幻想郷にラブ&ピース (432)

里人「!? いらっしゃい」

里人「いつもながら派手な服だね。外じゃ芸人さんだったんだろ」

里人「あ、はいはいまいど。さすがお目が高いね」

里人「おいしいよコレ。6本で3せ」


ドドドドドド・・・・

里人「ん」

てゐ「うらぁ!」

バキィッ!


「ぎばーーーーっ!」ズザーーーー

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1421331837

てゐ「お酒だよ!あたしが命じたんはお酒!人参じゃねェ!」

「隊長お言葉ですが。人参けっこう好評だと思われまーーーす!」

因幡「モグモグ」

因幡「うまうま」

てゐ「マーケティングの話じゃない規律の話だ!」

てゐ「あんたは下っ端なんだからちゃんと――――」ガシャン!

「あ、荷台崩した」

鈴仙「おろおろおろおろ」

てゐ「なにやってんのよ、しょーがねーイナバだなー」

「手伝えてつだえ」ポイポイ

鈴仙「あうあうあうあう」

永琳「あ。いたいた」

「先生?」

永琳「こんなとこで油売ってたの。てゐも勝手に連れてかないのよ」

「いや、僕はちょっと手伝いをしてて・・・」

永琳「いいから来なさい。薬の整頓してもらうわよ」ガシィ!

「分かりました分かりましたから首根っこ掴まないで引きずらないでやめて!」ズルズルズルズル

てゐ「あっ!ちょ、ヒトのコブンを!!」

「いやいやいや今日はなんとも活気が違いますね」ズザザザザ

永琳「当然よ。今日はお月見という名目の宴会するんだから」

永琳「いつもは身内だけで静かにやるんだけど今日は大勢来るから忙しいのよ」

「へーそうなんですか?なんでまた今回は大勢来るんです?」ズザザザザ

永琳「当然でしょ。何せ・・・」



永琳「貴方が幻想郷に来てから二周年になるお祝いでもあるもの」

永琳「"エリクス"」

エリクス「・・・そーいえばそーでしたっけ」ズザザザザ

永琳「忘れっぽいわねぇ。見かけによらず年食ってるって言ってたのは本当かしら」

エリクス「見かけよりは長生きですよ。・・・アナタホドジャナイケド・・・ナンチャッテ」ズザザザザ

ポイッ グシャッ!

エリクス「げぶーーー!」

永琳「着いたわよ。さて手伝って貰うわ」

エリクス「・・・・・は・・・はい・・・」

永琳「当然ガラス瓶の扱いは丁寧にね。割ったりしたら血液とかアレとか色々採取するから」

エリクス「イ、イエスマム・・・」

永琳「それと・・・さっきみたいなこと言ったら――――」

永琳「慈悲なく 容赦なく 万遍なく え ぐ る わ よ?」

エリクス「ひぃっ!イ、イエスマム!!」

エリクス「えーとお酒に野菜、肉と・・・これで取りあえず買い出しは終わりかな」

エリクス「あとは・・・」ググゥ~~~

エリクス「・・・・・・・・」

エリクス「ラーーーンチターーーイム!!」

里人「うおっ」ビクッ

エリクス「あっすんません」

エリクス「でも今夜は宴会だから昼は軽く食べておこう。ええと財布財布・・・」ゴソゴソ

パカッ

エリクス「・・・・・・」

エリクス「・・・・・・」

エリクス「わーい財布の中身も軽いぞー1$$(ダブドル)も入ってなーい・・・」ズゴーン

エリクス「・・・・・・・わっはっはっはっは!!」

里人「おおっ!?さっきからなんなんだよアンタは!?」

エリクス「あっすんません」


エリクス「あれー!?ちょっと待って!?なんでこんなに入ってないの!?」オロオロ

エリクス「・・・あ、思い出した・・・三日前に・・・」


~三日前・人里~

ザッザッザッザ・・・

エリクス「・・・待たせたね・・・マミゾウさん」

マミゾウ「!!・・・・・来おったか・・・・・!」

エリクス「・・・・・・・」ゴゴゴゴゴ

マミゾウ「・・・・・・・」ゴゴゴゴゴ



エリクス・マミゾウ「「ちーーーっけった!!」」

エリクス「賭博将棋に負けて全財産マミゾウさんに取られたんだったーまいったねこりゃ!」

エリクス「あはははは!・・・・・・はぁ」ガックシ


「おーい!エリクス!」


エリクス「うん?・・・あ、妹紅さん。こんにちは」

妹紅「うん、こんにちは。買い物に行ってたの?」

エリクス「ええ。今日の宴会の。お月見と僕が幻想郷に来て二周年も兼ねてですって」

妹紅「ふうん。・・・そっか。あれからもう二年も経つのね」



・・・・・・・・・・・・・・・

~二年前・迷いの竹林~

妹紅『・・・・・・・・・』

エリクス『・・・・・・・・・・』

妹紅『えっと・・・・・・・大丈夫・・・・・・?きみ・・・・・』

エリクス『・・・・・・・・・・』

・・・・・・・・・・・・・・・

妹紅(今思えば、よりによってあんなウス汚いのに声かけたとは・・・)

妹紅(ドーニカしてたわね私)

エリクス「いや~あの時妹紅さんに見つけて貰えなかったらどうなってたことやら!」

妹紅「見つけた時は絶望しましたって顔してたものね。今じゃ見る影も無いけど」

エリクス「あはは。あの時は色々あって疲れてましたから・・・」

妹紅「疲れて、ねえ・・・ま、いいか。元気になってよかったわね。エリクス」

エリクス「・・・ありがとうございます、妹紅さん」

・・・ぐ

妹紅「・・・?」

ぐるるるきゅるるーーーるるるっ

エリクス「ああああああへあはへははへへへあはへ・・・」ヘナヘナ

妹紅「・・・・今の、腹の虫・・・?」

エリクス「・・・・・・みたいです」

妹紅「・・・お腹、減ったの?」

エリクス「あ、あはははは・・・」

妹紅「・・・あの、今から慧音のところにご飯食べに行くんだけど・・・一緒にどうかしら?」

エリクス「ホントかい!?やっぱりいい人だなあ妹紅さんは!」

・・・・・・・・・・・・・

慧音「・・・遅いな、妹紅。いつもは約束の時間前には来るのに」

慧音「少し様子を・・・ん?」ギャーギャー

慧音「なんだなんだ、外が騒がしいな。どうしたんだ?」


「キャメルクラッチ!」「コブラツイスト!」      「タスケテー!」


慧音「・・・・・・」

慧音「またかっ!!」ガラッ

妹紅「ちょ、ちょっと君たち・・・」

子供A「新技の練習だ!」

子供B「喰らえ!」

エリクス「イデデデデ!待って待って!そっちに関節曲がらないから!」ギリギリギリ

タッタッタッタ・・・

慧音「こら!お前たち!」

エリクス「いよっ先生ッ!こっちこっち!」

子供A「あ、慧音先生!」

慧音「全くいつもいつも・・・ほら、離しなさい」

子供B「はーい」パッ

エリクス「あぎぎぎ・・・」

妹紅「・・・大丈夫?」

慧音「さて・・・三人とも整列!」

子供・エリクス「はーい!」


慧音「お前たちはいつもいつも騒いで・・・楽しむのは構わないが時と場所を考えなさい」

子供A・B「はーい」

エリクス「そうだそうだーもっと言ってやってくださいよ先生!」

慧音「君もだエリクス君!」

エリクス「そうだそう・・・エ!?僕も!?」

慧音「子供たちと遊ぶのは大いに結構。だがいつもやられっぱなしでは大人の威厳というものがだな・・・」ガミガミ

エリクス「し、しかし子供と目線を合わせることは大事かと思いまして」

慧音「それはその通りだが、長幼の序も忘れてはいかんということを・・・」クドクド

エリクス「は、はい・・・おっしゃる通りです・・・」

慧音「いつも口を酸っぱくして言ってるだろう。正しい遊びを教えるのも大人の義務であり・・・」

妹紅「あー慧音ストップ。それよりも遅れてごめんね、エリクスもお昼ご飯に誘ってたの。一人増えても大丈夫でしょう?」

慧音「む・・・そうだったのか。ああ、それは大丈夫だ。招待するよ、エリクス君」

エリクス「やった!ありがとう先生!」

エリクス「・・・ということで、おまえら。僕は先生達とお昼ご飯に行くからな。今日は解散だ」



子供A「なんだそのエラそうな口のきき方はー!」ドカバキ

子供B「コブンのくせに!コブンのくせに!」ギリギリ

エリクス「いてて!いててて!すいません!ごめんなさい!」

慧音・妹紅「・・・はぁ」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

慧音「そうか・・・君が来て二年が経つのか。もっと長くいると思ったのだがな」

妹紅「存在感あるから長年いるって思っちゃうわよね」

エリクス「ええ。人里の皆さんにもよく言われますよ」

慧音「思えば初めて人里に来てからすぐに子供たちにタメ口叩かれてたっけな」

妹紅「でもって二回目にはもう関節技かけられてたんだっけ?」

エリクス「はっはっは!いやーここの子たちは元気が有り余ってますね!」

慧音「・・・そうとも、君が来る前は暴力なんて振るわない良い子ばかりだったのが・・・」

エリクス「・・・先生?」

慧音「今や君が近づくと意気揚々にプロレス技を仕掛けるような子が増えてしまった!どうしてくれる!」

エリクス「え、ええ!?僕のせいですか!?」

妹紅(流石に言いがかりじゃないかしら・・・)

エリクス「で、でもあれは軽いスキンシップであって一種の情操教育ということで・・・」

慧音「関節極めて道徳心は育たん!いいかい、君もいずれは子を持つことになるのだから子供との接し方をだな」クドクド

エリクス「は、はい・・・・・・え・・・と、先生」

慧音「ん?どうした」

エリクス「僕、子供作らなきゃですか?」

慧音「いずれ、な」

エリクス「相手がいないんですが・・・」

慧音「作ればいいじゃないか」

エリクス「成程・・ふーむ・・・」

妹紅「・・・なんでこっち見るのよ」

エリクス「そういえば貴女は元お嬢様でしたよね・・・」

妹紅「・・・豪族って言って分からないだろうからそう表現したけど・・・それが?」

エリクス「け――――――結婚・・・お好きですか」

妹紅「・・・ええ、馬鹿とじゃなければ!」

慧音(だめだこりゃあ)

慧音「まあ説教はこれくらいにして家に行こうか。大したものは出せないが・・・」

エリクス「待ってました!ゴチになります!」

妹紅「宴会もあるんだから余り食べないようにね」

スタスタスタ

・・・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・


紫「・・・」


~マヨヒガ~

紫「ふう・・・」

藍「お帰りなさいませ、紫様。またエリクスさんの所へ?」

紫「ええ、少し様子をね。相変わらず子供に虐められてたわ」

藍「はは、あの方は変わってませんね、何ひとつ。2年前と同じですね」

紫「ええ、そうね。・・・そうか、もう二年なのね」

藍「はい。今日の永遠亭で行われる宴会は彼の二周年記念でもあるそうで。橙が楽しみにしてましたよ」

紫「あの子も彼に首ったけねえ。子供にモテる体質なのかしら」

藍「それは問題無いんですが・・・ただ、この前『関節技を教えて欲しい』って言われた時にはちょっと・・・」

紫「手を繋ぐのもすっ飛ばして歪んだ愛情表現が芽生えてしまったのかしら・・・」

藍「ま、まあ里の子供達が遠慮無しにじゃれついている姿が羨ましいんでしょう・・・と思いたいです」

紫「手段と目的が入れ替わる前に説得しておくのよ」

藍「承知しております」

紫「・・・で、肝心の橙はまだおつかいに行ってるのかしら?」

藍「そのようですね。もう帰って来ていい頃合いですが・・・」

紫「あー、もしかして彼を探してたり?」

藍「いえ、まさか・・・確かに橙からおつかいに行くと言ってましたが、彼が今日人里に来たのは偶然ですし」

紫「でも突然おつかいに行くって言って出かけた時は毎回彼と会ったって言ってるわよね」

藍「で、ですが今日はどうして遅くなるんです?今日は彼は人里にいたのですよね?」

紫「ハクタクと蓬莱人と食事するらしいわ。もう家の中に入っちゃったようだけど」

藍「・・・もしかして、いないのに気配があるから探してる・・・とかでしょうか?」

紫「案外もう居場所は分かってて家から出てきて一人になるところを見計らってたりしてね」

藍「ははは、そんな御冗談を・・・」

紫「・・・・・・・」

藍「・・・・・・・」

藍「む、迎えに行って来ます!」ダッ

紫「はーい行ってらっしゃい」


・・・・・・・・・・・・・・・


紫「単に道草食ってるだけかも知れないのにせっかちねえあの子も」

紫(・・・おつかい、ね)

紫「きっかけもそれだったわね。エリクス」

紫「結界を"飛び越えて"来たのを、貴方と知ったきっかけは」

紫「・・・あれからもう、二年も経つのね」


・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・

・・・・

橙『ただいま帰りました、藍様!』

藍『おかえり。おつかいご苦労様、橙。・・・うん。全部買えてるね。偉いぞ』

橙『あ、ありがとうございます!・・・えと、それで、おつかいに行ったことなんですが』

藍『うん?』

橙『その、店が分からなくて困ってたところを親切な方に助けていただいたんです』

藍『ほう、それは幸運だったな。きちんと礼は言ったかい?』

橙『はい!・・・ですが、名前も聞けず去ってしまわれて、それが気がかりで・・・』

藍『む・・・しかし、道を教えてもらっただけならそこまで律儀にならなくてもいいんじゃないかな?
  その方も改まって欲しくないからすぐに行ってしまわれたんだろう』

橙『で、ですが、道を教えて頂いただけでなくて他にもとっても親切にして頂いて・・・』

藍『む、そうなのかい?他に何かして貰ったんだい?』

橙『は、はい・・・ええと・・・』


・・・・・・・・・・・・・・・・・・

藍『成程。橙の話をまとめると・・・』

藍『店の場所を教えて貰うだけでなく一緒に回って貰って・・・』

藍『店では値切り交渉をしてもらって安く買えた・・・』

藍『女の子に重い物は持たせられないと言って買い物袋まで持って頂き・・・』

藍『別れる際には集まってきた里の子供達と一緒にドーナツを奢ってもらった・・・』

藍『・・・ということでいいかな?』

橙『は、はい・・・』

藍『成程・・・』

藍『・・・・・・・・・・・・』


藍『親切過ぎるっ!!?』ズゴーン

橙『で、ですから!名前も聞いてしっかりとしたお礼をしたいのです!』

藍『う、うん・・・物まで戴いたのなら私からも礼をしなくてはな』

橙『はい・・・でも、あの方が今どこにいるのかは・・・』

藍『人里にいるのだろう?探せば見つかるだろうさ』

橙『はい・・・』

藍『よし、私も一緒に探そう。その方の特徴は覚えているかい?』

橙『あ、ありがとうございます!・・・え、ええと・・・』

藍『どうした?特徴が薄い人だったのかな、覚えてない?』

橙『い、いえ・・・その逆で・・・何から言っていいか』

藍『・・・逆?』


・・・・・・・・・・・・・・・・・・

藍『成程。橙の話をまとめると・・・』

藍『身の丈ほどある真っ赤なロングコートを着て・・・』

藍『髪は金髪、ツンツンに逆立っている・・・』

藍『丸眼鏡をして、指ぬきのグローブをはめていて・・・』

藍『里の子供たちに関節技をかけられていた・・・』

藍『・・・ということでいいかな?』

橙『は、はい・・・』

藍『成程・・・』

藍『・・・・・・・・・・・・』


藍『特徴が多すぎるっ!!?』ズゴーン

藍『い、いやしかし。そこまではっきりした特徴があるならすぐに見つかるだろう』

橙『本当ですか!?』

藍『(・・・近年、幻想郷にはいない奇抜な格好だ。間違いなく外の人間だろう
   しかしそうなると・・・紫様の仰っていた"結界を飛び越えて来た"というのは・・・)』


紫『成程。随分お世話になったようね。橙』

藍『紫様?』

紫『私が見つけてきてあげるわ。それで晩御飯にでも招待して、お礼としましょう』

橙『ほ、本当ですか紫様!ありがとうございます!』

藍『え、えと・・・その・・・よろしいのですか?』

紫『あら、身内がお世話になったもの。これくらいはしないと』

藍『(ですがその人は・・・恐らく一カ月ほど前に結界の外から来た・・・)』ヒソヒソ

紫『(だからこそ、よ。どんな人か実際に会って確かめるいい口実が出来たもの)』ヒソヒソ

藍『(確かに・・・では、そのように)』ヒソヒソ

紫『(ええ、品定めしてるなんて悟られないように振る舞うのよ)』ヒソヒソ

橙『あの、紫様・・・?』

紫『ん、大丈夫よ橙。すぐにでも拉致・・・じゃない、招待してあげるから』

藍『(拉致って・・・いや、しかねない)』

橙『お、お願いです紫様!乱暴にはしないでくださいっ』

紫『冗談冗談。特徴は盗み聞きして分かってるからささっと捕まえちゃうわよ~』

藍『い、今から向かわれるので?』

紫『こういうのは先延ばししない方が好感がもてるのよ。貴女たちは食事の用意しておいてね~』

藍『ゆ、紫様!・・・行ってしまわれた』

橙『どうしましょう・・・?』

藍『まあ、見つかるかも分からないけど・・・とりあえず用意だけはしておこうか』

橙『はい!手伝います!』

30分後・・・

紫『連れてきたわよ~』

藍『早い!?まだ出来てませんよ!?』

紫『もう帰るところだったみたいだからね。有無を言わさず連れてくるしか無かったのよ』

藍『は、はぁ。そうなんで・・・ん、有無を言わさずって?』

紫『というわけで、恩人さんご登場~』

シュポンッ

エリクス『どわぁ!?こ、ここどこ!?貴女たち誰!?誘拐!?誘拐されちゃったの僕!?』

藍『本当に拉致って来た!?』

紫『ふふ、静かになさい。騒ぐとどうなっても知りませんわよ?』

エリクス『ウワアーーーオ!!!誘拐犯だーッ!!誰か助けてーーッ!!!』

藍『お、落ち着いてください。別に何をするというわけでは・・・
  (しかし本当に橙の言ってた通りの格好だな・・・)』

橙『ど、どうされまし・・・貴方は!』

エリクス『あ、あれ!?君はあの時の子猫ちゃん!?』

紫『先ほどは家の者がお世話になったようで・・・この度はそのお返しに、と』

エリクス『お、お返し・・・お願いだから痛いことしないでねブラザー・・・』

紫『ふふ・・・それはどうでしょうかねぇ』

エリクス『ひぃぃ!何故僕がこんな目にあうのママン!何もしてないのに乱暴されそうだよママン!』

藍『だ、だから我々は別に危害を加える気では・・・』

橙『紫様!乱暴にしないでって言ったじゃないですか!』

紫『うんうん。いい反応でからかいがいがありますわ~♪』

エリクス『いや~そういうことでしたか!早とちっちゃってすいません』

藍『い、いえ。元はと言えば・・・』チラッ

紫『ふふ、ごめんなさいね。からかい過ぎちゃいましたわ』

橙『も、申し訳ありません・・・』

エリクス『でも買い物の手伝いしたくらいで食事だなんていいんですか?』

藍『一緒に回って値切って荷物持ってお菓子まで戴いたとなれば手伝いどころじゃありませんよ』

橙『あの時は本当にありがとうございました。お名前も聞かず申し訳ありません・・・』

エリクス『いやいや、お礼を言って貰ったし十分だったよ。でもありがとうね、橙ちゃん』ナデナデ

橙『にゃ・・・』

紫『あらあら、意外にプレイボーイなのですわね』

藍『さて、それでは料理の続きに入ってきます。出来上がるまでお待ちください、エリクスさん』

エリクス『あ、はい。お世話になります』

紫『・・・』チラッ

藍『・・・』コクン

藍『橙、すまないけど手伝ってくれるかい?』

橙『え、あ・・・はい』

トタトタトタ

紫『・・・・・・さて、と。エリクス』

エリクス『・・・はい』

紫『少し聞きたいことがありますが・・・よろしい?』

エリクス『はい。僕も聞きたいことがありますので』

紫『そうですわね・・・貴方と私の質問は同じでしょうから、貴方が質問してくださいます?』

エリクス『ありがとうございます。・・・それでは』



『僕は何故、幻想郷に来たのですか?』



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

藍『出来ましたよ~。橙、気を付けて運んでね』

橙『は、はい!』ヨタヨタ

紫『ん・・・来ましたわね。ここまでにしときましょうか』

エリクス『はい。ありがとうございます紫さん』

紫『いえ、こちらこそ。まだ"こちら"に慣れてないのに申し訳なかったですわね』

エリクス『いえ、紫さんのことは輝夜さんから聞いていたので割とすんなり受け入れられました』

紫『それなら良かったですわ。・・・さて、小難しい話はここまでにして夕食にしましょうか』

エリクス『おっひょ~!豪華な料理!いやあ人助けっていいもんですね!』

橙『たくさん食べてくださいね!』

藍『お酒は飲めますか?遠慮なさらずにどうぞ』

エリクス『ありがとうございます!頂きますね!』


藍『(・・・紫様、彼は・・・)』ヒソヒソ

紫『(藍、話は彼を帰した後よ。とりあえずはもてなしましょう)』ヒソヒソ

紫『それでは・・・』


『『『『いただきます』』』』

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

橙『ノーマンズランド・・・ですか?』

エリクス『うん。地上のほとんどが砂の山の星でね、こっちとは全く違うなあ』

紫『雨が降らないから植物も育たないし、日中は酷く太陽が照り付ける・・・よく生活できてますわよね』

藍『(そんなに暑いのになんでロングコートなんか着てるんだろう・・・)』

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

エリクス『それにしても藍さんの尻尾って立派ですねぇ』

藍『ええ、自慢の尻尾ですよ。・・・触ってみます?』

エリクス『いいんですか?じゃ、失礼して・・・うわぉ!モフモフ!』モフモフ

藍『ふふ、どうぞご堪能ください』

エリクス『いやはや素晴らしい触り心地ですよぉ』モフモフ

橙『・・・エリクスさん!私のも触ってみてください!』

エリクス『ぅお!?・・・おお、こっちはこっちでサラサラだねぇ』サラサラ

橙『ありがとうございます!あの、いつでも触って戴いて結構ですから!』

エリクス『え?えーと・・・うん、ありがとう』

紫『なんだかちょっといやらしく聞こえますわね』

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

橙『エリクスさん!お酌しますよ!』

エリクス『ん?ありがとう、でももう酔ってきて・・・』

橙『あ・・・そうですか』シュン

エリクス『・・・無いからお酌して欲しいって思ってたんだよねー!プリーズ!』

橙『あ、は・・・はい!お注ぎします!』

藍『(扱いがうまいですね)』ヒソヒソ

紫『(慣れてるのねぇ)』ヒソヒソ

エリクス『・・・プハァ!いや~美人三人に囲まれて幸せらぁ!』ヒック

藍『あー出来上がってしまった・・・』

橙『お、お水お持ち致します!』ドタドタ

エリクス『うぅん・・・レム・・・レム・・・視界が真っ白に染まってゆくヨ・・・』ヒック

藍『いや誰ですかその人・・・』

紫『あらら。主役が潰れちゃったし今日はお開きにしましょうか』

エリクス『ふあぁ~い・・・』

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

エリクス『いやぁ今日はありがとうございましら~』

紫『こちらこそありがとう。楽しかったですわ』

エリクス『このスキマってやつを通ればいいんれすよね~?』

藍『ええ、永遠亭の玄関前に繋がっていますから安全に帰れますよ』

エリクス『ふあぁ~い、それじゃあさようなら~』フラフラ

橙『今日はありがとうございました!』

紫『あらあらふらついちゃって。大丈夫かしら』

藍『(そういえば永遠亭の人には説明してないような・・・)』

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

紫『さて、彼も帰ったことだし・・・橙、もう眠いんでしょう?お休みなさいな』

橙『あ、はい・・・実はもう眠くて眠くて・・・』

藍『後片付けはやっておくからもう寝なさい。お休み橙』

橙『ふぁい・・・お休みなさい。紫様、藍様・・・』フラフラ

スタスタスタ・・・

藍『・・・・・・・紫様』

紫『ええ。藍・・・彼をどう感じた?』

藍『は。そうですね・・・』

藍『・・・大きな力の"流れ"を感じました。それも今までの幻想郷に無い力を』

紫『そうね。妖力、法力、神力、魔法力・・・どれとも違うわ』

藍『結界を飛び越える程の力かは分かりませんが・・・ただ警戒しておくべきは、
  その力を持ちながら他者との交流が余りにも下手過ぎるということでしょうか』

紫『下手・・・妙な言い方だけど、そうね。子供にも玩具にされてるものね』

藍『自信がその力を自覚しているのか、いないのか・・・いないから下手に出ているのか、
  していてなお、そんな性格なのか・・・あるいは』

紫『大人しくしておいて信用させておいていざ、というときに?・・・少し周りくどいんじゃないかしら』

藍『あらゆる可能性を考慮して、です』

紫『・・・正直こういう手合いはやりにくいのよね。一回暴れて霊夢に倒されて大人しくなってくれた方が分かりやすいわ』

藍『はは、そうですね。・・・いずれにせよ警戒するに越したことはないかと思われます』

紫『成程ね。同意見よ』

藍『は・・・ところで、紫様。彼は何と・・・』

紫『記憶が無いんですって。ここに来る瞬間の』

藍『はあ、記憶が無い、ですか』

紫『・・・ありきたりで信用ならないって思ってるでしょ』

藍『あ、いえ、その・・・』

紫『いいのよ。私も思ってるもの。彼は私が連れてきたって思ってたらしいけどね
  ・・・ただ、もう一つ話があるのだけど、そっちは興味深かったわ』

藍『もう一つの話・・・ですか?』

紫『幻想郷には結界が張ってあって通常私の能力以外では簡単に入っては来れない。
  そのことを話したんだけど・・・』

紫『巨大な力が働けば結界を超えられる。とするならば、きっかけは知っている。と言ってたわ』

藍『! 結界を超えられるほどの力を持っている・・・?』

紫『その力を出すことになったかもしれない出来事は覚えているそうよ』

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

―――ある、男と対峙していました。

・・・そうですね、敵、みたいなものです。

そいつが僕を見て言ってました。

「使い方が分かったのか お前自身のA・ARM(エィンジェル・アーム)」・・・と。

いえ、何の事だかさっぱりです。・・・そいつが言うには、記憶障害のせいらしいですが。

・・・そして奴が近づいて来て、僕に触れてきました。

そっからです。記憶が無いのは。

とてつもなくおぞましい何かが浮かんで来て・・・意識が途切れ、気が付いたら・・・です

・・・ええ、僕にはA・ARMとやらを持っていて、奴はその使い方を知っている。

そして、恐らくはその力で結界を飛び越えることが出来た・・・ということかも知れません。

・・・え!?い、いやいやいや!作り話じゃないてすって信じてくださいよホント!!

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

紫『・・・・・・信じられると思う?この話は』

藍『・・・どうでしょう。突拍子もない話ですからなんとも』

紫『ま、どっちにしろ貴方の言う通り警戒を兼ねて時折監視することにするわ。
  異変を起すようなら霊夢に解決してもらうし、大人しいならそれでよし。よ』

藍『は、ではそのように』

紫『・・・・・・ねえ、藍』

藍『はい?』

紫『彼自信、どう思う?・・・』

藍『彼自身、ですか・・・そう、ですね・・』

藍『・・・・・・・・とても』

藍『とても、優しい方だと、思いました』

紫『・・・そうね』

藍『願うなら、偽りでない優しさであって欲しい・・・そう、思います』

紫『・・・・・・そうね』



―――そうであって欲しいわ



・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・

・・・・

―――彼が幻想郷に来てから2年余りが過ぎていた

つかず 離れず 我々の時間は思いの他緩やかに過ぎてゆく―――



この二年間、時折彼について調べるために彼の故郷「ノーマンズランド」を訪ねていた

調査は困難を極める  容赦なく振りそそぐ熱射 見渡す限りの砂の大地 体に感じる重み

明らかに外の世界より遥かに広大な星 明らかに外の世界より遥かに少ない人口

街のレベルに比べ、武器だけが進化し過ぎている 少ない人口を殺し過ぎている


成程 彼が私の能力を知りながら「帰して欲しい」と切り出さない理由が分かった


――――――この星は「異常」だ

住み心地のよさが段違いだ だからこそ幻想郷にいたいのだろう

ならばもはや警戒はしなくてよいだろう そう思い調査を切ろうとした


―――ある街に寄った時、一枚の指名手配の写真を見つけた

ボロボロで所々破れている 下に示されてる賞金額の桁数からしても悪人という枠で収まりきらない犯罪をしたのか

しかし、そこには全く目に入らず呆けたように顔写真をただひたすらに見つめてた


よく知る髪型―――時々子供たちに引っ張られているのを知っている

よく知る服装―――目立つ色とは裏腹に謙虚であることを知っている

よく知る笑顔―――屈託のない見るものを和ませる笑顔を知っている



知らない名前―――――――――――――――――――――――――

・・・・・・・・・・・・・・・


「ああ、知ってるよ。かつて600億$$の賞金首だ。・・・今は失効されたけどな」


「都市を一つ消しただとか月に大穴開けたとか・・・」


「以前会ったことがあります。その様な方には見えませんでしたが・・・」


「・・・ロスト・ジュライの話は止めてくれ。考えるだけでも身震いする」


「月の大穴事件・・・ジェネオラ・ロック・クライシスとか、フィフス・ムーン事件とか呼ばれてますわ」


・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・

・・・・

―――――、この名前を知ってますわね?

「・・・ああ、知っとるで」

そして互いに知らぬ仲でもない・・・ですわね?

「おいおい、なんでそんなことになるんや。知っとるだけやで」

あら、その名を騙る連中がいてそれが許せなかった・・・だから壊滅させたのではなくて?

「冗談やろ。ただこんな小さい町にでかい顔するのがムカついただけや。おかげで飯食わせてもろてるし」

でも貴方が反応を示したのはその名前を聞いたから・・・そんな風に見られましたわ。

「・・・・・・気のせいやろ」

あら、そうでしょうか?

「・・・・・・・・」

・・・・・・・・

「・・・嬢ちゃん、何時から見とった?」

始めから、と言えば驚いてくださる?

「可愛い顔して喰えんやっちゃ」

まあ、可愛い、だなんて照れますわ。

「・・・・・・はあ。嬢ちゃん、アイツに関わるのは止めとき」

あら、どうしてですの?

「命がいくつあっても足りへん。本当はいい奴やとか、そういう枠ちゃうんや。
 ・・・嬢ちゃんのためや。これ以上探らんといてな」

彼が二つの事件を起こしたから?まだ命を狙われてるから?

「ま、いろいろとな」

それとも・・・彼が人間で無いから?

「・・・!」

知ってますわ。彼が優しいこと、根からの平和主義者であること―――

―――人外で、大きな力を持っていることも。

「・・・・・・そこまで知っとるのなら、どうして」

彼を疑いたくありませんの。人間でないとかは問題ではありませんわ。
ただ、その力を暴力として振るう存在かどうか・・・そこを知りたいのですわ。

「・・・奴を知っとるんか?」

・・・ええ、以前お世話になった方ですわ。とても、素敵な方でしたわ。

「・・・ワイが嘘を吐くかも知れへんで?」

判断は私の方で勝手にしますわ。貴方は語るだけでいい。

はっ。ホンマ食えん嬢ちゃんや。

・・・・・・・・・・・・

「・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・もう一人、いたんや」

・・・!!


「ワイはジェネオラ・ロックのあの瞬間を見た。そこには奴と、もう一人」

「そいつは姿形は人間やったが―――明らかに"化け物"やった」

「そいつらはどうやら知り合いの様やった。150年前やとか、厄災やとか・・・」

「ホンマかどうかは分からへんけどな。ただどっちも"異常"ではあったな」

「いくつか会話しとったが・・・そのうち「化け物」の方が奴に触れよった」

「こっからはワイ自信聞いたら鼻で笑うがな。・・・触れた瞬間、奴の腕が膨れ上がった」

「―――巨大な大砲に変わりよった」


「そこからはワイもよく見えへんかったし、会話も聞こえへんかった」

「ただ、地上に放たれようとした瞬間、奴が間一髪で空に照準を向けた」

「・・・そして・・・後は知っての通りや」

「その余波だけで街は半壊。月は・・・言わずもがな、やな」

「・・・自分で言っておいてなんやが、こんな話信用したらあかんで。気狂いに思われる」

―――っ・・・

「嬢ちゃん、ロスト・ジュライって知っとるか」

ええ・・・都市が一つ"消し飛んだ"とか。

「そや。壊滅とかならともかく目撃者一人もおらんで消す、なんて芸当ありえへん」

「ただ・・・もしあの"銃"が地上へ放たれとったら・・・」

・・・想像も尽きませんわね。

「・・・分かったやろ?奴と関わらん方がええ」

・・・・・・・・・・・・・

「ま、信じる信じないは嬢ちゃんの勝手や。ワイはともかく話した」

・・・ええ、ありがとう。

「満足できたならもうお帰りな。嬢ちゃん」

・・・・・・・・ええ、ありがとうございましたわ。




――――――ウルフウッドさん。




ウルフウッド「ああ。ほんならな」

・・・・

・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・

紫「(もう一人の男・・・か。彼がエリクスに力を与えたのか)」

紫「(いや・・・「お前自身」ということは既に力は眠っていた。彼はそれを引き出した)」

紫「(何故そんなことをしたのか・・・そしてエリクスはその眠った力を覚えて無いのか)」

紫「(ロスト・ジュライもフィフス・ムーンも同じ出来事だったのか)」

紫「(・・・真実は分からないわね)」


紫「(そして―――――エリクス、貴方の本当の名前は?)」

紫「(指名手配に書かれていた名前?それとも今の名前?それとも別に?)」

紫「・・・・・・・・・・・・」



紫「貴方の本心は・・・どこ?」



Q.トライガンと東方、どっちが強い?

A.ドラゴンボールが強い

~紅魔館~

レミリア「・・・・・・」

コン、コン

「失礼します」ガチャッ

レミリア「咲夜。フランはやっぱり行かないって?」

咲夜「はい。大勢いる場所は苦手、と」

レミリア「ったく。エリクスと二人なら大丈夫ってのに大勢はダメなのね」

パチュリー「いいじゃない、余計な心配しなくて済むわ」

レミリア「彼と会ってから随分大人しいから外出も許可したのにあの愚妹は・・・」

パチュリー「異変起こした一件以前も以来も外に出たがって無かったんだし無理やり連れだすことないでしょ」

レミリア「でもねぇ、今日の宴会の主役はある意味エリクスでしょ?
     フランもアイツのこと随分気にいってたのにこういう時は冷たいのはどうかと思うのよ」

パチュリー「正直、レミィがダメって言って反発して・・・って展開になると思っただけに拍子抜けよ」

レミリア「ま、大勢が嫌だなんて多少の障害で好いた男性の所に行けないなんてレディの風上にも置けないわね。」フッ

咲夜「えーと、その件について妹様より言伝がございまして」

レミリア「は?」

咲夜「『レディなら男性が来てくれるのを静かに待つものだ。恋愛経験の無いお姉様には分からないだろう』と・・・」

パチュリー「プークスクス」

レミリア「・・・・・・・・・・・・・・」

咲夜「・・・・・・・・・・・・・・」

パチュリー「ほらほら、反論してみなさいよ」

レミリア「応えてくれ 理解(わか)らせてくれ 確信させてくれ 証明してくれ」

レミリア「フランと私はどちらが(女性として)優れている?」

咲夜「いや、その」

パチュリー「初対面の男に後頭部に蹴りをくれてやるような女はちょっと引くわ」

咲夜「パ、パチュリー様・・・」

レミリア「」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


フラン「・・・・・・・・・・」


・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・

・・・・

~二年前・紅魔館~

フラン『・・・ふん』

レミリア『ゴキゲンね。フラン』

フラン『!・・・ええ、部屋から引っ張り出してきて無理やり参加させられたもの。最高に不機嫌だわ』

レミリア『折角の誕生パーティに妹をのけ者にする姉なんていないわ。感謝して欲しいくらいよ』

フラン『自分の誕生祝いを自分で開くって悲しくならない?』

レミリア「ちっとも。喜びは分かち合うものよ。それが分からないなんでまだまだ子供ね」

フラン『はいはい・・・それよりも美鈴もいるけど、こういう人が来る行事こそ門番は必要じゃないの?』

レミリア『美鈴も身内よ。参加させなきゃ可哀想だし、門には代わりにホフゴブリンがいるわ。』

フラン『アレで門番代わりになるわけないでしょ・・・ん?』

エリクス『・・・!』

咲夜『・・・?』

美鈴『・・・!!』


フラン『・・・?』

レミリア『あら、あの人が気になる?』

フラン『・・・男?』

レミリア『オカマの線が無きゃ男ね。エリクスって言うそうよ』

フラン『エリクス・・・?』

レミリア『外の世界から来たと言ってたわ。今は永遠亭に居候してるって。
     しかも外の世界と言っても私たちの知るのとはまた別の世界だそうよ』

フラン『外の、世界・・・?』

レミリア『!・・・フフ、話しかけてみたら?』

フラン『・・・・・』

レミリア『珍しいこともあるのね。貴方が誰かに興味を持つなんて』

フラン『・・・・・』

レミリア『それとも外の世界という言葉が気になったのかしら?』

フラン『・・・・・』

レミリア『最も、貴女からじゃ無理だろうから向こうから来るのを待って』

フラン『・・・・・』スタスタ

レミリア『話しかけてくれるのを・・・て、ちょ、フラン!?』

美鈴『へぇ~!5mを超す戦闘サイボーグですか!闘ってみたいです!』

咲夜『まるっきり脳筋ね貴方。いいから少しは手伝いなさい』

エリクス『ははは・・・ん?』


フラン『・・・こんばんは』

エリクス『はい、こんばんは。君は?』

美鈴『!?』

咲夜『妹、様・・・』

フラン『初めまして。フランドール・スカーレットよ』

エリクス『フランドール・・・スカーレット?てことは』

フラン『もうお姉様とは話したみたいね。思ってる通り、私はレミリア・スカーレットの妹よ』

エリクス『成程!そっか!レミリアさんの妹さんか!』

フラン『?』

エリクス『僕はエリクス。君たちの言う外来人って奴らしいんだ!よろしくネ!』ギュッ

フラン『!?』


美鈴『(ゲェーッ!自己紹介後にいきなりの握手!そりゃ悪手でしょう!)』

咲夜『(さっきお嬢様に同じことやって頭踏まれたのもう忘れたのかしら)』

~回想~


エリクス『僕はエリクス!よろしくね、レミリア!』ギュッ

レミリア『!?!?な、なにすんのよ!!』

グシャァ!

エリクス『ゲベーーーッ!?』

レミリア『アホ!アホ!レディの手を気安く握んな!』ゲシゲシゲシ

エリクス『ブベ!すいませゴヘ!』

レミリア『あと、気安く呼び捨てるな!お前の数倍以上は生きている!』

エリクス『は、はひ・・・ずびばぜんでした・・・レミリア・・・さん・・・』


~回想終了~

美鈴『(お嬢様でああだったんだから妹様ならどうなることか・・・)』

咲夜『(まずいと思ったらさっさと逃がすから大丈夫よ)』

エリクス『』ニコニコ

フラン『・・・・・・』

美鈴『・・・あ、れ・・・?妹様・・・?』

フラン『・・・・・・』

咲夜『(・・・面倒なことにならなければいいけど)』

フラン『ねぇ、エリクス・・・』

エリクス『うん、なんだい?』

フラン『貴方、外の世界から来たって聞いたんだけど』

エリクス『うん。でも、君たちの知ってるのとは違うってレミリアさんが言ってたなあ』

フラン『そう・・・』

エリクス『?』

フラン『エリクス、その話、もっと詳しく聞きたいわ』

美鈴『おぉ・・・!?(ま、まさか妹様が自ら・・・咲夜さん、これって)』

咲夜『(まあ、面倒事にならないならそれに越したことはないわね)』

美鈴『(これって握手→笑顔のコンボで堕ちたってことですよね!咲夜さん咲夜さんキャー!)』

咲夜『(私がその気なら貴女なぞ既に肉塊になってるわよ)』

美鈴『(ひいぃ!!)』

エリクス『お、いいよ。それじゃあまず・・・』

フラン『ああ、ちがう。私はもう部屋に戻るから』

エリクス『へ?』

フラン『また別の日に・・・いえ、何時でも紅魔館に来なさい』

美鈴『えぇ!?』

咲夜『それって・・・』

フラン『物語は少しずつ聞くのが楽しいもの。暇があればその度に来て、聞かせて欲しいわ』

美鈴・咲夜『(マジで!?)』

エリクス『え、と・・・僕はいいけど、こちらのお家の事情というものはどうなんでしょーか・・・』

フラン『私がいいって言うからいいのよ。というわけでエリクスが来たら通して頂戴ね二人とも』

美鈴『は、はい・・・それは構いませんが』

咲夜『かしこまりました。妹様』

フラン『それじゃあね。またいつか会いましょう・・・エリクス』

エリクス『うん。じゃあまたね。フランドール、さん』

フラン『好きに呼べばいいわ。お姉様と違ってそういうのは気にしないもの』

エリクス『そう?それじゃあバイバイ。フランドール』

フラン『ええ、またね』


スタスタスタ・・・

美鈴『・・・・・・えぇ~』

咲夜『能力も月までぶっ飛ぶ衝撃ね・・・』

エリクス『いや~まいっちゃうなあ。もしかして僕・・・モテ期到来ってやつかな!?』

美鈴『あ、あはは・・・』

咲夜『まあ、喜ぶべきでしょうね、一応』

エリクス『いやー困っちゃうなあ!元の世界にはメリルとかジェシカとかいるしなあ!えっへっへ』

美鈴『妹様泣かしたら上から押しつぶしますよ』

咲夜『妹様泣かしたら一瞬にして鏖殺を完了しますよ』

エリクス『ごめんなさい冗談です許してください』ドゲザ

フラン『・・・・・・』スタスタ

レミリア『驚いたわ。500年生きてトップ5に入る驚きだわ』

フラン『みみっちい500年ね』

レミリア『貴女にだけは言われたくないし!?それよりも初対面の相手にアポなしで自宅に来いとは・・・やるわね』

フラン『勿体ないじゃない。折角の面白そうな話が聞けるのに今日一日だけだったら』

レミリア『ウフフ。本当にそれだけかしら~?』

フラン『・・・何が?』

レミリア『もしかしてあ・な・た』

フラン『(何時にも増してうざったい・・・)』

レミリア『あの外来人に一目惚れしちゃったんじゃないのー?』

フラン『・・・・・・』

レミリア『フフ、なーんてね・・・』

フラン『・・・・・・』

レミリア『あ、えと、悪かったわよ、面白くないジョークだったわね』

フラン『・・・・・・』

レミリア『もう。そんなに怒らないでよ。そのくらいのジョーク淑女なら笑って・・・』

フラン『・・・・・・したわね』

レミリア『・・・え?』

フラン『一目惚れ』

レミリア『・・・・・・・・・・・What?』

フラン『じゃあね』

スタスタスタスタ・・・

レミリア『・・・・・・・・・・・』

レミリア『・・・・・・・・・・・!?!?!?』

フラン『・・・・・・・』スタスタ


ヴォイ!エリクス!イモウトタブラカシテンジャネェ!

ナ、ナンデスカレミリアサン!ヤ、ヤメ・・・ギャーーーー!!!


フラン『・・・・・・・』スタスタ

フラン『・・・・・・・フフ』


・・・・

・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・

―――あれから、律儀に彼は暇があれば時折来て、故郷の話をしてくれる。

100mを超える原生生物・砂蟲(ワムス)、砂の星である故郷の唯一の移動手段・砂蒸気(サンドスチーム)。

聞くどの話も新鮮で、どの話も面白い。

何より、それを語る時の彼の笑顔がとても好きだった。


・・・一目惚れ。


私のその感情に酷く姉はうろたえていたようだったが気にはしていない。

二年前に見せてくれたあの笑顔に、私は一目惚れしてしまった。


そう――――――あの「カラッポ」な笑顔に。

ニコニコと愛想はいいけど、笑い方がカラッポで胸が痛くなる。

ツラくてしょうがないクセにやせガマンだけで笑ってる。

そんなふうに見える彼の笑顔に、一目惚れした。

そうして何度も会う中で 分かってしまった。

彼に惹かれた理由。

彼の笑顔に惹かれた理由。



あの男は ・・・いや あの男「も」

―――自分がこの世に居ることに価値を見ていないのだ

フラン「・・・は、ははは」

フラン「傑作ね。まさか貴方が、『貴方のような男』が、こんなにも近しい存在だったなんて」

フラン「・・・・・・・・・・・・・・・・」


そう確信してしまったからこそ、今日は彼の元へ行けなかった。

あのカラッポな笑顔を他の人に見せて欲しくない。

・・・きっと酷く嫉妬してしまうだろうから。

だから、明日を待つ。また来てくれることを、笑顔を見せてくれることを―――



フラン「そして私は それこそを望む」

・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・

・・・・

―――なんや、よく見ると全然違うやんけ。ようそれで騙っとったな。

「ひ、ひぃ・・・」

で、や。簡単な質問したいんやが・・・"本物"はどこにおるか知っとるか?

「・・・し、知らない・・・」

会ったこともか?

「な、無いんだ・・・ただ、指名手配の容姿と似てると思ったからそれで!」

なんや、まぁた無駄足かいな。少しは手がかりも掴める思たんやがな。
・・・じゃ、もうええわ。お前は用済みやで。

「あ、あああ!!!こ、殺さないで!お願いします!!」

―――フン!!          ゴン!

「が!!・・・ぐぅ」ドサッ

殺さへんよ。弾が勿体ないやんけ。
さて、他にもぎょうさん死体だの怪我人だのおるけど・・・まぁ嬢ちゃんとこの住民に任せるで。
リィナ・・・やったっけ?

リィナ「う、うん・・あの、助けてくれてありがとう」

まー助けたのはついでや。それよかここの後処理頼んだで。

リィナ「ちょっと!アンタ牧師さんなんでしょ?こんなにバカバカ殺した挙句死体に十字も切らないでいいの?」

助けてもろた身で細かいこと気にすんなや。もうワイは行くで。

リィナ「なんてえ聖職者よまったく・・・あ、それよりも!」

ん?

リィナ「コイツのこと騙ってる~とか言ってたわよね。コイツ偽物?で、本物を知ってるの?」

・・・あー、まぁ前に一度・・・いや、二度な。

リィナ「どんな奴だった?その、―――――ってのは」

・・・そうやなー。簡単に言うなら―――



(―――人類"ヒト"に審判を下す神の使い―――)



リィナ「え?何か言った?」

・・・いや、簡単に言うなら、強盗に殺人何でもアリの超悪魔や。

リィナ「・・・サイッテー。私の街でデカイ顔してた偽物と変わんないじゃん」

そやそや。だからお嬢ちゃん。本物にも近づいたらあかんでー。

リィナ「そうするわ。ありがと、呼び止めて悪かったわね。コイツらは私達で何とかしておくわ」

ああ。ほんならな。

リィナ「・・・改めて助けてくれてありがとうね―――ウルフウッド」




ウルフウッド「おう」

~地霊殿~

燐「くだらん感情ごと死体を・・・消しつくせ!お空ーーー!!!」

空「うるさいっ!」



さとり「・・・・・・・はぁ」

勇儀「なんだい、最近覇気がすっかり無くなってるじゃないか」

さとり「えぇ、まあ」

勇儀「もしかして地上に行くのがそんなに嫌なのかい?」

さとり「別に嫌ってわけじゃないですよ。ただ色々ありまして」

勇儀「色々ねぇ・・・ともかくあの子たちは今日の宴会楽しみにしてるんだから
   そんな顔しちゃ駄目さね」

さとり「えぇ、分かってますよ」

勇儀「そういや一ヶ月くらい前か、エリクスが最後にこっちに来たのは」

さとり「!」

勇儀「あいつと呑むのは楽しいからねえ。また故郷の話でも聞かせて貰いたいもんだ」

さとり「・・・・・・」

勇儀「あいつ酒に弱いけど飲み比べでも・・・ん?どうしたさとり。急に黙りこんで」

さとり「い、いえ・・・なんでもないです」

勇儀「なんだか落ち着きが無くなったねえ、エリクスがどうかしたのか?」

さとり「い、いや、別に彼は・・・」

勇儀「うーん、そういえばお前さんが元気無くなってきたのも一ヶ月位前だよねぇ」

さとり「・・・そうでしたっけ」

勇儀「もしかして・・・エリクスとなんかあったのかい?」

さとり「な、無いですよ。何も」

勇儀「ふぅむ。彼と会うのが嫌だってわけじゃないのか」

さとり「まさか、ペットにも随分良くしてくれてるし嫌なわけないですよ」

勇儀「それじゃあ前に会った時ぶっ倒れたから会うのが恥ずかしいとか・・・だろう?」

さとり「・・・そんなところですよ」

勇儀「うぅん。まだ何かありそうだけど・・・言い辛そうだからこの話は止めておくよ」

さとり「えぇ・・・助かります」

勇儀「それじゃ、私は一足先に地上へ行って萃香に会ってくるよ」

さとり「はい、ではまた晩に会いましょう」

勇儀「ああ、じゃあね」スタスタスタ



さとり「・・・はぁ」

パルスィ「妬ましいわね!」ニョキッ

さとり「・・・元気ですね。パルスィ」

パルスィ「全く貴女もちょろい女よね。ちょっと介抱されただけですぐ堕ちるなんて」

さとり「いや、なんの話ですか」

パルスィ「あーいう軽薄そうな男は辞めておいた方がいいわよ。他の女にすぐ目移りするんだから」

さとり「だから何の話ですかって」

パルスィ「貴女の態度見てたらまるっとスリっとお見通しよ。ああ妬ましい」

さとり「・・・あー、確かに好意はありますが恋煩いではないですよ」

パルスィ「大抵の女はそういうのよ。ま、精々泣きを見ないようにね」

さとり「ええ、ええ。ご忠告ありがとうございました。でも心配はいりませんよ」

パルスィ「一応知り合いとして忠告してあげたのにぞんざいな扱いね。妬ましいわ・・・」スタスタ





さとり「・・・本当に心配はいらないんですよ」



―――彼に抱いているのは恋心なんかではなく、罪悪感なんですから



・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・

・・・・

~一ヶ月前・地霊殿~

エリクス『突然だが今から勝手に俺的一気飲みタイムに入る!!』

勇儀『おーっしゃー!いけー!エリクス!』

パルスィ『アンタ何回それやってぶっ倒れてるのよ』

エリクス『ジャパニーズジェントルマンスタンダッププリーズ!!』

空『え、え?何言ってるの?』

燐『いや、意味なんて無いと思うよ・・・』

エリクス『ヒァ・ウィ~~・・・ゴォッ!!』ゴクゴクゴク・・・

燐『ちょ、ちょっとお兄さん、そんな一気するとまた・・・』

エリクス『』ゴフォッ

空『またやった!』

燐『だ、大丈夫かいお兄さん!』

勇儀『わははは!!』

・・・・・・・・・・・・・・・

さとり『お断りします』

萃香『・・・ま、それが普通の反応だね』

さとり『私の能力は興味本位で悪戯に使いません。心を読むことすら嫌気がする時もあるくらいなんですから』

萃香『ああ、分かってる』

さとり『・・・なら、何故彼のトラウマを読み取れなどと言ったのです?』

萃香『ああ、それはね・・・』

さとり『・・・八雲紫が?なぜ彼女が・・・』

萃香『私も最初は当然断ろうと思ったさ』

萃香『私も紫も、エリクスのことは気に入ってるからねぇ。なんでわざわざそんなことしなきゃならんか、と』

さとり『・・・それでも、結局頼みごとを聞いたと』

萃香『珍しくお願いだって言われたからね、あいつは胡散臭いけど無駄なことはしないはずさ』

さとり『で、地底に来れない彼女に代わって貴方が言伝に来た、と』

萃香『そういうことさ。・・・なあ、頼まれてはくれないかね?』

さとり『・・・二つ、疑問があるのですが』

萃香『うん?なんだい』

さとり『彼が来てからもうすぐ二年が経とうとしているのになんで今更なんです?』

萃香『・・・うーん、そういえばそうだよねえ。怪しむにしても来てすぐの方が納得がいく』

萃香『ただ、割と神妙な顔してたからねぇ。地底のお前さんに頼むくらいの理由でも見つかったんだろうよ』


さとり『では、もう一つなんですが・・・何故、トラウマなんです?
    心を読むだけでは駄目なのでしょうか?』

萃香『ああ、それは聞いたよ。・・・エリクス、ここに来る直前の記憶が無いんだってさ』

さとり『記憶が?』

萃香『そう。なんでもこっちに来る時に随分力を使ったらしくてね』

さとり『力を使った?彼がですか?』

萃香『みたいだね。その負荷で記憶に影響が出ているらしいんだよ』

さとり『彼が自ら幻想郷に望んで来て、記憶を失ったと?』

萃香『いや、幻想郷に来たのは偶然の産物って紫は言ってたなあ』

さとり『はぁ、よくは分かりませんでしたが・・・それで、トラウマとなんの関係が?』

萃香『紫が言うにはその力を使ったことがトラウマになってる可能性があるとさ。
   記憶を失って心は読めなくとも、潜在的に眠ってるならお前さんなら読み取れるんじゃないか、と』

さとり『・・・そんな使い方はやったことが無いですね』

萃香『ま、やるやらないはお前さん次第だ。嫌なら流石に無理は言えないしね』

さとり『・・・・・・』

萃香『それじゃ、あたしは行くよ。また何日かしたら来るからね』ヒュッ

さとり『・・・・・・』



スタスタスタ・・・

さとり『遅れてすみませ・・・・・・なんです、この状況』

空『あ、さとり様!またエリクスが一気飲みしてぶっ倒れました!』

さとり『またですか』ハァ

燐『ほら、膝枕したげるから横になってよお兄さん』

エリクス『うーん、ごめんよごめんよお燐ー』

パルスィ『ああ、そうやって膝の感触楽しもうってことね。妬ましいってかいやらしいわね』

エリクス『違うヨ!?』

燐『ちょ、ちょっとお兄さん・・・』

空『・・・うわぁ』

エリクス『引かないで!?』

さとり『・・・成程、膝枕気持ちいいぜもっとサービスしてくれねぇかなゲヘヘ、ですか』

燐『・・・』

エリクス『考えてないから!さとりが適当なこと言ってるだけだから!?』

勇儀『わはは!変態だねえ!』

パルスィ『男ってこれだから』

空『えーとね。キモ』

エリクス『ウーソーデースーヨー!!』

さとり『(随分前に、勇儀さんが地上で飲み会していた時に偶然あったこの人と意気投合して地底に連れてきた)』

さとり『(会ってすぐに分かったが、嘘を言わない、誠実な人だった)』

さとり『(そして、相手によって態度を変えない人。だから鬼やペット達も彼を気に入ったのだろう)』

さとり『(かく言う私も、心を読む能力を知っても恐れなかった彼を好いてはいるのだが)』

さとり『(しかし、そんな彼のトラウマを読み取れなどと・・・)』

エリクス『さとりぃ!誤解解いてよぉ!』

さとり『・・・あー、本当は勇儀さんみたいなデカいのにサービスして貰いたいと。成程それは誤解でした』

エリクス「あっれぇ!?」

勇儀『あっはっは!やっぱり変態だねぇ!』

パルスィ『デカいって何がよ。おいコラ』

燐『お兄さん・・・』

空『出入り禁止だね』

エリクス『ノオォォ!!!』

さとり『(・・・やっぱり、精々が彼女にフラれたとか
     幼い頃両親や先生に怒られたくらいが関の山だと思いますよ。萃香さん)』

さとり『(ま、読み取るだけなら彼にバレませんし・・・)』

さとり『(八雲紫に貸しを作っておくのも悪くはないですね、と)』

さとり『・・・』

エリクス『うぅぅ・・・ん?さとり・・・?』

さとり『(ごめんなさいね、エリクス。終わったら膝枕でもしてあげますから・・・)』




さとり『(想起「テリブルスーヴニール」)』



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

さとり『・・・・・・ん』パチッ

空『あ!さとり様!』

燐『お体の具合は大丈夫ですか!?』

さとり『お空・・・?お燐・・・?』

勇儀『お、目ぇ覚ましたかい。体調はどうだい?』

さとり『勇儀さん・・・私、今・・・』

パルスィ『突然気を失って何事かと思ったわよ。どうしたのよ急に』

さとり『気を、失って・・・』

エリクス『びっくりしたよ。顔色が良くないけど、大丈夫か?』

さとり『・・・ぁ・・・』

さとり『・・・・・ュ・・・』

エリクス『?』

さとり『・・・・・・・・』

エリクス『さとり?どうかし・・・』

さとり『いえ、起き抜けに鬱陶しい顔を見たので不快になっただけです』

エリクス『急に酷い!?』

空『あ、なんか大丈夫そう』

燐『さ、さとり様。ここまで運んできてくれたのはお兄さんなんですから、もう少し・・・』

さとり『・・・成程。お姫様だっこして太もも柔らかかったなあ、ですか』

エリクス『あれえ!?この仕打ちはナニ!?』

さとり『大体泥酔してたんじゃないんですか貴方』

エリクス『あー、まあそうだけど、さ・・・』

さとり『・・・へー。お燐、膝枕して貰うための演技だったそうよ』

燐『・・・・・』ササッ

エリクス『引かないで!違うから!』

さとり『まあ嘘ですけど。半分位』

エリクス『全部だから!』

パルスィ『なんだ。元気そうじゃないの。心配して損したわ』

勇儀『大丈夫なら酒盛りの続きだ!さとりはまだ休んでいるかい?』

さとり『ええ。申し訳ないけど今日はもう休みます』

さとり『あなた達も行ってきていいわよ』

空『うにゅ・・・いなくても大丈夫ですか?』

さとり『ええ。もう少し寝たら気分もよくなるから』

エリクス『そうかい?して貰いたいことあったら何でも言ってよ』

さとり『いや、添い寝は御遠慮願いたいというか・・・』

エリクス『思ってないってばぁ!』

燐『・・・』バリバリ

エリクス『イデデデ!無言で引っ掻くのやめて!』

パルスィ『ほらあんた達。病人に無理させんじゃないわよ。行きましょう』

勇儀『おーし!酔ってないならもう一回一気飲み行こうかエリクス!』グイ

エリクス『カ、カンベンしてくださあぁいぃぃぃい!』ズルズル

燐『ありゃあまたダウンするね・・・』

空『そしたらまた膝枕して貰おうって魂胆だね!スケベだなあエリクスは!』

燐『あたいはされても別にいいんだけど・・・では、さとり様。失礼します』

空『お大事にー!』

さとり『ええ。またね』

さとり『・・・・・・・』

さとり『・・・ごめん、なさい・・・』



・・・・

・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・

―――酷く後悔した。

彼自身でさえ覚えてない、心の闇を勝手に覗いてしまった。

久方ぶりの気の置けない友人が出来て気が緩んだのか。

自分の能力が忌み嫌われてることを自分自身忘れてしまったのか。

大したことないトラウマならそれを弄ってからかおうとすら思っていた。

そんな軽い気持ちで覗いた彼の心の奥底は

挫折と流血の痛みばかりだった。

数日後、約束通り萃香さんは来たが、当然内容など話せず俯くばかりであった。

彼女はそれを察してくれ、一言謝罪を述べ去って行ったが、

何も追及しないことがありがたく、また心苦しかった。


・・・頼まれたから、などと理由付ける自分を咎める者が欲しかった。

半分興味本位で能力を使った自分が恨めしかった。

しかし、それを独白出来るはずもなく

罪悪感と自己嫌悪のみが膨らんでいく―――

さとり「・・・はぁ」

こいし「JESUS!!」ニョキッ

さとり「ひゃっ!?」ビクッ

こいし「私はハルトマンの妖怪少女古明地こいしだBABY!!」

さとり「あ、ああ。こいし。いたのね」

こいし「シャラップ!!」

さとり「きゃっ!?」

こいし「最近様子がおかしいので問い詰めに来た!アンダスタン!?」

さとり「わ、分かったから落ち着いて・・・」

こいし「悪く思うなYOU!!」

さとり「(さっきからなんなのこの喋り方・・・)」

こいし「それでさ、お姉ちゃん」

さとり「え、は、はい」

こいし「あの時、誰に謝ってたの?」

さとり「!」

こいし「オーライオーライ。いい反応だYOU!!」

さとり「・・・いたのね。あの時」

こいし「エリクスがお姉ちゃんをお姫様抱っこしてたのを見ちゃってこれは着いて行くしかないと!」

さとり「こいし、あの」

こいし「ベロンベロンに酔ってたのにあの時だけシャキッとしてさ」

さとり「う、うん。そうね」

こいし「ともかくその時からだよねー。すっかり落ち込んじゃってさ」

こいし「根暗なお姉ちゃんが更に根暗になっちゃった」

さとり「(根暗って・・・)」

こいし「まぁ、お姉ちゃんはツンデレだからね。お礼の代わりに罵倒して結局自分を責めちゃって」

さとり「・・・違うのよ。こいし」

さとり「ああやって振る舞わなきゃ、どんな顔していいか分からなかったの」

こいし「・・・・・・」

さとり「酷く酔ってる中で介抱してくれたのも分かってたし、本気で私の心配してくれているのも分かってた」

さとり「とても嬉しかった・・・でも」

さとり「もう、正面から顔を見ることが出来なくて」

さとり「なんで、何時もああして笑っていられるのか分から、なくて」

さとり「なんだか、彼の作る表情が全部、灰色に見え、て」

さとり「わたし、は、彼の・・・」

こいし「笑え、お姉ちゃん」

さとり「あ・・・え?」

こいし「おまえはやっぱり、笑ってる方がええ」

さとり「ちょ、おまえって」

こいし「根暗なんて言うて、悪かった・・・」

さとり「・・・それはちょっと気にしてたわ」

こいし「悪く思うなYOU!!」

さとり「(その口調気に入ってるのかしら)」

こいし「お姉ちゃん」

さとり「う。うん?」

こいし「笑った方がめそめそと不景気ふりまくよりかはまだ正解だよ」

さとり「・・・・・・」

こいし「エリクスの何を"観た"のかは分からないけどさ」

こいし「それで嫌いになったわけじゃないでしょ?」

さとり「・・・嫌いになんかなるわけないわ」

こいし「ならせめて彼の前ではヨユウ見せなきゃ、だよ」

さとり「・・・ええ、その通りね」

こいし「まあ私からのお節介はこれくらいかな。後はお姉ちゃん次第だねー」

さとり「・・・ありがとう、こいし」

こいし「それにしてもSHIT!!」

さとり「ま、またその口調!?」

こいし「お姉ちゃんをここまで悩ませやがるとは!」

さとり「い、いえ、それは私の責任で」

こいし「弾幕で蜂の巣だYEAR!」ヒュッ

さとり「ど、どこ行くの!?こいしー!」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

さとり「・・・まあ、大方エリクスの所でしょうけど」

さとり「と、もうこんな時間。私もそろそろ準備しなきゃね」

さとり「・・・・・・・」

さとり「嫌いになんか、なるわけないわ」

さとり「・・・・・・・・・・・・・・・・」

彼を嫌いになるはずは無かった しかし、ある種の"恐怖"を覚えた

かつての同胞(はらから)が受けた仕打ち 幾度となく自身に向けられた銃口

それらを全て受けとめた果てに辿り着いたのは―――自らの力によって引き起こされた大量殺戮

・・・果たして彼は銃を撃てるのか

もし全てを想いだす様なことがあれば、それでなお―――



さとり「・・・その引き金を引くことは出来るのでしょうか」

・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・

・・・・

紫「ウルフウッドさん」

ウルフウッド「お?確か、紫の嬢ちゃん・・・で良かったやな?」

紫「覚えて下さってて光栄ですわ」

ウルフウッド「珍しい格好やったからな。覚えてしもた」

紫「・・・おかしいですか、この服装」ショボーン

ウルフウッド「いや、似合っとるからおかしくは無いと思うで。ほら落ち込まんといてなー」

紫「さて、気を取り直して。ウルフウッドさん、貴方を探してたのは他でもありませんわ」

ウルフウッド「ん?ワイを探してたやと?」

紫「はい。今晩・・・夜中になりますが、お暇はありますか?」

ウルフウッド「あんま夜更かしはしとおないけどな・・・大事な用があるんか?」

紫「ええ。貴方に会わせたい方がおりますの」

ウルフウッド「・・・会わせたい、やと?」

紫「結果はどうあれ、貴方は彼と会う必要があるのでしょう?連れて行って差し上げますわ」

ウルフウッド「彼?話す?何のことや。ワイが会う必要のある奴なんぞ」

紫「そう。貴方が会うのはただ一人の人物」

紫「2年の間、歴史から足跡が掻き消えた人物」

ウルフウッド「・・・嬢ちゃん?」

紫「600億$$の男・人間台風(ヒューマノイド・タイフーン)」

紫「ロスト・ジュライ事件、及びフィフス・ムーン事件の犯人」

ウルフウッド「・・・・・・おんどれ、は」

紫「会って、頂けますわよね?」




ウルフウッド「・・・・・・」

ウルフウッド「冗談キツイで、ホンマ」

・・・・

・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・

~迷いの竹林~

タッタッタッタ・・・

エリクス「ヤバイヤバイヤバイ!!すっかり遅くなっちゃった!」

エリクス「まだ掃除終わってないのに!食事の支度済んでないのに!」

エリクス「チクショー!なんで今日に限って・・・」

エリクス「白蓮さんがいたんだー!!」

・・・・・・・・・・・・・・・

~数時間前・人里~

エリクス『御馳走さまでした。先生、妹紅さん』

慧音『ああ、お粗末様でした』

妹紅『・・・あの、これから帰るなら連れてってあげるわよ?』

エリクス『ありがとうございます。でもそこまで御厄介にはなれませんよ』

妹紅『別に、遠慮しなくてもいいんだけど』

エリクス『いえいえ、それに時間にも余裕ありますので大丈夫ですよ』

妹紅『・・・そう。じゃあまた宴会でね』

エリクス『はい。また今晩に』

スタスタスタ・・・

妹紅『・・・・・・』

慧音『ははは。一緒に行けなくて残念そうだな』

妹紅『・・・何の話よ』

慧音『結婚云々の話で意識してしまっているのだろう?』

妹紅『別にそんなんじゃ・・・』

慧音『でもエリクス君は鈍そうだからなあ。もっと積極的に行くべきだろう』

妹紅『だから、そんなんじゃ・・・!』

慧音『逢引したいんだよ言わせんな恥ずかしい位言ってやってだな!』

ゴン!

慧音『イタイ!!』

・・・・・・・・・・・・・・・

エリクス『さて、そろそろ帰って宴会の準備を・・・』

白蓮『なされる前に少しお話ししていきませんか?』

エリクス『うーん、少しだけなら大丈夫かとおも・・・』

白蓮『ああ、良かった。ではそこの茶屋でお茶にしましょう』

エリクス『・・・・・・・』

白蓮『・・・・・・・』

エリクス『ギ、ギャーーーー!!』

白蓮『あらあら』

エリクス『な、なんで白蓮さんがいるの!?』

白蓮『エリクスさんがいると知って待ち伏せしてました』

エリクス『なんで待ち伏せしてたの!?』

白蓮『いつものように入門の勧誘をさせて頂こうと』

エリクス『何その髪の毛!?』

白蓮『地毛ですよ』

エリクス『ハマグリとキンメダイどっちが好き!?』

白蓮『うーん、どちらも食べたことないですねぇ』

ギャー!  ギャー!  ギャー!  ギャー!

※白蓮→聖に訂正します。

エリクス『あ、あの!僕もう帰って宴会の準備しなきゃ・・・』

聖『まだ時間はあるのでしょう?さあさあお茶にしましょうそうしましょう』

エリクス『もー!なんだってこんなにしつこいのさー!!』

聖『貴方は人間と妖怪の共存に心から共感してくださってる方ですから』

聖『是非とも命蓮寺で僧となって頂きたいのです』

エリクス『だからって無理やり入信させるのはどうかと思うなー!!』

聖『大丈夫ですよ。そのうち自分から望むようになりますから』フフフ・・・

エリクス『やだやだやだやだ!僕は戒律とか嫌いなの!!』

聖『ねーお願いですよお願いですよー』

エリクス『いやいやいやーーーッ!』

・・・・・・・・・・・・・・・

エリクス「結局あの後命蓮寺の人達が来るまで逃がしてくれなかったし!」

エリクス「なんなんだあの人は・・・と!」


~永遠亭~


エリクス「つ、つ、着いた・・・!」ゼェゼェ

エリクス「大分遅れちまった・・・てゐか永琳先生になんやかんやされそうだなぁ・・・」

エリクス「逃げたいけどこれ以上宴会を遅れるわけには・・・」

エリクス「・・・ええいままよ!」

ガラガラ

エリクス「ただいまー!いやー遅れてごめんなさい!」

文「いえいえ、構いませんよー」

エリクス「・・・・・・」

文「・・・・・・」

エリクス「ギ、ギャーーーー!!」

文「あややや」

エリクス「今度は文屋さんなのー!?」

文「その前が何かは知りませんけど今回は文屋さんですよー」

エリクス「ごめん!今日これから本当に忙しくなるから取材は出来ないんだ!」

文「おっとこれは失礼。では簡単な質問を一つだけ・・・」

エリクス「い、いや、本当に急いで・・・」

文「大丈夫、時間は取らせませんから!」

エリクス「うおぉん!何で僕の周りには強引な人ばっかりなんだ!」


文「では勝手に質問ターイム!えー、本日付けで貴方は幻想入り二周年となるわけですが」

エリクス「え、あ?何!?取材始まってる!?」

文「えー、貴方は今後、げ・・・」

ドドドドドド・・・・

エリクス「あ、文。避け・・・」

文「ん」ヒョイ

てゐ「うらぁ!」

バキィッ!

エリクス「ぎばーーーーっ!」ズザーーーー

てゐ「ど、ど、ど、どこほっつき歩いてやがった!」

エリクス「い、イデーイデー・・・」

鈴仙「あ、エリクス!随分遅かったけど大丈夫なの!?」

エリクス「い、いやいや全然全然」

てゐ「大丈夫ならこんなに長く寄り道してんじゃねー!」

鈴仙「もう、心配したんだから!」

エリクス「いやぁ、ごめんごめん。えっと、ちょっと宗教に誘われてて・・・」

文「・・・あのォー」

永琳「・・・へぇ、宗教ねぇ」

エリクス「え、永琳先生・・・」

永琳「ねェ、エリクス?」

エリクス「は、はい・・・!」

永琳「もっと 居候としての自覚を持ちなさい」

永琳「・・・え ぐ る わ よ ? 本当に」

エリクス「ひぃぃ!!」

文「・・・ちょっとォー」

てゐ「ホラ!掃除も料理もやんなきゃなんないこと山ほどあるの!来い!」グイグイ

鈴仙「ご、ごめんね!貴方の歓迎会でもあるのに手伝わせて・・・」グイグイ

こいし「蜂の巣だBABY!」グイグイ

エリクス「いえー構いませんよーでも足持って引っ張らないでぇぇぇぇ~・・・」ズザザザザ

永琳「あ、その後また薬の整頓手伝ってね」グイグイ

ケサヤッタジャナイデスカ!ホントウニズボラナンダカラ!

エグルワヨ?

・・・・・・・・・・・・・・・

文「・・・取材くらいいいじゃないですかー」ポツン

「残念だったわね。文屋」

文「あぁ、輝夜さん。いつも彼ってこんな扱いなんですか?」

輝夜「大体ね。永琳曰くこれでも優しくしてる方らしいわ」

文「うーむ。『永遠亭で密かに行われていた虐待の日々!いわれなき暴力を受け止める外来人の心境に迫る!』なーんて・・・」

輝夜「えぐるわよ?」

文「じょ、冗談ですよ!(流行ってるのかなそれ・・・)」

輝夜「で、文屋」

文「はい?」

輝夜「一体何を聞こうとしてたの?」

文「いやー。簡単なことですよ」

輝夜「ふうん?」

文「歓迎会の宴会でいい機会ですし、この際はっきりさせてしまおうかと思いまして」

輝夜「そうなの・・・それで、何を聞こうとしたの?」

文「多分、みんな気になってることですよ」


文「『貴方は、幻想郷に留まるつもりはあるのか?』と」

輝夜「・・・嫌な質問をするのね」

文「なんだか、エリクスさんって宙ぶらりんな感じがするんですよね」

文「幻想郷大好きーな感じなのに、どこか寂しそうというか・・・」

輝夜「元の世界に後ろめたい雰囲気がある。そんな所かしら」

文「そう、そうなんですよ。こっちに永住するなら蟠りは取り除かないと、と思いまして」

輝夜「永住するって決める必要なんてないわ。帰りたくなったら帰ればいいだけだもの」

文「おや?残って欲しいのでは無いのですか?」

輝夜「人との別れなんて慣れてるもの。特に引き止める気持ちも無いわ」

文「本心は?」

輝夜「・・・・・・うるさいわね」

文「ねえねえ、本心はどーなんですか本心はー?」

文「こっちで暮らして欲しいんでしょー?」

文「だったら残る必要のある理由でも作っちゃえばいいじゃないですかー」

文「女絡みなんて理由作りやすいしそれで行きましょうよ!」

文「貴方のその無駄な美貌とやらで骨抜きにしてですね!」

輝夜「・・・・・・」ガシッ

文「あ、あやや?」

輝夜「お帰りはあちらよ。また今晩ね」グイグイ

文「ちょ、ちょっと!まだ聞きたいことがあるんですが!」ズルズル

輝夜「はいはい今晩ね今晩」グイグイ

文「ま、待って!せめて貴方の想いをば・・・!」ズルズル

ガラガラ

輝夜「はいさようならー」ポイー

文「けちーっ!」

ガラガラ ピシャッ

輝夜「・・・・・・」

輝夜「残って欲しいに、決まってるじゃない」

輝夜「聞かなくても分かるでしょ・・・」

こいし「お姉ちゃん以外にも誑かしてたかあのチャラ男」ニョキッ

輝夜「・・・・・・」

こいし「ますます清々しくブチ込めるな!」

輝夜「・・・・・・・」ガシッ

ガラガラ ポイー

こいし「JESUS!!」

ガラガラ ピシャッ

輝夜「さて、と・・・」ドタバタ


エリクス!ソウジヤッテヨ!  マ、マッテ!テガハナセナイ!

シショウ!テツダッテイタダケマセンカ!?  イヤヨ、メンドクサイ

ギャー!ギャー!ギャー!ギャー!


輝夜「ふふ、今日も騒がしいわね」

輝夜「永琳が口うるさく言うかも知れないけど、私も手伝いましょうか」

・・・・・・・・・・・・・・・

~夜・永遠亭~

ワイワイガヤガヤ

エリクス「な、なんとか間に合った・・・」ゼェゼェ

てゐ「あ、アンタが早く帰ってくればもう少し楽に・・・いやもういいわ」

鈴仙「ギリギリね・・・姫様、手伝っていただいて申し訳ありません」

輝夜「いいのよ。偶にはお手伝いくらいしたいもの」

永琳「姫。今回切りですよ。何度も手伝っては従者に示しがつきません」

輝夜「困ってる従者を助けるのも上の役目だと思うわ」

永琳「鈴仙やてゐの仕事はエリクスに押し付ければ済む話なんですから」

輝夜「・・・それもそうね」

エリクス「お、鬼だ・・・!」

・・・・・・・・・・・・・・・

橙「・・・エリクスさん、一番働いてましたね」

藍「宴会の主役に手伝わせるってどうなんだろう・・・」

橙「ああ、ところで藍様、今日は迎えに来て頂いてありがとうございます」

藍「あ、ああ。いいんだよ。少し帰りが遅くなって心配していただけでお節介だったね」

橙「いえ、私も寄り道してしまって申し訳ございません」

藍「うん。別にいいんだ(エリクスさんを待ち伏せてるとかそんなわけ無かったな)」

橙「(・・・今回はあの僧侶のお姉さんに先を取られちゃったな)」

藍「さて、紫様は後で来るとの事だけど、もう宴会始まってしまうな」

橙「そうですね・・・どうしたんでしょうか?」

藍「うーむ・・・」

・・・・・・・・・・・・・・・

レミリア「結局来なかったわねアイツ」

パチュリー「いいじゃない。代わりに小悪魔連れてきたし」

小悪魔「妹様の代わりですか・・・」

美鈴「紅魔館に妹様一人・・・私も来てよかったんですかね」

咲夜「寧ろ妹様いるのに紅魔館に来る輩なんていないでしょ」

美鈴「まあ、そりゃあそうですが」

レミリア「いいのよ!今日は目いっぱい楽しんで土産話聞かせてやるのよ!」

パチュリー「子供ねえ」

咲夜「今夜はエリクスさんを妹様に取られることもないですから・・・」

レミリア「は!?別に関係ないし!?どーでもいいしあんな奴!?」

美鈴「(分かりやす過ぎる・・・)」

・・・・・・・・・・・・・・・

パルスィ「人ごみ嫌い・・・妬ましいわ」

勇儀「今日ぐらい嫉妬しないで楽しんだらどうだい?」

空「おおー・・・料理がたくさん!」

燐「手付けるのはまだだよ。先にお兄さん達に挨拶に行かなきゃ」

さとり「・・・・・・」ソワソワ

こいし「お姉ちゃん漏れそう?」

さとり「ち、違うわ」

こいし「じゃああの女殺しに会いたい?」

さとり「うー、会いたいような会いたくないような・・・」

こいし「・・・女殺しには触れてくれないSHIT」

勇儀「(取りあえず来たけど、大丈夫かねぇ)」ヒソヒソ

パルスィ「(他人の恋路ほど興味無いものは無いわ。無視よ無視)」ヒソヒソ

勇儀「(恋路・・・ではないと思うけどねぇ)」ヒソヒソ

・・・・・・・・・・・・・・・

星「聖!またエリクスさんを無理やり誘って!」

聖「むー。別にいいじゃないですかー」

星「今日の宴会では勧誘は御法度ですからね!」

聖「・・・・・・・」

星「全く都合悪くなるとスグ無視して・・・そんな技一体どこで」

一輪「まぁまぁ・・・。聖様、それ程彼を引き入れたがるのは何故です?」

聖「目が弟に似てるからです」

「・・・・・・・・・・」

聖「実は、耳もです」

「・・・・・・・・・・」

聖「・・・冗談ですよ、冗談」

「(リアクションが取り辛い・・・!)」

・・・・・・・・・・・・・・・

妹紅「時間に余裕あるから大丈夫だなんて言ってた割にはギリギリみたいじゃない」

慧音「凄い焦ってたな。姫さんまで手伝ってたようだ」

妹紅「だから連れてってあげるって言ったのに。仕方ない人ね」

慧音「そうだな。これからはずっと永遠亭までは一緒に行かなきゃな」

妹紅「・・・そーね」

慧音「そのうち永遠亭だけでなく色々な所に二人で行くようになってだな!」

慧音「お前も女だな妹紅!」

妹紅「はい×2わかった×2だまれ×2!」

輝夜「それでは、エリクスの幻想入り二周年を記念して・・・」




『乾杯!!』



ワイワイガヤガヤ

鈴仙「お疲れ様。乾杯、エリクス」

エリクス「うん。かんぱーい」

てゐ「うへへ、乾杯カンパーイ」ヒック

永琳「もっと酒持ってきなさーーい」ヒック

エリクス「げ、もう酔ってんの君タチ」


輝夜「貴方が来てから二年が経つのね・・・なんだか、あっという間だった気がするわ」

鈴仙「そうですね。エリクスが来てからドタバタしてましたから」

エリクス「はは、やっぱりそうかな」

輝夜「ま、おおむね最高だったわ。とても楽しかったもの」

鈴仙「そうですね・・・貴方が来て良かったと思うわ」

エリクス「・・・ありがとう、みんな」



―――僕を、受け入れてくれて



・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・

・・・・

~二年前・永遠亭~

永琳「・・・両脚に数ヶ所の傷。左腕は元々無し」

永琳「それと体の衰弱の状態から・・・そうね」

永琳「しばらくは安静と言った所ね」

「・・・・・・」

永琳「そうね、完治まで大体・・・三ヶ月は診ておいたほうがいいわね」

鈴仙「・・・!」

永琳「とりあえず治療の準備してくるから少し待っていて貰うわ」

永琳「うどんげ、少し手伝って欲しいの。来て頂戴」

鈴仙「・・・分かりました」

スタスタスタ・・・

鈴仙「・・・・・・あの、師匠」

永琳「何かしら?」

鈴仙「本当にあの患者の治療に三ヶ月もかかりますか?」

永琳「かかるわよ。私の見立てでは」

鈴仙「でも!脚の傷だって治りかけてるし、衰弱してると言ってもそこまで・・・」

永琳「ま、そーね」

鈴仙「それとも、あの・・・全身の傷は・・・」

永琳「古傷のことは治療に考えてないわ」

鈴仙「それじゃどうしてそんなに長くここに?」

永琳『・・・身体的な治療は一週間もあれば治るでしょう』

永琳『その後はリハビリをするけど、それだって一ヶ月も必要ない』

鈴仙『そうでしょう?だったら・・・』

永琳『でも、精神的な治療にはどれだけかかるかは分からないわ』

鈴仙『精神的?』

永琳『明らかでしょう、彼の様子は普通じゃないわ』

永琳『傷だけ治しても、放って置けば心が死に、やがて躰も死ぬ』

永琳『患者を完治させる。てのは躰と心、両方の話。そう私は思うの』

永琳『まあ、三ヶ月はあくまでも目安ね。それ以上か以下は分からないわ』

鈴仙『それはそう、ですが・・・』

永琳『なんだか不服そうね?』

鈴仙『・・・あの全身のおびただしい量の古傷、絶対に普通じゃないですよ』

永琳『そうね。普通じゃないわ』

鈴仙『しかも格好からして外来人。不安要素の塊です』

鈴仙『危険人物と認識して位なのに、そんなのを三ヶ月間もここに居させるのは・・・』

永琳『どんな人物だろうと患者は患者。そうじゃない?』

鈴仙『でも、姫様は何て言うか・・・』

永琳『だから今から姫にお伺いを立てに行くのよ』

鈴仙『・・・・・・駄目だと言ったら?』

永琳『説得はある程度するけど・・・どうしても駄目と言うなら、仕方がないわね』

・・・・・・・・・・・・・・・

輝夜『いいわよ?』

永琳『ありがとうございます』

鈴仙『あっさり!?』ズゴーン

輝夜『断る理由は無いもの。何も 問題は 無い』

鈴仙『な、何も、問題、ありません・・・じゃなくて!』

鈴仙『その患者、全身古傷だらけで左腕も無かったんですよ!』

輝夜『まあ、可愛そうに・・・よっぽど大変な目に遭ってきたのね』

鈴仙『そーじゃなくて・・・!』

輝夜『どうしたの?何がまずいことでも?』

鈴仙『あの傷の様子からしても、一度の事故とかで出来た傷では無いと考えられます』

鈴仙『恐らく、何年にも渡って出来た傷だと・・・』

永琳『あら、それは違うわようどんげ』

鈴仙『へ?』

永琳『何十年も前から出来た傷よ。一番古いものだと多分、7、80年位前ね』

鈴仙『な・・・!それって!』

輝夜『あら、患者さんはご老体なの?』

永琳『いえ、外見だけなら人里の青年とそう変わらないかと』

鈴仙『ますます怪しいじゃないですか!人間じゃないんですよ!』

永琳『別に永遠亭は人間の治療専門ってわけでもないわ。体の創りは人間に似ているし寧ろやりやすい』

鈴仙『だから、そういうことじゃなくって!』

輝夜『どうしてそんなに嫌がるのかしら?』

鈴仙『だって、あの傷、あの様子・・・真っ当な生き方をしてないに違いありません!』

永琳『つまり?』

鈴仙『例えば犯罪者かもしれないんですよ!そんな人置いておくわけには・・・!』


輝夜『・・・犯罪者』←罪人

永琳『・・・ねえ』←罪人

鈴仙『・・・あっ』←脱走兵(罪人)

輝夜『・・・それで?』

永琳『犯罪者ならなんだって?』

鈴仙『・・・あ・・・いや・・・』

鈴仙『・・・・・・な』

鈴仙『なんでもないプーーー!』

輝夜『・・・・・・』

永琳『・・・・・・』

鈴仙『・・・・・・』

・・・・・・・・・・・・・・・

てゐ『よっす』

『・・・・・・』

てゐ『しけた顔してるね。何があったかは聞かないけど、しょんぼりしちゃいけないよ』

てゐ『私はてゐ。永遠亭の・・・そうね、マスコットみたいなのかな』

てゐ『色々あんたの面倒見なきゃならなくなるから、自己紹介に来たってわけよ。よろしく』

『・・・よろしく』

てゐ『お、初めて口をきいたね』

てゐ『なら名前を聞いておかなきゃ。あんたなんてーの?』

『・・・僕、は・・・』

『・・・・・・・・・・・・』

てゐ『あん?どしたの。まさか思い出せないとかってオチ?』

『いや・・・僕は・・・』



『エリクス・・・』



てゐ『・・・ふうん。そういうんだ。よろしく、エリクス』

輝夜『入るわよ?』

てゐ『姫?どーぞー』

ガラッ

輝夜『失礼するわ。・・・あら、患者さん、意識はあるのね』

てゐ『口もきけるそうで、エリクスって名乗ってました』

輝夜『そうなの・・・。初めまして。蓬莱山輝夜と申します』

てゐ『ここのお姫様だよ。あんたをここで治療を受けることを許可してくれたえらーい人さ』

エリクス『・・・よろしく』

輝夜『(・・・成程、布団に隠れて腕が少し見える位だけど、確かに古傷だらけね)』

輝夜『何かあったかは存じませんが、どうぞごゆっくりしてくださいね』

てゐ『なんだか旅館みたいなフレーズですね』

輝夜『そうかしら?・・・あ、てゐ。永琳が呼んでたわよ。それを言いに来たんだった』

てゐ『うへ、整頓の手伝いかな。あの人整理下手だからなあ』

輝夜『それを補ってあげるのが貴女達でしょう。ほら行って来なさい』

てゐ『はーい・・・姫様、余りエリクスで遊んじゃダメですよーっと』スタスタスタ

輝夜『もう、遊ぶだなんて失礼ね』

輝夜『・・・うーん・・・』

輝夜『・・・・・・』

スッ

エリクス『・・・?』

輝夜『ああ、なんでもないですよ』

輝夜『・・・ちょっと、髪を櫛で梳かせて貰うだけですから』

エリクス『・・・・・・』

サッ  サッ  サッ

輝夜『男の方と暮らすのって、ずうっと前におじいさんと暮らして以来かしら』

輝夜『実はちょっとだけ楽しみなんです』

エリクス『・・・そう、なんだ』

輝夜『貴方がどんな暮らしを送って来たかは分かりませんが・・・』

輝夜『少なくともここは安全ですよ。みんないい子ばかりです』

エリクス『・・・・・ありがとう・・・・・』

輝夜『どういたしまして』

輝夜『・・・と、出来た』

エリクス『・・・?』

輝夜『ほら、鑑』

エリクス『!』

輝夜『ふふ。ツンツン頭の出来上がり。なんだか似合ってますね』

エリクス『・・・はは』

輝夜『(あ、笑った)』

輝夜『・・・貴方、エリクスさん、でしたよね?』

エリクス『うん・・・』

輝夜『うーん名前でそのまま呼んでもいいけど・・・』

エリクス『?』

輝夜『折角だし、あだ名を付けてあげましょう』

エリクス『・・・え』

輝夜『遠慮しなくていいですよー。素敵な名前付けてあげますから』

エリクス『あ、はは・・・』

輝夜『うーん。そうね・・・そのツンツン頭になぞらえて・・・』

・・・・

・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・


―――――彼が来てからの三ヶ月間


永琳の予想以上に快復は早いものだった 一週間も経てばほぼ治療は完了していた

そして精神の快復も非常に早かった 一ヶ月も経てば既に色々と手伝いもしていたようだ

ここに運ばれていた時とは違う コロコロと表情の変わる男だった

そして何故か彼は あの時悪戯で整えた髪型を随分と気に入っていた

その時に付けたあだ名も―――――

そして三ヶ月後―――

彼はこう切り出した 『ここに居ることをお許し願えませんか』 と

元の世界について執着を持っていないような口ぶりだった

今回は永琳が渋り、鈴仙が引き止めるという あの時とは全く逆だった

そして、あの時と同じように 最後の決定権を私に委ね―――

輝夜『・・・ここにいるのなら、もう患者とも、お客様とも扱いませんよ』

輝夜『鈴仙と人里で薬を売りに行ってもらうし、てゐと因幡のお世話もしてもらいます』

輝夜『永琳の仕事の手伝いもしてもらうし、私の・・・遊び相手もして貰いましょう』

輝夜『毎日とっても忙しくなりますよ?』

輝夜『休みだってろくに無いかもしれませんよ?』

輝夜『それでも、ここに居たいというのですか?』

輝夜『・・・・・・そうですか』

輝夜『わかりました。では・・・』

輝夜『今日から改めて、よろしくね』

・・・・

・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・

輝夜「あの時の鈴仙ってば、随分貴方を嫌ってたものね」

鈴仙「だ、だってあの時はちょっと怖かったから・・・!」

エリクス「はは、今とは随分違うんだね」

鈴仙「・・・貴方が、優しい人だって分かったから」

鈴仙「だから、私も貴方に優しくしようって思ったの。それだけ」

てゐ「お!?デレか!デレてるのーかー!」ヒック

永琳「流石はチョロイんげね。すぐ堕ちるわー」ヒック

鈴仙「ああもう!酔っぱらいの相手は面倒!」

輝夜「ふふ。でも本当、貴方が来てくれてよかったわ」

エリクス「・・・僕も、ここに来れて良かった。そう思うよ」

鈴仙「・・・ねぇ、エリクス」

エリクス「うん?」

鈴仙「ずっとさ、こうやって・・・みんなでいれたらいいわよね」

輝夜「鈴仙?」

鈴仙「姫様と永琳と、私とてゐと因幡達と・・・貴方がいて」

鈴仙「一緒にのんびり過ごせたら幸せだなあって・・・」

エリクス「鈴仙・・・」

鈴仙「あ、あはは!変な話してごめん!忘れて!」

永琳「貴女近いうちに死ぬっけ」

鈴仙「えぇ!?急に何でですか!」

永琳「いや、死亡フラグでしょ今の」

鈴仙「し、死亡フラ・・・なんですそれ」

てゐ「急に突拍子もなく理想を語り始めるとか、ねぇ」

永琳「もっと貴女に優しくしてあげれば良かったわ・・・」

鈴仙「せめて笑ってくださいよ!恥ずかしいとすら思えない!」


エリクス「・・・・・・」

鈴仙「エリクスもなんか言ってよ!」

エリクス「え?あ、はは、そうだね。一緒に居れたらいいね」

鈴仙「もー・・・貴方まで投げやりな感じだし、言わなきゃ良かった・・・」

エリクス「いやはや、ごめんごめん」

輝夜「・・・・・・」


『おーい!エリクス!』


輝夜「あら、向こうでお呼びよ。行ってあげたら?」

エリクス「あ、そうだね。じゃあちょっと失礼するよ」

鈴仙「え、あ、うん。行ってらっしゃい」




輝夜「・・・ずっとみんなで、ねえ」

・・・・・・・・・・・・・・・

レミリア「来たわね!」

エリクス「やあ、こんばんはみなさん。・・・あれ、フランドールは?」

咲夜「本日はお休みになってますわ」

エリクス「そうなの?どこか具合でも・・・」

レミリア「人ごみが嫌いなだけよ。普段引きこもってばかりだから」

エリクス「そうなんだ。じゃあ今日来れない代わりに近いうちに会いに行かなきゃ」

咲夜「ええ。お待ちしておりますわ」

レミリア「・・・・・・」

エリクス「ん?レミリアさん?」

レミリア「・・・てい」ベチッ

エリクス「あだ!?なんで蹴ったんです!?」

レミリア「うるさいっ」

美鈴「(来て早々妹様の話ばっかりするから・・・)」

パチュリー「(嫉妬乙ね)」

アリス「人形の様子がおかしいのよ」

上海人形「凄マジク聞イテナイキ!」

魔理沙「成程、おかしいな」

アリス「困ったわネ。わた死ハ勘壁ナ人形ヲツ戮タイのニ・・・」

魔理沙「お前もおかしいな」

・・・・・・・・・・・・・・・

エリクス「あの後白蓮さんに捕まっちゃって大変だったんですよ~」

慧音「ああ、また宗教の勧誘か」

妹紅「貴方も大変ね」

エリクス「普段はいい人なんですけどねー」

妹紅「・・・あの、エリクス」

エリクス「はい?」

妹紅「その、またこういうことあったら大変だから、ね?」

妹紅「今度からはいつでも永遠亭までは一緒に行ってあげるわよ」

エリクス「え?いやー流石にそれは悪いですよ!妹紅さんだって大変でしょうし・・・」

妹紅「いいのよ。暇つぶしみたいなものだし」

エリクス「でも・・・」 妹紅「いいから・・・」

慧音「(早くどっちか折れくんないかなー)」

妖夢「酔いが回ったところで新技のお披露目といくでござる」

幽々子「口調が彷徨っているわよ」

妖夢「魂魄流最終奥義―――――二 重 星 雲(ネビュラ)!!」ギュバッ!!

幽々子「お止めなさい、そのような技名。またご老体が嘆かれるわ」

・・・・・・・・・・・・・・・

橙「あ、あのっ!エリクスさん!」

エリクス「うん、どうしたの?」

橙「プロレス技はお好きですか!?」

エリクス「・・・・・・エェ?どしてェ?」

橙「なんだか、いっつも人里の子供に技をかけられてるからご趣味だと思って・・・」

エリクス「あー、あれはスキンシップって奴で・・・」

橙「そ、それでですね!私も覚えたんですよ!」

エリクス「・・・あれ、もしかして」

橙「行きますよ!フライングボレーかにバサミ!!」ズパッ!

エリクス「ノォ~~~~ッ!!!」ゴキッ

藍「(なんてこった、橙が歪んでしまった・・・)」

こころ「あれがエリクスね。初めて会うけど中々いい男じゃない」

神子「そうですね。見ていて心地よい方だと思うよ」

こころ「不思議なものね。頭ン中は驚くほど冷えてるってのに、下がおさまらねえ。イッちまいそうだぜ」

神子「どこでそんな言葉覚えたの!?」

・・・・・・・・・・・・・・・

パルスィ「ふうん、今日は余り呑まないのね」

エリクス「うん。宴会が終わったら後片付けしなきゃならないし」

勇儀「なんだい。また酔い潰れたら私が膝枕してあげようって思ったのに」

エリクス「・・・ちょ、ちょっとなら呑んじゃおうかなーなんてぇ・・・」

燐「・・・」バリバリ

エリクス「イデデデごめん冗談です!!」

空「勇儀に膝枕して貰う方がいいんだねー。お燐よりでかいからネー色々と」

燐「・・・!」バリバリ

空「イデデデごめん冗談です!!」

さとり「あ、あの、エリクス・・・」

エリクス「イテテ・・・ああ、さとり」

さとり「少しくらいなら呑めるのでしょう?その、お酌・・・しますよ」

エリクス「お、珍しいね。ありがとう」

こいし「(少しはお姉ちゃんも元気になったかな。礼を言うぜMEN!!)」

リリカ「よーし!盛り上がってきたところで一曲引こうか!」

ルナサ「ここからのギグは メンバーシップオンリーだ」

メルラン「・・・くそッ!!A(ラ)の音が出ない・・・!」

リリカ「どうしちゃったのさ姉さん・・・」

・・・・・・・・・・・・・・・

「・・・うん。大丈夫。正常に動いてるね」

文「へー。初めて見ますね、それが"義手"って奴ですか」

「そうだよ。それも飾りじゃなくて実際に思い通りに動かせる代物なんだ!」

エリクス「全く調子がいいよ。改めてありがとね、にとりちゃん」

にとり「いいよいいよ!作った物をキチンと使ってくれるのが一番嬉しいしね!」

文「その義手が誤作動して痴漢するとかそういうのないんですか?」

にとり「無い!・・・とは言い切れないカモ」

エリクス「エ!!マジェ!?」

文「もし痴漢で捕まった時は大々的に報道してあげますよ」

エリクス「ヤメヤメヤーーメーーテーー!!」

映姫「そう、貴女は少し普段の生活態度が乱れすぎている」

小町「あの、宴会でお説教はちょっと・・・」

映姫「牢記せよ。自分が何者であるかを。我々こそ是非曲直庁である」

小町「(逃ィ げェ 場ァ 無ェェェぜェェェえェェえェ!!)」

・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・

鈴仙「スー・・・スー・・・」Zzz

てゐ「グー・・・グー・・・」Zzz

永琳「スヤ・・・スヤ・・・」Zzz


ジャー カチャカチャ

エリクス「・・・・・・」

エリクス「(やっぱり後片付け始める前にみんな寝ちゃったか)」

エリクス「(あまり呑まなくてよかったなーっと)」

エリクス「・・・・・・」



鈴仙『ずっとさ、こうやって・・・みんなでいれたらいいわよね』


エリクス「(ずっと・・・か)」


―――そう ずっと怯えてきた

考えない様にすらしてきたのかもしれない

身内が死に 身内同士が殺し合い

身内が自分に銃を向ける あの星を

蜿蜒と続く地獄そのものな あの星を

願うこの道が許されるのならばここに――――


――――――しかし――――――

ジャー  キュッ キュッ

エリクス「(それでも、忘れられない)」

エリクス「(あのドタバタでゴチャゴチャでイザコザな日々を)」

エリクス「(・・・みんなは、どうしているだろうか)」

エリクス「(ジェネオラ・ロックはどうなったんだろうか・・・)」

エリクス「(メリル・・・ミリィ・・・二人は無事だろうか・・・)」

エリクス「(そして―――――――)」





エリクス「―――――ナイブズ―――――」




「――――――トンガリ君!」

エリクス「!」






輝夜「1人で後片付け?宵っ張りねえ」






エリクス「輝夜・・・」



・・・・・・・・・・・・・・・

輝夜「まあ一杯付き合いなさいよ」

輝夜「貴方とサシで飲めるのも久々だしね」

エリクス「・・・うん」



輝夜・エリクス「「乾杯」」



輝夜「・・・今日はお疲れ様」

エリクス「うん。そちらこそお疲れ様。今日は楽しかったよ」

輝夜「そう言って貰えると嬉しいわ」

輝夜「・・・こうして改めて思うけど」

エリクス「ん?」

輝夜「今日で貴方が来てから二年になるんだなーって」

エリクス「うん。なんだかあっという間だったなあって僕は思うよ」

輝夜「そうなの・・・。私は、よく分からないわ。ただでさえ一年一年が長いって感じたことないから」

エリクス「そうなんだ」

輝夜「ただ、ね。一つ分かることと言えば」

エリクス「うん」

輝夜「みんな、随分変わったなあって」

~Before~

鈴仙『・・・姫様と師匠のご厚意でここに居候できるんだから、感謝しておきなさいよ』

鈴仙『ふーん、料理なんか出来るんだ。ま、少しは役に立つかもね』

鈴仙『あ、あのさ・・・もうすぐ三ヶ月だけど、どうするつもり・・・?』


~After~

鈴仙『エリクス、その・・・一緒に人里まで買い物に行ってくれる?』

鈴仙『本当!?ありがとう!帰りにお団子でも食べに行こうよ!』

鈴仙『お金が無いって、また賭け将棋で負けたの?しょうがないわねえ。奢ってあげる!』

~Before~

てゐ『しばらくよろしくね。ま、何か困ったことがあったら言いなよ』

てゐ『人里まではこのルート通るんだ。慣れないうちは私が一緒に行ってあげるよ』

てゐ『帰るつもり?・・・私たちの団(チーム)は簡単には足抜けできないよ』


~After~

てゐ『アホーーー!!今何時だと思ってんの!!』

てゐ『先生に説教されてただぁ!?そんなんで心配かけさせんな!!』

てゐ『・・・っ!心配・・・してない!うるさい早く晩御飯の支度する!』

~Before~

永琳『大丈夫よ。ここに居れば安全だからね』

永琳『あら、手伝ってくれるの?ありがとう』

永琳『あの時は反対したけど、貴方がここに残ってくれて良かったわ』


~After~

永琳『えぐるわよ?』

永琳『イケてないからえぐっちゃう訳よこの際』

永琳『ブッ散れ』



輝夜「こんな感じに変わっていったわよね」

エリクス「永琳先生が厳しすぎると思いマース!!」

エリクス「でも、そういう輝夜はあんまり変わってないよね」

輝夜「ん・・・そうかしら?」

エリクス「僕がこっちで居候することに決めて、敬語が無くなったくらいかな」

輝夜「うん、そうね。私はあまり・・・」

輝夜「・・・・・・・・・」

エリクス「ん?どしたの?」

輝夜「・・・ううん。違う」

エリクス「へ?何が?」

輝夜「多分、一番私が変わったんだと、思う」

エリクス「そうなのかい?」

輝夜「うん・・・もし、今の私だったら・・・」

輝夜「あの時に貴方のこと、こうも簡単に受け入れたりはしなかったと思う」

エリクス「・・・?」



輝夜「私ね、長生きしてるからか他人との出会いに達観的になっちゃうのよ」

輝夜「最後には何らかの形で別れちゃうんだなーって、親しくなる前から思っちゃうの」

輝夜「ま、だからって他人と距離を置こうなんて考えはないけどね」

輝夜「逆に別れるまでは一緒にいる時を楽しもうって」

輝夜「別れる時は気持ちよく送り出してあげようって」

輝夜「貴方を受け入れたのも、そんな気持ちからなの」

エリクス「・・・なら、僕を受け入れたくないってのはお眼鏡に適わなかったからかなぁ?」

輝夜「あら、本気で思ってるの?」

エリクス「うーん・・・自惚れじゃなきゃ、そこそこいい手応え?」

輝夜「もうちょっと自惚れてもいいわよ」

輝夜「言ったでしょう。変わったって」

輝夜「本当に楽しかったわ。この二年間」

輝夜「考え方が変わってしまうくらいに」

輝夜「もし、貴方が元の世界に帰るって言ったらきっと」

輝夜「・・・笑顔で気持ちよく、なんか送り出せない」

エリクス「輝夜・・・」

輝夜「・・・ねぇ、トンガリ君」

エリクス「あ・・・何?」


『残って欲しいのでは無いのですか?』



輝夜「・・・・・・」

エリクス「・・・?」

輝夜「貴方は―――――」





輝夜「これからもずっと、幻想郷で暮らすつもりは無いの?」




エリクス「・・・!」

輝夜「さっき貴方が呟いた『ナイブズ』って・・・」

輝夜「誰なのか、何なのかは分からないけど・・・きっと向こうの事よね?」

エリクス「・・・・・」

輝夜「それを聞いて、寂しい気持ちになった」

輝夜「貴方が故郷の話をしてくれている時はそんなこと思わなかったのに」

輝夜「・・・帰ってしまった時のこと、想像しちゃったの」

輝夜「きっと、貴方がここからいなくなったら」

輝夜「私は貴方と過ごした日々を"きっとしつこく思い出す"」

エリクス「輝夜・・・」

輝夜「だから・・・だか、ら・・・」



輝夜「わたしと、一緒に生きましょうよ」


エリクス「・・・!!」



『わたしと一緒に色々見ようよ 歩こうよ』

『人も世界もゼッタイ馬鹿にしたもんじゃないから』




エリクス「あ・・・」

輝夜「・・・・・・」





エリクス「・・・僕は」


エリクス「・・・僕、は・・・」




輝夜「・・・・・・」

エリクス「・・・・・・」

紫「・・・・・・」


・・・・・・・・・・・・・・・


エリクス「ギ、ギャーーーー!!」

紫「まぁまぁ」

輝夜「・・・出歯亀かしら。相変わらず趣味が悪いのね。スキマ」

紫「いえいえグーゼンですわグーゼン」

エリクス「い、何時からいたんですか!?てか宴会に居ませんでしたよね!?」

紫「来たのはついさっきですわ。宴会には少し用事があって来れませんでしたわ」

輝夜「終わった後に来るなんて間抜けね。とっとと帰ってくださらない?」

紫「もう、悪かったですわ。そんなに拗ねないでくださいな」

輝夜「今、貴方の相手をしている気分では無いの。無駄話なら・・・」

紫「いえいえ、とても大事な話ですわ。・・・貴方に」

エリクス「へ?僕ですか?」

紫「まあ、私が話すのではなくて、会って戴きたい人がいますの」

エリクス「え・・・人、ですって?」

紫「宴会に来れなかったのもその人を呼んでいたからですわ」

輝夜「別に宴会にその人とやらも連れてくればよかったじゃないの」

紫「そうはいきませんわ。楽しい宴に水を差すことはできませんもの」

輝夜「水を差すような奴を会わせたいって言うの?」

紫「会わせたいと言いますわ」

輝夜「今だって十分に水を差されてるんだけど」

紫「今は宴じゃ無いのでしょう?貴女の都合は関係ありませんわ」

エリクス「あ、あのぉ・・・喧嘩はやめましょーね・・・」

紫「と、話が逸れてしまいましたわ。では早速会っていただきます」

輝夜「ちょっと、まだ話は・・・」

紫「それではいらっしゃ~い」


シュポンッ


「どわぉ!?」



エリクス「・・・・・・!!」

「っと・・・おお、本当におった。・・・本物やろな?」

紫「まだ疑ってますの?そんなに言うなら送り返しますわよ」

「ああ、悪かったて。ちょっとまだ半信半疑やけどな、信じることにするで」

紫「もう、上から目線で・・・それよりも、ほら」

「おう。・・・よう、久しぶりやな」

エリクス「君は・・・」

輝夜「・・・知っているの?」

エリクス「・・・昔、一度だけ会ったことがあるんだ」

輝夜「!!」

「おお、覚えとったか。これで知らん言われたらどないしようか思たで」

輝夜「・・・貴方は?」



「ニコラス・D・ウルフウッド」



輝夜「・・・ニコラス?」

ウルフウッド「大陸を流しながら神に仕える巡回牧師やっとる」

輝夜「黒スーツの、牧師さん・・・ですか」

ウルフウッド「格好は気にしないといてーな・・・証拠にホンマは十字架もあるんやけど、紫の嬢ちゃんに取り上げられてしもた」

紫「あんな物騒な十字架持ち込ませんわ。末恐ろしい牧師さんですわね」

×紫「あんな物騒な十字架持ち込ませんわ。末恐ろしい牧師さんですわね」

○紫「あんな物騒な十字架持ち込めませんわ。末恐ろしい牧師さんですわね」


エリクス「・・・そうか、君が来たってことは・・・」

ウルフウッド「ま、あくまで話だけっちゅーことやけどな」

ウルフウッド「さて、悪いけどな、黒髪の嬢ちゃん」

輝夜「・・・何でしょう」

ウルフウッド「少しこの箒頭と話したいことがある」

ウルフウッド「席を外して貰えへんやろか」

輝夜「嫌です」

ウルフウッド「・・・即答かいな。ええか、別に面白い話するわけやない」

ウルフウッド「嬢ちゃんにしてみたら訳わからん話で寧ろ退屈や。時間の無駄やと思うで?」

輝夜「だから席を外せと?お断りします」

ウルフウッド「あのなあ・・・」

輝夜「トンガリ君・・・エリクスは、私達の家族のようなものです」

輝夜「どこの馬の骨とも分からない自称牧師さんに、胡散臭いスキマ妖怪」

輝夜「目を離しているうちに何をされるか分かりったものではありませんから」

ウルフウッド「自称ちゃうわ」

紫「面と向かって胡散臭いと言うのは辞めて頂きたいですわっ」

エリクス「いいんだ。ウルフウッド」

ウルフウッド「おい、ホンマにええんか?」

エリクス「大事な話、なんだろう?わざわざ君を呼ぶほどの」

エリクス「この子だけ仲間外れは可愛そうだよ」

ウルフウッド「・・・なんやそれ」

エリクス「なんとなく話の見当は付いているからね。聞いてもらった方がいいと思う」

輝夜「・・・・・・」

紫「・・・いいんですわね」

エリクス「ええ。いいんです」

紫「ウルフウッドさん」

ウルフウッド「・・・・・・」ハァ

輝夜「・・・・・・」



ウルフウッド「・・・ジェネオラ・ロックから二年―――か」

輝夜「・・・!」

エリクス「・・・・・・」


ウルフウッド「あれから随分探したで。お前を追って星中を東奔西走や」

ウルフウッド「結局無駄骨やったがな・・・まさかノーマンズランドにすらおらへんとはな」

ウルフウッド「こんなところで、二年間も何しとったんや―――」










ウルフウッド「―――ヴァッシュ・ザ・スタンピード!!」








・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・

・・・・

~一時間前・ノーマンズランド~

紫『お待たせいたしました。ウルフウッドさん』

ウルフウッド『おう。来たか嬢ちゃん』

紫『さて、これから彼の元に案内しますがその前に・・・』

ウルフウッド『あん?』

紫『説明しなければならないですわね』

紫『彼の今、居る場所・・・"幻想郷"について』

ウルフウッド『ゲンソウキョー?聞いたことない場所やな』

紫『まあ、当然ですわね』

ウルフウッド『どこの街か村かは知らんが、別段そこには興味あらへんよ』

紫『いいえ。聞く必要がありますわ。突然連れて行っても混乱するだけでしょうし』

ウルフウッド『混乱?住民が排他的だとか野党に占拠されてるとかそんなんか』

紫『いえ、そんなことは無いのですが、ちょっと変わった場所にありますので』

ウルフウッド『はあ、そうか。まあ手短に話してくれや』

紫『ありがとうございますわ。・・・でも、うーん。口で言っても実感が湧かないでしょうけど・・・』

ウルフウッド『・・・どうでもいいけど早めに頼むでー』

紫『ああもう、分かりましたわよ。実際に体験して頂いた方が早いですわね』

ウルフウッド『あ?体験やって?』

紫『えいや』

ウルフウッド『!!!?』シュポンッ


紫『お一人様ご案内っと。そして幻想郷内では危険物の持ち込みは禁止されておりますわーってね』

紫『小銃とこの大きい十字架は預からせて貰うわね、ウルフウッドさん』シュポンッ



・・・・・・・・・・・・・・・

~迷いの竹林~

シュポンッ

ウルフウッド『・・・!!?』

ウルフウッド『(何や・・・何が起きた!?ここは!?)』

ウルフウッド『(待て、パニッシャーが・・・無いやと!?銃も!?)』

ウルフウッド『(パニッシャーだけならまだしも、懐に忍ばせておいた得物まで消された!?)』

ウルフウッド『(どういう芸当や・・・だが、あの女がやったには違いない・・・とするならば)』

ウルフウッド『(・・・マテマテ待て、これちとマズイんやないか)』

紫『はぁい』

ウルフウッド『!!!』

紫『ああ、待ってくださいな。そんなに殺意を向けられては困りますわよ』

ウルフウッド『・・・・・・』

紫『ご安心ください。十字架と小銃は"ここ"に居る時だけ預からせて貰うだけですから』

ウルフウッド『(殺意が無いから油断しとったな・・・しかしコイツ・・・)』

ウルフウッド『(一瞬意識が飛んだ後に場所が変わった・・・そして得物を全て奪った・・・)』

ウルフウッド『(加えて体に感じる違和感・・・体が軽いし、涼しい。あからさまに可笑し過ぎる)』

ウルフウッド『(幻覚を見せている・・・ちうことか?この技は)』

紫『さて・・・ようこそ、幻想郷へ』

ウルフウッド『・・・?』

紫『先ほど言いましたでしょう?幻想郷。ここに彼が居ますわ』

ウルフウッド『・・・何が狙いや』

紫『だ・か・ら。会わせてあげるって言ったでしょう?ヴァッシュ・ザ・スタンピードに』

ウルフウッド『(分からん。読めへんなコイツ)』

紫「まあ、彼に会わせる前に少し説明しておきたい。というのはこういうことですわ」

紫『初めてでしょう?こんなにも涼しく、重力も少なく、緑が生い茂っている場所を見るのは』

ウルフウッド『せやな・・・だが、幻覚使うんなら、違和感を感じさせずに仕留めるのが賢い殺り方やで。嬢ちゃん』

紫『そうやってすぐ危ない思考に持っていこうとしないでくださいな』

紫『そしてこれはまやかしなんかではありませんわ。全て現実に起きていること』

紫『現実でありながら生ける者にとっての理想の楽園。それが幻想郷』

ウルフウッド『・・・・・・』

紫『説明させて頂きますわ。幻想郷について。そして彼がここに来た経緯』

ウルフウッド『!』

・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・

紫『と、いうわけでまとめると・・・』

紫『ここは私の築いた世界。貴方達の住む星とは違う世界』

紫『A・ARMの力の影響により彼はこの世界に迷い込み、エリクスと名前を変え幻想郷の住民として生活してきた』

紫『そして今、私の能力"境界を操る程度の能力"により貴方をここへ連れてきた』

紫『以上、説明終わりですわ』

ウルフウッド『・・・・・・』

紫『呆れたというか気まずいというかカワイソーというかそんな表情ですわね。無理もありませんわ』

紫『生物が自分自身を物差しにしか物事を実感できないのは当然のことですわ。終わりにしておきますか?』

ウルフウッド『・・・・・・スマン』

紫『謝るのですか。生マジメですわね貴方は』

紫『一つ言えることは、私は貴方に危害を加えたりはしない。ただ彼に会わせたいだけ』

紫『しかし、本当に私を信用出来ないのなら帰しますわ。貴方の武器もお返し致します』

ウルフウッド『・・・・・・』

ウルフウッド『しゃーないな。わかった』

紫『あら、来てくださるの?』

ウルフウッド『得物も全て奪われた今、ワイに決定権は元々あらへんしな』

ウルフウッド『(この女の能力とやらは未知数・・・油断はしていたとはいえ、ワイの意識の外で事を起こせる厄介な奴や)』

ウルフウッド『(それにワイを殺す気ならとうに殺ってる筈やし・・・ここは大人しく従ったほうがええ)』

ウルフウッド『(ヘタに騒いで死ぬのだけは勘弁やしな)』

紫『ご理解いただきありがとうございます』

ウルフウッド『正直納得はしてへんけどな』

紫『構いませんわ。寧ろここの出来事は全て幻の一時だったと思ってくれた方がいいですわね』

ウルフウッド『幻なら困るがな・・・さて、奴はどこにいる?』

紫『この先を言った所に永遠亭という邸がありますわ。そこで居候として暮らしています』

ウルフウッド『エイエンテーねぇ・・・』

紫『今夜宴会があったのですが・・・もう終わってる頃でしょうし、行きましょうか』

ウルフウッド『こちとら必死に二年も探してアイツは呑気に宴会かい』

紫『・・・あんまり手荒なマネはなしですわよ』

ウルフウッド『―――わかっとる。わかっとるがな』ニター

紫『まてまてまてなんですかその笑い。こっち見なさいウルフウッドさん』

・・・・

・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・


天空に輝き我々を見下ろす 真ッ赤に血塗られたあの眼球(つき)を見ろ


そして思い出せ その男の名を


その男の伝説"レジェンド"を


時は満ちる 語るべきは未来"フューチャー"へ続く その軌跡のみ

ヴァッシュ「・・・・・・」

輝夜「・・・ヴァッシュ・・・ザ・・・?」

紫「・・・・・・」

ウルフウッド「月をも貫く伝説のガンマンが―――」

ヴァッシュ「月・・・だって?」

ウルフウッド「覚えてへんのか。おんどれがフィフス・ムーンを打ち抜いたことを」

ヴァッシュ「・・・少しだけ、覚えている。俺の右腕が、空に向けて・・・」

ウルフウッド「そう、その結果目視できるほどの巨大なクレーターを作った」

ウルフウッド「そして星にまたひとつ伝説が穿たれた・・・ってな」

輝夜「(月を撃った右腕・・・ですって?)」

ヴァッシュ「・・・止めてくれよ。何が伝説だ」

ヴァッシュ「俺は・・・あの"銃"で、地上を薙ぎ払っていたかも知れないんだ」

ウルフウッド「その余りの脅威を恐れ、隠居生活っちう事かい」

ヴァッシュ「ただ静かに暮らしたかっただけだよ。名前も生き方も変えて・・・」

ウルフウッド「ま、おんどれの私情に口を挟む気はあらへんけどな・・・」

ウルフウッド「あいにく"こっち"ではそんなのんきなこと言ってられへん」

ウルフウッド「早速やが、本題に入らせてもらうわ」

ヴァッシュ「本題?」

ウルフウッド「ワイが二年間おんどれを探していた理由でもある」

ウルフウッド「本当なら今すぐ首に縄くくってでも連れて帰りたいところやが・・・この嬢ちゃんがそれを許してくれへんのや」

紫「・・・・・・」

ヴァッシュ「紫さんが・・・」

ウルフウッド「だからあくまで"話すだけ"や。そっからの選択はオマエ次第ちうわけやな」

ヴァッシュ「・・・一体何だい」


ウルフウッド「―――お前、カルカサスゆう街知っとるか」

―――南コーネリアにある小さな街や。実はそこで半年前妙な事件が起こった。

ある日突然・・・住民が根こそぎ失踪したんや。

何かに襲われたちうのなら説明はつくで?

だけどおかしな事にどこにも争った形跡が残ってないんや。

ある家の食卓にはカップの中、ぬるまったコーヒーが7分がた残り、

また別の家の庭先には洗濯物が"半分かけられて"風にゆれてた。

何もかもが全て日常を留めたまま、住民だけがただ陽炎のように消えてしまったんや。

憲兵隊が入って探しまわったがひとっ子ひとりいない。

だが、ある隊員が一つだけ妙なものを発見してな。

中央広場のモニュメントに書き殴られたある男の名・・・。

それは赤い字でこう書いてあったそうや。

ウルフウッド「―――ナイブズ。・・・ってな」

ヴァッシュ「・・・・・・」

紫「!(目の色が変わったわね)」

輝夜「(ナイブズ・・・?さっきトンガリ君が呟いた名前・・・よね)」

ウルフウッド「そう。ナイブズ・・・あの男が、動き始めてる」

ウルフウッド「どや、これでもまだやいのやいのぬかせるんか!?」

ヴァッシュ「・・・・・ウルフウッド、君は・・・何者だ?どうしてその名を知っている!?」

ウルフウッド「着いて来ればいずれ分かる・・・今は手札として使わして貰うで」

ウルフウッド「興味津々ならなおさらや」

ウルフウッド「出発は三日後。ノーマンズランドに戻るのなら紫の嬢ちゃんがおんどれを迎えに来る」

紫「正確には、三日後の朝ですわね」

ウルフウッド「ま、そういうことや。・・・色良い返事を頼むで」

ヴァッシュ「・・・・・・」

ウルフウッド「話はこれで終わりや。嬢ちゃん、頼むで」

紫「ええ。ここを通れば元の世界に戻れますわ」ニュイーン

ウルフウッド「ほなな。・・・と、帰る前に渡しとくモンがあったわ」

ヴァッシュ「ん?」

ウルフウッド「届けもん。二年前に拾ったんや」ポイッ

ヴァッシュ「っとと。・・・!」パシッ

ウルフウッド『・・・一つ、持っていきたいのがある』

ウルフウッド『もう一丁、あったよな』

ウルフウッド『あれは『アイツ』のや。返しておきたい』


ウルフウッド「おんどれの、やろ?」

輝夜「・・・それは・・・」

紫「その銃、本当に貴方のでしたのね・・・」

ヴァッシュ「・・・・・・・・・・」

ヴァッシュ「ヒドイなあ・・・」

ギュ・・・



ヴァッシュ「本当に気に入ってたんだぜ・・・今の生活が」


ウルフウッド「しゃあないやろ。誰かが牙にならんと誰かが泣く事になるんや・・・」

・・・・・・・・・・・・・・・

紫「無事帰ったようですわ」

ヴァッシュ「そう、ですか・・・」

輝夜「・・・どういう、つもりなの」

ヴァッシュ「ごめんよ、輝夜。俺は今まで君達を・・・」

輝夜「貴方じゃないわ。八雲紫、貴女に聞いているの」

紫「あら、なんでしょう」

輝夜「元の世界から知り合いを連れてくるなんてせこい真似して。そんなにトンガリ君を追い出したいわけ?」

紫「まあ酷い。どうしてそう思いますの?」

輝夜「エリクスでもヴァッシュでもいいじゃないの。その銃を持っていたって別に関係ないわ。それで私達が彼をどうこうすると思う?」

輝夜「それともそのことを人里にでも吹聴して少しずつ居場所を無くすつもり?」

紫「あらあら、とんだ陰険なイジメをする方がいらっしゃるのね」

輝夜「そうね。自分の陰険さを自覚して貰えればありがたいのだけれど」

紫「憶測で物を語る方が陰険だとは思いますわ」

輝夜「・・・・・・」

紫「・・・・・・」

ヴァッシュ「へ、へへ・・・平和にいきましょうよ平和に!!」

紫「言っておきますが、私はヴァッシュ・ザ・スタンピードをどうこうしたいと思って彼を連れてきたわけではございませんわ」

輝夜「・・・詳しい内容は分からないし嘘か本当か分からないけど」

輝夜「あんな話をされたら、トンガリ君は帰るとしか選択肢を取れないって知ってる筈でしょう?」

紫「私もあのような話だとは知りませんでしたわ」

輝夜「知らないで連れてきたわけ?・・・そもそも、なんで連れてきたのよ」

紫「・・・まあ、色々思うところがあったのですわ」

輝夜「いけしゃあしゃあと・・・」

紫「さて、ヴァッシュ。三日後までに彼への答えを出してください」

紫「そして言うなれば幻想郷に残るか出るかの答えでもありますわ」

紫「余りにも急で申し訳ありませんけれどね」

輝夜「本当にね」

ヴァッシュ「まあまあそう喧嘩腰にならず仲良くやりましょーよ・・・」

紫「・・・本当にすみません」

ヴァッシュ「そんな、謝らないでくださいよ」

ヴァッシュ「寧ろもう少し遅れていたら結構危ないかもしれなかったところでしたしね」

紫「そう言って頂けると助かりますわ」

紫「それではそろそろ失礼いたしますわ」ニュイーン

ヴァッシュ「はい。お休みなさい、紫さん」

輝夜「出来れば二度と来てほしくないわ」

紫「三日後の朝は少なくとも来ますから三度は来ないということで」

ヴァッシュ「あ、はは・・・」

紫「さて、それではまた三日後の・・・」

紫「・・・・・・・・」

ヴァッシュ「紫さん・・・?」

萃香『さとり、随分参った顔をしていたよ』

萃香『エリクスのトラウマ、思っているより大層なものを背負っていたんだろうね』

萃香『アンタがエリクスをどう思ってるか分からないけどさ』

萃香『過去に何があったのかなんて私らが知る必要は無いよ』

萃香『ただ一緒に飲んで騒いで遊んで、それでいいじゃないか』

萃香『・・・ああやってさ、アイツはいつも笑って、飄々としているけれど』

萃香『時折なんとも言えない顔になったりするんだ。故郷の話をする時とかね』

萃香『どれだけの苦労を重ねたか分からないけど、幻想郷はそれでようやく辿り着けた平穏の地だ』

萃香『もう、そっとしておいてあげようよ』

紫「・・・・・・・・・・ヴァッシュ」

ヴァッシュ「あ、はい」

紫「貴方がどんな人物であったとしても、過去にどんな過ちを犯していたとしても」

紫「幻想郷は全てを受け入れますわ」

ヴァッシュ「・・・・・・はい」

紫「しかし、残るにせよ帰るにせよ、どちらかは失うことになることをゆめゆめお忘れ無く」

紫「どうか、後悔のない選択を取ってくださる様願っていますわ」

・・・・・・・・・・・・・・・

~マヨヒガ~

ニュイーン

紫「・・・はぁ」

藍「紫様!?」

紫「あ、ああ。藍。まだ起きてたのね」

藍「主の前に寝られませんよ・・・それよりも、どこへ行ってらしたんですか?」

紫「あー、まあ、色々ね」

藍「色々って・・・もうとっくに宴会は終わってしまいましたよ?」

紫「ええ。知ってる」

藍「知ってるって・・・」

紫「本当はこっそり帰って来るつもりだったんだけどね」

藍「・・・紫様、如何なされました?」

紫「え?」

藍「なんだか随分お疲れの様に見えますが・・・」

紫「あー、やっぱり分かる?」

藍「何かあったのですか?」

紫「うーん・・・そうね・・・」

紫「・・・・・・藍」

藍「はい?」

紫「慣れてることだと思ってたけど、嫌われるのって心底胸が冷えるわね」

藍「???」

紫「お休みー」ヒラヒラ

藍「あ、はい。お休みなさいませ・・・?」

・・・・・・・・・・・・・・・

~永遠亭~

ヴァッシュ「・・・・・・」

輝夜「・・・・・・貴方、ヴァッシュって名前だったのね」

ヴァッシュ「・・・うん。『向こう』じゃ有名なんだ。・・・その、主に悪い意味で」

輝夜「犯罪者だったの?」

ヴァッシュ「いえいえいえ!愛と平和を唱え続けて旅を続ける正義のガンマンさ!」

ヴァッシュ「・・・だったはずが、トラブルに巻き込まれてる内にいつの間にか人間台風だとか局所的災害だとか言われて・・・」

ヴァッシュ「今やどこへ行っても知られてる名前なんだよネー・・・」

輝夜「ふうん。それで偽名を?」

ヴァッシュ「・・・まあ、そんなところ・・・かな。結局ここが幻想郷で意味無かったんだけどね」

輝夜「成程ね・・・。それで、どうなのよ?」

ヴァッシュ「へ?」

輝夜「帰るの、やっぱり」

ヴァッシュ「あー・・・・・・」

輝夜「さっき言ったわよね。貴方との日々をしつこく思い出すって」

輝夜「永遠を生きる私にとって、それはとても残酷なことなのよ」

輝夜「こんなこと言うの、卑怯だとは思うけど・・・それでも、行かないで欲しいの」

ヴァッシュ「・・・弱ったなあ。女の子に言われると困るや」

輝夜「嘘つき。貴方の性格なら牧師さんの話、絶対無視できない癖に」

輝夜「私がそれを知ってることも・・・知ってる癖に・・・」

ヴァッシュ「・・・すまない、輝夜。君が行くなと言ってくれることは本当に嬉しい」

ヴァッシュ「出来ることなら、ここの生活を手放したくない」

ヴァッシュ「・・・でも・・・でも、俺は・・・」

永琳「はっきりなさい」ズズイ

ヴァッシュ「Wow!!?」ビクッ

輝夜「永琳?・・・それに、貴女達」

てゐ「・・・聞いてたよ。全部」

鈴仙「えと・・その・・・」

ヴァッシュ「あ、あらら・・・聞かれちゃってたのね」

てゐ「ヘラヘラすんな!こんな時にまで!」

鈴仙「か、帰る、の?・・・そんな、だって今日ずっと一緒に居たいって言ったばっかりなのに!」

てゐ「言ってはずだよ。簡単には足抜けできないよって」

てゐ「二年なんてアンタにとっても私達にとっても短い期間だろうけど」

てゐ「だからってあっさりじゃあねと言える薄っぺらい関係だなんて思ってないよ」

永琳「えぐりとって五年くらい入院させてやりましょうか」

ヴァッシュ「ちょ、待って!オタスケーー!」

輝夜「永琳。こんな時にまで脅さないのよ」

ヴァッシュ「はは・・・いやはや、意外にこう、引き止められるのって嬉しかったりするなあ」

鈴仙「茶化さないでよ!」

ヴァッシュ「本当の気持ちだよ。全部聞いてたってことは、僕の右腕の話も聞いていたんだろう?」

鈴仙「あ・・・う、うん・・・」

ヴァッシュ「『向こう』だったらそれを知ったら受け入れてくれなんてしないさ」

ヴァッシュ「俺自身、そんな力が眠っていただなんて怖く感じているしね」

永琳「・・・まあ、確かに驚きはしたけどね。うどんげはちょっと怖がってたし」

鈴仙「師匠!あ、違うの、月って単語で少し動揺しちゃって・・・」

鈴仙「でも、もう二度と貴方のこと怖がってたりなんかしないから!だから!」

ヴァッシュ「・・・ありがとう。そう言って貰えると助かるよ」

ヴァッシュ「でも・・・やっぱり、ここにはもう、残れない」

輝夜「!」

鈴仙「そんな・・・!」

てゐ「アンタって奴は・・・」

永琳「それが、答えね?」

ヴァッシュ「・・・はい」

ヴァッシュ「紫さんがこの話を持って来てくれなかったら、俺は一生後悔するところだった」

ヴァッシュ「もう少しで故郷の人々を見殺しにするところだったんだ」

ヴァッシュ「レムが遺した人類を、失わせはしない」

ヴァッシュ「・・・そして、ナイブズとの決着をつけなければならない」

鈴仙「・・・・・・」

てゐ「・・・・・・」

永琳「・・・・・・」

輝夜「トンガリ君・・・」







ヴァッシュ「・・・みんな、今までありがとう」






ヴァッシュ「―――出ていくことにするよ」






・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・

・・・・

~翌日・マヨヒガ~

「ごめんくださーい」

ガラガラ

藍「エリクスさん?どうしまし・・・本当にどうしたんですかその傷!?」

ヴァッシュ「少々のトラブルが発生しまして・・・」ボロッ

藍「あの、大丈夫ですか?一体何が?」

ヴァッシュ「イヤご心配なく、ちょっと張り手と蹴りと拳骨と矢を喰らっただけですから」

藍「いやいや、ちょっとってなんですかちょっとって!」

ヴァッシュ「まぁ、この傷は置いといて・・・あの、今日は藍さんお一人ですか?」

藍「いえ、橙と紫様もおりますが。どちらかとご約束が?」

ヴァッシュ「いえ、藍さんも含めて皆さんに話したいことがありまして」

藍「私も、ですか?お珍しいですね」

ヴァッシュ「ええ、お忙しいところすみません」

藍「いえいえとんでもありません。どうぞお上がりください」

ヴァッシュ「すみません、失礼します。こんな急に申し訳ないですね」

藍「こちらこそせっかく来てくださったのに大した持て成しも出来そうに無くてすみません」

スタスタ・・・

藍「橙、エリクスさんが来てくださったよ」

橙「え!?ほ、本当ですか!?」

ヴァッシュ「や、こんにちは」

橙「こ、こんにち・・・わぁ!顔が傷だらけですよ!?大丈夫なんですか!?」

ヴァッシュ「モーマンタイヨー」

藍「・・・だそうだよ」

橙「は、はぁ・・・大丈夫なら良いのですが・・・」

橙「えと、それよりも!今日はどうしたんですか?急に来てくださるなんて!」

ヴァッシュ「うん、橙ちゃんと藍さん、後、紫さんにも話さなきゃならないことがあるんだ」

橙「私達に・・・ですか?」

藍「紫様は自室におりますので呼んできますね」

ヴァッシュ「あ、すいません」

スタスタスタ・・・

橙「あの、話さなければならないことって?」

ヴァッシュ「ん、まあ・・・余りいい話では無いと思う・・・かな」

橙「え・・・?」

・・・・・・・・・・・・・・・

藍「失礼します」

紫「・・・どーぞー・・・」ムニャムニャ

ガラッ

藍「紫様、もうお昼時ですよ?まだ目が冴えてないのですか?」

紫「昨日ちょっと夜更かししてたでしょー・・・まだ眠いのよー・・・」

藍「もう、一体どこで呑んでたんですか」

紫「ちーがーいーマースー・・・それで、何の用かしらぁ・・・」

藍「あ、ええ。エリクスさんがいらっしゃってですね」

紫「・・・は?」

藍「何でも私達に話したいことがあると・・・」

紫「・・・・・・」

藍「紫様?」

紫「・・・・・・決断はっやいわねぇ・・・もっと悩むタイプだと思ったのに」

藍「は?」

紫「少し待ってて頂くよう言っておいて。着替えたらすぐに向かうわ」

藍「畏まりました」

ガラッ

・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・

紫「お待たせ致しましたわ」

ヴァッシュ「紫さん・・・」

紫「・・・その傷・・・やはり、貴方はそちらを取りましたのね」

ヴァッシュ「・・・ええ」

橙「え?」

藍「紫様、エリクスさんの傷で何かご存じなんですか?」

紫「それは今、本人が話す内容で分かるでしょうね」

藍「はぁ」

橙「あの、それで、一体何を・・・?」


ヴァッシュ「橙ちゃん、藍さん。それに・・・紫さん」



ヴァッシュ「俺は・・・・・・・・・・・・・・・ 」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

紫「それで、いいのですね。ヴァッシュ」

ヴァッシュ「はい」

藍「・・・余りにも急、じゃないですか」

橙「ぐすっ・・・」

ヴァッシュ「ごめんね、二人とも」

紫「・・・貴方がよければ、ウルフウッドさんにお願いしてもう少しこちらに居られるよう・・・」

ヴァッシュ「ありがとうございます。でもやっぱり、もう俺はここにいてはいけないと思うんです」

紫「・・・」ピクッ

橙「ど、どうしてそんなこと言うんですか!」

ヴァッシュ「・・・俺のいた星では、誰もが銃を持っていた」

ヴァッシュ「ただ人を傷つけて殺すためだけの道具だけれども、銃には銃でしか対抗できない」

ヴァッシュ「・・・俺もそれを持っている」チャキ

橙「わ・・・!」

藍「・・・それがですか」

ヴァッシュ「でも、この平和な土地に銃(こんなもの)は必要無い」

ヴァッシュ「そしてこれを使っていた俺自身も・・・」

紫「・・・・・・」

ヴァッシュ「これだけじゃない。俺の右腕には、俺自身知らない恐ろしい力が眠っている」

ヴァッシュ「・・・既に過去に二回もその力を振るって、とてつもない被害を出してしまった」

ヴァッシュ「制御出来ない力を持ったままで、ここの住民を・・・貴方達を危険にさらすわけにはいかない」

紫「・・・・・・・・・・・・」

ヴァッシュ「・・・銃にせよ右腕にせよ、ここに俺が居ることはきっと災厄を招くことになるかもしれない」

ヴァッシュ「だからもう、ここに居られない」

紫「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

藍「・・・そんなこと、言わないでください」

橙「災厄だなんて・・・!」

ヴァッシュ「なんてことを言ったらぶたれてしまいまして、はは・・・」

ヴァッシュ「・・・情けないよなあ、俺」


ガシッ

ヴァッシュ「へ?」



紫「フン!」ゴ ン ! 



ヴァッシュ「おごわッ!?」

橙「にゃー!?」ゴゴーン

藍「頭突き!?」ゴゴーン

ヴァッシュ「ちょ、紫さ」

紫「な に を 感 傷 に ひ た って る か な 貴 方 はっ」ゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴス

ヴァッシュ「いだ!いだ!いだ!すみませ、いだ!」

紫「そんなウジウジしたこと言ってるからぶたれんのよ馬鹿ね」

ヴァッシュ「は、はい・・・」

紫「この地に住むのに必要なことはただ一つ。幻想郷を愛し、平和に暮らせるか否か」

紫「巨大な力を持っているとか、かつてどこかでその力を振るったとか、どーでもいいのよ」

紫「大体それで追い出すことになるなら誰も住めないじゃないの」

ヴァッシュ「え、えと、あ、はい。その通りでございます」

紫「まさか私がそれを怖がって貴方を帰らせようとしたとか考えたんじゃないでしょーね」

ヴァッシュ「えっと、実はちょっとだけ・・・」

紫「・・・はぁ、ま、無理もないわね。この際言うけどつい最近まで貴方を警戒していたのは事実だし」

紫「それで貴方を知ろうとちょくちょく貴方の故郷にお邪魔もしていたわ。そこでウルフウッドさんを知ったのよ」

ヴァッシュ「そ、そうだったんですか・・・」

紫「・・・まあ、結局分かったことと言えば」

紫「貴方は、あの星でも此処と変わらない性格で暮らしてきた、ということね」

紫「争いを嫌う癖にトラブルメーカー。そして根からの平和主義者」

紫「毎日死人が絶えないあの星でよくもまあやるわね。普通じゃないわよ」

ヴァッシュ「はは、やっぱりそう言われちゃいますね」

紫「・・・だからこそ、思ったの」

紫「あの星の住民は貴方を必要としているのではないのか、と」

ヴァッシュ「!」

紫「貴方の生き方こそ、あの争いの絶えない星にとって必要なのではないのかしら」

紫「・・・かつて貴方は保安官を騙る暴力団を一人も殺めることなく倒し、そしてこう言ったそうね」



―――――殺しはしない、一緒に唱えろ。"ラブ&ピース"だ と


ヴァッシュ「・・・ええ。俺の、一番好きな言葉なんです」

紫「あの砂だらけの星でその言葉を本気で望み続けるのは、きっと貴方しか出来ないわ」

紫「それを考えたら、貴方を私達だけで独り占めしちゃっていいのか。そう思っちゃったのよ」

紫「ウルフウッドさんを連れてきたのは、ある程度強くてそこそこ信用できそうな人物に貴方を護衛させるため」

紫「・・・正直言ってあんなシリアスな話されるとは思って無かったけどね」

ヴァッシュ「アイツが連れて来られたのって中々偶然だったんですね・・・」

紫「ま、そういうことよ。怖がって無いって分かって少しは元気出たかしら?」

ヴァッシュ「・・・えーと、まあ、ありがとうございます」

紫「て言うか大体ねえ、こっち来て暴れて倒されて、それで大人しくなってくれればわざわざ警戒しないで済んだのよ」

紫「貴方の故郷に行く必要も無かったし無駄に疲れたじゃないの・・・」

ヴァッシュ「ええ!?俺のせいですか!?」

紫「そーよ全部貴方のせい。全く・・・それで?どうするの?」

ヴァッシュ「えぇ・・・え?」

紫「貴方のことだから結局帰るんでしょうけど、約束まではまだ三日あるわよ」

ヴァッシュ「あ、そうですね。今までお世話になった方々に挨拶にでも回ろうかと」

紫「ん。それがいいわね。送ってく?」

ヴァッシュ「いえ、大丈夫です。十分に間に合うと思いますので」

紫「そう。・・・それじゃ、元気でね」

ヴァッシュ「はい。・・・それじゃあね、橙ちゃん。お世話になりました、藍さん」

橙「え、あ・・・はい。その・・・さよう、なら」

藍「・・・お元気で」

ヴァッシュ「・・・ありがとうございます、紫さん」

ヴァッシュ「幻想郷に来れたこと、本当に嬉しかった。・・・幸せでした」

ヴァッシュ「来れた事は偶然でしたが、此処で過ごした日々を俺は決して忘れない」

ヴァッシュ「―――さようなら」

・・・・・・・・・・・・・・・

紫「(・・・あの星の住民にとっては嬉しい事だろうけど、勿体ない事したわね)」

紫「(萃香の言う通りそっとしておけば良かったのかしら)」

紫「(全く、あの時指名手配の紙を見つけて無かったら彼を疑うことも無かったのに・・・)」

紫「(さとり妖怪がえぐいトラウマ見たって聞いて余計に怪しんじゃったし・・・)」

紫「(・・・失敗したかなー)」ウーン

藍「・・・・・・」ジー

橙「・・・・・・」ジー

紫「え、え・・・何?」


橙「よく分からない話をされてましたけど、結局紫様がエリ・・・ヴァッシュさんを帰らせるよう仕向けたってことですよね?」

紫「し、仕向けたって・・・人聞きが悪いわ」

橙「ヴァッシュさんの故郷にも行ってたって・・・私達の知らない間に」

紫「その、それは彼を調べるためであって・・・」

橙「それで私の知らないヴァッシュさんを知っていらっしゃるようですしね・・・」

紫「あー、いや、その・・・」

橙「・・・紫様、酷いですよお・・・」グスッ

紫「ご、ごめんね!そんなつもりじゃ・・・」

藍「・・・・・・」

紫「あの、藍?ちょっとフォロープリーズ・・・」

藍「あ、いらっしゃのですか紫様」

紫「アーレーェー!?」

藍「今日の晩御飯は橙と二人で食べたい気分ですので」

紫「わ、私は・・・?」

藍「どうぞお一人で」

紫「待ーーって待ーーってまってーーッ!謝るあやまるあやまるかーらー!!」

・・・・・・・・・・・・・・・

~人里~

ヴァッシュ「・・・ということで、今までお世話になりました」

慧音「なりました、じゃない!一体どういうつもりだ、こんな急に帰るなどと!」

妹紅「・・・・・・」

ヴァッシュ「すみません・・・でも、悠長にしてる時間も無いみたいなんです」

慧音「だからっていきなりさようならは無いだろう!」

妹紅「・・・・・・」

慧音「まさか、幻想郷の生活に飽きたとかそういうのじゃないだろうな?」

ヴァッシュ「と、とんでもない!本当にここでの生活は好きですよ!」

慧音「だったらどういうことなんだ!」

ヴァッシュ「う、あー・・・それを説明するのは少し複雑で・・・」

慧音「・・・ふん。そうかそうか君にとって私たちはその程度の存在だったんだね」

ヴァッシュ「違いマスヨー!」

妹紅「・・・・・・」

慧音「妹紅!さっきから黙ってないで何か言ってやって・・・!」

妹紅「・・・・・・」

慧音「・・・妹紅?」

妹紅「・・・ふ」

ヴァッシュ「妹紅さん・・・?」

妹紅「ふえええっ・・・!えええええっ・・・!」ポロポロ

ヴァッシュ「わー!泣ーかーなーいーでー!」

慧音「うわーサイテー」

ヴァッシュ「ごめんごめんってもー!」

・・・・・・・・・・・・・・・

妹紅「・・・ごめん、取り乱したわ」グス

ヴァッシュ「い、いえいえ悪いのは俺ですから・・・」

慧音「本当にな。女一人泣かせておいて何も言えないと来た」

ヴァッシュ「(ヘタな事言ったらまた怒られるからとは言えない・・・)」

妹紅「何時か帰る時も来るのかな、なんて思ったこともあったけど、不意打ちだったから・・・」

ヴァッシュ「すいません、こっちも急に決まったことなので・・・」

慧音「急に決まったって?君が帰らざるを得ない状況になった原因があるのか?」

ヴァッシュ「え、あー。うーんとまあ、そんな感じです」

ヴァッシュ「ただ、嫌々だとかは決して無いのは確かです」

慧音「うーん、どうもはっきりしないな。君はそれでいいのか?」

ヴァッシュ「ええ。自分で決めたことですから」

慧音「しかしだな・・・」

妹紅「慧音、もういいでしょ?えと、ヴァッ、シュ・・・なら、こういう所で曲げない人だって知ってるでしょ」

慧音「確かにそうだが・・・」

妹紅「ね?」

ヴァッシュ「あはは・・・」

慧音「あの、ちょっと待っててくれヴァッシュ君」

慧音「だが・・・おまえは、その・・・いいのか?」ヒソヒソ

妹紅「・・・・・・いいの」ヒソヒソ

慧音「でも・・・おまえは、その・・・ヴァッシュ君を」ヒソヒソ

妹紅「慧音」

妹紅「あんまり彼を困らせちゃいけないわ」

慧音「・・・・・・」

ヴァッシュ「?」

妹紅「お待たせ。・・・ヴァッシュ、こんな急だけれども・・・貴方と過ごした日々、とても楽しかったわ」

ヴァッシュ「あ、ええ。こちらこそ」

慧音「ううむ・・・釈然としないが、私も楽しかったのは確かだよ」

ヴァッシュ「はい。ありがとうございます」

ヴァッシュ「・・・それでは、失礼します」

慧音「もう行くのか?」

ヴァッシュ「ええ。申し訳ありませんが、あちこちに挨拶に回らなきゃならないので」

妹紅「ふふ。貴方と知り合えた人全員に挨拶に行ったら三日じゃ足りないかもね」

ヴァッシュ「いえいえ!間に合わせますとも!」

ヴァッシュ「さて、では・・・今までありがとうございました。妹紅さん。慧音さん」

慧音「・・・ああ」

妹紅「うまく言えないけど・・・頑張ってね」

スタスタスタ・・・


妹紅「・・・・・・」

慧音「(妹紅・・・お前本当にこのままで・・・)」


・・・・・・・・・・・・・・・


慧音「いーーーのかよ!おまえッ!!!」

妹紅「・・・・・・・・」

慧音「もう時間無いぞ!彼は帰っちまう!」

妹紅「・・・・・・・・・・・・」

慧音「迷ってる場合かヘタレ蓬莱人・・・」

ゴン!

慧音「ぎば!」

妹紅「・・・そうよ、慧音。不老不死の化け物が私の正体よ」

慧音「・・・・・・・・」

妹紅「"おこがましいの"分かるでしょ?」

慧音「・・・・・・・・」

妹紅「・・・・・・・・」

慧音「・・・ッ!!それでも言うべきだーっ!!棚上げしろッそんな考え!!!」シュッシュッ

妹紅「何よ!?貴女、自分にできもしないことをぬけぬけと・・・」ピコピコピコピコ

マミゾウ「・・・・・・・・・・」

慧音「・・・・・・・・・・」

妹紅「・・・・・なに?」

マミゾウ「わっ儂がッ説得してくるッ!!!」ダッ

妹紅「えっえーーーーッ!!!」

慧音「おい待て!!!」


ギャー!ギャー!ギャー!ギャー!

・・・・・・・・・・・・・・・

~紅魔館~

レミリア「バッカ・ザ・スタンピーーード!!!」

グシャァ!

ヴァッシュ「ゲベーーーッ!?」

美鈴「お嬢様落ち着いて!」

パチュリー「(バッカ・ザ・スタンピードって何だろう)」

レミリア「ダボ!!カス!!トンガリ!!駄々っ子のヘタレ!!」ゲシゲシゲシ

ヴァッシュ「ブベ!すいませゴヘ!」

咲夜「(あ、なんかいつか見た光景ねこれ)」

レミリア「本名はヴァッシュ・ザ・スタンピード!?銃の使い手だった!?」

レミリア「そんなことはどうでもいいのよ!」

ヴァッシュ「う、うん・・・」

レミリア「・・・どーして、急に元の世界に帰るなんて言うのよ」

ヴァッシュ「・・・・・・ごめん」

レミリア「~~~!ムカつく!!」ゲシ!

ヴァッシュ「あだ!」

パチュリー「いい加減になさいレミィ。貴方が口出しする問題じゃないでしょ」

ヴァッシュ「いや、正直ぶたれるだろうなーとは思ってたし」

パチュリー「実際はぶたれるどころか後頭部に蹴りだったわね」

ヴァッシュ「それも予想してたかなぁーなんて・・・」

レミリア「フン!」

咲夜「それにしても、本当に急な話ですわね。何かあったのですか?」

ヴァッシュ「うん、まぁね」

レミリア「まさか、誰かに帰れとか言われた訳じゃないでしょうね」

ヴァッシュ「そうじゃないんです。ただ、やらなくちゃいけないことが出来た」

美鈴「やらなくちゃいけないこと・・・ですか」

ヴァッシュ「本当にごめん!でも、こればかりは俺も譲れないんだ」

咲夜「・・・そうですか」

レミリア「何が譲れないよ、意味わかんないし・・・」

パチュリー「("俺"ねぇ・・・)」

レミリア「貴方はそれでいいかもしれない。でも、フランはどうするのよ」

ヴァッシュ「もちろん、彼女にも別れを言って」

レミリア「納得するわけないわよあのじゃじゃ馬は!」

ヴァッシュ「じゃじゃ馬って・・・」

レミリア「貴方が帰ると言ったら最後。大暴れよ!」

ヴァッシュ「いやいやーあの子に限ってまさか!」

レミリア「いーーーーや違うね!本当は一回暴れたら私達全員でも手に付けられないほどの癇癪持ちよ!」

パチュリー「うっわ。ここぞとばかりにネガキャンしてるわ」

レミリア「大体あの子は普段は引きこもってて碌に会話も出来ないし」

レミリア「そんなコミュ障が唯一まともに話せるのは貴方くらいなものなのよ」ガチャッ

フラン「・・・・・・」スタスタ

美鈴「あ、妹様」

レミリア「なのに貴方がいなくなったら暴れるだけ暴れてまた引きこもるわ!」

フラン「・・・・・・」

パチュリー「あららこれはまずい」

咲夜「私達は少し部屋の外にいましょう」スタスタ

フラン「・・・・・・」

レミリア「あの愚妹の手綱を握れるのは貴方しかいないんだから」

レミリア「ボンクラ妹の為にも幻想郷に残って・・・」

ヴァッシュ「・・・あの、レミリアさん」

レミリア「なによ!!」

ヴァッシュ「フランドール、隣にいます」

レミリア「へゃ?」


フラン「・・・・・・」

レミリア「・・・・・・」

ヴァッシュ「・・・・・・」



・・・・・・・・・・・・・・・


レミリア「あの。フラン」


バ キ ュ ッ ! 


―――数ミリ先を超高速で物体が通り過ぎる感覚 焼けた匂いは自分の肉か


レミリア「(感じるわ・・・私は今、大自然の創り出すとてつもない暴風の前に―――)」

レミリア「(―――ただ独りで立たされている蟻だ)」

レミリア「ぱ、パチェ。助け・・・」

シーン

レミリア「(あいつら逃げやがった・・・!)」

ヴァッシュ「・・・フランドール。話がある」

フラン「聞いてたわ。帰るんでしょ、外の世界に」

フラン「エリクス・・・いえ、ヴァッシュ・ザ・スタンピード」

ヴァッシュ「すまない。こんな急に」

フラン「本当よ。貴方が帰るって分かったら昨日の宴会も無理してでも行ってたわ」

ヴァッシュ「・・・・・・」

フラン「昨日だけじゃない。此処からひっそり抜け出して私から永遠亭に行ってたかもしれない」

ヴァッシュ「フランドール・・・」

フラン「もっと話を聞きたかったし、もっと笑顔を見せて欲しかった」

フラン「・・・もう、出来なくなるなんてね」

ヴァッシュ「・・・・・・」

フラン「・・・・・・」クスッ

ヴァッシュ「本当に、すまな・・・」

フラン「ぐいーっ」ギューッ

ヴァッシュ「フ、フリャン?」

フラン「ふふ、変な顔」

ヴァッシュ「ふがが・・・ほっへはひっはらないで(頬っぺたひっぱらないで)」

フラン「ほら、なんだかニコニコ顔に見えるわよ」グイー

ヴァッシュ「あはあはは・・・」

フラン「・・・・・・」

フラン「笑いなさい。ヴァッシュ」

ヴァッシュ「!」

フラン「貴方はやっぱり、笑ってる方が素敵よ」

ヴァッシュ「う、あ・・・」

フラン「そうでしょう?」パッ

ヴァッシュ「・・・そう、だね。うん、そうだ」

フラン「貴方の笑顔、とても好きよ。向こうでもそれを忘れないでね」

ヴァッシュ「うん。ありがとう。約束するよ」

フラン「・・・さようなら。ヴァッシュ」

ヴァッシュ「・・・さようなら」

咲夜「お見送り致しますわ」

美鈴「私もお伴します」

パチュリー「私はここで失礼するわね。・・・さようなら。ヴァッシュ」

ヴァッシュ「ああ、ありがとう。・・・それじゃ、さよなら。パチュリー、レミリアさん・・・フランドール」

ガチャッ スタスタスタ・・・

レミリア「・・・はっ!アンタら何時の間にいたのよ!?」

パチュリー「さっき。いいもの見せて貰ったわ」

レミリア「え」

パチュリー「妹はいい雰囲気になったのに姉と来たら」

レミリア「お、あ・・・」

パチュリー「ほらほら、なんか言ってみなさいよ」

レミリア「・・・応えてくれ 理解(わか)らせてくれ」

パチュリー「その件は前にやったでしょ」

レミリア「はい・・・」

フラン「・・・部屋に戻る」

パチュリー「ええ。お疲れ様」

フラン「・・・・・・」

スタスタスタ・・・

フラン「・・・・・・」

カクシンサセテクレ、ショウメイシテクレ

ツヅケナイデヨ

フラン「・・・似たもの同士だなんて思ってたけど」

フラン「今の彼は少しだけ違ってた気がしたなあ」

フラン「ちょっと、残念かも」

フラン「・・・でも・・・それでも、やっぱり」

フラン「もっと、一緒に、居たかった・・・なあ」



―――私は そのひ 一日じゅう 泣きました


・・・・・・・・・・・・・・・

~地霊殿~

空「か、帰るって・・・」

勇儀「そう、か・・・楽しかったよ。アンタと呑むのは」

パルスィ「急に来たと思えば急に帰るなんて妬ましいわ。妬ましくて・・・寂しいわ」

燐「お兄さん・・・」

さとり「・・・・・・」

ヴァッシュ「みんな、今までありがとうね」

パルスィ「でも、なんでまたこんな急なのよ?」

ヴァッシュ「あー、ええっとそれは・・・」

さとり「簡単に言えば故郷の人類を救うためですって」

ヴァッシュ「ちょ、ちょっとさとり、俺はそんな・・・」

勇儀「・・・人類を救うだぁ?」

パルスィ「何言ってんの・・・いや、思ってんのよ貴方」

さとり「説明すると、彼の星ではある集団が今にも人類を皆殺しにしようとしている状況です」

さとり「彼はそれを知り、その集団の親玉に対抗できる力を持つ自分だけが人類を助けられる」

さとり「そう思って今回、早く故郷に帰るために急なお別れとなってしまったということです」

パルスィ「・・・えぇー引くわー・・・」

勇儀「こりゃまたえらいスケールの話だねえ」

ヴァッシュ「いやそんな立派なもんじゃなくて!」

さとり「省きましたがそんなところでしょう?」

ヴァッシュ「近いようなそうでもないような・・・」

さとり「ま、もっと深い事情というか心情はあるのでしょうが有体に言えば、ですよ」

パルスィ「心情・・・貴方妄想癖でもあったの?」

ヴァッシュ「違う違うちがう!」

さとり「いえいえ本当のこと・・・みたいですよ」

空「ね、ねぇ・・・エリクスが、本当はヴァッシュ・・・?だとか、人類を救うとかよく分からなかったけど・・・」

空「その、貴方が帰るって・・・つまり、幻想郷から出るって・・・こと?」

ヴァッシュ「うん・・・ごめんよ」

空「じゃ、じゃあ!もう会えないってことなの!?」

燐「そう、だよ・・・もう、きっと会えない・・・!」

空「・・・わあああん!行っちゃやだよお!!」ポロポロ

燐「っ!な、泣かないでよお空・・・あ、あたいだって泣くの我慢して・・・たのに・・・・!」ポロポロ

ヴァッシュ「あ、あらららら」

空「エリクス!じゃない、ヴァッ・・・も、もうどっちでもいいからここに居てよお!」ギュッ

燐「お兄さん、お願い。行かないで、よ・・・!」ギュッ

ヴァッシュ「あらららー困ったなぁもう」

パルスィ「両手に花でこんな時までデレデレして、口では嫌がっても体は正直ね」

ヴァッシュ「何言ってんの!?」

勇儀「ほらほらアンタ達、ヴァッシュが困ってるだろう」

空「で、でもぉ・・・!」

勇儀「確かに悲しむ気持ちは分かるよ。あたしだって別れたくはないさ」

勇儀「でもね、この男は誰かを護るために戦いに行くんだ。そのために別れを言ってけじめを付けに来たんだよ」

勇儀「そんな強い意志を持っている奴を引き留められやしないよ。アンタのような頑固者は尚更ね」

ヴァッシュ「勇儀さん・・・」

勇儀「いやーしかしやっぱりあたしの見込んだ男だ!人類を救うなんて格好つけやがって!」バンバン

ヴァッシュ「いった!いたた!背中叩かないで!!」

勇儀「はっはっは!照れるな照れるな!」

パルスィ「やれやれ。ま、そういうことね。泣いてても悲しいだけよ」

空「ひっく・・・!」

燐「・・・うん・・・分かったよ・・・」

勇儀「あたし達に出来ることと言えば、せめて気持ちよく帰ってくれるために盛大に送り出すことさ」

勇儀「だからもう泣くんじゃないよ。笑ってくれた方がこの男は喜ぶよ。・・・だろう?」

ヴァッシュ「ええ。そうです。ほら、二人とも。もう泣かないでくれよ」

空「うん・・・うん!」

燐「・・・お兄さん、達者でね!」

パルスィ「ま、こういうの柄じゃないけど。応援してるわ」

ヴァッシュ「・・・はは。ありがとう。みんな」

勇儀「頑張りなよヴァッシュ!アンタならきっとやれるよ!」





さとり「―――駄目ですよ。勇儀さん」




勇儀「・・・んん?さとり?」

さとり「ヴァッシュを行かせては駄目です」

勇儀「おいおい、今更何言ってるのさ」

パルスィ「あらら、貴女が駄々こねるなんて珍しいじゃないの。でも水を差しちゃダメよ」

さとり「それはすみませんでした。でも、行かせませんよ」

空「・・・さとり様?」

燐「さとり様、どうされたんです・・・?」

ヴァッシュ「さとり、引き留めてくれるのは嬉しいけどやっぱり俺は・・・」

さとり「それほど、あの星の住民が大切なんですか?」

ヴァッシュ「・・・うん。大事だ。絶対に護りたい」

さとり「別にいいんじゃないですか?どうなっても」

ヴァッシュ「・・・なんだって?」

パルスィ「さとり、何言って・・・」

さとり「貴方が護る必要なんて無いじゃないですか。同族では無いのに」

ヴァッシュ「・・・だけど」

さとり「いえいえ。人間じゃなかったら人間を助けちゃいけないなんてルールはありませんよ」

さとり「でも助けたのを感謝している人は貴方を人間と思ってるから感謝してるわけであって、人外と知ったならすぐに態度を変えますよ」

さとり「・・・ふうん。恩を受け取ることを前提に助けてるわけでは無いと。ご立派ですねご立派です」

勇儀「さとり、どうしたんだよ?」

さとり「でも窮屈でしょう?自分を隠したまま生きるのは」

さとり「幻想郷なら貴方が人外でも全く問題ありません。何も辛いことはありませんよ」

さとり「あんな故郷なんか忘れてしまいましょうよ」

燐「な、ちょっとさとり様・・・!?」

さとり「貴方にとってあの住民は身内と思っても、向こうは決してそう思うことは無い」

さとり「それどころか貴方の正体を知ったならば血まなこになって集団でくびり殺しに来るでしょうね」

空「え、こ、殺しって・・・」

さとり「たとえ助けられても貴方が人外と言うだけで拒絶する。そんな星なんて帰る必要ないでしょう」

さとり「この際、庇う対象も居なくなって終わりにすれば・・・」

ヴァッシュ「・・・おい、そんな言い方はねェだろ!」

さとり「っ・・・何故ですか。どうしてそうも執着するんですか?」

ヴァッシュ「救える筈の命なら救うのが普通だろ?人間だろーと無かろーと関係無いさ」

さとり「そんなの、普通ではない!だって貴方は!」

ヴァッシュ「さとり。君がどんな経験から言ってくれてるのか分からないが・・・」

ヴァッシュ「俺のやってることはある意味自己満足だ。気にかけてくれる必要なんてないんだよ」

さとり「どうしてそう思えるんですか!?憎んで当然の筈なのに!!」

ヴァッシュ「なんだよ、さとり。さっきから―――」

さとり「もし・・・もし、貴方が一年産まれてくるのが遅かったのなら・・・!」



さとり「貴方が、テスラだったかも知れないんですよ!!」


※遅かったら→早かったら に訂正

ヴァッシュ「・・・ッ!!」

パルスィ「・・・テスラ?」

勇儀「誰かの名前かい?」

さとり「あ、ち、違・・・!」

空「お、お燐。テスラって・・・?」

燐「いや・・・分からないよ・・・?」

ヴァッシュ「・・・・・・何故だ」

さとり「あ・・・」

ヴァッシュ「何故君が、彼女を知っている?」

さとり「・・・わ、私の、能力・・・です」

さとり「今考えていることを読むだけでなく、過去の、所謂トラウマを想起することができる・・・んです」

さとり「・・・見て、しまったんです。貴方の、その・・・トラウマを」

勇儀「(それで様子がおかしかったのか)」

パルスィ「(惚れた云々とか思ってた私なんなのよ)」

ヴァッシュ「・・・それで、あんなこと言ったんだ」

さとり「ごめん、なさい・・・で、でも、それを知って、貴方を帰らせるなんて出来ない・・・!」

さとり「それだけじゃない、貴方は人間と関わる度に、何度も傷つけられて・・・」

ヴァッシュ「・・・大丈夫だよ、俺は」

さとり「見た目より頑丈に出来てるだとかそんなことじゃないの!心のことを言ってるんですよ!」

さとり「・・・もう、止めにしませんか。全てを断ち切って静かに暮らして下さい」

さとり「今の生き方を続けてたら、貴方が壊れてしまうわ・・・」

ヴァッシュ「・・・・・・」

さとり「・・・お願い、です、ヴァッシュ・・・行かないで、ください」

さとり「貴方が、傷つくのを、見たく、ない・・・!」

さとり「せ、せっかく・・・友、達に、なれたのに・・・!」

ヴァッシュ「・・・・・・やれやれ」

ギュッ

さとり「んっ・・・」

空「わっ」

燐「・・・!」

勇儀「お・・・」

パルスィ「チッ」

こいし「SHIT!!!」

ヴァッシュ「泣くなよぉさとり。君はすっかり泣き虫になっちゃったなあ」

ヴァッシュ「心配するなよ。俺なら大丈夫だ」

さとり「・・・でも」

ヴァッシュ「テスラのことはね。やっぱり許せないし、はっきりと間違いだって言える」

ヴァッシュ「でも、人は変われる。時間はかかるし時には後戻りもするけど、人は前に進めるんだ」

ヴァッシュ「何より、過ちだけを見て人類全てを憎むなんて・・・そんなの虚しいじゃないか」

さとり「人間を甘く見すぎですよ、貴方は」

ヴァッシュ「甘くもなっちまうさ。『彼女』が護ったものだからな」

さとり「・・・たったそれだけの理由で闘うのですか」

ヴァッシュ「たったそれだけの理由で俺は闘えるんだ。・・・女絡みって言わないでくれよ?」

さとり「言いませんよ。バカ」

さとり「・・・一つ、よろしいですか」

ヴァッシュ「なんだい?」

さとり「もし、決着がついて全てが終わって・・・でも、貴方も強大な力を持ってると知られて」

さとり「それで、救ったはずの人類全てから追われる身になったとしたら・・・」

さとり「貴方は、どうするんですか?」

ヴァッシュ「・・・そうだなあ」



ヴァッシュ「・・・・もしも、そうなったら―――」

さとり「・・・・・!」

・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・

さとり「・・・はぁ」

こいし「JESUS!!」ニョキッ

さとり「・・・さっき一瞬貴女居たわよね」

こいし「YEAH!!・・・でさ、行かせて良かったの?」

さとり「ああ言われちゃったら、何も言い返せないもの」

こいし「まあねぇ。いい口説き文句だったもんねぇ」

さとり「口説きとは違うんじゃないの・・・」

こいし「まあどう言ってもきっと帰るって聞かなかっただろうしね」

さとり「ホント。流されやすいと思ったら実は強情っぱりだもの」

こいし「ふーん」

さとり「その上お調子者で、軽薄で、けっこうウジウジしてて、ある意味バカで・・・でも、優しくて」

こいし「・・・・・・」

さとり「それにね、ああ見えて・・・」

こいし「・・・・・・」

さとり「・・・こいし?」

こいし「SHIT!!」

さとり「こ、今度は何!?」

こいし「なんだか知らんがヴァッシュにムカついた!」

さとり「え、あの、なんで・・・?」

こいし「スーパーアルティメット古明地ファミリーの恐ろしさ・・・!!思い知らせたる!!」

さとり「ちょっと、どうし」

こいし「まごうことなき必殺の ミ サ イ ル こいし―――シューート!!」ヒュッ

さとり「ど、どこ行くの!?こいしー!」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

さとり「もう、ヴァッシュがどこにいるかも分からないのに・・・」

さとり「・・・・・・はぁ」

さとり「何も、言えなかった・・・わね」

さとり「真っ直ぐああ言われたらもう、何も言えないもの・・・ずるいわ」



『もしもそうなったら、僕は急いで逃げよう』


『そしてまたほとぼりがさめたら、静かに寄りそうよ』


・・・・・・・・・・・・・・・

「なんだよ、もう行っちまうのか」

「貴方ってもう何年もここに住んでるような感じだったわよね」

「本名は・・・ヴァッシュ?」

「ヴァッシュ・・・?」

「変わった響きねえ」

「ヴァッシュ・・・」

「ヴァッシュ・・・」

・・・・・・・・・・・・・・・

~永遠亭~

ヴァッシュ「さて、最後はやっぱりここだが・・・」

ヴァッシュ「うぅ~む、中々玄関を開け辛い・・・」

ヴァッシュ「まだ怒ってるかなー、まだ怒ってるよなー、ごめんなさーい弓は怖いデスヨー・・・」

ヴァッシュ「しかし・・・ちゃんと挨拶をしないまま帰るわけには・・・」

ヴァッシュ「・・・ええいままよ!」

ガラガラ

ヴァッシュ「ただいまー!いやーようやく挨拶終わりましたよー!」

タッタッタッタ・・・

ヴァッシュ「・・・お?」

てゐ「よ。おかえり」

ヴァッシュ「あ、ああ。ただいま」

てゐ「晩御飯、まだ食べてない?」

ヴァッシュ「うん・・・まだだなあ」

てゐ「そりゃよかった。用意してるから食べよ」

ヴァッシュ「あ、はい。ごちそうになります」

てゐ「んじゃ行こっか」

ヴァッシュ「うん・・・」


・・・・・・・・・・・・・・・


スタスタスタ・・・

ヴァッシュ「・・・・・・」

てゐ「・・・・・・」

ヴァッシュ「・・・・・・あの」

てゐ「ヴァッシュ」

ヴァッシュ「っと・・・な、何?」

てゐ「えーと、その・・・ぶったこと、まだ怒ってる?」

ヴァッシュ「いやいやいや!そんなこた無いよ!俺も失言だった・・・って紫さんに言われちゃったし」

てゐ「そっか・・・でもやっぱりスッキリしないから謝るよ。ごめん」

ヴァッシュ「こちらこそ。寧ろ悪かったね。変な事言って」

てゐ「ん・・・アンタも一応、家族・・・みたいなもんだからさ」

てゐ「自分を災厄だとか言うのはもうやめてよ。その・・・悲しいでしょーが・・・」

ヴァッシュ「ああ、もう言わないよ」

てゐ「うん・・・なら、いい・・・」

ヴァッシュ「・・・なんだい。らしくないなあ、隊長。いつものように罵倒してくれなきゃ調子狂うよ」

てゐ「う、うっさい!あたしだって気にする時は気にするっつーの!」

ヴァッシュ「はは。ともかく、じゃあ仲直りと言う事で」

てゐ「うん・・・はぁ、何だか疲れた」

ヴァッシュ「でも案外あっさり仲直り出来てよかったよ」

てゐ「ま、明日帰っちゃうんだしね。最後までギスギスしたくないし」

ヴァッシュ「そだね。・・・それで、他の三人はどんな感じ?」

てゐ「師匠さんは別に気にしてない様子だけど、他の二人は・・・まあ、ちょっとね」

ヴァッシュ「うーん、やっぱり怒ってる感じかなあ」

てゐ「というよりも・・・まあ、見れば分かるよ」

ガラッ

輝夜「・・・・・・」ズーン

鈴仙「・・・・・・」ズーン

ヴァッシュ「うわ、暗い!」

てゐ「喧嘩別れになるかもってアンタが挨拶に回ってる間ずっとこんななんだよ」

ヴァッシュ「別に気にして無いから!ほら、折角最後なんだしね!」

輝夜「・・・!」ズズーン

鈴仙「・・・!」ズズーン

ヴァッシュ「おわ!もっと暗くなった!」

てゐ「馬鹿。最後とか言ったらますます落ち込むだろーが」

スタスタスタ・・・

永琳「ま、言おうが言うまいが明日の朝には帰っちゃうのは変わりないものね」

ヴァッシュ「あ、先生」

永琳「おかしいわね。貴方確か串刺しになってなかった?それももう刺せる所が無い位」

ヴァッシュ「なってませんよ!!」

永琳「あ、そう。じゃあこれも食べれるわね」ズイ

ヴァッシュ「これ・・・え?何です?これ」

永琳「晩御飯。炒飯。見れば分かるでしょ」

ヴァッシュ「えっと、まさかとは思いますが、永琳先生が作ったとか・・・」

永琳「何がまさかよ。鈴仙もこんなんで貴方も居ないんだから私が作るしかないでしょーが」

ヴァッシュ「嘘ォ!?先生料理できたんですか!?」

永琳「あら、どういう意味かしら?」

ヴァッシュ「だって薬作るしか能が無いと思ってたから・・・」

永琳「貴方今から磔。壁に打ち付けられたままどうやって食べるか考えなさい」

ヴァッシュ「ごごごご、ごめんなすぁい・・・!」

てゐ「自分から喧嘩売ってどーすんだよ」

永琳「さ、ほら。姫、うどんげ。食べましょ」

鈴仙「あ・・・えと・・・いりません」

輝夜「私も・・・それよりも、その、トンガリ君と・・・」

ヴァッシュ「あー、その、前は悪かったね!変な事言っちゃってさ!」

鈴仙「あ、謝らないで、そんな・・・ゴニョゴニョ」

輝夜「そう、よ。貴方の気持ちとか、分からないのに酷い事して・・・ゴニョゴニョ」

永琳「・・・・・・」イラッ

てゐ「は、早く食べようよ!お腹も空いたしね!」

永琳「そうね。冷めちゃうわよ」

鈴仙「・・・・・・無理です・・・」

永琳「うっさい。食べなさい」

てゐ「どーせこのまま続けても謝り合ってグダグダになるんだからさ。話すよりパーッと食べようよ」

永琳「・・・一緒に食べるのも最後なんだから」

輝夜「・・・!」

ヴァッシュ「おお、うまひよへんへい!!」ガツガツ

永琳「ほら。この能天気はもう気にしないで喰ってるわよ」

輝夜「・・・・・・っ」バクッ 

鈴仙「!」バクッ

てゐ「・・・」モグッ

永琳「んじゃ、追加の料理作って来るわ」

ヴァッシュ「おねはいひまーふ」モグモグ

永琳「喰ったまま喋んじゃないわよ」



鈴仙「・・・・・・」バクバクバクバク

鈴仙『いつも薬売りに着いて来てくれてありがとね。エリクス』

ヴァッシュ『うん?急にどうしたんだい?』

鈴仙『・・・あのね、私ってちょっと人見知りな所あるんだ』

鈴仙『薬の話なら出来るけど、世間話とかは少し苦手なの』

ヴァッシュ『あれ、そうなんだ』

鈴仙『だから、薬売りの時にそういうこと話しかけられてもうまく返せなくていい印象与えなかったりすることもあったんだけど・・・』

鈴仙『今は貴方がうまく話を盛り上げてくれるからね。そのおかげで評判も上がってるわ。何より安心できるもの』

ヴァッシュ『はは、そう言ってくれるのは嬉しいな』

鈴仙『うん・・・だから、これからも一緒に居てくれる?』

ヴァッシュ『お安い御用だよ』

鈴仙『・・・ありがと。エリクス』

ダンッ ←パスタ


ヴァッシュ「・・・」グルグルグルグル

鈴仙「・・・」ズルズルズルズル

輝夜「・・・」モグモグモグモグ

永琳「・・・」ガツガツガツガツ

てゐ「・・・」ズールズールズール


輝夜「・・・・・・」モグモグモグモグ

輝夜『貴方っていつもそのロングコートを着てるわね。暑くないの?』

ヴァッシュ『全然!『向こう』は幻想郷よりずっと暑かったからここじゃ尚更平気だよ』

輝夜『そうなの。・・・でも、どうしていつもそんな格好してるの?』

ヴァッシュ『僕のトレードマークだからね!ポリシーってやつかな』

輝夜『それと、傷だらけの素肌を見せたくないから・・・というのもあるかしら』

ヴァッシュ『・・・まあ、少しね。特に女の子にはあんまり見せたくないんだ。モテなくなっちゃうから』

輝夜『そんなことないわ。貴方をよく知る人ならそんなことで貴方を拒絶したりしない。・・・少なくとも私はそうよ』

ヴァッシュ『・・・ありがとう。輝夜』

輝夜『(まあ、本当はモテないほうが都合いいけど・・・なんてね)』

ヴァッシュ『?』

輝夜「・・・・・・ッ!」グスッ

鈴仙「!・・・う、く・・・」グスッ

ヴァッシュ「え、えーと・・・」オロオロ

永琳「・・・・・・」イライライライラ


ズダンッ ←サラダ


永琳「・・・・・・」

てゐ「・・・・・・」モシャモシャ

ヴァッシュ「・・・・・・」ムシャムシャ

輝夜「・・・・・・!」モグモグ

鈴仙「・・・・・・っ」バリバリ

てゐ『因幡たちも随分アンタに懐いたようだね』

ヴァッシュ『うん、みんないい子だねえ』

てゐ『ま、あたしの面倒見がいいからね!リーダーの実力ってやつ?』

ヴァッシュ『隊長!人使いが荒いのを直してくれって意見もありましたよ!』

てゐ『愚痴まで聞いてんじゃねえ!・・・ったく、この優しさが伝わらないとは』

ヴァッシュ『あはは、伝わっているとは思うよ。大切に思ってるっての僕でも分かるから』

てゐ『うるさい、そーゆーこと言うなよ恥ずかしい・・・』

てゐ『ま、子分のことはしっかり面倒見るよ。アンタ含めて』

ヴァッシュ『あれぇ!?僕子分なの!?』

てゐ『アンタなんて子分の子分よ。・・・ま、その分しっかり面倒見てやるからね』

永琳『ねえ、エリクス』

ヴァッシュ『はい?』

永琳『貴方のその古傷、時間をかければ見えにくくする位は出来るんだけど・・・』

ヴァッシュ『そうなんですか?』

永琳『まあ、ね。何年位はかかるかも知れないけどそれでも良ければやりましょうか?』

ヴァッシュ『うぅーん・・・気持ちはありがたいのですが』

永琳『そ。何か思い入れでもあるのかしら』

ヴァッシュ『まあ、名誉の負傷ってやつですかね!格好いいでしょう?』

永琳『・・・はあ、貴方って触れられて欲しくない時っていつもそーやってとぼけるわね』

ヴァッシュ『え、あ・・・バレバレ?』

永琳『バレバレ。別に悪いことじゃ無いけど。知られたくない過去を穿り返すなんてしないわ』

永琳『・・・でももし自分から話してくれたら、嬉しいって思う』

・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・


チュンチュン チュンチュン

ヴァッシュ「・・・・・・げっふ」

鈴仙「(しまった・・・)」ゲフ

輝夜「(少し意地になりすぎた・・・)」ハライタイ

永琳「・・・・・・・ねむ」

てゐ「・・・朝になっちゃったね」

輝夜「そうね・・・」

鈴仙「・・・さ、最後なのに徹夜でご飯って・・・」

永琳「チャーのみたーい・・・」

てゐ「とりあえず・・・仕度しなきゃ・・・」

ヴァッシュ「ああ・・・そうだね」

輝夜「・・・・・・トンガリ君」

ヴァッシュ「・・・ん?」



輝夜「忘れないでね」

輝夜「私たちのこと」



ヴァッシュ「・・・ああ。勿論」


―――平穏な日々は終わり―――



輝夜「ハンカチ持った?ティッシュ持った?」

鈴仙「銃も持った?忘れ物無い?」

てゐ「ホラ。おべんと。あっちで食べなよ」

永琳「よし。もうやり残したことは無いわね?」

ヴァッシュ「うん!もう大丈夫だよママ!!」

紫「さっさとしなさいな」イラッ

―――そして―――



―――この境界を抜ければメルドレークに着けますわ。


―――そこでウルフウッドさんが待っています。貴方が帰る旨はもう伝えてありますので。


―――何から何まで済みません。お世話になりました。


―――・・・元気でね。


―――うん。





―――・・・それじゃ、みんな。

――――――旅が始まる――――――






     「いってきます」






    「いってらっしゃい」





・・・・・・・・・・・・・・・


ウルフウッド「行くで。トンガリ」


ヴァッシュ「ああ。ウルフウッド」


・・・・・・・・・・・・・・・


























―――ヴァッシュ


―――ナイブズを


―――孤独(ひとり)にしないで















―――飛ぶぞ、ナイブズ。








・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・

・・・・


ナイブズ「・・・こいつを・・・この男を・・・救ってくれ」



ナイブズ「こいつはあんた達に・・・必要な・・・男だ!!!」


・・・・

・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・


















・・・・・・・・・・・・・・・


―――方舟事件から半年―――


~辺境の病院~


「・・・ッシュ・・・!ヴァッシュ!!」

ヴァッシュ「・・・・・・ん」パチッ

「あ、お、起きた!」

ヴァッシュ「おう、カリート。おはよう」

カリート「おはようじゃないよ!ヴァッシュ!」

ヴァッシュ「うーん?どうしたってのさー?」

ガチャッ

医者「地球軍だよ。もうこっち来てる」

カリート「父ちゃん!ヤバイよねヤバイよねあれ!」

ヴァッシュ「・・・そーか。とうとう気づかれちまったか」

医者「の、ようだな」

・・・・・・・・・・・・・・・

医者「急だがお別れの時だな」

ヴァッシュ「ごめんよ」

ヴァッシュ「(・・・あの時も長く世話になったってのに急な別れだったな)」

医者「さあもう行け。ここのマンホールからなら気付かれず遠くに逃げきれるだろう」

ヴァッシュ「何もかもすまない。二人とも」

カリート「ヴァッシュ・・・」

医者「人目のつかないところでひっそりと暮らせ。お前はもう十分に頑張った。そうだろう?」

ヴァッシュ「・・・うん・・・ありがとう・・・」

・・・・・・・・・・・・・・・

ヴァッシュ「(久しぶりに、あの時の夢を見た)」

ヴァッシュ「(得体の知れない俺を受け入れてくれた所・・・)」

ヴァッシュ「(人間でない俺を、人間で無いと知って受け入れてくれた所・・・)」

ヴァッシュ「(・・・幻想郷)」

ヴァッシュ「(たったの二年だけど、あの時と同じくらい幸せだった)」

ヴァッシュ「(レムと・・・ナイブズと一緒にいた時と同じくらいに)」

ヴァッシュ「(出来るなら、もう一度彼女達と会いたい・・・けど・・・)」

ヴァッシュ「(感傷に浸る前に・・・)」

ヴァッシュ「(まずは逃げ切りませんとネーーー!)」

ヴァッシュ「・・・お、出口・・・か?」

ガゴン

地球軍「・・・さもなくば」

ヴァッシュ「?」

地球軍「こちらは全軍による武力行使も辞さない所存である!!」

ヴァッシュ「!!!(何言っちゃってんのコイツ!!!)」

地球軍「・・・と、思ったが」

ヴァッシュ「・・・?」

地球軍「何か嫌な予感がするので、現場での即時対応と言うことで即刻突入させていただく!!」

ヴァッシュ「!!!!!」

地球軍「5!4!3!2!1・・・」

ヴァッシュ「(も、もう・・・)」

地球軍「・・・ゼ」

ヴァッシュ「(どうにでもなれじゃァー!!)」

地球軍「ロ!」

ガコンッ

ヴァッシュ「イエエェェェエイ!!!」バッ

地球軍「!!??」

「あれは・・・!深紅にたなびくコート!!!」 「ツンツンにとんがらがった髪!!!」

「まさか・・・」 「いや、間違いない・・・あいつが・・・!」


「「「ヴァッシュ・ザ・スタンピード!!?」」」



ヴァッシュ「イエーーース!!俺はここデーーーース!!!!」バキューンバキューンバキューン



医者「あの馬鹿!!台無しじゃねぇか!!」

地球軍「捕えろーーー!!」

ドチューンドチューンドチューン

ヴァッシュ「うおおおおお!!」ドドドドド

ヴァッシュ「(今だけだ!!!連中だけ何とか振り切ってあとは・・・)」

ヴァッシュ「(変装して暮らそう!ヅラ被って差し歯入れてカイゼル髭付けて語尾とかザンスにして・・・)」

ヴァッシュ「(このまま誰にも知られずノーマンズランドの一市民として・・・)」

ヴァッシュ「(ひっそりとゆったりとおっとりとのうのうと)」

ヴァッシュ「(オブティミスティック且つ左扇子方向のロハスロハススタイルで暮らしてゆくのだ・・・!!!)」



賞金稼ぎ「あ、ヴァッシュ」ヌッ

ヴァッシュ「イーーーーヤーーーーー!!!」ズザーーーー

賞金稼ぎ「おお!?何だ出やがったなタマ無し地球民(テラン)ちゃんども」ドドドド

地球軍「何をする!止め給えこのクソ原住民!」ダキュンダキュンダキュン

ヴァッシュ「け・・・けんかをやめて・・・とめて・・・」

地球軍「ブッ殺すサル軍団!!」ボガーン

ヴァッシュ「あーーーーーーっ」ヒュルルルル

賞金稼ぎ「逝きさらせウラナリ地球民!!」ドズーン

ヴァッシュ「れーーーーーーっ」ヒュルルルル

地球軍「野蛮人!!!」ゴバーン

ヴァッシュ「ひょーーーーーーっ」ヒュルルルル

賞金稼ぎ「ナスビ頭!!!」バフーン

ヴァッシュ「しぇーーーーーーっ」ヒュルルルル

ヴァッシュ「(なんでだ・・・なんで僕に平穏は来ないんだ・・・!)」

ヴァッシュ「(いいじゃないかこんなに頑張ったんだからちょーっとくらい楽させてもさあ!)」

ヴァッシュ「(も、もう誰でもいいから・・・)」


ヴァッシュ「誰かたーすけてーーーー!!」ヒュルルルル









―――はいはい。世話が焼けますわね。









ヴァッシュ「・・・え」シュポンッ

「・・・!おい、ヴァッシュはどうした?」

「ヴァッシュは!?アイツいねえぞ!!」

「ゴリラ共!少し待て、肝心の本人が消えたぞ!」

「うるせえチキン共!見りゃ分かるっつーの!どこ行きやがった!?吹っ飛びやがった!?」

「・・・ま、待て。俺は見たぞ」

「あぁ?何をだ」

「ヴァッシュが・・・突然出てきた『切れ目』に呑まれて・・・消えちまったのを!!」

「・・・何を言っているんだソイツは?」

「おい!!あっちだ、居たぞ!いつの間にか随分遠くにいやがる!」

「ヴァッシュ!・・・と、何だ?あの『女』は?」

ヴァッシュ「・・・え?あれ?何がどーなってんの?」

紫「はあい。お久しぶり・・・て程でもないかしら」

ヴァッシュ「・・・・・・・・・・」

紫「大体一年と・・・半年ぶりくらいですわね」

ヴァッシュ「・・・ッ!!?」

紫「なんですのその反応。まさか私を忘れたとかではありませんわよね?」

ヴァッシュ「紫さん!?何で居るんですか!?」

紫「良し。覚えてましたわね。んで、貴方が助けてって言ったじゃないですの。だから助けてあげましたわ」

ヴァッシュ「いや、言いましたけど!そ、そうじゃなくて・・・」

紫「何か不服のようですわね」

ヴァッシュ「ふ、不服ってか・・・もう会えないよー寂しいよーみたいなお別れデシタので・・・」

紫「誰もそんなこと言ってませんわ。勝手に捏造しないでくださる」

ヴァッシュ「え・・・ご、ごめんな・・・さい?」

紫「許します。ま、それよりも・・・」

紫「取りあえずは、お疲れ様・・・でいいのでしょうか」

ヴァッシュ「あ・・・はい。ありがとう、ございます・・・」

紫「気の抜けた返事ですわねえ。燃え尽き症候群ですの?」

ヴァッシュ「い、いやあなんだか現実味が無くって・・・」

紫「それにしても・・・」

賞金首「・・・・・・」

地球軍「・・・・・・」

紫「ホーント。トラブルメーカーなんですのね」

ヴァッシュ「え・・・あ!!そうだ、済みません紫さん!僕ちょっと逃げる仕事がありますので!!」

紫「こらこら。そんな急がないでせめて『みんな』に挨拶くらいしたらどうですの?」

ヴァッシュ「え・・・?」

紫「騒動が終わったから貴方に会いに行こうと思ったのですが・・・」

紫「その話をしたら全員行きたいって言って聞かないのですわ・・・と、いうわけで」

ヴァッシュ「み、みんなって・・・もしかして」

紫「いらっしゃーい。ってね」


シュポンッシュポンッシュポンッシュポンッ

ヴァッシュ「・・・・っ!!」

橙「ヴァッシュさあぁん!!」

藍「ふふ。相変わらずお元気そうで安心しました」


妹紅「あら、しばらく会わないうちに髪の色変わってるわね。黒髪にしたの」

慧音「染めたのかい?似合ってるじゃないか」

マミゾウ「あの、それよかここ・・・暑くないかの?」


フラン「ヴァッシュ・・・貴方の言ってた通りこの星、砂しかないし暑いし体も重いね・・・」

パチュリー「こんな時魔法使えると便利なのよ。自分だけ涼しく出来る都合のいい魔法もアリアリよ」

レミリア「ぎゃあ!太陽二つとかふざけんな!吸血鬼殺しか!咲夜ヘルプ!」

咲夜「・・・・・・」チーン

美鈴「さ、咲夜さーん!大丈夫ですかー!?」

空「わぁ、凄い!化け物顔の人達があっちにいっぱいいるよ!」

燐「そっちは・・・なんだか変な被り物してるねぇ。それと凄い乗り物だよ」

パルスィ「見た目でキャラが濃い奴らばかりで妬ましいわ・・・」

勇儀「あいつらがヴァッシュの言ってたサイボーグって奴か。強そうだ!戦りたいねえ!」

さとり「ヴァッシュ・・・あ、貴方が、生きて、て・・・よかっ・・・た・・・!」

こいし「ベタな反応はつまらねえって言っただろう!!姉が!!」

萃香「この子アンタがいない間はちょっと落ち着いてたのにまた・・・」


聖「おや!髪を黒くされたってことは寺に入る決心の現れですね大変よろしい!」

星「ごめんなさいヴァッシュさん!止めたんですが・・・!」

一輪「聖様落ち着いてどうどう」

鈴仙「ヴァ、ヴァッシュ・・・!また、会えたねぇ・・・!」

てゐ「な、なーに泣いてんの鈴仙。恥ずかしいなぁ・・・」

永琳「貴女だって涙目なのによく言うわよ」

輝夜「・・・ト、トンガリ君・・・トンガリ君・・・!!」



ヴァッシュ「み、みんな・・・!」



紫「(・・・あれ、肝心の子は?・・・)」

ヴァッシュ「みんな・・・・・・久し」





―――・・・・・・ァァ~~~~~ッシュ・・・・・・





ヴァッシュ「ぶ」




文「さああああああああああん!!!」ドギュン


ヴァッシュ「りいいいいいい!!!」グシャーーーッ

文「いっや~~~~お久しぶりですねぇヴァッシュさん!かれこれ一年半ぶりですかぁ!あれ、思ったより久しくないですね!!」

ヴァッシュ「タックルが・・・み、みぞおち・・みぞおちに入った・・・ロープロープ・・・」

文「さてさて早速ですが取材させて頂きますよ!」

ヴァッシュ「え、は・・・シュ、シュザイって・・・」

文「題して!『チキチキ!!幻想郷に舞い降りたファンキボーイは今!突撃取材号外スペシャル!!@ポロリもあるよ』!!」

ヴァッシュ「あ、あばばばば・・・」


紫「(幻想郷に来るか聞けって言った筈なのに忘れてんのかしらコイツ)」


文「さあ!!さあ!!さあ!!さあ!!さあ!!・・・さあッ!!始め、まッ・・・しょおおおうう!」

ヴァッシュ「ギャーーーー!!!」


「待ちなさい!!」


文・ヴァッシュ「!?」

「なんですの貴女達は!?急に現れて馴れ馴れしく!」

ヴァッシュ「あ・・・ほ、保険屋さん!!」

ミリィ「わーい!半年ぶりですねぇヴァッシュさん!」

メリル「ようやっと見つけましたわよ・・・それよりも!勝手に出てきて取材だなんてどういう了見ですの!?」

文「むっ・・・」

ヴァッシュ「ほ、保険屋さん・・・!」

メリル「ヴァッシュさんに取材していいのは私達、ノーマンズランドブロードキャスト突撃取材班に決まってますわ~~!!」

ヴァッシュ「ほ、保険屋さーーん!?」

ミリィ「もう保険屋じゃないんですよお」

メリル「題して!『チキチキ!!謎の人間災害と呼ばれた男だらけの素顔を追え特番スペシャル!!@ポロリもあるよ』!!」

ヴァッシュ「そっちも!?」

文「なんだか被ってる気がしますねぇ・・・いずれにせよここは譲れませんよ!」

メリル「こちとら彼と共に戦い抜いた仲間なんですのよ!」

文「こちとら彼と共に生活した仲間なんですよ!」

メリル「タマ無し田舎者!!」

文「クソ原住民!!」

メリル「野蛮人!!」

文「ナスビ頭!!」

文・メリル「ぐぬぬぬ・・・・・・」

ヴァッシュ「あ、あ、あの・・・」

「「ヴァッシュさん!!」」

ヴァッシュ「あぎ・・・」

メリル「久しぶりの復帰に!!マイクグリグリ

文「早速ですが!!」ペングリグリ





「「一言お願いします!!」」




文・メリル「ぐぬぬぬ・・・・・・」

ヴァッシュ「あ、あ、あの・・・」

「「ヴァッシュさん!!」」

ヴァッシュ「はひ・・・」

メリル「久しぶりの復帰に!!マイクグリグリ

文「早速ですが!!」ペングリグリ





「「一言お願いします!!」」




二重投稿失礼


ヴァッシュ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

ヴァッシュ「お・・・あ・・・・」

ヴァッシュ「カカ、カン・・・」

ヴァッシュ「・・・ベン・・・」








「してくださああああぁぁいいいいいいィいいいィいいいいいいいいい!!!!」








「逃げたぞー!!」

「捕えろーー!!」

「賞金ーーー!!」

「取材ーーー!!」




「「「ヴァーーーーーッシュ!!」」」







ヴァッシュ「わああああ!!」ダダダダッ


ヴァッシュ「あああ・・・あ、はっ」


ヴァッシュ「ははははっ!わははははは!」


ヴァッシュ「あははははは!!」












地には平和を そして慈しみを
   ラブアンドピース   





























・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・

・・・・

―――オクトヴァーン―――

ドヒュゥゥゥゥ!

クロニカ「・・・逃がさない・・・わよ・・・!!ナイ、ブズ・・・!!」

クロニカ「(もう一人自立種もいるが・・・構うものか!)」

クロニカ「(ドミナ・・・貴女の仇を・・・!)」



クロニカ「おおおおおおおあああ!!」

ドン!ドン!ドン!ドン!

パキィィン!

クロニカ「っ・・・!!」

リヴィオ「・・・済みませんね、遠くから来た客人にこんな無礼を」

リヴィオ「でもそれだけはさせられない」

クロニカ「・・・・・・」

リヴィオ「色々あるでしょうが今は彼を・・・僕らを・・・信じてください」

リヴィオ「後悔はさせません。ようこそ、ノーマンズランドへ」

クロニカ「・・・そう・・・」

クロニカ「それが・・・この星の名前なのね」




リヴィオ「・・・・・・ふう」











―――やるやないけ、くれたるわ。合格点。









リヴィオ「・・・・・・・」




でも、まだまだやで。泣き虫リヴィオ。

―――駆け上がれ。これからも。




リヴィオ「・・・!!」



リヴィオ「・・・・・・」

リヴィオ「・・・・・あ」


リヴィオ「ありがとう・・・ございます・・・」

・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・

ウルフウッド「ったく、また泣き虫リヴィオか。先が思いやられるで」

小町「・・・ねえ、あれだけでよかったのかい?」

ウルフウッド「ああ、もう十分やで。・・・話させてくれてありがとな、閻魔サマ」

映姫「ええ。もっと感謝してください」

ウルフウッド「・・・あー、偉いで感謝しとるでー」

映姫「ふふん。よろしい」

ウルフウッド「(ホンマにこんなガキが地獄の閻魔ちゅーんか?)」コソコソ

小町「(ガキとか言わないのさ。あんたも宗教に入って神様信じてるならもっと敬いなよ)」コソコソ

ウルフウッド「(宗教言うてもワイのは多分ちょっと違う気がするで)」コソコソ

ウルフウッド「しかし驚いたで。死後の世界の住民ってこんな感じなんやな」

小町「本来は魂だけで話せたり触れたりなんかしないんだけどね」

映姫「貴方がヴァッシュの友人なのでちょっとしたサービスですよ」

ウルフウッド「テキトーな理由やな。それでええんか閻魔」

映姫「地獄で一番偉いからいいのです。私がルールです」

小町「ということだってさ。牧師さん」

ウルフウッド「・・・聖書も泣いとるでホンマ」

小町「・・・風が出てきたな」

ウルフウッド「ああ」

映姫「もう、よろしいのですね?」

ウルフウッド「おう。もう思い残したことはあらへん」

小町「じゃ、行こうか」

ウルフウッド「・・・よろしゅうたのむで」

映姫「ええ。今日からよろしくお願いします」

ウルフウッド「ああ・・・・・・」





ウルフウッド「・・・は?今日から?」









映姫「じゃ、帰ってさっそく一仕事してもらいますよ」


ウルフウッド「・・・・・・は!?」







~是非曲直庁~

映姫「はい、次の方入って来てください」

映姫「えーと書類書類・・・ニコラス!早く持って来なさい!」

ウルフウッド「なんや!何やっとんねんワイは!説明が欲しいでホンマ!」バタバタ

小町「あの世も人手が足りないのさ。暫く手伝って貰うよー」

ウルフウッド「死者を働かせるとかおんどれら地獄行きやで!!」ドタドタ

小町「あたいらはその案内人なんだよねぇ」

映姫「立つ鳥跡を濁さずって言うでしょ!黙ってワーキング!!」





―――カンベンしてくれやあぁぁぁぁぁ!!





~END~

以上、TRIGUNと東方のクロスでした。
TRIGUN~TRIGUN MAXIMUMの間にヴァッシュが幻想郷に来ていたらという設定で書かせて頂きました。
この組み合わせで戦闘シーン無しという暴挙。もし期待してくれた方がいらっしゃったら申し訳ありません。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年03月21日 (土) 08:28:35   ID: _Fj-z1fR

途中抜けてません?

2 :  SS好きの774さん   2016年02月25日 (木) 07:16:03   ID: 5NxyzEpb

>戦闘シーン無しという暴挙
当然だな
東方キャラ程度じゃ速度も火力も勝負にならんし

3 :  SS好きの774さん   2017年07月21日 (金) 03:40:06   ID: g8YhtzgT

マキシマム完結後だと、地球の技術で住民の性活も何とかなってるし、艦隊丸ごと墜落してていずれは地球からの捜索が来るだろうしで、ヴァッシュが砂の星に居る意味ってあんまり残ってないんだよな。
ここのヴァッシュは幻想郷に行きそうだけど、問題は残り寿命かなぁ。

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom