ある時代のある場所の物語 (19)

ポルノグラフィティの『カルマの坂』を今更小説風にしたものです。
何番煎じだって感じです。
小説風なので地の文が多いです。
というか8~9割地の文です。
短いです。

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ある時代、ある場所
乱れた世の片隅に、ひとりの少年がいた。

少年は生きるため、盗みを覚えていった。
もちろん、少年としても好き好んでこのような事をしているのではない。
全ては『生きるため』である。

醜く太った大人達などには、少年に追いつく事は出来ない。
風のように少年は走る。
今この空腹を満たすため、生きるために、ただ走る。

「このリンゴ貰ってくよ!」

「おい、ガキ!待ちやがれ!!」

「へへっ、捕まるもんか」

少年の清らかな心は、穢れることなく罪を重ねていった。
生きるために盗む
盗まなければ生きられない
だから盗む
そんな少年を、誰が責めることが出来ようか。

昼間は盗みをはたらき、夜は路地裏で一人うずくまって眠る。
そんな暮らしをしていた少年は、いつしかこう考えるようになっていた。

―――天国はもちろん、地獄にだって喜んで行ってやる。
ここよりマシな暮らしが出来るならね。

「人は皆平等だなんて、どこのペテン師のセリフだか知らないけどさ」
それが少年の口癖だった。

――――――――――――――――――――
「こらアンタ、そのパンを返しなさい!」

甲高い声を背に受けながら、少年は走っていた。

(あの行列は何だろう?)

大きな行列とすれ違った。
どうやらこの街一番の金持ちが率いているようだ。

(金持ちはみんな一緒だな。
醜くブクブク太って、趣味の悪い宝石を身に着ける)

ふと、その行列の中のある少女に目を奪われた。

「うわぁ…」

思わず声を漏らしてしまう程に、少女は美しかった。

(俺と同い年くらいか?
とても美しい子だけど、格好が綺麗ではないし手も縛られている…
どこかの街から売られてきた奴隷なのかな)

そんなことを考えながら行列に着いていく。
果物や宝石など、様々なものを運びながら行列は進む。

その時、ほんの一瞬ではあるが、少女と目があった。

(…っ!?
俯いていてあまり良くは見えなかったけど、泣いていた?)

少女の眼には、さながら大粒の真珠のような涙が浮かんでいた。

そして、最悪の展開が頭をよぎる。
美しい奴隷の少女とそれを買った金持ちの男。
金持ちが少女をどのように扱うであろうかは、予想に難くなかった。

(そんな、信じられない…
信じたくない…
俺と歳も変わらないような子が?
やっぱり人は平等なんかじゃないじゃないか)

そうしているうちに金持ちの家に着き、行列は門の中に吸い込まれていった。
???少女を連れて。

「うわああああ!!!」

金持ちの家を見届けたあと、少年は叫びながら走った。
少女の身体にあの穢らわしい手が触れているのか――そう考えると、叫ばずにはいられなかった。

(絶対にあの子を救い出してやる)

心ではそう決めたが、少年はあまりに非力だった。
そして、少女は考えることを許されていなかった。

少年は神に尋ねた。
いや、神など居ないのかもしれないが、そんな事は今はどうでも良かった。

「なぜ、僕らだけは愛してくれないのですか」

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
夕暮れになるのを待って、武器商人から一本の剣を盗んだ。
それは少年にとって、初めての『生きるため』ではない盗みだった。
少女を生かすためだったのだろうか。

重たい剣を引きずりながら歩く。
向かう先は金持ちの家昼間見た少女がいるはずの場所。
今の少年の姿はあまりに痛々しく、いつもの姿とはかけ離れていた。
風と呼ぶには悲し過ぎるほどに。

少年が、カルマの坂を登っていく。
坂の上にある屋敷を目指す。
一歩一歩、カルマを踏みしめるように進んだ。

「お前、なんの用だ?」

「…」

答えることなく唐突に剣を振るう。

「ぐああっ!」

断末魔の叫びをあげ、門番は動かなくなった。
何処かで悲鳴が聞こえた気がしたが、気にも止めない。

執事、メイド、コック――行く手を阻むものは容赦無く切った。
怒りと憎しみを切っ先に乗せ、剣を血で濡らしながら前に進む。

バンッ

最奥の部屋の扉を開ける。
慌てた様子の醜く太った半裸の男と、表情を失った、一糸纏わぬ少女。
抜け殻となったような少女をみて、少年は遅すぎた事を悟った。

「うわああああ!!!」

己の無力さを痛感し、少年は叫んだ。

「なんだお前は!?」

男の問いには答えない。
いや、その声は少年に届いてすらいなかった。
男は少年が剣を持っていることに気づいた。

「ひいっ、た、助けてくれ!
命だけは!」

その声も、少年には届かない。
少年の意識の先にあるのは、少女ただ一人。

少年を見た少女は、壊されてしまった魂で微笑んだ。

そして一言

「私を…殺して…」

彼女にとって、このまま生きる事ほど辛いことは無いのだろう。
そんな少女の絞り出すような掠れた声は、はっきりと少年の耳に届いた。

剣を引きずりながら、ゆっくりと少女に歩み寄る。
少女の前に立った少年が剣を持ち上げる。
少女は、もう一度微笑んだ。

「うわああああ!!!」

三度目となる少年の叫び。
その叫びとともに、最後の一振りを少女に向けた。

――――――――――――――――――――――――――――――――――
金持ちの家をあとにした少年は、泣くことをも忘れていたことに気づく。
地獄のようなこの暮らし
この世の不平等さ
そして、救うことの出来なかった少女
様々な事が頭を駆け巡る。
だが、涙が出ることはない。
少年は泣き方を忘れてしまっていた。

続いて思い出したのは空腹感。
空腹は、自分が生きていることの証でもある。
もはや空腹も感じなくなっていた少年にとって、その感覚はひどく懐かしく感じられた。

その刹那、少年は痛みを覚え、倒れ込む。
屋敷の追手にやられたのか、心の痛みなのか、それとも他の原因か、はっきりとはしない。
だがそれでも構わなかった。

ただ、ありのままの痛みを確かに感じていた。


-お話は、ここで終わり。
ある時代のある場所の物語-

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