【艦これ】「旗振り連装砲ちゃん」 (53)


【艦これSS】です
 ハッピーエンドではないので、嫌な人はそっ閉じ願います

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1421058879

   物語

 人間が深海棲艦と戦争をしていた頃のお話です。

 艦娘の島風には、連装砲ちゃんというお供が三台いました。

 艦娘の中でも、お供を連れているのは島風、天津風、秋月だけです。

 天津風の連装砲くんが一台、秋月の長10㎝砲ちゃんが二台。そして島風の連装砲ちゃんが三台です。

 それぞれのお供はどれも、主と一緒に頑張って戦っていたのです。

 ところがある日、不思議なことが起きました。

 連装砲ちゃんは、戦いが怖くなってしまったのです。

 三台いる連装砲ちゃんの一台だけ、一台だけが戦いを怖がるようになったのです。

   現場

 連装砲ちゃんの問題は、すぐに周囲に知られることとなった。 

天龍「どーすんだよ、あいつ」

龍田「それは提督が決めることよ、天龍ちゃん」

天龍「早く決めねえと困るんじゃねえか?」

龍田「ふふふ、島風ちゃんが心配しすぎちゃって大変だものねぇ」

天龍「ば、馬鹿言うなよ、俺は島風なんて心配してない。鎮守府の戦力のことをなぁ」

龍田「だーいじょーぶ、誰にも言わないから」

天龍「……あいつ、飯もろくに食ってねぇんだ。天津風と秋月の奴も、気になって本調子じゃねえみたいだし」

龍田「そーねぇ。だけど、自律艤装たちのことを一番よく知っているのはあの三人だから」

天龍「ああ……くそっ。明石とか夕張とか、もっとわかんねえのかよ」


 天龍は愚痴るが、明石と夕張に言わせれば、そもそも連装砲ちゃんたちこと、自律艤装の成立過程が不明なのだ。
 
 それぞれが島風、天津風、秋月の艤装として発現し、何故かある程度の自我をもち、自律行動をとる。

 基本的にはそれぞれの主に従順だが、提督や他の艦娘の言葉も理解している。

 何故そうなっているのかと聞かれて、答えられる者はいない。

 自律艤装たちは、艦娘たちにとっても謎の多い存在なのである。

龍田「私たちには連装砲ちゃんたちのことはわからないけれど、島風ちゃんたちを気にかけることはできるわよ」

天龍「そうだよな。せいぜい、気にするか」

龍田「そういうことよ、島風ちゃん」


 自分の背後にかけられた龍田の声に、天龍は振り向いた。

島風「……あ、あの」

天龍「え」

 いつの間にか、島風が立っている。

龍田「私何も言ってないわよ、言ったのは全部天龍ちゃん」

島風「ごめんなさい」

天龍「待て、それは違うぞ、島風」

島風「?」

天龍「俺は怒ってねえんだから、謝るのはおかしいだろ」

龍田「そうねぇ、天龍ちゃんは心配しているだけだから」

天龍「龍田ぁ……」


 
   物語

 戦うことができなくなった連装砲ちゃんは、鎮守府で働くことになりました。
 
 島風が言ったのです。

「戦わなくても、みんなのお手伝いは出来るよ」

 連装砲ちゃんは、大好きな島風と鎮守府の皆のために働くことにしたのです。

 間宮や鳳翔、明石のお手伝いをしたり、演習準備のお手伝いをしたりするようになりました。 
 
 働き者の連装砲ちゃんは、瞬く間に鎮守府でも欠かせない一員となったのです。

 
 

 
 
   現場


 提督室に押しかけるようにして姿を見せた艦娘たちの前で、提督はいつもの厳格な表情を崩すことなく座っている。

提督「現実問題として、遊ばせておく余裕はない」

天龍「なんとかなんねーのかよ」

提督「なんとか、とは?」

天龍「戦って死ぬ。その覚悟ならある。だが、味方から役立たずとして始末されるってんなら話は別だ」
天龍「断固、否定する」

提督「だが、戦えない艤装に、何の意味がある?」
提督「天龍、お前、張りぼての主砲で深海棲艦を倒せるのか?」

天龍「そ、それは……」

龍田「提督、一つお聞きしたいことがあるんだけど~?」

提督「言ってみろ」


龍田「間宮さん、鳳翔さん、明石さんには、戦闘に出向いた記録がないわねぇ?」

提督「何が言いたい」

龍田「直接戦闘以外でも、役目はあるはずよ~」

提督「間宮、鳳翔、明石にはそれぞれ特化技能がある。違うか?」

龍田「間宮さんと明石さんにはあります」

提督「鳳翔に特化技能はないと?」

龍田「軽空母鳳翔の料理の腕は、生まれつきのもの~?」

提督「……あとから覚えたものだ、と聞いたことがあるな」

秋月「司令、別の面からも一つ、よろしいでしょうか?」

提督「……お前もか。言ってみろ」


秋月「島風自律艤装の一台を解体し、残る二台の士気を下げるおつもりですか?」

提督「なに?」

秋月「鎮守府での解体は、天津風自律艤装、秋月自律艤装の士気効率共に極端な低下をもたらすかと」

提督「脅しに聞こえるなぁ」

秋月「あくまでも可能性の話です」

提督「それを御しきるのが君たちの技量ではないかね」

秋月「お忘れですか、司令」

提督「何をかね」

秋月「自律艤装は、艦娘にとってもまだ謎の多い存在です」


提督「よくわからんのは自律艤装だけか?」

秋月「は?」

 提督はニヤリと笑った。

提督「私はまだ君ら自体もよくわからんよ。女心、いや、親心ってやつかね」
提督「間宮、鳳翔、明石からも、増員を求める声が来とる」
提督「しかも、鎮守府の財政緊縮を鑑み、内部からの増員を希望したいとな」
提督「……ったく、私を鬼かなんかだと思ってるのか、君らは」

龍田「ふふ、私たちの信頼できる提督ですよぉ」

天龍「龍田の言うとおりだ」

秋月「勿論、司令のことは、秋月はいつでも信頼しています」

 
 
   物語


 連装砲ちゃんは思いました。

 僕はどうして戦えないんだろう。

 どうして、恐がりなんだろう。

 他の二人の連装砲ちゃんは島風ちゃんと一緒に深海棲艦と戦っているのに。
 
 だけど、提督さんは僕にお仕事をくれた。

 だから僕は一生懸命働くんだ。


 島風ちゃんが心配しないように。

 二人の仲間が心配しないように。

 連装砲くんが心配しないように。

 長10㎝砲ちゃんが心配しないように。

 間宮さん、僕もお皿を洗うよ。

 鳳翔さん、僕が火の番をするよ。

 明石さん、僕がお掃除するよ。

 だけど、僕は本当は島風ちゃんのお手伝いがしたいんだ。

 だけど、僕は戦えない。

 僕はどうしたらいいんだろう。

 
 
   現場


天津風「何これ」

 演習場近くを通りかかった天津風が持ち上げたのは、一枚の大きな旗。

天津風「ちょうどいい風でも吹けば、キレイにたなびきそうね」
天津風「連装砲くんもそう思うわよね」

天津風「……うん。そうね。だけど、あの子はあの子で一生懸命やってるから」
天津風「あまり心配しすぎるのも失礼よ」

天龍「よぉ、お前も来たのか」

天津風「へ? なにかあるの?」

天龍「なんだ、あいつの晴れ姿を見に来たんじゃないのか?」


天津風「あいつって……あいつ?」

天龍「そ、あいつ」

提督「天龍、そろそろ……おお、天津風も来てたのか。秋月は任務中だから、君だけでも見ていけばいい」

天龍「よっしゃあ、行くぞ、おめーら!」

龍驤「ほな、行くでー」

隼鷹「んー、軽空母しかいないのかい?」

榛名「向こうも正規空母は出ないそうですよ」

龍田「天龍ちゃんと一緒は久しぶりねぇ」

島風「連装砲ちゃん、私たちも頑張るからね!」


 演習用の疑似艤装を付け、出撃準備をする六人。

提督「天津風、その旗を連装砲ちゃんに渡してくれ」

天津風「は、はい」

 いつの間にか、例の連装砲ちゃんがやってきて、連装砲くんと何事か話し込んでいる。

天津風「あ、これ、もしかして演習終了の印?」

提督「そうだ。勝敗判定にも使われる旗だ。その旗振りを連装砲ちゃんにやってもらう」

 
 
 

 
 
   物語(分岐1)


 提督は連装砲ちゃんに一枚の大きな旗を渡しました。

 不思議そうな連装砲ちゃんに提督は言います。
 
 これは、旗を振ると戦いが終わるという、不思議な魔法の旗だよ。

 それは、艦娘たちに演習の終了を告げるための識別旗です。

 だけど提督は、そんな説明をせずにただ、戦いが終わる魔法の旗だと言いました。

 連装砲ちゃんは喜びました。

 提督は言います。だけど、この旗を勝手に振ってはいけないよ、と。
 勝手に振ると、恐ろしいことが起きてしまうよ、と。

 連装砲ちゃんは怖くなりました。

 だけど、勝手に振らなければ怖いことは何もないのだと、島風が教えてくれます。

 連装砲ちゃんは大喜びでうなずきました。

 
  
   物語(分岐2)


 連装砲ちゃんは考えます。

 演習を見ているだけだったら、僕はあんまり怖くない。我慢できるよ。

 演習だったら、僕は島風ちゃんのお手伝いが出来るんだ。

 島風ちゃん、僕は頑張るよ。

 戦いは怖いけれど、僕も頑張るから。

 さあ、大きく旗を振ろう。

 この旗を振るのが終わりの合図だって、提督さんが教えてくれたんだ。

 提督さんは、僕に旗を振るお仕事もくれたんだ。

 これなら、僕はみんなと一緒にいられるよ。

 みんな、今日の演習は終わりだよ!

 戦いの練習は終わりだよ! 

 連装砲ちゃんは元気よく、旗を振りました。

 
 
   現場



 主要艦隊が本部の要請により出撃すると、鎮守府に残るのはほんの数名になる。

 特に決めていたわけではないが、いつの間にか皆は食堂に集まっていた。

 軽食をとる者、茶を飲む者。それぞれに時間を過ごしている。

天龍「なぁ、本当に終わるのかよ」

提督「さあな。我々はどちらにも備えておくだけだ」

天龍「で、第一艦隊から全部お出かけで、俺らは留守番か」

龍驤「艦隊連中は重要地点の警備、見張り。ここだけやないで、他の鎮守府からもようけ出とるよ」

龍田「本当に夢みたいねぇ。深海棲艦との休戦なんて」

提督「裏では以前より進められていたらしいがな、表に出てきたのはつい最近だ」


隼鷹「ま、今日のところはおとなしく留守番だぁね」

明石「提督、やはりこちらにいらしてましたか」

提督「どうした、明石。この時間は艤装倉庫で作業中と聞いていたが」

明石「提督に直接確認したいことがありまして」

天龍「艤装倉庫は連装砲ちゃん一人でいいのか?」

明石「今は、お掃除をお願いしているから」

 突如、爆発音が鎮守府に響く。

 いや、これは明らかな攻撃の音。

 砲撃、着弾、爆発の音。


提督「何があった!?」

天龍「深海棲艦か!? やつら、いつの間にこんな近くまで!」

提督「鎮守府への直接攻撃だと!?」

龍驤「むこうもそれなりに考えとったっちゅうことやな」

天龍「とにかく、このままじゃどうしようもねえぞ」

提督「倉庫へ行って艤装をつけろ! 海に出られなくとも陸上から反撃だ!」

明石「敵が近すぎます! 艤装倉庫に行くまでに砲撃が……」

天龍「だからってこのままじっとしてても死ぬだけだ、俺は行くぞ」

龍田「待って、天龍ちゃん」


天龍「何か策があるのか?」

龍田「行くなら全員時間をずらして、ばらばらに」

明石「……一人だけでも辿り着ければいい、と」

龍驤「じゃーないなぁ。ま、易々と行かせてくれるとも思えへんけど」

隼鷹「あーあ、こんなことなら、昨日の内にもっと飲んどきゃ良かったね」

提督「隼鷹!」

隼鷹「あ、すいませ……」

提督「生き延びたら、私のおごりだ」

隼鷹「ほっ、いいねぇ、話せるねぇ」


天龍「俺らもか?」

龍田「お高くつきますよぉ」

提督「ふん。それくらいの貯金はあるさ」

龍田「楽しみにしておきますねぇ」

提督「龍田、突撃のタイミングは任せる」

龍田「はい」

間宮「私も行きます。辿り着いたところで艤装はありませんが、敵の狙いを分散させるくらいは」

明石「艦隊が出払っているこんな時に……」


提督「それを狙ってきたんだろう。よし、艦娘以外の人員は全員携行火器で援護する。作業員も全員だ」
提督「ああ、注意を逸らせれば何でもいい。手持ちの火器、飛び道具をかき集めろ」

天龍「よし、それじゃあ……」

 その言葉が止まる。

龍田「天龍ちゃん?」

天龍「……なに……やってんだ……あいつ」

 天龍の視線を全員が追い、そして、息をのんだ。

 
 
 


 
   物語

 連装砲ちゃんは島風の出撃を見送りました。

 二台の連装砲ちゃんに手を振ると、二台は手を振り返してきます。

 天津風と連装砲くん、秋月と長10㎝砲ちゃん、みんな出撃していきます。

 皆を見送ると、連装砲ちゃんは鎮守府のお仕事に戻ります。

 今日は艤装倉庫のお掃除です。

 とは言っても、艤装には触りません。艤装に触るのは明石や夕張のお仕事です。

 連装砲ちゃんは、周りのお掃除の担当です。

 お掃除を始めて一時間ぐらい経ったところで、突然爆発音が響きました。

 爆発音、砲撃音。これは、深海棲艦の攻撃です。

 連装砲ちゃんは艤装倉庫の窓から外を見ました。

 宿舎と入渠棟の周囲に砲撃が集中しています。



   物語(分岐1)

 どうしてだろう。

 連装砲ちゃんは悲しくなりました。どうして、深海棲艦さんたちは戦うんだろう。
 
 そうだ。

 連装砲ちゃんは思い出しました。今の連装砲ちゃんには魔法の旗があるのです。

 だけど提督は、旗を勝手に振ってはいけないと教えてくれました。

 勝手に振ると恐ろしいことが起きるから、振っては駄目だと教えてくれました。

 それでもです。それでも、今は止めなければなりません。

 このままでは、皆が怪我をしてしまいます。

 連装砲ちゃんは旗を振ります。


 戦いは終わりだよ! 戦っちゃ駄目だよ!!

 戦いは駄目だよ! 戦いは止めようよ!!

 どうして戦うの? 僕は嫌だよ。

 お願い、戦わないで。戦いを止めて!!

 連装砲ちゃんは、旗を振り続けました。

 艤装倉庫を出ると、資材運搬用の自走カーゴがあります。連装砲ちゃんでも動かせるようになっています。
 
 それに乗り込むと、深海棲艦からもよく見えるように大きく旗を振りながら、連装砲ちゃんはカーゴを動かします。

 戦いは止めようよ! 戦いは嫌だよ!

 砲撃音がどんどん近づいてきます。
 
 それでも連装砲ちゃんは、旗を振り続けていました。

 連装砲ちゃんは、旗を振り続けました。

 
 
   物語(分岐2)


 大変だ。

 連装砲ちゃんは慌てました。

 このままでは皆が大ピンチです。皆の艤装はここにあるのだから、反撃も出来ません。

 深海棲艦の攻撃は皆のいる施設を狙っています。

 艤装倉庫に砲撃はありません。ここにいれば、連装砲ちゃんは安全です。

 じっとしていれば、ここに誰かいるなんて深海棲艦にはわからないでしょう。

 だけど

 嫌だ。と連装砲ちゃんは思いました。

 怖いけど、自分だけが助かるなんて嫌だ。

 皆がいなくなるのは嫌だ。

 怖いけど。だけど。だけど。


 だけど。

 連装砲ちゃんは旗を取り出しました。

 この旗を振れば、居場所がばれてしまうかもしれない。

 この旗を振れば、砲撃されてしまうかもしれない。

 だけど。
 
 連装砲ちゃんは走ります。

 艤装倉庫を出ると、資材運搬用の自走カーゴがあります。連装砲ちゃんでも動かせるようになっています。
 
 それに乗り込むと、深海棲艦からもよく見えるように大きく旗を振りながら、連装砲ちゃんはカーゴを動かします。

 僕はここだ! 深海棲艦、僕はここだ!!

 砲撃音がどんどん近づいてきます。
 
 それでも連装砲ちゃんは、旗を振り続けていました。

 連装砲ちゃんは、旗を振り続けました。

 
 
   現場


天龍「あいつ……」

龍驤「なにやっとんや! あんなところで旗なんか振っとったら、撃ってくれ言うてるような……」

明石「嘘。まさか……連装砲ちゃん?」

提督「総員、直ちに艤装倉庫へ向かえ!」

隼鷹「連装砲ちゃんは!?」

提督「あの子が命がけで作ってくれたチャンスを無駄にするな! 急げ!」

 一人一人の間を置いて、一つの砲撃で複数が犠牲にならないように間隔を空けて走り出す艦娘たち。

 その間も、旗は振り続けられている。

天龍「止まるなよ……」

 無意識に呟いていた。旗が止まるときは、連装砲ちゃんが止まるとき。

天龍「俺は、島風の泣き顔なんざ見たくねえぞ」


 天龍、龍田、龍驤、明石、間宮、隼鷹の順で艤装倉庫にたどり着く。

 砲撃はすでに艤装倉庫を遠く離れ、連装砲ちゃんの乗ったトラックに集中していた。

 今のところ砲撃は続いている。言い換えれば、旗はまだ振られている。

天龍「明石! 間宮さんと連装砲ちゃんのほうを頼む!」

明石「ええ!」

間宮「はい」

天龍「天龍型軽巡一番艦、天龍、出撃するぜ!」

龍田「同じく二番艦龍田、出撃します」

龍驤「龍驤型軽空母一番艦、龍驤、出撃するで!」

隼鷹「飛鷹型軽空母二番艦、隼應、出撃する!」

 艤装を付け、駆け出す四人。


 その正面、波打ち際に上陸しようとする深海棲艦。
 
 だが、その数は異常なまでに少ない。鎮守府に攻め込むには余りにも少なすぎる。

 囮と考えても、だ。

 天龍たちは知らず、この深海棲艦たちは、上層部に反抗し、休戦条約を破棄しようと企む者たちであった。

 休戦後に「継戦派」と呼ばれ、テロリストとなっていく集団の始まりである。

 そしてもとより、この深海棲艦たちは勝つために来たのではない。「負けるために」やってきたのだ。

 戦争の中で、死ぬために。 

 だからこそ、天龍たちの反撃に深海棲艦たちは悦んだ。即座に狙いを替え、天龍たちをめがけ動き出す。

 例えそこが、絶対不利の地上の場であろうと。


 後に天龍は言った。

 最後の戦いが、一番嫌な戦いだったと。

 戦闘を終えた四人の元へ、明石と間宮が駆け寄る。
 
 二人がやってきた元には、まだ揺れている旗があった。

龍驤「連装砲ちゃん、もう敵は……」

 首を振る明石。

 間宮がうつむいたまま、指し示した先には……

 横転したカーゴの車輪に引っかかり、未だ動くエンジンの揺れに合わせて揺れる旗が。

 振り手を失っても、まだ揺れ続ける旗があった。
 

 
 
 
   物語


 連装砲ちゃんは旗を振り続けました。

 深海棲艦に見えるように。

 深海棲艦にはっきりと見えるように。

 砲撃の中、連装砲ちゃんは旗を振り続けていました。

 いつまでも、連装砲ちゃんは旗を振り続けていました。

 いつまでも

 いつまでも



   現場


 戦争は終わっていた。

 艦娘用居住施設の離れに一人住む島風を、二組の面会者が訪れた。
 
 それぞれが、自分たちだけで会いたいと申し込んだのだが、島風はそれを拒否した。

 どちらかではなく、誰にも会いたくない。話などしたくないのだと。

 するとたくさんのコネが動き、施設への圧力が生まれ、島風の抗えない状況が作られる。

 島風は、二組同時ならという条件をつけた。

 二組の訪問者は難色を示し、互いに相手は信用できないと島風に告げる。

 互いに、相手は島風を自分たちの思想運動に利用しようとしているのだと告げる。
 
 それでも、島風の出した条件は変わらない。


 仕方なく、二組は同日同時刻に島風の前に姿を見せる。

 それぞれが絵本を取り出し、そこに記された物語を告げる。

 島風がもう聞きたくない物語を。

「『旗振り連装砲ちゃん』というお話なんです」

「島風さんに伺いたいのは、この二つの物語、どちらが真実なのかと言うことでして」

「当時の鎮守府にいた方々は皆お亡くなりになりました」

「今となっては当時の貴重な証言者も老い、数少なくなっています」

「今のこの国、いえ、人間と深海勢との関係もまた変わりつつあります」

「奴らの欺瞞を暴かねばなりません」

「地球に生きるものとして共に手を取り合う事が必要なんです」



「終戦直後にいきなり約定を無視して攻め込んできた卑劣な深海棲艦どもですよ!」

「わかり合わなければなりません。一部の不心得者で全体を論じてはいかんのです!」

「連装砲ちゃんは勇ましく、憎き深海棲艦どもから鎮守府を護るために旗を振った。その勇気を称えなければ」

「戦いを否定する勇気を、戦いたくもないのに戦わされた悲劇を、我々は連装砲ちゃんから学ばねばならんのです!」

「戦いたくなかったなんて決めつけるのはやめろ!」

「事実でしょうが」

「何を言っても、味方を救うために命をかけた連装砲ちゃんの勇気を貶めることはできんぞ」

「違う。それは不戦の勇気だ。誤解は止めてください」


「お前に何がわかる。ふぬけども」

「口さえ開けば勇ましがって戦争したがるあなたたちとは違います」

「自国を守る戦争の何が悪いんだ」

「あなた方は、深海の世界まで破壊しろと日頃主張しているでしょう」

「滅ぼすことが我が国の利益になると言っているんだ」

「それが野蛮だと言っているのですよ」

「言葉だけで守れると思い込んでいる平和ボケは黙っていろ」

「そっちこそ黙れ」


 二組の訪問者は口々に訴える。

 相手こそが、連装砲ちゃんの行動をその戯けた思想に当てはまるように解釈し、貶めているのだと。

 恣意的な物語を作り、次世代の子供たちを間違った方向に誘導しようとしているのだと。

 自分たちこそが、真に連装砲ちゃんの行為を理解しているのだと。

 二組のやりとりを島風は聞いていない。

 うつむいたまま、ただ嵐が過ぎ去るのを待つ小魚のように耐えている。

 二組は問い続ける。居丈高に。傲慢に。

 己こそが正しいと。

 己こそが真実を語る正義だと。

 言外に、言葉を濁す島風を責めながら。

 言外に、島風が真実を隠していると責めながら。

 島風の黙秘は、艦娘たちを愚弄するものだと決めつけながら。


 それでも。

 それでも、島風は答えない。

 ただ、小さく呟いた。

 
 
 
 
 
 
  ……連装砲ちゃん……

 
 
 
 
 
 
 

 
 
 その呟きは二組の訪問者たちにも、そして誰にも届かない。

 
 


 以上、お粗末さまでした
 

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