魔法使い「ぶっちゃけ俺一人で十分なんだが」勇者・戦士・僧侶「えっ」 (108)


魔法使い「こないだ魔物のリーダー倒したとき、ほぼ俺だけだったじゃん。まともに仕事してたの」


戦士「な、何言ってやがる! 勇者が奴の尻尾を斬り落としてくれなかったら、僧侶はお前を蘇生できなかったんだぞ!」


魔法使い「それ以前にお前がきっちり奴の気を引いていれば俺は死なずに済んだんだが」


魔法使い「大体お前は戦術の有効性って奴をさっぱり理解しようとしなかったな。トロールだって不意打ちくらいするぞ」


魔法使い「酒癖悪いし声デカいし屁は臭い。ゲップもくしゃみも全く遠慮ってもんがない。意思の疎通ができるなら、本当にトロールが仲間だったらと何回思ったことか」


戦士「言わせておけば!」


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僧侶「何よその言い草! まるで私が自分の怪我は後回しにして戦士の傷をしっかり治しとけばよかったのにとでも言いたげね!」


魔法使い「何だ分かってるじゃないか」


魔法使い「俺らと違って聖域加護付きの防具があるんだからもっと強気に出てきてくれよ」


魔法使い「旅の最中もいっつもいっつも自分だけ美味いモン食っていい部屋に泊まりやがって。俺らはお前のパパじゃねえんだよ。
     いつまでも涙見せれば言うこと聞いてくれると思ってんじゃねえ。胸なしのくせに」


僧侶「なっ……んですって!!」


勇者「やめろお前たち! こんなとこで仲間割れしてる場合じゃないだろう!」


戦士・僧侶「でも…………」


勇者「でもでもだっては禁止だと街を出るとき決めたはずだぞ!」


僧侶「いや初耳」

魔法使い「……というか、勇者。お前だって偉そうな口叩ける立場じゃないぞ」


勇者「どういうことだ」


魔法使い「パーティの平均レベルは45。でも勇者、お前の今のレベルは40だ。戦士は39。僧侶は35。これがどういうことか分かるか」


戦士「魔法使い、お前のレベルが67ということだな」


魔法使い「おかしいよな? 俺が全体最上級呪文を一回の戦闘で10回撃てるのに、お前は個別中級呪文が7回程度。ちなみに俺が1ターンでモンスター3体に与えられる総ダメージ量はお前の行動20回分くらいだ」


魔法使い「お前勇者だろ? 確かに暗黒系モンスターはお前の光魔法じゃないと面倒くさいし、剣術の腕はそこそこだけど、もっとオールマイティにいろいろできるようになってくれよ。劣化俺とか器用貧乏じゃなくてさぁ」


魔法使い「大体力ないくせに何でそんなに偉そうなんだよ。悪いけど俺一度もお前のことリーダーだと思ったことないからな?」


勇者「くっ……」



戦士「黙って聞いてりゃずいぶんなことのたまってやがるがよ。魔法耐性が高いモンスター相手じゃお前は何もできねぇだろうが」


魔法使い「ぶっちゃけ即死魔法連打してりゃ楽勝だ。ダメージだって自前で回復できる。疲れるから手ぇ抜いてただけだ」


勇者「それでも、お前は自分を蘇生させることなんてできないだろう!」


戦士「そうだそうだ! お前今まで何回僧侶に助けてもらったと思っていやがる!」


魔法使い「いや、実はできる」


勇者・戦士・僧侶「えっ」


魔法使い「攻撃は勇者以下、回復は俺以下、陽動も奇襲も戦士以下の僧侶の唯一の取り柄を潰してやらないために敢えてできないふりをしてきたが……もうさすがに限界だ」


魔法使い「はっきり言ってやる。俺はお前らがいなかったら、今頃とっくに魔王なんぞけちょんけちょんにして王国で凱旋してた」


勇者・戦士・僧侶「…………」


魔法使い「ここでお別れだ。次その面俺の前に見せたらぶっ殺してやるから覚悟しとけ。
     正直旅の間中死ぬほどストレス溜め込んでたんだ。今こうして我慢してることすら奇跡に近い」


魔法使い「安心しろ。国王には、お前らは全員名誉の戦死を遂げたってことにしといてやる。
     遺族にゃ三代遊んで暮らせるくらい補償金が入るだろうよ」


魔法使い「じゃあな」


 魔法使いは去っていった。


戦士「何だよあの野郎! 言いたい放題言いやがって! ぶっ殺してやるだと!? こっちの台詞だぁ!」


僧侶「そうよそうよ! アイツがそのへんで行き倒れてても、絶対蘇生なんかしてやんないんだから!」


勇者「…………」


戦士「どうしたんだよ勇者。あんな奴、いない方がせいせいするってもんだ! ほっといて次の街に行こうぜ」


戦士「確か神殿があるとこだろ? おかしなこと言いふらされる前に、さっさと顔見せとかないとな」


僧侶「神殿のある街だと何故か毎度ゴタゴタしてたせいで、パーティ登録してから一回も活動報告してないでしょ? 私たち。
   そろそろペナルティ食らうから、早めに行かないとまずいんじゃない?」

勇者「…………」


戦士「何だよ、何弱気になってんだよお前らしくもねぇ! いつもの勇ましさはどこに行っちまったんだよ!」


僧侶「ははーん、さてはアンタ魔法使いにビビってんでしょ。アイツ、次私らに会ったら殺すとかほざいてたし。ダッサ、あんなショボい脅しでオシッコちびっちゃったの?」


勇者「ああ、その通りだ。俺は今、この先に進むことは自殺行為だと考えている」


戦士「……なあ勇者。考え過ぎだって。今まではきっとアイツが俺たちの経験値を横取りしてたから俺たちのレベルが上がらなかったんだ。だったらこれから俺たちはどんどん強くなれる。そうだろ?」


僧侶「もういいわよ戦士。こんなヘタレ置いていきましょ。次の街で新しく仲間を探した方が早いわ」


勇者「……それ以上行こうとするなら、剣に訴えることになるぞ」


僧侶・戦士「…………」


勇者「この先で死ぬくらいなら、ここで俺に殺された方が百倍楽に死ねる。俺は……お前たちが苦しんで死ぬ様なんて、想像もしたくない」


戦士「勇者……」


僧侶「……そこまで言うなら、何かしら考えがあるのよね」


勇者「ああ。実は俺も魔法使いと同じようなことを考えてた。旅の最初からな」


僧侶「な、何ですって!?」


戦士「お、おいそれ本当かよ! どういうことなんだ一体!」


勇者「俺が王様からいただいた木剣と皮の鎧。これ一式あれば当分モンスター相手なら楽勝だって触れ込みだったんだ」


勇者「なのに、最初に遭遇したスライム相手に俺は死にかけたんだ。覚えてるよな」


戦士「あ、ああ。だけどあれは俺がオーク相手に腰抜かしてたのを助けようとしたからだろ?」


勇者「そこがそもそもおかしかったんだ。俺たちの故郷の街周辺にオークが出るなんて話聞いたことがない」


勇者「……いや、聞いたことがなかったんだ。旅に出る前まではな」


僧侶「王様が私たちに嘘をついてるはずがないわ。ついていたら、私が絶対に気づくから」


勇者「僧侶の言う通りだ。それに、いくら王様でも街中の人間全ての口を塞ぐなんてことができるはずがない。必ず誰かから漏れるはずなんだ」


勇者「さっきも言ったが、とりあえずさっきの街に戻ろう。あそこなら知り合いになった商人や他のパーティがいる。いろいろ情報が手に入るはずだ」


 ――――――手前の街


勇者「よし、まず戦士は酒場で各街での適正レベルと推奨装備の水準、俺たちの街の評価を聞いてきてくれ」

勇者「俺は僧侶と手分けして市場で装備の相場と回復アイテムの流通を調べてくる」


勇者「昼になったらもう一度ここの酒場に集合しよう」


勇者「午後は僧侶には教会に行って蘇生者リストの中から戦士に聞いたその地域での適正レベルや装備水準を満たしてないパーティを洗い出して、生き残ってた奴の出身地を調べてもらう」


勇者「戦士は闘技場で有力選手の出身地や装備、レベルをチェックして、明らかに強すぎる選手がいたら話を聞いてきてくれ」


戦士「勇者はどうするんだ?」


勇者「俺はこの国の魔法協会に行って、魔法使いについて調べてみるよ」


僧侶「……気をつけなさいよ。アイツら、自分たちが世界の裁定者か何かだと思ってるから。こそこそ嗅ぎ回ってると目をつけられるわよ」


勇者「ご心配どうも。ほんの触りだけ調べるだけだから、怪しまれないと思うよ」


勇者「それに俺、一応協会に加盟してるから。あそこ、身内には結構甘いとこあるからさ」


僧侶「だからこそ怖いのよ……甘いってことは、それだけグレーゾーンとレッドゾーンの境界が曖昧ってことなんだから」


戦士「何だよ僧侶。いつもは死ねだの臭いだの言ってるくせに、そんなに勇者が心配なのか?」


僧侶「なっ……! そ、そんなわけないでしょ! こんなのでも一応私たちのリーダーなんだから、いなくなるといろいろ面倒臭くなるってだけで……!」


勇者「こんなのって……」


僧侶「マジで落ち込むな! キモいのよ、もう!」


戦士「はっはっは! モテる男は辛いねえ、おい?」


勇者「からかうのはよせよ……じゃ、日が落ちたら町外れの宿屋に集合ってことで、解散!」


戦士・僧侶「了解!」

書き溜め分が切れたのでここまでです
続きは明日以降に書けたらいいなと思ってます

皆さんレスありがとうございます
>>9>>11の間がちょっと抜けてたので追加します
かなり重要な部分だったのに……


勇者「……いや、聞いたことがなかったんだ。旅に出る前まではな」


僧侶「……そういえば、道端で拾ったボロボロの剣が、街で10000Gで売れたこともあったわね。
   あのときは武器屋の爺さんがモーロクしてたものと思って、全然気にしなかったけど」


勇者「最初に潜ったダンジョンも、王様からもらった地図だと地下10階が最下層のはずだったのに、実際は地下80階以上続いてた」


勇者「王様にもらった方はモンスターに襲われたときに破れでもしたのかと思ってたんだけどな」


戦士「なんだよ、これ……めちゃくちゃ薄気味悪いぜ。一体何がどうなってやがるんだ!?」


戦士「……そうだ、王様が俺たちを騙そうとしてたんじゃねえのか?
   弱っちい装備渡して、さっさとそこらへんでくたばっちまえばいいと思ってたとかよ」


僧侶「王様が私たちに嘘をついてるはずがないわ。ついていたら、私が絶対に気づくから」

こんばんは、書き溜めが終わったので投下に参りました
あと、かなり長くなりそうなので、僭越ながら酉をつけさせていただきます
ちなみに同酉の作者のFateSSがありますが、あれの作者も自分ですので被りではないことを先に申し上げておきます
ではごゆっくりお楽しみください


 ――――宿屋にて


勇者「よし、じゃあ今日調査した結果を報告してくれ。まずは戦士から頼む」


戦士「ああ。俺たちの街出身は、確かに弱い奴が多いって言う奴もいたんだが……」


戦士「ある奴は煉瓦の国の奴らは皆ヘナチョコだって言うし、違う奴は中央王国の冒険者を皆モヤシ呼ばわりしてバカにしたりしてて、皆バラバラだったな」


勇者「なるほどな。闘技場では?」


戦士「そっちも大した収穫はなかったな。鋼の国の街の奴がちょっとだけ気になったくらいで、別にわざわざ聞き込みするようなもんでもねえって感じだったぜ」


勇者「鋼の国、か。……僧侶の方はどうだった」



僧侶「こっちもさっぱりよ。どこの出身だろうがあんまり関係ないって感じ」


僧侶「でも、壊滅したパーティを引っ張ってきたのは緑の国出身が多かった。まあ、多かったって言っても比較的ってレベルだけど」


勇者「緑の国……。僧侶はそこの出身だったな?」


僧侶「ええ。よく覚えてたわね」


勇者「一応リーダーだからな。……魔法使いの故郷は塩の国だ。土壌の関係で耕作地が少なく、岩塩とソバの生産で細々とやっていってるっていうことくらいしか知らないが」


僧侶「で? 今日のことを踏まえてのリーダー様のお考えは?」


勇者「……まだいまいちピンと来ないな。強いて言うなら古い国の方が実力者が多いってところか。
   俺たちの街がある国も、ほんの数十年前に鋼の国の人たちが、荒野を開拓して作ったって聞くからな」


勇者「明日は俺の魔法で俺たちの街へ行って、王様に謁見を申し出よう。何か知っていらっしゃるかもしれない」


戦士「おし、それで決まりだ! 俺は賛成するぜ」


僧侶「……ま、いいんじゃない。反対はしないわ」


勇者「じゃあ明日に備えて早く寝よう。日の出と共に行動開始だ」

 
 ――――――――


 夢の中


勇者「(真っ暗で何も見えない……そうか、これは夢か)」


(――――お前はまだ何も知らない)


(――――お前はまだ、手がかりすらも掴めてはいない)


(――――そんな奴とは、手を取り合うことなどできない)


勇者「(……誰だ? 頭の中に、直接声が響いてくる)」



(――――仲間を疑え)



(――――常識を疑え)



(――――世界を疑え)



(――――そして辿り着け、この世界の真実に)



勇者「(答えろ、お前は一体――――!)」



 ――――――――


 明朝、宿屋。


戦士「おっ、遅かったじゃねえか勇者! 何だ何だ、景気の悪い顔しやがって、悪い夢でも見たのか? それとも腹でも痛いのか? とっとと飯食ってぶりぶり出してこいよ。すっきりするぜ?」


僧侶「ちょっと! 朝から汚い話するのやめてくれない!? マジでキモいから!」


戦士「なーに上品ぶってんだよ僧侶! 鏡見てこいよ、目クソついてるぞ」


僧侶「く――――殺す、絶対いつか殺してやるんだから!」


勇者「…………」


勇者(……あの声、魔法使いのもののように思えた)


勇者(だが、言葉の意味が分からない……。何が世界の真実だ。ふざけているのか? ……いや、俺を謀ろうとしているに違いない)


勇者(それに、あれが魔法使いの声だって保証はどこにもない。夢の中で聞いた声だ。どんな声にだって聞こえるだろう)


勇者(それに――――)


戦士「何だよ、本当に腹壊してんのか? ひとっ走り行って、薬草でも買って来てやるぜ?」


僧侶「あら、寝起きでアンタの化け物みたいな顔見たら、店員がショック死しちゃうかもね。……てか、わたしのがあるからあげるわよ」


勇者「いや、大丈夫! ちょっと考え事してただけだ、気にしないでくれ……」


戦士「なんだよ、心配させるなよな全く!」


僧侶「ふん、これから王様に会いに行くってのに、弛んでるんじゃないの?」


勇者「は、ははは……」


勇者(『仲間を疑え』だって? 馬鹿げてる。彼らを疑うなんて……何年も寝食を共にしてきた彼らが魔王の手先だなんて、考えたくもない)


勇者(そもそも、何の意味もないただの夢だってこともありえる。忘れよう……)


 ――――――始まりの街?


勇者「…………」


戦士「…………」


僧侶「…………」


戦士「何だよこれ……どういうことだよ、何で俺たちの街が綺麗さっぱり消えちまってるんだ! くそ、魔物にでも襲われたのか!? 母ちゃん! 父ちゃん! 妹!」


僧侶「ありえない……ここの城壁には、ウロボロス級の魔法使いが100人掛かりで編み上げた耐久加護が付加されてるはず……」


僧侶「それこそ、魔王が直々に出て来たって簡単には壊せないはずよ!」


勇者「……その、ウロボロス級っていうのは誰が決めてるんだ?」


僧侶「誰って、各国の魔法協会よ。基準を制定して、協会の審査結果に認可を下すのは、中央王国の大魔法院だけど」


勇者「つまり、どんなヘナチョコだろうと、大魔法院がウンと言えば誰だってそのウロボロス級になれるってわけだ」


僧侶「……そういうことになるけど。でも、ウロボロス級ともなれば戦争時にはニ個小隊並みの働きを要求されるの! メダルだけ首から提げてたって、すぐボロが出るんだから!」


勇者「だけど、こうして見る限り、そのウロボロス級でありながら、魔物の襲撃であっさり崩壊する程度の加護しか編めなかった魔術師がわんさかいたってわけだ。……本当に魔物の襲撃かどうかは分からないけどな」


僧侶「そんな…………」


 バキッ


戦士「ふざけやがって……ふざけやがって、ちくしょう! どこのどいつだ! そんなナメた奴らをウロボロス級に認定したのは!」
 

戦士「大魔法院だ! あそこに行って、ふんぞり返ってるクソジジイどもをぶっ飛ばしてやる!」


僧侶「やめなさい! そんなこと絶対にさせないわ、頭を冷やして!」


戦士「うるせえ! 親兄弟が木っ端微塵にされて黙っていられるかよ!」


戦士「てめえみたいなワガママ女にとっちゃ、家族なんかただの奴隷か召使いくらいにしか思ってねえんだろうけどなあ!」


僧侶「っ……!」


勇者「戦士!」


 ドゴォ!


戦士「がっ……! 何しやがる!」


勇者「今の言葉は撤回しろ! 今すぐにだ!」


戦士「何でだ! このバカ女にゃいつもさっきの100倍くらいコケにされてんだ! まだまだ全然言い足りねえよ!」


勇者「僧侶だってそれは本気で言ってたわけじゃない! ただじゃれてただけだ! お前だって、それくらい分かってるはずだろ……!」


戦士「でもよ、でもよ……! 皆が、皆がいなくなっちまったんだ……冷静でなんていられるかよ!」


勇者「戦士……」


僧侶「……ごめんなさい、私が無神経だったわ。家族を失う悲しみは、十分分かってたはずなのに、他人事になったらこれなんて……最低だわ」


戦士「僧侶、お前……」


僧侶「私、家族がいないの。皆バラバラになっちゃった。ある日村に山賊が来て、村の皆を全員捕まえて売り飛ばしたの。もちろんわたしもね……」

僧侶「だけど、私が競売に掛けられる寸前で、知らない勇者たちが助けてくれたんだ。いつか絶対にお礼を言いたいって思ってる」


僧侶「でも、その前にお父さんもお母さんもお兄ちゃんも、誰かに買われていっちゃった。今、どこで何してるのか、どんな目に遭わされてるのかも分からない……!」


僧侶「私はもう、誰も失いたくないの! だからお願い、軽はずみなことは絶対にしないで……」


勇者「…………」


戦士「……お、俺も悪かった。お前にそんな過去があったなんて、知らなかったんだ。いや、だからってそれを言い訳にするわけじゃないんだが……とにかく、すまなかった! さっきの言葉は全面的に撤回する!」


僧侶「戦士……。ふ、ふん! 本当は絶対に許してなんかやるつもりなんかないけど、ここは勇者に免じてお互いさまってことにしといてあげるわ!」


戦士「ふ、ふざけるな! 何でそんなに上から目線なんだこの野郎!」


僧侶「野郎じゃありません~。私は可愛いオトメなの。アンタみたいな野獣と、対等に喋ってあげる義理なんかないんだから!」


戦士「くっ……! なあ勇者、お前からも何とか言ってくれよ! 一瞬しおらしくなったかと思えば、また元の調子に戻りやがった!」


勇者「ははは、そっちの方がらしくていいだろ? お嬢様みたいにおとなしい僧侶なんて、かえって気持ち悪いからな」


僧侶「き、気持ち悪いですってー! よくもこの私にそんなこと……!」


戦士「落ち着け僧侶! その杖は人を殴るようには出来てないぞ!」


勇者「ゴホン! ……とまあ、お遊びはここまでにしようか。俺たちには、やるべきことが山ほどあるからな」


戦士「あ……ああ! その通りだ! すまん、つい気が緩んじまってた……」


僧侶「何よ、急に真面目ぶったりして……」


勇者「悪いな。だけど、こんなことがまたどこかで起こらないようにするために、俺たちが頑張らなくちゃいけないんだ。分かってくれるよな?」


僧侶「……分かったわよ、もう」


勇者「それじゃ出発だ。日が暮れるまでには辿り着きたいけど、大丈夫か?」


僧侶「だ・か・ら、平気だって何度も言ってるでしょうが!」


勇者「…………」


僧侶「ちょっと、聞いてるの!?」


勇者「え? ……いや、何でもない。ちょっとな」


戦士「どうしたんだよ勇者! さっきまであんなに冷静だったのに、いきなりぼーっとしやがって。自分で言ったろ、『俺たちには、やるべきことが山ほどある』って。落ち込むのは全部終わってからでいい。そうだろ?」


勇者「そ、そうだな……すまない、俺がリーダーなんだから、もっとしっかりしなくちゃな」


戦士「何、分かりゃいいんだよ、分かりゃ。……つっても、ちょっと前まで大暴れしてた俺が言ったって世話ねえな! わっはっは!」


勇者「ははは……っと、街道が見当たらなくて、方向がよく分からないな。ええっと、太陽の傾きは……そうだな、あっちに向かって歩いて行こう」


僧侶「ちょっと、そんないい加減でいいの?」


戦士「別にいいだろ、こんな有り様じゃ街道が残ってないのも無理ねえし、どっちみち適当に進んでみるしかないんだ。そんなら、サバイバルに詳しい勇者の言うことを聞いた方がいいだろ?」


僧侶「……ま、いいけど」


勇者(相変わらず、大雑把に見えて頭が回るな、戦士は……)


勇者(いや、それよりも、目下考えなくちゃいけない問題がある)


勇者(どんなに強力な魔物でも、石ころ一つ残さず街を綺麗に消し去るなんて不可能だ。それに、そんな魔物が出現すれば、王国から緊急の討伐指令が下されたっておかしくないはず……)


勇者(何より、魔法の調子がおかしい。いつもなら5秒と掛からない転移魔法の発動に、1分近く手間取った……)


勇者(まるで、誰かに頭の中を掻き回されてるみたいな、変な感覚だったな)


勇者(いや、そんなはずはない。物理的な攻撃魔法じゃなく、人間の精神を操る攻撃魔法なんて聞いたこともない)


勇者(少なくとも、俺が知っている限りではそんな魔法は存在しない――――)



 ――――仲間を疑え。



勇者「………………」


僧侶「ちょっと勇者、何じろじろ見てんのよ。失礼ね」


勇者「あっ……す、すまん。悪気はなかったんだ……」


勇者(な、何を考えてるんだ俺は! 確かに僧侶クラスだけが習得できる白魔法については俺は何も知らないけど……それでも、さっき涙を流しながら過去を戦士に打ち明けてくれた僧侶を疑うなんて……! ちくしょう、何故仲間を心から信用出来ないんだ! これじゃ勇者失格じゃないか!)


勇者(……直接聞いてみれば早いか? いやダメだ、せっかくパーティの雰囲気が良くなったんだ。おかしな質問をして、また軋轢を生じさせたくない……)


勇者(くそ、くだらない悪夢なんかを、どうしてこんなに気にしなくちゃいけないんだ……!)


 ――――――――

 
 平原


戦士「お、おい……俺たちの街から鋼の国って、半日かそこらの距離だろ? もうすっかり夜になっちまったのに、どうして外壁すら見えねえんだ!?」


僧侶「な、何よ。確かに平気とは言ったけど、わたしとアンタたちじゃ体力が違うんだから、足が遅いのはしょうがないでしょ!?」


勇者「……いや、戦士が言ってるのはそういうことじゃない。僧侶はよく頑張ってる……もしかすると、別の方向に歩いてたのか?」


戦士「そんなことあるわけ……とは言えねえな。景色なんかどこも同じようなもんだし、いつも街門から出て街道沿いに歩いてただけだから、詳しい道のりはよく分かんねえしよ」


勇者「! ……そうか、街道だ! ずっと何か変だって思ってたんだ。いくら俺たちの街がなくなっても、周囲の国まで続いてる街道まで丸ごと消えるなんてありえない!」


勇者「やっぱり、俺の転移魔法がおかしくなってたんだ……俺たちは、どこかも分からない場所に飛ばされてしまった!」


僧侶「そんな! もしかして、昨日魔法協会に行ったせいで……?」


勇者「いや、まだ結論を出すのは早い。それについて考えるのは後だ」


戦士「お、おいおい待ってくれよ勇者! どっかの誰かのせいでお前の転移魔法が狂っちまって、それでこんなへんぴなとこに放り込まれたってことは……!」


勇者「……ああ、人目につかないところの方が都合がいいんだろう」



勇者「長い夜になりそうだ……!」

書き溜めが切れたので今回の投下はここまでです
また明日以降投下しに参ります
では、お読みいただきありがとうございました!

書き溜めたので投下します


 ――――――――


 とある平原に隣接する国の魔法協会


上司「……新人。何だこの申請書は」


新人「えーと、あなたが作成しろと昨日僕にお申し付けになった申請書ですが」


上司「そんなことは分かっている。内容が無茶苦茶だと私は言いたいのだ」


新人「え? どこか、不備でもあったんですか?」


上司「あったからこうして君を呼び出したんだ! いちいち言わせるな!」


新人「ひ、ひいっ! ごめんなさい!」



上司「……まったく、20年も前に作った借りが、まさかこんな出来の悪い間抜けに化けて返ってくるとはな」


新人「そんな人聞きの悪い。僕一応筆記は満点でしたし、面接でもそこそこ答えられましたし、コネで入ったなんて思われるのは心外です」


上司「お前の自己評価などどうでもいい。正午までに必要箇所を修正し、特務課に提出しておけ。私はこれから中央まで出張せねばならん。詳細はこのメモを参照しろ。提出後は上がってよし」


新人「分かりました、そうおっしゃるのでしたら……。あれ、派遣先と派遣部隊が間違ってるって、そんなはずないですよ」


上司「何?」



新人「だって、近頃反協会勢力が騒がしいのは鋼の国周辺ですし、塩まみれの岩山しかない塩の国が目的地っていうのはいいにしても、それなら平地戦に長けた第二群より、山岳戦に長けた第八群を派遣した方がいいに決まってるじゃないですか」


上司「……全く、相変わらず知識だけは無駄にあるな、お前は」


新人「いやあ、それほどでも」


上司「いいか、これだけは言っておくぞ。――――余計なことは考えるな。私に言われたことを、言われた通りにやっておけばいい。お前にはそれ以上のことなど求めていない」


新人「……っ!」



上司「ああ、羊皮紙はわざわざ新しいものを使う必要はない。二重線で修正しておけ」


新人「え? ……いえ、何でもありません。了解しました」


上司「そうだ、それでいい。くだらないことに気を回すな。知ったような顔をしているくせに、お前は何も分かってはいないのだから」


新人「…………」ギリッ


 ――――――――


新人「ちくしょう、あのクソ上司め! いつかギャフンと言わせてやるからな!」



新人「……ったく、何でまたこんなトンチキな書類作んなきゃいけないんだか……これで特務課にケチつけられたらどうしてくれるんだ」


新人「……特務課かあ。なんか陰気臭いっていうか、排他的っていうか……僕みたいな常識人とは相容れない雰囲気あるんだよな、あそこ」


新人「絶対長居したくはないね、ホント。別棟って本棟より後に出来たはずなのに、何であんなに気味悪く作ったんだか」


新人「ま、こんなのちょちょいのちょいで終わるんだ。さっさと片付けて昼寝でもしよう」


 ――――――――


新人「さて、完成完成っと。ちゃっちゃと提出して、半日休みを満喫するとしましょうかね」


新人「………………」


 ――――――――


 特務課一階


新人「いやー危ない危ない、後5分でアウトだった……ま、終わりよければ全てよしだ」


新人「よし、久々に街にでも繰り出すぞう! 昼間から酒が飲めるなんて最高だね!」


新人「(………………)」


新人「(? なんだろう、やけに奥の方が気になるな。こんな不気味なとこ、さっさと出たいはずなのに)」


新人「――――せっかく来たんだし、ここの探検でもするか。うんうんそれがいい」


新人「うるさい上司も当分いないから、ここの職員に怒られても帰ってくる頃にはうやむやになってるだろうし」


新人「(…………?)」


 ――――――――


 特務課二階


新人「――――しっかし、薄暗いしカビ臭いし、受付もショボイおっさんだし、特務課ってのは実に面白みがないな。これじゃまるで監獄かなんかじゃないか。二階しかないし、一時間もしないうちに全部回れちゃったよ」


新人「ま、最初っから大したもんがあるとは思ってなかったし、バーに行って酒でも……」



新人「(………………)」


新人「(何だ? ここだけ踏んだ感触がおかしい。床下にスペースでもあるのか?)」


新人「(てかよく見たらこの倉庫立入禁止かよ……! 見つかったらまずいな、さっさとずらかるか)」


新人「(いや、ちょっとだけ。ちょっとだけなら多分いける……それに、見られちゃいけないものが入ってるなら、鍵でもかかってるはず……)」


 ギイィ…………


新人「開いちゃったよ……」



新人「(なら、別に見られても構わないものしかないってことか。……これで、ただの施錠のし忘れとかだったら嫌だなあ……)」


新人「(そんじゃ、ちょっくら覗いてみますかね――――)」


 カツン、カツン、カツン、カツン…………


新人「(!? まずい、誰か来る……! 間に合わない、素直に謝っとくか?)」


新人「(いや、ただでさえミスばっかしてるんだ、他の課の立入禁止区域に忍び込んでましたなんてことになったら、減棒じゃすまないぞ)」


新人「(ええい、もう知らん! 入っちゃえ――おわっ!)」


 ゴロゴロゴロゴロドシン!


新人「ってて……階段になってたのか、しかもまた扉がある」


新人「(……ちょっと待て、ありえないだろ。何で二階と一階の間にこんなバカでかい空間があるんだよ。空間を引き伸ばす魔法なんて聞いたことないぞ!)」


新人「(だけど、実際に高さ一メートルもないはずのスペースがこんなに拡大されてる。つまり、僕が知らなかっただけで存在はするってことだ)」 


新人「(そんな表に出てない魔法を使ってまで隠しておきたい場所……)」


新人「(何にせよ、こんなところ一刻も早く出よう。この際クビになろうがなんだろうがどうでもいい!)」


 ギイィ…………


新人「なっ……!」



上司「やはり来たか。のんびり休みでも楽しんでおけばいいものを。……まあ、仕向けたのは私だがね」


新人「そんな、中央まで出張に行ったはずじゃ!?」


上司「そうでも言わなければ、暗示魔法を掛けてもお前はここを散策しようとは思わないからな」


新人「暗示魔法……!? 人の精神に働きかける魔法があるんですか!?」


上司「ああ。世の中には、アカデミーでは得られない知識が山ほどある。それもその一部だ」



新人「まさか、魔法は完璧に体系化された学問のはずです! それを、最高学府であるアカデミーで十全に教えていないなんて……!」


上司「――――新人。お前は何も分かっていない」


上司「表面的に見えるものには一切意味がない。その裏側に隠された真実の前では、人間さえ……否、世界そのものさえ無意味だ」


新人「何を言って……」


上司「お前は勘が良すぎる。何も知らないままでは、却って危険だ」


上司「だから、今からその一端を見せてやる。五十年前からひた隠しにされてきた、この世界の闇をな――――」

これで今回分は終わりです
視点が増えて大変になりそうですが、頑張ろうと思います
ではお読みいただきありがとうございました

こんにちは、ずいぶん間が開いてしまいましたが投下に参りました
ではごゆっくりお楽しみください


 ――――――


 平原


勇者「ふっ……!」


黒装束A「■■■■■――――ッ!」


 ガキンッ!


 ググググググググ……!


勇者「くっ、なんて馬鹿力だ!」


戦士「くそ、勇者がピンチだ! 僧侶、アイツに補助魔法を掛けてやってくれ! あのままじゃまずい!」



戦士「こっちはこっちで手が離せないんだ! 頼む!」


戦士「なんっつー剣捌きだ、こんなの俺じゃ相手できねえ! 距離をとるのが精一杯だぜ!」


黒装束B「…………」


僧侶「そんなの、戦闘前から三重掛けしてる! あのゴリラが強すぎるのよ!」


僧侶「それにわたしだって、サポートする余裕なんて……!」


黒装束C「――――《▲▲▲▲》」



僧侶「ぼ、防御魔法!」


 ――――――――イ


僧侶「……何、今何したのよこいつ! 何も起こらないじゃない!」


 キィイイイイイイイイイイ――――ッ!


勇者「…………う、上だ僧侶! 逃げろ――――ッ!!」


僧侶「え――――」


 ゴバッッッッ!!


勇者「くそっ……!」


戦士「僧侶ぉおおおおおおお!!」



勇者「戦士、気を取られるな! 後ろから――」


黒装束B「…………!」


 ギィン!


戦士「あ、あっぶねえ! 助かったぜ勇者……へ、競り合いに持ち込めばこっちのもんだ! ぶっ飛びやがれ!」


 ドゴッ!


戦士「剣術は大したことねえが、ステゴロなら誰にも負け、ね、え――?」ブシュウウウウ


黒装束B「…………」


 ドチャッ


勇者「バカな! 斬られていないのに、何で戦士が傷を!?」



勇者「ダメだ、力比べじゃこいつには勝てない! せめて戦士が無事だったら……!」メキメキメキメキ


黒装束A「■■■■■――――ッ!!」


黒装束B「…………」スッ


黒装束C「――――《●●●●》」


戦士「ここまでか……!」



???「……そいつから離れて」



勇者「え?」


 ブン!


勇者「うわっ!」


???「上等。そのまま全力でこの場を離脱して」


勇者「誰だ!? どこから話しかけている!」


???「――――」


 ズドンッ! ズドン! ズドドドドドドドド!


黒装束A「■■■■■――――!?」


黒装束B「…………!」


黒装束C「――――」



勇者「一発一発が最上級クラスの魔法の連射……それをあの山脈から放っているのか!?」


勇者「まずい、あれじゃ戦士や僧侶まで巻き込まれてしまう……!」


???「何をしてるの? 早く逃げて」


勇者「そんなことできるわけないだろう! 待ってろ、今助けに行ってやる!」


???「その必要はないわ。あの二人はもう――――」


勇者「それ以上言うな!」


???「こんなのはただの足止めにしかならない。それも、多分持って数秒だけ――」



黒装束A「■■■■■――――ッ!!」


勇者「嘘だろ……あんな魔法をたてつづけに食らったのに、全く堪えていないのか!?」


???「今の貴方では遂行者には勝てない。他の二人も同じ」


???「この場で無駄死にするか、後で仇を討つか。どっちがいい?」


勇者「……この場で奴らを倒す」


勇者「敵に背を向けるような奴は……仲間を見捨てて逃げる奴なんか、勇者じゃない!」



勇者「どうせ死ぬなら、俺は勇者として死にたい!」


勇者「うおおおおおおおおおお!!」


黒装束A「■■■■■――――!」


???「――馬鹿は死なないと治らない、か」


???「死んだ程度で、治ってくれればいいんだけど」


 グシャッ!!



 ――――――――


 魔法協会特務課


 コツ、コツ、コツ、コツ――


上司「…………」


新人「…………」


新人「(かれこれ三十分近く歩き続けてるな……まだ着かないのか?)」


新人「あの、上司さん」


上司「…………」


新人「(……黙ってついて来いってか)」



 ――――――――


 工房?


新人「(えらく複雑な形をした鉄の機械……あんなの鋼の国でも見たことないな)」


新人「(動く床の上に乗ってるのは水晶か何かか? あの機械から出て来てるみたいだけど……どんなペテンなんだか)」


上司「新人。お前には、ここにあるものがどう見えている?」


新人「ええと、あの妙な機械が水晶玉と思しき物体を生産しているように見えます」


上司「ふん、見ての通りだな」


新人「…………」ムカッ



上司「感覚を研ぎ澄まし、五感の全てを凝らしてみろ。もっと違う何かが見えてくるはずだ」


新人「そう言われましても……この距離じゃ何も分かりませんよ」


上司「もっと近づいてもいいぞ。なんなら手にとってみたっていい」


新人「ではお言葉に甘えて……」


 サワッ


新人「! この水晶玉、超高純度の魔石じゃないですか! しかもこんなにたくさん……! 然るべき使い方をすれば、ここにある分だけで中央王国が丸々消し飛びますよ!」


新人「こんな機械があることが知れたら、大陸中の特務機関が押し寄せてきます! 上司さん、一体どうしてこんなものがこんなところにあるんですか!?」



上司「その問い方はおかしいな、新人。ここだからこんなものが作れたのだ。エルフやドワーフでも、これと同じものは作れまいよ。例え何百年掛けようともな」


新人「技術革新なんてレベルじゃありません! ある日突然猿が種籾撒いて農耕を始めるようなものですよ!」


新人「中級魔法一発分の低純度魔石一樽分で辺境の城が買えるのに……これじゃ魔法使い全員がリュック一杯に持ち運べるじゃないですか! 狂ってます!」


新人「これが当たり前の世の中になんかなったら……世界はおしまいです!」


上司「そうだな、それは決してあってはならないことだ。だが、元よりこんなものを表に出すつもりはない」


新人「まさか、これを使って戦争でも起こそうというのですか!?」



上司「起こしたところで何になる? 既にこの大陸は協会なしでは成り立たないというのに、これ以上何を得ようというのだ。馬鹿馬鹿しい」


新人「な、ならばこれは魔王との決戦に備えての蓄えということですか? これだけの魔石があれば、人間は100年だって戦えます」


上司「違うな。これらはそもそも、具体的な用途を想定されていない。製造した魔石は全て廃棄される」


新人「……どういうことですか」


上司「分からないか。この機械に魔石を製造『させる』こと自体が目的だということだ」


新人「製造させる……? まるで、機械に意思があるかのような言い方ですね」



上司「それはありえない。これは『内造魔力の結晶化』という単一の能を遂行するためだけの存在。いわば現象に近い。自我や意思など微塵も残ってはいまいよ」


新人「残ってはいまいって……まさか!」


上司「ああ、そうとも。――――この機械は、こいつは……かつて人間だったものの成れの果てだよ」


新人「…………っ!」


上司「協会に逆らい、哀れにも『殺すには惜しい』と……否、『殺すだけでは惜しい』と査定されてしまった、失われた力を振るう者……魔人たちの末期の姿だ」


上司「精神操作・魔法撹乱・時空制御……これらは皆、『あって当たり前』な魔法だった。人間の心や時間・空間を操る魔法など、知らない方が笑われる時代があった」



上司「――私も詳しいことは何も知らない。私の祖父の世代に、何かが起きた。それだけだ」


上司「彼らはコールタールのようにドロドロに溶かされ、それの持つ性質に応じて器物へと押しこまれる」


上司「俗に、遂行者などと言われる裏の特務群も、この連中を流し込んで鋳造されている」


新人「裏の特務群……? 特務群に表や裏があるんですか?」


上司「正式な部隊名は第零群だ。特務派遣申請書に二重線を加えて提出することで、通常の特務群とは異なる対魔人専門の特務に指示が下る」


新人「そ、それじゃあ! 上司さんが僕の申請書に難癖つけたのは、その第零群を派遣させるためだったんですか!?」


上司「役所仕事の面倒なところでな。公には存在しない部隊を出動させる書類など作成するわけにはいかん」



上司「私が書類を惜しんで不備のある申請書を作成し、それを『たまたま』特務課が受理してしまった……という筋書きをなぞらなければならんのだ」


上司「お前もいずれはここを担う立場になる。今のうちに作法を教えておくべきだと思ってな」


新人「……僕は、こんな姿に変えられてしまった人たちを、罪もない冒険者に差し向けたってことですか」


上司「そも、罪の有無など協会が決めること。お前ごときが量れる事柄ではない。気にするな」


上司「社会見学はこれで終わりだ。ここを真っ直ぐ進めばじきに外に出られる。ここを見て回るもよし、街にでも繰り出すもよし、お前の好きにしろ」


 コツ、コツ、コツ、コツ……


新人「……………………狂ってる」

とりあえず今回の分はここでおしまいです。読了いただきありがとうございました
あまり中世ファンタジーな世界観にそぐわない設定がぽんぽん出て来ていますが、どうかお許しを
ではまた近いうちに

どうもこんばんは
時間ができたので投下に参りました



 ――――――――


 ???


 ゴオオオオオオオオオ!!


(強い風の中にいる)


(強い光の中にいる)


(体をくの字に曲げても耐えられない。このままじゃ、五体がバラバラに吹き飛ばされてしまう)


(潰れる。風圧で、俺は踏まれたトマトみたいにぺしゃんこになる)



(いや。俺は既に潰れている。腰から上はもう、人の形をしていない)


(そうだ。俺は黒装束……遂行者の拳で弾け飛んだはず)


(脳漿を撒き散らし、血潮を噴き上げて、砕けた内蔵が平原に飛び散って――――)


(う、うわ……うわああああああああああああ!!)


勇者「ハッ!」


???「気がついたようね。死んだままの方がよかったかもしれないけど」


勇者「……ここは」



???「わたしと、後もう何人かで住んでる隠れ家」


勇者「……助けてくれたのか?」


???「まあ、一応そういうことになるけど」


勇者「……ありがとう。恩に着るよ」


???「へえ、てっきり怒り出すものと思ってたら、意外と殊勝ね。あんなに死にたがってたくせに」


勇者「それとこれとは別だ。命を救ってもらったってことに変わりはない」


???「……復讐とかは当分考えないで。助けた甲斐がなくなるから」



勇者「犬死にするからやめろってことか?」


???「せっかく貸したお金を賭け事で使い果たされたら腹が立つでしょ? そういうこと」


勇者「そうだな、確かに今のままじゃ絶対奴らには敵わない。殺されてはっきり分かったよ」


???「殺される前から分かってたでしょ? ただのシステムの一部でしかない勇者ってクラスに妙なこだわりを持ってる人って、本当にいるのね。呆れちゃった」


勇者「……逃げることなんか考えられなかった。仲間を見捨てるくらいなら、死んだ方がマシだって、俺は本気で思ってた」


???「今も?」


勇者「当然だ」




???「――――じゃ、やっぱり死んだ方がいいかもね」


勇者「なっ……!」


???「耳孔から直接魔力を注入するとね。脳内の血管という血管が破裂して、一瞬で死ねるの。致命傷を負った仲間を楽にしてあげるのにすごく便利」


勇者「…………!」


???「選んで。この場でわたしに殺されるか、雌伏して自分の好きなときに死ぬか」


???「……本当に腹が立つ。もっと上手に命を使いなさい。そんなことじゃ、いつまで経っても上にいる誰かに翻弄されるだけ」


???「木っ端だって野菜屑だって板切れだって、いくらでも使い道はあるでしょう? どうして自分のことになるとそう大雑把になるの」


勇者「……分かったよ、君の言う通りにする――――見捨てなくていいくらい強くなる。それでいいんだろう」



???「……善後策ってところね。好きにしなさい」


???「わたしは……そうね、弓兵とでも呼んで。それが一番しっくり来る」


勇者「弓兵……? あんなに強い魔法を何発も使えるのにか?」


弓兵「あれは魔法じゃない。ただの指向性を持たせた魔力の塊。連射するには都合がいいけど、ただの目眩ましみたいなものよ」


勇者「目眩ましって……俺はその目眩ましを一発撃つのにも苦労してるのに」


弓兵「実力に開きがあるのは仕方ないわ。それはこれから埋めていけばいい」


勇者「……長い道のりになりそうだ」



弓兵「貴方次第ね」


 ドタドタドタドタドタドタドタ!


弓兵「……またうるさいのが来る」


勇者「え?」


 バン!


???「ほう、ほうほうほうほうほう! いいね、いいよいいよいいよいいよ! 中々いい具合に仕上がってるじゃないか! やはりボクは天才だな!? キミもそう思うだろう? 思うだろう!?」


勇者「え、ええ……多分」



弓兵「……博士。彼は安静が必要だということは、治療した貴方自身がよくご存知のはずでは」


博士「ノンノンノンノン! 治療というより修復だよ。ボクは治療師じゃないからね。自然治癒力に任せるなんてまどろっこしいことはしないさ。直せる部分は全部直したから、今からでも動けるはずだよ?」


弓兵「精神的に、という意味です! 彼にはこれから話すべきことがたくさんありますから、どうか邪魔をなさらぬようにお願いします!」


博士「ン~そう? 説明ならそれこそ専門家のボクがした方がいいんじゃないの? 後々になって訂正するのも面倒だからさ。弓の調整も終わったし、試し撃ちでもしてきてよ」


弓兵「く……! 分かりました、お任せします」


 バタン


勇者「……助けていただいて、どうもありがとうございました」



博士「あーいらないいらないいらない! そういうのは結構! ボクはただ頼まれてやっただけだから、お礼なら弓兵くんにしてあげて! ここ若い子がいないからさ、彼女もてあましてると思うんだよね、かなり」


勇者「へ!? な、なななな何をもてあましているんですか!?」


博士「いや、暇をね。もてあましてそうだから、話し相手にでもなってあげてってことだよ。……キミ、もしかして今変なこと考えてなかった?」


勇者「…………」


博士「まあ、それならそれでいいんだよ。魔人なんて呼ばれながら、遂行者なんて訳の分からない連中と殺し合ってるより、そっちの方がよほどあの子にとっても幸せなはずだ」


勇者「博士さん……」


博士「彼女、まだ処女だし」


勇者「……何故知っているのかと問うてもよろしいですか?」



博士「何、研究者としての観察眼と、男としての勘さ。当てずっぽうって意味じゃないよ? 見聞きした経験と知識から総合的に導出した極めて論理的な結論だからね」


勇者「あの、かっこいい言葉を使っていらっしゃるところ恐縮ですが、つまり言動が処女っぽいってことですよね」


博士「そうなるね。だって聞いてくれよ。あの子、ボクがちょっとでもそういう話題振ると真顔になって『博士。不適切な発言は控えてください』だよ? 別に自慰くらい誰だってするんだから、恥ずかしがることないと思うんだけどね」


勇者「あの、どんな話題振ったんですか……?」


博士「ごく普通の話題だよ。もっと談話室から遠いところに部屋を移した方がいいんじゃないかってね」


勇者「……………………聞こえたんですか?」


博士「いいや、ただの年頃の娘を持ったことがある元父親としての当然の気配りだよ。それをからかってるって思われるなんて……まったく、親の心子知らずってところだね」



勇者「えーと、そういうことは女性の方から言ってもらった方がよかったんじゃないでしょうか」


博士「一応もう一人女性がいるんだけど……ボク怖いからあんまり近づきたくないんだよね」


勇者「は、はあ……」


博士「あ、そうそうこんなこともあったっけ。この間買い出しに彼女と街まで出かけたんだけど、たまにはこういう女の子らしい服でも着たらって言ったら、『足が見える服なんて下品だ』って」


勇者「なるほど。だからあんな野暮ったいローブなんか着込んでるんですね」


博士「あれ多分ね、キミに体形を見られるのが恥ずかしいんだと思うよ。そういう目で見られるの慣れてないはずだから」


勇者「ははあ、なるほど……」



 バガンッ!!


弓兵「博士。お話の方、もう少し掛かりますか? そろそろ夕食の時間なのでお呼びに参りました」


博士「あ、うんごめんごめんごめんすぐ済ませるよ……後、ドアはもっとそっと開けた方がいいんじゃないかな。粉々になっちゃってるし」


弓兵「善処します。では」


博士「……じゃ、手短に済ませるね。キミの体の部品は可能な限り回収したけど、左腕だけどうしても直せなかったから遂行者の破片で代用しておいたよ」


博士「今までみたいに魔法は使えなくなると思うけど、慣れれば剣戟くらいならできるようになるから頑張ってね。あ、そうそう。左腕に巻いてある赤い布、外すと多分キミ大変なことになるから気をつけて。以上、何か質問ある?」


勇者「え!? ちょっと、今の滅茶滅茶重要なことじゃないですか! そんなぞんざいな説明で片付けないでくださいよ!」



博士「そう言われてもなあ……やたら間を持たせたり情報を小出しにするのは好きじゃないんだ。言いたいことはさっさと言っちゃいたいんだよね、ボク」


博士「それに、どんな言い方したって伝わることは同じだよ。キミの体はもう以前とは違う。布を外してはいけない。それだけさ」


勇者「そ、そうですか……まだ実感はないですけど、おいおい受け止めていきます」


博士「あ、伝え忘れてたんだけどね」


勇者「はい、何でしょうか」


博士「ここあんまり広いとこじゃないんだ。都合がつくまで相部屋になっちゃうけどいい?」


勇者「それはもう、全然大丈夫です」


博士「あ、ならよかった。ここ、キミの元パーティだとかっていう魔法使いくんがいるから、当面は彼の部屋に住まわせてもらってね」


勇者「……………………………………は?」

読了ありがとうございました
これにて今回の投下は終了となります
また次回の投下をお楽しみに

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