンネルを変えてしまいました。

ボクはあとどれだけ踏ん張ればいいんでしょうか。

一か月?一年?それともずーっとこのまま?
先の事を考えると、目の前が真っ暗になってしまいます。


だから心を無にして、ノートとにらめっこ。にらめっこ…。

人気者の男子が何やらそわそわしながらこちらに近づいてきました。

何か言いたげな様子。ボクは咄嗟に心を閉じて、ノートに書かれている文字を見つめます。

結局彼は何も言わないまま、ボクの横を通り過ぎて行きました。
彼が何を言おうとしていたのか、ボクにはわかりません。
悪口が出なかっただけよかったとしましょう。


その日以降、女子からの陰口が酷くなりました。
聞こえているので、陰口とは言えないんでしょうが。

何かがあったのは明白です。でもボクにはわかりません。
わかったところで、何が出来るわけでもありません。
もうそんな状況が三か月以上続いているんですから。


男子の悪口は相変わらず、誰も遠慮なく。

ここでボクが大声を上げても、きっと笑われるだけでしょう。
もうクラスでボクはそんな扱いなのでしょう。見世物です。

変われないし、変わらない。絶望的です。

ボクに出来ることが何か一つでもあるなら、どうか…。

今日も、公園のぶらんこは一人寂しく揺れています。

きーこーきーこー。

辛いなって、寂しいなって、ぶらんこの音が言っているみたいで、
目頭が熱くなって、声も出せずに俯いたまま、涙を流してしまいました。

誰にも伝わらない涙を流しても意味が無いのに、
ゆっくりと涙は頬を伝って、膝の上に落ちていきます。

限界…かなぁ。

きーこーきーこー。

隣のぶらんこが揺れる音。

袖で涙を拭いて、盗み見るように隣のぶらんこを確認。

恐怖に打ち震えます。

ぶらんこに入りきらない肩幅、窮屈そうに畳まれている両足、とてつもなく悪い目つき。

涙も一瞬で引っ込みました。えっと…あの…。


「…ハンカチ、いりますか?」


そしてとどめを刺すような低音。何か言わないと、ボクの身が危ない!

「い、いえ、けっきょうでひゅ!」

思いっきり噛みました。

「必要になったら言ってください。お貸しします」

借りれるわけがない。

「…」

「…何か、悩み事ですか」

悩み事、と言うほどのものではありません。よくあるいじめです。

「別に…」

「そうですか」

「はい…」

この人は…世間一般に言う不審者という人なんでしょうか。

「…」

「…」

動く気配もありません。

「…」

「…あの」

「はい、何でしょう」

「…いじめってどう思いますか」

何でこんなことを聞いてしまったのだろう。

我ながら馬鹿馬鹿しい質問です。
関係の無い大人にこんな事を聞いて、何になるというのでしょう。


「貴女がいじめられているんですか?」

「えっ」

「辛そうに泣いていたので、そうなのかな、と」

「…」

「…」

「何で、ボクがいじめられなきゃいけないんでしょうか…」

「…」

「ボクは何もしていないのに、ただ、悪口に反論しただけなのに、何で…」

「悪口ですか」

「…ブスだって」

「ブス…」

そう言うと彼はボクの顔をじっと見つめます。

「わかるような気がします」

「へっ?」

…酷い。

「あ、いえ、ブスかどうかという事ではなくて」

「…?」

「きっと、貴女が魅力的だから、接点がほしくてそんな言葉を言ったんじゃないかと」

「ボクが…魅力的?」

「はい」

じーっと見つめて、変わらない目でボクにそんな言葉を与えてくれる。

「で、でも女の子も同じようにボクをいじめるんですよ!?」

「それも貴女が魅力的だからかもしれません。
もしかしたら、意中の男性が貴女に夢中で、それを妬んでいるのかもしれません」

「…」

「貴女が暗い顔をしていれば、意中の男性が自分の方を向いてくれるかもしれない」

そんなことがあるのだろうか。そんな答えがあるのだろうか。

「もし明日、貴女がブスだと言われたら、相手の目をじっと見て」

「…じっと見て」

「ニコッと笑ってみてください」

「…ニコッと?」

「はい。笑顔です」

「…笑顔」

「貴女は魅力的で、可愛い子です。きっとみんな妬ましかったり、
どうにか近づきたかったりしたいだけだと思います」

「ボクが…カワイイ」

「はい。自分を信じてください」

「…」

「信じぬいたその先に、きっと素敵な魔法が待っています。
貴女が信じた自分自身の笑顔は、誰かに魔法をかけます」

「…魔法?」

「はい。私はそんなアイドルを探しているんです」

「アイドルですか?」

「もしいつか、貴女がアイドルを目指したいと思う時が来たら、この名刺にある住所を尋ねてみてください」

そう言って彼は小さな名刺をボクに渡してくれる。

「346プロダクション?」

「はい」

よく聞く名前です。大手の芸能プロダクションなはずです。

「私は今アイドル部門のプロデューサーをしています。是非考えてみてください。
本物の魔法がその世界にはあります。私はそう信じています」


…ボクはそんな大手の事務所のプロデューサーさんからカワイイと、カワイイと!

すっと、彼はぶらんこから立ち上がります。とても大きくて、壁のような人です。

「あ、あの!」

「はい?」

「こ、こ、輿水幸子です!!」

「はい、輿水さん。よろしくお願いします」

そう言うと彼は背を向けて、夕日の中に消えていきました。

(ニコッと…笑顔)

変わるのだろうか、変えられるのだろうか。

たった一つの笑顔だけで、世界が変わることなんてあるのだろうか。

でも、あの人は言ってくれた。ボクはカワイイと。ボクの笑顔は人を魔法にかけると。

信じてみます。

信じぬいた先に魔法が待っているって、教えてもらったから。

今日も教室は変わりなく、ボクの存在を受け付けてくれていないようです。

ですが、そんな些細なことはもうどうでもいいような気がします。

変えられる、きっと変わる。ボクが知らなかった笑顔の魔法で。


「やーい輿水!」


こうやって声を掛けてくるのは、カワイイボクに気があるから…
そう考えるとなんだかとっても可愛らしい感じがしますね。
大人の余裕というやつでしょうか。ふふーん。


だからゆっくり顔を上げて、相手の眼をじーっと見つめて。








「はい?」ニコッ







真っ赤な顔をして逃げ出してしまいました。もっとじっくり赤面した顔を見せてくれてもいいのに。

でも、こんなにカワイイボクに見つめられたら、赤面してしまうのもしょうがありませんね。

なんせ、カワイイですから!ふふーん。

それからというもの、休み時間はひっきりなしに声を掛けられ、笑顔の大安売りです。

遠くからボクを見ていたり、前にもまして積極的に声を掛けてきたり、分かりやすいですね。

女子からは相変わらず、いえ、それ以上に冷たい目で見られているような気がします。
仕方ありません。あなた方の意中の男子を全員振り向かせてしまっているんですからね。ふふーん。

…きっとこの溝は埋まることは無いでしょう。ボクの魔法も万能ではないようです。
しょせんは小さな箱の中での、ほんの小さな優位性を示すものでしかないのです。

本物の魔法が使えれば、あるいはボクがもっと別次元にいれば、彼女たちは悩む必要もないのに…




………!!

本当に、カワイイと言うのは罪ですね。
これじゃあまるでカワイイボクは、
アイドルになることを運命づけてられているようじゃないですか!


アイドルになるために!…まずは親の説得からですかね…。


人間関係はもう修復できないでしょう。
今更彼女たちがボクに対していい印象を抱くことは無いでしょうし、男子は男子でこのままでしょう。


…いつか本当の魔法が使えるようになったら、彼女たちと同じように話せる時が来るのでしょうか。




その答えを探しに行きましょう!!

そしていつか



タッタッタ


「では、高垣さんは次のスタジオに向かってください」

「はい。あ、今晩一杯どうですか?いいお店を見つけたので、いっぱい飲みましょう」

「今日はだいじょ…


あの壁みたいな身長、がっちりした体形、横顔だけでもわかるあの鋭い目つき、
安心感のある低い声、間違えるわけがありません!!


ダキッ!!


「…?」

「…女の子?」

(…勢いで抱きついてしまいましたが、これは恥ずかしいですね)カーッ

「…あの?」

(…あ、でも彼がボクの事を覚えていなかったらどうしましょう!ただの変態じゃないですか!)アワアワ

「えっ…」

(いえいえ、例え覚えていなかったとしても、こんなカワイイ子に抱き着かれたなら、天にも昇る気持ちでしょう)フフーン

(表情がコロコロ変わって可愛いって)フフッ

(えー!なんですかこの綺麗な人!いえ、ボクの方がカワイイですけどね!でも綺麗な人)ショボーン

「あの、大丈夫でしょうか?」

(あ、これは覚えていなさそうです…仕方ありません。あのころよりもカワイクなっていますしね)フフーン!!

「えーっと、輿水さん?」

「!!」

「お知り合いですか?」

「以前、時間が無くて名刺だけ渡していたんですが、スカウトしたことがありまして」

「ふふーん、このカワイイボク自ら参上しましたよ!」フフーン

(可愛い)フフッ

「お久しぶりです、輿水さん」

「はい!」

「以前よりもいい顔をしています。あの時はないt」

「わー!!」ブンブン

「?」

「それでは私は次のスタジオに行きますね。また後程」

「はい。よろしくお願いします」

「あーっと」

「来てくださってありがとうございます」

「全くです。こんなカワイイ子が自ら足を運んだんですから!」

「はい」

「えっと…今オーディションとかって受け付けてますか?」

「いえ、今は特に何も行っていません」

「…そうですよね」

勢いに任せて来るものではありませんね…

「それで、輿水さんは346プロでアイドルになる準備が出来たと理解していいんでしょうか」

「はい!…って、えっ?オーディションとかは?」

「私がスカウトした人なので、特にオーディションなどは必要ありません」

「!」

「本物の魔法を、探しに行きましょう」




差し出された手は、暗いノートの中にいたボクを助けてくれた、大切な手。

「はい!!」

その暖かい手はどこまでもボクをどこまでも引っ張り上げてくれるみたいで…





















バラバラバラバラバラバラバラ

そしていつかの空へ…

おしまい!

勢いは大切。

アニメのオープニング見てたら、
武内Pがアイドルを夢見て挫折して
プロデューサーの道を選ぶまでのSSを書きたいなと思いました。

乙!
最後で笑ったわwwwwwwww
もっとアニデレのSS増えれー

楓さんに続き乙でした。次のアイドルにも期待!(あればだけど)

まぁ、空から降ってきても幸子は可愛いからね……良いんじゃないかな(目逸らし)

おつ
幸子はかわいいから仕方ないね

まあうん、飛ぶよね…

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こんなこというみたいだからな
まぁさっちゃん「なんで歌に感情をこめないといけないんですか?」とか「喜怒哀楽を表現」とかいうから
どうにも感情のコントロール下手っぽいし、お笑いとかわかってないからなんだろうけども

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