闇のあんこうVS特命係(相棒) (339)

2ちゃんねるが、エラーばっかりでろくに投下できないので建てました。

闇のあんこうチームVS特命係。非18禁です。
時期設定は、63回戦車道の翌年。相棒シーズン12第一話の少し後の設定です。
三浦刑事は負傷で退職しているので、登場しません。
闇のあんこうチームの設定は(悪事)暗黒あんこうチーム編の作者様方からお借りしました。

参照

ttp://www46.atwiki.jp/girlsundpanzer/pages/1.html

投下開始は、明日以降になる予定です。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1420951004

建てました。投下は昼12:30開始予定です。
闇のあんこうVS特命係(相棒) - SSまとめ速報
(ttp://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1420951004/)

誤爆ですww
2ちゃんねるに、案内用スレURL書こうとしたけど、それも規制で無理。
投下は午後2時に変更して、もう一度投下できるかどうかやってみます。

間もなく開始します。

目の前で車が燃えている。


??「何とか助けられるか!」
??「ダメだ完全に火の海だ!・・・・ガソリンが漏れてやがる!皆逃げろ!」

数秒後爆発する車。その時、一人の少女が道路に飛び出して来た。

少女「お母さん!お父さん!!」
車に駆け寄ろうとするも、止められる。

少女「放して!お母さんが死んじゃう!」
??「バカ野郎!放したら、救える命救えなくなるだろ!俺は刑事だ!それは出来ねえ!」
少女「うわああああああん。」

プルルルルルル

プルルルルルル

伊丹「夢・・・・・か。ずっと見て無かったが、最近また見るようになったな。」
伊丹は昨晩事件の解決後深夜なので、帰宅せずに仮眠室で寝た事を思い出した。

プルルルルル ガチャ

??「起きたか?」
伊丹「おはようございます、中園参事官。昨日の被疑者・・・取り調べは、誰か他の刑事に・・・・」
中園「事件発生だ。」

伊丹「他殺ですか?」
中園「集団自殺かも知れん。被害者は3名、3名とも10代後半の若い女性だ。」
伊丹「場所は何処です?」

中園「奥多摩湖だ。今日の午前8時半頃にダムの管理局が、遺体を発見した。」
伊丹「分かりました、直ぐに出ます。」

伊丹「芹沢を起こして、とりあえずコーヒーとサンドイッチでも買うか・・・・」


201X年10月7日  東京都奥多摩町 


警察車両が、ダムの一角に到着し刑事達が下りてくる。


伊丹「現場は何処だ。」
所轄刑事「この下です。」
芹沢「ガイシャ(被害者の遺体の事)は、もう引き上げたんですか?」
モブ刑事B「岸辺にあげてあります。」
伊丹「ありがとう」
モブB「土手滑りやすいので気を付けてください。」


岸辺まで下りていくと、既に所轄刑事や鑑識が作業をしていた。刑事一同、まず冥福を祈る。

米沢「お待ちしていました。」
伊丹「ガイシャの身元は判るか?」
米沢「高校の生徒手帳を持っていました。一人目は角谷杏 茨城県水戸市○町18歳 二人目の・・・・・ポニーテールの子が小山柚子 同じく水戸市18歳
もう一人が河嶋桃さん 同じく水戸市・・・」


芹沢「この生徒手帳は去年のですね。という事は卒業生か。」
伊丹「県立大洗女子高 聞いた事も無いな。」


米沢「知らないんですか!」
芹沢「どうしたんですか?」
米沢「知らないんですか!伝説のあんこうチームを!」

米沢「伊丹刑事も、戦車道はご存知ですよね。」
伊丹「確か戦車道を通じて仲間との絆を深め、心身の向上を図るってやつか。
女性警官の中にも、出身者が居る筈だからな。」

芹沢「思い出した!」
伊丹「今度はお前かよ。」
芹沢「去年の第63回大会で、大洗女子が優勝候補筆頭であった、九州の黒森峰女学院を見事破って優勝したんですよ。」
伊丹「公立校が優勝って珍しいな。高校野球でも優勝するのは私立が多いだろ。」
芹沢「黒森峰は、パンターやティーゲル戦車にマウス戦車を20台投入したんですよ。大洗は逆に旧式の戦車や、
攻撃翌力が低かったり故障し易い戦車ばかり。しかも8台しか無かったんですよ。」

伊丹「車体が古くても、乗員は熟練だったんじゃないのか。高校野球でも常連の県立校は、準決勝とかまではよく残るだろう。」
芹沢「確か20年以上戦車道は、やっていなかったらしいですよ。」
伊丹「全員素人かよ。まさか不正行為?」

米沢「失敬な事を言わないでいただきたい!あの軍神が率いる大洗女子に、そのような疑念は皆無ですな。」
伊丹「軍神って、三国志かよ。」

米沢「彼女は素人同然の大洗女子を率いたのですが、途中何度も窮地に立たされたわけです。しかし、西住みほさんは決してあきらめず
仲間を信じて戦い抜いた。最後の姉妹対決が最高だと言う意見もありますが、私としましては、1年生チームが川で故障した際に
危険を顧みず、救助に向かったシーンが最高ですな。」

伊丹「そいつらが凄いチームだって事はよく分かった。それで、この三人の死因は何だ?」
米沢「溺死ですな。今のところ目立った外傷や注射痕はありません。」

??「なるほど溺死ですか?」
伊丹「まあ、解剖に廻さないと・・・・・ずいぶんお早いお着きですね。」

杉下右京「刑事部長に、偶然雑用を仰せつかりましてね。その帰りに偶然遭遇した訳です。」
伊丹「溺死ですよ。三人は幼馴染で、3人で旅行に来たんじゃないですかね。」
芹沢「夜ダム湖に出て、勝手にボートに乗って星空でも見たくなったんじゃないですか。」
右京「確かに、人口の明かりが少ないこのダムから見える星空は、美しいでしょうねえ。」
伊丹「という訳で、警部の出番はないです。ゆっくり景色でも眺めてお帰りください。」

右京「そうすると、上の刑事さんの伝言をお伝えできません。」
伊丹「伝言?」
右京「300mほど離れた電話ボックスに、遺書らしき手紙入り封筒が入った鞄が、放置されていたそうですよ。」
伊丹「先に言ってくださいよ。」

走り出すイタミン

甲斐亨「しかし自殺とすると、ちょっとおかしい事になるみたいですよ。」
芹沢「おかしい事?」
亨「友人の警官に、戦車道マニアがいましてね。今電話をかけて聞いたんですが、動機が無いのでは
と言われました。大洗が敗退していたら、自殺説は十分あり得たそうですが。」

右京「?」
米沢「実は大洗女子は、廃校の危機だったそうですな。生徒数も減少していて、実際廃校計画もあったそうです。」
右京「戦車道優勝を、存続の条件とした。カイト君の友人が言う通り敗退して廃校になっていたら、動機としてはあり得るのですが。」
亨「大洗女子の人気は、今や急上昇。続々と新規入学希望者が出て、サンダース大付属や、黒森峰などの強豪校からの転入希望者も多いとか。」
右京「強豪校では、なかなか試合に出れないでしょうからねえ。」
亨「戦車道とは無関係って可能性も、ありますね。

右京「河島桃さんの片眼鏡ですが、レンズがありませんねえ。」
芹沢「本当だ。見つかって無いですか?」

米沢「誰か、メガネのレンズを見つけていませんか?」

米沢が聞くが、鑑識も刑事も誰も見つけていなかった。

亨「水中で偶然外れてしまったかな。」
芹沢「見つけるのは難しいな。流れも激しいから、もうかなり下流まで流されているな。」
右京「おや、伊丹刑事が戻って来ましたよ。犬と少年も一緒ですね。」

芹沢「先輩、その少年は誰ですか?」
伊丹「ここから数百メートルほど離れた、家に帰省していた小学生です。ちょうど週末なので犬連れて家族で、
祖母の実家に来ていたそうです。」

伊丹「この犬のボコ君が、こいつを咥えていたそうですよ。」
メガネのレンズらしき物を、取り出す伊丹。

右京「このレンズは。」
米沢 「完全に一致します。河島桃さんの片眼鏡のレンズに、間違いなさそうですな。」

芹沢「このレンズはいつ犬が持って来たの?」
少年「昨日の夜9時ごろに、犬小屋の鎖が外れてボコが外に行ってしまったんです。」
伊丹「ボコを探しに行った?」
少年「1時間くらい探しましたが、結局見つからず家に帰りました。」
右京「今日も朝から探していたのですか?」

少年「朝起きてすぐ探し、一度朝食を食べに戻りまた探しました。また探そうと玄関を出たら。」


回想シーン 

少年「けがは無さそうだね。あれ口に何か咥えている。」


亨「それは何時頃?」
少年「9時15分前頃です。それで、ボコの体を拭いてあげてからレンズを捨てようとしたら、ダムの管理局で働いている近所のおじさんが、家に飛び込んで来て。」

職員「大変だー!!ダムで高校生くらいの女の子が3人死んでいる。け、警察に連絡するから電話貸してくれ。」
少年「それでもしかしたら、事件に関係ある物かと思って持って来たんです。」

伊丹「犬探して居る時、不審人物や不審な車を見なかったか?」
芹沢「それとも、この人達を見なかった?3人で歩いている所とか?」

三人の生徒手帳に貼られた、写真を見せる芹沢。

少年「ボコを探すのに夢中だったので、見ていません。」
伊丹「じゃ、気を付けて帰れよ。」

右京「ちょっと待ってください。」


右京「ボコ君ですが、誰か人を噛んだ形跡がありますよ。」
亨「本当だ。もしかして被害者3人の中の誰か?」
右京「被害者とは限りませんよ。家を出てレンズを拾う前に、近所の人や観光客を噛んだ。という可能性も。」
少年「でも、ボコはとてもおとなしい犬ですよ。」


芹沢「一応歯形調べますか?」
伊丹「まあ事件とは無関係かも知れんが、後で苦情が出る可能性もあるし。」


亨「伊丹刑事、遺書はあったんですか?」
伊丹「これが遺書だ。」(芹沢に渡す)


芹沢「私達は、穢されました。もう生きて行く事はできません、さようなら。
  追伸 西住ちゃん、絶対に2連覇してね。天国から見守っているよ。 角谷杏
 ついでに、中学の時に2週間ホームスティしていた子から聞いた、勝利のおまじない
を書いておくから、負けたらあんこう踊りだよ。おまじないとやらは、何処にも書いてありませんね。」


伊丹「アホか!子供の目の前で声に出して読むんじゃねえよ。」
芹沢「す、すみません。」


少年に、犬を一時預からなければならない事を説明し、既に母親に迎えに来て貰った事を説明する伊丹。

右京「最後にもう一つだけ。」


右京「君の現住所を、念の為に教えて下さい。」

右京「どうもありがとう。」
伊丹「現場付近の聞き込みは俺達でやりますから、どうぞ特命はお帰り下さい。」
右京「では、そうさせて貰いましょう。」


立ち去る右京と亨


伊丹「一雨降りそうだな。」


OP(相棒12)

ttps://www.youtube.com/watch?v=OgZHGHo_eu4

特命係室 15:45

右京「大洗女子は、かなり昨年と編成が変わっていますね。同じなのはAチームとCチームだけですか。」
角田課長「かなり有力な新入生や、転校生徒があったらしいぞ。弾き出されるチームがあっても仕方ないと思うぜ。」
右京「お詳しいですね。」
角田「カミさんが、大洗女子の大ファンでね。俺も詳しくなった訳さ。」

右京「風紀委員と生徒会チームは、卒業で居なくなるから解散は当然です。自動車部とネットゲーム部
特に後者は、完全に員数合わせみたいですから引退は納得できるのですが。」
角田「自動車部は、整備専門に戻ったのだろうな。ポルシェティーガーは欠陥兵器で危ないからな。
で、警部はどのチームが腑に落ちないの?」


右京「バレー部と1年生チームですね。バレー部は旧式の日本戦車で果敢に戦い、一年生チームも最初は完全に素人でしたが
決勝戦では、強豪校の大型戦車を2台も撃破するまでに、急成長しています。」

右京は戦車道記事サイトを示した。決勝直後のインタビューで、両チームとも笑顔で来年も続けますと明言している。

角田「バレー部は、バレー部が復活して本業に専念する事にしたんじゃないか?」
右京「確かに、運動部と戦車道の両立は大変でしょうねえ。」
角田「1年生チームも、急成長したとはいえ幼少期から戦車道やって来た、エリートに比べればやっぱり劣るだろ。
チームから外されても、仕方ないんじゃないか。」
右京「西住みほさんの性格を見る限り、それだけの理由で解散させたりはしないと思うのですが。」
角田「でも、思春期だろ。恋愛のトラブルとか、いろいろあるんじゃないか。」


角田「つい長話しちまったな。コーヒーご馳走さん。」

パンダのマグカップを元に戻し、出ていく課長。入れ替わりにカイトが入って来る。右京は、
カイトに今まで角田課長としていた会話を説明した。

亨「杉下さんと角田課長、どちらの意見もある意味正しいと思いますが。うーん、もしかすると乗員数の問題とか?」
右京「乗員数、面白い所に目を付けますね。」


亨「1年生チームのM3中戦車は、かなり旧式の戦車で75ミリ砲は正面にしか撃てない上に、車体が高いから敵に発見され易い。
今後新しい戦車に変更される可能性が高いですね。」
右京「確かに、その可能性は高いですね。」
亨「M3中戦車は、主砲と副砲があるから乗員が6人も必要なんですが、これ以降の戦車は乗員5人以下が多いそうです。」


右京「それは盲点でした。戦車が新しくなれば1年生チームは、全員で同じ戦車に乗るのは困難になりそうですね。」
亨「もしくは、誰が外れるかでトラブルになった可能性も考えられます。結局全員で話し合って
戦車道から離れる事を選択した、という辺りが真相かもしれませんね。」


右京「バレー部チームの事は、何か判りましたか?やはりバレー部が再開されて戦車道からは、離脱したのでしょうか?」
亨「バレー部は再開していません。更にチーム全員が退学しています。」

右京「それは本当ですか?」


右京「退学とは穏やかではありませんね。」
亨「大洗学園としても、人数が集まればバレー部を復活させるつもりだったみたいですが・・・・」
右京「何かあったのですね。」


亨「去年の11月頃に、発売された週刊誌です。」


カイトが持って来た週刊誌に、扱いは大きくないが一昨年の3年生の部員の一部が、部費を着服していた
事が明らかになった事が書かれていた。その着服されていた部費は、週刊誌発売後全額返還されているが、
学校側は警察に、被害届を出すことも検討していたらしい。


右京「更に当時の1年生に対し、一部暴力行為があったともありますね。」
亨「旧バレー部からは退部や退学した生徒も数人いるみたいです。その中に被害者がいるのか、あひるチーム
の生徒も加担していたのか、直接加担はしていなくても見て見ぬ振りをしていたか。」


右京「もしくは、暴行事件の方は単なる噂に過ぎないのか。出版社はどの様にして、この事実を掴んだのでしょうか?」


数時間前 神田の中小出版社

安達「編集長の安達です。」

亨「警視庁特命係の甲斐です。今日は大洗元生徒会3人の事件の捜査の一環で、お伺いしたい事がありまして。」
安達「あの事件は、事故か自殺の可能性が高いとニュースでやっていましたよ。遺書も見つかったとか。」

亨「まだ他殺じゃないと断定されてはいません。単刀直入に聞きますが、この記事の元ネタは何処から手に入れたのか、教えて頂けませんか?
ニュースソースは明かせないと、仰られるかも知れませんが、事件で・・・・仮に本当に事件性の無い事故死か、自殺だとしても
3人も犠牲者が出ているんです。事件が無ければ無現の可能性が有った3人がです。」


安達「これを見てください。」(デスクから封筒を取り出す)

封筒の中の手紙には、大洗女子高バレー部で起きていた不祥事が書かれていた。

亨「この手紙は何時頃届きましたか?」
安達「今年の1月・・・・成人式のある3連休明けの数日後です。丁度大洗女子に何か取材ができないか考えていたので、ガセかと
も思いましたが、とりあえず取材を申し入れたら数日後に承諾の返事が来ました。」

修正
安達「昨年の11月10日位でしたね。。丁度、大洗女子に何か取材ができないか考えていたので、ガセかと
も思いましたが、とりあえず取材を申し入れたら数日後に承諾の返事が来ました。」


右京「しかし、よく大洗女子も取材に応じましたね。」
亨「安達さんは、後で発覚して大事になるよりは良いと判断したのではないかと、言っていました。
もしくは、大手に嗅ぎ付けられ大々的に報道されるよりはまし、と判断したのかも知れません。」

右京「部費着服事件は、結局正式な告訴には至らなかったみたいですね。」
亨「金額もさほど高額ではありません。更に、全額返還の上かなり反省しているという事で、
告訴は見送ったそうです。」


右京「正式な告訴となれば、今の大洗女子の知名度から見ても大きなニュースになるのは、避けられない。
大事になるのも困るという判断がなされた。という辺りが真相かもしれません。」


亨「暴力事件は、完全にただの噂に過ぎないですね。退部や退学した生徒は、バレー部が廃部になる噂で
引退を決意したり、やむを得ない家庭の事情で退学したとの事です。」
右京「どうもありがとう。」


捜査一課会議室

刑事A「被害者3名の死亡推定時刻は、一昨日夜午後10時から翌午前0時までの間です。直接の死因は溺死です。目立った
外傷や注射痕はありませんでした。」

中園参事官「3名の体内からは、睡眠薬が出たそうだな。」
刑事B「致死量ではありませんでした。」
芹沢「茨城県警からの報告によりますと、2月以降3人は、度々医師から睡眠薬の処方を受けていたそうです。」


内村刑事部長「睡眠薬の処方を受けていた理由は何だ?」
芹沢「不眠症と診断されたからです。不眠症の事自体、本人達は一切家族にも言わなかったそうです。」

中園「やはり自殺でしょうか?」
内村「現場付近で不審人物は、目撃されていないのか?」

伊丹「近くの旅館に来ていた泊り客が、妙に落ち着かない様子だったそうです。やたらと時計や携帯を気にし、9時過ぎに
外に出て行き、40分後に戻って来たそうです。その時泊り客はこう言ったそうです。」

旅館主人「お客さん、鍵閉めてよろしいですか?」
泊り客「なぜ来ない、連絡もないんだ。ぶつぶつ」



主人「お客さんどうかしましたか?」
客「急用が出来たので帰ります。」


中園「相手について、旅館の人は知らないのか?」
伊丹「3年前に宝くじを当てて、仕事を辞めて始めたので、以前に
   会った事は無いそうです。」

内村「監視カメラやNシステムに不審車両は?」
芹沢「10日前の台風の強風で、壊れてしまって故障したまま放置されています。」


内村「自殺とした場合、理由はどう考える?」
中園「遺書を読む限り、集団強姦の可能性が高いかと。大洗の人気はうなぎ登りで、
本人達も大学への推薦が決まっていて、浮ついていたのかも知れません。」
内村「哀れな話だ。」

内村部長がふと1枚の資料に、目を留める。

内村「被害者河島桃の、メガネレンズに下足跡(靴跡)が、見つかったそうだな。」


伊丹「外れたレンズに、誰かの靴が触れたと思われます。」
内村「河嶋桃が接触したのだろう。深く考えるな」
中園「どんな状況だとお考えですか」


内村「普段は物凄く強気で威張っているのに、いざ戦車道の試合になると、非常に憶病になると聞いたが?」
伊丹「米沢から聞きましたが超至近距離から砲撃を外したり、作戦に意見を言われたら逆切れしたり
と味方に迷惑をかけまくったそうです。」
芹沢「もう負けるとか、大洗は廃校だもうおしまいだと、散々味方の士気を下げまくったそうです。」

中園「よくそんな人物が副隊長で勝てたな。それだけ西住みほが能力があったという事だろう。」
内村「インパールのM将軍みたいな奴だな。杉下なら、大洗女子の奇跡の優勝には、何か裏があるでしょう。とか言い出すかもな。」

苦笑する一同、内村は一同を見渡し続ける。

内村「あの場でも、河嶋桃は臆病風に吹かれたのではないかな。」
中園「一人だけ怖くなって逃げようとした。」


回想(注 内村部長の脳内空想です)


柚子「星が綺麗ね。ロマンチックな最期・・・・・」
杏「そーだねーー、どしたかーしま?」

桃「嫌だ、やはり怖いよ。それに刑事ドラマでも言うだろ、生きていればいつか良い事もあるって。」
杏「5年後・・・10年後、それとも50年後?」
桃「逃げなきゃだめだ。逃げなきゃだめだ。」

エヴァ初号機搭乗員と真逆の事を、言いながら逃げようとするも、

柚子「逃がさないわ」
桃「ウッ!」ドサッ

笑顔で素早く接近した柚子に、当身を喰らいあっさりと昏倒する桃。その時桃の片眼鏡レンズが外れ、誰かの靴底と接触。
その後3人は、睡眠薬を服用(桃にも無理やり飲ませる。)


ボートに乗り込む3人 やがて沖に出て行く。
そこに犬がやって来て、レンズを咥えて去って行く。


ボートでダム湖沖合に漕ぎ出す3人。やがて、睡眠薬が効きだしてくる。

杏「ん、じゃそろそろ行こうか。」
柚子「桃ちゃんダム湖の下には、新しい大洗があるから大丈夫だよ。」
桃 「桃ちゃん言うな。むにゃ」

ダム湖に静かに飛び込む3人


内村「というのが私の意見だ。」
芹沢「どう思います先輩?」
伊丹「珍しく説得力があるな」


内村「伊丹何か言ったか?」
伊丹「いいえ何も」

中園「では、被害者の近辺で特に、動機があってアリバイが無い人物もいない事から、事件自体は自殺として捜査を再開する。
準強姦罪に対しては、茨城県警が捜査担当になるだろう。」

内村が解散を命じようとした時、鑑識の米沢が会議室に飛び込んで来た。

内村「何だ騒々しい。」
米沢「レンズに残っていた、下足跡は女性のものではありません。恐らく成人男性の物です。」


鑑識結果により、一転して他殺の疑い大という事になり、捜査は再開される事になった。
刑事の一部は、水戸や大洗に向かい元生徒会3人の周囲(幼馴染や、小中時代の同級生)に
聞き込みを行い、動機がある人物がいないか再度捜査を行った。

伊丹達は、再度奥多摩の事件現場付近に向かっていた。赤信号で停車する警察車両
交差点付近の歩道隅に看板が立っている。

○日午後10時過ぎ頃、付近で発生した障害物路上放置事件を目撃された方は、最寄りの警察署までお電話下さい。

芹沢「道路に自転車を放置するとかいう、悪質な事件ですかね?」
伊丹「最近じゃ、ブロックや角材もあるらしいぞ。先月札幌で発生しただろ。」


伊丹と芹沢は、遺体発見現場付近に到着した。目的は被害者を脅し、遺書を書かせた(と思われる)建物を探す事にあった。
候補としては、居住者のいない空き家、夜間は誰も使わない倉庫や小屋、後は晩秋は無人になる貸別荘だろう。

芹沢「あの倉庫じゃないです?」
伊丹「あそこなら、集落や国道県道からは、2階部分の一部を除いて死角になるな。調べるぞ。」

伊丹「元は、民宿にでも使われていた感じだな?」
伊丹は、よく感じる先客が居る予感を感じた。


右京「おや、伊丹刑事達も来られましたか?」
伊丹「予感的中かよ。」

物置の中から、米沢とカイトが出てくる。

伊丹「何で米沢までいるんだよ。で、何か出たのかよ?」
米沢「ボールペンが1個。それと毛髪も数人分です。」
亨「指紋も付いてます。他に成人男性と思われる指紋が数種類と、成人前女性と思われる指紋も出ました。」

伊丹「犯人は複数か?集団強姦を隠ぺいする為の口封じの可能性が高いな。」
右京「複数犯とは限りませんよ。」
芹沢「なぜそんな事が判るのですか?」


米沢「実はこの倉庫は、本来昨日解体工事が始まる筈だったのです。見ての通り、築100年は経過しておりますな。
子供が遊びで入り込んで、怪我でもしては一大事ですからな。権利者が死亡しておられるので強制撤去です。」
伊丹「つまり、町役場役人や自治会長・・・更に解体工事を請け負う会社の関係者が、倉庫内に入ったか。
 ・・・ん、解体工事はなぜ行われていないんです?」

亨「ちょっとしたアクシデント、俺達には幸運ですが?」
芹沢「幸運?機材が盗まれたとか?」

右京「盗まれてはいませんが、タイヤがパンクさせられ重機の窓ガラスを割られてしまい、急遽延期になってしまったそうです。」

伊丹「もしかすると、障害物放置事件と同じ犯人かも知れませんね。」


会長「町内会長ですが、解体工事はどうなるのでしょうか?」
伊丹「実は、この倉庫が犯罪に使用された可能性が大です。当面の間延期して貰う事になるかと。」
芹沢「数日前の事件当然ご存知ですよね?」

住民「柚子ちゃんと、その友達自殺した事件ですよね。可哀想になあ。」
伊丹「彼女を知っているんですか?戦車道ファンの方で?」

右京「小山さんの祖母の実家が、この町なんですよ。」
伊丹「いつの間に、調べたんですか。」
芹沢「相変わらず仕事が速いですねえ。」
伊丹「誉めてるんじゃねえぞ。」

会長「小学5年位の時に、友人2人と一緒に祖母の家に遊びに来ていましたよ。この倉庫に勝手に入り込んで怒られていましたよ。」
亨「被害者側に土地勘有ったという事か。」

伊丹「実は、他殺の可能性が極めて高くなったんです。」
右京「この倉庫の中で、犯人が被害者の一人、角谷杏さんを脅して遺書を書かせた疑いがあります。」
芹沢「勝手に説明しないで下さいよ。という訳で現場保存なのでご理解ください。それと最近この倉庫に入った人は指紋を任意提出
して下さい。

会長「そういう事情なら仕方ありませんね。犯人を必ず逮捕してください。」

右京「必ず逮捕します。」
伊丹「台詞取らないで下さいよ!」


町内会の老人や、町役場の職員によると解体決定は一か月前で、最後に倉庫内に入ったのは事件の一週間前
でその日に、解体工事の正式な日付が決まっていた。

伊丹「事件の当日及び、前後数日に不審車両や不審人物を目撃された方はいませんか?
もしくは、ご家族や近所の方からそういう話を聞かれたとか?」

すると50代の男が、

住民B「直接何か見たわけじゃないんだがな。」
伊丹「何を目撃されたんですか?」

住民B「俺は、向こうの高台にある県道沿いで山菜料理の店をやっているんだがな、高台にあるから稜線越しに
倉庫の2階の上部分が見えるんだよ。」
亨「しかし、何かを目撃するのは難しいのでは?」

住民B「夜の9時40分ごろだったかな。一瞬だけ、建物の電気が付いたように見えたんだよ。入り口付近に1階と2階のスイッチがあるんだよ。」

数年前から電気は止めていたのだが、解体工事前に中の道具類を運び出して、回収業者に渡したり
昔の町の資料の様な、史料価値のあるものを役場に運ぶ為に、数年ぶりに電気を通したらしい。

住民B「一瞬だけ点灯したからおかしいと思ったけど、町内会長が見回りにでも行って電気のチェックでもしたと思ったから、
別に確認とかはしなかったわけだ。」

無論その日町内会の誰も、倉庫には立ち入っていない。



更に、倉庫内を調べていた米沢は、入り口から最初の部屋にあった机までマットレスが敷かれてした事を突き止めた。
無論住民は、そんなものを敷いた覚えは全く無かった。

米沢「真犯人がどこかから持って来て敷いたのでしょうな。靴跡や毛髪を落とさない様にするのが目的ですな。」
芹沢「解体する倉庫で多少物を運び出すとしても、マットレスは不要でしょうよ。」

無論そのマットレスは、犯人が持ち去って処分してしまったのだろう。

倉庫の中に再び入る右京。机より奥にある古い箪笥(たんす)が気になる様だ。相当古い物と思われる。
無論撤去するので、中身は全て処分されている。

右京「この箪笥、3段目と4段目の間だけ間隔がほんの僅かに、大きいですねえ。隠し引き出しでもあるんですかね。」
芹沢「マンガじゃないんだから、そんな都合よく・・・・・」

ガラッ

亨「ありましたね、隠し引き出し。」
伊丹「ここは忍者屋敷かよ。」

埃を払った後、中を調べると戦前の町の地図と、真新しい紙が入っていた。

亨「何か紙に書いてありますね。」
米沢「この筆跡、角谷杏さんの筆跡に似ていますね。」



伊丹「その証拠はこちらで預かりますよ。」

亨「持って行かれてしまいましたね?」
右京「暗記したので大丈夫ですよ」
米沢「早速戻ったら、筆跡鑑定をしますので、結果が判り次第連絡します。」

倉庫の扉が閉じられ、引き揚げて行く特命係。


同時刻  大洗港


??「警察の動きが速いな。少し拙くないか?」
??「問題ありませんよ-殿、想定内です。」

??「そろそろあの人にも、役に立って貰わないと。」
??「1年間良い思いをしたんだから、当然だよね。これで、会長達の無念も晴れるね。」


翌日
刑事部長室


内村「未だ容疑者は出ないのか?」
中園「被害者3名はかなりの美人です。ストーカーとか変質者の類も捜査範囲に入れましたが、それらしい人物は。
水戸や大洗では、変質者の目撃事例も無いそうです。」

内村「殺害現場付近の調査はどうなった。」
中園「被害者を脅して遺書を書かせた場所は、判明しました。角谷杏の指紋は発見されました。ボールペンからは、町の関係者
と一致しない、成人男性の指紋が出ました。残念ですが前科者リストにはありませんでした。」
内村「そいつが犯人か?」

中園「可能性は高いかと。それと杉下が妙な事を言っていました。」
内村「何の事だ?」

中園「被害者側に土地勘があったそうです。中学時代まで母方の祖母の実家が・・・・」
内村「そんな事は事件と関係無いだろ!相手にするな。」

ぺこぺこと慌てて頭を下げる中園参事官。突如内線電話のベルが鳴る。

中園「参事官の中園です・・・・」
一瞬で、表情が変わり再び低姿勢になる参事官。

内村「どうした?」
中園「甲斐次長からお電話です!」


数日後 東京都千代田区霞が関3丁目 文部科学省


官僚や職員たちが続々と、登庁して来る。同僚や顔見知り職員、警備員と談笑している官僚もいる。
30代前半のエリート官僚も、知人と挨拶を交わしながら庁舎に向け歩いていたが、妙な違和感を感じた。

明らかに場に似つかわしくない、雰囲気を醸し出す一団が入り口付近に待機していた。しかも後ろからも数人が近付いて来る。
無視して入り口に向け歩き出した次の瞬間、その集団は一斉に動き出した。

その集団は、あっという間に彼を包囲してしまった。横からも数名が逃げ道をふさいだ。


官僚「何なんですか?」
芹沢「学園艦管理局第一課課長、伊東真さんですね?」
官僚「そうですが。」

多くの官僚や通行人が足を止めて、この異様な事態を見ている。

伊丹「角谷杏さん、河嶋桃さん、小山柚子さんに対する殺人及び拉致、並びに準強姦の容疑で逮捕状が出ています。
201×年10月10日午前8時22分 通常逮捕します。連行しろ!」


休息します。
なお、当小説に出て来る団体及び個人名は、現実とは一切関係ありません。

マウスの電池が切れそうなので、予備も無いので買いに行ってきます。
一応午後5時再開予定ですが、明日夜になるかも知れません。

再開します。


午後2時


亨「数日前に、伊東の部下から内部告発があって、内村部長と参事官が呼び出されたそうです。
兄に聞いた所、学園艦の整理統合を進めていた主要人物らしいです。」
右京「被害者達も呼び出されて、今年度限りでの廃校を通達されたのでしょう。」
亨「回避する為に、戦車道での優勝という条件が提示された。しかし、よく考えたら
証拠も証人も無いのに約束が履行される筈も無いですよ。本来なら。」

右京「最終的には大臣の承認が必要です。しかし、彼の父親も文部科学…いや当時はまだ文部省でしたが、
大臣経験者です。それなりの発言力はあったのでしょう。」

そこへ、いつものごとく角田課長が入って来る。


角田「それにしても酷い話だよなあ。権力を笠に着て、好き放題やっただけでも許しがたいのに、口封じの為に被害者
を手にかけるとは、役人の風上にも置け無い外道だな。」
亨「一発ぶん殴ってやりたいですよ。」

右京「伊東容疑者は卑劣極まりない人間ですが、なぜ今口封じに走ったのでしょう。」


亨「推理物だと、被害者側に金銭要求されたから口封じというのが、よくある話ですね。」
角田「出世の機会でもあったとか、親は当然国会議員だったんだろ。後を継いで出馬するつもりだったのかもな?」


右京「選挙は、彼の兄が地盤を受け継いで既に当選しているみたいですよ。」
亨「学園艦整理統合は、今が正念場です。一区切付くくまでは人事異動は無いのでは?」
角田「やはり脅迫でもされたとか?・・」


同日 大洗女子学園艦


多くの生徒が、テレビやインターネットにくぎ付けになっていた。戦車道を復活させた張本人であり、
柚子はかなりのファンが居た。報道を知って泣いている子も多い。

みほ「会長さん達は、自殺じゃなかったの?」
優花里「遺書は、脅されて書かされたのではないでしょうか?」
沙織「多分口封じの為に消されてしまったんじゃ。酷い話だね。」

みほ「あんな良い先輩達を、無理やり関係を持っただけでも許せないのに、口封じの為に自殺に見せかけて[ピーーー]なんて
絶対に許さない。」

華「まさか相手を脅していたとか?」
みほ「華さん止めて!先輩達がそんなことする筈無い!」

麻子「いや、そうとも言い切れないぞ西住さん。10日ほど前におばあのお使いで水戸に行ったんだけど、
元会長と元副会長の二人が、公園で深刻そうな表情で何か相談していたんだ。」


みほ「華さん、怒ったりしてごめんね。まさか本当に脅迫・・・・・とか?」
麻子「話を聞いておけばよかった。用事の途中で、盗み聞きするわけにもいかなかった。」
沙織「麻子のせいじゃないよ。今回の件と関係した相談かどうかわからないし。」

優花里「復讐・・・・・・・を考えていたのかも知れませんね。」
みほ「!」
華「そう考えたとしても、仕方ないと思います。」

沙織「復讐しようとしていたのを、気づかれて逆に殺されてしまったのかな?最低だよ。」
みほ「でもどうやって、復讐しようとしているのを知ったのかな?一流大学を出たエリート官僚でも、
簡単にはできないよ。通常の仕事もあるし。」
華「盗聴マニア?」

みほ「それは解らないけど、どんな理由があってもあんな良い先輩を[ピーーー]なんて許さない!」
みほ以外「・・・・・・・」

優花里「いま新しい情報が、報道されました!」
華「何かあったんですか?」
優花里「伊東容疑者ですが、来年早々に政府高官のご令嬢と結婚予定だったそうです。やはり、危険なので口封じ
が目的だったのでしょう。」

麻子「極刑」
沙織「やば、みぽりんが激怒してる。どこかのありすさん状態だよ。」


優花里「に、西住殿落ち着いて下さい。犯人は逃走中じゃなくて既に逮捕されていますよ。」
華「お水を飲んで落ち着いて下さい。」

水入りコップ受け取ったみほは、一見穏やかな笑顔だが実際は激怒している。沙織は直接みほの目を見ない様に、
必死で視線を外し、窓の外に焦点を合わせている。

みほ「別に怒っていないよ。実家からS・ティーゲル持ち出して、留置場吹き飛ばそう等と思っていないよ。」
麻子「戦車で警視庁乗り込むわけにはいかないから、落ち着いてくれ。」


何とかみほを宥めて帰らせた後、4人は優花里隠れ家に集まっていた。

沙織「みぽりん、何も気付いていないみたいだね。」
優花里「何も知らない無知な西住殿も素敵です。」
麻子「無知は言い過ぎだろ。私が西住さんの立場だったら、気づかないだろ。」

華「生涯秘密にしなければ、なりませんね。所であの伊東容疑者は、どう処遇しますか?」
麻子「伊東はほぼ完全に黒だと思われているから、当面はいや、彼が処刑されるまで放置で問題ない。」
優花里「ちょっとしたアクシデントもありましたが、それが更に伊東を追い詰めているから愉快でたまりません。」
沙織「高校時代にかなり、女の子を泣かせたらしいからいい気味だよ。」



沙織「綺麗な満月。大洗を完全に支配している私達を、祝福してくれてる。やだもー」
満面の笑みを浮かべる沙織。
麻子「藤原道長の心境だな。この世をばわが世とぞ思うもち月の欠けたることのなしと思えば、だな。」
歴史上繁栄を極めた、偉人の歌に擬える麻子。
華「もう直ぐみほさんの誕生日ですね。」
みほの誕生日を思い出す華。

優花里「サプライズで誕生パーティーをやりましょう。私達以外では、まほさんや歴女チーム招待して。」
みほのサプライズパーティーを思いつく優花里。彼女達は間接的には、既に日本の大半を支配しつつある。
藤原道長の歌を引き合いに出したのは、間違いでは無い。

その時、はしゃいだ優花里の手がテレビのリモコンの電源に触れた。


アナ「それでは今日の諺コーナーです。」

地元のローカル番組の様で、水を差された優花里は直ぐにテレビを切った。楽しそうに来月の戦車道全国大会
決勝戦の計画と、みほの誕生パーティの計画を話し出すあんこうチーム。

テレビのスイッチを切ったので、彼女達はことわざを聞くことはできなかった。

アナ「今日のことわざは好事魔多しです。先生意味を教えて下さい。」
教授「良い事には、邪魔が入り易いから浮かれずに気を付けなさい。物事が順調に行っている時が
実は最も危険だという解釈もあります。」


鑑識室

右京「状況はどうですか?
米沢「ほとんど真っ黒ですな。現場に落ちていた、ボールペンからは容疑者伊東の指紋がべったりと。」
亨「アリバイは無し、というか現場から徒歩5分の旅館に宿泊していました。」
米沢「旅館に戻った後、急用ができたとかで宿泊を取り消して帰ったそうです。」


青梅署 取調室

伊東「私は殺していません!」
伊丹「ふざけんな!現場からお前の指紋が出ているんだよ!しかも、近所の犬に噛まれているだろ。」
芹沢「噛んだ跡と、ボコの歯形は完全一致したよ。ボコ君は現場でレンズを咥えているから、事件の前しか人を噛めませんよ。」

伊東「犬には噛まれましたよ、国道の近くで時間は9時40分くらい。車とぶつかりそうになって興奮したのか、
いきなり噛みついて来たんですよ。」

芹沢「貴方が、犬に噛まれる瞬間を目撃した人はいますか?」
伊東「夜遅い時間だったので誰も。」

伊丹「話にもならねえなあ。で、動機は何だ?結婚予定なので口封じで清算か?」
芹沢「事件当日の午後、角谷杏の携帯からメール来てますね?会って話がしたいと。そういえば伊藤さん
貴方もお生まれは奥多摩ですね。土地勘も詳しそうですね。」
伊丹「被害者側から脅迫でもされたか、それともあんたに復讐しようとしていた。しかし、土地勘もある
あんたは逆に返り討ちにして、自殺を装い殺害した。そうだろう?」


伊東「無理やり手籠めにしたのは認めます。学園艦存続を餌にして。」
伊丹「救いようのないクズだな。」

その時、扉をたたく音が。

芹沢「どうぞ」

入って来たのはやっぱり、杉下右京と甲斐亨。

伊丹「今取り調べ中ですよ。」
右京「少し気になる点がありまして。」

渋りながらも、場所を開ける伊丹。

伊東「あんたは?」
右京「警視庁特命係の杉下です。メールで呼び出されたと言っていますが、直接相手の声を聴きましたか?」
亨「事件の被害者と直接話されたかどうかです。」
伊東「いや、全部メールでした。こちらからかけてみましたが、繋がりませんでした。」

右京「現地でどこに呼び出されたんですか?」
伊東「バス停です。待合室のあるタイプのです。」
亨「バス停で、男が立ってうろうろしているという目撃情報もありました。バス停は例の倉庫とは逆方向です。」
伊丹「でも、顔は確認できなかった。本人という証拠は無いですよ。」

右京「旅館に戻って来た際に、相手が誰も来なかったとぼやいたそうですね。」
伊東「確か、なぜ誰も来ないんだみたいな事を言いました。」


伊丹「被害者に会えなかった事を、印象付ける為の裏工作では。」
亨「旅館のご主人は、小声で呟く様に言っていたと。その時至近距離に居た訳でもありません。」

芹沢「相手に聞こえない様な声で呟いても、アリバイ工作になりませんよ。」
伊丹「確かに、相手聞こえても意味が解らなければ無意味だな。」
右京「ボールペンは、何処かで落とされたりした記憶はありますか?」
伊東「数日前に、役所から出て家に帰るまでの何処かで落としたと思います。」
伊丹「場所絞れないのかよ。」

伊東「その日が会議が夜9時過ぎまで長引いて、非常に疲れていたので。」
モブA「伊丹刑事、取り調べも長時間に及んでいるので今日はそろそろ終わりに。」

卑劣な犯人でも、極端に長時間取り調べを行うのは拙い。後で弁護士が取り調べの違法性
を言い立てる事もある。


喉の渇きを訴えた為、留置室に戻す前に警官が水を持って来た。

水を飲もうと手を伸ばそうとした瞬間、再び伊丹刑事が戻って来た。

伊丹「お前を信じる訳では無いぞ。しかし一応聞いておいてやる。お前が本当に殺人はシロの場合、
当然ながら真犯人がいる。途中で不審な車や人間を見なかったか?」
右京「時間的にすれ違っている可能性も高いですが、向こうは伊東容疑者を当然知っていても、こちらは知りません。
難しいと思いますよ。」
伊丹「そんな事は解っていますよ。」

伊東「不審な車と人を、見たと思います。」
右京「はい?」


亨「本当ですか。なんて運の悪い真犯人なんだ。」
伊丹「適当な事言ってるんじゃねえだろうな?場所と時間を教えろ。」

伊東の説明によると、時刻は午後10時20分頃で場所は、ちょうど青梅市との堺くらいにある山間部から、やや開けた所
に出た辺りとの事。喉が渇いたので脇道に入り、個人商店の自動販売機でジュースを買おうとしたら、不審な人物を
目撃したそうだ。

伊丹「それで相手はどんな奴で、何をしようとしていた。」
伊東「車から白いコンクリートブロック片を、何個か降ろしていました。」

思いもよらない話に仰天した伊丹は、事件の捜査資料を当たるが、当然ながら何処にもコンクリートブロックは
出て来ない。そんな物で被害者を殴ったら阿呆でも他殺とわかってしまう。

伊丹「事件と関係無いだろうが!てめえ俺をおちょく・・・」
芹沢「先輩落ち着いて下さい!」

怒りだした伊丹、何とか芹沢が宥めつつ廊下に出る。

伊丹「何だ何だ?」
芹沢「これって、例の道路に障害物放置した犯人かも知れません?」

伊丹「確かに同じ日の夜の事件だったな?」
芹沢「この手の事件は放置すると、もっとエスカレートしますよ。放火とかも始めるかも?」
伊丹「カーブの先に仕掛けられたら、大事故必至だな。死人も出かねんから放置はできないな。」


伊丹「俺達は送検手続きや、拘置請求の延長とかあるんで一度本庁に戻ります。」
芹沢「後はよろしくお願いします。」

伊丹は、面倒なことは特命に押し付けて帰る事にしたらしい。

亨「ではお許しも出たので、そっちの犯人から捕まえてしまいますか?」
右京「間隔的に、そろそろ次の事件を起こしかねませんからね。」

休憩後、証言を元に似顔絵が作られて数時間後には、身元が明らかになった。
犯人は大学生で青梅市内居住らしいが、現在海外旅行中らしい。

伊東「私が飲み物を買って車で走り出して、数分後に後ろで急ブレーキの音が、聞こえた様な気がします。」
亨「ブレーキ音以外に、何か聞こえなかったですか?例えば人の悲鳴とか?」
伊東「いや急ブレーキの音だけでしたよ。」

伊東は自分の殺人の罪が、晴らされるかも知れないと思い、多少元気になって来たようだ。

亨「念の為に言うけど、殺人罪は冤罪かも知れないが、準強姦罪は冤罪じゃない。」
右京「君は、被害者達3人を脅して無理やり関係を持った、卑劣な恥知らずである事を、覚えておくべきですよ。」

刑事部長室

内村「伊東の犯行(殺人・死体遺棄)に疑問があるだと!」
中園「多少疑念が出ているとか。緻密な犯行ですが、東大出身のエリートが間抜けにも指紋付の証拠を、現場に残してくる
のは確かに不審です。」
内村「エリート官僚でも、犯罪のプロでは無い。ミスを犯す事もあるだろう。」

中園「しかし、元大臣の子息ですから捜査には万全を期した方がよろしいかと。」
よーく考えると、杉下が突き止めた真犯人により冤罪が明らかになった事例は、多数存在する。しかも伊東容疑者は
殺人と死体遺棄が有罪になれば、極刑は免れないだろう。被告の人命が左右される以上、慎重な捜査は必要だろう。

内村「死刑判決の後で、殺人は無罪と判明したら警察の面子は丸潰れだ。」
中園「伊東容疑者は、高校時代よりかなりの女性と関わりを持っています。伊東真と良く似た名前の
18禁ゲームの主人公に、性格や行動が非常に似ているとか。」
内村「つまり、伊東容疑者を恨む女性や妬む男性は多いという事だ。」



記者会見でも、記者達は事件よりも容疑者の過去の女性遍歴ばかり聞きたがるので、正直うんざりしていた。

中園「被害者側に恨みを持っている人物がいないか、やはり調べるべきではありませんか?」
内村「まあ止むを得んな。」

中園「伊丹刑事達に、大洗に行かせますか?」
内村「他にも事件は起きているし、伊東容疑者を恨む女性や男の調査もあるから手一杯だ。そうだ、こういう面倒事
をやらせる為に、特命係が存在するんだ。あいつらにやらせろ。」

直ぐに、杉下右京と甲斐亨に連絡をしようとする中園。


内村「今回の件の判断は、お前がしたという事にしておく。私は知らん。」
中園「・・・・・・・・・」

今日も内村刑事部長は平常運転の様だ。


10月11日 土曜日

右京とカイトは常磐線特急ひたちで水戸駅に到着
鹿島臨海鉄道 大洗鹿島線に乗り換え およそ16分で3駅先の大洗駅に向かった。


大荒駅に降り立つと、戦車道一色になっていた。祝第63回大会準決勝突破とか、目指せ2連覇等の
無数の幟や横断幕で覆われていた。隣接する水戸駅や電車内にもあったが、地元の熱の入れ様は一段と大きかった。

右京「決勝戦応援バスツアーですか。観光バス4台とは豪勢ですねえ。」
亨「1分で完売したそうです。他にも旅行会社が販売している応援ツアーもありますが、ほぼ完売だそうです。」
無論町の中も大洗女子戦車道一色で、視線のやり場に困るカイト。

右京「数年前とはかなり変わってしまいましたねえ。」
亨「旅行で来た事が?」

右京「当時追っていた事件の犯人に、拉致されて大洗近くの海岸に放り出されたんです。当時特命係に居た
亀山君と、数時間大洗に滞在しました。」

その当時は、戦車道は廃止中でフェリーが停泊しない日だったので、大洗はごく普通の港町だった。
平日だったので、町の住民と港湾作業員を除くと神社や水族館に来た、僅かな観光客だけだったそうだ。

右京「数年前は、町の人や大洗自身にもあまり活気は無く、何処にでもある普通の港町でしたね。」
亨「しかし、今は凄く活気に溢れていますよ。町の人々の表情も活力的ですが。」

カイトの意見に対し、少し考えた右京は否定する様に首を振った。


右京「活気とは何か違うと思います。例えるならバブル期の日本ですか。」
亨「バブルってあのバブルですか?」

右京「君はまだ子供だった頃ですから、記憶に無いでしょうがバブル真っ只中の昭和60年代、日本全体が
異様な熱気に包まれていたのです。」
亨「今の大洗はそれと同じ・・・・という事ですか。」

やがて二人は大洗港に着いた。大洗鹿島線の車内から既に見えていた大洗学園艦。学園艦を直に見るのは
初めてではないが、やはりその大きさには圧倒される。

亨「隣の苫小牧行フェリーと比較すると、丸で巨人と子供ですね。」
右京「黒森峰とかはもっと巨大ですよ。昔戦艦の大和と長門型戦艦の陸奥が並んで航行しているのを、見た米軍パイロット
は、戦艦1巡洋艦1発見と報告したそうですが、次元が違いますね。」

二人は港にある事務所で手続きを終え、タラップから学園艦に乗り込んだ。


職員「警視庁特命係の杉下さんと、甲斐さんですね。」
右京「先日起きた、前生徒会の方の事件の裏付け捜査です。」
亨「出来れば、彼女たちと親しい戦車道チームの方からも、事情をお聞きしたいのですが。」
職員「間もなく、戦車道紅白戦が(練習)終わるのでお待ちください。」

二人は展望スペースに出て、戦車道訓練場を望み見た。どうやらハンデ戦をやっている様だ。

右京「数が少ない方に居る、ナチスのⅣ号戦車長砲身型が・・・・西住みほさんの搭乗車両ですね。」


しばらく見ている内に、戦車道訓練試合が終了した。勝者は西住みほ率いる数が少ない方が
見事に勝利を収めた。相手側の乗員からも称賛の声が送られている。


みほ「お疲れ様です。休憩したらミーティングを行うので、各チームの車長さんは1時間後に会議室に来てください。
レオポンさんチームは、整備をお願いします。」
優花里「ありがとうございました。」

忠犬ユカ公・・・秋山優花里の元気な挨拶で、解散となり各チーム談笑しつつ去って行く。

みほ達あんこうチームも休憩の為に戻ろうとしたが、

生徒「西住さーん」
みほ「生徒会の人だ。どうしたんですか?」
華「あそこに男性の方が、2名いますね。」

麻子「一人は、50代半ばくらいだな、大学の教授みたいな感じだ。」
沙織「若い方はイケメンかな?私達の取材かな。」
優花里「いや今日は取材の予定は。」

おりょう「マスコミって雰囲気じゃないぜよ。」

生徒「警視庁から来られたそうです。前の生徒会長さん達の殺人事件の捜査だそうです。」


華「警察の方ですか?刑事さんってもっと大人数で捜査をされるのかと。」
右京「少人数でする事も多いですよ。僕は 警視庁特命係の杉下です。」
亨「同じく甲斐です。」

沙織「特命係って、刑事ドラマみたいに秘密の捜査をする部署ですか?」
右京「特別に命令されれば、何でもする係。雑用係みたいなものです。」
亨「不要になった証拠品を、関係者に返還に行ったり。犯罪相談窓口で電話番したりです。」
麻子「要するに、面倒な仕事を押し付掛けられる部署。大変ですね。」

沙織「甲斐さんは独身ですか?」
亨「独身ですが、結婚を前提に交際している人はいます。」
沙織「::」

みほ「刑事さん達は、生徒会長さん達の事件を調べに来たと伺いましたが。」
優花里「既に容疑者は逮捕されていますよね。つまり解決済みなのでは?」

右京「伊東容疑者は脅して、無理やり関係を持った事は認めていますが。」
亨「実は殺人の関しては、断固として否認しています。」

みほ「そんな!警察はちゃんと捜査をしているんですか!」
亨「落ち着いて下さい。無論捜査は行っています。」
右京「実は伊東容疑者が、殺人を行ったとすると多少不審な点がありました。」

沙織「そうなの?詳しく教えて下さい。」


亨「捜査上の機密だから、教える事は出来ないんだ。」
右京「詳しい事は言えませんが、伊東容疑者は高校時代から女性関係が派手で、結構恨みを買っているんです。」
みほ「捨てられた女性が、恨みで伊東容疑者を罠に陥れたと言いたいんですか?女性一人で、3人も殺害する事は
・・・無理だと思いますが?」

亨「男性の共犯者が、居た可能性も考えられます。」
華「あんな卑劣な男性の為に、そこまで捜査する必要はあるんでしょうか?」
右京「例え、どれほど卑劣な人物でもそれが冤罪であるならば、晴らさねばなりません。」

亨「今のは、容疑者が恨みを他所で買っているという可能性もあるという話だったけど。逆も考えられるんだな。」
優花里「つまり、前会長達が恨みを買っている可能性もある、と言いたいのでしょうか?」
右京「そういう事になりますねえ。」

前会長達3人は、自らを犠牲にしてまでも学園を守ろうとした「悲劇のヒロイン」的扱いを受けている。
角田課長曰く「日本人は、その手の自己犠牲話に弱いからねえ。」となるらしい。事実、3人を非難する意見はほぼ無く
伊東容疑者に対する非難が強まっただけだった。

右京「一緒に戦車道大会を戦った大洗女子チームの皆さん、特に、あんこうチームの皆さんにお伺いしたいと思いまして。」


亨「西住みほさん、貴女は2年前の決勝戦での事件が原因で、戦車道をやるのが辛くなり戦車道が無い大洗に
転校して来た。」
右京「戦車道を履修する様に脅迫し、逆らえば退学にすると脅された。庇おうとした武部さんや、五十鈴さんも退学だと
脅されたそうですね?」


華「私も腹が立ちましたが、そうしないと学園が無くなってしまうという理由があったので、止むを得ないのでは。」
亨「しかし、脅迫は犯罪行為です。学校を守る為にどんな事をしても、良いという事はありえないと思いますが。」
みほ「私も最初はちょっと嫌でしたが、先輩達は本当に学園を大切に思っていたんです。今では本当に尊敬しています。
まるで、悪事でも働いていたように言うのは許せません。」

右京「少し言い方が良くなかったかも知れません。」
亨「戦車道の試合でも、3人はかなり迷惑をかけまくったそうじゃないですか?至近距離から外したり、泣き言を言って
士気を下げたり。」

沙織「あの時は、命中させても恐らく弾かれたってゆかりんが言っていたよ。」
麻子「泣き言は腹が立ったけど、実際戦車の質とかで考えると相手の方が圧倒的に有利だからな。弱気になっても
仕方が無い。確かに士気が下がったけど、西住さんがあんこう踊りで・・」
みほ「麻子さん、思い出したくないよ;;すごく恥ずかしかったんだから」。
麻子「悪かった」

右京「親善試合に負けたら、恥ずかしい踊りを踊らされると言われたそうですが。その点に関しては皆さんはどう思って
いるのでしょうか?」
みほ「恥ずかしかったけど、会長さん達もやってくれましたし。」
優花里「あたふたしながら踊る、西住殿も素敵でしたー。」

華「なかなか楽しい思い出・・・・なのかもしれませんね。」
沙織(決勝戦の後手違いで、あんこう踊りの映像を全国に生中継された恨みは絶対に忘れないよ。)

亨「良い思い出もあるという事ですね。」

ご飯なので失礼します。7時再開予定です。

すまぬ、事情により今日の投下は終了します。
明日夜9時ぐらいに再開します。

では間もなく再開します。


右京「その辺りはまだしも、プラウダ戦はかなり問題では無いでしょうか?」
亨「プラウダの罠に嵌る原因を作った上に、長期戦の準備(食料や防寒具)を怠っていたそうですね。」

麻子「確かにあれは不手際だったとおもう。しかしその後敵の攻撃を引き付ける囮の役をやったりと
充分名誉挽回たる活躍をしたと思うが。」

みほ「そうです。それに次の決勝戦では重戦車マウス相手に、本当に危険な事をさせてしまいました。会長さん達が無事で
本当に良かったです。」
麻子「前会長達を中傷するのは止めてくれ。」

亨「気分を害したのなら謝りますが、捜査上前生徒会長さん達の問題のあった点を無視する訳にはいかないので。」
右京「ご了承頂ければ幸いです。」

優花里(本当はマウスを撃破した後、押し潰されて欲しかったのだけど。そうなったら西住殿の心は再起不能に
なってしまいます。だから事前に細工をしておきました。)


右京「次は西住みほさんにお伺いしたいのですが?」
みほ「何でしょうか?」

みほは明らかに不機嫌そうだ。

右京「僕が質問したいのは、うさぎさんチームの事をお聞きしたいのです。」
暗い表情を浮かべるみほ。

亨「風紀委員チームは卒業なので、解散は当然です。自動車部は整備に専念する為に、Pティーゲルも欠陥兵器
なのでこれも解散は止む無し。ネトゲチームは、全く素人だからこれも解散は止む無し。」
右京「三式は本来5人乗りですから、3人での運用は困難でしょう。車体も一式に75ミリを載せただけなので、脆弱です。」


右京「1年生チームは、最初は戦車から逃げ出した程でしたが大会が進むに連れ急成長しました。」
亨「決勝戦では、ドイツ製のエレファント駆逐戦車や、ヤークトティーゲルを撃破していますよね。
そこまで成長したのに、なぜ引退してしまったんですか?」
右京「次代の大洗女子チームを、充分に率いていけそうな気がするのですがねえ。」

みほ「大会から数か月後に、引退したいと言われました。」
沙織「私の所に梓ちゃんが、相談に来たんです。皆で戦車道続けられないから引退したいと。」
華「乗員数の問題だそうです。」

優花里「新しい戦車に変えようとしたんですが、乗員が6人の戦車って少ないんです。多くても5人でして。
つまりどうしても一人余ってしまうんです。」
右京「それは盲点でした。確かに全員で続けられないのなら、辞めたくなるかもしれませんねえ。」

麻子「新しく入ってきた子達は、全員戦車道のプロだから自信が無くなったとも言っていた。」
亨「引き止めなかったんですか?」

みほ「無論何度も引き留めようとしました。でも決意が固くて無理でした。」
亨「そうだったんですか。悲しい事を思い出させてしまい申し訳ありませんでした。」

その後いくつかの質問行い、お開きになろうとした時、

右京「最後に一つだけお聞きしたい事があります。」
みほ「もう直ぐ、ミーティングが始まりますので手短にお願いします。」


亨「皆さんの大会の映像をDVDで見ました。本当に凄い戦いでした。特に準決勝・決勝戦は凄かったですね。」
右京「プラウダ戦で、敢えて敵の正面に突入した所は、非常に驚きました。」
沙織「もっと誉めてカイトさん!」
みほ「皆の諦めない戦いで見事に逆転したんです。」

右京「教会から出て来た時、貴女達の戦車には1発も命中しなかった。実に凄いですねえ。」
華「どこかおかしい所でも。」
亨「納得できない点が多少あります。敵は圧倒的に有利な体制だったからです。」

右京「君達はいきなり飛び出した訳ではありません。プラウダ側の軍使に対し降伏しないという事を伝えた後で、
飛び出した事になります。」
亨「それに今の車と違い、戦車はとても大きな駆動音がするよね。敵が出て来る事は容易に判る筈だ。」

右京「教会が、前後左右に入り口があるのならともかく正面にしかありません。」
亨「プラウダとしては、入り口に主砲を向けて準備しておけば良いわけです。戦車の音を合図にして。」
右京「一列で出て来たのですから、これほど楽な事はありません。」

優花里「プラウダ側は油断していたと思います。それにソ連の戦車は主砲の精度に問題が。」

右京「存じています。しかし油断があっても、プラウダ側は皆さんより経験は豊富な筈です。1発の有効弾も無いとは、俄かには信じられません。」
亨「それに大洗の戦車は、小型のも多い。命中しなくても至近弾でひっくり返る危険も多いけどそれも無い。」

みほ以外全員顔が引きつっている。

右京「皆さんは幸運に恵まれたのでしょうねえ。」


その後右京達は去り、みほはミーティングに向かった。

沙織「あの二人やばく無い?」
優花里「警視庁特命係 警視庁の陸の孤島人材の墓場」
麻子「窓際族か、さっきのもただの因縁だな。」
安堵する沙織と麻子

華「本当に窓際なら、辞めさせればすむだけです。」
沙織「ちょ、まさか!」
優花里「杉下右京と相棒の特命係刑事は、今まで数々の難事件や、迷宮入り事件を解決して来てるんです。」
麻子「全く名前を聞かないぞ。」


華「上層部に妬まれていて、功績は全て捜査一課の功績にされてしまうんです。」
麻子「まずいな。」
優花里「私達を疑っていると思います。」
沙織「ゆかりんの戦車道試合の裏工作も、感付いている感じだね。」

麻子「甲斐亨の父親って、警察の確か……」
華「警察庁次長の甲斐峯秋氏です。」
沙織「かなり強力な後ろ盾が居るんだね。ますます厄介なんじゃ。」

優花里「実は親子関係はあまりよくないそうです。警察から辞めさせたがっているという噂も。普通の仕事をさせて、
平穏な人生を送らせたいと考えているのかも。」
華「後ろ盾にはならない可能性が高そうですね。」
優花里「いざとなったら、私が狙撃して消しますから安心です。」


優花里は狙撃手としての訓練も受けており、優秀な成績を誇る。
狙撃手は単独で行動する事も多く、敵の憎悪を買うので基本ぼっちである。
ゆかりんには天職・・・・ガチャ


右京とカイトは、町中(学園艦の)に出た。

右京「どう思いますか?」
亨「被害者側は、功罪相半ばする感じですね。戦車道を復活させ見事、優勝への道を開いたり、
後半戦での活躍は大きかった。」
右京「しかし、無理やり脅して戦車道を取らせたりかなり問題も多い。それに今年の新入生や転入生は、資産や
戦車持ちの人が優先されています。」
亨「広報用に、外見で選ばれた子もいますね。自衛隊も女性自衛官を宣伝に使用していますから、一概に
非難する事はできませんけど。」

右京「米沢さんに借りて見た、去年の大会の映像と今日見た練習試合を比較して、何か感じる事はありましたか?」
亨「錯覚かも知れませんが、去年の大会の方が皆良い表情をしているように見えました。さっき見た試合では、
みんな目だけがギラギラとしてました。みほさん以外はですが。」
右京「・・・・・・・・」

亨「あれ、おかしいこと言っちゃいました?」
右京「いいえ、全く同感ですよ。」

その後学園艦市街地に向かう二人。コンビニや理髪店(ゆかりんの実家)等様々な設備がある。


生徒「警察の方ですか?」
亨「警視庁特命係の甲斐と言います。」
右京「貴女は、旧うさぎさんチームとは仲が良かったと聞きましたので。ああ、僕達は前生徒会長さん達の
事件の捜査をしています。」

前生徒会については、これといった事は聞けなかった。接点と言えば、全校集会と戦車道試合の映像を見たくらいである。

亨「うさぎさんチームは、全員もう学園にはいないみたいだけど何か不審な事とかなかったかな?何か相談されたとかでも
良いよ。」
右京「直接無くても、誰かから噂を聞いたとかでも構いませんよ。」

生徒「あゆみとあやの実家は、6月の災害で破壊されてしまって直ぐに学校を辞めました。他のメンバーもショックだったのか、
夏休みの間に家出をしてしまって・・・・・」
亨「戦車道止めた途端に、不幸続きか。家出したくなるのもわかるなあ。」

右京「どうもありがとうございました。」

その後職員室に向かう二人。バレー部の顧問(形式だけ)を呼び出してもらった。

右京「バレー部員の皆さんは、なぜ退学してしまったのでしょう?」
顧問「ご存知かもしれませんが、一昨年の不祥事が明らかになって、バレー部の復活が中止になった事が
原因だと思います。戦車道も辞めてしまっていましたし。」
亨「当人達は関与していないのに、なぜ自主退学までしたんでしょうか?戦車道に復帰するという選択肢もあったのでは?」


顧問「多感な時期ですから、色々あると思います。」
亨「それと、一時期バレー部への入部希望者も数名現れたそうですね。」
顧問「そうです。優秀な旧バレー部チームの実力に憧れて希望したんでしょう。しかし、不祥事に流れてしまって残念です。」

右京「嘘はいけませんよ。」
顧問「嘘とはどういう意味ですか?」
亨「俺達が、何も調べずに来ていると思っていませんか?」

右京「対戦した高校の監督さんと、僕は友人でして。残念ながら磯部さん達のレベルは非常に低い・・・」
亨「中学生程度のレベルしか無いとの事でした。彼女達のバレーに憧れて、入部希望者が出るとは思えません。」
顧問「確かにそうです。」

顧問は渋々認めた。入部希望者に人に話を聞きたいと聞いたら、詳しく知らないという答えが返って来た。

亨「少し無責任過ぎるのでは無いですか?」
顧問「本当に知らないんです。入部届は磯部さんが預かっていた上に、全校集会で部活復活を発表するまで、
秘密にしておきましょうと言われて。」
右京「その直前に、週刊誌が一昨年の暴力事件を嗅ぎ付けた為に、復活も中止になったのですね?」
顧問「はい、そろそろ午後の授業が始まるので失礼します。」

顧問は慌てて職員室を出て行った。その後バレー部が練習をする時は、体育館の扉に鍵が掛けられていた事も判明した。
正式発表まで秘密にするのが目的で、バレー部希望者による提案だったらしい。(バレー部同級生の話)

バレー部希望者の素性は、全く不明である。


亨「素性を秘密にするのが目的だったとしか思えませんね。」


その後右京と甲斐亨は、定期運搬船に便乗し本土に戻った。

数時間後二人は、小美玉市と笠間市に現れて山郷あゆみと大野あやの実家近くで聞き込みを行った。
既に災害被害を受けた地区の、破片等は多くが処理されていたが、一部のビニールハウス等は
骨組みだけが残されていた。

竜巻被害を受けた両家は、程なくして姿を消してしまって誰もその行き先を知らなかった。市役所に行ってみたら、
住民票はそのままなので、全く解りませんという回答が返って来た。

その後二人は、再び大洗や水戸市に移動に移動、残りのうさぎさんチームやカメさんチームの実家を訪ね
家族から、事情を聞いた。

前生徒会メンバー3名は、急に落ち込んでほとんど会話をしたり、休日に外出したりする事も無くなった。
入学が決まっていた、大学も入学を辞退した。

亨「殺害される2週間前ほどから、小山柚子さんも急に憑き物が落ちた様に、吹っ切れた表情を浮かべる様になったそうです。
家族に何も事情を話さないという点は、変わらなかったそうですが。」
右京「角谷杏さんも全く同じです。その後数度二人は連絡を取り合っていたそうです。ご家族はそれを回復の前兆
だと考えたそうですが。」
亨「何かやろうとしていたんでしょうか?それを察知されて先手を打たれた?」

右京「刑事課は、脅迫されて逆に殺されたかもしくは、被害者側が復讐を目論み呼び出したが、逆に返り討ちにされたと
考えているみたいです。」


その日は一度東京に戻り、翌日水戸近辺に住むうさぎさんチームの実家を訪れ、家族に話を聞いた。
戦車道を辞める事になって落ち込んでいた事は、家族も知っていた。

親「そういえば、少し高いアクセサリーを買って来た事がありました。」
右京「いつ頃の事でしょうか?」
親「11月の・・・・・終わり頃かと」

亨「問い質したりしなかったのですか?」
「聞いてみました。そうしたら、戦車道全国大会で優勝したから、アウトレットの店が優勝祝いに全員に、配ったらしいです。」
右京「店に確認してみましたか?」
親「電話をしてみたら、間違いないと言われました。」
亨「どうもありがとうございました。」

アウトレットに向かった、二人は件の店長の人柄を聞いてみた。

店長「あの人ケチだからなあ、そんな高い物プレゼントするわけないと思うよ。」
右京「しかし、戦車道後援会の中に名前がありましたよ。」
店長「名前が売れるからじゃないですか?いずれ東京に出店したいと、飲み会で聞かされましたから。後援会費
だけ払って、後援会の集まりには行って無いと思いますよ。」
亨「優勝祝いに、宣伝を兼ねて気前よくプレゼントしたのですかね?」

店長「新聞チラシ広告に、テレビCMもやってますよ。そこまでやる必要はないと思いますが。やるなら、
ケーブルテレビCMに、大洗女子チームを出せばよいわけですからね。」


亨「誰かに言われて、アクセサリーを全員に配布させられた事にした。そうなるとそれを指示した人間が居る筈です。
問題は、それが誰で目的は何なのか?」
右京「本当は、彼女が実際に購入した場合・・・そのお金は何処から出たのでしょうか?」

件の店長からも話を聞きたかったが、折しも友好都市に視察旅行に出ていて不在だった。

亨「何処かの大企業や資産家の御曹司が、彼女に惚れてしまってプレゼントした?」
右京「無くは無いですが、それなら正直に母親に告白すれば良い訳で、こんな隠蔽をする必要もありません。」
亨「こんな隠蔽が、彼女にできる筈もありませんしね。」
右京「それに、気になる事がもう一つあります。旧1年生チームバレー部チーム及び、風紀委員チームの失踪は
角谷杏さん達の殺害事件と繋がりがあるのでしょうか?」



同時刻 ゆかりんハウス


沙織「あの刑事さん達、未だ大洗で調べ回っているらしいよ。」
優花里「大洗だけじゃなく、笠間やひたちなか市にも表れて旧うさぎさんチームや、アヒルさんチームの事を
調べて回っているらしいです。」
華「始末してしまいましょうか?」
沙織「今は、止めておいた方が良いかも。」

麻子「沙織何故だ?脅威だと思うぞ?」
沙織「去年と違い、今年は大洗は非常に注目されているよ。去年はまさか誰も大洗が優勝するとは、思わないから
注目される事も少なかったけどね。」
華「今年は最初から、地元のみならず海外からも注目されている、という事ですね。」
優花里「マスコミの取材も多いから、迂闊な行動は命取りですよ。」


優花里「録画放送や、雑誌取材なら知られてはいけない事を、知られても対処する時間はあります。」
麻子「生中継なら、どうにもならないな。」

エリカさんと同じ中の人みたいに、瞬時に全国民に自分の素性を知られてしまうのと同様の事態になるだろう。

華「今は決勝戦に向けて、集中すべきという選択肢もありますが。」
優花里「特命係の二人も、何か確証があって動いているわけでは無さそうですよ。」
沙織「今年も黒森峰が相手だけど、準備はどうゆかりん?」

優花里「もちろん順調ですよ。敵の情報も完全に入手済みです。」
麻子「秋山さんのお人形さん達が居るから、まあ負けないだろう。」


華「でも、一方的に私達が勝ってしまうのも拙いですね。ある程度的にも花を持たせないと。」
優花里「そこの調整が難しいですよぉ。味方にも撃破車両を出したり、フラッグ車が窮地に陥る展開も必要です。
やりすぎも禁物ですが。」
沙織「黒森峰の乗員も、全員が裏事情を知っているんじゃ無いから、気を付けないとね。」

麻子「共犯者を増やし過ぎるのも、秘密が露見する危険が増すだけだからな。」
沙織「事情を知らない黒森峰の生徒の戦車を、優先的に撃破したりフラッグ車に近付けない様にする工夫も、
必要になって来るね。通信士の腕の見せ所だよ。」
優花里「武部殿の自信たっぷりな、お姿に惚れ直しそうです。」

麻子「意図せぬ流れ弾で、フラッグ車が不運にも撃破される・・・・これは不可抗力だから仕方ないな。」
優花里「無論その相手戦車の砲手はステキな地下に、ご招待しますよぉ。」
華「また花器が増えるかも。素敵な方だと嬉しいですわ。」


獲物を狙うハンターのような表情を浮かべる優花里と、妖艶な笑みを浮かべる華。

沙織「直ぐに暗殺が無理なら、警察に圧力を掛けて捜査を止めさせるというのはどうかな?」
華「それは逆に危険です。逆効果になりかねません。」
沙織「圧力とかに屈しない感じだね。カッコイイけど困るよね。事件解決しまくっているから、
クビにさせるのは難しいんじゃないかな。」

麻子「人事異動で、二人ともどこか飛ばしてしまうというのはできないか?」
優花里「一時特命係が解散した時は、杉下警部は警察学校の教官、もう一人の刑事は、自動車学校の職員に飛ばされたそうですよ。」
華「甲斐刑事は何処か事務方・・・杉下警部は、踊るの室井管理官みたいに、どこか他所の県の警察署に栄転させてしまうとか。」
沙織「華、何か問題があるの?」

華「流石に即日とか数日中に、飛ばすというのは無理だと思います。」
優花里「事前の通知期間とか、手続きとか有りますから最短でも・・・・・来月1日以降になると思います。」
麻子「しかし、現職の刑事を始末するのは、リスクが大きいのも事実だ。」
沙織「対処の一つとして、検討の価値有だね。」

沙織「刑事部の内村部長と中園参事官って、何か弱みとか無いの?」
華「この二人は、無能が服を着て歩いているという表現がぴったりですわ。」
優花里「特命係に対し、威張り散らしているくせに事件が解決すると手柄を全部奪うという、まさに屑ですよぉ。」
麻子「それはさすがに酷いな。だからこそ秋山家や五十鈴家・・・西住流が暗躍できるのだろうけど。」

華「しかし、問題もあるわけです?」
沙織「性格に問題しか無いと思うよ。」
優花里「二人ともバカだけど、弱みが無いんですよ。」


優花里「公金を着服してるとか、不倫をしているとか一切無いんですよ。」
華「大きな借金も無いみたいで、家族関係もかなり良好みたいです。」
麻子「バカだけど、家庭では良いお父さんなんだな・・・・・」

両親を、小学生の時に交通事故で失っている麻子は複雑な表情を見せる。

沙織「まさか、お前が無能だという事を世間に公表するぞと脅す訳にも。」
麻子「開き直りそうなふてぶてしい顔だな。」
華「特命係の手柄を全て奪っている事は、脅しに使えませんか?」

優花里「それも難しいですよぉ::」
沙織「悪い事じゃないの?楽をして手柄を上げるなんて!」

これがニコ動なら、お前が言うなという米が飛んで来る所である。

優花里「殺人とか、強盗事件を捜査するのは捜査1課です。でも特命係が配置されているのは、組織犯罪対策課の下なんですよ。
こちらは主に、ほむほむ使用武器の調達先が捜査対象です。」

主に違法薬物の売買や、拳銃の密輸・・・更にヤミ金融等も捜査対象で、特命係も捜査に参加する事もある。

華「特命係は本来、殺人事件の捜査をすることは出来ないのですね。勝手に捜査をしている。」
麻子「薬物事件絡みで殺人が起こる・・・・という事が無い限りはダメなんだろう。」
沙織「だから、手柄を奪われてもあまり文句は言えないって事だね。それに、あんまり出世とか関心無さそうだね。」
優花里「大事なのは真実・・・・ドラマの話なら素直に尊敬できますが、敵としては最も危険な相手ですよ。幸い
未だ重要な情報は手に入れていないから安心ですよ。」


麻子「真相に万一近づいたら、秋山さんが抹殺。長期化したら人事異動で飛ばさせるという事だな。」
華「狙撃するにしても、やはり決勝戦の後になりそうですね。」
沙織「優勝したら2連覇でモテモテだよ。万一準優勝でもマスコミの取材とか多そうだから、数日は待機だね。」
優花里「武器の準備は数日時間がかかりますよ。分解した状況で釣竿などに偽装して運び、直前に組み立てます。」

これはゴルゴ13なども使う手段である。釣竿やゴルフクラブに偽装(分解)して、税関をすり抜けてホテルの自室で組み立てて
狙撃。

沙織「それに流石に、みぽりんの誕生日を血で穢したくはないよ。それに、サプライズパーティーの準備もあるし。」
華「始末するとしても、25日以降ですね。」
優花里「大会の疲れと、西住殿の誕生日パーティで浮かれ過ぎて疲労で風邪を引いたという口実で、学校を休んで
密かに本土に渡航して、杉下右京を狙撃します。真相に彼らが近付いて来た場合ですが。」


麻子「その場合は、甲斐刑事もか?」
優花里「基本そうなりますが、別行動の場合は杉下右京だけで良いかも知れませんね。甲斐次長は息子を
警察から辞めさせたいらしいので、直ぐに何処かに飛ばすでしょうから。」

沙織「本当は誰か、脅しに使える弱みが有ればいいのだけどなぁー::」
華「ある人は、居ますけど・・・・・特命係に圧力を掛けられない部署の人なので・・・・」
優花里「私が狙撃するので、問題ないです。」

ビシッと敬礼する優花里。

華「居ないかなぁ・・・・」
麻子「幹部となると、そもそも対象の人数が少ないからなぁ。」


華「居ませんか?幹部に同性愛者とか。」

麻子「居る訳ないだろ!男を好きになる事は、悪い事でしょうかだと、悪いに決まっているだろ。ウップ・・・・
五十鈴さんのせいで、気持ち悪い物想像してしまった。」

キモイ場面を想像した麻子が、吐き気を感じてトイレに駆け込む。

沙織「華ー、あんまり変な漫画とか読み過ぎない方が良いよ。」
優花里「警察の幹部に、ガチが居たら国際的信用に関わりますぅ。だからありえませんね。」


同時刻警視庁


ラムネ「おや、今誰か私の噂をした気がするが・・・・気のせいか。」

ラムネ菓子を口に放り込みながら、茨城沿岸の方向を眺めているラムネ好き幹部が居たが、当然優花里達は
知る由もない。


内村「つまり大洗女子校の卒業生や、元在校生が何人も失踪しているのか。」
右京「捜査をすべきではないでしょうか?」
内村「この中で、誰か死体で発見されたとか、それとも犯罪を犯して逃走中というのは居るのか?」
中園「その様な報告は・・・・犯罪に関しては、旧1年生チームは援助交際等の、違法な手段で
金を入手していた形跡があると・・・・。」

内村「しかし、確証は無い。第一これは茨城県警の事件だ。口出しをする事は許されない。殺害されたという明確な証拠
でも無い限りはな。地元警察も、失踪人として捜査はして居る筈だ。」
中園「援助交際疑惑も確証は無く、そもそも少年課辺りが扱う事件だ。」

内村「茨城県警も、あくまでも失踪事件として扱うそうだ。しかし、失踪から半年~2か月は経過している。防犯カメラの映像も
かなり消去されてしまっているだろう。足取りを掴むのは難しいだろう。」

中園「元生徒会の被害者に対して、動機がある生徒は居たのか?」
亨「あんこうチームでは、敬意を持っているのは、おそらく西住みほだけだとおもいます。」
右京「他のメンバーは、間違いなく反感を持っています。」

二人は、前生徒会3人の問題ある行動や失策を報告した。

中園「確かに被害者3名は、かなり問題ある行動が多いな。至近距離から砲弾を外すのは止むを得ないとしても、防寒具
や食料の用意を怠ったのは、大きな失策だな。」
内村「戦車を捜索した時は、自分達はなにもせずにおやつ食べていただと。それでは、反感や怒りを持たれても仕方ないな。」

亨(あんたらが言うなよ)


亨「一番問題なのは、敵に誘い込まれて包囲された時の事です。暴走したのは、旧1年生チームと生徒会です。」
内村「教会に逃げ込んだのか。」
右京「この時、鷹揚にプラウダ側が3時間の猶予を与えたので、敵を偵察する等して、態勢を立て直すことが出来ました。」

亨「しかし、もしプラウダ側が一気に突撃して来ていたら・・・・・」
中園「教会の建物諸共押し潰されていた・・・・・」
内村「車体は、特殊なカーボンで覆われていると聞いた事があるぞ。」
右京「それは確かにそうです。しかし、それにも限界は当然あります。」

亨「瓦礫に塞がれれば、車体は無事でも空気の取入れが不可能になり酸欠状態なっていたと思います。」
中園「重傷者どころか、多数の犠牲者が出ていたとしてもおかしくないな。」
右京「更に、まともな防寒具の準備すら怠っていました。最早戦闘以前の問題かと。仮に欧米の軍隊で、本当の戦争なら
更迭・予備役編入の上、場合によっては軍法会議もありえます。」


中園「確かに、怒りや恨みを買われても仕方ないですよ部長。県警に合同捜査を検討してみた方が・・・・」
内村「しかし、結局試合には勝利しその後決勝戦で勝利している。準決勝で敗れるか、仲間が重傷か死亡でもしたのなら
復讐もありえるだろうがな。」
中園「大洗女子は今や、数年前の廃校危機が嘘の様に繁栄しているそうじゃないか。それに、後数日で二連覇を掛けた決勝戦
が有る筈だ。この時期に、殺人などリスクの高い事はやらないんじゃないか?」

亨「実は、大洗女子の存続判断は今年の大会の成績次第だという意見もあると、兄から聞きました。」
右京「第63回大会の勝利は、対戦校の油断による要因が大きい。確かに、そう考える官僚が居ても異常ではありません。」

内村「だからこそだ。こんな大事な時期に危険は犯さんだろう。それに、戦車道は優秀でも普段はただの女子高生ではないか。
事件が起こせるような、能力はあるまい。」


中園「1年生チームや、風紀委員会チームが地元商店でのアルバイトで店へ迷惑をかけた件だが、確かに失踪している
チームの行動は、高校生の常識とは思えないな。特に旧1年生チームは。」
内村「しかし、店が潰れたとかいう訳でも無いのに制裁やら、まして命まで取ろうと考える女子高校生が居る筈が無い。
常識的に考えるんだ。」

中園「それと、奥多摩で道路に障害物おいていた奴が出頭した。お前達も、捜査していただろう。
言って確認してこい。」
内村「以上だ。」


廊下

亨「珍しく反論しなかったですね。」
右京「流石に、あのアルバイトだけで戦車道を共にしている、仲間たちを制裁したり殺そうとするという可能性は、
無理がありますからねえ。」
亨「そんなんで殺されていたら、人類滅亡ですよ。まぁ、旧1年生チームの行動は常識が無いと言われても
仕方ありませんが。」

亨「それと、例の障害物放置事案ですが・・妙な事に被害がほとんど出ていないですね。」
右京「君も気付きましたか。障害物が放置されていたのは、殺人事件の夜以外は夜間まず誰も通らない、農道や
畦道だけでした。朝になって発見され回収されています。」

亨「愉快犯なのでしょうか。建設会社の作業車両への妨害行為も、人的被害は出ていませんし。」
右京「しかし当日は、国道に敷設してありました。エスカレートしたとも考えられますねえ。」


午後 青梅警察署 署長室

署長「久しぶりだな!杉下。相変わらず事件解決しまくって、上層部から睨まれていると聞いたぞ。」
右京「海音寺署長も、お元気そうで何よりです。」
署長「何か昔と変わっている様に見えるか?」
右京「麹町東署署長をなされて居た時より、自然な表情をしておられるように見えます。」
署長「ま、俺もいろいろ思う所があった訳よ。」

海音寺署長(竹中直人)が、麹町東署の刑事課長を勤めていた時、特命係廃止を目論む警察上層部が、
当時の特命係亀山薫を、麹町東署に左遷させた事があった。(相棒シーズン3第1話~第5話)右京は上層部により
免職の一歩手前だった。そんな折、政界を揺るがす殺人事件が起き、薫と右京が密かに捜査に乗り出した。

海音寺課長は、二人の捜査を黙認する代わりに麹町東署特命係を作り、二人を引き抜いて専従捜査員にする
計画を立てた。二人に事件を解決させて、出世の糸口にしようとしたのだろう。
無論この計画は、麹町東署長と小野田官房長(岸部一徳)により阻止され、右京達は元の特命係に戻った。

海音寺も、上層部に目を付けられてしまいエリートコースからは外されてしまう。
しかし、窮地に陥っても真実を求めて捜査を続ける特命係を見て、思う所が有った様だ。

署長「月並みな表現だが、警察官として初心に帰った訳だ。しかし、そうなるにはもう一つの出来事があった。」


署長「杉下と亀ちゃんが、警視庁に戻って一月ほど経過した頃、趣味の夜釣りでここを訪れた。」
しかし、偶然遊びに来ていた小学生3名が不明になる事件に遭遇。無論海音寺も、町の住人
や警官と共に、捜査活動に参加した。

数時間後、3名は川沿いの古い倉庫の中で無事に発見された。入り込んで鍵が壊れて閉じ込められたらしい。
3名は電気も無い中、励ましあいながら助けが来るのを待っていた。

小学生1「泣いてないよ。怖くないよ。」
署長「真っ暗な中よくがんばったな。お巡りさんが助けに来たからもう大丈夫だ。心配ご無用ってな。」
小学生2「もっと早く助けに来てよー」
小学生3「よしよし、桃ちゃんはよく頑張りました。」


亨「警察官の本分は、犯罪者から一般市民を守る事・・・・理解していますが、殺人事件とか追っていると、
時々忘れそうになってしまい・・・・ん、桃ちゃん?」
右京「今回の事件の被害者3名の中の一人、河嶋桃さんでしょう。」

大きく頷く海音寺署長 

署長「最初に一報が入った時、何かの間違いだと思ったよ。」
右京「署長は、伊東が殺人を実際に行ったと考えておられますか?」

署長「最初は奴が犯人だと思った。殺人や強盗の様な凶悪事件の被疑者は後進へのアドバイスも兼ねて、俺が立ち会う
事も有るんだが、今回は奴と対面したらぶん殴りかねないので直接は対面していない。マジックミラー越しに見ていたんだが、
奴は、脅えている様に感じた。」


亨「確かに、不意の物音に異常に反応していましたね。ドアのノック音とか、捜査員がボールペンを床に
落とした時の音とか?」
右京「見えない相手に、脅されているのかも知れませんね。」

署長「順当に行けば、真犯人という事になるかな。殺人が冤罪だとしてだが。」
亨「しかし、伊東容疑者女関係多過ぎですよ。そっちからの脅迫で事件とは無関係の可能性もあります。」
右京「今の所、伊東容疑者を恨んで居そうな女性数名を調べましたが、殺人を犯してでも伊東容疑者を
破滅させたいという、動機はありませんでした。」

署長「殺人となるとリスクが大き過ぎるからな。露見したらまず死刑は免れない。」
亨「それに、被害者3名と伊東容疑者との関係を知る方法があったとは思えません。」


その時、内線電話が鳴り障害物放置犯の取り調べが終わったとの連絡が来た。

署員A「犯人は18歳の男子大学生です。動機は、交際相手に別れを切り出されてむしゃくしゃしてやった。
との事です。」
署長「カーブの先なんかに仕掛けやがって!観光バスでも突っ込んでいたら大惨事だったぞ。」

亨「被害者は出ていないのですか?」
署員B「カーブの先で、夜間でしたからね。安全運転で幸いしましたよ。もっとも相手も通報せずに
行ってしまったみたいですが。ブロックの破片は道の外に出してくれたみたいですね。」

亨「建設会社の機材パンクさせたのも、同一人物だと思いますか・・・・・あれ、杉下さんは?」

杉下右京は何かを確認している。


右京「角田課長からメールが、特命係宛てに何か荷物が来たそうです。念の為、危険性の有無を
米沢さん達と調べているそうです。」
亨「送り主は・・・・」

10分後

亨「どうもありがとうございました」
署長「何かあったら連絡してくれ。」

一礼して帰る特命係 

署長「頼むぞ特命係、彼女達の無念を晴らしてやってくれ。」

今日の投下は終了します。ありがとうございました。
続きは明日午後5時の予定です。

では再開します。


花の里 

月本幸子「未来ある子を、3人も[ピーーー]なんて許せません。」
右京「角谷杏さん達は、かなり強引に学園を運営してした上に、方法も適切ではありませんでした。
しかしそれが、殺害を正当化する事はありえません。」
亨「同感です。早く真相を掴めれば良いのですが・・・・・今、思い出しましたが幸子さんの故郷に
戦車道の強豪校が在りましたね?今はあまり上位に残らないそうですが?」

幸子「正確には隣の県です。私の同級生も何人か受験しましたけど、レギュラーになれたのは一人くらいです。」
右京「最近はあまり上位に残れませんが、昔は上位常連校だったそうですよ。」
亨「誰か凄い選手とかいましたか。」

幸子「3回連続で決勝戦まで行ったのですけど、3回とも勝てなかったそうです。2年生の時は副隊長・・・・3年の時
隊長だったのですが、やはり勝てなかったそうです。」
亨「相手は何処だったんですか?」


幸子「確か九州の・・・・黒森峰とかいう高校です。隊長の名前は西住・・・・・・・しほさんとかいう人でした。」
右京「西住しほ、西住流当主で大洗女子の西住みほさんの母親ですね。西住流が相手ではさすがに優勝は厳しかった
でしょう。」
亨「でも、準優勝でも凄いですよ。その隊長の方は、今頃戦車道連盟辺りで理事でもされているんですかね?」

幸子「戦車道はスッパリ断念してしまったそうです。そもそも親には反対されていたみたいで、お父さんは外務大臣だった方です。」

亨「外務大臣!って事は、戦車道辞めて2世議員として議員に?」
幸子「お父さんが引退された後に、衆議院議員になられました。名前は片や・・・」


ガラガラッ

右京「おや伊丹さん?」
突如伊丹刑事が花の里に入って来た。かなり疲れている様だ。しかも何かメモの様な紙を持っている。

亨「どうされたんですか?その紙はもしや?」
伊丹「解けません・・・・・・」
伊丹は、紙をカウンターの上に残すと直ぐに出て行った

倉庫から発見された角谷杏の筆跡による暗号・・・どうやら伊丹達捜査一課は解読できなかったらしい。

亨「これ本当にメッセージですか?紙はかなり古いですよ。昔暗号ゲームでもした時に書いたのでは?」
右京「いや、米沢さんはごく最近書かれた可能性が高いと言っていました。」

考えるが、答えは出て来ない。もしかするとこれも犯人に脅されて書かれたのかもしれない。
捜査をかく乱する為の細工かもしれない。


翌朝 特命係室

亨「犯人の隙を見て、この紙を例の隠し扉付箪笥に隠したのでしょうか。」
右京「幸運にも、犯人が僅かに目を離したのでしょう。」

紙片は、縦に折り目が入れられている。右京が箪笥から見つけた時には折られた状態で、見つかった。
折り目が中央部よりややずれている。恐らく、犯人が戻って来たので急いだのだろう。

左には、ejef neobu ootno tnmanoa の順で書かれている。
亨「右には数字で992、更に隅に小さく4の数字が。」
右京「これらは、犯人を示しているのでしょうか。最初の遺書・・・2という数字だけ書式が違ったいた点も、
気になりますが。」」

亨「もしくは、これも脅されて書かされたかですね。」
右京「捜査を混乱させる為に、充分に考えられますね。」


米沢「おはようございます。」
右京「おはようございます。」
亨「おはようございます。」

米沢「昨日警部殿に届いた荷物Dですが、ウィルスとかの類では無さそうです。」
右京「中身は何だったのでしょう。」
米沢「流石に先に見るのも、どうかと思いまして。」

亨「今から確認しますか、時間には・・・・まだ余裕があります。」
右京「そうしましょうか。」
しかし、米沢の携帯にメールが。

米沢「品川区で、死後数日経過した他殺遺体発見だそうです。しばらくお預けになりそうですな。では!」


水戸市 五十鈴家 

亨「ここが五十鈴家の本家ですか。かなりの邸宅ですね。」
右京「江戸中期から続く名家で、水戸徳川家に華道や芸事の指導を行っていたそうですよ。」

昭和20年8月2日に、水戸はB-29 160機の無差別爆撃を受け市街地の80%以上が焼失するも、この一帯は
奇跡的に焼失を免れたらしい。
亨(まさか、霞が関や永田町みたいに故意に空襲の対象から外したんじゃ?流石にそれは無いか。)

インターホンを鳴らし、来訪を告げる。応答の後数分して女性が出てきて二人を応接室に案内する。

右京「警視庁特命係の杉下です。」
亨「甲斐です。」
新三郎「当家に仕えている新三郎です。当家にどのような御用でしょうか?」

右京「実は、大洗女子の関係者や元在校生がかなりの数に渡り家出等で、消息不明になっています。」
亨「消息不明になった子をどこかで見かけたとか、誰かから噂をお聞きになったとか・・・些細な事でも構いません。」
右京「それとご当主はどうなされましたか?」

新三郎「実は4月の終わりに、交通事故で重傷を負い現在療養中です。」
亨「そうだったんですか」

無論事前に調べてある。出先から帰る際に危険ドラッグを吸引した男が、車を信号待ちしていた車列に突っ込ませ、
重傷者2名と軽傷者4名を出していた。加害者は外国からの留学生で、既に懲役10年の実刑判決が確定し、
交通刑務所に服役している。五十鈴百合は治りが思わしくなく、未だ療養とリハビリ中で五十鈴家の催事
は華が当主代行として切り盛りしている。


10月14日(2日前)

角田「おーい、調べておいたぞ。」
右京「どうもありがとうございます。」
角田「この前密売団潰すの手伝ってくれただろ。そのお礼だよ。」

角田「プラウダ高校のノンナとカチューシャ、黒森峰の副隊長逸見エリカ・・・・入院していた奴らは、全員ある共通点があった。
何だと思う?」
右京「さしずめ・・・・大洗女子チーム、正確には西住みほを誹謗・中傷していたではありませんか?」
角田「おっ、さすがだねー。」

亨「カチューシャさんと、ノンナさんも酷いですが、逸見エリカさんも相当酷い事を言ったみたいですね。それもまあ、
公衆の面前で。」
角田「大洗の様な弱小校だと、貴女でも隊長になれるのね。ひでえ言い方しなくてもいいと思うけどなあ。」
右京「戦車道から逃げて転校したのに、いつの間にか戦車道に復帰して楽しそうに会話している。怒りたくなる
気持ちもまあ理解できなくもないですが。」


亨「3人とも精神病院に収容・・・・性的被害を受けていて回復は絶望的。話を聞くのは難しそうですね。」
右京「自ら記憶を改ざんしたりしてしまう事も多いです。被害者から話を聞かないと、加害者を突き止めるのは困難です。」


課長は、パンダのマグカップを机に置き一層沈鬱そうな表情を浮かべる。

角田「残念ながら永久に無理だ。」


亨「まさか口封じとか?」
右京「先走らないで、課長の金死を聞きましょう。」

角田「ノンナとカチューシャは4月30日と5月1日に、相次いで亡くなったらしい。」
亨「病院で?一服盛られたのでしょうか?」
右京「密室の中でです。可能性はありますね。」

角田「逸見エリカは逆に他殺の線は無いな。」
亨「根拠はあります?」
右京「墜落死・・・・・・目撃者でもいましたか?」


角田「先に言うなよ・・・・・ユーチ○ーブに動画が有るんだ。4月26日の午前11時30分ぐらいに
病院屋上から墜落死したんだが、その日近くのJR線で鉄道事故が起きた。時間は墜落死の30分前だ。」
亨「踏切でクレーン車のワイヤーが、誤って架線を切断し午後3時まで不通。現場付近は大混乱。」
右京「踏切事故の様子を動画に撮影していた人が、飛び降りる寸前のエリカさんに気付いた。」

角田「マンション屋上から、自宅近くの踏切の渋滞を撮影していたそうだ。そんで、ふと周囲の様子を撮ったら
飛び降り寸前の逸見エリカを目撃、その数秒後に飛び降り即死。」
右京「動画を見る限り、屋上には当人以外は居ませんね。」

映像は正面では無く、斜め左前方からなので他に人物がいない事は、直ぐに判明した。

亨「他の通行人も目撃 高層ホテルのレストラン従業員の証言をみても他殺の線は薄いですね。サッパリ記憶に無いけど
・・・・・・・!」

その頃特命係は、孤島に居た。


元特命係で警察庁官房長官付の神戸尊の要請を受けて、右京とカイトは伊豆諸島の鳳凰島へ向かった。
そこで発生した事故・・・・飼育員が馬にけられて死んだ事故の調査依頼である。

右京は事故では無く殺人と断定、伊丹達も島に送り込まれた。続きを知りたい人はツ○ヤで円盤でも借りて欲しい。
その「大事件」に遭遇した特命係や、捜査一課の伊丹達はノンナやエリカの怪死や自殺のニュースを、知るどころでは無かった。

亨「俺達が事件に遭遇している間に、口封じかみほさんへの恨みで殺害した?」
角田「おいおい、まさか神戸の奴も事件に一枚噛んでいるんじゃ?」

右京「神戸君は、悪辣な犯罪に加担するような人ではありません。しかし、捜査に先入観も禁物です。」
亨「親父や、神戸さんも知らない内に真犯人に協力させられているという可能性もあります。
エリカさんは自殺かも知れませんが。」


翌日慌ただしく、杉下右京は羽田空港に向かった。朝早くの便は観光客で満席で11時の便まで取れなかった。
しかも、内村部長は1日分の出張しか認めなかった。殺人の根拠が無い点に加え以前休暇の筈が、
勝手に京都で捜査していた前例があるので、日帰り厳守を言い渡されてしまった。

(シーズン8 特命係、西へ)

カイトは、昼頃、東京都内に居住している例の動画撮影者に会いに行った。旅行中に偶然撮影したらしい。
本来は、鉄道とか飛行機に離着陸を撮影するのが趣味らしい。

特命室

亨「残念ですが、本当に偶然撮影されたとしか。経歴も大洗や戦車道とは無関係です。
旅行に同行した同僚からも話を聞きましたが、転落事故の前後に不審な行動は無かったそうです。」
右京「熊本の事件・・事故もしくは自殺かも知れませんが、目撃した人は他にも複数います。
全員が、嘘を付いていると考えるのは無理がありますねえ。」

亨「それこそ、オリエント急行の殺人になってしまいます。熊本県警に問い合わせたのですが、
病院の監視カメラにも不審者は、映っていなかったと。屋上に向かうエリカさんは確認出来ましたが、
誘導する様な人物は映っていませんでした。」

右京「僕の方も、網走市の病院を訪ねましたがやはりカメラに、不審者の類は居ませんでした。
ノンナさんとカチュシャーさんは、他者や後輩に厳しくかなり嫌われていたようです。」
亨「見舞客を装い、一服盛ったとかでは?」

右京「見舞い客は、家族以外ほとんど無かったそうです。」
亨「なんとまあ・・・・・・・・・ このカルテを見る限り、容体急変した訳では無いですね。」
右京「病院関係者も、何人か話を聞きましたが不審者や嘘を付く人は居ませんでした。」

亨「そろそろ出ましょう。」
右京あと30分でひたちの時間ですね。」


再び五十鈴家 (10月16日)
新三郎が気付くと右京の姿が無い。

新三郎(駐車場・・・・・何を調べてるんだ)
急いで行ってみると、右京が見ていたのは来るまでは無く人力車だ。

右京「この人力車は、新三郎さんが使用していた奴ですね。」
新三郎「当主が、歴史マニアなので・・・他の2台は観光協会に貸して観光客を載せています。俺の先祖が・・・・
明治時代水戸で人力車夫だったそうで。体力作りにも使用しています。無論長距離の移動には普通の車を・・・」

右京は、人力車の豆知識を話しながら新三郎の生い立ちを聞いた。


新三郎「両親が幼い頃火事で死んでしまって、知り合いの先代の当主様に拾われたんですよ。」
(ただの歴史マニアか・・・・)

その後、カイトと合流し建物に戻ろうとするが右京と女性のお弟子さんがぶつかり書類が落ちてしまう。

邸宅では品評会の打合せが有るという理由で、見学は出来なかった。実際にお弟子さんが
数名出入りしている。新三郎は二人を隣接する五十鈴会館に案内した。ここには一般向けのギャラリーもある。

新三郎「近くの小学生が見学に来ているので、10分ほど待って下さい。」
右京が了承しようとした瞬間、不意に地面が揺れた。

亨「地震?」
右京「大震災の余震でしょうか?」

揺れは意外に大きく、歩いていた女性職員が転倒してしまう。
右京「ケガはありませんか?」
職員「大丈夫です。ありがとうございます。」

新三郎「大変だ。見学中の小学生が転んで捻挫したみたいだ。」
亨「俺達も行きましょう。」

その後小学生は捻挫しているので、右京が119に通報した。
慌ただしくなる中、右京は急に小声で喋り出した。

右京「最初のお弟子さんの持っていた書類と、職員の人の書類ですが・・・・生花の購入代金と本数に違いがありました。」


亨「違うって事は多少の違いでは無さそうですね?考えられる可能性としては、脱税ですか?」
右京「なるほど、購入していない花を購入した事にして経費を水増し・・・・あり得ますね。」

その時、救急車のサイレンの音が聞こえて来た。
亨「あそこの空き箱が邪魔ですね。片付けましょう。」
右京「手の空いている人は手伝ってください。」

特命係の呼びかけを受けて、新三郎や引率の教師に、数名のお弟子さんが駆けつけて空き箱を片付ける。
無事救急車が出た後、二人はギャラリーを見学して出発した。

新三郎「どうもありがとうございました。」
亨「刑事が市民を助けるのは当然の事ですよ。」
立ち去ろうとする右京とカイト・・・

右京「最後に一つだけ。少し歩き方がおかしいのですが、お怪我でもされましたか?」
新三郎「転んで足をぶつけただけですよ。」


新三郎は一瞬尾行しようかと思ったが児童の学校への経緯説明や、大洗女子決勝戦応援ツアーの手配で忙しく
断念した。迂闊に尾行して気付かれたら、かえって危険である。

新三郎(まあ、大した事は気付いていないみたいだからな。応援ツアーに必要なバスと、弁当とお茶の手配確認するか。)


車に戻った二人は、一旦国道6号を南下したが水戸を出た所で、国道50号に入り栃木方面に向かった。
尾行が無い事を確認し、Nシステムが有る所は迂回して向った。

右京「カイト君、先ほど片付けた箱から花の香りがした事に気付いていますか?」
亨「ええ。何か高級そうな花の匂いがしましたよ。」
右京「2回目に見た書類にだけ掲載されていた、花の匂いでした。」

右京はハーブティーを飲む事もあるので、植物の知識もあり、植物毒殺犯と対峙した事もあった。
(シーズン2 1-2話)

亨「脱税目当ての架空取引では無さそうですね。隠ぺいの可能性も0か。」
右京「実際に高級生花を購入して、いたら脱税の意味がありませんからね。」

五十鈴会館で見たパンフレットには、週末にはお弟子さんの講習会が有る。それに使うのだろうか?
右京「あの花は、お弟子さんの講習会に使うには高級過ぎますねえ。」
亨「五十鈴華さんも出ないみたいでしたし、(戦車道決勝戦と重なる)高級なのは不要かもしれませんね。」
右京「まあ、調べなくても良いかもしれませんが。何でも調べたくなるのが僕の悪い癖でして。」

亨「どうします、調べてみますか?」
右京「いや、流石に今回の事件とは無関係でしょう。」
亨「政治家や、芸能人への贈答用の花だったりして。」

1時間半後、車は栃木県小山市に到達した。人口16万3000人の小山市は東北新幹線の停車駅があり、東北本線
水戸線・両毛線が交わる交通の要所である。歴史的には関ヶ原の戦いにおける家康勝利の基となった
「小山会議」の舞台として有名である。M谷氏が、「清州会議」の次に映画化しそうな気がする。


小山市街に入った車は、市街地に入り東北新幹線を潜った辺りで、R50から県道に入り市街地を北西に進んだ。

亨「あそこですね。」
栃木市との堺に近い町外れある、自動車解体業者の敷地に車を止めた。

直ぐに社長が出て来た。

社長「電話をくれた刑事さん?」
右京「警視庁特命係の杉下です。」
亨「甲斐です。」
社長「中へどうぞ」

社長「あの車が、事件に関係しているんですか?ひき逃げとかですか?いや、車体に傷は無かったですよ。
バンパーが外れていたりもありませんでしたが。」
右京「おや、君はあの車がひき逃げ事件の車だと言ったのですか?」
亨「いや、言ってませんよ。」

社長「騙したんですか!」
亨「騙してはいませんよ。もっと恐ろしい犯罪に使われた可能性が有ります。」
社長「ちょ、銀行強盗とかですか?」
右京「もっと恐ろしい・・・・・犯罪です。」

社長「さ、ささ殺人事件!」
亨「詳しい内容は言えません。知らない方が良いと思いますので。ええと、車を持ち込んだのはこの男性ですか?」


社長「いいえ、女性の方でした。・・・・○日の午後1時頃です。」
前生徒会3人の遺体が、発見された当日の午後だ。

社長は何故か落ち着きが無い。

右京「本当にスクラップにしましたか?」
亨「汗が出てますよ。おかしいなあ、11月末並の冷え込みなんですけどね。もしかして、車売ってしまいました。
廃車にするという約束で、買い取ってそのまま転売・・・・・」

社長「とんでもない」
右京「最近はこの辺りでも、不審者が出るらしいですね。」
亨「嫌な時代ですね。」


社長「な、何の事でしょうか?」
亨「県道からこの解体工場に通ずる道への入り口。その交差点には警察が防犯カメラを設置したそうです。」
右京「この道は、この解体工場で行き止まりになっていますねえ。昨日の午後8時ごろ、問題の車が県道へ出ていますね。」
亨「ちなみに道の傍にある、民家の人は自分の家にはその車は無く、来客も無かったと。ああ、こうも言っていました。
この会社からその車が出て行ったと。」

社長「すすすす、すみません。知人に売りました。」

亨「売った相手を教えて下さい。」
社長「そ、それは・・・」
右京「カイト君、小山警察署に連絡してください。」


社長「に、新潟市の・・・・会社社長です。」
亨「どういったお知合いですか?」
社長「幼馴染です。生まれは阿賀野市です。私も中学までは阿賀野です。」

右京「経営者に気に入られ婿養子にでも入って、後を継いだ。正解ですか?」
社長「両方そんな所です。初孫が生まれるので、家族で乗れる車を探していたみたいです。」

社長は観念した様に、相手の住所を書いた。新潟県阿賀野市・・・・10年ほど前に周辺の町と村が
合併して成立した。

亨「白鳥の飛来地として有名な湖がある町ですね。」
右京「阿賀野・・・・・確かこの町は」

亨「一応書類はあるみたいですね。しかし、購入して半年の車を売りに来る事に、不審は抱かなかったのですか?」
社長「少しはおかしいとは思いましたが、どうやらすごいお金持ちの家らしいので、そういう事もあるかと。
車に傷とかは何も無いので。流石にバンパーが吹っ飛んでいたりヘッドライト割れていたら、警察に知らせますよ。
そんな不審な点が無いのに、ちょっと変な客なだけで通報は出来ませんよ。」

亨「少し言い過ぎました点に着いては謝ります。」
店主「解って頂ければ。」
右京「しかし、貴方の行為は・・・・」

うなだれる社長・・・・売却先の連絡先をメモした右京は、電話を掛ける為に外に出た。


小山市にはインターチェンジは無いので、隣の栃木インターから東北自動車道に入り東京方面に戻る特命係。

途中の蓮田サービスエリアで、メールを確認する。先方は快く協力を約束してくれた。購入した新潟の社長はメールの送信者の叔父に当たる人物らしい。
警視庁に戻り、直接電話をかけて購入の経緯を聞いた。解体業者の証言と一致。

亨「新潟の社長さんが、自ら運転して回送したんですか。」
右京「走り具合を確認したかったんでしょうね。」

新潟から新幹線で大宮経由で小山に、タクシーで解体業者(幼馴染)に向かい、手続きをしてその後仮眠をとりつつ新潟
まで戻った。解体業者は中古車を販売する許可自体は所持しており、それ自体は違法性は無い。

走行中、ハンドル、ライトのスイッチ、ドアノブと、音楽及びラジオのスイッチ以外は手を触れていないらしい。
戻った後、鍵は自分で所持し誰も車に入ってはいないとの事。

亨「調査に向かいますか?」
右京「監視されている可能性があるので、慎重に動かないと。実は米沢さんが、休暇で新潟方面の鉄道旅行に明後日に行くそうですよ。」
亨「米沢さん鉄道マニアだった。」

米沢が撮影して来た写真から事件が始まった事もある。

右京「鉄道もほとんど乗ったらしいですが、越後線は未だらしいです。」

柏崎-新潟間 83.8キロで日本海寄りを走行する直流電化路線で、京葉線や湖西線と並び強風に弱い路線として知られる。

その時、ロビーから連絡があり来客があったと知らせが。


ロビーに行くと、既に相手の人物は居なかった。ここから先、来訪者は現職警官の同行が無いと入る事は出来ない。
(相棒劇場版2より)
事務員に聞くと、40代くらいの男性が封書を預け杉下右京に渡してくれと言い残し、直ぐに帰ったそうだ。

事務員に礼を言って、歩きながら封書を確認する。裏側には名前の替わりにマークが描かれていた。
右京「この紋章は。」
カイトもどこかでその紋章には見覚えがあった。

封書の中には、都内のある病院の住所が書かれていた。時々芸能人や政治家が「入院」する事で知られる。
逆に言えば、それだけ秘密が守られるという事なのだろう。

多少迂回しつつ病院に向かう。(尾行者の有無を確認)尾行者はいないようだ。病院に到着し、駐車場の隅に停車させる。


慎重に観察しつつ、最上階の特別病室に向かう。部屋の前に強面の男が待っていた。

手下A「杉下警部と・・・・・最近配属された甲斐刑事ですね。お久しぶりです。」

右京「およそ6年ぶりですね。」

当然カイトは初対面だ。

男が、特別病室の扉を開けて入り続いて右京とカイトも、完全防音と思われる病室に入る。

ベッドには、すっかり痩せていたが右京にとって因縁のある男が眠っていた。元闇金城代金融社長の向島で、数年前まで服役していた・・・・
筈だった。


手下B「特命係の杉下警部が来られました。」
向島「久しぶりだな警部さん。寝たままですまねえ。もう体が・・・・言う事を聞いてくれなくてな。」

右京「お悪いのですか?」
手下A「先生によると、持ってあと半月だそうです。」

どうやら数年前から相当に、病状が進行していたらしい。月本幸子に対する脅迫と監禁の容疑で、4年の判決で
服役していたが、内2年は独房と刑務病棟を行き来していたらしい。


亨「まさか、幸子さんに何かしようと言うんじゃないでしょうね。」
向島「心配するな、そんな気は更々無い。」
右京「とりあえず最後まで聞きましょう。」
亨「すみません。」

出所した後、闇金からは完全に手を引き以前から表向きにやっていた、宝石と貴金属の販売に専念していた。

向島「医者から宣告された後、最後に故郷を見たくなってな。俺は東北の・・・・宮城県・・・・今は仙台市になっている
山中の村の生まれで、18の時に飛び出して以来一度も帰っていない。」

一人で行こうとしたら、心配した子分さん達が付いて来る事になった。

向島「悪党が行き倒れっても、情けないからなあ。結局皆で行く事にした。温泉もあるし、まあ骨休みも兼ねて。
次の日は折角だから、仙台で美味い牛タンでも食おうという事になって仙台に行った。」

手下A「我々が宿泊するホテルに着いた所、ボスが女性とぶつかった。」


回想 帽子をかぶった女性が、向島に接触

女性「すみません。お怪我はありませんか?」
向島「平気だ。あんたこそ怪我無いかい?」
女性「大丈夫です。」
手下C「デートですかねえ?」


向島「帽子を被っていた上に、ちょうど夕方の逆光で良く顔が見えなかったから、気付いたのは数時間経過
した後だった。その女性は俺の幼馴染だ。」

手下B「ボスと同じ村の生まれで、名前は橘桃代と言います。」
亨「何処かで聞いたような気が。」
右京「8月6日に、東北の山中で交通事故死した女性の名前ですね。」

向島「数日後に一度杉下警部に連絡しようとしたが、休暇中だと言われてな。」
右京「あいにくその日から、休暇で英国に2週間ほど。」

回想 成田からロンドン行が離陸 機内で空港で購入した新聞を読む右京

交通事故死の記事が掲載されている。原因速度超過による転落(警察発表 焼失した為に身元は不明)

亨(幼馴染の事故死に疑問を抱いたから、調べて欲しいという事なのか?もう2か月も経過していて、当然火葬されて
埋葬されているだろうから、調べるのは困難だぞ)

手下「ちなみに、橘桃代と言うのは本名ではありません。」


右京「はい?」
亨「偽名という事ですか?」

手下B「いいえ、生まれが橘桃代と言う名前なのは本当です。」
右京「どなたかの、養子になられたという事でしょうか?」

向島「桃代と少し年が離れた妹・・・・菊代は、村でも評判の秀才だったんだ。しかし桃代が、高校1年の時に両親が火事で死亡してしまった。
親戚は戦時中の仙台への空襲で死亡していて、村中でどうしようかと相談していた。そんな折に、温泉に湯治に来ていた資産家が
ぜひ養子にしたいと、申し出たんだ。その人は子供が出来なかったらしい。」

亨「妹さんもですか?」
向島「妹の菊代も、資産家の知人の名家に養子に出されたんだ。こちらは2週間ほど後になるが。」

右京「差し支えなければ、養子に出された先を教えて頂けませんか?」
向島「妹の方は、九州熊本の名家で確か戦車道の家元だ。名前は西・・・・・」
亨「西って、西住家です?」
右京「西住みほさんの実家と考えて間違いないでしょう。」

向島「風の噂では、執事長みたいな事をやっていると聞いた。」

亨「それじゃ、姉の桃代さんの養子先ってまさか・・・・・」

向島「水戸の五十鈴家っていう、華道の家元だ。」

手下A「ボスが渡された物があります。」


紙袋に入っていたのは、数枚のDVDとSDだった。

カイトが手渡された紙には、恐らく桃代の字で注意書きが書かれていた。
亨「迂闊に第三者に見せるな。ネットに接続されているPCでは開かない事・・・・」

手下A「次の日、予定を早めて午前の新幹線で帰京しました。」
手下B「桃代さんが事故死したとニュースで知ったのは、その日の夕方でした。」

右京「向島さんに、何らかの犯罪の証拠をこっそり渡した後・・・・5時間後に山形県の山道で事故死した。という事になりますね。」
亨「追手の追跡を受けていたのかも知れませんね。証拠を持ち出す前に、何らかの手段で向島さん達が宮城方面を
旅行する事を知り、宿泊先のホテル前で接触を装い、証拠を気付かれずに渡した。」

手下A「我々は、近所の中古店で安い中古を買って、とりあえず動くようにしてから。それを開いてみた。
パスワードやコピーガードや、ブービートラップとかは事前に桃代さんが、削除しておいてくれたみたいだった。」


向島「俺達は札付きの悪党だった。しかし、俺達ですら目を背けたくなるようなおぞましい犯罪の記録だ。桃代は、長く
五十鈴家に仕えていた。五十鈴家後継者の五十鈴華って子は、桃代にとって実の娘みたいなんだろう。
これ以上、罪を重ねさせたくないだろう。杉下さん、桃代の願いをかなえてやってくれないか。」

右京「解りました。」

向島「それと、幸子が危ないかも知れない。幸子が代官山で料理屋やっているのは知ってはいるが、
身を隠した方が良いかも知れん。」


右京「幸子さんは、テレビ番組でペア旅行券が当選したので、友人と海外旅行です。」

ちなみに知人とは、杉下右京の元奥さんの宮部たまきさんの事である。

向島「そうか、それならまあ大丈夫だろう。」

亨「そろそろ失礼します。」
向島「もう一つ頼まれてくれねえか?」

右京「何でしょうか。」
向島「俺が、こんな事を頼めた義理じゃねえかも知れんが、幸子に、そろそろ誰か良い男捕まえて幸福になれって
伝えてくれないか。」

言い終えると、疲れたのか向島は眠ってしまった。病室を後にする右京とカイト。


車中

亨「以前話を聞いた時は、相当悪どい連中だと思いましたが。」
右京「生まれた時から、犯罪者であるわけではありません。人生の終わりに彼もまた、ただの向島茂に戻ったのでしょう。」

亨「これの中身ですが、不正の証拠(脱税等)や前生徒会殺人事件の証拠では無いと思いますが。」
右京「当然そうでしょう。彼らがあそこまで緊張していた点をみても、もっと大きな事件とみて間違いないでしょう。」
亨「やはり、うさぎさんチーム、バレー部前風紀委員会は全員拉致されて・・・」

右京「彼女達が無事である可能性は、極めて低いかも知れません。」
亨「身代金目的の可能性も、まず無いですから。それに既に数か月が経過しています。」

尾行を警戒しつつ、警視庁に戻る特命係。


特命室 角田課長達は、捜査に出てしまっていて無人だ。

亨「何処で調べますか?未解除の罠が有るかもしれないので、警察では危険かもしれません。」
右京「僕の自宅付近は、交通事故で電柱が倒れて停電しているみたいですね。」
亨「俺のマンションは、隣の棟から監視される危険性が有りますね。」

米沢「それなら、私のアパートはどうでしょうか?」
亨「米沢さん、驚かさないで下さいよ。」
米沢「お二人が戻ってこられたのを見て、何か進展がありましたかと。」

米沢「向島さんは、以前脅迫罪で逮捕した時に既にあまり元気が、ありませんでした。かなり前から
病気になっていたのでしょうな。・・・・私の家ですが左隣は、丁度空き室なので会話を盗み聞きされる
恐れは少ないです。自室の正面にある民家のご主人とは、付き合いがあるので第三者が
紛れ込むのは難しいでしょう。」

1時間後 米沢の部屋

右京「中古店で、安いパソコンを買って来たので、とりあえず動くようにしましょう。」
米沢「SD及びDVDどちらにも、罠はありません。事前に削除されているようですな。」


右京「・・・・・・」
亨「・・・・・・・」
米沢「・・・・・・」


亨「こんなおぞましい事が、日本国内で行われていた・・・」

入っていたのは、裏五十鈴流、秋山家と西住流による恐るべき悪事の証拠の数々だった。

未成年者略取、監禁、脅迫、強姦はおろか殺人事件や、武器の(拳銃やライフル)の密輸もあった。

右京「こちらのリストを見て下さい。政財界の著名人や芸能人が数十名掲載されています。恥ずべき事ですが、
警視庁や警察庁の幹部の名前も。」
亨「リストの人物が、裏五十鈴流に出席している画像も。裏切りを防ぐ目的でしょうか。」

裏切り者や、道連れ自爆等を目論む者は秋山や西住流の刺客に消されているみたいだ。

亨「彼女は、元風紀委員会の人じゃないか!許せねえ!・・・・米沢さん?」

米沢は泣いている様だった。やがて・・・・・

米沢「伊丹刑事の冗談は・・・・・・・真実だったのですなあ。」


伊丹「全員素人かよ。まさか不正行為?」

米沢「失敬な事を言わないでいただきたい!あの軍神が率いる大洗女子に、そのような疑念は皆無ですな。」
伊丹「軍神って、三国志かよ。」



米沢「あのような連中を、疑いもせずグッズを買い応援していた私は・・・・・鑑識失格と言われても仕方ありませんな。
こんなだから、知子も出て行ってしまったのかも知れません。」

知子とは、ある日離婚届を残して家出した米沢さんの奥さんの名前である。(劇場版米沢守の事件簿)
手掛かりは無い。怒った米沢は離婚届を出してしまった事を、深く後悔している。


亨「米沢さんが落ち込みたくなる、気持ちはよくわかります。しかし、俺達にはやらなきゃならないことが有る筈です。」
右京「僕達は、こうして彼女達の悪事を知る事が出来ました。既に亡くなっている人を救う事は・・・残念ながら
不可能です。しかし、現在監禁されている子を救い出す事が出来るのは僕達警察だけです。」
米沢「ここで落ち込んでいたら、別れた妻に笑われます。今被害にあっている人だけじゃなく、これから被害に遭う
子を救い出す事も出来ます。」


亨「米沢さん元気になりましたね。・・・・・」
米沢「何か気になる点が?」

右京「五十鈴家側は、情報の流出にどれ位気付いているかですね。」
米沢「情報が流出した事自体は、気付いていると見るべきですな。」
亨「持ち出した場所に、セキュリティーとかありそうですね。いや、それも一時的に解除したのでは。そうでないと、直ぐに
追跡者に消される危険が。」

右京「情報が第三者に渡された事には気づいていない。もしくは、それを阻止したと考えている可能性が高いですね。」
亨「向島さんの手に渡ったのが8月6日で、もう2か月も前です。気付いていたら向島さんは、既に消されていなきゃおかしい。」

米沢「向島さんの手に渡ったのが、今回の事件でお二人が動き出してからなら、敢えてお二人の手に渡ってから
知っている人を皆殺し…という恐ろしい可能性もあったかもしれませんが。」


右京「桃代さんは、五十鈴家等の追手に対し証拠品を持ったまま事故死。恐らく故意にでしょう。もし捕まれば
拷問されたり、薬物で自白させられる可能性もあります。」
亨「それを阻止する為に、最初からそこで自爆するつもりだった。」
右京「その可能性は、高いですねえ。本来なら仙台市内から事故現場までの沿線にある、監視カメラを調べたいですが。」

米沢「それを調べたら、敵側に知られてしまいます。テレビの刑事ドラマなら偶然同じ時期に第三者が、事故か他殺で
山形県の山中に死んでいる事件があり、それを調べるふりをして捜査する所ですが。」
右京「残念ですが、そんな都合の良い事故は起きていない筈です。」

米沢「それと私が思うに、桃代さんはデータのコピーを持ったまま(向島に渡したのはオリジナル)自爆事故死したのでは
ないのでしょうか。中身は空っぽかもしれませんが。」
亨「データを誰かに渡す前に、死亡したと思わせる為・・・・転落しただけなら、場合によっては中のデータを復旧させられる
恐れがあります。」


米沢「転落の上に、炎上して溶けてしまったら流石に中身を調べるのは無理でしょうなあ。」

道路から転落して爆発炎上する車 数時間後追手と思われる人影が車に近づく。

刺客「チッ 完全に燃えてやがる。」
刺客(髪型モフモフ))「処分できてよかったじゃないですか。警察が来る前に帰りましょう。」


その時カイトの携帯に着信が。相手は伊丹刑事だ。

亨「何か事件ですか?」
伊丹「くぉらー、何か事件じゃねえ!米沢の家で何をこそこそしてやがる。」


どうやら、米沢のアパートに入る所を目撃したみたいだ。

亨「ちょっとした親睦会ですよ。」
伊丹「嘘をついても無駄だぜ。俺の対特命係レーダーに狂いはねえ。」

数分後

芹沢「こんばんわ」
伊丹「やはり警部殿も一緒でしたか。米沢の家で何を調べているんですか?」
芹沢「何か証拠でも手に入れたのなら、こっちにも報告してくださいよ。それに警視庁で調べればいいのに。」

右京「大変危険な情報なので。」
伊丹「ヘッ、刑事が危険な仕事なのは誰も同じでしょうが。」



伊丹「・・・・・・・確かに、これはやばいネタだ。反吐が出るぜ。」
芹沢「捜査一課の刑事にも、内通者がいますよ。」
伊丹「あんこうだか、アンキモか知らんが、許せねえな。チーム全員が加担しているんですかね?」

右京「あんこうチームは隊長の西住さん以外は、全員犯罪行為に加担しているのは間違いなさそうですね。」
芹沢「主犯は、秋山優花里と五十鈴華・・・・武部沙織と冷泉麻子は共犯ですね。」
米沢「歴女チームも、強姦罪を犯していますな。」
亨「旧ネトゲと自動車部は犯罪行為には、加担していない・・・・知っている可能性はありますが。」

その日は「今後は慎重に捜査を行う」事を確認し、解散となった。


翌日10月17日 警視庁入口


右京「今日は早いですね。」
亨「今日から、10日ほど悦子は海外で研修なんです。早く準備できたので早い電車で来てみました。」
右京「悦子さんも、海外の方が安全でしょう。」

二人が警視庁の建物に入り、奥に進もうとした瞬間。女性が走って来た。
銃を持ったゆかりん・・・・・ではなく、初老の女性だ。

??「大変だよ!杉下さん!事件だよ。ちょっと来ておくれよ。」
あっという間に、外に連れ出された特命係。受付の職員が同情的な目で、二人を見ている。

右京「ご無沙汰しております。」
その女性は、賃貸マンションの大家で何度か特命係を事件に巻き込んでいる。非常に世話好きな性格だ。
コミュニティ誌に特命係を紹介し、亀山が美女に監禁される事件に繋がった事も。

大家「そっちが新しい特命係の刑事さん?」
亨「甲斐亨と言います。よろしくお願いします。」
大家「「なかなかの好青年だねえ。」

右京「何か入居者の方が、事件に巻き込まれましたか?」
大家「入居者じゃ無いよ。昨日の朝女の子が倒れていたんだよ。」

亨「詳しい話を聞かせてください。」


大家「昨日の朝6時頃に、公園の隅に倒れていたんだよ。何処かから逃げて来たみたいで、かなり衰弱していたんだ。」
右京「警察には通報したのでしょうか?」

大家「それが未だなんだよ。倒れていた子が必死に拒否するから・・・・」
亨「何か事件でも起こして、逃走中なのかもしれませんね。」
大家「とてもそんな子には見えないよ。でも警察を恐れているのは本当みたいだよ。」

右京「他に何かおかしな点はありませんか?」
大家「背は低くて、何か運動部に所属しているね。」
亨「今何処にいるのですか?」

大家「小学の時の同級生だった子の病院だよ。うわ言でバレー部復活とか呟いているよ。」
右京「誰か人の名前を言っていませんでしたか?」


大家「たえこーとか、あけびーとかしのぶとか・・・・」
亨「!」
大家「秋山さん助けてと怯えていたよ。」
亨「どうやら間違いなさそうですね。」

大家「早くしないと」
右京「はい?」
大家「衰弱が激しくて食べ物を受け付けないんだよ。まるで生きる事を拒否しているみたいに。今は何とか
点滴で持っているけど、あと数時間の命だって・・・」
亨「それを一番先に言って下さい!」


都内にある中規模病院

大家「あの子まだ無事かい?」
医者「今はまだ何とか。かなり遠くから逃げて来たみたいで・・・」
言いよどむ医者

医者「かなり長期に渡り、性的暴行を受けていたと思われる。」

病室に入った二人を見て、磯部典子は拒否する様に首を振った。

大家「この二人は、そこらの刑事と違うよ。どんな圧力や妨害を受けてもひたすら真実を追い求めているんだよ。
この二人なら信用できるよ。」
典子「・・・・・・・」

大家「このまま死んでしまったら、あんたやお友達を酷い目に合わせた奴らに仕返しもできないんだよ。悔しくないの?
せめて相手も道連れにしないと、無念じゃないかい?」

典子はゆっくりとうなづいた。

典子「袋を・・・・・」
医者「どこに置いておいたかな。」

その袋は、人身売買された富豪の家から逃げる時に、持って来たらしい。
ノートと富豪の録音機だ。ろくでも無い事に使う予定だったのだろう。ノートにはこれまでの日々の事がびっしりと書かれていた。
幸い自室までは監視カメラなどは無かったそうだ。

右京「警視庁特命係の杉下です。」
亨「同じく甲斐です。それにしてもよく逃げ出せましたね。」


富豪の家でパーティがあり、些細な事で愛人同士が喧嘩になり手下や、ボディガードが宥めたり落ち着かせている隙に
逃げ出す事に成功。しかし、追っ手に追われしかも現金も無く、追跡者や秋山家の手の者(後者は妄想)から逃げ続けた。
流石に愛人を家に呼ぶ日は、軍用犬は撤収させていたらしい。

警察署へ助けを求めても、そこの警察に秋山や西住の手先が居るかもしれない。
いつの間にか東京に迷い込み意識を失った。
亨(水戸に近付ば近付くほど、秋山一味に見つかる可能性は激増する。家族に会いたかったんだろう。)

右京「やはりバレー部に来た希望者は、秋山優花里さんの手先だったのですね。」
悔しそうに顔をゆがめる典子。
典子「皆少し変だって、疑い出して・・・・それで予定を早めて襲わせて・・・・・・その日の夜に、学園艦から降ろされました。」

眠らさせられ、旧日本軍の潜航型輸送艦みたいな船に載せられ(所謂まるゆ)本土に運ばれ、
人身売買のオークションに掛けられた。

亨「他のバレー部の人はどうなったか・・・・・解りますか?」

典子「一切会って無い……です。お互いに他の落札者の素性とかは詮索しないという、ルールがあるそうです。でも、
再び眠らされて、落札者の邸宅に運ばれる際に耳元で・・・・」

典子「秋山さんみたいな声で、買い手が付かなった子は・・・・・」
医者「意識が混濁している!」


典子「忍、あけび 妙子・・・・・・生まれ変わったらまたバレーやろうな。絶対に全国制覇・・・・・」

医者が即座に救命措置を取るが、生還を拒むかのように意識は回復しない。

亨「死ぬな!生まれ変わったらとかじゃくなく、生きてこの世界でバレーやる事を考えろ!」
右京「他の部員の生死はまだ確認されていません!希望を捨てないでください!磯部典子さん!」


医師「・・・・・・・・・亡くなった。201X年10月17日 午前9時40分・・・・・」

カイトは壁を殴りつけようとするが、右京が阻止する。

医者「備品を壊したら弁償してもらうぞ。刑事が取り乱すんじゃねえよ。」
亨「・・・・・・・・・・・少し、外で頭冷やしてきます。」

数分後

右京「落ち着きましたか?」
亨「はい。それよりも歩きながら考えたのですが、磯部さんのご家族に対する連絡ですが、どうします?」
右京「今すぐ連絡して差し上げたいのですが、今連絡すれば間違いなく敵方に知られるでしょう。」
亨「磯部さんのご両親は、犯罪組織と関係は無さそうですが、実家が監視されている可能性も。」

医者「あんたらの事は、あいつからよく聞いている。死亡届は7日以内に提出しなければならない。つまりだ、7日以内に
事件を解決してしまえば、何の問題の無いのだろう?」
右京「お手数をおかけします。」
医者「費用は後で請求するぞ。」


秋の日は釣瓶落とし という諺が有る様に、秋の日が暮れるのは早い。陽が急速に傾いて来た午後5時ごろ

角田「今日は朝から大変だったらしいな。コーヒー貰うよ。」
亨「どうぞ」
角田「なんか妙に忙しそうだね?何か事件?」

亨「暇じゃないという事は、刑事にとって良い事なのか悪い事なのか・・・」
角田「事件が無いのが本当は一番良いのだろうけどねえー。おやお客さんだ。」

10分後 警視庁前

右京「伊丹刑事達も、何か手がかりを入手できたようですね。」
伊丹「そんな所です。」

芹沢「4日ほど前ですが、代々木で起きた殺人事件・・・・被疑者の逮捕状を取得して、逮捕に向かっていたのですが。」

回想

伊丹「被疑者が交通事故で重傷・・・何があった?」
芹沢「高飛びしようとして、飲酒運転の衝突事故に巻き込まれたそうです。」
伊丹「容体は?」
芹沢「全治1か月との連絡です。しばらくは逮捕とか先延ばしですね。」

伊丹「運の無い野郎だ。一旦出直しだな、帰るぞ。」

芹沢「その時、近くの路地で言い争う声が・・・」


男A「俺は何もしてねえよ。ふざけんな!」
男B「俺の鞄を返せ!」
男A「この野郎!」

責められた男が、相手男性を殴りつける。

伊丹「はいはいそこまで。一体何があった。」

近くのレストランで食事をして、帰ろうとしたらかばんが無くなっていたとの事。そして、鞄を持って店を出ようとした。
男を目撃し、追いかけて口論になったらしい。
店員「これは貴方のカバンでは?」

店員が同じブランドで、同じデザインのカバンを持って追いかけて来た。どうやら間違えてしまったらしい。
殴られた男も、ばつの悪そうな表情を浮かべている。

男B「俺に窃盗の前科があるからって、皆人を犯罪者呼ばわりしやがって。」
伊丹「気持ちはわかる。でも、殴っちゃだめだよね?」

男B「・・・・・・・・・・・・・・」
伊丹「殴っちゃだめだよね?」

数分後、芹沢が呼んだ所轄署の警官が到着し警察に連行。被害者も事情を聞かれ念の為に、病院を紹介した。

芹沢「ま、それで終わる筈だったんですけど」


伊丹「その次の日の朝、被害者の男性から連絡がありました。」
芹沢「どうも、加害者ともみ合いになった際に相手に、手帳を拾われてしまったみたいで。」

伊丹「所轄署に、連絡したら保管してくれているそうだ。取りに行くなら、担当者の名前教えるぞ。」
男A「急に仕事で地方に行かなくてはならなくなりまして。」
伊丹「じゃあ、俺が預かっておいてやるか?何日後に帰って来るんだ?」
男A「明日夜戻りますので、明後日に・・・」

伊丹「普段ならそんな面倒な事引き受けないんですがね。新しい事件も無いし、虫の報せってやつですかね。」
芹沢「今日の朝、相手から電話がありまして。11時頃に取りに行きたいと。先輩が、近くに行く用事があるから
自宅近くの公園で待ち合わせという事に。」


手帳を調べていた伊丹、違和感を覚え調べるとSDが。

芹沢「勝手に調べちゃまずいですよ。」
伊丹「被害者の男、見覚えがあるぞ。」
芹沢「米沢さんの家で見た、映像に映っていましたね。五十鈴家か秋山家の関係者でしょうか?」
伊丹「裏品評会を知っているから、ただの雑魚じゃないな。」

11時 都内公園

男A「わざわざありがとうございました。」
伊丹「俺もあんたに、用があってな。」
男A「あの事件なら、示談という事になりました。被害届は取り下げます。」

伊丹「五十鈴家からの司令か?」



男A「な、何の事でしょう?」
芹沢「とぼけても駄目だよ。貴方は、秋山家の関係者でしょ。」
伊丹「これの中身も、調べたぜ。」

男A「どうやってパスワードを・・・・・」
伊丹「知人(軍師官兵衛で石田三成やってる人)が、15分で解除してくれた。」
芹沢「もうちょっと難しくしておいた方が良いと思うよ。」

男A「あわわわわわ」
芹沢「こんなへまをした事が知られたら、この人・・・・・夏田さん拙い事になるんじゃ?」
伊丹「殺されて、奥多摩の湖に投げ込まれるかもな。大洗の3人みたいに・・・・」

夏田「やはり、あの3人を殺したのは?」
芹沢「捜査上の秘密です。教えません。」
夏田「あんた達も、消されるかも知れんぞ。手を引いた方が。」

伊丹「女子高生恐れて刑事が務まるかよ。それに、万一やられるとしても凶悪犯にやられるよりは、
美少女に殺される方が、まだましだな。」
芹沢「あんこうチームは全員見た目は美少女ですからね。それと夏田さんだけ消される可能性の方が、やっぱり
高いと思いますよ。」

夏田「死にたくない!どどどdどうすれば。」
芹沢「一つだけ助かる方法があるよ。」

伊丹「とりあえず聞きたい事が有る。」


芹沢「大洗女子の元風紀委員会の3名・・・・今何処にいますか?」
夏田「園みどり子という子は、未だ五十鈴家の秘密の地下室に監禁されてると思います。刑事さんが見た
データの中にあると思いますが。」
伊丹「水戸近辺に、何か所かあるみたいだな。地上部分は普通の民家や物置を装って、地下に座敷牢
みたいなのがある。何処に監禁されているか判るか?」

夏田「それはもっと上の人しか知らされていません。何日か毎に、監禁場所を変えている筈です。」
伊丹「何処かの独裁者かよ。」
芹沢「逃げる隙を与えないとか、監視役が同情して逃がしてしまうのを、阻止するのが狙いじゃないですか?」

伊丹「後藤モヨ子さんは既に、死んでいるようだがお前もそれに加担しているな?」
芹沢「死体遺棄に加わってますよね。」

芹沢「死体遺棄に加わってますよね。」

夏田「私、知りません。」
伊丹「知りませんで通る訳ありませんよ。」

夏田「いや、本当に知らなかったんです。今年の6月頃中頃に・・・・夜車を運転する様に言われました。」
芹沢「一緒に乗ったのは、男?複数ですか?」
夏田「男・・・・影の実働部隊と、言われる人が2名・・・・素性は判りません。トランクにかなり大きい荷物を入れていました。」

伊丹「何処まで運転した?」
夏田「葉山の港までです。そこにクルーザーが有るそうです。船の名前は判りません。しかし、荷物を運んで行くのは見えました。」
伊丹「船に載せるのは見たか?」
夏田「車から出るなと言われていたので」

芹沢「尾行とか興味でやってたら、多分命は無かったのでは?」


伊丹「間違いなくそうなっていただろう。」
芹沢「重しを付けて、相模湾に沈められたのでしょうか。酷い事を・・・・」

直ぐに捜査したいが、場所が判らないと難しい。

芹沢「彼女は殺されたの?それとも自殺とか病死?」
夏田「いや、それも解りません。実働部隊が動いたので、病死じゃないと思います。」
伊丹「何も知らされない。哀れだな。」

芹沢「必要な情報以外は与えない。有効な手段ではあると思いますよ。」
伊丹「確かに、共犯者を増やし過ぎるのは危険だ。おい、違法行為を全て把握しているのは何人くらい居る?」

夏田「五十鈴家と秋山家の僅か数名だと思います。無論誰がその立場かは知らされません。電話も変声器みたいなのを
使って指示されることも多いです。」
伊丹「流石にそんな大物が、裏切って内部告発するとは思えねえな。」
実は既に起きているが、それを話す訳にはいかない。


伊丹「金春希美って子はどうした?・・・・」
芹沢「夏田さんが管理する建物に、居るんでしょ。」

夏田「はい。無論生きています。」
伊丹「俺達が密かに会う事は可能か?」
夏田「セキュリティーが厳しいので難しいでしょう。」

芹沢「解除できないの?」
夏田「解除したら、即座に五十鈴家や秋山家に伝わります。先月工事中のクレーン車が誤って電線を、切断してしまい
一時的に停電し、緊急用の予備電源に切り替わるまでに、30秒ほど警備システムも落ちました。」


夏田「直ぐに、関係者が確認に来て、詳しい状況報告をさせられました。」
伊丹「中国のネット監視みたいな感じだな。」
芹沢「施設に入るのは難しそうですね。」

夏田「彼女と会話をするのは難しいですよ。」
伊丹「どういう事だ。」

夏田「歩いたり、食事をしたりは出来ますが・・話しかけても、全く反応がありません。可哀想に、医者によると今後
社会復帰可能な位にまで回復する可能性は、限りなく0に近いそうです。」


伊丹「何を他人事みたいに抜かしてやがる!」
夏田「ひええええええ」
芹沢「先輩落ち着いて下さい。」

夏田「彼女に暴行とかしていませんよ。」
芹沢「暴行を加えて居たのは誰ですか?」

夏田「以前、会合で五十鈴本家に行った時に地下で偶然見ました。扉が少し開いていて。」
伊丹「悪趣味な野郎だな。」
夏田「偶然ですよ。下っ端にお呼びはかかりません。」

芹沢「そんな自慢気に言わなくても。」
夏田「暴行を加えて居たのは、次期当主の五十鈴華さん、あんこうチームの・・・・秋山さんと冷泉さんです。」

伊丹「新三郎とかいう奴もいたか?」


夏田「その時は、中にはいませんでした。何か表向きの仕事でもあったのでは。しかし、自慢げに
仲間に『戦果』を話すのを見た事はあります。」


夏田「これからどうすれば?」
伊丹「奴らがお縄になるまでは、今まで通りに行動しろ。」
芹沢「監禁容疑で逮捕されると思いますが、情状酌量されると思います。」

回想終わり


右京「やはり風紀委員会も、毒牙に掛ってしまっていましたか。」
亨「園みどり子さんは、未だ五十鈴家の何処かに監禁されているみたいですね?」
芹沢「監禁施設は複数あるみたいで、夏田さんは場所は知らされていないそうです。」

亨「一刻も早く助け出さないと・・・」
悔しそうに拳に力を入れるカイト。

右京「20日の日曜日に、第64回戦車道大会決勝戦が有ります。」
芹沢「確か、静岡県の東富士演習場(裾野市と小山町)ですよね。」
亨「容疑者達は、作戦会議とか準備の為に大会に目が向いている。」
伊丹「本来あまり協力したりはしませんが、今回は下手をすると物理的に首が飛ぶ可能性が、
ありますので止むを得ず協力しますよ。」

右京「期待していますよ。」



同日夜 (適当に想像して下さい)

Maxとき345号 新潟 19:32 20番線
停車駅 上野 大宮 熊谷 高崎 越後湯沢 長岡
Maxたにがわ429号 19:52 越後湯沢 22番線
停車駅 各駅

とき345号に乗車する米沢 
アナ「MAXとき345号新潟行き、間もなく発車いたします。」

発車ベルが鳴り、扉が閉まる。

埼玉県の田園を疾走する、Maxとき345号
上毛高原駅を通過するMaxとき345号

長岡駅に到着する・・・・

              長岡
←   燕三条               →浦佐

米沢がホームに降りて、Maxとき345号は終点の新潟を目指し再び走り出す。

改札を抜けて駅の外に、近くのビジネスホテルに入って行く。


翌日朝

再び長岡駅に向かう米沢 今度は在来線ホームに向かう。

             長岡
     北長岡←        →宮内

各駅 6:39  直江津
各駅 6:54  十日町

米沢が乗車した直江津行が発車する。
朝の長岡平野を南下する各駅停車。

7:24 柏崎駅に到着

             柏崎
     茨目   ←    →  鯨波
     東柏崎 ←

7:29分発の越後線吉田行きに乗車する米沢。ちなみにこれに遅れると次は10時過ぎまで無い。

1時間5分で終点吉田駅に到着。吉田駅は越後線と弥彦線(三条-弥彦)の乗換駅で、正月の三が日は
弥彦神社への初詣客で混雑する。越後線の全線直通列車は無いので、ここで乗り換えになる。

                吉田

      南吉田   ←    →   北吉田
      矢作     ←   →     西馬


8:40の新潟行きが発車。ここから先は海岸線に近い位置を走る事になり、冬場は強風の影響を受けやすくなる。

9:31新潟駅到着 直ぐに白新線(新潟-新発田)に乗車する。

9:46  村上 2番線
10:00 豊栄 2番線

6分で最終目的地の東新潟駅に到着 駅の北側には上越新幹線車両基地が広がる。国鉄民営化前は、
巨大貨物駅があり下り線利用客は、駅の外に出るのに10分もかかったそうな・・・・

米沢は、電車が出るのを見送った後他の下車したビジネス客や学生が、全員駅の外に出るのを見送ってから最後に
周囲を確認しつつ駅の外に出た。


??「米沢さん、お久しぶりです。」
米沢「亀山さん!お久しぶりです。かなり日に焼けてますな。」

米沢を待っていたのは、元特命係の亀山薫だった。数年前、友人の死を契機に警視庁を退職し、
今はサルウィンに移住している。父親の法事の為に帰省していた。

米沢「美和子さん(亀山美和子)もお元気ですかな?」
薫「向こうでさらに元気になってますよ。今は地元の新聞社で働いています。」

本日はここまでとします。ありがとうございました。
明日21時再開予定です。

こんばんわ。投稿します。


薫「もしかして、本当に越後線乗って来たんですか?」
米沢「もちろんです。それに表向きそういう理由になっていますから。利用者も少ないので尾行の有無
を調べるのも容易ですな。」
薫「確かに、尾行者いたら目立ちそうですね。」

亀山(国際運転免許所持)の運転する車に乗車する米沢。
白新線沿いに西に向かい、新潟県道4号線に入り南に向かう。
10分ほどで、日本海東北道の高架を潜り程なく目的地に到着する。

車を停めると、程なく亀山の叔父に当たる社長が出て来た。

加納「薫、元気にしてたか?サルウィンも急に民主化に舵を切って、なかなか大変らしいな。」
薫「経済制裁が解除されて、日本や欧米からの投資も増えて来たけど。まだいろいろ大変すよ。」

加納「ええと、こっちが連絡があった鑑識の人?」
米沢「警視庁鑑識課の米沢と申します。ご協力感謝いたします。」
薫「叔父さん、車は誰も触って無い?」

加納「鍵は、スペアも含めて24時間俺が持っている。念の為に車庫に監視カメラも付けた。
不審者とかも見てない。未だ気づいていないかなあ?」
薫「気付かれたら拙いっすよ。」

米沢「2時間ドラマなら、そろそろ気付かれそうですが。現実に起こっては困りますな。」
加納「ま、そうなる前に犯人を逮捕してしまうしかないな。」


車庫

米沢「では、開始します。お手数ですが、加納さんの指紋を採取させて下さい。」
加納「おう。他に手を触れて居そうなのは第一にあいつ(解体業者)だ。未だ家族には
この車を見せていない。となると。」

薫「後は犯人・・・・・」
米沢「しかし、流石に自分達の指紋は拭き取っているでしょうな。その程度の時間的
余裕は有った筈ですので。しかし可能性が無い訳では。」


30分後

米沢「指紋は2種類出ました。一つは加納氏のもの。もう一つは恐らく解体業者さんのでしょうな。
後者は後日確認するつもりです。」
薫「流石に消しているだろうな。手袋を用いた可能性も。」
米沢「手袋痕はありましたが、大量に市販されているタイプですな。」

更に社内を確認する米沢。


同時刻 大洗商店街 相変わらず応援に熱が入っている様だ。
大洗女子チームは、決勝戦に備え買い出し中だ。

みほ「何か買い忘れた物とか無いかな?」
優花里「長期戦になった時に備え、キャラメルとか買っておいた方が良いですね。」
沙織「疲労回復は必要だからね。去年の準決勝の時はあのおバカさん達の・・・・・むぐっ!」
華「取材の人が近くにいます。」

麻子「西住さんにも聞かれないようにしないと。」
みほ「とりあえずそこのコンビニに入ろう。」
沙織「みぽりんは、コンビニスイーツ好きだよね。」


みほ「新商品が有ったら気になって買ってしまうの。」
華「特命係の杉下警部とかも、捜査の合間に甘味を召し上がるのかしら。」
麻子「今回は脳を使い過ぎました。とか言いながら食べてそうだな。」

優花里(もうすぐその必要も無くなりますよぉ。後数日で狙撃ライフルが(分解状態)で届きます。
魔人ブゥみたいにワクワクします。)

コンビニの方向に歩き出すあんこうチーム。

??「ちょっとよろしいですか?」
みほ「えっと、今プライベートなので。」
優花里「事前に参謀総長の私を通して、申し込んでください。」

どや顔で取材を拒むゆかりん。

亨「残念ですが取材じゃありません。」


露骨に不快そうな表情を浮かべる、みほ以外のあんこうチーム。

みほ「未だ容疑者の人は、起訴されないのですか?」
右京「拘留期間は、最大20日まで延長する事が出来ます。」

華「今日はどの様な御用でしょうか?」
亨「実は、まだ皆さんのアリバイ調査していなくて。他の・・・・被害者方の周囲の人物は、全員調べたのですが。」
右京「皆さんは、彼女達の不手際でかなり迷惑を蒙っています。動機が無いとは言えません。
亨「そうなると規則上、アリバイ調べ無い訳にはいかないのです。ぜひご協力下さい。・・・おや杉下さんどうしました?」

右京「もうすぐ雨になりますねえ。」
亨「雨ですか?今晴れてますよ。」
優花里「天気予報の雨雲レーダーで、小さな雨雲がありました。」
沙織「あそこにそれっぽいのが見えるけど、そんな都合よく降らないよ。」



右京「動機ですが、他に男女間のトラブルという可能性も。」
華「どういう事ですか?」

亨「例えば、3人の中の誰かがある人の好きな男性を、奪ってしまったとか。」
麻子「露骨な」
右京「腹も立つかもしれませんが、男女間のトラブルが凶悪事件の動機になる事は、
少なくありません。噂程度でも構いませんので何か無いでしょうか。」

優花里「確かに小山先輩は凄い美人ですし、河嶋先輩も見た目は美人です。好きな異性がいても
おかしくは無いですねえ。」
沙織「それよりも、杉下警部。何か忘れていませんか?」

右京「はい?」
華「ここが女子高だって事です。海の上で寮生活です。殿方との出会いの機会は限られますわ。」
右京「これは僕とした事が。」

麻子「ユニーク」
右京「恐縮です。」
亨「誉めて無いと思いますよ。」

みほ「出会いの機会が無い訳じゃないですけど。(ネット等)」

亨「皆さんと比較的近い所にいる男性ねえ・・・」
みほ「新三郎さんとか?」


優花里「何故に?」
みほ「他に思いつかないのだもん。」

亨「先日の資料館で、怪我をした小学生への対応は見事でした。」
右京「中々の好青年ですねえ。」

沙織「確かに。でも人力車で病院が港まで運んでもらった時だけですね。」
優花里「大会決勝戦に、応援に来られたのを見た事がある程度ですね。」
亨「五十鈴さん以外はほとんど接点も無しですね。」

全員が頷く
麻子「五十鈴さんはどう思っているんだ?幼い頃から傍にいるんだろ?」
華「年の離れたお兄ちゃんですね。恋愛感情はありませんわ。」

右京「話が逸れてしまいました。角谷さん達3名にそのような恋愛の噂も無く、卒業以降お会いになった事も
一度も無いという認識で、構いませんか?」

華「私はありませんわ。」
沙織「卒業式も欠席してたかな。私も会ってません。」
みほ「一回戦突破の時に電話したら、留守電でした。最後にあったのは1月頃?」

優花里「大学生活で忙しいからと、思ってました。私も一切会ってません。」
麻子「私も、会った事は無い。祖母の使いで水戸で見かけた事は一度ある。それよりも、
アリバイ聞かないのですか?」

亨「おっと、それが本題でしたね。」


麻子「アリバイって、確か家族のは証言能力が認められないと聞きました。」
華「仲間とかも同じなのでしょうか?」

右京「その様な事はありませんよ。」
亨「まあ出来れば、他のチームの方だとありがたいですね。それにアリバイが無くても、即容疑者という訳ではありませんから。」
麻子「あの日は、模擬戦闘での反省会後に勉強会・・・・戦車道じゃなく普通のをですが。」
右京「女子チーム全員ですか?」

みほ「強制じゃありません。あんこうチームは全員参加したそうです。」
右京「?」

沙織「私とゆか・・・・秋山さんは歴史チームと一緒に勉強してました。午後11時頃まで。」
みほ『犯行が有った時間は確か?」
亨「午後10時から0時までの間ですね。」

麻子「西住さんと、五十鈴さんは私と一緒に11時過ぎまで勉強会をしていました。」
華とみほも頷く。

右京「確認したいので、どなたか歴女チームの方の電話番号をお教え願えませんか?」
みほ「える・・・・松本さんの番号で良いですか?」

亨「助かります。」
右京「それでは、確認して来ますので数分間お待ちください。」

その場を後にして、路地に入って行く特命係。



ふと上を見ると、いつの間にか雨雲があああ。

優花里「いつの間に!」
華「近くで見ると大きいですね。」
麻子「雨は数分で地上に到達するらしいから、もうそろそろだ。」

沙織「ちょ、逃げないと」

どざああああああ 通り雨で5人はずぶ濡れに 雨は数分で止んだのだが・・・・


みほ「うう全身ずぶ濡れに。」
華「どうしましょう」
麻子「沙織があられもない姿に。」
沙織「うわああああん」
他1名鼻血。

店員「君たち大丈夫?」

隣の先日閉店したクリーニング店から、男性が出て来る。

みほ「ここの店って店長さんが、病気で亡くなっていたのだっけ?」
麻子「泥棒?」
優花里「違いますよぉー 閉店したクリーニング店から盗む物なんて無いですよ。」

華「新しいクリーニング店の店員さんでしょうか?」


沙織「確か喫茶店になるって聞いたよ。店員さんてイケメンですね。」
店員「そうかな?」
みほ「確か水戸黄門の助さんやってた、俳優さんに似てますね。」

店員「時々間違われます。それより濡れたままだと風邪ひくよ。このタオル使えばいいから。」
麻子「商売物じゃないのか?」

店員「タオルは処分するから構わないよ。」

華「ありがとうございます。」
優花里「お店継ぐ人いないんですか?」
店員「息子さん海外で生活しているし。俺も自分の生活が有るからね。今日は忘れた処分するタオルを運んでくれと
頼まれて、大阪の寝屋川市から・・・」


麻子「関西に親戚が居ると聞いた事が。」
店員「ついでにスカイツリーでも行こうかと思って。じゃ俺はもう行くから。風邪ひくなよ。」
みほ「ありがとうございました。」
全員「ありがとうございます。」

青年は、タオルを袋に入れて車に乗せて去って行った。

優花里「これじゃコンビニに行けませんよぉ。」

右京「皆さん大丈夫でしたか?」
沙織「無事に見えるんだったら、眼科医に行かれた方が。」
右京「カイト君、タオルとか有りませんか?」
亨「ハンカチしかありません。」


みほ「親切な人がタオルを貸してくれたので、気になさらないでください。」
右京「それはよかった。皆さんのアリバイの確認は取れました。」
亨「ずぶ濡れにさせてしまって、悪かったね。杉下さんの天気予報はよく当たるから。」
右京「皆さん、一度帰って着替えた方がよろしいかと。急速に体温が奪われます。」
亨「もう直ぐ決勝戦だから、風邪ひいたら拙いぞ。」

華「直ぐに学園艦に戻って着替えましょう。」
沙織「シャワーも浴びないと。寒気が。」
学園艦に戻ろうとした、みほがふと道端を見るとそこには、水道の長いホースが。
無論そんな所から、雨が降ったりはしない。ホースの先がこちらを向いているのが若干気にはなったが。


亨「では、俺達は帰ります。」
右京「決勝戦の中継、楽しみにしていますよ。」

二人が去ると、みほ達も全速で学園艦に戻るのだった。


1時間後関東某所の農道


亨「彼女達の前で、怒りを抑えるのは大変でしたよ。」
右京「そうですか、僕には演技を楽しんでいるようにも見えましたが。」
亨「彼女達が逮捕される時の、情けない表情を想像したら自然と笑顔に。」

大洗を出て数分後、数百メートル先にクリーニング店を出発した車を発見した。
2台の車は、数百メートルの距離を保ちつつ走行しやがて農道で停止した。

右京「ご苦労様でした陣川君。」
陣川「杉下さんから、声がかかれば何処にでも行きますよ。」

あんこうチームが、使用したタオルを右京に渡す。完全な乾燥状態じゃなく僅かに水気
が有る状態で使用させているので、成果は上々の様だ。

直ぐに陣川警部補の車が発進し、1分ほど時間を空けて右京の車も出発した。


警視庁に戻ると、何処かで見た男性が待っていた。

右京「神戸君もお疲れ様でした。」
前の特命係の神戸尊 彼もまた大洗に潜入(?)していた。


亨「神戸さんお久しぶりです。」
尊「お久しぶり。杉下さんは、相変わらず人使いが荒いですね。、大洗に来てくださいと
言われた時はびっくりしましたよ。」

彼の役目は、雨が降らなかった時近くの水道(公共用)から、水を掛ける事だった。

一度米沢に、証拠品を渡した後警視庁を出る。

尊「予定通り雨が降ったから俺の出番は無くて済んだのですから、文句はありません。」
亨「一昨日、米沢さんの家で証拠品を見た時に呼ばれなかった事・・・・怒ってます。」

尊「そんな事は。多少はあるけど・・・・・偶然とはいえ、鳳凰島に行ってもらった時期に、関係者の変死事件が
起きていた。俺が杉下さんの立場でも、同じ判断を下すと思いますよ。」
右京「どの道、君は一昨日病院から動けなかったのでは?」

尊「長谷川さんが、昼食の弁当に当たって病院に緊急搬送されてしまっていたので。」

長谷川宗男(國村隼)は、元副総監兼警務部長の要職にいたが、自分の秘密を暴こうとしていた元警官(小沢)
が起こした警視庁籠城事件の際に、彼を正当防衛に見せかけて口封じに抹殺した。右京と尊により
暴かれて、現在は閑職に左遷されている。(劇場版第2 特命係の一番長い夜)

亨「直属の上司ですから、放置する訳にもいかないですよね。」
尊「それよりも、長谷川さんが敵と内通していない方が意外でした。」

右京「長谷川さんも、そこまで落ちてはいないという事なのでしょう。」


尊「二人が鳳凰島に行っている間に起きた、確か逸見エリカさんでしたか?彼女が墜落死した事件・・
杉下さんは事故か自殺と考えていますか?それとも、事件性が有るとお考えですか?」

右京「転落死する映像ですが、病院屋上には第三者は映ってませんでした。」
亨「米沢さんによると、映像に細工の痕跡も無かったそうです。目撃者の男性も、
入手した内部情報には名前が載っていなかったので、現状無関係の可能性が高そうですね。」

尊「事故か自殺ですか。催眠術とか暗示の可能性も考えられますが。」
右京「いつもなら、調べに行く所ですが。今回は本丸を陥落させることを優先させるべきでしょう。」
亨「半年経過していますから、仮に他殺だとしても証拠とかは処分されている恐れが。」

尊「事件解決したら、紅茶飲む時間なくなるんじゃないですか?」
右京「それは困りましたねえ。」



翌日日曜日 


審判「黒森峰フラッグ車戦闘不能 大洗女子学園チームの勝利!」


大洗女子チームの快挙は、マスコミに大きく取り上げられた。決勝戦の視聴率は最大45%を記録し
学園には、来年度の入学希望者から問い合わせが相次いでいた。

22日午後には茨城県庁を表敬訪問し、応援してくれた県民へのお礼を述べた。


学園艦

沙織「ゆかりん、みぽりんの熱は下がった?」
優花里「はい。熱といっても37.5度くらいです。一晩寝れば大丈夫でしょう。明日午前中の
練習試合は、念の為に休んで貰いましょう。」

沙織「週末位に、杉下さんとかには消えてもらうの?」
優花里「狙撃して、消えてもらいますぅ。恐らく何が起きたか理解する時間もありませんよ。」

優花里「明日は、西住殿のの誕生日パーティー。そっちも楽しみです。明日開始時間は何時にしましょうか?」
沙織「午後6時かな。」

週末には、さくっと特命係を消して・・・・大洗で凱旋パレードの予定だ。そんな楽しい未来を想像する内に
優花里は眠りに落ちた。


10月23日(水曜日)


麻子「・・・・・・・・夢か」

麻子は自分が、何か暗い所に閉じ込められている夢を見た。誰か眼鏡をかけた男性が、自分を。哀れむ様に見ていた気がするが
それが誰なのかは思い出せない。

麻子「今日・・・・・後輩の練習を指導するんだったな・・・・・・・・早く起きないと。」
しかし、窓の外を見た麻子が驚く。まだ夜明けすら過ぎてはいなかった。

麻子「こんな時間に目が覚めたのは・・・・・何年振りだろう。」
地震でも無い限り、絶対に起きない時間帯だ。窓を開けてみる。

麻子「寒い」

今日の天気は快晴らしい。放射冷却でこの時間は逆に気温が下がっているのだろう。
しかし、何か妙な悪寒がする。再びベッドに潜り込んだが、すぐには眠れなかった。


結局沙織に起こされ、眠いまま登校する事になった。


10月23日午前6時 伊豆半島南岸石廊崎沖

船長「大洗にはいつ到着出来るかな?」
船員「明日の夕方には。でも、夜まで近くで待機しろって言われてましたね。」
船長「秋山の娘さんからの指示だ。一般の生徒さんや、ブンヤ(マスコミ)さんに気付かれない様にな。」

彼らは知らない。既に、後方10キロを密かに尾行している、海保の巡視船の存在を。

同時刻 熊本市東部

終電に乗り遅れた会社役員を、肥後大津まで乗せて空車で戻るタクシー。

運転「何だありゃ、トラックみたいなのが何台も止まっているな。・・・アンテナ付いてるのもあるぞ。
映画の撮影かなあ。」
何台もの輸送車両が、西住家から視界に入らない場所に停車している。その時、輸送車両群が
一斉に動き出した。運転手は眺めていたかったが、次の客が居るので忘れる事にした。


23日午前8時・・・・・警視庁廊下

警務部部長(警視正)
 「ご安心ください。あの杉下と甲斐次長の息子は数日以内に、あそこの御嬢さんが始末するとの噂です。
狙撃の腕は、プロ級らしいですよ。それよりも、週末のゴルフですがどうも雨模様の様で。中止になるかも知れません。
その時はまた、連絡します。」

そう言って、自分の執務室に入った部長は即座に不機嫌になった。そこに居る筈の無い人物が居たから。

部長「大河内君!一体何の用だ。勝手に入るとは何の真似だ。」

大河内「職務を遂行しに来ただけですよ。」
部長「君を読んだ覚えは無い。でてい・・・・・・!!」

大河内は無言で書類をかざした。そこには逮捕状と書かれている。対象人物の欄には、警務部長である
彼自身の名前が印字されている。

大河内「澤永警視正 貴方を未成年者略取及び、監禁及び強姦・・・・人身売買の共犯容疑で逮捕します。
正式な手続きまで、身柄は監察官の元で拘束します。連れて行け。」

逃げる間もなく、大河内の部下に取り押さえられ連行される。

大河内「一つ言い忘れた事が。貴方が心配すべきは特命係の運命や、週末の天気予報ではありません。
ご自分の将来だという事を、お忘れないように。」

この時既に、大洗女子学園は外部との、通信を全て遮断されていたが、戦車道指導しているあんこうチームは気付いていない。


「ありがとうございました。」
「ありがとうこざいました。」

戦車道の練習が終わり、全員学園に戻って行く。この後ミーティングがあるが、3年生は参加しない。
それは、後輩達の役目だ。無論求められはアドバイスはする。

生徒「学園艦の近くに、船が居るよ。」
生徒「大震災余震の、震源域海流調査の船らしいよ」


華「優花里さん、みほさんの容体はどうなのでしょう?」
優花里「熱も完全に下がったそうだと、赤星さんから。」
麻子「予定通り、実施できそうだな。沙織は何処だ・・・?」


優花里「食事の一部は、大洗の商店街から届けてもらう予定です。」
麻子「半分は、食材を届けてもらい私達で作る。沙織は今確認の電話中だ。なに直ぐに終わる。」


沙織「私そんな事言っていないよ!なんで勝手な事するの!魚屋さんのバカ!」
華「ただ事じゃありません」

優花里「武部殿落ち着いて下さい!何が有ったんですか!」

沙織は泣き出しそうな表情で、こちらを見ている

沙織「今日の食事や材料・・・・飾りつけ・・・・・・・・全部誰かが・・・・・・・・・私の名前を使ってキャンセルしてしまったの。」


華「酷い!私達がみほさんの為に準備したのに。」
沙織「今から準備しても間に合わないよう。うわあああああん。」

どうやら、西住みほの具合が悪いという口実で、キャンセルされてしまったらしい。

麻子「許せない!犯人は学園の人間か?戦車道に対する嫉妬かもな。」
優花里「どうしても目立たない部活が出来てしまう、誰が犯人でもここまで馬鹿にされて、ただではおきませんよぅ。」

??「おはようございます。」
沙織「今それどころじゃないの、話しかけないで。」

亨「おはようございます。西住さんは病気ですか?」
華「そんな悪くありません。今取り込み中なので、失礼します。」
右京「西住みほさんの誕生日パーティの準備が、僕が連絡した通り、全て取り消されたのですね。」


優花里「!まさか、警部さんが勝手に!」
右京「連絡が午後になると、お店の方にご迷惑が掛るので早めに連絡しました。」
亨「食事とかは、廃棄処分になるとゴミも出るので早めに。」

麻子「ふざけるな!一体何の権利が有ってそんな事をするんだ!」

亨「寝言も大概にしろよ。今のセリフそっくり返させて貰う。」
右京「貴女達こそ、一体何の権利が有って仲間達の命を平然と奪ったのですか?
角谷杏さん、小山柚子さん、河嶋桃さん、3人を睡眠薬で眠らせ奥多摩湖に放り込んで殺害した
卑劣極まりない殺人犯・・・・・・それは」

右京「秋山優花里さん、貴女です。」

終了します。ありがとうございました。
明日9時から対峙編です。


優花里「朝から面白い冗談ですね。」
右京「いいえ、冗談ではありません。貴女達を逮捕しに来ました。」

新三郎「警部さん!この事は、警視庁に報告するからな。」
亨「新三郎さんは、なぜ学園に。」

沙織「華が、希望者に華道の事を説明するから、そのお手伝いに。」
亨「なるほど、新三郎さんがいて手間が省けましたね。」
右京「新三郎さん、貴方も殺人の容疑で逮捕します。」


亨「お二人は、伊東容疑者を罠に嵌めて、殺人の濡れ衣をきせたと思っていると
思いますが。」
優花里「伊東とかいう人は、相当女性の知り合いが多く、恨んでいる人も多いと聞きました。」
麻子「無理やり関係を持った事が露見したら、破滅だ。十分な動機が有るぞ。」

右京「確かに、彼には動機もあります。実際現場付近にも居た事が確認されています。」
亨「しかし、現場付近での彼の行為は不用心過ぎます。バス停で犬に噛まれ、イライラしながら来る筈の無い角谷
さんを待っている姿を、目撃された。」

右京「更に不機嫌な表情で旅館に戻った所を主人に見られ、印象に残るという失策を犯しています。
彼が犯人だとしたら、あまりにお粗末すぎます。」

亨「旅館に宿泊しようとしたというのも、間抜けすぎます。目撃される危険が増すだけですから。俺が犯人なら
犯行の後、何処にも寄らずに帰りますよ。」


右京「犯行現場での近くで、わざわざ自分の存在を第三者に印象付ける必要は皆無です。完全に逆効果でしか
ありません。仮に共犯者でもいて、殺害場所が北海道や九州の様な遠隔地なら、アリバイ工作として
考えられるのですが。」

亨「それと、遺書が見つかった現場の倉庫でボールペンが見つかった点ですが。」
沙織「今度はそれが偽物だとでも言うの?」
右京「いいえ、それ自体は本物です。しかし、彼は本当は左利きです。」
華「!」

回想 青梅警察署

コップをわざわざ左手で取ろうとするも、途中で気づき右手で取る伊東。

右京「もう一つ良いですか?伊藤さん、貴方は本当は左利きではありませんか?普段はそれを隠して生活している。
違いますか?」

伊東は一瞬迷うも、大きく頷く。

亨「保守的な人の中には、左利きを何か悪い事の様に考える人も皆無じゃないです。事実、俺が小学生の時
同級生に、左利きを矯正された子がいましたから。」
右京「彼の父親が、文部大臣だったというのも無関係ではないでしょう。」

右京「彼は人前では、左利きだとばれない様に生活していたそうです。」
亨「左利き用の筆記用具を、使用するのは自宅にある自分の部屋や書斎だけで、家族にも
一切知らせてはいなかった。」


亨「伊東容疑者の、出勤途上もしくは退庁後に何処かでボールペンを盗んだのでしょう。」
右京「そして、それを遺書を書かせた倉庫に放置した。」

麻子「それが何だと言うのだ。伊東容疑者が濡れ衣だという証拠にはならない。」
亨「確かに証拠にはなりません。」
右京「しかし伊東容疑者を観察する際に、彼は『左利きの人の癖や動作』をする事は無かったのでしょうか。」

亨「少なくとも、自室では誰にも見られずに左手を使っていたと本人が。普段の行為でも左手で何かをしようとする
動作が有ってもおかしくありません。」
右京「それを見落とすようでは、貴女方の情報収集力も粗が大きいと言わざるを得ませんねえ。」

沙織「ぐぬぬぬ」


右京「殺害されてしまった角谷杏さんですが、彼女は冷泉さんに次ぐ優秀な成績だったそうですね。」
亨「小山さんもベスト5以内だったそうです。」

華「それが何か関係でもあるんですか?」

亨「考え付かなかったのかなあと、そんなに優秀なのに。」
優花里「?」
右京「自分達が、確実に貴女方か・・・・手先に殺害される可能性ですよ。彼女達ほど優秀なら、直ぐに危険性に
気付くと思いますが。」


優花里(確かに、私達に復讐しようと考えていたのは確かです。だからこそ先手を打って消したのですが。)


亨「角谷杏さん達3人は、秋山さん達にとって危険な存在です。直接的な復讐じゃなくても、マスコミなどに
ばらすという可能性もありました。」
右京「学園の実権を手中に収めた今、被害者達を生かしておく事は、何の利益ももたらさない。
むしろ危険性しかありません。

亨「直ぐに手を下さなかったのかは、いくつか可能性が考えられます。一つは、被害者側が何かしてこない限りは
手を下す予定は無かった。」
右京「もしくは、角谷さん達の周囲の人物・・・家族・親戚や、仲の良い友人達の動向を把握するのに、一定の時間が必要
だった。家族もしくは中学以前の友人が、復讐に手を貸す可能性も十分に考えられます。」

亨「そういった人物がいた場合、口封じの計画を変更する必要が出るかもしれません。一緒に始末するか、
もしくは何らかの弱みを掴み、脅迫して引き込むか。あるいは金銭で取り込むという選択肢もあります。」

優花里(それもありますが、ノンナさんとイカ娘と同じ声の小娘の始末とかもありましたから。二人は実行寸前に病死
エリカは、勝手に落ちてくれて助かりました。)


右京「冷泉麻子さん、水戸市内で角谷杏さんと、小山柚子さんを見かけたそうですね。」
麻子「9月の終わり頃です。祖母の使いで水戸の知人の家に、行った帰りです。偶然で話は聞いていません。」
亨「嘘くさいなあ。誰かに・・・秋山さん辺りに命令されて、監視してたのじゃないかなあ。」

回想 9月末

麻子「前生徒会長と、副会長が水戸で密会しようとしているのか。」
沙織「麻子、今日用事で水戸に行くって言ってたよね。可能なら、ちょっと監視して貰えないかな?」
麻子「○公園だな。了解した。」


公園

麻子「秋山さんか?」
優花里「どうやら上手く会話を聞けたみたいですね。」
麻子「やはり復讐・・・・と言っても、ナイフで刺したりじゃ無いが。」

優花里「あいつらの動向は常に監視してますよ。盗聴とネットの監視は万全です。
ツィッター等に接続しようとしても、即座に切れるようにしてあります。」
無論自宅以外の、例えば図書館やネットカフェのパソコンも同様だ。

麻子「元会長の自宅近所に報道関係者が住んでいたらしい。今は東京居住だそうだ。
優花里「その人を通じて、私達の行為を暴露するつもりですね。近所にいた人なら顔見知りでしょう。」

麻子「幸運な事にしばらく余裕がありそうだ。」
優花里「どういう事ですか?」
麻子「相手は、取材で数日前に海外に出国してしまったらしい。帰国は来月の20日頃らしい。」

優花里「運が無い人達ですね。相手に連絡したとか、そういった会話はありましたか。」
麻子「帰国してから連絡すると言っていた。でもその人は世界を飛び回っていて、うまくコンタクト出来ないかも
とも言ってる。その場合は、小山先輩の親族が居る奥多摩町の倉庫に呼び出し、刺し違えるらしい。」

優花里「哀れな人達です。その計画は既に全部筒抜けです。」。」
麻子「先手を打って消すのか?」

優花里「そういう事になりそうですね。」
麻子「今日は帰らなければならないから、詳しい話は明日に・・・・」


翌日学園艦

沙織「自殺に見せかけるんじゃないの?」
華「それも考えましたが、都合良く罪を被ってくださる方がいますので。」

優花里「あの腐れロリコンですぅ。来年初頭に、上役のお嬢さんと結婚するそうです。」
麻子「あの3人に脅迫されて、呼び出され殺害という筋書きだ。金銭の要求という形になるかもな。」
沙織「到底払えない金額を要求されて、口封じ・・・・小説とかにありそうだね。」

華「既に段取りは立ててあります。」
優花里「相手は3人ですから、万一の事が有るかも知れませんので、私も出ますよ。」


亨「知り合いの報道関係者に連絡される前に、3人を消す事にした。」
右京「しかし、本当に連絡するつもりだったのでしょうか。」

麻子(どういう意味だ?)

亨「仮に連絡しようとした所で、相手諸共消されて終わりでしょうね。」
右京「報道関係者に連絡して暴露・・・・間違いなくその計画はダミーでしょう。」

亨「冷泉さん、貴女は話を盗み聞いたんじゃない。」
右京「盗み聞く様に仕向けられたのですよ。」


亨「例え、何もせずおとなしくしていたとしても、いずれ遠からず消されたでしょう。」
右京「角谷杏さんと、小山柚子さんはそうなる前に復讐する事にしたのです。」

優花里「復讐?」
嘲笑する優花里

亨「復讐といっても手段は何種類かあります。憎い相手やその家族に危害を加える。報道機関などを介して告発する。
金銭を要求するのも、手段の一つですね。」
右京「しかし、いずれの手段も困難です。あんこうチームだけならまだしも、五十鈴家の監視もあるでしょうから。

亨「追い詰められた二人は、究極の手段を用いる事にしました。」
右京「自身を犠牲にする事で、犯人の身元に繋がる証拠を残そうとした。と僕は考えています。」

亨「小山さんの祖母に当たる方の家が、奥多摩にある事は事前に知っていた。彼女自身も周囲の人に話していた
みたいですので、当然秋山さん達も把握していた。」
右京「殺害の実行に当たり、水戸や大洗近辺は選択肢から外した。アリバイ工作が難しいですからね。」
亨「町の人の目や、報道機関の目もありますから。」

右京「そして、犯人役の伊東容疑者には土地勘が有る。彼もまた奥多摩の生まれです。」
亨「角谷さんの想定通りの場所で、偽の遺書を書かせた。実はあの倉庫にある箪笥にはある秘密が。」

右京「江戸時代の商人が使用していた箪笥で、盗賊除けのある仕掛けがありました。隠し扉です。」
右京が一枚の紙を出す。


回想 特命係室

角田「へぇー、その紙が被害者が書いたダイイングメッセージか。」
亨「何らかの隙を見て、タンスの隠し扉に入れたのでしょう。」
角田「もう解読できたの?」

右京「残念ながら未だです。文字は英語や仏語では無さそうです。」
角田「珍しいなあ。昔亀山が警部と間違えられて、拉致されて群馬の別荘で、答えの無い
暗号解読をさせられた事が有るよな。」
右京「あの時は、軍人の団体が隠した架空の埋蔵金でした。」

亨「今回の角谷さんのメモも。答えが無いと。」
角田「犯人に、脅されて書かされたんじゃないの。」
右京「捜査をかく乱する為に、故意に書かされた。否定はできませんね。」

角田「何か、隠されたメッセージでもあるのかも知れないからなあ。炙り出しとか?」
亨「炙り出しは無いでしょう。犯人が目を離したとしても長くて30秒から、1分くらいでしょうから。」

角田「縦の織り目だけど、中心からややずれているなあ。犯人に気付かれそうになって急いだかな。」
部下の刑事に呼ばれた角田は、マグカップを置いて出て行く。

亨「杉下さんも気になりますか?」
右京「課長の意見を聞いて気になりました。このメモが見つかった箪笥の隠し扉は、君も見ましたね。そこは、紙を
折らないと、入れられ無い狭さでしたか?」
亨「薄い紙でしたから、そのまま入れられると思いますよ。」


右京「縦の折り目も、暗号の一部と考えるべきでしょう。」
亨「アルファベットのI、もしくは数字の1・・・・横の992と合わせると1992。」
右京「隅に小さく書かれている4という数字、1992に起きた、4に関係する事は・・・」

亨「オリンピックか。確か92年はスペインのバルセロナ・・・・って事は、このメモはスペイン語!」
右京「英語や、日本語に近い中国語等を避けたのでしょう中南米はともかく、日本ではそれほど重要
ではありませんからね。」
亨「スペイン語の辞書を借りて来ます。」

1時間後

亨「最初のは、並べ替えるとlargo 日本語で長い。」
右京「2つ目は、bueno。日本語で良い。」

修正

右京「縦の折り目も、暗号の一部と考えるべきでしょう。」
亨「アルファベットのI、もしくは数字の1・・・・横の992と合わせると1992。」
右京「隅に小さく書かれている4という数字、1992に起きた、4に関係する事は・・・」

亨「オリンピックか。確か92年はスペインのバルセロナ・・・・って事は、このメモはスペイン語!」

右京「英語や、日本語に近い中国語等を避けたのでしょう中南米はともかく、日本ではそれほど重要
ではありませんからね。」
亨「スペイン語の辞書を借りて来ます。」

1時間後

亨「最初のは、並べ替えるとjefe 日本語で長。」
右京「2つ目は、bueno 日本語で良い。」


回想終わり

亨「このままでは意味が通りません。しかし、こちらの・・・犯人が脅して書かせた方の遺書を見て下さい。」
右京「数字の2だけ、やや太字で目立つ様に書かれています。」

華「それが何だと言うのですか。」
亨「長と良いを繋げて読むと、長良になります。岐阜県から伊勢湾に流れる川で、鮎漁で有名です。」
右京「戦前日本では軍艦の名前に、戦艦は旧国名、駆逐艦は自然現象、空母は、伝説の生物
と言って基準で名前を決めていました。」

亨「長良の様な、小型巡洋艦には川の名前を付けて来ました。北上とか大井とか。2という数字と合わせると、
長良型軽巡洋艦2番艦という事になります。」
右京「長良型軽巡洋艦2番艦の艦名は、五十鈴です。」


亨「角谷さんは、優秀な生徒でした。誰が自分を消しに来るか、大体想像がついていたのではないでしょうか。」
右京「そして、想定通りの人が自分を消しに来た。角谷杏さんは、計画通り犯人の隙を見つけて、手早くメモを作り
倉庫内の箪笥の隠し扉に入れた。この箪笥の事は、小山柚子さんから聞いていたのでしょう。」

亨「望み通り、そのメモは杉下さんが発見して解読した。」
右京「残りの文字ですが、otono・・日本語で秋・・・montana・・・こちらは山です。つまり、秋山優花里さん
貴女の事を示しているんですよ。」

沙織「陰謀だよ!」
右京「はい?」
麻子「伊東容疑者が、あんこうチームに罪を着せる為の陰謀だ。」

亨「それは無理がありますね。」
右京「伊東容疑者は被害者3人とは面識がありましたが、特に面識の無い貴女方に罪を擦り付ける
というのは、相当無理がありますねえ。」

??「そろそろ諦めたらどうですかねえ。不良女子高生の皆さん。」
華「誰です!・・・・刑事・・・?」

伊丹「警視庁華の捜一の伊丹だ。」
芹沢「芹沢です。」

麻子「海洋調査の船は偽装か!」
伊丹「とある人の伝手で、チャーターした。てめえらのふざけた犯罪のせいで、俺達は今日の未明から房総で待機だ。
この貸は高いぜ。」


亨「事件の当日、ある事実が明らかになりました。」
右京「茨城-栃木南部-埼玉中部から南西部・、・・更に東京西部のNシステムが故障していた事実が、
既に判明しています。夕方から翌朝に掛けてです。」

亨「どうやらウィルスによる被害で、複数のサーバーや海外を経由している為に誰がやったかは判明していません。」
右京「最終的に、容疑者を突き止めるのは難しいでしょう。」

奥多摩は10日前の強風被害で故障したままなので、何もする必要は無かった。

亨「途中で、事故を起こす訳には行かないので当然慎重に安全運転で往路はとりあえず、何の問題も起こらなかった。」
華「・・・・・・・・」


右京「問題が起こったのは帰路です。帰り道も、慎重に運転する必要があります。飲酒運転の車に追突される・・・
といった、相手方に完全な落ち度がある場合でも、事故を起こす訳には行かない。」
亨「相手が悪くても、事故に気付いた周辺住民が警察に通報した場合、警察署で事情を聞かれる
恐れがあります。」

右京「奥多摩から、青梅市方面へ戻る際中・・・・犯人にとっても想定外の事が起きたのです。」

国道をワゴン車が山道を降りて行く、ライトの前に浮かび上がる道を塞ぐぐブロック。
辛うじて急ブレーキ停車する。

亨「安全運転の必要が有ったので、止まる事が出来たのでしょう。雨とかだったら見通しが悪くて
止まり切れず、事故になっていた可能性も。」
右京「現場には、急ブレーキの跡だけが残っていたそうです。当然警察に通報は出来ない、録音されますから。
ちなみに、ブレーキ痕は調査しました。」


亨「沙織さん、何か意外そうな表情ですね。」
右京「障害物放置事件で、被害者側の車が付けたタイヤ痕を調べる事が、意外ですか?」
沙織「悪いのは、障害物を道路に放置する人じゃないの。」

亨「確かにそうですが、急ブレーキを踏んだ弾みで近くの歩行者を撥ねてしまうという可能性も
考えられます。隠滅する為に、連れ去ったという事例が過去に起きていますから、調べないという選択肢はありません。」
右京「それは流石に無くても、警察に通報しなかったとなると、例えば飲酒運転だから通報できない。」
亨「または、後ろ暗い目的で車を使用していたか。山の中で違法に大麻を栽培していたと事例も、ありますから
とりあえず調べたそうです。」

右京「誰かがはねられた形跡はありませんし、何かの事件が起きている形跡もありませんでした。
(変死事件の発覚はおよそ10時間後の午前8時)」
亨「道の先で、飲酒運転のような痕跡も無かった事から、事件性は無いと判断されました。つまり上へ報告は無かった。
最初の時点では、伊東が逮捕されましたから。」

優花里(タイヤは一般的な物で、既に処分済みです。)

亨「タイヤだけなら、処分は容易です。既に焼却でもして隠滅されているでしょう。」
華(やはり早めに処分して正解でしたね。)

右京「発見された車のタイヤ痕を調べましたが、一致しませんでした。」

右京がさらっと切り出した為に、優花里や新三郎は一瞬聞き流しそうになった。

新三郎(そ、そんな馬鹿な・・・・・)


優花里(これは罠?こちらを動揺させて、犯人しか知らない事を言わせようとか?)
亨「あ、もしかしてブラフだと思ってます?」
右京「無論、全て事実です。事件の翌日に廃車にした筈の車は、転売されて今も未だ無事です。
無論誰が購入したかは、お教えする訳には参りませんが。」

亨「元から、犯行に使用した車は処分するつもりだったのか、それとも想定外のアクシデントで
急に処分する事になったのか。」
右京「処分する際に、地元で廃車にしたり火をつけてしまう事はある理由により難しかった。」
麻子(火を付けたら目撃される恐れがあるからな)

右京「皆さんの知名度が大きくなってしまったからですよ。」
亨「今や、連日新聞やテレビで報道されています。週刊誌の取材もあります。特に五十鈴さんは、
有名な華道の家元の後継者でもあるので、マスコミも更に注目されるでしょう。」

右京「報道の目が有る水戸や大洗では、迂闊な行動は取りにくいという事です。更に、必ずしも好意的取材
だけとは限りません。」
亨「俺達みたいに、何か不審な点を感じて取材を行う奴も居るでしょう。」

沙織「隠し撮りとかしない様に、町の人とかも見回りとかしているよ。」
右京「しかし、今は天安門事件の頃と違い、直ぐにネットに投稿できますからねえ。」
亨「一般市民の目もあります。解体業者に車を運ぶ所を目撃される可能性も。社長は言いなりになる人物でも
裏の顔を知らない従業員が、不審を感じ誰かに話すかもしれません。」


右京「そこで、素性を知られるリスクが低い遠方の・・・と言っても隣の栃木県小山市ですが。」
亨「ひき逃げ事件でありがちな、バンパーが壊れていたり、ヘッドライトが割れていたりは無かったので
それ自体は、相手に気付かれる事はありませんでした。」

車を運んだのは、五十鈴家の事務員で車の登記もその人物の名義になっている。
新三郎(あの社長は、これまで行政や客とトラブルを起こしたことは無い。お金に困っている様な情報も無かった筈。)

亨「時間は無くても、処分する前にいくつかの候補から経営に問題が無いか等は調べたでしょう。しかし、
相手の微妙な心理までは計算に入れなかった。」
右京「魔が差したなどという事は、容易に計算できませんからねえ。」

亨「相手に、口止め料渡してますよね。解体業者社長も、口止め料を渡すとは何か後ろ暗い所があるのだろう。
だから、知り合いに転売とかしても調べたられたりしないだろうと、考えてしまったそうです。」

華(廃車にするのは、確認したと聞きました。割と人気のある車種だから、別人が持ち込んだのをスクラップにする
所を見せて、騙したのですね。)

右京「インチキの手口は、今皆さんが想像した通りだと思いますよ。」

亨「更に、拙い事にこの社長さんみたいに犯罪の誘惑に負けてしまう人は、普段の行動もまた不誠実である事も
少なからずあります。」
右京「彼は知人に売却する際に、整備点検と車を清掃しました。しかし、あまり目に付かない所の清掃は怠ってしまった。
車体の下とか、シーツの隙間等です。」


右京「しかし、裏の事情全てを話してはいないでしょう。」
伊丹「相手が恐ろしくなって逃げるかもしれねえな。だから、伊東にされた事だけを話した。相手は小山さんの
事が好きだったのかも知れない。義憤に駆られ、計画に加わった。」

芹沢「命を賭した計画だとは、伝えて無いかもしれませんね。」
右京「水戸で、角谷杏さんと密会し故意に冷泉麻子さんに会話を聞かせた。」
亨「復讐や、奥多摩の倉庫に呼び出す等の言葉を入れてね。」

薫「奥多摩と青梅の間の路上で、これが見つかった。」
伊丹「亀吉が持っているのは、小型の高性能GPSだ。強力な磁石が付いているので、浮気調査等で
対象者の車体下部に装着して使用するらしい。」


亨「小山さんか、角谷さんのどちらかが君達に拉致される際、薬物で眠らされる寸前に車の傍に倒れこみながら、
意識を喪失する寸前に、装着した。」
右京「受信側は、小山柚子さんの知人に渡し恐らくこう言ったのでしょう。伊東の車が戻って来たらその直前に、
道路に障害物を仕掛けて欲しい。上手く行けば、犯罪行為を証明する事をしゃべってしまうかも知れない。」

薫「てめえら、生かしておく訳には行かない被害者を、先手を打って上手く始末したつもりだった。秋山家は、
小山さんの知り合いが所属する、雑誌社を上手く誘導し海外での仕事の期間を延長させた。」
芹沢「そうか追い詰められた被害者側が破れかぶれで、刺し違えようとしたんですね。それを知った君達は
始末する事にした。」

伊丹「それも、絶好の犯人役付きでな!一石二鳥・・・大洗への同情が増えたから、一石三鳥だったのだろ。」

亨「伊東を角谷さんを装い、奥多摩に誘い出し濡れ衣を着せる事に成功した。」
右京「本当に誘い出されたのは、新三郎さんと秋山優花里さん・・そして、命令したであろう五十鈴華さん・・・」

右京「貴方達の方だったのですよ。」

マチガエタ

回想 事件当日 奥多摩湖


新三郎「ボートに載せるのを手伝いますぜ。」

新三郎は、何かが落ちているのに気付くが、柚子と桃ちゃんをボートに積むのに気を取られる。
ボートに積んで、優花里が漕ぎ出そうとした瞬間犬が通り過ぎる。

優花里「もしかして、犬苦手だったりします?」
新三郎「小学生の頃、近所の家で噛まれてから少し苦手で。」

新三郎が岸辺で待っていると、トランシーバーで連絡が(携帯と違い記録が残らない)。桃の片眼鏡のレンズが
無くなっている。
新三郎は、何かが落ちていた場所を見るが既に何も無かった。

新三郎「ぽろっと外れたのかも知れません。さっきの犬が何か咥えていた様な・・・探しますか?」
優花里「手で触れていなかったら、問題ありません。」

通信の声に気付いたのか、桃が目を開ける。

桃「こ、こは・・・・ヒッ!あきや・・・・」バシッ
直ぐに優花里に、気絶させられる。

優花里「お休みですぅ桃ちゃん。」
桃の毛髪が優花里の衣服に付着するが、気付かない。


右京「犯行を終え帰路の途中、車が急ブレーキを掛けるというアクシデントが発生しました。
流石の優花里さんも、平常心を乱したのでしょう。弾みでシートに落ちた毛髪を無意識に
座席の隙間に押し込んでしまった。」
亨「無論水戸に戻った後に、指紋は拭き取り座席の表面等はクリーナーで、除去しました。
事実二人の指紋と、解体業者に持ち込んだ事務員の方の指紋も出ませんでした。」

右京「しかし、知人の優秀な鑑識員がこれを見つけてくれました。」

ピンセットで、シート隙間から毛髪を取り出す米沢


亨「DNA鑑定の結果、一本は河嶋桃さんの頭髪と断定されました。」
右京「もう一本は、秋山優花里さん・・・・貴女の頭髪断定されました。」

麻子(どうやって、鑑定用の頭髪を入手した?)
沙織(あっ!あの時のイケメンのお兄さん!)

右京「沙織さん、そうです彼は僕の知り合いの刑事です。」
亨「現場で捜査を行う、強行班じゃなくて本職は経理ですから、それほど頻繁に会ってはいません。」

具体的に言えば、1年(1シーズン)に1回程度だけだ。

右京「彼の事よりも、何故五十鈴家の車両からお二人の頭髪が出たのか、説明願えませんか?」
亨「3人とも、交流は無いと決勝戦前日に言ってましたよね。」(新三郎 ゆかりん)

新三郎「え、ええと・・・」
華「事件が起きる数日前に、水戸駅付近で急な雨で傘が無くて困っている河嶋先輩を、車に乗せて
あげたと言ってませんでした?」


優花里「そそ、そうでした、決勝戦が近くて忘れてました。偶然私もその日水戸の駅前に行ったんですよ。
戦車道専門店で、何か掘り出し物は無いかと。」

亨「あのね、俺達をバカにしてるでしょ。河嶋さんが新三郎さんの車に乗る訳無いですよ。」
右京「貴女達に、裏切られ絶望の底に落とされた河嶋桃さんが、五十鈴家の車に乗る訳無いじゃないですか?
ましてや、秋山さんも同乗している。そんな、車に乗ったら命の保障はありません。」
沙織「桃ちゃんはおバカだから、乗ったかもしれないよ!」

さおりんの抗議を華麗に無視した、カイトは白いハンカチみたいな物を取り出した。
ただし、汚れていて色褪せている。

亨「このハンカチに、見覚えはありませんか?秋山さん。」
優花里(あのハンカチは、河嶋桃のです?意識を回復しかけた河嶋に、当身喰らわせた時に何か落ちました。
掴もうとしたけど、咄嗟でしたので湖に落ちてしまった。まさかその時に手が触れてしまった?)

右京「ハンカチは、事件の翌日に回収され指紋が検出されました。」


優花里「アハハハハハ!桃ちゃんは、死んでも私達に迷惑掛けますねえー。桃ちゃんには、なにも
する必要は無かったですぅ。どうせ、後の二人が[ピーーー]ば一人では何もできないのですから。」
沙織「ゆかりん、認めちゃダメ!」
優花里「指紋が出たら、もうだめですよ。」

亨「指紋は出ていませんよ。」
麻子「なっ!騙したのか!」
華「罠に嵌めたのですか!卑怯です!」


右京「皆さんの所業に比べれば、我々の今やった事など比較にもなりませんねえ。」
亨「俺は誰の指紋が出たとは、言って無いよ。無論出た指紋は持ち主の河嶋さんのですが。」

優花里「私も殺害した等と、言ってはいませんよ。」
亨「杉下さん、どうやら引導を渡して欲しいそうですよ。」
右京「そうですか、ではご期待に応えましょうか。」

亀山薫「右京さん、準備完了です。伊丹、パソコン落とすなよ。」
伊丹「偉そうに指図するな!サルウィンの亀吉!」

亨「甲斐亨です。よろしくお願いします。」
薫「こちらこそよろしくな。しかし、それにしても僅か数年でここまで技術が進んでいるとはなあ。」

亨「浦島太郎みたいな感じですか?」
薫「そんな感じだな。変な着ぐるみも流行しているし。猫とか熊とか・・・千葉には変なジャガイモ、
…落花生かな・・・奇声を発して動き回っているやつとか。」
右京「それは、落花生じゃなく梨です。おっと、積もる話はまた後ほど。」

芹沢「黒島工業社の製品だから、良かったそうですよ。ムツワ工業の製品だったら上手く行かなかった
かも知れないと、米沢さんが。」

パソコンを立ち上げる伊丹と亀山・・・・・

亨「殺害の現場を目撃した人は、存在しません。」
薫「いたら、4人目の犠牲者になっていただろうけどな。」


右京「先ほど言い忘れましたが、角谷杏さんのダイイングメッセージ・・・ギャンブル性が少し高いと思いませんか。」
伊丹「確かに、犯人に全く隙が無いかもしれないし、見られて破り捨てられる可能性もあった。」

薫「例の倉庫も事件の翌日くらいに、解体される筈だったそうですね。つまり、右京さんが発見しなかったら
そのまま失われていた可能性もありますよね。」
芹沢「偶然解体工事が延期されて、良かったですね。」

亨「本当に偶然だと思います?」
芹沢「違うの!」
右京「偶然ではありませんよ。意図して行われた事です。一つは解体工事を日延べさせる為に。」


亨「殺人事件が起こる数日前から奥多摩や青梅で、道路に障害物が放置される事件が発生しました。
しかし、この事件・・・札幌等の事件とは大きな違いがありました。」
右京「札幌等の事例は、夜間でも交通量が有る道路に角材やブロックを放置するといった、極めて悪質な事件でした。
しかし、奥多摩の事件は・・夜間地元の人でもまず通らない場所に仕掛け、そのまま翌朝に回収されました。」

亨「道路に置いたときは、わざわざ蛍光塗料や反射材を付けて、ライトで容易に発見されるようにしてありました。
つまり、放置犯は誰かを傷付ける意思は全く持っていなかったと、いう事になります。」
右京「解体工事の請負業者車両に、細工を施したのも彼です。解体工事を知り、延期させる為です。」

亨「出頭した青年は、小山柚子さんの知人です。調査の結果、戦車道の試合や、組み合わせ抽選会等で皆さんの
監視が緩む日に、何度か彼女は奥多摩を訪れ会っていた事が判明しました。確証はありませんが、伊東にされた事を
話したのではないでしょうか。」
薫「変態野郎に復讐したいから、助けてくれと。」


右京「しかし、裏の事情全てを話してはいないでしょう。」
伊丹「相手が恐ろしくなって逃げるかもしれねえな。だから、伊東にされた事だけを話した。相手は小山さんの
事が好きだったのかも知れない。義憤に駆られ、計画に加わった。」

芹沢「命を賭した計画だとは、伝えて無いかもしれませんね。」
右京「水戸で、角谷杏さんと密会し故意に冷泉麻子さんに会話を聞かせた。」
亨「復讐や、奥多摩の倉庫に呼び出す等の言葉を入れてね。」

薫「奥多摩と青梅の間の路上で、これが見つかった。」
伊丹「亀吉が持っているのは、小型の高性能GPSだ。強力な磁石が付いているので、浮気調査等で
対象者の車体下部に装着して使用するらしい。」

亨「小山さんか、角谷さんのどちらかが君達に拉致される際、薬物で眠らされる寸前に車の傍に倒れこみながら、
意識を喪失する寸前に、装着した。」

右京「受信側を、小山柚子さんの知人に渡し恐らくこう言ったのでしょう。伊東の車が戻って来たらその直前に、
道路に障害物を仕掛けて欲しい。上手く行けば、犯罪行為を証明する事をしゃべってしまうかも知れない。」

薫「てめえら、生かしておく訳には行かない被害者を、先手を打って上手く始末したつもりだった。秋山家は、
小山さんの知り合いが所属する、雑誌社を上手く誘導し海外での仕事の期間を延長させた。」
芹沢「そうか追い詰められた被害者側が破れかぶれで、刺し違えようとしたんですね。それを知った君達は
始末する事にした。」

伊丹「それも、絶好の犯人役付きでな!一石二鳥・・・大洗への同情が増えたから、一石三鳥だったのだろ。」

亨「伊東を角谷さんを装い、奥多摩に誘い出し濡れ衣を着せる事に成功した。」
右京「本当に誘い出されたのは、新三郎さんと秋山優花里さん・・そして、命令したであろう五十鈴華さん・・・」

右京「貴方達の方だったのですよ。」


動画やや斜め上から撮影した、国道が映っていた。明かりは国道上の街灯だけだ。

黒島工業のCM通りの映像が流れる。やがて1台のタクシーが通過する。立川市のタクシー会社らしい。
右京が、一時停止させ、ナンバープレートを拡大する。

亨「最近のタクシーは、強盗等の被害から運転手を守る為に、車体にGPSを装着する事も少なくありません。」
薫「このタクシーも装着してあったから、事件当日何処を走行していたか直ぐに確認できた。」
芹沢「乗務記録も、確認しました。立川市のタクシーがこんな所まで行く事は珍しいので、運転手も記憶していました。
  あの辺りを舞台にドラマを制作するらしく、脚本家がタクシーであちこち回っていたそうです。」
伊丹「個人情報を漏らすな。要するに、この映像は事件当日で間違いない。」

伊丹が再生をクリック 更に数台の車が通過。1台の車が横の空き地に停車し、素早く障害物を放置。

右京「彼が、障害物放置犯です。既に起訴されています。中々素早い動きですね。」
素早く障害物を放置すると、車を発進させ青梅方面に逃走する。

1分後、1台のワゴン車が急ブレーキを掛け停車! 二人の人物がが下りて来る。
薫「二人で、障害物を道の外に出しているな。」
亨「タイヤの直ぐ下に、潜り込んでいますからどかさないと。」

その後、新三郎が素早く車体を確認。パンクやブレーキを確認している。

右京「おやおや、皆さん顔色が悪いですねえ。」


ttps://www.youtube.com/watch?v=UjB-PjC6bWw

伊丹「戦車道で優勝して、気が抜けて疲れが出たんじゃないですか。」

確認を終えた二人が、ワゴン車の後部で会話している。口元を拡大し、スロー再生に切り替える。

右京「まずは秋山さん こ っ ち の た い や は い じ ょ う あ り ま せ ん 」
新三郎が観念したように天を仰ぐ。


右京「新三郎さん こ ち ら の た い や も ぱ ん く し て い な い で す
ぶ れ - き も こ わ れ て い な い で す。」
華と沙織が青ざめている。

右京「更に、新三郎さん や っ た あ と で よ か っ た で す ぜ」
麻子は小声で止めてくれと呟く。

右京「秋山さん そ う で す ね も も ち ゃ ん た ち を ね む ら せ て だ む こ
に ほ う り こ ん だ あ と で よ か っ た で す ぅ。」

発進するワゴン車 刑事達が一斉にあんこうチームの方を見る。

伊丹「俺達が納得する、理由を話してもらえませんかねえ。」
薫「被害者の3人が、眠らされて湖に放り込まれた事をなぜ知っている?」
亨「あの時点で知っているのは、犯人だけです。」


右京「答えなさい!秋山優花里さん!」


亨「何処かで特命係の事を知った、角谷さんと小山さんが、特命係宛てに証拠の動画を送らせるように指示した・・。」

優花里「そうですよぉ、桃ちゃん達を殺害したのは私と新三郎さんです。伊東容疑者を
電話で呼び出したのも認めます。脅したら簡単に騙せました。」

華「秋山さん、認めてはいけません。」
麻子「五十鈴さん、もうどうにもならない。」
優花里「もっと早く始末しておけばよかったですね。」

薫「それじゃ逮捕するぞ。」
伊丹「亀吉!お前はもう刑事じゃないだろうが。新三郎・・・秋山優花里・・・
平成2X年10月23日午前10時30分・・・角谷杏河嶋桃小山柚子に対する、殺人及び拉致の容疑で逮捕する。」

麻子「終わった・・・・」
右京「何を黄昏ているのですか、冷泉さん次は貴女の番ですよ。」

麻子「何・・・・・だと?」
芹沢「冷泉麻子さん・・・・五十鈴華さん、営利誘拐…監禁・・・・強姦・・・人身売買防止法違反・・・暴行・・・・傷害
 の容疑で逮捕します。平成2X年10月23日午前10時32分。」

伊丹「ハトがまめ鉄砲喰らったような顔をするんじゃねえよ。この国はナチスの様な独裁国家じゃない。
証拠も無いのに、逮捕状が出る訳ねえだろうが。」

麻子も項垂れる。


沙織回想中

優花里「うさぎさんチームを、そろそろ売り飛ばすべきですね。窮鼠猫を噛むとも言います。」
沙織「面従腹背ってやつ?時々嫌そうな表情をしているよ。私も何か手伝う?」
麻子「私と秋山さんで、処理しておくから。沙織は無線機の点検未だだろう。」
沙織「ありがとう、ゆかりん!」

笑顔で走り去る沙織・・・・・

沙織「うさぎさんチームの子が、居なくなったのは知っているけど・・・・私は何も知りません。
ゆかりんや、麻子が勝手にやっただけです。」

麻子「なっ!裏切るのか?」
華「そんな、卑怯です!」

刑事(お前が言うなよ)←右京さん以外の全員
右京「ふふふ」
沙織「な、何がおかしいんですか!」

右京「普段は友人面をしているのに、自分の都合が悪くなったら直ぐに裏切ろうとする。その様な対処
しかできない皆さんが、実力で戦車道大会で優勝できる筈もありません。やはり去年の大会は
不正の結果だという事でしょう。違いますか?」

あんこうチームは、全員言葉も無い。

沙織(被害者の証言が無いと、直ぐに逮捕はされないかもしれない。何とか、海外に高飛びしないと。)



??「残念だけど、君の思い通りにはならないよ。」
沙織「誰!」

現れたのは、料理人への無茶振りが凄い織田の・・・・もとい、神戸尊だ。
もう一人、小柄な女性と思われる人を連れているがフードを被り顔が見えない。
恐らくは、大洗在校生と同じ位の年齢だろう。

その少女は、ゆっくりと歩きだし沙織の前で止まる。そしてフードを取った。

澤梓「お久しぶりです皆さん、武部先輩」

沙織「何で生きているのあずにゃん!」
梓「あずにゃんじゃありません!死んでも居ません。」

無職の○ッサンみたいな展開で、会話がおかしくなっている闇のあんこうチーム。
話は数日前、新潟まで米沢が越後線乗りに、もとい鑑識作業に行った日の事・・・・・

薫「米沢さん、遠い所お疲れ様でした。」
米沢「将来有る、美女や美少女を破滅から救い出すという警官として、本望とも言える任務です。
ついでに、越後線に乗る事も出来ました。」

薫「新潟駅まで送りましょうか?」
米沢「新潟駅は、敵の手先が監視している可能性が有りますな。」
薫「本音は」


米沢 「羽越本線の、新発田-新津間が未乗車でして。ついでに乗っておこうと思いましてね。」
薫「流石鉄道オタクの鑑すね。じゃ東新潟駅まで送りますよ。」
白新線で新発田に出て、各駅停車で新津に向かいさらに信越本線長岡行に乗り、長岡から帰京するとの事。

その途中、ラジオのニュースで新潟で強盗殺人を犯し指名手配中の男が、東京で未明に
逮捕されたというニュースを報じていた。
米沢「未明に逮捕となると、そろそろ引き渡しで新潟到着ですかな?」

やがて東新潟駅に到着し、米沢は駅の中に消えて行く。薫は直ぐに実家に向け
駅を後にした。今日は午後3時から実家で法事がある。お寺のお坊さんの止むを得ぬ都合により、
午後3時から開始となっていた。

阿賀野川を渡り、東に進み水原駅付近で羽越本線を超え、さらに東に向かう。瓢湖という、白鳥の渡来で
有名な小さな湖が有る辺りを通り、30分ほどで実家に着いた。

薫(駅を出た辺りから、タクシーが付いて来るな。まさかゆかりん一味の尾行か・・・・いや、実家の法事の参列者かな。)
事実実家の前にも、1台のタクシーが停車し数人の親類が下車している。

後ろから来たタクシーは、やや離れた場所で停車し刺客が下りようとしている。
薫「ご近所さんへのお客さんか。」

薫が駐車場所に車を停めて、実家に向かおうとすると・・・・・

??「亀山家はどっちですか?」
薫「すぐそこですよ。・・・・・・・・・てめえは伊丹ーーーー!」


薫「てめえ、なんでこんな所にいるんだ?ハッ、ゆかりん一味に命じられて俺を始末にでも来たか?」
伊丹「なんで俺があんな小娘の言いなりにならなきゃいけない。女子高生に脅されて刑事やらされるなら、
その時は辞めてやる。」

薫「で、なんでここにいるんだ?」
伊丹「亀の故郷がどんな所か、せっかく新潟まで来たついでに見てみようと思ってな。」

1時間前 新潟駅 伊丹と芹沢は、指名手配犯を引き渡しに新潟まで来ていた。

伊丹「イテテテテ、腹が痛いな。」
芹沢「何か悪い物でも食べました?」
伊丹「病院へ行くから、中園参事官にはそう言っておいてくれ。夜には帰る。」


薫「それじゃ、目的は果たしたのだからどうぞお帰り下さい。」

家に入ろうとする亀山
薫「こらっ!勝手に付いて来るなよ。タクシーに乗って・・・・」
しかし、タクシーは既に帰ってしまっている。
薫「しょうがねえなあ。電話してタクシー呼んでやるから待ってろ。」

庭に向かうと、先に着いていた加納社長と・・・亀山の姉3人(4人姉弟の末っ子 相棒本編に出たのは一人だけ。)
が待っていた。
薫「姉ちゃん、遅れて・・・・」

加納「薫!そこを動くな!ぶん殴ってやる!」


60代とは思えない、加納社長のパンチを避ける薫。
薫「ちょ、叔父さん!何事?」
加納「てめえ、女連れ込むのはどういう了見だ!しかも未だ、高校生くらいじゃないか。」
薫「高校生?何の事?」
姉A「美和子さんに、どうやって詫びる気だい!異国まであんたについて行ってくれた、あんな良い人を
裏切るつもりかい。」

薫「伊丹、見てないで助けろよ!」
伊丹は愉快そうに見ていたが、しぶしぶという感じで止めに入った。
伊丹「まあ、とりあえず落ち着いて」

加納「これは亀山家の問題だ。部外者のあんたは口を出さんでもらえんか。」
伊丹「まあ、そう言わずに。この亀はなぜ特命係に飛ばされたかご存知ですか?」

姉c「確かラーメン屋で、指名手配犯見つけたら逆に人質にされて。」
姉B「テレビ付けたら、思わず笑っちゃった。」

伊丹「特命係でも、殺人犯に島根の県庁所在地と聞かれて、松山と答えたり。美女にほいほいと
付いて行ったら、群馬県の別荘地下に監禁されて、答えの無い暗号解読をやらされたりと・・・・・・
要するに、皆さんの目を盗んで浮気する才能など全くありません。そんな才能が有ったら特命係
に飛ばされるような、ヘマはやらないでしょう。」


姉A「その通りだねえ。そんな甲斐性あったら島根の県庁所在地、間違えたりしないねえ。」
姉C「疑って悪かったねえ。」
薫「姉ちゃん・・・・もっとまともな理由で信じてくれよ。」


親戚「じゃあ、あの子は一体何が有ったんだろう。」
親戚「山の中で道に迷ったか?」

加納「服はかなりぼろぼろで、脚はすり傷だらけだ。かなり長い距離を逃げて来たんじゃないか?」
薫「誰かに強姦でもされそうになって逃げたか、もしくは誘拐されて監禁場所から逃げた?」
伊丹「報道協定で、一般市民には知らされていないだろうからあり得るな。少し、話させて貰えませんか?」

姉B「それはいいですけど、何かに怯えているから慎重にやるんだよ。あんたは強面だからね。」
伊丹「強面ですが、慎重にやりますよ。」
場合によっては、警察に通報する必要があるだろう。誘拐事件なら、事件発生個所の県警とも調整が必要である。

小柄な少女は、非常に怯えている様に見える。
伊丹「お嬢さん、怖がらなくてもいい。なにが有ったのか話してくれ。」
薫「どう見てもてめえの顔を見て、怯えているぞ。娘さん、こいつは悪人面だがまともな刑事だ。多分」
伊丹「多分は余計だ!」

少女「け、刑事・・・・・・・殺される・・・」
加納「娘さん・・・・・・聞きにくい事を聞くが、刑事に酷いい目に遭わされたのかい?」
伊丹(この子の顔何処かで・・・・・・・見た様な気が。)

杉下右京なら即座に気付いただろうが、伊丹はたっぷり20秒かけて思い出した。
伊丹は、薫を部屋の外に連れ出した。

薫「うおっ!腕を引っ張るな!なにしやがる。」


薫「いったい何事だ。もしかして、東京で今起きている事件の関係者かよ?」
伊丹「去年の大洗女子チーム・・・・・1年生チームリーダーの澤梓だ。」
薫「何故新潟県に・・・・・・?秋山とか・・・・五十鈴家とやらの仕業か。」
伊丹「6月頃から消息不明になっていたらしい。何か秘密を知ってしまったのかもな。」

とりあえず、伊丹と薫が話を聞く事にした。

30分後

薫「全員聞いてくれ。」
伊丹「今後しばらくの間、彼女の事は誰にも言わないで下さい。無論警察にもです。」
加納「警察に言ったら、彼女の命が危ないという事やな?」

薫「今、俺の元相棒だった杉下右京さん・・・が追っている相手はそこらの犯罪組織とは、
比較にならねえ。」
伊丹「人命なんぞ、そこらの道端に落ちている小石かゴミくらいにしか、考えていない恐ろしい連中だ。
詳しい事は言えませんが、既に何人も消されている。だから、絶対に他言しないようにお願いします。」

その後、梓は亀山家で匿う事になり・・・21日夜に夜行バスで亀山と共に上京し、東京で
神戸尊や、伊丹と合流し・・・・借りて来た水産庁の船に乗って学園艦を目指した。

尊「武部沙織さん、貴女は大洗以外の高校の生徒も数人ロリコンに売り飛ばしていますね。
それをうさぎさんチームに知られてしまった。それで彼女達も売りとばした。」
梓「何とか逃げ出して、一晩中山の中を逃げて気が付いたら、亀山さんの家にたどり着いていました。
私が知っている事やらされた事・・・・・・全部裁判で証言します。」

へたり込む沙織・・・・・・


伊丹「武部沙織お前も逮捕だ。おとなしくお縄を頂戴しろ。」
芹沢「表現古いですねー。」
伊丹「ふん、この瞬間が一番刑事やっていてよかったと思う瞬間だ。」

刑事達が、逮捕しようと近付きだした瞬間 優花里の頭髪のモフモフから何かが落ちた。
素早くそれを蹴飛ばすゆかりん。白煙が噴き出す。

伊丹「煙幕か!」
華「ごほごほ・・・」

慌てて煙幕の外に出てみると、優花里が全速で学園に逃げ込んで行く。
右京「生徒を人質にして、籠城するつもりかもしれません。」

右京、薫 尊 カイトと伊丹と数名の刑事が追いかけて行く。


右京、薫 尊 カイトと伊丹と数名の刑事が追いかけて行く。

学園の中に入ると、優花里が立ち止っている。
薫「待てえええええ。」
伊丹「元刑事の亀山さんよ。お前はもう警察官じゃないだろう。勝手に付いて来るな。」

再び走り出すゆかりんと、刑事達。

右京「!」
前方の防火扉が閉まる。更に後ろも閉まる

優花里「しばらくそこに居てもらいますよ。」
防火扉の間に閉じ込められたようだ。


右京「鍵が掛けられているようです。」
亨「後ろも出られません。」

尊「携帯が繋がりません。防火扉に電波を遮断する装置が付けられている可能性が。」
伊丹「頭髪のモフモフに、煙幕弾を隠しているとは。日頃から持ち歩いていたんでしょうかね。」

数分間防火扉を押したり引いたりしていたが、反応は無い。しかし、誰かの足音が近付き扉が開かれた。
大洗の生徒の様だが、息が上がっている

右京「赤星小梅さんですね。」
尊「大洗に転籍した聞いていましたが?」
亨「秋山優花里のおにんぎょ・・・・恋人の一人です。大きな事件には、関与させられていないみたいですが。」

慌てている様だが、刑事達も迂闊に近づく訳には行かない。

伊丹「どうやってここの鍵を開けた?職員室とかには未だ連絡が行くには時間が早いぞ。」
小梅「この防火扉の鍵が有る部屋は、直ぐ近くです。」
伊丹「・・・・・・・・アレッ・・・・」

右京「秋山さんはどちらに逃げましたか?」
小梅「展望デッキに向かっています。それよりも、西住さんを助けて下さい!」

尊「何が有ったの?」
小梅「優花里さんは、西住さんを道連れにするつもりです!」


小梅「さっき廊下でぶつかった時に・・・・・」

優花里(狂)「西住殿一足先に、向こう側でお待ちしていますぅ。」タッタタッ

右京「二手に分かれましょう。僕と神戸君…伊丹刑事は秋山さんを追いましょう。
カイト君と、亀山君は西住さんの自宅に向かってください。」

右京達が去り、カイトが反対側の防火扉を開ける。

亨「赤星さん、君は安全な所に・・・・」
小梅「私も行きます!」
薫「こりゃ断っても付いて来るぞ。道に迷ったら拙い。」
亨「仕方ないですね。では道案内お願いします。」

小梅の案内で、みほの自宅に向かう3人、あと少しという所で爆発音が聞こえる。部屋から煙が出ている。
しかし、それほど多くはない。再度、何かが揺れた気がした。
薫「??」

しかし、今度は何も起きていない様だ。二人は慌てている管理人からマスターキーを受け取り、他の部屋に人が居たら
避難させるように促す。管理人は慌てて飛び出していった。

エレベーターは停止しているので、3人は階段でみほの部屋が有る階へ向かった。


展望デッキへの扉を慎重に開ける伊丹。銃弾が掠め、壁に突き刺さる。
伊丹と部下数名が優花里に銃口を向ける。

伊丹「銃を捨てろ」
右京「これ以上罪を重ねてはなりません。罪を償いなさい!」

優(狂)「嫌です、一人は道連れにしますよお。さあ誰にしましょうか。」
楽しそうな表情で、刑事達を見る狂った優花里 およそ30秒後

尊「爆発音?」
遠くから小さな爆発音が聞こえ、優花里は微笑を浮かべる。

優(狂)「これで永久に西住殿と一緒ですね。」
しかし30秒後、今度は一瞬驚いたような表所を浮かべる。しかし、隙無く銃口を向けているので、刑事達は
展望フロアに出る事が出来ない。

右京「西住さんは、貴女の所有物ではありません。ましてや道連れにする権利などありませんよ。」
再び発砲音 銃弾は右京の頭上をかすめ非常灯にめり込む。 優花里は、道連れを決めました。という感じの満面の笑み
を浮かべる。伊丹が銃撃するも、紙一重でそれを回避する優花里そして標的に銃口を向ける。


優花里は、転落防止用の柵を越え落ちて行く。刑事達の視界から消える瞬間目が合う。

尊「笑っている・・・・」
不敵な笑みを浮かべている様に見えた。

一瞬の後、刑事達が展望デッキに走り寄った。慌てて下を見ると水柱が上がっていた。
右京「直ぐに航海科に連絡して、学園艦を停止させて下さい。」
尊「電話は・・・・・あった。」

尊は、近くの内戦電話から航海科の番号を調べ電話を掛ける。

尊「警察です!甲板から人が転落しました。船を停止させて下さい!」
伊丹「もっとも、生きている可能性は無さそうですが。」
右京は何も答えず、水面を見ている。


カイトと、薫・・・小梅はみほの部屋前に到達した。

亨「落ち着いて避難してください。」
生徒「ありがとうございます。」

薫「くそっ!部屋はもう火が回っている。」
亨「赤星さんは、俺達が60秒以内に戻って来ない時は逃げるんだ。」

ドアを慎重に開け、煙を吸わない様に姿勢を低くして中に進む。


幸いにも、直ぐにみほを見つける事が出来た。しかし気を失っている様だ。
亨(郵便物でも取りに行こうとして、玄関に向かう最中に爆発が起きたのか。)
即座に玄関を出て、避難を開始する。

管理人「今いる居住者は避難終わりました。」
薫がみほを抱え、カイトが小梅を連れて非常階段を降りる。道路に出て20メートルほど走った所で
再び爆発音が響く。

薫「また爆発したぞ!」
亨「亀山さん!今度は玄関の辺りに仕掛けてあったのでは?」
入り口ドア上部の蛍光灯が外れ、道路に落ち砕け散る。

薫「それよりも、呼吸を回復させないと。倒れた拍子に気道が塞がれたのかも。」
小梅「私がやります。救命技術も戦車道の授業でやりました。」

薫「こんな所で死ぬんじゃねえ!あんこうチームの中で、あんただけは本気で戦って来たんだろ。」
亨「君はこれから、真実を知る事になる。辛いかも知れない。でも、生きるんだ!亡くなった子も君の死を望んで
なんかいない!.だから生きろ!」


25分後

元の場所に刑事達が戻って来る。

亨「杉下さん!ご無事でしたか?」
右京「一応は。西住さんも無事のようですね。」
薫「命に別状はありません。しかし、左足をねんざしているみたいなので診療所に。」


華「みほさん!」
沙織「みぽりん!何があ・・・・」
駆け寄ろうとするが、素早く尊が割り込み遮る。君達に友人を気遣う資格は無いと言うように。

刑事「15分後に銚子市からドクターヘリが到着するそうです。」
刑事「着陸場所まで搬送するぞ。」
未だ事態が全く呑み込めていないみほは、担架で運ばれて行った。恐る恐る麻子が切り出す。

麻子「秋山さんは・・・・・・・どうしたんですか?」
尊「自ら旅立ったよ。例え杉下さんでも、絶対に追えない場所に。」
息を呑むあんこうチーム


尊「カイト君、伊丹刑事が冷泉さんを睨み付けているけどどうしてだろう。」
亨「亀山さんも、冷泉さんを睨んでますよ。」

伊丹がゆっくりと歩きだし、麻子の目の前で足を止める。

右京「芹沢刑事、二人の間で過去に何かあったのですか?」
芹沢「すみません。僕も何も知らなくて。」

麻子は再び青ざめている。

伊丹「やっと思い出したのか。」
麻子「10年前・・・・・私を助けてくれた。」


右京「その話は初耳ですね。亀山君。」
薫「右京さん、ロンドンに休暇で行っている最中の事で話す機会が。」

薫「当時俺は、麹町東署に飛ばされていたんですが、ある日所要で本庁に行ったんです。」
伊丹「その日水戸で強盗傷害やって手配されていたホシが、観念して出頭して来ましてね。当然護送
する事になったんですが、三浦は聞き込み・・・芹沢は島根の実家で法事。他の刑事も運悪く不在で、
俺と亀山が護送する事になったんです。」

薫「水戸で県警本部に引き渡している間に、強風で常磐線沿いの道でタンクローリーが横転炎上事故を
やらかして、鉄道が止まってしまったんです。水郡線や水戸線も一緒に。」
伊丹「高速バスで帰ろうとしたら、ちょうど週末で夕方のバスに辛うじてキャンセルが有って。そんな訳で
図らずも数時間の余裕が生まれてしまい、海でも見に行こうかと。」


伊丹「麹町東署の亀山ー!とっとと東京に帰れよ。」
薫「久しぶりに大洗の海を見たくなったんだよ。お前こそ帰れよ。」

大洗

伊丹「浜辺で食べるものと言ったら焼きそばか。」
薫「イカの串焼きだろう。てめえとは気が合わないな。」

その時、速度を上げたトラックが通過。
薫「うおっあぶねえなあ。」
伊丹「あの野郎蛇行してやがる!居眠り運転かも知れんぞ。」

トラックが二人の視界から消えて30秒後、大音響が響いた。


伊丹「野郎!事故を起こしやがった。」
伊丹と薫が駆けつけた時には、現場は既に火の海になっていた。居眠り運転のトラックは、
速度を上げたまま、信号待ちをしていた乗用車に追突していた。

伊丹「亀ー、何とか助けられるか!」
薫「ダメだ完全に火の海だ!・・・・ガソリンが漏れてやがる!皆逃げろ!」

その時、一人の少女が民家から飛び出して来た。

少女「お母さん”!お父さん!!」
車に駆け寄ろうとするも、伊丹に止められる。

少女「放して!お母さんが死んじゃう!」
伊丹「バカ野郎!放したら、救える命救えなくなるだろ!俺は刑事だ。それはできねえ!」」
少女「うわああああああん」


数時間後

女性「孫の命を救っていただきありがとうございます。」
伊丹「警察官として、当然の事をしたまでです。」
女性「そちらの刑事さんは、お怪我はございませんか?」

伊丹「こいつは頑丈なだけが取り柄でして。」
薫「なんでてめえが勝手に答えるんだよ。」

一瞬だけ微笑む麻子(10年前).


薫「それから10日ほどして、その女性・・・・冷泉久子さんが、孫を引き取る事になったと、伊丹から聞きました。」

伊丹「それから9年後、何気なく戦車道の雑誌を見ていたら、そこにお前の写真と記事が出ていた。
決勝戦の日、たまたま非番だったからテレビで試合を見た。優勝が決まった後喜び合うあんこうチームを見て、
俺は10年前、お前を救って本当に良かった。そう思ったよ。」

伊丹「しかし、それは誤りだった。刑事という仕事上、人命を救助する事は少なからずある。事件を防いだり
逆に犯人の自殺を防いだりとな。俺はその事を後悔した事は一度も無い。でもな、冷泉麻子お前だけは別だ。
お前を助けなければ、最低でも風紀委員の3人は戦車道に関わったり、命を落とさずに済んだかもしれねえ。
例え、大洗が廃校になっても何処かで新しい道を進む事だって出来た筈だ。10年前、お前を止めるべきじゃ・・・」

右京「伊丹さん!」


華「そんな言い方あんまりです。謝罪してください!」
沙織「謝ってよ!麻子に謝ってよ!」
亨「あるのかよ」

沙織「ヒッ」
亨「お前らに、伊丹刑事非難する資格あるのかよ!」
慌てて芹沢と尊が制止する。

右京「その通りです。西住さんを侮辱されたから、対戦校の生徒に暴行を働き死に追いやる。
鬱陶しいという理由で、心配してくれる親友を地獄に突き落とす。アルバイトで商店街の知人に
迷惑をかけたという理由で、遥かに凌駕する制裁を加える。その様な、仲間の命すら路傍の小石
程度にすら顧みない愚か者である貴女達に、伊丹刑事を非難する資格などありはしません!

 恥を知りなさいっ!」


石像の様に蒼白になった、3人が連行されて行く。別の刑事に連行された歴女チームも合流した。

カエサル「ブルータスよお前もか。」
エルヴィン「45年4月ベルリン・・・・・」
おりょう「あかん、脳をやられたぜよ。」
左「天目山だな」
一同「それだ!」

刑事「静かにしろ!」

薫「お前達が奪ったのは、人の命やこの学園の未来だけじゃない。真面目に戦車道やっていた子の
未来もだ。」
尊「幸い、考える時間は恐らく膨大に与えられるよ。」

正午を過ぎた頃 関係者を乗せた船は 房総半島東岸の港に入港した。
亨(大洗の人に、嘆かわしい姿を見せないという配慮なんだけど彼女達に伝わるかな。)

本来なら茨城県警本部に連行する所だが、県警本部には多数の『手先』が居て逮捕されたので、
捜査に支障が出る。止む無く、今回の事件は全て警視庁で取り調べを行う事になった。

芹沢「秋山夫婦東京都内で逮捕らしいです。」

2時頃、戦車道2連覇を報道していた、民放各社は2時30分頃一斉に
あんこうチームの逮捕を報道しだした。優花里が発注した狙撃銃は、
房総沖で海保の船に拿捕された。

甲斐(石坂)「とりあえず身柄の拘束は成功したみたいだね。」
大河内「主犯格の秋山優花里容疑者は残念でしたが、その他の主犯格及び拘束目標は、全て逮捕しました。
共犯者の警察関係者…財界人、芸能人・・・戦車道関連合わせて400人以上です。」
甲斐「前代未聞の大事件だ。さてこれから忙しくなるぞ。・・・・逮捕リストに西住まほ容疑者の名前が無いが・・・」
大河内「西住家を制圧した際に、逃走を図り国道上で乳酸菌飲料をコンビニに配送していた車両と接触し
 意識不明の重体との事です。」

甲斐「哀れだな。普通の家に生まれていれば幸福な人生を送れただろうに。」


千葉県勝浦港

港の駐車場に、護送車2台と千葉県警のパトカー2台が待機している。丁度雨が降って来たのか、
野次馬もほとんどいない、漁港関係者が首を傾げながら見ているだけだ。

芹沢「報道関係者いませんね。」
尊「流石に、未だ情報を得ていないのでは。もしくはガセネタと判断したか。」

ここから国道297号線で市原市に向かい、圏央道に入りアクアラインを経由して警視庁に向かう。
木更津金田インターチェンジで、パトカーは警視庁のパトカーと交代する。

1代目の護送車には、歴女チームと沙織が乗せられ、後続車には新三郎、華、麻子が乗せられた。
伊丹達刑事も、覆面パトカーに乗り先頭の千葉県警パトカーから発進していく。

尊「亀山さんは、東京駅でよいですか?」
薫「ありがとう。ちょっと友人の墓参りに行くからな。」

後部座席にカイトと薫が乗り、助手席に右京が乗ろうとする。

??「お前の釣る魚は、いつも大き過ぎるんだよ。」

振り向くも、誰も居ない。やがて右京達を乗せたGTも東京めざし発進して行った。


内村「バカもん!秋山優花里を死なせるとは。」
中園「とはいえ、犯罪の証拠は全て押さえてありますし、もう一人の主犯格五十鈴華
及び、武部沙織冷泉麻子以下多数を逮捕しました。証拠も押さえてあります。
政治家も逮捕許諾が出れば、逮捕できます。」

内村「部外者である亀山を連れて行ったことは、本来なら問題だが重要証人の護衛で、西住みほの人命
救助の功績もあるから、不問に処してやる。ありがたく思え。」
中園「亀山には、後日サルウィンの日本大使館を介して、感謝状が贈呈される事になるだろう。」

内村「本来なら、特命係には今後は関与するなと言いたい所だが。」
中園「今回はそうは言っていられない。恥ずべき事だが警察関係者にも多数の逮捕者が出た。
既に警察の業務に支障が出ている。特命係にも、事務作業や聞き込みをやって貰う事になるだろう。」

内村「しばらくの間休みは取れないと思ってくれ。」

伊丹「ま、そうなるとは思っていました。」
右京「西住みほさんの容体はどうでしょうか?」

中園「甲斐巡査長等の迅速な行動により、後遺症とはか無いそうだ。しかし、左足の捻挫により
10日程度の入院は必要らしい。問題は精神面だな・・・・」
内村「それは、警察のすべき事では無い。医者の仕事だ。」

今日はここまでとします。
明日午後1時開始予定です。恐らくあと2回の投稿で終了します。

予定通り開始します。


11月20日  
警視庁も、ようやく混乱が収まり特命係にも日常が戻って来た。退職したOBを臨時に採用したり
所轄から、優秀な刑事を異動させたりで何とか混乱を収拾している。

刑事「ここ2週間、強盗とか窃盗事件が多いな。連中もなかなかやるな。」
刑事「あさま山荘事件の時とは、真逆の現象が起きているって事だ。」

角田「結局、秋山優花里の遺体は見つからなかったな。ま、生きている可能性はありえないがな。」
角田課長は、自分の頭に銃を向ける仕草をする。

右京「デッキと、船体側面に残った残留物から見ても生存の可能性はありえないでしょう。」
亨「遺体から流れた血に反応した、鮫にやられてしまったというのが専門家の見解ですね。」

拳銃は甲板から、靴の片方は3日後に遠洋漁業から帰路途上のカツオ漁船が、80キロほど程東の海域で
偶然拾い上げた。28日に銚子港を経由して警視庁に運ばれた。


秋山優花里の捜索は、11月5日を以て打ち切りとなり 中園参事官が「生存の可能性は皆無と判断した。」
と記者会見で発表し、一先ずその件については幕引きとなった。

米沢「どうもー。杉下警部、長く借りてしまって申し訳ないです。」
右京「お互い多忙でしたから、仕方ありませんよ。」

米沢は、右京に落語のCDを返却する。

米沢「実は、興味深い事が判明しました。あの日、本来なら西住みほさんを救助する事は不可能でした。」
右京「はい?」


亨「確かに、あの時はかなり危険な状態でしたが。」
米沢「実は、2発目の爆発装置は本来なら1発目の、60秒後に爆発する手筈になっていたのです。」

右京「なるほど、秋山優花里さんの、みほさんへの執着度から妙だとは思っていたのですが。
課長、カイト君2002年にインドネシアのバリ島で発生した、爆弾テロ事件を覚えていますか?」

角田「確かディスコが爆破されて200人以上の犠牲者が、出た事件だろ。日本人旅行者にも
犠牲者が出たな。」
亨「確か、爆弾は2個使用されたと。」

米沢「実は、爆発は同時では無く最初の爆発に用いられた爆弾は、小規模でした。」
亨「小さな爆弾の音を聞いた人が、店から避難しようとした所を本命の爆弾で・・・・」

右京「今回も同じだったのでしょう。確実にみほさんを道連れにするべく、恐るべき罠が
準備されていたという事です。最初の爆弾は寝室に仕掛けてありましたが、爆発の際に
寝室ではなく、台所やシャワールームに居て難を逃れる可能性もあります。」

角田「慌てて逃げようとした所を、玄関と部屋の間にある2発目の爆弾で確実にお陀仏という寸法か。
恐ろしい女だなあ。」
亨「しかし、2発目の爆弾は・・・・救助してアパートを出て20メートルほど離れた後でした。時間的に・・・・
最初の爆発から3分以上は経過していました。」

計画通りに爆発していれば、カイトと薫は無事でも西住みほはまず命は無かっただろう。

右京「何らかの原因で正常に爆発せず、数分後爆弾の炸薬に引火して爆発した。」


角田「あれだな。秋山容疑者にも、人間らしい心が残っていたんだろうな。恋人なんだろ。
つい、爆弾の仕掛けに手を抜いてしまったんだろうな。」
右京「それはありません。」

角田「あれー、普通なら警部がここで今言ったようなことを、言うのが流れだろ。」
右京「残念ながら秋山優花里には、そのような良心など欠片も残っていませんよ。」
米沢「課長が言われるような良心が有ったら、このような事件を起こしてはいないでしょうな。」

右京「みほさんの、アパートに到着した際何か変わった事はありませんでしたか?」
亨「確かアパートの近くまで来た時に、1回目の爆発が起きて・・・中に入ろうとした時、何か揺れた様な気が
したんです。亀山さんと周囲を見回しましたが何も起きて無かったので、錯覚かと。」..

右京は、パソコンを使い気象庁のホームページを調べる。調べているのは地震情報のページだ。
右京「確か、時間的には同じですね。」

アパートで爆弾の1個目が爆発した同時刻 茨城・福島県境沖を震源に、大震災の
余震と思われる地震が発生していた。やや強い地震で茨城の水戸や鹿島で震度5弱 東京都心で3
甲信越や東北南部で2から1の揺れを観測した。

角田「地震がなんらかの、影響を2発目の爆弾に影響を与えた?地震が起きる直前に、電磁波を放出して
地震雲が起きるとか、言う研究者もいるだろ。」
米沢「何らかの影響を受けていたのは、間違いないと思います。」
右京「地震を起こす仕組みは、未だ完全には解明されていません。地震が原因で爆弾に異常が出た可能性
も完全に否定することは出来ませんね。」


取調室

既に、多数の五十鈴・秋山・西住流の関係者が逮捕され、友愛党政治家・官僚・芸能人が
逮捕されていたが、後者は前者が纏めて逮捕されるのを見て、自己保身の為に容疑を認めるもの
が続出した。そんな折、新三郎容疑者も罪を認めた。

伊丹「罪を・・・・認めるだと。」
芹沢「正確には、前生徒会3人に対する殺害を命令したのが、五十鈴華容疑者だという事を、認めると?」
新三郎は軽く頷き、言葉を続ける。

新三郎「俺は、幼少期五十鈴家に引き取られましてね。お嬢さまが小さい頃は、よく一緒に遊んだものです。」
伊丹「少し年が離れた、妹みたいな感じだったのか?」

新三郎「まあな。でもお嬢様が中学生…高校生になるに連れて、違うものになって行った。」
芹沢「五十鈴華対する気持ちに気付いた。」
伊丹「それを誰かに話した事は?」

新三郎「話せる訳無いだろう!平成の時代に身分がどうのこうのとか、ありえないと思うだろうが、
名家とかでは、今でも無関係じゃない。そんな想いを気付かれたら即首になるだろう。」
芹沢「それと、お嬢様の関与を認めるのがどう関係するのですか?」

新三郎「お嬢様は、恐らく俺の気持ちに気付いている。その上で路傍の小石の様に無視しているのだ。
お嬢様に、恋人なり婚約者なりが居れば、気持ちの整理もできただろうが。そして、お嬢様は俺が決して
裏切る筈は無いと、嵩をくくっているのだろうさ。」

伊丹「つまりお嬢様をぎゃふんと言わせてやろう、という魂胆か?」


新三郎「そういう考えもある。更に、お嬢様の生涯に影響を与える事が出来る。伊丹さん、俺は
極刑は免れまい。」
伊丹「まず間違いないだろうな。」
新三郎「お嬢様の刑期も伸びる。10年は伸びるのじゃないだろうか。そして、その10年は間接的に
コントロールするという事になる。」

新三郎「刑事さん」
芹沢「何ですか」

新三郎「俺は狂っているか?」
伊丹「ああ、狂っているよ。念の為に言って奥が狂人を装っても、そうは問屋が卸さないぞ。」
新三郎「そんなケチな了見は持ってないよ。」

伊丹「芹沢!」
芹沢「は、はいっ」
伊丹「ぼーっとすんな。逮捕状請求だ。」
芹沢「五十鈴華のですね。」

翌日五十鈴華は、殺人教唆容疑で再逮捕された。


11月20日夜 花の里 今日はカイトの婚約者の悦子も居る。

幸子「戦車道が有るから、こんな事件が起きたのかしら?戦車道は、やっぱりスポーツには見えません。」
亨「戦車は兇器、戦車道は戦争術、どんなお題目を唱えてもそれが真実。」
悦子「カイト、今のは昔ジャ○プで連載されていた、漫画の登場人物の台詞だよね。」
亨「元ネタでは、剣は兇器、剣術は殺人術・・・・・って主人公の剣の師匠の名台詞なんだ。」

右京「カイト君の言う通りかもしれません。戦車道はどう偽装しても、平和なスポーツとは言えません。
サッカーや、高校野球・・・吹奏楽の全国大会等とは、大きく違う異質な感じを受けます。」
悦子「兵器としての異質な部分が、戦車道関係者を狂わせるのかも。もし、西住みほって子の母校が、
一昨年の大会で優勝していたら、今回の事件は起きなかったのでしょうか?」

右京「どうでしょうか。人の本質に、そう変わりは無いかもしれません。武部さんと冷泉さんは、戦車道
に関わらなければ、今回の事件は起こしていないかもしれませんが。」
亨「五十鈴、秋山の両名は戦車道と関係無い所でも犯罪を犯していましたから、いずれ露見して
逮捕されていたかもしれません。」

悦子「西住、五十鈴、秋山って繋がりあるんですよね。それじゃみほさんは、大洗に居なくても戦車道
が出来なくなって退学。何年か後なら、彼女自身も犯罪に加担させられ逮捕。」
幸子「なんだかすごく不憫ですね。どっちに進んでも似たような運命なんて。」

亨「普通の家庭に生まれていれば、今頃友人作って平穏な人生を歩んで・・・・そうなると、
逆にみほさんの両親が出会う可能性って無さそうですね。」


同時刻 大洗港

伊丹と芹沢の乗った警察車両が、大洗港の駐車スペースに停車する。
付近には、茨城・熊本県警と北海道警の刑事達が談笑している。

刑事「伊丹、晩飯喰って来たか。学園艦の食堂は不気味なら港の食堂を教えるが。」
伊丹「ありがとよ。流石に学園艦の食事は取る気にならんから助かるぜ。」
刑事B「魚料理が東京より格安で美味い・・・・おっと不謹慎でしたか。飯食べながら引き継・・」

その時、港の方向が慌ただしくなった。警備の警官や報道陣が走っているのが見えた。大洗女子の逮捕された
生徒以外も、10月23日以降学園に留め置かれて、犯罪行為に加担していないかを、徹底的に調査された。
結果何人かの生徒が、一連の事件への関与容疑で逮捕。もしくは、事件以外の犯罪や非行行為(万引きや違法薬物)
で逮捕されて、本土の警察に連行された。

残りの生徒・・・・犯罪行為への加担が無かった生徒や、情状酌量の余地がある生徒(起訴猶予処分)の退船が、
ようやく認められて、保護者の車や、学園が手配したバスで学園を去ろうとしている。


残りの生徒・・・・犯罪行為への加担が無かった生徒や、情状酌量の余地がある生徒(起訴猶予処分)の退船が、
ようやく認められて、保護者の車や、学園が手配したバスで学園を去ろうとしている。

先頭の車が港に出て来ると、報道陣が一斉にフラッシュを点滅させ、記者が実況を始める。

刑事「この子達は、勝ち組だった筈だがなあ。」

超人気校になった、大洗に入学を果たした生徒を勝ち組、不合格になったり断念して別の高校へ進学した子を負け組。
しかし、学園を去る勝ち組の生徒の表情に生気は無く、捕虜収容所に連行されるドイツ軍兵士といった感じだ。

伊丹「今や、入学できた生徒が負け組。逆に他へ行った子が勝ち組か。」
芹沢「しかし、今後戦車道は無くなるでしょうから、他の高校行って戦車道やってる1年生は、完全な勝ち組じゃありませんね。」


伊丹「戦車道が無くて、逮捕された連中が居なかったらこの学園もこんな目に遭わなかったか?」
芹沢「かなり生徒数減ってたらしいですから、廃校は免れなかったのでは。」
伊丹「それでも、こんな終わり方よりは遥かにましだろうよ。」

伊丹達は、明日から学園艦の教師の残り半分と職員の調査を行う。
会合の為に、港付近の食堂に向け歩き出す刑事達。ふと伊丹が足を止めて呟く。

伊丹「アニメだったら、良かったのかもな。」
芹沢「アニメ?戦車道のアニメですか?」


伊丹「無論裏五十鈴流とかは無しでだ。展開は・・・・西住みほが転校して来てから、優勝するまでだな。」
芹沢「売れるんですかそれ。」
伊丹「意外性で売れるかもな。無論戦闘シーンは金を掛ける必要がありそうだな。」

芹沢「あるんですかねー、そんなパラレルワールド。警部は好きそうですけど。」
伊丹「平行世界ってやつか。その世界じゃ、俺達もドラマだったりするかもな。」
芹沢「伊丹先輩はドラマでも、恋人居ない設定かも。」
伊丹「余計なお世話だ!」

芹沢「タイトルとかどうします。・・・・戦車道アニメの方ですが。」
伊丹「うーん・・・戦車…女子高生・・・・ガールズ&パンツァーでどうだ。」
芹沢「英語とドイツ語が混ざってますね。」
伊丹「判りやすくて良いだろうが。」


関係者が逮捕されて、20日以上が経過し既に多くの関係者が起訴されていた。(拘留期限は48時間+10日間の延長2回分)

伊東容疑者は、殺人では不起訴 準強姦罪で求刑8年-10年の予測。
歴女チーム 強姦と脅迫で5-7年

赤星小梅 重大な犯罪行為への加担は認められず、不起訴処分。(刑事達を助け、人命救助に貢献)
澤梓   売春は強要された+事件解決に多大な貢献により無罪放免。

新三郎  前生徒会3名に対する殺人及び多数の犯罪行為により、極刑の求刑可能性大
秋山夫妻 五十鈴百合 西住しほ 何れも極刑の求刑は免れない。五十鈴百合は、回復次第逮捕予定。


8月末から「近いうちに解散」と言い続けた、友愛党能田(のうだ)政権は11月16日に、衆議院解散に追い込まれた。
与党に対する批判は圧倒的で、やる前から勝敗は決している。


次長室

甲斐「さて、来月衆議院総選挙があるが勝敗・・・・いや、今の野党の獲得議席はどうなるだろう。」
内村「300を超えるのではないかという、意見を報道で見ました。」
中園「しかし、こんな大事件の後ですから新政権も大変ではないでしょうか。」

甲斐「中園君の言う通り、日本政府や警察への非難は内外問わず未だ大きい。信頼が積み重ねるのは時間がかかるが、
壊すのは一瞬。信用回復には多大な時間と費用を要する。新政権は戦車道に対し、断固たる措置を取る事を
既に決めている。今からいう事は当分、他言無用に願いたい。」

内村「戦車道は今現在・・・無期限の活動自粛となっています。無論最終的にはそれでは終わらないでしょうが。」
甲斐「無論だ。来るべき新政権は、戦車道連盟や・・家元・・学園に対しフランスのクレマンソー大統領の如く断固たる態度で
臨む事になるだろう。」


内村「クレマンソー大統領は、確か第一次世界大戦時のフランス大統領・・・」

クレマンソーは、1917年にフランス大統領に就任し、1919年のヴェルサイユ講和会議で、ドイツ帝国に対し
過酷な条件にする事を強力に推進した人物である。もっとも厳しすぎて、後にナチス政権が力を得る原因
になったという意見も存在するが。

中園「戦車道は・・・・今後一切禁止」
甲斐「場合によっては、憲法を改正時に禁止という条項を付ける事すら、検討しているらしい。」
内村「無論家元の活動も禁止という事になりそうですな。」
甲斐「当然そうなるだろうね。違法行為に加担した、家元の財産は没収され、被害者遺族への救済基金や、
災害の復興支援金に使用するそうだ。」

既に、民間では中古販売店や通販サイトが戦車道関連商品の、販売や買取拒否を表明している。
売れない在庫を抱えた、関連店が山の中に違法投棄して社会問題になるが、それはまだ少し先の話。

甲斐「処罰すべきは、家元や連盟だけでは無い。当然個人の責任も、厳しく追及しなくてはならない。
特に中心的人物の。」
中園「五十鈴百合・・・秋山夫妻・・・西住しほなどが逮捕されていますが。」

甲斐「西住しほは確かに、中心的に暗躍している。しかし秋山夫妻と、五十鈴百合は現在はかなり、権限を
娘に移譲している。違うかね。」
内村「た、確かに。五十鈴家の方は交通事故からの、負傷の回復が遅れているのが原因ですが。」

甲斐「当然黒幕は、厳しく処罰する必要がある。例え未成年者で・・・・・あってもだ。」
内村「中心的人物・・・・五十鈴華と秋山優花里ですな。」
中園「部長象徴的な人物として、西住みほも入れるべきでは。」


甲斐「秋山優花里は、まあ生存している可能性はありえないね。回収できたのは、甲板に転がった拳銃以外は、
右足用の靴だけだそうだね。」
内村「漁船が回収するまでに、数日経過していましたから。確実に秋山優花里の所持品という証拠は
ありません。誰かが海岸から流してしまった靴の可能性もあります。」

甲斐「死人を裁判にかける事は法律上不可能だ。それと西住みほ・・・道義的・社会的責任ならまだしも、
こちらも刑事責任の追及は難しいだろうね。どうかね、何か彼女が犯罪行為に加担していた、・・・もしくは
知っていたのに隠していたという、具体的な証拠は発見されているかね?」

中園「それが・・・・一切発見されていません。どうやら本当に何も知らなかったみたいです。恐らく彼女の、
優しい性格も影響しているのだと思います。」
甲斐「西住みほという少女は、リーダーとしては全く不適等な人物だと言わざるを得ないね。
しかし、本当に知らないのだから・・・・民事訴訟ならまだしも、刑事責任は問えない。」


内村「そうなると、必然的に五十鈴華の罪を厳しく処断するしかありませんな。」
甲斐「そこで、問題になって来るのが少年法だ。」
中園「現状、最高でも無期懲役が上限です。彼女の誕生日は12月16日です。」

内村「遺族や国民の怒りがそれで収まるとは。西住みほに対しても未だに刑事責任の追及
を求める意見は大きい。」

甲斐「世論は収まらないし、来年9月のIOC総会…東京五輪実現の大きな障害になる。
新政権は、五輪は最悪落としても良いと考えている様だが。」

内村「何が行われるのでしょうか。」
甲斐「福田政権・・・親の方が、行った伝家の宝刀を抜く・・・・目的は真逆だがね。」


内村「超法規措置・・・・・」

1977年9月28日に、バングラデシュの首都ダッカで発生した日本航空ハイジャック事件。当時の総理大臣
福田赳夫は、「人命は地球より重い」という迷言を吐いて、テロリストの要求に応じ世界中から批判された。

甲斐「五十鈴華と武部沙織・・・冷泉麻子には少年法の範囲を超えた、刑罰を与えるべき
という事だ。」
内村「極刑・・・・もありえると。」
中園「いや流石に、死刑はまずいですよ。国内世論はともかく、EUとかは死刑廃止の国も多いですし。
来年のIOC総会で、東京当選の可能性に悪い影響が。」

甲斐「IOCは置いておくにしても、極刑の可能性が有る五十鈴華の誕生日は、12月だ。そして日本で死刑になるのは
犯行当時満18歳以上と定められている。確かに、今回の事件は許しがたい組織犯罪だ。過酷な処罰も当然だろう。
しかし、そこには決して超えてはならない一線が有ると思うのだがね。」

内村「無期懲役でも、死刑でもないとなると・・・・・」

中園「終身刑・・・・」
甲斐「仮釈放無し・・・・わが国でも導入すべきとの議論が有る。輝かしい未来を、すべて失い
刑務所で生涯を終える。相応しい処罰かも知れないな。」

甲斐「最近、犯罪行為に加担していない五十鈴家や・西住流の関係者に対する、脅迫事件も多い。
馬鹿な奴が、変な事件を起こさない様によろしく頼むよ。」

内村「お任せ下さい。」(どうやら年末は、予定通り餅つきが出来そうだ)


12月20日ごろ 花の里 

悦子「ロンドン便に勤務の予定だったのですけど、アイスランドの火山から出た噴煙で、数日欠航する
事になってしまい、臨時にお休みが出ました。」
幸子「それは災難というか、幸運なのかな?休暇で、年末旅行に行く人は災難ですね。」
常連「年末の家族旅行、ギリシャにしておいてよかったよ。あそこまでは火山灰の影響は無さそうだから。
でも、反政府デモとか心配だなあ。」

亨「中東や、北アフリカ諸国の動乱でギリシャの観光客が増えて、少しずつ景気も回復してたみたいですね。
それが原因で、反政府デモもかなり収まったみたいです。」
常連「それを聞いて安心しました。じゃお勘定。」
幸子「またいらしてくださいね。」

悦子「杉下さん、今日は何時もより無口ですね。もしかして、風邪とかですか。」
食事はしているが、いつもと違いお酒は飲んでいない。

右京「お伝えすべきか、少し悩みましたが。」
幸子さんは、素早く今日は予約客がいない事を確認すると外に「本日貸切」の札を置いた。

右京「向島さんが、およそ一月前に亡くなりました。」
元闇金で、幸子さんのご主人の仇でもあるあった向島氏は、事件関係者の大半が起訴されるのを見届ける様に、穏やかに
亡くなった。晩年得た資産(むろん合法的な商いで稼いだ)の大半を、過去の自分の事件の被害者や、
今回の、事件の遺族会や幼馴染の桃代の実家に寄付して欲しいとの、遺書を残していた。

幸子「杉下さん。」
右京「なんでしょうか?」

幸子「お墓・・・は何処にありますか?」


亨「・・・・・・・・・・・・・・・・幸子さん、犯罪はだめですよ!」
幸子「カイトさん、今思いきり失礼な想像しましたよね。お椀の中に洗剤入れちゃいますよ。」
悦子「カイトったら最低ね!幸子さん、とびきり濃い洗剤入れて下さい。」

右京「カイト君も人を見る目が有りませんねえ。幸子さんが、ご主人の仇といえども、
お墓を破壊したりする筈が有りませんよ。」

亨「す、すみません・・・・・・」
幸子「私も、あの人に言いたい事や文句は一杯あります。闇金で多くの人を苦しめたのも事実です。
でも、最後に多くの若い人を救い出す事に繋がったのでは?」

警察の特殊部隊が、五十鈴・秋山・西住流のアジトに突入して多くの女性を救助する事に繋がった事は事実だ。
悦子「桃代っていう人が裏切らなかったり、事前にばれて消されていたりしていたら今回の事件はどうなったのですか?」

幸子「その場合・・・・最初の事件だけで、後はうやむやされてしまったのかも知れませんね。」
右京「秋山優花里さんと、新三郎容疑者を有罪に持ち込む事は可能でしょう。しかし」
亨「新三郎容疑者が、五十鈴華の殺人教唆や他の事件を認めた可能性は低いですね。全部露見したから片想いの
主犯格を道連れにしようとした。」

右京「人事に圧力を掛けて、僕とカイト君を別個に飛ばそうとしていた形跡があるそうですよ。場合によっては、
その後消されていたかもしれません。」
悦子「かなり危なかった可能性もある。」

幸子「それだったら、猶更行かなきゃいけません。杉下さんに会っていなかったら私は殺人罪に問われて、未だ刑務所
の中だったかもしれませんし、香港で偽造旅券で捕まって、もっと重い罪に問われていたかもしれません。
恩人の杉下さん達を、危険から救って大勢の子を救う事に繋がったのだから、一度くらいはお墓参りに行かないと
天国の主人に怒られます。」


幸子「お墓の場所って聞いてますか?」
亨「そんな早く行かなくても。」
幸子「こういうのは、後回しにするとまたうじうじと考えるから、ダメだと思います。」

右京「お墓は未だありませんよ。」
幸子「はい?」
亨「お墓って、コンビニのお弁当じゃないんですから、右から左に簡単に作れませんよ。場所とか、お墓の大きさ・・
無論予算とかも考える必要がありますよ。」

悦子「宮城県の山間部の生まれなんでしょ?冬の間は危険で墓石とか運べないんじゃありません?
雪が完全になくなるまで・・・・3月とかにならないと工事とか難しいのでは。」

幸子「・・・・・・」ショボーン
右京「急ぐ旅でもありませんし、2,3日ゆっくりされても、良いのではありませんか。」
悦子「3月・・・・・フキとか売ってそうですね。」

幸子「悦子さん、フキってあんまり食べないんですか?」
悦子「国際線のCAとかやってると、気付いたら旬の時期が過ぎて食べそびれる事が多くて。」
幸子「じゃ、お土産に買ってきますね。」


同日 東京拘置所 

小雨が降る中、タクシーが停車し一人のじゅく・・・もとい美女が降りる。

瀬戸内(津川雅彦)「忙しい中悪いなあ。こんなおいぼれの住みかに挨拶に来てくれるとは。」
片山雛子「何をおっしゃいます。瀬戸内先生には何をおいてもご挨拶に参上するのが、当然ですわ。」
瀬戸内「まあ上がってくれ。雛ちゃん、3期目当選おめでとう。」

瀬戸内「これは噂だけど、いよいよ初入閣らしいじゃねえか。おめでとう。」
雛子「その件に関しては、ノーコメントです。」
瀬戸内「まあ仕方ねえな。事前に報道関係に漏れて、大臣になれなかった奴も居るからな。」

明後日・・・・第2次宇部内閣に於いて、女性活力担当大臣等と同じく追加される特命大臣
(特定の省庁を持たない)に、「戦車道廃止担当特別大臣」が新設される。

業務としては、各学校や、戦車道家元から没収した戦車の処分。一概に廃棄される訳では無く、
購入希望のコレクターや団体が入れば、売却される。希望者が多ければ競売になり、収益は
被害者救済や、災害復興に使用される。但し主砲等は封鎖される事が条件だが。

戦車道連盟や西住流等多数の逮捕者が出たが、家元が全員犯罪行為に加担している筈も無く、
無関係の家元や、連盟職員も多い。そういった人達は戦車道永久禁止により、仕事が無くなる訳だから
何らかの支援やカウンセリングが必要である。又、そういった人達への嫌がらせやヘイトスピーチ
の阻止も、業務に含まれる。.


瀬戸内「念の為に、一つだけ聞いておきたいが…良いかい?」
雛子「私に答える事が可能な事でしたら。」

瀬戸内「雛ちゃんが、戦車道…特に西住流や大洗学園に引導を渡す、仕事に就く・・・・昔、戦車道で
西住しほに負けた私怨を晴らす、そんな気持ちが有るのかい?」

雛子「一ミリも存在しないかと、言えば嘘になりますわ。流石に三年連続で決勝戦で敗れるとなると、悔しいという思いがあって
も仕方ありません。」
苦笑する雛子。強豪校として知られた某公立高校の戦車道チーム・・・1年次は車長として、2年次は副隊長・・・・
3年次は隊長として挑むも、西住しほには一度も勝てなかった。

瀬戸内「やっぱり、西住流は強かったかい?」
雛子「世間の人は、西住流は兵器の性能差や、勢いだけで勝っていると考える人が多いんです。」
瀬戸内「うーん、確かにドイツ軍の良い戦車で、アメリカ軍の物量で攻めて来るという印象が大きいね。」

雛子「確かにそういう一面もありましたが、防御や連携も私の母校チームより優れていました。悔しいですが、全てに
おいて優っていたことは事実です。それに負けた事はむしろ感謝していますわ。」
瀬戸内「西住しほに勝って、戦車道連盟とかに就職していたら今頃大変だったか。」

負けた事で、片山雛子は戦車道と縁を切ることが出来た。更に元外務大臣の父親の引退により、地盤を引き継ぎ
2世議員として、政治の道に進む事が出来た。西住しほは、恩人ともいえる。

戦車道廃止担当大臣は、戦車道の知識がある人が好ましいが、戦車道連盟や西住流等との関係が
無い人間で無ければならない。


瀬戸内「しかし、これから大変だぜ。」
雛子「マジノや、アンツィオ等の戦車道履修生や、教官に対する救済は問題なく進むでしょう。」

しかし、黒森峰や大洗の一般の生徒や、陰謀や犯罪行為を知らなかった戦車道履修生に対する
救済措置は、国の内外から根強い批判意見を受けていて、未だに具体的進展は無い。(衆議院総選挙による
遅延も含む)流石に永久に放置する訳にもいかないので、担当大臣は批判意見に耐えられる精神力を
持つ人物・・という条件も加わる。

瀬戸内「一般の生徒さんは、何とかなるとしても。問題は・・・・」
雛子「西住みほさんですね。確かに彼女は一切犯罪行為に加担してはいないようです。」

瀬戸内「おいらが、ムショ行じゃ無ければ少しは助けてやれるんだがなあ。8年は確実にお勤め
しなきゃならねえ。」
海外の貧しい人達を助ける為に、汚職を行い特命係により逮捕された。(シーズン7第1話-2話)一審判決
の後に控訴して、保釈申請中だ。

雛子「彼女は犯罪行為には加担していませんが、道義的責任は極めて重く救済は難しいですわ。」
瀬戸内「少し厳しすぎやしねえかい?彼女は雛ちゃんにとって、いわば後輩だろう。」

雛子「後輩だからこそですわ。みほさんが、戦車道を辞めたくなった気持ちは非常に理解できます。黒森峰から転校した
事も。しかし、転校先に選んだのは大きな学園艦を持つ大洗女子でした。」
瀬戸内「それを指摘されたら、返す言葉もねえな。雛ちゃんの言う通り本当に、戦車道と縁切りしたいんだったら、戦車道
が有りそうも無い、普通の公立高校を選べば良かった。わざわざ広い学園艦を持つ高校に転校した点を見ても・・」

雛子「戦車道に対しかなりの未練が有ったと、批判されても仕方ありませんね。」


瀬戸内「しかし、大洗が戦車道やっていたのはもう20年以上昔の話だぜ。」
雛子「確かにその点は、擁護する余地はあります。しかし・・・・」
瀬戸内「その先は、やはり問題かい?」

雛子「グロリアナとの練習試合での善戦。これは、親善試合みたいなもので善戦してもまあおかしくはありません。
初戦のサンダース戦は、策略の裏を突かれての動揺による敗北。それに油断という一面もありました。」
アメリカ戦車は、個別性能はそれほど強くは無い。2回戦のアンチョビは論外だろう。

90ミリや149ミリ砲を搭載した自走砲も無く、P40自称重戦車では勝つのは無理だ。
雛子「準決勝と決勝戦・・・・本来なら、大洗の勝利はありませんでしたわ。圧倒的有利な立場にも拘らず
砲撃は全部外れる。(教会からの脱出)かく乱戦術には簡単に引っかかる。」
瀬戸内「戦力が少ない方は、かく乱戦術に出る。素人のおいらですら気づく事を、戦車道のプロ達が
気が付かない考えるのは、流石に無理があるなあ。」


雛子は、杉下右京と同じく大洗の勝利に疑念を持っていた。例えば、決勝戦で煙幕を展開して、
坂を上った時、西住まほは完全に砲撃を停止してしまった。
自分なら、散発的に牽制で砲撃しただろう。登り坂で速度は落ちるから、速度を計算すれば
命中させる事は不可能では無い。

榴弾で砲撃するという選択肢もある。LT-38や八九式中戦車なら撃破出来た。

雛子「彼女は、優しい・・・・優しすぎる上に、人を疑うという事をしないのでしょう。日常生活なら美点かも知れませんが。
トップに立てるべき人材ではありません。保育園の保母さんとかなら良いかもしれませんが。」
瀬戸内「仲間を信じることと、盲信することは違う。杉下警部ならそう言うかも知れんなあ。」

雛子「そろそろお暇します。」
瀬戸内「風邪ひかないように気を付けろよ。」

雛子は、未だ小雨が降る中タクシーに乗り込んだ。瀬戸内は独房で、犠牲者の為に読経を始めた。


数日後の第2次宇部内閣に於いて、片山雛子は女性活躍担当大臣等と兼務で、戦車道廃止担当大臣
に任命された。


年が明けて、1月24日通常国会に於いて宇部総理大臣による、所信表明演説が行われ
戦車道の永久的廃止を表明した。週明けからは所信表明演説に対する、与野党による代表者質問
が行われ、戦車道関連に対しては片山大臣が答弁を行ったのだが・・・・

戦車道の永久廃止や、連盟の解散は多くの有権者や予測していたので、それらは驚く人は
余り多くなかった。

戦車道家元の活動も全面禁止(解散に関する事務除く)とされ、特に「重大な反社会的行為」
が確認された、家元は解散の上に財産を全て没収する事が表明された。無論西住流や、五十鈴家
秋山家も含まれる。

黒森峰大洗は、廃校になるが学園艦は国連に売却され、大規模な災害(ハリケーンカトリーナ)時に病院船として
使用される事になった。それはそれで有意義な使用方法だ。


翌1月30日朝7時 

カイトと悦子は朝食を食べながらニュースを見ていた。

亨「あれだけの悪事を働いたのだから、こういう処分になるのは判ってはいたけど。」
悦子「去年と一昨年の、大洗の戦車道での公式記録永久抹消。これも仕方ないよね。」

亨「不正行為で得た名誉だから、当然取り消さないと。誰も納得しない。」
悦子「西住みほさん、耐えられないんじゃないかなあ。追い込まれなきゃ良いけど。」
亨「精神面あまり強く無さそうだからなあ。何処かに行ってしまったり・・・・・」

不意に着メロが鳴る。相手は右京だ、嫌な予感しかしない。
右京「西住みほさんが、病院から姿を消しました!」


カイトは大急ぎで、後片付けを終えると地下鉄を使って隅田川沿いにある、病院に向かった。
そこには既に右京が居て、誰かが通報したのか報道関係者が中継を始めていた。

右京「朝早くからすみませんねえ。」
亨「何が有ったんですか?見張りの警官が居た筈ですが・・・」

職員「昨日夜8時50分頃・・・・会社をリストラされて泥酔した人が、植え込みに灯油をぶちまけて火を付けたんです。
慌てて消火したり、一時入院患者さんを避難させている間に、抜け出してしまったそうです。」
右京「昨日午後に、看護師さん達の噂話・・・片山大臣の会見内容を聞いてしまい、飛び出したのでしょう。」

みほは容疑者では無いため、伊丹達本庁刑事は来ていないが、流石に所轄署に連絡して警官を
派遣させていた。右京とカイトは、付近での聞き込みを始める。


ラーメン店前

右京「この方を、昨晩の午後9時頃に見ておられませんか?」
店主「うーんみてないなあ。」

コンビニ

亨「昨晩の9時過ぎです。目撃していませんか?」
店員「見ましたよ。店の前を走って行きました。運河の方向にです。店の中から、扉越しにみたので100%
本人かは判りません。」
亨「一人でしたか?」
店員「それは間違いありません。誰かに追われているようには見えませんでした。」


二人が一度合流し、情報を伝えていると、
声「見つかりましたー。」
大声が聞こえて来た。みほが無事見つかったのかと、ほっとした空気が流れたが・・・

亨「その男性は・・・・?」
右京「奇遇ですねえ陣川君。そちらの方は目撃者ですか?」
陣川「銀行に、振り込め詐欺防止のポスターを配布していたら・・・・」

その途中でこの騒ぎを知り、ポスター配布を放り出して捜査に加わったのだろう。陣川が連れて来たのは
60過ぎの男性で、僅かにアルコールの匂いがする。昨晩はかなり飲んだようだ。付近に住む大家で、アパート等を
所有しているらしい。

右京「(写真を見せる)この方を目撃されましたか?」
大家「顔は判りませんが、若い女性が川に飛び込むのを見ました。バシャンという音が…1回・・・・
いや2回聞こえました。」

たちまち病院前は大騒ぎになった。
報道「新情報です!西住みほさんと思われる方が、運河に飛び込むのを目撃された
方が現れました。覚悟の自殺の可能性が考えられます。」
亨(おいおい、女性が転落したと言うだけで未だ確証無いぞ。)

とりあえず、報道陣を締め出して病院の事務室を借りて話を聞く事にする。

亨「昨晩は、かなりお酒を飲んでいたみたいですが、本当に覚えているんですか?」
大家「確か、身長160センチくらいの若い女性でした。」


右京「酔っておられたのに、なかなかの観察力ですね。」
亨「西住みほの身長は、158センチ・・・・彼女は本当に・・・・」
右京「落ちた時、他の人物は見ましたか?」
要するに、誰かが突き落とした可能性についてだ。

大家「うーん誰かに突き落とされたようには、見えませんでした。誰かに落とされたんなら悲鳴の一つ
も上げると思いますが、そんな声は聞こえませんでした。それでもしかしたら酔っていて、幻覚でも見たのかと思い
警察には届けませんでした。」
亨「誰かに睡眠薬を飲まされて・・・・・時間的にそんな余裕は無いか。」

気が重くなってきたカイトが、売店でコーラでも買おうと思い外に出ようとした時、病院職員が
走って来るのが見えた。

職員「見つかりました!」
無言の特命係 昨夜午後9時過ぎにに転落したという、情報通りなら既に12時間が経過している。
助かる可能性は極めて少ない。

職員「無事でした!」
亨「本当ですか!」
職員「自力で対岸まで泳ぎ、病院まで行ったそうです。」

亨「かなりのサバイバル術ですね。」
右京「戦車道の授業や、家元ではサバイバル術も習得授業の一つです。」
戦車が試合中に、川に落ちたり行動不能になるケースは少なくないらしい。

病院の入り口を出ると、報道陣はほとんどいなくなっていた。みほがいる病院に向かったのだろう。


小走りで、近くの橋を渡り対岸に行き5分ほど走り中規模な病院に到着する。

右京「おかしいですね。」
亨「おかしいですね。報道陣が誰がも居ません。病室まで押しかけたのでしょうか?」

平穏な病院前を通り過ぎ、中に入る。しかし、受付前にも誰も居ない。居るのは、数人の高翌齢者と
マスクを付けた子供を連れた、母親だけだ。一斉に二人を不審な目つきで見る。

受付の職員に、警察手帳を見せ西住みほの容体を聞くも・・・

職員「西住・・・・そういう患者さんはおられませんが。」
右京「昨日・・・夜9時半頃に、運河に転落した女性が自力でこちらの病院に、来たと聞いていますが。」
職員「確かに・・・・時刻は9時38分です。」

職員が内線電話で医師を呼び出し、二人は階段で2階に上がる。

亨「容体はどうなんですか?」
医者「多少水を飲んだようですが、命に別状ありません。」
右京「それはよかった。」

医者「かなりお酒を飲んでいたようですが、泳ぎの上手な人だったのが幸いしました。」
右京「はい・・・・?」

亨「彼女は、どう見てもお酒が飲める年齢には・・・・・」
みほはどちらかと言えば、実年齢より低く見える。

医者「山崎里美さんの病室です。」


里見「お騒がせしました。」
亨「高校時代からの恋人の方に、プロポーズされて喜びのあまり飲み過ぎて川に落ちたと。」
里見「普段は平気なのですが。」

どうやらかなりの酒豪の様だ。みほの写真も見せたが記憶も曖昧だ。

右京「お酒は飲んでも呑まれるな。今後は気を付けてください。」
亨「では、何か思い出したら連絡ください。」
連絡先を知らせて、帰ろうとする特命係。朝からの疲れがどっと押し寄せた感じだ。

亨「もう直ぐお昼ですね。一度警視庁に向かいますか?」
右京「何処かで何か食べてから、向かいましょう。一応報告しておかないと。」


里見は、廊下で刑事を見送りながら、何か思い出そうとしている様だ。

里見「・・・・川に落ちる寸前に、私と同じ名前のレストランが…うーん無関係だよね・・・」

その瞬間右京の足がぴたりと止まり、病室の前に戻る。

右京「今のお話、詳しく話していただけませんか?」
里見「は、はい・・・運河に落ちる直前に、偶然私の名前と同じ…洋食屋さんをみつけて、漢字じゃなくて平仮名
の店名でした。それで、記憶に残っていたんだと思います。」
亨「転落箇所の近くに、確かにありますね。」

亨がタブレットで地図を表示する。
亨「大家さんが、目撃した場所と・・・・20メートルは離れていますよ。」
右京「カイト君、大家さんの証言を思い出してください。」


亨「水音は1回・・・・2回聞こえたと。聞き間違いでないとすると。」
右京「偶然同じ時間に・・・里見さんが誤って運河に転落したのと、同時に誰かが運河に転落した。」
亨「目撃者捜しましょう!」

里見「私と同じ時間に、人が落ちた場所ってここですか?」
亨「そうです。やはり何か見ましたか?」
里見「そんな余裕は流石に・・・・対岸にある喫茶店の店長さんは、何か見ているかも。営業が夜8時までなんです。」
右京「どうもありがとう。」

喫茶店 50代の女性店長とアルバイト店員の二人でやっている様だ。

店員「いらっしゃいませ、2名様ですか?」
店主「うちは全席禁煙だよ。」

右京「警視庁特命係の杉下です。」
店主「里見ちゃん・・・・まさか誰かに突き落とされたのかい?」
亨「突き落とされたわけじゃなくて、飲み過ぎて落ちたみたいです。昼過ぎには退院するそうなので
その点はご安心を。それとは別にお聞きしたい事が。昨日午後9時15分頃…大きな水音を聞きましたか?」

店主「2回同時に聞こえたんだよ。1個は少し離れた所からで、もう1個は直ぐ近くから。」
右京「直接・・・・こちらの少女が、転落する所は見ておられませんか?」
店主「見てないねえ。その後里見ちゃんがこっちに泳いで来るのが見えて、ご近所大騒ぎになったんで
うっかり忘れてしまったんよ。」

店員「俺…この子目撃しましたよ。」
亨「詳しく聞かせて下さい。」


回想 昨晩9時・・・・

店主「後は私がやっておくから。ご苦労様。」
店員「ご苦労様でした。」

バイクに跨り、走り出す・・・・・

店員「ふと、対岸を見るとその写真の子みたいな感じの子が、歩いているのが見えたんです。西住みほって子に
似ているなとは思いましたが。」
店員は、方角を示した。みほが入院していた病院の方角から、喫茶店のある方角へ。
亨「時間は9時10分ごろ・・・・・時間的には一致しますね。」

右京「誰か他の人は、彼女の傍に居ましたか?」
店員「特に誰も居ませんでした。不審な車も・・・・・無かったと思います。」
右京「ご協力感謝しま・・・・・失礼」

右京「杉下です。」
米沢「米沢です。所轄署から防犯カメラの映像が廻って来ました。9時9分頃に、近くの防犯カメラに西住みほ
の映像が確認されました。伊丹刑事達にも、出動が命じられました。我々も至急そちらに向かいます。」


30分後何台ものパトカーが到着し、刑事達と鑑識班 警視庁に詰めている記者に気付かれたのか、
多数の報道関係者もやって来た。

伊丹「警部殿、やはり西住みほが川に転落したか、あるいは自ら身を投げたのですか?」
右京「まだ確信はありません。」
亨「しかし、転落した時刻に西住みほと思われる少女が、現場付近で目撃されています。少なくとももう一人
誰かが川に落ちた可能性は、極めて高いと思います。」

伊丹「近所から目撃者居ないか探すぞ。それと、遺留品も探してくれ。」
刑事達が一斉に散り、ご近所を回って目撃者を捜す。

その結果、数名の住民が2回の水音や、現場に向けて歩く、みほらしき少女を目撃していることが判明した。

芹沢「先輩、落ちてました!」
伊丹「何だ、この不気味な熊のミイラぬいぐるみは。」
芹沢「そこの電柱の陰に、落ちていました。」

米沢「これは西住みほさんが集めていた、ボコられくまですな。」
伊丹「なんでこんな不気味な熊を・・・・熊本にはもっと有名なのが有るんじゃ?」
芹沢「忙しくて、全国に営業に行っていて地元にはあまりいないから、県民は飽きているそうですよ。」

米沢「転落箇所にある、転落防止用の柵から指紋が検出されました。柵の両側からです。」


数時間後鑑識の結果、指紋は西住みほの指紋と断定された。


翌日

記者A「西住みほさんは、病院を抜け出して川に転落したのは間違いないんですか?」
内村「未だ確認された訳ではありません。」
記者B「誰かに連れ出されたのですか?」
中園「防犯カメラには、不審者や彼女を追う人物は映っていませんでした。目撃者も西住みほさんは
一人で歩いていて、不審者や車両を目撃していない点は、全員一致しています。」

記者C「未だ手掛かりは無いんですか?」
中園「現在隅田川と東京湾を中心に、捜索をしておりますが、現時点で遺体等は確認されておりません。」
記者B「西住みほさんが、飛び込む所を目撃された人はいますか?」

中園「現時点では、直接飛び込む所を目撃された方は一人もいません。」
記者A「つまり、別人の可能性もあると?」
内村「第三者の第三者的要因による、第三者的事件の可能性もあります。」

記者B「何を言っているのか解りません。」
中園「一覧の事件とは全く無関係の、転落事故や自殺の可能性・・・・可能性は低いですが、他殺の可能性も
排除せずに・・・・現在付近住民等から、他の行方不明者が出ていないか捜査中です。」

報道各社は連日この事件を取り上げた。

見出し「西住みほ・・・・生きている?死んでいる?」
見出し「嘘の目撃情報相次ぐ。悪質ないたずらか。」


3月20日 ラーメンの屋台

甲斐「杉下君、君も時々この屋台に?」
右京「偶にですが。」
甲斐「先代の頃から時々ね。結局西住みほさんの事は残念だったね。」
右京「未だ、彼女が本当に自殺したかは確認はされていません。」

2月に入り、捜査範囲は房総半島沖や相模湾まで捜査範囲が広がり、東京湾や浦賀水道は取材陣が
チャーターした漁船やボートが多く集まり、ちょっとした名物になった。
しかし、数日経過しても何らの手がかりも無く、やがて取材陣も1隻、また1隻と姿を消し、
2月10日で捜索は打ち切られ、秋山優花里時と同様に中園参事官と海保が記者会見を行い、

中園「西住みほは、自殺した可能性が高いが生存している可能性も否定できていません。今後、有力な情報が入らない限り
積極的な捜索は本日で終了します。」
と発表し、事実上の捜索終了宣言となった。

甲斐「しかし、仮に生存していたとしても、彼女が生きて行くのは極めて難しい思うがね。母親は良くて無期懲役・・・
恐らく死刑だろう。親族も離散してしまったそうだね?」
右京「逮捕されなかった、親族や西住流関係者も多くが雲隠れしたり、あるいは南米等に移住してしまいました。
学園も廃校や、在校生支援でみほさんを助ける余裕は無いでしょう。」

映画「イーグル・アイ」みたいに、今は監視社会となっている現状、何の痕跡も残さずに生活するのは困難だ。
ましてや、戦車道以外の生存術や生活術が有るとは思えないみほが、裏社会で生きて行くのは難しい。

甲斐「倅が、あの子を助けたのは本当に・・・・良かった事なのだろうかね?」


甲斐「警察官として、本来こんなことを言ってはならないのだろうが・・・・友人達は全員が逮捕か死亡。
親族も逮捕や離散・・・姉の西住まほさんも、回復は絶望的だそうだね?」

回想 昨年11月 熊本の病院集中治療室

右京「回復は困難ですか?」
医者「残念ですが、意識が回復する可能性はほぼ0です。治療に全力を尽くしますが、奇跡が起きても無理です。
むしろ、現在生きている方が奇跡かと。」

亨「いつ危険な状態に陥っても、おかしくないという事ですか?」
医者「はい。心拍数等も極めて不安定です。今日は珍しく安定気味ですが。何時急激に悪化してもおかしく
ありませんね。」


甲斐「仮に死亡説が誤りで生きていたとしても、ほとんど無一文で、いつ反感を持つ市民に襲撃されるか解らない。
あの日、自宅で死亡していた場合とどちらが彼女にとって良かったのだろうかと、つい考えてしまうんだよ。」

右京「・・・・・・・・」
甲斐「・・・どうかしたかね。」

右京「次長が今言われた事と、ほぼ同じ事をカイト君も言っていましたので。」
甲斐「そうなのかね。」

数日前、熊本に帰る赤星小梅を、羽田空港まで見送りに行ったのだが・・・・


数日前 羽田空港

音声「・・・・熊本行15:00 間もなく搭乗手続きを開始します。」

小梅「杉下さん、甲斐さん・・・ありがとうございました。」
亨「熊本に帰ってから、どうするんですか?」
小梅「実家に戻り・・・・果樹園の仕事を手伝うつもりです。」

黒森峰学園は、即時廃校の大洗と違い在校生が卒業するまで猶予期間を認められた。しかし、何割かの在校生は
既に自主退学を選択している。

右京「少し元気が有りませんね。」
小梅「あ・・・・はい。甲斐さんも、元気が無さそうですが。」
亨「あー、顔に出てました?」
右京「二人の元気が無い原因は、同じなのではありませんか。」

亨「刑事として、こんな事を考えるのはダメなのかもしれませんが・・・・」
小梅「甲斐さんと、亀山さんが・・・・みほさんを、助けたのは本当に良かった事なのでしょうか?」

みほが消息不明・・・・・になり、既に45日が経過しているが、みほへのネットや週刊誌での批判や、根拠無き怪情報
や中傷は、未だに多い。不謹慎にも生存か死亡かで、賭けのネタにしている輩も存在する。

目撃情報も半数はいたずら目的で、残りは他人の空似・・・中でも多かったのは、偶然外見が似ている某アイドル歌手
を目撃した人による通報だった。(芸能界に詳しくない人や、高翌齢者による。)彼女の関連商品売上が、
増えると言った二次現象も起きている。

他に、元大洗在校生や無関係の学園職員・・・無罪放免になった西住流関係者への、いやがらせ行為もあり
悪質事例では逮捕者も出ている。


小梅「時々、最近の酷いネットの書き込みや週刊誌を見ると・・・・あそこで、助からなかった方がむしろ・・・
みほさんの為には、良かったんじゃないかと・・・・・思ってしまうのです。」
亨「ネットへの脅迫的書き込みや、関係者の家に花火を投げ込んだりしての逮捕者は、既に10名を超えています。」

小梅の脳裏に、新聞紙を見て立ち尽くしているみほの姿が浮かぶ

右京「そんな事はありませんよ。」
小梅「・・・!」

右京「確かに、もし西住みほさんが生きていた場合、苦難は想像以上に大きいでしょう。危害を加えようとする人が
いないとも限りません、助けた事を非難する意見もあります。しかし、君と亀山君・・・小梅さんの行動は正しい事だった。
僕はそう思いますよ。」

右京「カイト君は、警察官として・・・・小梅さんは、彼女の大切な友人として最善の行動を取ったと断言できます。
どんな状況下でも、命を助ける・・・・それは、決して誰からも後ろ指を指される事ではありません。」

亨「・・・・・実は、一般には公にされていない事があります。」
右京「西住みほさんが、転落した可能性が有る場所の真下、川の中ですが・・・廃棄されたテレビが見つかりました。
腐食具合から不法投棄されたのは、みほさんが転落した日か前日である事が判明しました。」

小梅「近所の人が、古いテレビを川に捨てた音を目撃者の人が、勘違いした可能性もあるという事ですか。
でも、なんで秘密に・・・」
亨「内村部長は、事なかれ主義だからね。生存説が広がり・・・西住さんに似た外見の子が、誤って
危険な目に遭うトラブルを避けたい・・・・とは言っていたけどね。」


小梅「一両日位に、テレビが不法投棄されたという話ですがみほさんが本当は川に落ちていて、その数時間後の真夜中・・・
に不法投棄された可能性もありますよね。」
右京「確かに、その可能性もあります。」
亨「実はもう一つ根拠があります。防犯カメラです。」

小梅「でも、近くの防犯カメラには一人で歩くみほさんの姿が。私もテレビで見ました。」
病院の方角から、転落現場?の川沿いに歩くみほの姿はテレビでも公開されていて、小梅も見ている。
場所は丁度、女性会社員が事故で転落した辺りだ。

亨「実は、転落現場とされる場所から抜け出す道路はもう1個あります。」
小梅「その道にも、防犯カメラが有るんじゃないですか?」
右京「近くに賃貸マンションが有るので、防犯の為に。しかし・・・」

2月1日 鑑識室

米沢「一応、こっちの防犯カメラの映像も調べる必要が。」
伊丹「気が進まねえなあ。」
芹沢「ここの防犯カメラは、新型らしいですよ。」
伊丹「不審者を見つけると、自動的にカメラの向きがそっちに変わ、りズームしたりも出来るらしいな。」

亨「海外では既に導入されているらしいですよ。今回は、テスト運用らしいですよ。確か周囲1キロくらいの
何か所かでも同様のテストが。」
米沢「では映像を見ますか。時間は・・・・昨夜午後9時10分からでいいでしょう。」


芹沢「何かおかしいですよ!」


亨「角の家にカメラが向いたまま、動かなくなってますね。」
伊丹「おいおい、故障かよ。しかもズーム状態で家しか見えんぞ。」
米沢「試験段階での、故障は珍しくありませんな。あの零戦やB29もテスト時は度々、墜落事故を起こしています。」

芹沢「機材の不具合ですかね。もしくはシステムの故障かな?」
米沢「管理会社に問い合わせてみます。」

米沢「どうもお手数をおかけしました。」ガチャ
芹沢「どうでした?」
米沢「やはりシステムエラーですなあ。テスト中に、管理会社側でエラーが発生しカメラの向きを、変えることが出来なく
なってしまったみたいです。」

亨「米沢さん、周囲の他のテスト用防犯カメラも一斉に、ズーム状態で故障ですか?」
米沢「数時間復旧に要したそうです。」

回想終わり

小梅「つまり、みほさんがカメラの近くを通っても映っていないと。」
右京「周囲1キロほどは、死角になっていたようです。」
小梅「それも、公表しなかったのですね?・・・・こっちは、秘密にしなきゃだめですね。」
亨「故障する事がばれたら、空き巣やひったくりにとって絶好の狩場になるからね。」

右京「あの日・・・西住みほさんが、カメラに映らずに転落場所から立ち去る事は可能でした。」
亨「しかし、その外側で彼女の確実な痕跡は・・・・今日に至るまでありません。防犯カメラや、駅の監視カメラ
にも一切映っていません。」


亨「小梅さんがどう考え判断するか、俺達にそれを決める権利はありません。」
右京「貴女の判断を僕達は尊重します。」

小梅は、深呼吸をして…そして・・・

小梅「私、信じます!」


小梅「みほさんは、必ず生きています。必ず戻って来てくれると信じます!」
右京「分かりました。では、カイト君。」
カイトは、紙袋を渡す・・・・

小梅「これは・・・・・みほさんの。」
中には、みほの部屋から一つだけ持ち出せた私物、・・・・ボコられくまのぬいぐるみが入っていた。
持ち出した日は煤けていたが、クリーニングされて綺麗な状態に戻っている。

小梅「ありがとうございました。みほさんと再会出来たら、おかえりなさいって言って返します。」
小梅は搭乗カウンターに向け歩いて行き、一度振り返り笑顔で手を振る。

30分後

熊本行が離陸して行く。展望エリアで見送る二人。

回想終わり
甲斐「倅が、私と同じような事を・・・・まあ、これからも倅が迷惑をかけるかもしれんが、よろしく頼むよ。」


3月末 花の里

陣川「流石に、世間の注目も少し減ってきた感じがするね。」
亨「テレビやネットも、どうしても新しい事件の方に注目しますから。」

幸子「陣川さんも、あの直後は忙しかったんですか?」
陣川「窃盗事件の応援に行かされたり、警察学校での横領事件の手伝いとか。声がかかる事も
期待したんですが、残念!」
捜査2課辺りから、お声がかかるかと期待した陣川だがそれは無かった。

幸子「ふきの煮物と、天麩羅です。」
亨「美味そう。」
幸子「今日の朝に収穫したらしいので、鮮度は抜群です。」

亨「春一番の味ですね。」
陣川「この苦味もまた、フキの魅力だよね。日本人に生まれて良かった。ですよね、杉さん!・・・・・・。」
幸子「?」

陣川「あれっ!杉さんが居ない。さっきはいたのに?」
亨「最初からいませんよ。まさか危険ドラッグ?」
幸子「仕事のやりすぎは禁物ですよ。」

陣川「そんな痛い子を見る様に、見ないでよ!冗談だよ。で、杉さんはどうしたの?」
亨「商店街の防犯指導から帰って来て、コーラを自販機で買っている間に杉下さんは、急用が出来たと。
直接じゃなく、大木刑事からですが。後で、連絡するという事でした。」
陣川「何か事件かなあ?」


幸子「またのお越しをお待ちしています。・・・・・おまちしておりました。」
カイトと陣川が店を出るのと、入れ替わりに常連客数名が入って行く。

陣川「一応連絡してみたら。」
亨「そうですね。」ピポ

音声「現在電源が入っていないか・・・ナントカ」ピ
陣川「警部、電話に出ないのかい?」
亨「電源が入っていないみたいですね。」

陣川「電源うっかり切ってしまっただけじゃ?」
亨「杉下さんに限って、無さそうなきがしますよ。」
陣川「何かの拍子に、電源切ってしまったんじゃ?財布を取り出そうとして、手が触れてスイッチ切ったとか?」
亨「あー、そういう事情ならありそうですね。それだとしばらく気付かないかも。」

バス停

陣川「じゃまた今度な。」
亨「お休みなさい」

バス停で陣川を見送り、カイトは地下鉄駅に向かった。

次の日 非番だったカイトは、掃除をしたり新しい料理レシピを考えたりして過ごした。


夜・・・・

杉下右京が歩道を歩いている。逆方向からカップルが歩いて来る。更に泥酔している会社員も。

泥酔「うぃー」
恋人「今度、北海道にスキーに行かない?」
恋人「未だ営業しているところありそうだね。」

パタン
恋人「こんな所で寝ると風邪ひきますよ。」
恋人「どうしたの?」
恋人「し、死んでる!」

右京「何事ですか?」
恋人「この人がいきなり倒れて、・・・・キャアアアアー」
恋人「逃げろーーーーーー」

カップルは、恐怖に顔を引きつらせると走って逃げだす。


??「お久しぶりです。杉下警部。」


右京「君は・・・・・」

優花里「まさか、本当に私が死んだと・・・・思っていましたか」チャキッ
消音機付の拳銃を構える優花里

優花里「直ぐに、カイトさんも、米沢さんも、伊丹刑事も…送ってあげますね。向こうで相棒継続できますよ。
小梅も、私を裏切ったお人形さんも、報いを与えないと。」




優花里「お別れですね。杉下右京さん。」


優花里が、銃口を向ける。時間の流れが急激に遅くなった様に感じた。


優花里「ヒヤッホォォォウ!最高だぜぇぇぇぇ!! 」パシュッ

今日は終了します。ありがとうございました。
右京さんの運命や如何に!

明日10時開始予定 後ほんの少しです。

間もなく開始します。


「うわあああああああ」


亨「○**‘??%&(~+M・・・・ゲホッ」

そこは、カイトの自宅寝室だった。無論カイトのベッドの上でいつもと違うのは、べったりと汗をかいている
事と、起きる時に放り投げたのか枕がベッドから落ちている事位だ。

亨(夢か・・・・正夢じゃないだろうな。)
カイトは、寝室の窓を開けるが外の景色に異常は無い。向かいのアパートの棟がぼんやりと見える。目覚まし時計を見ると
丁度5時だった。日の出にはまだ30分ほどある。ピカッ

亨「!・・・・・雷か・・・・・」
左手の方で雷光が見える、よく見ると空は厚い雲が垂れ込め今にも雨になりそうだ。昨日の夜の天気予報で、
明日明け方から雨になり、雷もあるだろうと言っていた事を思い出した。

1分も経過しない内に、再び雷鳴が走った。今度はかなり近く、振動でガラス窓がびりびりと震える。その振動が終わるより早く
雨粒が落ちてきて、10秒もしない内に本降りとなった。

亨(一度、杉下さんに電話してみようか・・・・流石に時間が早過ぎるか。)
眠気も消し飛んでしまったので、テレビを付けると、

キャスター「ちょうど雨が降り始めました。首都圏では今から数時間やや強い雨が降る、おそれが有るので
気を付けてください。週間予報です。」
と、のんきにのたまっている、幸い日本国内では、その時間事件は起きていない様だ。


カイトはシャワーを浴びたが、不安は消え無かった。結局いつも通り朝食を食べ、後始末と施錠をしたが
いつもより1時間以上早く出てしまった。次に右京に電話を掛ける事を思い出したのは、地下鉄の中で
流石に断念せざるを得なかった。

霞ヶ関駅を出ると、雨は小降りになっていた。警視庁のロビーで再び電話を掛けようとするも、
亨「あ、電池切れかよ。充電しないと。」

亨「おはようございます。」
大木「何だ、今日は早いな。おはようさん。」
亨「杉下さん・・・・・もう来られてます?」
小松「流石にまだ来られてないぞ。まだ7時20分だし。」

特命係の部屋に行くも、無人で右京のプレートは赤色(不在)を示していた。充電器を接続し、携帯の
充電をしていると、何処かに報告に行っていた角田課長がやって来て、

角田「おはよう!なんだ今日は早いな。」
亨「おはようございます。課長もお早いですね。」
角田「都内で大麻密造している連中を摘発したんだ。中古マンションの中だった。それより、カイト顔色が悪いぞー。
婚約者と喧嘩でもしたのか?」

亨「悦子は今空の上で仕事中です。」
角田「国際線のCAさんだったか。」


亨「ちょっと悪い夢を見たので。」
角田「そんな夢なんか気にするなよ。俺も情報がガセだった夢とか偶に見るぞ。」

気付くと、時刻は8時20分になろうとしていた。
大木「確かに杉下警部遅いな。」
小松「いつもなら、もう来られる時間だなあ。」
カイジの効果音が、鳴り響く感じで、角田課長の部下達も奇妙に感じ出していた。

気付くと、携帯の充電も終わっている。カイトが充電器をコンセントから外し、携帯に手を伸ばしかけた瞬間
待っていたかの様に、電話が鳴った。


右京「おはようございます。」
亨「杉下さん、無事ですか!」

右京「無事とは、穏やかじゃありませんねえ。何か悪い夢でも見ましたか?」
亨「杉下さんが、殺されてしまう夢でした。」

右京「夢の内容は覚えていますか?」
亨「忘れたいのですが、くっきり明確に。」

右京「それは逆夢かも知れません。僕が、秋山優花里さんに殺される夢ですか?」
亨「へっ?」

右京「それほど難解な結論ではありません、夢は見る人の心理に影響されると言います。僕たち特命係にとって、
ここ数か月の間に関わった事件の中で、一番印象に残っているのは、5か月前の恐るべき犯罪でしょう。」


亨(もうそんなに経つのか。)
時々、事件を解決してから数日しか経過していない錯覚に襲われるが、既に5か月が経過している。後20日ほどで半年に
なる。西住みほの生死が不明になってからも、既に3か月が経過した。

右京「現在拘置所に、身柄を拘束されている被告人は論外として、僕を狙う動機と能力を兼ね備えた人物・・・
仮に不明者が全員存命と仮定した場合、それらを最も兼ね備え尚且つ、カイト君の心理に影響がありそうな
人物と言えば、やはり秋山優花里さんでしょう。」

角田「確か、かなりの戦闘訓練を受けているんだよな。そして、爆発物の訓練も受けていた。みほって子も
逆恨み的な動機は有るかも知れんが、そんなことをしでかす子じゃねえよな。」
亨「脱帽です。」

右京「確か君に、空港からメールを送信した筈ですが。」
亨「着信履歴が有りませんよ。」
右京「おやおや、妙ですねえ。・・・・僕とした事が!」

亨「どうされました?」
右京「すみませんねえ、どうやら誤って角田課長の携帯に送信してしまったみたいです。」

角田「こっちの履歴にも・・・・すまねえ、昨日うっかり削除してしまったかも知れん。大麻密造の有力目撃情報
が入った時に、うっかり消してしまったみたいだ。」

右京「一度、連絡しようかと思ったのですが時差が大き過ぎて。」
亨「時差?」

右京「時差が半日…いや-14時間もありましたので。」


亨「-14時間・・・確かロンドンが-9時間・・・まさか、アメリカ大陸ですか!」
角田「警部アメリカ大陸に居るの?旅行かよ。いいねえ、暇な部署は。」

声「残念ですが仕事です。東太平洋に沈む夕日も中々趣がありますな。」
亨「その声は、米沢さん?」

米沢「米沢です。本来予定されていた外事課の刑事が、ノロウィルスでダウンしてその代役に
杉下警部と私が、遥々海を越えてアメリカに。先ほどの夕陽の感想ですが、一部訂正します。残念ですが、
50キロほど内陸なので、海は残念ながら見えません。」
角田「西海岸って、例えばシスコとかロス?」

右京「ワシントン州シアトルにいます。隣接するタコマ市にも行きました。」
タコマ市は人口20万で、ワシントン州では3番目に人口が多い。過去にはボーイング社の工場があり
B29爆撃機の製造も行われていた。


亨「一体何が有ったんですか?」
右京「最初に言いましたよ。カイト君が見た夢は逆夢かも知れないと。」
亨(逆夢ってのは、現実とは反対の事が起きる夢だよな。復讐の反対・・・いや復讐は当然生きてないと不可能だ。
・・・・と、いう事は・・)

角田「おいおい、何が起きているんだ。教えろよ。」
亨「課長!8時30分頃に臨時ニュースが流れるそうです。」
時計を見るとあと70秒ほどで8時半だ。カイトは特命室のテレビを、角田は部下にテレビを付ける様に指示を出す。

折しも4月から始まった、連続ドラマの出演者を招いてのトーク番組をやっていたが、8時29分30秒頃にスタッフが
司会者に何やらメモの様なものを渡すのが見え、直ぐに出演していた俳優も会話をぴたりと止めた。


ttps://www.youtube.com/watch?v=vpENxajD1As

   アメリカ西海岸で発見された遺体のDNAが、
   殺人事件で不明の主犯格少女と一致

NK「番組の途中ですが、臨時ニュースをお伝えします。3月29日の昼すぎ(日本時間30日未明)に、アメリカ
西海岸のワシントン州タコマ市の海岸で、漂着した日本漁船の解体作業を行っていた所、船内から
若いアジア人女性と思われる白骨が発見されました。」

NK「遺体側頭部に、銃弾が命中した形跡があり更に、茨城県立大洗女子制服の一部が発見された
事から、遺体をシアトルの大学病院に運びDNA鑑定を行った結果、日本時間の本日午前6時(現地時間4月2日午後2時)
に、昨年10月23日に関係者多数が逮捕された、一連の事件における主犯格の女性と一致しました。主犯格の女性は
当日、一連の犯行を刑事の前で認めた後逃走し、学園艦展望フロアで、隠し持っていた銃で自らの頭部を撃ち、
海中に落下し、不明になっていました。繰り返しお伝えします・・・・」

チャンネルを変えると、他の局でも同じニュースをやっていた。第一発見者からのインタビュー映像や、地元警察署長
の会見を放映した局もあった。

角田「何で漁船の中で見つかったんだ?」
亨「このニュース記事を見て下さい。漁船は2か月前…1月末に関東地方を襲った低気圧による、高潮で
港から無人で流されてしまったみたいですね。多分太平洋の何処かで、高波で秋山優花里の遺体が、船内に流れ込み
そのまま閉じ込められたのだと思います。」

そしてほぼ2か月後、漁船はアメリカ西海岸まで到達し浜辺に乗り上げて停止した。

角田「これで一応幕引きだな。」
亨「ですね」


悦子「亨は、杉下さんが帰って来るまで角田課長の仕事を手伝うのね。」
亨「シアトルでまた面倒な問題が発生したらしい。」
悦子「秋山・・・さんだっけ、遺体の引き取り先が何処にも無いらしいわね。」

亨「もうニュースになってるのか。」
大洗町や水戸市・・・・茨城県は無論の事、他の全ての都道府県も受け入れを断固拒否。悦子の同僚によると、
特に松山市が、対応に追われているらしい。坂の上の雲の秋山兄弟とは何の関係もありませんと、有名な歴史学者を使い
火消しに奔走している。


結局、見かねたワシントン州政府が身元不明者遺体として、州内の公共墓地に秘密裏に埋葬する事となった。
ただし、墓石・墓碑は無く 埋葬自体も数か月後に公表する。(埋葬した事実のみ)。


4月5日早朝 大学病院から、人目を避ける様に運搬車が走り出す。見送る右京と米沢も彼女が埋葬される場所は、
知らされていない。

米沢「諸行無常・・・・半年前、秋山さんはまさか自身が遥かアメリカに、人知れず埋葬される事になるとは、
恐らく想像すらしていなかったでしょうな。」
右京「それらは全て、彼女の愚かな行いの報いです。」
米沢「同情する気にはなれませんな。」

その時、アメリカ人の刑事が走って来る。
米沢「どうしたんでしょう。この近くで強盗事件でも・・・・」
右京「聞いてきましょう。何か事件ですか?」

刑事「いや、日本からのニュースです。ミホ・ニシズミの姉のマホ・ニシズミが容体急変し、危篤状態
に陥ったそうです。医者が後半日の命だろうとコメントしていました。」


カイトは大木刑事達と共に、違法薬物売買の構成員を逮捕し警視庁に戻って来た。
構成員の中に、傷害事件の手配犯が居た為に一課に渡しに行くと伊丹が、窓の外を眺めている。

亨「伊丹さん、何か元気が無さそうだな。」
芹沢「そっとしておいてやってくれよ。昨日・・・冷泉久子さんが亡くなったそうだ。」

亨「確か、冷泉麻子容疑者の祖母ですよね。以前から入退院を繰り返していたけど、事件で一気に
悪くしたみたいですね。伊丹さんは10年前に会っているそうですね。」
芹沢「冷泉麻子を助けた日の夜にね。1月かな、病院に一度見舞いに行っているんだ。流石に直接は会えなかった
みたいで、お見舞いの品も病院の人に託したらしいよ。」

気付いたのか、不機嫌な表情の伊丹がこっちに来る。
伊丹「くぉら、ひそひそ話は本人が居ない所でやれよ!」
芹沢「す、すみません」

伊丹「おい、今日の夜時間有るか?」
亨「ありますが?」

伊丹「一杯付き合え。」


夜伊丹刑事行きつけの居酒屋前

亨「雨になりそうですね。」
伊丹「そうだな。・・・・飛行機の音か?」
芹沢「ちょっと遠いけど、雷の音ですよ。」


伊丹「良く聞き分けられるな。」
芹沢「冬の日本海側は、雷が多いですから自然と慣れますよ。」

店員「2階A室3名様入りましたー。」
2階の個室に入る3人、まずビールを注文し程なく届く。

伊丹「大洗・・・いや水戸の方角はちょうどこっちだな。」
ビールを注ぎ、無言でグラスを掲げる3人。

亨「確か冷泉家って、他に親戚とかいないらしいですけど。どうなるんでしょう。」
伊丹「一応、遠い親戚が北陸の福井に居るらしいから葬式くらいは。ま、他人の俺が
介入して良い話じゃないからな。」

伊丹が、つまみを注文しようとお品書きを開こうとして、ふと外を見ると雨が降り出した。
伊丹「やっぱり降って来たか。」
下の道路では、あわてて傘を広げる通行人が見える。

つられて、カイトと芹沢も窓の外に目をやる。
芹沢「カイト、どうしたんだよ?」
カイトは無言で、通りの反対側にある電光掲示板を指さす。

   ○新聞ニュース 入院していた西住みほさんの姉(19歳)が、容体悪化し死亡 本日午後4時


右京が帰国し、一週間ぶりに特命係がいつもの特命係に戻った。

ttps://www.youtube.com/watch?v=OXDRtl4hRtw

角田「暇か?二人に手紙だ。差出人は、一通は熊本に帰った赤星って子からだ。もう一通は、亀山が助けた
確か、澤梓って子からだ。」

一礼して手紙を受け取るカイト。


亨「拝啓 杉下さん甲斐さん、あの折は本当にありがとうございました。」

梓「あゆみ達も無事に警察の人に、救助されました。全員別々の町に、別れてしまいましたが大人になったら
再開しようとお互いに約束しました。」

梓「私は将来、亀山さんみたいに海外でその国の人を助けたいです。4月から農業系高校に再入学しました。
紗希は、将来は刑事になりたいと言ってました。特命係希望だそうです。紗希が刑事になる頃には、特命係は
どうなっているのでしょうか。」


梓「追伸 亀山さんにもお礼を申し上げたいので、サルウィンの住所を教えて下さい。」

亨「10年後、特命係はどうなっているんでしょうか」
右京「どうなっているのでしょうか?」

小梅の手紙には、写真が同封されていた。実家を手伝う小梅が笑顔で映っている。
みほが帰って来る夢を見たと書かれている、正夢になると信じますと書かれている。
小梅「その時は笑顔でお帰りなさいって言って、預かっている熊さん返します。」

角田「コーヒー貰うよ。それと事件だ。」


角田「今日の朝品川沖で発見された車から竹田って社長が、死体で発見されたらしいよ。」
亨「野沢温泉で数日前に殺害されたモデルの、所属事務所の社長でしたね。」
右京「最後の目撃者は、休暇で野沢温泉に旅行に行っていた一課の刑事でしたね。」

亨「1時頃に、社長の誘いで有名な蕎麦屋で昼食。」
右京「3時頃に長野駅に着いたそうですが、停車駅の少ないあさま532号は混雑するから、15時30分発の
あさま534号にしましょうと、その刑事さんを誘ったそうですよ。」

亨「変ですね、停車駅の少ない方が15分ほど早く東京に着くのに。」
角田「今日は日曜だから、確かに停車駅の少ない方は混んでるかも知れんが、5月連休は未だ先だし
卒業旅行の季節は過ぎているなあ。指定席だって少しは空きが有るだろう。」

亨「そして、数分後に十日町のホテルに連絡したら、着物のショーに出る予定のモデルさんが、突然行方不明に。
驚いて十日町に捜しに行くと刑事に言い残して、上田で新幹線を降りた。」

時刻表を見ていた右京は、何かに気付いたようだ。

角田「おっ、何か気付いたなー。」

課長は、二人を見送りながらパンダのカップにいつもの如くコーヒーを注いだ。

これで完結です。読んで下さった方ありがとうございました。

最後、1600年後に、起こるかも知れないネタを投稿して数日後にHTML化申請しますww

当文章は、らいとすたっふルール2004に準拠しています。


宇宙歴799年 新帝国歴1年8月4日

カイザー(皇帝)ラインハルト・フォン・ローエングラムに対し暗殺未遂テロ事件を起こした、許し難い狂信者
集団地球教徒本拠地…即地球最高峰に作られた本拠地を壊滅させた、銀河帝国軍ローエングラム王朝軍・・・

アウグスト・ザムエル・ワーレン上級大将は旗下兵力5440隻の内、一部を残敵の掃蕩や逃走阻止、
捕虜や、保護した一般人の護送任務に残し一路オーディンに向け、帰路に着いていた。


参謀長(ライブル中将)
   「義手の具合はいかがですか?」
ワーレン「中々の具合だ。これも150年に渡る、戦争の副産物と思えばいささか皮肉だな。
参謀長、地球教徒どもの機密資料の類はやはりダメか?」

参謀「残念ながら、ほとんどが恐らくは瓦礫の下に埋まっているのでしょう。」
将校「地の利は敵の側にありましたし、火責め、水攻め・・・味方もろとも毒ガスや、爆弾での自爆・・・」

犠牲者も多く攻撃部隊指揮官のリンザー大佐は、地球教徒幹部捕縛を断念し部隊を撤退させた。
その後最後に残された出入口を爆破した。

捕縛したのは巡礼者を案内する係や厨房で、調理をする者や医者といった下っ端だけだった。
当然教団の裏の顔など知る者はいなかった。


ワーレン「機密資料も、ほとんどが瓦礫の下だろうな。致し方あるまい。・・・参謀長、
先ほどほとんど入手できなかったと言ったな。つまり僅かにはあるという事か?」
参謀「ほんの僅かですが。」

参謀長が目で合図し、部下が数点の資料を出した。

ワーレン「現在の地球における植生や、自然環境の資料か。環境学的には貴重だが、
地球教の秘密を暴くのには、役に立たないな。」
士官「次は地球に住んでいる、教団以外の3千万程度の住民の資料です。」

参謀「教徒ではないのか。」
士官「加入しているのも僅かにいたみたいです。地球教は言わば地球を崇め奉り、地球を離れた大多数
に警鐘を鳴らす(恫喝)宗教です。」
ワーレン「地球に住んでいる住民は、友人という事か。テロの準備で忘れていただけ…という辺りが真相かもな。」

士官(情報参謀)が、今度は映像資料を渡す。

ワーレン「これは海か。漁船に向けて・・・・沿岸警備艇が警告を発しているのか?」
参謀「未だ翻訳の途中ですが、地球に存在した日本という国の警備艇が、チャイナの漁船に警告を発している
内容です。領海侵犯に対し停船しろと、相手は恐らくは違法操業の漁船でしょう。」

ワーレン「日付は、2010年9月7日・・・1590年も前の映像か。おい、違法漁船が警備艇に衝突したぞ。」
士官「頭に血が上って、怒って突進したのでしょうか。」


ワーレン「次の映像は、鉄道の映像だな。日付は2014年11月・・・」
士官「ホクリクシンカンセンという、当時の高速鉄道がナガノからホクリクのカナザワまで、延長されるので
PRの為に作成した映像ですね。見た所子供向けでしょうか?」
参謀「学校で授業の一環として使用した可能性が。」

ワーレン「次が最後か、大勢の少女が映っているな。日付は無いのか?」
参謀「不明です。どうも古い映像を新しい媒体に、コピーしているみたいですね。」

リーダー格の少女(栗色の髪)が呼びかけているが、他の子達は表情が暗い。音声は不明瞭で判別できない。

ワーレン「踊り出したぞ!」
突如、妙な踊りを始める少女。続いて変な髪形の少女が踊りだし、やがて他の子も踊り出した。
踊り終わった後、少女達の目には明るさが戻っていた。

映像はそこで途切れていた。

ワーレン「何という非道な連中だ!」
参謀「どうなさいま・・・・・まさか!」
ワーレン「サイオキシン麻薬に違いない。地球教徒が死を恐れないのは、この恐るべき麻薬のせいだからな。」

効果は高いが中毒や禁断症状もすさまじく数年前まで、軍隊や辺境で流行していた違法薬物である。
摘発に際し、幾度か銀河帝国と敵である自由惑星同盟の刑事警察が、共同した事すらある。

参謀長「協力してくれた、フェザーン人の青年によると教団本部で巡礼者に出された食事にまで、薄めて盛っていた
そうです。」

ご飯大好き某光の戦士(黄色)が居たら、教団本部ごと隕石で吹き飛ばしかねない。


ワーレン「恐らく彼女達は、サイオキシン麻薬の人体実験に使用されたのだろう。まさに悪逆非道な連中だ。」
士官「この映像は、地球教徒の危険性を主張するのに使えますね。」

ワーレン「うむ、未だ教団の裏の顔を知らぬ一般教徒は多数いるだろう。それらを正道に立ち戻させる為に
使用されるだろう。」

その後8月半ばにオーディンに帰還したワーレンは、憲兵総監ろりこ・・・ケスラー上級大将に映像を提出し、
地球教徒の(一般の)社会復帰に貢献する事となる。

しかしおよそ70年後に謎の踊りの映像は、帝国軍上層部の誤解である事がようやく判明する。

後世歴史家の中には、本物の地球教徒の機密資料と、持ち出した側が逆であったら、
翌年6月のヤン・ウェンリー暗殺テロは帝国軍により、阻止しえた可能性もあるという説の述べて
残念がる歴史家も多い。

銀河英雄伝説の地球討伐の裏で、このような事件が(大嘘)
前後の映像無しに、プラウダ戦のあんこう踊りの場面だけ見たら、帝国軍の上層部
はまず間違いなく誤解しそうww

帝国軍上層部があんこう踊り見たら、どう反応するか気になります。
軍務尚書だけは無反応でしょうがww

銀河ガルパン英雄伝説・・・・(予告じゃないよ)

ラインハルト=みほ
キルヒアイス=ゆかり
  疾風=沙織
 若本=麻子
鉄壁ミュラー=華
ビッテンフェルト=杏
ワーレン=柚子
沈黙提督=丸山さん
桃ちゃんは、ビッテンの部下オイゲン少将
おケイさんは、伊達と酔狂の革命家かな

ではこれで終了します。ありがとうございました。

成宮君が、ゆかりんの陰謀で相棒卒業に;;

明日くらいに、最後のネタ投下予定です。


クローンについて、

秋山家と五十鈴家が、密かにクローンの研究をしていたという設定が書いている時はありました。
最終的なテストをする際に、世間や政府に気付かれるのは拙い。

バイオテクノロジー研究所所長嘉神郁子(真野響子)を操りクローンの研究をさせる。
所長は、息子を失った娘嘉神茜(浅見れいな)の為に、孫のクローンを作るが
それを知った娘の兄(窪塚俊介)が知り・・・・やがて殺人事件に

この話は、相棒シーズン10最終話(罪と罰)で政治家(片山雛子と長谷川元副総監)や、
特命係(右京と神戸君)が事件を追っている間に、五十鈴家と秋山家が本命の実験等を完了してしまう。
(この事件の後神戸は特命係を去る事になる。)

しかし、罪と罰は2時間枠なので再放送でも飛ばされる事もあり、1も2回しか見た事が有りません。
そんな訳でお蔵入りに。

銀ガルねたww

3月末まで同じ惑星ハイネセンにおいて3名の上級大将と、皇帝みほの代理人たる軍務尚書(元帥)は
互いに会う事も無く、軍務に従事していた。

しかし4月1日午前に至り、角谷、五十鈴、小山の3提督は、軍務尚書の執務室を訪れた。

杏「今日は、軍務尚書に聞きたい事が有るんだー。」
義眼「伺おう、角谷提督。ただし手短に、理論的に頼む。」(CV初代白鳥警部の人)

杏「じゃ単刀直入に聞くね。噂によると、軍務尚書が多数の旧同盟政府の政治犯や、要職にあった
人を拘束したのは、その人達の生命を盾にして、イゼルローン共和政府軍を降伏させようというのが
目的だって噂が流れているんだ。」
華「私達が、戦力に於いて敵より劣ると言うのならまだしも、圧倒的に有利な状況にあるのにその様な
人道にもとる行為をする必要はありませんわ。」

義眼「すると私は、単なる噂で質問されているのかな。」
柚子「じゃあ、やはり単なる噂なのですね。」
義眼「・・・・・・・」

柚子「やはり事実なのですか?」
義眼「数十万の将兵の生命を無為に損なうよりは、1万未満の政治犯を取引の材料に用いた方が、遥かに
建設的と考えるが。」

杏「そんな盗賊みたいなことしなくても勝てるよ。確かに、イゼルローン要塞主砲は強敵だけど、
要塞は動かないから、そこまで引き込まれなければ良いだけだって。」
華「1個艦隊だけでは苦戦もあり得ますが、私と小山上級大将の艦隊も同行します。多少敵が『善戦』
する事はあっても最終的な勝利は、疑い在りませんわ。」

義眼「実績無き者の大言壮語を、戦略の基幹に据える訳には行くまい。」


杏「どーいう意味?流石に、温厚な私もキレるよ。」
柚子「撤回してください!杏ちゃ・・・角谷提督は幾度も敵軍に大打撃を与えて来ました。
五十鈴提督は幾度も、みほ陛下の危機を救って来た事は閣下もご存知の筈です。」

義眼「貴女達の実績とやらはよく知っている。貴女ら三名、ヤン・ウェンリ一人に幾度勝利の美酒を飲ませて
来たか、私でなく敵軍も・・・・」

杏「うぉりゃああああ!」(デスクを飛び越えて締め上げ中)
華と柚子が制止する。

義眼「五十鈴提督、角谷提督が謹慎している間桃色槍騎兵の指揮権は提督に委ねようと思うが。」
華「角谷提督は、将兵から非常に慕われておりますわ。彼らにとって指揮官は角谷提督以外には
あり得る筈もありませんわ。」

義眼「これは五十鈴上級大将とも思えぬ、不見識な発言だ。桃色槍騎兵隊は銀河帝国西住王朝軍の一員。
無論角谷提督の私兵である筈も無い。」
華「ぐぬぬ」

柚子「兵士の犠牲を防ぎたいという、お考えはご立派だと思います。でも、人質を取って脅迫する様な方法は
どうかと思います。」
華「みほ陛下のご指示ならともかく、艦隊を派遣したからには、堂々たる戦闘をお望みの筈ですわ。
それを無視するのは、拙いのではないでしょうか?}

義眼「その陛下ご自身の誇りが、イゼルローン回廊に数百万将兵の屍を残す事になった。」


華「今何を述べられたのか、解っておられるのですか?」
義眼「無論だ。一昨年、ヤン提督がハイネセンを脱出しイゼルローン要塞を再占拠した時、
この策を用いていれば、数百万の犠牲を出すことは無かったのだ。」
三人「・・・・・・・」

義眼「帝国はみほ陛下の私物では無く、無論帝国軍は陛下の私兵でも無い。陛下の個人的な名誉の為に
無為に人命を損ねて良い法が何処にあるのだ。それでは旧銀河帝国と同じではないか。
 私は、みほ陛下の代理人として貴女達を指揮する。勅命によってである。異論が有るなら、直接陛下
に言上すべきであろう。」

柚子(みほ陛下を辛辣に非難したと思ったら、直ぐに陛下の名前を用いて、自己の立場を強化する。
言っておられる事は、正論でしょうけど尊敬は出来ませんね。)

華さんでも、オーベルシュタイン(CV故塩沢氏)には勝てそうにないですね;;


ハイネセンシルバーウィングホテル


華「皆さんご存知ですか、元フェザーン自治領主アドリアン・ルビンスキー氏ですが、あと数週間から持って数か月の命
らしいですよ。」
杏「脳腫瘍らしいねえ。でもこのまま何もしないってのはらしくないね。他人の食事を奪ってでも生き残る、
そんな感じじゃないかなあ?」

柚子「最近はほとんど点滴のみらしいよ。もう食事を採る気力も無いんじゃないかな。」
杏「それなら仕方ないね。ま、裁判じゃ極刑は免れないだろうからね。」
丸山紗希「・・・・・・・・・・」(3Dチェスをしている)

その時、沙織司令部副司令官の澤梓大将が入室して来た。華達に敬礼し沙織に何事か伝える。

沙織「緊急事態だよ。」
華「何かありましたか。」
梓「哨戒中の大野艦隊から緊急電です。イゼルローン共和政府軍のほぼ全戦力が、イゼルローン回廊を出て
ハイネセン方面に向かっています。革命軍旗艦『ユリシーズ』と、アッテンボロー艦隊旗艦『マサソイト』・・・
メルカッツ提督旗艦『ヒューベリオン』も確認されました。」

沙織「休暇は」
華「終わり」
柚子「ですね」

丸山「チェックメイト」
柚子「丸山さんがしゃべっている!」
杏「初めて見たよ…もう1回お願い!」

終了です。

みほの子孫がヤン提督で、丸山ちゃんの子孫がアイゼナッハ提督かも?


丸山上級大将が指を1回鳴らすと、昆布茶が。2回鳴らすと2杯の昆布茶が運ばれます。

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