【艦これSS】提督「壊れた艦娘と過ごす日々」【安価】 (1000)

※艦これのssです。安価とコンマを使っています。

※轟沈やその他明るくないお話です。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1420739475

好感度的なもの

37 睦月
31 榛名
27 加賀
25 鈴谷
25 夕立
18 浜風
11 伊58
08 大淀
00 金剛/雪風

すみません、コピペミスです

好感度的なもの

37 睦月
31 榛名
27 加賀
25 鈴谷
25 夕立
18 浜風
11 伊58
08 大淀
00 金剛/雪風


※攻略は出来ないけど絶対に病まない癒し的な存在
曙・阿武隈・阿賀野

・好感度30 トラウマオープン
(艦種によって改造レベルに大きな差があるので統一)

・好感度60 トラウマ解消
ここから恋愛対象&好感度上昇のコンマ判定でぞろ目が出たらヤンデレポイント(面倒なのでYP) +1

・好感度99 ケッコンカッコカリ

・YPは5がMAX、5になったら素敵なパーティ(意味深)

沈んだ艦娘24人

一回目の襲撃事件で沈んだ艦娘
大和・朝雲・那珂・武蔵・弥生
(雪風は生還)

二回目の襲撃事件で沈んだ艦娘
深雪・大鳳・如月・雲龍・龍驤
(雪風は生還)

???
春雨



過去スレ
01
【艦これ】提督「壊れた娘と過ごす日々」【安価・コンマ】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1418749126/)
02(前スレ)
【艦これSS】提督「壊れた娘と過ごす日々」 02【安価】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1419872466/)


以上です。


提督「……、そうか。あの時の」

 大和達が襲われた日。

 あの夏の雨の日に、演習を行った相手の中に、榛名が居た。

 こちらを見る彼女の目は、どこか寂しそうだったのを、今更になって思い出す。

 何故今になるまで思い出せなかったのだろう。

榛名「……はい。そして榛名は、深海棲艦に襲われました」

提督「深海棲艦に?」

 今の話だと、仲間と合流したのではなかったのか。

榛名「……仲間、でした」

 痛いほどに瞼を強く瞑る榛名。

 記憶に棘があるのなら、きっと今の榛名は全身から血を流しているに違いない。

 まるで涙を流すように、全身からとめどなく。

 だけれど榛名は、泣かなかった。

榛名「……仲間で、そして、深海棲艦でした」

提督「……」

 枯れ果てるほどに泣き続けたのか、それともあるいは、睦月のように壊れてしまったのか。

 或いは。

 或いは単に、堪えているのだろうか。

 自分には泣く事も許されないと、

 自分には泣く資格も持たないと、

 そうやって自分を責め続けているのだろうか。

榛名「深海棲艦は、艦娘を食べます」

提督「……ああ。それは知ってる」

 血にまみれながら生還した雪風の姿が浮かぶ。

 榛名もまた、雪風と同じ様に深海棲艦の恐怖に襲われたのだ。
 
榛名「そして深海棲艦は、」

 ぎゅっと服を強く握りしめる。 

提督「……深海棲艦は?」

榛名「……」

榛名「……食べた艦娘の姿を、模するんです」

 それはきっと、地獄のような光景だった。


出撃って次は敵1でいいんだよね?


 服を掴んでいた手を放す。代わりに、寒さに震えるようにして自分の肩を抱いた。

榛名「……榛名の仲間を食、襲ったばかりの深海棲艦は、まだ姿が安定していなかったみたいで」

 一瞬だけ食べた、と言い掛けてしかしそうは言わなかった。

 言えなかったのだろう。

 例えそれが実際に起こってしまった変えられない事でも、口に出すのだけは憚られたのだ。

榛名「ぐずぐすに崩れながら、上半身は仲間の姿、下半身と顔の一部が深海棲艦の姿をしていました」

 想像するだけでも顔を顰めたくなる。

 とはいえ、実際に対面した榛名と雪風の心情を考えると、それさえも出来なかった。

榛名「……深海棲艦は、榛名を襲ってきました」

 それはまるで大和たちと同じ内容だった。

 恐らく大和たちと榛名は、同じ深海棲艦に襲われたのだろう。

 思えば以前本部で聞いた北鎮守府の被害は、大和艦隊が襲われた日だったかもしれない。詳しくは、覚えていないが。

榛名「榛名は逃げました。ですが……」

 演習直後に資源を探索させられ、背後から仲間を模した深海棲艦に襲われた榛名。冷静に戦えというのが無理な話だった。

提督「……、だが、逃げ切れずに、応戦せざるを得なくなったんだな」

榛名「……はい」

 榛名の声が震える。

榛名「雨だったんです。周りを確かめる余裕はなくて、必死で……」

 榛名の続く言葉は、聞かなくても分かった。


 ……恐らく。

 その榛名の先に、大和達が居たのだろう。

 艦娘の姿を模した深海棲艦。

 それから逃れる術はなく、撃つしかなかった。

 そうして榛名が見た景色に、大和。


榛名「……、榛名が、大和さんを、榛名が、榛名が……!」

 壊れたテープの様に呻く。


提督「……それから、榛名はどうしたんだ」

榛名「……何も」

 両手を震わせながら、声を絞り出す。

 顔色は悪い。これまで碌に眠っていなかったのだから無理もない。

提督「何も?」

榛名「……何も」

 ふるふると首を横に振る。

榛名「何もなかったんです。何も、何もさせてもらえなかったんです」

提督「……」

 まるで榛名は、それが何よりも辛いと言った表情で。

 仲間を失ったことよりも、酷い仕打ちを受けたことよりも、

榛名「提督は、榛名に何も……ただ一つの罰さえ、与えてくれませんでした……!」

 何よりもそれが一番の地獄のように答えた。


「あいつ、秘書艦外されたらしいよ」

「そりゃそうでしょ、あんな事したら」

「処罰されないのがおかしいくらいだ」

「やっぱり提督のお気に入りなんじゃないの?」

「言えてる。あの提督の秘書艦やり続けるくらいだもん、普通じゃない者同士丁度良いんじゃない」

「あー、でもあいつが秘書艦から外されたから、また私らでやんないといけないのか」

「最悪。秘書艦やらないならやらないで、本部に引き渡されるなりなんなりすればいいのに」

「大手振って出撃するだけでしょ? ずるいねー」

「あんたもどっかの鎮守府の艦娘沈めれば免除されるんじゃない?」

「言えてる。ちょっとあいつに艦娘の沈め方聞いてみる?」

「最高。どうせ暇でしょあいつ」

「あ、でもあいつ出撃にも回されないって聞いたよ」

「え、なにそれ」

「暫らくは謹慎でもするんじゃない?」

「うわ、休み? ずるいねー」

「まぁ良いじゃん。一緒に出撃したら私らが撃たれるかもよ?」

「言えてる。このまま待機し続けてもらおうよ」


榛名「……」


榛名「提督、お願いします、何か榛名に命令をください」

『……』

榛名「罰でも構いません。いえ、罰を下さい。何か榛名に言ってください」

『……』

榛名「……お願いします。榛名に何か言ってください」

『……』

榛名「……お願いします」

『……用はない』

榛名「……」

『……出て行け』

榛名「……」

『……』

榛名「……」

『……出て行けと言っている』

榛名「……はい」


 任務が欲しい。仕事が欲しい。罰が欲しい。

 償いをしたい。罪滅ぼしをしたい。贖罪をしたい。


 謝ることしか出来ない榛名から、謝ることさえも取られたら。

 榛名は、

 どうやって生きていけばいいんですか?


提督「……榛名」

榛名「……提督は、何も罰を与えてくれませんでした」

榛名「だから自分で見つけるしかありませんでした」

榛名「榛名は悪い子です。他の艦娘と同じ様にしてはいけないんです」

榛名「部屋なんて要らないんです」

榛名「休みなんて要らないんです」

榛名「睡眠だって食事だって本当は……」

提督「……、待て、榛名、君。食事もしていないのか」

 そんな事をしたら、本当に死んでしまう。

 緩く首を横に振る。

榛名「ただ自分を罰してくれる何かがあれば、それ以外は榛名には勿体ないです」

榛名「提督」

 突然呼ばれ、身じろぎをしてしまう。

榛名「お願いします。榛名に何か罰を下さい。叱ってください」

提督「……、……」

榛名「お願いします」

 灯火のない瞳に見上げられ、困惑を隠すように口元を覆った。

 彼女を納得させる言葉など出ては来ない。

榛名「……お願いします」

 頭を下げて懇願する。

 放っておくと床に頭を擦りつけかねない。そんな姿は見たくなかった。

提督(どうするのが正しいんだ……)

 それはきっと誰にも分からないし、誰にも決められないことのように思えた。

 榛名に悪い部分など、何一つ感じられなかった。

 そんな彼女が何故一番苦しまなければならないのか。

 いかに大和を誤射したのが榛名とはいえ、しかしそれに至るまでの過程全てが彼女を冷たく追い詰めてるものだ。

 榛名は悪くない。彼女はもう十分苦しんでいる。

 だから苦しまなくていい。

 ……だけれどきっと、そんな言葉は今の彼女には届かない。


 恐らく今の彼女は、寄りかかるものが欲しいのだ。

 仲間を失った。居場所を失った。言葉を失った。心の拠り所を失った。

 気がつけば自分の周りから全てがなくなっていた。

 その代わりとして残ったものも、喪失感や虚無感といった、煙のようなものだらけ。

 あの夏の日から四ヶ月。その四ヶ月間、出撃も何もせず、罪滅ぼしさえ許されなかった彼女の苦痛はどれほどのものか。それは誰にも推し量れないものだ。

 来る日も来る日もただ時間だけが過ぎる日々。

 白いキャンバスに、塗る絵の具が何も与えられない日々。

 気が狂うほどの無為だった。

 そんな彼女が罰に執着するのは、仕方のないことのように思えた。

 それが何色でも、ただ一色でも良いから何かが欲しい。

 そうして縋る様に彼女は自分で自分を罰することにしたのだ。

 寄りかかった物は罰で、色は黒。

 心のキャンバスが、間違った色で塗られていく。

 塗り終わった先にあったのが、この鎮守府だったのだとしたら、それはあまりに悲しすぎる。

 しかし。今ならまだ間に合う。

 寄りかかるからしがみつくになる前に、塗られるから塗りつぶされるになる前に。

 その前に彼女を救い出せれば、きっと彼女は立ち直れる。

 いや。

 救わなければいけない。立ち直らせなければいけない。

 それは大和達を知る俺だからこそしなければいけないことだ。

 大和達だってきっとそうして欲しいと思う。

 それが、大和達に対する弔いの様な気がした。

 榛名と共にできること。

 それが榛名を立ち直らせることだと、そう思った。


【榛名の好感度が30を超えました】

ちょっと睦月に比べて長い様な気がした、というより落としどころが分からなくなった、訴訟(きそ)

>>11
そーです

睦月もですけど、これから好感度30になった子と接する過程(選択肢)次第ではいざ60以上になったときにスタート地点が変わるやも知れませんので頑張ってくださいね


提督「……朝、か」

 あの後。

 さすがに榛名を演習に参加させることは出来なかった。

 理由としては、精神状態もだが、演習相手が北鎮守府というのが大きかった。

 今の榛名を、あの提督に会わせていいものかどうか、即断できなかったからだ。

 提督だけではない。榛名の話からすると、向こうの艦娘でさえも会わせるのに躊躇ってしまうものだった。

 何も考えずにあのまま榛名を演習に参加させて、万一彼女の精神が今より悪化しては目も当てられない。

榛名「提督、起きていますか?」

提督「……榛名か」

 控え目に扉を叩く音。

 よもやこれから毎日こうして俺のところに来るつもりだろうか。

 ……あり得ないとは言い切れない。

 一つ大きく息を吐きながら、執務室の扉を開けることにする。



↓1

1.出撃

2.演習

3.工廠

4.その他(自由安価。お好きにどうぞ)

演習···好感度一斉増加···
あっ(察し)


演習相手はコンマで決めましょうか。

01-09 北
10-49 南西
50-75 東
76-99 南
ぞろ目 不沈艦さん

うまくいけば加賀、鈴谷、夕立(トラウマあんの?)が一斉発症するのか···
途中から読んでて楽しいんですかね(小声)

安定の民度


東提督「よう、久し振りじゃねぇか」

提督「ああ、そうだな。相変わらずうるさいな」

東提督「まぁそう言うな。今度また飲みに行こうぜ」

提督「気が向いたらな」

榛名「お知り合いなんですか?」

提督「士官学校時代の同期だ」

榛名「なるほど」

東提督「お、戦艦か。良いな」

榛名「ええと……」

提督「こいつは見てのとおり筋肉ダルマだ。艦娘も火力優先らしい」

東提督「おおよ。戦艦ってえのは良いよな。まぁ重巡も悪かないが」

鈴谷「……褒められてるのかどうか分かんないんだけど」

夕立「駆逐艦だって負けてないっぽい!」

浜風「さすがに戦艦と比べるのは……」

睦月「その分速度でカバーなのです」

提督「その割には空母は所属していないんだな」

東提督「空母はお前、あれだ。字が軽いだろ」

加賀「……」

東提督「だって空だぜ。なんかすぐ飛んでいきそうじゃねぇか。いや実際飛ぶんだがな」

東提督「しかも軽空母と来た日にはお前、“軽”だぜ“軽”!」

加賀(……頭にきました)

提督「お前の考えは相変わらず分からないよ」

東提督「はっはっは! まぁ良いぜ」


東提督「よしお前ら、準備は良いか?」

「いつでも大丈夫ですー」

鈴谷「オール戦艦……バランスとかへったくれもない脳筋じゃんマジで」

榛名「全力で頑張ります」

睦月「こっちは戦艦榛名さんだけです……。空母も加賀さんだけですし」

浜風「伊58さんが居たら案外優位に動けたかもしれませんね。まぁ、過程の話をしても仕方ありませんけど」

加賀「……仕留めるわ」

夕立「加賀さんなんかやる気っぽい?」

加賀「……気にしないで頂戴」

提督「……」

榛名「提督、どうかしましたか?」

提督「ああ、いや」

睦月「?」

提督「……六人そろうのは、初めてだと思ってな」

鈴谷「……」

浜風「確かに、そうですね」

睦月「その相手が戦艦戦隊なんてあんまりなのです」

夕立「夕立はやるきっぽい!」

提督「……無理はしすぎるなよ」

榛名「……榛名、出撃します!」


演習のコンマ判定です。

こちらの艦隊→十の位 向こうの艦隊→一の位 で、数字の高い方が優勢
(例:コンマ94だったらこちらが優勢、77だったら対等)

より優勢っぽいほうが勝ちです。


榛名 ↓1のコンマ
加賀 ↓2のコンマ
鈴谷 ↓3のコンマ
夕立 ↓4のコンマ
睦月 ↓5のコンマ
浜風 ↓6のコンマ

加賀ェ
駆逐艦強すぎだろw夜戦まで全員生き残って逆転したか

加賀ってまだ艦載機ないの?
何で戦ってるんだ?

>>89
そう思うなら工屏安価とって装備プレゼントしてあげてくれ(切実)
プレゼントで好感度どれくらい上げれるんだろ


東提督「微妙だな……」

提督「だな」

東提督「互いに優勢は三隻ずつ、ダメージも極端な差はねぇ」

提督「ああ」

東提督「ってなると、旗艦が勝ってる分、俺らの有利か?」

提督「勝ってるとは言え殆んど差はない、トータルで言ったらあくまでこちらの勝ちだ」

東提督「まぁそうだが」

提督「それに、お前、あれだ。こちらは駆逐艦三隻のうち二隻が優勢、睦月……残り一隻だってほぼ対等じゃないか」

東提督「ちょこまかと素早いのは苦手だぜ。やっぱり力でねじ伏せるのが一番よ」

提督「それが出来なかったからこういう結果になってるんだろう。ともかく、それらも考慮してくれ」

東提督「……」

提督「……」

東提督「……わーかったよ。同期のよしみでお前らの勝ちでいいぜ」

提督「恩に着る」

東提督「今度酒奢れよな」

提督「それとこれとは話が別だ。うわばみに財布なんて怖くて出せないよ」

東提督「ちっ、全く」


提督「一応僅差とは言え、こちらの勝ちだ。皆お疲れ」

夕立「夕立頑張ったっぽい!」

睦月「ううー、睦月も頑張ったのです」

浜風「ええ、睦月も戦艦相手に頑張りましたね」

鈴谷「はー、もうあんな脳筋相手はいやだね」

加賀「……」

榛名「……」

鈴谷「二人して黙るとか……。っていうか、二人が負けてどうすんのさ」

榛名「……すみません」

加賀「こんなはずでは……」

提督「まぁ、そう言うな。とりあえずは勝てたんだ」

鈴谷「旗艦様がしっかりしてくれないと困るんだよね」

提督「鈴谷」

鈴谷「はいはい、分かってますよ」

榛名「……すみません」


提督(少し、誰かと話すか)

↓1-3

加賀

くっ取れなかった···
まぁ前の演習通りならボーナスがあるわけではないはずだしいいか···


睦月「ふにゃあ、提督さん、睦月負けましたー」

 睦月が猫のような声をあげながら寄ってきた。

 よよよ、と声色だけ泣いてはいるが、やはり笑顔だ。

提督「いや、十分睦月は頑張った。戦艦相手にほぼ引き分けじゃないか」

睦月「でも夕立ちゃんも浜風ちゃんも勝ったのに、睦月だけ勝てなかったのです」

提督「それは仕方ない。そういう事もあるだろう」

 三人の戦い方は、それぞればらばらだ。

睦月「夕立ちゃんは凄かったのです」

 分かりやすいのが夕立で、砲弾など全く気にしないとでも言わんばかりに敵艦に接近し、鞄の中身をぶちまけるように銃を乱射する。

 あまりに心配になるような戦い方だが、砲弾を全く恐れないと言うのはある意味ではこれ以上ない武器となる。

 駆逐艦である彼女が、駆逐艦としての能力をこれ以上なく発揮できる戦い方。そしてそれを実践できる精神力。

 それが今回彼女の勝因といえるだろう。

 裏を返せば、形が悪ければすぐに被弾してしまいかねないので、決して安全であるとは言えないが。

睦月「それに、浜風ちゃんも」

 浜風は夕立とは真逆で、確実に敵の砲撃を回避しながら慎重に攻撃していた。

 駆逐艦の機動力が夕立にとって敵に近づくものならば、彼女は敵を回避するためのものかもしれない。

 一発も被弾しない、という事はなかったが、致命傷やめぼしい傷も殆んどなくかすり傷程度で、加えて確実に相手の隙を捉えて攻撃していた。

 今回の戦いで一番相手に差をつけて有利だったのは浜風だ。

前から挙げられていたのに答えるの忘れていました、センセイシャル

不沈艦さんのところですが、演習でぞろ目をひく以外に、自由安価で出しても構いませんよー
2スレ終わって未だ好感度ゼロの名前を呼んではいけないあの人とかいい加減出番が欲しくて死んでしまいそう(他人事)


 対して睦月は、その二人のどちらと言うわけでもなく、強いて言うならば丁度中間のような動きをよくする。

 近づくときは近づくし、回避に専念するときはそうする。

 言ってしまえば普遍で凡庸な戦いだが、ただ戦闘の概ねにおいてそれが最も効果的だ。

 最も効果的であるからこそそれが主流となり、それが基本となる。

 睦月の動きは、あくまで二人よりも正しい動き、なのかもしれない。

睦月「そうなんですか。あんまりそこまでは考えていないのです」

提督「戦いの最中に深く考え込む人は少ないよ」

 合点がいっていないと言った風に、睦月がやや首をひねった。

睦月「睦月は単に、周りを見て、空いている所や苦しそうな所を確かめているだけなのです」

提督「そうなのか」

 そういえば浜風が先日、睦月について似たような形でを評していた。

 面倒見がよく、周りが見える。

 陸の上と同様にそれが戦いの最中にできるのは良い所だ。

睦月「そうなのです?」

提督「ああ」

睦月「にゃはは。褒められました!」

 嬉しそうにはにかんだ。

睦月「睦月、褒められて伸びるタイプにゃし、もっと褒めてもいいんですよ?」

 目を輝かせながら接近する。



↓1

1.そういうのは浜風に頼んでくれ。恥ずかしい

2.ああ、次も頑張ってくれ

3.頭を撫でる


提督「褒める、というと」

睦月「頑張ったとかお疲れとか」

提督「それはもう言ったぞ」

睦月「じゃあ、睦月はすごいなーとか、可愛くて愛くるしいとか!」

提督「凄いはまだしも、後半は関係ないじゃないか」

睦月「むぅ」

 やや頬を膨らませる睦月。

睦月「じゃー言葉じゃなくても良いのですよ。頭を撫でてくれても」

提督「いやそれは……」

睦月「はい、どうぞ」

 身長差もあり、ちょうど睦月の頭が“そうしやすい”位置に来る。

 あまりこういう事はしたくなかったのだが、しかし、先ほどから睦月の言葉を否定しているので、これ以上断ると機嫌を損ねそうな気がした。

 ……恐らく、そうなってもきっと睦月は笑うのだろう。

 笑いながら声だけで怒るのだ。

 それは避けたほうが良い気がした。

提督「……分かった」

睦月「およ?」

 見上げようとする睦月の頭に手を置く。

 しっとりと微かに冬の海に濡れた頭。

 柔らかい髪の毛の感触が掌に伝わる。

 ……その姿が、昔に重なって、思わず不意に手を放してしまった。


睦月「もう終わり?」

 やや不満げな声で抗議する睦月。

 悟られないように取り繕いながら頷く。

提督「ああ」

睦月「むぅ……。やっぱり負けたから短いのです」

 そういうわけではなかったが、しかしこの場はそういう事にしておくことにした。

提督「髪も濡れていたし、風邪をひかないように気をつけてくれ」

睦月「はぁい」

 ぱっと笑いながら睦月はその場を離れていった。

 その後ろ姿を見た後、ふと自分の手に視線を落とす。

 たった数秒睦月の頭に乗せただけなのに、未だに感触が残っている。

 痺れにも似た感覚に焦りながら、深く溜息を吐く。

 似た様な事が昔にあった。何度も、何度も。

 笑顔があったかつての鎮守府の、平和だった頃の思い出だ。

 思い出さないようにしていたが、それでも全く思い出さないわけでもなく、こうして不意に蘇る。

 それが自分を苦しめるだけの、惨めな行為だとしても。

 例えどんなに惨めだろうと、全く思い出さないと言うのは、都合のいい事でしかない。

 不意に蘇り、思い出し、自己嫌悪に陥るのも、責任であるように思えた。



睦月の好感度上昇
↓1のコンマ十の位


提督「……ん」

 ふと顔を上げると、ちょうど鈴谷が鎮守府に戻るところだった。

 先ほど睦月の頭に置いた手を振り払うようにして、鈴谷に近づく。

提督「鈴谷」

鈴谷「何」

 こちらを一瞥し、吐き捨てるように返事をする。

提督「演習お疲れ。よくやってくれた」

鈴谷「別に」

 本当にどうでも良さそうな声で、短く答える。

提督「戦艦相手に無傷なのは凄い。完璧な立ち回りだったじゃないか」

 鈴谷は一度の直撃も受けずに演習を終えた。

鈴谷「別に。ただ遊びに良く前に怪我するのが馬鹿らしかっただけ」

提督「そうか。それでも構わない。落ち着いていて良い動きだった」

 何より鈴谷の場合、演習に参加してくれたことのほうが意味合いが大きい。

 何しろ鈴谷が演習に参加することで、今日初めて六人揃ったのだから。

鈴谷「どうでもいいよ、そんなの」

提督「そうは思わない」

 これは、大事な一歩だ。

 例え鈴谷の参加が気まぐれで、明日にはまた不参加だとしても。

 それでもこうして一度は六人が揃った、ということに意味があるのだと思う。

 とはいえこれはまだ仮の一歩だ。

 後はここに伊58が加わることが出来たら。

 その時こそ真の一歩目だと言えるのだろう。

 この鎮守府で、皆でやり直すための。

鈴谷「……ふん」

この好感度は安価のボーナスでふか?それともただの先取り?


鈴谷「あたしの事より、戦艦様のところにでも行ってやったらどうなの」

提督「榛名か?」

 頷くわけでもなく、顎でしゃくるように指し示す。

 その方角には、一人ぽつんと海を見る榛名の姿があった。

 先ほどの演習で相手に優勢を取られたことをまだ悔やんでいるのだろうか。

鈴谷「……何を夜中にうろついてるのかと思ったら、全く」

 そんな榛名を見て、再度吐き捨てるように呟いた。

 榛名の過去については、鈴谷や加賀にも改めて説明した。

 この鎮守府に来た者同士、少しでも蟠りや敵愾心をなくして欲しかったからだ。

 それは何も、傷の舐めあいや情けの掛け合いをして欲しくてそうした訳ではない。

 ただ、榛名の過去について知ることで、元に抱いていたイメージだけの誤解が少しでも解けるのであればそれに越したことはないと思ったのだ。

 特に鈴谷は、はっきりと榛名を嫌っている。

 なのでもし榛名の過去を知ることで少しは接し方に変化が出ればいいと思ったのだが……。

鈴谷「部屋なんて要らないだなんて、笑わせる」

 ……残念ながら、特に変化は見られなかった。

提督「鈴谷。あまり彼女を責めないでやってほしい」

鈴谷「大事な秘書艦ですものね。これは失礼」

提督「鈴谷」

 咎めるように名を呼ぶ。

 悪びれる様子もなく鈴谷が腕を組んだ。


鈴谷「ああいうのが一番癪に障る。全部自分で背負い込んで、自分のせい自分のせいって周りの言葉かき消して、悲劇のヒロインぶってるのが一番面倒」

鈴谷「あの駆逐艦も同じ、なにが命が軽いよ、馬鹿じゃないの」

提督「鈴谷」

鈴谷「そんなに命が軽いなら、そんなに罰が欲しいなら、」

提督「鈴谷」

鈴谷「自分で勝手に死ねばいい」

提督「鈴谷!」

 かき消すように声を張り上げた。

 その言葉だけは、それだけは言って欲しくなかった。

鈴谷「事実を言ったまで」

提督「それでも、そんな言葉は言わないでくれ」

鈴谷「嫌」

提督「鈴谷」

鈴谷「うるさい、あたしの勝手じゃん」

提督「……鈴谷」

 声を押し殺しながら鈴谷を見下ろす。

 組んだ腕にやや力をこめる鈴谷。その様子は、何故だか少し怯えているようにも見えた。

鈴谷「……ちょっと、離れてくんない。うざいんだけど」

提督「……ああ。すまない」

 小さな声で鈴谷が言った。

 つい詰め寄るような形になってしまっていたので、謝りながら二歩下がる。

 少しだけ安堵した仕草を隠しながら、それでも息を吐いた。


鈴谷「……あんたはあの二人についてどう思う」

提督「……二人、というと。榛名と睦月、か?」

 首を縦に動かす。

 しかし質問が漠然としすぎていて、即座には答えられなかった。

 恐らくは、二人の過去について言っているのだろう。或いは、そんな過去を持つ二人についてどう接するか、という意味にも聞こえた。

鈴谷「こないだあたし、あんたと戦艦様が同じ顔してるって言ったじゃん」

提督「……ああ」

 あれは確か、睦月と鈴谷とで出かけた日だ。

鈴谷「もう一つ気付いたよ。あんた、あの駆逐艦とも似てる」

提督「睦月、か?」

 しかしそれは、到底意味のわからないものだった。

 沈痛な面持ちで、自分を罰する榛名。

 いつも笑っている睦月。

 まるで反対の二人を並べて似ているといわれても、全く解せない。

 どちらかだけに似ているといわれるのであれば分かる。

 しかし何故両方なのだろうか。

鈴谷「……分からない?」

 呆れるような声色。

 いや、本当は呆れているのだろう。

 しかし鈴谷の顔は笑っていた。

 とはいえそれはまた例の如く、睦月のような笑顔とは違う、感情のない冷笑だ。


鈴谷「あの駆逐艦は、笑うしかしない。喜怒哀楽の真ん中二つがない」

 笑ってばかりの睦月。彼女の表情は、笑顔以外を知らない。それ以外は壊れてしまった。

鈴谷「あの戦艦様は、哀しむしかない。喜怒哀楽の三つが欠けてる」

 自分を罰する榛名。彼女の楽しそうな表情や喜んだ顔、或いは怒ったりする所は見たことがない。

 唾を飲み込む。鈴谷の言葉から耳を塞ぎたくて仕方がなかった。

 しかし、何故だかそれが出来なかった。

 腕を組んだまま、冷えた微笑で語る鈴谷。

鈴谷「それで、あんた。分かったよ。あんたは何かがおかしいって思ってたけど、それがようやく分かった」

 喉が震えた。彼女の言葉を制止しようとでもしたのだろうか。



鈴谷「あんた。ここに来てから一度も笑ってなければ泣いてもいない。怒ってもいないし楽しんでもいない」

鈴谷「ずっと同じ顔なんだ」

鈴谷「まるで死人みたいなんだよ、あんた」


 後ろ向きで歩く睦月から離れた。

 睦月の頭を撫でられなかった。

 阿賀野の抱擁に応えなかった。

 そうやって俺は、彼女たちに触れないようにしていた。

 それは、それはまるで、


鈴谷「本当はもう、誰かと関わるのが嫌なんじゃないの?」


提督「……」

 違う、と。

 ただその一言さえも出てこなかった。


危ない、寝かけた

今日はここで終わりです。最後に鈴谷の好感度上昇
↓1のコンマ十の位

>>138
演習は安価とった3人までしか好感度上がりません。その代わり深海棲艦とかに襲われないので安全。
出撃は出た人全員好感度上がりますけど深海棲艦に出くわす危険があります。
どちらも一長一短。


榛名「提督、大丈夫ですか?」

提督「……、あ、あぁ。榛名か」

 立ち去る鈴谷を目で追いかけるも、すぐに見えなくなった。

 入れ替わるように榛名がやってくる。

榛名「……、提督、鈴谷さんとは、何を?」

 鈴谷の立ち去った方向と俺とを交互に見やる。

 俺と鈴谷のやり取りを聞いていたのかとも思ったが、それなりに距離はあったので会話の全てを耳にしていたわけではなさそうだ。

 恐らくは一度、鈴谷の名前を強く呼んだのが聞こえたのだろう。

 出来れば榛名には、先ほどの会話は聞かれていて欲しくなかった。

提督「いや、気にすることはない」

榛名「……」

 何も榛名と似ているといわれるのが嫌な訳ではない。

 ただ、彼女の心の傷を俺なんかと同じにしてしまうのが嫌なのだ。

 俺と榛名は違う。

 榛名は何も悪くない。榛名は傷つけられた方だ。

 対して俺は、自分のせいで今こうしている。

 正反対なはずなのだ。

 真逆で、正反対で、違っているからこそ、俺は榛名を救いたいと思うし、そうしなければいけないのだと思う。

榛名「……、あの、提督」

提督「どうした?」

榛名「先ほどの演習ですが……」

 おおよそ次の榛名の台詞は予想が出来た。

 きっと彼女は謝るのだろう。

 勝てなかったことの責任を一人で背負い込むようにして。


榛名「……、お役に立てず申し訳ありませんでした」

提督「……」

榛名「旗艦にも拘わらずすみません」

提督「……、榛名」

榛名「……はい」

提督(これまでの榛名を考えると、きっと今彼女は……)


↓1

1.叱って欲しいのかもしれない

2.優しくして欲しいのかもしれない

3.もっと働きたいのかもしれない


提督(……もっと働きたいのかもしれない)

 あの夏の日から四ヶ月の間、彼女は何もしてこなかった。

 それは本当に文字通りの意味で、出撃や演習、遠征や鍛錬と言った艦娘としての任務はおろか、雑務などの裏方の作業もだ。

 或いはあの事件に対する何かさえも許されなかった。始末書一枚さえ書かされず、謝ることさえできず、ただ何もせず部屋にい続けた。

 拘束をされているわけではない。部屋から出る事も出来た。どこへ行くこともできた。

 ……しかし、鎮守府のどこにだって、彼女の居場所はなかった。

 人の口に戸は立てられない。事実がやがて誇張され、尾鰭を生み、脚色をされ、上塗りをされる。

 彼女がこれまでどれほどの罵声やいわれのない誹謗を受けたのかなど、想像でさえも補えなかった。

 結局の所、最終的には部屋にこもる意外に彼女が平静でいられる手段はなかったのだ。

提督「……、毎回勝てるわけはない。こういうこともある」

榛名「……はい」

 ただ空気と同化するだけの日々。

 気が遠くなるほどの、時間と言う牢獄だ。

提督「次は頑張ろう」

榛名「……、はい」

 何もしないでい続けるのは、生きながら死んでいるようなもの。

 彼女を救うには、生きている証を見つけさせなければいけない。

 それが秘書艦としての仕事をすることで見つかるのであれば、悪くないのかもしれない。


提督「榛名。身体のほうはどうだ? 疲れていないか?」

榛名「榛名は、まだ大丈夫です。何かお仕事はありませんか?」

提督「そうか。……君が働きたいという気持ちは、良く分かる。良く分かった」

榛名「……、……」

提督「出来れば君の希望を叶えたい、が。現状あまり多くの仕事はない」

榛名「はい……」

提督「だから、二人で出来ることを探そう」

榛名「二人で、ですか?」

提督「ああ。草むしりは榛名がやってくれたが、まだまだこの鎮守府は片付けなければいけない事だらけだ」

榛名「はい」

提督「床や壁、各部屋の修理。外壁もだ。屋根も一部はがれているし食堂の窓ガラスも入れ替えなければいけない」

提督「入渠ドックも設備を直さなければならないし工廠室も同様だ。電気の復旧だってしなければならない」

榛名「はい」

提督「……やることが、一杯あるな」

榛名「……はい!」

提督「頑張ろう。榛名」

榛名「はい、榛名、頑張ります!」

 喜んでもらえたようだ。

 余り根を詰めすぎないようにしてくれればいいが、それは時折確認するしかないな。



【榛名が頑張るようになりました】
榛名の普段の行動が完全に固定されました。自由安価の内容に逆らうかもしれません。


榛名の好感度上昇
↓1のコンマ十の位


提督「さて、もう午後か……」

 演習を終え、街に遊びに行った鈴谷以外は皆それぞれ自由にしている。

提督「さて、午後は何をするか」



↓1

1.出撃

2.演習

3.工廠

4.その他(自由安価。お好きにどうぞ)

榛名スナイパーすげーな。まずは榛名√から終わるのかもな。
個人的に嬉しいけど、後から出番がなくなっちまうのもやだなw

ところで、好感度は99でカンストしたらもう上がらなくなって実質出番終了なんです?それともカンストしてもYP判定は続くんです?


提督「……、そういえば、まだ榛名の部屋を作っていないじゃないか」

 一日経ってからそのことに思い至る。

 榛名のことだから、放っておくとこのままという事も十分にありえる。

 多少言い聞かせてでも榛名に自室で休むよう言わなければならない。

 たとえ榛名が“休む”という事に嫌な記憶があるにしても、まるきり休まず働き続けることなど出来はしない。

 それはもはや機械だ。艦娘は機械ではなく人間で、彼女は人間だ。

 それに、無理矢理押し込まれていた部屋ではなく、自分で用意した部屋であれば、彼女も以前よりは罪悪感を感じずにすむのではないか。

提督「……そうと決まれば、榛名を探そう」

 椅子から立ち上がり、ドアノブを握る。

 そのまま執務室の外に出る──と、そこには丁度榛名が。

 八の字を描くように、うろうろと辺りを往復している。

 視線は上を向いており、やがて俺に気付いたのかこちらに目をやる。

榛名「提督」

提督「榛名。何をしているんだ」

 榛名はなにやら小箱を両手に持っており、中を覗いてみるとそれは電球だった。

榛名「はい。電灯は優先事項だと思ったので」

提督「確かにそうだな」

 何しろ今は冬だ。電気の全くない廊下は、朝も夕方以降も暗くて仕方がない。

 ただでさえ床が一部抜け落ちているのだから、放っておいたら危ないのは明白だった。

 それに、電気が元に戻り、廊下が明るくなることで、気分も多少は良くなるかもしれないのだ。

 そういう意味で、電灯の復旧は急務だった。

提督「榛名、助かる。ありがとう」

榛名「そんな、勿体ないです、そんな言葉」

>>202
誰かが99になったら改めて言おうかなと思っていたんですが、今の方がいいんですかね?

出来れば今聞きたい


榛名「あの、ところで、提督」

提督「なんだ?」

榛名「電球なんですが……」

 そこで言葉を切ると、榛名は天井を見上げた。

 釣られて俺も天井を見上げ、そして榛名の言わんとすることに気づく。

提督「……届かないのか」

榛名「はい、すみません」

 謝ることでもなかろうに。染み付いてしまった癖なのだろう。

 ……、出来ればそんな癖はなくして欲しいのだが、その言葉さえも一時奪われたことを考えると、安易にそうは言い出せない。

 榛名の根は深い。確実に正しく手折らなければ、茎だけが折れてきっと枯れてしまう。

 それだけは絶対に避けなければいけないと思った。

提督「……俺も届かないな」

 天井は三メートルか四メートル、その間くらいだろうか。

 いずれにしても俺も榛名も届きそうにない。

提督「脚立はないのか?」

榛名「探しましたが、ありませんでした」

提督「……そうか」

榛名「はい、すみません」

 何だか、謝ると言うより、言えなかった言葉を言えるようになったので使用している感じだ。

 自分の中に再度慣らすように、或いは取り戻すように。

 深い地中の根が水を吸い上げるように、謝りの言葉をなじませていく。

 ……それは、防いだ方が良い様な嫌な感覚だった。

 しかし、その水は手には触れられない。

 どうやって取り上げればいいのかは、分からなかった。

提督「……今は、それは置いておこう。また後日考える。それより榛名、君の部屋をいい加減作るぞ」

榛名「部屋、ですか……」

 暗澹とした表情で榛名が小箱を強く握った。

後の方がいいみたいなので、そうしますね

>>211
そういうことなので、申し訳ないでち


榛名「榛名に休息は必要ないんです、もう十分休みました。四ヶ月も休みました。もう榛名は大丈夫です」

提督「君の言う休息は休息じゃない。あれは唯の罰だ」

榛名「……、……」

提督「榛名、何も君を再度部屋に閉じ込めようとしているわけじゃない」

榛名「……はい」

提督「君は先日、食堂でうたた寝をしていた。その後二時間の仮眠のはずが起きられなかった」

榛名「……すみません」

 この“すみません”は、本当の謝罪だと思った。

 少なくとも、先ほどのやり取りで出てきた、馴染ませるための言葉ではない。

提督「いや、怒っているわけじゃない。君を心配しているんだ」

 怒っているわけじゃない。

 自分の言葉に、鈴谷の言葉を思い出す。


 ──あんた。ここに来てから一度も笑ってなければ泣いてもいない。怒ってもいないし楽しんでもいない


 ぶるりと背筋を震わせる。

提督(俺は本当に、そうなってしまっているのだろうか)

提督(……いや、違う。そんな筈はない)

 それに、今は怒る必要はない。自分の言葉は間違ってはいない。

 恐らく。きっと。

 ……多分。

榛名「……提督?」

提督「あ、ああ」

 訝しげに見上げる榛名に再度言いなおす。

提督「ともかく、君の体は今こそ休息を必要としているんだ。全く休まないで働き続けられる人などいない。君は人なんだから」

榛名「……」


提督「いつかこのままでは倒れてしまう。そうなってからでは遅いんだ」

榛名「……、榛名は、」

提督「倒れてもいい、とは言わせないよ」

榛名「っ……」

 的中したのか、榛名は押し黙った。

提督「……榛名。ここは君のいた鎮守府とは違う。ここは君を責める為の場所ではない」

榛名「……そうでしょうか」

 ぽつりと榛名が零した。

 それは、きっと、ここが最果ての場所だからだろう。

 壊れた艦娘が過ごす場所。

 壊れた艦娘を捨てる場所。

 ここで暮らすという事自体が、罰であり責め苦なのかもしれない。

 だとすれば榛名にとっては、ここも前の鎮守府も大差はないのだろうか。

提督「……榛名」

榛名「……分かりました」

 微かに榛名が頷いた。

榛名「これ以上は、ワガママになってしまいます。榛名、部屋を用意します」

 まるで折れるように、妥協するように。榛名がそう言った。

 いや、実際、榛名にとってはそうなのだろう。

 部屋を作ると言う行為は今の彼女にしたら苦痛で、しかし苦痛だからこそ受け入れるのだ。

 罰は苦しいほど意味がある。罰は重いほど意味がある。

 もし彼女がこの鎮守府を前の場所と重ねてしまっているのであれば、部屋は牢獄で、休息は懲役だ。

 だからこそ受け入れる。

 それが自分にとっての罰になるのであれば、それでいいと。

 そう言う様に、榛名は再度頷いた。


 三十分ほどを費やし、あらかた部屋を綺麗にする。

提督「……こんなものか」

榛名「はい」

 しかし綺麗になったとはいえ、それだけだ。満足に使える家具は何一つない。

 唯一部屋に残っていた家具であるベッドも足が折れてしまっていて、とても使い物にならない。仕方なく榛名と外に運び出すことにした。

 文字通り何一つ家具のない部屋。ドアの正面にある窓には、一箇所ガラスに皹が入っている。

提督「家具も揃えないとな」

榛名「家具は、別段なくても……」

提督「そういうわけにはいかない。床にじかに寝るつもりか?」

榛名「そうです」

提督「それでは意味がないだろう。布団にせよベッドにせよ、どちらかは必要だ」

榛名「布団は、探せばあると思います。それを使います」

提督「そうか」

榛名「はい。ここまでしていただけただけで十分です」

 殆んど何もしていないに等しいが、一応は部屋の準備は出来た。

 家具も勿論揃えてあげたいのだが、手を出しすぎるのも確かに良くない。

 ひとまずはこれで良いにしよう。

提督「ちゃんとこの部屋で、布団かベッドで、寝るように」

榛名「……はい。すみません」

 暫らくは様子を見たほうが良いかもしれないな……。



榛名の好感度上昇
↓1のコンマ十の位


榛名「提督、おはようございます」

 ノックの音で目が覚める。

提督「えぁ、は、榛名か?」

 扉の向こうで榛名がはいと返事した。

榛名「今日は何をすれば良いでしょうか」

提督「少し待ってくれ。すまない、今しがた起きた所でまだ着替えていないんだ」

 本当は榛名が来るまで眠っていたのだが、しかし正直にそう言うのも憚られたので誤魔化しておく。

榛名「はい。分かりました」

提督「ああ、すまない」

 慌てて着替えながら、机の上の腕時計を見る。

提督「……、ろ、六時五十五分?」

 逆さにでも見間違えたかとも思ったが、よもや昼近くまで寝過ごすわけもない。

 ならば時計の故障かと思ったが、この寒さや外の白さからするに、やはりそう時間は間違ってはいなさそうだ。

 提督「まぁ、榛名が来た以上は起きるか……」

 着替え終わり、ドアを開ける。

榛名「おはようございます、提督」

提督「あ、ああ。おはよう」

榛名「お水をどうぞ」

提督「あ、ああ」

 言われるままに水を飲む。

榛名「今日は何をしますか?」

提督「そうだな……」

 水を飲み、少し気を落ち着かせながら答えた。



↓1

1.出撃

2.演習

3.工廠

4.その他(自由安価。お好きにどうぞ)

榛名がいたから油断したZE

>>251
朝は大抵榛名が出てきます。仕事熱心になったからまぁ多少はね?


短いですが今日はここまでです。明日は更新できるかどうか分かりません。
現状こんな感じです。


44 睦月
37 榛名
27 加賀
26 鈴谷
25 夕立
18 浜風
11 伊58
08 大淀
00 金剛/雪風


鈴谷とか言う鉄壁

改めてアニメの球磨を繰り返し観てるんですが、やっぱり「の(ぁ)めるなクマー!」に聞こえる

今日は22時に更新出来そうです


提督「用事を済ませることにする、しばらく待っていてくれ」

榛名「……分かりました、榛名は何か仕事を探してきます」

 そう言って巻き戻しのように部屋を出る榛名を見送る。

提督「まずは一度食堂に向かって、それから……」

 そして廊下を歩こうとして足を踏み出した所で気がついた。

提督「……替わっている」

 電気がついている。

 薄暗い冬の朝の中でも、はっきりと自分の足先が見える。

 否、正確には、電気は元から通っていた。

 しかし電球が駄目になっていたのか、鎮守府内は常に暗かったのだが、今はそれがやや明るい。

提督「榛名が替えたのか」

 脚立などが見当たらなかった為に昨日は交換をしなかった。

 色々と物を積み重ねて脚立代わりにしたのだろうが、それなりに手間だろうに。

提督「一言言ってくれれば、手伝ったのだが」

 今更言っても仕方ない。後で榛名に礼を言うとしよう。

提督「……ん、あれは」

 明るくなった廊下の窓から外を見ると、庭には睦月が居た。

 しゃがみ込んで何かを見つめているようだが、ここからでは背中しか見えない。

提督「……何をしているのだろう」

 気になったので、彼女の所へ行ってみることにした。


提督「睦月、おはよう」

睦月「おりょ。提督、おはようございます!」

 すっかり雑草のなくなった庭。

 一度立ち上がりこちらに挨拶をした睦月だったが、

提督「こんな朝早くに、何をしていたんだ?」

 と俺が尋ねると、再度しゃがみこんだ。

睦月「これを見ていたのです」

 楽しそうに、地面を指差す睦月。

 すぐには何を指しているのか分からず、中腰になって覗き込むようにそれを見て、ようやく把握した。

提督「蟻の巣か」

睦月「はい!」

 眼下には五ミリ程度の穴が開いている。そこに出入りするのは働き蟻だろうか。

 こんなに朝早くに忙しいものだが、昆虫の世界にそういう時間の概念を当てはめるのも人間側の都合と言うものである。

提督「蟻が好きなのか?」

睦月「ほえ?」

提督「いや、朝早く見ているものだから」

睦月「んー……好きかな」

 きょとんとしながら、首を緩やかに動かす。

 にこりと笑う睦月。

睦月「ほら、提督ももっとこっち寄って下さい!」

 袖をつままれせがまれる。

 中腰の俺の脚に、睦月の半身が触れる。

 冬の朝に沁みるような暖かさ。

 遠くから流れてくる潮の流れに混じるように、睦月の髪からシャンプーの香りがした。

提督「いや、俺は良い」

 それらから逃れるように、一歩睦月から離れる。

 ……やはり俺は、恐れているのだろうか。

睦月「? むぅ……。まぁ、良いですけど」

 誰かの温もりを、そしてそれを再度失うことを。


提督「それで、蟻の巣の何が好きなんだ?」

睦月「んー……」

 少し唇に指を当て、考えた睦月だったが、やがて答える。

睦月「似てるじゃないですか」

提督「似てる?」

睦月「はい」

 じわりと冬の寒さを和らげるような微笑。

 見た目と相まって甘い声。

 やや癖っ毛ではあるが、きめ細かい髪。

 それら全てが重なって、混ざり合った彼女はまるで砂糖細工のようだった。

 砂糖細工の少女。

提督「何と、何が、似てるんだ?」

睦月「睦月達と、蟻がです」

 しかし今の彼女は、壊れてしまっている。

 いくら見た目や香りが甘くても、心の芯が、濡れてしまっていた。

睦月「ほら、見てください」

 睦月がそういって、近くの木の枝で穴をほじくった。

 出入りしていた最中の蟻がその枝で身を突かれ、悶えながら息絶えた。

 それを見ながら、やはりくすりと睦月は笑う。

 砂糖細工の少女の内側は、海と仲間の血で濡れて、腐ってしまった。

 壊れていない外面だけで、彼女はふわりと笑顔を見せた。

 スポンジケーキのような、穴だらけの笑顔。

 触れれば壊れる、甘い人形。

 それが、今の睦月だ。


提督「……、蟻が可哀相じゃないか」

睦月「蟻さん、死んじゃったのです」

 完全に死んでしまった蟻は、こうして蟻の巣の近くでないとただの黒い点にしか見えない。

 蟻達はそんな仲間に一度二度駆け寄ったが、やがて離れ、近くの虫の死骸に群がっていった。

睦月「この蟻さん、さっきまでそこの虫の死骸と巣を往復してたのです」

提督「……」

睦月「でもほら、また代わりが出てきました」

 代わり。

 睦月にとっては、それが自分と蟻を結ぶ言葉だった。

 何度も仲間の死に遭い、その度に新しく違う艦娘が彼女の傍にたった。

 それは確かに今の働き蟻達と同じ光景のように見えた。

 だけれど、同じ様で、やはりそれは違う。

睦月「にゃはは」

 白い息を吐きながら睦月が笑う。

提督「……」

 どう声をかけるべきか悩み、少し考えた。

睦月「提督?」

提督「……、ああ」

 何か今の睦月にとって、響く言葉はないだろうか。



↓1

1.前の鎮守府の仲間の話をする

2.浜風の話をする

3.ここの鎮守府の話をする


提督「なあ、睦月」

睦月「およ?」

 潮と砂糖の匂いを嗅ぎながら、息を吐く。

提督「睦月にとって、命って言うのは平等だと思うか?」

睦月「はい、そうなのです。みんな同じなのです」

 決してその言葉だけを見れば、間違いではないと思う。

 命は等しい。艦娘だろうが、偽装を持たない人間だろうが、そこに大差はない。

 あるいはそれが深海棲艦だとしても、もしも目の前で死に掛けていたのだとしたら、きっと俺は助けようとしてしまうだろう。

 食物連鎖の階段をもって、肉や魚などを食べるにしても、だからと言って我々は彼らを一々上だとか下だとかは考えない。

 人でも動物でも、深海棲艦でも。

 救えるのであれば救いたい。

提督「睦月と浜風は、一緒にうちに来たよな」

睦月「はい、そうなのです。あの時は死ぬかと思ったのですよ」

 深海棲艦に襲われた時のことを思い出したのか、笑いながら睦月が、声だけ困ったように頭を揺らした。

 甘い香り。

 浜風とは違う、純粋な甘さだけの香りだ。

提督「浜風とは、一緒になって長いのか?」

睦月「はい、今までで一番相部屋の期間が長いのです」

提督「そうか」

睦月「浜風ちゃんは、実はあれで寒がりなのです」

 実は、というほど意外ではなく、割とそう見えるが。

睦月「だから睦月が湯たんぽ代わりに布団に潜るのです」

 それは、どちらかと言うと、単に睦月が甘えているだけの様な気がする。

睦月「失礼な、睦月はこれでも睦月型一番艦なのです!」

 そういえば以前、浜風も言っていた。曰く、意外に面倒見が良いとかなんとか。

 しかしだからと言って、それとこれとは違うような気もするが、今はこの際置いておく。

 何故ならさりげない睦月の言葉に、聞きたかった言葉があったから。

 そしてそれは、言って欲しかった言葉。


提督「睦月」

睦月「?」

提督「睦月にとって、蟻と自分は同じなのか?」

睦月「似ているのです」

提督「前の鎮守府の仲間は、蟻と同じなのか?」

睦月「似ているのです」

提督「じゃあ」

 息を吸う。立ち上がって、海を見る。

 甘い香りが少しだけ遠のいた。

提督「じゃあ、もし、今睦月がひき潰したのが蟻じゃなく、浜風だったら」

睦月「え?」

提督「もし君が浜風を殺したら、それでも君は、なんとも思わないのか?」

 何を言っているのか分からない、と言った風に睦月が首を傾げる。

睦月「浜風ちゃんを、睦月が?」

提督「ああ、そうだ。その木の枝を浜風に突き刺して、抉って、捻じ込むんだ」

 蟻と違って、一回では死なないだろう。

 心臓を突き刺すには、その枝は細すぎる。すぐに折れるだろう。

 それでも浜風を殺すとしたら、何度も何度もその手を振るうことになる。

提督「出来るのか? それが」

睦月「……、え、と」

 想像したのだろうか。自分の眼前で浜風が血に染まる所を。

 笑顔のまま、睦月が逡巡するように動作を止める。

 宙に浮いたままの腕が、やがて垂れ下がり、地面に触れた。

提督「君に、浜風が、殺せるのか。その蟻と同じ様に」

睦月「にゃはは、はは、……、……」


 四人か五人か、入れ替わり続けた睦月の相部屋相手。

 その一番最後が浜風。

 その浜風と、一番長く過ごしていると言った。

提督「君にとって、浜風はその程度なのか」

睦月「……、……」

 初めて睦月の口から沈黙が漏れた。

 笑顔は変わらない。

 だけれどそれは砂糖細工の様な甘いものではなく、引きつったような表情だった。

提督「他にも何人も一緒に過ごしてきたのに、一番長く一緒に居ると断言できるほど浜風のことを見てきたんだろう」

提督「ずっと一緒に過ごしてきたんだろう」

睦月「にゃはは、はは」

提督「寒がりな浜風を温めてきたんだろう」

睦月「にゃはは」

提督「それらは、失ってしまっても良いほどにどうでもいいものなのか」

睦月「にゃはは……」

 命は等しい。

 だけれど、平等に無価値なものになってはいけない。

 平等に、大切にしなければならない。

 たとえ寒い夜でも、暖めあって眠れる命が、そんなものであってはいけないのだと思う。

提督「睦月」

睦月「にゃはは。……、……」

 睦月の笑顔がふと消えた。

 笑顔以外の睦月の表情は、本当にどうして良いのか分からないと言った、不安げな表情で、

 そんな表情のまま、睦月は

睦月「わかんない……です……」

 とだけ、小さく零した。


睦月「あれ、ええと。わかんない、です。あれ、あれ?」

 慌てるように睦月が視線を四方に散らせながら、

睦月「浜風ちゃんは、大事で、あれ、あれ。あ、わ、笑わなきゃ。あはは。あ、にゃはは」

 と笑った。

 それは思い出したような笑い方で、或いは、落とした笑顔を拾い上げたようなそんな不自然なものだった。

 口元だけ笑いながら、目だけあちらこちらに向ける。

 眉間は困ったように八の字に曲がったままだ。

提督「睦月」

睦月「はい、ええと、にゃはは、なんでしょう」

提督「どうだ、やはり浜風の命は軽いか?」

睦月「にゃはは。はは、あ、あはは。わ、分からないです。分からなくなっちゃいました」

 ふらふらと逆上せたように立ち上がる。

睦月「どうでしたっけ、あれ、浜風ちゃんは、大事な友達で、友達、そう。友達。だから、でも、大事で、命だから」

 支離滅裂になりながら、睦月が呟き続ける。

提督「……睦月」

 救いを求めるように睦月が笑う。

提督「落ち着いてくれ。そして聞いてくれ」

睦月「にゃはは」


提督「今すぐに分からなくてもいい。他人の……いや、睦月自身も含めて、命の重さなんて人によって違うし、定義は出来ない」

提督「睦月がどう結論づけても、それは一旦おいておく」

提督「だが、これだけは忘れないで欲しい。浜風も俺も、他の皆も。睦月には死んで欲しくない」

提督「どうしても命について分からなくなってしまったら、まずはそれを思い出してくれ。そして自分を大事にしてくれ」

提督「浜風の為でも誰のためでも構わない。死んでもいいなんて、思わないでくれ」

睦月「……にゃはは」

提督「……、きっと、君が居なくなったら、浜風は寂しがる」

提督「寒がりな彼女のために死なないでくれ」

睦月「……」

 分からない、といった表情で睦月は笑った。

 困ったように、ぎこちなく笑った。

 少しだけその笑い方が雪風に重なる。

 困ったような、哀しいような、泣きたいような、そんな笑い方だ。

提督「……、話が長くなってしまってすまない。一旦、俺は食堂に戻るよ。睦月はどうする?」

睦月「分からないです」

 混乱してしまっただろうか。

 今は、少し一人にしたほうが良いかもしれない。

睦月「にゃはは、あ、はは……」

 冬の空気に、睦月の笑い声が消えていった。



睦月の好感度上昇
↓1のコンマ十の位

鈴谷と榛名には一切デレず睦月にはガバガバなコンマ君のせいで、もう睦月が次のコンマ次第で60越えるんですがこれは……


提督「食堂も明かりがついている……」

 鎮守府を一通り見て回った所、やはり電球は全て交換されていた。

 二箇所の廊下だけならまだしも、鎮守府内全てとなると、昨夜一晩で帰るには早すぎる。

 また睡眠時間を削ったのだろうか。

提督「……、あまり無理をしすぎないで欲しいが」

提督「今は置いておこう。それより、午後は何をするか」



↓1

1.出撃

2.演習

3.工廠

4.その他(自由安価。お好きにどうぞ)


提督「出撃をするか」

 資源は多いに越したことはない。というより、むしろ少ない。

提督「しかし、問題は人数だ」

 鈴谷は出かけてしまい、今鎮守府には居ない。

 伊58に出撃をさせるのも難しいので、五人での出撃という事になる。

提督「まぁ、仕方あるまい」

 現状出来うる限りの戦力なので、考えてもどうしようもない。

提督「……、榛名を探そう」


 榛名達と合流し、出撃の旨を告げる。

 夕立がはしゃぎ、その他のメンバーはあまり大きな反応はしなかった。

 ……後者の中に睦月が入るのは少し不安ではあるが。

加賀「……」


そんなわけで出撃コンマ。ただし、約束どおり今回敵の数は1体で固定です。

↓1のコンマの数だけ燃料
↓2のコンマの数だけ弾薬
↓3のコンマの数だけ鋼材
↓4のコンマの数だけボーキ


↓1、↓2にぞろ目でドロップ(安価)
↓3、↓4にぞろ目でドロップ(非安価)


榛名「提督、聞こえますか。資源の回収が出来ました」

提督「そうか、ありがとう」

夕立「いっぱいとれたっぽい!」

榛名「はい、そうですね」

浜風「あとはこれで敵が出なければいいのですが」

加賀「……違うわ」

榛名「え?」

加賀「深海棲艦が出てくれないと困るわ」

浜風「確かに、深海棲艦は倒さなければなりませんが……」

加賀「出てくれないと、殺」

夕立「出てくれないと、つまんないっぽい!」

加賀「……せ……。……、……」

夕立「ん?」

浜風「……、加賀さん、続きをどうぞ」

加賀「なんでもないわ」

夕立「夕立、タイミング間違えたっぽい?」

加賀「なんでもないわ」

浜風「棒読みですね……」

加賀「なんでもないわ」

榛名「……、皆さん、前方を見てください。敵発見です」


夕立「敵!? よーし、やるっぽい!」

加賀「……仕留める」

榛名「夕立さん、あまり先に行かないでください!」

加賀「……、視界に入らないで頂戴。右にずれて」

夕立「こっち?」

加賀「逆よ余計に直線上に、あの、邪魔なのだけれど……!」

夕立「間違えたっぽい!」

榛名「睦月さんはもう少しこちら側に!」

浜風「睦月?」

睦月「あ、うん。にゃはは」

浜風「……睦月、何かあった?」

睦月「浜風ちゃんは大事だよね」

浜風「……」

榛名「浜風さん、睦月さんの援護を。敵は一人です、加賀さんと夕立さんに先攻してもらいますので、お二人は周囲の警戒を!」

浜風「分かりました」

睦月「はい!」

浜風(……提督が何か吹き込んだんでしょうか)

浜風(……余計なことを)

加賀「……、っ、もっと離れて頂戴」

夕立「もう十分離れてるっぽい!」

加賀「違うわ、私じゃなくて、敵から。近すぎて撃ちづらいわ!」

夕立「夕立がなんとかするっぽい!」


榛名「駄目です、近いです! 駆逐棲艦とはいえ、甘く見てはいけません!」

夕立「大丈夫、っぽい!」

加賀「……、……ふざけないで」

夕立「砲撃命中! いけるっぽい!」

榛名「加賀さん、待って、待って下さい。今撃ったら夕立さんにも当たるかも……!」

加賀「……撃つ」

榛名「待っ──!」

浜風(本当に撃った!?)

夕立「ひゃぁぁ、あ、わっ──ぷ」

榛名「外した……!?」

浜風(いえ、わざと外した。夕立さんを狙ったんじゃなく、手前の海面を撃ったことでバランスを崩して転倒させた!)

加賀「……」

浜風(深海棲艦と加賀さんの間に立っていた夕立が消えて、敵が一直線)

加賀「……深海棲艦は、皆、」

榛名「……っ」



加賀「殺す」





夕立「ぜ、全弾命中……」

榛名「さすがです……」

加賀「……まだよ」

浜風「も、もう敵は死んでます」

加賀「まだ……形が残ってるわ」

加賀「海の藻屑になるまで、細切れになるまで、撃ち殺す……!」

浜風(なんて眼……)

榛名「……、そこまで、しなくても」

加賀「貴女は黙ってて頂戴」


榛名「……、提督、帰投しました」

提督「ああ。お疲れ」

榛名「いえ……」

 浮かない表情の榛名。

 原因は先ほどの加賀だろうか。

 ああまでして深海棲艦を憎み、殺すのは何故なのだろう。

加賀「……」

 榛名の隣で無表情の加賀を見る。が、特に反応はない。

提督「加賀。先ほどの戦闘だが」

加賀「……何か問題でも」

夕立「あるっぽい! 危うく撃たれかけたもん!」

 飛び跳ねるようにして夕立が抗議するが、加賀は見向きもしない。

提督「問題はある。まず、夕立の言うとおり、仲間が近くに居るのに撃ってしまうのはまずいだろう」

加賀「ちゃんと外したわ。元より彼女を撃つつもりではないし、そのくらいの腕の心得はある」

提督「だとしてもだ。万一ということがあるだろう」

加賀「その万一を起こさないから心得があると言うのでしょう」

 折れるつもりはないらしい。

 加賀の腕前については今更言うまでもないし、その点は確かに彼女の言葉を信用している。

 しかし、だからと言って実際に砲撃するのとでは訳が違うのだ。

 夕立からすれば、加賀は自分が敵の近くに居ようとおかまいなしで撃つという事実が残ってしまうわけで、それはややもしたら不信感につながりかけない。

 折角加賀を慕っている夕立にそのような感情は持って欲しくないし、良くも悪くも感情を素直に表現する彼女がそれをおおっぴらにしてしまえば、それが鎮守府全体に広がる事も考えられる。

提督「……、それでも、控えてくれ」

加賀「……」

 加賀は返事をしない。

 代わりというわけではないが、同様に夕立にも一言忠告をする。

提督「勿論、陣形を崩してまで先走った夕立にも非はある。あまりそういう事はしないようにしてくれ」

夕立「うぅー……怒られたっぽい」

提督「怒ったわけではない」

 ……またも鈴谷の言葉が蘇る。

 怒る場面ではないのは分かっていつつも、つい考えてしまった。


提督「それに、加賀。あまりこういう事を言いたくないのだが、今この鎮守府は資源が乏しい」

加賀「……そうね」

提督「なので、敵を倒す間は別としても、その後更に死体を撃つのは控えてもらえないか」

加賀「……」

 歯軋りをするように加賀が顔をゆがめた。

提督「……、以上だ。皆、お疲れ様。今日はゆっくり休んでくれ」

榛名「……」

 今度は榛名がぴくりと肩を震わせる。休むという言葉に反応したのだろう。

提督「榛名は、そうだな、とりあえず回収した資源を工廠室においてきてくれ」

榛名「はい、分かりました」

加賀「……」

夕立「お腹すいたっぽい!」

 全員が部屋を出て行く。

 それを見てから一つ息を吐いた。

 何はともあれ、誰も欠けずに戻ってきてくれたのだからひとまずは良いだろう。



好感度上昇
加賀↓1のコンマ十の位
榛名↓2のコンマ十の位
夕立↓3のコンマ十の位
睦月↓4のコンマ十の位
浜風↓5のコンマ十の位

0は10なんですが、睦月が丁度60になりましたね

睦月さんの上昇具合
9(30突破)→6→8→8


……正直早くないっすかね(困惑)

0は10じゃねぇよ1のくらいだよ、なにいってだ俺。すいません


榛名「提督、あの」

提督「榛名か、どうした?」

榛名「今、資源を工廠室に整理してきました」

提督「ありがとう」

榛名「いえ。それと、気になることが」

提督「どうした?」

榛名「ええと、入渠ドックなんですが……」

提督「ああ」

榛名「鎮痛剤がなくなっていました」

提督「……また? 先日買ったばかりじゃなかったのか?」

榛名「そう、なんですけど」

提督「誰かが使うにしても、頻度が多すぎるな」

榛名「はい」

提督「心当たりは?」

榛名「……、……」

提督「あるのか?」

榛名「……すみません」

提督「榛名。教えてくれないか」

榛名「……、……」

提督「告げ口の様で気が咎めるのなら、俺が順に聞いていくから、首を振ってくれれば良い」

榛名「……は、い」


提督「まず榛名。君は使うか?」

榛名「いえ、榛名は使いません」

提督「では、伊58」

榛名「……」

 首を横に振る。

 彼女の過去の話を考えると、全くないでもなかったので最初に聞いたが、違うらしい。

 尤も、今彼女は海に出ていないのだから、使う場面に乏しいわけではあるが。

提督「では、鈴谷」

 これも首を横に振る。

提督「では、夕立」

 これも違う。

提督「……、なら、睦月か、浜風か」

 どちらも首を横に振った。

提督「……そうか」

 本当は、鈴谷が違った時点で、俺の中では彼女の名前が頭をよぎっていた。

 しかし体がそれを拒むように、彼女の名前を口に出来たのは最後だった。

提督「では、そうすると。加賀、か」

榛名「……」

 榛名は答えない。

 首も横には振らなかった。

 しかしその表情は答えを雄弁に物語っている。

榛名「……、直接、見たわけではありません。ただ」

提督「ただ?」

榛名「入渠ドックに一番出入りするのが、加賀さんです。加賀さんが出て行った直後にドックの片づけをしたら、なくなっていると言う事もありました」

提督「そうか」

 直接加賀が鎮痛剤を服用している所を見たわけではないらしい。

 ただし、状況だけ考えると最も疑わしい。

 たった一人でも深海棲艦に立ち向かう彼女が鎮痛剤を使っていても、確かに全く間違いというわけではない。

 だが、だとしても何故。

提督「何故加賀は、そこまでして深海棲艦を憎むんだ……」


加賀「話と言うのは?」

提督「単刀直入に聞くが、鎮痛剤を知らないか」

加賀「……、質問の意図が分かりかねるわ」

 一瞬だけ加賀が間をおき、普段と変わらない様子で答えた。

提督「そのままの意味だ。鎮痛剤のストックがないという報告を受けた」

加賀「単に切らしていたんじゃないかしら」

提督「買ったばかりだ」

 尤も、買ったのは俺ではなく榛名ではあるが。

加賀「……そう。でも私は知らないわ」

提督「そうか」

加賀「それとも、誰か、私がそれを使っているところを見たのかしら」

提督「……いや」

 疑わしいと言うだけだ。

加賀「ならもう良いかしら。また明日出撃するんでしょう?」

提督「ああ」

加賀「なら準備があるから」

提督「分かった。代わりに、聞いていいか?」

加賀「……何かしら」

 踵を返しかけた加賀の足が止まる。やや不機嫌そうな声だ。

提督「加賀がそこまで深海棲艦を憎むのは、何故だ」

加賀「……、深い意味はないわ。艦娘にとっては、あれを殺すのは使命だからというだけよ」

提督「その割には、私情が入り込んでいるようにも見えるが」

加賀「そう思うのなら、そうしないように気をつけるわ」

提督「いや。何も感情を殺せと言うわけではない。ただ、何故そんなにも私怨にも似た感情を込めるのか、その理由が知りたいだけだ」

加賀「……」


提督「……、俺は、深海棲艦に仲間を奪われたことがある」

加賀「……」

 加賀は何も答えない。

提督「以前演習をやったことがあるだろう。俺より年上の司令官が指揮を執っていた。以前はあそこにいたんだ」

提督「殆んど実績のなかった俺だったが、栄えある大和型戦艦の二人を含めた多くの子達が居たよ」

加賀「……」

提督「だが、ある時彼女たちは深海棲艦に襲われた。それも三度も」

 厳密に言えば、それらの中には榛名の誤射も含まれているのだが、しかし彼女の砲撃だけで全員が沈んだわけでもない。

 というより、あの襲撃事件に関しては、半分以上が霧のように未だに不鮮明なのだ。

 唯一の生き残りである雪風が殆んど何も目撃していない上に、肝心の大和達が一切見当たらない。

 榛名から聞いた話を加味すれば、大和達を襲ったのは、榛名の仲間を食べた深海棲艦という事にもなりそうだが、それも断言は出来ない。

 せめて彼女たちだけでも見つかれば、身体や艤装の傷を調べることで何かが分かるのだが、それさえも出来ないのだ。

 とはいえ、指揮官である俺の責任であることは確かだ。

提督「勿論提督である俺の責任だ。俺のせいではある。だから俺が深海棲艦を憎むというのは筋違いではある」

提督「ただ、残った仲間はやはり深海棲艦を憎んだ」

 勿論大淀の様に、俺に敵視する者も居る。

 ただやはり、大半は深海棲艦にその怒りの矛先を向けるのだ。

提督「だから、もしかしたら加賀も似たような経験をしたことがあるんじゃないかと思ったが……違うか?」

 むしろ、違っていた方が嬉しい。

 これを肯定するという事は、少なくとも他にも海に消えていった子達が居るという事になるのだから。

加賀「……」

 加賀は少し考えながら、再びこちらに体を向けた。

 その眼は、あの時工廠室で見た、深く淀んだ、海の底のような色だった。


加賀「その質問に答える前に、貴方に言っておくことがあるわ」

提督「何だ」

加賀「私は、貴方のその過去を知っている」

提督「……、……何?」

 闇のように深い瞳。

 一度潜ったら最後、二度と浮上できない泥水で出来た海のような眼。

 加賀の体から怒気を発せられているような錯覚を起こす。

 その怒気に混じって、ほんの僅かに何かの匂いが感じ取れた。

 殆んど無に近い、本当にかすかな匂い。

 しかしその匂いの正体を確かめる前に、加賀が再度口を開く。

加賀「私がここに来る前、どこに居たと思う?」

提督「……、分からないな」

加賀「本部よ」

 思わぬ言葉に驚きを隠せない。

加賀「私は元々は、本部直属だった。ここには、調査に来ただけ」

提督「調査? なんのだ」

加賀「……」

 一度加賀がそっぽを向いた。

 それは関係ない、と言う事だろうか。

 そして横を向いたまま加賀が続ける。

加賀「あの中央鎮守府での出来事は、本部にいるものは皆知ってるわ。本部どころか、他の鎮守府も皆知っているでしょうね」

提督「……だろうな」

 多くの仲間を失った。あれだけの大きな出来事を、本部が把握していないはずがない。

 現に俺は二回目の襲撃事件の後に、本部に一時拘束されていたのだから。

 ……そしてそのせいで金剛は心を痛め、もっと多くの仲間を失うことになった。

加賀「だから、私は貴方の過去を知っている」

 杭を打つように加賀が繰り返す。


加賀「そんな貴方に言っておくけれど。私は、貴方とは違う」

加賀「私にそんな、死を悼むような仲間はいない」

加賀「勿論貴方の仲間とも違う」

加賀「一緒にしないで」

提督「……、あくまで、私怨ではないという事か」

加賀「そうよ」

提督「……そうか」

加賀「もう良いかしら」

提督「……ああ。分かった」

 一瞥するようにこちらを睨むと、加賀は去っていった。

 後に残ったのはあの事件の記憶と、微かな加賀の残り香だけだ。

 その香りの正体が分からず、かき消すように溜息を吐いた。

提督「甘い……とも違う。酸っぱい……か」

 結局、加賀の事はあまり分からずじまいだった。

提督「……どうしたものか」

別にヒロイン増やさなくても戦力なら中央から引き抜けないかね
雪風が欲しいわ

そういえば雪風って生きてるの…? 


──夜中


榛名(電気は交換済み、掃除も殆んど終わりました)

榛名(何か他の仕事、探さないと)

榛名(三時……あと四時間)

榛名(あと四時間、何をしましょう)

榛名「……?」

榛名(誰か居る……)

榛名(こっちから……)

榛名(この先は入渠ドック? こんな時間に誰が……)

榛名「……!」

榛名(あ、え、か、加賀、さん……!?)

加賀「くっ……う、ぐ」

榛名(ひ、酷い。全身ずぶぬれで、血があんなに)

榛名(まさかこんな夜中に、一人で海に!?)

榛名「か、加賀さん、大丈夫ですか!?」

加賀「なっ、なんでこんな時間に、ここに」

榛名「すみません……ではなく、どうしたんですかその傷!?」

加賀「騒がないで頂戴」

榛名「す、すみません。でも……」

加賀「私は大丈夫だから、忘れて頂戴」

榛名「で、でも……」

加賀「良いから。入渠ドックがあるでしょう」

榛名「そ、そう、ですね」

加賀「分かったらもう行って頂戴。それとこのことは忘れて」

榛名「は、はい」


榛名「……」

榛名「……」

榛名「……あれ」

榛名(良く考えたら、ドックはもう清掃済みで、今は使えないはず……)

榛名「……っ! も、戻らないと!」

榛名(提督に相談……は、でも、言うなと言われてしまいました)

榛名(それに、今起きていることを提督には知られたくありません)

榛名(まずは加賀さんのところへ!)

榛名「か、加賀さ……ん……」

榛名「い、いない……?」

榛名「あの怪我で、一体どこに……」

榛名「ど、どうすれば……」

榛名「……、……」

榛名「……、提督に、報告、するべき、です」

榛名(榛名が怒られることより、加賀さんが心配です)

榛名(提督に報告して、加賀さんを捜しましょう)

榛名(そうすれば、朝になるはず……)


榛名「提督。夜分遅く申し訳ありません……」

榛名「提督。起きてください」

提督「……?」

 執務室の扉をノックされて、目を覚ます。

 もう朝かと思うも、部屋は真っ暗だ。

 腕時計を手に取るも暗くて見えない。カーテンをめくるも外は一面の闇。

提督「ど、どういうことだ?」

 混乱しながらも、榛名に返事をする。

 夜中だからか幾分控え目な声で榛名が扉越しに答えた。

榛名「すみません。あの、実は先ほど入渠ドックで加賀さんを見かけました」

提督「何故そんな時間に」

 これは加賀だけでなく、榛名にも言えることだ。

榛名「……すみません。ええと、それでですね、加賀さんなのですが、大怪我をしていました」

提督「……何?」

 一気に眠気が吹き飛んだ。

 ベッドから完全に起き上がり、すぐに着替える。

榛名「それで、一旦はその場を離れたのですが、すぐに戻ったところ、加賀さんが居なくなっていました」

 入渠ドックで治さなければ、必然自然治癒ということになるが、榛名の言い方ではそんな余裕もなさそうだ。

提督「待たせた。行こう」

榛名「はい」

 廊下の眩しさに目がくらむ。電気を点けていたようだ。

榛名「すみません、暗いと探しづらいと思いました」


提督「入渠ドックにはいないんだよな」

榛名「はい、中も調べましたが居ませんでした」

 入渠ドックに向かいながら再度尋ねる。

 ここで榛名が見落としていて、実はドックに居たのであれば何も問題はないのだが、やはりそうではないようだ。

提督「確かに誰も居ない」

榛名「はい。……あ」

 と、榛名が小さく声を挙げる。

 声に振り向き、榛名の視線を追って床を見ると、そこには血痕が垂れていた。

 それが一定の間隔を置きながら点々と続いており、廊下に線を描くように続いている。

 ただしそれは直線ではなく、ところどころ歪んだ線だ。

 それが加賀のふらつき具合だとしたらと思うと嫌な汗が流れる。

 まるで映画か小説のような血の跡だったが、実際に見るとぞっとしない。

 何よりこの血を見ることで、本当に加賀が負傷しているのだということを実感する。

 何も榛名の言葉を疑っていたわけではないが、実際にこうして目にするとまた違う感覚を受けるのだ。

 冷たい海を見るのと、それに触れるくらいの差はやはりある。

提督「……追ってみよう。よもや罠という事もあるまい」

榛名「は、はい」

 点々と続く血の跡は廊下を真っ直ぐ進み、そのまま外へと姿を消した。

 いくら雑草のなくなった庭とはいえ、明かりのあった床と比べるとこれは判別がつかない。

 しばらく目を皿のようにして探し進んだが、それも難しくなり、一度息を吐いた。

 とはいえ、もうこの先は血の案内がなくても問題はないように思えた。

 何しろ目線の先には工廠室があるからだ。

榛名「……ここにいるんでしょうか」

提督「断定は出来ないが、行ってみるしかあるまい」

榛名「は、はい」

 意を決するように工廠室の扉を開く。


提督「加賀。居るか」

榛名「今電気をつけます」

 榛名がそう言い、電気をつけた。

提督「──加賀!」

榛名「加賀さん!」

加賀「余計なことを……」

 壁にもたれるようにして加賀が座っている。

 手で押さえた脇腹は血で染まり、もう既に赤から黒へと変化を遂げようとしていた。

 他にも幾つか傷は見えたが、何より脇腹の怪我が酷い。

 放っておいたら失血死か、出血性のショック症状を見せてもおかしくはない。

 血の匂いに吐き気を催しながら、加賀に近づく。

 血を押さえるものはないか探したが、見当たらず、上着を脱いでそのまま加賀の手の上から強く抑えつけた。

加賀「ぐっ……!」

提督「榛名、ドックの準備だ。それから救急道具、タオル、あと人員も必要だ。睦月……は駄目だ、鈴谷を呼んでくれ!」

榛名「わ、分かりました!」

 すぐに榛名が駆け出して行った。

提督「一体何があったんだ」

加賀「……別に。深海棲艦にやられただけよ」

 その言葉で、ようやく加賀の全身が濡れていることに気がつく。

 頬に張り付いた髪を剥がしながら、

提督「一人でか? こんな夜に? 何故そういうことをする」

 と言うと、歯軋りをしながら加賀が舌打ちをした。

加賀「深海棲艦はっ、……、殺す、だけよ」

 痛みに顔を顰めさせてそう繰り返す。

提督「そのせいでこうなってしまっては意味がないだろう」

加賀「明日の出撃には間に合わせるわ」

提督「馬鹿を言うな。こんな怪我で……」

 と、加賀を押さえていないほうの手が、何かに当たる。

 それは空いた瓶だった。

提督「……え」


提督「……おい。加賀、これは何だ」

加賀「……見れば、分かるでしょう」

提督「そういう事を聞いているんじゃない」

 瓶は二つあり、片方は榛名が先日買った鎮痛剤で、俺も見た記憶があった。

 ただし、もう一つは今初めて見たものだ。

 入渠ドックから消えていた鎮痛剤。

 加賀から香る微かな匂い。

 今更になって、匂いの正体に気がつく。

 血の匂いにかき消されるほどの僅かな匂い。


提督「何故、ここに、こんなものが……」

加賀「……」

提督「……こんなものが、あるんだ」


 瓶の中身は液体。

 その正体は──



 ──モルヒネ。



提督「加賀。答えてくれ。加賀」

加賀「……」

 加賀の瞼が下がっていく。何かを呟くように口が動くが、その内容は聞き取れない。

提督「おい、加賀! しっかりしろ」

 やがて加賀の意識は途絶え、肩をゆすっても返事はしなくなってしまった。

提督「くそ……!」

 加賀の正面に座る位置を変え、そしてそこでようやくそれが視界に入った。

提督「注射……器……」

 深海棲艦と一人戦うために。

 そこまでして、深海棲艦を殺すために。

 加賀はこんな事を続けていたのだろうか。

 だとしたら、それは。

提督「間違ってる……それは、間違っている」

 強く加賀の手を握る。

 だけれど、加賀は反応しない。

提督「目を覚ましてくれ、頼む、加賀……!」

今日はここまでです。

>>442
出来ます。というより雪風攻略するにはそれくらいしか方法がないと思います

>>444
生きてるよ! 死人を攻略したらいかんでしょ

なんだこのレス数!?(驚愕)

今日は安価やコンマなく投下だけで終わると思います

そういえば、今日は25時05分よりTOKYO MXでアニメ艦隊これくしょん第2話が放送されます
よろしくお願いします


 榛名に連れられて鈴谷が工廠室へとやってきた。

 鈴谷にとって榛名は名前でさえ呼ぼうとしない程度に嫌っている相手なので、ややもしたら呼びかけに応じない可能性もないわけではなかった。

 とはいえ、さすがに切羽詰った表情だったであろう榛名と、その榛名の説明を聞いたら相手にしないわけにもいかないだろう。

 若干不機嫌そうな顔で工廠室に入り、俺の顔を見てその深度を増す。

 しかし次に加賀の状態を見て、さしもの鈴谷も少し驚いたように口を開けた。

提督「鈴谷、夜中にすまない。手伝ってくれないか」

鈴谷「別に起きてたから良い。それより、まさか、死んじゃいないでしょうね」

 今の加賀は、意識がなく、ぐったりしている。

 確かに一見すればそういう風に見えなくもない。

提督「いや、大丈夫だ。……、いや、大丈夫ではないが、息はある」

鈴谷「どっちなのよ」

 ぶつくさと文句を言いながら、鈴谷が榛名の持っていた救急箱をひったくるように掴んだ。

 そのまま加賀の隣にしゃがみ込み、正面に陣取っていた俺を肩で押してどかそうとする。

鈴谷「血が止まってないなら、動かせないから一旦ここで止血させるしかないね」

提督「ここでか?」

鈴谷「こんな時間に病院なんてやってないし、担いでる時間はないよ。入渠ドックにぶちこむにしても、傷口が空きっぱなしじゃ治るどころか余計悪化する」

榛名「あ、あの、榛名は何をすれば良いでしょうか」

鈴谷「……あんたはこいつと代わる。で、あんたは出てく」

 顔は加賀に向いたまま、指で俺と榛名を指し示してそう言った。

 鈴谷の言葉に反論しようと思ったが、服に手を掛けた鈴谷を見てそれに気がついた。

 加賀の治療をするには、確かに彼女の服を脱がすかめくる必要がある。

 緊急事態ではあるが、落ち着いている鈴谷が指揮を執っている以上、確かに俺の代わりに榛名が手伝いをしても問題はなさそうだ。

鈴谷「……考え事は後にして!」

提督「分かった。榛名、任せていいか」

榛名「わ、分かりました」

 俺の座っていた位置に鈴谷が座り、そして加賀の隣に榛名が膝をついた。

 それを確認して一旦俺は工廠室を出ようとする。


提督「何かあったら呼んでくれ。待機している」

鈴谷「待機してなくていいから、加賀さんの部屋に行って」

提督「加賀の部屋にか?」

 工廠室の扉を開けた所でそう言われ、しかしもう応急処置をする音が聞こえたため、振り返らずに聞き返す。

鈴谷「寝られるようにしといて」

提督「……分かった」

 今度は先ほどとは逆に、女性の部屋に入るのは気が引けたが、今ばかりは止むを得まい。

 いっそ浜風に頼むと言う方法もあったが、彼女は睦月と相部屋だ。万一浜風を起こすつもりが睦月まで起こしてしまったら、加賀の事をどう伝えればいいのかが非常に悩ましい。

 今の睦月や、或いは伊58に、加賀の状態は知らせたくない。

 加賀を慕っていた夕立に知らせてみるのも考えたが、それはそれで、工廠室に突撃しそうで怖い。

 鈴谷と榛名の邪魔はさせたくないのだ。

 なので、この状況では、俺が加賀の部屋に入らざるを得ない。

鈴谷「……ねぇ」

提督「なんだ、まだあるのか」

鈴谷「……」

提督「なんだ?」

 緊急事態だと言うのに、何故押し黙るのだろうか。

 いっそ振り返って尋ねたかったが、それは堪える。

鈴谷「……机の上」

提督「何?」

鈴谷「なんでもない」

 誤魔化すように鈴谷が慌ててかき消したが、確かに聞こえた。

鈴谷「さっさと行って、っていうかドア閉めて。空気とばい菌が入るから」

提督「す、すまない。わかった」

 最後は追い出されるように工廠室を後にした。

提督「机の上、か……」

 鈴谷の言葉を繰り返しながら、鎮守府へと急いで戻った。


提督「ここが加賀の部屋か?」

 よくよく考えたら俺は加賀の部屋を知らなかったわけだが、しかしこれは消去法で潰していくだけだった。

 今だけはこの鎮守府が空きだらけで良かったと少しだけ思う。

提督「……意外に物が多いな」

 加賀の部屋の第一印象がそれだった。

 とにかく物が多い。足の踏み場がない、とまでは言わないが、伊58の部屋や榛名の部屋(こちらは用意したばかりではあったが)と見てきたので、尚更そういう印象を受けた。

 どことなく加賀のイメージとして、余計なものは持たなさそうと言うものがあったが、こうしてみるとそうでもない。

 女性物の小物や観葉植物。

 カラフルな置時計や麦藁帽子。

 或いは菓子だったり果ては大きめな熊のぬいぐるみと、色々なものがある。

提督「……」

 しかしそれらはどことなく奇妙な感じがした。

 というのも、あまりに規則性や統一性がないのである。

 普通自分の部屋にものを置くのであれば、ある程度その人物の好みが反映され、結果部屋が人を表すということになるのだが、何故か加賀の部屋はそういった感じを受けない。

 乱雑に物をただ並べただけのような、煩雑に物をただ揃えただけのような、そんな印象。

提督「……、いや、今はそんな事は置いておこう」

 何も俺は加賀の部屋を見に来たわけではない。鈴谷に言われたことをしにきたのだ。

提督「……、加賀、すまん。許せ」

 本人がいないのにこんな事を言っても詮無いのだが、しかし言わないといけない気がしたので謝っておく。

 女性のベッドを触れるなどよろしくないことだが、状況が状況だ。

提督「……」

 指先だけでぎこちなく触れながらベッドとその周りを片付ける。

 物が多いので、担ぎ込むには少し手間がかかるかもしれない。

提督「……ん」

 そう思い、部屋の中に動線を作るべく物を動かしながら、ふと机の上に目がいく。

 鈴谷の言葉がやはり気になっていたのだ。


 机の上には、こちらも物が幾つか置かれていた。

 万年筆に卓上カレンダー、それからガラスで出来た小さな置物。

提督「……これは」

 そして、一冊の日記帳。

 鈴谷が言っていたのは、これの事だろうか。

 確かに他にはめぼしいものは見当たらない。

 とはいえ、勝手にこれを見るわけにはいかないだろう。

 ただでさえ部屋に入り、物の配置を変えてしまったのに、加えて日記を見るのは如何なものか。

 前二つは緊急事態という事で説明はできるが、こればかりは加賀の命と関係がないのだ。

提督「……、……。……しかし」

 気になる。

 あの鈴谷が、わざわざ俺に言ったのだ。

 しかもあの緊急事態で、俺を呼びとめ、なおかつ応急処置しながらでも託した言葉でもある。

 何かしら、必ず意味があるはずなのだが。

提督「しかし、な……」

 それでも踏ん切りがつかない。指が粘着したかのようにどうにも動かなかった。

 表題も何もない日記帳をただ見下ろす。

提督「……」

提督「……」

 一分考え、二分悩み、

提督「……、……」

提督「……すまん、加賀。後で謝る」

 さらにそこから三十秒悩んで、結果俺は一ページ目をめくることにした。


『2013.07.01 本部の命により、今日よりこの鎮守府を監察対象として指定』

 綺麗な字で、そう始められた日記は、どうやら加賀がこの鎮守府に来てからの内容だった。

 加賀は本部直属の艦娘で、様々な鎮守府へ観察に向かうことを職務としていたらしい。

 今から一年半前、加賀はここにやってきた。

 監察対象と言う事は、この時既にこの鎮守府には問題があったようだ。

 それがどんな内容かが気になったが、すぐに分かった。

『当鎮守府での監察内容』

『一 長時間、及び長期に渡る必要を超えた艦娘の勤務時間』

『二 所属する艦娘への暴虐』

『三 他鎮守府の管理する艦娘への暴虐』

『四 三による壊れた艦娘の不正な確保』

『五 本部への反乱計画の有無』

提督「……」

 読んでいるだけで気が滅入りそうな文章の羅列だ。

 艦娘に対して酷い態度だったのは確かで、以前鈴谷がこの提督に対して“屑”と罵っていたが、その気持ちは否定できない。

 ましてやこれによると、ここの提督は他の鎮守府に対しても武力を行使していたようにとれる。

 その上、それにより大怪我を負った艦娘をまるで強奪しているかのような繋がり方だ。

 おおよそ艦娘を人と思っていないような、そんな内容。

 これを告発したのは、この鎮守府にいた艦娘なのだろうか。

 あるいはそれが鈴谷という可能性も考えられたが、しかし今の段階では憶測の域を出ない。

 次のページを読むことにした。

(アニメ観るので一旦止まります)


『2013.07.02 艦娘に覇気がない。皆虚ろな目で廊下を歩いている。談笑は一切なく、怒りやあるいはすすり泣く声が聞こえる程度』

『2013.07.03 遠征に行っていた艦隊二組が戻ってくる。五人の艦隊のうち四人に片腕がなく、残りの一人は片足がなかった。もう一組は四人の艦隊で、こちらは皆義手と義足をしていた』

『2013.07.04 執務室から出てきた艦娘が頭から出血をしていた。何があったか問いただしても何も得られなかった』

『2013.07.05 トイレにて嘔吐と痙攣を発症している艦娘を保護。何故近くに居た子は助けないのか』

『2013.07.06 隣の部屋の扉をかきむしる音が気になり開けてみると爪の剥がれた艦娘を発見』

『2013.07.07 隣の部屋が静かになった』

『2013.07.08 隣の部屋が空き部屋になった』


提督「……」

 吐き気のするような内容が延々と続き、思わず日記を閉じた。

 こんな酷い、劣悪な環境があっていいのか。憤りさえ覚える。

 そして鈴谷は、この鎮守府にずっといたことになる。

 加賀でさえ一年半この地獄に漬かったのだとして、果たして彼女は何年ここで過ごしてきたのだろうか。

 考えるだけで肺が泥に溺れそうになる。

提督「……」

 頭を振って、再度日記帳を開く。


 その後もしばらくはこの鎮守府の恐ろしい所だけがただ羅列されていった。

 日記は必ず毎日、一日たりとも欠ける事はなく記され続け、その度に凄惨な単語と文章が胸を突き刺していく。

 もしも俺が加賀ならば、果たして耐えられたかどうか。いかに日記がそのまま本部への監察結果を伝える胸になるのだとしても、きっとどこかでどうにかなっていたかもしれない。

 しかし加賀の精神力はそれに耐え続けた。

 淀みなく淡々と綴られる文字。

 終わりのない地獄に見えた内容だったが、丁度一ヵ月後の八月に、事態が急変する。


『2013.07.31 監察を終了』


提督「どういうことだ?」

 突然の文章に疑問を抱いたが、すぐにそれも氷解する。


『一ヶ月の監察の結果、当鎮守府は規定及び倫理を大きく逸脱しており、これは評議裁判、または処罰の対象であることは明白である』


 そうだ。何も加賀は、ずっとこの鎮守府にいるわけではなく、監察で来ていたのだ。

 であれば、一ヶ月という期間を経てこの日記が終わるのは極めて妥当だった。

 後はこの日記が本部に渡り、ここの提督が……

 ……、……。

 ……?

提督「……、いや、まて。それはおかしい」

 自分で自分を訂正しつつ、凍るような表情でページに視線を落とす。

提督「だったら何故、この日記はここにあるんだ」

 それはありえないことだった。

 何故ならこの日記は、本部になければならない。

 この日記が、この鎮守府の闇を暴く決定的な証拠になるのだから。

提督「……」

 汗が一つ、頬を伝う。

 微かに震える手で、ページの端を持つが、上手くめくれない。

提督「……、くそっ」

 やや乱雑に、一度手汗を拭いながら、ページをめくった。

提督「……」



 その先の日記は。

 この一ヶ月よりも更に深い闇を切り取ったもので、

 加賀の重い瞳の正体でもあった。

 そしてそれはそのまま、深海棲艦への執念の始まりとも言えた。


『2013.08.02 部屋に軟禁されている。どうやら私にここの鎮守府の問題を本部へ報告されたくないらしい』

『2013.08.03 私を軟禁するのは艦娘だったが、察するに提督の命令だろう。彼女たちは彼に逆らえない。
 部屋の見張りは二人。しかし彼女たちは皆疲れ果てていて、意思も薄弱としている。抜け出すのは容易だ』

『2013.08.04 見張りの艦娘が発狂した。突然のことだったので理由は分からない。放ってはおけないので保護した。脱出は明日にする』

『2013.08.05 昨日発狂し、失神した彼女が目を覚ましたとのこと。見張りは別の艦娘に代わってしまったので、理由を聞く事は出来なかった。もう一日だけ様子を見て、彼女に接触を試みる』

『2013.08.06 部屋を脱出し、彼女の元へ行く。何故急に取り乱したのか聞いてみた。聞かなければ良かった』


提督「……」


 簡単に言えば、処刑だ。

 彼女たちは提督に指示されて、加賀を見張っていた。

 もし加賀に逃げられたら処刑するというようなことを言われたらしい。

 地獄で生きる彼女たちにとって、それはまさに死の宣告に違いない。

 そんな事を言われたら、取り乱しもするだろう。

 そしてそれを聞いた加賀は、


『2013.08.07 一時脱出を保留する』


 逃げ道を塞がれてしまった。

 強引に脱出しようと思えば出来ただろう。

 しかし、その結果処刑される艦娘が居ると知った加賀に、その足は踏み出せない。

 もし自分がここで脱出したら、私を止めるように命令されたこの艦娘達は処刑されるのではないか。

 そう考え、加賀は脱出が出来なかったのだ。

 本部直属で、この鎮守府に思い入れがなくとも、同じ艦娘であることは変わりないのだ。

 ただでさえ提督に支配され、身も心も壊れかけている彼女達の、背中を押すようなことは、加賀には出来なかった。

 艦娘に罪はない。ならば彼女たちを守るためにも、自分はここに残るしかない。そうせざるを得なかった。

 それは、加賀が未だ壊れていないということでもあった。

 まだこの時、加賀の心は形をきっと保っていた。


『2013.08.10 あの彼女が、出撃にて深海棲艦に攻撃を受ける。頭部の一部を損失』

 あの彼女、というのは、先に出てきた加賀を見張って発狂した子だろう。

 頭部の一部を損失、の後には眼球の欠落や脳への影響などと言った内容が淡々と書かれており、察するに彼女は本当に体を壊してしまったようだ。

『2013.08.13 彼女の面倒を誰も見ていないことを知る。私が見ることにする。まずは漏らしてしまっていたので処理をする』

 深海棲艦にやられた脳の損傷は大きく、出撃はおろか、起き上がることさえ出来ないようだ。

 手足も殆んど動かないようで、何故そんな彼女を三日も放置していたと言うのか。

 この間彼女は食事や入浴、或いは加賀の日記に書いてあるとおり排泄さえ出来ていなかっただろうに。考えたくもない話だ。

『2013.08.17 彼女の頼みで、彼女の部屋にあった私物を持ってくる。部屋の中を見るくらいしか出来ない彼女曰く、殺風景で悲しくなるらしい』

 熊のぬいぐるみや女性物の小物は、彼女のもののようだった。

 ……、それを加賀は、今でも捨てずに持っている。一年と四ヶ月もたった、今でも。

 それはつまり、持ち主である彼女は既にこの世に居ないということを指しているようで、思わず奥歯を強く噛んだ。



『2013.08.19 提督が彼女の処分を決めた』


 
 しかし、抗いようのない地獄は続く。



 出撃どころか、動くことさえ出来ない彼女に対する処分。

 それは確かに仕方のないことだった。

 とはいえ、だからと言って、それをすんなり認められるはずがない。

 加賀は抵抗した。反抗した。

 しかしそれでも提督は変わらず、彼女を処分することに決めた。

 この頃にはもう加賀の中から脱出という言葉はなくなっていただろう。

 ただ加賀の中にあったのは、彼女を守ることだけだったに違いない。

 彼女を守り、冷徹で無慈悲な提督に反抗し、生きることだけが加賀の糧だった。

 だが、肝心の彼女は。

 肝心の彼女は、もう、そうではなくなってしまっていた。


『2013.08.20 彼女の処分が決まる。月末だ』


 長らくこの地獄で身を焼かれてきて、とうに体は朽ち果てて、心さえも擦り切れて、それでも何とか生きてきたであろう彼女。

 しかしその背中を突き、崖から落とすような処分と言う言葉に、とうとう彼女の心は折れた。


『2013.08.21 彼女に殺してくれとせがまれる。断る』


 加賀の綺麗だった字が、微かに歪んでよれていた。




『2013.08.22 彼女が殺してくれと喚く。断る』


『2013.08.23 彼女が殺してくれと発狂する。断る』


『2013.08.24 かのじょがしたをしんでしのうとする。とめる』


 この日だけ全て平仮名なのは、恐らく、加賀が彼女を止めようとして口に手を突っ込んだのだろう。

 その際に彼女が加賀の指を噛んだので、上手く筆が取れなかったのかもしれない。

 痛みからか、辛さからか、悲しさからか。或いは、怒りか。字は震え、上の行へはみ出すほどに乱れていた。


『2013.08.25 モルヒネの投与をやや減らす』


 一行一行、一日一日が過ぎるたびに、身を切られるような加賀の想いが伝わってくるようだった。

 モルヒネの量を減らしたのは、決して快方へ向かったわけではなく、むしろタイムリミットが迫っているからのようだった。

 或いは提督の差し金で、薬を取り上げられたのかもしれない。限られた量で日々を過ごすために、切り詰めなければならなかったと考えた方が良いだろう。


『2013.08.26 彼女が便を漏らす。赤子のように笑い続け』


 最後の文字が滲んで消えていた。それは恐らく、加賀の涙だ。

 モルヒネの副作用としては便秘になりやすいというのがあり、恐らく薬の量を減らしたことでそうなったのだろう。

 そんな状況で彼女が笑っていたのだとしたら、やはりそれは本当に壊れてしまったのだと思う。

 そしてそれは、処分に抗えなくなると言う意味でもあった。

 もし彼女が心だけでも保てていれば、万に一つでも提督が処分を躊躇ってくれたかもしれないが、今の彼女を見てそうするつもりはおきないだろう。

 加賀の涙は、それを悟ってしまったなのからかもしれない。

 自分ではもうどうすることもできない、逃れられない別れの日。

 それが、見えてしまった。


 そしてその終わりを悟ったのは加賀だけではない。


『2013.08.27 あれだけ狂ったように笑っていた彼女が、静かになった。彼女に、死なせてといわれた』


 殺してくれ、ではなく、死なせてと。

 きっと彼女にとって、残った僅かな理性と加賀への想いだったのではなかろうか。

 殺してくれと加賀にせがんでも、加賀はやはり拒むだろう。

 いくら彼女が辛くても、自らの手でその命を刈り取ることは加賀には出来なかった。

 だから、死なせてと。どうか死なせてと。

 自分で動けない彼女が死ぬには、それでも加賀が手を貸すことになるだろう。

 大差はないように思えるかもしれない。違いはないように見えるかもしれない。

 しかしそれは些細なような、それでも大きな違いだ。

 加賀が加賀の意思で彼女を殺すのと、彼女が彼女の意思で死のうとするのを手伝うのとでは、意味合いがまるで違う。



『2013.08.28 』

『2013.08.29 』

『2013.08.30 』


 日付だけの空白が三日続いた。

 これまで、どんな地獄でも、一日たりとも欠けることのなかった日記が、初めて欠けた。

 それは、どんなに長い文章よりも、却ってそのまま加賀の苦悩を表している様に思えた。

そして、八月の最終日。彼女が処分されると決まった日がやってくる。






『2013.08.31 彼女を殺した』





 たった一言、日記にはそう書かれていた。


 何度も、何度も、書き直した跡がある。

 ページの下部は濡れていた。言うまでもない。加賀の涙だ。

 自責、後悔、惜別、憎悪、それから愛情。

 数え切れないほどの想いが、数え切れないほどの書き直しで表されていた。

 やはり、彼女は死んでいた。

 加賀のベッドの傍にある熊のぬいぐるみ。

 今も加賀は、彼女と一緒に居るという思いなのだろう。

提督「……」

 大きく溜息を吐く。喉が微かに震えた。

提督「……ん」

 日記はまだ続いていた。

 これ以上何を書く事があるのだろうかと思いながらもやはりページをめくる。

 その先は、これまでと違い、再び元の綺麗な字に戻っていた。

 しかしそれはどちらかと言うと冷たく、何も感情を感じられない字だ。

 恐らく彼女の死と共に、加賀の心もまた、死んでしまったのかもしれない。

 大切な仲間に手を下した加賀だったが、その現場を提督は見ていたらしい。

 処分当日だったので、様子を見に来たのだろうか。ありえない話ではなかった。

 しかしその提督の恐ろしいところはそこからで、日記を追うと、どうやら二人は一度本部へ出廷しているようだ。

 元を正せば確かに、加賀は監査を目的にこの鎮守府に向かったはずで、予定を一ヶ月過ぎて未だ戻らないのだから、よほど強く催促されたに違いない。

 いかに悪質なこの提督でも出向かないわけにはいかないだろう。

 だが、なんとこの提督は、本部へつくなり謝罪するどころか“大事な艦娘を殺された”と本営に訴えたのだ。

 挙句、加賀を賠償と言う形で強奪し、本営へ情報が漏れないように画策した。

 まるで考えられないような立ち振る舞いだったが、鎮守府で彼に逆らうものなど殆んど居ない。居たとしてもかつての加賀のように、仲間の処分をちらつかせられ、身動きが取れなかっただろう。

 肝心の加賀も、その頃には既に心が折れ、断るようなことはしなかった。

 きっとこの時から加賀の瞳は、あの深く淀んだものになっていたに違いない。

 そして提督が辞めるまでの間、壊れた艦娘に最期の処分をする係を押し付けられた。


 地獄のような日々だった。

 日記はもはや、日記とは呼べなくなっていた。

 最期を看取る艦娘の名前。その艦娘に言われた恨みや辛み、嫉み。

 死に逝く人間の最期の言葉ほど残るものはない。ましてやそれが、自分への呪詛ならば。

 きっとその度に必死に、“自分はこの子たちとは違う”と自分に言い聞かせてきたのだろう。


 自分はこの子とは違う。手がある。腕がある。

 自分はこの子とは違う。足がある。指がある。

 自分はこの子とは違う。眼がある。耳がある。

 自分はこの子とは違う。歩ける。走れる。喋れる。

 自分はこの子とは違う。……生きている。


 だけれどそれは、生きているだけで、きっと心は死んでいた。

 加賀の心は一年前の夏に、この場所で、彼女と共に死んでいた。


 そしてそんな加賀にとって、深海棲艦さえいなければ、誰もこんな目に合わなかったという思いがあるかもしれない。

 だからこそあそこまで深海棲艦を殺すことに執念を燃やしているのだろう。

 死んだはずの心で、壊れたはずの心で。

 それでもその時だけは、加賀はきっと、彼女たちと戦っている。

 彼女たちの分まで。


【加賀の好感度が30を超えました】

睦月まで書けなかったよ……。今日はここで終わりです。

すみませんが今日は体調不良のため更新出来ません。
明日も恐らく(治っても仕事で)更新出来ないと思います、ご了承下さい。


鈴谷「ねぇ」

提督「っ、鈴谷か」

 加賀の日記帳を机に戻す。ドアに目を向けると、そこには加賀を抱えた鈴谷と榛名がいた。

鈴谷「読みふけりすぎ。肝心な時に居ないんじゃ意味ないじゃん」

提督「すまない」

 肝心な時、というのは、恐らく加賀をここまで背負う位の事はしろ、という意味合いだろう。

 治療も鈴谷に任せ、さらに移動まで彼女に任せてしまったのだから、何も言い返せない。

鈴谷「……、まぁ、あんたに担げって言っても無理な話だった?」

 ふっと三日月のように唇を歪める。

 それはきっと、以前の演習での会話を再度引っ張り出したのだろう。

 睦月と似ているといわれた。榛名と似ているといわれた。

 人と関わるのが嫌だと指摘された。

提督「……」

 正直な所、自分の事を一番理解していないのは自分だろうと思う。

 睦月を助けたい。榛名を救いたい。伊58を守りたい。加賀を庇いたい。

 鈴谷だってきっと過去に苦しんでいる。

 浜風だって本当は何か苦しんでいることがあって、夕立だってこれから苦悩に直面するかもしれない。

 或いは、雪風や金剛にだって、こんな俺の腕でいいのであれば、躊躇いなく差し伸べるつもりだ。

 しかし、その反面、俺は睦月の頭を撫でられなかった。

 居58の手をとろうとしてやめた。夕立にだって何もしなかった。

 阿賀野の体温が、怖かった。

 睦月の甘い声が、怖かった。

 浜風の囁き声が、怖かった。

 雪風の笑い方が、怖かった。

 金剛の笑い方が、怖かった。


 皆を救いたい。

 だけれど、皆と一緒に居るのは、怖い。

 一度失ったものを完璧に取り戻すことは出来ない。

 そして、一度失ったから、

 もう何も失いたくなくて、踏み出せない。

 自分がどうすべきなのかが、分からない。


提督「……鈴谷」

鈴谷「何、後にしてよ。今は加賀さん横にしたいんだから」

 尤もである。加賀を抱えながら話をするわけにもいかない。

提督「そうだな。替わるよ」

鈴谷「……良いよ今更」

 訝しげな、不機嫌そうな表情を浮かべながら鈴谷が息を吐いた。

 その息が白く凍るように濁る。

 最初に榛名の声で執務室を出てから、どれくらい経っただろうか。

 一時間か、二時間か。窓の外をじっくり見れば、陽の切れ端が見え始める頃だ。

 真冬のこの時間に、冷たいコンクリートの上で意識を失った加賀と、彼女を治療した鈴谷。そしてそれを手伝った榛名。

 三人の体は冷え切ってしまっているに違いない。

 そう思うと、ただここで日記を読んでいただけの自分が情けなくなってしまった。

 そういう考えがあったわけではないが、少しでも鈴谷と榛名の役に立つべく、俺は加賀をベッドまで運ぼうと思ったのだが、しかし鈴谷ににべもなく断られる。

 とはいえ、それで素直に納得してしまっては立つ瀬がない。

 目を覚ました加賀が、後々(意識がなかったとはいえ)俺に自室まで運ばれたと知るのと、それが鈴谷とでは雲泥の差があるだろうが、さりとて提督である俺が何もしなかったというのも問題があるだろう。

 ……、別段加賀に対して伺いを立てるわけではないが。


提督「確かにそうだが、鈴谷も榛名も疲れただろう。少しくらい手伝わせてくれ」

鈴谷「……」

 しかし鈴谷は何も言わない。

 その表情は、三日月のような冷笑ではなく、訝しげな疑いの目でもなかった。


提督「……鈴谷?」

鈴谷「な、なに」

 鈴谷に近づく。びくりと鈴谷が肩を震わせた。

提督「加賀をだな」

鈴谷「い、良いって言ってるじゃん」

 眉を顰めた。だが、それはどことなく怯えたような顔だ。

榛名「す、鈴谷さん?」

 鈴谷の変化に榛名が首を傾げる。

 勿論俺も同じだ。

提督「どうしたんだ、鈴谷」

鈴谷「……、……」

 鈴谷は何も答えない。

 短く浅い、そして乱れた息が鈴谷の口から漏れた。

 加賀の体を挟んで、鈴谷とはすぐ近くだ。

 加賀の背に腕を回す。そのまま加賀の体重を自分に預けさせる。

 冷えた加賀の身体の感触と、同時に同じく彼女を支えていた鈴谷の手に俺の手が触れた。


鈴谷「──っ!」


 瞬間。

 爆ぜるように、鈴谷が身を引いた。

提督「っと、と……!」

 バランスを崩しそうになり、足に力を入れながらすんでの所で堪える。

 余計な力が入ってしまったのか、意識のないまま加賀が少しだけ表情を歪ませた。

 しかし、その加賀より激しく取り乱したのは鈴谷だ。

鈴谷「……、……、ふぅ、ふぅ」

鈴谷「触ら、ない、で……」

 肩で息をしながら、俺が触れた手の先を強く握り締めた。

 まるで熱した鉄板にでも手を置いてしまったような、そんな反応だ。

榛名「鈴谷さん、ど、どうしたんですか?」

鈴谷「なんでもない! ……なんでも、ない」

 青ざめた表情で、唇を震わせながら叫んだ。

 真冬の廊下に、鈴谷の声が吸い込まれるように消えていく。


鈴谷「……、あたし、もう戻るから」

 胸の前で両手を握り締めながら、息を乱して口早にそう言った。

榛名「す、鈴谷さん?」

提督「鈴谷」

鈴谷「もういいでしょ、後は二人で何とかしてよ」

 俺と榛名を交互に睨みつけるその瞳には、微かに濡れていた。

 三日月のような冷笑も今はなく、触れれば揺らいで見えなくなる、水面の月のようだった。

 踵を返して、逃げるように背を向ける鈴谷。

提督「鈴谷、待ってくれ」

鈴谷「うるさい、さっさと加賀さん寝かせなよ」

 鈴谷のいう事は尤もだったが、どうしても聞きたいことがあった。

 そしてそれは、今ここで聞かなければ答えてくれない様な気がした。

提督「一つだけ聞かせてくれ。何故鈴谷は、加賀の日記のことを俺に……」

鈴谷「……」

 しばし沈黙が流れた。

 微かに鼻を啜る音がした。吐いた息を震わせながら、鈴谷がぽつりと呟く。

鈴谷「……、……。口で説明するより、分かりやすいでしょ」

 それは、かつてここで起こった悪夢の日々の事だろうか。

 筆舌にさえしにくいあの出来事を、確かに言葉で説明しろと言われても、加賀も鈴谷も身を焦がす痛みを負うだけだ。

提督「ああ。良く分かったよ、少なくとも、加賀がここでどういう想いをしたのかは」

 文字を追うだけで胸が締め付けられる気分だった。

 それを実際に体験してきた加賀はもっと辛かった筈だ。

 それこそ、こうして殺意を持って一人で深海棲艦に立ち向かうくらいに。

 或いは。

 或いは、鈴谷も、

提督「……、君も、この鎮守府で」

鈴谷「……」

 加賀と同じ様な地獄を味わってきたのだろう。

 答える代わりに、寒さに耐えるように鈴谷が自分の肩を抱いた。


鈴谷「……、ここは、地獄なんだよ。今も昔も、変わらず」

提督「……」

鈴谷「だから、誰かを助けようだとか、救おうだとか、そんな甘い夢物語は、語られるだけ迷惑なわけ」

榛名「鈴谷さん……」

 だけれど、そう語る鈴谷の言葉は、誰よりも哀しい声だった。

鈴谷「その日記見て、分かったでしょ。あんたには何も出来ないって、分かったでしょ」

 震える鈴谷の後ろ姿は、どうにも儚く、小さく見えた。

 それを、助けて欲しがっている風だと言ったら、彼女は怒るだろうか。

鈴谷「所詮ここはそういう場所なんだよ」

提督「……」

鈴谷「……だから。あたしたちに、構わないで」

鈴谷「放っておいて……」

 最期にそう零すと、ふらふらと揺れるように鈴谷が歩き出した。

 追いかけようと一歩踏み出した榛名を制す。

 今の鈴谷を放っておくのも心配だったが、何より加賀を休ませたい。

提督「榛名。今は、一旦時間を置こう」

榛名「……はい」

 不安そうに榛名が再度鈴谷の背中を眺める。釣られて俺もそれを追った。

 その背中は、とても脆く、今にも折れそうな氷柱のようだった。

夕飯食べたりするのでまた少し間開きます。続きは睦月のお話からです


榛名「提督、出撃なのですが……」

 加賀をベッドに寝かせてから数時間後。

 長く感じた夜も明け、ようやく太陽が鎮守府を照らした。

提督「加賀もまだしばらくは動けないだろうな」

榛名「はい」

 恐らく今日か明日には意識を取り戻すだろう。

 榛名曰く鈴谷の処置は完璧で、驚くほど的確だったと言う。

 それを単に鈴谷が器用だと言い切ってしまうのは簡単だったが、しかし加賀の日記や鈴谷の言動を考えるに、そうではないのだろう。

 恐らく鈴谷も、加賀と同じく“そういう知識”を覚えざるを得ない暮らしだったのだ。

 この鎮守府で、自分や仲間の命を保つために、きっと何度も加賀にしたような治療をしてきたのかもしれない。

 それは酷く辛いことだが、しかしそれがなければ、少なくとも加賀はもっと危ない状況に陥っていたのは確かだ。下手をしたら、命を落としていたかもしれない。

 まるきり無駄ではないのだ。彼女達の過ごした日々が、一切の余地なく全て不必要なわけでは、きっとない。

 地獄の日々で掬った手綱が、今回は加賀の命を引き止めた。

 そう思いたい。

提督「だから、出撃はしばし休みだ」

榛名「そう、ですね」

 とはいえ現状として、機械的な数字で見れば、一命を取り留めたばかりの加賀は戦力としては一旦は外さなければならない。

 次いで伊58も同様で、七人しかいない今の鎮守府においては、この時点で既に一つ手を欠いている。

 加えて恐らく鈴谷も、出撃には参加しないだろう。

 気まぐれで一度か二度演習には参加してくれたが、基本的な立ち位置として彼女は艦娘として行動することに反対している。

 ましてや昨夜……日付の上では今日ではあるが、ともかく先ほどのやり取りの後では尚更彼女が顔を出すとは思えなかった。

提督「君も、少しくらい休んでも良かったのだが」

榛名「いえ、榛名は大丈夫です」

 ちなみにではあるが、榛名はあの後加賀が目を覚ました時に備えてつきっきりだったようだ。

 僅かに充血した赤い目を瞬かせながら、やはり彼女は首を横に振った。


浜風「少し良いですか」

 と、ここまで一度も口挟まなかった浜風が声を発した。

 今執務室に居るのは、彼女を含めて三人だ。

 加賀の件もあり、全員をこの場に呼ぶのは憚られたのだが、しかし駆逐艦三人の中で一番冷静な彼女には話した方がいいと思ったのだ。

 とはいえ、今の睦月には話しづらい上に、夕立はいくらノックをしても返ってきたのは良く分からない寝言だけだったので、必然的にこうなることには変わりないのだったが。

浜風「私は、出撃した方がいいかと思います」

提督「何故だ?」

 だが、そんな浜風の言葉は、予想していないものだった。

 思慮深い彼女が出す答えにしてはいささか不可解なものである。

提督「今言ったように、最大で四人しか出撃できない現状で、無理にそうするのは得策とは言えないと思うが」

 榛名と浜風はまだ良いだろう。実力や戦闘経験、或いは判断能力などに優れているので、決して二人の実力に不安はない。

 しかし、残り二人に関しては決してそうとは言えない。

 夕立はまだまだ戦闘の経験が少ない上に、そう言う性格なのかどうにも一人で先走ってしまう。

 そんな夕立を操縦しつつ戦闘に集中するのは、四人では難しいだろう。

 そして睦月。

 夕立に比べれば戦闘の経験は十分にあるが、とはいえ今の彼女はあまりに精神が不安定だ。

 そんな夕立と睦月、二人を抱えての出撃は危険ではなかろうか。

浜風「そうですね」

 さらりと浜風も頷いた。

提督「なら、何故」

 意図が分からず、思わず尋ねるが、浜風は答えない。

 代わりに俺に目配せをして、次いで榛名を盗み見た。

提督「……、……」

 これは、榛名を外せということだろうか。

 少し悩んだが、浜風に口を開く様子が感じられなかったので、仕方なく榛名に一旦席を外してもらうことにした。


 榛名には、一度夕立と睦月を呼んでもらいに行くことにし、その旨を告げる。

 その言葉を聞き、不安げに一度こちらを振り返りながら、榛名が扉を閉じた。

 そして浜風と二人になる。

浜風「……」

提督「……」

 しばしの間沈黙が流れた。

 扉の方を向いたままの浜風。その表情は見えない。

 ……が、どんな表情をしているのかは、なんとなくだが分かる。

 彼女は、俺と二人の時にしかあの表情をしない。

提督「浜風。先ほどの話だが」

浜風「ええ、はい」

 くるり。

 浜風が振り返る。

提督「……、何故出撃するべきだと思うんだ?」

浜風「睦月のためです」

 事も無げにそう言った浜風は、やはり微笑んでいた。

 甘い毒を振りまきながら、うっとりと蕩けるような表情を浮かべて。

 執務室に、彼女を中心とした蜘蛛の巣が広がっていく。

浜風「提督」

提督「……、……」

 執務机に手をついて、やや上半身だけ前に出しながら囁いた。

 覗きこむ様な瞳に吸い込まれないように、口を真一文字に閉じる。


浜風「睦月を、助けたいでしょう?」


 ふわりと甘い匂い。

 それはどことなく睦月に似ていて、しかしやはり彼女とは違う匂いだ。

 甘く、だけれど取り込んだら全身が痺れる毒の匂い。

 振り払えない毒の霧。

 それらに絡めとられないように、やはり俺は口を閉ざしたままだった。


浜風「今の睦月は、どう転ぶか分かりません」

提督「……、ああ」

 蟻の巣を笑いながら見下ろしていた睦月。

 そんな睦月にとって、きっと浜風だけは特別だ。

 浜風だけは、居なくならない。

 浜風だけは、自分を一人にしない。

 睦月自身がそう思っていなくとも、あの朝のやり取りを鑑みるに全くそうではないとは思えない。

 どこか心の底の底で、欠片だけでもその想いがあるはずだ。

 これまでは無意識にそれを思わないようにしていたのだろうが、しかし俺が問いただしたことで気付いてしまったのだろう。

 あるいは、気付きかけている段階か。

 自分にとっての浜風がどれくらい大事か、または、浜風にとって自分がどれだけ大事か。

 その事に少しでも心を委ねてしまったから、心を向けてしまったから。睦月は分からなくなってしまった。

 自分が、どこに心を置けばいいのか。自分が、どこに心を頼ればいいのか。

 それが、分からなくなってしまった。

浜風「……そうしたのは、貴方ですけどね」

 少しだけ低い声で浜風がそう呟いた。

 それだけは甘くない、苦い表情だ。

提督「君は、睦月に立ち直って欲しくないのか?」

 そんな表情を見て、思わずそう尋ねた。

浜風「まさか」

 小さく息を吐く。その吐息が顔にかかりそうになり身を引こうとしたが、それより早く彼女の掌が俺の頬に触れた。

 別段力をこめられたわけでもない。両手ではなく、片手だけだ。逃れようと思えば、そうできた。

 ……しかし、何故だかそう出来なかった。

 それこそがきっと、彼女の毒牙なのだろう。

 背筋が震える甘い毒。

 咽るような、ねっとりとした甘い囁き。

浜風「私にとって、睦月は誰より大事ですよ」


浜風「だから、睦月には立ち直って欲しい。でも……」

提督「でも?」

 頬に添えられた彼女の手は、手袋をしているために温度は分からない。

 それでも手袋を通して少しくらい体温が伝わってきてもおかしくはないのだが、それがない。

 以前、睦月が浜風のことを寒がりだといっていたことを思い出す。

 あれは単に睦月が浜風の布団に潜り込む為の口実だと思っていたが、案外睦月の言うとおり、浜風は体温が低いのかもしれない。

 そしてそれが尚更、彼女を毒蜘蛛たらしめているように思えた。

浜風「それを貴方に取られるのが、少し癪です」

提督「……」

浜風「睦月は、私が守りたいんですよ」

提督「……そうか」

 再び浜風が口角を持ち上げた。

 切れ長の睫毛が少し下がる。

提督「別段、俺は睦月が元気になってくれるのであれば、それでいい。俺だろうが君だろうが、誰によって立ち直るかは、どうでもいい」

浜風「……ふふ」

 目尻を下げ、微笑みながら、浜風は。



 うそつき、と囁いた。


提督「どういう意味だ」

浜風「それは、貴方が一番お分かりでしょう」

 頬に添えられた彼女の掌から体温が奪われていく錯覚さえ感じた。

浜風「睦月……、いえ、睦月に限らず、傷ついた人を救うのは自分だと、貴方はそう思っている」

提督「……」

 赤子を寝かしつけるような、たおやかな声。

浜風「分かるんですよ。前も言ったとおり、似てますから」

提督「……、冗談はよしてくれ」

 半分はごまかしで、そしてもう半分は本音だった。

 睦月に似ていると言われた。

 榛名に似ていると言われた。

 そして今度は、浜風にまで似ていると言われたら、俺は一体どうすればいいのだろうか。

浜風「あくまで似ているというだけですよ。まるきり同じじゃありません」

提督「……、俺は、そうは思わない」

浜風「ええ。似ているだけですから」

 恍惚に近い表情で浜風が微笑む。粘ついた声で甘く啄ばむ様に息を吐いた。

 そして僅かに片手に力をこめる。それにより彼女の方へと少しだけ顔を引き寄せられた。

 間近に迫る彼女の顔に嫌な汗を掻きながら、ようやく俺は彼女の手を払いのけた。

浜風「……本題に入りましょう」

 しかし浜風は意に介さないように、特別何か反応するでもなくそう言った。

 身を引いて踵を返し、数歩後ろに下がる。

 喉元にかかっていた彼女の毒牙が少しだけ遠のいた気がして、思わず息を吐いた。

 そんな俺を見てくすりと微笑みながら、腕を後ろに組んで浜風が再度口を開く。

浜風「今の睦月は、どう転ぶか分からない。であれば、ここは腹を決めて睦月を何とかすべきでしょう」

提督「……、それには同意だ。だが、それと今日出撃することに何のつながりがある?」

浜風「簡単です」

 蟻の巣をほじくった睦月の様に、あっさりと、そして微笑みのままに彼女は次いで言った。



浜風「私が睦月の前で死ぬんです」


──────
────
──

榛名「提督、行って参ります」

提督「……、ああ」

夕立「頑張るっぽい!」

浜風「……」

提督「……」

浜風「……睦月、行こう」

睦月「あ、う、うん」

夕立「夕立が榛名さんの隣っぽい?」

榛名「はい。榛名、夕立さん、浜風さん、睦月さんの並びですね」

夕立「任せてー!」

浜風「あまり一人で先に行かないでね」

夕立「大丈夫! ……っぽい」

提督「……、榛名」

榛名「なんでしょう」

提督「……」

浜風「……」

榛名「……?」

提督「……、いや、なんでもない。気をつけてくれ」

榛名「は、はい……?」

浜風「……ふふ」


榛名「……、提督、聞こえますか。榛名です」

提督「ああ、聞こえる」

榛名「資源の回収、終わりました。これから帰投します」

提督「分かった」

夕立「……榛名さん」

榛名「ん、なんですか?」

夕立「何か、いるっぽい」

榛名「え?」

提督「どうした、榛名」

榛名「いえ、夕立さんが何かを見つけたようです……が」

提督「敵か?」

榛名「距離が遠くて、榛名では判別できません」

夕立「加賀さんが居れば、艦載機で見分けてくれたっぽいのに」

提督「いや、使える艦載機はない。加賀がいても、特別状況は好転していない」

榛名「……」

浜風「……敵です」

榛名「え?」

浜風「あれは、敵です」

夕立「人っぽい……けど」

浜風「いえ。あれは……」

榛名「……黒いフードに黒い服。まさか」

浜風「はい。あれは、戦艦棲艦です!」

榛名「……!」


榛名「提督、聞こえましたか? 戦艦の深海棲艦です。人型です」

提督「なっ……。なんでそんなのがこんな所に出るんだ?」

榛名「わ、分かりません。すみません」

提督「そうだな、すまない。……距離は?」

榛名「五キロくらいです」

提督「相手はその一体か」

夕立「攻撃するっぽい?」

提督「いや、駄目だ。四対一とはいえ、下手をしたらやられる。撤退だ!」

夕立「うぅー」

浜風「……、駄目です、気付かれました」

提督「何?」

浜風「こちらに向かってきています!」

提督「っ、くそ、まずいな。人型の戦艦棲艦ということは、航空攻撃もありえる。浜風、上空確認だ!」

浜風「──砲撃ありです!」

榛名「撤退します、撤退です!」

榛名「浜風さん、睦月さんを!」

夕立「気付かれたんなら、少しくらい反撃してもいいっぽい!?」

榛名「この距離であれば届くかもしれませんが、駄目です、撤退です!」

夕立「うぅー……!」

浜風「左上空!」

榛名「っ!」

夕立「やっぱり反撃するっぽい!」

榛名「駄目です!」

夕立「接近はしない、でも平行に移動しながらなら良いでしょ!?」

榛名「それは……!」

夕立「逃げるだけじゃ、いずれ潰される、っぽい!」

榛名「……、提督!」

提督「あくまで撤退が第一だが、それを維持しつつの牽制であればやむをえない!」

夕立「やるっぽーい!」


榛名「敵戦艦との距離四キロ、鎮守府まで十キロ!」

夕立「当たんないっぽい!」

榛名「浜風さん、睦月さんは!?」

浜風「後ろに居ます!」

夕立「ひゃあっ!」

榛名「夕立さん、大丈夫ですか!?」

夕立「こ、これじゃ戦えないっぽい!」

榛名「提督、夕立さん中破です!」

提督「くっ……!」

浜風「……睦月!」

榛名「えっ?」

夕立「えっ」

睦月「……!」

浜風「──……!」


 榛名の通信機を通して、水を叩く轟音が響き。

 次いで波の粒が水面を打つ音が続いた。

提督「榛名、状況は」

榛名「……あ」

提督「榛名」

榛名「は、浜風さんが……」

睦月「……」

提督「……浜風が、どうしたんだ」

 波の音と榛名の呼吸音の奥で、砲弾の音が聞こえる。

夕立「当たった! 逃げるっぽい!」

榛名「で、でも。浜風さんが……!」

睦月「浜風ちゃん……?」

提督「榛名、状況を教えてくれ!」

榛名「は、浜風さんが……砲弾直撃」

提督「……」

榛名「姿が見えません……」

睦月「浜風ちゃん……?」

夕立「もう一発! 今なら逃げれるっぽい!」

榛名「提督、浜風さんが」

提督「榛名」

榛名「は、はい」

提督「今は撤退だ。睦月を連れて、逃げてくれ」

榛名「でも……!」

提督「全滅だけは駄目なんだ!」

榛名「っ……」

提督「君達だけでも、帰ってきてくれ……!」

睦月「浜風ちゃん……?」

睦月「……浜風ちゃん?」

それトラウマ解消になってねーぞ!
浜風が生きてたら寧ろ命の大切さを学べるから裏目にもでるか


榛名「……提督」

 重い足取りで、榛名達が戻ってきた。

 曇天より淀んだ表情で榛名が、口を開いた。

提督「……、ああ」

榛名「すみません……すみません」

 言うが早いか、榛名は頭を下げた。

 そのまま崩れ落ちるのではないかと言う程に、力なく謝り続ける。

提督「榛名。頭を上げてくれ」

榛名「すみません。すみません……!」

夕立「榛名さん、落ち着いた方が良いっぽい」

 榛名が取り乱したことで、相対的に一番冷静さを保っている夕立が、彼女の肩に手を置く。

 倒れそうな榛名を支えるようにするも、しかし榛名の口からは同じ言葉しか零れ落ちなかった。

 そんな二人の様子を見ながら、首をかしげて睦月が、

睦月「浜風ちゃん、死んじゃったの?」

 と。笑いながら口にした。

榛名「……!」

 その言葉に肩を震わせたのは榛名だった。

夕立「……」

提督「……」

榛名「睦月、さん」

睦月「……?」

 睦月はただただ甘い笑顔を浮かべるばかり。

 それが却って榛名には堪えるのだろう。

 何も言ってもらえないのが榛名にとって一番の重荷なのだから。

榛名「……ごめんなさい。ごめんなさい」

睦月「……?」

 どうして榛名が謝るのか、まるで分かっていないと言った感じで、睦月が小首を傾げた。

夕立「……、榛名さん、今日は一緒に寝るっぽい」

榛名「……ごめんなさい」

 もはや返答にさえなっていない呟きを零しながら、そのまま夕立に手を握られて榛名が部屋を出て行く。

 睦月だけが昨日のままに笑ったままだった。


睦月「おやすみなさーい」


睦月「……」


睦月「あ。そっか、浜風ちゃん、死んじゃったんだっけ。にゃはは」


睦月「……」


睦月「……」



睦月「んん……ふわぁ。おはよう」


睦月「……」


睦月「あ。そっか、浜風ちゃん、死んじゃったんだっけ。にゃはは」


睦月「……」


睦月「……」



睦月「今日は何食べようかな。何が良い?」


睦月「……」


睦月「あ。そっか、浜風ちゃん、死んじゃったんだっけ。にゃはは」


睦月「……」


睦月「……」


睦月「そろそろ寝よっかな」


睦月「……」


睦月「……その内代わりが来るかな」


睦月「……」


睦月「……寒いな」


睦月「おやすみ」


睦月「……」


睦月「寒い」


睦月「寒いな……」


睦月「寒いよ……」


睦月「……おやすみ」


睦月「……」


睦月「こんなに代わりが来ないのは初めてだなぁ」


睦月「……」


睦月「……眠れないよ」


睦月「おやすみなさい」


睦月「……」


睦月「今日は、浜風ちゃんの布団で寝てみよう」


睦月「……」


睦月「……浜風ちゃんの匂いがする」


睦月「……おかしいなぁ。おかしいなぁ」


睦月「寒いなぁ。寝れないなぁ」


睦月「……」


睦月「……」


睦月「……あぁ。そっか」


睦月「そう、なんだ」


睦月「もう、代わりなんて、居ないんだ……」


睦月「浜風ちゃんは、もう居ないんだ」


睦月「……」


睦月「……」


睦月「……あは」


睦月「あは、あはは。にゃはは」


睦月「にゃははは!」


睦月「……」


睦月「……い」


睦月「……」


睦月「……逢いたい」


睦月「逢いたいよ……」

(トラウマ解消(犠牲がないとは言っていない))

(コンマ神「ロリ優先だから」)


睦月「提督」

提督「睦月、か? どうした」

 窓辺の月が、扉を開けた睦月を微かに照らす。

睦月「眠れないのです」

 ぽつりと睦月がそう零した。

 掠れた声だ。目元は赤く、満足に眠れていない様子がすぐに伝わった。

 寒さに震えるように身悶えながら、睦月が続けて言葉を漏らす。

睦月「あの、今日からここで眠っても、良いですか?」

提督「何故だ?」

 理由など、聞かなくても明白だった。

 浜風がいない。彼女が居なくなって、一週間以上が過ぎた。

 かつて睦月がこれほど長く一人になったことなど、恐らくなかっただろう。

 そうしてようやく睦月は気付いたのかもしれない。

睦月「……それは」

提督「……睦月。俺は、浜風の代わりにはなれない」

睦月「……!」

 人は人の代わりにはなれない。

 死んだ人は戻ってこない。

 その事に、ようやくだけれど。

提督「死んだ人間、死んだ艦娘に、代わりなんていないんだよ」

睦月「……、浜風ちゃんは、もう、居ない……」

提督「……」

 ふらりと睦月が揺れながら、俺の服の裾を掴んだ。

睦月「寒いんです。一人だと、寒いんです」

 布団にもぐりこむ相手は、もう居ない。

睦月「逢いたい。浜風ちゃんに逢いたい」

睦月「寒いよ……怖いよ」

睦月「一人は寂しいです……一人は、嫌です」

睦月「浜風ちゃんに……逢いたいです……!」

 ぽつりと漏れた言葉と共に、堪えていた涙が床に落ちた。

提督「……そうか」

 そんな睦月の頭に、ぎこちなく手を乗せて。

提督「……睦月」

睦月「はい」

提督「逢いに行こう。浜風に」

睦月「……え?」

!

生きていたのか浜風ェ~!(決闘者並感)


 翌朝。

 浜辺を俺と睦月、そして夕立と榛名の四人が歩いていた。

榛名「……、あの、提督」

提督「なんだ?」

榛名「その、本当に浜風さんは生きているんですか?」

 訝しげな声でそう尋ねる。

 夕立も首を縦に振り、そして睦月も不安げな表情だった。

提督「ああ」

 執務室にて一度説明したことを再度述べるが、それでも三人は未だに信じきれないでいるようだ。

榛名「戦艦棲艦の砲弾が直撃したはずでは……」

提督「辛うじて無事だったようだ」

 この言葉を言うのは、実は三度目だったりするが、それでもやはり腑に落ちないようだった。

提督「語るより、実際に会ったほうが早い。色々あって帰ってくるのが遅れたが……」

夕立「あ」

睦月「……!」

 砂浜の先に、一つの影。

 それは言うまでもなく、浜風だった。

夕立「本当に生きてたっぽい……!」

榛名「……」

 夕立が驚き、榛名は言葉を失ったように立ちつくした。

 そして睦月は、

睦月「……」

睦月「……、浜風、ちゃん」

 夢の中を歩くように覚束ない足取りで、浜風のほうへと歩き出した。

 一度砂浜に足を取られ、二度ほど転びそうになりながら、徐々にその足を早めていく。


睦月「はぁっ、浜風、ちゃん!」

浜風「うん」

睦月「浜風ちゃん!」

浜風「うん」

睦月「浜風、ちゃん……!」

浜風「……うん」

 ぎゅっと、強く、強く。

 力の限り、睦月が浜風を抱きしめた。

 浜風よりも背の低い睦月が、恐らく泣いているであろうその顔を浜風の胸元に鎮める。

 それに応える様に、浜風が睦月の背中に手を回した。

夕立「良かった……」

榛名「……はい」


睦月「浜風ちゃん……!」

浜風「なに?」

睦月「あのね……、あのね!」

浜風「うん?」

睦月「……おかえり!」

浜風「……うん。ただいま」

見える......睦月が浄化されていく姿が......


──────
────
──

提督「……君が死ぬ、だと。そんなの、俺が認めるわけないだろう」

浜風「あくまでフリ、です。本当に死ぬわけじゃありません」

提督「……」

浜風「深海棲艦から睦月を庇うフリをして、私は一度身を潜めます。それで睦月が独りに耐えられなくなった所で、折を見て戻ります」

提督「……しかし」

浜風「分かりやすい話だと思いますが」

提督「確かに分かりやすいが……」

浜風「そしてそれをするなら今なんです。加賀さんが居ない今」

提督「……、何故、加賀が居ない方がいいんだ」

浜風「あの人は強すぎますから。私が演技をする前に敵を倒してしまいかねません」

提督「……、そう、だな」

浜風「加賀さんと鈴谷さんが居なければ、必然四人での編成になります。睦月と榛名さんを両端において、間に夕立と私を置きます」

提督「……そうすれば、榛名は隣の夕立に気が行き、睦月のフォローは君に任せようとする」

浜風「はい」

提督「……」

浜風「どうですか?」

提督「……どうもこうもない。反対だ」

浜風「何故ですか?」


提督「まず、そう都合よく深海棲艦が現れるとは限らない。現れたとしても、丁度君が睦月を庇いつつ、尚且つ三人で撤退できる相手なんて尚更確率が低い」

浜風「現れるまでやればいいんですよ」

提督「……なに?」

浜風「何もチャンスは一度と言うわけではありません。加賀さんが戦線に復帰するまでの数日間か一週間ほどの間、毎日出撃すればいい」

浜風「仮にそれで駄目なら、この作戦はそれで終了です。出来なかったからと言って、睦月の症状が悪化するわけではありません」

提督「……、確かにそうだが」

浜風「それに、これは私の勘ですが」

提督「……?」

浜風「丁度よく、その深海棲艦が、現れそうな気がするんです」

提督「……、何か根拠でもあるのか?」

浜風「いえ、勘です。気にしないでください」

提督「……、……。万一、仮に都合よく深海棲艦が現れ、君が離脱できたとする。君はどうするんだ」

浜風「一度向こうの鎮守府に戻ります」

提督「戻る?」

浜風「はい。せめて無事だという事くらいは報告しないといけませんから」

提督「それには同意だが、何も今する必要はないだろう」

浜風「ついでですよ。まさか離脱した後ずっと海に居るわけにもいきませんから」

提督「……、そうだ、海だ。離脱して、向こうの鎮守府に向かう時、或いはこちらに戻る時。君は一人で海路を行くことになる。そんな危険なことはさせない」

浜風「別に海を渡るつもりはありません。陸路を使えばいい」

提督「……、……」

浜風「他に質問は?」

提督「……」

浜風「ないみたいですね」

提督「……一つ、ある。いや、今出来た」

浜風「なんでしょう?」

提督「……、君は、それを前から考えていたのか?」

浜風「……どういう意味ですか?」

提督「あまりに俺の質問に対して、理にかなった答えしか返ってこないからだ」

浜風「あら……」

提督「……」

浜風「……」

提督「……、君は」

浜風「さぁ。どうでしょう」

浜風「……ふふ」


提督(結果としては、上手くいったが)

 四人を見ながら、気付かれないように息を吐いた。

 睦月に、命の代わりなどはないという事。

 それをなんとか、分かってもらえたようではある。

 ただ、しかし、すっきりしない。

提督「……」

提督(浜風はああ言っていたが、やはり不自然なんだ)

 榛名達の前に現れた戦艦棲艦。人型で極めて危険な敵だ。

 鎮守府近海にそんな敵が現れるという事はあまりない。彼ら深海棲艦は、人型になればなるほど、人間がいる鎮守府よりも離れた場所に位置していると聞く。

 浜風は勘だと言っていたが、本当にそれは勘や運などと言ったもので片付けられるものなのだろうか。

 それに、陸路を使っての鎮守府の移動など、あまりに計画の準備が良すぎる気がする。

 まるで、前々から算段を立てていた計画が、ちょうど加賀の負傷によって実行に移せたかのような。

 そんな都合のよさがある。

提督「……いや」

 更に言うのであれば、睦月が俺の言葉によって不安定になった後に、加賀の負傷。

 もしも睦月の精神があそこまで乱れていなければ、今回の計画は実行した所であまり上手くいかなかったかもしれない。

 睦月の情緒が不安定になるより先に加賀が負傷をしてしまってはいけないのだ。

提督「あまりに、上手く行き過ぎていないか……?」

 胸がざわつく。

 砂浜の向こうで抱きつく二人。

 そこに零れる笑顔は本物だ。決して嘘ではない。

 だけれど、なんだろう。

 この違和感の様な、嫌な考えは一体……。

このおっぱい地球の意思そのものとかじゃないだろうな


睦月「……あ」

浜風「どうしたの?」

睦月「ううん、なんでもないのです。ただ……」

浜風「ただ?」

睦月「提督の部屋に、布団置きっぱなしなのです」

浜風「は?」

提督「……」

睦月「浜風ちゃんに会いにいくって話になって、色々と慌てたから」

浜風「睦月」

睦月「おりょ?」

浜風「ちょっと、そこの話をもう一回」

睦月「んー……?」

浜風「どういうこと? 提督と一緒に? え?」

睦月「揺すらないでよぉぉぉ」

浜風「提督、どういう事ですか?」

提督「いや、他意はない」

浜風「……」

提督「本当に他意はない。本当だ」

浜風「……」


睦月「浜風ちゃん、落ち着いて」

浜風「落ち着いてる」

夕立「目が据わってるっぽい」

提督「頼むから一旦話を聞いてはくれないか」

浜風「はい」

提督「睦月がだな」

浜風「睦月のせいにするんですか」

夕立「甲斐性なしっぽい!」

提督「どこでそんな言葉を覚えたんだ、いや、そうじゃない」

夕立「据え膳食らわば皿まで……っぽい?」

榛名「混ざってますよ」

睦月「なぁもう、違うの! 浜風ちゃんがいなくなったから、提督であったまろうとしただけなのです!」

提督「えっ」

浜風「……」

榛名「……」

夕立「Oh」

提督「いや、まるっきり違うと言うわけではないが……」

睦月「寒くて寂しかったから提督にお願いして一晩だけ一緒に寝ただけなのです」

提督「……」

浜風「……」

榛名「……」

夕立「Oh......」

提督「……部屋が一緒だっただけで、距離は離れてたし布団は別だ」

浜風「……」

提督「……うん」

浜風「……」

提督「……いや、ほんと、そういうのではないから」

浜風「今回だけは、特別に、許すとします……」

提督「ありがとうございます」


 翌朝。

睦月「提督、朝なのです!」

提督「っ、うわっ、な、なんだ?」

 突然扉を開けられて、思わず飛び起きた。

睦月「ほらほら起きるのです!」

提督「あ、ああ」

 何がどうなっているのか分からないが、睦月に引っ張られるようにして立ち上がった。

睦月「はい、着替え」

提督「あ、ああ」

睦月「お布団片付けるのでどいてください!」

提督「あ、ああ」

睦月「着替え終わったらカーテン開けて窓も開けて換気するのです」

提督「あ、ああ」

 同じ返事ばかり繰り返してしまっているが、しかし突然の睦月の来襲に未だ頭が追いついていない。

 言われるがままに渡された服を一旦執務机に置き、言われるがままに服を脱ごうとして、そこでようやく思考が働き始めた。

提督「って、いやいや、待て」

睦月「?」

 きょとんとした顔で睦月が布団を畳む。

 この際睦月が俺の部屋に来た理由は一旦横に置く。それよりも優先すべき事項があった。

提督「着替える。着替えるから」

睦月「はい」

提督「着替えるから、というより、その。脱ぐわけだから」

睦月「……」

提督「一度部屋を出てもらえないだろうか」

 十秒遅れて、睦月が顔を赤くした。

 限界までぜんまいを巻いたおもちゃのように、勢い良く部屋を飛び出る。

 そのまま扉を閉めた睦月と同時に二人して、大きく息を吐いた。

なにいってんだこっからがYPさんの出番じゃねーか
てか、加賀はトラウマ解消まで出撃できないのか? そうだと超好感度あげにくいな


 取り乱した心音を鎮める様に、一つ一つ息を吐きながら着替える。

睦月「提督、まだですか?」

提督「まだだ。そんなに早く着替えられん」

睦月「そうですか」

 ワイシャツに袖を通し、ボタンを締めていく。

 寒さと動揺で、いつもより上手く締められないが、ようやくそれも落ち着いてきた。

睦月「提督、着替え終わったら洗濯物に出しますので、着替え前のもください」

提督「分かった。もう少し待ってくれ」

 ズボンを履き、ベルトの金具に手をやった。冷たさに思わず背を震わせる。

睦月「提督」

提督「もう少し待ってくれ」

睦月「……」

提督「……睦月?」

 しかし睦月は喋らず、代わりに扉に背を預ける音が聞こえた。

睦月「提督。……えっと。言ってませんでした。ありがとうございます」

提督「……」

睦月「ほんとは、もっと早く気付かなきゃいけない事だったんですけど。浜風ちゃんが居なくなって、提督と昨日一晩話して、それでもう一回浜風ちゃんに逢えて」

睦月「……そこで、やっと気付けました」

提督「……ああ」

 昨日の夜の事は、浜風にも誰にも話していない。

 寒いと、寂しいと呟き続ける睦月にただ答え続けただけだ。

睦月「……ん。にゃはは。なんだか、ちょっと、恥ずかしいです」

提督「そうかもしれないな」

睦月「提督。扉、開けても、良いですか?」

提督「……ああ」

 ゆっくりと、静かに少しだけ睦月が扉を開けた。


睦月「……、……。にゃはは」

 恥ずかしそうに、というより、実際に気恥ずかしいのだろう。先ほど部屋を出たときのまま、睦月の顔は朱色に染まっていた。

 そのままドアノブを少しの間弄りながら、何かを言おうと唇を動かす。

睦月「……、提督!」

 そして意を決したように声を挙げた。

睦月「睦月、これまで迷惑かけた分、目一杯はりきっていきます!」

提督「ああ」

 甘く睦月が微笑んだ。

 それは確かに芯からの笑顔で、これまでの砂糖細工の様な、壊れた表情などではない。

睦月「だから、睦月のこと、ちゃんと褒めてください! 睦月は褒められて伸びるタイプにゃんです!」

 そう高らかに宣言すると、恥ずかしさを誤魔化すように睦月が敬礼をした。

提督「……ああ」


 そっと窓を開ける。微かな風が入り込んだ。

 冬の潮に負けないくらい、甘い甘い睦月の声と笑顔。

 きっとこの香りは、どんな菓子より甘いだろう。胸焼けなんてしない、幸せ色の香りだ。

 いつかちゃんと、彼女の柔らかな髪を撫でてあげられるような、そんな時が来ればいいと、今は素直にそう思えた。


【睦月の好感度が60になりました】

58?誰それ、刹那で忘れちゃった

>>790 オリョクル(ボソッ)


↓1

1.出撃

2.演習

3.工廠

4.その他(自由安価。お好きにどうぞ)

正直この鎮守府以外の艦のトラウマなんて加賀や乳風比べたら屁でもないな(慢心)
加賀は何時まで寝てんだろ

睦月の話しかしてないとかいう牛歩具合。本当申し訳ないです。今日はここまでです。
向こうの艦娘を出すことでこの提督の古傷を抉っていくスタイル。

よくみたら>>796、コピペミスって本文消えてしまってますね、すみません。

あと、言い忘れていましたが、睦月はノーマルな感じのルートになりました。
もっと浜風に任せきりにしてたら睦月の中で「提督<浜風」になってましたし、逆もまた然りです。

YPは5になったらいきなり爆発するわけではなく、段階を踏んでいきます。
白い絵の具に少しずつ黒を混ぜていく感じですね。
1溜まるごとにちょびっとお話が入ります。


榛名「提督、あの」

 控え目なノックと共に、同じく遠慮がちな榛名の声が届く。

 先の睦月の来訪ですっかり目が覚めていた俺はすぐに執務室の扉を開ける。

提督「どうした、榛……名」

榛名「……ええと」

 しかしそこに居たのは榛名だけではなかった。

提督「大淀、か」

大淀「ええ」

 凜とした声は、相変わらずやや冷たい。

 思っても見なかった相手に驚きながらも、表情だけは崩さず一度細く息を吐いた。

提督「わざわざ一体どうしたんだ。何か用か」

大淀「用がなければ来ませんよ。こんな……」

 こんな場所。

 そういいかけて、しかし途中で言葉は止まった。

 隣で居心地悪そうにしている榛名が目に入ったのだろう。

 大淀の冷たく厳しい態度はあくまで俺に向けたもので、彼女とて同じ艦娘まで卑下するほど酷い事はしない。

 彼女からすれば、俺は仲間を見殺しにした大犯罪者だろうが、艦娘はむしろ自分と同じ裏切られた側なのだから。

 それはあの鎮守府でも、ここでも。

提督「……、榛名、すまないが二人にしてもらっていいかな」

榛名「ええと、はい」

大淀「長居はしませんからお気遣いなく」

 淡々とした言葉を吐きながら、一度眼鏡を持ち上げ、そして耳にかかる部分を触る。

提督「……」

 昔からその癖だけは変わらないな、と。

 少しだけ懐かしく思いながら、扉を閉めた。


提督「元気だったか?」

大淀「ええ、まぁ。それよりも本題に入りましょう」

 世間話を挟む間もなく、大淀は持っていた茶封筒を俺に差し出した。

提督「これは?」

大淀「御自分で呼んでください」

 にべもなくそう言い返され、しかし受け取らないわけにもいかず、やや間をおいてそれを受け取った。

大淀「……」

 てっきりそれで帰るのかとも思ったが、そうではないらしい。

 尤も、本当にこの茶封筒を渡すだけであれば、確かにわざわざここに足を向けて、尚且つ執務室に入る必要などない。

 恐らく彼女は、この茶封筒の中身を見た俺に、何か言いたいことがあるのだろう。

提督「……」

 そして彼女と俺の間にある繋がりなど、一つしかなかった。

提督「……これは」

大淀「ええ」

 紙の擦れる音と共に、数枚の書類をめくる。

 そこに書かれていたのは、艦娘の名前だ。

提督「……」


 ──大和型一番艦・大和。同二番艦・武蔵。川内型三番艦・那珂。睦月型三番艦・弥生。朝潮型五番艦・朝雲。

 ──雲龍型一番艦・雲龍。大鳳型一番艦・大鳳。龍驤型一番艦・龍驤。吹雪型四番艦・深雪。睦月型二番艦・如月。


 それは、かつて自分のせいで命を落とした彼女たちの名前。

 そして、

提督「……」


 ──白露型一番艦・白露。同二番艦・時雨。同三番艦・村雨。同六番艦・五月雨。同十番艦・涼風。

 ──睦月型五番艦・皐月。同七番艦・文月。同八番艦・長月。

 ──巡潜乙型三番艦・伊19。海大VI型一番艦・伊168。巡潜三型二番艦・伊8。

 ──球磨型三番艦・北上。川内型二番艦・神通。

提督「……っ」

 ──白露型五番艦・春雨。


大淀「いつまでもこの資料をうちに置いておくのも嫌なので」

提督「わざわざ、これを」

大淀「はい。あるべき場所に戻しただけです」

 それは酷く正しい言葉で、酷く重い言葉だ。

提督「そう……だな」

 あの夏の日に、海に沈んだ十人と。

 それから後に、陸で死んだ十三人。

 ……、そして春雨。

 あの日から見続ける悪夢の、そこに必ず出てくる名前の羅列が、そこにはあった。


大淀「燃やしてしまっても良かったのですが」

 鋭い目線で一度俺を睨んだ後に、窓の外へと視線を投げた。

大淀「そうしたところで、得をするのは貴方だけですから」

提督「得、か」

大淀「ええ」

 彼女たちの名前の羅列。黒い文字が繋がって、そのまま鎖になるのであれば、とっくに俺の首を絞めている。

大淀「貴方が、現実逃避をする口実になるでしょう」

 悪夢のようなあの夏は、だけれど確かに現実だ。

 もういない彼女達の名前が、今こうしてここにある。

 彼女たちは話せない。

 彼女たちは睨めない。

 彼女たちはもう、何も出来ない。

 きっと夢として俺を責めるだけでは足りはしないのだろう。

 夢は朝になれば覚める。夢は目を開ければ逃げられる。

 だが、こうして弔名として連ねられた名前は消えはしない。

 この紙を見るだけで、この紙を繰り返し読むことで、あの夏が薄れない。

 たった数枚のこの紙に、忘れてはいけない現実がつまっている。


提督「……、ああ。これは大事にする」

大淀「そうですか」

 特別意外そうな声を挙げるでもなく、大淀はそう相槌を打った。

提督「捨てるわけないだろう」

大淀「てっきり、そうするかと思いましたが」

 再度眼鏡の後ろを触る。

 その癖だけは変わらない。

提督「そういう訳にはいかないよ。……、名前だけでも彼女達に触れられるなら、俺はこれを絶対に手放さない」

大淀「……」

 緩く溜息を吐いた。

提督「すまないな、君は良い思いではないだろうが、持ってきてくれて感謝している」

大淀「まさか今の貴方をうちの鎮守府に来させるわけにはいきませんからね」

 今度は眼鏡に触らなかった。

提督「……、そうだな。その通りだ」

大淀「……貴方が来ても、皆嫌がりはしないんでしょうけれど。でも」

 そこで一旦言葉を切った。

 しばらく沈黙が流れる。

 目は合わなかった。

大淀「……」

提督「……」

大淀「……でも。今はもう、うちの鎮守府の提督は、貴方ではないんです」

大淀「皆いつまでも、ひきずっていては、駄目なんですよ」

 か細く言葉が零れる。

 表情は限りなく無に近く、機微は窺えなかった。

 あるいは、それを察知させないように努めているのかもしれない。

 いつだって彼女はそういう性格だった。

 自分から貧乏くじを引くような、そういう性格だった。


榛名「あの……すみません」

 遠慮がちにノックが響く。大淀の顔を見るが、別段何も反応はなかった。

 それを見て、榛名を部屋に入れる。

榛名「お茶をお持ちしました」

 お盆の上に湯呑みを二つのせた榛名がそういった。

大淀「……」

提督「……だ、そうだが」

大淀「いえ。もう用件は済みました」

提督「そうだな」

 引き止める理由は何もなかった。

榛名「え、あ、あの……」

 慌てる榛名をよそに、大淀は踵を返し、彼女の横を通り過ぎる。

 そんな大淀に、一つだけ言葉を投げかけた。

提督「大淀」

大淀「……」

 返事はなかった。だが、代わりに、足を止めた。

 恐らくそれは彼女なりの譲歩だろう。

提督「雪風や金剛……いや、皆に、元気で、と言ってくれ」

大淀「……」

 一度だけ視線を宙に投げながら、そして髪を掻き分けるように眼鏡の後ろに触った。

大淀「お断りしますよ」

提督「そうか。ありがとう」

大淀「……では」

 今度こそ、大淀は立ち止まることなく、ぴんと伸ばした背筋のままに、鎮守府を後にした。


榛名「あの……」

提督「どうした?」

榛名「……すみません。余計なことをしたでしょうか」

 何故か落ち込む榛名だが、しかしあれは別におかしな態度ではない。

提督「大淀とは大体あの様な形だよ。君が気にすることはない」

榛名「……そうでしょうか」

提督「ああ」

 既に大淀が立ち去って、誰もいない廊下を見やる。

提督「……、お断りします、か」

榛名「?」

 最後に大淀が言った言葉だった。

 眼鏡の後ろを触りながら、彼女はそう言った。

 それは、昔から今も変わらない、彼女の癖。

提督「……、ありがとう」

 大淀の、嘘をつくときの仕草だ。




大淀の好感度上昇
↓1のコンマ十の位


提督「……これは、机にしまっておこう」

 大淀の持ってきた茶封筒を執務机の一番上の引き出しにしまい、一度伸びをした。

提督「ふぅ」

 そして榛名が先ほど持ってきた飲み干す。少し時間が経っていたこともあり、すっかり冷め切ってしまっていたが、良い香りが鼻を抜けていった。

提督「さて、午後は何をしようか……」



↓1

1.出撃

2.演習

3.工廠

4.その他(自由安価。お好きにどうぞ)

ちょっと作戦タイムください

こんなド直球に来るとは思ってなかったんです。演習からじわじわとってのを思ってました
大胆な安価取りは住民の特権、なんとかします


提督「……そういえば」

 午前に大淀が持ってきた茶封筒を再度開き、中身を取り出す。

 個人的に、この紙同士が擦れ合う音は好きなのだが、しかしだからと言ってその内容が好ましいものになるわけでもない。

提督「……ああ、やっぱりそうだ」

 先ほどは大淀との会話もあって、全てに目を通せていなかったようだ。

 良く見ると四枚ある紙のうち、一枚だけ内容が違った。

 他の紙は全てもう今はいない彼女たちの名前やその旨だったが、最後の一枚だけは異なるものだ。

提督「……」

提督「……!」

 その内容を見て、思わず俺は立ち上がった。

 その勢いのせいで椅子が倒れるが、そんな事は気にしない。

 すぐに外套を一枚羽織り、その内ポケットに紙をしまう。

睦月「おりょ、提督? お出かけ?」

提督「ああ」

 廊下で睦月に出くわすが、今だけは構ってあげられない。

睦月「睦月も一緒に行こうかにゃ?」

提督「いや、すまない、今回は留守番していてくれ」

睦月「むぅ……」

 睦月が少しむくれる。

 不満げな睦月の表情を見るのは初めてで、きっと状況が違えば嬉しいことなのだが、だけれど今はそんな余裕はない。

提督「……、すまない」

睦月「……分かったのです」

 少しだけ頬を膨らませながら、睦月が引き下がる。そんな彼女に謝りながら、俺は廊下を進み、そして玄関を出る。

提督「……、行くか」

 門を左に折れ、急いで街へと向かう。

提督「……雪風」

 内ポケットから再度紙を取り出す。

 そこに書かれていたのは、雪風の事だった。

提督「手術……か」

提督「……」

提督「……急ごう」

これ通るのかよ
行動安価でそれ通るならもう何でも通るな

展開考えてなくて安価任せで話作ってたのか

加賀に出撃させるとか殺人安価でも通るのかな。これくらい無茶ぶりでも大丈夫なら


 艦娘は、艤装を下ろせばただの少女である。

 海で砲弾戦を繰り広げていた彼女たちも、鎮守府に戻り艤装を下ろせば、たちまち談笑に花を咲かせていた。

 生まれが人間と少し違うだけで、身体や、ましてや心までも機械と言うわけではないのだ。

 楽しいときは笑い、哀しいときは泣き、怒り、苦しみ、そして励ましあう。

 そこに弾薬の有無の差はあれど、たったそれだけの違いしかにはない。

 そして彼女たちは、だから我々と同様に傷を負う。

提督「……雪風」

雪風「……、……」

 病院のベッドに、彼女は居た。

 横になった身体を起こそうとするのを手で制する。

提督「そのままで良い」

 四ヶ月前に、深海棲艦に右腕と左足を食われた雪風。

 その彼女が、こうして再度病院に居た。

提督「司令官、お疲れ様です」

司令官「ああ、どうも」

 雪風の傍には司令官がいた。今のあの鎮守府の指揮を執っている、先日演習で会った初老の男性だ。

司令官「君がここに来たという事は、大淀君から受け取ったみたいだね」

提督「はい」

司令官「彼女は、受け取らないか、もしくは中身を見ないかもしれないなどと言っていたが、見当違いだったようだ」

 きっとその時の大淀は、眼鏡に触れていたのだろうか。

 気になったが、しかし今はそれを聞きたいわけではない。

提督「あの、雪……、……。彼女に何かあったのでしょうか」

司令官「……ああ」

 雪風はこちらを見るわけでもなく、窓の外を見るでもなかった。

 ただ真正面の白い壁をぼんやりと眺めている。

 或いはもしかしたら、起きたばかりなのかもしれない。

 少しだけ撥ねた茶色の髪を見ながら、司令官の言葉を待った。


 紙には詳しい事は書かれていなかった。単に雪風が手術をした旨と、その入院先が書かれているだけで、肝心の内容についてはまるで分からない。

 それはどちらかと言うと意図的にそうしたような、そんな言葉の抜き取り方だった。

司令官「彼女はね」

 数分の間部屋には沈黙が流れ、そしてようやく重い口を開くように言葉を発する。

司令官「もう出撃できない身体なんだ」

提督「……」

 冷水を浴びせられた気分だった。

司令官「彼女は、右腕と、左足を、深海棲艦に食われたわけだが……」

提督「……はい」

司令官「……、先日、右足もやられてね」

提督「……」

 ぐるぐると視界が揺れる。

 浴びせられた冷水が、そのまま体内の血液と入れ替わったのではないかと思うくらいの寒さ。

司令官「それで、今、こうして入院しているわけだ」

提督「……」

 雪風の身体──下半身は、シーツに隠れていて見えない。

 いや。良く見ようと思えば、膨らみなどで判別できるのだろう。

 しかしそれが出来なかった。

 確認をすることが、出来なかった。

 容認をすることが、出来なかった。

司令官「突然、こんな話をするために呼び出して、すまない」

提督「……いえ」

雪風「……」

 雪風は何も言わなかった。

 目だけ開いたままの人形のように、一言も喋らない。

一旦次スレたててきます、しばしお待ちを

>>932 >>934
どこかで一回だけ言いましたけれど、即BADになりそうな内容であれば事前に再度確認します

>>933
ここまでド直球にくるのは予想外だったんだよなあ……(池沼)

4スレ目にしてやっと正しくスレタイが完成するとかいうなっさけないスレがあるらしい

次スレです
【艦これSS】提督「壊れた艦娘と過ごす日々」04【安価】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1421597489/)


司令官「実はね。彼女自身にはまだ、戦う意思はあるんだ」

提督「そう、ですか」

 しかし、四肢のうち三つを失った彼女を再び戦線に送るのは、あまりに非情すぎるように思える。

 たとえ右腕と左足を取り戻し、或いは右足もそうなっているのだとしても。

司令官「私も同感だ。出来れば彼女には戦線に立たせたくはない」

 項垂れるように頷いた。

司令官「このままここで、戦争なんて関係のないベッドの上で、過ごしてもらいたい」

提督「……はい」

 それはきっと、全ての艦娘の願いなのだろう。

 ただ、この戦争が終わってくれれば。

 そうして、何もない穏やかな次の日のために、眠りにつけたら。

 それが出来たら、どんなに幸せなことか。

司令官「……、だが、そういうわけにもいかない」

提督「……」

司令官「今は何も言われずとも、いずれは本部にせっつかれるだろうね。戦力を海に割かず陸で遊ばせるとはどういうことだ、とね」

提督「……かもしれません」

 何故海で戦っているのは少女たちなのに、陸の上の、机上の理想が優先されるのだろう。

 あまりに理不尽だ。あまりに不条理だ。

司令官「戦争と言うのはそういうものだ。いつだって正しいもののために戦っているわけではない」

提督「……ですが」

 少しだけ雪風が身体を動かした。

 さらりと前髪が揺れる。

 あどけなかった微笑は、海の中に消えてしまった。

司令官「君に、話があるんだ」


提督「と、言いますと」

司令官「彼女が退院するまで、おおよそ一ヶ月ある」

 もうじきに今年も終わろうとしている。

司令官「私は、今言った通り、彼女には出撃させたくない」

 だけれど、雪風もまた退くつもりはない。

司令官「どちらかが折れなくてはいけないわけだが、しかし、三日ほど話し合って未だどうにもならない。平行線だ」

 とはいえ、実の所それは平行ではあるが、水平ではない。

 先に司令官が言った通り、いずれ時間が経てば雪風は退院する。

 そして本部が彼女を出撃させるよう指示を出すだろう。

 或いは出撃自体は止められても、彼女を鎮守府へと戻すことは避けられない。

 そうなれば、雪風がどこまで意地を通すのかは分からないが、やはり彼女の意地が勝るようになるのではないか。

司令官「……私もそう思うよ」

 緩く首を横に振った。

司令官「だから、君に話がある。頼みと言ってもいい」

提督「……はい」

 予想はついた。

 というより、この手紙を貰った時点で、ある程度の察しはついていた。

司令官「君にも、彼女を説得してもらえないだろうか」

提督「……、……」

司令官「みっともないとは思っているが、しかし彼女のためならば構わない」

 雪風の説得。

 俺に、それが出来るだろうか。

 或いは。

 ……或いは。


 出撃させたくはいという司令官の考えと、それを拒む雪風。

 いずれ退院したら鎮守府に戻すよう言うに違いない本部。

 ……そして、雪風の身体と、心。

 その全てを取り込む方法が、一つだけある。

提督「……」

 しかし、その方法を本当に実践すべきなのかどうかが憚られた。

提督「……彼女を」

司令官「うむ」

 雪風を。

 こちらの鎮守府に呼ぶ、という方法。

提督「……」

 それが、全てを解決する一つの方法。

提督「……いえ。何でもありません。分かりました」

司令官「そうか。ありがとう」

 しかしそれを提唱するには、もう少し時間が必要だ。

 少なくとも、雪風と実際に話をするまでは。

 今はこの考えは二人には伏せておこう。

提督「雪風、少し話せるか」

雪風「……」

 小さな口を開けて、少し掠れた声で雪風が声を出した。

雪風「……、少し、喉が。乾きました」


提督「あ、ああ。分かった」

 近くの水差しを取る。グラスに水を注ぐ。

雪風「少しで、構いません。……それくらいで」

 グラスの四分の一にも満たない量で雪風はストップをかけた。

 そのグラスを雪風に手渡そうとする。

雪風「……」

提督「……?」

 しかし雪風は受け取らず、少しだけ身を起こそうと身体を捻り、痛みに顔をしかめた。

司令官「左手に渡してやってはくれないか」

提督「左……?」

 雪風は右利きだったはずなのだが、一体どういう事なのだろう。と。

 少しだけ考えて、すぐに気付いた。

提督「雪風。君……」

雪風「……」

 微かに雪風が笑う。

 痛みに耐えたままの、苦しそうな微笑みだ。

 切断した右腕。それが今はある。

 つまりはそれは、繋げるための手術をしたという事だ。

 ……そして、その右腕を使わない。

雪風「一応は、動くんですよ」

 そう言って、緩慢な動作で指を動かした。

 しかし、握り拳を作ろうとするも、上手くできない。掌全体に隙間が空いてしまっていた。

雪風「握力が、殆んどないんです」

提督「……、すまない」

雪風「謝らないでください」

 再度雪風が微笑んだ。

 消毒液の匂いが微かに鼻をついた。


 左手にグラスを渡す。

 水を一口ずつゆっくりと含ませる。

 飲むと言うより、唇や舌を湿らせるといった方が近い。

 というよりも、実際そうなのだろう。

 足を深海棲艦に食われたという事は、大量の出血をしているはずだ。

 そういう場合あまり大量の水分を摂取してはいけないと聞く。

 ふと見ると、水で湿らせたであろうガーゼが何枚か、ゴミ箱に捨ててあった。

雪風「……、ありがとうございます」

 少ししか水を注いでいないグラスに、しかし水は残ったまま。

雪風「すみません」

 申し訳なさそうに雪風が謝り、それを制して俺も謝った。

 そんなやり取りを見て雪風が少しだけおかしそうに声を出す

雪風「……ふふっ。なんだか、おかしいですね。二人して、謝って」

提督「そう、かもな」

雪風「はい。……あっ」

 雪風から受け取ろうとしたグラスが、俺の手に上手く渡らずベッドに落ちた。

雪風「すみません」

提督「いや、俺こそ悪かった」

 再度二人して謝りあう。

 雪風は少しだけ笑い、俺は彼女の顔さえ見れなかった。


 それから十分ほど他愛のない会話をするが、雪風が深く息を吐く。

雪風「……、すみません。今日は、疲れちゃいました」

提督「ああ」

 今日は一旦帰ることにしよう。

 司令官が数日間説得できなかったのだから、俺が今この場で説得できるはずもない。

 また折を見て彼女に会いに来るべきだろう。

提督「また来るよ」

雪風「……」

 しかし雪風は答えず、目だけで俺を見た。

提督「どうした?」

雪風「……また、来てくれるんですよね」

提督「……ああ」

雪風「……待ってます」

 少しだけ苦しそうな声で雪風がそう言った。

 それはきっと、四ヶ月間の事を言っているのだ。

 あの夏の日に俺は本部に拘束された。

 そのまま鎮守府に戻る事はできず、直接俺は今の鎮守府へと異動になった。

 何も知らない彼女たちからしたら、俺が突然姿を消したと思ったに違いない。

 雪風は、四ヶ月間、待っていたのだろうか。

 こんな俺を。

 こんなに怪我をしても。

雪風「待ってますから……」



雪風の好感度上昇
↓1のコンマ十の位


提督「……、朝か」

 腕時計に目を落とす。先ほど榛名に起こされ、今は七時になろうかどうかと言うところだ。

 直後に睦月がやってきたこともあったが、既に起きていた俺を見て猫の様に悔しがっていた。

 どうにも浜風の言うとおり睦月も世話好きのようだが、しかし榛名も榛名で秘書艦としての任務だと思っているのか毎朝起こしに来るので、二人が鉢合わせるようになった。

 競争しだして二人の起きる時間が早くならなければいいのだが……。

提督「加賀もそろそろ動ける頃合ではあるな」

提督「さて、今日は何をしようか」



↓1

1.出撃

2.演習

3.工廠

4.その他(自由安価。お好きにどうぞ)

今日はここでおわりにさせてください。明日は更新できるかどうか分かりません。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの775さん   2015年01月13日 (火) 14:58:12   ID: QLoRyWq-

どうも更新お疲れ様です!!
楽しみです!がんばってください!

2 :  SS好きの774さん   2015年01月17日 (土) 11:15:50   ID: WVgubdt0

続きに期待
読みやすいしシリアスな内容がいいね

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