八幡「生きることは悲劇的だ」 (29)

我が学園の生徒会長曰く。

世界は平凡か、

未来は退屈か、

現実は適当か、

安心しろ、

それでも、生きることは劇的だ。

だが、俺に言わせれば。

世界は閉塞だ、

未来は苦痛だ、

現実は敵対だ、

不安視しろ、

それゆえ、生きることは悲劇的だ。

箱庭学園 二年一組

比企谷 八幡

血液型AB

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「……ふむ、今日の投書は一件だけか」

箱庭学園生徒会室。
生徒会長である黒神めだかが掲げた封筒(なぜだか犬のシールが貼ってある)を見て、室内にいる他の三人の顔には「意外」という文字が同じように浮かんでいた。

「い、一件だけですか?」

柔道部の貴公子と呼ばれている、阿久根高貴も。

「一件だけ……」

水泳部の人魚姫と呼びたい喜界島もがなも。

「なんかの間違いじゃねーのか?」

普通の普通な一般人たる人吉善吉も。

生徒会室は軽い混乱に包まれていた。

しかし、それも無理はないだろう。

なにせここ最近の生徒会の忙しさといったら筆舌に尽くしがたく、筆跡に残せないほどだったのだから。

黒神めだかの公約によって設置された目安箱に投書された依頼の達成率は驚くなかれ99パーセント。残りの1パーセントも依頼主による途中取り下げのみであり、純粋に生徒会メンバーが処理できなかった案件は存在しない。

つまり、それがどういった結果を巻き起こすかというと……人気は右肩上がりのうなぎ登り、依頼の数は日に日に増し、最終下校時刻を過ぎそうになることもここ最近は珍しくなかった(それでも過ぎたことがないというのが、この生徒会の恐ろしいところなのだが)。

メンバー全員が今日も忙しくなることを覚悟していたところに伝えられたのが冒頭の一言である。

さもありなん。

「何も不思議なことはない」

そんなメンバーを前に黒神めだかはひどく冷静に、この事態を説明した。

「人の欲望に限りこそないが、区切りはある。この学園の溜まっていた悩みや願いが最近の一挙解決でとりあえずの落ち着きをみせたということだろう」

「なるほど、何事にも波があると」

彼女の狂信者である阿久根は今にも涙を流し、その身すべてでこの感動を伝えんとするほど関心していた。

「そうだよね、悩みや願いは解決したから終わりじゃなくてそのあとがメインなんだもん」

すなわち悩みなき日々、願いを成した日々。その環境に飽きた頃、人は皆悩みはじめ、願いはじめるのだろうと。喜界島は情報を咀嚼し納得していた。

「カッ、そりゃまた忙しい日々がやってくるってことじゃねーか」

いまだ人吉の願いは叶わず、悩みは除かれていないようだ。

「善吉、それは違うぞ」

幼馴染みの言葉を、考えを、彼女は正す。

「この一通の封筒が、今まで解決してきたすべての依頼より難解ではないという保証などないのだからな」

その言葉に、緩んでいた空気は締まり、生徒会としての時間が始まる。

「依頼主は由比ヶ浜二年、クッキーづくりを手伝って欲しいと書いてある」

こうして本日も生徒会は執行される。

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