【艦これ】空母ヲ級「私ヲ救ッタ提督」 (416)

※艦隊これくしょんのSSです。

※安価はあるかもしれないです。

※荒らし、批判等は極力控えていただきたい。

※口調崩壊、性格崩壊はしているかもしれない。

※オリジナル設定&キャラクターが出てきます。

※過去作の鎮守府とは別の鎮守府の話。

※誤字脱字有、妙なところで改行あり。

 上記のことを踏まえて、それでもいいよと言う人は↓へどうぞ
 お手柔らかに見ていただけたら嬉しいです。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1420964459

【過去作品】
・1作品目:【艦これ】木曾「スキンシップをしてこない提督」
      【艦これ】木曾「スキンシップをしてこない提督」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1419426357/)

・2作品目:【艦これ】青葉「仮面をつけた提督」
      【艦これ】青葉「仮面をつけた提督」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1419743288/)

・3作品目:【艦これ】神通「優しすぎる提督」
      【艦これ】神通「優しすぎる提督」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1420348867/)

・4作品目:【艦これ】間宮「四季を愛する提督」
       【艦これ】間宮「四季を愛する提督」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1420623475/)

リンクできない人は、検索してください。

 深海棲艦。

 それは、近代になって広い海に突如出現した謎の敵である。その正体は、過去に沈んだ軍艦の怨念が具現化した姿とも、

世の人々の悪意が生み出した怪物とも言われている。その深海棲艦は悪意をまき散らすように、目についた民間の商船や

漁船、客船を襲い、人々に恐怖を与えていた。

 だが、その深海棲艦に対抗できる唯一の存在がある。それは、艦娘。

 過去の歴戦の軍艦が、女性として生まれ変わった存在であり、彼女たちは平和な海を取り戻すという願いの下で、そして

同じ願いを持つ海軍の提督の下で、深海棲艦を討伐する―。


 深海棲艦の1人、空母ヲ級は、海面で仰向けにゆらゆらと浮かんでいた。

 グレーの長い髪、体に張り付くような感じの白系の服、黒いマント、頭には魚を模したような帽子、黒いソックスと

ブーツに包まれた長い脚。女性のようなシルエットからわかる通り、ヲ級は女性だ。

 だが先の戦闘で、そのヲ級の長いグレー髪や服のところどころは黒く焦げていた。ビッグセブンとかいう艦娘の攻撃を

まともに喰らい、ヲ級が持っていた艤装は粉々になり、艦載機も一つ残らず破壊された。ヲ級が知る由もなかったが、その

自らをビッグセブンと謳っていた艦娘は長門と言う女性である。

 その長門が、仰向けのヲ級に静かに近づいていく。長門は遠くから止めを刺そうとしたが、ヲ級の姿を見るとそいつは

既に戦えるような状態ではないと判断し、自分から近づいて最後の一撃を至近距離で与えようとした。

長門「終わりだ。せめて、安らかな死を」

 長門は、自分が戦った相手は演習の艦娘や敵を問わず、尊重する主義だ。だから、ヲ級の傍まで来て別れの言葉を言った

のだ。そして、自分の自慢の砲をヲ級の頭に向ける。

 この時ヲ級は、恐怖を感じていなかった。むしろ―

ヲ級(ああ…また私は、暗い海の底に沈むのだな…)

 ヲ級が感じていたのは、恐怖と言うより、虚しい感じだった。深海棲艦には自分を問わず代わりはいくらでもいるし、

ここで自分1人が沈んでも深海棲艦側に大きな被害が出るわけでもない。そして、深海棲艦の人類への攻撃が止まるわけ  
でもない。だから、自分1人が沈んだところで特に何も状況が変わるわけではないのだ。

 そして、ヲ級達深海棲艦には沈む前の記憶がある。だからヲ級は、『また』と感じたのだ。ヲ級も最初は自分が沈むのが

怖かったが、自分が特に何もできず沈んでいくのを何度も繰り返している内に、ヲ級は恐怖を感じなくなった。

ヲ級(もう…何度目だろうな…?私が沈むのは…。まあ、どうでもいいか…)

 また自分は海の底に沈み、そして海の底から蘇るのだろう。そして、また沈んでさらに蘇るのを繰り返す。そんな意味の

無い転生を何度も繰り返している内にヲ級は全てがどうでもいいと思い始めていた。もう、沈むことに何も感じなくなって

いた。

 ヲ級は静かに目を閉じて、ビッグセブンとやらが自分に止めを刺すのを静かに待つ。

 だが―

??「本部より通信!旗艦の長門姉に繋いでって!」

 突如そんな声がヲ級の耳に響く。その声の主は、同じく自分をビッグセブンと名乗っていた女だ。その女の名前をヲ級は

知らないが、彼女の名は陸奥と言う。

 陸奥の言葉に、長門は砲塔を仕舞い、持っていたイヤホンのようなものを耳に入れて、通信の内容を聞く。

長門「こちら旗艦・長門。………戦況報告?ああ、こちらは敵艦隊と交戦、目の前には瀕死のヲ級が1人いるだけだ。

   こいつを倒せば、敵艦隊は撃滅したことに――なに?」

 その言葉に、ヲ級が目を薄らと開けてその1人目のビッグセブンの女を見ると、そいつは疑問の表情を浮かべていた。

長門「…貴様、自分が何を言っているのかわかっているのか!?」

 その女は少し怒りをにじませながら、通信の相手に言葉をかける。だが、その返答を聞くと、そのビッグセブンは諦めた

ように目を閉じて、こう言った。

長門「わかった、提督の言う通りにする」

 その女はそう言うとイヤホンを耳から外し、フーと息を吐く。だが、仕舞った砲塔を再び展開させようとはしない。

そしてヲ級は、その女が言っていた『提督』という単語と、その『提督』が下した命令とやらが気になった。

ヲ級(何が…?)

 ヲ級が疑問を抱いた直後。

sageをメール欄に書き込むと更新したかどうか分からんぜよ
なのでsageは無しにしてほしい


 ビッグセブンの女が、右の拳を目にもとまらぬ速さでヲ級の腹に思い切り叩きこんだ。

ヲ級「ガ―ッ!?」

 ヲ級はただ、声を上げることしかできなかった。が、息が詰まり、短くしか声を上げられなかった。

 ヲ級の意識が徐々に暗くなり始める。その中で、ヲ級は疑問を感じた。

ヲ級(どうして…?砲撃しなかった…?)

 だが、ヲ級はそれ以上考える気力がなくなり、ヲ級の意識はそこで途切れた。


 ヲ級の意識が無くなったことを確かめると、長門はヲ級を米俵のように右肩に担いだ。それまでのやり取りを見て、陸奥

は長門に声をかける。

陸奥「もっと優しくできなかったの?」

長門「相手は深海棲艦だ。油断はできん」

陸奥「まあ、長門姉らしいっていうか…」

長門「しかし提督め、どういうつもりだ?」

 2人はそう言い合いながら、彼女たちの鎮守府へと戻って行った。

一回ここで切ります。次の再開は21時過ぎの予定です。

>>9
 わかりました。これでよろしいでしょうか?


※ヲ級は、心の中の言葉は流暢ですが、声に出して言う場合(今後の展開)はカタコトになります。
 それだけはご注意ください。

>>11
おk
いちおう言っとくと、sagaのみを書き込むのは基本的にSSを投稿する時と規制解除するだけな
単にコメントとか安価を書く場合はsage

>>1は改行位置を直す気はないの? 読みづらいんだが。
最初の作品の時に指摘されて、これからは直すみたいなこと言ってたのに、相変わらずだよね。

こんばんは。再開します

>>13
 アドバイスありがとうございます。

>>21
 直すと言いながら変えないですみません。ですが、やはり>>1としては今の書き方がしっくりしているのでこのままの
 書き方で行かせてもらいます。本当にすみません。

また、コメ欄での喧嘩はやめてほしいです。

 ヲ級が目を覚ましたのは、暗く冷たい海の底ではなく、明るく暖かいベッドの上だった。

ヲ級「…?」

 ヲ級には今の状況が理解できない。ここはどこなのか。なぜ自分は生きているのか。どうしてこんな所にいるのか。ヲ級の

頭から疑問が消えなかった。

 ヲ級は顔を右に向ける。そこには窓があり、窓の向こうには月に照らされた夜の海が広がっていた。その光景から、今は

夜だということがわかる。

ヲ級(私があのビッグセブンとやらにやられたのは昼過ぎ…つまり、半日以上も気絶していたのか…?)

 そう思いながら、今度はヲ級は顔を左に向ける。そこには―

??「お、目が覚めたのか?」

 白い軍服を着た男が椅子に座っていた。年齢は20代前後。さっきまで本を読んでいたのか、手には小さな本が握られて

いる。

提督「俺の名前は提督。…本名は教えられないがな。ここは、俺が統括している第弐拾鎮守府の医務室だ」

ヲ級「…ヲヲ…?(…提督…?)」

 ヲ級は艦娘を含む人の言葉を理解することはできる。だが、人の言葉を喋ることはできなかった。

 そして当然、提督にはヲ級の言葉を理解することはできない。

提督「…俺の言っていること、わかるか?」

ヲ級「…ヲ…(…ああ…)」

 ヲ級は肯定の意味で声を出したが、やはり提督は理解できなかったようだ。

提督「やっぱり、わかんねぇか…」

 そう若干しょんぼりした提督を見て、ヲ級はこの男が自らを『提督』と名乗った思い出す。

ヲ級(『提督』…?)

 ヲ級は今までの流れを思い出した。

 あの時、ヲ級はビッグセブンの女に止めを刺されるはずだった。だが、この『提督』がその女に通信で何かを言って、

ヲ級は腹を思いっきり殴られて気絶したのだ。そして今、その『提督』の鎮守府にいる―。

ヲ級「!」

 そこまで思い出して、ヲ級はハッと思い出したかのような顔をし、ベッドから飛び起きた。要するに自分は、この提督の

捕虜にされたということだ。そして、自分は拷問や尋問をされて深海棲艦側の情報を聞きだされるに違いない、そう思った。

提督「うぉっ、どうした急に!長門のパンチで気が狂ったか!?」

ヲ級「ヲッ!ヲヲヲヲッ、ヲヲヲーヲッ!!(黙れ!この私を捕虜にしようとしたことを、後悔させてやる!!)」

 正直ヲ級は、自分の持っている情報が海軍に漏れることに関してはどうでもよかった。だが、自分が捕虜になるという

のは、自分の中に僅かに残っているプライドが許さなかった。そのわずかなプライドが、今のヲ級を奮い立たせた。

 ヲ級は今の自分には艤装がないことは感覚で分かった。だが、素手で殴るだけでもこの男を殺すことまではできないが昏睡

させることはできるだろう。そう思って、ヲ級は右の拳に力を入れようとしたが…


 ぐぅ~…


 突如自分の腹から聞こえた腹の虫の声に、ヲ級の拳から力が抜けていくのを感じた。

提督「…今のは俺じゃないし…もしかしてお前、腹が減ったのか…?」

 提督は床に尻もちをついた状態で恐る恐るヲ級に聞いた。ヲ級は少しだけ顔を紅くしながらこくりと頷く。

ヲ級「…ヲゥ…(…うん…)」

提督「あー…なんか食べるか?」

ヲ級「ヲッ!!(食べる!!)」

 ヲ級は顔を紅潮させ、目をキラキラさせながら答える。

提督「おお、これは食べたいってことなのはわかるぞ…」

 提督はそう言うと立ち上がり、やっぱ病人なら粥だよな~、と呟きながら部屋を出ていった。それを見ると、ヲ級はまた

ベッドに寝転んだ。

 今のヲ級には、逃げ出そうという意思はなかった。それには、理由が2つある。1つは、戻ったところで何かが変わるわけ

でもないということ。

 もう1つは、さっき見た提督の目の中に宿る感情だった。

ヲ級は提督の目を見た時、直感だが、提督の中には敵対心や憎しみといった負の感情がないように思った。むしろ、その目

には自分を心配してくれているという感情がある…ように感じる。

ヲ級(この私を…敵である憎き深海棲艦の私のことを心配してくれているだと…?)

 ヲ級は、その心配するような感情に何か妙なことを感じ取り、逃げ出すのをやめた。

ヲ級(まあ、どっちにしろ、あの提督はいずれ消すことにするか)

 この鎮守府の戦力は強力なものであるというのは、自分の部下であるイ級やホ級、そして前の自分との戦いからわかっていた。

そして、ヲ級はその提督に何度も苦しめられてきた。だが、今ヲ級はその憎き提督の近くに居る。この機会を利用しない手は

無かった。

ヲ級(そして、ここの提督は多少バカだということはわかった)

 ヲ級は周りを見回す。自分の周りには艦娘がいないようだ。監視カメラのような機材も見当たらない。耳を澄ませると、

小さな機械のようなものが駆動する音も、人の呼吸する音も聞こえない。

ヲ級(今私は装備を持っていないが、それでも敵の主戦力ともいえる存在だ。その私を、こんな監視もいない部屋に1人に

   するなどとは気が抜けすぎている。とんだ甘ちゃんだな)

 ヲ級はもし敵を鹵獲した場合、対象をベッドに括り付けて周りに監視役を最低でも5人はつけて首には爆弾でもつける

つもりだった。

ヲ級(…アイツが何を考えているのかは知らないが、少しだけアイツの甘々な作戦に乗ってやる。そして、機を見計らって

   アイツに一矢報いた後でここを脱出してやる。深海棲艦達の下へ戻るなどどうでもいいが、ここの提督の下にいるよりは

   マシだ)

 ヲ級は、当面の方針を決める。だがこの時ヲ級は、提督の目的は深海棲艦側の情報を聞き出すなどというものではないという

ことに気づかなかった。

今日はここまでです。少し短めですみません。

次の再開は明日の午前中の予定です。

それではまた明日。



深海棲艦って…ドロップできませんかね…(遠い目)

こんにちは。

少し遅くなりましたが、再開します。

 数十分後。医務室のドアがゆっくりと開く。入ってきたのは、白いお椀を両手で持った提督だ。

提督「調子はどうだ?」

ヲ級「ヲッ(だいぶ良くなったよ)」

 ヲ級はまだ病人のフリをすることにした。それは、こちらが病人ならば提督は気が緩むだろうと考えてのことだったが、

提督は本気で心配しているようだ。

提督「よくなった…ってことか?そりゃよかった。粥作ったんだが、食べるか?」

 そう言ってお椀と蓮華を差し出す。その中身を見て、ヲ級は思う。

ヲ級(なんか煙が出てる…こんなもの食えるのか…?)

 深海棲艦は、襲った船から食料を奪ったり、海中を泳ぐ魚を素手で取って食べる。だから、湯気が出ている食べ物など

初めてなので、ヲ級は食べるのを躊躇ったのだ。だが提督は、ヲ級が粥を食べない理由を勘違いした。

提督(もしかして…食い方がわからないのか?)

 提督はそう考えると、お椀を片手に持ち、蓮華にお粥を少しよそい、ヲ級の口の前に差し出す。

提督「ほれ、あーん」

 ヲ級は提督の行動が理解できなかったが、どうやら食べろという意味らしい。というわけで、ヲ級は口を開けて粥を口に

入れる。その瞬間、ヲ級の口の中に熱が広がった。

ヲ級「ヲッ…ヲゥッ…!(熱っ…熱ぅ…!)」

提督「あ、悪ぃ、熱かった?フーしとけばよかったな…」

 ヲ級は口をはふはふさせながら粥を喉の奥に流し込む。すると、体が温かくなるのを感じた。

ヲ級(お、美味しい…!この世にこんな食べ物があったなんて…!)

 冷たく湿っっていて大して美味しくもないものしか食べてこなかったヲ級にとって、この感覚は新鮮なものだ。

ヲ級「ヲッ!ヲッ!(もっと!もっと!)」

 ヲ級は口を開けてそれを自分の右手で指さす。今度は提督もその行動の意味が分かった。

提督「おお、美味しかったのか?そりゃよかった…。ほれ、フー、フー…。よし、あーん」

 提督が蓮華に乗ったお粥を差し出すと、ヲ級は満面の笑顔で口に含む。しばし、そんなやり取りを繰り返している間、

ヲ級の様子を見た提督は思った。

提督(…コイツ、すごい子供っぽいな…。深海棲艦のことはわからんが、いくつぐらいなんだろ…)

 ヲ級が粥を食べ終わると、提督は粥が入っていたお椀を傍の棚に置く。ヲ級は、初めて温かく美味しいものを食べたせいか、

上機嫌そうに自分のお腹をさすっている。

ヲ級「~♪」

提督(美味しかったみたいだな、よかった)

 嬉しそうなヲ級を見て提督はそう思うと、レンジの中から温かいタオルを取り出す。

提督(一応、体は拭いておくか)

 提督はこの時、深海棲艦に羞恥心があるとは考えていなかった。

提督「体拭くからな~」

 そう言いながら提督がヲ級の着ているニットのワンピースのようなものの裾に手をかける。

 その瞬間、ヲ級の右拳が提督の頭の頂点に振りかざされた。

ヲ級「ヲヲヲッ!(何をするこの変態!)」

提督「痛ぁ!?え、なに!?深海棲艦にも羞恥心とかあるの!?」

ヲ級「ヲヲッ!(当たり前だろ!)」

提督「そうだったのか…なんかショックだ…」

 深海棲艦の意外な一面に提督が少しショックを受けていると、ヲ級は提督の手から蒸しタオルを奪い取る。そして、手に

持ったものが以外にも温かかったので、ヲ級はびっくりする。

ヲ級「ヲ?(これを、どうするつもりだったんだ?)」

提督「あー、それで体を拭くつもりだったんだよ」

 提督は、ヲ級が蒸しタオルを持って不思議そうな顔をしているのを見て、体を拭く真似をする。

ヲ級(だから…私の服を脱がそうとしたのか…)

 そう考えて、自分で体を拭くために服を脱ごうとし、提督の視線に気づいて、シッシッと手を振る。

提督「わかったから、殴んないでよ…?」

 提督はそう言うと、部屋を出ていった。

ヲ級(まったく…なんなんだあの男は…?)

 ヲ級はそう思いながら手早く服を脱ぎ、自分の胸や足などを拭く。すると、体中が温かくなり、心地よくなるのを感じた。

その気持ちが、自然と声に出た。

ヲ級「ヲヲ…(気持ちいい…)」

 ヲ級は次第に眠くなってきた。だが、この状況で眠ってしまってはあの男に自分の裸を見られてしまう。そう思い、急いで

体を拭こうとしたが背中に手が届かない。少しの間なんとか背中を拭こうと試みたがやはりできないので、少し考える。

ヲ級(仕方ない…)

 ある方法に至ったヲ級は声を上げる。

ヲ級「ヲッ!(入れ!)」

提督「お、終わったのか―え!?」

 提督の目に映ったのは、さっきまで着ていたニットのワンピースを体の前半分で隠し、提督向けて背中を見せているヲ級

の姿だった。

提督「ちょっ、何してんの!?」

ヲ級「ヲヲヲ…(背中拭いて…)」

 そう呟きながらヲ級は自分の背中を指さす。

提督「なんだ、背中拭いてほしいのか…?」

 提督の言葉に、ヲ級はこくこくと頷く。その反応を見て、提督はヲ級が持っていたタオルを受け取り、ヲ級の背中を

優しく拭く。ヲ級の背中を拭きながら、その白い背中を見て提督は思った。

提督(やっぱり、曲りなりにもこいつは女なんだよな…。肌はキメ細かで綺麗だし、ちゃんと背中まで拭こうとするし…。

   髪だって滑らかだし…。それなのに俺たちは…)

 提督はそこから先のことを考えるのをやめた。そして、提督はヲ級の背中を一通り拭き終える。

提督「終わったぞ…」

ヲ級「ヲ…(あっち向いてて…)」

 ヲ級はそう呟きながら手をくるくると回す。その行動が指す意味を分かった提督は、顔を体ごと180度反対に向ける。

ヲ級は持っていた服を着て、ベッドに横になる。そして、提督が蒸しタオルで優しく拭いたのがが気持ちよかったのか次第

に眠くなってきた。

提督「おい、もういいの―あ、眠いのか?」

 いつまでたっても返事がないヲ級に提督が振り返りながら問うと、ヲ級は明確な反応を示さなかったが、ヲ級は寝ぼけ眼

だった。

提督「そっか、眠いのか…じゃ、明日の朝また来るからな。おやすみ」

 そう言って提督は立ち上がり、医務室から出ようとする。ヲ級はその提督の手を細く長い指ですっと握る。

提督「ん?」

ヲ級「ヲォ…(少しだけ、傍にいて…)」

提督「…傍にいてほしいのか?」

ヲ級「ヲ…(ああ…)」

提督「…お前が寝るまでならいいぞ」

ヲ級「…ヲヲ(…ありがとう)」

ヲ級(私は…何をやっているんだろうか…。こんな男の手を咄嗟に握るなんて…。人の温もりと言うものを感じたかった

   のかもな…) 

 ヲ級はそう考えてが、すぐに目が徐々に閉じていき、目が完全に閉じると静かに寝息を立て始めた。

ヲ級「スゥ…スゥ…」

提督「…寝たか」

 ヲ級が寝たのを確かめると、提督は自分の手を握っていたヲ級の指を静かに優しくほどき、音をたてないように静かに

医務室を出た。そして、執務室兼自室に戻る道すがら、提督は考えた。

提督(明日から、忙しくなるな…ここの奴らにヲ級のことを教えなきゃならんし…)

 今この鎮守府にヲ級がいるのを知っているのは、ヲ級を捕まえる際にその場にいた長門、陸奥、鳳翔、赤城、古鷹、神通

だけである。秘書艦の加賀には伝えていない。

提督(どう説得したもんかね…?とくに加賀とかの説得が面倒そうだ…)

 提督は、そして、と前置きをしてこうも考える。

提督(あいつに言葉を教えなきゃならないし…。アイツの言っていること、全く分からんからな…)

一旦ここで切ります。

次の再開は14時前後の予定です。

再開します。

 それは、砦のようなものだった。しかし、それは地上ではなく海中にある。そこが、深海棲艦の本拠地だった。しかし、

そこは海中にあるのと、地球上のどこにあるのかがわからない。だから、誰も見つけられないのだ。

 その本拠地にいる深海棲艦の上層部(深海棲艦にもそう言う区切りはある。イ級などの下級は知らなかったが)は、泊地

棲鬼が南西諸島防衛線にいる重巡リ級からの報告で、ヲ級に関する異変を知った。

泊地棲鬼「空母を級ガ着底シタノヲ確認デキナイダト?」

重巡リ級(以下リ級)『ハイ。着底予測地一帯ヲ捜索シテイマスガ、を級ラシキ姿ハ確認サレテイマセン』

 南西諸島防衛線にいたヲ級の反応が消えたのは12時29分。本来ならば、その約15分後の12時44分にはヲ級が着底している

はずだが、ヲ級の回収に向かった駆逐イ級や軽巡へ級から『沈んだはずのヲ級が見つからない』という報告を受け、不審に思った

リ級が上層部へ報告したのだ。

 リ級の報告を聞いた上層部の面々は、疑問の声を上げる。

装甲空母姫「ドウイウコト?艦娘ノ攻撃デ、分子れべるニマデ分解サレタノカシラ?」

空母棲姫「イヤ、タカガ艦娘ノ攻撃ゴトキデソコマデ粉々ニサレルトハ思エナイ」

港湾棲姫「デハ、ドウシテ反応ガ消滅シタノ?」

 そこまでの会話を聞いていた、空母水鬼は言った。

空母水鬼「マサカ、捕獲サレタノカ?」

 空母水鬼の言葉に、上層部の連中や通信していたリ級は凍り付いた。そして、数秒後に再びざわつきだす。

装甲空母姫「イヤ、ソレハ考エニクイガ…」

装甲空母鬼「ダガ、可能性ハアル」

飛行場姫「モシ、ソウダトシタラ?」

離島棲姫「オソラク、を級ヲ通シテ、コチラ側ノ情報ガ奴ラニ知ラレテシマウダロウ…」

戦艦棲姫「ソシテ、コチラ側ニ被害ガ及ブ…」

リ級「ソンナ…」

 戦艦棲姫の言葉を聞いた時、その言葉を聞いた深海棲艦達は、今まで感じることがなかった、恐怖という感情を覚えた。

そして、それまでのやり取りを聞いていた泊地棲鬼はこう結論付けた。

泊地棲鬼「タシカニ、を級ガ捕獲サレテアノ鎮守府ノ捕虜ニナッタ可能性ハ高イ。ダガ、ソレハ100%デハナイ。ココデ

     ソノ鎮守府ニ奇襲ヲ仕掛ケルノハ得策デハナイ。り級、オ前達南西諸島防衛線ノ部隊ハ、他ノ鎮守府海域ノ連中ト

     連絡ヲ取リ、当面ノ間ソコノ鎮守府ノ動キヲ監視スルヨウニ伝エロ。無論、オ前達モ監視ヲ怠ルナヨ」

リ級「リョ、了解」

 そこで通信は途切れた。

 当然、深海棲艦達の通信を傍受することはできても彼女(?)たちの言葉を理解することは誰にもできない。

 例え艦娘であっても、だ。

 翌朝、ヲ級はやっぱり医務室のベッドの上で目を覚ました。昨夜の出来事が、全て夢ではなかったことがわかって、少し

ホッとした。

ヲ級(なぜ、ホッとしたのだ…?)

 すると、医務室のドアがノックされる。入ってきたのは提督だった。

提督「おう、おはよう。元気そうだな」

ヲ級「ヲッ…(おはよう…)」

提督「朝飯作ってきたんだが、食べるか―食べるよな、その反応は」

 提督は、両手でサンドイッチが載った皿を持っているのを確認すると、興味深そうな目でそれを見つめるヲ級を見てそう

言った。

ヲ級「ヲヲッ!(食べるに決まってるじゃない!)」

 ヲ級はサンドイッチを1つ手にとり、口に運ぶ。口の中にパンの柔らかい触感と、挟まれていた野菜のシャキシャキした

触感が口に広がり、ヲ級は目を細める。

ヲ級「ヲ~ッ!(美味し~!)」

提督「美味しそうで、よかったよ」

 ヲ級は提督の言葉を聞くと、提督にサンドイッチを1つ差し出す。

ヲ級「ヲッ?(食べる?)」

 提督は、ヲ級の行動を見て、手を横に振った。それを見ると、ヲ級はまたもきゅもきゅとサンドイッチを食べ始める。

提督「俺はいいよ。さっき食べたし。それより、本題に移りたいんだが…」

ヲ級「?」

 ヲ級はサンドイッチを食べながら提督の言葉の続きを待つ。

提督「…お前が鎮守府にいることを皆に話す」

 食べていたサンドイッチを吹き出しそうになった。

ヲ級「ヲッ!?(ウソ!?)」

提督「そりゃそうだろう…いつまでも隠せるはずがないし…」

 ヲ級は焦った。もし自分がいることが知られれば、今後自分は艦娘に監視されてこの提督に一矢を報いる隙が無くなって

しまうし、ここから逃げ出す機会も減ってしまう。というか、皆に紹介されるというのが恥ずかしい感じが少しある。

ヲ級「ヲヲッ、ヲヲッ、ヲーヲーヲーッ!!(待って、やめて、それはやめてぇ!!)」

 ヲ級は嫌だという感情を身振り手振りを使って表すが、この提督は物わかりが悪いのか全くの逆方向に勘違いした。

提督「なんだ、そんなに艦娘達に会いたいのか?そりゃよかったよ」

ヲ級「ヲヲヲッ!(違う!)」

提督「わかったよ、この後の8時の朝礼で皆に話すから。後でもう一回ここに来るから、な?」

ヲ級(クソッ!言葉が通じないことがここまで不便とは…っ!)

 結局、本当のことを理解できないまま提督は医務室を出てしまい、その後朝礼の15分前に提督はもう一度やってきて、

朝礼をする講堂へとヲ級は引きずられていった。

 講堂は、鎮守府の2階にあった。そこで提督は朝礼や重要な集会等を行う。

今、この講堂にはこの鎮守府にいるほとんどの艦娘が集まっていた。皆は事前に提督から『とても重要な話がある』と

伝えられていた。

吹雪「なんだろう?重要な話って…」

白雪「分からないね…なにか事件でも起きたのかな?」

青葉「私が知らない事件なんてありません!」

 しかし、事情を知っている、つまりヲ級を捕獲した場所にいた6人は、提督が言う重要な話が何かを知っていた。

長門「提督め、ついに話すのだな」

陸奥「あらあら…。でも、いつまでも隠し通せるものでもないし、言うなら今しかないんじゃないの?」

赤城(加賀さんは、絶対認めないでしょうね…)

 そんなことを話していたり考えていると、朝礼の8時になる。同時に、提督は講堂の前方に提督が入ってきた。それを見て、

秘書艦の加賀が号令をかける。

加賀「気を付け!」

 加賀の凛とした声が講堂に響き渡る。艦娘達は、加賀の気を損ねると目も当てられないことになると考えていたので、皆の

行動は早かった(もちろん、加賀はそんなことをするつもりがなかったが)。

加賀「敬礼!」

 艦娘全員が敬礼をする。提督はそれにうん、と頷く。

加賀「休め!」

 全員が着席した。それを見て、提督が話し出す。

提督「皆、おはよう。今日も皆元気そうでなによりだ。では―」


 講堂の舞台裏にある扉の外で、ヲ級は提督の朝礼の言葉を聞きながら考えていた。

ヲ級(どうしよう…。私の存在がバレたら、艦娘の奴らから攻撃を受けるかもしれない…そして今度こそ、私は…死ぬだろう)

 ヲ級はそのことを提督に伝えようとしたが、やはり通じなかった。

ヲ級(どうする…。もう、受け入れるしかないのか…)

 そう結論付けると、それに対応するように、講堂にいる提督が言った。

提督『さて、昨日俺は重要な話があると言ったな。実は…この鎮守府に新しい奴が来たんだ(※艦娘とは言っていない)』

 その言葉を聞いて、中の艦娘達から『おぉ』という声が上がる。

『誰だろう?』

『もしかして、野分ちゃん!?』

『それとも、雲龍さんかな!?』

ヲ級(ああ…皆完全に期待している…だがすまない)

 ヲ級は心の中で謝ると、中にいた提督が言う。

提督『では、入ってくれ!』

 そう言われて、ヲ級は意を決して講堂の扉を開け、舞台の中央に向かって歩いていく。


 その新しい子の足音に、講堂にいる艦娘は誰か誰かと胸を躍らせていた。しかし、あの場にいた艦娘と加賀だけは違った。

加賀(提督、昨日はめぼしい子がいなかったって言っていたはずですが…?)

 そして、その子が舞台の中央に現れた時、事情を知っている艦娘以外は絶句した。



提督「紹介しよう。空母ヲ級だ」

ヲ級「ヲ、ヲッ(よ、よろしく)」



 ヲ級がぺこりと頭を下げる。次の瞬間―

全員「ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!??」



 講堂の艦娘全員が疑問の叫び声を上げる。だが、提督は気にしない。

提督「彼女がいるのは、少し理由があるからだ。反省はしていない。皆、仲良くしてやってくれ」

ヲ級「ヲヲッ(どう考えても無理でしょ、これ)」

 そして、真っ先に噛みついたのが加賀だ。

加賀「提督、これはどういうことですか!?」

 加賀は珍しく声を荒げている。それが珍しくて、提督は面白かった。

提督「昨日、長門に言って捕獲してもらった」

加賀「なぜ!?なんのために!?」

提督「俺の目的のため。それは後で話すから、今は―」

『どういうことよ!?』

『そいつを海へ放り出せ!』

『いや、ここで始末しましょう!』

提督「…こいつらを静かにさせようぜ?」

加賀「…そうですね…。この状態では話をすることもできません」

 結局、騒いでいた艦娘達を鎮めるのに状況説明を含めて1時間ほどかかった。

 朝礼が終わり、出撃艦隊が出撃してようやく落ち着くと、加賀は提督に聞いた。聞くことは当然、ヲ級についてだ。

流石に加賀も少し落ち着いたようだ。

加賀「提督、なぜヲ級を捕まえたんですか?」

提督「それはな、アイツらの真意を聞くためだ」

加賀「真意?それは、どういうことですか?」

提督「ああ―」

 そして提督は、なぜヲ級を捕まえたのか、その理由を加賀に話す。

 話を聞き終えると、加賀はため息をつきながら言った。

加賀「はぁ…。あなたらしいというか…らしくないというか…」

提督「で、俺の話を聞かせてやったが、結局お前はヲ級はどうしたい?」

 加賀は少し考えた後、言った。

加賀「…どうやってヲ級から真意を聞くんですか?彼女は、言葉が話せないんですよ?」

提督「霧島とか鳥海とかに教えてもらおう。というか、その言葉はヲ級を始末しないってことだよな?」

加賀「ええ、そうです…。今回だけ、貴方とヲ級を信じてみましょう」

提督「そうか…ありがとう」

 提督がそう言うと、加賀はぷいと顔を背けて部屋を出ていく。

 交代に、部屋の外で待機していたヲ級が入ってくる。

ヲ級「ヲッ?(何を話していたんだ?)」

提督「じゃ、霧島と鳥海を呼ぶか。アイツら今暇だろうし」

 やはりヲ級の言葉は提督には届かず、放送を入れた。

ヲ級(もう逃げ出すのはやめよう…。なぜかさっきの朝礼を見てこの鎮守府は楽しそうと思ったし、この提督は私がここから

   逃げ出したら悲しむかもしれないし―って、私が他人のことを気にするなんて…)

 提督が放送を入れてからわずか数分で、霧島と鳥海は執務室に入ってきた。

霧島「失礼しま―ヒッ!」

鳥海「どうしまし―たっ!?」

 霧島と鳥海は当然のようにヲ級の姿を見て震えあがった。その反応を見て、ヲ級は若干凹む。

提督「おいおい、そんなに怖がるなよ。ヲ級が悲しんでるぞ?」

ヲ級「ヲッヲッ!(いや、私は悲しくなんて!)」

 しかし、ヲ級は事実少し悲しかった。そして、提督がなぜ自分が悲しいと分かったのかが疑問だった。

提督「まあいい。いや、お前たちに集まってもらったのは他でもない。ヲ級に言葉を教えてやってほしいんだ」

霧島「は、はあ…それをなぜ私たちに…」

提督「いや、だってお前たち頭良いし、人に言葉を教えるなんて簡単じゃないの?」

鳥海「そんなあっさりと…まあ、やってはみますけど」

提督「ありがとさん。今度何か奢ってやるから頼むわ。あ、教えるんなら1階の会議室を使ってくれ。あそこなら白板も

   あるし」

霧島「…わかりました」

 そう霧島が切り上げると、霧島と鳥海はヲ級を連れて部屋を出ようとする。その直前で、提督が思い出したかのように

言った。

提督「ああ、もし俺が見てない間にそいつ沈めたら…お前ら解体するぞ」

 提督の『お前ら解体するぞ』の部分が凄く真剣な口調であり、殺意を感じたので、霧島と鳥海は震えた。

霧島「は、はい!」

鳥海「りょ、了解しました!」

 そう返事をすると、2人は執務室のドアを閉める。一方ヲ級は、提督の言葉を聞いて、少し胸がキュンとした。

ヲ級(この感覚は…なんだ?)


 会議室に着くと、ヲ級は席に座り、霧島と鳥海は前に立った。

霧島「さて、何から教えましょう?」

鳥海「やはり…ひらがな50音かしら?」

 というわけで、まずはひらがなから教えることにする。

霧島「それではヲ級さん、私の後について言ってくださいね。あ・い・う・え・お」

ヲ級「ヲ・ヲ・ヲ・ヲ・ヲ(あ・い・う・え・お)」

鳥海「…先が思いやられますね…」

ヲ級「ヲ?(なんで?)」

霧島「ハァ…」

 その後、霧島と鳥海の根気ある講習で、1週間後にはやっとカタコトの日本語が喋れるようになった(ついでに2人は

ヲ級になぜか英語、ロシア語、フランス語等も教えた)。

 霧島と鳥海がヲ級に言葉を教え始めてから1週間後、ヲ級が言葉を理解するようになると、提督は安心した。

提督「そうか、やっと喋れるようになったか。よかったよ」

 提督が今いるのは提督の私室兼ヲ級の部屋である。提督はヲ級を空母寮に入れるわけにもいかなかったので、自分の部屋に

住まわせることにしたのだ(ちなみに、ヲ級が言葉を理解するまでの一週間、ヲ級とは特にやましいことはなかった)。

ヲ級「マサカ、私ガ人ノ言葉ヲ話スヨウニナルトハナ」

 ヲ級の言葉はカタコトだったが、話ができるならば提督はそれでも十分だった。

提督「意外か?」

ヲ級「アア。私ハ元々、過去ノ船ノ怨念ノ集合体ダ。タダ憎シミヲ振リマクダケの存在。人間ノコトヲ理解シヨウト考エタ

   コトハ無イ。ダガ、今コウシテ人ノ言葉ヲ使ッテイル。ソレガ驚キダヨ」

提督「…憎しみを振りまくだけの存在…か」

ヲ級「…?」

 ヲ級は、人語が話せるようになったら聞こうと思っていたことを聞くことにした。

ヲ級「ソレハトモカク、提督、オ前ハナゼ、私ヲ捕マエタノダ?ヤハリ、私カラ情報ヲ聞キ出スタメカ?」

提督「…いや、そんなことじゃない。俺は、深海棲艦側の情報なんかに興味はない」

ヲ級「…ナニ?」

 提督の意外な返事に、ヲ級は驚いた。

ヲ級「私ハ、深海棲艦側ノ情報源トイウダケノ存在デハナイノカ?」

提督「…仮にそうなら、お前を暖房とベッド付きのここに住まわせた上に三食の飯を食わせて自由にさせるわけないだろ」

 ヲ級は確かにと感じた。こんなゆるゆるな監禁生活なんて見たことも聞いたこともない。

ヲ級「デハ、何ガ狙イダ?」

提督「…それは―」

 提督が何かを言う前に、私室のドアがノックされる。そして、ドアを開けて入ってきたのは秘書艦の加賀だ。

加賀「提督、何をなさっているのですか?」

提督「いや、ヲ級と話をしようとしてな…」

加賀「それより、あと2時間で第壱鎮守府の艦隊と演習ですが」

提督「…ああ~、あのインテリ(笑)ちゃんか…」

 この第弐拾鎮守府の提督から見た第壱鎮守府の提督は嫌な男である。

 鎮守府につけられた番号は成績順であると勘違いし、第壱鎮守府に着任したその男は自分は優秀だと勘違いして、戦う相手を

見下してくる。そんな奴のことは、第弐拾鎮守府の提督も他の鎮守府の提督も嫌いだった。

 どのぐらい嫌いかというと、加賀はもちろん温厚な赤城もゴミ虫を見るような眼で陰口を叩くらいである。

ヲ級「ソノいんてり(笑)チャンハ、頭ガイイノカ?」

提督「いや、多分バカだ。奴の演習艦隊は負けたことがないが、どうせ艦娘達の方が頭を使っているんだろう。あのバカ提
督は

   多分何も考えないで出撃させて勝ちを取っているだけだ。それなのに、俺でも勝ったことはない」

加賀「正直、あそこの提督に対して私は嫌悪感しか感じないのですが」

提督「それが普通だよ。ああ、アイツのところにいる艦娘達が哀れにしか感じない」

 正直提督は、あのバカ提督を倒して奴の鼻をへし折りたいと思っていた。そう思いながら、ふとヲ級を見る。

 そこで提督はあることを思いついた。

提督「あ」

ヲ級「ドウシタ?」

加賀「どうなさったんですか?」

 2人が聞くと、唇を三日月のように歪めて言った。

提督「あのバカの鼻を明かす方法、考えついちった」

 演習が始まるまでの間に、提督はある人物を呼び出して、さらに別の人物に頼みをした。

 そして、演習開始時刻間際。提督は鎮守府の会議室に入室した。中には正面に大きなディスプレイが壁に掛けられている。

会議室の椅子には判定役の大淀と、第壱鎮守府の提督が椅子に座っていた。

 その提督は、第弐拾鎮守府の中肉中背の提督とは違い、背が低く太っていた。階級はここの鎮守府の提督より1つ上。

そのインテリ(笑)提督は、こちらに気付いて席を立ちあがる。

第壱鎮守府提督(以下敵督)「これはこれは、落ちこぼれの第弐拾鎮守府の提督クン。元気だったかい?」

提督「…どうも」

 この男は出合い頭に人を見下す発言をする。そんな性格からか、この男には友達などいないし、コイツの下にいる艦娘達


この男のことを信頼などしていなかった(提督LOVE勢と言われている金剛でさえ)。

敵督「今日も、このインテリ提督の僕の経験値稼ぎに協力してくれるなんて、君は心優しいねぇ~」

提督「アーハイハイ、ソウデスネ」

 提督はついヲ級の真似をしてこの男の言葉を聞き流す。

大淀「ではこれより、第壱鎮守府と第弐拾鎮守府の演習を開始します。」

 大淀がそう言うと、2人の提督はそれぞれ向かい合わせにU字型に並べられた椅子に座る。そして、壁に掛けられた

ディスプレイが点いた。画面の中には、この鎮守府から北に8キロの地点にある四角く囲まれた演習場が映っている。

大淀「第壱鎮守府の演習艦隊は、大和、赤城、武蔵、伊勢、日向、大鳳です」

 提督がちらりと前を見ると、予想通り敵督はドヤ顔をしていた。あの表情から『既に勝った』と思っているように感じる。

敵督(ふっふー、これで今日も経験値いただき~。演習が終わった頃この落ちこぼれクンは、悔しそうに床に這いつくばる

   んだろうな~。楽しみだなぁ)

 そう思いながら敵督は画面の中を見る。そこには、自分が編成した完全無欠(だと思っている)の艦隊が映っていた。

表情はよく見えないが真剣そうな表情をしているように見えた。

提督(やっぱ、賢そうな奴らばっかで組んでやがるな…。まあ、結局は力押しのバカか)

 だが、と提督は心の中で付け加える。

提督(少しは驚いてくれるかな?第壱鎮守府のインテリ(笑)ちゃん。今日はテメェが負ける日だよ)

 そして、大淀が第弐拾鎮守府の艦隊編成を言う。

大淀「第弐拾鎮守府の演習艦隊は…へ?」

 大淀は艦隊の所属艦を言う前に疑問の声を上げる。

大淀「あの…これは一体…?」

提督「どうした、俺は自分の判断を間違ったつもりはないんだがな」

大淀「ですが…これは…」

敵督「何でもいいから早く続けてよ。まぁ、どんな艦隊を組もうが僕の完全無欠の艦隊に勝てる編成なんていないけどさぁ!

   ブヒャッヒャッヒャッヒャ!」

 敵督が下品な笑い声を上げる。それを見た大淀が珍しくゴキブリを見るような眼で敵督を一瞥した後、その疑惑の艦隊の

編成を告げる。




大淀「第弐拾鎮守府の演習艦隊は…く、空母ヲ級、長門、陸奥、夕立、時雨、龍驤…です」



敵督「…あ?」

 敵督は耳を疑った。今、何か聞き捨ててはならないような単語が聞こえたからだ。

敵督「おい、今なんて言った?え?空母ヲ級?」

大淀「…はい」

敵督「はぁ!?いや、何言ってんだよ!なんで!?なんでえ!?」

 敵督は目を見開いて提督を見ると、今度は提督がドヤ顔だった。

提督「おやどうしたインテリ(笑)ちゃん。何か問題でも?」

敵督「大ありだよ!なんでヲ級がいるんだ!」

提督「ああ、あいつは1週間前に俺の鎮守府に着任したんだ。以上」

 敵督は改めてディスプレイを見る。すると、第弐拾鎮守府の演習艦隊には、自分も苦しめられたことがある空母ヲ級の

姿があった。そして、自分の艦隊の面々はよく見ると不安と疑問が入り混じった表情をしている。

敵督「ふざけるな!こんな演習は無効だろ!」

提督「演習に深海棲艦を使うなってルールは確かなかったよな?大淀」

 大淀は急に話を振られて一瞬戸惑ったが、気づいたようにルールブックをめくる。

大淀「ええ、確かに無い、ですね…」

提督「なら問題ないだろ?この演習は続行だ」

敵督「でも―」

提督「いいから黙れよ。それともあれか、空母ヲ級が出てきて自分の完全無欠の艦隊が負けるとでも思っちゃったのかな?」

敵督「っ!」

提督「だとすればただの腰抜けだよなぁ。このお前の言う落ちこぼれの第弐拾鎮守府にヲ級が入ったぐらいで怖くて演習を

   放棄するなんて他の奴に知られたらどうだろうなぁ~?」

 提督の言葉を聞いて頭に血が上った敵督は、ヤケクソ気味に叫んだ。

敵督「わかったよ!続行しろよ!」

提督「おう、そりゃよかった。じゃ大淀、始めてくれ」

 最初とは立場が逆転していた。提督が余裕の表情で、敵督が怯えた表情をしている。

敵督(大丈夫だ。僕の最強艦隊が負けるはずがない…!)

提督(ヲ級…お前の力を見せてくれ…)

大淀「それでは、演習開始!」



 演習開始の言葉を聞いたとき、ヲ級は力を入れた。

ヲ級「サア、私ノ力ヲ見セテヤル」

 その様子を見ていた陸奥は長門に囁きかけた。

陸奥「ねえ、大丈夫かしら?」

長門「大丈夫だ。奴の目を見ろ、真剣だ。アイツは、この勝負に勝つ気でいる。なら、私達はそれを応援してやろうじゃないか」

 まずは航空戦。空母ヲ級は新しく作ってもらった飛行甲板で同じく新しい艦載機を龍驤の艦載機と共に飛ばす。向こうの

空母も同じく艦載機を放ってきたが、ヲ級にとっては脅威ではない。

 そして、両陣の艦載機が空中で互いに攻撃を始めた。

 粉塵が上がり、その煙から出てきたのはヲ級と龍驤の艦載機だけで、相手側の艦載機は1つ残らず撃墜させられた。

龍驤「スゴイ…ウチの艦載機を守うてくれたような感覚がした…」


 一方、第壱鎮守府側の空母たちは狼狽えた。

赤城「バカな!?全て撃墜させられるなんて…!」

大鳳「このままだと、少しやばい…ですね…!来ます!」

 大鳳の言葉と同時、第壱鎮守府の艦隊上空に普通の艦載機に加えて見たこともない艦載機が到達する。そして、敵の

艦載機が攻撃を始める。

 艦載機による攻撃が止んだ時、第壱鎮守府側の艦娘達は全員中破していた。

大和「この私が…一撃で中破…?」

赤城「これでは、艦載機を飛ばせません!」

大鳳「誘爆を防いで!」

 艦娘達は、自分たちの提督が『何をしてるんだ!』と怒鳴っているように感じた。

 だが、武蔵だけは自分たちのザマを見て怯えよりむしろ笑みを浮かべた。

武蔵「ほう、面白いじゃないか」


 空母ヲ級は、自分の艦載機が相手側に攻撃をした手ごたえを感じていた。

ヲ級「ヨシ、次ハオ前タチノ番ダ」

 ヲ級が生み出した状況を見て、味方の艦娘たちは喜びと感心の声を上げる。

夕立「ヲ級さん…すごいっぽい!」

時雨「一撃で、最強クラスの艦娘達を中破に追いやるなんて…」

長門「やはり、やるな」

陸奥「すごい…威力ね…」

龍驤「やっば、ヲ級はんめっちゃ頼もしいわー!」

ヲ級「私ヲ褒メルノハ演習ガ終ワッタ後ニシロ。今、アチラノ艦隊ハ私達ノ攻撃デ怯ンデイル。今ノウチニ奇襲ヲカケテ、

   アイツラヲ倒スノダ」

長門「わかった。私たちに任せておけ!」

陸奥「よーし、お姉さん張り切っちゃうわよー!」

夕立「さあ!とっても素敵なパーティしましょ!」

時雨「ヲ級さん、あなたの努力は無駄にはしないよ!」

ヲ級「アア、存分ニ暴レテ来イ」

 後にはヲ級と龍驤が残った。そしてヲ級は龍驤にも声をかける。

ヲ級「龍驤。私トオ前の艦載機デ、アイツラヲ援護スルゾ」

龍驤「もちろんや!任せといてぇな!」

ヲ級「フッ」

 そう龍驤に笑いかけられるとヲ級は笑い、艦載機を飛ばす。そこで、ヲ級は思った。

ヲ級(これが、協力と言うものか…?深海棲艦として奴らと対峙していた時には感じられなかったもの…。これは、とても

   いいものだな)

 そして、とヲ級は付け加える。

ヲ級(提督よ、私はお前の期待に応えられたか?)

 ヲ級は空を見上げると、龍驤が不安に思ったのか声をかける。

龍驤「ヲ級はん、どないしたん?」

ヲ級「ナンデモナイ。ソレヨリ気ヲ抜クナ、艦載機ノ操作ニ集中スルゾ」

龍驤「OK!」

 そして、それから僅か数分で、第壱鎮守府の演習艦隊は全員轟沈判定を受けることになる。

 それに対し、第弐拾鎮守府の演習艦隊は全員無傷。MVPはヲ級。

 第弐拾鎮守府の完全勝利だった。

いったん切ります。次の再開は、21時過ぎの予定です。

こんばんは。再開します。

敵督「…なんだって…?」

 敵督は信じられない、と言った感じの声を上げた。それほどまでに、それはショックだった。

大淀「繰り返します。演習は終了。第壱鎮守府の演習艦隊の損害は全員轟沈判定。第弐拾鎮守府の演習艦隊の損害は無し。

   第壱鎮守府の勝利判定はD、完全敗北。第弐拾鎮守府の勝利判定はS、完全勝利です」

敵督「は…嘘だろ…?この僕が…完全敗北?」

 敵督のリアクションを見て、提督は鼻で笑った。

提督「おやおや~?どうした自称インテリ提督。目の前の現実がそんなに受け入れられないか」

敵督「あり得ない…この僕が…完全敗北するなんて…認めないぞ!」

提督「だがこれは現実だよ。リアルから目をそらすな、負け犬。お前は俺に負けたんだ」

敵督「だって、僕の鎮守府の最強艦隊だぞ!それを、お前みたいな卑怯者に…。そうだ、どうせヲ級だって、お前が無理矢理

   出撃させたんだろう!?」

提督「残念だが、これはヲ級の合意の上だ」

 それに、と提督は加える。

提督「本当にお前の艦隊は"最強"なのか?」

敵督「…は?」

 敵督は、コイツは何を言っているんだ?というような感じで聞き返す。

提督「艦娘達の強さって言うのは、そいつ自身の火力や装備だけじゃない。自分たちを指揮する提督が自分自身を信頼している

   かどうかも関わってくる。自分のことを提督が信頼していれば、どんなに弱くても、性能が劣っていても、頑張る

   ことができるもんだよ」

敵督「黙れ…」

提督「俺は皆を信頼している。もちろんヲ級のことも。だから、皆はその信頼に応えるために完全勝利をもぎ取ることが

   できた。だけど、お前は本当に自分の艦隊を信頼してたのか?まぁ、違うだろうな。俺は知ってるぞ?お前実は―」

敵督「黙れって言ってんだろォがよおおおおおおお!!」

 敵督はそう叫びながら会議室を飛び出していった。その敵督を見て満足そうな表情をした提督は、大淀に言う。

提督「大淀、皆に帰投するように言ってくれ」

大淀「はい、わかりました」

 そう言った大淀の表情が少し明るいように見えるのは錯覚か。

 提督は少しだけ天を仰いだ。

提督(これでアイツが、考え直してくれればいいんだが…まあ、難しいか)

 提督はそう思った後、演習の様子を思い出した。あのヲ級の攻撃。自分の鎮守府の最強の空母・加賀をも上回る戦闘力。

他の見方空母との連携。どれをとっても、ヲ級の戦果は素晴らしいものだった。そこで、一つ思うことがある。

提督(それにしても明石さん、やりすぎでしょ…)

 遡ること約2時間前。

 加賀に言われて、第壱鎮守府と演習をすることを思い出し、ヲ級を参戦させようと思いついた提督は、まず最初に霧島と

鳥海をまた呼び出した。

霧島「提督…今度はなんでしょう…?」

鳥海「もう、日本語教室なんて言うのはやめてくださいよ…?あれ、結構疲れるんですよ」

 2人はヲ級に言葉を教えるのが疲れたのか、げっそりした感じで言う。

提督「いや、そういうことじゃない。お前たち確か、深海棲艦との戦いを全部データにしてたよな?」

霧島「ええ、私が戦術パターン、鳥海が敵の兵装をチェックしています」

提督「そっか。なら鳥海、空母ヲ級の兵装のデータもあるな?」

鳥海「ええ。ここに」

 そう言うと鳥海は、ポケットからUSBメモリを取り出して、提督に渡した。

提督「これ、ちょっと借りるぞ。後で返すから」

鳥海「ええ、構いませんよ?」

提督「ありがとな!」

 提督はそう言いながら、執務室を早足に出ていった。

 そして提督は、明石のもとを訪れた。目的は1つだけである。

明石「…で、私にヲ級さんの兵装を作ってほしい、と」

 明石は提督に言われたことを復唱し、確認する。

提督「ああ、頼む。この鳥海のUSBメモリにはヲ級の兵装のデータがある。これを使って、ヲ級の兵装を再現してほしい」

明石「やれないことはないですけど、それならウチにある艦載機をヲ級さんに渡せばいいのでは?」

提督「いや、ヲ級が使っていた艦載機とウチの空母連中が使う艦載機は勝手が違うと思う。だから使い慣れているヲ級達の

   艦載機を再現すれば、ヲ級もやりやすいと思う」

明石「はぁ…深海棲艦のことをそこまで想っているなんて…あなたらしいですね。で、いつまでに作ればいいんですか?」

提督「1時間半後」

明石「…話が急すぎですよ…」

提督「すまない。この借りは必ず返すから、頼む!この通り!」

 そう言って提督は明石に頭を下げる。それを見た明石は、はぁと息を吐いて答えた。

明石「わかりました、やってみましょう」

提督「ホントにありがとう!」

 そして1時間後、ヲ級の艦載機を再現したものが完成し、それはヲ級が前に使っていたものとほとんど変わらないと、ヲ級は

言った。

 演習終了後、ヲ級は鎮守府でヒーローとなっていた。

夕立「もうすごかったんだよ!ヲ級さんが敵をバーンって一気に中破させて!」

時雨「その後の僕たちへの指揮もわかりやすくてすごかったよ」

 夕立や時雨、龍驤などの話を聞いて、皆はヲ級を褒め称えた。

伊勢「やるじゃない!やっぱ、さすが深海棲艦ってところね!」

金剛「何言ってるのデスか?もう、ヲ級は深海棲艦じゃありまセーン!我が鎮守府の仲間、Friendデース!」

 金剛の言葉に、誰もが賛成した。この鎮守府の皆は、もう誰もヲ級のことを敵の手先とは考えていなかった。

そして夜、提督の部屋で2人は向き合っていた。

提督「よかったじゃないか。皆に認められて」

ヲ級「アア。マサカ、ココマデトハ思ワナカッタヨ」

提督「で、ご感想は?」

ヲ級「イイモノダナ。皆ニ信頼サレルトイウノハ。トテモ心地イイ」

提督「そうか…。よかったな」

 提督はそう言うと、ヲ級の頭に手を載せる。

ヲ級「提督、少シ聞キタインダガ」

提督「なんだ?」

ヲ級「私ハ…提督ノ期待ニ応エラレタカ?」

 ヲ級の問いに、提督は笑顔で答えた。

提督「当たり前だろ?十分だよ。お前は、俺の期待に応えてくれたんだ」

ヲ級「…ソウカ」

 そしてヲ級は顔を赤らめ、顔を俯けようとし、また顔を上げる。

ヲ級「ソウダ提督、私ヲコノ鎮守府ニ連レテキタ理由ハナンダ?アノ時、加賀ニ邪魔サレテ聞ケナカッタノダガ」

 ヲ級のその問いに、提督は顔を背ける。

提督「今は…まだ答えられないかな…?」

ヲ級「?」

提督「さ、もう寝ようぜ?」

 提督はベッドに寝転ぶ。そしてその隣に、ヲ級も寝る。

 ここにヲ級を住まわせて以来、2人はこうやって寝ている。毎晩こうしているのに提督の理性が壊れないのは我ながら

大したものだと提督は思った。

 だが、今日のヲ級は違った。提督の腰に腕を巻き付けてきたのだ。

提督「…どうした?」

ヲ級「…今夜ハ、今夜ダケハコウサセテクレ」

提督「…ああ」

 そう提督が言うと、2人は眠りについた。

 翌朝、提督がヲ級と共に朝礼、朝食といつも通りに過ごしす。最近ではヲ級と共にいるのが普通になってきた上、昨日の

演習の戦果からかヲ級はもう皆から認められていた。

 そして、朝の10時頃、提督が書類を片付けている(ヲ級は提督の傍で知恵の輪をほどくのに一生懸命になっている)と、

執務室のドアがノックされた。

提督「どうぞー」

加賀「失礼します」

 そう言いながら秘書艦の加賀は一礼し、用件を伝える。ヲ級が加賀を見ると、若干加賀が不機嫌そうだった

加賀「提督、あの方がいらっしゃいました」

提督「ああ、あいつか。わかった、すぐに行く」

加賀「お願いします。あの方は応接室にいます」

提督「わかった」

 そう言うと、提督は加賀と一緒に執務室を出ていった。

ヲ級(あの方…誰だ一体…加賀は不機嫌そうだったし…まさか、女か?)

 ヲ級は一瞬思ったが、ヲ級にとっては関係ないことだったので、再び知恵の輪をほど…こうとしたが集中できない。

ヲ級(なぜだ…気になる。別にアイツのことなどどうでもいいはずなのに…)

 ヲ級がそんな感じでモヤモヤしていること数十分、そこで提督は帰ってきた。

提督「ただいまー」

ヲ級「誰ダッタンダ?」

提督「んー?まあ、旧友ってヤツかな?」

ヲ級「ソウカ…」

 ヲ級は期待外れな感じがしたが、同時に心のどこかで安心していた。

 するとまた、執務室のドアがノックされた。

提督「どうぞー」

加賀「失礼します!」

 入ってきたのはまた加賀だった。だが今度は、焦ったような表情をしている。それに驚いたのか、提督も少し不安になる。

提督「どうした、お前みたいなやつがそこまで焦るとは。どうした?」

加賀「提督に…御用がある方がいらっしゃいました」

提督「誰?」

 提督の問いに、加賀は息を整えた後、いつもの凛とした口調でこう言った。






加賀「第壱鎮守府の提督と、海軍の上層部の方達です」

提督「…マジ?」




今日はここまで。明日は夕方以降に再開の予定です。(平日は基本夕方以降の更新ですので、ご了承ください)

ここで訂正です。

>>96
 他の見方空母→他の味方空母
 脳内補完お願いします。

それではまた明日。



空母で好きなのは、ヲ級を除いて鳳翔さんとか隼鷹だったりする。

こんばんは。

遅くなりましたが、再開します。

 提督は、加賀とヲ級を連れて廊下を歩いていた。

提督「やっぱあの元インテリ野郎、俺にムカついて上にチクりやがったな…」

加賀「あの方らしいと言いますが…ですが、貴方が焚き付けるようなことを言ったのも理由なのでは?」

提督「ああ。そして、アイツの鼻をへし折るためだけにヲ級を参戦させちまった俺の考えが浅はかだったってこともある」

ヲ級「…スマナイ」

 提督と加賀の話を聞いていたヲ級は、小さくつぶやく。

提督「イヤ、お前は悪くない。こんなややこしい状況になったのは、俺が全部悪いんだ」

 そう言って、提督は考える。

提督(…俺も悪いが、あいつめ…。あの演習からちょっとは何か学んでると思ったが何も変わっちゃいないとはな…。

   おまけにムカついただけで海軍に密告とは…どこまでも救いようのない奴だ)

 何も変わっていない、というのは、さっき応接室で話したある人の話で分かったことだ。

提督(仕方ない。アイツには真剣に反省してもらうしかないな)

 鎮守府の入り口の扉の前に来ると、提督は振り返りながらヲ級を見てこう言う。

提督「お前はそこの空き部屋に隠れていろ。お前が最初からいたら、話がこじれるだろうし」

ヲ級「分カッタ」

 そう言いながら、ヲ級は空き部屋のドアを開けて、中に入って行った。

提督「さて…いつかはやると思った上層部との会談だ。加賀、気を引き締めろよ」

加賀「分かっています。ですが、あそこの提督は一度徹底的につぶした方がよいかもしれません」

提督「ああ、安心しろ。上手くいけば、アイツを叩きのめすことができる」

 提督はそう言いながら、鎮守府入口の観音開きの扉を開く。

 外には数人ほどの男がいた。その内の1人、背が低い太った男には心当たりがある。第壱鎮守府の提督だ。

敵督「やあ、落ちこぼれクン」

提督(あそこまでやったのにまだ俺のことを落ちこぼれと言うか。その根性は大したもんだが…問題はこっちだな…)

 提督は改めて、敵督ではなく会ったことがない男たちに目をやる。

 先頭にいた男は、黒い背広と黒いネクタイに頭には帽子。明らかに提督よりも立場が上だ。

 その男の周りを囲うように立っている男たちは黒いスーツに黒いサングラス。ボディーガードだろうか。

 そして、先頭にいた男が口を開く。

??「貴方が第弐拾鎮守府の提督か?」

提督「ええ」

上層部「私は海軍上層部の者だ。今回貴方の鎮守府を訪れたのは、そこの第壱鎮守府の提督からの報告を受けてのことだ」

 上層部の男がそう指さすと、提督が敵督を見る。敵督は満足そうに腕を組んで息をふんと吐いていた。

上層部「昨日、貴方の演習艦隊で深海棲艦とされる空母ヲ級の姿を確認したと、この提督は言っている。これは事実か?」

提督「…はい、本当です」

 提督はここで嘘をつくこともできたが、言わなかった。加賀はそう考えると、不審に思って小声で話しかける。

加賀(提督、なぜ本当のことを言うのですか?)

提督(ここで嘘をついても仕方ないだろ。いずれバレることだ。それに、このまま話を続けてうまくいけば、ヲ級の処分も

   無くなるだろうし、あのバカ提督も陥れることもできる。ま、俺に任せろ)

上層部「何をこそこそ話している?」

提督「いえ、別に。それで、私の演習艦隊でヲ級がいたことが何か?」

上層部「何か、ではない。我々上層部に報告もせずに深海棲艦を勝手に捕獲し、さらには自分の艦隊の戦力として演習に参戦

    させた。これは、海軍として由々しき事態だぞ?それがわからないのか?」

提督「仰る通りです。私の浅はかな判断が原因でした」

上層部「一応は反省していると。では、いくつか聞いておきたいことがある。なぜ、深海棲艦を捕まえたのだ?」

提督「それは―」


 ヲ級は空き部屋のカーテンのかけられた窓からそのやり取りを見ていた。

ヲ級(まあ、元は敵だった私を他の提督の前に晒すとは間抜けにもほどがあるな。やっぱり、あの提督はとんだ甘ちゃん

   だった)

上層部『なぜ、深海棲艦を捕まえたのだ?』

 外にいる上層部の男がそう言った時、ヲ級は窓の外に意識を向ける。これに対する提督の答えをヲ級はまだ聞いたことが

ない。だから、余計に気になった。

提督『それは―』

少しだけ席を外します

すみません

再開します。

いいところで切ってすみません。(テレビのコマーシャルみたいなじれったさ)

提督「深海棲艦の気持ちを知るためです」

 提督のその言葉を聞いた時、そこにいた加賀を含めて全員が疑問の表情を浮かべる。だが敵督だけは、何をバカなことを

と呟く。

上層部「それは、どういうことだね?」

 上層部の男の当然ともいえる疑問の言葉に、提督は頷き、話し始める。

提督「私たち提督と艦娘は、あなたたち海軍の上層部からの命令で、深海棲艦を戦闘で倒すように命令されています」

 提督はそこで言葉を切る。そして、続ける。

提督「ですが、深海棲艦と話し合って和平交渉を結ぶ、というやり方には至らなかったようですがね」

上層部「?」

提督「深海棲艦は、過去に沈んだ船の怨念の集合体という説があります。そして、そんなモノに感情などと言うものは

   存在しないとでも言うかのように、上層部は我々に深海棲艦を倒すように命令しますよね」

上層部「………」

 上層部の男は、黙って提督の言葉を聞いている。

提督「ですが私は、深海棲艦と戦っているうちに、アイツらに感情と言うものは本当に存在しないのか?という疑問に当った

   わけです」

上層部「…………」

提督「そして、かつて戦った北方棲姫は喋ったことがあります。私の持論では、言葉を話すというのは他人と繋がりたいと

   いう感情の裏返しだと考えていますから。そしてそれ以来、深海棲艦には感情と言うものは存在しないとは考える

   ことはできなくなりました。」

上層部「………」

提督「そして、私は考えたわけです。もしかしたら、深海棲艦と話し合うこともできるんじゃないかと。そして、そこから

   和平交渉が結べるんじゃないかと」

上層部「…それが、ヲ級を捕まえた理由かね?」

提督「ええ。もしかしたら話し合うことができるんじゃないか、と考えた後すぐに、ヲ級と遭遇しましたから。そして、

   長門に言ってヲ級を連れてきてもらったのです」

上層部「…なるほど」

 上層部の男は一応納得したようだが、まだ聞いてくる。

上層部「で、そのヲ級を捕獲して、実際に和平交渉は結べたのか?」

提督「…いえ。その話をする暇もありませんでしたから。ヲ級を捕まえてから1週間は、アイツに人の言葉を教えていました。

 そして、言葉を教え終えたその翌日はそこの第壱鎮守府と演習を行いました」

上層部「…そして、ヲ級には感情はあったのか?」

提督「ええ、ありましたとも。私の作った粥を食べた時は美味しいという感情を顔に出していましたし、服を脱がそうとしたら

   羞恥心から私を殴りましたし」

 服を脱がそうとしたら、という言葉を聞いて加賀が提督を睨みつけたが、提督は気にも留めない。

提督「つまり、深海棲艦にも感情はあります。今はまだできていませんが、いずれは深海棲艦と和平交渉を結んで、我々

   人類への侵攻も止めさせることができると私は考えています」

上層部「そうか…」

 上層部の男は提督の話を聞き終えると、小さく頷く。

上層部「では、その和平交渉はこちらで進めることにする。すまないが、君みたいな1人の提督が、そんな大それたことを

    できるとは思えない。だから、我々海軍がヲ級を引き取り、和平交渉を結ぶことにする」

 その言葉に、提督は賛成するわけにはいかなった。

提督「それは、お断りします」

上層部「何?」

提督「昨日の演習で、ヲ級を参戦させたことは反省していますが、ヲ級の戦果は私を含め、このの鎮守府の人達の心を大きく

   動かしました。そして今や、誰もヲ級のことを敵の深海棲艦とは考えていません。彼女はもう、私たちの仲間です。

   その、やっと我々の仲間となったヲ級をそちらに引き渡すなんてできません」

上層部「………」

 上層部の男は黙ったが、敵督は昨日の戦いでプライドを傷つけられたのか噛みついてくる。

敵督「ふざけるな!何が仲間だ!所詮そいつは感情を持っていようがお前が仲間だと言おうが、深海棲艦の1人、敵だ!

   上層部の方、こんな奴の言うことなんて無視してヲ級を連れていきましょう!」

 その時、提督の後ろから声がかかった。

??「提督!」

 その声の主を見て、上層部の人間と第壱鎮守府の提督は目を見開いた。

上層部「…お前は…」

敵督「空母…ヲ級」

 ヲ級は、提督がヲ級の顔を見ると、少しだけ笑ったような感じがした。

提督「出てきちゃったか…」

ヲ級「サッキノ話ハ、本当ナノカ…?」

提督「ああ、本当だよ」

 そう言うと、提督は加賀に聞く。

提督「加賀、俺がヲ級の保護を始めてから今日まで、出撃した回数は何回だ?」

加賀「1回です。あなたがヲ級を捕まえた昼過ぎから、1度だけ出撃させただけです」

 加賀は即答した。それを聞いて、提督は上層部に向き直る。

提督「私はヲ級を捕まえた後、さっきのようにヲ級に感情があることを知り、全ての深海棲艦にも感情があると予測しました。

   そして、それ以来私は出撃で深海棲艦を倒すことを止めました。感情のある深海棲艦を倒すなんて、ただの一般人を

   攻撃するのと変わらないと感じたからです」

敵督「何をバカなことを!お前の言っていることなんてただの妄言だ!根拠がない!」

 なおも噛みついてくる敵督の言葉に、提督はヲ級を親指で指さす。

提督「なら何で、ヲ級は泣いている?」

 その言葉に、その場にいた全員が沈黙する。確かに、ヲ級は目から涙を流していたのだ。

提督「ヲ級が泣いている理由はわからない。俺の言葉に情を動かされたのか、俺がヲ級を捕まえた理由が話し合うためなんて

   勝手な理由だと知って失望したからなのか、理由はわからない。だが、何か感情がない限り、涙を流すなんてことは

   ない。つまり、今貴方たちが見ているようにヲ級にも感情はあるんですよ」

上層部「……もう一度聞く。我々にヲ級を引き渡す気は無いんだな?」

提督「はい。こいつは、私達の仲間ですから」

 提督の言葉に、加賀も頷く。

加賀「その通りです。ヲ級さんは私達の仲間。貴方たちなんかに渡すわけにはいきません」

 その加賀の言葉の後、予想外の方向から声が聞こえた。

龍驤「そうや!ヲ級はんはもうウチらの仲間、友達や!今さら別れるなんてありえへん!」

 龍驤の言葉は、提督の上、つまり2階からだった。提督の言う通り、ヲ級を捕まえた後、出撃する機会が減ったことで

ほとんどの艦娘は基本的に鎮守府にいるようになった。

 龍驤の言葉につられるように、他の艦娘達も声を上げる。

『そうだ!ヲ級さんは私たちのヒーローだ!』

『俺たちの頼りになるヒーロー、俺たちを支えてくれる存在だ!』

『お前ら上層部なんかには渡さないぞ!』

 それを聞くと、上層部の男はフーと息を吐いて言う。

上層部「…どうやら、ヲ級はもうこの鎮守府ではいなくてはならない存在のようだな」

提督「ええ。彼女は、私達の仲間、友達、いえ、それ以上にかけがえのない存在です」

 上層部の男は少し考えて、こう言った。

上層部「…わかった。ヲ級は当分、そちらで保護しておいてもらう。だが、条件がいくつかある」

提督「なんでしょう?」

上層部「まず1つ目、今後ヲ級を実戦には参戦させないように。別の提督や一般人が知れば面倒なことになる。その面倒事

    の処理をする海軍の気持ちも考えてほしいからな。だから、ヲ級が装備できる艤装も破棄しろ」

提督「お安いご用です」

上層部「2つ目、もしそこのヲ級が反逆等の行為を犯した場合は、ヲ級は問答無用で始末し、保護役の君にも処罰を与える」

提督「なんなら、物理的に私の首を斬ってもらっても構いませんが」

上層部「いい覚悟だ」  

 上層部の男がそう言うと、第壱鎮守府の提督が叫ぶ。

敵督「待ってくださいよ!そんな理由でヲ級を放置するんですか!?それより、ここで始末したほうが今後のためにも―」

上層部「君、少し黙ってくれんか?」

提督「そうだぞ元エリート。上層部の方はヲ級を信頼している。こいつが、反逆なんかを起こすとは思えないと。だから、

   俺のところに置いてくれたんだよ」

敵督「お前は黙ってろ!」

 敵督のしつこさにいい加減呆れたのか、提督はこんなことを言い出した。

提督「ああ、上層部の方。ちょっといいですか?」

上層部「なんだね?」

提督「いやあ、私なんかを信用してくれたお礼と言っては何ですが、有力な情報と言うものを提供しようかと思いましてね。

   まあ、深海棲艦のことではないですが」

 提督の言葉に、踵を返して帰ろうとしていた上層部の男が振り返る。

上層部「有力な情報?聞こうか」

提督「はい、その情報と言うのは―」

 提督はそう言いながら第壱鎮守府の提督を指さす。



提督「そこの男の鎮守府の腐った実態について、です」


今日はここで切ります。再開は明日の夕方以降の予定です。

明日の最初は、この元エリート提督のゲスッぷりを書こうと思いますのでよろしくお願いします。

それではまた明日。



演習で負ける理由がほぼ"疑惑の判定"って、どういう…ことだ…?

こんばんは。再開します。

敵督「…何?」

 提督の言葉に先に反応したのは件の第壱鎮守府の提督だ。何を言っている?というような表情で聞き返してくる。

敵督「僕の鎮守府の腐った実態だって?何のことだかわからないねぇ」

提督「…そうやって、余裕こいていられるのも今の内だぞ」

 そう言うと、提督は上を、すなわち鎮守府の2階部分を見上げる。2階の窓からは、艦娘達が顔を出していた。

提督「お前らは部屋に居ろ!聞くと吐き気が出るような話だからな」

 提督がそう言うと、窓から顔を出していた艦娘達はおとなしく部屋に顔を引っ込める。それを見ると、提督は加賀に振り

向きながら言う。

提督「加賀、お前も聞かない方がいい。と言うか、女は聞かない方がいい話だ。ヲ級も連れていってくれ」」

加賀「…わかりました。私たちは、執務室で待機します」

 加賀はそう言うと、ヲ級を連れて鎮守府の中に戻ろうとする。そこでヲ級が言った。

ヲ級「提督!サッキノ話ハ…」

提督「悪いが、その話は夜にしよう。加賀」

 提督がもう一度加賀の名前を呼ぶと、加賀は少し強引にヲ級の手を引きながら扉を閉めた。

 加賀とヲ級が建物に入ったのを見ると、上層部の男が切り出す。

上層部「では、聞かせてくれないか?」

提督「いいでしょう。これはある奴から聞いた話なんですがね、そこにいる第壱鎮守府の提督は、自分が保有する艦娘に

   対して残虐な行為をしているそうでしてね」

 提督がそう言うと、敵督はピクリと顔を上げる。

上層部「残虐な行為とは?」

提督「…鎮守府で不要になった艦娘は基本的に解体すると、艦娘としての記憶と艤装を失われ、姿形も変えられて我々普通

   の人間が住む世界で暮らすことができると、そう言う話でしたよね?」

上層部「ああ、その通りだ。まあ、不要になった艦娘は近代化改修の素材とするという手もあるがね」

提督「ですが、そこの提督は酷い男でね…」

 提督がそう前置きをすると、上層部の男は敵督を後ろ目に見る。

提督「その男、不要になった艦娘を解体しようとも近代化改修の素材にしようともせず、艤装を外して服装を変えさせて、

   街のソープランド等で強制的に、艦娘の意志に関係なく働かせているんですよ」

上層部「ほう…?」

 提督の言葉を聞くと、上層部の男は敵督をじろりと見て、敵督は震え上がった。

敵督「い、いや!そんなことをするはずがないじゃないですか!」

提督「さらに、ソープランド等で艦娘自身が得た利益を敵督は自分の懐に入れて、好き放題に使っているって言うんですから

   酷いもんですよ。おまけに、ソープランドを辞めた艦娘に対しては性的暴行を加えている」

上層部「ほ、ほう?」

敵督「で、でたらめだ!そんなことを―」

提督「それだけじゃない」

 提督がぴしゃりと言うと、上層部の男は提督に向き直り、敵督はびくりとまた震える。

提督「演習や出撃、遠征で敗北、失敗した艦娘に対しても同じように性的な暴行を加えている。そして極め付けに―」

 提督がそうもったいぶると、上層部の男は興味深そうに顔を提督に近づけ、敵督はやめろ…、と言いながら涙目で首を横に

小刻みに振っている。

提督「海軍からの補助金を鎮守府の運営等には回さずに、これもまた自分の懐に入れている」

 提督がそう言うと、敵督はああ…と呟きながら跪く。だが、これには上層部の男が疑問を抱いた。

上層部「…そうなれば、定期偵察に来た憲兵や海軍が、鎮守府の荒れようを不審に思うんじゃないのか?」

提督「艦娘や妖精を脅したそうです。鎮守府を無償で改修しなければ踏み潰すとか、何も異常はないと言わなければ犯すとか

   でも言ったんでしょうね」

 それに、と提督は続ける。続けてしまう。

提督「昼夜、体調を問わずに艦娘を出撃させる。そして、もしも失敗したら、さっきみたいな暴行をする…。おそらく、

   昨日俺がこいつを演習で負かした後も、同じように暴行を加えたんでしょう。まあ、負かした私も悪いとも言えますが」

 そう言いながら提督は敵督を見る。しかし、敵督は体を震わせていたが、笑いをこらえているような感じがする。そして、

敵督はおかしな笑い声を上げながら立ち上がりこう言う。

敵督「ハハハ!ヒャハハハ!でたらめだ!そんなの嘘だ!ハハッ、このエリートの僕が、艦娘にそんなことをするはずが

   ないじゃあないか!第一、お前の話には証拠がない!どうせ、お前が艦娘達にやってきた罪を、俺に嫉妬したお前が

   俺に擦り付けようとでもしてんじゃないのか!?ああ?ハハハ!」

上層部「…確かに…そう言う手も考えられるが」

 上層部の男も敵督に言われて提督に向き直り、そしてじろりと見る。提督は言い返そうとしたが、そこで鎮守府の扉の

向こうから女性の声が聞こえた。

??「いや、違う。それは私が証言する」

 その声の主は、そう言いながら扉を開く。そして、声の主を見て、敵督の顔から余裕は消え、代わりに焦りの表情が浮かぶ。

いったん切ります。

毎回毎回いいところで切ってしまって済みません。

すみませんでした。再開します。

敵督「ひ、日向!?なんでお前が、ここにいる…!?」

日向「悪いが、私はこの提督と繋がりを持っている。いい加減、貴様のような提督の下で働くのも限界に来ていたんでな」


 日向は第壱鎮守府の提督の秘書艦として働いていた。その真面目で几帳面な性格を提督に買われ秘書艦に抜擢されたが、

実際には提督から出撃・演習・遠征等の艦娘の心身状況にまつわるもの以外のものに関する業務を押し付けられて、何か

間違いでもあれば罵倒される。そして、艦娘の身を案じて出撃のスケジュールを勝手に変更したら、犯された。

 そんな風に提督に罵倒され、女としての価値を失い続けていく日々を繰り返している内に、日向は疲れ切っていた。

これなら、轟沈したほうがましだと思い始めていた。

 そして、ある日の演習。今日も『勝たなければ、女であることを後悔させる』と提督に脅されて演習に挑み、勝利する。

そんな演習終えて演習先の鎮守府で休んでいると、そこの提督は日向にを見て言った。

提督『お前、何か心にヤバいものを抱えているだろう』

日向『……!』

提督『もし、そのヤバいものが誰にも話せないなら、俺に話せ。俺に何かできるわけじゃないけど、お前の中のモノを浄化

   することはできるかもしれない』

日向『…なら、聞いてもらってもいいか…?』

提督『もちろん』

 日向は、第壱鎮守府の提督にされてきた暴虐を第弐拾鎮守府の提督に洗いざらい話した。話し終える頃には日向は泣きじゃくり、

提督は怒りに震えていた。

提督『…大変だったんだな』

日向『…ああ。私だけじゃない…私の鎮守府の艦娘は皆同じような行いをされている…』

提督『…もしまた、同じようなことをされたら、俺のところへ来い。俺が、お前の、お前たちの悲しみを受け止めてやる』

日向『…ありがとう』

 この話は、この優しい提督がヲ級を捕まえる5日前のことであった。


提督「そして今日も、日向の話を聞いてやりました。内容はやはり、昨日の演習で負けたことによる暴力のことでした」

上層部「…日向さん。この第弐拾鎮守府の提督が言ったことは本当なんですか?」

日向「ああ。全て事実だ。私が証言する」

上層部「分かりました…」

 上層部の男はそう言うと、周りにいた黒服の男たちに言う。

上層部「おい、この男を海軍本部に連れて行け」

黒服「ハッ」

敵督「ま、待ってくれ!全部罠だ!全部こいつらが仕組んだ罠だ!」

 敵督は黒服の男たちに腕を掴まれながら、提督と日向を指さす。しかし提督と日向は気にも留めない。

提督「どこまでも往生際の悪い奴だ」

日向「諦めろ。ここにお前の味方はいない。そして、あの鎮守府にも」

敵督「くっそぉ!そこの落ちこぼれぇ!いつかお前に目にもの見せてやる!覚えていろぉ!!」

提督「悪いな。俺はバカだから、お前みたいなクソ野郎の言うことなんざいちいち覚えちゃいないよ」

 敵督は獣のような叫び声を上げながら、黒塗りの車に押し込まれ、その車は静かに動き出していった。その様子を見ていた

上層部の男は、再び提督と日向の2人に向き直る。まずは、日向に話しかける。

上層部「日向さん、詳しい話を聞くために、申し訳ないのですが後日海軍本部の方に来ていただいてもよろしいですか?」

日向「分かりました。そこで全てを話します」

 次に上層部の男は提督に顔を向けて話しかける。 

上層部「提督、情報の提供、感謝する」

提督「いえ、私は日向から聞いた話をあなたたちに話しただけです」

上層部「いや、だが君が日向さんの異変に気づかなければ、こうなることもなかっただろう」

提督「あの男、どうなるでしょうね」

上層部「そうだな…」

 上層部の男は少し考え、こう言った。

上層部「補助金を横領した上に、艦娘のことを考えない鎮守府の体制、さらには性的暴行。まず、あの男の海軍内の居場所

    は消えるだろう。そして、30年はムショから出ることもできまい。これはあくまでも予測だがね」

提督「そうですか…。それでも、あのバカに罰が下るだけでも十分です」

上層部「そこで、その第壱鎮守府は新しい提督を入れるか、そこに所属していた艦娘達を別の鎮守府に移すかのどちらかに

    するが、ここは全員別の鎮守府に移すことにしよう」

提督「わかりました」

上層部「そこで…第壱鎮守府にいた艦娘を2、3人そちらで引き取ってもらえないだろうか?」

提督「ヲ級を無断で捕まえた俺の場所に?」

上層部「君を信じているんだよ」

 上層部の男は笑いながら言った。それにつられて、提督も笑い、言葉を返す。

提督「わかりました。では、まず1人目はこの日向でいいですか?」

日向「…え?私なんかで、いいのか?」

提督「ああ。お前とは結構繋がりを持っているし、少しの間でもお前とは仲良くできた。理由は不純だがな…」

 提督がそう自虐気味に言うと、日向はフッと笑う。その反応を見て、提督は続ける。

提督「だから、俺のところに来い。これからも、俺を頼れ」

日向「…ああ、そうするよ」

提督「というわけで、上層部のお方、手続きは頼みますよ」

上層部「ああ、わかった」

提督「それと2人目は大鳳、3人目は大和で頼みます」

上層部「フン、いい奴ばかり持っていくな」

提督「いいじゃないですか、俺を信じてくれているんでしょう?」

 提督がそう言って、笑いながら右手を差し出す。すると、上層部の男も右手を差し出し握手を交わす。

上層部「…フッ、また、いつか会うことがあれば」

提督「ああ、その時は酒でも飲みましょうや」

 2人はそう言い合うと、上層部の男は手を振りながら車に乗って去って行った。

 その時、提督は何か艦娘のものではない視線を感じたが、あまり考えずに日向と共に鎮守府の中へと入る。

提督「さて、他の奴らにも話さないとな…」

 そして、心の中でだけ思う。

提督(そして、ヲ級とも話をしなきゃな…)

断りもなく切ってしまって済みません

再開します

 実は、ヲ級が演習に参戦していたのを見たのは、第壱鎮守府の提督だけではなかった。

 深海棲艦の本拠地に、一通の連絡が入った。内容は、消失した空母ヲ級について、相手は重巡リ級である。リーダー格の

泊地棲鬼が会議室に上層部を集めて共に通信を聞く。

泊地棲鬼「確カニ、を級ノ姿ヲ見タノダナ?」

リ級『ハイ。演習場デ、演習ヲ行ッテイルノヲ見マシタ』

泊地棲姫「ヤハリ、アソコノ鎮守府ニイタトハナ」

装甲空母鬼「アソコノ提督ニ言イクルメラレタノカ」

リ級『ソコハ問題デハナイノデハ?』

港湾棲姫「ソノ通リ。問題ナノハ、演習デを級ガソノ鎮守府ノ艦娘ト共闘シテイタ、トイウコトデショウ?」

 港湾棲姫の言葉に、泊地棲鬼は頷く。

泊地棲鬼「アア。ツマリハ、を級ハ人間側ニ寝返ッタトイウコトニナル」

南方棲戦姫「トイウコトハ、モウを級ヲ連レ戻スコトハ諦メテ、始末スルコトニスルトイウコトダナ?」

泊地棲鬼「アア、ソノ通リダ」

戦艦棲姫「ソウデモシナケレバ、アイツラガを級ヲ戦力ニシ、我々ヲ全滅サセニカカルカモシレナイ。ソウナル前ニ、

     を級ヲ片付ケマショウ」

泊地棲鬼「ソウダナ」

 その時、ある声が会議室に響いた。




??「いや、ヲ級のことはもう放っといてもいいんじゃねえの?」



 会議室にいた全員が声の主に顔を向ける。

 今の声にはおかしなことがある。それは、普通の人間のように流暢なのと、ここでは聞こえないはずの男の声だったのだ。

 泊地棲鬼は立ち上がり、その何者かと対峙する。

泊地棲鬼「何者ダ!?ドウヤッテココニ入ッテキタ!?」

??「んー?まあ、なんか素通りできたけど。もしかして、あれで警備のつもりだったのか?あんなじゃあ、警備の意味は

   ないね」

 そいつは、シルエットしか見えなかったが、スリムな体型。そして、さっきの男性特有の声を聞く限り、こいつは男なの

だろう。そして、この男は人間ではなく深海棲艦だと泊地棲鬼は直感で判断した。

 深海棲艦なのに男、そしてどこにあるかもわからない深海棲艦の本拠地をすぐに特定し、ここの警備を掻い潜って上層部

達のいる会議室に堂々と侵入する。

 会議室の上層部の面々は、この男は只者ではないと感じて椅子から立ち上がり、傍に置いてあった艤装を構える。

 だが、

??「無駄だよ」

 男がそう言った瞬間、この場にいた泊地棲鬼と男以外の深海棲艦が突然、足の力が抜けたように床に崩れ落ちた。

泊地棲鬼「…何…ダト…?」

??「どいつもこいつも、張り合いの無い…。まあ、俺の力が強すぎるってのもあるかもしれないがね」

泊地棲鬼「オ前ハ…何者ナンダ…?」

??「俺か?俺は―」

 泊地棲鬼は、男の正体を聞くと、顔には怯えと喜びの両方の表情が浮かんだ。

泊地棲鬼「ソンナ…マサカ…」

??「だが事実だ。現に、俺はこいつらの意識を乗っ取った」

 そう言いながら男は、床に倒れている上層部の面々を指さす。

??「俺がお前の意識を乗っ取らなかった理由は、お前は話がしやすそうだからだ。お前なら、俺の目的を理解してくれそう

   だからな」

泊地棲鬼「目的?目的トハ何ダ?」

 謎の男はその目的について泊地棲鬼に話す。それを聞くと、今度は泊地棲鬼は顔に獰猛な笑みだけを浮かべた。

泊地棲鬼「ナルホド…ソレハ面白イ。ソレニ我々ノ最終的な目的ハ、オ前ノ目的ト同ジダカラナ」

??「で、どうする?この話に乗るか、反るか」

 男は挑むように泊地棲鬼に聞く。泊地棲鬼は、当然こう答えた。

泊地棲鬼「ヨカロウ。協力シテヤル」

??「やっぱ、話が分かる奴でよかったよ」

泊地棲鬼「モシ、オ前ニ協力シテモ目的ガ達セラレナカッタラ、タダデハ済マサンゾ」

??「お好きにどうぞ。ま、できればの話だが」

 互いは気楽に話し合っているような感じだが、傍から見れば2人の言葉には殺意が込められていることがわかる。

泊地棲鬼「デ、ドウスル気ダ?」

??「なに、簡単なことだ」

 そう言いながら、男は会議室の窓の外を指さす。窓の外には、護衛だったが、さっき謎の男に撃破された駆逐イ級が

漂っていた。

??「あの雑魚共の力を滅茶苦茶強くするんだよ」

 そう言った瞬間、外で漂っていたイ級の目に赤い光が点る。

 この2人の目論見は、間もなく動き出すことになる。

今日はここまで。また明日の夕方以降に再開します。

ついにこのスレのラスボスが出てきました。

それではまた明日。



作者が重巡で一番好きなのは妙高型(特に妙高と那智)だったり。

こんばんは。

遅くなりましたが、再開します。

 海軍の上層部の男がやってきた夜、ヲ級は風呂(入渠ドックとは別のもの。戦闘のようなもの)から出て、自分が居候して

いる提督の部屋兼執務室へと戻っていた。

 ヲ級は風呂に入る気が起き無かったが、駆逐艦娘や軽巡洋艦娘達に誘われて入ったのだ。あの演習以来、ヲ級はこのように

皆から慕われるようになっていた。

ヲ級(しかし、あの龍驤、なぜ私を見てため息をついていたんだ?その理由がわからない…)

 その理由は、ヲ級のぐっと盛り上がった胸なのだが、ヲ級はそのことに気づかない。

 ヲ級が部屋に入ると、提督は電話中だったので、音を立てないようにする。

提督「はい…はい…わかりました。本当に、ありがとうございます」

 そう言うと、提督は受話器を本体に置いた。

ヲ級「誰ト話シテイタンダ?」

提督「ああ、あの上層部の人だよ。あの『元』提督のところにいた艦娘の内、俺の鎮守府にいない艦娘を全員こっちで引き

   取ってほしいって言ってきたんだ」

ヲ級「デ、受ケ入レルノカ?」

提督「ああ。そんで、ウチの最大艦娘所有数は100だけど、上層部が無償で拡張してくれるってさ」

 ヲ級はあの後、提督から第壱鎮守府の提督がどうなったかを聞いていたため、敵督の末路についても知っている。

ヲ級「…ソレデ、アノ元提督ハ?」

提督「取り調べをしたら、アイツ他にも賄賂や性的暴行による殺人とかもしていたらしくて、懲役30年から死刑になる

   そうだ。しかも、あいつ2年前に親から縁を切られた上に、あんな性格だから弁護人もつかないせいで、誰もアイツ

   の味方をしないだと」

ヲ級「マア、当然ノ報イダナ」

提督「その通りだよ」

 そこで話を切ると、ヲ級は昼の話について聞こうと考えた。

ヲ級「提督ヨ、聞キタイコトガアルノダガ」

提督「何だ?」

ヲ級「昼ノ話…、私ヲ捕マエタ理由ハ、私ヲ中継役ニ深海棲艦ト和平交渉ヲ結ブトイウノハ、本当ナノカ…?」

 ヲ級の言葉に、提督は少し黙り込む。そして、しばらくして口を開く。

提督「…建前上は、な」

ヲ級「…ドウイウコトダ?」

提督「俺は、お前たちの気持ちを知りたいんだ」

ヲ級「…?」

提督「深海棲艦は、過去の軍艦の怨念の集合体と言う説だと昼に言ったな?」

ヲ級「アア」

提督「俺達提督と艦娘は、敵である深海棲艦のお前たちを倒している。例えお前たちが悲しもうが、嘆こうが、俺達は

   お前達深海棲艦を倒さなければならない」

ヲ級「………」

提督「そう、俺たちはお前達を倒さなければならないんだ。お前たちが何を考えているのかと言うことも考えずに」

ヲ級「……オ前…」

提督「だが、実際のところどうなんだ?お前たちは、悲しくはないのか?怖くはないのか?」

ヲ級「…ソウダナ…」

 ヲ級は少し考える。

 自分がこの提督の鎮守府に連れてこられる頃は、倒されることには何も感じなかった。

 しかし、自分が最初に生まれてから、初めて艦娘に沈められる時、自分はどう感じただろうか?

ヲ級「…最初ノ内ハ、怖カッタシ、自分ノ仲間ガ沈ンダ時ハ悲シンダシ、怒リモ覚エタ」

提督「…そうか。やっぱり、俺達はお前達を―」

ヲ級「ダガ、ソレハアクマデ『最初ノ内』ダ」

提督「………?」

ヲ級「自分ハ何度モ沈ンデハ復活シ、仲間ハイクラ蘇ロウト艦娘ニ駆逐サレル。ソンナコトヲ繰リ返シテイル内ニ、自分達

   ハ艦娘ニ勝ツコトナドデキナイト思イ始メタ。ソシテ同時ニ、恐レトカ、悲シミトカ、苦シミトカトイッタ感情モ

   感ジナクナッタヨ」

提督「………」

ヲ級「ツマリダ、私達ハモウ悲シミトカ言ウモノハ感ジナイ。アルノハ憎シミダケ。コレガ私ノ、私達ノ答エダヨ」

 ヲ級の話を黙って聞くと、提督はすっと立ち上り、

提督「それでも、これだけは言わせてくれ」

 提督は床に土下座をした。

提督「すまなかった」

 ヲ級は、提督がなぜそんなことをするのか、なぜそんなことを言うのかがわからない。

ヲ級「ナゼ、オ前ガ謝ルノダ!?オ前ハ、確カニ私達ヲ何度モ沈メテキタガ、最早私達ハモウ悲シミナンテモノハ感ジナイ。

   ソシテソレハ、オ前達ハ『仕方ナク』私達ヲ倒シテイタンダロウ!?ダカラ―」

 提督はヲ級が何か言おうとするのを手で制し、自分の言い分を述べる。

提督「だが俺達は、お前達も最初はそんな人間臭い感情を抱いていたことに気づかなかった。そして、その感情を棄てさせた

   のは、俺達がお前達を仕方なくとは言え倒し続けてきたせいだ。そのせいで、お前達から感情を奪ってしまったんだ。

   だからもう一度言う。本当に、すまなかった」

 提督の言葉は、ヲ級の心に響いた。それは自分が気づかなかったということと、自分の中から憎しみと言う感情が消えた

と言うこと。そして、今この場で感情を芽生えさせるという意味でだ。

ヲ級「ソウカ…ソウ言ウコトカ」

提督「…?」

 提督は、自分の言葉がヲ級の憎しみを助長させてしまったか、と思ったが、そうではなかった。

ヲ級「…提督ヨ、オ前ノ言葉ハ響イタヨ」

提督「俺の言葉がお前にさらなる憎しみを与えてしまったのなら、それは本当にすまないと思っている。ここで俺のことを

   殺してくれても構わない」

ヲ級「勘違イヲスルナ。私ノ中ニハモウ、憎シミナドトイウ醜イ感情ハモウナイ」

提督「え?」

ヲ級「私達深海棲艦ノコトヲ少ナカラズ憂イテクレル人間ガイタトイウコトハ嬉シイ。オ前ハ、自分ナリニ私タチノコトヲ

   想ッテクレテイタンダロウ?私ハ、ソレガ嬉シイノダ」

 そこでヲ級が考える仕草を取る。

ヲ級「ソシテ、コノ感情ハ何ダロウナ…?ナゼカ、オ前ヲ見テイルト、胸ガ締メ付ケラレル。アル言葉ガ私ノ頭カラ離レナイ。

   …提督、私ノ頭カラ離レナイ言葉ヲ言ッテミル。ソウスレバ、コノ胸ノ苦シミモ消エルカモシレナイ…イイカ?」

提督「…ああ、別にいいけど」

 そしてヲ級は、その言葉を口にする。

 それは、人間ならば誰でも知っている重要な言葉だった。





ヲ級「提督。私ハ、オ前ノコトヲ愛シテイル。オ前トズット、一緒ニ居タイ」




 それは、ヲ級が、愛情と言う深海棲艦には無かった人間の心を持った証だった。

今日はここまでです。明日の夕方以降、更新の予定です。

それではまた明日。



居酒屋・鳳翔、行ってみたい。

横須賀の酒保鳳翔のことか?

なんかこの作者取りあえずこてんぱにしとけばいいやみたいな小学生的発想が多くて実にガキ臭い

現代日本と同じ刑事訴訟法なら
死刑もしくは無期、三年以上の懲役か禁錮になる事件では
弁護人が居ないと裁判開廷出来ないんだよ
被告が弁護人付けるのを拒否しても裁判長が国選弁護人を付ける
つまり、どんな人格の持ち主でも弁護士が付かないは有り得ない

現代日本の刑事訴訟法と違うなら話は別
>1にオリジナル設定って書いてあるんだから
おそらく現代日本と法が異なる世界なんだろう

>>195
頭大丈夫っすか?
現代日本にない「国軍」が存在する時点で、法体系が違うことは大前提のはずだが?
軍内部の不正を刑事訴訟法で裁いてる国なんてないだろ。
(軍務以外で犯した罪なら別だが)

というか、現代法を前提にしたら提督諸氏は毎日犯罪を犯してることになっちゃうだろ。
資源ドロップは「占有拾得物横領罪」、艦娘のドロップは「略取誘拐および監禁罪」、艦娘は全員
「銃刀法違反」。
「鳥獣等保護法違反」や「漁業法違反」、自衛の範疇を超えた派兵による「憲法違反」なんてのもあるな。
どうすんのよ?

こんばんは。再開します。

>>184
 マジであったのか…

刑法等について>>1は無知ですので、その辺はあしからず。

>>189
>>1は勧善懲悪モノが好きですので、そこのイメージが強く出てしまいました。
読みにくいようでしたら謝罪します。すみません。

 ヲ級の言葉を聞いた時、提督はなぜか悲しい気持ちになってしまった。

提督(…俺なんかを、好いてくれるなんて…)

ヲ級「…提督ヨ、頭カラ離レナイ言葉ヲ言ッテミタガ、胸ガ締メ付ケラレル感ジガ収マラナイノダガ」

提督「…そりゃ、告白した上に返事が返ってこなければなあ…」

ヲ級「…?」

 未だ恋心と言うものを理解できないヲ級に、提督は説明することにする。

提督「あー、ヲ級。お前がさっき言った言葉とその胸が締め付けられる感じは、恋だよ」

ヲ級「恋…?」

提督「つまり、お前は俺に惚れてるってことだよ」

ヲ級「惚レテル…カ。人間ニハソンナ感情モアルノダナ。デハ、コノ私ノ気持チニ対スルオ前ノ答エヲ聞カセテクレナイカ?」

 提督は、まだ自分の気持ちの整理ができていないので、すぐに答えを返すことはできない。

提督「…その内、返事を返すよ」

 それ以降、2人は言葉を交わすことはなく、夜を明かすことになる。

 明朝、午前5時過ぎ。

 重巡洋艦・古鷹は海の上を滑るように移動していた。だが、彼女は早朝遠征組でも、夜間演習から帰ってきたのでもない。

 始まりは、朝の4時頃に鎮守府に入った通信である。提督が飛び起きて通信を受けると、相手はある商船会社のタンカー

船長だった。

船長『第弐拾鎮守府近海で、巨大な生命物体と遭遇!その敵により、タンカー大破!救援を求む!』

 この通信を聞いた提督は、急いでタンカー船員の救出部隊と敵討伐部隊を急いで編成し、出撃させたのだ。そして古鷹は、

敵討伐部隊の旗艦に任命されたのだ。

 提督は、2つの部隊が出撃する時にこう言った。

提督『タンカーを襲った巨大な生命物体とはほぼ間違いなく深海棲艦だろう。それも強力な奴だ。気をつけろよ』

 しかし、提督の言葉と通信を聞いて、古鷹は疑問に思ったことがある。

古鷹(鎮守府近海の深海棲艦は、ほぼ沈黙したはずなのに…)

 古鷹がそう考えていると、後ろについていた妹の加古が話しかける。

加古「どうした古鷹、考え事か?」

古鷹「うん…。この辺の深海棲艦は粗方片づけたはずなのに…今になってまた出現するって言うのが変だなって思って…」

加古「そうかね?」

古鷹「それに、タンカーの船長が『巨大な生命物体』って言っていたのもおかしいよ。深海棲艦は基本的に人の形をして

   いるし、大きくてもせいぜい身長2mぐらいでしょ?」

加古「その船長が新米で、深海棲艦を見たのが初めてだったんじゃないの?」

古鷹「いえ、その船長はもう船長になってから20年のベテランよ?この鎮守府近海を通ったことなんて、何度もあるのに…」

加古「ふーん、ま、何でもいいけどアタシは敵をぶっ飛ばせればいいからね?」

 今、この敵討伐部隊には古鷹と加古の他に同じく重巡洋艦娘の青葉、軽空母の龍驤と祥鳳、戦艦の金剛がいる。

 龍驤と祥鳳は既に艦載機を飛ばして索敵を始めているが、未だに敵は見つかっていない。

龍驤「見つからへんな~…」

金剛「龍驤~、そのワードを聞くのはもウンザリね~」

 この龍驤の言葉を聞くのは、艦載機を最初に飛ばしてからもう3回以上聞いている。そこで旗艦の古鷹が龍驤と祥鳳に

向かって言った。

古鷹「もしかして、海底に潜ってしまったのかもしれません。一度全艦載機を帰還させて―」

 古鷹が言いかけると、龍驤はピンと閃いたような表情をする。

龍驤「イヤ!おったで!敵影発見や!」

古鷹「え?本当?」

青葉「どこですか?どこにいるんですか!?」

加古「マジか!早く戦いて~!」

 先ほどまで退屈そうに移動をしていた青葉も食いつく。

 祥鳳は目を閉じて精神を集中し、艦載機が見ている映像を頭の中に映し出す。

祥鳳「これは、この艦隊の前方あたり…?相当大きい…。距離は近い…6000,5000…イヤ、もっと近い…!」

龍驤「マズイで!敵はすぐそこや!」

 龍驤と祥鳳の言葉に、艦隊のメンバーは全員振り向く。すると敵は、既に目を凝らせば目視できる距離まで来ていたが、

目を凝らして敵を確認した金剛は呆けたように声を出す。

金剛「敵艦発見、駆逐…イ級1、デース…」

 その金剛の言葉に、艦隊のメンバーは目が点になった。

加古「え~…」

青葉「散々長い間索敵しといて、見つかったのは駆逐イ級1隻だけですか…?残念です」

龍驤「ウチに言わんといて~な…」

祥鳳「仕方ありません、すぐに始末しましょう」

 だが、古鷹だけは異変に気付いた。

 自分の足元に、何か巨大な影がある。その影は、徐々に大きくなっていく。浮上しているのだ。

古鷹「全員退避!急いで!」

 突然の古鷹の指示に、加古達は一瞬戸惑ったが、下から迫ってくる陰に気づき、急いで陰から離れるように飛び退く。

 その瞬間、その影が水面から姿を現した。それは―

金剛「…What?」

 それは、高さが20m以上はあった。

 それは、幅が15m以上はあった。

 それは、サメのようにも、クジラのようにも見えた。

 それは、黒く鈍い光沢を放っていた。

 それは―



古鷹「…駆逐イ級の、塊…?」



 それは、無数の駆逐イ級が幾重にも束ねられたモノだった。

一旦ここで切ります。再開は21時過ぎの予定です。

こんばんは。再開します。

 目の前のあり得ない光景に、敵討伐部隊は全員驚きを隠せない。

加古「なんだよ…これ…気持ち悪い…」

青葉「…青葉、見ちゃいました…」

龍驤「なんやあれ…全部イ級…」

祥鳳「正直…吐き気を覚えますね…」

 中でも一番慌てているのは金剛だ。

金剛「Hey,古鷹!何デスカあれは!イ級がファンタスティックにフュージョンしちゃってますよ!」

古鷹「お、落ち着いてください!確かに気色悪いですが、あれは所詮大きいだろうが小さいだろうがイ級です!砲撃すれば

   倒せるはずです!」

 古鷹の言葉を聞いてムカついたのか、巨大イ級の魚が口を開け、その口から砲塔が出てくる。そして、照準を古鷹と金剛

に合わせる。自らに照準を合わせたその砲塔を見て、金剛はさらに驚いた。

金剛「16inch三連装砲!?イ級がそんなものを装備できるなんて!?」

古鷹「やばい…避け―ッ!!」

 古鷹が叫ぶ前に、イ級の三連装砲が火を噴いた。

 古鷹と金剛は間一髪で巨大イ級の攻撃を避けた。自分の攻撃がよけられたことにさらに憤りを覚えたのか、巨大イ級は

雄叫びを上げる。

巨大イ級「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

古鷹「何だかわかりませんが、どうやら怒っているみたい…」

加古「ハッ、何だかわかんないけど、アイツを倒せばそれでいいんだろ?なら、アタシはやるぜ!」

 そう言いながら加古は自分の14cm連装砲を構えて、容赦なく砲撃する。

加古「ブッ飛ばす!」

 その砲撃は、大きすぎるイ級の身体にもろに当たったが…。

加古「…あれ?」

 巨大イ級の表面で小さい爆発が起きただけで、巨大イ級にはあまりダメージが入っていないように見える。

青葉「ダメージがあまり入っていないようですが…」

加古「くっそぉ!なら、もう一発!」

 加古はそう言いながら何発もイ級に向けて撃つが、表面で爆発が起こるだけである。やはり、体の奥にはダメージが通って

いない。

加古「なんでだ!?なんでダメージが通らないんだ!?」

龍驤「こっちもやってみるで!」

 龍驤はそう言いながら懐から巻物を取り出して広げ、呪文のようなものを唱える。すると、巻物に置かれていた人型の紙

がむくむくと膨れ上がり、艦載機に生まれ変わる。

 龍驤はこの際出し惜しみをしようとは考えず、自分の艦載機をありったけ飛ばす。

龍驤「艦載機の皆~、お仕事お仕事!」

 そう言いながら龍驤は指を複雑に動かし、飛んでいる艦載機を自在に操る。

 祥鳳も同じように自分が持っている艦載機を、全部とは言わないができるだけ多く発艦させる。

 2人の艦載機は、巨大イ級の身体にできるだけ近づくと、攻撃を開始する。念のために、九七式艦攻で魚雷攻撃を放つ。

他の艦娘も協力して砲撃を行う。

 そして、6人の艦娘の攻撃による爆発が起きた。

巨大イ級「ギオオオオオオオオアアアアアアアアアア!!!」

 爆発の中から、巨大イ級の慟哭が響く。

龍驤「これだけやれば、殺ったやろ…」

古鷹「…いえ」

 古鷹の言った通りだった。

巨大イ級「グゥゥウウウ…」

 爆風による煙が晴れると、煙の中からは体の表面から煙を少しだけ噴いているだけの巨大なイ級が出てきた。

青葉「…これだけやっても、ダメージがほとんどないなんて…」

龍驤「ウチらの全力攻撃を前にビクともしないなんて…どういうことや?」

 そう話していると、巨大イ級が大きく口を開く。中からは、また砲塔が出てきたが、今度は違った。

古鷹「今度は12.5inch連装副砲が…!?」

金剛「しかも、今度は3つ!?」

 その瞬間、ドドドドドドドドドド!!と言う音と共に、無慈悲な砲撃が6人に向かって放たれる。

金剛「キャアアアアアアアアアア!!」

 まず、巨大イ級の一番近くに居た金剛が被弾する。

古鷹「金剛さん!」

 古鷹が金剛を振り返ると、別の方向からも悲鳴が聞こえた。

龍驤「痛い!いったぁ!!」

祥鳳「くっ…やられました…!」

 見ると、龍驤と祥鳳が大きく被弾していた。彼女たちの飛行看板や弓は破れたり折れたりしていて、使い物にならなく

なっていた。

古鷹「みなさん!一度退きましょう!」

 古鷹がそう言うと、古鷹を含めた6人は巨大イ級と距離を取った。

 巨大イ級も動こうとはしない。こちらの出方を伺っているようだ。

加古「何なんだよアイツは!?今までの敵よりも強いぜ!」

青葉「確かに…あの強さ、あの装甲、戦艦級のと張れますね…」

龍驤「ああ~…ウチの艦載機が…ウチの飛行甲板が…」

祥鳳「正直…私達はもう…戦闘ではお役に立てませんね…」

 古鷹は自分たちのザマを見て、考える。

古鷹(どうしよう…あの敵は雑魚中の雑魚であるイ級の集合体…それなのに、体表面にありったけの力で攻撃しても、

   ダメージが全く入っていない…。こんな敵にどうすれば…)

 古鷹は、諦めて鎮守府に戻ろうかと考えていた。しかし、そう思い起こす前に、古鷹の頭の中に提督の言葉が蘇る。

提督『お前なら、きっとやれる。そう俺は信じてる。だから、胸を張って行って来い』

古鷹(そうですね…あなたは私のことを信じている…。それに応えなければ…!)

 その時、古鷹は何かに気づいた。

古鷹(ん…?イ級の集合体…体表面じゃダメージは入らない…そうか!)

加古「ん?古鷹、どうかしたのか?」

 古鷹の閃いた表情がわかったのか、加古は話しかける。

古鷹「青葉さん、カメラ持ってますか?」

青葉「ええっ!?なんですかいきなり…持ってますけど」

古鷹「後で提督に報告するために、アレを写真に撮っといてください!」

青葉「え、ええ…別にかまいませんけど」

 そう言うと、青葉はカメラを取り出し、慣れた手つきで巨大イ級を写真に撮る。

古鷹「では、アイツの弱点を教えます」

加古「お、わかったのか!?」

青葉「話してください!」

 2人に言われると、古鷹はその弱点を2人に伝える。

青葉「そんなところが…?」

加古「本当に、大丈夫なのか?」

 加古の問いに、古鷹は静かだが力強い声で答える。

古鷹「大丈夫です。私を信じてください」

 古鷹の言葉に、加古と青葉は頷く。

加古「分かった。お前を信じるぜ」

青葉「頑張りましょう!」

 2人の言葉を聞いて古鷹は微笑むと、龍驤と祥鳳、そして気絶してしまった金剛を振り返る。

古鷹「龍驤さん、祥鳳さん、金剛さんをお願いします。私達は、アレを倒します」

龍驤「…わかった!ウチらの恨み、晴らしといてーな!」

祥鳳「では、お願いします!」

 古鷹は2人の言葉を背中に受けて、巨大イ級と対峙する。

古鷹「さあ、行きましょう!」

 その後、古鷹、加古、青葉の3人が行った行動は至ってシンプルだった。

 巨大イ級に向かって突進する。

古鷹「さあ、私達を狙いなさい!」

 古鷹の言葉に応えるように、巨大イ級は古鷹達3人に顔を向け、口を開く。そして口の中からは、また16inch三連装砲が

3つも砲塔を出してくる。

 しかし、古鷹達はその三連装砲には目も暮れず、行動を起こす。

古鷹「全砲門、一斉射!!」

 古鷹の合図とともに、3人は自分の持つ大砲の口を全て巨大イ級の口の中に向ける。

 そして、ガガガガガガガガガガ!!と音を立てて弾を巨大イ級の口に向けて砲撃した。

巨大イ級「ガア、アア…」

 巨大イ級は満足に声を上げることもできず、ただ短く声を発するだけだった。

 古鷹達3人は、全ての弾薬を撃ち終えると、全員が突然距離を離した。

古鷹「離れて!」

加古「ヤベェ!」

青葉「まずいです!」

 その理由は単純、巨大イ級の腹部に当たる部分が大きく膨らんだからだ。

 そしてその膨らみが大きくなっていくと―


巨大イ級「ギィオオオオオオオオオアアアアアアアアアアァァァァァアァァ…!!!」



 巨大イ級が、体内から爆発した。

 その時、古鷹達は爆発の風に飛ばされて、必死に受け身を取ることしかできなかった。

3人「うわあああああああああああ…!!」

 そして、数秒の間宙を舞うと、3人は丁度龍驤達の真横に落下した。龍驤、祥鳳、金剛の真上に落下しなかったのは奇跡

としか言いようがない。

龍驤「今度こそ、やったんか…?」

 古鷹達が落下し、起き上がるのを見て、龍驤は呟く。

 その答えは、空から降ってきた。

 それは、次々と海面に落ちていき、中規模の水柱を立てると海の底へと沈んでいった。それは、イ級の残骸である。

古鷹「どうやら…今度こそ、倒したようですね…」

加古「やった…やったぜ!」

青葉「やっと倒せましたね…!」

龍驤「あんたら…スゴイで!」

祥鳳「あんな敵を相手に突進するなんて…すごいです…!」

加古「いやあ~古鷹の作戦のおかげさ!」

 皆が、難敵を倒した喜びを分かち合っている中で、古鷹だけは深刻そうな顔をして考えた。

古鷹(あの巨大なイ級は一体…また、今までとは異なる深海棲艦が出現するなんて…どうなっているの…?)

 古鷹はそう胸にモヤモヤを抱きながら、他の5人と一緒に鎮守府へと戻って行った。

今日はここまで。また明日の夕方以降に再開の予定です。

ここで訂正です。
>>214
 彼女たちの飛行看板→彼女たちの飛行甲板
 脳内補完よろしくお願いします。

それではまた明日。



ついに、この話も終盤へと向かっていきます…

こんばんは。再開します。

 帰投した古鷹の話を聞き、青葉が撮った写真を見て、提督はフムと考えた。

提督「新しいタイプの深海棲艦…か」

古鷹「こんな深海棲艦は見たことがありません。それに、通常は駆逐艦が装備できない兵装も装備するなんて…。本当に、

   どういうことなんでしょう…?」

提督「…ヲ級、何かわかるか?」

 提督は、隣に立っていたヲ級に話を振ったが、ヲ級は首を横に振る。

ヲ級「分カラナイ。コンナたいぷノ深海棲艦ハ私モ初メテ見タ」

提督「そうか…。ま、これに関しては俺たちに任せて、お前達討伐部隊は補給と入渠をしてくれ」

古鷹「ハイ!」

 古鷹はそう答えると、執務室を出ていった。

提督「…巨大なイ級の集合体…か」

ヲ級「ドウイウコトダ…?い級達ハナゼソンナコトヲシタノダ?」

提督「多分、自分達で考えてやったんじゃない。恐らくは、誰かに言われてやったのか…?」

 提督の予測に、ヲ級は賛同する。

ヲ級「ソウカモシレナイガ、ナラバ誰ニ命令サレタンダ?」

提督「…そうだよな…やっぱり、深海棲艦のトップか?」

 ヲ級と提督の言葉は、特に誰かに答えを求めたものではなかった。

 だが、なぜかその言葉に答えが返ってきたのだ。



??『そうだな。それはある意味当っているな。ヲ級、提督さん』



 その声は、天井に設置されているスピーカーから聞こえてきた。

 その声に気づき、提督とヲ級ははっと顔を上げる。

??『どうも~、第弐拾鎮守府の提督さん、それに空母ヲ級』

 その言葉は砕けている感じがしたが、2人は気が抜けない。

 この声がスピーカーから聞こえてくるということは、多分この声は鎮守府の全てスピーカーから流れているのだろう。

そして、ほとんどの艦娘がこの声を聞いているに違いない。そう考えながら、提督は慎重にマイクに向かって話す。

提督「…誰だ、お前は…?」

??『そうだな、名前がないって言うのは不便だな。なら、名乗る前に俺の正体からまず言わせてもらおうか』

ヲ級「正体…ダト?」

??『そうだ。空母ヲ級、俺の正体についてはお前にも関係があるんだよ』

ヲ級「ドウイウ意味ダ?」




??『俺の正体は、深海棲艦の意志そのもの、だよ』



ヲ級「…ナンダト…?」

??『だから、俺も深海棲艦だ。俺のことは深海総意とでも呼んでくれ』

 深海総意。それが、この男の名前。そして、こいつが古鷹達が交戦した巨大イ級を作った男だろう。

提督「深海総意、お前の正体が深海棲艦の意志そのもの、とはどういう意味だ?」

深海総意『だから、そのままの意味だよ。深海棲艦の意志が集まってできた存在。それが俺だ』

ヲ級「…何ヲ言ッテイルノカ理解デキナイガ」

 ヲ級の言葉を聞くと、深海総意は小さく『しょーがーねーなー』と言った後で話し出す。

深海総意『俺達深海棲艦は、過去に沈んだ船の怨念が具現化した姿、と言っていたな?提督さんよ』

提督「…ああ。いくつかある深海棲艦の正体説の中に、それがある」

深海総意『その通りだ。確かに俺達は、船の怨念だ』

 深海総意はそこで言葉を切り、続ける。

深海総意『だから俺達は、お前達人間を恨んでいるんだよ』

提督「…どういうことだよ」

深海総意『過去の船を沈めたのは、人間だ。船が沈んだ原因は砲撃や雷撃、空爆とか色々あるが、その攻撃を直接指揮した

     のは人間だ。だから、俺達は人間を恨んでいるんだよ。俺達を沈めた人間を』

提督「…そうか」

 提督は深海総意の言葉を聞くと、少し考えて口を開く。

提督「それなら、過去にお前達を沈めた人達に代わって俺が詫びよう。申し訳なかった」

深海総意『謝っただけで済むほど、俺達の恨みは浅くはない。そこにいる、お前に甘い言葉をかけられただけで改心した

     ヲ級なんかと一緒にするな』

ヲ級「……!」

 ヲ級はギリッ、と歯軋りをしたが、提督が深海総意に聞こえないように、『落ち着け』とヲ級にいる。

 そこで提督は話を戻すことにする。

提督「俺達に、何の用だ?わざわざスピーカーをジャックするなんて、何を考えている?」

深海総意『おおそうだった、忘れてた。危うく用件を言うのを忘れるところだったじゃないか』

 深海棲艦はおどけたように言った後、端的に用件を述べる。

深海総意『そこにいるヲ級をこちらに返してもらおう』

 提督は、その用件を飲むことができなかった。それは、提督のみならず、この鎮守府の艦娘の誰もが許しはしないだろう。

やっと仲間、友達になれたヲ級をそうやすやすと敵に返すなど、提督にはできない。

提督「…断る、と言ったら?」

深海総意『その時は、その鎮守府を破壊するまでだ』

 その言葉を聞いた時、鎮守府の艦娘達がざわざわとどよめくのを提督は感じ取った。

深海総意『できないと思うか?なら、思い出してみろ。お前達が倒したイ級の集合体を』

提督「やっぱりあれは、お前の差し金だったのか」

深海総意『ああ。元々俺は肉体がなかったが、最近になって肉体を持つようになった。俺の中には、過去に沈められた船の

     怨念の他に、沈められた艦娘の怨念も含まれている。どうやら、この海に蔓延る船や艦娘の怨念が一定以上に

     なったから、俺が生まれたのかもしれん。それから、俺は深海棲艦の意志を自在に操ることができるようになった。

     泊地棲鬼や港湾棲姫とか強い奴の意志もな。そんな俺に、雑魚中の雑魚の駆逐イ級を自在に操るなんてことは

     造作もないことだよ』

提督「…なるほど、面白いな」

深海総意『どうだ、驚いたか』

提督「イヤ、いずれお前のような奴が現れるとは薄々思っていたからな。正直、あまり驚いていないよ」

深海総意『へえ、お前ももなかなか面白いな』

 深海総意はそう言うと、こう続ける。こんな時に不謹慎だが、提督は深海総意から面白いと言われて、自然と頬が緩んだ。

深海総意『俺のことに驚かないとは面白い。俺が深海棲艦の中枢部に乗り込んだ時、どいつもこいつも俺に驚いて、尻込み

     して俺にやられた奴ばっかだったから、お前みたいなのは初めてだよ。気に入った。直接話してみたくなった

     よ』

提督「…そうだな。俺も、お前に直接会って話がしたい」

深海総意『なら、決まりだな。今日のヒトゴーマルマル(15時00分)に、そこの鎮守府から北に5Kmの場所に来い。そこで

     話をしようじゃないか』

 提督は深海総意の言葉を聞きながら、窓の外を見て北を見る。だが北には海が広がっているだけで、壁に掛けられた海図

を見ても、言われた場所には岩礁も島も何もない。

提督「おい、まさか海の上で―」

深海総意『じゃー、後で』

 深海総意が、気軽に会う友達のような口調で別れの言葉を言うと、放送をは切れた。

 放送が終わると、丁度執務室のドアがノックされた。入ってきたのは、秘書艦の加賀だった。

加賀「失礼します」

提督「…聞いたな?さっきの話。俺は行くぞ」

加賀「まあ、貴方のことですから…。そう言うと思いましたよ」

ヲ級「私モ行ク。恐ラクアイツノ狙イハ私ダ」

 ここで提督は、ヲ級についてくるなと言うこともできたが、ヲ級が放つ気迫と真剣な目つきで、提督は断ることができなかった。

提督「…わかった。加賀、念のため、先に約束の地点付近に今から言う艦娘を偵察に向かわせてくれ。深海総意が何か仕掛けて

   いるかもしれん。比叡、榛名、霧島、大鳳の4人だ。あまり大所帯にしてもばれちまうからな」


加賀「分かりました」

提督「俺とヲ級は約束の場所までモーターボートで行く。それと、護身用にこれを持っていくか」

 提督はそう言うと椅子から立ち上がり、戸棚の奥に入っていたあるものを取り出す。それを見て、ヲ級は驚きの声を上げる。

ヲ級「…ソンナノモノヲ、隠シテイタノカ?」

提督「父さんの形見だ。そして俺も、それなりにこいつを扱うことができる」

 提督はそう言うと、それを腰のベルトに提げて、執務室のドアへ向かって歩き出す。

提督「さあ、行こうか」

 今の時刻14時00分。モーターボートで行くには、少し急がなければならない距離だ。

 提督とヲ級は、一緒に執務室を出て船着場へと歩いて行った。

 最後に執務室に残された加賀は、呟く。

加賀「提督、ヲ級さん…どうか、ご無事で」

今日はここまで。

明日は時間が不明ですが更新する予定です。

それではまた明日。



バトル系のアニメを見ると、主人公サイドの登場人物より、悪役が好きになってしまう俺。

こんにちは。再開します。

 提督とヲ級は、モーターボートで海の上を進んでいた。約束の地点まであと2kmぐらいだろうか。

 時刻は今14時45分。先に偵察部隊をいかせた上、少し早めに行くことにしたのだ。

提督(…比叡達が深海総意を倒せるとは思えないが、一応念のためだ)

 提督はモーターボートを操縦しながらそう考えた。後ろに座っているヲ級は、あることを考えながらに腕を組んでいる。

ヲ級(もしかしたら、私はあっさり深海総意に引き渡されるのかもしれない…。昨日の告白の返事も貰っていないし…。

   所詮私も深海棲艦の1人。ここで深い海に戻ることになるのか…)

 そして、約束の地点まで1㎞の地点を通過すると、提督が遥か前方に何かがいるのを見つけた。

 それは、海の上に立っている人だった。

 そいつは、グレーのコートを羽織り、コートの下は白系のスーツ。髪もやはり同じようなグレーの短髪だった。

 その男が、深海棲艦の意志そのもの、深海総意なのだろう。

提督「アイツが…深海総意…」

ヲ級「深海棲艦ノ意志…」

 提督とヲ級がそう呟いた時、深海総意はニヤリと笑ったように見えた。

 次の瞬間、モーターボートの周囲からパキ、パキという何かが砕けるような音が聞こえた。

提督「何だ?」

 提督がきょろきょろとボートを見回すが、特にヒビも入っていない。異変に気付いたのはヲ級だ。

ヲ級「提督!海面ガ凍ッテイク!」

 ヲ級に言われて提督が海面を見てみると、どんどん海面が透明から半透明へと変わっていく。それと同時に、モーター

ボートもガタガタと揺れる。どうやら、既に凍り付いている所を無理矢理進んでいるせいだ。

提督「まずっ―」

 提督が叫ぶ前に、モーターボートはついにガクンと揺れて大きく跳ねた。そして、提督とヲ級は放り出される。

提督&ヲ級「うわあああああああああ…」

 提督とヲ級は凍り付いた海面に叩きつけられる。骨が折れなかったのは奇跡に近い。

 後ろを振り返ると、モーターボートは横倒しになっていた。だが、氷の地面は崩れていない。

 前に向き直ると、深海総意がパチパチと拍手をしながら近づいてくる。

深海総意「いやあ~、最初から面白いものを見せてもらったよ。まさか、ボートから飛び降りて登場とはね」

 提督は気を緩めず、急いで立ち上がり、ヲ級をかばうように立ちはだかる。

深海総意「やっぱヲ級を連れてきたか。まあ、俺が直々に取りに行く手間が省けたわけだ。感謝するよ」

提督「ヲ級は渡さん」

 深海総意は、提督の言葉を聞くと信じられないものを見るような眼で提督を見る。

深海総意「へえ、そこまで深海棲艦に拘るとは。本当に面白いね」

提督「ヲ級は俺達の仲間だ。そう簡単に渡すわけにはいかない」

ヲ級「提督…」

 ヲ級は、提督のことを期待に満ちた眼差しで見つめる。だがそれを見て、深海総意はこう切り出す。

深海総意「じゃ、取引と行こうじゃないか」

提督「取引だと?」

深海総意「そうだ。取引だ。お前にとっても重要なものだ」

ここで一回切ります。

また再開します。

提督「一応、聞こうか」

深海総意「こちらにヲ級を引き渡せ。そうすれば、お前達第弐拾鎮守府の艦娘と建屋に危害は加えない」

提督「それだけか?」

深海総意「それだけとか言うな。つまり、お前達が出撃する時、俺達深海棲艦はお前達の邪魔をしない。そうすれば、無駄

     に戦闘をすることで消費する燃料と弾薬も節約できるし、修復で消費する鋼材、ボーキサイトの出費も抑えられる。

     さらに、お前達も楽に新海域を拡張することができて、上層部からその功績を称えられ、お前とお前の鎮守府、

     艦娘の待遇は今よりずっと良くなるだろうな。これは今すぐには起きないことだが、時間をかけてお前達の

     メリットになるものだよ」

提督「…なるほどね。そりゃいい話だ、悪くない」

 ヲ級は、提督の声を聞いて、少し不安になった。

ヲ級(やはり私は、所詮深海棲艦。ここで暗い海にまた戻るのか…。それはつまり、私の告白をこいつは拒否するという

   ことか…)

 そう考えるとヲ級は立ち上がり、深海総意に向かって歩き出そうとする。

 が、そこで提督が左腕を横に突き出し、ヲ級が歩こうとするのを止めて、こう言う。



提督「だが、お断りだボケ」


 提督の言葉に、深海総意は落胆よりもむしろ面白い、という表情を浮かべる。

深海総意「ほ~。今の話を聞いて、それでもヲ級と離れたくないって?」

提督「ああ、その通りだよ」

 深海総意の言葉に対する提督の答えを聞いて、ヲ級は提督の横顔を見る。

提督「さっき言ったな。ヲ級はもう俺達の仲間だ、と。だが、それだけじゃない」

深海総意&ヲ級「?」

提督「あの鎮守府には、ヲ級のことを友達だと思っている奴もいる。というか、もうほとんどの奴が、ヲ級のことを深海棲艦

   なんて考えず、友達だと思っているだろうな。"仲間"と"友達"は、似ているようで違う。友達の方が、絆は深い」

 そして、と提督は続ける。




提督「このヲ級は、俺が惚れた女だ。だから、お前なんかに、そしてこの暗い海に返すわけにはいかない」



 ヲ級は、提督の言葉を聞いた時、体の中から熱いものが込み上げてくるような感じになった。

深海総意「正気か?そんな化け物に行為を抱くなんて、イカれちまったのか」

提督「悪いが、俺は正気だよ。そして、お前みたいな真正の化け物よりはまともだと思ってる」

 提督はそう言うと、ヲ級を振り返る。

提督「…前の告白の返事は、後でちゃんと返す。だけど、俺の気持ちは今言った通りだ」

ヲ級「…アア」

 ヲ級は目に涙を滲ませるが、右手の人差指で涙を拭う。

 そのやり取りを見て、深海総意は笑う。

深海総意「はっはっは。なんとも涙ぐましいね。つまり、取引は決裂、と」

提督「ああ。そう言うわけだ。ここでテメェをぶっ潰す」

深海総意「そうか…。なら仕方ない、俺も真の力を使うか」

 深海総意はそう呟くと、右手を上に突き出す。

提督「何をする気だ?」

ヲ級「分カラナイ、ダガ、ヨカラヌコトダロウナ」

 2人の言葉を無視して、深海総意は高らかに言う。


深海総意「我らの意志を、この手に!」

ここでまた切ります。ぶつ切りですみません。

次の再開は18時前後の予定です。

明日の七時か。楽しみにしてる。乙!!

再開します。

>>250
 Σ(゜Д゜;)!?

 その時。

 比叡達偵察部隊は、提督と深海総意が会う約束をしていた地点から東に3kmほどのところにいた。

 提督に言われて、深海総意の約束の時間の前に会合地点に偵察に向かったが、そこで待ち伏せをしていた深海棲艦達に

目をつけられてしまい、会合地点から遠くへ引き離されてしまった。

 待ち伏せしていた深海棲艦は、6人。対して、比叡率いる偵察部隊は4人。数では劣っているが、偵察部隊のメンバーは

雑魚連中で、大した差はないだろうと比叡は考えていた。

 しかし、実際にいた待ち伏せ部隊のメンバーは、比叡の予想の真逆だった。

比叡「なんで…空母水鬼がこんなところに…!?」

 比叡は、対峙している敵の名を告げる。

 待ち伏せしていた部隊のメンバーは、空母水鬼、泊地棲鬼、港湾棲鬼、戦艦棲鬼、空母棲鬼、駆逐棲姫という、最強クラス

のメンバーだったのだ。

 比叡の艤装や服は、空母水鬼の攻撃でボロボロになっていた。比叡以外の仲間は、それぞれ引きはがされて最低でも1対1

の戦闘を強いられているだろう。

 自分に迫ってきた空母水鬼に対して、比叡はできる限り衝撃を緩和する体勢を取ろうとしたが、

比叡「…え?」

 突然、迫ってきた空母水鬼が倒れた。そして空母水鬼はそのまま動くことが無く、海の底へと沈んで行ってしまった。

比叡「…どういうこと…?」

 元々、比叡は空母水鬼たち待ち伏せ部隊の様子がおかしいと考えていた。

 待ち伏せ部隊に最強クラスのメンバーを投下してきたことに対してもおかしいとは考えていたが、彼女たちの眼には光が

宿っておらず、ただの人形のように自分たちを攻撃してきた。

 そして、かつて対峙した時は最低限の言葉を口にしていたのに、今回は何も言わずに攻撃してくる。

 そんなことを考えていると、比叡の無線に他のメンバーからの通信が入る。

榛名『こちら、榛名。対峙していた泊地棲鬼、空母棲鬼が突然動きを止めて海へ沈んでいきました。これは一体…』

霧島『こちら、霧島。自分と戦闘をしていた戦艦棲姫が、戦闘の最中に突如倒れてそのまま沈みました。原因は不明です』

大鳳『大鳳です。私と戦っていた港湾棲鬼、駆逐棲姫が戦闘途中で自分から転んで海中へと姿を消しました。私が思うに、

   何かの原因で意識が勝手に切れてしまったものと見られます』

 3人の通信を聞いた比叡は、それぞれの損傷具合を確認し、鎮守府に帰投するように言う。このままここにいては、新手

に攻撃された場合に対処できないからだ。

比叡「なにが…起ころうとしているの…?」

 その時。

 とある鎮守府に所属している木曾は、眉をひそめた。

木曾「なんだこりゃ…どうなってんだ?」

 自分と対峙していた戦艦レ級が突如意識を失い横に倒れ、そのまま身じろぎせず沈んでしまったのを見て、木曾は周囲を

見渡す。

木曾「…深海棲艦に何か起こったのか?」

 その時。

 とある鎮守府に所属している青葉は、好奇心に満ちた表情をした。

青葉「どういうことでしょう…青葉、知りたいです!」

 自分が戦っていた軽空母ヌ級が飛ばしていた艦載機が突然ふらつき、墜落した。そして、それと同時に軽空母ヌ級も前に

倒れてそのまま海中へと潜ってしまったのだ。

青葉「あの提督が、何かしたんですかね?」

 青葉はそう言いながら、顔に火傷のある提督の顔を思い浮かべる。

 が、真相は違う。

 その時。

 とある鎮守府に所属している神通と五月雨は、不安な表情を浮かべる。

神通「どういうことでしょう…?」

五月雨「分かりません…敵の作戦かも」

 2人が戦っていた潜水ヨ級や潜水ソ級に向けて爆雷を放ったところ、手ごたえがなく、水柱聴音器や水中探信儀を使うと、

敵は勝手に深海へと潜って行ってしまったのだ。

神通「…力なく沈んで行ったように見えたんですけど」

五月雨「まさか、スタミナ切れ?」

 五月雨の推測は、当たらずとも遠からずだ。

 敵潜水艦は、突然意識を失ったのだから。

 その時。

 全世界の海でも同じように、敵深海棲艦が原因不明のまま海に沈んでしまうという現象が起きていた。

 一部を除く提督と艦娘達は、その怪奇現象がなぜ起きたのかはわからない。

 その一部とは、第弐拾鎮守府の提督と空母ヲ級だけである。

深海総意「我らの意志を、この手に!」

 目の前にいた深海総意が真上に腕を突き上げてそう言った時、提督は言い知れぬ不安を覚えた。

提督「…なんだ…?何が起きた…?」

 提督がそう呟くと、後ろにいた突然ヲ級が横に倒れた。

提督「ヲ級!?」

ヲ級「…一体…ナニガ…?」

 ヲ級は、自分の身に何が起きたかわからない、と言った感じで呟く。

 深海総意は腕を下げて首をコキコキと音を立てて動かしながら、面倒くさそうに言った。

深海総意「あ~…やっぱり無理か。人間の心を持ち始めているヲ級の意識を完全に奪うことはできなかったか…」

提督「お前、何をした!?」

深海総意「ああ、この世にいる深海棲艦の意志と力を俺に集約させた。今、世界にいる深海棲艦はだいたい数千…ぐらい?

     だから、俺の力も数千倍ってことだ」

提督「この世に…?意志と力を集約…?何をバカなことを…」

深海総意「嘘だと思うなら、今から見せてやる」

 深海総意はそう言うと、腕を今度は横に突き出す。

 次の瞬間―。




 ドォォォォォォォォォォォォン!!と。

 遥か遠くの陸地の方で爆発が起こった。



提督「な、なに!?」

 提督が音のした方を見てみると、遥か彼方に見える陸の方で大きな煙が上がっている。提督の記憶では、幸いにもそこは

人が住んでいない山の方だった。

深海総意「今の力じゃ、こんな所か」

 深海総意は自分の掌をじっくりと眺める。

深海総意「言ったろ、俺の力は数千倍って。その証拠があの距離であの威力の攻撃だ。言っとくが、誰も陸地に向けて撃つな

     とは言っていないぞ」

提督「テメェ…!」

深海総意「まあ、ここまでできるんだからもうお前との取引も無意味だし。ここでお前達を始末しますか」

 そう言いながら、深海総意は右手を提督に向ける。

 そこで、後ろに倒れていたヲ級が力を振り絞って提督の前に立ちはだかる。

ヲ級「提督、ハ…ヤラセナイ…」

 深海総意はそう言うヲ級を見ると、興ざめ、と言った表情を顔に浮かべる。

 そして、深海総意の掌から何か筒のようなものがズズッと出てきて、そこから弾丸が放たれた。

ヲ級「ガッ…!?」

 腹に弾を受けたヲ級は口の端から血を流し、提督にもたれかかるように倒れる。

提督「ヲ級!」

ヲ級「…ウ…ア…」

 深海総意は、ヲ級が苦し紛れに提督の顔を見上げるのを見ると、掌から出ていた筒(砲)をズズッとしまう。

深海総意「あーあ、ヲ級の奴。そんな奴に構わなければよかったのに」

提督「黙れ!おい、ヲ級!俺なんかのために…大丈夫か!?なあ!?」

ヲ級「…大丈夫…ダ。私達深海棲艦ハ、コノ程度ノ傷ナラ自分デ治スコトガデキル…」

深海総意「無理だ」

 深海総意は、ヲ級の言葉を否定する。

深海総意「さっき撃った弾は、対深海棲艦用だ。そういった深海棲艦特有の自己修復能力を封じた上、身体能力も奪い取る。

     つまり、今のお前は、か弱い人間の女と何ら変わらない状況だ。あと数十分もすれば、お前は死ぬ」

 ヲ級は深海棲艦の言葉を聞くと、確かに自分の中にある特有の力が発動しないと実感した。

 ハァ、と辛く息を吐くヲ級を支えながら、提督は言う。

提督「…ヲ級、お前はそこで休んでろ。アイツをぶっ倒して、お前を鎮守府に連れて行って、明石さんに直してもらう」

ヲ級「…?」

提督「そして、明石さんに直してもらったら、お前の望みをなんでも叶えてやる。だから、死ぬな」

ヲ級「…ナンデモ、カ。フフッ、ワカッタヨ。ダカラ、オ前モ無茶ハスルナ」

提督「もちろん」

 力強い返事を返すと、提督はヲ級を寝かせる。ヲ級は寝かせられると、顔を提督の方に向ける。

 提督はヲ級を寝かせると、深海総意に対峙する。

提督「おいそこのバカ野郎。ヲ級から深海棲艦の力を奪ってくれて感謝するよ」

深海総意「何言ってんだ?やっぱお前、トチ狂っちまったのか?」

提督「今ヲ級は、深海棲艦の力が無い、か弱い女の子みたいになっちまったんだよな?」

深海総意「それが何か?」

 深海総意の答えを聞いて、提督は不敵な笑みを浮かべる。


提督「なら結構。か弱い女の子を助けるために悪の親玉をぶっ倒すなんて、楽しい状況じゃないか」


 そう言うと、提督は腰に提げていたモノ…剣を鞘から抜く。そして鞘は、横に放り投げる。

 鞘から抜かれた光沢を放つ剣を見て、深海総意はヒュ~、と口笛を吹く。

深海総意「かっけーな」

提督「おうよ。俺の父さんの形見さ」

深海総意「へえ、じゃ、おやっさんは兵士か何かか?」

提督「海軍だった。そして、剣の達人でもあった。そして俺も、剣の腕は世界レベルだよ」

深海総意「…そうか。じゃ、俺もそれに合わせますかね」

 深海総意はそう言うと、右手を地面に向ける。すると、今度は砲ではなく刀が出てきた。

深海総意「正直、ただの脆弱な人間に向かってさっきみたいな強すぎる力を使うなんて少しバカらしい。だから、俺もこういう

     手で行こう」

提督「わざわざ敵に合わせるなんて、お前も面白い奴だな」

深海総意「そりゃどうも」

 深海総意は、右手から出てきた刀を握りなおす。

深海総意「ああ、俺は刀だから、剣のお前は少し手加減しろよ」

提督「…できると思うか?」

深海総意「やっぱりか」

 2人は、互いに自分の武器を構えて、再び対峙する。

 深海棲艦対人間。その、とても珍しい戦いが今始まる。

一旦ここでまた切ります。

次の再開は21時過ぎの予定です。

再開します。

 提督はまず剣を構えると、慎重に深海総意との距離を測ろうとする。

 しかし。

深海総意「遅いぞ」

 目を凝らそうとした直後に深海総意の顔が目の前にあった。そして刀を真一文字に振って提督の首を切断しようとする。

提督「フッ!」

 しかし、提督はすんでのところで首を下げて刀を躱す。

 さらに提督はその勢いで深海総意の腹に頭突きをする。その頭突きを受けて深海総意はわずかに呻くとわずかに後ろに

よろける。

深海総意「おお…、少しはやれるようだな」

提督「当たり前だ。剣術には観察眼と素早い反射能力が必要だ。伊達に10年剣術はやってない」

 提督はそう軽口を叩きながらも深海総意との間合いを測る。

提督(やっぱ、全深海棲艦の意志と力を持っているだけはあるな。あの速度、あの真一文字切りの速さは人にできる動き

   じゃない。いや、アイツ人じゃないけど)

 提督はそこまで考えた後、辺りを見回す。

提督(そう言えば…偵察部隊はどうなったんだ?)

深海総意「お前の偵察部隊ならとっくに潰したぞ」

 提督の行為の意味を理解したのか、先に深海総意が言う。

提督「何?」

深海総意「お前が偵察部隊なんて出さずにここに来るとは思わなかったしな。待ち伏せさせて、ここから引き離した。まあ、

     最強レベルの奴らを集めたから、今頃はボロボロだろうな」

 提督は、偵察部隊なんかで深海総意を倒せるとは思っていなかったが、それでも少しショックだった。

深海総意「しかし、4人とは舐められたものだな。まあ、その分ムカついてんだけどな」

 それと、と深海総意は加える。

深海総意「よそ見している場合かよ」

ぼく(10年でどうにかなるのか)

 次の瞬間、提督の顔面に深海総意の拳が突き刺さる。

提督「ガフッ!?」

 提督は後ろによろける。だが、すぐに前に出て剣を横に振る。

深海総意「おっと」

 深海総意は刀を縦にして剣を受ける。接触した部分から火花が散り、深海総意が刀を押し返すと、提督も剣を押し返される。

すると提督は、上に飛び上り、深海総意の後ろに着地してすぐさま剣を横に振る。

深海総意(ほう…いい動きだ。だが…)

 深海総意は心の中でだけ提督を称賛すると、しゃがみ込む。深海総意の上を剣が横薙ぎに振られる。

 そしてしゃがんだまま右足を出して1回転して提督の足を払う。

 だが提督は少しジャンプしてそれを躱し、剣を振りかぶって真下に振り下ろしてくる。

深海総意(こいつは、やべぇ!)

 深海総意はすぐに刀を横に構え、さらに刀の背に手を添えて提督の剣を受け止める。

 深海総意はそのまま提督の剣を押し返し、提督を後ろへ下がらせる。

深海総意「おらぁ!」

 その深海総意の気迫に押されたのか、提督は後ろへバックステップをとる。そして深海総意はそれを追うようにさらに刀を

前にして提督に向かって突き出す。

 だが提督はその刀を、(深海総意から見て)刀の右側に剣を当てるようにして接触させて軌道を変え、剣を刀に触れさせた

まま深海総意へと進ませる。

提督「おおおおおおおおおお!」

 そこで深海総意は刀を今度は右に動かして提督の動きをよろめかせる。提督が前につんのめると、今度は深海総意が刀を

振り上げて提督の首を切断しにかかる。

深海総意「死ねぇ!」

 しかし提督は、持っていた剣を逆に持ち、剣の柄を深海総意の右手に突き上げる。その痛みで深海総意は刀を落とそうと

する

深海総意「おおっ!?」

提督(もらった!)

 この時提督はそう確信した。しかし、深海総意は左手で刀を持ち直し、その柄を提督の後頭部に振り下ろす。

提督「がっ…!?」

 提督は意識が持っていかれそうになるが、なんとか持ちこたえる。それを見て深海総意はイラついたように叫ぶ。

深海総意「くそっ、なんで倒れねぇんだ!?」

提督「倒れてたまるか!お前ぶっ倒して、ヲ級と一緒にあの鎮守府に帰るんだから!」

深海総意「ならせいぜい頑張ってみろ!」

 提督は後ろに転がるように下がって深海総意の追撃をまた躱す。

 それをみた深海総意は提督に向かって信じられない速さで突進し、タックルをかます。そのタックルをまともに喰らい、

提督は後ろに吹っ飛ぶ。その拍子に、剣を手放してしまう。

 20m弱を2回転、3回転と転び、そして尻餅をついた状態になる。

提督(くそっ、やっぱり人外の力を得ているだけはあるな…)

 そこに深海総意はゆっくりと近づいてくる。提督は辺りを見渡し剣を探すと、深海総意の右斜め手前約5mのあたりに

突き刺さっている。

 だが、深海総意はこちらに向かって走ってくる。

深海総意「はっはっはぁ!んじゃ、さよぉならぁ!!」

 深海総意が刀を前に突き出して楽しそうな声を上げながら走ってくる。提督はそれに対して構えを取ろうとする。

 しかし、深海総意は走りながら突然頭を押さえた。

深海総意「あ…?なんda、こレはァ?頭が…痛ェ…?」

 深海棲艦の言葉がブレる。そして、動きを止めて持っていた刀を手放し、両手で頭を押さえる。

深海総意「がああAア嗚呼アアアAaあ!?オ前ha、を…級う、何ヲ…しヤがRU…?」

 言葉のブレはどんどんひどくなっていく。そして、体をくねらせ頭を振り回して何とか痛みを解消しようとしているよう

だが、効果は得られないようだ。

提督(…なんだ?どうした?『ヲ級』…?)

 提督は、深海総意が言っていた言葉を反芻する。だが、『ヲ級』と言った意味は分からない。

 ついに深海総意はビクンと頭を震わせると、頭を下げて両腕をだらんと前に垂らす。

 そして深海総意は提督に向かって顔を上げて声を上げる。それは、おかしなものだった。




深海総意「『提督!今スグ、コノ深海総意ヲ刺セ!』」



 その声は、ヲ級の声だったのだ。

今日はここまで。次の再開は明日の夕方以降の予定です。

それではまた明日。

>>270
 こまけぇこたぁいいんだよ!(すみません)

東京タワーのシャンパンフラッシュ
https://www.youtube.com/watch?v=uJSLuHRCVHM&list=UUncFHKa8Bg3zzfBTl-v4Rkg&index=3



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こんばんは。更新が遅くなりましたが、再開します。

>>280
 なぜ載せたし…

 提督は、深海総意の口から発せられた言葉を聞いた時、一瞬理解が追い付かなかった。

 男にしては高い声。そして、さっきまでの流暢な話し方とは違い、どこかカタコトな話し方。

 その声だけ聴くと、提督はヲ級がそこにいて喋っていると思った。しかし、そのヲ級は深海総意の後方で痛みに苦しみ、

もぞもぞと動いている。

提督「その声…喋り方…ヲ級なのか…?」

深海総意「『アアソウダ!アイツニ私ノ意志ヲ少シ奪ワレ私ノ意志ヲ取リ込ンデ、ソコカラ逆ニコイツノ意識ヲ乗ッ取ッタ

     ノダ!』」

 ヲ級(?)がそう話した後、また深海総意が頭を押さえながら恨めしそうに呟く。

深海総意「ヲ級…メ、俺のカラだで勝手naマネをしやガるな…!」

 深海総意はそう呟いたが、またヲ級に意識を乗っ取られて頭から手を離す。そして今度は右手に持っていた刀を横へ放り

投げる。

深海総意「『サァ今ノ内ニ、コノ深海総意ヲ抑エテイル内ニ、早クコノ体ヲ刺セ!』」

深海総意「やメろ!お前ニ、俺ノ体を好キにサせてたmaるカ!」

 そんな風にヲ級と深海総意が意志の乗っ取り合いをしている内に、提督は傍の地面に突き刺さっている剣を引き抜く。

そして、深海総意に聞く。

提督「ヲ級、このまま斬って、お前が死んだりしないよな…?」

深海総意「ハッ、どうセ、コいつハどのみchi死ぬ。ココデ斬っテも死ぬコトに変わりha無い!」

深海総意「『イヤ、斬ラレル直前ニ私ノ意志ヲ消ス。ソウスレバ、深海総意ノ意志ガコノ体ニ戻リ、死ヌノハこいつダケダ!』」

深海総意「てめェ、それガ狙イカ!daガ、お前がビびって俺の体カら離れルのが早かっタら、この攻撃ヲ俺は躱スぞ!」

深海総意「『デキルモノナラ、ヤッテミロ。サア提督、ヤルンダ!』」

 深海総意の体を借りたヲ級に言われて提督は剣を構える。

提督「…この剣を真上から振り下ろす。その方が、一瞬でも意志を深海総意に取り戻されて、防がれることもない」

深海総意「『ヤリカタハドウデモイイ。早ク、こいつヲ斬レ!』」

深海総意「くソ…ッ!」

 深海総意は体をぴくぴくと震わせている。深海総意の意志が、ヲ級の意志を追い出そうとしているのだろう。早くしなければ、

深海総意の意志が戻って自分が攻撃を受けるかもしれない。

 提督はそう考えると、剣を真上に構える。そして、深海総意の頭頂部に狙いを定める。

提督「ヲ級、やるぞ。深海総意、短かったがさよならだ」

深海総意「サセルかヨ…クっ」

深海総意「『アア…モウ、こいつヲ抑エラレソウニナイ…早ク!ヤレェ!!』」

 ヲ級の辛そうな声を聞いて、提督は剣の柄を握る手に力を入れる。

 そして、思いっきり振り下ろす。




 そして、ザシュッ!!と、肉が切り裂かれる音が聞こえた。



 氷の地面に、ポタポタと血が垂れ落ちる。その血の雫は氷の地に溜まっていく。

 しかし、この血は頭を斬られた深海総意の血ではない。


 提督の、血だった。


提督「…え…?」

 提督は数秒の間何が起きたのかがわからなかった。

 そして、数秒後に強烈な痛みを覚える。

提督「が、ああ…ッ!?」

 提督は、自分の体をを見てみる。上半身の中心、胸板の中間あたりに深海総意の右手が置かれていた。

 そして、背中側を見てみると、白い刀のようなものが自分の体から突き出ている。

提督「…ヲ級…、深海総、意の意志から追い出されたのか…?」

 攻撃の直前で深海総意に意志を奪われて、不意打ちを受けた、と提督は考えた。

 提督はその考えを口に出して、深海総意に無駄だとわかっていながらも聞く。

深海総意「…へっ。ヘヘヘ、ヘヘヘヘヘ…」

 深海総意は、提督の問いを聞いて乾いた笑い声を口から発する。だが、次に深海総意から口に出た言葉は、提督にとって

予想できなかった。




深海総意「『ばっかジャネェノ!?ギャハハハハハハ!』」



 その深海総意の言葉は、ヲ級の声、口調に違いなかった。

 だが、自分が知っているヲ級の話し方ではなかった。

提督「…その声は、やっぱり、ヲ級…?」

深海総意「『馬鹿ダナ、マダ気ヅカナイノカ?』」

 深海総意(ヲ級?)は、提督に突き刺した刀をぐりぐりと上下左右に揺らしながら、獰猛な笑みを浮かべる。

深海総意「俺が、ヲ級に意志を乗っ取られたふりをしただけだよ」

提督「…あ…」

 声が深海総意のものに戻り、今までのことが全部茶番だったということに気づき、提督は口を呆けたように開ける。

深海総意「俺が深海棲艦の意志の集合体、意志そのものだって話は聞いたよな?だったら、アイツら深海棲艦の声の真似を

     するなんて、朝飯前なんだよ!なんでその可能性に気づかなかったかなぁ?げはははは!」

 提督は、深海総意に勝つことだけを考えていたせいで、予想することができたはずのことに気づくことができなかった

愚かな自分に対して、どうしようもない憤りと後悔の念を覚えた。

提督「クソ…っ!」

 提督は、深海総意の右手から突き出た刀に体を刺されたまま宙に浮かべられ、さらなる激痛に苛まれる。

提督「ぐあああああ…」

深海総意「そぉらぁ!」

 深海総意は掛け声を上げながら提督を地面に叩きつける。

 まともな受け身を取ることもできず、傷口が開いたのと地面に背中を強く叩きつけてしまったことによる二重の痛みで、

提督の口から息が吐き出される。提督の持っていた剣は再び地面に突き刺される。

提督「ぐはっ…!」

 深海総意はその様子を見て満足そうに頷くと、自分の右手の掌から伸びていた刀を根元から折る。すると、刀の刃だけが

提督の胸に突き刺さっている状態になる。

 そして、深海総意がさらに右手に力を入れると、新たに刀が右手の掌から伸びてくる。その刀が柄まで出てくると、深海

総意はそれを右手で持ち直す。

深海総意「へへっ、俺の演技力に騙されて翻弄されてたお前の姿はなかなかに面白いものだったぞ?面白いものが見れて、

     礼をするぜ」

提督「そんな…礼など、いらん」

深海総意「そうか。残念だ。なら―」

 深海総意はそう言いながら、刀の切っ先を提督の眉間の上あたりに合わせる。そして刀を少し上に上げて、速い速度で

落とせるようにする。

深海総意「せめて、一瞬で楽になれるように、逝かせてやる」

 提督は、その傍らで何かを見つける。

提督「…俺はバカかもな…」

 深海総意は、提督が周囲にいる護衛の艦娘を探したが、連れてくるのを忘れたことに後悔していると思った。

深海総意「ああ、バカだな。護衛の艦娘もつけず、警備の艦娘を周囲に待機させている様子もない。無防備すぎるよ。

     おまけに、さっきみたいなヲ級の声と言葉に惑わされてこのザマだ。ホント、バカの一言だよ」

提督「そう言えば…なんでヲ級を取り返そうとしたんだ…?」

深海総意「ヲ級を取り戻して、海軍側の情報を聞き出そうとするため。そうすれば、こっちもやりやすくなるからな。

     けど、もう俺一人でもこの世界の人類を1人残らず消すことはできる。だから、ヲ級はもう必要なくなったわけだ。

     だから、この後すぐにアイツも殺す。すぐにお前のいる場所に送ってやるよ」

 そう言うと、深海総意は狙いを提督の眉間に合わせて、最期の言葉を提督に投げかける。

 最大の皮肉としてか、ヲ級の声で。

深海総意「『ジャアナ、大馬鹿野郎』」

 そして、ガッ!という音と共に血飛沫が舞う。

 だが、今度は提督の頭からではない。

 深海総意の胸からだった。

深海総意「…お?」

 深海総意は、さっき胸を刺された提督と同じような反応を示す。自分の体を見ると、今自分が右手に持っている白い刀と

同じものが胸から突き出ている。

 そして、やはり提督と同じように痛烈な痛みを実感する。

深海総意「…がああああ…っな、ぜ…?」

 提督が深海総意の後ろにいたそれを見ると、安堵の表情を浮かべた。

 そして、労うように呟く。

提督「…ありがとう…ヲ級」

 深海総意の真後ろには、ヲ級が足を震わせながら立っていた。

 そして、深海総意の背中に、さっき深海総意がヲ級のフリをして横に放り投げた刀を深海総意の背中に突き刺していた。

深海総意「クソッ…なんで、気づいた…?」

ヲ級「…自分ガ声ヲ発シテイナイノニ、自分ノ声ガ聞コエタラ、誰ダッテ驚クダロウ。大馬鹿野郎」

 ヲ級はニヤリと笑いながら、深海総意の耳元に囁きかける。

ヲ級「今ノ内ニ、今度コソ、こいつヲヤレ、提督」

 ヲ級の言葉を聞いて、提督はゆっくりと起き上りながら確認をする。

提督「…お前は、本当に、ヲ級…だよな?また、深海総意の、芝居、とかじゃないよな」

ヲ級「当タリ前ダロウガ。コノ私ガコノ声デ喋ッテイルノダカラ」

提督「…だよな」

 提督は足を自分の腹を右手で押さえながら、近くに突き刺さっていた剣を引き抜く。

 そして、深海総意と向かい合い、剣の先端を深海総意の眉間に合わせる。

提督「ヲ級…しゃがんでろ…。相当、グロいモノを見る羽目になるし、お前も危ない」

 ヲ級はこくりと頷くと、剣の柄を両手で持ったまましゃがむ。

 深海総意は、痛みに耐えかねて右手に持っていた刀を落としてしまう。

 そして、今度は芝居なんかじゃない、絶望と恐怖に満ちた表情を浮かべる。

深海総意「ま、待ってくれ。お、お前は、深海棲艦が感情があるって上層部の男と話してた時言ってたよな!なら、俺にも

     感情ってもんがある。こんな風に!だったら、俺を助けてくれよ!」

提督「あの時の視線、お前だったのか…。だが、助けるつもりはない。俺が助けたいのは、もっと純粋なやつだ。お前みたいな

   性根の腐った奴は助けるつもりはない」

深海総意「な、なんて自分勝手な…!」

提督「俺は、自分勝手だよ。俺の私情で敵のヲ級を捕まえたんだからな」

 それが、提督が深海総意に向けて言った最後の言葉だ。

 その言葉の直後、持っていた剣を深海総意の眉間に突き刺し、ズブズブとそのまま剣を進める。

 深海総意は、金切り声を上げる。その声は、この近辺の海上に響き渡ったが、それも数秒の内に止まった。

 今度こそ、深海総意は、息絶えた。

今日はここまでです。再開は、また明日の夕方以降の予定です。

ここで安価を取ります。直下コメントのコンマの数値で最後の展開が変わります。

それではまた明日。

↓直下

・コンマ15以上:ハッピーエンド

・コンマ15未満:最悪の結末

おつ

こんばんは。

>>295
 コンマが03=15未満なのでバッドエンドになります。あんた、やっちまったね…

ハッピーエンドは需要があれば書きます。

再開します。

 提督が剣を深海総意の頭に突き刺すと、血と脳漿が噴き出す、と言うことにはならず、刺したところからヒビが走り始めた。

そのヒビは深海総意の肉体のみならず、深海総意が着ていた服や靴、頭髪にも及ぶ。

深海総意「おお…オオお乎オОおおおオオオオおおお…!」

 深海総意は呻く。しかし、それでもヒビは止まらずに深海総意の体全体に巡っていく。

 そしてそのヒビが全身に伝わると、深海総意はガラガラと音を立てて崩れた。

 その深海総意の崩れた破片は、さらに粉々になっていき、小さくなった欠片は風に飛ばされて消えてしまった。

提督「…終わった…のか?」

 提督はそう虚空を見つめながら呟くと、そこで刀を持っていたヲ級が氷の地面に倒れる。

ヲ級「…グ…ガ…」

 ヲ級の腹からはさらに血が流れ出てきている。深海総意の弾を喰らった上に無理矢理体を動かしたせいで、傷口が開いた

のだろう。

提督「ヲ級…!」

 提督はヲ級を仰向けにする。腹に開いた銃創からは血がとめどなく流れていく。

提督「クソッ…!無線で応援を…」

 そう言いながら提督は無線を取り出したが、深海総意との戦闘で派手に転がったせいで画面が砕けている。スイッチを入れ

ても、うんともすんとも言わない。

提督「チッ…!」

 提督は舌打ちしながら無線機を放り投げる。そこで、提督の腕から力が抜けた。

 提督は改めて腹を見ると、深海総意に不意打ちで刺された場所から血が流れ出ている。それを見ると、自分の体から血の

気が引いていくのが改めてわかる。

提督「ゴホッ、ゴホッ」

 提督は咳き込む。すると痰と一緒に血も吐き出される。

 すると別方向から、バキィ!という何かが砕ける音が聞こえた。

 提督が音のした方向を見ると、氷の地面に大きなヒビが入っている。深海総意が消滅したことで、深海総意の力が及んで

いたものが壊れ始めたのだろう。さっきまでヲ級が持っていた刀もサラサラと崩れていった。ここに来るまでに乗ってきた

モーターボートもスクリュー部分が壊れている。あれでは動かないだろう。

提督(…いよいよ…ヤバいな…)

 提督は腹を押さえながらそう考えた。今の自分にはヲ級を運んで鎮守府まで泳いで戻る体力はおろか、自分1人で泳ぐ力

も残っていない。

提督「…ちくしょう…ここまでか…」

 提督がそう呟くと、ヲ級はゆっくりと提督に顔を向ける。

ヲ級「…提督、私ニ…構ワズ、逃ゲロ…」

提督「無理だよ…。俺も傷が深すぎるし、体力が残っていない…逃げる手段もない…ここまでだよ」

ヲ級「…ソウカ。私モ、深海総意ガ死ンダコトデ、アノ対深海棲艦用ノ弾丸ノ効力モ失ワレルト思ッタガ、消エル気配ガナイ…」

提督「…なんで…?」

深海総意「…私ノ肉体ニ完全ニ取リ込マレタカラダロウ…。自己再生能力モ発動シナイ…」

 氷の大地に入ったヒビからは、海水が染み出している。ここもすぐに沈んでしまうだろう。

 だが、この絶望的な状況で、提督は思いだした。

提督「そう言えば…お前の告白の返事…まだ、ちゃんと、返してなかったな…」

ヲ級「…コノたいみんぐデ、カ…?」

提督「もう、今ぐらいしか…言えないだろ…?」

 ヲ級はフッ、と笑いながら提督の顔を見上げる。

提督「さっき、俺がお前のために深海総意に立ち向かった理由を言っちまったが…な。改めて、言わせてくれ…」

 ヲ級はこくりと頷く。この状況であまりにも場違いなことだが、ヲ級はそんなことがどうでもいいくらいだった。

 ヲ級は、少し涙目で提督の言葉を待つ。

 提督は、ゆっくりと、だがわかりやすいように告げる。




提督「俺も、ヲ級、お前のことを…愛してる。…お前と、離れたくない…」



 ヲ級は改めて提督の気持ちを聞かされて、ほんのわずかな間だけ痛みを感じなくなった。そして、涙が出てきた。

提督「お前が感情を表に出すようになってから、お前がとても…深海棲艦と思えない、くらい…可愛く見えた…。そして、

   いつしか、お前のことを好きになっていたんだ…」

 提督の言葉を聞き、ヲ級はむくりと、起きる。

ヲ級「…傷ダラケデ口カラ血ヲ流シナガラ言ワレルト、ナンダカナ…」

提督「…うるせ」

 提督は苦笑しながらそう吐き捨てる。

 氷の大地に刻まれていくヒビは次第に深く、長くなっていく。提督とヲ級がいるところの周りにもヒビが走る。

 それを見て、ヲ級は提督の首に腕を回して、提督と自分の唇を合わせる。

 唇を離すと、ヲ級は若干不満そうな感想を抱く。

ヲ級「…血ノ味ガスル」

提督「…俺もだよ」

ヲ級「…本当ニ…逃ゲナクテイイノカ…?」

提督「…逃げる手段も体力もないって、言っただろ…?」

 ビシ、ビシ、とヒビはどんどん広がっていく。

 それに、と提督は付け加える。



提督「お前と離れたくない…って言っただろ?だから…俺も、お前と一緒に…」


 その瞬間、ついに氷の大地は砕けた。

 提督とヲ級は最後にお互いを優しく抱きしめながら、ヒビの間に落ちる。

 そして、そのまま2人は海の中へと沈んで行く。

 どこまでも、どこまでも、海の底へと沈んで行く。

 沈んでいる間も、提督とヲ級はお互いを抱きしめ続けた。


 そして2人が、陽の光を浴びることは、二度となかった。

 秘書艦の加賀は、水面を全速力で滑っていた。

 帰投した偵察部隊の旗艦・比叡の被害報告を受けて、加賀はすぐに新たな編隊を編成して出撃させようとしたが、突然

大淀が、深海総意の反応が消えた、と報告し、それに異変を感じた加賀が自分を含めた艦隊を編成して、提督とヲ級の応援

に出撃したのだ。

加賀(あの人が、簡単にやられるとはあまり思えませんが…)

 加賀はそう考えながら移動していると、前方に何かを見つけた。それは、提督とヲ級が出発する時に乗っていたモーター

ボートだった。そしてそれが浮いているのは、丁度提督と深海総意が会合する地点だった。

加賀「あれは…!」

金剛「どうしたんですカ?」

 後ろにいた金剛が加賀に話しかける。

加賀「…提督とヲ級が乗っていたボート…」

川内「うそ!?本当!?」

加賀「ですが…人が乗っている気配は…ないですね」

 今度は、後ろにいた天龍が何かを発見した。

天龍「おい、あれ!」

 天龍が単縦陣を外れて、何かに向かって移動する。そして、それを拾い上げると、加賀の眼が見開いた。

加賀「…それは、提督の剣の、鞘…」

天龍「剣…?アイツ、そんなもの隠し持っていたのか」

 今度は、加賀とは反対の場所にいた金剛が何かを見つける。

金剛「Hey,加賀!これを見るネ!」

 加賀は金剛に言われて近くに来ると、そこで口を抑える。

 金剛が見つけたものは、海水に混じっている人の血だった。

加賀「これ…まさか…あの人の…?」

 加賀は辺りを見回す。他にも浮遊物が無いかを確かめる。そして、大声で艦隊の皆に命令する。

加賀「全員、この周囲1kmをくまなく探しなさい!ソナーでも電探でも何でもいい!提督を探すのよ!」

 加賀のただならぬ語調と声量にただ事ではないと感じた艦隊の金剛、川内、天龍、鬼怒、吹雪が一斉に返事を返す。

全員「ハイ!」


 その後、日が暮れて、空に月が浮かび、再び陽が昇るまで、鎮守府の大淀から戻るように言われても、加賀達は一睡もせず

捜索を続けたが、他には何も見つからなかった。

 そして夜明け、加賀達と交代で潜水艦娘達だけでなく何十人もの艦娘達を呼んで捜索範囲を広く深くしたが、それでも

見つからなかった。

 何も、見つからなかった。



 そして捜索を始めてから3日目の昼。

 艦娘達はこう結論付けた。結論付けるしかなくなった。





 提督とヲ級は、高い水圧の深海まで沈み、死んだ、と。




今日はここまで。また明日の夕方以降に再開の予定です。

だが、まだBADENDルートは終わらない。

それではまた明日。


ここでアンケートを取ります。

↓5まで

ハッピーエンドルート、見たい?

こんにちは。少し早めに再開します。

ハッピーエンドルートはバッドエンドルート終了後に書く予定です。

 加賀は、提督とヲ級の死を鎮守府の全ての艦娘に伝えた。

 当然、信頼の高い提督とやっと友達・仲間になれたヲ級の死に対して、全ての艦娘は嘆き悲しんだ。気の強い満潮、曙、

霞でさえも大粒の涙を流し、普段は感情を表に出さない加賀もこの時だけは声を上げて泣いた。

 だが、一番立ち直りが早かったのは鳳翔だった。鳳翔は、いつまでも泣いている艦娘達にこう言う。

鳳翔「提督は、いつまでも私達が泣いていることを望んではいないでしょう。それよりも、提督の"平和な海を取り戻す"と

   いう願いを一刻も早く実現させましょう。それが、私達ができる提督への最大の弔いです」

 鳳翔はそう言うと、海軍上層部と提督の家族へ連絡をした。しかし、提督の家族、つまり両親は既に他界していたので、

海軍上層部にのみ連絡をした。


 その翌日、先日鎮守府にやってきた海軍上層部の男が鎮守府を訪れた。

上層部「今回、彼のことは、本当に残念だと思っている」

加賀「貴方なんかに、何がわかるのですか」

 上層部の男に、加賀はきつい言葉をかける。しかし、上層部の男は言い返そうとはしない。

上層部「…そうでしたな。少し考えなしだった」

 上層部の男は少し口を閉じると、また口を開く。

上層部「…この鎮守府は、どうするつもりで?」

加賀「…どういうことですか」

上層部「ここの鎮守府の最高責任者である提督が亡くなってしまったことで、この鎮守府も運営ができなくなるだろう。

    ここに新しい提督を配属させるか、それともこの鎮守府を解体し、君たちには別の鎮守府へ移ってもらうという手

    もあるが。我々は、あくまでも君たちの意志を尊重するつもりだ」

 加賀は、この男が言っていることもわかると思ったが、同時にこんな時も冷徹に海軍の運営に関することを聞いてくる

ということがどこまでも不快に思った。

 そこで加賀は、この男に一杯食わせてやろうと考えた。

加賀「それよりも、第三の手があります」

上層部「その、第三の手とは?」

なんかバッドの内容が、本当に同じ人が書いてるのかってくらい投げやりにみえるんだが?



加賀「この鎮守府の艦娘の誰か1人が、提督となることです」


 上層部の男は、一瞬何を言っているのかわからない、と言う表情をした。そして、すぐに反論する。

上層部「何を言っているんだ?艦娘が、提督になることなど…」

加賀「あくまで、私達艦娘の意志を尊重するんじゃなかったんですか?」

上層部「そうは言ったが…」

加賀「私達の提督は、この鎮守府が解体されるなんてことは望んではいません。ましてや、別の提督がやってきて私達を

   指揮するなんてことも。提督は、この鎮守府は自分の鎮守府、誰にも渡さないと常々言っていました!だから、貴方

   の言った2つの案はどちらも受けません!私達で、この鎮守府を動かします!」

上層部「しかし…」

加賀「お願いします!どうか、私達だけでやらせていただけませんか?」

 加賀の気迫に押されて、上層部の男は少し考えて結論を言った。

上層部「…わかった。そちらに全て任せよう。だが、こちらもある程度は支援をする」

加賀「…ありがとうございます」

 上層部の男は、そう告げると携帯でどこかに連絡を取りながら鎮守府を去って行った。

>>338
 少し投げやりに見えましたか?すみません

 結局、この鎮守府の新たな提督となったのは、加賀だった。

 加賀は、提督の秘書艦として長い間提督の仕事を手伝ってきた。その経験から、他の艦娘達の要望で加賀が秘書艦に就く

事になったのだ。

 しかし加賀は、あくまでも提督の秘書、つまりお手伝いだったので、本来の提督の仕事にはあまり慣れなかった。上層部

の人間がこの鎮守府の担当する業務や任務を減らしてくれたり、他の艦娘も多少は手伝ってくれたが、それでも難しかった。

 加賀は、自分の目の前に積み上げられた書類の束を目の前にして溜め息を吐く。

加賀(あの提督はこれだけの書類を1人で…。ですが引き受けた以上は、やらなければ…)

 そんなことを考えていると、提督の顔と言葉が浮かび上がってくる。

提督『加賀、この書類を頼む』

提督『やっべ、あの書類今日までだった!加賀手伝ってくれ!』

提督『ありがとう加賀、助かったよ』

加賀「…ッ!」

 最後の提督の言葉を思い出すと、少しだけ加賀の目が潤んだが、右目で涙を拭う。一緒に書類を片付けていた鳳翔が加賀

に聞く。

鳳翔「加賀さん?どうかなさったのですか?」

加賀「…いえ、少し目が疲れただけです。お気になさらず」

 加賀がそう言いながら鳳翔の方を見ると、鳳翔は静かに両目から涙を流していた。恐らく、鳳翔も同じようなことを考えて

いたのだろう。

加賀「鳳翔さん…あなた…」

鳳翔「…さあ、早く書類を片付けましょう。まだたくさんありますし、早くしないと夜になってしまいます」

 鳳翔は、これ以上提督のことを思い出したくないと思ったのか、露骨に話題を逸らした。加賀も鳳翔のことを考えずに

提督の話題を続けるほど愚かではないので、鳳翔の言われたとおりに書類を片付けることにする。

加賀(悲しいのは…私だけではありません…。今、この鎮守府の提督である私がくよくよしていてはいけません)

 加賀は気持ちを切り替えようとしたが、それでも完全に切り替えることはできなかった。

 提督とヲ級の死以降、この鎮守府の艦娘達は動揺を隠せなくなったり、性格が変わってしまった。

 普段は明るかった深雪や卯月や川内、那珂は笑わなくなり、暗い雰囲気が漂うようになった。

 いつもは大食いで笑われていた赤城は、食事を摂る量が普段の半分にまで減ってしまった。

 繊細な艦載機の操作が得意だった龍驤は、提督の死と空母として仲良くなれたヲ級が死んでしまったことで、艦載機の

操作にミスが目立つようになり、艦載機を撃墜させられる回数も日に日に増えていった。

 鳳翔や間宮は、自分の得意な料理・スイーツを美味しく作れなくなるようになってしまった。

加賀(やはり皆、口では吹っ切れた、なんて言いますけど、やはり提督とヲ級の死は受け入れがたいモノだったのでしょう…)

金剛「なんですか、こっちをじろじろ見て。消し炭にされたいんですか?」

加賀「…そういうことは言ってはいけませんよ」

 金剛は、いつも話しているエセ日本語が普通の日本語になってしまった。そして、発言も物騒になった。

 出撃に関しても、同じだった。

 普段から口が悪い天龍や木曾、摩耶はともかくとして、かつては温厚だった艦娘達は、深海棲艦達と戦う時に感情を表に

出すようになった。

吹雪「こ…んのおおおおおおおおお!!」

龍田「アナタたちが憎い!!私達の提督を奪った、アナタたちがぁ!!」

羽黒「貴方達を…絶対に許さない!ここで、潰す!!」

大鳳「装備換装を急いで!この愚かな敵共を殲滅します!!」

榛名「この火に焼かれて、散れぇ!!」

 その感情は、憎しみ、怒り、悲しみ、苦しみが混じった感情だった。

 戦果は着々と上がって行ったが、一回の出撃で損傷を受ける艦娘も増えていった。

加賀「皆、冷静さを欠いてしまっている…。怒りで我を忘れ、完全に深海棲艦を倒すことしか頭にないように…」

 そう考えて天龍に聞くと、彼女はこう返した。

天龍「提督…アイツの夢を叶えるためには、深海棲艦を全部ぶっ殺せばいいんだろ?なら、別にいいじゃないか。戦果は

   上がっているんだろ?俺達は、ただアイツの夢を成就させたいだけなんだ。そのためなら、どんな手を使ってでも

   あの深海棲艦共を根こそぎ滅ぼしてやる」

 そう語る天龍の心には、負の感情が渦巻いているようだと加賀は思った。

 それ以来、他の鎮守府の提督から見たこの鎮守府の艦娘達の印象は、"第二の深海棲艦"だった。

 提督とヲ級の死による鎮守府の変わりようを見て、加賀はこう評した。



加賀「これでは…憎しみを振りまく深海棲艦と変わらないじゃないですか…」




 それほどまでに、この鎮守府の艦娘達は、闇に堕ちた。

 そして加賀は、ある不安に襲われる。

加賀(この子達は、戦いが終わったらどうなってしまうのでしょうか…。そのまま悪事に身を落とすのか、それとも、その

   身が負の感情に包まれて新たな深海棲艦となってしまうのか…)

 事実、加賀の中にもそのような感情が渦巻いているのがわかる。自分も、そうなることはないとは言えない。

 どちらにしろ、それは避けなければならない。

 そして加賀は、ある一つの解決策を導き出す。

 それは、悪魔の所業とも言えるべきものだった。

一旦ここまでです。

次の再開は21時過ぎの予定です。

こんばんは。再開します。

 そして、いつかもわからない未来。

 全ての深海棲艦は倒され、人類及び艦娘と深海棲艦との戦いは幕を閉じた。

 それに伴い、全ての艦娘達は海軍の手で、艤装を解除されて、艦娘としての身体能力を無力化し、容姿と艦娘及び軍艦と

しての記憶を書き変えられて、普通の人間としての生活を送ることができるようになった。

 しかし、第弐拾鎮守府の艦娘達は違った。艤装を解除することも、艦娘としての身体能力を無力化することはできたが、

容姿も記憶も変えることはできなかった。担当した海軍の者は、それがとても奇異に感じた。

加賀(やはり、これも私達が深海棲艦へと近づいていっているせいでしょうか…?)

 加賀はそう考えたが、それが本当かどうかはわからない。

 加賀は第弐拾鎮守府の提督として、鎮守府の最後の処理業務を1人ですることになった。その為、自分が生まれ変わる

ための改造は一番最後だった。

加賀(この手しか、ありませんね…)

 そこで加賀は、艦娘達には内緒である人にある依頼をした。相手は加賀の頼みを聞くと、本当にいいのかと聞いてくる。

加賀「構いません。私も覚悟はできています。皆が救われるには、この手しかありません」

 その言葉で、依頼された人は了解した。

 決行されるのは2日後である。

 結局、加賀は改造される時、艤装と身体能力は解除され無力化されたが、やはり容姿と記憶は変えられなかった。

 やはり、自分も深海棲艦に近づいていると加賀は感じた。そして、かつて聞いたことがある話を思い出す。

 深海棲艦の正体は、過去に沈んだ船の怨念が具現化した姿と言うのが一番有力な説である。が、艦娘として生まれ変わった

その艦娘が再び沈んだ時、提督と艦隊の仲間達に抱いた闇の感情がその沈んだ艦娘を包み込んで新たな深海棲艦を生み出す、

という説もある。

 加賀達元第弐拾鎮守府の艦娘達は、提督とヲ級の死によって、自分が沈んでしまった時と同じぐらいの負の感情に囚われ

ている。そして、自分たちが新たな深海棲艦になってしまうと加賀は予測していた。

 それを止めるためには、この方法しかない。

 深海棲艦との戦いが終わってから3日後。

 世間は、人類を脅かしていた深海棲艦との戦いが終わったことで、お祭りムードで賑わっていた。その主役は、海軍と

多くの提督だった。彼らは、政府から褒賞を受けたり世界各国の首脳から賞賛されたりと、世界中のヒーローとなっていた。

 そんな中、元第弐拾鎮守府の艦娘達は、人里離れた海沿いの丘に集合していた。当然、艤装は無い。

 その丘には広場があり、100人を超える元第弐拾鎮守府の艦娘達が余裕で全員入ることができるくらいの広さのもの

だった。

 丘の広場の、海が臨める場所には、2つの墓標がある。一つは、提督の物。そしてもう一つは、空母ヲ級の物である。

 全員は、その墓標の前に整列して立っている。一番先頭は加賀だ。そして、加賀以外のほとんど全員の顔には、まだ怒り

と憎しみ、悲しみの表情が浮かんでいる。

 加賀が一歩前に出て墓標に語り掛ける。

加賀「提督、貴方が望んでいた平和な海は取り戻せました。私達第弐拾鎮守府の艦娘達は、貴方とヲ級の死をきっかけに、

   貴方の夢を叶えようと懸命に深海棲艦達と戦いました。そして、今の世界ができたのです。ですがその世界を、貴方

   と共に迎えることができないのは、とても残念です」

 加賀は続いて、ヲ級の墓標に向かい合う。

加賀「ヲ級、貴女は最初に鎮守府に来た時は、全員から追い出せ倒せとどやされていましたが、あの元第壱鎮守府との演習

   で貴女は私達のヒーローとなり、私達は貴女と仲間・友達になることができました。ですが、やっとあなたと分かり

   合えたというのに、すぐに貴女を失ってしまったのはとても悲しいです」

 加賀はそう言うと、海の方を向いたまま、声を上げる。

加賀「黙想!」

 加賀の一言で、艦娘達は目を閉じて、提督とヲ級を静かに弔う。だが、ほとんどの艦娘達の心からは憎しみ等の負の感情

が消えていないだろう、と加賀は考えた。

 1分間黙想をした後、加賀は艦娘達に話しかける。

加賀「皆さん。この長い戦いに耐えて、初代提督のあの人、そして2代目提督の私と共に深海棲艦の討伐に協力してくれて、

   ありがとうございます」

 加賀がそう言いながら頭を下げると、艦娘の中から声が上がる。その声の正体は、かつては明るかったが今では暗くなって

しまった夕立だ。

夕立「それでも…最初の提督さんは…もういないよ…」

 夕立の一言で、他の艦娘達はぽつりぽつりと呟き始める。

吹雪「そうです…。あの人は、もういません」

球磨「そうクマ…。提督がいないのに平和なんて…悲しいクマ…」

大和「ええ…。あの人と共に、この平和になった世界を見たかった…」

 皆の呟きは次第に、怒りと悲しみに満ちた不満の声に変わり始める。

天龍「そうダ!アいツがいナイのに平和な世界ナんて、気に食わねェ!」

利根「そうじゃ…。我が輩はマダ、提督トを級を葬っタ深海棲艦が憎くテタまらぬ…!」

長門「だが、コノ憎しみは…どうしてシマエばいいんダ…?」

武蔵「やはり、こノ気持ちハ晴レナイ…。浄化サレナイ…!マダ、ヤリ足りナイ…ッ!」

 加賀は、皆の言葉がだんだん深海棲艦のモノに近づいて行っているのを聞いて、いよいよまずいと考える。皆、自分自身の

負の感情を抑えきれなくなっているようだった。事実、加賀自身も自分の中の負の感情が、正の感情を超えて表に出ようと

していると実感し始めた。

加賀(そろそろ、限界ですかね…)

 加賀はそう言うと、懐に入れていた『何か』を、海へと放り投げる。

 そして、加賀は静かに話し始める。

加賀「皆さん、聞いてください」

 加賀の凛とした声に、艦娘達は静かになって加賀の話を聞く。

加賀「確かに、皆さんの気持ちもわかりマす。こノ平和な世界を、提督と共に迎えタかった。それハ、私もそう考えています。

   ですが、ここで私達がこの平和な世界を噛み締めなければ、亡くナッタ提督は喜んでくれまセン。ですカラ、私達は

   今さら深海棲艦を憎むなんて愚かナことはしてはイケません」

 加賀は、自分の言葉も深海棲艦に近づいていっていると、話しながら思った。

 そして、加賀の言葉に反発する声もあった。

鳳翔「ですガ、私達はまだ、深海棲艦を許スことがデキません…!」

暁「そうヨ!私達ノ司令官を殺しタ深海棲艦が未だニ憎イ!全滅させテモ、マダ満足できないワ!」

 普段は温厚な鳳翔や、大人になろうと背伸びをしている暁がこんなことを言うのは、正直加賀でも予想外だった。そして、

この2人も既に深海棲艦化が進んでしまっている。

加賀(この人たちは…もう吹っ切ることができたと思っていたのに…)

 加賀の遥か後ろの方で、ブロロロロロ…という音が微かに聞こえる。

 加賀を含めた艦娘達は、肌が白くなり始めていた。体の表面も、深海棲艦へと近づいていく。

加賀「分かってイマス…。ですが、貴方達のソノどこへモ向けることができない憎しみは、新たナ憎しみを生み出シ、深海

   棲艦へと変わってしまいマス…。事実、私も、貴方達も、もう深海棲艦化が始まってしまってイます」

 加賀の後方で、ブロロロロロロ、と言う音が聞こえる。

天龍「…ナンダ…あれ?」

龍田「…エ?」

長良「ナになニ…?」

 天龍が音に気づいて、加賀の後方をジッと睨む。だが、天龍の言葉に気づいたのは、周りにいた龍田や長良だけで、他の

艦娘達は自分の中に渦巻いている負の感情のことしか考えていない。

加賀「…ですかラ…こうするシカ、ありまセンでした…。全員が艤装を解除シ、艦娘とシテの身体能力が失わレて、タダの

   人間と変わらナクなってしマったこの時を…」

 加賀はうっすらと涙を流す。その後方で、ブロロロロロロロロ!と言う大きな音が聞こえてくる。

 その音に流石に気付いたのか、他の艦娘達は加賀の後ろを見る。そして、驚きの声を上げた。

長門「カ、艦載機ダと!?」

龍驤「そんナ!どうしテ…!?マサカ、加賀ハン、アんたガ!?」

 龍驤の問いに、加賀は頷く。加賀のその端正な顔も、細長い指も、白く変色し始めている。

加賀「エエ…。私達はモウじキ…深海棲艦にナッテしまイます…。デスガ、私達が深海棲艦になっテシマウコトを、提督は

   望んでなどイマセんデショウシ、なにより、提督の願いダッタ平和な海ヲ私達ガ汚ストイウコトハ、提督の意に反スル

   ノト同じ…。ソレナライッソ…」

武蔵「私達ガ深海棲艦になる前ニ、こノ世から消エル方がマシ…と言うコトダナ?」

加賀「…ハイ」

 加賀の言葉と、加賀から引き継いだ武蔵の言葉を聞いた皆の顔から、一切の表情が失われた。中には、加賀を罵倒する者

もいたが、加賀は何も答えなかった。

 そして―




 ズダダダダダダダダダダダダダダダダ!と言う音共に、艦載機からの攻撃が始まった。



 艦載機の攻撃は広場全体を舐め回すように加えられた。艦娘は艤装を装備していれば、肉体の損傷を艤装の損傷へと移し

変えることができるが、今の彼女たちに艤装はない。そして、今は艦娘としての身体能力もない。

 だから、彼女たちは、ただ艦載機の攻撃を素直に受けるか、逃げても撃たれるかのどちらかしかなかった。

 艦載機からの攻撃を受けた艦娘達は、体から鮮血をまき散らして地面に倒れる。何かにすがって手を伸ばそうとした者も

いたが、すぐに息絶えてしまう。

 必死に走り回って攻撃をかわそうとした者もいたが、最速の島風でも逃げ切れずに被弾してしまい、脈が止まってしまう。

他の逃げようとした艦娘達の末路など言うまでもない。

 天龍と龍田は、最後にお互いの手を握り合いながら大人しく攻撃を受けて、死んでしまった。

 列の先頭にいた加賀も、当然のごとく大きく被弾した。

 加賀は、背中に多くの弾丸を受けて紅い血を吹き散らしながら倒れる。その間に、加賀はこう考えた。

加賀(提督…私は、これが最善だと考えてやりました…。これしか、方法がなかったんです…)

 そして、地面に体をつける。息絶えるまでの間に、加賀はさらに思う。

加賀(ですが…貴方なら…何、か…他の方法…を見つけられた、のかもしれませんね…)

 そう思いながら、加賀の脈は止まった。


 艦載機からの攻撃は、約5分間続いた。逃げ切った者は、1人もいない。全員、死んだ。

 攻撃をした艦載機は、広場の上で大きく旋回すると海へと向かい、会場で爆発して、海へと墜落して行った。

 その後、加賀から依頼を受けた上層部の者達が広場へと到着し、100人を超える艦娘達の遺体を海軍の本部へと運ぶ。

そして、流れ弾を受けてボロボロになった墓標も取り外される。

 100人を超える女性が爆撃機からの攻撃を受けて血を噴き出しながら倒れて死んでいるという光景は、常人には耐え

られないものだろう。海軍の中には、吐き気を覚える者もいた。しかし、この近辺には人が住んでおらず、人通りもなかった

ので、この惨劇は一般人には知られることはなかった。

 その後、『元』艦娘達の遺体は海軍の本部で処理され、艦娘達を殺して墜落した海軍製の無線式艦載機も、海軍の船に

回収された後、破棄された。

 そして、第弐拾鎮守府の提督と、その提督が指揮していた艦娘達のデータは消去された。






 こうして、元第弐拾鎮守府の提督と艦娘の存在は、世間に一切知られることなく、この世から消滅した。




今日はここまで。BADENDルートは終了です。

明日は時間が未定ですが更新する予定です。ハッピーエンドルートをお楽しみにしてください。

それではまた明日。



もう二度と、BADENDルートなんて書きません。

こんにちは。少しだけですが、ハッピーエンドルートを投下します。

>>321からの分岐です

提督「……ん?」

 提督が目覚めたのは、暗い海の底ではなく、暖かい部屋の中だった。

提督(あ…れ…?俺確か…ヲ級と一緒に海に沈んだんじゃ…?)

 なぜか意識がぼんやりしていて、ここがどこなのかを思い出せない。だが、氷の大地が砕けてヲ級と共に海へ沈んでいった

事は覚えている。しかし、ここは部屋の中だし、服装も軍服ではなく手術着になっている。

 何の気無しに腹に手をやるとズキッ、と痛んだ。そして、提督は痛みで飛び上がろうとしたが、どうも体がうまく動かない。

提督「…麻酔…か?」

 腹の痛みでようやく意識がはっきりすると、ここは鎮守府の医務室だということを思い出した。

 そして、部屋の扉がガラッと開く。入ってきたのは、加賀と工廠担当の明石だった。

加賀「…提督…!」

明石「あ、お目覚めですか?よかった~…」

提督「…明石…俺は…どうやって助かったんだ…?」

加賀「…比叡さん達偵察部隊がボロボロになって帰ってきたのを見て、提督達が危ないと思い、イムヤさん達潜水艦部隊を

   急行させたんです。そしたら、突然氷の大地が砕けて、その上にいた貴方とヲ級が沈んで行ったのを確認して、すぐに

   潜って2人を拾ったそうです」

提督「…そうか―そうだヲ級は!?」

明石「落ち着いてください。隣のベッドで寝ています」

 明石に言われて提督が顔を左に向けると、ヲ級がスースーと寝息を立てていた。それを見て、提督はほっと息を吐く。

提督「よかった…。そう言えば…俺達の傷の具合はどうだったんだ…?」

加賀「貴方に手術を施した医者の方は、あと少し遅ければ命に関わっていた、と言っていました。今はもう大丈夫だそうです」

明石「さすがに私は人間の手術なんてできませんしね。海軍の方から医者を派遣してもらいました」

提督「…まさか、ここで手術をしたのか?」

加賀「一応、この鎮守府には手術室も設置されていますので、そちらで施術したそうです」

提督「…そうか」

 提督は、次に明石に向き合う。

提督「…で、ヲ級の方はどうなんだ?ヲ級の手術をしたのはお前なんだろ?」

明石「はい。ヲ級も深海棲艦ですが艦娘の1人、普通の医者には手術ができませんので、私がやりました」

提督「やっぱりか。で、ヲ級はどうなんだ?」

明石「ヲ級さんが負っていたケガは、なんとか直すことができました。ただ…」

提督「ただ…?」

 提督に聞かれて、明石は少し暗い表情をして、話し出す。

明石「…ヲ級さんの中からは、深海棲艦としての能力は愚か、艦娘としての身体能力が無くなっていました。どうやら、

   深海総意とやらの攻撃を受けたことが原因でしょう」

 あの時ヲ級は、深海総意の作った対深海棲艦用の弾丸を受けた。それは、深海棲艦特有の能力や身体能力を奪い取るという

力を持っていた。

提督「やっぱ、あいつのせいか…。…ヲ級からは、艦娘としての一切の特性が無くなったって言ったよな…?」

明石「ええ。それはつまり―」

 明石はそこで言葉を切り、決定的な一言を告げる。




明石「ヲ級さんはもう艦娘ではなく、ただの人間になってしまったのです」



 その言葉を聞いた時、提督はどこか安心してしまった。

明石「ただの人間になってしまった、ということは、人間と同じ速さで成長していくということです。私たち艦娘は、何年

   経ってもこの姿のままですが、ヲ級さんはもう艦娘ではありません。人間と同じように成長し、同じように寿命で

   死んでしまうんです」

提督「…そうか」

 提督はそう返すと、加賀と明石に話しかける。

提督「…報告ありがとう。他の艦娘達にも、俺達は大丈夫だと伝えてくれ。加賀、俺は何日ぐらい安静にしていればいいんだ?」

加賀「医者の方の話だと、最低で4日だと」

提督「分かった。じゃ、加賀、その間は提督の業務をお前に委託する。俺が復活するまでの間、鎮守府のことを頼むぞ」

加賀「分かりました」

 加賀はそう言うとお辞儀をし、明石と共に部屋を出た。

 そして、2人が医務室を離れていったのを感じると―。

提督「起きているんだろ?ヲ級」

 提督の言葉に、隣のベッドにいたヲ級はもそりと顔を動かして、提督に顔を向ける。

提督「…やっぱりか。起きていたってことは、明石の話は聞いていたな?」

ヲ級「…ああ。加賀と明石が入ってきた時に、私も気が付いたが、しばらくは寝たふりをしていたんだ。だから、明石の話

   も聞いたよ」

 提督はヲ級の言葉を聞いて、驚いた。ヲ級の言葉が、流暢だった。

提督「お前、言葉が…」

ヲ級「…ああ。どうやら、艦娘としての能力を失ったことで私も人間になれたようだから、流暢に話せるようになったのかもな。

   元々人の言葉は話せたし」

提督「…そうか。よかった」

 そこで提督は話を元に戻す。

提督「で、明石の話を聞いて、どう思ったんだ?人間になれて、よかったのか?それとも、悲しいか?」

ヲ級「…そうだな」

 ヲ級は少し考えて、答えを言う。

ヲ級「…どちらかというと、嬉しいかな」

提督「…?」

ヲ級「艦娘であるからこそできることもあるが、艦娘のみが感じる沈むことに対する恐怖や悲しみをもう感じなくていいと

   いうのは少し気楽になれる。そして、何より…」

提督「何より?」

ヲ級「…お前と同じ人間になって、お前と同じ立場に立つことができる。それが一番嬉しいよ」

提督「………そうか」

 提督は鼻がかゆくなった。

 そこでヲ級は思い出したかのように言う。

ヲ級「あ。そう言えば提督、覚えているか?」

提督「何を」

ヲ級「深海総意と対峙した時、鎮守府に戻ってこれたら、叶えられる範囲で私の望みを聞いてくれるって」

 提督は自分の記憶のからその言葉を探し出し、そして、思い出した。

提督「…ああ、そうだったな。で、何がしたいんだ?」

 提督に聞かれて、ヲ級は顔を少し赤らめて答える。

ヲ級「…こんな状況では言えない。いつか、言うよ」

提督「そうか…」

 2人はそれだけ言うと、また眠りに就いた。

ここで一回切ります。次の更新は、夕方以降の予定です。

こんばんは。

少しだけですが、投下します。(もしかしたら終わるかも)

 面会謝絶が解除された後の3日間、提督とヲ級が医務室で安静にしている間は、毎日艦娘達が見舞いに来てくれた。

吹雪「司令官さん!無事だったんですね!よかったぁ~…グスゥ…」

提督「俺は大丈夫だから、そう泣くなよ…」

深雪「ホントに吹雪は涙もろいなぁ…」

白雪「そう言う貴方も泣いていますよ…」

初雪「…みんな泣き虫…」

龍驤「ヲ級はん!元気ー?」

ヲ級「ああ、元気だよ。私がいない間、龍驤は艦載機の練習を怠るなよ」

瑞鳳「あれ…?ヲ級さん、雰囲気が変わった?」

ヲ級「あー…」

 ヲ級は瑞鳳の言葉を聞いて、提督に助けを求めるように目線を向ける。だが提督は、目で語っている。今は何も言うな、

と。

ヲ級「…実は、理由があるんだ。それについては、また話すよ」

瑞鳳「ふーん…」

 そして、あっという間に3日が過ぎた。

 提督とヲ級は大量の見舞いの品を抱えながら一度部屋へ戻って、身支度を整える。加賀から、私を含めて皆さんを心配

させたのだからちゃんとお詫びを言いなさい、と言われてこれから講堂で集会をするのだ。

 身支度をしながら提督はヲ級に訊ねる。

提督「そう言えば…俺と深海総意が戦っている時に世界中の深海棲艦が勝手に意識を失って沈んで行ったって、上層部の男

   が言っていたけど…何かあったのかな?」

ヲ級「恐らく、深海総意が意志と力を集中させたから、それらを抜かれて気絶したんだろうな。だが、深海総意が倒された

   から、意志と力も恐らく世界中の深海棲艦に戻っているに違いない。じきに深海棲艦達も復活するだろう」

提督「…つまり、戦いはまだ終わっていないってことか?」

ヲ級「…そう言うことだ。そして、深海総意もいずれまた現れるだろう」

提督「それでも、俺は戦うだけだ」

ヲ級「…お前らしいな」

 そして2人は身支度を終えると、講堂へと向かっていった。

 提督とヲ級が講堂の舞台に上がると、既に艦娘達が集合していた。

 提督とヲ級の姿を見ると、艦娘達は笑みを浮かべたり、大歓声を上げたりした。特に、見舞いに行けなかった鳳翔や大淀

などは涙を流している。

天龍「提督ー!!」

金剛「退院おめでとーございマース!」

赤城「お帰りなさーい!!」

 皆からのお祝いの言葉を提督は手で制する。それで、艦娘達は静まり返った。

 加賀が号令をかけようとするが、提督は加賀に目配せをしてそれも制する。

提督「皆、おはよう。深海総意との戦いから今までの間、心配をかけてすまなかった。手術をして入院をしてしまったが、

   今はこの通り、元通り元気になった。だから、もう俺達は大丈夫だ。安心してくれ」

 提督がそう言い切ると、皆はまた歓声を上げる。

提督「だが、一つ言わなければならないことがあるんだ」

 提督がそう言うと、皆はまた声を上げるのを止める。それを見ると、提督がヲ級に前に出るように促す。

ヲ級「実は…」

 ヲ級はそう前置きをすると、その重要なことを口に出す。




ヲ級「私は…もうただの人間になってしまったんだ」



 ヲ級の言葉は、艦娘達にとっては理解しがたいものだった。

瑞鳳「え…それ、どういうこと…?」

夕立「そんな…ヲ級さんが…?」

ヲ級「その言葉通りだ。私はもう、お前達と同じ艦娘ではない。1人の人間、か弱い女だ」

 提督が、『か弱い女』と言う言葉を聞いてフッ、と笑ったが、ヲ級は構わず続ける。

ヲ級「だが、艦娘でなくなったからと言って、艦娘のお前達と縁を切るなんてバカなことは絶対にしない。お前達とまた、

   一緒に暮らしていたい。だから、いつも通りに私と接してくれないか?お願いだ」

 ヲ級はそう言うと、頭を下げる。

 その異様な告白で静まり返った講堂に、1人の艦娘の声が上がる。

 それは、以外にも加賀だった。

加賀「ヲ級さん、私達は人間になってしまった貴女を疎外しようなどとは微塵も考えてはいません」

ヲ級「…何?」

加賀「貴女が艦娘であろうが、人間であろうが、貴女は私達の仲間・友達のヲ級であることに変りはありませんから。その

   貴女と縁を切るなんてことは、あり得ませんよ」

ヲ級「……」

 ヲ級が驚きの表情で加賀を見つめていると、講堂の後方にいた艦娘達からも声が上がる。

長門「うむ、その通りだ!ヲ級、お前はもう、私達の鎮守府の仲間だ!誰も、お前を排除しようなどとは考えていない!」

夕立「そうよ!ヲ級さん、これからも私達と一緒に、この鎮守府で暮らそうよ!」

 他の艦娘達の口からも同じように、むしろヲ級を歓迎する声が上がる。

 その言葉を聞いて、ヲ級の目から涙が出てくる。

ヲ級「ありがとう…」

 そう泣きながら呟くヲ級の肩を、提督は優しく叩く。

提督「よかったな」

ヲ級「…ああ」

 その後しばらくの間、ヲ級に向けて拍手が送られた。今度は、ヲ級が手を出して拍手を制する。

 拍手が鳴り止むと、舞台にいるまま、ヲ級がこう提督に話し出す。

ヲ級「…そう言えば、あのお前が叶えられる限りで叶える望み、今ここで言ってもいいか?」

提督「今!?ここで!?」

 艦娘達は、何の話だか分からないようだった。だが、それが幸いだと提督は思った。

提督(この、皆がいる前で、俺への望みを言うだと…!?俺に恥をかかせるってことかよ…)

 しかしここで断ると、艦娘達から何か言われそうなので、断れない。

提督「…わかったよ、何がしたいんだ?できれば、俺にできることでな」

ヲ級「安心しろ。お前なら絶対にできるものだ」

 そして、その願いをヲ級は告げる。






ヲ級「提督、私と結婚してくれ!」





 ヲ級がそう言うと、講堂に沈黙が訪れた。

 その沈黙が破かれたのはたっぷり数十秒後、ある艦娘の絶叫である。

金剛「AHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHH!!!」

 金剛の絶叫と共に、艦娘達もどよめく。

 提督は、顔を真っ赤にしてしまっている。

提督「な…な…」

ヲ級「私が艦娘のままだったら、ケッコンカッコカリにしたかったんだが…。私はもう普通の人間だ。だから、カッコカリ

   なんかじゃない、本当の結婚をしてほしいんだ…」

 そんな言葉を顔を赤らめて若干涙目の上目遣いで言われるんだから、可愛くてしょうがない、と提督は思ったが、口には

出さない。そんなことを言ってしまったら、艦娘達に袋叩きにされているだろう。

ヲ級「どうだ…?お前なら叶えられるだろ?」

 今度は不敵な笑みを浮かべてそう聞いてくる。

提督「…元々、俺もお前と一緒に居たいって、言っちまったからなぁ…。つまり俺達は互いに、相思相愛ってことだよ」

ヲ級「じゃあ…」

 ヲ級の期待に満ちた表情。その顔に返す提督の言葉は、一つしかなかった。






提督「分かった、結婚しよう!」





 次の瞬間、今度は講堂が割れんばかりの大歓声に包まれる。

艦娘「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 しかしよく聞いてみると、恨みの籠った声が混じっているのがわかる。

金剛「あの女狐め!新参者のくせに、テートクを奪うなんて!」

 金剛を筆頭とする提督LOVE勢が一瞬でヲ級と提督との間合いを詰めて、2人をポカポカと叩いてくる。それ以外の

結婚を祝福する艦娘達は、舞台に上がってヲ級と握手したり提督の肩をバシバシと叩いてくる。

 数十分もの間、このようなやり取りが続いた。

 しかし、ここの皆の表情に怒りや嫉妬などという醜い感情はない。

 ただ、そこには喜びの笑顔があった。

 結局、提督とヲ級が結婚をするのは本当に深海棲艦との戦いが終わった時と言うことになった。

 上層部の男から、深海棲艦との戦いが激化している中で寿退役などされては戦力が減る、といった皮肉も混じった言葉を

言われたからだ。しかし当然、上層部の男も祝福の言葉を言った。

上層部「おめでとう。まさかヲ級と結婚するとは。しかも、カッコカリではなく、本当の結婚か」

提督「ええ。まあ、俺達は相思相愛だったようですからね」

上層部「…まあ、もう一度言うよ。…おめでとう。俺は、お前達を祝福するよ」


 それ以降、第弐拾鎮守府の艦娘達は、深海棲艦との戦いを奮戦した。

 だが彼女たちの内にある想いは、平和な海を取り戻すというより、提督とヲ級が早く結婚して幸せになれるように、という

想いの方が強かった。その想いのせいか、第弐拾鎮守府の戦果は確実に上がっていった。

 そして、いつかもわからない未来。 

 全ての深海棲艦は倒され、人類及び艦娘と深海棲艦との戦いは幕を閉じた。

 それに伴い、全ての艦娘達は海軍の手で、艤装を解除されて、艦娘としての身体能力を無力化し、容姿と艦娘及び軍艦と

しての記憶を書き変えられて、普通の人間としての生活を送ることができるようになった。

 しかし、第弐拾鎮守府の艦娘達は改造される前にやりたいことがあると口を揃えて言ったので、海軍はこの第弐拾鎮守府

の艦娘達の改造を後回しにすることにした。この行動には、上層部の男が助言したこともある。

 戦いが終わったのと、艦娘の改造が始まるということで、提督とヲ級、そして艦娘達は急いで式の準備をすることになった。

流石に、元深海棲艦とただの人間の提督が結婚するということは、さすがに世間からの批判が強まるということで、式は

鎮守府で行われることになった。

 ヲ級用のウェディングドレスを作る係、式場の準備をする係、食事を作る係など役割分担をして、式への準備を確実に

進めていった。

 式の主役である提督とヲ級は、艦娘達から何もしないでいてと強く言われたので、とりあえず後処理の業務を2人でこなす。

その間、提督がヲ級に言った言葉がこれである。

提督「なんか…こうして二人で仕事をしていると、夫婦みたいだよな」

 その言葉にヲ級は、顔を真っ赤にしてしまい、何も答えられなかった。

 そして、式の当日。

 提督は執務室でいつも通り軍服を着て部屋の中をそわそわと歩き回っていた。同じく部屋の中にいた秘書艦の加賀が話し

かける。加賀の服装は普段と同じ、艦娘の服装である。加賀だけではなく、全ての艦娘はいつも通りの服装である。

加賀「提督、少しは落ち着いてください」

提督「いや、式の主役って滅茶苦茶緊張するんだよ…」

加賀「海軍の会議で、他の提督の前で意見を述べる時はあんなに堂々としていたのに…」

 加賀は、提督の付き添いで行った会議のことを思い出しながら呟く。

提督「あの時とは、状況が違うんだよ!会議なんて人生でいくらでも経験することだし、結婚って、人生の超一大イベント

   だし…」

 そんな風に愚痴っていると、執務室のドアがコンコンとノックされた。

加賀「どうぞ」

鳳翔「失礼します」

 入ってきたのは、ヲ級の世話をしていた鳳翔だった。

鳳翔「ヲ級さんのドレスの準備ができました。式の前にご覧になりますか?」

 鳳翔は期待に満ちた表情で聞いてくる。

提督「…ああ。部屋に入れてくれ」

鳳翔「はい♪」

 鳳翔は、提督の返事を聞くと笑みを浮かべながら、外にいたヲ級を招き入れる。

 そして、部屋に入ってきたヲ級の姿を見て、提督は絶句した。

提督「……………」

 ヲ級は、純白のウェディングドレスを身に纏っていた。裁縫が趣味の鳳翔のお手製と言うことで、複雑な装飾はあまり

されていないが、それでも、スタイルの良い身体のラインが薄らと分かる。頭の白いヴェールに包まれたヲ級の整った顔に

は、綺麗に化粧が施されている。

ヲ級「…どうだ?」

 ヲ級の挑むような声に、提督は半ば放心状態で感想を告げる。

提督「……惚れ直した…」

ヲ級「なっ!?」

 提督とヲ級のやり取りを見て、加賀と鳳翔はにやにやと笑う。

 鳳翔は、そんな二人の初々しいやり取りを見て、提案する。

鳳翔「さあ、式場の準備もできましたし、早く向かいましょう」

 鳳翔に促されると、提督とヲ級はガチガチと動きながら式場へと歩いて行った。

※式の経過は最後の場面だけ描写しますすみません

 提督は改めて式場を見渡す。

提督(…すごいな)

 式場である講堂の壁は茶色から白に塗りかえられ、席の中央にある通路には赤いカーペットが敷かれていてバージンロード

となっている。舞台の壁には大きな十字架が取り付けられている上、どうやって作ったのか、ステンドグラスがはめ込まれて

いて、しかもそのステンドグラスからは、太陽の光が取り込まれている。

 こんなに大規模な改装をしては海軍に怒られるだろうと提督は考えていたが、上層部の男曰く、どうせ壊すのだからもう

好きにやれ、と投げ出された。

 艦娘達は、すすり泣く者もいたし、結婚式(鎮守府独自で行われているものなので本物ではないが)がどういうものかを

興味深く観察する者もいた。

 だが、全ての艦娘達の心の根幹には、提督とヲ級を祝福するという気持ちがある。

 神父役である赤城(女だが気にしてはいけない)が、式の進行を務める。式の準備の間、必死に神父の言葉を記憶して、

ここに立っているはずだが、彼女からは緊張の様子がうかがえない。

赤城「提督、あなたはこの指輪をヲ級さんに対するあなたの愛のしるしとして彼女に与えますか」

提督「はい、与えます」

 提督は、このような重要な時でも自分の本名を明かしはしなかった。自分が提督と名乗らなければならないと、提督は

なぜかそう思っていた。

赤城「ヲ級さん、あなたはこの指輪を提督のあなたに対する愛のしるしとして受け取りますか」

ヲ級「はい、受け取ります」

 さすがにこういう場面では、ヲ級は敬語になっている。いつもの強気な口調をされたらどうしようと提督が胃を痛めながら

悩んでいたことに、ヲ級は気づかない。

赤城「ヲ級さん、あなたはこの指輪を提督に対するあなたの愛のしるしとして彼に与えますか」

ヲ級「はい、与えます」

赤城「提督さん、あなたはこの指輪をヲ級さんのあなたに対する愛のしるしとして受け取りますか」

提督「はい、受け取ります」

赤城「では指輪を交換してください」

 赤城の言葉で、提督はヲ級の細く長い左手薬指に優しく嵌める。

 次に、ヲ級が提督の左手薬指に優しく嵌める。

 そのやり取りを見て、席に座っていた駆逐艦娘達は『おお~』と感嘆の声を上げて、加賀に睨まれて萎縮する。

赤城「では、ヴェールを上げてください。誓いのキスを」

 赤城に促されて、提督はヲ級のヴェールをゆっくりとめくる。ヴェールの下にあって少し見えづらかったヲ級の顔は、

化粧のせいもあってかやはり綺麗だった。

 提督はゆっくりと、ヲ級の顔に自分の顔を近づけていく。

 そして、唇が重なり合う直前、提督の頭に何かが入り込む。それは、聞き慣れたヲ級の声だった。

ヲ級『私と共に…これからを生きよう、提督』

 提督は、心の中でだけフッと笑い、聞こえるかわからないが念じてみる。

提督『もちろん…。俺達は、これからもずっと、永遠に一緒だ』

 提督の言葉が読めたのか、ヲ級は少しだけ微笑む。

 そして―






 2人は、優しくキスを交わした。





                                            ‐HAPPY END‐

と言うわけで、ヲ級編及びハッピーエンドルートはこれで完結です。いやぁ…長かった。

皆さんが望んだハッピーエンドになれたでしょうか?できたら幸いです。


さて、次回作の話ですが、短編集をやろうと思います。陸奥編、那智編は忘れていませんので安心してください。

スレ立ては今夜中の予定です。1日2~3話の予定ですので、気軽に見ていただけたら嬉しいです。

それでは、次回作でお会いしましょう。



頼むから!せめてヲ級だけでも!深海棲艦を正式に実装してくれえええええ!!!

こんばんは。新スレ立てました。

【艦これ】提督「この平和な鎮守府の日常」
【艦これ】提督「この平和な鎮守府の日常」 - SSまとめ速報
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こちらもよろしくお願いします。


P.S.
 この物語の艦娘達がどうなったのかは想像にお任せします。
 幸せな未来を送っているでもよし、新たな第二の人生を頑張るでもよし、某アラサーシリーズにつなげるもよし。
 それぞれ、自由で優しい結末を想像してください。

 ※死亡とかイジメとか暗いことを想像した奴はイ級のエサ行き

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年01月13日 (火) 12:57:54   ID: QLoRyWq-

この話は個人的にとても好きです!
がんばってください!応援してます!!

2 :  SS好きの775さん   2015年01月13日 (火) 12:59:16   ID: QLoRyWq-

上の者です775にするのわすれました。
がんばってください

3 :  SS好きの774さん   2015年01月13日 (火) 23:21:02   ID: rouJ7yj-

今1番ホットなSS

4 :  SS好きの774さん   2015年02月15日 (日) 20:41:56   ID: m4c-OA3U

176の「銭湯」を「戦闘」って間違えてるのを見て銀魂を思い出した。

5 :  SS好きの774さん   2015年02月16日 (月) 15:55:36   ID: _qSdjTTh

1の作品で1番好きだわ

6 :  SS好きの774さん   2015年04月01日 (水) 05:59:10   ID: 4vJnO4PX

バッドエンド悲しすぎて涙が…出そう
もう少し!もう少しなんだ!(小声)

良い作品だと思います乙です

7 :  SS好きの774さん   2015年04月10日 (金) 00:35:47   ID: wKmhT_r9

書きたくないなら最初から可能性は潰しとけって話
嫌々書いてる姿想像して申し訳ないがイラついたわ

8 :  SS好きの774さん   2015年05月11日 (月) 17:31:55   ID: RVsLOuQp

むしろ安価なんか取らずに勢いに乗ってハッピーエンドに繋げてほしかった

9 :  SS好きの774さん   2017年09月15日 (金) 11:43:23   ID: alCqw-Cu

他の提督との展開は余計。
それに、提督のとった手段もどうなの?
結局こいつも変わらんのがわかって、それ以降読んでないわ。
気持ち悪い。

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