少尉「なんで新型機のパイロットが民間人なんだよ……」 (28)

【宇宙戦艦・士官待機室】

少尉「くっそー! 納得いかねー!」

少尉「軍籍もない、訓練も積んでない、そんなドシロートに地球軍の切り札を預けていいってのかよ!」

少尉「ちっくしょー!」ガンッ

中尉「ロッカーを殴るな、少尉」

少尉「とは言ったってねえ、中尉!」

中尉「君はただあの民間人の彼に嫉妬しているだけだろう」ズズーッ

少尉「なっ、だ、誰が!」

中尉「……フッ、わかりやすい男だなぁ、君は」


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少尉「でも、考えても見てくださいよ中尉!」

少尉「あの新型には俺たち地球軍の技術の粋が詰まってんですよ!」

少尉「それをたまたま搭乗者認証しちまったってだけであんなガキに……」

中尉「そのガキに命を救われたのはどこの誰で、一体どの戦艦だろうね」

少尉「……あ、いや、それは、そのう……」

中尉「君の気持ちも分からないでもないが、もうあの新型は彼に託すほかはないんだよ」

中尉「我々とこの艦、そして新型と民間人の坊やはもはや一蓮托生さ」ズズーッ

少尉「っ、くっそー! あんなナヨナヨしたやつじゃなく、俺が乗ってやるってのによー!」

少尉「うぐぐぐぐぐぐぐ……」

少尉「えええいチクショー! シミュレータ室行ってきます!」バッ

中尉「勤勉で結構。ただ頭に血が上っているときの君は動きが単調だ」

中尉「気をつけたほうがいいと思うね、私は」

少尉「ご忠告ありがとうございます!」バンッ



中尉「やれやれ……ガキはどちらなのか……」ハァ

少尉(地球軍とコロニー軍との戦争が始まって数年……)

少尉(束の間の停戦状態にある今、地球軍は膠着した戦況を打破すべく中立コロニーで新型機動兵器を極秘に建造……)

少尉(同時運用を想定し建造された新造戦艦と新型機の受領、そして地球への護送が俺たちの任務だった……)

少尉(だが……その情報を察知していたコロニー軍の奇襲を受け、俺たちは窮地に陥る……)

少尉(それを救ったのが新型機……そしてあの民間人のガキ……)



少尉「くそっ、民間人に助けられて、民間人を巻き込んで、それでも軍人かよ、チクショー!」

【戦艦・通路】

少尉「……はぁ……」

男「…………」ドンヨリ

少尉「あん……?」

男「…………」

少尉「お前、新型の……」

男「……」チラッ

男「…………」スタスタスタ

少尉(シ カ ト か よ !)

少尉「クッソ、なめ腐りゃがって……」

【シミュレータ室】

少尉「だーっ、くっそ!」ズカズカ

整備兵「あれ、少尉。シミュレータ、使うんですか?」

少尉「ああ、そうだよ! さっきの戦闘データ、もう吸い出してくれたか?」

整備兵「ええ、新型も、少尉の機体もバッチリ」

少尉「……シミュレーションのパラメータ、新型と同じで頼むわ」

整備兵「え? でも少尉の機体は」

少尉「わぁーってんだよ、んなこたぁ! とっととやれ!」

整備兵「怒鳴らんでくださいよ……まったく……」

整備兵「やりましたよー」

少尉「おう、サンキュ」

整備兵「少尉にはちと厳しいと思いますがねえ……」

少尉「んだとぉ!?」

整備兵「うへっ、ヤブヘビだっ」ササッ

少尉「どいつもこいつも……」

少尉(シミュレータででも好成績を残せりゃ……俺だって……)


《―― Simulation Start ――》


少尉「行くぜぇっ!」ガッ

数分後――


少尉「…………」

整備兵「あの、少尉?」

少尉「…………」ズーン

整備兵「どうしたんです、少尉」

少尉「うるせえ、ほっとけチクショー」

整備兵「あ、成績ズタボロだったんだ」クスッ

少尉「うるせえっつってんだろーが……」

整備兵「無理ないっすよ。新型の反応速度は既存機の三倍っすからねー」

少尉「……くそ」

少尉「ったくよー……」

ビーッ ビーッ ビーッ

整備兵「緊急警報!? コロニー軍の追っ手か!?」

少尉「おっしゃ、出番だな!」

艦長『全クルーに通達。総員、第一種戦闘態勢。コロニー軍の追撃を振り切る!』

整備兵「少尉、ご武運を!」

少尉「おうよ、任せとけ!」ダダダダダッ

【艦内・通路】

少尉「新型にはまだ適応できねーかもしれねーが……何が何でも活躍してみせらぁ……」ダダダッ

中尉「おや、シミュレータは終わりかい」

少尉「中尉。ええ、コロニー軍に目にもの見せてやりますよ!」

少尉「地球軍にこの俺有りってね!」

中尉「期待している」


『嫌です! どうして僕がそんな!』


少尉「あん?」

中尉「ドックからだな」

男「なんでまた僕がこんなものに乗らなきゃならないんですか!」

大尉「この新型機は君しか動かせないからだ」

男「そんなの、そっちの勝手な都合じゃないですか!」

大尉「いやまあ、それはそうなんだが……」

中尉「大尉、どうされました?」

大尉「おお、中尉か。いやな、ちょっと男くんが出撃を渋っていて」

中尉「まあ無理からぬことですね。……とはいえ男くん、我々はもう君をいち戦力として数えてしまっている」

中尉「君も生き残りたいのであれば、頼む、乗ってはくれまいか」

男「そんなの、ただの脅しじゃないですか! 戦争なんか軍人が勝手にやってりゃいいんですよ!」

大尉「ごもっともだが……なぁ?」

中尉「少尉、君からは何かないか?」

少尉「ありませんよ。ガキの駄々に付き合ってる暇もないでしょ、俺たちには」

男「駄々!? 僕が駄々をこねてるってんですか!? 勝手に巻き込んでおいて!?」

少尉「うるせえなぁ!」

大尉「あのなぁ少尉、ここは穏便にだな……」

少尉「はいはい……俺は出ますからね。敵はもう来てんでしょ」

少尉「整備班! 俺のは出せるな!」

整備班『ウッス!』

少尉「じゃ、そういうことで!」

中尉「まったく……」

男「勝手だ……誰も彼も……」

男「僕は好きであんなのに乗ったわけじゃないのに……」

中尉「この戦艦の搭載機は全部で4機」

中尉「我々の3機は地球軍の量産機だが、コロニー軍相手に特別傑出した性能を誇るわけではない」

中尉「だが君の操る新型機は違う。出力、装甲、武装、どれをとってもコロニー軍程度では足元にも及ぶまい」

中尉「数で勝るコロニー軍の追撃を振り切るため、我々には君が必要なんだ、男くん」

男「……僕の操縦する新型機が、でしょ」

中尉「そうとも言う」

中尉「それに、この艦には民間人が乗っている。君のご友人も、じゃないかな?」

男「やっぱり脅しじゃないですか。……軍人って、卑怯なんですね」

中尉「残念ながら」

オペ子『1番カタパルト、オールグリーン! 少尉機、発進どうぞ!』

少尉『オーケイ、少尉機、出るぜ!』

オペ子『ご武運を!』


バシュゥゥゥゥゥッ


少尉「よっし……敵は……っと」ポチポチッ

少尉「レーダーの機影は5か……」

少尉「やったろうじゃねえか!」

中尉『あまり突出するな。悪い癖だぞ、君の』

大尉『ったく、若いなぁ少尉は……』

少尉「二人とも、あのガキの説得は失敗したんですか?」

大尉『んー、まぁ……』

中尉『私は来ると思いますがね』

少尉「ケッ……駄々っ子にゃおこぼれもくれてやるかってーの……」

中尉『うーん……どちらが駄々っ子やら』

大尉『ま、せいぜい気張ろうじゃないか』


少尉「まずは俺が行きますよ!」バッ


中尉『バカ、だから突出するなと!』

大尉『俺がフォローするから、中尉はお得意の狙撃で援護。頼むぞ』

中尉『了解』

大尉『とはいえ数で負けてるのは心配だよなー』

中尉『戦意を削がないでください、大尉』

少尉「んにゃろーっ!」

少尉(まずはビームライフルの連射! 敵の編隊を乱す!)

バババババババ


敵『散開!』


少尉(よし! ……はぐれた奴らは中尉殿がなんとかしてくれる!)


敵『敵は1機突出している! 2機で挟み込め!』

敵『新型はいないようですね』

敵『舐められているのか……? ふん、血祭りに上げてやれ!』

少尉(挟み撃ちしようってか! やられるもんかよ!)

バッ

敵『早い!?』

敵『数ではこちらが優っているんだ! 落ち着け!』

少尉(やられるか! こんなとこで、俺はまだ、功の一つもあげてないんだからな!)

少尉(ビームサーベルで! 叩き切ってやらあ!)

バシュッ

敵『腕が!』

少尉「コクピットを外した――まず」

敵『隙アリィィィ!』

大尉『させるかってぇのぉぉぉ!』

ババババババババ

敵『ぐ、被弾したっ!? 上!?』

少尉「ビーム弾! ……とどめぇっ!」

バシュゥゥゥゥッ

敵『ぐあっ!?』ドゴォォォン

敵『野郎、よくも・……!』

少尉(1機撃墜!)

大尉『ったく危なっかしい……』

少尉「ありがとうございます! 大尉!」

大尉『まだ敵はいるからな! 背中あわせて迎撃!』

少尉「了解!」

大尉『艦には近づかせちゃならねぇぞ!』

敵『ええいくそ、相手は2機! 数でつぶ――』

バシュゥゥゥゥンッ

敵『――す……、え?』ドゴォォォン



中尉『――命中。ロングレンジは私の得意分野だ』

少尉「ナイスです、中尉!」

中尉『それより、また私の忠告を聞かなかったな』

少尉「うぐ……」

大尉『お説教はあとだ。あと3機なら俺たちでも……』

オペ子『――みなさん! 至急本艦の護衛へ! そちらの敵は陽動です!』

少尉「なにい!? おい、艦は!? 無事か!?」

オペ子『耐ビーム装甲のおかげで一応……でも長くは持ちませ、きゃあっ!』

大尉『チッ、浅はかすぎた……。少尉と中尉は艦の護衛へ! 今のままじゃただの大きい的だ!』

中尉『了解!』ザッ

少尉「大尉は!?」

大尉『こいつらを叩きのめしてから合流する!』バッ

少尉「……でも数が!」

大尉『バーロー、俺がここでやられるタマに見えるか?」

少尉「……見えませんね。ご武運を」

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