許嫁「あなた、起きて」(40)

男「あり、寝ちまいましたか」

許嫁「おはよう、あなた」

男「おはようございます」

許嫁「朝食の支度ができているわ」

男「そうですか」

男「おお、こりゃまた朝から豪勢な」

許嫁「いつもと同じよ、あなた」

男「そうですか?」

許嫁「ええ」

男「だけど、こう言うと豪勢な気がしてきませんか」

許嫁「そうかしら」

男「許嫁さん、醤油をとってくれますか」

許嫁「はい、あなた」

男「ありがとうございます」

男「さて、学校に行きましょうか」

許嫁「はい、あなた。お弁当」

男「あ、こりゃどうも。いつもありがとうございます」

許嫁「あなた、いつもはコンビニに行ってるでしょう」

男「はて、そうでしたか」

許嫁「ええ」

男「こりゃ一本とられた」

許嫁「ねえ、あなた」

男「へえ、どうしました」

許嫁「手くらい握ってもいいのよ」

男「あいにくと両手の野郎がね?ふさがっていまして。へえ、どうも」

許嫁「そう」

許嫁「あなた」

男「♪~」

許嫁「お尻を触るのはやめてちょうだい」

男「♪~」

許嫁「あなた?」

男「許嫁さん、言いがかりはいけねぇや」

許嫁「私のお尻ならいいのよ」

許嫁「でも、他の女の子のお尻を触るのはいけないわ」

男「いけませんか」

許嫁「ええ」

男「そりゃまたどうして」

許嫁「あなたの評判が悪くなるわ」

男「別に構いませんでしょう」

許嫁「私の評判も悪くなるの」

男「そいつは困りますね、やめましょう」

許嫁「私のお尻ならいいのよ」

男「そうですか、じゃあ遠慮なく」

許嫁「あなた」

男「♪~」

許嫁「肩を抱けとは言っていないわ」

男「♪~」

許嫁「あなた?」

男「お尻を触るのは手が疲れるでしょう」

許嫁「撫でろと言ったわけじゃないのよ、あなた」

男「こりゃまた一本とられた」

許嫁「あなた、ラブレターの返事はきちんとしなくてはだめよ」

男「♪~」

許嫁「あなた?」

男「だめですか?」

許嫁「ええ」

男「そりゃまたどうして」

許嫁「私の評判が悪くなるわ」

男「そいつはいけねぇや」

男「許嫁さん、その、許嫁さんの評判が悪くなるってぇのはやめてもらえませんか」

許嫁「あら、いけないかしら」

男「だって、許嫁さんは」

男「あたしの評判なんてどうでもいいんでしょう?」

許嫁「……そうね。卑怯だったわ」

男「なにも卑怯だなんて」

許嫁「そういう言い方は卑怯よ、あなた」

男「いや許嫁さんには頭が上がりませんね、まったく」

友「よっ、ご両人!」

男「おや、友さん」

許嫁「おはようございます。夫がいつもお世話になっております」

友「あ、こいつはまたご丁寧にどうも」

男「や、許嫁さん。友さんなんぞに頭下げてちゃいけません」

友「言ったな、この」

許嫁「あなた、挨拶は大事よ」

男「そうですか?」

許嫁「そうよ」

友「そうよ」

男「友さん、そういうのはよくねぇよ」

友「そうかい?」

男「そうだよ」

友「時に男さん、ちょいと顔貸してくれませんか」

男「へえ、まぁ構いませんが」

許嫁「あなた、今日はお鍋よ」

男「へえ、肝に銘じておきます」

許嫁「そう言っていつも朝方に帰ってくるのはだぁれ?」

男「これだもんな、やんなっちゃうよ」

女「許嫁さん、おはよう!」

許嫁「おはよう、女さん」

女「男くん……またどっか行ったの?」

許嫁「ええ」

女「出席日数…足りるの?」

許嫁「足りないでしょうね」

女「卒業は…?」

許嫁「さあ。あの人、ああいう人だから」

女「ねえ、許嫁さん」

許嫁「なにかしら」

女「イヤじゃないの?」

許嫁「何が?」

女「男くんと許嫁って」

許嫁「嫌だなんてとんでもないわ」

女「だって…おかしいよ」

女「知ってるよ?男くん、女の子に片っ端から声かけて浮気しまくってるって」

許嫁「ええ、そうみたいね」

女「許嫁さん、こんなにいい子なのに……男くんはひどいよ!」

許嫁「そうかしら」

女「そうだよ!おかしいよ!」

許嫁「でも、あの人、必ず家に帰ってくるのよ」

女「へ?」

許嫁「それで十分じゃないかしら」

女「あのね、いくら許嫁って言ったって将来は夫婦になるんでしょ?」

許嫁「そうね」

女「だったら、浮気なんて絶対ヘンだよ!」
許嫁「でもね、あの人……浮気は誰とでもするけど」

許嫁「本気は私だけって言うのよ」

女「そんなの、誰にでも言ってるに決まってるよ」

許嫁「それでもいいわ」

女「へ?」

許嫁「あの人が毎日家に帰ってきて…いいえ、毎日でなくていい」

許嫁「どんなに悪いことをしようが、どんなに汚れていようが」

許嫁「家に帰ってきて、私の隣で休んでくれたら……」

許嫁「それで十分だと思うの」

女「…………」

許嫁「私、そんなに変かしら」

女「変だよ!絶対変だよ!」

許嫁「そうかしら」

女「とにかく、もう少し厳しくした方が男くんの為にもなると思うよ」

許嫁「そうかしら?」

女「そうだよ!だって、就職とかできないよ?」

許嫁「…っ…うふふ……」

女「どうしたの?」

許嫁「あの人ね、月に一度……お金を持って帰るのよ、30万円くらい」

女「え!?」

許嫁「おもしろいのよ。先月は、動物園の象の耳の裏に挟まってたのをくすねてきたって、うふふ」

女「それって…ウソだよね?」

許嫁「でしょうね。パトロンのような女性(ひと)がいるのだと思うわ」

女「…………」

許嫁「だけど、そのお金を私にくれるのよ。かわいらしいと思わない?」

許嫁「……きっとね、そういうところに惚れてるのよ、私」ポッ

女(ダメだコイツ)

女「許嫁さん、男くんを愛してるんだね」

許嫁「それは違うと思うわ」

女「え?」

許嫁「私はあの人が好きなだけ。ただそれだけよ」

女「ただ好きなのと愛してるのって違うの?」

許嫁「そうね、違うと思うわ」

許嫁「愛というのは、もっと大変なことだと思うの」

許嫁「人類愛と言うのかしら、誰にでも分け隔てなく優しくて、時に厳しくて……」

許嫁「そういうことができるのは、きっと本当にすばらしい人なのだと思うわ」

許嫁「私はそんなにできた女じゃないの」

許嫁「どこの誰かも知らない人なんて、どうだっていいの」

許嫁「ただ……あの人さえいてくれれば、それでいいのよ」

女「そんなもんかなぁ」

許嫁「恋をすればきっとわかるわ、あなたにも」

女「ぐぬぬ」

女「…じゃあさ、許嫁さんが浮気してみれば!?」

許嫁「どういうことかしら」

女「だから、許嫁さんが浮気をしたら、きっと男くんも必死になるんじゃないかな!」

許嫁「だめよ……第一、相手がいないわ」

女「相手なんて、許嫁さんが色目使えば誰でもイチコロだよ!」

許嫁「そうじゃないのよ」

許嫁「この人の子どもが欲しい、って思える人がいないの。あの人以外」

許嫁「きっと、男の人は浮気をするのが当たり前なのだと思うわ」

許嫁「たくさん子孫を残すようになっているのよ、遺伝子かなにかで」

許嫁「でも、女は……身籠ったら、十月十日は動けない」

許嫁「だから女は結婚したがるのね、自分を守ってもらわないといけないから」

女「ちょ!ちょ!」

女「避妊すればいいんじゃ…?」

許嫁「どうしたって、できる時はできるでしょう?」

許嫁「私、あの人にだけはうそをつきたくないの」

許嫁「避妊していたから許して、だなんて……そんなの、うそよ。許されない」

許嫁「女はね、浮気に向かないのよ、きっと」

女「ぐぬぬ」

許嫁「私には、あの人しかいないの」

許嫁「あの人が……私の作った夕食を食べて、おいしいって言ってくれるのが」

許嫁「とってもうれしいの。それだけでいいの」

女「おやおや?さっきは隣にいてくれるだけでいいって言ってませんでしたー?」

許嫁「あら…そうだったかしら」

女「そうですよー?」

許嫁「……だめね、私ったら。すぐ欲張って」

許嫁「困っちゃうわ……あの人、私のこと……嫌いになったりしないかしら」ウル

女「え!?ちょ」

許嫁「ごめんなさい…みっともないわよね…」グス

女「あああ!おっ、男くんはきっと大丈夫だと思いますよ!」オロオロ

許嫁「そうかしら……」メソメソ

女「はい!きっと気にしないですよ!ズバリ間違いないです!」

許嫁「なんてね、うふふ」パッ

女「は!?」

許嫁「うふふ、うそよ。うそ泣き」

女「あ、え、あーっ、うそ泣き!これはずるい!」

許嫁「うふふ、ごめんなさい」

許嫁「本当はね、知ってるの」

許嫁「このくらいで嫌いになったりしない人だって」

許嫁「あの人……男さんは、本当に大きな人なの」

許嫁「本当に……本当に大きな……」ポー

女(泣きたい)

その夜

許嫁「……………」ウトウト

男「……………」ソーッ

許嫁「……あなた」

男「あり、起きてましたか」

許嫁「あなた、お帰りなさい」

男「へえ、ただいま帰りました」

許嫁「お夕飯にしますか?」

男「そうしてくれますか」

許嫁「すぐ、用意するわ」

男「許嫁さん、女さんに何か吹き込みましたか」

許嫁「さあ…思いつかないけれど」

許嫁「どうかしたの?」

男「いやね、帰り際に待ち伏せされて」

男「ついさっきまでこっぴどく叱られてまして」

許嫁「そう」

男「ええ」

許嫁「何て叱られたの?」

男「いやね、ふらふらするなだの、学校に来いだの、つまんねぇことなんですが」

許嫁「そう」

男「ええ」

許嫁「他には?」

男「他というと」

許嫁「他には何か言っていなかった?」

男「あ、そうそう。許嫁さんを大事にしなさいと言われましたね」

許嫁「そう」

男「ええ」

許嫁「…あなたは」

許嫁「あなたは、どう思ったの?」

男「何をで?」

許嫁「女さんにお説教していただいて」

男「へえ、これといって特には、何も」

許嫁「そう」

男「ええ」

許嫁「……あなた」

男「♪~」

許嫁「あなた?」

男「どうしました」

許嫁「食事中にそういうのはよくないわ」

男「そういうのとは?」

許嫁「お乳を揉んだり、お尻を撫でたり」

男「いけませんか」

許嫁「いけないわ」

男「そうですか」

許嫁「ん…もう、だめったら」

男「あたしはね、いけないことが好きなんです」

男「許嫁さんはどうですか」

許嫁「…………」




許嫁「もう…しょうのないひと……」


終わり

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年09月18日 (金) 15:47:05   ID: dmnY9JSn

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