部長「どうして彼がモテるのか、調査の必要有るかもね」 (58)


~新聞部の部室にて ~



部長「部員諸君、定例会議に集まってくれてありがとう」

後輩「部員諸君なんて畏まっても、部長を含めて三人しか居ないんですけどね」

部長「……いきなり事実をつきつけるのが君のジャーナリズムかい?」

後輩「それっぽい言葉で言われても返答に困りますね。しかもその三人目は幽霊部員で顔も見た事ないし」

部長「人数の少なさは部員各々のクオリティでカバー出来ているから問題ないさ。
   三人目の人もちゃんと頑張ってるよ。 さ、それより、本日の会議に早速入ろう」

後輩「また“広報誌の発行部数を増加に繋ぐためにどうするか”を話すんですか……。
   最近の議題はそればっかりで、新鮮味が全然ないですよ……」

部長「では、なぜ新鮮味がないのか。 それを君は考えた事があるのか?」

後輩「そりゃ同じ事ばかりを話し合うからでしょう」

部長「否。 それは、話し合いばかりで現状に進展が無いからだ。
   結果、それがマンネリを生むことになっている」

後輩「そこまで言うからには、何かマンネリを打破する方法を今回は考えてきたんですか」

部長「その通り! と、いうわけで、今回はゲストを呼んでいる!」

後輩「ゲスト?」

 

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部長「ゲストの方、どうぞ入ってください!」

男友「あ、どうも。 会議中にお邪魔します」

後輩「?」


部長「 (誰やねんこのオール平均点のパッとしない男は……) 、なんて思っていそうな顔をしているね」

後輩「寝も葉もない事をいきなり真実っぽく言うのが先輩のジャーナリズムなんですか」

部長「そんな人の心境を鑑みない、ミセスKYにして朴念仁の君だからこそ、僕は部活にスカウトしたワケだ」

後輩「これはひどいブーメランを見た。
   入部したときに同時に出した退部届の受理を願います」

部長「調子に乗って申し訳ありませんでした。
   言い過ぎたのは謝るんで辞めるとか言わないで……」

男友「来て早々、何故か美しい土下座を見る羽目になるとは……」

部長「まぁまぁ、これも一つの部内スキンシップだよ」

男友「土下座したままの格好で言われると説得力とは何なのか考えさせられるな」


部長「では、改めて。彼は僕の友人で……」

男友「自己紹介がまだだったな。 
   2年5組、男友って言います」

後輩「あ、じゃあ先輩ですね。 
   初めまして。1年1組、後輩って言います。どうぞよしなに」

男友「おお、あの阿呆の知り合いにしてはえらく礼儀正しいな」

後輩「部長と類友に思われていたのなら心外です」

男友「ははっ、そりゃ申し訳ない」

部長「あれ? 僕なんか既に蚊帳の外の雰囲気?」


後輩「それで、男友さんは何故に新聞部の部室へ?」

男友「部長に頼まれていたんだよ、なんか記事に出来そうなネタは無いかって」

後輩「……」

部長「ん?」

後輩「……」

部長「またえらくもの言いたげな瞳だね?」

後輩「部長。入部当時に私に言ったこと覚えてます?」

部長「“記者たるもの、スクープとは自分の足で摘み取ってくるものだ!” かな」

後輩「そこまで覚えていながらも、スクープに足を運ばせてくる辺りは流石ですね」

部長「もっと褒めていいよ」

後輩「……」

部長「どうしたんだい、更に熱烈な視線を浴びせてきて?」

後輩「浴びせたいのは罵声ですよ」


男友「あー、話が進まないんで俺から話すよ」

後輩「お手数かけてすみません」

男友「気にするなって。今回俺が呼ばれたのは、その広報誌に書けそうなネタの事なんだ。
   ちょっと面白そうな事が身内で起こっていてな」

後輩「それで身内を売りに来た、と」

部長「こいつはとんでもないクズ野郎が来たもんだね」

男友「帰るわ」

部長・後輩 「「大変申し訳ありませんでした」」 

男友「……なんちゅう美しい土下座だ。なんだかんだ似たもの同士か、お前らは」
 



男友「話を戻すぞ。 その俺の身内で起こっているのが、俗に言うラブコメ展開なんだ」

後輩「ラブコメですか?」

部長「豊作なのかい?」

男友「米の新種名じゃねぇよ。 なんだよ豊作展開って」

後輩「部長ちょっと10分だけ部室から出ていってくれませんか?」


男友「で、だ。 そのラブコメの中心人物が、俺の友人である 男 なんだ」

後輩「男さん、ですか」

男友「あいつは授業中によく寝ているような昼行灯だが、気がつけばいつの間にかハーレムが出来上がっていた」

後輩「 “草食系男子” なんて言葉が生まれるご時勢にハーレムとは景気の良い話ですね」

男友「こういうのは普段なら与太話って事で、くだらない色恋沙汰になるってのは重々承知さ。
   だがな、どうにもアイツの周りを見ると、剣呑としてる場合じゃないくらい女に囲まれてるんだよ」

後輩「まるでゲームや漫画の主人公を彷彿させますね」

男友「別段これといって目立つような奴でもないから、それが不思議を尚更かきたてるんだよなぁ」

後輩「ちなみにその男さんってどのくらいモテるんですか?」

男友「一概に言い表すのは難しいが……相当モテるとだけ言っておく」
 


後輩「私は男さんを知りませんので、外見的特徴などの情報を」

男友「身長は170cm前後。 前髪で顔の半分が隠れていて、体格は細身。
   口数は少ないほうではないが、率先して喋るほうでもない。 何故かいつも疲れていてよく眠っている」

後輩「趣味は?」

男友「見たところだと読書と音楽鑑賞。無趣味が趣味のような感じだな」

後輩「ちなみに先輩の趣味は?」

男友「最近は料理に凝っている。……って、俺は関係ないだろ」

後輩「ついインタビューのクセで。失礼しました。
   ちなみに男さんは何か部活動に所属しているんですか?」

男友「助っ人で弱小部活をハシゴしているのは見かけるが、どこか特定の場所に留まっている感じはないな。
   ただ、あいつが助っ人で行った部活は、必ず何かしらの表彰を受けている事だけは割と有名みたいだぞ」

後輩「へぇ、何かと万能なんですね。そういう所あたりがモテるんでしょう」

男友「まぁ万能なのは確かなんだよな。バスケやサッカー、吹奏楽に囲碁将棋、なんでもござれだ。
   アイツどこかの部活に所属しているとは行ってたけれど、これだけハシゴしてちゃ分からないわな」

後輩「そういえばサッカーは無名のウチが去年国立に行ってますね。
   バスケはウインターカップ出場、吹奏楽は全国出場まで経験済。どれも弱小部活の筈なのに……」

男友「それ全部あいつが仮入部から去るまでの間の出来事ってのがまた……」


後輩「その男さんって彼女とかいないんですか?」

男友「いたのなら事態も収束するんだがなぁ。
   これといった意中の相手がいなさそうだから、他の子が躍起になってんだよ」

後輩「ホモなんですかね」

男友「真顔で何か急に言い出したぞオイ」

後輩「冗談です。でもモテるのに特定の子がいないって聞くと、族に言うプレイボーイに位置づけられますね」

男友「いや、別にあいつは誰に対しても無頓着な態度を変えないぞ」

後輩「むぅ……」

男友「で、どうだ。何か人物像は捉えることが出来たか?」

後輩「捉えどころのない人というのがよく伝わってきました」

 


男友「自分で羅列しておきながら難だが、アイツの周りに女の子が寄ってくるのが理解できないな」

後輩「顔が良いからではなく?」

男友「それも要因なんだと思うが、それだけでは済まされないくらい異様にモテているんだよ」

後輩「私も新聞部として校内のイケメンは粗方メモしていた筈ですが、完全にノーマークの人物ですね」

男友「という事は、君は校内の美人も大体チェックしているのか?」

後輩「ええ、まぁ百位までくらいならランキングで番付していますよ」

男友「そのランキングの中に、例えば誰がいる?」

後輩「まぁ名前を挙げるとすれば、そうですね。
   上位陣だとランキング1位の女さん、続いてツンデレさん、幼馴染さん、委員長さん、転校生さん。
   他には音楽教師や女子バスケのキャプテン、等等ですね」

男友「……」

後輩「それが何か?」


男友「少なくとも今挙げたそいつら全員、男に惚れている」

後輩「……は?」


後輩「いやいや、流石に全員は言いすぎでは?」

男友「本当だ。 昼休みの弁当時間は、男目当てで1クラス人数相当の女子が来る」

後輩「凄い光景ですね」

男友「光景、とは絶妙な喩えだな。 光があれば闇だって深くなる。
   男がモテている眺めを、モテない男子たちが修羅の形相で見つめている様は、まさに社会のカーストだ」

後輩「血の涙を流しながら見つめているんでしょう」

男友「その様子を形成する男子生徒たちの顔は、アレに似ている」

後輩「アレ?」

男友「ベヘリット」※

後輩「……壮絶すぎる」



※存じない方はgoogleの画像検索で探してみてください


男友「まぁ表向きの依頼としては、男のハーレム実態を探ってほしいって事なんだが。
   本当は男が他の男子生徒の恨みを買いすぎて闇討ちされないよう、
   対策の為にアイツの詳細くらいは知っておきたいんだ」

後輩「本人に聞けばいいじゃないですか」

男友「どうせ聞いても知らぬ存ぜぬの一点張りさ。それにアイツに気を使わせるのも何かアレだろ」

後輩「友情ですね」

男友「そんなんじゃねぇよ」

後輩「愛情ですか!?」

男友「そんなんじゃねぇよ!」

後輩「なんだ、ちょっとビビりましたよ」

男友「君の倍くらいは俺もビビったわ」


ガラガラッ


部長「あ、もう話は終わった?」

後輩「……本当に10分も外に出ている謎の律儀さにイラっとします」


部長「まぁまぁ。 詳細は僕自身、最初から男友くんに聞いて知っていたからね。
   それで、我が新聞部としては是非とも色々な子に取材をしてみたいんだけれど、どうかな?」

後輩「でも、こういうのって直接聞いても話してくれるものですか?」

部長「今回はあくまでも君のメモにある“話題の美人にインタビュー”という体で取材を敢行。
   その中で男くんの話題を上手いこと入れ込んで、真意を引き出すのが手段さ」

後輩「……プライバシーの侵害な気がして、ちょっと二の足を踏んじゃいますね」

部長「そこは記事にするかどうかを会議するんだよ。
   会議にしたくないような内容を聞いたら、君が胸に密やかに留めておけばいいだけの話さ」

後輩「無理に記事にしないのであれば、まぁ取材はし易いですね。
   お題目もあるし、もし駄目ならインタビューを学内新聞に載せればいいだけですか」

部長「飲み込みが早くて助かるね。 じゃ、宜しく頼んだよ」

後輩「先輩は?」

部長「とりあえず情報収集かな。」

部長「僕はもう一人の部員と“学園地下に潜む謎の怪物”を取材しなくちゃならないから、君に一任するよ♪」

後輩「言ったからには絶対記事にしてくださいよ、それ」

男友「……俺もそれは正直読んでみたいわ」

 



~ それから数日後 ~



男友「これが俺の知り得る限りで作成した“男に惚れている女性”の一覧表だ」

後輩「ありがとうございます、先輩」

男友「礼を言うのはこっちだよ。忙しい中で時間を割いてくれてありがとな。
   暇なときにもでリサーチしてくれたら嬉しいよ」

後輩「…先輩って、なんかモテそうですね」

男友「そうか?」

後輩「まぁいいです。 もし上手く調べる事が出来たら、なんか奢ってくださいよ」

男友「ああ、いいぞ。 詳細がもし分からなくても、労い兼ねて近場で甘い物でも奢ってやるよ」

後輩「……ちょっとだけ、楽しみにしておきます」

  


後輩「さて、じゃあ先輩から貰った一覧表でも見てみようかな」

後輩「けっこう人数多いみたいに言ってたから、流石に全員にインタビューは無理か」

後輩「……どれどれ。 何人くらいいるのかな?」


ペラッ



後輩「……」

後輩「……」

後輩「……」


後輩「校外まで含めると、150人を越えている、だと……!?」


後輩「……」

後輩「……」

後輩「これ男さんも凄いけれど、男友さんの情報収集力も相当すごいよね……」



後輩「とりあえず全員は無理。 私一人でやるには150人は多すぎる。
   学内の美人にインタビューという観点からも、これは相手をピックアップしておくべきかな」

後輩「労力を考えると、ざっとまとめてこんな感じ」




・女さん    ・ツンデレ
・幼馴染    ・委員長
・転校生    ・保健室登校の先輩
・ヤンキー 



後輩「濃いメンバーね……朝食にカツ丼食べたときの胸やけを思い出すわ」


後輩「ん? 一覧表に紛れて茶封筒がある?」

後輩「どれどれ中身は……って、部長の字で何か便箋に書かれている」



後輩ちゃんへ:もし話が聞きだせずに困ったら、それぞれの子には下記の文章を読み上げるように。
       僕なりにリサーチした魔法の言葉だよ。
       彼女たちが何らかのリアクションを見せたら全部に乗っかっていくといいさ。


後輩「最後の文はアドリブで頑張れって事かな? ちなみに何て書かれているんだろう?」

後輩「ふむ」

後輩「ふむふむ」

後輩「なるほど、わからん。この文章だけで読み解くのはまず無理っぽいなぁ」

後輩「でも部長が切り札扱いしているようだし、手段として用いてみるのもいいかな」

後輩「……というか、あの人なんで私が選んだ7人の情報をピンポイントで分かったんだろう」


後輩「さて、まず初日は誰にコンタクトを取るべきか」

後輩「……」

後輩「……」

後輩「……保健室から攻めてみようか」



~ 昼休み ~


【保健室】


コンコン コンコン


後輩「失礼します」 ガラッ

保登「あら、体調不良ですか? 
   先生は留守にしているので、今だと職員室にいると思いますよ」

後輩「ご丁寧に有難うございます。
   ただ、今回は先生に用事というものではありませんので」

保登「?」

後輩「貴方に用事があって伺いました。“保健室の深窓の令嬢”さん」

保登「え?」

 


後輩「自己紹介が遅れました。
   私は新聞部に所属する1年1組の後輩と申します」

保登「初めまして。 私は3年の保登といいます。
   ちょっと体が弱いので、よく保健室にいるんです」

後輩「お噂はかねがね色々な生徒から伺っています」

保登「まぁ、あまり良い噂は無いでしょうね。
   我ながら一般的な高校生とは言い難いものがありますから」

後輩「いえいえ。むしろ良い噂ばかりが耳に届いていますよ。
   “保健室の深窓の令嬢”と呼ばれている所以は、きっと先輩ご自身の人柄から出ているんでしょう」

保登「あの、先ほどから気になっていたのですが」

後輩「どうされましたか?」

保登「その、“深窓の令嬢”とかいう方は……失礼ですが人違いでは?」

後輩「いいえ、間違いなく貴方です。ご確認ですが、3年2組に在籍している先輩ですよね?」

保登「はい。 確かにその通りですが、その……」

後輩「何か?」

保登「そ、そんな風に呼ばれたのは初めてで、その……なんですか、その大層な通り名は……?」

後輩「この学校の生徒は皆そういう風に貴方を呼んでいますが?」

保登「えええぇぇぇぇ!?」


保登「……いつから?」

後輩「私が入学したときには既に噂を聞いていたので、少なくとも半年以上は前からかと」

保登「……」

後輩「……」

保登「あ、なるほど。 そういうジョークですよね!
    だめですよ、初対面の人をからかっちゃ! めっ!」

後輩「いえいえ、本当なんです」
 


後輩「ちなみに、怪我もしていないのに保健室に来る男子生徒ってどのくらいいますか?」

保登「そうですねぇ。 とっても多いです。
   保険の先生がいつもヤキモキしてますよ」

後輩「一時期は保健室の外に行列が出来ていたとか」

保登「ありましたねぇ。 先生が『見世物じゃないから帰りな!しっしっ!』って頑張ってた時期も。
   きっと何か珍しいものでも保健室に飾ってあったんでしょう」

後輩「その頃って保険の先生は、貴方を見て溜息とかよくついてませんでした?」

保登「よくご存知ですね。 無自覚は怖い云々で、よくハァ~って溜息ついてました」

後輩「……ハァ」

保登(あれ? なんか当時の先生に似た溜息が後輩さんから漏れてる?)


保登「そういえば、後輩さんはどうして保健室へ? 
   私に用があると言ってましたが、どうされました?」

後輩「実はですね。 新聞部の企画で、“校内で話題の美人”の人にインタビューを録っているんです」

保登「……へ?」

後輩「校内でも指折りの美人として毎回必ず名前の上がる人を中心に回る予定です。
   その中でもトップバッターを先輩に飾って頂こうと思いまして」

保登「わたし、ですか?」

後輩「貴方の顔が見たいが故に保健室に行列を作らせ、
   稀に教室に行けば見物に来る固定の男子生徒も多数いる美人。
   柔和にして妖艶。 “保健室の深窓の令嬢”にお話を伺いに参りました」

  


保登「……」

後輩「キョトンとした顔で見つめられても困ります」

保登「……みんなそう言ってるの?」

後輩「はい。女子からも人気が高くてそう呼ばれています。
   失礼ですが、不特定多数の生徒からの視線を感じたことは?」

保登「……ぜんぜん」

後輩「……」

保登「……冗談?」

後輩「マジです」

保登「……」


保登「うっはぁ……また教室に行きづらくなっちゃうよぅ……」

後輩(枕に顔をうずめてバタバタしてる。かわいい……)

 


後輩「すいません。ちょっとジョークが過ぎました。ただインタビューを受けて頂ける人を探していたんですよ」

保登「な、なんだ! …ってやっぱりからかってたのねぇ! もう、悪い子! 」プンスカ

後輩「いえいえ、あまりにもノってくれるのでついつい可愛くて」


後輩(全部本当なんだけれど、こうでも言わないとインタビューしてくれそうにない方だなぁ……)


保登「全く……。 でも、こうして年下の人と話す機会って珍しいから、私でも良ければ請けますよ」

後輩「快諾ありがとうございます。 さほど時間はとらないので、いくつかのご質問に答えて頂ければ幸いです」

保登「はい。 なんでもお答えします♪」

後輩「なんでも?」ピクッ


後輩「では、まず最初に好きな食べ物を教えてください」

保登「坦々麺。辛いものは全般的に好きですね」

後輩「ご趣味は?」

保登「最近は図書室から本を借りて色々と読んでいます。オカルト系に詳しくなりたくて」

後輩「?」

保登「まぁ、オカルトといっても大仰なものじゃなくて。 興味が湧いたから調べているだけなんですよ。
   現に今だって怖い話やホラー映画はとっても苦手ですから」

後輩「奇遇ですね。私も怖いのは苦手です。 では、次の質問ですが……」


…………

………

……


後輩「なるほど。 では高校入学してしばらく経ってから、保健室登校をされていたんですね」

保登「はい。昔は病弱な身を悲しんだりしましたが、今となってはこの体のおかげで得た出会いもあります」

後輩「なるほど」


後輩「その出会いというのが、 男さん ですか?」

保登「!?」


後輩「では、最後の質問です。 もし意中の人がいたとしたら、その人との出会うキッカケを教えてください」

保登「……」

後輩「……」

保登「……」

後輩「その場かぎりで嘘をつける内容に、真摯になって答えようとする事の無言。
   まだ出会って少しの間ですが、私は先輩のことが好きになりそうです」

保登「……」

後輩「……」

保登「……話をしても、いい。 けれど、一つだけ約束してほしいんです」

後輩「はい。出来る約束であれば」

保登「……笑わないでね」

後輩「承りました。 必ず笑わないと誓います」



保登「でも、よく考えたら笑うも何も、貴方も同じなのでしょうか?」

後輩「はい」

保登「貴方の口からあの人の名前が出たって事は、そういう事なんだと思う」

後輩「そうですね。貴方の想像どおりで宜しいかと」


後輩(まぁ、情報は部長から賜っているメモだけなので、軽いカマをかけてみたんですが)


保登「後輩さんも、そうだったのね……」

後輩「そうですね」


後輩(……?)


保登「男くんと同じ、 学園を守るゴーストバスター だったのね」

後輩「(´゚ω゚) 」

  


後輩「すいません、くしゃみが出そうだったので」

後輩(聞き間違いかな? 突拍子もない言葉が聞こえてきたので思わず吹きそうになってしまった。)


後輩「改めて男さんとの出会いのキッカケを教えてくれると幸いです」

保登「そうですね。あれは桜の花びらが舞い散る春の頃でした」

後輩「ほぅほぅ」

保登「外の空気を吸おうと思い立ち、保健室から花壇へ向かう最中のこと」

保登「近くの理科準備室から物音が聞こえてきたんです」

保登「何事かな、って思って中を覗いてみると……」

後輩「みると?」

保登「男さんがお札を両手に構えて、お経らしきものを唱えながら魑魅魍魎と戦っている姿が見えたんです」


後輩( ゴーストバスターは聞き間違いじゃなかったのか……! )
 


保登「格好よかったんですよ、男さん。
   幽霊は怖かったけれど、まるで物語の主人公が現実の世界に現れたみたいで、なんだか素敵でした」

後輩「先輩もそろそろ現実に帰ってきて頂けると光栄なのですが」

保登「?」

後輩「いえ、お気になさらず続けてください」

保登「もう一息で全ての幽霊や妖怪を倒しきるところだったんですが、
   その中でも一際大きい怪物に私が見つかっちゃって……」

後輩「ほぅ」

保登「その怪物が私に捕り憑いてきたんです。そこの記憶は不鮮明なのですが、男さん曰く
   “1ヶ月内に学園七不思議に封印されている各々の化物を解放しないと女の命はない”と言われたとか」

後輩「私たちのようなミッション系学園にも七不思議ってあったんですね」

保登「もう私は死んじゃうんだって泣いてたら、男さんは優しく頭を撫でてくれて、こう言ったんです。
   “七不思議を解放しながら、それぞれ封印されている化物を退治していこう”って」

後輩「……」



保登「そこから男さんは授業そっちのけで私を連れて学園内を探索して、尽力してくれたんです。
   まさか玉藻前が七不思議の一角に封印されているって知ったのは、それから随分あとの事ですが」

後輩「日本最強クラスの妖怪じゃないですか、玉藻前って……」

保登「私と男さんが生きているという現状が事の顛末ですね。
   感謝してもしきれない。一人の人間として尊敬しており、一人の女性として彼の幸せを願っています」

後輩「……」

後輩「なるほど、よく分かりました。インタビューにご協力いただき有難うございます」

 


保登「男さん以外の人とこれだけ話したのは久しぶりでした。とっても楽しかったです。
   貴方のような美人さんとお近づきになれたのも嬉しいですね」

後輩「いえいえ。先輩とお話が出来て私も楽しかったです」

保登「もし良かったら、また遊びに来てくれると嬉しい」

後輩「勿論です。次は一個人として先輩に会いにきますよ」

保登「ふふっ……どうしよう、すごく楽しみ。お友達ができちゃった♪」

後輩(この人ホントちょいちょい可愛いから困るなぁ)


後輩「では、お邪魔しました」

保登「うん、またね~」


【保健室の外にて】


後輩「……」

後輩「……」

後輩「良い人だったなぁ」

後輩「とりあえず、男さんがあの“深窓の令嬢”をデレさせた理由は本人の口から聞けました」

後輩「……」



●学園に蔓延る悪霊を退治するゴーストバスター。 最強の九尾狐こと、玉藻前を倒すほどの実力者。



後輩「これをどうやって報告すればいいんだろう、私……」


~~

後輩「気を取り直して、放課後に話を伺う人を考えよう」

後輩「そうだなぁ。今日はヤンキーさんが日直でしたね。
   日誌を書くの遅そうな印象だし、放課後まで残りそうな可能性の高い彼女にしますか」

後輩「あの人は見た目はワルぶっているのに、無遅刻無欠席の真面目な方なんだよなぁ…」

 



~ 放課後 ~



後輩  「お時間ありがとうございます」

ヤンキー「うっさいね。アタシに何の用か知らないけれど、とっとと終わらせろよ」

後輩  「恐縮です。ちなみに今回はどんな内容でお声がけをしたのかお分かりでしょうか?」

ヤンキー「まどろっこしいのは嫌いだね。何の用?」

後輩  「新聞部の企画で、“校内で話題の美人”の人にインタビューを録っているんです」

ヤンキー「だから、なんでアタシに声がかかるんだっての」

後輩  「だから、そういう事です」

ヤンキー「はぁ!?  ……え?」

後輩  「はい。 校内で美人と評判のヤンキーさんに、今回はインタビューをしたいと思います」

ヤンキー「あ、え……?ちょ、あの。 あの……えっと、ちょっと……ちょっと待って、ま、待てやコラぁ!」



後輩  「何か?」

ヤンキー「あ、アタシにおべんちゃら使ってるってのか!? あぁん!?」

後輩  「いえ、紛れもない事実を述べたまでです」

ヤンキー「こ、こんな見た目のどこに美人の要素があるってのか言ってみろっての!」

後輩  「では、僭越ながらアンケートの結果を少々」

ヤンキー「……アンケート?」


【男子高校生の見解】

・ヤンキーぶっているけれど、こっそり学校の花壇の手入れをしているその優しさ。
・先日、横断歩道にて年配の方をおぶって歩く姿を目撃。ギャップにやられた。
・金髪に染めてワルぶってるところ。
 生徒指導の先生に怒られて、いつもこっそり半べそになっている所めっちゃ可愛い。
・罵ってほしい。
・普通にタイプ。
・化粧っ気がないスッピン美人。


後輩  「他にもまだ沢山ありますが?」

ヤンキー「も、もういい! もういいって! やめて……や、やめろ!」
 


ヤンキー「わ、分かった。 ちょっとだけなら付き合ってやるから!」

後輩  「ご協力に感謝します」

ヤンキー「で、何を聞くんだ?」

後輩  「そうですね。 では、ベタな質問で恐縮ですが、好きな食べ物は?」

ヤンキー「苺のタルト。……の、のような色合いをしたカレーに決まってんだろが!」

後輩  「それはまた胃をやられそうなカレーですね。 では次の質問ですが……」



…………

………

……


後輩  「なるほど。 それでは勉強はあまり好きではない、と」

ヤンキー「当たり前だろ。 あんなん好きな奴どうにかしてるぜ」

後輩  「好きな奴、と言えば。 ヤンキーさんは今現在、好きな人とかはいらっしゃらないんですか?」

ヤンキー「おお……お、おお、…あ、当たり前だろ! だ、誰もいねぇよ!」

後輩  「そういえば同じクラスの男さん、格好いいですよね」

ヤンキー「まぁ、格好悪くはねぇよな」

後輩  「ふむ」

ヤンキー「なんだよそのニッシッシって声が聞こえてきそうな悪どい笑い方は……」
 


後輩  「風の噂ですが、男さんに花を贈ったらしいですね」

ヤンキー「おいそれ言ったのどこの誰だ、ブッ飛ばしてくる」

後輩  「風の噂なので私には何とも。 そこまで狼狽するという事は事実なんですか?」

ヤンキー「……アイツには借りがあるからな。 そのついでにやっただけだ」
 


後輩  「ちなみに、ここはオフレコです。 どういう風に渡したんですか?」

ヤンキー「い、言えるかよ! そんな事!」

後輩  「そこをなんとか」

ヤンキー「い・や・だ!」

後輩  「……将来の夢は“お花屋さん”らしいですね」

ヤンキー「!?」

後輩  「いえ、独り言なのでお気になさらず」

ヤンキー「なんだよぅ、怖ぇよぅ……」
 


ヤンキー「……直接渡してはいねぇよ」

後輩  「では、どのように?」

ヤンキー「わ、分かり易い場所に置いてたんだよ! 持って帰り易いように花瓶に入れて!!」

後輩  「分かり易い場所、とは?」

ヤンキー「アイツの机の上。 一番乗りで教室に入って、置いてそのまま知らん顔して自分のクラスに戻ったぜ」

後輩  「それは教室が騒然とする光景ですね」

ヤンキー「そうか? 直接手渡しよりロマンあっかなと思ってやってみたんだけどよ。
     その日のうちになんか隣のクラスでイジメがどうこうあったとかで学級会議。
     面倒くせぇったらありゃしない」

後輩  「残念美人」

ヤンキー「あん?」

後輩  「こちらの話です」


後輩  「これもオフレコなので、答えて頂ければ幸いです」

ヤンキー「もうヤケだよ。 何でも答えてやらぁ」

後輩  「ヤンキーさんは、どんなキッカケで男さんを意識するようになったんですか?」

ヤンキー「……長くなるぞ」

後輩  「構いませんよ」

ヤンキー「……」


ヤンキー「アイツさ。 その昔、伝説の族の頭(ヘッド)だったんだ」

後輩  「すみません、ちょっと詳しく教えてください」

 


ヤンキー「当時はまだ中坊だったアタシは、引っ込み思案でさ。ぶっちゃけクラスでも浮いてたんだよな。
     で、なんか色々とどうでも良くなって、グレてみようと思ったんだ」

後輩  「ほぅほぅ」

ヤンキー「それで、コンビニでたむろってたガラの悪そうな兄ちゃんたちに聞いたんだ」

後輩  「何を?」

ヤンキー「どうやったらそんな風になるんですか、ってな」

後輩  「えげつない煽りですね」

ヤンキー「何でか分からないが、それを聞いた兄ちゃんたちは激昂してさ。アタシをハイエースに乗せて拉致ったんだ。
     で、連れて来られた場所が族の集会所。なんか生贄みたいな扱いをされたのさ」

後輩  「怖かったでしょう」

ヤンキー「……うん」

後輩  (やだ可愛い)


ヤンキー「もう駄目だ。 そう思った瞬間に、現れたんだ」

後輩  「誰が?」

ヤンキー「男だよ。 学ランを着た同じ年くらいの中坊がさ、数百人単位の族を率いて来たんだ」

後輩  「数百人!?」

ヤンキー「その族が掲げている旗を見ると、前にテレビでやってた警○庁24時で“幻にして伝説の族”で紹介されてた
      『烏魔狩(カラスマガリ)』って書いてあったんだ」

後輩  「私も聞いたことありますね。頭が誰か分からないまま全国制覇を成したとか何とか、だったかな」

ヤンキー「先陣切ってまるで漫画みたいにばったばったと敵を倒してさ。
     アタシを颯爽と連れ戻してくれた。……王子様みたいだったな」

後輩  「でも、それって中学生の頃なんですよね? 高校に入ってからは?」

ヤンキー「高校が一緒だったのは偶然。 学年まで一緒でクラスが隣。 もうそれだけで充分さ。
     ただ、あの時に助けてもらったのはまだ言ってないし、向こうも助けた女がアタシと気付いてないと思う」

後輩  「それは何故?」

ヤンキー「その為にこんな格好してカムフラージュしてるんだよ。 
     気付かれなくていい。一方的に好きなまんまで良いんだよ。…喋りすぎた。話は以上だ、もう何もねぇ」

後輩  「……ご協力ありがとうございました」

 



後輩「色々と可愛い人だったな」

後輩「とりあえず男さんについて分かった事が一つ」



●“幻にして伝説の族”の頭(ヘッド)。 中学時代ですでに数百人を傘下にいれていた最高峰のヤンキー。




後輩「またしてもきな臭い感じの情報を貰っちゃったよ」

後輩「保健室の先輩と混ぜ合わせると、こんな感じか」



 伝説の族の頭(ヘッド)にして、学園を守るゴーストバスター。
 玉藻前を仕留める腕前を持ち、ゴロツキの手下を数百人も従えている。



後輩「……なんて胡散臭い人物像なんだ」


 

※今回はここまで。次回は後日更新で。

次のインタビュー相手:>>55

ここは普通に幼なじみ

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